※最終話&エピローグです。ややスカトロ成分がきつめなのでご注意下さい。
同じ屋敷と呼ばれる建物でも、俺の住み慣れた『苔屋敷』と劉の屋敷とでは規模が違った。
遥かに見上げる高い天井に、磨きぬかれた大理石の床。朱色の太い柱に、金や朱の入り乱れた装飾。国賓クラスを招いて然るべき御殿だ。
だが見張りの男達の足は、そうした華美な装いとは正反対の場所……薄暗い石階段をいくつも下っていく。地下だ。
尋問や躾に地下牢は定番とはいえ、つくづく入宮もこういう場所に縁がある。
ただ、それもこれで最後だ。俺が彼女を日の当たる場所に連れ戻してやる。
俺がそう決意を新たにした瞬間。俺達の進行方向から、歓声と拍手が沸き起こった。
嫌な予感がした。
「おい!!」
俺の腕を掴む男が力を強めた。無意識に体が前に出ていたらしい。でも仕方がない。この嫌な予感は、きっと当たっているんだから。
地下に並んだ扉のうち、一際大きな扉の前にまた二人の見張りがいた。
歓声はその後ろの扉から漏れているようだ。
見張り役が俺達に気付き、訝しげな顔で何かを訊ねてくる。俺の腕を掴む奴が二言三言言葉を返すと、その顔は愉快そうに歪んだ。
「入レ、日本人。佳境だぜ」
その言葉と共に、分厚い鉄の扉が開かれる。
視界に飛び込んできたのは、パーティー会場のような煌びやかな空間だ。
とても一個人の有する地下室とは思えない。
天井の巨大なシャンデリアが辺り一面を柔らかな金色に照らしている様は、入宮が競り落とされた日の映像を思い出す。
いや、それだけじゃない。実際に部屋の中には、あのオークション会場で見かけた客が何人もいた。
あえて、その人間を集めたのか。入宮の調教具合を見せる為に。
そうだ、入宮。入宮はどこだ。
そう思って室内を見渡すと、瞬く間に見つかった。彼女は“会場”の中央、ガラスに四方を囲まれた高台という、最も目立つ場所に拘束されていたからだ。
木で出来た椅子の上での『まんぐり返し』。
後ろ手に縛られたまま、両脚で胴と頭を挟み込むような状態だ。細い身体はゆったりとした座部にすっかり収まってしまっている。
当然というべきか、膝裏は手すりに、重ねた両足首は背もたれの頂点に固く結び付けられ、一切の身動きを封じられてもいた。
当然、恥じらいの部分を隠す術はない。女にとってこれ以上ない屈辱的な格好だ。
そしてどうやら、彼女に恥を与えているのは姿勢だけじゃない。入宮の背後に位置する観客達が、入宮の肛門部分を凝視して嗤っている。
彼女の肛門は、銀色の器具で大きく開かれているらしい。
「さっきチラッと聴こえたんだがなぁ。あのお嬢ちゃん、今日の為に一週間クソをさせて貰えてねぇらしい」
扉を薄く開けたまま、さっきの見張り役が流暢な日本語で語りかけてくる。
主人である劉が日本人を買い漁っているだけあって、部下にも日系が多いらしい。
いや、そんな事はどうでもいい。気にかかるのは、奴の言葉そのものだ。
「あの開いたケツん中にゃ、みっちりと糞が詰まってる筈だ。そのクソを、お客様方に観察されてんのよ。
面ァ見てみな、今にも泣きそうだぜ。ちっと前までならすげぇツラで睨み返してたとこだろうが、流石にそろそろ限界らしい。
ま、無理もねぇ。俺ら下っ端の間でもさんざっぱら輪姦したし、ついこの間は黒人連中に何日もブッ通しでオモチャにされてやがった。
何より、劉のダンナから直々にこってり躾けられたんだ。参らねぇ訳がねぇ」
男の言う通り、入宮の表情は悲痛に歪んでいた。羞恥と疲弊のあまり、睨む余裕もないという風だ。
劉はそんな入宮の傍に歩み寄り、肛門を指して告げた。
「ご覧の通り、この娘の腸は汚れで詰まています。よって今から浣腸をします。それも、只の浣腸じゃありません。『ドナン』使いマス」
その言葉で、場が一層の沸きを見せる。
ドナン浣腸。親父のSM本で見た覚えがある。
元々は医薬品で、便秘の重症患者にのみ用いられた、最もきつい浣腸液らしい。
浣腸液として最もポピュラーなグリセリンが時間を置いてじわりと効いてくるのに対し、ドナンは即効性がある。
浣腸を施したその瞬間から、洋酒を煽った時のように直腸内がカアッと熱くなる。
肛門の筋は痺れて緩みきり、しばらくは意思とは無関係に便が垂れ流しになってしまう。
そうした効果があまりにも劇的なため、今では一切の生産が中止され、幻の浣腸液とさえ呼ばれている。
確かそういう記述だったはずだ。
そんなものを、入宮に使うのか。それも、一週間も便を溜めさせた状態で。
「ドナンって、あの…………!? い、いや! あれはもうイヤぁっ!!」
劉の言葉を聞いた瞬間、入宮は明らかに狼狽する。どうやら経験があるらしい。
入宮のその反応を、場の人間が揃って笑いものにする。劉も、客達も。
「フフフ、どうやらトラウマになているようです。何日か前、試しに使たんですよ。
400ccばかり入れて、出せないように、太い肛門栓とゴムのパンツで封をしたんです。
そうしたらこの頑固娘が狂たように呻き始めて、最後には白目剥いて気絶してましたよ」
劉はそう言って場の笑いを誘う。だが俺と入宮自身にとっては、まるで笑える話じゃない。白目を剥いて失神するなど、明らかに異常だ。
しかも今の入宮は、一週間も排泄をしていないという。そんな状態で強烈な浣腸を使われては、どうなるのか想像もつかない。
「やめて、お願いやめてっ!!」
入宮の哀願も虚しく、劉の取り巻き達が無表情に準備を進めていく。
獲物の肛門から器具を引き抜き、洗面器一杯に作られた透明な液体をガラスの浣腸器で吸い上げて。
「競り負けた時は悔しかったものだが、こうして他人の調教を観るのも中々そそるな」
「ええ。あの娘がどれだけ顔を歪めてみっともなく苦しむのか、本当に愉しみ!」
「これはいよいよ、今夜で狂うかもしれないな」
客席からはそういった言葉が囁かれていた。
その悪意ある視線に見られながら、ガラス浣腸器が入宮の肛門に突き立てられる。
「あぁぁ、いやあっ!!」
注入直後、入宮は早くも悲鳴を上げ始める。頬肉の引き攣りようは、瀬川達がやった酢浣腸の時以上だ。
しかし、注入は一度では終わらない。二度、三度……ガラス浣腸器が突き立てられ、シリンダー内でピストンが動く。
計5回。浣腸器が100ml入りだとすれば、500mlが注ぎ込まれた計算になる。
本の記述にあった通り、効果はすぐに表れた。
「ああ……くぅっ、ぁああはぁぁっ…………あ、熱いいっっ…………!!」
注入が終わってからわずか5秒ほどで、入宮の口から苦しそうな声が漏れる。
「何だ、だらしない。そんなに肛門をヒクつかせるな」
その劉の詰りを切っ掛けとしたかのように、天井近くの巨大モニターに入宮の姿が映し出された。
会場のどこに座った客にも、入宮の苦しむ様が伝わるようにだろう。
巨大映像の精度は憎いほどに高い。目を凝らせば、入宮の恥毛の1本1本まで判別できそうだ。
当然、肛門周りの状況もはっきりと見て取れる。
執拗な調教を受け続けた肛門からは、すでに初々しさが失われていた。
菊輪は紅色に色づき、常に指が数本楽に入るほどに開いている。さらに今は、ドナン浣腸の影響で喘ぐように大きく開閉してもいた。
その上の秘裂も、もう綺麗な1本筋じゃない。ピンク色はやや灰色がかり、膨らんだ陰唇が蛇行するようにして飛び出している。
「ほほ、競りで見たものとはまるで別物だ。あの初々しかった穴が、たった数ヶ月でこれとは!」
「まったく。前戯なしでそのままぶち込めそうだ。さすが劉さんの躾けは容赦がない。一体、一日何人とさせたのやら」
「乳房のサイズもかなり増しているな。先端の蕾にしても、もう常に勃ち続けだ」
モニターに大写しになった入宮の変化には、客席からもざわつきが起きていた。
その中心で劉は、黒い何かを取り巻きの女から受け取っていた。
場の注目が劉に集まる。
「このドナン浣腸は、放ておくとすぐに垂れ流しになてしまう。そこで、特殊な栓を使います」
劉は入宮の肛門近くに移動し、手にした物をモニターに映し出した。
見たこともない道具だ。話の経緯からしてアナルプラグの類だろうが、本来流線型であるべき先端は大きく4方向に反りかえっている。
もしそんなものを無理矢理肛門に押し込まれたら、中を押し広げられる感覚は相当なものだろう。
「ご覧の通り、このプラグは肛門めいっぱい拡げます。開いた時の最大直径は10cm以上。そうそう抜けません」
劉はそう言ってプラグを掲げ、改めて場に異形振りを見せ付けてから、たっぷりとローションを塗りこめた。
そして拡がった先の部分を強く鷲掴みにしたまま、すでに少し液を漏らしている入宮の肛門に宛がう。
「ふぐっ…………!!」
次の瞬間、モニター左の入宮の目が見開かれた。その右側では、暴力的なサイズのアナルプラグが朱色の肛門にめり込んでいく。
そしてプラグが根元まで入り込み、劉の手が離れた瞬間には、ぐうっと入宮の臍の下が盛り上がる。
直径10cmというあの毒々しい花が、荒れ狂う腸内で咲いたのだろう。
「うううっ!!!」
当然、入宮は苦しそうに呻いた。だが彼女の地獄は、そこからがスタートだ。
「ふんんん゛…………ううんん……ん、っぐぅぅぅうっ…………!!!」
入宮の苦悶の声が響き渡る。
声だけじゃない。顔は真っ赤になり、目は見開かれ、腹は腹筋が浮き出るほど必死の力で締められている。
腸内の異物を外へ搾り出すことに総力を挙げている……そういう風だ。
それでも排泄は許されない。十文字の極太プラグは、憎らしいほどにがっちりと肛門に嵌まり込んでいる。
出したい、けれども出せない。その歪な抑制は、入宮の下半身に痛々しい影響を及ぼしていた。
肛門が狂ったように戦慄き、太腿に深い筋が入ったと思えば緩み、すぐにまた筋張る。
肛門栓の脇に出来たほんの僅かな隙間からは、薄黄色い液体が滴り落ちていく。
当然入宮の身体そのものも激しく反応していて、木製の椅子が激しく音を立てる。
俺にとっては見ているだけで胸が痛む光景だが、場に集まった連中は総じて目を輝かせていた。
「どうか笑ってやって下さい。この豚は浣腸で感じるのです。そのように調教しました」
劉はそう言って肛門栓を指で弾く。
「うぐ、ふぐぐぐぐぐっ…………し、したいっ…………したい、したいっ!!!」
汗まみれで歯を食い縛りながら呻く入宮。その声の響きで、腹筋の力の入り具合が推して知れる。
シャンデリアに照らされた白い裸体には、全身にじっとりと脂汗が浮いていた。
便意の辛さは俺も解る。必死な息みも、脂汗が滲むのも経験がある。
でも入宮が今味わっている便意は、およそ日常で経験するものとは比較にもならないんだろう。異常とも思える汗の量が、それを物語っている。
「もう我慢できない! だめ、もうだめもうだめぇぇっっ!! 栓ぬいて、うんち、うんちさせてっっ!!!!」
10分が経った頃、入宮の言葉にもう理性はなかった。
