大樹のほとり

自作小説を掲載しているブログです。

2014年08月

境遇

※レズいじめ物。非常に胸糞悪いラストです。


アンソン・ミレードは、誰もが認める人格者であった。
だが、他人に甘い人間であった事も事実だ。
田舎町で踊り子をしていたジーンから身の上話を聞かされ、同情して妻に迎えた事もそう。
そのジーンを自分の屋敷で蝶よ花よと大事にし、すっかり付けあがらせた事もそうだ。
アンソンは、ジーンとの間に3人の娘を儲けた。
長女のミディ。
次女のフラヴィア。
三女のララ。
我が侭放題の母を見て育ったこれら3人の娘もまた、当然のように高慢な令嬢に育っていく。
とはいえ、次女のフラヴィアには父の血が幾分濃く出たのだろうか。
アンソンが病でこの世を去った時、フラヴィアだけが懸命に涙を堪えていたのだから。

そして、ミレードの家にはもう一つ、アンソンの置き土産が存在する。
拾い仔であるマリータだ。
縮れぎみの赤毛とソバカスが特徴的なこの少女は、町で浮浪者として彷徨っていた所をアンソンに保護された。
いわばジーンと似た境遇だ。
アンソンはマリータを実の娘のように可愛がるつもりでいた。
しかし……その矢先にアンソンがこの世を去ると、マリータの立場は一変する。
血縁関係のない事を理由に、ジーンが彼女を虐げ始めたのだ。
当然、母の素行を基準とする3人娘もそれに倣った。

義母や義姉妹がアンソンの莫大な財産で悠々自適に過ごす傍ら、マリータは奴隷のような毎日を過ごす。
他の人間が貴族の娘さながらに着飾る中、マリータは常にボロを身に着けていた。
母達がダンスパーティーに出かけている間、ひとりで広い屋敷を隅々まで掃除させられた。
食事の支度も、片付けも、馬の世話も、庭木の手入れも……
使用人3、4人でこなすべき仕事を、まだ14歳であるマリータが一身に負わねばならなかった。
寝起きは馬小屋、用を足す場所はその隅の桶だ。
食事時にも母達と同じ長テーブルに着くことは許されず、床に置いた銀の皿に盛りつけたものを犬食いさせられる。
長女のミディは、犬食いしているマリータの頭を上から押さえつけ、窒息に苦しませるのが半ば趣味のようなものだった。
三女のララは、少しでも気に喰わない事があると、マリータの縮れ髪を鷲掴みにしたり、脇腹を靴で蹴りつける暴行を加えた。
母のジーンに至っては、マリータを視界に入れることすら汚らわしく思っている様子だ。
ただ、次女のフラヴィアだけは、特別マリータに害を加える事がない。
マリータには、それが少し不思議に思えた。




その日の夕食後には、大粒の葡萄が供された。
長テーブルの上には純金の器が並び、瑞々しい葡萄が山と盛られている。
もっともそれを堪能できるのは、母と3人の娘だけだ。
下僕の身であるマリータには、義母達が実を食べ終えた後の皮だけが与えられる。
黒紫の皮を裏返した部分にこびりついた、ごくわずかな果肉。
それが、マリータの知る『ブドウ』だった。
皮から滲み出る渋みの中、ごく僅かに感じとれる甘みは、それでもマリータにとっての至福だ。
しかし、夢見心地の時間は突如として遮られた。
ミディによってではなく、ララによってでもなく、ジーンによってでもない。
マリータにとって最も害の少ない主人である、フラヴィアによって。
「私は部屋に戻って食べるわ。ああ、そうだマリータ。ちょっと用事があるから来て。
 …………早く。そんなもの後でいいでしょ」
フラヴィアは、誰に対してもそうであるように、ややきつい態度で命じる。
マリータはショックを隠せない。
皮だけとはいえ、久々に気まぐれで与えられた褒美だ。せっかく葡萄の味を堪能できる好機であるのに。
まだ果肉の残っている葡萄の皮を未練がましそうに見つめた後、マリータは渋々と立ち上がる。
「おやおや、可哀想に!」
「ホント、フラヴィア姉様も案外酷だわ」
ジーン達は落胆を露わにするマリータを可笑しがりつつ、銀皿の中身を捨てにかかる。
マリータの視線がそれを捉え、いよいよ泣き出す直前のように強張った。

「………………あの、ご用事とは?」
フラヴィアの部屋の扉を後ろ手に閉め、マリータは問う。
そのマリータの前で、フラヴィアはガラステーブルに純金の皿を置いた。
皮などではない、瑞々しい果肉がついたままの巨峰。それが、山のように盛られている。
ごくり、とマリータの喉が鳴った。
『食べたい』と切望してしまう。折檻されるのが嫌で、けして口にはしない願望だが。
するとどうだろう。フラヴィアの指は、誘うように金の皿をマリータの方へと押し出したのだ。
「あれは嘘よ。これ、食べていいわ」
あろう事か、そのような言葉まで聞こえてくる。
マリータは、それが空想による空耳でないと気付くのに、少しの時間を要した。

「えっ……! で、でもそれは、フラヴィア様の分では?」
罠を警戒しつつ、マリータは問いかける。
甘い言葉にはいつも裏があった。少なくとも、ジーン、ミディ、ララの発するそれには。
「あんたもたまには美味しいところ、食べたいでしょ。私はいつでも食べられるから、別にいいわ」
フラヴィアは事も無げに答えると、ベッドに腰掛けて聖書を開いた。
マリータの動きが止まる。
罠か、それとも純粋な幸運なのか。それがまったく読めない。
他の3人であれば明らかな罠と断じられるが、このフラヴィアは陰湿な嫌がらせをしてきた事がない。
そして彼女は、どこか父であるアンソンに似た空気を纏っている……。
「あ、ありがとうございます……」
マリータは、心優しいアンソンの血に賭けた。あえてフラヴィアの勧めに乗ることにしたのだ。

震える指で葡萄のひと房を摘み、口へ。
弾けるような果肉を歯で噛み潰した瞬間、『本当のブドウの味』が口に広がった。
爽やかな酸味と、とろけるような甘み。かつて感じた事もないほどに、深い深い味わい。
「っっ!!!」
マリータはただ目を見開き、未知の甘味に言葉をなくす。
今の今まで恋焦がれていた味は、想像のさらに上をいくものだった。
こうも美味なものが、この世にあったとは。感動で、涙さえ溢れてくる。
フラヴィアは涙ぐむマリータを見やり、驚きの表情を浮かべた。
「な、何よ…………そんなに美味しかったの?」
フラヴィアの問いに、マリータは頷く。何度も、何度も。
それを見つめるうち、常に冷ややかなフラヴィアの目尻が、ほんの僅かに緩む。
「……ふぅん、そう。ならこれからも、時々食べさせてあげるわ」
その一言は、マリータにとってどれほど価値あるものだっただろう。
マリータはまたしても言葉を失い、一生分の幸福を得たかのように目を潤ませる。
「あ、あ、あり…………ありがとう、ござ…………います………………!!」
「べつに礼なんていいわ。あんたも一応、妹なんだから。
 前々から思ってたけど、お母様もお姉様達も、ちょっとあんたに対して冷たすぎるのよ」
照れ臭さを隠すように、フラヴィアはそれだけを告げて聖書へと視線を戻した。
マリータは、その横顔を呆然と見つめる。

美形で通っていた父の血を濃く継いだのか。フラヴィアの容姿は、姉妹の中でも頭一つ抜けている。
腰まで伸びた、陽光を思わせるブロンドの髪。エメラルドさながらの瞳。
王族の娘と称しても、信じる者は多かろう。
ダンスパーティーでも男からの誘いが絶えないらしいが、その殆どを撥ね退けているようだ。
ごく最近になって、ようやく貴族の嫡男と懇意にしはじめたというが、それも相手が誠実な好青年であるがゆえ。
喜怒哀楽を隠さない一家にあって、フラヴィアだけは常に冷ややかな態度を崩さない。
それはマリータに対してだけでなく、他の家族に対しても、また屋敷の外ですらそうであるようだ。
フラヴィアは、マリータから見ても明らかなほど異質な……つまりは『孤高の』娘だった。





この一件以来、フラヴィアはマリータに僅かながら親切さを見せ始める。
約束通り、夕飯後には果実の一番瑞々しい部分を与えた。
屋敷に自分しかいない時には、マリータにも休息を勧めた。
特にマリータの心に残っているのは、ジーン達が揃って山向こうのパーティーへ出掛けた日だ。

「……なによウェイン、アンタ風邪引いちゃったの? どうせまた、裸で寝たりしたんでしょ。
 看病してくれる人はいるの? ……そう、じゃあ侍女の言う事をちゃんと聞きなさい。
 ……うん、……うん。…………そんなに謝り倒さなくたって、一度デートがフイになった位で怒らないわよ。
 アンタのそういう実直さって好きだけど、度が過ぎると鬱陶しいものよ。……それじゃ、お大事に」

階下の電話でフラヴィアが話すのを、マリータは掃き掃除をしながら聞いていた。
フラヴィアは恋人であるウェインとデートの予定があったためにパーティーを欠席したのだが、
どうやらそのデートも相手の病気でキャンセルとなったらしい。
「……残念でしたね」
マリータは掃除の手を止め、階段を上がってくるフラヴィアに話しかける。
フラヴィアは、それに反応してしばしマリータを見つめた。ふと視線をやったにしては長い、注視だ。
失礼だったかとマリータが口を押さえた直後、フラヴィアは口を開く。
「……ねぇマリータ。あんた一度、化粧でもしてみない? ソバカスだらけだけど、元は案外悪くなさそうよ」

暇を持て余したフラヴィアの提案により、マリータは次女の部屋に招かれた。
そして三面鏡の中、生まれて始めての化粧を施される。
白粉をたっぷりとつけ、雪のように白い肌を作り上げ。
赤髪は丁寧なブラッシングの後に結い上げて。
眉を細く剃り、額の髪の生え際も剃って、顔の白さをさらに強調し。
その末に鏡に写っていたのは、少し前とは見違えるほどに美しいマリータだった。
「これが…………あたし…………?」
マリータは思わず呟く。フラヴィアはその後ろで満足げに頷いた。
「そうよ。思った通り化けたわね。
 せっかくここまでやったんだもの、ちょっと街に買い物に出ましょうよ!
 着ていく服は、私のタンスから好きに選んでいいわ」
こうしてマリータは、面白がるフラヴィアに乗せられる形で、初めて大きな街を訪れる。

洒落た店に、優雅な町並み。賑やかな雑踏。
それは、マリータのまるで知らない世界だった。
「…………すごい、すごい…………!!」
マリータは胸をときめかせ、目にするもの全てに感動を表す。
「別に普通……なんだけどね」
フラヴィアは苦笑しつつ、はしゃぐマリータの手を引いて進んだ。
しかし花屋の角を曲がったところで、2つの影はぴたりと動きを止める。
原因は、カフェテラスに腰掛けた若い女だ。
「……あらぁ、これはこれは。“ミレード御殿”のフラヴィアさんじゃない」
女はフラヴィアに向かって声を上げた。
口元を隠す豪奢な扇子に、煌びやかな頭飾り。世事に疎いマリータでさえ、一目で裕福な家の娘だと解る。
「ご無沙汰ね、ミリエーヌ」
フラヴィアは澄まし顔で答えた。相手を快くは思っていない風だ。
しかしミリエーヌという少女は、それをさして気に留めるでもなく、注意をフラヴィアの後方へと向ける。
すなわち……フラヴィアに隠れるようにして立っている、マリータへと。
「ところで、フラヴィアさん? その後ろにいらっしゃる方はどなたかしら。あまり、お見かけしないようだけれど」
身に纏わりつくようなその物言いに、マリータは帽子で顔を隠しつつ俯く。
「彼女は…………私の、友人よ」
フラヴィアは言葉を選びながらも、堂々と胸を張って告げる。
マリータは、思わず顔を上げてフラヴィアを凝視した。
「そう」
ミリエーヌは、そうした2人の仕草を興味深そうにながめながら、ただ小さく呟くのみだ。
マリータにしてみれば、その言葉の裏に幾百の悪意が感じられるようだったが。

「……良かったんですか? その、あたしなんかが、フラヴィア様のお友達なんて……」
「何言ってるのよ、本当は友人どころか妹でしょ。
 それをそのまま言って、お母様達の耳に入ると厄介だから誤魔化しただけよ」
「そうですか……お気を使わせてしまって、すみません」
「いいって。ほら、あそこでケーキでも食べましょ。すっごい美味しいんだから」
かつてないほど親切にされながら、マリータは喫茶店に足を踏み入れる。
そこで初めて口にしたケーキは、これも彼女の価値観を一変させるほどのものだった。
とてつもない甘さとコクを有したクリームが、脳髄をとろけさせる。
日々消耗し続けた心身が癒されていくのがわかる。
街を訪れて以来の華やかな記憶が、まさにこの瞬間、マリータの中で結実していた。
とても幸せだ。だが…………それだけに残念だ。

 (――――こんな素敵な世界があったなんて、思いもしなかった。すごく、居心地がいいな。
   フラヴィア様は……ううん、この街にいる皆は、ずっとこの幸せの中にいるんだ。明日も、明後日も。
   ……でも、あたしは違う。あたしは今日の夜からまた、あの惨めな生活に戻らなきゃいけない。
     ……………………イヤ、だなぁ…………………………。)

願わくば、この幸せをもう一日。そのささやかな願望は、未練の楔としてマリータの心へ打ち込まれた。
彼女自身も気が付かぬほど、奥深くへと。





ジーン達は変わらずマリータを奴隷のように酷使し、フラヴィアは時おり甘い夢を見せる。
その生活が3ヵ月ほど続いたある晩、ついに来るべき時が来る。

「おまえ最近、やけにマリータに甘くしてるようね」
肉厚のステーキにナイフを入れながら、ジーンはふいに問うた。
疑惑の矛先は、言わずもがなフラヴィアだ。
「そうかしら」
フラヴィアは澄まし顔で答える。
ジーン達がマリータを疎んじているのは明白であり、肯定は面倒を招くとの判断ゆえだろう。
しかしこの夜に限っては、ジーン達も確証があって話を切り出したようだ。
「とぼけないで! 花屋のラッドが、街でマリータの姿を見かけたって言ってるのよ。
 彼って街一番のプレイボーイだから、女の見間違えだけは絶対しないもの!」
長女のミディは、彼女がよくそうするように、金切り声を上げて母に続いた。
「それにフラヴィア姉さまったら、最近マリータにお菓子やフルーツをあげたりしてるのよ。わたし見たもの」
末女のララさえも姉達に同意する。
「………………っ!!」
マリータは床に置かれた銀皿から口を離し、見る見る顔面を蒼白にしていった。
街で姿を見られていた。菓子や果物を貰っている事まで知られてしまった。
義父アンソンが死んで間もない頃、砂糖壷に指を入れてほんの少し舐めただけで、尻が腫れあがるまで箒で打たれたものだ。
いったい今度は、どんな容赦のない折檻が待っているのか。
折檻の終わった後も、手足の十本の指がきちんと繋がっているのだろうか……それほどに思える。
涙さえ滲みはじめたマリータの視界で、フラヴィアの瞳が動く。
フラヴィアは、いつもの通り毅然とした瞳でマリータを見やった。そしてその瞳は、そのまま母であるジーン達に向けられる。
まるで、矛を構えるかのごとく。
「どういうつもりなの、フラヴィア?」
ジーンの問いを、フラヴィアは正面から受け止めた。
「どういうつもりか……なんて、改めて詰問されるとは思わなかったわ。
 もしも私がマリータに甘くしていたとして、それに何の問題があるというの?
 マリータだって、父が家族と認めた一員のはずでしょう。
 この際はっきり言っておくけど、マリータにだけ待遇の差をつけるのは間違ってるわ!」
胸中に一片の曇りなし、とばかりに断言するフラヴィアに、その姉妹は表情を強張らせる。
しかし。年の功か、ジーンだけは口端に薄い笑みを浮かべた。
「とんだ偽善ね」
「……なんですって?」
母の一言に対し、フラヴィアは珍しく憤りを露わにする。ジーンは笑みを深めて続けた。
「偽善、と言ったのよ。マリータへの待遇の差に疑問を持ったなら、どうしてもっと早く、改善を主張しなかったの?」
「――――っ、それは…………」
フラヴィアはここで初めて言葉を詰まらせる。自身の矛盾に気がついたのだろう。
フラヴィア本人が積極的にマリータを虐げなかったとはいえ、奴隷扱いを見過ごしていたことは事実なのだ。

