大樹のほとり

自作小説を掲載しているブログです。

禁忌のステーキソース・パスタ

※久々の飯を食うだけ小説です。


「……とにかくね、すっごい変なの、あのレストラン!」
その締めの言葉を聞いて、やっと俺は、優貴のジェスチャーが『すっごい変』を表していたことに気付く。よさこい踊りでもなければ、俺を呪っていたわけでもないらしい。

優貴が熱く語るレストランの名前は、『A Rank × B Rank』。一流の料理と二流以下の料理を掛け合わせ、フランクな満足感を与えるとかいう、よくわからないコンセプトの店だ。
メニューは日替わりの一品のみ、価格帯もまちまち。先週オープニングセールに乗じて優貴が行った時には、『フカヒレと金華ハムをあしらったラーメン』が出てきたそうだ。正直ゲテモノにしか思えないが、優貴的には相当イケたらしい。つまりは高級食材を使ったB級グルメか、嫌いじゃない。
でも。いざ店の前に行き、『本日の予算 4,000円』の看板を見た時には、少し腰が引けた。美味いという確証もない店に、そうそう使える額じゃない。後ろから猛烈な勢いで押してくる彼女がいなければ、数秒で踵を返していたところだ。

恐る恐る足を踏み入れたレストランは、案外ちゃんとしていた。シャンデリアが照らす空間に、真っ白なクロスの掛けられたテーブルが並び、畳んだナプキンなんかも置かれている。壁には絵画も掛かっていて、俺のような庶民の目には充分高級レストランに映る。
「ふわぁ、今日はこういうのなんだ……」
優貴の呟きからすると、前に来たときはまた雰囲気が違うらしい。
先客はすでに何組かいて、格好はフォーマルからカジュアルまで色々。少し失礼かもしれないが、まさに一流から二流まで、という雰囲気だ。
「お客様。こちらへどうぞ」
入口近くで突っ立っていると、中央あたりの席を案内された。白いテーブルクロスに置かれた銀のカトラリーは1セットのみ。これが3セットも4セットもあるとそれだけで混乱してしまうから、ありがたい。

「食前酒にシェリーとキールをお選びいただけますが、どちらになさいますか」
渋い声でそう尋ねられるが、そもそもどっちも知らない。
「キールで!」
悩む俺とは対照的に、正面の優貴がキッパリと答えた。これは意外だ。子供っぽい見た目のくせに、案外酒を知って……
「で、キールってなに!?」
ウェイターが踵を返した直後、優貴が俺に囁きかける。まあ、解ってはいた。解ってはいたが、なぜ知らない酒を自信満々に頼むんだ。さすがは大学のサークル仲間から、『愛嬌だけで世を渡る女』と呼ばれるだけはある。もっとも、その愛嬌にほだされて付き合い、挙句こんな所にまで駆り出されている俺が偉そうに言えたことでもないが。

キールとは、ショートドリンクに分類されるカクテルの一種で 、白ワインに少量のカシスのリキュールを加えたものを言う。らしい。もちろん出展はウィキペディアだ。
そうと判った上で運ばれてきたグラスの中身を飲んでみれば、確かにカシスらしい味がする。白ワインの爽やかな酸味も相まって、胃が開いていく感じがする。なるほど、これが食前酒か。そう感心しつつグラスの中身を空けたころ、早くもメインディッシュが運ばれてくる。
メインは肉。それも、肉の中の肉、ステーキだ。
肉汁が弾ける音のする鉄板に、ブ厚い肉の塊が乗っている。400g以上は軽くあるだろう。さすがの優貴も、そのステーキの皿を前にしては言葉がない。そのぐらいの熱気と、存在感と、期待感の塊なんだ。
皿から立ち上る湯気を吸い込んでいるだけで、身体がとろけてしまいそうになる。原因は直感でわかった。バターだ。ステーキにはたっぷりのソースが掛かっているんだが、そのソースが肉汁を絡めたたっぷりの焦がしバターで作られてるんだ。そこへ仄かに混じる香りは、ガーリックとタイムか。逆に言えば、その2つの独特の香りすら背景になってしまうぐらい、バターの香りが圧倒的なんだ。
「よ、涎でちゃうね、これ……」
ようやくという感じで優貴が口を開く。下品な、とはいえない。こればっかりはしょうがない。
香りに散々あてられながら、肉を見つめる。肉汁がプチプチと音を立てる表面にはしっかりと焼き色がついていた。でもその一方で、横にはまだ赤みが差している。ブ厚い肉なのに、見た目だけでとてつもなくやわらかいのが理解できてしまう。
誘われるようにカトラリーの1セットを手に取り、フォークで肉を固定しつつナイフを滑らせる。すると、あっさりと肉が“裂けた”。想像していたよりもさらにやわらかい。ただ手前に引くだけで、驚くほどなめらかな断面ができる。
断面は、見事なレアだった。ごく表面だけが黒く、中に行くほど淡いピンクになっていく。そしてそのピンクの隙間隙間に、これでもかというほど肉汁が光っているんだ。
もう、理性も何もない。今切り取ったばかりの肉の端を、口の中へ放り込む。噛みしめる……までもなく、歯で軽く挟んだ時点で肉汁があふれ出し、敏感になっている舌を覆い尽くす。ジューシーな牛の野生味が、ダイレクトに心臓まで届いてくる。このパンチの強さは豚や鶏には真似できない。
そしてそれに浸る間もなく、舌がバターの旨味を感じ取る。『まろやか』という言葉を思わず使ってしまいそうなぐらい、有無をいわせずとろかしてくる味。優しいのにしつこくて、反則的なまでに人を骨抜きにする風味。ただ舌に乗せているだけでこれなのに、噛んでしまえばもう幸せな地獄だ。ますます存在感を増していく肉汁のパンチと、バターの風味、ガーリックの憎いまでの香ばしさがない交ぜになり、立て続けに舌と脳を刺激してくる。刺激が強いのに、噛む速さが勝手にどんどん増してしまう。
 スジをほとんど感じない肉が口の中でどろどろに解けた頃、ようやく飲み込むことを許される。喉を心地良い塊が滑り落ちていけば、後は口の空洞に旨味が漂うばかり。後味がいい、なんてものじゃない。中毒だ。俺はその至福に酔いながら、壁に目をやった。席まで移動する間に確認していたんだ。『本日の予算 4,000円』……入口と同じその文言が、壁のボードにも描かれているのを。
4,000円。店に入る前とは逆の意味で信じられない。このステーキは、そんなものじゃない。店が店なら、1万、いや2万円取られたって文句が言えないレベルだ。
俺はそこまで考えてから、またナイフを滑らせる。最高の肉だけに、最高の食べ時を逃すのが惜しい。そういう小市民的な考えで。
二口目でも、三口目でも、俺の舌と脳はパンチを喰らい、とろかされてしまう。肉自体も凄まじく美味い。でも何といっても、ソースが反則的だ。ミシュランで星いくつを取るレストランの、秘伝のソース――そういう触れ込みでもなければ逆に不自然に思えるぐらい、悪魔的な旨さを秘めている。おまけにこのソース、相性がいいのは肉に対してだけじゃない。付けあわせで盛られたマッシュポテトにも、オリーブオイルで素揚げしているらしいブロッコリーやニンジンにも、恐ろしいほどマッチする。

気付けば俺は、最初圧倒された400gあまりの肉をあっという間に平らげていた。安い肉なら300gでも飽きが来るのに、負担らしい負担を感じる瞬間は一度もなかった。本当に、いつの間にか最後の一切れを食ってしまっていた。そしてそれは俺だけじゃなく、向かいの優貴も同じくだ。
「あれ、もうなくなっちゃったぁ……」
その言葉は、まるで俺の脳から漏れたかのようだった。
肉のなくなった皿には、俺を悩殺したあのソースだけが残っている。俺は、それがあまりにももったいなかった。もしここで他人の目がなかったら、まず間違いなく皿を持ち上げて舐め取っているだろう。
そもそもよく考えれば、なんでステーキなのにパンがないんだ。それさえあれば、このソースへたっぷりと浸し、絡ませて堪能できるのに。俺がそう思った、まさにその時だ。
「美味しくお召し上がりになったようですね」
さっき肉を運んできたウェイターが、俺達の横で足を止めた。手にはドーム型の蓋が被せられた皿が乗っている。心なしか、さっきより砕けた雰囲気だ。
「お腹の具合はどうですか。まだ……いけそうですか?」
なんだろう。こっちの『何か』を察しているような、誘っているような口ぶりだ。俺と優貴は、その誘いにまんまと乗って頷く。すると、ウェイターが笑みを浮かべた。
「かしこまりました」
そう言ってウェイターは、ドーム型の蓋を開ける。
中から現れたのは、もうもうと湯気の立つパスタ。
「失礼します」
ウェイターは蓋をテーブルの端に置くと、トングを取り出し、パスタを俺と優貴の皿へと取り分けていく。ステーキのソースが、たっぷりと残った皿にだ。
「では……当店自慢のソースを、心ゆくまでご堪能ください!」
そう言ってウェイターは、白い歯を見せて笑った。最初は高級レストランのウェイターとして違和感がなかったのに、今では悪巧みを打ち明ける兄貴に思える。
ほどよく盛られたパスタの1本を、下品と知りつつ摘み上げる。そして食べてみれば……ほとんど味はしない。うっすらと塩味がついてはいるが、いたって普通。安い弁当のスペースを埋める目的で敷き詰められている、あの素パスタとほぼ同じだ。
なるほど、これがBランク。さっきのこれでもかというほど上等なAランクの余韻を、これで汚せというわけか。高級に慣れた人間の中には、馬鹿にしているのかと怒る人間もいるだろう。最後はこれでは格調も何もない。
でも、下賎な身……それこそ人の目がなければ皿を舐めとろうと考える人間にとっては、まさしく禁忌の誘惑。
「たまんないね……これ…………!!」
優貴が堪え切れないという風に笑う。それはたぶん、俺も同じ。

そして、俺達は史上の残飯を食い漁った。極上の肉汁と、香ばしいガーリック、そして脳をとろかすバター……それらを安っぽいパスタに存分に絡め、思うさま啜る。
つくづく合理的だった。それ自体に味のないパスタだけに、ソースの味が最大限楽しめる。喉の通りのいいパスタだけに、ステーキを食った後でもツルツルいける。ほんの少し物足りなかった腹具合もきっちりと満たされ、何より極上のソースを最後の一滴まで余さず消費できる。本物の高級店なら、こんな真似は許されないだろう。どれほど上質なソースを作っても、ステーキを食い終わった時点で皿は下げられ、ソースは捨てられてしまう。これはまるで、そんなソースと、それを作った職人の無念を晴らす一品に思えた。
「たまんねぇな、これ……」
心も腹もすっかり満たされた頃、俺はフォークを置きながら、思わずそう呟いていた。正面の優貴と、遠くから見守っているウェイターに、心地いい笑みを向けられながら。



                                (終わり)

止まらないカメラの向こうで  第4話


第3話の続きです。
これにて終話となります。ご愛読ありがとうございました。




『人格崩会 マインドクラッシャーズ』
 このサイトは、AV出演経験のない100%の素人を被写体に、オリジナルの撮り下ろし映像を期間限定で公開する……そういうコンセプトのようだった。
 出演『女優』の数は多く、一覧には多種多様な職業とイニシャル、年齢、そして謎のコース名が並んでいる。とはいえ大半は『公開終了』と添え書きがあり、もう見ることはできない。

『 女子大生 F(20)…… <肉便器コース希望> 』
『 保育士 T(32)……  <ハードSMコース希望> 』
『 事務系OL M(27)…… <完全人格崩壊コース希望>』オススメ!

 今はその3列だけがクリックできるようだ。
 完全人格崩壊コース、という字面が嫌でも目を引く。このコースの女優が姉貴ではないことを願うが、正直望み薄だろう。事務系OLという職業も一致しているし、Mといえば『瑞希』のイニシャルだ。
 意を決してMの列をクリックすると、女優の個別ページに飛ぶ。
 まず目に入るのは、ヘッダー部分のバストアップ写真。俺は、それを見て直感してしまう。目線にモザイクこそ入っているが、十数年間ずっと一緒に暮らしていた相手を見間違えるわけがない。姉貴だ。

 ヘッダーのすぐ下には、女優Mの動画の新着コメントが表示されている。

『近所の綺麗なお姉さん、という印象。モデルみたいに洗練されたボディではないですが、いかにも素人っぽい感じが生々しくて興奮します!』
『☆1。足太すぎ。昭和の熟女AVじゃないんだからさ。。痩せようよ。。。』
『顔面偏差値60、体偏差値55ぐらいの女。可もなく不可もなく。ただしやらされてるプレイはこのサイト内でも屈指のハードさだから、見所は多い。』
『非常にレアな<人格完全破壊コース希望>の素人女性。うんこ・ゲロ・フィスト・輪姦なんでもアリ。しかもそこそこの美形。ただ、演技とかじゃなく本気で嫌がってそうなシーンが多い。このサイトのハードさを甘く見てた?』
『すごいねこの女、人格破壊コース希望とか頭おかしい。喋ってるの見る限りしっかりしてそうなんだが、ストレスで色々嫌になっちゃったのか……』

 コメントの大半はこういうもの。姉貴のルックスを品定めするか、自分から凄惨なコースを希望したと決め付けて貶めるものばかりだ。
 あの姉貴が、こんな調教を自分から希望する訳がない。むしろ周りでそういう事をしてる子がいたら、引っぱたいてでも止めさせるお節介焼きが姉貴なんだ。そうと知っているだけに、コメントを見ているだけで胸がムカムカしてくる。
 ただ、我慢して読み進めていくと、興味深いコメントも見つかった。

『一通り全部動画観ました。どうも、この調教グループが直前に誰か躾けてたけど、逃げられたか何かで完遂できなくて、その身代わりとして調教されてるっぽいです。全体的にこの女優さんが怯えてるのは、前任奴隷の調教記録をあらかじめ見せられて、今から自分がどうなるのかを知ってしまっているせいだと思われます……』
『↑のコメントに補足。前の奴隷はメチャクチャ美人かつ、ミミズ千匹の名器、しかも相当強い筋肉をお持ちだった模様。(なんと、フィストを12時間続けられても切れなかったとか……!) この奴隷の調教記録もぜひ観てみたいんですが、どこかにシリーズで無いでしょうか。ピー音の前後聞く限り、最初が“あ”始まりで、最後もア行で終わるみたい。アイカ? アスカ? アリサ? 性器の強さ的に外人さんの可能性もあるから、アイシャとかかも? 情報求む!!!』

 どうやら姉貴は、明日香の調教が未完に終わった腹いせで調教されているようだ。確かにファミレスで見た写真にも、明日香がされたのと同じ調教があった。

 ヘッダー、コメント欄と来てさらにその下へ視線を移せば、とうとう動画のサムネイル群が視界に入る。1ページは縦5×横4、計20の動画で構成されていた。一度に表示されるページ数は9ページまでで、そこから先どれだけあるかはわからない。
「くそっ!!」
 俺は頭を抱えながら、動画を古い順に並び替える。
 一番古い動画は、タイトルが『インタビュー』、再生時間はわずか10分弱。ごく短い動画だ。

『<完全人格崩壊コース>恒例の、冒頭インタビュー。今回は“町のワル共に絡まれる、気の強い女先輩”のシチュエーションでお送りします。全員、迫真の演技です!(笑)』

 動画説明欄にはそう書かれていた。これはあくまで芝居で、事件ではないと主張するわけか。白々しい。これに騙される奴がいるなら、そいつは救えない馬鹿だ。
 俺は深呼吸をし、気分を落ち着かせてから再生ボタンを押下する。

 一瞬の暗転の後、映像が映った。場所はどこかの部屋。決して広くない、ごく一般的なマンションのワンルームという風だ。
 その中央で、後ろ手に拘束された女が、男2人に両肩を掴まれている。黒いタンクトップにジーンズという、男勝りな格好。口にガムテープを張られてこそいるが、外跳ね気味のショートヘアと力強い瞳は、明らかに姉貴の特徴だ。そして何よりその耳からは、俺の贈った赤いイヤリングが垂れ下がってもいた。
 ご丁寧なことに、本編の姉貴には一切のモザイクがない一方で、それ以外の連中だけはしっかりと目元が隠されている。
 男の1人が、ゆっくりと姉貴に近づいた。体型といい髪形といい、関取を思わせる巨漢。現在も指名手配中であるはずの藪岡だ。奴が乱暴に姉貴の口のガムテープを剥がすと、一呼吸置いてすぐに姉貴が口を開く。
『**っ! あんたどういうつもり、こんな事して!?』
 開口一番にピーという規制音が被せられているが、藪岡を呼び捨てにしたのがわかった。あの藪岡を、呼び捨て。さすがは姉貴だ。いくら3つ年上だからといって、あの藪岡を前に俺が同じ真似をできるかどうか。
『相変わらず声でけーな、外に聴こえちまうだろ。ま、この近くに日本語わかるヤツなんかいねーけどよ』
『質問に答えなよッ!!』
『へいへい。……原因作ったのは、**なんスよ』
 藪岡が小指で耳を掻きながら答える。姉貴の顔が強張り具合から見て、ここで出たのは俺の名前なんだろう。
『これまで随分可愛がってやったのに、恩を仇で返しやがった。おかげで昔馴染みが何人もパクられて、自慢のチームが空中分解だ。もうちっとで本格的な族の軍団作れるとこだったのによ』
 藪岡は悪びれもせずに言う。もっとも、奴が悪びれることなんて、今までもこれからも一度だってないんだろうが。
『どうせ碌でもないことに**を巻き込んで、警察に暴露でもされたんでしょ? 自業自得よ、あの子に逆恨みしないで!!』
 姉貴はキッパリと言い切る。まだ、こんな俺を信じてくれるのか。
 その姉貴の態度に、藪岡がチッと舌打ちする。
『とにかく俺らの世界じゃ、こういう事されるとケジメつけなきゃならねぇんス。それをぜひ、お姉さんにご報告しとこうと思って』
 藪岡は、横柄に姉貴を見下ろしたまま淡々と告げる。今度は姉貴が顔色を変える番だった。
『何をする気!?』
『そりゃ、そん時の気分次第っスけどねー。今はかなりムカついてるから、楽には殺したかねぇなあ』
 藪岡の言葉に、姉貴の表情が凍りつく。そしてその表情は、次第に藪岡を睨み上げるものへと変わっていく。
『…………弟に手を出したら、あんたを殺す…………ッ!!』
 その気迫は、とても嘲笑ったりできるものじゃなかった。そこらのチンピラが凄むのとはわけが違う。姉貴の怒りは、俺への深い――それこそ母親のような愛情に裏付けられたものだ。
 姉貴……。
『おー怖ぇ怖ぇ。アンタなら、マジで刺すぐらいはしてきそうだ』
 藪岡は肩を竦めて言い、たっぷりと溜めてから次の言葉を吐き出した。
『アンタが身代わりになるってんなら、**には手ぇ出さねぇっスよ?』
 わかっていた。その言葉が来るだろうことは。動画の中の姉貴だって、きっとそうだろう。
 姉貴は藪岡を睨み上げたまま、顔を強張らせる。
『……この法治国家で、そんな無茶苦茶が通ると本気で思ってんの? いつかそのしっぺ返しを喰うよ、こんな事ばっかりしてたら!』
 姉貴の説教はもっともだ。悪い事をしていれば、いつか自分に返ってくる。藪岡だってそうだ……そうであった、はずなんだ。
『そ、無茶振りっス。流石にこれを、ハイそうですかとは呑めねぇっスよね』
 姉貴の必死の訴えを、藪岡は笑って聞き流すだろう。俺はそう思った。だが意外にも、奴は肯定してみせる。姉貴の顔が怪訝そうなものになる。
『だから、チャンスをあげますよ。俺らの責めを一晩我慢できたら、アンタの事は解放するし、**にも手は出さない。逆に我慢できなかったら、たっぷり楽しませてもらいます』
 藪岡の提案に、姉貴の顔がますます引き攣っていく。
『ふざけないでっ!!』
『イヤ、ふざけてはねぇっスよ。***センパイだから、特別に譲歩してるんス』
 藪岡の言葉は掴みづらい。確かに、奴が助かるような条件をつけるのは珍しいことだ。こうと決めたら有無を言わせない、ガキ大将タイプの人間だから。そんな奴が交渉の余地を残すというのは、姉貴に相応の敬意を払っているのか。
 ……いや、違う。奴に限って、そんな誠実さなんて欠片も持ち合わせちゃいない。あくまでこれは、姉貴に恥辱を味わわせるプレイの一環なんだ。どうせ責めに耐え切れるはずがないと踏んだ上での。
『………………わかった』
 姉貴は、長い沈黙の末にそう宣言する。藪岡とあまり接点がないから、奴の言葉を額面通り受け取ってしまったのか。あるいは全て承知の上で、あえて乗ったのか。いずれにしても、藪岡の狙い通りの展開だ。
『決まりっスね。じゃあ、我慢の条件は……』
 藪岡はそう言って、いきなり姉貴のイヤリングに触れる。
『っ!? や、いやっ!!』
 姉貴は慌てて首を振った。だが藪岡は、素早くイヤリングを耳たぶから抜き取ってしまう。
『このアンタにゃ似合わない、クソ安っぺぇイヤリングにすっか』
 藪岡の煽りに、姉貴が奥歯を鳴らした。
『おーおー、怖ぇ顔だ。一目見た瞬間解ったぜ、わざわざこんな安モン後生大事に身につけてるって事ァ、よっぽどの思い入れの強ぇ一品ってこった。誰かの形見か? それともイイ人からのプレゼントかよ?』
 藪岡はイヤリングを指で弄びながら笑う。
『返して!!』
 姉貴は大声で叫んだ。両肩を掴む男2人が、ビクッとなったほどの音圧だ。その叫びには、姉貴の真剣さが痛々しいほどに含まれていた。でも藪岡は、そういう相手の困った様子が何よりも好きなんだ。
『くくっ、言われなくても返しますよ。しっかり歯で挟んどいでください』
 藪岡はそう言って、姉貴の口に太い指を近づける。姉貴は不服そうにしながらも、前歯でイヤリングを噛むしかない。
『そのイヤリングが、センパイの“矜持”ッスよ。それを朝まで放さずにいられたら、俺らそんな気合入った人になんもできねーッス。でも、もし落としちまったら……』
 藪岡は、あえてその先を言わない。姉貴はそんな卑劣な藪岡に、それまでで一番の鋭い視線を浴びせた。
『あかにしあいで……っ!! あんあらガキの、おあおびなんか……っ!!』
 イヤリングを咥えたまま呻く姉貴。
『そりゃ結構だ。うっし、お前ら始めんぞ、“ガキのお遊び”をよ!!』
 藪岡は、そんな姉貴の言葉を茶化す形で、責めの開始を宣言した。
 そして直後、動画が終わる。これが1本目、『インタビュー』。たった10分弱の動画を観ただけで、全身がひどく疲れる。こんなものが、あと何本あるんだろう。あと何百時間分が収録されているんだろう。今から全部観るとどれだけ掛かるかわからないし、そもそも精神的に耐えられそうもない。
 でも、どうしても気になってしまう。せめて、今の動画の直後だけでも見届けなければ。なにしろ姉貴は、俺のイヤリングを盾にとって脅されたんだから。

『指マン潮吹き地獄①』
 それが2本目のタイトルだ。再生時間は、実に58分強。しかもタイトルに①とあるように、これ1本で完結するものでもない。サムネイルを眺めると、『指マン潮吹き地獄』のタイトルを冠する動画は、④まであった。もし全てが①と同じく1時間程度の尺なら、実に約4時間分の動画となる。そして、『指マン潮吹き地獄④』の後に別シリーズが続いているということは……。
 そうだ、この動画だけで終わるわけがない。もしそうなら、ファミレスで高根沢から見せられた写真は、そもそも存在していないはずなんだ。
 考えれば考えるほど、気分が重くなる。俺は頭を切り替えつつ、義務感に背中を押されて①の動画を再生した。


    ※           ※            ※


 姉貴は、後ろ手の拘束はそのままで薄い煎餅布団に座らされ、横の2人から乳房責めを受けていた。上乳だけを隠すようにたくし上げられたタンクトップの下では、2本の腕でまったく遠慮なく乳房が揉みしだかれている。
『さすがFカップ、揉みごたえ抜群だな。とても掴みきれねぇ』
『ああ。これで垂れてなきゃ最高なんだがな』
『そりゃ無理ってもんだろ、こんだけ張り出してりゃ。牛乳だぜ牛乳』
 男2人は勝手を言い、笑いながら乳房を揉みしだく。姉貴は真正面からその様子を撮影される状況の中、静かに目を閉じ、俺の紅いイヤリングの金具を歯で挟みつづけていた。
 胸への責めはかなり長く続いているのか、あくまで乳房の部分だけを刺激されているにもかかわらず、乳首が尖りはじめている。
『しかし、根性ありますねー***センパイ。こんだけやって声出さねーとか』
 1人がそう言って一旦乳房を離し、乳首を人差し指で圧迫する。するともう一人も、調子を合わせるように同じ真似をした。
『っ……!!』
 姉貴の閉じられた歯の間から、小さく息が漏れる。
『ほれほれ、どうっスか。気持ちいいでしょー、硬くなってきてますよ』
『我慢やめましょーセンパイ。女は可愛く喘いでナンボっすよ?』
 人差し指で上下に乳首を擦りながら、言葉責めもやめない。姉貴も折れない。その状態が続けば、段々と両乳首が勃起してくる。最初はやや陥没気味だったものが、厚みを増していく。
 そうなると、2人も責め方に変化をつけた。人差し指と親指で乳首を挟みこみ、扱くんだ。
『んんんっ……!!』
 見るからに気持ち良さそうな責めに、姉貴がまた呻く。薄目を開けて2人組を睨んでもいるようだ。2人組の方は目線モザイクのせいでどこを見ているか判らないが、口元の笑みが消えることはない。
 この責めもかなりしつこくて、さらに乳首の勃起具合が増していく。それに応じて姉貴の余裕もなくなっていく。顎が浮き気味になり、背が仰け反り。
『ひひ、気持ち良さそー。デカイと感度鈍いとかいうけど、相当敏感っすね』
『そろそろ乳首イキできるんじゃないっすか? それとも、もうしてたりします?』
『イクときは言ってくださいねー。手ェ緩めたりは一切しないっスけど!』
 男2人の言葉には悪意しかない。こいつらもケダモノだ。ホテルで明日香を嬲っていた連中と同じような。
『…………っ、………………っ!!』
 姉貴はじっと耐えていた。でも、鼻から漏れる息は着実に荒くなっている。男2人が一旦乳首の扱きをやめ、一指し指で下から上へと乳首を押し上げるような動きに変えると、姉貴の呼吸はますます荒くなっていく。
『鼻息まで牛みたいになってきましたね。陸上部のエースでも、興奮にゃ勝てないっスか? じゃ、そろそろ……』
 2人はそう言って、乳首から指を離す。そしてすかさず、口で吸い付いた。
『いうっ!!』
 姉貴からはっきりとした声が漏れる。
 ちゅうちゅう、と吸い付き、嘗め回されている。あの姉貴の乳房が、チンピラ共に。俺は乳首舐めを何分も見て、ようやくそう実感でき、ひどく嫌な気分になった。
 映像は淡々と続く。
『ん~~~……っっ!!』
 乳房を揉みしだきながら乳首を吸われれば、姉貴は顎を浮かせながら苦しそうに呻く。白い歯がとても綺麗だ。普段から俺にうるさく小言を言っているだけあって、歯のブラッシングにも相当きをつかっているんだろう。髪だって普通に綺麗だし、本当にしっかりした姉だ。俺はそんな取りとめのないことを考えながら、見るともなしに映像をただ眺め続けた。
 映像内ではそのうち乳責めのためにローターまで使われはじめ、耳障りな羽音と姉貴の呻きが絶え間なく続くようになる。
 コメント欄の連中は偉そうに“偏差値55”だのとのたまっていたが、俺から見れば『女優』のルックスは間違いなくいいし、乳もでかい。これが借りてきたAVなら、充分オカズになるはずの場面だ。でも俺は、微塵も勃起していなかった。俺はその事実に、少しホッとしていた。

