大樹のほとり

自作小説を掲載しているブログです。

2014年09月

リクエスト締め切り~

皆々様、たくさんのリクエストどうも有り難うございました!
リクエスト受付は今月一杯ということで、すこーし早いですが、この時点でリクエスト募集を締め切らせて頂きます。

色々な方が私の文章に魅力を感じてくださっていると改めて感じ、とても嬉しかったです。
本当に魅力的なリクエストばかりで悩みますね。
頂いたリクエストにはそれぞれ番号を振り、ルーレットで出た番号の案を書きたいと思っております。

ただ、現在もやはり色々と忙しく、執筆開始は早くとも来月末辺りになりそうです。
もうしばしお時間を下さいましー><

遅すぎた告白

※幼馴染NTRモノ。ハートフルボッコ注意。


俺は今でも、『幼馴染』って言葉を聞くたびに胸が苦しくなる。
ひどく苦い思い出が甦るから。

橋詰沙耶香、それが幼馴染の名前だ。
家はすぐ隣で、家族ぐるみの付き合いがあったから、俺と沙耶香はまだ赤ん坊の頃から一緒に遊んでいた。
家にいる間はお互いどっちかの部屋で遊んで、疲れたらその場で寝る。
俺が沙耶香のベッドで寝入って、沙耶香が俺の部屋へ行って寝たり、その逆もよくあった。
風呂だって毎日一緒に入ってた。
大体2人揃って泥まみれになって帰ってくるから、お互いの親にしても、自分達で洗わせるのが一番だったんだろう。
小5までは、本当に毎日一緒に入った。
「ジュンチー、お風呂沸いたって。いこー」
俺が部屋でテレビを見ていると、隣の窓から沙耶香が声をかけてくる。
ジュンチーっていうのは、俺の『純一』って名前を一部省略した呼び名だ。
小4から小学校卒業までの間、沙耶香の中では俺をそう呼ぶのがマイブームになっていたらしい。
風呂に一緒に入らなくなったのは、小5の夏。沙耶香に生理が来たのがきっかけだった。

その日俺と沙耶香は、部屋で一緒にゲームをしていた。
その途中で一旦沙耶香がトイレに立ち、しばらくしてから悲鳴が上がる。
慌てて俺が駆けつけると、沙耶香は泣きながら『血が、血が!』って俺にすがりついた。
俺ももうパニックになって、2人して泣きながら沙耶香の母親に報告に行ったものだ。
沙耶香のお母さんは、一目見て状況を察したんだろう。心配するどころか、嬉しそうに笑っていたんだ。
俺は訳がわからなくて、おばさん何笑ってんだよ、とか叫んでたと思う。
その夜、沙耶香の家ではパーティーが開かれた。
赤飯が炊かれて、ウチの親も含めて、皆が大人になった沙耶香を祝福してた。
沙耶香は照れたように笑ってた。
俺には説明がなかったから困惑したけど、でも場の雰囲気からめでたい事らしいのは察しがつく。
ただ、その晩いつものように沙耶香と風呂に入ろうとすると、大人の皆に止められた。
まぁ当たり前といえば当たり前なんだけど、当時の俺はゴネたものだ。
でも沙耶香は逆に落ち着き払って、俺の顔を見ながら諭してきた。
その雰囲気と親たちの反応で、俺はようやく、沙耶香との関係性が少し変わったんだと理解したんだ。
もっとも、一緒に遊ぶ事自体はその翌日も変わらなかった。
もう風呂で水を飛ばしたりして遊べない事が、少し寂しいだけだ。長いこと愛用していたアヒルも、その日に捨てた。


沙耶香はルックスが良かった。
俺はへちゃむくれの幼少期から毎日見てきてるから、小さい頃はまったくそう思ってなかったが。
意識が変わったのは、小4の時、沙耶香が誘拐未遂に遭った時だ。
一人で下校している最中、沙耶香は車から降りてきた男数人に、危うく連れ去られそうになったらしい。
ちょうど目撃者がいて悲鳴を上げたから助かったけど、本当に間一髪だったそうだ。
その夜、泣きじゃくる沙耶香を囲みながら、近所の大人達は口々に自衛について話し合っていた。
その時に何度も耳にしたのが、『サヤカちゃんは可愛いから、特に……』という言葉だ。
不思議なもので、自分では別に思っていなくても、大人が口を揃えて可愛いと言っていると、俺にもそう思えてしまう。
それからしばらく、俺は沙耶香を変に意識するようになってしまった。
あんな事件の後だ。大人の見張りとは別に、俺も沙耶香と一緒に下校するよう言われたが、ろくに顔が合わせられない。
結果、沙耶香に『何か隠し事をしているのでは』と勘繰られ、喧嘩になった。
そこから仲直りした後は、俺自身も落ち着いたのか、また沙耶香と普通に喋れるようになった。
ただ、だからって全てが元通りになったわけじゃない。
一度沙耶香を可愛い女の子として見た以上、俺は沙耶香を性的に意識するようになっていた。
俺もちょうど思春期入りたて。
クラスの男子がエロ本やAVを漁り始めた一方で、俺は、あろうことか幼馴染に性の関心を向けてしまっていたんだ。

