※若干NTR気味な、姉が調教される昭和なお話。ダーク。
「弘、そろそろ起きな。学校遅れるわよ」
かつては姉のその声が、弘にとっての『目覚まし』だった。
5つ歳の離れた姉、咲子。典型的な優等生タイプであったと弘は記憶している。
髪を毎朝きっちりと三つ編みに結い、校則通りに制服を調えて家を出る。
勉強も運動も部活も、全てにおいて卒なくこなす。
外面だけではなく、家の中でも咲子がだらしなくしている記憶は弘にはない。
「また肘ついてる。やめなってば」
弘の行儀の悪さについての注意は、母よりも多い。
しかし、厳しいだけではなかった。
「ねえちゃん、僕、トイレ……」
幼い弘は夜中の便所が怖く、催した時にはいつも隣の姉を揺り起こす。
「……もう、また? そろそろ一人で行けるようになりなよ」
咲子はそう叱るが、しかしどれほど眠くても必ず付き添ってくれた。
便所に限った事ではない。
「弘、寒いの? ……こっちおいで。」
夜中に弘が震えていれば、自分の寝ている布団に迎え入れてくれる。
そもそも毎朝、寝ぼけた弘を起こし、朝食を食べさせるのも咲子だ。
口では厳しい事をよく言うが、面倒見の良い姉である事は疑いようもない。
弘はそんな咲子の小言を苦手にしながらも、同時にこの優しい姉を慕っていた。
否、依存していた、と言うべきか。
頼もしい姉の存在は、結局は弘の自主性を育てなかった。
靴下を左右揃えて履いたり、ハンカチを忘れなかったり、そうした躾けこそ行き渡っているが、
『今がどういう状況なのか』を判断する能力が著しく乏しかった。
ゆえに弘は、漠然と自分を取り巻く環境が悪化していくのを感じつつも、
本当に悪い事態ならば姉が何とかしてくれるだろうと楽観視している所があった。
決定的な状況変化が訪れた時には、咲子は若干14歳。
まだまだ一人で状況を打開できる年齢には至っていなかったにも関わらず。
弘自身はよくは知らなかったが、彼の家はそこそこ裕福であったらしい。
昭和の中頃であるため、家は木造で隙間風もひどかったが、学友からは屋敷と呼ばれるような建物だった。
毎朝食べているバター付きの食パンも、他の人間は滅多に口にできないものらしい。
つまり弘は『お坊ちゃん』、咲子は『お嬢様』と呼ばれる存在であったといえる。
それが、どうして転落したのか。それは弘には解らない。
情報は色々と転がっていたはずだが、当時の弘はそれに関心を向けることをしなかった。
何か自分の気付くべきことがあれば、姉が忠告してくれる筈だ。
姉が黙っているという事は、本当に切迫している事態ではないのだろう。
そう考えていた。
両親がいつの間にか姿を消し、屋敷を引き払い、粗末な古アパートで咲子と二人暮らすようになっても。
「……今日も遅くなるから、これ食べて、いい子で待ってて。勝手に外へ出ちゃダメよ」
週末になると、握り飯を拵えながら咲子が言う。
弘は画用紙に鉛筆で絵を書きながら生返事を返す。
咲子は何かを告げるような瞳で弘の横顔をしばし眺め、扉を開けて姿を消した。
外で車に乗り込む音がし、ドアが閉まり、いずこかへと走り去る。
弘は窓からそれを見下ろしていた。
姉がどこへ出かけるのかは知らない。訊いても咲子は答えない。
しかし少なくとも愉快な場所でない事は、弘とて気付いていた。
このアパートに移り住んで以来、咲子の笑みはぎこちない。
外出から帰るなり狭い風呂場に入り浸り、何時間も出てこない事がある。
心配する弘に、大丈夫、と一拍置いて答える表情は、今にも泣き出しそうに思える。
車で咲子がどこへ向かうのか。
弘は常にそれが気がかりだったが、突き止める手段も無く、待つ他はなかった。
家に一人の女が訪ねてくるまでは。
「咲はいるかい」
白いコートを身に着けたその女……吉江は、無遠慮に弘の家へ上がり込むなりそう告げた。
上等な化粧をしてこそいるが、目は細く、底意地の悪さを隠し切れないといった風貌だ。
『今日からこの人が、あたし達の新しいお義母さんよ』
咲子からそう紹介された時、弘はとても不安な気持ちになった事を覚えている。
咲子もまた、吉江に心を許していない事が雰囲気で伝わってきた。
ちょうどその次の日から、古アパート暮らしが始まった事も印象が悪い。
「……チッ、一足遅かったか。面倒だね」
吉江は部屋を見回すなり吐き棄てるように言い、輪ゴムで括った百円札の束を放り出した。
「今月の駄賃だって咲子に言っときな。くれぐれも、フラフラして手間掛けさせんじゃないよ」
弘を見下ろしながらそう言い残し、扉を開けて出ていく。
弘は、直感的にこれをチャンスだと感じた。
今から吉江の向かう場所こそ、姉の居る場所に違いないと。
弘はすぐに百円札を数枚抜き取り、懐へと忍ばせた。
そして吉江に気付かれないよう、白いコートを目印にその後を追う。
いくつも路地を通り抜け、黄色い車体に赤い線の入った都電の中で人混みに揉まれ、降車してさらに歩く。
その末に辿り着いたのは、居酒屋に挟まれるように長屋の並んだ通りだ。
酔漢や浮浪者ばかりが目に付き、治安の悪さは弘にもはっきりと理解できた。
吉江はその中の一軒の引き戸を開けて内に姿を消す。
さすがにそのまま後を追う訳にもゆかず、弘は途方に暮れた。
しかしふと思い直し、路地裏へと回り込む。
昔遊んでいた場所にも長屋は多く、その立て付けの悪さをよく知っていたからだ。
(……あった)
弘は心中で呟く。案の定、路地裏側の一箇所に細い板の隙間がある。
隙間があるのは洗い場の一箇所らしい。
目を凝らせば畳敷きの室内が覗け、逆に向こうからは暗い路地側のこの隙間には気付けないだろう。
弘は周囲を素早く見回し、人の気配がない事を確かめてから長屋の壁に身を寄せる。
隙間に顔を近づけた瞬間、むっ、と匂いが吹き付けた。
「こりゃあ吉江さん、お珍しいこって。ささ、どうぞご覧になって下せぇ」
