大樹のほとり

自作小説を掲載しているブログです。

2012年11月

エレクトリカル・ソルジャー

※ 腹責めモノ、ややハードな暴力表現あり


サイボーグ開発が滞り始めた頃、その実験は水面下で俄かに影響力を増していった。
電磁式超兵士……通称“エレクトリカル・ソルジャー”。
人間の体に特殊な薬品と電気ショックを施す事で、一時的にではあるがその身体能力を劇的に強化する計画だ。
この計画には未だ改善点も多く、現在はまだ初歩的段階での実験に留まっている。

その実験には、しばしば性的な趣向が加えられた。
同じ実験をするにせよ、ただ淡々と作業を進めるよりも、関係者やスポンサーの目を愉しませた方が得だからだ。
実験のサンプルは、主として捕虜になった若く美しい女兵士。
最近は専ら、内乱で暴れ回った威勢のいい女ゲリラに人気が集まっている。
何故か。簡単なことだ、単純に見目が良い。
彼女……フィア・マフェリーは、捕らえられてから僅か一昼夜で62人の兵士に犯された記録がある。
これこそ、彼女が男の目を惹くものであった証拠となるだろう。

肩を覆うまでに伸びた、上質な木を思わせるダークブラウンの髪。
直視が躊躇われるくっきりとした強い瞳、すっと通った鼻筋、ハキハキと物を喋りそうな赤い唇。
胸はさほどある訳ではないが、肩や手足の肉付きや、細く絞り込まれて健康的な腹直筋を浮かび上がらせたボディは、
戦う女の美しさというものをその気のない者にさえ目覚めさせる。
およそ戦場の最前線で出会う女に、あれ以上の物はあるまい。それが輪姦した兵士達の共通認識だ。




フィアは今日も丸裸のまま、分娩台を思わせる拷問用の椅子に拘束されていた。
その周りを、下卑た笑みを湛えた研究員達が取り囲んでいる。
彼らの視線は一片の容赦もなくフィアの裸体へと注がれていた。
フィアはその屈辱的な状況にありながら、しかし視線を傍らに投げたまま無反応を貫いている。
意地を見せているのか、あるいは連日の実験で羞恥すら麻痺してしまったのか。

「…………ほう、これが例の実験体か。
 兵士共のマドンナだというから期待して来たが、なるほど征服欲をくすぐる女だ」

実験の出資者の一人、ロニー・バルフがおもむろに姿を現す。
片手に髭を撫でつけ、もう片手を腰に当てて、人を見下す態度が板についているものだ。
しかし事実それなりの権力はあるようで、研究員達は一様に彼に敬礼の姿勢を取る。
ロニーはフィアの視線へ先回りする形で拘束台を横切り、噂の女ゲリラの顔を覗き込む。
そして、それでも態度を崩さないフィアに満足げな笑みを向けた。

「ふふ、まるで氷の女だな……面白い。
 早速実験を始めてくれ。早くこの女の狂乱する様が見たい」

ロニーの指示が飛ぶと、待ちかねたとばかりに研究員達がフィアの手足や腹部の各部に電極を取り付ける。
そうして物々しいコードでフィアの身体を覆い尽くすと、いよいよ機械のスイッチが入れられる。
巨大なレバーを手前に引き、さらにスイッチの要領で強く押し込む。
その瞬間。

「あ゛あ゛あああああぁぁぁああああ゛あ゛あ゛っっ!!!!」

日常生活ではおよそ耳にしないような、非日常の悲鳴が響き渡った。
先ほどまで平然としていたのが嘘のように、フィアは目を剥き、大口を開けて狂乱していた。
身体は跳ね上がっている。
手足は台に強く拘束されている為、ブリッジをするような格好だ。
首の筋と鎖骨周り、腹筋に腿の筋肉が、肉体標本さながらに盛り上がっており、異常性を増している。

「お、おお……こ、これは……何と言うやら、凄まじいな。オカルトめいた物さえ感じる。
 あの気丈な女でも、電気を流されればこう成らざるを得んという訳か」

ロニーは、筋肉を強張らせたまま痙攣と絶叫を繰り返すフィアを、呆然と眺めていた。
一旦電流が切られると、フィアの肉体が大きな墜落音を立てて台に沈む。

「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ……!!」

フィアは目を見開いたまま、小刻みに息を発していた。
その顔に余裕などと呼べるものは全くない。
良く見れば、顔といい身体といい、至る所が霧吹きで吹きかけたような汗で濡れ光っていた。

「もう一度だ」

研究員の一人が告げ、再度電流のスイッチが入れられる。

「っあ゛あ゛あぁああはああぁあ゛あ゛あ゛あ゛ッッ!!!!!!」

再度響き渡る奇声。
艶かしい女の肉体が反り返り、身体中を緊張させながら電気の命じるままに悶え狂う。
それはある種、一人の女が電気に陵辱されている様に等しかった。

「24……27……30%エキストラクト」

研究員の一人は計器の数値を読み上げ、ある一人は微細に電流を調整し、またある一人は面白そうに実験体の顔を覗き込む。
その異様な実験は、幾度にも渡って、嬲るように長い時間続けられた。



「オール・エキストラクト。実験成功です」

計器を観測する研究員が告げると共に、電流のスイッチが切られた。
もう何度目になるのか、重々しい音で台に落下するフィア。
改めてその肉体に視線を這わせ、ロニーは生唾を飲み込んだ。

雪のようだった肌が、湯上りのような桜色に上気している。
乳首ははっきりそれと解るほどの円筒状に勃ち上がり、秘部もしとどな蜜に濡れている。
そしてその筋肉は、始めに目にした小娘の身体からバルクアップし、女らしくありながらも逞しく張っていた。
まるで人間の持つ官能と肉体美が、極限まで引き出されたかのようだ。
この身体を前にしては、ミロのヴィーナスでさえ無駄の多い俗物にしか映らない。それほどの逸品だった。

「なんだ、乳首が隆起しているな。あれで感じおったのか」
「……さて、どうでしょうかな。
 要は筋肉を極限まで活性化させる訳ですから、マッサージの要領で快感を得る可能性はあります。
 まぁ電流で自律神経がバカになり、闇雲に性的反応を示しているだけでしょうが」

ロニーと研究員の一人が語らいながら、フィアの顔を覗き込む。
涙や鼻水、涎、その他ありとあらゆる体液に塗れたフィアは、それでも刻一刻と元の気丈な瞳を取り戻していた。

「ご気分は如何かな?愛蜜まみれの超兵士殿」

ロニーは嘲りを含めた口調で問いかけながら、フィアの顎を摘みあげる。
しかしその瞬間、フィアの眉が吊り上がった。
そして間髪入れず、口内に溜まった唾液をロニーの顔面へと吐きかける。

「ふぬ゛っ!!」

突然の事に反応できず、左目に唾液を浴びるロニー。
彼は数秒の間呆然としていたが、すぐに血管を浮き立たせながら拳を握りこんだ。

「…………き、貴様ッ!女の分際で、男の顔に唾を吐くか!!!」

プライドのみで生きる男の放心は、すぐに激怒へと変わり、拘束されたフィアへ殴りかかる動きとなる。

「お、お止めください!!」

研究員が静止するが、怒り狂うロニーに止まる気配はない。

「何そう慌てるな、ただの性能実験よ。仮にも強化兵士を作る実験だ、この程度で悶絶していては話にもならん。
 スラムに放り捨ててくれるわ!!」

怒りに震える唇を歪に曲げ、言葉を搾り出すロニー。
その拳は、充分な溜めを伴って振り下ろされた。拘束され逃げ場もない、フィアの腹部へと。
そして一瞬の後、拳と腹筋が触れ合う。

ごりっ、という音がした。
それは人間の皮膚と皮膚が触れ合ったにしては、あまりに異質な音といえた。
手の甲の半ばまでが腹部にめり込んだロニーの拳。
しかし凄絶な笑みと共にロニーがその拳を引き抜いた瞬間、その真に意味する所が明らかになる。
ロニーの拳は、指の根元からがひしゃげていた。
腹筋に拳が埋没していたのではなく、腹筋はその形を変えぬまま、拳の方が押し潰されていたのだ。

「ふぁぐあああっ!?」

事情を呑み込めぬままに拳を抱えて蹲るロニー。
その彼を、ほんの一瞬嘲笑を浮かべた後に研究員が抱え起こす。

「大丈夫ですか……ですからお止め下さいと申しましたでしょう。
 実験段階とはいえ、遊びではない。貴方の仰る通り、これは強化兵士を作る実験なのです。
 今この女の筋肉は、鉄にも等しい耐久性を有している。
 仮に我々の誰かがショットガンを手に相手をしても、生身のこの娘に敵うか疑わしいものですよ」

研究員はどこかに誇らしげな響きを含ませながら、ロニーを諭した。
ロニーは先ほどまでの怒りが消えうせ、自らの身を以って知った女兵士を恐ろしげに見やる。
その彼を尻目に、フィアは他の研究員によって拘束を解かれていた。

「へへっ、相変わらず実験後は筋肉パンパンだな。動物の背中触ってるみてーだぜ。
 流石にチチだけはやらけーままだけどな」
「さ、強化テストも無事終わったんだ、早速いつもの模擬戦といくか。
 ここまでいい調子で勝ってるが、今度ばかしは厳しいかもなぁ。
 何せ今日の相手は、こないだ捕まえた特殊部隊所属のスパイだからよ。
 ただ誰が相手にせよ、一度でも負けたらゲリラのお仲間を殺すって条件は同じだ。
 せいぜい頑張らないとなあ、オイ?」

フィアの身体中を弄くり回しながら、研究員達が囁いている。
フィアは明らかな憤りを瞳に宿しながらも、ただされるがままになっていた。
今や超人的な力を得ている彼女が、その力を以ってしても覆せない弱みを握られており、
そしてその弱みによって恒常的に戦いを課せられている事は、もはや疑う余地もなかった。





模擬戦の施設は、全面が強化ガラスでできた水槽のような場所だった。
扉は二箇所の通用口にしかなく、そこも試合開始と同時に閉ざされるため、逃げ場所はない。
そこへフィアが姿を現す。
肩にかかるダークブラウンの髪を靡かせ、桜色の肌を晒したままで。
見れば見るほどに、良く引き締まった素晴らしい身体つきだ。
立った状態で見れば、腹筋から太腿、ふくらはぎへ至る筋肉のラインが本当に芸術的だ。
蹴りを放てば強かろうし、抱けば鮮烈な締め付けが味わえる事だろう。
しかしながら、フィアの対面に当たるドアから姿を現した女も、いかにも並ではなかった。

全体にエジプト系の女を思わせる。
後ろで短く纏めた黒髪に、褐色の肌。目の色は碧で、何とも感情が読みづらい。
胸は男の心を躍らせるほどに豊かで、ボディラインもベリーダンスを期待してしまうほどに素晴らしい。
そしてそのどこか踊るような足捌きは、魅惑的であると共に底知れない武の経験を匂わせていた。

