■ 1 ■
ラウラの車に乗り数時間。
食事休憩に寄った場所は、すでに澄泉の知る風景ではなかった。
「これからどこ行くの?」
フォークにパスタを絡ませながら、彼女は尋ねる。
腹の音は鳴っていたが、胸が不安で満たされ食が進まない。
「どこへ行くかより、何をするかの心配をするべきよ」
ブロンドの娘は逆に、さも美味そうにパニーニを頬張っていた。
「どうせやらしい事されるんでしょ」
「少なくとも、パリへスウィートを食べに行く訳じゃないわ」
冷たい答えに、少女は肩を竦ませる。
「早く食べなさい。人間らしい食事ができる間にね」
ラウラはやはり顔色ひとつ変えていない。
その冷徹さは家畜を率いる牧羊犬さながらだ。
彼女は近くを通った店員を呼び止めて言う。
「ちょっと、帰りにミルクを貰えるかしら」
不快な食事の後、二人はブティックに立ち寄った。
「おめかししてあげる」
ラウラはそういって子供服を選び始める。
子供用とはいえ西洋人向け、澄泉と一号違う程度だが。
渡される服を少女は黙々と身につける。
食後の窮屈さに苦しみながら。
(お腹…きついな)
サイズの違う服に覆われ、細い身体はよりいっそう華奢に見えた。
■ 2 ■
防空壕のような、草や木の根に覆われた扉。
それが開かれ陽が射した時、中にいた者は息を呑んだ。
侵入者のあまりの愛らしさに。
風になびく、肩甲骨までの艶やかな黒髪。
生意気そうに輝く目。
キスすれば蕩けそうなふっくらとした唇。
ある者はそれをニンフと見紛うた。
誰もが少女の幼さ・儚さの中に、尋常でない物を感じていた。
神性を際立てるのは彼女の服装だ。
一瞬OLを思わせる堅い装い。
濃紺のベストに薄手のシャツ、腿までのスカート。
首元には洒落たタイが結ばれている。
何より印象的なのが黒のタイツで、
強調された細い脚線は女の目さえも釘付けにした。
バイオリンの演奏会に出る日、上流階級の令嬢が着るような服だった。
暗い巣窟の中、それはいかに場違いである事か。
部屋に足を踏み入れたとき、澄泉は異臭に鼻を押さえた。
むせ返りそうな雌雄のフェロモン、そして熱気が立ちこめている。
(青くさい…)
よく栗の花の匂いと形容されるが、少女には馴染みがない。
ニノは朝まで突き続けても「それ」を出さなかったから。
部屋にはその匂いが充満していた。
これが何を意味するのか、性に疎い少女とて理解できる。
だが真に澄泉を凍りつかせたのは、室内の異様な雰囲気だった。
ありとあらゆる拷問道具が蝋燭の灯に浮かぶ。
手錠や足枷、三角木馬、水車に針の生えた箱。
錆具合や赤黒い染みが、それはただのオブジェではないと語っていた。
「驚いた? カタコンベ(地下墓所)の近くには、
こんな異教徒の拷問部屋がいくつも残されているの。
もっとも、今ではアブノーマルな男女の秘密の乱交場だけど」
少女に続いて扉をくぐった娘が言う。
場の興味を一身に惹きながら、澄泉はただ立ち尽くしていた。
と、急にその目が見開かれる。
「んっ」
ブロンドの娘がその唇で、彼女の口を塞いだからだ。
「ん、んぐっ」
少女はやや困惑していたが、躊躇いがちに娘の首に手を回す。
ラウラは知らなかった。
誰もが振り向く美しい少女を従えている、
そう誇示するために何気なく行ったこのフレンチキスが、
澄泉にとって初めてのものであった事を。
少女がその朱唇を許した事に、どれほどの価値があるのかを。
周囲にはどよめきが起こっていた。
稀に見る精霊のような少女でも、性的な行為に興味があるのか。
ここへ来たのは手違いではないのか。
彼らは鞭を止め、目隠しをとって幼いレズビアンに見とれた。
ぐちゅぐちゅといういやらしい音を聞きながら。
視線と唾液を交わす深い口付け。
ラウラは糸を引きながら顔を離し、息を弾ませる澄泉の髪を撫でて言う。
「こんな顔してるけど、すごいのよこの子。
昨日、ビール瓶みたいなモノで処女を奪われたばかりなの」
さらに辺りが騒がしくなり、澄泉はたちまち頬を赤らめた。
「っ! …それは…だって…」
何かを言おうとするが口ごもる。
見る者には、それが真実であること、少女が初心であることがはっきりとわかった。
――ちょっと、どこ見てるの?
――だってあれ見てみろよ、半端ねぇじゃん
――絶対あいつ、自分のこと可愛いって思ってるタイプよ
――実際、あんなの見たことねえよ。人形かと思ったぜ…
陰口が大きいのはこの国の特徴だろうか。
場には羨望と嫉妬が渦を巻いていた。
女のいる場所ならどこへ行ってもそうなのか。
少女は俯き、ブロンドの娘は口に三日月を描く。
「あら、プレイのお邪魔しちゃったみたいで御免なさい。
この子が乗り気になるまで、私達は隅で見てるわ。ほら」
澄泉の腕を引っ張り、ラウラは壁にもたれた。
少女はそれに従う。肌色の違う妹のように。
気の強そうな目、しかしよほど心細いのだろう、
その手はブロンドの娘から離れない。
■ 3 ■
薄暗い部屋に沈黙が訪れてしばし。
突如それを打ち破ったのは、甲高い悲鳴だった。
澄泉はそちらに顔を向け、絶句する。
そこには幼い少女が四つん這いになり、後ろから抱かれて喘ぐ姿があった。
まだ10歳前後だろうか、子供らしい細長い手足だ。
足首には鉄球つきの拘束具が嵌められている。
明るい赤髪に、北欧系の気品ある顔立ち。
もう長いこと嬲られているのだろう、彼女の肢体は汗にまみれていた。
凝視する澄泉に気付き、傍らの男が解説する。
「気になるか?名前は知らんがスウェーデンのお嬢様だそうだぜ。
ここに来てまだ二週間だが、あの通りさ」
男が示す少女はあどけない顔を蕩けさせ、しかし目から一筋涙を流す。
見ないで、そう言いたげに。
「あ、あなたたち、そんな小さな子に何してるのよっ!!」
気づくと、澄泉は拳を作って叫んでいた。
よく通る怒声が反響し、少女を囲む男が視線をよこす。
入墨や銃痕が浅黒い体の各所に窺えた。
「ちょっと、澄泉やめなさい!…あ、お気になさらず」
ラウラは珍しく焦って少女の口を押さえる。
「んー、むー!」
「バカ、相手を見て物を言いなさいよ!
