大樹のほとり

自作小説を掲載しているブログです。

2012年04月

極上の身体検査

※スカトロ(大・小・嘔吐)要素あり


刑事をやってた時、いい女が屈辱的な目に遭う場面には何度も出くわしたが、
忘れられないのはやっぱりロシアの女スパイだな。

当時、俺は諸事情で外事警察に身を寄せていた。
その時にちょうど大物スパイが捕まったってんで、ちと無理を言って身体検査に加わったんだ。
何しろその女、とんでもない美人って噂だったからな。
某国国防省のお偉方と寝て、国家機密を盗み出すほどの一流だ。

捕らえられた時、その女スパイは3つの身分証を持ち歩いていたらしい。
CIA捜査官、シェリー・マグガレア。
宝石商、ミランダ・シュワラー。
英国貿易商社社長、クレア・アッカーソン。
勿論いずれも偽名で、かつ偽りの肩書きだろう。
諜報員が交渉を円滑に進めるべく、架空の身分証明を持ち歩くのは良くある話だ。
その女の本名を知るには、その後の尋問結果を待たなければならない訳だが、
便宜上偽名の一つを取ってシェリーとしよう。

噂通り、シェリーは掛け値なしにいい女だった。
北国の女特有の神秘的な顔立ちに、雪のように白い肌。
ボディラインはスレンダーだが、胸と尻はこれでもかと女らしい。
その姿を一目見た瞬間、俺は不覚にも仕事を忘れて『ヤりたい』という欲情に駆られた。
漫画のような話だが、本当に数秒の間に勃起したんだ。
さすがは世界指折りの女スパイ、並の男ではそのフェロモンには抗えない。
ただ見ているだけでそれなら、シェリー直々に誘いでもしてきた暁には、俺は間違いなく乗るだろう。
街中を歩いてたら、まず振り返らないヤツの方が少ないだろうな。
もっとも奴のような最高級の女が、高級車やチャーター機以外で移動する事なんて無いだろうが。



取調べ室で、シェリーは素っ裸のまま立たされている。
手足の錠は外されているが、部屋の四方から銃を向けられているので抵抗もできない。
その状況で身体検査が行われた。
身体検査と言っても、刑務所に入る時にするものよりも遥かに念入りなものだ。

まずは棒立ちになったシェリーの横に、女の検査官が2人立ち、
1人が乳房を、もう1人が尻肉を鷲掴みにして揉むようにしはじめる。
傍目にはエロチックな光景だが、何も我々男の目を楽しませる為にやっている訳じゃない。
女のスパイは、胸や尻肉のように盛り上がりの目立たない体内に、
シリコンを入れる要領で証拠品を隠している事があるらしい。
そこで女体を知り尽くした2人の女検査官は、怪しい箇所を肌の上から入念にチェックする訳だ。
あくまで検査、とはいえ見た目にはレズに見える。
目の覚めるような美人が、無表情な検査官2人から胸と尻を弄られているんだ。
俺達男は、椅子にふんぞり返ってそれを見守りながらも、気まずかったのが正直な所だった。

シェリーは終始、感情がないかのような無表情を保っていた。
この身体検査の時点で、すでに尋問の“さわり”は始まっている。
そのため表情で情報を与える事を避けようというだろう。
とはいえ性感帯である乳房を延々と揉まれているうちに、当然の反応として乳首が立ってくる。
その勃起しはじめた乳首をさらに揉み潰すように調べられれば、
シェリーの強張った手指は白い太腿を掻くように蠢いた。
明らかに感じてしまった反応だ。
傍から観る俺たちは、それがはっきりと解るために、どうしても興奮してしまう。



皮膚の下に何もない事が解ると、次はいよいよ身体の穴が調べられる。
文字通り穴という穴が、だ。
瞳を指で開いて、眼球の上と下を調べる。
綿棒を長くしたような物で、耳の穴と臍、そして鼻の穴を穿る。
分娩台に拘束された上で、クスコを使って膣を拡げられ、CCDカメラで内部の映像を確認する。
当然、子宮口まで丸見えになるようにだ。
映像は巨大なプロジェクタに映し出されて場の全員が観察できるようになっており、
屈辱的なシェリーの姿勢と併せて場の興奮を煽った。

膣が終われば、次は肛門だ。
こちらには専用の設備があり、シェリーは機械めいた椅子に深く腰掛ける事を強要される。
そうすると肛門に薬液注入用のゴム栓が入り込む仕掛けだ。
その状態で、機械の作動するままに浣腸が施される。
シェリーはあくまで無表情を貫き、声すら漏らそうとしない。
だが脂汗だけは、その額といい鼻の横といい、じわーっと滲み出てきてたな。
ありゃ相当に苦しかったんだと思うぜ。
『腸が一杯になるまで』薬液を注ぐと、シェリーの腹はまるで妊婦のように膨れ上がった。
そこでようやく装置から解放され、指示のまま覚束ない足取りで部屋中央に歩み出る。
そこには大きな金盥。

「脚を開いて、排泄しろ」
腕組みをした女検査官が、無機質な声色で命じる。
シェリーは一瞬だけ焦りにも似た表情を浮かべたが、言われるままに大股開きで排泄を始めた。
どんだけの美人でも、クソする時は一緒なんだとこの時悟ったね。
ぶりゅ、ぶりいいって聞き慣れた音がして、薬液がケツの蕾からあふれ出す。
入れられた量が量だけに凄まじい噴射で、金盥へ豪雨が叩きつけられるような音が立つ。
液の奔流が止まれば、次は茶色い固形物だ。
飛び出したり、溶けたように千切れたりしつつ、特級美人の腸の中から現れる。
その光景はもう、衝撃という他ない。

浣腸は一度だけで済まず、出したら再び機械へ腰掛けて浣腸し、排泄すると繰り返した。
合計で4回だ。
排泄の都度、マスクをした女検査官が内容物をガラス棒で検査する。
ひり出した当人にとってこれは、およそ直視に耐えがたい光景だっただろうな。

肛門から完全に出るものが無くなると、次は尿道への検査が行われた。
膣の時と同じく分娩台に拘束して、長い綿棒のようなもので尿道を穿る。
どうせなら膣と同時に検査すれば効率が良いと思ったが、立会人の一人によれば、
尿道を弄くるとそのショックで不意に脱糞するケースが多いという。
シェリーほどの重要人物になれば、その排泄物も貴重なサンプルだ。
それゆえ先に浣腸を施したらしい。
実際、尿道に綿棒を差し込まれると、さすがのシェリーも無表情を貫けない。
「くっ…………あ、ァ、くうっっ!!」
拘束された脚を痙攣させ、凍りついたような表情で若草の辺りに視線を落としていた。
失禁もしているらしく、分娩台の下から雫のような物が滴っているのが見える。

眼、鼻、耳、臍、尿道、膣、肛門、皮膚の下。
入念な検査により、およそ物を隠せる場所は全て検められたかに思えた。
しかし、一番肝心な場所がまだ残っていたのだ。
それは口……そしてそこから繋がる胃。
隠したいものを呑み込んで輸送するのは、基礎中の基礎だ。
当然、そこにも最後に検査が加えられた。



丸裸のシェリーを仰向けに寝かせ、女検査官が上体を抱き起こす。
その片手には、アナル用の極細ディルドーを思わせる、柔らかそうな棒が握られている。
「口を開け」
検査官は冷たく命じ、言葉通りに従ったシェリーの口へその棒を送り込んだ。
上体を起こすシェリーの背中を腿に乗せ、首を抱え込んで固定したまま、喉を掻き回す。
「おえ゛っ……!!あ゛、あええ゛っ……え゛おっ」
細い棒は喉の深くまで入り込み、シェリーに蛙のようなえづき声を上げさせる。
大きく縦に開いた唇の中へ、出ては入り込む細い棒。
「ん゛ごっ……!!」
シェリーが目を瞑ったと同時に特に低い呻きが上がり、その直後、口の端から吐瀉物が溢れ出る。
開始からその初嘔吐までに、さしたる時間は掛からなかった。

検査官の指が棒の末端を摘み、シェリーの喉奥へと送り込む。
斜めからの浅い抜き差しを数度繰り返し、角度を変えて真上から深く抉り込む。
角度が変わった瞬間にシェリーの片脚が跳ね、床へ落ちて重い音を立てた。
検査官はそれを視界の端に捉えながら、真上からの棒をほぼ全て喉へ押し込んだまま動きを止めた。
「うお゛……!」
押し殺したような呻きが漏れ、数秒後。
シェリーの口の端に再度吐瀉物が流れ、続けて口から大量にあふれ出した。
それは咳き込みに合わせて前方へ吐き出され、彼女の彫刻のような裸体を汚していく。
吐瀉物の中に特別異常な物は見当たらないが、シェリーが口にした物がほぼ全て白日の下に晒されている、
それ自体が異常ともいえる。
ただ正直、美女の内容物の全てを把握するという事態には、彼女の全てを知ったかのような興奮があった。

検査官の女は、一旦棒を引き抜いてシェリーが嘔吐する様子を静かに見守っている。
「ぶあっ!!あっ、はぁ、はあっ……!!ああ、うぶっ!」
眼をきつく閉じ、口を開閉させて喘ぐシェリー。
いくら気丈な彼女とはいえ、嘔吐の苦しみの最中では演技を続ける余地もない。

捜査官はひとしきりシェリーの呼吸が収まると、再び首を抱え直し、棒を差し込んだ。
摘んだ指先をバイオリンでも弾くように優雅に動かし、喉の中で円を描く。
そしてシェリーの太腿がびくりと苦しみを露わにした地点で、奥深く挿入して残酷に留める。
どうやれば最大限の苦しみを引き出せるのかを、完全に熟知している動きだ。
「あ゛おおっ!!!!」
シェリーは苦しみを顔中に広げ、今度は両脚共に跳ね上げて足の裏を宙に泳がせながら嘔吐した。
三度の嘔吐で、その白い身体は股座に至るまでが黄色い物で覆い尽くされてしまう。
それでもなお終わらない。
検査官が俯くシェリーの顎に指をかけて上向かせ、棒を持った手を喉に添える。
その時、シェリーは一瞬ながら確かに目を見開き、化け物を見る眼差しを検査官の女に送った。
それに気付いたかどうかは解らない。
ともかくその女は、さも事務的に、対象の喉へクチュクチュと水音を立てさせる。
やがて、シェリーの宝石のような瞳からはついに涙が零れ落ち、切なそうな悲鳴が上がり始めた。

俺の身体検査の想い出は、そんな所だ。
元々畑違いなだけに、あまり深入りする訳にもいかないからな。
そこからは、CIAの顔見知りからたまに抱いたって話を耳にしたり、
水責めや電流責めの音と一緒に悲鳴が聴こえてくるぐらいのもんだった。
すぐに移動になったために、結局情報を吐いたかどうかさえ解らずじまいだ。

ただ、あの身体検査の様子だけは、今なお俺の脳裏に焼きついたままでいる。

 
 終
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終わりのない遊び

※ スカトロ注意。
  この作品はフィクションであり、作中に登場する器具や食材はあくまでも幻想です。



陽和保育園は、ごく小規模ながら地域から評判の良い施設だった。
休日でも子供を預かってくれる上に、子供の育て方も上手いと評判だ。
特に朱美(あけみ)という保母は人気が高い。
かつてはレディース集団“百姫夜行”を率いる頭だった彼女だが、
一人の子供とのふとした触れ合いから心を入れ替え、
今ではさばさばとしながらも心優しい、理想的な保母でいる。

「あけみせんせー、たんぽぽでお花のわっか作ってー」
一人の幼児が朱美に抱きつきながら叫ぶ。
朱美はその子供の頭を撫でながら微笑を浮かべた。
腰まで届くほどの艶やかな黒髪に、キリリとした芯の強そうな瞳。
身体も女らしいスタイルを保ちつつ、よく鍛えられているのが見て取れる。
男にも女にも好かれる、清清しい下町の女、という風体だ。
「おっけ、ちょぉっと待っててね。
 すぐに綺麗なの作ってあげる…………から…………」
そう穏やかな笑みで告げた朱美の表情は、
花壇を踏み荒らしながら園内に侵入してきた少女達を見て一変する。

赤く染めた髪に着崩した制服、ショーツの見えるようなミニスカート。
そしてバットや鉄パイプ。
どう見ても園児を迎えに来た身内という風ではない。
「だぁれ、あのお姉ちゃんたち……?」
「あーっ!ミキのおはな、踏んでるー!!」
子供達が騒ぎ立てる中、少女達は朱美を取り囲む。

「……ホントにこんなトコで保母なんてしてたんだねぇ、朱美サン。
 あの“百姫夜行”のトップともあろうお方がさぁ」
ニヤつきながら煙草を吐き捨て、園児の肩に手を置く少女達。
「あたしらの一代上の先輩らが、随分世話になったみたいじゃんか。
 そういうのも含めて、ゆっくりお話させて貰いたいんだけど」
園児の首を引き寄せながら告げられる言葉。
それは明らかに、園児を人質に取っての脅迫だった。
「あ、あんた達……そうか…………!!」
朱美の顔が苦々しげに歪む。
かつては恐れ知らずとして名高く、数十人との喧嘩でも一歩も引かなかった戦姫は、
けれども守るべき物の為に何の抵抗も出来ない。

