大樹のほとり

自作小説を掲載しているブログです。

2013年06月

忍の素性

※スカトロや痛い拷問、蚊責めなど注意。


「まさか、屋敷内はおろか寝間の真上にまで入り込まれるとは……屈辱ですよ」
男は静かに告げた。
藍色の小袖の上に黒八丈を羽織り、本多髷を結った、さぞや金回りも良かろうという風貌だ。
顔に湛えた柔和な笑みなどは七福神の大黒天を思わせる。
しかしこの男の本性は、柔和などとは程遠い。
紀嶋屋相之丞。
奥末藩藩主の御用商人でありながら、敵方である士沼諸藩との密通が疑われている男。
否、正確には“疑われていた”男か。

 (不義者め…………)
くノ一・翠(すい)は、相之丞の侍衛達に取り押さえられたまま鋭い眼光を放っていた。
美しい女だ。
忍らしくキリリと鋭い面立ちに、後ろで一つに結われた艶やかな黒髪。
肌色は白く、身体はよく引き締まって健康的な美に溢れている。
胸と尻の膨らみは十分に女らしく、すらりと細長い脚線は異人の血でも入っているかのよう。
奥末藩の密命を受けたこの翠にとって、相之丞は怨敵だった。
屋敷に忍び込んだ彼女が天井裏から見たものは、士沼の姫と同衾する相之丞の姿。
密通はもはや確定となった所で報告に戻ろうとした矢先、翠は屋敷に仕掛けられた罠に捕らわれてしまう。
主に砦や城内戦を想定した城に用いられる、屋敷内ではまずあり得ない類の罠だ。
相之丞にはよほど痛い腹があるらしい。
事実、相之丞の黒い噂には枚挙に暇がなく、様々な商人が株を奪われて自殺に追い込まれたともいう。

「さて。この女には、何処の手の者かを白状して貰わねばなりません。
 そのための拷問は、私自らが行います。さもなくば腹の虫が収まりそうにないのでね」
相之丞が人懐こい糸目を細く開き、狡い瞳を覗かせながら告げる。
翠はその視線を受け止め、射殺すような眼光で睨み返す。
美しきくノ一は心に決めていた。
必ず機を見て脱出する。そして奥末藩の力を以って、この卑劣な古狸に天誅をくれてやる、と。





尋問部屋に笞打ちの音が響き渡る。
相之丞の持つ箒尻が唸り、今一度翠の背を打った。
両手首と腰の縄で万歳をするように縛られた翠には、それを防ぐ術などない。
「ッ……」
翠は奥歯を噛みしめて痛みに耐える。
忍装束は背の部分が大きく裂け、柔肌からも血が噴き出しているに違いない。
背の全体が焼け爛れたように痛む。しかし痛みそのものであれば、指先の方が上だ。
翠の視界に映る左右の十本指には、一つ一つに棒状のものが突き刺さっている。
およそ裁縫には使えぬような極太の針だ。
笞打ちで翠が気を失うたび、指の肉と爪の間にその極太針を突き刺して気付けが行われた。
最初に針を打たれた右手中指の血はすでに固まっているが、最後の左手小指からはなおも血が滴っている。
膝下の痛みも相当だ。
翠はこの笞打ちの前に石抱き責めを受け、伊豆石を三枚積まれて問責されていた。
足の骨が残らず砕けたように思え、今でも縄の支えがなければ、立つことすらままならない。

背、指先、脛。その全てがボロ屑のように成り果てた現状。
それでも、翠には余裕があった。
彼女はくノ一として拷問の訓練を積んでおり、痛みには慣れている。
さらに、痛みによる疲弊と、自白して楽になろうとする心を、頭の中で分かつ心得も身につけている。
痛みによって自白する事はまずあり得ない。

「中々に強情ですな。こうまでされて、ろくに声も上げんとは」
彫りの深い顔立ちをした男が、腕組みをしたまま言った。多少名の通った火付盗賊改だ。
拷問に不慣れな相之丞が相手を責め殺さぬよう、頃合いを測っているらしい。
彼のような番方すら懐柔している所が、豪商たる相之丞の恐ろしい所だ。

「なに、声を上げさせるぐらいは簡単ですよ。……寄越しなさい」
相之丞は少々の苛立ちを見せながら汗を拭い、近くの下男に声を掛ける。
下男はその言葉に応じて手にしたものを慎重に主へ渡した。
今まさに炭火から抜かれたばかりの火熨斗。
相之丞は片手で翠の足首を掴み上げ、その火熨斗をゆっくりと近づけていく。
「!」
足裏に迫る熱気に気付き、翠が足元を見やった。
真っ赤に熱された平らな鉄が視界に入り、ぞくりと悪寒を走らせる。
永遠にも思える数秒。
その後に、ジウと何かの焦げる音がし、悪臭が立ち込め、そして……熱さが翠を襲った。
「ふッ、ぬ゛ぅうううう゛う゛ッッ!!!!!」
如何なくノ一とて、これには声を堪える事が出来ない。
翠は反射的に涙を零し、下唇をきつくきつく噛みしめて苦痛に耐え忍ぶ。
すでに幾度も噛みしめていた下唇からはついに血が滴り、顎の下を流れ落ちていく。

相之丞は苦しむ翠を冷酷に観察しながら火熨斗を離した。
そして下男の差し出した壷に手を差し入れ、たっぷりの塩を掴み出すと、それを紅く焼けた翠の足裏に塗りこめる。
「いッ、っぎぁああぁあああッッッ!!!」
翠はたまらず叫んだ。
一気に背筋を寒気が駆け上り、脳に達して警鐘を打ち鳴らし始める。
身体が震え始め、内股をなま暖かい奔流が流れていく。
「ふん、失禁ですか。品のない」
相之丞は汚らしそうに告げながら足の裏から手を離した。
そして汗と涙に塗れた翠の顔を掴み、目元に血に塗れた塩を塗りつける。
「どうです、話す気になりましたか」
翠は数度瞬きして視界の涙を払いながら、きっ、と相之丞を睨みつけた。
「自分の胸にでも聞いてみろ、外道が」
乾いた喉を絞るようにして恨み節を吐き出す。
相之丞は細く開いた眼の中に苛立ちを浮かべながら、深く嘆息した。
「…………なるほど、残念です。では望みどおり拷問を続けましょう。
 あなたには素直になるまで、水責め、痒み責め、色責めと、あらゆる苦難を味わって頂きます。
 けして死なず、さりとて生を感じられないほどの過酷さでね」
冷たい表情のまま、淡々と紡がれる宣言。
そこには自らの地位を脅かす者に対する、病的なほどの敵愾心が見て取れた。





「まだ、白状する気はありませんか」
相之丞が大黒のような笑みを浮かべて尋ねた。
その視線の先で、翠は後ろ手に縛られている。
両手首を一つに縛った縄尻は太い木の枝に結わえつけられ、逃走を封じていた。
かろうじて膝立ちにはなれる高さであり、肩が抜けることはない。
格好は丸裸だ。
男好きのする身体を男達に晒すがままになっている。
場所は深い藪の中であり、周囲には不快な羽音が絶え間なく飛び交っていた。
何をされるのかは想像に難くない。
それでも、翠の瞳には微塵の恐怖もなかった。
「可愛気のない瞳だ。……やりなさい」
相之丞は大黒の笑みから下卑た瞳を覗かせ、下男に命じる。
すると、下男達が手に持った桶の中身をそれぞれ翠に浴びせかける。
酒だ。
「さて、では私達は一旦退散することにしましょう。蚊に噛まれでもしたら大変だ。
 この辺りの蚊は特別に痒みが強くてね、普通の倍は腫れる。
 たった一箇所脛を刺されただけでも、寝付けず夜中まで掻き毟ってしまう塩梅ですから」
相之丞は翠に聴こえるように告げると、踵を返して藪の中から去っていく。
藪には、酒の匂いを漂わせた翠だけが取り残された。

耳障りな羽音が翠を取り囲む。
「っ!」
顔に取り付こうとした数匹を、翠は頭を振って追い払った。
しかし同時に内腿へと別の蚊に付かれる。続いて首筋、肩口へと。
それらの蚊が離れてしばらくすると、猛烈な痒みが沸き起こった。
「ううっ!!」
相之丞の言葉は大袈裟ではない。普通の蚊よりも痒みが強く、寝付けないほどだ。
指で掻き毟りたくて仕方ないが、両手を木に括りつけられた翠はただ身を捩らせるしかない。
蚊の群れはそんな翠の周りを飛び交い、無慈悲に白い肌へと取り付いていく。


「……く、くっ……っ、あああぁあああ゛っ!!!くあ、あぐうっ!うああぁぁッアアああ゛ッッ!!!!」
やがて翠は忍耐の限界を迎え、叫び声を上げた。
近くで相之丞達が聞き耳を立てているであろう事は知っていたが、理性で抑えられる痒みではない。
汗が噴きだし、涙が滲む。
「か、痒いっ!!あア゛、痒い、痒いぃっ!!止めろッ、来るな、来るなぁッッ!あぐ、ああ゛あ゛っッ!!!」
必死に身を捩っての抵抗を試みる。後ろ手の縄が手首に食い込み、ついに血を滴らせ始めた。
縄尻が結わえられた太い枝は、軋みこそすれど折れる気配はない。
「ふ、っくぐうううぅうっ!!!!」
歯を食い縛る翠。
全身を痒みが覆い、寒気と刺すような痛みを覚えるまでになっている。

薄目を開けると、涙で滲んだ視界にはつねに蚊の姿がある。
蚊が自らの肌に取り付き、止まり、離れていく。その箇所に痛烈な痒みが生まれる。
すでに全身至る所に赤い跡があり、中には刺された部分をさらに刺されて赤黒く変色している部分さえあった。
「はーーっ、はっ、はっ、はぁっ……」
息が切れる。一日で十里を走るほどの翠の息が。
全身から汗が滴り、口元からは止め処ない涎が溢れている。
放置されてからどれだけの時間が経ったのだろう。そしてこれから、どれだけ続くのだろう。
一睡もできず、神経を磨り減らすこの地獄が。

「…………おやおや、酷い有様だ」
翌朝、相之丞が翠を一目見て告げた。
翠はそれを遠くに聞きながら、朦朧とした意識の中を漂う。
ようやく虫でないものに会えた、その安堵を噛みしめながら。





捕らわれて以来、翠に休息らしい休息はなかった。
著しく心身を消耗させる拷問の合間にも、絶えず何らかの緩やかな責めが加えられた。

今、翠は後ろ手胡坐縛りに縛られたまま、乳房を二つの木の板で挟み潰されている。
板の両端は麻縄で幾重にも縛りあわされるため、ちょうど女の豊かな乳房を搾り出すような形だ。
その上で乳房の敏感な部分へと針を刺されている。
針先はごく細い。
太い針よりも刺突自体の刺激は小さいが、それを延々と突き刺されると、それはそれで神経を侵される。
さらに相之丞は、針を刺す前に必ず唐辛子入りの壷に針の先を漬けていた。
それにより、針を刺されると同時に焼けるような痛みが翠を襲う。
「…………っ、…………っっ…………!!」
翠の鼻から吐息が漏れた。
乳房を鷲掴みにされたまま、柔な乳首や粟立つ乳輪へと針を打ち込まれる。
責め手は相之丞本人だ。翠は責めを受けながらも、相之丞の顔を真正面から睨みすえている。
一方の相之丞は、その視線を受けながらも涼しい顔だ。
「胸の先が尖ってきましたよ。あなたは、こんなもので気持ちが良くなるのですか」
相之丞が翠の乳首を摘みながら言う。
翠がちらりと視線を落とすと、確かに胸の尖りははじめよりも円錐型にしこり勃っている。
度重なる刺激を脳が快感と誤認識したのか。あるいは本当に心地良いのか。
いずれにせよ、怨敵に性的な反応を見られることは女忍の恥だ。
「くっ……!」
翠の視線が一層鋭さを増す。
相之丞はその顔を嘲笑うように眺めながら、針を置いてキセルに持ち替えた。
高価な品として知られる銀延べキセルだ。