ここはいつ銃口を向けられてもおかしくない国なの!」
その言葉でさすがの澄泉も抵抗を止めた。
ラウラは大きく息を吐き、内心で舌を巻く。
筋骨隆々たる大男を前に、よくも説教ができるものだ。
「へっ、言うじゃねぇか嬢ちゃん」
男たちは高潔な少女に気分良い視線をよこし、
見せ付けるように背後からの突き上げを強めた。
赤毛の少女は髪を振り乱してあえぐ。
ぐちゃぐちゃ…その音が行為の執拗さを物語っていた。
「あの子も気持ちよさそうじゃない、あれがセックスよ」
ラウラが澄泉に囁き、彼女が眉をしかめるのを見て微笑む。
『男女の関わりに、必ずしも愛は必要でない。
性欲を越えた異性間の友情こそ本物だ』
澄泉はかつてそう熱論していた。
その潔癖さはラウラが一番よく知っている。 だからこそ嘲笑うのだ。
「でもよく見て。あれ、あそこに入ってるんじゃないわ」
ラウラは赤毛の少女を指して言う。
それに応えるように、少女を嬲る男は体位を変えた。
少年のように貧弱な尻肉を割り、赤黒い物が出入りしている。
その下にはぽたぽた雫を垂らす無毛の割れ目。
澄泉は不可解そうに眉を寄せる。
彼女は考えた、膣の後ろに何があるか…
「お・し・りよ。あの子、お尻に入れられてるの」
語気を強めたラウラの言葉に、二人の少女が目を見開く。
赤毛の少女は頬を染め、黒髪の少女は言葉を失くした。
(う…うそ…!)
澄泉にとって、肛門はへそや耳の穴と等しい。
そこを使って性交するなど、どうして信じられるだろうか。
だがそれは事実だった。
赤毛の少女は背後から間違いなく排泄の穴へ突きこまれ、
肩で息をしながら汗まみれの体を前後させている。
「後ろだって立派な性器よ。慣れれば前よりいい子もいるわ」
ラウラは囁いたとき、澄泉の瞳は色を映していた。
煙草の煙を見つめる少年の目。
堕落への憧れ。
(この子、好奇心の塊だしね…)
ラウラは少女の後ろに回り、すっとスカートに手を潜らせた。
澄泉に下着は穿かせていないため、タイツからじかに繊毛を撫で回す。
その唇は歪な弧を描いた。
「あらぁ、あなた濡れてるじゃない!」
声を高めたのは意図的にだ。
人に噂されるほど、この少女は隙を作るから。
「え?…そ、そんなことないわよっ!」
澄泉は大慌てで否定するが、淫核を押す指は確かにぬるぬると滑る。
(ほんとだ…嫌、なんで……!)
自分の体に裏切られたようで、少女はひどく困惑した。
「おしり貫かれてる小さな子を見て感じたのね。
最初はあんなに怒ってたのに、あなたも犯したかった?」
澄泉は唇を噛み、何かを払うように首を振った。
何度も何度も。
「ああ、違うわよね。あなたは犯されたいのよね。
いつも男という男に見られて、汚されるのを待って……」
「やめてっ!ラウラやめてぇっ!!」
澄泉は耳を塞いだ。
ニノの変に優しい声が、ヒステリックな脳裏をよぎる。
初めは同属嫌悪。そして軽蔑。激昂。
『…されるのなら、どうぞお好きになさって下さい』
精一杯の虚勢で迎えた男は、ただ、恐怖だった。
朝まで岩のような体に組み敷かれ、どれほど心細かったか。
それこそビール瓶並みの怒張で間断なく産道を抉られ、
鼓膜が破れそうな絶叫をなぜ止められなかったか。
針や甲羅の強固なものほど、その中身は柔らかい。
少女のトラウマは深かった。
肩を震わせる姿は、赤毛の少女より幼く見えた。
「あらあら、言い過ぎたわね。ほら泣かないで」
その肩を優しく抱きながらも、ラウラの瞳に動揺はない。
まるで計算通りだと言いたげに。
しゃくりあげるたび、動悸が激しくなっていく。
滲む視界の中、赤毛の幼子は目を細め、だらしなく舌を出していた。
酸欠にも恍惚にも取れる表情。
水責めを受けた女囚が最期に見せるような、ぞっとする相貌。
「そこいいですっ、ずっと奥まで突いてください!!」
彼女の英語はもはや訛ったように聞こえづらい。
ラウラの言うとおり、小さな尻で感じているとしか思えなかった。
「貴族のガキもああなっちゃお終いよねぇ」
冷たい女の声。
二週間、男たちの巨根で延々と腸壁をえぐられ続け、
女の身体がそうならざるを得なかったのだろう。
男が深々と突きこむたび、赤毛の少女は絶叫する。
澄泉は傷む心を抑え黙っていた。
こうした悲劇を止められる、祖国の平和を噛みしめて。
「そろそろ出すぞ!」
男は抽送を早めながら、少女の尻を叩き始めた。
ぱんっぱんっという肉の弾ける音が響きあう。
よほど平手が強いのか、雪のような少女の臀部は
たちまち痛々しい朱に染まっていく。だが…
「いや、もっと、もっと叩いてぇ」
赤毛の少女は泣きながら、幼い体を激しく身悶えさせた。
(あんなちっちゃい子が……うしろって、そんなにいいの……?)
