大樹のほとり

自作小説を掲載しているブログです。

2010年12月

The edge ep.11-4

1.

静まり返った会場の中、息を呑む音だけが聞こえてくる。
あれだけ茜へ向けて降り注がれていた歓声が、悠里のただ一発の蹴りで掻き消えた。
「……これが力だよ、キャシー」
大柄なアメリカ女が、膝に乗せた娘の髪を撫でながら呟いた。
娘の方はリングでの壮絶な戦いに、言葉さえ失くしている。

圧倒的な力、というものを最も身に染みて感じているのは、他ならぬ茜だろう。
どれほど追い込んでも、それを一撃でチャラにしてしまうような破壊力。
理不尽極まりないが、今さらそれを言っても仕方ない。
茜はそれを充分に知った上で、悠里に並ぶことを望んだのだから。

茜は震える脚を叱咤しながら、少しずつ身を起こす。
熱湯のように熱い汗が、首筋から、胸元から、背筋から、体中を流れ落ちてゆく。
ぜっ、ぜっと息も随分と荒い。
焼けるような照明の下、真っ白な世界の向こうで悠里がコーナーに寄り掛かっている。
いつかと同じように。
しかし今度は、唇の端から血を流し、鼻からもやはり血を流し、確実に痛手を負っている。
やったのは茜自身だ。
充足感が茜の心に満ち始めた。あの悠里相手にここまでやれたのだから、と甘える気持ちだ。
だが、茜はそれを一蹴した。
それは逃げだ。脚の痛みに怖気づき、続行を怖がっているに過ぎない。

左足を踏みしめ、右足をその後方に添える。尋常でない痛みがふくらはぎに巡る。
思わず叫び出しそうな痛みだ。
だが悠里がコーナーを出るのを見たとき、茜は知らぬうちに両脚を踏みしめていた。
痛みは勿論ある。だがそれ以上に、「戦いたい」という気持ちが溢れた。
青葉より、アルマより、その他悠里と戦った誰よりも耐え抜き、このリングで初めて悠里に勝るのだ。
その夢が燃えていた。



悠里はコーナーに寄り掛かりながら、倒れた茜を見下ろす。
視界が二重三重にブレている。
パウンドを受け、後頭部を何度も打ちつけたのがまずかったのだろう。
グラウンドでの攻防で腹筋を酷使し、アバラの痛みもさらに増している。
折れた一本に隣接する骨までがヒビ割れだしたかのようだ。
鼻に血が詰まっているせいで呼吸もままならない。
その相乗効果で吐き気まで襲ってくる。
それら全てが、あの弱弱しかった茜からもたらされたダメージなのだ。

茜も強くなったものだ、と悠里は思う。
元より加減するつもりなどありはしないが、これはいよいよ気合を込めて迎え撃たねばなるまい。
悠里はそう覚悟を改め、ゆっくりとコーナーを後にする。
茜を相手に遠慮なく全力を出せるのが、彼女はひどく嬉しかった。
かつてサンドバックを蹴破ったあの日も、本当は茜と全力でやり合いたかったのだ。



客席から、おおっ、と感嘆の声が漏れた。
これまで半身の姿勢を基本としていた茜が、悠里に対して正対する構えを取ったからだ。
騎馬立ちでどっしりと腰を落ち着け、上下に反転したような手刀で正中線を隠す。
岩のような安定感を感じさせる厳かな佇まい。
格闘に疎い者でさえも、その有無を言わせぬ迫力には溜息をついた。

悠里も表情を強張らせる。
茜の静かな瞳から発せられる闘気が脳髄を焦がす。
一般に格闘家が放つ殺気とはまるで違う。それより遥かに純粋で、神々しい氣だ。
『武』というものを、この茜はよく身につけている。

面白い!

悠里はその“静”の茜に対し、“動”を以って対抗する。
きしっ、きしっ、とリングを軋ませて跳ね、身体の脇へ垂らした腕を握って、開いてを繰り返す。
通常、格闘において縦の体重移動はご法度だ。
地に足が着いていない状態では踏ん張りが利かず、容易に体勢を崩されてしまう。
しかし今の悠里を見て、隙があると考える人間はほぼいないだろう。
それほどの凄みがある。
効率であったり理屈であったり、そういったものを考察するのが馬鹿らしく思えてしまうほど、
その躍動的なスタイルは悠里によく似合っていた。

キュッ、という音を立てて、悠里の足裏がマットを蹴る。
そして見守る人間が一度瞬きを終えた時には、もう茜の目前に迫っていた。
驚愕が場を席巻する。
有り得ない速さ。まるで肉食動物が獲物を狙う初速だ。
その速さのまま、悠里は茜に飛び込んだ。
凄まじい速度の追い突き。だが茜は同じく放った突きで衝撃の方向を逸らす。
「はっ!」
弾かれた悠里は、そのまま殴り抜けるように茜の後ろに回り、振り返る勢いで裏拳を叩き込んだ。
茜は素早く向き直り、裏拳をスナップを利かせた鶴頭受けで弾き飛ばす。
悠里の腋が大きく開く。
茜がそこに掌底を叩き込むのと、悠里が死角からの膝を放ったのは同時だった。
打撃がぶつかり合う。
茜は掌底を出す右腕に左手を添え、かろうじて勢いを受け流しながらも後方に弾け飛ぶ。

岩のような安定感を持つ茜を、それでも力押しで弾き飛ばす悠里の強さ。
その人間離れした猛撃を、しかし上手く受け流し、いなす茜の技量。
どちらも尋常ではない。

『……な、何という動きでしょう、竜巻のように襲い掛かる正規王者、それを捌く暫定王者!
 まるで早回しにした曲芸を見ているようです。
 最高に噛み合った2人、互いが互いを刺激し合い、止め処なくギアを上げ続けている!!』

実況のコメントは場の驚きを代弁するものだった。
疾風怒濤の攻防に、黒山の観衆たちは瞬きも出来ずに目を凝らす。



「ゆ、悠里ってやっぱすげぇわ……!俺なら一生鍛えても、あんな動きできそうもねぇ」
「ああ。けど、それについてってる茜も相当だよな。地味だ、ってんで注目してなかったけどよ」
場の賞賛の声は二分されている。
その片方を浴びながら、しかし茜は、身を切り裂かれるような感覚の中にいた。

痛めた右足から、踏み堪えるたびに気の狂いそうな痛みが迸る。
腕もそうだ。スピードとパワーを研ぎ澄ました悠里の打撃は、上手く受けてもダメージが蓄積する。
そして決定的な差がスタミナだ。
悠里は攻撃の手を緩めない。
鼻が血で詰まり、呼吸を遮られている筈なのに、茜と同じく動き続けているのに、まるで動きに淀みがない。
無尽蔵の体力。そんな絶望的な言葉が茜の脳裏をよぎる。

 (これが……先輩の、本当の強さ……すぐに倒された前の時は、覗けもしなかった領域……!!)

マラソンで離される時のように、圧倒的な実力差を思い知る。
その差が百倍にも千倍にも感じられ、惨めな気持ちが心にぶら下がる。
手が、足が重い。肺が息苦しさに軋む。
インターバルが、休憩が欲しい。
水を飲みたい。
そのような感情のピースを脳内に弾けさせながら、茜は必死に暴虐の斧を凌ぎ続けた。
だが、少しずつ、少しずつその牙城を崩されていく。

試合開始から31分46秒。

ついに捌きがぶち破られ、悠里のミドルキックが茜の腹筋に叩き込まれた。
「うごがぇお゛ッッ!!!!?」
茜は唾を吐き散らし、後ろ向けに倒れこむ。そして妙な咳き込みを繰り返した。
「グっ、…げぶ……う、うう゛んっ!……んォ゛ぼッ!!」
口をすぐに押さえるが、もう一度噎せた際に胃液が指の間から垂れ落ちる。
と、目の前に影が映った。
踵落としだ。
それは転がるようにして何とかかわすが、中腰の姿勢になった所で追撃のアッパーに捕まる。
さらに腹を抉られた。
「んんごおぁあ゛あ゛お!!!!!」
茜ももう堪らない。防御を完全に解き、夢中で腹を抱える。
血がリングに滴った。
皮膚が切れた、などというものではない。臓腑を損傷したゆえの深刻な吐血だ。

揺れる視界の中、駄目押しのフックが頬に叩き込まれる。
ごぎん、と音を立てる頬の骨。
茜はそのまま、投げ捨てられるように頭からマットに倒れ込んだ。


『く、崩れ落ちた!?茜選手、ついに!王者の連打に捕まってしまったッ!!』

会場にどよめきが起こった。
2つに割れていた歓声が、一度凍りつき、氷解の後に一つの方へ集束する。
「つ、強ええぇ……!やっぱ、やっぱ悠里が一番とんでもねぇよ!!!!」
「あぁ、ああ!茜も血ィ吐くまでよくやったけどよ!!」
悠里賛美の一色。
悠里のカリスマじみた強さは、何百人という人間の意見を無理矢理に自らの側へ引き摺り込んだのだ。
そのカリスマが倒れた茜の上で拳を突き上げると、会場が沸き上がる。
「おおおおおお、悠里ぃいいいい!!!!!」
「こっち向いてくれ、女王!!!!」
悠里の名を喉の奥から叫ぶ声。女王の肢体を眺める潤んだような視線。
それは洗脳とすら言って良いものだった。

だがその中で、茜の手がピクリと動く。リングを掴むように。
「…………ッ!」
それを真っ先に瞳で捉えたのは、ある意味で当然というべきなのか、悠里だった。



2.


悠里! 悠里! 悠里!

アリーナの天井がその歓声で埋め尽くされている。
当然だ、と茜は思った。
悠里は花形に相応しい。美しく、品があり、豪快でワクワクするような戦いを繰り広げる。
茜の価値観をがらりと変えたのも、他ならぬ悠里の戦いだ。
その悠里が人気を博す事に疑問はない。
自分など所詮、その華を引き立てる為の雑草に過ぎないのかもしれない。
それでも茜は身を起こす。燻る煙のように頼りない様で。

「お、おい、やめろ茜!お前もうマジやべえって!!!」
「病院行けよ、血ィ吐いてんだぞ!?」
悠里への声援の中、茜へ声が投げかけられる。
もっともだ。
勝ちの目が薄い事ぐらい、茜が一番身に染みて解っている。
疲労で視界はもうドロドロだ。
腕にも脚にも痺れが走り、口からは吐瀉物と血の入り混じった泡を吐き溢している。
エネルギーさえ、天日に干された雑巾のように枯れ果ててつつあった。

だが、まだ動ける。

「うううぅ……うあああぁぁぁああああ゛あ゛あ゛!!!!!!!」
俯いた茜の口から叫びが上がった。
自らを鼓舞する為であろうそれは、場に響く悠里へのコールを途絶えさせる。
うつ伏せから、正座に。正座から、片膝を立て。片膝から、直立へ。
悠里はそれを威風堂々と待ち受ける。

茜が構えた瞬間、悠里はこれで終わりだとばかりに豪快な後ろ回し蹴りを浴びせた。
腰を切って戦斧を叩きつけるような蹴り。
茜は、それを避け……なかった。それどころか、腕を十字に固めて暴風圏に飛び込む。
蹴りはその小さな肩に炸裂した。
「ん゛!」
茜の顔が歪み、痩身は大きく右に揺らぐ。
だがその足先は攻撃に向かっていた。
蹴りで身体が一転する勢いを利用し、逆に里の首筋へ左足を叩き込んだのだ。
「く、うッ!?」
悠里は素早く腕を割り込ませたが、己の蹴りの威力を流用したカウンターを殺しきれない。
「ぎいっ!!」
今度は悠里の身体が大きく傾ぐ番だった。

『カ……カウンター!』

実況席から驚きの声が上がる。しかし、まだ終わりではなかった。
茜は左の蹴りを引きつけ、伸び上がりながらさらに逆の脚を振り上げる。
悠里のローキックで破壊された右足を、だ。
茜はあえてその痛みの中心を叩き込む。
痛みという現実を以って、立ちはだかる幻想の壁を打ち破るかのように。
「破アァぁああ゛ッッ!!!!」
茜は歯を食いしばって膝を持ち上げ、膝下を引きつけ、そして、力の限り打ち込んだ。

音が響く。
研ぎ澄ました刀で空を一閃したような、淀みのない風切り音。

右足は、悠里のこめかみを蹴り抜いていた。
相手の強烈な蹴りを利用して左の蹴りを叩き込み、それすらをさらに利用しての右ハイキック。
折れた右足での根性の一閃。
「あ゛……!!!」
悠里の身体が大きくよろめく。
だが倒れない。目元を押さえたまま、歯を食いしばって直立を保っている。
何というしぶとさだ。会場が息を呑んだ。
しかし茜だけは静止しない。
まるであらかじめそれが解っていたかのように、歯を食い縛りながら脚を踏みしめ、身体の前に腕で円を描く。
「……シッ!!!」
鋭い息が吐かれ、悠里の身体にとどめの追撃が放たれた。

