「よう帰ってきたな、あのままトンズラする方に賭けとったのに。東京モンは、とにかく泥に塗れんのを嫌がるからのお」
『調教部屋』に戻るなり、栖村が挑発してくる。
本当は、ここに戻ってくるのが嫌だった。角刈りのクラクションを無視して、そのままどこかへ行ってしまいたかった。でも、それはできない。あれだけ活き活きとした仲間とファンを見た以上、私だけが逃げる訳にはいかない。
「ご褒美や。今日からたっぷり時間かけて、イク事と男のモン咥えこむ事しか考えられん、立派なメス奴隷に仕立て上げたるわ!」
栖村が凄むように宣言し、新渡戸が笑みを浮かべる。磯崎は相変わらず死んだ眼で、じっと私を観察していた。
「……勝手にすれば。何をしたって、『私』は変わらないから!」
私にできるのはせいぜい、3人を睨んで拒絶の意思を示すことだけ。でも、そのたった一つをやり続けてやる。これから、何日、何週間、何ヶ月が経ったって。
「ほな、またご自慢のストリップ拝ましてもらおか」
栖村がそう言ってウイスキーのグラスを呷る。
そうだ。服を着て外に出かけた以上は、またここで脱がないといけない。これからも、ずっと。そう考えると、また気が重くなる。
( ずっと裸でいた方が、気が楽かも…… )
そんな事を考えかけ、すぐに思い直す。裸でいることを恥だと感じなくなったら、アイドル失格だ。
「ふーっ……」
私はひとつ深呼吸してから、リボンタイに手をかけた。栖村達がソファから立ち上がり、近寄ってくる気配を感じながら。
赤と白で彩られた、ノースリーブドレス風の衣装。こんな部屋には不釣合いなほど可愛いそれを、皺にならないよう丁寧に脱いでいく。
上をすっかり脱ぎ終え、続いてミニスカートを脚から抜き去ったところで、栖村がさらに距離を詰めてきた。アイツが露骨に視線を向けているのは、私のショーツだ。ぎくり、とする。
ファンと握手する間、ずっと下半身に疼きを覚えていた。トイレで見た時にも、明らかに愛液の糸が引いていた。そんな状態で半日以上過ごした後のショーツは……
「おいおいおい、どういうこっちゃお前! ワシらに弄られもせんと、勝手に濡らしとるんけ!?」
栖村の言葉が、答えだ。どうやら染みができてしまっているらしい。
「ファンと握手するだけで濡れたんかい。とんだ変態アイドルもおったもんや」
新渡戸が勝ち誇ったような表情で詰った。
「ち……違う、あんた達のせいよ! あれだけ焦らされたんだから、そう簡単に落ち着くわけないでしょ!?」
私は頭にきて反論するけど、声は震えていた。頭の中で、自分の異常を自覚してしまっているから。
「いーや、お前にゃ充分に変態のケがあるわ。お前みたいなツンケンした潔癖女ほど、快楽にどっぷり浸かってまうもんや」
栖村はそう言って、ガラステーブルから何かを拾い上げる。肩こりをほぐすのに使う、ハンディタイプのマッサージ器だ。
「…………?」
単なるマッサージとも思えない。なら、何であんな物を?
訝しむ私の表情を楽しみながら、栖村の指がマッサージ器のスイッチを入れた。ヴウウウーンという、虫の羽音のような音が響きわたる。何もおかしいところはない。
「そのままのカッコでええ、そこ座れや」
栖村はそう言って、近くのソファを顎で差し示す。
「…………っ。」
嫌な予感がするけど、逆らえる立場でもない。私は白いショーツと黒のサイハイソックスだけを身につけたまま、ソファに腰掛ける。
「もっと深う腰掛けぇ。だいぶ暴れることになるんや、途中でズリ落ちんぞ」
ソファの後ろに回りこんだ新渡戸が、そう囁きかけてくる。
( 暴れる? 一体、何する気なの……? )
胸の中に不安が渦巻く。でも、それを表には出さず、淡々と座り方を変える。
栖村はそんな私に近づき、マッサージ器を私の足の間に近づけた。
「!」
私はそこでやっと、奴の意図に気付く。あの振動で、さらに私を追い詰めるつもりなんだ。指で撫で回すより、ずっと効率よく。
ヴヴヴヴ、という音が近づき、とうとうショーツに宛がわれる。その瞬間、私の身体に震えが走った。
「ひゃああっ!!?」
思わず漏れた情けない声に、栖村が歯を覗かせる。
「どや、コイツは堪らんやろ。指での弄りなんぞとは比較にもならん。ホンマ、文明の利器様々やで」
栖村はそう言いながら、マッサージ器の先でクロッチ部分をなぞる。ほんの数秒そうされただけで、あっという間に割れ目がヒクつきはじめた。熱いものがお腹の奥からこみ上げる。『イク』感覚だ。
「あ、あ、んんあああ……っ!!!」
足指を浮かし、踵をソファに押し付けて絶頂に備える。あと1秒で、気持ちよくイケる……そう私が思った、まさにその瞬間。
「よっと」
いきなりマッサージ器が割れ目から離れ、振動が消えうせる。後に残るのは、イキ損ねた気持ち悪さ。なまじ快感が強いだけに、指の時よりもずっと深刻だ。
「あ、あ……?」
無意識に視線をマッサージ器に向け、未練がましい声を吐いてしまう。
「どうや電マは、気持ちええやろ。今日からは、これも使うて可愛がったる。ただし、絶対にラクにはさせん。活かさず殺さず、焦らし続けたる。正直に『チンポが欲しい』言えたら、話は別やがな」
栖村はそう言って、またマッサージ器をショーツに押し付ける。本当に刺激が強い。というより、強すぎる。こんなもので寸止めを続けられたら、狂いかねない。
でも、だからといって音は上げない。こんな奴ら相手には。
「……好きにすれば」
私は目を閉じて、ベッドに身体を預ける。
「ああ。好きにさせてもらうわ!」
栖村の笑い声とマッサージ器の音が、暗闇にうるさく響いた。
※ ※ ※
「ほーれ、どうや。またイキそうなんやろ?」
栖村が、またマッサージ器を離す。でも、私のあそこには痺れが続いている。絶頂にはギリギリで届かない、クリトリスと割れ目が震えるだけの気持ち悪い快感。
「ううう゛、ふうぅ゛…う゛っ…………!!」
私は歯を食いしばって苦しさに耐える。あと一秒でイけたのに。楽になれたのに。そんな考えが頭を巡る。
「また行くで、辛抱せぇや!」
その言葉と同時に、また振動が腰を覆った。
「っふ、ぐぅうう゛うっ!!!」
背中にまでビリビリ来るような快感。これが堪らない。足の指でソファを掴み、腰を突き出すようにして快感を貪ってしまう。力を込めつづけた腹筋が、筋トレをしすぎた時のように鈍く痛む。背もたれに後頭部を預けて堪えているから、うなじの辺りにも同じ痛みが蓄積していく。
でも、それ以上に快感が凄かった。
今度は刺激の時間が長い。今度こそイケるかもしれない。ぼやけた頭でそう考えながら、本能のままに腰を浮かせる。すっかり固くなったクリトリスが、マッサージ器を押し上げる勢いで勃ち上がり、割れ目が激しくヒクつきはじめる。
「ふう゛ううーーー…っ!!」
肺のかなり深いところから、噛みしめた下唇を通り抜けて呻きが漏れる。
「この阿呆が、まーたイク準備しとる。させん言うとるやろ!」
その言葉の直後、またマッサージ器が引かれた。今度は、あと1秒どころじゃない。あとコンマ数秒というところで『断ち切られた』。
「ううう゛うう゛っ!! ふっ……ううう゛っっ!!!」
私は、腰を浮かせながら栖村を睨みつけた。悔しい気持ちが抑えきれない。感情が強すぎて、涙さえ零れてしまう。
「未練がましいやっちゃのぉ。そんなにイキたかったんか? ま、しゃあないか。お前、えらいザマになっとるからのぉ。オノレで見てみぃ、パンツが透けて、プックリ膨れた赤いマンコが丸見えや。クリの位置までわかるで。おまけに……」
一方の栖村は、余裕の笑みで私を見下ろしながら詰りつづける。
悔しい。詰られることもそうだけど、それが本当だということが、自分でもわかってしまうから。
あふれた愛液がショーツを満たしていることも。クリトリスが勃っていることも。ビラビラが充血して、嘘みたいに厚みを増していることも、私が一番わかってる。
「ふーっ、そろそろひと息入れるか。オウ磯崎、選手交代や。クリがギチギチに固うなっとるからの、たっぷりイジメたれ!」
栖村はマッサージ器のスイッチを切ってガラステーブルに置くと、肩を回しながら磯崎に声を掛けた。マッサージ器の音を聞きすぎて、それがなくなると静かすぎるように感じてしまう。
磯崎は立ち上がり、テーブル横の麻袋から箱を取り出した。箱の蓋を開けると、中にいくつかの筆が見える。何かを書くため……じゃない。マッサージ器の時のように、何か普通じゃない使い方をするはずだ。
磯崎は筆を一本手に取ると、ゆっくりと私の前に屈み込み、濡れきったショーツを脱がしていく。まるで表情が変わらないから、とにかく不気味だ。
「腹あ決めぇ。今のお前にゃ、ちっとキツい責めやぞ」
新渡戸がそう言うと同時に、磯崎の筆がクリトリスを撫でた。
「んっ!!」
くすぐったい。マッサージ器のせいでクリトリスが敏感になっている今は、筆の先が触れるだけで腰が浮いてしまう。
そんな私の反応に、嬲り甲斐を感じたのか、それとも事務的になのか。磯崎は筆でクリトリスをなぞり続ける。
「あ……っ、ふ、んん、うん……っ!!!」
我慢しても、声を完全には殺しきれない。強張ったクリトリスを絶え間なく刺激されて、痺れるような感覚があるのに、すっきりイけそうな感じがまるでしない。
絶頂というものが『コップから水が溢れること』だとするなら、マッサージ器での責めは、蛇口を開いて思いきり水を溜め、溢れそうになれば止めて蒸発を待つ、を繰り返すようなもの。それに比べてこの筆責めは、スポイトで一滴一滴、コップの縁ギリギリになるように水を足されている感じだ。激しさはないけど、際の際まで追い詰められる感じはさっきより酷い。
割れ目に筆先を這わせて愛液を掬い、それをクリトリスに塗りつけ……これを延々と繰り返されると、元々固かったクリトリスが、はち切れそうなぐらいに勃ってしまう。
「ええ具合になってきとるのぉ。よし、再開や!!」
栖村はそう叫ぶと、テーブルにコップを叩きつけて立ち上がる。2メートルの巨体が身を起こす瞬間には、周りの何もかもが不安定に揺れた。
「おい磯崎、その女抱えとけ。“ションベンスタイル”でな」
栖村が命じると、磯崎はソファに沈む私を軽々と持ち上げ、左右の膝裏を手で支える形に抱え直した。ちょうど、小さい子供におしっこをさせるポーズだ。これは、かなり恥ずかしい。
「くうっ……!!」
「はははっ、こら見応えのある格好やのぉ。表情もええ味出しとるわ!」
栖村は私の顔を覗き込みながら、マッサージ器を拾い上げる。
「ただ、“それ”は見た目がええだけとちゃうぞ?」
マッサージ器に電源が入り、また割れ目に宛がわれた。痺れるような激しい刺激が下半身を覆い、あっという間に絶頂へ向けて“満たされて”いく。散々味わった甘い地獄。でも、さっきまでとは違うことがある。
さっき以上に我慢が難しいんだ。子供におしっこをさせるようなこのポーズは、一番お腹に力が入りやすい。つまり、嫌でも感覚が集中してしまう。そこにマッサージ器の振動が加われば、涼しい顔で耐えることなんてとても無理だ。
「んあああっ、あああっ!! ふぅ、う゛……あああ゛っ!!!」
「くくっ。このカッコで焦らされるんはたまらんやろ」
栖村は笑みを深めながら、マッサージ器を離した。丸い先端から私の割れ目にかけて、太い糸が引いているのが見える。
( ……これ、ダメだ。ずっと続けられたら、本当におかしくなる…… )
たった1回の焦らしで、この責めの危険さが理解できた。いっそ「挿れてほしい」と哀願しようかとも思った。
でも、そんな考えはすぐに捨てる。
プライドが許さない、というのもある。でも、それ以上に怖かった。ここで楽な方に流れてしまったら、今後同じような事があるたびに、ズルズルと堕ちていく気がする。その行き着く先は、皆の所へも戻れず、アイドルに返り咲くことも二度とない未来。それは、死ぬより嫌だ。
※ ※ ※
「んぅう゛っ! ふう゛ぅんんん゛っっ!!!」
もう、何十度目の寸止めだろう。私は全身から汗を散らしながら、髪を振り乱し、膝下を滅茶苦茶にバタつかせる。
「おーおー、また暴れよる。ホンマ余裕なくなったのぉ、コイツ」
栖村が、バカにするような口調で呟いた。それを睨もうとした直後、割れ目に節ばった指が入り込む。指は膣の浅い部分から、奥の狭まった部分までを、確かめるように撫で回す。
「んっ!!」
「さすがに、まだポルチオは固いか。まあええ、じっくり開発したる。時間はなんぼでもあるんやしのぉ」
言葉の意味はわからないけど、どうやら私の身体の開発が上手くいっていないらしい。その事実に、少しだけホッとする。でも、それも一瞬のこと。
「そら、行くで!」
またマッサージ器がクリトリス近くに押し当てられれば、あっという間に頭が白く染まる。
「はぁっあ、んああ゛ぁああっ!!!」
「ひひ、どこ見とんねんその目ぇ。アタマ焼き切れたんか?」
その栖村の言葉は聴こえづらい。ブシュブシュという音が邪魔をしている。次々に溢れる愛液がマッサージ器に遮られ、蛇口を手で押さえた時のように飛沫いている音だ。その音を耳にしている限り、嫌でも『濡れている』事実を思い知らされる。
「くう、うっ……!!」
またマッサージ器が離された時、私は顔を歪めて呻いた。悔しさと恥ずかしさが、ある一線を超えてしまったから。
「ふふ、だいぶ参っとんのぉ。しゃあない、ツレの声で元気出させたるわ」
ソファで煙草をふかす新渡戸がそう呟くと、私のバッグを漁りはじめた。中から取り出されたのは、私のスマホだ。
「ちょっと、何する気!?」
「言うたやろ。お友達に電話や」
新渡戸はスマホを起動すると、私の指を使って指紋認証を突破し、電話帳を探りはじめる。
「えらい事になっとるな。ま、せいぜい声には気ぃつけぇや?」
栖村も笑みを浮かべながら、マッサージ器を割れ目に押し当てた。
「ば、馬鹿っ!!」
最後の抵抗で叫んでも、2人がやめるはずがない。
マッサージ器の音に混じって、耳に近づけられたスマホからコール音が鳴り響く。1回、2回、3回。
今は何時だろう。水曜日の夕方に帰ってきて何時間か嬲られていたとすれば、夜か。なら、電話相手は家で一人という可能性もある。どうかそうであってほしい。こんな有様を、何人にも聴かせるわけにはいかない。
『やあ、リーダー。どうしたんだい?』
少し息切れしながらも、ハキハキとした声がする。この男の子みたいな喋り方は、早苗だ。
『えっ、結衣ちゃん!?』
『マジかよ!? おい、後で代われ!!』
続けて聴こえたのは、あんりと乃音歌の声。
心臓が凍りつく。最悪だ、みんな一緒にいるらしい。
耳を澄ますと、電話口からは何かの音楽も聞こえていた。私達のグループの曲だ。
「はっ、はっ……あ、うん、ちょっとね。皆は、今練習中?」
『そうだよ。土曜日まで、あんまり時間ないからね』
やっぱり、頑張ってるんだ。毎週1000人規模のライブをするなんて、かなり負担が大きいはず。その大事な時に、こんな電話で邪魔をすること自体が申し訳ない。
そして、後ろめたい事はもう一つ。今まさに、マッサージ器の刺激でイキかけていることだ。それを知られるわけにはいかない。絶対に。
でも、それを完全に隠すのは無理があった。
『ところでリーダー。何だか、さっきから息が荒いみたいだけど?』
なるべく呼吸を抑えていたにもかかわらず、あっさりと見破られてしまう。新渡戸が受話器を持ったまま、にやりと笑った。
まずい。体中の熱い汗に混じって、冷や汗が流れはじめる。シラを切るのは不自然だ。なら、別の理由で誤魔化すしかない。
「い、今ちょっとリハビリがてら、身体動かしててさ」
『あ、そうなんだ』
「うん。でもやっぱり、運動しないと身体鈍るね。すぐ息切れちゃって……」
喘ぎながら、咄嗟に思いつきで会話を続ける。新渡戸が、くっくっと笑い声を漏らした。栖村もマッサージ器の角度を変えながら、敏感な部分を刺激してくる。
気持ちいい。イけそうだ。でも、今イクわけにはいかない。早苗に声を聴かれている、今だけは。
『そういえば、変な音もしてない? なんか、大きい虫の羽音みたいな……』
早苗はさらに突っ込んできた。当然だ。こんな音が聴こえてきたら、気になるに決まってる。でも今は、その当然のことがつらい。
こんな音、別の何かで誤魔化すのは無理だ。マッサージ器の存在はそのままに、本当の事を伏せて説明するしかない。
「ああ、この音? えっと……ああ、隣の部屋のおばあちゃんかな。歳のせいで肩凝るみたいで、あの、マッサージ器?使ってるみたい」
何とかそう理由をつける。早苗は、ふーん、という返事をしたものの、変だと思っている様子でもない。
「それより、ライブの準備は……んっ、順調? 行けなくっ、て、はぁっ……ごめんね……」
さらに突っ込まれる前に、別の話題に切り替える。でも、それが墓穴を掘ることになった。
『そうだね……スキル的には何とかなりそうだけど、問題はメンタルの部分かな。ほら、このグループで1000人って規模は初めてだろう? 空気に呑まれるんじゃないかって、心配なんだ。リーダー、もし良かったらさ、大舞台で緊張しないコツとか、失敗した時のリカバリー方法とか、皆に教えてやってよ』
次々と、話題が出てくる。
正直、焦らしを受けながらの電話はきつい。でも、早苗達の不安ももっともだ。ライブで力になれない分、せめてそれを解消してあげたい。