改めて客観的に見れば、確かに沙耶香は可愛い。
小さい頃はショートだったが、小学校も高学年になると、徐々に髪を伸ばすようになった。
割と身体を動かすのが好きなタイプだったから、長い髪は後ろでゴムを使って留めているのがほとんどだ。
この時点で解ると思うけど、沙耶香は派手なタイプじゃない。
中学に上がると、クラスの女子も化粧もするし、整形してる奴も結構いた。
男子人気はそういうあからさまに垢抜けた女子に集中し、『可愛い子』談義で沙耶香の名前がすぐに挙がることはない。
ただ、地味でも元がいいのが沙耶香だ。
鉄板の可愛い子を粗方言い終えた後、実は……という口調で挙げられる筆頭が沙耶香だった。
そしてそれを聞いて、他の男子も安心したように、だよな、実は俺も、と続く。
要は隠れたファンが多かったわけだ。
そういう時、次に話題になるのが俺だった。俺が沙耶香の幼馴染というのは有名だったから。
『アイツ、橋詰の幼馴染らしいぜ』
『マジかよ!? クソ、いいな…………』
そういう噂を耳にするたび、俺は密かに優越感を覚えたものだった。
どうしても沙耶香の秘密を知りたいという熱心なファンに、菓子パン一個、ジュース一本を見返りとして情報提供した事もある。
何しろ、赤ん坊の頃から見てきた相手だ。話せるネタなんて腐るほどあった。



俺と沙耶香の道が分かれたのは、中学に入ってお互いに部活に入ってからだろう。
沙耶香はテニス部、俺はサッカー部。
それぞれ女子と男子の一番人気の部活で、お互いにそのミーハーぶりをからかった。
とはいえどちらも、最初はかなり熱心に部活をやっていたと思う。
遅くまで練習して、試合にも出た。日程が被っていなければ、お互いの試合を応援に行った。

この時も俺は、密かな優越感に浸れる。
俺が試合前の沙耶香に声を掛ければ、アイツはちゃんと反応してくれるんだ。
それも、他の奴にする反応とは違う。背を向けたままラケットを小さく振り上げるような、ちょっとワイルドな仕草だ。
外ではどちらかといえば大人しめな沙耶香だから、そうした仕草の違和感はよく解る。
その特別な反応を鋭く察して、沙耶香のファンらしき奴が睨んできたりするのが面白かった。
逆に、沙耶香が俺に声援を送る時もそうだ。
その周りに座った男子が沙耶香を見てぎょっとし、俺に恨めしげな視線を寄越すから面白い。

ただ……俺の方は万事順調には行かなかった。分岐点が訪れたのは中二の秋だ。
試合終盤、スライディングでボールを奪いに行ったところ、相手チームの奴に思いっきり膝を蹴られた。
勿論この場合、誰も悪くない。俺も相手も、ボールを奪おうと必死だったが故の事故だ。
ただ、これで俺は膝をやり、二ヶ月入院することになった。
その間は、部員が入れ替わりで来るだけでなく、沙耶香も毎日見舞いに来てくれた。
大抵は、練習後で汗まみれのまま駆けつけてくれた。
沙耶香の汗の匂いは若干甘く思えて、俺は不覚にも何度か勃起した。
テニス部に入ってからの沙耶香はかなり細くなっていて、でも胸はそんなに無かったから、
袖の短い制服だと何かの拍子にスポーツブラが覗く。それもまた興奮を煽る。

俺はとうとうある日、沙耶香が病室から去った後、その残り香とブラ覗きをネタにオナニーした。
沙耶香で抜いたのはこれが初めてだ。
罪悪感は物凄かった。ほとんど姉妹をネタに抜いているのと同じなんだから。
ただ、病室ってのは性欲を発散させる機会がほとんどない。
当時思春期の俺は、一日オナニーしないだけでも勃起が痛くて眠れないような有様だった。
だから沙耶香という、今の今まで傍に居て、しかも可愛い女子をネタにしたのもある意味不可抗力だ。
そして俺は、この時知ってしまった。
沙耶香をネタにオナるのが、罪悪感も相まって、滅茶苦茶気持ちがいい事に……。

幸い俺の怪我は、後遺症が残るようなものじゃなかった。
でも、心の傷は完治しなかったらしい。怪我以来、ボール争奪戦に加わるのが怖くなったんだ。
腰が引けるとかいう次元じゃなく、『ボールを奪わないと』という瞬間が来ると、急に眩暈や吐き気がする。
コーチは俺のその様子を見つけると、すぐにホイッスルを鳴らして試合を中断させた。
部員は全員俺の事故の瞬間を見ているから、文句を言う奴はいない。
むしろ先輩後輩の皆が、大丈夫か、大丈夫ですか、と本気で心配してくれた。
ただ……そういう状況ってのは、俺自身にとってはかなり辛い。
俺がいるせいで妙な空気になるのが耐えられず、俺は段々と部活に顔を出さないようになっていった。
コーチもそれを咎めるようなことは無く、一度面談をして、『無理せず、気が向いたら楽しみに来い』と言ったきりだった。

それまで熱を入れていたサッカーが出来なくなった後、俺はしばらく空っぽだった。
別のスポーツ……バスケや野球も一時は考えたけど、激突やスライディングがトラウマの人間には無理そうだ。
結果、俺はそこそこ勉強をしながらも、華の学生生活を無為に過ごしはじめた。
思えばこの時、俺はかなり勿体無い事をしている。
サッカーをしている男子ってのは学生時代えらくモテるが、俺にも一度、告白してくれた娘がいる。
割とそこそこ可愛くて、いかにもな文学少女って感じの娘だった。
でもあろう事か、俺はその告白を即答で断ったんだ。
理由は2つある。
一つはサッカー部をやめて自暴自棄に陥っていて、彼女と付き合うどころじゃなかったこと。
もう一つは……やっぱり沙耶香の事が頭にあったんだろう。
明確に沙耶香と付き合いたいと意識してた訳ではないにしろ、深層心理では沙耶香を相手に選んでいたらしい。
これは、自分の中の気持ちを見直すには良いチャンスだった。
結局俺は有耶無耶にしてしまったが、もしもこの時に自分の気持ちを整理して行動していれば、
俺と沙耶香の関係はまったく違ったものになっていたはずだ。
それを今になっていくら思ったところで、もう何もかも遅すぎるんだが。



