大樹のほとり

自作小説を掲載しているブログです。

2011年03月

密林の贄  前編

※ アンケートで頂いた

・アナル寄生蟲vs女戦士in熱帯ジャングル
・尿道責め
・女騎士がシスターからハードな拷問や性的な責めを受ける
・おもらしもの

の要素を盛り込んだ小説です。長いので2つに分割、続きは後日。



ラシェの王宮は滅び去ろうとしていた。
城壁にこびり付いた砂金が闇夜に煌めき、旅ガラスの間で『砂楼の月』と謳われた由緒ある宮殿。
その700年に渡る歴史もついに終わりを迎える。
砂嵐が舞い、寒暖の差激しく、足場も不慣れな者には地獄の沼のよう。
長らく敵を拒んできたその天然の要塞を、圧倒的な物量でもって押し切る国が現れたのだ。

敵は西から各地の植民地化を狙うアルア公国。
公国はラシェの立つ大砂漠に無数の拠点を築き、少しずつ、少しずつ、囲うように軍を進めた。
ラシェが已む無く打って出た頃にはすでに袋のネズミだ。
片や曲刀と薄い衣で戦いに臨むラシェの民。片や鎧に身を固め、剣と盾を有する公国軍。
さらにラシェの戦士1人につき公国軍人4人という絶望的な兵力差。
それは戦争といえるようなものですらなかった。

逃げ延びたのはたったの2人。
民の1人と格好を入れ替え、砂中の抜け道から脱出した14歳の王女・スーヴァと、
王国一の踊り手であり、舞刀術の手練れでもある護衛・エスラだけだ。
エスラの曲刀には血糊がべったりとこびり付いている。
それは彼女がどれだけの激戦を繰り広げたのかを物語っていた。


「……いたぞ!あれが本物だ!!」
砂嵐の向こうから男の声が響く。
ガシッ、ガシッという金属音もする、味方ではない。

「姫様、お下がりください」
エスラはシャムシールを構えて王女の前へ踊り出る。
「待って、今度は私も戦うわ!」
スーヴァも真新しいカタールに手をかけるが、エスラは厳しく否定を示した。
「いいえ、スヴァーラ=ティエン=ラシェ。あなたは畏れ多きラシェの王女だ。
 あなたの指の1本は、私の腕の1本より重い。あなたの腕となれば心の臓でも足りはしない。
 私に急所を曝しながら戦うような真似をさせないで下さい!」

エスラの眼は真剣そのものだ。
足手纏い。つまりはそう断言したに近いが、あのエスラが身も蓋もない言い方をせねばならぬ状況なのだ。
スーヴァはそう悟ってカタールを手離す。
武器を持ちながら護られてばかりなのは辛いが、意地を張っている時ではない。
「……すみません」
エスラはつらそうに眉を顰めながら、前方の敵に意識を定めた。



砂嵐に揺れる公国兵は3人。
いずれも金属の鎧を纏い、砂地に苦戦している。
それを見て取り、エスラはちらりと王女の安全を確かめた後に駆け出した。
履く靴のせいもあるだろうが、兵士達とは根本的に違う動きだ。
「!!」
公国兵が驚きを浮かべる。

身体をやや斜めに倒したまま、砂上を滑るように迫る美女。
歳は20を過ぎた頃か。
腰までの黒髪が後ろに流れ、薄絹のような衣装から育ちきった肢体が覗く。
女らしい細腕、ほどよく日に焼けた健康的な脚、極上の舞を見せるであろう腰つき。
手足にチャラリと音を立てる金属装飾が異国情緒に溢れる。
そして何よりその瞳だ。
輪郭も鮮やかな吊り目の中に、しかと獲物を映す宝石が照り輝く。
砂漠の民ならではの、骨抜きになるような目力がある。

兵士達はそのエキゾチックな魅力に喉を鳴らした。
しかし自らの懐にその美が潜り込んだ時、ようやくに危機感が舞い戻る。
「このッ!!」
公国兵は片手剣を横薙ぎに振るった……つもりだったのだろうが、
不安定な足場での一閃は、剣の重みに振り回される形で斜め下を泳ぐ。
大きく肩口の開いた斬り下ろしの体勢。
肩から下にこそ重厚な鎧を纏っているものの、視界確保と熱さから鉄兜は外している。
兵士は悪寒を覚えただろう。
そして、その隙を見逃すエスラではない。

シャフィッ――!

鋭い音と共に、エスラのシャムシールが敵の首元をすり抜けた。
兵士の首へ申し訳程度に巻かれたスカーフが二股に分かれている。
鮮血が噴き上がった。

「う、うわあぁっ!!」
目の前で仲間の首が切られた。そのショックと視界を覆う血煙で、他2人も及び腰になる。
そうなれば益々もってエスラの獲物だ。
ヒュヒュンッ、とX字を描くように曲刀が煌めき、的確に相手の喉元を切り裂く。
「……かはっ……」
声にならない悲鳴が2つ上がった。
凶刃の主はその返り血を避けるように踵を返し、目を伏せたスーヴァの元へ舞い戻る。

一陣の砂埃が舞う間の出来事だ。



「……ご無事ですか、スーヴァ様?」
エスラが息を弾ませながらスーヴァに声を掛ける。
女戦士は明らかに疲れはじめていた。
砂漠の猛暑の中、何十と命のやり取りをしているのだ。
水も、スーヴァに飲めというばかりで、エスラ自身は口を潤す程度にしか摂っていない。

「王女ともあろうお方に血生臭い所ばかりお見せし、心苦しい限りです」
エスラは曲刀に染みつく匂いを恥じる。
スーヴァは強く首を振った。

「心苦しいのは私の方よ。今の私の一体どこに、あなたに敬われる資格があるの?
 戦いではお荷物で、こんなとき役に立つ知識だって何もない。
 あなたに何一つ貢献できないのに、どうして私があなたより上だというの!?」

スーヴァから涙が零れる。色白の幼い美貌が嘆きに歪む。
エスラはそのスーヴァの頬を優しく拭った。

「……畏れながら、心中お察し致します。今のお立場はおつらい事でしょう。
 それでも、あなたは王族であり続けなければならない。こんな時だからこそです。
 ラシェの王宮は滅べども、王女であるあなたが生きている。それが肝要なのです。
 ……今はまだ、実感がおありでないかもしれませんが」

エスラの言葉に、スーヴァが顔を上げる。
「……私も、父上や母上のような立派な王族になれるかしら?」
「ええ。そのお心をお持ちならば、必ずや。」
エスラはそう笑みを見せた。
スーヴァも目元を無理矢理に吊り上げる。

張り詰めていた空気に若干のゆとりが生まれ、やがて2人は無事に砂漠を抜け出した。
砂地の向こうに広がるのは、今までの枯れようが嘘のような大密林。
蒸し暑さはそのままに、長大な河が流れ、天をも覆い隠す木々が生い茂る。
一度入れば迷うこと必至の秘境だが、逃避行にこれほど都合の良い場所もなかった。


「ふぅ、生き返る……」
清冽な水で存分に喉を潤し、さすがのエスラも大きく息を吐く。
スーヴァにはその緊張の解れがとても好ましかった。
しかし……その場所はまだ、気を抜くには早すぎたのだ。


シピッ、と小さな音と共に、その針はスーヴァを襲った。

「!……危ないッ!!」
直前でエスラが気付き、スーヴァを突き飛ばす。
「きゃっ!!」
尻餅をついたスーヴァが目を上げた時、そこには首筋を押さえて目を顰めるエスラがいた。
「エスラ!……どうしたの!?」
スーヴァが問うも、スーヴァは答えない。その瞳はすぐに大きく見開かれ、痙攣を始めた。
唇が細かに動いている。

「……ふ、ふき、や…………どく…………
 …………お……に、げ………くら……さ…………」

うわ言のように呟いた後、スーヴァは草の中に倒れ込む。
「エスラ?……」
スーヴァが問いかけても返事はない。
あれほど強く、逞しかった肉体がピクリとも動かない。
「エスラあぁっ!!」
スーヴァの叫びが木々に木霊する。その木霊が消え入る頃、手近な草むらが音を立てた。
スーヴァは今度こそカタールの柄を握りしめる。

「……おや、ラシェの民ですか。これは珍しいものが獲れましたね」

草を掻き分けて姿を現したのはシスターだ。
もっとも、修道服を纏っているためシスターらしく見えるだけであり、実態は窺えない。
こんな鬱蒼としたジャングルにシスターがいるのか?
だが褐色の顔に浮かぶ穏やかな笑みは、確かに修道女らしくもある。
手に吹き矢さえなければ。

「寄らないで。斬るわ!!」
スーヴァはカタールを引き抜いた。シャランと真新しい金属音が響く。
一応の構えを取るが、白魚のような手は震え、実戦に慣れていないのが明白だ。
「あら……おやめください。手荒な事をしたくはないのです」
シスターは笑みを絶やさずに告げた。
しかしその笑みも、言葉も、スーヴァには不穏なものとしか思えない。

可憐な王女はエスラの剣術指南を思い起こす。
敵との距離は大股で3歩ほど。
横から旋回するように飛び掛かれば、一発目の吹き矢をかわして斬りつけられる筈だ。
スーヴァはそう算段を立て、勢いよく踏み出した。
同時にシスターが吹き矢を飛ばす。
スーヴァはそれを耳一つ分横に逸れてかわし、相手を刃の先に捉えた。

 (――行けるッ!!)

スーヴァは勝利を確信する。
だがまさに刃を突き立てようという瞬間、スーヴァの身体は未知の衝撃によって吹き飛ばされた。
明らかに人の攻撃ではない。
柱か、猛獣か、そういう大きな質量がもたらすものだ。

「あ゛っ!!」
衝撃の元を知る前に、スーヴァは樹へ強かに打ちつけられた。
仰ぎ見る空が水の中にいるように揺れ曲がる。
人生で初めての経験ながら、スーヴァは自らが失神する事を理解した。
地面が近づく。傍にはエスラが倒れている。
結局、また、自分はこの女性の役に立てなかったのだ。

「……エスラ…………ごめん……なさい」

王女は小さく呟きながら、女戦士の横に倒れ伏した。






「う、ん……?」
エスラが目を覚ました時、まず感じたのは窮屈さだった。
どうやら縛られているらしい。

背中に草を感じることからして、仰向けに寝ているのだろう。
手は万歳をするように腋を空けて上方に伸び、蔓で絡め取られている。
脚も腰から折り曲げられ、大きく股を広げる形で何箇所かに蔓が巻きつけられていた。
ちょうど前方に恥じらいの穴を晒す格好だ。

衣服は取り去られており、手足につけた金属製の装飾具と申し訳程度の腰布が残されたのみ。
「くっ……!」
手足の蔓を引いてみても、見かけ以上に強靭で千切れる気配はなかった。
そもそも吹き矢の毒がまだ残っており、ほとんど力が入らない。


「あら、お目覚めですか?」
突然の声にエスラが目を向けると、傍らに褐色肌のシスターが立っていた。
手には妙な虫の入った籠を提げている。

「……私と共にいた少女はどこだ」
エスラは自らの境遇よりも、まずスーヴァの安否を問うた。
シスターが興味深そうに目を細める。
「ご自身よりもあの方がご心配なのですか? どういった方なのでしょう」
「ただの連れだ。はぐらかさずに答えろ!」
エスラは相手を睨み上げながら言う。額に微かな汗が流れた。

スーヴァがラシェの王女と知れれば、どんな目に遭うか解らない。
敵国に売られるかもしれないし、そうでなくとも『由緒正しき姫君を抱きたい』という不逞の輩は多い。
間違いなくただの娘より過酷な定めが待っているはずだ。
ゆえにエスラはスーヴァの正体をひた隠す。
「なるほど、お連れの……」
シスターは納得したように答えつつ、しかし内心ではほくそ笑んでいた。

スーヴァが普通の娘でない事はとうに解っている。
あの酷暑の砂漠にいながら、透けるような白肌を持つのは王宮から出た事がない証だ。
宮仕えという可能性もあるが、それにしては雰囲気が甘ったれている。
さらには気絶した後、裸に剥いた時に見つけた胸元の宝石……あれも市井の民が持てるものではない。
そう解ってはいるが、しかしシスターはあえてエスラの話に合わせる。

「あの方なら、別の場所でお休みになられています。“今の所は”ご無事ですよ」
シスターはそう告げ、挑むようなエスラの視線を愉しむ。
そして続けた。
「……ただあの方、未遂とはいえこの私に刃を向けましたからね。
 お仕置きと言っては何ですが、ちょっとこの子達をじゃれさせてみようと思います」

シスターは言いながら手に提げた蟲籠を叩く。

おぞましいざわめきが溢れ出た。
足や触手が籠を引っ掻く音、キィキィという奇怪な鳴き声、羽音……。
エスラの顔が青ざめる。

「……や、やめろ。そんなものを、あのか……あいつに使うなッ!!」
あの方、と言いかけるエスラ。嘘のつけない性格らしい。
その言葉でシスターの疑念は確信に変わる。

「ご心配は無用です、どの子も死に至るような毒は持っていませんよ。
 ただ女の穴に潜り込まれると、少しばかり悶え狂うだけです。
 ……それとも、あなたが代わりにこの子達の相手をして下さるというのですか?」
シスターは笑顔のまま悪魔じみた選択を課した。
エスラは蟲を一瞥して息を呑み、しかしさしたる間もなく決意を固める。

「……いいだろう、気の済むまで私に使え。
 その代わり、あの娘には指1本触れぬと約束しろ!」
凛とした瞳でそう告げるエスラ。
その精悍とすら言える美しさに、いよいよシスターの笑みも深まった。

「あら、本当ですか。それならそれで構いませんが……でも、どうしてそこまで?
 別に恩義ある主君、という訳でもないのでしょう?」
シスターは意味深な表情で問う。
「ふん。“あれ”はまだ幼い。そのような気味の悪い蟲共を近づけられるか」
エスラも不穏な空気は感じているが、なおシラを切るしかない。

「……なるほど。ご立派なお姉さんでいらっしゃいますね」
シスターは瞳だけで笑いつつ、蟲入りの籠を地面に下ろした。



シスターはエスラの前に跪き、その足腰を撫で回す。

くまなく小麦色に焼けた裸体は美しい。
肌には一つの染みもなく、乳房の先だけが紅茶色に浮かびあがっている。
その身体の線は完成されきっていた。
鎖骨に沿って張る肩、豊かに膨らむ乳房。
見事な腹筋を見せながらも腰骨の隆起を邪魔しないくびれ。
股下で威勢よく盛り上がり、膝に向けて斜めに絞られながら、脹脛でもう一度膨らみをみせる脚線は見事なばかりだ。
「素晴らしい、素晴らしいわ……」
シスターの賛美の言葉も、その時だけは本心であったろう。

