大樹のほとり

自作小説を掲載しているブログです。

2020年12月

二度と出られぬ部屋 最終章 オーバードーズ Part.3(後半)

Part.3(前半)の続きです。



 颯汰の責めは、これまでに見たどんな男よりも余裕が感じられた。仰向けになった沙綾香に対し、まずは乳房と太腿から、じっくりと揉みほぐしていく。肉欲を感じさせない淡々とした愛撫は、百合のそれを思わせた。
『綺麗なピンク。感動しちゃうよ』
 颯汰が乳首の色を褒めても、沙綾香は反応しない。顔を横向け、あくまで壁だけを見つめている。心情的には、颯汰を時間一杯黙殺し、鼻っ柱を折りたいところだろう。だが、乳首を舐められはじめた辺りで反応を殺しきれなくなる。
『…………っ、………………っ!!』
 声こそ出ないが、鼻から息が漏れていく。舌先が乳首を撫でるたびに、肩が跳ね、腕が動く。
『じっとして』
 颯汰は沙綾香の腕を掴んで身じろぎを封じ、さらに入念な乳首責めを続ける。強く吸い、舌先で弾き、また強く吸い、全体を舐めまわし。
『んふっ、ふ……んっ…………!!』
 沙綾香がとうとう声を漏らした。肩から先の動きがなくなった代わりに、腹筋が上下し、太腿が浮きはじめる。周りで見守る女たちがクスクス笑う。
 さらに時が経ち、沙綾香の太腿が艶めかしくのたうつようにまでなったところで、ようやく颯汰が身を引く。
『っ!!』
 狙いが下半身に移ったと悟ったんだろう。沙綾香は横を向いたまま膝を立て、足を閉じ合わせる。
『脚開いてよ。なに、ビビッてんの?』
 颯汰はすかさず挑発してみせた。そんな物言いをされれば、沙綾香も渋々ながら足を開くしかない。
『……ははは、なるほど。これは隠したくもなるよな。黒人のチンポで掻き回されて、もうグチャグチャじゃん。ま、こういうのも興奮するけどさ』
 羞恥心を煽りつつ、颯汰が舌を近づけていく。ここでも奴は、いきなり割れ目にはいかない。まずは内腿にキスをし、クリトリスの付近、会陰部へと順に舌を這わせ、ようやく陰唇に口をつける。
 ちゅく、ちゅく、という音と、何かを啜り上げる音が代わる代わる繰り返される。派手さはなく、ひたすら相手を感じさせることに特化したクンニリングス、という風だ。
『んっ……んんっ、んんんっ……ん、んっ…………!!』
 沙綾香が呻き声を漏らす。太腿を忙しなく動かし、腰を上下させながら。確実に気持ちいい時の動きだ。
『すっげ。どんどん溢れてくんじゃん』
 ある程度責めたところで、颯汰は陰唇に指をかけ、左右に割り開く。綺麗なピンク色の粘膜は、かなり濡れ光っているようだ。両の親指で何度も陰唇を開き、沙綾香に恥を掻かせてから、颯汰は改めて舌を這わせる。今度の狙いはクリトリスだ。
『っ!!』
 横を向いた沙綾香が顎を引く。開かされた脚がぐらぐらと揺れ、腹筋がへこむ。相当感じているようだ。
 颯汰は一旦顔を離し、沙綾香の全身を見回して口元を緩ませた。そして割れ目に指を近づけ、ゆっくりと中指を沈めていく。
『君の弱いとこはどこだ? ここか? それともここ?』
 そう言いながら、ゆっくりと指を前後させ、指の腹で臍側の膣壁をなぞっていく。そして、指がある場所に触れた瞬間。沙綾香の腰が露骨に跳ねた。
『ひぅっ!!』
 ついでに声も出る。どうやっても聞き逃しようのない、明瞭な叫び声が。
『あ、ここだぁ?』
 俯瞰視点のカメラでは、颯汰の表情は直接映らない。それでも俺には、奴の悪魔じみた笑みがありありと想像できた。
 女のように白い指の先が、見つけ出した弱点部分で円を描く。
『んっ……ん、ふく……っん…………!!』
 沙綾香の目が閉じられ、顎がさらに引かれる。
『はは、わかりやすい反応。毎日黒人のデカいのでやられてる割に、結構浅いトコで感じるんだな。これなら、オレのチンコでも満足させられっかも』
 颯汰は閉じつつあった脚を改めて開かせ、指責めを本格化させた。人差し指と薬指を尻肉に宛がって手を固定し、中指一本でグッグッグッと力強くスポットを押し上げる。俺もやったからわかる。あれは、効く。
『ん゛っ、ん……っふ、ひう゛っ……!! っんん゛ッ、うん゛んん~…………っっ!!!』
 沙綾香は、必死に耐えていた。両手で枕を掴み、盛り上がった肩の肉に顎を埋めながら必死に口を閉じ。そうして声は最小限に抑えるものの、下半身の動きがどうにもならない。腹筋でもするように内向きに力む動きは、軽く絶頂し続けていると言われてもおかしくない。
『そろそろ寝てんのもツラいでしょ。ほら、起きて起きて』
 颯汰が一旦指を引き抜き、沙綾香を引き起こす。そしてへたり込んだ沙綾香の肩を抱きながら、割れ目へと二本指を潜り込ませる。すでに愛液が相当溢れていたんだろう。指が動き出せば、数秒と経たずに水音がしはじめる。
『凄い、グチョグチョ。ね、この音聴こえるよね? 気持ちいい時の音だよね』
 沙綾香に囁きかける颯汰の声は、恐ろしく甘い。あの声色とテクニックで、何人もの初心な娘を骨抜きにしてきたんだろう。
『はぁ? イミわかんないし……。キモいから、やめてよ……』
 沙綾香は颯汰を睨みながら答える。だがその息は乱れきっているし、腹筋と太腿の反応も押さえ込めていない。颯汰はその無理を承知の上で、じっくりと指責めを続けていた。4時間というリミットがあるにもかかわらず、焦る様子はない。
  ──やる事さえやれば、女は簡単に堕ちる。
 そういう自信が透けて見えるようで、無性に腹立たしい。
 だが、奴のテクニックは実際大したものだ。
『あっ、あっあ……!! はぁっ、はっ……あ! ひはんっ、ふあぁああ゛……っっ!!』
 指責めが始まってからわずか3分ほどで、沙綾香の口が開く。呼吸をするための開口じゃない。不意に背筋を撫でられ、ゾワッとしながら叫ぶ時のそれだ。颯汰の二本指が蠢くたびに、その反応が秒単位で繰り返される。彼女が指責めでそこまでになったのを見るのは、初めてかもしれない。
 颯汰はそんな沙綾香に何かを囁き、たっぷりと辱めてから指を引き抜く。ようやく空気に触れた指先からは、透明な雫が無数に垂れていく。
『よーし。ほぐしも終わったし、次ね。チンコで奥叩いてくから、また横になってよ』
 颯汰にそう命じられ、沙綾香の顔が解りやすいほど強張った。自分がどれだけ蕩けているのかを、十分に自覚してるんだろう。
『ほら、どうしたの。祐希にやってるルーティン、君にもやっていいんでしょ?』
 颯汰は沙綾香の呑んだ条件を改めて示し、逃げ場を失くす。おそろしく柔和な笑みを湛えながら。


                 ※


 颯汰がトランクスを脱ぎ捨て、裸体を晒す。生まれてから一度も日に当たったことがないような、白い肌。細く引き締まった肉体。女から黄色い声援を受けるだけあって、綺麗な体をしている。沙綾香も、その裸体をじっと見つめていた。
『なに、見惚れてる?』
 颯汰が問うと、沙綾香は露骨に眉根を寄せる。
『態度でわかんないかな。あたし、アンタ嫌いなんだけど』
『ははは、そか。ま、親友を“女にした”相手だもんな。いいよ、嫌ってても。その方が面白いし』
 沙綾香から露骨な敵意を向けられても、颯汰は余裕の態度を崩さない。すぐ横の棚からコンドームの袋を拾い上げ、慣れた手つきで逸物に装着していく。
 線の細い肉体とは裏腹に、逸物はグロテスクだ。カリ首の張った亀頭は浅黒く、血管の浮き立つ幹の部分は血のように赤い。驚くほどのサイズじゃないが、膣奥を突くに十分な大きさがある。
『どう、結構デカいでしょ? って、黒人の見慣れてるんだっけ』
 颯汰はおどけながら沙綾香の脚を開かせると、逸物を割れ目に宛がい、ゆっくりと腰を沈めていく。メリメリという音がしそうな黒人の挿入と違い、颯汰のゴム付きの逸物は、嘘のようにあっさりと奥まで入り込む。
『…………』
 挿入を受けても、沙綾香は声を上げない。顔を顰めもしない。ギャラリーのいる入口とは逆側に頭を倒したまま、ただただ無反応を通している。
『へぇ。ユルいかなーと思ってたけど、結構締まんじゃん』
 颯汰が囁く言葉は眉唾ものだ。女と見れば、誰に対しても甘い言葉を吐いているような気がする。だが、奴のテクニックは本物だ。
 動きを見ればわかる。奥まで挿入してすぐに、腰をグリグリと押し付けて強めの刺激を与える。その後は膝を柔軟に使い、リズミカルかつ力強く膣奥を刺激していく。俺も沙綾香を膣奥で感じさせるために、ああいう動きをした覚えがうっすらとある。
『どう? こんな風にトントンって奥を叩かれると、ちょっとずつ快感が溜まってくでしょ』
 パチパチと音を鳴らして腰をぶつけながら、颯汰が囁いた。
『ごめん、全っ然わかんない』
 沙綾香はあくまで横を向いたまま、興味なさそうに吐き捨てる。途端にギャラリーの女達が、ユルマンだのビッチだのと騒ぎ出す。
『そっか』
 颯汰は肩を竦めてみせるが、その余裕のある表情は、相手を感じさせている確信があるようにしか見えない。
 そして奴は、また深く挿入し、グリグリと腰を押し付ける。その瞬間、沙綾香の足が微かに跳ねた。
『っ……!』
 ごくごく小さい声が、沙綾香の口元から漏れてもいる。
 どちらか一方だけなら、気のせいで済むような小さな反応。だが、足と口が同時に反応するのはまずい。俺はもう何度も、女がその動きで絶頂するところを見てきたんだから。

 颯汰は、つくづく女を抱き慣れていた。沙綾香の反応が薄くても、焦って荒々しく責めたりはしない。
『だいぶ反応いいな。君もう結構ポルチオ開発されてるよね。それって、どんな奴? オレよりセックス上手い?』
『はぁっ、はぁっ……あ、当たり前じゃん……』
『へぇ、やる気出てきた。オレ、抱いた女に前の男ンこと忘れさせんの趣味なんだよね』
 そんな下卑た会話を強いながら、リズミカルに奥を叩く。

『…………ねえ』
 ある時、とうとう沙綾香が自分から口を開いた。
『おっ、なに? 気持ちくなっちゃった?』
『じゃなくて。長くない? それ……』
『何が?』
 颯汰は惚けた表情で説明を求める。腹立たしい限りだ。沙綾香の息遣いを真横で聞き、筋肉の動きを肌で感じているアイツが、相手の意図を読めないはずがない。
『…………何でもない』
 小馬鹿にした態度を前に、沙綾香は言葉を引っ込める。
『そ。じゃあ続けるよ』
 颯汰は会話をさらりと流した。が、沙綾香が音を上げようとした事実は見逃さない。前と同じ責めを繰り返しつつ、さりげなく沙綾香の足首を肩に担ぎ上げる。まずは左足、次に右足。結果、沙綾香は足をやや閉じる格好となり、膣に出し入れされる際の刺激も増す。その影響だろうか。彼女には、少しずつ変化が表れはじめた。
『はっ、ふ……んっ、はっ、ふーッ……は、はぁっ……』
 呼吸は、抑え気味ではあるが荒い。担ぎ上げられた脚に動きはないが、代わりに手がシーツをなぞるように動く。そして、音。ほんの僅かではあるが、結合部からクチュクチュという音がしはじめている。
 颯汰は、その変化をすべて把握しているに違いない。だが指摘はしないまま、あくまで淡々と責め続ける。見ているだけでも疲れてくるほど、地味で、丁寧で、徹底した刺激。そんな中、彷徨いに彷徨った沙綾香の手が、ついに颯汰の腕を掴んだ。
『……ねえっ!』
『なに』
『だからっ、長くない、それ!?』
『だから何が。子宮トントンしてほぐしてるだけじゃん。ただのマッサージみたいなもんなのに、これに文句言われてもさあ』
 颯汰は呆れた様子で溜息をつく。どう見てもしつこい責めだというのに、あくまで沙綾香が駄々をこねている流れにしたいらしい。
『なにあのコ。せっかく颯汰さまに可愛がられてんのに、文句多すぎ!』
『つか、カッコつけんなら最後までやれって感じ!』
『ほんとそれ。ちょっときつくなったらすぐ泣き言とか、ダッサ!!』
 厄介なのは、ギャラリーの女もいちいち颯汰に同調することだ。
『…………ッ!』
 圧倒的多数に非難され、沙綾香が眉を顰める。そろそろ野次を聞き流す余裕もなくなってきたらしい。
『ははは、ひでー言われよう。じゃいいよ。ちょっと早いけど、次いこっか』
 颯汰は仕方がないとばかりに肩を竦め、また体位を変える。肩に担ぎ上げた両脚のうち、左脚だけを放し、開いた股の間に腰を沈める。
『んっ、く……!!』
『さっきは縦だったけど、こうやって横から突かれるのもいいでしょ。違うところにカリが擦れてさ。この体位なら、こうやって掻き出してやるカンジで……』
 眉を顰める沙綾香に対し、颯汰は巧みな腰遣いを披露する。
 腰を動かしやすくなったせいか、肉のぶつかる音の間隔が変わった。さっきまでは鼓動と同じリズム。今はそれよりわずかに速く、タンッ、タンッ、タンッ、と刻まれる。つまり、快感が蓄積するペースも上がるということだ。
『っ、ふぅ……ん、ンフっ、っう…………!!』
 沙綾香は、しばらくじっと耐えていた。だが、すでに2回も音を上げかけた後だ。そう長くはもたない。
 颯汰が沙綾香の右脚を抱え込んだまま、深々と腰を送り込む。その瞬間。
『ふんんんんっ!!』
 沙綾香は、震え上がった。右脚の太腿は勿論、足指の先にまで力を込めて。
『あれっ?』
 颯汰が大袈裟に驚いてみせる。
『な、何!?』
『いや、何ってか……今まさか君、イかなかった?』
 この言葉で、沙綾香はしまったという表情になる。
『はぁっ!? い、イってないけど?』
『あ、だよね。ならいいよ、うん。やー、でもビックリした。掴んでる脚がいきなりビクビクッ!ってしたからさ。まだ“前戯”なのにイッたのかと思って。誤解して悪かったけどさ、君もあんまりヘンな動きしないでよ? 調子狂うから』
 颯汰の演技は白々しい。それでも会話の流れ上、沙綾香はそれに合わせるしかない。
『……わかったって……』
 沙綾香はそう答え、手繰り寄せた枕に頬を預けて目を閉じる。

 そして、我慢比べが始まった。もちろん不利なのは沙綾香だ。

『っ、ふっ…ん、んん、んっふっ!! ん、ふくっ、ん……ッ!!』
 必死に殺した息が聴こえる。カメラは沙綾香の背中側を映しているから、表情は判らない。だが、身体の反応は丸見えだ。
『すげー、グショグショんなってきてる』
 颯汰が言う通り、ゴム付きの逸物が出入りする場所からは、かなりの量の愛液が溢れていた。すでに沙綾香の左腿は、その愛液でオイルを塗りたくったようになっている。同時にその腿は、整形に失敗したハムのように潰れていた。直立した時にはあんなに張りがあるのに、その面影がまるでない。逆に右腿は、常に完璧な張りを保ち続けている。というより、張りすぎだ。スクワットで腰を直角以上まで落とした時のあの張りが、ずっと持続している。
 その腿の状態は、彼女が追い詰められている証拠だろう。あまりにも快感が強く、絶頂するまいと頑張っているに違いない。それがあの右腿の張りであり、その力みに押しつぶされた左腿の形なんだ。
『ねぇ、ほら。これが気持ちいいんでしょ?』
 颯汰は、沙綾香の弱点をすでに読み切っているらしい。膝を立てたまま、角度をつけて腰を送り込む。
『きもち……よっく、な……っ……!!!』
 沙綾香は颯汰の言葉を否定しようとし、しきれずに声を途切れさせる。枕を強く掴み、背中を震わせながら。
『あれ、またイッてるよね』
『だね。あれで隠せてるつもりかな』
『なんじゃない? いかにもバカそうだし』
 ギャラリーの囁き合う声が、カメラにしっかりと拾われている。当然、沙綾香自身にも聴こえているに違いない。それでも頑なに絶頂した事実を否定するのは、颯汰をほんの少しも喜ばせたくないという気持ちからか。
 その調子で4時間を耐えきれば、確かに一矢報いることはできるだろう。だが、それは無理そうだ。
『さて、と。いいカンジにほぐれてきたっぽいし、“前戯”はこれくらいにして、そろそろ本格的にハメよっか』
 颯汰は沙綾香の右脚を解放し、仰向けの姿勢に戻してから、改めて大股を開かせる。久しぶりにカメラに映った沙綾香の顔は、真っ直ぐに颯汰を睨みつけていた。眼光の鋭さは黒人を睨む時以上だ。祐希を壊した張本人だけに、恨む気持ちがより強いんだろう。まともな神経をした人間なら、そんな視線を受ければ良心が痛むに違いない。だが、颯汰にそれはないようだ。
『すげー、ガチガチになってる』
 颯汰は一旦腰を引き、ゴムに包まれた逸物を露出させる。サイズこそ日本人の平均より少し大きい程度だが、勃起度合いが尋常じゃない。
『おっきぃー!』
『すごっ! 颯汰さまのがあんなになってるの、初めて見るかも!』
『いいなー、私もアレ欲しい!!』
 女性陣から悲鳴に近い歓声が上がる。颯汰は引き締まった腹筋に力を入れ、逸物を振り立てて場をさらに湧かせてから、満を持して沙綾香に向き直った。
『入れるよ』
 奴はベッドに膝をつき直し、沙綾香の太腿を引き付けながら挿入していく。挿入の瞬間も、沙綾香は颯汰を睨み上げていた。逸物が根元まで入り込んでも、スムーズな抜き差しが始まっても。だが、颯汰が手を恥骨の辺りに滑らせつつ突き込んだ瞬間、鋭い目が見開かれる。
『っ!!!』
『あ、スゲー気持ちよさそう。やっぱ効いた、今の?』
 自信満々に問う颯汰を前に、沙綾香は急いで目を細める。
『……ヘンなとこに当たって、ビックリしただけ』
『ホントにー? このタイプのアソコなら、恥骨の方に突くのが当たりだと思ったんだけどな。ま、いいや。じゃあ色々と探ってくわ』
 言い淀む沙綾香とは対照的に、颯汰の態度はあくまで軽く、嬉々として腰を打ちつける。パンパンという音が響く中、沙綾香はシーツを握りしめ、目と口を閉じた。すべての感覚を遮断して、全力で耐えるつもりなんだろう。その気概は凄い。だが、相手が悪すぎた。
『んん゛……ん゛あ゛っ!!』
 颯汰が十回も突かないうちに、沙綾香の背が仰け反った。
『あー、ここだここだ』
 颯汰は意地の悪い笑みを浮かべ、腰を浮かせ気味にして膣のヘソ側を突き上げる。
『くはっ!! あっ、あ、あ!あ!……っは、あっ、ひあああ゛っ!!』
 完全に弱点を見抜かれたんだろう。沙綾香は突かれるたびに腰を上下させながら、頭上のシーツを掴んで目を瞑る。相当な力みぶりだ。それが数分も続けば、沙綾香はガクガクと痙攣をはじめる。
『おっと』
 颯汰は沙綾香の様子を見て腰を止めた。そう、きっちりと止めたんだ。だが、沙綾香の方が止まらない。
『ヒューっ、ヒューっ……ひっ、ふぅッ……ヒューッ……』
 目を見開き、妙な呼吸を繰り返し、なおも痙攣しつづける。上半身も、下半身も。
『ははっ、すっげ』
 颯汰が与えた休憩はほんの数秒だ。それが過ぎれば奴はまた笑いながら腰を打ちつける。
『ン゛ううっ……や、はあっ!! あ゛、うあ゛っ!!』
 見開いた眼から涙を零しつつ、結合部を見下ろす沙綾香。信じられない、と言いたげなその動作は、黒人に犯されている時にも見た覚えがある。
 颯汰はそんな沙綾香を面白そうに見下ろしながら、腰の下に手を回して抱き寄せる。今度は対面座位だ。颯汰が沙綾香を抱きしめるシーンは、見ていて辛い。自分の愛した女が、他の男に取られている──同じ人種だけに、その実感が湧きやすいから。
『あ、ん゛……っ! はぁっ、はぁっ…………!!』
 颯汰と向かい合わされた沙綾香は、2回瞬いて涙を切り、改めて強い眼を向ける。
『ちょっと、なにガン飛ばしてんのよブス!』
『やめてよ! アンタなんかに睨まれてると、颯汰さまの眼が腐っちゃう!!』
 女共が喚き立てても、沙綾香は視線を緩めない。颯汰はその視線を嬉しそうに受け止めていた。
『なんか懐かしいな、こんな至近距離で睨まれんの。ちょっと前の祐希思い出すわ』
 颯汰の言葉選びは意図的だろう。沙綾香の怒りを焚きつけ、負けられない想いを強め、その上で陥落させる。女を喰い慣れた外道が考えそうなことだ。

 颯汰のテクニックは、対面座位でも存分に発揮された。
『あっ、ひ……ひぐっ! ん゛っ、あ゛、あ! んんっ、んぐうっ、あひっ!!!』
 沙綾香は、もうほとんど声を殺せていない。とはいえ、それも当然だろう。颯汰が一方的に突き入れていたさっきまでと違って、今は尻肉を掴まれ、腰の位置を自由に調整される。つまり、本来なら腰を捩って回避すべき絶対的なウィークポイントに、力づくで固定されてしまうわけだ。
 抜き差しが繰り返される間、沙綾香の背中はぴくぴくと震え続けている。颯汰はその震えが酷くなった瞬間を狙って、掴んだ沙綾香の尻をぐうっと下に落とし込む。硬く勃起した物が、膣の奥の奥までを貫くように。
『んぐうううっ!!!』
 そうされた時の沙綾香の反応は、露骨だ。顎を浮かせたまま目を見開き、歯並びが見えるほど歯を食いしばって震え上がる。
『アッハハハッ、またイッた!』
『見て、すっごい顔。自分ってカワイイから、ちょっとぐらい顔崩してもいいとか思ってんだろうねー。勘違いすんなよ、ブース!』
『っつかさぁ。乳、颯汰様に擦りつけすぎじゃない? 汚いんだけど』
『デカ乳アピールしてんでしょ。反抗してんのも、颯汰さまの気ぃ引くためじゃないの』
『ううーわ、キッモ! そういう下品なことしてないでさあ、颯汰さまから身体離してよ。んでそのデカ乳、思いっきりぶるんぶるん揺らしてればいいじゃん。バカみたいにさあ!』
 沙綾香を貶めたい女共は、絶頂を見て笑い、ここぞとばかりに罵詈雑言を浴びせかける。沙綾香にそれを恥じる余裕はない。絶対に弱さを見せたくない相手の前で、それでもしてしまった反応なんだから。
『ははは、またハメ潮』
 颯汰は自分の股間辺りに視線を落とし、よくそんな言葉を言っていた。あまり聴かない言葉だが、状況を考えれば意味は解る。沙綾香が『ハメ』られながら『潮』を噴いた、ということだろう。実際、沙綾香のあの反応は、潮噴きを伴うぐらいで当然に思える。
『どう、すごい奥まで届いたでしょ』
 ようやく呼吸の落ち着いた沙綾香に対し、颯汰が囁きかける。その声色が、またおそろしく優しい。芯の弱い女なら、その声色に誘われて甘えかねないほどに。
 沙綾香は、芯が弱くなどない。そんな声色に尻尾を振ったりはしない。ただ、弱っているのは確実だ。
『はっ、はぁ、はぁっ、はぁっ……。な、なんで……あいつらのより、短いのに……すごい、奥まで……』
 あいつら、とは黒人連中のことか。颯汰の逸物は平均より大きいとはいえ、俺の物と大差ない。勃起してもせいぜい18センチというところだろう。それがあの、20センチを悠に超える剛直と、挿入感で張り合っているというのか。
『そりゃそうでしょ。ここまで子宮が降りてきてたら、小学生のチンコでも余裕で奥まで届くって。さっきのあの『トントン』が効いてるんだよ。君、長いとか言ってたけどさ。ああやって丁寧にほぐしたら、ここまで気持ちよくなるんだぜ』
 颯汰はそう囁きかけながら、『ハメ潮』したばかりの沙綾香の尻を掴み直し、グリグリと動かした。今度は垂直じゃなく、水平に円を描く形で。それがまた、沙綾香に効く。
『んああっ!! んっ、ふあっ……あひっ、ひいっ……い!!』
 漏れる声もさっきとは違う。垂直に腰を落とされている時は、やや苦しそうな「ひぐ」という声がよく聴こえる。ところが、今は快感一色だ。顎に力を入れるどころか、むしろ浮かせぎみにして、「ああ」「ふあ」とうわ言のように繰り返している。
 実際、彼女は身体が浮くような感覚の中にいるんだろう。

 ──センセ、沙綾香の事、振り落とさないで! ちゃんと、支えといてねっ!