「わ……解った。一旦建物の中に入ろう、そこで好きにするといい。
 ただ、この子達は何も悪くない。……どうか、手を出すのは勘弁してくれ」
か細く震える声で朱美が言うと、少女達は満足気に笑った。
「せんせー……?」
さすがに異常を察して子供達が袖を引くが、朱美はただ引き攣った笑みで、
大丈夫よ、と答えるのが精一杯だった。



今日は日曜で、園内の世話係は朱美一人。
運動場に残った7人の児童達は、同じ数のレディースと戯れている。
遠目には女子高生が一緒に遊んでいる風だが、朱美にとっては人質以外の何者でもなかった。
今日いる児童の親はいずれも忙しく、夜までは帰ってこない。
隙を見て助けを呼ぼうとしても、朱美にも児童にもマークがついていては下手に動けない。
故に、朱美は園内施設の二階、窓から園児達を見下ろす場所で実質的な監禁を受けていた。

「私を、どうするつもりだ……」

朱美は命じられるがままに窓の淵に手をつき、横目に少女達を睨み据えた。
だが狼のようなその鋭い眼光も、圧倒的優位にある少女達への牽制にはならない。
切れないと解っている玩具のナイフを振りかざすようなものだ。

「大丈夫だって、別にここでリンチしてボコボコにしようって気はないから。
 傷害系はすーぐ大事になっちゃうからね。
 あたしらはただ、アンタにノされた先輩らのお礼をしたいだけ。
 元“百姫夜行”の頭の恥ずかしーい写真撮って、先輩らのご機嫌取りたいだけだよ」

女子高生達はそう言いながら、朱美の腰の辺りに集まって下を脱がせ始める。
タイトジーンズをチャックを開いて摺り下ろす。
薄紫のショーツと、優れた脚線を殊更に強調する黒タイツが露わになった。
「黒タイツかぁ。エッロいねぇ」
「そういやモデル級にスタイルいいって、現役時代から噂だったもんね。
 こんなおみ足見せたら、あそこにいるガキらなんてイチコロじゃない?」
少女達の煽りを、明美は静かに窓の外を見下ろしながら聞き流す。
園児の何人かが心配そうに見上げてきているため、下手な表情は見せられない。

少女達はその朱美の状況を楽しみつつ、さらにショーツを指にかけて引き下げた。
清潔に手入れされた薄い繁みと、剥き卵のような尻肉が現れる。
さらに足首からショーツが抜かれると、そこには腿半ばまでの黒タイツに、
春物のセーターだけを纏った官能的な姿があった。
少女達は無言のうちにその下半身の各部を撫で回し、朱美の屈辱感を煽る。



「いい格好ねぇ。百姫の頭の、おまんこも、ケツの穴までまーる見え」
脚を肩幅に開かせたまま朱美の性器を割り開き、携帯カメラに収めながら一人が囁く。
「ほんと、綺麗でいいケツの穴。」
別の一人が尻肉に指をかけ、朱美の肛門を露出させた。

明らかに未使用と思わせる、みっちりと皺の寄せ合わさった肛門。
色は極めてピンクに近い肌色で、血色はかなり良かった。
排泄の器官であるにも関わらず、そのまま舐め取る事にもさほど抵抗の生まれない慎ましさだ。
その肛門を露出させられた瞬間、びくん、と朱美の脚が強張る。

「あれぇ、恥ずかしいの?でもねえ、実はアタシらもう決めてるんだ。
 今日はアンタのこの後ろの穴を、徹底的に辱めようって。
 うんち出すところも、お尻に色んなモノ咥え込まされて吐き出すところも、
 ぜーんぶカメラに収めてあげる。
 アンタの為に色々道具用意したんだよぉ、覚悟決めといてね。
 まぁたとえ覚悟できなくて泣き喚いても、やめるワケないけどさ」

少女達はそう口にしながら、各々の持参した荷物袋から道具を取り出す。
ガラス浣腸器、アナルバイブ、アナルパール、
肛門鏡、エネマプラグ、イチジク浣腸、グリセリン溶液……。

朱美は磨き抜かれた窓に映るそれらを眺めながら、思わず目を見開く。
しかしその瞬間に地上の子供と視線が合い、引き攣りながら笑みを浮かべた。
「んじゃ、いくよぉ」
足元に屈み込んだ少女が、膝を押して股を開かせ、肛門に指先でローションを塗りこめてくる。
その行為さえも、朱美はにこやかな表情のまま、尻の筋肉を強張らせて耐えるしかなかった。





「おーおー、結構入るじゃん。ケツの才能あるよ朱美ィ」

女子高生が、朱美の肛門に綿棒を挿し入れながら笑う。
朱美の尻肉は両側から2人の少女の手で広げられ、ありありと尻穴を覗かせている。
その尻穴は、すでに10を超える本数の綿棒が末端の膨らみを覗かせていた。
未使用に近い肛門の蕾はそれにより、皺さえなくなるほど限界まで拡がっている。

「あぁー、流石にもう入らないかぁ」
さらに一本の綿棒を追加しようとした少女が、周囲のどこにも隙間がない為に断念する。
正真正銘の限界まで綿棒を咥え込んだ桜色の肛門。
その様子が容赦なくカメラに捉えられる。
朱美は窓の外に手を振りながらも、その吊り気味な瞳には怒りを滾らせていた。
けれども抵抗は叶わない。
少女の手が綿棒の塊を摘み、ゆっくりと引き抜く。
「くっ!!」
朱美の唇から声が漏れた。
排泄物以外の物が肛門を通りぬける感覚は、全くと言っていいほど経験がないのだろう。
少女はそれを楽しみつつ、またゆっくりと綿棒の塊を押し沈める。
ンン、と朱美の鼻先を声が抜ける。
そこから、ぬこっ、ぬこっと綿棒の出し入れが開始された。

「……っ!!!………………っっっ!!!」

朱美は声を押し殺してこそいるが、何かを感じているのは明らかだ。
特に尻肉を指で拡げる2人は、尻の筋肉がぴくりと反応するので解り易いだろう。
押し殺した声と共に、初々しい蕾を出入りする綿棒。
やがてその十数本の隙間から、潤滑に用いられていたローションが滴り落ちる。
まるで花の蜜のように。
少女達はそれを満足げに見つめながら、ゆっくりと奥深くに入り込んだ綿棒の束を抜き出す。
先端がかすかに変色したそれは、間違いなく美しい明美の腸内に入っていたものだ。



綿棒によってかすかに口を開いた肛門を眺めながら、少女達は次の準備を始める。
ビニール袋の中を弄り、取り出したのはイチジクの形をした容器。
それを指の間に挟み、少女達が朱美の足元に舞い戻る。
「さぁて、まずは基本のイチジク浣腸。すぐにウンチしたくなっちゃうけど、我慢するのよ」
少女の一人がそう言って容器の蓋を外し、朱美の肛門へと突き刺した。
そして間髪いれずに握りつぶす。
「うっ!!」
腸内に広がる冷たさに、朱美がかすかに声を上げた。
それに興味を惹かれたのか、別の一人も容器を摘んで挿入し、押し潰しては捨てる。
3個4個5個……計7個の使用済み容器が床に散らばった。
「ん、ぐっ……!!」
早くも唸るように鳴りはじめる腹部に、朱美の表情が険しくなる。
しかしそれも一瞬の事で、すぐに外の子供へ向けて朗らかな保母の表情を示した。

「ほーら、頑張れ頑張れ、保母さんセンセ」
少女達は茶化しながら、或いは朱美の陰毛を摘んで引き抜き、
或いは肛門へつぽつぽと指を差し入れて追い詰める。
朱美の額に、間近で見なければ解らないような汗が浮き出し、下唇が噛みしめられる。
ぐうぅぅうっ、ぐううぅうううっと、腹の鳴りも重く粘りのある物になっていく。
悩ましい脚線が痙攣を始める。
洗浄されていない腸に7個ものイチジク浣腸を施されたにしては、
相当な頑張りを見せていると言えるだろう。
けれども朱美に勝利など有り得ない。
限界を迎えるまでいつまででも待つ小悪魔を前に、彼女には敗北しかない。

「も゛…………っ、も゛う、無理い゛い゛っっ…………!!!!」

やがて朱美は、喉の筋肉を引き攣らせて搾り出したような声で呟いた。
顔中汗が酷く、脚の痙攣も見逃せないほどになっている。
それを見て取り、一人が朱美の下に巨大な木桶を滑り込ませた。
部屋の片隅にあった、園児と共に雛祭り用のちらし寿司を作った時のものだ。
その想い出の品に、朱美は為すすべもなく汚物を垂れ流す。
凄まじい音がした。それと同時に、少女の一人が携帯で大音量の曲を鳴らす。
その音量に驚いて園児達が上を見上げるが、朱美の排便に気付いている様子はない。
結果的には助かったが、少女はあくまで、この時点で陵辱の事実を露見させまいとしただけだろう。
むしろ園児達に注目された事により、朱美は穏やかな表情を保ったままで、恥辱の排便を余儀なくされた。

携帯の音量に掻き消されながらも、間近ではなお、ぶりゅぶりゅと品のない音が聴こえる。
鼻の曲がるような臭気と共に、半ば液状便と化した汚物が桜色の肛門から滴り落ち、千切れ落ちる。
「うわー、凄い凄い、どんだけ溜まってたんだろ。
 そんな糞袋みたいなお腹のまんま、あどけない子供と聖母面して遊んでたんだぁ?」
「おぉクサ。伝説の美人レディースっつっても、やっぱ出る物はあたいらと同じなのね」
少女達はその様子を余すところなく撮影しながら、声を殺して嘲笑い続けた。
そしてその最中、朱美にとってさらに不味い事態が起こる。

「わー、何、くちゃーい!!」
女児の1人が鼻を押さえて叫んだ。
自分の排便の匂いが地上にまで届いたのか、と朱美が凍りつく。
しかし、女児の視線は別の児童の方を向いていた。
「せ、せんせ、せんせー……。」
大人しい性格のその児童は、内股のまま脚の間に汚液を伝わせている。
「さ、佐矢子!!そ、そんな…………」
少女の“お漏らし”にひどく狼狽しつつも、朱美自身も粗相を止められない。
「……ったく、しょーがねぇな。ウチのチビみてーな事しやがって。
 おら、センセーは今大事なお話中なんだ、邪魔すンじゃねーよ。
 オシメ代えてやっから、とりあえず下脱ぎな」
見張りをしている女子高生の一人が、児童を連れて木陰に移動する。
朱美はひとまず安堵するが、惨めな状況は変わらない。

「あーあー、あの子漏らしちゃって。いけないよねぇ、ねぇ朱美センセー?」
女子高生達が朱美に囁く。
女児と同じく、渋るような“お漏らし”を続ける朱美の下半身を撮りながら。



恥辱の脱糞の後、木桶が少女達の手で片付けられる。
それと入れ代わりに、洗い場にあった洗面器が床に置かれた。
「さ、次はこれだよー」
少女の1人が瓶入りのワインを取り出し、栓を開けて中身を洗面器へ注ぐ。
さらに水を加えて手で混ぜ合わせると、かすかに泡だつ濃紺の液体が出来上がった。
「ワイン浣腸って聞いたことある?お尻からワインを入れるの。
 腸からだと、経口よりずっと酔いが早いんだってさ。
 ま、中毒にならない“らしい”程度には薄めてあげるけどね。
 なんといっても酒が一番の媚薬だって言うし、まずはこれで気分盛り上げてよ」

少女はそう言いながらガラスの浣腸器を手に取り、洗面器に浸す。
幾度かワインを吸い上げては押し出して空気を抜き、改めて吸い上げる。
そしてその嘴管を、何の躊躇いもなく朱美の肛門へと咥えさせた。
きゅううっ、と液体の注がれる音がする。
「ぐうっ……!!」
刺激が強いのか、気丈な朱美から苦悶の声が絞り出された。
眉根が寄せられ、唇が噛まれる苦しげな表情だ。
しかし少女がそれを意に介する事はなく、続けて2本目のワインを吸い上げ、注ぐ。
続けて3本目も。

「さて、入った。ぽっこり膨らんでるねぇ」
浣腸器3本分のワインを注いだ後、少女が外から見えないよう屈みながら朱美の腹をさする。
そこは初めに比べ、確かに張りを持っていた。
「さぁ。このまま、また我慢するのよ。段々と酔って、感度が上がっていくからね」
1人が朱美の横に並び立ち、尻肉を撫でるようにしながら肛門栓を嵌めこむ。
それによって肛門から溢れさせる事も出来ず、朱美の腸内をワインが循環し始める。

「…………はっ、はぁっ…………はあっ、あっ、はっっ…………!!」

数十秒後。
窓辺の朱美は、かすかに頬を紅潮させ、熱い息を吐き始めていた。
「おーおー、酔いが回ってきたねぇ。色っぽい顔になってるよ」
朱美の顔を横から覗きこむ少女が笑う。
そして肛門栓に指をかけて引き抜けば、まるでその動きに導かれるように、
濃紺のワインが白い尻肉の合間からあふれ出した。
ルビー色の筋のいくつかは、朱美の美脚を伝って黒タイツを湿らせる。
「ふふ、良い感じ。黒タイツとワイン浣腸の相性は抜群だわ」
カメラが瞬き、艶やかな決壊は何枚もの記録に残された。
「…………っ!!」
口惜しそうな表情を見せる朱美。
だがその表情は、少女の指が肛門をなぞるようにした瞬間に驚愕に変わる。

