※腹責め。一部グロ要素あり注意
空港にオリヴィア・ブラウンが姿を現した瞬間、一斉にフラッシュの嵐が浴びせられた。
「ミス・ブラウン、今のご気分は!」
「拘束中、貴女は何をされたのですか?性的被害はありましたか!?」
「公開されたビデオは既に確認されましたか?あれは真実なのでしょうか、ミス・ブラウン!」
記者達が我先にと質問を投げかける。
オリヴィアは警備に守られながら、沈んだ瞳を下に向け、乱れた髪を揺らして人垣を過ぎった。
やつれていてもなお美しい女だ。
頭頂部から艶めくダークブラウンの髪がふわりと下がり、胸の付近で自然なウェーブを描く。
ガラス片のようにくっきりとした瞳は知性と高潔さを現し、唇にもだらしなさの欠片さえない。
スタイルなどは正に驚くばかりだ。
女らしい胸の膨らみと、そこから慎ましやかに括れゆく腰、その締まりを裏切る尻肉の豊かさ、
むちりと肉感的でありながら、伸びやかに整った脚線。
今やボロ切れを一枚羽織るだけの格好だが、それさえハリウッド女優が映画撮影の為にそうしているように思える。
しかし彼女、オリヴィアは女優ではない。演技は演技でも、国単位で騙し通す美しき女スパイだ。
アジア某国から、アメリカの特定企業に対するサイバーテロが多発したのが一昨年。
甚大な被害を受けた企業群は一時的に結託し、秘密裏に諜報員を雇い入れた。
それがオリヴィア・ブラウンだ。
父方の祖母が華僑であるオリヴィアには、アジア系の血が混じっている。
顔立ちもどちらかといえば東洋人の好みに近い。
オリヴィアは持ち前の器量と狡猾さを駆使して組織内部に取り入り、ついに機密を突き止めた。
しかし深夜にオフィスへ忍び込み、データを抜き出していた所を取り押さえられてしまう。
オリヴィアにミスらしいミスはなかった。
監視を事実上無効化し、人的にも物的にも綿密に隙を作り上げた上での決行だった。
悪かったとすれば、それは『その日に限り日課を忘れた警備が、深夜に偶然舞い戻った』……という不運でしかない。
いずれにせよ、オリヴィアは捕縛され、尋問を繰り返された。
オリヴィアが自白する事はなかったが、業を煮やした男達は、その尋問の様子をネットの海へ放流する。
断片的な映像でしかなかったが、そこには間違いなく当のオリヴィアが殴られ苦悶する様、
女の部分に逸物を抜き差しされている様、あるいは口から延々と水を流し込まれる様が見て取れた。
『米国美人スパイ、某国にて捕縛され強姦!!』
メディアは即座に喚きたて、戒厳令を敷く暇もなく事件を世に周知させる。
そのオリヴィアが交渉の末ついに解放されたのが、まさに今日この日であった。
「……ご苦労だったな、同志・ウェルズドーター」
迎えの車の中で、運転手がオリヴィアに告げる。
オリヴィアは驚きに顔を上げた。
ウェルズドーター(ウェルズの娘)とは、組織におけるオリヴィアのコードネームだ。
それを知っているという事はつまり、この男はオリヴィアの身内と考えられる。
「どこへ向かっているの?」
オリヴィアは問うた。
「我々の貸し切ったホテルだ。クレインを待たせてある。
……今夜は何も考えず、彼の傍で寝るといい」
運転手はそう答えを返す。
オリヴィアの氷のような瞳が、微かな光を孕んだ。
クレインは組織におけるオリヴィアの想い人だ。
オリヴィアを組織に招いたのも、諜報員としてのイロハを教えたのも彼だった。
オリヴィアにとって、兄よりも父よりも近しく、頼りになる恋人。
※
「……大変だったね、オリヴィア」
クレインは椅子から立ち上がってオリヴィアを出迎えた。
「……クレイン……」
オリヴィアはドアに後ろ手をかけたまま、気後れするように立ち止まる。
「おいで、オリヴィア。」
クレインは彼女の心を解きほぐすように笑った。
「…………私は……あんなミスを、して…………ボスに、組織、に……」
オリヴィアは気丈な顔を崩し、小さく肩を震わせる。
クレインは首を振った。
「……大丈夫だ、オリヴィア。僕が居る」
クレインが一言幼子を諭すように言うと、そこでようやくオリヴィアの氷が解ける。
オリヴィアの長い脚が柔毛のカーペットを撫でた。
クレインはオリヴィアを抱きとめ、髪を撫でる。
「オリヴィア、何があったか……話してくれ」
クレインが問うと、オリヴィアは言いにくそうに口を開く。
「……あの日は……セキュリティを完全に遮断したの。人員の把握も……」
「そうじゃない」
オリヴィアの答えをクレインが遮る。
オリヴィアが言いよどむのは、それが後ろめたい事だという以上に、
『本当に伝えたくないこと』を隠すための時間稼ぎだ。
「そうじゃないんだ、オリヴィア。君がどう捕らえられたかは問題じゃない。
そんな事は取引の際に、向こうの連中が自慢げに語ってくれたさ。
僕が聞きたいのは……君が 『何をされたか』 だよ、オリヴィア」
クレインにじっと瞳を見つめて問われると、オリヴィアももう言い逃れはできないと悟った。
自分の愛する男にだけは見せたくないと思った部分を、もう隠せない。
建前はどうあれ、薄氷を渡るようなこの危うい空気の中、隠し立てをしては信頼回復は望めない。
そう女の直感で嗅ぎ取ったのだ。
ゆえにオリヴィアは、切ないほどの恥じらいを以って身に纏う衣を脱ぎ捨てた。
その醜く変化した腹部を、愛する男の視界に晒しながら。
※
オリヴィアの記憶に焼き付いたのは、その部屋に満ちた“香”の匂い。
人間の汗、体臭、性汁と妙薬をない交ぜにした、フェロモンのような匂いだ。
それは場に居る人間の鼻腔を侵し、性本能を炙りたてる。
オリヴィアを取り巻く男達は、皆一様に屹立した怒張で下穿きを膨らませていた。
眼前の女を丸々72時間に渡って犯しぬいた後だというのにだ。
だがオリヴィアの方もまた、乳房が膨張し、乳輪がほんのりと赤みを帯びるセックスアピールを晒していた。
男達は吊るされたオリヴィアが睨み返すのを愉しみながら、その色づいた肢体を眺め回す。
突如、そのオリヴィアの身体を鞭が襲った。
パシンッと鋭い音を立て、鞭が背中側からオリヴィアの胴に巻きつく。
『ぐっ!』
鞭の先端が腹筋に食い込み、オリヴィアは目を見開いた。
『そら、どうだ?』
背後の男が手首を返し、鞭をオリヴィアの腋、内腿へ浴びせかける。
そうして気を散らした直後、再び蛇が噛み付くように腹筋へと先端を食い込ませた。
『う゛んっ!!』
オリヴィアは歯を食いしばって耐える。
鞭の衝撃はかなりの物であるはずだが、彼女の鍛え上げられた腹筋も、また並ではない。
