部屋を見渡す。
乱れたシーツの上に、縄が引き千切られて落ちていた。
嫁の由美を拘束していた縄だ。
テーブルに目を移すと、彼女のデジカメが置かれてある。
中を見ると、ひとつ新しい動画が収められていた。
少し前のものだ。
映ったのは、腕をこちらに突き出すやつれきった姿の由美。
自分で自分を映しているのだろう。
その細い腕には、まだ鮮明に縄の痕が残っていた。
――タケちゃん タケちゃんだったんだね。
心配かけて ごめんね。
そして 私の事は もう、忘れてください。
縛ってまで一緒に居ようとしてくれた事、本当に嬉しかった。
でも、だからこそ、そんなタケちゃんにこれ以上迷惑をかけたくありません。
……好きな人、また、見つけて下さい。
優しいタケちゃんだから、きっと簡単だと思います。
新しい恋人さんとデートして、キスもして…。
あ、キスの前にはちゃんと歯磨きとうがいするんだよ?
ここ、女の子にモテるポイント!…なんてね。
………… さよなら タケちゃん。
いままで ありがと 。
録画はそこで終わっている。
その中で由美は、瞳を沈ませ、少しおどけて見せ、そして穏やかな目で別れを告げた。
かさ、とテーブルで音がする。ビニールの袋が倒れていた。
中には乾燥しきった古い錠剤が入っている。
ビニールの表面には『タケちゃんぐすり』と幼い字で記されていた。
俺がまだ小学校の頃、風邪を引いた由美の見舞いに持って行った物だ。
たまたま家にあった何の事はない錠剤だったが、由美は以来、それを宝物と言って憚らなかった。
※
子供時代の由美は病弱だった。
一週間のうち3日は学校を休んでいたように思う。
そのせいか、彼女は薬が大好きだった。依存していた、と言ってもいい。
それは身体が丈夫になり、陸上で活躍するようになっても変わらなかった。
ドーピングじゃないかと思えるほどのサプリメントを常に服用し、
挙句には俺とキスをする前にさえ、必ずうがい薬を使うほどだった。
要は異常な薬好きなのだ。
だから彼女が製薬会社に入社したのは、必然だったと言える。
彼女はよく上機嫌で会社の話をした。
曰く、まだ試作段階の自社製品を好きに試せるのだという。
彼女にとっては楽園だったに違いない。
俺はその話を聞きながら、「へぇ良かったなぁ」と呑気に答えていた。
彼女が試していたのは湿布や磁気マッサージ器程度なのだから、
危機感など抱くわけもない。
だがそれが甘かった。
俺は前をよぎる影に慣れ、着実に立ち込めていく暗雲に気がつけなかった。
「今度ね、希望社員が対象の、ちょっとえっちな治験があるんだってさ」
由美はふとフェラチオを止め、俺を見上げながら囁いた。
治験とは医薬品の臨床実験のことだ。
「へぇ、どんな」
うがい薬で清涼さを増した舌遣いだ、射精感を煽られていた俺はその言葉を心半ばで聞く。
「何かね、女用の精力剤らしいよ。マッサージオイル開発してたら、偶然できたんだって」
ああまたか、と俺は思った。
製薬会社が性的な商品を手がける事は実に多い。
金になるし、そもそも健康維持と滋養強壮は切っても切り離せない。
だからその話題自体は別に珍しくはなかった。
普通なら一般に被験者を募る所だろうが、社員で済ます辺りが世知辛いな、
思うのはその程度のことだ。
それよりも口戯を途中でやめられた俺は、頭の中がセックスで一杯だった。
今の話題だってそそるものがある。由美が淫靡な薬剤実験で昂ぶらされるというのだ。
俺は再び逸物に舌を這わせ始めた由美を見下ろした。
由美は可愛い。
背は低く、160もなかったはずだ。
顔立ちもリスっぽい童顔で、黙って目をくりくりさせていれば下手をすれば中学生に見える。
歳は今年で24だが、子供ができて父兄参観に行っても姉扱いだろう。
華奢な身体は服を着ていても愛らしいが、脱ぐとさらに魅惑的だ。
腕や脚は健康的な桃色だが、それでも真っ白な腹部に比べれば日に焼けているとわかる。
そのコントラストは実に反則的といえた。
いつも後ろで束ねている髪は、こうしてセックスする時だけはさらりと下ろされる。
軽くウェーブのかかったその黒髪が、いつもは幼いだけの彼女にオリエンタルな美をもたらす。
「そっか。その実験に期待してるから、今日の由美はこんなにご機嫌なんだ?」
俺はそんな事を言いながら、由美の小さな体をひっくり返し、慎ましい割れ目に指を差し入れる。
「ちょっ、タケちゃん!まだ、ちょっと痛いよぉ…。」
由美は眉を下げながら言う。
小柄な彼女は膣も小さく、ある程度気分が乗った状態で指を入れても痛がる事が多かった。
「ああ、悪い、悪い。」
俺は少し意地悪く笑いながら由美の乳房に口づけする。幼児体型の由美も胸だけは掴めるほどある。
由美はそこでは感じるのか、ぴくんと肩を震わせた。
※
それからしばらくたった頃の事だ。
俺が仕事から帰ると、すでに由美が帰宅していた。
多忙な由美は、いつも俺より早く出社し、帰るのも夜遅いというのに。
「由美…?…随分早いんだな、具合でも悪いのか?」
俺が声をかけると、由美は緩慢な様子で布団から起き上がった。
「あ……おかえり……なさい………」
そう返す由美は、顔が真っ赤に上気し、息を乱している。まるで風邪だ。
「おい、大丈夫かよ!?」
「へいきだよ……ちょと、風邪っぽいかな。でもホラ、くすりあるし」
由美は笑いながら、胸に下げたビニール袋を振って見せた。中でカラカラと錠剤が踊る。
「バカ、んな一昔も前の薬なんてかえってヤべーだろ。
コンビニで卵粥かなんか買ってくるわ」
間の抜けた由美の発言で少し気が楽になり、俺は玄関へ向かおうとした。
しかし、その俺の足を由美の手が掴む。
「ね、タケちゃ、まって……。」
はぁはぁと息を切らしながら、片目を瞑った由美が見上げてくる。
「何だよ?」
俺は振り向き、そのまま凍りついた。
そこには服のボタンを外し、乳房を曝け出す由美が居た。
「お、おまえ、何してんだよ!?