「……あの女も、只者では無さそうだな」

手の治療を終えたロニーが、ガラス越しに女二人を見やりながら呟く。
研究員が深く頷いた。

「彼女……カーリーは格闘のスペシャリストと言って差し支えない存在ですからね。
 素の戦闘力で言えば、所詮アマチュアに過ぎないフィアでは及びもつかんでしょう。
 とはいえ、あっさり試合が決まらないよう、カーリーには関節技・絞め技の全般を禁じています。
 それに初陣のカーリーに対して、フィアはこれでもう十三戦目。
 強化兵としての戦いには、彼女に一日の長があります。
 彼女の抱えている事情を鑑みても、一戦たりとも落とす事は許されませんしね。
 ……もっとも、だからこそ負けた時がミジメなんですが」

研究員はそう言って低く笑う。悪魔じみている、という形容が相応しい笑みで。



一目で相手の力量を悟ったのか、険しい表情で臨戦態勢を取るフィア。
逆にオーソドックスに構え、一切の感情を見せないままのカーリー。
その二人が睨み合う中、引き締まった裸体の構えを充分にギャラリーが堪能した所で、
開始の合図であるブザーが鳴り響く。

「はッ!!」

先手必勝とばかりに飛び掛ったのはフィアだった。
目にも止まらない速さで踏み込み、相手の顔面の位置を拳で打ち抜く。
しかしカーリーはそれを瞬きもせずにかわし、逆に鋭い膝蹴りをフィアの腹部へ見舞う。
グッ、という低く硬質な音が響いた。
しかしフィアは、膝という硬い部位で腹を打たれたにも関わらず、それを全く問題としない。

「シッ!!」

懐へ入り込んだ位置をそのままに、鋭いフックを放つ。
ガラス内部の音を拾うスピーカーは、そのフックがバットのスイングと同じ音をさせている事実を示した。
人間の限界ともいえる背筋や腹筋を以って放った一撃は、それほどの威力を得るのだ。
しかしカーリーは、その豪打を全く問題としない。
巧みにフィアの攻撃をかわし、いなしながら、着実にその腹部に打撃を叩き込んでいく。
その都度、ゴグ、ゴグ、と石を打ち付けあうような音が響く。

「生身の人間の戦いとは思えん音がしているな……。
 妙な迫力はあるが、しかしあれは決着がつくのかね?
 まるで大岩同士をぶつけ合っているようなものだ。それはその内には壊れるかもしれんが、何時間先になる?」

ロニーが疑問を投げかけると、研究員の一人が面白そうに試合を凝視したまま答えた。

「……確かに、今の彼女達の手足は金属のように強固で、並大抵では壊せません。
 たとえ、同等の硬さを持つものでもね。しかし、それは手足に限っての話。
 実のところ、これが現状一番の課題なのですが……実は、腹筋の強度に関しては絶対ではないのです。
 生身の人間でも、試合で疲労が溜まると腹筋がウィークポイントとなりがちですが、強化兵士もまた然り。
 試合が長引いてスタミナが切れてくると、決まって腹をズドンとやられて悶絶してしまうのです」

研究員は自らの腹部を殴る真似をし、二人の女へ指を向けて続ける。

「フィアは今までの経験からそれを知っていて、当然腹筋を狙っている事でしょう。
 しかし面白いのは……初陣のカーリーですが、あれもどうやらフィアの腹筋破壊を狙っているようです。
 生身の人間への対処が偶然当てはまったのか、あるいは事前に試合を目にしていたのか……。
 いずれにせよ、狙いが同じで戦闘力に差があるこの状況は、フィアにとって哀れという他ありませんな」


研究員の言葉通り、二人の女の狙いは共に互いの腹部のようだった。
しかしながら、攻防の技術に差がありすぎる。
フィアの鋭いストレートを紙一重でかわし、カーリーの膝蹴りが腹部へ叩き込まれる。

「っ!!」

一瞬息を詰まらせたフィアは、それでもやや距離の空いた位置から後ろ回し蹴りを狙った。
カーリーは冷静に屈んでそれを避け、ガードの空いたフィアの腹部へ腰の入った拳撃を叩き込む。

「グ、ぼッ……!」

フィアが、ここでついに左目をしかめた。
先ほどまで、どれほど硬い部位で殴られても眉一つ動かさなかったというのに。

「おやおや、フィアの方は体力が無くなってきたようですよ。所詮、ゲリラの小娘ですからね」

研究員が面白そうに言う中で、カーリーの膝がまたしてもフィアの腹部を狙っていた。
フィアはかろうじてそれを避け、膝蹴りが模擬戦場のガラスに激突する。
瞬間、厚いガラスには放射線状の亀裂が走った。それを見て、ロニーが顔色を変える。

「……馬鹿な……あ、あれは、グレネードランチャーの直撃にも耐える防弾ガラスだぞ……。
 俺が予算を出したから覚えてる、間違いない!」

ロニーはこの時ようやくにして、ガラスの中で戦っている裸体の女が人間兵器である事を認めた。
砲撃にも勝るほどの一撃を数限りなく応酬して、それがあの硬く重い音だったのだ。
ではそれを、強度の落ちた腹部で受ければどうなるのか。
フィアが脇腹を押さえながら苦しげに美貌を歪める理由を、ロニーは充分に理解した。

しかし、フィアにはこの試合に勝たなければならない理由がある。
強化兵士としていくつもの模擬戦を勝ち抜いてきた、先達としての意地もある。
ゆえにフィアは逃げ続ける事をしなかった。

「せあッ!!」

決死の覚悟でカーリーに向かってハイキックを見舞おうとし……、その蹴り足を、掴まれた。

「遅い……」

カーリーはそう呟き、片腕でフィアの膝裏を抱えたまま大きく持ち上げる。
それにより、フィアは右膝を曲げた上下開脚をする格好になる。当然、恥部も丸見えだ。

「ぐっ……!!は、はなっ…………!!」

流石に羞恥が勝ったのか、もがくフィア。
しかしカーリーはそのフィアを容易く御し、片脚立ちのままでガラスへと押し付けた。
更には殴りつけようとするフィアの左手をも右手であっさりと掴み上げ、完全に抵抗を封じてしまう。
そして、空いた左手を握りこんだ。

「お゛っ!!」

フィアの口から苦悶の呻きが漏れる。
その腹部には、カーリーの拳が深々と突き刺さっていた。
ロニーの場合とは違い、今度は腹筋が引き攣れて内へ捲くり込まれている様がよく見える。
カーリーが拳を引き抜くと、硬質なフィアの腹部にはっきりと赤い陥没が出来ていた。
その同じ場所を狙い、カーリーは今一度深く拳を抉りこむ。
そして素早く引き抜き、また抉りこむ。
引き抜き、抉り込む。
女の細腕が繰り出す打撃ながら、その一発の威力は自家用車が高速で衝突するに等しい。
それを受けるフィアの肉体も鉄の塊のようなもので、彼女が背をつけるガラスには、霜が降りたような細かなひび割れが見え始めていた。

「あ゛っ!!がはっ!!ごえ、ぐふぅう゛っ!!!」

痛烈な一撃を幾度も見舞われて悶絶するフィア。腹部はあちこちが痛々しく赤らんでいる。
それでもその瞳は、まだ死んではいない。

「あああっ!!」

一瞬の隙を突き、彼女は背後のガラスを蹴りつけた。
そしてその反発力を利用し、カーリーの身体を一気に押し戻す。
カーリーは足裏でガラスを削り取りながら、場の中央でその突進を止める。
そのまま二人は、両の手を互いに握り合わせ、腰を深く落としての力比べに入った。
凄まじい力のやり取りがなされている事が、互いの腕の痙攣で見て取れる。
カーリーは静かな瞳のまま、フィアは目を剥いて歯を食いしばる決死の形相で。
体力を削る根競べ。
次第に、二人の肉体は電流責めの時と同じような汗で濡れ光り始めた。


「ぐぐ、あううううっぐっ…………!!」

ここでペースを掴もうと必死に力を込めるフィアだが、カーリーの表情は変わらない。
誰の目にも明らかに、体力の限界を迎えているのはフィア一人だけだ。
そして、彼女は競り負ける。
歯を食い縛っていた口は苦悶にゆがみ、その手の平は、カーリーの握力に負けてへし曲がるように開かされてしまう。

「うあ゛!!」

フィアの口から悲鳴が漏れた瞬間。
カーリーの蹴り上げが、まともにフィアの腹部を打ち抜く。
その瞬間、ギャラリーには彼女の肉体が数センチ浮き上がったのが見て取れた。

「……っか…………!!」

呆然と目を見開いたまま力なく着地し、内股を閉じた『女の子立ち』になるフィア。
膝からぺたりと地面にへたり込み、前に突っ伏して噎せ返る。

「う゛っ、げぼっ!!げほっ、えおオ゛っ!!げあ、あえ゛ろ゛……ア゛ッ!!!

フィアはきつく目を閉じ、口から涎と僅かな吐瀉物を吐きこぼす。
へたり込む時、垂れ下がった彼女の手足はガラスに当たって重く硬い音を鳴らした。
その手足は、今も変わらず鋼鉄兵のそれだった。
けれども腹部は、彼女の臓腑を護る装甲は、もはや鋼鉄ではない。
破城槌の数撃で打ち砕かれる、木の柵に過ぎない。

「ぐう、うっ……!!」

それでもフィアは、諦める事をしなかった。
瞳をぎらつかせながら、手足でガラスを殴りつけて無理矢理に身体を起こす。
しかし肝心の腹部に力が入らず、腰から折れるようにして再び這い蹲る格好となる。

「ははは、まるで生まれたての小鹿だぜ!」
「プリプリの尻突き出しやがって、さっさと負けてぶち込んで欲しいって意思表示かよ」

研究員達はバドワイザーを片手に頬を染め、その姿を笑いものにした。
そしてカーリーにも容赦はなく、なおも立ち上がれずにいるフィアの腹部を横から蹴り上げる。

「う゛ぶっ……!!」

目を見開いたまま胴を頂点にくの字に折れ、ガラスへと胸から叩きつけられるフィア。
その姿にまた、研究員の嘲笑が集まった。


ゲリラの一兵士と、特殊部隊の女。
それは多少のハンデを着けたところで、初めから勝負になどならない事は明らかだった。
幾度にも渡って、残る力を振り絞ったフィアの攻撃は空を切り、カーリーの痛烈なカウンターがフィアの腹部を抉った。
フィアはその都度凄絶に顔を歪め、腹部を抱えて悶絶した。
しかしその度に、震える脚を叱咤して立ち上がる。

「ぐうっ…………ま、負け、る……訳に……は…………」

目も虚ろなまま、ガラスに片手をついて堪えるフィア。
それを見つめるカーリーの瞳は、相も変わらず冷ややかだ。
彼女は硬い音を鳴らして踏み荒らされたガラスの上を歩み、フィアに近づく。
そして反射的に放たれたフィアの右腕を、無造作に打ち払った。

