大樹のほとり

自作小説を掲載しているブログです。

2008年11月

澄んだ肖像 5話

■ 1 ■

ラウラの車に乗り数時間。
食事休憩に寄った場所は、すでに澄泉の知る風景ではなかった。

「これからどこ行くの?」
フォークにパスタを絡ませながら、彼女は尋ねる。
腹の音は鳴っていたが、胸が不安で満たされ食が進まない。
「どこへ行くかより、何をするかの心配をするべきよ」
ブロンドの娘は逆に、さも美味そうにパニーニを頬張っていた。
「どうせやらしい事されるんでしょ」
「少なくとも、パリへスウィートを食べに行く訳じゃないわ」
冷たい答えに、少女は肩を竦ませる。
「早く食べなさい。人間らしい食事ができる間にね」
ラウラはやはり顔色ひとつ変えていない。
その冷徹さは家畜を率いる牧羊犬さながらだ。
彼女は近くを通った店員を呼び止めて言う。
「ちょっと、帰りにミルクを貰えるかしら」

不快な食事の後、二人はブティックに立ち寄った。
「おめかししてあげる」
ラウラはそういって子供服を選び始める。
子供用とはいえ西洋人向け、澄泉と一号違う程度だが。
渡される服を少女は黙々と身につける。
食後の窮屈さに苦しみながら。
 (お腹…きついな)
サイズの違う服に覆われ、細い身体はよりいっそう華奢に見えた。

■ 2 ■
防空壕のような、草や木の根に覆われた扉。
それが開かれ陽が射した時、中にいた者は息を呑んだ。
 侵入者のあまりの愛らしさに。
風になびく、肩甲骨までの艶やかな黒髪。
生意気そうに輝く目。
キスすれば蕩けそうなふっくらとした唇。
ある者はそれをニンフと見紛うた。
誰もが少女の幼さ・儚さの中に、尋常でない物を感じていた。

神性を際立てるのは彼女の服装だ。
一瞬OLを思わせる堅い装い。
濃紺のベストに薄手のシャツ、腿までのスカート。
首元には洒落たタイが結ばれている。
何より印象的なのが黒のタイツで、
強調された細い脚線は女の目さえも釘付けにした。
バイオリンの演奏会に出る日、上流階級の令嬢が着るような服だった。
暗い巣窟の中、それはいかに場違いである事か。


部屋に足を踏み入れたとき、澄泉は異臭に鼻を押さえた。
むせ返りそうな雌雄のフェロモン、そして熱気が立ちこめている。
 (青くさい…)
よく栗の花の匂いと形容されるが、少女には馴染みがない。
ニノは朝まで突き続けても「それ」を出さなかったから。
部屋にはその匂いが充満していた。
これが何を意味するのか、性に疎い少女とて理解できる。

だが真に澄泉を凍りつかせたのは、室内の異様な雰囲気だった。
ありとあらゆる拷問道具が蝋燭の灯に浮かぶ。
手錠や足枷、三角木馬、水車に針の生えた箱。
錆具合や赤黒い染みが、それはただのオブジェではないと語っていた。
「驚いた? カタコンベ(地下墓所)の近くには、
 こんな異教徒の拷問部屋がいくつも残されているの。
 もっとも、今ではアブノーマルな男女の秘密の乱交場だけど」
少女に続いて扉をくぐった娘が言う。

場の興味を一身に惹きながら、澄泉はただ立ち尽くしていた。
と、急にその目が見開かれる。
「んっ」
ブロンドの娘がその唇で、彼女の口を塞いだからだ。
「ん、んぐっ」
少女はやや困惑していたが、躊躇いがちに娘の首に手を回す。
 ラウラは知らなかった。
誰もが振り向く美しい少女を従えている、
そう誇示するために何気なく行ったこのフレンチキスが、
澄泉にとって初めてのものであった事を。
少女がその朱唇を許した事に、どれほどの価値があるのかを。
 周囲にはどよめきが起こっていた。
稀に見る精霊のような少女でも、性的な行為に興味があるのか。
ここへ来たのは手違いではないのか。
彼らは鞭を止め、目隠しをとって幼いレズビアンに見とれた。
ぐちゅぐちゅといういやらしい音を聞きながら。
視線と唾液を交わす深い口付け。

ラウラは糸を引きながら顔を離し、息を弾ませる澄泉の髪を撫でて言う。
「こんな顔してるけど、すごいのよこの子。
 昨日、ビール瓶みたいなモノで処女を奪われたばかりなの」
さらに辺りが騒がしくなり、澄泉はたちまち頬を赤らめた。
「っ! …それは…だって…」
何かを言おうとするが口ごもる。
見る者には、それが真実であること、少女が初心であることがはっきりとわかった。

 ――ちょっと、どこ見てるの?
  ――だってあれ見てみろよ、半端ねぇじゃん
 ――絶対あいつ、自分のこと可愛いって思ってるタイプよ
  ――実際、あんなの見たことねえよ。人形かと思ったぜ…

陰口が大きいのはこの国の特徴だろうか。
場には羨望と嫉妬が渦を巻いていた。
女のいる場所ならどこへ行ってもそうなのか。
少女は俯き、ブロンドの娘は口に三日月を描く。
「あら、プレイのお邪魔しちゃったみたいで御免なさい。
 この子が乗り気になるまで、私達は隅で見てるわ。ほら」
澄泉の腕を引っ張り、ラウラは壁にもたれた。
少女はそれに従う。肌色の違う妹のように。
気の強そうな目、しかしよほど心細いのだろう、
その手はブロンドの娘から離れない。

■ 3 ■

薄暗い部屋に沈黙が訪れてしばし。
突如それを打ち破ったのは、甲高い悲鳴だった。
澄泉はそちらに顔を向け、絶句する。
そこには幼い少女が四つん這いになり、後ろから抱かれて喘ぐ姿があった。
まだ10歳前後だろうか、子供らしい細長い手足だ。
足首には鉄球つきの拘束具が嵌められている。
明るい赤髪に、北欧系の気品ある顔立ち。
もう長いこと嬲られているのだろう、彼女の肢体は汗にまみれていた。
凝視する澄泉に気付き、傍らの男が解説する。
「気になるか?名前は知らんがスウェーデンのお嬢様だそうだぜ。
 ここに来てまだ二週間だが、あの通りさ」
男が示す少女はあどけない顔を蕩けさせ、しかし目から一筋涙を流す。
見ないで、そう言いたげに。

「あ、あなたたち、そんな小さな子に何してるのよっ!!」
気づくと、澄泉は拳を作って叫んでいた。
よく通る怒声が反響し、少女を囲む男が視線をよこす。
入墨や銃痕が浅黒い体の各所に窺えた。
「ちょっと、澄泉やめなさい!…あ、お気になさらず」
ラウラは珍しく焦って少女の口を押さえる。
「んー、むー!」
「バカ、相手を見て物を言いなさいよ!
 ここはいつ銃口を向けられてもおかしくない国なの!」
その言葉でさすがの澄泉も抵抗を止めた。
ラウラは大きく息を吐き、内心で舌を巻く。
筋骨隆々たる大男を前に、よくも説教ができるものだ。

「へっ、言うじゃねぇか嬢ちゃん」
男たちは高潔な少女に気分良い視線をよこし、
見せ付けるように背後からの突き上げを強めた。
赤毛の少女は髪を振り乱してあえぐ。
ぐちゃぐちゃ…その音が行為の執拗さを物語っていた。

「あの子も気持ちよさそうじゃない、あれがセックスよ」
ラウラが澄泉に囁き、彼女が眉をしかめるのを見て微笑む。
『男女の関わりに、必ずしも愛は必要でない。
 性欲を越えた異性間の友情こそ本物だ』
澄泉はかつてそう熱論していた。
その潔癖さはラウラが一番よく知っている。 だからこそ嘲笑うのだ。

「でもよく見て。あれ、あそこに入ってるんじゃないわ」
ラウラは赤毛の少女を指して言う。
それに応えるように、少女を嬲る男は体位を変えた。
少年のように貧弱な尻肉を割り、赤黒い物が出入りしている。
その下にはぽたぽた雫を垂らす無毛の割れ目。
 澄泉は不可解そうに眉を寄せる。
彼女は考えた、膣の後ろに何があるか…
「お・し・りよ。あの子、お尻に入れられてるの」
語気を強めたラウラの言葉に、二人の少女が目を見開く。
赤毛の少女は頬を染め、黒髪の少女は言葉を失くした。
 (う…うそ…!)