俺は度肝を抜かれる。
由美は恥知らずではない。いくら夫の前とはいえ、脈絡もなく肌を晒す女ではない。
異常だった。
異常といえば、その白い乳房の先にある突起がしこり立っている。
よく見れば、由美は全身に脂汗を搔いていた。桃色に上気した身体を震わせて。
「……やらしいの、分かっちゃった?」
由美が震える声で言う。呆然とする俺を尻目に、彼女はするりと下穿きをおろす。
「…………ッ!!!!」
俺は息を呑む。彼女のそこは、濡れきっていた。
陰唇が飛び出し、充血し、陰核が触れられるほどに屹立している。
初心な由美がそこまで感じきっているのを見るのは初めて……、
いや、学生時代からの経験の中で数度は見たかも知れないが、ともかくすぐに浮かばないほどだ。
「ね、タケちゃん。……抱いて」
由美は潤みきった目で俺を見つめる。
ごくん、と喉が鳴った。
行為の後、お互い汗まみれ、青息吐息で寝そべりながら、俺は質問を投げかけた。
何があったのか、と。
薄々見当はついた。以前に彼女が言っていた精力剤の臨床実験だ。
そのせいか、と問うと、由美は素直に頷いた。だが俺は腑に落ちなかった。
まず効果が強すぎる。
いくら媚薬として優れた薬であっても、ここまで身体に影響を及ぼすような投与はしまい。
薬好きの由美のことだ、プラシーボ(思い込み)効果で特に影響が大きい可能性もある。
だがそれなら、由美に幾ばくかの満ち足りた表情があるはずだった。
便秘で下剤を服用している時でさえ、苦悶と悦楽の入り混じった顔をする奴だ。
だが今の由美に窺えるのは、後ろめたさ、恥ずかしさ、怖さ、そのような物ばかり。
さらには、以前話題にしたときからその時までに、かなりの日数が空いていた。
あの時由美が言った「今度」がいつを指していたのかはわからない。
だがそれは、実に“2ヵ月”の経過した時点ではない筈だ。
俺はそれらの疑念を、できるだけオブラートに包みながら由美にぶつけた。
だが由美は最低限の事を明かすだけで、深く説明しようとはしなかった。
全てが明かされたのは、そこからさらに2ヶ月が経った頃。
由美の働く製薬会社で医師の一人が逮捕され、
由美が薬物中毒で入院する事になってからだった。
昏睡状態から意識が戻るたび、由美はそれまでの事を語ってきた。
意識が混濁し、途切れ途切れで、おまけに会話ごとに「ごめんね」「ごめんなさい」がつくものだから、
解明は遅々として進まなかった。
だがそれ故に俺は、彼女の苦悩をいやというほど味わう事になった。
治験が行われたのは、あの日の会話があった3日後の事だった。
彼女は仲の良い同期と共に実験に臨んでいた。
場には若い女性社員数名と、あとは閉経後の年配女性ばかり。
治験に際して、まずはマウスを対象とした実験の映像が流れたらしい。
頬を擦り付けたり、転げまわったり、メスは明らかに発情していた。
由美は想像以上の効果にたじろいだが、医師は「あくまでマウスだから」と説明したそうだ。
その後、実験が開始された。
『ねぇゆーみん、知ってる?こういう実験ってさ、2つグループがあって、
一方には本物の薬、もう一方には偽の薬を投与して興奮の度合いを調べるんだってさ。
偽の方で昂ぶっちゃったら、超恥ずかしいよねぇ~』
由美の同士がそう言った通り、由美たちは2つのグループに分けられた。
由美は同期と離れ、見知らぬ年配女性に囲まれた状態で薬を服用したらしい。
そして、由美は語る。
ちょうど薬を飲もうとコップを傾けた瞬間、部屋の奥から強烈な視線を感じたそうだ。
視線は薬を開発した中年医師のものだった。
彼は食い入る様に由美の喉下を、いや或いは胸元を注視していたが、
由美は『医師として関心があるのだろう』と思って知らぬふりをした。
下心を感じない訳ではなかったが、どうせ見るなら年配より若い方がいいのだろうと、
男の生理を知る由美は考えたらしい。
ひょっとすると偽薬かな、そう考えながら隣の年配女性と会話を交わしていた由美は、
すぐにそうではないと気付いた。
顔から汗が滴っていたからだ。太腿に落ちる冷たさでそれに気付いたという。
やがて胸の奥が熱気のようなもので一杯になり、呼吸が荒くなり始めた。
周囲に気付かれまいと腹式呼吸を試みたが、すぐに隣の女性から「大丈夫?」と問われたという。
「若いからお盛んなのねぇ」
周囲は彼女を振り返って笑い、由美もそうなのかと思った。
おまけに自分が薬が大好きだ、効果が強く出てもおかしくない、と。
由美は語らなかったが、俺は今になって一つ思うことがある。
恐らくこの時に由美に投与された薬品は、それ以外の人間の物より濃度が高かったのだ。
効果に個人差があるとはいえ、健常な一人にだけ爆発的に表れることは考えづらい。
他が10倍希釈だとすれば、由美のものは2倍、ともすれば原液…。
そんな風だったのではないだろうか。
そうこうしているうちに、由美の隣にある白衣の女性が腰掛けたらしい。
「ご機嫌いかが?」
彼女は眼鏡の淵に手をかけて問うた。
由美は彼女を知っていた。先ほどの中年医師の補佐を務める女だ。
「は、はい…えぇと、何だか、すごいですね」
由美は女の登場と昂ぶりでしどろもどろになりながら答えた。
すると女性は笑いながら、由美の腰のベルトに手を潜らせた。
「あっ!」
由美はとっさにその手を押さえるが、女性に見つめられ気まずい沈黙が起きた。
「効果が見たいのよ。あなた若いし、反応良さそうだから。…ね。」
女性はくすぐるように由美の下腹を撫でる。
由美はそのおどけた様子に少し安心し、また相手が目上である事も相まってそっと手を離した。
すると女は遠慮なく由美のスカートに上から手を入れ、ショーツにまで指を潜らせたそうだ。
周囲の年配女性からはからからと笑いが起きていたらしい。
「んっ!」
女性の細い指が秘裂に入り込むと、由美は反射的に声を上げた。
しかし、痛くはなかったそうだ。
「ふふ、とろっとろ。」
女は言いながら中をかき回した。
由美は足を閉じかけるが、女に開いておいて、と囁かれて仕方なく足を開いた。
そこから20分ほど、由美にとって恥辱にまみれた時間が続いたらしい。
足を開いたまま椅子に腰掛け、背もたれを握りしめたまま秘部を嬲られ続けた。
凄く効いてるのね、とか、きつくてステキなあそこね、などと声をかけながらも、
女は巧みに由美をかき回す。
由美からすれば信じられないほどに上手かったらしい。
女の指が膣襞を搔くたびに愛液が溢れ、腰が浮いてしまう。
20分の間に3回は達してしまったと由美は言った。
「ああ、きゅんきゅん締め付けて、気持ちいいのね?