『ひゅーう、ほんとお宝だぜこの腹は』
オリヴィアの正面にいる男達が口笛を吹いた。
彼女の腹は何度も鞭を浴びせかけられ、細かな金網で焼かれたようになっている。
しかしそれでも腹筋は確かな形を保っていた。
ブロンズ像を思わせる艶やかな腹筋。
鳩尾から繁みまでの楕円形の骨組みの中に、6つに割れた腹筋が盛り上がっている。
臍を縦断する中心線が美しい。
本格的に鍛え上げられた凹凸を備えながら、しかし流れるようなスタイルの邪魔をしない。
男女を問わず見惚れさせる、実に見事な腹筋だ。
「……だから、ここを狙われたのか?」
クレインは裸で立つオリヴィアの足元に跪き、腹部に舌を這わせて問う。
それにぞくぞくと反応を示しながら、オリヴィアは頷いた。
「あっ……!……そう、何度も、何度もお腹に鞭を浴びせられて、殴られたわ。
でも私はそんな事では折れなかった。だから連中も、だんだん躍起になっていったの」
※
一番の剛力と思われる大男の拳が、オリヴィアの腹部にめり込んだ。
『う゛ぉ゛っ!!』
オリヴィアは目を見開いて苦悶する。しかし決定打にはならない。
天井から吊るされる状態ゆえ、殴られる度に身体が後ろに泳ぎ、ダメージを逃がす形となっていた。
しかしそれでも衝撃は大きく、オリヴィアは手首から血を滲ませながら脚をぶらつかせる。
『ちっ、クネクネしやがって。オイ、これじゃせっかくの俺の豪打が活かせねェじゃねえか!』
大男は岩のような肩を鳴らし、見た目通りのガラの悪さで叫んだ。
『そうかねぇ。俺は吊るされた女が、腹殴られて無様に踊る姿が好きなんだが……まぁいい。固定しようか』
ネズミのような顔つきをした男が、オリヴィアの後ろに回る。
『ふぅ……ふぅ……!!』
オリヴィアが荒い息を吐きながら、そちらに視線を向けた。
何かを覚悟するように唇を噛み締めて。
『んッ!!!』
にちっと音がした数瞬の後、オリヴィアの脚が硬く強張った。
『へへ、お前もケツの穴が好きだね。昨日も散々使ってやがっただろう』
『ああ、暖かくてキツくって最高だぜ?どんなアバズレも、ここに突っ込みゃあ顔を歪めるしよ。
それにこっちを犯されると、ヒトってのは勝手に腹筋が固まっちまう』
男はオリヴィアの腹を撫で回しながら告げる。
確かにそこは、歪められた顔と同様、彫りも深く浮き出ている。
『ほぉ、確かにいいカタチだ。お前がそこで繋がってる限り、支えにもなるし、な!!』
豪腕の大男は嬉しげに笑いながら、思いの限り腕を引き絞った。
『…………!!』
オリヴィアの顔色が変わる。
男の山のような三角筋が盛り上がり、巨大な拳を唸らせてくる。
自分は先ほどと違い、それを受け流せない。肛門をこじ開けられたまま、背後の男とで鋏潰される。
それが避けられない。
ドンッという小気味良い音が鳴り響き、上空の鎖がじゃらじゃらと鳴った。
『ぐぅお゛おぉぉお゛お゛っ!!!!!』
その時の声は意外なものだった。
美しく知性溢れるオリヴィアから漏れたとはとても思えないほどの、低く汚らしい叫び声。
『げはっ、げえはっ!!おえ、ううう゛おぉえっ!!!!!』
オリヴィアは何度も腹部を折り曲げ、足をばたつかせて身悶えた。
口の端から涎が垂れる。
『ひゅー、すげぇ衝撃。背後でこんなキッツイなら、こいつなんか悶絶モンだな。
あー、ケツがキュウキュウ締まって最高だぜ』
オリヴィアを後ろから抱く男が笑いを浮かべた。
『はっはっは、本当に悶絶してるぜ。涎が飛び散りやがった!いやァいい図だぜ!!』
男達もオリヴィアの乱れた姿に腹を抱える。
『…………ッ!!』
オリヴィアがそれを睨みつけようとした刹那、再び男の拳が腹部を抉りあげた。
『ごぉあああぁ゛あ゛っ!!!』
鎖の音が、濁った悲鳴が仄暗い部屋に鳴り響く。
『…………しかし、女だてらによく鍛えられてるもんだよなぁ。
俺のパンチをここまで耐えといて、一般人ですなんて言い張るつもりか、姉ちゃん?』
十数発の腹打ちの後、大男が項垂れたオリヴィアを見下ろして告げた。
オリヴィアはにちにちと音を立てながら肛門を犯されつつ、荒い息で大男を睨み上げる。
『……はっ、はっ…………そ、総身に知恵が回りかねてるみたいね、大男さん。
女が、この程度で音を上げると思っ、てるなんて、笑っ……ちゃうわ』
オリヴィアのその挑発に、大男は眉根を寄せる。
『おいおいおい、チャンにそれ言っちゃあ殺されンぜ?』
周りの男達は可笑しそうに笑いあった。
大男はオリヴィアの顎を掴み、美しい唇をへし曲げさせる。
『面白い事を言う姉ちゃんだ。だがな、こうして口を開けさせられると、歯ァ喰いしばる事もできねぇだろう。これなら流石に効くんじゃねぇのか?』
大男はそう語りかけ、オリヴィアの瞳がかすかに惑うのを愉しんだ後、おもむろにその腹を殴りつけた。
『あうぇええ゛え゛っ!!?』
口を開かされた状態で上がる、女の悲鳴。
オリヴィアは先程よりも明らかに狼狽し、目を白黒とさせていた。
『へへ、どうだイイだろう?もっと味わえ』
大男は笑みを浮かべながら、さらにオリヴィアの顎を押し潰し、腹を抉りぬく。
バスッ、バズンッという鈍い音が美しい腹筋から溢れた。
『おええ゛え゛っ!!んうぇぇええ゛え゛っ!!!』
『へへ、いい声だなぁ。ケツもきゅんきゅん締まって最高だ……ああ、出る、、出るぞッ!!!』
背後から尻穴を犯す男が叫び、苦悶するオリヴィアの腸内に精をぶちまけた。
どぐっ、どぐんと何度も怒張を脈打たせ、注ぎ入れる。
『えほっ、うおえっ……!!』
オリヴィアの口が噎せ返るのに呼応するかのごとく、肛門から怒張が抜き出された。
怒張は小柄な男に似合わずかなりの大きさで、オリヴィアの蕾はぽっかりと口を開け、
わずかに黄色く染まった白濁を腿の裏へと垂らしはじめる。
『良かったなぁ、ケツで射精して頂けたぜ。テメェも実はヨガってたんじゃねぇのか?』
大男は下卑た口調で問いながら、腹に当てた拳を下に滑らせた。
女らしい下腹部の膨らみを過ぎ、繁みを越えて、恥じらいの場所へ指が入り込む。
『……うンっ……』
オリヴィアはかすかに呻いた。
大男はそのオリヴィアの女の部分を撫ぜ回しつつ、口元を歪める。
『ふん。やっぱりな、湿っていやがる』
『おいおい本当かよ、理解に苦しむな。この変態女め!』
男達は口々にオリヴィアを嘲った。オリヴィアは柳眉を吊り上げる。
濡れるのは仕方のない事だ。
つい昨晩まで、昼も夜もなく男女の交わりを強要され、女を目覚めさせられていた。
