大樹のほとり

自作小説を掲載しているブログです。

2010年08月

西方の雪

 ※前作に引き続きスカ・拷問注意

 静かに雪の降る夜だった。
 冷やかな夜空の下、銃口は凍りつき、そして仲間一人一人の心臓もまた凍り付いていった。
「アルマンド、アルマンド!!目を開けろよ、こんな所でくたばるのかよ、おいっ!?」
 幼さの残る少年が、足のない男を抱いて叫ぶ。
 アルマンドというその男は、小隊において少年の兄のような存在だった。
 作戦がうまくいけば髪を撫でてくれ、誕生日には必ずプレゼントをくれた。
「エル……ノ……幸せに、なれよぉ……」
 男は少年の手の中、つらそうに目を閉じ、項垂れて二度と動かなくなる。
「っ!!!」
 少年――エルノは義兄の死を察し、唇を固く結ぶ。
「……アルマンドも、逝ったか」
 暗闇の陰から女の声がした。エルノはそちらにゆっくりと目線を向ける。
 ショートブロンドの髪を持つ美女がいた。
 年は20代前半だろう、ロシア系の透けるような白肌に、軍服越しにも解る女性らしい体つきをしている。
 しかし鼻筋の通ったその美貌は擦り傷と泥に塗れ、目は軍人らしく鋭い光を放っていた。
「はい。……たった今」
 女の質問に少年が答える。
 暫しの沈黙があり、彼女――小隊の長であるイリーナは大きく息を吐いた。
 40人と1人の小隊も、これで残るはあと5人だ。

「……見捨てられたのだろうな、私達は」
 少年がイリーナの言葉に驚愕の表情を見せた。
 敵軍との雪原戦が始まり、一週間。
 本来の作戦通りであれば、とうに援軍が敵の背後から迫り、挟撃で決着がついている筈だった。
 だがいくら待てども援軍はおろか補給すら来ない。
 無線で要請を出しても歯切れの悪い答えが返ってくるばかり。
 戦況の芳しくない地域で孤軍奮闘するイリーナ隊が見捨てられた。
 それはもはや疑いようのない状況だった。
 退路も弾薬も断たれて戦い続けるイリーナの小隊は、敵軍に包囲されたまま、一人また一人、銃弾や寒さに倒れていく。
「このままじゃ埒があかねぇ。一か八か闇に乗じて突っ切りやしょう、中尉!」
 小隊軍曹であるアントニーがイリーナに告げる。
「しかし、軍曹……いや、危険などとは言っていられないか。ここにいても死ぬ事は変わらない」
 イリーナの答えに、アントニーが頷いた。
 この2人の付き合いは長い。
 イリーナが分隊の指揮をまるで知らぬ小娘であった頃から、場数を踏んだ下士官であるアントニーが彼女の補佐に回っていたのだ。
 当時は侮られていたイリーナも、今ではアントニーの強い信頼を得ている。
 アントニーに限らない。エルノも、死んでいった仲間達も。
 小隊の者は皆、イリーナを頼れる姉として、或いは気の強い妹として心から慕っていた。

「……っ! 俺が殿を勤めやす、中尉達は先に!」
 闇の中に敵影を見つけ、アントニーがまだ銃身の凍っていない小銃を構えて告げる。
 他の2人の隊員もイリーナ達の傍に並んだ。
「中尉の身は俺達が身体張って守りますんで、中尉はエルノの奴を守ってやって下さい。
 まだ小さいんだ、せめて恋ぐらいしてから死なせてやりたい!」
 そう言ってイリーナを闇の中へ押しやる。
「お前達……。……済まない…………済まない!!!」
 イリーナは素早く踵を返すと、エルノを抱えるようにして雪の中を駆け出した。
「待ってくれ、3人じゃ無茶だ!アントニー! レスター!! フィリッーツ!!!」
 エルノが必死で兄達を呼ぶ中、彼らは背を向けたまま手を翳す。
 立て続けに掃射の音が鳴り響いたのは、その数秒後の事だった。


 夜を徹して雪山を駆け下り、凍った川を走って、イリーナとエルノは小さな小屋に逃げ込んだ。
 途中何度か銃声を聞いたが、タイミングよく出た霧で敵を撒くことが出来たらしい。
 周囲から見えない場所である事を確認して暖炉に薪をくべ、凍りついた身を暖める。イリーナの手で長椅子に寝かされたエルノは、疲れから高熱を出して寝込んでしまった。
 どのくらい経ったのか、エルノが目を覚ますと、額に濡らした服の端切れが置かれていた。
 毛布のかかった腹部にはイリーナが倒れるように突っ伏している。
 隈のできたその目元からは、彼女が眠りもせずに見張りと看病をしてくれていたのがわかった。
「……うむ、眠ってしまったか」
 エルノがイリーナに毛布を掛け返すと、彼女が目を覚ます。
「お前もようやく目が覚めたらしいな、エルノ。寝続けて腹が減っているだろう。
 野菜とレーションがいくらかある、スープでも作ろう」
 イリーナはそう言って流し台に行き、土のついたジャガイモを洗い始めた。

「……皆は、あの3人はどうなったんでしょうか」
 エルノは俯きがちに言った。
「解らない。しかしあの状況で、生きていると思うべきではないな」
「そんな!上手く逃げ延びてて、今にこの小屋に来るかもしれないじゃないですか」
「来ない」
 イリーナは冷たく言い放つ。
「たった一夜で、どうしてそんな事が!」
「……一夜ではないんだ、エルノ。おまえはもう3日も寝込んだままだったんだよ」
「え?」
「3日だ。それで来ないなら、もう期待はできない。敵も来る気配がないのが、せめてもの救いだ」
 ナイフで人参の皮を剥きながら、イリーナは淡々と語った。
 エルノは絶句し、叫びを上げようと口を開いた。しかしふと、小隊長であるイリーナ自身の悲しみを思い、その叫びを押し殺す。代わりに涙が溢れた。
「おまえは優しいな。エルノ」
 イリーナも野菜を切る手を止め、かすかに肩を震わせる。エルノは長椅子を降り、その背中を撫でた。小隊で寂しがっている者が居た時、誰かがやった事だ。
 するとイリーナは急にエルノの方を振り向き、痛むほど強く抱きしめた。
「…………おまえは、よく死なずにいてくれた。小さいのに、よくぞ、生き残っていてくれた……!!」


 その夜、エルノは15にして初めて女を知った。
 誘ったわけではないし、誘われたわけでもない。
 しかし死線を抜けた男と女、例えそれが上司部下や義姉弟の間柄にあったとしても、求め合うのは自然なことに思えた。

 エルノは床に敷いた毛布の上に腰掛け、イリーナがその足元に屈みこんで逸物を口に含む。
 イリーナは頬を赤らめながら、必死に口を窄めていた。
「すまないな……不慣れなんだ。こういう事は」
 イリーナが言う。初体験であるエルノには、それが不慣れなのかどうか判別できない。
 ただイリーナの口内はぬるりとして暖かく、やけに情感を煽る。
 何より、憧れの人であったイリーナに性器を舐めしゃぶられている、という夢のような事実が、彼の下半身にたちまち血を漲らせた。
「凄いな……子供でもこんなに大きくなるのか」
 イリーナが口から抜き出した逸物を見て呟く。エルノは少し恥ずかしく、また誇らしくもあった。
「こ、今度はぼくの番です。僕が中尉を気持ちよくして差し上げます」
 エルノが体を入れ替え、イリーナの脚の間に頭を差し入れて言う。
 イリーナは少し恥ずかしそうに身悶えた。
「うっ!えぇと、な。風呂に入れていないから、ほんの少し匂うかもしれない。無理にしなくていいぞ」

 イリーナが言う通り、エルノが初めて嗅ぐ女性器は強い香りがした。
 いい香りかといえば明らかに違う。ワインと一緒に供されるチーズのような芳香だ。
 しかし血と硝煙に慣れた鼻には新鮮な生々しさで、それがイリーナの物であると思えば、これほど性欲を煽る匂いは無かった。
「ぼく、この匂い好きですよ」
 ぴちゃぴちゃと音を立てながら、エルノはイリーナの秘部に舌を這わせた。
 イリーナの秘部は初々しい桜色をしており、薔薇のように肉びらが重なり合っている。
「……うんんっ……」
 ややぬめった襞に舌を這わせるとイリーナの腰が揺れ、割れ目の奥が強く窄まる。
 割れ目の上、金色の茂みの中に小さな突起があり、そこに鼻先が触れると特に強く身悶えるようだ。
「気持ち良いですか、中尉?」
 秘部に舌を這わせながらエルノが問うと、イリーナは少し困惑したような顔でエルノを見下ろした。
「……あ、ああ、とてもいい。子宮の奥が疼いてしまう。それに何だか……凄く、抱きつきたいんだ。
 良いのかな、おまえにこんな気持ちを抱いてしまって」
「いいですよ。ぼくも嬉しい」
 エルノは身体を起こし、イリーナの背を抱えて抱き寄せた。そしてその温かな身体を強く抱きしめる。
「ああ……!」
 イリーナが心地良さそうに声を上げた。
 心地が良いのはエルノも同じだ。イリーナの体は、その毅然とした態度とは裏腹に、骨がないのではないかと思えるぐらい柔らかかった。
 いつか兄貴分だったアルマンドが言っていた「女の子の体は柔らかい」という噂を、エルノは憧れの女性の身体で確かめる事ができた。


「中尉。ぼく、中尉が好きです」
「そうか。だがエルノ……私はもう、中尉などではないよ」
「……え?」
 アルトの見つめる先で、イリーナはぞっとするほど美しい笑みを湛えていた。
「イリーナだ。イリーナと、そう呼んでくれればいい」
「い、イリーナ、さん……好きです」
 エルノは抱きついたまま、イリーナの身体と自らを擦りあわせる。
 豊かな乳房が胸板に弾み、経験したことの無い快感が生まれた。
 首筋に口付けすればイリーナが甘い吐息を零し、自分が快感を与えているのだと実感できる。
 互いに抱きしめながら、エルノとイリーナは何度も秘部を擦りあわせた。
 割れ目をなぞる様に何度も亀頭が滑り、ある時ずるりと中に入り込んでしまう。
 ああ、と叫んだのは同時だった。エルノはその暖かく潤んだ中に、また新しい快感を見出した。
 それに夢中になって腰を進めると、ある所で急にイリーナの背が仰け反る。
「い、ぎっ……!!!」
 歯を食いしばり、眉を顰めてつらそうな顔をしている。ナイフで刺された時のようだ。
「イリーナさん!?」
 エルノは相手の不可解な反応に狼狽する。自分はこれほどに心地良いのに、受け入れる方は痛いというのか。
 エルノが焦って腰を引こうとすると、イリーナがエルノを腰を掴んで引き留めた。
「い、いいんだエルノ。女は、その、初めて……の時は、どうしても痛いんだよ。大人になる痛みだ。
 ありがとう。おかげで私は今、本物の女になる事ができた」
 イリーナは額に汗を浮かべながら、精一杯の笑顔を作る。
「初めて……ぼくが……」
 エルノはそれが驚きであり、また嬉しくもあった。
「そうだ。さぁ、腰を動かしてみるぞ。心地良いだろう」
 イリーナはエルノの腰にややのしかかる様にしながら、ゆっくりと腰を使いはじめる。
「ああっ、あそこが絞られるみたいで、凄いです!!」
 エルノはうねるような締め付けに声を上げる。
 イリーナは少年のあどけない顔に満足そうに笑いながら、何度も腰を使った。
 時折りエルノの小さな上体を抱き寄せ、愛おしそうに口づけを交わす。
「ああ、イリーナさん、イリーナさんっ!!」
「エルノ、エルノっ!!」
 2人は、何度も何度も結合し、やがて窓から朝日が照らしこむまで、覚えたての快楽を堪能した。

 朝、イリーナはとろとろと眠りに落ちたエルノの頬に唇を触れさせ、静かに戸を開いて外へ出た。
 エルノが目を覚ました時、部屋には誰もいない。
「中……あ、と、イリーナさん……?」
 室内を見回すと、夕べのスープ鍋の横に一枚のメモが置かれている。
 イリーナの字だ。そこにはこう記されていた。
『 私の最後の宝 エルノへ。

 この小屋を山伝いに歩けば、我が軍の西方司令部に辿り着く。そこに向かいなさい。
 あの激戦区から生還したとなれば、軍に重用して貰えるはず。エルノ、お前はそこで立派にお国の役に立つんだ。
 私はこれより、自軍敵軍問わず銃を向ける反逆者となる。
 軍に裏切られて死んでいった軍曹達の弔いをしなければならない。
 だがそれは、私の小隊長としての勝手だ。お前はついて来てはいけないよ。
  ……一つ、頼みがある。
 いつか私が殺されず捕らわれたなら、きっと激しい尋問を受けるだろう。
 それによって、もし私が私でなくなった時には、どうか存在全てを忘れて欲しい。
 勝手な願いで済まないが、宜しく頼む。

           第1歩兵隊 B中隊 第3小隊隊長 イリーナ・アラルースア』



 
 それから4年の月日が経ち、19歳になったエルノは西方司令部に勤務していた。
 どこかあどけない面影も残っているが、背はすらりと伸びている。
 彼はこの4年を苦悩と共に生きてきた。
 戦火は依然収まることを知らず、それどころか緩やかに広範囲へ飛び火していく。それはまるで両国が領地を侵略しあうゲームをしているようだった。
 戦争が長引くにつれ、軍のモラルは崩壊していった。当たり前のように敵軍の衛生キャンプを破壊し、無抵抗な村人を蹂躙し、そして味方さえも偵察隊と称して使い捨てにする。
 思えばイリーナの隊を見殺しにしたあの頃から、その兆候が見えてはいた。
 イリーナはいち早くそれに気付いていたのだろう。
(こんな軍の為に尽くすべきなのか?)
 エルノは一日の終わりに必ずそう自問する。

