大樹のほとり

自作小説を掲載しているブログです。

2013年05月

夜の遊園地

※甘めの風俗嬢モノです。


夜だけ開く遊園地。
会社帰りにふらっと立ち寄り、イルミネーションも眩い絶叫マシンでリフレッシュできる。
1人が寂しい人は、キャバクラのアフターよろしく女の子をレンタルしてのデート気分まで味わえる。
そんな場所があるのを、どれだけの人が知っているだろうか。

実際これは、優れた商売だと思う。
独身男性にとって都合がいいのは勿論、『嬢』にとってもキャバクラで延々と男の話に合わせるより、
仕事中に公然と絶叫マシンを堪能できるこっちの方が良いに決まってる。
それで“お水”なみのお給料が貰えるんだから、文句なんて出るわけもない。

もっとも、同じ嬢とはいえやる事は様々だ。
本当にただデートをするだけの子、デート後にさらに大人のサービスもしてしまう子。
私は後者だ。
別に今さら気取るつもりもないし、誰かに強制されている訳でもない。
ただそれを望んで、続けてる。

お客からの指名が来るまでは、基本的に私たちは控え室で待機だ。
女性が働く職場ならどこでも同じ、ガールズトークの繰り広げられる溜まり場。
お客が見たら一発で幻滅しそうな風景だ。
いかにも童貞受けしそうな真面目風の子が多いけれども、それがそこら中にいろんなものを投げ捨ててる。
今日は妙に蒸すせいか、みんな色々ともろ出しだ。
豪快にスッポンポンになってるあの人が、ナンバーワン嬢だなんてとても信じられない。
「おっとぉ、これは下着祭りですなーーっ!?」
明るい声を張り上げて出勤してきたのは、私の親友の美紀。
職場のムードメーカーであり、私のかつてのクラスメイトであり、風俗嬢としての先輩でもある。
ある事情で借金まみれになっていた私に、安心して働ける風俗店を紹介してくれたのも彼女だ。
それ以来私は彼女に頭が上がらず、半ば信仰にも近い親愛の情を持っている。

「花蓮(カレン)ちゃーん、さっそく御指名だよー!」
美紀に続くようにして、ボーイが控え室を覗き込んで私を呼ぶ。
さすが慣れているだけあって、控え室の惨状を前にしても涼しい顔だ。
「はぁい!」
私は揚々と立ち上がる。そろそろ待つのに退屈してきた頃だったので、丁度いい。
「うひー、また花蓮ノスケが第一号かぁ」
「やっぱ顔が天然モノで可愛いとねー。あーあ、もうナンバーワン取られちゃうー」
すぐに周りから茶々が入った。
「……あはは」
私は苦笑しつつ、鏡で前髪を整える。
鏡に映るのは、見慣れた顔。べつに可愛いとは思わないし、思いたくもない。
私が過去に付き合った4人の男は、みんな口を揃えて私を可愛いと褒めたけれども、最後には捨てていった。
彼らの言う『可愛い女』=『利用しやすい、チョロい女』という図式が私の中に出来上がってしまい、
そのせいで可愛いという表現にマイナスイメージを感じているのが実情だ。

「頑張れよぅ、花蓮。しつこくされたら、すぐアタシに言うんだぞ」
美紀が私の肩に手を置いて笑った。
彼女はいつだって私を護ってくれる。私のつらい過去を、全部知った上で。
「ありがと。行ってくるよ」
私は笑顔を作りながら控え室を出た。
最近はずいぶん自然に笑えるようになったものだと、我ながら思う。

 
「あ……」
待合室へ出た瞬間、彼の姿が見えた。今日の私のお客。
深山さん、というらしい。勝手ながら、入社二年目かそこらだと見当をつける。
少なくとも、私の“本当の年齢”よりは下だろう。
「花蓮です。よろしく」
私はなるべく柔らかい笑みを浮かべながら告げる。
「あ、は、はい……」
深山さんは一瞬私の顔を覗き込んだ、けれども……ああ、目を逸らしちゃったよ。
何とも内気で、頼りがいがない。
顔も、悪いとまでは言わないけれど、少なくとも整っている方じゃない。
女の子が付きたいと思うタイプかといえば、残念ながらノーだろう。
ただ、私にとっての第一印象は悪くなかった。

高校一年の先輩から始まり、この人こそはと思った彼氏から4連続で痛い目に遭わされた私だ。
自分の『だめんず』ぶりを身に染みて感じると同時に、少々イケメンというものに辟易している。
その点、今目の前にいる深山さんのように、頼りなげな男の人というのは変に安心する。
利用されなさそうというか、ついリードしてあげたくなるというか。
お客に対して失礼ではあるけれども、ウーパールーパーを見ているような妙な癒しの感覚がある。
「今日は楽しみましょう、深山さん!」
彼の腕を取って言ったその言葉は、あながちリップサービスという訳でもない。
「あ、はい……よ、よろしくお願いします」
おどおどとそう答える様子に、つい蕩けそうな笑みが出てしまい、彼を赤面させる。
いけない、妙な空気になってしまった。

「と、とりあえず、あれ乗りましょう!!」
私は誤魔化すように彼の手を引き、すぐ目の前にあるジェットコースターを指差した。
そこまでハードという訳でもなく、スタートダッシュに迫力があるだけのオーソドックスなコースター。
まずはこれに乗り、お客が絶叫系を『イケる口』なのかを確かめる。
嬢によっては可愛くメリーゴーラウンドから始めたりするらしいけれど、私はわざとらしくて嫌いだ。
たまに言われるように、少し、肉食系女子なのかもしれない。


  
意外というべきか、深山さんは絶叫系が強かった。
怖がりはするけれども、叫ぶというよりは恐怖を緊張して静かに堪えるタイプ。
回転ブランコ、フリーフォールと色々連れ回してみたけれども、そのスタイルは崩れない。
私もまったく同じタイプなので、これは嬉しかった。
サービスだから表には出さないけれど、絶叫マシンで連れ合いに煩くされると少し醒めてしまうのが私だ。
その点深山さんとは、自然体で擬似デートを楽しめる。

『イケる口』の深山さんと連れ立って、五番目に並んだのが園内最凶のコースター。
これに挑戦できる人はけして多くない。
乗る前から、その恐ろしさが嫌というほどに伝わってくる。
目が眩むほどに高い最高到達地点、コースターが地表近くを走り抜ける際の爆風に轟音、
そして今まさに乗っている人達のあられもない絶叫、絶叫、また絶叫……。
これで怖さが想像できない人なんているわけない。
大抵のお客はこれに尻込みするし、逆にお客から催促された嬢もほとんどが半泣きで嫌がる。
まさに規格外のモンスターマシンだ。
私は以前に一度だけ、完成直後のこれにスタッフ特権で乗った事がある。
結果、絶叫系にかなりの自信があった私が……大抵のコースターなら両手離しも余裕の私が……失神しかけた。
身体中の血が冷え切って、座席に座ったまま氷漬けになったみたいだった。
ただそのドキドキはどうにも忘れがたいもので、機会があればもう一度と思っていたところだ。

「それは……す、凄そうですね」
私の熱い体験談に聞き入った後、深山さんは目を輝かせて言った。
最初の頃すぐに目を逸らしていた人とは思えないほど、爛々と輝く瞳で見つめてくる。
これは、心の底から絶叫マシンが好きな人だ。スリル中毒だ。
「じゃあ、行ってみますかっ!?」
私は眼力を強め、挑むように尋ねた。
「は、はい!」
深山さんは、それでも全く逃げずに私を見つめ、強く頷く。
なんだろう。この子、可愛すぎる。

 
「ひぃいい、いい…………!!!」

私は、思わず細い悲鳴を上げていた。
コースターがゆっくり、ゆっくりと最高地点に向けて登っていく。
山が遥か下に見えるほどのめちゃくちゃな高度。
ライトアップされた園内が豆粒のように小さくなり、深海を見下ろしている気分になる。
高高度独特の冷たく、乾いた風。
カテタン、カテタンと音を立てながらコースターが上がり、時々不具合が起きたかのように軋む。
山なりになった頂点が少しずつ近づいてくる。
なんともゆったりとした時間。でも私の心は、すぐに訪れる恐怖の瞬間にはち切れそうになっている。
それら全てのスケールが、一般的なコースターの数倍……いや、比べ物にすらならない。

ちらりと隣に視線をやると、さすがの深山さんも表情を凍りつかせていた。
それは、そうだ。こんなにはっきりと死を意識するような場面、そう何度も経験する訳ない。
その悲壮な顔を見ているうち、まるで本当に彼と2人で死地へ向かっている気分になる。
危機的状況で恋に落ちやすくなる、『吊橋効果』だろうか。
と、深山さんの手が動いた。
座席を越えて、私の方に伸び……空を掴む。
たぶん、私の手を握りたがっているんだ。でもそうしていいか解らずに、宙にぶら下がってる。
私は溜め息をついた。
そして同じく手を伸ばして、絡みつくように彼の手を取る。
深山さんの顔が弾かれたようにこっちを向いた。
汗まみれだ。きっと私も、同じような顔で彼を見つめ返している。
「い、いよいよ…………ですよ」
私は言葉を搾り出した。強風の中という事を別にしても、変に震えていた。
深山さんは情けない顔で頷き……私の手を握り返す。
2人とも、もう悟っていた。ここが頂点、今からがクライマックスだと。

一秒。

二秒。




そして…………世界が凍る。



 


コースターから降りた時、私も、深山さんも千鳥足だった。
他の乗客だって皆そうだ。
あまりの恐怖で、誰もが腰を抜かしてしまう。
しばし休憩用の柵に身を預け、弾んだ息を整え……1人また1人と、心が屈強な順に出口へ向かい始める。
だいたい、グループの先頭は女だ。
私も深山さんを助けて出口を通り、売店に向かう。
このコースターは、最も恐ろしいポイントを通過する時に遠赤外線カメラで撮影が行われる。
昼に撮る写真よりもさらに悲壮な顔になっている事が多く、これはもう傑作だ。

「っぷふはは、こっこれっ、あはははっ、へ、ヘンな顔!!!」
深山さんが受け取った写真を目にした瞬間、私は思わず噴き出してしまう。
そこにはあられもなく顔を歪め、顔中の肉という肉を波打たせた私達がいたからだ。
しかし第一の笑いの波を乗り切った時、私はしまったと思った。
仮にもお客に向けて、ヘンな顔とは何事か。
恐る恐る深山さんの顔を窺うと、しかし彼も写真を見て大笑いしている。
「ははは、これは凄いや!!」
実に朗らかな笑いだ。
助かった。深山さん、懐の大きい人だ。
「……楽しかったですね。外でちょっと休憩したら、次あっち行きませんか?」
私は嬉々として、お化け屋敷を指差す。
深山さんは笑ってくれる。

正直に言うと、私はこの時点で、かなり深山さんを気に入っていた。
サービスを抜きにして、自然と深山さんと腕を組んでいた。
粋な支配人の計らいで、お化け屋敷は入るたびに仕掛けが変わり、私達スタッフでも新鮮な怖さを味わえる。
その中で叫び、深山さんにしがみついたのは、断じて計算ではない。
とても楽しいデートになった。
……そして、大人のデートにはまだ続きがある。
絶叫マシンとお化け屋敷で存分に気分を高めた所で、園内からほど近いホテルに移る。

「……あ、あ、あの、ほ、ほ。本番も……き、希望してるんだけど…………」
部屋に入った瞬間、深山さんは臆病さを復活させて呟いた。
私は返事をしなかった。
服を着たまま、靴も半分しか脱がないまま、硬直した彼の首に腕を回す。唇を奪う。
熱く、深く、熱いキス。
本気が多分に混じっているから、相手もきっと、蕩けてくれる。

  
もどかしささえ感じながらシャワーを浴びて、ベッド脇で深山さんに奉仕する。
態度は小心者ながら、しっかりと成人した男の人らしい大きさがあった。むしろ、少し大きめかもしれない。
「あ、あ、ああ」
私が先のほうを舐めるたび、深山さんはかぼそい声を上げた。
そういう声を出されると、私はさらに責めるというか、奥まで咥え込みたくなってくる。
「ひうあ、あ!!」
深山さんは腰を震わせながら、私の髪に手を置いた。
見上げるまでもなく、彼の熱い視線がディープスロートをしている私の顔に注がれているのが解る。
手は控えめに控えめに、私の頭を押さえつける。
それを感じて私は、あえて自分から深く咥え込んだ。
昔の風俗店で仕込まれた、喉奥を開いてアレの先を飲み込むディープスロート。
こちらの苦しさは尋常ではないけれども、相手の受ける刺激も半端ではないらしい。
「うわあ、ああ!!な、なにこれ、すごい、凄いっ!!!!」
深山さんは腰を震わせて、1オクターブは高い声で快感を表していた。
私が喉で先端を締め付けつつ扱くと、さらに堪らなそうな声になる。
ただ、私はある程度で彼のものを吐き出した。
そのまま続ければ、射精してしまうのが解るからだ。
20も過ぎた男は、一回の射精がとても重要だと私は知っている。
だからこそ、深山さんにこんな所で果てさせるのは忍びない。

「ふふ、おっきくなったね」
私は自分の唾液で濡れ光るものを手で扱きながら、彼をベッドの上に誘導した。
シックスナインの格好で彼の上に被さり、ゆるく口での奉仕を続けながら秘部を晒す。
少し、勇気が要った。
今の私は、正直に言って本気で発情しかけている。
元々目のない絶叫マシンに、死ぬほど乗った高揚感。それを相性の良いパートナーと堪能した満足感。
私なんて女は単純なもので、それだけをオカズに濡れてしまうわけだ。
『だめんず』ここに極まれり、と仕事仲間に笑われるのも仕方ない。
深山さんには、指を入れればローション無しでも水音のする秘部を見られてしまう事になる。
お客を相手に本気で濡れるなんて、嬢としては結構プライドが痛むものだ。
それでも、晒してしまう。
たどたどしい手つきで、舌遣いで責められ……私は2分か3分かの後に、物理的なものとはまったく別の絶頂を得た。
「うわ、すごいっ……」
何を指していたんだろう。
深山さんのその小さな声が、私には死にそうなほど恥ずかしく、けれども嬉しかった。