もっとも、フラヴィアは産まれたその時から屋敷住みの令嬢だった。
物心つく前から、母も姉も、優しい父に甘えるばかりで自由奔放に暮らしていた。
そのような特殊な環境に生まれ育った以上、当然フラヴィア自身も優雅な暮らしに疑問を持たない。
つまり、使用人ありきの生活を当然のように考えてしまう。
「おまえ、心の底からマリータの事を心配して言っているの?
 違うでしょう。おまえは自分が安全な場所にいるのをいい事に、目下の人間を憐れんでいるだけよ。
 他人の飼っている小鳥を、可哀想だから外に離してやれと言っているのと同じ。
 浅はかで薄っぺらな偽善だわ」
「ち、違う!」
ジーンの更なる追求に、フラヴィアは叫んだ。
プライドの高い女性だ。たとえ自ら気付き始めているとはいえ、自分のこれまでを『偽善』とする事は耐え難いのだろう。
ジーンは頑なに否定するフラヴィアをしばし睨みつけ、そしてふと思いついたように笑みを戻す。
マリータが目にした中でも、指折り数えられるほどに禍々しい笑みだ。

「…………ふぅん。そこまで言うなら、証明してご覧なさいな」
「証明……?」
「そうよ。今この瞬間からマリータと“立場を入れ替えて”、おまえが虐げられる側になるの。
 その生活を続けてもまだ私に意見できるなら、そこに価値があると認めてあげるわ」
「っ!!」
まさに悪魔的な提案だった。
マリータも、フラヴィアも、そのような展開を想定してはいない。
この場でどのような結論が出るにせよ、互いの明日は大きく変わらぬものであると思っていた。
マリータは明日の食事のために支度をし、古い電球を取り替える。
フラヴィアは今日の事を日記に書き留め、風邪を引いた恋人の身を案じ、紅茶を飲んで眠る。
その生活が続いていくはずだった。
それが、逆転するというのか。
「へぇ、面白そうじゃない。確かに、そんないいお皿で美味しいお肉食べながらお説教されたってねぇ。
 それこそ、マリータに失礼じゃないの?」
「そうよね、本当にそう! フラヴィア姉さま自身が、マリータの生活をしてみればいいわ。
 それにマリータ本人は、一度も待遇に不満なんて漏らさなかったじゃない。お姉さまの主張は、独りよがりなのよ!」
ミディとララも母の提案に賛同し、机上は三対一の空気に支配される。
「み、皆様……そ、そこまで…………」
マリータは目を泳がせながら立ち上がった。この悪い空気を何とかしなければ、という気持ちからだ。
しかし、それを制する様に、フラヴィアが叫ぶ。
「…………解ったわ。私はマリータの代わりになる、偽善者と謗りを受けるぐらいなら!
 私のこの胸には、お父様から頂いた真実の誇りが生きているもの!」
退くに退けないのだろう。
ここで言い包められて退くような事があれば、まさに偽善者そのものになってしまう。
ならば、あえて罰を受けよう。マリータと同じ苦しみを味わい、言葉に正当性を持たせよう。
そう覚悟を決めたらしい。

「よく言ったわね。じゃあ……やってみなさいよ!」
初めに行動を起こしたのは、長女ミディだった。
彼女はやおら立ち上がると、フラヴィアの眼前にある皿を勢いよく叩き落とす。
金の皿は、硬質な音を立てて床に転がった。
「ほぉーら、床に落ちたわよ。お食べなさいな。犬みたいに這いつくばってね!」
ミディは意地の悪さを隠そうともせずに告げる。
「…………ッ!!」
フラヴィアは一瞬姉に鋭い視線を向けたが、命ぜられるまま椅子を降り、這う格好で皿に近づいた。
そして数秒ほどの躊躇ののち、半ばほど床に接するステーキにかぶりつく。
姉妹と母から、キャハキャハと笑いが起きた。
「ああ、はしたない。床にはあんまり舌つけないでよね、“フラヴィア”。
わたし達も歩く床なんだから、おまえみたいな汚らわしい人間の唾がついてると不愉快なの」
そう発言したのは、末女であるララだ。
つい先刻までフラヴィア姉さまと呼んでいた名残が、早くも無くなっている。
フラヴィアは意地からか、一心不乱に肉に喰らい付いていた。
姉妹はそのフラヴィアに対し、考えつく限りの謗りを浴びせ続ける。
正気の沙汰ではない。
「あ……ああ…………」
マリータは狂った情景を前に、ただ震えて立ち尽くしていた。
と、その肩に優しく手が置かれる。マリータが怯えながら横を向くと、そこにはジーンの笑みがあった。
マリータの前では一度も見せたことのない、柔和な顔。
まるで憑き物が落ちたかのように、慈愛に満ちた母親の顔をしている。
だがマリータにとってその表情は、過去のどんなジーンの顔より恐ろしかった。
「どうマリータ、あの姿は。惨めでしょう」
「え、あの…………」
「惨め、だよねぇ。マリータちゃん?」
ミディも同じく笑みを作り、ジーンとは逆側の肩に手を置く。
「あ、いえ、あの、え、えっと…………」
「まさか! 惨めじゃないなんて言わないよね。ねぇ、“マリータ姉さま”?」
最後にララが正面から覗き込めば、マリータはどこにも視線を逃せなくなる。

六つの瞳に凝視され、マリータは喉を鳴らした。
逆らえない。逆らっては、いけない。マリータの防衛本能がそう警鐘を鳴らしている。
「…………惨め、です………………」
その一言が呟かれた瞬間、フラヴィアの口の動きが一瞬止まる。
ジーン達は口に手を当て、心から可笑しそうに笑い転げる。
ごめんなさい。マリータは心中で謝罪した。
「さぁさ、マリータ。あったかいお風呂に入って、フカフカの布団で寝ましょう。
 後の片付けは、全部フラヴィアがやってくれるわ。
 ……フラヴィア! いつまでもモソモソ食べてないで、“いつものように”全部キッチリ片すのよ!」


無駄に種類の多い食器を洗い、迷いに迷いながら元あったであろう棚の場所に戻す。
テーブルクロスを取り替え、床を拭き清める。
それら全てが終わった時は、すでにとっぷりと夜が更けていた。
普段であれば、柔らかなベッドに身を沈めて寝入っている頃だ。
しかし、今日からは違う。
寒々とした風の吹く中を抜け、藁の敷かれた馬小屋で眠る事になる。
藁はチクチクとフラヴィアの白い肌を刺した。
かといって乳液を塗る事もできず、洗顔すらしていない。
心安らぐアロマの代わりに、噎せかえるような馬の体臭が鼻をつく。
外からの隙間風がたまらなく冷たい。
「…………昨日まではマリータがここに寝ていたのよ。なら、死ぬことなんてないわ」
フラヴィアは、歯を食いしばって苦境に耐えた。

次の朝になっても、昨晩の事が夢に変わるわけではない。
「ちょっと、いつまで寝てるつもり? 私達の朝食の用意はどうしたのよ。
 一番遅くまで眠りこけてるなんて、いいご身分じゃない!」
馬小屋をガンガンと叩きながら喚く声で、フラヴィアは目を覚ます。
頭が痛い。身体の節々も痛い。やはり藁など、安眠できる代物ではないようだ。
それでも仕方なく、フラヴィアは馬小屋から歩み出た。
するとその顔に、勢いよくバケツの水が浴びせられる。
「きゃっ!!」
「あはははっ、目が覚めたでしょう。馬小屋のくさい匂いも取れて、ちょうどいいわ!」
ミディは髪から雫を垂らすフラヴィアを見て大いに笑った。
「くっ…………!!!」
フラヴィアは射殺さんばかりに姉を睨みつつ、握り拳で服の裾を絞る。
「ああ、ああマリータ、お前は朝食の準備なんてしなくていいんだよ。
 そういうのは全部フラヴィアにやらせればいいんだ。さ、部屋で音楽でも聴いておいで」
台所からは、優しげなジーンの声が聴こえてきていた。
間違いではない。ミレード家の日常は、一変したのだ。

ジーン達の変わり身は早かった。
まるで以前からそうであったかの如く、マリータには娘として接し、フラヴィアを奴隷のように扱う。
パーティーに連れられるのはマリータで、その間屋敷の掃除を命ぜられるのはフラヴィアになった。
いじめとは、なぜ起きるのか。なぜ人の世から無くならないのか。
対象が憎いから……ではない。
特定の何者かを蔑む事で、それ以外の多数が安心感を得るからだ。
『対象が誰であるか』は瑣末な事柄に過ぎない。つねに、虐げる対象さえ存在するならば。



ジーン達のフラヴィアに対する嫌がらせも、当初は邪険に扱う程度のものだった。
足を引っ掛けて転ばせたり、水を浴びせたり、床のものを犬食いさせたり。
しかしフラヴィアが折れないとなると、嫌がらせは日増しに激化していく。
まだ処女であったフラヴィアを犬と交尾させたのも、ジーン達にしてみれば悪乗りの延長線上だ。

初旬にしては日差しの強い昼。
広い庭に幾つものテーブルセットが設置され、多くの人間が茶を愉しんでいる。
その視線の中心で、フラヴィアは大型犬と『交尾』していた。
後ろから覆い被さられ、処女穴に犬のペニスを捻じ込まれて。
犬のペニスは、人間のそれとはまるで違う。
内臓そのものといった風で、赤黒く、何本もの細い血管が走っている。
股間部の白い毛皮から生えたその異物が、ピンク色をした少女の膣に入り込む光景。
それは、まさに衝撃的だった。
「あはははっ、すごい。ホントに入ってるんだ!」
「犬食いするような人間にはお似合いね! いいカップルよ」
「しっかしまさか、あのフラヴィアお嬢様が犬とヤッてるなんてなぁ。笑えるぜ」
「確かに。この女、せっかくこの僕がパーティーで誘ってやったってのに、澄まし顔で断ったんだよ?
 『キザな男は嫌い』なんて言って、僕に大恥まで掻かせてさ。
 あの時はなんてお高く留まってるんだと思ったけど、なるほど、犬が好みだったわけだ!!」
集まった人間たちは、ティーカップ片手に笑いあう。
フラヴィアの若さと美しさに嫉妬する女達、ダンスパーティーで誘いを断られた男達。
その悪意が、高級な紅茶の香と共に発散されていく。

「う、くぅ……っ!! ううっぐ、うう……う…………ぅう“!!」
首輪を繋がれたフラヴィアは、必死に歯を食い縛って挿入の痛みに耐えていた。
結合部からは純潔の証が滴っている。
瘤つきのペニスで膣を無理矢理に拡げられているせいか、滴り方は変則的だ。
そしてその瘤の太さは、膣の中で動くたび、刻一刻と増しているようだった。
初めは所詮犬のペニスと嘲笑っていた男達も、いつしかその膨張率に息を呑むようになっていく。
もはやフラヴィアを憐れんで力任せに引き抜こうとしても、けして抜ける事はないだろうと思えるほどに。
「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ…………」
大型犬はショー目的で特別に訓練された個体であり、手慣れた様子で黙々とフラヴィアを責め立てていた。
這うフラヴィアの手の平と膝は石畳に乗っているが、犬の足は茂みに半ば入り込んでいる。
そのため腰が振られるたび、さすっ、さすっ、さすっ、と草葉の揺れる音が響いた。
「……………………ぃたぃ………………った、…………いたぃ……………………!!!」
よほどの痛みなのだろう。
あのフラヴィアが、伏せた顔の中で呻きを漏らしているのだから。
それは草の音に紛れて観衆に届いては笑いを呼んだ。

大型犬が少女を押し潰すようなスタイルの交尾。その果てに、とうとう射精の瞬間が訪れる。
犬の射精は三段階ある。
まずは潤滑油として、あるいは子宮内洗浄の目的で尿が注ぎ込まれる。
「っ…………!!!」
膣奥に放尿されているのが解ったのだろう、フラヴィアの両手が強く握りしめられた。
それでも声を上げないところが、彼女の意地だろう。
しかし……放尿が終われば、今度は二段階目、正真正銘の精液が注がれる。
「おっ、何だ何だ、まだ出るのか?」
「ひぇー、犬の射精って長ぇんだなあ!」
「ありゃ完全に子供出来ちゃうね。嫌だ嫌だ、犬の仔孕むなんて。悪い事はしないようにしよっと!」
観衆達は、フラヴィアの身の強張りと、犬の腰の震えから状況を窺い知る。
声こそ上がらないとはいえ、フラヴィアの示す反応は雄弁なのだ。
そして、ついに三段階目。この射精は、雌犬の子宮を精子で満たすために行われる。
瘤で塞がれて逃げ場のない膣内に、破裂しそうなほどの射精が繰り返される。
これには、さすがのフラヴィアも耐えられない。

「い、いやああああああぁーーーーーーっっ!!!!」

項垂れていた顔を上げ、美しい金髪を振り乱しながら絶叫を迸らせる。
その実況は、様子を見守っていた悪意ある者達の心を満たした。
まさに割れんばかりの笑いが、広間を歌のように覆い尽くす。
「いやああっ、いやあやめてっ!! もう中に出さないでっ!!!!」
フラヴィアは背後の支配者に哀願する。
場のほとんどの人間にとって、鼻水にまみれ、眉を垂らしたその顔を見るのは初めてだろう。
しかし、大型犬は動きを止めない。むしろ快感を求めてか、いよいよ腰を激しく動かす。
フラヴィアはただ犬の腰振りにあわせ、人形のように振り回されるばかりだ。
抗えるはずがない。少女と大型犬では、筋力に天と地の差があるのだから。
それは、まさに服従だった。犬に屈服させられる犬…………下等生物。
数日前までのフラヴィアとは、なんとかけ離れた地位である事か。

幾度にも渡る獣姦が終わり、ようやく瘤の収まったペニスが抜き出される。
その瞬間、噴水のように白い液が噴出した。
フラヴィアの小さな膣に、限界をとうに超えた容量を詰め込まれた精子だ。
フラヴィアは…………とうに、意識など保っていなかった。
かつて経験のない苦痛と恐怖、恥辱。そして何より著しい体力の消耗。
それによって、白目を剥きながら石畳に抱きついている。
観衆達はそのクライマックスにいたく満足しながら、夕暮れの中で席を立ち始める。
「………………!! …………………………っ!!!」
笑い声が絶えない中、特等席ですべてを目にしたマリータだけが、得も言われぬ恐怖に震えていた。





マリータは家事の一切から開放され、毎日遊んで暮らせるようになった。
贅を尽くした夕食を平らげ、食後のフルーツは最も甘い部分だけを齧って捨て。
昼には街へ出てケーキと紅茶を嗜み、夜には馬車に乗ってパーティーへ出向く。
それが許される身分だ。
しかし、フラヴィアの手伝いだけは許されなかった。
他人の目がない所でも、もし見つかれば、という恐怖から手伝う事はできなかった。
マリータは、再び奴隷の生活に戻るのが怖かった。
フラヴィアが自分に助けを求めてこないのが、マリータにとっての救いだ。
だがマリータは、フラヴィアが家族から虐げられるのを、屋敷の様々な場所で目撃した。