「あ……」

その瞬間、フィアの目が見開かれた。
右腕の肘が、何かに巻き込まれたようにあらぬ方向へ折れ曲がっている。

「はぐぅあああああっ!!!」

フィアは腕を抱えて崩れ落ちた。
カーリーがその身体を蹴りで上向かせ、上から覆い被さる。
太腿を固定するように尻を乗せ、無事な左腕を片手で押さえつけて。


「 ……お疲れさま、お役御免のロートル・ソルジャー 」


カーリーは表情ひとつ変えずに呟き、もう片手を高く振りかぶった。

「や、やめ……っ!!」

右腕の痛みに涙を零すフィアは、その動作を絶望的な瞳で捉えていた。
彼女の腹部は、散々に蹴りつけられたトタン板のような有様だ。
そこへ、力の限り振りかぶった鋼鉄兵の一撃を見舞われれば、とても耐えしのげる道理はない。
しかし、これは戦争のシミュレーションだ。
フィアはこれまで、生き残るために相手に容赦は『しなかった』し、当然『される事もない』。
一撃は無慈悲に振り下ろされた。
地上遥か高いビルの屋上から、鉄骨が滑り落ちたような絶望感を伴って。

衝突の音は、もう硬質ではなかった。
むじゅり……という、血の通う何かが決定的に損傷した音が響いた。

「あ゛あ゛ぁああぁあああああ゛あ゛あ゛あ゛っっ!!!」

男好きのするフィアの肢体が跳ね上がり、腹部のみを釘打ちされた裏返りの傘のようになる。
太腿が暴れるが、カーリーの両脚はガラスに突き刺さったかのように微動だにしない。
そのまま、さらに豪打の雨が降る。
むちゅり、みちゅりと肉を叩き潰す音が響き、肉感的な身体を跳ねさせる。

「ああああ゛あ゛ぁ゛っ!!!はあぁあああああぁあ゛あ゛っっ!!!」

フィアは散々に叫び、暴れていた。初めは折れた右腕で弱弱しく抵抗もしていたが、
その右腕が連打に巻き込まれて三重に折れると、両の手をガラスに横たえたまま、ただ胸を上下させて嗚咽する。
健康的に腹直筋の盛り上がっていたその腹部は、拳が叩き込まれるたびにクレーターを形成していた。
拳が引き抜かれる瞬間、その溝の淵から赤い血がかすかに吹き出ているのも視認できた。
その痛みを訴えるかのように、フィアの口からかすれた叫びが上がる。
ロニーはそれらの状況を見るうちに、膝が笑い始めていた。
強化された女兵士が殴りあう、そこに興味を覚えてぶらりと見物に来ただけだったからだ。

「お、お、おい、あれは……流石に、ま、まずいだろう……大丈夫なのか、おい!
 あの呼吸や苦しみようは、肋骨も内臓も、潰れてるんじゃないか。
 死ぬぞ、じきに壊れるぞあの様子では。いいのか、貴重な実験サンプルだろう!?」
「……おや、自分の顔に唾を吐きかけるような実験体に同情ですか?寛大ですな」

震えながら問いかけるロニーに、研究員が冷ややかに答える。
彼はバドワイザーを呷りながら試合を眺め、時おり記録紙に何事かを書き入れていた。

「別に構わんでしょう、あの娘がどうなった所で。
 たしかにゲリラの民兵にしては、ここまで十二勝と予想外の戦果を残した。
 しかし、もうデータとしては充分なのでね。
 あれは所詮プロトタイプ、これからはあの馬乗りになっている“後継機”の時代ですよ。
 カーリーこそは本当の逸材だ……ゲリラ女なぞとはモノが違う」

フィアの絶叫が音割れさえ起こしてスピーカーから鳴り響く。
彼女はもう、深紅に染まった腹部を相手の爆撃に晒しながら、口から血と吐瀉物を溢れさせるのみだった。
その視点はすでに定まらず、まるで本当の無機物のように、虚空を眺めるばかりとなっている。

「…………そろそろダメですな、あれは。
 いい加減身体にも飽きが来ましたし、手足の筋力だけを奪って、ストレス解消のサンドバックにでもしましょうか。
 どうです貴方も。筋肉の硬さは様々に変更できますし、殴った娘が悲痛な叫びを漏らす様は、色々と満たされますぞ」

研究員は記録紙をファイルに綴じながら、ロニーに向けて微笑んだ。




                              END
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SM女優と

※ごく弱いスカトロ描写あり


俺は不動産屋をやっている。
身体を壊した親父から受け継いだもんで、そんな大した物でもない。
いわゆる『町の不動産屋さん』というやつだ。
従業員は俺一人。繁忙期なんぞなく、むしろ暇つぶしの手段に困る。

昔はそこまで暇じゃなかったんだが、状況が変わったのは四年前の大地震以降だ。
その地震で、この一帯の地盤の緩さが露呈してしまった。
地割れに、建物の傾き。それらをマスコミが世間に暴露した結果が、この閑古鳥。
今まともに借り手があるのは、せいぜい駅前の物件ぐらいか。

ただ、不良物件は不良物件で、それなりの使い様がある。
例えば地元業者の倉庫代わりに貸し出すとか、
あるいは変わった所で、AVの撮影現場にする事もある。
この辺りには古くから『樋嶋興業』という地元ヤクザが組を構えていて、
昭和の早い時期からポルノ映画を撮っていた。
今ではかなり組織も衰退しているものの、相変わらず派生組織がAV撮影を行うケースは多い。
奴らはとにかく撮影場所として安い物件を探しているのだから、
うちのように融通の利きやすい地元不動産屋の不良物件は、まさに打ってつけだろう。

俺はここに目をつけ、いち早く樋嶋興業の子会社向けに宣伝を始めた。
都会ならばいざ知らず、片田舎では警察よりもヤクザに恩を売っておいた方が日常生活で利が多い。
また、そうして恩を売った見返りを期待してもいた。
例えば、撮影したAVの目線・モザイク処理無しのマスター版を貰ったり、
あるいは撮影現場そのものに同席したり、だ。

恥ずかしい話だが、俺は当時、いい年をしてろくに恋愛経験もない童貞だった。
この辺りにはラブホテルこそ多いが、風俗店はほとんど無く、
性欲処理のオカズといえばビデオ屋で買う時期遅れのAVぐらいのものだ。
その俺にとって、真新しいAVの撮影現場をナマで見る事は、長らくの夢だった。



結果として、俺の提案は大いに喜ばれ、見返りの件についても快諾された。
それどころか、事務所所属の女優ではなく、なおかつ女優自身が合意した場合に限りだが、
撮影後に女優と『する』ことさえ認められた。
こうして俺は、生まれて初めて、目の前で女がセックスする場面を観たのだった。
けれども、せっかく認められた実際に俺自身が『する』事はなかった。

現場に同行するまでは今日こそは、と思うんだが、実際に他の人間もいる中で『する』のは勇気がいる。
また選り好みに過ぎるかもしれないが、俺が立ち会う時の女優のレベルもそこまで高いとは思えなかった。
どうせ童貞を捨てるなら、妥協せず自分がこれぞと思う相手にしたい。
そんな変なプライドが邪魔をして、なかなか機会を得られずにいた。

今日もまた、一件の撮影予定がある。
事前に貰った資料によれば、今回の女優は18歳とかなり若い。
俺は若干の期待をしながら物件に向かった。
線路脇の三階建て、畳敷きの6畳間を基本とした2DKだ。
壁が薄く、電車の音が煩いという理由で人気が無く、現在は六部屋すべてが空室となっている。

現場にはすでに長谷というスキンヘッドの監督が来ていて、三脚やレフ板の設置指示を出していた。
SM作品を得意とし、マニアックな物を作らせれば業界屈指と噂される男だ。

「や、これは。今回もお世話になります」

長谷監督は俺に気づくと強面の髭面を一変させ、左手を差し出した。
利き手が右なのにわざわざ左握手なのは、右手には三本しか指が無いためだ。
俺に対しては物腰の柔らかなお茶目親父、という風だが、若い頃には大分無茶をやったらしい。

「今回はSMですからね、また色々と汚してしまうかもしれませんが……」
「構いませんよ。撮影用として割り切ってしまいますので」

苦笑する長谷監督に、俺は笑いながら答えた。
どの道もう手遅れだ。精液やら愛液というものは案外綺麗に取れないので、
よく見れば畳のあちこちに白い粉のようなものがこびりついてしまっている。
今さら住居用にする事はできない。



そうこうするうちに、他の撮影スタッフも到着する。
まずは男優とおぼしき男が三人。
いずれも初めて見る顔だ。ありふれた、その辺りで新聞でも読んでいそうな親父。
ガタイはそこそこで、腹も出ていないわけではない、という程度。
ヤクザだといわれれば、否定も肯定もできない容貌だ。
ただ少なくとも、柄の良さそうな人間ではない。

「オウ、こちらこのマンション貸して下さってる方だ。挨拶しろ」

長谷監督が俺を指して言う。
三人は気だるげな瞳でこちらを見つめ、首だけを少し下げる。
まぁ、これも初めての体験ではない。こういうタイプで、礼儀正しい方が少ない。
男の後ろから姿を現したのは、トレンチコート姿の初老の男性。
こちらはよく見る顔で、縄師の守沼先生だ。
コートの下には撮影用の甚平を着込んでおり、着替える手間を省いている。
さらに女優のメイクを担当する女。いかにも現場系の、美人系だがやや男らしい女性だ。
これら数人が加わり、物件の中はにわかに込み合ってくる。
カメラ越しにはゆったりして見える撮影現場も、舞台裏には所狭しと人が密集している。
これが現場に立ち会って初めて知った事の一つだ。

「えりかは?」
「今移動中。そろそろ着くって」

長谷監督の問いに、メイクの女が携帯を見ながら短く答える。
見た目通りのさばさばした風で、AVに出ればそこそこ人気が出るだろうと思えた。
もっとも、あまり男の下で腰を振るタイプに見えないが。
男優二人は、窓辺で気だるげに煙草をふかしていた。
どろりとした待ちの空気がしばし流れた後、一台の車の音が近づいてくる。
その瞬間、男達がにわかに精気を漲らせた。
女優の到着でここまで空気が変わるパターンも珍しい。という事は、もしやかなりの上玉なのか。
俺はにわかに期待しながら、ドアに視線を向けた。
そして、扉が開く。



「すみません、遅くなりました!」

姿を現したのは、セーラー姿の少女だ。
この辺りの学生ではないだろう。まずスカートの長さが違う。
膝下までが圧倒的に多い地元の子に比べ、こっちは膝上までで折られて太腿が見えている。
また、半袖のセーラー服というのもこの辺りでは珍しい。
ただいずれにせよ、制服姿だ。
撮影用に用意された制服という可能性もある。
ただ俺には、それがどうしても彼女の着慣れたものにしか見えない。
はっきりとは言い難いが、一時的に着ているだけというものとは、雰囲気が違うからだ。