やがてシスターの指は、脚を滑り降りてエスラの恥じらいの部分に触れた。
かすかな腿の強張りを感じつつ、そこを押し開く。
むっとする汗の匂いの後に、成熟しつつある女の香りが漂った。
ラシェが誇る女戦士の秘肉は、桜色とまではいかないが、濃く鮮やかな桃色だ。

「あら、ここも綺麗。でもとても柔らかく伸びますね。乙女ではないのかしら」
シスターは指で秘裂を割り拡げながら嗤う。
エスラの眉がしかめられた。

エスラも20余年の人生で並ならぬ波乱を味わっている。
貞操など己の無力を知る代償に消えた。
だが、だからこそ、スーヴァには無垢なままでいて欲しかった。
単に主君だからではない。エスラは彼女を可愛い妹のように想っていた。
彼女を護れるならば、エスラはいかなる苦難をも厭わない。



シスターはエスラの秘部に指を挿し入れ、ゆっくりと動かし始めた。
粘膜を撫でるように2本の指を動かし、撫で回す。
女ならではの繊細な指遣いだ。
「…………。」
じっとりとしたその責めに、エスラの肉体は否応無く反応する。
粘膜からは分泌液が滲み出し、陰核が小豆大に身を起こし。
「あら、可愛い」
シスターは容赦なくその敏感な豆を摘んだ。
「っっ!」
エスラの腰が跳ねる。
その反応を愉しみながら、シスターは秘裂へ指を挿し入れ、陰核を包皮越しに愛で続ける。
愛液は指に絡みつくほどになり、陰核も充血を進める。
しかしそうなりながらも、エスラは一声をも上げずにいた。
シスターは笑みを深める。

「あそこをこんなにされても、冷静でいらっしゃるんですね。
 でも、ここは……どうですか?」

シスターはそう囁き、卑劣から指を引き抜いた。
そうしてそのまま指を滑り下ろし、あろう事か不浄の穴に押し当てる。
細い指はぐうっと中に入り込んだ。
「うあ!」
エスラもこれには声を上げる。
「ふふ、いい声。流石のあなたも、ここを穿られると声が出てしまうのですか?
 ああキツい、指が食い千切られそう。こちらは未使用のようですね」
シスターはエスラ自らの愛液を潤滑油に指を送り込む。

「や、やめろっ、浅ましい土人め! 貴様、そこが何の穴か解っているのかっ!!」
エスラが覇気に満ちた声で罵るも、シスターに変わりはない。
「ええ、勿論。浅ましいわたくしも、美しいあなたも、体のつくりは同じ。
 皆この穴から排泄をいたします。
 かのマリアであろうとも、この穴を弄くられ続けては老廃物を垂れ流さざるを得ないのです」
「シスターが聖母を侮辱するのか?」
「ええ。私は主にお仕えする身ではありますが、神などという確証なき存在を信奉してはおりません。
 我が主はこの密林の主(ヌシ)様だけですから」

シスターは会話を交わしながら、休むことなくエスラの尻穴を穿り続けた。
ぬちぬちという音が間断なく続き、やがて隙間無く窄まっていたエスラの後孔は、その指の形に拡がってゆく。
「んん……っ!!」
何十分かが経った頃ついに、ほんの僅かながら、エスラが鼻に掛かる嬌声を上げた。
「ふふ、聴こえましたよ。気高きラシェの戦士さま」
耳ざとくシスターが嗤う。
「気持ちがよろしかったんですね。当然です。お尻の孔は、立派な性器なんですから」
「……よ、世迷言を……ッ!!」
エスラが恥辱に塗れてシスターを睨みつけた直後、その顔が凍りつく。



シスターの手には蟲が蠢いていた。一目で鳥肌が立つ異形の蟲だ。
芋虫を巨大化させ、尾の部分を歪な瘤だらけにした醜悪な姿。
その表皮は得体の知れない粘液で濡れ光っている。
それが指責めで口を開いた肛門のそばに突きつけられているのだ。

「何を、する気だ…………?」
珍しくエスラの語気は震えていた。
武の手練でも、生理的な嫌悪は抑えきれない。
シスターは今までで一番の笑顔を見せた。
「あら。お尻が気持ちよくて、少し前の会話が頭から抜けてしまいましたか?
 あなたが仰った事ではないですか。お連れ様の代わりに、この子達を自分に使え、と。
 綺麗な形をしたこのお尻で、私の蟲達を迎え入れてくれるのでしょう?」

エスラに言い逃れる術は無い。
嫌だと言えば、スーヴァの小さな身体にこのおぞましい蟲が詰め込まれる事になる。
「くっ……! い、入れたければ好きにしろ!!」
エスラは顔を顰めながら言い放った。
しかし、それを聞いてシスターは不満げな顔になる。

「……え? それおかしいですね、別に私が入れたいと願った訳では無いはずですが」
冷たい声が投げつけられる。
エスラの瞳に焦りが浮かんだ。
このシスターの機嫌を損ねては、スーヴァに危機が及ぶ事になる。それを実感したからだ。

「で、では何と言えばいいんだ」
少し意気の弱まった言葉を返すエスラに、シスターが再び笑みを見せる。
「そうですね……。少々カチンと来ましたから、あなたの惨めな言葉が聞きたいです。
 “私のくっさいうんちを出す穴のなかに、可愛いお蟲様を下さいませ”。
 こう仰ってください」

シスターの要望に、エスラは硬直し、次に怒りを露わにした。
「ふざけるなっ! そのような言葉が吐けるか!!」
だが立場の違いは変わらない。
「……べつに無理にとは言いませんよ」
そう言ってシスターが立ち上がろうとするのを、エスラが呼び止める。

「ま、待て! ………………解った……い、言えば良いんだろう。
  …………わ、わたしの、……………………く、くっさい、うんちを出す、あなの、なかに…………」
「あらあら、まぁまぁ」
エスラの決死の宣言を、シスターは蔑みきった目で見守る。
女戦士の唇が強く噛み締められた。
「…………か、かわ、かわいい……おむしさまを、……く、ください……ませ……!!」
殺意さえ孕んだ視線でシスターを見ながら、恥辱の宣言を終えるエスラ。
それはシスターに満足をもたらすものだった。

「あははっ。ラシェの戦士さまにそこまで浅ましくお願いされては、仕方がありませんね」
シスターはそう言い、おぞましく蠢く虫をエスラの後孔に押し付けた。
エスラの尻に強張りが浮き出る。
「さぁ、お望みどおり、たっぷりとご堪能下さいませ」
シスターの指がぐぐうと蟲を押し込むと、その醜悪な生物はのた打ち回りながら穴への侵入を開始した。



「うあああぁぁっ!!」
エスラの唇から悲鳴が迸る。
「ふふ、うんうん。いい反応ですよ」
シスターはご満悦だ。
蟲は驚くべき勢いで直腸に潜り込む。
常に表皮から分泌している粘液がうまく潤滑油になっているようだ。

すらりと美しい脚の間に、醜悪な虫がイボを振りたくりながら侵入していく。
そのさまは異様だった。
「ぐうっ……!!」
エスラは眉根を寄せ、締まった腰をうねらせながらそれに耐える。
恐らくは想像を絶する忍耐のさ中にいることだろう。

数分の後、蟲は胴のすべてをエスラの腸内へ沈み込ませた。
エスラの菊輪は皺が伸びきり、星型に開いた穴から蠢く虫の尾を少しだけ覗かせている。
閉じないその穴が、限界以上の物を飲み込んでいる様をよく現していた。

「いい光景ですよ戦士さま。“可愛い蟲”を迎え入れたご気分はいかがです?」
シスターが問うも、エスラに答えるような余裕はない。
ただ目を見開き、異生物の蠢く下腹部を恐ろしげに見下ろすばかりだ。

「その子は、ヒトの排泄物を餌として好むんです。
 人間ほどいいもの食べて、滋養豊富な便を出す生き物っていませんから。
 モゾモゾ動き回って腸を刺激して、奥のほうに溜まった宿便まですっきり平らげてくれますよ。
 騎士さま、さっき指で広げた時も、結構あるみたいでしたからね。
 たっぷり便を溜めてるほど、こそぎ取られる気持ちよさは格別だそうです。よかったですねぇ」

シスターは嬉しそうにそう告げながら、苦悶するエスラの顔を覗きこむ。

「ぐ、くふっ!!」
エスラは歯を食いしばって恥辱に耐えた。
おぞましい。
芋虫のような寄生虫が、自らの腹の中にあるものを貪っているのが解る。
腸壁へ何度も何度も口が吸い付いてくるからだ。

蟲は腸壁の凹凸に沿って丹念に、丹念に啜り上げ、嘗め尽くし、奥へと進んでくる。
奥の窄まりに吸い付きながら足で糞をこそげ取り、粘ついた体で前後左右に暴れ回る。
その形は極太のペニスを思わせた。
極太で腸内を犯されているような状況の上、分泌する粘液はあろうことか便意を煽る。
単に蟲の蠢きが腸の蠕動を促すだけでなく、粘液自体にも浣腸液の効果があるらしい。



やがて下腹を巡りだす、生ぬるい腹痛。
ぐるるるぅ……という腹鳴りも聴こえ始めた。
「ぐ、ふんんん……!!!」
エスラはいよいよ眉を寄せて苦しみを示す。
どれほど誇り高かろうと、本能に根ざした便意に勝てる者などいない。

だが排便による開放は望めなかった。
たまらず腸を埋める異物、すなわち蟲をひり出そうとしても、入り口でコブを作ったように抜けない。
排出される事がわかった瞬間、この蟲はダンゴムシのように丸まって栓を作るのだ。
「んン、ぐぅううううっ・・・・・!!!!」
どれほど強く息もうとも、尻穴からわずかに尾の先が覗く程度。
それは極限の便意の中、痙攣する菊輪をも刺激する結果となって一気につらさを増してしまう。

極限の便意が腸内を暴れまわりながら、排泄する事の叶わない地獄。

「はっ、はぁっ、はっ……!!!」
やがて流石のエスラもひり出す事を諦め、肛門の力を緩める。
その瞬間、蟲は驚くべき速さで奥まりへずり上がった。
「ひっ!!」
エスラもこれには堪らず、腰を跳ね上げて反応してしまう。
力が抜けて弛緩した腸奥へ、今まで入ってこなかったような奥まりへと蟲が入り込む汚辱。
滑りをまとった身体を蠢かせ、ごりっごりっと内臓へねじり入ってくる。
今までの人生で味わった事のない未知の感覚だった。

「んん、んおおおぉぉっ!!!」

エスラが身も世も無く身悶え、咆哮したのも、仕方のない事だろう。
伸びやかな両の美脚がガクガクと震えている。

「あははっ、いい声ですよ、凄くいい。
 あなたのそんな声を聞いたのは、きっと私が初めてですね。
 せっかくですから、もっと凄い声もきかせて欲しいわ。
 あなたの大好きな可愛い蟲ちゃんは、まだまだ、まだまだ……いるんだから」

シスターはそう言って、籠の中から似たような芋虫を取り出す。
そしてそれをエスラの唇に宛がった。
エスラは恐怖に口を噤むが、シスターの恐ろしい笑みを見て当惑する。

 ( あんなおぞましいものを、口に……? )

しかしスーヴァの為だ。

「えあ゛……!」
エスラは尻穴の蹂躙を受けながら、自ら奥歯を覗かせるほどに口を開いた。
その口内に蠢く蟲が落としこまれる。
一見すると海老の踊り食い。しかしその実態はまるで違う。

寄生虫はエスラの口内に収まった途端、その動きを開始した。
虫は自ら動き回ってエスラに唾液を分泌させ、それを吸い取る。
甘いのか苦いのか、不思議な味が粘膜に染みた。

「喜んでる喜んでる。あなたのお口、とっても美味しいみたい。
 心配しなくても大丈夫、この子達は有害な菌なんて持ってませんから」

シスターは腸と口に蟲を咥えたエスラを見下ろし、さも可笑しそうに目を細める。
エスラはその笑い顔を、強い目力で睨み上げた。



口に入った蟲の動きは、まるでフェラチオのようだった。
「んっ、んむっ、ンッ……んふっ、……ん」
エスラは鼻で呼吸をしつつ、
前後に動く蟲をかろうじて舌で御する。
目線はまっすぐに前方を向き、砂漠の女戦士に相応しく凛としたままだ。
だがそうしていられるのも始めのうち。

やがて蟲は興奮し始めたのか、エスラの口の中で激しい動きを見せ始める。
喉奥へ尾の部分を擦り付けるようにし始めたのだ。
口戯に例えるなら、さながらイラマチオといった所か。

「ごおええええ゛!おごろええええ゛え゛!!!」

当然、エスラは生理現象からえづき上げる。
汚い声を発しながらすさまじい吐き気を覚え、喉が勝手に蠕動する。
やがて吐瀉物がこみ上げるが、それすら蟲に吸い尽くされた。

「ごえええ゛っ!!うごおおええええ゛え゛っっ!!!」
目を見開いて悶え、やがて凛とした目尻から涙が伝う。
そうしてさんざん喉奥を突かれた後、ついに蟲は射精を迎えた。
尾の先からどろどろしたものがあふれ出し、直接喉へ流し込まれる。
エスラはごぐん、ごぐんとそれを飲み下すしかない。

「美味しい? その子の精子よ。あなたの喉奥を種付けの場に決めたみたい」
シスターは絶望的な台詞を軽々と言い放つ。

「えはっ……!!あはっ…………!!」

ようやく蟲の尾が喉奥から引き抜かれ、呼吸を許されたエスラは白い液を吐き溢しながら空気を求めた。
胃に重みを感じるほど精液を飲んでしまった。
だがそれを認識した直後、さらにあり得ない事が起きる。

「な……なん、だ……? 頭がぼーっとする…………熱い…………」
エスラは呟き、そして気付いた。
体が発情しはじめているのだ。
頭がかあっと熱くなり、乳首に張りが感じられ、繁みの奥が湿ってくる。

「ふふ、とっても美味しかったようですね……その子の精液。
 蟲のフェロモンに当てられるなど、大したメスです」
シスターが嘲り笑った。
それと同調するかのように、再び蟲によるフェラチオが開始される。
「ん、、んんっ」
じゅぽじゅぽと唾液の音をさせながらフェラチオは続き、鼻から荒い息を吐きながら小休止。
そしてその後にイラマチオへ。
「おっ、おごっ、んごォえええええ゛っ!!!」
エスラは縛られた身で暴れつつ、幾度となく精液を嚥下させられた。


尻穴をこねくり回され、口と喉奥を延々と責められる。
これは流石にたまらない。
「えお゛っ、ああ、ああああう゛!!!!!」
エスラは不自由な呻きを上げながら、何度も身を跳ねさせた。


 ( もう、もうやめてくれ……!!
  おしり、喉奥……おしりっ、喉奥、また、おしりでっ……!!
  口の中をこんな虫風情に貪られて。
  排便の穴までも奥深くまでいいように使われて。
  こんなこと……女として……ラシャの、戦士として、
  これ以上ない屈辱だ…………!!)