思春期の性欲ってのは、スポーツやら喧嘩やらで発散させないと、恐ろしいほどに溜まってしまう。
俺は、それを溜めてしまっている方だった。
しかも頭の中では、いつでも沙耶香の事ばかり考えてしまう。
以前の間違いがそのまま継続していて、それが思春期のムラムラで増幅された形だ。
その鬱屈した気分の果てに、俺はとうとう劣悪な行動に移ってしまう。

最初のきっかけは偶然だった。
水曜の夕方6時半。俺が何もする事がないので電気を消してベッドで寝ていたところ、ふと隣で電気が点く。
沙耶香が帰ってきたんだ、とすぐに解った。
俺は興味本位で隣の部屋を覗く。
沙耶香はちょうど、窓を開けて換気を行っているところだった。
ちょうど夏が近づいて蒸し暑い季節だったから、締め切った部屋には熱が篭もっていたんだろう。
沙耶香は割とエアコンに弱いので、基本は換気で涼むほうだった。
俺はその様子を何気なく覗いていた。
こちらから沙耶香の部屋は丸見えだが、沙耶香の部屋から俺の方はまったく見えなかっただろう。
俺はこの少し前に、カーテンレールが壊れた事をきっかけにブラインドを設置していた。
この時ブラインドはほとんど閉まっており、中から外がかろうじて見える程度の隙間しかない。
おまけに俺の部屋は電気が消えて暗く、沙耶香の部屋が明るい。
こうした条件が揃っていれば、目を凝らしても俺が覗いている事なんて解らないだろう。
そもそも最初から部屋の電気が消えていれば、普通は部屋にいないか、寝ていると思うに違いない。

実際このとき沙耶香は、俺の視線に微塵も気付いてなかったんだろう。
窓を開け放ってから、そのまま堂々と着替えを始めたんだから。
俺は思わず身を起こす。
この頃、俺は沙耶香とやや疎遠になっていた。
俺がサッカー部の話題に触れて欲しくなかったこと、沙耶香が部活で多忙なこと、思春期の微妙な距離感。
そもそもお互い、同性との付き合いが多くなってくる頃でもある。
そうした要素が関係して、休日すらあまり一緒にいることはなくなっていた。
だからこそ、久々に見る沙耶香の身体は興味深い。
俺は固唾を呑んで沙耶香の着替えを見守った。
制服を脱ぎ、シャツを脱ぎ、ストライプのブラジャーを露出させる。
いつの間にかスポーツブラではなくなっていた。
その理由は、ブラジャーが外された瞬間に判る。
実に小5以来で目にする沙耶香の生の乳は、確かな膨らみが有った。
けっしてでかいとは言えないが、確かにスポーツブラで圧迫するには窮屈そうだ。
お椀半分といった大きさの沙耶香の乳に、俺は心臓が破れそうなほど興奮していた。


それからというもの、俺は沙耶香が部活から帰る頃を見計らって覗きを続けた。
沙耶香は大体は7時前に帰宅した。
俺はその時間を狙い、部屋の電気を消してブラインドの傍に待機しておく。
沙耶香はそんな事とは露知らず、着替えを続けていた。
沙耶香の事は何でも知っているつもりだったが、隠れて着替えを覗いていると、新たな発見が多かった。
たとえば、下着は割と上下不揃いのことが多い。
パンツも大体6種類ぐらいの地味めな色を、順番に履いているようだった。
月曜は薄緑の、火曜は水色の。その順番を、自分の中のルールとしてキッチリ決めているみたいだ。
もちろん、たまに新しいパンツも買われるし、汗をかく季節なんかには、シャワーを浴びるたび履き替えるので順番は崩れる。
それでも、何かしらの法則は決めているらしい。

そして覗きの成果は、着替えだけに留まらなかった。
すっかり俺が不在だと信じているらしく、沙耶香は着替えた後、窓を開けたままでオナニーする事すらあった。
沙耶香の部屋着は、昔から大体はキャミソールとハーフパンツだ。
冬なら場合によってジャージの事もあるが、暑い時期は薄着で通している。
沙耶香はいつも、その馴染みの格好のままオナニーに移っていた。
最初はそんな兆候はない。
ただ普段どおり学習机のノートパソコンを眺めているか、小説を読んでいる。
ところが時々は、その姿勢のまま指が股の間に差し込まれた。
ハーフパンツのボタンを外したまま、ショーツ越しにクリトリスを刺激しているらしい。
大体は指の腹で押すようにするか、下敷きの側面で擦っていた。
時々マウスでパソコンをクリックしたり、閉じかけた小説に折り目をつけたりしながら、10分くらいそれを続ける。
そうしたらその後は、膝の上くらいまでパンツをずり下げて指で刺激しはじめるんだ。
この頃にはもうパソコンとかは見てなくて、目を閉じ、口を半開きにしている。脳内のイメージに浸ってるんだろう。
遠くからだから断言はできないが、手の第二関節は大体見えていて、あまり膣への深い指入れはしていないらしかった。
たまに、パンツを完全に抜いて、机の下で脚をピーンと伸ばしたまま激しくオナニーに耽ることもあった。
改めて見ると、沙耶香の脚は本当に綺麗だ。
テニスを始めてから体型がしゅっと締まって、モデルみたいになってきている。

俺は、沙耶香がオナニーに耽る光景をオカズにして、気付かれないようブラインド裏で扱きまくった。
高まってきて本気で扱くときには、窓の下に身を屈めてやった。
小さい頃から知っている相手だけに、罪悪感は当然あったが、それが余計に性欲を後押しする。
どんなエロ本を見てするより、どんなエロビデオを見てするより、沙耶香を覗きながらオナる方が興奮した。