 
キスしたまま彼のものにコンドームを被せ、正常位で繋がる。
「あ、熱い……そ、それに凄く、締まる」
深山さんが驚いたように呟いた。
私はべつに頑張って締め付けているわけじゃない。
ただ、割と本気で感じているだけだ。膣の中がふっくら膨らんで、彼自身を圧迫しているだけだ。
大股を開いて繋がる。
何もかもが彼から丸見えになっていて、もうどうしようもない。

深山さんは真剣な表情で腰を打ちつけてくる。
その正中線を真っ直ぐ下ろした場所の熱く硬いものが私の中に通じ、奥まりを突く。
それと同じリズムで快感が足の先にまで流れ、弾ける。
ジェットコースターで氷のように冷え切った身体が、温まって痒みすら感じているかのように。
「可愛いよ、花蓮さん……」
駄目押しのように、深山さんはそんな事を真顔で告げてくる。
私は……一秒だけ彼の瞳を覗き返したけれども、たまらず顔を背けてしまった。
頬がちりちりするほど赤くなっているのを感じる。
本当になんなんだろう。この、コースターが急降下するような惚れっぽさ。

突かれるたびに揺れる私の下半身のせいで、結合の姿勢は少しずつずれていく。
そしてついに反転し、バックスタイルになってしまう。
シーツに顎と胸をつけ、お尻だけを高く掲げるような格好だ。
深山さんはそんな私の腰をしっかりと掴み、さらに突き込みを開始した。
バックは正常位よりも簡単に奥まで届いてしまう。
より激しい快感が、私を貫く事になる。
「あ、あ……あ、ひっ……ひぃいいいいいっ!!!!」
私は数分と経たずに、その声を上げた。
なさけない喘ぎ声。
初めての時から一貫して、私はバックである程度以上気持ちが良くなるとこの声が出てしまう。

きっと、何かが怖いから。
きっと、何かが私の許容量を越えてしまったのが解るから。

その声が出た後の結果はいつでも同じ。
私は背後の人間に従属し、依存し、望んで良いようにされてしまう。
深山さんですら……そんな変化に気付いてしまったみたいだ。
両手で腰を掴んでいた彼は、その片手を離して私の背中を撫でてくる。
本当に、勘弁して欲しい。
そういうことをされると、私はシーツを掴み、腰をさらに高く上げ、膣を絞って……
『可愛い名器』に成り果ててしまう事が、もう身に染みて解っている。

「ううう、うう、ああああっ!!!!」
やがて深山さんが叫び、私の中で熱さを震えさせる。
薄いゴムが膣内でふよふよと漂うような感覚。でもすぐに張りをもって……かなり出ているとわかる。
「……はぁ、はっ、はっ……はぁ、あっ…………あ」
私はすぐに言葉も出せなかったけれど、膝を曲げて腰をずらし、態度で彼に抜くよう懇願した。
深山さんはすぐにそれを悟り、ずるりと物を抜いてくれる。

私は彼から用を終えたゴムを抜き、新たな一枚を被せた。
彼のものは少しお辞儀をしていたけれども、十分な硬さが見て取れたから。


  

もう一度、正面から抱き合う。
今度はもっと近く。深山さんの首を抱え込み、膝の上に乗るようにして繋がる。
言葉を交わす余裕がない。
はっ、はっ、という息と、あっ、あっ、という喘ぎ声だけが響いていて、それがまた興奮を煽る。
自分から浅ましく腰を振っているのに気付いてはいるが、止める気にならない。
もっと、浅ましく。もっと、露骨に。もっと、気付いてもらえるように。
彼の首を抱きしめ、色んな場所に口づけをする。乳房を押し付ける。膣を締める。
深山さんは、そんな私の努力を流さなかった。
すべてに反応をくれ、慣れない風ながらに返してくれた。

泥沼。
反復

飽和。


カーテンから黄色く光が漏れるまで、私達は繋がっていた。
さっと血の気が引く。
「あ……あ、うそ、ごめんなさい…………か、会社が!」
まだ平日。
深山さんには、今日も朝から出勤の義務がある筈だった。
けれども彼は晴れ晴れとした顔で、私の髪を撫でる。
「たまには、徹夜もいいよ」
そう笑う顔は、とても逞しい。私はどれだけ、人を見る目がないんだろう。


「…………また、指名してくださいね」
彼に後ろからシャツを着せつつ、私は言った。
営業文句ではけっして無く、本心から彼とまた遊びたいと思っていた。
勿論、私は風俗嬢だ。
彼に限った話ではなく、他の誰かにも似た感情を持つことはある。
でも、二個でも三個でも、本物の好意には違いない。
「ええ。また必ず」
深山さんはそう言って、軽やかな足取りでホテルを出る。

私も、それから数分の間を置いて。


「お、まーたツヤツヤの顔して戻ってきやがった。全く参るねぇカリスマさんにゃ」
「その調子じゃ、結構ヒットだったみたいね」
控え室に戻ると、中に残っていた娘達が私の顔を見て言う。


私は、照れて笑ってしまった。




                       終わり
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ボイス・パネル・ゲーム

「こいつは、Cの……お、4じゃねぇか。
 やるねぇ兄ちゃん、ドンピシャだ」

柄シャツを着た男が告げる。
腕には刺青を彫りこみ、眉を剃り、明らかに堅気には見えない出で立ちだ。
その瞳が見下ろす先には、一人のうら若い女がいた。
見下ろす男とは対照的な、真面目そのものといった風貌だ。

つむじで丁寧に分けられ、耳後ろを通って乳房の上にかかる黒髪。
筆を滑らせたような容のいい眉に、輪郭のはっきりした意思の強そうな瞳。
鼻は典型的な東洋系だが、鼻筋はすっと通っている。
唇はごく薄く、血色が良い。
人混みの中でも目を引く……という程ではないが、身近にいれば思わずどきりとするほど整った容姿だ。

その清楚な彼女は、しかしほぼ真裸と言っていい状況だった。
くすみ一つない色白な肌を、スレンダーなボディラインを、小ぶりな桜色の乳輪をも晒している。
明らかな見世物だ。
彼女を見下ろすのは、下卑た笑みを湛える柄の悪い男達。
しかしその彼らに挟まれるようにして、ただ一人だけ悲痛な面持ちの男がいる。
名は健太。
男、というよりは少年といった方が相応しいかもしれない。
19歳、まだ世間の荒波に揉まれてもいないのだから。
彼が詐欺師の口車に乗せられて莫大な借金を負ったのも、ひとえにその未熟さに拠る。
借金は闇の中で転がり続け、彼自身のみならず、その唯一の肉親である姉をも不幸の底へと引きずり込んだ。

……いや、姉は……晴美は、自ら望んで暗い海に飛び込んだのだ。
溺れゆく弟を見捨てる事ができずに。
両親を事故で亡くして以来、晴美は5つしか違わない健太の母親代わりだった。
中学を卒業して以来はパートに専念し、せめて弟は大学まで通わせようと必死に働いた。
健太は生来思っている事を口に出さず、感情を押し殺すタイプだ。
彼は晴美に良い顔だけを見せ続けた。
しかし、心の中では晴美への申し訳ない気持ちで満ちていたのだろう。
明らかに怪しい儲け話を鵜呑みにし、莫大な借金を抱えるに至ったのは、結局そこに原因がある。

山のような督促状の中、呆然と座り込む健太を見た時、晴美はすべてを悟った。
見捨てられる訳が、なかった。



不幸な姉弟に突きつけられたのは、借金の棒引きを賭けたギャンブル。
とはいえ丁半や麻雀のような有り触れたものではない。
女に性的な刺激を与え、その反応を当てる遊びだ。
通称は『ボイス・パネル・ゲーム』。
具体的には、女の『声の周波数』と『足の置き場所』の組み合わせが賭けの対象となる。

日常会話で平均200Hzと言われる女性の声は、セックスで喘ぐ場合にはさらに700Hzほど高まるという。
ゆえに、100Hz~900Hzの音域を、100刻みでアルファベットA~Iに割り振る。
100Hz以下、900Hz以上はそれぞれA、Iに属する。
これが条件一つ目。
続いてツイスター・ゲームの要領で、足の置き場所を指定する。
1~12に区分けされたシートの上で女が片足を上げ、性感刺激を受けてから指定場所に足が下ろされれば勝ちだ。
これが条件二つ目。
これら双方を組み合わせ、例えば300Hzの声が出て、7の場所に足の裏がつけば、『C-7』に賭けた者が勝つ。
参加者全員が外した場合はノーゲーム、いたずらに対象の女が昂ぶるだけの結果となる。

『言っとくがこいつァ、お前らの方に分のある賭けなんだぜ。
 何しろ女の意思次第で、好きな相手を勝たせられるんだからな』

ギャンブルの開始前、男達は姉弟にそう告げた。
確かに理屈では、晴美が声のトーンを調節し、かつ特定の場所へ足を下ろせば健太の常勝たりえる。
しかし現実はそう甘くはない。
男の前戯程度ならともかく、クリトリスやGスポットを機械で責められては演技にも限界がある。

例えば今、晴美のクリトリスは内側に無数の吸盤が内蔵されたゴムキャップで包まれている。
吸盤はそれぞれ微弱な電流の流れる端子に繋がっており、陰核内部のあらゆる部分を自在に痺れさせる。
陰核亀頭だけではない、その根元に当たる部分にさえ、吸盤が張り付いて皮膚の上から刺激を加える。
根元から丁寧に活性化されていくクリトリスの刺激。
それはついぞ経験がないほどに強烈だった。
全体の六割程度の吸盤が同時に作動した時には、晴美は自らのクリトリスがびぃん、と勃起する感覚をはっきりと感じた。

「くひぃいっ!?」

晴美は無意識に細い声を上げていた。
肉体構造上、当然の快感。
呻き声に意思を介在させる余地などない。ただ喉奥から迸るままに、発してしまった。
腰が砕け、足を下ろす動作さえも意識の下になかった。
結果、その勝負では健太は負ける。
ゲームに慣れ親しんだ男達の方が、より的確に予想を立てていたからだ。

そう。このギャンブルにおいて、晴美と健太が有利などという事は有り得ない。
まずゲームに参加する人間が4人という事実が不利だ。
実質的に3対1。男達は3人誰が勝っても同じなのだから、答えを一つに絞れないならば勘で総当りすればいい。
逆に健太は外せない。このプレッシャーは大きい。
さらに、経験の差もある。
以前にもこの遊びをしているであろう男達は、女がエクスタシーの最中に見せる声や動作を知り尽くしている。
『晴美自身の』性感反応も。

ゲームが始まる数日前、晴美はオフィスで男達に輪姦された。
借金棒引きのチャンスを得る見返りにだ。
散々に酒を飲まされ、意識の朦朧とした状態で犯され続けた。
初めは反応を示すものかと気丈に堪えていた晴美も、次第に疲弊していく。

「あっ、ああ、あっ、っはぁああっ……!!!」

半日を過ぎた頃には、なまの反応を晒してしまっている事が自覚できた。
思考力を失った頭の中、快感を訴えたり絶頂を宣言すると男達に褒めて貰える。
その仮初めの優しさに導かれ、晴美は快感を貪り続けた。
どのような快感を受ければ、どう声を上げるのか。どう足の筋肉が動くのか。
その値千金の情報を垂れ流してしまった。
男達はその情報と過去の経験を元に、かなりの精度で答えを導き出せるはずだ。
初心者で、一からゲームに慣れていかなければならない健太とは全く違う。

それでも、初めのうち健太は勝った。
予想を当てたのではなく、晴美が健太の予想に沿って声を上げ、足を動かしたからだ。
音域を意識して声を出すのはやや苦労したが、幾度か繰り返せばコツを掴めた。
このまま借金を帳消しにできれば。そう甘い観測さえ生まれた。

しかし、時間が経つほどに晴美の余裕はなくなっていく。
性感が強まりすぎ、素の反応が先に出るようになる。
健太の予想が解っていても、それに外れた甲高い声が漏れる。違う場所に足が下りる。
そうして、徐々に、徐々に、健太は予想を外していった。
ゲームを繰り返すほどに掛け金の額は上がり、大勝負になっていく。
晴美と健太はそこで思い知った。
男達は、最初はあくまで遊びでやっていたのだと。
掛け金が高額になるまで泳がせていただけなのだと。



晴美はグラビア撮影のように、様々なポーズを強要された。
現在は半身を起こしたような格好で腰を捻り、恥じらいの部分を男達に向けている。
裸身はオイルを塗り込めたような汗に塗れていた。
髪の毛の先は海草のように萎び、乳房へと垂れかかっている。
しかし女体で最も敏感とされる陰核へ延々と電気刺激を受けていては、その夥しい発汗も仕方がなかった。
汗だけでなく、愛液の量も相当だ。
片膝を立て、菱形を作るように開かれた両脚。
その下側にあたる左脚には、秘裂から溢れた愛蜜がそのほぼ全体を覆っている。

「『F-2』、『G-7』『G-8』『G-9』っと。うし、予想は揃ったぜ、足上げろ」
男の1人が音頭を取り、晴美に向けて告げる。
晴美はそれを受けて、ゆっくりと片膝を立てていた右脚を持ち上げる。
大きく股が開き、見知らぬ男達と弟に秘部を晒す事になる。
母子家庭では子供が性に無節操になりがちだという記事を読んで以来、
弟には性教育を厳しめにしてきた彼女だ。
目に見える範囲に卑猥な本を置く事は許さなかったし、そのような話題も控えさせてきた。
その自分が、よもやこのような格好を晒そうとは。

何十度目かの開脚に、なお恥ずかしげな表情を見せる晴美。
それを存分に堪能した所で、男が合図を出す。
次の瞬間、晴美のクリトリスを微弱な電気の膜が覆った。

「あぁあああぅふうっ!!!!」

意識とはまったく別の部分から声が上がる。
絶頂。
その単語が晴美の頭を染め上げた。また簡単に、達してしまった。
絶頂の感覚は甘美で心地良いが、後には必ず後悔している。

なぜ……? 
なぜ後悔するの……?