「ん……ん、んっ……も、もし歌詞とか忘れたり、トチっても、固まっちゃダメ。あんりの度胸の、見せ所だよ。今回限りのアドリブって思って、割り切ってこ!」
「はぁ、はぁっ……いい、良子? ファンの皆を楽しませるのが、い、一番だよ。そのためには、緊張とか含めて、まず自分達が楽しむこと。それが、いっ……いいライブをやる、コツだよ」
「の、乃音歌ちゃん、私も、んんっ、乃音歌ちゃんと会えないのは、さ、寂しいよ。今度の水曜日にまた会ったら、ぎゅーってしてあげる。だから、ふ、んっ…が、がんばって!!」
3人が次々とぶつけてくる言葉に、一つずつ応え続ける。
『いく』、『いきたい』――思わず、そんな言葉を口走りそうになりながら。快楽と緊張の板ばさみで、意識が飛びそうになりながら。
ようやくスマホが切られた時、私はぐったりとうなだれる。でも、休ませてもらえることはなかった。
「嘘がうまいのぉ、さすが女や」
新渡戸が私の髪を掴んで、口に水のペットボトルを押し込んだ。強引な水分補給は、『もっと水分を出させてやる』という意味なんだろう。
「おら、“おばあちゃんのマッサージ器”やで、たっぷりほぐしたるわ。まぁ、もうトロットロに溶けきって、凝りも何もあったもんやないがな!」
栖村が指でクリトリスを弄りつつ、割れ目にマッサージ器を宛がう。
私は、歯を食いしばってその顔を睨みつけた。
「お、覚えてなさいよ……!」
私一人を詰るならともかく、練習中の仲間まで巻き込んだのは許せない。
「おー、気合入った目ェや。こら、『ハメて下さい』っちゅう言葉は当分出てきそうにないわ」
「確かに。まだまだ、愉しませてもらえそうや」
栖村達は私を見下ろしながら、嬉しそうに呟いた。
※ ※ ※
栖村と磯崎からの責めは、場所をベッドに移した上で、さらに続けられた。
栖村がマッサージ器を手に取る横で、磯崎がズボンとトランクスを脱ぎ捨てる。露わになるのは、あいつの『男』の部分。
「ひっ!?」
それを視界に入れた瞬間、私は思わず叫んだ。前に見たチンピラ2人の物も不気味だったけど、磯崎の場合はそんなレベルじゃない。直径も、長さも、反り具合も、まるで別物。おまけに先端がキノコの笠のように張っていて、幹の部分にはいくつもコブのような物が浮き出ていた。
「いつ見てもえぐいブツやのぉ。また“真珠”の数増えたんとちゃうか?」
栖村が目を細める。磯崎はそんな栖村に返事もせず、ただ私の目を覗き込みながら、股間の物を鼻先に突きつけてきた。
「し、しゃぶれ」
少しつっかえた感じの喋りだ。緊張しているのか、それとも元々そうなのか。どっちにしても、威圧感が半端じゃない。無表情にこっちを見据える山賊のような顔は、視線を縫いつけられるような凄みがある。
「イヤよ、汚い!」
私は叫び、強く口を結ぶ。あんなおぞましい物を口に入れるなんて、とても無理だ。でも磯崎は、やっぱり無表情のまま私の鼻に手を伸ばし、強く摘む。
「んっ!」
鼻から空気が入ってこないから、息が続かない。少し頑張ってはみたものの、最後には口を開くしかなくなる。その瞬間、磯崎のものが口の中へ入り込んでくる。
「むぁ、あご……!!」
見た目通り、大きい。口を一杯に開かされる感覚は、テニスボール大のものを咥えている気分だ。おまけに男臭さも酷くて、思わずえづきそうになる。
「し、し、舌を使え」
磯崎がどもりながら命令する。冗談じゃない。こんな物を咥えさせられている事自体が屈辱だ。いっそ噛んでやろうかと思った、まさにその瞬間。
「歯ぁ立てんなや?」
私の考えを読んだように、栖村が釘を刺した。
「前にそれやった女は、前歯から奥歯まで全部引っこ抜かれて、フェラしかできん口にされとったわ。ああなったら悲惨やぞ。入れ歯嵌めたらモノは噛めるが、顔の形が変わってまうからのぉ。顔がすべてのアイドルには、致命的やぞ」
栖村は、笑みを浮かべながら淡々と語る。とんでもない話だけど、磯崎の不気味な無表情を見ていると、歯を抜いたというのも嘘とは思えない。
「んっ、んぶっ! んむう゛っ、う゛っ……ふうぅ゛ぅ゛っっ!!!」
混乱する頭でも、ずっと声が漏れているのは理解できた。
上では男の物を咥えさせられ、下ではマッサージ器で追い詰められる。この2ヶ所責めは、精神的にも肉体的にもキツい。
先端を口に含むだけで精一杯な磯崎の物が、そのうちあそこに入るんだと思うだけでゾッとする。口を塞がれているせいで息も苦しい。そんな中で割れ目にマッサージ器を宛がわれると、ますます余裕がなくなってしまう。どうしても腹筋に力が入り、腰が浮き上がる。
そんな私を、栖村が面白そうに観察していた。
「エロい腰つきしとるわ。何時間も追い込まれて、痩せ我慢も限界か」
したり顔で笑われると、殴りたいほど腹が立つ。でも、とてもそんな余裕はない。
栖村の指が、マッサージ器のスイッチを止める。そして私の太腿を両手で掴み、改めてあそこを覗きこんだ。私自身、酷い有様だという自覚のある場所を。
「ひゃひゃっ、こら酷い。ガン開きの上に、マン汁ダラダラ垂らしおって。チンポが欲しゅうてしゃあないって感じやのぉ!」
栖村はそう言いながら、足の間へ顔を埋める。そして、溢れはじめた愛液を啜った。ずずずーっと、わざとらしいほどの音を立てて。ひどい音だ。悔しさと恥ずかしさで、頭がどうにかなりそうになる。
「そろそろ、口じゃ受けきれんな」
そう言って栖村が顔を上げると、その口元はすっかり濡れ光っていた。あの全部が自分の愛液だなんて、信じたくもない。
「濃いのにスッキリした、ええ味や。さすがは小奇麗さが売りの東京女、汁の味は極上やな」
栖村は嫌味交じりにそう言うと、今度は指を割れ目に捻じ込んだ。手の平で割れ目全体を覆い、しっかりと二本指を捻じ込む動き……鏡を通してそれが見える。
「…………っ!!!」
指が浅く入ってきただけで、体全体が震えが走った。勝手に膣が縮んで、指の感触をしっかりと粘膜に伝えてしまう。
「くくくっ、よう締まる。完全にワシの指をチンポやと思っとるわ。中もヒクヒクしっぱなしで、イク準備は万端ってとこやな」
臍側に軽く曲がった栖村の指は、狙い済ましたように弱いところを押し込んでくる。
「おあ、あおおっ!!」
思わず声が漏れる。栖村の狙い通りに。
「ここが堪らんのやろ? 感じやすい女っちゅうんは不幸やのお。ド素人でも判るぐらい、スポットが盛り上がっとるわ」
指の動きがさらに激しく、擦るようなものに変わった。
「っぷあ!! あっ……んあああっ!!」
私は唾液まみれのペニスを吐き出し、はっきりとした声を上げる。そうしないと、自分の中で何かが爆発すると直感したから。
「おーおーどんどん溢れて来よる、もうグチョグチョや。イキたいんやろ? イキとうてイキとうて堪らんのやろ?」
そう言いながらも、栖村の指は止まる。もうあと少しで絶頂できる、という所で。
「ああぁっ!!」
私は叫びながら足をバタつかせる。なりふりを構っている余裕はない。もう何十回目になるかわからない絶頂の寸止めは、気が狂いそうなほど苦しい。
そして、調教師の2人がそんな私に同情するはずもなかった。
「ち、ちゃんとしゃぶれ」
磯崎は、私の後頭部を掴んで咥え直させながら、バタつく左足まで押さえつけた。それを見た栖村も、同じく私の右足首を鷲掴みにしたから、私は180度近い開脚を強いられることになる。
「う、うう!!」
抵抗を試みても、力士かプロレスラーかという体型の2人に押さえ込まれると、どうしようもない。その上で、磯崎は私により深く咥えさせようとし、栖村の指責めも再開する。
「んぐぅうっ、ううう゛っ!! はぁっ、はぁっ…ぃ、いぐっ……むっ、もおおお゛っ!!」
絶頂寸前の呻きと、激しい喘ぎ、しゃぶらされて出る声。クチュクチュという指責めの音と、マッサージ器の唸り。そういうものが交じりあって、部屋は趣味の悪いコンサートのようになっていた。
でもある時から、そこに別の音が紛れはじめる。歌声か、悲鳴か……とにかく大きい声が、遠くから聴こえてくるような。
そして、その音に反応したのは私だけじゃない。
「……お?」
新渡戸が小さく呟き、ソファから立ち上がる。そして部屋の奥に引かれたカーテンを少し開くと、その中を覗きはじめた。
「始まったな」
新渡戸の声色は、私の裸で鼻の下を伸ばしていた時とそっくりだ。たぶん、カーテンの向こうにもここと同じような調教部屋があって、誰かがいやらしい事をされてるんだろう。私はぼんやりとそう考える。でも、すぐにそんな余裕もなくなった。また絶頂の波が襲ってきたからだ。
そんな私の変化は、すぐに栖村にも伝わった。
「ははっ、また痙攣が酷なってきよった、イキたくて堪らんっちゅう動きや。なんぼ苦しゅうても、絶対にイカせたらん。せいぜいイキ損ねてヒイヒイ泣きながら、オノレの立場を噛みしめぇ」
栖村の言葉が胸に響く。息苦しさや悔しさで一杯の胸が、もっと苦しくなる。
延々と続く指責めは、さらにいやらしさを増していた。ギリギリまで追い込んでから、愛液のついた手を下腹や乳房に擦りつける。そしてまた指入れ、という繰り返し。
その指にしても、もう随分前からあそこの“浅い部分”しか刺激してこない。まるで締まり具合を確認するように、入口付近だけを延々と弄りまわしている。
嫌な責めだ。そんな事をされると、一切触れられない奥が病的にヒクつく。自分から指を迎えるように、腰がカクカクと動いてしまう。
何でもいいから、挿れて――そんな願望さえ頭に浮かんだ。一歩間違えばそれは、口をすり抜けて言葉になりかねない。押し留めるには、かなりの意志力がいる。
「はぁっ、はぁっ……わ、私は、こんなのじゃ参らない。借金を返し終わるまで、耐え切ってみせる!!」
私は唾液まみれのペニスを吐き出し、改めて『調教師』に宣言した。
紛れもない本心だ。私は調教を耐え切って、芸能界に返り咲く。そしてこんなゴミみたいな連中が、近づけもしないくらいの存在になってやる。その決意は消えていない。
「ほぉ、そら大したもんや。なら、また『コレ』でも耐えてもらおか」
栖村はそう言って、シーツからマッサージ器を拾い上げた。
( いい加減にして……! )
思わず、顔が引き攣る。
どれだけ、あの機械に苦しめられたことだろう。何時間か、それとも何十時間か。今ではあれを視界に入れただけで、お腹の奥が疼くようになってしまった。
※ ※ ※
「ふーっ、ふーっ……!! んっん、っくぅう゛っっ!!!」
耐えようとはした。歯を奥歯までしっかりと噛み合わせ、宙に浮く足指が一纏まりになるぐらいに力を込めて。
でも、我慢できるのもほんの2、3秒。マッサージ器で焦らされれば焦らされたほど、絶頂までの間隔は確実に短くなっている。まるで、最初から7割以上水の入っているコップみたいに。
「ひっ、ひ、はぁっ……んっ、く、はく……んんっ、ふうんん゛ん゛っ!!!」
声が漏れる。私の余裕のなさを表す声。今は、そんな自分の声さえ憎らしい。あまりにも正直で、あまりにも情けないから。
コップが満ちる。水道から足される量は多く、あっという間に溢れるラインに近づく。このままなら、あとほんの一秒もせずに、溢れ……
「おっと、イクなや」
栖村の手が、またマッサージ器を離した。
「ああっ!!?」
絶頂に浸りかけていた私は、悲鳴に近い声を殺しきれない。割れ目からねっとりと糸を引くマッサージ器の先……その球体を追いかけて、無意識に腰を浮かせてしまう。でも、追いつけない。結局はガクガクと腰を震わせるだけだ。
( イキたい、イキたいっ………! )
頭の中が絶頂の未練で塗りつぶされる。
嬲られ続けた私の体には、どうしようもないほどの快感が蓄積されていた。マッサージ器が離されても、痙攣が止まらない。痒みすら覚えるほど充血したクリトリスや割れ目が、意思を持っているようにピクピクと動く。いくら止めようと頑張っても、筋肉が言うことをきいてくれない。
「なんや、物欲しそうな目ぇして。オモチャ取り上げられたガキみたいな面やぞ」
栖村の笑い声がする。涙で視界が滲んで見えないけど、たぶん得意顔で笑ってるんだろう。
オモチャを取り上げられた子供? そんな呑気なものじゃない。何日も砂漠を彷徨う中で、やっと見つけた水場がオアシスだった……それを延々と繰り返しているようなものだ。
「はぁっ、はぁっ……はぁっ…………!!」
私が刺激もなしに痙攣しつづける様子を、栖村がじっと観察している。ほんの少しだけ落ち着かせて、またギリギリまで追い詰めるために。
そんな中、私の肩を押さえていた磯崎の手が動く。興奮して膨らんだ乳房をゆっくりと揉みながら、先端に近づいていく。快感で粟立つ乳輪を指先で扱き、そのままの流れで、固く尖った乳首を捻り潰す。
「んあああーーーっ!!」
悲鳴が止まらない。胸が性感帯だというのはわかる。でも、この快感は普通じゃない。肩甲骨の方にまでビリビリと来る。
でも、イけるほどじゃない。いくら気持ちよくても、乳首だけじゃイけない。
認めたくはないけど、栖村も磯崎もやっぱりプロだ。私が絶頂するラインを計算の上で、少しでも快感が多くなるように積み重ねている。上り坂のジェットコースターのように。
もし、そんな快感がどこかで爆発したら……私は、正気でいられるんだろうか。そう思うと、痙攣とはまた別の震えが来る。
「おら、もう一丁いくで。キモチええからいうて暴れんなや?」
心臓まで震えるような羽音が、また近づく。ヴヴヴヴヴ、という音が、濡れきった割れ目に宛がわれた瞬間にジュジュジュジュジュ、という音に変わる。愛液が撒き散らされている音。太腿やお腹に、冷たいようなぬるいような水飛沫が浴びせかかる。
でも、それを認識できているのもほんの一瞬。すぐに私の意識は、下半身が丸ごと感電したような感覚に持っていかれてしまう。声を我慢するのは無理だから、せめて変な声を上げないように努力する。ただ今となっては、それすら難しかった。感電しながら反応のコントロールなんてできない。
「はっ、はひっ…ひンっ!! へぅうっ!!」
肺が強張って、しゃっくりのようなものが出る。それが収まると、ようやく『あ』の音が喉から漏れだすけど、それは終わりの始まり。大声を上げると、そのぶん身体の反応も出やすくなる。重量挙げの選手なんかが、声を出すことで馬力を得るように、反応が声に引きずられてしまう。
「あひっ、あっ!! あっく、あっあっあっ!! ふんっ……あああ゛あ゛あ゛っっ!!」
腰が浮き、Mの字に開いた足がバタつく。意思とは無関係に。
「なんちゅう格好しとるんや。いよいよホンマに、イキとうてイキとうて堪らんらしいな」
栖村のがなり声すら遠く聴こえる。私の感覚は、絶頂だけに絞られていく。でも、楽にはなれない。ある瞬間、激しい刺激は嘘のように消え去り、宙に放り出されたようなもどかしさが全身を駆け巡る。
「は…っ、は…っ、は………はーーっ、はーーっ…………」
何分が経っただろう。何回、生殺しのまま投げ出されただろう。
気付けば私は、濡れたベッドシーツの上で、放心状態になっていた。頭と上半身には、一切力が入らない。逆に下半身は強張りきっていて、踵がシーツに深くめり込んでいるのがわかった。明らかに、普通じゃない状態。
「いよいよ、本番やな」
ふと聴こえたその声に、脳味噌がゆっくりと反応する。
栖村……? 違う。あの落ち着いた声色は、新渡戸だ。部屋の奥に立ち、黒いカーテンの隙間から外を見ている、新渡戸の。
なんだろう。その新渡戸の見ている場所から、綺麗な光が漏れている。
「嬢ちゃん、頃合いや。ええモン見したるわ」
新渡戸がこっちを振り向き、笑みを浮かべながらカーテンを左右に開く。
その向こうにあったのは、別の調教部屋……じゃ、ない。それよりも遥かに、遥かに広い……見渡す限りの光の舞台。
南国の太陽のように眩しいスポットライトが、ピンクや黄色、オレンジと色を変えながらステージを照らす。その向こうには、暗い中に無数のサイリウムが鮮やかに揺れている。私のよく知る世界……ライブ会場の光景だ。
「嘘……!!」
思わず、そう呟く。まさか、ここがライブステージの裏だったなんて。
そして、気付いた事はもう一つ。
ステージで踊っている4人のアイドルにも、ひどく見覚えがある。
間違いない。見間違えるはずもない。あの、紅いチョーカーをつけた4人だけは。
「感動の再会、っちゅうわけやな」
私の表情を見た栖村が、ステージの方を向いて頬を緩める。
そう、私にはあの4人が見える。ということは、逆に向こうからもこっちが丸見えなんじゃ。
「い、いやーっ!!」
私は叫びながら、手で必死に裸を隠した。こんな姿を、仲間やファンに見られるわけにはいかない。
「安心せぇ、これもマジックミラーや。あれだけ煌々と照っとるステージから、こっちは見えん。ついでに防音対策も万全やから、ここで何しとってもステージの連中にはわからんわ。まあさすがに向こうでライブが始まると、こっちに聴こえてきよるがな」
新渡戸は笑いながら、私にそう語る。私は、その言葉にハッとした。
考えてみれば当然のことだ。『スカーレットチョーカー』の定期ライブは、ヤクザ達がセッティングした、商売のひとつのはず。そこでこんな光景を晒したら、ライブどころじゃなくなって大損害になる。そんなバカな真似は、さすがにしないだろう。
