大樹のほとり

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眞喜志 愛梨、その探求の果て Episode.4(後編)

※前・中・後編の中編です。これにてラストエピソードとなります。
前編はこちら
中編はこちら




 アブノーマル愛好会によるクリトリス開発は、毎週末の恒例となった。
 2週目は、アサミ・ミカ・愛梨の同期3人が横並びで這う格好を取らされ、手袋をつけた手で延々と愛撫を受けた。アナルをNGとしているミカは陰核と膣、膣をNGとしているアサミは陰核とアナル、NG指定をしていない愛梨は三穴全てを、念入りにほぐされる。
「う、くっ……! くう、うっ! んはっ、くうっ……!!」
 愛梨達3人は、誰一人として声を殺せなかった。
 ローションに塗れたディスポーザブル手袋の感触は独特だ。ぬめりと吸い付きを兼ね備えたそれで、じっくりと性感帯を愛撫されれば、嫌でも気分が昂ってしまう。這い蹲ったまま尻だけを掲げるポーズも屈辱的だ。同じポーズの同期が隣にいるせいで、自分の惨めな姿を客観視させられるのも意地が悪い。
 クチュクチュという音と嘲笑に晒されたまま、3人は歯を食いしばって耐えた。アサミが音を上げ、ミカがついに折れた後も、愛梨だけは耐え続けた。実に4時間。その間に愛梨が達した回数は何百に上ることだろう。ギャラリーの多くが飽きて去ったステージで、愛好会のメンバーは雫の垂れる手袋を外しながら、愛梨の我慢強さにほくそ笑む。

 3週目からは、愛梨の尿道が愛好会の標的となった。砕石位で身体を固定した上で、ゼリーを塗った尿道へカテーテルを送り込む。
「流石にまだ硬いですねぇ」
「未開発の証ですよ。時間はいくらでもあることですし、じっくりと拡げていきましょう」
 そんな会話を交わしながら、少しずつチューブを送り込んでいく。
「っ!!」
 普通なら悲鳴が上がる未知の痛みを、愛梨は眉ひとつ動かさずに堪えてみせる。男達はその強情ぶりを愉しみつつ、カテーテルの先に注射器を取り付けた。
「シリンダーの中身は真水です。今は当然透き通っています」
 ギャラリーに向けて解説がなされ、浣腸器のピストンが押し込まれていく。
「くっ……!」
 尿道に液体が逆流する違和感は強い。流石の愛梨もやや頬が強張ってしまう。しかし本当に厄介なのは、シリンダーの中身が注がれきった後だ。
「では、吸い上げていきます」
 その言葉の後、ピストンが引き戻される。シリンダーの中に液体が戻っていく。愛梨の膀胱の中に入っていた液体が。
「おっ、半透明になってんぜ!?」
「確かにちょっと濁ってんな!」
 食い入るように覗き込むギャラリーは、液体の僅かな変化を見逃さない。意地悪く声を張り上げ、愛梨の表情を歪ませる。
 2回、3回──ピストンが往復するたびに、シリンダーの中身はより顕著に変わっていった。
「最初は気のせいかな?ってぐらいだったけど、だんだん露骨に黄色くなってきたな」
「量も増えてるしな。最初50ccの線ピッタリだったのが、今は60のライン超えてるぜ?」
 至近距離から口々に指摘され、愛梨の顔はますます歪む。しかしその一方、彼女はいつものように興奮してもいた。

 そんな彼女をこの週もっとも追い詰めたのは、終盤のレズプレイだろう。『尿道の拡張状態を維持する』という名目でカテーテルを挿入したまま、ペニスバンドを着けた同性から犯される……そういう趣味の悪い見世物だ。
「ほらぁ、どんな気分? オシッコ垂らしながらケツ犯されるのはさァ!」
 セーラー服を着た犯し役は、激しく腰を打ち付けながら愛梨に問いかける。
「う、くっ……! くう、う、うっ……!!」
 愛梨は壁に手をついたまま、終始歯を食いしばっていた。
 この夜一度も使われていないアナルを、硬いペニスバンドでこじ開けられれる痛さ。カテーテルを挿れられた尿道の痛さ。その二つの痛みが身を苛む。
 痛むのは心もだ。
 突かれる度に揺れるカテーテルの先からは、ほんのりと色づいた液が飛び散っていく。繰り返し真水を入れられた影響か、尿道から滴る雫はいつまでも尽きる様子がない。
「どんだけ出んだよションベン!」
「細いチンポでトコロテンしてるみたいねぇ!」
「ねぇ豚、後であの床舐めなさいよ。って、なに嬉しそうな顔してんの? やっぱりヤメ。あんなのの体液を舐めたら、どんな病気になるかわかんないわ」
 ギャラリーからの言葉責めも容赦がない。
 そうした惨めすぎる状況で、それでも愛梨は、やはり昂ってしまう。
「く、ああっ、あっ、ああ……あぅうあっ、あああっ……!!」
 喘ぎは泣くような声に変わり、肛門の痛みは蕩けるような熱さにすり替わり、尿道のジンジンという疼きさえ快く思えてしまう。
 深く落とした腰の間から、ポタポタと愛液が滴りはじめた。すぐにギャラリーに知れ、悪意ある謗りを受けると分かっていながらも、その分泌を止めることなどできなかった。

 尿道をカテーテルで寛げた後は、尿道ブジーでさらに拡張される。最初は綿棒サイズのブジ―を馴染ませ、徐々にサイズをアップしていく。
「今度は、尿道と膣内を同時に刺激していきます」
 小指サイズの柔らかなブジ―を深く挿入され、その根元を指で弾きながら、同時に膣内を指で弄られる……その快感は尋常ではない。

 (な、なにこれ……気持ちよすぎるっ……!!)

 尿道のむず痒い快感、膣の明白な快感。それが混ざり合って愛梨を昂らせる。
「……っ!!」
 膣に指を挿入されてから僅かに一分後、愛梨は仰け反ったまま痙攣しはじめた。浅くではあるが絶頂に至ったのだ。
「膣の中が、ヒクヒクと動いています」
 マイクを通して淡々と実況され、四方八方から蔑みを含む笑いが起きる。その屈辱的な状況もまた、愛梨の興奮を後押しする。本格的な絶頂までに時間は掛からない。
「はっ、はっ、はっ! ぃ、いく、いく……っ!!」
 愛梨は再び仰け反り、痙攣する。息はまったく整わない。想像より遥かに深く絶頂しているのが自覚できた。
 そんな愛梨を前に、膣からゆっくりと引き抜かれた指が、ブジ―の端を掴む。瞬間、蕩けていた愛梨の顔が強張った。挿入よりもむしろ抜かれる時の方が恐怖だ。
「は、はーっ、はーっ、はーっ……!!」
 掴まれたブジ―の端を凝視する愛梨。その呼吸は急激に速まっていく。
「あっはははっ! アイツ、ビビってるよ!」
「ま、分かんなくはないけどねー。アナルでも尿道でも、太いの入れたら出す時が怖いんだよ。コレ抜かれたらどうにかなっちゃうーって感じしてさ」
「にしても、あのツラは傑作だな! 抜かれた瞬間イッたらもっと面白いのによ!」
 野次と嘲笑の中、ブジーが引き抜かれはじめた。
「ぃひっ! ふ、ふっ、ふっ、ふっ……!!」
 歯を食いしばり、相手を睨みつける愛梨だが、呼吸はいよいよ乱れていく。僅か数センチ引き出される行為が長く思え、いざ解放の瞬間を迎えれば、大量浣腸の時以来の甘美が身を包む。
「ぁあああああっ!!!!!」
 仰け反ったままブルブルと痙攣し、喜悦の叫びを響かせる。開かされた両脚は筋張り、その間からはびちゃっと水音がする。失禁だ。尿を漏らしたというより、愛液が塊となって噴きだしたような。
 嘲笑が起きる。尿道の粘膜さながらに脆くなった愛梨の心を、その悪意がザクザクと切り刻む。しかしそれ以上に愛梨には、白衣の男達の挙動が気になって仕方ない。濡れ光るブジーがトレイに置かれ、それよりワンサイズ大きなブジーが取り上げられる、その挙動が。

 俄かマニアによる不慣れな手つきでの尿道開発も、十二分に愛梨を追い詰める。しかし、その道の『通』は更に大胆な責めを行った。
「尿道に負荷かけとる時は、ココを叩いてやるとよろしいんですわ。腎臓と、あと子宮ですわな」
「あっ、あ! あうぁ……あ、あはああっ!!」
 尿道と膣をバルーンで拡張されたまま、下腹部を指先でトントンと叩かれる。それだけで愛梨の全身に痺れが走った。
 左右の腎臓を押さえられれば腰が浮く。子宮の真上を三本指で叩かれれば、もどかしくも強烈な刺激から身体が逃げようとする。
「この快感でグングン膣と尿道が開くようになるんです。尿道が開かん理由は恐怖心やら抵抗感やけど、コレやるともう色んな場所が気持ちようて無茶苦茶やから、そういうのがバカになるんやね」
 男の言葉通り、愛梨はこのプレイで劇的に開発されてしまう。
「お゛っ、おお゛っ、お゛っ、お゛っ……!!」
「ははははっ! なかなか興味深い声が出ているな!」
「ああ。しかも顔見ろよ、ひょっとこみてぇなツラしてんぜ」
「子宮でイってるんだろうねー、あんなトントンされるだけでさ!」
 愛梨の惨めな姿に場は盛り上がり、口笛や謗りの言葉が絶え間なく飛び交う。そしてその盛り上がりは、ギャラリーをただの傍観者に留まらせない。彼らは拘束台の背を倒し、愛梨に仰臥の取らせて口を使いはじめた。愛梨にとっては最悪の展開だ。
「おぶっ!? うぶふっ、ごふっ!! お、ぉおオッ……おおオオッ!!」
 下半身の責めで息が上がっていくところに、膨らみきった逸物を咥えさせられては堪らない。
 口内へ突っ込まれてすぐに噎せ、鼻水が噴きだした。
 奥まで挿入されれば、子宮絶頂の声を増幅させたようなえずきが漏れた。
 喉奥の輪にエラの張った亀頭を出し入れされれば、えずき汁が空気と混じり合い、カコカコと音が立つ。唾液やえずき汁は次々にあふれ出し、唇を越えて耳の穴や髪の生え際へと流れ落ちていく。
 愛梨の身体は、跳ねた。拘束具を軋ませながら激しく捩られた。その反応がますますサディストの心を煽り、責めは陰湿さを増していく。根元まで咥え込ませたまま、喉の膨らみを指でなぞったり。ピアスのついている乳首を弄んだり。子宮を丹念に圧迫しつつ、膣と膀胱のバルーンをさらに膨らませたり……。

 (こ、こいつら、寄って集って…………!!)

 愛梨は憤慨しつつも、絶頂を繰り返すしかない。膀胱・膣・子宮・喉奥・乳頭……その刺激一つ一つが無視できないほど強く、互いに強固なシナプスを形成しながら全身を甘く痺れさせる。
「ほぉおっ、んおおオオオッ!!!」
 両乳首のピアスを引き絞られ、尿道のバルーンを揺さぶられながら子宮を押し込まれれば、握りこぶしが入りそうなほど腰が浮いた。太腿が大地震の最中のように震えて、恐ろしいほどだった。
「おごぉっ、おも゛おおおおっ!! おッ、もァおおォーーッッ!!!」
 くぐもった悲鳴を上げながら、愛梨は痙攣しつづける。痙攣は翌朝にプレイが終了するまで止まらなかった。身体の主が何度か気を失った、その間にさえ。

                ※

 私生活で尿道拡張を強いられはじめたのも、この頃からだ。
 親指サイズの責め具を尿道へ埋め込まれたまま、貞操帯で固定される。愛梨はその状態で女子大生としての生活を送らなければならなかった。
 責め具は筒状であり、用を足すには支障がない。とはいえ、尿道を拡張されたままでの生活は不自然そのものだ。人に振り返られながら颯爽とキャンパスを歩いている間も、真面目に講義を受けている間も、尿道には常に違和感があった。そして本来なら不快でしかないはずのその状況が、愛梨には刺激的で堪らない。
「あ、いくっ……!」
 ふとした瞬間に絶頂を覚え、ふらふらと壁に寄りかかることが何度もあった。トイレへ駆け込んで自慰に耽ることもあれば、人がいないパソコンルームで自慰に耽ってしまうこともあった。

 欲求不満が収まらず、数ヶ月顔を見せていなかったアニメ研究会の部室を訪ねたこともある。
「う、うおおおおっ!! 愛梨ちゃん!!!」
「あ、会いたかったよ、愛梨たん!!!」
 部員達は一斉に立ち上がって目を丸くした。
 愛梨が机に腰掛けると、組んだ脚の中……ショーツに視線が集中する。その視線を受けて脚を開けば、男達は膨らんだ股間を抑えながら前屈みに足を閉じる。
「アンタ達……あれだけさせてあげたのに、相変わらず童貞臭いわねー。考えてることが顔に出てるわよ。会いたかったじゃなくて、ヤリたかったの間違いでしょ?」
 愛梨はクスクスと笑いながら、獣じみた欲望に懐かしい昂ぶりを覚えていた。
「いいわよ、久しぶりに愉しみましょ」
 愛梨が上着をたくし上げると、研究会の面々は息を呑んだ。
「え……っ?」
 露わになった乳房に圧倒された、というだけではない。乳房の先……左右の乳首が、金のニップルピアスで横向きに貫かれていたからだ。
 ショーツが足首から抜き取られれば、性器の状態も露わになった。
 慎ましい蕾のようだった菊輪が、ふっくらと厚みを増している。
 温泉旅館での乱交でも一本線を維持していた陰唇が、見事に捩れ、乱れている。
 その上で尿道にさえ、親指大の器具がはめ込まれているのだ。
 しばらく姿を見せなかった同好会のアイドルが、どれほど苛烈なプレイを経験してきたのかを物語る変化だ。
 それでも部員達は愛梨との行為を喜び、その身を抱いた。濃密にキスを交わし、乳房を揉みしだき、美脚を掴み上げて欲望を叩きつけた。
「ああああ愛梨たんすごい! ヌルヌルのおまんこが、すっごい締まって……! 良いよお、前より良いよぉおおおっ!!」
「はあっ、はあっ!! ああああ気持ちいいっ!! 気持ちいいぃっ!!」
 絶叫する部員と同じく、愛梨もまた欲望を剥き出しにする。脳が白むほどの快感と共に、膣と尿道が自発的にほぐれていくのを感じながら。

                ※

 週末が来るたびに、マニア達は愛梨の尿道を弄ぶ。
 6週目、倶楽部で貞操帯を外された愛梨は、口を開いた尿道口と肥大化したクリトリスを散々に嘲笑われた。
「おいおい、可愛がってやる前からいきなりデカクリじゃねーか!」
「尿道拡げられて興奮したのか? この変態が!」
 尿道とクリトリスの関係は深い。陰核脚が尿道のすぐ傍を通っているため、尿道の圧迫によりクリトリスが勃起するのはおかしなことではない。倶楽部の人間はそうと知りながら愛梨を詰る。愛梨の悔しげな顔を見たいがためにだ。
 会員達は、さらに愛梨を吊り下げ、メタルブジーで尿道を責めつつ陰核を愛撫する。
「ひひひっ、ますますクリが硬くなってきやがった」
「太腿がピクピクしてるぜ。小便の穴ァほじられんのが、そんなに気持ちいいのかよ?」
 揶揄を織り交ぜながら、丹念に尿道をクリトリスを責め立てる。勿論、それ以外の場所も遊ばせてはおかない。乳房を揉みしだき、腋を舐め、太腿を撫でさする。肛門へ指をねじ込む者もいた。
 その羞恥と快感に愛梨は身悶え、数えきれないほど絶頂する。
「ああぁ、うあぁ……あうっ! …………はぁ、はぁ……んお……ぉっ! お、おぉぉお……っ!!」
 数分間のつま先立ちを経て、足の裏を床につけたまま痙攣しはじめた頃、愛梨の喘ぎ声が変わりはじめた。
「うはっ! 出た出た、この声!」
「いつ聞いても女捨てた声だよねー。ドーブツみたい」
 すかさず陰口を叩かれるが、呻く声は止められない。拭えない口からダラダラと涎が垂れ、下腹までを塗れ光らせていく。

 そうした責めを2時間あまりも続けられた末、拘束を解かれた愛梨は崩れ落ちた。腰が抜けたのだ。だがDUNGHILLは、そこでプレイを終わらせるような甘い場所ではない。
 会員達はふらつく愛梨を椅子に乗せ、屈辱的な姿勢で拘束する。後頭部で手を組み、頭の横に足首が来る形だ。
「くっ……!!」
 恥部を突き出す格好に顔を歪める愛梨だが、その表情はすぐに変わった。白衣を着た男達が手にした道具を認識し、顔から血の気が引いていく。
 電動式ドリルの先端に、細いアタッチメントを取り付けた責め具だ。アタッチメントの表面はびっしりとイボ状の突起で覆われている。それが回転しながら尿道へ入り込むのを想像しただけで、愛梨の背には冷たい汗が伝った。
 しかし、弱音は吐けない。決して赦しを乞わず、哀願をせず、プロレスラーのように全ての責めを受け切ってみせる──そうルールを定めた以上は。
 騒々しく回転するドリルの先が、尿道へと入り込む。複雑なイボ状の突起が柔な粘膜を掻き回す。
「あはううっ!!」
 長くは耐えられない……愛梨はそう確信した。覚悟していたほど痛みはない。しかし、想像以上に快感が強い。
 一週間の尿道拡張と直前の責めで、愛梨の陰核脚はたっぷりと快感を吸って太さを増している。そこをドリルで刺激されるのだ。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ!!」
 愛梨の余裕は数秒で消し飛んだ。目を見開いてドリルの掘削部を凝視したまま、激しく喘ぐ。コンマ秒以下で絶頂し続けているため、『イク』という言葉を発する余裕さえない。
 顔の横で脚が暴れているのがわかった。絶頂が凄まじいだけに足指の動きも激しく、親指と中指が別々の方向へ逃げようとするせいで、脹脛が肉離れを起こしかけている。しかしそれすらも意識の外になるほど、尿道が『熱い』。その熱さは薄皮を通り抜けて陰核脚にも染み渡っていく。太く根を張った陰核脚に電極が貼りつき、内から感電させられているようだ。これ以上はないと思えるほど勃起していた陰核亀頭が、さらに痛いほど隆起していく。先走りの汁をどぷどぷと吐き出す男の鈴口……そのイメージが脳から離れない。
 あふれていく。あふれ出していく。経験した事のない『熱さ』が。

「お、おほおおお゛っ!! ん、んお゛ッ、んおおおお゛っ!!!」

 愛梨は天を仰ぎ、獣の声を上げた。その無様さに、すかさずギャラリーから嘲笑が浴びせられる。しかしその顔色は、嘲りよりも驚きの色が濃い。
 椅子を見下ろす角度からは、愛梨の反応の全てが見えた。
 筋肉を雄々しく隆起させ、拘束帯を引きちぎらんばかりに暴れる脚。
 同じく肉の盛り上げった上腕と、深く溝の刻まれた腋。
 ドリルが回転する勢いで四方に飛び散る透明な雫。
 その尋常ならざる力みぶりを見れば、獣の声を上げるのも当然と思えてしまう。
「すげぇな……」
 ドリルが一旦止められ、ぐっぱりと開いた尿道口から引き抜かれた瞬間、誰ともなくその言葉を吐いた。
 汗だくの愛梨の身体からは視認できるレベルで湯気が立ち上り、秘裂と肛門は意思を持つかのように開閉を繰り返している。
 猛烈な汗と愛液の匂いに、鼻をつくアンモニア臭が混じっていた。割れ目から陰唇横を通り、椅子の下に滴り落ちていく薄黄色の液体のせいだ。
 何より衝撃的なのが愛梨の顔だった。並外れて気が強い愛梨は、責めでどれほど悶え狂っても、小休止となれば小生意気なほどに強い眼を取り戻したものだ。しかし今はそれがない。湯上りのようなぼんやりとした表情のまま、涎と鼻水を垂らし、どこでもない空間を見上げている。
「あれ、意識あんのかな……?」
「どーだろ。おまんこはパクパクしっぱなしだけどね。本気汁まみれでクサそー!」
 乱れた愛梨の肉体が、その表情が、マニア達の加虐心をくすぐった。尿道をドリルで責める合間合間に、別の悪戯が挟まれる。
 一度目の休止では、女性陣主導で膣にバイブが使われた。
「ほーら。濡れ濡れのクサマンにせっかく蓋したげてんだから、これ以上マン汁出すのやめなよー?」
「おっ、ほおっ……ぃ、いく、いくふうっ……!!」
 真上から突き下ろすバイブ責めが、愛梨にうわ言のような嬌声を上げさせた。
 二度目の休止では、妖しく喘ぐ菊輪に魅入られた1人が、辛抱堪らずという様子でアナルセックスを敢行した。
「……っ、……っ!!」
 すでに息も絶え絶えの愛梨からは、聞き取れる喘ぎは上がらない。しかしVの字を描く脚の痙攣が、彼女の得ている快感を如実に物語る。
「くあっ! 3週間ぶりのこいつのクソ穴、ヤバすぎる! ものすげぇ締まりだ……!!」
 犯す男はものの数分で射精に至った。心地よさそうに息を吐き、どくどくとかなりの量を愛梨の直腸へと流し込む。彼は急くあまりノースキンで行為に及んだため、逸物が引き抜かれた肛門からは白濁がとろりと伝い落ちた。そして、それが悲劇を生む。3度目のドリル責めで、愛梨は尿道の刺激に悶えながら、ブリブリと音を立てて白濁を排泄する羽目になったのだ。自然に起きた嘲笑はホールを揺らすほどであり、愛梨に悔し涙を流させる。
 そしてもはや周知の事実だが、その恥辱こそが愛梨の感度を研ぎ澄ますのだ。
「おーーーーっ!! お゛ーーーーっ!!!」
 何度も天を仰ぎ、痙攣する愛梨。その眼はほとんど白目を剥いており、絶え間ない絶頂で意識を失っては覚醒していることが伺えた。
 そこへ来て、3度目の休止で電気マッサージ器が用いられた時、愛梨は哀れなほど悶え狂う。
「イクっ、イクイクイクイク……あああはああああああっ!!」
 涙を流し、鼻水を垂らして激しく絶頂しつづける。暴れる力はいつになく強く、ついには拘束帯の金具を破壊し、仰け反りながら潮噴きに至る。
「コイツ、自分からマンコ押し付けてね?」
「どーだろ。逃げ回ってるようにも見えるけど、コイツ頭おかしいからねー。欲しがってんのかも」
 同性は残酷だ。愛梨の狂乱ぶりに男達がたじろぐ中、女性陣は愉快そうに口を歪めながらマッサージ器を押し当て続ける。愛梨が本格的に気を失い、全身を痙攣したまま動かなくなるまで。


 こうした徹底的な尿道開発は、愛梨の肉体を不可逆なほどに変化させた。
「あ、ああああ駄目っ!!! 出る、出ぢゃうう゛っ!!」
「ははっ、尿道口なぞられただけで嬉ションかよ。終わってんなこいつ」
 床に激しく失禁し、本気汁を垂らす愛梨。マニア達はその無様な姿を見下ろし、旨そうに酒を酌み交わす。


                ※


 NGプレイがなく、けして音を上げないフリーの奴隷。そんな愛梨は、倶楽部のマニア達にとって最高の玩具だった。
 責めはエスカレートする一方だ。アナル、クリトリス、尿道の開発と並行し、次はポルチオを開発することが決まったが、生易しい開発方法で済むはずもない。

 都心に初めて雪が降った日の夜。久しぶりに倶楽部を訪れた客は、扉を開けるなり熱気を感じた。人が多い。かつて久世省吾がキー局のアナウンサーを調教していた頃に匹敵する盛況ぶりだ。
 黒山の人だかりは倶楽部の奥へ進むほどに密度を増す。彼らはあるステージを注視しているようだ。そしてちょうどその辺りから、ウーッ、ウーッ、という獣じみた声が響いてもいた。
「……っ!!」
 人込みを縫って前列に辿り着いた男は、目の前の光景に息を呑む。そこには、理想的と言ってもいい女体があった。出るべきところは出、くびれるべき所はくびれた、メリハリのあるボディライン。すらりと脚が長い、確実に7頭身以上はあるだろうスタイル。週末の繁華街ではルックスのいい女性を何人も見かけたが、それらと比べてもまた別格だ。
 その滅多に見られないスタイルの持ち主は、拷問さながらに拘束されていた。手足がX字を描くように拘束具を嵌められ、どう足掻いても逃げ出せそうにない。
 格好は全裸に近いが、股間には床から伸びた器具が取り付けられ、紐ショーツを思わせる拘束帯で固定されていた。乳首に空いたピアスには紐がつけられ、乳房そのものが変形する強度で引き絞られている。天を仰いだ口にもチューブが嵌め込まれ、その先は白い何かが入ったタンクに繋がっているようだ。
 タンクがごぼりと音を立てた瞬間、ギャラリーの喧騒が静まった。
 ごぼり、ごぼり、と音が続き、スタイルのいい少女から呻きが漏れる。真正面に晒された白い喉が蠢き、そこからしばらくすると、少女の下腹からぐるぐると音が鳴りはじめた。
「ッう、うむううっ……!!」
 チューブを咥えさせられた口からくぐもった声が漏れ──その次の瞬間、少女の股間に取り付けられた器具が激しく鳴動しはじめた。
「う、うおっ!! おぉっ、お、もおおお゛っ!!」
 少女の声から余裕が消え去った。くくっ、と笑い声がする。声の元を見れば、ギャラリーの一人がスイッチを握りしめていた。そのスイッチで股間の機械を操作しているのだろう。
 重低音を響かせる機械に絶えず責められ、少女の下腹は激しく脈打つ。腹筋が浮くほど力を籠めたまま、へこんでは戻る動きを繰り返す。その内部からはぐるぐると獣の唸るような音が響きつづけている。どう見ても異常な状況だ。
 その状況が数十秒続いたところで、限界が訪れる。
「もがあああああ゛ーーっ!!!」
 壮絶な呻きが上がり、少女の口のチューブから泡が膨らむ。それが弾けると同時に、別の場所から破裂音が響き渡った。ぶちっ、ぶりぃっ、という日常的に聞き覚えのある音と共に、少女の美脚の間を何かが落ちていく。液体より少し粘度のありそうなそれは、足元に置かれた巨大なバケツの中に音を立てる。
 排便だ。あのモデル顔負けのスタイルを誇る少女が、この大人数の前で排便を晒しているのだ。そう気づいた時、男は頭をハンマーで殴られたようなショックを受けた。
 非現実ぶりに思考が麻痺する。その意識を現実に引き戻したのは、ギャラリーからの鬼の首でも取ったような罵声だった。
「ぎゃはははははっ、まーたひり出しやがった!」
「おー臭ぇ臭ぇ、鼻が曲がりそうだぜ!」
「まだ固形物が出るなんて、どんだけ溜め込んでたワケ? 相変わらずのクソ袋っぷりねぇ!」
 数十人が口々に叫んでいるため、全てを聞き取ることはできない。しかし聞き取れた言葉はすべて悪意に満ちていた。
「……あの。これ、どういうプレイなんですか……?」
 男が尋ねると、最前列のギャラリーが3人振り返る。その顔は『よくぞ聞いてくれた』と言わんばかりだ。
「お、兄ちゃん今来たのか? 今夜は凄いぜ。芸能人ばりに可愛いティーンのガキの、それこそ穴っつぅ穴を責めてんだ」
 1人がそう言って愛梨の写真を見せる。その顔の良さに、男はまたも息を呑んだ。
「信じられるか? こんな、ミスなんちゃらを狙えそうなレベルの上玉がよ、下剤飲まされて延々クソ垂れてんだぜ? しかもただの下剤じゃねぇ。俺らのザーメントッピング付きだ。あのガキに飲ませるのを想像して一週間シコりまくってよ、その瓶の中身をタンクに詰めたんだ。アイツが喉鳴らしてゴクゴク飲んでるのも、今ひり出してんのも多分、そのザーメンだぜ?」
 その言葉に、ギャラリーの何人もが笑う。いずれも体型や毛髪に加齢を感じさせる中年男だ。
「……あの、股の機械は?」
「ああ、ありゃ膣開発用のプラグだ。ぶっとい筒型でよ、胴体部分で膣のスポットに磁気刺激を与えるらしいぜ。おまけに先っぽはイソギンチャクみてぇになってて、子宮口に吸い付いたまんま電マ顔負けの強度で揺さぶるんだと」
「へえ。それはまた、キツそうですね……」
「そりゃ地獄だろうぜ。あのガキにゃ同期の奴隷が2人いるんだがよ、そいつらも何日か前にあの責めを受けてんだ。ただしNG指定がない方限定でな。アサミっつーすっとろい人妻は、下剤責め。ミカっつー口の悪ィヤンキー娘は、膣と子宮責め。その片方だけだっつーのに、どっちも泣き喚いて暴れたらしい」
「ああ、ありゃあ見物だったぜ。人妻の方は見ないで許してってわんわん泣いてよ、ヤンキーの方は俺らに見せつけてんのかってぐらい腰浮かせたまんま、アワ噴いて痙攣してやがった。しかもよ、その2人はプレイん時に拘束されてねーんだ。だから自分の耐えやすい姿勢で踏ん張るのも自由だったんだよな。その点、あのガキはキツいぜー。モモンガみてーに手足を広げたあの格好じゃ、踏ん張りが効かねぇ。マンコ逝きする時ゃガニ股が一番耐えやすいし、下痢便ひり出す時にゃ自然と内股になるもんだが、あのガキはどっちもできねぇだろ? 顔上向けて背ェ反らして、なんとか身体に支えを作ろうとしてるらしいが、焼け石に水ってもんだ。見ろよ。もうじきプレイ開始から40分ってとこだが、もう膝が笑ってやがる」
 そう言って男は少女の脚を指さした。指摘通り、すらりと長い脚は強張ったまま痙攣を続けている。内腿には次々と愛液が伝い、膝頭から床に滴っていく。少女の直下ともなれば、肩幅以上の液溜まりが出来ていた。
「……凄い、な」
 新たにギャラリーに加わった男は、ごくりと唾を呑み込む。あまりの光景に圧倒されはしたが、こういう趣向は嫌いではない。彼もまた、生半可なSMに飽いてこの倶楽部を訪れた物好きなのだから。


 またギャラリーが増えた──愛梨はそれを知覚する。肌に刺さる視線を感じ取れる能力が、今は疎ましい。
 無様を晒している自覚はあった。しかし、どうすることもできない。手足の拘束具に遊びはなく、真っ直ぐに伸びた手足を少し曲げることすら許されない。
 せめて、腰を落とせれば。
 せめて、内股で耐えられれば。
 もう何度そう思ったことだろう。しかし、そのささやかな夢が叶うことはない。
 頭上でごぽりと音が鳴る。タンクの弁が解放され、中身が流れ落ちてくる合図だ。
「……ッ!!」
 緊張が走る。口を閉じる術はない。開口具でこじ開かれた口では、精液交じりの下剤を拒めない。鼻の曲がりそうな臭気が吐き気を催す。下剤を飲むというのも億劫だ。しかし窒息を免れるためには、無理矢理にでも飲み下すしかない。
 大量の精液はゴム鞠を思わせた。飲み下せば咽頭が痛み、喉が灼け、胃が暴れる。
 しかし苦痛の本番は、腸へ達したそれが薬効を発揮してからだ。猛烈な便意に嫌な汗が噴きだす。下腹部がゴロゴロと鳴る。その音は明白な合図だ。今まさに愛梨が便意を催している、という。
「そらよ!」
 人垣から声がし、浅黒い手の中でスイッチが押し込まれれば、膣内のプラグが重苦しい羽音を発しはじめる。
『こいつはよぅ、超上級者用だぜ?』
 プラグを取り付けられる時、そう前置きをされた。確かにその言葉通りだ。そもそもアルミ缶ほどの太さがあり、数十人との経験を持つ愛梨の膣をさえ限界まで押し拡げる。ペニスにおける肉茎部分は、膣襞に密着した状態でパルス刺激を繰り返し、先端部分は子宮口に密着して子宮そのものを揺さぶる勢いで振動する。
 それだけではない。器具を拘束するカバーにも別にアタッチメントが取り付けられており、本体とはまた異なるペースでクリトリスと尿道に振動を与えるのだ。
 それほどの刺激に晒されては、長くはもたない。まずGスポットと裏Gスポットが、その後に左右のGスポットが戦慄き、四方からプラグに纏わりつく。そうなれば自然と子宮にも力が入り、複雑な先端部の齎す刺激に耐えきれなくなる。
「ウーーーーッ!!!!」
 喉を震わせ、途中に絡みついた精液を押し戻しながら、不自由な嬌声を響かせる。
 脚の痙攣が酷い。膝を曲げられればどんなにか楽だろうが、それも叶わないので足の親指に力を籠めて耐え凌ぐ。しかし、それもそろそろ限界だ。絶頂の度にそれをするせいで、指の骨が軋みを上げている。しかしなんとか踏ん張らなければ、絶頂の高波に呑まれて気が触れてしまいそうだ。
 苦し紛れに背を反らす。手首の拘束具を掴み、まさに藁にも縋る想いで濁流を耐え凌ぐ。手首が痛み、肩が軋もうともしがみつく。流されれば終わりだ。
 今度こそは無理かもしれない……毎度そう思うが、なんとか耐えられた。しかしそれは絶頂で狂わないだけの話。便意に耐えられるかは別の話だ。ぐるぐると腹が鳴り、腸から軟便がしたたり落ちていく。口からの下剤摂取と同じく、門を閉じることはできない。ステンレス製の六爪肛門拡張器で、限界まで肛門を押し開かれているため、S状結腸を超えて直腸へ出た内容物はそのままバケツへと滴り落ちていく。生ぬるさと臭気だけを愛梨に知覚させながら。
 絶頂しながらの排泄は、ヒトとしての尊厳を著しく毀損する。惨めだという自覚があるだけに、周囲の視線や嘲笑が心の深い部分にまで突き刺さる。心身共に余裕がなくなり、思考は単純化する。
 恥ずかしい。気持ちいい。恥ずかしい。気持ちいい……その二つの言葉だけが銀世界のような脳内を巡り、その中で肉体はまた限界を迎える。膣とその周りが戦慄き、子宮の疼きがそのまま排泄されるかの如く、開き切った肛門からブリブリと濁流がひり出されていく。
「ウオーーーーーーーッッッッッ!!!!!」
 まさに、獣。獣そのものの声だ。揶揄されるまでもない、愛梨自身が理解している。女を捨てた声だと。
「女の地獄だな、ありゃ」
「ああ。メンタルの弱ぇ女なら、この後死んでもおかしくねぇや」
「アレは大丈夫でしょう。この状況にすら興奮しているんでしょうから」
 ギャラリーの会話が耳に入る。入るが、今の愛梨の脳では処理できない。

 (い、イってる、またイってる……!!
  でも、どこでイってるの? あそこ?子宮?クリ?おしっこの穴?
  それとも、まさか…………うんちして、それで…………?
  あ、あ、子宮でイってる!普通に子宮でイけてる!!
  あ、でも今度はクリ、おしっこの…………ああ、だめ……誤魔化せない。うんちするの、気持ちよすぎる……っ!今は、うんちでイっちゃってる……!!)

 答えが出ない。津波のような絶頂の震源地が特定できない。あるいは、その全てが絶頂のトリガーなのか。
「おぐう゛っ!!おぐう゛う゛っ!!いぐう゛っ!!おぐう゛っ!!」
 時に明瞭な発音を交えながら、愛梨は絶頂を叫びつづける。湯気の立つような表皮に汗が流れ、愛液が滴り……それよりも熱い身の内が、マグマのように煮立っているのを感じながら。

                ※

 拘束しての恥辱責めは3時間続いた。愛梨にとっては永遠に思えた時間も、傍観者にとっては終了時点で夜の10時。
「まだまだ夜はこれからだぞ」
 客達は笑いながら、崩れ落ちた愛梨の脚を開かせる。愛梨の恥じらいの部分は変わり果てていた。膣も肛門も開ききり、男根で満たせるような状態ではない。その現実を前に、会員達の反応は二つに分かれた。困惑する者と、ほくそ笑む者。アブノーマルプレイの経験の差が浮き彫りになった瞬間だ。
「あーあー、ガバガバだなこりゃ。泣くまでハメ潰してやろうと思ったのによ!」
「なーに、だからこそできるプレイってのもあらぁ」
 笑みの消えない数名は、愛梨の髪を掴んで引きずり起こし、ガラステーブルに肘をつかせる。そして電気マッサージ器を手に取ると、口を開いた肛門へと先端部を押し当てた。
「え……?」
 愛梨が不思議そうに振り返ろうとした、その瞬間。球状の先端部は肛門へとめり込んでいく。
「あがあああああっ!? な、な、あ……っ!?」
 愛梨は大口を開けて叫ぶ。無理のあるサイズだ。しかし男の腕力で力任せに押し込まれれば、拡張された穴の奥へ奥へと入り込んでしまう。
「うおおお、すげえ! 電マが丸ごとケツに入ってんぜ!?」
 年若い男達が目を丸くする中、直腸奥にまでねじ込まれたマッサージ器のスイッチが入れられる。
「あああっ!!」
 愛梨は再び悲鳴を上げた。体表へ押し当てられただけでもズンと来る振動が、腸の内側から響くのだ。狼狽はごく自然な反応だ。
「どうだ、ケツの中からマッサージされる感覚は。気持ちいいだろ?」
「ば、馬鹿、じゃないの……!? こんなの、感じるわけ……!!」
 実際、感じるどころではなかった。強引に割り拡げられた肛門の裂けるような痛み、強すぎる振動による吐き気があまりにも強いせいだ。
 だが、十秒もすれば状況は変わった。痛みも吐き気も和らぎ、代わりに快感が濃さを増す。それを見透かしたのだろうか、男がマッサージ器の端を持ち上げれば、先端部が薄皮越しに子宮を捉える。
「あっ! あ、あっ……はあっ、あひっ……ひっ!!」
「ははっ、情けねぇ声だな! この変態女も、ケツ穴電マでこねくり回されりゃたまんねぇか!」
 情けない声──愛梨にもその自覚はあった。しかし声を張ることなどできない。直腸側からの子宮刺激で、今まさに達しようとしているのだから。
「ぁだめ、いっくッ…………!!」
 考える前に声が出た。喘ぎ声を我慢せず、絶頂を正直に申告してしまう生来の悪癖だ。嘲り笑いが起きる中、愛梨は絶頂する。まずは中程度に一度、当然それだけでは済まない。拷問具さながらのプラグで3時間刺激され、数えきれないほど絶頂させられた子宮は、今もなお煮溶けたような状態だ。そこに刺激が加われば、何度も立て続けに達してしまう。
「ひっ、お……おっ! ふっ……ぅ、ぎひっ、お、おおお゛……っ!!」
 困惑・羞恥の悲鳴と、純粋な快楽の声が混ざり合う。両脚は自然とつま先立ちになり、ハの字を描いたまま痙攣する。
「はっはっは、小鹿みてぇにブルブル震えやがって。しっかり感じてんじゃねぇか、ええ!?」
 男が嘲りながら尻を打ち据えると、その痛みさえも快感に直結し、悲鳴と共に絶頂してしまう。
 嘲笑にしっかりと羞恥を示し、それでも絶頂から逃れられない愛梨。男達はその姿をしばし堪能した後に、次の責めに入る。
「ガバガバマンコをいやらしくヒクつかせやがって、誘ってんのか? いいぜ、ならコッチにもくれてやるよオラッ!!」
 男は愛梨の尻を叩きながら、雫を滴らせる割れ目に4本指を沈み込ませる。
「ん!」
 愛梨が呻いても、指が根元まで入っても挿入をやめず、ついには手首までを膣の中に押し込んでしまう。
「うぐっ……! て、手ぇっ……!?」
「ああ、フィストファックだ。へへへ、しかしすげぇな。手へ直に電マ当てられてるみてぇだ。そら、マンコの壁越しに掴めるぜ?」
 男はそう言って手を上向け、マッサージ器の先を握りしめる。
「うぐううっ!!」
 歯を食いしばりながら絶頂する愛梨にほくそ笑み、男はさらに膣の中で手を動かし続ける。弱点だと知れている左のGスポットを苛め抜き、亀頭のように膨れた子宮口を撫でまわし、拳を握り込み……。
「ぐうっ、うぐうっ!! あはっ、や……おほっ、ほっ、ほおおおっ……!!」
 愛梨の嬌声には様々な色が混じっていた。羞恥、苦悶、そして快感。目を瞑り、歯を食いしばる顔はいかにも苦しげだが、つま先立ちのまま震える下半身はこの上なく心地よさそうだ。
「エッロいガキだぜ、本当によ……!」
 尻込みしていたギャラリー達も、熱気に当てられて眼をぎらつかせはじめる。その内の1人は、どこから持ち出したのかバットを掴み、愛梨が突っ伏すガラステーブルを叩いてみせた。
「え……っ!!」
 数瞬遅れてその意味を理解した愛梨が、目を見開く。
「今日は、オメーをぶっ壊しちまうかもな?」
 男は口元にこそ笑みを湛えているが、目は笑っていない。そしてそれは、愛梨がぐるりと視線を巡らせた先の、どの会員達も同じだった。

 そこから愛梨は、数時間に渡って絶叫を繰り返すこととなった。
 哀願だけはするものか──その決意を貫くためには、叫んで気を紛らわせるしかない。
 熱に煽られたサディスト達は暴力的だ。愛梨を床に押さえつけ、股を開かせた上で性器を虐め抜く。木のバットを捻り込み、中身を愛梨にラッパ飲みさせた後の酒瓶を蹴り入れ、前後の穴に2つの手をねじ込んでシェイクハンドを繰り返し……。
「んぎひぃいっ!! あがっ、あぎゃあああ゛あ゛っ!! はぎゅっ、んぐううう……あがああああああーーーっ!!!」
 マイクを使わずとも、悲鳴がわんわんとホールに反響する。よく通る声だ。声帯をうまく生かせば歌姫にもなれるかもしれない。恵まれた肉体だ。しかし、その肉体を今まさに破壊されている。エスカレートしたまま止まらない、イジメさながらの暴虐で。

「…………あーあー、散らかし放題汚し放題。金持ちってのはなんでこう自分勝手なのかね」
 舌打ちと共に発されたその言葉で、愛梨は意識を取り戻す。目の前にはタキシードを着た男達がおり、モップを手に床を掃除していた。倶楽部の男性スタッフらしい。
「よう、目ェ覚めたかい。今晩はまた随分と可愛がられてたな」
 スタッフは愛梨の身体と床を意味深に見回す。愛梨もその視線を追い、言葉の意味を理解した。床の散らかり方が尋常ではない。使用済みのコンドームや手袋、ティッシュが散乱し、随所に液溜まりができている。見覚えのあるバットやガラス瓶も転がっているが、その半分以上は濡れて色がついていた。
「痛っ……!」
 立ち上がろうとした瞬間、愛梨は痛みを覚える。視線を下に向ければ、膣と肛門には嫌がらせのような数のバイブが隙間なく詰め込まれていた。
「あいつら、入れっぱなしで……!!」
 愛梨は苛立ちながらバイブを掴み、一つずつ引きずり出す。
「んっ、ふっ……ふんんんっ、んっ…………!!」
 一つ抜くたびに、ジンジンと疼くような快感が襲う。掃除しているスタッフ達が密かに笑う。愛梨が睨みつけると目を逸らすが、笑われても仕方がない状況だとは愛梨自身も理解していた。

 ふらつく脚で倶楽部を後にし、夜が明け始めている街に辿り着く。道端で吐いているサラリーマンの間を縫うようにして歩を進め、公園近くまでたどり着いたところで、また腹が渋りはじめた。大量に飲まされた下剤の効果か、あるいは精液で腹が緩くなったのか。
「くう、うっ……! うんち止まんないいっ……!!」
 渋り腹を抱えて息めば、半固形の物が次々と肛門を通り抜けていく。そしてそのたび、愛梨はゾクリと震えた。快便の感覚だけで昂っているのだ。
「こんなの、おかしいわ……!!」
 理解はしているが、高揚が止まらない。胸が高鳴り、秘裂が疼く。その禁忌に逆らえず、愛梨は秘裂を指でなぞる。
「ん、ふっ……!」
 刺激はある。だが、あまりにも弱い。こんな刺激では満たされない。
「あ、あああ!!」
 指を奥へ奥へと進め、ついには拳そのものを秘裂に収めてしまう。そしてその圧迫感で、愛梨は達した。
「くはぁあっ!! あ、あんあああっ……!!」
 大事な部分を拳で虐めながら排泄すれば、恥辱の一夜が蘇り、全身を甘い電流が貫いた。
「はーー……っ、はーー……っ、はーー……っ」
 愛液の滴る拳を引き抜き、二穴を拭って個室を出る。その後に洗面所の鏡を覗き込んだ時、愛梨は初めて、自分が笑っていることに気が付いた。
「…………馬鹿じゃないの!」
 愛梨は自分を睨みつけ、表情を引き締める。鏡に映る顔は普段通りに整った。それでも激しい鼓動や脚の震えは、少しも収まってはくれなかった。