そう考え、意識を取り戻した晴美は顔を青ざめさせる。
知らぬ内に掲げた右脚が下りていた。
今の体勢から最も自然に着地できる位置、『8』に。
慌てて壁に設置されたパネルへ目を向ける。
周波数を表すそれは、720と表示されている。賭けの条件ではGだ。
「ああああああっ!!!」
晴美は叫ぶ。『G-8』、それは……。

「おっとぉ、また俺様の勝ちだな。えーと今は、100万の勝負だっけかぁ。
 おら、とっとと100万出しな……ん、どうした坊主、顔色悪ぃぜ」
勝った男がほくそ笑みながら、対面に座る健太を見る。
健太は顔中に汗を掻いたまま俯いていた。
膝に置いた手が小刻みに震えている。
「……あ、ありま……せん…………」
怯えを押し殺したように、彼は呟いた。
「あ?」
「…………た、足りないんです」
健太はそう告げ、現在の手持ちである12万を机の上に置いた。
男達が笑う。
朗らかな笑みではない。獲物を囲んでの嘲笑だ。
「まぁいい、ここはツケにしといてやる。次に勝ったら返せば良いさ。
 …………ただ、ツケなんだ。もう逃げらんねぇぞ」
男達は健太の肩を掴みながら言う。
健太はただ俯いて震え、晴美はその様を悲痛な表情で見守るしかない。


「さてと、いい加減そのポーズにも飽きたな。趣向変えだお姉ちゃん」
男の1人が立ち上がり、晴美に近づく。
そしてクリトリスからゴムキャップを引き抜いた。
「う、ひっ!!」
晴美が背を震わせながら呻く。
ゴムキャップの下には、およそ日常生活では目にする事もないほど肥大化したクリトリスがあった。
何かの果実かのように赤く充血し、屹立しきっている。
そんなものから勢いよくキャップが引き抜かれれば、先の悲鳴も仕方のない事といえるだろう。
「へへへ、ビンビンに勃起してやがる。しかもこの匂い、完全にメスだな」
男はクリトリスを見やり、秘裂から立ち上る匂いを揶揄する。
そして恥らう晴美の腕を掴むと、無理矢理に立たせて部屋の隅に向けて歩き出した。

その先には、大きな椅子がある。
まるで処刑用の電気椅子を思わせる重厚なつくりだ。
周囲には数字を割り振られたパネルがあり、先ほどのゲームと同じだと解る。
そして何より異様なのは、その座部から生えたバイブレーターだ。
男根を模してこそいるが、本物にはありえないほど極太のカリ首と、残酷な反り、そして真珠のような無数の突起がある。
晴美は女の本能で、その凶悪さを理解した。
極太のカリ首は、どの角度でも容赦なく女のGスポットを擦り上げるだろう。
反り返った幹は、膣のあらゆる部分を抉り回すだろう。
真珠のような突起は、ヤクザの情婦が病みつきになるというほどの刺激をもたらすだろう。
あれは……女を壊す凶器だ。

恐れおののく晴美を抱え上げ、男達は椅子に乗せる。
濡れそぼった秘裂へ、無理矢理に巨大なバイブレーターを咥え込ませる。
晴美は呻いた。
しかし、拒否できる立場にはない。健太がなおも負債を背負っている以上は。
「よし、じゃあ再開といこうぜ。俺は……『H-7』だ」
男の1人が席について言う。
地獄の賭けは終わらない。晴美は、膣内を埋め尽くす責め具の威容を感じながら、喉を鳴らした。





「あっ、あ……あ、ああ、あああうっ……はあ、ああっ…………!!!」

部屋には艶かしい声が響き続けていた。
椅子に備え付けられた責め具は、けして単調にならない調子で晴美の膣内を責め立てている。
想像通り、カリの太いそのフォルムは、彼女のGスポットを存分に責め上げた。
様々にリズムを変えて上下に動き、円運動をも絡めて。
性感帯であるGスポットをそうして嬲られる行為は、それだけで十分なほど絶頂に足る。

しかし、それだけではすまない。
賭けが成立した後には、責め具は深々と彼女の膣を貫いてその子宮口に触れる。
女性にとって最大の性感帯とされる子宮口……ポルチオ。
妊娠経験のない女性にとっては敏感すぎる場所であり、通常は突かれても痛みしか感じない。
しかし、散々に昂ぶらされた今の晴美はその快感を受け入れてしまっている。
突かれるたび、身体中を電流のように駆け巡る快感。
クリトリスで得る快感とは桁が違う。半ば自失する感覚が断続的に襲うほど強烈だ。

それでも、その快感の海の中でも、晴美は弟を救わなければならない。
弟が選んだのは『I-4』。
もはや絶叫と言っていい今において、周波数の選択肢Iは揺るがない。
つまり、勝負の鍵は足の位置に収束される。
それが、4。妥当な部分をすべて他の3人に奪われたのだろう、かなり不自然な位置だ。
責め具がせり上がり、膨らみきったGスポットを擦りながら最奥を抉る。
柔らかくほぐれたそこを潰すように一突き。
そして潰したまま、グリグリと優しくすり潰すような円運動。
これが、もう、たまらない。

「んわああああぁっぁぁあああああっっ!!!!」

絶叫。
人らしさを殆ど感じさせない、金属を掻くような声だ。
その叫びを耳元で聞きながら、晴美は脳内がスパークするのを感じていた。
頭が、視界が、真っ白だ。膣の奥の奥から生じた甘い電流が、足の先、脊髄にまで広がっていく。
心地よすぎる感電。

しかし……彼女は気を持ち直す。
弟の為に、自然と居りかけていた足を留める。
『4』のパネル……遠い。足をがに股に広げ、脚を伸ばさなければ踏めない。

「う、ぐぐ、ぐ……うッ…………!!」

未だ酩酊するような意識の中、晴美は必死に足を伸ばす。4のパネルに足先を乗せる。
しかし、その瞬間。
不自然な動きをした膣内を、さらなる快感が襲う。
責め具の先端はより深くポルチオを抉り、ねじれた膣奥が妙な締め付けを見せる。
柔肉の圧迫を無視し、無慈悲に、マイペースに責め立てる淫具。
それは許容量の縁を漂っていた晴海の意識を、軽々と染め上げた。

「かっ……あ、あああああ゛いぐうううう゛う゛っ!!!!!
 いぐいぐっ、これっ、だめ゛……え゛!!いぐうう、また、ああ、まだいぐううう゛う゛っ!!!
 どめでっ、こどきがい、もお゛どめでぐださひいいいいぃ゛っっ!!!!!」

弟の為の無理が、彼女の性感を決壊させる。
幾度も幾度も太腿を跳ねさせ、潮を噴き上げ、涎を垂らして痙攣を始める晴美。
健太はそれを、震えながら見つめていた。
一転して男達は愉しげだ。賭けにかこつけ、限界まで性感に呑まれる女を面白がっている。
果たして最後まで、姉の自我がもつのだろうか。2人で手を繋いで帰れるのだろうか。
健太には、それが不安で堪らなかった。
今の正解で、健太の借金は僅かに減った。しかし、先は長い。帳消しには遥かに届かない。

地獄は続く。
おそらくは獲物のいずれかが、終焉を迎えるまで……。




                       終わり
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泥濘の底 3話

3‐1.

古瀬沙代子は腹部に当たる皮の感触で目を覚ました。
身を起そうにも、手首と両の足首が繋がれ、身じろぎもままならない。
分娩台のようなものに腹ばいの状態で拘束されている。
辺りの様子も先刻までの荒れ果てた部屋とは違い、ホテルの一室のようである。
もっともホテルとはいえ、如何わしい方の、ではあるが。

排泄姿をビデオに撮られ、さんざんに罵られたショックはまだ感じられない。
ただ泣きはらした目が痛み、頭がかすみ、胸に穴が開いているようだ。
「あら、お目覚めね」
女の声がする。
振り返ると、ゴム手袋を嵌めた女が沙代子の引き締まった尻を揉み解していた。
「ここは……?」
「プレイルームよ。身体の中の汚物を出しきった貴方に、ゴミ部屋は似合わないものね。
 SM道具が色々と揃ってるから、奥様の体中を開発して差し上げられるわ」
女は言いながら、くちゅくちゅと沙代子のアヌスにゴム付きの指を出し入れする。
ラテックスのすべらかな感触と共に、ゼリー状のぬめりが指の長さだけ塗り込まれてゆく。
「くっ……」
「あら奥様、お尻の穴に指を入れられて感じてるの?」
女は嘲るように言うと尻穴から指を引き抜く。ぬとっとした糸が引いた。

「さあ、入り口もほぐれたことだし、今度は中の拝見ね」
女が嬉々として手に取った器具に、沙代子は驚愕を隠せなかった。
それは鵜のくちばしのような、長く胴回りのある拡張器具であったからだ。
「ふふ、そう硬くならないで。体内を傷つけるようなヘマはしないわ」
女はその銀色の嘴をゆっくりと沙代子の蕾に沈めていった。
冷たさが長く太く腸内へ染み渡る恐ろしさに、沙代子は唇を噛む。
きゅるきゅるっとネジを緩める音がすると、今度はそれが奥から開き始める。

沙代子は音のない叫びを上げた。

腸の最奥へ空気が吹き抜ける。直腸がガラス張りになったように冷たい。
「うわぁ奥様、と……っても綺麗。西瓜の果肉をくり抜いた様な鮮やかさね」
腸を覗いた女の歓喜を、夫人は恥じ入るようにして聞いていた。


くちゃっ……くちゃ……くちゃっ……くちゃっ……。
部屋内には粘りをもった水音が間断なく響いていた。
「どう、大分くつろいできたんじゃない?」
這ったまま臀部を突き出した沙代子の後ろで女が問うた。
手の動きはまるで耳掻きのようである。
狭い穴の奥深くを、先端の丸まった棒で擦る。
そのくすぐったさや痛みを超える快感は、恐らく知らぬ者などいないだろう。
「ふ、……くう…………ッ!そんな、私は……!」
令夫人は悶えながらもかぶりを振る。
しかし沙代子の昂ぶりは、彼女自身の身体が証明していた。

分娩台を挟む両脚からはしとどな汗が流れ、膝から床へと滴り続けている。
女がくっくっとアナルスティックを捻って腸の奥を突けば、それに倣うように沙代子の腰が跳ねる。
女は沙代子の茂みに手を潜らせた。
「ああっ」
肉のあわいに長い指をくわえさせて可愛がると、泡っぽい音が立つ。
夫人の息もたちまちに鼻にかかった甘いものとなる。
薄い肉ビラであったそこは今や唇のような厚ぼったさとなっている。
指を美味そうに咥えこみ、とろとろと涎を垂らす秘唇。
「いやらしいこと」
女が囁いた。

女は極めて冷静にアナルスティックを抜き去り、一回り大きな物に取り替える。
2本指よりやや細い程度であろうか。
取り替えのペースは通常より早い。
沙代子の括約筋が極めて伸縮性に富むすばらしい物である事は疑うべくもなかった。
無論、その感度は言うまでもない。


「何も恥じる事はないわ、奥様。私は職業柄慣れているもの。
 お尻の穴の何処をどう突けば女を濡らすか。どうお豆を擦れば泣きを入れるか。
 相手の体型と感度から、大体はわかるつもり。訓練を積んだ諜報員でもない限りね」
女は言いながら、それを証明するかのごとく沙代子の腸を穿った。
太さを増したスティックをぐっぐっと数度強く押し込む。
するとやがて、開ききった沙代子の腸から「ぐじゅっ」と水気を含んだ放屁のような噴射が起こる。
女はそれを確認したうえで、さらにその噴出の根元を擦りまわした。
結腸から感極まったような熱い飛沫が滲み出ているのが見える。

「ああ、あぁああ……――いやあ゛……っ!!」
夫人の口から惑うような悲鳴が漏れ、足の指が強く握りこまれてゆく。
「そうよ、そう。直腸は人間が日常的に排泄に使う臓器。弄くられると誰でも堪らないの。
 あたしだってよ。ああそれから…………貴方の“妹”も、だったわね」
女が意味深に言うと、沙代子の表情が強張った。

それを知ってか知らずか、女はいよいよ容赦なく沙代子の尻の穴を弄くりはじめる。
肛門鏡で奥の壁まで覗けるほどに広がりきった直腸から、肉くさい臭気が漂いはじめた。
女はスティックと指を使い、笑みを浮かべながらも淡々と夫人のアヌスを開発してゆく。

よほど巧みであるのだろう。
沙代子はヒップを突き出したあさましい格好のまま、美しい脚を激しく震わせる。
「あああ……ッううう!止めて、後生です!これ以上されたら、駄目、私……もう…………!!」
歓喜か恐怖か、震える声でそれだけを伝えた夫人。
その後は天を仰ぎながら、賛美歌のようなソプラノを響かせるばかりであった。

精密機械のように休まず尻穴をこねくり回すスティックと指。
その間からは、潤滑油と混ざった体液がとろとろと涙のように零れ続けていた。



3‐2.

帰宅した直後、堀合利恵はエプロン姿の母に抱きついた。
「……ママ……」
利恵の母は一瞬うろたえる。
達観した所のある娘であった。
話しかけても静かに頷くばかり、「ママ」などと呼ばれたのはいつ以来だろうか。
「まぁ、一体どうしたの?このちびちゃんは」
母親は優しく語りかけながら、汗でしなびた娘の髪を撫でる。

なまじ霊感が強すぎるあまり、娘が学校になじめていないのはわかっていた。
かといって保護者が介入すれば解決する問題ではなく、母親はただ精一杯の愛情をもって幼い娘を見守るしかない。
「何か……あったの?」
母親が問うと、利恵は黙ったまま母の柔らかな胸に顔を埋める。
くんくんと匂いを嗅いでいるのがわかる。母は可憐な娘をやさしく抱きしめた。
「…………何でも……ないよ」
母の温もりと香りで落ち着いたのか、利恵はいつものように清冽な瞳で身を離した。

母は階段を上がって自室に向かう娘をじっと見守る。
白いうなじ、ほっそりとした腰、スカートから伸びる足。
身内贔屓を抜きにしても、端整な幼い果実は極上の甘みを醸しはじめている。
『あの子の身体が、どうか望まぬ蹂躙を受けませんように』
母は1人、そっと祈りを捧げた。



自室のベッドに身を伏せると、突然胸が痛み始めた。
公衆の面前で余りにも不埒な言葉を発し、擬似とはいえ排泄を晒したのである。
罵りの言葉、ぎらぎらとした目、荒い鼻息。

(もう…………生きていけない……っ!)