低い男の声が告げる。
弘の視界にまず映ったのは、先ほどまで追いかけていた吉江の姿だ。
屋内の光源は蝋燭らしく、暗い蜂蜜色で見えづらいが、白いコートは見間違いようがない。
彼女は脱いだコートを傍らに投げ捨てる。
その視線の先には薄い布団が敷かれ、そこに一人の裸の女性が横たわっていた。
そこへ目をやった瞬間、どくり、と弘の心臓が高鳴る。
理屈を抜きにして、理解してしまっていた。
その女性……白い肌と黒髪が印象的な彼女は、紛れもなく咲子だ。
たとえ顔がはっきりと解らずとも、長年に渡って甘えてきた女性の雰囲気を間違う事はありえない。
咲子は丸裸だった。
普段三つ編みにしている髪はほどかれ、若干の癖を残したまま敷布団に広がっている。
細い腕は両腋を晒す形で頭の後ろに敷かれ、枕代わりになっていた。
乳房は、弘が『ビニ本』で見た大人の女性にはさすがに敵わないものの、寝ていても膨らみが解るだけはある。
たしかにパジャマ姿の彼女にも膨らみは見て取れたが、いざ露わになった乳房に感じる女らしさはその比ではない。
そして……もうひとつの女らしさ、女性器そのものも当然ながら曝け出されている。
両膝を曲げた状態で大股を開き、眼前の男に性器を見せ付けるようにして。
咲子本人は進んでそのような格好をする女性では断じてないため、強要されているのだろう。
ごく薄い茂みの下に、恥じらいの部分がある。
初めて目にする姉の性器は…………思っていたよりも、ずっと大人びたものだった。
あるいは繰り返しの調教で、そのようにされてしまったのか。
まるで桜を内包した赤い華。
比較的左右対称で整った形をしているが、その生々しさは弘に衝撃を与えた。
その性器には男の太い指が2本、左右からくじるように差し込まれている。
男の背中には、姉の性器よりよほど毒々しい華の刺青が彫り込まれていた。
よく見れば他にも刺青を入れた男達が何人もおり、臥せった咲子を見下ろすようにしている。
その異様な情景は、弘の膝を無意識に震えさせた。
男の指が蠢くたびに、くちゅりと水音が立つ。
それと同時に大股を開いた白い脚が震え、姉が間違いなく秘裂を弄られているのだと弘に理解させる。
はっ、はっ、と呼吸の音もしていた。
弘の忘れ物を、走って教室まで届けにきてくれた時とまったく同じ呼吸のリズムだ。
蝋燭に照らされた咲子の身体は、油を塗りたくったような汗に塗れていた。
光沢のある腹部が沈み、また戻る繰り返しが妙にいやらしい。
甘くも酸い匂いが漂い続けている。
弘は、最初に屋内を覗き込んだ時にした異臭は、その汗と、秘裂からの芳香だったのだと気がついた。
普段嗅ぎ慣れていない姉の匂いだと。
「またオマンコがよく締めてくるようになったぜ。蜜もドンドン溢れてきて掬いきれねぇ。
さすがにこう毎度やってるだけあって、こなれて来たもんだ。
なぁ、善いんだろうお嬢様? もう三度ばかし、限界を超えた辺りのはずだからな」
秘裂に指を入れる男は、そう下卑た口調で告げながら秘裂へと口を近づける。
そして当人へ聞かせるかのごとく、故意に音を立てて愛液を啜り上げる。
喘ぎ続ける咲子の口が、一瞬横一文字に引き結ばれる。
「随分と出来上がってるじゃないか」
吉江が咲子を見ながら告げた。
咲子が薄く左目を開き、吉江を見上げる。一瞬ではあったが、確かな敵意を込めて。
「膣のごく浅い部分にだけ、延々と刺激を与えてるんですよ。もうかれこれ2時間ばかしですかね。
女の身体ってなァ不思議なもんで、挿入を思わせる指遣いで繰り返し浅く嬲ってると、奥までが蕩けてくるんでさ。
多分男を迎え入れる準備をするんでしょうなぁ。
ただ、この段階じゃどれだけ蕩けてもイカせることはしません。何時間にも渡って、ギリギリでの寸止めです。
全員が調教師としちゃ一級ですから、辛いなんてもんじゃねぇですぜ」
男のその言葉を裏付けるかのごとく、指責めを受ける咲子の腰がぶるりと震えた。
刺青男が薄笑いを浮かべて続ける。
「それにしても、このお嬢様の辛抱強さにゃあ舌を巻きましたよ。
普通この寸止め地獄は、調教はじめに4時間ばかし入念にやるんです。
すると、イキたくてもイケないって生殺しの状態が何時間も続く訳ですから、ふつう音を上げるんですよ。
イカせてくれ、はやくぶち込んでくれってね。でも、このお嬢様はそれが一回もない。
こっちにも意地がありますからねぇ、一度それならと、10人ばかりで交替しもって、8時間ほど続けたんですよ。
朝呼び出してから夕方まで、ずーっとね。でも、それでも折れなかった。
足の指爪先立ちにして、歯を食い縛って鬼気迫る様子で耐え抜きましたよ。もう、皆して根負けです。
……もっともそれだけ焦らした後だ。いざ突っ込むと、一発で潮噴いちまいやがった。
そっからは腰振るたびに潮噴きの連続でね。そうそう、声もそりゃあ凄かった。
ま、ともかく根性が半端じゃないってだけで、感度そのものは人並み以上にありますぜ」
男が自慢げにとうとうと語る話を、吉江が興味深そうに聞いている。
しかし弘にしてみれば、脳を強く揺さぶられるような衝撃的な話だった。
「さて、依頼主様も来てらっしゃる事だ。ちと早ぇが本番と行くか」
刺青の男が告げると、他の男達も色めき立つ。
そして各々が床の縄を拾い上げて咲子を取り囲んだ。
「う…………」
戸惑いの表情を浮かべる咲子に、まず男の一人が目隠しを被せた。小さな悲鳴が上がる。
男はそれに構わず、慣れた手つきで咲子の手首を後ろに縛り上げていく。
さらに別の2人が彼女の両足首を掴まえ、胡坐を掻くような格好で結び合わせる。
「座禅転がしかい。また惨めな格好にされたもんだね」
「江戸の頃から、女に対する一番惨めな格好として伝わってきたぐれぇですからね。