エスラは心中で口惜しさを噛み締める。
反応するまい。けして反応するまい。そう思っても身体が言う事を聞かない。

頭の遥か上でツルに縛られた脚が、意思に反してびくんびくんっと震え上がった。


 (ああ……気持ち、良さそうだなぁ…………)


自らの脚の動きを、まるで他人事のように想う。
そして喉と腸奥の汚辱がその感情にリンクした時、エスラの背筋を快感の電流が突き抜けた。

「あ、ああああっ!!ふあああああぁんっっ!!!!」

口の中の蟲を押しのけるようにしながら、エスラが快感の叫びを上げた。
明らかな乱れよう。
その変化を静かに観察していたシスターは、そっとエスラの股座に屈みこんで花園を押し開いた。
「あらあら、戦士さま」
彼女はそう言って口端を吊り上げる。


「 …………どろどろじゃないですか。 」



                                  続く

アンケート〆切

お祝いの言葉を下さった方、またアンケートに参加して下さった方、
どうも有り難うございました。
とりあえず週末という事で、アンケートは一旦ここで締め切らせていただきます。

寄せられた案でアミダくじを作り、公平に選出した結果、

・アナル寄生蟲vs女戦士in熱帯ジャングル

これにまずお応えしたいと思います。加えて、同時にできそうな

・尿道責め
・女騎士がシスターからハードな拷問や性的な責めを受ける

も絡めてしまおうかと。

また、今回選ばれなかった案についても、すぐにとはいかないかもしれませんが、
なるべくお応えしていきたいと思っております。
これからも当サイトで

しこっていってね!!!

200000ヒット

今見たらカウンターが20万を超えていました。
実際には何回かカウンターの不具合で大幅に数値が下がってるのですが、ともかく嬉しい。
私の変態性に満ちた小説をこんなにも閲覧してくださり、有難うございます。


お礼としては何ですが、皆さんから何かネタを頂き、読み切りでも書いてみようかと思います。
リクエスト小説ってやつですね。
とはいえ、複数案が来ても全てに応えるのは難しいので、適当に気に入った1つ2つを、
となると思いますがご了承願います。

リクエストはこの記事のコメント、あるいは拍手コメントにてお願いします。
ネタの案はある程度抽象的な方が書きやすいです。 
(例:ニーソ女子高生が痴漢される小説希望)


よろしくお願いします(・ω<)

腹は災いの元なの4

『キックボクサー芦屋恭子、プロレスに電撃移籍!!』

その文面がスポーツ各誌を賑わせたのも、もう随分前に思える。
恭子がキック引退を表明した時は大騒ぎだった。
何しろ今の女子キック界で活躍している連中は、皆が恭子に憧れてキックを始めたのだから。
当然バッシングも激しかった。
恭子を逃すのが経済的損失になると嘆く集団から、浅ましい糾弾が続いた。
でもそれを食い止めてくれたのが、俺達の通っていたジムの会長だったんだ。

「……おめぇを街で叩きのめしたあの日から、もう随分と経つんだなぁ、恭子。
 荒い気性に似合わず律儀で、真面目で、あっという間にプロんなってよ。
 俺もキック界も、さんざ良い夢を見させてもらったもんだ。
 ……でもいい加減、俺達も子離れしなきゃいけねぇんだよな。
 ありがとよ、恭子。どこで何やるにしても、達者でなぁ……」

会長が恭子を抱きしめて告げた言葉は、今でも忘れる事はない。
だから俺達は迷わず進む。
宿敵・ラミア朝岡の属するプロレス団体『クルーエル・ビー』に飛び込む形で。



「悪いね、社長は今何かと忙しい時期でさ。代わりにあたしが話を聞かせてもらうよ」

クルーエル・ビーの事務所で俺達を出迎えたのは、思ってもみない美人だった。
俺達よりいくらか年上の、20代半ばか後半だろう。
輪郭のくっきりした芯の強そうな瞳。綺麗に笑いそうな唇。ポニーテールに纏めた黒髪。
十分にグラビアアイドルで通じる容姿だ。
よく見れば、そこらを歩いている女性よりは首周りが太く、肘から先も逞しい。
でもそれは決して“いかつく”は見えず、むしろ健康的な美人という賞賛が相応しかった。
そして妙な凄みがある。
恭子にもあるアスリート特有の凄みだが、この人のは年季が入っているだけにさらに凄い。

「このぉモヤシ、なぁに鼻の下伸ばしてんのよ!」
俺が彼女に見惚れていると、隣の恭子が肘打ちをかましてくる。
件の美人はそんな俺達を見てケラケラと笑った。



「ところで、あんたは一体誰なの?オーナーさん?」
恭子は笑いを受けた事と嫉妬から、多少の敵意を含んで女性に問いかける。
女性は笑みを湛えたまま首を振った。
「いやいや、選手の一人だよ。梅咲あおいってんだ。
 ただウチは新興の弱小団体だからね。あたしが社長の補佐やら新人育成やら、色々やってんのさ。
 あたし以外には、こなせそうなのが居ないからねぇ」
女性……あおいさんはそこでやれやれ、というポーズを取った。
姉御風の口調といい、その大仰な身振りといい、さばさばした性格である事が伝わってくる。
同じく竹を割ったような性格の恭子とはウマが合うんじゃないだろうか。

俺がそう思った時、ふいに恭子があおいさんに手を差し伸べた。
握手の形だ。
「なーるほど、世話になる先輩ってワケか。よろしくな」
恭子はそう言って笑みを浮かべる。しかし、俺はこのとき嫌な感じを覚えた。
目が笑っていない。
親睦を深める為の握手ではない、握力勝負を仕掛ける気だ。
かつてジムに喧嘩自慢の人間が入門してくるたび、恭子はこうして力関係を刷り込んできた。
でもそれをいきなり先輩にやるのはマズい。
俺が止めようとした時にはすでに遅く、あおいさんはその悪魔の手を取っていた。

恭子がぐぐっ、と掌を握りこむ。
「現役のプロレスラーと握手が出来るなんて、光栄だよ!」
恭子は笑みを浮かべ、さらに力を篭める。
あおいさんは一瞬驚きを示したが、しかし、すぐにそれは笑みに変わった。
「……おやおや、やめといた方がいいよぉ?」
そう言ってあおいさんも腕に力を篭める、その直後。
「い、いてててっ!!?」
恭子が叫びを上げた。そしてすぐに力を抜き、自ら握手を解く。

あの恭子が握力勝負で負けた。信じられない光景だ。
恭子の握力は俺より遥かに強い。
測っているのを見たのは随分前だが、その時でも70kgはあったはずだ。
その恭子が、極めて負けず嫌いであるにも拘らず、一瞬で敗北を認めたというのか。
でもその手を見ると納得がいく。
恭子の手の甲は、あおいさんの指の形に赤く陥没していたのだから。

「ああっ、大丈夫かい!?あんた思った以上に強いから、ちょいと加減を間違えちまったかね」
あおいさんが申し訳なさそうに頬を掻く。
しかし恭子はぐっと胸を張り、あおいさんに笑みを向けた。
先ほどの敵意ある笑みとは違う、相手を認めた時に見せる笑みだ。
「へへっ。平気、何ともないよ。……でも強いな。あおいさんって言ったっけ、あんた本物だ!」
恭子がそう言うと、あおいさんも口元を緩める。
「はは、ありがとう。こっちもあんたみたいなのが来てくれて嬉しいよ!」
がしっ、と2人のアスリートが、今度こそ本物の握手を交わした。
やっぱり似た者同士だ。

それからは話もトントン拍子に進み、恭子は無事クルーエル・ビーの練習生と相成った。
……ついでに俺も、彼女らの小間使いとして奔走させられる事になるのだった。



あおいさんは自分の事を一介のレスラーであるかのように語ったが、
やがてそれがとんでもない謙遜である事が解る。

梅咲あおい、人呼んで『臥龍小町』。
小町とは言わずもがな美人の代名詞で、臥龍とは龍が身を沈めている様だ。
普段のケラケラと笑う人懐こさとは一変し、試合では龍が如く荒れ狂う美人……というのがその異名の由来だという。
その戦い方はベビーフェイス(善玉)そのものだ。
電流や有刺鉄線を使ったハードコアレスリングにおいて、苦戦しながらも常に正攻法で勝つ様は何とも爽快な気分にさせられる。
そして強い。
実力的にも人気的にも頭一つ抜けた団体のエースだ。
なぜそんな彼女が、言い方は悪いがハードコアを売りとする野蛮な新興団体にいるのか、俺は不思議で仕方ない。
でもそれを訊ねたところで、あおいさんは教えてやんないよ、とはぐらかす。

ともあれ彼女は一流のレスラーだ。
そして同時に、指導教官としても半端ではなかった。

「ほら、休むんじゃないよ!!その程度でガタついてて、お客を魅せる事なんて出来るもんか!
 いいかい、お客がけっして安くないチケット買ってまで見たいのはね、“非日常”なんだよ。
 凄いやつと凄いやつの、考えられないような大技の応酬、それなんだ。
 今のあんた達じゃ、まるでその凄みを演出できやしない!!もっと気ィ入れなッ!!」

あおいさんの竹刀が床を打つ。
倉庫を改造した新人用の練習場では、恭子ほか数人がヒンズースクワットを繰り返していた。
狭い密室に女の熱気が立ち込める。
目標回数実に800回。
恭子達の足元には鉄のトレーが置かれていて、それを汗が満たすまでスクワットを繰り返すわけだ。

「ふうっ、ふっ……ふひぃ、んうッ……!!!」
恭子はランニングシャツをぴったりと肌に貼り付け、顔を茹だるように赤らめている。
つい先日まで女子キック界の頂点であった恭子が、だ。
当然、他の練習生はつらいどころではなく、顔面蒼白、意識があるのかも解らない様子だった。
もし本当に失神し倒れるようであれば俺が介護をすることになる。
ただし、あおいさんの許可が出れば。

普段のあっけらかんとした様が嘘のように厳しいあおいさんは、恭子達の練習を仁王立ちで見守る。
そして本当の限界ゆえでなく甘えからダウンする練習生には、耳をつんざく叱咤激励を浴びせた。
当然、練習はスクワットだけじゃない。
縄跳び、うさぎ跳び、腹に人を乗せてのブリッジ……。
スパルタという言葉さえ生ぬるく感じる地獄の特訓に、一人また一人、練習生が脱走していく。



スパーリングも毎日呆れるほどに繰り返された。
曰く、『プロレスの素人が一番致命的なのは、振り回される耐性がないこと』らしい。
これを鍛えるにはやられまくるしかない。
つまり、投げに強くなるには投げられ続け、バランス感覚を鍛えるには振り回され続けることだ。
当然恭子もバカスカやられまくった。
恭子はやはり元キック王者ゆえか、練習生の中でも特に期待を寄せられ、扱かれている。

「う、うわあぁぁ!!!」
マットに叩きつけられた恭子が今、その足首を掴まれ、ジャイアントスイングで投げ飛ばされた。
「あぐっ……」
強かにリングポストに叩きつけられ、さしもの恭子もふらつく。
「ほらどうしたんだい。棒立ちになってるよ、芦屋恭子っ!!」
あおいさんはその恭子へ向けて猛然と駆けた。
風を切るようなダッシュは、鋭い踏み込みと共にジャンプに変わり、そのまま両足を揃えて腹部へと突き刺さる。
ドロップキックというやつだ。
特に“臥龍小町”のそれは、ほとんど交通事故のようなもの。

「……げごぉはっ…………!!!」
恭子の目が見開かれた。
堅い腹筋へ深々と刺さったシューズが引き抜かれ、桜色の唇が蠢く。
「っう、う゛う゛ッ!!!」
力なく内股に倒れこみ、口を押さえる恭子。
それとほぼ同時に、その掌から吐瀉物が溢れ出す。げぼっ、げぼっと背筋の震えに合わせて。

「お、おい、大丈夫かよ恭子!?」
俺は思わず心配になって声を掛ける。
恭子はひとしきり喉元のものを吐き出した後、吐瀉物をさり気なく隠しながらはにかみを見せた。
「うぇええ゛……き、きっつい……。余裕だ、って強がって見せたいとこだけどさ、
 ちょっと休まないと無理そう……だなぁ。」
恭子は真っ青な顔でそう語る。
おどけて見えるが、その心中は口惜しさで一杯だろう。恭子はそういう奴だ。
あおいさんは屈辱に塗れる恭子を見下ろし、ほんの一瞬、嬉しそうな目をする。

「……よぉく覚えときな恭子、それがプロレスラーの蹴りだ。
 あんたが今目指そうとしてる世界は、それを雨あられのようにぶつけ合うんだよ。
 レスラーを目指すなら、まずはそれに耐えられる身体を作る事だね」
あおいさんはそう言い残してリングを降りた。
その背中は女性的でありながらも力強く、分厚い。
実際、彼女の練習に付き合うと、モヤシな俺など簡単にぶっ飛ばされる。
女は男が守るべきか弱いもの。そんな世間の常識は、この世界では笑い話にさえならない。

そして、女性がか弱いという説を覆す“規格外”は他にもいる。
そいつを初めて目にしたとき、俺も恭子も、まさしく開いた口が塞がらなかった。



「恭子ちゃんも遠慮せんと、ぎょうさん食べや。もっと首太ぅせな死んでまうでー」
大鍋のちゃんこ鍋を掻き回し、茶碗へ山のように装いながら女が言う。
身長213cm、体重136kg。
並みの女性なら、手を真っ直ぐ上に伸ばしてようやく髪に触れられるか、というデカさだ。
「お、おう……」
恭子は茶碗を受け取りながら、相手の掌の大きさに毎度のごとく息を呑む。
手首までをすっぽり覆うその掌には、とても力で対抗できそうにない。