今度からオナニーする時にはこうやるのよ」
女の言葉を聞きながら、由美は愛液が椅子の下まで滴っているのがわかったらしい。
同時に薬の効果と相まって、どうしようもないほど自分が火照っている事に。
薬による火照りは、開放された後も収まらなかったそうだ。
その後も勤務中に2回トイレに籠もり、帰宅してからもやはりトイレで自慰に耽った、と。
確かに例の話から3日後辺り、由美が長い事トイレから出てこなかった事があった。
腹でも下したのだろうと、特に詮索もしなかったが、あれがそうだったのだ。
思えばその頃の由美はおかしかった気もする。
いつもより食事が遅く、いつもより夜更かしをせず、いつものように身体を求めてこない。
だが生理の時もそんな調子ではあるので、それが少し早まったのだろうと思っていた。
実際は、彼女は毎日苦悶していたというのだ。
薬には中毒性があったらしい。それが彼女に限って表れた。
治験の日以来、あの白衣の女性と親しくなり、何度か食事を共にしたというから、
その時に新たな薬を盛られた可能性だってある。
ともかく由美は薬の効果を受けていた。
本人の弁を借りれば、「皮膚の下を何十の蟻が蠢いて、蜜を垂らす感じ」がしていたという。
結果仕事に集中できなくなり、横になっても眠れる時間が減り、確実に衰弱していった。
この点に関していえば、俺は全く気が付かなかった。
由美は元々垂れ目で、とろんとした目をしている。目袋も厚めなので、隈が目立たない。
そしてかつて病弱だった為に、体調不良を隠すのも様になっているのだ。
だからといって俺の迂闊さが許されるわけではないが、見抜くのが困難だった事には違いない。
ともかく日常生活に異常をきたした由美は、まずあの女性を頼ったという。
この時点でも全く女性を不審がらなかった由美は、やはり根本的に優しいのだろう。
何か体調を良くする薬を、そんな事を思いながら由美は女性の部屋を訪れた。
だがそこに居たのは中年医師だ。
治験の日、由美を注視していた、あの男。白衣のネームバッジから、大門という名だと分かったらしい。
大門は由美を一瞥し、口元を吊り上げた。
その瞬間、さすがの由美も事の異常さに気付いたそうだ。
「やぁ、気分はどうだい」
大門は熊じみた野暮ったい見目に似合わぬ、気取った口調で告げた。
由美が答えられずにいると、彼は椅子を勧め、冷蔵庫から取り出した液体をコップに注いだ。
由美は椅子に腰掛けながらそのコップを見つめた。嫌な感じがしたからだ。
「喉が渇いたろう。一杯やりたまえ」
由美の警戒を見て取って、男は告げる。由美はさらに躊躇したが、結局それに口をつけた。
何のことはない、パインジュースだった。
以前に飲んだものはもっと塩素臭く、まったく違うものらしい。
安心し、急に渇きを感じた由美は一息に飲み干した。
大門はまたしても見つめていたらしい。
由美の唇を、喉を、胸を、そしてミニスカートから覗く脚を。
俺のような男にはわからないが、女はそういう視線は全て察知できるのだそうだ。
一息ついた由美は、その大門を改めて観察した。
見た目は髭面で清潔そうとはいえず、体型もかなりだらしない。
おまけに微かに口臭までしたらしい。
人から口臭を指摘されない俺にさえ頻繁にうがいを求める由美だ。
少なくともこの点だけで、彼女のタイプからはかけ離れているに違いない。
さらにはその視線だ。
由美の全身を舐めるように見る、視線。由美は病床でこう表現した。
『タケちゃんも、私が、着替えてる時とか…えっちな目で見るよね。
……でも、あのひと……大門先生のは……そんなのじゃない…。
怖かった、すごく。…何だか私を玩具か何かと思ってるような…そんな目。
私、はじめて……本当に初めて、理解したくない人っていうのに出会ったと思ったよ』
由美は知らず知らずの内に、腕で胸と腰を押さえていた。
小柄で顔だちの整った由美は、陸上部時代から男達のオカズだった。
その由美でさえ、大門の視線は苦痛だったのだ。
「見た所、隈ができているようだね。睡眠を取っていないのか?」
大門はあくまで世間話をするように語り掛けた。
由美は一応それに答えたそうだが、なんと言ったかは覚えていないらしい。
彼女は次第に、次第にそれどころではなくなっていった。
身体が火照り始めたのである。
由美はパニックになった。全く違う味なのに。以前の薬の味がしなかったのに。
「君は24だったね。そのぐらいの歳ならもう……」
「これは、何なんですか?」
なおも涼しい顔で話を続ける大門に、由美はコップを突きつけた。
大門は言葉を切り、怒っていただろう由美を見てから、口元を綻ばせる。
「例の発情薬さ。味に改良を加えて飲みやすくしたんだ。美味かっただろう」
「………ッ!!そ、そんなものを被験者の同意もなしに処方するなんて、
どういう事ですか!!」
由美は叫ぶと、すぐに流し場へ走り、喉に指を突っ込んだ。
必死に喉を弄り、胃の中の物をぶちまける。視界の端にはその姿をも注視する大門がいた。
「無駄だよ、由美くん」
大門は教えてもいない由美の名前を呼び、続けた。
「服用から時間も経った。もう薬は体中に染み渡っているはずだ」
由美が睨み据えると、大門は笑ったという。
「一体何なんですか、この薬は!!!」
由美は叫んだ。その直後。
「もう解ってるでしょう。中毒性・大の合法ドラッグみたいなものよ」
大門の後ろにあるドアから、あの女が姿を現した。
「ドラッグ……!?」
「みたいなもの、ね。法に反した物は調合していないし、成分も危険じゃない。
……常識的な範囲で服用すれば、だけど」
大門と女は目線をかわして微笑んだ。グルだったのだ、あの時から。
由美は頭を打ち付けられたようなショックを受けた。
薬学の知識がある為、中毒性薬物による禁断症状の恐ろしさも知っている。
そしてそれが、すぐに起こり始めるという事も。
由美が憤って席を立とうとしたとき、大門が呟いた。
「由美くん。これの禁断症状はな、君が思っているよりつらいぞ」
由美は中腰のまま動きを止める。
「仕事をしている内はいいだろう。だが家に帰り、風呂に入り、気を緩めると…」
大門はその効果をとうとうと語り始めた。不穏な表現をいくつも使って。
由美の頭には、俺の事だけがあったらしい。
何をどう考えていたか、由美は詳しくは語ってくれなかった。
でもきっと、あいつの事だ。悩みに、悩んだんだろう。
「…ほう。薬をくれ、と?」
しばらくの後、大門はしてやったりという顔で言ったそうだ。
由美が頷くと、奴はおもむろにズボンのチャックを引き下げ、黒ずんだ皮被りの逸物を取り出した。
「どうすればいいのか、解るよね」
恐れおののく由美の頬にソレを押し付けながら、大門は上ずった声で言った。
由美が見ると、逸物の皮の先には恥垢がべっとりとこびり付いており、チーズのような異臭を放っていたらしい。
由美はできるだけ見ないようにしながらそれらをひとつずつ取り除くと、
目を閉じつつ覚悟を決めて舌を這わせた。
はっきりと不味い、と感じたらしい。
それでも恥辱に耐えてカリ首や亀頭に舌を這わせる。すると大門が唇に逸物を押し付けた。
きちんと咥えろ、という催促だったらしい。
喉を大きく鳴らしながら口を開けると、その臭い逸物がぬるりと無遠慮に口へ入り込んできたそうだ。
まるで腐った芋虫が口に入ったようで、思わず吐きそうになったらしい。
それでも何とかフェラチオをしていると、大門は始めはその快楽に喘いでいたが、
やがてじれったいと言って由美の頭を掴み、突然喉奥深く逸物を突き入れた。
「これAVで見てさ。一度自分の女相手にやろうと思ってたんだよ」
大門は小指を由美の耳の中に入れ、荒々しく頭を掴んで前後した。
「こうやるとさ、音が頭の中で反響するんだろ?