 俺が沙綾香と対面座位をした時、彼女はそう言った。それこそ、地に足のつかない感覚を得ていた証拠だ。今と同じように。
 まずい。沙綾香とのセックスを思い出してしまった。今となっては胸が苦しくなるだけだから、なるべく避けているというのに。
 目に映る事実のすべてが、あの時を思い出させる。沙綾香が両足で、颯汰の腰にしがみつく様も。
『あー、気持ちいい……ヌルヌルの襞がチンコに絡みついてくる。先っちょから根元まで、いっぺんに強めのフェラされてるみたい』
 颯汰が呟く感想も、あの体位で俺がしみじみと感じていたことだ。
 救いがあるとすれば、沙綾香が颯汰に甘えきってはいないことか。彼女は快感に翻弄されながらも、颯汰にしがみつく足を少しずつほどいていく。
『ちなみにさ。この状態でキスすると滅茶苦茶キモチいいんだけど、どうする?』
『するわけ……ないじゃん!!』
 颯汰が甘い声で囁きかけても、鋭く睨みつけながら突っぱねる。承諾するわけがない。俺達は、祐希が落とされた場面を目にしている。祐希は“キスでスイッチが入り”、その果てに自我を狂わされたんだ。それを知っていて、轍を踏むはずがない。

 沙綾香は颯汰への怒りを胸に、必死で踏ん張っていた。ただ、やはり相手が悪い。
『そか、残念。したくなったらいつでも言って。オレ心広いからさ、一回断られたくらいじゃヘソ曲げんし。オレとのキスハメは気持ちぃよーマジで』
 颯汰は、相手の気丈さなど織り込み済みとばかりに、焦らずじっくりと責めつづける。沙綾香の尻を掴んで腰を上下させ、腰が震えはじめた辺りで深々と挿入し、ダメ押しで水平方向にグリグリと回転させる。同じやり口ばかり繰り返すのは意図的だろう。沙綾香の肉体と感覚を、その責めに順応させる……目的はそれだ。
『だいぶこなれてきたじゃん。じゃ、そろそろ“脳イキ”しよっか』
 睨み続けるのに疲れた沙綾香が、喘ぐばかりとなった頃。颯汰はまた囁きかける。沙綾香の視線が前を向いた。
『オレの言葉に合わせて絶頂すんの。まずは……そうだなあ。オレが1、2、3ってカウントするから、それに合わせてイって。オレの方でスポットさえ押さえれば、あとは腹に力入れるだけでイケると思うし』
『……はーっ、はーっ……だから、やるわけ、ないじゃん…………!!』
『やろうよ。っつか、ムリヤリでもやらせるわ。オレ、軽くSだし』
 颯汰はそう言って、沙綾香の尻を掴む。手で強引に尻を押し下げつつ、自分も突き上げる双方向の刺激だ。見えていなくても、沙綾香の子宮口が亀頭に押し上げられているのが解る。結合部から漏れる音も、ぶじゅっ、ぶじゅうっ、と凄まじい。
『1、2、3。イって』
 颯汰はカウントしながら、一番の奥で腰を止める。
『ん!』
 沙綾香は目を閉じ、唇を噛んだ。
『あれ、頑張っちゃってる? ダメだって』
 颯汰が苦笑する。ギャラリーの女からも罵声が飛ぶ。
『しょうがないなぁ。じゃ、も一回ね』
 颯汰はそう言って、また腰を動かしはじめた。1、2、3、1、2、3とカウントしながら、深い抜き差しを繰り返す。沙綾香は、随分とそれに耐えているようだった。だが、挿入されながら何度も潮を噴くようなコンディションで、いつまでも耐え続けることは不可能だ。むしろ、そうして溜め込めば溜め込むほど、反動は大きくなる。これまで何度も目にしてきたように。
『ひぐっ!!!』
 7回目か、8回目か。沙綾香はついに、3カウントの直後に顎を跳ね上げた。
『おーすげ、ヒクヒクしまくってる。ね、“脳イキ”気持ちいいっしょ? 祐希もこれでイキやすい体質になったんだ』
 颯汰が囁いた言葉に、沙綾香が反応する。歯を食いしばり、颯汰の鎖骨辺りを凝視して持ち直す。
『へぇ、まだ頑張るんだ? そういうのもいいよね。キライじゃないよ。じゃ、抵抗しつづけてみて。どこまで頑張れるか、見ててあげるから。はい、いち、にっ、さーん。いち、にっ、さーん』
 颯汰は嬉しそうに笑いながら、またカウントを始めた。尻肉をしっかりと掴み、狙い通りに追い詰めていく。虎が獲物の頸動脈へ食らいつくように。
『あ、ああ……あっ!!』
『どうしたの、同じペースでイかなかった今?』
『ふーっ、はーっ、はーっ……気の、せいでしょ……』
『そっか。ま、いいや。続けよ』
 沙綾香は、何度も絶頂に追い込まれているようだ。颯汰のカウント通りに。いくら沙綾香自身が否定しても、颯汰にペースを握られている事実は変わらない。そして、その果てに待つ結末も。
 耐えに耐えた末の崩壊は、いつも惨めだ。
『んぐうううう゛う゛っ!!!!』
 沙綾香は最後に逃げようとしたんだろう、掴んでいた颯汰の肩を突き飛ばした。だが下半身を固定されたままそんな事をしても、上体が後ろに傾ぐだけだ。結局沙綾香は、ベッドに両手をつき、盛大に仰け反る格好で絶頂を晒す羽目になる。
『ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ…………!!』
 沙綾香は、犬のような息を吐きながら、全身を震わせていた。
 世界レベルのスタイルの誇る美少女が、仰け反ったまま痙攣する。そのインパクトは強烈だった。数億の価値を持つ名画かと思えるほどに。口やかましいギャラリーの女共でさえ、一瞬息を呑んでいた。
 だがその幻想は、すぐに打ち破られる。名画を穢す悪魔によって。
『はいっ、ハメ潮20回目ー。さすがにチョロすぎ』
 颯汰はどこまでも軽いノリで、沙綾香の覚悟を笑い飛ばす。その行為で場の空気が一気に弛緩し、惚けていた女共が笑いはじめる。
『あ、アハっ、アハハハハッ!! ちょっ、なにあれ、すっごいケイレンしてんだけど!!』
『ほ、ほんと! あんまりにも下品すぎてさ、一瞬引いちゃったよぉ!』
『っつかさ、感じてないとかイってないとか恰好つけてたけど、乳首ビンビンに勃ってんじゃん。イジめられてもないのにさあ!』
『だねー。あと、マンコの周りもヒクヒクしてるよ』
『あとお腹ね。アレで中イキしてないとか言い出したら、もー必死通り越してサムいよね』
 女共は目敏い。絶頂の余韻にうち震える沙綾香の特徴を次々にあげつらっては、悪意をぶつけ続ける。そうして同性の客に非難されるのは、異性から侮辱される以上につらいだろう。
『まーまー皆抑えて、このコ泣いちゃうから。ま正直、あのカッコつけてたの何なん?とはオレも思うけどさあ』
 颯汰はフォローを入れるフリをして煽り、更なる笑いを起こす。そうして場を沸かせる奴の顔は晴れやかだ。沙綾香にしてみれば、親友の仇がそうして楽しそうにしていると、腸が煮えくり返るというものだろう。
『くう、ぅっ……!!』
 沙綾香は顎を引き、涙目で颯汰を睨みつける。すると、颯汰も笑うのをやめた。この部屋に入ってから初めて見せる、真剣な表情だ。
『君、すごいね。まだそんな睨めんの? オレのこと嫌いってのはマジっぽいね。つってもコッチだって、審査会で赤っ恥掻かされた恨みあるしなあ』
 奴はそう言って、沙綾香の眼を見つめる。沙綾香も睨み返す。しばし睨み合った末に、颯汰は膝を叩いた。
『……っし、決めた! こんなグチグチした腹の探り合いやめて、勝負で白黒つけようぜ』
『勝負って、今さら? 喧嘩ならずっと売られてんだけど』
『だから、それをもうやめよって話。今から30分セックスして、その間にオレがもう射精できないってなったら君の勝ち。30分してオレがまだ元気なら、オレの勝ち。シンプルだろ?』
 颯汰の提案に、沙綾香の表情が曇る。この対決方法は、黒人相手の十番勝負とほぼ同じだ。沙綾香は、俺の自由を賭けたその勝負に負け、バスルームで悲痛な涙を流した過去がある。
『あ、その顔。前もどっかでやらされた? セックスバトルってこの倶楽部の定番だしね。でも、オレらの場合は特にこの勝負がいいと思うよ。君がオレを嫌いなのは、友達の祐希をセックス好きにしたからだろ。んでオレが恨んでんのは、その祐希を君が審査会で負かした事。要するに、どっちもセックス絡みの恨みなわけ。だったら、白黒つける方法もセックスしかないじゃん』
 颯汰の主張に、一理があるのかは怪しいところだ。だが、こういう理屈を持ち出された以上、沙綾香は後に退けない。
『大丈夫だって。オレそこまで絶倫じゃないし。出せてあと4回かな。今だいぶ興奮してるしさ、君がちょっと頑張って締めたら、それくらい普通に行くと思うよ。ま、自信がないっていうんなら、無理にとは言わないけど』
 颯汰に煽られ、沙綾香の目尻が吊り上がる。当然この間にも、ギャラリーからは沙綾香を貶める発言が浴びせられている。沙綾香が颯汰の膝の上にいなければ、髪の毛を掴んで引きずり回されかねない興奮ぶりだ。
 そんなアウェーの状況下でも、沙綾香の闘志は萎えない。
『そう。じゃ、やろうよ。鼻っ柱へし折って、後悔させたげる!』
 沙綾香は、凛とした表情で啖呵を切った。



                 ※



『ねえ……君、大丈夫?』
 沙綾香を背後から犯しながら、颯汰が問いかける。沙綾香は壁に手をついたまま、煩そうに横を向いた。
『はあ、はあっ、はあっ…………なにが?』
『や、何がって。始まって、まだ5分くらいしか経ってないのにさ。もう太腿がスゲー柔らかいじゃん。ひょっとして、もうガマンしてないんじゃないかと思ってさ』
『っ!!』
 沙綾香は、はっとした様子で足を見る。
『気付いてなかったの? それはちょっと引くわー。オレの鼻っ柱へし折るんじゃなかったっけ? オレ的には、君の心の方が折れかけな気がすんだけど』
 したり顔で語る颯汰は腹立たしいが、沙綾香は事実として追い込まれているようだ。背後から逸物を打ち込まれ、艶めかしい声を漏らすばかり。
『気持ちいいっちゃいいけどさ。もっと締めないとイカないよ? オレ』
 颯汰が煽ると、沙綾香は力む。壁についた手と、床を踏みしめる足を筋張らせて。だがそうして力めば、その分絶頂もしやすくなる。
 沙綾香の背後で、颯汰が笑い、ピストンの速度を上げる。肉のぶつかる音と水音が狂ったように響きわたり、沙綾香の腰がぶるっと震え上がる。
『あ、あ、やっ……ふん、んんあっ!!!』
 水音がさらに酷くなった辺りで、沙綾香は腰砕けになって崩れ落ちる。颯汰はギャラリーの拍手を浴びながら、そんな沙綾香を見下ろした。
『どしたー? 休憩してもいいけど、時計は止めねーぞ?』
 そう嘲りを受け、沙綾香はよろよろと立ちあがる。ただ、その太腿はまだ震えているし、立つにしても壁に頼ってやっとという有様だ。当然そんな姿を、敵である颯汰が黙って見過ごすはずがない。
『ほら、ちゃんと立たないと』
 颯汰は壁にしがみつく沙綾香の腕を取り、背後に引き絞った。そうして相手の自由を完全に奪っておいてから、力強く腰を打ち込む。
 経験のない俺には、あの体位で犯されるのが、普通の後背位とどう違うのかは想像もつかない。だが、沙綾香の反応は明らかに変わった。
『あ゛アアァッ、あ! かはっ、ぁ……あ…………!!』
 たった一突きで、沙綾香の眼が見開かれ、口から声が絞り出される。背中の反り具合も尋常じゃない。
 その反応にギャラリーが噴き出すと、それに気づいた颯汰が挿入したまま向きを変える。
『はぁんっ!! ちょ、なにっ……!?』
『ファンサービス。オレがハメてるとこ近くで見たいって子、多いんだよね』
 颯汰は問いに答えながら、足で押し出すようにして沙綾香を歩かせる。向かう先は、カメラの横……今固唾を呑んで見守っているギャラリー達の前だ。
『…………ッ!!』
 沙綾香が息を呑んだ。
 丸裸で男に犯される姿を、同性に晒される。しかも両腕を後ろに引かれているから、乳房を隠す術もない。沙綾香を襲う羞恥は、並大抵ではないだろう。
 逆にギャラリーは、ほんの一瞬虚を突かれたものの、すぐに醜悪な笑みを浮かべはじめた。
『うわうわ、ヨダレ!』
『すっごい匂い。汗とか愛液とか……鼻が曲がりそう!』
『ね。颯汰さまって全然イヤな匂いしないから、これ全部この女のだよ』
『あー、わかった。さっきこの女、颯汰さまの鼻っ柱へし折るとか言ってたけどさ。それって、このくっさいマン汁の臭いで鼻潰すってイミじゃない?』
『うーわ、最ッ低。最初見た時からアタマ悪そーなビッチ女って感じだったけど、性格まで最悪じゃんそれ』
『ほんとそれ。颯汰さまぁ、こんな女とヤんない方がいいですよ。ゴム着けててもビョーキんなりそう。懲らしめたいんなら、アタシらヤリましょうか? そこのバイブとか電マとかで、狂うまで』
 女共は、『颯汰さま』に抱かれる沙綾香への嫉妬で、野次りに野次り散らす。傍まで近づいた沙綾香の頬を張り、乱暴に乳房を捏ねまわし、乳首を引き絞りながら。
『だいじょぶ、後でちゃんと身体洗うから。っつか、誰か洗って?』
 颯汰はギャラリーとコミュニケーションを取りながらも、腰遣いは少しも緩めない。そんな最悪の状況の中、沙綾香は為す術がない。精神的にも、肉体的にも。
『ウチの祐希蹴落としてまで、客にマゾ奴隷アピールしたんじゃないの? なのに、今さらカマトトぶってんじゃねーよ。キモチ悪ィんだよ、同じ女としてさあ。ホラ、イクんでしょビッチ。ほーらイけ、イッちゃえって、ホラぁっ!!!』
 ギャラリーが嫉妬に狂った目で睨みつけながら、沙綾香の乳首を引き絞る。それに気づいた颯汰も、沙綾香の右手を離して下腹に掌を当て、刺激しながらスパートをかける。
 前からも後ろからも叩き込まれる、悪意と刺激。その中で沙綾香は、視線を惑わせていく。その動揺は、やがて身体の震えに変わり、ついには歯を打ち鳴らさせる。
 そして。
『や゛ああああああッ!!!!』
 沙綾香は叫びながら、『前向きに仰け反った』。たぶん、背を弓なりに反らそうとしたが、乳首を引き絞られていて出来なかったんだろう。女として最高の、それこそ嫉妬を免れないだろう肉体が、ビクビクと痙攣する。男を骨抜きにする顔は、逆に骨抜きにされたようにぼうっとしている。目尻からは、二筋の涙が伝い落ちていた。苦しさで零れた涙とは明らかに違う、顎の先にまでしっかりと達する筋だ。 
 そして、沙綾香は崩れ落ちる。
『まーたダウンか。ほら、シャンとしなよ。これ言うの二回目だけど』
 颯汰が手を叩いて煽るが、沙綾香はまだ、絶頂の余韻から抜け出せていない。
『しょーがないなぁ』
 颯汰はわざとらしく肩を竦めると、畳の上に膝立ちになり、背後から沙綾香に挿入する。
『ふああっ!?』
『ヘンな声出すなって。勝負はあと20分残ってんだから。っつか、わざわざ相手して負けるリスク増やすとか、オレ優しー』
 颯汰が自画自賛し、ギャラリーの女共が歓声を上げる。その光景はカルト宗教に近い。友人をカルト思考に染められ、その元凶たる教祖を糾弾しようとしたのが沙綾香だ。だがその勇気も、無残に散らされようとしている。教祖自身の力と、場の圧力で。