澄泉にとって、肛門はへそや耳の穴と等しい。
そこを使って性交するなど、どうして信じられるだろうか。
 だがそれは事実だった。
赤毛の少女は背後から間違いなく排泄の穴へ突きこまれ、
肩で息をしながら汗まみれの体を前後させている。
「後ろだって立派な性器よ。慣れれば前よりいい子もいるわ」
ラウラは囁いたとき、澄泉の瞳は色を映していた。
煙草の煙を見つめる少年の目。
堕落への憧れ。

(この子、好奇心の塊だしね…)
ラウラは少女の後ろに回り、すっとスカートに手を潜らせた。
澄泉に下着は穿かせていないため、タイツからじかに繊毛を撫で回す。
その唇は歪な弧を描いた。
「あらぁ、あなた濡れてるじゃない!」
声を高めたのは意図的にだ。
人に噂されるほど、この少女は隙を作るから。
「え?…そ、そんなことないわよっ!」
澄泉は大慌てで否定するが、淫核を押す指は確かにぬるぬると滑る。
 (ほんとだ…嫌、なんで……!)
自分の体に裏切られたようで、少女はひどく困惑した。

「おしり貫かれてる小さな子を見て感じたのね。
 最初はあんなに怒ってたのに、あなたも犯したかった?」
澄泉は唇を噛み、何かを払うように首を振った。
何度も何度も。
「ああ、違うわよね。あなたは犯されたいのよね。
 いつも男という男に見られて、汚されるのを待って……」
「やめてっ!ラウラやめてぇっ!!」
澄泉は耳を塞いだ。

ニノの変に優しい声が、ヒステリックな脳裏をよぎる。
初めは同属嫌悪。そして軽蔑。激昂。
『…されるのなら、どうぞお好きになさって下さい』
精一杯の虚勢で迎えた男は、ただ、恐怖だった。
朝まで岩のような体に組み敷かれ、どれほど心細かったか。
それこそビール瓶並みの怒張で間断なく産道を抉られ、
鼓膜が破れそうな絶叫をなぜ止められなかったか。

針や甲羅の強固なものほど、その中身は柔らかい。
少女のトラウマは深かった。
肩を震わせる姿は、赤毛の少女より幼く見えた。
「あらあら、言い過ぎたわね。ほら泣かないで」
その肩を優しく抱きながらも、ラウラの瞳に動揺はない。
まるで計算通りだと言いたげに。

しゃくりあげるたび、動悸が激しくなっていく。
滲む視界の中、赤毛の幼子は目を細め、だらしなく舌を出していた。
酸欠にも恍惚にも取れる表情。
水責めを受けた女囚が最期に見せるような、ぞっとする相貌。
「そこいいですっ、ずっと奥まで突いてください!!」
彼女の英語はもはや訛ったように聞こえづらい。
ラウラの言うとおり、小さな尻で感じているとしか思えなかった。
「貴族のガキもああなっちゃお終いよねぇ」
冷たい女の声。
二週間、男たちの巨根で延々と腸壁をえぐられ続け、
女の身体がそうならざるを得なかったのだろう。
男が深々と突きこむたび、赤毛の少女は絶叫する。
 澄泉は傷む心を抑え黙っていた。
こうした悲劇を止められる、祖国の平和を噛みしめて。

「そろそろ出すぞ!」
男は抽送を早めながら、少女の尻を叩き始めた。
ぱんっぱんっという肉の弾ける音が響きあう。
よほど平手が強いのか、雪のような少女の臀部は
たちまち痛々しい朱に染まっていく。だが…
「いや、もっと、もっと叩いてぇ」
赤毛の少女は泣きながら、幼い体を激しく身悶えさせた。

(あんなちっちゃい子が……うしろって、そんなにいいの……?)
彼らの熱気が伝わったように、澄泉の頭は霞んでいた。
内腿をわずかにすり合わせる。
先程よりも明らかに愛液は増し、タイツの前部を湿らせた。
ラウラが横目でそれを見ている。
彼女はすっと床に転がる瓶を拾い上げた。
「どうしたの?したくなってきたって顔してるわよ」
再び澄泉のスカートを捲り、指を這わせる。

だが今度は方向が違った。
その手はタイツに潜り、ふっくらと女らしい臀部を割る。
指が後穴をへこませる感触に、少女の細い背が仰け反った。
「ひゃ!だめっ、そっちはっ…!!」
恥らうその表情に、ラウラは初めて歪みでない笑みをみせる。
(しおらしくしてれば、可愛い子なのよねぇ)
まだ堅い菊輪をくじり、うねうねと指を動かしはじめた。
皺をひとつずつ伸ばすように、丁寧にほぐしていく。

ラウラの手にした瓶にはべっ甲のようなとろみが入っており、
それをつけた中指はあっさりと菊門の締まりをすり抜けた。
澄泉はタイツに包まれた脚を強く踏みしめ、苦悶の表情を浮かべる。
「や、お尻やぁ……」
鼻にかかったような声に、彼女を抱く娘は頬を和らげた。
「そればっかり。本当はどうなの、結構いいんじゃない?」
ラウラは人差し指も挿しいれ、少女の腸に円を描く。
海老反りになる少女の背を支え、ベストに手を入れて
やわやわと乳房を揉む。
「ん…ふぅ…」
澄泉の顔がたちまちに緩和した。
 周囲の男女は唾を呑んでその痴態を見つめている。
華奢な美少女が顔を歪める様はひどく嗜虐心を煽り、
背後から嬲る娘は恐ろしいほど手馴れていた。

邪魔に思ったのか、ラウラは身悶える澄泉の隙を見て
彼女の穿くスカートのホックを外す。
舞うようにそれが落ちたとき、感嘆の声が漏れた。
ベストと汗に濡れたシャツ、そして股下まで降ろされたタイツ。
その格好は裸よりもいやらしかったし、
少女のすらっと伸びた脚線が一層あらわになったからだ。

「ほら見て、皆があなたの細い脚を見ているわ」
指を少女の腸内で芋虫のように蠢かし、さらに耳を噛んでラウラが囁く。
澄泉の締め付けが一気に強まった。
 (この子、本物のマゾかもね)
さらに二本指を使い、狭い腸壁をひらげては閉じる。
潤滑液が粘った音を立てた。
空気が入り込み、まるで腸内へと放屁されたようにむず痒いはずだ。
鎌を振るように指を根元までくじ入れ、引き抜き、また入れる。
「この動きをお通じがきた時だと思って。どう?気持ちいい?」
指の腹に暖かい粘膜を感じながらラウラは言う。
澄泉は答えず、背筋をくねらせて逃げようともがいていた。
「おしり、きもちぃよ?」
ふと、遠くにいる赤毛の少女が澄泉を見つめ、声を上げた。
彼女はまた別の男に貫かれ、騎乗位で腰を使っている。
「だめよ、だめ!そんな所で感じちゃ駄目なの!!」
そう返す澄泉の口調は赤毛の少女に諭すようだったが、
おそらくは自分に言い聞かせる言葉だったのだろう。
「んー…っ」
澄泉が嫌そうにそう唸った直後、後孔からぶじゅううっと
恥ずかしい音が漏れた。
「あっ」
その時の少女の恥じらいようは、眼前の男を虜にした。
彼らは息を呑む。
「あら、可愛いおならね」
獲物の咳き込む前のような表情が楽しく、ラウラはそう茶化した。
黒髪の少女は羞恥に瞳を潤ませる。

「だ、だからそんなとこ汚いって言ったじゃない!馬鹿!!」
そう叫んでブロンドの娘を突き飛ばした。
油断しきった状態は体格差を埋め、豊満な体は呆気なく床に転ぶ。
 ラウラの顔が変わったのはその時だ。
飼い犬に手を噛まれた、そう言いたげな目。
云わば自業自得。
だが、娘が抱いたのは傲慢な憤りだった。
「あっ、ごめんなさい」
澄泉はすぐに手を差し伸べたが、ラウラはそれを冷たく払う。
上品ともいえる澄ました態度が、この時ばかりは鼻につく。
目が合ったとき、澄泉は心臓が激しく脈打った。