この怪獣のような女は『浅黄ルミ』。練習生の一人で、年も俺や恭子とタメだ。
ちゃんこ番でもあり、これまた中々にうまい鍋を作る。
今日のは寄せ鍋風で、鶏ダンゴや豚の肩肉、牛蒡、人参などが彩りも豊かに煮立ち、渾然一体とした旨味をダシに溶け出させていた。
「ううーん、今日のもええダシ出てるわぁ」
ルミは俺達が食べている物とは別の大鍋を一人で貪る。少なく見積もっても10kgはある量だ。
改めてプロレスラーという人種は異常だと感じさせられる。

「……そういや、あおいの姐さんはどこ行ったんだろ?」
旨そうに食を進めていた恭子が、ふと顔を上げた。
確かに食事時だというのに、練習後から姿を見かけない。
「ちょっと探してくるわ」
俺は椀を置いて席を立った。
あの人に限って暴漢に襲われたりは無いと思うが、気にはなる。
「うん、お願い。……ただモヤシくん、隠れて浮気したらラリアット喰らわすかんね」
恭子が箸を咥えながら俺を見上げた。
俺はその発言と行儀の悪さに小突きを入れつつ、倉庫を後にする。





外には薄ら寒い風が吹いていた。
季節はもう初春だが、日が暮れるとまだまだ寒い。
肩を抱きながら辺りを見渡すと、少し離れた事務所に灯りが点いているのが見えた。
あおいさん、デスクワークでもしているのか。
そう思って扉に近づいた瞬間、突然中から大きな声が響いた。

「そんな、無茶です!まだ素人も同然なんですよ、あの子を壊す気ですか!?」

あおいさんだ。いつもハキハキと喋る人だが、今は特に興奮気味に聴こえる。
そしてそれへ答えるように、別の声が続いた。

「何をそう不安がるんだ。仮にも一格闘技の頂点に登り詰めた器なんだろう?
 だったら並の扱いをする必要はない。こちらも新世代の大器として迎えさせてもらう。
 だがもし“あれ”の相手にならないようなら、そこまで……という事さ」

落ち着いた声だ。男のようでも、女のようでもあり、中性的な印象を受ける。
あのあおいさんが敬語を使っているという事は、その声の主がクルーエル・ビーの社長だろうか。

「……お話は解りました。失礼しますっ!」
あおいさんは怒りを込めてそう吐き捨て、足早にこちらに向かってくる。まずい。
立ち聞きを恥じる俺が隠れるのは間に合わず、勢いよく扉が開いた。
視線がかち合う。
「…………哲くん?」
「あ、えっと。す、すみません……」
気まずい沈黙の後、あおいさんは後ろ手に扉を閉めて歩き出す。
仕方なく俺もその後を追った。



ガコンッと音がして、自販機からコーヒーが2つ吐き出される。
その一つを俺に渡しつつ、あおいさんは石段に腰掛けた。
「……あたしを探しに来てくれたのかい?心配かけちまったね」
暗いトーンでそう語るあおいさんは、明らかに普段と違う。

「何の話してたのか、聞いてもいいですか?」
俺はあえてそこに踏み込んだ。
間違いなくあおいさんの落胆の原因であり、地雷でもある場所。
あおいさんは無言になり、じっと俺を見つめてきた。
やはり不味かったか。俺がそう思って別の話題を探しはじめた時、言葉が返される。
「……哲くんは、あの子の大事な人だもんね。無関係でもない、か。」
意味深な言葉の後、あおいさんは視線を手元に移した。
そして衝撃の事実が語られる。

「恭子のプロテストの日程が決まったんだ。
 そりゃあ当然だよ。あたしから見ても、あの子の格闘センスはずば抜けてる。
 ルックスもいいし華もあるし、いいレスラーになるのは間違いないさ。
 でもその初戦の相手が……よりによってあの、浅黄ルミなんだよ!!」

あおいさんの手がコーヒー缶をひしゃげさせる。
激しい怒りが見て取れた。その反応を認めた上で、俺は彼女の話を反芻する。
恭子の相手が、浅黄ルミ。
あの圧倒的な巨体と、プロとしてまだ試合をした事もない恭子がぶつかる……?

無茶だ。
まだプロレス技術のない恭子は、純粋に己の身体能力のみで挑まなければならない。
その点はやはり練習生であるルミも同じだろう。
だが身体能力で競うとなった時、あまりにも体格に差がありすぎる。
身長が50cm以上も高く、体重も軽く倍以上ある相手とどうやりあえるというのか。

「ルミもいい加減プロにしていい頃だ。その時期を計ってもいたさ。
 でも、わざわざ恭子とぶつけるだなんて。
 それもただ戦うってだけじゃない。勝たなきゃいけないんだ。
 勝った一方だけがプロになれる、二者択一……。
 結果なんてハナから決まってる。まるであの子を潰すための見世物じゃないか。
 あたしには、社長の考えが解らないよ!!」

あおいさんはぐしゃっとコーヒー缶を握り潰した。
口惜しそうに唇を震わせている。この人は、本当に恭子の事を考えてくれているんだ。
俺がそう思ったとき、背後からかすかに草の鳴る音がした。
俺とあおいさんが同時に振り返る。
石段上の草むらに立っていたのは、顔を強張らせた、恭子だった。



あおいさんが驚きに目を見開く。
「恭子……!!」
話を聞いていたのか、と問うまでもなく、その顔を見れば明らかだ。
「……あいつと……やるんだね、プロテスト」
恭子は握り拳を作りながら声を絞り出した。

元番長のこいつの事だ。ルミもいつか倒すべき相手と考えていたに違いない。
それでもまさか、いきなりデビュー戦でぶつかるとは思わなかったろう。
絶望的な体格差。とてつもなく怖いはずだ。
「恭子、やめろ。こんなの無茶苦茶だ!」
俺は恭子に訴える。こいつの実力を侮るわけじゃない。評価している。
それでもなお、今ルミとやりあうのは無謀に過ぎた。

いつもヘラヘラしているルミだが、その力は見た目通り半端じゃない。
体当たりでサンドバックを天井に叩きつけ、スパーリングでは人間を軽々と放り投げる。
ビンタ一発で頬が外れ、病院へ担ぎ込まれた子もいる。
ルミがいつまでも練習生なのは、プロにすると試合相手を次々と壊すからでは、との噂もあった。
傍で練習していた恭子はそれを熟知しているはずだ。

「恭子、今の話は忘れな。後であたしがまた社長と話をつけるよ。こんなバカな話……」
あおいさんも恭子に呼びかける。しかしそれを遮るように恭子が口を開いた。
「……やるよ、私」
「恭子!?」
俺とあおいさんが同時に声を上げる。
「どうせいつかはやらなきゃいけないんだしさ。だったら早いうち白黒つけといた方がいいよ」
「でも恭子、相手はあの体格だぞ!?やるにしてももっと技術を……!!」
俺が必死に訴えるのを、恭子は手を翳して制する。
その顔に俺は言葉を失くした。まるで死地に赴く侍だ。

「……解ってるよ、モヤシくん。解ってる。でもさ、これぐらいの逆境は跳ね除けないと。
 甘いデビュー戦して、ヌルい戦いを続けてちゃ、ココに飛び込んだ意味がない。
 そんな事じゃ一生ラミアには追いつけない。……そう、思うんだ」

俺は喉を鳴らす。
そうだ。こいつはラミア相手に雪辱を晴らす為、栄誉あるベルトを捨ててまでプロレスに来たんだ。
本人がやると決めた以上、もう外野の俺が口を挟むべきじゃない。
ただ万全のサポートで、こいつを支援するだけだ。
「……腹は据えてるみたいだね。なら、明日からさらに厳しくするよ、恭子っ!」
あおいさんも手を打ち鳴らしてそう言ってくれる。
恭子は強く頷いた。


そして月日は流れ、2か月後。ついに運命の日がやってくる。
恭子とルミ、どちらか一方だけがプロへ進むことを許される狭き門。
ルミには限りなく大きく、恭子には針の穴ほどに小さく開かれた関門だ。

「……行ってくるよ、モヤシくん。」
恭子はいつも通りの笑顔で控え室を後にした。
でも見送る俺には、その押し殺した震えが痛いほどに伝わってくる。
無事に帰れよ、恭子。
俺は心の奥で切にそう願った。




あの芦屋恭子のプロレスデビュー戦とあって、狭い市立体育館には超満員の客が詰め掛けていた。
ラミア朝岡に負けたとはいえ、まだまだ恭子の人気は絶大だと実感する。
と同時に、その中で醜態を晒した時の反響の大きさもまた、容易に想像がついた。

「恭子ぉ、やっちまえーー!!」
大声援に迎えられ、芦屋恭子が会場に姿を現す。
そのシルエットは瑞々しい限りだ。
激しい特訓で肉体改造されたにもかかわらず、アイドル級のルックスは衰えない。
むしろ以前にもまして垢抜けたように見える。
長かった黒髪は今はミディアムヘアになっているが、それがまたスポーティで実に似合った。

リングコスチュームは黒と赤を基調としたビキニタイプだ。
上は首の半ばほどから下乳までを覆い、中央に開いた菱形の穴から谷間が覗く。
下は大きなベルトの特徴的なホットパンツ型となっている。
そのまま真夏のビーチを歩いてもさほど違和感はないだろう。
私服同様に鍛えぬいた腹筋と脚線をこれでもかと見せ付けるスタイル。

それを良いと感じるのは俺だけではないらしく、あちこちで男女問わぬ黄色い歓声が上がっていた。
「ああ、煩い煩い……」
どこからか歩いてきたラミアが、コーラ片手に俺の隣に座る。
「おい、なんでソコに座んだよ?」
じとっと俺が非難の目を向けるが、ラミアは可笑しそうに目を細めるだけだ。
「いいでしょ、ここが一番面白く観戦できそうな場所なんだから」
そんな事を漏らす。ブロンドの美人には違いないが、やはりこいつは得体が知れない。

恭子一色の応援ムードの中、続いてルミが入場する。
花道の始まりにそのシルエットが浮かんだ時、場の空気は一変した。
「お……おい、あれが相手か……!?」
「で、でけぇ…………!!」
ずしっ、ずしっと会場に音を響かせながらルミが歩く。
プレッシャーなど微塵も感じさせない満面の笑顔に、軽い足取り。しかしそれが重いという矛盾。

リングに並び立った時、その大きさはよりリアルな現実となった。
160cm55kgの恭子と、213cm136㎏の浅黄ルミ。
その筋力の差は大人と子供……であれば良いが、ともすると大人と幼児に等しいかもしれない。
観客とは正直なものだ。
始まってもいないうちから、恭子への応援がまばらになっている。

「恭子もルミも、頑張るんだよ!魅せる事を意識しつつ、練習した分を出し切んな!!」
レフェリーであるあおいさんが2人の背中へ喝を入れる。
「お、臥龍小町じゃん。相変わらず別嬪だなぁ」
「2人ともあの梅咲の指導受けてたらしいから、相当タフだろうな」
今日の主役でないにも拘らず、彼女への声援も漏れ聞こえるのが流石というところか。

「言っとくけど、手加減なんてしねぇぞ?」
恭子は肩を鳴らしながらルミを挑発する。
首をほぼ真上に向けなければ目が合わない体格差だ。
それを悠々と見下ろし、ルミが笑う。
「それ言うんはこっちとちゃうん?ウチもそろそろプロんなりたいさかい、負けたげへんで」
ルミも本気だ。
ラミアへ向けて一直線に駆け上がろうとする恭子、プロへのお預けを喰っているルミ。
互いに譲れない立場にある以上、これから始まるのは正真正銘のガチンコだ。
願わくば、それが一方的な虐殺でなければいいが。俺はガラにもなく天に祈る。
無慈悲なゴングが打ち鳴らされたのは、その直後だ。





「うらぁ!!」
開始直後、恭子は勢いよく踏み込んでナックルを繰り出す。
ナックルというより喧嘩パンチというべきか。
ボクシングの突きに比べれば無駄のある動きだが、それが恐ろしく早く、強い。
普通の相手なら一発で卒倒する事間違いなしだ。
しかし、ルミのボディへまともに入ったそれは、ぶっ飛ばすどころか柔らかに沈み込むだけだった。
「っ!?」
恭子はたたらを踏んで後退する。一方のルミは腹を撫でながら唇を吊り上げた。

「何やのん今の?蚊でも止まったんやろか」
それは強がりではなく、おそらく事実だ。
ルミは全体として筋肉質ではあるが、腹と内腿だけは少々ぽっちゃりとしている。
筋肉と脂肪が幾層にも重なった腹部は、生半可なダメージなど容易く吸収してしまうのだろう。
「へぇ、面白いじゃんっ!」
恭子はタンタンとステップを刻み、今度は高速の前蹴りを繰り出す。
キックの試合であれが出た途端、戦局がひっくり返る必殺の前蹴りだ。
あれが出た後はいつも、相手の体がくの字に折れ、壮絶なえづき声が続くもの。
だが、やはりルミには効かない。

「……あかんなぁ。恭子ちゃん全然あかんて。キック言うんはな、こういうもんや、でっ!!!」
ルミが象のような足を振り上げる。意外なほどに俊敏だ。
返礼の前蹴りに、恭子はガードしつつも弾き飛ばされてしまう。
コーナーポストが大きな音を立てて揺れた。
「恭子っ!!」
俺が叫ぶのとほぼ同時に、観客からも驚きの声が上がる。
「あらあら、同じ技なのに性能が段違いねぇ」
ラミアの奴だけは実に愉しげだ。

「う……」
コーナーに叩きつけられた恭子へ、さらにルミが迫る。
ズシンズシンと恐竜のようにリングを揺らし、恭子へショルダータックルを見舞った。
「ぐっ……!?ぎ、あぁあッ……あ゛ッ……!!?」
恭子が腹を押し潰され、ほとんど声にならない呻きを上げる。
恭子はしっかりガードを固めていたのに、それを簡単に弾き飛ばしたのだ。
コーナーポストが物凄い音で軋み、くの字に曲がった恭子の体がめり込んでいく。