で、そのうちゲロッといって、それがまた熱くて気持ちいいらしいんだ」
大門は意気揚々と腰を振りながら言った。
由美は喉が完全に塞がれ、目の前に火花が瞬いて本当に死ぬかと思ったらしい。
ごえっごえっと勝手に声が漏れ、それが頭を震わせる。
もはや臭ささえ感じられず、ひたすらに喉と顎が痛む。
さらに大門は俺よりも遅漏のようだった。喉で扱いても扱いても発射せず、張りを増していく。
由美は大門の毛深い脚を手で押しやりながら、限界まで喉を開いて耐えるしかなかった。
「おうっ、出るぞ、出るぞ!!」
大門は数分の後、ようやく上ずった声で叫んだ。
そして由美の髪を掴みなおし、一番奥に突き入れたまま逸物を震えさせる。
喉の奥に大量の精子が注ぎ込まれ、由美は涙と鼻水を噴出して噎せ返った。
そして逸物を喉から抜き去り、吐こうとした瞬間、その口を大門のごつい手が塞いだ。
「吐くな、飲むんだっ!!」
口を万力のような力で締めながら大門は言った。
由美は仕方なく、今正に吐き出そうとしていた大量の精液を頬を膨らませて留める。
「そうだ、良質のタンパク質だぞ。口の中で十分に味わってから飲みなさい」
この話を俺にした時、由美はごめんね、を5回ほど言っていた。
中3の時、ぎこちなくもようやく恋人として交際し始めた俺たちは、
何度目かのセックスで同じように精液を飲ませようとした。
2人で見たエロ本に、女が愛の証として精液を飲み干す絵があったからだ。
結果、由美は何度も必死に俺の白濁を飲み干そうとし、結局できずに盛大に吐き戻して俺の部屋を汚した。
思えば、由美がキスの前にうがいを欠かさないようになったのはあの時からだ。
俺自身トラウマになったので二度とさせなかったが、もしかしたら、次は絶対やりきってみせる、
という由美なりのアピールだったのかもしれない。
その精飲を、あろう事か大門にさせられたのだ。
俺が怒ると思ったのだろう、由美は何度も謝り倒した。意識が途切れるまで。
俺は怒ったりなんかしない。あんなに必死に飲もうとしてくれた由美を、怒れない。
ただ、大人になって喉が大きくなったとはいえ、大門の精液を全て飲み干した事実は、
どうしようもなく口惜しかった。
「ああ由美、全部飲めたじゃないか」
大門は満足げに息を吐きながら由美の頭を撫でた。
由美は怒りの叫びを上げたかったが、喉に白濁がつかえて声をだせなかったそうだ。
「僕はね由美。君が入社して以来、ずっと見守ってきたよ」
大門は逸物を拭きながら語り始めた。
「君、いつも2階奥の女子便所を使うよね。あそこは通路奥だから、洋式で一番空いてるからね」
自販機では必ずリポビタンDを買う。事務机の中には皇帝液が3本だ。
いやぁ、社員の鑑だね」
由美は耳を疑った。事実だった。
「これを言うとまたちょっと嫌われちゃうかも知れないけどさ、色々撮ってるんだよ。
トイレの中とか、更衣室のとか。それから、今のプレイもね」
由美が振り返ると、小型カメラを回していた女が手を上げる。
「・・・・・変態・・・・・・・!!」
「自覚してるよ。というかね、君相手が始めてだ、ここまで徹底できるのは。
特にこの薬は苦労したよ。検査に引っかからず、中毒性が強烈で、催淫効果も強い…」
「警察に言います。ふざけないで!!!」
由美は叫んだ。が、大門も女も動じなかった。
「あぁ、そう。その危険が出たら、こっちも持ってる情報を全部ばら撒いてあげる。
自覚ないんだと思うけど、あなた一部のアスリート好きの間じゃ結構話題性あるのよ。
それに、薬も先生がいないとまだ誰も作れないしね」
それは由美も解っていた事だったろう。或いは俺に配慮したのかもしれない。
由美は子供っぽいが、簡単に言うなりになる性格ではない。
ただ他人に心労がかかるとなれば、途端に躊躇し始める性格だった。
それに俺には言わないだけで、実際にはもっとえげつない脅しを受けたのかもしれない。
病室で横たわっていた由美を思うと、ついそんな風に考えてしまう。
※
それからの由美は大門の玩具だった。
4ヶ月に及ぶ陵辱の様子は、大門の家から押収されたDVDに何枚にも渡って残されていた。
事情聴取を受けた際、警察に無理を言って見せてもらった。
「あ、…っく!!…い、いたい……いたいぃ……!」
映像の中では由美が正常位で大門に抱かれ、苦悶の表情を浮かべていた。
まるで処女のような痛がり方だ。
よく見ると、それは普通の繋がりではない。
液を撒き散らす結合部の上には、ひくついて中から白濁交じりの蜜を零す陰唇。
由美が穿たれているのは排泄の穴なのだ。
「いい締まりだ。処女を奪ってやったこの間より、もっと締まってるんじゃないか」
大門は由美の身体を子供をあやすように上下させ、剛直を更に億へと突き立てる。
目を凝らすと、床と思しき場所には茶色い排泄物の入った洗面器と、ローションに塗れた細いバイブが置かれている。
奴は由美の後ろの穴でやっているのだ。
俺は噂だけは聞いたことがあり、抱くついでに弄った事もあるが、あえなく弾かれた覚えがある。
顔を顰めてうめく由美は、痛々しい。
しかしそれは、最も日付の古い方の記録だった。
不快には違いなかったが、まだ気持ちの悪い映画を見る気分で見ていられた。
はっきりと彼女が脅されているのが解ったし、感じている様子もなかったから。
映像は、少しずつ新しくなっていく。
ある映像で、由美は後背位で大門に圧し掛かられていた。
大門のたるんだ腹が由美の背中で潰れている。
一見すると挿入した直後で一息ついているような映像だった。
だが妙なことに、幾ら経っても動かない。
細部は動いてはいる。由美のウェーブのかかった髪が首を振るのに合わせて揺れ、
大門が由美の太ももに擦り付けた足を踏みかえ。
だが、抜き差しがない。それがセックスのように思えない。
それなのに、大門も由美も全身に滝のような汗を搔いており、顔は絶頂寸前のものだ。
「由美、中で動いてるのが解るか?スローセックスってのはいいもんだね。
お互いが一番深くで繋がったままびくびく震えあってるのが感じられるんだ。
男の方が若いうちにはできない芸当だな」
大門がそう言いながら由美の乳房に手をかけ、揉みしだく。
「ううぅ!!」
由美が目を硬く瞑って呻いた。
「あぁ、凄い締め付けだ。やっぱり胸が感じるみたいだな、由美!」
大門が叫びながら前傾を深くする。
由美がそれに答えるように、脚を大きく開いていく。
「く!!」
大門が一言を呻いた。由美が喰いしばった歯から僅かに吐息を漏らす。
大門も大きく吐息を吐いた。
「逝ったな、お互い。一番の奥で出しちまった」
そう言いながら腰を引き、逸物を引きずり出す。
膨張しきった逸物は完全に皮が剥け、異様にいやらしい粘液に包まれていた。
それが抜かれた瞬間、由美がどさりと崩れ落ちる。
「気持ちよかった? 由美」
大門がその耳元で囁くと、由美はかすかに顔を起こし、大門に向けて静かに目を瞑ってみせた。
DVDの日付は3ヶ月と少し。
由美が俺のアパートから姿を消した日の前日だ。
一番新しい日付では、由美が3人の男に囲まれていた。
由美はそのうち2人の逸物を同時に咥え込んでいる。
小さな口はこれでもかと大きく開いていた。
一人がとんとんと由美の肩を叩き、振り返ったその顔に錠剤を放り込んだ。
由美はそれを反射的に飲み込む。
そしてとろんとした目を一層蕩けさせ、錠剤を投げた男に抱きついた。
男は大門だ。
彼は完全に正気を失っている由美の髪を撫でながら、その名を呼んでいた。
由美も名前を呼んでいる。
タケちゃん
タケちゃん おくすり ありがと
俺がたまたま乱交現場に出くわし、大門を警察に突き出したのもこの日だ。
由美はすぐに入院し、俺にそれまでの事を語った。
そして語り終える前に、発狂した。
俺に全てを知られたくなかったのか、薬の副作用が限界に達したのか、理由は解らない。
俺はそんな由美を連れ帰り、かつて2人で暮らした部屋に縄で縛って監禁した。
由美は俺の顔を見て暴れ、喚き、そして俺の名を延々と叫びながら泣き続けた。
彼女は髪もくすみ、目もよどみ、ひどい匂いを放ってもいたが、一つだけ手放さないものがあった。
『タケちゃんぐすり』
家を出た時に唯一持っていったそれを、彼女はいつまでも手の中に握り締めていた。
恐らくは、ずっと、ずっと。
俺はタケちゃんぐすりを拾い上げる。
期限のとうに切れた古い錠剤は、音もなく崩れ去って粉になった。
終
乱れたシーツの上に、縄が引き千切られて落ちていた。
嫁の由美を拘束していた縄だ。
テーブルに目を移すと、彼女のデジカメが置かれてある。
中を見ると、ひとつ新しい動画が収められていた。
少し前のものだ。
映ったのは、腕をこちらに突き出すやつれきった姿の由美。
自分で自分を映しているのだろう。
その細い腕には、まだ鮮明に縄の痕が残っていた。
――タケちゃん タケちゃんだったんだね。
心配かけて ごめんね。
そして 私の事は もう、忘れてください。
縛ってまで一緒に居ようとしてくれた事、本当に嬉しかった。
でも、だからこそ、そんなタケちゃんにこれ以上迷惑をかけたくありません。
……好きな人、また、見つけて下さい。
優しいタケちゃんだから、きっと簡単だと思います。
新しい恋人さんとデートして、キスもして…。
あ、キスの前にはちゃんと歯磨きとうがいするんだよ?