先ほどまでの腹責めの合間にも体中を弄られていたし、そもそもこの部屋には興奮剤のような香が焚かれている。
女の事を嘲うまでもなく、男共も逸物を屹立させ、先走りの汁を滲ませているではないか。
オリヴィアは心中で毒づきながら、ただ嘲笑を耐え忍んだ。
だがやがてその嘲笑は、女への嗜虐の心へと昇華される。
『折角だ、うんと気持ちよくさせてやるよ。力を抜きな』
男の一人がそう告げ、オリヴィアの脚を開かせた。そして足首に鎖を繋げ、床に固定する。
艶めく太い棒を手にしたまま。
「それは、バイブレーターか何かか?」
オリヴィアの腹部へ舌を這わせながら、クレインが問う。
「……違う……そんなものじゃない。あれは電気責めのための、“責め具”だったわ」
オリヴィアは想い人の舌遣いに目を細めながら答えた。
クレインの舌が這う腹部、それが数日前に受けた悲劇を思い起こして。
※
『流石に濡れていただけあって、それがスルリと入っていくな』
オリヴィアの秘部に極太の電極棒が挿し込まれる様を見て、男が呟く。
『ああ、子宮の入り口辺りまでは入ったろう。もう抜けねぇはずだ』
挿し込んだ男はくつくつと笑い、電極棒に繋がる機械を弄くった。
一瞬火花の散る音が聞こえ、直後、オリヴィアの引き締まった身体が痙攣する。
『があああアアっ!!!?』
『ほほ、踊りよる踊りよる。さすが西洋の女は浅ましい腰つきをするもんだ』
男達はオリヴィアの苦悶を楽しみ、その腹部に手を触れた。
バチリッ、と静電気のような痛みが手に噛み付く。
『おっほ、腹越しにでもビンビン電気を感じるぜ!?こりゃすげぇや!』
『ああ、中じゃどんだけの電流が走ってるんだかな。可哀想だねぇ全く』
男達がひとしきり奇異を体験したところで、電流が一旦止められた。
『か……はぁっ!!ああ、あ、あっ……!!!!』
オリヴィアが溜めていた息を吐き出し、汗を散らしながら項垂れる。
だが甘い香りの息が場に広がった頃、再び電流が流された。
『ああぁあッッ!!!!!』
オリヴィアは白い喉を衆目に晒して伸び上がる。
『どうだ、つらかろう。だが所属する組織を吐くだけで、お前はこの地獄から逃げられるんだ』
男の甘い囁きを、オリヴィアは鋭い眼光で拒んだ。
『……なるほど、ならば仕方がない。おい、やってやれ』
男がそう言うと同時に、先ほどまで散々オリヴィアを苦しめた大男が立ちはだかる。
その手には8オンスほどの黒いグローブが嵌められていた。
『へへ、素手で殴るとこっちまで痺れちまうからな、ゴムで出来た特製のグローブだ。
だがベアナックルより楽だ、なんて考えない方がいいぜ』
大男は両拳を打ち合わせながらオリヴィアに近づく。
そしてフックの軌道で一撃を叩き込まれた瞬間。
『ごぉう゛っ!!!』
今までの人生で出した事もないような声と共に、オリヴィアの視界はホワイトアウトした。
ばしゃりと水を浴びせかけられ、オリヴィアは意識を取り戻す。
見渡す視界には、男達の笑いばかり。
『おいおい、一発で意識飛ぶとか、そりゃ無ぇんじゃねえのか?』
大男がグローブを揺らしながら茶化した。
その姿を見た瞬間、オリヴィアは意識を飛ばす直前の状態を思い出す。
男の大きな拳が、腹の中に“入り込んで”きた。
以前までの表面をゴツゴツと殴られる感触とはまるで違う。
柔らかなゴム製のグローブが衝撃で腹筋の溝に張り付き、余すところ無く衝撃を伝播させる。
その結果内臓に直接衝撃が叩き込まれ、挙句に膣内の電流と結託したのだ。
それで脳が焼き切れた。
『ベアナックルより楽だ、なんて考えない方がいいぜ』
大男の言葉通り。このグローブで電流の流れる腹を叩かれる責めは、先までの比ではない。
なにしろ頭の神経が即座にブツリと逝ったのだ。
おまけに今度は足首を固定されているため、衝撃を受け流す事が叶わない。
『今度は耐えろよ?』
大男が腹部にジャブを触れさせる。
膣に入った電極棒にも再び電流が流れ始めた。
『あ゛……あ゛』
オリヴィアは声にならない声を漏らし、しかしすぐに唇を噛み締める。
直後に叩き込まれるストレート。
しっかりとジャブで距離を取り、無駄をなくした重撃が腹へ潜り込む。
『げはっ、あぁ゛あ゛!!!』
オリヴィアの口から銀色の飛沫が飛んだ。
そのまま下唇を突き出す無様な顔を晒し、男の太い腕が腹から引き抜かれる瞬間、
それを追う様にして胃の中の物を溢れさせてしまう。
『おお、ついに吐きやがったぜ!っつっても、ゲロだけどなぁ!!』
『はっは、品のなさもここまで来ると笑えるぜ!』
男達の嘲笑う中、オリヴィアは身体をくの字に曲げて咳き込み続ける。
『おら、吐いても続けるぜ』
大男はグローブでオリヴィアの額を押し上げ、顔を上げさせてもう一撃を叩き込んだ。
『おぉええぇぇ゛え゛っっ!!!!!』
苦悶の叫びが上がる。
さらに、上がる。
肉を打つ音、鎖の鳴る音、苦悶の叫び、笑い声。
それぞれ数パターンしかないその響きが組み合わさり、まるでセンスのない人間が作った楽曲のように、単調に単調に繰り返される。
しかしその音色の一つ一つは、吐き気がするほどに痛切で、また、おぞましかった。
『…………いやはや、感服するね。ここまで辛抱強い女だったとはね』
どれほどの時間が経ったのか、男達は項垂れたオリヴィアを眺めて呟いた。
オリヴィアの足元には液だまりができている。
繰り返しの電流責めにより、感情を無視して垂れ流された汗や小水、愛液、胃液などの混合液だ。
オリヴィアは肩で息をし、目の下には隈のような疲れきった証を浮かべていた。
美しい全身が湯上りのようにほのかな桃色に染まっている。
唯一殴り続けられた腹部だけは、六つの割れ目すべてが赤紫色に変色していた。
そこまでになりながら、オリヴィアは一切の情報を口にしない。
電流と腹責めで朦朧とする中、様々な誘導尋問が行われたが、血液型や家族構成などの初歩的な問いにさえ、何一つ情報を明け渡さずにいた。
『くそ……どんだけ強情なアマだよ、こいつ!!』
大男がイラついた様子でオリヴィアの下腹を蹴りつける。
『ぐっ!』
オリヴィアは小さく呻いた。
『ふむ、確かに強情という他ないな。追い込まれているのは間違いないが……』
プライドを傷つけられ憤慨する大男に対し、男の一人はどこか嬉しげな素振りを見せる。
『……あ、あんた達なんかには……死んでも屈しないわ』
俯いたままオリヴィアが呟いた。
その言葉に、男の笑みはますます深まる。
『ほう、死んでもか。いい信念だ。だがそれを実際に貫ける人間など、居はしないよ』