ある晩には、フラヴィアはミディによって、延々と秘部を嬲られていた。
手洗い場に備えつけられた巨大な鏡の前で、ミディは次女を後ろから抱き抱えていた。
フラヴィアの手は後ろで縛られているらしい。
そうして抵抗を封じられたまま、クリトリスを姉の指で刺激され続けているようだ。
「ほぉら、どんどんヌルヌルになってきてる。お豆もすっかり硬くなって、堪らないんでしょう」
ミディは、囁くようにフラヴィアに告げた。フラヴィアは俯いたまま反応を示さない。
責めはかなり長時間に渡って続いているようだ。
フラヴィアの白い肌は、全身が夥しい汗で濡れ光っている。
秘部の状態は影になっていてよく見えないが、クリトリスを指が刺激するたび、腹筋が蠢く。
腰が艶かしく揺れ、頭が揺れ、深く俯いては戻るを繰り返す。

よく聴けば、常にフラヴィアの息遣いがしていた。
ミディの指が単調に動いている間は、はぁ、はぁ、と小さく繰り返されている。
そして指が妙な動きをし、ぬちっと水音を立てる瞬間、はぁーっと息遣いが大きくなる。
頭部の俯きもその時が最も大きく、腰も跳ねるように後ろに動く。
 (イッてるんだ…………)
同じ女として、マリータにははっきりとそれが解った。
膣内からぬちぬちと断続的な水音が立ち、フラヴィアはとうとう顔を上げた。
濡れた金髪が額に貼り付き、口を半開きにした顔は異様なほど扇情的だ。
疲弊してはいても、やはり美人なのだと再認識させられる。
「フラヴィア、おまえ今イッたんでしょう。一体何度目なの、はしたない女ね」
ミディが悪意を込めて囁くと、フラヴィアは姉を睨み据える。
「ふん、相変わらず生意気ね。おまえ、自分が何で折檻されてるのか理解してるの?
 マリータでもちゃんと作ってた冷製スープを、あんな不味い出来にした罰なのよ。
 すべておまえが悪いの。このまま何時間でも……おまえが泣き喚くまで続けるからね」

マリータはそこで恐ろしくなり、自室……かつてのフラヴィアの部屋に取って返した。
そこから数時間後。ようやくまどろみ始めたマリータは、異常な叫び声で目を覚ますことになる。
それがフラヴィアの叫び声だと判ったのは、翌朝にミディが自慢話を始めてからだった。



また別の夜には、ララがフラヴィアを虐げている所も見かけた。
夜中にマリータがトイレに向かうと、ララの部屋の扉が少し開いており、光が漏れている。
中を覗くと、ララが秘部を舐めさせている所だった。
「ほら、もっと丁寧に舐めなよフラヴィア。そんなのじゃ、ちっとも気持ちよくないわ」
ララはベッドに腰掛け、フラヴィアを見下ろしながら告げる。
実に冷たい瞳だった。昼間にマリータとチェスをしていた人物と同じとは思えない。
フラヴィアは命ぜられるまま、一心にララの秘裂へと舌を這わせている。
「あっ、そろそろおしっこが出そうよ。その口で全部受け止めなさい。
 あーら、嫌そうな顔ね。マリータの代わりにわたしの肉便器になるって、偉そうに宣言してたくせに」
ララは、顔を上げたフラヴィアを眺めて笑みを浮かべた。
そして自らの指で秘裂を拡げ、放尿の体勢に入る。
 (うそ、やだっ…………!?)
マリータは目を疑った。本気でフラヴィアに自らの尿を飲ませようというのか。
マリータの戸惑いを余所に、じょぼぼぼと放尿の音が聴こえ始める。
それは激しい泡立ちと共に、間違いなくフラヴィアの美しい顎の上へと注がれている。
「あーもう、こんなに零しちゃって。明日の朝一で、カーペット取り替えといてよね。
 わたしがヴァイオリンのお稽古から帰るまでに替わってなかったら、おまえ、もっと酷い目に遭うわよ」
放尿を終えたララは、呆然とするフラヴィアに囁きかける。

マリータは自室に戻ってからも、身の震えが止まらなかった。
虐めはどんどんとエスカレートしてきている。
マリータは生来大人しい性格で、反抗する事もなかったのが幸いしていたのだろう。
しかし反骨心の強いフラヴィアは、母や姉妹達の嗜虐心を油のように燃え上がらせる。
もし今、何かのきっかけでまた立場が入れ替わるような事があれば……

「………………耐えられない……………………」

マリータは、ベッドの上で頭からシーツを被り、涙を零しながら呟いた。

この頃からだ。マリータが、積極的にフラヴィアへの虐めに加担するようになったのは。

「ほらフラヴィア、感じる? 今、お前の子宮に触ってるのよ」
そのおぞましい台詞を発したのは、ジーンではない。ミディでも、ララでもない。
マリータだった。
拘束具で手足を封じ、抵抗を奪ったフラヴィアの膣に、少しずつ指を入れていく。
潤滑油を用いながら一本また一本と指を増やし、今ではとうとう拳そのものが入り込んでいた。
「うう、う……うう、ぐぅっ…………!!」
フラヴィアは額に脂汗を滲ませながら、苦しげな呻きを漏らす。
しかしマリータにしてみれば、そうしてフラヴィアが苦しんでいる様こそが心の安らぎだ。
「おやおや、堪らなそうな顔してるねぇ」
「ホントに。悔しいけど、今日一番苦しめてるみたいよ」
「さすがマリータ姉さま。容赦がないわ」
後方ではソファに腰掛けたジーン達が、責めの様子を見守って笑っていた。
いじめている間は、母も姉妹も上機嫌でマリータに接してくれる。
再度立場を入れ替えられる危険性が低くなる。
マリータは、フラヴィアを手酷く虐めるほどに、自分の立場が揺るぎのないものになっていくのを実感していた。
「…………マリ…………た………………」
拳で蹂躙している最中、気絶しかけているフラヴィアが名を呼んだ。久し振りのことだ。
瞬間、マリータの脳裏に記憶が甦る。
ブドウという物の味を教えてくれた。
初めて街に連れ出してくれた。
自分を庇い、身代わりになると言ってくれた……。
しかし。そうした思い出を振り切って、マリータは唇を引き結ぶ。
次の瞬間、マリータは強かにフラヴィアの頬を張った。
ミディが口笛を吹く。
「気安く私の名を呼ばないで。けがらわしい!」
マリータは、かつて彼女自身が恐れた冷たい瞳でフラヴィアを睨み下ろした。
「………………っ!!」
頬を赤く染めたフラヴィアは、しばし目を見開き、やがて諦めたように視線を逸らす。

    ――――もう、戻れない。
        ――――もう、戻らない。

手の平に焼けるような熱さを感じながら、マリータは胸中で呟いた。





自由を手にしてからのマリータは、美しく変わっていった。
粗末にちぢれていた赤髪は、燃えるようなストレートヘアに変わった。
ソバカスもなくなり、化粧の似合う美人顔になった。スタイルさえ以前とは別物だ。
食事が違い、化粧品も違う。
そして……恋をした事も大きいだろう。

マリータは、フラヴィアのすべてを受け継ぐと決めた。それは、恋人に関してもそうだ。
名はウェイン・アクワイア。
有力貴族の嫡男で、誠実な好青年。さらには背が高くてハンサムだ。
フラヴィアに惚れ込んでいた彼は、パーティーでマリータに質問を繰り返した。
犬と交尾していたという『悪質な噂』を聞きつけたらしい。
その縁で、マリータはウェインに近づいた。
フラヴィアの事は上手く濁しつつ、ウェインにとって都合のいい女を演じた。
マリータは、物心つく前から奴隷としてジーン達の顔色を窺っていた少女だ。
世間知らずの坊やに取り入るのも難しくはない。
やがてウェインはマリータに惹かれはじめ、ついにフラヴィアに先んじて同じ寝台に入ることを許す。
そこから婚約の話に至るには、長い時間は必要なかった。

マリータはしばしウェインと共に過ごし、半年ぶりにミレードの屋敷に戻る。
ジーン達は出かけているため、屋敷の扉は閉まっていた。
合鍵で扉を開け、エントランスへ。
食堂を通り過ぎ、階段を降りれば……そこに、石造りの小さな部屋がある。
使わなくなったオーブンを改良したその部屋は、外からしか開けられない。
ただ上方についた窓が、内と外の空気を交わらせるのみだ。
マリータは、その窓から中を覗き込む。薄暗闇の中に、ひとつの人影が見えた。

首輪をつけられ、痩せ衰えて、乾燥した小麦のような髪を縮れさせた女。
ほとんど裸に近いが、股の部分には太いベルトのようなものが見える。
貞操帯……それも、膣と肛門部分に極太の栓がついた特注品のようだ。
中にいる女は、首輪で拘束されたまま、責め具を嵌め込まれて放置されているらしい。
「ハーイ、フラヴィア」
マリータはオーブンの扉を叩いて告げる。
項垂れていた女の顔が上がり、やつれきった顔が露わになる。
とても美人とはいえない顔だ。

「…………たすけて、マリータ………………。」
女……フラヴィアは、掠れきった声で哀願した。
この半年の間に、どれほど容赦のない責めを繰り返されたのだろう。
もはやかつての気の強さなど面影もない。
マリータは、そんなフラヴィアを乾いた目で見下ろしていた。
助ける気など微塵もなかった。
「イヤよ。私は、お前みたいに恵まれた環境を捨てられない。今の暮らしを失うのが怖いの。
 そういう、愚かで弱い人間なの。…………可哀想でしょう? お前なら、そう言ってくれるんでしょう?
 大丈夫よ。お前は強いんだもの。そんな生活でも、きっとやっていけるわ」
マリータが微笑んだ瞬間、外で馬車のベルが鳴る。
「あら、お迎えみたい。ちょっと行ってくるわ」
「……どこ、へ…………? それに、その格好は…………?」
フラヴィアは立ち上がり、改めてマリータの姿を凝視する。
事実、マリータの格好は変わっていた。
煌びやかな白いドレス……ウェディングドレスだ。
「あら、聞いてないの? 私ね、今日ウェインと結婚するの。元はあなたの恋人だったのよね。
 彼、最初は心に決めた相手がいるからって、中々私を受け入れてくれなかったのよ。
 でも、何度も何度も何度もデートを重ねて、体も重ねて…………ようやく、私に振り向いてくれたの」
「……………………!!!!」
「あははっ、可愛い表情。ありがとう、祝福してくれて。私も、お前には感謝してるのよ。
 お前は私に光をくれた。こんなに素敵な人生をくれた。
 ……ねぇ。人生って、とても素敵なものよね!」
マリータは、彼女の人生で間違いなく最高の笑みを浮かべ、オーブンの扉から離れる。
そして揚々と歩を進めると、扉を開けて日の当たる外へと踏み出した。



鈴を鳴らしながら、馬車が遠ざかっていく。
フラヴィアはその場に崩れ落ちた。
空っぽになった頭と同様、ぐうぐうと腹が鳴っている。
床に転がっている生のジャガイモにまで這っていき、噛り付いた。
「ハグッ、アグッ、ン…………グッ、ゲホッ、ごぼっ!!」
無我夢中で食い、しかし噎せて、吐き出す。
そしてジャガイモをごろりと取り落とし、床に倒れこむ。

視界に映るのは、煤にまみれたオーブンの壁と、薄暗い闇。
そして身を伸ばしても届かない、遥か遠くにある光。


人生が、素敵………………?


そんな言い方、ずるい。ちっとも、つたわってこない。
せめて近くで言ってよ。この汚い床に這いつくばる、どん底の視線で…………。

フラヴィアは、虚ろな意識の底で考えながら、眠気に従って目を閉じた。



                          終
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専用執事調教

※イカされまくり小説。長いです。焦らし部分もまた長いです。
 妄想元はハンターハンターのアマネです。よろしければ脳内補完をば……。



幸運の女神というやつは、どうやら悪党も好みらしい。
俺なんぞに運を向けるのがその証拠だ。
俺はガキのころから、並外れて性欲が強かった。
見目が醜悪なせいで全くモテなかったが、いつでも性に飢えていた。
近所でも有名な美人をレイプして捕まり、出所したその日にまた行きずりの女を犯った。
挙句には、ただ犯すに飽き足らず、金持ちの娘を攫って自分好みに調教したりもした。
上手いこと逃げ隠れながら、累犯24件。
最後に捕まった時には、さすがにもう娑婆には戻れまいと覚悟したもんだ。
だが、そんな俺を必要とする裏の職業があった。『調教師』という職業が。
仕事内容は様々だ。
風俗に売られた素人娘を仕込んだり、痴女に新しい段階を垣間見せたり。
また変わったものでは、拷問訓練の一環として快楽責めを頼まれる事もある。
今日やるのもまさにそれだ。

調教部屋の扉が開かれ、今日の獲物が姿を現す。
背筋をしゃんと伸ばした歩き姿に、仕立てのいい黒のスーツ、黒のタイ。
雰囲気だけで世間一般とは異なる職種だと解る。
書類によれば女執事の見習いらしい。
執事といえば男というイメージが強いが、女執事にも需要はある。
たとえば中東。イスラムの文化圏において、男が女の居室に入るのは絶対のタブーだ。
だからゲストが女だった場合、男の執事ではサービスはおろか、入室すらままならない。
その点、女執事であればどんな状況にも対応できる。
また、そういう利点を抜きにしても、ハーレム目的で従者を女に統一する資産家も多いと聞く。

ただし、女執事は簡単になれる職業じゃあない。
執事を抱えるような人間は、世界経済に影響を与える大物である場合が殆どだ。
となれば当然、集る虫も多い。
敵対勢力に拉致されて辱めを受けたり、色男と一夜を共にする中で情報を盗まれたり。
名家の女執事には常にそうしたリスクがあり、ゆえに要求される能力も高い。
そのふるいがけを担当するのが、俺のような試験官だ。
『調教師からもたらされる責めの中で、72時間、明瞭な意識を保っている事』
いくつかの特殊な家では、執事の採用テストにその項目を設けている。
志望者の持久力や理性、苦痛および快楽への耐性、気品などが総合的に推し量れるためらしい。
筆記や面接、体力テストなどをくぐり抜けた先に待つ、最終盤の試練だと聞く。
耐え抜けば天国、さもなくば地獄というわけだ。
俺はそこの門番として、エリートの仮面を被った女を地獄に引きずり込むのが役目だった。



「32番、正道一華(しょうどう いちか)と申します。よろしくお願い致します」
女執事見習いは、そう告げて恭しく頭を下げた。
きっちり45度の最敬礼。されていて何とも気持ちのいいものだ。
その所作一つをとっても、間違いなく厳しい執事試験をパスした逸材だと解る。
だからこそ堪らない。
こんな極上の女を、これから丸3日のあいだ好きにできるんだから。

「顔を見せろ」
俺は一華に顔を上げさせ、改めて獲物を観察する。
痺れが来るほどいい女だ。
やや広めの額に、くっきりとした理知的かつ切れ長な瞳、細く長い眉。
顔の上半分はクールビューティ系だといえる。
しかし下半分を見れば、ほんの小さな鼻に、ぽってりと膨らみのある小ぶりな唇だ。
『美しい』と『可愛い』がちょうど良く共存していて、何ともいえず“そそる”。
挙句にはそれらの顔のパーツを、理想的な卵形の輪郭と、きっちり左右に分けた艶やかな黒髪が覆うのだ。
清楚・真面目な雰囲気まで加わり、いよいよ男の理想にピッタリ嵌まる。
間違いない。
他の部屋では、何人もの同僚がそれぞれ志願者を宛がわれている筈だが、一華はその中でも当たりだ。
そして、解ることはもうひとつ。
この一華は、是が非でも執事試験に合格せねばならない立場にいる。
表情こそ能面のようだが、未熟ゆえに切迫した気配を殺しきれていない。
焦りがある。
一般人が夢ありきで執事を志しているのではなく、執事の家系に生まれ、自らもそのレールを進むよう強いられているタイプだ。
その悲壮なまでの覚悟がひしひしと肌に伝わってくる。
だからこそ…………俺は決めた。
この女のアタマを徹底的に快楽で染め上げ、戻れない泥沼に引き摺り込んでやる。
輝かしい未来を、俺という汚れで塗り潰してやる。



