大樹のほとり

自作小説を掲載しているブログです。

2009年05月

オフィスレイブ 後編

「ねぇ聞いた?亜由美先輩引き抜きだって」
「え、どこに!?」
「海外のかなり大きい会社らしいよ。造船から製薬から、何でも手がけてるってさ」
「でもさ、ネットで見たんだけど、なんか裏の企業とも繋がってるって噂あるよ?
 子会社がAV撮ってるとか……」
「所詮ネットの噂でしょ。亜由美さんがそんな怪しい所行くと思うの?」
「あそっか、ウチで一番縁遠いよねぇ」
「…縁遠いっていえば、別の意味で真琴さんもそういう事に無縁そうだったけど…」
「うん。でも今は、なんか雰囲気違うよね……」

女子社員の噂する中、真琴は颯爽とオフィスを歩く。
少年のように貧相な身体と黒縁眼鏡は変わらないが、その顔には笑みが零れていた。
「あっ、真琴さん!おはようござぁーっす!!」
「はよござーぁーっっすっ!!」
真琴を見つけた男性社員がやはり満面の笑みで頭を下げる。
一人ではなく、その後ろの者も。
真琴はその彼らに意味深な笑みで応えつつ、美穂のデスクの前で止まる。
「あ……おはよう、ございます……」
美穂は脅えた様子で真琴を見上げた。つぶらな瞳の下にはくっきりと隈ができている。
「おはよう美穂。あのDVDの続き、持ってきたよ」
真琴はそう言い、美穂の机の上にディスクの入った袋を置いた。
「ありがとう、ございます…」
美穂は一応の笑みを浮かべる。しかしその笑みには影があった。
「今じゃもうすっかり良い先輩よね」
「ホント。あれも亜由美先輩がガツンと言ったかららしいよ」
「やっぱり亜由美さんって凄いよねー。あたしも亜由美派、入ろっかな…」


・・・・・・もう、やめて・・・・・・・。


活気づくオフィスでのたった一言。
美穂のその呟きを聞いたものは、居なかった。




金曜の22時。
誰もいなくなった社内では2人だけが居残るのが常だった。
人事部の真琴と美穂だ。
人事部では週末の仕事が多く、その居残り自体は奇妙なことではない。
だが彼女らのすることは業務ではなかった。

「この間の連休は長かったでしょう。たっぷり楽しめたわ」
会議室の革椅子に腰掛け、素の声になった真琴がぽつぽつと呟く。
聞く者まで沈痛な気分にさせる重いトーンだ。
美穂は真琴の隣に腰掛け、その話に耳を傾けながらも正面のスクリーン映像から目を離せずにいた。


映像の中では亜由美のむちりとした太腿がのたうち回っていた。
丸裸だ。
肉感的な桜色の身体を仰向けに横たえたまま、首を真琴に抱えられ、腹部を脚で締められていた。
両腕は床と彼女自身の背に挟み潰され、豊かな胸を迫り出させている。
極まっていた。
亜由美の顔は真琴の肩に隠れて顎しか見えないが、それでも苦しんでいるのが解った。

「ドラゴンスリーパー……胴を挟んで動けなくして、頚動脈を圧迫するの。
 真綿で首を絞めるような技ね。カエルみたいにひっくり返すから見応えあるでしょう」
真琴は淡々と解説した。映像の中の彼女も実に冷ややかだ。
逆に亜由美は苦渋の極致にいるようだった。
足を壊れるほどにばたつかせ、隠すもののない若草を覗かせる。
右足首に絡みついたショーツがやけに艶かしい。
亜由美がレイプされている。
美穂には想像だに出来なかった情景が、その絵からは容易く想い起こされた。
しかし亜由美の苦しみは、スリーパーによる窒息だけではないらしい。
おそらく主たる要因は、真琴の足で絞められた胴から響く、ごるる…という雷轟にも似た音だ。

『抜いて、抜いてえええぇっ!!トイレに…もおトイレに行かせてよおおぉっ!!!』
突如、映像の中で亜由美の叫び声がした。
「浣腸してやったの、ムカついたから2リットル以上はぶち込んだかな」
真琴が言う。その「ムカついた」を証明するように、映像内の真琴がドスの聞いた声を発した。
『だから、嫌なら自力で逃げなさいって何度も言ってるじゃないですか。
 理解力ない女って嫌いなんです、心底』
『無理、無理よおっ!!出来たらしてるわよ、なんでこんなに……強い、のよぉ……!』
亜由美は泣いているようだった。心はもう折れているように見えた。

「一応フェアな戦いだったのよ。だいぶ調教も進んでたんだけど、一度アイツがブチ切れてね。
、…何だったかしら。
 ああ、営業課のあいつの椅子に縛り付けて、綿棒で徹底的に尿道を開発してあげたときよ。
 面白かったわ。初めの、痛いんだけど唇噛んで堪えてるブッサイクな面も傑作だったし、
 だんだん感じてきたらしくてクリトリスがビンビンに勃ちあがっちゃったりもしてね。
 自分の席ってことでプライドでもあるのか、背筋しゃんと伸ばして凛々しい顔してんだけど、
 愛液なんか駄々漏れだし、そのうち私もコツ掴んで潮噴かせまくって、机の書類全部だめにしてやった。
 これは契約書だから粗末にしちゃダメですよ、って念押して机の前に貼り付けるんだけど、
 それでもびゅっびゅ潮噴くんだもん。自業自得よね。」
真琴はそうまくし立て、情景を思い出したように陰惨な笑みを浮かべた。
「……とにかく、それでアイツが文句言ってきたわけ。
 もうこりごりだ、殴り飛ばして白黒つけてやる、ってヤンキー臭い言い分でね。
 でもアイツその時調教のせいでフラフラで、そんな奴に勝っても嬉しくないじゃない。
 だから一週間猶予を与えたの。
 私にとっても、の猶予だけどね。苛ついたから鍛えまくったよ。血が出るまで鍛えた。
 そして一週間後が、コレ」
真琴はそう言ってスクリーンを指す。
そこでは変わらず、亜由美が鳴動する腹を真琴に締め上げられ悶絶している。
「コレは2回ほど殴り倒して意識飛ばした後、引き摺り起こして浣腸したあとよ。
 圧勝だった。初戦で感じた不安がバカみたいに思えるほどにね。
 自惚れじゃないけど、私才能があるよ。亜由美をギタギタにする才能」
真琴は椅子に腰掛けたまま拳を握る。