俺は沙耶香をネタにしてオナニーに耽りつつ、当の沙耶香本人とは距離を置き続けていた。
たまに家の前で偶然会ったときに、短い時間話すぐらいだった。
それすら罪悪感で自然にはできていなかったと思うが。
沙耶香にしてみれば、この頃の俺は『露骨に自分を避けている』という感じだっただろうな。
ただ俺は、この頃聞いた沙耶香の話はどれ一つとして忘れなかった。
沙耶香は、周りで流行っているツイッターはやっていないそうだ。
『ニュースでよく炎上とかやってて、怖いから』だそうだ。
真面目な沙耶香らしいといえば、らしい。
フェイスブックはやっていて、アカウントも教わったが、それも女友達との付き合いで、という感じ。
更新頻度もあまり高くなく、あくまで女友達との絡みが中心だ。
昔から沙耶香は、自己顕示欲が強くない。なまじリアルでモテるせいで、なるべく目立ちたくないんだろう。
小学校低学年までは、結構俺を引っ張り回すやんちゃなタイプだったんだが。

中3になって沙耶香が部活を引退すると、2人とも受験一色になった。
俺にとってこれは好機だ。
微妙にぎくしゃくしていた沙耶香との関係を、勉強会をする事で近づける事ができる。
沙耶香と俺は、昔から同じ高校を狙っていた。
地元でそこに通っているというと、『頭良いのね』と言われるレベルの私立だ。
俺は英語が割と得意で数学が苦手。沙耶香はその逆だったから、一緒に勉強するメリットもある。
俺が勉強会を提案すると、沙耶香は驚きを示した。
妙に距離を置いていた相手から誘われたんだ、当然だろう。
「オッケ!」
親指を立てて返されたその答えが、俺はとても嬉しかった。

本当を言うと俺は、この勉強会の間に沙耶香に告白するつもりでいた。
高校へ上がる前に、半端な関係をキッチリとしたものに変えたかった。
でも……いざとなったら言葉が出ない。
もしも断られたら。その時は、今の幼馴染としての関係すら壊れてしまうのでは。
俺はそれが怖くて、一日、また一日と告白を先延ばしにし続けていた。


受験本番が近くなっても、俺はまるで集中できていなかったと思う。
実際、勉強会の最中に、沙耶香の呼びかけで我に返る事が何度もあった。
「ちょっと、さっきから何見てんの!?」
そう言われて俺は、自分が沙耶香の胸を見ていた事を悟る。
何度も何度も覗き見た、わずかな膨らみだ。
「んと、胸」
訝しむ沙耶香に、俺は正直に答えた。
「はあっ!?」
「いやだから、お前の胸。…………お前、女っぽくなったよな。いつの間にか」
告白への足がかりとして、あえて性的な話題を出す。
しかし、その後には沈黙が降りた。
ほんの数秒だったとは思う。でも俺は、その短い沈黙がひどく怖かった。
沙耶香は数秒ほど口を開けて俺の顔を見た後、我に返る。
「は、はぁ!? バカじゃん!」
そう言って笑った。笑い飛ばされるのは、沈黙よりよほど心地良い。息苦しくない。
だから俺も、その安易な笑いに乗っかってしまった。
「…………ハハ、だな。勉強のしすぎかも。ちょっと休憩すっか!」
臆病者の笑いだ。本気で告白をするつもりなら、気まずいからと退いてはいけなかったのに。

紅茶を飲んで、チョコを齧って、バカ話をして。
俺達の関係は、いつのまにか普段通りに戻ったようだった。
でもこの時よくよく危機感を持って見ていれば、沙耶香の微妙な変化にはいくらでも気付けただろう。
ふとした瞬間ティーカップに落ちる、落胆したような瞳。
普段通りのようでいて、明らかに少ない口数。
ノートに書かれた文字の歪み。
俺はそれら全てを本能的に感じ取りながら、けれども無視し続けていた。
まだまだチャンスはある。まずは2人で同じ高校に合格して、その中でまた機会を窺おう。
そんな逃げの思考に走ってしまっていた。
今なら解る。この世の中、先延ばしの思考をする人間が、栄光を掴むことなど無いと。

数ヵ月後、俺は…………志望高校に落ちた。沙耶香は受かった。
少し前の合否判定では、俺の方が上だったんだ。俺は判定A、沙耶香はB。
お前なら落ちる事はないだろう、と担任からお墨付きを貰うほどだった。
でも、俺は落ちた。
まさか落ちるなんて。しかも、沙耶香と同じ高校にいけないなんて。
俺は部屋で号泣したし、沙耶香も自分が合格している以上、なんと声を掛ければいいか解らない様子だった。

後で知った事だが、実は沙耶香は、志望高校にスポーツ推薦でも行けたらしい。
でもあくまで一般受験がしたいといい、友達から不思議がられたそうだ。
『私だけ、無事に合格するのは嫌だから』
沙耶香はそう答えたらしい。
自分の方が落ちる可能性は高かったのに、スポーツ推薦が無理な俺と足並みを揃えてくれていたんだ。
そして俺は、その期待を最悪な形で裏切ったことになる。





通う高校が分かれてから、俺と沙耶香の生活サイクルにはいよいよ違いが出た。
沙耶香の方が高校が遠いうえ、テニス部の朝練もあるようで、まず家を出る時間が俺より遥かに早い。
逆に帰りは遅く、スポーツに力を入れる高校だからか土日にも練習があるようだった。
挙句には、部活の合宿や友達の家へ泊まるなど外泊も多い。
また俺自身、大学受験に向けて塾へ通い始めたため、いよいよ沙耶香と居る時間がなくなってしまっていた。
ただ、嬉しい事もある。
沙耶香は友達の家に泊まった後は、時々紙袋入りのクッキーをくれた。
『友達の家で焼いたのが余った』というそのクッキーは、本気で市販のものより美味かった。