男はそう言ってオリヴィアの拘束を外した。
オリヴィアはその場に力なく崩れ落ちる。咄嗟に逃げ出すような体力はとうに無かった。
男は無力なオリヴィアを拘束台に横たえ、改めて手足を縛りつける。
そして水の入ったヤカンを持ち上げた。
『生命の水をやろう、女』
男は笑みを浮かべたまま告げる。
『…………!!!』
男の意図を察し、オリヴィアが目を見開いた。
『……ああ、なるほどな!』
当然、理解したのはオリヴィアだけではない。
他の男達も拘束台に群がり、ある者はオリヴィアの鼻を摘み上げ、ある者は唇を上げさせ、
またある者はその口の中に漏斗を差し込んだ。
『あえぇっ!!えあっ!!!!』
オリヴィアが抗議の声を上げる中、その遥か上方でヤカンが傾けられる。
水責め、だ。
どぐどぐどぐどぐ、と水は漏斗の窄まりへ泡を立てて流れてゆく。それはそのまま、開かれたオリヴィアの喉奥へ。
『えごっ!!あぇごっ、おごおおおおっっ!!!!』
うがいをするように喉を泡立てながら、オリヴィアは次々と水を飲んだ。飲まされた。
溢れた水がオリヴィアの顎を、喉を、そして乳房までをも濡れ光らせる。
『ほーら、美味しいか。お替りもあるぞ』
一つのヤカンが空になると、即座に次の一つが手渡された。
紙一重でオリヴィアが窒息死しない程度の感覚を空け、水がなみなみと注がれ続ける。
やがて、細く締まっていたオリヴィアの腹は膨れだす。
割れていた腹筋は風船のように丸まり、見る間にドーム状に肥大化した。
『おおげっ!!ごぼっ、ごぼぼごげおろおお゛お゛っ!!!!』
拘束されたオリヴィアがいくら暴れても、暴れても、その変化を止める事は出来なかった。
『ひっ……ひィ、っ……ひいぃ…………っ!!!!!』
静脈が浮き出るほどに腹が膨らみきったオリヴィアは、息をするだけで震え上がっていた。
当然の事だ。
視界を遮るほどに膨れ上がった腹、浮き出た血管、周りから感じるおぞましい気、笑い。
その何もかもが恐怖を煽るのだから。
もはや体中が、脂汗などというものでは済まない、粘ついた液に覆われている。
『死んでも情報を漏らさない……だったな』
男達は木の棒で肩を叩き、あるいは手の平で弄びながらオリヴィアを取り囲む。
ガクガクとオリヴィアの身体が震え始めた。死の直感でだ。
神よ。我が信仰する偉大なる神よ。
オリヴィアは口には出さぬまま、心の中で祈りを捧げる。
だが神はいない。この世で人が触れられるのは悪魔しかいない。
ドンッ、と腹の頂点に木の棒が振り下ろされた。樫の樹のように堅い棒だ。
『げは……っ!!!!!!』
オリヴィアは口から水を吐きこぼす。それはオリヴィアを美しい髪を無残に汚した。
『はは、効いてるぜ!』
木の棒が引き戻された直後、別の男の拳がオリヴィアの腹を抉る。
垂直に、そして奥まで。
『があああああ゛あ゛!!!!!』
オリヴィアは目一杯に開いた口からさらに汚水を吐きこぼし、手足をばたつかせた。
さらに棒が、拳が、グローブが、上からオリヴィアの膨腹を滅多打ちにする。
『がぇああああ゛あ゛おお゛お゛お゛っっっ!!!!!』
オリヴィアにできるのはもう、叫ぶ事だけだった。
内臓が軋んでいる感覚が伝わってくる。
ビニールに包まれた生肉を押し潰した時のような……いやひょっとしたら、すでに弾けてしまっているかもしれない。
この状況を抜け出ても、絶対に無事ではすまないだろう、そう確信できる。
『いいねぇこれ、腹殴る度に喚いて、手足が強張ってよ。セックスより興奮するぜ』
『確かに傑作だ。だが、腹筋の力が無くなっちまってイマイチ歯応えがねぇぜ。
顔は相当にクるけどよ!』
『見ィろよこいつ、小便漏らしちまってんぜ?脚はすらーっと長い美人風なのに、情けないねぇ』
男達の声が、バリバリという耳鳴りにかき消されてゆく。
喉奥から溢れる水が、鼻に、脳に、耳にまで入り込んでしまったかのようだ。
地獄に思えた。
臓腑という臓腑が押し上げられる、抉られる、すり潰される。
今へこんだのは腎臓か、いや肝臓かもしれない。胃が、原型を留めていないのは確かだ。
肺だけは正常らしい、いや、それも下から何かが押し上げてきて、へし曲がる。
熱いものが絶え間なく喉を押しひらいて迸る。
苦しい、苦しい、苦しくて、たまらない。
『こ……殺してえっ!!!もぉ゛いっぞころじでえぇ゛え゛え゛っっ!!!!!』
とうとう視界に血を吐き出しながら、オリヴィアは哀願した。
悪魔のような男達は満面の笑みを湛えながら棒を、拳を振り下ろす。
気が狂いそうなほど恐ろしい情景だった。しかしあまりにも苦痛が強すぎ、気を失う事もできない。
手足の筋肉がいきり立ち、拘束された縄に食い込んでゆく。
側頭部の血管がぶちぶちと切れてゆく。
やがて自分が生きているか死んでいるのかも解らなくなった頃に、遠くで部屋の扉が空いた。
交渉が成立、その女は即時解放すべし……との伝令と共に。
※
「…………そうか…………辛かったね」
クレインはオリヴィアの赤紫にただれた腹から舌を離し、彼女を抱き寄せた。
「うん……」
オリヴィアは愛する男に導かれるまま、壁を背にして抱きしめられる。
「オリヴィア」
「なぁに」
「……オリヴィア」
「なぁに、クレイン」
オリヴィアは瞳に安堵の色を浮かべて繰り返す。
クレインの思いつめたような顔が間近にあった。彼が自分を案じてくれている事が、オリヴィアにはとても喜ばしかった。
しかし、次の一瞬。その至福は地に落ちる。
クレインの左手がオリヴィアの首を押さえた。右手は背中の後ろに回り、鋭利なナイフを取り出している。
クレインがぐっと肩を入れた直後、オリヴィアの白い肌を朱が流れた。
「………………
え …………?」
オリヴィアは腹部に差し込む冷たさに思考を失う、
何が、どうなっている。なぜ、腹が焼けるように熱い。
「げおっ、ごはっ……!!あ゛、げは、あっ……!!!」
喉から血があふれ出す。痛みに耐え切れず前屈みになり、クレインの袖を掴もうとするが、
力及ばずに倒れ伏す。
「い……たい……いたいよ?……ク…………クレイ……ン…………」
自失したまま、オリヴィアは空を掻き毟る。ぬるりとした血が背中の滑りだけを助ける。
クレインはナイフを手にしたまま、オリヴィアに覆い被さった。
暴れる手足を封じ込め、再び腹にナイフを突き入れる。
今度は抜かず、ずっ……と腹筋に沿って肉を裂いてゆく。
「ぎぁああ、あ゛っ……!!!っひ、ひだい、ひだい、っよオぉ!!!!!