 いつの間にか①の動画は終わり、俺はそのまま②のページを開く。このサイトを訪れた人間の中で、『見たいから』じゃなく『見なければならないから』選択しているのは俺ぐらいのものだろう。ふと、俺以外の世の人間すべてが気楽に思えてしまう。

『27歳の真面目な巨乳OLは、想像以上に男日照りみたいです(爆)』

 その軽薄な動画説明欄を眺めながら、再生ボタンをクリックする。
 2つ目の映像は、床へ乱雑に捨てられたジーンズの接写から始まった。そこからカメラが舐めるように上を向く。場面はちょうど、壁際に立たされた姉貴が下着を脱がされようとしているところだった。明日香がよく穿いているシルクのレースショーツとは違い、いかにも普段履きの綿製だ。
『うう、うううっ!!』
 姉貴は後ろ髪を揺らしながら、必死に呻いていた。何重にもガムテープを巻かれた不自由な手で、ショーツを掴む男の手を引っ掻いている。安産型の尻を振り、陸上部特有の太腿を強張らせて暴れてもいる。そうまでしても、結局ショーツが擦り下ろされるのは止められない。常識人の利口な行動が、馬鹿の力押しで潰された瞬間だ。
 馬鹿数人は、姉貴の膝を掴んで強引に肩幅以上に開かせ、一切遠慮なく股座を覗き込む。白い尻を正面から撮っていたカメラも、下からのアングルに変わった。
 姉貴のアソコが映り込む。風呂上がりにバスタオルで拭っている裸ぐらいなら何度か見た事があるが、さすがにアソコを拝むのは初めてだ。
 ごく普通に色素沈着の進んだ性器に見える。ネットで見る無修正性器の平均という感じだ。
『まぁ、なんつーか……普通だな。熟女好きのお前としちゃどうよ』
『誰が熟女好きだ。ま、アラサー女のマンコにしちゃ整ってる方じゃね? 多分そんなヤッてねーぜ』
『少なくとも、***のよりゃ綺麗だぜ。今ンとこ唯一の勝ち点か?』
『いや、お前は知らんだろうが、***のマンコって最初えらい綺麗だったぜ。ピンクの一本スジでよ。ま、藪っさんのデケェの突っ込まれて、一発でグチャグチャになったけどな!』
『あと、毛の手入れも***のがキッチリしてたよな。こいつ、ちっとボーボーじゃね?』
 胸糞の悪い会話が続く。姉の性器を品評されるのが、こうも吐きそうになるほど嫌なものとは思わなかった。姉貴の毛は確かに、きっちりと整えられている感じじゃない。でも、それが普通なんだ。日常生活からいきなり拉致されて、処理不足も何もない。
 会話途中に混じる規制音は、明日香の名前を隠すためのものだろう。コメントにあった通り、最後がア行終わりなのが聞き取れる。
 最初に見た明日香のアソコは、確かに綺麗だった。これがハーフのオマンコかと衝撃を受けるぐらい、くすみのない淡いピンクだった。よく知っている。なにしろそれを撮影したのは、俺だ。
 姉貴の映像を撮っている今のカメラマンは、どういう立ち位置なんだろう。俺のように巻き込まれたクチか、嬉々として撮影役を引き受けたクチか。映像は俺の映したもの以上に手ブレがひどいから、素人なのは間違いないが。

『さーて、そろそろやるか』
 1人がそう言って、姉貴のアソコに手を触れる。尻肉と腿の境目に親指を置き、手の平を上にして。カメラは手の甲を映すだけで、指の細かな動きはわからない。ただ、ぐちゅりと音がした直後、姉貴の太腿がかなり震えたから、挿入された指は少なくとも2本以上だ。
『ふんんっ……!!』
 姉貴の口からくぐもった声が漏れる。
『ははっ、オイオイ! ちょっと濡れてんじゃん、センパイよぉ!! チチいじられて感じてたんかよ!?』
 指を入れた一人は、これでもかという巻き舌で煽った。その煽りで場が沸く。後ろ手に縛られた姉貴の手指が、ぎゅっと握り締められる。
『で? *稜高の誇る、陸上部史上最強エース様の締まりはどーよ?』
 1人が嘲りながら会話を被せた。今度の規制音はかなり微妙で、母校の名前を知る人間ならギリギリ聞き取れてしまう。出身高校が特定されるぐらいならまだいいが、名前バレとなれば致命的だ。明日香の名前が割れていないのは、全動画を見たという人間のコメントで確認済みだが、姉貴はわからない。真っ当なAVなら製品チェックを信じるところだが、この映像が真っ当であろうはずがない。
『んー、結構締まっけど、ミミズ千匹とかじゃなさそうだな。2万円ソープの女って感じ』
 指を入れている一人は、半笑いでそう言った。キレそうになる。姉貴をソープ嬢と同列に語るのも腹立たしいが、その中でも格安と言いたいのか、このチンピラは。
『ひゃひゃっ、相変わらずヒデーなお前』
『あんだよ、これからなのにガッカリさせんなよ!』
『いや藪っさんなら、誰相手だろうと一緒じゃないんスか? 180ぐらいあるアメ女でも、相当慣らさないと無理でしょ』
『コーラのボトルみたいだしな。でも***は普通に呑み込んでたらしいぜ、ケツでも喉マンでもよ』
 藪岡を交えたそういう会話を聞いているだけで、また吐き気がこみ上げてくる。饐えた匂いの101号室に逆戻りした気分だ。
「おえ……っ」
 本気で気分が悪くなり、思わず口を押さえる。その際に肘でマウスを誤クリックしまったらしく、動画が一気に進んだ。
『うっ、くっ……くぅ、うっ…………!!』
 女の不自由な呻き声。それと混じる形で、ぐちゅっぐちゅっという水音をマイクが拾う。“指マン”はすでに佳境に入っているらしく、姉貴のむっちりとした太腿に愛液が垂れているのが見えた。
 よく見れば、指入れをしているのはさっきとは別の奴のようだ。
『ほら、どうしたんスか先輩。この程度で足ガクとか、元陸上部の恥っすよ』
 スプリンター体型のそいつは、言葉責めを交えながら姉貴の太腿を平手で打つ。
『ふっ、んんっ……!!』
 姉貴から悔しそうな呻きが漏れた。
『あいつ、えらい気合入ってんな。何か因縁あんの?』
『ああ。ヤツも元陸上部なんだが、***センパイが残した200mのタイムに負けたっつって部内で馬鹿にされたんだとよ。ならまずタバコやめろって話だけどな』
『へー……。あいつがダセェのか、男子のタイムに食い込むあの女が化け物なのか、微妙なとこっすね』
『お前らウッセーぞ、あん時ゃクツが滑ったんだよ!! マジでやって、こんなビッチに負けるわけねぇだろうが。おい、マトモに立てねぇんなら寝とけやオラッ!!』
 元陸上部という奴が、足の痙攣する姉貴を布団へ引き倒す。
『おいおい、アブねーよ!』
 その非難の声を残して、②のビデオは終わった。

 次の動画として表示されるのは、『指マン潮吹き地獄③』。

『この映像では、一切ローションの類は使ってません。垂れているのは、すべて女優の本気汁です。』

 説明欄は相変わらず悪意しか感じない、癇に障る内容だ。
 動画を再生すると、布団に四つん這いになった姉貴を横から撮る映像が始まる。とうとうタンクトップすら取り去られた丸裸だ。手の拘束も解かれ、ベッドの脇に丸めたガムテープの束が転がっている。
 姉貴はもう全身が濡れ光っていて、かなりの間昂ぶらされ続けているようだ。這う格好だが、右膝が前、左膝が後ろと膝の位置には開きがある。そしてその股の隙間へ、一人が指を差し込んでいた。手の甲を下にした、潮噴きでもさせようかという指遣い。指の動きは見えず、手の平が蠢くだけだが、ぎゅちゅぎゅちゅという音のハイペースぶりから察しはついた。 
『ふーっ、ふーっ、ふーっ……』
 前を向いたままの姉貴は、目を閉じ、鼻から荒い息を吐きつづけている。相当感じてるんだろう。よく見れば、垂れ下がったまま前後に揺れる乳房の先は、乳責めの時以上にしこり勃っていた。
『うおー、すっげぇ』
 指責めしている男が声をあげ、カメラに向けて手招きする。すると横から撮っていたカメラが近づき、横へ身を引いた男と入れ替わりに股座を接写しはじめた。
 中3本指の入り込んだ割れ目の周辺は、信じられないほどの愛液で濡れている。しかも愛液の多くはかすかに白く濁っていた。なるほど、ローションは使っていないと注釈がいるわけだ。
 ぐちゅぐちゅと水音を立てながら指が動けば、モザイクなしの割れ目からまた新しい愛液が溢れるのが見えた。姉貴が這う格好を取っている以上、愛液は腹の方へと流れ、繊毛に絡みながら滴り落ちていく。
『どういう事っスかこれ? “ガキのお遊び”で、本気汁ガンガン出てくるじゃないっスか、***センパァイ!』
 指責めをしている奴が馬鹿にしきった声に叫ぶが、姉貴に反応はない。というか、できないんだろう。
 カメラが少し引くと、さらに状況が判るようになる。強張る太腿と、円錐形に尖った乳首に囲まれたシーツは、かなり広い範囲が変色していた。鎖骨の真下あたりまで濡れてるんだから、愛液が垂れたなんてレベルじゃない。もう何度も潮を噴いてるんだ。たぶん、横から撮られていた間に。
 姉貴は、シーツへめり込む肘の間で項垂れていた。シーッ、シーッ、という声が漏れ聴こえる。
『ホラ、顔は上げとかないとダメっすよ。こっそり吐き出して休憩されると困るんで!』
 そう言って髪の毛が掴まれ、強引に頭が引き上げられた。すぐにカメラが前へと回り込む。
『ふーっ、シーッ、ふーっ、シーッ、ふーっ……』
 姉貴は激しく、妙な息を続けていた。理由は顔を見ればわかる。姉貴の顔は、鼻水と涎ですっかり汚れきっていた。鼻が詰まっているから、呼吸は歯の間からするしかない。そのおかげで涎が出てしまう。さっき項垂れていたのは、この顔を人目に晒さないためだ。

 ――いい、健史? 勉強ができなくたって、走るのが遅くたって、別にいいの。でも、だらしないって思われるのはダメ。それって、人間としての負けだよ!!

 俺のマナーを叱る時、姉貴がよく言っていた言葉だ。そして姉貴自身も、俺の前でさえきっちりしていた。俺の模範でいられるように、誰にも母子家庭だからなんて馬鹿にされないように。
 そんな事情を知ってか、知らずか。
『あーあ。鼻水とヨダレ。“だらしねぇ”な、センパイ。』
 そんな言葉が吐かれ、嘲笑が沸き起こった。
『…………っ!!!』
 姉貴はイヤリングを噛んだまま、目を見開く。この時俺は、姉貴が持つ鋼の心が、ほんの薄くだが剥がれ落ちたような気がした。誰よりも姉貴という人間を知っているだけに、伝わってくるものがあったんだ。

 そして動画はとうとう、『指マン潮吹き地獄④』になる。
 シリーズの最後。姉貴は布団の上に仰向けになり、大股開きで責められていた。
『いぁ、いぁあーーーっ!! いあーーーっ!』
 食いしばった歯の間にイヤリングの金具を覗かせたまま、拒絶の言葉が繰り返される。両脚の筋肉の張り具合から、本気で抵抗しているのも見て取れた。なのに、足が閉じない。姉貴の手足の力は強いし、怒ると怖い。そんな姉貴が、カメラの向こうでは何の抵抗もできていないんだ。姉貴の強さを見て思春期を過ごした俺は、それがただただショックだった。
『あーあーあーあー、まーた出ちゃったよぉお姉ちゃあん』
 姉貴どころか俺より下そうなガキが、子供をあやすような猫撫で声を出す。奴の顔が向いている先では、激しい『手マン』で潮が撒き散らされていた。
『こいつ、強情な女だな……!』
 姉貴を囲むうちの一人が、呆れた様子で言う。姉貴は、太腿を痙攣させ、心配になるほど荒い息を繰り返しながら、それでも噛んだイヤリングを離さない。だいぶ疲れてはいるが、瞳の力も健在で、そのまま朝まで耐え切りかねない雰囲気があった。
 だが、あの藪岡がそんな事を許す筈もない。
『どけ』
 明日香を囲む輪の一部を押しのけながら、低い声が唸った。布団の上の姉貴が顔を上げ、目を見開く。すぐにその全身は、巨大な影に覆い尽くされた。
 振り返ったカメラが映し出すのは、関取級の巨体と、そそり勃った怒張。臍につきそうなその角度は、明日香を犯した時より上だ。
『いいねぇ、***センパイ。俺、初めてシコったの小5なんスけど、そん時のオカズがアンタなんスよ。リレーん時、でけぇチチがブルンブルン揺れてんのが眼に焼きついちまって、猿みてぇに扱いたもんだ。いつかハメてぇと思ってたが、俺が少年院(ネンショー)から出てきた時にゃ、もう町からいなくなってたからよ。寂しかったぜぇ?』
 目つきこそモザイクでわからないが、藪岡の口調は穏やかだった。聞きなれない敬語も相まって、とにかく不気味だ。
『うおっ!!』
 いきなり、映像の後ろから叫び声がした。カメラが振り向けば、姉貴が脚を内股に閉じている。足の押さえつけが緩んだ隙をついたんだろう。その判断力と行動力はさすがだ。でも今は、無駄な足掻きでしかない。
『自慢の足で力比べってか? いいぜ、受けて立ってやる』
 藪岡はそう言って姉貴の両膝を掴み、強引に割りひらいていく。
『うーーっ、うう゛う゛ーーーっ!!!』
 姉貴の呻きがして、健康的な足がぶるぶると震える。相当な力が入っているらしい。足の力は手の3倍というし、俺だったらああまで本気で抵抗する姉貴の脚を開くのは、顔を真っ赤にして頑張っも無理だろう。でも藪岡は、薄ら笑みを浮かべた状態で簡単に開いてしまう。
『なんだよ、抵抗してもよかったんだぜ?』
 目一杯、180度近くまで足を開かせてから、藪岡は白々しく言う。姉貴は、信じられない、という風に目を見開いていた。ある意味この瞬間が、姉貴と藪岡のファーストコンタクトだ。有無を言わせぬ暴虐。それこそが藪岡の特徴であり、全てなんだから。
『うう、うう!!』
 姉貴はイヤリングを噛んだまま、左右に首を振る。でも、無駄だ。藪岡の怒張は濡れきった割れ目に宛がわれ、強引に捻じ込まれる。
『……う゛、うーう゛ッ!!』
 姉貴が息を詰まらせて仰け反る。下半身に比べて華奢な肩が、ガクガクと震えはじめる。たぶん、恐怖で。あの強くてしっかり者の姉貴が、ガキであるはずの藪岡に犯されて震えているんだ。
 藪岡は上からのしかかるようにして、極太をさらに奥へと押し込む。挿入が深まるほどに割れ目から愛液が押し出され、肛門の窄まりの横を流れ落ちていく。
『おーし』
 藪岡の漏らした一言が、心に響く。奴の満足とはつまり、被害者にとっての絶望だ。今でいうなら、規格外の怒張が姉貴の一番奥まで達したという事だろう。
 姉貴は藪岡の肩越しに天井を見つめながら、目を見開いたままでいた。
『動くぜ』
 藪岡が唸り、姉貴の太腿を抱え上げての抜き差しを始める。
『う、うう゛っ!!』
 腰を浮かせたまま、シーツへ爪先立ちになって呻く姉貴。されるがままの状況で、歯に挟んだイヤリングだけが、かろうじて意思を残している。

『どうっすか、初恋の相手とヤった感想は?』
 布団を取り巻く連中の一人が、藪岡に尋ねた。
『んー、なんか普通だな、***に比べっと。この脚ならかなり締まると思ったんだがよ。ま、現実なんてこんなもんか』
『そりゃ比べる相手が悪いっスよ、あれ千人に一人レベルの名器じゃないっすか!』
 溜め息をつく藪岡を、また別の1人がフォローする。なんて会話だ。他人の弁当を奪って食っておいて、レストランよりまずいと吐き捨てるような行為。畜生の所業だ。
『ンっ、ふ……ふ、ふっ…………』
 姉貴はついに抵抗を諦め、つらそうに横を向いて呼吸している。藪岡はそんな姉貴を見下ろしながら何度か腰を打ちつけていたが、やがて大きく体位を変えた。布団の上へ座り込み、膝の上に相手を乗せる。対面座位だ。オーソドックスな体位のひとつだが、圧倒的な肉の壁である藪岡がそれをやれば、拷問のようにすら見えてしまう。
 いや、実際拷問も同然だ。ペットボトル大の逸物が、藪岡の剛力と獲物自身の自重で、有無を言わせず入り込んでいくんだから。
『う、う゛……う゛っ…………!!』
 メリメリ、という音さえしそうな挿入に、姉貴の目が見開かれていく。イヤリングを噛みしめる歯茎に力が篭もり、篭もり、ぶるぶると震えだす。やがて見開いた両目から涙までこぼれ落ち、そこが姉貴の……あの強い姉貴の、限界だった。
『あ……あ』
 その声と共に、白い歯が開き、イヤリングが落ちていく。それは一瞬の出来事。でも。
『あああああ゛ーっ、いたい、いだい゛い゛っ!! やめ゛でっ、ぬいてえ゛え゛え゛え゛え゛ーーーっ!!!』
 大口を開けてのその絶叫は、もはや口にイヤリングを含む余地などない事を、つまり自分の完全な敗北を、部屋中の人間に示すかのようだった。
『あーあ、あんなに頑張ってたのに』
『しゃあねーべ。ヤブっさんに目ぇつけられた時点で、死ぬまで突っ張るか、オンナになるしかねぇんだよ。どんだけ気ィ強かろうがな』
 畳の軋みと甲高い悲鳴をBGMに、下卑た会話が交わされる。認めたくはないが、たぶんそれは間違いのない事実だ。少なくとも、俺の知る限りでは。

『しかし、でけえチチだな』
 藪岡は獣のように姉貴の中を貪りながら、上下に揺れる乳房を舐めしゃぶる。そうして散々楽しんだ後、低いうめきと共に一切の遠慮なく中出しし、姉貴の体を放り捨てた。
『後はお前らでマワせ。***と違って、オナホールとしちゃ二流だがな』
 藪岡はそう言って布団から立ち上がり、周りの連中が色めき立つ。
『へへ、待ってました! 俺じつは、こいつのムッチリ具合好きなんだよね。スレンダーなガキよりよっぽどソソるぜ』
『よし、ヤるか!! ヤブっさんが初めて惚れたオンナだ、可愛がってやんねーとな!』
 歯を剥き出しにして笑う顔は、まさに飢えた肉食獣そのものだ。

 俺は、実の姉が飢えた獣の餌になるのを、じっと観ているしかなかった。
 穴が空くほど観たって、泣いたって、叫んだって、目の前の光景が変わることはない。なら視聴するだけ時間の無駄だ。そう理解はしているが、停止ボタンが押せない。ひどい嘔吐寸前の無意味なフリーズ……たぶん、それと似たような状態だ。
 正常位でただただ快楽を貪る獣。
 健康的な足を肩に担ぎ上げ、開いた股の間へ欲望を打ち込む獣。
 抵抗する気力さえない姉貴の手首をわざわざ掴み、強姦をアピールする獣。
 人の形をした畜生が多いことだ。別に、そういう連中がいたっていい。遠いどこかで共食いでもしてるのなら、何の文句だって言いはしない。
 でも……頼むから、姉貴の肉を貪らないでくれ。
 何の罪もない姉貴を泣かさないでくれ。

 頼むから。


    ※           ※            ※


 トイレで中途半端に吐いた後、またパソコンの前に戻る。
 サムネイルを見る限り、姉貴は例の潮吹き動画の後も、同じワンルームで輪姦を続けられたらしい。
 すぐ後のシリーズが、『4Pハメ回し』①~⑦。その後が、『ディープスロート調教』。動画の長さは気分で決めているのか、4、5分程度のサンプルムービー同然のものもあれば、4時間以上の長尺もあった。
 姉貴にあったことは、順を追ってすべて知っておきたいという自分もいる。だが、今のコンディションで輪姦動画の連続を見るのはきつい。だからとりあえずで、ディープスロートの方を再生する。サムネイルを見る限り、これはあまり激しい動画ではなさそうだ。

 動画は、這う格好の姉貴を横から撮る形で始まった。姉貴の前後に一人ずつが立ち、一人は前から咥えさせ、一人は後ろからハメている。
 カメラは床にでも置いているんだろうか。手ブレもない完全な定点で、姉貴の身体を映していた。顔はギリギリ見切れているが、粘ついた水音と、男の脚の間を頻繁に滴り落ちる透明な液からして、かなり入念にしゃぶらされているようだ。
 一方で後ろの男は、姉貴の乳房を後ろから揉んだり、腰を掴んだり、クリトリス辺りを弄ったりと変化を咥えつつ、一定のペースで腰を振っていた。
 サムネイルの印象通り、まさに調教という感じのハメ撮りだ。
 動画が始まってから数分の間、姉貴は一見淡々と奉仕していた。でも、やはり苦しいのは苦しいんだろう。
『かはっ、あはっ……けへっ! ぶほっ、ぶほっ! おッほ……!!』
 ある瞬間をきっかけに、連続して咳き込みはじめ、男の太腿を掴む。そしてかなりの唾液をシーツに溢しながら逸物を吐き出すと、崩れるように項垂れた。
『う゛、お゛へっ……けふっ!!』
 下を向いたやや厚みのある唇から、さらに大量の唾液がこぼれていく。嘔吐かとも見紛う量だが、あくまで色は透明だ。
 そして、気のせいだろうか。カメラの死角にあたる、姉貴の顔の右側……そこが何だか赤いように見える。
『……なに勝手に休んでんスか?』
 ひどく冷たい声と共に、前の男が喘ぐ姉貴の髪を掴みあげた。
『あ゛っ!!』
『俺、朝まで舐ってろって言いましたよね?』
 痛がる姉貴を前にしても、声のトーンは変わらない。俺は直感する。こいつは、サディストだ。
 姉貴の両手が震えながらシーツへ下ろされ、喉奥への凌辱が再開される。カコカコカコカコ、と喉奥を掻き回す音が始まる。そして一度限界を迎えてしまった姉貴は、もう喉の攪拌に耐えられない。
『うむ゛っ、こォ゛!!……うむ゛ぉお゛コッ…ぶふっ、ぶほっ!!ごぽっ!!」
 えづきともうがいともつかない音を発しながら、それでも姉貴は必死に耐えていた。
『くくっ。あの***センパイが、ここまで従順になるなんてな』
 一定のペースで犯していた後ろの一人が、肩を揺らして笑う。
『男にガチでカマされりゃ、大人しくもなんだろ』
 前の男はそう答えた。抑揚のない口調も恐ろしいが、喋った内容はそれ以上に聞き逃せない。
 男にガチでカマされた。似た言葉を最近聞いた気がする。
 ……そうだ。ファミレスで見たアレだ。鼻血を出したまま怯える、姉貴の写真。そうなると、さっきチラリと見えた顔右側の赤だって、思い過ごしではすまなくなる。
 このシーンは、あの写真の直後なのか。
 動画で直前にあたるのは、『4Pハメ回し⑦』。これは『ディープスロート調教』。そして、男がつい全力で殴ってしまう状況となれば……
『しかしまさか、あの状況で噛むとは。本気で逃げられるとでも思ったのかね。勇敢なんだか、無謀なんだか』
 俺が辿り着きかけていた答えを、後ろの男が口にした。
 やっぱりそうだ。姉貴はどうやら、逃げ出す隙を作るために男の物を噛んだらしい。
 姉貴はケダモノに身を食われながらも、必死に抗っていたんだ。この動画の直前……殴られて、男の力をはっきりと刻み込まれるまでは。
『どっちにしろ同じだ。何も考えなくなるまで、塗りつぶす』
 前の男がそう言って、太腿を引き締める。ゴエエッという声にならない声が、虚しく動画内に響いた。


    ※           ※            ※


 姉貴は動画の何十パートにも渡って、延々と輪姦され続けていた。姉貴だって一人の女だ。刺青を入れた厳つい連中に入れ替わり立ち代わり犯されるうちに、震えながら泣いてしまうことが何度もあった。