身じろぎもままならない上に、あそこから尻穴からが丸見えだ。自尊心の高い女ほど、堪える」
吉江達がほくそ笑む中、男の一人が逸物を扱きながら咲子に近づく。
弘にはそら恐ろしくさえ思えるほど、カリの太く張った逞しい怒張だ。
それが濡れ光る咲子の秘裂に宛がわれ、躊躇もなく突き込まれる。
「んんっ……!!」
咲子は歯を食い縛って声を漏らした。
男はその咲子の太腿を掴み、より深い結合を強要する。
「おおお、相変わらずよく締まるな……。これに慣れると、他のスケのがユルく感じていけねぇや。
へへ、おら、もう奥まで届いたぜ。すっかり子宮が降りてきてやがる。奥を叩かれてんのがわかんだろ。
今日もまたこっから、丁寧に仕込んでやるからな」
男はそう言って腰を打ちつけ始めた。
咲子の口は始めこそ堅く閉じていたが、やがて、あ、あっ、と喘ぎを漏らすようになっていく。
「はは、ありゃあ見るからに心地良さそうだねぇ」
「ま、当然でさ。散々にお預けを喰らって蕩けきってる所に、極太をぶち込まれたんだ。
毎週毎週、何十人と女を抱いてきた手練の技で、徹底的に男の味を覚え込ませてる。
恥ずかしい格好が興奮を煽るうえ、目隠しで否応なしに快感に集中しちまう中でね。
あれで感じない道理なんざありゃあしませんぜ」
刺青男の言葉は、弘の耳には絶望的に響いた。
しかし事実、座禅転がしで突かれ続ける咲子から感じられるのは、快感そのものだった。
怒張が抜き差しされるたびに、じゅぶっ、ぐぶっと淫靡な音が響く。
男達は口元に下劣な笑みを張り付かせながら抽迭を繰り返していた。
射精に至りそうになると一旦逸物を抜き出し、別の男が代わりとして入る。
そうして男達の方はクールダウンを入れられるが、咲子には休みがない。
刺青男が言った通り、弘にすら熟練と解る、粘りつくような腰使いで奥の深くを叩き続ける。
咲子の反応たるや、それは生々しいものだ。
座禅転がしによってむちりと肉感的になった太腿が、突き込みに応じて小さく跳ねる。
幾度も、幾度も。幾度も、幾度も。幾度も。
両足首を結ぶ縄が軋む。10本の足指の先が、むなしく空を掻き毟る。
「あっ、あ、ああっ……!!ああ、あっ、あ……い、いくっ…………あああ、いく、いくだめっ…………あ、あ!!」
咲子は喘ぐような、嘆くような口調で呟き続けていた。
口の端からは涎が零れ、顎から滴っていく。
弘が味噌汁で口元を汚すと怒る、あのきっちりとした姉が、だらしなく涎を垂らしている。
口の開きは時と共に大きくなり、だらしなく舌を出すようになっていく。
「ほーら、気持ちいいですかぁお嬢様。っへへ、犬みてぇに舌出して喘ぎ始めやがった。
2時間しか焦らしてねぇのに、すっかり身体が俺らに馴染んじまったなぁ」
「もう50回以上はイってんじゃねぇか、このお嬢様。頭ン中ドロドロで、地獄だろうぜ」
「脚の筋肉の張りが尋常じゃねぇな。快感が強すぎて、脚でも振り回さなきゃあ発散できないんだろう」
「ま、それを見越してのこの縛りだがな。発散できないエネルギーが中に溜まって、ますます深みに嵌っちまう。
はは、見ろよあの顔。完全にドーブツだぜ」
犯す男達は、咲子の反応をあげつらっては笑った。
そして舌を大きくはみ出させた咲子の目隠しに手を掛け、取り去る。
咲子の瞳が露わになった。すでに眼に光はなく、ぐるりと上向いた黒目は半ば瞼に隠れている。
「おっと、“振り切れ”ちまってたのか、えらく早いな。……どうします、あんたの娘。一旦返しますかい」
男が問うと、咲子を面白そうに眺めていた吉江は首を振る。
「いや、まだだね。そろそろ逝き癖ってもんをつけておいてもいい頃だ。
休ませずに、徹底的に犯しておやり。鼻水と涎に塗れて泣き叫んで、ゲロを吐くぐらいまでね。
クソ生意気な餓鬼だから、それぐらいで丁度いいさ」
「へへ、さすがは吉江姐さん。義理の娘を次々と風呂屋に沈めてきた女傑なだけはありますぜ」
「つまらない事をくっちゃべってるんじゃないよ。ホラ順番に犯しな!」
義母の声と、男達の笑い、そして姉の苦しげな呻き。
それらが入り混じる空間を、弘はただ呆然と見守っていた。
しかしふと我に返り、長屋の壁から離れる。
帰らねば。いざ姉が送り返された時、自分が家にいなければ変に思われる。
それに……ひどい吐き気がする。胃の中を楽にするにせよ、ここではまずい。
弘はおぼつかない足取りで都電に向かう。
家に辿り着いた頃には、弘は疲れきっていた。
身体に震えが走るほどに、良くない状況であることは理解していた。
しかし、どうすれば良いのかが解らない。
おぼろげながら、姉は大人の事情に巻き込まれているのだと思った。
大人の考えには口を挟まない。咲子は幾度となく、弘にそう教えた。状況が悪くなって以来、一層口酸っぱく。
その教えに従うべきなのか。でもそれでは、咲子が救われないのでは。
いや、しかし咲子自身が何も言わないのだ。
何か状況をよくする考えがあるのかもしれない。
あれは大人の女になる為に必要な事なのかもしれない。
……いや、本当にそうだろうか。
様々な考えが弘の頭の中を巡る。その末に彼は、ただ薄暗い部屋で姉の帰りを待った。
ぎし、ぎし、と木製の廊下が軋む音がする。
音は弘が膝を抱える部屋の前で一旦止まり、息を整えるような間を置いた。
ゆっくりとドアが開く。
「…………あんた、まだ起きてたの?」
姉は……咲子は、弘の姿を見て咎めるように言った。
しかし返事をせず、身じろぎもしない弟を見て、案ずるように部屋へ上がる。
「弘、あんたどうかしたの? もしかして、お腹減ってる? ご飯足りなかった?」
顔を覗き込みながら聞くが、弘は首を振るばかり。
そして一瞬の間を置いて、咲子の胸に飛びこんだ。
まるで乳飲み子に戻ったように、咲子に強く抱きつく。
咲子は驚きを見せたが、すぐに目を細めて弟の頭を撫で始めた。