「そんな怖い顔しないの。
 ちょうどワインで火照ってる事だし、次はこの女の子の指で“善く”させたげる。
 初めてでも、今ならすんごく気持ちいいよぉ?」

少女は舐めるように囁きながら、指の先でゆっくりと蕾をくつろげた。



朱美は窓際に両手を突き、がに股で大きく脚を開かされたまま指責めを受けていた。
慎ましい肛門を少女の2本指が割り開き、蹂躙する。
指の間からは、時おり内部に残っていたワインが赤い雫を垂らす。
そのあられもない姿を、やはり何人もの少女が嬉々として撮影していた。

「あっ……あ、あっ…………あ、あ、あっ…………」
朱美は窓の外を眺めたまま、呟くような口の形で喘ぎを漏らす。
肛門への指責めで感覚を刺激されているのは間違いない。

「ホントにきついねぇ、正真正銘の初物だよこれ。
 さすがよく鍛えてるのか、指食い千切りそうに締め付けてくるしさ」
指を前後させる少女が微笑みながら告げる。
その細い指は、まるで陶芸品でも扱うかのように繊細に、丹念に肛門を嬲った。
浅く挿し込みながら指の先で菊の輪をほぐし、やや深く入れて第二関節で大きく空洞を覗かせる。
揃えた2本指を付け根まで潜り込ませ、奥まりで蠢かす……。
見ているだけでも心地良さそうなそれらの動きを、段階を経て強めながら繰り返す。
1人が疲れればすぐに別の1人に代わり、絶え間なく。

そうされるうちに、徐々に朱美の身体にも変化が訪れ始めた。
時折り別の少女に触れられる陰核は、初めよりも明らかに硬く、大きくなっている。
ブラジャーを取り払われたセーター下の胸は、先端が解りやすく尖っている。
その女の象徴の変化は、いかに朱美が気丈な瞳を保とうとも誤魔化しが利かない。

ぬちゃっ、くちゃっ、にちゃっ…………。

ローションを掬い取りながら、あえて音を立てて行われる指責め。
いつ終わるとも知れないそれを受け続けるうち、元レディースの強靭な脚も耐え切れなくなる。
膝頭が揺らぎ、大股を開いた状態からやや内股へ。
「ほら、駄目ですよー」
小馬鹿にしたような口調の女子高生が、その両の膝を両側から割り開く。
耐え難いゆえに崩した膝を無理矢理に元通りにされ、熟れた肛門を指で嬲られる。
その明らかな『不自然』が、さらに数分も続いたころ。
初めから通して、少なく見積もっても小一時間以上の指責めが続けられたころ。

「お゛、おお゛お゛……っっ!!!!」

朱美は、窓際についた手をピンと伸ばし、容の良い顎を浮かせたまま、
ついに搾り出すような快感の呻きを上げた。
「アハッ、すごい声。気持ちいいのに意地張るから、そんな深くアナルアクメしちゃうんだよ」
少女の1人が、半ば確信を持って明美の割れ目を弄る。
そして濡れそぼったその中をくじり回し、勝ち誇った笑みを浮かべた。
朱美が俯く。
酔った状態で初々しい尻穴を弄繰り回され、身体が限界を迎えてもなお続けられて、
とうとう一つの極みに達してしまった事実が、狭い部屋の中に知れ渡った。



「せんせー、どうしたのー?」
流石に不審に思ったのか、児童の何人かが二階を見上げて問う。
「な、何でもないよー。
 あ、ほら千佳ちゃん、そっちの砂場は石が多いから気をつけてねー」
朱美はあくまで平静を装って児童に呼びかける。
しかしその脚の間では、女子高生達がローションを塗したゴルフボールを、
1つまた1つと肛門へ押し込んでいた。
5個区切りで尻肉を揉みしだいて質量を感じさせ、また五個を押し込む。
1ケース分が丸々入り込み、限界を迎えて粘液塗れのボールが吐き出されれば、
それをまた拾い上げて押し込んでいく。
それを延々と繰り返し、徹底的に排泄の快感を覚え込ませる。

ゴルフボールの他にも、朱美の肛門には休まず恥辱が与えられた。
色の異なる浣腸を施し、肛門から混じった薬液を噴出させて『絵の具遊び』をさせたり。
アナルパールを押し込んでは引きずり出す事を繰り返したり。
肛門鏡を使って蕾を開ききり、腸内の様子を部屋の全員で品評したり。
アナルバルーンで足腰が痙攣するまで腸を膨らませたり。


「……も、もう、や……やめろ…………!!!」

陽も落ちかけた頃、朱美が切実な呻きを上げた。
彼女の美脚の傍には、数え上げるのも困難なほど多種多様な淫具、
果ては玉蒟蒻やプチトマト、ゆで卵のような食材までもがぬめりを帯びて転がっている。
勿論、それらの挿入・排泄の様子は1コマたりとも逃さず記録に収められていた。

現在排泄の穴を責め立てているのは、極太の膣用バイブレーターだ。
細い物から順に使用していき、今や成人男子の性器を遥かに越えるサイズへ至る。
その極太を受け入れる朱美は、もはや完全に肛門性感を目覚めさせられているようだ。
酔いの為か、園児に見守られる背徳感からか、公開排泄という未知の恥辱からか、
あるいは純粋な心地よさのせいか。
その花びらを思わせる秘裂の奥からは、もはや腿を伝うほどの愛液があふれ出している。


「はぁ……はぁ……よ、洋介、美樹、喧嘩しちゃ……駄目だよ。
 い、いい子だからぁ、お姉ちゃん達の言う事、ちゃ、んと……聞、いてね…………!!」

時に園児と会話を交わしながら、窓枠の下では両の膝裏を少女達に抱え上げられ、
まさに園児が用を足すような格好を取らされている朱美。
バイブレーターの底辺を掴む手によってずごずごと腸の深くまでを抉り込まれ、
彼女は為すすべもなく達していた。何度も、何度も。

「ふふ、腸液で手がもうドロッドロ。お行儀悪いよ、朱美ぃ」

責め手の少女は嬉々として、すでに“弱い”と解りきっている、
子宮の裏へ向けて擦り上げる角度で深くバイブレーターを抉り込んだ。
凹凸の付いた凶悪な造詣が、機械独自の振動を伴って狭い腸内を蹂躙する。
「ぐ、くっ…………!!」
朱美はキリリとした眉を顰め、奥歯を噛みしめながら、また新たに愛蜜を吐き零した。
それを受け止める黒タイツは、その各所に白く濁った雫をいやらしく絡みつかせている。
少女らはそれを撮影しながら大いに嘲り笑う。

すでに朱美を隷属させるに十分な記録を得ながらも、彼女達にこの遊びをやめる気などない。
この後園児達の保護者が迎えに来るその時になってなお、朱美を嬲り尽くすつもりでいる。

「ケツ穴奴隷としちゃ、十分に出来上がってるよね。そろそろ別ンとこ開発しよっか?」
1人がそう提案し、他の少女が乗る。
「いいねぇ。ここシャワールームあるからさぁ、クリにシャワー当てて逝かせまくろ。
 涙と鼻水でズルズルになったこいつの顔とか、先輩ら喜ぶんじゃね?」
「賛成。じゃあアナルは抜くよー……っと、うわすご、腸液だらけ。はは、変態ー。」

女子高生達はさも愉しそうに笑いながら、瞳に絶望を宿す朱美の頬を叩いた。


終わり
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親友の“現在”

俺が和門町に住んでいたのは、まだ小学生の頃だ。
その頃の事を思い出す時、真っ先に幼馴染の久義(ひさよし)が頭に浮かぶ。
家が斜向かいで同い年のため、それこそ生まれて間もない頃から親しくしていた奴だ。

久義は小学生ながらにルックスが良く、腕っ節が強くて、カリスマ性があった。
当然、人気も学校内で噂になるほどにある。
俺は子供ながらに、その久義とつるめる事を誇りに思っていたものだ。
また久義の方も、俺の事を特別だと思ってくれていたらしい。
他に仲良くしていたヤツともまた違う親密さで、俺達はよく2人きりで遊んだ。
強さに差がありすぎるので、暗黙のうちに殴り合いは避けていたが、
何度も喧嘩しては仲直りして、無二の親友だと言い合っていた。
俺の引越しが決まった時は、お互い涙が枯れるほどに泣いたもんだ。

その懐かしい和門町へ、俺は帰ってきた。
親の仕事で転校が決まり、その先がちょうど元いた町だったわけだ。
……ただ俺がいない7年の間に、和門町は変わり果てていた。

道路脇の壁という壁がスプレーで落書きされている。
コンビニは窓が角材で補強されていて、駐車場が不良の溜まり場になっている。
居酒屋や風俗店の並ぶ通りでは、ブレザーを着たままの娘が公然と売春している。
その廃れきった町で、転校初日にして、俺はカツアゲに遭った。




「も、もう持ってない。本当だよ」

学校裏にあるタバコ屋の影。
右頬を腫らしながら訴える俺の胸倉を、不良の一人が掴み上げる。
色黒で筋肉質、上腕の入墨に金髪金ネックレスというこれでもかというガラの悪さだ。

「オイオイオイオイ、その冗談は笑えねーわ。
 最低でも諭吉っさんには届かねーと、金じゃねぇだろうがよ?」

そう凄むそいつには、どんな交渉も通じそうになかった。
気性の荒いオランウータンが相手のようなものだ。多分、殺される。
俺がそう悟ったその瞬間、不良が前のめりに倒れ掛かってきた。
地面に組み伏せるつもりか……と思ったが、妙だ。顔が上を剥いている。
男はそのまま俺の襟から手を離し、倒れ込む。
その図体の後ろから現れたのは、制服を着た高校生風の男。
手の形からして、手刀でこの大男を倒したんだろう。

「テメェ、何して……!!」
不良男の連れが怒りに顔を歪め、制服の男に睨みを利かせた。
しかし男の顔を見た瞬間、その表情が変わる。
「あっ……ひ、久義さんっっ!!す、すいませんっした!!」
驚きを隠せない声でそう叫んだかと思うと、一目散に逃げ出す不良達。
俺はその様子に疑問を覚えると共に、叫ばれた名前にも気を引かれた。

「久義…………!?」

俺は腰を抜かしたまま、目の前の制服男を改めて見上げる。
髪を金色に染めて逆立て、制服のシャツを胸を見せるように肌蹴た格好。
腕の筋肉も太く、一見するとさっきの連中の仲間にも思える。
だが意識してよくよく見れば、その顔の作りも目の印象も、確かに俺の知っている久義だ。

「あん?」

久義の方はすぐには気付かなかったのか、俺の顔を一睨みし……
数秒の後に、ようやく目を見開く。



俺の窮地を救ったのは、やはり幼馴染だった。
7年の間に何があったのかを語ろうとはしなかったが、
現状としてはその腕っ節の強さから、この界隈でも一目置かれているようだ。
不良漫画の定番のように、この和門町にもいくつか勢力がある。
久義もその内の一つに属していて、トップに近い立場らしい。
その久義と歩けば、あれだけ肩で風を切って歩いていた連中が猫のように大人しい。
何十という不良が久義に向かって会釈した後、俺の顔を物珍しそうに覗き込んでいく。

「この辺りにも、スカッとしねぇ連中が増えた」
久義は煙草を咥えながら呟いた。
その声色も、背中の大きさも、態度も、昔とは違う。
顔さえ覗けなければ、俺の全く知らない人間だと言っていい。
一歩歩み出せば並べる距離で歩きながら、なんとその背中は遠い事だろう。

「……喰えよ。結構イケるぜ」
俺が俯きがちになっていると、久義は知り合いの屋台から牛串を一本取って俺に寄越した。
ほとんど振り向いてはいないが、かすかに見知った瞳が覗く。
その瞬間、俺は心で感じた。
見た目はどれだけ違っていても、中身はやはりあの久義だ、と。
俺は何故だか涙まで出そうになり、それだけはグッと堪えた。



勢力が複数あるという話の通り、久義の威光が届くのも街の一角に限られているらしい。
通りをいくつか抜けた辺りから、徐々に久義に挨拶する人間も少なくなっていく。
それどころか、無言の圧力を掛けていく人間すら現れはじめた。
そしてついに、面と向かって対峙する奴まで。

「勝負しろ大柴久義、今日こそその首を頂くっ!!」

そう言い放ったのは、驚くべき事に女だった。
それもそこらで売春をしているタイプとは違い、真面目に部活でもしていそうな黒髪の子。
格好も陸上部が着ているようなランニングシャツにスパッツで、拳にはバンテージを巻いている。
腰はよく締まって太腿もパンと張っていて、いかにも身体能力は高そうだ。
それを前に、久義もポケットから拳を抜く。
「また鍔崎の差し金か?……ったく、下らねぇ」
言葉とは裏腹に、久義の表情は活き活きとしはじめていた。
闘争そのものを愉しんでいるのか、この女とやり合うのが楽しみなのか。