ここ、女の子にモテるポイント!…なんてね。
………… さよなら タケちゃん。
いままで ありがと 。
録画はそこで終わっている。
その中で由美は、瞳を沈ませ、少しおどけて見せ、そして穏やかな目で別れを告げた。
かさ、とテーブルで音がする。ビニールの袋が倒れていた。
中には乾燥しきった古い錠剤が入っている。
ビニールの表面には『タケちゃんぐすり』と幼い字で記されていた。
俺がまだ小学校の頃、風邪を引いた由美の見舞いに持って行った物だ。
たまたま家にあった何の事はない錠剤だったが、由美は以来、それを宝物と言って憚らなかった。
※
子供時代の由美は病弱だった。
一週間のうち3日は学校を休んでいたように思う。
そのせいか、彼女は薬が大好きだった。依存していた、と言ってもいい。
それは身体が丈夫になり、陸上で活躍するようになっても変わらなかった。
ドーピングじゃないかと思えるほどのサプリメントを常に服用し、
挙句には俺とキスをする前にさえ、必ずうがい薬を使うほどだった。
要は異常な薬好きなのだ。
だから彼女が製薬会社に入社したのは、必然だったと言える。
彼女はよく上機嫌で会社の話をした。
曰く、まだ試作段階の自社製品を好きに試せるのだという。
彼女にとっては楽園だったに違いない。
俺はその話を聞きながら、「へぇ良かったなぁ」と呑気に答えていた。
彼女が試していたのは湿布や磁気マッサージ器程度なのだから、
危機感など抱くわけもない。
だがそれが甘かった。
俺は前をよぎる影に慣れ、着実に立ち込めていく暗雲に気がつけなかった。
「今度ね、希望社員が対象の、ちょっとえっちな治験があるんだってさ」
由美はふとフェラチオを止め、俺を見上げながら囁いた。
治験とは医薬品の臨床実験のことだ。
「へぇ、どんな」
うがい薬で清涼さを増した舌遣いだ、射精感を煽られていた俺はその言葉を心半ばで聞く。
「何かね、女用の精力剤らしいよ。マッサージオイル開発してたら、偶然できたんだって」
ああまたか、と俺は思った。
製薬会社が性的な商品を手がける事は実に多い。
金になるし、そもそも健康維持と滋養強壮は切っても切り離せない。
だからその話題自体は別に珍しくはなかった。
普通なら一般に被験者を募る所だろうが、社員で済ます辺りが世知辛いな、
思うのはその程度のことだ。
それよりも口戯を途中でやめられた俺は、頭の中がセックスで一杯だった。
今の話題だってそそるものがある。由美が淫靡な薬剤実験で昂ぶらされるというのだ。
俺は再び逸物に舌を這わせ始めた由美を見下ろした。
由美は可愛い。
背は低く、160もなかったはずだ。
顔立ちもリスっぽい童顔で、黙って目をくりくりさせていれば下手をすれば中学生に見える。
歳は今年で24だが、子供ができて父兄参観に行っても姉扱いだろう。
華奢な身体は服を着ていても愛らしいが、脱ぐとさらに魅惑的だ。
腕や脚は健康的な桃色だが、それでも真っ白な腹部に比べれば日に焼けているとわかる。
そのコントラストは実に反則的といえた。
いつも後ろで束ねている髪は、こうしてセックスする時だけはさらりと下ろされる。
軽くウェーブのかかったその黒髪が、いつもは幼いだけの彼女にオリエンタルな美をもたらす。
「そっか。その実験に期待してるから、今日の由美はこんなにご機嫌なんだ?」
俺はそんな事を言いながら、由美の小さな体をひっくり返し、慎ましい割れ目に指を差し入れる。
「ちょっ、タケちゃん!まだ、ちょっと痛いよぉ…。」
由美は眉を下げながら言う。
小柄な彼女は膣も小さく、ある程度気分が乗った状態で指を入れても痛がる事が多かった。
「ああ、悪い、悪い。」
俺は少し意地悪く笑いながら由美の乳房に口づけする。幼児体型の由美も胸だけは掴めるほどある。
由美はそこでは感じるのか、ぴくんと肩を震わせた。
※
それからしばらくたった頃の事だ。
俺が仕事から帰ると、すでに由美が帰宅していた。
多忙な由美は、いつも俺より早く出社し、帰るのも夜遅いというのに。
「由美…?…随分早いんだな、具合でも悪いのか?」
俺が声をかけると、由美は緩慢な様子で布団から起き上がった。
「あ……おかえり……なさい………」
そう返す由美は、顔が真っ赤に上気し、息を乱している。まるで風邪だ。
「おい、大丈夫かよ!?」
「へいきだよ……ちょと、風邪っぽいかな。でもホラ、くすりあるし」
由美は笑いながら、胸に下げたビニール袋を振って見せた。中でカラカラと錠剤が踊る。
「バカ、んな一昔も前の薬なんてかえってヤべーだろ。
コンビニで卵粥かなんか買ってくるわ」
間の抜けた由美の発言で少し気が楽になり、俺は玄関へ向かおうとした。
しかし、その俺の足を由美の手が掴む。
「ね、タケちゃ、まって……。」
はぁはぁと息を切らしながら、片目を瞑った由美が見上げてくる。
「何だよ?」
俺は振り向き、そのまま凍りついた。
そこには服のボタンを外し、乳房を曝け出す由美が居た。
「お、おまえ、何してんだよ!?