美穂は息を呑んだ。
真琴は相も変わらず小柄で、病的に色白く、眼鏡をかけた陰気な女だ。
しかしその拳は、手の甲側の指付け根に分厚い血ダコが出来ていた。
殺せる、と美穂は思った。この拳は女を充分に殺しうる。
亜由美もそれを知らなかったわけではないだろう。
彼女は本当に、よくやった。

『お願いよおぉっ!!お、お腹が苦しくて、おかしくなっちゃいそう!!
 もう離してぇ、ぜったい逆らわない、何だってします!!だから、だから……』
『だから?』
『と、トイレに……!』
『トイレ?…ねぇ何ですかそれ、別の言葉で言うようにって教えましたよね』
『…………っ!!』
『嫌ならいいんですよ、本当に限界を超えたならどうしたって溢れるものですし。
 でもそこまで膨らませたエネマバルーンだと、おしりは引き裂けるでしょうね』
『……う、うっ……!!おね…がい、です……!!う、
           …………うんち、させてくださぃ……!!!』
亜由美は、堕ちた。その瞬間、映像内の真琴が亜由美の首を絞める手を緩め、
自由になった左手で風船のようなものを握り込んだ。
しゅううっと何かが抜ける音がする。驚くほど勢いよく、長く。
『あああっ、だめっだめえぇーーー!!我慢できない、で、出ちゃう―――――!!!!』
亜由美の叫びも同じほど悲痛で長い。
その叫びが尻切れになり、腹筋が緩んだ瞬間。
バスッという音と共に黒いゴム製のアナルプラグが亜由美の股座から弾けとび、
続いて透明な放物線がフローリングの床に露の線を成した。
その線は次第にうっすらと色がつき、気付いた時には茶色に濁りきった汚液と化していた。
ぶりゅいいいっ!!びちっ、ブビィイイィッッ!!!!
音にすればそんなもの、いや、もっとおぞましく複雑だ。
『おお臭い臭い。涼しい顔して、目元もぱっちりで、すらっとしたスレンダーな体つきで、
 そんなあなたでも中身はこんなものなんですね。まるで本物の畜生です。
 不細工な私だってここまで臭い排泄は経験がありませんよ。』
真琴はなじりながら、再び亜由美の首と胴を締め上げる。うえっと亜由美の声がする。
 
腐りきりドロドロになった熱い臓腑を全てぶちまけるかのように、排泄は長く続いた。
汚液は四方に飛び散り、汚物は場の寒さに逆らって湯気を立ち昇らせる。
その排泄は相当に苦しいのだろう、亜由美の桜色の脚は尻を突き出したまま爪先立ちになり、
両足の指はぶるぶると震え、内腿からは降るような汗が滴っていた。


「汚いもの見てショック受けた?」
現実の真琴が椅子を軋ませて笑みを浮かべる。美穂は言葉もなかった。
「…ちなみに、これが昨日の“亜由美”よ」

真琴がパソコンを操作すると、映像は汗まみれで失神する亜由美から別の場面に移った。
次に映ったのは女性の下半身だ。
「あんたなら解るでしょ、亜由美よ。あんたも社内の男連中も、ミニスカから覗くこの脚をよく見てたものね」
真琴は自嘲気味に言った。
美穂は導かれるままに画面を眺める。

映像では背景に石灰の壁があり、その中心にある穴に亜由美の括れた腰が収まっている。
まるでギロチンかマジックショーだ。
「ちなみに、壁の向こうじゃ亜由美、口を使って奉仕してるの。
 外人に負けないディープスロートの練習ね。
 フェラチオって嫌いだから映してないけど、そっちも苦しいはずよ。
 手首壁に繋がれて口枷まで嵌めてるから抵抗できないし、客人はウチの男共。
 単に惚れてる位ならいいけど、腕相撲で負けた、セクハラ摘発された…とか恨みある奴も多いしね。
 今朝も報告が来たよ。えづくときの喉奥が最高だったとか、初めて涙流すところ見たとか」
よく聞けば、カメラは確かに微かなえづき声を拾っているらしかった。

壁に阻まれ、映像からは亜由美のすらりとした下半身しか見えない。
だがそれで充分な衝撃だった。
女である美穂が見惚れるほど綺麗なヒップ、だがその中心にはバルブのようなものが埋め込まれており、
聞くだけで不安になる重い音で唸っている。
「この映像を撮る代わりに、って借り受けた米産のヘビーアナルファックマシンよ。
 迫力あるでしょ。30歳からって年齢制限ついてるぐらいだしね。
 ゆくゆくは亜由美も海外に出す気だから、今のうちにアナルに慣らしとかなきゃ。
 洋物っていえばアナルにディープスロートだもんね」
真琴が淡々と解説する間も、それをかき消すようにマシンは唸りを上げる。

マシンは馬が駆けるように凄まじくうねりたくっているが、外れる事は望めない。
マシンの淵からは幾本ものゴム帯が伸びており、亜由美の腰ベルトにしかと繋がれているからだ。
尻穴に刺さる突起部は異様に太い、直径6cmは下らないだろう。
それを埋められた菊輪は皺もなくなるほど伸びきりピンク色に充血していた。
そして穿たれている。
「太くて長くて適度に堅い。黒人の勃起しきったペニスを型にしたらしいよ。
 本当に大きいから、直腸ってあるじゃない。MAXだとあれより奥に入るんだって。
 アメリカ女でそれなんだから、日本人にはどうなんだろうね。
 ああ、当たり前だけど亜由美には、慣れない程度にMAXを堪能して貰ってるわ」
真琴は舐めるように語る。
映像では確かにマシンが暴虐的な唸りを見せていた。
どちゅ、どちゅ、どちゅっ………
マシンはローションでも使っているのだろうか、やけに湿った音で抽迭を繰り返す。
亜由美の後孔はそれに追従するように喘ぎ、接合部から黄色い液を噴き出していた。
その尿か糞便か判別のつかない汚液は、亜由美がトイレに行くことも赦されぬまま穿たれ続けている事を如実に物語る。