彼らの熱気が伝わったように、澄泉の頭は霞んでいた。
内腿をわずかにすり合わせる。
先程よりも明らかに愛液は増し、タイツの前部を湿らせた。
ラウラが横目でそれを見ている。
彼女はすっと床に転がる瓶を拾い上げた。
「どうしたの?したくなってきたって顔してるわよ」
再び澄泉のスカートを捲り、指を這わせる。
だが今度は方向が違った。
その手はタイツに潜り、ふっくらと女らしい臀部を割る。
指が後穴をへこませる感触に、少女の細い背が仰け反った。
「ひゃ!だめっ、そっちはっ…!!」
恥らうその表情に、ラウラは初めて歪みでない笑みをみせる。
(しおらしくしてれば、可愛い子なのよねぇ)
まだ堅い菊輪をくじり、うねうねと指を動かしはじめた。
皺をひとつずつ伸ばすように、丁寧にほぐしていく。
ラウラの手にした瓶にはべっ甲のようなとろみが入っており、
それをつけた中指はあっさりと菊門の締まりをすり抜けた。
澄泉はタイツに包まれた脚を強く踏みしめ、苦悶の表情を浮かべる。
「や、お尻やぁ……」
鼻にかかったような声に、彼女を抱く娘は頬を和らげた。
「そればっかり。本当はどうなの、結構いいんじゃない?」
ラウラは人差し指も挿しいれ、少女の腸に円を描く。
海老反りになる少女の背を支え、ベストに手を入れて
やわやわと乳房を揉む。
「ん…ふぅ…」
澄泉の顔がたちまちに緩和した。
周囲の男女は唾を呑んでその痴態を見つめている。
華奢な美少女が顔を歪める様はひどく嗜虐心を煽り、
背後から嬲る娘は恐ろしいほど手馴れていた。
邪魔に思ったのか、ラウラは身悶える澄泉の隙を見て
彼女の穿くスカートのホックを外す。
舞うようにそれが落ちたとき、感嘆の声が漏れた。
ベストと汗に濡れたシャツ、そして股下まで降ろされたタイツ。
その格好は裸よりもいやらしかったし、
少女のすらっと伸びた脚線が一層あらわになったからだ。
「ほら見て、皆があなたの細い脚を見ているわ」
指を少女の腸内で芋虫のように蠢かし、さらに耳を噛んでラウラが囁く。
澄泉の締め付けが一気に強まった。
(この子、本物のマゾかもね)
さらに二本指を使い、狭い腸壁をひらげては閉じる。
潤滑液が粘った音を立てた。
空気が入り込み、まるで腸内へと放屁されたようにむず痒いはずだ。
鎌を振るように指を根元までくじ入れ、引き抜き、また入れる。
「この動きをお通じがきた時だと思って。どう?気持ちいい?」
指の腹に暖かい粘膜を感じながらラウラは言う。
澄泉は答えず、背筋をくねらせて逃げようともがいていた。
「おしり、きもちぃよ?」
ふと、遠くにいる赤毛の少女が澄泉を見つめ、声を上げた。
彼女はまた別の男に貫かれ、騎乗位で腰を使っている。
「だめよ、だめ!そんな所で感じちゃ駄目なの!!」
そう返す澄泉の口調は赤毛の少女に諭すようだったが、
おそらくは自分に言い聞かせる言葉だったのだろう。
「んー…っ」
澄泉が嫌そうにそう唸った直後、後孔からぶじゅううっと
恥ずかしい音が漏れた。
「あっ」
その時の少女の恥じらいようは、眼前の男を虜にした。
彼らは息を呑む。
「あら、可愛いおならね」
獲物の咳き込む前のような表情が楽しく、ラウラはそう茶化した。
黒髪の少女は羞恥に瞳を潤ませる。
「だ、だからそんなとこ汚いって言ったじゃない!馬鹿!!」
そう叫んでブロンドの娘を突き飛ばした。
油断しきった状態は体格差を埋め、豊満な体は呆気なく床に転ぶ。
ラウラの顔が変わったのはその時だ。
飼い犬に手を噛まれた、そう言いたげな目。
云わば自業自得。
だが、娘が抱いたのは傲慢な憤りだった。
「あっ、ごめんなさい」
澄泉はすぐに手を差し伸べたが、ラウラはそれを冷たく払う。
上品ともいえる澄ました態度が、この時ばかりは鼻につく。
目が合ったとき、澄泉は心臓が激しく脈打った。
また蛇の目。
この目を見るとき、少女はラウラという人間がわからなくなる。
いつも明るく振舞うが、残忍な性格も垣間見えた。
澄泉の通う美術学校の女生徒は、大半が年上男性を好む年頃だ。
ニノも何十という生徒から想いを寄せられている。
それらの乙女から一線を画すのがラウラなのだ。
黒い噂は澄泉も何度か耳にした。
「痛いじゃない」
ラウラは呟き、澄泉が口を開く前に強くその頬を張った。
乾いた音が響く。
「……っ」
気高い少女は甘んじてそれを受けた。
異様な光景だった。
性的な悪戯で辱められた方が頬を打たれる。
赤毛の少女がそうであったように、澄泉の白磁の肌にも赤みがさす。
二人の間には暗黙の了解、力関係が存在した。
何ならいつでも絶交してやる、ラウラの平手はそう伝えていた。
「…何よ、オドオドして?」
ラウラはさらにつけ上がり、澄泉を睨んだ。
「そんなあなたにはこれがお似合いね」
そう言って壁から鉄枷を取り外した。
さすがに少女は身を翻したが、ラウラはその手を掴んで逃さない。
今度は筋力が物をいい、同い年の少女ながら一方的だった。
少女の胸の前で冷たい枷ががちりと音を立てる。
手枷をつけた黒髪の少女、それは傍らで喘ぐ足枷の少女と同じ。
「あ…」
手枷を見て呆然とする少女を尻目に、ラウラは低い声で言う。
「あなたさっき、お尻は汚いって言ったわよね?」
鋭い足音を立てて部屋を回り、隅の木箱を引きずってきた。
食事休憩の時に買ったミルク瓶もバックから出し、
木箱から取り出した金だらいに中身を注ぐ。
「意外だわ。陳腐な表現だけれど、あなたは天使みたい。
周りの方々もそう思っているはずよ」
瓶が空になり、続いて箱から出された物は、澄泉には判別できなかった。
酒を入れるボトルに見えたが、それにしては口が狭い。
それは硝子のシリンダー。
しかも家畜用の1リットルは入るものだ。
もっとも場所が場所のため、拷問用というべきか。
『可哀想に』
どこからかそんな声が聞こえ、澄泉の胸は渦巻いた。
シリンダーに新鮮な牛乳を満たし、ラウラは綺麗に微笑む。
「私たち女子の間でさえ、あなたの排泄姿を想像できないって
噂が立ったわ。そんなあなたのお腹に、一体どんな穢れが
詰まっているのかしら?」
ここに来て、ようやく澄泉も相手の目的に気付いた。