俺は度肝を抜かれる。
由美は恥知らずではない。いくら夫の前とはいえ、脈絡もなく肌を晒す女ではない。
異常だった。
異常といえば、その白い乳房の先にある突起がしこり立っている。
よく見れば、由美は全身に脂汗を搔いていた。桃色に上気した身体を震わせて。
「……やらしいの、分かっちゃった?」
由美が震える声で言う。呆然とする俺を尻目に、彼女はするりと下穿きをおろす。
「…………ッ!!!!」
俺は息を呑む。彼女のそこは、濡れきっていた。
陰唇が飛び出し、充血し、陰核が触れられるほどに屹立している。
初心な由美がそこまで感じきっているのを見るのは初めて……、
いや、学生時代からの経験の中で数度は見たかも知れないが、ともかくすぐに浮かばないほどだ。
「ね、タケちゃん。……抱いて」
由美は潤みきった目で俺を見つめる。
ごくん、と喉が鳴った。
行為の後、お互い汗まみれ、青息吐息で寝そべりながら、俺は質問を投げかけた。
何があったのか、と。
薄々見当はついた。以前に彼女が言っていた精力剤の臨床実験だ。
そのせいか、と問うと、由美は素直に頷いた。だが俺は腑に落ちなかった。
まず効果が強すぎる。
いくら媚薬として優れた薬であっても、ここまで身体に影響を及ぼすような投与はしまい。
薬好きの由美のことだ、プラシーボ(思い込み)効果で特に影響が大きい可能性もある。
だがそれなら、由美に幾ばくかの満ち足りた表情があるはずだった。
便秘で下剤を服用している時でさえ、苦悶と悦楽の入り混じった顔をする奴だ。
だが今の由美に窺えるのは、後ろめたさ、恥ずかしさ、怖さ、そのような物ばかり。
さらには、以前話題にしたときからその時までに、かなりの日数が空いていた。
あの時由美が言った「今度」がいつを指していたのかはわからない。
だがそれは、実に“2ヵ月”の経過した時点ではない筈だ。
俺はそれらの疑念を、できるだけオブラートに包みながら由美にぶつけた。
だが由美は最低限の事を明かすだけで、深く説明しようとはしなかった。
全てが明かされたのは、そこからさらに2ヶ月が経った頃。
由美の働く製薬会社で医師の一人が逮捕され、
由美が薬物中毒で入院する事になってからだった。
昏睡状態から意識が戻るたび、由美はそれまでの事を語ってきた。
意識が混濁し、途切れ途切れで、おまけに会話ごとに「ごめんね」「ごめんなさい」がつくものだから、
解明は遅々として進まなかった。
だがそれ故に俺は、彼女の苦悩をいやというほど味わう事になった。
治験が行われたのは、あの日の会話があった3日後の事だった。
彼女は仲の良い同期と共に実験に臨んでいた。
場には若い女性社員数名と、あとは閉経後の年配女性ばかり。
治験に際して、まずはマウスを対象とした実験の映像が流れたらしい。
頬を擦り付けたり、転げまわったり、メスは明らかに発情していた。
由美は想像以上の効果にたじろいだが、医師は「あくまでマウスだから」と説明したそうだ。
その後、実験が開始された。
『ねぇゆーみん、知ってる?こういう実験ってさ、2つグループがあって、
一方には本物の薬、もう一方には偽の薬を投与して興奮の度合いを調べるんだってさ。
偽の方で昂ぶっちゃったら、超恥ずかしいよねぇ~』
由美の同士がそう言った通り、由美たちは2つのグループに分けられた。
由美は同期と離れ、見知らぬ年配女性に囲まれた状態で薬を服用したらしい。
そして、由美は語る。
ちょうど薬を飲もうとコップを傾けた瞬間、部屋の奥から強烈な視線を感じたそうだ。
視線は薬を開発した中年医師のものだった。
彼は食い入る様に由美の喉下を、いや或いは胸元を注視していたが、
由美は『医師として関心があるのだろう』と思って知らぬふりをした。
下心を感じない訳ではなかったが、どうせ見るなら年配より若い方がいいのだろうと、
男の生理を知る由美は考えたらしい。
ひょっとすると偽薬かな、そう考えながら隣の年配女性と会話を交わしていた由美は、
すぐにそうではないと気付いた。
顔から汗が滴っていたからだ。太腿に落ちる冷たさでそれに気付いたという。
やがて胸の奥が熱気のようなもので一杯になり、呼吸が荒くなり始めた。
周囲に気付かれまいと腹式呼吸を試みたが、すぐに隣の女性から「大丈夫?」と問われたという。
「若いからお盛んなのねぇ」
周囲は彼女を振り返って笑い、由美もそうなのかと思った。
おまけに自分が薬が大好きだ、効果が強く出てもおかしくない、と。
由美は語らなかったが、俺は今になって一つ思うことがある。
恐らくこの時に由美に投与された薬品は、それ以外の人間の物より濃度が高かったのだ。
効果に個人差があるとはいえ、健常な一人にだけ爆発的に表れることは考えづらい。
他が10倍希釈だとすれば、由美のものは2倍、ともすれば原液…。
そんな風だったのではないだろうか。
そうこうしているうちに、由美の隣にある白衣の女性が腰掛けたらしい。
「ご機嫌いかが?」
彼女は眼鏡の淵に手をかけて問うた。
由美は彼女を知っていた。先ほどの中年医師の補佐を務める女だ。
「は、はい…えぇと、何だか、すごいですね」
由美は女の登場と昂ぶりでしどろもどろになりながら答えた。
すると女性は笑いながら、由美の腰のベルトに手を潜らせた。
「あっ!」
由美はとっさにその手を押さえるが、女性に見つめられ気まずい沈黙が起きた。
「効果が見たいのよ。あなた若いし、反応良さそうだから。…ね。」
女性はくすぐるように由美の下腹を撫でる。
由美はそのおどけた様子に少し安心し、また相手が目上である事も相まってそっと手を離した。
すると女は遠慮なく由美のスカートに上から手を入れ、ショーツにまで指を潜らせたそうだ。
周囲の年配女性からはからからと笑いが起きていたらしい。
「んっ!」
女性の細い指が秘裂に入り込むと、由美は反射的に声を上げた。
しかし、痛くはなかったそうだ。
「ふふ、とろっとろ。」
女は言いながら中をかき回した。
由美は足を閉じかけるが、女に開いておいて、と囁かれて仕方なく足を開いた。
そこから20分ほど、由美にとって恥辱にまみれた時間が続いたらしい。
足を開いたまま椅子に腰掛け、背もたれを握りしめたまま秘部を嬲られ続けた。
凄く効いてるのね、とか、きつくてステキなあそこね、などと声をかけながらも、
女は巧みに由美をかき回す。
由美からすれば信じられないほどに上手かったらしい。
女の指が膣襞を搔くたびに愛液が溢れ、腰が浮いてしまう。
20分の間に3回は達してしまったと由美は言った。
「ああ、きゅんきゅん締め付けて、気持ちいいのね?