「すごい画だよね。上場企業の看板嬢になれそうな上玉が、暴走した機械にアナル責めされて汚物を漏らしてる。
 音も凄いし、所在無く踏み変えられる脚だって、悔しいけどそそるじゃない。
 これ、試しにビデオに撮って海外サイトに乗っけたんだけどさ、もう5万アクセス超えてるよ」
「…これを……流したん、ですか……。」
「ええ。でも、そんなに酷い事でもないわ。撮るって言うのは本人も了承済みよ。その上で、ほら」
映像では、ちょうど真琴が現れ、何か声をかけながら亜由美の秘部に手を差し伸べていた。
美穂は息を呑む。
散々に使い込まれたらしいそこは、だらしなく襞を開いて汁を泌ちさせていた。
そして蕩けるように真琴の指を飲み込み、手の甲を迎え入れ………手首までの蹂躙を赦した。
「すごいでしょ、このとき子宮に触ってるのよ。でも、痛がらない。
 想像できた?…あなたには無理でしょう、美穂。
 もう亜由美は、あなたの知っている亜由美ではないの。」
真琴はそう言うとぷつりと映像を止めた。あ、と美穂が声を上げる。
真琴はそれを見て、笑った。
それはいわゆる人間の笑みではなく、もっと何か異質の、蝙蝠の啼きような。

「可愛そうねぇ美穂、じゃあせめて、あなたには昔の亜由美をあげるわ。
 まだ私と並び立てたころ……たぶん、一番美しかったころの映像をね」

真琴は今まで見ていたディスクを取り出し、代わりに古いディスクを差し込んだ。
日付は2ヶ月前の金曜日。あの、決闘の日の夜だ。


暗い画面が映る。どこかの家の風呂場だろうか。
そこには2人の女がいた。スーツ姿の真琴と、全裸の亜由美。
左足の包帯が痛々しい。あの日の彼女だ。
亜由美は後ろ手に縛られ、その縄の先をフックに通して宙吊りにされている。
そしてその細い身体はやや前屈みになっていた。
『んっ……っは………………っぁ、ぁっ…………は…ぁっ………!』
荒い息に混じり、微かな、微かな声が漏れ聞こえる。
『いい声が出てくるようになりましたね、先輩、ね』
淡々とした口調で言うのは真琴だ。
彼女は左手にローションのボトルを持ち、それを手袋をした右手にたっぷりと注ぎつつ
事務的に亜由美の秘所への愛撫を続けていた。

それは音もなく、激しい動きもない単調なものだ。
しかし見ている美穂は体中が痒くて仕方なかった。それほど女にとって恐ろしい嬲り。
女の身体を知る女だからこそ為しえ、女を心底憎む女だからこそ徹底できる地獄の責め。
亜由美の両脚の内側が余すところなく濡れ光っていることからも、それがとうに常識的なレベルを超えているのがわかる。
それでも、亜由美は屈していなかった。
『思ひ知らせてやる……!!……ッ……んたに、かららず……思ひ知らせてやる………ッ!!!』
淫核の皮をやわらかく剥かれながら、身体をぐらつかせ、唾を一杯に垂らし、
それでも亜由美は闘っていた。


                        オフィスレイブ END

新型ウイルス

がやばいらしいですね。
淫フルではなく、PCの方の。
なんでも聞くところでは、感染サイトを覗くだけでアウトで、次々亜種を作り出すせいでウイルスチェッカーでも検出されないとか何とか。
ねこのPCは過保護に定評のあるVistaたんなので大丈夫だとは思いますが、実に恐ろしい話です。

淫魔の仔

氷を投げ入れると、ウォッカは蜂蜜色の渦を巻いた。
俺はそのウォッカを一息に飲み干す。
喉が焼けつくように痛み、肺は熱気に膨らむ。
 ――あと 何発できるだろう?
蕩けそうな倦怠感に包まれながら、ぼんやりとそう考えた。



事の始まりは14年前、俺がまだ学生で一人暮らしをしていた頃だ。
その蒸し暑い夜、コンパで誰も連れ帰ることが出来なかった俺は、目当ての娘を想いながら悶々としていた。
その枕元へ突如、若い女の姿が浮かび上がったのだ。
始めは金縛りかと思った。だが女がベッドへと覆いかぶさってきたとき、俺は違うと気付いた。
それは幽霊と呼ぶにはあまりに肉感的で、芳しく、そしてあまりに美しすぎたからだ。

女は一糸纏わぬ丸裸で、肌は西洋人のようにうす白かった。
胸は掌から余るほどに大きく、腿は細く引き締まっているが腰は丸みを帯びている。
いい女だ。陳腐な表現だがそうとしか言いようがない。
女神像がそのまま具現化したような、男に本能的に抱きたいと思わせるカラダだ。
淫魔。
脳裏にそんな言葉がよぎる。
その瞬間、やつは俺の心を読んだかのようにうすく微笑んだ。

『こんばんわ。新鮮な精をたっぷり溜めこんでいるのは、あなた?』
女は俺の上へ覆い被さったまま手を触れてきた。
豊かな胸が震え、青白く光るような腕が俺の体に伸び、その表皮の全てからは
石鹸のようなえもいわれぬ安らぎの香りが立ち上っている。
俺の頭は緩慢にその情報を捉えていた。
女が触れると、俺の着ていたシャツの繊維は手品のようにはらりと解ける。
『…わぁ……』
脇にシャツがめくられた後、女はどこかあどけなさを感じさせる瞳でそう言った。
俺は高校時代には陸上でそれなりに鍛えていた。
女はその俺の胸や腹筋を撫ぜながら、じっと俺の目を覗き込んでくるのだ。
人に見つめられるということがどれほど緊張するか、この時俺は思い知った。


「はッ……、あ……は、ぁ…………っ!!」
胸を撫ぜられる、それだけで俺は疾走したように息を切らしていた。
女はそんな俺を母親のように優しく見つめ、今度は手を腹筋より下に差し入れてきた。
また服の繊維がほどけ、隠すべき部分が外気に晒される。
むうっと男の匂いが立ち上るのが俺自身にも解り、ひどく恥ずかしかった。
だが女は匂いに動じるそぶりもなく、ゆったりとした動作で逸物の根元をつまんだ。
奴がしなびたそこを扱きあげた瞬間、
「うっ!」
俺は物の中にひどい痛みを覚え、声を上げてしまった。
『お若いですね』
女がそう囁き、さらに扱く。俺の逸物にはその動きに合わせて熱い血が通い、
たちまちにそそり立ってしまう。
『ふふ、脈打ってる』
女の嗤いのあと、逸物はその白い手にくるみ込まれた。
『力は抜いておいて下さい。今、“通じさせて”あげますから』
女はそう言った。その不可解な言葉の意味を、俺はすぐに思い知る。