私が安心して息を吐いた直後、ステージに立つ一人がマイクを握った。あんりだ。
『今日は・・・のライブに・・くれて、・・り・・・ざい・・ーすッ!!!』
ところどころ途切れがちに、あんりの声が聴こえてくる。元ヤンだけあって、マイクを通したあんりの声は相当大きい。それが完全には聴こえない以上、防音対策が万全というのも本当らしい。
あんりはさらに客席へ向かって何かを叫んでから、右隣の早苗にマイクを渡す。その早苗も、同じく客席に向かって訴える。その次は良子、最後に乃音歌。
完全に聴き取れたわけじゃないけど、部分部分でも何を言ったのかは伝わってくる。
私、『四元結衣』がいなくて、皆が残念に思っているだろうこと。
私は、病気に苦しみながらも頑張っていること。
そんな私に、残ったメンバーとお客さんでエールを送る。それが、このウィークリーライブの目的であること……。
そしてその言葉は、お客さんに好意的に受け止められているようだった。
「……っ!!」
涙が出そうになる。みんなの気持ちが嬉しくて。そして、罪悪感で。
病気だなんて嘘をついて、こんなステージ裏で、私は一体何をしてるんだろう。そしてこのヤクザ達は、どういう気持ちでこんな嫌がらせをするんだろう。
私は、栖村と新渡戸を睨み上げた。その視線は、ちょうど私を観察していた2人のものとぶつかる。
「おーおー、またクソ生意気な目ェしとる。せっかくイカせたろうっちゅう時に」
栖村は、確かにそう言った。イカせる、と。
「……え?」
「だから、イカせたる言うとんねん。オノレもイキたがっとったやろうが」
巻き舌で繰り返されるその言葉は、喜んでいいもののはずだった。実際、つい数分前までは、心の底から望んでいた事なんだから。
とはいえ、この男がお情けで赦しを出すわけがない。きっと、何かある。
「どうせ条件付きなんでしょ? 言っとくけど、みっともない哀願なんてしないから」
先手を打ったつもりだった。でも、栖村の顔色は変わらない。
「それはもうええ。これは善意や、お前もあのライブに参加させたる」
栖村はそう言って、ベッド下に手を伸ばす。その手が拾い上げたのは……ハンド型のダイナミックマイクだ。
栖村の指がスイッチを切り替えると、マイク横のランプが緑色に光った。また切り替えると、ランプが消える。
オンオフ機能のついた、本物のマイク。嫌な予感がする。
「どこに、繋がってるマイクなの……?」
ゆっくりと、息を吐き出すように尋ねる。まさか、と思いながら。
「そら当然、あん中や」
栖村の指が指し示すのは、案の定ライブハウスの中だ。そうとわかった瞬間、私の中で何かが切れる。
「ふざけないでっ!!」
私は、声を限りに叫んだ。
ライブは、ファンとアイドルが繋がれる貴重な時間だ。皆、その僅かな時間を楽しみたくて、安くないお金を払ってくれてるんだ。それを茶化すような真似は、絶対に許せない。でも、私がいくら怒ったところで、ヤクザ2人の薄ら笑いは消えなかった。
「安心せぇ。コレは壊れかけのポンコツでな、口近づけて声張らんとよう拾わんのや。オノレがよっぽど恥知らずに喚かんかぎり、誰の耳にも届かんわ」
栖村は私の背後に向けて目配せする。すると、後ろから磯崎の腕が伸びてきて、何かを私の傍に置いた。ハンドラップという、上部分を押すと少しだけ水が出てくる道具だ。毛深い指がそれを1回叩き、流れるような動きでクリトリスを摘みあげる。
「んっ!!」
充血しきったクリトリスには、そんな刺激ですらつらい。でも痛みはなかった。磯崎の指先が、愛液よりもっと滑らかなもので濡れていたから。
( これって、オイル……!? )
嫌でも、そう気がついてしまう。リュネット時代のロケで体験した、オイルマッサージを思い出す。身体が蕩けるみたいに気持ちよかった。カメラが回ってるのはわかってたのに、何度も声が出た。あれを、こんな状態のクリトリスにやられたら……正直、我慢しきれる自信がない。
「まずは挨拶代わりや。一発イカせたれ」
栖村がそう言うと、磯崎は人差し指と中指でクリトリスを挟み込み、撫でるように刺激しはじめた。ソフトな刺激が、まったく同じ調子で繰り返される。オイルの滑りもあって、あっという間に快感が満ちていく。
あと4秒、あと3秒……
もう何百回、そういうカウントダウンをしただろう。これまではずっと、ギリギリで止められてきた。でも、今回は違うはず。
……あと2秒、あと、1秒……
いつもなら、嘘のように刺激が止まる瞬間。でも磯崎の指は、同じ調子でクリトリスを撫で続ける。
( い、イける……今度こそ……!! )
快感のコップが満ちきった。とうとう一線を超えた。後はこの太い指が導くままに、絶頂すればいいだけだ。私がそう思い、浸る体勢に入った瞬間。
また、指が止まる。
「っ!?」
心臓が凍りついた。
刺激は消えた……でも、絶頂へ向けてスピードの乗り切った体は止まらない。磯崎の指に挟まれたまま、クリトリスがピクピクと痙攣を繰り返す。アソコが喘ぐようにヒクついて、腰が小さく何度も浮く。絶頂を抑えきれない。
「くくっ、いよいよや!」
私の反応を見て、栖村が緑ランプが点いたマイクを突き出してくる。私は咄嗟に唇を閉じ合わせた。そして、その直後、ついにコップの水が表面張力を失う。待ちかねたとばかりに、縁から水があふれていく。次々に。
「っく、ううぅんんっ……!!」
口を閉じたおかげで、声は殺せた。でも絶頂の反応はそのまま漏れる。
Mの字に開いた足の内腿が、普通じゃないぐらい筋張り。足指全部が反り返り。あそこは一度収縮してから、ふーっと緩まっていく。我慢し損ねなのが嘘なくらい、はっきりとした絶頂。
「はっは、わかりやすいイキっぷりやのぉ!」
「おお。指は途中で止まっとんのに、オノレで勝手にイキくさりおった!」
新渡戸と栖村が、マイクを切って笑う。
「はぁっ、はぁっ……あ、当たり前でしょ、あんなに焦らされたんだから! アンタ達が逆の立場なら、我慢できてたの!?」
悔しくてそう言い返すけど、意味のない言葉だった。もし、なんてない。ヤクザ3人は追い込む側、私は追い込まれる側。この現実が全てなんだ。
「どうでもええわ。大事なんは、オノレがどんだけ辛抱できるかや。その磯崎は口下手な代わりに、こまい作業をやらせたら天下一品やからの。せいぜい悶え狂わんように、根性見せぇ」
栖村が得意げに語る中で、磯崎の指先がまたハンドラップを叩く。指先がオイルで濡れ光り、それがまた私のクリトリスに宛がわれる。
( もう、これ以上笑われるもんか……!!! )
私は口を閉じたまま、正面でにやける栖村達を睨みつけた。
心のどこかで、『無理だ』という声を聴きながら。
※ ※ ※
また、絶頂が来る。前の絶頂が収まってもいないのに、また。
「っくイグイグ……!! あ゛あっイグ………ま、またっ、あ゛、あ゛……!!」
水で満ちあふれたコップを、激しく揺らされているような感覚。中身は常に零れつづけ、液面が安定することは一瞬だってなかった。
「はははっ、また嬉しゅうて泣いとるわ!!」
新渡戸が私の顔を覗きこんで笑う。その言葉通り、いつからか涙が止まらなくなっていた。快感のせいか、苦しさのせいか、自分でもわからない。でも声だけは、必死に抑え続けている。
「おら、アッチも盛り上がっとるんや。オノレからもエエ声聴かせたれ!」
栖村がそう言って、またマイクを突き出した。ランプは緑。
「……ン゛っ、ふぅっ、ン゛んん゛ん゛っ!!」
私は急いで、下唇に前歯を食い込ませる。これが一番声を殺せるから。とはいえやりすぎたらしく、血の味が口に広がってしまう。
それにそのやり方でも、声を抑えるのはギリギリだった。
この数十分だけで、何十回の『クリイキ』を味わわされているだろう。磯崎の太い指は、時々ハンドラップからオイルを補給しつつ、まったく同じ調子でクリトリスを弄くり続ける。違う責め方で一息入れられる可能性は一切ない。これ以上なくシンプルで、これ以上なく厄介な嬲りだ。
また、絶頂の波が来る。問答無用で足を攫うような、強い波が。
「っく、ひぃ…っぐ………ふウウウう゛…ん゛ん゛っ!!!」
唇を噛んでも、声を殺しきれない。唇の端から漏れていく。無理をしているせいで目元がピクピクと蠢く。
かろうじて確保できた視界の中で、栖村がマイクのスイッチを切った。それを脳が認識した瞬間、私の中でもスイッチが切り替わる。
「……ぷはっ! ああ、あ…た、またっイッグぅううう゛ッッ!!!」
マイクに拾われない安心感で、生々しい声が漏れた。当然栖村達には笑われるけど、それどころじゃない。
「お、おねがい……ちょっと、やずませてっ!!」
唾液まみれの口を必死に動かしながら、後ろの磯崎に哀願する。でも磯崎は応じない。表情すら変えず、ロボットのように淡々と同じ動きを繰り返す。
「あ゛、あ゛っ……っくぁう゛んン゛っ!!」
また、絶頂。私は前屈みになって磯崎の腕を掴む。その無意識の動きを、栖村が目敏く見つけた。
「カハハッ! お前そら、まるっきり男に縋りついて甘えとる手ェやんけ。オウ良かったなぁ磯崎、お前このガキに懐かれとんぞ!!」
私の手を指差しながら、下品な笑い声で茶化される。
「ふうっ、ふうっ……そ、そんなわけ、ないでしょ!」
笑われたら最後、握っていた磯崎の腕から手を離すしかない。
甘えたわけじゃないけど、縋りつくというのはその通り。イキすぎて、下半身の感覚がフワフワと頼りない。その意味で磯崎の腕は、ちょうどいい支えだった。でもそれに掴まれないとなれば、シーツに手をつき、大股開きの足に力を込めて耐えることになる。
「くっ…はぁ、あ゛っ!」
支えのない状態だと、よけいに絶頂が深まった。ぐらつかないように腰を据える動きが、絶頂と相性が良すぎるんだ。
「だいぶ余裕がなくなってきたな。よし磯崎、そろそろアソコも弄ってやれ」
私の顔を見ながらそう言ったのは、新渡戸だ。
「うす」
磯崎は呟くように返事をすると、右手でクリトリスを摘んだまま、左手を割れ目の中に潜り込ませた。
「あっ!」
声が出る。クリトリスの刺激で蕩けきった割れ目は、軽く撫でられるだけでもかなり効いた。
そして、磯崎に容赦はない。ぎちゅっぎちゅっと音を立てながら、割れ目の中を刺激してくる。飛び出た第二関節で、充血したビラビラを擦られるのも、指先でGスポットを押し込まれるのも、ただただ気持ちよくて仕方ない。
「ふーーっ、ふーー……っっく、んぃ……ぃいい゛っ…………!!」
なんとか声を殺そうとしても、多少は漏れてしまう。
「どうせミジメなんは変わらんのや。イク時ゃ、素直にイク言うた方が楽やぞ?」
栖村が笑いながら、またマイクのスイッチを入れた。その顔を睨むと、自然に禿頭の向こうのステージへ眼を向けることになる。
( 皆……!! )
仲間の姿を見ながら、飽和した快感に呑まれるのは地獄だ。絶頂を堪えるのは無理でも、声だけは我慢しないと。ライブに参加できないだけでも申し訳ないのに、それ以上の迷惑なんて掛けられない。
「ふんん…んっ、くんんん゛ん゛ん゛…………っ!!!」
口元のマイクに緑ランプが点っている間は、必死に声を殺す。そしてマイクが切られたのを確認してから、溜め込んだ息を吐きだす。その繰り返し。
「ぁああ……あ、ああっ! はぁ…んあぁああああ゛っ!!!」
クリトリスとGスポットの2ヶ所責めになると、どうしても『あ』の声が漏れた。腋と同じく、膣の浅い部分にも顎を開くボタンがあるのかと思うぐらいに。
「おーおー、ヨダレ垂らしおって。情けないのぉ」
その栖村のバカにしきった声で、ようやく自分の状況がわかった。確かに、口の端に生ぬるいものが流れている。アイドルが晒していい顔じゃない。恥ずかしいし、悔しい。でも、そんな事に構う余裕がないのも事実だった。
アソコの快感で、下半身が感電したように痙攣を続けている。元々ライブの音圧がビリビリ来てはいるけど、もう部屋そのものが揺れているのか、それとも私の身体が震えているのか判らない。
そんな私を、磯崎達はさらに追い詰める。
最初の異変は、3人の目配せだった。正面の栖村と、その左の新渡戸、そして私の背後にいる磯崎が、それぞれ視線を交わしあう。すると磯崎がクリトリスを離し、割れ目からも指を抜いた。そしてそのオイルと愛液に塗れた手で、いきなり私の乳房の根元を握り潰す。ちょうど、先端部分を搾り出すように。
「くひっ!?」
痛かった。でもそれと同じぐらい、痺れるような快感があった。何度も焦らされ、イカされ続けて、乳首回りはすっかり敏感になっている。そこを搾り出されるんだから、感じないわけがない。でも、本番はそこからだ。
「たっぷり可愛がったる。せいぜい悶え狂えや!」
栖村とも新渡戸ともつかない声がそう言った、直後。2人の手が左右の乳首に伸び、思いっきり捻り上げた。
「んああああ゛っ!!」
たまらない。背中にまで抜けるような痺れが、両の乳首から迸る。シーツについた両手がガクガクと震える。イってるんだ、胸だけで。ショートしかけた頭が、かろうじてそう認識していた。
そしてそこから、本格的な嬲りが始まる。
両乳房を揉みしだきつつ、他の2人が先端を捻り潰す動きに合わせて乳房の根元を搾り出す磯村。
左手親指でクリトリスを転がしながら、割れ目に指を入れ、右手で乳首を捻り上げる新渡戸。
同じく乳首を弄びながら、気まぐれに割れ目に指を捻じ込んだり、マイクのスイッチを入れる栖村。
マイクの恐怖に怯えながら、乳首、クリトリス、膣内を同時に責められると、気が狂いそうになる。
「はふうっ……んう゛っ、んうう゛っ! ぃぐ……いぐううあ゛っ…………!!」
乳首が乱暴に捻り上げられるたび、割れ目がぐちゃぐちゃと水音を立ててかき回されるたび、私は呻きながら絶頂を訴えた。
息が苦しい。ほとんどまともに空気が吸えていない。頭がボーッとする。
「ああ、はあぁあ゛あ゛……っ!!」
また絶頂の波が来た。今度は、頭から飲み込まれるような高波だ。しかもその瞬間を狙って、栖村がマイクのスイッチを入れる。
「……んん……ーッ!」
咄嗟に、血の味のする下唇に歯を立てた。それでもまだ声が漏れるから、奥歯を噛みしめつつ顎を引いて、強引に殺しきる。
顎を引くのは有効だった。鎖骨に顎を埋めれば、かなり声を抑えられる。でも、栖村達がそんな逃げ道を許すはずもない。
「おい、ヘバんな!」
栖村が私の髪を掴んで前を向かせる。そして私の顔を見るなり、眼を細めた。
「くくっ。なーるほど、こら必死に隠すわけや。えらいツラになっとるわ」
その言葉が胸に刺さる。自覚はあった。脂汗に涙、涎、鼻水。ありとあらゆる汁に塗れ、呼吸困難で喘ぐ人間の顔が、まともな訳がない。
ステージに立つ4人とは大違いだ。皆、汗こそ掻いているものの、堂々とした良い顔をしていた。それと自分を比べると、泣きたい気持ちになる。そして弱さに流れたら最後、ますます気持ちよさに抗えなくなってしまう。
「っはう、うんっ……んんっ、んはぁ……あああ…………!!」
6本の手で性感帯を刺激され、あさましく声を上げている最中。ちょうどステージ上で曲のパート変更があり、センターの良子がバックに下がった。その時たまたま、こっちに歩いてくる良子と視線がぶつかったんだ。
もちろん、向こうからこっちは見えない。良子が私を見ていたはずはない。でも、良子の晴れ晴れした顔を見た瞬間、私の中で何かが堰を切った。
「ああ、あああっ……い、イ゛ッグウウウぅうううっ!!!」
それまで辛うじて堪えていた『汚い叫び声』が喉からあふれ、割れ目の奥が病的にヒクつく。尿意のようなものが沸き起こり、それがあるラインを超えた瞬間、私の割れ目から勢いよく何かが噴き出した。それはベッドを飛び越えて、ステージと部屋を区切るガラスにまで浴びせかかる。
「おおっ、とうとう潮噴きおった!」
新渡戸の言葉によれば、私がしたのは『潮を噴く』という行為らしい。
「また盛大にぶち撒けよって。クリに逝きグセついただけやのうて、Gスポまで極まったんか? こらこのガキ、一気に感じやすうなりますわ!」
栖村も嬉しそうにマイクを握り直す。
「んう゛っ、 ふうう゛っ! あああ、いぐっ、いぐうぅう゛っ!!」
それから私は、何度も『潮を噴かされ』た。乳首を捻り潰されつつ割れ目を掻き回されれば、あっという間に尿意のようなものが限界を超えてしまう。特に、3人の手指が競うように割れ目へ入り込み、別々の方向を刺激してきた時には、かなりの声が出た。
鼻が詰まって息苦しさがひどい。マイクの緑ランプが点いている間は、声を殺すために鼻呼吸をするしかないけど、そのせいである時私は、大きな鼻提灯を作ってしまった。当然大笑いを受けて、死にたいほど恥ずかしかった。その羞恥が、余計に私から余裕を奪う。
ようやく3人の指が割れ目から抜かれた頃、私は、後ろにいる磯崎の太い首に手を回していた。これも多分、甘えているようだと野次られたに決まってる。でも、それを聴く余裕すらなかった。何度も潮を噴き、涎を垂らし、乳首だけで肩まで震わせて絶頂する――そんな、溺れるも同然の状態だったんだから。
「はぁっ、はあーっ、はぁーっ…………」
汗まみれで荒い息を吐く私を、ヤクザ達が見下ろしている。涙でぼやけきった目では、その表情は読み取れない。でも雰囲気からして、私を休ませてはくれないようだ。
「おら、シャンとせぇ! まだまだこれからやぞ?」