顔もかなり童顔だ。
AVに出る娘とは到底思えないほど、ステレオな真面目タイプ。
頭頂部付近に光の輪ができるほど艶々の黒髪は、肩甲骨の辺りまで伸びていて、前髪は『ぱっつん』に切り揃えられている。
やや垂れ気味な瞳はよく澄んでいて、鼻筋は通っているものの鼻自体はごく小さい。
口もあまり大きく開ける事のなさそうな慎ましいものだ。
セーラー服のタイに緩みは無く、スカートも皺は無く、靴下は学則通りの白いハイソックス、革靴にも汚れは無し。
学生鞄の代わりに布の手提げを持っており、それには手製と思しきウサギのアプリコットが縫い付けられている。
いつの時代も学年に数人はいる、真面目中の真面目。
今AVの撮影現場に現れたのは、そのような“女優”、だった。

「ええと……18、なんです……よね?」

俺は不安になり、長谷監督に再度確かめる。
彼は髭を撫でながら不敵に笑っていた。

「…………18ですよ。なに、いずれにせよ迷惑は掛けません。絶対にね」

奇妙な沈黙を置いてから、彼は告げる。
その後ろでは、件の女優が黒髪を風に遊ばせながら、メイクの女と談笑していた。



しばし二人のやり取りを見ていると、メイク係の女性が鞄からあるものを取り出した。
薄いピンク色をした、イチジク型の容器。
マニアックなビデオで何度か目にした事がある俺は、それが排泄を促すための浣腸だと知っていた。

「さ、えりか。まずは自分で綺麗にしよ」

メイクの女は姉のような口調で告げ、女優の小さな手にそれを手渡す。
少女は一瞬の間を置いて頷き、壁に片手を付いたままスカートを捲り上げた。
白いショーツが露わになる。
女の下着を見たことは今までに何度もあったが、今度の女優は顔もいいし、太腿をすらっとして魅力的だ。
その衝撃は、正直かなり大きかった。
少女の細い指は、自らそのショーツをずり下げ、剥き卵のような桜色の尻肉を覗かせる。
そしてその尻肉の間に、浣腸の先を押し込んだ。
細い指が容器を摘み、へこませる。はっきり見えはしないが、間違いなく薬液が腸内に入っている。
あの華奢な美少女の腸内に。

薬液を注ぎ終えると、容器は尻穴から抜き出された。
その際に垣間見えた女優の尻穴は、菊の花を思わせる可憐な窄まりに過ぎない。
おそらくは未使用か、それに近いだろう。

「うん、じゃちょっと我慢しよっか」

少女から容器を受け取ったメイク役の女性は、女優の手を握って顔を覗き込む。
薬液の効果が充分に出るまで、そうして留まらせるつもりのようだ。

「ん……、なんかもう、ちょっとだけ……」
「だめだめ、まだ出しちゃ意味無いから。ちょっとお話しようよ」

女二人がそうして見つめ合う様を、他のスタッフ達も口元をにやけさせて見守る。
あの愛らしい女優は、当然と言えるが、かなり多くの人間の心を掴んでいるようだった。


「あの子、なんでAVに?」

浣腸の効果を見守る間に、俺は長谷監督に訊ねた。
心のどこかに、あんな清楚そうな子が望んで出演するはずがない、借金か何かかという先入観があったんだろう。
長谷監督はそれを見透かしたように、小さく笑った。

「……旦那。今日び、ビデオにでる娘に必ずしも不幸な事情があると思っちゃいけません。
 そりゃ、中には借金の肩にクソを食わされるアイドルもいるし、貧乏人の売春だって珍しい話じゃない。
 ただ中には、育ちがよくていかにも真面目そうな清純派が、ドロドロのエロ妄想してるってパターンも結構あるんですよ。
 昔と違って、今は誰でも簡単にそういった情報を手に入れられますからね。
 “あれ”は……そういうタイプですよ。
 面接したとき、言ってました。自分には密かにファンクラブが出来てて、ネットで探せば色んなエロ妄想が描かれてる。
 最初は興味本位で見てたものが、段々とそれをオカズにする事が止められなくなって、とうとう実体験をしたくなったって。
 まぁ、注目されて当然です、あの子は。誰の目にも解りやすいダイヤの原石ですから」

その言葉が進む中で、えりかと呼ばれた女優は何度も腰を浮かせていた。
メイクの女が腕時計に視線をやりつつ、少女の指を握り締めてその場に留める。

「お願いっ、もう、もぉううっ……!!」

駄々をこねるような声色で女優が腰を浮かせたところで、メイクの女はようやく手を離した。
女優は床を叩くようにして立ち上がり、身体を左に傾けながら、スカートの後ろを片手で押さえてトイレに向かう。
そして焦った様子で何度も取っ手から手を滑らせ、すばやく中に入ってスカートをずり下ろす。
男優の一人が悪戯めいた笑みを見せながら、そのドアを再び開く。

「あっ!?やめ……!!」

女優の、形のいい眉を下げた、困り顔か苦笑か判別の付きづらい表情が覗く。
そしてその直後、排泄の音が響いた。
ぶうぅぅぅ、ぶび、ぶりゅりゅりゅっという破裂音の後、水に柔らかいものが落ちる音が続く。
何とも聞き慣れた音だ。
あれほどに慎ましい顔つきをした、白く細い太腿をスカートで必死に隠す可憐な娘でも、あの音とは。

「…………もう、ほんとに見ちゃ……だめ」

女優はかろうじて聴き取れるようなか細い声で告げ、今度こそ扉を閉めて鍵をかける。
より一層激しい破裂音と、押し殺したような息み声が部屋に響いたのは、その直後の事だった。

「事前に出してしまって大丈夫なんですか、SMの撮影なのに」

俺が問うと、長谷監督はカメラマンに何か短く指示を飛ばしてからこちらを向く。

「おや、案外お詳しい。まぁ、物事には順序があります。今回は、『身あり』では撮りませんよ。
 彼女はアブノーマルに積極的ですから、将来的には滅茶苦茶やるでしょうけどね。
 今回はそのコア女優の、生誕記念作といったところです」

そう答える長谷監督は、アブノーマル作品の雄として、いつになく疼いているように見えた。





排泄が終わった後は、リビングでのメイクが始まる。
とはいえ素を大事にする方針らしく、あまり物々しい化粧をしている風でもない。
女優の肌に張りがあって艶やかなのは明らかなので、当然といえば当然だが。

メイクが終わると、女優が服を脱ぐ。
その瞬間には、場の男連中が見ていて面白いほどに身を乗り出していた。
勿論、俺も人のことは言えないだろうが。

はっきり言って、“えりか”というその女性の肉体は、俺の想像を超えていた。
今まで何度かAVに立ち会ってきて、色々な女性の裸を目にしてきた。
ぽっちゃりしたタイプもいれば、年の割にスレンダーなタイプもいた。
ただそのいずれも、服を着ていたときの方がまだ魅力的に思えた。
多少いい身体はあっても、たまに読むグラビア雑誌を彩るアイドルには遠く及ばないものばかり。
けれども、露わになっていくえりかの肢体は、目にした瞬間に電流が走るかのようだった。

体型はスレンダー型、AVのジャンル分けでは『ロリ系』とされる類かもしれない。
手足がすらっと細く、胸はCカップあるかないか、シャツをたくし上げた時にうっすらとアバラが見える程度に細い。
けれども同時になぜか、異様に柔らかそうに見える。
恐らくは健康的な肌の質感のせいだろう。
ボディラインそのものも、何とも言えずエロい。
シャツを脱ぎ去った後、スカートに手をかけようと華奢な肩が動き、上腕にか細く筋肉が隆起した瞬間、俺は思わず射精感を覚えた。
スカートが抜き取られ、ショーツとむちっとした太腿の合間に魅惑的なデルタが出来た瞬間、その感覚はいよいよ高まった。
白いショーツが下ろされる瞬間など、彼女が片足を上げてショーツの片輪を抜き、また下ろしてもう片方を抜く、という一連の動きを、
呼吸さえ忘れて食い入るように見てしまっていた。
周りの男達も皆そうだ。

生まれたままの姿になったえりかは、手を後ろで組み、膝を合わせ、片足の親指をもう片方で踏むようにして立っていた。
恥じらいと自己顕示欲のない交ぜになったその立ち姿が、またどれだけ強烈に雄を刺激するものか。

「よーし、えりか。んじゃ、パケ写いくぞ!」

長谷監督が野太い声を張り上げ、場を引き締める。
先ほどまでにこやかに俺に語りかけていた人物とは別物の、厳しい表情が印象的だった。

パケ写とは、AVのパッケージになる写真の事らしい。
ほんの一枚の写真に過ぎないが、これには中々の時間が掛けられた。
長谷監督と縄師の守沼先生が、幾度もポーズや背景について議論を交わす。
最終的に姿見を背景に、頭上に手を組んだまま膝立ちで上目遣いになる事が決まってからも、
腕の角度や股の開き具合に事細かな注文がなされ、えりかはその度にあられもない姿を衆目に晒した。
挙句には乳首の勃ちが弱くインパクトに欠けるとして、メイクの女に乳首を屹立させるよう命じもした。
授乳時のようにえりか自身が自分の乳房を摘み、メイクの女がそれを舐めしゃぶり、あるいは指で扱いて勃起させる。
そこは撮影される訳でもないのに、シチュエーションや息遣い、反応など全てが官能的で、記録に残さない事が勿体無いほどだった。



乳首がしっかりと勃ち上がった後、ようやくにしてストロボが焚かれる。
乳首そのもののいやらしさも段違いな上に、えりかの表情も色っぽさが上がっている。
時間こそ掛かったが、確かに最初とは別物のようにそそる絵面となっていた。

パッケージを撮影した後、ついに撮影本番が始まる。
えりかは一度脱ぎ捨てた制服を再び身に付け、畳の上に正座した状態で守沼先生の縄を受ける。
乳房を上下から搾り出した上で、高手後手に。
そうして縛られたえりかの前に、男優の一人が姿を歩み寄る。
純真そのもののえりかの鼻先に、すでに半ば勃起している逸物をぶら下げて。
それを目にした瞬間、俺は悔しい事に、その冴えない中年男を男優だと認めてしまった。
ぶらりとした半ば勃ちにもかかわらず、すでに俺よりも立派だったからだ。
浅黒く、幹に沿って薄っすらと血管が浮き、亀頭がやや膨らんでいる。
その立派なものは、迷いなく縛り上げられたえりかの口へと近づけられた。
しばしの逡巡の後、えりかの小さな唇が開いてそれを受け入れる。