相之丞はゆっくりと煙を吸い込むと、さも美味そうに煙を吐き出した。
煙は正面に座る翠の顔へと浴びせかかり、その美貌を歪ませる。
噎せる翠を眺めながら、相之丞はさらに一服した後、おもむろにキセルを翠の太腿へと近づける。
そして先を反転させ、剥きだしの白い腿の上で燃えさしを棄てた。
「ぬ゛っ!!!」
乳首と顔ばかりに意識が向いていたところへ、突然の腿の熱さ。
これには翠とて反応が遅れ、生々しい反応で胡坐縛りの太腿を震わせた。
「灰落としが動くな」
相之丞は本性を露わにしたような低い声で、翠に語りかけた。そしてまた唐辛子の壷と針を手に取る。
相之丞の憂さ晴らしとも言えるこの責めは、そこからまた何刻かに渡って続けられた。





「さぁ、もう一度です」
相之丞が命じる。
折檻役が翠の黒髪を掴み、水の湛えられた盥へと頭を沈める。
もう幾度目になるだろうか。
「ぶはっ!!げほっ、げほえほっ!!……っはぁ、はあ……はぁっ…………!!」
水から引き上げられた翠は、酷く苦しみながら咳き込み、酸素を求めた。
どれほど訓練を積んだとて、人が水中で息ができるようはならない。
長時間水に漬けられれば、忍といえど苦悶に満ちた生々しい表情を晒すしかない。
「……どうだ、水責めの味は」
相之丞は責められる翠の前へと回り込み、疲弊した翠の顎を持ち上げた。
濡れた前髪が額に貼りつき、何とも艶めかしいものだ。
しかしそこはくノ一。相手が相之丞だと知れるや否や、口を窄めて唾を吐きかける。
唾は相之丞の目の下を打つ。
相之丞は一瞬怯んだものの、すぐに薄笑いを浮かべながら目の下を拭った。
「威勢のいいことです。ですが、それもいつまで持つものか。
 こんなものは、水責めの中でのほんの小手調べ。ここからが地獄ですよ」
相も変わらず穏やかな口調で、冷酷な言葉を発する。
翠は屈強な男達に引き立てられながら、そんな相之丞を睨み続けていた。


次の水責めは水車を利用して行われた。
水車は相之丞の屋敷がある村の中ほどに備わっている。
村の人間達が何事かと集まる中で、丸裸の翠は逆さ吊りのようにして両手足の首を水車へと括りつけられていく。
この村人達は、相之丞を国主の如く慕ってはいるが、彼の不義に関わっている訳ではない。
奥末藩に縁のある善良な民であり、翠が憎しみを向けるべき相手ではない。
実際のところ翠にしてみれば、こうした無関係な村人の前で恥を晒す事がもっとも辛い。
相之丞へ対するように鋼の心で抗うことができない。
丸裸で水車に括り付けられながら、翠は恥じらいに胸を締め付けられていた。

やがて水車は、軋みを上げながら回り始める。
相之丞子飼いの男達が水車を引き、人力で回しているのだ。
村の人間に乳房と茂みを晒す格好から、翠は次第に円に沿って上へと運ばれていく。
水車の頂点を越えたあたりで、村の男達から歓声が上がった。
大股開きになった秘所が、彼らからは丸見えになっているのだろう。
足を閉じる事も叶わない翠は、恥辱にただ耐えるしかない。
そして、恥らってばかりもいられなかった。
目の前にはすでに、こんこんと水の流れる用水路がある。今からそこへ潜ることになるのだ。
足の先から順に冷たさが這い登り、ついに乳房までが水に隠れる。
「はぁっ」
翠は大きく胸を膨らませ、息を吸った。その数瞬後、ざぶりと顔までが水の中に浸かる。
ごぼごぼと鳴る水音。水車の軋みが煩いほど大きく響く。
視界に映るのは暗い水底と、揺れる濃緑色の藻、そして木製の水車の車輪。
息苦しさがわずかに肺へ溜まる。
水車の回転はわざと遅くされているようだ。より長く苦しめようというのだろう。
くノ一として潜水にはある程度自信があるが、これが幾度も繰り返されては流石に厳しい。

次第に視界が明るくなり、揺れる水面の向こうに村人達の姿が見えはじめる。
男達は水から出た翠の身体を指差して盛り上がっているようだ。
そして、ついに顔が水面から出る。
「ぶはっ!!」
翠は当然のこととして酸素を求めた。その翠の顔を、また男達が好色そうに眺める。
その視線に耐えながら、翠は再び水車の回転にそって引き上げられていく。

それが幾度か繰り返された時だ。
暗い水底を抜け、ようやくまた酸素が吸えると翠が肺を緩めた時。突然相之丞の声がした。
同時に水車の回りが止まり、翠は首から上が水中に没したままで留められる。
 (しまった…………!!)
そう考えた時にはもう遅く、酸素を吸う準備をしていた灰から空気が漏れ出す。
貴重な酸素が泡となって浮かび上がり、代わりに水が翠の喉へと入り込んだ。
その苦しさに、またガボガボと泡を吐いてしまう。そうして完全に酸素を失ってからが、苦しみの始まりだった。
水車に括りつけられた身体が暴れる。苦しみと恐怖で表情が引き攣る。
村人達は、そうした翠を嘲笑った。
中には気の毒そうにしている子供もいたが、彼らにとって翠は、いや相之丞に楯突く者は敵なのだ。

十分に翠が苦しんだところで、ようやく水車が再び回り始める。
溺れた人間特有の無残な顔をした翠が表れ、周囲の笑いを誘う。
こうした責めが、さらに幾度も続けられた。その度に翠は苦しみもがき、ついには失禁さえも晒して笑い者にされ続けた。


水責めはまだ終わらない。
二度の水責めで水への苦手意識を植えつけたところに、とどめの三度目が行われる。
それに気付いた瞬間、翠は内心で震えた。本当に容赦がない。

尿道と肛門にきつく栓が嵌め込まれ、水の逃げ場を失くす。
その上で、檜造りのの巨大な手桶と、なみなみと水で満たされた二抱えほどの酒樽が翠の前に置かれた。
手桶で勢いよく水が汲み出され、口に流し込まれる様が容易に思い描ける。
「……水責めというものはね、本当によくできた拷問なんですよ。
 気が狂うほどの苦痛だそうですが、実際に狂ったという話は聞かない。外傷は残らないし、後遺症もさほどない。
 ただ、確実に大人しくなる。どんな人間でも反抗する気概を失い、水を見せるだけで怯えて言う事を聞くようになる」
折檻役が翠の鼻を摘み、口広の漏斗を深く咥えさせるのを見ながら、相之丞は告げた。
翠は瞳を惑わせつつ、必死に彼を睨み上げた。
遥か上下に落差がついた、二つの視線がぶつかり合う。

折檻役が翠の鼻を摘んだまま、手桶の水を漏斗の中に流し込む。
一人が流し込めば、すぐに逆から別の一人が、その次にまた別の一人が。
その交替制により、翠の口には絶え間なく水が流れ込む。
鼻を摘まれて呼吸を封じられたた翠は、その水を飲むしかない。
白い喉が幾度も上下する。
「む、んん、んっ…………んんもぉエ゛ッ!!!!」
えずくような音がし、翠の腹部がにわかに蠢きはじめた。
同時に首を振り始め、なんとか水を呑む苦しさから逃れようとする。
しかしそれで許すような折檻役ではない。
むしろより強固に翠の頭と身体を押さえ込み、手桶で水を呑ませてゆく。
「え゛っ、あごぐっ……!!ゴバッ、ぃあんんんォっ…………!!!」
整った顔が口周りを中心に歪にゆがむ。
全身が細かに痙攣をはじめ、そしてついに、翠の眼球はぐるりと天を剥いた。
そこへ来て、ようやく折檻役達は一旦漏斗を抜き出す。
「ッげほっ、げほえっ!!えごほっ、ごぼっ、え゛げろ゛っっ!!!」
嘔吐を思わせる音で水が吐き出された。
盥の時よりも、水車の時よりも格段に苦しげな音だ。
「どうです、自分の素性でも思い出しましたか」
相之丞は手に扇子を遊ばせながら、憎らしいほどの余裕をもって問うた。
「…………地獄、に、堕ちろ」
翠は息も絶え絶えに答える。相之丞が手を振り上げた。

再び折檻役が翠の鼻を摘み、漏斗を咥えさせる。
翠の瞳に一瞬、明らかな恐怖の色が浮かぶ。
そしてまた水が注がれ始めた。
「ああああ゛っ!!!おえぇげぼっ、も゛ぅンぐっ!ぶっ、ッげぐぼァ゛ああ゛っ!!!」
艶かしい身体が暴れ回り、黒髪を鷲掴みにされたまま首を振りたくる。
呑ませては吐かせ、また呑ませては吐かせ。
すべてを吐ける訳でもない為、その繰り返しで翠の細い腹部はゆっくりと膨れてゆく。
肌の色が土気色に変わり、唇は紫色になり。
やがて本当の本当に限界と見られた所で、漏斗が引き抜かれた。
「いい加減に答えろ。貴様、どこの手の者だ!」
折檻役が、水風船のように膨れた腹部を強く鷲掴みにする。翠は激痛に顔を顰める。
「ごおお゛ぇっ、ぶぐふっ!!!」
翠の口から勢いよく水を吐き出された。
そしてようやく酸素を得られたとばかりに激しく喘いだあと、再び水を吐く。それを繰り返す。
最後の水には鮮血すら混じっていたが、完全に白目を剥き痙攣を繰り返すくノ一が、素性を明かす事はついになかった。
「痛みでは駄目、苦しみでも堕ちず…………ですか」
陥落する事のない忍を前に、相之丞は苛立ちを露わにする。
しかしその一方では、冷静に次の一手を案じている風でもあった。


 


翠は布団の上に寝かされ、大の字に手足を拘束されたまま色責めに掛けられていた。
翠の上に覆いかぶさっているのは、村の娘だ。
天上人たる相之丞から屋敷に招かれたのみならず、くノ一への責めすらも任された。
その大任に胸躍らせ、嬉々として責め立てている。
「………………」
娘から執拗に唇を貪られながらも、翠は毅然とした態度で天井を睨み上げていた。
口づけはなされるがまま。
しかし、内心では興奮が刻一刻と高まり続けている。
同性に口内を貪られる事もひとつ。
そして娘の片手は、傍らの壷から゛秘薬”を掬い取りながら、翠の淡いへと沈み込んでいく。
同じ女ゆえに、その責めは洗練されていた。昂ぶるように、膣の中の弱い部分を的確に責め立てた。
それを一方的に受け続ければ、いかなくノ一とてまったく感じないという訳にはいかない。

「ねぇくノ一、気持ちいいんでしょう。女陰の奥がどろどろになってきているわ。
 わたしの指をしっとりと咥え込んで、流石、いやらしいのねぇ」
村娘が指を蠢かしながら囁く。
彼女に指摘されるまでもなく、座敷にはもうかなり前から濡れた音が繰り返されている。
出所は翠自身の秘所だ。
翠が問いに答えないのを見て、娘が再び唇を奪う。
年を疑うほど妖艶な舌遣いで歯茎を舐め、上顎をなぞり、舌を絡ませて。
ぞくぞくとする無防備な昂ぶりが、翠の脳裏をくすぐった。
「…………お願いだ……こんな事、もうやめてくれ…………」
口が離された瞬間、翠は娘にだけ聴こえるように小声で囁きかけた。
部屋の隅で盃片手に見ている相之丞には気付かれないように。
しかし、娘は面白そうに目を見開いた。
「はっ、ねぇ相之丞さま!この女、今弱音を吐きましたよー!もうやめてくれ、ですって!あははっ」
鬼の首を取ったかのように、相之丞を振り仰いで叫ぶ。
それを聞き、翠はやはりこの村娘も敵方の人間なのだと心寂しくなる。
奥末の忍である自分が、同じ奥末の民に虐げられるとは。
「そうか、そうか。ならば続けよ、折れさせれば好きに褒美を出すぞ」
相之丞は機嫌よく娘に答える。
その言葉を聞き、娘はいよいよ目を輝かせて翠に覆い被さった。