今度からオナニーする時にはこうやるのよ」
女の言葉を聞きながら、由美は愛液が椅子の下まで滴っているのがわかったらしい。
同時に薬の効果と相まって、どうしようもないほど自分が火照っている事に。
薬による火照りは、開放された後も収まらなかったそうだ。
その後も勤務中に2回トイレに籠もり、帰宅してからもやはりトイレで自慰に耽った、と。
確かに例の話から3日後辺り、由美が長い事トイレから出てこなかった事があった。
腹でも下したのだろうと、特に詮索もしなかったが、あれがそうだったのだ。
思えばその頃の由美はおかしかった気もする。
いつもより食事が遅く、いつもより夜更かしをせず、いつものように身体を求めてこない。
だが生理の時もそんな調子ではあるので、それが少し早まったのだろうと思っていた。
実際は、彼女は毎日苦悶していたというのだ。
薬には中毒性があったらしい。それが彼女に限って表れた。
治験の日以来、あの白衣の女性と親しくなり、何度か食事を共にしたというから、
その時に新たな薬を盛られた可能性だってある。
ともかく由美は薬の効果を受けていた。
本人の弁を借りれば、「皮膚の下を何十の蟻が蠢いて、蜜を垂らす感じ」がしていたという。
結果仕事に集中できなくなり、横になっても眠れる時間が減り、確実に衰弱していった。
この点に関していえば、俺は全く気が付かなかった。
由美は元々垂れ目で、とろんとした目をしている。目袋も厚めなので、隈が目立たない。
そしてかつて病弱だった為に、体調不良を隠すのも様になっているのだ。
だからといって俺の迂闊さが許されるわけではないが、見抜くのが困難だった事には違いない。
ともかく日常生活に異常をきたした由美は、まずあの女性を頼ったという。
この時点でも全く女性を不審がらなかった由美は、やはり根本的に優しいのだろう。
何か体調を良くする薬を、そんな事を思いながら由美は女性の部屋を訪れた。
だがそこに居たのは中年医師だ。
治験の日、由美を注視していた、あの男。白衣のネームバッジから、大門という名だと分かったらしい。
大門は由美を一瞥し、口元を吊り上げた。
その瞬間、さすがの由美も事の異常さに気付いたそうだ。
「やぁ、気分はどうだい」
大門は熊じみた野暮ったい見目に似合わぬ、気取った口調で告げた。
由美が答えられずにいると、彼は椅子を勧め、冷蔵庫から取り出した液体をコップに注いだ。
由美は椅子に腰掛けながらそのコップを見つめた。嫌な感じがしたからだ。
「喉が渇いたろう。一杯やりたまえ」
由美の警戒を見て取って、男は告げる。由美はさらに躊躇したが、結局それに口をつけた。
何のことはない、パインジュースだった。
以前に飲んだものはもっと塩素臭く、まったく違うものらしい。
安心し、急に渇きを感じた由美は一息に飲み干した。
大門はまたしても見つめていたらしい。
由美の唇を、喉を、胸を、そしてミニスカートから覗く脚を。
俺のような男にはわからないが、女はそういう視線は全て察知できるのだそうだ。
一息ついた由美は、その大門を改めて観察した。
見た目は髭面で清潔そうとはいえず、体型もかなりだらしない。
おまけに微かに口臭までしたらしい。
人から口臭を指摘されない俺にさえ頻繁にうがいを求める由美だ。
少なくともこの点だけで、彼女のタイプからはかけ離れているに違いない。
さらにはその視線だ。
由美の全身を舐めるように見る、視線。由美は病床でこう表現した。
『タケちゃんも、私が、着替えてる時とか…えっちな目で見るよね。
……でも、あのひと……大門先生のは……そんなのじゃない…。
怖かった、すごく。…何だか私を玩具か何かと思ってるような…そんな目。
私、はじめて……本当に初めて、理解したくない人っていうのに出会ったと思ったよ』
由美は知らず知らずの内に、腕で胸と腰を押さえていた。
小柄で顔だちの整った由美は、陸上部時代から男達のオカズだった。
その由美でさえ、大門の視線は苦痛だったのだ。
「見た所、隈ができているようだね。睡眠を取っていないのか?」
大門はあくまで世間話をするように語り掛けた。
由美は一応それに答えたそうだが、なんと言ったかは覚えていないらしい。
彼女は次第に、次第にそれどころではなくなっていった。
身体が火照り始めたのである。
由美はパニックになった。全く違う味なのに。以前の薬の味がしなかったのに。
「君は24だったね。そのぐらいの歳ならもう……」
「これは、何なんですか?」
なおも涼しい顔で話を続ける大門に、由美はコップを突きつけた。
大門は言葉を切り、怒っていただろう由美を見てから、口元を綻ばせる。
「例の発情薬さ。味に改良を加えて飲みやすくしたんだ。美味かっただろう」
「………ッ!!そ、そんなものを被験者の同意もなしに処方するなんて、
どういう事ですか!!」
由美は叫ぶと、すぐに流し場へ走り、喉に指を突っ込んだ。
必死に喉を弄り、胃の中の物をぶちまける。視界の端にはその姿をも注視する大門がいた。
「無駄だよ、由美くん」
大門は教えてもいない由美の名前を呼び、続けた。
「服用から時間も経った。もう薬は体中に染み渡っているはずだ」
由美が睨み据えると、大門は笑ったという。
「一体何なんですか、この薬は!!!」
由美は叫んだ。その直後。
「もう解ってるでしょう。中毒性・大の合法ドラッグみたいなものよ」
大門の後ろにあるドアから、あの女が姿を現した。
「ドラッグ……!?」
「みたいなもの、ね。法に反した物は調合していないし、成分も危険じゃない。
……常識的な範囲で服用すれば、だけど」
大門と女は目線をかわして微笑んだ。グルだったのだ、あの時から。
由美は頭を打ち付けられたようなショックを受けた。
薬学の知識がある為、中毒性薬物による禁断症状の恐ろしさも知っている。
そしてそれが、すぐに起こり始めるという事も。
由美が憤って席を立とうとしたとき、大門が呟いた。
「由美くん。これの禁断症状はな、君が思っているよりつらいぞ」
由美は中腰のまま動きを止める。
「仕事をしている内はいいだろう。だが家に帰り、風呂に入り、気を緩めると…」
大門はその効果をとうとうと語り始めた。不穏な表現をいくつも使って。
由美の頭には、俺の事だけがあったらしい。
何をどう考えていたか、由美は詳しくは語ってくれなかった。
でもきっと、あいつの事だ。悩みに、悩んだんだろう。
「…ほう。薬をくれ、と?」
しばらくの後、大門はしてやったりという顔で言ったそうだ。
由美が頷くと、奴はおもむろにズボンのチャックを引き下げ、黒ずんだ皮被りの逸物を取り出した。
「どうすればいいのか、解るよね」
恐れおののく由美の頬にソレを押し付けながら、大門は上ずった声で言った。
由美が見ると、逸物の皮の先には恥垢がべっとりとこびり付いており、チーズのような異臭を放っていたらしい。
由美はできるだけ見ないようにしながらそれらをひとつずつ取り除くと、
目を閉じつつ覚悟を決めて舌を這わせた。
はっきりと不味い、と感じたらしい。
それでも恥辱に耐えてカリ首や亀頭に舌を這わせる。すると大門が唇に逸物を押し付けた。
きちんと咥えろ、という催促だったらしい。
喉を大きく鳴らしながら口を開けると、その臭い逸物がぬるりと無遠慮に口へ入り込んできたそうだ。
まるで腐った芋虫が口に入ったようで、思わず吐きそうになったらしい。
それでも何とかフェラチオをしていると、大門は始めはその快楽に喘いでいたが、
やがてじれったいと言って由美の頭を掴み、突然喉奥深く逸物を突き入れた。
「これAVで見てさ。一度自分の女相手にやろうと思ってたんだよ」
大門は小指を由美の耳の中に入れ、荒々しく頭を掴んで前後した。
「こうやるとさ、音が頭の中で反響するんだろ?