「それでは、始めて下さい」
一華に続いて入室した女が、淡々とした声で告げた。
縁なしの眼鏡をかけた、いかにも堅そうな女。
同性を記録係にするのはせめてもの情けだろうか。
俺には、同じ女に見守られながら乱れるのは、余計に心苦しいように思えるのだが。
ともかく試験開始だ。
俺は下に穿いていたものを素早く脱ぎ捨てる。
現れるのは、今日この日の為に3日ばかり洗っていない逸物。
ブリーフを脱ぎ捨てた時点で、自分でも閉口するほどの体臭が部屋に広がる。
まずは洗礼として、こいつを咥えさせてやるとしよう。
「しゃぶれ。隅々まで綺麗にしろ」
俺はあえて横柄に命じる。
「承知しました」
一華は微塵の躊躇もなくそう応えた。そして顔色一つ変えずに俺の足元へと跪く。
完全なる滅私、というわけか。
奉仕に慣れたその様は、彼女が幼少時から執事としての教育を受けてきた事を裏付けるようだ。

事実、一華の口腔奉仕は尋常でなく巧みだった。
舌先を器用に操って恥垢を舐め取り、亀頭にぬめりを与える。
自然に包皮を剥きながら、カリ首に沿ってまた丹念に舐め清め、時に亀頭に戻って鈴口を吸う。
裏筋をちょうどよい舌の圧でなぞり、毛の生えた玉袋までを丹念に口に含んで転がす。
指での竿の支え方や、玉袋の握り具合など、まさに言う事がない。
まさに男の快感を知り尽くしているような、隅々まで行き届いた口戯だ。
記録係が走らせるペンも、この時ばかりは曇りなき良評価を綴っていることだろう。
「ぬっ……っぐぅ!」
思わず声が出る。辛抱堪らず、されるがままに勃起してしまう。
膨張率が半端ではない俺の逸物にも、一華は動じなかった。
縦に咥え込むのが難しいと判断するや、顔を傾けて頬の裏での奉仕に移る。
けれども俺は、その些細な『逃げ』を見逃さない。
やられ放しで終わるなど調教師の恥だ。
「手を膝に置け」
「……はい」
俺が短く命じると、一華は切れ長の瞳でこちらを見上げ、一瞬の後に従う。
そう。一瞬、一華は逡巡した。命令に従うことの意味を察したのだろう。
俺はその聡さを面白がりつつ、一華の黒髪を掴む。
そして後頭部を押さえつけたまま、強引に腰を押し進めた。
今からこの女に強いるのは、女の人権を無視した『イラマチオ』。
どれだけフェラチオの特訓をしようとも耐性のつかない、喉奥への蹂躙だ。

イラマチオの効果は覿面だった。
「ごぉふ、げふっぇえ゛…………っ!!」
喉奥へ飲み込ませてからわずか2秒後、一華は激しく噎せかえる。
フェラチオのあいだ官能的に薄く開いていた瞳は、余裕なく閉じられた。
小ぶりな口は限界まで縦に開かれ、頬に沿って線が浮き出ており、美しいとはとてもいえない顔立ちになっている。
だが、元の造りがいいだけあって、逆にそれがいやらしい。
数秒ほど奥まで咥え込ませたまま、後頭部を押さえていた力を緩める。
「げほっ、ぉごほっ! はっ、はぁっ、はぁっ!!」
その瞬間、一華は激しく噎せながら逸物を吐き出す。
酸素を求めて喘ぐ唇からは、濃い唾液の線がいくつも滴り、スーツのズボンに泡立つ染みを作った。
「苦しいか? 嫌ならここで奉仕を打ち切っても構わんぞ」
俺は、あえて一華に問う。
「…………いえ。お好きなだけ、喉の奥をお使い頂きとうございます」
一華は、片方の目尻から涙を零しながらも気丈に答える。
「ふん、ならそうさせてもらおう。くれぐれも歯は立てるなよ」
俺はそう注意を喚起し、イラマチオを再開する。
それから、何度も、何度も、一華に深く咥え込ませた。
「ごっ、おぶぅぐんんんお゛っ…………!!」
当然、えづき声が上がった。
未知の違和感を前に、一華は無意識にか顔を横へ逸らそうとする。
しかし、俺は両手でしっかりと頭を押さえつけてそれを制した。
あくまで縦一直線に、唾液の潤滑を助けにしながら喉奥へと挿入していく。
そのたび、一華の優れた顔立ちが崩れるのを楽しみながら。
「げっほ、ごぼっ…………ぶふっ! ごぉぉ゛えっ、ああ゛…………がっ…………ッオ゛!!」
えづき声は刻一刻と酷くなる。
さすがというべきは、それほどの状態にあってなお、一華の両手がわずかも膝から浮いていない事だ。
その膝にしても、ぴしりと揃った正座を崩さない。
なるほど品位は相当なものらしい。
だからこそ、イラマチオでの余裕のない様が余計に映えた。

「ごぉっうう゛え゛ぇ゛っ……!!」
6度目の喉奥蹂躙で、一華はとうとう気品のかけらもないえづきを上げる。
この時ばかりは、右手が膝の上で掻くような仕草を見せ、左目が引き攣るように薄く開いた。
しかしそこからは、いくらえづこうとも大きくは乱れなくなる。
「へへ。キツくてぬるくて、すげぇいい具合だぜ……」
一華の喉奥をまるで膣のように用いながら、俺は感想を漏らした。
このまま吐くまでやるのも手だが、恥辱を味わわせるにはまだ早い。
そして何より、俺自身がもう我慢の限界に達していた。
「いくぞ、出すぞっ!!」
俺はそう宣言し、一華の頭を鷲掴みにした。
一華の小さな鼻が擂り潰されるほどに腰を押し付け、食道の奥の奥で猛った己を解放する。
膨らみきった俺の分身は、2度、3度と跳ねた後に精を放ち始めた。
尿道が鈍く痛む。かなりの量が出ている。この日のために数日分溜め込んでおいたのだから当然だが。
「う……うう、む゛っ…………!!」
直接胃へ精液を流し込まれる形となった一華は、喉の奥で小さく呻く。
洗礼は完了だ。
そしてこの喉奥射精は、俺の猛った心を鎮める意味でも有用だった。
俺はこの一華を、ある理由から『徹底的に』乱れさせるつもりでいる。
肉をホロホロに柔らかくするには、長い時間をかけて煮込まなければならない。
コトコトコトコトと、時間をかけて。
その下拵え……つまりは長きに及ぶ前戯の間におかしな気を起こさぬよう、予め一発抜いておいたという訳だ。

たっぷり10秒ほどかけて射精を終え、俺は逸物を抜き出した。
「ふん、まぁまぁの量が出たな。味はどうだ」
「……はい。とても濃厚で…………美味しゅうございました」
俺の問いにも、一華は律儀に答える。途中の間はかなり心苦しげだったが。
一華の口から、唾液とザーメンの入り混じった糸が滴り、染みのできたスーツの下をさらに汚す。
「随分とズボンが汚れちまったな。脱いでも構わんぞ、ソックスも脱いでくつろげよ」
俺は喘ぐ一華を前に告げる。イヤミな物言いだと我ながら思う。
しかし金持ちの中には、こういう持って回った言い方をする人間は実際多い。
ここで少し慣れさせてやるのも、悪くはないだろう。
「有難うございます」
一華は硬い口調で応えながら、すくと立ち上がって革靴を脱ぐ。
そして片足ずつ上げてソックスを抜き取り、畳んで靴の中へ。
次にベルトへ手をかけて器用に外し、ズボンをずり下ろして折り目正しく畳む。
流石は執事候補の女。動きに淀みがなく、かつ品がある。思わず見惚れるような所作だ。
それだけに、貶め甲斐もあるというものだが。

靴とズボンがなくなったことで、ショーツのみを纏った一華の下半身が露わとなった。
スーツ姿でも目を見張るスレンダーなボディラインだったが、脱ぐとまた凄い。
ほどよく肉感的で、流線型の艶かしい脚の形をしている。
下着のモデルをしてもやっていけそうだ。
かつての俺が街中でその脚線を目にしたならば、間違いなく尾行して強姦リストに加えていた事だろう。
「っへへへ、美味そうないい脚ィしてるじゃねぇか。
 そんな脚見せられっと、抜いたばっかりだってのにまた勃っちまうぜ。
 いいか。男ってのはな、そういう脚を見てると、ぶち込みたくなる生き物なんだよ。覚えとけ」
俺は、露骨に生脚を眺め回しながら囁いた。しかし、一華は動じない。
「……はい。貴重な勉強をさせて頂きました」
マネキンかとも思えるような無表情のまま、手を後ろに組んだ姿勢で直立している。
上半身は黒スーツにタイという理想的な執事姿、けれども下半身はショーツのみ。その滑稽さが傑作だ。
「そうだろう。まぁ上がれ」
俺はベッドを指差して一華に命じる。
「はい。失礼致します」
一華は淡々と命令に従う。しかし俺には、その張り詰めた緊張が手に取るように伝わってきていた。
勘のいい事だ。ここからが、辛いつらい焦らし地獄の始まりなのだから。





俺はベッドの上の一華に、『マングリ返し』の格好を命じた。
頭を枕に乗せて寝転がったまま、膝が肩につくほど両脚を引くというものだ。
元より惨めなその姿勢も、今の一華の格好ならまた格別だった。
シルクのショーツを頂点に、白い脚がすらりと伸びる。
その脚の間には、きっちりとスーツを着込んだ上半身があり、その上には真面目そのものの美人顔がある。
これを絶景と言わずに何と言おう。
「いい格好だな。さすがのお前でも、その姿は恥ずかしいだろう」
「いえ。私はただ、ご要望にお応えしたまでです」
俺の嘲りの言葉をかけても、一華はあくまで機械的な態度を崩さない。
これは嗜虐心が煽られる。嫌でも人間的な反応を示させてやろう、という気分になる。
俺はゆっくりと太腿を擦りはじめた。
一華は反応を示さない。大抵の女が反応する、セクハラめいた触れるか触れないかの擦りでもだ。
ならばと、俺は純粋に太腿の感触を堪能しにかかる。
肌に吸い付くような肌理細やかさ。指先で押し込んだ際の張りも相当だ。
さすがは若い女の肌、年増のそれとはモノが違う。

一通り腿の感触を堪能した後は、いよいよショーツに注意を向ける。
上等そうなシルクのショーツだ。
どこを見ても純白で汚れがなく、優れたヒップラインに沿って隙間なく張り付いている。
全体として生地は薄く、非常に肌触りがいい。クロッチ部分だけはやや触感が違い、綿が使われているようだ。
俺は、そのクロッチ部分の少し前……薄っすらと肌色の透けて見える辺りに指を触れさせた。
そこにはクリトリスがある。
女体の中でもっとも敏感な部分にして、唯一快感を得る事にのみ特化した器官。
そこを、薄布越しにゆっくりと撫で付ける。
「っ!」
さすがに、これにはかすかな反応があった。しかしそれもほんの一瞬。
一華はすぐに表情を引き締め直し、天井の一点を眺め始める。
「ふん、隠すなよ。感じたんだろう、機械人形ちゃんよ」
俺は茶化しながら、さらに指での刺激を繰り返す。
クリトリスに強い刺激は必要ない。
親指の腹で押し込み、人差し指と中指で挟み、たまに薬指で弾く。
たったこれだけの事を数分繰り返すだけで、どれだけ気高く我慢強い女も、意思とは無関係に勃起させてしまう。
男がどんなブス相手でも、延々としゃぶられると勃ってしまうのと同じだ。
当然、口惜しさも同じだろう。

唾液で透けたショーツの中、徐々に徐々に、突起物が頭をもたげはじめる。
「へへ、勃ってきやがった。自分でも解るだろ。俺に舐められるのがそんなに嬉しいのか、オイ」
自分の醜悪さを十分自覚した上で、俺は問いかけた。
「はい……有難うございます」
一華はATMの音声のように淡々とした口調で応える。
しかし、やはりまだ未熟だ。言葉の継ぎ目に、わずかながら憮然とした気配が感じ取れた。
もっとも、その人間らしさが面白いんだが。

俺の悪癖が疼く。
相手が我慢しているのが解るほど、本性を暴きたくなる悪癖が。
俺は一華のショーツの端に手をかけ、ゆっくりと腿を滑り上がらせていく。
そして両の足首から抜き取るや否や、裏返してクロッチ部分に鼻を付けた。
ハッとした気配が下から伝わってくる。
それを感じながら、俺は存分にクロッチ部分の匂いを嗅ぎ続けた。
俺にしてみれば嗅ぎ慣れた匂いだ。汗で蒸れたショーツの匂いなぞ、どの女でも大差はない。
それでも、目の前で下着を嗅がれているという事実は、一華の鉄の心を腐食させるはずだ。
弱いジャブであろうと、打っておけば後々への布石になる。

ショーツを十分に嗅いだ後は、いよいよ剥き出しになった秘裂とのご対面だ。
「おほっ」
思わず声が出た。一華の秘裂が実に鮮やかなピンクだったからだ。
位置はやや下つきか。
大陰唇は菱形に近い形で、小陰唇は隙間なくぴちりと閉じ合わさっている。
美しい女性器の見本として教科書に載せたいほどだった。
俺はほぼ無意識に、秘裂へと口をつけた。
まだ微塵も濡れている気配のない緋色の肉に、唾液で潤滑を与えていく。
凹凸の隅々まで舐める気持ちで、丹念に、丹念に。
独特の臭気を伴う肉の味。
脳裏に一華の顔を思い浮かべれば、それがひどく刺激的に思えた。
陰毛が顔をくすぐる事もない。
茂みは几帳面にも、最小のデルタゾーンだけを残して処理されているからだ。

満足するまで秘裂を舐め回した後は、別の部分も味わっていく。
内腿を手で優しく撫でながら、舌でもくすぐるように舐め。
丘を下るようにして、性器と肛門を繋ぐ蟻の門渡りへも入念に舌を這わせに向かう。
「っ…………んっ…………」
一華は、ほとんど声を上げない。
肉体的な反応にも乏しく、たまに反射的に腿などを強張らせるばかり。
そうして頑張られると、余計に虐めたくなるのがサドの習性だ。
俺は舌先を、門渡りから後ろの孔へと移していく。

放射線状に皺の並んだ、まさしく菊の花のようなアナル。
排泄器官だというのが疑わしくなるほどだ。
その皺の一本一本まで舐め清めるように、丹念に唾液を塗りこめていく。
そして唾液が十分に溜まったところで、ずぞぞーっとわざと音を立てながら一気に啜る。
普通の娘なら嫌がって叫んでいるだろう。
だがそれでも、一華は無反応を通していた。
くっきりとした切れ長の瞳は、人形のように天井を見つめるばかりだ。
「ずいぶん大人しいじゃねぇか。実はこっちに慣れてんのか?」
俺はそう言葉責めを投げかける。
ぴっちり閉じたアナルからそれはないと知りつつ、だが。
「いえ。肛門部を性行為に用いた経験はございません」
一華は顔色も変えずに告げる。
結局、指が一本らくに入るほどまでアナルをくつろげても、一華が反応を示す事はなかった。
菊輪は紛れもない性感帯の一つ、これだけ舐めて本当に何も感じていない筈はない。
想像以上の我慢強さ。いよいよ嗜虐心が煽られるというものだ。

一華の余裕を剥がすため、俺は再びクリトリスを責めることにした。
今度はショーツ越しではなく、直にだ。
上唇と舌でクリトリスを挟み込み、包皮を優しく剥いてやる。
そのまま、舌で転がすように舐めていく。
陰核責めは女性の自慰の基本。これを無視できる女は、絶対に居ない。
「っ!!」
一華もやはりそうだった。
クリトリスを責め始めてから数十秒後。『マングリ返し』のまま太腿を強張らせ、小さく息を呑む。
俺はその反応を感じつつ、さらに優しく責め立てた。
全体を舐め転がすような動きに加え、根元をくすぐるように舐めもする。
一般に、根元への責めが最も反応がいいからだ。
自らの腿へ宛がわれた一華の指が、かすかに肉をへこませるのが見えた。