「……んっ、んっ……ん、ふぅん……んっ」

六畳間にえりかの息遣いが響く。
三台のカメラが映す中で、その犯罪的なフェラチオは淡々と進められた。
男の毛深い手が艶やかな黒髪の中に潜り込み、ペースを自ら定めるように汚らしい腰へと引き付ける。

「うう……イイ、えりか、イイぞ!もっと唾を絡ませてみろ!」

男の逸物はにちゃ、にちゃっと音を立てながら可憐な口の中を蹂躙していく。
時おり呼吸を整えさせるために逸物を吐き出させるが、その瞬間に逸物と口の間へ銀色の糸が繋がるのが、妙にいやらしい。
繋がりの糸は、二つの距離が離れるに従って自重で千切れ、えりかの顎の下へと滴り落ちていく。

「どうだ、美味いか?」
「…………はい…………」

男優の問いに、薄い唇を開いて答えるえりか。その陶然とした視線の先には、彼女自身の唾液でぬらぬらと濡れ光る逸物があった。
それは口から抜き出されるたびに高度を増しており、実に心地良いのだと解る。
そしてその逞しい逸物は、再び可憐な唇に沈み込んでいく。

「ほら、目を開けてこっち見ろ」

男優は慣れた様子でフェラチオを強いながら、目を閉じて奉仕するえりかに呼びかけた。
それを受けてえりかは澄んだ瞳を大きく開き、子供さながらの表情で男優を見上げる。
そしてそこからさらに十度ばかり口内を蹂躙した所で、男優が急に顔を顰めた。
男なら誰でもわかる、射精前の瞬間だ。
男優はえりかの髪を左手で掴んで上を向かせ、右手で唾液に塗れた怒張を扱き上げる。
そして悟ったように目を閉じるえりかの顔に向けて、勢い良く精をぶちまけた。
同じ男としてよく解る、溜めに溜めた爽快な射精だ。
それはえりかの口内に留まらず、鼻梁といい頬といい目の下といい、整った顔全てを白く染め上げる。
カメラの一台がそれをアップで捉えていた。中々に嗜虐心を満たす映像だろう。
もっともその映像を見ただけでは、この部屋に充満する栗の花の匂いも、
精を浴びるえりかの足指が興奮気味に蠢く様も、解りはしないだろうが。



口内射精を経験した後、しばしの休憩が撮られる。
こういう合間の空気を楽しめるのも、撮影に立ち会う人間の醍醐味だ。
とはいえ、所詮俺は傍観者。やはり実際に撮影をしている人間とは、目に見えない壁がある。

縄を解かれたえりかは、キッチンへ進んで何度も口をゆすいでいた。
そこへ先ほどの男優が近づき、先ほどのプレイの感想を尋ねる。
すると小柄なえりかは彼を見上げ、白い歯を覗かせて微笑んだ。
くさかった、などと冗談めかして言っているのが聴こえる。男優も楽しそうに笑っている。
俺の立場では入れない輪だ。妙な寂しさがあった。
その俺の心境など関係なく、しばしの休憩を終えて撮影は進む。

次は中々にマニアックだった。
えりかは再び縄で縛られ、後ろ手・海老反りの格好のまま天井から吊るされる。
そして口を変わった形状の口枷で大きく開かされた。

「ああ、あれね、スパイダーギャグっていうの。蜘蛛の足みたいでしょ?
 無理矢理限界まで口開けさせられるから、やられる方は見た目以上に屈辱的なの。
 何しろ口が全開だと舌が勝手に外に飛び出ちゃうし、涎とか唾なんて垂れ流しだしさ。
 まぁあの子、意外とそういうヨゴレ役が好きみたいだけど」

俺が質問を投げたメイクの女は、手持ち無沙汰だった事もあり、マイクに拾われない小声ではあるが丁寧に答えてくれた。
一方のえりかはというと、宙吊りのまま開いた股の部分にかなり煩い電気マッサージ器を押し当てられ、
鼻が上向くほど無理矢理に開かれた口の方では、男優達に舌を扱き出されていた。
そしてその様子を、股の間、顔面の接写、そして全体像を捉える側面と三方向からカメラが捉えている。
ビデオで見ると中々に凄い映像が撮れているだろうと予想できた。
電気マッサージ器が唸るたびに、吊られた白いハイソックスと革靴の脚が縄を軋ませる。
スカートは捲くれ上がり、白い腿と背中を露わにしている。
そして舌を扱かれるえりかの瞳は、何か致命的な事が怒ったかのように緊迫感を秘めて見開かれていた。
ただでさえ子供っぽく愛らしい横顔が、その真剣な瞳のせいで余計に嗜虐心を煽る。



「えあっ、あらっ、ぁえてっ!!!」

えりかの口から舌足らずな声が漏れる。
男優達は口々に何かを罵りながらえりかの舌を口枷から引き出し、弄び続けた。
真ん中から二つ折りにし、四隅を摘んで伸ばし、あるいは先端をひたすらに引き出して。
そうされるうちに、えりかの舌を掴む指は唾液に塗れていく。
太い指を透明な膜に包み込み、滴る唾液。
それは一人が彼女の口の下に構えたコップに滴り、溜まっていく。
その様子を克明に記録するカメラマン達も、興奮からか次第に口数が多くなっていった。

「うひひ、こりゃあすげぇ!舌引っ張られて、限界までアクメ決まったイキ顔みたいになってやがる。
 抜けんぞーこれ」

顔を正面から接写する男が嬉しそうに言う。

「パンツの方もだ、ほれ。うすーくシミが出来はじめてんじゃねえか。電マ責めがそんなにいいか!?」

ショーツにマッサージ器を這わせ続ける男も便乗した。
えりかは恥ずかしそうに身を捩じらせ、言葉にならない呻きを上げ続ける。
やがて、長い舌責めの末にかなりの量の唾液がコップに溜まった時、男優が気味の悪い笑みを浮かべながらそれを飲み干した。

「えあっ!?う、うぉ…………っ!?」

恐怖に満ちたような瞳でそれを見上げるえりかの表情は、珠玉だった。
その後の、がくりと項垂れたまま、焦点がどこにも合わない瞳を投げ出してからも。

「あぁ、いい表情……。あの子いま、羞恥でイッたかも。何となーく解るのよね」

メイク係の女が、そう小さく呟いた。



そこからは、さらに本格的なSM調教が始まった。
えりかはまず裸に剥かれ、胸を搾り出すように縄を打たれる。
Cカップあるか怪しい程度だった乳房も、三重の麻縄で上下から搾り出されると、5本指でやっと包める程の大きさになる。
今度はその乳房が責め立てられた。
すでに少ししこり勃っている乳首を男優の指が転がし、つねり、捻り潰す。
さらには洗濯バサミで挟み、その上から指で押し込む。

「ふぐ、ううんんんっ……!!」

えりかはつらそうに目を閉じ、眉を顰めて耐え忍んでいた。
さっきの責めから連続のため、首筋から流れる汗が乳房や下腹の方にまで伝っていて妙にいやらしい。
汗まみれで悶える身体を、強烈なフラッシュを背景に、陰影をつけて撮影する。
それは妙に芸術的だった。
さすが、SMビデオの巨匠とも言われる男。映像になった時の視覚的な刺激を、よく計算している。

乳首が再び勃起するほどに責められた後は、縛られたままの格好で蝋燭が散らされた。
舌を二本の割り箸で挟み込み、舌の上に蝋を垂らす。
鼻の穴を散々に指で弄くり回しながら、元の舌の色が見えなくなるほどに。
その後、身体を床に転がした状態で身体へも蝋を垂らしていく。

「あっ、あつっ……い!!ああ、アッ……!!くあ、あっ…………!!」

えりかは時に天を仰ぎ、時に頬を床へ擦り付けるようにしながら悶え続けていた。
その雪のように白い肌を、赤い画鋲を打つような蝋の雫が汚していく。
乳房を、腹部を、太ももを。
男優はえりかをいやらしい瞳で見下ろしながらも、淡々と蝋燭を掲げて雫を垂らしていく。
無言で瞳だけをギラつかせている様子が、かえって変態性を増している。

「ふふふふ、可哀想……」

メイクの女が小さく呟くのが聴こえた。
男の節ばった手で身体を開かされながら、延々と蝋を垂らされる。
その中でえりかは、次第に息が荒くなり、刻一刻と昂ぶっているのがはっきりと見て取れた。



蝋が剥がされた後、赤らんだ肌をそのままに撮影は続く。
次は、とうとう浣腸が施される事になった。
乳房を搾り出す後ろ手縛りのまま、えりかの身体は天井から吊るされる。
手首を頂点に、前屈みになる格好だ。
そのえりかの後方に、水の入った洗面器が置かれる。
さらに瓶に入った液体が水の中に溶かされた。

「さぁ、尻突き出せ」

男優が、薬液にガラス浣腸器を浸しながら命じる。
えりかは膝を曲げ、剥き卵のような尻を男優に向けた。
男優は浣腸器の空気を一度追い出し、改めてたっぷりと薬液を吸い上げてからえりかの尻穴へと宛がう。
きゅうう、っという音で薬液が入り込んでいく。

「んんっ……」

えりかのちいさな呻きで、腸に注水を受けている事が実感できた。
子供そのもののすらりとした脚の付け根、まだ淡い桜色の肛門に浣腸が施される。
それは禁断の行為のように見えた。

注射器の中身が全て注がれ、再び薬液に漬けられ、肛門へ。
それが五度繰り返された。
浣腸器が200ミリリットル入りのものだったとしても、合計1リットルだ。
その五度目の注入が終わった所で、えりかが苦しさを訴えた。

「…………も、もう、ダメ…………おなかいっぱい…………!!」

その声で、浣腸は一旦止められる。
そしてそこからは、必死に排泄を堪えるえりかを観察する形に変わった。

曲げた膝を震わせ、すらりと細長いおさない脚を踏み変えながら耐えるえりか。

「……もう、だしても…………いいですか」

えりかが泣き出しそうな顔でカメラを見上げる。
しかし男優達からの赦しは出ない。

「ダメダメ、もっと我慢できるでしょ。いいって言う前に出したら折檻な」

そう呼びかけて、えりかの苦しげな顔を一層歪めさせる。
それは犯罪的ではあった。けれども同時に、俺にとってこの上なく倒錯的でもあった。


やがて、とうとう瓦解の時が訪れる。

「あ、あ、もっっ……だめ!!」

歯を食いしばっての子供顔で必死に堪えていたえりかが、ついに口を開いた。
左足の甲を踏みつけていた右足が半ば宙に浮き、指先からゆっくりと床に着地する。
決壊はそれと同時だった。

破裂音と共に、愛らしい尻穴から薬液があふれ出す。
それは放射状に広がりながら、男優の差し出す洗面器の中に叩きつけられていく。
カメラがその中身を接写していた。
そのカメラの脇から覗いてみたが、汚れはない。あらかじめ本番前に出しておいたためだ。