呼吸は浅く速く、下腹からは聞いた事もないほど濁りきった腹下しの音が絶え間なく続いている。
太腿から足指の先まで、全身が恐ろしいほどに痙攣して椅子をガタつかせている。
「自力でひり出してみせろ。本当に出したいならできるはずだ」
劉は面白そうに見下ろすばかり。観客連中からも同情の声は微塵も上がらない。
純然たる悪意の見世物になりながら、入宮はさらに壊れていく。
「ああ゛っ…………ぁぁああああお゛っ…………!!!」
白目を剥きかけ、口の端から涎さえ垂らし、天を仰いだ首をガクガクと揺らして。
「さぁ、ひり出せ! お前の中で渦巻いている穢れを、この人達に見てもらえ!!」
劉は満面の笑みでそう命じる。
「いっ、いやぁっ……」
入宮がどれほど嫌がろうと、彼女に選択権などない。
劉のその命令から約2分後、それまで以上に入宮の身体中に力が入ったかと思うと、呻き声を上げていた口が大きく開く。
「あああああああもうだめぇえええーーーーっ!!! でるぅーーーっ、でちゃうううーーーーっ!!!!」
かつては体育館に響き渡っていた声量が、会場中を震わせる。
直後、入宮の肛門から黒い栓が弾け飛んだ。4つに開くあの肛門栓だ。
そして、排泄が始まった。開ききった肛門から、凄まじい勢いで茶色い汚液が噴き出す。
汚液は数本の筋に分かれて放物線を描き、数メートル前にあるガラスへ悠々と届いて垂れ落ちていく。
女の恥などという言葉ではあまりにも生ぬるい、地獄のような大量排泄。
「おおお……あれぐらい可愛い子でも、出るものは出るんだな!」
「すごい勢い。何メートル飛んでるのあれ?」
「恥知らずな女。自分が今どれだけ惨めか、鏡で見せ付けてやりたいね!」
客席から歓声と野次が飛びはじめた。聞き取れるのは日本語だけだが、英語や中国語で発される野次もけして良い意味ではないだろう。
悪意ある数十の視線の元で排泄を晒す気分は、どのようなものなのか。入宮の顔からは、心情は読み取れない。
彼女は肩で息をしながら、俯きがちに鼻を啜り、眼孔に溜め切れない涙を静かに溢していた。
奔流が止まったかと思えば、また噴き出し。また止まり、尻肉の間に雫が滴るだけになった頃に、また小さく噴き出し。
一週間分の排泄は、何分に渡って続いたのだろう。
「おお、臭い臭い。こんな物を腹に溜めて、よく人間の顔ができていたものだ」
諸悪の根源である劉は、わざとらしく鼻をつまみながら入宮に近づく。
奴の視線が捉える入宮の肛門は、不自然なほどに開ききっている。力加減をせずに上下に割り開いた結果、完全に筋の切れた肛門。そんな風だ。
中の粘膜が奥の奥まで見えてしまっている様は、ひたすらに不気味でしかない。
劉もまたその肛門を凝視しながら、例の病的にギラついた瞳を見せる。
「さすがドナンだ、一回でよく解れている。これなら問題ないな」
劉はそう言って、取り巻きの女達に向かって頷いて見せた。
すると女達は、布の掛かった台を入宮の前にまで運んでくる。
何だ、あれは。場の誰もがそう疑問符を浮かべる中、劉は笑みを浮かべながら布を取り去る。
「うお……っ!!」
驚きの声が上がった。舞台の上が見えやすい、前列の客席からだ。俺はその声にひどく嫌な感じを受けながら、台に乗った何かを観察する。
構造はシンプルだ。ミシンを思わせる機械の前方に、ディルドウが取り付けられている。実物を見るのは初めてだが、ファッキングマシンと呼ばれるものに違いない。
だが、取り付けられたディルドウが異常だった。
劉の逸物はおろか、入宮を輪姦した黒人の怒張よりも凶悪だ。何しろ、セッティングをしている取り巻きの女の腕よりも大きいのだから。
その形状は、もはや男性器というより甲虫の胴に近い。
以前な男根ではまずないような、緩やかな上向きのカーブを描いてもいる。明らかに、どこか特定の場所を穿つように設計されている。
「よく見りゃ、えげつないな。なんだあれ?」
「でかいな。あれほどのディルドウは、米国向けのショップでも見たことがないぞ」
「拷問器具だな、あそこまでいくと……」
まさに異形と呼ぶべき責め具に、さすがの観客達も表情を固めた。
中でも一番に血の気を無くしているのは、今から責め具を挿入される入宮だ。
「どこを探しても見つかりません。この『恶魔』は特注品です。この雌豚に、最大限の苦痛と快楽を与えるための。
私の愛人達に、腕を何度も結腸まで押し込ませて情報集めました。
子宮を一番効率よく押し上げながら、腸の奥を抉れるように、太さや角度を計算しました。
一度、入るかどうかのテストもしてます。床に置いたこれの上に座らせたら、自分の体重でどんどん入ていった。
あの時の顔と叫び声、今も忘れない。とても良かた。
その日は結局半分しか入らなかたが、今日は大丈夫。その為にドナンで緩めた。これだけ拡がれば、腕でも頭でも入ります」
劉はそう言いながら、取り巻きの女達に合図を出す。
女達は眉一つ動かさずに台を押し出し、入宮の肛門へとディルドウを捻じ込み始めた。
ディルドウが入宮の股座へ入り込むと、改めてそのサイズの異常さを感じてしまう。何しろ、入宮自身の脹脛より少し細いだけなんだから。
「あ、あ……やめて、だめっ!!!」
必死の拒絶も、当然聞き届けられる事はない。
淡々と押し込まれたディルドウがついに最奥まで達したところで、マシンのスイッチが入れられる。
その瞬間、聞き慣れない金属音が響き始めた。掘削機の駆動音に似た音と、ディルドウを前後させるアームのカチャンカチャンという音。それが速いペースで繰り返される。
「あぐうっ!!」
入宮は歯を食い縛りながら声を漏らした。そしてその一声を皮切りに、嬌声が上がりはじめる。
マシンのパワーは相当なものだった。明らかに無理のあるサイズのディルドウが、力強く叩き込まれては腸壁を捲り上げつつ引き抜かれる。
挿入パターンにしても、ただ抜き差しを一定のペースで繰り返すわけじゃない。ベテラン男優の腰遣いを思わせる緩急がついている。
「んぁあああ゛あ゛っ!! あぁっ、あ゛おッ!!……はぁっ、はぁっはぁっ…………んん゛ん゛ん゛っ…………っあああ゛お゛っっ!!!」
ディルドウが腸を奥まで貫く瞬間、入宮の喉からは濁った叫びが上がった。
さらに機械が小さなストロークでゴッゴッと最奥を突き上げれば、その動きと連動するように喘ぎが搾り出される。
引き抜かれる時には荒い呼吸と共に、もどかしそうな呻きが出る。
認めたくはない。認めたくはないが、入宮は後孔を穿たれながら、間違いなく感じているらしかった。
「本当によく調教されているな。あんな物を叩き込まれて感じるとは」
「気持ちよさそー! 絶対逝ってるよね、あれ」
会場がざわつき始めると、劉は舞台上から客席に視線を向けた。
「そういえば、言い忘れてました。この一週間、雌豚に我慢させていた事、もう一つあります。
絶頂です。私の女達に交代で、5分以上休ませず、けして絶頂させないように責め続けさせました。
その時の映像あります。観ますか、面白いですよ」
劉がそう言って指示を出すと、数秒後にスクリーンの映像が切り替わる。
薄暗い部屋の中、ベッド上で拘束されている入宮が映し出された。
左右の足の裏をぴったりとくっつけるようにして縛りあわされ、両手も頭の後ろで縛られているようだ。
その入宮に二人の女が張り付き、責めている。
一人は屹立しきった乳首を捻り上げ、もう一人は秘裂にマッサージ器を宛がっている。
特にマッサージ器を使う女は冷徹で、入宮の顔を注視しながらマッサージ器を宛がい続け、表情に変化が出た所ですっと離す。
『うう゛むぅううーーっ!! うむぅっ、うむぉあおおおーーっ!!!!』
入宮はボールギャグを噛まされているため、意思を表示する事ができない。
ただ股座の女へ向けて訴えるような視線を向けつつ、ギャグの穴からダラダラと唾液を溢すだけだ。
この焦らし責めは相当な時間続けられているらしく、入宮の内腿はすっかり愛液で濡れ光り、シーツも一面が塗れ、秘裂からマッサージ器が離された時には太い愛液の糸が引いているほどだった。
「どうです、必死さが笑えるでしょう。これが4日前、つまり折り返しにも来ていない時の映像です。
女の密告によれば、この後もイカせて、イカせて、と何度も涙ながらに訴えたようです。
それだけ焦らしたのですから、この雌豚は絶頂に飢えきっている。そこで、たっぷりと絶頂の素を与えてやれば…………」
劉はそう語りながら、マシン基部のツマミを大きく回した。
機械の駆動音が急に大きさを増す。ピストン運動は大きく苛烈になり、入宮の腸奥へと猛烈にディルドウを送り込んでいく。
そうなれば、受ける側の入宮にも当然変化が表れた。
「ぐうっ!? あっ、はっ、はっ、はっ…………おっ、おおお゛お゛っ!! んおおぉお゛お゛お゛っ!!!!」
肛門性感。まさにそれが凝縮された声が延々と上がり始める。
「ははは、すげぇ声だ! 若い娘の出す声じゃないな!」
「でも、気持ちよさだけはすごく伝わってくるね。品性捨てましたって感じで、むしろ潔いかも」
「潔いとかじゃなくて、あの声出さずには居られない状態なんじゃないの。ずーっとあの映像みたいに焦らされてたんでしょ?
子宮口なんてもう蕩けきってるだろうし、それを肛門側からあんなにガシガシ突かれたら、もう逝きっぱなしよ」
「なるほど、確かに絶頂から逃れられんという感じだな、あの顔は」
観客席から上がるそういった声は、きっと入宮本人には届いていないんだろう。彼女が断続的な絶頂状態にあるのは疑う余地もない。
何度も何度も獣のような声をあげ、身を震わせる。
そして最もひどい状況は、ピストンが激化してから5分ほど経った頃に起きた。
「おおお゛っ、お゛っほぉっぉ゛……くぅうおおおほおおおっっ!! あぐ、ぅっ……はぁーっ、はぁっ……ああ、あぉお゛…………。
…………う、あっ……!? だ、だめっ……と、とめて、ちょっと機械止めてっ!! で、でるっ、またでちゃううっっ!!!」
絶頂を繰り返していた入宮が、ある瞬間、目を見開いて狼狽しはじめる。
「何だ、どうした?」
「さぁ。何か、“出る”って言ってたような…………」
誰もが状況の飲み込めない中、そう言葉が発された直後。舞台上で、強烈な破裂音が響き渡った。
「いっ、いやあああぁぁぁあーーーーっ!!!」
大口を開いて入宮が叫ぶ。その口を入口だとするなら、出口に当たる部分こそが音の出所だ。
猛烈な機械のピストン運動に掻き出されるようにして、再び排泄が始まっていた。
いかにドナン浣腸が強烈だろうと、一週間溜め込んだ排泄物をすべて出し切るには至らなかったのだろう。
客席がざわつき始めた。
引いているドレス姿の女もいれば、嗜虐心に満ちた笑みを浮かべるタキシード姿の男もいる。
しかし、間違いなくこの悲劇を最も望むのは、入宮を間近で見下ろす劉だろう。
「おうおう、ここまできてまだ出すのか。日本人の慎みはどこへ失くした?