また蛇の目。
この目を見るとき、少女はラウラという人間がわからなくなる。
いつも明るく振舞うが、残忍な性格も垣間見えた。
澄泉の通う美術学校の女生徒は、大半が年上男性を好む年頃だ。
ニノも何十という生徒から想いを寄せられている。
それらの乙女から一線を画すのがラウラなのだ。
黒い噂は澄泉も何度か耳にした。

「痛いじゃない」
ラウラは呟き、澄泉が口を開く前に強くその頬を張った。
乾いた音が響く。
「……っ」
気高い少女は甘んじてそれを受けた。
 異様な光景だった。
性的な悪戯で辱められた方が頬を打たれる。
赤毛の少女がそうであったように、澄泉の白磁の肌にも赤みがさす。
二人の間には暗黙の了解、力関係が存在した。
何ならいつでも絶交してやる、ラウラの平手はそう伝えていた。

「…何よ、オドオドして?」
ラウラはさらにつけ上がり、澄泉を睨んだ。
「そんなあなたにはこれがお似合いね」
そう言って壁から鉄枷を取り外した。
さすがに少女は身を翻したが、ラウラはその手を掴んで逃さない。
今度は筋力が物をいい、同い年の少女ながら一方的だった。
少女の胸の前で冷たい枷ががちりと音を立てる。
手枷をつけた黒髪の少女、それは傍らで喘ぐ足枷の少女と同じ。
「あ…」
手枷を見て呆然とする少女を尻目に、ラウラは低い声で言う。

「あなたさっき、お尻は汚いって言ったわよね?」
鋭い足音を立てて部屋を回り、隅の木箱を引きずってきた。
食事休憩の時に買ったミルク瓶もバックから出し、
木箱から取り出した金だらいに中身を注ぐ。
「意外だわ。陳腐な表現だけれど、あなたは天使みたい。
 周りの方々もそう思っているはずよ」
瓶が空になり、続いて箱から出された物は、澄泉には判別できなかった。
酒を入れるボトルに見えたが、それにしては口が狭い。
それは硝子のシリンダー。
しかも家畜用の1リットルは入るものだ。
もっとも場所が場所のため、拷問用というべきか。
『可哀想に』
どこからかそんな声が聞こえ、澄泉の胸は渦巻いた。
シリンダーに新鮮な牛乳を満たし、ラウラは綺麗に微笑む。
「私たち女子の間でさえ、あなたの排泄姿を想像できないって
 噂が立ったわ。そんなあなたのお腹に、一体どんな穢れが
 詰まっているのかしら?」

ここに来て、ようやく澄泉も相手の目的に気付いた。
しかし逃げようとする彼女を数人の手が押さえつける。
「いや、放してっ!」
澄泉が叫んでも誰も耳を貸さない。
清流のように光沢の揺れる髪から花の香りがした。
一人が恐る恐るそれを撫でる。
赤子の頬へ触れたくなるように、その黒髪は目を惹いた。
その髪は無残にも床に垂れる。少女が組み伏されたのだ。
「大人しくなさい」
白いシリンダーを逆光に、ラウラの影が少女を覆う。
揺らめく炎に染まる橙色の柔尻が揺れた。
その影にひっそりと息づく蕾。
べっ甲のようなとろみを纏わせ、指の弄りですこし喘いでいる。

誰かが冗談交じりに言っていた、澄泉の菊門は桃色だと。
さすがにそれはない。しかし放射状に並んだきれいな皺は
薄いセピアで、排泄器官と称するにはあまりにいじらしい。
ラウラは背筋をぞくぞくするものが駆け上がるのを覚えた。
「いくわよ?澄泉、力を抜いて」
息を弾ませ、フェイントで少女の反応を愉しみながら、
肉厚なシリンダーの口をそのすぼまりに咥え込ませた。

「…ぅ…ううあ…くぁ…あ゛っ」
誇り高い少女には、そう小さく呻いた事さえ屈辱だった。
だが排泄の穴に雪解けを思わせる冷水がなだれ込み、
腸壁の隅々まで染みいる様はかつて経験がない。
 それも半端な量では無かった。
下腹が蛙のように不自然に膨らみ、這った姿勢では
背中の肉ごと骨を残して溶けおちるのではないかと思えた。

「さぁ、もう一本いくわよ」
非情にも親友の声がそう告げる。
直腸を満たされ胃までも圧迫されているというのに、
これ以上入れられるというのか。
どれだけの量だろう、あのミルクは2リットル入りだったはず…
「ほーら、美味しそうに飲んでいくわねぇ」
またも菊輪が押し拡げられる苦しさに腹のミルクが逆流する。
しかしそれも新たな奔流に圧され、すらりとしていた腰つきを
歪にゆがめていく。
「……っっふ、ん゛……っぁふ…っ……!!」
ようやく上から押さえる手が放され、
気息奄々という様子の少女はやもりのように床を這った。

■ 4 ■

ふぅ―――っ、…ふぅぅ――――…、う゛っごほっ……
気の昂ぶる部屋の中、一際苦しげな息が咳き込んだ。
最初こそ四つん這いだった彼女はやがて座り込み、
便意が背筋を焦がしたため立って部屋を彷徨う今に至る。
初めの格好が一番良かったが、もう遅い、
「まだ5分も経ってないわ、頑張りなさいよ」
そう野次を飛ばすのは、少女に陰口を叩いていた女の声だ。

 10分我慢すれば外で排泄していい。
ラウラがそう提案したとき、澄泉は一筋の希望を持った。
腹を下した授業で40分耐えられたこともある。
いくら量が多いとはいえ…と、そう考えていた。
 (こんな大勢の前で…うんちするなんて)
壁に拘束された手をつき、少女は歯を食いしばる。
排泄――そんな生易しい語感のものではない。
 (もし、そんなことになったら…みられたら…)
   ぐぉるるるるる………
腹の音は濁りきり、差し込むような痛みがぶり返した。
 (………死んでしまいたい……っ)

少女の細い体は、持久走でもしたように汗にまみれている。
前髪が珠の汗を噴く額にぺたりと貼りつき、
薄手のシャツは彼女の体をありありと浮き出しにして。
 苦しみから自ら脱ぎ捨てたベストが足に触れた。
彼女の美しい裸体を隠すのは、もはやシャツと
太ももまで下がった黒いタイツのみ。
神々しさははだけ落ち、なまめかしさが芽を吹かす。

容のいい小鼻の横を汗が滴った。
「うぁ…――、くっ、ひぃっ――……」
少女は華奢な筋肉をぎゅっと締め、内の冷えた血脈を堰き止める。
 そのカラダから漂う熱気の、なんと香り高そうなことだろう。
国を越え、性差を越えて部屋の者達はその肢体に見入っていた。

「そろそろ7分ね。頑張るじゃない?すごいわ」
入り口を塞ぐラウラは表面上の感嘆を示す。
だが腹を揉みくだすだけで、彼女は好きに少女の瓦解が狙えるのだ。
初めから賭けになどなっていない。
 (あと・・・さんぷん・・・あと・・・さん・・・・・)
カップ麺が作れる時間だな、でもそれって長くなかったっけ。
また食べたいな。
少女は揺れる脳でそう考え、気を紛らわす。
 限界は限りなく近かった。
肛門付近の腸壁が筒だとするなら、そこがマグマのように蕩けている。
ぼこぼこと沸き立ち、立ち昇る蒸気圧で嘔吐させようとする。

彼女の不運は、それでも括約筋を締めようと壁を伝った事だ。
別の壁に寄りかかった時、そこは冷たく滑らかだった。
 顔を上げると、それは天井まで届く巨大な鏡。
恐らく拷問を受ける者にその姿を見せて自白を迫るものだ。
そこに映るのは惨めな自分。後ろに控える数え切れない目。

閉じない口から泡など噴いていたのか。
こんなのぼせた顔が、赤毛の少女に意見した人間のものか。
「これ…わた…し…?」
少女は膝ががくんと笑うのを感じた。
すかさず誰かが金だらいを構えたのも気を緩めさせる。