ドッ、ドドン。

臍、水月、喉。人体の急所が並ぶ正中線を、目にも止まらぬ三槍の突きが貫く。
「……か、ふゅ……っ!」
急所を抉られ喉を潰された悠里は、とうとうその強靭な脚を折って横ざまに倒れこんだ。
リングが揺れる。
その中で茜も膝を突く。瞳からボロボロと痛みの涙を零して。
情けない姿だが、その涙を笑う者はいない。
右足の負傷を抱えながら、ただ根性だけで悠里を倒しきった茜。
倒れたまま動かない悠里。

「…………か、勝った……のか……!?」
「ウソ……だろ。…………ゆ、悠里が……?」
急転した死合模様に、ただ驚愕だけが波紋となって広がった。





涙で霞む視界に、白いライトが万華鏡のようにちらつく。観客のざわめきが聴こえる。
意識の遥か上方で。
ダウンしたのか……悠里はそう理解した。
茜の静を、動をもって叩き潰そうとした結果がこれだ。
押しの力には自信があった。ピンチは幾度も訪れたが、その度に力でねじ伏せてきた。
それがさらに押し切られるというのか。練磨に練磨を重ねた、茜の技に。
口惜しい。
だが、悠里は納得もする。
もしも自分を打ち倒すものがあるとすれば、それは純粋な努力の結晶だ。
茜のようなひたむきな武こそが、超常のものを倒すに相応しい。
悠里は心のどこかで常にそう思っていた。

あるいは、茜を初めて見た時に抱いた衝撃は、いつの日か自分を倒してくれる事を期待してのものであったのかもしれない。
白人少女を殺めて以来、長らく悠里の中に棲み続けてきた化け物、『カーペントレス』を。
……ならば今度ぐらい、あの可愛い後輩に甘えてみよう。木こり娘の全てをもって。

悠里が立ち上がる。
油断なく身構えた茜は、その敬愛する女性の目を見て息を呑んだ。
静かな瞳。
いつものギラついた眼ではもはやない。
獣が獲物を仕留める際に見せる、吸い込まれるほどに静かな瞳だ。

「ユーリ……とうとう、最後にするんだね?」
大柄な女ボクサーが表情を強張らせる。
「カーペン…トレス……!!」
令嬢然とした柔道家が顔を顰める。
「ついに、クライマックスですわ」
褐色肌のタイ女が笑う。
「…………!」
可憐なプロレスラーが、珍しく真顔になって身を乗り出す。



無数の視線が見守るリングで、茜は微かに身を震わせていた。
悠里への恐怖心が“消えた”のだ。
その事が逆に、最大の恐怖となって茜を襲う。
恐怖心があればこそ、相手の行動で起こる最悪の結果が思い浮かんだ。
その勘を元に行動を選べた。
だがそんな恐怖心さえ感じられなくなるほどに、今の悠里のプレッシャーは凄まじい。
ある意味、茜の最大の強みだったものが殺された形だ。

もはや頭は役に立たない。
茜はこの強大な女王を、今度こそ純粋にその拳足のみでもって迎え撃たねばならない。
それに震えが止まらなかった。
鍛え抜いてきたはずの己の身体が、幼子のように頼りなく思える。

その茜に悠里がゆっくりと歩み寄った。
硬直する茜へ、拳が突き出される。腕一つぶん離れた場所に。
「え……?」
茜は当惑する。
攻撃ではない。これは……手を合わせろと、そう言っているのだ。
茜は悠里の顔を仰いだ。
無機質にも思える瞳が茜を見据えている。
しかし、その奥にいるのはやはり悠里だ。悠里は悠里のまま、最後の戦いを挑んできたのだ。
その腰には黒い帯が結ばれている。
長らく茜の修練を見守り、その努力の汗を吸ってきた黒帯が。


 ( ……そうか…… この人、私なんだ )


茜は気がついた。
悠里は茜にとっての強さの象徴。
憧れ、目指しながらも、超える事など出来ないと心のどこかで諦めていたものだ。
その弱い自分を乗り越える。
それこそが、茜が武道を始めた本当のきっかけではなかったか。

そう思い至った時、茜の震えは止まっていた。
観衆のざわめきさえ聴こえなくなる。
もはや何を案ずる事もない。ただ、全てをぶつけるだけだ。


茜と悠里、そして見守る観衆の誰もが理解していた。
この全てを捧げたぶつかり合い、それで2人の戦いは終わりを告げると……。

The edge ep.11-3

1.

肋骨が折れた。それを悠里ははっきりと認識しただろう。
肘という小さな部位で狙い打たれたため、折れたのは恐らく中ほどの1本のみ。
しかし、それでも充分に痛むはずだ。
悠里のステップを刻む速さが緩まった。
その場に留まったまま、細かに重心を入れ替えるのに終始しはじめる。

「おいおい、姐さん足が止まっちまったぞ!?あの肘打ちがンなに効いたのかよ?」
金メッシュの少女・早紀が指を噛んだ。
彼女は茜の友人でもあり、悠里を敬愛してもいる。ゆえにその心情は複雑だろう。
その早紀の後方から、また別の声がした。
「効いてるから止まったんじゃないよ」
早紀が振り向くと、いかにも生意気そうな制服姿の少女が目に映る。
かつて悠里と戦ったその柔道家・青葉は、どこか忌々しげに悠里を観察していた。
確かにリングへ目を向ければ、茜は責めあぐねている。
悠里の足が鈍り、明らかな攻め時と見えるのにだ。

『これはどうした事でしょう。リング中央、両者睨み合いの膠着状態に陥りました!』
実況が煽る。
観客からも攻めろ攻めろ、というコールが起きる。
しかし、茜は悠里よりはやや大きな動きでステップを刻みながら、慎重に観察を続けていた。
悠里は確かに止まっている。
だがそのプレッシャーは、前に突き進んでくるのと同等以上の物だった。

悠里はカウンターを狙っているのだ。
常に前へ前へで蹂躙する彼女には珍しい事ではあるものの、極めて危険な状態。
弱ったと判断して不用意に突っ込めば、致命的な反撃を食らう。
ロー、ミドル、ハイ。どのキックを喰らっても致命打になりうる。
キックだけではない。パンチも決して侮れない。
かつては空手で全国を制した女なのだ。
その突きの練度は、空手道に邁進してきた茜でさえ寒気を覚えるレベルにある。

動きを止めた悠里は、無数の砲門をこちらに向ける要塞に等しい。
攻め時、などというのは、しょせん安穏としたリング外の考えでしかない。
ここは策に乗らず、同じく待ちで粘るのが賢い戦法だろう。
しかし、それでもあえて茜は攻撃に移る。
『来い』と悠里が言っているのだ。
ならばそれに応えねばならない。茜もまた、退く事を知らない空手家なのだから。



茜が前重心に溜めたのを見て、悠里は目を細める。
茜は前に溜めた反動で後ろ足を蹴りだし、拳を最短距離で弾き出す。
飛び込むようなジャブ、いや刻み突きだ。
常人ではとても反応しきれない速度だが、悠里はそれに前蹴りを合わせる。
「あ゛っ!!」
茜が噎せ込んで後退した時には、すでに悠里は二撃目の廻し蹴りを放っていた。
スパァンッ、という音がリングから遠く離れた場所にまで届く。
『す、すごい音だ!!何という強烈な廻し蹴りでしょう!!!』
音を聞き、実況が興奮気味に叫ぶ。

廻し蹴りは茜の内腿に入っていた。
茜は堪えようとたたらを踏むが、その場で錐揉みするように倒れこんでしまう。
「ん、、うううう゛……ッ!!!!!」
茜は歯を喰いしばって悲鳴を抑えた。
蹴られた左脚が痙攣を始めている。道着を捲れば、内腿は真っ赤に腫れあがっているだろう。
蹴りの一発が交通事故のような衝撃。
これが悠里、これがカーペントレス(木こり娘)の蹴りだ。

しかし、その蹴りを放った悠里もまた、脇腹を抑えて崩れ落ちた。
廻し蹴りには二通りの蹴り方がある。腹筋を使って蹴る方法と、背筋を使って蹴る方法だ。
腹筋を使えばスタミナを消耗するが、その分威力が増す。
悠里は常に腹筋を使って蹴りを放っていた。
蹴りの威力が絶大である分、腹筋に与える負荷も大きい。
肋骨を損傷した状態では、立っているのが困難になるのも当然だ。
「はぁ、はぁあっ……!」
悠里はこめかみから汗を流し、片膝を立てて苦悶する。
桜色の唇が開いて喘ぐ姿に、客席前列から喉の鳴る音がした。

『速攻を仕掛けた方、それを切って落とした方、双方が蹲って動けないッ!
 立つ者の居ない様が、この試合の壮絶さを物語っております!』

実況の声が木霊する。
その中で、悠里と茜はゆっくりと身を起こし始めていた。
見守る観衆は驚愕しながらも理解している。
どちらもここで力尽きるほどヤワではない。
これはまだ、序章に過ぎないのだ……と。



2.

悠里と茜、立ち上がった2人は飛び掛かるように走り出した。
地を滑るようなその動きの前に、リングは余りに小さすぎ、観衆のほとんどはその動きを見切れなかったことだろう。
打ち倒す、その意思がそうさせたのか、2人は互いの制空圏をあっさりと踏み破る。
肩をぶつけるような至近距離での撃ち合いだ。

先に届いたのは悠里のショートアッパー。
風を切るそれを茜は薄紙一枚ほどの間近でかわし、ぐんと腰を切って鉤突きを放つ。
悠里はそれをアッパーを戻す勢いで打ち落とし、茜の額に自らの前頭を打ちつける。
ゴグッ、と鈍い音が響いた。
頭突き。大抵の格闘技において禁止されるその危険な技も、“何でもあり”のこの場所では有用な攻撃として認められる。
ただし今放たれた頭突きは、単に威力を求めただけのものではないようだ。
額をギリギリと擦り合わせたまま、悠里と茜が視線を交わす。
睨み合う、とは違う。
かといって見つめ合うといった生易しいものでもない。
互いを愛するがゆえ、大切に思うがゆえに総力を上げて勝ちをもぎ取る。
そう瞳で宣言しているかのようだった。

額が汗を散らせて離され、再び至近での打ち合いが始まる。
目にも止まらぬ手技の応酬、それに伴って摺り足の分だけ僅かに距離が開いていく。
そして、悠里は伝家の宝刀を抜いた。
ローキック。基本中の基本でありながら、他のそれとは一線を画す必殺の蹴り。
だが茜は悠里の内腿を蹴り上げ、それを出始めで食い止める。
多大な運動量が殺された事を物語るように、2人の体がガグンと揺れた。

茜は悠里の内腿を蹴り上げたまま、さらにその脚を振り上げる。
脚を絡めるようにされ、悠里も片足を振り上げて大股を開く格好となる。
茜は一本足で悠里の身体を押し始めた。
テイクダウンを狙っているのだ。
だが悠里の足腰の強さ、バランス感覚の高さは尋常ではない。
押されながらも片足で跳ねながら堪え続ける。
本来なら、そのまま耐え切って逆に相手を投げ捨てる事が出来ただろう。
肋骨の損傷という弱点さえ無ければ。
「く、は……ッ!!」
堪えるうちに腹筋が悲鳴を上げ続け、ついに悠里は息を吐き出した。
脱力した悠里を茜が押し倒す。

マットが揺れ、ついに悠里が下になる形でテイクダウンを取られた。
会場に歓声が沸き起こる。
悠里は驚きに目を見開いたが、すぐに脚で茜の腰を挟み込んでクローズドガードの形を取る。
マウントだけは阻止した形だ。
しかしながら、寝技の使えない悠里にとって、グラウンドで下になる状況は圧倒的な不利だ。

『ご、ご覧下さい!あの王者が押し倒され、上に覆い被さられています。
 これはツラい!空手で鍛え上げた挑戦者の拳、パウンドの嵐が降り注ぐのか!?』

その実況が終わりかけた刹那、茜は悠里の顔へ向けて容赦のない正拳を振り下ろす。
悠里はそれを打ち払うが、その顔には微かな焦りが見て取れた。



茜が一撃パウンドを打つと、それだけで煩いほどの歓声が沸き起こった。
悠里を倒しうるかもしれない、という期待が高まっているのだ。
悠里がグラウンドで下になり、パウンドを受けるという状況が滅多にない事も理由の一つだろう。

悠里は徹底してグラウンドを避ける。
持ち前の目の良さでタックルは完璧に切り、腰が強い上にバランス感覚も卓越しているため、組まれても引き込まれてもまず倒されない。
逆に、倒そうとする相手の隙を狙って膝蹴りやハイキックで仕留めるのが必勝パターンの一つですらある。
生粋のストライカーである悠里が総合のリングで絶対王者たりえるのは、スタンドにしか付き合わないゆえだ。
ゆえに悠里はパウンドを受けた経験が少ない。
逆に茜には、泥仕合の末にパウンドを仕掛けた経験は山のようにあった。
上から殴る技術には長けている。