ブリブリと下痢便ひり出しながら肛門犯されて、それでまだ絶頂するか。お前にはもう、雌豚という名すら贅沢だ。
皆さん、知っている人がいたら教えてくれ。ここまで下等な動物を、一体どう呼べばいい!?」
脂肪を振るわせながら、全ての人間に聞かせるように声を張り上げる劉。
どっ、と笑いが起きる。
入宮は泣いていた。絶望に満ちた、今にも消え入りそうな表情で、恥じるように泣いていた。
その姿を見たとき、俺の中でとうとう何かが切れた。
場の異常さに呑まれたこともあり、悪目立ちしてもいけないという思いもあり、ずっと抑えつけていたものを、もう我慢できない。
「入宮ぁあああーーーーーっっ!!!!」
なおも痛む顎を無理矢理に開いて、腹の底からの声を張り上げる。
劉や観客共、全員の嘲笑を掻き消す気持ちで。
「お、おいっ、騒ぐな!!」
守衛がすぐに俺を組み伏せてきた。奴の立場的にも、この宴を邪魔されるのはまずいんだろう。
だが、もう遅い。全員の目がこっちへ向いている。
観客も、劉も、そして…………入宮の目も。
「なんだ、そいつは……」
劉が眉を顰めながら発した言葉を、入宮の一言が遮った。
「………………岡、野………………!?」
その言葉で、劉は目を剥く。
しばし入宮を見つめ、そのギラついた視線を俺の方に戻してから、奴は笑った。
「なるほど、そういう事か」
組み伏せられた俺と、左手に握り締めている花束、横倒しになったトランクケース。
それらを一つ一つ見やりながら、奴は顎を撫でる。
「この娘追いかけて、遥々海を渡てきたか。その箱の中身は2千万というところか?」
予想外の察しのよさに、俺は息を呑む。奴の口端の角度が上がった。だがそれは、果たして笑いが深まったと表現していいんだろうか。
「この娘買てから…………否、その前、競り落とした初対面の時からだ。いつもこの娘の後ろに、男の影がちらついていた。それが、お前という訳だ」
劉はそう言ってから、大きく腕を広げて会場にアピールする。まるで、自分という存在をアピールするかのように。
「皆さん、ご覧下さい。あのボロ切れの様な少年はどうやら、私からこの奴隷を買い戻すつもりのようです。
私か彼、両方が所有権を主張する以上、彼女自身に決めてもらうしかありません。このまま私の奴隷として、他の人間相手では味わう事すらできない究極の快感を得続けるか。それとも同じ日本人同士、浅い夢のような有り触れた恋でいいのか。
彼女が崩壊を望むなら、私の勝ちです。皆さん、どうかその瞬間の立会人になって下さい!」
はっきりとした日本語で、奴はそう宣言する。誇らしげな横顔が苛立たしい。自分が勝つと信じきっているのか。
だが実際、入宮は明らかに限界という風だ。
今も肛門から液を噴出しながら強烈に腸奥を穿たれ続け、苦しそうに唇を噛みしめている。
俺という存在がなければ、またあの快感の声を迸らせていることだろう。
「頑張れ! 頑張れよ、入宮っ!!!」
何に対してのエールなのか、自分でもよく解らない。それでも、何か声を掛けたかった。
「お、おか、のぉ…………」
入宮は涙に潤みきった目で、必死に俺を見つめてくる。
それを余裕の表情で観察していた劉は、取り巻きの女に短く何かを命じた。
すると取り巻きの女は、それまでの無表情を一瞬崩し、恐ろしい笑みを浮かべる。
その笑みの理由はすぐに明らかとなった。
取り巻き達の間で即座に命令の伝播がなされ、それぞれが道具を手に取る。そして今まさに苦しみの最中にいる入宮に駄目押しをはじめた。
病的にひくつく秘裂の上……陰核にマッサージ器を宛がい。
屹立しきった乳首にクリップを取り付けて、力任せに引き伸ばし。
「や、やめっ……!! ん、はぐっ…………んおおおお゛お゛っっ!!!」
乳房、陰核、そして肛門、……その全てに並ではない刺激を浴びせられ、入宮の全身が痙攣する。
入宮は左右に首を振りながら、壮絶な絶頂顔を晒し始める。
「入宮あっ! 畜生、やめろ!!やめろよっ!!」
俺は守衛に腕を捻りあげられたまま、必死に叫んだ。唾液と一緒に血が飛び散るのが見えた。
その視界の先で、入宮は悲壮な顔をさらに歪ませる。
「お、岡野。見ないで、お願い。こんな所、岡野にだけは見られたくない…………」
「いいや。しっかりと見届けてもらわねば困る。今日はお前が真に私の物となる、記念すべき日なんだからな!」
今度は劉が、入宮の言葉を遮る番だった。
奴は機械を止め、粘液に塗れた極太のディルドウを肛門から引き抜く。
同時に女達にも縄を解かせて、入宮の身体を抱え上げた。
散々に蹂躙された入宮の肛門は開ききり、異様なほどの厚みをもった紅い菊輪が脱腸気味に痙攣している状態だ。
自分が造った道具で、ここまで変化させたぞ。そう言いたいのか。
「董。その子供を近くに連れて来い」
劉が指を曲げてそう言うと、守衛の男は俺の右腕を捻り上げたまま、トランクケースを拾い上げて舞台に近づいていく。
「入宮」
「…………岡野…………」
ガラスの内外という位置にまで近づき、俺と入宮は改めて互いの名を呼ぶ。
劉は尊大な瞳で俺を見下ろしたまま、ガラスに身を寄せる入宮の腰を掴んだ。
「あっ!? ま、まさか……!」
振り返りながら表情を強張らせる入宮。劉は表情を変えない。
「何か問題でもあるのか? お前の立場は何だ。そう、私に買われた奴隷だ。
奴隷をいつどこで抱こうが、お前に拒む権利はない!!!」
劉は俺と入宮双方に言い聞かせるように叫びながら、入宮の腰へと挿入していく。
今まで、入宮の性的な行為は何度も見てきた。だが、挿入の瞬間をこれほど間近で見るのは初めてだ。
瘤のついた規格外の怒張が、メリメリと音も立てそうな窮屈さで割れ目を押し開いていく。
「うう…………!!」
入宮が呻きを上げるのも、ひどく自然なことに思える。
傍目には無理に見える剛直は、それでも着実に入宮の中に呑みこまれて行く。その淡々とした進行は、今まで何度も同じ行為が繰り返されてきた事実を物語るようだ。
心が苦しい。一人だけ、遥か後方においていかれているような気がする。
「ふふふ、さぁ、子宮口に当たったぞ。奥はいつも以上に解れているが、締め付けも格別だな。性感が昂ぶっているせいか? それとも、好いた男に見られて興奮したのか?」
「やめてよ。本当に、やめて…………!!」
劉の囁きかけに、入宮は苦しそうな顔をする。きっと俺も同じ顔だ。
「そうか、まあいい。いつも通り、この膣で愉しませてもらうとしよう。お前も愉しめ。いつも通りにな!」
劉はそう言って腰を遣いはじめた。
パンッ、パンッ、パンッ、パンッ、という音が繰り返される。音が以前より鈍く感じないのは、生で聴いているせいだろうか。
あるいは接触音が変わるほどに、劉が脚に力を込めているという事かもしれない。
「………………っ!! ………………っっ!!!」
劉にガラスへ押し付けられる形の入宮は、乳房と頬をガラスに潰させるようにして声を殺していた。
しかしそれに気付いた劉は肩まで伸びた入宮の黒髪を掴んで引きつける。
「ああ゛っ!!……ハァッハァ、ハァッ…………くぁあああいぐぅっ!! いぐう、いぐ、いぐ、いくっぅ…………!!」
髪の痛みで口を開いた入宮は、それを切っ掛けとして絶頂を宣言しはじめた。
そう、『いく』と。
彼女の調教を最初から見てきた俺は知っている。入宮は元々、絶頂した感覚を『くる』と表現する子だった。それも、限界の限界、どうしようもなくなった時にだけだ。
しかし今は、『いく』という言葉を息を吐くように宣言し続けている。
何度も何度も絶頂を覚えこまされ、その度に『絶頂する時はイクと言え』と命じられたのだろう。
それが条件付けとなって、入宮の本能にまで根付いているんだ。
その条件付けを完成させた劉は、いよいよガラスを軋ませるほどに激しく腰を打ち込みながら口を開いた。
「おお、締まる締まる。この膣は本当に絶品だ。お前もそう思うだろ?」
わざとらしく俺を見下ろしながらそう告げ、醜悪な笑みを浮かべる。
「ああ、これは失礼。お前はこの娘とした事がなかったんだったな。何しろこの娘の操は、私が奪ったのだから!!」
こんな言葉を聞けば、さすがに腸が煮えくり返る。だが拘束された俺は、拳を握りしめ、奴をにらみ上げるしかない。
劉と入宮の結合部から、透明な液がいくつも滴り落ちていく。
入宮の愛液か、それとも劉の先走りか。
俺がその液を凝視している事に勘付かれたのだろうか。劉は今一度笑みを深め、入宮の膝裏を抱え上げた。
駅弁ファック。AVなどではそう呼ばれる、結合部を余さず見せ付ける体位だ。
「あ、い、いやっ!!」
入宮はその体位を嫌がったが、主導権を握る劉が譲らなければ意味はない。
劉は入宮のむちりとした腿を大きく抱え上げると、そのまま一気に落としに掛かる。
入宮の体重と、劉自身の突き上げ。その双方向の力で子宮口を叩き潰すやり方だ。
「あぐうっ!!」
当然、入宮も澄ましてはいられない。
目を見開き、全身に力を込めて衝撃を味わう。そしてその後には、全身をふっと脱力させる。
もう嫌というほど目にした、女性が絶頂する瞬間の動きだ。
その後も劉が子宮口を突き上げるたび、入宮は悶え狂う。
「いぐっ、いぐっ、いぐいぐっ、いんぐぅうううっ!!!」
俺とはまるでテクニックが違う。怒張のサイズも違う。女を落とすために作り上げられた凶器を、あれほど腹圧のかかる体位で受ければ、絶頂も無理はないと思う。
だからこそ、叫ばずにはおれなかった。
「入宮ぁっ!!!」
俺が叫ぶと、絶頂を宣言していた入宮がはっとした表情になり、視線を俺に落としてくる。
「…………おか、の…………!」
入宮が、荒い息の合間に俺の名を呼んだ。
彼女の名前を呼び返そうとして、固まる。手で半ば覆われたその表情が、あまりにも悲しそうだったから。
「岡野……お願い。もう、みないで…………」
聞き間違い――じゃない。入宮は、確かにそう言った。
「ふふふ、私との愛の行為に、お前は邪魔だそうだ」
「ち、違う……でも、こんなの…………もう、我慢、できない…………。
あたしのことは、もう、忘れて……岡野と一緒だった時間、ちょっとだけ……だったけど、た、楽しかったよ…………!」
入宮の吐き出す一言一句が、俺の心に突き刺さる。
実際俺の存在は、今の彼女にとっての枷なのかもしれない。なまじ俺が声を掛けるせいで、無闇に彼女が苦しめているのかもしれない。
それでも…………諦めることなんて、できない。
小学校の頃からずっと好きで、憧れて。振られたり引き離されたり色々あったけど、ガラス一枚越えれば抱きしめられる場所まで来たんだ。
「嫌だっ!!!」
俺は、ガキの頃以来の大声で叫んでいた。いや、今の俺の心は、まさにガキそのものだ。
飾らず、偽らず、心の底から思っている事だけを訴えようとしている。
「俺は、お前を助ける為にここまできたんだ。入宮が他の男の物になってるのが、どうしても我慢できなくて!
必死に、金作ったんだ。あの日渡せなかった花束も、身振り手振りで買ってきたんだ。
入宮、頼む、頼むよ。帰ってきてくれ。俺と一緒に、ずっと、ずっと一緒にいてくれよ、入宮っっ!!!」
静まり返った会場内に、俺の言葉だけが反響する。
反響が消えれば、音はなくなる。全ての時間が止まったようだった。
入宮もしばし表情を固めていた。やがて顔を半分覆っていた手が、顔全体を覆い尽くす。
そして、嗚咽が漏れ始めた。
「岡野……あ、あたしも、あたしも岡野といたい!!