『女優本人が一度やってみたいと提案した、失神上等のハードプレイ。心配になって何度かカメラを止めたんですが、その度に「やめないで」と哀願されるんで参りました(笑)』

 動画の説明欄にはそんなふざけた文が並んでいるが、これは完全にレイプだ。
 嫌と言うほど見覚えのある顔が、背中が、足が、恐怖に震えている。チンピラ共に犯される実の姉……その映像を見続けるのは拷問と同じだ。これ以上つらいことなんてないようにも思える。でも、永遠に続くかと思えた輪姦シーンがようやく終わり、次の『性感開発』シリーズが始まれば、俺の胸の苦しさはさらに増した。

『前のメスブタには中途半端なまま逃げられてしまったので、今度は早めにポルチオ中毒にしておきます』

 そう説明の書かれた動画『ポルチオ開発①』で姉貴は、まず徹底的に焦らされつづけた。
 布団に横たわったまま股を開かされた姉貴のアソコを、チンピラ連中が舌と指で刺激する。10分や20分なんて軽い前戯じゃない。何時間もだ。
『……はぁっ、はぁ……っ……はぁ、はあっ…………!!』
 男連中は見るからにヤり慣れてる奴らで、姉貴の呼吸はものの数分で荒くなる。アソコからも濡れた音がしてくる。濡れた音は段々とはっきりとした水音になり、姉貴の太腿が震えだす。そしてついには、片腕で目を覆ったまま、「いかせて」と恥ずかしそうに呟くようにさえなる。そこまでになっても、焦らしは終わらない。
『うぅ……ぅうぅぅ……っぅぅぅぅう…………!!』
 姉貴の太腿の震えがいよいよ洒落にならなくなり、泣くような声と共に腰が完全にシーツから浮く。そんな状態が珍しくもなくなった頃に、ようやく焦らし責めが中断される。でもそれは、あくまで性感開発の準備段階でしかない。

 その次の動画では、姉貴を胡坐縛りで転がしたままでの『指マン』が繰り返された。涙声で何度ねだってもイクことを許されなかった焦らしとは逆で、今度は泣こうが喚こうが潮吹きを強いられつづける。
『あ……っ、あーーっ!! ああぁっ、んあああーーーっ!!』
 いくら姉貴でもそんな環境では、恥じらう余裕すらない。大口を開け、涎まで垂らしながら叫びつづける。そして指マンを続けるチンピラは、そんな姉貴の“さらに下”を要求する。
『ホラどうしたんスか? もっと思いっきり声出しましょうよ先輩! まだ我慢してんでしょ、大声で喘いだ方がキモチいいっすから!!』
 そんな事を何度も何度も囁いて、姉貴に大声で喘ぐ癖をつけようとする。しっかり者の姉貴だ、普段ならガキのそんな言葉には耳も貸さないだろう。でも今は違う。余裕のない中、チンピラの言葉に洗脳されたように、段々と喘ぎが大きくなっていく。
『……あああっ、あおおおぉーーっ!! おうっ、あはぉオオーーっっ!!!』
 シーツの一面が愛液で変色するようになった頃には、姉貴はとうとうそんな声まで上げるようになっていた。
『はははっ、スゲェ声! これがあのキッチリしてる***先輩かよ!?』
『もうオンナかも怪しいな、こりゃ!!』
 当然、周りからは嘲笑が起きる。でも姉貴は、それに反応する余裕がない。何度も腰を跳ね上げ、グチュグチュとかき回される割れ目から愛液を飛ばしながら“吼える”しかない。
 そして、この動画に収められているのは潮噴きだけじゃなかった。何十回と潮を噴かされて下半身を痙攣させる姉貴に、時々男連中のブツが挿れられることもある。しかも、普通にハメるんじゃない。まずは太いカリ部分で、アソコのごく浅い場所だけを刺激するんだ。狙いは当然、姉貴自身に挿入をねだらせること。
 正直俺は、ここで姉貴がかなり渋ってくれる事を期待していた。明日香と同じく、本当の意味での誇りを持っている姉貴のことだ。こんな屈辱的な行為に、そうそう折れたりしないだろう……と。でもそれは所詮、傍から見ている人間の理想でしかない。動画内の姉貴には、すでに踏ん張れる気力もなかったようだ。
『い……いれて…じらさないで…………』
 割れ目を刺激されはじめてから、ほんの1、2分後。姉貴は、確かにそう言った。困りきったような顔で。
『ひゃひゃっ!! んだよ、テメェから欲しがんのかよ。随分カワイイ女になっちまったなぁ、ええセンパイよぉ!?』
 犯すチンピラは白々しく煽り、姉貴の顔をさらに歪ませながら、ようやく奥まで腰を進める。
『うううんんんっ……!!』
 その瞬間、姉貴の喉から漏れた音は、本当に気持ちが良さそうだった。

 続く『ポルチオ開発③』からは、姉貴がさらに徹底して快楽中毒にされていく様子が収められていた。
 たぶん風呂場なんだろう、タイルと風呂桶、洗面器なんかが見える空間で、マングリ返しにされた姉貴が延々とバイブ責めを受けている。グリグリと円を描くようにしたり、奥を押し込むようにしたり、バイブの底を人差し指でリズミカルに押し込むようにしたり。いつだったか明日香が受けていたような、じっくりとしたポルチオ責めだ。
 下の毛は前もって全部剃られたらしく、割れ目にバイブが入り込む様子がやけにはっきりと見えた。
 この動画では、姉貴はバイブ責めをしている奴を含め、3人の刺青男に囲まれている。にもかかわらず、野次の類は全くない。本当にただ淡々と、調教として責めが進んでいく。それは野次の飛び交う凌辱動画より、妙に俺の胸をざわつかせた。
 『ほら、イク時はそう言えよ』
 低い声で発されるのは、この一言だけ。後は水音と、バイブの攪拌音、そして……
『い、いくっ、いくうっ!! いくういくっ!はぁっ、はあイクっ!!』
 苦しそうな姉貴の絶頂宣言だけが、風呂場に反響している。
 ローションが割れ目の中を満たしているのか、バイブが抜き差しされる時の音は独特だった。水っぽくはあるが、粘った感じが普通じゃない。そして事実、ある瞬間にバイブが抜かれた時には、ローション特有の糸が何本も引いていた。
 でも、だからって、あふれる透明な液がすべてローションとは思えない。姉貴はもう、相当濡れているようだった。バイブの抜かれた直後の割れ目をカメラが接写すれば、その考えが裏付けられてしまう。ぽっかり空いた洞穴のような奥まりに、かなりの量の液体が溜まっていた。どう贔屓目に見たって、ローションじゃない。姉貴の膣の奥から湧き出た愛液だ。
 割れ目にまた深々とバイブが嵌められ、駄目押しとして二本指でバイブの尻が押し込まれる。その瞬間、割れ目から「ぴすっ」と音が漏れ、姉貴の腰が震え上がった。
『あうっ!! ぁあ、う……あっ……!!』
 姉貴から上がる声は本当に甘い。そんな声、弟である俺にすら向けられた事がなかったのに。
『イク時には言う約束だろ?』
 また低い声がし、バイブを前後に揺らしながらクリトリスまで刺激されはじめる。
『あっ、はあっ!! い、イク、いくっ……!!』
 姉貴はただ命じられた通りに、絶頂の宣言を繰り返した。動画の前半部分より、明らかに柔らかさを増した声で。

 そして『ポルチオ開発③』以降は、セックスをひたすら繰り返す動画になった。
 布団へ仰向けで寝転んだまま、乳房を押し潰す位置まで膝を上げた姉貴。その上に刺青野郎がのしかかり、姉貴の両足首を掴んだまま腰を振りたくる。それを右横の床付近から、定点カメラで捕らえた映像だ。映像の奥にあたる壁際では、定点カメラとは別のカメラマンが、上から俯瞰気味にセックスを捉えてもいた。
 いい加減感覚が麻痺してきたんだろうか。俺にはそれが、よくあるハメ撮り動画に見えてしまう。犯されているのは、間違いなく自分の姉貴なのに。その姉貴が、開発したポルチオをさらに刺激され、刻一刻とメスにされている洒落にならない状況なのに。
『ああ……あぁあっあ、う……ぅ……』
 姉貴は横に投げ出した手でシーツを掴みながら、熱い吐息を漏らしつづけている。かなり気持ちいいのが、雰囲気として伝わってきた。多分、男の方が掴んだ足首の位置を微調整して、常に絶妙な体位を作っているせいだ。
 そして、その男はさらに責め方を変える。掴んでいた両足首を離したかと思うと、すぐにその手で姉貴の腿の裏を押さえ込む。さらに自分自身も前傾姿勢になって、深い突き込みを始めたんだ。
『うあ!あっ……あ!!!』
 姉貴は悲鳴に近い声を上げ、シーツから手を放す。パンッパンッパンッ、と激しく肉のぶつかる音が響く中、姉貴の細い手は肩の横の辺りを彷徨いつづけ、最後には胸の前で指を絡ませるようにして止まる。女性らしいが、どこか幼さも感じる仕草。大人として俺を叱っていた頃の姉貴なら絶対にしなかっただろう動作。それは、あの姉貴が幼児退行を起こしたようで、見ていてたまらない気分になる。
『……い、いく…………!!』
 そして姉貴は、か細い声で絶頂を宣言した。意識を集中していないと聞き逃しそうな、弱々しい声。でも、だからこそ、演技らしさがなくて生々しい。
『いいぞ、イけ!』
 低い声がそう言って、突き込みを速めた。姉貴はそれで一気に追い込まれる。
『あ……ぁあっ!! い、いくぅん゛っ!!』
 鼻にかかったようなその言葉をきっかけに、常に口を開くようになる。
『あ、はっはっはっはっはっ……!い、いく、いくぅっ!!い、いっ!!イッてる、イッてるっっ!!」
 激しい喘ぎと、捲し立てるような絶頂の宣言。明らかに品のある普段の姉貴じゃない。
『くくっ。簡単にイクようになってきたぜ、こいつ』
 多分犯している男だろう、さっきと同じ低い声がそう言って、また姉貴の足首を掴み上げた。そして今度はその足首を、姉貴の顔の横にくるまで押し込んでいく。
『んうう゛う゛イグッ…!!』
 姉貴から、恐れていた通り、本当に気持ちの良さそうな声が漏れた。
 そこからはまた、ひたすらの『ハメ撮り』だ。男は姉貴の足を掴んで押し込んだり、足首の辺りで交差させてみたりして、延々と姉貴を嬲りつづける。
『おいおい、やらしーなセンパイ。フェラん時より動くじゃねーか』
 一旦腰を止めてクリ責めをしていた男が、嬉しそうに言う。腰を動かすまでもなく、敏感な部分を弄られただけでアソコが蠢くんだろう。まるでレイプ野郎を愛するみたいに。
『さーてと、そろそろ俺も逝くぜ……!!』
 男がそう言って、また姉貴の太腿を押し込んだ。
『ううー、うううっ……!!うっうっうっうっう、ふぅうっ……んんぐううっ!!』
 姉貴は太腿を掴む男の手のすぐ傍へ手を置き、激しく喘ぎつづける。映像の奥では、カメラを構えた1人が横へ回り込み、定点カメラとは別方向からのフィニッシュシーンを収めていた。
『お、お……ふーっ、スゲー出た』
 男が、姉貴の腿に手を置いたまま大きく胸板を上下させる。そしてゆっくりと腰を引いた。俺がまず注目してしまうのは、野郎の逸物だ。姉貴の足から、愛液まみれのままずるりと抜け出た逸物は、案の定でかい。すでに完全な勃起状態じゃないが、太さも長さも俺より二周りは上で、亀頭の張り具合も半端じゃない。あれに犯されたら、それは気持ちいいだろう。そう納得してしまうほどの剛直だった。
『はっ、はあっ、はあっ…………』
 姉貴は逸物を抜かれてからも、足を開いたまま激しく喘いでいた。そんな姉貴を鼻で笑いつつ、さっきの男が太腿を押し込む。姉貴の身体がピクリと反応する。かなり大きな反応。ポルチオの余韻はまだまだ残っているようだ。
『ふん、ぐったりしやがって。オメー、先週俺に切った啖呵憶えてっか? 弟クンと同学年(タメ)のくせに、救えないほど薄汚れたゴロツキ――だっけか。んでよぉ。そのゴロツキにガッツリハメられて、今日だけで何回イッたよ?』
『はぁ、はぁ…………し、知らない。数えられるわけ、ないでしょ…………』
 男の煽りに、心底悔しそうな様子で答える姉貴。その態度は、俺の知る姉貴のイメージと重なり、ほんの少しだけ胸の痛みを和らげてくれる。
 でも、その安心も一瞬でしかない。
『だろうな。よし、次お前ハメろや』
 男はデカブツを振りながら立ち上がり、カメラを構える一人と場所を替わる。カメラを構えた新しい一人は、並外れたサイズの逸物を斜め上に勃起させきっていた。
『えっ……?』
 逸物がアソコに宛がわれた瞬間、半身を起こした姉貴の顔が引きつる。
『ちょ、ちょっと休ませて! まだ、イッたばっかり……!!』
 明らかに必死さを滲ませた懇願も、畜生の耳には届かない。姉貴に大股を開かせたまま、深々と腰を割り入れる。
『いっ……いやあああああぁーーーーーっ!!!』
 映像は、姉貴のこの悲痛な叫びを最後に暗転した。


    ※           ※            ※


 動画を時系列順に追っていく限り、性感開発が着実に進められる一方、羞恥や苦痛責めも同時並行でされていたようだ。多少順番が前後したり細部が違ったりしながらも、おおよそ明日香が受けた責めをなぞる形で。
 明日香があまりにも我慢強く耐えるせいで、ラブホテルでの責めはどんどんエスカレートしていった。最後には、洋物AVの屈強な女優さえ泣き叫ぶようなハードプレイさえ再現された。そして姉貴は、その煽りをモロに食らう形となる。

 ある動画では、ポルチオ責めでも出てきた風呂場で姉貴が身動きを封じられていた。
『そろそろ限界近ぇな。ゲロとウンコ、どっちが先に出るかな?』
『***はゲロだったからよ、今度はウンコでいいぜ。俺ァ喉マンよりケツのが好きなんだ』
 そんな事をほざきながら、1人が姉貴の口に指を突っ込み、1人が尻の穴を指で弄繰り回している。床に転がったいくつかのイチジク浣腸が、おおよその状況を伝えてくる。
 これは明日香も受けた二択責めだ。明日香は男2人が呆れるほど耐えに耐えた末、結局はミキの“指イラマ”で敏感になっていた喉から吐瀉物を吐きこぼし、そこからディープスロート調教をされる羽目になった。
 そして、姉貴は……
『んもぉ゛っ、ふもぉ゛らぇえええ゛ーーーーっ!!!』
 喉をかき回されながら絶叫し、口から吐瀉物を吐きこぼす。でもその直後、風呂場のタイルにも汚液の叩きつけられる音が響いた。ほぼ同時の決壊だ。
『ハハハハッ、まさかの両方かよ。ったく欲しがりだなあセンパイはよ!!』
 男2人が嘲笑う。こうして姉貴は、喉とアナルの二箇所で罰を受けることになった。

 その次の動画名は、『プライド崩壊下痢便ファック』。その名の通り、浣腸器で何度も薬液を調教されたまま、アナルを犯され続けるプレイだ。
『うっ、うっ……うっ……!!』
 対面のまま、重ねた両足首を掴まれてアナルを犯される姉貴。動画が始まった時点で、すでにその目は泣き腫らしていた。
『だぁら泣くなって。んなにキモチいいのかよ、下痢便ぶち撒けながらクソの穴ァ犯されんのがよッ!?』
 カメラを背にした男が、嬉しそうに腰を振る。姉貴のビラビラが丸見えなんだから、勃起した逸物が出入りしているのは、アナルで間違いない。あの姉貴の、排泄の穴だ。
『けっ、まーたケツがヒクヒクしてきやがったな。いいぜ、出せやオラッ!!』
 男がそう言って腰を引くと、床の汚物が丸見えになる。
『やっ、ぁ……!!』
 か細い悲鳴が聴こえた後、姉貴は限界を迎えた。多少開いているとはいえ、まだまだ初々しいといえる肌色の肛門。そこから、黄色い汚液がどろりとあふれてくる。俺はパソコンに向かいながら、貧血を起こしたようにグラついた。肉親の排泄をノーモザイクで目にするのは、覚悟していた以上にきつい。明日香のそれを生で見た時よりも、だ。

 その次は、明日香も受けたディープスロート特訓。
『いちいち吐き出すんじゃねぇよ、***先輩よぉ! ったくこのドン臭さ、アイツにそっくりだな。さすが同じ血ィ引いてるだけあんぜ。愛嬌も愛想もイマイチな女が便器にもなれねぇとか、お前生きてる価値あんのかよ!?』
 姉貴に喉奥奉仕を強いながら、藪岡ががなり立てる。もう3つ上の先輩に対して敬語ですらない。
『ぶふっ、ぶほっ!!ぶはっ!!』
 姉貴はきつく閉じた両目から涙を流し、何度も藪岡の逸物を吐き出してしまう。動画が一分進むごとに、一層激しく手足をばたつかせながら。それが人間として自然な反応だ。吐瀉物を大量に吐きこぼすその瞬間まで、両手両足を床につけていた明日香が特別なんだ。でも、男連中はそうは捉えない。
『あーあーカッコ悪ぃなあセンパイ、いい年してギャーギャー喚きやがって。もう何遍言ったかわかんねーけどよ、ちったぁ***を見習ったらどうスか?』
『そうそう、ありゃアンタより6つも年下なんだぜ?』
 明日香を引き合いに出し、姉貴を無様と罵りつづける。
 こういう明日香との関連付けは、わざとなのか、単に面白いからか、これ以降の動画でも頻繁に見かけるようになった。
 例えば、次のファッキングマシンを使った責めでも。

 洋物ハードコアビデオ御用達の、直立式ファッキングマシン。それを見た瞬間、動画内の姉貴の顔は凍りついた。こればかりは仕方ない。あの明日香ですら、目を剥いて汗を垂らしたんだから。
 俺だって、ラブホテルの2階、209号室に設置されたそれを見てゾッとした。まさに拷問器具。明らかに日本人女性に使う事を想定していない、黒人サイズのディルドー。その上下のピストンを担うアームの頑丈さ。土台のデカさ。そういった視覚情報から、人体を破壊しかねないハードさが直感的に理解できてしまう。ネットでジョークグッズとして見かけただけでも、笑いが引くほどの禍々しさだ。それを今から『自分に』使われるとなれば、ショックで卒倒しかねない。
 姉貴の前に晒されたマシンは、色合いこそ209号室のものとは違うものの、形はそっくり同じだった。
『えげつねぇよなあコレ。アンタにゃ正直キツイと思うわ、ここまで見る限り。けどよ、可哀想だがコイツを味わってもらわなきゃなんねーんだ』
 マシンの覆いを手に持ったまま、目線の入った刺青野郎が笑う。同情……な訳はない。それらしい言葉を吐くことで、姉貴に自分の不幸を自覚させるのが目的だ。
『なにせ、***もやったんだからよ?』
 明日香がやったんだから、お前もやれ。またこの論調だ。連中は、そんな事を繰り返して何がしたいんだろう。
 明日香も耐えたんだからと、姉貴に発破をかけている?
 それとも明日香に対して、今さらヘイトでも溜めさせたいのか?
 わからない。というより、わかるはずもない。何の罪もない明日香を監禁レイプした挙句、今またこうして、無関係な姉貴を痛めつけている。その時点で、もう俺の理解なんて及ばない。気の狂った畜生だ、アイツらは。

『んぉおおおっ!おおっ、ほぉお゛お゛っ!!ほおっぐ、んっぉおお゛お゛オ゛オ゛っ!!!!』
 まさしく洋物AVで聴くような声が、映像から垂れ流される。声の主は姉貴だ。あのきちんとした姉貴らしくはないが、映像を見ると納得するしかない。
 がに股でのX字拘束、とでも言えばいいのか。両手首を天井からの鎖で繋がれたまま、大股開きでマシンを跨ぐ格好。割れ目には当然ながら極太のディルドウが叩き込まれ、肛門にはたっぷりと浣腸を施された上で極太のアナルプラグを嵌められる。さらには乳房にまで、搾乳用の器具が取り付けられる徹底振りだ。
 ディルドーを動かすアームは、女の状況なんて一切考慮せず、無機質に割れ目の中を蹂躙する。どれだけ浣腸が効き、腸内が荒れ狂い、獲物が泣き叫んでもだ。その状況を延々と続けた先には、アナルプラグを弾き飛ばして盛大な無様を晒すしかない。そしてその瞬間にもアソコの蹂躙は止まらず、乳房は人間の力では無理なレベルで引き絞られ続ける。さらには恥辱の排便を散々笑い者にされた挙句、空いた肛門は当たり前のようにギャラリーに『使われる』んだ。クソの感触がたまらないだとか、ケツで感じてるんだろうだとか、耳を塞ぎたくなるような言葉責めを浴びながら。
 そこまでの地獄を受けて、上品な顔と声を保っていられる道理はない。あの明日香でさえ、40分を過ぎた頃には顔をくしゃくしゃにして苦しみ、恥じ入り、最終的には洋物ビデオさながらの声を上げたんだ。
 となれば当然、姉貴に耐え切れる道理はなかった。姉貴が明日香より劣るとか、そういうことを言いたいんじゃない。でも、明日香の精神力は超人的で、姉貴はそこまでじゃない……俺の想像が及ばないレベルじゃない、それは事実なんだ。
 この調教での姉貴の狂いぶりは、直視が厳しいレベルだった。実際俺は、何度も動画を一時停止して、過呼吸を抑える必要があった。
 でも。動画内のケダモノ共は、それほどの姉貴を前にしても、まだ平然と笑っていた。それどころか、姉貴の一挙手一投足をあげつらっては笑い、姉貴から涙を搾り取った。
『しんどそうだなぁセンパイ。俺らもこんなモン、わざわざ取り寄せたかなかったんだぜ。高ぇし重ぇし。でもしょうがねぇよな。前の奴隷にも、コレと同じモン使っちまったんだからよぉ!』
 まただ。明日香の存在に、極限状態の姉貴の意識を向けている。

 この傾向は、さらに次の動画、『胡坐縛り連続ゲロマチオ①』でも変わらず続いた。
『んぼぉお゛ぇあ゛エ゛ッ!!ぶっ、ぶふっ……ごもぅえ゛お゛え゛っ!!』
 喉奥まで極太を咥え込まされ、姉貴が吐瀉物を吐きこぼす。事前に大量の尿を飲んでいた明日香の時とは違い、はっきりとした半固形の吐瀉物が、縛られた姉貴の太腿へと浴びせかかる。
『あああ゛っイヤアーーッ!! いやああ゛いやああ゛あ゛ーーーーっっ!!!』
 汚辱か、苦しさか、恐怖か。怒張を吐き出した姉貴は、目隠しからまた新たな涙を溢しながら、半狂乱で叫びつづけた。ただの人間なら、当然そうするように。
『辛いよなぁ、苦しいよなぁ。ここまでやられてまだ意地張り通すなんざ、***って女も大分イカれてると思わねぇか、なあ先輩』
 泣き喚く姉貴の頬を掴み、また喉奥までの奉仕を強いながら、モヒカン頭が囁きかける。

 さらに2つ後の次の動画、フィストファックでも同じくだ。
『あああ、ああぁああ゛ーーっ!!』
 四つん這いのまま、男の太い腕を割れ目へ捻じ込まれ、姉貴は恐怖に泣き叫ぶ。その様子がまたイカれた連中の嗜虐心を煽るのか、嬉々として強引なフィストが続いた。でもそんなある時、拳を捻じ込んでいた1人が眉を顰める。
『どうした?』
『いや、どうしたっつーかよ……ほれ』
 目を見開いたまま凍りつく姉貴の後ろで、男3人が歪んだ笑みを浮かべる。その視線の集まる下に、ぽたぽたと紅い雫が垂れていく……。
『ふん、マンコが切れたか』
 ごく普通の口調で発されたその呟きで、姉貴の目が恐怖一色に染まる。
『あ……ああぁ…………』
 もう姉貴は、震える息を吐くだけで精一杯だ。そんな姉貴の様子を見てもまだ、動画内の連中に憐れむ様子はない。
『ま、こんなザマになっちまったがよ、恨むんなら***にしてくれや。元々アイツが涼しい顔で突っ張りつづけるせいで、お前までこんな目に遭う羽目になってんだぜ?』
 メチャクチャな理論を振りかざして、3人は笑う。紅い筋の滴る足の付け根へ、さらに腕を突き込みながら。
『あ、あ……うああぁああーーーっ!!!』
 姉貴が悲痛な表情で叫ぶ。その直後に画面が暗転してからも、姉貴の叫びと下卑た笑い声だけは、数秒に渡って続いていた。