 司令部にいると時おりイリーナの噂が入ってきた。
 彼女は両軍の脱走兵や民間の自衛団員を率い、正規軍による衛生キャンプの破壊や無関係な民間人への暴行を阻止して回っているらしい。
 現地の者からは涙ながらに感謝されているようだが、軍上層部はイリーナをゲリラの首謀者と定め、その捕獲を各軍に命じていた。
 奇妙なのは、ゲリラ扱いにも関わらず『標的の命は奪わず、拘束せよ』との命が発せられていることだ。
 エルノは何度、イリーナの元へ助太刀に行きたいと思ったか解らない。だがその度にイリーナの書置きを思い出し、その思いを呑み込んだ。
 ゲリラとなって復讐に身をやつすのは自分だけでいい。将来のあるエルノは軍で終戦まで生き抜け。
 それがイリーナの最後の命令であり、死んでいった仲間達も同じ事を言うはずだった。
 エルノは彼女や仲間達の為に、ただ死なないように日々を過ごす。苦しい日々だったが、エルノはその毎日がどうか終戦まで続いて欲しいと願っていた。
 そんな願いを打ち砕くかのように、ついにある日、エルノは噂を耳にする。

「おい聞いたかよ。あの“イリーナ様”、南の方でとうとうとっ捕まったんだってさ」
「おっ、マジかよ。いやァしかし長かったなあ」
「ああ。大体このご時勢に、軍を抜けた中尉ぐらいで騒ぎすぎだよな。
 何でも将官クラスの人間が何人も作戦に関わってたらしいぜ」
「そりゃあれ、名門アラルースアの生まれだし、しかも知ってっか?実物はすんげぇ美人なんだぜ」
「へぇ。じゃあ少将中将のジジイ共は、殺すのが惜しいから穴奴隷にでもしようってのかよ」
「殺すなっつってる所見ると、そうだろうな。しっかしかなり軍の邪魔してたからなあ、えらく辱められると思うぜぇ?」
「ひひっ、たまんねぇなあ!」

 同僚たちが笑い転げる中、エルノは持っていたスープ皿を取り落とした。


反逆者・陸軍中尉イリーナの尋問は、西方司令部の地下尋問室で行われる事となった。
 西方司令部は収容所と繋がるようにして建っており、他国の要人など特別な人間の尋問は司令部の地下で行われる。
 壁に浮かぶ赤黒い染み、天井から下がる無数の鎖。尋問室とは名ばかりの拷問部屋だ。
 今その特別な部屋には、尋問官を除けば大佐以上の身分を持つ人間しか入室を許されていない。しかし1人だけいやに歳若い男がいた。エルノだ。
 エルノは元イリーナ隊である事を口実に尋問に立ち会おうとした。しかしそれを嘆願するまでもなく、逆に将官の方から是非にと声がかかったのだ。

 エルノは暗がりに起立し、目深に帽子を被り直す。
(イリーナさん……)
 4年ぶりに見るイリーナは、気の強そうな青い瞳はそのままに、長いブロンドの髪が美しく背に垂れかかっていた。彼女が真っ直ぐで勇敢な女兵士である事がその顔だけで窺い知れる。
 昔よりさらに凛々しく強かになったようにエルノは感じた。
 イリーナは軍服姿で後ろ手に縛られ、猿轡を噛まされて椅子に腰掛けている。
 普通、尋問は囚人服や拘束服でなされるものだが、それをあえて正装である軍服でする。
 軍に背いた者の尋問としてはかなりの皮肉といえた。

 イリーナの前に、肩幅の広い壮年の陸軍中将が歩み寄る。
 尋問官がイリーナの猿轡に手をかけた。
「いいか。もし舌を噛み切ったりしたら、一緒に捕らえた仲間を公然でバラすぜ」
 尋問官の囁きに、イリーナは小さく頷く。
 尋問官は用心深く猿轡を外した。猿轡の瘤と桜色の口内が唾液で結ばれている。
「……君が生きていると知った時には驚いたよ、イリーナ・アラルースア中尉。
 あの雪原での連戦で、よもや生存者がいようとは」
 中将は髭を撫でながら告げた。
 イリーナがその顔を激しく睨み上げる。
「あれは、そちらの援軍とで挟み撃ちにする計画だったはず。なぜ我らの要請に応えて下さらなかったのです」
 イリーナの瞳は怒りの炎を滾らせていた。身の凍るような迫力だが、美しさもまた増している。
 中将はそのイリーナを眩しそうに見下ろした。
「ああ、あの時は別件がゴタついてな、君達の方へ戦力を割く余裕が……」
「ふざけるなっ!!」
 イリーナの顔はいよいよ怒りに歪む。
「私がこの4年、あの時の戦いについて調べなかったとでもお思いか!
 あなた方は私達の数個小隊を敵大隊の囮にし、手薄になった北東に過剰な戦力を集めていた。
 始めから私達を捨て駒にするつもりだったのだろう!!」
 イリーナは中将へ襲い掛からんばかりに身を乗り出した。尋問官がそれを羽交い絞めにする。

「なるほどな」
 中将が1人頷く。
「デコイに使われた恨みで、我が軍の邪魔をしていたわけか」
「私だけではない、死んでいった仲間達の無念もだ。あなたには理解できない事かもしれんがな」
 イリーナが中将を睨み上げながら答えた。
「貴様!先程から中将殿になんたる口の利き方だ!!」
 将校達が銃を構えるが、イリーナは中将を睨んだまま微動だにしない。
 それを嬉しそうに見下ろし、中将が手を翳した。
「なに、構わん。このぐらい気の強い女軍人がおってもよかろう。
 ……さて、ところでイリーナ。君がなぜ戦場で射殺されず、こうして尋問を受けるかわかるかね」
 その言葉に、初めてイリーナの目の鋭さが翳る。
「ふん。仲間の居所か、アジトの場所でも聞き出すつもりだろう?」
「そんな事はどうでもいい」
「なっ……!?」
 中将に言葉を流され、イリーナが狼狽を示した。
「それは君よりも、他の構成員共に吐かせた方が楽だ。君を捕らえたのは、謝罪と誓約をさせるためだよ」
 中将は美しく整ったイリーナの顎を持ち上げる。
「謝罪と、誓約……?」
「いかにも。軍を裏切ってすみません、これからは軍のために私の身を捧げます、とな。
 無論、身を捧げるとは文字通りの意味でだ」
 中将、そして四隅に座る将校達がイリーナにぎらついた目を向ける。女を食い物にする雄の目だ。
 誇り高いイリーナは恥辱に頬を染めた。
「どこまで腐りきっている……!謝れだと、謝るのはそちらの方だ、死んだ部下を返せッ!!」
 イリーナが憤怒の形相で叫ぶが、彼女に臆するものはいない。
「我々とて、貴様のような女が簡単に転ぶとは思っていない。だからこその尋問だ。なぁ」
 将校達が尋問官の肩を叩く。
「そういうこと。ま、こっちもプロだからね。観念しなよ」
 尋問官はイリーナの肢体を眺め回し、待ち遠しそうに笑った。

(なんだよこれ、無茶苦茶だ……!こんなのが軍の幹部だっていうのかよッ!!)
 エルノは怒りで腰に当てた手を握りしめる。隣に座る少将が横目にそれを見つめていた


「さて、と。じゃあ皆さん、とりあえず彼女をうつ伏せにして下さい。尻は高く掲げる形で」
 尋問官が命じると、将校たちはイリーナの身体を床に寝かせる。
 見事な臀部とスカートから覗く脚線が露わになった。
「おお……よく鍛えられて、これは……!」
 男達は誰からともなくその下半身へ触れ始める。イリーナが眉を顰めた。
「それは何をしておるのかね?」
 中将が尋問官の手元を見ながら訊ねる。尋問官はブリキのバケツに水を汲み、その中に透明な薬液を溶かし込んだ。
 そして風船のようなゴム球が3つ付いたチューブを取り出す。
「浣腸の準備ですよ。気の強い女を服従させるには、何といってもコレが一番なんです」
 浣腸。その言葉に将校たちが目をぎらつかせ、イリーナが表情を強張らせる。
「い、いやっ!!」
 イリーナが叫ぶと尋問官がその顔を覗きこむ。
「尻から水入れられて糞をぶちまけるのは嫌かい?だったら、
 『逆らってごめんなさい、こんな私でよければ、身体を好きにお使い下さって結構です』
 と皆さんにお願いするんだ」
 尋問官の言葉に、イリーナは顔を背けて拒否の意を示す。
「ノーか。まぁ、そうこなくっちゃな」

 尋問官は嬉しそうにイリーナの背後に回った。
 そして彼女のスカートを捲り上げると、その下のショーツもずり下げる。
 イリーナの白い臀部が露わになった。
 中心には、皺の放射状に並んだ肌色の窄まりが隠れている。尋問官はそれを両の親指で押し開いた。
「色素も薄くて綺麗な形をしている、とても排泄の穴とは思えないな」
「い、ひぃっ!!」
 尋問官が指に油をつけてゆっくりと菊の輪を擦ると、イリーナは声を上げて背を仰け反らせる。
「うん、可愛い声だ。真面目で実直なイリーナ中尉は、本来なら一生こんな所を触られる事のない人生を送ったんだろうにな」
 尋問官はイリーナの反応を楽しみながらたっぷりと油を塗りこめ、チューブを手に取る。
 そしてチューブに付いた3つのゴム球のうち、最も大きなものをイリーナの尻穴に押し当てた。
「ぐっ……!?」
 イリーナは尻の穴に何か触れる感覚を必死に堪える。
 ラグビーボールの形をしたその風船は、尋問官の押し付けと油の潤滑でぬるりと奥へ入りこむ。

 風船が根元のストッパー部分だけを残して全て埋まると、尋問官は別のゴム球を強く握りこんだ。
 その瞬間、イリーナの体が強張る。
「っ!?何だ、肛門の中で、膨らんで……!?」
「新鮮なもんだろ、お尻の中を拡げられるのは。今、腸の中でゴム風船が膨らんでるんだぜ。
 これが膨らんじまったが最後、もうどんなに息んでも追い出すことはできねぇんだ」
 尋問官の言葉に、イリーナが歯を食いしばりながら腹部に力を込める。
 しかし一瞬の後、すぐに息を吐き出した。
「ほら、もう無理だ」
 尋問官はさらに一度ゴム球を握りこみ、膨らませてから手を離した。
「面白い道具だな。まだ一つ風船のような球があるが、それを押すとどうなるんだ」
 中将が聞くと、尋問官は笑みを浮かべながらチューブの先を水の入ったブリキバケツに浸す。
「まあ、やってみれば解りますよ」
 尋問官が言いながらゴム球を押し込むと、バケツの水の中で気泡の生まれる音がした。
 と同時にイリーナが声を上げる。
「く、つ、冷たいっ……!!貴様、私の腸に何を入れている!?」
「と、言うわけです。このゴム球を一度握れば、バケツの中の水が彼女の腸内に流れ込む」
 尋問官はそう言ってさらに何度もゴム球を握りこみ、イリーナが息を呑んだ。

「コレのいい所は、じっくりと時間を掛けて少しずつ、好きなだけ浣腸できる事です。
 あまりやりすぎると腹が破裂してしまいますが、その限界まで、様子を見ながら一押しずつ。
 浣腸しながらも流れ込む管以外は塞がれているので、絶対に漏らせません。
 時間を掛けて屈服させるにはもってこいなんです。
 ちなみに、バケツの中には便意を呼び起こすグリセリンが溶かしてあります」
 尋問官がそう言う間にも、何度も水を送り込まれたイリーナはその未知の感覚に震えていた。
 歯の根が合わない、という様子だ。
「さぁ、まだまだ入っていくぞ中尉殿。どこまで我慢ができるかな」
 尋問官はさらにゴム球を握りこみながら、他の将校達を振り仰いだ。
「どうです、皆さんもこの女の腹に水を流し込みませんか。ホンの一握りするだけですよ」
「楽しそうだな。どれ」
 陸軍大佐がそのゴム球を受け取り、強く握りこむ。イリーナの腸に勢いよく水が噴き出した。
「うぐ……っ!」
「ほう、鳴きおるわ。これは愉快だ」
「俺にもやらせてくれ」
 代わる代わるゴム球が手渡されていく中、腸に水を湛えたイリーナは、ただ歯を食い縛って耐え忍ぶしかなかった。


「うく、く、苦し、い……!」
 10度ほどゴム球が握り回されたところで、イリーナが小さく呻く。
 尋問官がうつ伏せになった彼女の前を肌蹴た。白い下腹部が膨らんでいるのがわかる。その中からはぎゅるぎゅると低い唸りが響いていた。
「だんだん腹が膨れてきたな。中で大量の水が渦巻いてるのが解るだろう」
「あ……は、あっ……!!」
 尋問官が腹を撫でると、イリーナが苦しそうに顔を歪める。
「どうだ、出したいか?出したければ許しを請え。惨めったらしくな」
 将官達がゴム球を握りこみながら笑う。イリーナは床につけた頬を捻って彼らを睨みあげた。
「誰が、許しなど!謝るのはそちらの方だ……!!」
「なるほど、気が強い。だが抵抗するとますます苦しみが長引くぞ」
 将官達がさらに液を流し込み、イリーナは歯を食いしばって呻きをあげる。
 それが幾度も繰り返され、やがてどれだけゴム球を握りこんでもチューブに液が逆流するようになってしまった。
 容量一杯と見た尋問官は、チューブの根元をコックで止めて流出を阻む。