「………………ねぇ、弘。また二人で、活動でも観に行きたいね。
お姉ちゃん、もう少ししたらお仕事で稼げるようになるから。そうしたらまた行こうね」
弘は唇を噛む。
いつもの通りの姉のぬくもり、姉の匂い。けれども、どこか違って思える。
「うん」
彼は小さく一言を呟いた。それが、精一杯だった。
※
咲子は平素中学に通いつつ、毎週末には例の場所へ向かうようだった。
弘はできれば姉に起こっている事の全てを、せめて知っておきたかった。
しかし姉の元へ行くには往復の都電が必要となり、その運賃を考えれば、菓子代といって誤魔化せるのも月一が限度だ。
見るたびに、咲子への調教は進んでいった。
繰り返し繰り返し、逸物を舐めさせられ、膣の奥を突かれ……男の味を覚えさせられていく様が見て取れた。
今も咲子は、横たわった男の上で腰を揺らしている。
弘にとっては包み込んでくれる大きな姉だが、そうして大人の上になっていると、なんと華奢に映ることだろう。
「あっ、あっ、あっ……あ、あっ…………」
長い黒髪が背中に揺れる。
全身に大汗を掻き、瞳は疲れきったようにとろりとし、閉じる力を失ったような口から涎が滴り落ちる。
下になった男が容赦なく突き上げると、そのたび腰が細かに震える。
それらの様からは、もうすでに長時間に渡り、『男を覚え込まされている』事がありありと見て取れた。
「バテてきやがったな。もう一本ばかし打っとくか」
男の一人がそう言い、床の箱から一本の注射器を取り出した。
寂れた路地裏、ボロ服をまとって座り込む男の横に転がっている類の薬だ。
咲子の瞳が意思を取り戻す。
「……も、もう…………今日は止めてください………………」
気の強さをもはや感じさせない、惨めに哀願するような口ぶり。
しかし、男達はそれを聞き入れない。
「駄目だ、もう追い込みの時期だって言っただろうが。今月一杯で仕上げなきゃならねぇ。
お前が馬鹿みてぇに頑固だったせいで、調教の計画がズレ込んでんだからよ。今日はとことんやるぜ」
そう言って咲子の腕を取り、注射針を差し込んだ。
薬液が注入されていく。咲子は針を凝視しながら、恐怖に顔を歪めていた。
見守る弘にも戦慄が走る。
間違いない。姉には余裕などない。抵抗する事もできず、ただ大人に嬲られているだけだ。
助けたい。だが身体が動かない。足も、声帯すら。
弘は、自分の意気地のなさと無力を心の底から思い知った。
「ひ、ひいっ、あうああ、あ……あひ、いっ…………」
薬を打たれて以来、咲子の様子は一変した。
それまでの疲弊した表情が、喜びに満ちたものになる。
眼を爛々と見開き、震える唇を噛みしめて、楽しくてたまらないといった表情に。
しかしそれは、明らかに姉の自然な表情ではなかった。
自暴自棄になった人間の壊れた笑いに近く、弘は背筋が冷たくなる。
「おおぉ、よっく締まるぜ。ヒロポン様様だな、ったくよ」
下になった男が笑った。
咲子の方は、挿入時の身体の震えも大きくなり、結合部からはなんとも心地良さそうな水音を立てていた。
「……っしゅ、しゅごい……。きら、まら、きたぁ……。あはっ、き、きてぅっ、おぼれちゃ……ぅうっっ…………!!」
桜色の唇から、知性の欠片も感じさせない言葉が発せられる。
いつもはっきりと喋れと弘に叱る姉と同一人物だとは、とても思えない。
男の突き上げに合わせて激しく腰を前後左右に振りたくリ、快感を貪り続ける。
その果てに咲子の瞳は、いつか見た白目を剥くようなものに変わっていく。
唇もだらしなく縦に開き、涎に塗れた舌をぶら下げるようになる。
「はは、キマっちまったか。だが、今日はそこで休ませねぇぞ。おら、お前らも来いよ。空いてんぜ?」
男の言葉で、見守っていた他の刺青男達も咲子に群がり始めた。
一人は犯されている膣の後ろ……排泄の穴に逸物を宛がい、無理矢理に嵌めこんでいく。
いま一人は、喘ぐ咲子の口に逸物を咥えさせる。
「ふぁぁっ、もう、もうやめぇっ……んぐ、ぐっ!!」
咲子の非難の言葉はすぐに掻き消され、逸物をしゃぶる音に変わる。
否、しゃぶるなどというものではない。男は咲子の頭を掴み、無理矢理にその喉を犯していた。
男の腰が前後するのに合わせて、咲子の白い喉が膨らみ、凹む。
どれほどに苦しいことだろう。しかし、咲子はえづかない。吐く事すらない。
それは、彼女が幾度となくそうした事を繰り返しながら、十分すぎるほどに仕込まれた事を示唆していた。
「もういやぁっ!!もうやすましぇて、もぉう、しないでぇっっ…………!!」
口が逸物から開放されるたび、咲子は救いを求めていた。
しかしそれを、入れ替わった別の男の逸物が塞ぐ。
口だけではない。膣も、肛門も。入れ替わり立ち変わり、様々な男によって使い回されていく。
その繰り返しの果てに、姉はまた高みに押し上げられていった。
白目を剥き、涎を垂らし。まるで獣になったかのごとく、淫らに作り変えられていく。
いつまでも、いつまでも。
それから、二週間の後。
咲子はついに、家に帰ってくる事がなくなった。
彼女の通っていた中学校によれば、保護者申請による転校とのことらしい。
そして弘もまた、迎えに来た義母によって別の町に連れてゆかれ、育つ事になる。
いくらぐずっても、弘が姉に引き合わされる事はなかった。
それから30余年。
弘は起業し、一代での大きな成功を収める。
けして他人の言う事を鵜呑みにせず、自らの頭で徹底的に考えるそのビジネススタイルが、
波乱の世にあって成功した要因だとされている。
後に会長職を辞するに際して、彼はそのスタイルが少年期のコンプレックスによって確立された事を明かした。
家族が消える。
昭和の中期まではよく聞かれたこの悲劇に遭いながらも、彼は逞しく生き抜いた。
そして彼は、姉もまたどこかで幸せに暮らしていることを、今でもなお、信じ続けているのだという。