                ※


 プレイの過激さで知られるDUNGHILLでも、愛梨ほど熱心に責められたM奴隷はいない。そもそも奴隷の質が総じて高いこの倶楽部において、特定の奴隷に客の興味が集中し続ける事態そのものが稀だ。アイドルグループのセンターを張った娘であろうと、キー局の女性アナウンサーであろうと、人垣ができるのは初めの数週に限られる。プレイ内容が奇抜であれば一時的に盛り返すとはいえ、基本的には日を追うごとにギャラリーの数が減り、2、3ヶ月もすれば惚れ込んだ数人を除いて忘れ去られるのが常だ。
 しかし、愛梨は違う。類を見ないルックスのせいか、それとも初日に会員達の恨みを買ったせいか。4ヶ月が経ってもなお、ギャラリーは減るどころか増え続け、倶楽部に過去最高益を更新させ続けている。

 プレイにはハードさよりも、愛梨をどれだけ辱めるかが重視された。
 輪姦前のウォーミングアップと称し、公衆の面前で脂ぎった中年男と濃密なキスをさせ、生臭い唾液を飲ませるプレイもその一環だ。
「う、うぐっ……おえっ!!」
 屈辱と臭気に耐えきれなくなった愛梨が眉を顰めるたび、拳を握りしめるたび、会員達はここぞとばかりに嘲笑を浴びせた。露骨に軽んじるその態度が、ますます愛梨を狂わせる。秘部は蕩けてわななき、愛梨自身が呆れるほどの蜜を吐く。
 その後に本番である輪姦ショーが始まれば、愛梨は無数の男達から雑に犯されながら、何度となく甘い声を漏らした。
「あはっ、やべ。あははは、違うの出ちゃった!」
「はあっ、はぁっ…………なあ、あっ!? ふ、ふざけないでっ!!」
 調子に乗った会員の一人が正常位で犯しながら放尿を始めれば、愛梨は目尻を吊り上げて怒る。しかし、あまりにも屈辱的なその状況の中で、彼女の息は乱れていく。
「あ、あ……い、いや!! いやあ、こんなの…………ッくんんんんっ!!!」
 やがて愛梨は、震えるほどの絶頂へと追い込まれた。膣内の尿を撒き散らし、それを嘲笑われながら。

 シャワーエリアのガラス戸に取り付けられた極太のディルドーへ、自ら腰を打ち付ける形での『オナニーショー』も、羞恥の度合いは強い。
「んっ、ああ……ああ、はっん……んっ!!」
 壁に手をついたまま腰を振る愛梨の声は甘い。ディルドーは女殺しの名で知られた女衒の逸物を象ったものであり、絶妙な位置に埋め込まれた真珠が女の急所を責め苛むのだ。
 その姿をドアの外から眺めるギャラリーは、一様に笑みを浮かべていた。ガラス戸もディルドーも透明であるため、真円に開かれたピンクの襞から子宮口までがあまさず見えている。
「スレンダーに見えたが、意外にデカ尻だな。抱き心地の良さそうなカラダしてやがる」
「ひひひっ、マンコの中見てみろよ。もう濡れてきてるぜ?」
「あ、ホントだ。あのイボイボのシリコンチンポ、Lサイズでしょ。普通なら挿れてしばらくは痛くて感じるどころじゃないんだけどねー。マンコだいぶ開発されてんじゃん、あの女」
「おら、もっとペース上げろ! 根性見せやがれ!」
 野次と共に命令が飛び、愛梨は腰を揺らすペースを上げた。冷たく硬い異物が膣を抉る。ロボットにでも犯されているようだ。
 昂るのは早かった。太さがある上に反りや真珠の位置が絶妙で、腰を動かすたびに膣内の様々なスポットが抉られていく。根元まで呑み込めば、硬い亀頭が容赦なく子宮口を押しつぶしてくるが、それがまた耐え難い。静電気さながらの痺れが脊髄を貫く。機械責めで致命的なまでに開発されてしまったらしい。
「んっ、んはっ!! あ、あがっ、んあ、あ、ああっ……!!」
 十回、二十回。膣のスポットを名器に抉られながら絶頂を重ね、愛液が脚を伝っていく。そのうち膝が笑いはじめ、それを嘲笑される悔しさから、膝頭を強く掴んで腰を打ち付ける。ピストンの速度も力強さも増し、ガラス戸の蝶番が軋む。
「あ、あはあ、ああっ…………んああああーっ!!!」
 やがて愛梨は、悩ましく呻きながら床に手をつく。
「へへへ、とうとう腰砕けになりやがったか。エロいポーズだなオイ!」
「挿入待ちのポーズだな。つってもマンコはぶっ太いのでミッチリ埋まってるがよ」
「ケツの穴がパクパクしてるぜ、透明なクソでもしてるみてぇだ!」
「よし淫売、そのままキープだ。腰を逃がすんじゃあないぞ!」
 命令に従い、深々とディルドーを咥え込んだまま動きを止めれば、全身が震えはじめる。
「あ、あああぁイクっ……!! おっ、おお゛、ほっおおおお゛お゛っ!!」
「ははははっ、出たね本気のヨガリ声!」
「脚もガクガクだ。膣で相当深くイッてんだろうな」
「興味深いですねぇ。この娘、自分で自分を壊しているわけですか!」
「ええ、その全てを我々に観られながらね」
「そら、あと100回だ! ぬるい動きすんじゃねーぞ、ガラス戸でケツが潰れたら1カウントだからな!」
 ギャラリーから好奇の声と無慈悲な命令が飛ぶ。奴隷である愛梨はその命令に逆らえない。
「おっ、おっ……はっ、はぁぁ……っ、おおお゛お゛っ……!!」
 一度本気の声が出る段階になれば、もはや後戻りはできない。肺が鉛になったように重く、膣内は痙攣しながら甘い電流を撒き散らす。
「ハメ潮スゲェな、腰振るたびにブシャブシャ出てんぜ?」
「ああ。コイツ最近じゃ、輪姦すたびに潮噴いたりションベン漏らすんだよ。つってもこりゃ噴きすぎだな。壊れた蛇口みてーだ」
 ギャラリーの言葉が胸に刺さる。彼らの前で浅ましく腰を振り、絶頂するのは屈辱的だ。しかし、だからこそ愛梨は興奮してしまう。
「おおおおっ、おっ……イグ、イグううううおお゛お゛っ!!」
 痙攣し、失禁しながら自らを壊す愛梨の姿は、この夜最高の見世物となった。

 この時期に行われたイラマチオも、愛梨にとって忘れられない記憶となった。
「すっご。あんなの根元までクチに入るんだー!」
「クチで収まるわけないじゃん。喉の奥まで入ってるんだよ」
「マジ?うえー……」
 新顔らしい女性会員が、愛梨を見て目を丸くする。
 確かに愛梨の口へ出入りしている怒張は、顎を盛大に開かなければ咥えこめないほどに太く、また愛梨の顔以上に長い。とはいえそのサイズ自体は、愛梨にとってさしたる問題ではないはずだった。その巨根の持ち主……水口は、愛梨が倶楽部を訪れた初日に翻弄した相手なのだ。
 ところが、愛梨はひどく苦しげだった。
「おぼっ、ォッ……るおエ゛っ、んむぉえ゛! ごっ、ぶふうっ!!」
 涎を垂らしながら激しくえずき、鼻水を噴きだしながら噎せ返る。
「変な感じだな。今日初めて喉奥に突っ込まれたイラマ処女みてぇだ」
「前はノド奥どころか食道まで突っ込んでもヘラヘラ笑ってやがったのにな。すっかり可愛くなっちまって。やっぱ、あの状況のせいかね?」
 男達は嘲りながら、愛梨の足元に視線を落とす。
 膝立ちになった愛梨の股座には、一人の男が横たわっていた。仁王立ちする水口の脚をくぐるように仰臥したまま、愛梨の脚を掴んで股間を舐め回している。
 彼は、名のある令嬢でもある女性会員が自慰用に飼っている『舐めイヌ』だ。女を満たすよう十年以上も躾けられたその舌遣いは、円熟の域に達している。そのテクニックを惜しみなく披露され、愛梨はすでに数十回の絶頂を経験していた。
「おもぉおお゛おう゛っ!!」
 唾液塗れの怒張を吐き出すや否や、呼吸を整える間すら惜しんで切に呻く。男の舌から逃れたい一心で、腰が浮き、悩ましくうねる。その動きをギャラリーから散々嘲笑われた挙句、結局逃れきれなかった舌で絶頂させられ、男の顔の上で腰を抜かす。男がにやりと笑う気配がした後、今度は割れ目の中にまで舌が入り込み、再び腰が暴れはじめる。その繰り返しだ。
 水口の方も、愛梨に充分な休息など与えない。
「逃げるな。お前の口は今夜、私の『道具』だ」
 そう言い放ち、鋭い視線を愉快そうに受け止めながら、開口具の輪へと怒張を送り込んでいく。以前に赤恥を掻かされた恨みがあるため、容赦はない。両手で愛梨の頭を掴んだまま、エラの張った亀頭で喉奥を苛め抜き、根元まで咥え込ませる。

 (く、苦しい……! 前みたいに、喉が開かない……!!)

 激しく噎せかえり、えずきながら、愛梨は困惑する。倶楽部でのハードプレイで肉体が開発されているにもかかわらず、初日よりも責めに弱くなっている。
 その理由はひとつ。この屈辱的な状況だ。『舐めイヌ』に秘裂を蕩かされながら、喉奥まで咥え込まされる……その状況への恥じらいが、喉の開きを悪くしているのだ。
 しかし、そう理解したところでどうにもならない。度重なる絶頂で腰が抜け、下半身はかろうじて膝立ちを保てているような状態だ。上半身は水口に頭を掴まれているせいで動かせない。アームバインダーで両手を拘束されているため、手で相手を押しのけることさえ叶わない。
 されるがまま、追い込まれていく。
「おうう゛っ、おエエ゛エ゛エ゛ッ!! アグウ゛ッ、ぅえお゛エエあ゛っ!!」
 これまで何度も咥え込まされてきたが、その中でも最も酷い声が出ているのが、愛梨自身にも自覚できた。沸き起こる嘲笑が耳障りだが、声を止めることはできない。閉じた喉をこじ開けられるイメージが脳裏に浮かぶ。眠ろうとすればするほど目が冴えてしまうように、耐えようとすればするほど喉が狭まり、怒張の存在を強く感じてしまう。
「ッる゛うふっ、ごはあ゛あ゛っ!!」
 とうとう嘔吐が始まった。勢いよく吐瀉物が噴きだし、ペニスを抜き出された後も開口具の穴から糸を引く粘液が垂れていく。
「もう我慢できなくなったのか。薄ら笑いを浮かべていた“あの時”とは大違いだな」
 水口は冷ややかにそう告げた。愛梨は咄嗟にその顔を睨み上げるが、目に力を入れたせいで涙が零れた。
「今日は何遍吐いても気を失っても、私がイクまでやめん。覚悟することだ」
 水口はそう宣告し、そしてその言葉通りに愛梨を責め抜いた。愛梨が吐き戻せば怒張を抜き出し、気道の確保だけはさせるが、呼吸が整うまでは待たない。吐瀉物とえずき汁を潤滑液として、より苛烈に喉奥を『使う』。愛梨が白目を剥き、鼻からも吐瀉物を噴きだしながら失神しても、なお責めの手を緩めない。
 熱意に関しては下の男も負けてはいなかった。『舐めイヌ』として鍛え上げたオレの技を見ろ──そうギャラリーへ訴えるかの如く、ぴちゃぴちゃと音を立てて愛梨の秘部を舐め回す。愛梨が腰を暴れさせても、尻を掴んで離さない。潮を噴いている最中にも、陰唇とその内の粘膜を舐り抜く。
 その異様な状況と絶え間ない責めは、愛梨の脳を掻き乱し続けた。明晰な頭脳がぼやけ、回転が鈍っていく。あれほど耳障りだったギャラリーからの嘲笑が遠く思え、喉奥と割れ目の温かさばかりが感じられる。その感覚はさらに狭まり、ついには口内のペニスしか知覚できなくなる。
 熱く、腐っているのかと思えるほど臭く、硬い。もうかなりの時間喉を犯しているにもかかわらず、射精をしないので張りが衰えない。逞しい、という言葉が相応しい剛直だ。

 (まさかこの後、このペニスで犯されるの……?
  今、こんなの突っ込まれたら……突っ込んで、動かされたら……!!)

 想像するだけで、愛梨の中にゾクゾクとした感覚が走る。それは背筋を痺れさせ、脳さえもスパークさせる。
「おぶっ、ぉおお……おぶぉおおおう゛っ!!」
 余裕を失くした愛梨は、たちまちに決壊した。喉奥に突っ込まれたまま噎せ返り、鼻から泡立つ粘液を垂れ流しながら白目を剥く。割れ目からも潮の飛沫を噴き散らす。
「ぶっはぁああっ!! あっ、あはっ! あはーっ、はーっ…………!!」
 頭を解放され、激しく喘ぐ。しかしその間も、愛梨の視線は目の前の怒張に釘付けになっていた。
「はははっ、ガン見じゃねーか!」
「窒息で死にそうなのに、チンポの事しか考えられねぇってか!? ったく、呆れた変態だな!!」
 大笑いと共に発せられた罵声が、靄のかかった愛梨の耳に届く。数瞬遅れてその意味を理解すると、秘裂が戦慄いた。
「安心しろ、後でたっぷりと可愛がってやる。そのドロドロに蜜を吐いている花園をな」
 その言葉と共に、水口は喉奥陵辱を再開する。酸素を断たれる苦しみの中、それ以上に強く愛梨を包んだのは、喜悦だった。この男に抱かれたがっているのだと、はっきりと理解できた。
「おう゛っ、ぉ゛う゛う゛え゛っ!! えお゛、ェえ゛えお゛う゛お゛え゛っっ!!!」
 喜悦を自覚すると喉が開き、食道のさらに奥まで熱い棒が入り込みはじめた。それはより酷いえずきを生み、人垣の輪から割れんばかりの笑いを引き出す。その恥辱で、ますます喉が開き……延々とループする。
 愛梨の目尻から涙が伝った。辛さからの涙でないことは愛梨にもわかった。むしろその逆……叱られていた子供が親から赦された時に安堵して流すような、暖かな涙だ。
「見ろよ、泣いてやがるぜ?」
 その言葉に愛梨が横を向く。その濡れた瞳に、悪意をぶつけようとしていた観衆を一瞬言葉を呑んだ。
 助けを乞うているようでもあり、もっと虐めてと切に願っているようでもある。その眼を見つめたまま、ギャラリーは一人また一人と笑みを深めていく。
「へへ……マジで、なんなんだよお前。倶楽部一の問題児のくせに、エッロい目で媚びやがってよぉ! いいぜ、ここにいる全員で朝まで輪姦してやるよ! 気絶しても引きずり起こして、ガンガン突きまくってやらぁ!!」
「おお、ヤろうぜ! おうバニーの姉ちゃんら、ありったけのゴムとエナドリ持ってこいや!!」
 様々な叫び声と共に、熱意が渦巻く。その熱を汗の浮く肌で感じながら、愛梨の中のゾクゾクとした感覚はさらに強まっていく。愛梨はそこで初めて開口具に感謝した。汗と唾液で不快な器具だが、これがあるおかげで口元を見られない。おそらくは笑う形をしているだろう口元を。


                ※


 アサミ、ミカ、そして愛梨……同期の3人組はいずれもハードに責められたが、愛梨に対するプレイの苛烈さは群を抜いていた。膣をNGにしているアサミは肛門のみ、アナルをNGにしているミカは膣のみの開発に留まるが、愛梨はどちらの穴も同時並行で開発されるためだ。
 I字バランスの格好で拘束したまま、直腸に浣腸器で薬液を注ぎ込み、そのまま膣を犯す。軸足を抱え込むようにして激しく犯していれば、いずれ限界がきて排便を晒すが、そうなれば愛液まみれの逸物を抜き、そのままアナルを犯し抜く。一般にはハードコアに類するこのプレイも、今や長い一夜の『前菜』に過ぎない。
 そして、それを受ける愛梨もまた強情だ。
「ふ、ふん……。このぐらい、何でもないわ……!」
 あらゆる体液に塗れ、痙攣しながらもなお強がる奴隷を前に、会員達は息を荒げて更なる責めの構想を語り合う。
「そろそろ、黒人とヤラせますか」
「いいですな。しかし、ただのセックスで涼しい顔をされても癪だ。どうせならアヌスにも……」
「はははっ! 流石はサイトウさん、容赦がないですな。よし、次はそれで行きましょう!」
 こうした会話が交わされ、実際に次週にはそのプレイが行われる。何十人というギャラリーが好奇の視線を送る中で。

「あ、あ゛あっ!! あっ、あっ!!!」
 愛梨の叫び声が響く。とはいえその声質は重苦しく、ホールに響き渡るほどではない。愛梨の声をくぐもらせる要因は、秘部にねじ込まれている巨根と、肛門にはめ込まれた太い栓だ。
「しっかし、なんつうサイズだよ……。俺もダチん中じゃ一番デケェけど、やっぱ黒人にゃ勝てんわ」
 男の会員が、ステージ上のペニスを見て呆れた声を出す。自信を喪失するのも無理はない。ステージで愛梨を犯しているのは、VIP会員の部下だというアフリカ系の黒人だ。そのペニスの全長は27センチに達する。愛梨は今、椅子に腰掛けた彼へ跨るようにして抱かれているが、規格外のペニスはその半分しか性器に収まっていない。

 (ほんと、何よこれ……! 大きすぎて、あそこが裂けそう!!)

 愛梨もまた、歯を食いしばりながら困惑していた。イラマチオで吐かされた水口の物より、数多の女を骨抜きにしてきた省吾の物より、遥かに凶悪。上司だというVIP会員が『マグナムディック』と自慢するだけのことはある。
 そして、愛梨を追い詰める要因はもう一つあった。400ml注入された、塩化マグネシウム溶液だ。
『これはドナン浣腸といってねェ、最強の浣腸なんだよ。昔は重度の便秘患者の治療用に使われたが、あまりにも効果が強烈すぎて患者が嫌がるものだから、使用禁止になったらしい。グリセリン溶液なら小一時間耐えられるようなエネマプレイ中級者でも、これには3分と耐えられないんだ』
 白衣の男がそう語った通り、イチジク浣腸などとは訳が違う。注入された瞬間、きつい酒を呷った時のように腸の粘膜がカッと熱くなるのを感じた。そこから僅か数秒で強烈な便意が沸き起こり、二本目の浣腸を受けているその最中にも、意思に反して肛門が盛り上がるほどだった。
『まだ出すんじゃないぞ』
 そう挑発を受け、かろうじて耐えはしたが、菊輪は愛梨自身の意思とは無関係に花開き、外へ外へと捲れようとする。
『出したくて堪らないんだろう。安心しなさい、専用の栓がある』
 そう言って突き出されたアナルプラグは、大の男が二人掛かりで保持するような代物だった。最も太い部分の直径は10センチを悠に超えているだろう。通常であれば入念に拡張し、フィストファックでも経なければ入り得ないそのサイズを、ドナン浣腸で緩んだ愛梨の肛門は驚くほどあっさりと受け入れた。とはいえ当然、楽にではない。スムーズに入り込んだとはいえ、アナルプラグの巨大さに尻周りの骨が悲鳴を上げる。漬物石でも腹に詰め込まれたような違和感が襲う。そして何より、閉じ込められた便意が脳を直撃する。
「な、なに、これ……うううっ!!」
 排泄欲は根源的欲求だ。本来は逆らえないものであり、それを無理に抑え込めば嫌な汗が噴きだす。肛門は狂ったように排泄したがるが、根元の窪んだアナルプラグが引っ掛かって全く出せない。
 そうして未知の感覚に狼狽える愛梨の前に、例の黒人が表れたのだ。
『部下のビルだ。お前の今夜のパートナーだぞ、愛情を込めてしゃぶってやりなさい』
 そう告げるVIPの男を、愛梨は全力で睨みつけた。しかし結局はその言葉通りに動くしかない。

 その後のフェラチオは地獄だった。ビルのペニスはただでさえ大きく、半勃起状態ですら口に収めることはできない。ましてや舌と指の刺激で勃起してくれば、舐め上げるだけでも一苦労する。それを便意に耐えながら行うのだ。
 ぐるるるる、と腹が鳴る。直腸の中は煮え立つようだ。
「はあっ、はあっ、はあっ……!!」
 愛梨の息はたちまち乱れた。興奮しているのかと揶揄される中、汗が噴きだし、全身が震える。

 (うんちしたい、うんちしたい、うんちしたい……っ!!)

 思考がそれ一つに染め上げられる。
『そろそろ良いだろう。ゴムを着けてやりなさい』
 VIPの声で、愛梨はビルの逸物を改めて見上げ、息を呑む。節くれだった木の根のような、黒人ならではの巨根。当然、コンドームを着けるにも日本人相手とは勝手が違う。向こうが透けて見えるほどゴムを引き延ばさなければ、とても包み込めない。もはや脚にタイツを履かせている気分だ。

 (これを、挿れるの……? こんなのが、本当にあたしの中に入るの……!?)

 愛梨は何度も自問する。水口の時のような興奮はない。『どうにかなりそうだ』という感覚は同じでも、その意味合いはまるで違った。
 その予感は、挿入と同時に確信に変わる。
 見世物にされている状況だ。いかに黒人のペニスといえど、愛梨は声を出さずに堪えるつもりでいた。しかし、いざ巨根の先が秘裂を押し開けば、その覚悟は脆くも崩れ去る。
「はぁあああっ!?」
 情けない声が出た。情けない顔になった。深く落とした腰が痙攣し、口がパクパクと開閉する。

 (黒人相手のセックスが、こんなに凄いなんて……!)

 愛梨は驚嘆する。そんな愛梨の胸中を知ってか知らずか、ビルに容赦はなかった。愛梨の太腿と変わらない太さの腕で、尻肉を鷲掴みにし、力任せに上下させる。
「あーーーっ!!」
 愛梨はビルの太い首を抱え込み、ソファの座部を足指で噛んだ。もし支えなしに、全体重でビルの巨根を受け入れれば、確実に意識が飛ぶ──本能がそう訴えていた。
「はははっ、しがみついてやがる!」
「ったく、強ぇオスはいいよな。ぶち込むだけであのクソガキを骨抜きにしちまうんだからよ?」
 野次が飛ぶが、それでも姿勢を変えられない。未だかつて経験がないほど苛烈なセックス。強烈な便意。その板挟みになるだけでも、脳がパニックを起こすには充分だ。
 しかし、それだけではなかった。

 (な、なんなの、これ……!! 熱い、熱いっ!!!)

 腸の煮え立つような熱さが薄皮を越えて染み入り、子宮までもを熱くする。普通では有り得ないほどの蜜があふれていく。
「んっ、ぐうっ……ぁはあっ、はっ!!」
「うわー、マンコからめっちゃ汁出てる。気持ちいいんだねー!」
「そりゃそうだろ。なんせ筋金入りのビッチだ、黒人のデカチンが美味くてしょうがねぇんだろうぜ!」
 狂乱する愛梨を前に、ギャラリーは大いに盛り上がった。黒人を連れてきたVIPの男も上機嫌だ。
「どうだ、ビルのテクは? 中々のテクニシャンだろう?」
 勝ち誇ったようなその問いかけは、愛梨の神経に障った。彼女は強い瞬きで目の周りの汗を切り、強く男を睨みつける。
「はあ? デカさ自慢でガンガン突くだけのコイツがテクニシャン? 笑わせないで!」
「ふふふ、そうかね? その割には随分と善がっているようだが」
「く、苦しいから喘いでるだけよ。そんな事もわからないの!?」
 極限の状況下で、なお強がってみせる愛梨。それこそが、常に集団のボスとして生きてきた彼女の在りようであり、サディストの心を捉えて離さない要因でもある。
「なるほど、それは失礼した。ビル、このお嬢さんは、もっとハードなファックがしたいそうだ」
 VIPの男がそう告げると、ビルはその言葉を待っていたとばかりに笑い、愛梨の尻肉を掴み直した。
「え、何を……っ!?」
 暴れる色白の尻を、丸ごと包み込む大きな掌でコントロールし、強引に挿入角を変える。子宮口を突き込むのではなく、その脇の窪みへはめ込むような責めに切り替える。
「あ゛ッ! んおっ、お゛っ!!」
 不意を打たれた愛梨は、飾ることができなかった。目を見開いて、快感のままに声を上げてしまった。
「あ゛、あ゛、あ゛お゛っ、ああ゛お゛お゛っ!!!」
 さらに突き込まれれば、愛梨は激しく震え、背を仰け反らせる。同時に腹部からは、ぐるぐると凄まじい音がしはじめた。
 ビルはその反応を笑い、愛梨の耳元に口を寄せた。
「Open Your Eyes.」
 その一言で、愛梨ははっと目を見開く。そして震えながらビルの首を離し、顔を睨みつけた。ビルはその強気ぶりに口元を緩めつつ、掴んだ尻を激しく上下させる。
 そうしてしばし責め立てた後、ビルは愛梨を抱いたまま椅子から立ち上がり、ゆっくりとステージの端に向かった。ギャラリーへ見せつけるためにだ。
「あがあっ!! はっ、はっ……あ、あああ゛……っ!!」
 愛梨の顔が歪む。椅子で踏ん張る事が出来ず、全体重が挿入部にかかる体勢は圧が強すぎる。その状態で腰を上下されれば、激しい反応をせざるを得ない。そしてそれをギャラリーに至近距離で視られるのだ。
「シーッ、ハッ……! シーッ、ハッ……!」
 あまりの苦しさに、愛梨の呼吸が変わる。洋物のビデオでよく耳にする喘ぎ声だ。

 (もしかして、外人の女優だからあの喘ぎ方なんじゃなくて……このペニスを入れられたら、自然とこの喘ぎになっちゃうの……!?)

 大きくて、苦しい。内臓を丸ごと突き上げられるような感覚は、日本人相手のセックスでは味わえないものだ。
 ギャラリーの野次はよく聴こえた。愛梨はその言葉で自分の状態を知った。震え、仰け反り、両脚で空を蹴り。ヒクつく肛門を盛り上げては栓に阻まれ、前後の穴から汁を止め処なく滴らせているようだ。
 傷を視認することで痛みが増すように、現状を客観的に伝えられると、愛梨の中の何かがひび割れていく。
「あ、あ゛あああ゛っ!! んおっ、おっ、おっ!!」
 愛梨はとうとう目を見開き、舌を突き出す。観衆のざわめきが増した。それほどにインパクトのある表情だった。
「潰せ、ビル。」
「オーケイ、ボス。」
 VIPの男が冷徹に命じれば、その部下もまた粛々と応じる。
 彼はステージの端で愛梨の尻を掴み、8割ほどまで剛直をねじ込んで愛梨に潮を噴かせ、場を大いに沸かせる。そして、天を仰いだまま痙攣する愛梨を元いたソファに押し込むと、その上へ覆いかぶさった。
「おおっ、『種付けプレス』か!」
「うへぇ。体重乗せてあのデカチン突っ込まれるとか、たまんねーな!」
 客が期待を寄せる中、ビルはゆっくりと腰を沈めていく。
「あいッ! く、あっ、いひぃいっ!!」
 愛梨は途切れ途切れに呻きを漏らした。アナルプラグのせいで変形した膣が、ビルの巨根の形に作り変えられていく。その遊びのなさは先ほどまでの比ではない。怒張の熱さも、脈動も、しなやかな硬さも、嫌というほど感じてしまう。
 丸い亀頭が膣奥まで達しても、なおビルの腰は密着しない。体重を乗せてもなお全ては挿入しきれないらしい。それが苛立たしいのか、ビルは肉臭い息を吐きながらグリグリと膣奥を刺激する。
「ああっ、や、んはぁあ!! お、ぉっき……んああぁぁんん……っ!!」
 愛梨が切ない声を漏らし、足指を握り込む。するとビルは、それを待っていたとばかりに腰を遣いはじめた。ソファを軋ませながら、ドロドロに蕩けた膣の内部を攪拌する。その速度は次第次第に増していき、掘削ともいうべきものになっていく。
「んがあァっ!? あ、ちょ、待っ……あ゛ァア゛ああ゛っ!!! しっ、子宮、痙攣して……はう゛っ!! あがァ……おォッ、がッ……ああおお゛ア゛ッッ!!!」
 愛梨は苦楽に身悶えた。あまりに強い膣の快感、あまりに強い肛門の便意……その板挟みで全身が暴れる。脚は力み、上半身は腹筋でもするかのように起き上がる。
 その反応を目の当たりにしても、ビルは容赦をしない。愛梨の足首を掴んだままひたすらに剛直をねじ込んでいく。実にショー向きの責めだ。見た目の豪快さのみならず、視認性にも配慮している。膣へのピストンも、浣腸を耐える肛門の戦慄きも、すべてがギャラリーに見えるように。
「はははははっ、いやあ凄い! まさに杭打ちだ!」
「あの黒人の、さっきより大きくなってない? もう子供の脚ぐらいあるじゃない。あんなのガンガン突っ込まれたらオマンコが壊れちゃうわ!」
「ドナン堪えんのもそろそろ限界らしいな。あんな太ぇ栓してんのに、クソ汁が垂れっぱなしだぜ?」
 会員達は派手なパフォーマンスに湧き上がる。
 一方、愛梨は刻一刻と追い詰められていた。ビルの『杭打ち』は容赦がない。膝を使ってしっかりと奥まで剛直をねじ込んでくる。
 しかも、猛烈なピストンは同じ動きを反復している訳ではない。ひたすらに子宮口を責めていたかと思えば、不意に角度を変えて子宮口下部の窪み……Aスポットにも嵌め込んでくる。愛梨にはそれがまた堪らなかった。日本人のペニスでは到達しえない深みまで、エラの張った雁首が潜り込んでくる快感──それはポルチオで得る快感とはまた違う種類の悦楽だ。ポルチオ責めに備えている中で不意にその快感が来ると、あっという間に無防備にされてしまう。
「あああ気持ち゛いイ゛っ!! なっ、なにこれ、こんなの知らないっ!! 気持ちいいの、ずっと続いてる……あ、そごっ、ああお゛ッ!! き、気持ちいいのっ、ずっと!! こんなのおかしいっ、おかしいって、あ待……あああああ゛っ!! ダメ、もううんちが……ああ奥ゴリゴリやめてええ゛っ!!! や、それもうっ……あイグイグイグッッッ!!!」
 膣で際限なく絶頂へ追い込まれる中、排泄欲も限界を迎えつつあった。マグマのように熱く煮え滾る肛門が、何度も噴火さながらに盛り上がり、太すぎる肛門栓に阻まれて戻っていく。それを幾度も繰り返し、ある瞬間とうとう限界が訪れる。
「あ出るッ、出ちゃう……!! くあ、あ……あがあああ゛あ゛ぁ゛っ!!!」
 愛梨らしい、ホールを震わせるような絶叫と共に、太いアナルプラグが勢いよく弾け飛ぶ。そしてそれを待ち望んでいたように、汚液の噴出が始まった。ぶりゅっ、ぶびぃっ、ぶじぃっ……という、美少女から発されているとはとても思えない音が響き渡る。
「oh……!!」
 強烈な排泄は、膣にも変化を齎したのか。ビルが顔を綻ばせ、腰をぶるぶると震わせる。射精しているのは誰の目にも明らかだ。
 ぶるりと身震いして射精を終えても、ビルは腰を止めない。粘ついた水音を立てながら膣内を突き込み、その度に愛梨の肛門から液が噴きだしていく。
「ひひひひっ、すげぇな。あの重てぇ栓があんなトコまで飛んでったぜ? やっぱドナン限界まで我慢させた後のクソは、勢いがハンパねぇな!!」
「ああ。あとドナンっつったら、出すモン出した後のケツ穴だよな。腸の粘膜が捲れかえって、ぐっぱり開いてよ。ダリアの花とはよく言ったもんだぜ!」
「わー。人の見たの初めてだけど、こんなになってるんだー。すっごいね。あ、あと、皆知ってる? この状態のお尻ってメチャクチャ敏感になってるんだよ。ドナンの熱さが染みてとろとろになったオマンコより、もっと感じるの!」
「へえ、そりゃ面白そうだ。よーし、たっぷりイジメてやるか、このイカレ女のぶっ壊れアナルをよ!」
 会員達は花開いた愛梨のアナルを興味津々に覗き込み、嗜虐心の赴くままに責めはじめた。
 筆で菊輪を撫で。イボどころか針に近い突起のついた手袋を嵌め、数人掛かりで腸粘膜を弄り回し。蛇腹の太いバイブを抜き差しし……。
「あああっ! や、やめっ、痒……熱いいっ!! っうああああ゛あ゛!!」
 ビルに膣を責められながら、過敏なアナルを責められる地獄。愛梨は叫び、身悶える。そしてその過程で、彼女の二穴の性感はまた飛躍的に開発されていく。

「ウウ゛ああ゛ア゛ーーーッ!!! ハァーッ、ハァーッ……あ、ア゛ーッ!!アア゛ーーッ!!」
 獣の声が響き渡る。後ろ手に拘束され、ボールギャグを噛まされたまま肛門を犯される愛梨のものだ。
 尋常な声ではないが、反応もまた普通ではない。涎と涙を垂らして悶え狂っている。肛門の刺激を嫌がるように腹部が蠢き、脚が暴れる。その果てに逸物が抜けても、腹部はなお痙攣を続け、ついには潮を噴き散らす。
「うへぇ、すげえな……!」
「ああ。ケツでイッてるってレベルじゃねぇぞ。どうなってんだありゃ……?」
 異様な声に引き寄せられた野次馬達が、呆れ交じりに笑みを浮かべる。
「これがアナルアクメを極めさせられた奴隷の成れの果てだよ。正確にはアナル経由での子宮イキだがね。アナルからの子宮イキは、ポルチオを直に突かれて絶頂する極感が天国に思えるぐらい、もどかしく粘り気の強い快感らしい」
 アナルマニアが愉快そうに語る中、愛梨は再び後孔に挿入され、肥えた白蛇のようにのたうち回る。
 酒の回った会員達も、それをただ見ているだけではなかった。
「逃げんじゃねーよ、変態女が! ケツアクメに溺れちまえ!!」
 逃げる愛梨を押さえ込み、乳房を揉みしだく男もいる。
「ここがイイんだろ? 外からも刺激したげるよ、ほーら!!」
 痙攣する愛梨の腹に乗り、そのまま踊ってみせる女もいる。
 そしてそうした横槍が、ますます愛梨を悶え狂わせた。

「へーっ……、へーっ……、へーっ……、へーっ…………!!」
 愛梨に、もはや美少女の面影はない。
 虚空を見つめ、舌を突き出して喘ぐ顔。乱れたまま肩に絡みつく黒髪。這う格好のままなお痙攣する肉体。そのいずれもが危険な匂いを発している。
「これはこれは。筋金入りのマニアに可愛がられて、だいぶ本性が解放されてきたようですね」
 穏やかな表情でそう告げるのは、愛梨に倶楽部を紹介したVIPの男だ。
「ほ、本性……? こ、これが、あたしの……?」
 愛梨が汗みずくの顔で問い返すと、男は静かに頷いた。
「そう、それが君の本性……本能がそう在りたいと願った姿です。この倶楽部で調教を受けた奴隷は、例外なくそれに目覚めます。『あの2人』のようにね」
 そう言ってVIPの男は、少し離れたステージを指し示す。愛梨が視線を向けると、そこには見覚えのある2人がいた。愛梨と同じ日に奴隷となった、アサミとミカだ。
 彼女達も愛梨と同じく、複数人の会員に囲まれて調教を受けていた。それ自体は見慣れた光景だ。しかし……愛梨は目を見張る。
「え……っ?」
 目を疑った。見慣れていればこそ、その行為の異常性にはすぐに気がついた。
「あああアナタ、ごめんなさいっ…………!!」
 若く逞しい男に膣を犯されながら、歓喜の涙を流すアサミ。
「んっ、あはあっ!! んあああ、はああああッ!!」
 醜悪な見た目の中年男達に二穴を輪姦されながら、陶然とした表情を浮かべるミカ。
 どちらもNGとしていた筈のプレイだ。主婦であるアサミは夫への罪悪感から膣使用を拒み、不良娘であるミカは『ハゲ・デブ・ブサイク』の相手とアナルプレイを禁止としていた。しかしその2人は今、禁じていたプレイで涙するほど感じているようだ。
「驚きましたか? しかし、あの変化はごく自然なことです。何かを嫌うというのは、それを強く意識している証。奴隷がNGとするプレイは、往々にしてそれこそが真の性癖であることが多いのです。あの2人もそうでした。アサミさんは後ろの穴を責められながらいつも膣を濡らしていましたし、ミカさんは醜悪な男に犯される他の奴隷をいつも目で追っていました。それは彼女達自身もよく自覚していたことでしょう。となれば後は、その本能を受け入れるように、少しその背を押してあげればいい」
 VIPの男はそう言って片手を上げる。すると、倶楽部のスタッフがホールのモニターにある映像を流しはじめた。

 大画面にまず映し出されたのは、アサミだ。彼女は前後の穴を器具で拡げられたまま、壁に手をつく格好を取らされていた。
『くう、ううううっ……!!』
 アサミは顔を歪めて呻く。貞淑な彼女のことだ、恥辱も耐え難いのだろうが、どうやらそれだけではない。
『どうだ、痒くて堪らんだろう。いい加減言ってみろ、掻いてくださいってよ』
 アサミを囲むギャラリーが意地の悪い笑みで告げる。どうやら彼女の前後の穴には、痒みを齎す何かが塗りこめられているらしい。その影響か、穴の中からは大量の粘液があふれ出し、肉感的な脚を伝い落ちていた。
『い、嫌です……! 前は、前だけは、あの人の……!!』
 アサミは首を振って誘いを拒む。気弱な彼女だが、夫を想う気持ちは本物らしい。
 しかし、人の忍耐力には限界がある。
『…………お、お願いします、イカせてください…………!!』
 場面が切り替わり、丸裸のまま涙ながらに土下座するアサミの姿が映る。床に点々と広がる雫と、赤く腫れたまま痙攣する秘部を見れば、彼女がどれだけ耐えたのかは一目でわかった。その果てに、彼女は折れたのだ。
『ひひひっ。マンコ濡らしながら全裸土下座でチン媚びか。大した人妻だぜ』
『誰とも知らない相手との浮気セックスか。旦那はどう思うだろうな?』
 会員達からの言葉に、アサミは表情を強張らせる。しかし床に押し倒され、満を持して膣に挿入された後は、顔の強張りは消え去ってしまう。
『あはああああっ!!!』
 開いた口はうっすらと笑みを形作り、嬌声は悦びに満ちている。男達の言う『浮気セックス』で、心の底から満たされたと言わんばかりに。

 そこで画面が切り替わり、次にミカの姿が映し出される。彼女は椅子に拘束され、まさに彼女好みの見目麗しい男達から愛撫を受けていた。
『あ、ああ……あっ、あっ……』
 乳房とクリトリス、膣を入念に愛撫する手つきは見るからに巧みであり、実際ミカも甘い声を漏らしていた。しかし、その甘い時間は長く続かない。
『止めろ』
 ミカの正面に鎮座する男がそう一声発すると、ミカへの愛撫が止まる。
『あっ!? く、クソォッ……! また、かよっ…………!!』
 ミカは口惜しそうに正面の男を睨み据える。その口ぶりからは、同じような焦らしが何度も行われていることが伺えた。絶頂しそうになるたび愛撫を止められる。正面の男──ミカの嫌う条件を兼ね備えた、醜悪なVIP会員の前で音を上げるまで。
 ミカは気の強い娘だ。相当な時間その責め苦に耐えたことだろう。場面が切り替わった後の、失禁でもしたかのような液溜まりが、それを裏付けていた。しかし、その意地もとうとう限界を迎える。
『わ、わかった……アンタと、するよ…………』
 ミカは俯いたまま、掠れ声でそう告げる。
『もっと大きい声で、ハッキリ言え!』
 愛撫していた男が前髪を掴み上げると、ミカの顔がカメラに写り込む。涙と鼻水で見るも無惨に変わり果てた顔が。
『お、お願いします! あ、アタシを、抱いてくださいっ!!』
 新たに涙を零しながら、ミカは哀願する。彼女が嫌う条件を兼ね備えた男を相手に。

 NGとしていたはずのプレイに、嬉々として興じるアサミとミカ。愛梨はその姿から目を離せなかった。奴隷がNGとするプレイは、往々にしてそれこそが真の性癖であることが多い──VIPの男の言葉が真実味を増す。
「これで分かったでしょう。あれこそが、彼女達の真の望みなのです」
 VIPの男はそこで言葉を切り、愛梨に視線を戻した。
「あのようにNGプレイがハッキリしていれば、潜在的な望みも探りやすい。問題はNG無しと宣言した君です。NGプレイが無いという人間は、自分の性癖が分かっていない。あるいは、そこから目を逸らそうとしている。……コハル。君になら、彼女の本質がわかりますね?」
 男はそう言って傍らの少女に目を向けた。和服を纏い、無表情に立ち尽くしている不気味な少女だ。彼女は真っ直ぐに愛梨を見つめたまま、人形のような口を開く。
「わかる。あの子は私と同じ。ハードなプレイそのものにではなく、自分の価値が損なわれている事に快感を覚える、破滅願望型のマゾヒスト」
 無機質な喋り方だ。わざとらしくそうしていた白衣の男達と違い、本当に感情を喪失しているように思える響き。その声で紡がれる言葉に、誰もが聞き入っていた。普段であればいの一番に反論するだろう愛梨でさえも。
「その通りです。高い自己評価やナルシシズムの裏返しですね。では、彼女の『解放』は君に任せてもいいでしょうか」
「先生がそう望むなら、私は構わない」
 場がざわつき始める。この不気味さの漂う少女が、愛梨にどのような責めを課すのか。それを期待するざわめきだ。
「……『解放』? ふん、上等じゃない。あんたが前どんな目に遭ったか知らないけど、このアタシをあんたと同じように考えないでちょうだい!」
 精一杯に強がってみせる愛梨もまた、コハルの底知れない不気味さに呑まれていた。

 そして、その直感は正しかった。この後に始まるコハルの責めで、愛梨は決定的に変容することになる。
 二度と元の道には戻れないほどに。


                ※


 自分の価値が損なわれている事に快感を覚える、破滅願望型のマゾヒスト……コハルは愛梨をそう定義した。ゆえにコハルが課す責めは、愛梨の価値を毀損することに特化していた。

「……なんですかアイツ? なんか、垢だらけだし臭いし……正直、浮浪者にしか見えませんよ」
「ああ、あいつらはあんまり個室の外にゃ出てこないからな。あいつは通称、『糞男(クソダン)』だ。ここの会費を払うどころか、借金こさえてフロに入る余裕さえないって輩よ」
「会費も払えない人間が、何でここへ? どこかから潜り込んだってことですか?」
「いいや。アイツらは客じゃなくて、ここのスタッフだよ。貸し出しプレイ専用のな。さっきも言ったが、ああいうのは自分の返済能力も考えずに衝動的に金を使い散らすゴミクズだ。だがそういうゴミも、このアブノーマルなクラブじゃ需要がある。テメェの女をゴミに抱かせて興奮する男とか、ゴミに抱かれて興奮する変態女とかな。不思議なもんでよ、普段ステイタスの高い女議員やらセレブ妻に限って、最低な男に犯されたがるんだよな」
「その理屈は分かるんですけど、それにしてもアレは……」
「まあな。ありゃあ糞男の中の糞男。糞みてぇな男どころか、マジでババアの糞食ってるようなド底辺だ。最初はそのプレイを普通にフロアの中でやってたんだが、あんまりにも醜悪な図でよ。好きモン揃いの客が何人も吐いちまったんで、今じゃ特殊な個室から出てくんなって厳命されてんだよ。俺もあのキメェ面拝むのは2年ぶりだぜ。見てるだけでゲボ吐きそうだ」
 会員達がヒソヒソと囁き合う。彼らの言葉通り、ステージに上がった男は浮浪者そのものだ。
「……くっ!」
 床に寝そべる愛梨も、その醜悪な容姿に嫌悪感を露わにする。
「こりゃまた、えらい別嬪やな」
 一方の男は笑いながら愛梨の顔を跨ぎ、汚れた肛門を顔に近づける。そのおぞましさたるや、興味本位で見ていた女性会員達が一斉に顔を顰めるほどだった。
「うっ!!」
 愛梨も当然、臭気と嫌悪で美貌を歪める。
「そのまんま朝まで舐っとけ。コッチも朝まで可愛がったるさかいにな」
 男はそう言って腰を落とし、愛梨の顔に肛門を密着させながら、薄汚れた指で秘裂に触れる。
「う、うう゛……っ!! く、臭いっ……!!」
 愛梨は臭気に包まれながら、男の尻を掴んで抵抗していた。しかし男はその抵抗を面白がるように腰を押し付ける。そして、面白がるのはギャラリーも同じくだ。
「舐めろ!舐めろ!舐めろ!舐めろ!」
 1人また1人とコールを上げはじめ、ついには大合唱となる。
「……舐めて」
 コハルもまた、愛梨の傍に屈みこんでそう命じる。そんな状況が続けば、いずれ愛梨も観念するしかない。
「れろっ……う、うぶっ!! おえ、えあ……ほごぉえ゛っ!!」
 垢に塗れた尻の下から、舐める声と噎せる声が交互に響く。人一倍自尊心の高い愛梨にとって、耐え難い状況であることは皆が理解していた。だからこそ愉快であり、だからこそ効果的な責めだ。
「おおーっ、こら堪らんわ。可愛いコに舐めさせとる思うと、余計になぁ」
 浮浪者風の男は嬉々として笑う。その股間の棒は次第にサイズを増し、先走りの汁を滴らせはじめる。
「そうや、そこをもそっと舐めて……おおエエでぇ。ほな、次は穴ン中に舌入れてみよか」
 男の注文に、愛梨は顔を歪めながらも渋々と応じる。
「お、おおおおっ……ええぞ、ええぞ!!」
 男は満面の笑みを浮かべながら、ついに射精を始めた。愛梨の乳房に挟まれた男根が、上下にピクピクと動きながら精液を吐き散らす。射精の勢いは強い。ほのかに色づいた白濁が、モデル級のスレンダーボディを次々に穢していく。
「うわ、汚……!!」
「なんかザーメン黄ばんでんじゃん。ションベン?」
「ならまだマシだがよ、ずっと出してなくて腐ってるとかじゃねぇのか?」
 ギャラリー達が薄気味悪そうに囁く声は、愛梨の耳にも届いていた。腹部の生温かさがおぞましい。口と鼻に密着する悪臭も、汗で蒸れた空気も、頬を流れる唾液も、全てが不愉快だ。死んだ方がマシと思えるほどに。
 しかしそんな状況にありながらも、愛梨の女の部分は濡れていた。大股を開いたまま、男の節ばった指で掻き回されれば、クチュクチュと粘りのある水音が立つ。指先で中を掻き回されれば浅く絶頂して腰が浮く。浮浪者同然の男が前屈みになり、ピチャピチャと音を立てて舐めはじめれば、潰れたカエルのようなポーズで快感にうち震える。
「し、信じらんない。感じてるよ、アイツ……!!」
「ウソでしょ……!?」
 同性を中心とするギャラリーから悲鳴に近い声が上がる中、愛梨は数えきれないほどの絶頂を経験した。
「おぶっ、オグゥ……ぐっ、おぼエッ……!!」
 興奮と汚辱に吐き気を覚えながら、愛梨は視線を逃がす。ギャラリーの笑い顔と軽蔑の表情がいくつも視界に入り……
 愛梨は、心にヒビが入る音を聴いた。


                ※


「……お、おいおい、マジかよ……!!」
「へ、へへへ。糞男の次にコレとか、えげつねぇ趣味してやがるぜ……!!」
 コハルが連れてきた次の『相手』に、並み居るマニア達がざわめく。
「な……っ!」
 愛梨もまた目を疑った。
 コハルの手に握られたリードの先にいるのは、巨大な犬だ。形容としての『イヌ』ではない、正真正銘の異種。
「なるほど、君にはそれが“効いた”んですね?」
 VIPの男が興味深そうに尋ねると、コハルは静かな瞳で頷いた。
「そう。私はこの『彼』とのセックスで、自分の心がひび割れる音を聴いた。きっと貴方も同じ」
 コハルはそう言って愛梨の後ろに立つ。
「ははははっ、いいねいいねぇ! 犬姦かよ!」
「異種姦という発想が出ないあたり、私達もまだまだ甘いな。無意識にあの娘を神格化してしまっていたのかもしれん」
「かもねー。さすが、完璧に壊れたコは違うわ」
「オラどうした、四つん這いになれよ! 毛深い彼氏にケツ向けてよ!」
 愛梨を大きな円で囲んだまま、ギャラリーは下卑た笑みを浮かべた。愛梨はその顔を次々に睨みつけ、奥歯を鳴らす。しかしここまで意地を張ってきて、今さら逃げ出せるわけもない。
「……ッ!!」
 意を決して這い蹲る愛梨。その背後でコハルがリードを手放せば、犬はゆっくりと愛梨に近づき、跳び上がるようにして腰に前足を乗せる。
「ひっ!!」
 愛梨は怯えた表情を見せる。当然の反応だ。背後の気配は人間とはまったく違う。ハッハッという荒い呼吸。鼻をつくような獣臭。殺意にも似たオーラ。その全てが根源的な恐怖を呼び覚ます。
「やだ、ビビってるわコイツ」
「尻尾巻いて逃げてもいいんだぜ? 犬相手だけにな!」
 奴隷の怯えは、当然ながら会員達の笑いの種になる。愛梨はその恥辱に唇を噛み締め、グッと股を開いてみせた。その決意にどこかで口笛が吹かれる。
「いいよ」
 コハルがそう告げると、それを合図に犬が動き出す。半勃ちのペニスで器用に愛梨の割れ目を探り当て、挿入を開始する。
「あぐっ!!」
 愛梨は顔を顰めた。

 (熱い!!)

