※セックスシーン中心の回。
 最後の方に男へのアナル舐めシーンがあります。苦手な方はご注意ください。




「飲めや」
 栖村はそう言って、ある錠剤のシートを取り出した。
 月曜から日曜までの曜日が書かれた7列に、4つずつ錠剤が入っている。風邪薬や頭痛薬とは違う、独特なシートだ。
「何かわからん、っちゅうツラやな」
 栖村は、シートから一錠を取り出しながら口元を緩める。
「“ピル”や。なんぼおぼこい言うても、その名前ぐらい知っとるやろ?」
 その言葉で納得がいった。錠剤の意味も、栖村が笑った理由も。
 ピル……経口避妊薬は、その名前通り妊娠を避ける薬だ。一日一回決まった時間に飲めば、100%とはいかなくても、それに近い確率で妊娠を防げるらしい。
 そしてそれを飲ませるということは、いよいよ“妊娠する可能性がある行為”をするという意味でもある。

 ( 犯されるんだ、これから。こんなゲスに…… )

 そう気付いた瞬間、吐き気がこみ上げた。磯崎の物をしゃぶらされた時も鳥肌が立ったけど、口ならまだいい。泥水が入ったと思って、口を濯げばなんとかなる。でも、あそこ……女の大事な場所となると、そうはいかない。
 そんな私の心中を知ってか知らずか、栖村は気持ちよく錠剤の解説を続けていた。
「コイツぁ『調教師』御用達の代物でな。市販品なんぞ目やない、もっと確実に妊娠をコントロールできるんや。きっちり飲み続ける限り、まず孕まん。逆に飲まんようになった途端、急に妊娠できるようになる。シャブにしろ、真っ当な薬にしろ、裏に一番エエもんが出回るんや。皮肉なもんやろ?」
 おぞましい、としか言えない内容。妊娠を防げるのはともかく、服用をやめた途端に妊娠するようになるなんて、明らかに普通じゃない。ホルモンバランスを崩す劇薬だ。でも、今は飲むしかない。こんなヤクザ達の子供なんて、間違っても産みたくないから。
「んっ、んっ……」
 差し出されたコップの水で、錠剤を飲み込む。その水の美味しさで、喉がカラカラだった事に気がついた。あれだけ緊張して、汗をかいて、叫びつづけたんだから、喉が渇いて当然だ。
「さて。ピルも飲ませたことやし、チャッチャと始めるか」
 新渡戸がウイスキー入りのグラスを呷ってから立ち上がり、腰に巻いたタオルを外す。8つに割れた腹筋の下に、男の物が露出した。
 おぞましい“凶器”だ。磯崎のペニスに比べれば小さいとはいえ、私の手では掴めるか怪しいぐらいの太さがある。長さは私のつむじから顎までの距離と変わらない。そして何より特徴的なのが、アソコのあちこちにコブのような膨らみが出来ていることだった。コブがあまりにも多すぎて、歯抜けしたトウモロコシに見えるほどだ。
 一瞬、何かの病気なのかとも思ったけど、磯崎の物にもコブがあったのを思い出す。こいつらは多分、わざと何かを埋め込んでるんだ。
「あれ兄貴、もう“真珠”増やすんは止めはったんですか?」
 新渡戸の物を見て、栖村が問いかける。真珠……磯崎がペニスを咥えさせようとしてきた時にも聞いた言葉だ。
「当たり前や。ワシももうええ歳やぞ、今さら増やせるかい。ま、ええ歳や言うても、こういう上物のオンナ見とると、まだまだ現役っちゅう気がしてくるけどな」