了
続きを読む
「弘、そろそろ起きな。学校遅れるわよ」
かつては姉のその声が、弘にとっての『目覚まし』だった。
5つ歳の離れた姉、咲子。典型的な優等生タイプであったと弘は記憶している。
髪を毎朝きっちりと三つ編みに結い、校則通りに制服を調えて家を出る。
勉強も運動も部活も、全てにおいて卒なくこなす。
外面だけではなく、家の中でも咲子がだらしなくしている記憶は弘にはない。
「また肘ついてる。やめなってば」
弘の行儀の悪さについての注意は、母よりも多い。
しかし、厳しいだけではなかった。
「ねえちゃん、僕、トイレ……」
幼い弘は夜中の便所が怖く、催した時にはいつも隣の姉を揺り起こす。
「……もう、また? そろそろ一人で行けるようになりなよ」
咲子はそう叱るが、しかしどれほど眠くても必ず付き添ってくれた。
便所に限った事ではない。
「弘、寒いの? ……こっちおいで。」
夜中に弘が震えていれば、自分の寝ている布団に迎え入れてくれる。
そもそも毎朝、寝ぼけた弘を起こし、朝食を食べさせるのも咲子だ。
口では厳しい事をよく言うが、面倒見の良い姉である事は疑いようもない。
弘はそんな咲子の小言を苦手にしながらも、同時にこの優しい姉を慕っていた。
否、依存していた、と言うべきか。
頼もしい姉の存在は、結局は弘の自主性を育てなかった。
靴下を左右揃えて履いたり、ハンカチを忘れなかったり、そうした躾けこそ行き渡っているが、
『今がどういう状況なのか』を判断する能力が著しく乏しかった。
ゆえに弘は、漠然と自分を取り巻く環境が悪化していくのを感じつつも、
本当に悪い事態ならば姉が何とかしてくれるだろうと楽観視している所があった。
決定的な状況変化が訪れた時には、咲子は若干14歳。
まだまだ一人で状況を打開できる年齢には至っていなかったにも関わらず。
弘自身はよくは知らなかったが、彼の家はそこそこ裕福であったらしい。
昭和の中頃であるため、家は木造で隙間風もひどかったが、学友からは屋敷と呼ばれるような建物だった。
毎朝食べているバター付きの食パンも、他の人間は滅多に口にできないものらしい。
つまり弘は『お坊ちゃん』、咲子は『お嬢様』と呼ばれる存在であったといえる。
それが、どうして転落したのか。それは弘には解らない。
情報は色々と転がっていたはずだが、当時の弘はそれに関心を向けることをしなかった。
何か自分の気付くべきことがあれば、姉が忠告してくれる筈だ。
姉が黙っているという事は、本当に切迫している事態ではないのだろう。
そう考えていた。
両親がいつの間にか姿を消し、屋敷を引き払い、粗末な古アパートで咲子と二人暮らすようになっても。
「……今日も遅くなるから、これ食べて、いい子で待ってて。勝手に外へ出ちゃダメよ」
週末になると、握り飯を拵えながら咲子が言う。
弘は画用紙に鉛筆で絵を書きながら生返事を返す。
咲子は何かを告げるような瞳で弘の横顔をしばし眺め、扉を開けて姿を消した。
外で車に乗り込む音がし、ドアが閉まり、いずこかへと走り去る。
弘は窓からそれを見下ろしていた。
姉がどこへ出かけるのかは知らない。訊いても咲子は答えない。
しかし少なくとも愉快な場所でない事は、弘とて気付いていた。
このアパートに移り住んで以来、咲子の笑みはぎこちない。
外出から帰るなり狭い風呂場に入り浸り、何時間も出てこない事がある。
心配する弘に、大丈夫、と一拍置いて答える表情は、今にも泣き出しそうに思える。
車で咲子がどこへ向かうのか。
弘は常にそれが気がかりだったが、突き止める手段も無く、待つ他はなかった。
家に一人の女が訪ねてくるまでは。
「咲はいるかい」
白いコートを身に着けたその女……吉江は、無遠慮に弘の家へ上がり込むなりそう告げた。
上等な化粧をしてこそいるが、目は細く、底意地の悪さを隠し切れないといった風貌だ。
『今日からこの人が、あたし達の新しいお義母さんよ』
咲子からそう紹介された時、弘はとても不安な気持ちになった事を覚えている。
咲子もまた、吉江に心を許していない事が雰囲気で伝わってきた。
ちょうどその次の日から、古アパート暮らしが始まった事も印象が悪い。
「……チッ、一足遅かったか。面倒だね」
吉江は部屋を見回すなり吐き棄てるように言い、輪ゴムで括った百円札の束を放り出した。
「今月の駄賃だって咲子に言っときな。くれぐれも、フラフラして手間掛けさせんじゃないよ」
弘を見下ろしながらそう言い残し、扉を開けて出ていく。
弘は、直感的にこれをチャンスだと感じた。
今から吉江の向かう場所こそ、姉の居る場所に違いないと。
弘はすぐに百円札を数枚抜き取り、懐へと忍ばせた。
そして吉江に気付かれないよう、白いコートを目印にその後を追う。
いくつも路地を通り抜け、黄色い車体に赤い線の入った都電の中で人混みに揉まれ、降車してさらに歩く。
その末に辿り着いたのは、居酒屋に挟まれるように長屋の並んだ通りだ。
酔漢や浮浪者ばかりが目に付き、治安の悪さは弘にもはっきりと理解できた。
吉江はその中の一軒の引き戸を開けて内に姿を消す。
さすがにそのまま後を追う訳にもゆかず、弘は途方に暮れた。
しかしふと思い直し、路地裏へと回り込む。
昔遊んでいた場所にも長屋は多く、その立て付けの悪さをよく知っていたからだ。
(……あった)
弘は心中で呟く。案の定、路地裏側の一箇所に細い板の隙間がある。
隙間があるのは洗い場の一箇所らしい。
目を凝らせば畳敷きの室内が覗け、逆に向こうからは暗い路地側のこの隙間には気付けないだろう。
弘は周囲を素早く見回し、人の気配がない事を確かめてから長屋の壁に身を寄せる。
隙間に顔を近づけた瞬間、むっ、と匂いが吹き付けた。
「こりゃあ吉江さん、お珍しいこって。ささ、どうぞご覧になって下せぇ」