「いやあああああっっ!!!」

大勢の前で排泄を晒しながら、えりかは絶叫していた。
耳までが赤い。
身に余る羞恥に踏みかえられる桜色の脚を、透明な薬液の雫がいくつも伝っていく。

一度目の排泄が終わった後、男優の一人がえりかに近づいた。
そしてまだ小さく口を開いたままの肛門に指をかける。

「あ、うあっ!!は、はいって……る……!!」

えりかの驚いたような声で、男優の指が肛門の中へ入り込んだのが解った。

「良いと言う前に出したからな。おしおきだ」

男優はにやけながらそう囁き、肛門を中指でいじくり回す。
えりかは排泄の余韻で項垂れ、髪を逆さ吊りに遭った様に垂らしながら喘いでいた。



しばしの指責めが施された後、続けて再び浣腸が施された。
様々な色の浣腸をしては排泄させ、洗面器に色を添えていく。
いかにも視覚に訴えるAVらしい手法だ。

ミルク、コーヒー、酢酸、トマトジュース……様々な浣腸がなされる。
時に片脚を持ち上げられたまま男優の腹に、時にはがに股を強要された状況で。
屈辱的な体位を指定されながら、えりかは幾度にも渡って排泄を晒す。

「おう、いいよいいよー、えりかちゃん!ブリブリいってるのが丸見えだ!
 そのまま、もっと踏ん張って、いいぞ!!」

男優やカメラマン、果ては長谷監督までがえりかを囲み、周り中から騒ぎ立てる。
まるで何かの祭りで囃し立てるかのように。
そこが何かの転機なのだという事が、現場にいる俺には肌で感じられた。
場の熱は、撮影始めの頃に比べて格段に挙がっている。
『縛られた美少女のあられもない排泄』という名場面を火種に、盛り上がっていっている。
それを横目に、どこか弱ったような、しかし陶然としても見えるえりかの表情は、
この時の俺にもよく理解できた。
傍から見ているだけで呑まれるのだから、撮影の主役ともなれば殊更だろう。

浣腸シーンを撮られたえりかは、その脚のミルクやコーヒーの雫が乾く間のないまま、
すぐに次のシーンに入る。
木の椅子に座らされ、大股を開くように脚を縛り付けられるその格好は、
今までよりもさらに数段階恥ずかしかろうと思えた。



えりかは清純で真面目というタイプの女の子だ。
ファンクラブが出来ているという話にも納得できるほど、ルックスにも優れている。
そんな子が大股を開き、性器をこちらに丸見えにさせているという状況は、かなり衝撃的だった。
割れ目は実に鮮やかなピンク色だった。
形は真っ直ぐな一本筋ではなく、真ん中が少し左によじれた形だが、それもまた生々しくていやらしい。
ビデオではモザイクが掛かる場所であるだけに、それを直に見られる体験は実に貴重だ。

そして秘裂の舌に息づく排泄の蕾は、こちらも薄い桜色をしていた。
殆どの女性が褐色かせいぜい肌色である事が多いアナルだが、奇跡的に綺麗だ。
さも慎ましそうなその蕾は今、男優によって舌で舐め回されていた。

「んん、いいよ、美味しいよえりかちゃん」

冴えない中年である男優は、えりかの肉感的な太腿に手を置き、犯罪的な顔を歪めてアナルをしゃぶり回す。
えりかは肛門の皺が嘗め回されるたび、穴の中へ舌が入り込むたびに、小さく息を吐いて反応しているようだった。

呆れるほど丁寧に舌責めが施され、肛門がぽっかりと口を開くほどになると、そこで道具が登場する。
初めはごく細いアナルパール。
その先端からたっぷりとローションを垂らしかけ、ゆっくりとえりかの肛門へと沈みこませる。

「ふぁっ……!!っつ、冷たいっ…………!!」

えりかはスレンダーな身体を震わせた。
男優はその反応を愉しみながら、ゆっくりと奥までパールを押し込み、また一粒ずつゆっくりと抜き出す。
その動きに合わせて、初々しい蕾も盛り上がり、窄まりを繰り返す。
何人もの男とカメラに見守られながら、秘部を露わにし、肛門に淫具を抜き差しされる。
それは一体、どのような気持ちになるものなのだろう。
俺達は、それをえりかの顔色から想像するしかない。

細いアナルパールが難なく出入りするようになると、一旦指責めに戻り、次いで先ほどよりやや太いアナルバイブが登場する。
それはしばし括約筋に沿って遊んだ後に、幼い尻穴を掻き分けながら腸の内部へと入り込んでいく。
自らの肛門へとやや太いバイブが入り込む。
その瞬間を、えりかは澄んだ瞳を大きく見開いたまま凝視していた。
受け入れ難いのか。いやむしろ、今まさに現実を脳内とリンクさせようとしているのか。
清純な見た目の痴女は、肛辱に関心の全てを向けているようだった。



肛門責めには、実に様々な道具が用いられた。
大股開きの状態のえりかに用いられては、ローションと粘液に塗れて床へ置かれる道具類。
その多彩さは、人間の開発欲の凄まじさを感じさせる。
中には、そんなものまで入れるのかと唖然とするものもあった。
スーパーボールや玉蒟蒻がそうだ。

ローション塗れの状態で、一つ一つ、意外なほどあっさりと肛門にねじ込まれていく。
一袋全てを呑み込ませた所で、開ききった肛門からそれらが覗く様をじっくりと撮影し、
えりかが苦しみを訴えた時点で自らひり出させる。
その情景には普通の排泄とはまったく違う、異様な何かがあった。
スレンダーで愛らしいえりかが、とんでもないことをしている。その感覚が、俺の性感をくすぐった。

慣れと共に少しずつ責め具の太さは増していき、最後には栄養剤の瓶ほどの太さがあるディルドーが入り込むほどになっていた。
男優の指で拡げられた秘裂は、遠目でも解るほどに潤みきっている。
極限での羞恥と、未知の快感ゆえだろう。
そこまでになった時、ついに撮影は尻穴を使ったセックスへと移行する。

後ろ手縛りのまま床に膝を突かされ、背後から男優が圧し掛かる。
背中側へ不安げな視線を送るえりかに構わず、男優はその浅黒い手で柔尻を掴んだ。
そして、延々とお預けを食って勃起しきった逸物を押し付ける。

「あ…………!!」

二つの腰が動いた瞬間、えりかの唇から声が漏れた。
衝撃的な。そして、快感に狂うような。

「くっ……すげぇ、いい締まりだ!!」

男優は吼えるような声を上げながら、えりかの細い腰を自分の身体に引きつける。
その度にパンパンと肉の打ち付けられる音がし、えりかの息遣いと重なり合う。
モザイクの一切ないこの現場でなら、赤黒い逸物が間違いなく秘裂より上、尻たぶの間に入り込んでいるのが見える。
肛門がまくれ上がり、押し込まれる動きが丸見えになる。

「あっ、あっ、あ、あっ!!ああっ!!!」

見た目通りの澄んだ声で喘ぐえりかの声は、前方に立った男が逸物を咥えさせた事で封じられた。
すでに長らくの責めで涎に塗れていた桜色の唇からは、すぐにじゅぷじゅぷという水気のある音が立ち始める。
まだ未成熟な細い身体が、中年親父二人に挟まれて無抵抗に揺れる。
その映像は、ある種SMの本質を表すかのようだった。



男優達はさすがにプロで、驚くほどの精力と容赦のなさでえりかを責め立てた。
後背位に始まり、騎乗位、屈曲位、即位、背面座位と様々に体位を変え、ある時は肛門を、ある時は口を犯し抜いた。

「ほら、もう一発出すぞ、ケツ引き締めて味わえよ!!」

フィニッシュは全て中出しで、太い逸物が抜き出されるたび、肛門から白濁が流れ落ちるのが印象的だ。
場には嗅ぎ慣れた精液の匂いに加え、独特の臓器の臭いが漂い始める。
やや生臭さも感じる匂いだが、それがあのえりかの腸の匂いだと考えれば、場に立っているだけで勃起してしまう。
本当にあの子がアナルを犯されているんだ、と否応なく納得させられる。

何十度、アナルセックスが繰り返されただろう。
最後に両足首を掴みながらの屈曲位で男優が射精に至り、尻穴から零れた精液がえりかの顔へと零れ落ちるシーンでカメラが止められる。
撮影の終了だ。
熱気に満ちていた場の空気が一気に弛緩していくのが解る。
けれども俺だけは、それぞれが役目を終えて休息に入る中に加われずにいた。
所詮は部外者だ。撮影の熱に加われなかったのと同じく、周りが冷めた今さらに滾っている。
許されていながら、今まで一度も行った事のない、女優とのセックス。
その強権を今、どうしようもなく使いたくて仕方がない。
本気でえりかというSM女優に心奪われたのだろうか。

えりかと話をしている長谷監督に近づくと、こちらを見た瞬間に俺の考えを察したようだ。
えりかに何かを囁き、俺の方を手で指した。
彼女は初め、やや不思議そうな顔をしていたが、やがてゆっくりとこちらに歩み寄る。

「今日は、有難うございました」

礼儀正しく頭を下げた彼女が再び顔を上げたとき、その顔は世の中の常を知る女のそれだった。
彼女は処世術を披露するかのごとく、静かに俺の足元に跪き、俺のベルトに手をかけた。



じゅぷ、じゅぷっと音がしている。
生まれて初めて、女からフェラチオという行為を受けた。
それは思っていた以上に心地良いものだった。
男優達が何分にも渡って堪えていた事が信じられないほどに。
刻一刻と逸物の大きさが増し、それにつれて咥えるえりかの顔も変わる。
その愛くるしい顔を手で包み込み、腰へ押し付けたまま射精を迎えるのも魅力的だ。
けれども俺は、いよいよはちきれんばかりになった逸物をえりかの口から抜き出す。

「し、尻を向けて」

緊張の余りどもりながら、目の前の女優に命じる。
そして白い剥き卵のような尻肉がこちらを向いたとき、そこにそっと手を触れた。
暖かい。
絹のようなしっとりとした肌触りが、手に吸い付いてくる。
俺はそれに感動しながらも、熱を持った分身をその極上の谷間へと押し付けた。
休職中の男優や監督達が、半笑いで眺めているのを視界の端に捉えつつ。

あれほど酷使された直後であるにもかかわらず、えりかの肛門は抵抗を示した。
ゴムを被せられるような感触が先端から纏わりつき、挿入するごとに根元へと通り抜けていく。
本当に、きつい。
そのきつさが、紛れもなく女の肛門に、これほど愛くるしい女性の排泄の穴に挿入しているという実感をくれる。
半ばほどが入ってから後はスムーズで、俺のものは根元まで残らずえりかの中へと入り込んだ。
その至福の感覚に、思わず射精の感覚が走る。
そこで一呼吸。
暴発の予兆が収まってから、ゆっくりと怒張を引き抜くと、締め付けの輪が再び幹を上がっていく。