 最初に感じたのは灼けるような熱さだ。人と犬と体温の違いか。
 形状も違う。人間のペニスのように丸い亀頭ではない。細長く、先が尖っており、突き込みのたびに子宮口に突き刺さる。熱さも相まって、焼き鏝でも押し込まれているようだ。
「犬の癖に女犯すのが上手ぇな。そこらの童貞よりよっぽどサマになってんぜ」
「そりゃそうだろ。この倶楽部が用意する犬だ、たっぷり芸を仕込まれてるんだろうぜ」
 会員達の言葉通り、愛梨を犯しているのはセックスショー向けに躾けられた軍用犬だ。女を悦ばせる方法も、泣かせる方法も、“人並み”以上に心得ている。
「ぐっ、う゛……うぐっ、んう゛っ……!!」
 愛梨は歯を食いしばって耐えていた。恐怖も痛みも人間相手の比ではない。思わず声が漏れそうになるが、犬に犯されながら嘲笑われるような状況で、さらに舐められる材料を渡したくはなかった。
 しかし、その意地も長くは続かない。突き刺すようなペニスの痛みにかろうじて慣れてきたと思った矢先、第二の特徴が表れはじめる。

 (えっ!? な、なに!? 急に、大きく……!!)

 愛梨が狼狽えるのも無理はない。挿入されているペニスの根元が瘤状に盛り上がりはじめたのだ。亀頭球と呼ばれるそれは、陰茎が抜けないようロックする役目を担う。この変化により犬のペニスは、長さと太さ、鋭利さを兼ね備えた凶器と化す。
「あ、あ゛っ、ああ゛っ!!」
 愛梨は目を見開き、声を上げる。もはや嘲笑を気にしている場合ではない。瘤つきのペニスを押し込まれる際には息が詰まり、引かれる際には膣粘膜が丸ごとめくり返るような錯覚に陥る。黒人相手のセックスをさらに上書きするような苛烈さだ。
 そして、愛梨の余裕を奪う要因はそれだけではない。背中に感じる爪の感触と荒々しい息が、獣に犯されているという事実を絶えず突きつけてくる。
 人ではない、ケダモノとの交尾。それを公然で行っているのだ。そう自覚した時、愛梨は恥辱に震えた。しかし、恥辱はそのまま昂ぶりにもなる。

『自分の価値が損なわれている事に快感を覚える、破滅願望型のマゾヒスト』

 コハルの言葉が脳裏に蘇る。
「はぁっ、はぁっ……!!」
 愛梨はコハルを見上げた。睨もうとしたのか、それとも縋ろうとしたのか、愛梨自身にも分からない。いずれにせよ、コハルがその想いに応じることはなかった。彼女はただ、黒水晶のような瞳で愛梨を見つめていた。その瞳に映るのは、哀れなメスの姿だ。
「あ゛っ、あ゛、あはああ゛あ゛っ!!」
「へっ、きったねぇ喘ぎだな!」
「まさか感じてやがんのか? 流石にこのイカレ女でも、犬にレイプされてイッたりしねぇよなあ?」
「ははは、まさか!」
 喘ぎが謗られる。かといって澄んだ声を作る余裕などない。
 太い瘤で膣襞を擦られ、長く尖ったペニスで子宮口を突かれ……普通ならば苦痛でしかないはずのその責めも、膣を念入りに開発された今はむしろ心地いい。痛みも苦しさも快感にすり替わる。膣の奥が疼く。
「はぁっ、はぁっ……い、いや……犬なんかに、犯されて……あ゛っ、あ! くあああ゛あ゛あ゛あ゛っ!!!」
 愛梨はついに絶叫し、身を震わせた。乳房が左右に揺れるほどの身震いだ。
「うわ、こいつマジでイッてるぜ!?」
「えー、信じらんない! 何でも興奮するんじゃんコイツ。なんか必死にイジメてたのが馬鹿らしくなってくんだけど」
 心無い言葉が浴びせられる中、愛梨は絶頂の余韻に震える。犬はそんな愛梨に構わず激しいピストンを繰り返し、その果てにとうとう果てる瞬間を迎えたらしい。
「ウ゛ウ゛ウ゛……ッ!!」
 犬は唸りながら、尖ったペニスの先端を子宮口に押し付ける。押し付け、捏ねまわし、子宮口がほんの少し口を開いたその隙に、すかさず内部へと先端をねじ込んでしまう。捕らえたメスを確実に孕ませなければならない、野生の本能が可能にした早業だ。
「うあっ!?」
 愛梨は悲鳴を上げ、思わず後ろを振り返りかける。しかしそれより早く射精が始まった。子宮頚管へ潜り込んだペニスの先から、熱いものが子宮内に流れ込む。
「ぐっ……!! う、ううッ、ぐ、ぐくくっ……!!」
「んだよ、地味な泣き声だな。畜生に中出しされてんだろ? もっと派手に泣き喚けや!」
 不満げな声が浴びせられるが、あまりの違和感に声が出ない。凍えるようにガチガチと歯が鳴る。脳が警鐘を打ち鳴らし、全身に嫌な汗が滲む。
 犬の射精は長かった。メスを確実に孕ませるために、たっぷりの時間をかけ、生暖かな精液で胎内を満たしていく。加えてその間も、犬はじっとしているわけではなかった。ペニスの先を子宮に嵌めこんだまま、前後に動く。
「あ、あ゛があっ!!」
 愛梨が顔を跳ね上げた時、ギャラリーは一様に驚きを見せた。人間相手のセックスならば、一度射精が始まってしまえば女の顔は変わらない。屈辱か、絶望か……いずれにせよ一つの表情で固定される。
 不可解ではあるが、しかし何が起こっているのかはハッキリと分かった。愛梨は再び絶頂に押し上げられているのだ。犬の精子を注がれながら。
「あ、嫌、嫌ぁ……っ!!」
 愛梨は弱々しく頭を振りながら、膣からの痺れに包まれていく。脳の密度がいつになく薄く思えた。恥辱はこれまでの比ではなく、それゆえ快感もいつになく大きい。破滅願望型のマゾヒスト──コハルのその評を裏付けるかのように。

 数分かけて大量に射精した後も、犬の交尾は終わらない。後背位から姿勢を反転させ、尻同士をつける体位でさらにピストンを繰り返す。訓練された軍用犬の持久力は人間の比ではない。休むことなく『交尾』を繰り返しても、腰の勢いが衰えない。その上、ペニスは少しずつサイズを増してもいた。
「うぐぅっ、ぁあ゛……あがあああ゛……っ!! も、無理……く、苦しいっ……!!」
 愛梨は顔を歪めて呻く。思わず這って逃げようとするが、陰茎の根元の瘤が抜けない。結局は犬の力強い前後運動に引きずられ、身体を前後に揺らすことしかできない。逃げられないままに、強靱な獣の脚力でペニスを打ち込まれつづける。一度達して敏感になった膣で、その刺激に耐え続けられるはずもない。
「う、ぐっ……ああ゛ぁあ゛あ゛っ!!」
 食いしばった歯を開き、泣き声にも等しい悲鳴を上げる。肩幅以上に開いた膝が浮き、ビクビクと痙攣する。それを何度も繰り返した。そしてその数と同じだけ嘲笑を受け、罵声を浴びた。

 (こんな……犬に犯されて……このあたしが……!!)

 生まれてから17年あまり、他人より優れていると信じて生きてきた。他人が自分に注目するのも、陰口を叩くのも、自分という存在が眩しいからだと、そう思っていた。
 しかし……ライトに照らされた倶楽部の中、床に這い蹲って見上げる野次馬達の顔は、ひどく遠い。手を伸ばしても届かないほどに。
「あははははっ! こいつ、犬に犯されながらまたイッたわ!」
「ほんと、惨めねぇ!」
「おーおー、ひでぇツラだ。獣そのものだな、こりゃ!」
 罵声が飛ぶ。この数ヶ月で、もう何度聞いたか知れない言葉。しかし今はその一言一言が心を切り裂く。他ならぬ愛梨自身が、己の惨めさを自覚しているからだ。
 身体に力が入らない。藻掻けば藻掻くほど深い闇に沈んでいく。

「お、おねがい…………お願い、助けてっ! こんなので、こんなのでイくのは嫌ああああっ!!」

 愛梨は、ついに哀願する。けして媚びず、折れず、一年間あらゆる責めに耐え抜こう……そう考えていたが、これ以上は正気を保てないと確信してのことだ。しかし、その決死の哀願が聞き届けられることはない。
「やめない。それが貴方のためだから。貴方は自分を知りたいと願っている。それを知るためには、その扉を潜る必要がある」
 コハルはそう告げ、ただ静かに愛梨を見下ろす。蔑視でもなく、敵視でもなく、あるがままに愛梨を見ている。その漆黒の瞳が、愛梨に理解させた。引きずり込まれた闇の底にあるのは、禁断の快楽。闇とは真逆の安らかな世界なのだと。
「だめ……ほ、ほんとに、おかしく……! あ、くはっ! ああアア゛ア゛ッ!!」
 再び大量の射精が始まった。すでに満たされている子宮へさらに精液が入り込んでいく。少しずつ、少しずつ、子宮の壁を拡張しながら。
「ふぁあっ、あっ、あ! はぁああんっ、んあああッ……ああぁあああーーっ!!!」
 愛梨は、自分が悲鳴を上げ、涙を流しているのかと思った。
 しかし、どうやら違うらしい。
 響き渡っているのは、恋人に抱きしめられた女の出す甘え声だ。顔の形は、嬉し涙を流す至福の笑みだ。
 ただ一つ気がかりなのは、野次が飛ばない事だった。嘲笑はそこここで起きているが、野次は飛ばない。
 しかし愛梨には、その理由が理解できた。野次るまでもないのだ。犬に犯されながら喜悦に震える愛梨の姿は、それだけで充分すぎるほどに惨めだからだ。
「ひっ、あひいぃいいっ!! すごい、すごいっ!!! もっと突いて、もっと出して!! あたしの子宮、あなたの精子で一杯にしてえっ!!!」
 愛梨は正常位で犬と抱き合い、その背に脚を絡ませながら絶叫する。
「へ、へへへへ。あのクソ生意気な女が、変わっちまったもんだな……」
「ああ。数時間前までとは別人だぜ……」
 すっかり様子の変わった愛梨を前に、筋金入りのサディスト達が生唾を飲む。顔色を変えていないのは、コハルとその主である男、そして陶然とした表情を浮かべる愛梨だけだ。


                ※

                ※

                ※


 獣姦の夜を最後に、愛梨がヒトとして扱われることはなくなった。

「おら、大好きなザーメン汁だぞ。舌出してろよブス!!」
 会員の一人が愛梨の顔を上向かせる。
 ブス────かつての愛梨であれば冗談にもならなかった言葉だ。かつて倶楽部を訪れたことのある女性の中でも、一番を狙える器量なのだから。しかし、今の愛梨の顔はその言葉に相応しいほど歪められていた。口の周りだけを残し、厚手のタイツで顔を絞り上げられているせいだ。
「はい……」
 愛梨は命じられた通りに舌を突き出し、数人の男の精液を舌に受けると、音を立てて飲み下す。精液のついた唇をぺろりと舐め、心底美味そうに。
「へッ、俺らの特濃ザーメンを一息かよ。噂通りのビッチだな。いいぜ、なら下の口にもくれてやるよ!」
 また別の男が愛梨の肩を突き飛ばし、床に這わせる。かつての愛梨ならば目尻を吊り上げて非難していたところだが、今の彼女は、突き出した尻を自ら手で割り開く。
「なんだよ、緩いな。しっかり締めろよブス!」
 膣に挿入した男は不満げに鼻を鳴らし、愛梨の尻を叩きながら腰を打ち付ける。
「あ、ああっ! はああぁんっ!」
 愛梨は突き込みと叩かれる痛みで震え上がる。
「チッ。おいテメェ、主人さしおいて自分だけイッてんじゃねぇぞ!!」
「はい、すみませ……ん、んくううううっ!!」
 謝罪こそするものの、膣を念入りに開発された身体は容易に絶頂に至ってしまう。ゴミ同然の扱いによる興奮が、そのハードルをさらに下げる。

「よう、聞いたか? なんか男子便所がすごいらしいぜ」
 会員の1人が仲間にそう語り、男女数人で連れ立ってトイレへ向かう。
「うおっ……!!」
「うっへぇ……確かに、こりゃすげぇや」
 そこには、乱交後に放置された愛梨の姿があった。小便器に鎖で繋がれているため、当初は便器としての扱いを受けていたのだろう。実際に愛梨の身体は黄色い汚液に塗れ、痛烈なアンモニア臭を放っている。しかし、加虐趣味のある会員達がいつまでも便器としてのみ使用するはずもない。
 愛梨は、穴という穴に物を詰め込まれていた。口には使用済みらしきティッシュ、鼻腔には煙草の吸殻、膣には空き缶、肛門には一升瓶が押し込まれている。それ以外にも、アナルパールやイチジク浣腸の空容器、使用済みのコンドームなど、様々なものが身体の各所に点在してもいる。
 まさにゴミ箱のような扱いだ。しかしそのような目に遭ってなお、愛梨の口元にはうっすらと笑みが浮かんでいた。

 愛梨は壊れたわけではない。解放されたのだ。その証拠に、大学での彼女はそれまでと変わらず、あるいはそれまで以上に完璧な姿を見せた。背を伸ばして隙なく歩き、真面目に講義を受け、ゼミでの討論で舌戦を繰り広げ……そうして健全に大学生活をこなした上で、夜になれば倶楽部を訪れた。
 会員達の視線に晒されながら、服を脱ぎ捨て、美貌を歪められる。蔑まれ、罵られ、弄ばれる。
 昼は天下の東州大生、夜は最底辺の奴隷。そのギャップが興奮を煽った。夜は惨めであるほどよかった。

「なんて下品な……肌的にはまだ若いでしょうに、恥知らずな娘だ」
「聞いた話じゃ、マスクの下は二目と見られねぇブスでよ、男に人間扱いされねぇもんだから自暴自棄になってるらしいぜ」
 聴きなれない声が愛梨の耳に入ってくる。口ぶりからしてもおそらくは新規の会員だろうが、愛梨に視認はできない。彼女の頭は全頭マスクで覆われ、器具で歪められた鼻と口しか空気に触れていないからだ。
 それでも、自らの惨めさは自覚できた。倶楽部に来て早々ドナン浣腸を注がれ、壁に拘束されたまま嬲られた。ドナンの熱さが染み、放っておいても熟した果実のように蕩ける膣を、指やバイブ、マッサージ器で徹底的に責められた。そうして数十回絶頂させられた後の姿なのだ。
 わずかに膨らんだ腹部からは壮絶に腹を下した音が鳴り、がに股の脚は痙攣し、全身は脂汗に塗れている。その姿はさぞや『下品』だろう。そう実感するだけで、愛梨は脳が痺れるような至福に襲われた。
「お、俺はヤるぜ。どんだけブスだろうが、スタイルは悪くねぇしよ」
 一人が金属音を慣らしはじめる。ベルトを外す音だ。その音の後は、いつも衣擦れの音とゴムを装着する音が続き、荒々しい呼吸が愛梨に近づいてくる。
「入れるぞ」
 左脚が抱え上げられ、挿入が始まった。
「おおおおっ……!!」
 開口具を嵌められた口から歓喜の声が漏れる。ゴム付きとはいえ、熱く硬い肉棒が嬉しくてたまらない。
「おお、えらく熱い襞がキュウキュウ吸い付いてきやがる。良いモン持ってるじゃねぇか。カラダは抜群なのに顔が残念とはよ、『天は二物を与えず』ってやつか?」
 男はどこか愉快そうに囁きながら、夢中で腰を打ち付ける。それは愛梨に多大な快楽と苦悶を齎した。何度受けてもドナン浣腸に慣れることはない。気が狂いそうなほどの便意で直腸が煮立つ。その影響で煮崩れしそうなほど蕩けた子宮を硬い陰茎で突き上げられれば、それだけで中程度以上に絶頂してしまう。
「へへっ、相当キツい浣腸されてるらしいな。全身にイヤーな汗掻きやがって、クソがしたくてたまんねぇってか?」
「お、ほもおオオオっ!!」
 男は腰を打ち付けながら、音の鳴る下腹部を撫でまわし、愛梨に苦悶の呻きを上げさせる。そしてそれを堪能すれば、今度は右脚も抱え上げてスパートをかける。パンッ、パンッ、パンッ、と肉のぶつかる音が鳴り響き、痛烈に便意が煽られる。
「おおっ、おほおおっ! おんォぉおおおお……っ!!」
 全身の毛穴から新たな汗を噴きだしながら、愛梨は深い絶頂に至る。
「くあっ!? マンコがうねって……おああああっ!!」
 挿入している男もまた、愛梨に引きずられるように射精に至る。それを粘膜で感じ取りながら、愛梨は抱えあげられた脚を痙攣させて余韻を堪能する。そしてその熱気あるセックスは、傍観していたギャラリーをも焚きつけた。
「へへへ、この野郎見せつけてくれるじゃねぇか。次は俺だ!」
 1人目と入れ替わるようにして次の男が愛梨の前に立ち、最高硬度の逸物をねじ込む。今度の物は先ほどよりも太い。少なくとも亀頭はワンサイズ勝っている。
「ごおおおおおおっ!!」
 口枷から呻きを漏らしながら、愛梨は新たなペニスの感触を堪能する。一度目以上の苦悶と悦楽を期待し、女の園から涎を零す。

 そこから、何人の相手をしただろう。何度絶頂し、何度便意の限界を迎え、何度意識を失っただろう。
 以前であれば気が触れていたかもしれない、度を越したハードプレイ。しかし欲望の解放された愛梨は、その苦悶や失神さえも甘美なものとして受け入れてしまえる。

 拘束が解かれ、震えながら跪く愛梨の後ろにガラスの音がする。マスクで視界を遮られたままでも、異様なほど肌感覚が鋭敏になっているため、周囲の位置関係はすべて分かった。
「おいブス、『チンチン』だ!」
 そう号令が掛かると、愛梨はそれに従った。
「ハァッ、ハァッ、ハァッ、ハァッ…………!!」
 膝立ちのまま、指で秘裂を割り開き、ドロドロに蕩けた膣を衆目に晒す。
「見なよ、あの脚の痙攣。クソ我慢しながら犯りまくられて、どんだけイッたんだろ?」
「しかし、あのフラフラの状態で即座にメス媚びのポーズとは……大した調教ぶりですな」
「いや、あれがあの娘の本性なんですよ 我々は自我を開放する手助けをしたまでです。……おい、もういいぞ。ひり出せよ!」
 赦しが出た途端、愛梨は嬉しそうに笑う。そして特注の『おまる』に跨り、我慢に我慢を重ねた肛門を開放する。
「おっ。出るぞ、出るぞ!」
 ギャラリーが嘲る中、決壊が始まる。栓が弾け飛び、怒涛の勢いで汚液が噴きだす。
「うへぇ、出た出た! ったく毎度毎度すげぇ勢いだな!」
「スッパダカのままクソするところ皆に見られて、ホント終わってるぜこのブス!」
 容赦なくヤジが飛ぶ。まさに恥辱。以前であれば拳を握りしめ、歯を食いしばって耐えようしただろう。しかし今の愛梨には、その状況がひどく心地いい。
「んん、んはあああっ! あっ、あっ、あっ!!」
 誰に強制されるでもなく、自発的に脚を開き、濡れそぼった股間を弄る。排便を晒しながら、興奮を持て余しての自慰。その浅ましい姿にギャラリーの喧騒が増す。
「おい、マジか……こんなので興奮してんのかよ?」
「泣くぜ、マトモな女なら……!」
「はははははっ、マジでイカレた女だぜ!!」
 呆れたような声、蔑むような声。そのどちらもが興奮を煽る。浣腸のせいで水の溜まった膀胱から潮が噴きだす。泣き喚くような勢いで、遥か遠くまで。


                ※


 また別の夜は、愛梨は全頭マスクの代わりに包帯で頭を巻かれ、床に寝そべる形でクリトリスを吸引される。それだけではない。包帯の頬にあたる部分には『取るな!ブス注意』、下腹部には『性病アリ、挿入厳禁!』と赤いマジックで殴り書きされている。 
「な、なんだこりゃ……?」
「いくらタダ同然の奴隷っつっても、これは……」
 新顔の会員達は、そんな愛梨を見て顔を見合わせた。
 彼らは近くの大学に通う大学生だ。人伝にDUNGHILLの噂を聞きつけ、割引につられて入会したはいいが、パートナーもいなければ奴隷とのプレイ権を勝ち取れるほどの金もなく、まともには遊べない。
「こ、こいつよ。顔はヒデェらしいけど、スタイルは良いよな」
「ああ。病気っつっても、直で触んなきゃ大丈夫だろ」
 大学生達は目を血走らせながら手袋を装着し、恐る恐る愛梨に触れはじめる。乳房を揉みしだき、太腿を擦り、秘裂に触れる。
「う、あううっ……!! はう、ああううっ……!!」
 控えめなボディータッチに愛梨が呻くと、大学生達はびくりと肩を震わせ、それから笑みを浮かべた。
「な、なんだよビビらせやがって。感じてんのか、この変態オンナが!」
「結構声可愛いじゃんか。つーか、今の感じだとだいぶ若いよな。若いのに病気とか、ヤリマン確定じゃん!」
 一度火が点けば、若さゆえの勢いで責め方に容赦がなくなる。
「お前、クリ吸引されんのが好きなのか。ならもっと吸ってやるよ!」
「はははっ、やべえ! 吸われまくってチンポみてぇになってんぞ?」
「おい、すげぇぞコイツ。マンコの上にも小っせぇ穴あんなと思ったら、これ尿道だぜ?」
「マジかよ、指入りそうじゃねぇか!」
「指どころか膣用のバイブ入んじゃねーか? ちょっとそこの突っ込んでみろよ!」
 ある者は陰核の吸引具を弄り、ある者は拡張済みの尿道に興味を示す。その初々しく加減を知らない責めに、愛梨は激しく見悶える。
「あ、ああ……はああっ、んあああああんっ!!」
 泣き声にも聞こえる艶めかしい喘ぎ。それを延々と響かせながら、愛梨は潮を噴く。大学生達はそれを面白がり、さらに激しく責め立てた。
「ああもういいや、突っ込んじまおうぜ!」
 怖いもの知らずな暴走で、クリトリスと尿道を責めながら膣にも挿入するまでには、さほど時間は掛からなかった。

「あーあー、今日もメチャクチャやられてらぁ」
 大学生達が倶楽部を去った朝方、清掃のスタッフ達は愛梨を見て溜め息をつく。他所の倶楽部であれば出禁を食らっても仕方がないほどの悪乗りの跡が見て取れた。体液に塗れ、5ダースを超える使用済みのコンドームに囲まれた愛梨の姿は無惨そのものだ。
「しっかし勿体ねぇよな。こんなツラのいいガキが、マスクで顔隠しちまってよ」
 愛梨の頭の包帯を取り去るスタッフがしみじみと呟く。涙に塗れたまま眠る愛梨の素顔は、文句なく美少女そのものだ。
「そうかね? ま、価値観なんざ人それぞれだ。俺にゃあそのガキは、顔隠してゴミ扱いされてる時の方が活き活きして見えるぜ」
 先輩スタッフはそう言いながら、粛々とホールの掃除を進めていく。

 そして事実、その言葉の通りだった。
 元の美少女ぶりとかけ離れた姿になればなるほど、愛梨の興奮度合いは上がっていく。

「じっとしなよ。座り心地の悪い椅子ねぇ」
 垂れ目の女が、愛梨の太腿の上で脚を組み替える。
「ムウ゛ウッ!! ウ゛ッ、ウ゛ーーーーッ!!!」
 愛梨は天を仰ぎ、バイトギャグ越しに呻きを漏らす。過激な反応だが、それも当然のことだ。彼女は両腕をアームバインダーで拘束され、膝下から足首までを覆う枷で脚を閉じる状態を強いられたまま、太い杭の上に座らされていた。
 穿かされたゴムパンツのおかげで、杭が肛門に入り込むことはかろうじて防げているが、完全にではない。愛梨自身の体重と、太腿に乗った女の体重で、杭は少しずつ肛門内にめり込んでいく。しかも愛梨には前もって濃いグリセリン浣腸が施されているため、その催便作用とも戦わなければならない。
「すっごい汗。いっちょ前に苦しいんだー、変態の癖に。」
 そう囁きかける女は責め役として堂に入っているが、彼女は本来サディストではない。むしろ数時間前までは、恋人のことを『ご主人様』と呼んでマゾの快楽に浸っていた女だ。そこへ愛梨が乱入したことが、このプレイのきっかけとなった。
「うわっ、何だ!?」
「きゃっ!」
 男女のカップルは、おぼつかない足取りで近づく愛梨を見て驚愕した。
 ラバーマスクで顔を覆い、手足をボンデージで拘束され、膣と肛門から極太のビーズを揺らす奴隷。彼女は過敏な反応を示す男女を前にして歩みを止める。
「んふっ。どう、あたしと遊ばない……?」
 艶めかしい声を出し、誘うように身体をうねらせる愛梨。その妙な迫力を前に、男の方が喉を鳴らす。しかし、女の方は違った。パートナーを誘惑された彼女は、頬を染めたマゾヒストの顔を一変させる。
「待ちなよ。そんなに遊びたいんなら、私が遊んであげるよ」
 甘美なプレイを邪魔された苛立ちからか、恋人を誘惑された怒りからか。いつになく冷ややかな声で『主人』を狼狽えさせた女は、自分ならば絶対に音を上げるだろうプレイを愛梨に施した。
 実際、愛梨はその責めに苦しんだ。脂汗を垂らし、バイトギャグからダラダラと涎を垂らした。しかし、段々とその雰囲気が変わってくる。
「ウウッ、ウッ、ウッ!! ンウ、ンウウウゥッ…………!!」
 漏れる呻きが甘さを孕みはじめる。全身の痙攣も、初めこそ便意や苦痛によるものかと思えたが、段々と歓喜の震えに見えてくる。
「…………っ!?」
 女は訝しむ。この倶楽部に辿り着くほどだ、自分もかなりコアなマゾヒストであると自覚しているが、そんな自分でもこれほどの責めには感じるどころではない。許して、やめて、と涙するに違いない。だからこそ愛梨への報復としてこれを選んだのだ。よもやそれで相手が悦ぶとは。
「あんた、とんだ変態ね。どんだけ太いニップルピアスで拡張したの? あはっ、すごーい。乳首に指入るじゃない」
 ピアス穴に指を通し、乳頭ごと引きちぎらんばかりに引き上げる。普通ならば痛みと恐怖で絶叫し、身も世もなく泣き叫ぶところだ。しかし。
「もごっ、ほごぉおおおおおっ♡♡」
 愛梨は壮絶な呻きを響かせるが、その声色は紛れもなく喜悦のそれだった。胸の先という敏感な部位を苛め抜かれ、最底辺の奴隷は震えながら絶頂していた。
 そして、それがトリガーとなったのだろう。愛梨の肛門から破裂音が響き渡り、愛梨の肉体が下に沈んでいく。脱糞と共に杭がめり込んでいるのだ。
「ウオオ゛オ゛ォ゛ーーーーッッッ!!!!」
 愛梨はケダモノの声を上げながら痙攣する。膝の上に乗った女を振り落とす勢いで暴れながら、秘裂からは潮を噴き、杭には肛門からの汁を伝わせる。
「く、狂ってる…………!!」
 女は表情を凍りつかせた。『奴隷』のズレたマスクの下からは、アイドルと見紛うほど整った顔立ちが覗いている。スタイルも女が思わず嫉妬するほどに良い。その最上級の美を誇る少女が、まるで人間性を喪失している────その業の深さは、彼女の常識から逸脱しすぎていた。


                ※


 よりアブノーマルなプレイをしたがるマニア達と、より背徳的なプレイを望む奴隷。その利害が一致すれば、もはや歯止めは利かない。
 過去に愛梨を追い詰めたプレイは、会員と愛梨本人の希望で改めて繰り返された。

 鏡で痴態を視認させながらの、同性によるレズビアンプレイ。
 椅子に拘束しての窒息バルーンイラマチオ。
 鼻へのアンモニア浣腸と指イラマチオ。
 アナルフックで吊り下げての壁尻レイプ。
 腹が膨れるまで浣腸した上での下痢便アナルセックス。
 X字に拘束してのポルチオ開発および下剤責め。
 ドナン浣腸を耐えさせながらのビルとの異人種姦。
 軍用犬との異種姦。

 これらのプレイは、やはり愛梨を狂乱させた。しかし、その理由はまるで違っていた。恥辱と快楽の板挟みで苦しんでいた以前とは違い、今の愛梨はすべてを快楽として受け入れる。
 その心境の変化と、純粋に性感帯が開発されている事実とが合わさり、愛梨は狂乱した。数十人が見守る前で、排便し、嘔吐し、失禁し、痙攣し、絶頂した。快感が大きいせいか、気を失う頻度は前より増したが、覚醒させられるたびに笑みを見せた。生粋のマニアでさえ寒気を覚えるような笑顔だ。
 ヒト以下に堕ちてもなお、愛梨は会員達の心を惹きつづけた。

 『中出し限定・避妊禁止の無責任孕ませパーティー』

 倶楽部のサイト上で事前告知して人を集め、より大勢で愛梨を満たす──いつしかそれが倶楽部の目玉イベントとなった。
「ぐふふふ。今日のために、たっぷり精子溜めてきたよ!」
「たっぷり可愛がってやるからよ、覚悟しろよブス!」
 ゴムパンツを盛大に膨らませた男達に囲まれ、愛梨はゾクゾクと身震いする。
 準備は万端だ。イベントが始まる3時間前から、アブノーマル愛好会による渾身の機械責めを施されている。
 低周波パッドで下腹と陰唇・太腿周りに電気を流され。
 ポルチオ開発用のアタッチメントで子宮口を刺激され。
 振動式の吸引具でクリトリスを吸われ。
 尿道を親指大のバイブで掘削され。
 肛門が緩みすぎないよう少量のドナン浣腸を入れたまま、S状結腸まで達するサイズの蛇腹バイブで嬲られ。
 それだけの責めを受けながらも、愛梨は今日まだ一度も達していない。常に脳波を測定され、まさに絶頂に至ろうという瞬間に刺激を止められるのだ。人力では成し得ないほど正確で、無慈悲な寸止め。3時間に渡り高原状態をキープさせられた愛梨は、イベント開始時点で『出来上がって』いた。拘束を解かれ、震える爪先で床を踏みしめただけで痺れが走るほどに。
 膣と肛門、そしてその奥がいやらしく開閉を繰り返し、歩くたびに液溜まりができるほど蜜を吐いている。男50人対女1人の孕ませパーティーは、その状態で始まった。

「ッぐ、あああ゛あ゛あ゛あ゛っ!!!」
 1人目に挿入された瞬間、愛梨は悲鳴に近い声を響かせた。覚悟していた以上に深く絶頂したのだ。前戯のせいもあるが、やはりコンドームを着けていない生挿入というのが大きかった。
「へへへ、イイ声で鳴くじゃねぇかヤリマンが!」
 男は気を良くして愛梨の膝を掴み、正常位で突き入れる。体重を乗せて、深く、力強く。
「あっ、んああっ! か、硬い、太いっ!! ッぐイグッ、イグイグイグイグッ!!」
 愛梨は髪を振り乱しながら、早くも断続的な絶頂に入った。ただでさえ圧が強く、並み居るマニアを名器と唸らせた膣だ。絶頂で収縮した時の具合は凄まじい。
「うわっ、ヤベえ! こ、これ、締まりが……ああ、もたねぇ!!」
 人一倍意気込んでいた男は、わずか1分足らずであえなく搾り取られてドクドクと射精する。溜め込んできたと豪語するだけあり、射精は長い。
「おおおっ、出る、出るっっ!!」
 本人が叫ぶたびに睾丸が収縮し、膣の端から白濁が伝い落ちる。
「あああ、ああああっ……!! 熱いのが、いっぱい来てる……! あ、あたし今、卵子でまくってるから……ほ、本当に孕んじゃいそうっ……!」
 どこの誰とも知らない男の精液を、たっぷりと膣に注がれている。その事実を噛み締め、愛梨は震えた。
「うわぁ。中出しされて喜んでるよ、コイツ」
 どこかから同性の声がする。見ず知らずの男の子を孕むかもしれないのだ、普通ならば危機感を抱くだろう。しかし、愛梨はそうではない。まともな感性の女性が涙を流して嫌がるような、『NG』の状況……それこそ、彼女の望むものだ。

「いいか、まずは一発ずつだぞ! いっぺん出したら次の奴に代われよ!?」
 乱校の最中、何度も怒号に近い声が上がった。そうしない人間が多いからだ。
「あっ、あっ……! イク、イクわっ! あは、あああああっ!!」
 宝石のような目を爛々と輝かせ、笑みを浮かべる愛梨……誰もがその顔に見入った。何かに吸い寄せられるように唇を奪い、濃密なキスを交わしながら激しく腰を振る。その果てに射精してもなお、逸物を抜かない。愛梨の膣に自分だけを覚えさせようとするかのごとく、突き続ける。すでに出したザーメンと膣の分泌液で、グチャグチャと壮絶な音をさせながら。
「チッ、ルール守れよバカが!」
「しかし、よくこの状況でキスするね。実質前の野郎との関節キスだぜ?」
 順番待ちの時にそう冷笑していた男も、いざ自分の番となればその行為を行ってしまう。まるで何かの力に強いられるように。

「ふーっ。まさかこんな若いガキに中出しできる日が来るとはな!」
「ああ、背徳感やべえよ。癖になったらどうしよう」
「バーカ。そんときゃコイツを使ってやりゃいいだろうが。性処理用の便器として、何十回でも何百回でも!」
「だな。コイツもそれを望んでるみたいだしよ!」
「しかしすげぇな、突っ込まれるたびに潮噴いて……イキっぱなしだぜ?」
 男達のボルテージは刻一刻と上がっていく。入れ代わり立ち代わり愛梨を犯し、なお興奮冷めやらぬ様子で語り合う。
 そして女性会員も、それをただ傍観しているわけではなかった。
「ほら、次々! せっかく温まってるのに休ませると可哀想ですよー?」
 さも愛梨を案じている素振りを見せ、足首を掴んで自然に『マングリ返し』の姿勢をキープさせる。
 ペニスの小さい人間でも、上からのしかかるようにして奥を突けるように。
 注がれた精液が極力零れないように。
 そして、愛梨の色狂いの顔がよく見えるように。
 愛梨にビールやカクテルを飲ませているのも、水分補給というよりは愛梨を酔わせて正気を失くさせるのが目的だろう。

 2巡、3巡してもなお、男達の愛梨への執着は衰えない。愛梨にあられもないポーズを取らせたまま、その顔に汗を垂らし、しっとりと汗ばむ太腿を抑えながら剛直を送り込む。
「ああ、激しっ……ああ、そこぉっ! ぎもぢいい、イグ、イグッ! あああイッぢゃううううう゛っ!!」
 愛梨が顔を歪めながら笑う中、男達もまたマグマのような猛りをぬめる膣の中に吐き出していく。
「ああっ、出てる! おまんこの中いっぱいで、子宮の中にまで入ってきてる……!!」
「ふふふ、そうか。ならば漏れないように栓をしてやらんとな。おい、誰かフタをくれ!」
 倶楽部でも古株の男は、射精したばかりの逸物を抜き出し、代わりに手渡された巨大なプラグを膣へ押し込んでいく。
「お、お゛っ!?」
 愛梨が目を見開いて呻いても、プラグの挿入は止まらない。
「お、おいおい、俺はまだイケるぜ!? 打ち止めにゃ早ぇよ!」
「まぁそう慌てなさんな。あくまで一時的な栓だ。私達が愛情を込めて注ぎ込んだ大事な精子が、しっかりと着床するまでのな」
 男はそう言って愛梨の脚を広げさせ、スタッフに手で合図を送る。するとスタッフも心得たもので、大きな鏡で愛梨の姿を映し出した。
「あ、あ……!!」
 下手をすれば手首ほどもありそうなプラグで栓をされ、隙間から大量の白濁を零す自分の姿……それを目の当たりにし、愛梨は興奮で震えた。そしてその姿を見た男達もまた、怒張に血を漲らせる。
「じゃあ、ここらで一休みかい……? 今晩を楽しみに溜めてきたんだ、まだまだヤリてぇんだがな」
「俺もだ。チンポがはち切れそうだぜ!」
 体力に陰りのある中年男はともかく、若い男はまだまだ勢力が有り余っているようだ。そして勿論、それは倶楽部の古参達もよく理解している。
「なぁに、前を封印してるだけだ。使いたきゃ、穴はまだあるじゃねぇか」
 男は愛梨の尻を掴み、後ろの穴を指で拡げてみせる。
「……ッ!!」
 その行為に息を呑んだのは、男達も愛梨も同じだ。
「はーっ、はーっ、はーっ」
 呼吸を整えるので精一杯なのか、愛梨は言葉を発さない。しかしその瞳は好奇心に輝いていた。今この状態でアナルを犯されたら──その想いで胸が膨らんでいるのは明らかだ。そしてその表情は、充ち足りていない男達を獣に変えるのに、充分すぎる効果があった。

「あああ……たまんねぇ、たまんねぇ、たまんねぇよおこの穴……!!!」
 愛梨の腰を掴んで肛門を犯す男は、感情を隠せていない。飢えた獣が肉を貪るように、無我夢中で腰を打ち付けている。そして飾る余裕がないのは愛梨も同じだ。
「お゛っ、おお゛っ! お゛っ、お゛っ!!」
 濁っていながらも純粋な快楽の声を、ピストンのたびに響かせている。
 声だけではない。膝立ちのまま強張る、形のいい太腿も。拠り所なく空を彷徨い、何かにすがるように動く手指も。唇を尖らせたままの顔も。すべてが愛梨の快感を如実に表していた。
 順番を待つ男達は、愛梨から目を離せない。特にその顔……頬を染め、瞳を濡らす顔を凝視する正面の男は、辛抱堪らずとばかりに愛梨の口を奪う。
「んむっ、んっ、んんんっ!!」
 愛梨は目を見開いて呻く。動揺しているようだが、相手を押しのけはしない。拒絶することなく、されるがままに状況を受け入れている。極太の栓で膣一杯の精液を封じられたまま、太く逞しい肉棒で排泄の穴を犯され、恋人がするようなキスを髭面の男と交わしている──その背徳的な状況を。
「ん、んう……んむっ、んむうううううっ……!!♡」
 愛梨が震えながら漏らしたその声は、誰もを満たす響きだった。彼女に惚れ込んだ男も、彼女に嫉妬した女達も。

 膣と、肛門……その二穴への輪姦は、夜を徹して続けられた。
「そら、ハメ待機列の連中が我慢できずにシコった特濃ザーメンだ。これもくれてやるよ」
 そう言ってジョッキになみなみと溜め込まれた精液を、クスコで開いた膣に流し込むこともある。悪乗りが過ぎる行為ではあるが、愛梨はそんな目に遭わされてもなお、ゾクゾクと震えながら笑みを零した。

 そして狂乱は、一夜だけでは終わらない。
『< 絶対に断らない >芸能人級の黒髪神美少女に、顔射、ごっくん、中出しのフルコース可能!!!』
 次の夜も、また次の夜も、タイトルを変えながらサイト上で募集が掛けられた。次第に明け透けになっていくその文面に惹かれ、しかも参加者は減るどころか、日に日に増えていった。

 そんな日々が繰り返されれば、いずれは来るべき日が来る。

「よしよし、ちゃんと妊娠できたみたいだな」
 妊娠検査薬を翳す愛梨に、男達は満足げな笑みを浮かべる。
「……はい」
 愛梨もまた、酔いしれたような表情でそう答えた。

 愛梨が妊娠を完遂してもなお、輪姦は続く。
 もはや離れられない。会員達は愛梨から、愛梨は会員達から。
「へへへ、だいぶ腹が出てきたな。今日で10週目か」
「ああ、順調順調」
 倶楽部を訪れる数十人の男達は、皆が父親の気分で愛梨の経過を観察する。その視線に晒されながら、愛梨は自慰に耽る。我慢ができない、と全身で訴えるかのように。


                ※


「麻友、こっちこっち!」
 そう声をかけられた麻友は、びくりと肩を震わせる。
 相手は、昔麻友をよくからかってきた級友だ。苦手な相手であり、麻友としてはあまり関わりたい相手ではなかった。しかしその誘いに乗って上京したのは、愛梨に纏わる話を出されたからだ。
「あんたに見せたいモンがあってさ」
 その言葉と共に手招きされ、麻友は繁華街の奥へと進む。
 眠らない街。煌びやかなネオンで目が眩みそうだ。愛梨ならばそのような光景を好んだだろうが、麻友には刺激が強すぎた。気を抜くと、ギラギラとした光に呑まれてしまいそうになる。