 その5つ後の動画は、『人間便器』。首と両手を固定され、開口マスクを着けられたままで便器として使いまわされる地獄だ。
 動画内の大半の時間、姉貴の両穴はバイブで塞がれていた。この責めを受けた時点でも二穴の締まりを保っていた明日香と違って、姉貴はフィストで壊された直後だから、“性欲処理の穴としてすら”人気がなかったんだ。
『どうした先輩。***はこのぐらい、涼しい顔で耐えてやがったぜ?』
 チンピラ2人が両側から開口マスクに向けて放尿しながら、明日香の話題を出す。それに姉貴が反応したのを見て、一人がイラマチオを仕掛ける。さらに別の一人も、アソコのバイブを抜いてハメはじめる。
 その地獄の中、着実に姉貴は壊れていった。
『ああ゛あ゛ーーーっ、あえあらぁえあ゛あ゛ーーーーっ!!!!』
 瞳孔は開き、開口具越しに何かを叫びつづけるようになる。
『何だ何だウッセーな、何喚いてやがんだよ』
 赤い髪のチンピラが、期待した表情で開口具を取り外す。その瞬間、姉貴の喚きが言葉になった。
『もう便器扱いはやめてっ!!あたしは……あたしは人間よおっ!!!!』
 目を瞑っていたら、俺はその声を姉貴のものだと認識することすらできなかっただろう。まったく聴いたことのない、性別や年齢すらわからない、裏返った声だった。
 これも、当たり前のことだ。男に囲まれ、視姦され、口を使われアソコを使われ尻を使われ、飽きれば蔑んだ目で小便を飲まされる。そんな状況が何時間も何十時間も続けば、おかしくならないわけがない。明日香のような、そもそも精神のステージが違う人間を別にすれば。
『そっかそっか、人間か。そりゃ良かったな。さ、続けるぞ、“便器”』
 チンピラはそう言って、姉貴にまた開口具を取り付ける。
『えあ゛っ!? あえっ、あえれおっ、えああぁぁ゛っ!!!』
 姉貴が目を剥き、普通じゃない激しさで拒絶しても、動画内の連中の誰一人として動揺しない。まさに汚い便器を見る目を、薄汚れた姉貴に落としている。
『悪ィなセンパイ。この人間便器はよ、丸一週間続くんだ』
 淡々とした声が響く。姉貴が目を見開いた。
『これもよぉ、全部***のせいだぜ。アイツがよ、責めても責めても、イジめてもイジめても、生意気な目で耐えやがるもんでよぉ、気付きゃ一週間嬲りっぱなしだった。お前にも、それと同じ目に遭ってもらわなきゃなんねぇ。特別に教えちまうが、まだ三日目の朝でよ、折り返しにすら来てねぇんだ』
 震えだす姉貴に薄い笑みすら浮かべて、金髪は続ける。
『俺らは眠ィからそろそろ帰るが、入れ替わりで元気な連中が来るからよ、たっぷり便器として使ってもらえ。ハメ回されて、ボテ腹ンなるまでションベン飲まされて……そんでどうしてもキツけりゃ、まあ適当なトコで狂ってくれや?』
 そこで金髪は、ひとつ大きな欠伸をした。そしてドアをノックする音が響き、動画は終わる。最後の最後に、姉貴の呆然とした表情をアップにして。


    ※           ※            ※


 人間便器の動画が終わった後、俺は呆然としていた。動画の最後に映った姉貴が、俺に乗り移ったようにだ。
 下を見ると、ズボンがかなり濡れていた。俺はそれを見て最初、射精でもしたのかと思った。でも、逸物は萎えきっている。とても射精できるコンディションじゃない。じゃあ失禁かと思うが、それにしては尻の方まで濡れている様子がない。
 そこまで思考を繋げて、ようやく気付く。目から大量の涙が出ている事に。目が痛い。ドライアイでヒリヒリしている。明日香の調教を見ている時もそうだった。俺には集中した時、こんな癖があるのか。
 俺はそんな取りとめもない事を、数分もの間ずっと考えていた。目的ははっきりしている。現実逃避だ。だって俺はさっきから、気付いてしまってるんだ。人間便器のさらに後にも、動画が続いていること。姉貴の地獄巡りの記録はまだ先があること。
 そしてそのタイトルが、『完全精神崩壊51P ① 』であること。

『某県某地域の不良の間で伝説になっている、<息子の目の前で母親が50人に輪姦されて狂った話>を再現してみました。なにぶん噂の再現なので、想像でしかないですが……ハードな映像になっている事は間違いありません!』

 これが動画の説明欄だ。
 白々しい。ここに書いてある母親の輪姦が、藪岡達主導で起こした事件だというのは周知の事実。やった張本人なんだから、再現は完璧に決まってる。でも、そんな事はどうでもいい。問題は、その伝説の責めの再現が、姉貴の動画シリーズに入っていることだ。
 喉が渇く。指が震える。
 再生ボタンを押すまさにその瞬間、動画の再生時間が見えた。
 119:58、約2時間。そしてそれだけの尺を取っても、複数パートの1番目でしかない。

 映像が始まった。
 映し出されたのは、殺風景な吹き抜けの空間。天井の高さからして、どこかの工場か倉庫の跡だろうか。そしてその風景の中心に、姉貴の姿があった。丸裸のまま、後ろ手に縄を打たれている。ペンキや油まみれの床に敷かれた、2メートル四方ほどのマットがベッド代わりだ。
 そしてその姉貴を、ガラの悪そうな連中が大挙して取り囲んでいた。あまりにも頭数が多すぎて、引いて撮っているカメラでも全体を映し込めていない。ただ、タイトル通りなら50人の竿役が揃ってるんだろう。
『ゆ……ゆるして』
 姉貴は周りの連中を見上げながら、怯えきった様子で哀願する。最初の頃の先輩然とした気丈な態度は、もう気配すらない。
『そんな寂しいこと言わねぇで、皆で楽しもうぜ。***先輩とヤれんのを楽しみに、わざわざ集まってくれた連中なんだ』
 どこかから藪岡の声がする。品のない笑い声がそれに続く。
『いや……あたし、もう帰りたい…………!!』
『いいじゃねぇか、ここが新しい家で。これだけ若くて元気な連中から、死ぬほど愛されるんだぜ。逆ハーレムって奴だ。どんだけの女が羨ましがることか。……ま、今さら泣いても喚いても帰れねぇんだ、せいぜい楽しめや』
 姉貴の切実な訴えも、藪岡には通じない。いつも通り、相手の苦しむ様子を面白がるだけだ。

 そして、輪姦が始まった。
『いや、いやああ……っっん、む、ぐうっ!!!』
 身を捩って嫌がる姉貴に這うような格好を取らせ、前後を2人の男が挟みこむ。まずはフェラと挿入だ。
『あ? ンだよ、緩ィなこいつ。陸上部のエースじゃねぇのかよ!?』
 後ろから挿れた一人が、眉間に皺を寄せて叫ぶ。
『悪いな。ちっと無茶しちまってよ、マンコもケツも伸びちまった。ま、端っからそんなよく締まるオンナでもなかったがよ』
『マジか。あの***先輩とハメられるっつーから、三日ぐらいシコんの我慢してきたのによ、蓋開けりゃタダの女かよ? ったく、もうちっと気合入れろや先輩よぉ。こんなんじゃいくら腰振ってもイケねぇだろうが!!』
 後ろの男は、散々に不満を漏らしながら、姉貴の尻を平手で打ち据える。そして前から咥えさせる男も、同じく姉貴を睨みつけていた。
『オイ、わかってんだろうな。今度は噛むんじゃねぇぞ!!』
 どうやらこいつは、前に逸物を噛まれた奴らしい。
『ひゃひゃっ、お前噛まれたのトラウマになりすぎだろ!』
『笑い事じゃねんだよボケが、こっちは2針縫ったんだぞ!? この女、完全に噛み切る気でいやがった!』
『ありゃ自業自得って気もするがな。ま、何にせよもう噛まねぇって。ツラぁ見てみな、ンな覇気があるように見えっか?』
『そういや、すっかり従順な犬ってツラだな。あの気ィ強えセンパイがよ』
『だろ。ハメられて、浣腸されて、ゲー吐かされて、挙句にゃションベンまで飲まされて……そういう扱いが、もう何週間も続いてんだ。プライドはもうボロボロよ』
『***はそれでも踏ん張りやがったがな。あれにゃ正直ビビッたぜ』
『カワイソーだよな、この女も。馬鹿な弟持ったばっかりに、そのバケモンと同じ扱いにされちまうんだからよ』
 吐きそうなぐらい悪趣味な会話が飛び交う。その中心で姉貴は、身を捩ることすら許されずに犯され続けていた。
『んふっ……ほぉもう…うっ、んォオっ……おぶっ、むほぉっ……!!』
 でかい逸物を喉奥深く咥えさせられた口からは、苦しそうなえづきが繰り返される。その一方で後ろからも、腰を鷲掴みにした荒々しい突き込みが続く。
『こいつ締まりはイマイチだが、濡れんのは早ぇーな。もうグチョグチョになってきやがった』
『ああ、だいぶ乱交には慣れてんぜ。最初はイヤイヤうるせぇが、いざ輪姦しはじめっとスグその気になりやがる』
『なんだそりゃ、面倒くせぇビッチだな』
 連中は言いたい放題だ。あの姉貴が、ビッチ? 俺の知る限り、誰よりも貞操観念がしっかりしていた、あの姉貴が?
 違う。そんな訳がない。たとえ感じやすくなっていたとしても、それはそういう風に開発した、外道共のせいだ。姉貴は悪くない。何も。何も。

 動画の中で、姉貴の責められ方がまた変わる。男の上へ乗る形で突き上げられたまま、頭上に跨る男からマウント気味にイラマチオを強いられる。別の2人がそれぞれ左右の足をまっすぐ伸ばす形で掴んでいるため、姉貴には一切抵抗する手段がない。
『おゴッ……も゛ぇええ゛っ、えごっ、ほも゛おォ゛うえ゛っ!!!』
『すっげ、マジで簡単に喉まで入んだな、キモチいいわーこれ。昔のオレにも聞かしてやりてぇよ。お前あと何年かしたら、あの***センパイの喉マンコ犯せるんだぜって』
 苦しそうに呻く姉貴に対して、喉を犯す奴は随分と楽しそうだ。
『あーやべ、出る出る……溢さずに飲めよ』
 最後にはそう言って、姉貴のすっきりとした顎に指を添えながら射精する。
『う゛っ、ぶほっ、お゛ほっ!!』
 精液の量はかなり多く、一部は呑みきれずに姉貴の口から零れてしまう。俺には経験がないぐらいの射精量だ。それが口へ注がれたことが、救いにすら思えてしまう。もしそれが膣へ注がれたなら、いつ妊娠してもおかしくない。
『おらっ、こっちも出すぞ!!』
 そして、動画を撮る鬼畜集団がそんな配慮をする筈もない。深々と突き上げた一人が、一切遠慮せずにアソコの中へ射精する。
『くくっ。微妙な具合だったが、その分焦らされて思いっきり出たな』
 その言葉と共に太い逸物が抜かれれば、拡がった割れ目から大量のザーメンがあふれ出した。

 シークバーを思い切って動かしても、輪姦が終わる気配はない。
 這う格好のまま、目の前に座り込んだ男の物を咥えさせられ、アナルをバイブで掻きまわされながらアソコを犯しぬかれたり。
 座ったまま四方八方を男に囲まれ、濃い唾液の線をあちこちに繋げながら、延々と口での奉仕を強いられたり。
 膝立ちのままイラマチオを強いられ続け、もう白目を剥きかけているにも関わらず、後ろから後頭部を押さえ込まれたり。
 背後から背面座位で犯され、乳首を弄繰り回されながら、別の一人の物をしゃぶらされたり。
『ああああぁいやあああ!!やめてっやめてえええぇぇぇえーーっ!!!』
 穴という穴を犯される姉貴の悲鳴が、音割れしながら響きわたる。何分飛ばしても、何分飛ばしても。
 50対1のセックスでは、本当に休む暇すら与えられない。
『ふうー、出た出た。これでケツに10発、マンコに20発か。そろそろ孕むかね、この女』
 物騒な言葉と共に、また逸物が引き抜かれた。すっかり陰唇の歪んだ姉貴のアソコから、ザーメンが絶え間なく零れ落ちていく。心を折る手段の一つとして、妊娠させることが一つの目標になっているんだろう。どいつもこいつも、とにかく生でハメて中出ししまくっている。
『もう、本当にやめて……』
 可哀想に、姉貴は怯えきっていた。自分の倍近い体格の人間に代わる代わる犯され、誰とも知らない奴の子供を孕みかねない状況なんだ。怖くて当然だ。
 でも、そんな姉貴に容赦する人間はいない。淡々と姉貴の腕を掴み、腰を上げさせ、輪姦を続けようとする。
『あああっ!? ご、ごめんなさい、ごめんなさいぃっ!!!』
 すでにパニック状態なんだろう。姉貴は男の腕に身体中を掴まれたまま、目を泳がせて謝罪を繰り返す。
『ん? なにセンパイ、何か悪い事したの?』
『し、してないっ!! してないけど、ご、ごめんなさいっ!!!』
『何それ、なんかおかしいなー、オイ何やった、言ってみろよ』
『な、何もしてないっ! あたし、な、何もしてませんっ!!』
『だからおかしいだろうが、何もしてない人間が謝るかよ。何かやったから謝ってんだろ、オラ白状しろよ!!』
『なにもやってませんっ!! あ、謝ったの謝りますっ、だからゆるして、おねがい許してっ!! どうすれば許してくれるの? なんでもやるから、ウチに帰してーーっ!!!』
『何でもやるなら、このまま犯され続けとけよ。ガキ孕むまでな!!』
 もはや、地獄絵図だ。涙ながらに許しを乞う姉貴と、そんな姉貴を輪姦するチンピラ共。そのひどい状況のまま、最初の動画が終わる。

 続く動画でも、状況は一切変わらない。泣き喚く姉貴と、それを面白半分に嬲る男共という構図のままだ。当然姉貴は、刻一刻とまともさを失くしていく。
 そして、動画時間にして都合3時間近くが経った頃。恐慌状態の姉貴に、外道共が追い討ちをかけはじめた。
『くくっ。にしてもよ、アンタも可哀想だよなぁセンパイ。なーんも悪い事してねぇのに、***のとばっちりでこんな地獄を味わうハメになっちまうんだからよ!』
 二穴責めの最中、背に覆い被さる一人が姉貴に囁きかける。
『い……いっ!?』
 歯を食いしばって耐える姉貴は、その言葉に後ろを振り返った。
『そういや***の奴は、今頃どうしてんだろうなぁ。俺らから逃げて、今頃は何食わぬ顔で幸せに暮らしてんのかね?』
 前から犯す一人もその会話に乗り、姉貴の注意を惹く。
『ああ、みたいだぜ。俺のツレが見たんだよ、***がその女の弟と、仲良さそうに歩いてるとこをよ。確か、最後にゃラブホに入ったっつってたっけ』
 周りで見守っていた人間からも、そんな声が上がった。規制音があっても、話題が明日香と俺の事だと理解できる。動悸が早まる。
『はははっ、そりゃいいや! んじゃ***の奴、キツイ役目は全部この女におっ被せて、自分は誘惑した弟クンとハメ捲ってるって訳か。ふてぇ女だなまったく!!』
 一人が笑いながら発した言葉に、とうとう姉貴が目を見開いた。男相手に逆らうことを諦めた姉貴が、怒りの矛先を向けるのは……
『あ……***…………***ぁァア…………ッ!!!!』
『そうだ、***を恨め! 全部アイツだ。可愛い弟誑かしてんのも、お前をこんな目に遭わせてんのも、全部! どう思う、どうしたい!!』
 外道共は、姉貴の意思を誘導する。
 俺よりずっとしっかりした姉貴のことだ。普段なら、明日香に非なんてなく、恨むべきはあくまで藪岡達の方だと理解できるだろう。でも、動画の中の姉貴はすでに正気じゃない。正常な判断なんて、とっくにできなくなっている。男連中相手に意味もわからず謝罪を繰り返していたことからも、それは明らかだ。
『***あああッ!! ***アアアァアアアッッ!!!!』
 姉貴の顔は、僅か数秒の間に、鬼のような形相に変わっていた。溜まりに溜まっていたストレスや恐怖、不安……そうしたものが方向性を与えられたことで、すべて怒りに昇華したように見えた。
 男達は、そんな姉貴を囲んで笑う。その笑い声には藪岡のものも含まれていた。そして賑やかな雰囲気をそのままに、動画は終わりを迎える。次の動画は表示されない。今の、『完全精神崩壊51P ② 』が、シリーズ最後の1本だ。

 俺は黒い画面を眺めながら、呆然としていた。
 姉貴が壊された。あの外道共に。
 しかも、それだけじゃない。明日香に対して、悪感情を植えつけられ

 …………そこまで考えて、ふと全身に悪寒が走る。

 気づいてしまった。
 と、いうより、もっと早く気がつくべきだった。


   ――――明日香は、無事なのか?


 ショックのあまり気絶しそうになりながらも、何とかスマホを探り当て、震えながら明日香の番号を選ぶ。姉貴に電話した時のトラウマが甦る。
 コール音。
 コール音。
 コール音。
 頼む、出てくれ。
 俺のその願いを汲んだかのように、電話は繋がった。
「明日香!!」
 俺は嬉しくなって、最愛の相手の名前を呼ぶ。
 
 でも。

『オウ』
 返ってきたのは、ガラの悪そうな男の声。
 俺は、思わず固まった。掛け間違えたかと思って画面を見るが、表示は確かに「明日香」と出ている。
 なら、なんで。どうして。
『今いいとこなんだよ、邪魔すんじゃねーよ』
 男の声はそう続けた。
「あ……あ…………」
 俺は呻く。呻くしかない。言葉が出ない。
『誰から?』
 電話の向こうで、また別の声がする。少し遠い。
『ああ、例の彼氏クン』
 最初の声が、誰かに向かってそう話しかける。そしてまた送話口に顔を向けたのが、息の感じでわかった。
『ノンビリ話してる状況じゃねーからよ、切るぜ。今からいいモン送ってやっから、それでも見とけ』
 その乱暴な口調の後、通話状態が切られてしまう。
 またしても呆然とするばかりの俺の手元で、スマホが震えた。明日香のスマホからメールが送られてきたらしい。メールの中身は、何かの映像。
「なんだ……これ」
 俺はぼうっとしていて、躊躇する判断すらできずに、再生ボタンをタップする。

 映っているのは、どこかのカラオケボックスの個室だ。
 床に高級そうなシルクのショーツが落ちている。ソファにも何人かが深く腰掛け、煙草をふかしている。
 全員、下半身には何も着けていない。そして、ソファ脇のガラステーブルには使用済みのコンドームが2つ、内容物を撒き散らした状態で置かれていた。
 これだけなら、ただの下品な映像だ。片田舎のヤンキーが、場所も弁えずサカっているだけ。見飽きるほどよくある光景。
 ……モニターに照らされた赤いソファで、激しく動く女さえ、無関係な誰かであったなら。

 女は前後から男に挟まれていた。
 膝立ちになった一人が前からフェラをさせ、別の1人が後ろからトップスをたくし上げて胸を揉みつつ、チェック柄のスカートを捲って挿入している。
 その女の格好に、見覚えがあった。
 肩を大胆に露出させたフリルつきの白カットソーに、チェック柄のミニスカート。
 色といい、柄といい。間違いなくデートの時に着ていた明日香の格好だ。彼女は普段、ああいう格好をしないと言っていた。じゃあ、あの日か。あの日俺と別れた後の映像なのか、これは。
 ああ、思い出した。あの日彼女は、デートの途中から急に口数が少なくなって、機嫌でも損ねたのかと心配したものだ。そしてそのタイミングは、トイレに行ってからだった。多分あそこで、脅しのメールか電話でも来たんだろう。その結果が、これなんだ。

『だいぶ気分が出てきたみたいじゃねぇか。彼氏とイチャついた後だから、興奮すんだろ?』
 前からモノを咥えさせる男が言う。俺の仮定を裏付けるような言葉だ。
『違いねぇ。そうだ明日香。おまえ今、どっからシャブ買ってんだ? 良いルートあんなら教えてくれよ』
 これは後ろの男の言葉らしい。あくまで明日香がシャブをやっている前提で話している。確かにあれだけ常用させられていたんだ、まだ依存していると思うのが自然だ。
『はぁっ、はぁっ…………そ、そんなもの、とっくに体から抜いたわ!』
 それまで荒い息を吐くばかりだった女が、ついに声を出した。凛とした、よく通る声。育ちの良さが窺える、丁寧な喋り口調。
 これで確定する。犯されているのは、明日香だ。
『おいおいマジかよ、じゃあシラフでこの濡れ方か!? はははっ、カラダ開発されすぎだろお前!!』
 後ろから犯す男が、腹を揺らしながら笑った。映像の中の明日香が、唇を噛みしめる。
『おら、彼氏のと俺の太ぇのと、どっちがいい? って、俺に決まってっけどな。前にアイツの見たことあっけど、ついてんのかわかんねーほど小っこかったっけなあ!』
 彼氏、というのは、まず間違いなく俺のことだろう。ついていないなどとはふざけた事を抜かす、一応日本人の平均サイズはあるんだ。
 でも、映像内で抜き差しされている物は確かにデカい。洋物AVに出てくるペニス並みだ。
『ふざけないで!!』
 と、ここで明日香が叫ぶ。毅然とした目を男2人に向けながら。
『覚醒剤を体から抜くのが、どれだけの地獄か解る? 彼が待っていてくれたから、私はその苦しみに耐えられたの。あなた達ケダモノとなんて、比べる気すら起きないわっ!!』
 明日香は、部屋に反響する声量で、はっきりとそう言い放った。俺は思わず胸が熱くなる。
『ケッ。よく言うぜ、そのケダモノの誘いにホイホイ乗って、こんなとこまで付いてきといてよ』
 フェラをさせていた男がそう言うと、明日香の表情が一気に険しさを増した。
『なっ……! ひ、人を脅しておいて、よくもそんなこと……っ!!』
 脅し。その言葉に、前後の男が肩を揺らして笑う。
『くくくっ。立派な肩書きってなぁ、厄介なもんだよな。それがあるとカネは儲かるし、偉そうにもできる。だが、身動きは取れなくなる。特に“式田証券のお嬢様”なんてブランドは大変だ。関係各所やらマスコミに、人間便器やってた頃の写真をバラまく……そんなベタな脅しでも、突っぱねられねぇんだからよ』
 男の言葉、そして明日香の反応。どうやら脅しがあったのは間違いない。
 確かに、雑な脅しだが効果は絶大だ。脅している連中のバックにどれだけいるのか判らない以上、安易に警察へも届け出られない。そんな事をして、たとえ何人かを有罪にしたところで、残った奴に報復で情報を流出させられることは確実だ。
 式田証券の顔である“式田 明日香”は、今や金融界の国民的アイドル。そしてアイドルには、週刊誌のゴシップレベルの疑惑さえあってはならない。弱みを握られてしまった時点で詰みだ。
『いいぜぇ明日香、やっぱお前のナカは最高だ。他のオンナ共は緩くてよぉ!』
 ギシッ、ギシッ、とソファが軋み、肉の弾ける音がし、抜き差しの水音がする。あらゆる情報を客観視して映像を眺めれば、完全にただのAVだ。
 でももう俺は、それをただのAVとは見られない。姉貴のレイプシーンと同じように。
 コンコン、と映像内でノックの音がする。
『あの、ご注文のお飲み物を…………』
『オウ、そこ置いとけ!!』
 ドスを利かせた声が横柄に応える。
 個室内が孤立無援であることを示すその情報を最後に、スマホの動画は終わりを迎えた。
 そして、直後。また俺のスマホに、メール通知が来る。今度は画像のようだ。
 動画のカラオケボックスと同じ部屋。8人の男が、目を閉じた明日香を挟んで座り、ピースサインを向けている。
 ブラウスはすでに取り去られ、形のいい乳房は両隣の人間の手で荒々しく揉まれていた。一方でスカートは履いたままだ。だがそのウエスト部分には、使用済みのコンドームが隙間なく挟まれ、悪趣味なフリルのように垂れ下がっていた。
『イキすぎてガチ失禁。延長33回、アヘ声メドレー50曲以上! ゴチでしたー♪』
 そんな人を馬鹿にしたようなメッセージも送られてくる。

 俺は、ただ呆然としていた。人間ってショックが大きすぎると、本当に頭が真っ白になるんだ。そんなどうでもいい事を、ぼうっと考えた。
 涙が頬を伝っていたが、どうやって拭くのかがわからない。
 姉貴に、明日香。俺にもっとも近い、最も大切な2人が、ゲスの手に落ちた。その事実を受け止めるだけでも、あと何十分かは掛かりそうだった。


    ※           ※            ※


 かろうじて落ち着きを取り戻した後、俺はすぐに警察に相談した。
 困った時は警察だ。警察なら、とりあえず何とかしてくれる。こっちには動画という動かぬ証拠もあるんだ。派出所の入口を潜る瞬間、俺はそう信じきっていた。
 ところが。
「……悪いけど、これだけじゃ動きようがないよ」
 歳のいった警官は、俺の話を一通り聞いてから、溜め息混じりにそう言った。
「えっ…!?」
 俺は絶句する。想像もしない答えだった。
 警官曰く、民事不介入で手は出せない。姉貴の動画が載っているサイトは、あくまで『合意の上での撮影』という体裁を取っているから、本当に姉貴自身が望んでの乱交なのかもしれない。スマホに送られてきた映像はやや怪しい部分もあるが、ただの悪戯動画という可能性を捨てきれない。どっちの場合でも、警察が動けるのは被害者本人が刑事事件として被害届を出した場合だけで、俺の訴えだけでは動けない。そういう事らしかった。
「本人の被害届って、監禁されてるかもしれないんですよ!? そんなの、無理じゃないですかっ!!」
 俺はそう食い下がったが、警官はあくまで渋い顔だ。唯一の譲歩は、姉貴の捜索願を受理することだけ。それにしたって、現状は『見つけたら保護する』程度の事しかできないらしい。
「そんな、そんなのってないですよ!! もっと真剣に探してくださいよっ!!」
 俺はたまらなくなって、思わずそう叫んだ。すると、警官の表情が険しくなる。
「しつこいなアンタも! できる事できない事、もう全部言ったでしょ!!」
 怒鳴るようにそう言われれば、もうそれ以上の言葉が出せない。
 俺はこの時、本当の意味での絶望というものを知った。困った時には誰かが何とかしてくれる……そこまで甘く考えていた訳じゃないが、ここまで他人事として突き放されるとは思ってもみなかった。

 家に帰る道すがら、何人もに振り返られた。喫茶店の窓に映った自分の顔は、確かに普通じゃなかった。でも、そんな事はどうでもいい。俺なんてどうなったっていい。姉貴と明日香さえ、戻ってくるなら。

 俺は無力だ。周りに流されて半端に生きてきたツケが、ここにきて降りかかってきた。同級生も、先輩も、バイト仲間も、誰一人頼れる相手が見当たらない。むしろ、藪岡側……つまり敵の手先に思えてくる。
 できる事を考えては、頭を抱えること数時間。またスマホが震える。俺は思わず息を呑んだ。
 明日香からのメッセージ。内容は…………また、動画。