「うぐぐぐ、ぐふうんぐうう……!!」
 髪を掴んで引き起こされたイリーナの腹は、妊娠何ヶ月目かのように歪に膨らんでいた。
「2リットルは入っただろうな、腹がちゃぷちゃぷいってるぜ。どうだ?苦しいだろう」
 そう問われ、イリーナは荒い息のまま薄目を開ける。
 眉は垂れ下がり、下唇は噛み締められ、普段の顔からは考えられない弱気な表情だ。
「ほう、いーい表情だ。勝気な女性の見せるこの顔は堪りませんな」
「どれだけ戦場で雄雄しくいようとも、糞がしたくてたまらないだけでこの顔になる。脆弱なものだ」
 将校たちは口々にイリーナの顔をなじった。
「く、うう……ふ、ふん、鏡を見ろ。貴様らの好色面の方が、よほど見るに耐えんぞ」
 イリーナが気丈に切り返しても、軍服の前を肌蹴たまま尻に栓をされる状況は変わらない。
「何とでも言え、女」
 将校たちはイリーナの軍服の胸元に手をかけ、力任せに引き千切る。
 イリーナの前身が完全に露わになった。手のひらでは到底掴みきれないほどの見事な乳房が零れだす。
「見事なものだ。合同訓練の際に何度か目にしたが、軍服を着ていてもこの大きさが分かったよ」
 陸軍大佐が興奮気味にその乳房を鷲掴みにする。
 イリーナが小さく声を上げると共に、その腹部が激しく鳴り始めた。
「ふぐううう、う!!」
「ほう、胸が感じるらしいな。20代も後半に差し掛かろうという歳で戦争に身を捧げる女は、
 性欲が溜まっているのか?」
 男達が乳房を揉みしだきながら詰った。
「本当に良い表情になってきたな。どれ、乳を揉みながら、じっくり観察するか」
 中将が苦悶に満ちたイリーナの顔を眺めて言う。

 そこからイリーナは、排泄を必死に堪えながら男達に顔を覗きこまれ続けた。
 羞恥に顔を伏せても、顎を掴んで無理やり前を向かされる。
 イリーナは全身に凄まじい脂汗を掻き、後ろ手に縛られたまま腰をくゆらせた。
 その乳房を女の扱いに慣れた将校達が嬲る。
 ある者は膨らんだ腹部を残酷に揉みしだいた。
 その刺激でイリーナは、真っ赤にした顔を崩さざるをえない。
「はぁ、ああああ、あぐっ、うう、ああぐう、はぁ、はぁああ……っ!!」
 イリーナの口が大きく開き、その口の端から涎が垂れる。
 それは陸にいながらにして溺れているような有り様だ。
「苦しいか?服従するならすぐに楽になれるぞ」
「はぁ、はぁ……だ、誰が……!このぐらい、何時間でも耐えてみせる……!」
「そうか、ならば何時間でも耐えてもらおう」
 イリーナの負けを認めない姿勢は、ますます男達の嗜虐心を煽り立てた。
「や、やめ、ろぉ……!!」
 膨れた腹を掴まれ乳首を摘まれると、イリーナの眉が垂れ下がる。

 地下には腹の鳴る低い音が響き続けた。女の生々しい呻きもそれに重なった。
 イリーナの汗まみれの顔から血の気が失せ、目も虚ろになった辺りで尋問官が立ち上がる。
「限界のようです。これ以上はこの後の調教に差し障ります」
 尋問官がイリーナの尻の下にブリキのバケツを置き、チューブについたボタンを押す。
 しゅうっと空気の抜ける音と共に肛門のゴム球が萎んでいく。その直後だ。
「あああああ゛っ!!見るな、見るなあああぁぁぁあっっ!!!!」
 イリーナの叫び声が終わらぬ内に、柔らかくおぞましい音を立ててバケツに黄色いものがぶち撒けられる。
「おうおう、細い体でまた大量に出るもんだ。収容所じゃ勝手な用足しが禁止されてるらしいからな。
 数日分のクソってわけだ!」
「あれだけ水を流し込まれて我慢したのを解放してるんだ、気持ち良いだろう。
 どうだ?この人数の前でクソをひりだすのはどんな気分だ、中尉!」
 男達のなじりを受けながら、イリーナの排泄は続く。
 後ろ手を縛られた蹲踞の格好で、1人に顎を持ち上げられ、その時の顔を見られながらだ。
「いやぁ、ああああああ゛!!……とまらない、どばらないい゛……!!!!」
 イリーナは細く涙を流し、口を開けながら腸に溜まった水を勢いよく放つ。
 妊婦のように膨らんでいた腹がへこんでいき、引き締まった腹部が表れてくる。
 側筋の浮いた腹は豊かな胸によく似合った。
 長い長い排泄だった。何度もバケツの淵に飛沫を上げながら、窄まりを一杯に開いて噴き出していく。
 ようやく全てを出し切った時、イリーナは床にへたり込んでいた。
「う、ぐぐ、く……ゥッ……!!」
 その汗まみれの顔は射殺すように将校達を睨み据える。
 将校たちは勝ち誇ったように見下ろしていた。
「無様な姿だったな、イリーナ中尉。美しい君が大量のクソをひり出す光景は、生涯私の脳裏に刻まれたままだろう」
 中将が満面の笑みを浮かべて告げると、イリーナは弱りきったような顔のまま、力なく項垂れる。

 ぎりりっ。
 かすかに歯軋りの音がした。音を立てたのはエルノだ。
 彼の指は静かに胸のポケットに触れ、その内側にある拳銃を指でなぞった。
 (まだだ……まだ、だ)
 エルノは息を整えながら拳銃から指を離す。
 怒りに震える彼の前では、尋問官に担ぎ上げられたイリーナがまた新たな責め苦を受けようとしていた。




 イリーナは分娩台に酷似した開脚台に手首・足首を繋がれた。
 格好は前を大きく肌蹴られた軍服の上衣と、恥毛の上にたくし上げられたスカート、そして腿までのガーターストッキングだ。
 秘部は大きく開脚したまま男達の好奇の視線に晒されている。
 そのような屈辱的な状態に置かれながらも、イリーナの目はなお軍人らしい凛とした光を放っていた。
「いい絵だな。毅然とした顔に浅ましい格好……最高だ」
 尋問官が楽しそうに言いながら、イリーナの秘部にライトを向ける。
 開かれた割れ目が奥のほうまではっきりと見えるようになった。
 さらには彼女の全身を捉える形でビデオカメラまでがセットされる。
「ほう、撮影するのかね」
 中将が問うと、尋問官はよくぞ聞いたとばかりに微笑む。
「ええ。これからする責めは、女をそれはそれは恥ずかしい姿にしますから。映像に残す価値はありますよ、と」
 カメラとライトを微調整した後、尋問官は嬉しそうに警棒のようなものを手にする。
「さて中将殿。これから自分が何をされるのか、理解しているか?」
 棒をイリーナに見せ付けながら尋問官が問うた。
 怒りに目を剥いたイリーナが鼻で笑う。
「電気責めだろう。たとえ焼き殺されようとも、断じて貴様らの言いなりにはなら……」
 そう言いかけたイリーナの脇腹へ、尋問官がおもむろに電気棒を押し付ける。
「ぎゃあうっ!?」
 イリーナの肩が跳ね、目が白黒と彷徨った。
「そうだ、電気責めだ。電気責めは素晴らしいぞ。電流を抑えて適度に電圧をかければ、
 外傷を一切与えることなく苦痛だけを感じさせる事が出来るんだ。
 感電死なんて楽はさせないぜ。死どころか気絶すらできない、しかし痛くてたまらない電圧を使う。
 じっくりと、とろ火で炙るように調理してやる」
 軽く息を乱したイリーナを眺めながら、拷問官は告げる。

 尋問官はまず、慣らしと言ってイリーナの膣と肛門に弱電圧を流した電気棒を挿入し、30分ほどかけてゆっくりとピストン運動を施した。
 時に陰唇やクリトリス、尿道孔など周辺にも刺激を与えながら、イリーナの性器を電気に慣らしていく。
「ああああ……あ、ふああぁああうう……!!」
 気持ちいいのだろう。イリーナは亜麻色の髪を台に擦りつけ、白い顎を晒しながら細かに震わせている。
「中将殿はよっぽど男日照りだったのか?えらく感じまくってるな」
 周りから野次が飛ぶとすぐに顔を引き締める。
 だが尋問官が秘部から引き抜いた電気棒には相当な粘度の愛液が纏わりついており、それを鼻先に晒されると口を噤むしかなくなってしまう。
「はぁっ、ん、ふんんんん……!っは、ゥん……うんん、あぁ」
 イリーナの艶かしい喘ぎがビデオに収められる。
 乳輪は収縮して盛り上がり、乳首は尖って上を向き始める。
 クリトリスも色づき始め、イリーナから女の匂いが漂い始めた辺りで尋問官は手を止めた。
「さぁて。いよいよ本番だ」


「あああああーーーッ!!あッアっ、はあッ!く、ひいいあぁあああ゛あ゛!!!!!」
 ビデオカメラは女の狂乱する顔を捉えていた。
 それは映写機を通じて尋問室のスクリーンに大きく映し出される。
 女は目鼻立ちの整った涼しげな美人であろうと窺えた。
 しかしその美貌は、目を見開いた次の瞬間には涙混じりに細められ、鼻水に塗れてグズグズになっている。
 天を仰いだ口からは、だらだらと絶え間なく涎を流しつづけている。
「ははは、凄い顔だぞ!糞を我慢している時も傑作だったが、ここまで崩れるとはな!」
 スクリーンの映像を見て、将校たちが口々に笑いあった。
 イリーナの両耳と乳首、クリトリスは鰐口のクリップで挟み込まれ、膣と肛門には深々と電極棒が埋め込まれている。さらに脇腹や内腿にも無数の電極が取り付けられている。
 そんな状態で電流を流されるのだから堪ったものではない。
 コードにまみれたそのえげつなさは、紛れもなく拷問のそれだった。

 一旦電流が止められ、海老反りになっていたイリーナの体がどすんと台に落ちる。
「あッ、あ……あッあッ、んうッあァ……はぁッ、はぁあッ……!!!」
 イリーナは小刻みに喘いだ後、肩を震わせて大きく息を求めた。
「何だ、まだ10分ほどしか経っておらんぞ。これが我が国の陸軍中尉を務めていた女かね。
 いささか鍛錬が足りんのではないか」
「お恥ずかしい限りです。しかしこれで照明されたでしょう、この女は戦地に置いても駄目です。
 潜水艦にでも放り込んで、兵士の慰安に充てるのが関の山かと」
 将校たちの蔑みの発言に、イリーナが怒りを露わにする。
 しかしまた電流が流されたことで、その身体は大きく仰け反りながら痙攣を始めた。
「貴様っ……あッ、ううああああああ゛!!!!あああああう、あッ、うくぅはあああ゛あ゛っあぐ!!!」
 スクリーンに白目を剥いて大口を開ける表情が映し出される。
 絶叫が、彼女の身体を駈け巡る電流の激しさを表していた。
 電流はイリーナの白い腹部や内腿の随所を震え上がらせ、ほっそりと伸びた手足の先に至るまで小刻みな痙攣を及ぼしている。

 エルノはその光景を悪夢のように感じていた。
 気高く美しく、自分の軍人としての理想であったイリーナが、踏みにじられていく。
「どうだね、エルノ」
 隣に立つ少将がエルノの肩に手を置いた。
「かつての上司なのだろう、あの女は?一時でも“あれ”の下で動かされていた気分はどうだね。
 男としてやり切れなかろう。見たまえ、まるで家畜だ」
 少将はスクリーンを指す。そこにはイリーナの腹部が映し出されていた。
 ライトに照らされた白い腹は汗で油を塗ったように光っている。
 豊かな乳房と引き締まった腹が濡れ光る様は異様にエロチックだったが、エルノは心臓を突き刺されるようだった。

 カメラがさらに下を映すと、将校達から歓声が上がる。
 映ったのは大きく開かれたイリーナの秘部だ。
 2穴に電極棒を呑み込んだそこからは、夥しい量の液が漏れて開脚台の座部を滴り落ちていた。
「おや、失禁しているのかね」
「いえいえ、それだけじゃありませんよ」
 尋問官が膣に入った電極棒を静かにゆっくりと抜き取り、中を開いてみせる。
 開かれた秘裂はずぶずぶに濡れそぼち、奥から新たな愛液が溢れて床に滴り落ちていく。
「おおお、いやらしく濡れておるわ!あの電流で感じてしまうとは、どうしようもない淫売だな!!」
「うむ、しかし凄い匂いがするものだ、男を誘う女の香だな」
 将校たちになじられ、イリーナはいよいよ顔を赤く染め上げて顔を背けた。
 尋問官が笑いながら補足する。
「感じている訳ではないんです。全身を巡る電流で脳の神経がやられて、
 小便や唾液、愛液といった体液が垂れ流しになってしまうんですよ。
 さっき浣腸をしたのも、下痢便を漏らされちゃあ敵わないからです。
 でも感じてないとはいえ、体液垂れ流しのこの姿、精神的にかなりきつい筈ですよ」
 尋問官はそう言って、イリーナのあられもない姿をスクリーンに映し続ける。
「どうだ、恥ずかしかろう。謝罪するか?軍の性欲処理道具になると誓うか?」
 中将が顔を覗きこみながらイリーナに問うた。
「こ……断る……っ!!」
 イリーナは汗まみれの顔のまま首を振る。中将が尋問官に合図をした。
「ぎいゃああああああッあ、あうっぐああぃあああっはあぁぁあああああッ!!!!」
 イリーナの身体が反り返り、汗を飛び散らせる。豊かな乳房が上下する。
 その美しい体を眺めながら、尋問官は笑った。
「長期戦でいきましょう。この失神できない電流拷問は、しばらく繰り返すと精魂尽き果てる。
 体力がなくなってからあの拷問に耐えるのは、大変ですから」
 その言葉に将校達も待ち遠しそうな笑みを浮かべる。
「だそうだ。楽しみだな、エルノ」
 少将がエルノの隣で言った。
 エルノは痙攣を続けるイリーナを見ながら、小さく喉を鳴らした。