 路地裏の雑居ビルから入り、3つのエレベーターと2つの連絡通路を経由して、地下3階のの入口へ。どう見ても堅気ではない人間に睨まれながら、分厚い扉を開けば、そこにはネオン街以上に煌びやかな世界が広がっていた。
 しかし、麻友の視線を釘付けにしたのはその煌びやかさではない。白いライトが照らす、小高いステージ……そこにいる人影だ。

「愛梨、さま…………?」

 麻友は自問するように問いかけた。
 彼女は、愛梨の姿を片時も忘れたことがない。辛いことがあれば、太陽のように笑う彼女の写真を見て気持ちを奮い立たせてきた。彼女の溌剌とした声が、いつも麻友の迷いを晴らしてくれた。
 ゆえに、そこにいるのが愛梨であることを、彼女の意識は一目で見抜いていた。
 しかし──────心がそれを拒絶する。

「あぁアっ、あはぁあああっ!! もっとして、もっと突いて!! まだ足りないの! もっと、もっとグチャグチャにしてっ!! あたしの、頭の中、まっしろにさせてぇえっ!!!」

 歪に膨らんだ腹のまま、前後から男に犯され、媚びるような視線を向ける。その姿は、麻友の思う愛梨のイメージとは遠すぎた。
「いいぜ、グチャグチャになんなよ。ほら、“大好きなヤツ”だ」
 顔中にピアスを空けたガラの悪そうな男が、喘ぐ愛梨の舌を掴み出す。そしてその舌に何かの錠剤を乗せられると、愛梨は目で微笑みながらそれを飲み下す。
「あっ、あっ……あはっ、あ……♡」
 愛梨の表情が輝きはじめた。しかしそれは、かつての彼女のそれとは違う。太陽ではなく、闇にギラギラと輝くネオンサインだ。
「さあ、パキパキにキメてよ、今日も楽しもうぜ!!」
 愛梨と同じく目をぎらつかせた男達が、各々道具を拾い上げる。巨大なガラスの浣腸器。腕ほどもあるバイブ。麻友が目にした事もない、用途すら想像のつかない拷問具さながらの責め具……。
「あはっ……」
 それを目の前に晒されながら、愛梨は笑う。期待からか、興奮からか、ゾクゾクと身を震わせながら。

「……っ!」
 麻友は唇を噛み締める。
 寂しかった。愛梨がすっかり遠い所に行ってしまった事。その道はもう自分とは交わらないであろう事。それが分かったからだ。
 しかし、同時に彼女は理解していた。
 これこそが、眞喜志 愛梨の道。他の誰とも違う彼女が、自らが何者かを模索した末にようやく辿り着いた、探求の果てなのだと。

「…………お幸せに、愛梨さま…………。」

 麻友は静かにそう呟く。
 煌びやかなライトの中、他者と混ざり合い、至福の笑みを浮かべる愛梨を見つめながら。



                           終

 

眞喜志 愛梨、その探求の果て Episode.4(中編)

※前・中・後編の中編です。
前編はこちら
後編はこちら


 
「逃げんじゃねぇぞ?」
 プレイの最後に吐き捨てられたこの言葉が、愛梨には忘れられない。
 当然、尻尾を巻いて逃げるつもりなどなかった。
 週に一度、最も多く会員が集まるという金曜の夜に倶楽部へ顔を出す。どんな恥を掻くことになろうとも、決して赦しを乞わず、哀願もしない。あの悪童同然のマニア達が飽きるまで、プロレスラーのように全ての責めを受けきってみせる──愛梨はそうルールを定めた。

 一週間。破天荒な新人奴隷の存在を知らしめるには充分な期間だ。そしてその結果、倶楽部には珍しい人物が顔を見せることになった。
 久世省吾。ギリシャ人と日本人のクォーターである肉体派俳優だ。クォーター特有の彫りの深い顔立ちに加え、『ダビデ像のよう』とも称される均整の取れた体つきから、女性・男性陣問わずカリスマ的な人気を誇っている。俳優としては間違いなく一流の部類だが、裏の世界では『バチボコ王子』という通り名で知られていた。バチボコとは、女を乱暴に扱う暴力的なセックスを指す若者言葉だ。彼と一夜を共にした女性は、一様にそのプレイの激しさを強調する。首を絞められ、歯形がつくほど噛まれ、荒々しい『手マン』で無理矢理潮を噴かされ、真っ赤に腫れあがるほど尻を打ち据えられ……。そうした噂は今や広く知られている。
 優しげな男で売っていればスキャンダルになりかねないが、久世省吾の場合はダメージにはならなかった。男が憧れる筋肉質な体つきからは常にワイルドさが漂っており、前述の暴力的なセックスもイメージ通りでしかない。むしろ女性の中には、省吾にそうしたプレイをしてほしいと望む者が多くいる。また同性にも、省吾のワイルドさに憧れて兄貴と慕い、彼の真似事をしている若者は多い。かつて愛梨が関係を持った『アップライズ』のリーダー、潤もまたそういうフォロワーの一人だ。
「アニキ、すいません。俺らのためにわざわざ……」
 倶楽部の会員数名が、省吾に頭を下げる。前回初めて倶楽部を訪れた愛梨に、乾涸びる寸前まで精を絞り取られた男達だ。
「気にすんなって。可愛い弟分がコケにされたんだ、ボスとしちゃケジメをつけさせねーとな」
 省吾は歯でビール瓶を開けてみせながら不敵に笑う。義侠心に溢れた言葉だが、実際には弟子を手玉に取る女に興味が湧いたにすぎない。その女を自分が屈服させれば、週末の一夜を楽しめる上に自分の株も上がる。美味いことづくめだ。
「それよりお前ら。オレとその女がハメてるとこ、コレで撮っとけや」
 省吾はジャケットの内ポケットを探り、小型カメラを取り出した。カメラのサイズはごく小さく、レンズに光が反射してようやく存在に気付けるレベルだ。
「お、隠しカメラすか。こんな蠅みたいなサイズのあるんすねー」
「あ、でもアニキ。この倶楽部ってアニキみたいな有名人とか偉い人らもお忍びで結構来るんで、撮影NGなんすよ。もしバレたらカメラ取り上げられたりとか、最悪訴えられるかも……」
 取り巻き達が恐る恐る進言すると、省吾は舌打ちしながらその頭を小突く。
「バカ、こっそり撮りゃいいだろうが。どうせハメてる時は俺らに視線が集まってんだから、野次馬に紛れてりゃバレねーって。それに万が一バレて没収されても問題ねぇよ。このカメラの映像は西澤のパソコンに転送されるようになってんだ。お前らが言う『S級美少女』とのハメ撮り見せるからっつって設定させたんだけどよ。あのブタ今ごろ、チンポ握りしめながらスタンバってるぜ」
「マジっすか!? なんか、すげーガチっすね……」
「たりめーだろ。こりゃオトシマエつけさせるための戦だぜ? お前らだってオスなんだ。女に良い様にやられてよ、オレがそいつ屈服させたところで満足なんかしねぇだろ? だからお前らにもリベンジのチャンスをやるよ。オレにバチボコで犯されて泣きながらイキ狂ってる姿撮ってよ、その映像をネタに脅してやりゃあいい。そうすりゃ、今度はお前らがその女を好きにできんぜ?」
「な、なるほど……さすがアニキっす!」
 外道めいた言葉をさらりと吐く兄貴分に、取り巻き達は畏怖半分、期待半分で追従の笑みを浮かべる。そしてそんな一団を遠巻きに見守る人間達もいた。
「……ねぇ、あれ久世省吾じゃない……?」
「だよね、だよね! うわー、ナマ省吾様カッコすぎ……」
「ほんとダビデ像みたいだよね。ああああ、尊みー!!」
 サングラスをしていても、省吾の存在はすぐに知れ渡る。あらかじめ来るらしいという噂があったにせよ、やはり別格の存在感だ。
 そして今夜は、同じく別格の存在感を放つ人間がもう一人倶楽部を訪れた。
「うわ、来たっ!!」
「涼しい顔しやがって……こないだのアレが堪えてねぇのか!?」
 省吾を中心に形成されていた人の輪の一角が割れ、堂々たる佇まいの少女が姿を見せる。
 溌剌とした性格を表す、ボブカットの黒髪。
 名人が筆で斜めに引いたような細い眉。
 くっきりとした二重の瞳。
 日本人らしく低めではあるが、極めて容の良い鼻筋。
 色鮮やかな薄い唇。
 スレンダーな印象を与えながらも、出るべきところはしっかりと出た抜群のスタイル。
「……なるほど、あいつか」
 愛梨の詳細な特徴を伝えられていなかった省吾は、一目で理解した。なるほど、取り巻き程度では相手にもならぬはずだと。
「……!」
 愛梨の方も、人だかりの理由に納得する。‟何か”がいるのは察していたが、想像以上の大物がいたものだ。近年、テレビドラマで嫌というほど目にする顔。『ヤリサー』の潤と似た雰囲気だが、格が違う。愛梨の美貌を前に絶句していた潤とは違い、省吾が驚く気配を見せたのは最初の一瞬だけで、すぐに値踏みするような薄笑いに変わった。
 噂以上のダビデ像ぶりだが、本物よりも僧帽筋や胸筋にボリュームがあり、より現代の理想に近い。世界の上位数%には入っているだろう『イケメン』だ。
「ツレに聞いたよ。セックス上手いんだって? オレとも遊んでくれよ」
 省吾は笑みを浮かべつつジーンズを脱ぎ捨てるが、黒いスポーツシャツまでは脱ごうとしない。完全に脱がないのは彼なりのファッションだろう。実際、胸板のある男のスポーツシャツは丸裸よりも色気がある。そうした拘りは愛梨にも理解できるところであり、だからこそ鼻につく。

 (……気に入らないわね)

 自信に満ちた省吾の面構え。それに黄色い声を上げる女達。強いオスを前に、自分達の仇討ちを期待している男達。すべてが癪に障る。
「さっさと脱げよ、ヤリマン!」
 女の1人から野次が飛んだ。それをきっかけに、野次の波が襲い来る。省吾と交わる愛梨に対しての嫉妬を隠そうともしていない。その負の感情を浴びながら、愛梨は衣服を脱ぎ捨てる。省吾のように一部を残したりはしない。一糸纏わぬ丸裸をそのままに衆目に晒し、その全てを誇る。
「……すげぇな、君」
 省吾は一言だけを呟き、ぺろりと唇を舐めた。極上の肉体を前にしたそれは、百の言葉よりも雄弁だった。


                ※


「おー、これ上手ぇわ。“慣れてない”のにこれとか、天才だね君」
「っ!」
 仁王立ちのまま息を吐く省吾の言葉に、愛梨は目尻を広げた。
「へぇ、わかるんだ?」
「ま、処女から熟女まで一通り経験してるとね」
「ちなみに、どこでそう思ったの?」
「一番分かりやすいのは唾の出方かな。フェラし慣れてる子って、とろとろの唾がすぐ出てくるんだよ。でも君は、口モゴモゴしてちょっと頑張って出してる感じがした。咥え込んでも口の中渇いてる子は、経験少ない子が多いんだよね。あとは、舌の緩急かな。舐め方とかタイミングは完璧に近いんだけど、君は舌の先がずっと固い。これも慣れてる子だと、舌を尖らせたり柔らかくしたりって緩急がスムーズなんだ」
「ふーん、そうなの。勉強になったわ」
 やはりこの男、潤とは違う。愛梨は内心で冷や汗を掻いていた。驚くべきことはもうひとつある。フェラチオをしていれば自然と目に入る下腹部に、血管のような筋が浮いていた。陰茎提靭帯というペニスを支える靭帯だ。そこが視認できるほど浮き上がっているということは、それだけこの男の勃起力が尋常ではないという証でもある。
 それは愛梨の肌感覚でも理解できた。最初こそ無理なく口内に含めるサイズであった省吾の逸物は、口での奉仕を続けるうちに風船が膨らむようにサイズを増していく。今や根元から裏筋までを舐め上げるには、首そのものを上下させなければならない。
「わああ、おっきい……!!」
 女性会員が歓声を上げる。事実、屹立した省吾の怒張は相当なサイズだった。長さはおそらく17,8センチはあるだろう。太さもそれに見合ったもので、雁首の直径は5センチを下るまい。太さと長さを兼ね備えた、典型的な『巨根』。しかも珍しい下反りだ。

 省吾は慣れた手つきでコンドームを装着すると、愛梨の両手を壁につかせ、尻を突き出す格好を取らせた。
「脚の長い娘とヤるんなら、まずは立ちバックだよな」
 口ではそう言っていたが、本当は下反りペニスの利点を活かせるのが後背位だからだろう。自然な流れで優位を取る、実に試合巧者だ。
「前戯はしないの?」
「ああ。すぐに濡れるから安心しなよ」
 非難もさらりと流され、巨根が割れ目へと押し込まれる。
「んっ」
 愛梨は声を漏らした。コンドーム表面の滑りのおかげで挿入自体はスムーズだが、サイズが大きく、しかも硬いせいで異物感が強い。やはり勃起力は相当なもので、樫の木でも突っ込まれているようだ。
「はは、噂通り締まりいいな」
 爽やかに笑う省吾は、ある程度挿入したところで動きを止める。ペニスを膣に馴染ませるためだ。それに加えて省吾の指は、前から回り込むようにして愛梨のクリトリスを撫ぜる。触れるか触れないかというフェザータッチ。そのもどかしい刺激は刺激への渇望を生み、女に肉穴を締めさせる。

 (さすが、女を抱き慣れてるわ。あいつらとは全然違うわね)

 愛梨の頭に浮かんだのは、アニメ研究会のメンバーだ。女性経験に乏しく、かつ女に飢えている彼らは、異性への配慮というものがない。挿入直後に荒々しく腰を振り、クリトリスは引きちぎる勢いで乱暴にいじくり回す。愛梨はそれに何度痛いと怒ったことか。
 省吾の予言通り、愛梨の膣内はしっとりと濡れてくる。それを粘膜で感じ取った省吾は、ゆっくりと腰を前後させはじめた。そう、ゆっくりと。しかし愛梨は、わずか数ストロークで壁についた手を強張らせる。

 (ああ、そういうこと。こいつの自信の根拠ってこれなのね)

 まさに名器。亀頭のサイズ、雁首の傘の張り具合、茎部分の太さと長さ……どれもこれもが絶妙だ。Gスポットを擦りつつ奥を突き込む、その流れだけで絶頂が仄見える。下反りのペニスと後背位の相性の良さが、その刺激をより鮮明にしてもいる。
「脚長いねー。身長差なかったらつま先立ちじゃないと入らないよ」
 呑気な口調とは裏腹に、省吾は恐ろしいテクニックを駆使していた。突き込みのペースが変わらない。まったく同じタイミング、同じ深さで腰を送り込み続けている。受ける側は意識を散らすことも許されず、ただただ上りつめていくしかない。それは愛梨も同じだ。愛液が溢れ出し、結合部からクチュクチュと水音が鳴る。膣が漏らしたその甘い声を、省吾が聞き逃すはずもない。
 愛梨の恥骨の辺りをグッと抱え、深く突き込む。
「!!」
 愛梨は顎が浮いた。脹脛が張り、腰がじぃんと痺れる。ごくごく軽くだが絶頂したようだ。
「おーすげぇ、チンポにヌルヌルが纏わりついてくるじゃん。歓迎されてるみたいでテンション上がるなぁ!」
 省吾の発言の意図は明白だ。この女、イッてマンコがヒクついてるぜ──その内容を言葉を変えて周知したに他ならない。そう察した愛梨は鋭く後ろを睨み上げるが、省吾の笑みは消えない。
 パンパンパンパン、と肉のぶつかる音が鳴り響く。
「うーむ、いい音だ」
「お手本のような立ちバックですな。あれは突かれる方も気持ちいいでしょう」
 倶楽部の会員達はカクテルを片手に語り合う。確かに、愛梨は快感を得ていた。しかしそれを表には出さない。喘ぎを殺さないというスタイルを曲げてでも、喘ぐだけで声を漏らさない。
「声出していいんだよ? オレはエロい声出してくれる子の方が好きかな」
 省吾はそう囁き、深く突き込む際に腰を反らせはじめた。より深くまで突けるようにだ。それは確かに効果的だった。意思とは裏腹に、愛梨のつま先が浮き、膝が笑いはじめる。しかし愛梨は喘ぐ気にはならなかった。

『これが気持ちいいんだろ? お前ら女は、こうすればイクんだろ?』

 その意図が透けて見えるようなピストンが鼻についたのだ。
「きもちいいー。あんあん」
 愛梨は望み通りに声を出す。場違いなほど軽く。その反応は完全に省吾の虚をついた。彼は無意識に取り巻きを睨みつける。正確には彼らが隠し持つカメラを、だ。しかしそれも一瞬だけで、すぐに甘い笑みを取り戻す。
「そりゃよかった。じゃ、もっと楽しませてやるよ!」
 省吾はここで体位を変えた。愛梨の腕を掴んだままステージ中央に移り、立ちバックに移行する。そのまま下腹を手で圧迫しつつ激しく突き込み、愛梨の脚の震えが傍目にも明らかになったところで、仕上げとばかりに唇を奪った。
「んむっ!? ん、んんんんっ!!」
 愛梨は目を見開き、相手を睨む。
「えげつねぇな。完全に息上がってるとこでディープキスか。ありゃたまらんわ」
「は、どういう意味? マッチョイケメンからあれだけハードに可愛がってもらった上に、キスまでしてもらえるんだよ? あれで幸せに感じない女なんているわけないじゃん!」
「いいや、そうでもないらしいぞ。見てみたまえ、彼女の眼を」
 老いた会員の1人が指を差す。その先では、愛梨がなおも省吾を睨みつけていた。くっきりとした強い瞳で。
「ぷはっ!!」
 十秒あまりのキスを経て、ようやく唇が放される。互いが荒い息を吐く中、省吾は何かを待つように愛梨の顔を見つめていた。
「何?」
 しかし愛梨は、ただ冷ややかに省吾を睨みつけるばかり。その反応に、省吾は心底驚いた表情を見せた。
「すごいな、君。この状態で『すごい』か『もうやめて』以外の言葉聞いたの初めてだ」
 そう告げ、ちらりと視線を横に流す。不甲斐ない弟子達の方に。
『あいつらじゃ、一晩やっても音を上げさせるのは無理だろうな』
 無言のままにそう告げ、省吾は愉快そうに笑った。

 勝負の場所は寝台に移る。今日の催しのために急遽用意されたキングベッドだ。省吾はそこで見せつけるように愛梨を抱いた。左脚をほぼ真上に抱え上げ、脚を大きく開かせての松葉崩し。取り巻きが隠し持つカメラへ結合部を映り込ませるための体位だ。
 省吾の巨根で責められ続けた女は、やがて膝が笑いはじめる。そうなれば松葉崩しを維持するのもつらい。その余裕のなさがまた相手を追い詰める。快感で顔は歪み、シーツを握りしめたまま手が離せなくなる。
 ……はずだった。省吾の計画では。しかし愛梨はその範疇に収まらない。
「ふっ、ふっ、ふっ……」
「息荒くなってきたね。感じてる?」
「んー、まあまあね」
 愛梨の顔は汗を垂らしつつも涼しげだ。これだけ責めた上でのその余裕は、省吾のプライドを揺るがすのに充分だった。
「……嘘つき」
 省吾は腰を止め、ぼそりと呟く。
「はぁっ? 別に嘘なんか……」
「オレね、悪いコにはお仕置きしてあげることにしてんの。だからコレ、今約束破った分のお仕置きね」
 愛梨の非難を被せた言葉で潰しながら、省吾は愛梨を組み敷いた。そして暴れ愛梨の手を力づくで抑え込み、その乳首に齧りつく。
「痛い!」
 愛梨が叫んでも構わず、さらに省吾はクリトリスを二本指で挟み潰す。
「君が悪いんだよ」
 洗脳でもするように囁きながら、挿入し、荒々しく腰を打ち付ける。
「やめて、痛いって!」
「お仕置きだって言ってるだろ、嫌がるなよ。ワガママな口は塞ぐぞ」
 ドスの利いた声で威圧しつつ、今度は両の掌で愛梨の口をすっぽりと覆う。
「……っ!! ……っ、…っ! ……、……っっ!!!」
 愛梨は猛烈に叫ぶが、それらは分厚い手に阻まれて音を為さない。騒げば騒ぐほど息切れを起こすが、そうと分かっていても叫ばずにいられないのが愛梨でもある。彼女にとって意思を封殺されるなど、あってはならないことだ。
「どう?苦しい?苦しくても我慢しろよ、お仕置きなんだからな?」
 省吾は愛梨の非を説きながら腰を打ち付ける。バチッバチッと音が響くほどのハードなピストンだ。
「すげー、マジでバチボコセックス始めたよ……」
「本気だな、兄貴……」
 省吾を知る取り巻き達でさえ息を呑むほど、その行為には鬼気迫るものがあった。
「むうううーーーーッ!!!」
 愛梨は狂乱状態だ。激しいセックスの負担と、呼吸器をほぼ完全に塞がれている息苦しさ、そして相手の良い様にされている屈辱……その全てが愛梨の息を荒くした。彼女にできるのは、腕力では敵わないと知りつつも省吾の手を引き剥がそうと足掻くことと、敵の目を睨みつけることだけだ。しかし、そのどちらも逆転の手には成り得ない。下になった愛梨はただ削られていくしかない。

 (息ができない……! こいつ、本気で気道塞いでる……鼻、まで……!!)

ベッドが軋むほどの鬩ぎ合いの中、愛梨は酸欠に溺れていく。胸が詰まり、窒息の恐怖が湧き上がる。強い怒りと恐怖がぶつかり合う中、その戦場である脳そのものが薄らいでいく。
「ははは、ナカがうねりまくってるぞ。ダメだろ、お仕置きの最中にイッたら」
 省吾は笑いながら手の位置を変え、より盤石に愛梨の呼吸を遮りながら腰を打ち付ける。浮き上がる事を許さないその責めが、愛梨に一線を超えさせる。

 (あああ……イク、イッちゃう……!! こんなので、イカされちゃう…………っ!!!!)

 愛梨は見開いた瞳で虚空を睨み、凍えるように痙攣しながら、黒い沼に漬かりきった。水面が唇から離れて遠くに消える。続いて意識すらも周りの闇と同化しかけたところで、ようやく省吾の手が離された。
「……ッぶはあああっ!!!はあッ!!はあッ!!はあッ!!はあッ!!」
 愛梨は汗と涙に塗れながら生還した。余裕の欠片もないその姿に爆笑が起こる。ギャラリーである会員達も愉快そうだが、最も病んだ笑みを浮かべているのは目の前の省吾だ。
「窒息ハメって苦しいけど興奮するだろ。オレもすげー興奮してる」
 省吾はくつくつと笑いながら、再び愛梨の口を手で塞ぐ。両の手で鼻腔までを密封したまま、今度は前傾姿勢をより深め、斜め上から突き下ろす。
「うむぐっ、むううううーーー~ッ!!!」
 愛梨が抵抗しようとも力づくで押さえ込む。愛梨の肩の上に肘をつき、次第に光を失っていく愛梨の瞳を至近距離で見つめながら。
「ぶはああっ!!はあーーッ!!はあーーッ!!はあーーッ!!はあーーッ!!」
 二度目の『生還』時、すでに愛梨はボロボロだった。涙と鼻水、汗にまみれたまま、目も口も開ききっている。その顔が再びの爆笑を呼ぶ中、すかさず3回戦が始まった。愛梨の腕を掴んで引き起こし、背面座位で突き上げながら、柔道の裸絞めの要領で気道を圧迫する。これもまた愛梨には堪らない。
「がはア゛ッ、あああ゛ァ゛……ッ!!」
 下反りのペニスにより必殺の威力を誇るバック責めで、グイグイと絶頂へ追い込まれる中での窒息。しかもギャラリーに真正面から視られながらだ。愛梨は藻掻く。足掻く。首を絞める太い腕に爪を立て、背後の脇腹に肘を打ち込み。それでも鍛え抜かれた肉体は揺るがない。酸素が脳に行かず、視界が暗くなっていく。しかし本当にブラックアウトして楽になれるというその間際、絞めが解かれる。苦しみしかない水面へと、否応もなく引き上げられる。
「うわ、漏らしてら」
「あいつマジふざけんなって。省吾様に汚ぇションベン掛けんなよ」
 ギャラリーからのその野次で、初めて愛梨は失禁している事実に気が付いた。
「おいおい漏らすなよお前。せっかくのベッドがグショグショじゃねぇか。こりゃまたお仕置きだな」
 省吾は愛梨に囁きかけながら、正面のカメラに視線を送る。『ここからがもっと凄いぞ、見ておけよ』とでも言いたげに。

 事実、そこから省吾はサディストとしての本性を露わにしていく。気絶しかけている愛梨の髪を掴んでベッド下に引きずり下ろし、膝立ちのまま寝台に上体を預けさせる。その上で、突き出された愛梨の臀部に激しい平手打ちを浴びせはじめたのだ。加減などはない。破裂音が響き渡り、尻肉と太腿が波打つ、男の力による本気の平手打ちだ。
「い、痛い、痛いって!!」
 愛梨は当然悲鳴を上げた。怒りのこもった瞳で後ろを睨みつけもした。しかし抵抗はできない。絶え間ない尻の激痛が、身を捩る隙さえ与えないのだ。脚を内に閉じ、衝撃に耐える姿勢を作るのがせいぜいだ。そして加虐の快感に酔う省吾は、それすらも許さない。
「股閉じんじゃねーよ!」
 つま先を閉じた愛梨の脚の間にねじ込み、左右の膝を交互に蹴り飛ばす。そうして肩幅以上に足を開かせてから、省吾は再び手を振り上げた。今度の狙いは臀部ではなく女性器だ。バンッとやや鈍い音が響き、愛梨の腰が跳ね上がる。
「うああっ!?」
 人間は予期していない刺激には弱い。愛梨は睨み上げるのをやめ、打たれた箇所を凝視する。その視線の先で、また笑みを浮かべた省吾が手を振り上げ、愛梨の局部を滅多打ちにしていく。臀部と秘部を打ち分け、上から・横から・下からと打ち込む角度も都度変える。相手に打たれる予測も覚悟もさせない、芸術的なまでに手慣れた責め方だ。
「あっ、ああっ!! ああっ、うあああっ!!」
 腰を跳ねさせて悲鳴を上げる愛梨。会員達はそれを肴に美味そうに杯を重ねていく。

 (殺す……! こいつ、殺してやる……!!)

 愛梨は物騒な考えを抱く。それほどに追い詰められていた。柔肉を打たれるのも涙が出るほどつらいが、それ以上に心が痛い。公然で幼児への折檻も同然の仕打ちを受け、それを嘲笑われる。常に女ボスとして生きてきた愛梨にとって、耐え難い屈辱だ。しかしどうにもできない。絶え間ない痛みで身動きが出来ず、ジンジンとした痛みが溜まっていく地獄に歯を食いしばって耐えるしかない。
 愛梨の秘部と臀部に白い部分が無くなった頃、省吾の責めは次に移る。愛梨の尻を手で押し拡げて唾を吐きかけ、そのまま荒々しく犯しはじめたのだ。あまりにもあまりなその扱いに、客からは何度目ともしれない哄笑が起こる。
「うう゛う゛っ、はうう゛う゛う゛っ!!」
 愛梨はその負けん気から相当に我慢強いが、それでも顔を歪めて呻いていた。省吾に腰を打ち込まれるたび、腫れあがった尻と臀部が剣山でも押し付けられたように痛む。かといってその痛みに気を取られていると、膣奥の刺激に耐えられない。その二重苦が絶え間なく襲ってくるのだ。
 そして、愛梨の顔を歪ませる要因はもう一つある。
「ははははは! なんだよお前、グチョグチョに濡れてるじゃねぇか! 皆の前でケツ叩かれて興奮したのか!?」
 省吾が指摘する通り、愛梨の膣内には愛液が溢れていた。巨根を抜き差しされるたびに水音が立つほどに。その事実がまた格好の笑いの種となり、愛梨の顔を歪ませる。
「いいぜ。ならもっとイジメてやるよ、この変態!」
 省吾は激しい突き上げで愛梨の身体をじわじわとベッドに戻し、両手で愛梨の顔をシーツに押し付ける。
「ううわ、窒息寝バックとかヤバッ!」
「しかもあのデカチンでねぇ。あの子ぶっ壊れちゃうかも。アハハ、楽しみー」
 遠巻きに見守る女性達がクスクスと笑う。状況そのものも苛烈だが、省吾の腰遣いも卓越していた。パンパンという明瞭な音が規則正しく鳴り響く、やはりお手本のような伏臥位。『魅せる』ことに重きを置いたパフォーマンスではあるが、斜め上から十分なストロークを取って巨根を送り込まれる行為が、生半可なものであろうはずもない。
「ウ゛ウ゛ーーーッ!! ウ゛ウ゛ウ゛ゥウーーーッッ!!!」
 愛梨はシーツに顔を押し付けられた状態で、渾身の叫びを上げ続けていた。腰は突き込みとはまた違うペースで寝台に叩きつけられ、必死に“逃げよう”としているのが見て取れる。手は縋るようにシーツを掴み、美しい脚は幼児が駄々をこねるように寝台に叩きつけられる。
 その狂乱を前にしてなお、省吾の加虐は徹底していた。体重をかけて愛梨の頭を押さえつけ、暴れる脚には自らの脚を乗せて抑え込む。膨らみきった4つの脹脛で死に物狂いの鬩ぎ合いを演じた後に、最後は筋力の差で強引に封殺する。
「ひひひ、大したタマだぜあの若造。殺す気にしか見えねぇや」
「いや、彼は限界の際を見切っていますよ。御覧なさい、いま一瞬頭の押さえを緩めたでしょう。ああしてほんの一呼吸ぶん酸素を吸わせているんですよ。もっともそのせいで、やられている側は窒息死もできないわけですが」
「なるほど、飢え死にしない程度にパンを与えてるようなもんか!」
 場には明白な温度差があった。ギャラリーと省吾は至福と言わんばかりだが、愛梨ただ一人が地獄を見ている。
 ある瞬間、ふいに肉のぶつかる音が消え失せるが、愛梨が地獄から解放されたわけではない。
「ねー、なんでアイツ一人でイッてんの?」
「ほんと、キモすぎー」
 ギャラリーの女が指摘する通り、省吾が腰を止めている状態にもかかわらず、愛梨はビクビクと痙攣を続けている。お、おお、と重苦しい呻きが漏れていることからも、絶頂状態にあるのは明白だった。
「あー、あれね。あの女が頭バグってんのは確かだけど、ああなるのはわかるな。寝バックってだいぶ特殊でさ、気持ちいい所にピンポイントで体重かけられたら、ピストンされてなくてもイッちゃうんだよね」
「へー、そうなん? だとしてもアイツ、惨めだよねぇ。ピンで留められた虫みたい!」
 同性からの嘲笑は愛梨の耳にも届いていた。しかし、どうしようもない。縫い留められた膣内のスポットを中心に甘い電流が走り続け、際限なく絶頂へ追い込まれていく。クリトリスでの絶頂を『小』、気絶するレベルの中イキを『大』とすれば、これは『中』レベルといったところだが、それが絶え間なく襲ってくる状況はたまらない。
「ぅおっ、おぐっ……おッ、お…………!!」
 愛梨の口から、快感の濃く抽出された喘ぎが漏れはじめる。省吾の口元が綻んだ。その声を待っていたとばかりに愛梨の頭を解放し、這う格好での後背位に移行する。ドギー(犬)スタイル、と称した方が相応しいか。
「んお゛っ、お゛っ……! い、イグっ、イグぅう゛っ!!」
 呼吸が楽になったところで喘ぎは変わらない。すでに愛梨は、コールタールのような重苦しい快感に喉まで侵されている。艶やかな喘ぎなど望むべくもない。餓死寸前の状態で目の前に肉を放り出されて、がっつかずにいられる人間などいないようにだ。
「そうか、イケよ。おらイケッ、イケッ、イケッ!!」
 省吾は得意のバックスタイルで嬉々として責め立てる。アクセントとして乳房を変形しそうなほど揉みしだき、クリトリスを抓り、首筋に歯を立てながら。愛梨はその全てに反応を示した。しかし何よりも優先するのは、腰を掴む省吾の手を死に物狂いで外そうとする動きだ。
「あははは、必死すぎ! よっぽどイカされたくないんだね」
「贅沢な悩みやんねぇ。ウチも省吾様にオラオラで犯してほしいわぁ!」
「んなの、あーしも同じだし! あー、羨ましい!!」
 精悍な俳優によるハードコアプレイは、倶楽部のオスの心を満たし、メスを魅了した。女性会員はその殆どが着衣のまま自慰に耽っている。服を脱がないのは清楚さのアピールか、それとも体型に自信がないのか。事実、それなりに見目麗しい娘はいれど、愛梨のルックスに勝る人間は存在しない。この倶楽部内に限らず、今夜この街に存在する女性すべてに条件を拡大してもなお、見つかる保証などない。
 それほどの美貌の持ち主が今や、秘部を弄られただけで潮噴きに至る身体にされていた。それも技巧を凝らした指戯ではない。初めて女体に触れる中学生男子のような雑な『手マン』で、愛梨は幾度となく潮を噴き散らす。
「おっ、おほっ! おほぉおっ、おッお……!!」
 声には品性の欠片すらない。しかし背を仰け反らせて痙攣する愛梨を見れば、恥じらう余裕を持てという方が酷に思える。

 愛梨は追い詰められていた。まさに絶倫というべき省吾から激しく犯され、雑に潮を噴かされ、また犯される。それを8サイクルも繰り返されたのだ。最後には背面座位で突き上げられながら視界が3秒もホワイトアウトし、姿勢を保とうと無意識に後ろの省吾の頭を抱え込んでしまい、堕ちた堕ちたと囃し立てられた。
 実際、愛梨は心が折れていたかもしれない。少し前に潤とのセックスを経験していなければ。省吾のセックスは確かにハードだが、所詮は潤の類型だ。学習能力の高い愛梨は、そのセックスをすでに“憶えていた”。ゆえに、堪え切れた。
「まだ気ィ失うなよ。次はお前が動いてオレを気持ちよくさせろ」
 省吾は汁塗れの愛梨にそう告げる。してやったりと笑う彼は、想像すらもしていないだろう。愛梨を堕としきれなかったこと……あまつさえ反撃の機会を与えてしまったことが、致命的なミスであろうとは。

「うあっ、し、搾り取られる……!! ち、千切れるっ!!」
 数分後、省吾は悲鳴を上げていた。その上に跨った愛梨は、余裕の表情で屹立した省吾の乳首を弄びながら、腰を前後左右、上下と艶めかしく蠢かす。
「くあああああっ!!」
 省吾の腹筋が蠢き、悲鳴が上がった。格好をつける余裕もなくなったのか、シーツを鷲掴みにしつつの叫びだ。
「ふ、ふざけんな、どけよテメェ!!」
「どけ? ずいぶん乱暴な言い方ね。人にお願いしたいなら、それなりの言い方ってものがあるでしょう?」
 愛梨は相手の必死さを嘲笑いつつ、左手で汗に濡れた胸板を撫で、右手で膝から腿までを撫で上げる。省吾がビクンと反応したところで、今度は右手中指をアナルへ侵入させた。
「うわああっ!!」
「あーら、可愛い反応ねぇ! 人の穴を掻き回すのは得意でも、自分の穴に指を入れられるのはそんなに怖いの?」
 愛梨の言葉に、場はざわつき始めた。
「穴に、指……?」
「え……あの女、省吾様のアナルに指突っ込んでるってこと……? やだやだ、やめてよ!!」
「省吾様ー、そんなビッチに負けないでくださぁい!!」
 つい先ほどまで黄色い声を上げていた女達が、一変して金切り声を上げる。愛梨にとっては胸のすく光景だ。
「だそうよ。負けないでねー、“省吾様”。」
 愛梨は嘲るように囁きつつ、肛門内の中指を何度も曲げる。
「うあ! うああ!!」
 省吾がびくりと反応したところで、今度は親指と小指で睾丸を絞り出すように圧迫しつつ、残った人差し指と薬指でアリの門渡りを抉り回す。
「わひゃああああ!?」
 省吾からは甲高い悲鳴が上がり、ついに膝が笑いはじめる。
「あははははは!! いい声よー、“省吾様”!」
 ギャラリーからも同じく悲鳴が上がる中、愛梨は腰をくゆらせつつ、パンパンと杭打ちでもするように打ち付ける。省吾にはもはや為す術もない。愛梨が腰を下ろすたびに、あっ、あっ、と声を漏らすのみ。その姿はまるでレイプされる乙女そのものだった。
「あ、兄貴……!!」
 省吾の取り巻きは衝撃的な光景を前に絶句する。今この瞬間も、兄貴分の醜態は第三者のパソコンに送られ続けている。普段から省吾に良い様に使われ、多少なりとも鬱憤を抱えている相手だ。この映像を外部に漏洩させないとも限らない。しかし撮影を止めるわけにもいかなかった。もし省吾がここから逆転することがあり、その雄姿をカメラに収めていなかったといえば、彼らは間違いなく殴られるだろう。省吾の暴君ぶりは、その近くで甘い汁を吸ってきた彼らが一番よく知っている。
「ああああイクッ、イクうッ!!」
 シーツを掴んだまま叫ぶ省吾を前に、愛梨はくすりと笑う。
「そういえば、息ができないようにすると感じるんだったわよね?」
 その言葉に、省吾が目を見開いた。
「や、めろ……!!」
 弱々しく首を振るが、愛梨に対して容赦をしなかった彼に、情けをかけられる理由はない。
「ウーーーーッ!!」
 唇を重ねられ、省吾は全身を暴れさせる。ギャラリーの女達からも悲鳴が上がるが、愛梨は唇を離さない。見開かれた省吾の目が虚ろになっても、その顔が青ざめても。
「……ぷはっ」
 愛梨が糸を引きながら口を離すと、省吾の目は焦点が合っていなかった。顔の造りがいいだけに、陵辱を受けて放心する聖母のように見える。となればその聖母の上に君臨し、唇を舐める小娘はさながらサタンか。

 それから、さらに一時間後。
「…………も、もう許してください…………!!」
 省吾はとうとう、涙ながらに赦しを乞う。彼にも雄としての矜持があったのだろう、随分と耐えた。後ろ手に縛られ、肛門にエネマグラを挿入されたまま、ローションをつけた手で亀頭をぬるぬると擦られ……20分あまりも切ない呻きを漏らした末の決壊だった。
「ふぅん、男でもそんな声で鳴くのね。それも、男前で有名な俳優さんが……」
 耳元にそう吹き込まれ、省吾はゾクゾクと震え上がる。
「嫌だ嫌だって言ってるけど、本当はイキたいんでしょう? イっていいわよ。ただし、一人で勝手にね」
 愛梨は声色に棘を作り、雁首を指の輪で締め付けたまま、鈴口を人差し指の爪で引っ掻く。刺激はあるが、すっきりと絶頂まで導いてくれるものではない。省吾が長い焦らしから解放されるためには、少女の手の内で自ら果てるしかない。
「ひ、ひぃっ……!! ひぃぃっ…………!!」
 省吾の喉からか細い悲鳴が漏れる。それを横から見つめながら、愛梨はふっと笑った。
「あはっ、可愛い。女の子みたい」
 その言葉が耳に届いた、次の瞬間。
「あイグっ、イグッッ……いッぎゅうううううんッッッ!!!!」
 省吾は白目を剥き、身を反らす。十数回もの射精の後とは思えないほど濃い精液を、鈴口からドクドクと吐き零しながら。
「ふふ、あっははははははっ!! やだ、なんて声出すのよ! いぎゅうん~って、そんな声女だって出さないわ! アンタはもう女でもないわね。メスよ、今日からメス奴隷として生きなさい!!」
 愛梨は高らかに笑う。さんざん自分をコケにした相手を完全に屈服させ、ようやく溜飲が下がったのだ。しかしひとしきり哄笑を終えた後、愛梨はふと我に返る。
 自分に向けられる、無数の眼。そこには様々な感情が宿っているが、特筆すべきは親の仇でも見るような女達の双眸だろう。

 (……あーあ。やっちゃったわね)

 自我が崩壊してへらへらと笑う省吾を前に、愛梨は深く嘆息した。


                ※


「ハハハハ、ひでぇな。ほとんど拷問だ」
 酒を手に戻った会員が目を細める。
 拷問──それは誇張ではない。彼の目の前に広がっている光景はまさに、女による女への拷問そのものだ。
 責められる愛梨は椅子に縛り付けられていた。背もたれを抱える形で手首と上腕にベルトを巻かれ、どれほど足掻こうと逃げ出せないように拘束されている。
 彼女はその状態で艶やかな黒髪を根元から掴み上げられ、真上を向かされていた。喉奥へとねじ込まれるバイブを受け入れるために。
「うおお゛お゛お゛っ!!」
 バイブがミリ単位で入り込むたびに、愛梨は首どころか肩までも痙攣させながら呻く。それもそのはずだ。押し込まれているバイブのサイズが尋常ではない。人間のペニスの造形を模してこそいるが、その長さは実に30センチに達する。太さは女が親指と人差し指で作る輪以上だ。さらに表面には瘤状の突起が無数につけられており、刺激をさらに増している。そんな異物を食道にまで押し込まれれば、綺麗な声で済むはずがない。そうと知りつつも、愛梨を取り囲む女達は不愉快そうに舌打ちをする。
「男みたいな声出すんじゃねぇよ、女のくせによ」
 1人がそう言って愛梨の顔に唾を吐きかけた。愛梨が省吾に放った『女の子みたい』という言葉の意趣返しだ。そうと知っているため、愛梨はあえて睨み返さない。唾液が眼球に垂れてくるのを防ぐために右目を閉じ、じっと耐える。しかしその冷静さがまた責め手の神経に障った。
「こいつ、まだ余裕あんね。もう2プッシュぐらい行っとこっか?」
「だね。そういやこいつ、こないだオッサンらに根元まで咥え込まされてもニヤニヤ笑ってたもん。ちょっとぐらい無茶したってヨユーっしょ」
 バイブを押し込む娘の提案で、髪を掴んでいる娘が頷いた。彼女が手にしたエアーポンプを2回握り込むと、愛梨の喉に入り込んでいるバイブが2回り太さを増す。
「ごおっ!」
 苦しげな呻き声が漏れた。指の輪よりも2周り上となれば、バイブの直径は愛梨自身の手首に迫る。それを喉へ通されているだけでも苦痛は相当なものだろう。しかし勿論、それで終わりではない。
「ほーら、太いのを楽しみな!」
 軽い声で手元のスイッチが押し込まれると、愛梨の喉のバイブが激しく振動しはじめた。
「うお゛っ、おエ゛!ほごっ、うお゛えけェえああ゛っ!!」
 重苦しいえずきに混じり、うがいのような音が混じる。実際に愛梨の喉からは泡立つ唾液が溢れ、大きく開かれた口の端から垂れ落ちていく。
「だーかーら、声が汚ねぇっつってんだろうがバカ!」
「アンタさあ。そんなキモい声ばっか出すアバズレのくせに、よく省吾さんにデカい口利けたよねー。女扱いされただけ上等なんだよ、わかる?」
 女数人が愛梨に悪意を叩きつけ、目で合図を送り合う。その気配を察して愛梨が目を見開くが、愛梨に抵抗の術などない。振動するバイブの底が鷲掴みにされ、これから引きずり出されるのだと理解しても。
「ん゛、お゛え゛っ!! ごッ、ぼお゛お゛……おォお゛ろ゛え゛っ!!」
 愛梨から漏れたえずき声は、細切れで、不安定で、苦しげだ。
「キモッ。突っ込む時はオッサンみたいなのに、抜く時はババアの声じゃん」
「わかるー! 洗面所で痰吐くときのね」
「つか、さっきより声ヒドない? どんだけ女捨てとんねん」
 女達は口々に愛梨のえずきを詰る。確かに妙ではあったが、そうなるのも当然のことだ。太い異物の表面にびっしりとついた瘤が喉を何度も擦り上げ、しかもバイブ自体が激しく振動しているのだから。
「え゛ェあ! お、ごえ゛っ……んも゛お゛お゛お゛ええ゛っ!!」
 バイブが亀頭部近くまで引き抜かれたところで、ついに愛梨は限界を迎えた。 黄色い吐瀉物が上向いた顔を流れ、後ろで縛られた手首が暴れ、涙が垂直に伝い落ちる。
「うーわ、とうとう吐いたよ!」
「臭っさぁ。このガキ、胃の中腐っとんちゃう?」
「省吾さんにあんなことできるんだもん、性根まで腐りまくりでしょ」
「なるほどねー。じゃあ臭いけど、全部出しちゃおっか。コイツの腐ったとこ」
 半ば難癖のような理屈で納得し合い、女達は再びバイブを押し込みにかかる。
「げぇっ、えェェオ……ェエおおおっ!!」
 太さが増した分、声も首や肩の力み方もより酷い。それを見ながらも女達は面白半分にエアーポンプを押し込み、さらに愛梨を苦しめる。
「ごァ、があア゛……ッ!!」
 あまりの扱いに、とうとう愛梨も堪忍袋の緒が切れた。拘束された腕を震わせながら、痛烈に相手を睨み上げる。
「ひっ!!」
 サディストぶっていようと、責め手は普通の女達だ。愛梨の貫くような眼光には本気で怯えを見せる。しかし、それも一瞬のことだ。いかに眼光鋭かろうと、愛梨の身体は重量感のある椅子に拘束されている。女達に危害を加えることは不可能だ。そう気づいて冷静さを取り戻せば、逆に沸々と怒りが湧いてくる。
「何その目? 気に食わないんだけど」
「まさかと思うけど、アタシらに逆恨みしてんの? これ、省吾さんに滅茶苦茶やったアレの落とし前なんだけど」
「つか逆恨みで確定っしょ。そういうことするんなら、もっとキツく躾けないとね」
 女達は冷ややかに愛梨を睨み下ろし、さらに責めを追加していく。
 1人は鼻腔をフックで吊り上げ、開いた鼻の穴に様々な液体を垂らす。
 1人は首輪をつけ、異物挿入でボコボコと変形する喉を引き絞り、白い喉を瓢箪のように括れさせる。
 1人は乳首をクリップで挟み、SM上級者が用いる重りで負荷をかける。
 ここまでが上半身への責めだ。これだけでも愛梨には耐え難い苦痛らしく、額に滲む脂汗の量が二倍に増えた。しかし、下半身の方も当然楽をさせてはもらえない。
 ここまで愛梨は、喉奥の苦痛を脚を踏ん張ることでなんとか耐えてきた。床を踏みしめ、地団駄を踏み、あるいはつま先を立てて。それを知る女達は、その支えを壊しにかかった。2人がかりで愛梨の左右の脚を掴み、開脚させる。愛梨が抵抗しても力技でねじ伏せ、ほとんど180度近い角度まで。しかも、それで終わりではない。悪意と加害に酔う女達は、その状態で愛梨の足裏を弄びはじめた。足つぼマッサージ用の器具をゴリゴリと押し付けたり、書道用の筆で撫でまわしたり。いずれもそれ単体で責めになりうる行為であり、当然愛梨も強く反応した。
 そして最後は、開脚により露わになった秘裂だ。ここには鞭が使われた。省吾のスパンキングですでに充血している秘裂を、しならせた乗馬鞭で打ち据える。
 これら数々の責め苦が、同時多発的に愛梨を襲うのだ。愛梨にしてみればまさに拷問と変わらない。むしろ情報を吐けば終わるそれの方がマシでさえある。

「はーっ……! はーっ……! はーっ……! はーっ……!」
 息が荒い。犬のように喘ぐのは無様だ。だが今の愛梨にとっては、その時間すら至福だった。ごく短い時間とはいえ、何憚らず酸素が吸えるのだから。
「もう一回いくよ。ゲロまみれの口、めいっぱい開いときな」
 派手な化粧の女が蔑みの視線を寄越し、髪を掴む女がぐいっと愛梨に真上を向かせる。愛梨はそれに怒りと屈辱を覚えながらも、大人しく口を開けるしかない。
 近づく異物に対し、ついに怒りよりも恐怖が勝りはじめている。もう何十回アレを出し入れされていることだろう。押し込まれ、留められ、膨らまされ、引き抜かれる。そのどれもが叫びたくなるような苦痛だ。

 (またあの苦しみが来るの……? ううん、違う。さっきまた膨らまされてたから、あれ以上に苦しいに決まってる……!)