「ああっ!!い、いぃいイクッッ!!!」
数分後、俺は女のような声を上げてベッドでのたうち回っていた。
女の、人間であれば手コキと呼ぶべき責めは絶妙だった。
女の手の中はどんな女性器とも比較にならないほど心地いい。
逸物の真ん中にある硬い芯をすり潰され、その周りの海綿体をふやかされるような、 そんな感覚が脊髄を巡り続ける。
背中は汗にまみれ、足は力をなくして投げ出しながら、腰だけが深くベッドを沈ませた。
『すごい、まだ出てくるんだ』
やわらかく握られた逸物からは、コップに注げるほどの精が溢れ出ている事だろう。
女はその精の全てを桜色の唇で受け止めているようだった。
その飲み干す顔の、なんと幸せそうな事だろう。
やはり彼女は淫魔だ、とその時俺は確信した。


何時間が経ったのか、ひょっとしたら数十分しか経っていないのか、
女はようやくに俺の逸物から手を離した。
『お疲れさまでした。ちょっと、搾り過ぎたかしら』
女が俺の前髪をかき上げる。視界が汗で滲んでいる。
『うっとりしちゃって…おいしそう』
女はそう言って俺の上に跨りなおし、そっと秘部を覗かせた。
俺は思わず息を呑む。
滲んだ視界に映る、鮮やかな桜色をした薔薇の花。
極上の霜降り肉でもこんなに美味しそうに見えたためしはない。
『いただきます。』
女は俺の逸物に手を添え、目を閉じて味わうようにゆっくりと腰を落とす。

女の胎内は至高の世界だった。
熱いか冷たいかさえ感じられず、ただただポンプのように精液を吸い上げられた。
いくら若いとはいえ、一度果てればそれまでと思っていた射精が何度でも訪れるのは、全く未知の体験だった。
『ああっ、凄っ、凄い!もっと、もっと奥へ、もっと沢山下さいっ!!』
女の方も良いのだろうか、髪を振り乱して笑みを見せた。

 ――俺は、この娘に犯されている。

蕩ける思考の中、その考えだけが浮かぶ。
この淫魔を前にして、俺は今、生物学上オスとされた乙女でしかない…と。
そしてそれが心地いい。


その夜以来、彼女は毎日俺の夢枕に立つようになった。
彼女はリリスと名乗った。
だがそれは『日本人』というようなレベルでの種別であり、彼女固有の名は無いらしい。
ともかくも、俺とリリスは毎晩のように身体を重ねた。
俺は数年間女に飢えていたし、リリスは俺の精が気に入ったと言う。
お互い性にまつわる利害が一致したわけだ。

だが、俺とリリスの性欲はまるで桁が違った。
俺が若さにまかせて抜かずの4・5発をしても、リリスには前戯にすらならない。
枯れ果てて限界が来るのは俺ばかり。
そうなれば、自然と2人の時間は俺からリリスへの奉仕が多くなる。
たとえばベッドで脚を開いた彼女を後ろから抱きかかえ、首筋に舌を這わせながら秘部をくじる。
そうやって気分を高めながら回復を待つのだ。
『ああそこ、凄くいい…』
リリスは脚を開いてうっとりとした声で言う。
淫魔の性感許容量はやはり人間とは違うらしく、彼女はいくらGスポットを責めても、淫核を撫で回しても涼しい顔をしていた。

 ……始めのうちは。

人間は、暫く食事を減らしていると胃が小さくなる。
それと同じなのかは解らないが、彼女も次第に俺の愛撫に反応を示すようになっていった。

『あらあら、今日は頑張るんですね』
出会って一年になる頃、クンニを続ける俺にリリスがかけた言葉だ。
俺はこの言葉に違和感を覚え、それは彼女の汗を見て深まった。
リリスには淫魔としての矜持がある、性に関して生半可なことでは動じない。
その彼女が俺のいつもの愛撫に対して、明らかな昂ぶりを見せているのだ。
「感じてるのか?」
『そんな、まさか………っあ、……っ………ぃ……!!』
返す言葉の最後、彼女はイく、という言葉を飲み込んだように見えた。
それにその事実に関わらず、彼女の恥じらいの場所は滴るほどに潤みきっている。
まるで人間の娘のように。

思えばリリスはこの時、俺という人間と親しくしすぎたのかもしれない。
精を貪るという本能を二の次に、人じみた愛撫に興じた。それが一年だ。
そうすれば淫魔も人間に近づくのではないか。
俺がその結論に至ったのは、リリスが『身篭っている』と知らされた後だった。

『淫魔に子供は、いらないの』

リリスは困ったような顔で腹を撫でた。
『仲間内からも色々と非難が出ていて……
 もう、ここには通っちゃいけないみたいです』
「…そう、か……」
答えようがなかった。
子種を生みつけたのも俺なら、彼女を人間に近づけたのも俺だ。
こういう場合は、男の責任の方がきっと重い。
『ごめんね』
今にも全てを背負い込んで消えようとする彼女を呼び止め、俺は一つ提案をした。
「君の産んだ子を預からせてくれないか。
 …きっと、幸せにしてみせる」
と。

それから幾月か後。
朝日の差し込む部屋の隅に、毛布に包まれた泣き声が飛び込んできた。
俺は彼女を亜理紗(アリサ)と名づけた。
それが、リリスを思い出させる響きだったから。


亜理紗は母親に似て見目良く、歳の割に発育も良くすくすくと育った。
性格にも素行にも全くの問題が見られず、淫魔の娘ということで気負いしていた俺が肩透かしを食らうほどだった。
…………彼女が初経を迎える日までは。

『ねぇもっとよ、もっと出るんでしょう?』
亜理紗に赤飯を炊いてやった日の翌日、俺は仕事帰りの路地で偶然に彼女を目にした。
彼女は路地裏で一人の少年を壁に押し付けていた。
相手はいつも仲良く遊んでいる同級生だ、喧嘩でもしているのだろうか。
そう思ってよく見ると、それは喧嘩などではなかった。
亜理紗は少年のズボンをずり下げ、手と口でもって精を搾り出していたのだ。
少年は泡を噴いて立ち尽くしている。幼い男根は痛々しいほどに屹立し、冗談の様な量の精液を足に垂らしていた。
亜理紗はその彼からなおも精を搾り出し、手にした昆虫採集用の瓶に白濁を溜めていた。
よく見れば犠牲者は少年一人ではない。地面にはさらに3人が下半身を露出させ、ぴくりとも動かずにいる。