しかし逃げようとする彼女を数人の手が押さえつける。
「いや、放してっ!」
澄泉が叫んでも誰も耳を貸さない。
清流のように光沢の揺れる髪から花の香りがした。
一人が恐る恐るそれを撫でる。
赤子の頬へ触れたくなるように、その黒髪は目を惹いた。
その髪は無残にも床に垂れる。少女が組み伏されたのだ。
「大人しくなさい」
白いシリンダーを逆光に、ラウラの影が少女を覆う。
揺らめく炎に染まる橙色の柔尻が揺れた。
その影にひっそりと息づく蕾。
べっ甲のようなとろみを纏わせ、指の弄りですこし喘いでいる。
誰かが冗談交じりに言っていた、澄泉の菊門は桃色だと。
さすがにそれはない。しかし放射状に並んだきれいな皺は
薄いセピアで、排泄器官と称するにはあまりにいじらしい。
ラウラは背筋をぞくぞくするものが駆け上がるのを覚えた。
「いくわよ?澄泉、力を抜いて」
息を弾ませ、フェイントで少女の反応を愉しみながら、
肉厚なシリンダーの口をそのすぼまりに咥え込ませた。
「…ぅ…ううあ…くぁ…あ゛っ」
誇り高い少女には、そう小さく呻いた事さえ屈辱だった。
だが排泄の穴に雪解けを思わせる冷水がなだれ込み、
腸壁の隅々まで染みいる様はかつて経験がない。
それも半端な量では無かった。
下腹が蛙のように不自然に膨らみ、這った姿勢では
背中の肉ごと骨を残して溶けおちるのではないかと思えた。
「さぁ、もう一本いくわよ」
非情にも親友の声がそう告げる。
直腸を満たされ胃までも圧迫されているというのに、
これ以上入れられるというのか。
どれだけの量だろう、あのミルクは2リットル入りだったはず…
「ほーら、美味しそうに飲んでいくわねぇ」
またも菊輪が押し拡げられる苦しさに腹のミルクが逆流する。
しかしそれも新たな奔流に圧され、すらりとしていた腰つきを
歪にゆがめていく。
「……っっふ、ん゛……っぁふ…っ……!!」
ようやく上から押さえる手が放され、
気息奄々という様子の少女はやもりのように床を這った。
■ 4 ■
ふぅ―――っ、…ふぅぅ――――…、う゛っごほっ……
気の昂ぶる部屋の中、一際苦しげな息が咳き込んだ。
最初こそ四つん這いだった彼女はやがて座り込み、
便意が背筋を焦がしたため立って部屋を彷徨う今に至る。
初めの格好が一番良かったが、もう遅い、
「まだ5分も経ってないわ、頑張りなさいよ」
そう野次を飛ばすのは、少女に陰口を叩いていた女の声だ。
10分我慢すれば外で排泄していい。
ラウラがそう提案したとき、澄泉は一筋の希望を持った。
腹を下した授業で40分耐えられたこともある。
いくら量が多いとはいえ…と、そう考えていた。
(こんな大勢の前で…うんちするなんて)
壁に拘束された手をつき、少女は歯を食いしばる。
排泄――そんな生易しい語感のものではない。
(もし、そんなことになったら…みられたら…)
ぐぉるるるるる………
腹の音は濁りきり、差し込むような痛みがぶり返した。
(………死んでしまいたい……っ)
少女の細い体は、持久走でもしたように汗にまみれている。
前髪が珠の汗を噴く額にぺたりと貼りつき、
薄手のシャツは彼女の体をありありと浮き出しにして。
苦しみから自ら脱ぎ捨てたベストが足に触れた。
彼女の美しい裸体を隠すのは、もはやシャツと
太ももまで下がった黒いタイツのみ。
神々しさははだけ落ち、なまめかしさが芽を吹かす。
容のいい小鼻の横を汗が滴った。
「うぁ…――、くっ、ひぃっ――……」
少女は華奢な筋肉をぎゅっと締め、内の冷えた血脈を堰き止める。
そのカラダから漂う熱気の、なんと香り高そうなことだろう。
国を越え、性差を越えて部屋の者達はその肢体に見入っていた。
「そろそろ7分ね。頑張るじゃない?すごいわ」
入り口を塞ぐラウラは表面上の感嘆を示す。
だが腹を揉みくだすだけで、彼女は好きに少女の瓦解が狙えるのだ。
初めから賭けになどなっていない。
(あと・・・さんぷん・・・あと・・・さん・・・・・)
カップ麺が作れる時間だな、でもそれって長くなかったっけ。
また食べたいな。
少女は揺れる脳でそう考え、気を紛らわす。
限界は限りなく近かった。
肛門付近の腸壁が筒だとするなら、そこがマグマのように蕩けている。
ぼこぼこと沸き立ち、立ち昇る蒸気圧で嘔吐させようとする。
彼女の不運は、それでも括約筋を締めようと壁を伝った事だ。
別の壁に寄りかかった時、そこは冷たく滑らかだった。
顔を上げると、それは天井まで届く巨大な鏡。
恐らく拷問を受ける者にその姿を見せて自白を迫るものだ。
そこに映るのは惨めな自分。後ろに控える数え切れない目。
閉じない口から泡など噴いていたのか。
こんなのぼせた顔が、赤毛の少女に意見した人間のものか。
「これ…わた…し…?」
少女は膝ががくんと笑うのを感じた。
すかさず誰かが金だらいを構えたのも気を緩めさせる。
固く閉じた蕾から、つっと白い朝露が零れた。
新鮮なミルクのひとしずくが見事な腿を伝い落ちる。
「さあ見せなさい、澄ましたあなたの人間臭さを!」
ラウラの厳しい声が、少女の最後に聞く騒音だった。
耳がばりばり鳴り、鼓膜でも破れたようにきかなくなる。
顎が外れそうなほど口を開けた様から、自分が絶叫しているのだとわかる。
その絶叫の終わりは、絶望の始まりだった。
まず子を産むように骨盤が軋んだ。
肛門が開ききり、直腸から熱い奔流が一塊に溢れ出る。
張った腹がへこんでいく。
脚の浮く感覚は絶頂に似た。
その勢いがやや弱まった刹那、少女の恐れたものは括約筋を伸ばしきる。
柔らかいそれは、何度も、何度も。
耳が通ったのか、水音が跳ねるのが聞こえている。
叫びに近い喚声も沸き起こっていた。
菊門の拡がりは収まり、それでも暖かな噴き出しは止まらない。
いつまでもいつまでも続いている。
それが終わった後を考えれば、永遠にでも構わない。
ラウラの考えがうっすらとわかった。
これほどの恥辱を受け続ければ、ニノの事など何でもなくなる。
そうしてうやむやにしようというのだろう。
決してそうなりはしない。
心が壊れるその時まで、失った純潔を忘れはしない。
そして必ず何時の日か、また笑って絵を描こう……