低い男の声が告げる。
弘の視界にまず映ったのは、先ほどまで追いかけていた吉江の姿だ。
屋内の光源は蝋燭らしく、暗い蜂蜜色で見えづらいが、白いコートは見間違いようがない。
彼女は脱いだコートを傍らに投げ捨てる。
その視線の先には薄い布団が敷かれ、そこに一人の裸の女性が横たわっていた。
そこへ目をやった瞬間、どくり、と弘の心臓が高鳴る。
理屈を抜きにして、理解してしまっていた。
その女性……白い肌と黒髪が印象的な彼女は、紛れもなく咲子だ。
たとえ顔がはっきりと解らずとも、長年に渡って甘えてきた女性の雰囲気を間違う事はありえない。
咲子は丸裸だった。
普段三つ編みにしている髪はほどかれ、若干の癖を残したまま敷布団に広がっている。
細い腕は両腋を晒す形で頭の後ろに敷かれ、枕代わりになっていた。
乳房は、弘が『ビニ本』で見た大人の女性にはさすがに敵わないものの、寝ていても膨らみが解るだけはある。
たしかにパジャマ姿の彼女にも膨らみは見て取れたが、いざ露わになった乳房に感じる女らしさはその比ではない。
そして……もうひとつの女らしさ、女性器そのものも当然ながら曝け出されている。
両膝を曲げた状態で大股を開き、眼前の男に性器を見せ付けるようにして。
咲子本人は進んでそのような格好をする女性では断じてないため、強要されているのだろう。
ごく薄い茂みの下に、恥じらいの部分がある。
初めて目にする姉の性器は…………思っていたよりも、ずっと大人びたものだった。
あるいは繰り返しの調教で、そのようにされてしまったのか。
まるで桜を内包した赤い華。
比較的左右対称で整った形をしているが、その生々しさは弘に衝撃を与えた。
その性器には男の太い指が2本、左右からくじるように差し込まれている。
男の背中には、姉の性器よりよほど毒々しい華の刺青が彫り込まれていた。
よく見れば他にも刺青を入れた男達が何人もおり、臥せった咲子を見下ろすようにしている。
その異様な情景は、弘の膝を無意識に震えさせた。
男の指が蠢くたびに、くちゅりと水音が立つ。
それと同時に大股を開いた白い脚が震え、姉が間違いなく秘裂を弄られているのだと弘に理解させる。
はっ、はっ、と呼吸の音もしていた。
弘の忘れ物を、走って教室まで届けにきてくれた時とまったく同じ呼吸のリズムだ。
蝋燭に照らされた咲子の身体は、油を塗りたくったような汗に塗れていた。
光沢のある腹部が沈み、また戻る繰り返しが妙にいやらしい。
甘くも酸い匂いが漂い続けている。
弘は、最初に屋内を覗き込んだ時にした異臭は、その汗と、秘裂からの芳香だったのだと気がついた。
普段嗅ぎ慣れていない姉の匂いだと。
「またオマンコがよく締めてくるようになったぜ。蜜もドンドン溢れてきて掬いきれねぇ。
さすがにこう毎度やってるだけあって、こなれて来たもんだ。
なぁ、善いんだろうお嬢様? もう三度ばかし、限界を超えた辺りのはずだからな」
秘裂に指を入れる男は、そう下卑た口調で告げながら秘裂へと口を近づける。
そして当人へ聞かせるかのごとく、故意に音を立てて愛液を啜り上げる。
喘ぎ続ける咲子の口が、一瞬横一文字に引き結ばれる。
「随分と出来上がってるじゃないか」
吉江が咲子を見ながら告げた。
咲子が薄く左目を開き、吉江を見上げる。一瞬ではあったが、確かな敵意を込めて。
「膣のごく浅い部分にだけ、延々と刺激を与えてるんですよ。もうかれこれ2時間ばかしですかね。
女の身体ってなァ不思議なもんで、挿入を思わせる指遣いで繰り返し浅く嬲ってると、奥までが蕩けてくるんでさ。
多分男を迎え入れる準備をするんでしょうなぁ。
ただ、この段階じゃどれだけ蕩けてもイカせることはしません。何時間にも渡って、ギリギリでの寸止めです。
全員が調教師としちゃ一級ですから、辛いなんてもんじゃねぇですぜ」
男のその言葉を裏付けるかのごとく、指責めを受ける咲子の腰がぶるりと震えた。
刺青男が薄笑いを浮かべて続ける。
「それにしても、このお嬢様の辛抱強さにゃあ舌を巻きましたよ。
普通この寸止め地獄は、調教はじめに4時間ばかし入念にやるんです。
すると、イキたくてもイケないって生殺しの状態が何時間も続く訳ですから、ふつう音を上げるんですよ。
イカせてくれ、はやくぶち込んでくれってね。でも、このお嬢様はそれが一回もない。
こっちにも意地がありますからねぇ、一度それならと、10人ばかりで交替しもって、8時間ほど続けたんですよ。
朝呼び出してから夕方まで、ずーっとね。でも、それでも折れなかった。
足の指爪先立ちにして、歯を食い縛って鬼気迫る様子で耐え抜きましたよ。もう、皆して根負けです。
……もっともそれだけ焦らした後だ。いざ突っ込むと、一発で潮噴いちまいやがった。
そっからは腰振るたびに潮噴きの連続でね。そうそう、声もそりゃあ凄かった。
ま、ともかく根性が半端じゃないってだけで、感度そのものは人並み以上にありますぜ」
男が自慢げにとうとうと語る話を、吉江が興味深そうに聞いている。
しかし弘にしてみれば、脳を強く揺さぶられるような衝撃的な話だった。
「さて、依頼主様も来てらっしゃる事だ。ちと早ぇが本番と行くか」
刺青の男が告げると、他の男達も色めき立つ。
そして各々が床の縄を拾い上げて咲子を取り囲んだ。
「う…………」
戸惑いの表情を浮かべる咲子に、まず男の一人が目隠しを被せた。小さな悲鳴が上がる。
男はそれに構わず、慣れた手つきで咲子の手首を後ろに縛り上げていく。
さらに別の2人が彼女の両足首を掴まえ、胡坐を掻くような格好で結び合わせる。
「座禅転がしかい。また惨めな格好にされたもんだね」
「江戸の頃から、女に対する一番惨めな格好として伝わってきたぐれぇですからね。
身じろぎもままならない上に、あそこから尻穴からが丸見えだ。自尊心の高い女ほど、堪える」