「あははっ、お乳でてきた」
娘が翠の胸の尖りを摘んで叫ぶ。
針で散々に乳腺を刺激された胸の先は、再度の興奮によって確かに白い雫を零している。
とろりと、何とも心地よさげに。それは翠自身の心のようだった。

娘によって、翠はなお散々に嬲られていた。
豊かな胸を揉まれ、秘裂に秘薬を塗り込められ、さらにはその上の赤い蕾にすら秘薬をつけた筆でなぞられて。
「はぁ、はっ……はぁっ……はぁっ……あっ、はーっ…………」
全身に汗を掻きながら、翠は激しく胸を上下させていた。
性感の極みまで押し上げられ、しかしそのまま寸止めという生殺しの状態を続けられているのだ。
寸止めは相之丞の命令だった。
昂ぶりきっている。
毅然とした態度で天井を見つめていた翠の瞳は、いまや色に蕩けて濡れたようになっていた。
秘裂からは蜜が止め処なく流れ、娘の指に絡みながら敷布団に滴っていく。

「…………よし、そろそろ良いでしょう。存分に果てさせておやりなさい」
翠の状態を見守っていた相之丞が、扇を開きつつ言う。
すると娘は、待っていたとばかりに桐箱から責め具を取り出す。
凹凸のついた、極太の張り型。
「さぁ、いくわよくノ一」
猫のような瞳で翠の目を覗き込み、娘の手にした張り型が秘裂を割る。
「ぐっ!!」
思わず声が出た。張り型の太さもあるが、それ以上に快感が凄まじい。
膣内の膨らんだ襞を張り型が通り抜けた瞬間、翠は軽い絶頂を迎えた。
そして張り型の先が蕩けきった膣奥を突くと……脳内が白く染まる。
全身を巡る甘い電流。足指の先までがぴんと伸び、断続的な快感に腰から脊髄までが打ち震える。
この快感は、まずい。そうはっきりと感じられた。
しかし、拒めない。拒む術がない。

  
「んん、んあっ!!ああ、あはっ、あぐうううっ!!ひっ、あぁああっ!!!」
和室に女忍びの嬌声が響き渡る。
村娘の手で容赦なく張り型を叩き込まれながら。
幾度も幾度も腰が跳ねる。子宮を中心に身体中が痙攣を繰り返す。
「どう、ぶち込まれて堪らないでしょう!ほらっ、知ってる事全部吐きなさいよ、ほら!!」
村娘はいよいよ嬉々として翠を責め立てる。
「おごほぉぉおおお゛っっ!!」
翠は事実たまらなかった。
絶頂につぐ絶頂で呼吸すらままならず、口からは涎はおろか泡すらも噴いてしまっている。
頭の中が快感で煮崩れしていくようだ。
自我を保てなくなる恐怖と、底無しの快感に惹かれる危うさ。
今までの責めでも、もっとも強い警鐘を脳が鳴らしている。
生物が本能的に求めていることだからこそ、手に負えない。
「あはっ、あ、ああっ、ああっ。ひあぁああああふっ!!!」
翠は極限状態に置かれながら、後頭部を床に打ち付けてかろうじて正気を保つ。
頭の中でぷつりと糸の途切れる音がし、視界が黒く染まって気を失う瞬間まで。

何とか、耐え切った。
暗い意識の底に沈む瞬間、翠は安堵した。しかし同時に解ってもいた。
次はどうなるか解らない。次の責めで、『くノ一・翠』は壊れてしまうかもしれない、と。





「うわ、何あれ……双子孕んでるみたい」
「あれってあの、細くて、ちょいと綺麗だったくノ一だろ。腹が膨れあがると、醜くなるもんだねぇ」

村人達がどよめきながら畦道に群がっている。
その中心にいるのは翠だった。
手首足首をそれぞれ一纏めにし、大股を開く格好で二本の木に結わえ付けられている。
その腹部は醜く膨れ上がっていた。過食責めの影響だ。
囲炉裏鍋二つ分作られた下剤入りの粥を、手で掬って無理矢理に食べさせる責め。
液状のものに対して苦手意識を植え付けられた翠は、粥を口に近づけられるだけで怯えを見せた。
しかしそれに構わず、手で口を覆って塗りつけるように食べさせる。
翠は幾度も嘔吐した。
液状のものを口にする恐怖と、単純な食べ過ぎによる戻し。
しかしその吐瀉物すら掬い、恐ろしく長い時間を掛けて残さず平らげさせられた。
その結果の蛙腹だ。

ぐりゅるるる、ごぉうるるるるるぅ、と不穏な音が響く。
下剤の効果と腸の限界以上の圧迫による腹鳴り。翠の苦しさの象徴。
それでも、翠は村人の前で恥辱を晒したくはなかった。
「はっ、はっ……はぁっ、はっ……あああ……ううううっ、ああっ…………!!」
荒い息を繰り返しながら、翠は耐える。耐え忍ぶ。
しかし……本当の限界は覆らない。
吊られた手足が震え、尻肉が幾度も引き締まり、その末に、とうとう尻穴から飛沫が上がる。
「うわっ、出した!!」
「おいおい、汚ねぇなあ。しかもすげぇ匂いだ!」
「こら、見るんじゃありません!!」
村の人間から悲鳴に近い反応が沸き起こった。
ある男は下卑た視線を寄越し、
ある女は心の底から軽蔑したように冷笑し、
ある母親は子供の目を必死で覆って非難の目を向け。
それらの反応が、翠の心を切り刻む。しかし、排泄は止まらない。止められる訳がない。
飛沫は奔流に変わり、腹部の張りを解消しながら地面に叩きつけられていく。
臭気が身を包み込む。
「…………見るな…………見るな、…………見るな、見るな…………見ないで、くれ………………っ!!」
脂汗を流して排泄を続けながら、翠は小さく繰り返した。

「これが最後です。どうです、何か話しますか」
尻肉から汚物を垂らすままの翠に、相之丞が問う。いつになく柔らかな口調だ。
翠は一瞬心が靡きかけるのを必死に堪え、怨敵を睨みつける。
「そうですか。ならば…………もう、いい」
相之丞は首を振り、折檻役達に木の縄を解かせた。
両手足の縛りはそのままに、翠の身体は抱え上げられる。そしてそのまま村外れへと運ばれた。
明らかに妙な一画へと辿り着く。
周囲よりも数段低く掘り下げられ、家屋も無く、林に遮られて昼なお薄暗い土地。
「棄てろ」
相之丞の一言で、翠はその中に投げ込まれる。

「ぐっ!!」
肩を地面に打ちつけた翠は、ふと妙な匂いを嗅ぎ取った。
まるで何年にも渡って水浴をしていないような、濃厚な体臭。それが匂ってきている。
はっとして顔を上げれば、そこにはもはや人と呼んでよいのかも解らないものがいた。
全身が垢で覆われて浅黒く、腹だけがぽこりとでた餓鬼体型。
そして女に飢えているらしく、目をぎらつかせながら裸の翠ににじり寄る。
「よせっ、止めろ!来るな!!」
本能的な恐怖から翠は叫んだ。しかし、大股開きで手足を縛られていては逃げられない。
男達はたちまち翠に群がり、やおら女陰へと勃起した逸物を捻り込む。
ぬるりとした感触が翠の中を滑る。
しかし、翠はその小汚い性交にすら快感を得ていた。秘薬のせいだ。
「ーーーーーっ!!!」
つねに蕩けているような膣奥を乱暴に貫かれ、天を仰ぎながら声ならぬ声を上げる。
その翠にまた別の一人が貼りつき、挿入を試みた。
塞がっている膣以外のもうひとつ……後孔へ。
「なっ!?よ、よせっ、後ろはっ!今、そんな事をされたらっ…………!!」
翠の哀願も、飢えた男達には通じない。
男は迷うことなく翠の肛門へと怒張を宛がい、一息に貫いた。
「あうううっ!!!」
翠が顔を歪める。その歪みは、怒張が肛門を攪拌する中で、ますます歪になっていった。


「あっ、ああ、あっ!!や、やめろ、やめてくれ、聴こえてるんだろう!!
 私は大量に下剤を飲まされてるんだ、まだ半分も出し切れていない!!
 もう解るだろう、そんな状態で後ろを……あ、され…………たら、う、んうううっ!!!」
翠が必死の説得を続ける間にも、背後の男は動きを緩めない。
どれほどの女日照りだったのだろうか。
腰を鷲掴みにし、腰よ壊れよとばかりに力強く叩きつける。腸の奥の奥まで。
「やめ、やめろっ、ほんとうにもう……ぬ、ぬいてくれ、後生だ…………っ!!!!!」
その言葉の直後、ついに翠の肛門から第二の噴出が始まる。
腸の深くにあった下痢便が、怒張の抜き差しの刺激で下ってきたのだ。
「うわあああぁあああっ!!!」
これには翠も絶叫した。
本来性交に用いるべきでない肛門を犯されるのみならず、脱糞まで晒す。
くノ一である以前に、女としてこれ以上はない恥だ。

「うわぁー、すっごい。やってるやってる」
「ひぇえ、どっちも腰から下が糞塗れ……。もう人間じゃないね、ありゃ」
低地を見下ろす形で村人達が集まり、口々に翠をなじる。
尋問役や相之丞もそちら側にいる。
それを見上げるうち、まるで翠は、自分が人間でない下等生物になったように感じた。
垢まみれの人間に押し倒され、孔という孔を好き勝手に使われる畜生。
吐き気のする体臭と、自らの漏らした汚物の匂いに満ちた空間で這いずる蟲。
汚れていく。
垢にまみれ、地面にまき散らされる汚物の中を転がって。
人間としての尊厳が………………、折れる。

「たすけて……助けてください。私は、わたしは、お、堕ちたくない。人間で居たい!!」
翠は、ついに涙を流した。
それまでの凜とした声ではなく、弱弱しい声。
くノ一としての尊厳を砕かれ、無力なひとりの娘に成り下がった瞬間だった。
しかし。相之丞は反応しない。
大黒天のような慈愛に満ちた笑みの隙間から、蔑みきった瞳で見下ろしている。
まるで興味が失せたとでも言いたげに。
「……さて、帰りましょうか。アレは、あまり見るものではないですよ。目が腐ります」
黒八丈を翻しながら、相之丞の姿が遠ざかっていく。
村の人間達も、それぞれ翠に哀れみの一瞥をくれながら踵を返す。
翠の視界から、“人”が消える。

「ま、待って、待って下さいっ!!置いていかないで、出自を話しますっ!!
 私は、奥末藩藩主永長から直々に任を受けた忍びです!
 相之丞殿が士沼と関わりがあるとの噂を調べに参りました!
 すべて奥末の行く末を思えばこそ任務なのです、ですから、お慈悲をっ!!
 誰か、お願いです、誰か聞いて下さい、誰か、ねぇ、誰かぁあぁああああ゛っ!!!!」