                 ※


 颯汰は、あれで力を温存していたんだろうか。勝負が消化試合となったあと、奴の責めはむしろ激しさを増した。
 パァンパァンという鮮やかな音が響きわたる。黒人のファックではよく耳にするが、日本人同士のセックスでは滅多に聞かない。そういう、鼓膜を鋭く震わせる音圧だ。それだけの音で突き込めば、刺激も強い。
『ああっ! あっ、あ、あっ……あ、あっ…………だめぇいく……いぐ、っくいくぅっ…………!!』
 沙綾香は畳に両手をつき、俯きがちに喘いでいる。顔を上げようとしないのは、目の前に意地の悪い同性が控えているせいか。
『はあ、はあ……あーイキそ。ほら、イキそうだよ。もうちょっと締めてみな』
 颯汰は嫌味ったらしい言葉をかけながら、また腰の振りを速めた。狭いピストンと、素早い打ち付け。肉のぶつかる音がピシンピシンというものに変化する。
『ああ、あ!あ!あ!あ!あっ!!』
 沙綾香はピストンの速さと同じペースで声を上げた。泣くような声だ。
『すげー、ハメるたんびに潮出てる』
 颯汰はヘラヘラと笑いながら腰を打ちつけ、ある瞬間にいきなり腰を止める。腰を相当深くまで押し込み、沙綾香の恥骨の辺りを右手で掴みながら。
『ああう゛っ!!!』
 沙綾香の上体が起き上がり、ビクビクと前後に揺れる。腹筋の凹み具合と、大腿部の盛り上がり方が異常だ。颯汰はそんな反応を見て口角を上げ、ゆっくりと腰を前後させる。
『はーい、いくよ。いっち、にいー、さーん』
 カウントしながら膝を使い、斜め上に3度突き上げる。
『ああァっ、イック、ぅ……っ!!!』
 ここで、ついに沙綾香の顔が上がった。顔のパーツ配置は真っ当だ。白目も剥いていないし、だらしなく舌を出してもいない。だが、長湯でのぼせたようなその顔は、見ているとすごく不安になる。
『あーはっ、すっごいイキ顔!!』
『んーふふふ、これは中イキした顔だわー。メスの顔ってやつ? この表現キライだけどさ、こいつにはピッタリじゃん』
『ねー。悔しいけど祐希、これは勝てないよ。だってこいつ、マジで頭オカシイ変態だもん。あんだけ嫌がってた相手に犯されて、女の前でこのイキ顔とか。キャラブレッブレなんだけど!』
 ギャラリーは、相も変わらず鬼の首でも取ったような騒ぎようだ。聞くに堪えない言葉ばかり。そんな言葉の飛び交う中、颯汰は沙綾香の腹部から手を離し、代わりに両足首を掴み上げた。ああして足首を浮かされれば、踏ん張りが利かない。それまで這う格好でかろうじて凌いでいた責めを、不安定な状態で受けることになる。その影響は、想像を超えていた。
『んんっ、あ、あ、あっ……んあっ、あ、あ、あ、あ!!!』
 苦しそうな声が数秒ほど続いてから、いきなり喘ぎ声が甲高くなる。その状態から、さらに3秒後。紗耶香の背中が反り、腹が引っ込みはじめる。
『ぁいくっ、ぃくいくいくいくっ、ぅううっ…………!!』
 小声で何度も絶頂を宣言し、沙綾香は身を震わせた。颯汰の掴む足首が固定されている分、それ以外の箇所が衝撃を肩代わりすることになる。その箇所とは、腹筋と腕だ。細い身体がさらに縮んだようになり、乳房を揺らしながら痙攣する。痙攣して、止まっては、また痙攣する。
『すっご……アレ、イってる最中にまたイってるよね』
『うん。アレきついけど、癖になるよねー。颯汰さまにシてもらった時しか、ああなんないけど』
 どうやらギャラリーの女達も、沙綾香が今陥っている状況には覚えがあるようだ。その結果、彼女達はここまでの狂信者になった。となれば、これからその道を追うのは……。
『ほら、お尻突き出して。アレいくよ。はい、いーっち』
 颯汰は深く絶頂している沙綾香を相手に、また例のカウントを始める。もちろん、動きも伴ってだ。
 カメラは、奴が腰を引き、突き込む様子が映っていた。挿入箇所は、割れ目に擦り付けているだけかと思うほど低い。腹の薄皮の下を貫くような挿入。それを受けて、沙綾香の腹部がぐうっと持ち上がる。
『にーい』
『ぐぅぅっ、う゛……も、や…………』
 1度目、2度目の挿入で、本当に苦しそうな声が漏れる。
『さー……んッ!!』
 颯汰は満面の笑みで両足首を引き絞りながら、最悪の角度で膣を突き上げる。腹の薄皮に沿うような前2回とは違う、斜め45度の挿入。丁寧に築き上げた『3回繰り返す』法則を破る一突きだ。当然沙綾香も、無意識に前と同じ責めを覚悟していただろうから、この変則の一撃はまともに喰らうことになる。
『はああああぁっ、あ、あ゛…………っ!!』
 3度目の突きを受けた瞬間、沙綾香は完全に動きを止めた。俯きがちだった頭がまた跳ね上がり、ギャラリーの方を向く。
『うわっ!?』
『おお、すご……っ!』
 カメラは今、沙綾香を横から映しているため、表情は写らない。だが息を呑むギャラリーの反応で、壮絶な表情をしているのが解る。
 もちろん、肉体の反応からも部分的には伺い知れた。布団に深く膝をめり込ませ、太腿全体を震わせ続けるなど、並の絶頂ではありえない。
『あー、すげ……うあ、すげ…………』
 その絶頂は、颯汰をも追い詰めたらしい。珍しく顔を顰め、前傾姿勢で震えている。だが、まだまだ余裕はありそうだ。
 颯汰が足首を離すと、沙綾香は脱力してうつ伏せに倒れ込む。だが颯汰は、そんな沙綾香に跨り、沙綾香の腰を掴みながら挿入する。
『んんっ!! い、今、は……!』
『今は、勝負の最中。オレの喧嘩、買ってくれたんでしょ? じゃあ残りのラスト5分、キッチリ闘ってよ』
 颯汰はそう言いながら、沙綾香の両肩を強引に引き上げた。腰には颯汰が乗っているから、上半身だけが起き上がる形になる。深々と挿入されたままそんな真似をされれば、堪らない。
『あ……ああああぁぁっ、だ、だめえっ…………!!』
 沙綾香から、はっきりとした泣き声が漏れた。今のこれに比べれば、さっきまでの声は、曲がりなりにも芯の通った声だったんだと実感させられる。
『ほら、締めつけて。勝負、勝負』
 颯汰は深々と挿入したまま、さらに沙綾香の両肩を引き付けた。
『あああああぁっ!!』
 沙綾香の膝下が反射で跳ね上がり、布団についた手が震える。それでも、颯汰は容赦をしない。あくまで海老反りの姿勢をキープさせる。
『い、いくぅ、いっく…う、う…………ッッ!!!』
 喉が潰れそうな呻き。バタバタと暴れる脚。そしてついには、足指が敷き布団の上でつま先立ちの形を作り、激しい痙攣を起こすようになる。
『すっごい……なんか、アソコで杭打ちされてるみたい』
『ヤバイ反応してるよね。泣きそうってか、泣いてる? あのビッチ』
『颯汰さまは動いてないのに、なんであんなになってんのかな……』
『わっかんない。私、あそこまでやられた事ないもん』
『そりゃ、ウチらん事は子猫ちゃんって扱いで大事にしてくれるもん。でも、アイツって颯汰さまの敵なんでしょ? そりゃ容赦しないって』
『だね。締める相手にはきっちり締めるってとこが、また男らしいわー』
 颯汰の行為は、すべてが肯定される。逆に沙綾香の反応は、すべて嘲笑われる。

 颯汰が肩を離すと、沙綾香は布団に倒れ込む。だが、ゆっくりと休む暇はない。沙綾香が息を整えようとしているところで、またぐいっと肩を引き付ける。
『あっ、だめ……ああああ、いくいくいくっ……!!』 
 海老反りになった沙綾香が痙攣しながら絶頂すると、また肩を解放する。そして、また引き付ける。
『くああっあああッ!! やめてよ、いい加減にして!』
『ダーメ。許してもらえるとでも思ってるの?』
『だって、も、もう、ホントに……! んぐっ、い、いっく…………!』
 沙綾香を海老反りで散々に苦しめてから、颯汰は壁の時計に目を向けた。
『あと2分か。さ、こっから逆転できるかな?』
 薄ら笑いを浮かべながら肩を解放し、今度は逆に、沙綾香の頭を押さえ込む。
『んああっ!?』
 沙綾香が驚きの声を漏らした。極限の苦しみの中、それでもなんとか海老反りで耐える術を見つけた末の、反り封じ。残酷だ。あんな変化にいきなり対応できるはずがない。そして対応できなければ、絶頂地獄からは逃れられない。
『ぁいくっ、いくいくっ、いくっ、い、いっ……!! おねがっ、どいて……お、おくっ、奥、押し込まれてると、ずっと、いくからぁ……っ!!』
『おおー、マジ締まるじゃん。逆転してみて、あと1分!』
 颯汰は沙綾香の両肩を強く押し込み、沙綾香の顔を枕に押し付ける。その上で、とうとう自ら動きを見せた。とはいえ、ピストンじゃない。前後には動かない。ただ、太腿の筋肉を蠢かす。男なら誰もが解ることだ。あれが、逸物を『いきり勃たせる』動きだと。深く挿入した状態であれをやれば、蕩けた膣の中で、逸物が鎌首をもたげることになる。どれだけ不自由な状況でも、強引に。
 沙綾香は、声を漏らさない。というより、漏らせない。代わりに、真一文字に伸びた肉体が悲鳴を上げた。挿入された尻の肉が、ブルルッ、ブルルッ、と細かな痙攣を繰り返す。すらりとした脚の筋肉が、何度も何度も盛り上がる。
『おおおおすっげぇ、いく、いくぞ、オレもいくぞ!!!』
 颯汰は時計から目を離し、沙綾香の髪を掴んだ。そして力づくでポニーテールを作りながら頭を持ち上げさせ、太腿を前に押し出す。
『あああああアア゛ッいぐうううううーーーっ!!!!!!』
 沙綾香は弓なりに仰け反りながら、声の限りに叫ぶ。顔を左右に振るから、横からのカメラにも顔が映り込んだ。髪も顔も、乱れに乱れた……死を案じさせるような顔が。
『ふーっ。最後のは半端なかったわ、チンコ食い千切られるかと思った』
 颯汰が大きく息を吐き出す。布団に突っ伏した沙綾香から逸物を抜く時には、ぬじゅうっと粘ついた音がした。
『おー、だいぶ出たな。1回だけじゃないか』
 颯汰が外したゴムは、先端がかなり膨らんでいる。颯汰はゴムの口を縛ると、ギャラリーの人垣へと放り投げた。途端に割れんばかりの歓声が起き、醜い奪い合いが始まる。
 颯汰はそれを眺めながらゲラゲラと笑い、続いて沙綾香に視線を落とした。
『…………で、大丈夫?』
 そう声を掛けられると、沙綾香は顔を横向けた。ひどく苦しそうな顔だ。
『み、水……ちょうだい。あと、足、攣っちゃって……』
『ははははっ、そかそか! ま、結構激しめにヤッたもんな』
 颯汰はさらに機嫌を良くし、布団の近くにあったペットボトルを沙綾香に渡す。セックス部屋に放置されていた、飲みかけの水。上等な物ではありえないが、沙綾香に選択の余地はない。
 喉を鳴らして水を飲む沙綾香を、颯汰はじっと観察していた。そして相手が一息ついたところで、布団に座り込む。逸物を誇示するように、大股を広げたまま。
『喉は潤った? じゃ、お掃除フェラな』
 ごくごく当たり前のように、その命令が発される。沙綾香は固まった。
『……え?』
『え、じゃないよ。君、さっきの勝負に負けたよな。だったら、オレの言う事ぐらい聞かないと。とりあえず足攣ったの治るまでは、コレしゃぶってな。その後はまた、手越さんと約束した時間までハメるから』
 颯汰の声色は、日常会話のそれと変わりない。だがそれは時として、ドスの利いた声以上の絶対性を持つ。
『………………っ!!!!』
 沙綾香は、悲痛な顔で拳を握りしめた。
 友人を壊した相手に、負けた。勝負のリベンジも果たせなかった。それが心から悔しいんだろう。だが、負けは負け。啖呵を切って勝負を受けた以上は、その敗北条件を呑むしかない。


                 ※


『…………あー、キモチいー。なに、結構フェラ上手いじゃん。そうそう、玉までちゃんと舐めて』
 颯汰が大股を開いたまま、ニヤケ面で沙綾香に奉仕させる。その光景は、俺にとっての地獄だった。
 そうしてたっぷりと口での奉仕を堪能すると、奴は新しいゴムを着け、沙綾香に向き直る。
『んじゃ、罰ゲームね。2回戦スタート』
『ほ、ホントに、まだやんの……?』
『まだっつーか、こっからが本番だし。さっきまでのは、オレらの喧嘩に白黒つけるための勝負。でこっからは、負けた君が、勝者のオレの言うこと聞く罰ゲームの時間。さ、横んなって脚開いて。あと2時間ちょいしかないんだから』
 颯汰は、有無を言わせず沙綾香を布団に寝かせると、大股を開かせながら腰を突き込んだ。
『うんんんっ……!!』
『ははは、エッロい声。なに、挿れただけで感じてんの? カンペキに出来上がってんじゃん』
 颯汰は沙綾香の反応を笑い、同じく嘲笑するギャラリーの方へと視線を向ける。
『ま、そこまでならオレのセフレにも経験してる子いるからねー。君はその先の、快感でブッ飛ぶ所までいってもらうよ。女の子としてるとたまーにハイになって、気絶するまで追い込みたくなるんだけどさ。それでもし、頭ぶっ壊れたら可哀想じゃん? だから、試せる相手探してたわけ』
 颯汰が言い放った言葉で、ギャラリーが拍手する。逆に沙綾香は恐怖を隠しきれない。
『ま、そう硬くなんないで。君、地下19階にずっといるんでしょ? 手越さんとロドニーとかいうゴリマッチョが仕切ってるとこ。あんなとこいたら、どうせ近いうちぶっ壊れるんだからさ。どうせ壊れんなら、オレみたいなイケメンに壊された方がいいじゃん』
 颯汰はそう言いながら、リズミカルに腰を打ちつける。口でカウントしてこそいないが、1、2、3と突いて休憩を挟むリズムだ。そのリズムを脳にまで刻み込むつもりか、それともまた意表を突くつもりか。
『はぁっ、はぁっ……! 私っ……こ、壊れ…たり、しない……っ!!』
 沙綾香は荒い息を吐きながら、それでもハッキリと言い返す。反論を想定していなかったのか、颯汰は一瞬、明らかに表情を消した。だが次の瞬間には、すぐにまた余裕のある顔に戻る。
『……へーぇ、そう。んじゃ頑張ってみなよ。さっきの勝負みたいにさあ!』
 颯汰は嫌味を吐くと、沙綾香の腰を掴み、ブリッジを強制する格好で責めはじめた。カメラが颯汰の真後ろに移動する。颯汰の後ろ姿は、女のそれと見紛うほど色白で華奢だ。だがその実、奴は世の大半の男よりも雄として強い。
『あっ、あ……ああ、あ、あっ…………!!』
 颯汰が尻を引き締めながら腰を打ちつければ、たちまち沙綾香の両脚が強張る。Mの字に開いたまま、土踏まずを浮かせる形で。
『まずは、こっちでイこっか』
 颯汰は沙綾香に囁きかけると、尻肉を抱え上げながら動きを止める。尻えくぼすら動かさない、静止状態。にもかかわらず、2秒後、沙綾香の脚が震え上がる。
『あそこっ、だめっ……はっはっはっ、ぁ、ぁ、いっ…………!!』
 一切余裕のない声、ぶるりと震え上がる太腿、布団から離れる足裏。それらの動作は、沙綾香が早くも絶頂に追い込まれた事実を物語っている。
『はい、1回目ね』
 颯汰は嬉しそうな声色で呟き、腕を上下に揺らしはじめた。突き込みという前後の動きに、上下の揺さぶりを加えたわけだ。そうされれば、当然刺激は強まる。
『ああや、それっ……か、掻き回され……っ!!』
『ガチガチのチンポが、色んなとこに当たって感じるでしょ。いつでもイっていいからね』
 そんな会話が交わされる間にも、沙綾香の脚は反応し続けている。颯汰の腿を踏み台に、ガクガクッ、ガクガクッ、と細かに痙攣したかと思えば、一転力が抜け、ゆったりとした平泳ぎに近い動きをはじめる。
『2回目。はっは、気持ちよさそうだ』
 颯汰は笑いながら、ちらっとカメラを振り返る。目の前のこれを撮れ、とばかりに。それを受けて、カメラは颯汰の真後ろから横方向に回り込む。
 沙綾香の顔が映り込んだ。何かに耐えるように目を閉じ、歯を食いしばっている。だが、畳を踏みしめる音がした直後、その目が開いた。視線はまずカメラを、続いてその左を捉える。まず間違いなく、祐希を見ている。
 祐希はそれを受けて、どんな顔をしているんだろう。そもそも、友人が孤立無援で虐げられるこの状況を、どう思っているんだろう。
『これが、連続で2回イカされた女の顔だ。凄いでしょ? でもね、まだ休ませない』
 颯汰はそう宣告し、沙綾香の腰を掴み直すと、また腰を打ちつけはじめる。今度は上下に動かさない、シンプルに奥を突きまくる形だ。
『あ、かはっ!? やあっ! い、今、イったばっか……!!』
『ヤバいっしょ。追撃ピストンってんだよ、これ。イッて敏感になってるアソコを、あえてガン突きしまくんの。そしたらまたすぐイクけど、それでもやめない。いつもは加減して5回か6回イカせたら休ませたげるんだけど、君にはそういう配慮しないから』
 悪意の篭もった言葉と共に、悪意の篭もったピストンが繰り返される。1回、2回と浅く速く突き込んでから、3回目にはストロークを長く取り、思いきり奥にまで捩り込む。カリ首が覗きそうなほど引いての打ち込みが、生半可な刺激であろうはずもない。
『ひぎ、い……っ!!』
 3回目の突き込みを受けるたび、沙綾香は歯を食いしばり、腰を震えさせる。明らかな絶頂だ。それを面白そうに観察しながら、颯汰は腰を振り続ける。2回浅く突き、3回目で深く突く。2回浅く突き、3回目で深く突く……。
『いっち、にー、さー……んっ。いっち、にー、さー……んっ。いっち、にー、さー……んっ』
 また、あのリズムが始まった。沙綾香の絶頂にムリヤリ法則性を持たせる、呪いにも似た囁きだ。しかもそれは、もう疑いようもなく、沙綾香の中に浸透している。
『はあっ、ああ、あああっ!! はぁっ、あぁ………あああああッ!!!』
 沙綾香の喘ぎは、颯汰の口ずさむリズムと同じだ。喘ぎだけじゃない。サッ、サッ、サッ、という布団の擦れる音も。抜き差しの水音も。ギャラリーの息を呑むリズムも。場のすべてが颯汰に支配されているようだ。
 しかも、リズム自体は同じでも、状況は刻一刻と悪化していく。例えば挿入の時にする音は、ついさっきまでそれほど気にならないものだった。それが今では、ぶちゅうっ、ぶちゅうっ、という聞き逃せない水音に変わっている。カメラを構える祐希も、それに気づいたんだろうか。カメラの角度を変え、結合部の辺りをアップで抜く。
 飛沫が、飛び散っていた。突き込みを受けるたびに。あの状態なら、凄まじい水音がするに決まっている。そして外側からそんな変化が見えるということは、内側の状態は……そう思考を進め、俺は怖くなる。
 嫌な想像の材料ならいくらでもあった。今もカメラの端に映る、脚の震え方もそう。シーツを掴む足指もそう。そして、喘ぎに混じる沙綾香の叫びも。
『あああっ、や、やめてっ! い、イグっ、またイクっ!!! い、イってる最中にまた……んぐううっっ!!!』
 カメラが沙綾香の上半身に向く。シーツを掴み、歯を食いしばっている姿が映り込む。
『んー、イイ顔、イイ声。つっても、どの子も反応に大差ないけどね。イってる最中にまたイかされて、脳に火花チカチカしてるイメージがずっと続くんでしょ? 皆そう言うんだよ』
 颯汰がまた、沙綾香の尻を抱え上げた。腰を完全に浮かせ、衝撃を逃がせない状態で腰を打ち込む。
『いっち、に、さんっ。いっち、に、さんっ』
 脳に刷り込んだリズムで突き続ければ、沙綾香の腰が大きく震えはじめる。
『すげー、ブルブルしてんのが玉まで伝わってくる。いいよ、イッてどんどん』
 颯汰は腰を打ちつけながら笑った。
『んんんう゛っ、んやぁっ!!!』
 さらに三拍子のリズムが数回繰り返されたところで、沙綾香が唇を歪ませながら腰を振った。彼女の防衛本能がさせた行動だ。今ここを突かれれば、耐えきれない。脳がそう判断したんだ。
 颯汰ほどのサディストが、その弱みを見逃すはずがない。
『見ぃつけた』
 奴は鼻で笑いながら、抱えた尻をきっかり元の位置に戻し、その上で腰を突き入れる。亀頭で膣襞を擦っているのか、黒人の挿入を思わせる『メリメリ』という感じの挿入だ。
『ふぁああああっ!!!』
 沙綾香の悲鳴は、どこまでも情けない。
『あっはははっ!! ねぇ今の聴いた? ふわあ~~~だって!!』
『聴いた聴いた! ウケる~!!』
 ギャラリーは大笑いするが、ナイフの切り傷に指を捻じ込まれるような状況で、格好をつけていられる人間などいないだろう。
『オレ嫌いじゃないけどね、こういう変な声。だって、ウソがないじゃん? 演技でこんな声出すわけないし』
 颯汰は有難くもないフォローを入れながら、腰をグリグリと押し込んだ。沙綾香が本能的に避けたポイントを、徹底的に責める気だ。
『あああっ、そこだめ、そこおおっダメえええ゛ーーっ!!!』
 沙綾香の絶叫が響き、太腿が強張る。そして直後、股の間から飛沫が噴き出した。布団の端を越え、ギャラリーの近くまで届く勢いで。
『うわ、なんか飛んできたぁ!!』
『またハメ潮? ってか、突かれるたびにちょっとずつ噴いてたじゃん。どんだけ出すのって感じ』
『さっきガブ飲みしてた水、もう全部出したんじゃない? 布団グッショグショだし』
『ねー。あたし、ああいうブシャブシャ潮噴く女ってムリ。股だけじゃなくて、なんか頭もユルそうじゃん』
 ギャラリーが好き放題に罵る中、沙綾香は海老反りのまま痙攣を続けていた。息が荒く、口の端から涎まで垂らしている表情に、余裕は微塵も感じられない。直角に曲がった脚の震えも尋常じゃない。普通なら、やりすぎを反省して休憩を挟むべき反応だ。だが、颯汰は責めの手を緩めない。
『いっち、に、さーんっ。いっち、に、さーんっ。はいイって!』
 大きな絶頂の最中にいる沙綾香に対し、力強く腰を打ち込む。嫌がって腰を逃がす動きを、空中で巧みに御しながら。
『いいいいイクっ、イクまたイクゥうううっ!!!』
 沙綾香は潤んだ瞳を開き、全身を痙攣させ続ける。荒い呼吸の末に、とうとう鼻水まで垂らしながら。
『おおー、すっげぇ顔。他のコ相手にやるなら、この辺までかな。女の子が泣いて鼻水出したらやめるって自分ルール。可哀想だもんね』
 颯汰は沙綾香だけを例外と言い含めつつ、責めを続ける。今度は、腰を掴んでのピストンを継続しつつ、親指を使って恥骨の辺りを押し込んでいるようだ。
『や、ぁっ……!!』
『ハメられながらココ押さえられると、すっごいこそばゆいっしょ。んで、感じるっていう。ちな、コッチはもっとすげぇよ?』
 颯汰は沙綾香の腰から左手を離し、3本揃えた指先で下腹を押し込んでいく。
『いひっ!? はっ、はっ、はっ……そ、そこ、は……!!』
『そ、“子宮”。結局女って、ココで感じるように出来てんだよ。クリとかGスポは、あくまでエロい気分出させるためのスポットでさ。だから女のコ本気で狂わせたいんなら、こうやって、子宮を内と外から刺激するのが一番ってわけ』
 颯汰の言葉には、妙な説得力がある。いくら性格の歪んだ男でも、膨大な女性経験に裏打ちされた知識は馬鹿にできない。何より、俺自身の深い記憶が、奴の言葉を全力で肯定している。奴の言葉に嘘はない。ああして子宮を内外から刺激すれば、女は快感で悶え狂う。そういう風に出来ているんだ。
『押さえないでっ、そこ押さえないでっ!!!』
『ヤバイでしょ。こうして押し込んだら、子宮が疼いてるのわかるもん。やー興奮してきたよ。これ続けたら、女の子ってどうなっちゃうんだろ』
 颯汰は興奮で息を荒げながら、姿勢を変えた。それまでの膝立ちから正座になり、太腿に沙綾香の尻を乗せて安定させる。その上で、掌の付け根を使って下腹を押し込みはじめた。
『あはっ、はっ、はっ、はっ、はっ…………!!!』
 沙綾香は目を見開き、口を開いて大きく喘いでいる。表情の強張り具合を見るかぎり、本当なら歯を食いしばりたいんだろう。だが体力を消耗しすぎている上に、腹部を押し込まれる苦しさもあって、仕方なく大口を開いている感じだ。
 歯を食いしばれないのは致命的だ。人は奥歯を噛み締めてはじめて、苦痛に耐えることができる。その口を開いてしまえば、身体に芯は通らない。ふやけた体では、快感の濁流に抗えない。溺れるしか、ない。
『ああああ゛イグっ!! だめええいぐいぐいぐっ、すっっごいイっぢゃううう゛ーーーーッ!!!!』
 沙綾香は喉の奥から絶叫を迸らせ、舌を出しながら喘ぎはじめる。
『ううわ、うるっさ!』
『なんか犬みたいだね、ハッハハッハ喘いでさあ』
『ビッチの本性出たねー。あの腰も、ちょっと下品過ぎない?』
 未知の絶頂に震える沙綾香を、女共は容赦なく笑った。颯汰もゲラゲラと笑っている。そんな中、ふと場違いな声色が混ざった。