少女はぐったりと床に伏し、静かに長い瞼をとじた。
続く
ラウラの車に乗り数時間。
食事休憩に寄った場所は、すでに澄泉の知る風景ではなかった。
「これからどこ行くの?」
フォークにパスタを絡ませながら、彼女は尋ねる。
腹の音は鳴っていたが、胸が不安で満たされ食が進まない。
「どこへ行くかより、何をするかの心配をするべきよ」
ブロンドの娘は逆に、さも美味そうにパニーニを頬張っていた。
「どうせやらしい事されるんでしょ」
「少なくとも、パリへスウィートを食べに行く訳じゃないわ」
冷たい答えに、少女は肩を竦ませる。
「早く食べなさい。人間らしい食事ができる間にね」
ラウラはやはり顔色ひとつ変えていない。
その冷徹さは家畜を率いる牧羊犬さながらだ。
彼女は近くを通った店員を呼び止めて言う。
「ちょっと、帰りにミルクを貰えるかしら」
不快な食事の後、二人はブティックに立ち寄った。
「おめかししてあげる」
ラウラはそういって子供服を選び始める。
子供用とはいえ西洋人向け、澄泉と一号違う程度だが。
渡される服を少女は黙々と身につける。
食後の窮屈さに苦しみながら。
(お腹…きついな)
サイズの違う服に覆われ、細い身体はよりいっそう華奢に見えた。
■ 2 ■
防空壕のような、草や木の根に覆われた扉。
それが開かれ陽が射した時、中にいた者は息を呑んだ。
侵入者のあまりの愛らしさに。
風になびく、肩甲骨までの艶やかな黒髪。
生意気そうに輝く目。
キスすれば蕩けそうなふっくらとした唇。
ある者はそれをニンフと見紛うた。
誰もが少女の幼さ・儚さの中に、尋常でない物を感じていた。
神性を際立てるのは彼女の服装だ。
一瞬OLを思わせる堅い装い。
濃紺のベストに薄手のシャツ、腿までのスカート。
首元には洒落たタイが結ばれている。
何より印象的なのが黒のタイツで、
強調された細い脚線は女の目さえも釘付けにした。
バイオリンの演奏会に出る日、上流階級の令嬢が着るような服だった。
暗い巣窟の中、それはいかに場違いである事か。
部屋に足を踏み入れたとき、澄泉は異臭に鼻を押さえた。
むせ返りそうな雌雄のフェロモン、そして熱気が立ちこめている。
(青くさい…)
よく栗の花の匂いと形容されるが、少女には馴染みがない。
ニノは朝まで突き続けても「それ」を出さなかったから。
部屋にはその匂いが充満していた。
これが何を意味するのか、性に疎い少女とて理解できる。
だが真に澄泉を凍りつかせたのは、室内の異様な雰囲気だった。
ありとあらゆる拷問道具が蝋燭の灯に浮かぶ。
手錠や足枷、三角木馬、水車に針の生えた箱。
錆具合や赤黒い染みが、それはただのオブジェではないと語っていた。
「驚いた? カタコンベ(地下墓所)の近くには、
こんな異教徒の拷問部屋がいくつも残されているの。
もっとも、今ではアブノーマルな男女の秘密の乱交場だけど」
少女に続いて扉をくぐった娘が言う。
場の興味を一身に惹きながら、澄泉はただ立ち尽くしていた。
と、急にその目が見開かれる。
「んっ」
ブロンドの娘がその唇で、彼女の口を塞いだからだ。
「ん、んぐっ」
少女はやや困惑していたが、躊躇いがちに娘の首に手を回す。
ラウラは知らなかった。
誰もが振り向く美しい少女を従えている、
そう誇示するために何気なく行ったこのフレンチキスが、
澄泉にとって初めてのものであった事を。
少女がその朱唇を許した事に、どれほどの価値があるのかを。
周囲にはどよめきが起こっていた。
稀に見る精霊のような少女でも、性的な行為に興味があるのか。
ここへ来たのは手違いではないのか。
彼らは鞭を止め、目隠しをとって幼いレズビアンに見とれた。
ぐちゅぐちゅといういやらしい音を聞きながら。
視線と唾液を交わす深い口付け。
ラウラは糸を引きながら顔を離し、息を弾ませる澄泉の髪を撫でて言う。
「こんな顔してるけど、すごいのよこの子。
昨日、ビール瓶みたいなモノで処女を奪われたばかりなの」
さらに辺りが騒がしくなり、澄泉はたちまち頬を赤らめた。
「っ! …それは…だって…」
何かを言おうとするが口ごもる。
見る者には、それが真実であること、少女が初心であることがはっきりとわかった。
――ちょっと、どこ見てるの?
――だってあれ見てみろよ、半端ねぇじゃん
――絶対あいつ、自分のこと可愛いって思ってるタイプよ
――実際、あんなの見たことねえよ。人形かと思ったぜ…
陰口が大きいのはこの国の特徴だろうか。
場には羨望と嫉妬が渦を巻いていた。
女のいる場所ならどこへ行ってもそうなのか。
少女は俯き、ブロンドの娘は口に三日月を描く。
「あら、プレイのお邪魔しちゃったみたいで御免なさい。
この子が乗り気になるまで、私達は隅で見てるわ。ほら」
澄泉の腕を引っ張り、ラウラは壁にもたれた。
少女はそれに従う。肌色の違う妹のように。
気の強そうな目、しかしよほど心細いのだろう、
その手はブロンドの娘から離れない。
■ 3 ■
薄暗い部屋に沈黙が訪れてしばし。
突如それを打ち破ったのは、甲高い悲鳴だった。
澄泉はそちらに顔を向け、絶句する。
そこには幼い少女が四つん這いになり、後ろから抱かれて喘ぐ姿があった。
まだ10歳前後だろうか、子供らしい細長い手足だ。
足首には鉄球つきの拘束具が嵌められている。
明るい赤髪に、北欧系の気品ある顔立ち。
もう長いこと嬲られているのだろう、彼女の肢体は汗にまみれていた。
凝視する澄泉に気付き、傍らの男が解説する。
「気になるか?名前は知らんがスウェーデンのお嬢様だそうだぜ。
ここに来てまだ二週間だが、あの通りさ」
男が示す少女はあどけない顔を蕩けさせ、しかし目から一筋涙を流す。
見ないで、そう言いたげに。
「あ、あなたたち、そんな小さな子に何してるのよっ!!」
気づくと、澄泉は拳を作って叫んでいた。
よく通る怒声が反響し、少女を囲む男が視線をよこす。
入墨や銃痕が浅黒い体の各所に窺えた。
「ちょっと、澄泉やめなさい!…あ、お気になさらず」
ラウラは珍しく焦って少女の口を押さえる。
「んー、むー!」
「バカ、相手を見て物を言いなさいよ!