空しい叫びが空に消え、翠の頭は垢まみれの手に押さえつけられた。
そして男達がそうするのと同様に、自らの排泄した養分を口元へと近づけられる。

気丈だったくノ一の切れ長な目尻は、泣くように垂れ下がった。



                      終
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酔いのシメ

※メシ喰うだけ 第3弾


洋酒は苦手だ。
上手く言い表せないが、洋酒を飲んでいると大蛇に頭を締め付けられているように感じる。
『呑む』のではなく『呑まれる』感覚。
俺の得意客にはウイスキーやブランデーを嗜む人間が多く、その付き合いとなれば俺も洋酒を呷らざるを得ない。
とはいえ、俺も1人の酒呑みだ。
嫌な思いをした酒の席の後は、心地良い酔いで取り返したいと思う。
そんな時、俺が頼るのは一件の居酒屋だ。

「ミッちゃん、ミッちゃんよう……」
俺は千鳥足で店先へと辿り着き、救いを求めるように引き戸を開けた。
昭和の時代から引きずって来たような狭い居酒屋。
客の姿はなく、それもそのはず、今は夜中の3時。本来なら店の営業時間はとうに終わっている。
表にも準備中の札が出てはいるが、それは一般の客に向けた話だ。
「………………」
カウンターの向こうに立つ女は、俺の方に視線すら寄越さない。
良い女は良い女だ。
ひと昔前のスケバンを思わせるようなキツい目つき、色白な肌、小ぶりな鼻と唇に、咥え煙草。
愛想など欠片もないその横顔は、しかし何人の男の心を奪うだろう。
ただ、だからとて俺がその美貌を目当てに通っているかといえば、どうにも違う。
この『ママ』美智子は、七年前に事故で死んだ幼馴染の嫁……それ以上のものじゃない。

俺がカウンター席に着くと、美智子はコップに酒を注ぎ、硬い音を立てて俺の前に置いた。
ちびりとそれを飲る。
地酒ながらこれという癖もない、他所に住んでいればわざわざ呑みに来る事はないだろう味だ。
けれどだからこそ、どんな料理にも邪魔にならない。難しい考えを抜きにして愉しめる。
いわば白米のようなものだ。
俺がコップの酒を呷る前で、美智子は焼き網に向き直って何かを炙り始める。
普通の客に出したメシの余りを簡単に処理した、いわば『賄い』だ。

網からの煙と、煙草の煙が調理場に交じり合う。
物憂げに手元を見つめる瞳、だらしなく斜め下に咥えた煙草。
無造作にゴムで結わえた髪と、紫のジャージとの間に覗くうなじ。
酔いのせいか、それら全てが妙に色めいて見える。
じっさい美智子は、未だにハタチの頃のそれと大差のないボディラインを保っている。
欲情に足る対象である事は、客観的にも明白だ。

店に立ち寄った客から聞いた、彼女をイメージする。
客の前で煙草は吸わず、髪をきちりと結い、着物を着ている。笑みを見せる事もあるという。
そのような不可思議な姿を、俺は見たことはない。
彼女の素しか、俺は見ることはない。



簡素なつまみが供される。
半端に割れたような形の陶器に、あぶり焼きの筍が乗っているもの。
横には蕗味噌が添えられており、これが筍とあわさって中々にいい肴になる。
いかにも“渋いです”という匂いが食欲をそそった。
まずは箸の先で弄くるようにしながら、それらの苦味を味わっていく。
美智子はカウンターの向こうで頬杖をつき、煙草を咥えたままでテレビを眺めていた。
時おり煙草の灰を落としながら欠伸をする。
俺はしばし、黙って時を過ごした。暗黙の了解とでも言うのか。

「……ミッちゃん、よう」
十分余りをかけて一品目を粗方喰い、皿の溝に入り込んだ蕗味噌を箸で穿り返しながら、ようやくに俺は口を開く。
そこから始まるのは愚痴だ。
他愛もない世間話を交えながらの愚痴。
美智子はたまに「へぇ」や「そうかい」といった応えを寄越しながらも、基本的には聞き流している。
稀にスケバンさながらの眼光でジロリとこちらを見やる事もある。
普通の男なら気圧されて黙るだろう。
しかし、美智子が鋭い瞳を寄越すのは、相手にある程度の関心を抱いている証拠だ。
逆にその瞳をペルシア猫のように若干開き、一見興味深そうにした時が関心の切れ目。
美智子に熱を上げる男どもの九分九厘が、この辺りの機微を履き違えている。

美智子は折に触れてコップに酒を注ぎながら、逐次肴を拵えては供してくれた。
煮魚の残りを焼き直したもの。
照り焼きのような魚の身に、煮凝りが添えられているのが嬉しいところだ。
焼きによってパリッと張りを持った皮に、ややパサつきながらも旨み・汁気共に十分な身、濃縮された味の煮凝り。
酒が進んで、進んで、仕方がない。やはり『魚』こそは『肴』の最たるものだと実感させられる。

次の、蓮根と牛蒡を煮付けたものも美味だった。
作ってから時間を置いて冷えた分だけ、ぎゅうと味が染みこんでいる。
根菜特有の“噛みしめに応える歯ごたえ”と同時に、酔っていても解るダシの風味が滲み出てくる快感は並ではない。
シャクシャクと噛みながら、同時に口の中でその砕いた野菜を啜る。しばし言葉を封印する。
旨い。

次には、ここで淡白な冷奴が供された。
青葱とおろし生姜だけを乗せたものに、醤油を注いでおもむろに箸で割る。口へ運ぶ。
いっさいの誤魔化しがない清涼な風味だ。どこをとっても清清しいほどに、和。
あまりの心地よさに、いつも酒を二の次にして掻きこんでしまう。中毒性があるが、二丁はいらない。

さらに酢ダコ、鴨肉の切れ端などが続き、いよいよ俺の酔いも深くなってきた。
もはや呂律も回らず、自分が何を語っているのかも解らない。
ふわふわと波間を漂うようで心地良い。そして供される料理も、酔いが深まるほどに美味く感じるものが多い。
この辺りの美智子の采配は、さすがと言うほかはなかった。



そしてついに、シメの一品が現れた。
豊かな磯の香りを鼻腔に満たす……幻のメニュー、魚介ラーメン。
毎度ながらこれがたまらない。
おそらく素面の状態で喰っても、さほど感動などないだろう。
しかしアルコールが入って味覚の麻痺した状態でなら、その評価は一変する。
スープはあっさり目で重くはない。酒で膨れた腹にも抵抗なく受け入れられ、妙に美味い。
アゴやホタテ、シジミ、アサリ、ハマグリなどから十分な時間をかけて取られたダシが絶妙だ。
さらに美味いだけでなく、それらに含まれる成分によって、二日酔いが劇的に抑えられるという利点もある。
最後のこれを喰う事によって、俺の呑みは幸せに終わると言って良い。

俺はラーメンをぺろりと平らげ、万札をカウンターに置いて席を立った。
「多いよ、また細かくなってから払いな」
美智子は一旦はそう言ってつき返そうとするが、俺が譲らない。
時間外の迷惑料と、良い酒の席を得られた感謝の気持ちだ。
美智子は数度の悶着の後、諦めたように万札を引き取った。

「…………お疲れ。」

店を出る最後の瞬間、後ろから掛けられた一言で、俺はすべてから救われた気分になる。
一言返した口の中を、苦味と渋み、そしてそれを包みこむ豊かな甘みが巡り、俺に夢見心地を味わわせた。



                             終
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位相を超えて

※正義のヒロイン陵辱モノ。 嘔吐、排便などスカトロ要素あり。

   
科学万能の時代。
この世のすべての事象には科学的根拠があり、その全ては理論化できる。
人類は、わずか千年余りの経験則に基づき、それが世界の真理であるかのように錯覚している。
ゆえに気付けなかった。
その化け物達が、人間の暮らす世界とは『異なる位相』に存在するという事実に。

突如表れた異形の化け物は、当初、突然変異の動物だと断じられた。
そして2年の歳月と7000万人を越える人命を浪費した後に、ようやく人の手が及ばない存在だと訂正される。
同時に、ギリシャ神話において『遠くにまで力の及ぶ者』を意味する“ヘカトス”の通称が与えられた。

人類を蹂躙するヘカトスに対し、あらゆる現代兵器は無力だ。
重火器も鈍器もサーベルも、その威力を十分にヘカトス本体に伝えることが叶わない。
刃や弾が当たる直前で、果てしなく厚い空気の層に阻まれるが如く、急速に運動性を失うのだ。
その位相の違いのお陰で、本来は腕の一振りで山を消し飛ばす力を持つ大型のヘカトスですら、
対人レベルの戦闘力に抑えられている恩恵はある。
しかし、いずれにせよ現代の兵装では人間に勝ち目はなかった。

結論はひとつ。
異なる位相に存在するヘカトスを倒しうるのは、それと同じ位相に立てる人間だけだ。
その存在を生み出す過程は、およそ人道からはかけ離れたものだった。
化学工場の爆発によるダメージで、奇跡的に得られた小型ヘカトスの細胞を元に、ウイルスを作成する。
そしてそのウイルスを、まだ肉体構成の未熟な幼児に投与し、故意に侵食させるのだ。
上手くいけば、ヘカトスに対して無二の干渉性を持つ超人類が誕生する。
しかし、ヘカトスの細胞は異物だ。
当然に被験者の大半は細胞を汚染され、その幼い命を落としていった。
160万人に1人。それが、ヘカトスとの親和性を有する子供の割合だという。

大崎 竜司。
山本 凛。
一ノ瀬 芙美。
東京に生まれ落ちたこの3人も、そうした奇跡的な適合者だ。
彼らは常に3人一組でヘカトスと戦い続けた。
そして後に、諸悪の根源ともいえる規格外のヘカトスを見事打ち倒し、英雄の名を冠することとなる。
芙美という、尊い犠牲を払って……。



一ノ瀬 芙美は、戦いの終わりが近いことを予見していた。
襲い来るヘカトスが、明らかに精鋭と呼ぶべきものばかりになっている。
群れのボスとの戦いは間近で、それを倒せば状況は一変するものと思われた。
あと、少しだ。
そう考えた芙美の真横に、突如音もなく大型のヘカトスが現出する。
「っ……!」
芙美は素早く身を翻し、半身の構えを取った。
手は腰に下げた太刀の柄に添えられる。
「ヲロォアアアオッッ!!!!」
蟷螂を肥え太らせたような見目のヘカトスは、細い前脚を振り上げた。
後ろに反って溜めを作ってから、勢いよく宙を凪ぐ。
芙美は小さく身を屈めてそれを避け、同時に丹田へと力を込めた。
すると、彼女の小さな手足がかすかな燐光を帯び始める。
燐光は手足の輪郭を陽炎のようにぼやけさせた。
これこそが彼女達に与えられた力。『位相を超越する能力』だ。

「はッ!!!」
芙美は気合一閃、腰を切りながら刀を抜き放つ。
手の燐光をそのままに帯びた白刃は、ライフルすら受け付けないヘカトスの身体を易々と両断した。
「ヶ、ッァ……!!」
異音と呼ぶべき断末魔を発しながら、ヘカトスの上体は傷口を境にずれ落ちる。
そして地面に落ちた瞬間、一瞬にして液状化する。下半身も同じくだ。
その末期は、彼らがやはりこの星にとっての異物なのだと見る者に実感させる。
「……ふぅっ」
芙美は一息つき、刀を鞘に戻しかける。
しかしその瞬間、背後に強い気を感じた。
「!?」
芙美は明らかに動揺する。まさか、これほど近くにもう一体とは。
芙美が狼狽しつつも振り向こうとしたその瞬間、澄んだ声が響いた。
「はぁああっ!!!」
その声と共に人影が芙美の視界を横切り、真後ろにいるヘカトスへと襲い掛かる。
風を切る鋭い音に続く、トラックが激突したかのような轟音。
ヘカトスの身体は遠く飛んで地面に落ち、即座に生命反応を消した。
ようやくに芙美が振り返ると、目の眩むほどの光が視界一杯に広がる。
「……危なかったわね。怪我はない?」
その光にも負けないほど眩い笑顔で、凛は告げた。