また、沙耶香も学生だから、平日は基本的に家に帰ってくる。
俺はそのタイミングを狙い、なおも覗きを続けていた。
沙耶香には2つ変化があった。
一つはいつの間にか、不揃いの下着をやめていた事だ。
いつも上下揃いで、フリルつきのピンクなんかの、妙に可愛いものを穿いている事が多くなった。
まあ、沙耶香ももう女子高生。
中学までなら野暮ったい下着で居られても、友達づきあいなどするには可愛い下着も必須なんだろう。
ただ、雑誌の広告にも載っていそうな洒落た下着は、昔のような生々しさが無かったのは事実だ。
そして、もう一つ。
沙耶香は部屋にいる間、全くオナニーをしなくなった。これは下着以上に不思議だ。
確かに女子は、男子のようにはムラムラしないと聞く。でも中学の時は、一週間に一度はしていたんだ。
そこそこ性に興味があるのは間違いない。なぜそれが急になくなったのか?

だが……高校入学から半年あまりが過ぎた頃、とうとう俺は決定的なシーンを覗いてしまう。
沙耶香が携帯で誰かとしゃべっている所だ。
最初はまた女友達だろうと思った。実際、沙耶香が女友達と携帯で話していることは多かった。
けれども、何かおかしい。
話し相手は女じゃない……俺はその匂いを敏感に嗅ぎ取った。
手の仕草といい、口元を抑えるような動きといい。明らかに異性の影を感じさせる。
それに気付いた瞬間、俺の中にむず痒いような疑念が一気に湧き上がった。
おかしい。沙耶香には男が出来たんじゃないのか?
事実を探りたいと思ったが、情報が少ない。
ツイッターはやっていないと言っていたし、フェイスブックのページを見ても変わった様子はない。
色々と考えを巡らせていると、唐突に閃くものがあった。
以前、沙耶香と勉強会をしていたときだ。
休憩時の雑談ついでに沙耶香がスマホをいじり、グーグル検索の結果をみせてきた事がある。
俺はその時、ほんの一瞬見たんだ。
見慣れない、変わったグーグルのアカウント名。
その時は告白の事しか頭になかったからすぐに忘れ去ったが、あれは大きなヒントかもしれない。
俺は全神経を集中し、必死になって記憶を探る。
あ、い、う、え、お……から始めて、一文字ずつ。その甲斐あって、ある時ふっと思い出した。
『サワーメロンキティ』だ。
忘れないうちに、その文字列をパソコンに打ち込んでいく。
直感的に、ツイッターの文字も入れて検索する。

…………ビンゴだった。
変わったアカウント名だけに他の候補もなく、ただ一つのアカウントが検索のトップに躍り出る。
震える指でプロフィールを確認する。
アイコンは、紛れもなく俺のよく見知った顔…………沙耶香のプリクラ写真だ。

やっぱりツイッターをやってたんじゃないか。
以前俺に、ツイッターをやってないと言っていたのは、ウソだったのか。
いや或いは、あの後に人から勧められて始めたのかもしれない。
でもそれなら、俺に教えてくれてもいいじゃないか。
最初から隠すことを前提でアカウントを取ったのか。俺がツイッターを警戒してないのをいい事に。
色々な考えがぐちゃぐちゃと脳裏を渦巻く。
でも、それをいくら考えても仕方がない。問題は、そのツイッターで何が呟かれているのか、だ。

ツイートを追い始めて数分と経たない内に、俺は愕然とした。
そこには、衝撃的な事実が並んでいたからだ。
結論から言えば、沙耶香はこの数ヶ月の間、ある男とやりまくっていた。
相手の苗字は木田。名前はどうやら慶也というらしい。
ツイートの中に、何度も、何度も現れる名前だ。

一番最近の“木田先輩”との出来事は、一緒に水着を買いに行って海浜プールに行ったことらしい。
俺とも行った事がなかったのに。
先週の土曜日……俺は、友達の田舎に遊びに行くのだと聞かされていた。
花火大会の様子を写していた数時間後には、怪しげなキングサイズの回転ベッドを嬉々として撮影して載せていたり、
棚にコンドームが備え付けられている事実を写したりしていた。
ラブホテルだ……俺はショックを受けた。
花火を愉しんだ後に、ラブホテル。そのままやったんだ。行為中の写真はなかったが、その流れがはっきり解る。

ツイートを遡ると、他にもいくつかデートの写真があり、そのままホテルへ行ったと思われる日がいくつかあった。
木田のマンションでオーブンを借りて、クッキーを焼いたという呟きもあった。
完成品の焼き色といい、形といい、見覚えがある。俺が嬉々として大切に食っていた、紙袋入りのクッキーだ。
『友達の家で焼いた』なんて真っ赤な嘘。
木田のために精魂込めて作ったクッキーの余り、だったんだ。
そう思い至った瞬間、俺は強い吐き気を感じた。
あの時嬉々として食べていたものが汚物だったように思えてきて、トイレに駆け込んで吐いた。
多分、沙耶香に悪意は無かったんだろう。せっかく焼いたんだから、俺にも食べさせてあげよう、というだけだったに違いない。
そう解っていても、胃の中からこみ上げるものを我慢できなかった。

トイレから戻り、改めて写真の中の沙耶香を見る。
俺といる時とはまったく違う、心の底から楽しそうな笑顔で沙耶香が笑っている。
こんな面があったのか……と、俺はただ愕然とした。

さらに日を遡ると、まさに決定的な写真が見つかる。
彼氏に撮られたものだろう。カラオケボックスでフェラしている姿を、上から撮った写メだ。
『ちょっと前から、結構仕込まれてる』という呟きもある。
さらにツイートを辿っていくと、絶望が増した。
ついに、一番初めのエッチに関するツイートが出てきたからだ。
まだ興奮冷めやらないらしく、沙耶香は短時間に大量に呟いている。