俺は即座に踵を返し、その現場を後にした。そして公園で顔を洗い、頬を叩いた。
寝ぼけているのだ、そうに違いない、と思う為に。

しかし、現実は変わらない。
帰宅して亜理紗の部屋を覗くと、彼女は服を全て脱ぎ捨て、椅子に座りながら何かに耽っていた。
覗けばその左手には昼間の精液を溜めた瓶があり、右手は股座に差し込まれている。
もう随分長いこと自慰に耽っていたのだろう、椅子の座部は濡れて変色し、淫核は固くしこり立っている。
「亜理紗、何してるんだ!!」
俺は夢中でその右手を取った。指の先から飛沫が跳ね、メスの強烈な香りが部屋に漂う。
「あ、おとうさん…。おとうさん、おと……おと、こ。
 …おとーさんの、みせてぇ……!」
俺は思わず右手を離す。俺たちの愛娘は、心の底からぞっとする目をしていた。

『淫魔に子供は、いらないの』
そうか、…そういうことか。

「れぇ。 お とうさん…?」
亜理紗は椅子から崩れ落ち、這うようにして俺の元へ近づいてくる。
西洋人形を思わせるぱっちりとした瞳、うすく朱の線を引く唇、
齢13にして既に只事ではない青い色香を纏わせたカラダ。
俺が作ったのだ。
俺が、作ってしまったのだ。
このまま俺が逃げても、彼女はどこぞの男どもを喰らい続けるだけだ。
自分がなぜそんな事をするのかもわからないままに。

なら……俺が、せめて犯される理由のある俺が、彼女の相手をするしかない。



ようやくウォッカが効いてきた。精力剤と喧嘩をして最悪な気分だが、身体は十分に熱い。
俺は意を決してリビングの扉を開けた。
そこには胡坐縛りに縛められ、二穴に轟音でうねるバイブレーターを捻じ込まれた愛娘がいる。
「おとぉうひゃん、ひんぽ、おひんぽ…くらひゃい……」
アイマスクと猿轡を外せば、途端に彼女は潤んだ瞳で懇願してくる。
まだ13の小娘ながら反則的なほど男心をくすぐる哀願。
俺は彼女の秘部から剛直を引きずり出し、代わりに痛いほどいきり立った逸物をその愛らしい割れ目に突き入れる。
熱くうねる胎内にたちまち射精感を覚えながら、俺はまた歯を喰いしばる。


 ――あと 何発できるだろう?



                               THE END 
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オフィスレイブ 前編




「こういう書類はコピーしてから、って前にも言いましたよね」
七瀬真琴(ななせまこと)はファイルを手に、眼前の新人へ言葉を投げた。
抑揚のない口調、眼鏡ごしに睨みつける鋭い眼光。
そこには、叱責が期待を込めたものではなく、ただ相手を疎んじてのものだと言う事が
あからさまに見て取れる。
騒がしかったオフィスも、日常会話にはありえない低いトーンに局地的に静まり返った。

「は…はい、す、すみません………!」
新入社員の美穂は恐縮しきり、青ざめたまま頭を下げる。
入社したての頃は噂話の好きな、明るく人懐こい娘だった。
しかし真琴に毎日のように絞られ、入社2ヶ月目にして借りてきた猫のように縮こまってしまっている。

 (鬱陶しい……)
美穂の社交的な性格は、真琴がこの世で2番目に嫌いなものだった。
気に入らないことは他にもある。
高学歴で、少し幼さが目立つものの可愛がられそうな愛嬌。
19歳で何も出来ないこの青二才が、4つ上である真琴よりも上、という空気が社内にはあった。
しかし、それらはあくまで「ついで」に過ぎない。
真琴が真に美穂を嫌う理由は、彼女がある女性のお気に入りだからだ。

「そんなに気にしなくていいよ、七瀬って結構変わったところある子だから。
 最近ちょっと目に余るし、今度何かあったら私から一言言っとくからさ」
美穂の頭を撫でてそう言う女性こそ、真琴が最も忌み嫌う平山亜由美(ひらやまあゆみ)だった。
所属は華の企画営業部。
24という歳ながら、新人と見紛う瞳の輝きを持つ女。
学生時代はテニスで名を馳せつつも「スケバン」を髣髴とさせる硬派であったらしく、腕っ節は社内の腕相撲大会でラガーマン上がりを下したほどだ。
性格はおおらかで面倒見がよく、端正なルックスはそのままメディア宣伝に使えるとの声もあった。
その影響力は当然に強く、社内では殆どの女子社員が「亜由美派」に属している。
彼女がセミロングの髪を広げて現れると、社内の朝の空気が一新される。

真琴はそれが気に食わなかった。


苛ついている。
帰宅した真琴は、腕を見てそう感じた。
白い、美白とは違う病的に白い腕には、産毛よりもやや濃い毛がうっすらと浮いている。
昨晩手入れをしたばかりなのに、だ。
それは彼女の感情が昂ぶっている証拠だった。
「はん…」
真琴はひとつ自嘲気味に笑うと、机に転がった注射器を拾い、腕に添えた。
白い表皮を破って沈む針がうっすらと見える。
その感覚と体内に染みる液を感じ、真琴はほくそ笑んだ。
注入したのは男性ホルモンだ。

『言っちゃ可愛そうだけどさぁ、七瀬さんって女らしさゼロだよね』
『チビで眼鏡で、いっつもしかめ面だもんね。あそこまで色気放棄できる神経が解んないよ』
学生時代、よく聞こえてきた会話だ。
真琴はそれをもっともだと感じた。150ほどしかない貧相な身体も、黒縁のださい眼鏡をかけている事も、苦い顔が基本になっている事も全て事実だ。
鏡を見るたび落胆はしたが、マシになろうという足掻きは15,6でやめた。
限界を知ったのだ。
どんなに化粧を覚えようが、どんなに栄養を取ろうが、女として行き着けるのは並みより下。
赤点をめざし勉強する者がいるか?
その自問に対する真琴の答えは、否だった。

しかし、真琴は何もかもを放棄したわけではない。恵まれぬ者は恵まれぬなりに落ち所を探す。
真琴は生来毛深いほうだ。きっとそれは、女ではない女として生きろということだ。
そう思い、いつしか開き直ったように男性ホルモンを摂取する自分がいた。
女でないとは言え、無駄な毛はきちんと剃る。筋肉をつけても見た目には細さを保つ。
その上で鍛え込んだ。
女を超える女として、女なぞには到底できないと思えるほどのトレーニングを課した。