栖村はがなり立てながら、黒いガムテープのようなものを拾い上げた。
※ ※ ※
栖村の手にした物は、『ボンデージテープ』というらしい。テープ同士は静電気で張りつくけど、肌やシーツにはくっつかない。栖村と磯崎は、そのテープでまず私の腕を後ろ手に拘束する。その上で、ベッドへ鼠色のビニールシートを被せた。まるで濡れることを想定しているように。
「よし、これでええ」
栖村に肩を押し込まれ、ベッドの縁に座らされる。
テープの拘束は、静電気にしてはかなり頑丈で、両肘を抱えるような格好のまま腕が動かせない。そんな状態で大股を開かされ、ステージへ丸裸を晒していると、頭がおかしくなりそうになる。
「何する気!?」
「何って、決まっとるやろ。まだまだイキ足りんっちゅう顔しとるからな。大好きなコイツで、死ぬほどイカせまくったるわ!!」
栖村はそう言って、ベッドに放置されていたマッサージ器を拾い上げた。そして私の方を向いたまま、ベッドの縁に片足を乗せ、マッサージ器のスイッチを入れる。散々聴き慣れた重苦しい羽音が、鼓膜と内臓を揺さぶってくる。散々焦らされた上での絶頂を知った今、その快感に抗える気がしない。
「くっ……!」
私は栖村の余裕の笑みを睨みつけながら、歯を噛みしめて顎を引く。ミジメな姿だけは晒したくないから。
その直後、マッサージ器がクリトリスに触れた。
「んっ……!」
口を閉じ合わせて、何とか声を殺す。
ここ数日、何度このマッサージ器で昂ぶらされ、何度寸止めの地獄を味わっただろう。やっぱり機械の振動は、指よりずっと絶頂に近づくのが早い。
「ふんんん……んんっ…ぁ!」
引いていた顎が、どうしても持ち上がり、喘ぐ形に開いていく。クリトリスとあそこの入口も、同じく喘ぐようにピクピクと反応する。
「ふっ、く……あ、んんん゛っ、あうっ、ふうぅんン゛ン゛っ!!!」
快感が高まるにつれて、声が抑えられなくなっていく。ピクピクと震える反応が、あそこだけじゃなく、太腿や下腹にまで広がっていく。下半身すべてに、痺れるような感覚が根を張る。
今朝までなら、この感覚が生まれてすぐに、マッサージ器が離された。そのたびに、せっかく根を張った快感が半端に放置され、腐り落ちた。でも今は、マッサージ器が宛がわれ続けている。快感の根が太く、指先の方にまで伸びていく。身体の重心が保てなくなって、上半身がゆらゆらと揺れはじめる。
「おら、倒れんなや」
栖村がニヤけながら、私のうなじを鷲掴みにしつつ、押し当てたマッサージ器を軽く上下に揺らしはじめる。
それが、駄目押しになった。
「……んんんん゛ーーーっっ!!!!」
私は歯を食いしばったまま、絶頂に飲み込まれる。さっきまで指で何度もイカされていたけど、それとはまた重さの違う絶頂。後ろで縛られた腕を背中につけたまま、何度も背を反らす。その度に割れ目の辺りから、じぃん、じぃん、というなんともいえない快感が這い登ってくる。まるでコーラのように、いけないとわかっていても貪ってしまうタイプの快感。
そんな私の絶頂は、傍から見ても丸わかりだったんだろう。
「くくっ、イキおったな。体中震わせおって、ホンマに中毒かい」
栖村が嘲笑いながら、一旦マッサージ器をクリトリスから離す。ようやくの解放。でも頭のどこかが、あの甘さに未練を残している。中毒、という栖村の指摘を裏付けるように。
「はぁ、はぁっ……バカじゃないの? なにが、中毒よ………こ、こんな事されて、イカないわけないでしょ!?」
私がおかしいわけじゃない。同じ目に遭ったら、誰だってこうなるに決まってる。
「ほぉ、まだ余裕がありそうやな。ほな、もうちっと遊ばせて貰おか」
すぐ傍で私の絶頂を見ていた新渡戸が、磯崎に目配せする。
磯崎は何かを握っていた。マウスオープナー……歯のホワイトニングを受ける時に使う道具だ。その名前通り、口に嵌められれば歯を閉じ合わせることができなくなる。
「ま、まさか……!」
表情を引き攣らせる私に、無表情の磯崎が近づき、毛深い指でマウスオープナーを口に宛がってくる。
「や、やぁっ……あごっ!!」
抵抗しようにも、腕は使えない。口を閉じようとしても、頬を掴んで強引に開かされ、強引に口を開かされる。
「くくくっ、エエ面や。普段澄ました顔ばっかしとる分、余計になぁ!」
栖村が笑いながら、マッサージ器をクリトリスに押し当てはじめた。
「えあっ!!」
今度は声が漏れた。口を閉じられないと、声を殺しきれない。
( もし、またマイクのスイッチを入れられたら…… )
そんな私の不安をよそに、マッサージ器の振動は淡々と私を絶頂へと押し上げていく。
「ああ、あぁっ……ぁ、ああ、はぁああ……!!」
快感の根が脈打つ。イッたばかりだから、異常に敏感になっている。私は無意識に足を閉じ、快感に耐える形を作っていた。すると、磯崎の腕が太腿を掴む。
「あっ!?」
力を込めて抵抗しても、あっという間に足を開かされてしまう。さらに磯崎の指は、太腿からスライドし、小陰唇の上側を押しひらいた。クリトリスを露出させるために。この効果は覿面だった。ただでさえきついマッサージ器の振動を、より強く感じてしまう。絶頂までの道のりが、一段飛ばしになる。
「ああぁ、あぁ、ああっああっあっ……ハァッ…ハァッ、あっ、ハァァッ!!」
喘ぎ声が早くなり、息も切れてきた。太腿と下腹がピクピクと痙攣をはじめた。二度目の絶頂はすぐそこだ。そしてそれは、一回目の繰り返しじゃない。一度イって敏感になった状態でまたイくのは、気持ちがよすぎて怖い。
「あ、ああ、あっ! いあっ、やええーーーっ!!」
私は恐怖のあまり叫びながら、前屈みに上体を倒す。本能がこれ以上は危険だと訴えていたから。でも、ヤクザ3人に情けはない。
「コラ、身体起こさんかい!!」
栖村は肩を掴んで、私に背筋を伸ばさせる。
「もうイクんが怖なったか、勘のええガキやな」
新渡戸がほくそ笑む中で、磯崎がさらに足を開かせてくる。
そんな状態でマッサージ器を宛がわれ続けると、もうもたない。
「あ、あ、あ゛……あぁ゛っ、らえ゛え゛っ!!」
体中をピクピク震わせながら、何度か喘ぎ……そしてある瞬間、絶頂のラインをするりと飛び越えた。
「え、えぐっ!! えぐうう゛う゛ぅぅ゛ーーーっ!!!」
閉じない口から呻き声を上げ、足指をピンと伸ばして絶頂する。溜めに溜めた尿を漏らすような、異様な開放感が背筋を駆け抜けていく。
体力をだいぶ持っていかれる絶頂。でも、マッサージ器は止まらない。2度の絶頂で痙攣しつづけている割れ目を、容赦なく刺激しつづける。
「らえっ、らえ゛っ!とえてぇーーっ!!」
必死に責めの中断を訴えても、聞く人間はいない。むしろ手で太腿をこじ開け、割れ目を指で盛り上げるようにして、よりピンポイントに快感を与えてくる。
そこからが、地獄の始まりだった。
2度の絶頂で敏感になったあそこを嬲られれば、すぐに3度目の絶頂が襲ってくる。そのせいでさらに敏感になって、4度、5度と立て続けにイかされてしまう。
「はぁっ、はぁっ、ああ゛……らめ、らめらめ゛っ…………!!」
私は、開いた口から涎を垂らしながら、首を振りたくって否定の意思を示した。あまりにもつらいから、足をバタつかせ、左脚に右脚を絡ませるようにして責めの邪魔をしたりもする。そのたび男の力で強引に足を解かれ、また私が絡ませ、が延々と繰り返された。
「暴れんなっちゅうとるやろが、このガキ!」
そのうち栖村が痺れを切らしたように叫び、私の両脚の間に自分の足を割り込ませてきた。そのまま関取のような太い足で右脚を押さえ込まれれば、もう足を絡ませての抵抗はできない。それが、最後の抵抗だったのに。
「はっ、はっはっはっ……あああ゛あーっ、ああ゛ーーーっ!!」
激しく喘ぎながら、為すすべもなく絶頂する。あまりの苦しさに、涙が頬を伝っていく。その涙はたぶん、調教師3人が待ち望んでいたものだ。
「だいぶ参ってきとるな」
新渡戸が笑みを浮かべながら、マイクを拾い上げる。そして見せ付けるようにスイッチを切り替え、私の口元に近づけてくる。
「!!」
全身が強張った。ライブは佳境に入ったところだ。声を出しちゃいけない。皆のステージを邪魔しちゃいけない。それはわかってる。でも、そう考えれば考えるほど、割れ目で唸りを上げるマッサージ器を強く意識してしまう。
「……ぁ、ぁ……っ!! か、はっ、はぁぁあ…………っ!!!!!」
私は、喉を開けるだけ開いた。なるべく声が漏れないように。でも、いつまでも堪えられるものじゃない。そうしている間にも、何度も何度も絶頂の波が襲ってくる。
「ぅ、ぅう……っ!ぅぅぅーーー~………ッッ!!!」
足指の先までが震え、全身が痙攣し続けた。
「くくっ」
永遠にも思える時間の後、新渡戸の含み笑いが聴こえ、ようやくマイクの緑ランプが消える。その瞬間、私の中で枷が外れた。
「くはっ、はっはっはっ、ああ、あああ゛あ゛っ!! えぐえぐえぐっ、えぇぐううう゛うう゛っっ!!!」
涎を散らしながら、絶頂を訴える。
「はははははっ! またえっらいツラになっとんぞお前?」
栖村は大声で笑いながら、あくまでマッサージ器を離さない。無理矢理開かされた両足が、普通じゃないほど固くなっている。腹筋が攣りそうになる。割れ目の中で、どろっ、どろっ、と愛液が吐き出されていくのがわかる。
その絶頂地獄が何分も続いたある瞬間、とうとう決定的な開放感が脳に伝わってきた。今度のこれは、愛液じゃない。
「いあ、いああ゛ーーっ!! とえて、おぇがいとえてええぇぇっっ!!!」
不自由な口で、必死に叫ぶ。でも栖村も新渡戸も、笑みを深めるだけだ。
その果てに、開放感が押しとどめられなくなる。太腿が震え、割れ目がヒクついて……とうとう、水音がしはじめた。生温かいものが、お尻に垂れていく。さらにそこから、足を伝って床にも。
「くははっ! このアマ、とうとうションベン漏らしおった!」
「おーおー、ビッショビショや。仲間が必死にライブやっとる裏で呑気にお漏らしとは、ええ御身分やのぉ!!」
詰りの言葉が投げかけられる中で、私は呆然としていた。
( …………漏らした…………? 私が…………? )
絶頂と同時の失禁。それは、私の頭を凍りつかせるのに充分な効果があった。私の目指した『アイドル』は、用を足すところを誰かに見せることなんてしない。ましてや、あさましくイキながら尿を撒き散らすなんて、絶対に有り得ない。
「こいつ、ショックでボケーッとしとる」
栖村の声がした。その声で意識を取り戻すと、ちょうど目の前にマイクが突きつけられるところだった。ランプは、緑。
額から汗が噴きだす。まだ、耐える体勢を作れてない。声を抑えきれない。
「あぁ、あ…………がらっ、あガぁ、ああえら゛ぁ゛っ……!!!」
なんとか喉を狭めるけど、結局は口の中に溜まった唾液のせいで、うがいのような音が出てしまう。
「くははっ、お前笑わせんなや!!」
すぐに新渡戸がマイクを切り、ひいひいと腹を抱えて笑う。人の気も知らないで。
「あがっ……!!!」
私が涙ながらに睨みつけると、栖村は口笛を吹いた。
「ほー、まだ睨めるんか。ホンマ、ええ根性しとるわオノレは!」
栖村は唸るようにそう言い、一旦マッサージ器を割れ目から離す。そして私の膝裏を掴むと、身体ごとひっくり返すように持ち上げた。ちょうど、濡れきった割れ目が天井を向くように。
「どや、恥ずかしいやろ。『マングリ返し』っちゅうんや。メス奴隷の定番の格好やさかい、ようアタマに叩きこんどけ」
私の顔を覗き込みながら栖村が言い、改めてマッサージ器を割れ目に宛がう。
「あうう゛う゛っ!!」
呻きが漏れた。足で腹部を圧迫するこの格好は、尿意が刺激されてしまう。
「いあ゛っ、いあああ゛っっ!!!」
首を振りながら嫌がるのも虚しく、また失禁が始まった。今度は生温かいものが、お尻の方じゃなく、太腿を横切るようにして流れていく。
「こいつ、また漏らしとる。しかもまだ黄色いで? どんだけ濃いションベンや」
栖村の言葉が胸に刺さる。でも、それすら気に留めておけないほど、絶頂の波が立て続けに襲ってくる。
「あああ゛ああ゛っ、いぐぅぅう゛いぐっいぐっ!! ひイグぅう゛うう゛゛ーーーっ!!! しぬっ、じぬうう゛っ!! グのやずまえて、イグのどまんないっ!! おえがいぃっ、やずまぜでええぇーーーっっ!!」
私は、開口具を軋むほど噛みしめながら、情けない声を上げつづけた。絶頂すれば絶頂するほど、息は苦しくなるし、割れ目は蕩けていく。イっている最中にまたイくような状況で、平然としていられるわけがない。
当然、その余裕のなさは、調教師3人の笑いの種になった。何度も何度もふざけ交じりにマイクが突きつけられ、そのたびに必死で声を殺す私の様子を嘲笑う。
ある時には、本当に声を抑えるのが限界で力みすぎ、おならのようなものが出たから、それはもう大声で笑われた。鬼の首を取ったように指を差され、罵詈雑言を浴びせられる。でも、その内容はあまり頭に入ってこなかった。私自身が一番その事実にショックを受けていて、ボロボロと泣いてしまっていたから。
「はぁっ、はぁ……も、もう、いい加減、休ませて……このままじゃ、本当におかしくなる…………。」
マウスオープナーを外されたのは、どれぐらい経った頃だろう。私は全身あらゆる体液に塗れながら、息も絶え絶えにそう懇願した。屈辱的ではあったけど、自分が自分でなくなりそうで、本当に怖かったから。
そんな私を見て、新渡戸が溜め息をついた。そして一旦ベッドを降り、部屋の奥へと歩いていく。
「ライブは、終わったようやな」
新渡戸のその言葉でステージの方を見ると、ステージ側のマジックミラーはただの鏡に戻っていた。ステージのライトが消えて、この部屋の方が明るくなったんだ。
私は、ほっと胸を撫で下ろす。ライブの終わった今、マイクに怯える必要もない。でも、そんな私の幸せな気分は、すぐに消え去る。
「なに安心しとるんや、このボケ」
栖村は、吐き捨てるようにそう言った。
「……え?」
私は、ひどく間の抜けた声を漏らしたと思う。ライブ終わりという区切りで、一休みできる気になっていたから。
我ながら甘すぎた。いくら苦しくても、気を緩めるべきじゃなかった。栖村達は調教師。私を追い込んで、追い込んで、自我を壊すのが目的なんだ。
「まだまだ、休ませへんぞ。こっからはワシら3人で、足がガクガクんなるまで可愛がったるわ!」
栖村は、皮のたるんだ顔を吊り上げて笑う。
どこまでも醜いその顔は、とても人間のものには思えなかった。
『調教部屋』に戻るなり、栖村が挑発してくる。
本当は、ここに戻ってくるのが嫌だった。角刈りのクラクションを無視して、そのままどこかへ行ってしまいたかった。でも、それはできない。あれだけ活き活きとした仲間とファンを見た以上、私だけが逃げる訳にはいかない。
「ご褒美や。今日からたっぷり時間かけて、イク事と男のモン咥えこむ事しか考えられん、立派なメス奴隷に仕立て上げたるわ!」
栖村が凄むように宣言し、新渡戸が笑みを浮かべる。磯崎は相変わらず死んだ眼で、じっと私を観察していた。
「……勝手にすれば。何をしたって、『私』は変わらないから!」
私にできるのはせいぜい、3人を睨んで拒絶の意思を示すことだけ。でも、そのたった一つをやり続けてやる。これから、何日、何週間、何ヶ月が経ったって。
「ほな、またご自慢のストリップ拝ましてもらおか」
栖村がそう言ってウイスキーのグラスを呷る。
そうだ。服を着て外に出かけた以上は、またここで脱がないといけない。これからも、ずっと。そう考えると、また気が重くなる。
( ずっと裸でいた方が、気が楽かも…… )
そんな事を考えかけ、すぐに思い直す。裸でいることを恥だと感じなくなったら、アイドル失格だ。
「ふーっ……」
私はひとつ深呼吸してから、リボンタイに手をかけた。栖村達がソファから立ち上がり、近寄ってくる気配を感じながら。
赤と白で彩られた、ノースリーブドレス風の衣装。こんな部屋には不釣合いなほど可愛いそれを、皺にならないよう丁寧に脱いでいく。
上をすっかり脱ぎ終え、続いてミニスカートを脚から抜き去ったところで、栖村がさらに距離を詰めてきた。アイツが露骨に視線を向けているのは、私のショーツだ。ぎくり、とする。
ファンと握手する間、ずっと下半身に疼きを覚えていた。トイレで見た時にも、明らかに愛液の糸が引いていた。そんな状態で半日以上過ごした後のショーツは……
「おいおいおい、どういうこっちゃお前! ワシらに弄られもせんと、勝手に濡らしとるんけ!?」
栖村の言葉が、答えだ。どうやら染みができてしまっているらしい。
「ファンと握手するだけで濡れたんかい。とんだ変態アイドルもおったもんや」
新渡戸が勝ち誇ったような表情で詰った。
「ち……違う、あんた達のせいよ! あれだけ焦らされたんだから、そう簡単に落ち着くわけないでしょ!?」
私は頭にきて反論するけど、声は震えていた。頭の中で、自分の異常を自覚してしまっているから。
「いーや、お前にゃ充分に変態のケがあるわ。お前みたいなツンケンした潔癖女ほど、快楽にどっぷり浸かってまうもんや」
栖村はそう言って、ガラステーブルから何かを拾い上げる。肩こりをほぐすのに使う、ハンディタイプのマッサージ器だ。
「…………?」
単なるマッサージとも思えない。なら、何であんな物を?