 新渡戸は栖村に答えながら、ゆっくりと私に近づいてくる。まだまだ現役、という言葉通り、そのペニスは直角以上に持ち上がり、血管まで浮き上がらせていた。男の勃起に詳しいわけじゃないけど、それが普通じゃないことはわかる。若い角刈りやパンチパーマでさえ、こんなに血管が浮いてはいなかった。
「さすが、絶倫ぶりは健在ですわ。おうガキ、お前も有り難がれや。この新渡戸の兄貴はな、ウチでも古株の調教師なんや。今まで何十人の女が、兄貴の肉棒の虜になって、ヒイヒイ泣いてヨガったかわからん」
 栖村は新渡戸の勃起ぶりを見て、嬉しそうに手を叩く。そして感情を抑えきれないのか、さらに続けた。
「凄いんは数だけやないで。攫ってきた女を色狂いにするとなったら、普通はシャブ漬けにするんやが、この兄貴はシャブ使わんのや。ソープに売ってからも、長く搾り取るためや言うてな。信じられるか? つい何日か前まで生娘やったガキが、シラフのまま抱かれて、一週間と経たんうちに『もっとして、もっとして』言うて足の指まで舐めるようになるんや」
 まるで自分のことのように自慢げに語る栖村に、新渡戸が笑う。
「いつの話しとんねん。今はほとんど隠居の身や」
 そうぼやきながら私の前に立つ新渡戸の眼は、ギラギラと光っていた。芸能界で『一流』と呼ばれる人間が、必ずといっていいほど奥底に秘めていた目力。こういう眼をした人間の専門技能が、半端だとは思えない。
 私は思わず喉を鳴らす。
「まぁ、そう構えんなや。すぐに脳味噌ン中までドロドロにしたる」
 新渡戸が勃起した物を割れ目に擦りつけてくる。妙に熱く、イボの多いそれは、直に触れていても人体の一部とは思えない。
 同時に、その厄介さもひしひしと感じてしまう。割れ目にイボが擦れるたびに、痺れるような感覚が走った。しつこく性感を開発され、敏感になっている事を抜きにしても、妙に気持ち良すぎる。もしこんなもので、もっと敏感な膣の中を抉り回されたら……そう思うと、恐怖とも期待ともつかない震えがくる。
「…………っ」
 だからこそ私は、あえて唇を引き結んでそっぽを向いた。何の感情も読み取られないように。その態度が気に入らないのか、栖村が舌打ちする。
「このガキ、またスカしたツラしくさりおって! せっかく兄貴が直々に可愛がってくれるっちゅうのに、何じゃその態度は!?」
 ベッドが震えるほどの罵声を浴びせる栖村。視線を下げると、不動明王のような顔が見えた。短気で粗暴。おまけに怒鳴るたび、頭痛がするほどの口臭が漂ってくる。
「ったく、堪らんわ。男女平等やレディファーストやいうて、国ぐるみで女甘やかした結果がこれや。女なんぞ男に愛想振りまいて、気持ちよくさせてナンボやろが!」
 最低な人間は、腹の底まで最低だ。差別発言を平気でする。
「アホ、なに時代錯誤なこと抜かしとんねん。そんなんやからお前は、奴隷からの人望がないんや」
 逆に新渡戸はそんな栖村を窘めながら、私に優しい視線を寄越した。ただ、それで人が良いと勘違いするほど、私も世間知らずじゃない。ヤクザの物腰がいくら柔らかくても、それは詐欺師が人を誑しこむ類のもの。心を許したら終わりだ。
「ほな、いくで」
 新渡戸は私の頭の横に左手をつき、右手でペニスを握って狙いを定めた。そして、直後。石のように固い亀頭が、割れ目を押し広げる。
「うっ……!!」
 私は眉を顰め、小さく呻いた。