 絶望が心を支配する。心の弱い人間であれば、とうに発狂していてもおかしくない。
「ォぶッ……うご! ぐエ゛ッ、ぶっ、ぐぶッ……ぃいいお゛え゛っ! んごおっ、お゛ッ、へェいお゛お゛エッ!!」
 迎え入れる時のえずきは、回を追うごとに悲惨さを増した。
「出た出た、『ぃおえ』! ここんとこ毎回やん。どういう意味なん?」
「決まってんじゃん。『気持ちいい、もっとイジめてください~』だよ」
「アハハッ、それね。今なんか『へーい』とかも言ってたし」
「マジぃ? ノリノリじゃん!」
 女達は愛梨のえずきを論い、笑い合う。
 今の愛梨にまともな声が出せるはずがない。喉奥は開き慣れ、大量のえずき汁と吐瀉物でぬるぬるとコーティングされているが、それでもなお緩和できないほどに異物の刺激が強いのだ。喉の限界だと感じた時から、さらに3度エアーポンプが握り込まれた。異物の太さで喉奥をこじ開けられれば、表面の突起が粘膜に食い込んでくる。さらに奥へ押し込まれれば、限界まで開いた口の横と首筋、鎖骨までが痙攣し、ひどい声が出る。
 異物は嫌がらせのようにゆっくりと入り込んでくる。なにしろ30センチという長さだ。咽頭までで収まりきろうはずもなく、すぐにその先の食道にまで達する。そこから数秒すれば、喉がボコリと膨らんでいくのが自覚できた。それは責める側にも丸見えらしく、ちょうど喉の膨らんだタイミングで首輪が締めつけられる。
「ぐぎゅう゛う゛う゛オ゛っ!!」
 喉を瓢箪型にする勢いでギュウッと絞められれば、酸素供給は完全に断たれてしまう。
「オ゛ッ、オ゛、オ゛ッ……!!」
 潰れた呻き声が漏れ、苦しさについ首輪を引く人間を睨み上げてしまうが、それで責めが緩むことなどない。
「だぁら、睨むなっつってんだろ!? キモチ悪ィんだよ、そのギラギラした眼!」
「ぎぅイお゛ッ!!」
 恫喝と共にベルトが引き絞られ、愛梨は白目を剥きかける。口の横を泡立つ唾液が流れ、耳の穴にまで入り込む。地団駄を踏むように足で床を踏みつけたいところだが、両足を掴み上げられた今はそれも叶わない。苦しみを紛らわせるどころか、硬い器具でゴリゴリと足裏のツボを刺激され、叫びたいほどの苦痛が上乗せされる。両脚の内腿はとうに攣っていたが、それを訴えても配慮されるわけがない。むしろ弱点を吐露したことにより、より苛烈な責め苦がくるだけだろう。
「おほっ、オ、オ゛ッ!! ごオお゛お゛ッお゛お゛ッ!!」
 足裏の痛みによる絶叫が、喉の異物と絞首で途切れながら漏れる。そんな中でも異物は深々と入り込んでくる。
「はーい、ラスト!」
 バイブの根元が両手で押さえ込まれ、ついに根元まで送り込まれた。その際に発された愛梨のえずきは、もはや『声』ではない。汁を吸った食品を握りつぶした時のような『音』だ。
「すごいねお前、これでも根元まで咥えこめるんだ? 自分で見えてるかわかんないけど、膨らませまくって野球のバットみたいになってんだよ? ゴムだから本物のバットよりはマシなんだろうけどさ」
「もうこれ人間じゃなくて、ヘビとかトカゲだよね」
「あはは、ウケる! ほーら餌だよヘビちゃん、喉で味わいなー!」
 女達は口々に愛梨を罵りつつ、バイブを根元まで押し込んだ状態をキープする。

 (く、苦しいっ……! これ、胃まで入ってるんじゃないの……!?)

 愛梨は震えながら思う。通常であれば錯覚で片づけられる話だが、今回ばかりはそうではない。頚部食道・胸部食道・腹部食道は合わせて25センチ程度と言われるが、30センチあるバイブを根元までねじ込まれれば、その先端は食道終わりの狭窄部にまで達してしまう。噴門を隔てた先はもう胃だ。
「フーッ! フーッ! フーッ! フーッ!」
 唯一の気道である鼻で荒い呼吸を繰り返しつつ、強い瞳を保つ愛梨。その姿が女達の嗜虐心を煽る。
「さーて、今度はどれにしよっかなー」
 髪を掴む女が上着のポケットを弄りはじめた。そこには数種の液体が入った瓶がある。バーラウンジから拝借したカクテル用のレモン果汁、浣腸用に用いられる酢酸溶液、ギャラリーの中年男が先ほど出したばかりの尿。女はその瓶の一つを開け、スポイトで中身を吸い上げて、フックで開かれた愛梨の鼻孔へと垂らす。今回選ばれたのは酢酸だ。
「ぶはっ、アガアア゛ッ!? あがッ、ああエア゛ア゛ッ!!」
 愛梨は酢酸でもっとも激しく反応する。噎せ、えずき、また噎せ、ついには涙を流す。ここまでの反応は他の液体では見られない。女達はその反応を笑いつつ、さらに別の箇所を責め立てる。
「そろそろコレにも飽きたでしょ。もっといい物あげるわ」
 1人が愛梨の右胸からクリップを外し、その尖りきった乳頭にニードルを宛がった。
「ッ!?」
 愛梨が事態を認識できるだけの間を取り、鋭利な刃が乳頭を横に貫く。逆側から顔を出した針先に、僅かに血が滴っていく。
「オアアらアア゛ア゛ア゛ッッ!!!」
 愛梨の反応は壮絶だ。天を仰いだまま、絶叫とうがいをする声を響かせる。拘束された上体が前後に揺れる。
「やだ、大喜びじゃない! じゃ、こっちにもプレゼント!」
 その言葉の直後、左の乳頭も同じくニードルで貫かれる。今度は一度目ほど大きな反応ではなかったが、脚を抱え込む人間は、太腿から先がブルブルと震える様にほくそ笑んだ。
「良かったねぇ、胸を虐めてもらえて。じゃ、マンコにも刺激をやるよ!」
 腕組みして見守っていた1人が、バイブを押し込む娘の横で乗馬鞭をしならせる。スナップを利かせて下から舐めるように秘部を叩けば、愛梨の腰が跳ね上がる。
「ウオーーーーッッ!!」
 悲鳴の凄まじさが鞭の威力を物語った。SMプレイ用とはいえ、マニア向けの本格仕様の鞭だ。本気で振るえば背中の肉を裂く威力がある。女もさすがに加減はしているようだが、鞭の当たった箇所にくっきりと蚯蚓腫れが残るのだから、生半可な威力でないのは明白だ。
 ビシッ、ビシッ、と鋭い音が響き渡る。6回目の音の直後、紅く腫れた秘裂から小水が漏れだした。当然それはここぞとばかりに物笑いの種になり、愛梨の顔を歪ませる。
 喉奥、鼻腔、乳頭、足裏、秘部。どれ一つとして無反応では耐えられない苛烈な5ヶ所責めに、やがて愛梨の全身はぶるぶると痙攣しはじめる。しかし、そこで解放しようとはならない。バイブは少し引かれるが、すぐにまた押し戻される。少し引き、押し戻す。そうして食道全体を犯すディープスロートが始まるのだ。
「う゛むッ、ぐぶっ……ごぶふっ!! んぐっおお゛え゛、げえ゛エ゛エ゛エ゛ッ!! 」
 愛梨は拘束された身体を暴れさせ、涙を零しながら呻き上げる。
「ぎゃはははっ、きったねー声! ガマガエルかよ」
 同性から悪意ある野次が飛ぶが、意思でコントロールできる現象ではない。同じ目に遭ったならば、誰でも似たような……あるいはより惨めな反応を示すに違いない。上下の食道括約筋を繰り返し刺激されてなお嘔吐しないのは、愛梨の強靱な肉体があればこそだ。
 しかしその愛梨であろうと、許容できる刺激には限界がある。
「じゃ、そろそろ抜くよー?」
 さらりと吐かれたその一言に、愛梨は全身を緊張させる。30センチの異物を一気に引き抜かれる刺激は相当なものだ。前回は堪らず嘔吐してしまい、気絶しかけた。となればバイブの太さが増し、体力も喉粘膜もより弱っている今、耐えきれるとは思えない。
「ごえ゛っ、もおおお゛エ゛ッ!! お゛え゛え゛ッ、ぃお゛お゛エ゛エ゛エ゛ア゛ッッッ!!!」
 食道そのものを引きずり出されるような刺激。
 愛梨は激しく痙攣し、涙を零し、そして嘔吐した。胃から逆流した吐瀉物と喉からのえずき汁が混ざり合い、上向いた口から溢れ出す。混合液の滑りはよく、喉や乳房を生温かさを感じる暇すらなく流れ落ちていくが、臓腑の匂いは変わらない。
「あーあー、またすごい吐いちゃって!」
「クッッサ! どんだけ腐ったもの詰まってんの、アンタの内臓!?」
 女達が笑い、大袈裟に鼻を摘む。愛梨はそれを希薄な意識で感じていた。死が間近に感じられるほどの酸欠と苦痛。女としての存在そのものを否定し、踏みにじるような拷問だ。
「さ、次はもっと凄いよー? 次こそ壊れちゃうかもね、お前。」
 シュッ、シュッ、と空気の送り込まれる音がする。霞む視界に異物が膨らむ様が映る。

 (これ以上大きくなるの……? もう無理よ!!)

 絶望が心を満たす。
 しかし、そんな状況でも愛梨は、激しく胸が高鳴るのを感じていた。ナイフで切り付けられたような秘部が疼く。ニードルで貫かれた乳頭が勃ち上がる。

 (ああ、まただ。こんな状況で、あたし…………!!)

 あまりにも場違いな肉体の反応に、愛梨は呆れ返る。
 極太の異物を押し込まれ、留められ、引き抜かれる。その度に愛梨は呻きながら嘔吐した。胃の中が空になっても空嘔吐で唾液と涙を絞り取られた。散々、見世物になった。

「やー、改めて見ると凄いね。もうアタシの手首と変わんないじゃん!」
 女が笑う通り、引き抜かれたディルドーは女自身の手首と変わりない太さにまで膨らんでいた。吐瀉物とえずき汁に塗れたそれを、女の1人がギャラリーに見せびらかし、髪を掴んでいた1人が愛梨の顔を縦に戻す。ギャラリーからは笑いが起きた。
「おー、飛んどるねぇ、さすがに意識も保てんか!」
「まあ、よくもった方でしょう。あの拷問のような責めを受けながら、1時間以上も睨んでましたからね」
「なんかもう体中でメチャクチャやられてたもんな。結局どれが一番キツかったんだろ? あの体力バカの意識を1時間で飛ばすって相当だぜ?」
「どれというより、相乗効果でキツくなったんじゃないかね。出汁を何種類か合わせると味に深みが増すという、あれと同じで」
 会員達は口々に語り合いながら、変わり果てた愛梨の姿を視姦する。責め役の女達もまた、自分達の熱意の成果を微笑みながら見下ろす。そのほぼ全員が、ある場所で視線を止めた。
 秘裂だ。さんざん鞭打たれ、網目状に蚯蚓腫れのできたそこは、外側に開いたまま蜜を垂らしていた。
「…………おい。アイツ、濡れてねぇか?」
 1人がぼそりとそう口にする。信じがたいという様子で。
「マジ……?」
「濡れてるって、今ので……!?」
 責めていた女達さえ絶句している。
 彼らの中には、前週のプレイに立ち会い、愛梨の風変わりな性癖を知る者もいた。しかしそれを踏まえてもなお、今のプレイで濡れるというのは常軌を逸していた。
 いわゆるマゾヒストにも許容限界というものは存在し、そのラインを超えた苦痛では濡れない。針で突き刺されることを好むM奴隷でも、チェーンソーで手足を切り落とされるプレイでは感じるどころではないのだ。今の拷問じみたプレイは、言うまでもなく後者。それで愛液が滴るとなれば、もはやマニアにとってすら未知の領域だ。
「…………は、はは、はははははっ! ざけんじゃねぇよ、このキチガイが。お前みたいなのに絡まれてぶっ壊されたのかよ、省吾さんは!?」
 1人が狂乱気味に叫ぶと、愛梨の顔が引き攣る。
「絡んできたのはあの男よ? あたしはただ、普通に……」
「うるっせぇ、人間の言葉喋んじゃねぇよ!! いいぜ、そんなに無茶苦茶されんのが好きなら、『コレ』、その濡れたマンコにぶち込んでやるよ!」
 女は愛梨の言葉をヒステリックに遮り、吐瀉物とえずき汁に塗れたバイブを握り直す。
「な、何考えてるの!? やめなさいよっ!!」
 愛梨が拒絶しようと、今さら容赦などされるはずもない。抱えられた両脚の間にバイブが押し当てられ、メリメリと押し込まれていく。
「あああ゛あ゛あ゛っ!!」
 愛梨は顔を歪めた。多少は柔らかさのあるゴム製とはいえ、手首ほどの太さが入り込む痛みは相当なものだ。それでも愛梨の柔軟な筋肉は、軋みながらも異物を受け入れた。

 (あそこが裂けそう……!!)

 恐怖心がぶり返す。そして同時に愛梨は、またしても興奮している事実に気が付いた。心臓が早鐘を打つ。膣の奥が熱くなり、子宮がグツグツと煮え滾る。
「なに? まさかまた感じてんの?」
「……馬鹿言わないで」
 問われても認めはしない。ただでさえ侮蔑の笑みを向けられている現状、さらに低く見られるような言動はプライドが許さない。しかし、ねじ込まれたバイブが2人がかりで前後に動かされはじめると、じきに誤魔化しが利かなくなる。
 30センチの『巨根』で奥を突かれるたび、甘い電流が走った。下半身を痺れさせ、足指の先にまで達するほどの痺れだ。
「こいつ、腰がヒクヒクしはじめたよ?」
「うーわ、マジで感じるんだー、ゲロまみれの偽チンポでマンコ突かれて!」
「ねえ省吾様、見てください! この女、ほんとに頭おかしいですよ? こんな女に何言われたか知りませんけど、犬に噛まれたと思って忘れちゃいましょうよ!」
 その言葉に愛梨は顔を上げる。ギャラリーの輪の中、斜め右の位置にいつの間にか省吾がいた。ルックスの良さは相変わらずだ。バスローブを纏った肉体は美しく、ギリシャ人風の顔立ちも整っている。しかし、彼の顔には覇気がなかった。その自信なさげな顔からは、彼の芯となるものが折れたことが伝わってくる。

 (なによ、その顔……! アンタだってあたしを壊す気だったでしょ!?)

 愛梨は省吾を睨みつけ、不甲斐ない姿を見せるものかと胸を張る。だが、蕩けた肉体は意地を張り続けることを許さない。
「……ッ、ッく、んうう……ん、うぐううっ!!」
 歯を食いしばって耐えた末、とうとう愛梨は深く貫かれた瞬間に天を仰ぐ。ぶるぶると両脚を痙攣させる深い絶頂だ。
「あーあ、イッちゃった!」
「信じらんない。大事なとこにゲロ突っ込まれて、よく呑気に感じてられるよね」
 容赦なく罵詈雑言が浴びせかけられる。ギャラリーも困惑と好奇の色に染まっている。そんな中で、一人だけが異なる表情を浮かべていた。
「…………はぁぁ……すごい…………」
 長大なバイブで何度も絶頂へと追い込まれ、微かに色のついた液を噴きだしながら痙攣する愛梨。それを見つめながら、省吾はうっとりと目を細めていた。


                ※


 この日、DUNGHILLの夜は長かった。省吾のファンによる報復のディープスロートショーが終わった頃には、すでに土曜の一時を回っていたが、倶楽部を去ろうとする者はいない。眞喜志 愛梨という生意気で蠱惑的な少女が、どこまで貶められるのか──皆がそれに注目していた。

「はーい、もう一回いくよー?」
 女が愛梨に囁きかけ、ガラス浣腸器で黄色い液体を吸い上げる。洗面器になみなみと溜められ、強烈な刺激臭を漂わせる液体は、有志の女達が出したばかりの尿だ。
 女はシリンダーに尿を満たすと、その先を愛梨の鼻孔にねじ込んだ。
「ふがっ!」
 痛みに呻き、目つきを鋭くする愛梨を面白がりながら、女は浣腸器の底を押し込みはじめた。シリンダーの中身が愛梨の鼻へと入り込んでいく。
「んぐっ、ぶほっ!! えはっ、げはっ!! がぼあえァらっ!!」
 当然、愛梨は噎せ返る。類稀な美貌を歪め、鼻水や唾液と混ざり合った尿を口から溢れさせる。嵩を増した汚液の垂れる先は、愛梨自身が前に構えた洗面器だ。
「あははははっ、すごい顔!」
「ほーら、何か忘れてんぞーブス!」
 愛梨を囲む女達は手を叩いて笑い、愛梨に何かを強いた。
「…………ッ!!」
 愛梨は息を乱しながら唇を窄め、逡巡する。
「おい、早くしろよグズ!!」
 同性から恫喝の声が飛ぶと、愛梨は眉根に深く皺を刻み、観念したように口を開いた。
「……ありがとう、ございます……」
「だから、声が小せぇよ! 省吾さんに聴こえるように言えって、何遍言わせんだこの馬鹿!」
「いらんこと言う時だけは声張るくせにさぁ。ほんとムカつくわ!」
「あ…………ありがとうございますっっ!!!」
「そうそう、最初からそれぐらい出しなって。さ、じゃもう一杯ね」
 女は満足げに笑い、再びとろみのついた尿を吸い上げては愛梨の鼻に送り込む。何度も、何度も。
「げほっ、えああお゛っ! おひょお゛ごっ、おええ゛え゛え゛っ!!!」
 愛梨は、鼻水と涎と涙を垂れ流しつづけた。酸欠と臭気で顔は青ざめさせていった。壮絶にえずき上げ、やがては鼻浣腸の度に嘔吐するようになった。
 女達はその全てをわざとらしいほどに笑い飛ばし、愛梨が俯けば髪を掴んで前を向かせる。真正面にいる省吾に、悲惨な顔を常に晒すのが目的だ。
「なによ、根性なし。そんなに吐きたいんなら手伝ったげるよ!」
 その言葉と共に、愛梨の口の中へゴム手袋をつけた指が突っ込まれ、激しく喉を刺激しはじめた。
「おごっ、ごぉぉっ……うぶうううっ!!」
 前屈みになった愛梨の身体が震え、口内から前方に勢いよく唾液が噴きだす。その状態でさらに三本指が下向きに喉を押し込めば、ごおっという低いえずきの後、吐瀉物が下唇をなぞるようにして流れ落ちていく。ディープスロートショーで胃の中を空にされた後、改めて口に詰め込まれた分だ。
「おまえって、ほんとゲロが似合うわね。性格が腐ってるからかなぁ?」
 女はその吐瀉物をギャラリーに見せつけるように愛梨の顎に塗り付けると、再び口内へ指を送り込む。今度は上向き、鉤爪のように曲げた指で喉の突起を捉える形だ。
「うぉぉぉぉげっっ!!」
 呻きが上がり、開いた口から細く吐瀉物が流れ出す。その反応を見ても女は指を抜かず、クチュクチュクチュクチュと水音をさせながら喉奥を虐め抜く。
「りゅえっ、はぁがエ゛ッ、ぇお゛! ええ、へぇぇエオ゛ッ!!」
 愛梨はえずき、肩を跳ね上げる。首を振ってなんとか地獄から逃れようともしているが、数人掛かりで肩を押さえ込まれているために逃げられない。
「ほーら、喉チンコが取れちゃいそうだよ」
 女に容赦はない。手の角度を様々に変えながら愛梨の最も嫌がるやり方を探り、いざ見つければ執拗にそれを繰り返す。時おり指を抜き出すこともあるが、それは粘液と吐瀉物を愛梨の顔に塗りつける事が目的だ。
「ううウ゛、ウ゛ぐ! ぉ、ぉ、ぉ、ぉ、いぉおえあ゛っ!! おあ、ほぉおア゛っ!! んんぶふうっ!!!」
 愛梨は涙を流しながらの嘔吐を繰り返す。大量の唾液と涎に交じって泡が生まれ、それが空気を孕んで風船のように膨らんでいく。そしてそれを押しだすように、黄色い半固形の吐瀉物が次々にあふれ出し、洗面器の中に重い音を立てる。
「ほら省吾さん、見てくださいよっ!!」
 女達は敵を討っているぞと言わんばかりに、大口を開けて嘔吐する愛梨の顔を正面へと晒す。しかし、省吾が労いの言葉をかけることはない。熱心な自らのファンに視線を送る事さえしない。ボンデージ衣装に身を包んだ彼は、毛深い男に肛門を犯され、コックリングの取り付けられたペニスから先走り汁を垂らしながら、陶然とした表情を浮かべていた。
「省吾さん……お願い、正気に戻ってよ……!」
「くそっ、こいつのせいで……!」
 完全に壊れたかつてのアイドルを前に、女達は般若のような顔で愛梨を睨み下ろす。

 二度に渡り愛梨の胃を空にしても、女達の復讐は終わらない。次は腸の中身を晒す汚辱責めだ。

「ほおお、これはこれは……また見事に溜め込んでいるものですなぁ!」
「どれほど見目の良い人間だろうと、所詮は汚物の詰まった肉袋に過ぎんということだな!」
 倶楽部の会員達が、愛梨を見下ろしてほくそ笑む。
「……ウウ……っ!!」
 愛梨は屈辱に顔を歪めて睨み上げるが、身動きは叶わない。彼女は文明人にとって最も屈辱的な格好……いわゆる『マングリ返し』のポーズで拘束されていた。
 恥部を天に向けたまま、頭部の左右に膝をつき、足首は鋼鉄のポールで固定されている。両腕は背中側で纏められ、床から伸びた鎖に繋がれている。
 先ほどまでとは違い、丸裸ではない。両腕は赤い本革製のアームバインダーに覆われ、腿から下も同じく本革のしっかりとしたブーツを履かされ、胴体にもやはり細い革紐で編まれたコルセットが装着されている。手足と胴をほぼ完全に覆いつつ、乳房と股座という肝心な部分だけを丸々露出させるその装いは、フルヌードよりもよほど屈辱的だ。
 拘束衣が赤い本革で統一されているのにも意味がある。ひとつずつ取り付けながら、倶楽部の人間が愛梨に語り聞かせた。赤いエナメルは支配者の装い、赤い革は被支配者の装い。赤い革に縛められるのは、低俗なメス豚の証なのだと。
「あはははっ、イイ格好!」
「不様ねぇ!」
「鏡で見てみるぅ? 惨めよぉ、今のおまえ」
 省吾の取り巻き達が口々に罵った時、愛梨は何も反論しなかった。出来なかった。ボールギャグを口に咥え込まされ、ヒトとしての言葉を封じられていたからだ。それは6つのアナルフックでぐっぱりと肛門を開かれ、倶楽部の人間達に代わる代わる腸の内部を覗かれている今も同じだ。
「へへへ、しかし凄ェ光景だぜ」
「ああ。そうそう見られるものではないねェ」
「ほんと。カメラに残せないのが残念だわぁ!」
 老若男女を問わず、倶楽部の会員達は皆が瞳を光らせていた。興奮しているのだ。倶楽部内はおろか、今夜この街にいる女の中で一番のルックスを誇るかもしれない美少女が、そのハラワタの中身を露呈している状況に。
「う、ううう゛……ッ!!」
 愛梨の恨めしげな視線もまた、背徳的な気分を盛り上げる。
「さ、ゲロ女。次のプレイよ」
 省吾に黄色い声を上げていた女達が、悪意ある笑みで愛梨を取り囲む。その手は薄いラテックスの黒手袋で覆われていた。
「これでお前のクソを掻き出してやるわ」
 1人はステンレスの器具を握りしめて告げた。サン・スポット式便摘匙……便秘の猫の便を掻き出すために用いられる道具だ。耳掻きに近い形状ながら、長さは30センチ近くある。
「ウ、ウウウッ!!」
 愛梨は呻き、暴れようとするが、そのどちらも叶わない。意地の悪い笑みが近づき、こじ開けられた肛門に銀色の器具が入り込んでいくのを、それこそ猫のような瞳で睨みつけるしかない。
「ッ!!」
 器具が腸内へ入り込んだ瞬間、愛梨はびくりと震える。
「感じてんじゃねーよ」
 女の1人がそう吐き捨てて笑いを誘う。言いがかりだ。冷ややかな金属が腸に触れたゆえの反応にすぎない。このような行為で感じる道理などない。
「思ったより硬いわね。これじゃ掻き出せないわ」
 便摘匙を操る人間は、周りに聴かせる声量で告げながら、匙の先で便を潰して柔らかくする。その後に匙で一部を掬い取ると、ゆっくりと肛門から引き上げた。
「おお……!」
「うわぁー……」
 ギャラリーの反応は両極端だった。露わになった美少女の排泄物に鼻を膨らませる者、顔を顰める者。それでも目を背ける人間がいないのは、さすがアブノーマルプレイに特化した倶楽部というところか。
「あー、臭っ! アンタ、普段ゴミでも食べてるの? それとも性根が腐ってるからこんな匂いになるの?」
 女達はやはり大袈裟に鼻を摘みながら、摘出した便をシャーレに移す。茶色い汚物の載せられたシャーレは高く掲げられ、全方位のギャラリーに惜しげもなく晒される。
「うむううううッ!!」
 愛梨は目を見開いて呻いた。排泄物を見世物にされる屈辱と恥辱で脳が焼けそうに感じる。そんな愛梨の反応を楽しみながら、女達は摘便を繰り返した。くちゃくちゃと音を立てながら便摘匙で便をかき混ぜ、掬い取ってシャーレに乗せ、見せつける。その繰り返しだ。
「ううううッ、うむううううッッ!!」
 愛梨は恥辱に呻いた。手足の拘束具を破壊せんばかりに暴れた。注目されるのは好きでも、見下されるのは人一倍嫌う性分だ。そのはずだった。

 (……だから、なんで!? なんでこんなので……!!)

 愛梨は当惑する。女として最大級の恥を晒し、それに憤怒している最中でありながら、愛梨の女の部分は戦慄いていた。そして愛梨の反応をつぶさに観察している同性が、その事実に気付かぬはずもない。
「はあ、マジ!? マンコヒクヒクしてんだけど。アンタこんなのでも感じるんだ?」
「…………ッッ!!」
 秘裂を撫でながら指摘され、愛梨は激しく首を振る。とても認める気にはなれない。だが見ている人間にとっては明白だ。
「へーぇ、感じてないって言い張るんだ? じゃあその証拠見せてよ」
 女の1人は煽りながら、愛梨の秘裂に前張りを施した。その状態で愛液が滲めば前張りが透け、感じているという事実が物的に証明されてしまう。
「あっはははは、透けてきた透けてきた! 真っ赤なマンコがパクパクしてんのが丸見えだ!」
「マジで感じてんだな。この大人数の前でクソ掻き出されてよぉ!」
「ああ。イカれてやがるぜあの女!」
「アイツ腹の中にあんなにウンコ溜め込んどきながら、『私美少女ですから』みたいな顔してたんだね」
「省吾さんの上で腰振ってる時もねー。最悪!」
 ギャラリーの野次にも遠慮はない。愛梨の変化を事細かに叫び、嘲笑う。それによって愛梨の顔が歪めば、ますますサドの気を燃え上がらせる。
 責め役の女達も陰湿さでは負けていない。5人で右回りに役割を交代しながら、便摘匙を突っ込んでいく。
「うーわコイツ、キモすぎ。ケツの奥で締め付けてる! 開いとけよ、せっかく詰まったクソを掻き出してやってんだからさぁ!」
 匙が上手く動かなければ愛梨の尻を平手で打ち据え、報復のようにグチャグチャと腸内を掻き回す。そうして愛梨の怒りを煽っておいて、直腸よりもさらに奥、S状結腸すらくすぐるほどに便摘匙を押し込んでいく。愛梨がいよいよ唸りながら悶え狂うのをギャラリーと共に笑い飛ばしながら、結腸内に残留した半固形の汚物をほじくり出す……。
「ふーっ、ふーっ、ふーっ……!!」
 いつしか愛梨は、瞬きすら忘れて目を見開いていた。ボールギャグに阻まれた呼吸は刻一刻と荒くなっていった。ディープスロートショーで延々と嘔吐させられた時よりも、さらに惨い。女としての尊厳を徹底的に踏みにじられている。真っ当な女性であれば自殺を考えてもおかしくない状況だ。
 にもかかわらず、愛梨は少し違う。彼女の呼吸を乱す原因は悔しさばかりではない。興奮────ごく普通の女性が、好みの異性と口づけをする時と同じぐらいに胸が高鳴っている。

  (なんで……!? なんで、なんで、なんで! なんでよ……っ!!)

 心の中で問いかけるも、答えは得られない。そのヒントを求めてこのアブノーマルな倶楽部を訪れたというのに、いよいよ自分が分からなくなってきた。

 数十分かけて腸内の異物を全て取り去られ、シャーレに山盛りになった汚物を、最後には前の穴に押し込まれる。筒状の器具で膣の中にコンドームを押し込まれ、その中に便摘匙で詰め込むという形でだ。最後に筒が引き抜かれれば、ぱっくりと開いた肛門と糞の詰まった膣が衆目に晒され、地を揺るがすような笑いが捲き起こる。罵詈雑言も容赦なく浴びせられる。
 その状況下でもなお愛梨の鼓動は、恋をする乙女のように高鳴り続けていた。


                ※


 摘便が終わった時点で、時刻は深夜2時を回っていた。それでも倶楽部の熱は冷めやらない。
「せっかく丁度良い格好なんだ。ついでに浣腸の味も覚えさせてやるか!」
 1人のその言葉で浣腸プレイが始まった。
 見物人にはスカトロ耐性の低い者もいること、愛梨にとって屈辱的であること、腸の中身が空であること。これらを加味して特殊なプレイが選択された。通称『レインボー浣腸』。7つのバケツに入った色つきのゼリーを、希望者が特殊な浣腸器で吸い上げて注入していく。ゼリーの色はバケツごとに違うため、最終的には七色のゼリーが混ざり合ったまま排出される仕組みだ。
 浣腸器の容量は50㏄、プレイへの参加希望者は38人。都合2リットル近いゼリーが愛梨の直腸へと注ぎ込まれていく。
「ふふふ、さすがに腹が膨らんでますねぇ」
「ええ。どのぐらいもつでしょう?」
「5分ともたねーだろ。このガキはたぶん浣腸慣れしてねぇ。浣腸器突っ込まれる時、必死でケツ締めて抵抗してやがったからな」
「いや。コイツ負けず嫌いだから、10分は頑張ると思うよ」
「なら賭けようぜ。俺は5分以内の決壊に1万だ!」
「よし、じゃ俺は15分で限界に2万出すぜ! おい、誰か時間計っとけ!」
 遊び半分で賭けまで始まり、愛梨はボールギャグを噛み締める。意地を示せる方法は耐えることしかない。ならばと、愛梨は賭けの最長時間である1時間以上耐えきることを決意した。
 しかし、その道は地獄だった。2リットル相当の異物が腸を満たしている状況はそれだけでも辛いが、ゼリーにはグリセリン由来の催便性もある。1分としないうちに腸が蠕動しはじめ、肛門はヒクヒクと蠢きはじめる。実のところ、会員達が次々と浣腸を注ぎ入れているその最中には、すでに便意の波が愛梨の脳を舐めはじめていた。そんな状態で更に1時間あまりも耐えねばならないのだ。
 『不快』が愛梨を包んだ。
「フーッ、フーッ……!」
 荒い息がギャグの穴から漏れ、溜まった唾液を押し流す。
 全身にじっとりと汗が浮き、手足の本革が肌に貼りつく。
「そろそろ限界じゃない?」
「ねー、ちょっと出てきてるじゃん」
 観衆の指摘通り、10分もすれば括約筋の限界が訪れた。ゼリーの一部が肛門の外に顔を出し、体温で溶けた分が背中へと流れ落ちていく。
 しかし、それらすべては些事に過ぎない。愛梨を何よりも苛むのは強烈な便意だ。寄せては返す波のように、繰り返し便意が襲い来る。高波をなんとかやり過ごして安堵したのも束の間、次はさらに高い波が襲ってくる。それが秒単位で繰り返されるのだ。
 膨れた腹からは音が響いている。獣が唸るような音、雷轟のような音、あるいは詰まった排水溝のような音……。
 太腿が痙攣しはじめたのは5分が経過した頃だ。震えは次第に酷くなり、寒さに凍えるような痙攣へと変わっていく。実際に悪寒もしているが、その一方で全力疾走を続けているように汗が噴きだしてもいる。
「ウーーーッ!!!」
 13分が過ぎた頃、愛梨は口枷越しに絶叫した。便意の高波が我慢の限界を迎えたのだ。排泄欲は本能に根ざした根源的な欲求、人体はそれに耐えることを想定して作られていない。早く異物を出せ──脳がそう信号を送り続け、それを受けて肛門が開こうとする。苦悶の中で意識すら飛びかけ、幾度も白目を剥きかける。
 それでも愛梨は、本能をねじ伏せ続けた。
「クソッ、20分過ぎやがった!」
「あ、有り得ねぇ! 浣腸初心者が、アレを30分耐えるなんて……!」
 賭けに負けた男達が1人また1人と項垂れていくのを、愛梨はほくそ笑みながら眺めていた。しかし一時的に優越感を得ようとも、状況や立場が変わるわけではない。
「……まったく、呆れた強情っぷりだな。もういい、賭けは我々の負けだ。ひり出して楽になりなさい」
 負けを口にしつつも、ギャラリーは笑みを浮かべていた。愛梨は不愉快さにギャグを噛み締めるが、流石にいつまでも便意に耐えられるものではない。
「うぐッ、うむ……う゛ッ、ううう゛う゛う゛う゛ーーーーッ!!!」
 愛梨は絶叫と共に決壊の時を迎えた。叫ばずにはいられなかった。排泄という秘匿すべき行為を、不特定多数の人間に視られる屈辱……それは想像以上のものだ。
 ブリュッ、ブリュリュッ、ブジィッ……そうした凄まじい音を伴って、腸の内容物が飛び出していく。放物線を描くそれらは、容赦なく床と愛梨自身の胸や顔を穢した。最初にまだゼリーとしての粘度を保っているものが顔で弾け、その次には体温で溶けたマグマのような液体が体全体をコーティングしはじめる。
「はははははっ! 出た出た!!」
「すんげぇ勢いだな、何メートル噴き上がってんだアレ?」
「おーおー、滝のように……。我慢しすぎてゼリーが溶けているな」
「レインボーどころか全部混ざって灰色になってんじゃん。ま、あの女の中身の色っぽいけどー!」
 手を叩いて笑い、野次を飛ばす会員達。その悪意に晒されながら、愛梨は怒り、恥じ入り……そして、興奮していた。その興奮は圧倒的な排泄の快感と結びつき、愛梨から正気を奪う。
「ぐ、むぅう……う、う゛…………っ」
 愛梨は身震いしながら白目を剥き、排便はおろか放尿すらも晒しながら気を失う。その全てを観察され、指摘され、嘲笑されているのを感じながら。


「…………狂ってる」
 窓ガラスに映る自分を眺めながら、愛梨はぼそりと呟いた。
 拷問にも等しい方法で嘔吐させられ、泣かされながら濡れたこと。
 自らの吐瀉物に塗れた異物を女性器に突っ込まれ、激しく感じてしまったこと。
 あられもない格好で排便を晒し、それを嘲笑われるという状況で、快感にうち震えながら失禁に至ったこと。
 どれも正気の沙汰ではない。悪い夢だと思いたい。
 しかし、夢ではなかった。シャツの胸元をくつろげれば、両の乳首にピアッシングの跡が見える。トイレで用を足す時には、股座の蚯蚓腫れが刺すような痛みをもたらす。喉の粘膜も回復しきってはおらず、好物の炭酸を飲もうとすれば激しく噎せてしまう。
「あいつら、好き放題して……!!」
 怒りがこみ上げ、クッションを掴んでベッドに叩きつける。それでも気が済まず、ライブ配信でも内容は伏せつつリスナーに不満をぶちまけた。
『おー、今日はまた荒れてんなぁ。あんま口悪いとBANされるよー?』
『でも俺、愛梨ちゃんのキレ顔好きだわ。ドSっぽくてゾクゾクする』
『俺は時々拗ねた感じになるのが堪らんね。ワガママ姫って感じ』
『あー分かるわー。この子のワガママなら何でも聞いたげたい』
 リスナーから持て囃されれば自尊心は持ち直すが、根本的な問題が解決するわけではない。

 あれほどの恥を晒しておいて、また倶楽部に顔を出すのは気が引ける。しかしだからといって行かなくなれば、倶楽部の面々は「ついに逃げたか」とほくそ笑むだろう。それだけは愛梨のプライドが許さなかった。
 変人扱いをされようが、後ろ指を指されようが、堂々と胸を張る。それを曲げるつもりはない。


                ※


 次の週末……すなわち愛梨にとって3日目のプレイでも、やはり浣腸責めが施された。
 ゴム手袋を嵌めての『触診』で腸内洗浄済みであることが明らかになると、それがアナルマニア達の逆鱗に触れたらしい。愛梨は這ったまま、尻だけを高く掲げる格好を取らされ、馬用の巨大浣腸器でたっぷりとグリセリンを注ぎ込まれた。その量、実に5リットル。垂れ下がる乳房以上に腹が張ったその様は、双子を孕んだ出産間近の妊婦のようだ。
 その状態で愛梨には特殊なアナルストッパーが装着された。挿入は容易いが排出は困難な矢印形をしており、中央にはディルドーが突き出ている。ディルドーは肛門外部から前後に動かすことができ、排泄管理をしつつのアナル責めを可能にしていた。マニア達はそのディルドーで代わる代わる愛梨を追い詰めつつ、排泄欲に苦悶する姿を堪能した。
「うぐぐ……! くうう、う……ッ!!」
 愛梨は奥歯を噛み締める。並の男子生徒を凌駕する愛梨のフィジカルを以ってしても、5リットルの浣腸は受容限界を遥かに超えていた。腹にボーリング球を詰め込まれているようなものだ。
「そら、頑張れ。その姿勢を崩すんじゃないぞ」
 そう煽られ、尻を掲げる格好をキープしてみせるが、膝はたちまち笑いはじめる。そんな状況でディルドーを抜き差しされれば、腸内が掻き回されて苦痛のレベルが更に上がる。分かりやすいほどに腹が鳴り、それがまた周囲の笑いを誘った。
 そして、愛梨に課される責め苦はそれだけではない。排泄の条件としてマニア達への奉仕が命じられた。
「はぁっ、はぁっ……分かったわよ。しゃぶってあげるから、早くその粗末な物を出しなさい!」
「勘違いするな。お前がする奉仕はフェラチオじゃない。もっと俺たちが気持ちよくなれる方法さ」
 アナルマニアの1人は、そう告げて愛梨の鼻先に足を突き出す。愛梨はその意図を察し、鋭く睨み上げるが、強い便意に襲われる中では拒絶もできない。結局は恥辱に震えながら、突き出された毛深い足に舌を這わせるしかなかった。
「ケツがヒクヒクしてやがる、こいつ興奮してるぜ。この玩具でか? それとも足舐めでか?」
 ディルドーを抜き差しする男が嘲笑う中、愛梨は相手の踵を持ち上げ、丁寧に舌を這わせていく。親の仇のように相手を睨み上げながら。
 愛梨のその気丈さは、かえってサディストの心に火を点けた。
「ケツも舐めさせてやるよ。舐めたいだろ?」
 その言葉で愛梨の美貌を凍りつかせ、怒りに歪む顔を楽しむ。
「くう、うっ……!!」
 拒否権も余裕もない美少女が、屈辱に身を震わせて汚らしい肛門に舌を這わせる……彼らにとっては至福の光景だ。
「おら、ケツもしっかり締めとけよ?」
 別の1人が愛梨の尻を叩いて腰を上げさせ、アナルディルドーを前後させはじめた。愛梨の腰がびくりと跳ねる。腰を落とした状態でアナル開発を受けつつ、縋りつくようなポーズで他者の肛門に奉仕する……余りにも惨めなその光景に、ギャラリーからはくすくすと忍び笑いが起きた。
「どうだ。他人のケツをほじりながら、テメェのケツもほじくられる気分は?」
「れろっ、えあ……ォおエ゛ッ!! はっ、ふ……うぶううおえっ!!」
 愛梨は背後からの問いに答えない。しかし、壮絶なえずき方が実質的な答えだ。ただでさえ腹が重いところに恥辱の行為を強制されては、吐き気を催すのも当然だった。

 (く、臭い、苦い……! なんであたしが、こんな事……!)