グレイン、グレインッ!!おなか、おなかが…………こんなに血が、ひどいの。
…………どうひて…………クレ…………ぃ…………ン…………」
オリヴィアは子供に戻ったように泣きじゃくり、クレインに感情を訴えた。
その瞳の光がやがて薄れ、人形のように無機質に変わる。
美しかった手足がだらりと垂れ落ちた。
クレインはすでにオリヴィアでないものの腹部をまさぐり、その血を浴びる。
時に掬い、自らの口に含みながら、一滴ずつ指にふれさせてゆく。
「つらかったろうね。こんなに腹を殴られて、口惜しかったろうね」
そう呟きながら、腹の穢れた部分を血で洗うかのように触れ続ける。
やがてその赤い肉に、透明な雫が滴りはじめた。
「……許してくれ、オリヴィア。これが僕に与えられた任務なんだ。
任務に失敗したばかりか、世界規模で事件を知られ、犯罪組織に弱みを握らせた。
君は死ななければならないんだよ。ならせめて僕の手で、ね。
でも心配はいらない。……言ったろう。“僕が居る”、って」
クレインはナイフの刃を自らに向ける。
そして飛沫を上げ、抉り出して、愛する女性の上に覆い被さった。
その薔薇のように朱に染まった肉体を、内まで溶け合うように絡ませて……。
FIN
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空港にオリヴィア・ブラウンが姿を現した瞬間、一斉にフラッシュの嵐が浴びせられた。
「ミス・ブラウン、今のご気分は!」
「拘束中、貴女は何をされたのですか?性的被害はありましたか!?」
「公開されたビデオは既に確認されましたか?あれは真実なのでしょうか、ミス・ブラウン!」
記者達が我先にと質問を投げかける。
オリヴィアは警備に守られながら、沈んだ瞳を下に向け、乱れた髪を揺らして人垣を過ぎった。
やつれていてもなお美しい女だ。
頭頂部から艶めくダークブラウンの髪がふわりと下がり、胸の付近で自然なウェーブを描く。
ガラス片のようにくっきりとした瞳は知性と高潔さを現し、唇にもだらしなさの欠片さえない。
スタイルなどは正に驚くばかりだ。
女らしい胸の膨らみと、そこから慎ましやかに括れゆく腰、その締まりを裏切る尻肉の豊かさ、
むちりと肉感的でありながら、伸びやかに整った脚線。
今やボロ切れを一枚羽織るだけの格好だが、それさえハリウッド女優が映画撮影の為にそうしているように思える。
しかし彼女、オリヴィアは女優ではない。演技は演技でも、国単位で騙し通す美しき女スパイだ。
アジア某国から、アメリカの特定企業に対するサイバーテロが多発したのが一昨年。
甚大な被害を受けた企業群は一時的に結託し、秘密裏に諜報員を雇い入れた。
それがオリヴィア・ブラウンだ。
父方の祖母が華僑であるオリヴィアには、アジア系の血が混じっている。
顔立ちもどちらかといえば東洋人の好みに近い。
オリヴィアは持ち前の器量と狡猾さを駆使して組織内部に取り入り、ついに機密を突き止めた。
しかし深夜にオフィスへ忍び込み、データを抜き出していた所を取り押さえられてしまう。
オリヴィアにミスらしいミスはなかった。
監視を事実上無効化し、人的にも物的にも綿密に隙を作り上げた上での決行だった。
悪かったとすれば、それは『その日に限り日課を忘れた警備が、深夜に偶然舞い戻った』……という不運でしかない。
いずれにせよ、オリヴィアは捕縛され、尋問を繰り返された。
オリヴィアが自白する事はなかったが、業を煮やした男達は、その尋問の様子をネットの海へ放流する。
断片的な映像でしかなかったが、そこには間違いなく当のオリヴィアが殴られ苦悶する様、
女の部分に逸物を抜き差しされている様、あるいは口から延々と水を流し込まれる様が見て取れた。
『米国美人スパイ、某国にて捕縛され強姦!!』
メディアは即座に喚きたて、戒厳令を敷く暇もなく事件を世に周知させる。
そのオリヴィアが交渉の末ついに解放されたのが、まさに今日この日であった。
「……ご苦労だったな、同志・ウェルズドーター」
迎えの車の中で、運転手がオリヴィアに告げる。
オリヴィアは驚きに顔を上げた。
ウェルズドーター(ウェルズの娘)とは、組織におけるオリヴィアのコードネームだ。
それを知っているという事はつまり、この男はオリヴィアの身内と考えられる。
「どこへ向かっているの?」
オリヴィアは問うた。
「我々の貸し切ったホテルだ。クレインを待たせてある。
……今夜は何も考えず、彼の傍で寝るといい」
運転手はそう答えを返す。
オリヴィアの氷のような瞳が、微かな光を孕んだ。
クレインは組織におけるオリヴィアの想い人だ。
オリヴィアを組織に招いたのも、諜報員としてのイロハを教えたのも彼だった。
オリヴィアにとって、兄よりも父よりも近しく、頼りになる恋人。
※
「……大変だったね、オリヴィア」
クレインは椅子から立ち上がってオリヴィアを出迎えた。
「……クレイン……」
オリヴィアはドアに後ろ手をかけたまま、気後れするように立ち止まる。
「おいで、オリヴィア。」
クレインは彼女の心を解きほぐすように笑った。
「…………私は……あんなミスを、して…………ボスに、組織、に……」
オリヴィアは気丈な顔を崩し、小さく肩を震わせる。
クレインは首を振った。
「……大丈夫だ、オリヴィア。僕が居る」
クレインが一言幼子を諭すように言うと、そこでようやくオリヴィアの氷が解ける。
オリヴィアの長い脚が柔毛のカーペットを撫でた。
クレインはオリヴィアを抱きとめ、髪を撫でる。
「オリヴィア、何があったか……話してくれ」
クレインが問うと、オリヴィアは言いにくそうに口を開く。
「……あの日は……セキュリティを完全に遮断したの。人員の把握も……」
「そうじゃない」
オリヴィアの答えをクレインが遮る。
オリヴィアが言いよどむのは、それが後ろめたい事だという以上に、
『本当に伝えたくないこと』を隠すための時間稼ぎだ。
「そうじゃないんだ、オリヴィア。君がどう捕らえられたかは問題じゃない。
そんな事は取引の際に、向こうの連中が自慢げに語ってくれたさ。
僕が聞きたいのは……君が 『何をされたか』 だよ、オリヴィア」
クレインにじっと瞳を見つめて問われると、オリヴィアももう言い逃れはできないと悟った。
自分の愛する男にだけは見せたくないと思った部分を、もう隠せない。
建前はどうあれ、薄氷を渡るようなこの危うい空気の中、隠し立てをしては信頼回復は望めない。
そう女の直感で嗅ぎ取ったのだ。
ゆえにオリヴィアは、切ないほどの恥じらいを以って身に纏う衣を脱ぎ捨てた。
その醜く変化した腹部を、愛する男の視界に晒しながら。
※
オリヴィアの記憶に焼き付いたのは、その部屋に満ちた“香”の匂い。
人間の汗、体臭、性汁と妙薬をない交ぜにした、フェロモンのような匂いだ。
それは場に居る人間の鼻腔を侵し、性本能を炙りたてる。
オリヴィアを取り巻く男達は、皆一様に屹立した怒張で下穿きを膨らませていた。
眼前の女を丸々72時間に渡って犯しぬいた後だというのにだ。
だがオリヴィアの方もまた、乳房が膨張し、乳輪がほんのりと赤みを帯びるセックスアピールを晒していた。