  ( 痛い……けど、前だって耐えられた……! )

 処女を奪われた時のことを思い出し、なんとか心を奮い立たせようとする。でも、その覚悟じゃ足りない。新渡戸の物は、私の割れ目を埋め尽くしながら、強引に割り入ってくる。膣そのものが、新渡戸のサイズに合わせて拡がっている。おまけに無数の“真珠”がビラビラや襞に擦れるせいで、圧迫感が只事じゃない。
「おおっ、こらキツい……初物みたいや。佐川のガキが味見した言うとったが、そこから1週間で締まりが戻ったか? ええぞ、女の8の字筋は丈夫なんが一番や」
 新渡戸は幸せそうな表情を浮かべたまま、ゆっくりと根元まで挿入しきった。
「はっ、はっ、はっ、はっ…………!!」
 私は目を見開いたまま、呆然と上を見上げる。息が荒い。顔中から流れていく。
 奥の奥まで拡げられた膣の中で、数え切れないほどの突起が粘膜に食い込む状況というのは、想像していたよりずっと怖かった。喉元にナイフを宛がわれるのと同じぐらい、リアルな恐怖だった。
「くくっ、可愛え顔や。真珠入りのデカマラを捻じ込まれた女は、皆その顔になるからのぉ」
「……ぐっ!」
 余裕なんてない。でも新渡戸に笑われた以上、無理にでも瞬き、ツバを飲み込んで、まともな顔を作るしかなかった。
「動くで、息吸っとけや」
 新渡戸は奥まで挿れたまま、ゆっくりと腰を動かしはじめた。上下左右へ揺らすように。
 隙間なく密着した太いもので、割れ目の中をかき回される。となると痛いはずなのに、ペニスは無理なく膣に馴染んでいく。ちゅちゃ、ちゅちゃ、という小さな水音が聴こえた。何度もクリトリスでイきながら、あふれ続けていた愛液だ。痛みがないのは、その愛液が潤滑油代わりになっているせいだろう。
 充分にペニスが膣に馴染んだところで、また新渡戸の動きが変わった。ペニスの先端にある傘の部分で、膣の上壁をこすりながら、ゆっくりと引き抜いていく。無数の“真珠”も膣へ密着したまま引かれるから、ぞりぞりとした強い刺激が立て続けに襲ってくることになる。
「んっ、んんん……っ!!!」
 なるべく声を抑えようとしていたのに、鼻を通って呻きが漏れた。内腿にピクピクと力が入っているのも自覚できた。悔しい。でも堪えようがない。
「気持ちええやろ。女の身体っちゅうもんは、こういうマン汁を掻き出す動きで感じるように出来とるんや」
 新渡戸は笑みを浮かべたまま、私に語りかける。
「特に、膣の狭まった部分にカリ首を引っ掛けるんがミソでな。そこへいくとワシの逸物は、ボコボコ真珠を入れとるさかい、そこらじゅうがカリ首みたいなもんや。ほれ、ゾリゾリ擦れて堪えられんやろ? これの味覚えてまうと、二度と普通のマラでは満足できんようになるで!」
 確かに、堪らない。でも男に組み敷かれたまま得意げな顔をされているのは、それ以上に我慢ならなかった。
「はぁっ、バカじゃないの? こんなの気持ち悪いだけ。ボコボコしたのがいいなら、バイブでも使えばいいでしょ。なのにわざわざ、自分の体に変なもの埋め込むなんて、信じらんない!」
 私は大きく息を吸い、目頭に力を込めて新渡戸の目を睨み据える。私は目力が強いみたいで、誰かと喧嘩になった時にこうすると、大体の相手が息を呑んだ。
 新渡戸も同じく、喋りを止める。でもそれは多分、怯んだからじゃない。だってその後にまた浮かび始めた笑みは、今まで以上に『満ち足りた』ものだったから。
「お、エエな……お前はホンマに、澄んだ綺麗な目をしとる。そんな目ェで睨まれると、“そそられる”わ」
 新渡戸は溜め息交じりにそう囁き、私の横髪を耳から払いのける。
「ワシもこの稼業長いからのぉ、簡単にヨガって尻尾振るような雌犬は、もう見飽きとるんや。なんぼイッても、なんぼ快楽を刷り込まれても、こっちを睨みつけてくるような女がええ。お前は芯が強そうやし、アイドルの世界で頂点に立った実績もある。せやから期待しとるんや。その不機嫌そうなツラが、いつまでもつか……楽しみやわ」
 新渡戸の口調は、笑いを噛み殺しているようでもあり、哀願しているようでもあった。

 そこから、地獄のようなセックスが始まる。
 私なんて所詮小娘だ。新渡戸のように女を抱き慣れた相手には、抗いようがない。私はその事実を、わずか10分足らずで思い知らされた。
 一体、どれだけのテクニックを使われているんだろう。どんなコツがあるんだろう。経験の浅い私には、それを知ることさえできない。
 向かい合ったまま、下の方から斜めに角度をつけてペニスを突き入れ、根元まで挿入したり。円を描くように腰を動かしたり。奥にグッと押しつけたまま、離さずに圧迫し続けたり。解るのはそういう動きと、それでいちいち感じてしまう自分の不甲斐なさだけだ。
 勿論、気持ちいいのは「突かれた」時だけじゃない。無数のカリ首を襞に引っ掛けながら、ズルズルと「引かれる」時も、狂いそうなほど気持ちいい。
「う……っあ、あ、あぁあっ!! ああっ、はぁああ……ああっ!!!」
 どれだけ抑えようとしても、勝手に声が出てしまう。歯を閉じ合わせたり、喉の筋肉を締めたりしても無駄。
 多分、これが絶頂なんだ。絶頂すると、勝手に声が出るんだ。頭のどこかが、そう納得していた。同時に、何度もイかされている恐怖と、それをゲス3人に見られている屈辱で胸が痛む。でも、どうしようもない。
「どうした、腰が浮いとるぞ。もうワシの突き込みの虜になったんか?」
 新渡戸にそう指摘されてはじめて、自分の腰が小刻みに跳ねている事に気がついた。
「あんたなんかの、虜に、なるわけないでしょっ……!!」
 私は歯を食いしばって腰を沈める。濡れきったシーツへ尾骨を埋め込もうかというほどに。
「そうや、せいぜい耐えぇ。それでこそ、狂わせ甲斐があるっちゅうもんや」
 新渡戸は私の左腿を抱え直し、力強く腰を打ち込んでくる。パンッ、パンッと凄い音がして、腿は軽いビンタを受けたようにヒリつくのに、あそこの中に痛みはない。ピンポイントで弱点を抉られる気持ちよさだけがある。しかもその精度は、突き込みが繰り返されるほど上がるんだ。これは、耐える側にとって恐怖でしかなかった。