 屈辱的な状況に怒りがこみ上げる。腸が煮えくり返る。しかし──やはりというべきか、女の奥底の部分も同じくふつふつと煮え立ちはじめる。
「へへへ。ツラが良くて反抗的な女にやらせると、ケツ舐めも格別に興奮するな。オラ、もっと奥まで舌ァ入れてみな!」
「んっ、んえ、おえエ゛エ゛っ!! はーっ、はーっ……!!」
「どうした、限界か? もう許してくださいーってか?」
「か、勝手なこと言わないでよ……ぐ、うぶうっ……オエ゛ッ!!」
 煽りに負けじと舌を入れ、何度もえずいて、ついには涙さえ流す。そんな状況でなお愛梨の子宮は疼き続け、秘部は濡れそぼっていく。
 ギャラリーの1人が愛梨の足元を指して笑い、その横にいた男も同じく口の端を吊り上げる。惨めこの上ない状況にありながら、愛梨の股下にはポタポタと雫が滴り落ちていたからだ。
「おー、気持ちいい気持ちいい! そろそろイキそうだ、お得意の手コキで搾り取ってくれや!」
 男にそう命じられ、愛梨は相手の尻から片手を離し、いきり勃った逸物を激しく扱く。しかし排泄を我慢し、肛門を舐りながらという状況で充分な手淫は難しい。
「オイオイどうした、そんなんじゃイケねぇぞ? 前ン時より随分下手じゃねぇか、ええ?」
 男は容赦なく煽り、愛梨が顔を引き攣らせながら自棄になって奉仕する様を面白がる。
「ひひひ、急にハードだなオイ!? 扱きながらケツの穴ァベロンベロン舐め回しやがって、えれぇ変態女だぜ!! うーっし、その心意気に免じてイってやらぁ!!」
 男は周りへアピールするように叫びながら、勢いよく射精しはじめる。自らの手の中で逸物が暴れ、ドクドクと射精するのを感じながら、愛梨はまた激しい嘔吐感に襲われた。
「ぶはっ……オエッ、おオエエ゛ッ!!」
 肛門から舌を抜いた途端限界が訪れ、えずくのみならず小さく嘔吐する。しかし、そんな状況でも休むことは許されない。
「なかなか良い奉仕だったぞ。では、次は私にもしてもらおうか」
 また別の男が尻を向け、愛梨に奉仕を迫る。
「…………っ!!」
 愛梨は目を見開き、歯を食いしばりながらも、その要求を受け入れる以外になかった。

「あいつ、流石にそろそろヤベェな」
 責め役の1人が呟く。
 愛梨は見るからに限界だった。下腹部からはゴロゴロ、ギュルギュルと壮絶な音が絶え間なく響いている。隙間などないはずの肛門栓の端からは薬液が噴きだし、深く曲げた膝は完全に笑っている。相手の尻にしがみつかなければ姿勢を保てない状況だ。顔からは血の気が失せ、唇に至っては紫に変色してさえいる。
「ホント音を上げねえガキだな。このまま気ィ失うまで頑張る気か?」
「気絶されても面倒だ、いい加減出させてやるか」
 男達は頷き合い、愛梨の下に蹴り込む。
「おい、今から出すぜ! 皆で見てやれ、パンパンに膨れ上がったクソ袋の中身をひり出すのをよ!」
 男の1人が叫ぶと、各々プレイに興じていた会員達が一斉に愛梨の方を向いた。
「おっ、ようやくかよ!」
「すげーわあの女。あんだけ入れられたくせにムチャクチャ耐えたなー」
「すごっ、何あのお腹!? カエルみたいに膨れ上がってるじゃない。何リットル入れられてるわけ?」
「5リットルらしいぜ。浣腸器のピストンが押し込めなくなる限界までグリセリンを入れたんだとよ」
「ほぉ。その状態であれだけ熱心にアナル舐めをするとは、常軌を逸しているな」
 見物人は続々と押し寄せ、幾重にも人垣を作っていく。

 (う、嘘でしょ……? こんな大勢の前で、5リットルも出すなんて……!!)

 愛梨は息が上がり、汗が噴きだすのを感じた。汗は冷たいが、肌より下は燃えるように熱い。理解不能の矛盾した状況。
「見ろよ、あの顔。この状況に興奮してやがる」
「ああ。マゾの血が流れてるのは確実だな」
 囁き合う声がした。言葉を発していない人間も、愛梨の様子を固唾を呑んで見守っているようだ。そんな中、愛梨の背後の男がアナルストッパーを引き抜きにかかる。
「あ、ダメ!! でちゃう駄目えっ!!」
 ストッパーを最後まで引き抜く必要はなかった。太い部分が肛門近くまで引きずり出されれば、後は内からの圧力で吹き飛び、バケツに轟音を響かせる。同時に薬液の排出も始まった。怒涛の排泄。日常生活での下痢など比較にもならない。限界まで開いているはずの肛門がさらに拡げられ、腸をめくり返す勢いで質量が飛び出していく。
「あああ駄目、駄目、駄目駄目ええええっっ!!!」
 愛梨は首を振りながら同じ言葉を叫び続けていた。極限状態で思考が単純化しているのもあるが、『見ないで』という言葉だけは発するまいと足掻いた結果でもある。
 哀願だけはしないと決めていた。心はその決意を守り抜いていた。しかし肉体は、その愛梨の決意を嘲笑うように浅ましく反応する。
「見ろよ、マンコの辺り。ヌルヌルに光ってるぜ」
「ああ見てるさ。大した変態ぶりだぜ」
 ギャラリーはそんな愛梨の反応を面白がり、ある者は酒を煽り、ある者は自慰に耽った。

 これだけ会員達の興味を惹いて、プレイが一度で終わるはずもない。浣腸は何度も施され、その度に排泄管理と恥辱的な行為が課せられた。
 後ろの穴に肛門栓を嵌めたまま、膣に蛇のように長いディルドーを挿入され、それを落とさないように耐えるショーもあった。勿論、ただじっと耐えさせるような生易しい責めではない。パドルで尻を打ち据えて悶絶させることもあれば、浅ましく腰を振らせもする。
「そら、もっと激しくだ!」
「どうした、その程度でヘバんじゃねーぞ!?」
 野次が飛べば、愛梨は歯を食いしばって前後に腰を振りたくる。蛇のように長いディルドーを揺らしながら。
「あのディルドーって、持つと手にズシってくるやつだろ? あの女、そんな重いのをよく何分も落とさずにいられるな。さぞかし締まりもいいんだろうな」
「おや、アンタこの倶楽部に来るのは久しぶりかい? 確かにアイツはNGなしのフリー奴隷だから、いつ突っ込んでも誰からも文句は出ねえけどよ、完全にへバッてる時以外はやめときな。秒で搾り取られるぐらいならまだいいが、アイツの機嫌次第じゃチンポ捩じ切られかねねーぞ?」
 トラウマから来る愛梨への若干の畏怖と、その裏返しとしての愉悦。それが会員達の原動力だ。

 中でも前回愛梨を追い詰めた女子グループによる責めは陰湿だった。
「あたしらの『マン蹴り』に100回耐えたら栓抜いたげる」
 女達は愛梨にそう告げた。洗面器一杯の酢酸浣腸を受けている愛梨は、すでに脂汗を浮かせている状態ながら相手を睨みつける。女はその顔を睨み返しながら、容赦なく愛梨の股座を蹴り上げた。男のように睾丸はないにせよ、守るもののない股間は紛うことなき急所だ。
「んぎっ、はっぐうっ!! はがっ、あぐううううっ!!」
 愛梨は手足をばたつかせて激しく暴れる。しかし後ろから羽交い絞めにされた上体ではどうしようもない。
「オラ逃げんなよ、腰落とせ!」
「すげー、お腹チャポチャポいってる」
「腹筋ヒクヒクしてきたね。限界?」
「根性見せなよイカレ女!」
 女達は愛梨の反応を面白がり、より強固に羽交い絞めにし、より痛烈に蹴り上げる。
「がはッあ……あああ゛あ゛あ゛っっ!!」
 愛梨がついに肛門栓を弾き飛ばし、排便しながら膝から崩れ落ちても許さない。
「きったねーな! 脚にかかったじゃんかよー?」
 逆恨みで引きずり起こし、再び酢酸を浣腸して責めを続行する。そのうち愛梨が細く嘔吐すればそれを嘲笑い、汚い、臭いと口々に詰る。それを2時間あまりも繰り返した。
 そして、その状況でもやはり愛梨の肉体は主を裏切った。
「ううわコイツ、濡れてきたよ」
 股を蹴り上げていた女が、靴の先を見て顔を顰めた。
「マジぉ? マン蹴りの前にマンコ拭いたよね?」
「拭いた拭いた。じゃあコイツ、クソ我慢しながらあーしらにマンコ蹴られて濡れたんだぁ!!」
「なにそれ、キモッ! あんたらの言ってた通り、マジで頭イカれてんだねコイツ」
 同性からの容赦のない罵声に、愛梨は涙と鼻水、涎に塗れたまま目を伏せる。宝石を宿すような瞳のギラギラとした光が、この時ばかりはくすんで見えた。


                ※


「次までの宿題だ。これが入るように、自分でアヌスを拡張してこい」
 3日目のプレイの最後、愛梨はその言葉と共に、アナルマニアの1人からある物を手渡された。ウォーターシリコン製の、最大径3.5cmのアナルプラグ。中級者向けであり、素人が受け入れるにはやや無理のあるサイズだ。
「真面目にやれよ? 泣こうが喚こうが、次はこのサイズをぶち込んでやるからな。ま、お前が逃げずに来ればの話だが」
 そう煽られれば愛梨も意地を張るしかない。当然受けて立つ。そうと分かっているマニア達は、さらにもう一つ条件を付け加えた。拡張の様子を、指定された裏のライブチャットで中継すること……それが追加条件だ。

『うおお、スタイル良いなーこの子!』
『ほんと、モデルみたい!』
『マンコもアナルもすげー綺麗だな』
『今日が初配信か。こりゃ良いの見つけたわ!』
 裏配信のリスナーは口々に愛梨を褒め称えた。アカウント登録したばかりの初配信だというのに、すでに30人以上が視聴しているのは、サムネイルの効果か。
 すらりと長い脚でM字を作る画像。それだけでこうも注目されるというのは、普段の愛梨ならばほくそ笑むところだ。しかし今は気が気ではなかった。愛梨は全年齢向けのサイトでも配信をしているため、部屋の構造などからこの裏配信と紐づけされかねないのだ。一応、タンスなどの特徴的な家具はパーテーションで隠しており、カーテンの色も変えたが、部屋そのものの構造は変えられない。加えて、声で特定される可能性もある。
 この時代、些細な情報から身元が特定されるのは珍しいことではない。アダルト向けの配信ともなれば特に注意が必要だ。
『これから、アナルを開発していきます。よろしくお願いいたします』
 愛梨は顔が映り込まないように注意しつつ、倶楽部で吹き込まれた通りに宣言する。声は地声よりも低くし、あえて抑揚もつけていないが、誤魔化しきれているか常に不安が付きまとう。
『へー、初回でアナルか!』
『清楚系の見た目なのに、結構変態だねー!』
 愛梨は流れるコメントを一瞥しつつ、開発用の道具を手に取った。ある男性会員の私物であり、その男の指を型取ったというディルドーだ。
『あれ、何それ?』
『手?』
 数人のリスナーが嬉々として風変わりなディルドーに食いつく。
「……ご、ご主人様の、指です」
 愛梨がそう告げると、コメント欄が一気に動いた。
『ご主人様いるんだ!?』
『うわ、本格的なMじゃん!』
『いいなー、こんなスタイル良い子のご主人様とか。俺もなりてー』
 あくまでも文字の羅列。しかしリアルタイムに紡がれていくそれらのコメントは、カメラの向こうの視線をありありと感じさせる。
 愛梨はごくりと喉を鳴らした。倶楽部よりもさらに近くに不特定多数の『視線』を感じながら、肛門へとディルドーの指先を送り込んでいく。
「っ!!」
 菊輪へ沈み込んだ時点で刺激が来た。興奮のあまり敏感になっているらしい。
「ふー……っ、ふー……っ」
 ディルドーを抜き差しすると、それだけで息が荒くなった。リアルな造形だ。男の節ばった指を忠実に再現している。公然でアナルをくじられている……嫌でもそう感じてしまうほどに。

 (バレたら、終わり……)

 その危機感が慣れない肛門刺激の緊張と混ざり合い、感度を研ぎ澄ます。
「あ……あっ、ああっ……あっ……、あっ……」
 気が付けば愛梨は、口を開いて喘ぎを漏らしていた。
『マンコヒクヒクしてきた。つーか、濡れてない?』
『濡れてる。ケツだけで感じてんだねー』
『マジに変態な娘だったか。ま、見応えあるけど』
『ねー、そのままクリオナしてみてよ!』
 リアルタイムで流れるコメントがさらに興奮を煽り、愛梨はアナルとクリトリスを同時に刺激しながら絶頂に至る。太腿をぶるぶると震わせ、映像外で仰け反りながら。

                ※

 愛梨の肛門拡張はハイペースかつ屈辱的に進められた。同期のM奴隷である主婦のアサミと同じ内容を、より悪意ある方法で強いられる。
 直径4センチのアナルビーズを肛門に埋め込んだまま、犬のように倶楽部を這い回らされる間、愛梨にだけはパドルや硬質ゴムの警棒で打擲が加えられた。
「ねぇ、あなた大丈夫……?」
 顔が近づいた際にアサミが確認した時、愛梨の眼は充血し、瞳には涙が溜め込まれていた。尻の肉が真っ赤に腫れあがるほど打ち据えられているのだから当然だ。
 それでも、愛梨が音を上げることはない。
 アナルビーズの先にダンベルを吊って負荷を上げられても。
 極太のビーズを一気に引き抜かれ、ぱっくりと口を開いたアナルを口々に詰られても。
 太いアナルフックで肛門を吊り上げられたまま、壁から尻だけを突き出す格好で拘束され、4時間に渡って40人以上の会員に膣を使い回されても。
 ひとたびプレイを終えれば、愛梨は強い瞳のまま、何も堪えていないという表情を作ってみせる。倶楽部の熱に気圧され気味なアサミには、その姿が眩く見えた。

 しかし。愛梨はアサミと並列に調教される中で、自らの異常性を改めて実感していた。
「やめて、そんなの入りませんっ! 無理、無理でっ……あああああっ!!」
 アサミは肛門への刺激そのものに激しく反応する。ごく当たり前の人間がそうするように。
 一方愛梨は、刺激そのものには心が動かない。隣のアサミが悶絶するサイズのアナルパールを押し込まれても、きついとは感じるものの、心は平静そのものだ。だが、そこに屈辱的な──パドルや警棒で尻を打ち据えられるといった行為が加われば、途端に心を掻き乱される。動悸が早まり、膝が震え、愛液が滴りはじめる。
 尻をフックでこじ開けられたまま、壁から突き出た陰部を犯されるプレイ……その興奮はひとしおだった。
『へへへ、こいつもう濡れてやがるぜ!』
『おーおー、つま先立ちの足ピンで感じてやがる。中イキしたかなこりゃ』
 膣を犯す会員達は口々に愛梨の下半身の反応を嘲笑ったが、壁に隠れた部分の反応はそんなものではない。4時間に及ぶプレイの中、愛梨は噛まされたビットギャグからダラダラと涎を垂らしながら、3度意識を飛ばしかけた。最初の1度は立て続けに犯される苦痛のためだが、あとの2回はあまりに快感が強すぎたためだ。
 アサミならば反応は違ったはずだ。膣の使用をNGとしているため、実現こそしなかったが、彼女ならば泣きじゃくって許しを乞うに違いない。膣が擦れて痛い、アナルが裂けそうだと悲痛に訴えることだろう。本来はそうであるべきだ。興奮が先立ち、肛門の痛みすら忘れて女を濡らすような反応は普通ではないのだ。

 愛梨の初めてのアナルセックスは、週に3度のペースで調教されているアサミよりも早かった。
 衆人環視の下でガラステーブルに手をつかされ、肛門にワセリンを塗りたくった状態で挿入された。
「あぐううううッッ!!」
 ほとんどのアナル拡張を眉を顰める程度で乗り切ってきた愛梨も、この時ばかりは顔全体を歪めた。目をきつく閉じ、歯を食いしばって呻いた。バイブやアナルフックなど、表面のつるりとした物であれば直径5センチまで呑み込めるようになったとはいえ、摩擦の大きいペニスとなれば話が違う。メリメリという音さえしそうな挿入。

 (痛い、痛いっ……!!)

 雁首までが入り込んだ時点で、引き攣るような激痛が愛梨を襲う。アナル特有の猛烈な違和感に加え、骨盤がひび割れるような錯覚さえ起きる。それでも哀願はしない。『抜いて』などと音は上げない。
 それを知る相手の男は、強張る肛門へとより深く怒張を沈めていく。
「うう、うッ、ううッ!!」
 愛梨の顎が浮き、汗が滴りはじめる。根元まで入り込んだ怒張が動きを止めても、その顔の緊張は緩まない。痛い、痛い、と言葉もなく叫ぶようなその顔を、かつて苦汁を舐めさせられた会員達が笑い飛ばす。
「ふー、全部入ったぜ。どうだ俺のチンポの味は? 前の乱交ン時ゃ、随分と雑な扱いしてくれたよなあ? 他の連中のと十把一絡げにして、口とマンコで軽く抜いてくれてよォ。コッチの穴でも同じように可愛がってくれや!」
 男は恨みのこもった声で告げると、腰を前後させはじめる。相手が初体験だということを微塵も考慮しない、バンバンと音の鳴る打ち込みだ。
「ぐ、ああ! あ、あぐぁあっ、う゛ッ!!」
 愛梨は目を見開いた。一瞬口も開くが、すぐにまた歯を食いしばる。
「おーお、こりゃ良いケツ穴だ。入り口の締まりが良いのは開発してても分かったが、奥までしっとり絡みついてきやがるとは。入り口がよく締まる女は中がユルいってのが相場なんだが、こりゃ見事にいいとこ取りだ。ツラも良い、スタイルも良い、マンコも良いでケツの穴まで名器かよ。天から何物与えられてんだオメー?」
 男は声高に叫びながら腰を打ち付ける。押し込まれる時には骨盤が軋み、引き抜かれる時には菊輪にヤスリ掛けされるようだ。
「ぐうう! うッ! うッ……!!」
 喘ぎながら顔を上げると、隣のステージにミカの姿が見えた。

『族上がりなのと、ピアスとかタトゥーで慣れてるんで、痛いのは余裕』
 
 最初の挨拶でそう啖呵を切った彼女は、会員の恨みを買った愛梨ほどではないにせよ、苦痛と恥辱に特化した責めを施されていた。
 今は仁王立ちした若い男に口で奉仕しているようだ。床についた両膝に手を乗せ、長大な逸物を自ら根元まで咥え込む。カコカコという音が響くイラマチオはいかにもハードだが、最大の特徴は、口内から溢れ出す大量のミルクだろう。
「飲め」
 男が命じると、ミカは逸物を吐き出して傍らのコップを拾い上げる。そして中身のミルクを口に含むと、再び喉奥まで咥え込む。スロートの動きの中で次々とミルクが流れ出し、ダンサーのように引き締まった肉体を白く穢していく。その繰り返しだ。
「おぶっ、ぐ……うぶぉおえ゛っ!!」
 ある瞬間、ミカは限界を迎えた。ミルクとは明らかに違う粘りのある吐瀉物が、俯いた顔に下にビシャビシャと叩きつけられる。これこそ『ミルクショー』のもう一つの悪質さだ。吐かせるだけ吐かせて胃が空になっても、ミルクを補給させることで何度でも嘔吐を繰り返させることができる。
「また吐きやがった。これで20回目ぐらいか?」
「さすがにバテてきたっぽいな、トぶ寸前って感じだ」
「すげぇな。ミルクとマジゲロとザーメンで、口ン中が洪水になってやがる。どうだ、もう限界か?」
「はーっ、はーっ……ぜ、全然余裕ス……」
「そうか、偉いぞ。ならもう一個質問だ。彼氏以外のザーメンは美味いか?」
「……………………はい」
「反抗的だな。言わされている感がアリアリだ」
「まだまだ調教が必要らしいな。ま、楽しみにしてろや。口での愛撫とザーメンの味だけでマンコがトロけるように、徹底的に躾けてやるよ」
 男達の軽薄な笑みに囲まれたまま、ミカは更なる奉仕を強いられる。

 尊厳を踏みにじるような恥辱……その辛さは愛梨にもよく分かった。しかしミカはアナルセックスの痛みを知らない。アナルプレイをNGにしたお蔭で、愛梨のこの地獄を味わわずに済んでいる。

  (おしりが裂けそう……!! そんなにガンガン突っ込まないでよ!!)

 愛梨は胸中で叫びつつ、テーブルの上で拳を握りしめる。その想いを知ってか知らずか、肛門を犯す男は愛梨の尻を鷲掴みにし、さらに激しく腰を遣う。
「アヌスで感じるコツは、括約筋の収縮と弛緩のタイミングだ。突っ込まれる時には緩めて、抜かれる時には引き締めてみろ!」
 そう命じられ、愛梨は渋々ながらに従う。
「う、くううっ……!!」
 引き抜かれるタイミングで肛門を締めると、熱く硬いペニスの存在感が何倍にも増して感じられた。その違和感に浸る暇もなく、折り返しで突き込みが来る。それに合わせて括約筋を弛緩させれれば、異物の受け入れが驚くほどスムーズになった。固く閉じていた腸奥があっさりと四方に突き崩され、異物が深く深く内部に入り込んでくる。
「ふああぁぁぁ……っ!!」
 表情筋が保てない。視線は上空に投げ出され、口は開いて甘い声を外に逃がす。そう、甘い声が出ていた。公衆の面前で、レイプ同然に排泄の穴をこじ開けられているこの状況で。
「さすがに呑み込みが早いな。その調子だ!」
 背後の男はぶるりと腰を震わせながらピストンを繰り返す。それに対して括約筋の収縮と弛緩を繰り返せば、愛梨の理性はたちまちに溶けた。
「ふぁっ、あああ……ふぁあああ……ああ゛あ゛あ゛……!!」
 顎が浮き、激しい喘ぎと甘い声が口から出ていく。歯を食いしばれないため、ゴリゴリと腸の奥を抉られる快感を受け止めきれなくなる。脚は内に閉じ、爪先でかろうじて床を噛む状態だ。

 (こいつ、上手いわ……!!)

 この段階でようやく愛梨は、相手の巧みさに気が付いた。背後の男が愛梨の尻を鷲掴みにしているのは、自分の姿勢を安定させるためではない。愛梨の腰が逃げるのを防ぐと共に、その角度を調整しているのだ。亀頭で子宮を擦りつつ腸奥を突けるように。
 そう気づいたところで、逃げられない。もはや愛梨は、テーブルの縁を掴んで前傾姿勢を保つのがやっとの状態だ。為す術もなく、直腸側から子宮を潰され、便意のセンサーをこじ開けられる。
 違和感などとうに消し飛んでいた。煮込み続けた野菜が崩れてスープと一体化するように、肛門粘膜が怒張を細胞の一部として受け入れている。強く突き込まれるたびに戦慄き悦び、引き抜かれる際には未練がましく追いすがる。未知の快感がゾクゾクと全身を貫き、一切手を触れられていない割れ目が蜜を吐きこぼす。
「すげぇな、舌まで出してやがる」
「ああ、エロい顔しやがって。ツラの良さが台無しだぜ」
 周囲の野次もまた興奮を煽る要素だ。
「へへへへ、美味そうにキュウキュウ締めつけやがって。いいぜ、くれてやるよ。ケツ穴にザーメン下さいとおねだりしてみろ!」
 背後の男が叫ぶ。愛梨はゾクリとした。その命令に従えば多大な快感が得られるのは間違いない。しかし、浅ましい哀願はプライドが許さない。
「…………ッ!!」
 好奇心と矜持の鬩ぎ合いの中、歯を食いしばって声を噛み殺す。
「チッ、相変わらず強情なガキだな。もういい! 腸でいやらしくしゃぶり倒した礼だ、たっぷり出してやるからケツ穴締めとけッ!!」
 男は叫びながら腰を打ち付け、奥の奥まで押し込んだ状態で射精に至る。はち切れんばかりの怒張が激しく脈打ち、ドクドクと精液を吐きはじめる。
「あああああぁッ!!!!」
 腸への受精を感じながら、愛梨は絶叫していた。なぜ叫んでいるのかは理解できなかった。
 恥辱──違う。
 快感────近いが、違う。
 興奮──────そう、興奮だ。激しく興奮している。足裏を完全に浮かせ、脹脛を強張らせ、硬い便を切るときのように肛門を引き締めて、ただひたすら禁忌に酔っている。
「ねえ、あの顔……」
「はっ、大したもんだ。初めてのアナルファックで、ケツイキしながら笑ってやがる」
 呆れ半分、興奮半分の声がする。しかしその声は遠い。意識が耳に向いていない。逆に肛門周りの感覚はクリアだった。やや剛性を失ったペニスが引き抜かれる感覚も、ぽっかりと開いたアナルが外気に触れる感覚も、全て知覚できた。
「ふーっ。くくっ、我ながらよく出たもんだぜ。そら、自分でケツ開いてみろ。クソまみれのザーメンひり出すところを皆に見てもらえ」
 聞き慣れた声でそう告げられ、愛梨はテーブルに上体を預けたまま、尻に両手の指をかける。そのままゆっくりと左右に割り拡げ、排泄する時のように力めば、ブリュブリュという音と共に生温かい物が流れ出ていく。おぞましく、屈辱的だ。にもかかわらず、愛梨は絶頂の余韻のような甘い痺れに包まれていた。

                ※

 DUNGHILLの会員は筋金入りのマニア揃いだ。ハード志向が高じ、未経験者にアナルセックスを強いて入院沙汰になって以来、いきなりのアナルセックスはご法度となったが、それだけに解禁となれば待ちわびたとばかりに殺到する。
 生意気でルックスに優れる愛梨であれば尚更だった。時には幼児に小便をさせるようなポーズでギャラリーに見せつけ、時には鏡張りの床で愛梨自身に抽迭を視認させながら、徹底的に犯しぬく。排泄の穴を『使う』プレイはそれ自体が背徳的だが、そこに視線という要素が加われば愛梨の濡れ方も違う。会員達は薄々その事実に気付きはじめていた。
 二穴責めが解禁になったのもこのタイミングだ。
「うああっ! す、すごいい……っ!!」
 前後の穴に男性器の存在を感じながら、愛梨は腰を震わせる。二穴を塞がれる圧迫感は想像以上だ。しかし愛梨にとってはその刺激よりも、『薄皮一枚を隔てて2本のペニスが躍る』というシチュエーションが興奮材料になった。
「んあああああ!!」
 暴力的にして、威圧的。分厚い胸板に挟み潰されてモノのように犯されながら、愛梨は舌まで突き出して絶叫する。
「ひひひっ、すげぇ声だな!」
「ああ。普通に犯しても憎たらしいぐらい澄ましてやがるくせにな」
 客達は美少女の喜悦に頬を緩める。勿論、ただ堪能しているばかりではない。彼らの象徴は雄々しく猛っていた。自分の番が来れば今以上の鳴き声を轟かせてやろうと、皆が目を血走らせていた。

 性的倒錯者によるアナルセックスとなれば、当然の流れとして浣腸をしたままアナルを犯す者も現れはじめた。
 事前に腸内洗浄を済ませ、透明な薬液やゼリーによる疑似排泄を行わせるのが、通常のステージで一般会員相手に披露される『ライトプレイ』。逆にあえて腸内残留物を溜めこませたまま、ダイレクトに汚物を掻き出すようなアナルセックスが『ヘビープレイ』。こちらはスカトロ耐性のある人間だけが立ち入れる隔離エリアで披露される。
 このヘビープレイでの恥辱は、殊更に愛梨に刺さった。
「あっ! あっ! あっ! あっ! あっ!」
 タイル床の上で肩幅以上に脚を開き、壁に手をつく姿勢のまま、愛梨は声を上げつづけていた。男が腰を打ち込むたびに喉を震わせている。彼女の脚の内側は汚れていた。匂い漏れ防止のために香りのきついシャンプーを潤滑剤としているため、汚物の匂いは全くしない。それでも、愛梨の脚を茶色く染め、どろりと解け落ちていくものが彼女自身の汚物である事実は誤魔化しようもない。
「くくくっ……!」
「ひひひひっ……!」
 部屋の隅に並ぶギャラリーは忍び笑いを続けていた。ここまで恥辱的なプレイとなれば、下手に野次られるよりもただ嗤われている方がつらい……経験上それを知っているからだ。

 (ああああまた出るっ……! あ、足に、足にうんちが…………っ!!)

 愛梨の心は千々に乱れていた。麻痺しかけていた排便を見られる事への屈辱感が、薄皮を剥いたように鮮やかに蘇る。『見ないで』という年頃の少女として当然の感情と、『もっと見てほしい』という浅ましい欲望が鬩ぎ合っている。
「もっと腰を下げろ、便所で用を足すようにな。それが一番ケツに力が入って感じやすいんだ」
 犯す男はそう言いながら、掴んだ愛梨の腰を押し下げる。愛梨は渋々それに従った。膝を深く曲げ、和式便所に跨るポーズを取ると、男の言う通り括約筋がよく締まった。そこを硬い物でこじ開けられれば、びぢりと凄まじい音が鳴る。
「うあ!!」
 愛梨は見開いた眼を宙に放った。ジンジンと疼く快感が脊髄を貫き、仰け反らざるを得なかった。

 (い、イった……! こんなので、イかされた……!!)

 脚に纏わりつく不快感が、現実を忘れさせない。酷い状況であることを常に脳が認識している。そのような中での絶頂は、肉体に裏切られたようにしか思えない。
 腸の奥まで貫かれれば、今度はペニスを引き抜かれる。このプレイではその動きが最も愛梨の心を乱した。排泄が止められない。恥辱と快感が同時に襲う。遠くで笑う声の一つ一つが心の弱った部分に染み入ってくる。
「はうううう゛……!!」
 歯を食いしばり、涎を垂らしてなんとか凌ぐ。笑い声が増したが、それに意識を向けている暇はない。すぐにまた剛直が突き込まれ、引き出される。ギチュギチュと耳を塞ぎたくなるような汚辱の音を立てながら。
 引いては寄せる恥辱と快感の波が愛梨を呑み込む。否、愛梨自身の肉体が喉を開いてその波を飲み干している。辛い、やめて、という脳の叫びをまるで無視して。
「あダメ、いくッ……うう゛ッ……!! ッくいぐぃぐぃぐ……ッ!!」
 絶頂の声が漏れる。屈辱と羞恥に歯を食いしばっても誤魔化しきれない。床についた手と深く落とした腰が痙攣し、割れ目から数度潮が噴く。
「ひひっ、クソ漏らしながらイッてやがる」
 ギャラリーの放った、野次とすら言えないシンプルなその言葉が、愛梨の心を深く切り裂く。しかし倫理観のぼやけた愛梨は、ザクリと切れたその切り口すら仄甘く感じた。


 高校時代の制服を着てのアナルプレイも、愛梨の記憶に深く刻まれた一幕だ。
 命令通り制服を着てきた愛梨に対し、男と女ではっきりと反応が分かれた。女は妬ましげに睨みつけ、男は鼻の下を伸ばす。倶楽部内で制服を着用する女は多いが、愛梨のそれは次元が違った。愛梨が学校一と言えるレベルの美少女であることを、会員達は改めて実感したことだろう。
 特に発奮したのは、充実した青春時代を送れなかった男達だ。学業を優先した結果であったり、女受けの悪い容姿であったり……理由は様々だが、彼らは金を積んでまで愛梨とのプレイ権限を得、青春を取り戻すかのような熱意を見せた。
 自らも男子用の制服を着用して愛梨と抱き合い、全身を弄りながら濃密な口づけを交わし、自分の名前を何度も囁かせる男もいた。
 あるいはスーツ姿のまま、愛梨に痴漢プレイを仕掛ける者もいた。数人で愛梨を囲み、胸を揉みしだき、尻を撫で、太腿をさする。

 (あいつらとそっくりな手つき。興奮した男ってやることが一緒なのね)

 アニメ同好会の面々を思い出すシチュエーションだ。だが老いた男達は切実さで勝った。現実で若い娘と付き合える可能性が低い分、愛梨を嬲る手の平に執念めいたものが宿っていた。その熱意が肌を通して愛梨の内に沁みていく。
「んっ、んくっ……ふ、うっ……」
 愛梨は悩ましげに身を捩り、唇を噛み、太腿に蜜を伝わせる。ついには膝を痙攣させて同性から笑われるまでになるが、それでも男達の手は止まらない。
 白いショーツが水に浸したほどの状態になった頃、ようやく次に映る。用意された学校の机の上に愛梨を座らせ、Mの字に足を開かせた状態で肛門を嬲る。執拗な愛撫で蜜を吐いている割れ目には目もくれず、その下に息づく蕾だけを繰り返し指でほぐし続ける。
 最初の数分、愛梨は声を殺していた。机の端を掴み、天を仰いで。しかし時が経つほどにその顎は下がり、口も開きはじめる。
「はッ、はッ、はッ、はッ、はッ……!!」
 30分が経過した時点で、愛梨の表情はかなり崩れていた。走り疲れたような虚ろな表情で、口の端には涎の線が引いている。肉体の方も正直で、肛門の指が蠢くたびに足指が反り、花園が蜜を吐きこぼす。
 愛梨を囲む男達は、固唾を呑んでそれを見守っていた。彼らが懸想していた高嶺の花の女子生徒より、更にランクで勝る『奇跡の美少女』──その痴態から目を離せるはずもない。
 こってりとした指責めを2時間に渡って繰り返した後、ついに本命のアナルセックスが始まる。
 ある者は互いの顔の見える正常位で、ある者は健康的な尻を見下ろす後背位で、ある者は愛梨自身に腰を遣わせる騎乗位で、徹底的に後孔を責め抜いた。

 (……こいつら、後ろばっかり……!!)

 蜜を吐く花園には目もくれず、あくまで肛門のみを貪る偏執ぶりに、愛梨は背筋が寒くなる。しかしそれが興奮に繋がり、嫌でも肛門の開発が進んでしまう。騎乗位で腰を振りながら、愛梨は絶え間なく愛液が滴る感覚と共に、肛門がペニスを舐めしゃぶっているような錯覚を覚えた。
 7人との濃厚なアナルセックスで愛梨の頭が霞みだした頃、8人目の番が来る。逸物の長さに自信がないというその巨漢の男は、足りないサイズを補うために玉蒟蒻を用いた。白濁に塗れたまますっかり『出来上がって』いる愛梨のアナルに、指で一粒ずつ押し込んでいく。押し込んでもすぐに飛び出す限界が来るまで、都合16個。その状態で亀頭を押し込まれた時、愛梨の眠たげな顔は一変した。
「んぎぃ……っ!!」
 目は見開かれ、白い歯は食いしばられる。その脳内からは霞が吹き飛んでいた。冴えたという表現は相応しくない。コールタールのような重く鈍い現実を塗りつけられ、強引に覚醒させられたのだ。
「んぎっ、あ゛っ、あ゛!! あがっ、はあ゛っ、あ゛、うああ゛っ!!」
 愛梨の声は苦悶に満ちていた。腸を埋め尽くす柔らかな異物に加え、ペニスの容量も無視できない。男の持ち物は長さがない代わりに太い。実に直径8センチの『栓』だ。

 (こんなの無茶苦茶すぎる……限界よ!!)

 愛梨は強すぎる負荷に怒りすら覚えたが、その負荷ゆえに興奮してもいた。硬い瘤のような怒張が押し込まれるたび、尾骨が軋み、腸内の異物が生き物のように蠢く。その痛みとおぞましさに這う格好すら保てない。脚だけを力強く暴れさせたまま、前のめりに崩れていく。
「ほら踏ん張ってないと、思い出の制服が汚れちゃうよ?」
 男はそう言いながらも激しく突き続け、ついには愛梨を腰砕けに追い込んだ。這い蹲る姿勢の愛梨に太い足で圧し掛かり、丁寧に丁寧に玉蒟蒻を押し込んでいく。腸内の圧力はとうに限界を超えていた。本来であれば玉蒟蒻が噴き出すところだが、『栓』が太すぎるためにその隙間がない。となれば、体内にスペースを作る方法は限られていた。
「ぉっ! んおっ! んおぉっ!!」
 愛梨は低い呻きを漏らしながら、とうとう潮を噴きはじめる。床に押し付けられた秘部からぶしゅぶしゅと音が立ち、潮溜まりで制服が変色していく。
「はははっ、すげえな! アナルで潮噴きする女はたまに見るが、あんだけでまくってるのは初めて見るぜ!」
「あの太ぇのと玉蒟蒻で腸がパンパンな上に、寝バックで子宮潰されてんだ。潮噴きまくりでもおかしかねぇが、しっかし無様なモンだな!」
「ねー。多分こいつ、高校ん頃は男子にモテまくったんだろうけどさ。この潰れたカエルみたいなポーズでケツ掘られてるの見たら、百年の恋も冷めるよねー!」
 屈辱的な声が次々に浴びせられる。その状況で愛梨は、肛門をわななかせながら絶頂していた。腰を浮かせようしてみても、敵わない。巨漢特有の圧倒的な脚力でねじ伏せられ、瘤つきの棍棒のように思える極太を体重で押し込まれる。
「お゛っ、お゛、お゛お゛っ!!!」
 抵抗すればするほど悲惨な状況に追い込まれ、その様を周り中から嘲笑われる。それがまた興奮材料となり、肛門を戦慄かせる。その繰り返しだ。悪循環なのか、それとも望ましい循環なのか……愛梨には答えが出せない。
「へへへへ、出すぞぅ変態女! タップリ飲めよ!!」
 男がそう言ってドクドクと精液を流し込み、怒張を抜いた瞬間が恥辱の第二幕だ。ぶりっ、ぶびっ、と凄まじい音を立てて、精液まみれの玉蒟蒻が肛門から飛び出していく。ギャラリーから容赦なく痛罵の声が上がったが、しかしそれで終わりではない。転がり出た玉蒟蒻の数は11個。押し込まれた16個に対して5個も足りない。腹圧でも出せないほど奥へ押し込まれた物が4個あるのだ。
「ふんん、んぎぎうっ……!!」
 小さく失禁するほどに息んでも、ひり出せたのは2個だけだった。
 残る3個を、愛梨は自らの指で掻き出すはめになった。自力でとなれば、トイレで尻を拭くようなポーズを取らざるを得ない。
 背中側から手を回すやり方では、10分奮闘しても1つも取り出せなかった。そのため、より恥辱的な方法……和式便所に跨る格好のまま、脚の間に手を差し入れて肛門をくじるやり方をせざるを得なかった。
「あ、あっ……あっ、あっ……」
 異物を求めて腸の深くに指を差し入れ、掻き回す。それは肛門での自慰そのものだ。客は当然その事実を指摘し、嘲笑った。
「う、ううう……っ!!」
 歯を食いしばったまま床を睨みつけ、涙すら流す愛梨の表情は、そこだけを見れば屈辱に震えているようだった。しかし身体全体を視界に収めれば印象が変わる。何度も床を噛むように縮こまる足指。腕の陰で開閉し、蜜を吐きこぼす割れ目。明らかに興奮した女の特徴だ。
 ぬるぬるとした腸液に塗れた玉蒟蒻が3つすべて掻き出された後、疲労困憊の愛梨の前にまた男達が列を作る。煽情的なショーを堪能した彼らの怒張は、天を突かんばかりに反り立っており、相当な持続力を予感させる。
「……っ!!」
 普段ならば追い込まれてなお太々しさを見せる愛梨も、この時ばかりは辟易した表情を隠せなかった。


                ※



 DUNGHILLは性癖倒錯者の掃き溜めだ。そこに集まっているのは当然アナルマニアだけではない。むしろ肛門性交を好むグループは、『アブノーマル愛好会』を自称する派閥の中でもノーマル寄りの部類といえる。
 愛好会の中でも特にマニアックなメンバーは、揃って白衣を纏っていた。とはいえ本物の医者ではない。格好を真似ることで医者になりきっている素人に過ぎず、だからこそ性質が悪い。医療行為のタブーも心得ていない素人が、医者の真似をして尿道や膣を器具で掻き回せば、取り返しのつかない事態にも繋がりうる。
 そんな危険なモルモット役をやりたがるM奴隷はいない。借金という枷を負っている者や、パートナーに強いられた者、あるいはNGプレイ無しと啖呵を切った怖い物知らずでもない限りは。

「被検体の体を砕石位で固定します」
 愛好会のメンバーが襟元のマイクを通して宣言する。砕石位は、泌尿器科で秘部の疾患を診る際に用いられる体位だ。患者を仰向けに寝かせ、膝を曲げたまま開いた脚を支脚器で固定する。
「チッ……!」
「あうう……っ!!」
 恥部を曝け出す恥辱のポーズに、ミカとアサミは動揺を示した。睨みつけるミカと、許しを乞うようなアサミ。態度こそ真逆だが、愛好会のメンバーを意識しているという点では同じだ。
 それに対し、愛梨の反応は薄い。何をされているのか興味すらないという風に、施術用のライトが照らす虚空を見つめている。
「ふふふ、流石だな。大股を開かされながらあの太々しさとは」
「噂通り、なかなか楽しませてくれそうな奴隷じゃないか」
 ギャラリーの数は多い。愛梨の噂が広まった結果、倶楽部の会員数が急増しているためだ。倶楽部のオーナーはこの売上増にほくそ笑んでおり、愛梨に対して多少行き過ぎた行為があろうともスタッフに黙認させていた。

 チューブ状の内視鏡で胃、膀胱、膣、肛門の中を写され、その内部をモニターに大写しにされても、やはり愛梨の表情は動かない。
 両端にCCDカメラのついたディルドーを胃と腸経由で体内に送り込み、互いのカメラの先を写り込ませる『体内貫通ショー』でも、何度かえずきはすれど、他2人に比べれば人形のような無抵抗を貫いてみせた。
「へー。ワガママ系かと思ったけど、案外気合入ってんじゃん」
「な。ツラの良さで生きてる感じなのに」
 男達が愛梨の我慢強さに感心する一方で、同性からの視線は冷ややかだ。
「馬鹿ねアイツ。マグロが一番消耗するのに」
「ウリの世界じゃ常識だよねー。マグロだと反応出そうとしてハードにやられるから、一番しんどいんだって」
 女達は愛梨を横目に囁き合う。そして事実、アブノーマル愛好会の責めは、愛梨に対して特に念入りに進められた。
「ここから目隠しをして、局部への刺激に感覚を集中させていきます」
 愛好会メンバーがそう宣言した瞬間、愛梨は初めて反応を見せた。無表情の中に多少の焦りを滲ませ、白衣の人間達に視線を向ける。
「お、流石にビビってんな」
「ケツを開発されただけであの乱れようなんだ。マンコまで目覚めちまったら脳ミソがぶっ壊れるってのを察してんのさ。頭はそれなりに回るみてぇだからな」
「なるほど。こういう時、なまじオツムがいいと不幸だね」
 ギャラリーの愉快そうな笑みが遮られ、愛梨の視界は閉ざされる。

 視覚が奪われれば、他の感覚は嫌でも研ぎ澄まされた。
 空気は乾燥し、少し肌に冷たい。
 客同士の小さな囁き合い、誰かが歩き回る足音、椅子の軋む音……それまでほとんど気にもならなかった小さな雑音さえ、すべて耳が拾ってしまう。
「初めに、外陰部の清拭を行います」
 マイクを介しているのだろう、男の淡々とした宣言が響き渡る。それは倶楽部の全員に聞かれているはずだ。ギャラリーは勿論、遠くで別のプレイに興じている人間にさえ。そう思うだけでもどかしい。
 直後、愛梨の秘部をヒヤリとした感触が襲う。
「ひっ!」
 思わず声が漏れ、腰が跳ねる。笑い声が聞こえた。
「アイツ、消毒で感じてるよ!」
「性病なんじゃないのぉ?」
「アハハ、やだー!」
 同性からの悪意ある謗りも聴こえる。
 屈辱的だ。しかしそちらにばかり気を取られてはいられない。愛梨の意識は、より異質な音──耳障りな金属音に引っ張られる。
「膣鏡による膣内観察を行います」
 その言葉の後、冷ややかな感触が膣を割り開く。摘便の際にも使われたクスコだ。
「おー、丸見えだぜ!」
「これはこれは、見事なサーモンピンクじゃないか!」
 遠くの囁きもはっきりと耳が拾った。器具で開かれた膣内への視線すら感じ取れるようだ。

 (反応しちゃ駄目。あいつらを調子づかせるだけよ……!)

 頭ではそう理解しているが、手術用の手袋を嵌めた指が膣壁に触れれば、どうしても腰が跳ねてしまう。
「膣内の触診を行います。まずはGスポットから刺激していきます」
「……かなりの愛液が沁み出してきました。続いて、裏Gスポットを刺激します」
「次は、横Gスポットに移ります」
 行為は事細かに宣言された。されている事がフロア中に知らされているのだ……そう思うだけで感覚がより鋭敏になる。心の壁が脆くなっていく。
「横Gスポットの左側が特に感じるようです。刺激するたびに、腰が激しく動いています」
「コリコリとしたポルチオの膨らみの下側……Aスポットと呼ばれる場所に触れています。ここを刺激すると、かなり強く感じるようです」
 愛梨の心理を知ってか知らずか、愛好会メンバーの口調はより羞恥心を煽るものになっていく。淡々と状況を報告されながら、手袋を嵌めた指で膣の中を弄られる……そのおぞましさは受けている人間にしか分からない。
「くあっ、ああああ……あ、んあああっ!!」
 他人の手で自慰をしているような気持ち悪さに、愛梨の腰が跳ね、その度に笑いが起きる。不快だ。不愉快だ。しかしそんな中でも、愛梨の膣内からは次々と愛液が溢れていた。
「今度は処置具を用いて、粘膜の様子を調べていきます」
 その言葉の後、生温かな指に代わって冷たい金属が使われはじめる。まずは一本。そこからさらに一本、さらに一本。複数本の器具がカチャカチャと音を鳴らしながら愛梨の膣を探りまわる。

  (何してるの、これ……!?)