『…………あ、あの…………!』

 腹を抱え、手を叩いていた一同が、動きを止めて一点を見る。視線の集まる先は、カメラの方だ。
『どうしたの、祐希?』
 颯汰が髪を掻き上げながら問う。沙綾香も激しく喘いだまま、横目で見上げる。
『……そ、その、颯汰さま。もう、いいんじゃないでしょうか。沙綾香は、その、反省……してるみたいですし……』
『そう? 追い詰められて変になってるだけで、反省してる感じはしないけど。なに、オトモダチが苦しんでるの、見てらんなくなった?』
 颯汰が問い詰めると、祐希は言葉に詰まる。奴隷として、颯汰の機嫌を伺う癖がついているんだろう。それでも、祐希は深呼吸して言葉を続ける。
『沙綾香に負けたのは、私が不甲斐なかったからです。だから、罰なら私に!』
 祐希の言葉に、沙綾香の瞳が揺らぐ。颯汰は逆に、静かな眼差しで祐希を見つめていた。
『なるほど。でも、ダメ』
『そ、そんな!』
『言ったでしょ、これは俺とこの女の喧嘩だって。今はその喧嘩の罰ゲームをしてるだけ。だから、この女が受けるのが筋なんだよ。もちろんお前にも、審査会に負けたお仕置きはするよ。この女が気絶した後で、じっくり再調教する。だいぶキツめにやるから、覚悟決めときな』
 颯汰はそこで言葉を切り、沙綾香を突いて呻かせる。お前もこうなるぞ、と眼で訴えながら。
 一方の沙綾香は、また絶頂に追い込まれつつも祐希の方を見つめていた。言葉がなくともそこには、親友への感謝の気持ちが見て取れる。
 悪意一色の世界に灯った、僅かな光。それが沙綾香の支えとなることを、祈らずにはいられない。

 

                 ※



『あ゛はあ゛ァあ゛んああ゛っ! あああふっ、ッあ゛あぁあ゛あ゛あ゛ーーー!!!』
 映像内で響く声は、完全に悲痛な泣き声になっていた。蚊の鳴くような声と割れんばかりの大声が、滅多矢鱈に吐き出される。
 相手がそれほどの反応をしていても、颯汰は責めを緩めない。布団に突っ伏す沙綾香の背中を押さえつけ、ひたすらに奥を突き回していた。それがどれほど酷かは、場の状況を見れば判る。沙綾香が今犯されているのは、布団から完全にはみ出した畳の上だ。男の腕力で押さえ込まれながらも、そんな場所にまで這いずり出した。よほど死に物狂いで暴れない限り、そうはならない。
『ふぁあ゛ああ゛アあ゛ッ、ふうう゛うう゛んんん゛っ!! ん゛ーーっ、んん゛ーーーっっ!!!』
 喉だけを震わせて声にならない呻きを漏らし、それを最後に沙綾香の反応が途絶える。
『気ぃ失った?』
 颯汰が尋ねると、ギャラリーの1人が屈みこみ、沙綾香の濡れた海藻のような髪を掴み上げる。沙綾香は、ボロボロだった。汗に、涙に鼻水、涎。出せるだけの体液を垂れ流している感じだ。だが、意識はある。
『まだ活きてま~す』
 女はそう報告すると、沙綾香の顔にブッと唾を吐きかけ、汚らしそうに髪を離す。ほんの数秒髪を掴んでいただけで、女の指からは雫が滴った。
『へーぇ、まだ意識あんの。なに、友達の見てる前では気絶したくないって頑張ってるわけ? それとも快感に滅茶苦茶耐性あんのかな』
 颯汰は笑いながら、沙綾香の腰を掴んで尻を上げさせる。
『はい、じゃあまた深イキね。いち、にー、さーん。いち、にー、さーん』
 うんざりするほど聞いた三拍子が、また始まる。ただ耳障りなだけじゃない。それが口にされる時、沙綾香はいつも酷い絶頂に追い込まれる。
『あっ、ハァッ、かはッ! んッ、あ、はああッ!! あッ、あん、んんあ゛ああ゛ッ!!』
 颯汰の三拍子と同じリズムで、絶頂の声が響き渡る。尻だけを高く掲げた股の間から、ポタポタと愛液が滴り落ちていく。
『はっ、はっ……祐希。次こっち』
 沙綾香を激しく犯しながら、颯汰がカメラに向かって呼びかける。頭を振って後方を指すのは、背後から撮れという合図か。
 カメラが主役2人の背後に回る。布団に膝をつき、尻だけを高く掲げた沙綾香の尻。大きく腰を落とした中腰のまま、その沙綾香を犯す颯汰の尻。どちらも異性を虜にするだけあり、シミの一つもない美しい肌だ。だからこそ、濡れ光る中央部に出入りする赤黒い逸物は、毒々しさが際立っていた。
『ちゃんと撮っとけよ』
 颯汰は祐希に向けて念を押すと、前傾姿勢になりながら畳に手をつき、沙綾香に覆い被さる。そしてそのまま、ハイペースで腰を振りはじめた。チュプチュプという音が響きはじめ、沙綾香の膝下が跳ね上がる。
『あはっ、あ、あ、ああぁ奥うっ、おぐううっ!! 奥があっああああ゛っ!!!』
 震える声色で、狂ったように「奥」を連呼するのは、突き込みが格段に深まったせいだろう。背後に密着したまま、ほとんど真上から打ち下ろすようなピストンが、浅かろうはずがない。三拍子からの突然のペースアップも相まって、沙綾香は混乱の極みだろう。
『あ゛っ、ああ゛っ、うあああ゛っ……!!』
 何度も真上から突き込まれるうち、泣くような声と共に、沙綾香の腰の位置が下がっていく。颯汰はその崩落を瞬時に察して、一番の奥まで突き込んだまま腰を止めた。
『あああああッ!! いいいぐっ、そこ、とめ……ッく、奥はあイグ…うう゛ああああああッ!!!』
 沙綾香の叫びは、もう言葉の体を成していない。その叫びの直後、下腹から足指の先までがブルブルと震えはじめたのを見れば、それにも納得がいく。十番勝負でも目にした震え。端塚はあの骨盤周りの痙攣を、ポルチオでの深い絶頂に伴う筋収縮と言っていた。
 颯汰もそれをよく承知しているようだ。奴は逸物で膣の奥を縫い留めたまま、なおも震えつづける沙綾香の下腹に手を宛がった。体外からのポルチオ圧迫だ。
『ふぁあえああ゛あ゛っ!!?』
 沙綾香から混乱しきった叫びが漏れた。どれほど辛いのか、と想像する間もなく、答えが視界に飛び込んでくる。沙綾香の下腹の震えは、一気に強まった。尋常じゃない。透明な電気マッサージ器でも押し当てられているような震え具合だ。
『あっはははっ、すっげえ!』
 颯汰が勝ち鬨にも似た声を上げる。それとほぼ同時に、奴の腰は浮いた。あまりの衝撃に、沙綾香の尻が跳ね上げたんだ。
『おっ、お、やんじゃん!!』
 カメラに映ってもいない颯汰の顔が、笑ったのが解る。奴は跳ね上がった腰を戻すと同時に、『両手で』子宮付近を押さえ込む。そうして子宮の逃げるスペースを完全に潰した上で、一切の容赦なくピストンを始めた。腹の肉と尻肉がぶつかり、ばちゅばちゅと鈍い音を響かせる。
『あ゛あ゛あ゛あ゛っ!! あやあああ、ひぐあらぁいでええ゛ーーーっ!!!!』
 言葉にならない叫びが空気を震わせる。脚は激しく痙攣しながら、おそらくは逃れたい一心で畳を蹴り続ける。颯汰は激しくピストンを叩き込みながら、自分の脛で沙綾香の脚を踏みつけ、抵抗を封じていた。そうなれば、沙綾香はもう潰されるだけだ。
 颯汰が真上から逸物を叩き込むたび、沙綾香の腰が降りていく。腹が畳につくまで、6ストロークとかからない。颯汰はそこで、ダメ押しとばかりに何度も突き込んでから、また一番の奥をグリグリと刺激しはじめる。
『ふぁああうう゛う゛っ…………』
 沙綾香は、ついに叫ぶことすらしなくなった。消え入りそうな声で、か細い泣き声を漏らすばかりだ。逆に割れ目の付近は戦慄いている。怖いぐらいに痙攣しながら、やめてと訴えるように左右に揺らぐ。
 颯汰は腹に宛がった手と逸物で、強引にそれを押さえ込んでいた。ガスであれ炭酸であれエネルギーであれ、噴き出そうとするものに無理矢理蓋をすれば、その行きつく先は器の決壊だ。
『うわ、顔やば!』
 最初に声を上げたのは、沙綾香の真正面にいたギャラリーだ。続いてその横の娘も、口に手を当てて笑い出す。
『アハッ、白目剥いてる! しかも、泣いちゃって……よく気絶しないよね、これで!』
 言葉は時として残酷だ。直接見えなくとも、その物言いだけで、沙綾香の現状がまざまざと思い描けてしまう。
 ギャラリーが大笑いする中、沙綾香は震えながら顔を持ち上げる。
『も、もぉイキたくない゛……!』
 掠れ声で告げられるその言葉は、あまりにも痛々しい。だが、颯汰が同情する様子は微塵もなかった。
『何言ってんの。まだポルチオ逝きの状態、2時間ぐらいキープしてるだけじゃん』
 悪びれもしない、とはこのことだ。奴にはひょっとして、本当に罪の意識というものがないのかもしれない。
 絶頂なんてものは、ほんの数分持続するだけでも体力を根こそぎもっていかれるものだ。それを、2時間。
『だ、“だけ”って……それが、どんなにしんどいか……!』
『いやいや、“だけ”だよ。君、体力なさすぎ。祐希見習ってスポーツでもやんなよ。あ、セックスで有酸素運動でもいいよな。これとか、ちょうどいいトレーニングじゃん!』
 颯汰はそう言いながら、脱力した沙綾香をひっくり返した。そして足首を掴み上げ、強引に股を開かせて犯しはじめる。
『んっぐ、ぐうっ! んぐうううっ…………!!』
 沙綾香は歯を食いしばり、髪を振り乱しながら苦しんでいた。颯汰はそれを見て笑みを浮かべ、ギャラリーの方を向く。
『どう? 同じ女として、こういうのって』
 そう質問されると、女共にも意地の悪い笑みが伝染した。
『えー、どうっていうかあ……』
『おマンコがヒクヒクしててキモイでーす!』
『同じくー。女子高生でこれとか、マジでオワってると思いまーす!』
 リップの光る唇から吐き出される、憎しみに満ちた言葉。それを耳にして、沙綾香の顔がさらに歪む。
『あーあ、ひでえ言われよう。ま、オレもそう思うけど』
 颯汰は嘲りながら、沙綾香の脚を肩に担ぎ上げる。そして体重をかけ、玉袋が割れ目に密着するほどの深さで犯しはじめた。
『あああっ、や、やだっ、やめっ、だめえ゛っ!! ああ゛っ、ああがっア゛、はぐっ……ぅううあだめええ゛え゛っっ!!!!』
 沙綾香は当然絶叫し、腰を左右に揺すって逃れようとする。だが颯汰は、畳に膝をついてそれを阻止しつつ、執拗に奥を虐め抜く。
 暴れ方が酷いタイミングと、奥をグリグリと押し込まれるタイミングが重なれば最悪だ。
『やあ゛あ゛だめえ゛っ!!!』
 悲痛な叫びと共に、担ぎ上げられた足裏が空を蹴る。続いて尾てい骨付近が引き締まり、最後に尻のラインに沿って透明な液が垂れ落ちていく。たぶんそれは、不自由な出方をした潮だ。事実その後は、抜き差しに伴う音の水気が増した。クチュクチュクチュと、水の入った壷を指で掻き回すような音がする。
『どうだ。ずっと絶頂キープされて、ハメ潮しまくって。いい加減、自分が股のユルいビッチだって自覚できたろ? オレに喧嘩売る資格なんて無かったよなぁ!?』
 颯汰の言葉遣いが荒くなる。奴はそうして本性を表しつつ、明らかなトドメに入った。担ぎ上げた両脚を解放し、仰向けの沙綾香に覆い被さる形になる。
 その次に始まる動きは、腰を前後に振るピストンじゃない。腰を奥に押し付けたまま、緩やかに円を描くような動き。亀頭とカリ首を使って、子宮口付近を『練り潰して』るんだ。俺も沙綾香を抱いた時、無意識にやったからわかる。あれは効く。しかも今のあれは、2時間に渡って中イキを継続させた末の責めだ。
『はああ゛あ゛っ!! おお、おくは、奥はやめて、ほんとにい゛っ! 大袈裟じゃないの、腰がぶるぶるして止まんない!! 頭が、ヘンになるう゛っ!!!』
 沙綾香は、太腿から先を震わせながら、恐怖に顔を歪めていた。だが、颯汰は容赦をしない。両手を伸ばして沙綾香の尻を抱えつつ、自ら腰を左右に振って奥を抉り回す。
 挿入したまま腰を揺らせば、どこかで必ず致命的なスポットを補足される。颯汰は沙綾香の反応を探り、悲鳴が大きくなったところで『練り潰し』に戻っていた。沙綾香の尻を抱え、逃げを許さないまま。
『はあああ゛っそこだめ、そこはだめええ゛え゛ッッ!!! あああだめっダメ、そごやだあ゛あ゛あ゛あ゛っっ!!』
 沙綾香は激しく首を振りながら涙を流す。苦しいのかもしれないし、悔しいのかもしれない。いずれにしても、彼女はもう逃げられない。全ては颯汰の手の上だ。
『許してほしかったら、謝ろう。ごめんなさいってさ』
 颯汰は腰をうねらせながら、沙綾香に囁きかける。すでに半狂乱の状態すら越えつつある沙綾香に、それを拒める余力はない。
『ごめっ、ごめんなざい゛っ、ごめんなざいいい゛っっ!!』
『もっと、皆にも! ここにいる全員が見てたんだから』
『ごめんなさいっ、ごめんなさいっ!! はーっ、はーっ……ごめんなさいっ、ごめんなさいっ、ごめんなざいい゛い゛い゛い゛っっ!!』
 颯汰のみならず、ギャラリーの女達にさえ媚びた視線を送りながら、沙綾香はひたすらに謝り続ける。その無様さと、いよいよ病的になりつつある痙攣を、颯汰と女共が散々に嘲笑う。この世にこれ以上愉快なものはない、と言わんばかりだ。
『ご、ごえんな……ひゃ…………あはひっ、ほっお、おほっ……お゛、おッ…………!!』
 最後の最後、沙綾香は痙攣しながら『お』行を発しはじめた。極度の快感に晒された時、人間がどうしても発してしまう声。
『あっははははっ!! やだ、何あれ!?』
『うーわ、キモッ。おおお、とか言って。女捨ててんじゃん!』
『いくらビッチっていっても、限度があるよねー。引くわー』
 すかさず叩きつけられた悪意の言葉を、果たして沙綾香は認識しただろうか。彼女は、あれだけ憎んでいた颯汰の肩にしがみつきながら、天を仰いでいた。よく見れば、白目を剥いてもいるようだ。
『…………もしもーし。とうとうブッ飛んじゃった?』
 颯汰は沙綾香の様子に気付き、頬を叩く。それでも沙綾香の瞳は戻らない。黒目を半ば瞼に隠したまま、危険な痙攣を繰り返している。それを見た颯汰は、苦笑しながら逸物を引き抜いた。
『颯汰さまぁ。どうでした、その女?』
『全然気絶しませんでしたねー。弱音は吐きまくってたくせに』
『こんな女より、あたしらの方がいいですよね。ねっ、颯汰さま!』
 ギャラリーが口々に問うと、颯汰は汗に濡れた髪を後ろに撫でつける。
『誰か、後で口直しの相手してくんね? マジでストレス溜まったから、オレの事めっちゃ褒めてくれるコ募集! 候補多かったらジャンケンね』
 颯汰はそう誘いをかけ、女が奇声を上げながら権利を奪い合うのを脇目に、カメラへと近づく。正確には、今も棒立ちでカメラを構えている祐希にか。
『……祐希。お前の友達、マジで雑魚かったわ。セックスには慣れてねぇ、けど清純ってワケでもねぇ。オレが直々に調教してやったってのに、あんな中途半端なクソに負けてんじゃねぇよ!』
 颯汰はカメラの至近にまで迫り、腕を伸ばす。
『再教育、キツめにいくぞ。覚悟しとけ』
 その言葉を最後に、カメラの映像は切れた。スイッチを切られたのか、それとも壊されたのか。不穏ではある。だが俺はそれ以上に、沙綾香の安否が気がかりだ。
 終わり際の彼女は、どう見ても異常だった。脳が快感で焼き切れていたとしても、何の不思議もないくらいに。



                 ※



 モニターが暗転してから数十分後。颯汰が、丸裸の沙綾香を連れて地下19階に戻ってくる。
「遅ぇぞ」
 灰皿で煙草を揉み消しながら、手越が入口を振り返る。
「あはは、すんません手越さん。ちょっとハリキリ過ぎちゃって」
 颯汰は謝りつつも、軽薄な笑みを消さない。
「ったく。ま、なかなか楽しませてもらったがよ」
「え、マジっすか!? どうやって……あ、祐希の撮ってたビデオで? やー嬉しいなあ、手越さんに褒められるとか。手越さんに教わったテク、何個か使ったんすよ。3拍子の『条件付け』とか、追撃ピストンとか」
 映像内での俺様ぶりとは一転、手越に子犬のような態度を示す颯汰。手越は満更でもない顔で笑いながら、颯汰の手元へと視線を向ける。
「その結果が、それって訳か」
 颯汰に抱えられた沙綾香は、まだ自力で歩くこともままならない様子だ。上気した赤ら顔に、尋常でない汗。長湯で上せたような状態が、まだ収まっていない。
「そっす。2時間ぐらい中イキキープさせたんで、まだバリバリ余韻の最中っすよ」
 颯汰はそう言って、沙綾香を近くのソファに投げ捨てた。
「きゃっ……あ、はっ!?」
 沙綾香は悲鳴を上げながらソファに尻餅をつき、その瞬間にまた震え上がる。腰のみならず、足指の先まで痙攣するその震え方は、ポルチオ絶頂……つまり『中イキ』の特徴だ。
「なるほど。確かに余韻に浸ってやがるな」
 手越は可笑しそうに笑い、椅子から立ち上がる。
「よし。ちょうどスッパダカなんだ。そのまま朝まで輪姦(マワ)されてろ」
 無慈悲な手越の言葉に、沙綾香が身を強張らせる。
「やっ、今は無理っ! ちょっと休ませて、今身体がヘンなの!」
「ダメだ。あいつら見てみろ、とうに我慢の限界だ」
 手越は首を振りながら、鉄格子の方を親指で示す。
「ヘイジャパニーズ、早く来いよ!」
「コックが膨れてたまんねぇ! 早く楽にさせてくれ!!」
「そんな野郎の物じゃ満足できなかったろ? オレのフランクフルトをご馳走してやんぜ、たっぷりとよ!!」
 掴んだ鉄格子を揺らしながら、調教師共が叫ぶ。確かに我慢の限界らしい。もともと騒がしい連中ではあるが、モニター越しに颯汰の責めを見て、余計に興奮したんだろう。
「やだ、やだっ……!!」
 沙綾香は首を振って嫌がるが、手越の力には抗いきれず、強引に鉄格子の中へと放り込まれてしまう。

 モニターが点灯し、隔離部屋の様子が4画面に映し出された。どの角度のカメラにも、黒人共に取り囲まれる沙綾香が映り込んでいる。
「へへへ、もうメスの匂いさせてやがる!」
「ああ、たまんねぇ!!」
 黒い腕が、背後から尻肉を鷲掴みにし、左右から乳房を揉みしだく。
「やめて、お願っ……んうう゛っ!?」
 沙綾香の拒絶の言葉は、あっという間に封じられた。ダーナルがいきなり唇を奪ったからだ。
「んんッ、ふッ……むっ、ふぅ…ん、はっ……!」
 しばらく唇を密着させたところで、ダーナルは口を離す。
「へへへ、美味ぇ口だぜ。昼間、自分からキスしたってことはよ、解禁でいいんだよな?」
 ほくそ笑むダーナルの問いに対し、沙綾香は何も答えない。肯定しない代わりに、否定もしない。
「ノーと言わねえってこたあ、イエスと取るぜ!」
 ダーナルは左手で沙綾香の顎を掴みつつ、またキスを迫る。今度は唇を密着させるだけでなく、舌まで潜り込ませているようだ。
「れあっ、あえっ……」
 沙綾香はくぐもった声を漏らすものの、逃れようとはしない。自分で引いた一線を越えて、吹っ切れたんだろうか。あるいは颯太に負けたショックから、まだ立ち直れていないんだろうか。
 ダーナルはそんな沙綾香の口を貪りながら、割れ目に指を捻じ込んだ。
「ううう゛っ!」
 沙綾香も流石に目を見開く。ダーナルの二本指が蠢き、グチュグチュと音を鳴らしはじめると、呻きも苦しそうなものに変わっていく。
「すげぇ音だ。こいつ、もう濡れてやがる!」
「ああ。無理矢理キスされて、指でマンコいじられて。大した変態女だぜ!」
 沙綾香を囲む他の連中も下卑た笑みを浮かべ、乳房や尻肉を力任せに変形させる。
 