ここはいつ銃口を向けられてもおかしくない国なの!」
その言葉でさすがの澄泉も抵抗を止めた。
ラウラは大きく息を吐き、内心で舌を巻く。
筋骨隆々たる大男を前に、よくも説教ができるものだ。
「へっ、言うじゃねぇか嬢ちゃん」
男たちは高潔な少女に気分良い視線をよこし、
見せ付けるように背後からの突き上げを強めた。
赤毛の少女は髪を振り乱してあえぐ。
ぐちゃぐちゃ…その音が行為の執拗さを物語っていた。
「あの子も気持ちよさそうじゃない、あれがセックスよ」
ラウラが澄泉に囁き、彼女が眉をしかめるのを見て微笑む。
『男女の関わりに、必ずしも愛は必要でない。
性欲を越えた異性間の友情こそ本物だ』
澄泉はかつてそう熱論していた。
その潔癖さはラウラが一番よく知っている。 だからこそ嘲笑うのだ。
「でもよく見て。あれ、あそこに入ってるんじゃないわ」
ラウラは赤毛の少女を指して言う。
それに応えるように、少女を嬲る男は体位を変えた。
少年のように貧弱な尻肉を割り、赤黒い物が出入りしている。
その下にはぽたぽた雫を垂らす無毛の割れ目。
澄泉は不可解そうに眉を寄せる。
彼女は考えた、膣の後ろに何があるか…
「お・し・りよ。あの子、お尻に入れられてるの」
語気を強めたラウラの言葉に、二人の少女が目を見開く。
赤毛の少女は頬を染め、黒髪の少女は言葉を失くした。
(う…うそ…!)
澄泉にとって、肛門はへそや耳の穴と等しい。
そこを使って性交するなど、どうして信じられるだろうか。
だがそれは事実だった。
赤毛の少女は背後から間違いなく排泄の穴へ突きこまれ、
肩で息をしながら汗まみれの体を前後させている。
「後ろだって立派な性器よ。慣れれば前よりいい子もいるわ」
ラウラは囁いたとき、澄泉の瞳は色を映していた。
煙草の煙を見つめる少年の目。
堕落への憧れ。
(この子、好奇心の塊だしね…)
ラウラは少女の後ろに回り、すっとスカートに手を潜らせた。
澄泉に下着は穿かせていないため、タイツからじかに繊毛を撫で回す。
その唇は歪な弧を描いた。
「あらぁ、あなた濡れてるじゃない!」
声を高めたのは意図的にだ。
人に噂されるほど、この少女は隙を作るから。
「え?…そ、そんなことないわよっ!」
澄泉は大慌てで否定するが、淫核を押す指は確かにぬるぬると滑る。
(ほんとだ…嫌、なんで……!)
自分の体に裏切られたようで、少女はひどく困惑した。
「おしり貫かれてる小さな子を見て感じたのね。
最初はあんなに怒ってたのに、あなたも犯したかった?」
澄泉は唇を噛み、何かを払うように首を振った。
何度も何度も。
「ああ、違うわよね。あなたは犯されたいのよね。
いつも男という男に見られて、汚されるのを待って……」
「やめてっ!ラウラやめてぇっ!!」
澄泉は耳を塞いだ。
ニノの変に優しい声が、ヒステリックな脳裏をよぎる。
初めは同属嫌悪。そして軽蔑。激昂。
『…されるのなら、どうぞお好きになさって下さい』
精一杯の虚勢で迎えた男は、ただ、恐怖だった。
朝まで岩のような体に組み敷かれ、どれほど心細かったか。
それこそビール瓶並みの怒張で間断なく産道を抉られ、
鼓膜が破れそうな絶叫をなぜ止められなかったか。
針や甲羅の強固なものほど、その中身は柔らかい。
少女のトラウマは深かった。
肩を震わせる姿は、赤毛の少女より幼く見えた。
「あらあら、言い過ぎたわね。ほら泣かないで」
その肩を優しく抱きながらも、ラウラの瞳に動揺はない。
まるで計算通りだと言いたげに。
しゃくりあげるたび、動悸が激しくなっていく。
滲む視界の中、赤毛の幼子は目を細め、だらしなく舌を出していた。
酸欠にも恍惚にも取れる表情。
水責めを受けた女囚が最期に見せるような、ぞっとする相貌。
「そこいいですっ、ずっと奥まで突いてください!!」
彼女の英語はもはや訛ったように聞こえづらい。
ラウラの言うとおり、小さな尻で感じているとしか思えなかった。
「貴族のガキもああなっちゃお終いよねぇ」
冷たい女の声。
二週間、男たちの巨根で延々と腸壁をえぐられ続け、
女の身体がそうならざるを得なかったのだろう。
男が深々と突きこむたび、赤毛の少女は絶叫する。
澄泉は傷む心を抑え黙っていた。
こうした悲劇を止められる、祖国の平和を噛みしめて。
「そろそろ出すぞ!」
男は抽送を早めながら、少女の尻を叩き始めた。
ぱんっぱんっという肉の弾ける音が響きあう。
よほど平手が強いのか、雪のような少女の臀部は
たちまち痛々しい朱に染まっていく。だが…
「いや、もっと、もっと叩いてぇ」
赤毛の少女は泣きながら、幼い体を激しく身悶えさせた。
(あんなちっちゃい子が……うしろって、そんなにいいの……?)