「っはァッ!!!」
女は躊躇なく久義に向かって飛び込んだ。
基本はボクシングだろうか、浅い姿勢で思わず仰け反りたくなるような踏み込みが来る。
ワン・ツーが風を切る音をさせている。
それを捌いた久義の腹を狙うフックも、打ち返しとは思えないほどに早い。
けれども……久義に勝てないのはその時点で明らかだった。
攻撃が全て久義に先読みされている。
久義は冷静に反撃に出た。
裏拳気味に放たれたブローを女が紙一重でかわした瞬間、その腹部に本命のフックが叩き込まれる。



「ぉ、ごっ……!!?」
完全に意識外だったんだろう。
拳を半ば以上臍の上に埋めさせたまま、女は身体をくの字に折って倒れ込んだ。
「…………ッは……!!あっ、えぉおぐうっ、ああ゛うっ!!!」
倒れたまま痙攣し、腹を抱えて苦悶する女。
久義はその脇腹に足を掛け、軽く蹴って女の腹を狙いやすい角度に調整した直後、
思い切り腹部を蹴りつける。
「うごえああっ!!!!」
女から新鮮な悲鳴が漏れた。
庇っていた手をすり抜けるようにして、下腹へとめり込む足の甲。
女はその衝撃で蹲るような体位にまで無理矢理引き起こされる。

「ご、お゛…………!!」
髪の先を地に着けるような格好で背を震わせる女。
真上から覗き込むと、うなじの辺りからふわぁっといい匂いが立ち上ってくる。
横から覗き込めば、それなりに可愛い顔が苦悶に歪んでいる姿。
締まった身体つきの割に案外胸もある。
口の端から垂れるものは、影になっているために始めは汗や唾との判別がつきかねたが、
地面に広がった時の異物の存在から吐瀉物だと知れた。
久義はそこから追撃をするでもなく、ただ女の回復を待っていた。
ひどく嬉しそうに。いつのまにか、随分なSになったものだ。

女はたったの数発でひどい呼吸になりながら、涙と鼻水に塗れた顔を上げる。
そして壁を背にして立ち上がると、背中から棒のような物を取り出した。
恐らくは戦闘用の棍だろう。
「うあああっ!!!!」
女が大きく助走をつけ、その棍を振り回す。
拳よりももっと解りやすい音で空気が裂かれ、女の手の中で回転する棍が斬撃を繰り出す。
カクテルをシェイクするような手の動きで紡がれる、素人目には全く安全地帯の無さそうな嵐。
けれども久義は腰を落としたまま、上半身の動きだけでそれを全てかわしていた。
口の端に笑みさえ浮かべながら、かわすついでに女の脚を駆る。
「あっ!!」
バランスを崩して女がよろめくその瞬間に、久義が腹部へ拳を叩きつけた。
脚を刈る円運動をそのまま“引き”の動作にした、気持ちのいいほど大振りなストレートだ。
当然その威力は凄まじく、女の身体は壁まで吹っ飛んで背中から叩きつけられる。
ぎゃん、と子犬が鳴く様な声がし、棍の地面に落ちる音と混ざった。



壁を背にずり落ちながら、脳震盪を起こしたように瞳をぐらつかせる女。
久義がゆっくりと近づく。
女はその久義に拳を突き出したが、震えるそれは臨戦の意思というよりは、
『今は来ないで』と哀願しているかのようにすら思えた。
けれども久義に容赦はない。
パンッと無情にその拳を払いのけると、女の髪の毛を掴んで持ち上げる。
「いッ、いた……!!」
髪だけで引き上げられる痛みに女が暴れた。
久義はそれを観察しながら、その腹部にさらに拳を撃ちつける。
「おぶぇああっっ……!!」
もう何度も致命的なダメージを受けている腹部への攻撃。
女はたちまち胃液を溢れさせ、片手で髪を掴む指を外そうとしつつ、片手で腹部の手を掴む。
けれども只でさえ筋力に劣る女が、片手ずつで久義の拘束を解けはしない。
髪はいよいよ顔が上向きになるように掴みあげられ、
腹部へ埋まった拳は女の掴みなど意に介さないと言わんばかりに引き抜かれる。

そして、すっかり赤らんだ腹部への再びの鉄拳。
「わ゛ぁあ゛んっ!!!」
女のそれは鳴き声に聴こえた。
痰の絡む悲鳴がたまたまそう聴こえたんだとは思うが、異常な声には違いない。
女は髪を諦め、最大の苦しみを及ぼす腹部の腕を両手で押さえ込む。
無慈悲にその拘束をも振り払って引かれる久義の腕。
避けられないのをいい事にたっぷりと肩を入れ、叩き込む。
女の両手が腹部を庇う。
それは当然の防御反応だろうが、実際に拳を叩きつけられた時には、
その庇った掌ごと腹部をぶち抜かれるハメとなる。
むしろ手の平という広範囲をカバーするものを通したせいで、衝撃はボディの広くへ拡散した事だろう。
「ごええ゛っ……!!!!」
蛙の潰れるような声。とてもあの女の子が出すものとは思えない。
めり込んだ拳の下で、パンと張った女の太腿が何度も痙攣する。
その果てに、スパッツの股の辺りが大きく逆三角を描くように濃い色に染まっていく。
やがては膝下の辺りまでが濡れ始め、漂う匂いが失禁だと示した。



久義は一言も発さず、目を爛々と輝かせて髪を掴んだまま腹を殴り続ける。
嘔吐しても、失禁しても。
酷い状況だった。
スポーツ少女のようにキリリとしていた女の顔が、まるで一生分の苦痛を凝縮したかのように千変万化する。
細い腕は、まるで無意識に許しを乞うように久義の肩を10本指の先で押さえ、
腹部へ拳が叩きつけられる瞬間、まるで熱いものに触れたかのように勢いよく肩から離れる。
はじめこそ地面へ踏ん張っていた両の足は、今や足の甲を地面に擦り付けるように反り、
腹へ打撃が見舞われるたびにつま先で地面へ埃を立てていた。
両脚が宙へ浮くようになってなお、女の背後には壁があるのでどのみち威力は逃がせない。

久義は殴りながら、女の眼を覗き込んでいた。
女は眼にいっぱいに涙を溜めながら、その瞳を睨み返していた。
あまりの苦痛にずるっと白目を剥いてしまってなお、意地で瞳を戻して睨んだ。
身体がどれほどひどい事になっても、声が情けなくなっても、ついにその瞳は死なない。
最後の最後、遠めに見ていた俺にも解るほどに瞳孔が開き、死を思わせるほどに勢いよく項垂れるまで。

「…………へっ。いつもいつも、失神するまで粘りやがって」

久義も肩で息をしながら、汗まみれで女の髪を離した。
そして倒れこんだ女を肩に担いで歩き出す。
「どこ行くんだ?」
俺が問うと、久義は興奮冷めやらぬ表情で振り向いた。
「俺の隠れ家だ。負けた女は一晩好きにされるってのが、この世界のルールなんだよ」






「うわぁー、入ってる、入ってるぅ!すごぉい!!」
女達の黄色い声が響く。
その視線の先では、先ほど久義に倒された女がベッドの上で、肛門に挿入されようとしていた。
多数の好奇の視線に晒され、おそらく初物だろうアナルを割られる。
腹部はなお赤黒く腫れあがったまま。
その状況下にありながら、女の視線はなお誇り高く前を睨み据えていた。
「ぐっ……!!」
気丈な女の大股開きの下で、久義の太い物が入り込んでいく。
女の健康的な太腿が何度も筋肉質に蠢き、挿入の凄まじさを物語った。

ここは久義の家。高校生が棲むとは思えないほど洒落たマンションの一室だ。
そこには先客として何人もの女がいた。
全員が鍛えられた健康的な身体をしていて、久義に負けて屈服させられた女だと思われる。
久義は今回敗れた女を家に連れ込むと、服を引き裂き、犯した。
そして浣腸を施して面前で排泄させ、今はその尻穴を征服している所となる。

「この子もしっつこいよねー。鍔崎の手先とか言って、もう何回負けてんのよ」
「負ける度に犯されて、実はもうすっかり久義の虜になってんじゃないの?
 こないだだって、負けた後に半日ぐらいかけてイかされまくったっていうじゃん。
 そりゃ惚れちゃうよねぇ」

嘲笑われる前で、女はついに騎乗位で肛門を征服された。
さらには久義に尻肉を掴まれ、そのまま自ら腰を使うことを強要される。
「クッ……!!さ、最後は必ず、鍔崎さまと私達が勝つ…………!!
 精々今のうちに、高を括っておけっ!!」
女は苦悶と羞恥に顔を歪めながら、まだ青いだろう尻穴を犯されていた。
「へっ、恐ろしいこった。だがまぁ先の話は無しにしようぜ。
 今夜はとりあえず、お前がケツの孔で逝けるようになるまで特訓だ」
久義は逞しい身体を起こし、女をベッドに寝かせたまま顔を見合わせる正常位に移る。
そして女の膝裏を手で押さえつけて深々と尻穴を穿った。
「くううっ…………!!!」
女が声を上げる。ぴっちりと閉じた肛門から赤黒い性器を生やして、
ピンクの割れ目から大量の白濁を零して。

7年ぶりに遭った俺の親友は、その女を嬉しそうに蹂躙し続けた。
何人もの生々しい身体を持った前例に見守られながら、さも当たり前の事のように……。



END

『腹は災いの元』キャラクター設定

・中西哲哉 172cm/54㎏

物語の語り手。通称モヤシくん。
恭子に対して、基本は振り回されているというスタンスを取りながらも、
買い物をする時に彼女の好物を真っ先に探す程度には惚れ込んでいる。
争い事が不得手で、物語初期までは殴り合いの喧嘩の経験さえなかったが、
それだけに一度激昂すると鬼の形相になる。
心配性かつやや神経質な面があり、プロレス団体クルーエル・ビーでは、
その性格を活かしてマネージャー補佐をしている。
かつて通っていたキックボクシングジムでは、恭子との馴れ初めが
『恭子と本気の喧嘩になった際に、腹に強烈な一撃を見舞って屈服させた』
事になっており、今もなお伝説として語り継がれているという。


・芦屋恭子 160cm/51kg→161cm/53㎏

物語のヒロイン。中学時代に番長をしていた、元キックジムの女ボス。
プロレスラーに転向して以降のリングネームは『クレイジータイガー』。
ヤンキーじみた言動に反し、その性格は生真面目で几帳面。
髪の手入れに気を遣う女らしさもある。
初めて出来た恋人である哲哉への恋愛観は一途であり、それゆえか少々嫉妬深い。
基本的には『竹を割ったような気持ちのいい性格』であり、
どんな環境下でも物怖じせずに我を出して、すぐに打ち解けるタイプ。
レスラーとしての身体的なポテンシャルは高く、特に脚のバネに秀でる。


・梅咲あおい 174cm/66㎏

クルーエル・ビーの善側エース。人気・実力共に女子マット界屈指とされる。
典型的ベビーフェイスの彼女が、なぜヒール軍団クルーエル・ビーに居るのかはファンにとって永遠の謎。
他に適任がいないため、花形選手でありつつマネージャーとトレーナーをも兼任している。
哲哉がマネージャー補佐となった事を、恐らく最も喜んでいる人物。
団体のおっかさん的存在であり、面倒見は非常にいい。
トレーナーとしての姿勢は甘えを許さないスパルタ方式だが、
それも中途半端な練習をして、試合で怪我をしては可哀想だという気持ちからのもの。
リングネームは『臥龍小町』。
フリッツ・フォン・エリックの再来とも言われる驚異的な握力を誇り、
哲哉・恭子の歓迎会では、ステンレス製のフライパンをビニール傘の柄ほどに圧縮する芸を披露した。
『マイナスの感情は、腹一杯の飯と酒でその日のうちに消化しきる』ことを心がけている。


・ラミア朝岡 168cm/62kg

日本人とカナディアンのハーフであり、フィットネスモデルのような風貌を持つ。
クルーエル・ビーの中では新参に近いが、実力はすでに一線級。
強さへの執着が強く、ラフファイト上等で粒揃いのクルーエル・ビーに潜り込んで頂点を狙っている。
恭子に粉をかけたのも、自分の知名度を上げてビッグマッチを組みやすくするため。
軍隊格闘をルーツとした関節技が主な武器。
技を掛けられた相手が、大声で泣き喚きながら痙攣を起こしたような速さでタップをする様は、
彼女の試合における名物となっている。


・浅黄ルミ  213cm/136kg

規格外の体躯を持つ巨人レスラー。対峙した者に熊か恐竜をイメージさせる。
リングネームは『ランペイジ・ボア』。
所属大学の学生祭にて景品を賭けた腕相撲大会を開いていたところ、
偶然遊びに来ていたあおいに完敗する。
それ以来レスラーの凄さに心酔し、クルーエル・ビーに入団した。
料理が趣味であり、後輩が出来てからも進んでちゃんこ番をして好評を得ている。
試合で窮地に陥ると大阪ヤクザのようになるが、基本的にはおおらかな人柄であり、
デビュー戦で黒星を付けた恭子に対しても特に遺恨などは残していない。


・西浦マキ  158cm/50㎏

恭子の中学時代からの喧嘩相手。
前蹴りを得意技としており、哲哉と出会う前の恭子をこれで何度も追い詰めた。
見た目は童顔で迫力がなく、必死に悪ぶっている少女という風。
ヒールとしてプロレス入りして以来は、肌を黒く焼くなどして変革を施した。


・小芳(シャオファン) 165cm/49㎏

片言の日本語を操る、怪しげな中国人レスラー。
ピンク色のチャイナドレス、露骨なキャラクター作り、男への媚びなど、
人気の為ならば何でもする。
自分以上に人気のある人間が嫌いであり、執拗にあおいに恥を掻かせようと戦いを挑む。
一見して色物に見えるが、実力はそれなりにある。
ただし細身ゆえに打たれ弱く、カウンターを取れない相手だと勝ちの目は薄い。


・会長

哲哉と恭子が通っていたキックボクシングジムの会長。
普段は人がいいラーメン屋の親父風だが、ジムの中では鬼と化す。
ジム生を我が子のように想っており、ジム歴の短かった哲哉でさえ、たまに顔を出すと嬉しげにする。


・山口

哲哉がかつて通っていたジムに所属する、クルーザー級のプロキックボクサー。
広島弁を話す。
ラガーマンのように堂々とした風体で、地の実力も日本王者時代の恭子に次ぐ。
ただし温厚な性格が戦いに不向きであり、相手の身を案じるあまり塩試合になることも多い。
恭子の事を腕白な妹のように思っており、その彼氏である哲哉も『哲っちゃん』と呼んで可愛がっている。
その恭子からも『ゴリ兄ぃ』と呼ばれて随分と懐かれていた模様。

腹は災いの元 5話(後編)

1.