 電流責めはどのくらい続いただろうか。窓のない地下室では、時間の感覚は全く分からない。
 責めを受けるイリーナには永遠にも近い時間に感じられただろう。
 ようやく開脚台から下ろされた彼女は、その瞬間にがくりと気を失った。
 伸びやかな肢体は湯上りのように火照り、汗に塗れている。秘部は開ききり、尻肉に到るまで愛液で濡れ光る。
 将校達の目がイリーナのの恥じらいの部分に集まっていると気づき、尋問官が秘部に触れた。
「如何です、どなたかここを試してみませんか。気絶しているので膣も肛門も締まりがありませんが、
 電気ショックの影響で中が痙攣しています。具合のよさは保証しますよ」
 尋問官の言葉に将校達は顔を見合わせて囁きあう。
 そんな中、中将が歩み出た。

「ならば遠慮なく使わせて貰おう。そろそろ辛抱も限界だったところだ」
 中将はそう言ってチャックを下ろし、隆起した逸物を取り出す。かなりの大きさだ。
 亀頭はイリーナの後ろの窄まりに押し当てられた。中将が腰を進めると、亀頭はずぐりとさしたる抵抗もなく沈み込む。
「ほう、確かに締まりが緩くなっておる。易々と入っていくわ」
 逸物が根元までイリーナの直腸に入り込むと、中将はゆっくりと腰を動かし始めた。
「中将殿もお好きですな、いきなりアナルですか」
「若い頃に村娘を輪姦した時、使った事があってな。それ以来癖になっておるのだ。
 あの時は貧相な娘の上、腸奥に何か詰まっておって全て入りきらんかったが、これはいい」
「なるほど。まあ中将殿のご立派な物は、後ろでないと長さが入りきらんのでしょうな」
 将校達が騒ぎ立てる。
 尻穴に抜き差しをされながらも、気絶したイリーナが気がつく気配はない。
 うつ伏せのまま抽迭に合わせて床に身体をこすり付ける。
「ふむ。中々良いが、締まりが足らんな。おい君、目を覚まさせてやってくれ」
 中将が命じると、尋問官がバケツに入った水をイリーナの頭に浴びせかけた。

「げほっ、げほっ……あ、ああう、い痛いっ!?何、おしりが痛い!!」
 気がついた瞬間、括約筋が戻ってイリーナが悲鳴を上げた。
「おお、締まりおる、締まりおる。菊輪が根元にぎちぎちと食いついてきて痛むほどだ」
 中将が歓声を上げながら腰の振りを大きくした。
「く、う!!はぁ、はぁ……し、信じられん、そこが何の穴か解っているのか貴様っ!!」
 イリーナは目を吊り上げて中将に叫ぶが、手足は力なく床を叩くだけだ。
「全身が痺れて身動きが取れないだろう。抵抗も出来ずに糞の穴を犯される気分はどうだ?」
 中将が楽しげにイリーナの腰を掴み、剛直を叩き込む。
「痛いっ!!やめろ、早く、早く抜けぇっ……!!」
 イリーナは目から薄く涙を零しながら力なく訴えかけた。
 それは彼女がこの4年掛けて守ろうとした、強姦される無力な少女の姿そのものだった。
 尻穴を無抵抗に犯される様を、将校達が楽しそうに見下ろしている。
 イリーナはどうしようもなく、口惜しさに歯を噛み締めて泣いていた。
 どうしようもなく、ただ無力に……。
「もう……もう、やめろおおおおおっ!!!!!」
 うら若い男の叫び声が響いたのは、その直後だった。


 エルノが銃を構えていた。セイフティーは外れ、その銃口はイリーナを犯す中将を狙っている。
 場が凍りついた。
「……どういうつもりだ、若造?」
 中将は余裕の笑みでエルノを見やる。
 エルノは震えた。自分でも己のしている事が把握できないでいた。
 元々彼がここに来たのは、イリーナを殺す為だったのだ。
 軍に反逆したイリーナは嬲り殺しにされるに違いない。ならばその前に、自分の手で殺そうと思っていた。
 しかし出来なかった。代わりに何故かこうして、中将に銃を向けている。
「うああああ!!!」 
 もう退けない、せめてこの悪の根幹と相打ちになろう。エルノは覚悟し、銃の引き金に力を込めた。
 しかし次の瞬間、銃を握っていた右手が弾け飛ぶ。
 痺れるような痛みと共に銃が宙を舞い、乾いた音を立てて床に転がる。
「あっ、ぐ……!!」
 エルノは右手を押さえて呻いた。その瞬間、今度は左足首の腱を鋭く切り裂かれる。
「うう!!」
 エルノが左に顔を向けると、少々がサーベルを凪ぐ形で構えていた。
 腱を切ったのは少将で、銃を弾き飛ばしたのはその奥の大佐らしい。
 エルノは立っていられずに地面に膝をつく。

「ご苦労、少将」
 中将が笑みを浮かべた。それに一礼を返し、少将が膝をついたエルノに語りかける。
「お前がこうする事は解っていたよ、元第3小隊のエルノ」
 その言葉にイリーナが目を見開いた。
「エル……ノ……?」
 イリーナは遠くで顔を顰める青年を見つめる。懐かしい髪の色、顔の造り。
 随分と精悍になってはいるが、紛れもなくあの時の少年だ。
「…………エルノ、エルノッ!!!」
 イリーナは叫びながら青年に手を伸ばした。しかし中将に組み敷かれ、その手は届かない。
「イリーナさ……!!」
 エルノも将校達に床に押さえつけられ、呼びかける言葉を途切れさせる。

「安心しなさいエルノ。お前を殺しはしない。お前は、その特等席で見ているといい。
 己のかつて従った隊長がどうなっていくのか。軍に従えなかった者の末路はどうなのか。
 すべて見届けるんだ」
 少将がそう告げると共に、イリーナの呻き声が響き始めた。
 中将が尻穴への突き込みを再開したのだ。
「あっ、あぅ、あぁッ!!エ、エルノお願いだ、私を見ないでくれ。私のこの声を聞かないでくれ!」
 イリーナが金色の髪を振り乱してエルノに懇願する。
 床に押さえ込まれたエルノが目を背けようとすると、その鼻先の床をサーベルが叩いた。
「見たまえ、エルノ。目を瞑ったり背けたりすれば、その不要な瞳を抉り出す」
 サーベルの剣先が目袋をなぞり、エルノは震えながら顔を戻す。
 イリーナが悲しげに目を細めた。


 ※
「ん……ん、んはっ、はあ、あん……んン!!うん、あっ、ああッ……!!」
 尋問室には女の艶かしい呻きが響いていた。
 女――イリーナは這い蹲った格好のまま手首を拘束され、背後から犬のように犯されている。
「すげえや。ガキの頃から田舎で色んな女とヤッたが、こんなに具合のいいのは初めてだぜ!」
 イリーナを後ろから犯す男が言った。階級章を見る限り伍長だ。
「そりゃあ、よく鍛えてるからだろう。それによ、何しろ誇り高い中尉様だぜ?
 そんなご立派な方を犯せるってだけで、愚息がおっ勃っちまうよ」
 上等兵らしき男が射精を終えた逸物を弄くりながら言う。
「全くだな。しっかし、いきなり尋問室へ来いなんて少将に呼ばれた時は驚いたが、
 こんないい思いできるなんてな。レーションは不味いが、この軍で働いてて良かったぜ」
「にしても、すげえ精液の量だな。いつから輪姦されてるんだ、この中尉サマは」
「さあな。まあ、今日が初めてってわけじゃあるまいよ……おお、締まってきた」
 伍長が腰の角度を変えると、イリーナの喘ぎ声が一段階上がる。
「ふあああああ!!!」
 伍長は構えた自分の腰にイリーナの腰を擦りつけるようにして浅くじっとりと結合していた。
 イリーナの内腿が強張り、足の指が快感に開いて踏みしめられる。
「しかしお前、うめえな。中尉殿も相当感じてるんじゃねえか」
 男たちが伍長の腰遣いを褒める。伍長は誇らしげに腰を突き出した。
「伊達に田舎生まれじゃねぇよ。娯楽といや女を抱くばっかりだったからな。
 今はほれ、Gスポットをゴリゴリと愛してやってるんだ。声がすげえだろ?
 子宮は下がってきてるし、愛液は逸物を包んでくるしでもう感じまくりだな」
 伍長のその言葉を裏付けるかのように、イリーナは口を開き、その端から涎を垂らしていた。
「うう、いく!出るぞ!!」
 伍長がイリーナの腰を強く掴み、奥まで突きこんでから動きを止めた。
 陰嚢が収縮しており、中に大量に射精している事が解る。
「いや、あ……中に、は、入って……くる……!!」
 イリーナはもう何度目か解らない膣奥への中出しに眉を垂れた。

 長い輪姦が終わると、イリーナは拘束服を着せられて収容所の檻に入れられる。
 隣の檻には、同じく拘束服を着せられた青年がいた。
「エル……ノ……!」
 イリーナは乾ききった声で青年を呼ぶ。
「イ……リーナ……さん」
 エルノもやつれた顔でそれに応えた。
 2人は、鉄格子に阻まれ、手足の自由もないまま、舌だけを絡ませて朝まで愛を交わし合う。
 イリーナの舌には他の男の精液が絡みついているが、それでも僅かな時間を愛おしむ。
 朝までの、僅かな時間。
 次の朝、イリーナはまた別の男に犯され、目を蕩けさせては首を振って振り払う。
 しかしそのサイクルは次第に短くなってきている。
 手足に包帯を巻いたまま、エルノはそれをただ見つめていた。
 足首からは血が流れ、首元にはサーベルの刃が当てられている。

 尋問官が体力の尽きかけたイリーナへ与えた最後の拷問。それは快楽拷問だ。
 女に飢えた兵士達を使って好きなだけイリーナの身体を使わせる。
 飢えた男達に辱められ、尋問官たちによって穴という穴を開発されていく中で、イリーナはやがて快楽を自然に受け入れるようになっていく。
 人は苦痛には死ぬまで耐えられても、快楽には耐え切れない。
「ほらどうした、イクんならイクって言えよ!?」
 少佐の階級章をつけた男が抱きかかえたイリーナを突き上げる。
「い、いくっ、ああっ、んうあああああいぐうぅうううっ!!!」
 イリーナは天を仰ぎながら、叫び声を上げた。
 彼女はやがて潮を噴き上げ、エルノの頭上に浴びせかけていく。
( あの日の雪みたいだ )
 エルノは思った。
 
 体が、ひどく寒い。

                                  END
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くノ一桔梗

※拷問・スカ注意。グロはなし

「お前に折檻をするのはこれが初めてだねぇ、桔梗。見目が良くて教養があって、物分りも良い。
 ゆくゆくは太夫になってもおかしかないお前が、どうしてうちなんかに来たのか、ずぅっと気になってたけど……くノ一だったんだね」
 女郎屋の女将であるお菊は冷たい口調で告げる。
 彼女の前には桜色の肌をした若い女性が、はだけた襦袢姿で逆さ吊りにされていた。
 胸元と太腿を大きく露出させる惨めな格好だ。

 彼女……桔梗はつい先ほどまで、お菊の女郎屋でも評判の遊女だった。
 だがそれは仮初の姿。
 藩主すら影で操る富豪、柏屋六代目黄左衛門を殺める事が、くノ一・桔梗に与えられた任だ。
 桔梗は遊女に成りすまし、あえて遊郭でも下流の女郎屋に身を置いて黄左衛門を待った。
 女郎屋の名は『轍屋』。
 足抜け犯や醜女などの問題のある遊女が集まる、安さだけが取り得の女郎屋だ。
 桔梗がそこを選んだのは、自らの美しさが際立つと踏んだからだった。
 器量では太夫にすら劣らぬ桔梗が底辺の店にいれば、当然目立つ。実質以上の天女の如き美しさに見える。
 女好きの黄左衛門がそれに目をつけない筈がない。
 そして目論見どおり、黄左衛門は桔梗の誘いに嬉々として応じた。
 何度も臥所を共にするうち、黄左衛門はいよいよ桔梗に心を許すようになり、外にいる護衛の数を減らしていった。目は女に酔った男のそれになり、桔梗の勧める酒を景気よく飲み干すようになった。
 それを好機と見た桔梗はついに今晩、酒に毒を盛って殺害を決行したのだ。