「ほらほら、どないしたん!?」
痛烈なショルダータックルは一発では終わらない。
ルミはさらに回転しながら、左右の肩で断続的に恭子の腹を痛めつける。
まるで竜巻だ。
「お゛え!んごぉええ゛ぶっ!けぉ……をぼぉええ゛え゛っっ!!!!!」
恭子はポストに埋まりながら、ルミの肘辺りを手で掴んで何とか止めようとする。
しかしそれをあっけなく振り払われ、またコーナーへ釘付けに。
むちりとした脚が為す術もなく宙を蹴った。
あれも驚異的な剛さを湛える脚だというのに、今は風に煽られる枯れ木のようだ。

「ルミはやっぱり流石ねぇ。関節とか打撃とか、そういう小細工が一切必要ない。
 無類無敵の肉体そのものが武器……プロレスラーの理想系だわ」
ラミアが目を細めて言う。
耳に痛い言葉だ。俺もまさに今、いや試合の始まる前から、身に染みていた事実だから。


何度も繰り返されるショルダータックルの末、やがてあまりの勢いにロープの間から恭子の身体が弾き出された。
場外へ力なく倒れこむ恭子。
「う……ぅう、……う……!!」
かすかな呻き声と顰められる眉から、やっと息があるのが解る程度だ。
「きゃああっ、恭子さぁん!!!」
ファンからの悲鳴が上がる。それはそうだ、と思っていた俺は、続く言葉に耳を疑う。
「恭子さんッ、立って!上っ、上えっ!!!」
声はそう言っていた。
見上げると、ルミがトップロープを跨ぐ形でコーナーに上っている。

「 ほな、いくでぇー! 」

ルミは声も高らかにアピールした。
視線は仰向けの恭子に固定したまま。そしてこれはプロレス……。
怖気が走る。
「やめろルミッ!!それはやめろおっっ!!!!」
俺は絶叫していた。その声に、僅かに恭子が顔を上げた瞬間、ルミの身体はコーナーを離れた。

プランチャ・スイシーダ。
ルチャリブレ発祥の跳び技の一つで、意味合いとしては飛び降り自殺、というのに近い。
場外にいる相手へ腹から覆い被さるようにぶつかる技。
だがルミがこれをやれば、それはぶつかる、では済まず『押し潰す』に表現が変わる。
その威力たるや。

「げごぉおおお゛お゛ぉ゛っっ!!!!!!!!」
恭子は蛙のような声をあげ、一瞬で嘔吐した。
吐瀉物は倒れた恭子の上方へ放射状に撒き散らされる。
「は、吐いたっ!!」
「きゃああっ、恭子さあァんんッ!!!!!」
途端に沸き起こる阿鼻叫喚。
その惨状は、恭子のルックスを目当てに来た人間には直視しがたいものだろう。
だが一人として帰る者はいなかった。
「うーん、迫力満点ね」
ラミアの零す言葉に今は賛同したい。
とんでもない状況ながら、そこには他の格闘技では滅多に味わえない凄みがある。
これがプロレス。ただその代償で恭子が潰れるのは御免だ。

「ワーン!」
床を叩きながら、あおいさんのカウントが響き渡る。
ルミはその巨体で恭子に覆い被さっていた。
ほとんど恭子の手足が覗かない、あれでは脱出も困難だろう。何とも反則的なフォールだ。
「ツーーゥ!!」
あおいさんの手が今一度床を叩き鳴らす。
かなりゆっくりとしたカウント。あおいさんの目も必死だ。
立って欲しいのか、とりあえず無事を祈っているのか。
恭子の性格を知る彼女もまた、試合を止めるべきか否かのギリギリの所だろう。
「ス……」
あおいさんがスリーカウントの手を振り上げた、その時。
「 う、ぁあああああああ゛っ!!!!!! 」
怒号が響き渡った。そしてルミの身体が反転するように跳ね除けられる。
「おおおおぉっ!!!!?」
観客の声は驚きの一色だ。俺も思わず手を握った。

「……こんな……あっさり…………負けらんないっっ!!」
恭子が口を拭いながら立ち上がる。
コスチュームから覗く手足にくっきりと床の模様を残したまま。
ルミがスリーカウントを確信して気を抜いていたのか、あるいは恭子の根性か。
いずれにせよ戦いの場はリングに戻され、再度開戦と相成った。



「頑張るなぁ恭子ちゃん。あのまま寝といてくれたらええのに」
ルミが足首を回しながら言った。
恭子は腹に手を当てたまま、何度か大きく深呼吸をする。
体調を整えているのだろう。ルミが余裕綽々で待ってくれているのがせめてもの救いだ。
そして、ルミのその余裕は命取りになる。

「はっ!!」
恭子は鋭く息を吐き、走り出した。向かう先はルミとはまるで別方向のコーナーだ。
走る勢いそのままにロープを駆け上がり、コーナーに登り詰める。
「あれぇ、怖なってそんなトコ逃げてまうのん?」
ルミはいよいよ余裕を見せてそのコーナーへ近づいた。
すると恭子が動きを見せる。
素早くコーナーを蹴り、ロープの上を跳ぶように走って、たちまちルミの背後にあたるポストへ。
「!」
ルミは流石に驚きを示し、振り返る。その時にはまた恭子は別のロープを伝っている。
「おおすげぇ!!サーカスみてぇだ!!!」
客から拍手喝采が沸き起こった。確かに派手で解りやすいパフォーマンスだ。
「へぇ……まるで初代タイガーマスクみたいね」
俺の隣でラミアが呟いた。

「むーっ。ちょこまかして……!!」
ルミがあちこち向き直りながら不満を口にし始めた頃、ついに恭子が攻撃に転じた。
「は……あぁっ!!!」
ひらりとロープから跳び上がり、身体全体を弓なりに仰け反らせる。
そしてその溜めを十二分に活かし、ルミの側頭部へ鋭い蹴りを放つ。
『延髄斬り』だ。
超高打点から繰り出されるそれならば、ルミの頭でも問題なく捉えられる。
ましてや当たるのは恭子の脛だ。
金属バットのように鍛え上げられたキック王者・恭子の脚。
この俺が世界一の保証をもって明言する。あれは、断じて半端ではない。

バシィンッという打撃音が、大袈裟でなく会場中に響いた。
巨大なルミの上半身がぐらりと揺れたのが見える。
力を振り絞った恭子は尻餅をつきながら、ルミの様子を窺った。
観客も声を殺して反応に見入る。
一度大きく揺らいだルミは、重心を中央に戻して棒立ちになっていた。そして、にやっと笑う。
「へ、へへん……」
場に緊張が走った。
しかし、それは虚勢だ。すぐにルミは額を押さえ、崩れ落ちるように片膝をついた。

「……だ、ダウンだ!!あの化けモンが膝ついてやがるぞっ!!!」
「す、すげぇ!!さっきのプランチャもえげつなかったが、あの可愛い方も何気にやばいぜ!!
 こいつら本当に練習生かよ!?」
派手に派手を重ねたパフォーマンスで、歓声が一気に沸き上がる。
この歓声は恭子1人に向けたものではないだろう。
先ほどのルミも含めた、2人のぶつかり合いに対する評価だ。
これがあおいさんの言う、“魅せる”ということか。



「ルミ、やれるかい!?」
あおいさんがルミの目を覗き込んで言う。ルミは俯いたままだ。
だが何かを呟いたのだろうか、あおいさんが耳を寄せる仕草をする。その直後。
「どきぃッ!!」
ルミが豪腕を一振りし、あおいさんを打ち払う。
呆気に取られて数歩後退するあおいさんの前で、ゆらり、とルミが立ち上がる。
ヒグマのような迫力だ。

「……やってくれるやんけ、恭子。地に膝ァついたんは、これが初めてや。
 えっらい効いたわ。…………加減は、もう一切いらんようやなぁ!!!」

ドスの効いたその声がルミのものだと理解するには、しばしの時間を要した。
そしてその時間の間に、ルミは恭子に向けて走り出す。
背を丸め、前傾姿勢になっての突進。
だが恭子はそれに臆さない。同じく怒りに燃えた目つきで迎え撃つ。
その辺りの喧嘩根性はさすがに元番長だ。
だがいくら気が猛々しくとも、体格で遥か勝る相手には敵わない。

「うらぁ!!」
恭子の蹴りがルミの軸足を打つより前に、ルミの丸太のような腕は整った顔を打ち抜いていた。
またしてもコーナーに叩きつけられる恭子。
「あがっ……!!」
鼻から血を噴き出しながらよろめく恭子の前に、ルミが驚くべき速さで迫る。
「ハァッ!!」
ルミは強い踏み込みでルミの腹にナックルを見舞う。
「ぐおおぅ!」
呻きと共にリングポストが揺れた。
さらにルミは拳で恭子を磔にしたまま、その拳をグリグリと捻り込む。
恭子の目が見開かれた。


「どないしてん。イヤなら、自分で外してみぃや?」
ルミは拳で恭子の腹を押し込みながら挑発する。
「ぐ……ごの゛……ぉ゛……!!!」
恭子は太い腕を抱えこむようにして抵抗するが、まったく外す事が叶わない。
やがて、その喉元が蠢き、頬が膨らみ始めた。

「う、おええ゛ぇ……っ!!んお゛っ、……げっ、おっ……!!
 …………んんゲボッ、ゲボォォ……ッッ!!!!」

恭子の臓腑が限界を迎えたのだろう。桜色の唇からゲボゲボと吐瀉物が吐き出される。


「がはっ、……かは……っ!!」
ようやく磔から解放された恭子は崩れ落ち、腹を抱えたまま悶絶する。
痛々しい様だが、それでもルミの怒りは収まらないらしい。
「いつまでそうしとんねや!」
ルミは恭子の髪を掴んで立たせ、再びコーナーに押し込んだ。
そしてコーナー脇のトップロープを掴みながら、膝、膝、膝……。
恭子は必死に腹を庇うが、たちまちその庇う手に赤い斑点ができ、防御を為さなくなってしまう。
「けはっ……!うあ、はっ……!!」
恭子は必死に目を閉じながら耐えていた。
前にも見た光景。路地裏で大柄の黒人に腹を殴り続けられ、泣いてしまった時と同じだ。
だがあれは喧嘩だった。これはプロレスじゃないのか。

「……プロレスってのはね、ルールのある喧嘩なのよ。反則だって出来るならして当然。
 特にうちはガチンコのハードコアを売りにしてる以上、反則規則だって緩いものよ」
ラミアは冷たくそう言い放つ。
確かに、こいつが恭子にした事だって、格闘技とはまるで言えない仕打ちだった。
やはりあらゆる意味で異常なんだ、プロレスという世界は。

腹を徹底的に痛めつけられた恭子は、ボロ雑巾のようになって崩れ落ちる。
薄っすらと割れた腹筋は赤紫に腫れあがり、何とも痛々しい。
足元に絡み付く吐瀉物も目を背けたくなるほどだ。
でもよく見れば、恭子の目は死んでいない。すでに勝ちを確信して腕を振り上げるルミを睨みあげている。
隣に座るラミアの肩が小さく震えるのが見えた。
恭子は立ち上がる。体中が細かに震えていて、明らかに限界を感じさせるというのに。

「まだやるん?恭子ちゃんって案外マゾなんやね」
ルミがゆっくりと振り返る。恭子は姿勢を低くしてその脇を走り抜けた。
コーナーに詰まった状況を逃れたわけだ。
「ぐうっ……!!」
やはりダメージが大きいのか、恭子は千鳥足で走り抜けた後に腹這いに倒れこんでしまう。
「あはは、無理せんとき」
ルミが嘲笑った。その中で、恭子は今一度立ち上がる。

会場の声がいつしか控えめなものになっていた。恭子に異様な何かを感じているのだろう。
レフェリーのあおいさんもリング中央で難しい顔だ。
俺も恭子に異様さを感じるのは同じ。
ただ、付き合いが長い分だろうか。その異様さの中に、俺はある種の安心感を感じてもいる。
あの状態の恭子はただでは終わらない。
勝てるというのはあまりに楽観的に過ぎるけれども、一矢報いることはする。
だから俺は無理するなとは言わない。
あと一発か、二発でもいい。無理をしてこい、恭子。

「いけええええぇっ!!!」

俺はリングに向けてあらん限りの声を振り絞った。
観客の視線がこちらに向かうのを感じるが、それも構わない。
その声は、必ず恭子に届くのだから。



恭子は泰然と構えるルミに向けて駆けた。
猛然と迫る勢いをそのままに、強くマットを踏み鳴らして跳躍する。
その容赦のないドロップキックは、まともにルミの腹部へ。
「ぐ、ううっ!?」
ルミの顔色が明らかに変わった。
腹の肉が波打ち、明らかな衝撃を物語る。巨体が僅かに宙に浮き、そして尻餅をついた。
「おおおおっ!!!!」
大歓声が起こる。それほどに2mを超えの身体が倒される様にはインパクトがあった。
まるで交通事故にあったかのようだ。
「ぐ……い、いったいぃっ……!!!」
ルミが腹を押さえて悶絶する。予想以上に効いているらしい。

「……い、今のって……!?」
ラミアが妙な声を上げた。目を丸くして恭子とあおいさんを見比べている。
「何だよ、ただのドロップキックだろ?」
俺が問うと、ラミアはバカにしたような目を向けた。
「ただの、じゃないわ。あれは……」
ラミアが言葉を紡ぐ中で、恭子が再び助走に入った。
尻から着地するドロップキックを放ちつつ、ルミが立ち上がりきらぬうちに体勢を整える。
恭子の小回りが利く身体とバネあればこその早業だ。

恭子は再び高く跳躍し、ルミの腹へと蹴りを叩き込む。
「が、ああっ!!」
ルミは目を固く瞑って苦悶しながら倒れ込んだ。
巨体を吹っ飛ばすその威力は、まさに交通事故。そう、交通事故のようなドロップキック。
「あ、まさか……!!」
俺はその時にようやく気付いた。

「そう。あれはまさしく、『臥龍小町』 梅咲あおいのドロップキックそのものよ。
 高い跳躍、インパクトの瞬間に膝下を伸ばして、下から突き上げるように蹴り抜くスタイル、
 交通事故を起こしたような威力、相手の体勢が整う前に2発目を浴びせる反復の速さ。
 ……でも……ここまで再現できるなんて…………!?」
ラミアが手を握りしめた。
俺はリングに視線を戻す。

「があ、ああ゛ぁ゛っ!!!」
今何度目かの『交通事故』で、ルミの巨体がコーナーに叩きつけられた。
先ほどまで汗だけだった顔に苦しげな涎が見える。
明らかにルミも追い詰められていた。
あおいさんも意味深な表情だ。
彼女はこの対戦が決まった日から、忙しい合間を縫って必死に恭子を鍛えてくれた。
恭子が逆転した喜びはともすれば俺にも勝るかもしれない。
もちろん、情に篤い彼女は同じくルミの心配もしているだろうが。