 私はどれだけの時間、歯を食いしばって耐えられていただろう。1時間ももったなら自分を褒めてあげたいけど、多分そうじゃない。せいぜい20分か、30分。
 いずれにしても、気がついた頃には、大声で絶頂を訴える自分がいた。
「ダメ……もうダメっ……! イク、イッちゃう……いくーーーっ!!!」
 左足首と右腿を掴んで限界まで足を開かされたまま、奥深くを突き回される。これで私は、休む間もない絶頂地獄に引きずりこまれた。
 3人から笑われているのがわかっていても、絶頂の声が止められない。むしろ、これでも我慢している方だ。もし思ったままを口にしたなら、「たまらない」「良い」「凄い」という、それこそゲスを喜ばせるような言葉が溢れだすことになる。
「いや、本当にもう……っ! わかったから、あんたのテクニック、もうわかったから、や、休ませて…………!!」
 そのうち呼吸も上手くできなくなって、喘ぎながら懇願する。新渡戸は汗を滴らせながら、薄い笑みを浮かべた。
「ほお、やめてええんか?」
 そう囁いてから、急に腰を止める。
「ふうっ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ…………!!」
 私は過呼吸になりながら、なんとか安定を求めた。肉体的にも、脳の神経的にも、これ以上の無茶はできないはずだった。
 でも。私の大事な部分だけは、名残惜しそうに新渡戸のイボのついた物を締め付けている。もっと欲しい、もっと突いて、と訴えるように。
 これは、ショックだった。物心ついた頃からダンスの練習をしてきて、意のままに体を動かすことには人一倍の自信がある。そんな私が、体に裏切られるなんて。
「なんや。口では突っぱねといて、オマンコの方はえろう欲しがるやんけ」
 ガタついた心では、新渡戸の笑い顔を直視できない。私は思わず横へ視線を外す。喧嘩で視線を切ったら、負けなのに。遠くから聴こえる栖村の笑い声が、ひどく胸に刺さった。
「ほな、また素直になってもらおか!」
 新渡戸はそう言って、ゆっくりと腰を引んでから、力強く打ち込む。
「あああーーーっ!!!」
 その突き込みは、今まで以上にスポットを力強く擦り、私から覚悟していた以上の声を絞り出す。足指の先までが伸びきり、膣の奥が収縮するのが妙にはっきりと感じられた。さらにパンッ、パンッ、とリズミカルに肉を打つ音がしはじめると、私の体はまた快感に浸る。内腿の辺りだけが異様に力んで、それ以外の場所に力が入らない。どれだけ頭から指令を出しても、体が新渡戸にしか従わない。
「よーし、頃合いや。そろそろ出すで!!」
 さらに何十分か経った頃、新渡戸が唸るように言った。私は頭がバカになっているから、その低い声色をカッコいいと思ったし、『自分の体で満足してくれたんだ』と喜ぶ気持ちすらあった。もし、何のしがらみもなく新渡戸に抱かれていたなら、この時点で堕ちていたかもしれない。
 新渡戸はいよいよ固さを増したペニスを抜き、私の前に突き出すと、節ばった手で扱き始める。そして数秒後。
「おおっ、いくでっ!!」
 新渡戸の呻きと共に、ペニスがピクピクと上下に蠢いたと思ったら、私の顔に液体が浴びせかかった。生暖かく、生臭い匂いのする液体。精子だ。
「わっ、ちょっと! ふざけないでよっ!!」
 鼻先にべったりと精子を浴びせかけられ、私は怒りを爆発させる。さっきまで服従してもおかしくなかった弱気は、これで吹っ飛んだ。
「おっ兄貴、よう我慢しはりましたね。あんまりガシガシ突いてはるさかい、そのままナカに出すんちゃうか思て心配してましたわ!」
 栖村が手を叩いて新渡戸を褒める。新渡戸は荒い息を吐いたまま、栖村を振り向いた。
「一周目は外て決めとったからな。けどこの女、おっそろしく具合がええもんでな、何遍か暴発しそうになったわ。お前も味わってみぃ」
 新渡戸のその言葉で、次の順番が栖村に決まる。
「うーっし、やっとハメられるわ。このクソ生意気なガキ、いつヒイヒイ言わしたろか思うてウズウズしとったんや」
 栖村が片膝を乗せた途端、ベッドの傾きが変わる。一体何キロあるんだろう。私の身体が4つは入りそうな、贅肉の塊だ。
 下着を脱ぎ捨てたことで、栖村の男の部分が露わになる。突き出た腹肉に埋もれない長さと、かなりの太さがあった。新渡戸の物とは少し形が違って、カリ首はそれほど大きく張っていない代わりに、真ん中の部分が膨れているようだ。
 そして、いざそれが目の前に近づいてきた時、最悪な事実がわかる。半分皮を被った栖村のペニスの先には、べっとりと垢のような物がこびりついていた。ずさんな性格なのか、それとも嫌がらせか。どっちにしても、こんな物を挿れられたら病気になりかねない。
「き、汚いっ! せめてその、垢みたいなの取ってよ!!」
 私が顔を顰めて叫ぶと、栖村の表情が緩む。やっぱり、わざとだ。
「気になるなら、オノレで綺麗にせぇ。舌で舐め回しゃあすぐ取れる」
「はぁっ? それぐらい自分でしなさいよ、何様のつもり!?」
 あまりにも自分勝手な物言いに、私は思わずキレた。でも、栖村の態度は変わらない。
「そら、今は調教中やからな、『ご主人様』のつもりや。別にやらんならええで、このまま突っ込むだけのハナシやしな」
 そう返されると、一方的に私が不利になる。
「…………!!」
 私は悔しさで顔を歪めながら、仕方なく栖村のあそこに触れた。異臭を放つ赤黒いものに指を這わせ、粘ついた垢を摘んでは捨てていると、死にたくなる。宮プロへ入ったばかりの頃にやらされた、トイレや排水溝の掃除より酷い気分だ。
「ぐひひっ、くすぐったいわ!」
 私の指が這うたびに、栖村が巨体を揺らして笑うのも不愉快だ。こんな奴を、ほんの少しでも喜ばしたくはない。かといって爪でも立てようものなら、平気で殴ってきそうな奴だから、下手な事もできなかった。
「……さて、もうええやろ。くすぐられてムズムズしてきたわ!!」
 まだ垢を取りきっていないうちに、栖村が短気を起こす。
「ちょっと、まだ……!!」
 私の抵抗なんてまるで無視で、強引にベッドへ押し倒し、足を開かせる。そして膨らんだ4段腹をさらに前へ突き出すようにして、一気に突き込んできた。
「んんっ!!」
 新渡戸ほどゴツゴツした異物感はないものの、サイズは大差ない。声を殺すのが難しい圧迫だ。
「おおっ、よう締まんのぉ。兄貴の言う通りや!」
 また、栖村が喜ぶ。ランプを後光の形で受けるその顔には、私を蔑む笑いと、喜びからの緩んだ表情が混ざりあっている。それを目の当たりにした時、自分が犯されているという事が、これまで以上にはっきりと自覚できた。