吉江達がほくそ笑む中、男の一人が逸物を扱きながら咲子に近づく。
弘にはそら恐ろしくさえ思えるほど、カリの太く張った逞しい怒張だ。
それが濡れ光る咲子の秘裂に宛がわれ、躊躇もなく突き込まれる。
「んんっ……!!」
咲子は歯を食い縛って声を漏らした。
男はその咲子の太腿を掴み、より深い結合を強要する。
「おおお、相変わらずよく締まるな……。これに慣れると、他のスケのがユルく感じていけねぇや。
へへ、おら、もう奥まで届いたぜ。すっかり子宮が降りてきてやがる。奥を叩かれてんのがわかんだろ。
今日もまたこっから、丁寧に仕込んでやるからな」
男はそう言って腰を打ちつけ始めた。
咲子の口は始めこそ堅く閉じていたが、やがて、あ、あっ、と喘ぎを漏らすようになっていく。
「はは、ありゃあ見るからに心地良さそうだねぇ」
「ま、当然でさ。散々にお預けを喰らって蕩けきってる所に、極太をぶち込まれたんだ。
毎週毎週、何十人と女を抱いてきた手練の技で、徹底的に男の味を覚え込ませてる。
恥ずかしい格好が興奮を煽るうえ、目隠しで否応なしに快感に集中しちまう中でね。
あれで感じない道理なんざありゃあしませんぜ」
刺青男の言葉は、弘の耳には絶望的に響いた。
しかし事実、座禅転がしで突かれ続ける咲子から感じられるのは、快感そのものだった。
怒張が抜き差しされるたびに、じゅぶっ、ぐぶっと淫靡な音が響く。
男達は口元に下劣な笑みを張り付かせながら抽迭を繰り返していた。
射精に至りそうになると一旦逸物を抜き出し、別の男が代わりとして入る。
そうして男達の方はクールダウンを入れられるが、咲子には休みがない。
刺青男が言った通り、弘にすら熟練と解る、粘りつくような腰使いで奥の深くを叩き続ける。
咲子の反応たるや、それは生々しいものだ。
座禅転がしによってむちりと肉感的になった太腿が、突き込みに応じて小さく跳ねる。
幾度も、幾度も。幾度も、幾度も。幾度も。
両足首を結ぶ縄が軋む。10本の足指の先が、むなしく空を掻き毟る。
「あっ、あ、ああっ……!!ああ、あっ、あ……い、いくっ…………あああ、いく、いくだめっ…………あ、あ!!」
咲子は喘ぐような、嘆くような口調で呟き続けていた。
口の端からは涎が零れ、顎から滴っていく。
弘が味噌汁で口元を汚すと怒る、あのきっちりとした姉が、だらしなく涎を垂らしている。
口の開きは時と共に大きくなり、だらしなく舌を出すようになっていく。
「ほーら、気持ちいいですかぁお嬢様。っへへ、犬みてぇに舌出して喘ぎ始めやがった。
2時間しか焦らしてねぇのに、すっかり身体が俺らに馴染んじまったなぁ」
「もう50回以上はイってんじゃねぇか、このお嬢様。頭ン中ドロドロで、地獄だろうぜ」
「脚の筋肉の張りが尋常じゃねぇな。快感が強すぎて、脚でも振り回さなきゃあ発散できないんだろう」
「ま、それを見越してのこの縛りだがな。発散できないエネルギーが中に溜まって、ますます深みに嵌っちまう。
はは、見ろよあの顔。完全にドーブツだぜ」
犯す男達は、咲子の反応をあげつらっては笑った。
そして舌を大きくはみ出させた咲子の目隠しに手を掛け、取り去る。
咲子の瞳が露わになった。すでに眼に光はなく、ぐるりと上向いた黒目は半ば瞼に隠れている。
「おっと、“振り切れ”ちまってたのか、えらく早いな。……どうします、あんたの娘。一旦返しますかい」
男が問うと、咲子を面白そうに眺めていた吉江は首を振る。
「いや、まだだね。そろそろ逝き癖ってもんをつけておいてもいい頃だ。
休ませずに、徹底的に犯しておやり。鼻水と涎に塗れて泣き叫んで、ゲロを吐くぐらいまでね。
クソ生意気な餓鬼だから、それぐらいで丁度いいさ」
「へへ、さすがは吉江姐さん。義理の娘を次々と風呂屋に沈めてきた女傑なだけはありますぜ」
「つまらない事をくっちゃべってるんじゃないよ。ホラ順番に犯しな!」
義母の声と、男達の笑い、そして姉の苦しげな呻き。
それらが入り混じる空間を、弘はただ呆然と見守っていた。
しかしふと我に返り、長屋の壁から離れる。
帰らねば。いざ姉が送り返された時、自分が家にいなければ変に思われる。
それに……ひどい吐き気がする。胃の中を楽にするにせよ、ここではまずい。
弘はおぼつかない足取りで都電に向かう。
家に辿り着いた頃には、弘は疲れきっていた。
身体に震えが走るほどに、良くない状況であることは理解していた。
しかし、どうすれば良いのかが解らない。
おぼろげながら、姉は大人の事情に巻き込まれているのだと思った。
大人の考えには口を挟まない。咲子は幾度となく、弘にそう教えた。状況が悪くなって以来、一層口酸っぱく。
その教えに従うべきなのか。でもそれでは、咲子が救われないのでは。
いや、しかし咲子自身が何も言わないのだ。
何か状況をよくする考えがあるのかもしれない。
あれは大人の女になる為に必要な事なのかもしれない。
……いや、本当にそうだろうか。
様々な考えが弘の頭の中を巡る。その末に彼は、ただ薄暗い部屋で姉の帰りを待った。
ぎし、ぎし、と木製の廊下が軋む音がする。
音は弘が膝を抱える部屋の前で一旦止まり、息を整えるような間を置いた。
ゆっくりとドアが開く。
「…………あんた、まだ起きてたの?」
姉は……咲子は、弘の姿を見て咎めるように言った。
しかし返事をせず、身じろぎもしない弟を見て、案ずるように部屋へ上がる。
「弘、あんたどうかしたの? もしかして、お腹減ってる? ご飯足りなかった?」
顔を覗き込みながら聞くが、弘は首を振るばかり。
そして一瞬の間を置いて、咲子の胸に飛びこんだ。
まるで乳飲み子に戻ったように、咲子に強く抱きつく。
咲子は驚きを見せたが、すぐに目を細めて弟の頭を撫で始めた。
「………………ねぇ、弘。また二人で、活動でも観に行きたいね。