彼らの熱気が伝わったように、澄泉の頭は霞んでいた。
内腿をわずかにすり合わせる。
先程よりも明らかに愛液は増し、タイツの前部を湿らせた。
ラウラが横目でそれを見ている。
彼女はすっと床に転がる瓶を拾い上げた。
「どうしたの?したくなってきたって顔してるわよ」
再び澄泉のスカートを捲り、指を這わせる。
だが今度は方向が違った。
その手はタイツに潜り、ふっくらと女らしい臀部を割る。
指が後穴をへこませる感触に、少女の細い背が仰け反った。
「ひゃ!だめっ、そっちはっ…!!」
恥らうその表情に、ラウラは初めて歪みでない笑みをみせる。
(しおらしくしてれば、可愛い子なのよねぇ)
まだ堅い菊輪をくじり、うねうねと指を動かしはじめた。
皺をひとつずつ伸ばすように、丁寧にほぐしていく。
ラウラの手にした瓶にはべっ甲のようなとろみが入っており、
それをつけた中指はあっさりと菊門の締まりをすり抜けた。
澄泉はタイツに包まれた脚を強く踏みしめ、苦悶の表情を浮かべる。
「や、お尻やぁ……」
鼻にかかったような声に、彼女を抱く娘は頬を和らげた。
「そればっかり。本当はどうなの、結構いいんじゃない?」
ラウラは人差し指も挿しいれ、少女の腸に円を描く。
海老反りになる少女の背を支え、ベストに手を入れて
やわやわと乳房を揉む。
「ん…ふぅ…」
澄泉の顔がたちまちに緩和した。
周囲の男女は唾を呑んでその痴態を見つめている。
華奢な美少女が顔を歪める様はひどく嗜虐心を煽り、
背後から嬲る娘は恐ろしいほど手馴れていた。
邪魔に思ったのか、ラウラは身悶える澄泉の隙を見て
彼女の穿くスカートのホックを外す。
舞うようにそれが落ちたとき、感嘆の声が漏れた。
ベストと汗に濡れたシャツ、そして股下まで降ろされたタイツ。
その格好は裸よりもいやらしかったし、
少女のすらっと伸びた脚線が一層あらわになったからだ。
「ほら見て、皆があなたの細い脚を見ているわ」
指を少女の腸内で芋虫のように蠢かし、さらに耳を噛んでラウラが囁く。
澄泉の締め付けが一気に強まった。
(この子、本物のマゾかもね)
さらに二本指を使い、狭い腸壁をひらげては閉じる。
潤滑液が粘った音を立てた。
空気が入り込み、まるで腸内へと放屁されたようにむず痒いはずだ。
鎌を振るように指を根元までくじ入れ、引き抜き、また入れる。
「この動きをお通じがきた時だと思って。どう?気持ちいい?」
指の腹に暖かい粘膜を感じながらラウラは言う。
澄泉は答えず、背筋をくねらせて逃げようともがいていた。
「おしり、きもちぃよ?」
ふと、遠くにいる赤毛の少女が澄泉を見つめ、声を上げた。
彼女はまた別の男に貫かれ、騎乗位で腰を使っている。
「だめよ、だめ!そんな所で感じちゃ駄目なの!!」
そう返す澄泉の口調は赤毛の少女に諭すようだったが、
おそらくは自分に言い聞かせる言葉だったのだろう。
「んー…っ」
澄泉が嫌そうにそう唸った直後、後孔からぶじゅううっと
恥ずかしい音が漏れた。
「あっ」
その時の少女の恥じらいようは、眼前の男を虜にした。
彼らは息を呑む。
「あら、可愛いおならね」
獲物の咳き込む前のような表情が楽しく、ラウラはそう茶化した。
黒髪の少女は羞恥に瞳を潤ませる。
「だ、だからそんなとこ汚いって言ったじゃない!馬鹿!!」
そう叫んでブロンドの娘を突き飛ばした。
油断しきった状態は体格差を埋め、豊満な体は呆気なく床に転ぶ。
ラウラの顔が変わったのはその時だ。
飼い犬に手を噛まれた、そう言いたげな目。
云わば自業自得。
だが、娘が抱いたのは傲慢な憤りだった。
「あっ、ごめんなさい」
澄泉はすぐに手を差し伸べたが、ラウラはそれを冷たく払う。
上品ともいえる澄ました態度が、この時ばかりは鼻につく。
目が合ったとき、澄泉は心臓が激しく脈打った。
また蛇の目。
この目を見るとき、少女はラウラという人間がわからなくなる。
いつも明るく振舞うが、残忍な性格も垣間見えた。
澄泉の通う美術学校の女生徒は、大半が年上男性を好む年頃だ。
ニノも何十という生徒から想いを寄せられている。
それらの乙女から一線を画すのがラウラなのだ。
黒い噂は澄泉も何度か耳にした。
「痛いじゃない」
ラウラは呟き、澄泉が口を開く前に強くその頬を張った。
乾いた音が響く。
「……っ」
気高い少女は甘んじてそれを受けた。
異様な光景だった。
性的な悪戯で辱められた方が頬を打たれる。
赤毛の少女がそうであったように、澄泉の白磁の肌にも赤みがさす。
二人の間には暗黙の了解、力関係が存在した。
何ならいつでも絶交してやる、ラウラの平手はそう伝えていた。
「…何よ、オドオドして?」
ラウラはさらにつけ上がり、澄泉を睨んだ。
「そんなあなたにはこれがお似合いね」
そう言って壁から鉄枷を取り外した。
さすがに少女は身を翻したが、ラウラはその手を掴んで逃さない。
今度は筋力が物をいい、同い年の少女ながら一方的だった。
少女の胸の前で冷たい枷ががちりと音を立てる。
手枷をつけた黒髪の少女、それは傍らで喘ぐ足枷の少女と同じ。
「あ…」
手枷を見て呆然とする少女を尻目に、ラウラは低い声で言う。
「あなたさっき、お尻は汚いって言ったわよね?」
鋭い足音を立てて部屋を回り、隅の木箱を引きずってきた。
食事休憩の時に買ったミルク瓶もバックから出し、
木箱から取り出した金だらいに中身を注ぐ。
「意外だわ。陳腐な表現だけれど、あなたは天使みたい。
周りの方々もそう思っているはずよ」
瓶が空になり、続いて箱から出された物は、澄泉には判別できなかった。
酒を入れるボトルに見えたが、それにしては口が狭い。
それは硝子のシリンダー。
しかも家畜用の1リットルは入るものだ。
もっとも場所が場所のため、拷問用というべきか。
『可哀想に』
どこからかそんな声が聞こえ、澄泉の胸は渦巻いた。
シリンダーに新鮮な牛乳を満たし、ラウラは綺麗に微笑む。
「私たち女子の間でさえ、あなたの排泄姿を想像できないって
噂が立ったわ。そんなあなたのお腹に、一体どんな穢れが
詰まっているのかしら?」
ここに来て、ようやく澄泉も相手の目的に気付いた。
しかし逃げようとする彼女を数人の手が押さえつける。