初めては痛いと聞いていたから、ひどく緊張していたこと。
“木田先輩”はそんな沙耶香を優しく抱きしめ、リラックスさせてから抱いてくれたこと。
物凄く痛くて叫んでも、大丈夫、大丈夫、と耳元で囁いてくれて、その安心感で落ち着きを取り戻せたこと。
初めての相手が慣れた“木田先輩”で、本当に良かったと思うこと……。
そこには木田への深い愛情と、絶対の信頼が見て取れた。
呟かれた日付は、6月20日。
高校入学から2ヶ月ちょっとだ。とすれば木田と知り合ったのは、高校入学から間もない頃だと考えられる。

何枚か2人で撮影したプリクラがあり、それで木田の見た目がわかった。
そこそこ長身で、否定できないレベルのイケメンだ。俳優と言われてもまぁ信じるだろう。
いかにも社会人という感じで、顔立ちにも年季が入ってて、金もありそう。
リーダー気質でグイグイ行く感じなのが、見た目、特に目の感じでわかる。
女にモテるのは勿論、男でもつい頼ってしまうタイプだ。
よりによってそんな奴が恋のライバルなんて、絶望的もいい所だった。
白い歯を覗かせ、いい笑顔で沙耶香の隣に写る木田。
それを睨むうちに、どうしようもない劣等感が湧き上がってくる。
これからどれだけ勉強して、必死に仕事をしたって、俺がこういうイケイケなタイプに成り代わるのは無理だ。
オスとしての魅力で決定的に負けているのが、痛いぐらいに解る。
たとえ俺が沙耶香だったとしても、俺じゃなく木田を彼氏に選ぶに決まっている。
「クソッ!」
俺は、右拳で壁を殴りつけた。予想以上の音がして、壁がへこむ。
明らかに他の部分とは違う陰影のついた壁を見て、ああ親に怒られるな、なんて現実的な計算をする自分が嫌だ。


木田の事はほぼ毎日なにかしら呟かれている一方で、俺に関する呟きは今やほとんど無かった。
けれども最初の方には、割と俺のことと思わしき内容も書いてある。
日付が進むごとに、俺への興味が薄れていっている証拠だ。
沙耶香の心を満たしているのは、あくまで木田。木田なんだ。
じゃあ、その木田ってのはどんな奴なのかが気になる。
ツイッターのプロフィールを見ると、どうやら沙耶香の部活のOBらしい事が解った。
さらにその下には、ブログのURLが貼られている。
俺はそのリンク先に飛び、さらなる衝撃に見舞われた。
木田がブログ提携の動画投稿サイトに、沙耶香とのハメ撮り動画を載せていたからだ。
ものすごい再生数だ。少ないものでも6000、多いものになると40000以上はある。
つまりはそれだけの回数、沙耶香の裸が見られた事になる。
俺はその事実を知っただけで、軽い眩暈のようなものに見舞われた。吐き気も少しする。
『サヤをホテルで開発中☆』
そう題名をつけられたものを再生すると、ラブホテルのベッドで愛撫される沙耶香が映った。
映像は20分単位で、3分割されている。

(1/3)の映像では、沙耶香がベッドに膝立ちになり、その背後から木田がローターで朱色の秘部を弄んでいた。
目の部分にモザイクこそ掛かっているものの、体型や白い肌、そして左脇腹の黒子で間違いなく沙耶香本人だと解る。
まさか、成長した幼馴染の性器を初めて見るのが、こんな形でとは。
『あ……あん…………ああっ…………』
沙耶香は荒い息の合間に、甘い声を上げ続けていた。
木田はクリトリス周辺にローターを這わせつつ、キスを迫り、乳房を揉みしだく。
改めて正面から見ると、沙耶香の胸はそこそこの膨らみがあった。
たぶんCカップ。女子高生という括りで考えれば、やや大きい方じゃないかと思う。
それを、木田の指が愛撫していく。
それが気持ちいいのか、ローターのせいか、沙耶香の腰は円を描くように横向きに揺れていた。

(2/3)では、沙耶香はベッドに仰向けで横たわり、その脚の間に木田が入ってローター責めをしていた。
『ほら、どう? イクの?』
木田は責めながら、沙耶香に問いかける。
沙耶香はさっきの映像以上に甘い声を上げながら、大股を開き、脚をピンと伸ばし、と忙しなく蠢かせている。
『イクんならイッていいんだよ。その代わり、イク時にはちゃんと声出してね。出せるよね。
 …………ほら、どう、イク? イッていいんだよ、ほら』
木田はそうして、言葉で巧みに沙耶香の絶頂を導いているらしい。
『い、いくっ…………いくぅっ…………!!』
沙耶香は、木田の命じた通りに絶頂を宣言した。まるで、躾けられた犬のように。

(3/3)では、とうとう木田と沙耶香のセックスそのものが撮られている。
2の続きらしく、仰向けの沙耶香が大きく脚を開き、その上から木田が圧し掛かって動く。
映像の冒頭部では、沙耶香も脚を閉じ気味で、ただ木田の動きに合わせてシーツの擦れる音がするだけだった。
でも3分が過ぎた辺りから、木田の手が沙耶香の脚を割り開く。
大股を開いた沙耶香の中に、木田の赤黒いアレがねじ込まれる様子がモロに見えはじめる。
『どう、サヤ。サヤはこの角度好きでしょ。好きだよね。今日は、何回イケるかな?
 …………ああ、サヤの子宮、すっごい降りてきてて気持ちいいよ』
木田は常に何かしらの言葉をかけながら腰を打ち込み続けていた。
結合部の状態はよく見えないが、にちゃ、にちゃという音がしっかりと拾われている。
その音を聞くだけで、膣の状態を知るには十分だった。
『んあぁあ、ああっ、ああああっ…………あっ、ああ、いい…………いいぃーっ………………!!』
沙耶香の甘い声もしっかりと聴こえてくる。
俺は、そのセックスを全部見ることはできなかった。映像は10分近く残っているものの、とても耐えられそうにない。