舌の中のクリトリスは、刻一刻と硬さを増していく。おおよそ六分勃ちという所か。
経験から言って、ここに至るころには大体の女が膣を濡らしているものだった。
クリトリスをなお舌で責めながら、俺は指をゆっくりと秘裂の中へ潜り込ませる。
ぐちゅり、と音がした。
思ったとおりだ。この澄ました女でも、クリトリスを責められて濡れない道理はない。
少し指を進めれば、膣壁の一部に盛り上がっている部分がある。
いわゆるGスポット……女体における二つ目の泣き所だ。
ここもクリトリスと同じく、あまり激しくするより、甘く責めた方がいい。
指先でGスポットを撫でるように刺激しながら、クリトリスを舐め転がす。
飴と鞭ならぬ、飴と飴。
甘すぎる調教は、人間をより早く堕落させるものだ。

「……………………ぅ、ぅっ………………………………!!」

小さな、けれども確かな呻き。
それが俺の耳に入る頃には、一華のクリトリスはほぼ完全に勃起しきっていた。
包皮は勝手に剥け上がり、赤らんだ陰核を木の実のように零れさせる。
男なら天を突くような、ギンギンの勃起だ。
こうなってはさしもの一華も無反応とはいかず、小さな喘ぎを噛み殺すしかない。
天井の一点を見つめていた視線も、不安げに下腹部を覗き込むようになる。
だが俺は、まだまだ許さない。まだまだ焦らす。

勃起しきったクリトリスにふーっと息を吹きかけると、一華の腰が蠢いた。
神経が剥き出しになったような今は、吐息でさえ堪らないらしい。
何度か息を吹きかけて愉しんだ後は、二本指でクリトリスを優しく撫で上げる。
クリトリスの根元、包皮とのちょうど境目の辺りを刺激する。
無論、膣内ではGスポットを撫で回しながらだ。
狂おしいほどの快感が下半身を巡っているはずだが、絶対にイカせない。
苦しむ一華を観察しながら、思う存分嗜虐心を満たす。
「…………………………ッ!!!!!」
また声にならない悲鳴が、一華から漏れた。
泣きこそ入れないが反応は上々だ。
Gスポットを責めている膣からは愛液が滲み出し、指が動くたびに水音を立てる。
歯を食いしばった顔が、何かを振り切るように左右へ揺れるのも面白い。
太腿や膝下もひどく蠢き、自らの意思を持つかのようだ。

結局この弄びは、一華の身が『マングリ返し』を保てなくなるまで、数十分に渡って続くことになった。





ベッドから下ろした時、一華は水を被ったような汗をかいていた。
スーツの下に着込んだシャツはすっかり濡れ、肌の色を浮かび上がらせている。
「そう汗を掻いちゃあ気持ちが悪ィだろう。拭ってやる、脱げ」
俺がタオルを水に浸しながら命じると、一華はかすかに身を強張らせた。
上まで脱げば丸裸。
俺のように醜悪で品のない男へ裸を晒すのは、育ちのいいこの女にとってさぞや屈辱的だろう。
とはいえ、逆らえるはずもない。これは執事試験の一環だ。
「温かいお心遣い、感謝致します」
一華は30度の礼と共にそう告げる。
スーツの上着を脱いで几帳面に折り畳み、シャツも同じく畳んで重ねる。
終始背筋を伸ばしたままの、きびきびとした脱ぎ方だ。
そしてブラジャーのホックを外せば、その下からは控えめでない乳房が姿を見せた。
スーツ姿の時はスレンダーという印象だったが、着痩せする方らしい。
おそらくDはあるだろう。
若いだけあって形が良く、皿の上で踊るゼリーのような張りが見て取れる。
性器と同じく、乳輪も淡いピンクだ。全体に色白であるため、その桜色も実に映える。
ウィストラインも実に見事で、モデルとしてもやっていけそうに思えた。
「いい身体してんじゃねぇか。スーツなんぞで隠すにゃ勿体ねえぜ」
俺は絞ったタオルで一華の汗を拭いながら、舐めるように囁きかける。
「嬉しゅうございます」
一華は口調こそ恭しいが、マネキンのように前方を眺めるばかりだ。
まだまだ気丈というわけか。
俺はこみ上げる嬉笑いを殺さぬまま、次なる責めに向けて一華を拘束しはじめた。

両腋を晒す格好で、頭上に一纏めにした両手首へ革手錠を嵌める。
さらにそれを天井からの鎖で吊るす。
無防備にして、屈辱的な格好ができあがった。
腋を晒すというのは、人間が本能的にもっとも嫌うポーズの一つだ。
だからこそ調教には都合がいい。
M気質の奴隷には興奮を与えられるし、反骨心の強い奴隷は疲弊させられる。
また、天井からの鎖も、身体をびしりと伸ばすようにはしない。
長さにはかなり余裕をもたせ、女がある程度腰を沈められるようにしてある。
快感で腰がガクガクになってがに股をつくる様は、見ていて面白いものだ。
さらに、膝を曲げた姿勢の方が腹圧や膣圧が高まり、より膣で感じやすくなるというメリットもある。

身動きの取れない一華を前に、俺はひどく興奮していた。
まさしく極上の女。その極上の女を好きにできるという現状は、夢のようにしか思えない。
夢でないことを実感するため、俺は一華の前に歩み寄った。
指で顎を上げさせ、澄ました美貌を堪能する。
そして、やおらキスを迫った。
「……………」
一華は無反応だ。俺が体重をかけたことで、鎖だけが頭上で鳴る。
俺としては、反応があろうがなかろうが構わなかった。
相手の目を見つめたまま、否応なく口づけを強要する。
まったく役得というもんだ。
俺は昔からまるでモテず、クラスで人気の女子とキスする妄想こそすれど、その夢が叶う事はなかった。
攫った女にキスを迫った時も、いつ噛まれやしないかという不安があった。
それが今は、これだけいい女を相手に好きなだけできるんだから。
「どうだ、俺とのキスは」
これ見よがしにそう尋ねてみる。一華は即座に答えた。
「は、深い愛情を頂いていると感じております」
おそらくは嫌な責めに備えた、この女のマニュアル通りの言葉なんだろう。
だが俺は、その心中を酌んでなどやらない。
「なるほど。って事は、嬉しいんだな? よしよし、ならもっと濃厚にやってやるよ。
 お前ももっと舌を絡ませて、情熱的にやっていいぞ。
 唾液という唾液を交換しきるぐれぇになあ」
「……光栄にございます」
最後の返答にはさすがに逡巡が見られた。だが、肯定は肯定だ。
俺は一華のうなじと腰に手を当て、宣言通り濃厚なキスを繰り返す。
舌を絡ませあい、歯茎を舐め、交換した唾液を飲み下し。
はぁはぁと犬のように荒い息で執拗に貪りつくす。
一華はまるで動じない。
俺のような醜悪な男とのキスなどおぞましいに違いないが、その気配を見せない。
こちらを見ているような、そうでないような瞳を続けるばかりだ。
だがそれも、間もなく変わる。

俺は抱きしめた柔らかな身体を様々に弄り、その末に秘裂へと指を滑り込ませた。
クリトリス責めで焦らしまくった場所だ、当然まだ濡れている。
俺はそれを確かめ、責めに転じた。
親指で陰核を刺激しつつ、人差し指・中指で膣内を刺激する。
「っ!!」
俺の舌の中で、一華の舌が蠢く。反応あり、だ。
俺はほくそ笑み、顔を傾けて更なるディープキスを強いた。

クリトリスと膣の同時責めは、やはり格別らしい。
初めのうちは律儀に直立していた一華の脚も、次第に反応を示し始める。
二回ほど、手の動きを拒むように内股に閉じられ、その後も右足の裏が何度も床から離れた。
「ふはっ……はぁっ、はぁっ…………ハッ…………」
ディープキスから開放すると、一華は激しく喘ぐ。
横を見ている瞳はかすかに潤み、発情の兆候を見せている。
「こっちを見ろ」
俺はあえてそう命じた。そして一華が従うと、視線を合わせたままキスを再開する。
勿論、秘部への責めも継続してだ。

動きに大きな変化などはない。だが、一度濡れた女というのは刻一刻と変化していく。
発汗、手足の硬直、そして……愛液。
どれだけ指責めを続けているのか自分でも解らなくなった頃、一華の愛液は滴るほどになっていた。
親指で陰核をこねながら、二本指で膣内を刺激する。
その手の平から手首にまで透明な液が伝い、床に垂れていく。
むちりとした太腿が強張り、吊るされた鎖が鳴る。
「~~~~~~っ!!!」
口づけを交し合う中で、さも堪らなさそうな叫びが起こった。
だが俺は、冷静に一華の舌を絡め取り、悲痛な叫びを揉み消す。
黙ってろ。まだまだ、あくまで焦らしぬく。そういう意思表示だ。
一華はそれを感じ取ったのか、瞳に戸惑いを孕ませた。

熱をもった膣の締めつけは刻一刻と強まり、ゴム手袋を嵌めたまま熱湯をかき回すかのようだ。
「え、く……っ!」
一華自身、キスをかわしながら絶頂の宣言をするようにもなっていた。
だが、決してイカさない。
本当の際まで追い込んだ時点で、秘部への刺激を緩める。
我ながら残酷だ。
さらに、ただクールダウンさせるわけではない。
ひとまず一華の口を開放するが、すぐに別の場所を責め立てる。
剥き出しになった左腋だ。
「っ!!」
一華は声こそ上げないが、頭上の鎖を煩く鳴らした。
俺はその反応を楽しみながら、丹念に腋を舐め上げていく。
かなりの汗臭さとしょっぱさがある。
それは一華本人もいやというほど解っているだろう。
「汗をかいただけでこんな匂いをさせるなんざ、執事としてはどうなんだろうなぁ。ええ?」
俺は、あえて言葉責めを織り交ぜた。
一華の腋汗は、けっして不快というほどではない。むしろ、毛も含めてよく手入れされているものだ。
しかし一華としては、事実はどうあれ俺の言いがかりを受け止めるしかない。
それは、人に従属する上での必然だ。
「も、申し訳ありません。以後、気をつけます」
気丈にそう答えるが、珍しく話し始めがつっかえていた。
俺はその後も、鼻を鳴らしながら舐め続ける。
そんな俺を、一華はどうやら不気味そうに見下ろしているようだった。

一華の性的興奮は、今や相当なものになっている。
たまに漏れる声や表情からもそれが窺えるが、肉体的な変化はさらに解りやすい。
乳房全体が、最初とは見違えるほどに膨らんでいる。
しこり勃った乳首などは、バキバキに勃起した男根と同じく、見ているだけで痛々しいほどだ。
そして、その痛々しい勃起を呑み込まんばかりに、周りの乳輪も大きく盛り上がっていた。
ふっくらと膨らみ、ほんのりと赤みを帯びた乳輪だ。
そうした弱点を見つけたとき、調教師がすることは一つ。
盛り上がった乳輪を指先でなぞり、しこり勃った乳首をコリコリと指で弄ぶ。
「んんんんんんんっ」
切ない呻きが上がった。
間違いなく強い快感を得ているだろうが、胸への刺激だけで逝ける女はまずいない。
仮に逝ったとしても、ごく弱い絶頂で満足には程遠い。
だからこそ、俺は安心して乳房責めを繰り返す。
乳輪の下側を二本指で挟むように掻き毟った瞬間、一華は特に激しい反応を示した。
「ん、ぁぁ……っ……!!」
一瞬俺の方を振り向いた瞳は、まるで俺を悪魔と罵るかのようだった。
無論、賞賛だと受け取るが。

妊婦であれば、とっくに身体中が母乳で染まっているほど乳房責めを施したあと、次の責めに移る。
背後からの秘裂舐めだ。
鎖の長さを調節して、一華に軽い前傾姿勢を取らせる。
「尻を突き出せ。舐めてやる」
俺の命令に、一華は逆らえない。
「ふーっ……ふーっ…………よ、宜しく……お願い、致します…………」
気息奄々といった様子で応え、言われるがままに尻を突き出す。
腰のラインからそのまま続く、スレンダーな尻だ。安産型とは言い難いが、子供らしい青さとも違う。
ほっそりとしたモデルのそれだ。
俺は思わずぶち込みたくなる衝動を押さえつつ、尻肉を両手で割る。
思わず頬が緩んだ。
尻の合間から覗いた秘裂は、もうすっかり出来上がっている。
赤く充血して膨らんだ陰唇に、はしたなく拡がって愛蜜を滴らせている。
初めはあんなに楚々とした理想的な形だったが、こうなってはソープ嬢のものとなんら変わりない。
諸行無常。調教師をやっているとつくづく実感する単語だ。
もっとも、俺は開発されたエロい性器が嫌いじゃないが。


ねっとりと湿った秘肉を掻き分ければ、濃厚な女の匂いが鼻腔を満たす。
口をつけると、すぐに顔中が愛液でべたつく。
「ひどい濡れようだ。匂いもすげぇ」
俺は、わざと一華本人に聞こえるような独り言を呟いた。
相手が反応しようがしまいが、とにかく責めている間は言葉責めを欠かさない。
逐一惨めな現状を認識させてやる事が、女を早く堕とすコツだ。

「へへっ、美味ぇ汁だぜ。だが少しばかりしょっぺぇな。小便でも漏らしたのかよ、えぇ?」
細かに言葉責めを織り交ぜつつ、背後から秘部を舐めしゃぶる。
火照った身体には、これだけでもかなりつらい。
途中に休みを入れながら、10分ほど続けた頃か。
洞穴の奥からは、いよいよ大量の愛液があふれ始めていた。
口で啜っても追いつかずに、顎のほうへ滴っていくことが何度もある。
俺は、ごくりと喉を鳴らして愛液を呑み込んだ。
ふつう女の愛液なんぞ、美味いものでは決してない。
だが、美人の愛液は話が違う。
一華のように凛とした女の愛液と思って呑み込めば、蜂蜜より甘露に思える。
「………………っ」
自分の愛液を飲み込まれたと察したのか、一華の気配が強張った。
その反応が面白く、俺はしばし無心で愛液を啜り続けた。
鎖の音と、ずずず、ずずずっと汁を啜る音ばかりが室内に反響する。
両頬に密着する一華の内腿が、びく、びくんっと緊張・弛緩を繰り返す。
それはとても滑稽で、とても愉しい。
ある時ふと口を離して観察すれば、一華の腰はガクガクと小さく震えはじめていた。
執事試験の中には、『60キロのマラソンを規定時間内に走破する』という項目があると聞く。
それを通過したこの女が、ここでバテるとは思えない。
疲弊というより、極度の興奮ゆえの痙攣だろう。
俺はそう分析しつつ、さらにギリギリのラインを目指して一華を高めていく。

あえて大股を開かせて舐めると、一華は少し気を抜くだけで“がに股”の姿勢になってしまう。
「あさましい格好だな」
完全にがに股になったと見るや、俺は大声で告げた。
そしてそれに呼応するように、記録係の女がペンを走らせる。
能面のような無表情だが、その面の皮の下ではほくそ笑んでいるのではなかろうか。
「し、失礼しました!」
一華ははっとした表情を見せ、すぐに品のよい格好に戻ろうともがいた。
しかし、俺がぐいと太腿を押しのけ、秘裂を舐めはじめるのでそうもいかない。
むしろ、揉みあううちに余計ひどい状況にもなる。
大股開きの下に俺が潜り込み、真上の秘裂に向かって汁を啜り上げるような格好がそれだ。
「くひぃっ……!!」
一華かなり余裕のない喘ぎを上げる一方で、自分が取らされている格好に動揺を示していた。
俺はそんな一華を前に、わざと片足を高く掲げさせたりする。
両腋を晒して拘束され、あられもない大開脚を強いられたまま、あふれる愛液を啜られる。
挙句にはそれを、冷たい目をした同性に記録されるわけだ。
まったく酷い状況としか言いようがない。
だがその羞恥こそが、引き返せない悦楽への入口でもある。