岡野と一緒に暮らして……一緒におばあちゃんになって…………死ぬまで一緒にいたいよ!!!」
その叫びで、劉の表情が一気に険しくなる。
「ふざけるなっ、お前は、私の購入物ダぞ! この場は、お前達小日本人の馴れ合いを見せる為に作たではない!! おまえは錯乱している。そうか、脳が快感で焼ききれる寸前なんだろう。なら、今日この場で焼ききってやる!! 何も余計なコト喋らず、私の気が向いた時に愉しませる玩具であればいい!!」
劉はそう言って、入宮を乱暴に床に投げ捨てる。
そして悲鳴を上げる入宮の右脚を持ち上げ、側位で犯しはじめた。
「あああっ!! あ、あぐうっ、んぐううう゛う゛っ!! くはっ、ハッハッ、ハッ…………!!」
犯され始めてから数分と経たず、入宮の様子は変わった。涼しげな美貌を歪め、呻き、犬のように速い呼吸を繰り返し。
本で見たことがある。側位というのは、女性にとって最も気持ちのいい体位の一つだと。
普段女性があまり刺激されることのない場所にペニスが当たる。
正常位やバックスタイルに慣れた人間ほど、今まで突かれたことのない部分への刺激に快感を覚え、非常にイキやすいのだと。
「ふん。ここまで子宮が降りてきておいて、何が恋だ。お前の身体はもう、浅ましく快感を求めるだけの娼婦以下の肉だ。私から離れられないのは、もう解ているな! 今までどれだけお前に恩赦を与えてきたか、知ってるだろう!! 狂いそうだからやめてくれとお前が泣くたび、丁寧にアナルを舐めさせたりして休ませてやた。今日はもうそれはなしだ。お前が泣こうが喚こうが、壊れるまではやめない!!!」
劉はそう言いながら、入宮の数倍の図体で強烈に腰を打ちつける。
見ているだけでも、劉がこの側位という交わり方に精通している事がよく解った。
浅く、深く。様々に角度をつけながら、Gスポットとポルチオに最大限の刺激を与えている。
それは劉の技巧と怒張あっての事で、俺ではとても同じように再現はできない。
さらには空いた手で陰核や乳房まで刺激されるのだから、気を張った程度で耐え凌げるはずもなかった。
「はっ、はっ、はっ…………いやっ、いぐっ!! いぐ、いぐぅっ……はおおおっイグーーーっ!!!」
陰核を弄る劉の腕を握りしめながら、入宮は悶え狂っていた。
見開いた目は白目を剥きかけ、鼻腔は膨らみ、いの字に食い縛った口の端からは泡塗れの唾液が零れていく。
SMで電流責めを受けた奴隷が、よくこういう表情を見せていた。そしてポルチオの快感は、全身に強い電流が迸るようだという。
これが、ポルチオ絶頂を極めさせられている女性の反応なのか。
――あの人は凄いんだ。一度あの凄さを味わったら最後、もう忘れられない。
この屋敷へ来る途中に会った女の言葉を思い出す。全員こうやって脳のシナプスを焼ききられ、離れられなくなっていくんだろう。
「入宮っ、しっかりしろよ!!呑まれちゃ駄目だ!!」
俺は必死で前進し、ガラスに肩をぶつけながら叫んだ。
「おい、やめろ!」
董と呼ばれていた男が俺をガラスから引き離そうとするが、俺は離れない。入宮から、もう1ミリだって離れたくない。
必死の叫びの甲斐あってか、入宮の瞳がこっちを向いた。そして俺と目が合うと、一度固く目を瞑り、
「………………!」
小さく息を吐きながら、目を開く。
その瞳を見て、俺は思わず息を呑んだ。
必死な俺の顔が、そのまま映りこむほどに澄み切った虹彩。そこにいたのは紛れもなく、俺が告白したあの頃の入宮だ。
俺の反応で、入宮が持ち直した事を察したのか、劉が顔を顰める。
「くっ……いい加減に諦めろ! お前は所詮、私の奴隷だ!!」
劉は恫喝しながら入宮に這う格好を取らせ、荒々しく腰を打ち込んだ。
そこから劉は、様々な体位で入宮を犯し続けた。
両腕を取っての後背位で身動きも許さず貫き続け。
背面騎乗位で荒々しく突き上げ。
床へ寝かせての正常位で、あえて脚を暴れさせながら執拗に膣奥を突きまわしたり。
徹底したポルチオ責めを受け、入宮は数え切れないほどの絶頂に追い込まれているようだった。
内腿は強張り、足指は握りこまれ、乳房や腹筋は痙攣するように細かに上下し、口の端からは涎が垂れ。
そのどれもがポルチオでの絶頂のサインだ。
それでも彼女の目は、凛としたまま劉の姿を映しこみ続けていた。
快感のあまり白目を剥きかける事もあるが、それを意思の力で押さえ込んで、また劉に視線を集中させる。
誰もが恐れた入宮の瞳。それは、劉にも有効なのか。
「いい度胸だ…………!!」
劉は汗を散らしながら入宮を抱え上げた。二度目の体位と同じく駅弁と呼ばれるスタイル。ただし今度は対面式。
至近で顔を突き合わせるその体位は、劉の終わりにするという執念が見えるようだった。
「んぐっ……!!」
入宮が呻く。いよいよ大きさを増した怒張が、膣の奥深くを抉ったせいだ。
最奥まで繋がったその状態で、劉は取り巻きの女に向かって叫んだ。
「破坏!!」
女は頷いて、胸元から小瓶を取り出す。そして油のような小瓶の中身をたっぷりと腕に垂らすと、今まさに劉に挿入されている入宮の背後に立った。
まさか。そう思う俺の視界の中で、女は何の躊躇もなく、入宮の肛門に腕を捻じ込み始める。
「があっ!? あ゛……ぁぁ、くおおあ゛……ああ、あ゛…………っ!!」
入宮は目を見開き、震えるような悲鳴を上げる。
ドナンと極太ディルドーの挿入で開ききっていたとはいえ、それももう随分と前の話だ。ちょうど塞がりかけている肛門に、アナルフィストは余りにきつい。
しかも、今はそれだけじゃない。劉の規格外の怒張が、膣を埋め尽くしている最中だ。
「どうだ? 私の物と腕一本に、二穴の形を作り変えられた感想は。もうピンポン玉一個の隙間もない、ギリギリ一杯だ。苦しいだろう。そして、たまらなく感じるだろう!」
劉はそう言いながら、入宮の膣を激しく突き上げる。それに呼応して女も、肘から先を強く捻る動きを見せた。
「う、うう゛っ!? くはっ、いっぎ、いぐっ…………!! いっぢゃうう゛ふう゛………………!!!」
「そうだ、それがお前の本質だ。子宮の入口に亀頭を嵌めこまれ、その子宮を肛門側から握りつぶされながら狂っていけ! もうお前に後戻りの道などない。輝かしい未来もない。お前という人間の幕を、ここで引いてやる!!」
劉は叫びながら、激しく入宮の膣奥を突き上げる。肛門に女の腕が入っている関係で、入宮の腰はほぼ固定されている。
その状態で蕩けきった子宮口を徹底的に突き上げられれば、絶頂は避けられない。
「お゛お゛ぉごお゛ぉっ!! うお゛ぉっ、こほっ!! おぉっおあお゛お゛お゛ぉお゛お゛っ!!!!」
入宮は天を仰ぎ、伸びた黒髪を背中に揺らした。叫び声はもう断末魔のようで、喉が張り裂けそうなほど激しい。
噎せ返りながら涎を垂らしつつ上がるその声は、崩壊、という二文字を想起させる。
劉もやはりそうだったんだろう。勝ち誇った顔で俺を見下ろしている。
でも俺だけは、そんな事はないと知っていた。
入宮のあの眼を見たからだ。相手の姿をそのままに映す、澄んだ瞳。あの瞳をした彼女は、絶対に約束を違えない。
俺をたっぷりと見下した後、劉は最後の仕上げに口づけでもしようと思ったんだろう。
入宮の方を向き直った劉は、そこで固まった。
入宮が、歯を食い縛り、はっきりとした瞳で見つめていたからだ。
「無駄だよ。こんな事、いくらやったって、もうあたしは堕ちない。
あたしの幕を引くのは、あんたじゃないっ!!!」
会場中を震わせるような、断固とした宣言。それが俺の胸を通り抜けた。
やっぱり、あの入宮だ。ボロボロの見た目になろうが、体液や汚物に塗れようが、彼女が彼女であることは変わらない。
「ぐぬっ…………!!」
劉は、人とは思えない壮絶な表情を形作っていた。
奴は絶対的な権力者だ。今までどんな人間が相手でも、常に自分の道理を押し付けてきたんだろう。
御せない相手は、きっと初めてなんだ。
「ふ、ふざけるなっ!!」
劉がそう吼えながら、入宮の首に手を掛けようとした時。
会場から、拍手の音が響いた。その音は連鎖するようにパラパラと広がり、やがて会場のあちこちで打ち鳴らされるようになる。
「カッコいいぜお嬢ちゃん!!」
「諦めなー、劉さん。残念だけどその子、劉さんに御せるような代物じゃないよ!」
「そうそう、競り落とした時に頬張られたのがケチのつき始めだ。せっかく坊主が金拵えてきたんだ。縁が無かったと思ってさ」
「いやーしかし、まさかこの場所で青春劇を見るとはねえ。なんだかムズムズしちまうよ!」
そういった声が会場中で沸き起こり、劉は信じられないという表情で視線を左右に惑わせる。
しかし、状況は変わらない。入宮を解放してやれという声は、刻一刻と大きくなっていく。
そうなっては劉も静かに逸物を抜き去り、苛立たしげに歯噛みする他ない。
「…………解た、もういい。董、連れてこい」
肩を落としながら劉がそう言うと、董が俺を引き起こす。
「まぁ、何だ。良かったじゃねえか」
舞台への階段に向かう途中、董はぼそりとそう耳打ちしてきた。
「……入宮」
花束を手に、俺は入宮の前に立つ。
俺は血だらけ、入宮も汚れだらけ。おまけに花束も折れて踏んづけられた雑草のようだ。
「遅くなった。悪い」
俺がそう言って花束を差し出すと、入宮は一瞬瞳に水を滲ませ、それをゴシゴシと手で拭う。
「あはは、ボロボロ。これがプレゼント?」
にへら、という感じで笑いながら、入宮はそう言った。
「それも、悪いとは思ってるよ。女の子としての初めてのプレゼント、って約束してたのに、こんななっちまっ…………」
俺のその言葉は、最後まで言い切ることができなかった。
いつかの屋上みたいに、入宮が俺の唇を奪ったせいだ。
たっぷり数秒のキスの後、入宮は俺の頬に手を当てながら顔を離す。その眼には、大粒の涙がいくつも流れていた。
「最高だよ。あたしに……ううん、あたし達に、一番似合ってる」
※
結局劉は、俺の用意した2000万という“はした金”を受け取る事はしなかった。
屋敷から続く道を、女達からの驚きの視線を受けながら歩き、帰国する。
トランクケースの中身をそのままに返却した時、板間さんは真新しい煙草に火を点けながら、俺にひとつの利子を求めた。
それは、取り返した女を生涯大切にすること。
この上なく重く、返し甲斐のある利子だ。
「ほらっ、何ボーッとしてんの!? 味噌汁冷めちゃうでしょ!」
刺すようなその声に、俺は現実に引き戻される。
いけない、確かにボーッとしていた。
「いや、ちょっと……昔を思い出して」
俺が頭を掻きながらそう答えると、嫁は眉を吊り上げる。
「はぁっ? 朝っぱらから何言ってんの? 熱でもあんの? もーっちょっと、しっかりしてよ」
手際よく朝食の片づけをしながら、彼女は捲し立てた。
誰と結婚しても尻に敷きそうな女。かつてクラスメイトが言っていた通りだ。
よく見れば時間もやばい。
俺はダシのきっちりと引かれた味噌汁と卵のかかった飯を掻き込み、上着を羽織る。
するとその俺の前に、また怒り顔の天使が現れた。
「ネクタイ曲がってる!」
きっちりとしたスーツに身を包んだ彼女は、母親のように小言を呟きながら俺の首元を正す。
組のフロント企業にコネ入社した俺とは違い、彼女は日の当たる大企業の社員だ。