茜は悠里の両足に腰を挟まれながら、覆い被さるように悠里を見下ろす。
悠里は気の強い瞳で茜を睨み上げていた。
年上であり、高校での上級生であり、実力も数段上。
そう思っていたにも拘らず、攻防を支配される状況にあるのは耐え難い屈辱だろう。
だが全てはアクシデントではなく、正統な殴り合いの末でのことだ。
ゆえに悠里は、割れるような歓声に包まれながら、惨めな現状を受け入れる他なかった。

茜はテンプルへのフックと顔面への正拳突きを中心に、巧みにパンチを打ち分ける。
悠里はそれを片手で打ち払いながら、果敢にも茜へアッパーを放った。
しかし下から威力のある攻撃など出来るはずもなく、茜に首を反らせてかわされた挙句、痛烈なカウンターを貰ってしまう。
ズドンッとマットが揺らし、茜の突きがまともに悠里の顔面を打ちぬく。
「んがァっ……!!!!」
悠里の瞳孔が開き、容の良い鼻から血が噴きだした。
歓声が沸き起こる。
茜は心中つらいのだろう、その歓声に眉を顰めながらも、ここを決め時とばかりにさらに左右の連打を打ち込んでゆく。
悠里は腕で顔を覆う形でそれを防ぐ。するとその右の手首を、茜の左手が鷲掴みにした。
悠里がぎょっとした表情になる。

「……ごめんなさい先輩。私、勝ちに行きます」
左手を軋むほどに握りしめながら、茜はさらに悠里の顔に鉄槌を打ち下ろしはじめた。
それは鈍い音を発しながら、先ほどより遥かに高い命中率で悠里の顔に叩き込まれてゆく。
ある程度強固なガードができる両手に比べ、腕一本でのガードは極めて難しい。
適当にでも打ち下ろせば、少なからぬ数が通ってしまう程に。
しかも悠里の空いている手は、利き手ではない左手だ。
茜自身は利き手で存分に殴り続けられる一方、悠里は左手だけでそれを防がなければならない。
いくら悠里の目が良いとはいえ、それは到底無理な話だった。



ゴツッ、ゴツッという音を響かせ、無慈悲なパウンドは繰り返された。
瞬く間に悠里の鼻は潰れ、美しい顔が鮮血に染まる。
以前は悠里の頬に薄い切り傷をつけるのが精一杯だった茜が、今回は血みどろに変えている。
諸行無常、という言葉が想起される場面だ。
まともな試合ならばとうにTKOが宣告されているところだが、ここにレフェリーは存在しない。
どちらかが気を失うか、赦しを乞うか、あるいは死ぬまで終わらない世界だ。

その中で、悠里は血みどろになりながら、しかし強かに抗っていた。
左手は茜の振り下ろす拳を弾きながら、顎を強固に護っている。
顎を打ち抜かれて失神すれば、その時点で負けが成立するからだ。
また顔にパンチを受ける際にも、隙あらば額に喰らって相手の拳を粉砕しようと目論見る。
おかげで茜は、絶対優勢な体勢でいながらも、慎重な責めを余儀なくさせられていた。

ただ、そうはいっても差は出てくる。
殴られ続け、何度も後頭部をリングに打ち付ける中で、悠里は目に見えて動きを鈍らせていった。
左手が力なく宙を彷徨い、茜の肩に回される。
今にも決着がつきそうだ。
しかし、茜がトドメを刺すべく拳を振り上げた瞬間、静かなる獅子は突如動いた。
目を見開き、目にも止まらぬ速さで茜の後頭部を打ち据えたのだ。
「がっ!!?」
茜の身体がぐらりと揺らぐ。
ラビットパンチ。後頭部を打つ、こちらもスポーツ格闘技において固く禁じられる技。
背後という意識の向かない所からの打撃ゆえに、その威力は絶大だ。

茜が身体を泳がせた瞬間、悠里はその下半身の力でもって茜の痩身を跳ね除ける。
そしてロープを掴んで立ち上がると、返礼だとばかりに茜の脚を蹴り付けた。
身体を目にも止まらぬ速さで回転させ、体重に遠心力を掛け合わせて放つ必殺のローキック。
それは起き上がろうと踏ん張る茜の足に直撃する。

「ふっ……!?……う、うっぎゃいああああああ゛あ゛ッッッ!!!!」

叫びが上がった。
その甲高い叫びは、ある意味で観衆の誰もが覚悟していたもの。
悠里に足をへし折られた数多の女性が、リング上で発してきたものだ。
それはまさに斧で切断されるがごとく。
「くっ!……くぅ、あああ……ぁぁああ゛っっ……ッぁ゛……!!!!!」
茜は蹴られた右脚に振り回される形でリングを転がり、膝を抱えながら嗚咽した。
辛い辛い修練に耐え忍ぶ空手家を無条件に泣かせるほど、その痛みは凄絶なのだ。
歓声に沸いた客席がしんと静まり返る。

“カーペントレス(木こり娘)”。

畏怖を込めてつけられたその2つ名を、場の皆が再び思い起こした事だろう。

血飛沫に彩られたリングの端、悠里はコーナーに寄りかかった。
パウンドで殴り続けられたダメージか、さすがに追撃に行く事はできないらしい。
だが茜も足を押さえたまま動けない。
両者共倒れという光景は二度目だが、しかし先刻とは違う。
悠里の顔は血にまみれ、そして今、茜の右脚は見事に粉砕されたに違いない。
五分と五分。
互いに欠陥を増やしながら、しかし戦いのステージはまた一つ上に昇る。
両者の瞳はまだ、燦爛と輝いたままなのだから。

The edge ep.11-2

1.

悠里は半身のまま腕を自然に垂らしていた。
リラックスしているように見えるが、放たれる重圧は並ではない。
獅子と向かい合っているようだ。
射程範囲に入った瞬間、首がもぎ取られそうな緊迫感がある。
ああこの感覚だ、と茜は懐かしく思った。
しかし昔を懐かしむだけでは、同じように惨敗を喫するだけだ。

茜は半月立ちの構えから膝を柔らかく使い、素早くステップインして距離を詰める。
そして鋭い蹴り足と共に突きを放った。
初手から相手を倒しに行く突きだ。
一打目は軽くかわされるが、茜は動きを止めない。
左、右、左。一打ごとに震脚でリングを踏み鳴らしながら悠里を追い、その顔面へ向けて突きを放つ。
『こ、これは速い!流石は全国レベルの空手家、突きが視認出来ません!!』
実況が叫びを上げた。客席からも驚きの声がする。
突きを放っている事は動きで判るが、引きが早すぎてどう突いているのかが解らない。そういった状況だろう。

しかし悠里はそれを全て見切っている。
ヘッドスリップで突きをかわしながら、キュ、キュッと軽快な足捌きで後退してゆく。
だがある時、ざすっと音がしてその身体はロープに詰まった。
悠里の身体がトップロープに大きくめり込む。
「今だっ、いけぇ茜!!」
客席から声が上がった。
しかし茜は、妙な危機感を覚えて身体を引く。
その直後、コンマ数秒前まで茜の鼻があった場所を悠里の膝が刺し貫いた。
跳び膝蹴り。
悠里は誤ってロープに詰まったのではない。
ロープを故意にしならせ、弾かれる勢いで膝を放ったのだ。
もしも茜の判断が瞬きの間ほど遅れていたら、顔面に膝を叩き込まれて昏倒していただろう。

茜はその事実にぞっとしながらも、息を乱さぬままに悠里との距離を計り直す。
落ち着いていた。
攻撃こそまだ当てていないが、終始ペースを握られていた前回とは違う。
あの敗戦以来、悠里の動きを何千回と脳内でリピートしてきた。
突きを回避する時の動き、ステップの刻み方のリズム、それらを解る限りで記憶した。
だから多少は冷静にやり合える。

とはいえ、悠里は奔放な戦い方をする格闘家だ。
状況に合わせ、相手に合わせ、様々な立ち技格闘技から抽出した技法と、驚異的な身体能力をフルに使って対処する。
ゆえに最も対策が立てづらく、絶対に勝てるなどとは誰にも言えないであろう王者だ。
茜はその高く分厚い壁を越えようとしている。
勝算などない。いつにも増して“必死”に足掻くしかない。
もとより自分にはそれしかないのだ。
茜は膝を曲げ、拳を握って悠里を睨みつけた。


「あの方、今の膝蹴りをよく避けられましたね……」
試合を観戦する紗江が驚きの声を上げた。
それほどに悠里の跳び膝蹴りは素早かったのだ。
さらに、茜が突きを放った打ち終わりを狙う形でもある。
自分に置き換えて考えれば、まず直撃を喰らっただろう、と紗江は思った。

「勘が良いのだろう。加えて、殴られている最中でも相手から目を離さないほどの度胸がある。
 私の変幻自在な形意拳も、ことごとく打ち落としおったからな」
香蘭が言うと、楓が面白そうに目を開く。
「へぇ……龍が暴れて噛み付いてくるような、あの攻撃を凌いだん?
 小さい見た目に反して、中々やるやないの」
楓の言葉に香蘭が頷いた。
すると、今度は莉緒が口を開く。
「……でも、不利には変わんないよ。蹴りが得意なおねーさんにリーチでも負けてると、
 近づくだけで大変だもん」
かつて悠里と打ち合った莉緒の言葉には、説得力があった。

そもそも、悠里のローキックは一発で相手の脚をへし折るほどの威力がある。
直立する人間は下段の攻撃に反応しづらい。
特にモーションが小さく、標的との距離も近いローキックは、
世界最高レベルの人間であっても喰らって当然で試合を進める。
そのローキックが必殺の威力を誇るのだから、何とも反則的な話だ。

だが悠里を下すには、その理不尽を乗り越えて優位を築かなければならない。
茜が選んだのはそういう道だ。



2.

「はっ!せいッ!はあァッ!!」
膝蹴りで距離が空いた後、今度は悠里が仕掛けていた。
すらりと長い脚を使って茜を責め立てる。
横蹴りで腹を狙い、それが防がれると素早く引いて逆の足を高く振り上げる。
上段蹴りだ。
「…………っ!」
茜は腕で顔面を覆いつつ、悠里の膝を見上げた。
自分の肩の辺りで畳まれた膝上が、弾かれるように勢いよく襲ってくる。
ドフッ、と鈍い音が響き、茜のガードは容易く弾き飛ばされた。
肩の外れそうな衝撃だ。
「あ゛う!!」
腕を投げ出す形でよろめく茜に、さらに悠里が迫る。
茜は咄嗟に腕を戻して胸を覆った。
そこへ悠里の前蹴りが襲う。
「お゛ごぁはっ……!!!」
茜は目を見開きながら吹き飛ばされた。
背中からマットに叩きつけられ、跳ねるように横転する。

『……恐ろしい蹴りの威力、茜選手の防御がまるでその意味を為さない!!』
実況が驚きの声を上げた。

「ごほっ、コほっ……!!」
片肘をついて咳き込む茜は、前方から襲い来る悠里に気付いて横に転がる。
そのすぐ横で悠里の踏み付けがリングを揺らした。
見上げる茜と見下ろす悠里、一瞬その視線が交わる。
悠里は獣のような目をしていた。格闘家の眼だ。
彼女も茜の事を憎からず思っている筈だが、リングに上がった以上容赦はしない。
 ――どうしたの、やり返してみせなさい。
ギラつく瞳はそう言っているように見えた。
「…………ッ!!!!」
ぎり、と茜はリングに爪を立てる。
不甲斐ない。相手にとっても、自分にとっても。


茜は腹這いの姿勢から腕立てをするように上体を起こし、そこからバク宙の要領で立ち上がった。
おおっ、と客席から感嘆の声が上がる。
「ふっ!!」
悠里だけは瞳を変えないまま、茜に向かって走りこむ。
茜は小さく息を吸ってそれを迎えた。
ばちんっと肉同士がぶつかる音と共に、2つの膝蹴りが交錯する。
結果、体格と筋力に勝る悠里が押し勝ち、茜は身体一つ分吹き飛ばされた。

跳ね飛ばされ姿勢の安定しない茜に、さらに悠里が仕掛ける。
テンプル狙いの右フック。しかしそれは茜のダッキングで風を切った。
フックの打ち終わり、がら空きの悠里の脇腹。
それを見た瞬間、茜の脳裏に電流のような閃きが走った。
打倒悠里の為に研ぎ澄ましてきた“槍”。
打ち込んだ肘を、掌底でさらに打ち込むあの殺し技をここに叩き込めば、
あの悠里をぐらつかせる事が出来るのではないか。