固く閉じた蕾から、つっと白い朝露が零れた。
新鮮なミルクのひとしずくが見事な腿を伝い落ちる。
「さあ見せなさい、澄ましたあなたの人間臭さを!」
ラウラの厳しい声が、少女の最後に聞く騒音だった。
耳がばりばり鳴り、鼓膜でも破れたようにきかなくなる。
顎が外れそうなほど口を開けた様から、自分が絶叫しているのだとわかる。
その絶叫の終わりは、絶望の始まりだった。

まず子を産むように骨盤が軋んだ。
肛門が開ききり、直腸から熱い奔流が一塊に溢れ出る。
張った腹がへこんでいく。
脚の浮く感覚は絶頂に似た。
その勢いがやや弱まった刹那、少女の恐れたものは括約筋を伸ばしきる。
柔らかいそれは、何度も、何度も。
 耳が通ったのか、水音が跳ねるのが聞こえている。
叫びに近い喚声も沸き起こっていた。
菊門の拡がりは収まり、それでも暖かな噴き出しは止まらない。
いつまでもいつまでも続いている。
それが終わった後を考えれば、永遠にでも構わない。

ラウラの考えがうっすらとわかった。
これほどの恥辱を受け続ければ、ニノの事など何でもなくなる。
そうしてうやむやにしようというのだろう。

決してそうなりはしない。
心が壊れるその時まで、失った純潔を忘れはしない。
そして必ず何時の日か、また笑って絵を描こう……

少女はぐったりと床に伏し、静かに長い瞼をとじた。

                続く

The edge ep.3-6

6.

『こ、これは壮絶などつき合いだー!!共に品格と人望のある令嬢同士、
 それがリングの中、アウストラロピテクスよりも野蛮な殴り合い!!
 誰か止めろ、血が流れるぞ!!だが私にはできない、敵わない!!!』
実況がリングに叫びを投げる。

「青葉!青葉!!青葉!!青葉!!!」
「ユーリ!ユーリ!!ユーリ!!!ユーリ!!!!」
喚声は再び拮抗し、応援合戦が会場を奮わせる。

「うりゃああああっ!!」
弧を描く青葉のパンチが悠里の鼻先へめり込んだ。
「ぐうっ!!」
悠里がよろめく隙に手首を固め、背を反らせてさらに連打を繰り出す。
「うっ!ぐっ!がっ、あっ!ぐ、あっ、がは!!!」
悠里の顔が左右に弾けとび、リングに血の雨を降らせる。
だが彼女が打たれながら脚を引いた直後、今度は青葉が悲鳴をあげた。
「があああ…ぐうえええ……っふ!!」
腹部を抱えながらよろよろと後退する。
手数ならばパンチの青葉、威力ならばキックの悠里に軍配が上がる。

悠里は所々が赤くなった裸体を衆目に晒していた。
青葉もブレザーを脱ぎ、ブラウスを第三ボタンまで噛み千切られたボロだ。
まるで浮浪少女の装い。しかし彼女らはなお高貴だった。
気の強い凛とした目を光らせ、黒髪を吹きすさぶ戦風に舞わせて。

「わたしにだって、意地があるんだ!キミよりずっと誇り高い意地が!!」
青葉が悠里の懐へ潜り込み、素早く腕を取った。それだけで悠里は泣きそうな顔になる。
そして青葉は悠里の脚を刈り、豪快に背負い投げた。
手を使えない悠里にそれをかわす術はない。
「きゃ…!!」
悠里は背中からマットに叩きつけられ、切羽詰まった悲鳴をあげた。
今日の彼女は頭を打つと特に酷くよろけるようである。

足元もおぼつかずに立ち上がる悠里に、青葉は渾身の右を叩き込む。
頬に、腹、また腹。濁った悠里のうめき声がその威力を物語る。
しかし、悠里も伊達に王者を名乗るわけではない。
青葉との距離に合わせ、前蹴り、横蹴り、踵落とし、様々に蹴りを使い分ける。
単に脚がしなやかなだけではできない芸当だ。
蹴りを繰り出す腰の粘り、腕の振りを必要としない絶妙なバランス感覚。
脚のみでの戦いなど、それらを高い次元で鍛えていないと為しえない。

「どうしたんだい、ひどい顔だねチャンピオン!」
悠里の顔は殴られ続けて腫れあがっていた。
左目が塞がり、鼻からは夥しい血を流し、唇も数箇所切れている。
完全なノーガードの為、へヴィボクサーの連打を喰らった時よりも酷い。
「おまえこそ、さっさと病院に行ったらどうなの?」
酷さでは青葉の脚とて同様だ。
太腿も膝も脛も、至る所が真紅の大蛇に巻きつかれたよう。
彼女は常に臀部がマットに吸い寄せられるような感覚の中にいた。
尻餅がつけたらどんなに楽だろう。しかしそれをしては、もう悠里には勝てない。

2人は憤怒の形相で掴みかかってゆく。
鈍い打撃音が延々と響き合い、リングに血と汗で地図が描かれる。
互いの勢力圏を示しあう執念の地図が。

もはや両者に罵詈雑言が交わされる事はなくなっていた。
相手ももう限界だ。共にそう信じ、燃え盛る瞳で威嚇しあう。
猫かトラかライオンか豹か。いずれにせよ2人は孤高の捕食者だ。
そして王者は2人いらない。

「把ぁぁ……!!」
悠里は弓を引くように右足を下げて半身に構えた。
「来るのかい、ならこっちもマジで殴らせて貰うからね!!」
青葉は腰をためて剛力の全てを拳に集中させる。

決着だ。会場が息を呑んだ。


2人が弾けるように踏み出したのは同時だった。
悠里がマットを踏みしめ、静かながら恐ろしい速度での飛び膝を放つ。
青葉は細い身体全てを捻りながら豪腕を悠里の顔に振り上げる。

2匹の捕食者はか細い腕と伸びやかな足をお互いに突きたてていた。
拳は女帝の顎を高らかに跳ね上げ、膝は少女のブラウスに皺を刻む。
2人は同時に崩れ落ちた。
青葉はへたり込み、悠里は尻餅をつき。

全く異例な事ながら審判がリング内へ駆け上る。
彼女はまず悠里の顔を覗いた。
目を見開き、瞳孔をぐらぐらと彷徨わせてはいるがやがて収まる。
次に審判は屈み込んで項垂れた青葉の顔を見上げる。
…彼女は白目を向いていた。口から溢れるほど唾液を零し、ぴくりとも動かない。
「水月を本気で蹴ったからね、しばらく飛んでるわ」
戸惑う審判に、肩で息をしながら悠里が言う。
審判はおたおたと立ち上がると、両の手を掲げて交差した。

『試合終了ーー!!やはり王者は変わらない、神の斧が挑戦者を粉砕!!
 しかし挑戦者の青葉選手、お嬢系柔道家などとはとんだ失言!
 誇り高きキャットストライカー、王者に苦汁を舐めさせる堂々の奮戦でありました!』
実況が割れんばかりに叫びを上げる。会場中から万来の拍手が巻き起こる。

しかし…。


……しかし。宴はまだ終わらない。ここは女の闘技場だ。
男の友情よりも女の陰湿さが全てを支配する穴倉。綺麗に終わるとは限らない。
キャットファイトには興行上、娯楽の要素が欠かせない。
客の多くは単に試合の勝敗だけでなく、勝者による敗者への報復を期待してもいる。

「チャンピオン、あの。ご希望通りお持ちしました…」
審判の娘が悠里におどおどとバスケットを渡す。
悠里は横髪を払いながらその中身を取り出してゆく。
ローション瓶に、細く長いペニスバンド、アナルビーズ…。
「や、やめてー!!青葉ちゃん頑張ったじゃない!!許してあげてー!!」
どこかで赦しを求める声がする。
失神したまま審判に四つん這いにされ、後ろ手に縛られるカチューシャ娘。
そこにゆったりと悠里が覆い被さった。

「あ!うあ!うあ、…っあ!!」
青葉はカチューシャを揺らして泣いていた。さらさらした髪がマットをくすぐる。
「はは、驚いたわ。あれだけ大口叩いておいて、おまえ処女だったのね」
悠里はうっ血した腕で青葉の腰を抱き、深々と貫いていた。
腕の痛みより蹂躙する悦びのほうが勝るらしい。