 再生してわずか1秒足らずで、俺はまた絶望することになる。
 映っていたのは、後ろ手に拘束された明日香と、人相の悪い笑みを浮かべた藪岡。お互いに裸で、パンパンという肉のぶつかり合う音をさせながら前後に揺れている。
 姉貴よりもすらりとした明日香の股からは、すでにかなりの量の愛液があふれていた。顔に流れる汗の量も普通じゃない。多分、またシャブを打たれたんだろう。
『やっぱお前のマンコは最高だぜ、明日香』
 藪岡が笑みを深めながら呟いた。
『…………っ、………………っ!!!』
 一方の明日香は、目を見開き、口を開きながら声にならない声を上げている。まるで処女を失った時か、それ以上の反応。
 久しぶりの覚醒剤に、久しぶりの藪岡の剛直。それを受け入れきれていないようだ。
『へへ、熱いのが膝にまで滴ってきやがった。もうグチョグチョだなぁ明日香。俺のデカマラがそんなにいいのか? 良いんだよなぁ、こんなに濡れるんだから。なあ明日香、言ってみろ。気持ちいいって。俺とのセックスが、気持ちよくてたまりませんってよぉ!!』
 激しく突き込みながら、藪岡が叫ぶ。これが、“寝取り”ってやつか。藪岡の奴は、姉貴を壊しただけじゃ飽きたらず、明日香までシャブ漬けにして、自分の物にしようとしているのか。
「ふざけんな、この野郎ぉっ!!!」
 俺は思わず叫び、机に拳を叩きつける。拳の鋭い痛みでほんの少し理性が戻るが、そうすると今度は不安で足が震えてくる。
 その時、動画の中で明日香の口が動いた。
『……馬鹿にしないで。別にこのぐらい、何てことない。わ……私は、こんなことより、ずっと気持ちがいい事を……知ってるから…………』
 明日香は、激しく息を吐きながら、確かにそう言った。藪岡とのシャブセックスよりも、気持ちがいい事。それは、もしかして――いや、きっとそうだ。俺とのセックスの事を言ってくれている。彼女は、不安がる俺に何度も何度も囁いてくれたんだ。本当に気持ちいい、って。
『テメェまさか、アイツのが俺より良いってか!?』
 藪岡は、不動明王のような形相で明日香を睨みおろす。明日香は肩で息をしたまま答えない。でも、その沈黙こそが答えだ。藪岡の顔がさらに引きつる。
 俺は、ざまぁみろと思った。明日香が俺を選んでくれたことが、素直に嬉しかった。でも俺は、同時に理解してもいた。あの藪岡が、これで大人しく引き下がるわけがない。今度こそ明日香を壊しにかかるはずだ。どんな手を使ってでも。

 そして事実、それ以降たまに送られてくる動画にはすべて、徹底して明日香を追い込む様子が収められていた。
 ある動画では、ベッドへ手をついた明日香へ、逸物でのポルチオ刺激と指でのGスポ刺激が繰り返されていた。
『絶頂から戻れないようにしてやる』
 その不気味な宣言で動画が始まり、何人もの男が入れ替わり立ち替わり刺激を続ける。
 ここでも事前にシャブが打たれてるんだろう。
『ああ……ああぁぁっ、ふっ……ああ、うあああぁ……ああっ…………!!』
 明日香は全身を汗で光らせながら、本当に苦しそうに喘いでいた。
 潮噴きを強制される時の愛液の量は半端じゃないし、ポルチオを逸物で刺激されている時には、本当に気持ち良さそうに足が蠢いた。竿役の男が腰を手で掴むと、びくりと全身を震わせながら、その手をそっと押さえもする。明日香にしては珍しい、はっきりとした拒絶の反応だ。
『う、う、うう……うっ…………ううぅぅんっ…………!!』
 太腿が波打つほど、力強くポルチオを刺激されはじめた動画後半。明日香の声は泣いているようで、何度も絶頂させられているのが手に取るように解った。

 そうして直立が難しいほどイカされ続けた後、次の動画で明日香はベッドに転がされる。そしてその上に藪岡が圧し掛かり、真上からポルチオを刺激しはじめた。
 ギシッ、ギシッ、と壊れそうなほどベッドが軋み、肉の弾ける音と水音が立つ。
『あっ、あ、あああぁっはああっ!! はっ、はっ、はーっはーっ……んぁあぁああっ!!!』
 明日香はよほど苦しいのか、それとも気持ちが良いのか、激しく喘ぎながら震えるような叫びを上げつづけていた。
 たまに藪岡が休憩がてら剛直を引き抜けば、そのタイミングでぶしゅっと潮が飛び散る事が何度もあった。
『ほら、嫌がんなよ』
 藪岡は圧し掛かる格好で腰を振りながら、何度もそう呟いては首を下ろす。
『んっ、んんんっ!!!』
 そのたびに明日香から呻きが上がり、頭が左右に揺らされる。どうやら藪岡は、明日香にキスを強制しているらしい。
『う、う! ……は、はぁ…………っ』
 藪岡に激しく突かれる中で、明日香はふと悲鳴を途切れさせ、足指の動きを止めることがある。そういう時はどうやら、失神してしまっているようだ。
『おら、ヘバってんじゃねぇ。続けんぞ』
 その度に藪岡は、明日香の頬を叩いて覚醒させていた。
 失神しては、覚醒させるの繰り返し。それでも明日香はついに、キスを受け入れる事はしない。少なくとも、動画の範囲では。 
 ただこの調教で、明日香の性感はかなり開発されてしまったようだ。
『スゲーな、イキまくりじゃねーかお前』
 動画終盤、ふと腰を止めた藪岡が、奥深く挿入したままで漏らした一言が印象的だ。
『ぅーーー……っ、っーーー……っ!!』
 その時の明日香は、激しい刺激などなかったにも関わらず、何度も何度も尻肉を収縮させ、小動物のような声を上げていた。本当に、気持ち良さそうに。
『くくっ。いいぜお前。こんだけイキやすくなってんのに、まだ溺れねぇ。まだイクのを必死で堪えやがる。本当にプライドの高い女だ、お前は。だからこそ、壊してみてぇ。どんな手ぇ使ってでもな』
 藪岡は汗まみれの明日香を見下ろしながら、そう言って笑った。

 その後の動画……『完全精神崩壊51P』の再現ともなれば、明日香の感度の高まり具合はさらに解りやすい。
『ああ、あああ……い、いくっ!! んんんっ、イックうぅ……っっ!!』
 下から突き上げられつつの、ブリッジ気味のイラマチオ。
 膣に2本を捻じ込まれながらの、休む暇もない口での奉仕。
 そういう地獄を受けながら、明日香は何度も何度も絶頂し、潮を吹き散らしていた。
『こいつ、やっぱとんでもねーな。イキまくってるくせに全然ヘバんねぇ……!!』
『ヘバるどころか、こっちの兵隊のがバテてんじゃねぇか。あと何人だ、すぐハメられる奴ァ!?』
 精も根も尽き果てて座り込む連中の中、明日香を囲む数人が怒鳴りあう。戦場を思わせるその狂乱の中、明日香は何度となく絶頂へと押し上げられていく。あらゆる体液にまみれながら。
 そして。
 ついに50人の外道すべてが項垂れ、僅かに休憩できる隙が生まれたかと思えた、直後。仰向けで床に転がる明日香の下に、一人が近づく。
 無駄毛のない綺麗な脚。女の脚。
『いいザマね、明日香。』
 明日香を見下ろし、冷たい声でそう告げるのは…………姉貴、だった。


    ※           ※            ※


『会いたかったよ、明日香』
 丸裸の姉貴は、そう言って笑う。俺の知る笑い方とは全然違う、右頬だけがつり上がるような、見ていて不安になる笑みだ。明日香が怪訝な顔を浮かべた。
『んな顔すんなよ、明日香。逃げたお前の身代わりで、ぶっ壊されたメス豚なんだぜ?』
 藪岡がそう言いながら、ビール瓶片手に姿を見せる。
『私、の……?』
 明日香が表情を強張らせる一方で、藪岡の口元は緩む。
『ああ。27歳のOLでよ、ああ、そうだ』
 わざとらしく溜めてみせ、ビールを一口煽ってから、藪岡は続けた。
『……お前のイイ人の、姉ちゃんだっけか』
『!!!』
 醜悪な笑みで発された一言に、明日香が目を見開く。そしてその見開かれた目は、細かに震えながら姉貴を向いた。姉貴は藪岡にそっくりの、ひどく歪んだ笑みを浮かべる。
『そう。ぜーんぶ、アンタのせい』
 そう言うと、明日香の顔の上に屈み込んだ。自分の割れ目を、明日香の口に押し付けるようにして。
「姉貴!?」
 俺はスマホに向かって叫ぶ。信じられなかった。あの姉貴が、こんな事を。
『うっ、ぶ!? ぶっ、ふぐううぅーーーっ!!?』
 明日香は目を見開いたまま、激しく脚をばたつかせた。その口には姉貴の割れ目が押し当てられ、顎からかすかに透明な汁が垂れている。
『ほら、舐めて。アンタが犯されてるの見て、濡れちゃったぁ。男のをあんなに美味しそうにしゃぶるんだもん、女のアソコぐらい舐められるでしょ!』
 姉貴は歪な笑みで腰を揺らし、明日香の顔に愛液を塗りたくる。
『……う、ぶはっ!! お、お姉さん、こんな事……お願いします、止めてください!!』
 明日香は顔を左右に振りながら、必死に叫ぶ。すると、姉貴の顔から表情が消えた。
『……誰が、お姉さんよ?』
 思わず凍りつくような声でそう呟くと、一旦明日香の顔から腰を上げ、すぐ傍に転がっていたバイブを拾い上げる。そして明日香の足首を掴むと、信じられない力でマングリ返しの格好を取らせた。
『ヒューッ、怖ぇ怖ぇ!』
 藪岡達が上機嫌に口笛を吹く。その視線の先で、姉貴の手にしたバイブが深々と明日香の割れ目へと突き刺さった。
『あぐっう!?』
 明日香は、滅多に出したことのないような声を上げる。それを聞いても、姉貴の表情は変わらない。目の据わった無表情だ。
『ねぇ聞き間違えかなあ。アンタあたしを、“お姉さん”って呼んだ?』
 そう言ってバイブを掴み直し、マングリ返しの明日香の割れ目を激しく突きこみ始める。
『あ、ああっ!! い、いやっ……あ、あっ!!』
 角度的に明日香の表情は見えないが、震えるように顔を振る様子は、男相手ではまず見ない反応だ。相手が同性の姉貴だけに、どういう態度で接すればいいか困ってるんだろう。
『ねぇやめてよ。なんであたしが、アンタのお姉さんなの?健史のお姉ちゃんだから?だからアンタのお姉さんなの?もう健史と結婚でもしたつもりなの?やめてよ、やめてやめて』
 姉貴は無表情のまま、ボソボソと呟きながらバイブを抜き差しし続ける。言葉の端々に、間違いなく俺の名前が入っている。ゾッとした。そしてあの明日香すら、怯えきった息遣いで姉貴を見上げている。男相手に見せた、あの鋼の強さがない。
 姉貴のストロークが増していく。バイブの先が覗くほど抜き出し、持ち手の半分まで埋まるほどに叩き込み。ぐちゃあっ、ぐちゅあっ、と聞いた事もない水音をさせながら激しく抜き差しを繰り返す。
『あ、あ……ああっ!!』
 明日香から悲鳴が上がり、すらりとした脚が震えだす。姉貴は無表情のまま目玉だけを動かし、その明日香の細い脚と顔を神経質に捉えていた。
『そうやって耐えてるのがカッコいいと思ってるの?おまえのせいであたし、すごいひどい目に遭ったのよ。怖い目に遭ったの。ねぇ、さっきあたしのおまんこ見たでしょ。グチャグチャなのあたしのオマンコ、もう閉じないの。子供も産めないの。おまえのせいで壊されたの。お前のせいでなんどもゲロを吐かされたの。おまえのせいでうんち口に詰められたのおまえのせいで』
 姉貴はボソボソと呟きつづけ、愛液を掻きだすようにしてさらに激しくバイブを叩き込む。その状態がしばらく続いたあと、
『ぎゃうっ!!』
 ある瞬間、妙な叫びと共に明日香の全身が震え上がった。横顔しか見えないが、それでも明日香がこれ以上ないほど目を見開いていることと、必死に下腹を見ようとしているのが感じ取れた。それと同じ反応を、一度だけ見たことがある。それはホテルでのポルチオ責めの最終盤、バイブが繰り返し子宮口を叩いた末に……
『お、お姉さん、やめて、抜いてぇええーーっ!! し、子宮に入ってます、そこ子宮なんです!! お願いやめて、こわい、こわいですっ!!!』
 明日香は涙を流しながら、必死に姉貴に訴えた。相手が同性、そして同じ被害者だけに、心の壁がないからだろうか。それとも二度目の今度こそ、耐えられなかったんだろうか。ごく普通の女の子のように、顔を歪めて泣き叫んでいる。
 それでも、姉貴は止まらない。表情すら変わらない。
『このオマンコが健史を誘惑したのね、このオマンコのせいで全部……壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね』
 まるで藁人形を打ち付けるように、一心不乱にバイブを押し込む。根元まで、何度でも。そしてその執念の突き込みを受けつづけ、明日香さえ様子がおかしくなっていく。
『があああっ、かっ、かはっ!! はっはっはっはっはっ、くはぁあっ!!うーっ、う、うううっ……お、おおぉっイグ、いぐふうぅっ!! おおおっ、おほぉおおおっ! いく、いくいくいきそういっちゃう……っくいくいく……イっグウウウウーーーっ!!』
 聞いた事もない、男か女かすらもわからない声で、何度も絶頂を宣言する明日香。その中で、とうとう明日香の肛門からはぶすっという音を立てて屁まで漏れ、場の爆笑を誘った。
『ぎゃははははっ、屁ぇコキやがったぜあのお嬢様!!』
『ああ、バッチシ聞いたぜ。もう女として終わりだなこいつ!!』
 そう尊厳を切り刻まれながら、明日香は獣のような荒い息を吐き、全身を凍えるように痙攣させ、ついには盛大に潮を吹き散らしながら気を失ってしまう。
『ひゃはははっ、気ィ失いやがった!!』
『あーあ、完璧に白目剥いてやがんぜコイツ!!』
『おまけにベロまで出しちまって……これが令嬢のするツラかよ!!』
 明日香の覗きこむ連中が、祭りのように騒ぎ立てる。それでも、まだ姉貴の腕は止まっていない。何かを呟きながら、とっくに気を失っている明日香の割れ目を深々と責めつづける。
『おいおい、コエーよアイツ……マジでぶっ壊す気か?』
『ま、駄目押しはしといた方がいいだろ。相手もバケモンなんだ』
 姉貴の行動に引く人間、面白がる人間、笑う人間。そういう表情を一巡り映しながら、動画は終わる。
 でも、ひと息つく間すらない。すぐに次の動画が送られてくる。
 
 次の動画では、明日香が藪岡の膝の上に乗せられ、Mの字に脚を開かされたまま深々とアソコを貫かれていた。さすがに藪岡の剛直はでかく、抜き差しのたびに明日香の下腹がかすかに変形している。
 さっきの動画の続きなのか、明日香に一切の余裕はない。
『ひぎっ、ぃ、い……っ!! ーーーーっ、んんんーーーーっ!!!」
 目を見開き、恐怖に頬をヒクつかせながら、声にならない声を漏らしつづけている。
 何度か奥深くまで貫いたところで、明日香の太腿を掴む藪岡の手に力が篭もった。
『おらっ!!』
 獣が唸るような声と共に、藪岡が腰を跳ね上げた。同時に明日香の身体そのものも、自重と藪岡の腕力でおもいっきり下へ叩きつけられる。結果として明日香の下腹の膨らみは、臍の間近にまで進んでしまう。あまりにも深い。その位置はまるで、子宮口を越えて……
『あーーーっイクーーッ!!!!』
 俺の考えは、いきなり響きわたった明日香の叫びに寸断される。明日香は目を見開いたまま大口を開け、全身で気持ちよさを表していた。モデル級の身体を艶かしく斜めに傾げ、太腿の筋肉を盛り上げ、肩から足指の先までを、何度もブルブルと震わせて。
『へへっ、スゲー逝きっぷりだな。さすがに俺ので子宮口こじ開けられちゃ、たまんねぇらしいな』
 藪岡は歪んだ笑みを浮かべながら、さらに腰を突き上げる。ごく浅い腰の突き上げ。でももし本当に逸物の先が子宮口の先へ入っているなら、それはカリ首で直にポルチオの輪を扱いていることになる。
『おおっ、おーッ、あーーーーっ!! いぐう、いっぐうううっ!!!あーーーっ、あああーーーーっ!!!!』
 瞳孔ををぐるりと上向け、激しく痙攣しながら叫ぶ明日香。Mの字に開いた脚の先、メチャクチャな方向を向いた足指がビクンビクンと強張る様は、雷が身体の隅々までを走り抜けた直後のようだ。
 藪岡が満足げな様子で明日香の太腿を押し上げ、ずるりと逸物を抜き去る。愛液どころか、チーズのような滓さえ纏いつかせた、凶悪な亀頭が覗く。その亀頭が抜け出た瞬間、まるでその別れを惜しむように、割れ目から大量の潮があふれ出した。
 明日香本人は藪岡の鎖骨へ頭を預けるようにぐったりと項垂れ、天を仰いだまま熱い吐息を吐きつづける。スレンダーな全身は汗まみれで、風呂上りのようにピンクに上気し、湯気さえ立ち上らせている。その何もかもが、あまりの快感に耐え切れない、という情報を発散しつづけていた。
 いかにも温かそうなその光景とは裏腹に、俺の血は冷え切っていく。
 ひどく寒い。怖い。祭りのように盛り上がる動画を他所に、俺だけが、取り残されているような……。
 
 動画の中で、明日香と同じく息を荒げる藪岡が、ちらりとカメラを見た。レンズ越しに、俺と顔が向かい合う。奴はそこで笑みを浮かべ、明日香の身体を反転させた。乳房がカメラ側を剥く背面座位から、抱き合うような対面座位へ。
「や、やめろ……」
 俺は呟く。その格好はまるで、愛し合う恋人同士みたいじゃないか。
 やめろ。やめろ。明日香にそんな事をしていいのは、俺だけだ。俺だけが彼氏なんだ。
 藪岡のでかい手が、明日香の尻の肉を掴む。そしてそのまま、下へ押し込むようにすれば……
『あっ、あ、あっ……ま、また、イキそうっ…………!!』
 藪岡の肩を掴む明日香から、震えるような声が漏れた。藪岡はその声を耳元に聞きながら、笑みを深める。
 グチュッ、グチュッ、グチュッ……。
 押し潰された水音が繰り返され、明日香の太腿が強張る。藪岡は深々と明日香を貫きながら、細い身体を支える位置を、尻から腰、背中へと少しずつ上げていく。そして明日香の身体が快感で弓のように反った瞬間、ふっと背中の支えを離す。
『きゃあっ!!』
 明日香は高く叫んだ。澄んだ声だった。ものすごく可愛かった。そんなトーンは、俺にしか聞かせないはずだった。藪岡達にはいつだって、もっと警戒したハスキーな声ばかり聞かせていたはずだった。はずだったのに、今の声は、違う。
 そして動画の中では、明日香が藪岡の巨体にしがみついていた。太い首を抱きすくめるように腕を回し、すらりとした両足で胴を挟み込むようにし。
「明日香っ!?」
 俺の叫びは、俺の部屋だけに虚しく響く。そしてそんな音を他所に、抱き合う二つの裸はいよいよ激しく上下に揺れる。
 ギシッ、ギシッ、とベッドが軋み、濃い水音が繰り返される。美しさの極みと言える女の体と、力強さの極みと言える男の身体が、抱きあったまま快感に震えつづける。
『い、いくぅっ! また、いく、いく…ぅ……っ!!』
『いいぜ、死ぬほどイカせてやっても。……ただし、一つだけ条件がある』
 藪岡はそう言って、またカメラを見た。そしてカメラ目線のまま、明日香の耳元に口を寄せる。
『アイツと、別れろ』
『……ッ!!』
 藪岡の言葉に、明日香の目が見開かれる。
 動画はそこで切れた。でもそれと同時に、今度は電話が掛かってくる。
 相手は、明日香――いや、正確には明日香のスマホだ。

 恐る恐る電話に出る。何が聴こえてくるのかは、大体想像がついていた。
 そして案の定、覚悟していた通りの音がする。
 ベッドの軋み、水音。それがさっきよりずっと鮮明に聴こえ、挙句には荒い吐息までが耳に入ってくる。
「あくまで別れねぇってんなら、セックスはここで終いだ。もうこれ以上抱いてやらねぇ」
 その言葉の後、ベッドの軋みが止まる。
「あっ!!」
 明日香の声がした。名残惜しそうな、寂しそうな声。
「コイツで逝きたいんだろ。もっともっと奥を抉って、イカせてほしいんだろ?」
 ギッ、ギッ、とかすかに軋む音がする。その音に混じって、明日香の喘ぎが聴こえてきた。
「あっ、あァっ!! はぁぁ、で、でも、でも…………っ!!」
 泣くような、苦しむような声。藪岡に向ける甘い声とは正反対だ。
 俺にだけ、そんな声になるのか。俺が、重荷なのか?
「お前だってもう解ってんだろ。アイツじゃ、もう今のお前を満足させられねぇ。こんな芸当は、あの粗末なモノじゃ……絶対に真似できねぇ!!」
 藪岡のその言葉の直後、ベッドの軋みが増す。
「ああぁ……ああ、ふ、深いっ……!!や、やめて、待って! まだ、前のが治まってな………ふんんん、ぅはっ! ぐ……っく、ひうぅ……んんうぅううっ!!!」
 明日香は息を詰まらせた後、嬉し泣きのような声を出した。
「おーおー、すげぇ顔。相当深くイってやがるなこりゃ」
「なんつーか、女ってスゲーよな。こんなんなるんだからよ……」
 遠くからはそんな声もする。
「どうだ、たまらねぇだろ! こうやって、頭ァ白くなるまでイカせまくられてぇんだろ、ええっ!!」
 藪岡がそう言いながら、さらにベッドを軋ませる。
「おっ、おっおっ……おほぉおおっ!!」
 明日香の低い声がし、ベッドの軋みが細かくなる。さっきの動画で、明日香の全身が雷に打たれたようだった時の音だ。
 明日香はもう、藪岡にどうしようもなくイカされまくっている。それは疑問の余地もない。でも、諦めきれない。
「わ、私は……私は…………っ!!」
 明日香の声がする。苦しそうだけど、何かをいいたそうに。
 そうだ。あの超人的な明日香なら、きっと、どんなに辛くたって……
「それによ。さっさとアイツと別れねぇと、お姉ちゃんがコエーぞ?」
 藪岡が、ぼそりと呟く。それで明日香の言葉が止まった。
 そして、直後。電話の向こうでギシリと音がする。
「おーおー、言ってたら来やがった。脚のぶってぇ般若女がよ」
 藪岡の声がした、直後。明日香の悲鳴が響きわたる。
「ああーーっ!!お、お姉さん、いたいっ、いたいですっ!!いま、前にも入ってるんです、こんな状態で、そんな所に……あ、ああ、んああああーーーっ!!!」
 断末魔のような叫び声に、狂ったようなベッドの軋み。そして女の荒い鼻息。
「うーわ、マジかよ。肘まで一気に入れやがった……」
「今って多分、藪っさんのが子宮まで入ってんだろ? マジでイカれてんな」
 かすかに聞こえるその声で、状況がわかった。後ろから近づいた姉貴が、明日香の尻の穴に腕を捻じ込んだんだ。それも、肘まで。
「なにこれ、ねぇ何これ?お尻がヌルヌルしてるし子宮もグチャグチャ。こんなので健史の彼女面なんて許さない。アンタにそんな資格なんてない。アンタだけ幸せになるのも許さない!!」
「あああっ!!ううぁああああーーーーっっ!!!」
 呪いの言葉のようなボソボソとした喋りと、明日香の絶叫が聴こえる。そしてその中に、藪岡の笑いが混じった。
「ははっ、なんだよ明日香お前! ケツの方から子宮握りつぶされて、イキまくってんのか? 最高だぜ、最高にぶっ飛んだ女だお前は!! こうなっちゃ、もう立派なケダモノだぜ、散々見下してた俺らと、同じトコまで落ちてきてんじゃねぇか、なあミズキ先輩よ、アンタもそう思うよなあ!?」
 藪岡の有無を言わせぬ怒鳴り声。
「そう、アンタって豚なの。人間じゃないの。健史は人間だけど、アンタは豚。あたしと同じ。もう帰れないの、だって豚だから。ほら豚、ここってなに、腸のもっと奥。指が入っちゃった。ああこれウンチだ、ねぇウンチよ豚。こんなすぐウンチに触れるなんて、ホントに汚い。ねぇ豚、なんでさっきからこんなに腰が跳ねてるの?気持ちいの?小袋まで犯されて、お尻に腕入れられて、指先でウンチ掻き回されるのがそんなにいいの?アンタ頭がおかしいのね。なんでそれで人間のフリしてたの?やめて、ウチの弟は本当にいい子なんだから、クソ袋なんかが話しかけないで。謝って、今まで健史に絡んでたこと謝ってよ、ねぇッ!!!」
 姉貴の喜怒哀楽がグチャグチャの喚き声。
 その板ばさみで、明日香は泣いていた。声だけで、泣いているのがわかった。
「姉貴いいっ、明日香ああっ!! 俺だ、俺だあーーーっ!!!!」
 俺は、喉が裂けてもいいぐらいの声を送話口へ叩き込む。
「うおっ!!んだよ、電話かよ……」
「おい、あの声って、弟クンじゃん?」
「弟クンっつか、彼氏クンじゃね? この場合」
 そんな声がする。俺の叫びはどうやら届いたらしい。だったら、聞いてくれ。姉貴も、明日香も。それで、元に戻ってくれ。
「くくっ、聴こえたかよ明日香。“元カレ”が何か喚いてんぜ」
 藪岡の声だ。すでに俺を過去のものにしようとしてる。そうはさせるか。
「明日香、姉貴!! しっかりしてくれ、俺だよっ!! 帰ってきてくれ、俺の所に帰ってきてくれ、頼む……!!」
 涙ながらの精一杯。俺のありったけを吐き出す。