「……んひっ…………!!」

えりかが歯を噛み合せたまま、小さく呻くのが聴こえた。
上品な顔のままで、なんて魅力的な顔をしているんだろう。
何度も何度も尻穴で昂ぶらされて、すっかり上り詰めているんだろうか。
なら、俺のでもっとよくしてやる。出回るビデオには残されない、あられもない姿を晒させてやる。

俺は愛らしい女優の腰を掴みながら、初めての女の肉の感触を手の中に感じながら、ゆっくりと腰を遣い始めた。


              
                              終
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真の栄光

※スカトロ要素あり

佐藤 梓は、自らの身体に自信があった。
ありふれたグラビアモデルでは及びもつかない、芸術的に洗練された肢体だ。

釣鐘型の上に乳首の色形まで秀でた、Eカップの豊乳。
日常的なエクササイズ無しには作りえないほどの腰の締まり。
部分部分で程よく肉付きながらも、反則的なまでに伸びやかな両の脚線。
それは努力の結果でも勿論あるだろうが、それ以前に肉体的な才能というものを感じさせた。
生まれつき骨格や肉付きに恵まれぬものは、どれだけ足掻いてもその身体に至れない。
そう感じさせるだけの凄みがある。
挙句には腰の近くまで伸びた艶やかな黒髪が、令嬢然とした気品さえ備えさせる隙の無さだ。
彼女はまだブレザーを着ていた中学校時代から、道行く男達にその手脚を盗み見られる日々を送っていた。
同級生の憧れであった野球部部長から告白され、交際に至れた事は、彼女の密かな誇りでもある。

梓は、その身体を活かすためにパーツモデルの道を志した。
顔出しのモデルになれぬほど容貌が悪いわけではない。
むしろ素顔で比べれば、都会をゆく女性の中でも平均以上と言える。
ただ、梓は人見知りが激しかった。
自らの優れた肉体を誇り、賞賛されたい願望こそあるものの、顔を映されるのは避けたい。
パーツモデルを選んだのはそれゆえだ。

名が売れる事こそなかったが、仕事は順調だった。
世の女性を引き付ける通販雑誌にも、彼女の手足が写されているケースは数多い。

『ねぇ見て。このリングつけてる手さぁ、ちょーヤバくない?』
『マジで、ねー。綺麗過ぎ。アクセより、その身体の方売ってよって感じだし』

美容室などでそのような会話を耳にしたとき、梓はつい頬が緩む。



しかし近年になり、その梓にとって無視できない存在が芸能界に現れた。
女優の松永 由香里だ。
学生時代に体操選手だったという彼女の肉体は、梓と非常によく似ていた。
乳房の形から、肌の色合い、わき腹にある小さな黒子まで。
過去に梓が『出演』した通販雑誌の写真を指して、これは松永のアルバイト時代のものではないか、
との推察がファンの間で沸き起こるほどだった。

また由香里は、顔立ちさえも女優に相応しく華々しい。
男の大半が振り返るほどの肉体と、垢抜けた目の覚めるような美貌。清楚さを印象付ける長い黒髪。
それらが揃えば、黙っていてもファンがつく。
その上で、由香里は女優としても天才的だった。
平素から横柄な態度で舞台挨拶に応じ、バラエティ番組でも大御所への愛想笑いなど一切しない。
そのような問題行動を取り続けながらも、彼女の女優としての実力を否定する評論家はいない。
彼女がドラマのクライマックスで涙を溢れさせれば、テレビの前で何万人もが貰い泣きする。
映画で純朴な少女を演じれば、由香里は本当は素直であり、普段の素行もキャラクター作りなのでは、などと都合の良い解釈が出回る。
世の風評をすら手の平で操る、紛れもない天賦の才だ。

その松永由香里について、まさに今、ある噂が広まっていた。
中国古典を原作とした映画にて、SMプレイに挑戦するというものだ。
常に新しいものへ挑戦しようとする気概を持つ由香里のこと、それ自体は不思議ではない。
監督も世界的に評価されている大物であり、官能的な意味ばかりでなく、あくまで芸術作品を作るのだという題目もある。
また、笞打ちや蝋燭で肌が傷つくのを避けるため、実際に該当シーンにて由香里本人がSMプレイを受ける事はなく、
体型のよく似た代役を用いる事も事前に告知されている。
それでもなお、『あの松永 由香里のSMプレイ』という妄想の種として、大いにファンを沸かせた。

言うまでもなく、松永 由香里と体型のよく似た代役とは梓の事だ。
それ以外に適任などいないと断言しても良いほど、二人の珠玉の肉体は、奇跡的なまでによく似ていた。





「へぇー、意外に顔可愛いんだ?」

梓はホテルのスウィートルームに足を踏み入れた瞬間、そう声を掛けられた。
声の主は豪奢なソファに慣れた様子で腰掛けたまま、品定めするように梓を眺めている。

「桜田 梓と申します。宜しくお願いいたします」

梓は臍の上に手を重ね、恭しく頭を下げた。
主演女優である由香里の機嫌をけして損ねないように、と所属事務所から言い含められている事もある。
だがそれ以上に、礼儀知らずの新鋭女優に対する当てつけの意味もあった。
由香里はそれを知ってか知らずか、変わらぬ尊大な態度で梓を見上げていた。

「歯並びもカンペキ、か。その顔と身体なら、かなりモテるでしょ。何十人と経験あんの?」

由香里は意味深に目元を緩める。梓はぴくりと背筋を強張らせた。

「……二人です」
「へぇ、身体に似合わず純情なんだ。……ま、いいや。そこで服脱いで」

突如発せられた言葉に、梓は動揺を隠せない。

「えっ!?」
「早く。この部屋来る前に、監督から言われたでしょ。
 撮影直前の今晩、私と一緒の部屋に泊まるのは、お互いがお互いの事知る為だって。
 だから、積極的に情報提供してくれなきゃ困るんだよね」

由香里はそう言って指で梓を指し示す。
言っている内容には一理あるが、自分自身が脱ぐつもりはないのだろう。
梓は大女優の我が侭に内心で嘆息しながら、命ぜられるままに服を脱ぎ始めた。
乳房、腰、尻肉、脚……思わず見惚れるような肢体が露わになっていく。
由香里はその過程で、ようやくソファから身を乗り出し始めた。

「うわ、ホントよく似てる。前にサイパンで撮影したあたしの映像見て探したらしいけど。
 胸も、腰も、脚の形まで……鏡見てるみたい。そこ以外はね」

由香里は梓の乳房脇にある、ほんの小さな黒子を指して告げた。
逆に言えば、そのぐらいしか差異がないと女優本人が認めた瞬間でもある。
梓はそれが嬉しくもあったが、一方で奇妙に感じてもいた。



しばしの間、梓は由香里に命じられ、屈辱的な行為を強いられた。
全裸のまま、夜景を見下ろせる窓辺を歩かされたり。
栄養ドリンクの瓶を、唾液塗れになるまで舐めしゃぶらされたり。
ガラステーブルの上で前屈みになり、由香里へ見せ付けるように尻肉を押し拡げたりもした。
そうして散々に梓を辱めた後、由香里は梓をもと自分が腰掛けていたソファへ座らせる。
そして自分は正面のベッドへと腰を下ろし、左手を伸ばして梓の秘裂へと沈ませた。

「わぁ、締め付けてくる」

由香里はそう呟き、左手の指をゆっくりと蠢かしはじめる。
同時に右手で、梓の乳房を掴みながら。

「…………っ!!」

梓は当惑こそしたが、振り払える立場でもなかった。
軽く脚を開いたままソファに腰掛け、由香里の気まぐれの犠牲になるしかない。

「ゾクゾクする。自分の身体に触れてるみたい、新感覚のオナニーね」

由香里はそう囁きながら、梓の敏感な部分を苛み続ける。

「私の顔を見て。脚もほら、もっと開いて」

梓が視線を外したり股を閉じようとすると、その度に由香里がそれを制す。

十分が経ち、二十分が経ち。
由香里の指責めを受けるうち、梓は自分の息が乱れ始めている事に気がついた。
ソファに触れている背中や腿の裏が汗ばんでいる。
肝心の部分からは、にわかに水音のようなものが漏れ始めている。
由香里の唇が動いた。

「ふふ、ぐちゅぐちゅいってる。あんたこんな状況で感じるんだ、凄いね。
 あたしじゃ、悔しくって無理かな」

意地悪くそう囁きかけながら、微かに濡れひかる指を引き抜いた。
そして気だるげに肩を回す。

「ふぅ、ちょっと疲れちゃった。ねぇ、こっからは自分でオナって?
 気合入れてね」



「……あっ、はぁっ、ああ、あっ……っは、あっ…………」

スウィートルームの一角に、熱い吐息が吐き出される。
梓はソファの肘掛に脚をかけ、大きく股を開く格好で、由香里に見せ付けるように自慰を続けていた。
気を入れてやるように、と言い含められ踊り続けた指は、透明な粘液に塗れている。
空いた手で弄くられ続けた左の乳首も、右とは別物のように尖っている。

「いっ……き、ますっ…………!!」

梓は指先が膣の浅い所で曲げ、同時に絶頂を申告した。
引き締まった腹部がさらに細まり、膝の横に痺れが走る。
長時間不自然な格好で自慰を繰り返しているため、下半身は攣ったようになっていた。

「はっ……はぁっ…………あ、明日は、撮影本番……です、から……もうそろそろ…………」

ソファに背を預け、胸を大きく上下させながら梓が告げる。
由香里は笑みを浮かべた。そして薄いワイングラスから口を離し、梓の頭上へ掲げる。

「あ…………」

喉の渇ききった梓は、その血のように滴るワインを大口で求める。
紅色の細い線は、梓の喉奥で跳ね、その首元からを赤く染めた。

「いいわ。その代わり、明日はもう一人のあたしとして、せいぜい愉しませなさいよ」

梓の首筋をなぞりながら、由香里は告げる。サディストそのものの表情で。
梓はその表情に、心が粟立つのを感じていた。





映画の原典となる小説は膨大な量に上る。
梓には、事前にそれを要約した文庫本二冊分の資料が送られていた。

中国の架空の王朝を舞台とし、ある没落した家の令嬢『白蓮』が、王に見初められて第四夫人として招かれる所から話は始まる。
王には他にも数多くの夫人がおり、いずれも自分こそが王の妻たらんとする野心家。
家の再興と、恩人である王に好かれる事を夢見る誇り高い『白蓮』は、他の夫人候補から様々な嫌がらせを受け続ける。
それが原稿用紙に換算して、実に28万枚に渡って書き連ねられている大長編だ。
その内容たるや、多種多様な薬物や淫具を用いた、現代のSMプレイすら生ぬるく思えるほどの過激さであり、
過去に幾度にも渡って発禁処分を受けている。
しかし現代になり、その王道でありながら人間の本性を暴きだす物語の奥深さが見直され、
再び話題となり始めているのだった。