「うへぇ、えげつねぇ……流石っつうかよ」
「おうおう、あんな美人が白目剥いて小便撒き散らしてよ……。
 一体何ボルトなんだろうな、あの電流って」
「こういうシーン観られンのが、『クルーエル・ビー』の試合の醍醐味だよな。
 反則なんかまず取られねーし、やたらレベルの高ぇ女が嬲られんのが見放題だ!」

会場のざわめきが、ドームを震わせるほどになっていく。
個人が受け止める容量を遥かに超えた、大波のような圧倒的エネルギー。
その収束点が俺の見知った人間なのだから、全くもって現実味の薄い話だ。

あおいさんは、確かに周囲が興奮するに足る凄まじい状況に置かれていた。
電流の流れるリングポストに腹を密着させられている。
ロープの間から突き出た両腕は、外からリング淵のギリギリに立ったマキに引かれ、
さらに背中から、小芳の幼くも見える白い脚がポストに向けて押し付けてもいた。
そのせいで電流から逃れる事も出来ず、あおいさんは意思に反して乱れていた。
「あああ、はあ゛ああ゛あッあぁぁああ゛っっっ!!!!」
上がり続ける悲鳴が、もう聞いたこともない裏声になり果てている。
体中からありとあらゆる体液を零し、整った顔はまるで溺死する寸前だ。
鍛えている女性特有の肉感的な脚が、限界を表すように痙攣する様は嫌でも脳裏に焼きつく。

そうして散々に痛めつけたところで、あおいさんの身体はようやくリングポストから離された。
ピンクと白を基調としたレオタード型のコスチュームは、あちこちが焼け焦げて破れている。
乳房の下半分、腹部のほとんど、挙句にはチリチリと焦げた陰毛さえ衆目に晒された。
特に腹部はモロにポストへ接していただけあり、まるで赤道直下で日に焼けたような有り様だ。
腹筋の美しく複雑な隆起が、赤銅色から生焼けのピンクまでの陰影で彩られている。
開いた臍穴の周囲が捲れ上がり、性器のようにヒクついている様子が衝撃的だ。

その腹筋の様子が映し出された瞬間、当然に煩いほどの反響が沸き起こる。
俺にとっては腹立たしい狂乱。
いつもカラカラと気持ちよく笑い、俺や恭子を実の弟妹のように可愛がってくれる人が、
無残な姿で見世物になっているのだから。
けれども俺がどれだけ苦い思いをしようが、あおいさんの地獄巡りは終わらない。
彼女自身が、惨めなまま敗北宣言をしない限り。



小芳が、電流責めから解放されて棒立ちになっているあおいさんの髪を掴む。
そしてそのまま、中腰になるあおいさんをリング中央へ放り投げた。
「あぐっ!!」
背中を打って仰け反りながら呻くあおいさん。
それを見ながらマキがロープを潜ってリング内に戻り、あおいさんの右脚を掴んだ。

「ふぅーん、さすがミサイルキックの名手って言われる臥龍小町の脚。
 アタシもキックやってたから解るけど、しなやかで強い、良い筋肉してるねぇ。
 こんなおっそろしい脚は、潰せる時に潰しとかないとね」
マキは笑いながら言うと、掴んだ右脚を軸に自ら回転するようにして脚を極める。
スピニング・トーホールドだ。
勢いよく脚を開く形となり、すでに半ば破れていたあおいさんのコスチュームが、
更にビリッと音を立てて会陰部までを晒す形に裂ける。
「ぐうっ!!」
当のあおいさんにとっては、その恥辱よりも脚の痛みの方が優先的らしい。
後ろに突いた両手でマットを握り締めるようにし、歯を喰いしばって必死に耐える。
けれども……彼女の敵は一人だけじゃない。

突如身体を覆った団子頭の人影に、あおいさんのくっきりとした瞳が上方を見上げる。
その先には……ごく小さな中華靴でリングポストの上に立ち、マットを見下ろす小芳。
「んじゃ、イキマース!!」
手を振り上げたまま高らかな片言で宣言し、寝転がったあおいさんに狙いを定める小芳。
片膝が曲げられ、チャイナドレスのスリットから白い生脚がより際どく覗く。
その独特の愛嬌と色気に、まんまの乗せられた男と歓声が沸き起こる。

そして小芳は跳躍した。
片膝を曲げたまま空中で身体を捻り、膝を先端にした槍のように下腹を狙う。
「くッ!」
あおいさんは危機を前にもがこうとするが、マキに脚を極められていては動けない。
かくしてその凶器の膝は、深々とあおいさんの腹筋に沈み込んだ。
日々筆舌に尽くしがたい練習で岩のように鍛え上げられたあおいさんの腹筋は、
けれどもその圧倒的な貫通力を前にして全くの無力だった。



「…………ア゛………………!!」

鈍い音……いや、“声”が聴こえた。
小芳の膝頭が完全に肉に埋没し、極められたあおいさんの右脚が指先まで一直線に伸びきる。
上半身が腹筋をするようにせり上がり、両腕が強張ったまま宙へ浮く。
小芳がそのめり込んだ膝を、さらにグリリと捻りながら捻じ込んだ瞬間、
あおいさんの口から吐瀉物が噴き上がった。
「がぽっ…ごぼっ、ろ゛っ……ぉえ゛、あ゛…………っっ」
薄黄色いものが散らばり、唇から次々に溢れて喉を流れていく。
目は見開かれたまま、天井のライトを凝視する形で時を止める。

「キャハハッ。あれぇ、あおいの腹筋、こんなに柔らかかったあるか?」
小芳は嬉しげな笑みを浮かべながら、あおいさんの両肩に手をかけて膝を捻じ込む。
その度にあおいさんは、為すすべなく吐かされてしまう。
見た目にはいかにも正統派ベビーフェイスという風なあおいさんの嘔吐。
もう何度目になるのか、胸に突き刺さってくるような衝撃的な光景だ。
ドームが震えている。嗜虐の快感に浸るかのように。

自らの吐瀉物に塗れてぐったりとするあおいさんを、脚を離したマキが立たせた。
首に片手を巻きつけ、無理矢理に引き上げて。
「う゛……!」
あおいさんは反射的にマキの腕へ両手を掛け、スリーパーを外そうとする。
普段のあおいさんのパワーなら一瞬で外せる所だが、
腹筋を痛めつけられた今はほとんど力も入らない様子だ。

「へへ、最高の気分だね。あの臥龍小町を片手で押さえ込めるなんてさ。
 開いた片手は……さてどうしようか」
マキは舐めるようにそう告げながら、片手であおいさんの腰を撫でる。
そしてその指は、無残なリングコスチュームから覗く繁みを撫で回した。
ぶちり、と音がして、かなりの量の毛が抜かれる。
「い゛ぅっ!!」
首を絞められながら、あおいさんが顔を顰めた。
マキはカメラに見せ付けるように毛をハラハラと落として会場を盛り上げる。
かつて恭子からサンドバックにされていた時とは比にならないほど、開き直った悪役ぶりだ。

「ココも面白いけど……こんな所まで、責めちゃおっか?」
マキの指があおいさんの割れ目を撫で、さらに会陰部を伝ってその後ろに滑り込む。
女性器より会陰部を伝ってさらに後ろ……となれば、そこは。
「おお゛っ!?」
あおいさんが、信じがたいといった表情で視線を後ろに投げた。
俺はその表情で確信する。
マキの指が入り込んだのは…………あおいさんの、肛門だ。



「おいおいおいおい、あれよ、ケツの中に入ってんじゃねぇーのか!!?」
「うっへぇー、やりやがったぜ!!ずっぷり入ってやがらぁ!!」
「やだー、あおいさん頑張ってーー!!!」

スクリーンに映された映像で、客席は一様に騒然とする。
股座の部分のコスチュームをずらして、マキの色黒な指が入り込む様。
秘部や肛門そのものは映っていないものの、状況から考えれば入っている場所は明らかだ。
指は、手の甲側に伸びたコスチューム生地を張り付けながら、円を描くように蠢く。
マキに背を預けるようにして踏ん張るあおいさんの脚が、かすかに震え始めた。
「いっ、命が惜しいなら止めなっ……!!」
あおいさんが怒りを露わにして、横目でマキを睨み据える。
けれども圧倒的優位にあるマキは、小悪党そのものの顔でその耳を舐め上げた。
「硬ぁい。身体は羨ましいぐらい女っぽいくせに、ここは経験乏しいんだねぇ?」
片手で首を絞め、片手で尻の孔をひらくような動きを見せるマキ。
それに翻弄されるあおいさんに、とうとう小芳までもがにじり寄る。

小芳は、一瞬マキと目配せを交わし、そしておもむろにあおいさんの腹部を殴りつけた。
「あ゛ががばっ……!!!」
首を絞められ、肛門を嬲られて気を散らされながらの一撃はどれだけ効いただろう。
あおいさんは痛ましいほど苦しげに目を細め、唇をへし曲げる。
顔にははっきりと酸欠の様子が浮かんでおり、落とされるのは時間の問題といえた。

「あおいのこの身体にも、随分と借りあるナ。
 内臓ミンチにして、二度とマットで会うないようにするから、じっくりと覚悟決めるね」

小芳はぞっとするような愛らしい笑みを浮かべ、さらに一撃を放った。
普通の打撃に比べてモーションが小さく、けれど脚の踏ん張りがマットに抉れるほどに強い。
おそらくは発勁だろう。
後ろで支えるマキが大きく脚を開いて衝撃を押し留める。
真ん中に挟まれたあおいさんだけに訪れる破壊。

「…………えごぉあああ゛ア゛っ…………!!!!」

顔を歪め、肉感的な身体を震え上がらせるあおいさん。
ひとしきり苦しんだあおいさんを抱えなおし、マキが再度尻穴を穿る。
恥辱と苦痛を極めさせるかのように、悪魔2人の責めは続いた。
あおいさんは苦しみ、悶え、騒ぎ、泣いていた。
こう言ってしまうのは非常に心外だが、このままではあおいさんは、もう『駄目』だ。



2.

2対1で嬲られ続けるあおいさんの安否も気に掛かるが、俺には他に気がかりな事もあった。
リングの外で蹲ったままの恭子の事だ。

「恭子!おい、恭子っ!!」
俺は倒れた恭子の傍に近づき、柵のギリギリまで乗り出して声をかける。
相当大声を出しているつもりだし、実際俺の耳には自分の声が煩いほど響いているが、
ドームを揺らすほどの喧騒の中で恭子に届いているのかは疑わしい。
それでもなお叫び続けると、何度目かで恭子が振り向いた。
髪の間から、朦朧としつつ俺を見上げる瞳が現れる。
かろうじて意識はあったらしい。
「大丈夫か!?」
「だ、大丈夫な訳ねぇだろ、このモヤシやろー……。
 只でさえ痛む腹にあおいさんのドラゴンクローは、本気で三途の川が見えたんだぞ」
恭子は薄ら笑いを浮かべながら何とか身を起こそうとし、苦しげな表情で崩れ落ちる。
痛々しいその様は、俺の心臓を握りしめるようだった。

「…………恭子、もう無理すんな」
俺は思わずそう呟いていた。これ以上、恭子が酷い目に遭うのは見たくなかった。
あおいさんはもう見るからに戦えない。そこで恭子もギブアップすれば、地獄は終わる。
何も負けたからといって死ぬわけじゃない。
「もう、負けでいいだろ。相手のやってる事が酷すぎたんだ、何も恥じゃねぇよ」
俺は言葉を続けた。
恭子の瞳が、物言いたげに俺を見る。
しかしついに言葉はなく、俺に背を向けたまま腕で這うように進み始めた。
「恭……!」
「それで良いのか?」
俺がさらに言葉を続けようとした時、突如、後ろから声を掛けられる。
男のものとも、女のものともつかない声。
驚いて振り返ると、そこに居たのは声から想像される通りの中世的な麗人だった。

精悍ともいえるキリリと整った顔立ちに、色素が抜け落ちたような、雪のように白い髪。
どこか無機質に見える瞳は深いエメラルド色で、少なくとも日本人でない事は明らかだ。
身長は180cm程度、外人基準で考えればいよいよもって性別の判別が難しい。