訝しむ私の表情を楽しみながら、栖村の指がマッサージ器のスイッチを入れた。ヴウウウーンという、虫の羽音のような音が響きわたる。何もおかしいところはない。
「そのままのカッコでええ、そこ座れや」
栖村はそう言って、近くのソファを顎で差し示す。
「…………っ。」
嫌な予感がするけど、逆らえる立場でもない。私は白いショーツと黒のサイハイソックスだけを身につけたまま、ソファに腰掛ける。
「もっと深う腰掛けぇ。だいぶ暴れることになるんや、途中でズリ落ちんぞ」
ソファの後ろに回りこんだ新渡戸が、そう囁きかけてくる。
( 暴れる? 一体、何する気なの……? )
胸の中に不安が渦巻く。でも、それを表には出さず、淡々と座り方を変える。
栖村はそんな私に近づき、マッサージ器を私の足の間に近づけた。
「!」
私はそこでやっと、奴の意図に気付く。あの振動で、さらに私を追い詰めるつもりなんだ。指で撫で回すより、ずっと効率よく。
ヴヴヴヴ、という音が近づき、とうとうショーツに宛がわれる。その瞬間、私の身体に震えが走った。
「ひゃああっ!!?」
思わず漏れた情けない声に、栖村が歯を覗かせる。
「どや、コイツは堪らんやろ。指での弄りなんぞとは比較にもならん。ホンマ、文明の利器様々やで」
栖村はそう言いながら、マッサージ器の先でクロッチ部分をなぞる。ほんの数秒そうされただけで、あっという間に割れ目がヒクつきはじめた。熱いものがお腹の奥からこみ上げる。『イク』感覚だ。
「あ、あ、んんあああ……っ!!!」
足指を浮かし、踵をソファに押し付けて絶頂に備える。あと1秒で、気持ちよくイケる……そう私が思った、まさにその瞬間。
「よっと」
いきなりマッサージ器が割れ目から離れ、振動が消えうせる。後に残るのは、イキ損ねた気持ち悪さ。なまじ快感が強いだけに、指の時よりもずっと深刻だ。
「あ、あ……?」
無意識に視線をマッサージ器に向け、未練がましい声を吐いてしまう。
「どうや電マは、気持ちええやろ。今日からは、これも使うて可愛がったる。ただし、絶対にラクにはさせん。活かさず殺さず、焦らし続けたる。正直に『チンポが欲しい』言えたら、話は別やがな」
栖村はそう言って、またマッサージ器をショーツに押し付ける。本当に刺激が強い。というより、強すぎる。こんなもので寸止めを続けられたら、狂いかねない。
でも、だからといって音は上げない。こんな奴ら相手には。
「……好きにすれば」
私は目を閉じて、ベッドに身体を預ける。
「ああ。好きにさせてもらうわ!」
栖村の笑い声とマッサージ器の音が、暗闇にうるさく響いた。
※ ※ ※
「ほーれ、どうや。またイキそうなんやろ?」
栖村が、またマッサージ器を離す。でも、私のあそこには痺れが続いている。絶頂にはギリギリで届かない、クリトリスと割れ目が震えるだけの気持ち悪い快感。
「ううう゛、ふうぅ゛…う゛っ…………!!」
私は歯を食いしばって苦しさに耐える。あと一秒でイけたのに。楽になれたのに。そんな考えが頭を巡る。
「また行くで、辛抱せぇや!」
その言葉と同時に、また振動が腰を覆った。
「っふ、ぐぅうう゛うっ!!!」
背中にまでビリビリ来るような快感。これが堪らない。足の指でソファを掴み、腰を突き出すようにして快感を貪ってしまう。力を込めつづけた腹筋が、筋トレをしすぎた時のように鈍く痛む。背もたれに後頭部を預けて堪えているから、うなじの辺りにも同じ痛みが蓄積していく。
でも、それ以上に快感が凄かった。
今度は刺激の時間が長い。今度こそイケるかもしれない。ぼやけた頭でそう考えながら、本能のままに腰を浮かせる。すっかり固くなったクリトリスが、マッサージ器を押し上げる勢いで勃ち上がり、割れ目が激しくヒクつきはじめる。
「ふう゛ううーーー…っ!!」
肺のかなり深いところから、噛みしめた下唇を通り抜けて呻きが漏れる。
「この阿呆が、まーたイク準備しとる。させん言うとるやろ!」
その言葉の直後、またマッサージ器が引かれた。今度は、あと1秒どころじゃない。あとコンマ数秒というところで『断ち切られた』。
「ううう゛うう゛っ!! ふっ……ううう゛っっ!!!」
私は、腰を浮かせながら栖村を睨みつけた。悔しい気持ちが抑えきれない。感情が強すぎて、涙さえ零れてしまう。
「未練がましいやっちゃのぉ。そんなにイキたかったんか? ま、しゃあないか。お前、えらいザマになっとるからのぉ。オノレで見てみぃ、パンツが透けて、プックリ膨れた赤いマンコが丸見えや。クリの位置までわかるで。おまけに……」
一方の栖村は、余裕の笑みで私を見下ろしながら詰りつづける。
悔しい。詰られることもそうだけど、それが本当だということが、自分でもわかってしまうから。
あふれた愛液がショーツを満たしていることも。クリトリスが勃っていることも。ビラビラが充血して、嘘みたいに厚みを増していることも、私が一番わかってる。
「ふーっ、そろそろひと息入れるか。オウ磯崎、選手交代や。クリがギチギチに固うなっとるからの、たっぷりイジメたれ!」
栖村はマッサージ器のスイッチを切ってガラステーブルに置くと、肩を回しながら磯崎に声を掛けた。マッサージ器の音を聞きすぎて、それがなくなると静かすぎるように感じてしまう。
磯崎は立ち上がり、テーブル横の麻袋から箱を取り出した。箱の蓋を開けると、中にいくつかの筆が見える。何かを書くため……じゃない。マッサージ器の時のように、何か普通じゃない使い方をするはずだ。
磯崎は筆を一本手に取ると、ゆっくりと私の前に屈み込み、濡れきったショーツを脱がしていく。まるで表情が変わらないから、とにかく不気味だ。
「腹あ決めぇ。今のお前にゃ、ちっとキツい責めやぞ」
新渡戸がそう言うと同時に、磯崎の筆がクリトリスを撫でた。
「んっ!!」
くすぐったい。マッサージ器のせいでクリトリスが敏感になっている今は、筆の先が触れるだけで腰が浮いてしまう。
そんな私の反応に、嬲り甲斐を感じたのか、それとも事務的になのか。磯崎は筆でクリトリスをなぞり続ける。
「あ……っ、ふ、んん、うん……っ!!!」
我慢しても、声を完全には殺しきれない。強張ったクリトリスを絶え間なく刺激されて、痺れるような感覚があるのに、すっきりイけそうな感じがまるでしない。
絶頂というものが『コップから水が溢れること』だとするなら、マッサージ器での責めは、蛇口を開いて思いきり水を溜め、溢れそうになれば止めて蒸発を待つ、を繰り返すようなもの。それに比べてこの筆責めは、スポイトで一滴一滴、コップの縁ギリギリになるように水を足されている感じだ。激しさはないけど、際の際まで追い詰められる感じはさっきより酷い。
割れ目に筆先を這わせて愛液を掬い、それをクリトリスに塗りつけ……これを延々と繰り返されると、元々固かったクリトリスが、はち切れそうなぐらいに勃ってしまう。
「ええ具合になってきとるのぉ。よし、再開や!!」
栖村はそう叫ぶと、テーブルにコップを叩きつけて立ち上がる。2メートルの巨体が身を起こす瞬間には、周りの何もかもが不安定に揺れた。
「おい磯崎、その女抱えとけ。“ションベンスタイル”でな」
栖村が命じると、磯崎はソファに沈む私を軽々と持ち上げ、左右の膝裏を手で支える形に抱え直した。ちょうど、小さい子供におしっこをさせるポーズだ。これは、かなり恥ずかしい。
「くうっ……!!」
「はははっ、こら見応えのある格好やのぉ。表情もええ味出しとるわ!」
栖村は私の顔を覗き込みながら、マッサージ器を拾い上げる。
「ただ、“それ”は見た目がええだけとちゃうぞ?」
マッサージ器に電源が入り、また割れ目に宛がわれた。痺れるような激しい刺激が下半身を覆い、あっという間に絶頂へ向けて“満たされて”いく。散々味わった甘い地獄。でも、さっきまでとは違うことがある。
さっき以上に我慢が難しいんだ。子供におしっこをさせるようなこのポーズは、一番お腹に力が入りやすい。つまり、嫌でも感覚が集中してしまう。そこにマッサージ器の振動が加われば、涼しい顔で耐えることなんてとても無理だ。
「んあああっ、あああっ!! ふぅ、う゛……あああ゛っ!!!」
「くくっ。このカッコで焦らされるんはたまらんやろ」
栖村は笑みを深めながら、マッサージ器を離した。丸い先端から私の割れ目にかけて、太い糸が引いているのが見える。
( ……これ、ダメだ。ずっと続けられたら、本当におかしくなる…… )
たった1回の焦らしで、この責めの危険さが理解できた。いっそ「挿れてほしい」と哀願しようかとも思った。
でも、そんな考えはすぐに捨てる。
プライドが許さない、というのもある。でも、それ以上に怖かった。ここで楽な方に流れてしまったら、今後同じような事があるたびに、ズルズルと堕ちていく気がする。その行き着く先は、皆の所へも戻れず、アイドルに返り咲くことも二度とない未来。それは、死ぬより嫌だ。
※ ※ ※
「んぅう゛っ! ふう゛ぅんんん゛っっ!!!」
もう、何十度目の寸止めだろう。私は全身から汗を散らしながら、髪を振り乱し、膝下を滅茶苦茶にバタつかせる。
「おーおー、また暴れよる。ホンマ余裕なくなったのぉ、コイツ」
栖村が、バカにするような口調で呟いた。それを睨もうとした直後、割れ目に節ばった指が入り込む。指は膣の浅い部分から、奥の狭まった部分までを、確かめるように撫で回す。
「んっ!!」
「さすがに、まだポルチオは固いか。まあええ、じっくり開発したる。時間はなんぼでもあるんやしのぉ」
言葉の意味はわからないけど、どうやら私の身体の開発が上手くいっていないらしい。その事実に、少しだけホッとする。でも、それも一瞬のこと。
「そら、行くで!」
またマッサージ器がクリトリス近くに押し当てられれば、あっという間に頭が白く染まる。
「はぁっあ、んああ゛ぁああっ!!!」
「ひひ、どこ見とんねんその目ぇ。アタマ焼き切れたんか?」
その栖村の言葉は聴こえづらい。ブシュブシュという音が邪魔をしている。次々に溢れる愛液がマッサージ器に遮られ、蛇口を手で押さえた時のように飛沫いている音だ。その音を耳にしている限り、嫌でも『濡れている』事実を思い知らされる。
「くう、うっ……!!」
またマッサージ器が離された時、私は顔を歪めて呻いた。悔しさと恥ずかしさが、ある一線を超えてしまったから。
「ふふ、だいぶ参っとんのぉ。しゃあない、ツレの声で元気出させたるわ」
ソファで煙草をふかす新渡戸がそう呟くと、私のバッグを漁りはじめた。中から取り出されたのは、私のスマホだ。
「ちょっと、何する気!?」
「言うたやろ。お友達に電話や」
新渡戸はスマホを起動すると、私の指を使って指紋認証を突破し、電話帳を探りはじめる。
「えらい事になっとるな。ま、せいぜい声には気ぃつけぇや?」
栖村も笑みを浮かべながら、マッサージ器を割れ目に押し当てた。
「ば、馬鹿っ!!」
最後の抵抗で叫んでも、2人がやめるはずがない。
マッサージ器の音に混じって、耳に近づけられたスマホからコール音が鳴り響く。1回、2回、3回。
今は何時だろう。水曜日の夕方に帰ってきて何時間か嬲られていたとすれば、夜か。なら、電話相手は家で一人という可能性もある。どうかそうであってほしい。こんな有様を、何人にも聴かせるわけにはいかない。
『やあ、リーダー。どうしたんだい?』
少し息切れしながらも、ハキハキとした声がする。この男の子みたいな喋り方は、早苗だ。
『えっ、結衣ちゃん!?』
『マジかよ!? おい、後で代われ!!』
続けて聴こえたのは、あんりと乃音歌の声。
心臓が凍りつく。最悪だ、みんな一緒にいるらしい。
耳を澄ますと、電話口からは何かの音楽も聞こえていた。私達のグループの曲だ。
「はっ、はっ……あ、うん、ちょっとね。皆は、今練習中?」
『そうだよ。土曜日まで、あんまり時間ないからね』
やっぱり、頑張ってるんだ。毎週1000人規模のライブをするなんて、かなり負担が大きいはず。その大事な時に、こんな電話で邪魔をすること自体が申し訳ない。
そして、後ろめたい事はもう一つ。今まさに、マッサージ器の刺激でイキかけていることだ。それを知られるわけにはいかない。絶対に。
でも、それを完全に隠すのは無理があった。
『ところでリーダー。何だか、さっきから息が荒いみたいだけど?』
なるべく呼吸を抑えていたにもかかわらず、あっさりと見破られてしまう。新渡戸が受話器を持ったまま、にやりと笑った。
まずい。体中の熱い汗に混じって、冷や汗が流れはじめる。シラを切るのは不自然だ。なら、別の理由で誤魔化すしかない。
「い、今ちょっとリハビリがてら、身体動かしててさ」
『あ、そうなんだ』
「うん。でもやっぱり、運動しないと身体鈍るね。すぐ息切れちゃって……」
喘ぎながら、咄嗟に思いつきで会話を続ける。新渡戸が、くっくっと笑い声を漏らした。栖村もマッサージ器の角度を変えながら、敏感な部分を刺激してくる。
気持ちいい。イけそうだ。でも、今イクわけにはいかない。早苗に声を聴かれている、今だけは。
『そういえば、変な音もしてない? なんか、大きい虫の羽音みたいな……』
早苗はさらに突っ込んできた。当然だ。こんな音が聴こえてきたら、気になるに決まってる。でも今は、その当然のことがつらい。
こんな音、別の何かで誤魔化すのは無理だ。マッサージ器の存在はそのままに、本当の事を伏せて説明するしかない。
「ああ、この音? えっと……ああ、隣の部屋のおばあちゃんかな。歳のせいで肩凝るみたいで、あの、マッサージ器?使ってるみたい」
何とかそう理由をつける。早苗は、ふーん、という返事をしたものの、変だと思っている様子でもない。
「それより、ライブの準備は……んっ、順調? 行けなくっ、て、はぁっ……ごめんね……」
さらに突っ込まれる前に、別の話題に切り替える。でも、それが墓穴を掘ることになった。
『そうだね……スキル的には何とかなりそうだけど、問題はメンタルの部分かな。ほら、このグループで1000人って規模は初めてだろう? 空気に呑まれるんじゃないかって、心配なんだ。リーダー、もし良かったらさ、大舞台で緊張しないコツとか、失敗した時のリカバリー方法とか、皆に教えてやってよ』
次々と、話題が出てくる。
正直、焦らしを受けながらの電話はきつい。でも、早苗達の不安ももっともだ。ライブで力になれない分、せめてそれを解消してあげたい。
「ん……ん、んっ……も、もし歌詞とか忘れたり、トチっても、固まっちゃダメ。あんりの度胸の、見せ所だよ。今回限りのアドリブって思って、割り切ってこ!」
「はぁ、はぁっ……いい、良子? ファンの皆を楽しませるのが、い、一番だよ。そのためには、緊張とか含めて、まず自分達が楽しむこと。それが、いっ……いいライブをやる、コツだよ」
「の、乃音歌ちゃん、私も、んんっ、乃音歌ちゃんと会えないのは、さ、寂しいよ。今度の水曜日にまた会ったら、ぎゅーってしてあげる。だから、ふ、んっ…が、がんばって!!」
3人が次々とぶつけてくる言葉に、一つずつ応え続ける。
『いく』、『いきたい』――思わず、そんな言葉を口走りそうになりながら。快楽と緊張の板ばさみで、意識が飛びそうになりながら。
ようやくスマホが切られた時、私はぐったりとうなだれる。でも、休ませてもらえることはなかった。
「嘘がうまいのぉ、さすが女や」
新渡戸が私の髪を掴んで、口に水のペットボトルを押し込んだ。強引な水分補給は、『もっと水分を出させてやる』という意味なんだろう。
「おら、“おばあちゃんのマッサージ器”やで、たっぷりほぐしたるわ。まぁ、もうトロットロに溶けきって、凝りも何もあったもんやないがな!」
栖村が指でクリトリスを弄りつつ、割れ目にマッサージ器を宛がう。
私は、歯を食いしばってその顔を睨みつけた。
「お、覚えてなさいよ……!」
私一人を詰るならともかく、練習中の仲間まで巻き込んだのは許せない。