 ギシッ、ギシッ、と壊れそうな音を立てて、ベッドが軋む。巨体の栖村が相手だと、腰を打ちつけられる時の衝撃も新渡戸の比じゃない。ハンモックに揺られながら、木の幹に股間を強打する……そんなイメージだ。それを延々繰り返されるのは、拷問に等しかった。
「ポルチオがだいぶ“ふやけて”きとるやんけ。どや、気持ちええやろ? 気持ちよくてたまらんのやろ? 正直に言うてみぃ!!」
 栖村はたびたび、確認するようにそう尋ねてくる。
「ん、くっ……はぁ、う、うんん……っ!!」
 私はあえて言葉を返さなかったけど、甘い喘ぎが答えになってしまっていた。
 新渡戸ほどではないものの、栖村の腰遣いもポイントを外さない。それに散々イかされたばかりの今は、奥まで挿入して、一気に引き抜く……そういう単純な動きだけでも、絶頂するのに充分すぎた。
「蕩けたツラしおって、この淫売アイドルめ!」
 心を抉る嫌味と共に、栖村は前屈みになりはじめる。
「う゛っ!?」
 体重が体重だけに、潰されそうで苦しい。思わず漏れた私の呻きは、栖村の口づけで遮られる。
「んううう゛っ、んむうあ゛っ!!!」
 圧迫感と、酸欠、そして生臭いような口臭。まさに地獄だ。
「……ぶはっ! はっ、はぁっ、ちょっとやめてよ、あんた口臭いんだからっ!!」
 口づけから解放され、すぐに抗議する。何しろ頭痛がするレベルで臭いんだから、キスなんて冗談じゃない。でも栖村は、相変わらず余裕の笑みを浮かべているだけだ。
「そやろな、どの女もそう言うわ。けど、やめたらん。ワシはな、女が苦しんだり嫌がったりしとるのを見るんが、一番好きなんや」
 栖村はそう言って、また私の口を吸いはじめる。下腹にも贅肉を叩き込みながら。確かに、こいつはそういう奴だ。薄々わかってはいた。でも、納得なんてできない。
「………ッ!! ……………ッッ!!!」
 私は苦しみながら、至近距離で栖村を睨み続けた。睨んで、喘いで……そして、絶頂させられた。
 何度も。何度も。何度も。