蔑視されるのは慣れているつもりであった。
しかし所詮は物心ついたばかりの不安定な精神である。
「……っく、う、うううう……っ!!」
枕に顔を埋めたまま、少女は嗚咽を漏らした。いつまでも、いつまでも。
枕はいつも母が干してくれるのでふかふかだったが、とてもあの温もりには及ばない。
もう一度抱きつきにいきたい……。

『お母さん!』

利恵は目を開いた。

『お母さん、そんな人じゃないもん!優しくて、綺麗で、おいしいご飯作って……、笑って……くれ、る…………!!』

ぽろぽろと涙を溢すのは、クラスメイトの古瀬明海である。

『堀合さんなら出来るかな、と思って……。』

胸がざわりとした。母を恋しがるのは自分だけではない。
もっと切実に、母を助けたい、その胸に安心して飛び込みたいと願っている少女がいる。
利恵はその母親の泣き声を聞いた。
縛められたまま洗面器に排泄する姿をビデオに撮られ、匂いをなじられ、強要された台詞を復唱され。
その場で舌を噛み切るのではないかと思えるほど切なく号泣する古瀬佐代子の心を、世界でただ1人知っている。

死にたい、死にたい、死にたい……!
でも、あの人が、あの子が!!

その想いが脳髄を焦がした事を覚えている。

利恵は涙を溢した。しかし、自分の受けた羞恥からではない。



第六感には捜索能力が深く関わる。
本能で物を探し当てたり、帰巣したりは野生動物の得意分野である。
利恵はそれを経験をもって理解していた。
古瀬沙代子と何度も感覚を共にすれば、その内おぼろげでも彼女の居場所が掴める。
まずは彼女の置かれた状況を視認しなければ状況は好転しない。

(また何か……されてるのかな。でも沙代子さんは気絶してたし……)

少女は意識を瞼の奥へ呑み込ませる。漆黒の泥沼に沈んでいく。
ラップ音のようなざわつきがないのは、対象が生存している証拠である。



         ※

数刻の後、利恵は寝台の上で汗にまみれていた。
菊座から腸奥にかけてが冷たく、骨盤が外れそうなほどに開いている。
その外気に晒された臓物を、何だろうか、冷たく硬く、丸い物で延々と貫かれている。

『ああ可愛いわ奥様、お尻の奥を突かれる度に腰がびくんびくん跳ねてるじゃない。
逝きそう?逝きそうなの?逝くときはちゃんと言わないと、後でつらいわよ』

女の猫撫で声と共に、腸のかなり深く、結腸の入り口がウズラの卵大に開かれる。
なるほど利恵の華奢な腰は、それを受けてなえやかに振り乱れた。

「あ、あっあっあッ――が、ふぁ!あっああああ!!」
高らかに声が出ているのがわかる。それも自分だけの嬌声ではない。
尻奥を突かれて押し出される喘ぎと、もう1人の自分自身が一瞬耐えながら放つ苦悶。
それを喉で交錯し、肺活の未熟な少女はチアノーゼに陥っていた。

(だめ……場所の特定……どころか…………正気を保つのでやっと……!)

肛門が開ききったままひくひくと息づいているのがわかる。
しかし、沙代子が手足を拘束されていては刺激することもできない。
責め手はその状態の心理を知り尽くしているのだろう。
半端に絶頂に導いて性感の淵まで追いやってはクールダウンさせる、という事を繰り返していた。

『ふふ、物欲しそうにひくつくこと。蕾はまだ清楚なのに、腸液が涎みたいよ。
 コレではもう満足できないんでしょう、ひとつ上に替えて差し上げますわ。
 ……おや、とうとうちょっとした男根並みね』

腸内への貫きがまた一段と大きくなる。夫人と少女は同じく悲鳴を上げた。

壁をこすり、へこませ、子宮を裏ごしし、腸液を押し戻す。
くちゃくちゃ、ぐちゃぐちゃ……。腸の奥から咀嚼するような音が響き続けた。
利恵の痩躯は見えない巨漢に犯されるが如く律動し、汗と愛液を滴らせる。
子供ながらその唇はあえやかに艶光り、隙間からは愛らしい声が漏れ続けていた。

『おおおお、ああうーッ!も、もう駄目です、お粗相をお許し下さい!!』
麗しい夫人の声が耳に響き、肛門より前にある裂け目からやけに重たるい失禁が起きる。
腸奥で溶けた内臓が薄皮から滲みて経口を下るようであった。

(う……ああ……熱い……!あそこが……溶け ……ちゃう…………っ!)

尿道からポットの湯が零れ出るようであった。息が苦しくなり、躯中がかぁと熱くなる。
生理もなく、自慰さえ知らない未熟な利恵は、それが一体何なのか分からずに声を上げた。

『あらあら、ご令嬢が汚らわしい排泄の穴で陶酔かしら?……ふふ、否定してもムダ。
 ここはこんなに素直だもの』
産毛がようやく生えようかという幼い秘裂を空気で捏ね回され、少女はとっさに枕を噛んだ。
そうしなければ、階下まで歌うような幼い悲鳴が轟いた事だろう。


その時、突然のノックに利恵は勢いよく跳ね起きた。
敷いた足が瘧にかかったように震えている。
「利恵ちゃん、お友達が来てるわよ。部屋に入って貰ってもいい?」
母の声だ。利恵はとっさにスカートで下半身を隠す。

果たして、初めて利恵の部屋に上がった客人は、あの古瀬明海であった。
三つ編みのすらりと背の高い少女。
彼女は部屋に入るなり、腰から折れるように深々と頭を下げた。
「ごめんなさい!!」
顔を上げた目には涙を湛えている。
「私があんな事頼んだせいで、堀合さんが大恥をかいたって……!
変な噂も立ってるらしくて、私、どう謝れば……!!」
明海は嗚咽を漏らして身を震わせた。手の甲で拭っても、次々と涙が溢れ出る。

(……やさしい子……。さすがはあの人の子供……この子になら)

利恵は目を細め、優しく明海の名前を呼んだ。
「関係ないの。あなたがどう思っても……私、あなたのお母さんを探す。
身体で苦しいのを共有してるから……放っておけないよ」
明海が見惚れたような視線を返と、利恵は気恥ずかしそうに目をそらした。
普通の様子ではなかった。
「それより……」
愛くるしい顔には再び汗が流れ、頬は林檎のように赤らんでいる。
欲情しているのだ。
明海は本能的に理解した。
「それより、わたしもう気が触れそうなの!お願い……助けて!」



3‐3.

古瀬明海は息を呑んだ。
突きだした利恵の肛門が、何の物的干渉もなく奥まで開ききっていたからである。
異様な光景であった。
ただでさえ小ぶりな少女の臀部に、大人が限界を感じるほどの拡がり。
裂けないのが不思議なほどであったが、それは外因的な力によるのではなく、少女の筋肉自体が弛緩している状態らしかった。
その腸内はぬらぬらと濡れ光り、入り口である菊門からは透明な液が滴っている。
掬ってみると、少女の分泌した腸液はさらさらと指に馴染んだ。

(お尻からこんな液が……?排卵なら習った事があるけど……)

明海は赤面しながら利恵の体内を覗き込んだ。
中ではゴルフボール大の凹みが間断なく少女の腸壁を抉る。
そのたび利恵が愛らしい顔をゆがめ、あ、あ、あ……と喘ぎを出す。
交霊というものの不可思議さを疑う前に、明海はその利恵の様子にただ見入った。

西欧系の端整に纏まった顔、血色のいい桃色の肌、静かな瞳。
西洋人形のような顔に、未成熟ながらどんな服でも様になるスレンダーな体型。
学校レベルで噂されるのは、皆が彼女に関心を失っていない証拠である。
いつも1人、全てを見透かすかのような彼女には孤高という言葉が似合った。
クールな少女として明海も憧れていた。

その少女が今目の前で這いつくばり、堪らないといった表情で懇願してくるのである。
「お、お願い……。指でも……ブラシでも……何でもいい、お尻、滅茶苦茶にかき回して……!」
ううっという叫びとともに、彼女の肛門がひくついた。
真っ赤になった直腸の奥が喘ぐように蠢く。
利恵自身もシーツを強く噛みしめ、内股になって体中で悲鳴をあげる。

(かわいい……でもつらそう。私がなんとかしてあげなきゃ!)

明海は真剣な顔で、利恵の腰に手を当てた。



「こ、これも駄目なの……?」
利恵の肛門から化粧水の瓶を引きづりだし、明海は額の汗を拭った。
彼女達の受けている責めが相当なのか、極限状態で分泌される脳内麻薬のせいか、
もはや道具を使ってでさえ針で刺す程の感覚も与えられないらしい。
「……はぁー……はぁー……」
シーツに頬を預け、酩酊したようにとろんとした目で訴える利恵。
「だって、もう他には……」
洞穴のように開いた利恵の肛門を眺め、明海は考える。

(大きい……私の腕ぐらいなら入りそう)

……腕?明海は自分の手を見た。
小学生女子の手だ、まだ細くて頼りない。
利恵の押し拡がった肛門よりは少し太いが、入らない事もない。

「犯して……!お尻の穴が熱くて……じんじんするの……お願い、擦って……」
利恵の言葉に明海は喉を鳴らす。
「いいの、堀合さん?ホントに壊れちゃうかもしれないよ……」
耳元で囁いても、利恵は嬉しそうに見あげるばかりだ。
明海はため息を吐くと、拳を握り、腸液でぬめりを帯びた少女の肛門にあてがう。



「う…………あ、あああ……っ!」
利恵は背中からどっと汗が噴出すのを感じた。
骨盤が筋肉と共に二つに割れ、丸太で身を裂かれるようだ。
脚が今までにないほど震えだす。
しかし、痛み以上に少女の頭を満たすのは充足感であった。
腸の至る所を蟻に噛まれるようであった痒みが消し飛び、柔らかい腕を腸詰めされていく。
腕から肉汁を搾り出すかのように、腸の全てが引き締まっていく。
腰をつきぬけるような痺れ。

「熱い…………」
肘の辺りまでを利恵の中に沈めた明海は、思わずそう漏らした。
可憐な少女の内臓が脈打っている。
ぬるぬるとした柔肉の圧迫感。咀嚼するような締め付け。
腕を引くと、逃すまいと言う様に手首にねっとりと絡み付いてくる。

明海は背筋がぞくぞくした。気味が悪いからではない。
どこか違う世界の人間と思っていた少女が、こんなにも熱心に自分を迎え入れているという事実。
そして、その類稀な美少女の内臓を鷲掴みにしているという異常性。
しかもその少女は、つい昨日まで肛門に指を入れた事さえなかった筈である。
「き、気持ち……いい……!」
利恵もうっとりとした口調で漏らす。明海は改めて、少女の魅力を嫌というほど脳に刻み込まれた。
「動かすよ!」
腸壁の圧力に負けじと腕を引き抜き、一気に突きこむ。
ぐちゃあっという音と共に、自分の手の形に少女の腸内が作り変わっていく。
利恵は嬌声をあげた。

ぐちゃっぐちゃっ……ぐちゅっぐちゃっぐちゃっずぐちゃっ………………

徹底的に、奥深くまで少女の中を抉りまわす。少女は脚を精一杯に伸ばし、腰を打ち下ろす。
明海の腕だけを支えにし、利恵の華奢な身体が空中での肛門性交にむせび泣く。

 ――――可愛い!

明海は目をらんらんと輝かせて腕を繰った。
自分の腕に体を貫かれて喘ぎ泣く少女が、この上なく愛おしい。
右手を少女に潜り込ませながら、左手で少女のとろとろになった割れ目を、屹立した小さな陰核を愛でる。
そして舌をまだ成長の兆しもない胸へ、すべらかな首筋へ、浮き出た鎖骨へ、桃のような香りのする唇へと這わしてゆく。

少女はそのすべてに感極まった声をあげて身悶えた。


丸太に腰を打ち付けているような極感、利恵は全てを金繰り捨てて悶えた。
大きい、太い、深い、恥ずかしい、気持ちいい。そんな雑多な考えが瞬間的に頭を巡る。
明海が奥のほうで掌を開くと、背中を針で貫かれるような痛みと共に、膀胱が泣き叫ぶ。

「いくぅ、いく、いく、いくいっちゃうーーーー!!!」

利恵が泣きながら身を震わせた瞬間、明海はその腸の最奥を強く押し込んだ。
腸液があぶくとなって指先に噴きかかると同時に、利恵の小さな身体は重みを増した。


数分後、利恵と明海は共に服を脱ぎ捨て、素肌をすり合わせて重なっていた。
互いの愛液を潤滑油に、いつまでも身を重ね、目線を重ね、ちろちろと舌を絡ませあう。

  ――あ、あけみ……ちゃん……
   ――んむっ……ふふっ、可愛い、りえちゃん。

明海が友人になった事。
それがずっと孤独だった利恵にとって、どれほど嬉しかった事だろう。



「…………レズビアンって奴かしら……。最近の小学生は進んでるっていうけど……凄いのね」
同刻、ドアの外で利恵の母は1人呟き、茶菓子の載ったトレイを持って踵をかえした。
その顔は、ひどく嬉しそうであった。


                       続
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『澄んだ肖像』完結!

タイトル通り。
本日、『澄んだ肖像』がついに完結致しました!


……いやー、一体何年かかったんでしょう。
最初はエロパロ板の調教スレで連載していたんですが、責め方に悩んで放置地獄……。
あの頃の読者さんを、結果的に振り落とす感じになったのが非常に無念です。


では作品についての舞台裏話でも。
この『澄んだ肖像』のラストは悩みました。この落ちでも納得いかん!って人はいるかもです。
ただ、他の案だと

・澄泉を案じてニノの館に侵入した智也の前で、澄泉NTR調教
・人生の幕引きとして、ナイフで殺してくれというニノと、それを受け入れて一生罪を背負う澄泉
・身体に絵の具を塗りながらセックス地獄、快感中毒になる(後々後遺症確定)

など、澄泉が可哀想なのばっかりでした。なので無難なENDです。


さて、ちなみにこの澄泉。
別の連載作『楽艶祭』のロリ系主人公・結花とは、実は対照的なキャラクターなんです。

結花は、 普段:大人しい 非常時:男らしい
澄泉は、 普段:偉そう  非常時:誰かに頼りっぱなし

つまりこの2人を組ませると、普段は澄泉先導で結花が大人しくついていきますが、
そこで火事が起きたりしたら一転して結花が仕切り、澄泉はその服の袖を掴んで半泣き、となります。
ラウラにあれだけ酷い目に遭わされても依存してたぐらいの依存症。
超絶寂しがりです。
まぁ、最終的には成長していますが。


……ともかくも無事に完結することが出来て何より。
もう澄泉を書けないのはちょっと寂しいですが、連載の最後ってそんなもんですよね。

今までのご声援、ご愛読、本当にありがとうございました!