元は事務員として働いていたが、あまりにも有能な為に社員登用され、今ではマネージャー職を任されている。
もっとも、知佳の比類ないカリスマと卒のなさ、そして根性を考えれば当然ともいえる。
そんな相手から見て俺は、どれほどうだつの上がらない夫だろう。
「悪い悪い。こんなんで外出たら、お前にまで恥掻かせちまう」
俺がそう言うと、知佳は目を丸くし、それから大きく息を吐いた。
「バーカ。そんなんじゃないよ」
そう言いながらもう一度俺を見つめる顔は、ひどく若々しい。
まるで、中学3年のあの日へ戻ったみたいに。
「他の誰にも、バカにされたくないってだけ。あんたはあたしが初めて惚れた、王子様なんだから」
そう言って『入宮』は、一番の笑顔を俺にくれた。
終わり
同じ屋敷と呼ばれる建物でも、俺の住み慣れた『苔屋敷』と劉の屋敷とでは規模が違った。
遥かに見上げる高い天井に、磨きぬかれた大理石の床。朱色の太い柱に、金や朱の入り乱れた装飾。国賓クラスを招いて然るべき御殿だ。
だが見張りの男達の足は、そうした華美な装いとは正反対の場所……薄暗い石階段をいくつも下っていく。地下だ。
尋問や躾に地下牢は定番とはいえ、つくづく入宮もこういう場所に縁がある。
ただ、それもこれで最後だ。俺が彼女を日の当たる場所に連れ戻してやる。
俺がそう決意を新たにした瞬間。俺達の進行方向から、歓声と拍手が沸き起こった。
嫌な予感がした。
「おい!!」
俺の腕を掴む男が力を強めた。無意識に体が前に出ていたらしい。でも仕方がない。この嫌な予感は、きっと当たっているんだから。
地下に並んだ扉のうち、一際大きな扉の前にまた二人の見張りがいた。
歓声はその後ろの扉から漏れているようだ。
見張り役が俺達に気付き、訝しげな顔で何かを訊ねてくる。俺の腕を掴む奴が二言三言言葉を返すと、その顔は愉快そうに歪んだ。
「入レ、日本人。佳境だぜ」
その言葉と共に、分厚い鉄の扉が開かれる。
視界に飛び込んできたのは、パーティー会場のような煌びやかな空間だ。
とても一個人の有する地下室とは思えない。
天井の巨大なシャンデリアが辺り一面を柔らかな金色に照らしている様は、入宮が競り落とされた日の映像を思い出す。
いや、それだけじゃない。実際に部屋の中には、あのオークション会場で見かけた客が何人もいた。
あえて、その人間を集めたのか。入宮の調教具合を見せる為に。
そうだ、入宮。入宮はどこだ。
そう思って室内を見渡すと、瞬く間に見つかった。彼女は“会場”の中央、ガラスに四方を囲まれた高台という、最も目立つ場所に拘束されていたからだ。
木で出来た椅子の上での『まんぐり返し』。
後ろ手に縛られたまま、両脚で胴と頭を挟み込むような状態だ。細い身体はゆったりとした座部にすっかり収まってしまっている。
当然というべきか、膝裏は手すりに、重ねた両足首は背もたれの頂点に固く結び付けられ、一切の身動きを封じられてもいた。
当然、恥じらいの部分を隠す術はない。女にとってこれ以上ない屈辱的な格好だ。
そしてどうやら、彼女に恥を与えているのは姿勢だけじゃない。入宮の背後に位置する観客達が、入宮の肛門部分を凝視して嗤っている。
彼女の肛門は、銀色の器具で大きく開かれているらしい。
「さっきチラッと聴こえたんだがなぁ。あのお嬢ちゃん、今日の為に一週間クソをさせて貰えてねぇらしい」
扉を薄く開けたまま、さっきの見張り役が流暢な日本語で語りかけてくる。
主人である劉が日本人を買い漁っているだけあって、部下にも日系が多いらしい。
いや、そんな事はどうでもいい。気にかかるのは、奴の言葉そのものだ。
「あの開いたケツん中にゃ、みっちりと糞が詰まってる筈だ。そのクソを、お客様方に観察されてんのよ。
面ァ見てみな、今にも泣きそうだぜ。ちっと前までならすげぇツラで睨み返してたとこだろうが、流石にそろそろ限界らしい。
ま、無理もねぇ。俺ら下っ端の間でもさんざっぱら輪姦したし、ついこの間は黒人連中に何日もブッ通しでオモチャにされてやがった。
何より、劉のダンナから直々にこってり躾けられたんだ。参らねぇ訳がねぇ」
男の言う通り、入宮の表情は悲痛に歪んでいた。羞恥と疲弊のあまり、睨む余裕もないという風だ。
劉はそんな入宮の傍に歩み寄り、肛門を指して告げた。
「ご覧の通り、この娘の腸は汚れで詰まています。よって今から浣腸をします。それも、只の浣腸じゃありません。『ドナン』使いマス」
その言葉で、場が一層の沸きを見せる。
ドナン浣腸。親父のSM本で見た覚えがある。
元々は医薬品で、便秘の重症患者にのみ用いられた、最もきつい浣腸液らしい。
浣腸液として最もポピュラーなグリセリンが時間を置いてじわりと効いてくるのに対し、ドナンは即効性がある。
浣腸を施したその瞬間から、洋酒を煽った時のように直腸内がカアッと熱くなる。
肛門の筋は痺れて緩みきり、しばらくは意思とは無関係に便が垂れ流しになってしまう。
そうした効果があまりにも劇的なため、今では一切の生産が中止され、幻の浣腸液とさえ呼ばれている。
確かそういう記述だったはずだ。
そんなものを、入宮に使うのか。それも、一週間も便を溜めさせた状態で。
「ドナンって、あの…………!? い、いや! あれはもうイヤぁっ!!」
劉の言葉を聞いた瞬間、入宮は明らかに狼狽する。どうやら経験があるらしい。
入宮のその反応を、場の人間が揃って笑いものにする。劉も、客達も。
「フフフ、どうやらトラウマになているようです。何日か前、試しに使たんですよ。
400ccばかり入れて、出せないように、太い肛門栓とゴムのパンツで封をしたんです。
そうしたらこの頑固娘が狂たように呻き始めて、最後には白目剥いて気絶してましたよ」
劉はそう言って場の笑いを誘う。だが俺と入宮自身にとっては、まるで笑える話じゃない。白目を剥いて失神するなど、明らかに異常だ。
しかも今の入宮は、一週間も排泄をしていないという。そんな状態で強烈な浣腸を使われては、どうなるのか想像もつかない。
「やめて、お願いやめてっ!!」
入宮の哀願も虚しく、劉の取り巻き達が無表情に準備を進めていく。
獲物の肛門から器具を引き抜き、洗面器一杯に作られた透明な液体をガラスの浣腸器で吸い上げて。
「競り負けた時は悔しかったものだが、こうして他人の調教を観るのも中々そそるな」
「ええ。あの娘がどれだけ顔を歪めてみっともなく苦しむのか、本当に愉しみ!」
「これはいよいよ、今夜で狂うかもしれないな」
客席からはそういった言葉が囁かれていた。
その悪意ある視線に見られながら、ガラス浣腸器が入宮の肛門に突き立てられる。
「あぁぁ、いやあっ!!」
注入直後、入宮は早くも悲鳴を上げ始める。頬肉の引き攣りようは、瀬川達がやった酢浣腸の時以上だ。
しかし、注入は一度では終わらない。二度、三度……ガラス浣腸器が突き立てられ、シリンダー内でピストンが動く。
計5回。浣腸器が100ml入りだとすれば、500mlが注ぎ込まれた計算になる。
本の記述にあった通り、効果はすぐに表れた。
「ああ……くぅっ、ぁああはぁぁっ…………あ、熱いいっっ…………!!」
注入が終わってからわずか5秒ほどで、入宮の口から苦しそうな声が漏れる。
「何だ、だらしない。そんなに肛門をヒクつかせるな」
その劉の詰りを切っ掛けとしたかのように、天井近くの巨大モニターに入宮の姿が映し出された。
会場のどこに座った客にも、入宮の苦しむ様が伝わるようにだろう。
巨大映像の精度は憎いほどに高い。目を凝らせば、入宮の恥毛の1本1本まで判別できそうだ。
当然、肛門周りの状況もはっきりと見て取れる。
執拗な調教を受け続けた肛門からは、すでに初々しさが失われていた。
菊輪は紅色に色づき、常に指が数本楽に入るほどに開いている。さらに今は、ドナン浣腸の影響で喘ぐように大きく開閉してもいた。
その上の秘裂も、もう綺麗な1本筋じゃない。ピンク色はやや灰色がかり、膨らんだ陰唇が蛇行するようにして飛び出している。
「ほほ、競りで見たものとはまるで別物だ。あの初々しかった穴が、たった数ヶ月でこれとは!」
「まったく。前戯なしでそのままぶち込めそうだ。さすが劉さんの躾けは容赦がない。一体、一日何人とさせたのやら」
「乳房のサイズもかなり増しているな。先端の蕾にしても、もう常に勃ち続けだ」
モニターに大写しになった入宮の変化には、客席からもざわつきが起きていた。
その中心で劉は、黒い何かを取り巻きの女から受け取っていた。
場の注目が劉に集まる。
「このドナン浣腸は、放ておくとすぐに垂れ流しになてしまう。そこで、特殊な栓を使います」
劉は入宮の肛門近くに移動し、手にした物をモニターに映し出した。
見たこともない道具だ。話の経緯からしてアナルプラグの類だろうが、本来流線型であるべき先端は大きく4方向に反りかえっている。
もしそんなものを無理矢理肛門に押し込まれたら、中を押し広げられる感覚は相当なものだろう。
「ご覧の通り、このプラグは肛門めいっぱい拡げます。開いた時の最大直径は10cm以上。そうそう抜けません」
劉はそう言ってプラグを掲げ、改めて場に異形振りを見せ付けてから、たっぷりとローションを塗りこめた。
そして拡がった先の部分を強く鷲掴みにしたまま、すでに少し液を漏らしている入宮の肛門に宛がう。
「ふぐっ…………!!」
次の瞬間、モニター左の入宮の目が見開かれた。その右側では、暴力的なサイズのアナルプラグが朱色の肛門にめり込んでいく。
そしてプラグが根元まで入り込み、劉の手が離れた瞬間には、ぐうっと入宮の臍の下が盛り上がる。
直径10cmというあの毒々しい花が、荒れ狂う腸内で咲いたのだろう。
「うううっ!!!」
当然、入宮は苦しそうに呻いた。だが彼女の地獄は、そこからがスタートだ。
「ふんんん゛…………ううんん……ん、っぐぅぅぅうっ…………!!!」
入宮の苦悶の声が響き渡る。
声だけじゃない。顔は真っ赤になり、目は見開かれ、腹は腹筋が浮き出るほど必死の力で締められている。
腸内の異物を外へ搾り出すことに総力を挙げている……そういう風だ。
それでも排泄は許されない。十文字の極太プラグは、憎らしいほどにがっちりと肛門に嵌まり込んでいる。
出したい、けれども出せない。その歪な抑制は、入宮の下半身に痛々しい影響を及ぼしていた。
肛門が狂ったように戦慄き、太腿に深い筋が入ったと思えば緩み、すぐにまた筋張る。
肛門栓の脇に出来たほんの僅かな隙間からは、薄黄色い液体が滴り落ちていく。
当然入宮の身体そのものも激しく反応していて、木製の椅子が激しく音を立てる。
俺にとっては見ているだけで胸が痛む光景だが、場に集まった連中は総じて目を輝かせていた。
「どうか笑ってやって下さい。この豚は浣腸で感じるのです。そのように調教しました」
劉はそう言って肛門栓を指で弾く。
「うぐ、ふぐぐぐぐぐっ…………し、したいっ…………したい、したいっ!!!」
汗まみれで歯を食い縛りながら呻く入宮。その声の響きで、腹筋の力の入り具合が推して知れる。
シャンデリアに照らされた白い裸体には、全身にじっとりと脂汗が浮いていた。
便意の辛さは俺も解る。必死な息みも、脂汗が滲むのも経験がある。