 でも。

「…………ごめん、なさい…………」

 明日香は、小さな声でそう呟く。
「……明日香?」
 俺はその意味がわからず、聞き返した。
「わ、わたしは……もう、あなたには、ふさわしく……ない」
「な、何言ってんだ!!そんな奴らのいう事に惑わされるな、明日香!!
 明日香は人間だ、誰より誇り高い人間なんだ、豚なんかじゃない!!
 頼むよ、帰ってきてくれ明日香!! シャブ抜いた時みたいに、ま……」
「……ちがうの」
 俺は必死に、必死で、明日香を説得する。でもその言葉は、藪岡にでもなく、姉貴にでもなく、明日香自身に遮られた。
「…………ご、ごめんね…………そういうことじゃ、ないの…………。
 わ、私……きっ、きもちいいの……死ぬほど嫌いなこの男のセックスから、離れられ……ないの…………」
「……え?」
 完全に、予想外の言葉。あの明日香からだけは、絶対に出ないと思っていた言葉。
「お姉さんの、言う通り……わ、私は、あなたに相応しくない。
 あなたは、本当にいい人。気弱で流されやすいけど、優しくて、勇気だってある。
 だから…………そんなあなたの横にいると、つらいの…………」
 明日香の一言一言が、心臓を叩く。胸が苦しくなる。そしてその苦しみの中、藪岡の笑い声が響きわたった。
「はははははっ!!いいぞ、それでいい。とっくのとうに解っちゃいたが、ようやく素直になったな、明日香!! ご褒美だ、死ぬほどイカせてやるっ!!」
 その声で、激しくベッドが軋みはじめる。
「あっ、あ! おお゛っ、おっ、お゛っ…ほおお゛お゛お゛ぉ゛………っ!!」
 快感だけに染まった明日香の喘ぎが、藪岡の腰遣いに応える。
 俺には聞かせない、本当に無理をしていない明日香の声。今の明日香の自然体。
「…………あ、あ…………」
 俺はスマホを取り落とし、呆然と遠くから聞こえる喘ぎを耳にしていた。
「よう、そこの薄ら馬鹿。お前にゃ一言だけ、言っとかねぇとな」
 その俺に、藪岡が語りかけてくる。


「  ざ  ま  あ  み  ろ  。 」


 その一言を最後に、通話状態は切れた。
 明日香との、姉貴との繋がりも。



 そして、半年後。
 俺の元に、懐かしいアドレスから一通のメールが届く。そこには動画が添付されていた。
 被写体は、明日香と姉貴。すっかり妊婦の見た目になった2人が、牢屋のような地下室で大勢に囲まれている映像だ。

 止まらないカメラの向こうで、穴という穴を犯されながら、母乳を撒き散らして笑う二人。
 その姿は、本当に……、……幸せそうだった。



                                (終)

止まらないカメラの向こうで  第3話

第2話の続きです。


 いつの頃からか、明日香への責めはシャブを打っての快感調教だけになっていた。場所もSM用の212号室から、キングサイズのベッドがある101号室に戻った。
 一日の流れのうち、輪姦は日の後半だ。日の前半では、明日香はシャブを打たれ、ひたすら道具で調教される。そして俺は、猿轡を噛まされたまま手錠を掛けられ、食事とトイレの時以外は常にそれを眺めさせられていた。
 道具調教に携わるのは、普段の輪姦には顔を出さない幹部4人。朱雀、青龍、白虎、玄武の彫り物をそれぞれ背負ったこの4人は、グループ内の他の連中とは雰囲気が違う。まさに調教師という風だ。実際、藪岡が関わりを持っている組で、いわゆる『コマシ』の仕事をする事もあるらしい。

 調教は、与えられた12時間をフルに使い、じっくりと進められる。
 縛り方はいつも同じ、乳房を搾り出す形での後ろ手拘束。縄を打つのは上半身だけで、下半身は丸裸のままだ。
 その状態で、割れ目と肛門の広範囲に少しずつシャブを打ち、薬が回るまでの間はソフトタッチを施す。乳房周りから、腋、下腹、そして太腿。見た目は撫でているだけだが、あの我慢強い明日香がつらそうに身悶えるんだから、この時点で相当上手い愛撫なんだろう。
 30分以上かけて全身の性感帯を目覚めさせれば、次はいよいよ割れ目に触れる。ビラビラを指で上下になぞり、割れ目の中へごく浅く指を入れ。明日香の腰が独りでにヒクヒク浮くようになれば、ようやく中へ指が入る。ただし、AVのように激しく指を動かしはしない。クリトリスにローターを宛がいつつ、割れ目のある一点に軽く曲げた指先を押し当て、そのまま指を動かさずにじっとしている。
 そうしてしばらくすると、なぜか割れ目が喘ぐようにヒクつきだすんだ。肛門周りの筋肉も、意思があるかのように収縮する。そこで軽く割れ目の中を掻くようにすれば、明日香はいつも必ず潮を噴いた。呼吸も荒く、マラソンを走りきった後のように息が切れていることが多かった。
 そこからは、しばらく指責めだ。朱雀の刺青の男が中心となって、Gスポットの辺りを丁寧に刺激していく。潮を噴いたばかりで恥じらいがあるのか、明日香はここでは声を漏らさない。代わりに太腿から尻にかけての筋肉が、すごく気持ち良さそうにうねるのが印象的だ。
 この指責めの時間も、およそ30分。最初こそ喘がず耐えていた明日香も、これだけじっくりとやられれば、そのうち荒い息に混じって喘ぎはじめる。15分もすれば泣くような声が聴こえるようになり、
『い、くっ……』
 ベッドから足の裏を浮かせて、そんな掠れ声を漏らしさえする。でも多分、この時明日香は逝ってない……というより、逝けないんだ。この辺りから少しずつ、ぱっと見優しそうな調教役のの指遣いに、悪意が混じってくる。逝けそうで逝けないギリギリの状態を15分もキープさせられるなんて、受ける側は地獄だ。
 実際、指責めのラスト3分なんて本当に悲惨で、明日香は何度も足を強張らせ、内股になり、いく、いく、いく、と一人虚しく訴えつづける事になる。そうしていくら反応しても、解放などされないのに。
 そうして欲求不満を溜めに溜め込んだ状態で、いよいよ本命のバイブ責めが始まる。まずは無数のイボのついた、やや細めのシリコンバイブで、舐めまわすように割れ目の隅々まで刺激する。ここの刺激の仕方は、本当に熟練の技を感じさせるものだ。ゆっくりと前後に出し入れしていたかと思えば、上下に揺らしながらの刺激を混ぜ、またある瞬間には一旦バイブを放して、電動のうねりのみに任せて割れ目の中を刺激させ。
 そうして、一通り割れ目への刺激が終われば、ここから狙いがポルチオに定められる。もちろんこれは俺の憶測なんだが、間違っているとは思わない。
 バイブを握りしめたまま、ゆっくりと円を描くように奥まりに押し付ける。少し引き抜いては、また奥まで押し込んで、円を描く。
 そしていつも、ここでバイブのモードが切り替えられるんだ。微弱な振動から、振動に加えて先端部が大きく円を描いてうねる動きへと。この状態でバイブを奥まで押し込まれ、スイッチを入れられると、明日香からどんどん余裕が失われていく。スレンダーな下腹が膨らんでは凹み、バイブの振動が伝播したのかと思うほど、全身が痙攣をはじめる。指責めの時に聞いた泣くような声も漏れる。その鳴き声を目安にしてるんだろうか。いつもちょうどその頃から、バイブの突き込み方が力強くなる。けして乱暴ではないが、ぐっぐっぐっぐっぐっ、と断続的に膣奥を押し込むような突き方だ。さらにはここでも、バイブを上下に揺らす技巧が混ぜ込まれる。
 この状況が5分も続けば、明日香の声は、もう『泣くような』ではなく『泣いている』ものになる。チンピラ風情に昂ぶらされるなどプライドが許さないが、それでも事実、どうしようもなく昂ぶってしまう。その板挟みでつらいんだろう。
 そこへ来て、とうとう朱雀の男はトドメを刺しにくる。バイブをしっかり奥まで届くように固定した後、その底を手の側面でリズミカルに叩き込むんだ。これで、明日香の下半身は本格的に震え上がる。
「……ぁ、や……ぃやあ、ぁ…あっ…………!!!」
 そういうか細い声も漏れはじめる。
「おら、イきたきゃイけ!!」
 バイブの底を叩きながら発される、有無を言わせぬ命令。明日香はこの時、『いく』とは言わない。言わないが、実際は逝っているのが足の震え具合ではっきりわかる。指入れの時とは真逆の状態だ。
 バイブの底を叩くこの責めは、いつも一体どのくらい続いているんだろう。少なくとも数百回単位なのは間違いない。その回数が増えるごとに、明日香の反応もわかりやすくなっていく。最初は10回叩かれて1回反応する程度だったものが、次第に5回に1回、3回に1回と頻度が増していき、最後にはバイブを打ち込まれるたびに腰が跳ねるようになる。何十回も連続でバイブを打ち込まれた後、わずかに間が空き、弛緩した明日香の脚がようやくベッドへ下りたその瞬間、また打ち込みが始まって跳ね上がる……そんなことが何回も何回も繰り返されるんだ。
 そしてこれだけ明日香を翻弄するバイブ責めには、さらにいくつものバリエーションが存在する。調教役は4人。つまり1人が徹底的にポルチオを目覚めさせている間、他の3人は好きに補助ができるということだ。
 この責め方はいつも違うが、傾向はある。
 一つは、ローターでクリトリスを併せて責めるやり方。
 一つは、下腹の子宮がある辺りを、3本指でリズミカルに刺激するやり方。
 一つは、同じく子宮のある辺りを、マッサージ器でほぐすやり方だ。
 そしてこのどれもが、劇的に効いた。あまりにも効くから、明日香はこの責めが始まってから間もなく、足を内股に閉じてしまうほどだ。当然、責め手の4人はそれを見逃さない。
「なんだこの足は。『抵抗』しちゃいけないんじゃなかったのか?」
 そう囁かれたら最後、もう内股にはなれず、相手が求めるままに大股を開いて刺激を受けるしかない。でも、そもそも刺激から逃れるために内股になったんだ。それを大股開きになんてしてしまったら、膨大な快感を余すところなく受け止めることになってしまう。だから、大股開きになった後の明日香は、鳴き声がいよいよ酷くなる。
「ぁイク、イクーっイク……あぁイクぅうう…………っ!!」
 ついにはどうしようもなくなって、熱にうかされるように絶頂の宣言まですることもある。
 何十分か後。バイブのスイッチが切られ、ゆっくりと割れ目から引き抜かれた時には、その表面はいつも異様なほど濡れ光っていた。喘ぐように開閉する割れ目も同じく濡れていて、一度や二度ではない絶頂を繰り返したことが見て取れる。
 でも、ここまでのポルチオ開発は、あくまで道具調教における『前戯』でしかない。この後に続く『本番』こそ、本格的に明日香から余裕を奪い去る拷問なんだ。

「…………はぁ、はぁ、はぁ…………はぁ…………」
 明日香はベッドに横たわったまま、荒い息を吐き続けていた。あの貞淑の塊のような彼女が、大股開きを正さない。何度もポルチオで逝かされて、思考力が麻痺してるんだ。
「へへ、見ろよ。昨日までと違って、脚を閉じもしやがらねえ」
「マジだ。とうとう指とバイブ2号だけで、軽くトぶようにまでなっちまったか」
「ああ、順調だ。こりゃ今日辺りでぶっ壊せるかもな」
 調教役の4人が、明日香を見下ろしてほくそ笑む。
『絶頂がより深く、より長く続くようにしてやる』
 調教初日から口癖のように連呼されるこの言葉が、いよいよ現実味を帯びてきていた。
「よし、呆けんのはそこまでだ。次いくぞ明日香!」
 玄武を背負った1人がベッドに横たわり、明日香の細身を腹の上へと抱え上げる。やたら図体のでかい奴だから、明日香の小さな背中ぐらいは簡単に抱きとめてしまう。その上でさらに、ゴツい手でもって両の膝裏を引き寄せれば、いよいよ明日香は男の胸板に背を預けたまま、足をぶらつかせる事しかできなくなってしまう。
 そしてこの格好は、女にとって……いや、人間にとって、耐え難いほど屈辱的なポーズだ。男の腰に突き上げられる形で、肛門を真正面に、性器を斜め上に向けるんだから。当然明日香も、耳まで赤らめてしまっていた。
「くくっ、まだオマンコがヒクついてやがる。ポルチオの余韻が残ってんのか?」
「ケツの穴もだ。プックリ膨れちまって、とても上流階級のお嬢様の蕾とは思えねぇや!!」
 当然、4人は追い討ちをかける。毎日毎日、飽きもせず。
 そうして一通り明日香を詰り終えた頃、明日香の前に屈み込んだ1人が問う。白虎を背負った一人だ。
「……さて、お嬢様よ。今日はどう可愛がってほしい?」
 これだって茶番だ。あらかじめ言い含めた言葉を、明日香自身の口に語らせ、嘲り笑うための。
「…っ」
 明日香は唇を噛む。人一倍プライドの高い彼女にとって、自ら恥辱の宣言をさせられるこの瞬間は、どんな強姦よりもつらいことだろう。だが、だからこそ、悪魔じみた4人は何が何でもその宣言をさせようとする。
「どうした、何黙ってる……“反抗”か?」
 今の明日香を追い詰めるなら、脳味噌はいらない。たったこの一言でいい。
「く…っ!!」
 それだけで明日香は薄目を開き、顔を歪め、血すら吐きそうな顔つきでプライドをかなぐり捨てる。足枷でしかない、クソみたいな俺のために。
「………私の…………お、お尻を……可愛がって、ください………ッ!!」
 重い息を吐き出すように、明日香が宣言する。あくまで睨む姿勢を崩さないその姿に、4人のニヤつきが増す。
「ほー。んで、その尻ってなぁどこのことだ?」
「もうちっと噛み砕いて教えてくれや。俺らは学がねぇんでよ、お上品な言い方じゃわからねぇんだ」
 どうやら今日は、さらに下劣な宣言をさせるつもりらしい。明日香は顔を強張らせ、ますます強く連中を睨みつける。
「う、うんちの、出ていく、穴です……!!」
 声を震わせながら、恥辱の言葉が吐かれる。どっ、と4人が笑う。
「ハハハッ、なるほどクソの穴か! テメェのあの、くっせぇクソをひり出す穴を、ほじくり回して感じさせてほしいってか、ええお嬢様よォ!?」
 悪意のこもった罵声が叩きつけられ、明日香の瞼が痙攣する。その兆候といい、顔つきといい、ストレスで憤死しそうに見える。
「ウウ……!!」
 俺は心配になって、思わず猿轡ごしに呻いた。すると明日香は、大きく息を吐いてから俺に視線を向け、何度か瞬きする。

  ――――私なら大丈夫だから、心配しないで。

 まるで、そうメッセージを送るように。俺は息を呑み、そこでようやく自分の有様に気がつく。彼女を凝視するあまり瞬きも忘れ、眼から涙を流していることに。
「……仰る通りです。私が毎日臭いものをひり出す穴を、ほじくり回して……感じさせてください。」
 耳にするのもおぞましい暴言を、あえてハッキリと復唱してみせる明日香。俺にはどこまでも気高く映る姿だが、4人の笑いは大きさを増すばかりだ。
「はははははっ!! ったく、そこまであさましくオネダリされちゃしょうがねぇ。今日も、クソの穴で狂うほど感じさせてやるよ」
 4人はそう言って着々と準備を進める。一人がバスルームから、湯気の立つ洗面器を運び込み、別の一人がそこへ白い粉を溶かす。指でかき混ぜて出来上がるのは、特製の挿入用ローションだ。そのローションが哺乳瓶のような容器に詰められ、明日香の正面に座る白虎の男へと手渡される。
「いい出来だ」
 白虎の男は頬を緩めながら、哺乳瓶の口を明日香のアナルに押し当て、遠慮なく中身を注ぎ込んだ。軽く300mlはあるだろう量をだ。
「うあっ!!」
「くく、熱いか? 今日も温泉と同じくらいの温度にしといてやったぜ。お前はそのぐらいが一番感じるらしいからな、変態マゾお嬢様よぉ!」
 洗面器を運んできた奴が、何もかも承知の上という顔をする。それがただのハッタリなら、どんなにいいだろう。でも、違う。こいつらは明日香の快感を知り尽くしている。今日で道具調教は17日目。明日香のあらゆる反応が、絶頂が、すでに膨大なデータとして蓄積してるんだ。
「さてと。今日もコイツで、結腸まで可愛がってやる」
 白虎の男が、空のローション瓶を隣の一人に渡し、代わりにバイブを受け取る。テニスボールを思わせるイボだらけの球が先についた、蛇腹のバイブ。太さもそれなりだが、何より目を見張るのはその長さだ。軽く50センチはある。
 これだけの長さがあれば、さっき奴が言ったように結腸責めも可能だ。肛門からS状結腸の入口までが大体30センチだから、50センチもあれば悠々と「S字越え」を果たし、そのさらに奥まで届く。もっとも、これは連中が明日香に言って聞かせていたことだから、嘘も混じっているかもしれないが。
「うっ……!」
 バイブを目にした瞬間、明日香の表情が強張る。
「いいツラしやがる。ま、そりゃそうか。もうコイツで何百回ケツアクメしたか、わかんねぇもんなぁ?」
 男は笑いながら、バイブの先を弾いてみせた。ゴムのようなバイブは激しく左右に揺れる。その柔らかさと弾力性は厄介だ。押し込めば腸の形に沿ってどこまでも奥へ入り込み、なまじ張りがあるから存在を無視もできない。腸内を責める道具としては極悪だ。
 そして、それだけじゃない。男がバイブの握り部分にあるスイッチを押し込めば、腹の底に響くような重低音が響きわたる。
「いい音だなオイ。もうコレ聞くだけでイッちまいそうなんだろ?」
 振動するバイブの先で肛門を撫でられる。そんな嫌がらせを受けても、明日香は尻を引くことを許されない。
「……はい」
「ひゃはははっ!! なーにが『はい』だよ、言ってて恥ずかしくねぇのかこのビッチが!」
「女子アナみてぇな澄まし顔が余計にウケるぜ、あーハラいてぇ!!」
 どんなに笑われようと、相手の言葉をすべて肯定しなければならない。
 “反抗”しないために。
「よし、ならブチ込んでやる。ケツに力入れとけよ、その方が入りやすいし感じやすいからな。ま、そりゃお前が一番よく知ってるだろうがよ!」
 白虎の男は一旦バイブのスイッチを切り、先端を明日香のアナルへと押し当てる。テニスボール大の珠は、ほんの少しの抵抗を破って簡単に中へ入り込んでいく。
「もう指で慣らす必要もねぇか。こなれたモンだな」
 朱雀の男が、指の愛液を舐め取りながら呟いた。
 先端の球がすっかり窄まりへと飲み込まれ、いよいよ蛇腹の部分が肛門を刺激するようになる。見ていて焦れるほどに、じっくりとした挿入。その挿入はいつも途中で止まる。バイブの形が特殊なせいか、それとも明日香が腸内への挿入を嫌がっているせいか。
「そら、また引っ掛かったぜ。ケツと腸を開け、クソひり出すみてぇにだ」
 男にそう命じられると、明日香は細い息を吐く。すると、またバイブ少しずつ挿入されていく。
 そうしてバイブが半分近く……20センチほど入り込んだ頃。明日香の口が開く。
「あ、ぁぁぁ……っ!!!」
 震えるような艶かしい声。その声は、予期していた4人組に即座に嘲笑われる。アソコならどれだけ犯されても黙って耐える明日香だが、アナルはつい声が出てしまうらしい。
「もう17日目なのに、まだこれかよ。ほんとアナル弱ぇな」
「カマトトぶってるだけだろ。お上品なワタクシが、不浄の穴を犯されるなんて!ってよ」
「んだそりゃ、気持ち悪ィ女だな。人前でさんざっぱらゲロやらクソやらぶち撒けてる、人間便器の分際でよ!!」
 明日香の反応のすべては悪意をもって曲解され、嘲笑のネタにされる。俺ならとっくに精神が不安定になって発狂しているが、明日香は唇を噛んでじっと耐えていた。いや、『耐えてくれていた』。
 そんな明日香の胸中をよそに、バイブはゆっくりと侵入を続ける。とうとう2/3ぐらいが入った。そろそろ臍の下、S状結腸の入口に届く頃だ。
「よーし、奥まで届いたな。結腸の入口も捕まえてんぜ?」
 案の定、白虎の男がそう呟いた。そしてその言葉を裏付けるように、明日香の鼻の横を汗が伝い落ちる。
「……う、……ふっ…………」
 重い呼吸が始まる。S状結腸の入口あたりを圧迫されるだけでも、相当気持ちいいようだ。無理もない。なにしろ結腸入口の近く、本当に薄皮一枚隔てたところに、ポルチオがあるというんだから。
「くくっ。今日はまた一段と、余裕のねぇツラしてやがんな」
「さっき軽くトぶまで中イキしたばっかなんだ。おキレイな顔してやがるが、マンコの奥はもうトロットロに蕩けきってんだろ。そこ刺激されりゃたまんねーって。なあ、そうだよなメスブタ? いつもみたく実況してみせろや!」
 下劣な物言いで、4人の男が囃し立てる。
「………………ッ!!!!」
 明日香は厳しい表情をさらに固くし、3度唾液を飲み込んでから口を開いた。
「…………か、感じて……います…………。こうして、お尻の奥を圧迫されていると、むず痒くなってきて…………!!」
「そうだよなぁ。こうしてっと腸の奥がムズムズしてきて、熱い痺れが沸いてくるんだよな。これまで調教してきたメス共も、みんな口揃えてそう言ってたぜ。お前もお高く止まってっけど、所詮そいつらと同レベルのオンナってわけだ。おら、じっくりとドライオーガズムに浸れ。気が済むまでよ」
 白虎の刺青をした男は、そう言ってバイブのスイッチを入れた。
「うっ!!」
 直に聞くよりも遥かに篭もった音が漏れはじめ、明日香の太腿が震える。
「こっちも気分出させてやるよ」
 横で見ていた朱雀、青龍の2人も、明日香の身体を刺激しはじめた。朱雀の方は快感で膨らんだ乳房をやわらかく揉みしだき、青龍の方は下腹の子宮のあたりを指で圧迫する。見た目にはソフトな責めだが、効果は露骨だ。明日香はここ最近毎日のように、この責めで追い詰められているんだから。
「…………はぁ、はぁ、はぁ…………! ぅぅう、っぅ……ぁ…………はっ、はぁっ、はぁっ…………!!」
 荒い呼吸の合間に、ポルチオ責めの時にも聞いた泣くような喘ぎが混じる。スレンダーな腹部が上下し、太腿が緊張と弛緩を繰り返す。男3人はニヤついた表情でその反応を眺めながら、あくまで淡々と責めを続けた。むず痒い快感を、限界まで溜め込ませるつもりだ。
 その状態が、何分続いた頃だろう。
「…………ぁぁうぅぅ…………ぅっ…………!!」
 明日香から、本気で泣くような声が漏れた。別に3人の責めが激しくなったわけでも、明日香の反応が大きくなったわけでもない。同じような光景が続く中での、突然の『泣き』。
 俺はいつも、この変化にこそゾッとする。いきなり激しくされて反応するなら正常だ。心配するようなことじゃない。でも、今は違う。水道から一滴ずつ垂らされ続けた水がついにコップを満たし、縁から一筋こぼれ落ちた瞬間だ。コップの中は間違いなく『満ちている』んだ。
「わかってんだろうな。黙ってイクんじゃねーぞ!」
 白虎の男が念を押すように凄み、バイブを揺らす。同時に朱雀、青龍の2人も、乳房と下腹を愛撫するペースを早める。
「……は、は、はっ、はっ……い、イキそうっ…………!!」
 明日香はついにそう漏らした。たまらなさそうに。囁くように。それを耳にして、4人の目が変わる。
「いいぜイっても。我慢すんなよ」
 明日香を抱え込む玄武がそう言って、膝裏を抱え直す。朱雀は乳房を鷲掴みにしたまま、親指で乳首を押し潰す。青龍の男は下腹を3本指で何度も押し込み、白虎はバイブで腸内にゆるい円を描く。その段階になれば、追い詰められた明日香はもう3分ともたなかった。
「…………は、は、は、はっ、はっ……! ぁイク、い…っく………!!!」
 眉を下げ、下唇を噛み、横を向きながらか細く宣言する明日香。その瞬間、4人が一斉に歯を覗かせた。
「ぎゃははははっ!! おいお前ら、聞いたかよ!?」
「あーあ、このお嬢サマ! 今日は、マンコどころかクリすら刺激してねぇってのに、とうとうケツだけであさましくイキ果てやがった!!」
「あの『美人すぎる社長令嬢』がなぁ。どんだけのファンが幻滅するんだよコレ!」
「クソ穴で濡らすようなアバズレを、『アスカちゃん』だのなんだのとアイドル扱いしてたわけだからな。俺なら自殺モンだぜ!」
 これでもかというほど、言葉の弾丸を叩きつける。明日香の泣くような表情がさらに歪む。
「ウウウウ…………!!」
 俺は思わず呻いた。ひどい、ひどすぎる。でも、俺と明日香がどれだけ悲痛に顔を歪めようと、外道共の鬼畜行為は終わらない。
「はははははっ、おいお嬢サマよぉ! そんなにケツが好きなら、もっともっとイカせまくってやらぁ。狂うまで楽しめや!!」
 白虎の男が大声で笑いながら、バイブを強く握り直し、さらに奥まで進めはじめた。挿入を「少し右寄り」にしながら、ゆっくりしたペースで。
「んんんぅっ…………!!」
 まだ絶頂の余韻が残っている明日香は、切なく喘ぐ。
「おら。先っちょがよ、ドンドン入ってくぜ。自分でもわかんだろうが、ヌルーッと奥まで来たのがよ。どうだ、耐えられねぇぐらい気持ちいいだろ。自分の口で言ってみろ?」
 また、実況が強いられる。
「…はぁ、はぁ、はぁ……し、痺れるっ……!」
「痺れるか。電気が走ってるみてぇで、鳥肌が立つぐらい幸せなんだろ?」
「…………あ、あああんんぁっ!!」
 明日香の喘ぎは言葉じゃない。でもどんな言葉より、雄弁に快感を訴える。角度をつけたバイブが結腸奥へ入り込むほど、横の2人が乳房と下腹を刺激するほど、明日香の腰のうねりが激しくなっていく。
 コップの水は次々と溢れはじめた。もう取り返しがつかないほどに。
「ああ、ああっ!! はぁぁ、んああああ…………っ!!」
 奥深くまで入り込んだバイブを緩やかに抜き差しされ、下腹が波打つほど指で子宮を押し込まれ、明日香の足が暴れる。
「力むんじゃねぇ、リラックスしろよ」
 さらに朱雀の男が、乳首をやさしく指で弾けば、
「ああっ…ぁぁ、はぁぁーあ……っ」
 明日香は息を吐き出し、強制的に力を抜かされた。そしてその結果、身を強張らせることでかろうじて堪えていた快感の波に呑まれてしまう。
「……ぁぁ、ぁあぁああ……ぁぁイク、いっく…………はああっ、はぁ…………っくイクイク、イク…ぅ…………っ!!!」
 明日香はブルブルと震え続け、ついには白目を剥いてしまう。その様子をじっと観察していた3人は、一旦責めの手を止めた。
「はあっ、はあっ、はあっ、はあっ、はあっ…………」
 明日香の吐く荒い息だけが、部屋に木霊する。責められてもいないのに、彼女の身体の痙攣はまだ止まらない。滝のような汗も次々と噴き出しては流れつづける。
「おーおー。触ってもねぇマンコから、本気汁がどんどん溢れてくるぜ!」
「スゲーよなポルチオ中毒って。こんだけ深い快感が、何時間も続くんだろ?」
「バーカ、何時間かで済むかよ! シャブ打った上で、毎日散々覚えこませてんだ。半日か、事によっちゃ丸一日でも持続すらぁ!!」
「違いねぇ。んで、休憩は何分にする?」
「ここであんまイカせまくって、頻繁に気絶するようになっちゃダルいからなあ」
「かといって、クールダウンさせすぎも良くねぇだろ。再開すっぞ!」
 グッタリとした明日香を囲んでそんな会話が交わされ、また明日香の泣くような喘ぎが響きはじめた。
 途中何度も休憩を挟みながら、このアナル責めは何時間にも渡って続けられる。そして、これですらまだ終わりというわけじゃない。道具責めに割かれる時間は半日。執拗なアナル責めが終わっても、せいぜい数時間が経っただけ。じゃあ残った時間はというと、前の穴さえ解禁し、本当の本気で明日香を『壊す』責めに充てられるんだ。