 だが結果として言えば、黄左衛門は桔梗より数枚上手だった。
 いつものように激しく桔梗と交わった後、黄左衛門は毒入りの酒を飲み干し、横になったまま動きを止めた。
 毒が利いたのだろう、と思った桔梗が念のため簪から針を抜き、黄左衛門の首筋へ突き立てようとした瞬間だ。
 黄左衛門は身を捩るようにして跳ね起き、胸元の鉄扇で鋭く桔梗の手首を払った。
「うあ!」
 桔梗は叫びながら鍼を取り落とし、ただ、愕然とする。
 目の前で鉄扇を構える黄左衛門の目には酔いがなく、その首元の紙には、酒の色が染みこんでいた。
 早々に毒入りの酒と看破し、飲むふりをして桔梗に見えぬように首元へ流し込んでいたのだ。
『わしも後ろ暗い身。毒を盛られる覚悟も、女に騙される覚悟も……日々、忘れてはおらんのだ』
 黄左衛門は穏やかな笑みを浮かべて言った。全てが想定の範囲内という風だ。

 桔梗は血の滲む右手を庇いながら状況を考える。
 今の動きから見て、黄左衛門に武術の心得があるのは間違いなかった。
 齢は50近くになるはずだが、技の切れがあまりに鋭い。
 鉄扇を持つ上、後ろに刀もある黄左衛門を相手に、右手が動かない今の状況で勝ち目は薄い。
 ここは自分が一度引き、体勢を整えるべきだ。
 桔梗はそう判断し、素早く後ろへ飛びながら障子を破って廊下へとまろび出た。
 しかし、そこで桔梗は再度驚愕する。
 廊下には数え切れないほどの浪人が、まさに桔梗を捕らえんと待ち構えていたのだ。
「……くっ!!」
 桔梗はなお逃亡を図ったが、男衆の図体に阻まれ、手足を掴まれてあえなく引き倒された。
「女郎屋で待つ発想と、先の簪での一閃、いずれも見事であった。経験の浅さを除けばな」
 殴る蹴るの暴行を受ける桔梗を見下ろし、黄左衛門が不敵に笑う。
 彼はその優れた洞察力で、毒を盛られた事実はおろか、桔梗が今夜行動を起こすことまで読み取っていたのだ。
 甘かった……桔梗はそう悔やみながら、男達の足の下で意識を失った。




 背中側に手を組み合わせ、桔梗は松の木に逆さ吊りにされていた。
 齢にして17、異人の血が入っているのではと思えるほど白く伸びやかな脚がはだけた襦袢から覗いている。
「強情な娘だね。誰の命でやったのか吐けば、命までは取らないって譲歩してやってんのにさ」
 『轍屋』の女将・お菊は、割竹で今一度勢いよく桔梗の太腿を打ち据える。
 鋭い音が炸裂し、周囲の見物人に耳を塞がせた。音を聞くだけで痒い痛みが現れそうだ。
 桔梗の白い太腿はもう幾度となく鞭打たれ、無数の赤い筋に覆われている。
 太腿に限らず、襦袢から半ば零れ出た豊かな乳房や臀部も同様だ。
 見るからに痛々しい姿ながら、桔梗は一言の呻きも上げずにいた。僅かにあどけなさの残る涼やかな美貌を保ち、静かに目を閉じている。
 だがその額には細かな汗が浮かび、口の端からは鈍く光る筋が見えた。それは桔梗がもうかなりの時間、逆さ吊りでの拷問を受けている事を物語っていた。
「詮方ないね。お前達、“あれ”の用意をしとくんな」
 お菊が女郎屋の若い衆に命じると、待っていたとばかりに小屋から二抱えほどの大きな酒樽を担ぎ出す。
「酒樽……水責めか。ただでさえ半刻ほど逆さ吊りにした所へこれとは、さすが鬼の轍屋だ」
 黄左衛門が鉄扇で手のひらを叩きながら笑った。桔梗の瞳が薄く開き、かすかに惑う。
「うちの女郎にやると死人が出るやもしれませんが、この娘はくノ一。生半可な責めでは骨折り損というもんですから」
 お菊が黄左衛門に答える間にも、酒樽になみなみと水が注がれ、さらにその中に勝ち割ったばかりの大振りな氷が浮かべられた。
 酒樽に出来上がったのは霜が降りそうな冷たい氷水だ。
 季節はまだ秋口とはいえ、そんな中に漬けられては心肺に与える影響は計り知れない。

「桔梗。今一度弁明の機をくれてやるよ。誰の命で動いてるんだい?」
 お菊に問われ、桔梗は静かに首を振った。
「何のことか解らないわ。黄左衛門が親の仇だから殺したかった、ただそれだけ」
 桔梗の答えは無論偽りだ。
 黄左衛門を親の仇と狙う人間が多いのは事実だった。にもかかわらず、黄左衛門もお菊も桔梗が忍である事を信じて疑わない。
 互いに多くの女を見てきたゆえに、桔梗の隙のない美貌や鍛え上げられた肉体から浮世の女ではないと看破したのだ。
「やれやれ……始めな」
 お菊がパンと手を打ち鳴らすと、若い衆の一人が松の木に上り、桔梗を吊るしている縄を解いた。
桔梗の身体は勢いよく酒樽に落ち、飛沫を上げながら深く沈みこむ。
「がぼぉっ!!!」
 桔梗は水中で大量の気泡を立ち昇らせた。
 なるべく息を止めているつもりだったが、勢いよく落とされた上に氷水は心臓の凍りつく冷たさだ、
 生理現象として息が追い出されてしまう。
 黒髪のゆらめく水中で、桔梗は目を瞑り、口を噤んで耐えた。
 氷水の冷たさが肌を引きつらせ、きぃんと耳鳴りを起こし、酒樽の外で起きる嘲笑いを遠のかせていく。
 (痛い、痛い!)
 桔梗の脳裏にその言葉が浮かんだ。どこの痛みなのかわからない。
 潜った時の鼻の痛みか、冷たさから来るこめかみの痛みか、目の奥の痛みか、肺の軋みか。
 息を吐くまいとしても、寒さと息苦しさから来る動悸で僅かずつ気泡が漏れていく。
 苦しさに身を捩り、肺の中が鉛で一杯になったような錯覚を覚えた辺りで、桔梗は水から引き上げられた。

「ぶはっ!あは、げほっ、げほげほ、えほっ!!」
 桔梗は逆さ吊りのまま前屈みになって激しく咳き込んだ。
 鼻と口から水が吐き出され、鼻の奥に尋常でない痛みが生まれる。
「どうだい、汗を掻いた身に冷たい水は美味いだろう」
 お菊が嬉しそうに髪の貼りつく桔梗の顔を覗き込んだ。
 実に責め慣れたものだ。
 お菊の轍屋は足抜け犯などが集まるだけあり、その折檻の厳しさは遊郭内でも類を見ない。
 轍屋の折檻は、遊郭内でも知る者ぞ知る名物となっていた。
 ある時は小刀針を用い、目だった傷がつかない程度に少女を甚振り続ける。
 ある時は衆人環視のもと、女をやめたくなる様な恥辱の責めを科す。
 それを淡々とこなすお菊は、とうに人の心など失くしているに違いなかった。


「さ、話す気になったかい」
 お菊が問うが、桔梗は黙って顔を背ける。
 お菊は嬉しそうに若い衆へ向けて手を翳す。桔梗の身体は再び勢いよく酒樽に沈められた。
 身を切り裂くような冷たさが桔梗を襲う。
 今度の冷たさは先程よりも深刻だった。
 氷水に浸かったあと外気に晒された事で体温が急激に下がり、そこへ来て再度の氷水だ。
 肺の周りに薄い氷の層ができたようで、肺が震えて止まらない。肩も背中も止めようもなく痙攣する。
 桔梗は身体を緊張させ弛緩させして間を取り、耐え忍んだが、結んだ口の端からは絶えず水泡が漏れ出てしまう。
 お菊達が悠々と沈め続ける中、ついに限界に達した桔梗は口から大きな気泡を吐き出した。
 気泡の塊が鎖骨を通って浮き上がっていくのと入れ替わり、冷たい水が口の中へなだれ込んでくる。
 そこに空気などなくても吸う動作をせざるを得ない桔梗は、喉が圧されるほど大量に水を飲み込むことになった。
 水を飲む苦しさで暴れる桔梗を、ようやく男衆が引き上げる。

 髪をずぶぬれにして引き上げられた桔梗は、軽い咳き込みと共にうがいをするように喉奥から水を溢れさせ、地面に音を立てて溢れさせた。
「え゛ほっ、げおろ……っ!あ、ぶふ、っごおぉ……」
 濁った音で水を吐く桔梗の髪をお菊が掴む。
「さっきは水を飲んで随分苦しそうだったじゃないか。必要とあらば大河を泳いで渡るって言われる忍のくせに、こんな事も辛抱しきれないのかい」
 お菊が顔を覗き込んでそう言った時だ。桔梗はお菊の顔に向けて、口の中に残った水を激しく噴き掛ける。
 睨みつける鋭い眼光と合わせ、腐ってもくノ一であるという意思表明だ。
「ぎゃあっ!」
 お菊は不意の攻勢に虚を突かれ、顔を押さえた。勝気な桔梗の態度に野次馬からは拍手喝采が起こる。
 遊郭とはいえ、気風のいい豪快な女性は一定の人気を得るのだ。
 しかしそこでいくら人気を得ようと、依然お菊が責めを加える側、という事実は変わらない。
「……良い肝っ玉だ、ますます太夫みたいだね。これはこれは楽しみだよ」
 お菊は片目から涙を流しつつ、いよいよ残酷な笑みを浮かべはじめた。

 そこからは、桔梗は立て続けに何度も水に漬けては上げ、を繰り返された。
 男衆も慣れたもので、水に漬ける角度や深さを巧みに調節し、空気を求める桔梗がより多く水を飲まざるを得ない状況を作り上げる。
 それにより、細く締まっていた桔梗の腹は、少しずつ少しずつ、臨月の妊婦のように膨らんでいった。
 そして桔梗が7回目に沈められた時だ。
 ただ沈めるのではつまらないので桔梗の白い脚を各々に愛でていた男達は、桔梗の身体が違った動きをしている事に気付いた。
 (く、苦しい!もうダメだ……!!)
 逆さ吊りで水に沈められ始め、もうどれほど経ったかわからない。
 胸の底から湧き上がる嘔吐感と必死に戦っていた桔梗は、とうとう顎の辺りまでこみ上げて来るものを抑えきれないと悟った。
 口を固く結び、頬を膨らませたまま必死に耐える。
 しかしその最後の抵抗もむなしく、桔梗はついに酒樽の中に吐瀉物をぶちまけてしまう。
 黄色い吐瀉物は水に溶け、渦をまくように漂った。
「おやおや、とうとうやっちまったかい。上げてやんな」
 お菊の命で、男衆が桔梗の身体を引き上げる。
 桔梗はひゅうひゅうと妙な呼吸をし、目も虚ろになっていた。
 唇は紫色で、血の気をなくした顔が細かく痙攣している。
「よくもうちの酒樽を汚してくれたね、ええ?」
 お菊が桔梗の顔を覗きこみ、その顔に唾を吐きかけた。
 桔梗は一瞬目を見開こうとしたが、すぐに力なく首を落とした。気絶したらしい。
「ちっ……気を失ったかい」
 お菊は気絶した桔梗を前に小さく舌打ちした。

「しかし凄い奴ですね、くノ一ってのは」
 下男の一人が呟いた。
 彼も何度となく拷問に携わってきたが、若い女で、いや男でも、これほど逆さ吊りの水責めに耐えた者はいなかった。
 しかしお菊は涼しい顔だ。
「耐えるのは凄い事じゃあないよ、厄介なだけさ。耐えられれば耐えられるほど、壊しやすくなっちまう。
 ……黄左衛門さま、この娘、この後いかがいたしましょう」
 お菊は溜息をついた後、地面に投げ捨てられた桔梗を見やって黄左衛門に問うた。
 黄左衛門は顎鬚を弄くりながら答える。
「このまま尋問を続けてくれ。この娘の素性も気になるが、何より美しく気丈な娘が虐げられている様は見ごたえがあろう」
「承知しました。さすれば手始めに、熱した棒で手足を寸刻みに焼き切り、塩水を刷り込み……」
「待て、それは駄目だ」
 黄左衛門はお菊の言葉を切って捨てた。
「この娘が捕縛されてもなお、舌を噛み切らずにいるのは何故だ?
 機があれば再度わしを殺りにかかろうと虎視眈々と狙っておるからだ。
 だが手足を失ってはその望みも絶たれよう。結果……」
「自害する、という訳ですか」
 お菊の言葉に、黄左衛門が頷く。
「……なるほど、仰るとおりかもしれません。では如何様に?」
「色責めだ。女郎屋の折檻としては十八番だろう。色を使うくノ一を、逆に肉欲の虜にしてしまえ」
 黄左衛門は、襦袢から覗く桔梗の太腿がぴくりと動くのを見て顔を綻ばせた。
「わしも多忙ゆえ、今宵はこれにて失礼しよう。数日の後に顔を見せる。その時は楽しみにしておるぞ」
 お菊もその言葉に嬉しそうに頷く。
「承知しました。鬼の轍屋の名にかけ、数日のうちに桔梗を骨抜きにしてご覧に入れましょう」




 暫くの後、座敷の柱に縛り付けられた桔梗は頬を叩かれて意識を取り戻した。
 目の前にはでっぷりと腹の出た大柄な男と、筋肉質な野武士風の男がいる。
 頬を叩いたのは、そのうち腹の出た方らしい。
 彼らは轍屋が、攫ってきた女郎を商売女として調教するため雇っている下男だ。
 元は好色が過ぎて郷を追放された者達らしく、三度の飯より女好き。
 彼らにかかれば、生娘だった禿(かむろ)が三日で舌を出して浅ましく腰を振る遊女に成り果てるという。
 女を犯すものとしか見ない、性質の悪い浪人のような二人を、桔梗は内心で忌み嫌っていた。