澄んだ肖像 最終話

■ 1 ■

モザイクアートのような石畳を鳴らしながら、澄泉は歩を進めた。
俯く事はもうしない。
自分を肯定してくれた智也のために。両親と、己自身の誇りのために。

やがて、街の名所の一つであるニノの屋敷が見えてくる。
普段は観光客や巡回の警官が数人はいるものだが、今は人払いが為されたように1人の姿もない。
澄泉は巨大な門扉の前でポケットを弄り、黒い鍵を取り出した。
純潔を失った次の朝、『君はかならず戻る』と言い含めてニノが握らせたものだ。

「んんっ!」

澄泉は開錠し、華奢な身体を寄りかからせるようにして門を開け放つ。
金属の擦れる音が響き渡る。
そこから一歩踏み出せば、そこには見渡す限りの庭園が広がっていた。
澄泉が初めてこの庭を通ったのは、陵辱明けの朝だ。
その時には心神喪失状態で風景を見る余裕などなかった。
ゆえに、澄泉がニノの庭園を眺めるのは、実質的にこれが初といえる。

「…………すごい…………」

澄泉は無意識に呟いていた。
芸術に携わる人間として、そこに広がる一流の『作品』に圧倒されてしまう。
稀に見るほど見事なイタリア式バロック庭園だ。
山ひとつがそのまま収められそうな長方形の敷地。
そこに4段で構成されるテラスが、左右対称になるよう配置されている。

最も外側にあたるテラスとその一段上のテラスは石階段で仕切られ、
その階段の脇には言葉さえ失わせる、銀世界のような壁画が一面に掘り込まれていた。
荘厳な夢の国への第一歩。
それを、見る者に直感的に悟らせる。
壁画のみならず、二段目のテラス中央に備えられた巨大な水劇場といい、
周囲に立ち並ぶ彫像の数々といい、生半なテーマパークを遥か凌駕する魅惑にあふれている。
ただ美しいばかりでなく、力強く、奔放で、かつ見事に調和が取れている。
実に『解りやすい』楽しさだ。
芸術にまるで関心のない人間でも、この庭園を前にすれば芸術の素晴らしさに感嘆の溜め息を漏らすだろう。

しかし、華美なだけではない。
左右対称の軸となる、4段テラス最上段の屋敷とその周囲に近づくと雰囲気が一転する。
豊穣さ・壮大さを旨とするバロックから、古代ローマの美意識を継承するようなルネサンス調に。
この変化にどきりとする人間も多いだろう。
おどけた言動で周囲を沸かせていた男が、急に紳士的な態度で手を取ってきたような驚きがある。
老若男女や貴賎の別を問わず、この庭園を賛美するのも当然の事に思われた。

その庭園内を歩みながら、澄泉は唇を噛みしめる。
今の彼女にとっては、非の打ち所がない。
ニノという人間の本性を知る人間として、どれだけ色眼鏡を通して見ても文句が付けられない。
優しい……と、澄泉は庭園にそう感想を抱いた。
ニノが周囲に対して演じてみせる、人懐こく小洒落た人間性そのものだ。
庭園を歩むうち、まるでその優しさこそがニノの本性に思えてくる。

 ( …………ちがう…………違う!
   優しくなんてない。あの男は、私を誘拐して、レイプしたのよ! )

澄泉は頭に入り込んできた考えを振り払った。
そして冷静にニノという人間を考える。

ニノ・クラウツ。
フィレンツェの芸術史に名を残す名士として、生きながらに伝説とされている男。
その作品のファンは、マフィアの大幹部や警察官僚といった、この街を支配する層にも及ぶ。
ニノに楯突いた人間は、この街では生きられない。
あの傑作を生み出した人間の為ならと、金によるビジネス以上の熱心さで尽力する者達がいる。
それこそが芸術の恐ろしさだ。
その芸術の頂点たるニノは、この街の支配者と言っても過言ではない。
誰もが彼と懇意になろうとし、若い女ならば誰もが彼の妻の座を狙っている。
澄泉の周りの、誰もが……。



屋敷の扉は開いていた。
澄泉がやはり身を押し付けるようにして開くと、荘厳なゴシック調のエントランスが視界に飛び込んでくる。
左右に二つの大階段が伸び、そこを上る度にバロックやルネサンスの様式も姿を見せ始める。
建築の歴史の中を歩むようだと評される場所だ。

「……すごい…………すごい…………!!」

階段を上りながら、澄泉はくらくらと眩暈を覚えた。鳥肌さえ立っていた。
まさしく圧倒的な芸術性に包み込まれ、当てられているのだ。
感受性の強い澄泉に耐えられるものではない。
救いを求めるようにエントランス正面の大扉へと辿り着き、開く。

グランドピアノが中央に置かれていた。
近くにはバスルームがあり、その隣には澄泉が処女を失ったレストルームがある。
そして、ニノのアトリエも。
創作明けにすぐに眠り、行き詰った時には風呂でリフレッシュが出来るよう考えられた作りだ。
華美な飾りはなく、ただ実用性に特化した空間。
稀代の芸術家の臓腑とも言える場所。
澄泉はひとつ息を吐き、大きく吸い込んで、その中へと踏み入った。

「……ニノ?」

アトリエの扉を開いて呼びかける。
しかし、そこに屋敷の主たる男の姿はない。
ただ製作途中の作品の数々が、虚ろな視線を投げるように存在しているだけだ。
アトリエに入り、その作品を目にして、澄泉は目を見開いた。

「っ!?」

表情が引き攣る。

数十も及ぶ未完成作は、全てが彼女……澄泉を表したものだった。
どの彫像も、どの絵画も。
彼の記憶の中にあったのだろう、様々な角度から見た澄泉を映し出している。
身体のディテールは、まるで実物をそのまま無機物へ落とし込んだ程に見事なものだ。
しかし……それらには表情がない。
顔の部分だけが白く抜け落ちたような物もあれば、能面じみた表情を絵の具で乱暴に塗り潰した物もある。
明らかに正常な精神状態での所業ではない。

「やあ。待っていたよ、スズミ」

突如背後から声を掛けられ、澄泉はびくりと肩を震わせる。
全身に悪寒が走っていた。反射的に拳を握り締め、緩め、ゆっくりと振り向く。
そこで澄泉は、再度息を呑む事になった。
そこにいたのは、確かにニノだ。
しかし……様子が違う。
かつて、何人もの少女を一目で惚れさせた甘いマスクはやつれ果てていた。
以前ならモデル体型ながらも力強く鍛えられていた身体は、一回り以上痩せたようだ。
異様な変化はそれだけではない。
彼の手足、首筋……ラフな服装から覗く様々な肌に、薄緑の斑点が浮き出している。
澄泉はその症状に覚えがあった。

「ど……どうして……? どうしてあなたに、それが…………?」

目を見開き、声を震わせて澄泉が問う。
ニノの瞳に訝しげな光が宿った。

「ほう。未知の症状を気味悪がる君が見られるかと思ったが、意外な反応だな。
 まるで、この症状を見知っているかのようだ」

ニノは、縁の薄い眼鏡を指で押し上げながら告げる。
それが対象の内面を観察する時の癖だと、彼の生徒であった澄泉は知っている。

「知ってるわ。私の父と母も、私が幼い頃に同じ症状で死んだもの」

ニノの瞳が興味深そうに細まった。

「……ご両親の名は?」
「母の名は、岩瀬由紀。父の名は、岩瀬明次。どちらも画家よ」

澄泉のその返答に、ニノの目は見開かれる。
そしてどこか達観したような瞳の色で、ゆっくりと息を吐く。

「ユキに、アキツグ…………そうか、彼らか」

遠くを見るように視線を投げ出し、ニノは呟く。
澄泉はその彼に呼びかけた。

「父と母を、知ってるの!? 教えて、その病気は一体何なの!!」

厳しい表情で詰め寄る澄泉に、ニノは笑みを見せた。
いつも学校で見せる甘い笑みではない。どこか世を皮肉るような、歪んだ笑みを。



「……原因は、これだ」

ニノはそう告げ、足元のパレットを指し示す。
そこには使用途中らしき様々な色の塗料が、乾燥しきった状態で放置されていた。
『特殊な塗料を使い続けるうち、その毒素で死に至った』
澄泉は両親の葬儀の場で、そのような話を耳にした事を思い出す。

「まだ僕が画家として駆け出しだった頃だ。ボローニャの街で、若い画家の卵達とグループを組んだ。
 そのメンバーに、君のご両親……ユキとアキツグもいたんだ。
 どちらも日本の義務教育を終えたばかりで、目に幼さを残しているのが印象的だった」

ニノはそこで一旦言葉を切り、澄泉の瞳を覗き込んだ。
そしてどこか懐かしげに瞳を揺らしてから、再び口を開く。

「……僕等は新世代の画家として、それまでにない画期的な作品を世に出そうと野心を燃やした。
 エジプト、ローマ、ギリシャに始まり、ロマネスク、ゴシック、ルネサンス……あらゆる時代の美術を学んだ。
 絵画だけに留まらず、彫刻や音楽にさえ新しい可能性を求めて模索を続けた。
 様々な事情からメンバーは徐々に抜けていったが、残った人間のする事は変わらなかった。
 そして最後に辿り着いたのが、絵の具……正確にはその中に含まれる顔料への拘りだ。
 既存の顔料から作られたものでは、革新的な美は作り出せない。
 その結論に至った時点では、すでに僕とユキ、アキツグの3人だけになっていたが、僕等は追及を続けた。
 手に入りうるあらゆる植物、鉱物、蟲や動物の体液・外皮を原料に、より鮮やかで深みのある色を探し求めた」

澄泉はここで、ニノの声色が徐々に変化し始めているのに気付いた。
抑え付けようとする感情を跳ね除けるかのように、内から感情があふれ始めている。

「その過程で、僕等は気づいたんだ。この世では、毒のある物ほど美しい……とね。
 僕等は毒と毒を練り合わせ、化合させて、ついに究極と思える『色』を手に入れた。
 そして、それぞれの道を歩むべく解散したんだ。
 ユキとアキツグの2人は、生まれ故郷である日本で名を売るために。
 僕自身……ニノ・クラウツに関しては、今さらここで語るまでもないだろう。
 あの時の絵の具は、多少の改良を加えながらも、今もこのアトリエに遍在する。
 いや、このアトリエだけではないな。僕の作品として、この国に……この世界中にある!」

ニノは開いた手の平を広げ、陶然とした様子で語る。
外国人特有のその大仰な素振りが、しかし、今は実に似つかわしい。

「あなたはそれから、ずっとその絵の具を使っているの?」

黙って話を聞いていた澄泉が、ニノに問いかけた。
ニノは広げた腕を戻し、顎をさする。

「ああ、勿論だ。究極と思える色を手に入れた美術家が、今さら凡庸な色に戻る事など有り得ない。
 それは君のご両親も同じはずだ。ご両親は、幼い君を絵の具に近づけたがらなかったのではないか?」

ニノの答えに、澄泉は沈黙で肯定を示した。
確かに、幼い澄泉が絵を描く両親に近づくと、すぐに彼らのどちらかが抱き上げて避難させた。
一般的な塗料ならば、そこまで神経質になる必要もないだろうに。

「イタリア人である僕と、日本人である君のご両親とでは体質が違う。
 当然毒に対するアレルギー耐性にも差があって、それが発症時期のずれに繋がったんだろう。
 特にあの顔料は、ここイタリアで入手した素材が基本だからね」

そう説明を受け、澄泉は納得せざるを得ない。
10年余りの歳月を経て明らかになった、両親の死の真実に愕然とする。
ある意味、ひたむきに美を求め続けた結果といえるだろう。
彼らの作品には、その生を賭けただけの凄みがあった。
日本では大した評価もされなかったが、それはあまりに異質すぎた証かもしれない。
革新的変化を繰り返す西洋美術の歴史があるイタリアで、ようやく画期的と認められうるほどに。



俯きがちに視線を落とす澄泉の前で、ニノが動きを見せた。
ゆっくりと歩みだし、澄泉の肩に手を置く。
澄泉がはっとしたように顔を上げた。

「しかし、とうとう僕の番が来たようだ。君が彼らの娘だとは驚きだが、これも運命だろう。
 君のその身体が、僕の人生を締めくくるんだ……スズミ」

ニノの青い瞳が澄泉を捉えている。
日本人からすれば感情がないようにも見える瞳。しかしそれは、間違いなく欲情を伴っていた。
死を前にして、澄泉を抱きたい、己の欲を満たしたいという思いばかりを燃やしている。
それに気付いた時、澄泉は自らの両親とこのニノとの、決定的な違いに気がついた。

『……ごめんね』

父親の、今際の際の言葉が思い出される。

『ごめんね、澄泉。父さん達、澄泉よりも絵の方を優先してしまってた。
 今さら間違いに気付いたけど、もう、遅いみたいだ』

鶏ガラのように細くなった手足で、苦しげに息を吐きながら、それでも澄泉を思いやっていた両親。
彼らと、ニノは違う。

「さぁ、スズミ。ベッドルームへ行こう。亡きご両親に代わり、君を愛してあげよう。
 僕に愛され、養子になるといい。僕が死んだ後、その名誉も、財産も……すべてが君のものだ」

さも当然の事のように、ニノは澄泉の髪に手を触れた。
瞬間、澄泉は素早くその手を払いのける。

「あなたには無理だわ、ニノ」

澄泉ははっきりと告げた。
ニノの端整な顔が一瞬凍りつき、次いで憤怒の表情に変わる。

「……何だと?」

聞いた事もないほど荒々しい語気だ。

「無理だと、そう言ったの。父と母の代わり? そんなの、あなたなんかに出来っこないわ。
 私の父母は、死を前にしながらも私の事を案じてくれていたの。
 迫る死に怯えて、他人の不都合を考えもせずに欲を満たすあなたとは、まるで違う!」
「黙れ……小娘風情が、僕を否定するな!」