「ヘッ、ちっとクソがついてんぜぇお嬢様。あんだけ腸内洗浄したってのによ」
 アナルから長すぎるバイブを抜き出して、白虎が笑う。だが明日香にはもう、その言葉に恥辱を覚える余裕もない。
 調教開始から、たっぷり5時間半。いつも以上に熱の入ったアナル責めを受け続け、明日香は一体何度『イク』という宣言をさせられたことだろう。明日香の顔は、汗と涙、涎で見る影もなく汚れきっていた。額へ海草のように張りつく前髪は、印象をより無惨なものにする。
 朱雀の刺青を背負う1人が、明日香の顔を布で拭う。ただしそれは、間違っても優しさからの行為じゃない。単なる次の責めの準備だ。
「うっしゃあ、お楽しみの始まりだっ!」
 明日香の後ろにつく玄武の男が、そう言って大きく体勢を変えた。掴んだ両の膝裏をさらに持ち上げ、縛られた腕の真横にまで持ってきた上で、腋の下にふくらはぎを挟みこむ。最終的な明日香の体勢は、アソコを真上に、アナルを斜め上に向けての『マングリ返し』。これ以上なく屈辱的な格好にして、明日香を辱めようとする外道連中が何よりも好む体位だ。
「くうっ……!!」
 明日香の顔が羞恥に歪む。この時点でもまだ、明日香は恥を忘れてはいない。ただ、この後はどうだろう。明日香は今日の夜も、まともさを保てるんだろうか。
「さて明日香、お前の大好きな二穴責めの時間だぜ。昨日は相当余裕を失くしてたみてぇだが、今日は大丈夫か?」
 バイブを手にしたまま、青龍の男が笑う。大丈夫な筈があるか。今日の明日香は、明らかに昨日よりも追い込まれている。すっかり絶頂の味を覚えこまされ、簡単に嵌まり込む体質にされてしまっている。勿論4人は、そうと知っていてわざと言ってるんだ。明日香への嫌がらせのために。
 余裕がない。それは明日香自身が一番よく理解しているだろう。だから明日香は、青龍の男の問いにすぐには答えなかった。でも、俯き、深く深呼吸を繰り返し、その末に震えながら顔を上げる。毅然とした表情で。
「上等だ」
 そんな明日香に、朱雀の男がアイマスクを近づける。視覚を遮ることで、それ以外の感覚は強制的に研ぎ澄まされる。音も、匂いも、触感も。
「う……!!」
 眼を覆われる瞬間、明日香は顎を震わせた。あの明日香が、準備段階で怯えを見せるなど初めてだ。本当に余裕がないんだろう。俺の中にある嫌な予感が、ますます膨らんでいく。
 そして、明日香の自由を奪うものはアイマスクだけじゃない。
「さ、口を大きく開けるんだ」
 その言葉と共に、ボールギャグが明日香の唇へ宛がわれた。そう、調教のこの段階になれば、言葉すら発することを許されない。どれほど悲惨な事になろうと、どれだけ耐え難かろうと、調教が終わるまでは何一つ外部に意思を伝えられない。これほど不安なことがあるだろうか。
 ボールギャグをが触れた、直後。明日香の唇が、何度か開閉する。喘ぐように、あるいは声もなく助けを求めるように。
「どうした明日香。許しでも乞うのか、坊主を見捨てて? いいぜそれでも、人として当然の判断だ」
 ベッド脇に腰掛ける朱雀の刺青が、そう言って俺の脇腹を蹴りつける。
「むごうっ!!」
 いきなりのダメージに、苦悶の声が漏れてしまう。視界の端で、明日香の肩が震えた。そして、彼女は唇を引き結ぶ。
「彼のことは見捨てない。だからといって、諦めもしないっ!
 私は………………耐えて、みせるわ………………!!!」
 嫌な予感を感じつつも、ありったけの勇気を振り絞っての宣言。
「ヒューッ、カッコいいねえ。ならいいぜ、ぶっ壊れるまで可愛がってやる」
 悪意に満ちた含み笑いと共に、ボールギャグが噛まされる。

 こうして明日香は、あらゆる意思表示の手段を失ったんだ。


        ※           ※            ※


 一体、何時間が経ったんだろう。

「ホレホレ、どうだ!?」
 品のない声がし、ぐちゅっぐちゅっという水音が速さを増した。
「んも゛ぉおう、んも゛っ!! おお゛ぉう、んぉおおおう゛う゛っ!!!!」
 ボールギャグに阻まれた不自由な悲鳴も、同じくトーンが上がる。
 明日香は、『マングリ返し』の格好で二穴を嬲られ続けていた。今前後の穴に入っているバイブは、どちらも男の5本指でかろうじて掴めるほどのサイズだ。その太さはどう見ても明日香自身の上腕を超えている。
 それに嬲られつづける前後の穴からは、信じられないほどの愛液があふれ続けていた。4人はそれをいやらしいと詰るが、濡れないわけがない。原因は、ガラステーブルに置かれた4本の注射器だ。調教の最初に打った1本だけでなく、さらに3本が追加で前後の穴に打たれたんだ。明日香を壊す……ただそれだけのために、大した覚悟もなく。

「ふーっ、くっそ手ェ疲れた。交替しろ!」
 朱雀の刺青を背負った1人が、青龍の刺青男に場所を譲る。青龍の男はバイブを何度か突きこんで笑みを深めた。
「ほー、また子宮が下りてきてんな。こりゃ面白ぇ!」
 そう言って、激しくバイブを叩き込み続ける。どうやら明日香のポルチオは、アソコの浅い部分から深い部分、手前や奥と位置が変わり続けているらしい。女が感じた時に自然となる反応なのか、バイブで責められつづけているからかは判らない。そして、どちらでも同じことだ。結局そのポルチオが狙い打たれ、明日香が身悶えるという状況には変わりないんだから。
「逝けっ!! 逝けやオラッ!!!」
 青龍を背負う男が、愛液を散らしながら激しくバイブを叩き込む。
「ううう゛ぅっ、うも゛ぉおっう゛お゛っ!! んんもおぉ……おっお、ほぉおおごオ゛オ゛ーーーーっ!!!!」
 明日香の目隠しの下からまた新たな涙が零れ、ボールギャグの穴からも涎が垂れる。その果てに、それまで浮き気味だった明日香の顎もガクリと下がった。
「ふん、また気絶しやがったか」
 青龍の男は鼻で笑いながら、正面……つまり、明日香を後ろから抱える白虎の刺青男に目配せする。
「お前も人使い荒ぇな。この女あんまり暴れるんでよ、いい加減腕が痛いぜ」
 白虎の男は溜め息をつきながら、それまで鷲掴みにしていた乳房を一旦離し、先端の蕾を摘む。シャブの効果と執拗な愛撫とで、乳輪から先がもう一つの小さな乳首のようになっている場所を、だ。
「…………ン、ふっ!? ……んもぉおオオおおお゛うう゛う゛っっ!!!」
 乳房そのものが三角に変形するまで両乳首を引き絞られ、ボールギャグから凄まじい悲鳴が迸った。真新しい涙と涎が、初雪のような肌を濡らす。さらには抉り回される割れ目の少し上、尿道からも飛沫が上がる。
「おーっ、イッてるイッてる。すげー、ションベンまで出てきやがった」
 明日香の腰がヒクヒクと上下するのを見て、青龍の男が目を細めた。そして、一度肩を鳴らすと、また極太のバイブで二穴を抉りはじめる。
「ん゛っごぉおおお゛っ、ふむごぉおお゛お゛お゛ッ!!! もごお、ほごぉおあ゛お゛おう゛う゛ぅ゛ぅーーーーーっっ!!!!!」
 明日香の口から漏れる声は、ボールギャグに阻まれている事を差し引いても濁りきっていた。俺は彼女がなまの喉で、何度もそういう声を上げているのを目にしていた。可愛らしい『ああ』という喘ぎではなく、ただただ腹の底からの快感が凝縮した、『おお』という逝き声。人一倍の気品に溢れる彼女が、恥も外聞もなくそんな声を乱発するんだから、いよいよ異常だ。崩壊の時は近い。
「ひゃははははっ!!! さっきまでちとヘバってたが、また調子が出てきたじゃねぇか! なあ、アスカお嬢様よぉッ!!!」
 叫ぶ男の背中で、青龍が踊り狂う。跳ねる明日香の腰を、極太のバイブでもって杭打ちするかのような動きだ。その無茶は当然、明日香をさらに深い闇へと貶める。
「むぐぅおおお゛お゛っ、むごぉお゛お゛お゛ぅお゛っ! ぇごぉおっ、ぇえごぉおお゛うお゛お゛お゛っ!!!!」
 激しくベッドを軋ませ、溢れる愛液を撒き散らし、明日香は狂いつづける。そしてその状態を数十秒続けたところで、また糸の切れた人形のように首の力を抜いた。また失神したようだ。
「あっ、またかよ! この女、すぐ気絶するようになっちまったな!!」
 青龍の男が舌打ちする。
「だな。そろそろコイツもいらねーか。どうせもう、何も見てねぇだろ」
 白虎の男が乳首から手を離し、アイマスクを取り去った。その下から現れた明日香の瞳は、ほぼ完全に上瞼に隠れてしまっていた。
「はははっ、こいつカンペキに白目剥いてやがる!!」
「すげぇな。あの超人的に我慢強ぇ女が、ここまで正体無くすなんてよ。オチんのも時間の問題だぜこりゃ」
「っつか、もうオチてんじゃねぇのか? このアヘ顔見る限りよぉ」
 嘲笑が起きる中、青龍の男だけが疲れ気味に肩を回し、割れ目からバイブを引き抜いた。コーラのペットボトルを思わせるサイズの責め具から、異様なほどの愛液が滴り落ちる。
「あー、肩いってぇ。でけぇバイブってのはブチ込み甲斐あるが、しんどくていけねぇや」
 そう言って奴は太いバイブを捨て、ベッドに並ぶ20本以上からまた1つを拾い上げた。選ばれたのは、ごく一般的なサイズのバイブだ。太さはせいぜい3センチ程度。割れ目を押し拡げて蹂躙するタイプの責めから、ピンポイントに奥だけを突く責めに変える気だろう。
「んむっ、お゛っ、おごっ!! ふぉお゛っ、おぐ、おぐっ、おお゛っぐふぅうう゛っ……!!!」
 バイブが割れ目の奥をリズミカルに叩き始めると、すぐに明日香が覚醒する。瞳孔の位置が元に戻り、うろたえた様子で左右を見回す。
「よう明日香ちゃん。そろそろ頭ブッ壊れてきたか? 今かなりヤバかったよなぁ」
 4人がそう言いながら、それぞれ明日香を責め立てる。
「おらおらどうだ、気持ちいだろ? やっぱなんだかんだいって、こういうリアルなチンポのサイズが一番だよな!」
 二穴を抉り、
「外からも子宮を潰してやるよ。たっぷりヨガり狂えや!」
 下腹を鷲掴みにして子宮を刺激し、
「そーらッ、またさっきのカワイイ声聞かせてくれや!!」
 病的にしこり勃った乳首をひねり上げ。
「むっぐうう゛う゛ーーーーっ!!! ふむうう゛っ、うごぅううお゛っ!!」
 今の明日香には、そのどれもが致命的な効果を持つらしく、あらゆる刺激に最大級の反応を示しながら暴れ狂う。ベッドの軋みは、巨漢の藪岡が腰を使う時とそっくりだ。
 そして。地獄とも思えるこの光景には、さらに下が存在した。
 きっかけは、明日香の狂いぶりを面白がった青龍の刺青男が、深々とバイブで最奥を突いていたことだ。少しでもポルチオ逝きを引き出そうというのか、一突きごとに、ぐうっ、ぐうっ、と奥を押し込む突き込みだった。
「おっ!?」
 ある瞬間、青龍の男は変な声を上げる。奴の手元を見ると、割れ目にバイブを掴む指が入り込んでいる。それまでは一番の奥まで突きこんでも、持ち手部分だけは外に残っていたというのに。明らかに、深く入りすぎている。
 明日香の顔を見ると、目をこれ以上ないほど見開いたまま固まっていた。
「お、おい、お前それどうなって……」
 1人がそう言いかけた、瞬間。
「んんん゛ぉおオ゛オあア゛っっ!!!!」
 明日香から、絶叫が迸った。凍りついていた時間が動きはじめたといわんばかりに。そしてその反応を見て、青龍の男も何かを察した顔になる。
「ま、まさかと思うけどよ、これ……子宮ン中に入っちまってんじゃねぇか!?」
 そう言ってバイブを引き抜いた。すぐに3人が割れ目の中を覗き込む。
「おい、ど、どうなってんだよ!?」
 唯一参加できずにいる白虎が、焦れた様子で尋ねた。
「ひ、拡がってやがる…………!!」
「あ、ああ、あれそうだよな。子宮口だよな、あの開いてんの……!!」
「お、、おいおい、んじゃ子宮へ直にぶち込めるってか!?」
 歪んだ笑みから零れたのは、信じがたい言葉。
 ポルチオよりもさらに奥、子宮内部へ達するウテルスセックスというものが存在するというのは聞いた事がある。でもそんなもの、都市伝説だ。人体構造上ありえない、そうとも聞いた。でも、それがどうやら本当にできている。
 何発もシャブを打って、それこそ日常的にはありえない回数の絶頂を繰り返しつづけた結果、決して起こり得ないはずのことが起こってしまったんだろうか。もしそうなら、明日香は…………
「こうしちゃいられねぇ! おい、そこらにCCDカメラのついたバイブあったろ……っと、これだ!!」
 1人がそう言って、先にカメラの内蔵されたバイブを拾い上げる。AVでたまに見る道具だ。3人はそのスイッチを入れ、ビデオ端子をテレビに繋いでから、明日香の中へ差し込んでいく。
 テレビ画面に映像が流れた。驚くほど水気の多い、ピンク色の粘膜を掻き分け、カメラが進んでいく。映像の奥にある子宮口は、確かに指でも入りそうなほどに開いていた。カメラがそこをアップに写し、膨らんだポルチオを突き抜けていく。最後に映るのは、ピンク色の壁。子宮頸部もなにもない、子宮の内部だ。
「おお゛お、……ぉお、おっ…………!!」
 残酷なことに、テレビの映像は明日香自身にも見えている。誰もが声を無くして入る中、当事者である彼女だけは、嘆くような細い声を上げていた。
 そして、4人の悪魔が笑う。
「ははははっ!! すげぇ、こりゃすげぇぜ! 流石に初めてだこんなん!!」
「ああ、マジに入るんだな。っしゃ、じゃあお嬢様に、たっぷりウテルスセックスを味わって貰おうぜ!!」
 悪魔じみたその言葉と共に、カメラ付きのバイブが激しく前後する。映像内で水気のある襞が、何度もカメラの側面を往復しはじめる。
「ん゛ん゛む゛ぉおお゛お゛っ、ふも゛ぉおうお゛あああ゛お゛う゛っ!! あ゛ぁ゛、ああ゛っ!! お゛お゛うっお……あおう゛ぉお゛お゛お゛おお゛お゛っ!!!」
 当然、明日香の喉からは滅茶苦茶な悲鳴が上がった。
「おうおう、何言いたいんだ? 聞かせてくれや。絶対に入っちゃいけねぇ場所を貫かれちまった、女として終わった人間の感想をよお!!!」
 ボールギャグの金具が取り外され、濃厚な唾液の線を引きながら引き抜かれる。
「ぷはあっ!! はぁっ、はあっ……あああぁあああっ!! うわあぁあああっ、ああああうあぁあぁっ!!!!!」
 短い息継ぎの後、明日香の喉から迸ったのは、裏返った絶叫。もはや理性があるのかもわからないほど、喉を開いて大声で叫び続けている。
 でも、その様子を見て俺は気付いた。理性は、ある。明日香の理性はある。だってこんな状況なら、普通は無意識にある言葉を叫ぶはずなんだ。
 『いやだ』『やめて』『抜いて』……この、どれかを。でも、明日香はそれをしなかった。変わりに、喉を開いて絶叫することで耐えているんだ。でもいくら叫んでも、子宮からバイブが抜かれることはない。4人の狙いを満たしていないから。
「さあ明日香、言ってみろ! やめてください、許してくださいってよ!!」
「言え! 言わねー限りこのバイブは抜かねぇ。そうしたらお前、二度とガキ産めなくなっちまうぜ!!」
「おらおらっ、どんどん子宮の入口が広がっていくぜ。もう何をどうやったって、二度と戻らねーようになっちまうぜぇ、お嬢様よおっ!!」
 耳を覆いたくなるような、ひどすぎる言葉責め。それを四方から受けながら、さすがの明日香も眼の力を失う。元々彼女は何時間も絶頂を継続させられて、精神的に極限状態なんだ。その上で未知の場所を抉り回され、脅しの言葉を投げかけられたら、いくら何でも心がもたない。
「あ……あ……ああぁあ……っ!! わ、わたし、わたしは……っ!!」
 明日香は唇を震わせ、歯を打ち鳴らしはじめた。超人的であった彼女が、とうとう年頃の女性の反応を始めた。
 いよいよ、終わりの時だ。
「さあ、言え!! 言ってみろ明日香アッ!!!」
 4人が恫喝し、ついに明日香が観念したように口を開いた、まさにその時。
 

「  警察だ!! 全員そこを動くなっ!!  」


 扉が開くと同時に叫び声がし、部屋に警官が踏み込んでくる。




 ・・・・・・・・・・・・・・


 助かったんだ。俺と、明日香は。



          ※           ※            ※



 警察がホテルへ突入するきっかけとなったのは、俺の通報だった。
 明日香の監禁が始まってから、2週間が過ぎた頃……つまりニュースで事件が報じられる見込みがなく、藪岡達が明日香を解放する気もないと確信した時点から、先輩達の目を盗んで何度か通報していたんだ。
 通報できるチャンスは毎回ほんの僅かしかなかったから、事件の内容もホテルの場所も、しっかりと伝えられたことはなかった。ひょっとすると、通報後しばらくは悪戯電話として処理されていたのかもしれない。あるいはパトカーの巡回路からも外されるような曰くつきの場所だけに、警察としてもそうそう踏み込めなかったのかもしれない。
 救出に時間が掛かった理由ははっきりしないが、ともかくホテルにたむろしていた連中は一網打尽となった。頭である藪岡はたまたまホテルに居なかったから、現行犯逮捕とはならなかったが、明日香の証言を元にしっかり指名手配されている。逮捕は時間の問題だ。前科持ちの上に、あれだけ悪質な行為を主導したんだから、捕まれば懲役20年は固い。
 藪岡の腹心である高根沢をはじめ、幹部連中はほとんどが捕まったから、事実上藪岡達のチームは崩壊だ。

 俺は警察の突入時に手錠を掛けられていて、明らかに被害者風だったし、なにより明日香が無実を主張してくれたおかげで、事情聴取だけで済んだ。
 その明日香は、保護されてから警察病院に移送され、しばらく入院する事になった。ホテルでは気丈に耐えていたが、無理が祟ってかなり身体にガタが来ていたようだ。そして、散々打ち込まれたシャブを体内から抜く必要もある。
 覚醒剤を抜くには、他の一般的な薬と同じく、肝臓の代謝を上げて尿として排泄するしかないらしい。シャブを止める時は普通、精神安定剤や催眠導入剤なんかで辛さを紛らわせながらじっくりと抜くらしいが、明日香はそういったものを使わない方針を選んだ。そうする事でシャブの抜け具合は一気に早まり、常用者でも2週間ほどで尿検査に引っ掛からなくなるんだそうだ。
 ただし、薬で紛らわす事ができない以上、後遺症が激しい間は想像を絶する地獄。髪は抜け、目は窪み、幻聴と幻覚に悩まされ、いつ発狂してもおかしくないほどの躁鬱を繰り返すことになる……ネットにはそんな体験談もあった。
 俺は、そんな彼女と連絡先を交換した。やましい心でじゃない。何か俺にできることがあれば言ってくれ、苦しかったら言ってくれ。その気持ちからだ。
 彼女ともなれば親しい人間は多いだろうし、普通の相談ならできる相手もいるだろう。でも、あの地獄での体験は、同じ場に居なかった人間と共有するのは難しい。変に心配されて根掘り葉掘り訊かれたら、それこそ大変なストレスだろう。その点、事情を知る俺なら何かの力になれるんじゃないかと思った。そして明日香も、その提案を快諾してくれた。

 そして、ある日。明日香から、深夜に電話が掛かってくる。あの明日香がそんな時間帯に電話を掛けてくるなんて、よっぽどのことだ。通話ボタンを押す瞬間、俺の指はかすかに震えていた。
 通話状態が始まる。でも、一向に声が聴こえてこない。
「明日香?」
 俺が声を掛けると、電話の向こうで呼吸を整える気配が伝わってきた。緊張しているのか、それとも動揺しているのか。
「…………ごめんなさい。自分から掛けておいて悪いけれど、私いま、変な事を口走るかもしれないわ」
 何拍か置いて、明日香はそう言った。それを聞いて、俺はようやく事情を飲み込む。彼女は今、薬の副作用に必死で耐えているんだ。おそらくは不安でたまらなくなり、衝動的に俺に電話をかけてきたんだろう。あの、明日香が。
「声だけでも聞けてよかった。切るわね」
 明日香は力のない声で呟く。
「ま、待って!!」
 俺は、思わずそう叫んでいた。
「…………え?」
 怪訝な声がする。俺は動揺したまま、さらに続けた。
「そ、その、無責任な言い方かもしれないけど……明日香なら、きっと大丈夫!」
 俺の迷いまくりの言葉に対して、返事はない。でも、電話口でじっと次の言葉を待っている気配がする。だから俺は、深呼吸して続けた。
「そ、尊敬してるんだ! あれだけ色々やられても耐えてるの見て、その、凄いって思った。すごい頑張ってる時に頑張ってって言われるのは、嫌かもしんないけどさ……でも、頑張ってくれ。俺、明日香が元気になるの、待ってるから!! そうだ。こないださ、美味しそうなケーキ屋見つけたんだ。いつか元気になった明日香と一緒に、行きたいんだ。だから…………だ、だから」
 俺は、そこで言葉を切った。というより、次の言葉が出なかった。男のくせに、情けなくボロボロ泣いてしまっていたから。
 明日香は、しばらく黙っていた。電話を挟んで重い沈黙があった。
「…………ありがとう」
 沈黙を破ったのは、明日香からの感謝の言葉だ。
「えっ……?」
 今度は、俺が聞き返す番になった。
「今夜を越えたら、きっと楽になると思う。そうとはわかっていたけれど、今度ばかりは耐えられるか不安だったの。ほんとうに、つらくて。……でも今は、心の奥に支えができた気がする。私は、きっとこの暗闇から抜け出して、あなたの元に帰ってみせるわ」
 明日香の声は、泣き腫らした後の笑顔のようだった。
「…………おやすみなさい」
 穏やかな明日香の言葉が、通話の切れた後にも俺の耳に残っていた。俺の目からはまだ涙が伝っていたが、なんとなくそれは、嬉しいからだと思えた。