梓が演じるのは、その中の折檻シーン、あるいはセックスシーンが中心となる。
例えば、『白蓮』が客用の供え物を盗み食いしたとの疑いを掛けられ、第一夫人とその付き人から折檻されるシーン。
この場面で『白蓮』は、柱を背に後ろ手の胡坐縛りをされたまま、自白を求めてその鼻腔に刺激のある薬を塗りたくられる。

「おえっ、うえええっ!!あげぇっ!うげぇっ、げぇ……っあ!!」

華服を纏って『白蓮』に扮する梓は、付き人によって髪を掴み上げられ、真上を向いた鼻の穴に、第一夫人役の女性から細い棒を差し込まれる。
そこには演技らしい部分などなかった。
梓の身体を縛る縄は本物で、胡坐を掻いたまま身じろぎも敵わない。
第一夫人役の女性も役に入り込んでおり、完全に憎い嫁を追い出す姑のような瞳で無慈悲になりきっている。
また、鼻の奥深くに入り込む棒の先端部にも、しっかりとアンモニアのような刺激臭のある薬液が染みており、事実として辛い。
ゆえに梓は、演技でなく噎せ返り、身を捩り、涙を零した。
それはまさしく、監督自身の求める“リアリティのある幻想”ではあったが、梓にとっては地獄でしかない。

カメラは代役である事が目立たないよう、梓の鼻腔から下しか映さないようにしているようだ。
しかしながら、実際に梓を責め立てている第一夫人と、その付き人役の女性には、間近で鼻水に塗れた顔を視られている。
どちらもベテランの、テレビで幾度も見た事のある顔だ。
その偉大の相手との初共演が、このような無様な姿だとは。
梓はそれに恥じらい、後ろ手の縄を軋ませる。
付き人役の女優が黒髪を引き絞り、梓にさらに厳しく上を向かせる。第一夫人役の女優は、殊更に奥の奥まで棒をねじりこむ。
そのクライマックスの攻勢を受けて、梓は喉奥からごえええっと潰れたような呻きを上げた。
次の瞬間、押し殺した笑い声が聴こえてくる。
カット、という監督の叫び声の後、その笑い声はいよいよ高まり始めた。

「あははは、あっははははは!!ちょっとちょっと、やめてよぉ、何さっきのゴエエエって!
 いくら音声は後撮りにするからって、あたしのイメージあんまり壊すようなのやーめてくんないかなぁ?」

由香里だ。彼女は撮影で無残な姿になった梓を指差して腹を抱えている。
第一夫人役の女優も、撮影が幕となった途端に鼻水塗れの指を汚らしそうに払い、スタッフからティッシュを引っ手繰る。
唯一、付き人の役をやっていた女優だけは、髪引っ張ってごめんねと謝罪してから続けた。

「でも、本気でやらないと木嶋監督ってホント怖いから。お話じゃなく折檻されちゃうらしいし。
 あと監督、実は松永ちゃんと出来てるから、さ。あっちにも反論したりとかは、しない方がいいよ」

視線でちらりと由香里を示した後、彼女は逃げるように立ち去る。
彼女の役柄は、時系列的に直後の場面で粗相をして田舎へ戻されてしまう。つまり、次の撮影からは彼女はいない。
梓には、それが心細く思えた。



一時間後の撮影は、屋外にて行われた。
『白蓮』は人工的な雪を敷き詰めた中に立ち、太い松の枝から束ねた髪で吊り下げられ、後ろ手に縛られたままで笞打ちを受ける。
笞は耳障りな音を響かせながら、梓の尻肉と腿に炸裂する。
撮影開始時点で、すでに何時間にも渡って罰を受けている設定であり、『白蓮』の尻肉の裂傷は特殊メイクだ。
しかし厳罰を受ける女の生々しい反応を演出するために、笞打ちそのものには容赦が無い。

このシーンにおいて、『白蓮』は一族の名誉にかけて不屈を貫く覚悟を固めている。
そのため、原作には『厳しい笞打ちを尻に腿にと受けながらも、膝を崩すことなく、凛として立って』いるという描写がなされていた。
当然、梓に求められるのも同じ事だ。
しかしながら、笞打ちは現実として痛く、創作のように無反応とはいかない。
尻はともかく、腿に笞が走れば、その鋭い痛みについ膝が崩れてしまう。
その度に監督の怒号と由香里の笑い声が飛び、撮影は仕切り直しとなった。
ようやくラストシーンまで辿り着いたのは、すっかり痛覚もなくなった28度目の撮影での事だ。


「…………そろそろ半日になるわね。何か言いたい事はあるかしら」

罰を与える第二夫人からの問いかけに、『白蓮』は凛として答える。

「何故かしら。あなたのお顔を拝見していたら、何だか急に催してきたわ」

赦しを請うどころか、直前の諍いに端を発する小気味いい皮肉で返す名シーンだ。
これに第二夫人は激昂し、犬のようにそこでしてしまえと吐き捨てる。
そして『白蓮』は付き人達の手で片足を高く掲げさせられ、衆人環視の中で放尿する事となる。
原作でもこの場面ばかりは、
『今の今まで気丈であった白蓮の美貌も、これには痛々しく歪んだ。
 瑠璃の球の如き彼女の自尊心が、嫉妬心という黒い爪でその表皮を剥ぎ取られていた』
と記されている。
梓にはその表現が身に染みて理解できた。

裸で縛られたまま、内腿を筋張らせて尿を迸らせ、それを何十人という人目に晒される。
その『白蓮』の心の痛みは、梓自身の胸を締め付けるものと同じはずだ。
今この瞬間、私は誰よりも『白蓮』に近い。

由香里の笑い声が聴こえる。
綺麗な化粧をし、ジュースを片手に、傍観者の側に腰を下ろして。
あんなものは『白蓮』ではない。どれほど上手く模倣しようとも、『白蓮』は彼女を選ばない。
どれほど恥辱に塗れても、最後には私が勝ち取る……本当の『白蓮』を。

正当な“主演女優”を視界の端に捉えながら、梓は内心で決意する。
そうでもしなければ、心が腐りそうだった。



梓は、適度に休憩を挟みながらも、『白蓮』の作中での苦しみを追体験し続けた。
木桶を使っての執拗な水責めに掛けられる事もあった。
拘束されたまま身体中に蝋を浴びせかけられ、最後には淫核や膣の中にまで垂らされて絶叫する事もあった。
天井から吊るされ、召使達が両端から引き合う股縄の上でひとり悶え狂う事もあった。
机の上に乗って膝を曲げ、手を頭後ろで組んだ状態で張り型を膣に咥え込み、延々と屈伸を強いられる事もあった。
それらに悶え苦しみながらも、梓は『白蓮』を思い浮かべる。
彼女ならそこで屈するか。むしろ胸を張り、腰を深く落として抵抗するのでは。
そのように想像しながら苦難に耐えた。

けれども原典での夫人達からの責めは、次第にエスカレートしていく。

ある時は浣腸を伴った。
後ろ手に縛られたまま床に伏し、野草を溶かし込んだ薬液を肛門内へと注ぎ込まれる。
そして肛門が上向きになるよう抱え上げられ、夫人達や下卑た客人の手で、肛門に華を活けられる。
人間花挿しというわけだ。

「ぐう、ううううっ!!!」

薬液が腸内で荒れ狂う中、ほぼ逆さを向く格好で肛門を弄繰り回される。
指を抜き差しされ、菊輪を穿られ、色取り取りの花を一本ずつ差し入れられる。
膣と肛門という絶対的な恥部を、多数の著名な女優・俳優達に、息も掛かるほどの距離で視られながら。
その見た目のインパクトは強かろうが、受ける側となると堪ったものではない。
梓は羞恥と苦悶に身を捩らずにはおれなかった。

そして、ついに便意の限界がやってくる。
その予兆を見て取った女優達は、梓を引き起こし、木の桶の上に跨らせる。
山場の一つ、公然での排便だ。
梓は、頭が焼き切れそうな恥辱の中にいた。
木の桶を跨ぎ、今まさに排便する瞬間を、数多くの人間が仏頂面を作る中で行わなければならない。

しかし、彼女の頭には『白蓮』の姿があった。
彼女は作中で、これほどの羞恥を受けながらも凛とした態度を貫いた。
悪意を持って自らを追い出そうとする者達の前で、あえて堂々たる排泄を示した。
ゆえに梓もそれに倣う。
後ろ手に縛られたまま、胸を張り、脚を踏みしめて。
へぇ、と女優の数人が驚きを瞳に宿した。

とはいえ、どれほど気を張って行おうとも、所詮排便は排便だ。
汚物が木の桶の中に叩きつけられ、異臭が立ち込める。
およそ若い女がするものとは思えない惨めな有様が、部屋の姿身に映り込んでいる。

「ふくくくく、くっさーい。やだぁもう、ブリブリ、ブリブリ。
 このシーン、流石に上映しないよね? 雰囲気作りの為に撮ってるだけだよね?
 もし上映するなら、このシーンのとこにもう一度、『これは代役による演技です』ってテロップ入れといて。
 あたし一種のアイドルみたいなもんだし、ウンチしない事になってんだから」

由香里は鼻を摘みながら大声で告げる。
身を侵食するような羞恥に鳥肌すら立っている梓は、その言葉にただ唇を噛み締めた。
どこか別の世界で、『白蓮』もそうしたように。



ここからの責めは、俄かに『白蓮』の排泄の穴を責め立てる向きが強くなる。
机の上に突っ伏す格好のまま、何度も何度も浣腸を施されては排出し、を繰り返させられる。
あるいは第一夫人の秘裂に舌を這わせながら、膝立ちになった尻穴へと棒や刀の柄、張り型など様々なものを出し入れされる。
アナルを性行為に使用した事のない梓にとって、その責めはそれだけでも辛いものだった。
しかしそれ以上に、陵辱されている肛門の背後に、多くの人間の気配がある事が耐え難い。
何しろ腸の中を責められているのだ。
浣腸されれば液は濁るだろうし、様々な異物を挿し込み、抜き出されれば、汚物がつかないとも限らない。
そしてそれら全てを、淡々と観察され、映画として記録されている事実。
梓は硬く瞳を閉じて羞恥に耐え続ける。

( わたしは……白蓮……第四夫人の白蓮、よ…………。こんな屈辱には、負けない……。
  最後には、きっと、彼女のようにすべて報われるもの………… )

夫人達の計略によって、身体も洗っていない浮浪者達に払い下げられた場面。
口、膣、肛門の三穴全てを終わりの見えぬほど延々と犯されながら、梓は心の中で繰り返す。

自らのプライドの全てを賭けたこの映画が、きっと人々の心に響く事を願って。
その栄光が、由香里などに掠め取られる事無く、代役である『本当の白蓮』へと向くことを信じて。



                                        終わり
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