「ハッ、ハァッ…………ハァーッ、ハッ、ハッ、ハッ………………!!」

一華は項垂れたまま、短い喘ぎを繰り返すようになっていた。
身体中がサンオイルを塗ったように汗で濡れひかり、ほつれた髪が顔にかかっている。
実にいやらしい。
秘裂を舐める間に俺の勃起も天を突かんばかりになり、今すぐ抱きたくなってしまう。
だが、まだ早い。懐中時計で確認すると、焦らしを始めてから約3時間。
まだまだ、ぬるい。
この女のアタマを徹底的に快楽で染め上げ、戻れない泥沼に引き摺り込んでやる。
初めにそうプランを立てた以上、誰が泣こうが喚こうが、曲げるつもりはない。





人間には何か一つぐらい、時間を忘れて没頭できる事があるものだ。
俺にとってそれは……やはり、女を嬲る事だろう。
一華の手錠を外し、戦場をベッドに移してから6時間半。
水分補給のついでに懐中時計を確認した時、俺は自分でも呆れた。
それだけの長時間、俺は夢中になって一華を嬲っていたのだから。

責めは実にシンプルだ。
一華を仰向けでベッドに寝かせ、両膝を立てた状態で脚を大きく開かせる。
そしてその秘裂のごく浅い部分とクリトリスだけを、繰り返し刺激する。
これだけだ。
絶対に指を膣深くは入れない。絶頂も許さない。
この生殺しは、あらゆる女を腐食する。
高級住宅街に住む処女のお嬢様でさえ、これを4時間も続ければ泣き喚いて挿入をねだるほどだった。
一華も、きっとそうだったに違いない。
違いない、というのは、俺はよく覚えていないからだ。
ゲームに熱中するように秘部への刺激に没頭するあまり、一華に注意を払っていなかった。
とは言っても、挿れてと泣き叫んでいればさすがに解るだろう。
一華は、あくまで静かに、しかし色々な反応を示していたようだ。

ああ、そういえば思いだした。
今からおそらく2時間ほど前、10秒以上にも渡って呻き声がしていた気がする。
「ううーーーーーーーーっっ!!!!」
丁度こういう具合だ。それが10秒あまり続き、俺はそれが可笑しくて、余計に淡々と責めた。
するとその後も、ううーっ、ううーっと何度も呻きが上がったと記憶している。
弄くっていた場所の少し上から小便が漏れ、散々に言葉責めで詰ったのはその少し後か。
思えばそこが、一つの転機だったんだろう。
荒い呼吸に混じって喘ぎ声のようなものが聴こえだしたのは、その辺りのはずだから。
くちゃ、にちゃ、にちゃ、くちゃ、くちゃ……という秘裂を嬲る音に、あっ、あっ、という声が合いの手のように響いた。
それがとても嬉しかったのを覚えている。
腰が妖しく上下に揺れるようになりはじめたのも、視界の端で一華の足指がシーツを掴むような動きを見せたのも。
すべてのあの辺りからだった。

しばしの休息ついでに、顔を上げて状況を確認する。
一華の様子はすっかり変わっていた。
艶のあった黒髪は、しなびて海草のように顔にかかっている。
顔は風邪でも引いたように赤らんで、眉は力なく垂れ下がり、瞼も閉じられている。
口元からは涎が垂れているように見えるが、そもそも顔中に滝汗をかいているので判別が難しい。
汗は顔のみならず、全身をくまなく濡れ光らせている。
特に両乳房の間には、首筋からの大粒の汗が何本も流れ落ちていた。
その乳房自体、前よりもさらに膨らんだように見える。
両手は万歳をする格好でシーツを掴んで耐えているらしいが、そのせいで頭上周辺のシーツは皺だらけだ。

視線を下げていくと、俺自身の逸物が視界に入る。
先走りが射精と見紛うほどにあふれていた。
極度の興奮と、たまに姿勢を変える際、シーツで擦れて刺激を受けるせいだろう。
俺がそこまでである以上、一華の愛液も尋常じゃない。
小便を漏らしたことを抜きにしても、夥しい量が飛び散っている。
指で秘裂を開いて観察すると、ヒクつく膣の合間から、白い愛液があふれてくるのが見えた。
「本気汁がどんどん溢れてくるぞ。いやらしいもんだな」
そう言葉責めをかけると、一華の閉じた瞼が震える。

それらの状況を把握して、なお、俺は責めを継続することにした。
今までの経験から言って、この時点で挿入しても、女が乱れることは確実だ。
叫び声を張り上げ、未知の快感に悶え回るだろう。
だが……今日は、その先を見てみたい。
この貪欲な俺が疲れ果てるほど責めた後、どうなってしまうのか。それが知りたい。
「姿勢を変えるぞ」
俺はそう告げ、一華の右脚を持ち上げて肩に担ぐ。
一華は薄く目を開いて視線をよこした。
「まだするのか、とでも言いたげな目だな。図星だろう?
 甘えんじゃねぇぞ。まだまだ可愛がってやっからよ、強情な姉ちゃん」
俺は秘肉を指でなぞりながら告げた。
久々にGスポットを浅く刺激すると、肩に乗せた右脚が痙攣するように反応する。
「ク、っっっ…………!!」
相当に辛そうだ。
さも入れてと言わんばかりの反応……だが一華本人は、片腕で口を抑えて必死に耐えている。

長い戦いになりそうだ。





調教を始めてから、半日が経った。
随時休憩を挟みながら進めたとはいえ、さすがにもう腕が限界だ。
一華は何度も限界に近い反応こそ見せるものの、ギブアップを言葉にすることはない。
ここまでくれば、もはや我慢比べだ。
俺はぐったりとした一華の背後に回り、背を俺の胸へと預けさせた。
この姿勢には意味がある。
綺麗なうなじやら、柔らかい肉やらと密着したい下心もあるが、もう一つ。
人間は後ろ向きに倒れる時、反射的に脚を開くもんだ。
尻餅をつくときだってがに股だろう。
つまりはこの姿勢を取らせている限り、一華は俺が注意するまでもなく、勝手に股を開いているというわけだ。

俺は一華を抱いたまま、ベッドの上で体勢を整える。
壁の一つに備え付けられた姿見へ、ちょうど全身が映り込むように。
「見ろよ、鏡で全部丸見えだ。マンコがヒクヒク蠢いてやがるぜ、だーれも触っちゃいねぇのにだ。
 よっぽどチンポを咥え込みたがってるらしいな、うん?」
「………………っ!」
乱れた黒髪の間から、涙に潤んだ瞳が覗く。瞳は鏡に写った醜態を見やり、歪む。
濡れた秘裂を大股開きで晒す姿は、確かに直視がつらかろう。
特に人間は、自分の傷口を直視すると、余計に痛く感じる生き物だ。
「教えておいてやろう」
俺は、一華の耳元に囁きかける。
「お前はこれから、アソコに触りたくて触りたくて、どうしようも無くなる。
 今でも十分そうかもしれんが、そんな比じゃなく、だ。
 だから……今の内に、手を使えなくしておく」
そう告げて、一華の左右の手首を掴んだ。
それぞれを俺の首の後ろへ。ちょうど、背後にいる俺の頭を抱きかかえるように。
そして、その位置で手錠を嵌める。

俺の顔を挟むように両腋が晒されたせいで、一華のむせ返るような汗の匂いが漂いはじめていた。
脂汗をかなり掻いたせいか、前よりさらに生々しい。
最初にスーツ姿を見た時には、こんな濛々とした臭気を発するイメージは微塵もなかったものだが。
「えれぇ匂いさせやがって。執事試験にゃあ、体臭って項目は無かったのかよ?」
俺の言葉責めで、一華は心から恥ずかしそうに顔を歪める。
その反応を愉しみつつ、俺は責め具を手に取った。
マッサージ器。
有史以来あらゆる責め具の中でも、最も画期的なのがこれだと俺は思う。
「今度は、こいつで可愛がってやる。機械が生み出す細かな振動に、長時間耐えられる人間はいねぇ。
 今まで以上の地獄だぞ?」
一華の耳元に囁きかけながら、俺はマッサージ器のスイッチを入れた。

ほんの一瞬クリトリスを舐めさせる。
ただそれだけで、ぞくんっ、と艶かしい脚が蠢いた。
当然といえば当然の反応だ。
この女は、実に半日という長時間に渡って絶頂間際の焦らしを受けている。
性感帯の神経は極限まで張りつめているだろう。
ほんのわずかな間違いで達してしまうほどに。
その状態をどれだけ継続させられるかが、調教師の腕の見せ所だ。
表面張力ギリギリまで瓶に水を満たし、蒸発で少し余裕ができるたび、一滴一滴注ぎ足していく。
決して零れないように。決して楽にしないように。

十分に濡れきった女にマッサージ器を当てると、面白い現象が起きる。
ブジュジュジュジュジュッと水音がして、あふれ出した愛液が四散するんだ。
勢いよく出している蛇口を指で押さえると、水が四散するだろう。ちょうどあんな具合だ。
「ぅぅ……うううぅ。…………うぅう…………ぅぅうああはあっ………………」
マッサージ器を微弱な出力で押し当てている間、一華からは呻きや喘ぎが漏れる。
刻一刻とその声はくぐもったものに変わり、内腿の筋肉は収縮してマッサージ器を持ち上げ始める。
そしてそれらが、ふっと止まる瞬間がある。
ここが快楽の分水嶺だ。ここをコンマ一秒でも見逃すと、相手の絶頂を許してしまう。
逆にここですっと責めをやめれば、生殺しの継続成功だ。
「ああっ!!」
俺がマッサージ器を引いた瞬間、一華は絶望に満ちた表情でその先端を追う。
飢えきった獣が、肉の皿を下げられた瞬間のようだ。
「…………そんな………ぁあ、そんなっ………………う、ああ……あ………………っ!!」
涙と涎を垂らしながら、ブツブツと未練を零す一華。
俺はその横顔を眺めるのが、たまらなく好きだ。
「はははっ、全身でイキたいイキたいって主張しやがってよ。本当にあさましい女だな、オマエ。
 どうだ、はち切れそうなぶっといのが欲しくなったんだろう。
 挿れてって一度、たった一度でもおねだりすりゃあ、すぐに苦しみから解放してやる。
 勿論、こんな早くにチンポ求めるような色狂いはまず落第だろうがな。
 だがまぁ、早ぇトコ諦めちまいな。名家の執事なんぞ、お前さんにゃ荷が勝ちすぎたのさ」
俺は一華に囁きかける。
目的をダシに煽れば、この女は必ず、強気な瞳で気を持ち直すからだ。
「…………はぁっ、はぁっ…………つ、謹んで、お断り致します…………!!」
あくまで硬い口調で告げてくる。
涙まみれ、鼻水まみれ、涎まみれの分際で。
そんな姿を見せられると…………ますます、惚れてしまうというもんだ。

直前の様子からして、クールダウンに充てるべきは8秒。
俺は経験でそれを算出しつつ、きっかりに会話をやめてマッサージ器を秘部に近づける。
毎度毎度、押し当てるだけなんて野暮はしない。
マッサージ器の用法は、それこそ四十八手が作れるほどにある。
側面を陰唇に宛がう、クリトリスに触れさせる。
頂点の丸い部分を陰唇に、クリトリスに。
間に指を挟んだ状態で、筆の先を介して、あえてシーツに半分ばかり衝撃を吸収させて……。
その全てで感じ方がまるで違ってくる。
それらのテクニックを使い分けながら、威力も都度変え、出来うる限り限界寸前を維持するわけだ。
前にやった責めを模倣するのも面白い。
たとえば、膣とクリトリスの同時責めだ。
膣への緩やかな指責めと平行して、クリトリスを触れるか触れないか程度にマッサージ器で撫でる。
これをやると……女ってのは『泣く』んだぜ。
前とやってることはほぼ同じなのに、ボロボロと涙が零れていくんだ。
ここまで来ると、あまりにも快感が強すぎて“痛み”だと脳が判断するのかもな。

俺は、さらにたっぷりと一華を愛してやる。
マッサージ器の頂点にある球体部分で、クリトリスを押さえつけるように責める。
威力はやや強めでだ。
「んんんんんっ…………ふむぅうっ、ううっ…………うんうううぅう“っ…………!!」
一華は出産時のように息みながら、少しずつ顎を上げていった。
視線の角度が水平から60度ほど上がったところで、俺は機械を遠ざける。
「く、く、ぅうっ…………!!」
一華は皺にまみれた悲痛な泣き顔を晒した。
今回は、絶頂寸前からやや早い。時おりこうして緩めの責めを混ぜる事が、長く続けるコツだ。
勿論、その次はまさに限界の際の際まで追い込むが。

もっともこの女が好む『膣とクリトリスの同時責め』を用いて、とろ火で危険域にまで煮立たせていく。
首の後ろで、手錠が痛いほどに俺の肌を圧迫する。
「あぁ…………ぁぁぁ…………ぉ……。……ぉお、っほおお…………ぉおおおお“……ッ!!!!」
ついに聞き慣れない喘ぎが出た。
姿見に視線を移せば、真実がわかる。一華は、とうとう白目を剥きはじめているようだ。
口を『お』の字に開いて顎を引き、心の底からという様子で濃厚な快楽の呻きをもらしている。
普通なら調教の最終段階に見せる反応だ。
だが、無理もない。
膣に指を入れれば、容易に触れられる位置にまで子宮口が下りてきている。
普段は軟骨のようにコリコリとした感触のものだが、今はそれがだいぶほぐれていた。
やろうと思えば小指の先ぐらいはねじ込めるだろう。
この子宮口をほぐすために、寸止めの焦らしを重ねてきたようなものだ。
ポルチオ性感は、軽い絶頂を数知れず重ねた果てにようやく目覚める、女体最後の難関。
それだけに、快感の量はクリトリスや膣内の比ではない。
クリトリスは局所的に痺れるよう、Gスポットは下半身に電流が走るようだというが、
出来上がったポルチオの快感は、雷に打たれたような快感が数十分にも渡って継続するという。
「解るか。ここが子宮口だ。今おまえ、子宮口を触られてるんだぜ」
俺はあえて言葉に出しながら子宮口を弄くり回す。
一華はすごいもんだ。
俺がほぐれた子宮口を指で押しつぶすと、その一瞬だけ完全に白目を剥く。
スレンダーな身体が痙攣をはじめる。
「おほっおおぉおおおっ…………!!!」
通り一遍のセックスでは絶対に出ないような、深い快感の呻きを上げながら。
不思議なもんだぜ。
横顔は美人、白い喉も美形、膨らんだ乳房は理想的で、腹から下のスタイルは超モデル級。
そんな、ボディラインだけで勃起させてくるようなイイ女が、メスとして最低の呻き声を上げる光景ってのは。

一華の痙攣が細かくひどくなってきたところで、俺は一切の責めをストップさせた。
「あ……っ!!」
一華はなおも肩の辺りをピクピクと痙攣させながら、俺の方に視線を寄越す。
こういう瞬間の女の表情ってのは、ゾクーッとくるぜ。
何というか、ものすごいんだ。瞳孔に光がなくって、半開きの口が涎垂らしてて。
ドラッグを極めた果てのような…………まぁ、脳内ドラッグはガンガンに垂れ流しになってるんだから当然か。
2秒もすれば瞳孔に光が戻って、潤んだメスの顔になるんだけどな。
ともかく、ついさっきの追い込みは本当に際の際だ。
当然、長めのクールダウンが必要になる。とはいえ、本当に休ませるわけじゃない。
こういう時に間を持たせるのは、乳房がいい。