「はぁ、はぁっ……!!」
「ぜっ、ぜはっ……!!!」
恭子とルミは、共に苦しげな表情で立ち上がる。
両者とも腹筋に洒落にならないダメージを抱えている。
赤黒く鬱血した顔からは、すでに満足に酸素を補給できていない事が窺えた。
2人は対峙したまま目で語り合っている。
敵対視か、認め合っているのか。それは解らないが、少なくとも相手への関心は薄くない。

「いけーっ、恭子!!畳み掛けろ!!!」
「でっけぇの、ぶちかましてやれ!!パワー見せろパワー!!!!」

歓声が2人を囲む。
その中で、恭子が動いた。素早くコーナーポストに駆け上がり、その上からキックを放つ。
ミサイルキックと呼ばれるものだ。
超高度から突き刺さるように落ちてくるため、受ける側が対処しづらい。
ルミは歯を食いしばって受け止める。それでも威力を受けきれず、じわりと後ろへ傾いた。
「んなもんじゃ済まさねぇぞ!!」
ルミが怯んだ隙に、恭子はまた別のポストに駆け上る。
この速さがまた異常だ。相手が並であれば、その反復で勝てそうでもある。
ただ、生憎今日の相手は並ではない。

「……いつまでも、ええ気んなんなやっ!!!」
ルミは歯を打ち鳴らして吼え、無理矢理に体勢を起こした。
そしてポストに登った恭子を力任せに無理矢理引きずり下ろす。
そんな真似ができるのも、高身長と馬鹿力を兼ね備えたルミぐらいだろう。
「こっ、この!!」
だが恭子もただ引き摺り下ろされはしない。
落下する途中になお、ルミの膝を足場にして延髄斬りを敢行する。
たしかシャイニング延髄斬りと言ったか。

硬い脛で側頭部を打たれ、さしものルミも恭子を放してしまう。
だがルミも根性の塊だ。よろけながらも腕を振り回した。
圧倒的なリーチを誇る腕は、距離を取ろうとした恭子の顎を掌底の形で勝ち上げる。
「あぐっ!!?」
完全に意識の外での事だったらしく、恭子はその場で腰を抜かした。



2人共に腰を抜かした状況。どちらも寝技は未熟ゆえ、ここで一旦は膠着するものと思われた。
しかし、そこでルミが意外な行動に出る。
恭子の片腕を取り、その根元に足を絡ませながら手首を胸に引き付けた。
「!!」
俺とラミアが同時に息を呑む。あれは『腕ひしぎ逆十字固め』という関節技だ。
まさかよりによって、パワータイプと思っていたルミが関節技を練習していたとは。
「ぐうっ……!!」
恭子が肘を極められながら焦りを見せる。
ルミはラミアがやるように舌なめずりをした。

「……ウチな、ホンマは寝技したいねん。この見た目でスタンド馬鹿、言われるんはもう嫌や。
 せやから色々、自己流で研究しててんで?」
そう言いながら、ルミは腕十字を変形させていく。
両の足で恭子の肩口を挟み込んでいた形から、右足の膝裏のみを絡ませる形へ。
同時に自由になった左足を恭子の腹の上へ……。
「!!」
恭子が目を見開く。そして、腹への痛烈なスタンプ。
「ッゲボッ……!!!」
恭子の喉から水気のある呻きが漏れる。

ルミの片足だけで何十㎏あるのか。
それをおもむろに落とされるだけでもきついというのに、さらに腕十字。
肘の痛みに気を向ければ内臓が踏み潰され、腹に力を入れれば肘を極められる。
何という地獄だろう。
まるで巨大な蛇に巻きつかれつつ、腹を貪り喰われるに等しい。
そしてそれは、片足だけで恭子の肩を固定できる規格外の体格あってこそ可能な技だ。

「……『ランペイジ・ボア』、それがこの必殺技の名前や。一度掛かったらもうオシマイ。
 な、あおいさん。ウチももう、トップレスラーの仲間入りなんとちゃう?
 “一発で決める必殺技こそ、一流レスラーへの卒業証書”。
 あおいさんがいつも口酸っぱなるほど言うてる言葉やもんな」

恭子を痛めつけながら、ルミがあおいさんに語りかける。
尊敬しているのとは違う眼だ。
ルミはあおいさんさえもその技で“喰う”つもりなのかもしれない。
普段あれほど人懐こいルミも、一度リングに上がればとんだ悪玉(ヒール)だったわけだ。
だが、今の問題はそれどころではない。
恭子があの技に掛かってしまっている。関節技への対処など、まだ知りもしないだろうに。



「恭子っ!!」
俺は恭子に呼びかける。
恭子は一瞬こちらに目を向け、しかし直後に腹を踏み潰されて白目を剥いた。
「恭子おおおぉっ!!!!」
俺は再び叫ぶ。もう恭子からの反応がない。口から泡さえ吐いている。
ダメだ、ああなってしまってはもう、俺の声ではどうしようもない。
あおいさんも眉を顰めながらこちらに目をくれる。レフェリーストップだろう。
こうなっては当然の判断だ。俺は反対しない。
ただアイツは……恭子は悲しむだろう。俺とあおいさんを恨み続けるだろう。
肉が裂けても、骨が折れても負けたくない。そんな奴だ。
それを解っているからこそ、あおいさんもここまで止めずにいた。
しかし……もう、限界だ。もう俺の声だけではどうしようもない。
俺の声だけでは……


「 芦屋恭子おッッ!!!!!」


その時、突然隣から怒声が響き渡った。ラミアが立ち上がっている。
「ラ、ラミア朝岡だ……!!」
「え、あの恭子さんに、勝ったっていう……!?」
場がにわかにざわつく。その中で、ラミアは再び席に戻った。
事は済んだ、と言いたげに。
その視線の先では……恭子が、目を見開いていた。
苦しみもあるが、それだけじゃない、熱い闘志を滾らせて。

恭子は痛みに身を震わせながら、自らの腹を蹴るルミの左首を掴んだ。
「おやおや、どうするつもりなん?」
ルミは余裕を見せながらも、二度も痛い思いをしている経験からか腕の極めを深める。
「いぎっ!!!!」
恭子が歯を食いしばった。しかし動きを止めるには至らない。
むしろその痛みを踏ん張る力に変え、逆上がりの要領で腰を跳ね上げる。
腰と同時に高く上がった膝は、ちょうどルミの膝を挟む形に。
その位置で恭子は、強烈に両膝を叩きつけた。当然ルミの膝も挟み潰される形となる。


「ぎゃああああアアアっっ!!!!」
ルミの絶叫が迸った。
たちまちに恭子への固めを解き、膝を抱えて転げまわる。
「……ふん」
ラミアが小さく鼻で笑った。

膝を破壊する。これは恭子がラミアにやられた事だ。
特にルミのような巨漢レスラーは膝を痛めやすい。重い体を支える負担が大きいからだ。
その普段から弱りがちな膝側部を、自らの硬い膝頭で挟み潰す。
なるほど効果的な技といえる。
おそらく、恭子がそれを思いついたのもラミアの一声あってなのだろう。

『いいかい。勝てないような相手との戦いでも、避けるばっかりじゃいけないよ。
 本当に強さや技を磨いてくれるのは、優れた強敵なんだからね』

いつだったか、あおいさんが言っていた言葉だ。
確かにその通り。ラミアという存在のおかげで、恭子はこの窮地を抜け出せた。

「ぐううう……うぐ、うううっ……!!!」
膝頭でも割れたのか、ルミは片足を引きずってロープにもたれ掛かる。
ボロボロの恭子も同じ格好だ。
三度同じ条件。体格差からは考えられない事ながら、2人の実力は互角といえた。

「チビのくせに、えろう手こずらせてくれるやんか……。
 こんな図体でアンタみたいなんに負けとったら、レスラーのええ恥さらしやわッ!!」

ルミが奮い立ち、足を引き摺りながら恭子を殴りつける。
「うぐっ……!!」
恭子の前髪が顔に掛かり、その表情を隠した。
しかし、その握りしめた拳が恭子の想いを十分に物語る。

「……チビで結構、弱くて結構。……けど、私だってもう負けられない……!!
 あんなに惨めな負け面さらして、情けない姿見せて心配させて。
 ここでまた意地通せなかったら、もうあの人に合わせる顔がないんだッッ!!!!」

恭子は燃える瞳で、ルミのレバーを叩く。
「があ……っ!!!」
スタミナが尽きているからだろう。最初に効かなかったのが嘘のように、ルミの顔が引き攣った。
だがルミは堪え、身体を大きく沈ませて恭子の腹を抉りあげる。
「ごぉ、う゛……っ!!!」
片足が死んで威力が半減しているとはいえ、身体が浮くほどの衝撃。
しかし恭子もやはり耐え、ルミの臓器を抉って巨体をぐらつかせる。


そこからは殴り合いだった。

どちゃっ、どちゃっと濡れた音を響かせて渾身の打撃が交わされ合う。
一撃が当たる度に口から息と粘液が垂れ、しかし歯を喰いしばって打ち返す。
大人と子供ほどの体格差ながら、その瞳の色は全く同じ。

「キョーコ! キョーコ!! キョーコ!! キョーコ!!!」
「ルーミ! ルーミ!! ルーミ!!! ルーミ!!!」

観客席は応援合戦となっていた。
恭子の可憐さと勇敢さに惚れるもの、ルミの力強さと豪快さに憧れるもの。
それぞれが自分の信奉する方を声を限りに支援している。
狂熱が会場を包んでいた。
これほどの熱さは、恭子のキックの試合でも経験した事がない。
どちらかが一方的に強い事を賞賛する盛り上がりとは違う。
恭子とルミが、互いが互いを引き立てあい、認め合う。その物語に心動かされての熱だ。

俺はもちろん声を張り上げた。喉が裂けるほどに声を届けた。
でもそれ以上に涙が止まらない。
目の前で恭子が成長している。プロレスラーという凄みのある存在になっている。
そう実感できて、嬉しいからだ。

「うらああああ!!!!」
「はあああああ!!!!!」
2人の全霊を込めたナックルが互いの胴を抉る。
巨体から繰り出される猛撃と、小さな身体を最大限に使ったフルスイング。
それは時に押し込み、押し込まれ、リング中央で一進一退の攻勢を演じる。
開始前は誰が想像しただろう。あの恭子が、ルミ相手にここまで渡り合うなんて。
恭子自身は出来ると思っていただろうか。

「押してる……」
ラミアがぽつりと呟いた。
確かに、僅かではあるが恭子がルミを押し切り始めている。
「…………!!」
ルミを応援していた人間が一様に唖然とした。ルミがロープに詰まったからだ。
「はぁっ……はぁっ……!!!」
完全にスタミナが底をついた様子で、ルミが肩を上下させる。
とはいえ余裕がないのは恭子も同じだ。
2人は互いに低く構え、最後の力を溜める。

拳が繰り出されたのは同時だった。
上から振り下ろすルミの拳と、下から突き上げる恭子の拳。
それは何の偶然か同じ軌道を辿り、ぶつかった。
両者共が歯を食いしばって堪え、ついには恭子の拳が力をなくしたルミのそれを弾き飛ばす。
そして電光石火の返しの右が深々とルミの臓腑を抉りこみ、胃液を吐かせた。
「が……はっっ…………!!!!」
巨漢が崩れ落ちる揺れが全てを物語り、死闘は終了、場に万来の拍手が咲き誇る。
そして最後は見慣れた情景。


「モヤシくーーーん!!!」

トップロープを蹴った恭子が、俺に覆い被さってくる。
今思えば、これも天然のプランチャ・スイシーダだ。
俺は恭子を抱きとめる。やはり以前より少々重い。
腕の中の恭子はラミア戦と同じぐらい、いやそれ以上にボロボロだが、あの時とは全く違う。
「……えへへ、勝ったぞ。モヤシくん」
恭子は俺の腕の中で満面の笑みを見せてくる。
逆に俺はどんな顔をしていることか。

「あーあー、お熱いことお熱いこと。ほんと嫌になるわ」
ラミアが席を立ち、俺達に吐き捨てた。
「あによ、次ボコるのはアンタだからね。覚悟しなさいよ」
恭子が俺を引き寄せるようにしながら言い返す。
そして睨み合い、しかし顔を逸らす最後の一瞬、2人して口端を吊り上げた。

その後は観客が俺達、というより恭子の回りに殺到し、にわかに騒動に発展した。
あおいさん達がファンを止める中、逃げるように会場を後にする。
まぁそれだけ恭子達が客を魅せた、という事なのだろう。





「えー、先日は両名とも実によく頑張った。結果は恭子の勝ちだが、実際甲乙付け難い。
 という事でだねぇ。両方ともプロになる事が決定したよ!!」

後日。事務所に呼ばれた恭子とルミは、あおいさんからそう言葉を掛けられた。
「やったー!社長も案外太っ腹やわぁ!!」
ルミは大はしゃぎだ。やはりこいつも相当プロになりたかったらしい。
恭子もまぁ当然だ、と胸を張るも、やはり飛び跳ねそうに嬉しげだ。

ただあおいさんが2人につけたあだ名、これが俺には少々気になる。
浅黄ルミは『ランペイジ・ボア』。
必殺技をそのまま2つ名にした形だ。それはまぁ結構なんだが、問題は恭子だ。

「クレイジー・タイガー。恭子はこれからこう名乗るんだ」
あおいさんはさも自信ありげにそう言い放つ。
その由来は、クレイジーだったり、タイガーマスクを思わせる身のこなしだから、じゃない。
恭子の漢字を変えて『狂虎』。
それを英語にしてクレイジー・タイガーだという。

「ははは、どうだい傑作だろう!いっちょあたしと龍虎タッグでも組んでみないかい!?」
「おう、それいいな!向かうところ敵無しじゃねぇか!!」

あおいさんはそう言って馬鹿笑いし、恭子もすっかり乗り気になっている。
ただ俺にはどうもそのセンスが理解できない。


ともあれ、『プロレスラー 芦屋恭子』の物語は、こうして幕を開けたのだった。
続きを読む

この女優を知ってるか(仮)