「おー、気合入った目ェや。こら、『ハメて下さい』っちゅう言葉は当分出てきそうにないわ」
「確かに。まだまだ、愉しませてもらえそうや」
栖村達は私を見下ろしながら、嬉しそうに呟いた。
※ ※ ※
栖村と磯崎からの責めは、場所をベッドに移した上で、さらに続けられた。
栖村がマッサージ器を手に取る横で、磯崎がズボンとトランクスを脱ぎ捨てる。露わになるのは、あいつの『男』の部分。
「ひっ!?」
それを視界に入れた瞬間、私は思わず叫んだ。前に見たチンピラ2人の物も不気味だったけど、磯崎の場合はそんなレベルじゃない。直径も、長さも、反り具合も、まるで別物。おまけに先端がキノコの笠のように張っていて、幹の部分にはいくつもコブのような物が浮き出ていた。
「いつ見てもえぐいブツやのぉ。また“真珠”の数増えたんとちゃうか?」
栖村が目を細める。磯崎はそんな栖村に返事もせず、ただ私の目を覗き込みながら、股間の物を鼻先に突きつけてきた。
「し、しゃぶれ」
少しつっかえた感じの喋りだ。緊張しているのか、それとも元々そうなのか。どっちにしても、威圧感が半端じゃない。無表情にこっちを見据える山賊のような顔は、視線を縫いつけられるような凄みがある。
「イヤよ、汚い!」
私は叫び、強く口を結ぶ。あんなおぞましい物を口に入れるなんて、とても無理だ。でも磯崎は、やっぱり無表情のまま私の鼻に手を伸ばし、強く摘む。
「んっ!」
鼻から空気が入ってこないから、息が続かない。少し頑張ってはみたものの、最後には口を開くしかなくなる。その瞬間、磯崎のものが口の中へ入り込んでくる。
「むぁ、あご……!!」
見た目通り、大きい。口を一杯に開かされる感覚は、テニスボール大のものを咥えている気分だ。おまけに男臭さも酷くて、思わずえづきそうになる。
「し、し、舌を使え」
磯崎がどもりながら命令する。冗談じゃない。こんな物を咥えさせられている事自体が屈辱だ。いっそ噛んでやろうかと思った、まさにその瞬間。
「歯ぁ立てんなや?」
私の考えを読んだように、栖村が釘を刺した。
「前にそれやった女は、前歯から奥歯まで全部引っこ抜かれて、フェラしかできん口にされとったわ。ああなったら悲惨やぞ。入れ歯嵌めたらモノは噛めるが、顔の形が変わってまうからのぉ。顔がすべてのアイドルには、致命的やぞ」
栖村は、笑みを浮かべながら淡々と語る。とんでもない話だけど、磯崎の不気味な無表情を見ていると、歯を抜いたというのも嘘とは思えない。
「んっ、んぶっ! んむう゛っ、う゛っ……ふうぅ゛ぅ゛っっ!!!」
混乱する頭でも、ずっと声が漏れているのは理解できた。
上では男の物を咥えさせられ、下ではマッサージ器で追い詰められる。この2ヶ所責めは、精神的にも肉体的にもキツい。
先端を口に含むだけで精一杯な磯崎の物が、そのうちあそこに入るんだと思うだけでゾッとする。口を塞がれているせいで息も苦しい。そんな中で割れ目にマッサージ器を宛がわれると、ますます余裕がなくなってしまう。どうしても腹筋に力が入り、腰が浮き上がる。
そんな私を、栖村が面白そうに観察していた。
「エロい腰つきしとるわ。何時間も追い込まれて、痩せ我慢も限界か」
したり顔で笑われると、殴りたいほど腹が立つ。でも、とてもそんな余裕はない。
栖村の指が、マッサージ器のスイッチを止める。そして私の太腿を両手で掴み、改めてあそこを覗きこんだ。私自身、酷い有様だという自覚のある場所を。
「ひゃひゃっ、こら酷い。ガン開きの上に、マン汁ダラダラ垂らしおって。チンポが欲しゅうてしゃあないって感じやのぉ!」
栖村はそう言いながら、足の間へ顔を埋める。そして、溢れはじめた愛液を啜った。ずずずーっと、わざとらしいほどの音を立てて。ひどい音だ。悔しさと恥ずかしさで、頭がどうにかなりそうになる。
「そろそろ、口じゃ受けきれんな」
そう言って栖村が顔を上げると、その口元はすっかり濡れ光っていた。あの全部が自分の愛液だなんて、信じたくもない。
「濃いのにスッキリした、ええ味や。さすがは小奇麗さが売りの東京女、汁の味は極上やな」
栖村は嫌味交じりにそう言うと、今度は指を割れ目に捻じ込んだ。手の平で割れ目全体を覆い、しっかりと二本指を捻じ込む動き……鏡を通してそれが見える。
「…………っ!!!」
指が浅く入ってきただけで、体全体が震えが走った。勝手に膣が縮んで、指の感触をしっかりと粘膜に伝えてしまう。
「くくくっ、よう締まる。完全にワシの指をチンポやと思っとるわ。中もヒクヒクしっぱなしで、イク準備は万端ってとこやな」
臍側に軽く曲がった栖村の指は、狙い済ましたように弱いところを押し込んでくる。
「おあ、あおおっ!!」
思わず声が漏れる。栖村の狙い通りに。
「ここが堪らんのやろ? 感じやすい女っちゅうんは不幸やのお。ド素人でも判るぐらい、スポットが盛り上がっとるわ」
指の動きがさらに激しく、擦るようなものに変わった。
「っぷあ!! あっ……んあああっ!!」
私は唾液まみれのペニスを吐き出し、はっきりとした声を上げる。そうしないと、自分の中で何かが爆発すると直感したから。
「おーおーどんどん溢れて来よる、もうグチョグチョや。イキたいんやろ? イキとうてイキとうて堪らんのやろ?」
そう言いながらも、栖村の指は止まる。もうあと少しで絶頂できる、という所で。
「ああぁっ!!」
私は叫びながら足をバタつかせる。なりふりを構っている余裕はない。もう何十回目になるかわからない絶頂の寸止めは、気が狂いそうなほど苦しい。
そして、調教師の2人がそんな私に同情するはずもなかった。
「ち、ちゃんとしゃぶれ」
磯崎は、私の後頭部を掴んで咥え直させながら、バタつく左足まで押さえつけた。それを見た栖村も、同じく私の右足首を鷲掴みにしたから、私は180度近い開脚を強いられることになる。
「う、うう!!」
抵抗を試みても、力士かプロレスラーかという体型の2人に押さえ込まれると、どうしようもない。その上で、磯崎は私により深く咥えさせようとし、栖村の指責めも再開する。
「んぐぅうっ、ううう゛っ!! はぁっ、はぁっ…ぃ、いぐっ……むっ、もおおお゛っ!!」
絶頂寸前の呻きと、激しい喘ぎ、しゃぶらされて出る声。クチュクチュという指責めの音と、マッサージ器の唸り。そういうものが交じりあって、部屋は趣味の悪いコンサートのようになっていた。
でもある時から、そこに別の音が紛れはじめる。歌声か、悲鳴か……とにかく大きい声が、遠くから聴こえてくるような。
そして、その音に反応したのは私だけじゃない。
「……お?」
新渡戸が小さく呟き、ソファから立ち上がる。そして部屋の奥に引かれたカーテンを少し開くと、その中を覗きはじめた。
「始まったな」
新渡戸の声色は、私の裸で鼻の下を伸ばしていた時とそっくりだ。たぶん、カーテンの向こうにもここと同じような調教部屋があって、誰かがいやらしい事をされてるんだろう。私はぼんやりとそう考える。でも、すぐにそんな余裕もなくなった。また絶頂の波が襲ってきたからだ。
そんな私の変化は、すぐに栖村にも伝わった。
「ははっ、また痙攣が酷なってきよった、イキたくて堪らんっちゅう動きや。なんぼ苦しゅうても、絶対にイカせたらん。せいぜいイキ損ねてヒイヒイ泣きながら、オノレの立場を噛みしめぇ」
栖村の言葉が胸に響く。息苦しさや悔しさで一杯の胸が、もっと苦しくなる。
延々と続く指責めは、さらにいやらしさを増していた。ギリギリまで追い込んでから、愛液のついた手を下腹や乳房に擦りつける。そしてまた指入れ、という繰り返し。
その指にしても、もう随分前からあそこの“浅い部分”しか刺激してこない。まるで締まり具合を確認するように、入口付近だけを延々と弄りまわしている。
嫌な責めだ。そんな事をされると、一切触れられない奥が病的にヒクつく。自分から指を迎えるように、腰がカクカクと動いてしまう。
何でもいいから、挿れて――そんな願望さえ頭に浮かんだ。一歩間違えばそれは、口をすり抜けて言葉になりかねない。押し留めるには、かなりの意志力がいる。
「はぁっ、はぁっ……わ、私は、こんなのじゃ参らない。借金を返し終わるまで、耐え切ってみせる!!」
私は唾液まみれのペニスを吐き出し、改めて『調教師』に宣言した。
紛れもない本心だ。私は調教を耐え切って、芸能界に返り咲く。そしてこんなゴミみたいな連中が、近づけもしないくらいの存在になってやる。その決意は消えていない。
「ほぉ、そら大したもんや。なら、また『コレ』でも耐えてもらおか」
栖村はそう言って、シーツからマッサージ器を拾い上げた。
( いい加減にして……! )
思わず、顔が引き攣る。
どれだけ、あの機械に苦しめられたことだろう。何時間か、それとも何十時間か。今ではあれを視界に入れただけで、お腹の奥が疼くようになってしまった。
※ ※ ※
「ふーっ、ふーっ……!! んっん、っくぅう゛っっ!!!」
耐えようとはした。歯を奥歯までしっかりと噛み合わせ、宙に浮く足指が一纏まりになるぐらいに力を込めて。
でも、我慢できるのもほんの2、3秒。マッサージ器で焦らされれば焦らされたほど、絶頂までの間隔は確実に短くなっている。まるで、最初から7割以上水の入っているコップみたいに。
「ひっ、ひ、はぁっ……んっ、く、はく……んんっ、ふうんん゛ん゛っ!!!」
声が漏れる。私の余裕のなさを表す声。今は、そんな自分の声さえ憎らしい。あまりにも正直で、あまりにも情けないから。
コップが満ちる。水道から足される量は多く、あっという間に溢れるラインに近づく。このままなら、あとほんの一秒もせずに、溢れ……
「おっと、イクなや」
栖村の手が、またマッサージ器を離した。
「ああっ!!?」
絶頂に浸りかけていた私は、悲鳴に近い声を殺しきれない。割れ目からねっとりと糸を引くマッサージ器の先……その球体を追いかけて、無意識に腰を浮かせてしまう。でも、追いつけない。結局はガクガクと腰を震わせるだけだ。
( イキたい、イキたいっ………! )
頭の中が絶頂の未練で塗りつぶされる。
嬲られ続けた私の体には、どうしようもないほどの快感が蓄積されていた。マッサージ器が離されても、痙攣が止まらない。痒みすら覚えるほど充血したクリトリスや割れ目が、意思を持っているようにピクピクと動く。いくら止めようと頑張っても、筋肉が言うことをきいてくれない。
「なんや、物欲しそうな目ぇして。オモチャ取り上げられたガキみたいな面やぞ」
栖村の笑い声がする。涙で視界が滲んで見えないけど、たぶん得意顔で笑ってるんだろう。
オモチャを取り上げられた子供? そんな呑気なものじゃない。何日も砂漠を彷徨う中で、やっと見つけた水場がオアシスだった……それを延々と繰り返しているようなものだ。
「はぁっ、はぁっ……はぁっ…………!!」
私が刺激もなしに痙攣しつづける様子を、栖村がじっと観察している。ほんの少しだけ落ち着かせて、またギリギリまで追い詰めるために。
そんな中、私の肩を押さえていた磯崎の手が動く。興奮して膨らんだ乳房をゆっくりと揉みながら、先端に近づいていく。快感で粟立つ乳輪を指先で扱き、そのままの流れで、固く尖った乳首を捻り潰す。
「んあああーーーっ!!」
悲鳴が止まらない。胸が性感帯だというのはわかる。でも、この快感は普通じゃない。肩甲骨の方にまでビリビリと来る。
でも、イけるほどじゃない。いくら気持ちよくても、乳首だけじゃイけない。
認めたくはないけど、栖村も磯崎もやっぱりプロだ。私が絶頂するラインを計算の上で、少しでも快感が多くなるように積み重ねている。上り坂のジェットコースターのように。
もし、そんな快感がどこかで爆発したら……私は、正気でいられるんだろうか。そう思うと、痙攣とはまた別の震えが来る。
「おら、もう一丁いくで。キモチええからいうて暴れんなや?」
心臓まで震えるような羽音が、また近づく。ヴヴヴヴヴ、という音が、濡れきった割れ目に宛がわれた瞬間にジュジュジュジュジュ、という音に変わる。愛液が撒き散らされている音。太腿やお腹に、冷たいようなぬるいような水飛沫が浴びせかかる。
でも、それを認識できているのもほんの一瞬。すぐに私の意識は、下半身が丸ごと感電したような感覚に持っていかれてしまう。声を我慢するのは無理だから、せめて変な声を上げないように努力する。ただ今となっては、それすら難しかった。感電しながら反応のコントロールなんてできない。
「はっ、はひっ…ひンっ!! へぅうっ!!」
肺が強張って、しゃっくりのようなものが出る。それが収まると、ようやく『あ』の音が喉から漏れだすけど、それは終わりの始まり。大声を上げると、そのぶん身体の反応も出やすくなる。重量挙げの選手なんかが、声を出すことで馬力を得るように、反応が声に引きずられてしまう。
「あひっ、あっ!! あっく、あっあっあっ!! ふんっ……あああ゛あ゛あ゛っっ!!」
腰が浮き、Mの字に開いた足がバタつく。意思とは無関係に。
「なんちゅう格好しとるんや。いよいよホンマに、イキとうてイキとうて堪らんらしいな」
栖村のがなり声すら遠く聴こえる。私の感覚は、絶頂だけに絞られていく。でも、楽にはなれない。ある瞬間、激しい刺激は嘘のように消え去り、宙に放り出されたようなもどかしさが全身を駆け巡る。
「は…っ、は…っ、は………はーーっ、はーーっ…………」
何分が経っただろう。何回、生殺しのまま投げ出されただろう。
気付けば私は、濡れたベッドシーツの上で、放心状態になっていた。頭と上半身には、一切力が入らない。逆に下半身は強張りきっていて、踵がシーツに深くめり込んでいるのがわかった。明らかに、普通じゃない状態。
「いよいよ、本番やな」
ふと聴こえたその声に、脳味噌がゆっくりと反応する。
栖村……? 違う。あの落ち着いた声色は、新渡戸だ。部屋の奥に立ち、黒いカーテンの隙間から外を見ている、新渡戸の。
なんだろう。その新渡戸の見ている場所から、綺麗な光が漏れている。
「嬢ちゃん、頃合いや。ええモン見したるわ」
新渡戸がこっちを振り向き、笑みを浮かべながらカーテンを左右に開く。
その向こうにあったのは、別の調教部屋……じゃ、ない。それよりも遥かに、遥かに広い……見渡す限りの光の舞台。
南国の太陽のように眩しいスポットライトが、ピンクや黄色、オレンジと色を変えながらステージを照らす。その向こうには、暗い中に無数のサイリウムが鮮やかに揺れている。私のよく知る世界……ライブ会場の光景だ。
「嘘……!!」
思わず、そう呟く。まさか、ここがライブステージの裏だったなんて。
そして、気付いた事はもう一つ。
ステージで踊っている4人のアイドルにも、ひどく見覚えがある。
間違いない。見間違えるはずもない。あの、紅いチョーカーをつけた4人だけは。
「感動の再会、っちゅうわけやな」
私の表情を見た栖村が、ステージの方を向いて頬を緩める。
そう、私にはあの4人が見える。ということは、逆に向こうからもこっちが丸見えなんじゃ。
「い、いやーっ!!」
私は叫びながら、手で必死に裸を隠した。こんな姿を、仲間やファンに見られるわけにはいかない。
「安心せぇ、これもマジックミラーや。あれだけ煌々と照っとるステージから、こっちは見えん。ついでに防音対策も万全やから、ここで何しとってもステージの連中にはわからんわ。まあさすがに向こうでライブが始まると、こっちに聴こえてきよるがな」
新渡戸は笑いながら、私にそう語る。私は、その言葉にハッとした。
考えてみれば当然のことだ。『スカーレットチョーカー』の定期ライブは、ヤクザ達がセッティングした、商売のひとつのはず。そこでこんな光景を晒したら、ライブどころじゃなくなって大損害になる。そんなバカな真似は、さすがにしないだろう。
私が安心して息を吐いた直後、ステージに立つ一人がマイクを握った。あんりだ。