 ようやく栖村が割れ目から赤黒い物を抜いた頃、私は心身共にボロボロになっていた。でもその失神状態は、栖村の射精で途切れる。なにしろ量が半端じゃなかった。私の胸に浴びせかけたものが、顎にまで飛び散ってきたんだから。
「相変わらず、どえらい量出んのぉ。どうなっとんねんお前のタマ袋は」
「へへへ。ブタは射精量が売りなんですわ」
 緊張感の欠片もない、新渡戸と栖村の会話が聴こえてくる。その最中、のっそりと私に近づく影があった。唯一会話の輪に入らない、磯崎だ。外国人レスラーのような色黒の巨体は、逆光を受けていよいよ黒そのものに見えた。相変わらず表情筋は少しも動かないから、ただただ不気味でしかない。
「……しっ、尻を突き出せ」
 磯崎は、しばらく私の身体を眺めてから、ぼそりとそう言った。多分、胸から顎にかけて浴びせかかった栖村の精液が気になるんだろう。
 でも私は、少しの間動けなかった。改めて、磯崎のペニスを目の当たりにしてしまったから。
 新渡戸、栖村。その2人の物を見た後だと、改めてその規格外ぶりがわかった。掴めるかどうかで考えられたあの2本とは、まず太さからして違う。ひと目で『掴めない』ことがわかる。500mlのペットボトルが股間からぶら下がっているようなものだ。それを挿れられると想像した瞬間、動けなくなった。
「は、早くしろ」
 磯崎がさらに呟く。心なしか機嫌が悪そうに。栖村の語った、磯崎の凶暴ぶりを思い出す。確かに、何をするかわからない雰囲気がある。
 私は仕方なく身を起こし、磯崎に背を向けた。するとその尻を、2つの大きな掌が鷲掴みにする。私がごくりと生唾を呑み込んだ直後、割れ目に固い物が押し当てられた。その表面積からして、明らかの他の2人と違う。入りそうな気がしない。
「やっぱり、やめ――」
 私がそう言いかけた、その瞬間。磯崎の物が、割れ目へとめり込みはじめる。
「ああああ゛っ!!」
 思わず悲鳴が上がった。大袈裟でも何でもなく、メリメリと音が聴こえてきそうだ。割れ目は筋が千切れそうなほど広がり、骨盤が外れそうに軋む。私に納まる大きさじゃない。
「いたいっ!! 無理、無理よぉっ!!!!」
 私が叫ぶと、一旦磯崎の腰が止まる。はあっ、はあっ、と自分の荒い息がようやく聞こえはじめる。でも、磯崎のペニスはすっかり抜かれるわけじゃない。ほんの少し引き抜かれると、また少し進む。浅い部分を往復する形で。
「なんや、優しいのぉ、慣らしてやっとるんか。そんなキツい東京女が好みとは、意外やわ!」 
 栖村が茶化しても、磯崎に反応はない。淡々と、割れ目を拡げることにだけ専念している。その様子は、他の二人とはまた違う怖さがあった。
「……い、挿れるぞ」
 そして、とうとう磯崎がそう宣言する。
「待って、いや……!」
 私はどうしても覚悟できずにそう呻くけど、今度は聞き入れては貰えなかった。サイズ違いの極太が、力任せに奥へ入り込んでくる。骨盤の外れそうな感じが洒落にならなくなって、思わず逃げようとするけど、腰をガッチリと磯崎に掴まれていて動けない。
「ゃあ゛あ゛あ゛あ゛ああ゛っ!!!」
 ステージでも出したことがない声で喉を震わせ、必死に前を向く。俯くと、そのまま気道が塞がりそうだったから。
 目の前には、ただの鏡になったマジックミラーが広がっていた。見慣れた自分の身体の後で、山賊のような大男が腰を打ちつけている。レイプされているという事実を認識するには、充分すぎる光景だ。
 私の意識は、鏡の中に釘付けになった。ショックだからというのもあるけど、挿入の恐怖から意識を外そうとする、現実逃避でもあったんだろう。
 実際、サイズ違いの物が無理矢理膣の形を変えて入ってくるのは、ひたすらに怖い。鏡の中で、私の顔は恐怖に引き攣り、ガチガチと歯を鳴らしていた。
 でも、それは迎え入れている間の話。
「それで、奥まで入っとるんけ?」
 磯崎の腰が止まったところで、栖村が尋ねた。磯崎は静かに頷く。
「はっ、たまげるわ。まだ半分近う余っとるやんけ。ホンマ、黒人並みのデカマラやのぉ!」
 黒人並み。まさにその通りだと思う。日本人が迎え入れるには、あまりにも無茶なサイズだ。実際私の脚は、その無理のせいでガクガクと震えている。
 でも、痛いだけじゃない。明らかに限界以上という圧迫感に、どこか興奮している自分もいた。足の震えにしても、恐怖半分、期待半分という感じがする。
 多分この時の私は、一種のトリップ状態だったんだ。何日も前から焦らしを受け、快感が堪りきったところで爆発させられたから。クリトリスと膣内での絶頂を、何十回と立て続けに覚えこまされたから。
「し、尻を突き出せ」
 朦朧とした意識の中で、磯崎の命令に従ってしまう。
 そして、磯崎は腰を遣いはじめた。引き抜く時には、膣の襞ごと捲り上げるようにして。突き込む時には、骨盤を軋ませながら。
「はっ、はぐうっ……あっく、くぁっ、あああ゛あ゛あ゛っっ!!!」
 私は、そんな抜き差しを受けながら、間違いなく感じていた。絶望的なまでの質量で膣の奥を突き上げられるのは、普通なら痛いに決まってる。でも今は、それが堪らなく気持ちいい。明らかに異常だとわかっているのに。
「ああっ、はああっ!! ああ゛っ、うぅうう゛ーーっ!!!」
 シーツを掴み、首を逸らして何とか快感を振り払おうとしても、無駄だった。最後にはベッドに肘をつき、項垂れたままで暴力に浸ってしまう。犬のような格好で。