「君は、本当にそれで良いのか?」
その人はクールな口調で繰り返す。
俺はそれを耳にした途端、心の中が冷えるように静まるのを感じた。
纏う雰囲気からして只者じゃない事が解る。
恭子やあおいさんにも、格闘の世界に身を置く人間特有の凄みがあるが、それとは格も質も違う。
善玉や悪玉といった概念を完全に超越した、荘厳な佇まい。
ただシンプルに“強い”という事だけが伝わってくる。
そして不思議な事に、そのクールな口調にはどこか聞き覚えがあった。
確実に初対面であるはずなのに。

「……あいつは、俺の彼女なんです。彼女が本当に危ないなら、止めてやらないと」
俺はそう告げる。するとその人は、リングに向かう恭子へ視線を向けた。
「彼女は、それを望んだのか?」
ぞくり、と心に差し込むような言葉だった。
けれども。
「口に出しやしませんよ。恭子は負けず嫌いで、そうそう参ったなんて言わない。
 でも、どう見ても苦しそうじゃないですか。ボロボロじゃないですか。
 傍目に観戦して熱狂するだけの人間なら、無責任にどこまででもやらせるかもしれません。
 でも、俺はあいつの彼氏で、あいつは俺の彼女だ。
 もし俺が止めなかったせいで、あいつに不幸があれば……悔やんだって悔やみきれない!」
俺は、無意識にリングとこちらを繋ぐ鉄柵を握りしめていた。
感情のままに本心を曝け出した興奮で、手が震えている。

「なるほど」
淡々とした声が返ってきた。男とも女ともつかない顔がこちらを向く。
「……解らないでもないよ。愛する者が戦う姿を、ただ見守るしかないという心境はな。
 だが、だからとて、自ら戦いに赴く人間の後ろ髪を引く行為が愛だとは限らない。
 一度君自身の私情を捨て、君が言う“傍目からの視線”で見てみるといい」

そう促され、俺は恭子に目を向けた。

髪が乱れ、腹も痛々しいほどに赤く腫れた恭子。
リングに向かいながら、時おり腹を抱えて蹲るその姿は思わず涙が出るほどだ。
それでも、その瞳はまだ死んでいなかった。
前だけを見ている。
リングの上で苦戦を強いられているパートナーを、何百という観衆を視界に抱いている。
それは俺の彼女だという事実を完全に抜きにしても、惚れるくらいに格好良かった。
どうしてだろう。
どうしてあいつは、あんな酷い目に遭ってもなお、リングへ向かうんだろう。

「リングの上が、彼女にとって生を拾える場所なんだろうな。
 たとえ辛くとも苦しくとも、それを超えた喜びが見出せる場所なんだ」

まるで俺の心を見透かしたかのように、静かに言葉が紡がれた。

「……彼女には、君の応援が必要なはずだ。
 親しくなればなるほど、人を応援するという行為には勇気が必要になる。
 例え相手を認めていても、その人間がステージを駆け上がるにつれて不安が膨らむ。
 それは仕方のない事だし、間違った事でもない。
 だが、覚えておくといい。
 こと戦いにおいて、偉大な勝利とは身内からの強い支えによってのみ掴み得るものだ。
 彼女を取り巻く危険や絶望をすべて呑み干した上で、なおその勝利を信じる。
 芦屋恭子を逆境から勝利へ導けるものがあるとすれば、それは君の心意気を置いて他にあるまい」

岩清水のように、静かに淀みなく紡がれる言葉が、俺の心を剥き出しにする。
俺もきっとどこかで、理解はしていた言葉。
それでも心配という名の臆病風に吹かれて、言い張ることが出来なくなっていた言葉だ。
全くその通り。
俺は今までに何度も、恭子の逆境を目にしてきた。でも、恭子はそれに打ち勝ってきた。

奮闘の末ラミアに負けた事だってある。
でもそれをバネにして、俺と恭子はこの世界に漕ぎ出したんだ。
その漕ぎ出した海が想像以上に荒かったからといって、支えるべき俺が及び腰になってどうする。
恭子を、そしてその恭子を支えてきた俺を信じるんだ。
可愛くて、強くて、意地が悪くて、でも根は生真面目で、何事にも一生懸命な恭子。
俺が好きなのは、そんなあいつなんだから。

「 恭子ぉっっっ!!! 」

膝をついて息を整えている恭子に、俺は全力で呼びかけた。
一瞬恭子の背筋が伸び、どこか余所余所しく見えていた顔がこっちを向く。
俺はその恭子に見えるように、力強く自分の腕を叩いた。
「……暴れて来い」
さっきまでの俺なら怖くて口にできなかった言葉。
恭子はそれに一瞬目を丸くして驚き、次に見慣れた面でふてぶてしく笑った。
「おーよ!!」
俺に背を向けながら腕を振り上げ、『クレイジータイガー』芦屋恭子はリングに向けて跳躍する。
気のせいか、俺のすぐ傍からも笑みの零れた気がした。



3.

リングに飛び込んだ恭子は、そのままあおいさんを締め付けるマキを蹴りつける。
いつだったかルミに対して放ったミサイルキックだ。
「ちぃっ……!!」
マキはかろうじてガードこそしたものの、たたらを踏んで大きく後退した。

「おおっ、恭子!!!待ってたぞーー!!」
「梅咲はもうグロッキーだ、頼んだぜクレイジータイガー!!」

客から歓声が沸き起こる中、いよいよ恭子がマキ・小芳の2人と対峙する。
マキはともかく、小芳は未だ一度も恭子が勝てていない相手だ。
とはいえ頼りのあおいさんはもはや白目を剥いて虫の息。
ここが恭子の踏ん張りどころだろう。

「あそこでお寝んねしてたら楽に終わったのに、お前も馬鹿あるな」
小芳が手の平を前に向けたまま額に翳す、独特の構えを見せる。
胸から上はがら空きで、打って来いと言いたげだ。
だが打ち込んだ所で容易く攻略できない事は、前の2回で解っている。
「どうすりゃいいんだ……」
俺が苛立って親指の爪を噛みながら呻くと、隣の白髪が口を開く。

「あの娘、一見すると中国拳法に習熟しているように見えるが、その実不完全だ。
 迎撃……すなわちカウンターの精度は高いが、責めの発勁は不得手なのだろう。
 先ほど羽交い絞めのあおいへ放ったものなど、動く相手には児戯にも等しい。
 そしてあの娘は……それを観ていたぞ」

その言葉の最中で、恭子もまた構えを取る。
ムエタイに近い、曲げた腕を顔ほどの高さまで吊り上げる構え。
攻撃的なその腕に反し、膝を曲げた脚はしっかりと地面を踏みしめている。
恭子もまた待ちの構えということか。
遠目にも明らかに、小芳の顔色が変わる。



「臆したあるか。持久戦でお前に勝ち目は無し、掛かってくるイイね」
小芳が隙を大きくしても、恭子は乗らない。
まるで獲物を前に機を窺う虎の如く、静かに敵2人を牽制している。
小芳とマキが視線を見合わせた。
その直後、マキが恭子へ飛びかかった。

「シッ!!」
踏み込みながら、拳の先が見えないほどのジャブ。
だが恭子は容易くそれを払いのけ、逆の手の甲で素早くマキの目元を叩いた。
「クッ……!!」
視界が閉ざされてよろけたマキの首は、一瞬にして恭子の腋に抱え込まれる。
「一発喰らって、思い出せ!」
そう声が聴こえた次の瞬間、マキの身体が飛び跳ねた。
恭子の背筋がうねりを見せている、放たれた打撃は下から抉るようなフックだ。
あいつのフックは、サンドバックが物凄い音で軋むんだよな。
「かッ、っハ…………!?」
マキは目を見開き、口から唾液を吐き零した。
そのマキへ、さらにコンパクトかつ強烈なフックが叩き込まれる。
再度、片脚が宙に浮く勢いで跳ねる身体。
「げ、へぇ……っ!!」
マキは虚ろな目をしたまま、恭子が首を離すのに併せて力なく前へと崩れ落ちた。
完全に気を失っているようだ。

「うおっ、キッツっ……!!?」
「オイオイ今の、あの色黒の身体浮いたぞ!?あの細い身体で、なんつー力だよ!」
「かっけぇ!あの娘可愛い癖して、マジに虎みたいじゃんよ!?」

客席からは一様に驚きの声が上がる。
さっきまであおいさんへの被虐に沸いていた空気が、再度闘いのムードに変わっている。
いや、『変えた』んだ、恭子が。

「敵は2人だったっけな。さ、かかって来なよ」

恭子は小芳に向き直り、右の人指し指を二度曲げて挑発する。
その凛々しさに、会場の盛り上がりはいよいよ増し始めた。
少し前の俺に、よく見ておけと言い聞かせたい。これが、これこそが芦屋恭子だ。



リングの上にそれぞれの相方がうずくまる状況で、恭子と小芳が対峙する。
恭子の顔に油断は微塵も無かった。頬を脂汗が伝っていくのが見える。
たとえ責めの発勁は拙くとも、それで小芳の脅威が完全に無くなるわけじゃない。
何しろ、序盤に『まだ消耗していない』恭子の猛攻を捌き切った実績がある。

待ちの構えを取る恭子に、小芳の細身が襲い掛かった。
スリットの眩い脚が滑り、鎌を振り上げるような鋭さで回し蹴りが放たれる。
恭子はそれを落ち着いて避け、片脚を上げた格好の小芳の腹部へ右フックを叩き込んだ。
「くっ!!」
肘で防いだものの、顔を歪めて体勢を崩す小芳。恭子はそれを見逃さない。
返す刀で左フック。半ば予想できるのでこれは同じく防がれるが、今度はそれで終わらない。
フックを叩き込んだ際の身体の回転エネルギーを活かした、拳を引き抜くと同時の膝蹴り。
それは拳でぶれたブロックをこじ開け、深々と小芳の脇腹を抉り込む。
ついに、恭子の牙が小芳を捉えたんだ。

「あ゛……っ!?」
硬い膝が折れそうに細い腰をへし曲げ、苦悶の声を漏れさせる。
「貰った!」
恭子の瞳が活き活きとした三白眼に変わるのが見えた。
膝裏にこれでもかと深い溝が刻まれ、脹脛が膨れ上がる。足裏がマットに音を立てる。
そこから始まる、怒涛の連打。
柔肉を打つ音が会場に響く。野生的な暴虐に歓声が沸き上がる。
両腕を身体に引きつけて縮こまる小芳は今、四方八方からバイクに追突されるような感覚に苛まれているに違いない。
恭子の拳が、肘が、膝が、鋼の脛が、小芳の腹筋を抉り込んだ。
「がっああ、あ゛っか……ッは…………!!!?」
小芳の顔が苦痛に歪む。

ただ、苦しげなのは恭子の方もだ。
下剤とあおいさんの掴みで、腹に力を込めるのもつらい状況だろう。
顔には酸欠の色が浮かんでいるし、汗の量も尋常じゃない。
いくら歯を喰いしばって休まず畳み込もうとしても、そこには必ず綻びが生じてしまう。
そこが小芳にとっての反撃の糸口となった。



苦しさを必死に堪えて放ったその一撃は、傍目から見ても大振りに過ぎた。
ある意味非常にプロレスらしい技……ナックルアローのようにも見えた。
それは迫力こそ類を見ず、当たっていれば盛り上がったものだろうが、
ガチンコの殴り合いである今はあっさりと交わされる。
恭子の肩に半ば隠れた小芳の唇が、歪に吊り上がるのが見えた。
「まずい、恭子!来るぞ!!」
俺は叫んだが、それで状況が変わる訳も無い。
小芳の手指が毒蛇の口のように折れ曲がり、そのまま掌底気味に恭子の腹部へ叩きつけられた。
「お゛っ……!?」
空振りした格好のまま、恭子が眉を顰めて呻く。

何ともつらそうだが、ただ、それ以上に妙だった。
目尻から涙が零れ、唇が痙攣し、やがては腰までもが瘧に掛かったように痙攣を始める。
俺の位置からは見えなかったが、真実はリングを別角度から映すカメラ映像によって知れる。
鉤状に曲げて叩きつけられた小芳の指……その中指が、深々と恭子の臍を抉っていたのだ。
手首が見えないほどの速度で臍を抉り込むなど、普通なら指の方が折れていてもおかしくない。
手指の細部まで鍛え上げる修行でも積まない限りは。

「あ……ああ、がっ…………!!?」
恭子は情けなく眉を垂れ提げ、力なく視線を下ろして息を吐いていた。
それはまるで、人間がどうしようもない重症を認知した時に陥るような状態だ。
かつて俺が首をナイフで切られた時も、丁度ああいう風だった。

「う、うわっ、臍に入ってんぞ!?ヤベェよありゃ!!」
「本当だよ、腰痙攣してんじゃん、普通じゃねえよ……!!!」

血気盛んだった客の中にも、怖気づく声があちこちで起こり始める。
小芳はその声が飛び交う中で、いよいよ笑みを深めて臍の中の指を抉り回した。
最初は小さな窪みでしかなかった臍の穴が、裂かれるように歪に変形し、中の赤い粘膜を晒す。
「あ、ヒっ…………ひィぐっ…………!!!」
恭子は顔を引き攣らせながら、片手をほんの柔らかに臍を抉る腕に被せ、
もう片手を小芳の肩に掛けていた。
あまりにも痛烈かつ異質な痛みに闘争本能が麻痺し、無意識に許しを求めているんだろう。