ペニスバンドが容赦なく青葉の初物の花弁を割りひらく。
白濁したローションを僅かな破瓜の血がピンクに染めた。
ずごっ、ずごっ、ずごっ、ずごっ……。
悠里は残酷なほど大きな抽迭で青葉を犯していた。
一片の憐れみすら映さないその顔は清清しくさえあった。

「くっ、憶えて、なよ…!もう、キミだけは絶対にゆるさない…。
 必ず、必ず復讐してやる!!!」
青葉は後ろから貫かれ、泣きながら喚いていた。
その様が余計に観客の嗜虐心をそそる事にも気付かず。
「いいわ、いつでもかかって来なさい。傷つけられる痛みを知って、
 これでおまえのサディズムも一皮剥けるでしょうからね」
悠里は言いながら縛られた青葉の腕を掴み、引きずってロープの外へ出した。
リング外に青葉の首が飛び出る形となる。

「さあ皆、お楽しみの時間よ。青葉ちゃんのこれからの為に、
 たっぷり可愛がっておあげなさい!」
女帝の一声で、リングに男たちが殺到する。青葉は目を見張った。
「ん、んうぅー!!」
むさ苦しい中年男性に、青葉の艶々とした唇が奪われる。
女子高生たちから悲鳴があがった。
敗者の少女は唇を舐められ、舌を絡ませられながら噛む事はできない。
リング上で選手と戦うのとは違い、観客に怪我をさせれば立派な傷害罪だ。
「おい、次は俺だ!」
中年に代わり別の男が青葉の口を貪り始める。
「むううー!うー、うぉほえてははい…むうっ!!」

お嬢と呼ばれ、学年中から羨望の眼差しを受けていた無敗の柔道家。
彼女は今ずんずんと悠里に突かれ、見知らぬ男に唇を貪られて身悶えていた。
「わかった?これが此処で女に負けるってコトよ」
悠里は笑いながら、青葉の小さな尻穴を指で開いてアナルビーズを宛がった。


リングでの悠里は完全なサディストである。
受けた辱めや痛みを残らず相手に返す常勝の捕食者。
温厚なマゾヒストとしての彼女に惚れる者には想像もつかないだろう。
彼女自身、リング上での己のサディズムに恐怖するほどだ。
だが彼女は、その二つの人格を共存させることでようやく自我を保てていた。
力には行使したいという魅力が付き纏う。
容易く人を壊せるほどの力、それを生まれながらにして持ちえたならば尚更だ。

普段は温厚なマゾヒスト、リングでは常勝のサディスト。
けしてその均衡を崩してはならない。
リングで負ける事があったり、私生活で殺意を抱いたり。
それらちょっとしたことで自我が狂いかねないと悠里は悟っていた。
その時自分はきっと、見境なく人を傷つけるようになる。

そうなった時、一体何者が自分を止めてくれるのか。

自らの身体の下で喘ぐ青葉を見つめ、バスケットに残された茶帯を眺め、
悠里はくつくつと笑った。どこか、ひどく寂しげに。
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The edge ep.3-5

5.

『は、吐いたー!!青葉選手が突然の嘔吐!過度の興奮…いや、ダメージか?
 王者に潮吹きという屈辱を与えた直後、自らも公然嘔吐という世紀の失態っ!!』
実況の叫びが酸味を帯びた匂いにかき消されてゆく。

青葉は勝ちを確信していた。悠里は観客の見守るなか惨めにも潮を噴いたのだ。
自分に照らし合わせて考える。それは絶対的な敗北。
それ以上衆目に晒されることは矜持が許さない。思考力さえなくす。
悠里も間違いなくその類だろう。
とうとうこの王者に勝ったのだ。完全なる勝利だ…。

青葉が全てから解放されて力を抜いたその瞬間、脇腹へ肘が叩き込まれた。
悠里の蹴りを受けた左脇腹だ。テイクダウンの代償でアバラが数本いかれている。
そこへの肘打ち――いや、正確には上腕打ちか。
脇腹へ叩き込まれた悠里の左肘は、完全に脱臼して紐状になっているのだから。

胃袋が膨れ上がって中身が逆流する。臭気が鼻を侵す。
「んごぉ、ぐはぁあああ…!!」
青葉は腹を抱えながら涙した。沸いていた客席が水を打ったように静まり返る。
うずくまる青葉の前に影が落ちた。
青葉ははっとして上を見上げ、そして身を凍らせる。

「……よくも……。よくもよくも、よくも………ッ!!!!!」
青筋を浮かせ、歯を喰いしばり、尾のような後ろ髪を揺らす逆光の影。
獅子か、虎か、豹か。その獰猛な生物は、明らかに青葉に“殺意”を抱いていた。
その脚から神速の蹴りが放たれる。
「きゃあっ!」
青葉は顔を腕で庇った。肩がごりっと唸り、華奢な身体は容易く吹き飛ぶ。

転がって逃げても悠里は一呼吸で目前に迫った。青葉は咄嗟に身体を丸める。
2発の蹴りがほぼ同時と思えるほど連続で叩き込まれた。
「あぐうっ」
まず腕には足の甲での蹴りつけ。
皮膚表面で一瞬タメながら抉りこむように蹴る、標準的なローキック。
腕に高圧の電流を浴びたような痺れが走る。
続いて脚への本気の蹴り。
悠里はバネを活かして目で追うのがやっとの速さで旋回し、足刀で青葉の膝を薙ぐ。
慣れない人間は彼女が棒立ちのままローを放ったと思うだろう。
その衝撃こそ、悠里が『カーペントレス(木こり娘)』と呼ばれる所以だ。
「くぁああああ!!!」
膝がバキバキと音を立て、青葉はマットの上で円転する。

「さぁどうしたのおまえ、反撃なさいよ」
床を這う青葉に、悠里が声を投げかけた。
客席が凍り付いている。実況さえもがマイクを握って静止している。
友人を振り返ると狂喜していた彼女らまで不安げな表情だ。
先ほどまで、あんなに青葉圧勝のムードだったというのに。
その状況まで必死で持ち込んだのに。

「たった数発の、蹴りで…?…キミが王者だから?…頂点だから?」
青葉は血の滲むような特訓と、体型を維持したままの肉体改造を思い出す。
蹴られた腕が、膝が痛い。 すべては――悠里のせいで。
「……ふざけんじゃあないよおっっ!!!」
青葉は跳ねるように起き上がった。脚を踏みしめて眼前の悠里の頬に拳を叩き込む。
悠里は不意をつかれた上に手が使えない、当然ガードも出来ない。
会心の手ごたえ。
「ぶあっ!!」
悠里が大きくよろめいた。よろめきながら殺気に満ちた目で睨んでくる。
青葉も歯を剥き出しにして睨み返す。


 「「…殺してやる!!」」


リング中央、2匹の女帝が頭をかち合わせた。

The edge ep.3-4

4.

跪いて見上げるリングは広かった。
白いライトが自分たちを淡々と照らしている。そのライトは暖かいが、開いた脚の間では
濡れたショーツがひんやり冷たい。

ちゅくちゅちゅくちゅくち … ちゅくちゅっちゅっくちゅ …

粘質な水音が絶え間なく聞こえる。音と同じリズムで股座にむず痒さが蠢く。
肉のあわいに沈みこんだ指は、まずゆっくりと周りの襞を撫で回し蕩かす予告をした。
そして興奮で膨らんだGスポットを的確に捉える。女の生理反応で腰が浮く。
そこをぐりぐりと可愛がられ続けると、やがて女の奥底からは愛液があふれ出る。
意思などとはかけ離れた肉体の唾液だ。
指はその蜜をたっぷりと掬って割れ目から抜けると、傍に息づく小さな肉芽を覆った。
そしてフードから半ば顔を出した陰核がじかに扱き立てられる。
陰核はむき出しの神経に等しいのだから、いくら悠里でもたまったものではない。

『うう!』

悠里は陰核を扱かれ、腰を引きながらうめいてしまう。
呻きはマイクで会場中に反響し、大きなざわめきを起こす。
女帝は頬を赤らめて俯いた。
「ふふ。そんなに可愛い声上げるんだ、無敗の王者さん」
背後の娘が嘲るように囁いてさらに陰核をこねまわす。
無数の瞳に見られているのだ。そう意識しても身体が思い通りにならない。