ニノは怒り狂ったように腕を差し出し、澄泉の首に手をかける。
そしてそのまま、ぎりぎりと締め上げた。

「む。ぐっ……!!」

澄泉は爪先でようやく立てるほどに身を浮かせながら、ニノの腕を掴み、苦しみに悶え、
しかし瞳だけはくっきりと見開いてニノを睨みつける。
かつての、静電気でも発するかのような刺々しさだ。

「スズミ、君は確かに勤勉な生徒だよ。才能も十分にあると言えるだろう。
 だが、あまりに世の中を知らない。
 人間とは皮肉でね。本当に望む物は、それと対極にあるものを極めた先にしか見つけられないんだ。
 恋人の大切さは、その恋人を失って初めて本当の意味で実感できるようになる。
 強さを知るには、敗北を経験し、己の弱さを噛みしめなければならない。
 偽善でない本当の善は、何が悪で何が人を苦しめるのかを、身に染みて知る者にしか語れない。
 美しさも然りだ。
 本当の美しさは、醜い環境で泥水を啜った人間にしか表現できない!」

ニノは荒々しく腕を振り、澄泉をアトリエの床に投げ捨てる。
澄泉は喉を押さえて咳き込みながら、改めてニノを睨み上げた。

「はぁ、はあっ……あ、あなたの自伝にあった事? 確かに悲惨だけど、免罪符にはならないわ」
「自伝だと? ……はははは、まさか。
 あんなもの、僕の経験の表層部だけを、俗物共にも受け入れやすいよう噛み砕いたものに過ぎない。
 子供向けに改編されたグリム童話のようにだ。
 本気で真理を探究する人間は、かならず世の理に触れた事をする。
 それをそのまま著しては、常識人ぶった俗物に批判を受けるのが目に見えているからね」
「ひどい本音ね、ニノ。あなたを敬愛する人間にも、それと同じ事を言えるの?」
「さて、どうかな。しかし言う必要もないだろう。
 もはやここまで服毒による症状が進んでは、人前に姿を現す事もできない。
 僕はここで一人、朽ちゆくばかりだ。
 ……スズミ。君というキャンバスに、僕自身の存在を塗りつけてね」

ニノは床に倒れた澄泉に圧し掛かり、驚くほどの腕力で組み敷く。
澄泉は燃えるような瞳で彼を睨み続けていた。

「無駄な抵抗はするなよ。僕の影響力は知っているだろう。その気になればマフィアでも動かせるんだ。
 この場を上手く逃げ延びた所で、かならず捕らえさせる。地に足をつけている限りね」

興奮に荒い息を吐きながら、血走った瞳で澄泉を見下ろすニノ。
澄泉は嘲りの笑みを浮かべた。

「なんて小さい男。惨めだわ、ニノ先生」
「何とでも言うがいいさ。この僕に本気で抱かれるんだ、すぐに君も惨めな存在になる」

ニノもやはり蔑みの笑みを浮かべ、やおら澄泉の顎を摘んで唇を奪った。



■ 2 ■

ニノは女の扱いに慣れている。
澄泉はその事実を、口づけだけで嫌というほど思い知らされた。

「ん、んんっ……ん!!」

深く舌を絡ませるキスを強要されながら、澄泉は鼻から息を漏らす。
怯える少女をリードするような余裕のある舌遣い。
それが澄泉の舌の付け根を撫でるようにくすぐり、歯茎を舐め、上顎をさする。
左手は髪を優しく手櫛で梳く事もあれば、撫でる事もあり、うなじに触れていきもする。
澄泉の手首を掴む右手の動きさえ、まるでマッサージのようだ。

女を安堵させるコツを熟知した愛撫だった。
必死に心の壁を作ろうとする澄泉でさえ、気を張ることに疲れて一息入れたその瞬間、
するりと心地よさに滑り込まれてしまう。
これが元よりニノに好意を寄せる女性であったなら、たちまち骨抜きにされてしまうだろう。
高度なマジシャンに欺かれるがごとく、澄泉は為すすべもなく昂ぶらされていく。

「どうした、顔が蕩けてきているぞ」

唾液の線を引かせながら、口を離してニノが囁く。
澄泉は何か反論しようとしたが、喘ぐばかりで言葉にならない。
肺が蒸しあがり、蒸気が喉から立ち上っているようだ。
ニノはその澄泉の様子に目を細めながら、手首を掴む右手を離した。
そしてするりと澄泉のシャツへと潜り込ませ、ようやく膨らみかけた胸を撫でる。

「はあっ!!」

澄泉は反射的に声を上げた。その声は、ほどなく小さな喘ぎに変わる。
ニノの指先が粟立つ乳輪を扱き、胸の尖りを屹立させる。
その尖りの側面をさらに扱かれ、乳腺の集まる先端部を爪で擦られると、
地下室で繰り返しの開発を受けた身体は容易く甘美な電流を迸らせた。
いよいよ大きくシャツを捲られ、ニノに直接胸へ口づけされれば堪らない。
舌で転がされ、嘗め回される。

「くぅっ」

そのうち澄泉は、自らの胸の尖りが、ぴぃん、と屹立する瞬間を脳裏に感じた。
気のせいではおそらく無いだろう。
ニノが胸から口を離したその時には、きっと桜色に痛々しく勃起した蕾が露わになっているはずだ。
自分の身体がどのような感覚になったとき、どのような外見的変化が表れているのか。
度重なる地下調教で、澄泉は本能的にそれが解るようになっていた。

頭の中央が痺れ、胸が尖りきったなら、その頃にはきっと……。
澄泉は無意識に下半身へと視線を落としている自分に気付き、そしてはっとした。
ニノの青い瞳が、面白そうに澄泉の顔を覗き込んでいる。
乳房を愛撫していた指は白い腹を滑り降り、ハーフパンツの中へと潜り込んだ。
ショーツのさらに下で、ぐちゅりと音がする。

「もう充分な湿りだ。だいぶ開発されたらしいな」

ニノは勝ち誇ったような笑みを浮かべながら、再び澄泉の唇を奪う。
そこから、指でのGスポットの開発が始まった。



人差し指を浅く差し込み、第二関節の先でGスポットの場所を探る。
指の腹で強く圧迫するように愛撫されると、弱点はあっさりと見つけ出された。
指先が弱い一点に留まり、残酷なほど的確に押さえつけてくる様は、澄泉にとって悪夢でしかない。
場所がちょうどクリトリスの根元近くであるため、薄皮を隔てて快感がじわりとクリトリスに伝わる。
口づけと胸への愛撫で出来上がった澄泉は、それだけでごく浅い絶頂感を得るほどだ。

Gスポットを探し当てたニノは、そこから巧みな指遣いを疲労した。
楽器を奏でるような繊細さだ。
親指と中指が、陰唇を『本物の唇』を撫でるように愛しながら、たっぷりと性感を開発していく。
人差し指は膣壁を絶妙な強さで押し込み、撫で上げ、襞の膨らみに指先を添えたまま細かに震える。

「ふぁ、ああ、あむぅっ……!!」

それを数分も続けられると、澄泉はたちまち絶頂へ向けて押し上げられていく。
狂おしげに身を捩る澄泉。
その絶頂間際のサインを認めたとき、ニノの責め方が変わる。
まったく同じリズムで、まったく同じ動きを繰り返すやり方に。
澄泉にしてみれば、天国でもあり、地獄でもあった。
今まさに達しようという最も心地の良いタイミングで、一気に追い込まれるのだ。
耐え切れる道理などない。

「……え、えくぅぅっ…………!!」

ニノと舌を絡ませあいながら、澄泉は無意識に絶頂を宣言した。
それは触れ合った舌を通じ、しっかりと憎きニノに伝わっている事だろう。
澄泉は心のどこかで苦みを感じたが、そんな事すらどうでもよくなるほど心地よかった。
Gスポットで迎えた絶頂感が、足指の先にまでじわりと染み透る。
一流の料理人が取ったダシのように、まったくの嫌悪感がなく、ただ旨みだけが身体の中へと落ちていく。
ニノからようやく口を開放されても、澄泉はただ喘ぐことしかできなかった。
酸欠状態の頭に酸素が入り込む快感が、より身体を心地よくさせていく。

甘い地獄は続いた。
ニノに正面から瞳を覗き込まれつつ、達したばかりのGスポットを責め立てられる。

「あ、あ、……あっ…………!!」

ニノの瞳を睨みつけ、声を殺そうとしても叶わない。
長い指が導くままに快感の声を絞り出され、汗に塗れた衣服を空いた手で器用に脱がされていく。
信じがたいほど巧みな指遣いだ。
地下室で調教を受けていた時にも、責めに長けた男達は大勢いた。
中には半ば伝説とされているAV男優もおり、流石にそのテクニックは並ならぬものだった。
しかし、ニノの愛撫はそれらを上回る。

『優しい』のだ。

女を蕩けさせ、依存させる技術にあまりにも長けている。
無論それは彼の本質ではなく、虚飾だろうが、受ける女からすればそれを見破るすべは無い。
実は本当に優しい男なのでは、心から自分を大切に思ってくれているのでは。
そう思わされてしまう。
さすがは稀代の芸術家というべきか。
所詮芸術家の卵に過ぎない澄泉は、その圧倒的な感性の渦にただ飲み込まれるばかりだ。

幾度も幾度も、Gスポットを擦り上げられて絶頂を迎えた。
極感に堪えかねて内股に足を閉じ、その足に手を当てて開かされる。
それを繰り返すうちに、いつしか脚はMの字を描くような開脚に至り、抵抗を終えていた。
その格好がもたらす膣の狭まり、その最大限の心地よさから逃れられなくなった。

「う、うううっ!!」

やがて、澄泉は絶頂感と共に、強い尿意を覚えはじめる。
その末に出て行くのが尿ではない事を、彼女は経験から知っていた。
快感。開放欲。羞恥。屈辱。
それがない交ぜになった葛藤の末に、澄泉はついに飛沫を上げた。
それはアトリエの壁に浴びせかかり、殺風景な灰色に黒い模様をつけ加える。

「随分と心地良さそうだな、スズミ」

震えが走る澄泉の脚に手を置き、ニノは勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
澄泉はせめてもの矜持からその顔を睨み上げてこそいたが、昂ぶりを隠しきれない。
真裸のまま雌の顔を見せる澄泉の前で、ニノも下に履いていたものを脱ぎ捨てる。
屹立した逸物が露わになった。
澄泉が生まれて初めて目にした男性器にして、その純潔を奪ったもの。
今は遠い記憶の中、やけに凶悪に思えたのは、けして錯覚などではなかった。
様々な男と関係をもった今の澄泉には解る。
それは明らかに、成人男性の平均を遥か超える、正真正銘の凶器であると。

「さぁ、咥えろ。あの時からどれだけ上手くなったか、見せてもらおうか」

剛直を澄泉の鼻先に突きつけながら、ニノは冷たい瞳で言い放つ。
拒絶する権利など澄泉にはなかった。
あの時も、そして今も。




密閉されたアトリエに、少女の喉奥を攪拌する音が響き渡る。
ニノは仁王立ちになったまま澄泉の後頭部を押さえつけていた。
一方の澄泉は、その西洋人特有の腰の高さに口を合わせるため、蹲踞の姿勢を取らされている。
がに股に脚を開き、腰を浮かせ、相手の脚に添えた手を支えに喉奥を蹂躙される。
顎が外れそうなほど、目一杯に口を開いて。
それは何とも惨めな姿だった。

「ごっ、お゛え゛っ! おお゛お゛うえっ、え゛ぉ、っお゛!!」

苦しげな声が上がる。
当然だろう。長大な逸物を、口腔はおろか喉奥の窄まりさえ抜けた部分に押し込まれているのだ。
かつて地下室でディープスロートを仕込まれた事はあった。
太い物もあった。長い物もあった。
しかし、その両方の性質をここまでおぞましく兼ね備えたものは、澄泉とて経験がない。
止めようもなくえづき声が上がり、えづき汁が逸物と唇との隙間から零れ落ちていく。

(吐くのだけは……絶対に…………っ!!)