  …… ここだ 。

茜の脳が狙いを定める。そして意志の力で、無理矢理に攻撃姿勢を作り上げた。
「ううう……ぁああああ!」
身を沈めた状態から起き上がる力を利用し、足腰のバネを存分に活かして、
フックの死角となる悠里の脇腹へ肘打ちを叩き込む。
ドン、という手ごたえ。
「がはっ……!!?」
悠里の目が見開かれる。茜の肘は、間違いなくその脇腹に突き刺さっているのだ。
まだだ。
茜はその千載一遇の機を逃さない。
右の肘打ちを叩き込んだまま、その腰の切りを利用し、左の掌底を釘と化した右腕に叩き込む。
べぎん、と音がし、肘がさらに奥へめり込んだ。
悠里のアバラが折れたのだ。

「ふぐ……っ!?……う、あ゛、ぁぁぁああ゛あ゛!!!!!!」
悠里は身体をくの字に折って倒れ込み、腹を押さえて悶絶する。
会場が静まり返った。状況を把握しきれていないのだろう。
しかし数秒の後、大歓声が沸き起こる。


『た、倒れたーー!!あの絶対女王が、小さな空手家の隙を突いた連撃に悶絶!!
 苦しげな表情からして、肋骨を損傷したのでしょうか!?
 これは解らない。早くも大番狂わせの匂いがして参りました!!!』

実況が驚きの声を上げる。
興奮に満ちた歓声がアリーナを包む。
その中で、香蘭が頷いた。
「……見事な判断だ。あれを脇腹に叩き込まれては、さしもの悠里でも堪らんだろう」
胸元の傷を撫でてそう呟く。
事情が解っているのは彼女ぐらいのもので、悠里の壮絶なダウンに、
紗江も莉緒も、楓でさえも目を疑っていた。
「ホンマにやるわ、あの娘……」
楓が茜に向け、感嘆の溜息を漏らす。

沸き起こる歓声を聞きながら、茜は高揚の中にいた。
自分が悠里をダウンさせた。それが俄かには信じられない。
ただ肘の痛みだけが、それが現実なのだと知らしめる。

「ぐふっ、う、うあ……っぐ……!!!」
悠里はなおも脇腹を押さえて悶絶している。
眉根を寄せ、桜色の唇から涎を吐いて。
それを見て、ちくり、と茜の胸に痛みが走った。
大好きな相手を、自分の手で傷つけている。それを目的として殴り合っている。
何なんだろう、この状況は。
今さらながらに茜は思った。悠里の苦しむ顔は、あまり心地よいものではなかった。

「せんぱ…………」

茜が傍に寄った時、悠里は彼女を睨み上げる。
「何をしてるの?」
悠里はロープを支えに立ち上がりながら言った。
「せっかく、この私がダウンしてるのよ……。攻め続ければ、勝てたかもしれないのに」
「そ、それは……」
茜が瞳を惑わせると、悠里はふっと目元を和らげる。

「…………つらいものでしょう、好きな相手を叩きのめすのは」

その言葉に、茜は悠里を見つめた。
こちらの心情を見透かしたような発言だ。
何故だろう。
そう考えた時、前回の戦いが脳裏に甦る。
あの時悠里は、容赦なく茜を攻め立てていた。
茜はその猛攻に防戦一方で、しかし喰らい付きたい一心で血みどろになっていた筈だ。
それを悠里は殴り続けた。
あの時の悠里は、まさに今の自分と同じ気持ちでいたのだ。

「今回のでおあいこよ?身体の痛みも、心の痛みも、ね」
悠里は笑い、息を整えながら茜と距離を取る。
茜は、心がふっと軽くなるのを感じていた。

仕切り直し。
悠里がアバラを痛めた分、今は茜の優勢だ。
しかし、そんなものはさしたるハンデにならない。
相手はあの『カーペントレス(木こり娘)』だ。
気を抜けば蹴りの一発でこちらの骨を持っていかれるか、或いは意識を刈り取られる。
茜の頬に汗が流れた。
強烈な一撃を浴びた事で、いよいよ悠里の気迫が増している。
垂れる髪は獅子の尾のようだ。
いよいよ悠里にも容赦がなくなるであろうここから、一時も気を緩めてはいけない。

「押忍ッッ!!!」
茜は気合を入れ直し、悠里に向けて構えを取った。

The edge ep.11-1

1.

大粒の梅干しを入れた握り飯2つに、アサリの味噌汁。
オレンジにバナナ、蜂蜜、重曹、ミルクをミキサーにかけた特製ドリンク。
悠里はそれを黙々と摂取した。
朝食、と呼んでよいのかは解らない。
これから悠里は、自室でのトレーニングでそのエネルギーを全て使い果たし、
また食事を摂り……を本番の2時間前まで繰り返すからだ。

悠里は食べる事を好む。
食物を喰らい、それが血肉となってゆくのをイメージする。
それを以って、その日も健常に動けるという根拠とするのだ。
しかし……今日ばかりは、その悠里の食も冴えない。
普段の半分ほどの量を摂っただけで、もう脳が満腹を訴えている。
ガラにもなく緊張しているのだ。
悠里はそう悟った。

茜との再戦。それを悠里は待ち焦がれてきた。
茜との戦いは、他の選手との戦いとは根本から違う。
勝つため、王座を守るために戦うのではない。
茜と拳を合わせる事、それ自体を楽しむために戦うのだ。
そのように思える相手は滅多にいない。
それゆえ、戦いにかける意気込みも普段の比ではない。

悠里は席を立ち、窓際に寄りかかる。
地上15階、人が塵のように見える高さだ。
ここから落ちてはひとたまりもない、と悠里は考える。
どれほど体を鍛えてもそれを免れる事はできない。
人間など、所詮はそんなものだ……。

「……弱気になってるわよ、悠里」

悠里は窓ガラスに映る自分に顔を向けた。
そして、次に笑みを浮かべる。
この緊張さえもどこか心地良い。今宵の戦いが楽しみで仕方ない。
だからこそ、それを生半可な物にはしたくなかった。
至高の戦いとする為に、“カーペントレス”の総てを叩きつける……。

悠里は気合を入れ直し、窓辺から身体を離す。





同刻、茜は白装束に身を包んで滝に打たれていた。
鳩尾まで水に漬かり、手を合わせて水を受ける。
激流に呑まれる状況下では、雑念が湧く余地などない。
ゆえに茜は無心になれた。
自然の中にある自分を感じながら、同時に雄大な自然と一体化するイメージを形作る。
そのイメージが完成すれば、ヒト一人を相手にするのがどれほどのものか、と開き直る事ができるからだ。

精神統一を終えた茜は水から上がり、焚き火で身体を暖める。
そして、ふと煙の立ち昇る先を見上げた。
高い空は晴れ渡っている。
決着をつけるには最高の日だ……と茜は思った。
今日の夜を過ぎた、明日の自分はどんな顔をしているのだろう。
そんな考えも浮かぶ。

「……ダメ。明日を考える前に、今日をやり尽くさなきゃ」

茜はパンと頬を叩いて気合を入れた。
そして着替えを済ませ、焚き火を消して靴の紐を結び直す。
滝行の次はランニングだ。
夜までの時間を使い、身体をより完璧に仕上げておく。

憧れの相手に笑われない、最高の試合をするために……。



2.

夜のアリーナは異様な空気に包まれていた。
興奮を押し殺すような、何かを待ちわびるような気配が観客から発せられている。
その客数はアリーナの収容人数を大きく超え、立ち見の客が溢れるほどだった。
彼らは固唾を呑んで待っている。
すでにセミファイナルの試合が終わり、後は最終戦を迎えるだけだ。

『それではこれより、本日のメーンイベントを始めます』

実況がマイクを握り、厳かに告げた。
会場に生唾を呑む音が起きる。

『……思えば、もう4年も前の事でした。あの時も、この様な空気であった事を覚えています。
 嵐のように現れた一人の高校生が、鳳麻耶を破り、女王の座に着いた。
 以来彼女は、その栄誉ある王位を守り続けて来たのです』

実況は遠い目をして語った。彼もまたその試合を目にし、心躍らせた一人なのだろう。

『今宵もまた、彼女は挑戦者を迎え撃ちます。美しき、王者として!』

実況が叫ぶと共に、頭上のスクリーンに2人の女の顔が映し出される。
キリリと前を見据える茜と、不敵な笑みを湛えた悠里。
全く予備知識を持たない人間であっても、どちらが挑戦者でどちらが王者か、一目で解る。
それは誰が相手の時でも同じだ。
悠里はまさに、女王となる為に生まれてきたような女だった。


スクリーンの煌々と照る中、会場の照明が急に落とされる。
観客から驚きや期待を孕む叫びが漏れた。
実況がマイクを握りしめる。

『さぁ、ではいよいよ今宵最強を争う2人に、お越し願いましょうっ!!』

その声と共に、会場のある一点にスモークが噴き上がる。



やがて、煙幕の中から一人の“少女”が姿を現した。
成人はしている筈だが、やはり少女と呼ぶのがしっくりくる。
身の丈160cmほどの小柄な身体。
ふわりと裾が巻くような髪の毛に、あどけない顔立ち。
いい匂いのしそうな無垢な“少女”だ。
手には指貫のグローブを嵌め、着古された空手着を身に着けている。
腰には、くたびれてすっかり黒色となった茶帯が見える。
それらは少女の佇まいに溶け込んでおり、彼女が間違いなく武道家である事を実証していた。

『青コーナー、“不退転の空手家”、 神崎 茜 !!!』

名が読み上げられた瞬間、会場から歓声が沸き起こる。
以前に花道を歩いた時よりも大きい。
それを耳にし、茜は自分の力も少しは認められてきたのだ、と感じた。
歓声の大きさは、そのまま打倒悠里へ向けての期待感だ。
『誰が悠里を倒すのか』。
観客の最大の関心事は、いつであってもそれなのだ。

無論、それは悠里が嫌われているという事ではない。
むしろ逆、カリスマ的存在である悠里が打ち倒されるからこそ、彼らはカタルシスを得られうる。
美しい壷であればあるほど、壊れた時の背徳感が強いように、
気高い女であればあるほど、堕ちるところが観てみたい。
そう想い焦がれているのだ。

そこまで想われる悠里を、茜は流石だと感じた。
そのような相手に言葉を掛けてもらったこと、挑戦を受けて貰えたこと、それらが誇らしくて堪らない。
だからこそ、茜は今宵勝ちに行く。
いつまでも背を追うばかりではない、憧れであった彼女と並び立つために。


『赤コーナー……、“カーペントレス”、 悠里 !!!!』

実況が再び名を読み上げた。
噴き上げるスモークを掻き分け、常勝の女帝がその姿を現す。
同時に沸き起こる、歓声。歓声。歓声。
茜の時とは比にならない、地面が揺れるほどの大歓声が会場を震わせる。

「悠里いぃぃ!!コノヤロウ、待ってたぜーー!!!」
「好きなだけ暴れてくれえ、カーペントレスッッ!!!!」

叫び声が花道を行く悠里に浴びせかけられた。
その絶対性は、まさしく女王。その歓声はそのまま彼女の実力の高さだ。
悠里はその地鳴りのような騒ぎをものともせず、ゆったりとした足取りで花道を行く。
まるでモデルのような艶やかさ。
すらりと伸びた脚を見ていると、彼女が格闘家である事を忘れそうになる。

豊かな胸に押し上げられた薄手のブラウス、黒い羽のように肩にはためくニットボレロ、
脚のラインを殊更に強調する膝下までのスパッツ。
格好は以前茜と戦った時と同じものだ。
ただ一点違うのは、その腰に巻かれた帯の色。それは本来の彼女の実力に相応しく、黒い帯となっている。

花道の終わりで、悠里はトンッと軽く跳びあがった。
その軽い跳躍で、悠々とトップロープを越えてリングに降り立つ。
会場から感嘆の声が上がった。
見た目こそ美しいモデルだが、その身体能力は常人のそれを遥かに凌駕する。
それを端的に表すパフォーマンスだ。

リングに降りた悠里は、黙って茜を見つめる。
そうして視線を向けられる事を、茜は周囲に誇りたくさえあった。
それほどに気高く、美しい瞳だ。
しかし、茜はその瞳を鋭い視線で受け止める。
あなたを倒す、その決意を視線に込めて。
すると、悠里も瞳の色を変える。狩りをする獣のような、ギラついた瞳。
本気の瞳だ。

「良い顔をしてるわね」
悠里の言葉に、茜は小さく笑みを浮かべる。
「当然です」
短く答え、拳を突き出す。
「……ふふっ」
その拳に、悠里も拳を合わせてゆく。

『共に打撃を究めた者同士、果たして王座は動くのか!?
 …………最終戦、始めッッ!!!!!』

実況の叫びでゴングが鳴り響き、ついに闘いの火蓋は切って落とされた。

穢れにたかるハエ

※拷問小説です。スカトロ、レズなど注意。グロは無し


フェリオ・アマンズは今年26になるジャーナリストだ。
特に戦争絡みの取材を行う事が多い。
人が砲撃を受けて粉微塵になるところ、母の名を呼びながら血の海で息絶えるところ、
そうした風景を幾度も目にし、またカメラに収めてきた。
戦争の悲惨さを訴えたいのではない。
かといって惨たらしい情景を好むわけでもない。
強いて言うなら、戦争という『地獄』を作り出す人間の心理に興味がある、といった所か。