「桔梗よ、水責めでたらふく水を飲まされたらしいな。いつも細っこい腹が身重みてぇに膨らんじまってるじゃねえか。
 お菊の命通り、俺の極太を喉ん奥まで突っ込んで全部吐かせてやっからよ。有り難く思えや」
 出っ腹男が褌から取り出した逸物をつきつける。
 桔梗は眉をしかめてそれを睨み上げた。
男の物は皮が半ば剥けて浅黒く、長さこそ人並みだが、カリ首から先が太く荒岩のようにゴツゴツとしている。
 あまり口に含みたくはない代物だ。
「歯ぁ立てたりすんなよ。縛られたその格好じゃ、俺らに叩き斬られるのが落ちだぜ」
 出っ腹男が逸物を桔梗の唇周りにすりつけながら言った。周囲に強烈な臭いが立ち上る。
 男は桜色の唇に逸物を擦り付け、桔梗が嫌がって口を開いたところへ弾くように滑り込ませた。
 五分勃ちといった風に柔らかく固まった逸物が一息に喉奥深くまで滑り込む。
 水腹の桔梗はそれだけで吐き気を催したが、目を見開いてなんとか耐え忍んだ。

 最初は無音だった。
 出っ腹男は動かず、桔梗もやや前傾になり、男の陰毛に顔を埋めるような形のまま動かない。
だがそこから五秒の後、突如桔梗が右肘をうねらせるように振るった後、えほっと噎せ返る。
 これが桔梗の口虐地獄の始まりだった。
「おお。始めは氷みてえに冷たかった口ん中が、段々ぬるくてたまんねぇ具合になってきたぜ」
 出っ腹男が歓喜の声を上げる。
 桔梗の頭は男の手で柱に押し付けられ、逸物を改めて深々と口腔へ捻じ込まれた。
 浅黒い逸物はゆったりとした速度を保ったまま蛇のように沈み込んでいく。
「んっ……んっ……」
 桔梗は瞼こそ閉じて凛とした目元を保っているが、その後ろに縛られた手は縄を軋ませ、
美しい鼻梁から漏れる鼻息は僅かずつ荒ぶってゆく。
「んっ……うん、んっ……あえぁ…………」
 カリ太の逸物を頬を凹ませて迎え、それが引き抜かれるときに涎が口の端から止めようもなく零れ落ちる。
 喉深く入れられるたびに鎖骨が浮き出て肩跳ね上がり、大量の粘ついた涎が溢れる。
 美しいくノ一の零す涎は、周りで鑑賞する男共をたいそう喜ばせた。
 出っ腹男はそれに応えるかのように逸物に妙な動きをさせる。
 それまで一度浅く入れた後にもう一度深く入れ、引き抜く、という動作を繰り返していたものを、
 浅く入れ、深く入れ、抜くと見せかけてもう一度深く突き込んだのだ。
 桔梗からしてみれば、それまでの反復から無意識に息を吸おうと思っていた矢先に、
 開ききった喉奥へ逸物が捻じ込まれた事になる。
「ぐしゅっ!!」
 桔梗の喉から発せられたのは声ではなく“音”だった。
 低いくしゃみか、あるいは厚い紙を丸めた時のような音。
「おえぅ゛……えほっ、えぼっ!!んあふ、うんう゛っっ!!!」
 その異常な音に連なって桔梗は何度も咳き込み、唇を歪にへし曲げて苦しんだ。
 彼女の赤い口からはせせらぎのように唾液が零れ落ち、男達をさらに盛り上げさせる。
「どうした、こんな物では済まさんぜ」
 出っ腹男は桔梗の髪を掴み、今度はやや速さを増して逸物を打ち込みはじめる。


「うっ、え゛ッえん、おう、もお゛う、ろおおうえ゛っ!!」
 ぶちゅぶちゅという唾の音を合間に挟みながら、桔梗の苦悶のえづき声が搾り出されていく。
 苦しそうだ。
 桔梗の顎から鎖骨、脇腹にかけて波打つような筋肉の強張りが見て取れる。
 手は何度も縄を引き千切らんばかりに固く握りしめられている。
 そんな状態にありながら、白い乳房だけは口からの涎を滴らせながら伸びやかに揺れているのが滑稽だった。
「ご……ご、っぐ……えは、えほっ!!……はっ、えへ……っふぅ……!」
 桔梗は喉の鳴る苦悶から、逸物が引きずり出される数瞬だけ解放されてひどく咳き込む。
 抜かれた逸物と唇が余さずぬるぬるとした涎に塗れている様はひどく官能的だ。 
 桔梗は逸物が抜かれた瞬間に目を見開き、伸び上がるようにしながら激しく酸素を求める。
 そしてひゅうひゅうという呼吸の最中、再び濡れ光る逸物が捻じ込まれると、泣きそうな目尻の形で瞼を閉じる。
 いつの間にか男の逸物は完全に勃ち上がり、血管を浮き立たせてすらいた。

「おう、おごぅ、うごっ……ろぉ゛っ!!おおう、んがあ!!」
 カリ太の逸物を咥えながら、桔梗の上唇は時に鼻の下を伸ばすように垂れ下がり、時に空気を求めるように大口を開けて尖る。
 逸物が抜かれると白い小さな歯が覗き、口端と舌がぴくぴく震える。
 それらの身体反応は、今行われている口辱がどれほどきついものかを見る者に雄弁に語った。
 出っ腹男はその反応を見ながら、桔梗の喉奥に亀頭を押し付けたまま動きを止める。
「ご、ぉっ…………!?」
 予想外の苦しさだったのか。
 桔梗はそれまできつく閉じていた目を見開き、喉をごろごろと鳴らして苦しんだ。
「おう、こいつは良いぞ」
 出っ腹男が楽しそうに笑い、逸物を引きずり出す。
 桔梗は弾けるように頭を引いて激しく噎せ返った。逸物と繋がる涎が蜘蛛の巣のように四散して舞い落ちる。
 彼女の目は白黒と戸惑っていた。
「ほう。今のは流石のくノ一とはいえ、かなり堪えたみてぇだな」
 出っ腹男が逸物を口に擦りつける。桔梗は恐怖に思わず唇を窄めた。
「念の為聞いておいてやるか。お前、どこの組織の者だ?誰の命で動いている?
 ここで今吐きゃ、これ以上繰り返さなくて済むぜ」
 出っ腹男の言葉に、桔梗は静かに睨み据えることで答えた。
 男は満足げに笑い、指で桔梗の口を開くとそそり立った逸物を宛がった。

「がああ、ああ……!!」
 出っ腹男は一切の容赦なく、喉奥まで逸物を入れて留める、という事を仕掛けてきた。
 カリ太の亀頭に咽頭を抉りまわされ、桔梗は口を目一杯に開いた状態のまま閉じられなくなっていた。
 (苦しい、息が、腹が苦しいっ……!!このままでは、し、死んでしまうッ……!!)
 頭の中がかき乱される。
「へへっ、可愛い顔になってるじゃねえか」
 脇から覗く男達の声がする。桔梗は目を見開き、そこからひと筋の涙を流す己に気付いた。
 呼吸の線が繋がらなくなり、意識が混濁してくる。
 喉の奥から茸のように逸物が生えてきており、もう一生涯呼吸ができないのではないか、そんな錯覚にすら陥った。
 視界が滲み、聞こえるのはぐちゅぐちゅという唾の音だけになる一方で、嗅覚だけは変に冴えている。
「むううっ!!」
 桔梗はいつしか汗みずくになっていた己から立ち昇る匂いに気付き、頭の髄まで恥じ入った。
喉への叩きつけはさらに深く激しくなっている。もう喉奥と顎がひきつけを起こしそうだ。
「ごおおぅ、うおこっ、おう、おうう゛!!!」
 桔梗はのしかかる様な苦しさから逃れようと首を振り、肩を強張らせる。
しかし後ろ手に縛られ、頭を掴まれた状態ではどうにもならない。
「おら、逃げられねえんだ。観念しろ!!」
 眼前の出っ腹男にもそれを指摘され、桔梗はまるで自分が男の所有物になったような気分に陥ってしまう。
 その瞬間、ついに鈍い痛みに似た感覚が顎の下に渦巻いた。嘔吐感だ。
「あうっ、あえおっ!!」
 桔梗は懸命に喉を引き絞って堪えようとするが、逸物の突き込みが無情にもそれを阻む。
 数秒の後、ついに桔梗の喉奥から吐瀉物が沸きあがり、逸物の隙間から出てしまった。
 多量の水に薄められた吐瀉物が土砂のように流れ出す。
「げはっ!!!……っんが、うんぁあぁッ……!!」
 出っ腹男は嘔吐に驚かず、むしろ掻きだすような動きで強い抜き差しを繰り返す。
 その目論見通り、桔梗は喉奥から次々と薄黄色の吐瀉物を流れ出させ、逸物が抜かれるある瞬間、咳き込みと共に液状の飛沫をぶちまけてしまう。
「ひょお、ついに吐きやがった!」
「見ろよ、あの初雪みてぇな下腹がゲロ塗れだぜ!」
 周りから歓声に近い叫びが上がる。桔梗は声も失くすほどの羞恥に見舞われた。
 先の水責めでも嘔吐はしたが、今回はその瞬間をはっきりと目撃されている。
 さらには喉奥を醜悪な逸物で抉りまわされての嘔吐となれば、これはもう恥ずかしい等というものではない。

「おーお、こんなに出しちまって。確かに吐けとは言ったが、まさかこうも恥知らずな真似で返すたぁな」
 出っ腹男が桔梗の吐瀉物を掬い、乳房に塗りこめながら茶化した。
 桔梗は涙を湛えた瞳で男を睨み据える。
「まだ白状する気はねぇのか?」
「……ふん、まさか。このぐらいで!」
 桔梗が言ったのは精一杯の強がりだった。実態は、押し殺してこそいるが今でも唇と背筋に心底の震えが来ている。文字通り死ぬほど怖く、恥ずかしかった。
 だが出っ腹男は、彼女の精一杯の強がりに満面を笑みを浮かべる。
「そりゃあ何よりだ。ここで終わっちゃ、俺一人の役得になっちまうからな」
 そう言って脇によけた出っ腹男の後ろには、筋肉隆々の野武士然とした男が立っていた。
 彼もすでに褌から逞しい逸物を取り出している。その長さたるや、今まで見ていた出っ腹男のものよりずっと長い。
「次は俺だ。俺は奴ほど悠長にはやらんぞ」
 逞しい男はそう言うと、桔梗の髪を引き掴んで無理矢理に己の逸物を飲み込ませる。
 長い物が嘔吐を経験したばかりの喉奥にぬめり込み、桔梗は思わず目を見開いた。

「ありゃ本当に地獄だな。超のつく絶倫に無理矢理喉を犯されるってんだからよ。
 あの嬢ちゃん胃液も唾液も絞り尽くされちまうぜ」
 観衆の一人が可笑しそうに呟いた。すると一人目の出っ腹男が答えて言う。
「いや、案外極楽なのかも知れんぜ、あの女狐にゃあ」
「? どういう事だよ」
 周りの男達が問いただすと、出っ腹男は指をすり合わせながら口を開いた。
「嘔吐した後のあいつの乳首よ、しこり勃ってたんだ。解るか?
 憎い男に散々口を犯されて、嘔吐まで見られて、それでも女の反応を示したんだよ、奴は」
 出っ腹男は、筋肉男に頭を打ち付けられてえづく桔梗を見ながら、そう可笑しそうに笑った。




「ひどい匂いだねぇ。それが仮にも春をひさぐ女のさせる匂いかい」
 お菊がわざとらしく鼻を摘みながら桔梗を見下ろす。
 桔梗は出っ腹男と筋肉男に代わる代わる口腔を犯され、歯並びが見えるほど口を開いた状態から閉じることが出来なくなっていた。
 その舌と歯茎には精液がこびり付き、朱色の唇からは涎と吐瀉物の交じり合った糸が伝い、白い身体と床板は薄黄色い吐瀉物で覆い隠されている。
 水で膨れ上がっていた腹はようやく本来の細さに戻っており、出っ腹男の言葉通り全てを吐かされたのだと解る。
 お菊は桔梗の顎を叩いて口を閉じさせると、周りの下男達を手招きした。
「こうも汚らしいと責める気も失せちまうよ。誰かこいつを洗い流して風呂に入れてやんな。
 って言っても普通の風呂じゃあないよ、“鰻風呂”だ」
 お菊の命で数人の下男が桔梗の縄を解き、手足を封じ込めながら風呂場へ連れて行く。
 その後ろでまた別の数人が檜の盥を取り出した。

 桔梗は襦袢を取り去られ、白い身体を露わにして洗い場で下男たちに囲まれていた。
 下男たちは各々手に石鹸をつけて桔梗の身体に触れ始める。
「へへ、桔梗姐さん、おいら達が身体の隅まで綺麗にしてやるからな!」
 一人が興奮気味に桔梗の乳房を鷲掴みにした。
 桔梗の豊かな胸は男の手を以ってしても掴みきれず、形を変えて手のひらから零れ出す。
「おおお、でけぇ……!!」
 下男達が下卑た目を胸に集めた。
 この下男達は、轍屋で高嶺の花であった桔梗に皆が欲情しており、一夜だけでも裸が拝みたいなどと言い合っている男達だった。
 その悲願が叶ったとあって、下男達は石鹸塗れの手で散々に桔梗の肢体を弄繰りまわす。
 乳房を揉み、尻肉を掴み、やや薄めの茂みの中に手を潜り込ませる。
「うんん……!!」
 桔梗は声を出すまいと口を噤んで耐えていた。
 元々が黄左衛門とねっとりとした夜を過ごした後なのだ。
 仕事とはいえ、男を達させようと腰を振りたくっていれば女の方も多少は感じてくる。
 その直後に、はだけた襦袢姿での逆さ吊り、水責め、口内陵辱を受け続けたのだ。
 性技の訓練を受けたくノ一とはいえ、性感が湧き上がるのも仕方のないことだった。