でも入宮が今味わっている便意は、およそ日常で経験するものとは比較にもならないんだろう。異常とも思える汗の量が、それを物語っている。
「もう我慢できない! だめ、もうだめもうだめぇぇっっ!! 栓ぬいて、うんち、うんちさせてっっ!!!!」
10分が経った頃、入宮の言葉にもう理性はなかった。
呼吸は浅く速く、下腹からは聞いた事もないほど濁りきった腹下しの音が絶え間なく続いている。
太腿から足指の先まで、全身が恐ろしいほどに痙攣して椅子をガタつかせている。
「自力でひり出してみせろ。本当に出したいならできるはずだ」
劉は面白そうに見下ろすばかり。観客連中からも同情の声は微塵も上がらない。
純然たる悪意の見世物になりながら、入宮はさらに壊れていく。
「ああ゛っ…………ぁぁああああお゛っ…………!!!」
白目を剥きかけ、口の端から涎さえ垂らし、天を仰いだ首をガクガクと揺らして。
「さぁ、ひり出せ! お前の中で渦巻いている穢れを、この人達に見てもらえ!!」
劉は満面の笑みでそう命じる。
「いっ、いやぁっ……」
入宮がどれほど嫌がろうと、彼女に選択権などない。
劉のその命令から約2分後、それまで以上に入宮の身体中に力が入ったかと思うと、呻き声を上げていた口が大きく開く。
「あああああああもうだめぇえええーーーーっ!!! でるぅーーーっ、でちゃうううーーーーっ!!!!」
かつては体育館に響き渡っていた声量が、会場中を震わせる。
直後、入宮の肛門から黒い栓が弾け飛んだ。4つに開くあの肛門栓だ。
そして、排泄が始まった。開ききった肛門から、凄まじい勢いで茶色い汚液が噴き出す。
汚液は数本の筋に分かれて放物線を描き、数メートル前にあるガラスへ悠々と届いて垂れ落ちていく。
女の恥などという言葉ではあまりにも生ぬるい、地獄のような大量排泄。
「おおお……あれぐらい可愛い子でも、出るものは出るんだな!」
「すごい勢い。何メートル飛んでるのあれ?」
「恥知らずな女。自分が今どれだけ惨めか、鏡で見せ付けてやりたいね!」
客席から歓声と野次が飛びはじめた。聞き取れるのは日本語だけだが、英語や中国語で発される野次もけして良い意味ではないだろう。
悪意ある数十の視線の元で排泄を晒す気分は、どのようなものなのか。入宮の顔からは、心情は読み取れない。
彼女は肩で息をしながら、俯きがちに鼻を啜り、眼孔に溜め切れない涙を静かに溢していた。
奔流が止まったかと思えば、また噴き出し。また止まり、尻肉の間に雫が滴るだけになった頃に、また小さく噴き出し。
一週間分の排泄は、何分に渡って続いたのだろう。
「おお、臭い臭い。こんな物を腹に溜めて、よく人間の顔ができていたものだ」
諸悪の根源である劉は、わざとらしく鼻をつまみながら入宮に近づく。
奴の視線が捉える入宮の肛門は、不自然なほどに開ききっている。力加減をせずに上下に割り開いた結果、完全に筋の切れた肛門。そんな風だ。
中の粘膜が奥の奥まで見えてしまっている様は、ひたすらに不気味でしかない。
劉もまたその肛門を凝視しながら、例の病的にギラついた瞳を見せる。
「さすがドナンだ、一回でよく解れている。これなら問題ないな」
劉はそう言って、取り巻きの女達に向かって頷いて見せた。
すると女達は、布の掛かった台を入宮の前にまで運んでくる。
何だ、あれは。場の誰もがそう疑問符を浮かべる中、劉は笑みを浮かべながら布を取り去る。
「うお……っ!!」
驚きの声が上がった。舞台の上が見えやすい、前列の客席からだ。俺はその声にひどく嫌な感じを受けながら、台に乗った何かを観察する。
構造はシンプルだ。ミシンを思わせる機械の前方に、ディルドウが取り付けられている。実物を見るのは初めてだが、ファッキングマシンと呼ばれるものに違いない。
だが、取り付けられたディルドウが異常だった。
劉の逸物はおろか、入宮を輪姦した黒人の怒張よりも凶悪だ。何しろ、セッティングをしている取り巻きの女の腕よりも大きいのだから。
その形状は、もはや男性器というより甲虫の胴に近い。
以前な男根ではまずないような、緩やかな上向きのカーブを描いてもいる。明らかに、どこか特定の場所を穿つように設計されている。
「よく見りゃ、えげつないな。なんだあれ?」
「でかいな。あれほどのディルドウは、米国向けのショップでも見たことがないぞ」
「拷問器具だな、あそこまでいくと……」
まさに異形と呼ぶべき責め具に、さすがの観客達も表情を固めた。
中でも一番に血の気を無くしているのは、今から責め具を挿入される入宮だ。
「どこを探しても見つかりません。この『恶魔』は特注品です。この雌豚に、最大限の苦痛と快楽を与えるための。
私の愛人達に、腕を何度も結腸まで押し込ませて情報集めました。
子宮を一番効率よく押し上げながら、腸の奥を抉れるように、太さや角度を計算しました。
一度、入るかどうかのテストもしてます。床に置いたこれの上に座らせたら、自分の体重でどんどん入ていった。
あの時の顔と叫び声、今も忘れない。とても良かた。
その日は結局半分しか入らなかたが、今日は大丈夫。その為にドナンで緩めた。これだけ拡がれば、腕でも頭でも入ります」
劉はそう言いながら、取り巻きの女達に合図を出す。
女達は眉一つ動かさずに台を押し出し、入宮の肛門へとディルドウを捻じ込み始めた。
ディルドウが入宮の股座へ入り込むと、改めてそのサイズの異常さを感じてしまう。何しろ、入宮自身の脹脛より少し細いだけなんだから。
「あ、あ……やめて、だめっ!!!」
必死の拒絶も、当然聞き届けられる事はない。
淡々と押し込まれたディルドウがついに最奥まで達したところで、マシンのスイッチが入れられる。
その瞬間、聞き慣れない金属音が響き始めた。掘削機の駆動音に似た音と、ディルドウを前後させるアームのカチャンカチャンという音。それが速いペースで繰り返される。
「あぐうっ!!」
入宮は歯を食い縛りながら声を漏らした。そしてその一声を皮切りに、嬌声が上がりはじめる。
マシンのパワーは相当なものだった。明らかに無理のあるサイズのディルドウが、力強く叩き込まれては腸壁を捲り上げつつ引き抜かれる。
挿入パターンにしても、ただ抜き差しを一定のペースで繰り返すわけじゃない。ベテラン男優の腰遣いを思わせる緩急がついている。
「んぁあああ゛あ゛っ!! あぁっ、あ゛おッ!!……はぁっ、はぁっはぁっ…………んん゛ん゛ん゛っ…………っあああ゛お゛っっ!!!」
ディルドウが腸を奥まで貫く瞬間、入宮の喉からは濁った叫びが上がった。
さらに機械が小さなストロークでゴッゴッと最奥を突き上げれば、その動きと連動するように喘ぎが搾り出される。
引き抜かれる時には荒い呼吸と共に、もどかしそうな呻きが出る。
認めたくはない。認めたくはないが、入宮は後孔を穿たれながら、間違いなく感じているらしかった。
「本当によく調教されているな。あんな物を叩き込まれて感じるとは」
「気持ちよさそー! 絶対逝ってるよね、あれ」
会場がざわつき始めると、劉は舞台上から客席に視線を向けた。
「そういえば、言い忘れてました。この一週間、雌豚に我慢させていた事、もう一つあります。
絶頂です。私の女達に交代で、5分以上休ませず、けして絶頂させないように責め続けさせました。
その時の映像あります。観ますか、面白いですよ」
劉がそう言って指示を出すと、数秒後にスクリーンの映像が切り替わる。
薄暗い部屋の中、ベッド上で拘束されている入宮が映し出された。
左右の足の裏をぴったりとくっつけるようにして縛りあわされ、両手も頭の後ろで縛られているようだ。
その入宮に二人の女が張り付き、責めている。
一人は屹立しきった乳首を捻り上げ、もう一人は秘裂にマッサージ器を宛がっている。
特にマッサージ器を使う女は冷徹で、入宮の顔を注視しながらマッサージ器を宛がい続け、表情に変化が出た所ですっと離す。
『うう゛むぅううーーっ!! うむぅっ、うむぉあおおおーーっ!!!!』
入宮はボールギャグを噛まされているため、意思を表示する事ができない。
ただ股座の女へ向けて訴えるような視線を向けつつ、ギャグの穴からダラダラと唾液を溢すだけだ。
この焦らし責めは相当な時間続けられているらしく、入宮の内腿はすっかり愛液で濡れ光り、シーツも一面が塗れ、秘裂からマッサージ器が離された時には太い愛液の糸が引いているほどだった。
「どうです、必死さが笑えるでしょう。これが4日前、つまり折り返しにも来ていない時の映像です。
女の密告によれば、この後もイカせて、イカせて、と何度も涙ながらに訴えたようです。
それだけ焦らしたのですから、この雌豚は絶頂に飢えきっている。そこで、たっぷりと絶頂の素を与えてやれば…………」
劉はそう語りながら、マシン基部のツマミを大きく回した。
機械の駆動音が急に大きさを増す。ピストン運動は大きく苛烈になり、入宮の腸奥へと猛烈にディルドウを送り込んでいく。
そうなれば、受ける側の入宮にも当然変化が表れた。
「ぐうっ!? あっ、はっ、はっ、はっ…………おっ、おおお゛お゛っ!! んおおぉお゛お゛お゛っ!!!!」
肛門性感。まさにそれが凝縮された声が延々と上がり始める。
「ははは、すげぇ声だ! 若い娘の出す声じゃないな!」
「でも、気持ちよさだけはすごく伝わってくるね。品性捨てましたって感じで、むしろ潔いかも」
「潔いとかじゃなくて、あの声出さずには居られない状態なんじゃないの。ずーっとあの映像みたいに焦らされてたんでしょ?
子宮口なんてもう蕩けきってるだろうし、それを肛門側からあんなにガシガシ突かれたら、もう逝きっぱなしよ」
「なるほど、確かに絶頂から逃れられんという感じだな、あの顔は」
観客席から上がるそういった声は、きっと入宮本人には届いていないんだろう。彼女が断続的な絶頂状態にあるのは疑う余地もない。
何度も何度も獣のような声をあげ、身を震わせる。
そして最もひどい状況は、ピストンが激化してから5分ほど経った頃に起きた。
「おおお゛っ、お゛っほぉっぉ゛……くぅうおおおほおおおっっ!! あぐ、ぅっ……はぁーっ、はぁっ……ああ、あぉお゛…………。
…………う、あっ……!? だ、だめっ……と、とめて、ちょっと機械止めてっ!! で、でるっ、またでちゃううっっ!!!」
絶頂を繰り返していた入宮が、ある瞬間、目を見開いて狼狽しはじめる。
「何だ、どうした?」
「さぁ。何か、“出る”って言ってたような…………」
誰もが状況の飲み込めない中、そう言葉が発された直後。舞台上で、強烈な破裂音が響き渡った。
「いっ、いやあああぁぁぁあーーーーっ!!!」
大口を開いて入宮が叫ぶ。その口を入口だとするなら、出口に当たる部分こそが音の出所だ。
猛烈な機械のピストン運動に掻き出されるようにして、再び排泄が始まっていた。
いかにドナン浣腸が強烈だろうと、一週間溜め込んだ排泄物をすべて出し切るには至らなかったのだろう。
客席がざわつき始めた。
引いているドレス姿の女もいれば、嗜虐心に満ちた笑みを浮かべるタキシード姿の男もいる。
しかし、間違いなくこの悲劇を最も望むのは、入宮を間近で見下ろす劉だろう。
「おうおう、ここまできてまだ出すのか。日本人の慎みはどこへ失くした?