最初はひりつくだけだった陰核のこねも、愛液が馴染みだしてからは腰が引けるほどの
言い表しようも無い快感にすりかわってしまっていた。
この快感は危険すぎる。後頭部を打ち付けたときよりも鮮明に脳が警鐘を鳴らす。
尿意の臨界点に似た、すべてを投げ出したい理不尽なむず痒さ。
「ああ、ああ!」
腰を跳ねさせ、そう叫ぶのを止められる人間が果たしているのか?
観客はできるか?後ろの蹂躙者は果たして耐えられるのか?
悠里はロープを睨みながら声もなく吼えた。
自分が声を上げるたび、あちこちでくすくす笑いが沸き起こる現状に。

悠里は膝立ちのまま、背後から青葉に「絡みつかれて」いた。
身につけていたメタリックなコスチュームは“邪魔”だと青葉の剛力で引き裂かれ、
床へ無残にうち捨てられている。
青葉の細腕は悠里を巻くように抱き、豊かな乳房とショーツをまさぐった。
ショーツに潜った指はとみに激しく動き、会場に響くぐちゅぐちゅという音が悠里の中の様子を生々しく物語っている。
「すげぇ音…。悠里もやっぱ女なんだな…」
「あ、アングルだろ。悠里があんなので感じるわけねぇよ!」
「でもどう見たって感じてるじゃない…。気持ち良さそうに腰うねってるしさ」
「あれが濡れるってことよ。射精すだけの男にはわかんないでしょうね」
音を巡って会場では様々な声が漏れた。それらがリング上でも妙にはっきりと聴こえてしまう。

「ふふ、キミが感じてるかどうかで口論しちゃってるお連れさんがいるねぇ。
 素直に教えたげたらどうだい?もう腰が抜けるくらい蕩けてます、ってさ」
青葉は陰湿な笑みを浮かべて悠里に囁きかけた。
「はっ…ま、まさか…はぁ…そんなこと………ないわ……はっ、はっ…くっ…!」
悠里は涙を浮かべて青葉を睨む。しかしその身は指を蠢かされるたびに悶えた。
意地を張っているのは子供にも明らかだろう。
「ふぅん、感じてないって言い張るんだ」
青葉は目を細め、悠里を乗せた膝を少しずつ開き始めた。
間に挟まった悠里の脚も無理矢理に開かされていく。
「やめ…っ!」
悠里の小さな非難を聞く者などいない。
「それじゃみんな、悠里さんのあそこを見せて貰おっか。綺麗なままだといいねぇ」
青葉は言いながら悠里のショーツに手をかけた。

艶やかな悠里のイメージにマッチした、シルクの白い紐パンツ。その横紐に指をかけてするりとほどく。
「あ、いや!」
悠里が制止する間もなく、紐が解けたショーツは青葉の指に絡んで取り去られる。

「皆見えるぅ?この真っ白な紐パンツ。よっっぽど自信がある女じゃないと穿けないわ。
 ふふ、本当に女王さま気取りなんだね、キミって」
青葉は紐パンツを指先で回しながら嘲った。
悠里が燃えるような瞳で睨みつけるのを見て、さも可笑しそうに笑いながら腕を振る。
「あっ」
悠里は目を疑った。
あろうことか、少女は長時間の嬲りでたっぷりと愛液を吸ったそれを、男の群がる観客席へと放ったのである。
「お、おおおおおおお!!!!」
雷轟のようなどよめきが起こった。我こそはと男たちが群がり、手にした者を次々となぎ倒しての醜い奪い合いが始まる。

悠里は絶句した。
運良く手にした男がショーツを鼻に押し当て、鼻腔を膨らませたのだ。
「う、うあぁ、すげええ……!!」
男は目を見開いて興奮しきり、ズボンを擦りはじめる。
控え室で少年のように目を光らせてサインをねだってきた男だ。
自分の存在を神格化する男に、悠里は「仕様のないこと」と喜悦に浸った。
その男がすっかり自分を俗物として見ている。
悠里の分泌した愛液を啜り、所詮は抱き甲斐のあるだけの女だと卑しく笑う。
「う、ぐぐ…!!」
悠里は顔を真っ赤にして唇を噛んだ。

「ぁっはっはっはっは!!男ってほんと信じられない、あんなモノを!
 そんなのが欲しいなら、ここにもっと濃いのがたくさんあるわ!!」
青葉は悠里の秘裂に指を沈める。くちゅりと音がする。
悠里のラヴィアは男を知らないか、あっても経験の乏しそうな鮮やかな桃色だ。
青葉はしばしそこを嬲り、指を抜いて頭上へ掲げる。

水飴のような愛液が糸を引いた。
モニターにもそのいやらしさが大々的に映され、観衆は固唾を呑む。

さらに青葉は、その腕を外へと差し伸べて1人の男に晒した。
「ほら、お嘗め。」
男は最初こそ面食らった顔をしたものの、青葉の白く美しい指、細い腕、猫の目、
天を仰ぐ悠里の顔、その零れんばかりに張った胸、折れそうに細い腰を順に眺め、
おそるおそる少女の蜜の垂れる指をしゃぶる。

「ふふふ、あははははは!!!ねぇ美味しい、美味しいの?
 愛液なんて生臭くてしょっぱくて、わたしはとても口に含む気がしないや!
 でも、ねぇ?キミのならさらさらして美味しいの?」
青葉は男の口から指を引き抜き、液で光る手を悠里の顔に塗りつけた。
「く…う……!!」
濃厚な臭気。化粧をせずとも美しい顔が歪み、屈辱に燃える。
直後、青葉は手をのけた。僅差で悠里の歯ががちんと噛みあわされる。
「やだ、噛まないでよ。もうそれしか抵抗できないからってさ。
 ねー皆、みっともないよねぇ。常勝の王者さまが小娘の指を噛まれるのよ?」
嘲り笑う青葉の傍で、顔を濡れ光らせた悠里は悔しげに歯を鳴らす。


試合前まで2つに分かれていた声援は、今や完全に統合されつつあった。
王者を腕に抱えて翻弄する少女、顔に愛液を塗りつけられて屈する王者。
明暗は露骨に分かたれていたからだ。

悠里の美しさにそそられていた者、強さに魅せられていた者、
それらが今や下を向いて黙り込んでいる。
逆に女子高生を始めとする青葉のファンは沸き立っていた。
「すげえや青葉、やっぱオマエ最高だよ!」
「そろそろイカせてあげなさいな、それから裸締めで失禁KOよ!!」
青葉は圧倒的な声援を受け、誇らしげな笑みを浮かべた。

「ふふ、口先では生意気言ってたけど、身体はこんなに正直じゃない。
 ぐちょぐちょの襞が指に痛いくらい吸い付いてきてるよ。
 わたしの指をおちんちんとでも思ってるの?飢えてるんだね、キミ」
青葉は3本指で悠里の中をくじりながら、指の間に陰核を挟んでゆるゆると扱いた。
悠里は泣くような嬌声をあげる。
豊かな胸は青葉の手の中で形を変え、蕾を硬くしこり立たせている。
指で淡みをひらくと、とろぉっと濃い蜜が洞穴の奥から流れ出てくる。
悠里が性的に極まっているのは弁明のしようもない。

カメラはその様子を克明に写した後、次に悠里の表情を捉える。
眉をハの字に折り、目尻から涙を溢し、鼻先に愛液を光らせ、濡れた唇は半開きで、
視線は横を向いたまま凍りついたように動かない。
まるで強姦された無力な少女のように。

青葉は悠里の腕をとって掲げ、その腋の下に舌を這わせた。
客席の一部で失意に満ちた嘆きが起こる。
腋を舐める、それは行為だけなら愛撫の一環でしかないだろう。
しかし王者が腋という弱点を晒し、挑戦者がそこを嘗めとる。
それは悠里に憧れる者にとって、あまりに絶望的な光景だったのだ。

しかし、悠里がどうにもできない事もみなが理解していた。
右腕は手首と肘が真紫になって到底使えるものではないし、左腕は本来肘のあるべき
部分が外れて筋のように細まっている。
長い脚は執拗な苛みと正座したまま踏みつけられる事での震えが来ている。
悠里は四肢が利かぬまま嬲り者にされ、好奇の視線の中でただ喘ぐしかない。