凛の力は、芙美よりも遥かに上だ。
歳は芙美よりも2つ上の21。戦闘のキャリアも芙美より多いが、そのような次元ではない。
芙美が手足から燐光を発するのがやっとであるのに対し、凜は身体中を覆うほどの光を発する事ができる。
光の効果で、健康的な肌はいよいよ艶を増し、肩甲骨まで伸びた黒髪は赤銅色に変わる。
それはまさに超常の力と呼ぶに相応しい。
「うっらあああッァ!!!」
少し離れた場所で、竜司が大型のヘカトスを豪快に殴り飛ばす。
彼の光もまた凜と同じく、全身を覆うほど強大なものだ。
それらに比べれば、芙美の持つ力など吹けば消えそうな紛い物に思えてしまう。

どうして、こんなに違いがあるんだろう。
次々と襲い来るヘカトスの群れを素手で叩きのめし、拳を打ち合わせて勝利を喜ぶ凜と竜司。
彼ら2人が、今や世で英雄扱いされている事を、芙美は知っている。
彼らが最近、男女として良い関係を築きつつある事も、芙美は知っている。
しかし、彼女もまた竜司に淡い想いを抱いていた。

がしりとした頼りがいのある体格に、シャツから覗くよく日焼けした肌。
豪快な戦いぶりと、少し間の抜けた性格。
竜司と芙美との出会いは、凜とのそれよりも早い。
芙美が初めて会った、自分と同じ境遇にある子供であり、初めてのパートナーであったのが竜司だ。
当初はだらしのない竜司と、妹のようにその世話を焼く芙美、というのが定番の風景だった。
しかしそこに、竜司と同じ歳であり、かつ芙美以上に分別のある凜が加わる。
ヘカトスとの戦闘でも竜司と足並みを揃えて活躍できる凜。
“単純馬鹿”な竜司がそちらに惹かれていくのは、当然といえば当然の事といえた。

しかし、思春期の恋心とはそう単純ではない。
凜と竜司の睦まじさを目にするたび、凜に戦闘で助けられるたび、芙美はどうしようもない敗北感を味わった。
無論、それを表に出して関係性をこじらせるような事はしない。
「ありがと、凜! 助かったよ」
普段演じている性格と同じ、かつてそうだった性格と同じ、天真爛漫な様子で笑ってみせる。
凜はそれに柔らかな笑みを返しながら、芙美の頭を撫でる。
芙美が、その手首を斬り落とすのを、かろうじて思いとどまっている状態だとも知らずに。



ヘカトスの王との戦いは熾烈を極めた。
生ぬるい夜の風が吹き抜ける自然公園で、芙美達は何十という親衛隊を屠り、ついに王と対峙する。
大きさこそ人よりやや大きい程度ながら、身体から迸る殺気が尋常ではない。
自然と3人の顔にも汗が滲む。

「これで最後、最後だよ。頑張ろっ!」
芙美は勇気を振り絞り、他の2人に檄を入れた。
戦力として今ひとつな以上、そうして士気を高める事が自分の役目だと、常に芙美は思ってきた。
しかし。
「…………フミ……お前は、下がってろ」
先頭に立つ竜司は、フミの行く手を遮るように手を差し出す。
「え……?」
芙美は呆然と彼を見上げた。
竜司はヘカトスの王を睨みつけながら、いつになく厳しい表情をしている。
「こいつだけはマジでやべぇ。俺と、凜でいく」
「ッ!」
芙美は、頭を殴られたような衝撃を受けた。
確かに……相手の気が、今までとは比べ物にならないほど強大なのは解る。
おそらく竜司は竜司なりに、芙美を案じているのだろう。
けれども、これが最後なのだ。
最後の戦いには、今まで一緒に戦ってきた3人で挑みたい。
その芙美の意思を酌んだのか、芙美の顔を窺っていた凜が竜司に視線を向けた。
「竜司、芙美の気持ちも考えてあげなよ。のけ者にせずにさ」
「なっ、べつに俺は……!!」
竜司が反論しようとしたまさにその時、ヘカトスの王が気を昂ぶらせる。
芙美達3人は、直感的に横へと跳んだ。
まさにその一瞬の後、直前まで彼らが立っていた所に炎の柱が立ち上がる。
アスファルトを瞬時に蒸発させるその火力の中、無事でいられる生物は存在しないだろう。
そこからは、3人共それぞれ戦闘態勢に入る。

ヘカトスが飛ばす触手を切り落としながら、芙美の心は散々に乱れていた。
最後の最後に、竜司に捨てられた気分だ。
『俺と、凜でいく』……それは本当に、この戦いに限った事か?
この戦いが終わって、平和になり、3人が戦いの使命から開放された時。
その時には、凜と共に新しい人生を歩んでいく。そういう事になるのではないか?
だとすれば、先の凜の反応も腹立たしいものだ。
竜司の相方として揺るぎない立場にいるから、芙美を哀れむ余裕がある。
そう、あの女は哀れんでいただけだ、あの泥棒猫は!!!

  
芙美は自分でも知らぬ内に、思考に没頭している事に気がついた。
ふと意識を戻せば、戦いはまだ続いている。
目の眩むような強い光を放ちながら、竜司と凜が戦っている。
さすが英雄と呼ばれるだけあり、あのヘカトスの王が押されているようだ。
この調子なら、じきに人類は勝つだろう……。
芙美が僅か気を抜いた、まさにその時。
竜司と凜が揃って目を見張り、芙美の方に何かを叫んだ。
しかしその叫びは、暴風のような音に掻き消されて芙美に届かない。
何事かと後ろを振り向きかけたその瞬間、芙美の身体は闇に呑まれた。

ヘカトスが形を変え、人を“呑む”。今までには無かった事例だ。
芙美は視界が黒く塗り潰されていくのを感じながら、最後に仲間の姿を見た。
竜司と凜が、自分の方に手を差し出しながら何かを叫んでいる。
少しの寂寥と……怒りの念が心の隅に灯る。
これで自分は終わり、もはや生き残った竜司と凜の中に割って入る事はできない。
結局は凜……美しく、賢く、優しく、強い英雄……ヒロインに何もかもを持っていかれるのだ。

口惜しい。
口惜しい 口惜しい 
口惜しい!!!
力があれば。チャンスがあれば。あの泥棒猫を屈服させ、貶めるだけの……。
その負の感情は瞬く間に増幅し、芙美の心を染め上げる。
異次元の悪魔たるヘカトスと同調した弊害だろう。

 ( 小娘……いい感情を持っているな )

その時、意識の彼方から声が聴こえた。芙美は直感的に、それがヘカトスの王の意識だと理解する。

 ( 我に、すべてを委ねよ。
   あの憎き女を、我が同胞を屠り続けた彼奴を、絶望の底へ叩き落すために。
   我とお前の利害は一致している。委ねよ、小娘………… )

ヘカトスは芙美の意識に呼びかけ続けた。
その対流する闇の向こうから、眩い光の爆発が透けて見える。
竜司と凜の力だ。完全に息を合わせ、一点を貫いた時の力の爆発。
このヘカトスの王といえど、あれを喰らっては崩壊の道を辿るしかない。
もはや完全に同化した、芙美の心身と共に。

しかし、最後に芙美の意識が感じたのは、崩落ではなく移転の感覚だった。
別の次元へと逃れ、隔絶されたその空間で長い時を過ごす。
人と魔の融合という、新たな力を蓄えながら……。


 


その夜もまた、生ぬるい風が吹き抜けていた。
ヘカトスの王との戦いからちょうど一年。
竜司と力を合わせて凜が放った攻撃により、ヘカトスの王の身体は瓦解した。
そして王の消滅を最後に、世界からは嘘のようにすべてのヘカトスがその姿を消したのだった。
奇跡に世間は賑わい、生き残った竜司と凜は英雄として称えられる。
調子のいい竜司などは天狗になり、連日インタビューに応じ続けていたものだ。
凜もまた普通に働くことを許されず、政府の用意した豪邸に住み、国民からの礼金で暮らしていた。
最近はさすがに熱も醒めてきたようだが、凜にしてみれば肩の荷が下りたというものだ。

凜は足を止め、最後の決戦の場――自然公園に建てられた慰霊碑に向き合う。
ヘカトスとの戦いで命を落とした戦士達の墓碑。
芙美も、ここに祀られている。
すでに様々な花束が奉げられている中で、一つだけセンスの欠片もない雑草のような花が混じっていた。
明らかに竜司のものと思われるそれを見て、凜は溜め息をつく。
そして自らの持参した花束を奉げ、静かに手を合わせる。

「芙美、そっちはどう。安らかに過ごせてる……?」
凜がそう呟いた、直後。
ざわりと妙な感覚が彼女の全身を駆け抜けた。
その感覚を、彼女はまだよく覚えている。
身体を流れる血の片割れと呼ぶべきもの……ヘカトスの気配だ。

「へへへ、マジで律儀に来てやがったか」
「いいねぇ、行動が読みやすくて助かるぜぇ」
人の言葉でありながら、明らかに人とは異なる発音。
その発信源は、まさに林の中から姿を現したばかりの2体の化け物だ。
地球の生物で近いものを挙げるなら、2m級の蜂とゴリラといったところか。
「……ヘカトスッ……人の言葉を…………!?」
凜は鋭い瞳で敵意を露わにしながら、同時に驚愕する。
何百というヘカトスと戦ってきた彼女だが、相手が言語を操っていた例はない。
否、それ以前に、なぜ今頃になって再びヘカトスが。
思うところは多いが、ともかくまずは目の前の2体を潰す事だ。

 ――ヘカトスは、一匹たりとも生かしておかない!

凜は息を吸い込んで丹田に留め、全身に光を宿らせようとする。
「おっと、待ちなよ」
その時、側方からもう一匹の声が掛けられた。
そちらにちらりと視線をやり、そこで凜の表情は凍りつく。
  
「芙美…………!?」

そこには間違いなく、一年前のあの日のままの仲間がいた。
彼女は羆を思わせる獰猛なヘカトスに拘束され、喉元に鉤爪を突き付けられていた。
あどけないその瞳は、恐怖に揺らいでいる。
「状況は解るよなぁ、姉さん。
 んな物騒な光出されちゃ、ビビッてこの女の首ィ撥ねちまうかもよ?」
羆に似たヘカトスが、芙美の喉に鉤爪を滑らせながら告げた。
白い首に、うっすらと血が滲む。切れ味は相当だ。

「くっ…………!!」
凜は射殺さんばかりにヘカトスを睨みつけながら、頬に汗を垂らす。
脅しに屈するなど死んでも御免だ。彼女はそう思っていた。
国から秘密裏に要請されて『被験体』となった他の多くの子供と違い、
凜は自ら望んでヘカトスのウイルスを取り込んだ。
全てはヘカトスを根絶やしにするためだ。
彼女は意識がはっきりとある目の前で、両親と弟をヘカトスに喰われた。
ゆえにヘカトスを憎む気持ちは誰よりも強い。
正真正銘の天才である竜司とは違い、凜の強い光は偏にその鋼の意思ゆえのものだ。
その憎きヘカトスの言いなりになどなって堪るか。
凜はそう思った。
自分ひとりの問題なら。

しかし……今は違う。芙美の命までもが掛かっている。
今日までの一年間、彼女のことを思わない日はなかった。
彼女は自分のせいで死んだのではないかと。
竜司の言ったとおり、彼女だけを退避させていれば、今でも彼女は笑っていたのではないかと。
事情は解らないが、その芙美が目の前にいる。
「オイ、何ボケッとしてんだ、早くその鬱陶しい光を消せよ。俺ァ気が短いんだぜ?」
羆のヘカトスが爪に力を込めた。紅い雫が伝い落ちる。
「た、たす、けて…………!!」
芙美は怯えきった声で哀願している。
彼女を再び死なせるような事は、絶対に嫌だ。
何よりも……ヘカトスに屈することよりも。