お姉ちゃん、もう少ししたらお仕事で稼げるようになるから。そうしたらまた行こうね」
弘は唇を噛む。
いつもの通りの姉のぬくもり、姉の匂い。けれども、どこか違って思える。
「うん」
彼は小さく一言を呟いた。それが、精一杯だった。
※
咲子は平素中学に通いつつ、毎週末には例の場所へ向かうようだった。
弘はできれば姉に起こっている事の全てを、せめて知っておきたかった。
しかし姉の元へ行くには往復の都電が必要となり、その運賃を考えれば、菓子代といって誤魔化せるのも月一が限度だ。
見るたびに、咲子への調教は進んでいった。
繰り返し繰り返し、逸物を舐めさせられ、膣の奥を突かれ……男の味を覚えさせられていく様が見て取れた。
今も咲子は、横たわった男の上で腰を揺らしている。
弘にとっては包み込んでくれる大きな姉だが、そうして大人の上になっていると、なんと華奢に映ることだろう。
「あっ、あっ、あっ……あ、あっ…………」
長い黒髪が背中に揺れる。
全身に大汗を掻き、瞳は疲れきったようにとろりとし、閉じる力を失ったような口から涎が滴り落ちる。
下になった男が容赦なく突き上げると、そのたび腰が細かに震える。
それらの様からは、もうすでに長時間に渡り、『男を覚え込まされている』事がありありと見て取れた。
「バテてきやがったな。もう一本ばかし打っとくか」
男の一人がそう言い、床の箱から一本の注射器を取り出した。
寂れた路地裏、ボロ服をまとって座り込む男の横に転がっている類の薬だ。
咲子の瞳が意思を取り戻す。
「……も、もう…………今日は止めてください………………」
気の強さをもはや感じさせない、惨めに哀願するような口ぶり。
しかし、男達はそれを聞き入れない。
「駄目だ、もう追い込みの時期だって言っただろうが。今月一杯で仕上げなきゃならねぇ。
お前が馬鹿みてぇに頑固だったせいで、調教の計画がズレ込んでんだからよ。今日はとことんやるぜ」
そう言って咲子の腕を取り、注射針を差し込んだ。
薬液が注入されていく。咲子は針を凝視しながら、恐怖に顔を歪めていた。
見守る弘にも戦慄が走る。
間違いない。姉には余裕などない。抵抗する事もできず、ただ大人に嬲られているだけだ。
助けたい。だが身体が動かない。足も、声帯すら。
弘は、自分の意気地のなさと無力を心の底から思い知った。
「ひ、ひいっ、あうああ、あ……あひ、いっ…………」
薬を打たれて以来、咲子の様子は一変した。
それまでの疲弊した表情が、喜びに満ちたものになる。
眼を爛々と見開き、震える唇を噛みしめて、楽しくてたまらないといった表情に。
しかしそれは、明らかに姉の自然な表情ではなかった。
自暴自棄になった人間の壊れた笑いに近く、弘は背筋が冷たくなる。
「おおぉ、よっく締まるぜ。ヒロポン様様だな、ったくよ」
下になった男が笑った。
咲子の方は、挿入時の身体の震えも大きくなり、結合部からはなんとも心地良さそうな水音を立てていた。
「……っしゅ、しゅごい……。きら、まら、きたぁ……。あはっ、き、きてぅっ、おぼれちゃ……ぅうっっ…………!!」
桜色の唇から、知性の欠片も感じさせない言葉が発せられる。
いつもはっきりと喋れと弘に叱る姉と同一人物だとは、とても思えない。
男の突き上げに合わせて激しく腰を前後左右に振りたくリ、快感を貪り続ける。
その果てに咲子の瞳は、いつか見た白目を剥くようなものに変わっていく。
唇もだらしなく縦に開き、涎に塗れた舌をぶら下げるようになる。
「はは、キマっちまったか。だが、今日はそこで休ませねぇぞ。おら、お前らも来いよ。空いてんぜ?」
男の言葉で、見守っていた他の刺青男達も咲子に群がり始めた。
一人は犯されている膣の後ろ……排泄の穴に逸物を宛がい、無理矢理に嵌めこんでいく。
いま一人は、喘ぐ咲子の口に逸物を咥えさせる。
「ふぁぁっ、もう、もうやめぇっ……んぐ、ぐっ!!」
咲子の非難の言葉はすぐに掻き消され、逸物をしゃぶる音に変わる。
否、しゃぶるなどというものではない。男は咲子の頭を掴み、無理矢理にその喉を犯していた。
男の腰が前後するのに合わせて、咲子の白い喉が膨らみ、凹む。
どれほどに苦しいことだろう。しかし、咲子はえづかない。吐く事すらない。
それは、彼女が幾度となくそうした事を繰り返しながら、十分すぎるほどに仕込まれた事を示唆していた。
「もういやぁっ!!もうやすましぇて、もぉう、しないでぇっっ…………!!」
口が逸物から開放されるたび、咲子は救いを求めていた。
しかしそれを、入れ替わった別の男の逸物が塞ぐ。
口だけではない。膣も、肛門も。入れ替わり立ち変わり、様々な男によって使い回されていく。
その繰り返しの果てに、姉はまた高みに押し上げられていった。
白目を剥き、涎を垂らし。まるで獣になったかのごとく、淫らに作り変えられていく。
いつまでも、いつまでも。
それから、二週間の後。
咲子はついに、家に帰ってくる事がなくなった。
彼女の通っていた中学校によれば、保護者申請による転校とのことらしい。
そして弘もまた、迎えに来た義母によって別の町に連れてゆかれ、育つ事になる。
いくらぐずっても、弘が姉に引き合わされる事はなかった。
それから30余年。
弘は起業し、一代での大きな成功を収める。
けして他人の言う事を鵜呑みにせず、自らの頭で徹底的に考えるそのビジネススタイルが、
波乱の世にあって成功した要因だとされている。
後に会長職を辞するに際して、彼はそのスタイルが少年期のコンプレックスによって確立された事を明かした。
家族が消える。
昭和の中期まではよく聞かれたこの悲劇に遭いながらも、彼は逞しく生き抜いた。
そして彼は、姉もまたどこかで幸せに暮らしていることを、今でもなお、信じ続けているのだという。
了
続きを読む