ブリブリと下痢便ひり出しながら肛門犯されて、それでまだ絶頂するか。お前にはもう、雌豚という名すら贅沢だ。
皆さん、知っている人がいたら教えてくれ。ここまで下等な動物を、一体どう呼べばいい!?」
脂肪を振るわせながら、全ての人間に聞かせるように声を張り上げる劉。
どっ、と笑いが起きる。
入宮は泣いていた。絶望に満ちた、今にも消え入りそうな表情で、恥じるように泣いていた。
その姿を見たとき、俺の中でとうとう何かが切れた。
場の異常さに呑まれたこともあり、悪目立ちしてもいけないという思いもあり、ずっと抑えつけていたものを、もう我慢できない。
「入宮ぁあああーーーーーっっ!!!!」
なおも痛む顎を無理矢理に開いて、腹の底からの声を張り上げる。
劉や観客共、全員の嘲笑を掻き消す気持ちで。
「お、おいっ、騒ぐな!!」
守衛がすぐに俺を組み伏せてきた。奴の立場的にも、この宴を邪魔されるのはまずいんだろう。
だが、もう遅い。全員の目がこっちへ向いている。
観客も、劉も、そして…………入宮の目も。
「なんだ、そいつは……」
劉が眉を顰めながら発した言葉を、入宮の一言が遮った。
「………………岡、野………………!?」
その言葉で、劉は目を剥く。
しばし入宮を見つめ、そのギラついた視線を俺の方に戻してから、奴は笑った。
「なるほど、そういう事か」
組み伏せられた俺と、左手に握り締めている花束、横倒しになったトランクケース。
それらを一つ一つ見やりながら、奴は顎を撫でる。
「この娘追いかけて、遥々海を渡てきたか。その箱の中身は2千万というところか?」
予想外の察しのよさに、俺は息を呑む。奴の口端の角度が上がった。だがそれは、果たして笑いが深まったと表現していいんだろうか。
「この娘買てから…………否、その前、競り落とした初対面の時からだ。いつもこの娘の後ろに、男の影がちらついていた。それが、お前という訳だ」
劉はそう言ってから、大きく腕を広げて会場にアピールする。まるで、自分という存在をアピールするかのように。
「皆さん、ご覧下さい。あのボロ切れの様な少年はどうやら、私からこの奴隷を買い戻すつもりのようです。
私か彼、両方が所有権を主張する以上、彼女自身に決めてもらうしかありません。このまま私の奴隷として、他の人間相手では味わう事すらできない究極の快感を得続けるか。それとも同じ日本人同士、浅い夢のような有り触れた恋でいいのか。
彼女が崩壊を望むなら、私の勝ちです。皆さん、どうかその瞬間の立会人になって下さい!」
はっきりとした日本語で、奴はそう宣言する。誇らしげな横顔が苛立たしい。自分が勝つと信じきっているのか。
だが実際、入宮は明らかに限界という風だ。
今も肛門から液を噴出しながら強烈に腸奥を穿たれ続け、苦しそうに唇を噛みしめている。
俺という存在がなければ、またあの快感の声を迸らせていることだろう。
「頑張れ! 頑張れよ、入宮っ!!!」
何に対してのエールなのか、自分でもよく解らない。それでも、何か声を掛けたかった。
「お、おか、のぉ…………」
入宮は涙に潤みきった目で、必死に俺を見つめてくる。
それを余裕の表情で観察していた劉は、取り巻きの女に短く何かを命じた。
すると取り巻きの女は、それまでの無表情を一瞬崩し、恐ろしい笑みを浮かべる。
その笑みの理由はすぐに明らかとなった。
取り巻き達の間で即座に命令の伝播がなされ、それぞれが道具を手に取る。そして今まさに苦しみの最中にいる入宮に駄目押しをはじめた。
病的にひくつく秘裂の上……陰核にマッサージ器を宛がい。
屹立しきった乳首にクリップを取り付けて、力任せに引き伸ばし。
「や、やめっ……!! ん、はぐっ…………んおおおお゛お゛っっ!!!」
乳房、陰核、そして肛門、……その全てに並ではない刺激を浴びせられ、入宮の全身が痙攣する。
入宮は左右に首を振りながら、壮絶な絶頂顔を晒し始める。
「入宮あっ! 畜生、やめろ!!やめろよっ!!」
俺は守衛に腕を捻りあげられたまま、必死に叫んだ。唾液と一緒に血が飛び散るのが見えた。
その視界の先で、入宮は悲壮な顔をさらに歪ませる。
「お、岡野。見ないで、お願い。こんな所、岡野にだけは見られたくない…………」
「いいや。しっかりと見届けてもらわねば困る。今日はお前が真に私の物となる、記念すべき日なんだからな!」
今度は劉が、入宮の言葉を遮る番だった。
奴は機械を止め、粘液に塗れた極太のディルドウを肛門から引き抜く。
同時に女達にも縄を解かせて、入宮の身体を抱え上げた。
散々に蹂躙された入宮の肛門は開ききり、異様なほどの厚みをもった紅い菊輪が脱腸気味に痙攣している状態だ。
自分が造った道具で、ここまで変化させたぞ。そう言いたいのか。
「董。その子供を近くに連れて来い」
劉が指を曲げてそう言うと、守衛の男は俺の右腕を捻り上げたまま、トランクケースを拾い上げて舞台に近づいていく。
「入宮」
「…………岡野…………」
ガラスの内外という位置にまで近づき、俺と入宮は改めて互いの名を呼ぶ。
劉は尊大な瞳で俺を見下ろしたまま、ガラスに身を寄せる入宮の腰を掴んだ。
「あっ!? ま、まさか……!」
振り返りながら表情を強張らせる入宮。劉は表情を変えない。
「何か問題でもあるのか? お前の立場は何だ。そう、私に買われた奴隷だ。
奴隷をいつどこで抱こうが、お前に拒む権利はない!!!」
劉は俺と入宮双方に言い聞かせるように叫びながら、入宮の腰へと挿入していく。
今まで、入宮の性的な行為は何度も見てきた。だが、挿入の瞬間をこれほど間近で見るのは初めてだ。
瘤のついた規格外の怒張が、メリメリと音も立てそうな窮屈さで割れ目を押し開いていく。
「うう…………!!」
入宮が呻きを上げるのも、ひどく自然なことに思える。
傍目には無理に見える剛直は、それでも着実に入宮の中に呑みこまれて行く。その淡々とした進行は、今まで何度も同じ行為が繰り返されてきた事実を物語るようだ。
心が苦しい。一人だけ、遥か後方においていかれているような気がする。
「ふふふ、さぁ、子宮口に当たったぞ。奥はいつも以上に解れているが、締め付けも格別だな。性感が昂ぶっているせいか? それとも、好いた男に見られて興奮したのか?」
「やめてよ。本当に、やめて…………!!」
劉の囁きかけに、入宮は苦しそうな顔をする。きっと俺も同じ顔だ。
「そうか、まあいい。いつも通り、この膣で愉しませてもらうとしよう。お前も愉しめ。いつも通りにな!」
劉はそう言って腰を遣いはじめた。
パンッ、パンッ、パンッ、パンッ、という音が繰り返される。音が以前より鈍く感じないのは、生で聴いているせいだろうか。
あるいは接触音が変わるほどに、劉が脚に力を込めているという事かもしれない。
「………………っ!! ………………っっ!!!」
劉にガラスへ押し付けられる形の入宮は、乳房と頬をガラスに潰させるようにして声を殺していた。
しかしそれに気付いた劉は肩まで伸びた入宮の黒髪を掴んで引きつける。
「ああ゛っ!!……ハァッハァ、ハァッ…………くぁあああいぐぅっ!! いぐう、いぐ、いぐ、いくっぅ…………!!」
髪の痛みで口を開いた入宮は、それを切っ掛けとして絶頂を宣言しはじめた。
そう、『いく』と。
彼女の調教を最初から見てきた俺は知っている。入宮は元々、絶頂した感覚を『くる』と表現する子だった。それも、限界の限界、どうしようもなくなった時にだけだ。
しかし今は、『いく』という言葉を息を吐くように宣言し続けている。
何度も何度も絶頂を覚えこまされ、その度に『絶頂する時はイクと言え』と命じられたのだろう。
それが条件付けとなって、入宮の本能にまで根付いているんだ。
その条件付けを完成させた劉は、いよいよガラスを軋ませるほどに激しく腰を打ち込みながら口を開いた。
「おお、締まる締まる。この膣は本当に絶品だ。お前もそう思うだろ?」
わざとらしく俺を見下ろしながらそう告げ、醜悪な笑みを浮かべる。
「ああ、これは失礼。お前はこの娘とした事がなかったんだったな。何しろこの娘の操は、私が奪ったのだから!!」
こんな言葉を聞けば、さすがに腸が煮えくり返る。だが拘束された俺は、拳を握りしめ、奴をにらみ上げるしかない。
劉と入宮の結合部から、透明な液がいくつも滴り落ちていく。
入宮の愛液か、それとも劉の先走りか。
俺がその液を凝視している事に勘付かれたのだろうか。劉は今一度笑みを深め、入宮の膝裏を抱え上げた。
駅弁ファック。AVなどではそう呼ばれる、結合部を余さず見せ付ける体位だ。
「あ、い、いやっ!!」
入宮はその体位を嫌がったが、主導権を握る劉が譲らなければ意味はない。
劉は入宮のむちりとした腿を大きく抱え上げると、そのまま一気に落としに掛かる。
入宮の体重と、劉自身の突き上げ。その双方向の力で子宮口を叩き潰すやり方だ。
「あぐうっ!!」
当然、入宮も澄ましてはいられない。
目を見開き、全身に力を込めて衝撃を味わう。そしてその後には、全身をふっと脱力させる。
もう嫌というほど目にした、女性が絶頂する瞬間の動きだ。
その後も劉が子宮口を突き上げるたび、入宮は悶え狂う。
「いぐっ、いぐっ、いぐいぐっ、いんぐぅうううっ!!!」
俺とはまるでテクニックが違う。怒張のサイズも違う。女を落とすために作り上げられた凶器を、あれほど腹圧のかかる体位で受ければ、絶頂も無理はないと思う。
だからこそ、叫ばずにはおれなかった。
「入宮ぁっ!!!」
俺が叫ぶと、絶頂を宣言していた入宮がはっとした表情になり、視線を俺に落としてくる。
「…………おか、の…………!」
入宮が、荒い息の合間に俺の名を呼んだ。
彼女の名前を呼び返そうとして、固まる。手で半ば覆われたその表情が、あまりにも悲しそうだったから。
「岡野……お願い。もう、みないで…………」
聞き間違い――じゃない。入宮は、確かにそう言った。
「ふふふ、私との愛の行為に、お前は邪魔だそうだ」
「ち、違う……でも、こんなの…………もう、我慢、できない…………。
あたしのことは、もう、忘れて……岡野と一緒だった時間、ちょっとだけ……だったけど、た、楽しかったよ…………!」
入宮の吐き出す一言一句が、俺の心に突き刺さる。
実際俺の存在は、今の彼女にとっての枷なのかもしれない。なまじ俺が声を掛けるせいで、無闇に彼女が苦しめているのかもしれない。
それでも…………諦めることなんて、できない。
小学校の頃からずっと好きで、憧れて。振られたり引き離されたり色々あったけど、ガラス一枚越えれば抱きしめられる場所まで来たんだ。
「嫌だっ!!!」
俺は、ガキの頃以来の大声で叫んでいた。いや、今の俺の心は、まさにガキそのものだ。
飾らず、偽らず、心の底から思っている事だけを訴えようとしている。
「俺は、お前を助ける為にここまできたんだ。入宮が他の男の物になってるのが、どうしても我慢できなくて!
必死に、金作ったんだ。あの日渡せなかった花束も、身振り手振りで買ってきたんだ。
入宮、頼む、頼むよ。帰ってきてくれ。俺と一緒に、ずっと、ずっと一緒にいてくれよ、入宮っっ!!!」
静まり返った会場内に、俺の言葉だけが反響する。
反響が消えれば、音はなくなる。全ての時間が止まったようだった。
入宮もしばし表情を固めていた。やがて顔を半分覆っていた手が、顔全体を覆い尽くす。
そして、嗚咽が漏れ始めた。
「岡野……あ、あたしも、あたしも岡野といたい!!