 粘膜を圧迫され、擦られる感触は嫌というほど理解できた。しかし行為の全体像が把握できない。周囲で笑っている人間達には全てが見えているだろうに。
「あ、あぁ……あっ、あっ……!」
 声を抑えきれない。カチャカチャと金属音が鳴るたび、手と足の指が蠢く。周囲から笑い者にされようとも、その反応が止められない。

                ※
 
 指と器具による膣開発は1時間にも及んだ。そして当然、それだけでは終わらない。
「次は患者の陰核を刺激し、オーガズムに伴う反応を観察していきます。まずは陰核亀頭を機械で吸引し、勃起および固定を試みます」
 抑揚のない声は処刑の宣告のようだ。
「っ……!!」
 局部を覆う機械が取り付けられる中、愛梨は奥歯を噛み締める。遠くの嘲り笑いが煩い。視られることが好きとはいえ、こんな状況を望んだわけではない。
 数秒後、陰核吸引が始まる。愛梨は機械責めに強い。マッサージ器の刺激に1時間でも耐えきれるほどに。しかしそれは平時の話。大勢の視線を肌で感じる状況となれば訳が違った。
「はぁっ、はぁっ……あっ! あっ、かはっ、はっぁ、あ……ぁぁああ…………!!」
 息が荒くなっていく。その吐息に甘い喘ぎが混ざり、意思とは無関係に腰が動く。

 (いくっ……!!)

 最初の絶頂は2分で訪れた。そして一度絶頂してしまえば、そこからは軽く達するたびに身体が反応してしまう。その全てを視られていると思うと、尚更余裕がなくなっていく。
「陰核が勃起し、吸引部に固定されました」
「呼吸の変化に注目してください。浅く、早い呼吸。これが陰核でのオーガズムの特徴です」
「陰核への刺激と連動し、反射で肛門が収縮しているのがわかります」
「頻繁に太腿が引き締まり、足指にも変化が見られます」
「腹直筋の動きが顕著になってきています」
 医者気取りの声色で逐一反応を指摘されるのも、また耐え難い屈辱だ。
 しばらくして器具が取り去られる時、にちゅりと音がした。相当な愛液が出ている証だ。
「陰核亀頭がしっかりと勃起しています」
 手袋で陰核周りの包皮を剥かれ、衆目に見せつけられる。
「アッハハハッ、やだビンビンじゃん!」
「澄ました顔して、実はメチャクチャ気持ちよかったみたいだねー。クリ吸われんの」
「マンコもトロトロになっちまってんな。あんだけ丁寧に拭かれてたのによ!」
 様々に野次が飛んだ。それを聴いて愛梨が少しでも反応を示せば、即座に笑いが起きる。愛梨のすぐ近く……似非の医者達からも。
「今度は超音波振動端子を用いて、陰核包皮・陰核亀頭・陰核小帯へ集中的に刺激を与えていきます」
 宣言と機械の振動音、期待に満ちた歓声と拍手。そのどれもが愛梨の神経に障る。

 白衣の男達は、様々な手段で愛梨を辱めた。
「前庭球と外尿道口の一帯がしこりのように固くなっています。陰核体の深い部分まで勃起していることがわかります」
 ある時は、陰核に振動を与えながら陰唇周辺を指で弄り、これ見よがしに変化を指摘する。
「陰核での絶頂に伴う、膣壁の蠕動を観察します」
 そう宣告し、器具で膣を開いたままクリトリスを責めることもあった。
 最初に用いられた膣鏡はプラスチック製だったため、絶頂を迎えた愛梨の膣圧でメキメキと音を立てて破壊されてしまう。
「え、壊れた?」
「エグい音したよねー!」
「おいおいマジか、おっそろしいマンコだな!」
 予想外の事態に笑いが巻き起こり、愛梨の心を掻き乱す。そんな中、金属製の膣鏡が改めて挿入され、膣内とクリトリスの同時責めが始まった。
 クリームで刺激を和らげつつ、歯ブラシ状のバイブで、2方向あるいは3方向から挟み込むようにしてクリトリスを揺さぶる。それだけでも絶頂に足る刺激だというのに、さらに膣内までもを刺激されるのだ。
 膣用のバイブは滑らかで、緩くカーブを描いていた。Gスポットから膣奥までを余すところなく刺激できる形状だ。クリトリスで達している最中、それをゆっくりと出し入れされれば、絶頂はより深刻になる。
「んんんん、ああぁっ……! あっあっ、んあああああ……っ!!」
 甘い声が漏れた。
「ほう、そそる声じゃあないか!」
「んー、女目線だとちょっとあざといかも。可愛く泣いてますーみたいな」
「ね。男に媚びる時の声だよアレ」
「え、なに? 嗤われるのが嫌で今さら媚び売りはじめたわけ? キモッ!」
 数々の揶揄が飛び交う中、愛梨は断続的なオーガズムに追い込まれる。
「はぁっ、はぁっ……あっ、ああイク、いくっ! イクうイクッ……いぐううッ!!」
 クリトリスで絶頂している最中、バイブの前後運動で膣イキへ追い込まれ、そのまま二ヶ所で達し続ける。下半身は感電したように震え、拘束された脚に異常なほど力が入る。
「見ろよ、腰が浮きっぱなしだぜ?」
「ずーっとイッてんだろうねー。気持ちよさそー!」
 愛梨の声色とギャラリーのそれは、真剣味がまるで違う。

 (なにこれ、イクの止まんない! 息、できない……っ!!)

 刺激が弱まれば一息つけるが、完全に楽になるわけではない。あくまで性感の高原状態に過ぎず、すぐにまた絶頂へと追い込まれてしまう。
「は、はっ……あっあっあっあっあっ!!」
 やがて愛梨は、『イク』という言葉を発する余裕さえ失った。過呼吸さながらに短く喘ぎ、涎を垂らしながら頭を振り回す。泡立った唾液が背もたれに円を描き、膣をこじ開ける膣鏡からは愛液が滴り落ちていく。
「ヤバッ、何アレ!」
「あっははははっ、ゾンビみたい!」
 愉快そうに野次が飛ぶ間も、愛梨の肉体は痙攣を続けていた。受容限界を超えたオーガズムだ。施術者が真っ当な医者ならば、とうに刺激を止めていることだろう。しかし医者の真似をした素人は加減を知らない。
「子宮口から、白濁した粘液が次々と出てきています」
 バイブを引き抜いて膣奥を観察し、恥辱的な言葉を投げかけると、再び2ヶ所責めを繰り返す。
「んあああっ、ぁはあああッ!! はぁっあァあがあぁああっ!!!」
 愛梨は叫び、腰を捩り、痙攣した。強すぎる快感に視界が白くなったかと思えば、電源が切れたように一瞬ブラックアウトする。その果てに、とうとう決定的瞬間が訪れた。
 ぶびっ、と音がし、愛梨の肛門から液体が噴きだす。その音は運悪く白衣のマイクに拾われ、ホール中に響き渡った。
 忍び笑いをしていたギャラリーが静まり返る。突然の出来事に、何が起こったのか呑み込めずにいるのだ。
「陰核体刺激から11分32秒、肛門内部より腸内残留物の排出あり」
 責め手の男が、無機質に告げた一言。それがトリガーとなる。
「ぎゃはははははっ! アイツ感じすぎてクソ漏らしやがった!!」
「ひひひひひっ!! ツラの良い女が絶対やっちゃいけねぇ事だろ!!」
「あーあ終わってるよ、ホント終わってる!」
 ここぞとばかりに投げかけられる罵詈雑言が、愛梨の心を掻きむしる。
「…………ッ!!!」
 愛梨は唇を噛んだ。血の味がするほどに。
 泣きたいほど悔しい。だが泣いてはやらない。一時的にどれだけ乱れようとも、事が終わった後でまで弱みを見せるものか──愛梨はそう決意する。

「如何でしたか? 陰核で絶頂した感想は」
 目隠しを取り去られた愛梨に、白衣の男が問いかける。愛梨はその顔を睨みつけ、あえて太々しく笑ってみせた。
「なかなか良かったわ。またお願いしたいぐらいよ」
 精一杯の強がり。普通の男ならばその強情さに面食らい、面白くないという顔をするところだ。しかし白衣の男達は違う。
「それは結構。こちらもまだまだ実験したい事がありますので、その積極性は実に有難いですよ」
 惚けているのか、それとも本気で嫌味が通じていないのか。穏やかな笑みで愛梨を見つめるばかりだ。

 (こいつら……やりづらいわ)

 愛梨は不敵な笑みの裏で、震えが来るような寒気を覚えていた。


 

眞喜志 愛梨、その探求の果て Episode.4(前編)

※最終章のEpisode.4は、アブノーマル倶楽部でひたすら調教されるエピソードです。
プレイの一部にスカトロ(嘔吐・排便)要素があるため、苦手な方はご注意ください。
投稿文字数の関係で前・中・後編に分割します。
中編はこちら
後編はこちら




Episode.4 探求の果て


 その倶楽部は、いかにも曰くつきな場所だった。路地裏の雑居ビルから入り、3つのエレベーターと2つの連絡通路を経由して、ようやく地下3階の入口に辿り着く。その入口もどう見ても堅気ではない人間が2人一組で詰めており、近づく人間に怪訝な視線を向けてくる。愛梨は倶楽部のVIPだという人物と前もってコンタクトを取り、同行してきたためにスムーズに入場できたが、そうでなければひと悶着起きたかもしれなかった。
 しかしその厳重さは、目的の倶楽部が『本物』である証ともいえる。
 倶楽部の正式名称はどこを調べても出てこなかった。あるいはあえて設定されていないのかもしれない。しかし、その存在自体はマニアの間で語り継がれている。『DUNGHILL(掃き溜め)』という通称で。女性会員こそ無料で利用できるが、男性会員は入会費100万円、年会費30万円という高額を取られるだけに、コアな変態ばかりが集まるのだという。

 一歩足を踏み入れれば、楽園という言葉の意味が実感できた。バブル期を思わせるミラーボールに色とりどりのレーザーライト、小高いステージでDJがかき鳴らすアップテンポなミュージック。いつかアップライズに連れられて入った場所以上に、視覚と聴覚を効率よく麻痺させる幻想の世界。その中で、無数の男と女が自我を解放していた。
「ほぉーらオッサン、なに勃起させてるのよ。キッッモいわねぇ!」
 入ってすぐの壁際では、ゴムパンツだけを身に着けた中年男性が、貴族さながらに着飾った女性から乳首責めを受けている。さらにその奥では、セーラー服を着た少年のような男性が、ツナギを着た肉体派の男性と口づけを交わしてもいる。
「オラ先生よ、その変態ぶりでよく教育者が務まるな!?」
 その大声で右を向けば、ボンデージに身を包んだ妙齢の女性が、シミと皺だらけの老人に背後から突き上げられ、呻きながら涙と涎を垂れ流していた。
「こっ、こんな変態行為をいくら続けても無駄よ! 私は卑劣には屈しないわ!!」
 そう叫ぶのは若い女。引き締まった肉体と猛禽類のような眼光を有する彼女は、両手をやけに本格的な手錠で繋がれ、両の乳房に無数のダーツを突き立てられたまま、がに股のポーズで瘤つきの縄を往復させられているようだ。
「どうしたお嬢様、いつまで人間のフリを続けるつもりだ? 腹ン中の臭くて汚ねぇもんブチ撒けて、マゾの本性を晒しやがれ!」
 床がガラス張りのフロアでは、絹のように美しいロングヘアの女性が、恥部を晒す格好で高所から吊り下げられている。その足元には浣腸器の立てかけられたバケツが置かれており、おおよその状況が察せられた。

「凄いでしょう、愛梨くん。同性愛者、トランスジェンダー、そして性的倒錯者……世間一般の枠からあぶれた様々な人間が、各々好きな場所でオープンに楽しんでいる。大金を支払える身分だ、普段は人一倍理性的な人間の仮面を被っているはずですが、此処でだけはその仮面を外すことができるのでしょうね」
 愛梨と連れ立って入室したVIPの男は、女性スタッフからバタフライマスクを受け取りつつそう語る。バタフライマスクは場のほとんどの人間が着用していた。物理的に仮面をつけることで心の仮面を外せるとは、なんとも皮肉な話だ。
「ご新規の会員様ですね。どうぞ」
「要らないわ」
 同じく差し出されたマスクを、愛梨は拒絶する。愛梨に仮面は必要ない。そもそも心を偽る気などないのだから。
「愛梨くん?」
 パートナーであった男の声を気にも留めず、愛梨はズンズンと歩み出す。より興味を惹く何かを求めて。
「……探しなさい、君を“解放”してくれるものを。この倶楽部でならそれが見つかるはずです」
 VIPの男は、遠ざかっていく愛梨の背に語り掛ける。薄笑みを浮かべたその顔は、人生経験豊富な老人のようでもあり、玩具を見つめる少年のようでもあった。年齢不詳、経歴不詳。やや背が高めの日本人男性らしいということ以外、すべてが謎に包まれている。
 そんな彼に一人の女が歩み寄った。様々なコスチュームが溢れるこの場でも特に異質な、和服に身を包んだ少女。そう、その面影は女というより少女に近い。歳は愛梨と近そうだ。
「やあ、コハル。楽しんでいますか?」
「……ええ」
 コハルと呼ばれた少女は短く答える。その声に抑揚はなく、表情筋も動かない。まるで機械を思わせる無感情ぶりだ。高そうな着物が乱暴された後のように乱れ、露出した太腿から精液が滴っている状態にもかかわらず。その異質さは、しかし初老の男にとっては見慣れたものらしい。
「あの子が気になるのですか?」
 男は、物静かなコハルの視線を追って愛梨に目を向ける。コハルは何も答えないが、瞬きすらせず愛梨に向ける視線は、間違いなく興味のあるそれだ。
「この倶楽部へ辿り着く人間が得てしてそうであるように、彼女もまた業を背負っています。あるいはその業は、この場の誰よりも深いのかもしれません。かつての君がそうであったように」
 追憶するようなその語りに、コハルの瞳が初めて揺れる。ほんの一種、注視していなければ分からない程度に。
「君の後輩になるかもしれない娘です。彼女が往く道に迷うことがあれば、今度は君が導いてあげなさい」
「……わかった。先生がそう言うなら」

 興味を惹く何かを求めて歩き回る愛梨。その歩みを止めたのは、特に多くの人間が輪を作っている小高いステージだ。
 輪の中心には2人の女がいた。丸裸のまま首輪だけを着けた装いが、この場における彼女達の立場を端的に示している。
 1人は温室育ちのお嬢様といった雰囲気だ。穏やかな垂れ目に、微笑むような口元。同じくおっとりとしている麻友以上に世間知らずな印象を受ける。しかし幼さの混じる顔とは裏腹に、肉体の方はよく熟れていた。ティーンほどの瑞々しさこそないが、安産型で肉付きのいい、いわゆる“そそる”体をしている。
 もう1人はその逆で、尖りきっていた。隷属を望むタイプには見えない。額の両サイドに剃り込みを入れ、襟髪は長く伸ばした華やかな金髪。瞳には赤いカラーコンタクトを着け、右腕にはトライバルタトゥーが彫り込まれている。身体はダンサーのように絞り込まれ、体脂肪は殆どなさそうだ。
「では、自己紹介とNGプレイの指定をお願いします」
 バニースーツ姿の女性スタッフに促され、お嬢様風の女性が厚みのある唇を開く。
「アサミと申します。今年で28歳です。この倶楽部に参加させていただいたのは、主人の命令で。あ、主人と言っても御主人様という意味じゃなくて、夫の方ですよ? 夫からはアナルセックスなど、アブノーマルなプレイを経験してこいと言われています。実は私も、興味がないわけではないんですけど。以上で……あ、すみません、NGプレイですよね。ううーん……正直全部嫌ですけどぉ……あそこはマコちゃ、あ、夫専用にしたいので未使用でお願いします。それ以外であればお使いいただいて結構です」
 アサミという女性は恥じ入りながらも、独特のペースで語る。見た目以上に独特な世界観の持ち主らしい。
「ほう、人妻ですか。いかにもな感じですな」
「ちょっと天然っぽいな。悪い男に騙されてるんじゃねぇだろうな?」
「体型はややぽっちゃり気味というところか。M奴隷向きではあるな。縄映えもするし、抱き心地も良さそうだ」
 会員の反応は上々だ。続いてスタッフが金髪の女にマイクを向けると、いきなり舌打ちの音が乗った。
「…………ミカっス。歳ァ22。キャバやってたんスけど、ストレスでホスにハマっちゃって、借金返すためにここでM嬢やれって言われてます。NGは……とりま、ハゲ・デブ・ブサイクの相手は無理。カレにキモがられるんでケツも無しで。族上がりなのと、ピアスとかタトゥーで慣れてるんで、痛いのは余裕。以上っス」
 睨めつける眼に、吐き捨てるような物言い。新人の『奴隷』らしからぬ反抗的な態度に、会員達がほくそ笑む。
「おーおー、睨みやがる。さっきのメス牛とはえらい違いだな」
「デブとブサイクの相手は無理……か。フフフ、手厳しい。これでは会員の大半が主人役になれませんなぁ」
「後ろもダメとは、注文の多いことだ」
 族上がりという宣告通り、ハリネズミのようなこの少女をどう辱めようか、どう心を折ろうか……そう思案している顔だ。
 奴隷2人を前に煮え滾る、獣欲と狂気。その歪な熱気が、愛梨の心を揺さぶった。

 (ふぅん。こいつら、目がイッちゃってるわ。噂通りヤバそうね)

 そう直感すれば、もう止まらない。愛梨は自分でも自覚しないうちに人ごみを掻き分け、ステージに上がっていた。
「ん? 誰だ?」
「新顔か?」
「え、ちょっと待って。すっげー可愛くねぇ!?」
 愛梨の美貌に会員達がざわつく。
「え、あの……」
 女性スタッフもマイクを手に戸惑っている。
 その注目された場で、愛梨はいきなりパーカーを脱ぎ捨てた。ネックレスも無造作に外してポケットに突っ込み、白いブラウスをたくし上げる。ベルトを外してディープピンクのミニスカートをずり下ろし、下着さえも床に落とせば、一糸纏わぬ丸裸が衆目に晒される。
 倶楽部の人間は、その一連の行動をただ見守っていた。突然の奇行に虚を突かれたというのも勿論あるが、それよりも、徐々に露わになっていく愛梨の肢体に見とれていた。一般性癖に飽いた人間が最後に辿り着くというこの倶楽部には、女遊びに慣れた人間も多い。本物の芸能人を食い物にしてきたテレビ業界の大物、交際相手に不自由しないアスリート……そうした人間でさえ、愛梨の裸体に息を呑んだ。
「…………すげぇ…………!」
 重苦しい沈黙の中、ただ一つ呟かれた言葉がそれだった事実が、会員達の衝撃を物語っている。しかし一度歓声が起きれば────その熱は、ホール全体を震わせた。
「うおおおおおっ!! か、可愛いいいーーーっ!!!!」
「ほぉう、これは……! 顔もスタイルも一級品だねぇ!」
「ああ。ココってよその倶楽部より粒揃いだけど、こりゃまた別格だ!」
「へへへ。この大人数の前でいきなり脱ぎやがって、しかもあの澄ましたツラ。相当躾けられてんなァ。誰の奴隷だ?」
 会員達がざわつき始めたことで、ようやく女性スタッフも我に返る。
「ええと、奴隷志望の方でしょうか……?」
「そうよ」
 マイクを向けて恐る恐る質問する女性スタッフとは対照的に、愛梨は堂々としたものだ。その様子で会員達は悟った。目の前にいる少女は、誰かに強いられてあの行動を取っているのではない。自らの意思で痴態に臨んでいるのだと。
「な、なるほど。結構です、飛び入りのご参加も歓迎いたします。では、自己紹介とNGプレイの指定をどうぞ!」
 女性スタッフに再度マイクを向けられ、愛梨は大きく息を吸い込んだ。
「名前はアイリ、歳は18。ここに来た目的は興味本位。ぬるいプレイに興味はないの。あたしにNGはないわ」
 その言葉に、場は再びざわついた。驚いた様子でステージを振り返る会員も多くいた。アブノーマルに特化した秘密倶楽部で、恐れ知らずにもNG無しを宣言する絶世の美少女──それに注目が集まらない筈がない。
 沸き立つ会員達の横で、スタッフの女性は表情を強張らせる。彼女は4年あまりの倶楽部勤めで、何百という男女の痴態を見届けてきた。許容量を超えるハードプレイで、人が正気を失くす場面を何度も見てきた。
「……アイリ様、と仰いましたね。差し出がましいようですが、今のお言葉は撤回を推奨いたします。このクラブは、稀有な性癖に目覚めた方が、日の当たる場所から爪弾きにされ続けた果てに辿り着く場所。ゆえにここの会員の皆様は、“筋金入り”の方ばかりです。そのプレイは到底素人が耐えられる代物ではありません。NGはないというその言葉を、きっと後悔することになりますよ」
 スタッフのその言葉に、会員達が歯を見せて笑う。彼らは自分達の異常性を自覚している。その異常性癖で恋人に、妻に逃げられた者。SMクラブでM嬢を本気で泣かせ、出禁を食らった者。高い会費を払ってまでこの倶楽部に通い詰めるのは、そういう他に居場所のない人間ばかりだ。
 愛梨とてそれは肌で感じ取っている。だからこそ彼女には、勝ち誇ったような会員達の笑みが鼻についた。
「撤回はしないわ。SM、スカトロ、乱交、何でも来なさい! 素人じゃ想像もつかないようなハードなプレイで、あたしを熱くさせてちょうだい!」
 愛梨は先ほど以上の声量で宣言する。それこそ倶楽部中に響かせんばかりに。
「まあ!」
「ケッ。何も知らねーガキがカッコつけやがって……」
 愛梨の後ろでアサミが口に手を当て、ミカが唾を吐く。変人扱いされているのは確実だろう。それでも愛梨の表情は曇らない。彼女がいつもそうであるように、胸を張り、爛々と輝く瞳で前だけを見据えている。
「いやはや、この歳であんな小娘の裸に圧倒されるとは……」
「しかし堂々としたもんだ。スッパダカだってのにミジメどころか、逆に神々しく見えるぜ」
「ええ、ええ。眩いですねェ、真っ白に輝いて。愉しみですよ。この倶楽部の好き者相手に、あの態度がいつまで続けられるか……」
 会員達は愛梨に惹かれていく。歪んだ性癖を遠慮なく叩きつけられる、極上の獲物として。


                ※


「どうした、もっと気ィ入れてやれよ!」
「顔伏せんなって。恥ずかしがってる顔、見せてくれよォ!」
 何人もの会員から野次が飛ぶ。ステージの上で脚を開き、自慰を披露している新人奴隷に対してのものだ。
「も、申し訳ありません……!」
「……ク、クソッ……!!」
 アサミとミカは、共に耳まで赤く染めていた。脚こそ大きく開いているものの、秘裂をまさぐる指の動きはぎこちない。とはいえ、倶楽部で『お披露目』をする初心者奴隷ならば大抵がそうだ。そうでない方が異常なのだ。会員とてそれは理解しているが、どうしても比較してしまう。
「ほら、もっとよく見なさい! 今、左側のGスポットを刺激しているわ。最近、ココが好きなのよね!」
 愛梨は大きく脚を開いたまま、会員達に見せつける形で自慰に耽っていた。アサミやミカとは違う本気の自慰。その指は躊躇いなく膣襞を刺激し、しとどな愛液を滴らせる。

 (すごい視られてる……。あんな大勢の、見ず知らずの人に……!!)

 快感がゾクゾクと皮膚を這い上る。愛梨にはそれが不可解だった。
 注目されるのが好きなのは昔からそうだ。しかしそれはあくまで、他人という有象無象に対する優位性を実感できるから……であったはずだ。しかし、今は違う。タキシードやドレスを纏った倶楽部会員の前で、自分だけが服を着ていない。その状態で浅ましく自慰に耽る姿を、嘲笑交じりに観察されている。そこに優位性などあろうはずもない。真にプライドの高い人間ならば自死すら覚悟するほどの、極めて恥ずべき行為だ。にもかかわらず、興奮する。心臓が早鐘を打ち、全身にじっとりと汗が浮き、膣の奥がグツグツと煮立つ。

 (……何故?)

 理にそぐわない不可解な感情を、追及せずにはいられない。たとえ吹雪の中だろうと、槍の降る道だろうと、こうと決めた道を突き進む。いつでもそうしてきたように。

 『お披露目会』の後、『新人歓迎会』が始まってからも、アサミ達と愛梨の様子は対照的だった。
「うぶっ、おぶうっ!! ま、待ッ……ぶふっ!!」
「テメ、らっ……ふ、ふざけッ……ごおぐっ、ウ゛おッ、おぐうううっ!!」
 当然の如く行われるイラマチオに、アサミは噎せ返り、ミカはえずき上げた。少し深く咥えては相手の太腿を押しのけ、ゲホゲホと咳きこんでしまう。
 一方で愛梨は、グッと後頭部を掴まれた瞬間に負けん気を見せた。相手の太腿を押しのけるどころか抱え込み、自ら根元までのディープスロートを敢行する。肉の壁に四方を囲まれても、怯える様子など見せず、うっすらと笑みを湛えてさえいる。
 彼女には経験があった。アニメ研究会のオタク達もまた欲望を制御できず、愛梨にディープスロートを次々と強いたものだ。立場的に逃げるわけにもいかず、試行錯誤と悪戦苦闘の果てに、愛梨は我流で対処法を会得した。ポイントは口内の潤滑剤の量だ。唾液だけでは足りない場合、えずき汁を利用する。ごえ、おえっと派手にえずけば、一時的には苦しく恥ずかしいが、滑りが良くなるために後が楽になる。そのコツは倶楽部の会員達にも通用した。
「ぐああああっ、し、搾り取られるっ……!!」
 喉奥奉仕を強いていたはずの男が、わずか3分で腰砕けになる。膝後ろでクラッチされた愛梨の腕を必死に外し、腰を逃がそうとする。そうして悪戦苦闘しているうちに、彼は床の唾液で足を滑らせて尻餅をついた。征服者気取りだった男のその無様な姿が、愛梨の悪戯心に火をつけてしまう。
「ふふふふっ、まだ終わりじゃないわよ?」
 愛梨は男の上に覆いかぶさり、その太腿を押さえつけたまま怒張を咥え込む。ぬめり、うねる喉の輪で巧みに扱き上げ、相手の脚をぶるぶると震わせる。
「よ、よせ、出た! 出たのがわかるだろう、今はもうよせっ!! 誰かっ、誰か助けろおっ!!」
 声が大きく、恰幅が良く、しかも見事な逸物を持つその男は、倶楽部でも発言力のある人間だった。その彼は愛梨の猛攻に悲鳴を上げる。為すすべもなく。
「んふふっ……」
 愛梨が鼻で笑いながら逸物を啜り上げ、さらには指で自慰の真似事まで始めた時、倶楽部のボスの顔は屈辱に歪んだ。
「は、ははは……これは悪い夢か? ミズグチ氏が子供扱いとは……!」
「ひでぇ……あれじゃまるっきり逆レイプだぜ」
「ケツの方にまでザーメンが垂れてンぞ。クチだけで何発抜かれてんだよ……?」
 倶楽部の会員達は無意識に後ずさり、ヒソヒソと囁き合う。
 しかし、仮にもマニアの行きつく先ともいわれる倶楽部だ。飛び込みで乱入してきた新人奴隷に好き放題にされて、黙っている人間ばかりではない。
「オウ、そこまでだガキ!」
「離れろビッチが!」
 会員2人が愛梨を羽交い絞めにし、今や痙攣さえ始めた男から引き剥がす。
「そう一人にこだわるこたぁねえ。ザーメンが欲しいってんなら、この場にいる全員のをくれてやるよ!」
 会員は愛梨の耳元でそう凄み、スタッフからマイクを奪って会場に呼びかける。
「スペシャルイベントだ! NGなし、絶対に拒まない芸能人級のド変態黒髪神美少女に、ハラがはち切れるまでザーメンごっくんさせてやろうぜ!!」
 その叫びで会場中に下卑た笑みを伝播させてから、男は愛梨に口を寄せる。
「さあ、これでこの場の全員がお前のご主人様だ。性欲ギトギトの変態が何人いるんだろうな? 死ぬほどキツいだろうが、あんな啖呵切ったんだ。まさか逃げねぇよなあ!?」
 生意気な新顔への『洗礼』。その意図を隠そうともしない醜悪な笑みを前に、愛梨もまた不敵な笑みで返す。
「上等よ。おかげで面白くなってきたわ」
 怯む様子もない奴隷を相手に、男達は拳を振り下ろす機会を逸し、『洗礼』の準備を進めていく。
 まずは床にマットレスが敷かれ、愛梨はそこに寝かされた。そして大の字になった愛梨の両手首を、左右から1人ずつが押さえつける。真上から体重をかけて圧迫するような、決して外すことの叶わない拘束だ。

 (流石に怒らせちゃったみたいね。ま、こういうのは慣れっこだけど)

 そう思う愛梨の頭上を男が跨ぐ。見るからに荒々しい男だ。
「チンポしゃぶんのがえらく好きみてぇだからよ、コイツも可愛がってくれや!」
 男は分身を露呈させ、愛梨の鼻を摘んで口を開かせるや、勢いよくその中に突っ込んだ。
「もお゛え゛っ!!」
 愛梨はえずき上げる。逸物そのものが猛々しい上に、人体の構造上、真上からの喉奥刺激は嘔吐反射が起きやすい。横にして飲めば何でもないペットボトルの水を、垂直に飲もうとすれば噎せてしまうようにだ。
「ウぐッ、ほもぉおごっ!!」
 愛梨はえずき上げ、無意識に四肢を暴れさせた。圧迫された手首はピクリとも動かせないが、代わりに足をばたつかせる。内股に閉じて膝をすり合わせ、足の裏でマットを蹴りつけ。しかし、その動きすらすぐに封じられる。やはり左右から1人ずつの男が脚を抱え込み、内腿が筋張るほどこれでもかという開脚を強いる。しかも、それだけではない。愛梨の正面からは別の1人……底意地の悪そうな狐目の女が近づきながら、電動マッサージ機のスイッチを入れる。そして重苦しい羽音の発生源を、何の躊躇いもなく愛梨の秘部へと押し当てた。
「ほぉおお゛っ!?」
 当然、愛梨は反応する。腰を捩り、膝を曲げ、マッサージ器の強すぎる刺激から少しでも局部を逃がそうとする。が、それを許す会員達ではない。脚を抱え込む2人は暴れる愛梨の腰を正面に固定させ、狐目の女は巧みに角度と圧力を変えながらマッサージ器を押し当てる。
「ひひひ、地獄だなあのエロガキ。いきなり『大文字』とはよ」
「ああ。調教されたM嬢でも、アレに一時間と耐えられる女はまずいねぇ。しかも喉のこなれてねぇ一発目にテラダさんの鬼マラだ。じきにゲボ吐いて潮噴き散らして、惨めったらしいザマで許しを乞うぜ」
「間違いありませんな。威勢の良い娘ほど、責められる側に回ると脆い。カクテルの2、3杯も飲み干す前に音を上げるでしょう」
 会員達は新人奴隷の苦悶を肴に、美味そうに酒を堪能していた。

 (確かにキツいわね……!)

 愛梨は苦しみの中で眉を顰める。
 一度喉奥まで突っ込まれてしまえば、フェラチオのテクニックは使えない。暴力的なサイズの肉塊で喉奥を掻き回され、えずき声と唾液が際限なく溢れ出す。その状態で身を捩ることさえ叶わないのは相当なストレスだ。
 多勢に無勢というのもつらい。こちらは1人、相手は十数人。1人に対処してもすかさず後続が来るため、呼吸を整える暇すらない。
 加えて、秘部への刺激も厄介だ。見えずとも責め手が女だと分かる。実体験を踏まえて愛梨の嫌がるやり方を弾き出し、実行する。男にその精度の嫌がらせができるとは思えない。
 形勢は不利だ。しかし……愛梨にはなぜか、耐えられないというイメージは湧かなかった。
「オラどうした、もう参ったってか!? まだまだこれからだぜ!」
 馬乗りになった男が、勝ちを確信したような表情で腰を打ち付ける。バンバンと鼻を潰すような乱暴な腰遣いだ。その行為が、愛梨の逆鱗に触れた。
「ぃぎゅう! ぐぅ、う、お゛ッ!!」
 愛梨の喉から異質な音が鳴る。
「はははっ、何だ今の声!」
「あんだけハードに喉奥レイプされてんだ、限界なんだろ。見てろよ、ゲロ吐くぜそろそろ」
 ギャラリーは異音を限界のサインだと考えた。もう数分もしないうちに、女が盛大に噎せ返り、口の横からドロリと黄褐色の筋が垂れる……幾度も目にしたその光景が繰り広げられるとほくそ笑んだ。
 だが、この日は違った。
「うおっ!?」
 血相を変えたのは、喉奥を陵辱する男の方だ。彼は焦った様子で膝の位置を直し、体勢を立て直そうとして……その途中で動きを止めた。
「……チッ、このクソビッチが!」
 苛立たしげに舌打ちした男は、ゆっくりと腰を上げる。最高硬度から一歩後退した怒張の先からは白い雫が滴っており、射精直後であることがわかる。状況からして、喉奥しか使えない愛梨相手に射精“させられた”のは明白だ。
「ふふっ。今のが喉奥での責め方ね。『覚えた』わ」
 愛梨は舌なめずりして次の男を待ち構える。蛇のようなその姿に、男達は言葉を失くす。
「お、オイオイ。ガキ相手に何ブルってんだ? どんどん行こうぜ、どんどん!」
「バカ、武者震いだよ。こんなハネッ返りは久々だからよぉ!」
「ああいうのに泣き入れさせんのが面白ぇんだよなあ!」
 1人が意を決して煽り立て、他の男達も笑みを貼りつけたまま包囲網を狭める。
「うっ、こいつ……!?」
 愛梨の喉へ挿入した2人目は、先の男の慌てぶりを即座に理解した。ぬめりを帯びたまま逸物に絡みついてくる喉奥は、具合のいい膣を思わせる。襞のないつるりとした感触という差はあるものの、愛梨が声を発するたびに複雑に蠢く壁の前では些細な違いだ。
 ぎょっとして股間に目を落とせば、それもまた失策だった。愛梨が、男を見上げている。魔力を帯びていそうな爛々と光る瞳が、自分にだけ向いているという事実……それだけで射精感を煽られる。奇跡とも思える美貌が、ひょっとこのように少し崩れているのも性的だ。その顔がモゴモゴと動き、連動して逸物が扱かれれば、未曽有の至福が襲い掛かってくる。
「ああああ!!」
 2人目の彼は20秒ともたなかった。腕立てのような姿勢でブルブルと痙攣し、
「わ、わかった、わかったからっ……! 悪かったよ、ゆるして…………!」
 そのか細い泣き言を契機にようやく痙攣をやめ、弾けるように腰を引く。その後は歩いて立ち去ろうとするがそれも叶わず、途中で尻餅をついて後ずさっていく。
「ハッ、情けねぇ。ちっとツラのいい相手だからって、早漏野郎が!」
 2人目を鼻で笑ったラッパー風の男は、なるほど2人目よりは長くもった。それでも30秒と耐えられたわけではない。
「お、おいバカやめろ! ふざけんな、このビッチが!!」
 睾丸を震わせて射精に至った直後、裏声で悲鳴を上げながらまろび逃げる。
「……マジか」
 3者連続の凡退に、男達の顔色が青ざめていく。先駆けを買って出る男達だ、3人は雄の中の雄と呼んで差し支えのない人物だった。それが喉奥しか使えない相手に、赤子のごとくあしらわれたのだ。

「どうしたの? てっきりハードに虐めてくれるのかと思ったのに」
 愛梨は口周りの精液を舐めとりながら、同じく舐めるような視線で男の群れを撫でまわす。視線は、開いた足の間にマッサージ器を宛がう女をも舐めた。
「…………へへ。呆れるね、このヘンタイ」
 かろうじてその言葉を絞り出したものの、女は心中で震えていた。
 機械責めが効いていないわけではない。少なくとも最初の頃は、マッサージ器の先端を宛がうたびに苦しげな呻き声が漏れたし、足も暴れた。鉤爪のような形で空を掻く足指は、女がほんとうに余裕を失くした時に見せる反応だと、ドラッグセックスの実体験から知っていた。彼女は間違いなく追い詰められていたはずなのだ。
 しかしそれらの激しい反応は、ある時点からピタリと止まった。刺激のレベルキャップでもあるように、あるいは生物が毒の耐性をつけるように、ほとんど反応をしなくなった。充血して花開き、ダラダラと涎を垂らす陰唇は、どこか幸せそうにすら見える。これ以上責めても、喜ばせるだけなのでは……その考えを抱いてしまった時点で、女は愛梨にとっての脅威ではなくなった。
「い、いいから行けよ! あの状態でキツくないわけねー、余裕ぶってんのは作戦だ! まんまと休まれてんぞ、オメーら!」
 野次馬の1人ががなり立て、その声を受けて男達も奮い立つ。とはいえ真正面からは戦わない。2人一組で愛梨の傍に待機し、1人が猛烈なピストンで喉奥を蹂躙したかと思えば、愛梨が反撃するより先に腰を引き、待機していたもう1人に入れ替わる。あるいは2本のペニスを纏めて口に突っ込み、時間差で絶え間なく喉を蹂躙する。そうした数の利を生かした戦術に切り替えた。

 (なるほど、これは確かに苦しいわね……。こっちに出来ることがないわ)

 愛梨はその戦術に、文字通り舌を巻いた。一切テクニックが使えないとなれば、ひたすら耐える以外に方法がない。
 苦行だった。なにしろ相手が多い。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……んっ、ぐ!!」
 蹂躙役が追い込んだ直後、愛梨の息が上がったタイミングで根元まで咥え込ませ、食道へ直にドクドクと精液を流し込んでくる男。あるいは同じく喘いでいるところへ、舌を掴んで無理矢理口を開けさせ、扱いた逸物から白濁を浴びせかける者。そうした精飲を、ほとんど休みなく強制されるのだ。

 (コップ何杯分飲まされたの? 流石に吐きそうになってきたわ……)

 愛梨は閉口する。閉口するが、それを顔には出さない。好んで偽るタイプではないが、やろうと思えば誰よりも巧く嘘がつける。多才であるがゆえに。

 このままでは埒が明かない。愛梨の大の字拘束が解かれたのは、その消極的な理由からだった。実際には愛梨は腹が張って苦しく、満足な呼吸もままならず、あと10分も同じ状況が続けば白目を剥いて気絶していたような状態だったが、それを毛ほども感じさせないほどに演技が完璧だったのだ。
「濃くて、粘りがあって……悪くない晩御飯だったわ」
 鼻にかかった精子を指で掬い取り、美味そうにぺろりと舐める姿からは、精飲に屈しかけていたイメージなど浮かぶはずもない。
「そうかい。オメー小綺麗なツラして、本当にチンポが好きなんだな」
「大した淫乱ぶりだぜ全く。クチだけじゃ寂しいだろ、こっからはマンコにもくれてやるよ。上の口も下の口も、イヤってほど犯しまくってやる」
 アイコンタクトで意思疎通した男達が、目に怒りを滲ませて愛梨を取り囲む。指を鳴らしている者もいる。殴る蹴るのリンチでも始まりそうな空気だ。というより実際、彼らはそれに近しいことをするつもりなのだろう。倶楽部の常連をコケにした命知らずの新人相手に。
「刺激的な体験ができるなら何でもいいわよ。あたしのカラダを好きに使って、欲望を吐き出してちょうだい」
 愛梨は座ったまま脚を組み直す。腰が抜けているのを誤魔化すための所作だが、男の劣情を煽るのに抜群の効果があることは、アニメ研究会の男子達で実験済みだ。
 精神的な優位は渡さない。男など所詮、愛梨の知的好奇心を満たすための道具に過ぎないのだから。


                ※


 アブノーマルな倶楽部だけあって、会員達の輪姦はそれなりにハードだった。
 這う格好の愛梨を前後から男2人が挟み、前からは仁王立ちでのイラマチオ、後ろからは激しい後背位で責め立てる。しかも前の男は、愛梨の首を両手で挟み、気道を潰すような勢いで絞めてきた。そんな真似をされればさすがの愛梨も堪らない。
「んぐっ、うお゛っ!! ぐびゅぅううお゛っ、おおおオ゛……っ!!」
 先ほどまでの喉奥陵辱とは、えずき方がまるで違う。
 呼吸が徹底的に阻害される。脳に酸素が行き渡らず、頭が白む。

 (……あ、これ、だめかも……。意識、飛びそう……)

 白目を剥きかけ、そう思った瞬間、強い痺れが全身を襲う。それは下腹部の疼きに直結し、その疼いた膣奥を背後から激しく突き込まれる。無駄肉のない尻が波打つほどの勢いで、バンバンと。それが愛梨にトドメを刺した。
「もごうう゛う゛う゛っ!!!」
 激しく呻く。呻きながら、絶頂する。這い蹲った全身がブルブルと痙攣するほど深い絶頂だ。

 (なにこれ、すごい……! こんな酷いイカされ方、初めて……っ!!)

 止まらない痙攣の中、挟み潰された愛梨は心で叫ぶ。
 女の尊厳を軽んじるような、極めて暴力的なセックス。女の理想とする営みとは程遠いはずの陵辱。しかしそれを受けながら、愛梨は震え上がるほどに感じていた。しかし。
「お、おい、手ェ離せ! そいつ、なんかヤベェ!」
「え!?」
 横で見ていた仲間の叫びで、男は慌てて喉輪を解く。確かに危険な状態に見えただろう。酸素を絶たれた顔はチアノーゼで紫色に変わり、瞳孔は上向いた状態で固着し、鼻と口からは泡立つ粘液がダラダラと垂れている。傍目には絞殺される寸前に見えるだろうし、実際そのような状態なのかもしれない。しかし、無慈悲な首絞めが解除された瞬間、愛梨の鳥肌が立つような快感も引いていった。海の潮が引くように、あっさりと。
「首絞めんのはやめとこうぜ。よく考えりゃ、あんだけイラマしまくった後なんだ。流石にヤベェ」
「だな。でもマンコは休ませんな! もうやめてって言葉が出るまで、硬くてデケェので徹底的に掻き回してやれ!」
 男達は注意しつつも、激しく愛梨を責め立てた。正常位で、屈曲位で、座位で、側位で、徹底的に膣を犯す。そのうちにまた口が狙われはじめ、膣と口の同時責めが責めのデフォルトとなる。それらは刺激的ではあったが、首絞めの衝撃には程遠い。喉輪を解いたあの瞬間、男達は勝ちの目をも放棄したのだ。

「しかし若いな。肌が汗を弾いている。こう言ってはなんだが、娘の同級生を犯しているようで興奮するよ!」
「フフフ。もしそうだとすれば、クラスでも一番人気の同級生でしょうねぇ。なにしろこのルックスだ」
「確かに。このレベルの美少女を犯せる機会というのも中々ないですからねぇ。じっくりと味わわないと」
「貴重な機会という意味では、この娘もではないですか? これだけの人数に本気で輪姦される経験というのも滅多にないでしょう」
「だな。これを味わっちまったら、もう普通のセックスじゃ満足できねぇかもな!」
「そうに決まってんだろ。見ろよ、ヨガりすぎて涙出てんぜ。上の口からも下の口からもヨダレ垂らして、メスの匂いプンプンさせてよお! もうとっくにぶっ壊れちまってんじゃねぇか?」
 男達は愛梨を犯しながら笑い合う。しかしその軽口とは裏腹に、愛梨に余力がありそうだという認識は全員が持っていた。
「どうだ、もうじきマワされだしてから2時間だぜ? タフなお前さんでもそろそろ限界だろ? 正直に言ってみろ。つらいです、許してください、生意気言ってすみませんでしたってよ!!」
 1人が縋るような気持ちでそう尋ねても、愛梨は薄笑みを浮かべるばかり。
「冗談でしょ? こんなたるい輪姦じゃ、ちっともワクワクしないわ」
 その言葉を耳にした時の男達の顔色は、まさしく絶望した時のそれだった。そしてその表情が、愛梨の心に活力を与える。愛梨とて無尽蔵に体力があるわけではない。しかしバイタリティがある限り、何時間でも溌剌と振舞うことができた。
 男の射精回数には限りがある。輪姦役の男達が3巡もすれば、明らかに責めの手が鈍る。そうなれば攻守は逆転した。
 苦しそうな男の上に愛梨が跨り、緩急つけた膣の締めだけで男の精を絞り取りながら、左右の男を手で射精に導く。そんな場面がよく見られた。そのうち直立している男がいなくなれば、もはや愛梨の独壇場だ。
「や、やめろぉッ!! もう無理だ、もう無理ィイイいいいっ!!」
 絹を裂くような悲鳴が上がり、毛深い脚が病的に痙攣する。
「ほら、ほら! まだ硬いんだから、頑張りなさいよ!!」
 男に跨った愛梨は、杭打ちでもするようにパンパンと腰を打ち付け、男の顔を壮絶に歪めさせる。その悲劇を前に仲間達は、自分達に火の粉が降りかからないように、気絶したフリを続けるしかない。それはもはや輪姦ではなく、愛梨を満足させるための乱交でしかなかった。

「ふうっ。最後の方はなかなか楽しめたわ。強面の癖に良い声で鳴くじゃない、アンタ達」
 死屍累々のステージで、愛梨は満足げに息を吐く。潤の時も、オタク相手でもそうだったが、優位にいると思い込んでいる男をセックスで屈服させ、許しを乞わせるのは心地良い。予想外に感じてしまう場面はあったものの、やはり自分はサディストに近いのだ──愛梨はこの一幕をそう結論づけた。
 愛梨は捕食者として圧倒的だ。初日にして倶楽部を掌握しうるほどに。実際、倶楽部会員の大半はその未来を確信していたに違いない。ゆえに、プレイの締めのつもりで彼らの1人が取った行動は、最後の悪あがき……いわゆる『鼬の最後っ屁』でしかなかった。

「だいぶ汚れちまったなあ嬢ちゃんよ。ちょうど催してたとこだ、綺麗にしてやる」
 男が逸物を愛梨に向ける。そして彼は、そのまま愛梨に尿を浴びせかけた。会員達にとっては倶楽部でよく目にする、ハードという認識すらなくなった基本プレイの一つだ。事実、その行為に何気なく目を向ける会員はいても、驚く表情を見せる者などいなかった。
 ただ一人、愛梨を除いては。
「きゃっ!? あ、え? あ、あ、あああ…………っ!?」
 愛梨は頭から黄色い液体を浴びたまま、目を見開いていた。信じられない、という様子で胸を伝う小水を救い上げ、凝視し、説明を求めるように周りを仰ぎ見る。そこに演技の匂いはなかった。それまで長らく纏い続けていた余裕のオーラが、嘘のように消し飛んでいた。

 (え、なにこれ、アンモニア臭い……。…………おしっこ? あたし、おしっこ掛けられてるの? この、大勢の前で……!?)