「わ、わかったわ……」
凜は心から口惜しそうに告げると、構えていた手を下ろして息を吐き出す。
彼女の超常の力の源である光が弱まり、燐光になり、完全に消失する。
「これで満足でしょ」
「んよーしよし、ジャア次は素っ裸になって貰おうか。どんな武器を隠してるか解ったもんじゃねぇからな」
「き、貴様ッ……!!」
「ん、何だぁ、えらく生意気な瞳に見えるナァ。もう友情ごっこには飽きたのか!?」
羆に似たヘカトスは苛立ちを露わにし、芙美の頭を鷲掴みにする。
ヘカトスの腕と芙美の首のサイズは絶望的に違い、首を折ることの容易さを感じさせる。
「ま、待って! 脱ぐわ、脱げばいいんでしょう!」
凜は焦った口調で叫び、シャツの裾に手をかける。
そして身に纏ったものを一枚また一枚と、石畳の上に脱ぎ捨てていった。
「へへへへ、引き締まった良ーいカラダしてるじゃねぇか」
「ああ、締まりも良さそうだ」
ヘカトス達が下卑た評論を交わす。
いずれも獣じみた容貌ながら、人間の女に欲情する感覚を備えているらしい。
以前はたとえ戦いで凜の服が破れたとて、そのような反応は一切なかった。
やはり、一年前に凜達が戦っていたヘカトスとは脳の構造が違うようだ。

すべてを脱ぎ去り、真裸になった凜を3匹のヘカトスが取り囲む。
これまでにも幾度かあった光景だが、今は訳が違う。
ヘカトスとやり合えていたのは、あくまで光を伴う『力』を行使していたからだ。
それを放棄した今は、生身の21歳の女が、獰猛な野生動物に取り囲まれている状況に等しい。
凜の身体が恐怖で細かに震えているのも、仕方のないことだった。
その黒い瞳だけは、気丈に異形の化け物を睨み据えているが。

「さて、じゃあまずは兄弟達のお礼をしないとなぁ。この身体に、何百って数が殺られたんだからよ」
ゴリラに似たヘカトスがゆっくりと凜の前に歩み寄り、拳を固める。
そしてわざとらしいほどに大きなフォームで振りかぶった。
凜は恐怖の極地にいる事だろうが、逃げることは許されない。ただ悲痛な顔で衝撃を待つだけだ。
そして、一秒後。
ヘカトスの巨大な拳は、アッパー気味に深々と凜の腹部を抉った。
「んっ、ごふぅええ゛っ!!!」
凜の勝気な瞳が見開かれ、開いた口から唾が吹き出す。
彼女のすらりとした身体は、爪先が完全に地面から浮くほどに持ち上がっていた。
拳の深々とめり込んだ腹部を支点にして。
どさりと音がし、凜が地面に倒れ込む。背中が細かに震えているのは、嘔吐を必死に堪えているのか。

「おら、もう一度だ。兄弟の受けた痛みは、こんなモンじゃねぇぞ」
ヘカトスは凜の細い腕を掴んで無理矢理に引き起こすと、再び拳を引き絞る。
そして拳の容そのままに歪な赤淵のできた腹部へと、寸分たがわず拳を打ち付ける。
「っう゛ぅううおおお゛お゛っっ!!!!!!」
もはや、耐えられる道理もない。
凜は即座に微量嘔吐した。
身体をくの字に折りながら、反射的に手を前方に泳がせ、ヘカトスの太い腕を掴む。
そしてまるで許しを請うようにその腕に縋りつきながら、ずるずると地面に崩れ落ちる。
膝を突き、地面に両手を置いてからが本格的な嘔吐の始まりだ。
聞くだけで哀れになるような声と共に、盛大に胃の中身をぶちまける。
口から数え切れないほどの唾液の線が延び、地面に広がる吐瀉物と繋がってから千切れていく。

「おう、酸っぺぇ匂いが。こりゃあ酸だぜ、あぶねぇなあ」
「なるほど、ニンゲンも一応攻撃された時の自衛手段を持っているのかね」
「だが小石すら溶けてねぇぞ。まるで駄目だな」
ヘカトス達は口々に言葉を交わしながら、再び凜を立たせた。
2発の強打で、すでに凜の美脚は瘧にかかったような震えを見せている。
意思とは無関係な涙が零れ、口元は胃液と涎に塗れ。
しかし、瞳の奥からはなおも射殺さんばかりの眼光が光っている。
「ほう、まだそんな目が出来るのか。まぁ、これでも十分に手加減してるからな。
 殺すのはおろか、内臓を痛めるだけでもこの後が“楽しめ”なくなっちまうからよぉ」
ヘカトス達はそう言いながら凜の黒髪を掴み、無理矢理に直立させた状態でさらに腹部を殴り続けた。
凜は幾度も濁った悲鳴を上げ、胃液を溢れさせて膝を曲げる。
しかし髪を掴まれているせいで姿勢を崩しきれず、そのまま再び腹部に強打を喰らう。

二十余りはそれが繰り返されただろうか。
最後に髪の毛を離されると、凜はハラハラと舞い散る黒髪と共に崩れ落ちた。
受身も取れずに横たわる凜の上に、蜂に似たヘカトスの影が落ちる。
「さて、たっぷり苦しんだか? じゃあ次は、極楽を味わわせてやるよ」
そう言って尾の先にある太い毒針を、凜の首筋へと差し込んだ。
「あが……はっ………」
痛みに目を見開いた凜は、注がれる毒液に瞳を強張らせる。
しかしすぐにその表情は、恐怖とも苦痛ともつかない妙なものに変わる。
「よう、何注射したんだ?」
「なに、ニンゲンの雌をどうしようもなく発情させるホルモンさ。
 身体中がだるくなって暴れる気力がなくなる変わりに、感度だけは馬鹿みてぇに上がっちまう。
 風が肌に吹き付けただけで火照っちまうから、数分もすりゃあ生殖器も蜜でトロトロさ」
「そりゃあいい。んじゃ、早ぇとこヤッちまおうぜ」
ヘカトスのその言葉は、凜にも届いていることだろう。
しかし凜は前方の一点を見つめたまま、ただ視線を凍りつかせているだけだった。





「あっ……ああっ、あっ、あうっ……ああっ、うっ、はぁっ……あっ……!!」

どれほどの時が経っただろう。
凜は足首を掴まれ、脚を大きく開かされたまま横臥していた。
その秘裂には、蹂躙者の身体のサイズに見合った、悪い冗談ではないかと思えるほどの極太が出入りしている。
しかし、濡れそぼった秘部を見る限り潤滑に問題は無さそうだ。
膨らんだ陰核に、全身の汗、立ち上がった乳首。
凜が性的に相当高い段階にいることは、その艶かしい身体を見れば一目で解る。
最初はヘカトスの持ち物に苦しげな声を上げていたが、それが今やすっかり喘ぎ声に変わってもいた。

「もう相当やってんのに、よく締まるもんだな。何度でも射精ちまうぜ」
ヘカトスはそう言いながら、凜の中に精を浴びせかける。もう幾度目になるだろう。
掴まれていた足首が地面に落ち、凜は腹ばいの姿勢となった。
その腰を再びヘカトスが掴み、犬のような格好で犯し始める。
「あっ……あ、あっ……あうっ……あっ……!!!」
凜の口から再び喘ぎが漏れ始めた。
しばしその様を眺めていた一匹が、辛抱堪らなくなったという様子で凜の顎を掴む。
そして無理矢理に這う格好を取らせると、自らの逸物を咥えさせた。
「んもぉお゛おうっ!!」
膣にさえ窮屈なサイズの逸物だ、口ならば目一杯に拡げなければならない。
凜は瞳を閉じて苦しげにしながら、為されるがままになっていた。

3匹のうち1匹は常に芙美を人質に取っている状態であり、凜に反抗の機はない。
仮にあったとしても、もはや彼女にヘカトス三体を相手取る体力は残されていないだろう。
凜は無理矢理に後頭部を押さえつけ、喉奥を使われる。
背後からは極太が容赦なく膣奥を突きこんでいる。
前後からの責め、それを受ける凜はどれほどに辛い状況だろう。
手の平が何度も地面を掴み、太腿が、びぃん、びぃんと強張る様。そこからしか感情を見て取ることはできない。

やがて、特に深く逸物を押し込まれたまま頭を固定された数秒後、とうとう凜は嘔吐を晒した。
喉奥に咥え込んだまま、突き出された舌を伝ってえろえろと吐瀉物が零れてゆく。
鼻水と共に鼻からも黄色いものが溢れており、相当に苦しい嘔吐だと解る。
「あーあー、また吐いちまいやがった」
「バッチィねぇ。ニンゲンの雌ってのは興奮したらゲロしやすくなんのか?」
罵りの言葉を掛けながら、背後から突く一匹が再び射精の兆しを見せた。
腰を何度も打ちつけながら、白濁を注ぎ込む。
それらは抜き差しにあわせて秘裂から零れ、凜の脚の間に新たな液溜まりを作っていく。


嘔吐と膣内射精を経て、ぐったりと地面に伏す凜。
しかしその彼女を見下ろしながらも、ヘカトスに終わりの気配はない。
「ったく、また伸びちまいやがった。おい、もう一回打ってやれ」
ゴリラに似たヘカトスが、蜂型の仲間に告げる。
「へいへい、んじゃあ行きますか」
蜂型の一匹は、嬉々として尾の毒針を凜の首筋へと突きたてた。
そして、再度毒液を流し込む。
「あ、あぁ、ああぁ……あぐっ……!!」
心身共に疲弊しきっていたところへ無理矢理に活力を注ぎ込まれ、凜の瞳が惑う。
そんな彼女をよそに、一匹が再び挿入を開始した。

「へへ、またよく締まるようになったぜ」
「そりゃいい。だが気のせいかこいつ、目つきがおかしくねぇか?」
「そりゃそうだろ、二発も毒打たれた挙句にこんだけヤラれまくってんだ。
 もう頭ン中は真っ白だろうぜ。
 いつの間にかすぐに奥まで届くようになってるしな、ありゃ『子宮が下りる』ってもんで、
 ニンゲンの雌が滅茶苦茶に気持ちよくなってる証拠なのさ」
「なるほど。そういやぁもうずっと唇半開きで涎垂らしてっし、アタマ良さそうにゃ見えねぇな。
 瞳はまだ思い出したように睨んできやがるけどよ」
「なーに、そんくれぇの方がヤり甲斐があるってもんだろ。
 おいニンゲン、お前に恨みを持つ仲間は、まだまだ山のようにいるんだ。
 俺らが使い終わったらアジトに連れ帰って、またタップリと可愛がってやる。
 お前らの雄は、一度に2、3回も射精せば終いだそうだが、俺達はその10倍はイケるんだ。
 従順じゃつまらんからな、そのイイ根性保っとけよ?」

品のない会話が交わされながら、異形の者による輪姦は続く。
踊り狂う凜の艶かしい身体を見下ろしながら、ふと芙美の口元が綻んだ。
人質に取っているヘカトスの腕をトントンと叩き、示されるのは演技の終わり。
「ああ、あっ……ああ、あっ……あああ、あっ……あっ」
時おり白目を剥きながら喘ぐ凜。
芙美はそれを、ただ面白そうに眺めていた。

『……壊れ始めてるね、凜。でも、まだまだ。あんたの全部を奪ってあげる』

そう告げた声は、芙美のものか、それとも別の何かだったのだろうか。





シャンパングラスを手に陽気に笑う竜司は、息を切らせた1人の男によって現実に引き戻された。
「大崎さん、これを!!」
かつて竜司達の手足としてヘカトス対策に携わっていたその男は、いくつかのビラの束を手にしている。
「んだよ、まるで世界の終わりみてぇな面しやがって……」
竜司は笑い飛ばしながらビラの一枚に視線を落とし、表情を引き締める。
「な……なんだ、こりゃあ…………!!」
震える手に握られたビラには、写真が貼り付けられていた。
異形の化け物に輪姦される凜の姿。
何枚にも、何枚にも渡ってその姿が記録されている。

なぜ今頃になって、化け物――ヘカトスが再び姿を現しているのか。
どうして凜が攫われ、あられもない姿で輪姦されているのか。
そもそも、完全な異種族であるヘカトスが人間の女に性的興味を持つ事があるのか。
この写真は、誰がどうやって撮った。
まさか連中は、文明の利器を使えるようになったのか?