「いや、放してっ!」
澄泉が叫んでも誰も耳を貸さない。
清流のように光沢の揺れる髪から花の香りがした。
一人が恐る恐るそれを撫でる。
赤子の頬へ触れたくなるように、その黒髪は目を惹いた。
その髪は無残にも床に垂れる。少女が組み伏されたのだ。
「大人しくなさい」
白いシリンダーを逆光に、ラウラの影が少女を覆う。
揺らめく炎に染まる橙色の柔尻が揺れた。
その影にひっそりと息づく蕾。
べっ甲のようなとろみを纏わせ、指の弄りですこし喘いでいる。
誰かが冗談交じりに言っていた、澄泉の菊門は桃色だと。
さすがにそれはない。しかし放射状に並んだきれいな皺は
薄いセピアで、排泄器官と称するにはあまりにいじらしい。
ラウラは背筋をぞくぞくするものが駆け上がるのを覚えた。
「いくわよ?澄泉、力を抜いて」
息を弾ませ、フェイントで少女の反応を愉しみながら、
肉厚なシリンダーの口をそのすぼまりに咥え込ませた。
「…ぅ…ううあ…くぁ…あ゛っ」
誇り高い少女には、そう小さく呻いた事さえ屈辱だった。
だが排泄の穴に雪解けを思わせる冷水がなだれ込み、
腸壁の隅々まで染みいる様はかつて経験がない。
それも半端な量では無かった。
下腹が蛙のように不自然に膨らみ、這った姿勢では
背中の肉ごと骨を残して溶けおちるのではないかと思えた。
「さぁ、もう一本いくわよ」
非情にも親友の声がそう告げる。
直腸を満たされ胃までも圧迫されているというのに、
これ以上入れられるというのか。
どれだけの量だろう、あのミルクは2リットル入りだったはず…
「ほーら、美味しそうに飲んでいくわねぇ」
またも菊輪が押し拡げられる苦しさに腹のミルクが逆流する。
しかしそれも新たな奔流に圧され、すらりとしていた腰つきを
歪にゆがめていく。
「……っっふ、ん゛……っぁふ…っ……!!」
ようやく上から押さえる手が放され、
気息奄々という様子の少女はやもりのように床を這った。
■ 4 ■
ふぅ―――っ、…ふぅぅ――――…、う゛っごほっ……
気の昂ぶる部屋の中、一際苦しげな息が咳き込んだ。
最初こそ四つん這いだった彼女はやがて座り込み、
便意が背筋を焦がしたため立って部屋を彷徨う今に至る。
初めの格好が一番良かったが、もう遅い、
「まだ5分も経ってないわ、頑張りなさいよ」
そう野次を飛ばすのは、少女に陰口を叩いていた女の声だ。
10分我慢すれば外で排泄していい。
ラウラがそう提案したとき、澄泉は一筋の希望を持った。
腹を下した授業で40分耐えられたこともある。
いくら量が多いとはいえ…と、そう考えていた。
(こんな大勢の前で…うんちするなんて)
壁に拘束された手をつき、少女は歯を食いしばる。
排泄――そんな生易しい語感のものではない。
(もし、そんなことになったら…みられたら…)
ぐぉるるるるる………
腹の音は濁りきり、差し込むような痛みがぶり返した。
(………死んでしまいたい……っ)
少女の細い体は、持久走でもしたように汗にまみれている。
前髪が珠の汗を噴く額にぺたりと貼りつき、
薄手のシャツは彼女の体をありありと浮き出しにして。
苦しみから自ら脱ぎ捨てたベストが足に触れた。
彼女の美しい裸体を隠すのは、もはやシャツと
太ももまで下がった黒いタイツのみ。
神々しさははだけ落ち、なまめかしさが芽を吹かす。
容のいい小鼻の横を汗が滴った。
「うぁ…――、くっ、ひぃっ――……」
少女は華奢な筋肉をぎゅっと締め、内の冷えた血脈を堰き止める。
そのカラダから漂う熱気の、なんと香り高そうなことだろう。
国を越え、性差を越えて部屋の者達はその肢体に見入っていた。
「そろそろ7分ね。頑張るじゃない?すごいわ」
入り口を塞ぐラウラは表面上の感嘆を示す。
だが腹を揉みくだすだけで、彼女は好きに少女の瓦解が狙えるのだ。
初めから賭けになどなっていない。
(あと・・・さんぷん・・・あと・・・さん・・・・・)
カップ麺が作れる時間だな、でもそれって長くなかったっけ。
また食べたいな。
少女は揺れる脳でそう考え、気を紛らわす。
限界は限りなく近かった。
肛門付近の腸壁が筒だとするなら、そこがマグマのように蕩けている。
ぼこぼこと沸き立ち、立ち昇る蒸気圧で嘔吐させようとする。
彼女の不運は、それでも括約筋を締めようと壁を伝った事だ。
別の壁に寄りかかった時、そこは冷たく滑らかだった。
顔を上げると、それは天井まで届く巨大な鏡。
恐らく拷問を受ける者にその姿を見せて自白を迫るものだ。
そこに映るのは惨めな自分。後ろに控える数え切れない目。
閉じない口から泡など噴いていたのか。
こんなのぼせた顔が、赤毛の少女に意見した人間のものか。
「これ…わた…し…?」
少女は膝ががくんと笑うのを感じた。
すかさず誰かが金だらいを構えたのも気を緩めさせる。
固く閉じた蕾から、つっと白い朝露が零れた。
新鮮なミルクのひとしずくが見事な腿を伝い落ちる。
「さあ見せなさい、澄ましたあなたの人間臭さを!」
ラウラの厳しい声が、少女の最後に聞く騒音だった。
耳がばりばり鳴り、鼓膜でも破れたようにきかなくなる。
顎が外れそうなほど口を開けた様から、自分が絶叫しているのだとわかる。
その絶叫の終わりは、絶望の始まりだった。
まず子を産むように骨盤が軋んだ。
肛門が開ききり、直腸から熱い奔流が一塊に溢れ出る。
張った腹がへこんでいく。
脚の浮く感覚は絶頂に似た。
その勢いがやや弱まった刹那、少女の恐れたものは括約筋を伸ばしきる。
柔らかいそれは、何度も、何度も。
耳が通ったのか、水音が跳ねるのが聞こえている。
叫びに近い喚声も沸き起こっていた。
菊門の拡がりは収まり、それでも暖かな噴き出しは止まらない。
いつまでもいつまでも続いている。
それが終わった後を考えれば、永遠にでも構わない。
ラウラの考えがうっすらとわかった。
これほどの恥辱を受け続ければ、ニノの事など何でもなくなる。
そうしてうやむやにしようというのだろう。
決してそうなりはしない。
心が壊れるその時まで、失った純潔を忘れはしない。
そして必ず何時の日か、また笑って絵を描こう……
少女はぐったりと床に伏し、静かに長い瞼をとじた。
続く