動画には、様々なコメントが付けられていた。
『今度の子も、超可愛い!』
『いつもながら慶也様の細マッチョな体に惚れる、私も抱いて欲しい』
『なんて理想的なイチャラブだ』
全てがそうした賞賛コメントだ。かなり常連がいるらしく、和気藹々とした雰囲気が形成されていた。
そう、歓迎されている。木田と沙耶香の、このセックスは。
俺はやり場の無い怒りに包まれながら、別の動画を再生する。
断じて見たいわけじゃない。ただ、動画を残らず確認せずには居られなかった。

分割も含めて何十本に渡るハメ撮り動画では、様々な体位で沙耶香と木田が交わっている。
『ちょっと前から、結構仕込まれてる』というツイートがあった通り、多くの動画で沙耶香はフェラをしていた。
ソファに掛けた木田の足元に沙耶香が蹲り、黒髪を揺らしてフェラを繰り返す。
熱心な沙耶香の奉仕に木田がコメントするたび、俺の心の中にはどす黒いものが渦巻いた。
セックスシーンも、観ているだけで胸焼けがするようで、苦しくて涙が出た。
タオルで拭っても拭っても涙があふれて止まらなかった。
それでも我ながら呆れるのは、勃起している事だ。
思春期だからか、はち切れるほどに硬く反り立っている。
けれども勃起に耐えかねて扱こうとすると、右拳がひどく痛んだ。
ツイッターで木田の顔を見た瞬間、怒りで壁を殴った部分だ。
骨にヒビが入ってるんじゃないかと思えるぐらい、ズキズキとひどく痛む。とてもオナニーは出来ない。
一度痛みで気分が萎えると、ひどくバカバカしくなり、勃起したままのアレをズボンにしまった。

木田についてさらにネットを漁ると、大学時代・社会人時代を通して何人もの女と関係を持っていた事が判った。
それらの女に対してもハメ撮りビデオを撮影し、別アカウントで公開していることも。
つまりは沙耶香も、女の何人目かに過ぎないわけだ。俺にはそれが無性に腹が立った。
この木田という男は沙耶香に飽きたら、すぐに浮気する。遊ぶだけ遊んだらあとは捨てるだけだ。
沙耶香本人にもこの事実を知らせなければ。
俺はそう思い、証拠を揃えた上で、意を決して沙耶香を部屋に呼ぶ。
でも……その結果は、俺の予想とは全く違っていた。




「バカじゃないの?」
俺の集めた証拠を見た沙耶香の第一声は、それだった。
「なっ……!」
「人のツイッター覗き見た挙句に、こんなの一々持ってきて、それをバカって言ってんの。
 浮気するとか、あんたに何が解るの? 自分がろくに経験ないから、嫉妬してるんでしょ」
沙耶香は、俺に軽蔑しきった瞳を向けた。
喧嘩は数え切れないほどしてきたけど、これほどに感情の無い瞳を向けられるのは初めてだ。
親の仇……まるで、そんな目だった。
「純一なんかが、木田先輩のこと解ったように言わないで。
 木田先輩は本気で私の事考えてくれてるし、大事にしてくれる。幸せにだってしてくれる。
 今はもう、木田先輩以外の人と結婚とか、考えられないから」
冷ややかな口調でそう告げた沙耶香は、それ以上居たくないとばかりに素早く立ち上がる。
俺は座ったまま、反射的にその服の裾を掴んでいた。
「ま、待てよ沙耶香! 俺、お前が好きなんだよっ!!」
この最後の場面で、ようやく口に出来た一言。
今の今まで、幼馴染の関係を壊すのが怖くて言えなかった一言。
それがついに、俺の口から滑りでた。
沙耶香の動きが止まる。もしかして、と俺は思う。
けれども……その最後の望みすら振り払うように、沙耶香の服の裾は俺の指を離れていった。
そのままドアを開き、まさに部屋を出ようとする時、沙耶香は立ち止まる。

「…………ね、純一。ほんとはね、私だってすごく好きだったよ。純一のこと。
 小さい頃からずっと一緒で、大人になったら純一と結婚するんだろうなって、当たり前みたいに思ってた。
 純一との子供の顔だって、何回も想像したよ。
 でも、今は違う。私の中ではもう、純一よりも、木田先輩の存在の方がずっと大きくなってる」
沙耶香はそこで、俺の方を振り向く。
その目からは涙が零れていた。
「ねぇ、純一……そこまで私が好きだったんなら、何でもっと早く、告白してくれなかったの?
 純一の告白がもっと早かったら、きっと、何もかも全部…………違ってたのに!!」
沙耶香の瞳は、俺に心底からの怒りを向けているように見えた。
ひどく悲しんでいるようにも見えた。
いずれにしても、沙耶香の顔を間近で見るのはこれが最後だ。俺はそう直感する。
「じゃあ、もう二度と近づかないでね、“ジュンチ”。……今までありがと。バイバイ」
沙耶香はそう言ってドアを閉める。
俺はその無機質な木の扉を、ただ呆然と眺めている事しかできなかった。
窓からの隙間風に、青春の終わりのようなものを感じた。



以来、沙耶香のツイッターには鍵が掛けられるようになった。
ツイッターの鍵は、限られた人間以外の閲覧を防ぐ非公開機能だ。
鍵のかかったツイートを見るには、こちらからリクエストを送り、それに対しての承認を得なければいけない。