様々な考えが竜司の頭を駆け巡る。しかし、今彼にできる事は何もない。
写真の背景からは、それがどこかの廃屋である事しか解らない。
「くっそぉおおおッッ!!!!」
竜司は、心から口惜しげに吼えた。

彼は仲間を喪うことの辛さを、嫌というほどに感じている。
芙美……彼の初めての仲間で、初めてのパートナー。
その大切さが、もう会えなくなくなって初めて解った。
彼女がヘカトスの王に呑まれる光景は、今でも脳裏に焼きついている。片時も忘れたことはない。
戦いが終わって以来、英雄の名声に浸りだしてからも。
一つには、英雄が沈痛な面持ちをしていては、他の人間に示しがつかないという事もある。
しかしそれ以上に、英雄として暮らす事で、彼らのした戦いが意味のあるものだと自らに言い聞かせる部分が大きい。
この一年、必死に芙美の死を肯定しようとしてきた。

その芙美を助けられなかった分、今の恋人である凜だけは救い出さなければ。
竜司は悪意のビラを握り潰しながら、硬くそう誓った。





風化により吹き抜けとなった廃ビルで、凜はヘカトスの慰み者にされ続けていた。
『王』の姿を形作った芙美が、その姿を淡々と観察している。
凛は繰り返し犯されながらも、芙美を喰ったその『王』へと鋭い視線を向け続けた。
芙美にしてみれば、それが可笑しくてしょうがない。

元仲間に対する同情の念はなかった。
人間というものに一切の価値を見出せず、ただ凜を壊すことにしか興味がない。
恐らくはヘカトスの王と意識が溶け合い、どちらのものでもない思考となっているのだろう。
そして利害が一致している以上、どちらのものでも違いがない。
芙美は積極的に人間としての知識をヘカトス達に分け与えた。
言語、性的嗜好性、カメラやビデオの意味や使い方……意識を共有し、それらの情報を伝えた。
ヘカトス達は向き不向きはあるものの、平均としてそれらをよく吸収する。
今でも輪姦の際には、いずれか一体がビデオカメラでその痴態を記録し、ネットの海に放流してすらいる。
今もそうだ。

凜は両手首を頭上で押さえつけられ、床に仰向きで寝かされていた。
身体中いたる所に精液が浴びせかけられており、散々に輪姦された後だと解る。
「おら、次の一杯いくぞ」
一体のヘカトスが凜の横で片膝を立て、凜の容のいい鼻を摘みあげた。
その手には木の器があり、薄黄色をした不気味な液体が揺れている。
「ぷあっ!!」
呼吸を妨げられる苦しさから、凜が口を開いた。
その瞬間、ヘカトスが器の中身のその口の中へと流し込む。
ドロリとした粘性のあるその液体は、しかし着実に凜の喉奥へと流れ込んでいく。
すべてを注ぎ終えると、ヘカトスは背後の樽へと身体を向けた。

樽にはたった今凜に飲ませたものと同じ、薄黄色い液体がなみなみと湛えられている。
その中身は……樽の上を見れば解った。
そこには見るもおぞましい同種の異形が数匹固まり、自ら逸物を扱き上げている。
「おおおお、ぎぼぢいい、ぎぼぢいいだぁあああ゛……!!!」
「たんとのんでげろ、おらだぢのセイエキ、たんとのんでげろぉおおお゛!!!!」
そのおぞましい叫びで放たれた薄黄色の精液こそが、樽の中身の正体だった。
先のヘカトスは、木の器でその中身を掬い上げ、再び凜の鼻を摘みあげる。
「んむっ……ぐっ……んむううううっ!!」
凜は苦しげに呻きながら嚥下していく。
何を飲まされているのかは気付かない訳もないだろうが、拒否できる状態にはない。
それは相当な回数続けられているのだろう。
スレンダーな凜の身体は、その下腹部だけが妊娠初期のように僅かに膨らんですらいた。

「ひひ、薄気味の悪ぃ光景だなぁ。よくあんなモン飲めるぜ」
「しかもあの臭ぇの、人間にとっちゃ媚薬なんだろ。
 それをあんだけ飲まされるってのは、やられる方としてどうなのかね」
「絶対に屈服しないってンだろ。さんざ輪姦されて失神かましても、やめての一言もなかったしな。
 悪に屈しない正義のヒロイン様ってのは、そそるねぇ」
「ああ失神、してたなそういや。普通のニンゲンならとっくに快感で頭が焼き切れてる筈だが……
 まぁコイツは、俺らの遺伝子が混ざってる特異種らしいからな。
 快楽中枢の強靭さも俺ら寄りってことか」
「そうそう、何千回でも楽しめるってことだ。ココロさえ折れなきゃな」

その会話が終わるのと同時に、凜への精液責めも終わりを迎える。
「っはぁ、はぁ……はあっ…………」
汗にまみれた顔、紅潮した頬。
凜が性的に昂ぶっているのは、誰の目にも明らかだ。
見下ろすヘカトス達が一様に好色じみた笑みを浮かべる。
「さて、じゃあ具合を確かめてみるかな」
一匹が凜の膣へと指を差し入れた。この一匹の前足は先端部が繊毛に包まれている。
それを利用し、柔らかな歯ブラシの要領で性感帯を刺激するつもりでいるようだ。
「お、ここがGスポットか。すっかり膨らんでて解りやすいぜ」
「ぐっ……!!」
一匹の指が浅い一点に達し、凜が呻く。
指が動き始めると、その呻きは大きくなっていった。
「どうだ、イイだろう」
「あ、あっ……あく、くっ……!!
 い、いくらこんな事をしても無駄よ。私は、お前達に屈したりしない。
 すぐに仲間が助けに来るわ!」
「なるほど。言葉は生意気だが、身体は正直だ。足の先がピーンとしちまってるぜ」
「そうそう。おっ、コイツ今イッたんじゃねぇか? 明らかに視線の動きが怪しかったぜ」
「どっちにしろ、すげぇ水音だな。濡れまくりじゃねーかこの雌ブタ」
一挙手一投足を罵られながら、凜は秘部を弄られる。
そして3分ともたずに潮を噴かされた。
「くっ……!!」
頭上のヘカトス達を睨み上げながら、為すすべもなく腰を浮かせて潮を噴き散らす。
荒い息と共に、どうしても舌が口からはみ出てしまう。
轟音のような異形達の笑い声。
屈辱に塗れながら、それでも潮噴きが止まらない。例の精液のせいか、絶頂は深かった。

「盛大に噴いたもんだな。まぁともかく、遊びはここまでだ。
 ここからはメインの調教に入る」
ヘカトスの一匹がそう言いながら、クラゲのような生き物を2匹摘みあげた。
そしてそれを、凜の両乳房に落とす。
「い゛っ!!」
直後、凜は短い叫びを上げた。
クラゲのような生き物が、凜の両の乳首に吸い付いたからだ。
痛みとしては噛まれた際のものに近い。
首を持ち上げてみると、クラゲの内部には無数の触手が蠢いており、それら一本一本が乳腺への侵入を試みている。
「っ…………!!!」
その未知の体験に、凜は叫ぶべき声すらなかった。

ずぐり、ずぐりと乳腺に細い針のようなものが侵入していくのが解る。
乳輪にすらサクサクと針が突き立っていく。
それと同時に、クラゲの本体とも言うべき部分が強烈に乳首を吸い上げた。
今まさに乳腺に刺激を受けている凜の乳首は、それによって円錐状に持ち上がってしまう。
「んうぃいいいっ!!!」
凜は叫んだ。この快感は、実際相当なものだ。
性器のように直接的な絶頂へ至るものではないが、『濡れる』感覚が連続する。
もどかしい快感の海を漂う未来が、今から解るようだ。
しかし、その漠然とした恐怖にも凜は屈しない。必死にヘカトス達の顔を睨みあげる。

「へへへ、イイ顔だ。まぁ安心しな、当然それだけじゃ無ぇからよ」
ヘカトスの一匹は、そう語りかけながらさらに芋蟲のようなものを摘み上げた。
そしてそれを、女体の最も敏感な部分……陰核へと吸い付かせる。
「ぐううっ!!!」
これには、乳首の時とは比にならないほどの声量が搾り出された。
蟲は陰核へ吸い付き、無数の吸盤のような口で吸い上げてくる。
こちらは直接的な絶頂を強いる刺激だ。
凜は伸ばしていた脚を膝立ちにする動きを止められなかった。
浅ましく、脚が蠢き始めた。
それでも、なお、凜は異形達を睨み上げる。家族の恨みがその瞳に宿っている。
「そうだ、その顔のままで頑張れよ。全部を見ててやるからな」
ヘカトス達は嘲り笑いながら、腕を組んで哀れな贄を見下ろしていた。


「あっ……あぁっ、あっ……あ、はぁあっ……あっ、はぁっ……!!」

殺風景な部屋に、自分の艶かしい声だけが響く。
それを凜は延々と耳にしていた。
なんと惨めな状況だろう。頭上で手首を押さえられ、異形の化け物に裸体を晒している。
乳首と陰核にはおぞましい化け物が吸い付き、性的な刺激を繰り返す。
凜は必死に反応を押さえ込んで入るが、すべてを隠せるはずもない。
性感帯への刺激で腰はうねり、両脚は時にがに股に、時に膝立ちにと浅ましく蠢く。
愛液があふれていくのが内腿の感触で解った。
見下ろすヘカトス達には、濡れそぼった秘部が余す所なく見えるだろう。
断続的な浅い絶頂の末にある、数分に一回ペースの本気の絶頂。
その絶頂時の表情まで、すべて見られているのだ。
そう思うと、凜は羞恥で憤死しそうになる。

「こりゃあ見応えのあるダンスだぜ。オスを誘ってやがる」
「ああ、だが少し単調になってきたな……おい。誰か小便の穴にも入れてやれ」
様々な侮蔑の言葉の中、凜の耳はその会話を聞き取った。
そしてぎょっとした表情で足元を見やる。
そこにはすでに、ハリガネムシのようなものを携えた一匹が膝をついていた。
「………………くっ!!!!」
凜は精一杯の威圧を込めてその一匹を睨みつける。
このような状態で、怯えさせる効果など期待していない。
ただ自分の恐怖を悟らせないための苦肉の策だ。
ヘカトスはそれを愉しみながら、陰核に貪りつく蟲を持ち上げる。
そしてその下に現れた小さな尿道へと、ハリガネムシ型の生物を押し当てた。
直後。狭い洞穴にもぐりこむ性質を持つその蟲は、素早く凜の尿道を押し広げる。
「あううううっ!!!!」
凜は幼女のような叫び声を上げた。
こればかりは気力でどうにかなるものではない。原始的な痛みに、素直に叫ぶしかない。
「さて、まず一匹だ。だがお前は仲間の仇だからな、一匹じゃ済まさねぇぞ。
 俺らに楯突いた事を、心の底から後悔させてやる」
ヘカトスはそう言いながら、言葉通りにさらに二匹を尿道に近づけた。
二匹は先の一匹を意に介さずにもぐりこみ、尿道の中で暴れまわる。
「ああああぁあっ!!!」
凜は叫び、腰をのた打ち回らせた。