「ほら、いつまでそうしてるんだい。早く縛って風呂に漬けちまいな!」
 お菊の一言で、桔梗の身体を弄っていた下男たちは素早く立ち上がり、桔梗の体に水を被せた。
 そして桔梗を寝かせると、その両の手足を持ち上げ、一点に纏まるような形で縄を掛け始める。
 その縄が梁に結わえ付けられると、桔梗はゆっくりと水の張られた風呂桶に沈められる。
 そして釜の底に敷かれた筵(むしろ)に尻をつける形で吊り下がった。
 釜風呂というもので、大きな釜の下にある石造りの部分で火を炊く風呂だ。
 轍屋では皆が日常的に使う風呂だが、今回は水風呂から始まる。

「…………っ!」
 水に浸かり、桔梗が小さく呻いた。氷水ほどではないが、水風呂は冷えた体に染み入る。
 生贄のような格好で水に浸かる桔梗を見下ろし、お菊が笑った。
「さぁ桔梗、あったかい風呂の時間だ。一人じゃ寂しいだろうから、こいつらも一緒に入れてやるよ!」
 お菊の合図で下男達が檜の桶をひっくり返す。桶から出てきたのは何十匹という鰻だ。
 鰻は水に浸かると手前勝手に泳ぎまわり、縛られて身動きの取れない桔梗の身体をくすぐっていく。
「ひっ!!!」
 桔梗はそのぬめらかな感触に押し殺した悲鳴を上げた。生理的嫌悪に皮膚が粟立つ。
「おや可愛い声だ。そんな声を出してくれるんだね、お前。
 まぁ、これからもっともっと景気よくあげはじめるんだろうけどねぇ」
 お菊が笑った。
 桔梗が掛けられる『鰻風呂』という拷問は、鰻とともに水風呂に入れられる所から始まる。
 水が冷たいうちは鰻もただ泳いでいるだけだが、風呂を沸かして水が高温になると、鰻は嫌がって穴に隠れようとする。
 浴槽内に女がいれば、当然その膣や肛門が狙われるわけだ。
 桔梗も知識として知ってはいたが、いざ責めを受けるとなれば話は別だった。


 やがて釜の下に火がつけられる。
 桔梗は背中や肩を泳いでいく鰻に擦られながら、目を閉じて心を静めていた。
 冷たかった水が次第に温くなり、やがて底の方から熱さが感じられるようになってくる。
 そうなった時、鰻達に変化が訪れた。潜るべき穴を求め始めたのだ。
 桔梗の身体を擦る鰻の動きが激しくなった直後、ついに一匹目の鰻が桔梗の茂みに辿り着いた。
「……っ!!」
 桔梗が身を強張らせた瞬間、その一匹は無慈悲にも桔梗の花弁を頭で割り開き、ぬるりという感触とともに膣の中へ入り込む。
「 う! 」
 桔梗は歯を食い縛って小さく呻いた。
「ふふ、一匹潜り込んだみたいだね。どうだい、感じるだろ」
 お菊が嬉しそうに言う。
 脚を上に縛り上げられているため狭まっている膣を、鰻はぬめぬめとした体で無理矢理入り込んでくる。
 太さは男の逸物と変わらないが、生々しくうねる動きとぬめり、そして奥深くまで潜る感覚は、桔梗にも未経験だ。
「うう……っ」
 桔梗は膣の中をうねうねと刺激される感覚に身悶える。おぞましいが、快感だ。
 黄左衛門に抱かれてから下男たちに弄ばれるまでに火照った膣の中を、鰻が蕩かしていくようだ。
 さらに熱くなってきた風呂も冷えた身体をほぐし、快感を強く後押ししている。
 桔梗が思わず吐息を漏らした時、突如二匹目の鰻が一匹目のうねる桔梗の膣へ潜り込んだ。
「ひ、ふはああっ!?」
 二匹とあってはさしもの桔梗も動揺を隠せない。
 二つのぬめりが絡み合いながら膣を奥まで押し広げる。
 その感覚に、桔梗は縛られた白い脚をひくつかせながら反応した。
 
 さらに、穴を狙うのは二匹だけではない。
 いつの間にか桔梗の膣穴へは、数え切れないほどの鰻がひしめき合って侵入を狙っていた。
 一見すると昆布のような漂いが全て生き物であるという絵面は、桔梗の頭を凍りつかせた。
 桔梗は思わず身を竦ませた。
 先のニ匹に続かんと、何匹もの鰻が桔梗の割れ目に押し入ってきたのだ。
 結果として一匹、さらにもう一匹が押し合いを制して無理矢理に桔梗の中へ潜り込んでいく。
 狭い通路を四本のぬめりが無理矢理に押し開きながらなだれ込む。
「あぁっ!!」
 これには桔梗も叫んだ。
 くノ一として、多少は膣の拡張も試みた。しかしそれはあくまで人間の寸法を意識しての事で、
 いくら滑りがあるとはいえ、このように逸物四本分ほどの侵入を受けた事など過去にない。
 (嫌、動かないで、なかで動かないでっ!!)
 言葉に出す事こそ必死に堪えているものの、桔梗の頭は容量一杯の状態だった。
 鰻などに性器へ入られるおぞましさ。
 膣の容量を超えた太さが暴れ回る苦痛。
 そしてそれ以上に、膣の性感帯を余さず刺激される事からくる快感が身体を走り抜けている。
「ふんんん……!!」
 桔梗は快感に全身が紅潮していくのを感じながら、必死に唇を噛み締めて耐えた。
 すぐ傍でお菊や下男、そして今朝まで同僚であった女郎達が群がって見ているからだ。
 その前で感じている様を見せないのが、忍びとしてのせめてもの矜持だった。
「我慢強いねぇ。気持ち悪くないのかい?素性さえ吐けば、その苦しみからは解放されるんだよ」
 お菊が優しげな口調で語りかける。
 だが桔梗は彼女を鋭く睨みつけるだけで、首を縦には振らない。


 桔梗は膣に四匹の鰻をうねらせながら、凛とした瞳で前を見据えていた。
 堂々としたその様に、すでに彼女に鰻風呂は効かなくなったのでは、と下男達に囁かせた。
 しかし女将であるお菊だけは、半笑いのまま品定めするように桔梗の横顔を覗き込んでいる。
 桔梗の表情がかすかに変わったのは、しばらく経った頃だ。
「んっぐ……!!」
 桔梗の眉が顰められ、目の端が引き攣る。そして唇を噛んだ後、急に下を向いた。
「……痩せ我慢の多い娘だよ。今までに六回、気をやったろう」
 お菊が桔梗の顔を覗きながら告げた。周囲が騒然となる。
 桔梗はその言葉に顔を上げた。その目には、薄っすらと涙が浮かんでいた。桔梗が歯を食い縛る。
「……い、いくッ……!」
 その一言を皮切りに、桔梗は天を仰いで大きく口を開いた。
「ああああ、だめっ、いく!もう駄目、こんなの、う、ふあああああっっ!!!!!」
 桔梗はそこから、縛られた脚を蟹股のように広げ、またくの字に折って身悶え始めた。
 鰻も相変わらず桔梗の中で激しくのたうち回り、ぐちゅぐちゅと膣の奥をかき回している。
 桔梗はその動きで何度も絶頂を迎えさせられていた。
 膣の中のあらゆる性感帯を、同時に、断続的に責め上げられるのだ。
 女体の構造上、これで絶頂に至らない筈がない。
 桔梗はそれによって何度も絶頂に押し上げられ、達して敏感になった事でさらに達しやすく、という連鎖に陥っていた。
 七回目の絶頂で、ついに桔梗の忍耐にも限界が訪れたのだろう。
「ふあああぁ、あああ、ひぃっ、いやぁああっあぁああああ!!!」
 浴槽の底で桔梗の尻がびくん、びくんと跳ね上がる。
 その度に凄まじい快感を感じているのであろう事が、彼女の表情から窺い知れた。
 桔梗は顔を真っ赤にし、泣くように顔を引き攣らせている。
 目は細まり、歯は大きく横に広がった状態で食い縛られていた。
「あっ、あん、あ、ああ!!うああっあ、ぃぎああああっっ!!!」
 苦悶とも歓喜ともつかない声が桔梗の唇から迸る。
 彼女は今一度達して強烈に膣の何匹もの鰻を締めつけ、大きな溜息とともに解放した。
 その緩みを狙い、一匹の鰻が桔梗の肛門へ潜り込む。
「うわ、お、おしりいっ!?」
 桔梗は目を剥いて竦みあがった。
 まだ肛門性交が禁忌とされる時代、如何にくノ一といえど、その様な場所へ何かを迎え入れる事など考えもしない。
 膣と肛門の両方の穴に無数の鰻を迎え入れ、桔梗は大口を開けて叫ぶ。
「いく、いくっ!!もう、もうこれ以上は……こんな、ふぅ、ひ、ひあらああああっっ!!!」
 絶頂に次ぐ絶頂で白い体は痙攣し、口の端からだらしなく涎を垂らしてしまっている。

 やがて釜の火が消えて湯が冷め、膣の鰻たちも動きを鎮めだした頃、お菊は泣きはらしたような顔の桔梗に問いかける。
「つらいだろう桔梗、鰻風呂は。どうだい、こっちの質問に答える気になったかい」
 しかし桔梗は黙って首を横に振る。周囲には結局駄目だったか、という空気が流れた。
 鰻も疲れ果てているしこれでお開きだ、おそらく桔梗もそう思ったはずだ。
 しかしお菊の言葉は全く違っていた。
「そうかい、やっぱり。じゃあ続けるしかないね。生憎、ここの鰻はうちに置いてある物のたった半分なんだ。
 火はまた炊けばいいし、まだまだ気持ちよくなれるよ、桔梗。」
 桔梗は目を剥き、愕然とした表情を見せた。顔から血の気が失せている。

 かくして鰻風呂は続行された。
 お菊の言う通り、轍屋にはまだ大量の鰻がおり、火が消えて元気がなくなれば交替、水に漬けて元気を取り戻させてまた交替、と延々と繰り返される。
 そのうちに鰻も桔梗の二穴を住処とすべき洞穴だと思ったのか、湯を炊かないぬるま湯の状態でも積極的に桔梗の中へ潜り込むようになり、
 桔梗がのぼせる心配もなく、より長く続けられる事になった。
「いっ……いっ、うんっ……い……ふゥうぐッ…………!!!」
 桔梗は歯を食いしばり、身体全体を痙攣させながら快感に抗った。
 大量の鰻を咥え込んで上下する尻に合わせ、吊るされた縄がぎしっ、ぎしっと軋む。
 それはまるで、桔梗が水の中で本当に鰻と性交をしているようだった。
 快感かあるいは苦痛からか、吊り上げられた桔梗の足の指は強く鉤状に曲げられ、手の指は足首にめり込まんばかりに握りしめられる。
 美貌は汗と涙、鼻水、涎とあらゆるものに塗れ、唇は聞くほうが切なくなるような、鳴き声ともとれる喘ぎを上げ続けていた。

 一体どれほどの時が経ったのか。
 桔梗の身体が激しく痙攣し、泡を噴きながら浴槽に頭を打ち付けた時点でようやく鰻風呂は終わりを迎えた。
 その頃、浴室には噎せ返るような女の匂いが充満し、浴槽の水は桔梗のどろどろとした愛液でかすかに濁ってさえいたという。
 そこまでになりながら、ついに桔梗は最後まで、お菊の問いに頷くことはしなかった。




「あれほど鰻風呂で責め立てられても折れぬとは、正直驚いた」
 夜の帳が下り、行灯を灯した座敷で筋肉質の男が呟いた。
 対面に座するお菊は盃を傾けた後に大きく息を吐く。
「あれで吐くとは思っちゃいないさ。ただ、桔梗は今日の逆さ吊りから鰻責めまでの一環の責めで、心身ともに相当追い詰められたはずだ。
 普通の女郎なら三日かけるべき拷問を一時に与えた訳だからね。
 ああやって拷問で気力体力をそぎ落とし、眠らせず、食事に阿片の粉でも混ぜてやりゃあ、忍だろうがくノ一だろうが何日と持つまいね」
「……成程。それであの女郎達に食事を運ばせたわけか」
 筋肉質の男は得心がいったように頷いた。

 鰻責めの後、完全に意識を失った桔梗は手足の首を結び直され、座敷牢に繋がれた。
 そこへ酒や阿片入りの食事を運んでいったのが轍屋の女郎達だ。
 お菊が命じるまでもなく、彼女たちが自らそれを望んだのだった。
 桔梗が轍屋に来て以来、客はほとんどが桔梗目当ての者となり、女郎達は桔梗に客を取られる形となった。
 その恨みや生来の器量の差への妬みが積み重なり、食事を運ぶついでに桔梗を嬲ろう、となったのだろう。
 それは桔梗を休ませないというお菊の狙いと合致していたため、お菊も今夜はあえて就床時間を煩く言わないでいる。