 過激なスキンシップがしばらく続いた後は、いよいよ輪姦が始まる。
 まずは滾りに滾った欲望を叩きつける、『ラッシュ』の時間だ。一人が床に寝そべって膣を犯し、同時に背後から別の一人が肛門に挿入し、前の一人も口に咥えさせる。そうして3人一組となって、ひたすらに“穴を使う”。
「おごっ、お゛……もごおっ、おおお゛え゛っ!!!」
 鼻が上向くほどの開口を強いるイラマチオ。当然、それに対するえずきが起こる。だが今の沙綾香には、それ以外の問題もすでに起きているらしい。
「うははっ、すげぇ! ポルチオがよぉ、プルンプルンになってやがんぜ! 煮込みまくった牛スジみてぇだ!」
 歓喜の声を上げたのは、下から膣を突き上げるレジャナルドだった。同じ挿入でも、颯汰のそれとは迫力がまるで違う。
「プルンプルンだぁ? コリコリじゃなくてか?」
「違ぇよ! もうよ、前ン時とは別物みてぇに蕩けきってやがんだ。多分こりゃ、あの映像にあった責めのせいだぜ」
「そういや、あの女みてーなガキが、やたら奥を刺激してやがったからな。アレでほぐれたってわけか」
「ああ間違いねぇ。ジャパニーズってなぁみみっちい作業が得意だからな。おかげで、いい感触味わえるがよお!!」
 近くにいる仲間と会話を交わしながら、レジャナルドは上機嫌で腰を振る。
「もごっ、おおお゛っ!! おっ、おおごっ、おも゛ぉっ…………!!」
 沙綾香は膣を突き上げられるたびに、えずきながら震え上がる。視線が何度も割れ目に向く。
「ぷはっ! はぁっ、はぁっ……おねがい、おねがい……奥、突かないでっ……!!」
 少しでも口が自由になる度に、哀願を繰り返してもいる。
 その異常性……あまりにも楽しげなレジャナルドの態度と、沙綾香の反応は、他の調教師にもポルチオへの興味を抱かせた。
「よお兄弟、早く替われよ。俺にもトロけたポルチオを味わわせてくれ!」
 目を血走らせ、怒張を扱きながらそう要求する人間が後を絶たない。
「ガハハハッ、なんだよこりゃ! ホントにこりゃすげぇなあ!!」
「よく濡れたプッシーは散々味わってきたが、こんなのは初めてだぜ!」
「まだまだヘバんじゃねーぞ。朝まで可愛がってやるからな!」
 驚きの声を上げながら、入れ替わり立ち替わり膣を犯す。
 それを一方的に受け続ける沙綾香の様子は、いつになく異様に見えた。全身の震えが普通じゃない。絶頂に伴う痙攣ならこれまでにもあったが、今は抜き差しを繰り返される間、常に震え続けている。
 特に『ラッシュ』の終盤、足首を掴み上げての二穴責めで見せた反応は凄まじかった。
「かはッ、あ、ああお゛っ!! え゛あっ、ええ゛あああッッ!!!」
 両膝を何度も屈伸させ、腰を上下させながらの絶叫。口には何も入っていないはずなのに、叫び声は痰が絡んだように不明瞭だ。
「おーおーおー、すんげぇツラしやがって。俺らに二穴ブチ犯されりゃ、大体の女がひでぇツラになるが、そん中でもこりゃ傑作だな!」
 沙綾香の顔はちょうどカメラの死角で見えないが、膣を犯すモーリスの言葉だけで十分すぎる。


                 ※


 その後も輪姦は続き、10人が2巡ほどしたところで『ラッシュ』は終わる。ただしそれは、欲望を発散して人心地ついたからじゃない。今日の黒人共は、立て続けに2、3発射精してもまだ完全な勃起状態を保っていた。颯汰の責めに触発され、いつになく滾っているらしい。輪姦をやめたのも、「あの映像のようにじっくりと責めたい」という総意からだ。
 おそらく沙綾香にしてみれば、輪姦されていた方が楽だっただろう。一対一で犯されはじめた彼女を見ていると、そう思わずにはいられない。

「ああ゛あ゛あ゛ーーっ、ダメえっ、だめえっ!! あぁああはっ、おくっ、ふっ、太い……あ゛、あ゛ーーーッ!!」
 沙綾香は、悲鳴を上げつづけていた。テーブルに突っ伏す形で、背後から犯されながら。
「すげぇな。奥が痙攣しっぱなしだぜ」
 トラバンが腰を打ち込むたび、木のテーブルが軋み、すらりと長い脚が痙攣する。ハの字に開いた脚の間から、ポタポタと愛液が滴る。
「くはあっ! はっ、あはっ……は、お゛っ…………!!」
 今また痙攣が大きくなり、沙綾香が口を開いた。舌を突き出し、『お』行の喘ぎを漏らしながら。見覚えのある顔。元力士のダリーに犯されている時にそっくりだ。それだけ子宮口が弱くなっているんだろう。
 そのインパクトの大きさは、傍で見守る他の黒人共をも調子付かせる。
「へへへ、すげぇな。オイ、そろそろ『アレ』やろうぜ」
 マーキスがそう言って、沙綾香の脚を持ち上げるジェスチャーをする。
「ああ『アレ』か。そういや、この女にゃあまだだったな」
 トラバンにも意図が通じたらしい。奴は沙綾香の身体を木机から引き離し、部屋の中央に向かって歩かせはじめる。
「や、なに……!?」
「ちっと場所変えるんだよ。手足がぶつからねぇようにな!」
 トラバンは不安がる沙綾香の腰を掴み、ピストンを再開した。パァンパァンと肉のぶつかる音が響く。
「や、もう……立って、らんない……!!」
 沙綾香は脚を内股に閉じ、凍えるように震えさせる。どれだけの快感が下半身を巡っているのかが、容易に伺い知れる反応だ。
 そんな中、沙綾香の左右にマーキスとジャマールが近づいた。奴らは不穏な笑みを湛えながら、犯すトラバンとアイコンタクトを交わし合う。そして、トラバンの突き込みで沙綾香の腰がまた震え上がった、その時。マーキス達が、素早く沙綾香の足を取った。足首を軽く浮かせる程度にだが、必死に踏ん張っていた沙綾香にとっては予想外だ。
「ひゃっ!?」
 驚きの声を上げるのも無理はない。だがその声が消えるよりも早く、足首は再び地面に叩きつけられた。左右同時に、思いきり。
 ダンッ、という音が響く。
 俺には一瞬、何が起こっているのか判らなかった。黒人連中がよくやる、髪を掴んだり、尻肉を掴んだりといった嫌がらせの一種かと思った。だが、それは看過できない行為だ。俺がそれに気付いたのは、一秒後の沙綾香の反応を見てからだった。
「ふあ、あああ、あ……っ!!?」
 身の毛がよだつ。まさにその表現が相応しい。沙綾香は目を見開き、全身を震え上がらせた。下から上へ。足首から、頭頂部まで。雷に打たれた人間を逆再生で見れば、ちょうどあんな風かもしれない。
「はっ……は、はっ……はっ、はっ…………」
 衝撃が突き抜けた後も、沙綾香の状態は不穏なままだ。目を見開き、口を完全に開ききったまま、完全に静止している。いや、よくよく見れば、全身が細かに震えつづけているようだ。
「おやおや、あれはキツいですよ」
 おれの前で、端塚がほくそ笑んだ。そして視線を向けた俺に対して、どこか自慢げに解説を始める。
「ポルチオアクメで足指の先まで痺れている状態で、ああして足の裏を思いきり地面に叩きつけると、痺れが増幅するんです。その強い痺れは、両脚を伝ってポルチオに帰っていく。すると脳はそれを、凄まじい快感として誤認するんです。人間の脳は精密機械のように繊細な一方で、案外騙されやすいですからね」
 端塚の言う通り、沙綾香は達したようだ。誰の目にも明らかなほどに。
「はッは、イッてやがる!!」
「足元からジーンと快感が上ってきて、堪んねぇだろ!」
 マーキス、ジャマール、トラバンの3人が、そしてそのさらに外側にいる連中も、手を叩いて沙綾香を笑う。笑っていい状況なのか。あの、凍り付いたように立ち尽くす沙綾香の状態は、あっていいものなのか。
 違う、と思う。なぜなら、黒人共があんなに嬉しそうだから。あいつらの喜ぶ状況が、俺達にとって望ましかったことなど一度もない。
「そーら、ドンドン行くぜぇ!!」
 3人の悪魔が笑いながら、洒落にならない悪戯を再開する。激しい音を立ててピストンを繰り返し、沙綾香の脚が震えたタイミングで足首を浮かせ、地面に叩きつける。その繰り返しだ。
「ひゃっ、はぐッ! やあっ、あひゃ、くう゛う゛っ!! はぁっ、はぁっ……もっ、やめ゛……あは、…………あ゛っ……!!!」
 沙綾香は何度も足元から震え上がり、ついには足をガニ股に開いたまま飛沫を散らした。
「ガハハハハッ、潮噴きやがった!」
「ああ、しかも見ろよ、まだイッてやがる! ガニ股で潮撒き散らしながらイクとかよお、よっぽど深ぇアクメだったらしいな!」
「立ったまま潮噴いてイキ散らす気分はどうだ、ビッチ女!?」
 黒人共は体を揺らしてゲラゲラと笑う。そこに同情の色はない。沙綾香を少しでも普通でない状態にするのが、心底可笑しいといった様子だ。
 そんな連中だから、沙綾香が棒立ちのまま実質気絶している状態でも、休ませることなどない。

 トラバンが後背位でしっかりと射精すれば、次はドミニクが沙綾香を抱え上げる。『フロリダの暴れ馬』を自称するあの男は、女を抱え上げてのセックスを好む。ただし今回は、いつものように結合部を周りへ見せつける形じゃない。その逆、沙綾香と向かい合う形での立位だ。
 対面にした理由はすぐに判る。ドミニクは、沙綾香の表情を見たかったんだ。
「あっ、あっ、あっ……だめっ、だめええっ、だめっ…………!!」
 執拗なポルチオ責めに続き、先の悪戯、そして今の立位。それを立て続けに受け続けた沙綾香の声は、泣き声そのものだ。ドミニクの巨体が邪魔をして、その表情はどのカメラにも映らない。だがドミニクだけは、今の沙綾香の表情を真近くで拝めることになる。
「いひひひっ! オイオイオイ、そそるツラしやがって! 快感に蕩けて、睨むに睨めねぇってか? そいつはよ、俺らレイパーが一番興奮するツラだぜ!!」
 ドミニクは興奮のあまり声を裏返しながら、沙綾香の尻を自分の腰へと落とし込んでいく。暴力的なサイズの怒張が抜けるたび、中出しされた精液が飛び散り、奥まで叩き込まれるたび、沙綾香の足指が外向きに反る。
「ああああッ、もうっ……! ああああ゛、もう゛っ……!!」
 犯されながら、沙綾香は何度も同じ言葉を吐いた。かろうじて吞み込まれる『もう』の先は、どんなに胸を抉る言葉だろう。


                 ※


 沙綾香は、刻一刻と絶頂の味を覚えこんでいく。

 彼女は今、布団の上でダリーに組み敷かれていた。直径2メートルの肉塊が、少女に圧し掛かりながら犯しぬく。必死に堪える沙綾香だが、すでに余裕はなさそうだ。ダリーの盛り上がった肩にしがみつきながら、少しずつ顎が浮いていく。そして……
「あイックイクイクッッ!!!」
 歯を食いしばったまま、絶頂が宣言された。気丈さをわずかに残しながらの屈服は、惨めな印象が一際強い。
「すっかりイキ癖がついちまったな。昨日は、もうちっとガマンできてたのによ」
 ダリーはそう言いながら、恐ろしく太い怒張を引きずり出す。充血した陰唇が引っ張られて外に捲れる様は、何度見ても戦慄する。
「いい傾向じゃねぇか。俺らのペットなんぞ、ビッチじゃなきゃ務まらねぇ」
 ダリーと入れ替わりに、タイロンがベッドに上った。その怒張は自重がありすぎて、完全な勃起状態であるにもかかわらず、膝の辺りまで垂れている。
「や……今、そんなの入れられたら……!」
「入れられたら? 狂うか? うれし泣きしちまうか? どっちでもいいぜ。あったけぇ穴でさえあってくれりゃあよお!」
 タイロンが沙綾香の足首を掴み、大きく左右に開く。そうして180度近い開脚を強いてから、亀頭を割れ目へと押し当てた。逞しい尻が前へ動けば、メリメリという感じで規格外の剛直が入り込んでいく。
「あぐ、ううう゛う゛っ……!!」
 沙綾香の顔は恐怖に歪んでいるが、逆に割れ目の方は、順調に剛直を飲み込んでいた。直前までダリーの挿入を受けていただけに、ある程度慣らしが済んでいるのかもしれない。そうして一度受け入れてしまえば、どんな巨根も膨大な刺激を与える棒でしかなくなる。
 シーツを揺らしながらタイロンが腰を振る。勢いをつけて叩き込んだ時でも、ペニスは4割近くが外に露出したままだ。だが奴の馬並みのサイズを考えれば、奥の奥までを征服し、子宮を叩き潰していることは想像に難くない。それを裏付けるように、タイロンが腰を押し出すたび、沙綾香の太腿に尋常でなく力が入る。足指はぎゅっと握り込まれ、手もシーツを握りしめる。
「あっ、あ゛! あ゛あ゛っ、あひっ、あああ゛あ゛っ!!!」
 口から漏れる声は濁っていた。その声は、ぼんやりと聞いていれば、大きすぎる怒張に苦しんでいるだけのように解釈できた。だがそれが許されるのも、ほんの数分の間だけ。ふと気が付いた頃には、声の雰囲気はガラリと変わっている。
「ふああああっ、ふっ、太い、深いいい゛っ!! 太すぎるっ! こんな、こんなああああ゛あ゛ぁ゛っ!! いっでるっ、今イッてるからっ、そごだめええ゛え゛え゛ッッ!!!」
 天を仰ぎ、頭上のシーツを引き裂かんばかりに掴みながら、沙綾香はひたすらに絶叫していた。これを苦しみと解釈するのは、よほど勘の鈍い人間だけだ。
 たぶん彼女は今、秒以下のペースで絶頂している。タイロンが腰を叩きつけるたび、例外なく。
「いいぜ、いいぜぇ。プッシーで唾液たっぷりのフェラされてる感じだ」
 タイロンは沙綾香の両足首を掴んだまま、上機嫌で腰を叩きつける。何度もそうしていれば、いずれ沙綾香の脚が逃げ出したそうに暴れる。タイロンはそのタイミングで、思いきり腰を突き込んでいた。ペニスの露出部分が2割にまで減り、先端が内部を蹂躙する。
「っこおおおお゛お゛お゛お゛お゛っっ!!!!!!」
 沙綾香は、快感の声を我慢できない。後頭部をベッドにめり込ませながら、腹の底からの声を絞り出す。もしタイロンが足首を掴んでいなければ、両脚は寝台のヘッドボードを蹴り壊しているかもしれない。
「ひひひ、すげぇすげぇ」
 そんな沙綾香の反応を目の当たりにして、他の黒人共がじっとしているはずもない。まずはダーナルがベッドに這い上り、沙綾香の唇を奪う。続いてレジャナルドも、逆側から沙綾香の胸を揉みしだく。そうして、只でさえ余裕のない沙綾香をさらに追い詰めていく。
「ん、んぐっ、んんむ゛ううう゛うう゛ーーーっ!!!!」
 やがて、沙綾香は声を一段と悲痛な声を上げた。ダーナルから舌を絡めるキスを強いられ、タイロンに深々と犯されながら。
「はっは、すんげぇ声だ。このガキ、相当キスハメが好きらしいな」
 3人の黒人が、沙綾香を見下ろして勝ち誇った表情を浮かべる。その中心で沙綾香は、舌をはみ出させたまま、ただ呆然としていた。

 その所在無げな様子は、ソファでアンドレに犯される頃になっても変わらなかった。
 ソファへ腰掛けたアンドレの膝の上で、沙綾香の身体が上下する。颯汰の横にいればスーパーモデルに見えた彼女も、アンドレの腕の中では小学生と変わりない。そんな『小さな』少女が、腿を抱え上げて犯される光景は、今更ながらに犯罪的だ。
「あ゛っ、あ! う゛、ああ゛っ……だめっ、トン、じゃ……あっ、あ゛っ!!」
 沙綾香は、小さく呻き続けていた。快感の色の濃い喘ぎか、限界を訴える言葉。もうずいぶんと前から、彼女の口からはそれしか漏れていない。
 アンドレは、そんな沙綾香を明らかに弄んでいた。わざわざ腿を抱え上げているのも、沙綾香の脚を宙に浮かせ、踏ん張りを利かせないためだ。
 そして奴は、また動きを見せる。沙綾香の顎を掴み、強引に顔を上向かせてのディープキス。
「んぶううっ!? ら、らえっ! これ、仰け反って、頭がくらくらして……い、意識、が……っ!」
 沙綾香は白い喉を蠢かせ、目を白黒させて混乱しきっている。アンドレはキスを続けながら、さらに左手の指をクリトリスに伸ばした。
 絶え間なく中イキを続ける中、クリトリスまで刺激されれば、絶頂は避けられない。
「むうう゛っ、ふんん゛ん゛ん゛っ!!!」
 沙綾香は身を仰け反らせ、不自由な悲鳴を漏らしながら痙攣する。しかもそれで、またひとつ彼女のタガが外れたらしい。
「れああっ、はあっ、はああいぐううっ、逃げられないっ、逃げられないいいいっ!!!」
 涙を流しながら、新鮮な絶叫を迸らせる沙綾香。割れ目からブジュブジュと音が鳴っているところを見ると、『ハメ潮』を噴いているのか。
「いいぜいいぜ、キマってきたなぁ。っし、もう一段階上いくか!!」
 ジャマールが沙綾香の前に近づき、アンドレの怒張が入ったままの割れ目へと怒張を捻じ込みはじめる。
「らあああ゛っ!?」
「大好きな二本挿しだぜ。トロットロになったプッシーの奥で、たっぷり味わえよ!!」
 ジャマールは歯を剥き出しにして笑いながら、一切の容赦なく腰を振る。アンドレも同じく、しっかりと沙綾香の太腿を掴んで逃げを封じている。
「うわああ゛あっ、だめっ、だめええエエッ!! こんあの、おがしくなるっ、おがしくなっぢゃうう゛う゛っっ!!!」
 沙綾香は、二本の怒張が出入りする割れ目を凝視しながら、恐怖に震えていた。
 恐怖の、はずだった。二本挿しが始まってから数分は。
 だが、調教師が入れ替わりながら激しい二穴責めを繰り返される中で、少しずつ様子が変わっていく。

「ひぎィっ!! いひっ、ひぎいいいっ!! いっひ、いぐっいーっグウッ!!! イグイグイグイグッ、いっぐうううう゛んんっ!!!!」

 最後に見た沙綾香の顔。それは、俺のイメージする彼女の顔立ちとは、決定的なほどに乖離していた。
 左右の眼球が藪睨みのようにあらぬ方を向き、血と粘液の入り混じった液を鼻から垂らし、食いしばった歯の間から際限なく唾液を垂らす。

 狂っている。

 俺は、誰よりも愛する少女に向けて、ほんの一瞬そう思ってしまった。
 犯される彼女が、病的な痙攣を繰り返し、とうとう項垂れて失神する。そんな危険な状況を前にしても、俺は心のどこかでホッとしていた。気を失えば、あの異様な表情が中断されるからだ。
「へへへ、とうとう気絶しやがったか」
「ああ。完璧にノビてやがる」
 黒人共が怒張を引き抜き、沙綾香を床に放り捨てる。もはや意識のない沙綾香は、手足を広げたまま、潰れたカエルのような格好で倒れ込んだ。
「今晩も、大したザーメンタンクぶりだったな。プッシーから溢れてやがる」
 惨めな沙綾香を見下ろし、レジャナルドが嘲笑う。そして奴は足を上げ、背中側から子宮の辺りを踏みつぶした。
「る゛」
 沙綾香から低い呻きが漏れる。そして同時に、股の間からぶしゃっと何かが噴き出した。
 精液……じゃない。開いた脚の数メートル先まで飛び散った透明な液は、明らかに潮だ。
「はははははっ!! こ、こいつ、子宮踏み潰されて潮吹きやがった!!」
「ぎゃははははっ!! オイオイ笑わせんじゃねえよ! マジでクソビッチじゃねぇか!!」
 黒人共は目を見開き、これ以上可笑しい事はないとばかりに笑いに笑う。だが俺には、そんな笑い声はどうでもいい。
 意識も碌にない状態で、子宮を踏みつぶされて絶頂したんだ。
 あの初々しかった沙綾香が、それほどまでになっていること。そこまでにされてしまったこと。その事実が、ただ、ショックだった。


                        続く

 

二度と出られぬ部屋 最終章 オーバードーズ Part.3(前半)

二度と出られぬ部屋 最終章 オーバードーズ Part.2の続きです。
文字数が多すぎるため、前半/後半に分割します。合わせて6万7千字程度です。
相変わらずお待たせしてしまい、すみません。
その分、濃厚な描写となったと思いますので、クリスマスプレゼントとしてお楽しみください!