彼は今回、某国強制収容所への取材を試みる。
その国は北のケミヤ共和国といつ武力衝突が起きてもおかしくない状態にあった。
しかし、それはあくまで表面上の話。
裏ではすでに熾烈な情報戦が始まっている。
双方の国では連日のようにスパイが摘発され、様々な尋問を受けているという。
フェリオが向かう収容所にもまさに今、ケミヤのスパイが囚われているとのことだ。

フェリオが取材許可と引き換えに課せられた義務は、そのスパイへの拷問を撮影し、
ケミヤ共和国側へ故意に流出させる事。
『自国の送り込んだ諜報員がどんな目に遭っているか』をケミヤ側に知らしめるのだという。
中立の立場を脅かされるのはフェリオにとって愉快な事ではないが、
情報戦の最先端を覗けるチャンスには変えられなかった。





「陸軍少将アロルフだ。暫時的にここの責任者も兼ねておる」
尋問室の前で、厳めしい中年将校がフェリオに手を差し出した。
傷だらけの手はいかにも叩き上げの軍人だと窺わせる。
「フェリオです、お世話になります。早速ですが、尋問を見学させて頂いてもよろしいですか?」
フェリオは握手を交わしつつ、やおら本題に切り込んだ。
回りくどい事は嫌う性分だ。
それはアロルフも同じなのか、軽く頷くと尋問室の鉄扉を押し開いた。
「入りたまえ。撮影は自由にして構わんが、なるべく尋問官の顔は写さぬようにな」
そう告げてフェリオを招き入れる。

室内に踏み入った瞬間、フェリオはその異様さに目を疑った。
釜戸の中のようだ。
レンガ造りの壁が赤銅色に彩られている。
いや、壁だけではない。床も天井も、全てが赤銅色で統一されている。
それは血のようでもあり、燃え滾るマグマのようでもあった。
地獄を想起させる場所だ。客として招かれた身でも落ちつかない。
ましてや尋問を受ける者にとっては、居るだけで気が触れそうな空間である事だろう。

フェリオは灼熱の壁をレンズに捉えつつ、期待感に胸を膨らませる。



その空間の中では、早くも嬲りを受ける女の姿が見受けられた。
締まった体つきをした金髪の女だ。
彼女は裸のまま、十字架を模した磔台に手首を繋がれていた。
吊り下げられたその女の横に尋問官が佇んでいる。
服は青シャツにサスペンダーをかけたズボンというラフさだが、靴は安全靴のように重厚なものだ。
腰にもサーベルが提げられており、いつ捕虜が暴れても対応できるようになっている。

その尋問官の手には刃先の丸い鋏状の物が握られていた。
彼はそれで女の胸の突起を挟み込む。
「いいっ!!」
女の口から悲鳴が上がった。
尋問官は微かな笑みを浮かべながら、傍らのドラム缶に手を伸ばす。
石炭が赤く燃え盛る中に、金属棒が突き刺されたものだ。
そこからよく熱された一本が引き抜かれる。
先が飴のように美味そうなオレンジ色をした棒。
しかしながら、次に予測される事態にフェリオは生唾を呑んだ。

ジュッ、という音と共に、棒の先が女の脇腹に押し付けられる。
「ッ……あ、うああアア゛ぁ!!!」
一瞬戸惑った後、絶叫が響き渡った。女の叫びだ。
彼女は歯を食いしばり、磔台に髪を擦り付けるようにして天を仰いでいた。
その締まった身体に火傷の跡が残る。
刃物で切られたような濃い赤の線と、その両脇に口を開く桜色の焼け跡。
かなりの時間そのように嬲られているのだろう。
女の体には、そうした火傷跡が内腿と言わず腕と言わず、体中に残されていた。

「女の叫びが一瞬遅れたのが解ったか?
 火に触れると最初の一瞬は感じず、一拍置いて痺れを伴う熱さが来るのだ」
アロルフが解説を加える。
軍人として経験があるのだろう、そう思わせるしみじみとした口調だ。
「……いかにも尋問、といった風ですね」
フェリオは女の柔肌が焼かれる様を写しつつ告げる。
するとアロルフが首を振った。
「ふん。この程度、挨拶代わりだ。これで吐くようなら苦労はせん」
そう言いながら、一旦フェリオに退室を促す。
釜戸のような尋問室を後にし、薄暗い廊下をしばし行った先に、大きな扉が現れた。

『特別尋問室 A』

扉にはそう記されたプレートが埋め込まれている。
「いいか若造。この先で行われる事こそ、真に尋問と呼べるものだ。……行くぞ」





こちらの部屋は先ほどとは打って変わり、実に尋問室らしい造りだった。
四方に鉄を嵌めこんだだけの殺風景な部屋。
窓はなく、壁は飛散した血が染みて赤黒く変色している。

その部屋へ入った瞬間、異様な匂いがフェリオの鼻をついた。
ひどく生々しい匂い。
同時にぬちゃ、ぬちゃっと粘ついた音も聞こえてきている。
その出処を探るべくフェリオが部屋を見渡すと、中央に磔台が見つかった。
磔台、というよりは出産の時に用いる分娩台に近い。
そこに1人の女性が足を大きく開く形で拘束されている。

目隠しをされているが、それでも美しい女である事が解った。
ややまろみのある輪郭に、肩までの艶めく黒髪。
ほっそりとしたスレンダーな体型で、淡い桜色の肌が美しい。
「アジア人ですか?」
フェリオが問うと、アロルフが胸元から一枚の資料を寄越した。
「ミズキ・オノハラ、日系のハーフだ。ああ見えて、白兵戦でこちらの偵察隊を何人も殺っている。
 北のケシラン地区のレジスタンスと同棲してもおったらしい。目下の貴重な情報源だ」

フェリオは渡された資料に目を通す。
24歳、身の丈は171cmとなかなかの長身だ。
座高から考えると、どうも東洋人離れしたスタイルらしい。
そして添付された顔写真を見て、フェリオは思わず息を呑んだ。
ハーフらしく目元のくっきりした、憂いを帯びる瞳。
整った鼻筋。柔らかそうに突き出た唇。
清純さと艶やかさが絶妙に混ざり合っている。
全てのパーツが男を欲情させるべく存在するようだ。
フェリオには、その女にハニートラップを仕掛けられて拒否できる自信がなかった。

「見惚れるだろう」
アロルフの言葉に、フェリオは頷く。
「え、ええ。スパイにしておくには勿体無い女です」
「確かにな。だが事実ケミヤのスパイなのだ。発見時の状況からして、疑う余地はない」
アロルフはそう言ってパイプ椅子に腰かけた。
彼に勧められ、フェリオもその横に座る。


「あの国……ケミヤから送られてくるスパイは、特別に厄介だ。
 通常自白を迫る際には、自白剤を打って誘導尋問で聞き出すのがセオリーだが、
 連中にはそれが通じん。
 何か仕掛けがあるのか、自白剤を打つと即座に死に至るようになっておる。
 さらに苦痛系の拷問にも耐えるよう訓練を積んでいるケースが殆どだ。
 爪を剥がれようが、皮膚を寸刻みに焼かれようが、彼奴らは死ぬまで堪え忍ぶ」
「そこまで……じゃあ、どうするんです?」
フェリオは問うた。
自白剤が使えず、痛めつけても吐かない。手詰まりではないか、と彼は考える。
しかし、アロルフはその質問を待っていたように口元を歪めた。

「そうなれば、残された方法は大きく2つ。快楽で狂わせるか、汚辱でプライドを折るか。
 今やっているのが、ちょうどその快楽責めの方だ」
アロルフが部屋の中央を指し示す。
先ほどから絶え間なくぬちゃ、ぬちゃと音がしている、分娩台のような磔台だ。

そこにミズキが手足を拘束されている。
台に腰掛けたまま、ふくらはぎを胸の位置まで掲げて固定し、大きく足を開いて。
まさしく出産の時の格好だ。
その露わにされた秘部の前には、先ほどの尋問官と同じ服を着た女が座っていた。
癖のあるショートヘアをした、そばかすだらけの女。
「リズ、どうだ。何か喋りおったか」
アロルフが問うと、リズと呼ばれた女は細目を彼に向けて首を振った。
そしてまたミズキに向き直る。

彼女がミズキの秘部に手を伸ばすと、再び例の粘ついた音が始まった。
どくん、とフェリオの心が脈打つ。
頭で理解する前に、本能が気付いていた。
拘束されている美しいミズキ、生々しい匂い、ぬちゃぬちゃと響く音。
そして快楽責めを行っているというアロルフの言葉。
性的なイメージが頭の中で繋がってゆく。
フェリオの手は興奮に震えながらカメラを撫でた。


フェリオはリズの手元に目を凝らす。
その右手の指はミズキの繁みを掻き分け、何かを摘むような動きをしていた。
指の形からして、触れているのは陰核だろう。
つまみ、包皮を剥き、下から擦り上げ、指の腹で押し付け……様々に嬲り方を変える。
その芸術的なほど巧みな指遣いは、同じ女である故に為し得るものなのだろう。

右手が陰核を嬲り回すと同時に、左手中指はミズキの秘裂に潜り込んでいた。
さほど深くは入っていない。第2関節辺りまでを沈め、緩やかに摩擦運動をしているようだ。

どちらも見ているだけで背中がむず痒くなるような巧みさだった。
受けるミズキも気持ちの良くないはずがない。
それを証明するかのように、彼女の秘部はしとどな愛液に塗れていた。
繁みを濡らし、内腿を光らせ、形の良い尻肉を覆い尽くさんばかりに溢れている。

フェリオは今一度、報告書の写真を見やった。
そして美顔を頭に刷り込み、ミズキに目を向ける。
目隠しをされた顔、まろみのある顎、鼻筋、柔らかそうな唇。
紛れもなくこの写真の美女だ。
その女性が、あれほどに愛液を溢れさせている。
フェリオはその現実をすぐには受け入れられない。
だがそれを己の現実とするために、淡々とシャッターを切り続ける。

「あの女の故郷、ニッポンでは『やち責め』と言うそうだ」
アロルフがリズの責めを見つつ口を開く。
「ああしてクリトリスとGスポットを巧みに刺激しつつ、絶頂に至る寸前で止める。
 それを何度も何度も繰り返すのだ。
 受ける女は極まりたくて仕様がない。しかしあえてトドメを刺さない。
 楽になりたくば洗いざらい吐け、とやるわけだ。
 ただでさえきつい責めだが、今回は更に目隠しで視界を奪い、より感覚を鋭敏にさせておる。
 強情なあの女でも堪らんだろうよ」
フェリオはアロルフの解説を聞きながら、改めてリズの責めを見やった。

右手は陰核を転がすように刺激し、左手は中指でGスポットを押し込み、撫で回し。
それにミズキは苦悶していた。
秘唇から愛液を分泌し、内腿は骨の形が解るほどに筋張らせる。
よく見れば全身が汗で濡れ光り、足指の先から滴っているのも見て取れた。
絶頂に至りたくて仕方がないのだろう。
彼女はその感覚を、下唇を噛み締めて堪えていた。
「…………ッ!!………………っっ!!!!」
押し殺したような声が漏れ聴こえる。
眉を顰め、形のいい鼻を膨らませて荒い呼吸をし。
美しい……とは少し違うが、その必死の表情はなんとも魅力的だ。


アロルフは解説を続けた。

「こと性的な責めに関しては、あのリズ女史の右に出る尋問官はおらん。
 女であるがゆえに、同じ女の嫌がることを良く知っておる。
 こうして見ておっても、その責めの徹底振りには感心させられるばかりだ。
 例えば、ああしてクリトリスを弄くる際も、ただ漫然と擦っておる訳ではない。
 潤滑に精力剤の含まれたゼリーを使用しておるらしい」

アロルフが差す先では、確かにリズが小さな容器から透明な何かを掬い取っていた。
それを潤滑油に、また容赦なくミズキの陰核を弄繰り回す。

「女のクリトリスは敏感な器官だ。直に触れては痛みばかりで感じるどころではない。
 それがあの軟膏の潤滑作用で、堪えきれんほどの快感に変わるらしい。
 更にはゼリーの成分が毛細血管に浸透し、活性化させる作用もある。
 感度の鈍化しがちな陰核に、半永続的な快感を与える事ができるわけだ」
「それは……何とも女泣かせですね」
フェリオは息を呑む。
女の恐ろしいまでの拘りに、背筋が薄ら寒くなるほどだった。

だが確かに、リズの責めは徹底している。
愛液でとろとろになった陰核にゼリーを塗しながら、徹底的に嬲り回す。
時には唇で陰核を挟み、ゼリーを舐めとるように舐りまわしもした。
この舌での嬲りは相当に良いらしく、その時ばかりはミズキも口を開けて高らかに喘いでしまう。
「ひっ!ひぁ、ゃ、あ……く、うあああ!!」
やがて、ミズキは陰核に触れられる度に身体を痙攣させるようになった。
今にも達しそうだ。
その段階になると、リズが突如責めを変える。