 愛梨は困惑する。心臓が早鐘を打っていた。気が動転したことと、羞恥心。そしてそのどちらとも違う、ゾクゾクとする感覚のせいだ。
「ほおー、存外にいい反応だな。こいつまさかスカトロ好きか?」
 恨み骨髄の相手の弱みを、負けず嫌いな男達が見逃すはずもない。会員達の顔に血の気が戻っていく。
「よし決まりだ! 全員でションベン飲ましてやれ!」
「おお、やろうぜ!」
「へへへ、そうと決まりゃあビールだ! じゃんじゃん飲んでじゃんじゃん出せ!」
 1人が声高に叫べば、すぐに賛同の声が上がる。
「え、え……」
 愛梨は困惑しつつも、その流れを止められない。散々強者として振舞っておいて、今さら許しを乞うような真似ができるはずもなかった。
「おら、口開けろ」
 1人の男が愛梨の正面に立ち、薄ら笑いを浮かべたまま半勃ちの逸物に手を添える。
「………………わかったわ」
 愛梨もまた微笑んでみせ、ゆっくりと口を開く。処刑される寸前のような動悸を感じながら。
 時間が遅く感じられた。男の鈴口が開く瞬間も、そこから透明な液体が噴きだす瞬間も、そしてそれが自分の口内へ注ぎ込まれる瞬間も、全てを冷静に知覚できた。
 次に感じたのは、衝撃。まず舌の上、そして喉の奥に勢いよく水流を浴びせられ、思わず噎せそうになる。しかし噎せるより先に『匂い』と『味』が来た。鼻腔を一瞬にして満たす、鼻の曲がりそうなアンモニア臭。ビールを何倍にも濃くして科学薬品を混ぜたような、苦くエグみのある味。色はほぼ無色に近かったというのに、味はとてつもなく濃厚だ。そしてそれとは別に、舌が「これは毒だ」と訴えるようにビリビリと痺れている。最悪なのは生ぬるいことだ。出したての人肌の温度は、液体の不味さをきわめて効率よく感じさせてくる。
「あがらっ……あ、アあがっ……!!」
 次々と尿を注がれ、開いた下顎のライン近くまで液体に満たされたまま、愛梨はぶるりと身震いした。せずにいられるはずがなかった。個人としての嫌悪感だけではない。生物としての本能が、排泄物を口に入れる行為に全力で警鐘を鳴らしているのだ。
「へへ、震えてやがるぜ?」
「ド変態のヤリマンでも、流石にションベン飲まされるのは初めてなんかね? ま、Mの経験は浅そうだけどよ」
「ウチじゃこんなプレイは基本中の基本なんだけどなぁ。ウブなお嬢ちゃんには早かったかなあ?」
 BGMが鳴り響く空間でも、会員達の煽りはよく聴こえた。そんな言葉を耳にしてしまった以上、愛梨とて退けない。俯きかけていた顔を上向け、全力で『主人』を睨み上げる。
「ふーっ、だいぶ溜ってたな。まだ呑み込むなよ、そのままうがいしてみろ!」
 男は出すものを出しきった後、間髪入れずそう命じる。愛梨は一瞬ビクリと肩を震わせるが、横で嘲笑う声がするとそれ以上弱みを見せない。
「あがっ……あ゛、がらっ……がらがらがらがらッッ!!!」
 鼻をほとんど真上に向け、射殺すような視線で斜め上を睨みつけたまま、これでもかというほど明瞭に喉を鳴らしてみせる。
「ははは、すげえ根性。負けず嫌いだなあ」
「もしかして思ったより余裕なのか?」
「バカ、鎖骨の上らへん見てみろよ。太い筋がビックンビックンしてんだろ。あんだけ首が力むってこたぁ、死ぬほど嫌ってことだ」
 見透かされている。が、どうしようもない。これだけの極限状態では演技をする余裕などなかった。首元を弛緩させるなど冗談ではない。そんなことをすれば、かろうじて液体の流入を防いでいる喉奥の弁が開いてしまう。
「よし、いいぜ。飲めよ」
「っ!!!」
 笑い混じりの命令に、愛梨は目を見開く。想定していなかった命令ではない。散々恨みを買った相手から『吐き出して良い』などと甘い言葉が掛かるはずもない。それでも、その命令を実行するには並ならぬ覚悟が要った。それこそ心の一部を殺すほどの。

 ごくり。

 騒がしい空間の中、嚥下の音は愛梨の耳にハッキリ届いた。取り囲むギャラリーにも届いたかは分からないが、その代わり彼らには、嚥下する際の喉の動きがすべて見られてしまっている。
 ぶるっ、と身震いが起きる。本能による拒絶感、嫌悪感、屈辱。そしてやはり理にそぐわない、ゾクゾクとする興奮。
「へへへ、マジで飲みやがった!」
「たまんねーなあ! アイドル級の美少女が、毛むくじゃらの中年オヤジの小便器になってやがんぜ!」
「ああ、犯罪的だよこれは!」
「ふふふ、何が犯罪なものか。合意だよ、このプレイは。どうだアイリくん、飲尿プレイの感想は? キミが望んだ通り刺激的だったろう?」
 嘲笑が沸き起こり、悪意に満ちた問いが投げられる。
「…………ッッ!!!」
 愛梨は無意識に拳を握りしめた。低く見られることを何より嫌う彼女にとって、この状況は気が狂いそうなほど屈辱的だ。しかし、ここで癇癪を起こしたところで名誉は還らない。余計に嘲笑われるだけだろう。となれば意地を通す他はない。
「ええ、興奮するわ。こんな刺激は初めてよ。もっともっとご馳走してちょうだい」
 こんな責めは何でもない。自分を脅かすものではない。全力でそう装う。
 愛梨は万能だ。普段であれば、それが真実だと信じ込ませるような演技もできただろう。しかし今はあまりに動揺しすぎていた。表情筋の強張りか、肉体の震えか……どこかの不自然さを消しきれず、演技がギャラリー全員に見破られてしまう。
『この化け物のような娘に、飲尿は効くのだ』
 煮え湯を飲まされてきた者達は、皆がそう確信してほくそ笑む。
「よく言った。だったらハラいっぱいご馳走してやるよ。ほら、口開けな!」
 逸物を銃口のように構えた男に取り囲まれ、それでも愛梨は不敵な笑みを浮かべてみせた。勝機など無いことを直感しながら。

「あがっ、はああ゛あがあああッ!! あが、ゴボッ……あがらェあがらっ!!」
 声の体を為していない、うがいのような音が続く。というより実際、延々とうがいを続けている状況か。小便を流し込む男は1人とは限らない。2人あるいは3人が愛梨の美貌を取り囲み、口の中に『尿を捨てる』。そうなれば口内は常に黄色い水で満たされている状態だ。その状況では、臭気と屈辱に耐えかねて発された声は、すべて『うがい』の音と化す。
「はあご、ゴボォッ!! ううゲホッ、おごおオオォッ!!」
 いかに恵まれた肉体を持っていようと、愛梨とて人間だ。絶え間なく尿を飲まされ続ければ、噎せかえることもある。しかし逆襲の甘美に酔う男達は、愛梨の反射による行動すら許さない。
「おら吐き出すな、ちゃんと飲めよ! 喉で味わうんだよ!」
「逃げんじゃねーよ便器! 全部クチで受け止めろ!」
 慣れた様子で流暢な罵倒を浴びせつつ、愛梨の髪を掴んで正面を向かせる。
「どうだ、嬉しいか?」
 逃避行動を見せた直後にこうした質問を投げかけるのは、性根が悪いとしか言いようがない。
「ふぁ、ふぁい……」
 なおも口内に汚水を注がれながら、ただ一つ許された答えを告げる愛梨。その無様さが男達の目を細めさせる。
「そうか。だったら感謝の言葉が欲しいもんだな。せっかく総出で『聖水』をくれてやってんだからよ」
 笑い混じりのその言葉に、愛梨の眉が吊り上がる。とはいえ、彼女の意思で選択できるのはそこまでだ。
「あ……あいがほぉ、ごらいあふゅ……!!」
 自由にならない口で、本意ならぬ感謝の言葉を紡ぐ。男達の口端がますます吊り上がっていく。
「よし、よく言えた。飲んでいいぞ」
 逆らえない絶対の命令に、愛梨は膝上で拳を握りしめる。

 (殺す……! こいつら、殺してやる……!!)

 心の中で呪詛を吐くが、その恨みを保持することさえ至難の業だ。生温かいアンモニア水を口内に保持することは容易ではない。なにしろ本能が拒絶するのだ。吐き出せ、今すぐ吐き出せ、と警鐘を鳴らし続ける。そのサインを1秒無視すれば全身から脂汗が噴きだし、2秒無視すれば膝に乗せた手が凍えるように痙攣する。そうなればもはや他人を呪うどころではない。
『飲んでいい』
 その赦しに心のどこかが純粋に歓喜し、愛梨の覚悟が整うより前に喉が嚥下をはじめる。飲み下す量が量だけに、テニスボールでも呑み込むような痛みが喉に生じるが、口内の臭気が薄まったことによる幸福感がそれを凌駕する。狂っているとしか言いようのない地獄だ。
 よもやこれほどの苦痛があろうとは、と愛梨は思う。しかし、聡明な彼女をしても想像できない。下には下がある、という現実を。

「はははっ、チャポチャポいってんぜ!」
「たらふくションベン飲まされたもんなあ。ちょっとハラ膨らんでるか?」
「言われてみりゃ、最初見た時ほど脳天にくるスタイルじゃなくなってんな。くびれが甘ぇ」
 愛梨の下腹部を撫でながら笑う男達に、1人の女が近づいた。
「“それ”さあ、あーしも使っていい?」
 先ほど大の字拘束されていた時に、マッサージ器で責め立てていた女だ。一昔前の『コギャル』そのものの出で立ち。ガングロメイクとラメで装飾したその顔は、男達以上の悪意に染まっていた。器具責めを軽くいなされた件の恨みか。
「ほーう、女か。面白ぇ、やんなよ!」
 愛梨の意思に関係なく許可が出され、コギャル風の女は愛梨の前に立ちはだかる。
「寝転びな」
 その命令で、愛梨は相手を睨みつつ床に寝そべった。コギャル女はそれを面白そうに見下ろしたまま、ミニスカートを捲ってショーツをずり下ろし、ルーズソックスに包まれた脚を曲げて愛梨の顔を跨ぐ。
「ぐっ!!」
 強い臭気に愛梨は呻く。同性の性器への口づけはそもそも抵抗感が強いものだが、それにしても匂いがひどい。ほのかな甘さすら感じた麻友の割れ目とは天と地の差だ。
「は? 何その声? やめてよね、あーしのアソコが臭いみたいじゃん。そりゃさっきまで向こうでハメてて、そのあとマンコ洗ってないけどさあ。あ、そーだ。せっかくだからさあ、マンコ舐めてよ便器女! シッコ出そうで出ない感じだし、ザーメンとかマンカス入りのシッコ飲まされんのも嫌っしょ? 4回も中出しされてマンコカピカピだからさあ、全部舐め溶かして綺麗にしてよぉ」
 コギャル女は愛梨の顔に性器を押し付けたまま、露悪的なまでの汚言を吐き散らす。そのあまりに明け透けな言葉に男達は苦笑すらしていた。だが当事者の愛梨となれば笑い事ではない。両の拳どころか足指すらも握り込み、ギリギリと奥歯を噛み締める。しかしいくら不服であろうと、結局は命令に従うしかない。
 ぴちゃ、ぴちゃ、と音がしはじめ、ギャラリーから歓声が上がる。
「ひひ、マジで舐めてやがる。あのガングロ女のクサマンをよぉ」
「ドブのような匂いがここまで漂ってきますなあ。ああいう女性に限ってクンニリングスを好むのは不思議なものです」
「コンプレックスの裏返しでしょう。特にこういう場面には打ってつけだ」
「しかし、レズSMってのも興奮するもんだな。イジメっぽいのがたまんねーぜ!」
「やられてる方のツラがいいってのもミソだな。ありゃスクールカーストの頂点か、高嶺の花すぎてカーストに組み込まれてすらいねーレベルだろ」
「ふふふ、あまり持ち上げなさるな。この倶楽部に来た時ならばともかく、今やアレは私たちの小便器だ。アンモニア臭漂う便器を賞賛するなど、滑稽ですぞ」
「ははははっ、確かにそうだ!!」
 ギャラリーが言いたい放題喚く内容を、コギャル女は微笑みながら聞いていた。しかし彼女は演技下手だ。性器の匂いに言及され、愛梨の容姿が褒められれば、その度に眉根に皺が寄る。
「あははは! 気持ちいいよお『便器ちゃん』! どんだけ整形で弄ったか知んないけど、男に媚び媚びのブスでも一つは長所あるもんね。ブスのビデ、ブスビデってとこかな。いいよおいいよおブスビデ最高ォ!!」
 コギャル女は当てつけのように叫びながら、愛梨の顔にグリグリと性器を押し付ける。愛梨とすれば堪ったものではない。

 (なにが整形よ! ふざけないで!!)

 憤りと息苦しさから、相手の太腿を押し上げようとするが、その手を爪で引っ掻かれる。
「触んじゃねーよ、ヤリマン便器が」
 先ほど男に聞かせていたものとは違う、ドスの利いた声。そうした二面性は愛梨がもっとも軽蔑するものだ。
「んむっ、うぶっ!! うむうう……ハアッ、ハアッ、ハアッ、うぶっ!!」
 同性の陰部を舐めさせられる屈辱、耐え難い臭さ、そして息苦しさ。それらが愛梨を追い詰める。意地でも無反応を通したいところだが、意思とは無関係に足がばたついてしまう。それが笑いの種になるのだから、まさに地獄だ。
「鼻息やべー。こいつ、あーしのマンコ舐めて興奮してんだけど。犬かよ!」
 コギャル女は下劣な発言で場の笑いを取りつつ、愛梨への嫌がらせを繰り返す。目に見える範囲では、愛梨の豊かな乳房を揉みしだき、屹立した先端を千切れんばかりに捻り上げるのがそうだ。だが、見えない場所ではもっとひどい。腰の位置を微調整しながら、肛門を愛梨の鼻に押し当て、そのまま屁を送り込む。さすがに狙ったわけではないだろうが、ちょうど愛梨が息を吸うタイミングと重なった。しかも音がしない代わりに、格別に臭気の強い『すかし』の放屁だ。
「んぶッ、わあああ゛あ゛っ!?」
 愛梨は全身を暴れさせる。不意打ちの悪臭に無反応でいられるはずがない。しかしその理由を知る由もないギャラリーは、愛梨が前触れもなく発狂したようにしか見えず、その滑稽さに腹を抱えて笑う。そしてそれは主犯である女も同じだ。 
「ああーヤベ、こいつのベロ思ったよりイイわ。っつか、マジで感じてきた。よすぎてシッコ出そう。ねえ聴こえてる? そろそろだよ? もう出すから零さず飲みなー、『ブスビデちゃん』!」
 コギャル女は心から愉快そうにそう語ると、僅かに腰を浮かせて太腿を引き締める。
「それじゃ入んねーよ。もっとアゴ開け、ウスラ馬鹿」
 愛梨にだけ届くドスの利いた声で呟き、愛梨が屈辱を押し殺して限界まで口を開いたのを見届けると、何のためらいもなくその中に放尿しはじめる。
「おー、出る出る出る……」
 心地よさそうな声が物語るように、放尿の勢いは強い。見事に黄一色の汚水が、視認できるレベルの湯気を立ち上らせながら、白い歯の間に注ぎ込まれていく。よほど溜め込んでいたのか量も多く、口内だけでは収まらない。開いた口の端から壊れた蛇口のように溢れ、愛梨の髪の下に黄褐色の液溜まりを作っていく。

 (か、髪の毛が……っ!!!)

 今さらアンモニアの匂いや味では動じないが、女の命である髪がそれに染まっていくのは看過できない。視られることが生き甲斐な人間として、艶やかな黒髪の手入れには人一倍の気を遣っているのだ。
「うはっ、すご。どんどん拡がってってる。零してごめんねー便器ちゃん、膀胱パンパンだったっぽい。でもこんな出たの、半分は便器ちゃんのせいだよ? あんな犬みたいにハーハー鼻息かけられながら、変態っぽくベロンベロン舐められたらさあ、こっちも変な気分になっちゃうって! 正直、途中から引いちゃってたもん」
 蛮行の責任を愛梨に押し付けながら、女はケラケラと笑う。笑いながらも、その手は悪意に満ちていた。左手で愛梨の顎を抑え、尿を呑み込めないようにしているのだ。
「あ、あがッ……がッ……!!」
 愛梨は目を見開いて抗議する。本能の警鐘はとうに打ち鳴らされていた。1秒無視すれば全身から脂汗が噴きだし、2秒無視すれば手が痙攣する。今はその先の先の段階、過呼吸が起きて脳が意識を断とうとしかけている状態だ。
 おそらくコギャル女は、女特有の勘で愛梨の状態を察している。察した上でギリギリまで追い詰めているのだろう。
「苦しそうねぇ。もうゴックンしたい?」
 女は愛梨の上体を引き起こしつつ問いかけた。すでに意地を張れる段階ではない愛梨が頷くと、女は勝ち誇ったような笑みで言葉を続ける。
「いいよ飲んで。ただしその前に、最後のパフォーマンス。そのいっぱいの尿を、口の中でグチュグチュしてみてよ!」
「あ、え……っ!?」
 あまりにも残酷な命令。尿を口へ溜めておくのが限界という状況で、口を濯げという。その辛さは明白だ。しかし愛梨に選択肢はない。命じられた通りに頬を膨らませたまま口を閉じる。
「うぶっ!!」
 いきなり限界が訪れた。口内を密封することで、耐え難いアンモニア臭が直に鼻腔を直撃したのだ。その辛さはうがいをさせられた時の比ではない。
「まだ吐いちゃだめだよ。吐いていい時はいいって言ったげるから、それまでグチュグチュ続けときなー。はい、スタート!」
 女はそう言って手を打ち鳴らす。
「ウ、ウグッ……んブッ!! ふーっ、ふーっ……ううう゛!!!」
 命令通り口の中を濯ぎながら、愛梨は何度も噎せ込んだ。限界ラインは明らかに超えている。超人的な肺機能を誇る愛梨の120%……常人ならとうに気絶していてもおかしくない。噎せるたびに口と鼻から尿が漏れる。特に鼻から漏れる分は、とろみのある鼻水と相まって長い糸を引きながら垂れていく。
「ううわ、鼻水ヤッバ。アンタさあ、そんなアイドル風の整形までしてチヤホヤされかったんでしょ? だったら、そういうのヤメた方がいいよ。女捨ててるようにしか見えないもん。同じ女の子だからこその忠告だけどさ、今のアンタ、マーッジでキモいから!!」
 愛梨の顔を覗き込みつつの罵詈雑言。不特定多数の前でのその面罵は、愛梨の余裕をいよいよ削り取る。愛梨はそれでも意地を見せた。苦しみながらも、ぐちゅぐちゅと口内を濯ぎ続ける。10秒、15秒と。しかし、それは虚しい努力だ。愛梨がどれだけ奮闘しようと、女が嚥下の許可を出すことはない。初めから限界を迎えるまで続けさせるつもりなのだろう。
「ウブッ、ぶふううっ!!」
 愛梨はまた噎せ返る。今度の決壊は致命的で、鼻と唇からかなりの尿が噴きだした。
「オイ、出すなっつってんじゃん!!」
 コギャル女は苛立たしげに叫ぶと、愛梨の口を手で覆う。しかし愛梨の咳き込みは止まらない。噎せた時に少量誤飲した分が、悪くして気管に入ってしまったらしい。
「ぐぶっ、ごほっ!! ごぼっ、えおおおほぉほッ!!」
 女の手の中で何度も噎せ返り、ついに愛梨は涙すら流す。
「ハハハハハッ、とうとう泣きだしたぜあのガキ!!」
「あの地獄じゃ無理もない。とはいえ、自業自得という感じだけどね」
「そうそう、自業自得。女なんだから淑やかに……とまでは言わねぇが、ああ男をコケにしちゃ潰されても文句いえねーよ!」
「つっても潰してんのは俺らじゃなくて、あのクサマン女だけどな!」
「確かに。餅は餅屋、女潰すには女ってことでしょうかね」

 頭が白みはじめる中でも、ギャラリーの視線と言葉はハッキリと感じ取れた。地獄だ。彼らの言う通り、これは地獄だ。

 (……死にたい……!! いっそ、死んじゃいたい……っ!!!)

 愛梨はついにその考えに至る。自分こそが世界の中心、この世界は自分を楽しませるために存在するとさえ考えてきた彼女が、その人生の終わりを望んだのだ。まさに極限状態。
 しかし、その中で愛梨は、またしても違和感に襲われる。
 熱い。膣の奥が、グツグツと煮立つように熱い。この尊厳を磨り潰される極限状況下にもかかわらず、場違いに熱く蕩けている。
「うわ、こいつ白目剥きかけてる。はー……じゃあいいよ、もう飲んで。ほらー、飲めって。皆に見てもらいながらゴックンしなよ!」
 コギャル女は愛梨の口を押えたまま、その顔を上向かせる。
「むっぐウウうっ……!!」
 愛梨から呻きが上がった直後、垂直になった喉が動きはじめる。その動きと、ごぐんっ、ごぐんっ、という重苦しい音が、同性の尿を胃に落としている現実を知らしめる。
 その様子を衆目に晒しながら、コギャル女はまたしても悪戯を始める。空いた右手を膝立ちになった愛梨の秘部に伸ばし、刺激し始めたのだ。目的はただの嫌がらせでしかなかった。愛梨の脚が内股に閉じ、惨めさが増せば儲けもの……その程度の狙いだった。
 ところが。指を沈めた瞬間の感触とぐちゅりという音に、女は目を見開く。
「……え?」
 思わずそう呟き、さらに指を蠢かす。しっとりと濡れた膣襞が指に吸い付き、ぬじゅりと水音を立てる。
「ね、ねえ! こいつ、濡れてる! マンコ濡れてる! この状況で、アタシのシッコ呑まされながらっ!!」
 女は嬉々として叫んだ。鬼の首でも取ったように。彼女はそれほどに高揚しているのだ。
 これまでの辱めは、本当の意味で愛梨を貶めたわけではない。こよりで鼻腔を弄ってくしゃみをさせた、という悪戯と大差ない。そう仕向けた人間が悪いと言われればそれまでだ。しかし、今は違う。この一連の行為は、愛梨を興奮させるためにしたわけではない。人前で同性の秘部を舐めさせられ、尿を呑まされる……その屈辱的でしかないはずの行為で、愛梨が『勝手に濡れた』のだ。
「ねえ、聞いてよ! ほら、グチュグチュいってる! マン汁どんどん溢れてきてる! こいつ、興奮してたんだよ、今ので! あーしのションベン飲まされて! あははははははっ!! オマエさ、お前、ほんっとアタマおかしいよ!?」
 コギャル女は嬉々として愛梨を詰り続ける。憎い相手の弱みを握ったことが嬉しくて仕方ないらしい。だが実際、その弱みは決定的なものだった。同じく愛梨にやり込められ、些細な恥辱をあげつらって野次り続けていた男達は、明かされた愛梨の弱点に沸きに沸いていた。

 (な、なんで……なんでまた、こんな状況で濡れるの……!?
  おかしい、おかしい、おかしい! こんなの、おかしいわ!!)

 愛梨は混迷の中、為すすべもない快感に呑まれていく。恨み骨髄の女の指で秘裂を掻き回されながら、アンモニア臭の満ちる顔で天を仰ぎ、それ以上に背を反らし────

「うむ、むっ!! うむううううううーーーーっっ!!!」

 不自由な呻きと共に、盛大に潮噴きに至る。最後の瞬間まで相手の手を外そうと藻掻いていたようだったが、それも叶わず。脱力したその手は、自らを瓦解させた怨敵の手に、甘えるように添えられていた。


                ※


 飲尿プレイは、愛梨に一矢報いるための余興のはずだった。しかし、愛梨がまさかの弱みを見せた以上、それでお開きとはならない。反抗的な奴隷を躾けるため、心が折れるまで追い込む……それが倶楽部会員達の決定だ。本来ストッパー役であるはずの倶楽部スタッフも、この件には口を挟まなかった。来訪初日にして女王となりかけた愛梨は、倶楽部側からしても、場の秩序を乱す危険因子と判断されたためだ。

「……ひひひひ、なんだこりゃ? ちっと外してる間に、ひでぇザマになってんなあ!」
「俺らの力作よ。マゾ奴隷らしくなったろ?」
 会員達が酒を片手に笑い合う。その言葉通り、愛梨は惨めな姿に変えられていた。
 まずは、顔だ。鼻は計5本のフックで鼻腔が角ばるまで拡げられ、口はマウスオープナーで歯茎を剥き出しにさせられている。
 身体も酷い。腕は頭上で拘束帯を巻かれ、両の腋を晒すがまま。屹立した両の乳首とクリトリスはクリップで挟み潰され、金属製の重しで下方向に引き延ばされている。それらに加え、まるでトドメだとでも言わんばかりに、色とりどりのマジックで体中に卑猥な言葉がびっしりと書き殴られていた。
 よほどの恨みか悪ふざけの結果に見える。実際そういう側面もあるだろう。しかしここまでエスカレートしたのは、そうしなければ愛梨の魅力を殺しきれなかったからでもある。奴隷の定番、鼻フック一本では話にもならなかった。元が完璧すぎるゆえに、少し崩したことでかえって親しみの持てる顔になった。歯茎を露出させても、理想的な歯並びのせいで芸術的な雰囲気が拭えない。そうした試行錯誤の果てが、この嫌がらせのような装いなのだ。
 今は愛梨を鏡の前に立たせ、自分の変わり果てた姿を視認させながら、延々と指責めを施している。責め役は先ほどのコギャル女だ。同性だけに女の性感帯は熟知しているようで、ポイントを外すということがない。愛梨は指責めが始まってから1秒足らずで、長くはもたないことを予感した。
「アンタ、ほんとに変態なんだねー。こんだけイジメられてて、マンコトロトロになるなんてさあ。あーしだったら濡れないなー。こんなのムードもクソもないじゃん?」
 コギャル女が囁きかける。愛梨の秘所からは、ぐちゅぐちゅと水音が立っていた。腰を深く落とす姿勢で小一時間も指責めを受けている愛梨の脚は、今や片時も痙攣が止まらない。
「あ、奥の方ヒクヒクしてきた。またイキそうなん?」
 そう囁かれ、愛梨は足元のコギャル女を見下ろす。コギャル女は意地の悪い瞳でその視線を受け止めながら、愛梨の胸に手を伸ばした。マウスオープナーで強制的に口を開かれている愛梨は、興奮による涎を留めることができない。当然、涎は胸元へと垂れるが、女はその涎を愛梨の乳房に塗り伸ばしているのだ。惨めさを強調するように。
「ああっ、ア゛っ!!」
 愛梨から呻きが漏れる。抗議の叫びか、あるいは単にショックの声か。いずれにせよその声の直後、女の指で開かれた膣内から大量の蜜が溢れ出す。
「お、出てきた出てきた。はーい、スペシャルドリンク溜まったよぉ!」
 女がそう言って、愛梨の股下にあるカクテルグラスを高く掲げる。愛撫で分泌される愛液を受けていた器だ。
「15!」
「17!」
「22!!」
 すぐに競りが始まる。アイドル級のルックスを誇るティーン少女の愛液には、初手から十万円台の値がつく。結局この時は31万円で落札され、落札した中年男はグラスの中身をすぐに飲み干した。愛梨の目の前で、ゴクゴクと喉を鳴らして。
「………………!!!!」
 当然、愛梨は男を睨む。親の仇でも見るような眼光の鋭さだ。だがその一方、同性の指で弄られる秘所の音は増していく。グチュグチュグチュグチュと凄まじい音が響き渡り、そのうちに愛梨の落書きだらけの身体がぶるりと震え上がる。
「アッハ、イってるイってる、すんごい締めつけ。あーしの指はチンポじゃないっつってんじゃん。キモいから腐れマンコでしゃぶんじゃねーよ!」
 その言葉でステージに笑いが起こる。
「ハーッ、ハーッ、ハーッ……!!」
 愛梨は荒い息を吐きながら、じっと前を睨み据えていた。その心中は本人にしか分からない。目尻からゆっくりと頬を伝っていく雫が、涙か汗なのかさえも。

「だんだん眉が下がってきたじゃん。自分の立場が分かってきた?」
 愛梨を見下ろし、コギャル女が問いかける。愛梨は答えない。答えられない。マウスオープナーが外されていない以上、まともな会話など不可能だ。そしてコギャル女には、人としての権利を愛梨に戻すつもりはないようだった。
「指だけじゃ寂しそうだから、そろそろチンポもあげるよ。オモチャのだけど。でもアンタ、我儘だからねー。『たるいセックスじゃ満足できない!』だっけ。そんなこと言ってたから、ちょーっと刺激を足したげるよ」
 コギャル女はそう言ってビニール袋を漁り、何かを取り出す。卵型の道具。おそらくはローターの類だろうが、一般的な製品とは大きく違う点があった。表面がイボのような突起でびっしりと覆われている点だ。
「むあっ!?」
 愛梨が声を上げる。彼女は瞬時に理解したのだ。その異物の使われ方、そしてその刺激の強さを。
「ふふ。コレすっごいよー? あーしの3番目のカレがこれ好きだったんだけどさ、これ4個入れたままデートしたら、ずっとガニ股でしか歩けなかったんだ。股閉じたらイボイボが襞に食い込んでさ。あれ恥ずかったなー」
 女はその不穏な発言で愛梨の顔を強張らせつつ、異物にローションを垂らしかける。そしてそれを、ゆっくりと愛梨の割れ目に埋め込んだ。無論、一つだけではない。二つ、三つ……計六つ。それだけ入れ終えた後、コギャル女はローターのスイッチを六つ分掴み出す。
「馴染むまではマンコ締めない方がいいよ。マジ襞に食い込んでくっから」
 コギャル女はそう忠告し、スイッチを一つずつ押し上げていく。
「はが、あっ……!!」
 愛梨から呻きが漏れ、腰が揺れる。その反応はスイッチが入れられるたびに増していく。
「ほーら、暴れないの」
「じっとしてなー、ブーちゃん」
 2人の女が愛梨に呼びかける。コギャル女のサポートを買って出た女性会員だ。愛梨はこの2人に足首を掴まれ、惨めな『マングリ返し』の格好を取らされていた。
「アハッ、すご。マンコヒクヒクしてる」
「たまーに中見えるね。あの紫のがさっきのヤツでしょ?」
「そそ。いくら6つ入れたからって、フツー見えないけどね。さっき指でほじくりすぎて、ユルマンになっちゃったかも」
「めっちゃ手マンしてたもんねー。隣のブースでもクチャクチャ聴こえてたよ」
「ね、音すごかった。こいつも感じまくってたしさ。脚ブルブルさせてマン汁撒き散らして、うわあ終わってるわーってドン引きしてたよ」
「いやドン引きしてないで代われし。あーしの肘にまでマン汁垂れてきて、マジキモかったんだから!」
 女3人は、文字通り姦しく語り合う。その中心で謗りの的となっている愛梨は、頬を染めながらも3人の顔を睨み上げていた。
「うわ何? メッチャ睨んでる」
「何ってそりゃ、欲しがってんでしょ。焦らしてないで突っ込んでくれーってさ」
「あー、確かにヤリマン思考じゃそうなるか。最初に慣らさせたげよーなんて考え、『たるい』よね。コイツ的には」
 愛梨の思惑を恣意的に歪め、コギャル女は次の責めの準備に入る。愛梨に背を向けたまま何かを掴み上げ、足を開いて前屈みになる。それを正面から見る男達から歓声が上がったが、愛梨にとっては嫌な予感しかしない。
「じゃーん」
 コギャル女は振り返り、自らの姿を愛梨に晒す。先ほどまでとの違いはただ一点。股間部分にペニスバンドが装着されている点だ。ただし、こちらもまた凡庸な代物ではない。本物の男性器と比べても小さくはないサイズだが、問題はそこではない。ペニスバンドの先端、男性器でいう亀頭部分が大きく膨らみ、そこから円錐状の棘が突き出ているのだ。
「きゃーっ!!」
「ううわ、エッグ!!」
 足を押さえる女性会員が黄色い声を上げた。一方、愛梨の顔は凍りつく。
「あ……あに、ふぉれ……!?」
「何って、お前のパートナーに決まってんじゃん。刺激が欲しいんでしょ? これでアンタのマンコ、グチャグチャにしたげるよ」
 コギャル女は責め具の先を愛梨の割れ目へと近づけていく。先端の棘は柔らかいゴムでできており、粘膜を傷つけることは有り得ない。しかし、そんな情報は与えない。棘に触れさせて理解させることもしない。
「最初がキツいよ、覚悟しなよー?」
 言葉で煽り、腰の動きで入れるぞ入れるぞと脅しをかけた上で、一気に突き入れる。
「もがアアアアアッッ!!!」
 ハッタリの効果は絶大だ。奥まで一息に突き込まれた瞬間、愛梨は背を仰け反らせて悲鳴を上げた。
「はがっ、あがっ、もああっ!! おもああああっ!!!」
 コギャル女がピストンを始めれば、それに呼応して不自由な呻きが漏れ、すらりとした脚が暴れ回る。

 (入った……入っちゃった、あんなトゲトゲのが!
  この擦れてるのは何!? さっきのイボ? それともトゲ?
  擦れてる、削られてる! 本当にあそこを、グチャグチャにされちゃう……!)

 実際には柔らかなゴムでも、視覚で凶悪だと誤認してしまえば、粘膜を軽く擦られただけで削られていると錯覚する。その焦りと恐怖が、愛梨の皮膚感覚を剥き出しにする。

 (なんなのこれ、凄すぎる!! こんな酷い物、誰が作ったの?
  女を嬲る趣味の男? それともまさか、刺激が欲しい女!?
  しかもこの女、こんな物をガンガン突っ込んできて、笑ってる……!!)

 イボつきのローターに、トゲ付きのペニスバンド。そんなものを作った人間、それを自分に使おうとする人間、どちらにも興味が尽きない。悶え苦しむ中でも好奇心が沸き立ち、鼓動を早める。意識が膣の中に集中し、強すぎる刺激を何倍にも感じさせる。
「え、えぐっ、ぇえぐうううううウッッッ!!!!」
 そう叫びながら首を仰け反らせた瞬間が、分水嶺だった。そこから愛梨は、コギャル女に突き込まれるたびに膝下を折り曲げ、激しく潮を噴くようになる。びゅっ、びゅっ、びゅっ、びゅっ、と断続的に、かなりの量を。
「う、うわ、うわ!! いきなり何なのコイツ!?」
「ええええ!? ど、どうなってんのコレ!? あのトゲでどっかの筋とか切れちゃって、尿道バカになったとかじゃないよね!?」
 足首を押さえる2人は、急に激化した愛梨の反応に狼狽える。尋常な力ではない。両手で脚を抱え込んでも、上半身ごと前に持って行かれる。
「確かにリアクション凄いねー。多分こいつ、顔が良くてこのスタイルだから、ずっとチヤホヤされて生きてきたんだと思うよ。だからこういうのに慣れてなくてパニクってんでしょ。世間知らずのお嬢様がビンタされて泣いちゃったー的な?」
「あ、それあるかも。なんか最初っからアタシ可愛いでしょオーラ凄かったもんね」
「分かる。新顔のくせに超エラそうだったもんね。泣いちゃったお嬢様説あるわー。そう思ったらなんか腹立ってきた。おら、もっと楽しめよ変態!」
 女3人は内輪で話を完結させ、より苛烈に愛梨を責めはじめた。コギャル女は前傾姿勢になり、角度をつけて深々と愛梨の中を抉る。他の2人は、深い挿入で激しく反応する愛梨の脚を力でねじ伏せ、愛梨の叫びを悲痛にさせる。

「はっ、はっ、はっ、はっ、はっ、はっ……!」
 女3人に心ゆくまで嬲られ、ようやく解放された時、愛梨は尋常な様子ではなかった。見開いた眼は虚空を凝視したまま瞬きも忘れ、息は動物のように短く荒い。大量の潮と共にイボ付きの異物を吐き出した恥部は、縦にした手がそのまま入りそうなほどぱっくりと口を開いている。
 異様な有様だ。平素なら、年若い少女がそこまでの状態になっていれば、誰かしらがプレイの中止を申し出たに違いない。医者に見せた方がいいという意見さえ出るだろう。しかしこの日は、全員が狂気に呑まれていた。
「へへへ。ハードなレズプレイを拝んだおかげで、すっかり回復したぜ」
「俺もだ。ザーメン袋がパンパンだ」
「考えることは皆同じようですねぇ。では今日のラストイベントといきますか!」
 男達は性器を扱き上げ、改めて愛梨を囲む。負傷した仇敵に刀を振り上げる野武士の如く。

 再びの輪姦が始まった。ただし、一度目とはいくらか条件が違う。目に見えて効果的だったコギャル女の責めにあやかり、異物挿入を併用する。用いられたのはアナル開発用に常備されている玉蒟蒻だ。それを各々が好きなだけ愛梨の膣へと詰め込み、厚手のペニスサックを装着して犯す。
 やはりというべきか、この手法は効果的だった。一人掛けのソファに仰向けで拘束された愛梨は、突き込まれるたびに太腿を跳ねさせた。それは数時間前にやり込められた男を悦ばせ、跳ね上がる太腿を押さえつけながらのレイプという地獄を生む。
 しかもこの時の愛梨は、下半身だけに意識を向けられる状態ではなかった。膣を『使う』男の正面では、また別の男が愛梨の口を『使って』いた。未だに開口具を外されていない愛梨には、喉奥への侵入を防ぐ術がない。
「ゴエッ、オオ゛エ゛ッ!! ほぉエ゛っ、ぁオオエ゛エ゛ッッ!!」
 自主的なディープスロートの時とはまるで違うえずき声が、ピストンの度に響き渡る。これもまた、苦い経験をした男の心をよく満たした。悪意をこめて復讐を図る。首を絞めたまま喉奥を犯せば、愛梨は鼻水を噴きながらゲホゲホと噎せた。奥の奥まで咥え込ませた状態を数秒キープし、愛梨が噎せ返ったところで逸物を引き抜けば、色のついた吐瀉物が髪の生え際にまで垂れ落ちていく。
「さっきより濃いのをくれてやる、全部飲めよっ!!」
「こっちもそろそろだ! スパートかけるぜ、俺と一緒にイけ!!」
「ごぼっ、ほぉごごごっ!! おもっ、あごおおおおおーっ!!」
 前後から同時にラッシュを掛けられ、愛梨は喉と腰を痙攣させる。前後同時の射精の後、口から抜かれた怒張には精液の混ざった太い糸を引かせ、膣からペニスサックが引き抜かれれば潮と共に玉蒟蒻を飛散させる。これが一組目。そしてこれと同じような陵辱が、ステージ序盤で恨みを買った分だけ繰り返される。

 愛梨も完全に心が折れているわけではなかった。あまりにも乱暴に突かれたり、喉奥で吐かされたりすれば、恨めしげに相手を睨み上げる。しかし逆レイプの恐怖を払拭しつつある男達にとって、その気丈さは加虐心を煽る種でしかない。
「いい眼だ、そのまま睨んどけ! オラ眼ぇ離すな、逃げるんじゃねぇぞ! ……へへへ、なんだだらしねぇ。また吐きやがたぜコイツ」
「君、もっと締めつけたまえ。こんな調子ではいつまで経っても終わらんよ?」
 口々に煽りながら、愛梨を追い詰めていく。全員の傷ついたプライドが癒えるまで。

 そこから、何時間が経っただろう。
「……なんだ、とうとうヘバったか?」
 ぐったりとした愛梨を見下ろし、男達が笑う。愛梨の姿は悲惨の一言に尽きた。床に引き倒されてからも散々に『使われた』彼女は、潰れたカエルのような格好だ。
 うなじから足指の間に至るまで、人の体液に塗れていない箇所はひとつもない。びっしりと書かれていたマジックの落書きが局所的に消えているのは、脂ぎった中年男に繰り返し肌をこすりつけられたからだ。開口具を取り去られてもなお閉じない口は、顎の力がすっかり失われているせいだろう。
「いやぁしかし、台風のような娘でしたなぁ!」
「はははは、言い得て妙ですな。最初の頃の勢いには正直圧倒されました。下手に声をかけると根こそぎ搾り取られてしまいそうで、怖かったですよ」
「あ、アナタもですか?」
「皆そうだったろ。けどこいつ、ションベンぶっかけられた辺りから一気に雑魚に成り下がったよなぁ」
「あー、ありゃ驚いたぜ。最後っ屁のつもりだったんだがよ。次からもスカで責めるか?」
「いいかもな。おいマゾブタ、次はもっとハードに可愛がってやるからよ、逃げんじゃねぇぞ?」
 倶楽部の会員達は口々にこの夜を振り返り、愛梨に声を投げかける。愛梨がそれに反応を示すことは殆どなかったが、ただ一言、『逃げるな』という言葉にだけはピクリと指を動かした。それを見て会員達はほくそ笑む。この極上の獲物でまだ楽しめるらしい。ならば次は、どんなプレイで啼かせてやろうか……そう妄想を膨らませながら。


「お疲れさまでした。ハードなプレイが続きましたね。お披露目の初日からあれほど注目の的になった『奴隷』は、君が初めてかもしれません。この倶楽部の人間はアブノーマルな行為が好きですが……いえ、だからこそ、最初は慎重に様子を見るのです。よほど特別な相手でない限りね」
 服を着直している愛梨に、VIPの男が語りかける。
「……見てたの?」
「ええ、全てを」
「ふーん、そう」
「助け舟を出すべきでしたか?」
「まさか。私が選んだ道よ、余計な手出しは要らないわ。……それはそうと、あなたには何かお礼をしないとね。この倶楽部を紹介してくれた恩があるもの。何かしてほしいことはある? デートでもセックスでも、大抵の事なら受け入れるわよ」
「いえ、私は見ているだけで十分ですよ。強いて言うなら、これからも君のことを見守らせてください。宝石のような君が、自分の本性に気が付いていく未来が楽しみなのです」
 にこやかに答える男の言葉に、愛梨は眉を顰める。
「……本性? あたしの本性がどういうものか、あなたは知っているの?」
「見当はつきます。色々なタイプの女性を見てきましたから」
「じゃあ……!」
 愛梨がそう言いかけたところで、男は首を振る。
「教えませんよ。それは自分で見つけるしかないのです」
 男にそう諭され、愛梨は言葉を呑み込んだ。
 目の前にいるこのVIPの男とは、長い付き合いではない。性的倒錯者の集まるサイトを経由し、ついこの間メールのやり取りを始めたばかりだ。そんな彼が本当に愛梨の本性に気付いたというならば、そのヒントは今日のプレイの中にある……ということになる。
 愛梨はこの一日を振り返った。
 忘れられない場面はいくつもあるが、分岐点となったシーンはただ1つ。頭から小水をかけられた瞬間だ。あの瞬間、愛梨の中に亀裂が入った。その直前まで圧倒的優位な立場にあったというのに。

 (じゃあ何? 頭からおしっこを掛けられて興奮するのが、あたしの本性だっていうの? ……馬鹿馬鹿しい!!)

 納得などできない。できるはずもない。
 あの行為は、愛梨に負けた人間の苦し紛れの反抗だろう。小便をかけた男自身も愛梨の反応に驚いていた以上、意図していなかったのは明白だ。ボクシングに例えるならば、完全試合を達成しかけていたその矢先、闇雲に振り回した相手の拳が偶然顎に入って逆転負けしたようなもの。それが自分の実力だと言われて、素直に受け入れることなどできるはずもない。
「納得がいっていない、という様子ですね」
「当然よ、納得なんてできないわ!」
 愛梨は眉を吊り上げて叫び、肩を怒らせながら歩き去る。その後ろ姿を目で追いながら、VIPの男はクスリと笑った。
「本当に気が付いていないのか、あるいは薄々勘づいていながらも受け入れられずにいるのか……。君はどちらだと思いますか?」
 男がそう尋ねると、近くにいたコハルが視線を上げる。
「わからない。あの子は私ではないから」
「……やれやれ。ここにも強情な娘がいましたか」
 男は歳の近い2人の少女を見比べながら、面白そうに目を細めた。



 
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