 しかしそのお菊も、朝方に座敷牢を覗いた時にまだ女郎が群がっているのには呆れ果てた。
 夜通し同性の手で責められ続けたのだろう、桔梗の目の下には薄っすらと隈ができ、荒い息を吐いていた。
 乳輪は収縮して乳首はしこり勃ち、秘部は大輪の花を咲かせている。
 挙句には肛門の窄まりにまで食事についていた木の匙が捻じ込まれ、言葉責めと共に糞を掻きだされているではないか。
「ほら、まだどんどん出てくるじゃない。御覧なさいよ、匙の先にべっとりとくっついているわ。
 アンタみたいな別嬪でも、汚い物は汚いのね」
 女郎の一人が先端に糞のこびり付いた匙を翳し、周囲の黒い笑いを誘う。
 桔梗は項垂れながら唇を固く結んでいるが、その頬は林檎のように真っ赤になっていた。
 女郎はその顔を可笑しそうに覗きながら、また匙を桔梗の肛門へと挿し入れた。
 女郎の手が円を描くと、桔梗の腸内からくちゃくちゃと糞の掻き混ぜられる音が立つ。
「……排泄をからめた責めか、こりゃあ堪えるかもしれないね」
 女郎達のやり取りを目にしたお菊が口元を吊り上げ、何かを取りに座敷へ取って返す。
 そして小さな徳利を手に、足早に座敷牢へ戻った。

「おやおや。桔梗の奴は、そんなに糞が溜まってるのかい」
 お菊はそう言いながら現れると、女郎達が一斉に振り返り、桔梗が顔を上げる。
「無理もない。桔梗お前、昨日の朝から憚りに行ってないだろう。さぞや苦しかろうね」
 お菊は女郎達に目配せして桔梗の口を開かせ、徳利の中身を流し込んだ。
 桔梗はすぐに咳き込んで吐き出そうとするが、その甲斐なくほとんどを飲み干してしまう。
「な、何を飲ませたの……毒?」
 桔梗は喉に染み渡る苦さに顔を顰めながら問いかけた。
 お菊が笑う。
「殺すならもっと派手にやるよ。今のはただの腹下しさ。
 もっとも、合戦の時に敵兵に盛るような強烈なやつだけどね。
 一杯飲めば腹の音が雷轟のごとく鳴り響き、半日は腹痛と下痢便に苛まれるそうだよ」
 お菊の言葉に、桔梗がかすかな動揺を見せる。
「なに、心配いらないよ。お前が素直になりさえすりゃあ、すぐに厠へ行かせてやるさ」
 お菊はそう言って勝ち誇ったように笑った。


 その後、仕置き部屋へと連れ出された桔梗は、まず手首を後ろ手に縛り上げられた。
 そして尻を突き出させられ、潤滑油を塗した木製の張型を慎ましい蕾へ捻じ込まれる。
「うぐぐ……!!」
 桔梗が苦しげな声を上げた。
 前日に鰻を受け入れたとはいえ、まだまだ未使用の肛門にその張型は大きすぎた。
 しかしそれを油と下男たちの力でもって無理矢理に押し込まれてしまう。
 限界以上の張型で肛門が蓋されると、今度はその股座に厚手の褌が巻きつけられた。
 褌は張型を肛門へ固定するかのごとく、ぎちぎちと巻かれた。
 その後に桔梗の前に運ばれたのは、三角木馬に似た大きな台だった。
 ただしその背の部分は三角ではなく、人が座れるような水平になっている。
 台形の腰掛け、といった風情だ。
 一見遊具のようなそれが、今の桔梗にとっては本物の三角木馬より遥かに厄介なものだと解るのは、
 もうしばし後のことだった。

 張型を嵌め、褌を締めた桔梗は抱え上げられて台の上に乗せられた。
 そうして姿勢をやや後方へ倒し気味にされ、尻の張型が自重で腸内へめり込む角度で脚が縛り上げられる。
 それだけではない、その膝からはさらに、縄に巻かれた石が吊るされたのだ。
「ああっ!!」
 自重と石の重みで張型が根元まで腸内に沈み込み、桔梗が悲鳴を上げる。
 桔梗は理解した。
 石と桔梗自身の重み、姿勢、水平な台、褌、極太の張型。
 これら全ての要素が、桔梗の肛門を完全に塞いでしまっている。
 すなわち、下剤を飲まされた影響でもう間もなく痛烈な便意が訪れても、この状態ではどう足掻こうと排泄が叶わないという事だ。
 排泄をする方法はただ一つ、お菊に全てを自白して縛めを解いて貰う他ない。
 桔梗がその恐ろしい事実に気付いた瞬間、彼女の腹部からかすかにぐるるる、という音が漏れた。
「…………!!」
 桔梗が眉を顰める。
「効いてきたようだね。さぁ桔梗、楽になりたきゃ、まず素直になる事だよ」
 お菊や女郎達は悠々と畳に腰掛けながら、苦しむ桔梗の見物を始めるのだった。


 それからどれだけ経っただろう。
「う、くううぅ、う……!!」
 桔梗の心底苦しそうな声が仕置き部屋に響いた。
 彼女は顔を青ざめさせ、白い肌に脂汗を滲ませ、悩ましげに身体をくねらせている。
 その腹からは絶え間なく、ぐるる、ぐぎょるるる、という雷轟のような音がしていた。
「お、お願いです!……厠へ、どうか厠へ行かせて下さいっ!」
 桔梗は縛られた上半身を揺らしながら、座敷で茶を飲むお菊へ向けて叫んだ。
「何度も言わせるんじゃないよ。白状する気になってから呼びな」
 お菊は冷たくそう一蹴し、美味そうに苺大福を頬張った。
「む、むり、う、んあああああああ゛!!!!」
 今一度桔梗の腹が激しく鳴り、美しい黒髪がつらそうに振り乱される。
 桔梗が暴れるのに合わせて下の台も激しく軋んでいた。
 お菊の読みどおり、この排泄を支配する責めは相当に効果的のようだ。
 排泄欲は人間の根幹に根ざす本能なのだから当たり前といえば当たり前だが、桔梗の狂乱振りは予想以上のものだった。

「後生です、どうか、どうかお許し下さい!!!」
 肺の底から叫ぶような声で桔梗ががなり立てる。普段の彼女からは想像できない声だ。
「ああ頭が、頭が焼き切れそう!!く、くるしい、つらいんですっ……!!おねがいします!!」
 桔梗は涙を流した。何度も頭を振り、肩から細かな震えが見て取れた。
 お菊たちはそれを、蟷螂が蝶を捕食する瞬間を見るように目を輝かせて観賞した。
「うおあ、っアああ、っッんぎあああああアアああ!!!!」
 桔梗が天を仰いで慟哭する。
 声帯がどこか切れたのではと思うような奇妙な声だった。
「……るして、くれ、もうっ堪忍してくれぇ!!!厠へ、厠へ早く早く行かせてくれええ゛ぇ!!!」
 普段の話し方と違う、別の人間の言葉が桔梗の口から紡がれる。
 お菊が目を光らせた。
「おやおや、ついに地の喋り方が出てきたみたいだね、くノ一。これはもう半日も待てば、洗いざらい喋ってくれるのかもしれないね」
 お菊が嬉しそうに目を細めると、桔梗が大粒の涙を零しながら頭を振った。
「無理だ、こっ、これ以上我慢したら、できなか、たら、本当に頭がおかしくなるっ!!」
「へぇそうかい。じゃ、お前の素性を答えるかい」
 お菊が問うと、桔梗は涙を孕んだ目で必死にお菊を睨みつける。
 桔梗の腹がまた凄まじい低さで唸った。
 お菊は肩を竦めると、桔梗に背を向けて周りの人間に目配せした。
「さて皆、少し早いけど昼飯にしようか。今日は皆で蕎麦でも食べに出よう」
 お菊の言葉に、女郎達が笑い、桔梗が絶望に目を見開く。
「ま、待ってくれ!!もう本当に無理なんだ、頼むから、あやく厠に、かあやにいぃっ!!」
 お菊達が草鞋を履く音がし、玄関の戸が閉められる。
「ああああぁっ、嘘、冗談だろう!!誰かッ、誰かああああぁッ!!」
 お菊達が出て行った後も、桔梗は涙ぐましい叫びを空しく上げ続けていた。

 たっぷりと時間をかけて昼飯を終え、お菊達がようやく仕置き部屋へ戻った時、もう叫び声はしなかった。
 かすかな異臭が鼻をつく。
 見れば、桔梗の右腿から吊り下がった石に到るまで、かすかに茶色い筋が流れている。
 極限に達した便意で一部の下痢便が張型を押しのけて噴出したらしい。
 しかしそれはあくまで微量であり、本質的な解決は為されていないようだった。
「ああ、う、うあ、ああや、ああ、や、にぃ……!」
 桔梗がしゃがれた声でお菊たちに呼びかける。
 唇からは噛みすぎて血が流れ、真っ青な顔はまるで重病患者のそれだ。
「話す気になったかい?」
 お菊が問うと、桔梗は痙攣しながらも首を振る。
「ちっ……仕方ないね。倉庫の古い盥を持ってきな」
 これ以上は無意味だと判断したお菊が、下男の一人に命じた。

 下男が仕置き部屋の床に盥を置くと、桔梗の足から石が外され、台から身体が下ろされる。
 桔梗はよろめきながら盥にしゃがみこみ、凄絶な音を立てて盥の中に飛沫をぶちまけた。
 粥状の糞便が飛沫を上げながら何度も何度も盥に広がっていく。
 女郎達が大仰に鼻を摘んだ。
「くう、う……!ああ、あああぁぁ!!!!」
 人の視線に晒されながらの排泄に桔梗の肩が震える。
 くノ一の強固な心の壁が、また一枚剥がれ落ちたのだ。




 ある日の午後、轍屋の店先には黒山の人だかりができていた。
 輪の中心は轍屋の庭に通じる渡り廊下だ。
 その廊下の前には『くノ一尋問中』という看板が立っていた。
 廊下からはぎしっぎしっと木床の軋む音が響いている。
 それは二つの生き物の交尾の音だ。

 一人は全裸の若い女。
 尻を高く掲げる格好でうつ伏せになり、大股を開かされている。
 その健康的な太腿にはそれぞれ太い縄が掛けられ、両脇の柱を回って天上近くに結び付けられていた。
 それにより、女は開いた脚を閉じることができなくなっている。
 さらにはその細腕も後ろ手に枷で拘束され、殆ど身動きのかなわない状態だった。
 美しい顔には竹轡が噛まされ、顎の半分ほどが廊下の外に出る形になっている。
 身体が揺れるたび、女の竹轡から零れ落ちた涎が庭の縁石に黒い斑点を描く。

 そしてその女に圧し掛かっているのは、体長およそ80cm台の中型犬だった。
 ただの犬ではない。女が獣と交わる姿を見たい、という好き者に向けて獣姦用に訓練を受けた犬だ。
 当然獣ながらに女体の扱いはよく心得ている。
 くノ一・桔梗は、縛られたままこの獣と延々と性交をさせられていた。
 黒山の人だかりは、この世にも珍しい交尾を一目見ようと遊郭におしかけてきた者達だ。
 普段はのんびりとしている昼の遊郭が、今日は祭りのように賑わっていた。
「うそォ……あれ、本当に犬としてるの?」
「まさか。擦り付けてるだけじゃねえのか」
「いいや、本当に入ってるぜ。横から見てみろよ」
「あの女、最近轍屋で毎日拷問されてる女だよな。足抜けかと思ったら、くノ一だったのか」
 野次馬は一時ごとに数を増し、桔梗を好奇と蔑みの目で囲む。
 桔梗はその視線を受けながら、ただ、耐えるしかなかった。

 桔梗は自分の心が壊れる寸前である事を理解していた。
 連日連夜、心身をすり減らす拷問を受けた。
 裸で外に放り出されてやぶ蚊責めを受けたり、様々な蟲の入った桶に押し込まれて一夜を迎えた事もある。
 無数の細い針を乳腺やクリトリスに刺されもしたし、拷問のない時間には廓屋の下男達に順番待ちで犯された。
 もう長いこと睡眠を取っておらず、走ることも叶わないのではないかと思えるほどに体力が残っていない。
 食事に混ぜられている阿片のせいで、景色が揺れて見えるのもしょっちゅうだ。

 おぼろげな意識の中、毎日人格を否定され、苦痛と肉欲だけを繰り返し与えられる。
 どこまでが自分の考えで、どこまでが刷り込まれた考えなのか、それすら曖昧になっていた。
 その挙句に今ではこうして獣と交わらされ、見世物にされている始末だ。
 口惜しいのは、そのような獣相手でも自分が感じてしまっていることだ。
 この犬の平均交尾時間は六時間。
 はじめは人よりやや大きい太さの逸物で膣を擦っているだけだが、やがて興奮するとその逸物が瘤となって大きく膨れ上がる。
 そしてそのおぞましい太さになったものを、獣特有の力で引きずりだし、叩き付けて来るのだ。
 割れ目が捲れ上がる感覚の後、子宮口に叩きつけられる感覚が続く。
 それを時に激しく、時に繋がったままかすかな蠢きだけで、六時間続ける。
 その後は膣の形が変わるのではないかと思えるほどの射精が待っている。
 桔梗はそれを二匹の犬を使って交互に繰り返されていた。
 頭の中は快楽で真っ白になっている。真っ白な世界だ。
 尋問は終わりなく続くだろうが、桔梗にいつまでも耐え忍べる確たる自信はもうなかった。

 ただ一つの心の拠り所は、いつか意識を失う狭間に聞いた、黄左衛門が再び屋敷に顔を見せる、という一言。
 もう一度黄左衛門が来さえすれば、命を賭してでも討ち果たす。
 しかし、何故だろう。
 もうかなりの日にちが過ぎたというのに、彼はまるで姿を見せる様子がない。
 桔梗はそろそろ、自分が限界だと悟っていた。


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