澄泉にできるのは、そう誓いを立てて堪えることだけだ。

「思った以上に粘るじゃないか、どれだけ仕込まれたんだ?
 喉奥が締まりながら蠢いて、実に良い具合だぞ」

ニノは言葉責めを織り交ぜながら、延々と喉をかき回す。
対処の仕方を知らなければ、到底耐え切れずに嘔吐してしまう動きだ。
澄泉は、地下での経験を活かしてそれに抗う。
引かれるタイミングを見計らって逸物を舌で押し上げ、同時に喉奥を開いて僅かに気道を確保する。
そうして窒息を免れた。
とはいえ、それで完全に持ち直せるはずもない。
時間が経つにつれて追い詰められていくのはどうしようもない事実だ。

「お゛、え゛おお゛っっ!! こぉっ、お゛ごお、は、おお゛、ぁお゛おえ゛っ!!!」

苦しみに涙があふれる。酸素を求める喉奥はひくつき、結果として浅ましく男の逸物を締め付ける。
ニノはそれら全てを楽しみながら腰を打ちつけ、澄泉の眉間に深い皺を刻み込ませた。

また、澄泉にとっての問題は、苦しみだけではない。
彼女は乱暴に喉奥を使われる事によって、いよいよ秘所を蕩けさせている。
『パブロフの犬』のように条件付けが為されているのだ。
地下室で連日のように逸物を咥えさせられながら、犯されていたせいだろう。
いつしか澄泉は、男の物をくわえ込んだだけで、身体が勝手に自衛のための愛液を分泌させるようになっていた。

「う゛、う゛う、う゛ん゛んん゛あおおおえ゛え゛…………っっ!!!」

幾度も幾度も喉奥を穿たれるうちに、秘裂から愛液があふれるほどになっていく。
それはやがて床に滴るほどになり、ニノの目にも留まった。

「はしたないことだ」

けして掛けられたくなかった蔑みの言葉と共に、ようやく逸物が引き抜かれる。
夥しい唾液に塗れて濡れ光る逸物。
その照りを眼前に見ながら、澄泉は自らの秘裂の状態を想像した。

(……もし今、されたら…………私、耐えられない……かも…………。)

靄がかかったような頭で考える。
彼女はどこかで気付いていた。ニノがそんな澄泉の状態を、見過ごすはずがないと。



■ 3 ■

口腔奉仕でいよいよ大きさを増した怒張が、澄泉の淡いに宛がわれる。
内腿を掴まれた澄泉は、ニノを睨み上げながら挿入に備えていた。
突き刺さるような敵意。
ニノはそれに興奮するらしく、荒い息と共に眼鏡をずらしている。

「いくぞ」

短く宣言し、ニノは亀頭を桜色の裂け目に押し込んだ。
裂け目は美女の唇さながらに艶かしく割り開かれ、太い逸物を迎え入れる。
澄泉は歯を食い縛った。
思わず汗の滲むような圧迫感だ。
初体験の時は身が裂けるようだと感じたものだが、それは男に慣れた今でも変わらない。
秘裂が目一杯に開き、太く熱い剛直の傘がGスポットを擦り上げていく。

「あ、うっ……!!」

開発された澄泉は、それだけで腰を仰け反らせてうめく。

「いいぞ、相も変わらず最高の窮屈さだ……スズミ」

ニノは賞賛しながら、ついに膣の最奥部にまで怒張を埋め込んだ。
亀頭の先が子宮口を突く形だ。
規格外の逸物は根元までが入り込んだ訳ではなく、なお幾分かの余りがあった。
しかしそれも、体格の違いから仕方のないことだ。
子供のような澄泉と、痩せたとはいえ西洋人の体躯を備えるニノ。
健気に開ききった小さな秘裂と、それを隙間なく埋め尽くす隆々たる剛直。
すべてを収めきる方が無理というものだろう。

ニノは澄泉の足首を取り、両脚を前屈みになった自らの肩へと担ぎ上げる。
そして腰を揺らし始めた。

「うあっ!?」

澄泉はすぐに、その動きのもたらす効果に気付く。
女性にとって最大の性感帯である子宮口を、逸物の先で優しくこね回しているのだ。
激しく突かれるよりも、よほど心地の良い責め方だ。
両脚を相手の肩に預ける姿勢が、深い挿入を安易にし、最奥の密着性を増してもいる。
堪らない。
とろけるような感覚が澄泉の全身を駆けた。
クリトリスによる快感とも、Gスポットによる快感とも質が違う。
まさしく全身が震えるほどの深く膨大な快感。

ニノは腰を強く密着させたまま、丹念に腰を揺らし続ける。
絵的には地味極まりないが、そのぶん実効性は狂おしいほどに高い。

「あっ、いや、いやああっ!! やめてっ、そんな……そこ、ぉ……ぐりぐりしちゃ……!!
 あ、ああ、あ、いくっ!! ああああいく、いくいくいくぅっ!!
 ああまたっ、い、いくっ…………いっちゃぁ……ふぅう゛っっ…………!!!」

澄泉は身も世もなく身悶えた。叫んだ。
最初のオーガズムに続く絶頂は、刺激が蓄積することでさらに強烈になって襲い来る。
それを延々と繰り返されては、たまらない。
快感の津波に何度も飲み込まれているようなものだ。

(だ、だめっ、だめ、ぇっ……。あ、あたまが……まっしろに……なってきちゃった。
 こんなの……知らなかった。こうすれば、女のカラダってとろけちゃうんだ…………)

夢うつつの世界を、澄泉の意識が漂う。
性感は刻一刻と高まり、常に快感の高原状態を保ち続けている。
浮かぶ意識のはるか下で、彼女の『身体』は暴れているようだった。
腰をよじり。
ニノの肩に預けた脚が、びんっ、びんっと心地良さげに強張り続け。
腕は許容量以上の快感に胸を掴み、さらりとした黒髪に潜り、アトリエの床を掻く。
惨めな有様だった。

「どうしたスズミ、今からそんな調子で大丈夫なのか?
 君はこれから、さらなる快感の海に沈められるというのに……」

ニノは面白そうに言いながら、悶える澄泉の下腹に手を置いた。
子宮の真上。そこを、揃えた指で圧迫する。
子宮口を剛直でこね回しながら、子宮そのものをも刺激する。


「ひぃいいいいっっ!!!!」


澄泉は無様な叫び声を上げた。上げざるを得なかった。
彼女の子供のような身体のすべてに、高圧の電流が浴びせられたようだ。
子宮を心臓として、濃い快感の血流が手足の末端にまでどぐどぐと運ばれていく。
澄泉は自分が肩で息をしている事を悟った。
のぼせたように熱い頭のそばで、犬のような荒い息が繰り返されている。
苦しい。
苦しくて甘くて……

「狂いそうだ。」

頭の中の考えをニノに代弁され、澄泉は目を見開いた。
ニノは笑みを浮かべながら続ける。

「これよりまだ先があるなどとは、考えたくもない。
 そうだろう、愛らしいお嬢さん?」

その通りだった。
それはまさに、澄泉がこれから思考しようとしていた流れだ。
ニノはそのすべてを把握している。その上で、手綱を握っている。
澄泉はそれが恐ろしくて仕方がなかった。

「さて、じゃあ僕も、そろそろ愉しませて貰うとするか」

ニノは聴こえるようにそう宣言し、澄泉の腰を掴みなおした。
剛直が初めて膣内の中で引かれ、そして、打ち付けられる。



「あっ、ああっ、はああああっ!!」

少女の嬌声がアトリエに響く。
彼女は大股を開かされていた。右足首を掴んで高々と掲げられ、左脚は床に投げだされ。
そうして露わになった恥じらいの部分に、白人男性の逞しい剛直を叩き込まれている。
結合部からは粘ついた水音が立っていた。
音だけで、そこに生じる快感を想像できるほどだ。
実際に、少女の華奢な身体は、そのすべてで溺れるほどの快感を表している。
ニノはそこに情けを掛けなかった。
青い瞳で悶える澄泉を見つめながら、端整な口元を引き締めて腰を遣う。
ひとつの難題に向けて邁進するかの如く。

彼は掴んでいた澄泉の右脚を、投げ出された左脚に重ねるようにした。
そして掴む場所を足首から膝下へと変え、突き込みを再開する。
膣が狭まり、怒張を包む膣壁の圧迫が強まる体位だ。
澄泉が苦しげに眉を顰めた。

「くぅっ……す、すごいぞスズミ。まるで僕の物をへし折りそうな具合だ。
 どうだ、膣の中を満たされているように感じるだろう。
 天使のような君の中を、この僕が満たしているんだと、そう実感するだろう!」

ニノは興奮気味に叫ぶ。
答えを期待しての問いというよりも、自分自身に言い聞かせるかのようだった。
澄泉は薄く瞳を開き、ニノを睨み上げる。

「はっ、はーーっ、はぁっ、はあっ……ああ、あっう゛…………!!」

恨み言を吐きかけるが、適切な言葉が浮かばない。
断続的な絶頂による快感と酸欠で、思考力は著しく低下していた。
ただ荒い息が唇から漏れ出すばかりだ。
その澄泉を見下ろしながら、ニノはさらに体位を変える。
両脚の膝下を掴み、一纏めにして澄泉自身の頭上へと掲げる……屈曲位だ。
太腿裏を掴んで支えとし、結合部に全体重を乗せる。
その重みで亀頭が深々と子宮口を押し潰す。

「っ…………!!!!」

澄泉はもはや白目すら剥きかけ、口を鯉のように開閉させた。
凄まじい絶頂が襲い掛かっている事が、ニノの掴む太腿の震えで解る。
腿だけでなく、足指の先にまで細かな震えが走っているようだ。
ニノはしばし奥深くで腰を留め、澄泉の反応に酔いしれた。
そしてしばらく後、下向きに腰を遣いはじめる。

水音が立つ。



達しても達しても終わらない快楽地獄。
それは澄泉に、地下での生活を思い起こさせた。
来る日も来る日も、穴という穴を用いられ、売春を繰り返す。
時には大金で澄泉を買った相手と、一晩中相手をさせられもした。
ニノを相手に延々と交わるこの状況は、さながらそれの再現か。

 (でも……何か違う)

延々と交わった中で、彼らはニノとは違うことをした。
それは何だったか。
ぼやけた頭で延々とそれを探し続けていた澄泉は、ようやく答えを見つける。

射精だ。
澄泉を抱く男達は、快感が高まった末にはかならず精を放った。
顔にかけるのを好む者もいれば、膣内に放ちたがる者もいた。
しかし、ニノはそれをしない。
いくらセックスに慣れているとはいえ、これだけ長時間に渡って激しく交わって達さないのは異常だ。

そして、さらに澄泉は気付く。
ニノが精を放たないのは、今に限った事ではないと。
澄泉の純潔を奪ったあの夜もそうだった。
澄泉にいくらフェラチオをされても、朝方までその身を抱き続けても、ニノが射精する事はついになかった。

『中に出されたの?』

バールでのラウラの問いが、澄泉の脳裏に甦る。
澄泉はそれを否定した。
その事実がラウラの望みだろうと思ったからだ。
愛する男の子種が、自分などに宿っていて欲しくない。そう思っているのだろうと。
しかし、ラウラの反応は冷たかった。

『……ふうん。あなた、大した事ないのね……』

失望を宿す乾いた視線で、ブロンドの娘はそう告げたのだ。

(ラウラは、本当は期待してた……? ニノが、私の中に射精する事に?)

澄泉はそう思い至る。
地下での調教中も、ラウラは冷たい視線を自分に向け続けていた。
しかしそれは悪意というより、オーブンの中で肉が焼けるのを注意深く観察するような瞳だ。
ラウラは澄泉の『出来上がり』を心待ちにしていた。
澄泉という、ニノが元々強い関心を示す娘を素材に選び、娼婦の技術を身に着けさせる。
それこそがラウラの狙いだったのだ。

何故そこまでするのか。
答えはもう一つしかない。そこまでしなければ、ニノが射精できないからだ。



「どうだ、澄泉。惚けているようだが、まだ頭が焼ききれた訳でもないだろう?」

ニノは澄泉を抱きながら語りかける。興奮を助長するように。
澄泉はふと我に返り、ニノを見上げた。
涙で滲んだ視界を瞬きで一新し、痩せこけた端整な顔を視界に捉える。

「ニノ。あなた、射精ができないんでしょう」

瞬間、余裕を見せていたニノの表情が強張る。
沈み込ませていた腰を動きが止まり、引き締まった身体から汗が滴り落ちる。

「……なるほど、さすがに悟られてしまったか」

口端を歪めてそう告げ、ゆっくりと逸物を抜き出す。
澄泉自身の愛液に塗れたそれは、なおも規格外の大きさを誇ったまま血管を脈打たせていた。
しかし、鈴口からは先走りさえ滲んでいない。
アトリエの床に腰を下ろし、ニノは大きく息を吐いた。

「その通りだ。僕は、射精ができない。おそらく毒の副作用だろうな。
 あの絵の具を使うと、麻薬を打ったように精神が高揚するんだ。勃起が止まらなくなる。
 だから作品を一つ仕上げるたびに、僕は女を抱いた。
 すでに知っているとは思うが、君と同じクラスの女子は大半が僕の愛人だよ。
 しかし、いつしか射精には至らなくなっていた」

ニノは眼鏡を外し、目頭に手を当てる。
嘆く美男。映画俳優さながらに絵になる姿だ。

「……射精ができないと悟った時、僕は気が狂いそうになったよ。
 雄としてこんな屈辱はない。
 そして、このニノ・クラウツの遺伝子を、後の世に残す事ができないなんてね。
 僕は躍起になって、僕の遺伝子を残せる対象……射精を果たしうる相手を捜し求めた。
 ラウラは、その頃から僕に尽力してくれているパートナーだ。
 そこへ君が現れた。
 ひと目で気付いたよ。周囲の娘とはまるで違うと。
 灰色に塗り潰されるようだった心に色がついた。君以外に興味が持てなくなった。
 東洋人特有の小さな身体は、締まりも良いだろうからその点でも合理的でね。
 だからラウラに命じ、君と懇意にさせたんだ。
 彼女の影響力をもって君を孤立させるように仕向け、十分に依存させた後に、攫わせた。
 さすがに彼女も気後れしていたが、もう時間がない事を僕自身が解っていたからね。
 手段は選ばないことにした」

ニノは自嘲気味な笑みを浮かべ、澄泉を見た。
澄泉は俯いたまま押し黙っている。

不気味な沈黙が場を支配し、やがて、澄泉が口を開いた。

「…………哀れね、ニノ」

その言葉に、ニノが怒りの表情を見せる。
しかし顔を上げた澄泉の表情を目にした瞬間、その表情は驚きに変わった。
澄泉が、慈母のように穏やかな瞳でニノを見上げていたからだ。

「セックスを、ただ遺伝子を残すための手段としか捉えられなくなってるなんて。
 ……まるで、少し前までの私みたい」

澄泉は自らの胸に手を置いた。

「私もそう。昔から、男の人は私を性欲の捌け口としか見てないんだと思ってた。
 ラウラに連れて行かれた先で、確信めいたものにもなったよ。
 でも、そうじゃないって教えてくれた人がいたの。
 その人とのセックスは、本当に気持ちよかった。何もかもが嫌じゃなかった。
 ニノ。あなたはそれを……忘れてしまっているのね」

弱りきった身体でニノの元へと擦り寄り、顔を見つめ合わせる。

「私は今でも、あなたが嫌いよ。この世の中で一番に憎んでる。
 でも、セックスの素晴らしさを思い出させる手伝いはしてあげるわ。
 今だけは愛してあげる。
 誰かから貰った親切を、また別の誰かに渡す……それが人の美しさというものよ」

澄泉はそう言いながら、ニノの唇を奪った。
ニノの瞳が虚空を見つめる。
まるで純真な少年が、初めて大人の女性に愛を教わるかのように。



ちゅく、ちゅく、と口づけの音が響く。
澄泉の桜色の唇が、ニノのそれの上で踊っていた。
舌を絡ませ、細い手を背中に回して髪の毛を撫でつけ。
やがて、唾液の線を引かせながら口を離す。
ニノは息が上がっていた。
初めに口づけを交わしたときは、常に余裕を見せていた彼が。