『今日は・・・のライブに・・くれて、・・り・・・ざい・・ーすッ!!!』
ところどころ途切れがちに、あんりの声が聴こえてくる。元ヤンだけあって、マイクを通したあんりの声は相当大きい。それが完全には聴こえない以上、防音対策が万全というのも本当らしい。
あんりはさらに客席へ向かって何かを叫んでから、右隣の早苗にマイクを渡す。その早苗も、同じく客席に向かって訴える。その次は良子、最後に乃音歌。
完全に聴き取れたわけじゃないけど、部分部分でも何を言ったのかは伝わってくる。
私、『四元結衣』がいなくて、皆が残念に思っているだろうこと。
私は、病気に苦しみながらも頑張っていること。
そんな私に、残ったメンバーとお客さんでエールを送る。それが、このウィークリーライブの目的であること……。
そしてその言葉は、お客さんに好意的に受け止められているようだった。
「……っ!!」
涙が出そうになる。みんなの気持ちが嬉しくて。そして、罪悪感で。
病気だなんて嘘をついて、こんなステージ裏で、私は一体何をしてるんだろう。そしてこのヤクザ達は、どういう気持ちでこんな嫌がらせをするんだろう。
私は、栖村と新渡戸を睨み上げた。その視線は、ちょうど私を観察していた2人のものとぶつかる。
「おーおー、またクソ生意気な目ェしとる。せっかくイカせたろうっちゅう時に」
栖村は、確かにそう言った。イカせる、と。
「……え?」
「だから、イカせたる言うとんねん。オノレもイキたがっとったやろうが」
巻き舌で繰り返されるその言葉は、喜んでいいもののはずだった。実際、つい数分前までは、心の底から望んでいた事なんだから。
とはいえ、この男がお情けで赦しを出すわけがない。きっと、何かある。
「どうせ条件付きなんでしょ? 言っとくけど、みっともない哀願なんてしないから」
先手を打ったつもりだった。でも、栖村の顔色は変わらない。
「それはもうええ。これは善意や、お前もあのライブに参加させたる」
栖村はそう言って、ベッド下に手を伸ばす。その手が拾い上げたのは……ハンド型のダイナミックマイクだ。
栖村の指がスイッチを切り替えると、マイク横のランプが緑色に光った。また切り替えると、ランプが消える。
オンオフ機能のついた、本物のマイク。嫌な予感がする。
「どこに、繋がってるマイクなの……?」
ゆっくりと、息を吐き出すように尋ねる。まさか、と思いながら。
「そら当然、あん中や」
栖村の指が指し示すのは、案の定ライブハウスの中だ。そうとわかった瞬間、私の中で何かが切れる。
「ふざけないでっ!!」
私は、声を限りに叫んだ。
ライブは、ファンとアイドルが繋がれる貴重な時間だ。皆、その僅かな時間を楽しみたくて、安くないお金を払ってくれてるんだ。それを茶化すような真似は、絶対に許せない。でも、私がいくら怒ったところで、ヤクザ2人の薄ら笑いは消えなかった。
「安心せぇ。コレは壊れかけのポンコツでな、口近づけて声張らんとよう拾わんのや。オノレがよっぽど恥知らずに喚かんかぎり、誰の耳にも届かんわ」
栖村は私の背後に向けて目配せする。すると、後ろから磯崎の腕が伸びてきて、何かを私の傍に置いた。ハンドラップという、上部分を押すと少しだけ水が出てくる道具だ。毛深い指がそれを1回叩き、流れるような動きでクリトリスを摘みあげる。
「んっ!!」
充血しきったクリトリスには、そんな刺激ですらつらい。でも痛みはなかった。磯崎の指先が、愛液よりもっと滑らかなもので濡れていたから。
( これって、オイル……!? )
嫌でも、そう気がついてしまう。リュネット時代のロケで体験した、オイルマッサージを思い出す。身体が蕩けるみたいに気持ちよかった。カメラが回ってるのはわかってたのに、何度も声が出た。あれを、こんな状態のクリトリスにやられたら……正直、我慢しきれる自信がない。
「まずは挨拶代わりや。一発イカせたれ」
栖村がそう言うと、磯崎は人差し指と中指でクリトリスを挟み込み、撫でるように刺激しはじめた。ソフトな刺激が、まったく同じ調子で繰り返される。オイルの滑りもあって、あっという間に快感が満ちていく。
あと4秒、あと3秒……
もう何百回、そういうカウントダウンをしただろう。これまではずっと、ギリギリで止められてきた。でも、今回は違うはず。
……あと2秒、あと、1秒……
いつもなら、嘘のように刺激が止まる瞬間。でも磯崎の指は、同じ調子でクリトリスを撫で続ける。
( い、イける……今度こそ……!! )
快感のコップが満ちきった。とうとう一線を超えた。後はこの太い指が導くままに、絶頂すればいいだけだ。私がそう思い、浸る体勢に入った瞬間。
また、指が止まる。
「っ!?」
心臓が凍りついた。
刺激は消えた……でも、絶頂へ向けてスピードの乗り切った体は止まらない。磯崎の指に挟まれたまま、クリトリスがピクピクと痙攣を繰り返す。アソコが喘ぐようにヒクついて、腰が小さく何度も浮く。絶頂を抑えきれない。
「くくっ、いよいよや!」
私の反応を見て、栖村が緑ランプが点いたマイクを突き出してくる。私は咄嗟に唇を閉じ合わせた。そして、その直後、ついにコップの水が表面張力を失う。待ちかねたとばかりに、縁から水があふれていく。次々に。
「っく、ううぅんんっ……!!」
口を閉じたおかげで、声は殺せた。でも絶頂の反応はそのまま漏れる。
Mの字に開いた足の内腿が、普通じゃないぐらい筋張り。足指全部が反り返り。あそこは一度収縮してから、ふーっと緩まっていく。我慢し損ねなのが嘘なくらい、はっきりとした絶頂。
「はっは、わかりやすいイキっぷりやのぉ!」
「おお。指は途中で止まっとんのに、オノレで勝手にイキくさりおった!」
新渡戸と栖村が、マイクを切って笑う。
「はぁっ、はぁっ……あ、当たり前でしょ、あんなに焦らされたんだから! アンタ達が逆の立場なら、我慢できてたの!?」
悔しくてそう言い返すけど、意味のない言葉だった。もし、なんてない。ヤクザ3人は追い込む側、私は追い込まれる側。この現実が全てなんだ。
「どうでもええわ。大事なんは、オノレがどんだけ辛抱できるかや。その磯崎は口下手な代わりに、こまい作業をやらせたら天下一品やからの。せいぜい悶え狂わんように、根性見せぇ」
栖村が得意げに語る中で、磯崎の指先がまたハンドラップを叩く。指先がオイルで濡れ光り、それがまた私のクリトリスに宛がわれる。
( もう、これ以上笑われるもんか……!!! )
私は口を閉じたまま、正面でにやける栖村達を睨みつけた。
心のどこかで、『無理だ』という声を聴きながら。
※ ※ ※
また、絶頂が来る。前の絶頂が収まってもいないのに、また。
「っくイグイグ……!! あ゛あっイグ………ま、またっ、あ゛、あ゛……!!」
水で満ちあふれたコップを、激しく揺らされているような感覚。中身は常に零れつづけ、液面が安定することは一瞬だってなかった。
「はははっ、また嬉しゅうて泣いとるわ!!」
新渡戸が私の顔を覗きこんで笑う。その言葉通り、いつからか涙が止まらなくなっていた。快感のせいか、苦しさのせいか、自分でもわからない。でも声だけは、必死に抑え続けている。
「おら、アッチも盛り上がっとるんや。オノレからもエエ声聴かせたれ!」
栖村がそう言って、またマイクを突き出した。ランプは緑。
「……ン゛っ、ふぅっ、ン゛んん゛ん゛っ!!」
私は急いで、下唇に前歯を食い込ませる。これが一番声を殺せるから。とはいえやりすぎたらしく、血の味が口に広がってしまう。
それにそのやり方でも、声を抑えるのはギリギリだった。
この数十分だけで、何十回の『クリイキ』を味わわされているだろう。磯崎の太い指は、時々ハンドラップからオイルを補給しつつ、まったく同じ調子でクリトリスを弄くり続ける。違う責め方で一息入れられる可能性は一切ない。これ以上なくシンプルで、これ以上なく厄介な嬲りだ。
また、絶頂の波が来る。問答無用で足を攫うような、強い波が。
「っく、ひぃ…っぐ………ふウウウう゛…ん゛ん゛っ!!!」
唇を噛んでも、声を殺しきれない。唇の端から漏れていく。無理をしているせいで目元がピクピクと蠢く。
かろうじて確保できた視界の中で、栖村がマイクのスイッチを切った。それを脳が認識した瞬間、私の中でもスイッチが切り替わる。
「……ぷはっ! ああ、あ…た、またっイッグぅううう゛ッッ!!!」
マイクに拾われない安心感で、生々しい声が漏れた。当然栖村達には笑われるけど、それどころじゃない。
「お、おねがい……ちょっと、やずませてっ!!」
唾液まみれの口を必死に動かしながら、後ろの磯崎に哀願する。でも磯崎は応じない。表情すら変えず、ロボットのように淡々と同じ動きを繰り返す。
「あ゛、あ゛っ……っくぁう゛んン゛っ!!」
また、絶頂。私は前屈みになって磯崎の腕を掴む。その無意識の動きを、栖村が目敏く見つけた。
「カハハッ! お前そら、まるっきり男に縋りついて甘えとる手ェやんけ。オウ良かったなぁ磯崎、お前このガキに懐かれとんぞ!!」
私の手を指差しながら、下品な笑い声で茶化される。
「ふうっ、ふうっ……そ、そんなわけ、ないでしょ!」
笑われたら最後、握っていた磯崎の腕から手を離すしかない。
甘えたわけじゃないけど、縋りつくというのはその通り。イキすぎて、下半身の感覚がフワフワと頼りない。その意味で磯崎の腕は、ちょうどいい支えだった。でもそれに掴まれないとなれば、シーツに手をつき、大股開きの足に力を込めて耐えることになる。
「くっ…はぁ、あ゛っ!」
支えのない状態だと、よけいに絶頂が深まった。ぐらつかないように腰を据える動きが、絶頂と相性が良すぎるんだ。
「だいぶ余裕がなくなってきたな。よし磯崎、そろそろアソコも弄ってやれ」
私の顔を見ながらそう言ったのは、新渡戸だ。
「うす」
磯崎は呟くように返事をすると、右手でクリトリスを摘んだまま、左手を割れ目の中に潜り込ませた。
「あっ!」
声が出る。クリトリスの刺激で蕩けきった割れ目は、軽く撫でられるだけでもかなり効いた。
そして、磯崎に容赦はない。ぎちゅっぎちゅっと音を立てながら、割れ目の中を刺激してくる。飛び出た第二関節で、充血したビラビラを擦られるのも、指先でGスポットを押し込まれるのも、ただただ気持ちよくて仕方ない。
「ふーーっ、ふーー……っっく、んぃ……ぃいい゛っ…………!!」
なんとか声を殺そうとしても、多少は漏れてしまう。
「どうせミジメなんは変わらんのや。イク時ゃ、素直にイク言うた方が楽やぞ?」
栖村が笑いながら、またマイクのスイッチを入れた。その顔を睨むと、自然に禿頭の向こうのステージへ眼を向けることになる。
( 皆……!! )
仲間の姿を見ながら、飽和した快感に呑まれるのは地獄だ。絶頂を堪えるのは無理でも、声だけは我慢しないと。ライブに参加できないだけでも申し訳ないのに、それ以上の迷惑なんて掛けられない。
「ふんん…んっ、くんんん゛ん゛ん゛…………っ!!!」
口元のマイクに緑ランプが点っている間は、必死に声を殺す。そしてマイクが切られたのを確認してから、溜め込んだ息を吐きだす。その繰り返し。
「ぁああ……あ、ああっ! はぁ…んあぁああああ゛っ!!!」
クリトリスとGスポットの2ヶ所責めになると、どうしても『あ』の声が漏れた。腋と同じく、膣の浅い部分にも顎を開くボタンがあるのかと思うぐらいに。
「おーおー、ヨダレ垂らしおって。情けないのぉ」
その栖村のバカにしきった声で、ようやく自分の状況がわかった。確かに、口の端に生ぬるいものが流れている。アイドルが晒していい顔じゃない。恥ずかしいし、悔しい。でも、そんな事に構う余裕がないのも事実だった。
アソコの快感で、下半身が感電したように痙攣を続けている。元々ライブの音圧がビリビリ来てはいるけど、もう部屋そのものが揺れているのか、それとも私の身体が震えているのか判らない。
そんな私を、磯崎達はさらに追い詰める。
最初の異変は、3人の目配せだった。正面の栖村と、その左の新渡戸、そして私の背後にいる磯崎が、それぞれ視線を交わしあう。すると磯崎がクリトリスを離し、割れ目からも指を抜いた。そしてそのオイルと愛液に塗れた手で、いきなり私の乳房の根元を握り潰す。ちょうど、先端部分を搾り出すように。
「くひっ!?」
痛かった。でもそれと同じぐらい、痺れるような快感があった。何度も焦らされ、イカされ続けて、乳首回りはすっかり敏感になっている。そこを搾り出されるんだから、感じないわけがない。でも、本番はそこからだ。
「たっぷり可愛がったる。せいぜい悶え狂えや!」
栖村とも新渡戸ともつかない声がそう言った、直後。2人の手が左右の乳首に伸び、思いっきり捻り上げた。
「んああああ゛っ!!」
たまらない。背中にまで抜けるような痺れが、両の乳首から迸る。シーツについた両手がガクガクと震える。イってるんだ、胸だけで。ショートしかけた頭が、かろうじてそう認識していた。
そしてそこから、本格的な嬲りが始まる。
両乳房を揉みしだきつつ、他の2人が先端を捻り潰す動きに合わせて乳房の根元を搾り出す磯村。
左手親指でクリトリスを転がしながら、割れ目に指を入れ、右手で乳首を捻り上げる新渡戸。
同じく乳首を弄びながら、気まぐれに割れ目に指を捻じ込んだり、マイクのスイッチを入れる栖村。
マイクの恐怖に怯えながら、乳首、クリトリス、膣内を同時に責められると、気が狂いそうになる。
「はふうっ……んう゛っ、んうう゛っ! ぃぐ……いぐううあ゛っ…………!!」
乳首が乱暴に捻り上げられるたび、割れ目がぐちゃぐちゃと水音を立ててかき回されるたび、私は呻きながら絶頂を訴えた。
息が苦しい。ほとんどまともに空気が吸えていない。頭がボーッとする。
「ああ、はあぁあ゛あ゛……っ!!」
また絶頂の波が来た。今度は、頭から飲み込まれるような高波だ。しかもその瞬間を狙って、栖村がマイクのスイッチを入れる。
「……んん……ーッ!」
咄嗟に、血の味のする下唇に歯を立てた。それでもまだ声が漏れるから、奥歯を噛みしめつつ顎を引いて、強引に殺しきる。
顎を引くのは有効だった。鎖骨に顎を埋めれば、かなり声を抑えられる。でも、栖村達がそんな逃げ道を許すはずもない。
「おい、ヘバんな!」
栖村が私の髪を掴んで前を向かせる。そして私の顔を見るなり、眼を細めた。
「くくっ。なーるほど、こら必死に隠すわけや。えらいツラになっとるわ」
その言葉が胸に刺さる。自覚はあった。脂汗に涙、涎、鼻水。ありとあらゆる汁に塗れ、呼吸困難で喘ぐ人間の顔が、まともな訳がない。
ステージに立つ4人とは大違いだ。皆、汗こそ掻いているものの、堂々とした良い顔をしていた。それと自分を比べると、泣きたい気持ちになる。そして弱さに流れたら最後、ますます気持ちよさに抗えなくなってしまう。
「っはう、うんっ……んんっ、んはぁ……あああ…………!!」
6本の手で性感帯を刺激され、あさましく声を上げている最中。ちょうどステージ上で曲のパート変更があり、センターの良子がバックに下がった。その時たまたま、こっちに歩いてくる良子と視線がぶつかったんだ。
もちろん、向こうからこっちは見えない。良子が私を見ていたはずはない。でも、良子の晴れ晴れした顔を見た瞬間、私の中で何かが堰を切った。
「ああ、あああっ……い、イ゛ッグウウウぅうううっ!!!」
それまで辛うじて堪えていた『汚い叫び声』が喉からあふれ、割れ目の奥が病的にヒクつく。尿意のようなものが沸き起こり、それがあるラインを超えた瞬間、私の割れ目から勢いよく何かが噴き出した。それはベッドを飛び越えて、ステージと部屋を区切るガラスにまで浴びせかかる。
「おおっ、とうとう潮噴きおった!」
新渡戸の言葉によれば、私がしたのは『潮を噴く』という行為らしい。
「また盛大にぶち撒けよって。クリに逝きグセついただけやのうて、Gスポまで極まったんか? こらこのガキ、一気に感じやすうなりますわ!」