 そして、しばらく後。
 俺と明日香は、何度か遠慮がちに顔を合わせながら、気付けば付き合うようになっていた。『吊り橋効果』というやつかもしれないし、純粋に相性がいいのかもしれない。でも、理由なんてどうでもいい。ただ一緒に居て、幸せでさえあれば。
 ただ、明日香はものすごく忙しい。ただでさえ会社役員とイメージガールという2つの大役を負う人間だし、監禁と入院の間の仕事も相当溜まっているはず。明日香自身は「どうにか時間を作る」と言ってくれるが、もう俺のために無理をしてほしくはない。だから俺達のデートは、毎回かなり間が空いた。
 そして人目につく場所では、明日香はグラサンや帽子で変装する必要もある。なにしろ、式田証券のCMのおかげで全国的に顔を知られている有名人だ。それが俺のようなチンピラと交際していると知れたら、スキャンダルになってしまう。
 そういう諸々の事情はあったが、逆にそういう障壁のおかげで、逆に恋が燃え上がった。中々会えないからこそ、お互いにデートの日を待ち焦がれる。よく似合うグラサンで変装した明日香と会うと、まるでハリウッドモデルとでもデートしている気がして興奮する。

 初めてセックスをしたのは、付き合い始めて2ヶ月目の終わりごろだ。
 俺と明日香にとって、セックスは特別だった。なにしろ、あんな体験を共にしたんだ。それなのにセックスするなんて、という考え方もあるし、だからこそ、トラウマを払拭すべく愛し合うべき、とも言える。
 そして明日香は、俺とトラウマを払拭することを望んだ。
 俺達は『ラブホテルのベッドの上』で抱き合って、何度となくキスを交わした。地獄の日々の恐怖が甦ったのか、震える彼女を抱きしめながら。
 2人で過ごした最初の夜に、一体どれだけの体位でしただろう。
 あの外道共に共感する気は微塵もないが、確かに明日香のアソコは信じられないほど気持ちがよかった。あれだけ拡張されたのが嘘のように、数ヶ月ですっかり締まりが戻っている。挿れると生暖かいミミズがみっしりと押し寄せてくるようで、ぼーっとしているとまさに『あっ』という間に射精してしまいかねない。
「もう、早すぎるわ!」
 最初に挿入した時、10秒ともたずに発車した俺に、明日香はそう拗ねてみせる。
「わ、悪い……」
 恥ずかしさのあまり俯きがちに見た明日香の顔は、ホテルでは見たこともないほど柔らかく、慈愛に満ちた表情をしていた。それが俺に向けられているという幸せで、呼吸が苦しくなりそうだった。
 俺は時には彼女に奉仕し、時には彼女に奉仕されながら、明日香という女性の魅力に惹かれていく。でも同時に、所々であの日々の傷跡にも向き合うことになった。例えば、彼女のアソコはもう綺麗な縦線には戻らないし、アナルは窄まりには戻らない。ある程度整ってきてはいるが、使い込まれた年季は残っている。
 そして、もう戻らないものといえば、彼女の感じやすさもそうだ。少し割れ目を刺激するだけで、あふれるほど愛液が出てくる。
「あなたにされてるからよ」
 明日香はそう言うが、本当のところはわからない。
 でも俺は、そういう全部をひっくるめて明日香を愛した。何もかもを肯定する。彼女の何もマイナスにはさせない。恥ずかしがる性器を、最大限の愛情を込めて舐め、後ろから優しく抱きしめながら、いつまででも繋がりあう。
「…………幸せ…………」
 明日香は俺に抱きすくめられながら、震える声でそう言った。そして首を回して俺にキスしながら、熱い目を向けてくる。
「本当は最初、あなたと付き合うべきか迷っていたの。でも、付き合ってみてよかった。あなたがいなかったら、私はずっとセックスを嫌っていただろうし、もう一度自分を好きにもなれなかった」
 明日香が俺にくれたこの言葉は、こっちこそ、と言う他はない。大げさでもなんでもなく、俺はこの瞬間の為に生まれてきたんだという気がした。

 会えないもどかしさと、会えた時の嬉しさ。それを噛みしめている間に、春が巡ってくる。
 桜の樹の下で待ち合わせた日、俺は先に来ていた明日香の姿に目を見張った。
 確かオフショルとかいう、肩を大胆に露出させたフリルつきの白カットソーに、チェック柄のミニスカート、黒いサンダル。いかにも街で遊ぶ女子という風だ。そのガーリーな出で立ちは、普段のクールなスタイルとはあまりにも印象が違った。今はグラサンも帽子も着けていないが、変装の必要もないだろう。俺ですら、一瞬誰かと思ってしまうほどなんだから。
「ごめん、待たせちゃったみたいだな」
俺が頭を掻きながら言うと、明日香は笑顔で首を振った。
「いいえ、時間ぴったりよ」
 その笑顔はあまりにも綺麗だったし、普段のイメージとはギャップのあるファッションもあって、俺はつい明日香に見惚れてしまう。
「…………変かしら、この格好…………?」
 俺があまりにも見るので不審に思ったのか、明日香が表情を曇らせる。
「い、いや、そういうんじゃ!!」
「そう? 普段あまりこういう服は着ないから、勝手がわからなくて……」
 明日香は指を組みながら、不安そうに言う。
 確かに明日香といえば、パンツスタイルという印象が強い。ハーフ顔の上にモデル並みのスタイルだから、とにかくシュッとしたパンツが似合うんだ。それなのにわざわざガーリーな格好を選んだのは、俺との街デートに合わせてのことか。
「いや、全然変じゃない。その、かっ……可愛いよ」
もっと気の利いた言葉もあるだろうに、俺は顔を赤くしてそれだけ言うのが精一杯だった。
「…………あ、ありがとう」
 明日香も色白な頬をわかりやすいぐらいに赤らめて、感謝の言葉を呟いた。
 21歳同士のデートにしては、少しウブすぎやしないか。俺は心の中でそう突っ込んだ。でも、仕方ない。パシリの不良と、仕事一筋の令嬢。どっちも恋愛の経験値なんて、ほとんどないんだから。

 普段は食べないようなとびきり豪華なケーキを堪能した後、話題の映画を見終わると、もう日が沈みかけていた。
 動悸が早まる。時間も時間だ、ここからは大人の時間……という流れになっても不自然じゃない。ないが、つい最近したばかりだから、いまいち言い出しづらい。それに、明日香の態度も気がかりだ。疲れたのか、それとも何か気に障ることをしてしまったのか。デートの途中から、急に口数が減っていた。
 だから俺は、自分でも嫌になるほど消極的にアピールする。駅へエスコートするふりをしながら、さりげなくラブホの多い通りへ向かうという。もし明日香の方から休憩を申し出てくれるようなら、諸々の悩みが一気に解消する。
 でも。怪しいネオンが見えはじめ、俺の意図を察したらしい明日香は、申し訳なさそうに頭を下げた。
「今日はこれから、用事があるから……ごめんなさい」
 そう言われては、引き止める事もできない。
 彼女が忙しいのは十も承知だ。たとえ夜でも……というより、夜こそ予定が立て込んでいるようだった。なんといっても、成長めざましい新興証券会社の役員兼イメージガール。当然、夜に開かれる何かのパーティーで、グラス片手に商談という機会も多いはずだ。
 実際明日香は、そういうパーティーの写真をよく俺に送ってくれていた。ご馳走の写真だとか、高層マンションのバルコニーに設けられたナイトプールの写真なんかを。金持ちの嫌味だ、と冗談で拗ねてみせたら、『ごめなさい、そんねつもりじゃなあったの!』と誤字だらけのメールが届いた後、すぐに謝罪の電話が掛かってきた。電話口で「冗談だ」と言うと、拗ねたような声が聴こえてきたっけ。
「い、いや、仕方ないって。俺こそ、その……ごめん」
 きっちりと謝ってくれる明日香に比べ、俺は何とも歯切れが悪い。明日香はそんな俺に近づき、少し周りを見回すと、
「んっ!?」
 壁へ押し付けるように、俺にキスをした。舌を触れ合わせる、長いキスだ。こんな事を彼女の側からしてもらえる幸運な男が、俺以外にいるか。いや、いない。俺はふわりとした香水の良い匂いを胸いっぱいに吸い込みながら、至福に酔った。
 数十秒の後。ようやく、唇が離される。
 目を開くと、明日香の濡れたような瞳が間近にあった。
「…………好きよ」
 熱い吐息のようなその告白に、俺の動悸はいよいよ早まる。
「本当は、もう何もかも投げ出したい。全部忘れて、あなたとずっと抱き合って、一緒に過ごしたい」
 濡れたような瞳が、本当に涙を滲ませる。そこまで本気で想ってくれるのは嬉しい。でもここで、全部捨てろ、なんていうのは本当の愛じゃない。仕事や肩書き、プライド、恋心。そういうもの全部ひっくるめての明日香なんだ。彼氏なら、式田 明日香という女性を丸ごと尊重して、支えるべきだ。
「そういうわけには、いかないだろ」
 明日香の髪を撫でながら、囁く。
「…………わかってる。ちょっと、甘えてみただけよ」
 両手で強く俺を抱きしめた明日香は、吹っ切れたように笑顔を見せた。
 
 小さくなっていく明日香の背中を見送りながら、俺は呆然と立ち尽くす。
 今夜は、どんな豪華なパーティーに呼ばれてるんだろう。明日香は、ドレスに着替えてそこへ参加するんだろうか。
 煙草を取り出して一服しながら、明日香のドレス姿を思い描く。妄想の中の明日香の衣装は、いつの間にか白いウェディングドレスに変わっていた。
「気が早ぇよ、バカ」
 つい独り言を漏らし、通りかかったカップルに変な目で見られてしまう。
 ラブホテルでの一夜がフイになったというのに、俺はどうしようもなく舞い上がっていた。いつか本物の明日香の花嫁衣裳が見られる……その確信があったからだ。

 何もかもが上手くいく。そんな希望を胸に、俺は機嫌よく路地をぶらついていた。だがその俺のバラ色の心は、その数秒後に凍りつく。
「おい」
 ガラの悪い呼びかけに、俺は固まる。振り向くと、そこには…………高根沢がいた。
「え?」
 間抜けな声が出る。頭が状況を把握していない。
 どうしてここに、高根沢が。奴はホテルで現行犯逮捕されたと聞いている。あの事件からすでに半年近く経ってはいるが、あれだけの犯罪の主犯格がたったの半年で釈放になるわけがない。なら、何故。
「ちょっとツラ貸せよ。呑気にブラブラ歩いてたんだ、時間はあるよな?」
 有無を言わせぬ口調。八木達を殴り倒していた光景がフラッシュバックする。従うしかない。下手に逆らっても結末は同じで、より悪い状態になるだけだ。


    ※           ※            ※


「…………なんで、っスか」
 夜のファミレスで向かい合ったまま、俺は高根沢に尋ねた。緊張で言葉が出ない。
「ンだそりゃ? 雑な質問だな。俺がなんでシャバにいるんだ、ってか?」
 高根沢はそう言ってコーヒーカップを手にする。俺は力なく頷いた。
「逮捕された人間が、全員漏れなく実刑喰らうとでも思ってんのか?
 抜け道があんだよ、どんな事にでもな」
 馬鹿にしきった笑いに続いて、コーヒーを啜る音がする。俺は奴の視線を受け止めきれず、視線を下げた。
 抜け道。つまりコイツは、逮捕を免れたのか。どうやって?
 …………いや、そうじゃない。今この瞬間に考えるべきは、それじゃない。

 何 の 用 だ ?

 例の件を警察に通報したのがバレたのか? いや、それはないはずだ。そもそも俺は、警察が踏み込んでくる半月以上前から、藪岡に逆らった罰として手錠付きでホテルに監禁されていた。アリバイとしては充分で、通報した容疑者の可能性は低いはずなんだ。
 でもどうやら高根沢は、俺に敵意を持っているらしい。
 そうだ。そもそもコイツらは、道理や理屈ありきで動くほど律儀な連中じゃない。『そそる女だから』という理由で衝動的に明日香を攫ったように、『疑わしい』という理由だけで誰かを的にかけてもおかしくない。そして一度追い込むと決めれば、相手の弁明や命乞いなど一切聞かない。そういう奴らだ。
 なら、どうする。どうやってこの状況を切り抜ける。
「よお。ところで……瑞希センパイ、元気してっか?」
 色々と思考を巡らせている俺に、いきなりその質問が来た。心臓がまた凍りつく。

 瑞希センパイとは、俺の姉貴、福原 瑞希のことだ。俺より6つ上の27歳。つまり藪岡や高根沢よりも、さらに3学年上の大先輩にあたる。
 姉貴は学生のころ陸上をやっていて、何度か大会で入賞したりもして結構有名だった。いつも教師や優等生連中に囲まれている、まさに学校の人気者。そうして表の世界で賞賛される一方で、姉貴は不良連中にも注目されていた。
 ケダモノに人気の理由は単純明快、乳がでかいからだ。小5にしてすでにCカップあった姉貴は、同級の中で一番早くブラを買う必要ができ、『なんであたしだけ』とボヤいていたものだった。
 ウチの学区は小学校と高校がすぐ隣で、小学校側の一部の教室からは高校の校庭が見える。だから俺が小学校の頃は、高校のグラウンドに姉貴を見つけて興奮するクラスメイトが山ほどいた。マラソンなどで走っていると、体操服の胸の部分がぶるんぶるん揺れて、ガキ共のいいオカズになったようだ。
 それに姉貴は、胸がでかいだけじゃない。顔も割と整っているし、陸上をやっているせいで少し足は太いものの、スタイルだってそう悪くない。上半身に限れば、少年誌の表紙を飾るようなグラドルと肩を並べられるレベルだ。
 それだけのルックスと運動神経がありながら、成績だって悪くはない。うちは母子家庭で貧乏だったから、姉貴は高校を出てすぐに就職したが、高校の担任も母親も口を揃えて『大学へ行かないと勿体無い』と言っていた。
 今思えば、ごく身近なスケールでの明日香みたいだ。あいにく貧乏暮らしで、間違ってもお嬢様とは言えないが。

 そんな存在が実の姉なんだから、同級生からは随分と羨ましがられた。
「おい、見ろよ。お前の姉ちゃん走ってんぜ!」
「相変わらずスゲー乳だな……っとやべ、勃ってきちまった」
「なあ、いい加減姉ちゃんの着替えか、できれば風呂の写真撮ってきてくれよ。カネ払うからさ、頼むってマジ……!!」
 そんな会話は毎日のようにされた。俺は一貫して興味ないフリを続けていたが、内心では誇らしかったものだ。
 ただ、優秀な姉を持つってのも良い事ばかりじゃない。何をやっても平均以上の姉と比べられる弟っていうのは、中々に不幸だ。
『お姉ちゃんはあんなに……』
『それに比べてお前は……』
 お袋も教師連中も、果てにはクラスメイトすら、口を揃えてそんな事を言う。俺が不良の道に逸れた原因は、一番は俺が半端者のヘタレだからだが、こういう事情の影響が全くなかったわけじゃない。
 そして俺は個人的にも、姉貴が苦手……というより、頭が上がらなかった。ウチは母子家庭で、パートを掛け持ちしているお袋があまり家にいなかったから、実質姉貴が俺の母親代わりだった。「バカ!」が口癖で、箸の持ち方や爪を噛む癖なんかを、事あるごとにうるさく注意された。
『母子家庭の子だから品がないんだ、とか言われてもいいの!? そうなったら、母さんがどんだけ悲しむと思うの!!』
 窓が震えるような声量で、そんな説教を耳にタコができるほど聞かされた。
( 家でまで優等生ぶりやがって…… )
 俺は当時そう不満を持っていたが、今なら俺を心配するからこその小言だったんだとわかる。
 そう。姉貴はガキの俺を、間違いなく大事に思っていてくれた。
 姉貴の20歳の誕生日に、イヤリングをプレゼントしたことがある。先輩の彼女のお下がりとして安く買った物だが、宝石のような紅いガラスが揺れる、結構可愛いやつだ。ガキが買える中では上物だった。
「中学生がイヤリングなんて、生意気ね。ま、ありがたく貰っとくけど」
 プレゼントした瞬間は照れ隠しでそう茶化されたものの、その夜、風呂上りにリビングを覗くと、一人でイヤリングを眺める姉貴の姿があった。椅子に座ったまま足をぶらつかせ、上機嫌に鼻歌を口ずさみながら。不覚にも可愛いと思ってしまうほど、幸せそうな横顔だった。
 それが、俺の姉貴だ。

「……姉貴が、どうかしたんすか」
 俺は高根沢を見上げながら尋ねる。胸の中で嫌な予感が膨らんでいく。
「ほー。どうもしねぇと、訊いちゃいけねえのかよ?」
 高根沢が、眉を寄せて凄んでくる。どちらかといえば線の細い不良なのに、この威圧感は何だ。震えが来る。喉元へナイフを突きつけられたように。
「……い、いえ! す、すません!!」
 俺は反射的に謝ってしまう。こんなクズに、明日香を弄んだ外道に、頭を下げたくなんてないのに。そんな俺を、高根沢は鼻で笑う。
「ま、そりゃ冗談としてだ。ただ気になっただけよ。知ってんだろ? 俺もヤブも、中坊ン頃はお前の姉ちゃんが一番のズリネタだったんだ。っつーか、この辺りのゴロツキは皆そうだったがよ」
 改めてそう言われると、胸がムカムカする。姉貴が穢されるようだ。
 でも俺は、同時に安心してもいた。相変わらず奴の真意は見えないが、少なくとも今はまだ世間話の段階らしい。
 もっとも、落ち着いて考えれば当然の事だった。姉貴はもう何年も前にこの町を出て、都会で事務の仕事に就いている。たまたま車で拉致できた明日香と違って、片田舎のチンピラが遊び半分で手を出せるような場所にはいないんだ。
「あ、ハハハ……気にかけてくれて、どもっス」
 俺は上っ面で感謝しながら、高根沢の意図を探る方向へ頭をシフトさせていた。
 でも。
 姉貴の話題は、まだ切り替わってはいなかったんだ。
「そりゃ気にするぜ。なんせ、あんまりにもオメェの姉貴ソックリな女が出てる動画、見つけちまったもんでよ」
 高根沢はそう言って、服のポケットから何枚かの写真を取り出した。
 乱雑にテーブルへばら撒かれた写真に、視線を落とす。
 どの写真にも、裸の女が写りこんでいた。ある写真では、前後から男に犯され。ある写真では、ハードなSMプレイをさせられ。
 目にモザイクが入っているため、はっきりと顔はわからない。でも、女のルックスには見覚えがあった。

 スポーティな印象を受ける、首後ろまでのやや外跳ね気味の髪。
 グラドルを思わせる、ぽてっとした少し厚めの唇。
 無駄な肉のない、すっきりとした顎。
 一見引き締まってはいるが、本職のAV女優と違い、屈むと少しだけ肉の寄る腹。
 細い腕とやや不釣合いな、腰周りと同じぐらいある健康的な太腿。
 ゆうにFカップはあるだろうボリュームのある乳。
 右肩と右乳房外側のホクロ。

 何もかもが一致していく。
 ついさっき、高根沢の一言で脳裏に浮かべた姉貴の姿と。寸分違わず。
「な? ソックリだろ?」
 高根沢がそう言って笑った瞬間。
「あ……ああああぁっ!!!」
 俺は思わず叫んでいた。その俺の顎を、すぐに高根沢が掴む。
「……騒ぐんじゃねぇ。迷惑だろうが!」
 ヤの字さながらの凄みだ。迷惑? 誰の。俺以外の、誰の?
 自分の迷惑になるってことか、この犯罪者め!
「な。なんあんれすかこれっ!?」
 顎を掴まれながら、俺は問いかける。
「俺に訊くんじゃねぇよ。ツレから教えられたエロ動画サイトに、たまたま瑞希センパイとソックリのM嬢がいた。そんだけだ」
 高根沢は俺の顎を突き放すと、煙草を取り出して火を点ける。コイツが煙草をふかし始めるのは、多くは答えない、喋りかけるなという意思表示だ。
 俺は高根沢から視線を切り、震えながら写真を眺め回す。目が滑る。どれも見たくない。でも、見えてしまう。
 柱を背にした胡坐縛りのまま、前後の穴にバイブを嵌め込まれ、極太のイチモツを根元まで咥え込まされて、大量に嘔吐しながら涙を流している写真。
 這いつくばって泣き叫ぶ女の後ろに、刺青男が座り込み、女の脚の合間へと太い腕を伸ばしている写真。
 大口を開けた口いっぱいに、排泄物を詰め込まれている写真……。
 どれも覚えがある。あのラブホテルで、明日香が受けた責めそのままだ。
 ただし、中には明日香の記憶と一致しない写真もあった。右頬を赤く腫らし、少なくない量の鼻血を垂らしている一枚だ。
「……な、なんです、か、これ…………!?」
 俺は、思わず高根沢に問いかける。煙草を吸っている最中だが、もうそれどころじゃない。高根沢は、そんな俺の余裕のなさを薄笑みを浮かべながら観察していた。
「そりゃ、右に一発カマされたんだろ。鼻血の量から見て、野郎のマジ殴りを」
 やっぱり、そうだ。何が原因かまではわからないが、姉貴は殴られたんだ。多分、他の写真に映っている奴と同じような、ガタイのいいチンピラに。
 殴られた写真の女は、明らかに恐怖に震えていた。いや、その一枚だけじゃない。どの写真も、どの写真も、明日香が受けていた時よりも遥かに怯えた表情を浮かべている。精神力の違いか、あるいは明日香の時とそもそもの条件が違うのか。
 高根沢が大きく煙を吐き出し、灰皿で煙草を揉み消す。
「ま、世の中にゃ瓜二つの人間が3人いるっていうしな。よく似ちゃいるが、これが瑞希センパイなわきゃねーよな」
 そう言って席を立とうとする高根沢の手を、思わず掴む。
「何だ?」
 冷たい目。でも、ここで退く訳にはいかない。確実に、姉貴に何かが起きてるんだから。
 姉貴に何をした、とダイレクトに訊いてもしらばっくれるのは確実だ。だから俺は、あえて奴の白々しい作り話に乗っかる。
「お、俺にも、そのサイト教えてくださいよ……!!」
「あ? オイオイ、姉貴そっくりのオンナで抜く気か? 正気かよ」
「ま、マジっす!!」
 あくまで食い下がると、高根沢が笑みを深めた。端から奴は、俺がこう言うのを待っているんだ。だからこそこうして、直に餌を撒きに来た。俺は、それを承知で食いつくしかない。たとえ喉元に針が突き刺さるとわかっていても。
「その写真はやるから、裏見てみろ。じゃあな」
 高根沢はそう言い残し、ファミレスを後にする。
 言われた通りに写真を裏返せば、あるURLとパスワードが載っていた。俺はその文字列を眺めながら、しばらく呆然としていた。

 何となくはわかっている。
 連中が、俺こそ通報者だと的を絞り、グループを崩壊させた事の報復(カエシ)を仕掛けてきたこと。その悪意の矛先が、姉貴へと向いたこと。
 でも、とても信じられない。あくまで他人の空似だと信じたい自分がいる。
 大体、さっき自分でも考えたじゃないか。姉貴はとっくにこの町から出ているんだ。まさか他所の県に出てまで、10年来勤めているOLを攫うか? いや、ない。いくら何でも、そこまで無茶苦茶をするわけがない。
 縋るような想いを抱きながら、俺はスマホを取り出した。
 軽い気持ちで、姉にLINEを打つ。既読は……つかない。とはいえ、当然だ。こんな夜中にいきなりメールして、即答はありえない。なら、電話だ。

『おかけになった電話は、電波の届かない場所にある、または電源が……』

「くそおおおおおっ!!」
 無機質な機械音声が、俺の感情を波立たせる。
 手が震えてきた。その震えでスマホが机に当たり、耳障りな音を立てる。
 こうなれば最後だ。選ぶのは、もう随分と顔を合わせていない、お袋の番号。
 コール音。
 コール音。
 コール音。
 コール音。
「…………もしもし」
 4回目でやっと、声がした。お袋の声だ。気のせいか、ひどく疲れている。
「あ、あの、お袋…」
 震えすぎている声を整えるべく、大きく息を吸い、吐き出す。
「あ、ああ、あの、あねき、姉貴っ、さ、最近なんか、変わったこと……ない?」
 声の震えが余計にひどくなった。ファミレスのソファに座っているのに、膝がガクガク笑う。
 下手な切り出し方だ。世間話を装って母親の近況を聞いた後、ついでに質問する……というように、他のやり方はいくらでもあるはずだった。でも姉貴の事が心配すぎて、全然頭が回らない。ここで落ち着くには、母親から『何も変わったことなんてないよ』とお墨付きを貰うことだけだ。それさえ訊ければ、『いつまでもフリーターなんてしてないで』だの、いくらでも小言を聞いてやる。だから、頼む。
 でも、お袋の口から出た言葉は、俺の願いとは違っていた。
「お姉…ちゃ…ん?」
 ただの家族の話なのに、一語一語確かめるような復唱。嫌な予感が一気に強まる。
「あ、ああ」
 俺は、ツバを飲み込む思いで相槌を打った。すると、電話の向こうでお袋が息を吸い込む音がした。
「それが、それが変なのよっ! あのマメな子が、メールの返事も全然しないし、電話しても出ないの! もう、何日も!!!」
 聞きたくもない、母親の悲痛な叫び。心臓が凍りつく。
「ねぇ、あんた! なんでこの電話掛けてきたの? まさか、何か知っ…………!!」
 お袋の追求が始まった瞬間、俺は思わず電話を切っていた。折り返しが怖く、そのまま電源ボタンを長押しして完全に沈黙させる。
 頭を抱える。
 どうにかして楽観視しようとするが、何ひとつ安心するネタが見つからない。

「あの、お客様……大丈夫ですか?」

 とうとう、店員が確認にきた。俺はそれから逃げるように、精算を済ませて店を出る。
 もう春だというのに、ひどく寒い夜だ。それはまるで、厳しい現実から目をそらそうとする俺を叱っているようだった。
 そうだ。何をどうグチャグチャ考えたって、結論は同じ。まずは事実を確かめるしかない。
 俺は朦朧とした意識で家に帰りつき、パソコンを起動する。ネットへ繋いですぐに、写真裏のURLとパスワードを打ち込んでいく。

『 ようこそ ゲスト 様
  プラチナ会員 TNZ 様からの招待を確認しました。 』

 一瞬、そんな小画面が表示される。どうやら招待制のクローズドサイトらしい。
 小画面が閉じた後、黒背景の中に、血のような赤文字が浮かび上がる。

『人格崩会 マインドクラッシャーズ』

 それがサイト名らしい。
 たかが漢字とカナの文字列が、ここまでおぞましく思えたのは初めてだった。



                                (続く)
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