 新渡戸、栖村、磯崎から一度ずつ抱かれ、精液を浴びせかけられた時点で、私はかなり消耗していた。ベッドに倒れこんだまま、汗まみれで喘ぐことしかできないほどに。
 でも、ゆっくり休んではいられなかった。角刈りが言っていた通り、3人は絶倫で、一度射精したぐらいでは萎えなかったからだ。
 私は、汗の匂いが立ちこめる部屋の中で、3人から代わる代わる犯され続けた。
 3人それぞれ抱き方は違った。
 新渡戸はひたすら手馴れた様子で、愛人にするように私を抱く。スポットを外さず膣を突きながら、乳房やうなじ、耳や背中までを刺激してくる。それがいちいち気持ち良いから、あそこの快感と結びついて狂いそうになってしまう。
 栖村はその逆で、ひたすら私に嫌がらせを繰り返した。例えば『駅弁』という体位で私を抱きながら、キスを強要したり、だ。この体位では両腿を掴んだまま持ち上げられるから、バランスを取るためには相手の首か肩にしがみつくしかない。その状態でキスをしつこく迫られるものだから、えずきそうになってしまう。
 磯崎はそのどちらとも違って、淡々と自分の欲望をぶつけてきた。でもアレのサイズが規格外だから、それだけで充分な責め苦になる。特に二度目のバックスタイルで、両手を掴みあげたまま犯された時には、つい情けない悲鳴を上げてしまった。

 そして、調教師が3人いる以上、常に1人が相手というわけじゃない。途中からは一人に犯されながら、もう一人にも奉仕させられる、ということも多くなった。
「ほら、気合入れぇ。口でイカせられたら、その分マンコ使われんで済むんやぞ?」
 そう言われながら、ゴツゴツしたものを口に突っ込まれる。
「こっちも締めんかい!」
 別の一人も、太腿を抱え直しながら容赦なく突き込んでくる。
 こんな事が、延々と続けられた。水曜日……二度目の握手会の朝まで。


    ※           ※           ※


 握手会へ向かう途中、気分は最悪だった。
 石鹸でしつこいぐらい身体を洗っても、まだ3人の精液が全身にこびりついている気がした。ほとんど寝る間もなく抱かれつづけたから、コンディションも悪い。特に目の下のクマがひどくて、化粧でごまかしきれる気がしない。
 ただ、建前上私は『入院中の身』なんだから、ある意味リアルといえばリアルだ。