「92……93、94…95……」
にちにちと畳を鳴らしながら、真琴は指立て伏せを繰り返す。これで8セット目だ。
指立て伏せは毎日1000回をノルマとする。体質なのか、それだけこなしても腕は枝のように細い。
彼女はそれら一回一回を噛み締めるようにこなした。
乳酸の限界が来るのは600回あたり。自分と同じ身体をもった人間ならそこで倒れ込むだろう。
しかし真琴はそこで水滴に塗れた眼鏡をとり、歯を喰いしばって腕を奮い起こす。
支えとなるのは自分への陰口だ。
『陰気な声を聞くだけでイライラする』、『向かい合って食事なんかしたくないよね』。
そんな言葉が限界を迎えた腕の一筋一筋を爆ぜさせる。

真琴は確信していた。自暴自棄とも思えるハードトレーニングを続けてはや7年、
今の自分の筋力はプロの格闘家にすら通用するだろう、と。
実戦経験はないかもしれない。だがイメージトレーニングは十分だ。
あの女、この女、憎い相手を殴り殺す一連の流れを夢の中ですら夢想していた。
ああこれは危ないな、と思い始めて一月あまり。
美穂と、そして亜由美に対する脳髄が焦がれそうな激情は、いよいよ発散させることが
難しくなりつつあった。

そして、ある日のことである。




「七瀬、ちょっといい?話があるの」
そう声をかけられ、真琴は面倒臭そうに顔を上げた。
目の前に亜由美が腕を組んで立ちふさがっている。
長身の亜由美に見下ろされるだけでも不愉快な真琴だったが、今の亜由美は柳眉を吊り上げ、怒りを顕わにしている。
真琴には、それがドブネズミが牙を剥くよりも醜悪に思えた。

「何でしょう。私の業務に何かミスでもありましたか」
真琴は眼鏡の淵をずり下げて嘆息した。言葉を交わすのも億劫だった。
亜由美の怒りがさらに層を成したのがわかる。
「ミスはないわ、あんた個人の業務にはね。でも、先輩としては褒められない」
激昂で亜由美のワイシャツがはだけ、僅かに谷間が覗く。
それがまた真琴の気に障る。
はだけ具合が垢抜けた亜由美をより洒落て見せ、そしてそれが意図せずとも男を射止めるから。

「昨日も美穂に些細なことで書類作り直させて、終電過ぎまで残業させたそうね。
 私はそっちの事情は良く知らないけどさ、まだ仕事の目的もよくわからない新人に、
 叱るばかりで伸びるとは思えない。
 ……美穂、あんなに真面目で、すごくいい子じゃない!」
亜由美は少し鼻声になっているようだった。
他人のために怒り、泣いているのだ。
感受性が豊かなのだろう。それは良い事かもしれないが、真琴には理解できない。
「正直言って、今の七瀬のやり方は見過ごせない。
 話、させて貰うよ」
亜由美の強い視線を受け、真琴は心に沸々と湧き上がるものを感じていた。
相手が今、自分に持っている不快感と同じ、いやもっと根源的な怒りが湧き上がっていた。
恵まれた人間が指図をしている、それが理不尽で仕方ない。

真琴は静かに目を閉じ、眼鏡をかけ直すと亜由美の方に体を向けた。
思えば、こうして彼女と正面に相対するのは初めてかもしれない。
「わかりました。今日は少し仕事が立て込んでいますので、夜の10時にご連絡差し上げます」
「OK、必ずよ」
レンズの向こうで亜由美が頷く。
真琴はその即断を称えようか嘲ろうか迷った。
週末の22時、誰もいない社内での立会いを亜由美は受けたのだ。


真琴が指定したのは地下の倉庫だった。
音が漏れず、十分な広さがある。高みから強烈なライトに照らされたそこはリングのようだった。
真琴は資材のひとつに腰掛け、缶コーヒーを傾けた。
興奮の為かひどく喉が渇く。
「ごめん、待たせたかな」
その時、倉庫の扉を押し開いて亜由美が姿を現した。
亜由美は気持ちの整理をつけてきたのだろうか、穏やかな表情だ。
「夜も遅いから簡潔に話そうか。私はね、七瀬」
亜由美はそう切り出そうとし、真琴が自分へ向けて缶を放ったのを見て口ごもる。
オレンジジュースだ。
軽やかに缶を受け止め、亜由美は戸惑いを浮かべた。
彼女の中には、真琴が気を利かせてジュースを奢るなどという想定はなかったのだろう。
「……あらぁ、悪いね!」
亜由美は無邪気に笑みを浮かべる。
このままいけばいくぶん和やかな空気になるだろう。ともすれば親密な関係を築けるかもしれない。
真琴がなにもしなければ。

しかし、それには真琴は亜由美を嫌いすぎていた。
見目良くスタイルもよく、情に篤くて人望まである、そんな亜由美を妬みすぎていたし、
何より今まさに缶を傾けて果汁を飲もうとする亜由美は、無防備に過ぎた。
対話をする気など端からない。ジュースの差し入れは親睦の為ではない。
それを飲むときの大きな隙をつくる為、
喧嘩慣れしているらしい亜由美に、コーヒー缶をひしゃげさせる右拳を確実にぶち込む為だ。
真琴は奥歯を噛み締めた。
何千回、何万回と夢想してきた瞬間だ。
重心を低くし、しっかりと地を踏みしめ、指立て伏せで鍛え上げた握力をもって拳を石ほどに固める。
腰の捻りを加え、放つのは渾身のストレートだ。
「ふぅ、おいし…」
缶から口を離した亜由美の顔面へ、入れ替わるように叩き込まれる拳。
――鍛えすぎたかな。
そう思ってしまうほどあっけなく、手の甲にぐちゃっと何かの潰れる感触が伝わってきた。
何か? 亜由美の鼻だ。
あの綺麗に筋の通った、顔の美しさを纏め上げる部分だ。

「げほっ!ぐ、ぐふ、う!うぶううっっ!!!」
亜由美は缶を取り落としながら鼻を手で覆った。
指の間から黄色い果汁と鼻水、血の混じった混合液が滴り落ちる。
「…こ……この、野郎……ッ!!」
目から涙を流しながら亜由美が睨みつけてくる。
「あら、良い眼。いつもの善人ぶった目よりよっぽど好きですよ、そのガラの悪い目つき。
結局、それが本性みたいですね」
真琴は血に塗れたコーヒー缶を投げ捨てて言った。
事実、今の亜由美の目には不快さではなく、今まで感じたことのない凄みを感じた。
「うるさい!アンタ何のつもりよ、先輩に手あげるのはクビを覚悟の上ででしょうね!」
尚も鼻を押さえて叫ぶ亜由美に、真琴は淡々と返した。
「あら、このこと外に漏らすおつもりですか?」
「…………!!」
真琴の言葉に、亜由美ははっと息を呑む。