男達は吊るされたオリヴィアが睨み返すのを愉しみながら、その色づいた肢体を眺め回す。
突如、そのオリヴィアの身体を鞭が襲った。
パシンッと鋭い音を立て、鞭が背中側からオリヴィアの胴に巻きつく。
『ぐっ!』
鞭の先端が腹筋に食い込み、オリヴィアは目を見開いた。
『そら、どうだ?』
背後の男が手首を返し、鞭をオリヴィアの腋、内腿へ浴びせかける。
そうして気を散らした直後、再び蛇が噛み付くように腹筋へと先端を食い込ませた。
『う゛んっ!!』
オリヴィアは歯を食いしばって耐える。
鞭の衝撃はかなりの物であるはずだが、彼女の鍛え上げられた腹筋も、また並ではない。
『ひゅーう、ほんとお宝だぜこの腹は』
オリヴィアの正面にいる男達が口笛を吹いた。
彼女の腹は何度も鞭を浴びせかけられ、細かな金網で焼かれたようになっている。
しかしそれでも腹筋は確かな形を保っていた。
ブロンズ像を思わせる艶やかな腹筋。
鳩尾から繁みまでの楕円形の骨組みの中に、6つに割れた腹筋が盛り上がっている。
臍を縦断する中心線が美しい。
本格的に鍛え上げられた凹凸を備えながら、しかし流れるようなスタイルの邪魔をしない。
男女を問わず見惚れさせる、実に見事な腹筋だ。
「……だから、ここを狙われたのか?」
クレインは裸で立つオリヴィアの足元に跪き、腹部に舌を這わせて問う。
それにぞくぞくと反応を示しながら、オリヴィアは頷いた。
「あっ……!……そう、何度も、何度もお腹に鞭を浴びせられて、殴られたわ。
でも私はそんな事では折れなかった。だから連中も、だんだん躍起になっていったの」
※
一番の剛力と思われる大男の拳が、オリヴィアの腹部にめり込んだ。
『う゛ぉ゛っ!!』
オリヴィアは目を見開いて苦悶する。しかし決定打にはならない。
天井から吊るされる状態ゆえ、殴られる度に身体が後ろに泳ぎ、ダメージを逃がす形となっていた。
しかしそれでも衝撃は大きく、オリヴィアは手首から血を滲ませながら脚をぶらつかせる。
『ちっ、クネクネしやがって。オイ、これじゃせっかくの俺の豪打が活かせねェじゃねえか!』
大男は岩のような肩を鳴らし、見た目通りのガラの悪さで叫んだ。
『そうかねぇ。俺は吊るされた女が、腹殴られて無様に踊る姿が好きなんだが……まぁいい。固定しようか』
ネズミのような顔つきをした男が、オリヴィアの後ろに回る。
『ふぅ……ふぅ……!!』
オリヴィアが荒い息を吐きながら、そちらに視線を向けた。
何かを覚悟するように唇を噛み締めて。
『んッ!!!』
にちっと音がした数瞬の後、オリヴィアの脚が硬く強張った。
『へへ、お前もケツの穴が好きだね。昨日も散々使ってやがっただろう』
『ああ、暖かくてキツくって最高だぜ?どんなアバズレも、ここに突っ込みゃあ顔を歪めるしよ。
それにこっちを犯されると、ヒトってのは勝手に腹筋が固まっちまう』
男はオリヴィアの腹を撫で回しながら告げる。
確かにそこは、歪められた顔と同様、彫りも深く浮き出ている。
『ほぉ、確かにいいカタチだ。お前がそこで繋がってる限り、支えにもなるし、な!!』
豪腕の大男は嬉しげに笑いながら、思いの限り腕を引き絞った。
『…………!!』
オリヴィアの顔色が変わる。
男の山のような三角筋が盛り上がり、巨大な拳を唸らせてくる。
自分は先ほどと違い、それを受け流せない。肛門をこじ開けられたまま、背後の男とで鋏潰される。
それが避けられない。
ドンッという小気味良い音が鳴り響き、上空の鎖がじゃらじゃらと鳴った。
『ぐぅお゛おぉぉお゛お゛っ!!!!!』
その時の声は意外なものだった。
美しく知性溢れるオリヴィアから漏れたとはとても思えないほどの、低く汚らしい叫び声。
『げはっ、げえはっ!!おえ、ううう゛おぉえっ!!!!!』
オリヴィアは何度も腹部を折り曲げ、足をばたつかせて身悶えた。
口の端から涎が垂れる。
『ひゅー、すげぇ衝撃。背後でこんなキッツイなら、こいつなんか悶絶モンだな。
あー、ケツがキュウキュウ締まって最高だぜ』
オリヴィアを後ろから抱く男が笑いを浮かべた。
『はっはっは、本当に悶絶してるぜ。涎が飛び散りやがった!いやァいい図だぜ!!』
男達もオリヴィアの乱れた姿に腹を抱える。
『…………ッ!!』
オリヴィアがそれを睨みつけようとした刹那、再び男の拳が腹部を抉りあげた。
『ごぉあああぁ゛あ゛っ!!!』
鎖の音が、濁った悲鳴が仄暗い部屋に鳴り響く。
『…………しかし、女だてらによく鍛えられてるもんだよなぁ。
俺のパンチをここまで耐えといて、一般人ですなんて言い張るつもりか、姉ちゃん?』
十数発の腹打ちの後、大男が項垂れたオリヴィアを見下ろして告げた。
オリヴィアはにちにちと音を立てながら肛門を犯されつつ、荒い息で大男を睨み上げる。
『……はっ、はっ…………そ、総身に知恵が回りかねてるみたいね、大男さん。
女が、この程度で音を上げると思っ、てるなんて、笑っ……ちゃうわ』
オリヴィアのその挑発に、大男は眉根を寄せる。
『おいおいおい、チャンにそれ言っちゃあ殺されンぜ?』
周りの男達は可笑しそうに笑いあった。
大男はオリヴィアの顎を掴み、美しい唇をへし曲げさせる。
『面白い事を言う姉ちゃんだ。だがな、こうして口を開けさせられると、歯ァ喰いしばる事もできねぇだろう。これなら流石に効くんじゃねぇのか?』
大男はそう語りかけ、オリヴィアの瞳がかすかに惑うのを愉しんだ後、おもむろにその腹を殴りつけた。
『あうぇええ゛え゛っ!!?』
口を開かされた状態で上がる、女の悲鳴。
オリヴィアは先程よりも明らかに狼狽し、目を白黒とさせていた。
『へへ、どうだイイだろう?もっと味わえ』
大男は笑みを浮かべながら、さらにオリヴィアの顎を押し潰し、腹を抉りぬく。
バスッ、バズンッという鈍い音が美しい腹筋から溢れた。
『おええ゛え゛っ!!んうぇぇええ゛え゛っ!!!』
『へへ、いい声だなぁ。ケツもきゅんきゅん締まって最高だ……ああ、出る、、出るぞッ!!!』
背後から尻穴を犯す男が叫び、苦悶するオリヴィアの腸内に精をぶちまけた。
どぐっ、どぐんと何度も怒張を脈打たせ、注ぎ入れる。
『えほっ、うおえっ……!!』
オリヴィアの口が噎せ返るのに呼応するかのごとく、肛門から怒張が抜き出された。
怒張は小柄な男に似合わずかなりの大きさで、オリヴィアの蕾はぽっかりと口を開け、
わずかに黄色く染まった白濁を腿の裏へと垂らしはじめる。
『良かったなぁ、ケツで射精して頂けたぜ。テメェも実はヨガってたんじゃねぇのか?』
大男は下卑た口調で問いながら、腹に当てた拳を下に滑らせた。
女らしい下腹部の膨らみを過ぎ、繁みを越えて、恥じらいの場所へ指が入り込む。
『……うンっ……』
オリヴィアはかすかに呻いた。
大男はそのオリヴィアの女の部分を撫ぜ回しつつ、口元を歪める。
『ふん。やっぱりな、湿っていやがる』
『おいおい本当かよ、理解に苦しむな。この変態女め!』
男達は口々にオリヴィアを嘲った。オリヴィアは柳眉を吊り上げる。
濡れるのは仕方のない事だ。
つい昨晩まで、昼も夜もなく男女の交わりを強要され、女を目覚めさせられていた。