半日以上の焦らしで、焼きたてのパンのように膨らんだ乳房だ。
こうなった乳房は、もうどこを触っても性感帯に近い。
根元から丹念に揉み上げていくのが定石だが、その時点でもう女の反応が凄い。
なるべく無反応を通そうとする一華でさえ、ああっ、はあっ、ああっと常に声が出るんだから。
そんな状態で、これまたぷっくりと膨れた乳輪、そしてその先の突起を揉み潰してやれば……。
「ンああぁああああああーーーーーっっ!!!」
耳を聾する絶叫が迸る。
「フン、乳を揉まれただけでなんて声出しやがる。もうお前、完全に出来上がってんじゃねぇか。
 いい加減に諦めてラクになったらどうだ。あと、どれだけ時間があると思う?
 ここまででせいぜい半日。たったの半日だ。
 期限は丸3日だから、まだ60時間ほど残ってる。
 たった12時間でここまでヘバったお前が、今からその5回分の時間…………耐え切れると思うか?
 無理矢理耐えたにしても、脳がブッツリ焼ききれなきゃいいけどよォ。
 俺が何も大袈裟なこと言ってねぇってのは、もうお前自身がよく理解してるだろ」
俺は言葉責めを繰り返す。
事ここに至っては、奮起を促す目的はない。言葉通りの陥落を誘ってのものだ。
ここまでの作業は、硬い岩盤をツルハシでひたすら砕くようなものだった。
だがその岩盤も、今やほとんど瓦解しかけ、手で容易に取り除けるほどになっている。
あと一押しだ。
だが、一華にも意地がある。あるいは、是が非でも名家の執事にならねばという責任感か。
「んんんん゛っ……ん゛、ぐくっ…………んんんぁぁ゛あああ゛っっ…………!!!」
俺の本気の焦らし責めに、一華は激しく喘ぎながらも、歯を食い縛って耐え忍んでいた。
俺の首後ろへ回った手に、何度も、何度も力が込められた。

この女は、本当によく耐えたものだと思う。人間としての限界…………いや、おそらくそれ以上に。
姿見には、人が崩壊に向かう様がありありと映しだされていた。
刺激を貪るように、細い腰が跳ねてはベッドを軋ませる。
頭がガクガクと揺れ、幾度も白目を剥きかけながら、しなびた黒髪を振り乱す。
「かっ……ハァッ……あはぁっ……はぁっはぁっ、んはあっ、うはぁああぉおおお゛っ…………!!!」
激しい喘ぎや呻きが繰り返された。
かとおもえば俯き、駄目、駄目、駄目…………と呟くこともある。
快楽への抵抗か、それとも執事試験への未練か。
熱に潤んだ視線は様々に惑い、救いを求めるかのようだ。
けれども救いは与えられない。俺が与えない。

「…………もう、もう無理ぃぃいいいい゛い゛っっ! お願い、おかじぐなるっ!!
 イカせてっ、イカせてイカせてぇぇーーーっ!!!」

一体、どれだけの時間が経った頃か。とうとう一華は絶叫を迸らせた。
もはや丁寧な喋り口調など微塵もない。いやそれ以前に、明らかにヤバイ声色だ。
記録係がガリガリと煩く評価シートをつけているが、もはやそんな事を意にも介さず呻いている。
とうとうこの女、正道一華は音を上げたんだ。
実に14時間……朝の8時から始めて、夜10時まで続く生殺しの果てに。





俺は一華の腕の間から頭を抜き、正面へと回り込んだ。
大股を開く一華と正対する格好だ。
この女もつらいだろうが、俺だってつらい。
14時間の焦らしの間に、俺の逸物はここ数ヶ月ないほどに勃起して反り、先走りを滴らせている。
だが、獲物に焦りを悟らせないのが調教師の鉄則だ。
「さて…………と」
あえて緩慢な口調で告げながら、一華の右内腿に手をかける。
肌自体はしっとりと吸い付くようだが、ぬめる汗が掌との間に膜を作る。
「こんなにヒクつかせやがってよぉ」
俺は片手を逸物に添えながら、ゆっくりと一華の秘裂をなぞり上げた。
秘裂がまるで本物の唇のように、蠢いてカリ首を舐めてくる。
まるでごく表面の粘膜にもかかわらず、風邪を引いているかのような熱さだ。
「はっ、はやくっ……はやく挿れてっ!! い、今イキたいの、今じゃなきゃ嫌なのっ!!」
一華は余裕のない様子で絶叫する。
心だけが子供に戻り、お菓子をくれと愚図るかのようだ。
あくまで相手の求めによる挿入。これで、調教師としての面子は保たれる。
「ったく、仕方ねぇな…………。行くぜ」
俺はそう告げながら、今度こそ亀頭を秘裂へと宛がった。

蕩けきった肉ビラを通り抜け、しとどな愛液を潤滑にして一気に奥まで突き抜ける。
熱さが一気に逸物を包んだ。
ぶにゅっ、とグミを噛み潰すような感触が亀頭を襲った。
子宮口にぶち当たったらしい。
「……いっ、っっうぅーーーーーーーーーーっっ!!」
一華は整った顔を歪ませ、喉の中で絶頂の声を途切れさせる。
叫ぶ瞬間に喉の筋肉が硬直し、外に漏らすことが出来なくなったんだろう。
ポルチオ逝きは身体中に強い電流が流れると聞くが、こういう反応を見ると納得する。
極まった瞬間には硬直して痙攣し、波が収まった後は激しく喘ぐ。
「ハッ、ハッ、はっ、ハッ、はぁっ…………!」
信じがたい快感、と言わんばかりに目を見開き、犬のように息を吐く一華。
苦しそうだが、まだまだ休ませない。
俺は一度腰を引き、再び打ち込んだ。子宮口を俺の杭で押し込むように。
「っ……! い、っくぅうううううーーーーっ!! いくうっ……っく、いく、いっぐううう゛っ!!!!」
今度は、悲鳴がうまく喉を通り抜けたらしい。部屋の壁が震えるような声量だ。
俺はそれを堪能しつつ、さらに腰を打ちつける。
ただし、注意深く。亀頭の先にグミのような子宮口が当たる感触は、かなり射精感を高める。
あまり大きな動きはリスキーだ。
最奥から数センチばかり引き抜き、小さく突いていくやり方が一番賢い。
ゴツゴツと打つんじゃなく、リズミカルに子宮口を押し込むように。
ポルチオの蕩けた女が相手なら、これだけで十分に効く。

「あああイグッ、いぐいぐイグイグッ、い゛っちゃううう゛ぅーイグゥ゛ーーーーーっ!!!
 はぁっ、あっ、はぁっ…………まって…………あい、いえっ、お慈悲を…………お慈悲をくだざい゛!!
 ずっと達していて、息が…………くっ、くぅしい゛っ…………!!!」
正常位でのポルチオ責めを続けるうちに、一華は苦しみを訴え始めた。
執事見習いの意地か、たまに丁寧口調になる事もあるが、すぐに素が出てしまう。
休憩なしでの連続絶頂。まあ溺れているようなもんだ。
特にポルチオの刺激は、子宮や内臓までが揺さぶられ、腹全体に未知の快感が走るという。
のた打ち回るのも無理のない事とは思う。
だが俺は、そんな一華をあえて追い込んでいく。
寸止めが尊厳を賭けた駆け引きとすれば、ここからの絶頂地獄はまさに存在を賭した勝負だ。
ただ、こういう極限状況となれば、女の抵抗とて馬鹿にできない。
例えば今も、俺は正常位で一華に挿入しながら、その両腿を腕で押さえつけている。
しかし、その腕がまたひどく跳ねるんだ。
大の男がそれなりの体重をかけて押さえ込んでるってのに、それを跳ね除ける脚力。
脳が焼き切れかねない恐怖ってのは、それほどのものらしい。
俺は抵抗を計算に入れ、責めを適度に緩めつつも絶え間なく継続する。
ここから先の勝負、本格的な休息は、たとえ一分でも許さない。

「んひぃっ、お゛っ、おっぐ、んんっあ……あ、いぐっ!! 
 んっ……あ、はっ…………んぐうっ、あお゛……ぉお゛イグ……ぅ…………っ!!!」
俺が子宮口を押し込むリズムに呼応して、一華が喘ぎを漏らす。
その頭上では錠で繋がれた両手がシーツを掻き毟り、快感と苦しみを表している。
一華の膣内は、いよいよ反則的な心地良さになっていた。
バルーン現象が起きている。
膣内が蠕動し、奥まりが膨らんで圧迫感が増す。
ペニスを逃すまいとするかのようなそれは、受精への備えだ。
一華の肉体は、意思とは無関係に、男を迎え入れる体勢を整えてしまったらしい。
そろそろ、次の段階に向かう頃合いだろう。
浅瀬から急に深みに嵌まって喘ぐ一華を、更なる深海へと引き摺り込む段階に。

俺はこれでも、一華にはある程度の情けをかけている。
初めが正常位ってのも、限界ギリギリの一華をぶっ壊さないためだ。
やろうと思えばいくらでもキツくできる。
例えば……今はあえてMの字に曲げさせている両脚を、真っ直ぐに伸ばさせてやることも。
あらゆる女が本当の本気で逝く時、一つ共通する動きがある。
それは……足が爪の先まで、ピィンと伸びる動きだ。
女は本当に気持ちがいい時にこれをやる。逆を言えば、脚をピンと伸ばしたままの絶頂は、女にとって致命的ということだ。

「おおおおお゛っ!! ふかいっ、ふかい゛いいっ!!! いや、いやこれいやあ゛っ!!
 あああっ……はあっ!! んああぁああああ゛あ゛あ゛っ…………!!!!」
姿勢を変えた瞬間、一華の叫びが変わった。
ますます鬼気迫ったものへと。
俺は膝立ちになったまま、『ピンと伸ばされた』一華の両脚に割って入る形で挿入していた。
この格好でなら、一華の腰を掴んで引きつけ、亀頭の突きとでポルチオを挟み潰す事ができる。
圧の強さは正常位の時の倍。一華が深い深いと叫ぶのは、こういう事情だ。

当然、一華から余裕は失われていた。
クール系の瞳は、ただ涙ながらに虚空を惑う。
愛らしさを感じさせる鼻は鼻水にまみれ、口は童女のようにはしたなく開ききっている。
頭上の手はいよいよシーツを掻き毟り、スレンダーな身体が痙攣を繰り返す。
俺はそんな状態の一華を、あえて容赦なく責め立てた。
ポルチオ責めの強さとタイミングをコンマ秒単位で変化させ、犬のような息遣いの他には、『イク』という言葉しか発させない。
「イクーっ! いくいくイクイクいくっ、ああっはあっ、イクーッいーっ、いくーーッ!!!」
部屋には悲鳴のような嬌声が響き渡っていた。
その状態を続ければ、そのうちに一華の両腿はこむら返りが起きたように硬く強張ってしまう。
そしてそれがゆっくりと弛緩しはじめると、一華の反応が急激に収まる。
「うう゛…………うっ…………う゛………………」
小さな呻き声が聴こえてきた。
腰を止めて表情を窺うと、案の定というべきか、白目を剥いて失神している。
光を孕まない瞳孔の上半分が半開きの瞼に隠れ、眉は垂れ下がり。
汗まみれでピクピクと痙攣する様は、中々に危険な香りがする。
だが俺は、そんな状態でも一華を休ませない。頬にきつくビンタを食らわせて気つけする。
「う゛っ!?……げほっ、げほっ!!!」
すぐに一華は、瞳孔を狭めて激しく噎せ始めた。ちょうど溺れた人間が意識を取り戻したように。
「気ぃついたか。続けるぜ」
我ながらドスの利いた声で告げ、また淡々とポルチオを突き始める。
「あ…………いや、嫌…………!!」
一華は怯えた表情でかぶりを振った。
今の失神は、一華自身の防衛本能によるものだ。膨大な快感で脳が焼ききれないように。
その快感が強制的に繰り返される恐怖は、流石のこの女でも耐えがたいらしい。

セックスの主導権は、完全に俺にあった。
一華は断続的な絶頂を嫌って体勢を変えようとするが、俺がそれを利用する。
その末に今は、特に膣イキしやすいといわれる背面側位の格好になっていた。
大股を開いたまま逸物を受け入れ、内腿をテラテラと濡れ光らせる姿は、異常なほどエロチックだ。
焦りを隠せない、ひきつった表情もいい。
「もうやめてっやめてやめてぇぇっっ! ああいやぁっ、も゛ぉっイキたくないい゛っっ…………!」
必死の呻きは今も続いている。
何度も失神と気つけを繰り返すうちに、いよいよ気品も無くなってきていた。
もはやスーツを着込んだ執事候補生の面影はない。ただの、柔肉を纏ったメスだ。
俺は、顔を上げて記録係にアイコンタクトを送る。
『調教師からもたらされる責めの中で、72時間、明瞭な意識を保っている事』
それがこの試験の合格条件だ。
もはや明瞭な意識を保っていないと判断できた時点で、“試験”は続行の理由を失う。
記録係は俺の視線に対して頷き、椅子から静かに立ち上がった。

「試験者番号32番。二次試験で同室になった者のファーストネームを、1分以内に6つ挙げなさい」
問題自体はけして難しくはない。一華であれば易々と列挙できるはずだ。
素面の状態で、なら。
「……っ!」
一華は、唐突な問いに驚愕の表情を見せた。そして驚愕はすぐに焦りに変わる。
この部屋に来たばかりの時は、けして露わにはしなかった感情だ。
間違いなく普通ではなくなっている。
「…………あ、あっ…………ど、同室…………え、あ、ああ…………っ!!
 さ、彩加…………あ、あうっ………………え、エリ…………愛梨…………
 そ、それから…………それ、から………………?」
「残り20秒」
記憶の呼び起こしに苦心する一華に対し、記録係の女は冷ややかに告げた。
まったく良い性格をしている。
俺は必死に最後の足掻きをする一華へトドメをくれてやる事にした。
背面側位で深くポルチオを愛しながら、同時にクリトリスへと手を伸ばす。
クリトリスによる絶頂と、ポルチオからの絶頂。
深さも質もまったく違う二種類の絶頂が同時に襲ってきては、今の一華は耐えられない。
「んぉおおおっおお゛お“っっ!!!!」
甘い声が響き渡った。
相当に深く極まったんだろう。舌を押し出す、今まででも最高に凄まじいアクメ顔だ。
その表情が嬉しくて、俺はますますサドの気が乗ってしまう。
当然、クリトリスを優しく虐めるのはやめなかった。
「残り10秒。……9、……8、……7、……」
「あああっ、あの、あっ…………はあああっ、だめ、ぇっ! 頭が、ああ頭があぁ…………っ!!」
一華は錯乱気味に叫ぶ。
そしてその焦りも空しく、記録係は静かに×印をつけてペンを置いた。

「試験者番号32番、正道一華。あなたはこの段階で、持ち点の全てを失いました。
 これ以上の試験は必要ありません。…………不合格です」
記録係の無機質な宣言がなされる。
それを耳にしながら、一華は呆然とした様子でいた。
狭まった瞳孔を揺らし、唇を細かに震わし…………そして、全身で震えた。
「い、いやああぁぁぁっ!!!!!!」
己の全てが否定されたかのような狂乱ぶりだ。
俺はその様がおかしく、ついクツクツと笑いを漏らしてしまう。
一華のキツイ目が俺を振り向いた。
「あ…………あなたは、悪魔よっ! あんなに執拗に焦らされて、たっ、耐えられる訳ないじゃない!
 私がこれまで執事になるために、どれだけ努力してきたか理解できる!?
 それがあなたのような下劣な男の、遊び半分で…………ッ!!」
怒りに声を震わせながら、一華は叫ぶ。間近なもんで、鼓膜がえらく痛んだ。
「ヘッそうかい、そいつは残念だな。だがそれでもお前は、最後まで耐えなきゃならなかった。
 無茶と思うか? 実際、確かに無茶だろうな。
 だが特殊な執事に求められるのは、そういう人間離れした能力なんだよ。
 それを無理だと思う時点で、お前も所詮は凡人寄りだ。
 ……ま、安心しな。すぐに脳ミソを快感で塗りつぶして、そんな事ァどうでも良くしてやる」
俺は一華を諭しつつ、気合いを入れなおした。
“試験は”終わったが、俺からすればこの後がもう一つの山場。