両乳首、陰核、尿道。それを異形の蟲に嬲られる。
この快感は凄まじいものだった。
初めはおぞましいものでしかなかった尿道への蹂躙は、次第に快楽になっていく。
尿道入口への刺激もある。そして尿道奥の部分が陰核の根元と接しており、ここへの刺激がまた心地いい。
尿道奥を抉られながら陰核を吸い上げられると、快感が陰核脚を通じて繋がりあい、甘い叫びを禁じえない。

乳首への責めも極上だ。
乳首とは本来、母親が乳児とのコミュニケーションを取る器官。
ここを吸い上げられる動きが強い快感でないわけがない。
凜もまさにその最中にいた。吸い上げられるたび、乳腺を刺激されるたびに快感の電流が走る。
刻一刻と乳輪が膨らみ、乳首がしこり立っていくのが解るようだ。
母乳さえ時おり噴き出しているようだった。
まさしくミルクのように甘美な刺激。
敵の視線など一切考えず、ただ舌を出して涎を垂らし、ああ、ああ、と素直に喘げたらどれほど幸せだろう。
凜は心の底からそう思わずにはいられなかった。

視界が嬉し涙で滲んでいく。
見下ろすヘカトスはもはや輪郭すらつかめず、ぼやけた淡色にしか見えない。
それでも虚空を睨みあげながら、凜は耐え続けた。
幾度も幾度も女の反応を示しながら、気丈に。


「…………そろそろいいか。へっ、結局泣きを入れやがらねぇな。生意気なメスだ」
ヘカトスが呆れるような口調で、凜にしがみつく蟲に手を伸ばした。
両乳首のクラゲ状の生物は、度重なる母乳の噴出でその本体部分が膨らんでいる。
まるでミルクを詰めたビニール袋といった有様だ。
それを無理矢理引き剥がすと、最初の形が思い出せないほどにしこり勃った乳首が露わになる。
色は血色のいいピンクながら、形が完全な円錐型だ。
「うへ、こいつぁすげえ」
一匹がその変わり果てた乳首を弾きながら嗤う。
さらに陰核の芋虫が取り払われると、こちらも見事に勃ち上がっていた。
フードが完全に捲りあがり、いまや何の刺激もないにも関わらず、ぴくり、ぴくりと震えている。
その下にだらしなく口を開け、小便らしきものを垂れ流している尿道も何ともいえないものだ。

「開発完了って感じだな。堪らんだろう。
 だが俺達も、散々エロい腰つきで誘われて辛抱堪らんのよ。
 お待ちかねのモンをたっぷりと叩き込んでやっから、まぁ浸れや」
トカゲを思わせる一匹が、長大な逸物を扱きながら告げる。
そして素早く凜の上に覆いかぶさると、蕩けきった膣内への挿入を果たした。
「うぁあ……ああ…………!!」
すでに性感の極みにいた凜は、その挿入に絶望的な声を上げる。
しかしその声はすぐに快感に呑まれた時のものに変わり、柔らかな腿と足指は心地よさそうな蠢きを見せはじめる。
凜はそこからまた、性感の沼へと引きずり込まれていくのだった。


度重なる調教によって、凜の身体は変わっていく。
ヘカトスの王の姿を借りた芙美は、そのすべてを見届け、凜もまたその王の姿を睨み続けた。
芙美を呑み込んで殺したこの王だけは、絶対に許さないといった所か。
芙美はその凜を嘲笑う。

今も凜は、四肢を拘束されたままで調教を受けていた。
『マングリ返し』とも呼ばれる、両足首を頭の近くにまで掲げ、性器を天井に向ける惨めな格好だ。
その凜を、蠍に似た2匹のヘカトスが見下ろしていた。
彼らはその尾の先にある毒針を、凜の肛門……菊輪へと突き立てる。
突き立てては毒液を流し、また一つ隣の盛り上がりに突き立て。
それをもう何時間にも渡って続けている。
凜の肛門は、その結果として血のように紅く膨れ上がっていた。
肛門は元より敏感な器官だが、それがさらに並ならぬほど昂ぶっている事がわかる。
今や菊輪の一部へ針が刺さるだけで、何とも心地良さそうに窄まりがひくつくのだから。

頃合いと見て、2匹の蠍は同時に針を抜く。
そして針部分を取り去ってから、先端の丸まった尾を凜の肛門に宛がった。
「っ!」
凜の表情が強張る。その直後、ずぐりと肛門へと蠍の尾が沈み込んだ。
「くふうぅううううっ!!!!!」
すぐに叫び声が上がる。
しかしそれは明らかに痛みゆえではなく、快感に打ち震える際のものだ。

『なるほど、上出来だ。……これで準備は整った』
芙美が告げ、周囲のヘカトスに指令を飛ばした。
いよいよ大詰め、あとは竜司を煽ってここに来るよう仕向けるだけだ。





「お、おい。あれって、あの山本 凛じゃねぇのか……!?」
「山本 凜って、“英雄”の……? そんな、う、嘘でしょ……!!」

街頭のテレビを見上げながら、道行く人々が恐怖に顔を歪める。
そこには、地元テレビ局を占拠しての映像が大々的に映し出されていた。
後ろ手に縛られた凜が、ヘカトスに犯されている映像だ。
犯しているヘカトスは、一般に人間がイメージする“悪魔”に極めて近い姿をしていた。
無機的な黒い肌に、感情を感じさせないガラス玉のような瞳、濃緑色の2本の角。
体長は3mほどで、華奢な女性である凜がまるで赤子のように映る。
その規格外の巨躯から生えた黒い剛直が、深々と凜の身体を貫いていた。
一目でサイズ違いと解る大きさだ。

凜の身体は変わり果てていた。
長らく監禁されているのか、艶やかだった黒髪はくすみ、肌にも張りがない。
乳首と陰核に至っては、明らかに自然ではないと思えるほどに長く飛び出している。
それは彼女が受けた肉体改造を、いやが上にも見るものに意識させた。
そして、異常なことはもう一つ。
「よく見たら、あれ……後ろに入ってんじゃねぇのか…………?」
1人の発見により、皆がその事実に気付く。

そう。凜は、巨大なヘカトスにその肛門を犯されていた。
凜が明らかに感じている様子であったために見逃していたが、一度気付くと否定しようがない。
秘裂は丸ごとこちらへ露わになっており、その下、排泄の穴へ黒いものが出入りしている。

『あっ……あ、あぁ……あっ……ぁあ、あうっ……あ……はぁ……あ……っ!!!』

凜の叫びが街中に響く。
ヘカトスの手に尻肉を掴まれ、白い美脚を頭の横にまで振り上げた状態で喘いでいる。
どう否定的に見ても“感じている”のは明らかだ。
肛門を粘ついた音を立てて攪拌されながら、幾度か軽く絶頂すらしているように見える。
秘部には全く触れられていないにも関わらず。

「ねぇ、あれなにー? みんな見てるよ」
「か、加奈子、見るんじゃないの!!あんなもの見ちゃいけません!!」
「うそ、やだぁ……ほんとにお尻の穴であんだけ感じてんの? キモいよ……」
「くそっ、あれじゃもう駄目だ……抵抗できるわけねぇよ。機動隊やらは何してんだ!!」
「馬鹿、もう忘れたのか、あいつらにゃ普通の武器が通じねぇんだ。機動隊でもどうしようもねぇんだよ。
 それより大崎だ、アイツはどこなんだよ!」
「ん? おい、あれがその大崎じゃねぇか? あのセルシオに乗ってるヤツ……!」

それらの喧騒を聞きながら竜司は猛然と車を飛ばしていた。
ああも大々的に場所を知らせるとは、来いと言われているようなものだ。
仲間が今まさに陵辱の憂き目に遭ってもいる中、ここで向かわなければ男が廃る。
無論、罠である事は確実だろう。
どれだけの数のヘカトスがいるのかは解らないし、昔の固体とは頭の構造からして違うようだ。
さらに、昔は凜や芙美と共に戦っていた所を、今は単独で向かわなければならない。
それでも行くしかなかった。
それが英雄、それがヒーローというものだ。




「あっ……ああっ……あ……あぁ……はぅ、ぐっ……あ、ああお゛っ…………!!」

テレビ局のビデオに囲まれながら、凜は延々と尻穴を穿たれ続けていた。
毒針で散々に性感を目覚めさせられた肛門に、規格外の怒張。
それにより、尻の穴ながら浅ましく感じさせられてしまう。
犯すヘカトスはこれで4匹目、まだまだ次がいる。
すでに幾度も直腸深くに射精されていた。そしてその白濁ごと、肛門を突かれている。
いわば浣腸をされた状態で腸をかき回されるに等しい状況だ。
そうなれば、結末はひとつ。
凜はその結末を嫌い、もうかなりの間堪えていた。
ヘカトスに屈するまいという意地と、民衆の前で恥を晒したくないという矜持が支えだ。
しかしそれにも限界がある。

「…………もぅ、や、やめてえぇっ!!」

ついに凜は、背後のヘカトスの胸板に頭を擦り付けて救いを求めた。
テレビ局には街の声を拾っているマイクも設置されており、そこから非難の声が上がり始める。
それでも……心が切り刻まれるほどにつらくとも、原始的な排泄欲には敵わない。

「み、見ないでっ!!」

凜は高らかに叫ぶと、ヘカトスに貫かれたままで排泄を晒した。
何日にも渡って排泄を許されていない腸内から、異形の精液に溶かされた下痢便が噴き出す。
それは抽迭を続ける剛直を伝い、凜自身の尻肉をも生暖かさで包んでいく。
ついにやってしまった。
街からは絶叫にも等しい叫びが聴こえてきている。人望はあっさりと、完全に離れてしまったようだ。
こんなに、頑張ったのに……。

結局はそれが、凜の枷を外す事となった。
そこからは堪える事をやめ、肛門から伝えられる快楽に浸る。
剛直のカリ首が菊輪を通り抜けるたびに叫ぶ。
奥まりを突かれ、薄皮越しに蕩けきった子宮を潰されれば身悶える。

「すごぃいいいいっ!!おっ、おひりっ、おひりすごひぃぃいいいいっ!!!
 入り口ひぉげられてっ、奥ごんごんつかれてぇっ、腸のカタチっ……変えられちゃうううっ!!
 うんち出しながらされるのも、きもちぃいのおっ、ホントにすごぃのおおおお゛っ!!
 だしてるのに無理矢理つかれて、ひろげられて、わたしっ……い、いれものになってる……
 誰だってこんなの、たまんないよ。みんなわらひをバカにするけど、みんなこうなるから……
 あ、あああおほおお゛お゛っ!!!ま、またおっきいビリビリきたあああああっ!!!
 またでちゃう、だしながらっおく、突かれちゃ……あああ、ああおおおおおおお゛お゛っ!!!」

もはやかつての理知的な空気は微塵もなく、ただ快楽を貪るだけの雌と化した凜。
それを遠くで眺めながら、芙美は笑った。
これで凜は落ちた。よもや竜司とて、このような『成れの果て』に好意は抱くまい。
そして彼は、芙美があえて知らしめたこの場所へ来る。芙美に会うために。
その時芙美は、自分の正体を明かさない。
彼の本気のままにぶつからせ、『王』と自分が融合したこの大いなる力で彼を屈服せしめる。
そこでいよいよ竜司を愛するのだ。

2度と他の女に靡くことも、仲間の喪失に嘆く事もない……
共に生きる未来のために。



                           END
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