陰核から指を離し、そのやや上方に氷水の入った袋をぶら下げ、陰核に水滴を垂らしだす。
左手はなおも膣の中、Gスポットを押さえたままでだ。
「あ!?……ゃあ!!」
ミズキが悲鳴を上げる。視界を奪われた状態ではそれは驚くだろう。
しかし、冷水が火照った陰核に心地いいのか。
水滴が弾けるたび、ミズキはその細い腰を跳ねさせる。
「あああ!!ふあああうう゛っ!!!」
ミズキはもどかしげな悲鳴を上げた。
おそらくは真に限界寸前、あとほんの僅かな刺激で達するような淵にいるのだろう。
それを残酷なまでに見極めながら、リズは水滴で焦らし続ける。

そしてミズキの興奮が収まりを見せたところで、再びゼリーを用いて陰核を苛みはじめるのだ。
それが延々と続くサイクル。
しかしながら、単なる繰り返しではない。
一サイクルを終えるたびに、達し切れなかったミズキの不満は募る。
身体に快感が溜まり、狂おしいほどに火照ってゆくのだ。
今、ミズキの美しい体内では、外には見えない何かが膨らみ続けているに違いない。


リズの責めも本当に巧みだった。
彼女は左右の2本指でミズキの膣を押し拡げる。
潤みきった粘膜からどろりと愛液が溢れ出す。
リズはそこへ鼻を近づけ、ミズキにも伝わるようにわざとらしく匂いを嗅ぎ始めた。
「……ッ!!!」
ミズキが唇を噛み締めて恥辱に耐える。
内腿が筋張り、ふくらはぎが強張り、足全体に筋肉の流れが浮き出た。
それはミズキの『見ないで』という意思を反映するかのようだ。

「ねぇ気持ちいいのメス豚?アソコをこんなにどろどろにしちゃって、みっともないわね。 
 内腿にもスジ立てちゃって、世の男共が幻滅するわよ。
 でも、どうしようもなく気持ちいいのよね?解るわ、陰核がここまでカタくなってるんだもん。
 ヴァギナも震えちゃってる。咲き誇った花みたいよ、あッはは、惨めぇ。
 ほぅら、くっさい愛液を掻き出してあげるわ。ぬくいのが膣の外へ流れていくのが解るでしょう」

リズは陰核をなぶり続けながら、ミズキにだけ聴こえるほどの声で囁き続けた。
目隠しをされたミズキはそれを全て耳にしているはずだ。
そこで示した反応をまたリズにあげつらわれ、追い込む材料にされてしまう。
残酷で、徹底的だ。女という生き物が恐ろしくなるほどに。

それほどに責められながら、しかしミズキはとてつもなく気持ちが良いのだろう。
彼女の陰核は赤らみ、指で挟んでも先が覗くほどに勃ち上がっている。
フェリオは女の陰核がそこまでになる所を見たことがなかった。
ミズキの表情も見所だ。
フェリオがここぞと思うシーンを捉えた次の瞬間には、さらなる凄絶な表情が現れている。
ゆえにフェリオは、瞬きも忘れてその顔を取り続けなければならなかった。

「んん!!んんんん゛ん゛!!!」
ミズキも初めは下唇を噛み、まだ美しさの残る表情をしていた。
しかしそれはいつしか、唇を内に捲り込むような堪え顔に変わっていく。
一文字にきつく結ばれた口。必死の表情だ。
その頃には、目隠しの下から涙が頬を伝い、鼻水も上唇へと流れはじめていた。

「くぁあああああ゛あ゛あ゛!!!」
さらに時が経てば、ミズキはその美貌を歪め、喉奥まで見える絶叫を繰り返す。
体中が痙攣しはじめたのもこの頃だ。
顔は汗と涙、鼻水、涎でズルズルになり、美人も台無しだった。

「ひはっ、ひはっ……は…ッ」
そこを超えると、僅かに歯を覗かせる程度の喘ぎとなる。
落ち着いた、というよりは気息奄々といった様子だ。
寸止めを繰り返され、体力が尽きたのか、身体が限界を迎えたのか。
もはや涎に混じって泡まで噴いてしまっている。

そこに至ってようやく、ミズキへの尋問は『いったん』終わりを告げた。
新たな責めが課されるまでの、ほんの僅かな休息時間として……。





数時間に渡ってやち責めを続けたリズは、休息の為に部屋を出る。
一方のミズキは磔台から下ろされ、今度は天井から縄で吊り下げられた。

縄で後ろ手に縛り上げ、その縄尻を膝裏にも回して中腰の姿勢を作らせる。
さらに両足首も交差する形で結わえつける。
椅子へ腰掛けるようにぶら下げられた格好だ。
目隠しはすでに取られている。
視界を隠す必要がない……いやむしろ、周りが見える事でつらく思う責めをするのだろう。

さらに、今回は『見物人』もいた。手足に枷を嵌められ、猿轡をされた女達だ。
ミズキへ気まずそうな視線を向ける所から見て、彼女の仲間だろう。
わざわざその彼女らを連れてきたということは、ミズキを晒し者にするつもりなのだ。
無論、次に尋問を受ける者への見せしめ、という意味もあるのだろうが。

「今度はかなり特殊な責めだ。気分を害したくないなら、一時的な退出を勧めるぞ」
アロルフがフェリオに告げる。
「何をするんです?」
フェリオが問うと、アロルフは一つ咳払いをした。
「汚物責めだ」
「おぶつぜめ?」
フェリオは聞き慣れない言葉を繰り返す。
「先刻、この女共には快楽責めか恥辱責めをすると言っただろう。
 今度はその恥辱の方だ。あの女に大量に浣腸を食らわせ、糞をひり出させるのだ」
アロルフは淡々と答えた。
フェリオが頷く。
「浣腸による公然排泄ですか。確かにそれは恥ずかしいでしょうね。
 ……しかし、それが『拷問』たりえるのですか?
 こう言っては何ですが、まるでSMのようで、どこか平和的にすら思えるのですが」
フェリオが本心を告げると、アロルフは僅かに笑みを見せた。
歯に衣着せぬ物言いを好むタイプらしい。

「……無論、この女が糞をひり出した程度で吐くとは思っておらん。
 だがこの浣腸責めは、尋問の合間に織り交ぜるものとして便利なのだ。
 何度も糞をぶち撒け続ければ、鉄の心を持つ女でろうと必ず動揺する。
 排泄はヒトが最も見られなくない生活習慣だからな。
 そこでまた尋問をかけるわけだ」
アロルフの言葉に、フェリオは喉を鳴らす。
知り合いの見守る前で、何度も、何度も糞便を撒き散らさねばならない。
それは流石に堪えそうだ。

そしてそのようなレベルで駆け引きをする尋問官やスパイ達を、彼はどこか遠くに感じた。


吊り下げられたミズキの足元に、透明な液体の並々と入った盥が置かれる。
さらにポンプのような管も持ち出された。
あまりにも太い為に気付きづらいが、形状はエネマシリンジに酷似している。
その一方の先がワセリンが塗られてミズキの肛門へ捻じ込まれ、もう一方が盥の液につけられた。
そして中央のバルーンを握ると、ごぼりと音がして薬液がミズキの中に注がれはじめる。

「あの液は何なんです?」
「ドナンと呼ばれる液だ。塩化マグネシウムを溶かした物で、最も強烈な浣腸と言われておる。
 とにかく浸透圧が凄まじいらしい。
 一般的に用いられるグリセリンならば素人でも10分はもつが、
 ドナンは1分も経たぬうちに如何ともしがたい便意に襲われるそうだ」

フェリオ達が言葉を交わす間にも、ミズキの腸内にはごぼりごぼりと薬液が注がれていた。
盥にあった液がみるみる減ってゆく。一リットルは悠に超えているだろう。
「う!……ンんーーっ……!!」
女の顔に早くも苦痛が現れ始めた。
いつの間にか見事な腰の括れが無くなっている。
さらにその腹からは、ぐるる……という音も漏れ聞こえていた。

盥の液を全て入れ終えた後、ポンプが引き抜かれ、入れ替わりに太い肛門栓が捻じ込まれる。
尋問官が手で押さえながらネジを締めると、僅かにも動かなくなった。
ミズキの腹は見事に膨らみ、相当な腹圧が掛かっている筈なのにだ。
「ああしてネジを締めれば、中で栓が広がって決して抜ける事がなくなる。
 あの女がどれほど苦しみ、息んでもな」
アロルフはミズキを眺めながら愉しそうに笑った。

「んッ、ぐゥう……っう!!あぐ、うあア……あぐううぅ!!!」
ミズキは美貌を歪め、脂汗を浮かべて苦悶する。
腹が痛むのだろう。
流石スパイなだけあり、あからさまに苦しみこそしないが、身体の各所が排泄の欲求を訴えていた。
後ろ手に縛られた手が、互いの肘を血も出そうなほど掴む。
尻のラインは引き締まり、ふくらはぎには硬く力が込められたままで一瞬たりとも解れない。
足の指はもどかしげに床を掻いている。

それら一つ一つの動作が、フェリオには酷く生々しく映った。
これほどの美人であっても、排便を堪える時には悶え苦しむのか。
そんな当然の考えさえ浮かぶ。
それほどにミズキは美しく、彼女が浣腸責めを受けている事実は衝撃的だった。
SM、などと言っていた自分が馬鹿のようだ。
これは決してプレイなどではない、歴とした拷問だ。
ミズキの夥しい汗が、それをよく伝えてくる。

「浣腸責めのさらなる利点は、このように放置しておける事だ。
 通常の拷問は、我々責め手も終始汗して責め続けねばならん。
 しかしこれならば、女が独り苦悶するばかり。こちらはそれを眺めるだけで良い」
アロルフは苦しむミズキに目を細めた。
アロルフだけではない。
部屋にいる何人もの尋問官もまた、ミズキに下卑た視線を向けている。
そして獲物を囲む原住民のように、そのスレンダーな肢体に触れ始めた。

1人は、やち責めでしこり勃った胸の突起を指で摘む。
1人は、彼女の足の間から秘部に指を潜らせ、蜜を掬っては見せ付けるように舐めた。
ミズキはそれを恥辱と軽蔑の入り混じった瞳で睨みつける。
見物人の女も猿轡の下から非難の呻きを漏らす。
だがそれらは、かえって男達を喜ばせるだけだった。
情報を引き出す事より、女を嬲る事こそを主目的とする変態ばかりだ。
フェリオは心中で毒づく。

「尋問官は職務に忠実な男たちだった、と伝えてくれたまえよ」
アロルフがフェリオの心を読んだかのように告げた。
フェリオはええ、と生返事を返す。
どのみち、彼の取材は主としてケミヤ共和国側へ向けたものだ。
ならば“美しき同士は変態共の餌食になっている”、と事実を知らせても同じ事だろう。



やがて、ミズキの様子に変化が訪れる。膝がガクガクと震え始めたのだ。
「ふむ、10分か……浣腸に慣れた人間でも限界を迎える頃だな。
 これ以上は我慢しきれない、と哀願しおる頃だろう」
アロルフが金の腕時計を見ながら呟いた。
「…………トイレに、行かせて…………!」
ミズキが声を絞り出す。腹痛に耐えている様子だ。
言っても聞き入れられない事は解っているだろうに、それでも言わずには居れないのだろう。
その腹部からは、異様に重苦しい雷轟のような音が鳴り続けている。

「出させて欲しければ情報を吐け。アジトの日記に残っていたB・I作戦とは何だ?
 レジスタンスの幹部共はどこに潜伏している?落ち合う予定はあるのか?
 どれか一つでも話せば楽にしてやる」
尋問官達は当然の如くそう迫った。
「だから、知らないって何度も言ってるじゃない!
 あの人、ジャファがレジスタンスだったのは聞いたわ、でもあたしは只の愛人よ!?
 あなた達が勝手にスパイ扱いしてるだけじゃない!知らない、何も知らないっ!!」
ミズキが美しい髪を振り乱し、必死の形相で叫ぶ。
フェリオには、どうにもそれが真に迫っているように思えた。
ジャーナリストとして嘘の目利きには自信があるのだが、それでもだ。

「失礼ながら、彼女は本当にスパイなのですか?」
フェリオは思い切ってアロルフに問うた。
場合によっては斬り捨てられうる危険な質問だ。だが、あえてそこに踏み込む。
アロルフは冷ややかな視線を寄越した。
「まさかアレでほだされた訳ではあるまいな?彼奴らは国家スパイだ、あのぐらいの演技は出来る。
 あのような妄言を鵜呑みにしておっては、尋問など意味を為さんぞ」
そう諭されては、フェリオもそれ以上の追及はできなかった。
商売柄、或いは無実の美しい女を嬲りたいだけではないか、という猜疑心は抱いたが。