先ほどまでの腹責めの合間にも体中を弄られていたし、そもそもこの部屋には興奮剤のような香が焚かれている。
女の事を嘲うまでもなく、男共も逸物を屹立させ、先走りの汁を滲ませているではないか。
オリヴィアは心中で毒づきながら、ただ嘲笑を耐え忍んだ。
だがやがてその嘲笑は、女への嗜虐の心へと昇華される。
『折角だ、うんと気持ちよくさせてやるよ。力を抜きな』
男の一人がそう告げ、オリヴィアの脚を開かせた。そして足首に鎖を繋げ、床に固定する。
艶めく太い棒を手にしたまま。
「それは、バイブレーターか何かか?」
オリヴィアの腹部へ舌を這わせながら、クレインが問う。
「……違う……そんなものじゃない。あれは電気責めのための、“責め具”だったわ」
オリヴィアは想い人の舌遣いに目を細めながら答えた。
クレインの舌が這う腹部、それが数日前に受けた悲劇を思い起こして。
※
『流石に濡れていただけあって、それがスルリと入っていくな』
オリヴィアの秘部に極太の電極棒が挿し込まれる様を見て、男が呟く。
『ああ、子宮の入り口辺りまでは入ったろう。もう抜けねぇはずだ』
挿し込んだ男はくつくつと笑い、電極棒に繋がる機械を弄くった。
一瞬火花の散る音が聞こえ、直後、オリヴィアの引き締まった身体が痙攣する。
『があああアアっ!!!?』
『ほほ、踊りよる踊りよる。さすが西洋の女は浅ましい腰つきをするもんだ』
男達はオリヴィアの苦悶を楽しみ、その腹部に手を触れた。
バチリッ、と静電気のような痛みが手に噛み付く。
『おっほ、腹越しにでもビンビン電気を感じるぜ!?こりゃすげぇや!』
『ああ、中じゃどんだけの電流が走ってるんだかな。可哀想だねぇ全く』
男達がひとしきり奇異を体験したところで、電流が一旦止められた。
『か……はぁっ!!ああ、あ、あっ……!!!!』
オリヴィアが溜めていた息を吐き出し、汗を散らしながら項垂れる。
だが甘い香りの息が場に広がった頃、再び電流が流された。
『ああぁあッッ!!!!!』
オリヴィアは白い喉を衆目に晒して伸び上がる。
『どうだ、つらかろう。だが所属する組織を吐くだけで、お前はこの地獄から逃げられるんだ』
男の甘い囁きを、オリヴィアは鋭い眼光で拒んだ。
『……なるほど、ならば仕方がない。おい、やってやれ』
男がそう言うと同時に、先ほどまで散々オリヴィアを苦しめた大男が立ちはだかる。
その手には8オンスほどの黒いグローブが嵌められていた。
『へへ、素手で殴るとこっちまで痺れちまうからな、ゴムで出来た特製のグローブだ。
だがベアナックルより楽だ、なんて考えない方がいいぜ』
大男は両拳を打ち合わせながらオリヴィアに近づく。
そしてフックの軌道で一撃を叩き込まれた瞬間。
『ごぉう゛っ!!!』
今までの人生で出した事もないような声と共に、オリヴィアの視界はホワイトアウトした。
ばしゃりと水を浴びせかけられ、オリヴィアは意識を取り戻す。
見渡す視界には、男達の笑いばかり。
『おいおい、一発で意識飛ぶとか、そりゃ無ぇんじゃねえのか?』
大男がグローブを揺らしながら茶化した。
その姿を見た瞬間、オリヴィアは意識を飛ばす直前の状態を思い出す。
男の大きな拳が、腹の中に“入り込んで”きた。
以前までの表面をゴツゴツと殴られる感触とはまるで違う。
柔らかなゴム製のグローブが衝撃で腹筋の溝に張り付き、余すところ無く衝撃を伝播させる。
その結果内臓に直接衝撃が叩き込まれ、挙句に膣内の電流と結託したのだ。
それで脳が焼き切れた。
『ベアナックルより楽だ、なんて考えない方がいいぜ』
大男の言葉通り。このグローブで電流の流れる腹を叩かれる責めは、先までの比ではない。
なにしろ頭の神経が即座にブツリと逝ったのだ。
おまけに今度は足首を固定されているため、衝撃を受け流す事が叶わない。
『今度は耐えろよ?』
大男が腹部にジャブを触れさせる。
膣に入った電極棒にも再び電流が流れ始めた。
『あ゛……あ゛』
オリヴィアは声にならない声を漏らし、しかしすぐに唇を噛み締める。
直後に叩き込まれるストレート。
しっかりとジャブで距離を取り、無駄をなくした重撃が腹へ潜り込む。
『げはっ、あぁ゛あ゛!!!』
オリヴィアの口から銀色の飛沫が飛んだ。
そのまま下唇を突き出す無様な顔を晒し、男の太い腕が腹から引き抜かれる瞬間、
それを追う様にして胃の中の物を溢れさせてしまう。
『おお、ついに吐きやがったぜ!っつっても、ゲロだけどなぁ!!』
『はっは、品のなさもここまで来ると笑えるぜ!』
男達の嘲笑う中、オリヴィアは身体をくの字に曲げて咳き込み続ける。
『おら、吐いても続けるぜ』
大男はグローブでオリヴィアの額を押し上げ、顔を上げさせてもう一撃を叩き込んだ。
『おぉええぇぇ゛え゛っっ!!!!!』
苦悶の叫びが上がる。
さらに、上がる。
肉を打つ音、鎖の鳴る音、苦悶の叫び、笑い声。
それぞれ数パターンしかないその響きが組み合わさり、まるでセンスのない人間が作った楽曲のように、単調に単調に繰り返される。
しかしその音色の一つ一つは、吐き気がするほどに痛切で、また、おぞましかった。
『…………いやはや、感服するね。ここまで辛抱強い女だったとはね』
どれほどの時間が経ったのか、男達は項垂れたオリヴィアを眺めて呟いた。
オリヴィアの足元には液だまりができている。
繰り返しの電流責めにより、感情を無視して垂れ流された汗や小水、愛液、胃液などの混合液だ。
オリヴィアは肩で息をし、目の下には隈のような疲れきった証を浮かべていた。
美しい全身が湯上りのようにほのかな桃色に染まっている。
唯一殴り続けられた腹部だけは、六つの割れ目すべてが赤紫色に変色していた。
そこまでになりながら、オリヴィアは一切の情報を口にしない。
電流と腹責めで朦朧とする中、様々な誘導尋問が行われたが、血液型や家族構成などの初歩的な問いにさえ、何一つ情報を明け渡さずにいた。
『くそ……どんだけ強情なアマだよ、こいつ!!』
大男がイラついた様子でオリヴィアの下腹を蹴りつける。
『ぐっ!』
オリヴィアは小さく呻いた。
『ふむ、確かに強情という他ないな。追い込まれているのは間違いないが……』
プライドを傷つけられ憤慨する大男に対し、男の一人はどこか嬉しげな素振りを見せる。
『……あ、あんた達なんかには……死んでも屈しないわ』
俯いたままオリヴィアが呟いた。
その言葉に、男の笑みはますます深まる。
『ほう、死んでもか。いい信念だ。だがそれを実際に貫ける人間など、居はしないよ』
男はそう言ってオリヴィアの拘束を外した。
オリヴィアはその場に力なく崩れ落ちる。咄嗟に逃げ出すような体力はとうに無かった。
男は無力なオリヴィアを拘束台に横たえ、改めて手足を縛りつける。
そして水の入ったヤカンを持ち上げた。
『生命の水をやろう、女』
男は笑みを浮かべたまま告げる。
『…………!!!』
男の意図を察し、オリヴィアが目を見開いた。
『……ああ、なるほどな!』
当然、理解したのはオリヴィアだけではない。
他の男達も拘束台に群がり、ある者はオリヴィアの鼻を摘み上げ、ある者は唇を上げさせ、
またある者はその口の中に漏斗を差し込んだ。