 『檻』から出された後、沙綾香はベッドに倒れ込み、泥のように眠った。百合が体中を拭き清めている間も、目を覚ますことなく。地獄に堕ちた彼女にとって、唯一安らげる時間だろう。だが、それもすぐに終わる。昼が来れば、彼女は叩き起こされた。いよいよ、『審査会』の時間らしい。

 沙綾香がシャワーを浴び、桜色の肌を取り戻した頃。フロアの片隅にあるセンサーが緑に変わり、扉が開く。そこから姿を現した人間を見て、沙綾香は息を詰まらせた。
「……祐希」
 今日の『審査会』における対戦相手にして、親しい級友。
「やあ、沙綾香。元気そうだね」
 祐希の見た目は、エレベーターで初めて見た時と変わらない。かろうじて耳に掛かる程度のショートヘアに、ピンと伸びた背筋。クールで格好いい『王子様』だ。
 ただ……雰囲気は違った。前は、ぼーっと見ていれば本気で少年に間違いかねないほどだったのに、今はボーイッシュな“少女”だと瞬時に認識できてしまう。よく見れば、首筋にキスマークまでついている。
 その、あまりにも生々しい現実を前に、沙綾香が泣き崩れた。
「ごめん! 聞いてるだろうけど、祐希達がここに連れてこられたの、沙綾香の巻き添えなの。ホントに、ごめん!!」
 土下座に近い姿勢で詫びる沙綾香。祐希は驚いた表情を見せ、沙綾香の傍らに屈みこむ。
「顔上げなよ、別に沙綾香のせいじゃないだろ。それに私は、少しも沙綾香の事を恨んでないよ」
 その言葉で、沙綾香が目線を上げる。祐希はその視線を受け止めながら、柔和な笑みを浮かべた。
「私は、今幸せなんだ。颯汰(そうた)様が、私を愛してくださる。私を可愛いと言ってくださる。それだけで私は、温かい気持ちになれるんだ。この倶楽部に来なかったら、こんな幸せを知ることはなかった。そういう意味じゃ、むしろ感謝してるぐらいだよ」
 祐希の表情は穏やかだ。だが、見ていると妙に胸がざわつく。多分、目が狂信者のそれだからだ。
「また会えて嬉しいよ、沙綾香。でも、『審査会』では私が勝たせてもらう。颯汰様から教えていただいた奴隷の心得を、あの場で示さないといけないんだ。友達と争うなんて気が引けるけど……認められるのは、いつも一人なんだよ」
 祐希は眼を爛々と光らせて語る。どうやら本気で調教師に入れ込んでいるようだ。その先に待つものが、完全な自我の喪失だとも知らずに。
「…………祐希。そこだけは、あたしも譲れない。ごめん」
 沙綾香は、また謝罪を口にする。級友の妖しい瞳を見据えながら。



                 ※



 13時になれば、沙綾香と祐希は一旦部屋を出た。それから数分後、入れ替わりで客が5人入ってくる。中肉中背が2人、小太りが2人、肥満が1人。中年の日本人男性としては、ごく一般的な見た目だ。だが、ここ数日ケダモノじみた巨漢ばかり見てきたせいで、捕食される側の養豚にしか見えない。
 手越に促されて入室した客達は、物珍しそうに部屋を眺め回す。初見なら、誰もがこの空間に驚くだろう。入って左手には壁一面の鏡、正面には巨大モニター、右手には異様な空気を漂わせる鉄格子の間があり、上層からは俺達が見下ろしているんだから。
 客達は戸惑いながらもフロア中央に近づき、ベッドルームに散在する椅子の前で足を止める。
「さて、どこに座りますかな」
「私はNo.1309だが……そちらは?」
「No.695です」
「ほう、随分と古参の方ですな。これは上座をお譲りせねば」
 客はカードのようなものを翳しながら、何かのナンバーを比べているようだ。
「……なんだ、あれは?」
 俺が問うと、端塚が胸ポケットから一枚のカードを取り出す。
「この倶楽部の会員証です。地下20階のリラクゼーションエリアはどなたでも利用可能ですが、それ以外のフロアはこのカードを翳さなければ出入りできません」
 厳重なセキュリティが誇りなのか、得意げに語る端塚。だが、だとすると妙だ。
「俺は、そんな物持ってないぞ?」
「当然です、貴方はこの倶楽部の王なのですから。王が城に入るのに、許可など要ろうはずもございません」
 端塚は感情の読みづらい男だが、俺を称えている時だけは噓がないように思える。もっとも、いくら賞賛されたところで嬉しくない相手だが。

 端塚によれば、倶楽部はこの建物の地下10階から19階にかけて存在するらしい。地下10階から14階は『上層エリア』、地下15階から18階は『下層エリア』、そしてここ地下19階は『最下層エリア』。下に行くほどセキュリティレベルが高く、倶楽部側が信頼する客にしか入室権限を与えない。特にこの最下層エリアに入れるのは、選ばれたVIPのみだという。さながら、異常性癖者にとってのブラックカードというところか。
 下のフロアでは、そのVIP5人がようやく座る席を決めたようだ。フロア中央、横並びになったベッドに近い方を上座として、おおよそ年齢順に並んでいる。地下20階で渡される浴衣に身を包んだその姿は、ごく平凡な親父そのものだ。
「どうぞ」
 くつろぐ5人に、百合がカクテルグラスを手渡していく。
「ほう?」
 5人の男の目が細まった。百合の美貌に興味を示したらしい。
「君、奴隷が服を着たままサービスするものではない。脱ぎなさい」
 最前列に座る肥満男が、薄ら笑いを浮かべて命じる。
「失礼を致しました」
 百合は、その要求を覚悟していたのか、さほど動揺した様子もなく白衣に手を掛ける。まずはチュニックの前をはだけて脱ぎ捨て、ブラジャーを取り去る。美脚を揃えたままズボンを下ろし、ショーツをゆっくりとずり下げる。明らかに男を喜ばせることを意識した動作だ。
「ほう……さすがは地下19階の給仕だ。ストリップにも慣れている」
 5人のVIP客は、身を乗り出して百合の裸体に視線を這わせる。この上なく下卑た行為だ。百合はクールな美人だから、視線を向けてしまうのは解らなくもない。だが、あれほど露骨に覗き込むのは異常者のやることだ。こんな異常者共に、沙綾香は視姦され、あまつさえ評価されるのか。
 そのうちVIP共は、見るだけに飽き足らず、百合の身体に触れはじめた。背後から無遠慮に乳房を揉みしだき、脚を開かせ、股の間に指を入れる。そうされても、百合は反応を示さない。静かな瞳で、されるがままになっている。
「よく調教されているな。どれ、いつまで無反応でいられるか」
 男共はそう言って、目配せを交わし合った。一人が百合の膝裏を抱えて足を上げさせ、一人が念入りに指責めを始める。中指と薬指で膣内を力強く刺激するやり方──潮噴き狙いだ。
 中年男は、女慣れしてるんだろう。モニターに映る指使いには淀みがない。その責めを受け、百合の内腿がピクピクと反応する。
「どうだ、気持ちいいか?」
 百合の反応を視認しつつ、あえて問いかける男。
「……はい。良うございます」
 百合は、答えるまでに少し間を置いた。恥じているのか。その様子を楽しみながら、男は更に指を動かし続ける。
「中が蠢いてきたぞ。そろそろイクのか、うん?」
 指の動きが速まり、白い内腿を雫が伝う。軸足がぶるっと震える。
「……た、達します……っ!!!」
 百合はそう言って目を瞑った。その直後、割れ目からぷしゃっと飛沫が散る。
「ほほほ、よう出たよう出た。白い髪といい、素っ気ない表情といい、冷たそうな印象だったが……ツユはしっかり生暖かいぞ」
 男は愛液に塗れた手を翳し、百合の視線を泳がせる。そんな中、手を打ち鳴らす音が響いた。音の出所は手越だ。普段は半裸でいることが多い手越も、客の前とあって服を着ている。が、そのファッションがまた酷い。白スーツに、薄紫のシャツ。しかもシャツの前を開き、わざわざ胸元の入れ墨を見せつけている。ヤクザ特有の『舐められたら負け』という考えだろうが、いっそ半裸の方がマシだ。
「さすがはこのフロアにお越しのお客様だ。奴隷の扱いに慣れていらっしゃる」
 手越は丁寧な言葉遣いで褒めつつ、懐からあるものを取り出した。そしてそれを、一つずつ客に手渡していく。
「これは?」
 客の手元に渡ったのは、赤と青の押しボタンがついた小さな箱だ。
「『審査会』の投票ボタンです。何も難しい事ァありません。これから姿を現す二人のうち、いいと思った方のボタンを押してください」
 手越はそう言って、入口を指し示す。その指の先では、ちょうどセンサーの緑ランプが点灯し、扉が開くところだった。
 
 開いた扉から姿を現したのは、祐希だ。ついさっき見たばかりだが、印象は全く違う。制服を身に着けているせいだ。校章の入ったワインレッドのブレザーに、チャコールグレーのチェックスカート、紺のハイソックス。エレベーターで目にした時とは違い、首元に赤いネクタイまで付けた正装だ。そういう恰好をしていると、もう男子には見えない。
「ほおお、これがあの蒼蘭女学院の!」
「いいじゃないか。この中性的な見た目がまた!」
「お嬢様学校の麗人という感じだな。いやはや、これは!!」
 客は百合から離れて祐希を取り囲む。
「アハハッ、よろしくお願いします!」
 祐希は動じる様子もなく、屈託のない笑みを浮かべた。この社交性の高さは、さすが体育会系というところか。
「この子がいいと思った方は、青いボタンを──」
 手越が解説し終えるより早く、モニターから音が響く。
 4つに分割されたモニター画面は、いつの間にか様変わりしていた。下側2画面はフロア映像のままだが、上側の2画面は青と赤で色分けされ、左側の青画面には『3』、右側の赤画面には『0』と表示されている。どうやら客が赤か青のボタンを押すたびに、あそこに集計されていく仕組みらしい。今は青の祐希に3回投票された、ということか。
「ははは、早速ですかい。いや結構、その調子でいきましょうや。次の子は赤ボタンでお願いしますぜ!」
 手越は苦笑しながら、また合図を出した。
 緑ランプが点灯し、扉が開く。コインローファーがカッ、カッ、と音を立てる。
「うおお、ぉ────ッ!?」
「むうッ、こ、これは…………っ!」
 客達は、入口に立つ人影を見て言葉を失った。百合の時とも、祐希の時とも、明らかに反応が違う。
 今だけは、客達に心から共感しよう。あの反応で当然だ。
 8頭身のスタイルと、その魅力を最大限に活かすファッション。白ブラウスの首元を大胆に開いて妖しい色香を醸し出し、ワインレッドのブレザーと相性のいいピンクセーターで愛らしさを加え、マイクロミニのスカートと黒いニーソックスで脚線美を際立たせる。同じ制服姿だというのに、祐希のそれとは比較にならないレベルで華がある。
 モニターから立て続けに音が響いた。赤背景の画面に表示された数字は『7』。
「き、君っ! 名前は!?」
 客は我先にと沙綾香に詰め寄り、名を問いただす。沙綾香は一瞬警戒の色を見せるものの、すぐに人懐こい笑みを浮かべた。
「サヤでぇす。今日はサヤがご主人様達とセックスするのを、たっぷり観て楽しんでくださーい!」
 演技だ。そうと解っていても、俺は鼓動が速まるのを感じた。
 自分の魅力に無自覚な、天然の淫魔(サキュバス)──彼女の演じるそのキャラクターは、あまりにも魅力的すぎる。ふっ、と冷笑しただけで俺の心を掴んだように、今、5人の客が虜になったのがわかる。
「ふふっ、ふほほほほっ!! なるほど、サヤちゃんは今ドキの子か!」
「いやいや、最近の娘はけしからんなぁ! 未成年でこの発育とは!」
「大人びているというより、魔性とでも言うべきですなあ。単にスタイルのいい娘なら見飽きるほどに見てきましたが、この子を前にしていると、こう、少年時代にでも戻ったかのような……!」
 客達は完全に鼻の下を伸ばし、嬉々としてボタンを押し込む。モニターの数字が増えていく。悪くない展開だが、沙綾香は気付いただろうか。中年親父共にもてはやされるその後方で、祐希が苦い表情を見せている事実に。


                 ※


「アレが今日の客どもか!」
「ハッ。いかにもぬるま湯に浸かってそうなアジアン共だな!」
「おう、ワンパンでぶっ倒れそうだぜ!」
 VIP客が制服姿の沙綾香達に熱を上げている最中、訛りの強い黒人英語が響き渡る。
「なんだ、騒がしいな」
「まったくだ。何を喚いているか知らんが」
 客達はうるさそうに左を向き、固まった。
「う、おおっ……!?」
 沙綾香の時とは違い、恐怖に目を見開いている。
 その視線の先には、鉄格子に手をかけて喚き散らす黒人共がいた。ゴリラと見紛う体躯を誇り、股間に黒々とした巨根を反り立てるケダモノ達。それを見て臆さないはずもない。
「騒ぐんじゃねぇよ」
 客が絶句する中、ソファーに腰掛けていたロドニーが立ちあがった。タンクトップにカーゴパンツ、極太の金ネックレスという威圧的なファッションだ。
 奴は葉巻を咥えたまま鉄格子に近づき、扉を開け放つ。
 ゴリラさながらのガタイを誇る調教師が、一人また一人とホテル調のエリアに踏み入ってくる。
「へ、ヘロー……」
 客の一人が恐る恐る声を掛けるも、先頭のドミニクはそれを一瞥して黙らせた。
「おい、お客だぞ!」
 手越が叱りつけても、悪びれる様子すらない。10人でもって祐希と沙綾香を取り囲み、その威圧感で客を退がらせる。

「そこで指咥えて見てな、ジャパニーズ」
 立ちすくむ客達の前で、マーキスが沙綾香のブレザーに手を掛けた。そのまま引き裂きかねない力加減だ。
「乱暴にしないで、自分で脱ぐから」
 沙綾香が流暢な英語でマーキスに囁くと、客達が目を丸くする。英語など話せるはずもないバカ娘、と思っていたんだろう。
「オーライ。チャチャッと頼むぜお嬢様」
 マーキスが手を離すと、沙綾香は客の方へと向き直り、ブレザーを脱ぎ捨てた。意図的にか、それとも偶然にか。背を反らせて胸を強調するその姿には、妖精の脱皮を思わせる神秘性があった。
「ほおぉう……っ!!」
 客は前屈みで見入り、マーキス達も口元を緩ませる。
「よければブレザーを預かろう」
「あっ、ありがとうございまーす!」
 客に媚を売りつつ上着を手渡した沙綾香は、続いてセーターの前を開き、客の興奮を高めていく。そしてさらに、はだけたブラウスのボタンに触れ……そこで、ふと動きを止めた。
「……………………」
 緩んだ笑みが消え、生来の真面目さが顔を出す。彼女はふざけることも多いが、本質的な貞操観念は昭和の女のそれに近い。朝まで丸裸で黒人に輪姦されても、羞恥心は無くなっていないらしい。俺としては、それが嬉しい。だが、マゾであることを示すこの場では、その『まともさ』は足枷だ。
「どうした?」
 客が訝しんで眉を顰める。まずい状況だ。
「……あ、いえ。ちょっと、ドキドキしちゃって」
 沙綾香は笑みを浮かべ、改めてボタンに手を掛ける。正中線をなぞるように指先でボタンを外していき、前の開いたブラウスを、ゆっくりと左右に開いていく。
「ふおおお……っ!!」
「ほう、“わかっている”脱ぎ方だな!」
 少しずつ露わになる若い肌に、客は大興奮だ。上着がすっかりはだけ、ブラジャーまでもが取り去られれば、歓声が一段と大きくなる。
 前もって例のガスを吸わされているんだろうか。綺麗なピンクの乳首は、すでに少し尖っていた。
「おおおっ、立派な胸だよこれは!」
「素晴らしいな、乳首が桃の色だ!!」
「これほど色素沈着がないのも珍しい。日本人離れしたスタイルといい、出来すぎというか……観賞用に作られた超一流の人形のようだ」
「愛らしい乳首ですが、もう軽く勃起しているようですな。流石はマゾというところか」
 大いに沸く客達。沙綾香の背後に立つマーキスは、それを鼻で笑いつつ両の乳房を鷲掴みにする。
「んあ!」
 沙綾香は声を上げた。反射的にマーキスを睨み上げるが、すぐに表情を和らげる。
「あん。そんなに強くしないでよ」
「何言ってやがる。昨夜は朝までこうやって揉みまくってやっただろうが。掴んで、舐めまわして、吸って、それでお前もヨガってたろ? ここをピンピンにおっ勃ててよ!」
 そう言ってマーキスが乳首をつねると、沙綾香は眉を顰めた。唇を噛んで恥辱に耐えてもいた。だが客の視線を感じると、
「あはっ、気持ちいい……」
 そう囁く。上手く発声できなかったのか、蚊の鳴くような声で。マーキスはたぶん、今の日本語が解っていない。だが客の反応で意味を察したのか、嬉々として沙綾香の腹部に手を回す。指先はチェックスカートをまくり上げ、無遠慮にショーツの中に潜り込む。
「っ!!」
 沙綾香が眉間に皺を寄せるのと、ほぼ同時に、ぐちゅり、という音がする。『濡れている』音。もう疑いの余地はない。沙綾香は、ガスを吸わされている。
「もうグチョグチョじゃねーか、ああ?」
 マーキスは客に見せつけるように指を蠢かす。粘ついた音がし、沙綾香の脚が内向きに閉じる。
 モニターから音が響いた。赤背景の数字……つまり沙綾香の得票数はすでに『11』まで伸びている。そしてその下の映像は、まさに今、床からのアングルに切り替わった。沙綾香の痴態をほぼ真正面から捉える、絶妙のカメラ位置だ。
 すらりとした美脚を持つ沙綾香は、見上げる構図で映える。8頭身の圧倒的なスタイルは、床を踏みつけにする女王のようだ。だが、女王は巨人に掻き抱かれている。左の乳房を握りつぶされ、ショーツに指を入れられ。
 色黒な手の動きは、壁を覆うモニターの右下画面、2メートル四方ほどのサイズで大々的に映し出されている。その迫力を前に、客は息を呑んでいるようだ。
「どんどん蜜が溢れてくるじゃねえか、この変態が」
 マーキスはさらに指を動かしながら、沙綾香に囁きかける。
「脚、開けよ」
「…………ッ!?」
 続く囁きに、沙綾香が目を見開いた。マーキスは乳房を捏ねまわすのをやめ、沙綾香の左膝に触れる。外へ押しやる動きだ。それを見て、客もマーキスの意図を察したんだろう。
「なるほど、いいぞぉ調教師!」
「ご主人様の命令だぞ、脚を開きなさい!」
 客が騒ぎはじめ、沙綾香の視線が揺らぐ。だが、客に不信感を与えるわけにはいかない以上、迷っていられるのもせいぜい数秒だ。
 閉じ合わされた膝が、少しずつ離れていく。可哀想に、震えながら。
「もっとだ! ガニ股を作れ!」
 脚が肩幅まで開いても、客の要求は止まない。沙綾香の腰が落ち、太腿の震えが激しくなっていく。そして、脚が菱形を作った時。客は大歓声を上げ、次々にボタンを押し込んだ。モニターの数字が増えていく。
「ハハハッ、いい格好だなあお嬢様よう!」
 マーキスは黒人英語でがなり立てながら、激しく指を蠢かす。沙綾香の太腿がぶるっと震え、ショーツと脚の付け根の合間から愛液が伝い落ちる。
「き、気持ちいいのか、サヤちゃん!?」
 客が興奮気味に問うと、沙綾香は咄嗟に笑みを浮かべる。
「あははっ、ちょ、チョー感じちゃう。知らないオジサン達に観られてると、余計に……」
 マゾ気質のある、今時の女子高生。その演技としては、かなりレベルが高い。前提知識なしでいきなりこれを見れば、英才教育を受けた令嬢だとはまず思わないだろう。
 だが、迫真の演技をするということは、沙綾香がそれだけ無理をしているということでもある。
「あはっ、き、気持ちいい……い、いっちゃいそう……」
 客の喜ぶセリフを吐きながらも、沙綾香の眼は明らかに虚空を睨んでしまっていた。あまりにも快感が強いせいだ、と客が解釈してくれればいいが。

「へへへ。俺達も楽しもうぜ」
 沙綾香の痴態を前に、我慢できなくなったんだろう。ドミニクが祐希の肩を抱き寄せる。祐希はくるりとよく動く目で、ドミニクと、正面に立つアンドレを見やった。
「キミ達が私の相手かい? 私の身体はすべて颯太様専用なんだけど……その颯太様の命令だから、特別にね」
 祐希はそう言ってアンドレに近づき、その足元に跪く。
「黒人のペニスは大きいと聞いてはいたけど、実際に見ると凄いな。颯汰様のより、ずっと……」
 アンドレの逸物を前に、祐希は生唾を呑む。だが、すぐに怒張を握りしめて奉仕に移った。さすがに切り替えが早い。熱意も凄い。アンドレの顔を見上げながら、怒張全体に舌を這わせ、竿がピクピクと反応する頃に一気に咥え込む。
「んぐっ……!?」
 規格外のサイズにえずいても、顔の上下をやめない。じゅっ、じゅるっ、と水音を立てながら、唾液をたっぷりと分泌させて怒張に絡みつかせていく。
「む……っ!!」
 アンドレが声を漏らした。いかにも寡黙そうな奴が思わず漏らした声は、何にも増して信憑性がある。祐希のフェラチオは極上である……その事実が、たった一声で場に伝わった。
「凄いフェラですなあ!」
「ええ、気持ちがよさそうだ!」
 客達が興味を惹かれ、青ボタンを押す。モニターの数字が増えていく。

「チッ、今度はあっちが注目されてんじゃねぇか!」
 マーキスが舌打ちする。その手の中で、沙綾香はかなり乱れていた。何度も捏ねまわされたらしい左の乳首は、右側よりも明らかに尖っている。腰の位置はさらに下がり、がに股のまま爪先立ちするに等しいポーズで痙攣を続けている。床に滴り落ちた愛液の量は、カクテルグラス一杯分はありそうだ。
「こっちも見どころを作らねぇと、なッ!!」
 マーキスがそう叫びながら、指の動きを速めていく。沙綾香に抗う術はない。肉体的にも、状況的にも。
「く、んんんンッ!!!」
 沙綾香が下唇を噛んだ、直後。左右の内腿が強張り、その間に張られたショーツのクロッチ部分が一気に透ける。その明らかな絶頂を前に、客がほくそ笑んだ。
「ヘッ。いつになく熱いプッシー汁じゃねえか。このビッチが」
 マーキスはショーツから指を抜き、愛液に塗れたそれを沙綾香の口元に近づける。
「はぁ、はぁ……っ」
 沙綾香は荒い息を吐きながら、客の方に視線を送った。そして自分が2人から注目されていることを知ると、観念したように口を開く。
「どうだ、自分の愛液の味は?」
「……おいしい、です……」
 マーキスの問いに、沙綾香はうっとりとした演技で答える。客はいよいよ喜び、マーキスも愉快そうに微笑んだ。