真琴は亜由美の性格を良く知っていた。
『出来る』人間にありがちなように、彼女は人に弱みを見せない。
仕事の協力を請うようなことは基本的にしないし、弱音を吐いているのも見た事がない。
昔から姉御肌の一匹狼を気取っている亜由美は、暴力を振るわれた、鼻を折られたという
事実があってもそれを漏らさない。
ましてやそれが屈強な男にであればまだしも、小柄で地味な目下の者からとなれば、
気の強さで鳴らす亜由美のプライドが話すことを赦さないだろう。

「最低ね、あんた……」
ようやく鼻血の止まった亜由美が唇を噛んで拳を握る。
円状に赤い筋の走ったその顔が痛快で、真琴はこの数年で久々の笑みを浮かべた。


真琴の勝算は十分にあるはずだった。
亜由美の喧嘩の強さは聞いていたし、自分に格闘経験がそうある訳でもない。
それでも今この状況でなら勝ち得た。
「歯ぁ食い縛んなっ!!」
眼光も鋭く挑みかかろうとした亜由美は、しかし三歩と歩けずにたたらを踏む。
しまった、という表情がありありと見える。
理由は靴だ。彼女は仕事のままハイヒールを履いており、まともに走れない。
周到なことに真琴は安全靴だ。
「食い縛りますよ、この通りね!!」
その安全靴の固いつま先でもって、真琴は正しく歯を食いしばっての蹴りを放つ。
余裕があるため想定どおりの綺麗なフォームだ。
亜由美のほうなど無残なもので、腹筋に力が入らない、それどころか重心さえ傾いた状態で
その蹴りを喰らうことになった。
「おう゛ぇ…っ!」
目を開き、口から漏れた声は真琴の想像より低く苦しげだった。
「きたない声。」
人の腹筋を痛めているという感覚が真琴の臀部に染み渡る。

そして、それでは終わらない。
よろめく亜由美を追って真琴は一歩踏み出し、低空でのローを放った。
狙いは亜由美の左の踝、踏み潰すように蹴り込む。
ぐきり、とはっきりとした感触がする。
「うあ゛あああああああ!!!!!!」
亜由美はたまらず屈み込んだ。捻挫だ。
ブーツの不安定さとよろけた姿勢を狙っての蹴りが、無残にも亜由美の足を挫く。
亜由美は目をきつく閉じて丸まったまま震えた。

 ――なんだ…つまらない。
真琴は感じた。上手くいきすぎ、このままでは目論見よりずっと簡単に亜由美を壊せてしまう。
なら、少しは遊ぶか。
真琴はうずくまる亜由美に近寄り、おもむろにその黒髪を掴んだ。
ふわりとシャンプーの心地よい香りが漂う。
社内で綺麗だと散々噂される髪だ、なるほど確かに絹のように手触りがいい。
せっかくだからいくつか引きちぎろうか。
真琴がそう考え、髪を掴む手に力を込めた瞬間。
がしりとその手首が掴まれた。
ぎょっとしたのも一瞬、即座に肩の根元も押し込まれ、腕が伸びきる。
そして亜由美の身体が後転するように回った後…真琴の右肘と肩を、弾けるような痛みが襲った。

「い、痛いいぃっ!!」
真琴は反射的に腕を振り上げ、かろうじて致命的な感覚から逃れた。
右肘を電気のような痺れが壮絶に渦巻いている。
折れてはいないようだが、手のひらを握るということが叶わない。
そして肘の痛み以上に、真琴は心に衝撃を受けていた。
不用意に出した腕を掴んで固定し、身体ごと回転させて蹴り上げる。
反応が遅ければ肘が壊されていただろう。そんな動きは、想定にはなかった。
「砕けてれば、おあいこだったんだけどね」
亜由美が立ち上がる。
完全に左足を痛めたらしく、身体が左へ傾いている。
それでも両足はハイヒールを脱ぎ捨てて身軽になり、何より瞳が死んでいない。
2人は一瞬硬直し、先に動いたのは経験に勝る亜由美だった。
振り回すようなフックを素早く真琴の脇腹に打ち込む。ドッといい音がした。
「う、ん!」
真琴はその痛みに息を詰まらせながらも、冷静に怒りを組み立てていた。
容姿の壁によって味わった様々な理不尽さを思い出す。
そうすると、おもわず拳から音が鳴るほどに強く握り締めることができた。
その硬さで亜由美を殴りつける。
鍛え、鍛えて、鍛えた腕は、やはり面白いほどの威力を誇った。
「あぐ!」
亜由美の頬肉が歪み、鼻が殊更にひしゃげ、頭がぐるんと仰け反って黒髪が真琴の手を撫でる。
亜由美は右足だけでは堪えきれずに倒れ込んだ。
あの亜由美が這いつくばっている、真琴はその情景を振りぬいた姿勢のまま焼きつけた。
「あう、がふっ…!!」
亜由美は再び鼻を押さえた。また血が噴出したのだろうか。
必死な様子だが、真琴は今度は油断しない。危うく腕を折られかけた苦い経験からだ。

かくして、それは正しかった。
亜由美は立ち上がりざま、目にも止まらぬスピードでの裏拳を放つ。
風を切る音がかろうじて聞こえるだけの一打だ。
うかつに近づいていればガードなど叶わず、綺麗に頭に貰っていただろう。
ぞっとした。
ぞっとして、戦いのさなかに真琴は動きを止めた。それが経験の浅さだ。
亜由美はその隙を見逃さない。無事な右足で踏み込み、冷静に真琴の顔に拳を打ち込む。
ワン・ツーだ、と真琴はわかった。
距離を測る1打目で顔面へ水を飛沫きかけられたような感覚が襲い、眼球が少し痛んだ瞬間、
2発目が鼻と逆の目を抉り込んできた。