「あああ、ぐっ、あ、あおあああ!!!出したい、出したいいぃっ!!!
 どうして、どうしてこんな……!!う……うんちしたい、うんちがしたいよ!
 どうして出ないの、こんなに漏れそうなのにぃっ!!!あ、ああァアアっ!!!!」

ミズキは炎の中で暴れ狂うかのようだった。
先ほどまではクールな女に見えたが、排泄感を限界まで煽られてはそうなってしまうのだろう。
体を震わせながら汗を撒き散らす。
椅子に腰掛ける姿勢のまま、爪先立ちするように足指の先を伸ばしてもいた。
伸ばし、下ろし、伸ばし。そうする事で何とか耐え忍んでいるのだろう。
全身の汗が脚を伝って足元へ溜まっているので、その動作の度に床でにちゃっと音が立つ。

尋問官達はその姿を嘲るように身体を嬲った。
指で肛門栓を弾くようにすると、ミズキの叫びが大きさを増す。
部屋の中でミズキだけが狂乱し、その他の人間はゆったりと構える。
その温度差が身分の違いを端的に表していた。

「ああああ゛っ、お腹が、お腹……我慢っ、できない……!!ああ、うンあああ゛あ゛!!!」
ミズキは狂乱を続ける。
素晴らしい太腿を内股にがに股に動かし続け、吊るされた身体を捩じらせて。
その声も次第に可愛げがなくなり、必死さのみが純粋に抽出されはじめる。

やがてミズキは天を仰いだ。
鎖骨から首元へかけてに幾本もの筋が浮き出ている。
「もおだめえええっ!!!もうやめで、やべでえええ!!!あ、ああああ゛あ゛!!
 んうああおおおおぉ゛お゛オオ゛お゛っっ!!!」
叫び声が響き渡った。
それは、あのミズキの喉から出ているとは到底思えない低い声だった。
フェリオは胸がぞくっとした。
人が極限状態で上げる声は幾つも聞いたが、それとも凄みが違う。

天へ向けて咆哮した後、ミズキは首を戻して前のめりに喘いだ。
目を限界まで見開き、ゼヘッゼヘッと呼吸をする。身体は瘧に掛かったように痙攣している。
やがて一際大きな痙攣が沸き起こり、ミズキは掠れた声と共に白目を剥いた。
「……ッ!」
フェリオは言葉を失くす。
排便を我慢するのが辛いのは解る、だがこれほどのものなのか。
「驚いているな。強烈な浣腸を大量に注ぎ込めば、その苦は食あたりの比ではない。
 十分に人間を気絶させうるものなのだよ」
アロルフが顎を撫でながら言った。
そして尋問官らに指示を出し、ミズキの頭に水を浴びせかける。

「ぶはあっ!?え、えぼっ、うぉごほっ!!」
ミズキは意識を取り戻し、同時に激しく噎せ返った。
「……どうだ、吐くか」
尋問官が問うと、ミズキは蒼白な顔を横に振る。
絶対的な恐怖に呑まれながら、それでも屈するつもりが無いのだ。
やはり普通の女ではないかもしれない、とフェリオは思い直した。

「どうします?」
苦悶を続けるミズキを見やりながら、尋問官がアロルフに問う。
「……もう良い。ひり出させろ」
アロルフは冷ややかな声で命じ、フェリオに顔を向けた。
「さぁ小バエよ、しっかりと責務を果たせ。ビッグ・スクープを逃すなよ」
ジャーナリストを事件に群がるハエと形容したのだ。
だがフェリオは怒りを抑え、素直に頷いておく。
騒いでいる場合ではない。ついにミズキの排便シーンが訪れるのだ。

尋問官が肛門栓を押さえながらネジを緩め、勢いよく引き抜く。
肛門栓とミズキの菊孔を茶色い糸が結び、自重に負けて床へ垂れた。
「いやあああぁっ!!!見ないで、見ないでええええぇっっ!!!!」
ミズキの叫び声がした。
それとほぼ同時に、彼女の肛門から土石流の様な便が溢れ出す。
フェリオは後ろめたさと興奮を覚えながら、その瞬間をしっかりと捉えた。
「やめてよっ、こんなところ撮らないで!!」
ミズキがレンズに向かって哀願する。
初めてミズキに声を掛けられたフェリオは、その美しさに改めて息を呑んだ。

湯上りのような顔、水を含んだ海草のような黒髪。
人ならぬ天女のようだ。その彼女が、排便という原始的な行為をしている。
それのなんと異常な事だろう。
そして異常であるがゆえ、なんと心惹かれる事だろう。
「むううーーっ!!」
“見物人”達が上げる非難の呻きもまた、その異常性を際立たせた。


ぶりぶりと下劣な音を立てて天女の排泄は続く。
水下痢のような排泄物が、下の盥へ重い音で垂れ落ちてゆく。
やがて凄まじい臭気が立ち込めはじめた。フェリオは思わずカメラから手を離して鼻を摘む。
どれほど美しい女であろうと、臭いものはやはり臭い。

「おお、くせぇくせぇ!ひでえ匂いだな、ケミヤの売女共は皆こんな匂いさせんのか?」
尋問官達が大仰に鼻を摘んで嘲る。
ミズキは清楚な顔を赤らめて恥じ入りながらも、長時間耐え続けた排泄を止める事が出来ずにいた。
SMプレイなどと発言した事を、フェリオは今一度懺悔する。
これは女の地獄だ。

ようやく腹の中の全てを桶に放ち、ミズキは汗みずくで項垂れた。
部屋には鼻の曲がりそうな臭気が充満している。
痛々しいその状況に顔をしかめるフェリオ。
だがアロルフの次の言葉は、その顔を驚きに変えた。
「もう一度だ」
中年の陸軍少将が静かに告げた。ミズキの肩が跳ねる。
「もう一度、汚物も糞汁も、すべて戻して繰り返せ。真実を述べるまでな」

アロルフの言葉に従い、尋問官達が再びポンプ状のエネマシリンジを手に取った。
そして一方をミズキの尻穴に差し込み、一方を茶色く濁った薬液に漬ける。
「い、いやよ!いやぁっ、そんなのやめてっ、いやあぁぁっ!!?」
ミズキが拒絶しても、聞き入れられる筈はない。
尋問官達が管中央のバルーンを握ると、ボコンボコンと音がして汚液がミズキの腹の中へ戻ってゆく。
液だけではない。太い管は彼女のひり出した排泄物までをも吸い上げてゆく。
恐らくその為に太さがあるのだろう。
「いや、いやぁ、入ってくるっ!うんちが、おしりにぃ……っ!!!!」
ミズキは震えていた。
排泄物を腹に戻される恥辱と、もう一度あの苦しみを味わう恐怖心が交じった震えだ。
その震えをアロルフと尋問官が愉しげに見守る。

まるで悪魔そのものだ、とフェリオは思う。
しかし、美しいミズキの排泄をもう一度見たい欲求も、確かに存在するのだった。



小休止を挟んだ4度の浣腸責めの後、ようやくミズキを吊るす縄が解かれた。
「……あぅ、あ……」
彼女は意識も朦朧としたまま床に寝かされる。
四つん這いで尻を高く掲げた格好だ。
その背後に尋問官が立った。
何をする気なのか、とフェリオが思う前で、男はミズキの尻穴に触れる。
浣腸でやや開いた、しかしまだまだ初々しい蕾にだ。

蕾を何度か指で押し開いた後、男は口元に笑みを浮かべた。
そしてベルトを外し、勃起しきった逸物を取り出す。
「へへっ、動くんじゃあねぇぞ?」
そう言いながら、彼は亀頭をミズキの後孔に押し当てた。
「……え?…………い、いや!……やめてえぇっ!」
覚醒したミズキが叫ぶのを余所に、男はその尻を鷲掴みにして逸物を押し進める。
めりめり、と音もしそうなほど緩慢に逸物が飲み込まれてゆく。
「い、いあぃ゛い゛っ!!」
ミズキが苦悶の声を上げた。
「ん、むう!ううう!!!むううぅぅあううーー!!!」
無力な見物人は、男達を口汚く罵りたいのだろう、狂ったように呻きを漏らしている。

「アナルファック……ですか」
フェリオは呆れたように呟いた。
男所帯の戦地ではたまに行われるらしいが、わざわざ女にするのを見たのは初めてだ。
だが、排泄の孔を犯される恥辱は男女共にとてつもなく大きいと聞く。
さらに、慣れない尻穴に男の物はさぞ痛かろう。
肛門性交は、あるいは拷問としてそれなりに効果的かもしれない、とフェリオは分析する。
アロルフがその分析に答えた。

「その通りだ。加えて言えば、尋問官共の性欲処理も兼ねておる。
 奴らも男だ、良い女を嬲っておれば滾り、無意識に責めが浮ついたものとなる。
 それを防ぐために女の穴を使わせるのだ。
 責めという観点で言えば、先ほど出させた糞汁に顔を沈めながらの方が効くが、
 汚らしい上に後処理に手間が掛かると我々の士気も下がるからな」

なるほど、とフェリオは頷く。だが疑問は他にもあった。
「……しかし、そうは言っても排泄の穴でしょう。ゴムも着けず、衛生的に大丈夫なのですか」
彼はさらに問う。すると、アロルフが目を細めた。
「大丈夫か、だと?愚問だな、奴らはとうに病気持ちだ」
そう、さらりと言ってのける。
「……病、気……ですって!?」
フェリオは唖然とした。性病持ち、そんな人間と捕虜の女を性交させているのか。
人権も何もあったものではない。
ここは本当にモラルの消し飛んだ場所なのだ。
「ふん」
若き記者の狼狽を嗤いつつ、アロルフは肛門性交を余さず撮れと顎をしゃくる。


フェリオは哀れな女が尻を犯される様を撮り続けた。

バックスタイルで突かれているところを、背中側から数枚。
尾骨に向けて引き締まったミズキの尻へ、剛直が抜き差しされる様がよく見える。
尻肉の白と剛直の黒、というコントラストが暴力的だ。
また尋問官の持ち物もカリ太の逞しい逸品で、引くたびに肛門をまくり返すほどだった。
「へっ、てめぇ相当鍛えてんな?イーイ締まりしてやがるぜ」
尋問官はアナルでのセックスに慣れているらしく、女の腰を掴みながらグッ、グッと力強く、かつ淀みのない抽迭を繰り返す。
根元まですっかり埋まっているのだから、腸の相当深くまで入りこんでいる筈だ。
おそらく初めてであろう肛門を、その様に犯されるのはどんな気分なのだろう。
思わずそう考えてしまう迫力があった。

さらにフェリオは前方に回り、ミズキの顔を捉える。
「いっ、ひいいい゛……ッぐ…………!!!」
彼女は歯を食いしばって肛門性交に堪えていた。
顔中から汗を垂らし、突き込みのたびに乳房を振り乱して苦悶する。
なんとも惨めたらしい姿だ。

その後、バックスタイルで突く男の尻側からも数枚。
ここでは、互いの太腿がぶつかり合い、ミズキのそれが波打つ様、
秘部から愛液が滴る様が印象的となった。
女のすらりとした脚が内股に、また大股を開く形で開閉する。
それに合わせて柔らかな尻の形が変わり、その尻肉の中心へ男の腰が突き刺さる。
ゾクゾクくる絵だ。

延々と尻穴を穿たれながら、ある時ミズキが叫んだ。
「……あっ!?ぬ、抜いて!お願いちょっと抜いてぇっ!!
 またうんちが出ちゃいそうなの、このままお尻のなか突かれてると、ねぇ、お願いっっ!!」
先ほどの大量浣腸がすべて出きっていなかったのだろう。
しかし、尋問官がその悩みを解消させる筈もない。
むしろ嗤いながらいよいよ強く腰を掴み、ストロークの大きな深い抽迭を繰り返す。

やがて、ミズキの結合部から破裂音が響いた。
「……あ、あああ!!!いやっ、もうやああぁっ!!!!」
茶黄色の汚液がカリ首に掻きだされ、染みひとつない太腿を伝い落ちてゆく。
肛門を犯されながら脱糞したのだ。
だがミズキの素晴らしい脚線のせいか、フェリオはそれを汚いとは感じなかった。
それどころか背徳的な興奮が湧き上がる。
人生でそう何度も見られる情景とは思えない。

フェリオは夢中でシャッターを切りながら、尻を犯されるこの美しい女スパイを、
世界一のAV女優だと讃えたい気分だった。





男達から散々に犯され、ミズキの尻穴は大きく口を開いていた。
ピンク色の内粘膜が覗き、その下方からとろりと白濁が零れ落ちてゆく。
ミズキは床に横たわったまま肩で息をしていた。
「この女の体力的に、次が今日最後の尋問となるだろう」
アロルフがフェリオに告げる。
その視線の先ではミズキが引き起こされ、再び分娩台のような物に拘束された。
手は背もたれの後で縛られ、脚はハの字に開いた台に置かれて膝上をベルトで固定される。
頭を振るか腰を浮かせる程度にしか身動きできない状態だ。