この仕事には一つ、とんでもない旨みがある。
『調教対象が試験から脱落した場合、“双方の合意さえあれば”、その身柄を調教師が引き取ってもよい』。
そういう不文律が。
俺が一華を快楽堕ちさせようとしているのも、この為だ。
一目見た瞬間から決めていた。この上玉は、何が何でも俺の奴隷にしてやろうと。
まず試験から脱落させるという目標はクリア。
あとはこの気丈な女を骨抜きにし、俺に忠誠を誓わせるのみだ。




屈服……それだけを目的にして、俺は一華を責め続けた。
そう言えるなら、調教師としてどれだけ面子が立つことか。
だが実際には違う。14時間ものあいだ焦らしたセックスは強烈すぎた。
一華は勿論、俺もセックスを覚えたばかりの高校生のように、夢中になって快感を貪ってしまう。
「あっ、かはっ!! ううあ゛っ、ああぅ、はうっ! あああ、いぐっ…………ああ、はーーっあ!!」
一華の唇からは絶え間なく喘ぎが漏れていた。
俺はそんな一華の左脚を肩に担ぎ上げながら、松葉崩しの姿勢で繋がっていた。
腰を動かすたび、膝裏のぬるぬるとした体液が俺の鎖骨を舐める。
無理もない、お互いが汗まみれだ。結合部付近は、脂汗とも愛液ともつかないもので隙間なく濡れ光っている。
もはや鼻も慣れたが、改めて嗅げば噎せるような匂いが立ち込めている事だろう。
まさに男と女のセックス、その極致とでもいうように。
体温もお互い異常なほど上がっている。湿った膣内はもはや“熱く”、朝一の小便の中で腰を振るかのようだ。
結合部からどろりと愛液が漏れ、尻の方に垂れていく時なんぞは、思わずむず痒くなるほどに熱い。

はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、とお互いの呼吸ばかりが繰り返される。
その最中、不意にどうしようもない射精感が襲ってきた。
「ぐうっ!!」
俺はポルチオの穴に亀頭をはめ込むようにして動きを止め、波が過ぎるのを待とうとする。
だが遅かった。あるいは、どうやっても無理だった。
複雑にうねるきつい膣の中で、俺の怒張も意思とは無関係に跳ね始める。
びくっ、びくっ、びくっ、びくっと四度ばかり跳ねるのを感じた直後、ごく自然に射精が始まった。
放尿と変わらないぐらいの自然さだったが、射精であることは尿道の感覚で解る。
「あああ……出ちまった」
俺は喘ぎながら、目の前でぐったりする一華に告げた。
「……いや、ぬいて…………そんな中で、出さないで………………」
一華は拒絶の言葉を漏らすが、それも熱に浮かされたうわ言のようなものだ。
一華も逝っているようだった。
大体にして、膣奥は射精の最中にも、精子を内へ内へと飲み下すような動きを繰り返している。
それが余計に俺の射精を後押しするんだから、出すなも無いもんだ。

長い射精の最中、俺の視界はぼんやりと白いシーツを彷徨う。
皺だらけのそれの上には、様々な道具が散乱していた。
愛蜜まみれのローター、バイブ、マッサージ器。そして外れた手錠。
もはや、一華に拘束具は必要ない。
試験が終わっている以上、一華には調教に付き合う義理もないが、どのみち足腰が立つ状態にはない。
セックスに次ぐセックス。その合間の休憩にも、道具を使ってポルチオ性感を保ち続けているんだから。

数秒の後、ようやくに射精が終わる。本当に、溜まりまくった小便をした後のようだ。
だがそれを経た後も、俺の逸物には驚くほどの余力が残っていた。
さすがに痛いほどの完全勃起からはやや後退したが、ほどよく弾力を持った、小便も射精もしやすい勃起具合だ。
まだイケる。俺は思わずほくそ笑んだ。
どうやら興奮が極度に高まっていれば、男もかなりの射精を繰り返せるらしい。
まだまだ、一華の肉体を貪れるというわけだ。

セックスを始めてから、どれだけの時間が経ったんだろうか。
俺は、何回射精したんだろうか。
意識はバターが溶けたように不明瞭で、セックスの快楽だけが腰を突き動かす。
いつでも下腹部に何かが溜まっていて、空腹感はなかった。
喉が渇けば、備え付けのワインセラーから一本を引き抜いて、一華との口移しで呑んだ。
ワインによる酔いが、また俺達を下劣な段階へと引き込むのを感じながら。
「おおぉお゛お゛お゛っ…………!!」
どちらともなく、獣のような呻きを上げる事が多くなってきた。
常に息切れしていて苦しいので、声が『お』の響きに近くなるのは仕方のない事だ。
その状態で、脊髄から感電するような痺れが上がってきたら、やはりこんな声が出る。
一応言っておくと、絶頂していない時に一華が出す『あっ、あっ』という喘ぎは、反則的に可愛いんだがな。
女が媚びる時に使う、作り声ってあるだろう。完全にアレだ。アレが素で出ている。
そんな声が出る以上、一華の反応も普通じゃない。
「ううう゛っ、うああう゛ぅうっーーー!!!」
俺が膣内を突きながら下腹を擦ってやると、ビクビクと細い腰を悶えさせる。
ポルチオが完全に開発されれば、こういう表面からの撫でだけでも逝ってしまうらしい。
この状態で逸物を抜けば、名残を惜しむように秘裂から潮が吹き出てくる。
ぶじゅっ、じゃばばっと、かなりの勢いでだ。
「へっ、また漏らしやがって。よっぽど気持ちよかったみてぇだな」
「ふんん゛っ…………!!」
俺はその度に茶化すが、一華は腕で口の辺りを押さえたまま、必死に何かを堪えるばかり。
その堪えているものが甘い囁きだと、肌で繋がる俺にはよく解る。
「ふん、強情だな。だが果たして、これに耐えられるかな」
俺は一華に肩を貸してベッドから下ろし、シーツに両手をつかせる。
後背位。
最も膣内を深く突きやすい体位の一つで、なおかつ脚を踏ん張れるために締まりも悪くない。
そして犬のように犯される格好は、女の被虐心を目覚めさせるのに都合がいい。
ドギースタイルとはよく言ったもんだ。

「ああっ、あああぁっ!!!!」
ぬるりと奥まで挿入した瞬間、一華の喉から快感の声が迸った。
腹部が圧迫されないので、久々に開放的な声だ。
さらに何度か膣奥を突き回すと、さらに気持ちの良さそうな反応が返ってくる。
「ああああ゛奥にっ……!! いくっ、ふわあああ゛っいくいくイグイグイグぅっっ!!!!」
絶頂の宣言も再開した。俺の気分は高揚していく。
後背位は見た目にも壮観だ。
白い背中に、枝分かれした長い黒髪がせせらぎのように流れるさま。
極上の女を抱いていると再認識できる、ごまかしの利かないボディライン。
突くごとに反応する肩甲骨や背中のスジもいい。
よくよく背中を観察すれば、あまりの快感に鳥肌が立っている事も解った。

「あっ、あっ、あっ、あっ、あ゛っ!!」
快感の喘ぎが規則正しく繰り返される。
その末に射精しそうになるが、その時には責め方を変えればいい。
奥まで突っ込んだ状態で、腰をゆっくり横に振る。あるいは、ポルチオを擦るようにのの字を描く。
こうすればこちらは射精に至らないが、相手の女は十分に感じるようだ。
両手で腰を掴んでぐりぐりとのの字を描けば、やがて一華の脚が爪先立ちになる。
『ぴぃんと脚が伸びた』状態だ。つまり。
「んくっ、ん゛っ!! うん゛ーーーーーーーーーーーっっ!!!!!」
喉が裂けたのではと思えるような悲痛な呻き。
天を仰ぐようにしてそれを響かせた後、一華の上体はベッドに崩れ落ちた。
左手の甲を枕にし、横顔が覗く。
風邪のもっとも酷いときのような、虚ろに濡れた瞳、閉じない口、鼻水で汚れた情けない顔。
そしてその顔は、女が極限まで追い詰められている事を示すものだ。

俺は上体を倒し、突っ伏した一華の上に覆い被さる。
そしてぎゅうと抱きしめながら、一番の深くで繋がった。
「ふうっ…………!!」
一華から息が抜ける。俺はそれを聞きながら、さらに肌を寄せ合わせた。
そう、この段階になればとにかく肌を寄せることだ。
今にも逝きそうな状態で体を抱きしめられ、耳元に相手の吐息が聞こえる状態。
女はこの状態に、本能的な多幸感を得るものらしい。
普段であれば忌み嫌うような相手でも、意識の朦朧とした極限状態でこれをされれば、恋人だと錯覚してしまう。
「可愛いぞ、一華。綺麗な髪だ……身体のラインも最高だな。
 その表情もそそるぞ。お前は本当に可愛い女だ、一華。本当に可愛い。美人だ」
俺は何度も一華の名を呼びながら、思いつく限りの褒め言葉を囁き続けた。
勿論、ポルチオを緩く責め立てながら。
「いやっ、あっ…………ああ、あっ、うあ…………っ!!」
一華の反応が、案の定甘いものになってくる。吐息の端々にピンク色が混じっているかの如く。
俺はここで責めを激化させた。
腰を掴み、パンパンと音が鳴るほどに勢いよく突く。
「あああ゛っ、ふわあぁああああ゛あ゛ーーーーーっ!!!!!」
震えながら喜悦の声を漏らす一華。
頃合いや良し。
俺は最後の仕上げにかかった。
子宮の辺りを指で押し込み、圧迫しながらポルチオを責め立てる。
ゆるく、激しく、撫でるように、こねくり回して。

「ほら、一華、一華……ここに欲しいんだろ。お前は、ここに欲しいんだ。欲しがってるんだ。
 俺も、ここに出したい。一華のここに出したいんだ。さぁ一華、言え。ここに出して欲しいってよ!」
膣内が激しく蠢く中、俺は洗脳の言葉を囁きかける。
「うううっ、うう゛-っ!! うああ、あっ…………あっ、あ゛っ…………!!」
一華は何度も首を振りながら、相当に頑張っているようだった。
だが、いつまでもはもたない。もたないように、心身に布石を打ってきた。
20時間あまりにも渡って。
「どうした、言ってみろ。俺の奴隷になると誓え!!」
一華の絶頂のタイミングを見計らい、俺は最後のスパートをかけた。
ぽっかりと開いた子宮口の膨らみを、徹底的に抉り回す。この女が絶え間なく逝くように。
一華のスレンダーな肉体は、すぐに激しい痙攣を起こし始めた。
やがては黒髪も揺れはじめ、頭もぐらついているのがわかる。
典型的な、脳が快楽で焼かれている動きだ。

「ひぃっ、ひいぃいいっ!! お、お…………んおおおおおおおおおっ!!
 …………ああ、ああああ、や…………うううう゛っ!!!
 わっ、わかりました…………はぁ、はぁっ…………ど、奴隷に、なるっ、なりますっ!!!」

とうとう一華は、高らかに宣言した。
恐怖に振り返ったその表情は、プライドよりも自我の崩壊を恐れたことを雄弁に物語る。
当然といえば当然だ。この局面で自我の崩壊を選ぶような女は、十万人に一人だって居はしない。
俺は記録係の女を振り返り、敗北宣言についての確認を取る。
女は興味薄そうに頷いた。
『“双方の合意さえあれば”、その身柄を調教師が引き取ってもよい』。
その最後の条件が達成されたわけだ。
ついに。
ついに、やった。
正道一華という珠玉の宝石が、俺のようなクズの手に落ちた。
明日からこの女は、どこぞの富豪のじゃあない、俺専用の執事だ。
「…………うっ、く…………すみません、すみません、お母……様…………!
 ……っく、く…………くううう、うう゛ぅっ……………………!!」
一華から悔しげな嗚咽が漏れてくる。
だが俺にはその嗚咽が、目的完遂のファンファーレにしか聴こえない。






調教師としてある程度成功した俺には、一軒の屋敷が与えられた。
従者はメイドが3人、そして執事が1人。
すべて俺が愛を目覚めさせた、従順な僕だ。
特に執事は、他のメイドから嫉妬の声が上がるほどに目をかけている。

「お呼びでしょうか」
黒スーツに身を包んだ一華は、真面目至極にそう告げた。
どこから見ても隙のない、パリッとした女。この一華がいるだけで、屋敷の品格が上がるようだ。
俺はそんな一華に歩み寄り、唇を触れさせる。
舌を絡ませあうディープキスだ。
一華は、それに対して抵抗をしない。それどころか、刻一刻と息を荒げ、目を潤ませていく。
「したいのか?」
俺が問うと、一華は逡巡の後に肯定した。

仕立てのいいスーツを脱ぎさり、いよいよ女らしくなった肉体を晒す。
俺はダブルベッドに寝転がってそれを堪能した。
「失礼致します」
一華は一言かけ、騎乗位で俺に覆い被さる。
手馴れた、しかし気品あふれる動き。まったく、他のメイドにも見習わせたいもんだ。
実際、他の3人もカーテンの影などから物欲しげに覗いているようではあるが。
「自分で動いてみろ」
俺は一華に命じる。
「承知しました」
一華は短く応えると、ゆっくりと腰を上下しはじめる。
すでに膣内はどろどろに蕩けていた。今日一日、よほどこの瞬間を待ち侘びて仕事をこなしてきたらしい。
金持ちジジイの接待の間は、微塵もそんな気配を見せなかったものだが。
「お手を、拝借いたします」
一華は恥じるように告げ、俺と手を繋いでくる。
俺はその意を汲み、両手を繋いだまま上に押し上げて一華の上下運動を補助してやった。
こうすればポルチオ刺激がスムーズになるからだ。
「あっ、あ、あっ!! ああっ、はあああっ…………!!」
一華は歌うように喘ぎながら、天を仰いで目を閉じる。
早くもポルチオ性感に浸っているのだろう。
俺の逸物にも、コリコリとした鼻の頭のような感触が響いてくる。
日々開発してはいるが、さすがにまだ解れてはいないらしい。もっとも、それは時間の問題だが。

「ふぁ、あっあ…………!!」
そのうち一華の体から力が抜け、後ろへ倒れこむような形になる。
俺はその一華を激しく突き上げてやった。
「ああっ、あ、あうっ…………お、おおおお゛っ!!!!」
一華は目を惑わせて激しく反応した。
海のような、圧倒的な快感に溺れている最中なんだろう。
「幸せか?」
俺は一華に問うた。
「はっ、はい……! わ、私の中を、暖かな気持ちが突き抜けていきます。
 女に生まれた幸せを、噛みしめております。女として、こうして愛して頂けるなんてっ……!
 うんっ、あ、ああっ凄い……くぅぅんん゛っ! うっ、嬉しゅうございますっ!!
 こんなに深くて…………熱くて、逞し…………んっ、あはあああぁああああ゛あぉおお゛っっ!!!!」
一華は身体中で多幸感を表したまま、後ろ向けに崩れ落ちる。
俺はその一華を追い、屈曲位で覆い被さった。
バックスタイルと並び、もっともポルチオ責めに適した体位だ。

今夜はまたこれから、正体をなくすまで徹底的に責め抜いてやる。
愛液をあふれさせ、身体中を痙攣させてイキ狂わせてやる。
一華が俺のものとなった、あの記念すべき日のように……いや、それよりももっと激しく。
性欲の高みを追求していこう。
深い快楽に愛が加われば、女は、どこまでも壊れていける。
一華が、俺にそう教えてくれたのだから。




                                    終
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