岡野と一緒に暮らして……一緒におばあちゃんになって…………死ぬまで一緒にいたいよ!!!」
その叫びで、劉の表情が一気に険しくなる。
「ふざけるなっ、お前は、私の購入物ダぞ! この場は、お前達小日本人の馴れ合いを見せる為に作たではない!! おまえは錯乱している。そうか、脳が快感で焼ききれる寸前なんだろう。なら、今日この場で焼ききってやる!! 何も余計なコト喋らず、私の気が向いた時に愉しませる玩具であればいい!!」
劉はそう言って、入宮を乱暴に床に投げ捨てる。
そして悲鳴を上げる入宮の右脚を持ち上げ、側位で犯しはじめた。
「あああっ!! あ、あぐうっ、んぐううう゛う゛っ!! くはっ、ハッハッ、ハッ…………!!」
犯され始めてから数分と経たず、入宮の様子は変わった。涼しげな美貌を歪め、呻き、犬のように速い呼吸を繰り返し。
本で見たことがある。側位というのは、女性にとって最も気持ちのいい体位の一つだと。
普段女性があまり刺激されることのない場所にペニスが当たる。
正常位やバックスタイルに慣れた人間ほど、今まで突かれたことのない部分への刺激に快感を覚え、非常にイキやすいのだと。
「ふん。ここまで子宮が降りてきておいて、何が恋だ。お前の身体はもう、浅ましく快感を求めるだけの娼婦以下の肉だ。私から離れられないのは、もう解ているな! 今までどれだけお前に恩赦を与えてきたか、知ってるだろう!! 狂いそうだからやめてくれとお前が泣くたび、丁寧にアナルを舐めさせたりして休ませてやた。今日はもうそれはなしだ。お前が泣こうが喚こうが、壊れるまではやめない!!!」
劉はそう言いながら、入宮の数倍の図体で強烈に腰を打ちつける。
見ているだけでも、劉がこの側位という交わり方に精通している事がよく解った。
浅く、深く。様々に角度をつけながら、Gスポットとポルチオに最大限の刺激を与えている。
それは劉の技巧と怒張あっての事で、俺ではとても同じように再現はできない。
さらには空いた手で陰核や乳房まで刺激されるのだから、気を張った程度で耐え凌げるはずもなかった。
「はっ、はっ、はっ…………いやっ、いぐっ!! いぐ、いぐぅっ……はおおおっイグーーーっ!!!」
陰核を弄る劉の腕を握りしめながら、入宮は悶え狂っていた。
見開いた目は白目を剥きかけ、鼻腔は膨らみ、いの字に食い縛った口の端からは泡塗れの唾液が零れていく。
SMで電流責めを受けた奴隷が、よくこういう表情を見せていた。そしてポルチオの快感は、全身に強い電流が迸るようだという。
これが、ポルチオ絶頂を極めさせられている女性の反応なのか。
――あの人は凄いんだ。一度あの凄さを味わったら最後、もう忘れられない。
この屋敷へ来る途中に会った女の言葉を思い出す。全員こうやって脳のシナプスを焼ききられ、離れられなくなっていくんだろう。
「入宮っ、しっかりしろよ!!呑まれちゃ駄目だ!!」
俺は必死で前進し、ガラスに肩をぶつけながら叫んだ。
「おい、やめろ!」
董と呼ばれていた男が俺をガラスから引き離そうとするが、俺は離れない。入宮から、もう1ミリだって離れたくない。
必死の叫びの甲斐あってか、入宮の瞳がこっちを向いた。そして俺と目が合うと、一度固く目を瞑り、
「………………!」
小さく息を吐きながら、目を開く。
その瞳を見て、俺は思わず息を呑んだ。
必死な俺の顔が、そのまま映りこむほどに澄み切った虹彩。そこにいたのは紛れもなく、俺が告白したあの頃の入宮だ。
俺の反応で、入宮が持ち直した事を察したのか、劉が顔を顰める。
「くっ……いい加減に諦めろ! お前は所詮、私の奴隷だ!!」
劉は恫喝しながら入宮に這う格好を取らせ、荒々しく腰を打ち込んだ。
そこから劉は、様々な体位で入宮を犯し続けた。
両腕を取っての後背位で身動きも許さず貫き続け。
背面騎乗位で荒々しく突き上げ。
床へ寝かせての正常位で、あえて脚を暴れさせながら執拗に膣奥を突きまわしたり。
徹底したポルチオ責めを受け、入宮は数え切れないほどの絶頂に追い込まれているようだった。
内腿は強張り、足指は握りこまれ、乳房や腹筋は痙攣するように細かに上下し、口の端からは涎が垂れ。
そのどれもがポルチオでの絶頂のサインだ。
それでも彼女の目は、凛としたまま劉の姿を映しこみ続けていた。
快感のあまり白目を剥きかける事もあるが、それを意思の力で押さえ込んで、また劉に視線を集中させる。
誰もが恐れた入宮の瞳。それは、劉にも有効なのか。
「いい度胸だ…………!!」
劉は汗を散らしながら入宮を抱え上げた。二度目の体位と同じく駅弁と呼ばれるスタイル。ただし今度は対面式。
至近で顔を突き合わせるその体位は、劉の終わりにするという執念が見えるようだった。
「んぐっ……!!」
入宮が呻く。いよいよ大きさを増した怒張が、膣の奥深くを抉ったせいだ。
最奥まで繋がったその状態で、劉は取り巻きの女に向かって叫んだ。
「破坏!!」
女は頷いて、胸元から小瓶を取り出す。そして油のような小瓶の中身をたっぷりと腕に垂らすと、今まさに劉に挿入されている入宮の背後に立った。
まさか。そう思う俺の視界の中で、女は何の躊躇もなく、入宮の肛門に腕を捻じ込み始める。
「があっ!? あ゛……ぁぁ、くおおあ゛……ああ、あ゛…………っ!!」
入宮は目を見開き、震えるような悲鳴を上げる。
ドナンと極太ディルドーの挿入で開ききっていたとはいえ、それももう随分と前の話だ。ちょうど塞がりかけている肛門に、アナルフィストは余りにきつい。
しかも、今はそれだけじゃない。劉の規格外の怒張が、膣を埋め尽くしている最中だ。
「どうだ? 私の物と腕一本に、二穴の形を作り変えられた感想は。もうピンポン玉一個の隙間もない、ギリギリ一杯だ。苦しいだろう。そして、たまらなく感じるだろう!」
劉はそう言いながら、入宮の膣を激しく突き上げる。それに呼応して女も、肘から先を強く捻る動きを見せた。
「う、うう゛っ!? くはっ、いっぎ、いぐっ…………!! いっぢゃうう゛ふう゛………………!!!」
「そうだ、それがお前の本質だ。子宮の入口に亀頭を嵌めこまれ、その子宮を肛門側から握りつぶされながら狂っていけ! もうお前に後戻りの道などない。輝かしい未来もない。お前という人間の幕を、ここで引いてやる!!」
劉は叫びながら、激しく入宮の膣奥を突き上げる。肛門に女の腕が入っている関係で、入宮の腰はほぼ固定されている。
その状態で蕩けきった子宮口を徹底的に突き上げられれば、絶頂は避けられない。
「お゛お゛ぉごお゛ぉっ!! うお゛ぉっ、こほっ!! おぉっおあお゛お゛お゛ぉお゛お゛っ!!!!」
入宮は天を仰ぎ、伸びた黒髪を背中に揺らした。叫び声はもう断末魔のようで、喉が張り裂けそうなほど激しい。
噎せ返りながら涎を垂らしつつ上がるその声は、崩壊、という二文字を想起させる。
劉もやはりそうだったんだろう。勝ち誇った顔で俺を見下ろしている。
でも俺だけは、そんな事はないと知っていた。
入宮のあの眼を見たからだ。相手の姿をそのままに映す、澄んだ瞳。あの瞳をした彼女は、絶対に約束を違えない。
俺をたっぷりと見下した後、劉は最後の仕上げに口づけでもしようと思ったんだろう。
入宮の方を向き直った劉は、そこで固まった。
入宮が、歯を食い縛り、はっきりとした瞳で見つめていたからだ。
「無駄だよ。こんな事、いくらやったって、もうあたしは堕ちない。
あたしの幕を引くのは、あんたじゃないっ!!!」
会場中を震わせるような、断固とした宣言。それが俺の胸を通り抜けた。
やっぱり、あの入宮だ。ボロボロの見た目になろうが、体液や汚物に塗れようが、彼女が彼女であることは変わらない。
「ぐぬっ…………!!」
劉は、人とは思えない壮絶な表情を形作っていた。
奴は絶対的な権力者だ。今までどんな人間が相手でも、常に自分の道理を押し付けてきたんだろう。
御せない相手は、きっと初めてなんだ。
「ふ、ふざけるなっ!!」
劉がそう吼えながら、入宮の首に手を掛けようとした時。
会場から、拍手の音が響いた。その音は連鎖するようにパラパラと広がり、やがて会場のあちこちで打ち鳴らされるようになる。
「カッコいいぜお嬢ちゃん!!」
「諦めなー、劉さん。残念だけどその子、劉さんに御せるような代物じゃないよ!」
「そうそう、競り落とした時に頬張られたのがケチのつき始めだ。せっかく坊主が金拵えてきたんだ。縁が無かったと思ってさ」
「いやーしかし、まさかこの場所で青春劇を見るとはねえ。なんだかムズムズしちまうよ!」
そういった声が会場中で沸き起こり、劉は信じられないという表情で視線を左右に惑わせる。
しかし、状況は変わらない。入宮を解放してやれという声は、刻一刻と大きくなっていく。
そうなっては劉も静かに逸物を抜き去り、苛立たしげに歯噛みする他ない。
「…………解た、もういい。董、連れてこい」
肩を落としながら劉がそう言うと、董が俺を引き起こす。
「まぁ、何だ。良かったじゃねえか」
舞台への階段に向かう途中、董はぼそりとそう耳打ちしてきた。
「……入宮」
花束を手に、俺は入宮の前に立つ。
俺は血だらけ、入宮も汚れだらけ。おまけに花束も折れて踏んづけられた雑草のようだ。
「遅くなった。悪い」
俺がそう言って花束を差し出すと、入宮は一瞬瞳に水を滲ませ、それをゴシゴシと手で拭う。
「あはは、ボロボロ。これがプレゼント?」
にへら、という感じで笑いながら、入宮はそう言った。
「それも、悪いとは思ってるよ。女の子としての初めてのプレゼント、って約束してたのに、こんななっちまっ…………」
俺のその言葉は、最後まで言い切ることができなかった。
いつかの屋上みたいに、入宮が俺の唇を奪ったせいだ。
たっぷり数秒のキスの後、入宮は俺の頬に手を当てながら顔を離す。その眼には、大粒の涙がいくつも流れていた。
「最高だよ。あたしに……ううん、あたし達に、一番似合ってる」
※
結局劉は、俺の用意した2000万という“はした金”を受け取る事はしなかった。
屋敷から続く道を、女達からの驚きの視線を受けながら歩き、帰国する。
トランクケースの中身をそのままに返却した時、板間さんは真新しい煙草に火を点けながら、俺にひとつの利子を求めた。
それは、取り返した女を生涯大切にすること。
この上なく重く、返し甲斐のある利子だ。
「ほらっ、何ボーッとしてんの!? 味噌汁冷めちゃうでしょ!」
刺すようなその声に、俺は現実に引き戻される。
いけない、確かにボーッとしていた。
「いや、ちょっと……昔を思い出して」
俺が頭を掻きながらそう答えると、嫁は眉を吊り上げる。
「はぁっ? 朝っぱらから何言ってんの? 熱でもあんの? もーっちょっと、しっかりしてよ」
手際よく朝食の片づけをしながら、彼女は捲し立てた。
誰と結婚しても尻に敷きそうな女。かつてクラスメイトが言っていた通りだ。
よく見れば時間もやばい。
俺はダシのきっちりと引かれた味噌汁と卵のかかった飯を掻き込み、上着を羽織る。
するとその俺の前に、また怒り顔の天使が現れた。
「ネクタイ曲がってる!」
きっちりとしたスーツに身を包んだ彼女は、母親のように小言を呟きながら俺の首元を正す。
組のフロント企業にコネ入社した俺とは違い、彼女は日の当たる大企業の社員だ。
元は事務員として働いていたが、あまりにも有能な為に社員登用され、今ではマネージャー職を任されている。
もっとも、知佳の比類ないカリスマと卒のなさ、そして根性を考えれば当然ともいえる。
そんな相手から見て俺は、どれほどうだつの上がらない夫だろう。
「悪い悪い。こんなんで外出たら、お前にまで恥掻かせちまう」
俺がそう言うと、知佳は目を丸くし、それから大きく息を吐いた。
「バーカ。そんなんじゃないよ」
そう言いながらもう一度俺を見つめる顔は、ひどく若々しい。
まるで、中学3年のあの日へ戻ったみたいに。
「他の誰にも、バカにされたくないってだけ。あんたはあたしが初めて惚れた、王子様なんだから」
そう言って『入宮』は、一番の笑顔を俺にくれた。
終わり