澄泉は彼を床に寝かせ、自らはその上に跨った。
そして頬を染めたまま中腰で逡巡し、決意したようにニノを見下ろす。

「……お、おしりで、してあげるわ。変化がついていいでしょう」

高飛車な表情で睨みながら、彼女はゆっくりと腰を下ろした。
握り締めた剛直の位置を調整しながら、興奮からか口を開いた蕾に宛がう。
そして、押しつけた。

「ンぐっ…………!!!」

愛液が潤滑剤がわりになるとはいえ、肛門の抵抗は相当だ。
膣以上の余裕のなさで、菊の花のような肉輪が剛直を締め付ける。

「うあっ……!!す、すごい、凄いぞスズミ…………!!
 こっ、これはまるで、食い千切られるような…………っ!!!」

ニノは目を見開いて結合の瞬間を眺めていた。
明らかに表情が変わっている。邪気がなく、普段彼が演技で見せる爽やかさがある。
そして、溢れんばかりの歓喜も。

「く、じ、じっとしててよ……。太くて、挿れ方が難しいんだから……」

澄泉は女王のような瞳で命じ、さらに腰を落としていく。
やがて、剛直はその根元まですべてが少女の直腸の中へと入り込んだ。

「あ、あ、ひっ…………す、すご……ぉっ…………!!」

澄泉の未熟な脚に震えが走る。
ニノの規格外の怒張は、彼女が初めて後孔を犯された時以上に太く長く、腸内を埋め尽くす。
しかし澄泉は必死に自らを鼓舞し、その震えを抑えこんだ。
曲げた膝をゆっくりと浮かせながら、逆に逸物を抜き始める。
剛直の幹部分が敏感な菊輪に擦れ、挙句には太くエラの張った傘部分が通り抜ける。
紅い肛門部は、まるで火山のように捲れ返った。

「んふっ……!!」

エラが抜けた瞬間、澄泉は天を仰いで目を閉じた。
首元がふるふると震えているところを見ると、浅くではあるが絶頂を迎えたらしい。
しかし彼女は、すぐにまた腰を下ろしはじめた。
何度も、何度も、亀頭まで抜け出るほどの長いストロークでの抽迭を繰り返す。
ニノは舌を巻く思いだった。
膣とは比較にならないほどの締め付けを見せる肛門が、根元から幹、エラまでを扱き上げる。
これは男にとっては最大級の快感だ。
特に澄泉は体格も小さく、肛門の窮屈さが西洋人女性の比ではない。
極上といえた。

「き、気持ちいいかどうか、感想ぐらい言ってよ……。私が、馬鹿みたいじゃない」

澄泉が憮然とした表情でニノを睨み下ろす。
ニノは苦笑した。

「ああ、すまない。とても良いよ。男の生理というものをよく理解した奉仕だ。
 随分と仕込まれたらしいな」

若干の茶化しを込めて告げると、澄泉の頬が再び赤らむ。
そして一息に腰を下ろしてニノに呻きを上げさせると、そのまま激しい腰遣いを始めた。



「あっ、あ、あうっあ、あっあ、あっっ……!!」

鈴を揺らすような声が繰り返される。
声を発しているのは、妖精のように華奢で美しい少女だ。
妖精が逞しいイタリア男の上で腰を振る。
そのイメージとはあまりにもかけ離れた、不浄の穴を性交に用いて。

しかし、彼女は明らかに快感を得ていた。
肛門そのものの刺激。その肛門近くに存在する陰核脚への刺激。
そして亀頭が奥を突く際の、とろけた子宮への刺激。
それらがない混ぜになり、少女に声を上げさせる。

やがて、悦ばしい不幸が起こった。
抽迭が繰り返される中で、怒張の先が偶然S字結腸に入り込んだのだ。

「ひっ!!」

極感。澄泉は目を見開き、背を伸ばす。
ニノも呻きを上げた。

「うう……す、凄いぞ澄泉、これは何だ……!!
 そ、反り返った先が、狭い穴に包まれている……これは、凄い…………!!」

ニノにとっても未知であったらしく、端整な顔を歪めて繰り返し快感を訴える。
澄泉は困惑を見せていたが、その声をきっかけとしたように腰を動かした。
背を後ろに反らせて角度をつけ、自ら亀頭をS字結腸へと送り込む。
一度、二度、三度、四度五度……。
幼い脚はガクガクと震え、『い』の発音に噛みしめられた唇から涎が滴る。
やがて、その噛みしめた唇が開かれた。
未知の快感が高まりすぎたあまり、内に留め置けなくなったかのように。

「っおおおお゛お゛っっ!!ああ、うう゛、んあああおおおお゛お゛お゛っっ!!!!」

凄まじい呻きが漏れた。容赦のない低音だ。
可憐なイメージを根底から覆すような、肉欲と快楽に染め上がった嬌声。
それは心地よくアトリエの壁に響き渡り、ニノの鼓膜へ入って本能を揺さぶる。

やがて、澄泉は桜色の秘裂から潮を噴き上げた。
経験のない肛門での極感に耐え切れず、深く絶頂した証のように。





澄泉とニノは交わり続けた。食事も睡眠も忘れ、互いの身体を貪った。
激しく動く事もあれば、繋がったまま愛撫のみで過ごす事もある。
それを経て、互いの性感はいよいよ深く長く持続するようになっていった。

荒い呼吸が交わされる。
正常位で見つめあいながら、ニノは澄泉の女性器へと剛直を送り込む。
小さな亀裂はすっかりその太さに慣れ、蕩けきっていた。
奥の奥まで。
子宮口は完全に解れ、ニノ自身の亀頭の突きに合わせて吸い付く。

「もっと先へ行きたい。スズミ……君の中を知りたい」

ニノは少年のような瞳で、縋るように囁きかけた。
澄泉は焦点の合わない瞳でそれを見つめ返し、小さく頷く。
ニノがさらに腰を押し進めた。
その瞬間、亀頭の先が子宮口を滑り抜ける。

「っっ…………!!!」

澄泉が目を見開き、大きく口を開いた。
愕然としたようにも見える表情で、その口を開閉させる。
ニノはただ歯を食いしばって腰を押し付けていた。
先端さえ突破すれば、後はその流れのままに侵入を果たす。
小柄な少女の子宮内部に。

「暖かいよ、スズミ。
 ……まるで、何もかも……僕のすべてが包み込まれているようだ」

ニノは陶然とした表情を見せる。
そのニノに組み敷かれながら、澄泉はかすかに目を細めた。


  天使だ。


ニノは感じる。
どこまでも眩く、どこまでも慈愛に満ち、どこまでも暖かな存在。
その天使と繋がっているのだと考えた時、ニノは身を震わせていた。
そして、至福の時が訪れる。

ニノの剛直が数度脈打った後、震えた。
睾丸から生じた熱さが管を通り、先端までを駆け抜ける。
何年にも渡って切望した感覚。

「ううううううっっ…………!!!!!」

ニノは呻きを上げた。
先端を柔肉に暖かく包まれたまま、その空間内へと思うさま迸らせる。
凄まじい量だ。
澄泉はそれを身体の奥で受け止めながら、射精の邪魔にならないよう静かに耐えていた。
受精の本能からだろうか。
彼女の子宮は、まるで精液を吸い上げるかのように内へ蠢いている。
その蠢きが、ニノのすべてを絞りつくした。

「さぁ、おわり、よ……。私はまた、あなたを嫌いに、戻る……わ…………」

澄泉はかすれた声でそう告げると、そのまま意識を失う。
疲労困憊といった様子だ。
小さな身に、ここまでの快感の連続はあまりにも負担が大きかったのだろう。
ニノはようやく萎びた逸物を抜き出し、秘裂から溢れ出る自らの子種をしばし眺めた。

「ああ、満足だ。心から満足した、ありがとうスズミ。
 …………いや、違うな。未来のウフィツィの至宝、岩瀬 澄泉か」

眠りに落ちる澄泉へ語りかけながら、優しく抱え上げて寝室へ運ぶニノ。
彼はアトリエへ戻ると、ぐるりと彼自身の作品を眺め回した。

「いい人生だったよ。まったくね」

男は――稀代の芸術家、ニノ・クラウツは呟く。
そして足音高くアトリエを進み、その奥の扉へと姿を消した。


彼がその扉をくぐることは、二度となかった。





「…………ここは …………?」

目が覚めたとき、澄泉は見知らぬ寝室にいた。
起き上がると頭が痛む。絶え間ない絶頂で痛んだ部分が修復していないようだ。
ここがニノの家である事だけは、うっすらと覚えている。

「ニノ、どこなの?」

館の主を求め、澄泉はフロアを彷徨った。
しかしふと思い至り、アトリエへ取って返す。
がらりとした殺風景なアトリエ。
そこに男の姿はなかった。しかし、今までは常に閉ざされていたはずの扉が開いている。
澄泉は喉を鳴らした。
なぜ鳴らしたのかは自分でも解らなかったが、妙な感覚があった。

扉をくぐると、そこにようやくニノの姿を見つかる。
彼は椅子に腰掛けていた。
手は筆を握ったままだらりと下がり、まるで眠るかのようだ。
しかし……近づく前から、澄泉は彼が眠っているのではないと気付いていた。
安らかな顔だ。
母親の胸の中で安堵する子供のように。
その彼の前には、一つの大きな肖像がある。

「…………美化しすぎよ、馬鹿。」

肖像を眺めながら、澄泉は毒づいた。

「本当ね」

その時、ふいに背後から声が掛けられる。
澄泉が驚いて振り返ると、そのブロンドの娘は静かにニノに歩み寄った。
そのまま慈しむように首に手を回し、頬に口づけする。
澄泉はそれを黙って見ていたが、彼女が手にした瓶を見て顔色を変えた。

「っ!? ラウラ、まさか!」
「近づかないで!!」

駆け寄ろうとする澄泉を、ラウラは一喝して止める。
蛇のような瞳だ。
しかしひとつ瞬きすると、それが優しげなものに変わる。

「ねぇ澄泉、あなたにお礼を言わなくちゃ。
 ニノ先生……いいえ、『ニノ』がこうして安らかに最期を迎えられたのは、あなたのお陰。
 感謝してもし足りないわ」

澄泉はその言葉を聞きながら、顔を歪めた。

「ラウラ、わ、私は……私は、あなたを、友達としてずっと……だから、だから!!」

ラウラはかすかに微笑み、首を振る。

「そうね、澄泉。私も、あなたを友達だと思うわ。嫌いだったけど、好きになった。
 でも残念。ニノの方が、もっと、ずっと…………好きなのよ」

そう言って、ラウラは手にした瓶の中身を飲み干す。
そして一度大きく痙攣すると、ニノの肩にもたれるようにして動きを止めた。

「ラウラぁあああっっ!!!」

澄泉は駆け出した。
しかし、誰ももう動かない。女好きの美術講師も、その永遠の愛人も。
澄泉は顔を覆い、その場に崩れ落ちる。

嗚咽を漏らす少女を、一枚の肖像画だけが見下ろしていた。




■ 4 ■

ニノ・クラウツ記念館。
それはかつてイタリアに存在した、偉大な美術家を讃える場所だ。
芸術家を心ざす者ならば、ウフィツィと並んで必ずここを訪れるという。
氏の逝去を悼み、各界の大物がこぞってコレクションを寄贈したことも有名な話だ。

その傑作の中でも、特に至高とされている一枚の肖像画があった。
天使のように愛らしい少女を描いた絵だ。
透き通るようなその神々しさに、見るものはみな言葉さえ失って見つめる。
宝石を纏った貴婦人も。
ステッキを持った品の良い老人も。
そして、ドレスを身に纏った赤い髪の娘も。

「おねえ…………ちゃん…………?」

赤い髪の娘は、肖像画を前にして呟いた。
肌の血色がよく、纏うドレスは高価そうなものであり、誰が見ても貴族の令嬢といった風だ。

「おや。どうかしたのかい、カーネリア」

隣に立つ裕福そうな老人が、優しく娘の肩に手を置いて尋ねる。
すると娘は、すぐに表情を引き締めて笑みを作った。

「……いいえ。何でもありませんわ、お義父さま」

きらりと光る、気高い瞳。
老人が違法売春の噂を聞きつけ、正義感に燃えて踏み入った時に見たものと同じ瞳だ。
これほど聡明で、かつ人としての尊厳を強く持つ娘もそうはいない。
老人にとって、彼女はまさしく自慢の娘だ。

娘は燃えるような赤髪を翻し、人の目を集めながら肖像に背を向ける。


『 わたし、元気にやってるよ……おねえちゃん。 』


小さく呟かれたその一言は、誰の耳にも入らなかっただろうが。







イタリア北部の街フィレンツェ。
そこは俗に『芸術の都』と呼ばれる。
高みから見ると絵画に映る石畳、微細に彫りこまれた壁面。
古ぼけたレンガは家なみを夕焼けのように彩った。
すっかり見慣れた、夕暮れの風景だ。

こつこつ鳴る足音をとめ、澄泉は噴水を見上げる。
水飛沫を澄んだ目に収める彼女は、鞄からスケッチブックを取り出す。
もうこの街に住んでかなり経つが、描きたい事は山ほどあった。

澄泉の夢は、ウフィツィ美術館をも沸かす偉大な画家だ。


「……や、澄泉ちゃん。今日も精が出るね」

自転車で広場を通りかかった少年が、澄泉に気付いて声を掛けた。
澄泉は振り返り、朗らかな笑みを見せる。

「智也くん! うん。久し振りに描きたくなっちゃって……」

そこから二言三言言葉を交わし、2人は手を振って別れた。
澄泉はスケッチブックを手に、再び噴水に向き直る。


まだまだ画家として陽の目を見てはいない。
ニノの威光を借りることなく、悪魔的なほど美しい塗料も良しとせず、自分の歩幅で一歩ずつ歩むと決めたからだ。
噴き上がる噴水を描き出しながら、澄泉はきらきらと瞳を輝かせていた。
澄んだ瞳。
それは、彼女の迷いのない心を映し出すかのようだ。
そのひたむきさがある限り、彼女は必ずやその存在を世に残す事となるだろう。



未来は、希望に満ちている。





                           ~FIN~
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