で、そのうちゲロッといって、それがまた熱くて気持ちいいらしいんだ」
大門は意気揚々と腰を振りながら言った。
由美は喉が完全に塞がれ、目の前に火花が瞬いて本当に死ぬかと思ったらしい。
ごえっごえっと勝手に声が漏れ、それが頭を震わせる。
もはや臭ささえ感じられず、ひたすらに喉と顎が痛む。
さらに大門は俺よりも遅漏のようだった。喉で扱いても扱いても発射せず、張りを増していく。
由美は大門の毛深い脚を手で押しやりながら、限界まで喉を開いて耐えるしかなかった。
「おうっ、出るぞ、出るぞ!!」
大門は数分の後、ようやく上ずった声で叫んだ。
そして由美の髪を掴みなおし、一番奥に突き入れたまま逸物を震えさせる。
喉の奥に大量の精子が注ぎ込まれ、由美は涙と鼻水を噴出して噎せ返った。
そして逸物を喉から抜き去り、吐こうとした瞬間、その口を大門のごつい手が塞いだ。
「吐くな、飲むんだっ!!」
口を万力のような力で締めながら大門は言った。
由美は仕方なく、今正に吐き出そうとしていた大量の精液を頬を膨らませて留める。
「そうだ、良質のタンパク質だぞ。口の中で十分に味わってから飲みなさい」
この話を俺にした時、由美はごめんね、を5回ほど言っていた。
中3の時、ぎこちなくもようやく恋人として交際し始めた俺たちは、
何度目かのセックスで同じように精液を飲ませようとした。
2人で見たエロ本に、女が愛の証として精液を飲み干す絵があったからだ。
結果、由美は何度も必死に俺の白濁を飲み干そうとし、結局できずに盛大に吐き戻して俺の部屋を汚した。
思えば、由美がキスの前にうがいを欠かさないようになったのはあの時からだ。
俺自身トラウマになったので二度とさせなかったが、もしかしたら、次は絶対やりきってみせる、
という由美なりのアピールだったのかもしれない。
その精飲を、あろう事か大門にさせられたのだ。
俺が怒ると思ったのだろう、由美は何度も謝り倒した。意識が途切れるまで。
俺は怒ったりなんかしない。あんなに必死に飲もうとしてくれた由美を、怒れない。
ただ、大人になって喉が大きくなったとはいえ、大門の精液を全て飲み干した事実は、
どうしようもなく口惜しかった。
「ああ由美、全部飲めたじゃないか」
大門は満足げに息を吐きながら由美の頭を撫でた。
由美は怒りの叫びを上げたかったが、喉に白濁がつかえて声をだせなかったそうだ。
「僕はね由美。君が入社して以来、ずっと見守ってきたよ」
大門は逸物を拭きながら語り始めた。
「君、いつも2階奥の女子便所を使うよね。あそこは通路奥だから、洋式で一番空いてるからね」
自販機では必ずリポビタンDを買う。事務机の中には皇帝液が3本だ。
いやぁ、社員の鑑だね」
由美は耳を疑った。事実だった。
「これを言うとまたちょっと嫌われちゃうかも知れないけどさ、色々撮ってるんだよ。
トイレの中とか、更衣室のとか。それから、今のプレイもね」
由美が振り返ると、小型カメラを回していた女が手を上げる。
「・・・・・変態・・・・・・・!!」
「自覚してるよ。というかね、君相手が始めてだ、ここまで徹底できるのは。
特にこの薬は苦労したよ。検査に引っかからず、中毒性が強烈で、催淫効果も強い…」
「警察に言います。ふざけないで!!!」
由美は叫んだ。が、大門も女も動じなかった。
「あぁ、そう。その危険が出たら、こっちも持ってる情報を全部ばら撒いてあげる。
自覚ないんだと思うけど、あなた一部のアスリート好きの間じゃ結構話題性あるのよ。
それに、薬も先生がいないとまだ誰も作れないしね」
それは由美も解っていた事だったろう。或いは俺に配慮したのかもしれない。
由美は子供っぽいが、簡単に言うなりになる性格ではない。
ただ他人に心労がかかるとなれば、途端に躊躇し始める性格だった。
それに俺には言わないだけで、実際にはもっとえげつない脅しを受けたのかもしれない。
病室で横たわっていた由美を思うと、ついそんな風に考えてしまう。
※
それからの由美は大門の玩具だった。
4ヶ月に及ぶ陵辱の様子は、大門の家から押収されたDVDに何枚にも渡って残されていた。
事情聴取を受けた際、警察に無理を言って見せてもらった。
「あ、…っく!!…い、いたい……いたいぃ……!」
映像の中では由美が正常位で大門に抱かれ、苦悶の表情を浮かべていた。
まるで処女のような痛がり方だ。
よく見ると、それは普通の繋がりではない。
液を撒き散らす結合部の上には、ひくついて中から白濁交じりの蜜を零す陰唇。
由美が穿たれているのは排泄の穴なのだ。
「いい締まりだ。処女を奪ってやったこの間より、もっと締まってるんじゃないか」
大門は由美の身体を子供をあやすように上下させ、剛直を更に億へと突き立てる。
目を凝らすと、床と思しき場所には茶色い排泄物の入った洗面器と、ローションに塗れた細いバイブが置かれている。
奴は由美の後ろの穴でやっているのだ。
俺は噂だけは聞いたことがあり、抱くついでに弄った事もあるが、あえなく弾かれた覚えがある。
顔を顰めてうめく由美は、痛々しい。
しかしそれは、最も日付の古い方の記録だった。
不快には違いなかったが、まだ気持ちの悪い映画を見る気分で見ていられた。
はっきりと彼女が脅されているのが解ったし、感じている様子もなかったから。
映像は、少しずつ新しくなっていく。
ある映像で、由美は後背位で大門に圧し掛かられていた。
大門のたるんだ腹が由美の背中で潰れている。
一見すると挿入した直後で一息ついているような映像だった。
だが妙なことに、幾ら経っても動かない。
細部は動いてはいる。由美のウェーブのかかった髪が首を振るのに合わせて揺れ、
大門が由美の太ももに擦り付けた足を踏みかえ。
だが、抜き差しがない。それがセックスのように思えない。
それなのに、大門も由美も全身に滝のような汗を搔いており、顔は絶頂寸前のものだ。
「由美、中で動いてるのが解るか?スローセックスってのはいいもんだね。
お互いが一番深くで繋がったままびくびく震えあってるのが感じられるんだ。
男の方が若いうちにはできない芸当だな」
大門がそう言いながら由美の乳房に手をかけ、揉みしだく。
「ううぅ!!」
由美が目を硬く瞑って呻いた。
「あぁ、凄い締め付けだ。やっぱり胸が感じるみたいだな、由美!」
大門が叫びながら前傾を深くする。
由美がそれに答えるように、脚を大きく開いていく。
「く!!」
大門が一言を呻いた。由美が喰いしばった歯から僅かに吐息を漏らす。
大門も大きく吐息を吐いた。
「逝ったな、お互い。一番の奥で出しちまった」
そう言いながら腰を引き、逸物を引きずり出す。
膨張しきった逸物は完全に皮が剥け、異様にいやらしい粘液に包まれていた。
それが抜かれた瞬間、由美がどさりと崩れ落ちる。
「気持ちよかった? 由美」
大門がその耳元で囁くと、由美はかすかに顔を起こし、大門に向けて静かに目を瞑ってみせた。
DVDの日付は3ヶ月と少し。
由美が俺のアパートから姿を消した日の前日だ。
一番新しい日付では、由美が3人の男に囲まれていた。
由美はそのうち2人の逸物を同時に咥え込んでいる。
小さな口はこれでもかと大きく開いていた。
一人がとんとんと由美の肩を叩き、振り返ったその顔に錠剤を放り込んだ。
由美はそれを反射的に飲み込む。
そしてとろんとした目を一層蕩けさせ、錠剤を投げた男に抱きついた。
男は大門だ。
彼は完全に正気を失っている由美の髪を撫でながら、その名を呼んでいた。
由美も名前を呼んでいる。
タケちゃん
タケちゃん おくすり ありがと
俺がたまたま乱交現場に出くわし、大門を警察に突き出したのもこの日だ。
由美はすぐに入院し、俺にそれまでの事を語った。
そして語り終える前に、発狂した。
俺に全てを知られたくなかったのか、薬の副作用が限界に達したのか、理由は解らない。
俺はそんな由美を連れ帰り、かつて2人で暮らした部屋に縄で縛って監禁した。
由美は俺の顔を見て暴れ、喚き、そして俺の名を延々と叫びながら泣き続けた。
彼女は髪もくすみ、目もよどみ、ひどい匂いを放ってもいたが、一つだけ手放さないものがあった。
『タケちゃんぐすり』
家を出た時に唯一持っていったそれを、彼女はいつまでも手の中に握り締めていた。
恐らくは、ずっと、ずっと。
俺はタケちゃんぐすりを拾い上げる。
期限のとうに切れた古い錠剤は、音もなく崩れ去って粉になった。
終