とりあえず書いてはみたものの、いまいちエロ妄想力が続かないので途中廃棄。
賄いって感じでむしゃむしゃして下さい。お願いします。



首都圏近くの5階建て、3LDK20畳。
しかも鉄筋造りで防音完備。
この物件にタダで住めるとなれば、それは夢のような話だ。
しかしその方法は、例外的にではあるが存在する。

『AV撮影の為のマンションを管理する』という方法で。

AVの撮影といえばラブホテルで行われるように思われがちだが、
実際にはホテル風の装飾を施した普通のマンションの場合もある。
毎度毎度ホテルを利用するより、マンションを借りたほうが時として安く上がるのだそうだ。
ただAVの撮影ってのは、かなり汚れる。
精液、愛液、ローション、潮、小便……そういったものが室内至るところに撒き散らされる。
そういった撮影後の汚れを清掃し、かつ撮影のない日でも室内を管理しておく。
それが俺に与えられた仕事。
まさしく自宅警備員、というヤツだ。

まぁ知った風に語ってはいるけれども、今のは制作会社の請け売りで、
俺は実際にはやった事が無い。
先ほど誓約書と引き換えに渡された鍵で、ようやく件の部屋に入ることが出来るのだ。



しっかりした造りの鉄扉を開けると、広いダイニングキッチンが現れた。
キッチンの奥にはリビングがあり、その奥には寝室。
3つの部屋はいずれも6・7畳はあり、4人家族でも暮らせそうだ。
カーペットや電灯など、必要な家財道具はすでに揃っている。

最奥の寝室はラブホテルそのものだった。
ダブルサイズのベッドに薄紫のシーツ。
寝室の脇にあるバスルームも広い。俺が以前住んでいたマンションの倍はある。
バスタブは2人が身体を伸ばせるほどで、洗い場も5・6人は入れる広さ。
スケベ椅子と壁に立てかけられたエアマットはソープを思わせる。
実際ここで少女がソープ嬢として仕込まれたり、ソープ風のビデオが撮影されたりしたんだろう。
そう思うと胸が高鳴った。
いや、なにも過去の話に限らない。明日以降もまたこの場所が、AVの撮影現場になるんだ。



俺に物件を紹介してくれたのは大貫という人だ。
大学時代からちょっとした縁で世話になっていたヤクザで、俺の兄貴みたいなものだった。
実際、俺は彼を親しみを込めて“兄貴”と呼んでいる。
その兄貴がマンションを訪れたのは、俺が入居してから2日目のことだった。

「どうだ慶、ここの住み心地は?」
兄貴は合鍵でドアを開け、遠慮なく部屋に上がりこんで言った。
『慶』というのは俺の名前、慶太の愛称だ。
「あ、うん、凄ぇいいよ。広いし、綺麗だしさ」
俺は突然の来訪に虚を突かれつつ、振り返ってそう答える。
すると、兄貴の後ろに誰かが立っているのが見えた。
女性。それもかなりの美人だ。

歳は20代半ばだろうか。俺より少しだけ大人びて見える。
胸元まで伸びた黒髪には、頭頂部辺りで天使の輪のように艶がかかっていた。
額にかかる前髪も細かに分かれ、さらりとした手触りが伝わるようだ。
瞳の輪郭は鮮やかだった。
鼻筋もすっと通っていて、口は固く結ばれているが、恐らくアナウンサーのように綺麗に笑えるタイプの唇だろう。
憂いを帯びた清楚さが滲み出るような、文句のない美女。

「……その人は?」
俺は当然そう聞いた。彼女の存在を無視できる男なんていないだろう。
「ああ、新米女優の『みのり』だ。今日からしばらく、ココで研修をさせてやろうと思ってな」
兄貴は薄笑いを浮かべて答えた。

彼のいう女優というのは、舞台女優のことじゃない、AV女優だ。
清楚な女性をAV女優として教育する。
兄貴が薄笑いを浮かべたのは、それが楽しみで堪らないからだ。
解りきった事だった、それでも俺は強い異常性を感じる。
それほどに、お嬢様然としたみのりさんはこの状況に似つかわしくないと思えた。

「……その人、どうしてこんな所に?」
俺は馬鹿げた質問を投げかけた。
答えてもらえるはずが無いし、それを知ってもどうにもならないというのに。
兄貴は一瞬間の抜けたような表情をし、次に小馬鹿にしたように鼻を鳴らした。
「……さぁて、どうしてだろうな。
 モデルを目指して上京した田舎娘を、だまくらかして連れて来た。
 いいとこのご令嬢が、借金のカタに売られて来た。
 あるいは見た目によらず、弄ばれる事に興奮する変態女だ。
 好きな理由を考えな」
彼はそう吐き捨て、みのりさんの肩を抱いて寝室に歩を進める。
みのりさんは俯きがちにそれに従った。

本当にバカな質問をした、と思う。いくら兄貴と仲が良いとは言え、仕事に関する事柄だ。
俺が踏み込んでいい領域じゃなかった。
飄々とした人だから鼻で笑うに済ませたが、どつかれても文句は言えない。
でも、解っていてもそれをしてしまうぐらい、みのりさんは俺に強烈な印象を植え付けた。



兄貴は寝室のベッドに腰を下ろし、みのりさんに服を脱ぐように命じた。
彼女は抵抗と言うにはあまりに弱い、困ったような表情をしていたが、もう一度命じられると躊躇いがちに服に手をかける。
ベルトを外し、薄絹のような衣服が取り去られると下着姿が晒された。
驚くほどスタイルがいい。7.5頭身ほどのすらっとした身体つきだ。
肌の色は美しいクリーム色で、どこにも目立つ染みやホクロが見当たらない。
落ち着いた雰囲気は20台半ばを思わせるのに、身体の瑞々しさはまるで女子大生のそれだった。

下着姿になったみのりさんは、そこから一層の躊躇いをもってブラジャーのホックを外す。
さほど胸は大きくない。せいぜいBカップ程度だろう。
控えめな胸と、うっすら骨の透けるアバラ。よくAVで見るような洗練された裸とは違う。
でもそれは、本当に彼女がデビュー前の素人なのだと物語ってもいた。
すす、とショーツがずり下ろされると、こちらも品よく整えられた茂みが現れる。

みのりさんは脱いだ衣服を丁寧に畳み、ベッドの隅に重ねつつ、ショーツを上着の下に隠す。
そして乳房と繁みを手で隠しながら兄貴の方を向いた。
間違いなく育ちがいい女性の行動だ。
俺はつい、ほぅと息をついた。
素人だ。動きを見る限りみのりさんは、決して『脱ぎ慣れて』いない。
それどころか、殿方に肌を晒すなんて……などと言い出しそうな清楚さだ。

にも拘らず、なんと映像映えする身体だろう。
粗食ゆえか肉付きが甘いとはいえ、そこらに転がっているような素人モノのそれではない。
世に人気女優として取り沙汰される側のものだ。
もしも彼女がアダルトビデオに出たなら、間違いなく人気は爆発する。俺はそう確信した。
と同時に、女神の誕生の瞬間に立ち会っている現状を、夢のように感じもした。

「ふん、貧相な身体だ」
兄貴はみのりさんに憎まれ口を叩きつつ、その身体を抱き寄せた。
引き倒すようにベッドに座らせ、脚を開かせて股座に顔を近づける。
「い、いや!シャワーも浴びてないのに……!!」
当然みのりさんは拒絶するが、女の力でゴリラのような体格の兄貴を押しのける事はできない。
俺だって無理だ。

「洗う前に匂いを確かめンだよ。撮影に支障がねぇかどうかな」
兄貴は恥じらいの場所に鼻先を擦りつけて言う。
みのりさんの頬がほのかに赤らんだ。
「…………ふむ、匂わねぇな?こいつは上出来だ。肉とかあんまり喰わねぇのか?」
兄貴は秘部から顔を上げて問う。
みのりさんはなおも不満の色を消さず、その美しい顔を見ながら俺は、彼女の秘部からは一体どんな匂いがするんだろうと悶々としていた。
この時ばかりは兄貴の立場が羨ましくて仕方なかった。



兄貴は自分も服を脱ぎ、鍛えられた身体を露わにする。
色黒で筋肉質な男と、色白でほっそりとした女。
その並びは保健の教科書に出てくるほどに美しく、また何とも似つかわしい。

「みのり、行くぞ」
兄貴はみのりさんの腕を引いてバスルームの扉を開けた。
バスルームの戸が閉められると、それ以降は擦りガラスごしに男女の裸が見えるばかり。
その状況に、俺の悶々とした気持ちはますます募っていく。
ほんの少し向こうに裸のみのりさんが居るというのに、俺はただ見ているしかなかった。

体格が違うので、2つある人影の見分けは簡単につく。
今は大きい影が小さい影を背後から抱きかかえている。
腕の影が、小さい影の乳房や下腹、繁みを何度も往復する。
おそらくは泡まみれでみのりさんの身体を洗っているんだろう。
細身ながらも柔らかそうな身体だった。
控えめな乳房、腰のくびれ、太腿。水を浴びせればそのまま抵抗なく流れ落ちそうだ。

見知らぬ男に身体を洗われ、彼女の清楚な美貌はどんな表情を作るだろう。
兄貴は、ちょっと頭を前に出し、横を覗き込むだけでその表情を見ることができるのか。
「小せぇだけに感度がいいらしいな、この胸は」
兄貴の嬉しそうな声がバスルームから響いてくる。
その声を聞いたとき、俺の悶々とした気持ちはどうしようもなく高まった。
息が荒い。

俺は昂ぶりを抑えようと、ベッドに腰を掛ける。するとその手に何かが触れた。
薄い生地の上着。みのりさんが着ていたものだ。
どくん、と心臓が高鳴り、馬鹿な考えが脳裏を過ぎる。
バスルームの方を見やると、兄貴が浴槽の淵に腰掛け、みのりさんがその足元に跪いているようだった。
これからフェラチオを仕込むのだろう。
となれば、しばらくは浴室から出てこないはずだ。
その状況が、俺の悪戯心を強く後押しした。もう辛抱しきれない。


俺は浴槽の方を注意しながら、そっと衣服の山に手をかけた。
折り目も正しくきっちりと畳まれた上着をそのままに横へどけ、下に隠されたショーツを摘み上げる。
白と水色がストライプになったものだ。
AV女優が着けているにしては野暮ったい。彼女もまだ素人側の人間なのだ、と実感する。

鼓動を強めながら、俺はショーツを裏返した。
黄ばみも無く、おりものがついている様子もない。
そして恐る恐る股布に鼻に近づけて匂いを嗅ぐと、かすかに生々しい匂いが漂った。
「!!」
脳天を串刺しにされるような感覚が走り抜ける。何だろう、これは。
実のところ、俺はまだ女性経験が無い。女の下着の匂いを嗅いだのは初めてだ。
それでも、この匂いが特別なのはわかった。
決していい香りなどではない。でも、本能をくすぐるような、あそこに直接響くような匂いだ。
フェロモンと言ってもいいかもしれない。異常に、好ましい。

俺は盛りのついた雄犬のように、みのりさんのショーツを嗅ぎまわった。
何て浅ましい行為だ、と自己嫌悪が襲ってくるが、その感覚がさらに興奮を煽ってくる。
みのりさんのけして強くはない匂いが、何度も何度も脳天を突き刺す。

浴室の方からは、ぴちゃぴちゃとフェラチオの音が響いていた。
影の形から察するに、みのりさんは両手で逸物を握りながら先端をしゃぶっているらしい。
つまり、兄貴のモノは女性の2つの掌で包まれてなお、舐めるスペースがある長さという事になる。
俺は勃起しはじめた自分のモノを覗きこみ、妙な敗北感を覚えた。

「おら、もっとハデに音立つように工夫しろ!溜まったツバを麺啜るみてぇにするんだよ。
 ……ったく要領悪いなァ?んなおっとりしたフェラじゃ、見てるヤツは面白くねぇんだ。
 AVってなぁハデな音と動きが全てなんだぜ!?」

浴室からがなり立てる声が響いてくる。
兄貴が誰かと電話している時たまに放つ、身の竦む怒声だ。
俺はそれを聞く時、普段飄々としている彼も、やはり歴としたヤクザなのだと再認識する。

「玉袋を口に含め……そうだ、口の中で転がすんだ。その裏にあるスジもなぞれ……。
 ……こっちを見上げてみろ、手元にばっか目線落とすんじゃねえぞ、カメラ映えしねぇからな」

兄貴は様々に注文をつけ、みのりさんへ徹底的にフェラチオを仕込んでいるようだった。
みのりさんは背を屈めて懸命に兄貴のモノをしゃぶっている。
新人のソープ嬢もこうして仕込まれるのだろうか。俺はそう考え、また興奮に見舞われる。



しばしフェラチオが続いた後、擦りガラスの向こうで兄貴の手が動いた。
手はみのりさんの髪を押さえつけるようにしている。
「んんお゛うっ!!?」
ふいにみのりさんがくぐもった悲鳴を上げた。
あの悲鳴の出方は……AVを見ていて何度も聞いた事がある。
喉奥まで突きこまれる、イラマチオの時に女性から発せられるものだ。
 (兄……貴……?)
俺は思わずベッドから腰を浮かせる。
先ほどまでろくにフェラチオも出来なかったような人に、イラマチオは酷すぎるのでは。
危惧する俺をよそに、バスルームの中では容赦なく“それ”が始められた。

「おえ゛っ!!うううん゛ぇお、おお゛お゛んええぇぇ゛え゛!!!!」
バスルームにえづき声が反響する。
あのおっとりしたみのりさんが出しているとは思えないほど、汚く、必死な声。
「いちいち吐き出そうとすんじゃねぇ。口ぃ一杯に開いて、喉を開けんだよ!
 今日びAVでディープスロートも出来ねぇってんじゃあ、話にならねぇんだ!!」
兄貴はがなり立てながら、みのりさんの後頭部を押さえつける。
長い黒髪に凄まじいストロークが生まれていた。
苦しくて吐き出そうとするみのりさんと、押さえつける兄貴、その鬩ぎ合いだ。

「おら、喉開けっつってんだろ?さっきからちっとも奥に入り込まねぇじゃねえか。息は鼻でしろ!」
「おぉお゛ええぇえ゛!!!んうお゛お゛え゛ッ!!!!」
兄貴の怒号と、みのりさんのえづきが交じり合っている。
俺はさっきとは全く別の動悸に苛まれていた。
俺よりもずっと長さがあるはずの兄貴の逸物を、あんなに激しく突き込んで大丈夫なのか。
みのりさんが壊れてしまうんじゃないか。
そう心配でならない。
そして、そこから長い長い数分が経った頃、異変が起きた。