「はしたない…私なら自殺モノね」
「本当。素直に参ったって言えばいいのに…プライドが高いのか無いのか…ねぇ」
「おい、誰かもう止めてやれよ。泣いてんじゃねぇか…」
もはや会場を覆っているのは同情だった。悠里はそれをひしひしと感じた。

「あーあ、何だかわたしが悪役みたい。弱いキミが悪いのに、ねぇ?」
青葉はわざとらしく言う。
悠里は滝のような汗をかき、ひどく息を乱していた。
ただの一度もイかせて貰えず、腰の抜けるような高原状態を保ったままでの
「焦らし」を受けているのだ。
性感の淵で進む事も戻る事も許されず悶え苦しむ。
死の覚悟をした捕虜でさえ女性器を弄り回されるその拷問には耐え切れず、
最後には必ず秘密を吐露したとも伝えられる。

悠里を抱きながら、青葉は己が女である事に感謝していた。
餅のように柔らかく絹よりも滑らかな珠の肌。
発情に伴って立ち昇る、ほのかに甘く爽やかな上質の汗の香り。
挟んだ脚から伝わるバネのようにしなやかな筋肉。
くわえた指を強く柔らかく咀嚼する極上の膣。
もしも青葉が男なら、間違いなく理性をかなぐり捨てて抱くだろう。
男とはそういう生き物。そして悠里はそうさせるだけの上玉だ。

その悠里を篭絡させる、その為に青葉は半年以上も休まず特訓を続けてきた。
決着の時は近い。少女は悲願の成就に胸を高打たせる。

「さぁ、もうイかせてあげる。皆に見られながら、はしたなく悶えなよ!!」
青葉は腰を浮かせ、悠里の股を限界まで開いて痴態を見せ付けた。
「い…いや…!」
悠里が首を振って抵抗する。青葉は彼女の赤く充血した秘唇を擦りあげた。
ラヴィアと陰核を同時に扱きたてられ、悠里は悲鳴をあげる。
無数の目が見ていた。絶対王者としての尊敬に満ちた目ではなく、蔑み哀れむ視線で。
マウントで一方的に叩き伏される、血塗れで逃げ惑う。
世界の強豪とやりあう中、時にはそんな場面もあった。その時でも誰かが彼女を支援した。
しかし今、彼女の勝ちを信じる者はいない。

『青葉!青葉!!青葉!!!青葉!!!!』
会場中が青葉を支援するコールで満たされている。
裸を見られたぐらいではうろたえない。しかし辱められるのは全く別だ。
後ろから抱かれ、陰部から蜜を垂らし、それを何百というファンが見ている。
屹立した乳首を、赤らんだクリトリスを……。
「う、ううっっ!!」
常勝の女帝は天を仰いだ。直後、彼女の秘部からは夥しい飛沫が噴き上がる。
「あははは!!人に見られて潮吹き?信じられない!!!」
青葉は高らかに嘲笑した。

人々はあるいは拍手し、あるいは項垂れて顔を覆う。
『ついに、ついに悠里が潮噴きだー!無敗の王者が挑戦者の手で陥落ーー!!』
実況が叫び、審判がまさにゴングを鳴らさんとしたとき、それは起こった。

「んぐ、ふっ…。 お、お、んうぅおおげぇええぇええっ!!!」

蛙の潰れたような悲鳴とともに、リングに白い嘔吐物がぶちまけられる。
吐いたのは…青葉だ。

The edge ep.3-3

3.

「ほら、どうしたの?早く投げないと駄目でしょ」
悠里に耳元で囁かれ、青葉は眉を吊り上げた。
「うりゃあああぁっ!!」
気合と共に悠里の腕を掴み直し、背負い投げを試みる。
しかし悠里がびくともしない。まるで大木を背負っているようだ。
「脚の力が足りないのかしら。柔道は腕相撲じゃないのよ?」
悠里は囁いて青葉の怒りに油を注ぎつつ、彼女の左脚を自分の脚で押し込んでいく。
徐々に前向きにフォームが崩れ、青葉が後ろ向けに堪えようとした。
そこを悠里が引き落とす。
青葉の身体は自重と悠里の力で、背中から痛烈にマットへと叩き付けられる。
バアアン!!
小気味良い音が会場に響く。

「っくは…あぁが……!!」
肺の空気を押し出され、青葉はうめきながら床を転がった。
彼女が随所に仕掛けさせたというマイクがその始終を拾う。
「あ、青葉ちゃん…。」
最初は何かと騒いでいた青葉の応援団たちも、次第に声を細め始めた。
先ほどから全ての投げが潰されているのだ。
投げ合いで柔道家の青葉より、悠里に分があるのは明らかだった。

「…ふふ、あっはっは!!どうしたの、まるでダメじゃない!
 柔道家が投げを潰されて、一体どうやって私に勝つの?
 寝技?それとも打ち合いでもする?」
悠里はマイクを使い、会場中に響けと言わんばかりに煽る。
『おおっと、これはチャンピオン、痛烈な皮肉だぁ!
 男の嫉妬は見苦しい、しかし女性の罵りは美しい!!
 お嬢系柔道家、青葉選手はもはや打つ手なしか!?』
実況も便乗して青葉を罵る。

青葉は起き上がったものの、じっと項垂れていた。
「あ、青葉…ちゃん……。」
「っくそ、あの女!馬鹿にすんのもいい加減にしなよ!!」
応援団からは様々な色の声が飛び交う。悠里はそれを無表情に見下ろした。
普段ならば胸が痛むことだろう。
しかし試合の異常な熱気の中、無限の瞳に晒される今は違う。
戦いにおけるショーマンシップとはエゴを見せることだ。

「さぁ、どうしたの?」
悠里は立ち尽くす青葉に近づきながら声をかける。
心が折れたのだろう、一芸に秀でた者にはありがちだ。
悠里がそう思って彼女の肩を叩きかけたとき、その肘に鋭い痛みが走った。
悠里は肘を抱えてたたらを踏む。
「キミが言ってくれたじゃんか、“打ち合おう”って!
 ほらほら、どうしたんだい!?打ってきなよ!!」
青葉は眉を吊り上げながら、憤怒の形相で煽りを返した。
ジャブのように悠里の腕を叩く。
「…っく!あう!」
悠里は距離を取った。舌を巻く思いだった。
打たれた肘がひどく痺れている。パンチが馬鹿に重い。

すぐに燃え盛る蝋燭の炎、それは時として山火事にもなりえるのだ。

柔道家の打撃は予想より遥かに重い。
握力やリストの力・背筋力が極めて強いからだ。
しかし青葉の打撃は、それに照らし合わせても異様に重い。
「ほら、ほらぁ!キミ柔道家に打ち負けちゃうよ!?」
青葉はコンビネーションで裸拳を叩き込む。しかし、顔や腹を狙ってではない。
 ――こ、この子、腕を壊しに来てる…!!
悠里は腕を打たれながら辟易していた。
悠里が繰り出す打撃に合わせ、右手の肘と手首のみを集中的に叩いてくるのだ。
かといって手を出さずにいると顔や腹に容赦なく叩き込まれる。
「うりゃあっ!!」
「くぅうっ!」
今一度肘を打たれ、悠里はあまりの痛みに腕を押さえて後退した。
見ると、右手首と肘の辺りが青痣になっている。
いくらしなやかな筋肉を持つ悠里でも、そこは普通の人間と変わらない。

「んん、なぁに今の声?皆聞いた?痛いよぅーって感じだねぇ!!」
青葉はカチューシャを光らせて細い腕を誇らしげに振り回した。
客席の一部から笑いが起こる。
悠里は歯を噛みしめた。

「柔道家、柔道家って騒いでるから、ころっと騙されたわ…。
 貴方投げの練習より、腕を打つ特訓ばかりしてきたんでしょう」
悠里の言葉に、青葉は満面の笑みを浮かべる。
「さぁ?別に努力なんかしなくても、キミ隙だらけじゃない」
さらに応援団が騒ぎ立てる。
練習をしていないはずがない。悠里は思った。
これほど的確に腕を破壊してくるストライカーとは想定外だ。