 沙綾香が恥を晒す傍で、祐希の奉仕も激しさを増していく。
「ん゛っ、んぐっ、んぐううっ、んぐっ、ん゛っ……!」
 祐希は苦しそうな声を漏らしつつも、けして『主人』の顔から視線を外さない。アンドレはその視線をじっと受け止めていた。相変わらず寡黙だが、荒い息を吐いているところを見ると、そろそろ限界らしい。
「で、出そうだ……」
 アンドレが呻くと、祐希はラストスパートとばかりに激しく頭を振りはじめる。じゅくじゅくという音が響く。
「ぐううっ、で、出る、出るぞ……ッ!!」
 アンドレがついに射精を迎えた。祐希は、ここで初めて視線を下げ、怒張の根元を見つめながら口内受精に備える。2秒、3秒が経ち、4秒が過ぎ。
「んっ、んぶっうっ!?」
 祐希が目を見開きはじめた。可哀想なことだ。あの黒人共はそもそも絶倫な上に、薬で射精量を増強されている。一般人相手の飲精にどれだけ慣れていようが、この地下19階では何の役にも立ちはしない。
「ぶふっ、ごふっ!」
 祐希は頬を膨らませ、とうとう鼻から精液を吹き出した。アンドレはそれを見ながらも、祐希の頭を鷲掴みにして逃亡を阻止する。
「んぐ、ぐ……っぅ」
 鼻と口の端から精液を垂らす祐希。その瞳から、とうとう涙が伝い落ちる。
 アンドレがようやく怒張を引き抜いた時には、祐希の頬は膨らみきっていた。
「まだ飲み込むなよ。口ィ開けて、溜め込んだザーメンを見せてみろ」
 同じく祐希に張りついていたドミニクが命じると、祐希は口の中を蠢かした後、大きく口を開く。
「おおっ!!」
 客から驚きの声が漏れた。俯瞰で撮るカメラにすら、祐希の口内が白く染まっている様子がハッキリと映っている。祐希を『王子様』と慕う女学生が見れば、卒倒してもおかしくない光景だ。
「なんて量だ……ヒトが一回で射精できる量とは思えない」
「ふうむ。犬や豚に近いな、この量は……」
「しかも、見てくださいあの濃さ。まるで濃厚なヨーグルトですよ……」
 客は、啞然としているようだ。こんな所に来る変態共だから、性欲の強さには自信があったんだろう。だが、オスとして圧倒的に勝る存在を目の当たりにして、その自信が揺らいでいる。そんなところか。
「ようし、飲んでいいぜ」
 ドミニクは客の顔を見回しながら、祐希への許可を出す。口を開き続け、すでに唾液が止まらない状態の祐希は、待っていたとばかりに口を閉じた。そして、嚥下する。ごぎゅっ、ごぎゅっ、と凄まじい音を立てて。
「んぐっ……ん、んあっ……」
 数秒をかけて精液を飲み下した後、祐希はまた口を開いた。もう何も残っていないぞ、とアピールするように。
「ほおお、見事見事!」
「いや、大したものだ!」
 祐希のパフォーマンスを見届けた客が、拍手代わりにボタンを連打する。モニターの投票数は沙綾香のそれを軽く抜き去り、早くも20台を記録した。
 しかし、客の騒ぎようもわかる。中性的な魅力を持つ『王子様』系の女子高生が、黒人の怒張をしゃぶり、口いっぱいに射精され、それを飲み干した。その光景は、禁忌とも思えるほどに背徳的だ。

「ゆ、祐希…………!!」
 沙綾香も、友人の変貌ぶりに絶句していた。以前の祐希を知っているだけに、余計ショックが大きいんだろう。
 そんな沙綾香を見て、祐希はふっと笑った。

  ────キミに勝ちは渡さない。

 そう、宣告するように。



                 ※



 審査会は、場所をベッドに移して続く。
「ふふっ、いやらしいなあ。性欲でギラギラしてて……本当に獣じゃないか。まあ、それだけ興奮してくれると悪い気はしないな」
 鼻息の荒いトラバンに胸を揉みしだかれながら、祐希は笑みを見せる。
「始めようぜ、アスリートガール」
 トラバンはそう言って、ベッドに横たわった。奉仕してみろ、と言わんばかりだ。それでも祐希は表情を曇らせない。躊躇いもなく主であるトラバンに寄り添い、慣れた手つきで怒張を握りながら、分厚い胸板に舌を這わせはじめる。
「オォウ、ア……!」
 トラバンが心地よさそうな声を上げ、祐希の口元が緩む。
「さっきの彼より大きいな、颯汰様の倍は太い。とても握り込めないよ」
 トラバンの怒張を扱きながら、祐希は改めて驚いているようだ。それでも彼女は怯えはせず、トラバンの胸板に舌を這わせ続けながら怒張を扱く。もともと先走り汁の滲んでいたペニスからは、すぐにクチュクチュと水音がしはじめる。
「アアアーオゥ、シィット……」
 トラバンが笑いながら身を捩る。
「うわぁ、固いな、それにピクピクしてる。また射精しちゃダメだよ」
 祐希はそう囁きながら、素早くスカートとショーツを脱ぎ去り、トラバンに跨った。その動きの機敏さは、さすが運動部というところか。
 だが、割れ目に亀頭を宛がい、腰を沈める段階になれば、機敏さは失われた。
「ああっ、ふ、太……いッ……、っぐ、ぅぅああ……あッ!!!」
 祐希の顔が歪む。トラバンは、黒人調教師の中でも別格のペニスサイズを誇る1人だ。当然、祐希がこれまで相手してきた人間の比じゃないだろう。
「改めて、すごい大きさですな……まるで行き過ぎたジョークグッズだ」
「ええ。到底日本人が受け入れられるサイズとは思えない……」
 客達も、騎乗位で吞み込まれていくペニスのサイズに唖然としている。その視線を浴びるトラバンは愉快そうだ。
「いいぜぇ、えれぇキツさじゃねぇか。サヤカのプッシーが舌でネットリ絡みついてくるタイプとすりゃ、こっちは弾力のヤベエ肉でギュウギュウに圧迫してくる感じだ! 上等な霜降り肉とジビエの違いってとこか?」
 腰を押し進めつつ、トラバンは祐希の具合を褒め称える。
「はは」
 祐希は苦しそうな顔に笑みを浮かべ、ゆっくりと腰を浮かせた。そして、また腰を下ろす。浮かせて、降ろす。騎乗位での奉仕だが、筋肉質な下半身を持つ祐希がそれをやれば、清々しいトレーニングの一環にも見えた。
「オーゥ……いいぜいいぜえッ! へへへ。ボーイみてぇなツラしてやがるくせに、案外色っぽいじゃねえか!」
「フフ、そうかい? だとしたら、それは颯太様のお陰だね。私はずっとソフトボール一筋で、女らしさなんてなかった。でもここで、颯太様に女にしていただいたんだよ。毎日毎日抱いて、キスして、ポルチオまで開発してもらって……」
 トラバンの賞賛に対し、祐希は自分の境遇を語ってみせる。うっとりと、自慢するように。

「ぼーっとしてんじゃねぇ!」
 祐希の隣のベッドから声がする。そこには、トラバンと同じく寝そべったジャマールと、その逸物を扱く沙綾香の姿があった。ただし、沙綾香の奉仕の手は止まり、切ない表情を祐希に向けている。
 意識のはっきりしている沙綾香にとって、友人の調教告白は聞き流せないものだろう。だが、彼女も止まっているわけにはいかない。
「……ごめん」
 ジャマールに向き直った沙綾香は、怒張に唾液を垂らした上で扱き上げる。
「そうだ。たっぷり刺激して、デカくさせてくれよ。お前のプッシーは『ガバガバ』だからなぁ?」
 ジャマールは笑いを噛み殺しながら告げる。十番勝負1回目の遺恨を、まだ引きずっているらしい。それに甲斐甲斐しく奉仕させられる沙綾香の心中は、どれほどささくれ立っていることだろう。
「よし、もうビンビンだ。オトモダチみてぇに跨れよ」
 ジャマールが顎で祐希を示しながら命じる。沙綾香はちらりと友人に目を向け、立ち上がりながらスカートのホックに手をかける。だが、ジャマールはその腕を掴んだ。
「んなモンいいからよぉ、早くヤろうぜ!」
「わ、わっ!!」
 寝そべったままのジャマールに腕を引かれれば、沙綾香は当然バランスを崩す。よろけながら手足をついた時には、彼女はちょうどジャマールに背を向け、その腰の上に跨る格好になっていた。
「いくぞ!!」
 鼻息の荒いジャマールは、ショーツを横にずらして強引に挿入を果たす。
「ふっ……ああ!!」
 沙綾香から漏れた声は、甲高く、甘い。挿入に喜ぶメスの声としては、満点をつけたいほどに。それはたぶん演技じゃない。マーキスの指で刺激され、すでに『出来上がって』いるんだろう。
「ほお、いい声だ。気持ちいいんでしょうなあ!」
 客が興味を惹かれて視線を向ける中、当の沙綾香は、俯いたまま頬を赤らめるばかり。さらにジャマールが腰を使いはじめれば、ふううっ、と苦しそうな声を漏らしながら、唇を噛み締める有様だ。
「ふむ、そそる顔だが……恥じらいが強そうだな」
「確かに。どちらかといえば、マゾ奴隷というよりは生娘に近いような」
 夢中で興奮する客がいる一方、沙綾香の反応に違和感を抱いた客もいるようだ。そうなれば、沙綾香も反応を変えるしかない。
「はぁっ、あっ、あはあっ……。き、気持ちいい……とろけ、ちゃいそう……」
 上手い演技だった。恥じらいの反応を、悩ましい表情へと自然に変化させる。快感が強すぎたあまり、受け入れるのに少し手間取っただけ──客はそう解釈するだろう。ただし、ジャマールには全てを見透かされる。
「クククッ。そうだよなぁ、お前は俺様のコックが好きだもんなぁ!?」
 わざわざ声高に叫ぶ辺り、どこまでの性根の腐った男だ。
「あっ、あああっ……はあっ、あっ、あっ…………」
 沙綾香は演技を続ける。自ら腰を上下させ、甘い喘ぎを漏らしながら。
 脚線美を際立たせるマイクロミニのスカートは、秘部をほとんど隠さない。むしろ、激しく翻りながら半端に覆うものだから、かえって煽情的ですらある。客は、その見え隠れする結合部を食い入るように見つめていた。
「ふふふ、さすがに大した変態ぶりだ。少しハメられただけで、あんなに汁を垂らして」
「ええ。しかし、あのペニスの大きさも凄まじいですな。あの子の細腕と大して変わらないのでは? 正直、男として憧れますよ」
「同感ですな、あのペニスの虜になってマゾ化するなら納得だ!」
「確かに。あそこまでの凶器となると、女は屈服するしかないですからなぁ!」
 客達は思い思いに感想を語る。
「ああん、あはっ、あははっ……きっ、気持ちいいです! 黒人チンポで奥の奥まで突かれるの、さっ、最…高っ……!」
 沙綾香は激しく腰を振りながら、さらに口元を緩めた。さすがに演技が過ぎる気もするが、沙綾香をマゾと思い込んでいる人間なら、快感に歪んだ結果の不自然さと見るかもしれない。
「いいぜぇ、もっと締めつけろ。この俺をイカせてみろ!」
「あっ、あ! ああっ、あアっ、はっあ゛っ!!」
 ジャマールは沙綾香の膣を堪能しつつ、空いた手でクリトリスを刺激する。良し悪しはともかく、刺激は強いに違いない。沙綾香が目を見開いて喘いでいるのも、過剰な演技じゃなく、本気で感じているからでは……そう思えてしまう。ジャマールもその気配を感じ取ったのか、沙綾香の腰と太腿を抱え上げた。
「うほほ、これは……っ!!」
 客が目を見張る前で、沙綾香の体勢が変わっていく。ジャマールとの結合部を支点に、身体をくの字に折り、足先を揃えるような格好だ。あの格好なら、当然ながら膣はぴっちりと閉じる。となれば剛直を出し入れされる際の刺激も、格段に増すに違いない。
 俺のその疑いは、すぐにその正しさを証明された。ジャマールに主導権を握られ、“犯され”はじめた沙綾香の反応で。
「んはっ、はっ、はううっ!!」
 目を細め、奥歯を噛み締める沙綾香。必死な顔だ。
「うはははっ! すげぇな、締まりが一気に増しやがった! こりゃあいいぜ。なあ、お前も感じるだろ。俺の極太で、プッシーん中ガシガシブラッシングされてよぉ!!」
 ジャマールは黒人英語で撒くしたてる。その言葉が客に通じているのかはわからないが、いずれにせよ、沙綾香はその流れに乗るしかない。
「あっ、は、はあぁぁっ……すっ、すごぉっ……は、激し、すぎっ……!!」
 沙綾香は激しく突き上げられながら、全身をガクッ、ガクッ、と痙攣させる。あの痙攣は演技ではできそうにない。
「ハァ、ハァ、ハア、ハァ、ハア……ぅーし、そろそろ射精すぜ。今日初めての射精だ、濃いのをたっぷりプッシーに注いでやらあ!!」
 ジャマールは喘ぎながら宣言し、沙綾香の腰を掴んで逃げ場をなくす。
「え……や、やだ、外に……っ!」
 沙綾香はそう言いかけ、ハッとして客を見る。ここで射精を拒絶するのは、客の考える『マゾ奴隷』にそぐわない。となれば、沙綾香に許された行動は、黙って耐えることだけだ。
「おおおらッ、出たぞっ! はっは、すんげぇ量だ!」
「あああっ、はっ、入ってくるっ! 調教師様の、精子が……っ…………!!」
 沙綾香は天を仰いで幸せ一杯の表情を浮かべ、項垂れる。その一瞬に見せた、歯を食いしばって屈辱に耐える表情は、かろうじて客に気付かれずに済んだようだ。
「いやあ、出た出た。ジャパニーズのサルに観られながらのファックってのも、なかなかイイもんだな!」
 ジャマールはそう言って怒張を引き抜き、沙綾香を下ろす。ただし、完全に開放するわけじゃない。奴はベッドの上で立ち上がると、まだ荒い息を吐いている沙綾香の口に怒張を押し付ける。
「しゃぶって綺麗にしろ」
 ジャマールのその要求に、客が沸く。それを横目に見た以上、沙綾香に拒絶という道はない。
「んっ、んもごっ、おも゛っ……」
 沙綾香は口を大きく開き、一気に怒張を咥え込むと、頬を激しく蠢かせる。ただ奉仕するだけでなく、慣れているように演じなければならないのが辛いところだ。
「くくく、悪くねぇぜ。尿道に残ってるザーメンも全部啜れよ、『いつも通り』にな」
「……っ!!」
 ジャマールの言葉を耳にして、沙綾香の目が薄く開く。だが、反抗はしない。求められたままに、唇を尖らせ、頬を窄め、ずずずーっと音を立てて怒張の中身を吸い上げる。
「ああ、あんなに熱心に……」
「あれほどの美少女に『お掃除フェラ』までしてもらえるとは、羨ましいもんですなあ!」
 客は満足している様子だ。だが、それは5人のうち2人だけ。他の3人の顔は、左側のベッド……トラバンと祐希の方を向いている。

「あ゛あ゛っ、あ゛っ、あ゛あ゛っ……ああ゛あ゛アア゛ア゛っ!!!」
 祐希は、凄まじいことになっていた。トラバンに背後から突かれている状況は同じだが、口から漏れる声は快感一色だ。片膝を立てた隙間から結合部を覗き込む顔は、『王子様』と持て囃されそうな面影を一片たりとも残していない。目を見開いて爛々と輝かせるその様は、高貴やクールという印象の対極とすら言える。
「おお、おお……」
「か、変われば変わるものですなぁ」
「はああ……あれが、マゾというものですか」
 客は変わり果てた祐希の様子に呆然としつつ、手元のボタンを押していく。
「い、い゛ーーっ!! い、いいっ……いいいよっ、ひいいぃぃ゛ーーっ!!!!」
 客の注目を浴びながら、祐希は歯を食いしばり、ますます壮絶な顔を晒していく。
 認めるしかない。あれは、本物。正真正銘、本当のマゾ奴隷の姿だ。



                 ※



 祐希と沙綾香の票差は、少しずつ、だが着実に開いていった。
 沙綾香が30票を記録したとき、祐希は38票。沙綾香が40票に達した時には、祐希は実に51票を獲得していた。客は明らかに沙綾香のルックスを気に入っているのに、それでも人気差を覆せない。
 だが、実際に2人のセックスを見比べれば、納得できてしまう部分があった。本物は、やはりすごい。
 沙綾香も健闘はしてるんだ。彼女は今も黒人調教師3人を相手取り、騎乗位で腰を振りながら左右のペニスを交互に舐めしゃぶっている。
「えあっ、はっ、はぁっ……んふっ。黒人さんのチンポ、美味しー……」
 血管の浮く怒張をうっとりとした表情で舐めながら、手で別の一本を休まず扱き、腰をうねらせて仰向けになった男を責める。その様は、セックス好きな女子高生として何の違和感もない。
「ねえサヤちゃん、そこでピースしてみて~」
「あは……こう?」
「うははっ、カワイイなあ!」
 客からの要望があれば、激しいセックスの最中でも律義に応え、票を稼ぐ。マゾ奴隷の演技としては、まず申し分ないように思える。
 すぐ隣のベッドで繰り広げられる、『本物』のプレイさえ見なければ。

「はっ、はっ、はっ、はっ、はあーっ、はあーっ……! もっと深く突いてっ、んもっと強く愛してっ!! くううっ、す、すごいいっ……奥、いちばん奥がっ、と、蕩けちゃう…………っ!!」
 祐希は、レジャナルドの極太を堪能していた。仰向けで寝転がるレジャナルドに、自分も同じく仰向けで折り重なり、突き上げられながらメスの声を上げ続ける。
「くううう……こ、こいつっ、なんつう締めつけだよ!?」
 レジャナルドは歯を食いしばっていた。十番勝負で、沙綾香にどれだけ拒否されてもクリトリスを弄繰り回していたあの悪戯好きが、ただ快感に震えるばかり。想像を絶する光景だ。
「ああああ、もう限界だ、出すぞおオイッ!!」
「はあっ、はあっ……うん、な、中にっ、中にちょうだいっ!!!」
 レジャナルドの射精宣言を受けて、祐希は姿勢を変えた。腹筋でもするように身を起こし、今まさに射精を受ける結合部を見ようとする。
「ぐ、おっ!」
 祐希の行動で膣内の圧力が強まったのか、レジャナルドが呻いた。そして奴も身を起こし、祐希の膝裏を掴んで、Mの字に開脚させながらスパートをかける。
「う、ぐううう……ウウウオオオオッッ!!!!」
 十番勝負で何度も耳にした咆哮が上がり、怒張が脈打つ。
「あっ、あっ、す、すごい、すごいよっ……!!」
 ともすれば少年にも見える肉体を震わせながら、祐希が頬を染める。
 全力での殴り合いに似た、凄まじいセックス。しかも、まだ終わらない。
 脱力した祐希の身体が、レジャナルドの腹の上から滑り落ちる。沙綾香ならここで凌辱相手を睨みつけるところだが、祐希は睨むどころか、穏やかな視線をレジャナルドに向けていた。
「なんだよ。まだシてほしいってか?」
 レジャナルドは嬉しそうに笑いながら、祐希の股を大きく開かせ、怒張を割れ目へと沈めていく。
「んんんっ…………」
 祐希は甘い声を漏らし、挿入された怒張を愛しそうに撫でた。さらにレジャナルドが肩越しに口づけを求めれば、躊躇いなくそれに応じる。濃厚なキスの音と、肉のぶつかる音が響く。
「ほほほ。やはり『キスハメ』はいいですなあ」
「ええ。主人に心を許している感じが伝わってきますよ」
「まったくです。しかし、それに比べると……」
 客達は、一対一でねっとりと愛を深める祐希の姿を堪能しつつ、視線を沙綾香に移す。

 沙綾香の仮面は、剥がれつつあった。
「いっ、いくうっ!! いっちゃう、いっちゃういっちゃうっ…………!!」
 両足首を掴まれたまま屈曲位で犯され、もう何度も絶頂に追い込まれているだろう。沙綾香は、何度も不安そうな表情を見せた。口を開いて喜んでいる演技はするものの、下半身が震えるたびに口角が下がる。
「よーしイけ、どんどんイけ! 逝き狂ってトんじまえ!!」
 犯しているダーナルは、沙綾香に配慮などしない。中腰で力強く怒張を叩き込み、ひたすらに相手を追い詰める。
「んくっ、あはっ!! あっ、あああ……ふあああ゛あ゛っ!!」
 眉が垂れ、目尻が下がり……そしてついに沙綾香は、右腕で目を覆い隠した。完全な素の反応。ごくごく普通の、恥じらいある少女の行動。
「へへへ、どうしたよ顔隠しちまって。おら、プッシーの奥がヒクヒクしてきたぜ。またイクんだろ、ああっ!?」
 ダーナルが激しく腰を打ちつける。沙綾香は足首を掴み上げられたまま背を丸め、首を左右に振りはじめた。
「うんんんん゛っ、うん゛、ん゛っ! い、いっ…イックううううーーーッッ!!」
 沙綾香は痙攣し、明らかな絶頂に追い込まれる。見ないで、とばかりに顔を覆ったまま。
「……ふーむ。私は凌辱が専門でマゾヒズムには疎いのですが、その私から見てもアレは、なんというか……」
「どちらかと言えば、初々しさすら感じる反応ですなあ。むろん嫌いではないが、マゾ奴隷らしいかといえば……」
 客達が眉を顰める。かなり不審がっているようだ。
「おら、隠すんじゃねぇよ。感じてるツラとグショ濡れのプッシーを見せてやれ!」
 沙綾香の素の反応が、ダーナルの嗜虐心に火を点けたらしい。奴は沙綾香を抱えてベッドを降り、片脚を持ち上げながら犯しはじめた。顔も胸も結合部も、すべてを客に晒す格好だ。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ…………!!」
 開放的な空間に立たされた沙綾香は、客に視姦されながら荒い呼吸を繰り返す。
「そろそろ巻き返さなきゃマズイんじゃねえのか? マゾ奴隷ってとこを、あんな風にアピールしてよお!」
 ダーナルは沙綾香の顎を掴み、祐希の方を向かせた。
「んっ、ちゅっ……んちゅっ、んん、ふう……んっ、んっ…………」
 祐希は、レジャナルドと抱き合いながら、濃密なキスを繰り返している。まるで十年来の恋人のように。
 客の指が青ボタンを押し込み、モニターの数字を増やす。今で、ついに60票。沙綾香とは実に18票差だ。
「俺達も愛し合おうぜ」
 ダーナルは、沙綾香の顔を自分へと向かせる。キスを受け入れろというのか。