「え゛おろおお゛ぉ゛っっ!!ッお゛、え゛はっ……!!!!」
一際奇妙なえづきが上がり、みのりさんの背中が忙しなく上下する。
びちゃびちゃと水っぽいものがタイルに落ちる音が響く。
そして兄貴の舌打ちが続いた。
「ちっ、こいつ吐きやがって!!仮にも他人の家だぞ、これテメェが綺麗に洗い流せよ。
 ……ごめんなさいごめんなさいって、俺に謝ってもしゃあねンだよ」
兄貴は忌々しげにそう言った。

どうやら彼女は、イラマチオに耐え切れず吐いてしまったらしい。
俺はただうろたえるばかりだ。
そしてそこで俺は、自分がまだみのりさんのショーツを手にしたままである事に気がついた。
俺はそれが急に恥ずかしく思え、急いで衣類の山に戻す。
その上に慎重によけていた上着を戻し、見た目は元あったままになった。
焦りながらもこういった部分で慎重なのは、つくづく小悪党らしいと思う。
でもだからこそこの後ろ暗い世界でやっていけるし、この現状に至る事も出来たわけだ。
もっとも、それが幸せな事かどうかは、解らなくなりつつあるけれども。

「よし、じゃあ出すモンも出してすっきりしたろ。もう一度行くぞ、そら、よ……!!
 ……お、なんだ?一度吐いて喉奥が柔らかくなってんじゃねぇかよ。滑りもいいしなァ。
 っしゃ、どんどん行くぜ。しっかり目線だけはこっち向けるようにしとけよ。
 ほら、奥へ奥へ、しっかり飲み込め、舌は顎のほうに引きつけてな。
 ここ、喉奥だ。おら喉奥、喉奥、喉奥で……ッ!!」

兄貴は再びイラマチオを再開していた。
喉奥、喉奥、と暗示をかけるように繰り返しながら、鷲掴みにしたみのりさんの頭を前後させる。
みのりさんは最初こそ腕で兄貴を押しのけようと抵抗していたようだったが、
やがて観念したように床に手をついた。
えごっ、げごっ……とみのりさんのえづき声が浴室に響く。

「おお、いいぜ。吐きそうになって蠢く喉奥の感触がたまらねぇ。
 後はこっちを見上げる事をもっと意識しろ、せっかくそそる顔になってんだからよ」
兄貴はみのりさんの口戯を褒め始めていた。
プロの風俗嬢相手でもそうは褒めない兄貴だから、本当に気持ちがいいのかもしれない。
極上の喉、兄貴はそれを見抜いて、だからあえてイラマチオまで仕込んだんだろうか。
その心地よさはどんなものだろう、マッサージよりいいのか。想像もできない。

そんな事をつらつらと思い描きながら、それでも俺の一番大きな感情は、
聴こえてくるみのりさんのえづき声から、苦しみの色が薄れていて良かった……という事だった。





長いフェラチオ特訓が終わった後、2人は浴室から出てベッドに移る。
みのりさんは、浴室でずっと裸を晒していた兄貴にはともかく、傍観する俺には強い恥らいを示した。
兄貴は湯冷めするからと室温を上げ、みのりさんに脚を開かせる。
「よく見せろ」
兄貴が粗野な口調で命じると、みのりさんはおずおずと股座を晒した。
鮮やかなピンク色の秘部。
兄貴はみのりさんの腿を手で押さえながら、やおらそこに口をつける。
「んっ」
みのりさんが小さく声を上げた。
兄貴は音を立ててみのりさんの秘部に舌を這わせはじめる。
みのりさんは人差し指を唇で挟んで声を殺していた。
俺はそんな仕草をする女性に会ったことがない。本当にいい所のお嬢様なんだろう。

しばらく、ぴちゃぴちゃという水音と、みのりさんの微かな声が続いていた。
兄貴は舌の他に指も挿し入れ、みのりさんの秘部を弄る。
しかししばらくして、呆れたように顔を上げた。
「……ほとんど濡れねぇな、お前。あいつの元にいて、処女ってワケもねぇだろう。
 チッ……お淑やかなのは前準備に手間掛かって嫌いなんだがな」
兄貴はそうぼやき、持参した荷物からいくつかの道具を取り出す。
バイブに、ローター。いわゆる大人の玩具だ。

「いや、何ですかそれ……!!」
ヴーンと羽音を立て始めたローターに、みのりさんは新鮮な反応を示す。
「黙って股を開いてろ。すぐに良くなるからよ」
兄貴はそう言って、ローターを秘唇に押し当てる。
みのりさんの身体が恐ろしげに硬直した。
そこから兄貴は、バイブとローターを巧みに使い分け、指や舌まで駆使してみのりさんを蕩かしはじめる。
元々兄貴はセックス慣れした男だ。
名の通ったホステスが、兄貴でなければ満足しないと言うほどに。

濡れにくいとはいえ、その兄貴に責められては、流石のみのりさんにも変化が現れはじめた。
「ん……んッ」
押し殺したような喘ぎ声。口を押さえていた手がベッドの上部を掴む。
開ききった脚は直角に曲がり、足指がシーツに皺を刻む。
兄貴の指が淡みへ入り込むたび、白い尻がベッドを軋ませる。
長い、長い蕩かし。

「……もう……もう、やめて……!!へ、変に……なるっ……!!」
みのりさんがとうとうそう声を漏らした頃、シーツにはしっかりと愛液の地図が描かれていた。
「ようやく準備ができたらしいな」
兄貴はそう言って粘液に塗れた指を引き抜き、その粘液を自分の剛直に塗りつける。
いよいよセックスの始まりだ。



みのりさんは仰向けに寝た兄貴に、自ら腰を下ろすよう命じられた。
「こ、怖い……!!」
みのりさんは兄貴と腿を擦り合わせながら恐怖に脅える。
しかしその尻を無言で叩かれると、観念したかのようにゆっくりと腰を沈めた。
にちゃあっ……という生々しい音で、結合が始まる。
明らかに俺の全勃起時より大きい逸物が入り込む。
「お……大きい……!!」
みのりさんはそう漏らして眉を顰める。
だが一度入り込むと後はスムーズで、程なくして兄貴の浅黒い逸物は見えなくなった。
みのりさんは逸物の大きさに苦しんではいるものの、破瓜の痛みを感じている程でも無いようだ。
処女じゃない。その事実がまた俺の妄想を掻き立てる。
借金を理由に脅され、ヤクザ者の手で無残に純潔を散らすみのりさんを夢想した。

現実のみのりさんは結合の後、命じられるまま腰を使い始める。
兄貴の分厚い胸板に手をつき、尻を上下させて。
「おら、尻を浮かすだけで誤魔化すな、膝の屈伸で抜き差ししろ。
 もっと腰を使え、上下に、前後に!てめぇの中を捏ねくり回すんだよ!!
 顔も上げろ、それじゃあ髪に顔が埋もれてカメラに映らねぇぞ!!?」
兄貴はみのりさんの騎乗位に口煩くダメ出しを喰らわせる。
「ん……んんっ……!!」
みのりさんは恥ずかしさからか泣きそうになりながら腰を使っていた。
その情景は、それがただの性交ではなく、カメラに映す事を前提とした“研修”なのだ、と改めて俺に認識させる。

ぎしっぎしっぎしっぎしっ。

ベッドの軋む音が遠くで延々と鳴り響いていた。
みのりさんは何度も何度も腰を上下させる。
たまに表情が険しくなるのは、痛みからか、それとも逆に達しそうになっているのか。
やがて彼女が汗みずくになった頃、兄貴は強い力でみのりさんを脇に避ける。
「体位を変えるぞ。降りてベッドに肘をつけ」
そう命じ、みのりさんが言うとおりにすると、背後から腰を掴んで逸物を突き入れた。
「きゃ、深いっ!!」
みのりさんが小さく叫ぶなか、逸物はぐじゅりと音を立てて奥まで捻じ込まれる。
そしてまた、今度は獣のような体位での“研修”が始まった。



「うっ……ん、ぁ!!」
みのりさんの押し殺した喘ぎ声が響いてくる。
彼女は浅ましい声を上げまいと、必死に唇を結んで耐えていた。
だがそれをまた兄貴に叱咤される。
「おい、もっと声を上げろ。過剰でもいい、大っぴらに息を吐いて喘げ」
兄貴はしっかとみのりさんの腰を掴み、深々と結合を繰り返しながら命じた。
確かに、AV女優として調教するなら当然の事だ。
音を消してAVを観るとまるで興奮度が違うように、女優の喘ぎと言うのは映像に於いて重要なファクターだ。
特に、みのりさんのような真面目そうなタイプが喘ぐ様は興奮度も高い。

「あっ、あ、ああっ!!」
みのりさんは言われた通り声を殺すのをやめた。しかし兄貴は満足しない。
「もっとだ、もっと聴こえるように喘いでみろ!!」
突き込みをより深めながらそう命じる。
「うん、あ、ああ、あああっ!!」
みのりさんはさらに大きく声を上げ始めた。近くで聴いていると煩いほどだ。
AVの現場というのはそれほどなのだろうか。
しかしその甲斐あって、みのりさんの喘ぎは実にそそった。
元々透んだいい声をしているが、それに艶が混じっている。さらには荒い息、鼻に掛かったような声も。
ビデオに撮って確認するまでもなく、『エロさ』という点では最初よりグッと増している。

声を調教しながら、兄貴は存分にみのりさんへ性感を叩き込む。
みのりさんが声を高めているのは、完全に演技というわけではない。
バックから犬のように突き続けられ、脚は震え、腰は艶やかに蠢く。
すらっとした脚を透明な雫が流れおちる。
第三者の目からでも明らかに感じているのが見て取れた。

「……だ、だめっ!!ああ、何これ、へ、変になるぅっ!!!」
やがてみのりさんは、ベッドに手を突きながら震え上がる。
イクんだろう、と俺にも解った。
「覚えとけ、それがエクスタシーってやつだ。“イク”、とも言うな」
兄貴は自身の物でみのりさんの内部を確認するように動かし、そう教える。
「い、いく……?いく、いくっ……!!!ああ、いくうっ!!!」
みのりさんの身体がぶるりと震える。
その一瞬の動きがどれほど美しかったか。俺の目には、それが今でも焼きついている。


おそらく初めての絶頂を迎え、みのりさんの足腰が崩れると、兄貴は場をベッドの上に戻した。
そして汗まみれのみのりさんを腰から折り曲げるようにする。
つまり、足先が肩の方へ向くように……まんぐり返しというやつだ。
その状態で蕩けきった秘部へ大きな逸物を沈み込ませる。

「や、やめて!休ませてください!!変なんです、さっきの感じがまだ、収まらなくて……!!」
イッたばかりのみのりさんは拒絶を示す。でも兄貴が許すはずもない。
「おいおい、こんな程度でもうダメなんつってたら、AV女優は勤まらねぇんだよ。
 今日び一日中撮影しっぱなしのAVなんてザラにあんだ。こんなもんじゃねえぞ」
そう凄みながら、押し潰すようにして秘唇を割る。
みのりさんはそれだけでびくんと肩を跳ねさせた。

「あっ、あっ、ああ、あーっ……!!!」
もはや兄貴が煩く言うまでもなく、みのりさんの艶やかな声が部屋に響く。
ぐちゃっぐちゃっ……と聴くだけで変な気分になる結合の音も。
兄貴は折り曲げたみのりさんの脚を掴み、淡々と抜き差しを繰り返している。
しかし淡々として見えるのは表面だけで、膣の中では様々に技巧を凝らしているのだろう。
みのりさんの何度も強張るふくらはぎや宙を掻く足指を見ていると、そうだとしか思えない。
「あああーっ!!!」
みのりさんの高い声が今一度響いた。
気持ち良さそうな顔だ。
目をぎゅっと瞑り、大口をあけ、その口の端から涎さえ垂らしている。
初対面での清楚さが嘘のような変わりよう。でもそれも間違いなく、みのりさんの作りえる表情なんだ。
そう考えると、俺は何とも妙な気持ちに苛まれる。

シーツに流れるみのりさんの髪は本当に艶やかで、まるで漆の川のようだ。
このむうっと漂う匂いは、その綺麗なみのりさんの大事なところから流れてきたのか。
今のあの表情は、脚の動きは、どんな快感を味わっての事なのだろう。
目の前で繰り返される行為自体は単調ながら、得られる情報は俺にとって多すぎた。
俺は痛いほどに勃起した物を手の平で押さえつける。
「ああ、あう、あううぅっ……!!!」
切ないようなみのりさんの喘ぎが、逸物の痛みに拍車をかけた。


何時間が経った事だろう。
みのりさんと兄貴は、互いに汗まみれになってベッドに折り重なっていた。
その汗は二人が共同作業をこなした証だ。
共に快感を与え合い、包みあって結合していた。ついさっきまで。
俺は疎外感に苛まれながら、二人がゆっくりとバスルームに入っていくのを見守った。
セックスを見始めた頃の俺なら、ここでそっとシーツに近寄ってみのりさんの匂いを嗅ぎたいとでも思ったものだろうけれど、今はもういい。
そうするまでもなく部屋中に漂いすぎている。俺の思考を包み込むほどに。





「…………世話かけたな、慶。だがついでに、ベッドの後始末も頼むぜ」
兄貴は着たときの服に身を包んで俺に言った。
当然ながらみのりさんのその後ろに、来た時の格好でいる。
そう、格好は同じ。しかしその頬はなお赤く、俺の想像の中の彼女もまた、変容している。
「解ったよ。……兄貴は、これからどこに?」
俺が聞くと、兄貴はみのりさんを肘でつついて溜息をついた。

「調教の続きだ。ああ生娘みたいなんじゃ、思った以上に手間が掛かりそうだからな。
 胸にしても感度は悪くねぇが、プロの女優にしちゃ小さすぎる。
 まぁまずは豊胸手術して、舎弟のフロ屋ででも働かせてみるか。
 好きモンだから公私ともにさんざ使いやがるだろうし、ボーイ相手に経験も積ませられるからな」

兄貴は薄笑いを浮かべながらそう言い、硬い表情になったみのりさんの肩を叩く。
そして俺に手を振り、揚々と扉を閉めた。
みのりさんの姿も見えなくなる。部屋の中にはまだ、嫌になるほどその匂いが残っているというのに……。



                                続……かない



以上。この後みのりさんはAV女優として、語り手の前で様々な撮影を行わされます。
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