「最後は『電流責め』だ。やち責め、浣腸、アナルセックス……これらであの女は今日、
 適度に興奮を得ながら絶頂の間際を漂い続けている。
 膣が濡れるのはもちろん、その奥にある子宮口までもが解れはじめているはずだ。
 そこへ電流を浴びせる。快楽と苦痛、羞恥をすべて織り交ぜた責めだ」
アロルフは言った。

「あれ、ちょうど良いタイミングね」
休憩に出ていたリズも部屋に戻り、電流責めの準備に加わる。
ミズキの表情に彼女への明確な恐れが見て取れた。
リズはしっかりとそれに気がついているらしく、思わせぶりにミズキの秘部へ指を入れる。

「ふぅん、すっかり子宮口が下がってきてるわ、中指で触れるくらい。
 解る?このコリコリが子宮の入り口……その前後にも、丁度ペニスが嵌まるくらいの窪みがあるの。
 その窪みに、特製の電極棒を嵌めこんであげるわ。
 お尻にも湾曲したのを挿れて、膣とお尻側の両方から、子宮を挟み込んで揺さぶってあげる」
リズは秘部に挿した指に加え、ミズキの下腹で『の』の字を描きながら解説する。
拘束されたミズキは天女のごとく美しい。
すらりと伸びた脚の奥、締まった腹部に子宮が存在する事さえ信じ難いほどだ。

その恥じらいの場所へ、男達の手で黒い棒が挿し入れられる。
やや上向きに角度をつけて捻じ込まれると、ある瞬間にミズキの腰が跳ね上がった。
リズの言葉を借りるなら、子宮口の脇にある窪みへ嵌りこんだのだろう。
さらに肛門にも湾曲した棒が入り込む。
股座から電極棒が2つ飛び出す状態になると、リズは酷薄な笑みを浮かべた。

「楽しみよねぇ。ずうっとイけずに辛かった状態から、ようやく解放されるんだから。
 なまじ我慢しちゃっただけに、もうイってもイっても止まんないわよ?
 初めのうちは満たされるように気持ちいいけど、しばらくすると堪らない苦痛になるの。
 人間苦痛には死ぬまで耐えられるけど、快楽はだめ。
 すぐに頭が焼き切れるの。本当にあっけないほどに弱いのよ。
 これは同じ女としての忠告。自分のままでいたいなら、取り返しのつくうちに情報を委ねなさい」

そう言葉を投げかけ、恐怖に引き攣るミズキの顔を見て嗤う。
そして尋問官に合図を出した。
尋問官が電圧の強さを調整し、スイッチを入れる。バヂンッと火花の散る音がする。
「んんっ!!」
ミズキは短く叫んだ。


それは、水が弱火で沸騰する様を見るようだった。
初めは殆ど変化がなく、やがて少しずつ泡が浮き始め、その泡が大きくなった果てにボコボコと煮え滾る。
ミズキへの電流責めはまさしくそれだ。
流しては切り、流しては切り。その焦らしを一定間隔で延々と繰り返す。
初めは電圧も弱かった。
子宮口付近と腸奥に電気を流される苦悶か、あるいは裸の前身を見られる気恥ずかしさか、
ミズキは顔を顰めてはいる。
だがまだまだ余裕だった。初めのうちは。

それが少しずつ、注視していなければ解らないほどに少しずつ変わる。
額にじわりと汗が浮く。
唇がつらそうにきゅっと結ばれる。
足の親指が他の4本と離れて強張る。
それらが積み重なった果てに、ついに彼女の腰が震えはじめた。
尋問官が電圧を上げると、それは痙攣と言ってもよい明確な動きになる。

「……いくっ!!」
ミズキは目を瞑ってそう言った。
そして目を見開き、腰を震えさせる。
「はぁあっ、いくッ!イク、またいくううぅっ!!?やめてっ、電気とめて!
 いま中でイッちゃったの、イってる最中なのに、またっ……くるのよ!!
 さっきからあそこの奥が、ピクンピクン震えて止まらないの!
 ひっ……ひいいっ……!!こ、こんなの、普通じゃない、今までなったコトないのにぃっ!」

そのミズキの狂乱を、リズが可笑しそうに嗤った。

「あぁら初々しい反応。男に腰振って生きるメス豚のくせに、教え込まれてないの?
 それがポルチオ性感よ、クリトリスやGスポットとは比にならないでしょ。
 女の性感の源と言っていい子宮を両側から揺さぶられてるんだもの、それは凄いわ。
 数時間のやち責めで焦らされて、中もトロトロに出来上がってるしね」
リズは嗤いながらミズキの様子を見極め、尋問官に合図を出す。
スイッチのONとOFF。その指示がどれほど絶妙かは、ミズキの反応で解る。
ほぼ完璧に彼女の嫌がるタイミングと合致しているようだ。

「あぁっ、イクっ、イクイクイク、あああああイグう゛うぅっ!!!」
電流が流されている間、ミズキは叫び続ける。
顔は天を向き、首元に筋が立つ。
その美しい腿も筋肉の付き方さえ解るほどにびんと張り詰め、極感に打ち震えている。
やがて電流が切られると、その力みはふっと消えた。
「……はっ……はっ…………は」
虚ろな目で大口を開けて喘ぎ、端から涎を垂らす。
体中が細かに痙攣する。
そして復調するギリギリのタイミングで、再び2穴へ電流が浴びせられるのだ。

「うあ、またっ……!!ああああ、だめっ!はっ……イクのが、繋がって、ずっと……!!!
 ……はっ、ハ、もう、い、いき、できなっ……!!あ、ああ頭がっ……!
 う゛う、うあ、あ゛…………ッ……クぁああああああああ゛あ゛!!!!」
ミズキはいよいよ盛大に叫び始める。
声からも切れ切れの息からも、彼女の限界がありありと伝わってくる。

見守る尋問官の方は余裕なもので、汗で濡れ光る身体へ好色な視線を浴びせていた。
「おい、こいつの腹に手ェ当ててみろ。皮膚越しにでもバチバチくるぜ」
「お、本当だな、面白ぇ。しっかし乳がよく震えやがる。こういう胸のある女は久々だから新鮮だな。
 スレンダーな女って奴ぁ、胸までそっけなくて面白くねぇ」
「ああ。それに腰も細ぇし、本当に良いカラダしてやがる。
 この女のケツ犯したなんてのが夢のようだぜ……っといけねぇ、また勃ってきやがった」
ミズキの狂乱など見知らぬ風に、下卑た言葉を交わしあう。

異常な状況だった。
だがフェリオはその異常さを受け入れはじめていた。
ミズキが悶え苦しんで周りがそれを笑う、その情景がもはや当然となりつつある。
フェリオとて笑いこそしないが、夢中になってミズキの狂乱を写しているのだ。
それはあの男達と比べ、何ほどの違いがあるというのか。

「くぉあああああああ゛っっ!!ンン゛あああああああああ゛あ゛っっ!!!!!」

ミズキは錯乱したように叫び回っていた。
そこで一旦電流が止められ、尋問官達がふと表情を変えて問う。
「……おい、名を言ってみろ」
「……はっ……はッ……な……なま、へ…………?おの はら ……みずき……」
「歳はいくつだ」
「…………に……にじゅう……よん……」
「どこで生まれた」
「……さいたま……にほんの、さいたま、けん…………」
「日記に記されていたB・I作戦とは何のことだ」
「……………………し、しら、ない…………」

尋問官達は首を振り、電流のスイッチを入れた。

「うああああああああお゛お゛お゛!!!!!!」
ミズキが腰を跳ねさせて泣き叫ぶ。
存分に悶え狂わせた後、再びスイッチが切られて問いが始まる。
「名を言ってみろ」
「……げほっ、お、おのはら、みずき……」
「歳はいくつだ」
「……にじゅう、よん……」

安易に答えられる所から順番に繰り返し、答えるのをやめた所で電流を浴びせる。
そしてまた最初から繰り返し。
最後の質問に答えない限り苦しみが続く、と頭に刷り込ませるのだ。
それは何度も何度も続いた。
ミズキは涙と鼻水、涎に加え、小便や愛液までもを溢れさせていた。
それも並みの量ではない。床に広い液だまりができてしまうほどだ。

そこまでになりながら、ついにミズキが核心の問いに答える事はなかった。
疲労と脱水症状、呼吸困難で反応を示さなくなった頃、尋問官は2つの責め具を引き抜いた。
その時に溢れた異常に粘ついた塊を、フェリオは終世忘れる事がないだろう。





「やはり、話さんか」
「はっ。ですが答える前に考え込む様子があり、やはり何か知っている可能性は強いかと」
「そんな事はとうに解っておるわ。……ともあれ、今日はこれまでか」
アロルフは尋問官と言葉を交わした後、ミズキの前に歩み出る。
それを見てなぜ尋問官が笑うのかが、フェリオには不思議だった。
だがその謎はすぐに解ける。
アロルフがベルトを外し、逸物を取り出し始めたからだ。

「ふぅ……ようやっとワシの番か。電流で緩んだ膣でなければ、これは到底入りきらんからな」
取り出されたアロルフの逸物を目にし、フェリオは息を呑む。
ビール瓶ほどもある、異常な大きさなのだ。
よくズボンに収まっていた、と感心する他ない。
アロルフは待ち焦がれた様子でミズキの腿に手を置いた。磔台が軋む。
「あ……うぅ……?」
ミズキは未だに意識が朦朧としているらしい。
そのミズキの割れ目へ、アロルフは暴虐的な剛直を捻じ込んだ。
「うあっ!?」
さすがのミズキも目を覚まし、凄まじい太さの挿入に苦悶する。

ズン、と奥まで貫かれた瞬間、その口は大きく開いた。
「くああぁっ!!!」
「ふん、奥に届いただけで達したのか?完全にボルチオが開発されてしまったらしいな。
 明日からの責めを凌ぐのが、ますます難しくなったという事だ」
アロルフは言いながら、軽快に腰を遣い始める。
「ほう、筋肉が良い具合に弛緩しておるわ。このサイズにはこれぐらいで丁度良いからな。
 ポルチオも柔らかく解れておる。どれ、ひとつ子宮に入るか試してみるか」
「えっ!?い、いやっ!!何をする気、やめてっ!!!」
ミズキの非難を聞き入れず、アロルフはその鍛え抜かれた身体を押し進める。
膨大な圧力がかかったらしい動きの後、その腰がすっと前に滑り込んだ。
「んあああ゛あ゛っ!!!?」
ミズキの叫びが、とてつもない事態であると代弁する。

「ふふ、本当に入り込んだわ。どうだ女、感じているか?ここが貴様の子袋の中だ。
 抜いてやるから、よく神経を向けてみろ。……どうだ、今カリ首が抜け出た場所が子宮口だ。
 もう一度嵌めてやる……おお、子宮口が肉幹をゴムのように包んで、堪らんぞ」
恐ろしい言葉がミズキに囁かれる。
「……あ、あ…………!!!」
ミズキは自らの腹を見下ろしながら、信じがたいと言いたげに目を見開いていた。
もはやその見目は天女ではない。ただの女だ。
男に犯され、腹の中を滅茶苦茶に蕩けさせられ、子宮の中まで突き上げられている人間のメス。

「女、聴こえるか?明日からは日がな一日、弱い電流を流し続けてやろう。
 気絶も出来ん、しかし無視もできん程度の微電流を流し続けてやる。
 昼も夜もなく、睡眠も休息もなしでだ。
 そうして完全に思考力を奪われれば、貴様とて吐かずにはおれん。
 しかしな、それはワシも心が痛むのだ。情報を取り出した後、貴様の頭は元には戻らんからな。
 どうだ、今ここで、すべてを話してみろ。
 これがラストチャンスだ。人間・ミズキ オノハラ」

アロルフは馬並みの剛直で膣穴を犯しながら、ミズキの耳元で囁き続ける。
ミズキは顔をへし曲げながら何度も達していた。
彼女はあるいは本当に何も知らず、ただ美しい女を嬲る目的で攫われてきたのではないか。
そう思える。
しかしその体力や忍耐力はやはり尋常ではなく、一流のスパイというのも頷ける話だ。

しかしもはや、そんな事はフェリオにとってどうでも良い事だった。
もはや事実など関係ない。
美しい女が責め嬲られるこの空間こそが、ただ狂おしいほどに魅力的だった。

ミズキが緩慢に壊されていく横で、彼女の仲間であろう女達も尋問官に犯されていた。
とても美しい少女もその中にいる。
ダークブラウンの髪をした彼女は口枷の蓋を取られ、円状に空いた輪の中に怒張を捻じ込まれていた。
髪を掴んで頭を前後させられ、強制的に喉奥を自慰に使われている。
人間として当然の生理反応として、彼女はゲボゲボと嘔吐していた。
拘束服を自らの胃液で黄色く染め、しかし涙を湛えた強い瞳で男を睨みつける。


「  …………綺麗だ…………  」


フェリオは陶然とした顔で呟き、新たなその子羊にレンズを向けた。
穢れにたかるハエのように……。



                              END
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