栖村も嬉しそうにマイクを握り直す。
「んう゛っ、 ふうう゛っ! あああ、いぐっ、いぐうぅう゛っ!!」
それから私は、何度も『潮を噴かされ』た。乳首を捻り潰されつつ割れ目を掻き回されれば、あっという間に尿意のようなものが限界を超えてしまう。特に、3人の手指が競うように割れ目へ入り込み、別々の方向を刺激してきた時には、かなりの声が出た。
鼻が詰まって息苦しさがひどい。マイクの緑ランプが点いている間は、声を殺すために鼻呼吸をするしかないけど、そのせいである時私は、大きな鼻提灯を作ってしまった。当然大笑いを受けて、死にたいほど恥ずかしかった。その羞恥が、余計に私から余裕を奪う。
ようやく3人の指が割れ目から抜かれた頃、私は、後ろにいる磯崎の太い首に手を回していた。これも多分、甘えているようだと野次られたに決まってる。でも、それを聴く余裕すらなかった。何度も潮を噴き、涎を垂らし、乳首だけで肩まで震わせて絶頂する――そんな、溺れるも同然の状態だったんだから。
「はぁっ、はあーっ、はぁーっ…………」
汗まみれで荒い息を吐く私を、ヤクザ達が見下ろしている。涙でぼやけきった目では、その表情は読み取れない。でも雰囲気からして、私を休ませてはくれないようだ。
「おら、シャンとせぇ! まだまだこれからやぞ?」
栖村はがなり立てながら、黒いガムテープのようなものを拾い上げた。
※ ※ ※
栖村の手にした物は、『ボンデージテープ』というらしい。テープ同士は静電気で張りつくけど、肌やシーツにはくっつかない。栖村と磯崎は、そのテープでまず私の腕を後ろ手に拘束する。その上で、ベッドへ鼠色のビニールシートを被せた。まるで濡れることを想定しているように。
「よし、これでええ」
栖村に肩を押し込まれ、ベッドの縁に座らされる。
テープの拘束は、静電気にしてはかなり頑丈で、両肘を抱えるような格好のまま腕が動かせない。そんな状態で大股を開かされ、ステージへ丸裸を晒していると、頭がおかしくなりそうになる。
「何する気!?」
「何って、決まっとるやろ。まだまだイキ足りんっちゅう顔しとるからな。大好きなコイツで、死ぬほどイカせまくったるわ!!」
栖村はそう言って、ベッドに放置されていたマッサージ器を拾い上げた。そして私の方を向いたまま、ベッドの縁に片足を乗せ、マッサージ器のスイッチを入れる。散々聴き慣れた重苦しい羽音が、鼓膜と内臓を揺さぶってくる。散々焦らされた上での絶頂を知った今、その快感に抗える気がしない。
「くっ……!」
私は栖村の余裕の笑みを睨みつけながら、歯を噛みしめて顎を引く。ミジメな姿だけは晒したくないから。
その直後、マッサージ器がクリトリスに触れた。
「んっ……!」
口を閉じ合わせて、何とか声を殺す。
ここ数日、何度このマッサージ器で昂ぶらされ、何度寸止めの地獄を味わっただろう。やっぱり機械の振動は、指よりずっと絶頂に近づくのが早い。
「ふんんん……んんっ…ぁ!」
引いていた顎が、どうしても持ち上がり、喘ぐ形に開いていく。クリトリスとあそこの入口も、同じく喘ぐようにピクピクと反応する。
「ふっ、く……あ、んんん゛っ、あうっ、ふうぅんン゛ン゛っ!!!」
快感が高まるにつれて、声が抑えられなくなっていく。ピクピクと震える反応が、あそこだけじゃなく、太腿や下腹にまで広がっていく。下半身すべてに、痺れるような感覚が根を張る。
今朝までなら、この感覚が生まれてすぐに、マッサージ器が離された。そのたびに、せっかく根を張った快感が半端に放置され、腐り落ちた。でも今は、マッサージ器が宛がわれ続けている。快感の根が太く、指先の方にまで伸びていく。身体の重心が保てなくなって、上半身がゆらゆらと揺れはじめる。
「おら、倒れんなや」
栖村がニヤけながら、私のうなじを鷲掴みにしつつ、押し当てたマッサージ器を軽く上下に揺らしはじめる。
それが、駄目押しになった。
「……んんんん゛ーーーっっ!!!!」
私は歯を食いしばったまま、絶頂に飲み込まれる。さっきまで指で何度もイカされていたけど、それとはまた重さの違う絶頂。後ろで縛られた腕を背中につけたまま、何度も背を反らす。その度に割れ目の辺りから、じぃん、じぃん、というなんともいえない快感が這い登ってくる。まるでコーラのように、いけないとわかっていても貪ってしまうタイプの快感。
そんな私の絶頂は、傍から見ても丸わかりだったんだろう。
「くくっ、イキおったな。体中震わせおって、ホンマに中毒かい」
栖村が嘲笑いながら、一旦マッサージ器をクリトリスから離す。ようやくの解放。でも頭のどこかが、あの甘さに未練を残している。中毒、という栖村の指摘を裏付けるように。
「はぁ、はぁっ……バカじゃないの? なにが、中毒よ………こ、こんな事されて、イカないわけないでしょ!?」
私がおかしいわけじゃない。同じ目に遭ったら、誰だってこうなるに決まってる。
「ほぉ、まだ余裕がありそうやな。ほな、もうちっと遊ばせて貰おか」
すぐ傍で私の絶頂を見ていた新渡戸が、磯崎に目配せする。
磯崎は何かを握っていた。マウスオープナー……歯のホワイトニングを受ける時に使う道具だ。その名前通り、口に嵌められれば歯を閉じ合わせることができなくなる。
「ま、まさか……!」
表情を引き攣らせる私に、無表情の磯崎が近づき、毛深い指でマウスオープナーを口に宛がってくる。
「や、やぁっ……あごっ!!」
抵抗しようにも、腕は使えない。口を閉じようとしても、頬を掴んで強引に開かされ、強引に口を開かされる。
「くくくっ、エエ面や。普段澄ました顔ばっかしとる分、余計になぁ!」
栖村が笑いながら、マッサージ器をクリトリスに押し当てはじめた。
「えあっ!!」
今度は声が漏れた。口を閉じられないと、声を殺しきれない。
( もし、またマイクのスイッチを入れられたら…… )
そんな私の不安をよそに、マッサージ器の振動は淡々と私を絶頂へと押し上げていく。
「ああ、あぁっ……ぁ、ああ、はぁああ……!!」
快感の根が脈打つ。イッたばかりだから、異常に敏感になっている。私は無意識に足を閉じ、快感に耐える形を作っていた。すると、磯崎の腕が太腿を掴む。
「あっ!?」
力を込めて抵抗しても、あっという間に足を開かされてしまう。さらに磯崎の指は、太腿からスライドし、小陰唇の上側を押しひらいた。クリトリスを露出させるために。この効果は覿面だった。ただでさえきついマッサージ器の振動を、より強く感じてしまう。絶頂までの道のりが、一段飛ばしになる。
「ああぁ、あぁ、ああっああっあっ……ハァッ…ハァッ、あっ、ハァァッ!!」
喘ぎ声が早くなり、息も切れてきた。太腿と下腹がピクピクと痙攣をはじめた。二度目の絶頂はすぐそこだ。そしてそれは、一回目の繰り返しじゃない。一度イって敏感になった状態でまたイくのは、気持ちがよすぎて怖い。
「あ、ああ、あっ! いあっ、やええーーーっ!!」
私は恐怖のあまり叫びながら、前屈みに上体を倒す。本能がこれ以上は危険だと訴えていたから。でも、ヤクザ3人に情けはない。
「コラ、身体起こさんかい!!」
栖村は肩を掴んで、私に背筋を伸ばさせる。
「もうイクんが怖なったか、勘のええガキやな」
新渡戸がほくそ笑む中で、磯崎がさらに足を開かせてくる。
そんな状態でマッサージ器を宛がわれ続けると、もうもたない。
「あ、あ、あ゛……あぁ゛っ、らえ゛え゛っ!!」
体中をピクピク震わせながら、何度か喘ぎ……そしてある瞬間、絶頂のラインをするりと飛び越えた。
「え、えぐっ!! えぐうう゛う゛ぅぅ゛ーーーっ!!!」
閉じない口から呻き声を上げ、足指をピンと伸ばして絶頂する。溜めに溜めた尿を漏らすような、異様な開放感が背筋を駆け抜けていく。
体力をだいぶ持っていかれる絶頂。でも、マッサージ器は止まらない。2度の絶頂で痙攣しつづけている割れ目を、容赦なく刺激しつづける。
「らえっ、らえ゛っ!とえてぇーーっ!!」
必死に責めの中断を訴えても、聞く人間はいない。むしろ手で太腿をこじ開け、割れ目を指で盛り上げるようにして、よりピンポイントに快感を与えてくる。
そこからが、地獄の始まりだった。
2度の絶頂で敏感になったあそこを嬲られれば、すぐに3度目の絶頂が襲ってくる。そのせいでさらに敏感になって、4度、5度と立て続けにイかされてしまう。
「はぁっ、はぁっ、ああ゛……らめ、らめらめ゛っ…………!!」
私は、開いた口から涎を垂らしながら、首を振りたくって否定の意思を示した。あまりにもつらいから、足をバタつかせ、左脚に右脚を絡ませるようにして責めの邪魔をしたりもする。そのたび男の力で強引に足を解かれ、また私が絡ませ、が延々と繰り返された。
「暴れんなっちゅうとるやろが、このガキ!」
そのうち栖村が痺れを切らしたように叫び、私の両脚の間に自分の足を割り込ませてきた。そのまま関取のような太い足で右脚を押さえ込まれれば、もう足を絡ませての抵抗はできない。それが、最後の抵抗だったのに。
「はっ、はっはっはっ……あああ゛あーっ、ああ゛ーーーっ!!」
激しく喘ぎながら、為すすべもなく絶頂する。あまりの苦しさに、涙が頬を伝っていく。その涙はたぶん、調教師3人が待ち望んでいたものだ。
「だいぶ参ってきとるな」
新渡戸が笑みを浮かべながら、マイクを拾い上げる。そして見せ付けるようにスイッチを切り替え、私の口元に近づけてくる。
「!!」
全身が強張った。ライブは佳境に入ったところだ。声を出しちゃいけない。皆のステージを邪魔しちゃいけない。それはわかってる。でも、そう考えれば考えるほど、割れ目で唸りを上げるマッサージ器を強く意識してしまう。
「……ぁ、ぁ……っ!! か、はっ、はぁぁあ…………っ!!!!!」
私は、喉を開けるだけ開いた。なるべく声が漏れないように。でも、いつまでも堪えられるものじゃない。そうしている間にも、何度も何度も絶頂の波が襲ってくる。
「ぅ、ぅう……っ!ぅぅぅーーー~………ッッ!!!」
足指の先までが震え、全身が痙攣し続けた。
「くくっ」
永遠にも思える時間の後、新渡戸の含み笑いが聴こえ、ようやくマイクの緑ランプが消える。その瞬間、私の中で枷が外れた。
「くはっ、はっはっはっ、ああ、あああ゛あ゛っ!! えぐえぐえぐっ、えぇぐううう゛うう゛っっ!!!」
涎を散らしながら、絶頂を訴える。
「はははははっ! またえっらいツラになっとんぞお前?」
栖村は大声で笑いながら、あくまでマッサージ器を離さない。無理矢理開かされた両足が、普通じゃないほど固くなっている。腹筋が攣りそうになる。割れ目の中で、どろっ、どろっ、と愛液が吐き出されていくのがわかる。
その絶頂地獄が何分も続いたある瞬間、とうとう決定的な開放感が脳に伝わってきた。今度のこれは、愛液じゃない。
「いあ、いああ゛ーーっ!! とえて、おぇがいとえてええぇぇっっ!!!」
不自由な口で、必死に叫ぶ。でも栖村も新渡戸も、笑みを深めるだけだ。
その果てに、開放感が押しとどめられなくなる。太腿が震え、割れ目がヒクついて……とうとう、水音がしはじめた。生温かいものが、お尻に垂れていく。さらにそこから、足を伝って床にも。
「くははっ! このアマ、とうとうションベン漏らしおった!」
「おーおー、ビッショビショや。仲間が必死にライブやっとる裏で呑気にお漏らしとは、ええ御身分やのぉ!!」
詰りの言葉が投げかけられる中で、私は呆然としていた。
( …………漏らした…………? 私が…………? )
絶頂と同時の失禁。それは、私の頭を凍りつかせるのに充分な効果があった。私の目指した『アイドル』は、用を足すところを誰かに見せることなんてしない。ましてや、あさましくイキながら尿を撒き散らすなんて、絶対に有り得ない。
「こいつ、ショックでボケーッとしとる」
栖村の声がした。その声で意識を取り戻すと、ちょうど目の前にマイクが突きつけられるところだった。ランプは、緑。
額から汗が噴きだす。まだ、耐える体勢を作れてない。声を抑えきれない。
「あぁ、あ…………がらっ、あガぁ、ああえら゛ぁ゛っ……!!!」
なんとか喉を狭めるけど、結局は口の中に溜まった唾液のせいで、うがいのような音が出てしまう。
「くははっ、お前笑わせんなや!!」
すぐに新渡戸がマイクを切り、ひいひいと腹を抱えて笑う。人の気も知らないで。
「あがっ……!!!」
私が涙ながらに睨みつけると、栖村は口笛を吹いた。
「ほー、まだ睨めるんか。ホンマ、ええ根性しとるわオノレは!」
栖村は唸るようにそう言い、一旦マッサージ器を割れ目から離す。そして私の膝裏を掴むと、身体ごとひっくり返すように持ち上げた。ちょうど、濡れきった割れ目が天井を向くように。
「どや、恥ずかしいやろ。『マングリ返し』っちゅうんや。メス奴隷の定番の格好やさかい、ようアタマに叩きこんどけ」
私の顔を覗き込みながら栖村が言い、改めてマッサージ器を割れ目に宛がう。
「あうう゛う゛っ!!」
呻きが漏れた。足で腹部を圧迫するこの格好は、尿意が刺激されてしまう。
「いあ゛っ、いあああ゛っっ!!!」
首を振りながら嫌がるのも虚しく、また失禁が始まった。今度は生温かいものが、お尻の方じゃなく、太腿を横切るようにして流れていく。
「こいつ、また漏らしとる。しかもまだ黄色いで? どんだけ濃いションベンや」
栖村の言葉が胸に刺さる。でも、それすら気に留めておけないほど、絶頂の波が立て続けに襲ってくる。
「あああ゛ああ゛っ、いぐぅぅう゛いぐっいぐっ!! ひイグぅう゛うう゛゛ーーーっ!!! しぬっ、じぬうう゛っ!! グのやずまえて、イグのどまんないっ!! おえがいぃっ、やずまぜでええぇーーーっっ!!」
私は、開口具を軋むほど噛みしめながら、情けない声を上げつづけた。絶頂すれば絶頂するほど、息は苦しくなるし、割れ目は蕩けていく。イっている最中にまたイくような状況で、平然としていられるわけがない。
当然、その余裕のなさは、調教師3人の笑いの種になった。何度も何度もふざけ交じりにマイクが突きつけられ、そのたびに必死で声を殺す私の様子を嘲笑う。
ある時には、本当に声を抑えるのが限界で力みすぎ、おならのようなものが出たから、それはもう大声で笑われた。鬼の首を取ったように指を差され、罵詈雑言を浴びせられる。でも、その内容はあまり頭に入ってこなかった。私自身が一番その事実にショックを受けていて、ボロボロと泣いてしまっていたから。
「はぁっ、はぁ……も、もう、いい加減、休ませて……このままじゃ、本当におかしくなる…………。」
マウスオープナーを外されたのは、どれぐらい経った頃だろう。私は全身あらゆる体液に塗れながら、息も絶え絶えにそう懇願した。屈辱的ではあったけど、自分が自分でなくなりそうで、本当に怖かったから。
そんな私を見て、新渡戸が溜め息をついた。そして一旦ベッドを降り、部屋の奥へと歩いていく。
「ライブは、終わったようやな」
新渡戸のその言葉でステージの方を見ると、ステージ側のマジックミラーはただの鏡に戻っていた。ステージのライトが消えて、この部屋の方が明るくなったんだ。
私は、ほっと胸を撫で下ろす。ライブの終わった今、マイクに怯える必要もない。でも、そんな私の幸せな気分は、すぐに消え去る。
「なに安心しとるんや、このボケ」
栖村は、吐き捨てるようにそう言った。
「……え?」
私は、ひどく間の抜けた声を漏らしたと思う。ライブ終わりという区切りで、一休みできる気になっていたから。
我ながら甘すぎた。いくら苦しくても、気を緩めるべきじゃなかった。栖村達は調教師。私を追い込んで、追い込んで、自我を壊すのが目的なんだ。
「まだまだ、休ませへんぞ。こっからはワシら3人で、足がガクガクんなるまで可愛がったるわ!」
栖村は、皮のたるんだ顔を吊り上げて笑う。
どこまでも醜いその顔は、とても人間のものには思えなかった。