そしてこの後、彼女は更なる苦戦を強いられる事となる。


『これは驚きました、王者が腕を押さえて苦しげな表情!
 挑戦者の柔道家という肩書きに翻弄されたのか?』
実況が応援団と共に騒ぎ立てる。しかし事実だ。
悠里は青葉の打撃力に目を見張る思いだった。
しかし憤怒の形相で殴りかかってくる様を見て少し納得する。
単に力が強いだけではなく、怒りで力のリミッターを外しているのだ。
プライドが高いゆえの憤怒。それがこの爆発力だ。

「…っ気に、喰わないわねぇ……」
なおも殴りかかろうとする青葉の裸拳をバックステップでかわし、
悠里もまた怒りを滾らせる。
「これで、スパッと終わらせてあげるわ!!」
脚でマットを静かに踏みしめ、木こり娘は狙いを定めた。
左を打って空いた脇腹にミドルキックを叩き込む。
最悪アバラが何本か逝くかもしれないが、容赦はしない。
「せゃああああああ!!」
パンッ!!といい音がした。
「ぐ、うう…!!」
低いうめきも聞こえる。しかし次の瞬間、悠里はがくっと腰をよろけさせた。
青葉が悠里の蹴りに耐え、その脚を脇に挟んだのだ。
「た…耐えた!?無茶な…!!」
悠里は今日何度目かの驚愕に目を剥く。
「がはっ…!うう、ああおお…っぁはっ…」
青葉は衝撃に涎を垂らして苦しんでいた。しかし、脚は離さない。
                
悠里の蹴りは重い斧を振り下ろしているようなものだ。
並みの神経ならば受け止めようなどと思わない。
「取った…、貰ったあぁ!!」
青葉はタックルの要領で悠里を押し倒す。
悠里は片脚でもバランスを取っていたが、さすがに柔道家の押さえ込みには抗いきれない。
脚を高く上げたままマットに倒れこむ。

『こ…これは、王者の蹴りを受け止めてのテイクダウンだ!
 素晴らしい根性。恐らくアバラには深刻なダメージが残るでしょう。
 しかし!柔道家がマウントを取った、これは大いなリターンです!!』
実況の叫びが悠里の危機を会場全てに知らしめた。
悠里は片脚を取られたままもがく。

「っふふ、脇がお留守だよ!」
青葉は悠里の上にのって押さえつけたまま、身体を少しずつ左にずらし始めた。
 ――腕を取るつもりだ!
そう悟った悠里は両腕を組み合わせて守りに入る。
「さすが、いい勘してる!でも無理だよ…その腕じゃあさ!」
青葉はさっと悠里の左に回りこむと、その左腕を取りにいく。

悠里はそれを防ごうとし、ふと右腕に電流のような痛みを感じた。
先ほど青葉に集中的に叩かれた右腕だ。
うっ血して痺れた右腕には思うように防御ができず、あっさりと左腕を青葉に取られてしまう。
腕を伸ばして脚に挟まれ、捻りながら極められる。
腕が可動方向と逆に反り返り、首と肩を固定されたまま完全に伸びきる。
「い、いっつ…!!」
悠里は鋭い傷みに目を細めた。

「さぁ、タップしなよ。言っとくけど、わたし本気で折る子だよ」
青葉が脚を悠里の左腕に絡ませて言う。
むちむちした太腿の感触。しかし極めは硬く、もう抜け出せない。
悠里は歯を喰いしばって肩を蠢かす。
「無駄なんだってば。キミ馬鹿なの?」
青葉がおちょくるように言いながらさらに背を反り返らせる。
悠里の肘からバキバキと音が響いた。
「――――っっ!!」
悠里は悲鳴を上げず、長い脚をばたつかせて苦しみを表す。
ミニスカートから白いショーツが覗き、内腿に筋が浮く。
女帝のあられもない姿と先ほどの不吉な音に、会場がざわつき始める。
「ほらぁ、断裂しちゃった。これって叫べもしないくらい痛いんでしょ?
 降参しなよ。今の音聞いたら、誰も責めやしないわ。負け犬、なんてね!
 ふふ、あっはははははは!!!!」
青葉の高笑いがマイクで会場中を震わせる。
それに煽られるように青葉を指示する叫びが大きさを増していく。

何分が経っただろうか。
悠里は背を仰け反らせながら延々と続く痛みに耐えていた。
額には脂汗が流れている。
「はぁ、はぁっ…!お、折るなら早くしたらどうなの?
 貴方程度の相手、足だけで丁度いいハンデよ!」
王者はなおも気丈にそう告げる。青葉の応援席からさえ感嘆の声が上がった。
しかし当の青葉は、それを称えはしなかった。
「ああそう。じゃあ、ね」
びきっ!!
硬い音は一瞬だけ。
それは傍目には何でも無いことに思えた。
しかし、青葉が悠里の腕を解放した時、彼女の左肘はもはや肘ではなかった。

『お、折られたーー!!王者の左腕が、ああ、あれは…。悲惨です、悲惨です!!
 私はどちらの味方もいたしません。しかし…今の王者には、かける言葉も
 ありません…!!』
悠里はうっ血した右腕を天へかざしながら、仰向けで大きく口を開けていた。
何かを絶叫するようなまま、何の声も発さず。

その悠里の顔に被さるように、青葉の笑みが覗き込む。
「あーあ。意地張るから、腕がどっちも使えなくなっちゃたね。
 痛いかな。やりすぎたかな。じゃあ、ちょっと気持ちよくさせてあげる」
青葉は腕の使えない悠里を抱えるように持つと、自らの膝へ乗せた。
そして悠里の両のすねを自分の両脚に挟む。
「…な…なにを、す…るの…!?」
声を枯らした悠里が慌てる間に、彼女の身体は青葉の膝の上で自由を失った。
正座するように脚を挟まれ、両腕は力なく垂れ下がる。

その状態の悠里の嘗めるように見たあと、青葉は急に手を悠里のパンツへと潜らせた。
ショーツをずり下げ、薄い茂みに覆われた割れ目へと指を潜らせる。
「なっ…!や、やめなさいよ!!」
悠里は声を上げた。
会場のあちこちで唾を呑む音が聞こえる。

「あははは、やめさせたいんだったら、自力でなんとかしたらどうだい?」
青葉が会場へ向けて言う。
それは暗に悠里を征服した事を誇示するものだった。
会場のボルテージが極限に近くなる。
「くっ…!」
悠里は脚を動かすが、青葉にしっかり挟まれたまま正座している状況では
まともに力も込められない。
悠里は奥歯を噛みしめた。己のサディストとしての矜持が穢されてゆく。

青葉はそんな悠里の首筋に舌を這わす。悠里の身体がびくんと仰け反った。
「お、敏感だね。やっぱりキミ、今まで会った女の中でも最高の身体だよ。
 この感度じゃ、ファンの前でかなりの醜態を晒してくれるね」
青葉は手を悠里の身体に這わし、その胸や秘所をまさぐっていく。
「ふふ、もう乳首もクリもビンビン。戦いの最中に興奮してるんだ?
 でもまだだよ、もっととろとろにしてやるんだから。
 寝技で鍛えたレズビアンのテク、嫌ってほど味あわせてあげる」
青葉の言葉をマイクが妖艶に拾っていく。

「や、やめなさい、この、ただじゃおかな……あっっ!!」
凍りつくような悠里の剣幕も、青葉が秘所をまさぐると途端に勢いを失う。
「怒るより、どんどん中に入ってく指の方を注意したらどうだい?
 キミなんかすごく血行が良さそうだから狂っちゃうかもね。
 ほら、とろとろ、とろとろ…気持ちいい波がくるよ」
青葉は淫靡な言葉をささやきながら悠里を抱きしめた。

「…悔しい?わたしはね、キミみたいな美人の自信家が一番むかつくの。
 大勢のファンの前で、泣きながら狂っちゃいなよ!!」

カチューシャをした制服姿の女子高生。ラウンドガール姿の麗しい女王。
女2人の噎せ返るような汗と熱気の中、そう囁く声が聞こえる。
そこでやっと悠里は、敵もまた自分と同じタイプの人間だったのだと気がついた。
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