 俺は、激しい動悸に襲われながら、沙綾香の様子を伺っていた。
「…………っ!!」
 沙綾香は、唇を引き結んだ。そして、両手を握りしめ…………眼を見開いて、上を向く。天井よりも遥か上空。つまり、俺の方を。
「おや」
 端塚の惚けた声を聴きながら、沙綾香の視線を受け止める。
 審査会の最中、客に更なる不信感を抱かせながら、なぜ俺の方を見つめるのか。彼女の性格を考えれば、その理由はすぐに解る。
 沙綾香は、キスを解禁するつもりなんだ。夜通し犯される中でも、頑として拒み通した……たぶん、彼女にとっての最後の一線を。

 ────────ごめんね、センセ────────

 沙綾香のそんな声が聴こえるようだ。
 解っている。このままいけば、審査会は祐希の勝ちで終わるだろう。その先に待つのは、完全な奴隷化。祐希は連日連夜薬漬けで輪姦され続け、完全に自我を破壊される。まだ反骨心を保っている沙綾香と違い、すでに言いなりの祐希が、その未来を回避できる可能性はゼロだ。級友を助けたいなら、この審査会で沙綾香が客に選ばれるしかない。だから、俺は彼女の決断に反対しない。
 それでも。
 沙綾香が俺から視線を逸らし、瞼を閉じながらダーナルの口づけを受けるのを見た瞬間は、胸が締め付けられるような思いがした。
 勝ち誇ったように俺を見上げるダーナルも、客の驚きの声も、すべてが計画通りと言わんばかりの端塚の表情も。すべてが、切り刻まれた俺の心臓に塩を塗り込んでくる。

 今更、痛感させられた。
 俺は、こんなにも沙綾香が好きだったんだ。



                 ※



 キスを解禁した沙綾香に対し、ダーナルはすっかり図に乗って、見せつけるような口づけを繰り返す。沙綾香は、それをすべて受け入れた。
「れあっ、あうえっ、ええ……うれあ、あうれえ…………」
 舌を絡まされるたび、うわ言に近い言葉が漏れる。片足上げで犯される身体が、ぶるぶると震える。汚辱感からかもしれない。汚辱感からであってほしい。いずれにしても、その震えは客受けがいいようだ。
「ははは。この娘、またゾクゾクと身を震わせてますよ」
「ああ。一時はセックスを嫌がっているようにも見えたが、何のことはない。上にいる監督役にでも、快感をセーブするよう命じられていたんだろう」
「何といっても、このルックスですからねぇ。最初から同等の条件で戦わせては、結果が見えているという事でしょう。実際、こうして快感にうち震えている姿を見ると、こう、無性に滾ってきますからねえ……!」
 客は適当な筋書きを夢想して納得し、沙綾香の痴態にのめり込む。元より、沙綾香を一目見ただけで色めき立っていた連中だ。違和感さえなくなれば、沙綾香を評価することに躊躇いはしない。実際、あれだけあった票数差も、すでに7票差まで詰まっている。
 とはいえ、祐希の得票数が止まる様子もない。彼女は彼女で、客の目を楽しませるセックスを続けていた。
「あっあ、お、奥に……あっ! す、すごい……こんなの、あああぁっ…………!!」
 正常位で抱かれ、背中を弓なりに反らせて痙攣したり。
「んんんんっ、ふうんんんっ…………ンっふ、ふうううーーーっ!!!!」
 後背位のまま、枕に顔を埋めた状態で犯され、汗だくで鼻息を漏らしたり。
 そういう、あからさまに気持ちが良さそうなセックスを続けている。実際、彼女は黒人のペニスをひどく気に入っているようだ。前に端塚が言っていたように、日本人では届くのがやっとの場所を、雁首で力強く擦れるからか。
 そしてそれは、彼女がこのフロアに留まった場合、間違いなく快楽に溺れるという証拠だ。
 それを阻止するために、沙綾香は自分を殺し続ける。
「んれぁっ……はぁ、はぁっ……ヤバい。キスしながらセックスするの、気持ち良すぎ…………」
 うっとりとした表情を浮かべながら、何度もダーナルとキスを交わし、膣でもきっちりと精液を搾り取る。
「へへへへ……次は俺にもヤラせろよ」
 続くタイロンが抱え上げる形で犯しはじめても、相手の求めるままに舌を絡ませ合う。
 その変わりように気付いたのか、祐希が枕から顔を上げ、沙綾香の方を見る。そして一瞬目つきを鋭くすると、背後のダリーに何かを囁きかけた。おそらく、もっと激しくして、とでも懇願したんだろう。
「ほぉう。そりゃ構わねぇがよ、ブッ壊れても知らねーぞ」
 ダリーは意地の悪そうな笑みを浮かべ、祐希の細い腰を掴む。そして、それまでより格段に大きく腰を振りはじめた。奴の力士体型でそれをやれば、生まれるエネルギーは凄まじい。どぶちゅっ、どぶちゅうっ、という腹に来るような重い水音がし、高級ベッドが壊れそうに軋む。
「くっあ、こお、お゛ーーーっ!! ほおおおっ! お、お腹っ、おくっ……すごぉ……んん゛っおお゛お゛お゛お゛っ!!!!!」
 他の誰もがそうだったように、ダリーの突き込みを受けた祐希は『お』行で絶頂しはじめる。彼女はまた一つ、想像もできない“未知”を味わっていることだろう。
 そして、想像を絶するハードさといえば、タイロンに犯される沙綾香も同じ。
「お゛う゛っう、うぎぃ……かはっ、あ゛、あ゛んっ!!!」
 誇張でなく馬並みのペニスを叩き込まれ、沙綾香の口から苦しげな声が漏れる。だがその声は、すぐにタイロンのキスで封じられてしまう。
 発声は大事だ。強すぎる痛みや快感を受ければ、人は嫌でも声を上げるもの。その声を殺してしまえば、発散されるはずのエネルギーまで肉体で支払うことになってしまう。
「ン゛ーーっ、んんんむ゛うう゛う゛ーーーっ!!!」
 タイロンの巨体にしがみつきながら、沙綾香は何度も震え上がった。身体を快感が貫いているのがわかる。鉄杭のような怒張を起点にして、腰に、背中に、脊髄に。
「んむれぁっ……ひっぐ、イグっ、イグぅううううっ!!!」
 口を解放されるたびに発される沙綾香の言葉に、嘘はなさそうだ。キスを解禁した彼女は、観客の期待する通り、マゾの快楽に酔いはじめている。
「ムぐっ、んんんん゛ーーーーっ!!!」
 唇を貪られる中、沙綾香が絶頂に達した。目尻に浮かべた大粒の涙を、頬に伝わせながら。
「おお。ご覧なさい、嬉しさのあまり泣いてしまっていますよ!」
「素晴らしい。これがマゾ奴隷というものですか!」
 沙綾香の心はまた一つ傷んだだろうが、代わりに客の評価はいい。それが、せめてもの救いだ。


                 ※


 級友同士の勝負は、刻一刻と熱を増していく。
 後背位で、正常位で、屈曲位で。縋りつくように逸物を舐めしゃぶりつつ、背後から犯されて。色々なセックスを試した末に、最終的には二人とも騎乗位を選ぶようになる。騎乗位は結合部が丸見えになる上に、女性自身が快楽を貪っている印象が強いため、得票数を稼ぎやすいからだ。
「ああああぁっ、はああっ、ああ……っぐ、いぐうウ゛っ!! もおおっ、おっ、おかしくなりそうっ!!」
 ドミニクの胸板に両手をつき、引き締まった肉体を上下させる祐希。
「あっ、はっ、はっ……。ン、むぐっ……んちゅ、ちゅっ…………んンんんん゛っ!!!」
 ジャマールの上で腰を振りつつ、横からの無遠慮なキスに応じる沙綾香。
 この場面から見て、どちらかが偽のマゾ奴隷だと聞かされても、もはや判別はつかないだろう。マゾの快楽に溺れ、ひたすらに剛直を貪るケダモノ。左右どちらも、それとしか見えない。
 下になっているドミニクとジャマールは大喜びだ。暴力的な笑顔を浮かべ、快楽を訴え続けている。
「くくくっ。あんなに必死に腰を振って……」
「ええ。あの名門・蒼蘭の女子高生がねぇ」
「まったく、凄いものです。今日は眠れそうにないですなあ!」
 客は椅子に掛けようともせず、股間を膨らませたままベッド上の痴態に見入っていた。2人の少女が快楽に蕩けた顔を見せるたび、赤か青のボタンが押し込まれる。いい勝負だ。どちらも得票数は100を超え、大差は開かない。とはいえ、優位なのはやはり沙綾香だ。
「もっ、もっと! もっとしゃぶらせてくれっ! この、太くて臭いのが欲しいんだ!」
 祐希が仁王立ちしたトラバンに擦り寄り、亀頭を舐めまわす。
「あっ、はっ、はっ、はっ……い、いくっ、またイクゥッ!! ち、調教師様の、黒人チンポっ、大きすぎて、ヤバイよぉっ!!」
 沙綾香がマーキスの上で腰を躍らせながら、喜びの声を上げる。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ…………!!」
 奉仕の合間に、2人の視線は何度もぶつかった。
「ははは、まさに意地の張り合いですなあ!!」
「ええ、ええ、凄いですよこれは!」
 客はいよいよ興奮し、鼻息荒くボタンを押し込む。恐ろしく長く感じる時間だ。
 そして、ついに手越が立ち上がる。
「そこまでだ!」
 祐希と沙綾香は、その合図を耳にしてモニターを見上げた。モニターの数字は、祐希の赤が128票、沙綾香の赤が131票。僅か3票差で、沙綾香の勝ちだ。
「…………嘘、だろう…………?」
 唖然とした様子で祐希が呟く。
「おや。私はあのボーイッシュな子に入れていたのですが……負けてしまいましたか」
「私も、どちらかと言えば青を押している印象でしたが、赤にもかなり入れた気がしますねえ」
「赤の子には、吸い寄せられる何かがあるからな」
「いやいや、いい勝負でした。正直、甲乙つけがたいところですよ」
 客達は、黒人の精液に塗れる2人に拍手を送りながら入口へと向かう。ロドニーがそれを先導しながら、VIPルームでの性欲発散を勧めているようだ。非道徳的ではあるが、その空気は穏やかだった。
 逆に、祐希は納得がいっていないようだ。
「なんで、私が負ける……!?」
 口元に縮れた毛をつけたまま、祐希が沙綾香を睨みつける。
「ゆ、祐希?」
「どうして……どうして邪魔をするんだ! 私は、勝たなきゃいけなかった! 颯汰さまに調教していただいた成果を、ここで見せなきゃならなかったんだ! 負けたなんて知られたら、きっと、失望され…………」
 祐希は怒りのままに叫びつつ、途中で言葉を切る。彼女は、横目で入口を捉えていた。正確には、その入口から今まさに入ってきた人間を。
 線の細い体つきに、甘いマスク、女性と見紛う色白な肌と、鮮やかな金髪。見覚えがある。地下15階で祐希を女にし、ギャラリーの女から黄色い歓声を受けていた男──颯汰だ。
「残念だったなぁ、祐希」
 颯汰は薄い笑みを浮かべたまま、祐希に声をかける。
「そ、颯汰さま!? も、申し訳ありません、負けてしまって……!」
「いいって。お前すげえ頑張ってたじゃん、俺以外の男相手に」
 ベッドに頭をつけてひれ伏す祐希の髪を、颯汰は優しく撫でる。下を向いたままの祐希の頬が、僅かに緩んだのがわかる。
「あ、あんた、祐希を壊した…………!」
 沙綾香は、颯汰を前にして表情を一変させた。それはそうだ。級友を狂わせた元凶なんだから。
「へぇ、オレのこと知ってんだ? 光栄だな。僕もちょうど、キミに興味が湧いてさ」
 颯汰が涼しい顔を沙綾香に向ける。沙綾香が目を見開く一方で、祐希は弾かれたように顔を上げた。
「そ、颯汰さま、やめてください! 他の子となんて……!」
「勘違いすんなよ、祐希。確かに可愛い子だけど、別に惚れたわけじゃない。ただ……“オレの”祐希が負けたのが、悔しくてさ。直々にリベンジしようかなって。いいっスよね、手越サン?」
 颯汰はソファに腰掛けた手越に問う。年の差がかなりあるだろうに、随分と軽い態度だ。顔馴染みなのか、あるいは颯汰が礼節を弁えない若造なのか。
「別にいいぜ。夜になると黒人連中が騒ぎ出しちまうから、それまでにこのフロアへ戻してくれんならよ。ま、あと4時間ってとこか」
「やったぁ、さっすが手越さん! ……って訳だから。人のオンナ泣かせといて、まさか逃げないよね?」
 颯汰は手越に愛嬌ある素振りを見せつつ、沙綾香に向き直る。一瞬にして表情がガラリと変わる様は、人格が二つあるかのようだ。
 沙綾香は奥歯を鳴らして颯汰を睨み返す。親しい友人の仇が、今度は自分までも手玉に取るつもりでいる。その事実に、彼女の腸はどれだけ煮えくり返っていることか。
「……上等じゃん。あんたのテクなんか大したことないってのを、証明したげるよ」
 沙綾香は、怒りを隠しきれない声で宣言する。

 俺は、心中で沙綾香にエールを送った。友人に代わって怒りに燃える姿を、応援したくならないはずがない。
 だが同時に、えも言われぬ不安も胸を埋め尽くしてもいた。
 祐希の人格を崩壊させる相手に、今の沙綾香が意地を張り通せるのか? この勝負を受けることで、彼女は、快感という海の深みに引きずり込まれるんじゃないか?
 状況を分析すればするほど、不安が具体的になっていく。
 結局俺は、祈るしかない。沙綾香の“強さ”を信じて。



                 ※



 エレベーターへ乗り込む沙綾香と颯汰の姿が、モニターに映し出された。2人に同行する祐希が、手越に渡されたハンディカムで撮っている映像だろう。フロアの監視カメラ映像と違って、これは手ブレがひどい。少女の細腕でビデオカメラを構えているせいか。それとも祐希自身が、怒りで震えているせいか。
『君さ、ほんと背高いよね。オレと同じぐらい? ブーツ履かれたら抜かれるかも』
 颯汰はそう囁きながら、馴れ馴れしく沙綾香の肩を抱く。すると沙綾香は即座に眉を顰め、その手を払い落とした。
『沙綾香!』
『あー、いいっていいって。こういうツレないのも嫌いじゃないし』
 激昂する祐希を制しつつ、颯汰が笑う。沙綾香はそれを完全に無視していた。そのピリリとした雰囲気は、俺を警戒していた頃を思い出させる。俺達はあの状態から打ち解け、愛し合い……引き裂かれた。いつかまた2人で笑いあえる可能性は、どのぐらいあるんだろう。

 エレベーターが止まる。地下15階、祐希が颯汰に狂わされたあのフロアだ。
 扉が開いた瞬間、数えきれないほどの女が身を乗り出し、黄色い歓声を上げる。あまりに色々な声が混じっていて聞き取りづらいが、颯汰様、颯汰様と叫んでいるようだ。前に見た時もそうだったが、あの颯汰という男は相当にファンが多いらしい。
『や、ただいま』
 颯汰が颯爽と人ごみの中へ踏み出せば、歓声はいよいよ場を震わせるほどのものに変わる。だが、その颯汰の後ろに沙綾香の姿を見つけた瞬間、女共の表情は一変した。男を一瞬で骨抜きにする妖艶さは、同じ女にとって脅威以外の何物でもない。特に、恋のライバルという視点で見た時には。
『そ、颯汰さま。その子は……?』
『ああ、これ? オレの、新しいカノジョ』
 颯汰がさらりと吐いた言葉で、場が凍り付く。取り巻きの女共が目を見開き、沙綾香が目尻の角度を上げる。カメラのブレ方からして、祐希も動揺していうようだ。
 ぎゃーぎゃーと非難が飛び交う。そんな中、沙綾香は颯汰を睨み据えた。
『冗談でもやめてよ。気持ち悪い!』
 沙綾香の一言は、まさしく火に油。
『き、気持ち悪いってなによ!!』
『ってか、あんた誰なの!?』
『制服着てるってことは学生でしょ? 学校は!? 勉強は!?』
 颯汰を信奉する女共が、けたたましくヒールを鳴らしながら沙綾香に詰め寄る。颯汰はそれを面白そうに見回しながら、笑顔で手を振った。
『ははは、彼女ってのはウソ。この子、奴隷の1人だよ。例の“審査会”で、祐希がこの子に負けちゃってさ。泣きそうな祐希見てると居ても立ってもいらんなくて、リベンジマッチ申し入れたわけ』
 颯汰は抜け抜けとそう言い放つ。自分を美化すると共に、沙綾香を悪者に仕立て上げる言葉だ。案の定、取り巻きの女共は流石だの優しいだのと颯汰を褒めそやし、同時に沙綾香を睨みつける。そうして場の注意が沙綾香に集まる中、颯汰はさらに続けた。
『でもさ。この子、スタイル本当にいいっしょ? 誰か横に並んでみてよ、ほら!』
 颯汰はおどけながら、すぐ近くにいた取り巻き女の手を取り、沙綾香の真横に立たせる。
『見て、脚の長さ全然違うでしょ?』
 颯汰の言葉で、皆の視線が2人の女を見比べはじめた。女の身長は160あるかないか。170オーバーかつ8頭身の沙綾香と並べば、大人と子供でしかない。比較された女の顔がみるみる歪んでいく。逆に沙綾香は堂々としたもので、腰に手を当てながら女を見下ろしていた。同性からはさぞヘイトを集めるだろうが、男なら問答無用で見惚れるほど綺麗だ。颯汰もこれから抱く女の魅力を再確認し、頬を緩めている。
『……ッ! 騙されないで颯汰さま! こんな女、誰にでも簡単にヤらせるビッチですよ!? 同じ女だから、感じでわかります!!』
 女は沙綾香を指して罵声を浴びせた。ビッチと罵っているが、女の方も男に媚びたピンクのフリルドレスなんだから他人の事は言えない。むしろ格好でいえば、制服姿の沙綾香の方がよほど真っ当だ。
 とはいえ、冷静さを欠くのもわかる。惚れた男の前で、最上級の女と比較されたなら。悪いのはその状況を作った颯汰だ。
『ごめんね、恥掻かせて。わかってるよ、君の方が可愛いってことくらい』
 颯汰はおどけた様子で女を抱き寄せ、その額にキスをする。また黄色い声が上がり、今の今まで羞恥に顔を歪めていた女は、たちまち目を潤ませる。見事に颯汰に惚れ込んでいるようだ。
『さて、そろそろ行こっか』
 颯汰は歓声に囲まれながら、調教部屋の入口へと歩を進める。逆に沙綾香の周りはアウェーそのもので、足を突き出して転ばそうとする女もいれば、後ろ髪を引っ張る女もいる。沙綾香はその妨害からかろうじて逃げ延び、調教部屋へと駆け込んだ。

 沙綾香達を追って扉をくぐったカメラが、部屋の様子を映し出す。風景は前と変わりない。布団の敷かれた、畳敷きの空間。あの時と違ってギャラリーがいないから、部屋の広さがよくわかる。温泉旅館の一室ぐらいはあるだろうか。
『……なにあれ』
 室内を一目見るなり、沙綾香が颯汰を睨む。布団の上にいかがわしい物が散乱していたからだ。ローターにバイブ、口の縛られたコンドーム……どれも生々しい使用感がある。
『あーごめん、散らかってんなぁ。審査会のちょっと前まで、ウォーミングアップって感じで祐希を可愛がっててさ』
 颯汰はカメラの方を向いて笑う。撮影者である祐希の顔は映像に映らないが、颯汰の笑みが深まったところを見ると、ひどく恥じているようだ。
『ま、ムードはないけど別にいいでしょ。愛し合うセックスじゃないんだからさ』
 颯汰は足で淫具の類を蹴散らし、沙綾香に視線を送る。脱げ、という無言の圧力だ。
『…………ま、どうでもいいけど』
 沙綾香は溜息まじりにブレザーを脱ぎ捨てた。さらにブラウスのボタンを外し、スカートを、ショーツまでを一気に脱ぎ去り、丸裸になって颯汰を見据える。客の前でやってみせた煽情的な動きとは逆に、色気のまるでない事務的な脱衣。お前の目を楽しませるつもりなんかない。そう宣告したも同然だ。
『へぇ、脱ぐとまた凄いな。脚なげー』
 颯汰が感動した素振りを見せても、沙綾香の表情は和らがない。目を合わせるのも嫌だとばかりに視線を外し、布団に横たわる。
『あたし、アンタに奉仕とかする気ないから。したいんなら勝手にすれば?』
 素っ気ない態度を取る沙綾香に、いつの間にか部屋に入ってきていた女共が騒ぎ出す。何様のつもりだ、ビッチのくせに、と口汚く、さしもの颯汰も苦笑する。
『あ、そう。つっても、そこまで特別なこと出来るわけじゃないから、いつも通りでいくわ。オレ、ここで毎日祐希とハメててさ。朝起きてから、大体昼ぐらいまでにやるルーティンがあるんだけど、それ君にやっていい?』
『だから、好きにすればって。あ、でも先言っとくけどさ。あたし、毎日黒人10人とヤッてるの。あんたみたいな『粗チン』がひとつっきりじゃ、もう全然感じないと思うよ。たぶんマグロだと思うけど、別にいいよね』
『うわ、えげつねぇアピール。まぁでもいいよ。っつか、むしろ耐えてほしいかな。最初ツンツンしてる子でも、オレがちょっと本気で抱いたら、気持ちよくなって腰振り出すんだよね。すぐトロけちゃう子ももちろん可愛いんだけど、たまには歯応えあるモンも食いたいからさ』
 声色だけを聞けば静かな会話。しかし、言葉の裏には決して相容れない感情が渦巻いている。

  ────絶対、あんたの思い通りにはさせない。
    ────オレのテクに耐えられるってんなら、やってみろよ。

 その二つの想いが、閉鎖された和室の中、じわりと距離を狭めていく。



                           (Part.3(後半)に続く)

 
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