『あえぇっ!!えあっ!!!!』
オリヴィアが抗議の声を上げる中、その遥か上方でヤカンが傾けられる。
水責め、だ。
どぐどぐどぐどぐ、と水は漏斗の窄まりへ泡を立てて流れてゆく。それはそのまま、開かれたオリヴィアの喉奥へ。
『えごっ!!あぇごっ、おごおおおおっっ!!!!』
うがいをするように喉を泡立てながら、オリヴィアは次々と水を飲んだ。飲まされた。
溢れた水がオリヴィアの顎を、喉を、そして乳房までをも濡れ光らせる。
『ほーら、美味しいか。お替りもあるぞ』
一つのヤカンが空になると、即座に次の一つが手渡された。
紙一重でオリヴィアが窒息死しない程度の感覚を空け、水がなみなみと注がれ続ける。
やがて、細く締まっていたオリヴィアの腹は膨れだす。
割れていた腹筋は風船のように丸まり、見る間にドーム状に肥大化した。
『おおげっ!!ごぼっ、ごぼぼごげおろおお゛お゛っ!!!!』
拘束されたオリヴィアがいくら暴れても、暴れても、その変化を止める事は出来なかった。
『ひっ……ひィ、っ……ひいぃ…………っ!!!!!』
静脈が浮き出るほどに腹が膨らみきったオリヴィアは、息をするだけで震え上がっていた。
当然の事だ。
視界を遮るほどに膨れ上がった腹、浮き出た血管、周りから感じるおぞましい気、笑い。
その何もかもが恐怖を煽るのだから。
もはや体中が、脂汗などというものでは済まない、粘ついた液に覆われている。
『死んでも情報を漏らさない……だったな』
男達は木の棒で肩を叩き、あるいは手の平で弄びながらオリヴィアを取り囲む。
ガクガクとオリヴィアの身体が震え始めた。死の直感でだ。
神よ。我が信仰する偉大なる神よ。
オリヴィアは口には出さぬまま、心の中で祈りを捧げる。
だが神はいない。この世で人が触れられるのは悪魔しかいない。
ドンッ、と腹の頂点に木の棒が振り下ろされた。樫の樹のように堅い棒だ。
『げは……っ!!!!!!』
オリヴィアは口から水を吐きこぼす。それはオリヴィアを美しい髪を無残に汚した。
『はは、効いてるぜ!』
木の棒が引き戻された直後、別の男の拳がオリヴィアの腹を抉る。
垂直に、そして奥まで。
『があああああ゛あ゛!!!!!』
オリヴィアは目一杯に開いた口からさらに汚水を吐きこぼし、手足をばたつかせた。
さらに棒が、拳が、グローブが、上からオリヴィアの膨腹を滅多打ちにする。
『がぇああああ゛あ゛おお゛お゛お゛っっっ!!!!!』
オリヴィアにできるのはもう、叫ぶ事だけだった。
内臓が軋んでいる感覚が伝わってくる。
ビニールに包まれた生肉を押し潰した時のような……いやひょっとしたら、すでに弾けてしまっているかもしれない。
この状況を抜け出ても、絶対に無事ではすまないだろう、そう確信できる。
『いいねぇこれ、腹殴る度に喚いて、手足が強張ってよ。セックスより興奮するぜ』
『確かに傑作だ。だが、腹筋の力が無くなっちまってイマイチ歯応えがねぇぜ。
顔は相当にクるけどよ!』
『見ィろよこいつ、小便漏らしちまってんぜ?脚はすらーっと長い美人風なのに、情けないねぇ』
男達の声が、バリバリという耳鳴りにかき消されてゆく。
喉奥から溢れる水が、鼻に、脳に、耳にまで入り込んでしまったかのようだ。
地獄に思えた。
臓腑という臓腑が押し上げられる、抉られる、すり潰される。
今へこんだのは腎臓か、いや肝臓かもしれない。胃が、原型を留めていないのは確かだ。
肺だけは正常らしい、いや、それも下から何かが押し上げてきて、へし曲がる。
熱いものが絶え間なく喉を押しひらいて迸る。
苦しい、苦しい、苦しくて、たまらない。
『こ……殺してえっ!!!もぉ゛いっぞころじでえぇ゛え゛え゛っっ!!!!!』
とうとう視界に血を吐き出しながら、オリヴィアは哀願した。
悪魔のような男達は満面の笑みを湛えながら棒を、拳を振り下ろす。
気が狂いそうなほど恐ろしい情景だった。しかしあまりにも苦痛が強すぎ、気を失う事もできない。
手足の筋肉がいきり立ち、拘束された縄に食い込んでゆく。
側頭部の血管がぶちぶちと切れてゆく。
やがて自分が生きているか死んでいるのかも解らなくなった頃に、遠くで部屋の扉が空いた。
交渉が成立、その女は即時解放すべし……との伝令と共に。
※
「…………そうか…………辛かったね」
クレインはオリヴィアの赤紫にただれた腹から舌を離し、彼女を抱き寄せた。
「うん……」
オリヴィアは愛する男に導かれるまま、壁を背にして抱きしめられる。
「オリヴィア」
「なぁに」
「……オリヴィア」
「なぁに、クレイン」
オリヴィアは瞳に安堵の色を浮かべて繰り返す。
クレインの思いつめたような顔が間近にあった。彼が自分を案じてくれている事が、オリヴィアにはとても喜ばしかった。
しかし、次の一瞬。その至福は地に落ちる。
クレインの左手がオリヴィアの首を押さえた。右手は背中の後ろに回り、鋭利なナイフを取り出している。
クレインがぐっと肩を入れた直後、オリヴィアの白い肌を朱が流れた。
「………………
え …………?」
オリヴィアは腹部に差し込む冷たさに思考を失う、
何が、どうなっている。なぜ、腹が焼けるように熱い。
「げおっ、ごはっ……!!あ゛、げは、あっ……!!!」
喉から血があふれ出す。痛みに耐え切れず前屈みになり、クレインの袖を掴もうとするが、
力及ばずに倒れ伏す。
「い……たい……いたいよ?……ク…………クレイ……ン…………」
自失したまま、オリヴィアは空を掻き毟る。ぬるりとした血が背中の滑りだけを助ける。
クレインはナイフを手にしたまま、オリヴィアに覆い被さった。
暴れる手足を封じ込め、再び腹にナイフを突き入れる。
今度は抜かず、ずっ……と腹筋に沿って肉を裂いてゆく。
「ぎぁああ、あ゛っ……!!!っひ、ひだい、ひだい、っよオぉ!!!!!
グレイン、グレインッ!!おなか、おなかが…………こんなに血が、ひどいの。
…………どうひて…………クレ…………ぃ…………ン…………」
オリヴィアは子供に戻ったように泣きじゃくり、クレインに感情を訴えた。
その瞳の光がやがて薄れ、人形のように無機質に変わる。
美しかった手足がだらりと垂れ落ちた。
クレインはすでにオリヴィアでないものの腹部をまさぐり、その血を浴びる。
時に掬い、自らの口に含みながら、一滴ずつ指にふれさせてゆく。
「つらかったろうね。こんなに腹を殴られて、口惜しかったろうね」
そう呟きながら、腹の穢れた部分を血で洗うかのように触れ続ける。
やがてその赤い肉に、透明な雫が滴りはじめた。
「……許してくれ、オリヴィア。これが僕に与えられた任務なんだ。
任務に失敗したばかりか、世界規模で事件を知られ、犯罪組織に弱みを握らせた。
君は死ななければならないんだよ。ならせめて僕の手で、ね。
でも心配はいらない。……言ったろう。“僕が居る”、って」
クレインはナイフの刃を自らに向ける。
そして飛沫を上げ、抉り出して、愛する女性の上に覆い被さった。
その薔薇のように朱に染まった肉体を、内まで溶け合うように絡ませて……。
FIN
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