臍を指で抉られるという不味すぎる状況に、俺の脳は無意識に1,2,3と秒を数えていく。
3秒もごく繊細な粘膜の中が抉りまわされた。
そう絶望した瞬間、恭子の腰からいよいよ力が抜けて小芳に寄りかかるようになる。
すると小芳の別の手の平が、その恭子の胸を掴んだ。
Eカップ、男の俺の手でも十分な揉み応えのある胸だ。
それは骨さえ浮き出しにする小芳の手の平の中で、明らかに形を変えていく。

「がっ、ふああ゛っ!!!い゛だっ、ああう゛っ!!!」
恭子の顔に苦しみの色が上塗りされた。
小芳はそれを楽しみつつ、女の恥を掻かせるように胸を揉みしだく。
何とも荒々しい手つき。ビキニタイプのコスチュームが少しずつずれていき、
恭子の大きくて白いバストが僅かずつ露わになっていく。
そしてついに先までが見える……と、俺も、客も、恭子自身も思った瞬間。
小芳は虚を突いた。
臍から勢いよく指を抜き出し、乳房から手を離し、その両手の底を合わせた状態での捻り込むような突き。
カンフー映画で何度かは見た事のある動きだ。

「……………… こ ほっ ……………………っっ!!! 」

恭子は、為すすべもなかった。
身体をくの字に折り曲げたまま吹き飛び、対角線上のリングポストに背面全体で激突する。
激しい電流をその身に浴びながら、痙攣で細切れになった吐瀉物を噴き、
白目を剥きながら、吐瀉物より随分と白っぽいもの……おそらくは泡を唇の端から吐き零す。
女の子らしく内股になったまま投げだされた脚は何度も痙攣し、
やがてはホットパンツ型のコスチュームと白い脚の間から、黄褐色の液体が溢れ出した。
それは恭子の身体の下に広がっていき、主の身体が電流に震わされるたびに冷たい音を立てる。

「がっ……がぁおっ……!!!お、お゛ッ……おはあ、ぉ゛ごぼおっッっ…………!!!」

恭子の反応は、完全に腹筋を砕かれた人間のものだった。
硬い棒で家畜の如く、腹の肉を徹底的にミンチにされたかのような凄まじい有り様。
今の状態『でさえ』そう思える。
しかし小芳には、恭子をそれで赦そうという様子が見受けられない。
一度でも追い込まれた事がよほど気に触ったのか、あるいは活きの良い獲物と見たのか。
「ふふ、あははは、ふふふふっ…………!!」
あらゆる体液に塗れた恭子の身体は、男好きのするあどけない笑みを前に、
トップロープから逆さ吊りにされてしまう。

小芳は、3本ある太いロープの一番上に逆さ吊りの恭子の脚を引っ掛け、
持ち上げた2番目のロープとで挟み込んで固定した。
耐電性を有する特別製のロープは、それだけで弱った恭子の脚の動きを完全に封じてしまう。
「あ……っく…………」
苦しみ悶える恭子の身体を汗が滴った。
艶やかな黒髪は、その汗を吸って海草のようになっていて、
普段のショートヘアからは考えられないほどの質量で逆さに垂れ下がっている。
垂れる格好で力の入った太腿が、やけにむちりとしていた。
ベルトの印象的なホットパンツから覗くそれは、客観的に考えれば性的だ。
ほとんどの男は欲情している事だろう。
俺にはそれを責められない。俺だって、アレが全く見知らぬ女だったらそうなるだろう。
アレが彼女の成れの果てでさえなければ。

小芳は、その無残な恭子の姿をしばらく見世物にしてから、拳を引き絞った。
あまりにも絶望的な光景だ。
粋な映画なら、ここで格好良く正義の味方でも現れるべき局面だろう。
けれども現実は無情なものだ。
その拳は、何の慈悲もなく、既に鎧の役目を果たさない柔な腹筋を抉り込んだ。

「えっ、はぁ゛っっ…………!!」
恭子の顔が苦痛に歪み、かすかな胃液交じりの涎を吐き出す。
極限状態での打撃は一度では済まない。
小芳の拳は何度も何度も恭子の腹部を抉り、ロープを軋ませる。
その音と恭子の苦しみの声だけが、ドームに折り重なるように響き渡った。
会場はざわついている。
清楚そうな恭子への滅多打ちに興奮する人間と、やりすぎではと案じる人間に別れて。
それほどに強烈で危険な状態なんだという認識が、凍りついた胸へ今さらながらにこみ上げて来る。
恭子の姿は、自分が死に近づくのと同じほどに恐怖だ。恐怖で小便が漏れそうだった。

「つらいか?」
隣から銀髪が問いかけてくる。
言うまでもない事だ。これで何も感じずにいる訳がない。
それでも、俺はもう、その酷い状況から目を逸らしたりはしない。
「……平気だ」
俺は胸の下から声を絞り出す。
「あいつは、恭子はもっともっと辛いんだ。それを思えば、見守るぐらい……何でもない!」
俺は、精一杯目を見開いて恋人の惨状を受け止める。
やるせない感情で震える拳を抱いたまま。
「そうか。なら、この試合…………まだ解らんな」
銀髪のその言葉が、不思議な事に最後の一押しとなった気がする。
俺は鉄柵を握りしめたまま息を吸い込んだ。

「頑張れッ、恭子おおおぉぉっっ!!!!!!」

精一杯の声を張り上げて、呼びかける。
何回も何十回も、恭子の試合の度、馬鹿の一つ覚えみたいに繰り返してきた行為。
この状況だから……この窮地だからこその、いつもの声援。
それを繰り返す。
周りから奇異の視線が集まってくるのを感じながら、喉が張り裂けそうになっても。
俺の喉が潰れるぐらいで恭子に力が伝わるなら、少しも惜しくはない。
涙が出てくる。変わらない状況に、呼吸は刻一刻と苦しくなり、視界が滲む。
空しい行為なんだろうか。
いつも恭子に期待をかけて、あいつがそれに応えてくれるのを望むのは、馬鹿げてるんだろうか。
別に俺のためじゃなくっていい。恭子自身の為に、このままで終わって欲しくない。
俺のその都合のいい考えは、やはり都合のいい幻想を見せてくる。

2つの女の影が揺れる中、されるがままだった人間の手がかすかに動いた。
何かを掴むように、一度、二度。
指が一本ずつ内へ折り込まれていき、中心に吸い込まれるように強く握り込まれる。
「ううっ……く、ぅううあああああ゛あ゛ッッ!!!!!」
振り下ろすお下げ女に合わせるように、その拳は振り上げられた。
片手でロープを握りしめ、脚を絡ませたまま、身体全体で反り上がるようなアッパー。
「お゛がっ……ッ!!!?」
スリットから生脚が覗き、白い脚がくの字に折れる。
腹部も同じように折れていて、その中に埋もれた拳が、チャイナドレスの女の顎までを突き上げる。
高らかに天を向いたまま、リングを揺らして尻餅をつくチャイナ女。

「うわっ、マ、マジか……!あの体勢から反撃かよっ!?」
「しかも効いてる、効いてるぞ!!!」
「ボロ雑巾みてぇなのに、一体どっからあの力が湧いてくるんだ……!?」

三度逆転した勢力図に、会場が驚きの声で包まれた。
その地鳴りのするようなどよめきで、ようやく俺は目の前の光景が現実なのだと実感する。
恭子が窮地を脱したのだ、と。

全身を使って拳を振り上げた衝撃で、恭子の脚がロープから抜け落ちた。
片腕をクッションにしてリングに降り立ち、膝をついたまま小芳を睨みつける恭子。
その目は死んでいない。
いつだったかあいつを初めて見た時、ジムの中をぐるりと見回していたあの強い瞳だ。
その瞳が何かを探すように周囲を巡り、俺の所で止まる。
そして恭子は、俺を見下ろしたまま、片手で作った力瘤を強く叩いた。
見たか、と言わんばかりに。
当然俺は頷き返す。涙が止まっていれば、もう少し格好もつくんだが。

「がっ…………あ、かはッ…………!!」

唾液の糸を口から零しつつ、小芳が呻く。
肘を起点に少しずつ身体を起こして臨戦態勢へ。
不意打ちで相当に効かされているとはいえ、こちらもここで終わる気配はない。
リング入りした時には男に媚を売る色物に見えたが、その実なんという負けず嫌いだろう。
恭子はその様子に険しい表情となる。
あいつだって限界を超えて何とか踏みとどまっている状態だ。
決死の覚悟で構える恭子を前に、怒りを滲ませたまま不気味に手足を揺らがせる小芳。

ただ、その背後を見て、俺は思わず頓狂な声を上げた。
トン、トン、と2回軽く肩を叩き、小芳に存在を知らせる筋肉質の女性。
驚きの余り自然体で振り向く小芳。
その目の前で、ぞっとするほど直球な綺麗さで笑う女性は、
『今度こそ』間違いなく敵の腹へ掌を叩き込んだ。

「あ。あ゛お…………い………………っ!!!!!」

驚愕に震える小芳の身体が、為す術もなく上空へ持ち上げられていく。
「可愛い後輩が根性見せてる前で、この臥龍小町がいつまでも……寝ちゃあいられないよっ!」
長くしっかりとした指が、小芳の腹の中で深い皺を作っていく。
真上に身体を持ち上げた状態での『ドラゴンクロー』。
鷲掴みにする手に自重で胃袋を押し付ける形となる、最も効果的な方法だ。

「がぁ、あっ……!!ぐぁああぁはぐあああああああ゛あ゛っっ!!!!!」

小芳の手足が痙攣し、開ききった唇から唾液が零れていく。
それは次第に濃厚となり、やがては胃液までもを吐き零すようになる。
リング上空へ高々と掲げられたまま、必死にあおいさんの腕を外そうともがく虫のような姿。
「けぉっ…………むぁっが、あごっご、げ…………ぇ」
瞳からは次第に精気が失われていき、上瞼に隠れるようになっていく。

「あたしら竜虎タッグを、ここまでよく追い込んでくれたじゃないか、小芳!
 でも……これで終わりだよっ!!!」

あおいさんの手の平に一層の力が込められた。
必死にその背を蹴りつけていた小芳の脚も、やがてはだらしなく垂れるだけになり、
チャイナドレスの尻の部分がかすかに透ける茶色い盛り上がりを見せていく。
腹部を中心に凝縮されるようなドレスの胸部分には、試合の興奮からか隆起した乳首までが見えていて、
獣の咆哮にも似た客の関心を買う。
もうこれから小芳というレスラーは、可愛らしさよりもエロさを求められるようになるだろう。
あおいさんがようやく小芳を投げ捨てた時のチャイナドレスの肌蹴け具合は、それを決定的なものにした。



あおいさんの手でついに小芳が倒され、恭子が安堵の息を吐く。
けれどもちょうどその瞬間、またしても驚愕の声が客席から上がった。
場の熱気に呼び起こされたのか、あるいは並ならぬ執念からか。
恭子にやられて失神していたマキが、腹を押さえながら、唾液を零しながら立ち上がっていたんだ。

「恭子…………!!」
凄まじい闘気を孕んだ視線で睨みつけるマキ。同じ瞳で向かい合う恭子。
キック時代から、俺と出会うよりも前から因縁のあった相手だという。
その間には、何者も入れない。ただ固唾を呑んで見守るだけだ。
「……トリは任せたよ」
それを感じ取ったのか、あおいさんは気絶した小芳をあえて押さえ込む事はせず、共にリングを降りた。

「あんたと闘るのは、これで何度目だろね。最初は中学ン時だっけ。
 それまで喧嘩で負けたことなんか無かったアタシに、最初に土をつけたのがあんただ。
 キックのプロになった時には納得したよ。あんなバカ強いのが、素人なんて変だってね。
 あんた追いかけてキックのリング上がって、叩きのめされてプロレスの悪役に転向して。
 今じゃあこんなナリ」

マキは、自分の黒く焼けた肌やギャング風の格好を差して自虐する。
口元は笑っているが、目は真剣そのものだ。勿論、恭子も。
2人は過去を懐かしむように、しばらく荒い息のままで睨み合っていた。
やがてその均衡を崩し、マキが歩を進める。一歩ずつ、気負わずに。
恭子のすぐ前まで来ると、マキは仁王立ちの恭子の胸に軽く拳を当てた。
「…………最後だ」
マキは息を整え、はっきりとした口調で告げた。
「あんたを追っかけるのは、あんたと闘うのは、これで最後だ。
 どれだけ惜しんだって、もう二度とやってやらねー。
 完全に釣り合い取れなくなる前に、この西浦マキって存在を刻み付けてやるよ。
 テメーの彼氏使って、あたしの為に鍛え上げたその腹ァ……今度こそ食い破ってなぁっ!!」