恋が終わったことは理解していたが、呟きが見られないとなると、逆に気になって仕方がなくなる。
せめて見守るぐらいはさせてほしい。
小さい時からずっと一緒に育ってきた仲だ。気にするなといわれて、はいそうですかとはならない。
とはいえ、明らかに俺を警戒しての鍵なんだろうから、そのまま元のアカウントで申請をしても弾かれて終わりだ。
まずは、リクエストの申請者が俺だとバレないようにしないといけない。
俺は適当なニックネームで新しいアカウントを作成した。
プロフィールは適当に捏造し、なるべく面白いツイートをして、数週間でフォロワーを増やした。
そうして完全に俺と無関係そうな匿名アカウントを作り出し、満を持して沙耶香にリクエストを送る。
承認を待つ時間は、ひどく長く感じた。
その日の夜、ついに承認が来る。俺はマウスを持つ手を震わせながら、逸る気持ちでツイートを読み漁った。
そして、再び苦しむ事になる。

ツイートの内容は、より過激なプレイになっていた。
木田の主導で、様々なセックスを試している所だという。
朝までお互いイキ続けのポリネシアンセックス。そしてつい先日は、とうとうアナルにも手を出したらしい。
木田の上げているだろう動画を観に行くまでもなかった。
ツイートのごく短い文面だけで、心臓が破れそうに痛む。
このままではいけない。そう思った俺は、何とか傷を癒す方法を探した。

すでにバイトを始めていた友達から一時的に金を借り、ソープで沙耶香似の嬢を指名したのもそうだ。
プレイ前に断り、その嬢の事を沙耶香と呼ぶ許可を得る。
その上で、沙耶香の名前を呼びながら、人生初のセックスを貪った。
けれどもそれで得られたのは、満足じゃない。
「ずっと沙耶香って言ってたね。好きな子なの?」
プレイ後に嬢からそう問われた時、俺は喉を詰まらせた。
幼馴染か、好きな相手か。どっちで答えようか迷っているうちに、涙がボロボロと出てきて止まらなくなる。
「なになに、大丈夫?」
嬢は一応慰めてくれてたけど、内心気持ち悪がっているのが雰囲気で解った。
やっぱり俺にとっての沙耶香は、あの沙耶香以外のものじゃない。
3万という金を浪費した結果、それが痛いほど理解できた。

俺は色々な事に疲れ果て、沙耶香のフォローを外す。
この頃の俺はもう完全に泥沼だった。学校に行く気力もなく、ほとんど不登校状態だ。
そんな中、ウチの親から沙耶香が引越すらしいという話が出た。
木田の実家である中部地方に行くことにしたそうだ。
まだ高校生という事もあり、沙耶香の両親は反対したが、沙耶香が折れなかったらしい。
そのうち木田も家に来て、両親を根気強く説き伏せたんだそうだ。

引越しの当日、親は俺に見送りしないのかと尋ねた。
親にしてみれば、小さい頃からずっと遊んでた仲だ。不自然に思うだろう。
でも行ける訳がなく、俺は二階の部屋のブラインドから、遠ざかるトラックを眺めていた。
トラックが完全に見えなくなった後、ベッドに突っ伏して泣いた。泣きまくった。


俺はしばらく、完全に沙耶香を忘れようとした。
とりあえずバイトをはじめ、学校にもまた行きだした。
でも数ヶ月経つと、やっぱりどうしても気になり始める。
自分の意志の弱さを嘲笑いながら、俺は再度沙耶香宛てに申請を飛ばした。
それから二日後。
ツイッターに一通のダイレクトメールが届く。その送り主を見て、俺は目を剥いた。
木田だ。
『お前が純一って奴か。幼馴染だか知らんが、もうこれ以上沙耶香に付きまとうな。
 沙耶香は俺の彼女だ。あんましつこいと……潰すぞ』
動画の中の甘い感じとはまったく違う、ドスの効いた文言。
そしてそのダイレクトメールの直後、木田はある画像をタイムラインに載せた。
恐らくハワイらしき外国の海をバックに、体育会系の男達がずらりと並んでいる写真だ。
水着姿の女も数人居る。
写真中央に木田に抱かれるように映っているのは、日焼けした沙耶香のようだ。
ただ……雰囲気は随分と変わっていた。
髪は茶髪になり、目元も少しいじられている。小さくてほとんど見えないが、臍にピアスも開いているようだ。
そこにいたのはもう、地味で隠れファンの多かった沙耶香じゃなかった。

結局俺は、その後沙耶香の様子を見ることはできなくなった。
ただ国立に受かってから、サークルで仲良くなった奴に頼み、こっそりツイートを見せてもらった事ならある。
沙耶香は今、三児の母になっているらしい。
少なくともツイッターの上では、心から木田を愛し、幸せに暮らしているとある。
俺はその言葉を信じるしかない。

ブラインドから覗く沙耶香の部屋は、すべてがあの頃のまま、部屋の主だけを欠いて存在していた。



                              終
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100万ヒット記念

皆さんのおかげで、とうとうこのブログも100万ヒットを超えました。
つまりは拙作を皆さんに100万回ご覧になって頂けたという事で、その途方もなさに唖然とします。
このブログを始めた時点では、100万ヒットなど夢のまた夢と思っておりましたが……。

ともあれ、非常にめでたい!という事で、以前にも一度やった、
『リクエストを募ってのお礼小説』をまたやりたいなと思っております。
とはいえ、現時点では色々とやる事があってすぐには動けないため、
今月一杯リクエストを募集したいと思います。

なお、リクエスト内容は、既存作品の続編希望~でなく、新規に書き下ろせるネタであれば嬉しいです。
リクエスト方法は、この記事へのコメント・拍手コメント・pixivへのメッセージ、のいずれかをご利用くださいませ。


皆さんからのリクエスト、お待ちしております!!
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