頭が真っ白になる、とはこの事で、真琴は棒立ちになっていた。
感覚としては少しずつ前に倒れ込んでいるようなのだが、一向に地面につかない。
棒立ちはまずい、そう感じたときには、当たり前だが遅かった。
ずん、という音が聞こえる衝撃で背骨が軋み、腹筋に痛みが降りてくる。ボディだ。
身体がくの字に折れ、喉からはそれが楽だというようにかふ、と自然に息が漏れる。
その直後、再び続けざまに同じ衝撃。ボディだ。
肺の辺りに岩ができたような苦しさのあと、ひく、ひくとその上部が喘ぎ、押し出すように食道を遡る。
「こぷっ」
身体が揺れる衝撃で眼鏡が地に落ちる。直後、口からほんの僅か、感じたよりは僅かな胃液がこぼれ出た。その事にまた頭が真っ白になる。
「は、吐いちゃった……」
誰に言うともなく真琴は呟き、落ちた眼鏡の傍に膝をついた。胸が熱く張る。
胃液とはこうも容易く溢れるものなのか。いや違う、それを搾り出した亜由美が強いのだ。
「吐いちゃったね。私に対してちょっとオイタが過ぎたわよ、あんた」
亜由美は真琴の襟首を掴み、片手で捻り上げた。もう片手は垂直に身体の向こうに控えている。

どこを殴られる。顔ならばいい、潰れてしまうかもしれないが顔ならばいい。
胸や腹部だったら自分は、きっと耐えられない。
真琴は震えた。亜由美の引き絞った右手が死神の鎌に思える。
この恐怖を怒りに変えなければ、しかし、それは無理だ。それにも経験が要る。
ならばなんとかしなくては。
なんとか、彼女の攻撃を止める方法を……。
そのとき、真琴の目には映った。自分を締め上げる亜由美の折れた左足首。
ここだ。

「うああー!!」
無我夢中で蹴った。慈悲など微塵もない。遅い来る猛獣に銃を放つほどの必死さで脚を振った。
目は瞑っていた。弾が当たったのかどうかは、獣の声で判別するほかない。
「ぎっ!」
それはまさしく獣の声だった。
虎や獅子ではない、小動物の断末魔のような声。
「い、いいぎぃいあぁああ----------------っ!!!!!!!」
甲高い叫びを上げ、亜由美の拘束は離された。
亜由美はまず膝から崩れ落ち、痛みから飛び跳ねて、横ざまに倒れ込む。
「あ…足が、足があ……ッ!」
呻き、左の足首を抱えていよいよ深刻な汗を流す。
助かった、と真琴は安堵した。
すると現金なもので、その途端に恐怖に塗りつぶされた怒りが沸々と沸いてくるのである。

「よくも……吐いちゃったじゃ、ないですか!!」
真琴は怒りをそのままに、安全靴を履いた足で亜由美の腹部を穿つ。
「うごおぉっ!!」
亜由美はそれどころでない時に蹴りを受け、まったく対処が出来ない。
勝った、とこのとき真琴は感じた。緊張が解けたわけではない、ただ、もう亜由美はダメだろう、
そういったどこかしら同情にも似た予感を持った。
実際、亜由美は絶望的なほどに不利だった。
真琴はさらに腹部を狙う。今度はさすがに腕でガードする亜由美だが、何しろ安全靴だ。
防いだ腕に顔が引き攣るほどの痛みが走り、しかももう立ち上がることが出来ないようなので
弱点である左足が狙われ放題となる。
「う、うぐ、ぐ……!!う、ぢぐ…しょう………っ!!」
腕のガードが破壊され、左足を執拗に踏まれ、想像を絶する痛みに亜由美の抵抗は
目に見えて弱まっていった。
根性がないと言われるだろうか。だがこの間に亜由美が上げていた声の悲痛さを聞けば、
きっと誰もがそのようなことは言えない筈だ。

その声を浴びながら尚も腹責めを続ける真琴は、自分でもイカれていると解っていた。
しかし、その倒錯がひどく快感だった。
皮膚の下の男性ホルモンが活性化し、亜由美の悲鳴で猛り、男根があれば狂おしいほどに屹立していることだろうと感じた。
実際、真琴はこの後で亜由美を嬲りつくすことに決めていた。
当初は敗北の言葉でも吐かせて終わりにしようと思っていたが、今はもう収まりがつかなくなっている。
まずはこの後。
何としても自分と同じ恥辱、嘔吐をこの女に味合わせてからだ。

安全靴は重い、そして亜由美の身体も力をなくして真琴の足にしなだれかかるようになっている。
蹴りは効率が悪く、真琴は拳を亜由美の腹に叩き付けた。
「もう、もぉ……ひ……う、うぉおえ゛え゛え゛ええ…!」
声だけは凄いが、中々内容物が出ない。
「らあっ!さっさと吐きなよ!」
真琴はさらに拳を振るう。そうして双方汗まみれで揉みあっているうち、ふと真琴は倉庫の扉が薄く開いていることに気がついた。
ぎょっとしたが、そこにいる人物を認めて口を歪に歪める。
「あら、ねえ先輩、可愛いギャラリーがいますよ」
その言葉に、亜由美もはっと顔を上げ、目を見開いた。
ただ一人の観客は美穂だ。亜由美が心配になって見に来たのだろう。
亜由美としては醜態を後輩にさらすという、この上なく屈辱的な状況になるだけだが。

そして、確かな瞬間はついに訪れた。
十数発目の拳が腹部に突き刺さった瞬間、亜由美が小さく息を吸い、下唇を痙攣させた。
 ――来た!
真琴はそう確信する。
「…み………み……らい、れぇえ…………!」
その囁きが終わらないうちに、真琴の肩の入ったパンチが亜由美の細腰をくの字に折る。
亜由美とてもう限界だった。
「おえぇええ゛え゛っ!!ひっぐ、うっ、うえええ゛え゛え゛え゛っっ!!!!!!!」
我慢して、我慢していたのだろう。
小さな口から溢れ出る吐瀉物を床にぶちまけ、えづきながら、嗚咽していた。

覗いている美穂はもはや言葉もない。
目の前の事が受け入れられていないのか、それとも受け入れたうえで呆けているのか。
彼女に見られたのは真琴にとっては誤算だったが、誰かに密告するような度胸はないだろう。
「美穂」
「は、はい!」
真琴はいつもの冷ややかな声で告げた。美穂が背筋を伸ばす。
「この場の片付けをしておきなさい。これも仕事の内です」
真琴はそういい、気絶した亜由美の体を背負った。
美穂はうろたえながら、精一杯の勇気でもって尋ねる。
「…はい。…そ、それで、あの……これから、どちらに?」
美穂の問いに、真琴はやはり冷ややかな眼で答えた。

「亜由美先輩には、暫くの有休を取って頂きます」
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