西浦の叫びにも似た宣言の直後、鋭い前蹴りが放たれた。
俺が恭子の腹を殴って対策をするきっかけともなった、伝家の宝刀。
それを避けられなかったのか、あるいはわざとか。
恭子は鳩尾の辺りでそれを受け止め、苦しげに呻いた。
「っぐぐ……!!」
噛みしめた歯を鳴らし、腰を落としてたたらを踏む。
けれどもすぐに、恭子の方も反撃に転じた。
「あああぁっ!!!」
猛然と踏み出しながら拳を叩きつける、喧嘩ナックル。
それはマキの下腹に深々と入り込み、吹き飛ばす。
「があっ……!」
伸ばした両脚を揃え、尻餅ついたままリングを滑るマキ。
その見た目にも派手な威力は、ドームに幾度目かの熱狂を巻き起こす。

恭子とマキの名前が交互に叫ばれる場内。
照明を浴びるリングの中で、汗まみれの2人が顔をつき合わせて笑う。
殴られたマキも、殴った恭子も体が振り回されるほどに限界なのに、楽しそうだ。
「ふっ!!」
マキのフックが恭子のアバラの下を抉る。
恭子の口から、る゛、と鈍い悲鳴が漏れ、目尻からつうっと涙が零れ落ちる。
「き、効くじゃ、ねぇか……このッ!!」
しかしその目尻はすぐに吊り上がり、マキの腹筋を打ち返した。
腰を千切ろうかという速度でのボディブロー。
「げご、ろ゛っ……!!」
マキの声にも余裕などなく、蛙が握りつぶされたかのような声で光る唾を吐いた。

ド、ドン、と2人の足の裏がマットを叩く音が響く。
その音が鳴った時には、2人のどちらかが相手の腹を抉っている。
額が擦れあうほどの近距離で、息を掛け合うようにして睨みあう2人。
見た目に荒々しくなったマキも、真剣な表情をしていれば昔のあどけない面影がある。
一方は自慢だった長い髪を切り、一方は少女としての外見を捨て去り。
色々な経験を経て容姿が変わっても、この2人の根っこは変わっていない。



すでに血塗れのようにも見える腹を打たれながら、なお強気に打ち返す恭子。
ここに来て一番厄介なのはやはり前蹴りらしく、
殴りかかる所で距離を取らされて豪快に空振りするシーンが何度も見受けられた。

やがて、普段なら何発でも耐えるようなマキのボディブローが深々と突き刺さり、
恭子の口から飛沫が上がる。
見間違いならいいんだが、俺にはその中に赤い色が混じっていたようにしか見えなかった。
マキとて普通の人間とは比較にならないほど力がある上に、
元打撃のプロとして効かせる場所という物を恐ろしいほどに熟知している。
その相手から殴られれば、腹筋だけでなく臓器にも深刻な損傷を負う危険性は十分ある。

「っ……!!!ッッ………………!!!!!」
もはや悲鳴も上がらず、恭子は目を見開いたままで痙攣するように呼吸を繰り返す。
何とか踏みとどまろうとするが脚が言う事を聞かず、マキの腰に縋りつくようにして崩れ落ちる。
「ゼッ、ぜひっ、ぇ、ッハ…………!!」
膝を突いた辺りでようやく病的な咳き込みが始まったのが、いかにも危険に思える。
「…………はっ、はぁっ、はあぁっ…………!!!」
倒したマキの方も気息奄々で、上ずった顎から湯気の出るような息を吐き続けていた。
「恭子ぉーっ、踏ん張れぇーー!!」
観客と一体になりながら、俺は声を張り上げる。
苦しい戦いを凌ぎきった末の、宿命の相手とのタイマンだ。ここまで来て負けて欲しくない。

「……立ちなよ、恭子。
 プロレスラーが、リングでみっともなくノビてんじゃねぇ」

マキが恭子を見下ろしながら告げた。
その強い瞳の色は、ただの怒りとはまた違うものだ。まるで……激励するような。
そして、今にも泣き出しそうな。

「お前、あのラミアとかいう奴に勝つんだろ。
 だったら、ちっと汚い手使われた位で、アタシなんかに倒されてんじゃねぇ……!
 根性であいつぶっ倒して、それよりもっと上にいる奴もぶっ倒して、頂点に立ってみせろよ!!
 あたしの夢と誇りを奪ってくなら、せめてどんな時でも憧れのままで居続けろよ!!!
 あたしだけじゃねぇ……あんたの強さに憧れてきた、全員のだ!!!」

とうとう、マキの瞳から涙が零れた。
その涙が恭子の背を濡らし、それに意識を呼び醒まされたかのように恭子が身体を起こす。
ガードを下げて……膝を曲げて、まだやる気だ。



「ううぅうあああああああ゛あ゛っ!!!!!」
「おおおおらああああああ゛あ゛あ゛っっ!!!!!」

気合の声が交錯し、恭子とマキの腹に痛烈な拳が叩きこまれていく。
息を荒げて、女らしい乳房を弾ませて、腋を絞って、整った脚線を力ませて。
まるで互いに番長なんて呼び名で呼ばれていた頃に戻ったかのように、総力での殴り合いを繰り返す。
お互いの腹部は真っ赤に腫れ上がっていて、隆起にそって赤い蝋を塗り固めたかのようだった。
けれども、もうお互いに細かな痛みなど気にしている風もない。
ただ自分に残された全力を叩きつけている。
互いの今までを湛えあうように、今を確かめ合うように、そしてこれからを語るように。

「はああっ!!!」
マキの放った拳が恭子の腹部へ抉り込み、その身体をリングポストに叩きつけた。
電流と共に火花が散り、衝撃でポストが吼えるかのように揺れる。
だが恭子は怯まない。自らポストを強烈に足裏で蹴りつけ、その勢いでミドルキック。
こちらもマキの腹部を抉り込み、苦悶の表情を浮かばせながらリング中央に吹き飛ばす。
そしてその身体が何とか踏みとどまった時には、まるで跳躍するかのように恭子が踏み込んでいた。
大きく開いた身体を前方へ向けて収縮させるようにしながら繰り出す、全力の拳。
それが再びマキの身体を吹き飛ばし、対角線上の逆のコーナーポストに壮絶な火花を散らせる。

観客は歓喜していた。
最後の最後に2人の因縁の相手が見せる、女のものとは思えないブン殴り合い。
髪を振り乱して、筋肉の限りを尽くして互いを蹂躙するその姿は、
傍で観ていて震えるなという方が無理な話だ。
鉄柵を握りしめる俺の手が、興奮でぶるぶると震えているのが感じられた。
俺の後ろにいる奴も、その隣の奴も興奮に身震いし、脚を踏み鳴らしている。
クールさを漂わせる白髪でさえ、その瞳に静かな炎を滾らせているのか伝わってきた。



いつまででも観ていたいような、身体の芯まで痺れる試合だ。
それでも終わりの時は来る。
もう2人共が限界を露わにしており、最後の一撃に入ろうとしていた。

「いけ、恭子ッ!!!!」
俺が喉も潰れようかというほど叫んだ直後。
マキの脚が跳ね上がり、全身全霊を込めた前蹴りが放たれる。
「きょお…………こおおおぉぉおおっ!!!!!!」
明らかにそれまでとは気合の質が違う一撃。
「……ぐが、がっ…………っは………………ッッッ!!!!」
足の甲までもが水月にめり込もうかというその前蹴りを受け、恭子の身体が吹き飛ぶ。
黒髪で顔が隠れ、手脚が脱力したかのように投げ出される。
もう駄目なのではないかという見方も出来た。そういう声も上がっていた。
けれども、俺は信じる。
俺との特訓で鍛え上げられた恭子の腹筋を。そこから湧き出る、“俺達”の底力を。

ぎしっ、とロープが軋んだ。
恭子の身体が倒れ込むようにロープに寄りかかり……弾かれる。
その勢いを全て利用し、恭子の脚がマットを蹴った。一歩、二歩。
足先の見えなくなるような加速から、痛烈に踏み込んで恭子は跳躍する。
プロレスのリングに入ると決めて以来、叩き込まれた新しい技。
あおいさん直伝の、交通事故のようなミサイルキック。
「くら……えぇええええあ゛っっっ!!!!!!」
膝を折って畳み込まれた脚が伸びきり、マキの腹部へ叩き込まれる。

「………………ご、ぉっ………………!!!!!」

マキの瞳が、折れ曲がる自分の腹部を呆然と見やり、ぐるりと上向いた。
何年ももかけて作り上げられた筋肉質な身体が宙を舞い、ロープに掛かる。
その太いロープのたゆみをもってしても衝撃は殺しきれず、マキはその間をすり抜けた。
身体をくの字に曲げたまま、リング外の鉄柵へと追突する。
観客が目を丸くして避ける中、マキは鉄柵に寄りかかった状態で止まった。

ぜっ、ぜっ、ぜっ……。

荒い呼吸の音が、無音となったドームに響く。
命を燃やすような熱気の残滓を、会場すべてへ今一度行き渡らせるかのように。
そしてマキは、血の溢れる唇の端を吊り上げて、笑う。


「へ、へへっ、きっつい…………じゃん。
  ………満足だよ、クレイジータイガー………。

     ………………これで、満足…………だ……………… 」


眩しそうにリングを見上げたまま、マキは意識を失って崩れ落ちた。
この瞬間、恭子とあおいさんのタッグの勝利が決まる。

歓声が沸き起こった。
惜しみのない、豪雨のような拍手が会場中から響き渡る。
恭子とあおいさんを呼ぶ声が交互に続く。
恭子はしばらくその嵐のような歓声に打たれるがままになっていた。
「…………マキ…………」
血に染まった赤い唇が動き、小さく旧友の名を呟く。
勝った事にいまいち自覚がないようだ。

小芳とマキが担架に乗せられて無事に搬送されるのを見届け、あおいさんがリングに上がる。
そしてまだ呆然としている恭子の手を取って高らかに上げた。
「ほら、いつまでシミったれた顔してんだい。勝者の肩書きが泣くよ!!」
そこでようやく、恭子の顔に感情が戻る。
「…………っっ!!!!」
あおいさんに片手を上げられたまま、もう声も出ないほどボロボロのその身体は、
抑えきれないといった様子で悦びを表し始めた。

大歓声に応える恭子と、それを称える声でドームが沸く。
その騒がしさの中で、俺の隣にいた白髪だけがいつの間にか立ち去ろうとしていた。
「あの……!」
どう声を掛けようとしたのか、自分でも解らない。
それでもとりあえず呼び止めると、その人は階段の中程でふと足を止める。

「君にひとつ、言葉を託そう。
 芦屋恭子に…………そして、君自身にも贈る言葉だ」

俺の方を振り返りもしないまま、銀髪は言葉を続けた。



4.




「相変わらず、あおいの姐さんは女に人気だなー」

病室のベッドの上、俺の剥いたリンゴを頬張りながら恭子が呟く。
全身あちこちに包帯を巻いた、中々に無残な姿だ。

その視線の先、窓から覗く向かいの病室には、こちらも損傷著しいあおいさんがいる。
ただ彼女は、山のようなファンの女の子達に囲まれながら、
まるで怪我を感じさせない様子で握手をし、頭を撫で、カラカラと笑っていた。
試合をした4人の中でも一番手酷くやられた筈なのに、驚異的なタフネスだ。
恭子のしぶとさも俺には理解に苦しむレベルだが、間違いなくあおいさんはそれ以上。
そのタフさこそ、彼女が一流レスラーたる所以なのかもしれない。

考えてみれば、あおいさんの試合というのは圧倒的な強さで完勝するタイプじゃなく、
相手の凄みをたっぷりと引き出して追い込まれた末に奇跡の大逆転、が定番だ。
振り返るような健康美人のあおいさんがギタギタにやられるからこそ人気が出るわけだが、
それは打たれ強くないとやっていられないだろう。

俺がその女の園をぼけっと見ていると、不意に腕へ痛みが走った。
視線をやると、恭子が俺の腕をつねりながら憮然としている。
こっちとしてはもう三時間もつきっきりなんだから、少しぐらいの気分転換は許して欲しいんだが。

「ところで、モヤシくん。私の試合中、ずっと隣にいた銀髪の女は誰だよ?」
浮気糾弾のついでとばかりに、恭子が俺を睨みながら訊く。
銀髪の女……銀髪の女……と頭に思い浮かべ、そこでようやくあの人だと気付いた。
「え、あれって女なのか?」
本気で性別の判断がつかなかった俺は、そう返す。
恭子の表情が呆れ顔に変わった。

「はぁ?女に決まってんじゃん、あんな綺麗なの。
 ったく、哲哉は相も変わらずニブいっていうかさぁー……」
言外に何か別の事を求める響きを含みつつ、恭子が俺の腕を撫でてくる。
そろそろ試合後恒例の、腹を殴りながらの変態セックスがしたくなったんだろうか。
ただもう少しはお預けだ。
未だにゼリー食しか許されないような身体では、さすがに殴りようがない。

「ねーぇ、ったら、ねーぇ。」
腕を引きつつ艶かしい腹部をちらつかせる恭子の誘惑を撥ね退けながら、
俺はあの銀髪の女の事を考える。
綺麗……か。どちらかと言えば終始怖かったけどな、真横にいると。
本当に神秘的な人だった。人間というより、エルフだとかそういう類にすら思えた。
彼女の最後に残した言葉が、妙に頭に残っている。


『  登り詰めて来い  』


俺と恭子に贈るという銀髪の言葉。
その真意はよく解らないし、果たして解る時が来るのかすら見通しがつかないが、
ともかく今は進むだけだ。

最愛の恭子と歩幅を合わせて、行けるところまで……。




                                END
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