「結衣ちゃん、つらそうだね……でも、頑張ってね!」
「応援してるぞ、結衣っ!!」

 大勢のファンが、私の手を握りしめながら心配してくれる。それは本当にありがたくて、疲れ切った心に元気が沸いた。
 でも、幸せの陰には大抵不幸が隠れている。
「初めまして、結衣さん。“地下”で、いつも見てます」
 列に並んだある一人が、私の手を握りながらそう言った。地下、という部分に不自然なアクセントをつけて。
「……ありがとう!」
 引っ掛かりはあったものの、“地下”を地下ライブの事と解釈して、とりあえず感謝の言葉を返す。すると相手は、目元を緩ませた。
 なんだか変な感じだ。それに彼は、地下ドルのファンとしては浮いている。ドレッドヘアで、色黒で、細いけど筋肉質な体型、そして整えられた顎ヒゲ。繁華街の裏通りでラップバトルでもしていそうなその見た目は、明らかに周りと違った。
 おまけに、彼だけじゃない。彼の後ろに並んでいる一人もだ。
 何かある。私が直感的にそう察した直後、ドレッドヘアがまた口を開く。
「いやーしかし、大変っスよね。『あんな3人』に、ずっと可愛がられてるんすから」
「っ!?」
 私は、思わず耳を疑った。
 『あんな3人』、『ずっと可愛がられる』、そして『地下』。間違いない。この男は、あの調教部屋でのことを知っている。
「時間です」
 横にいる『剥がし』のスタッフさんがタイムリミットを知らせると、ドレッドヘアは薄笑いを私に向けた。
「あ、そーだ。これから芝斑公園のトイレで待ち合わせなんスよ……んじゃ」
 そう言い残して、悠々と列を離れる。
 バラされたくなければ、指定の場所に来い――そういう意味だろう。
 次に来るのは、同じく場違いな男。斜めに被った帽子に、腕まくりしたぶかぶかのTシャツ、黒いリストバンド……いかにもなラッパー風の見た目だ。
「どうも」
 そう挨拶して握手を求めてくる。私がそれに応じると、ぐっと強く手を握られた。逃がさない、と言わんばかりに。
「あんま時間ねぇっスから、一言だけ。いっつも“楽しませてもらってます”。」
 薄笑いと、含みのある言い方。やっぱりそうだ。こいつらは、私の弱みを握っている。
「……ありがとう」
 私は、そう答えるしかない。斜め帽子の男は、小馬鹿にしたように頷いた。
「じゃ、これで。俺もさっきの奴と、同じトコで待ち合わせなんス」
 ほとんど耳元でそう囁きながら、彼は列から離れていく。

「……結衣。お前、さっきの奴に何か言われたのか?」
 握手会がひと段落したところで、あんりが声を掛けてきた。メンバーのちょっとした変化に気付く視野の広さは、流石だ。
「え……ああ、なんだろ。勘違いしてるのかも」
 私は苦笑いしながら、そう誤魔化すしかない。どこか後ろめたさを感じながら。
 
 ――どうして?

 握手会をしていたホールを出て、芝斑公園へ向かう間、私は自問自答を繰り返す。
 なぜあの2人は、調教の事を知っていたんだろう。
 部屋を撮影していたビデオが流出した? いや、それにしては早すぎる。ビデオの映像を編集するのにも、ある程度時間が掛かるはず。ましてやそれを誰かに売り、さらにその売った相手が観て……の一連の流れが、たった一週間で済むものだろうか。
 じゃあ、ヤクザの誰かが情報を漏らした? でもそんな事をして、何のメリットがあるんだろう。
 色々と考えているうちに、地図アプリが公園入口を指し示す。
 小さな公園で、人影はない。住宅街からも太い道路からも離れているせいだろう。遊具の数も少なくて、鉄棒にシーソー、ブランコぐらいしかない。
「おーい、こっちこっち!」
 公園に踏み入ってすぐ、そう声を掛けられた。振り向くとトイレがあって、その裏手からドレッド男が手招きしている。私は仕方なく、その指示に従った。
「お、来た来た」
 トイレの裏手につくと、斜め帽子が立ち上がる。
「すげー、やっぱ本物の四元結衣だよ。“あそこ”で見た時は、正直信じらんなかったけど」
 そう言いながら斜め帽子の男は、私の頬に手を触れた。
「あんた達、何をどこまで知ってんの?」
 私は2人を睨みながら尋ねる。すんなり答える訳がない、と思いながら。
「何を……って、全部?」
 斜め帽子がそう言って笑う。ドレッド男も同じく肩を揺らしはじめる。
「そーそー。俺ら、君のいたライブハウスのスタッフなんだよね。あそこってステージ奥、マジックミラーじゃん? だからさあ、ステージ終わってライト消えたら、“そっちの部屋ン中”見えんだよ」
 このドレッド男の言葉は、衝撃的だった。
 どうして気付かなかったんだろう。マジックミラーは、暗い方から明るい方を覗ける仕組み。ステージが光源に溢れていたライブ中は、調教部屋からステージが丸見えだった。だったら、その逆……ステージの照明が落とされてからは、ステージ側から部屋の中が丸見えになってしまうんだ。
 全部、見られてた。あの3人の代わる代わる犯されているところを、全部。
「ま、そういうこと。バラされたくなきゃ、大人しくしてろよ」
 ドレッド頭がそう言って、私のスカートに手を掛ける。
「くうっ……!!」
 悔しい。悔しいけど、従うしかない。こんなスキャンダルを暴露されたら、私の芸能生活は終わりだ。

 そこから私は、半端に服を脱がされた。ブラウスの前をはだけて乳房を露出し、ミニスカートからショーツを抜き取った状態。丸裸よりマシとはいえ、誰かに見られたら大変だ。
「ちょっと、こんな所で……!」
 そう抗議しても、2人は聴く耳を持たない。すっかり飢えた獣の目になっている。
「すげー。これがあの『リュネット』のセンター、四元 結衣のオマンコかぁ!」
 ドレッド男がそう言いながら、あそこに口をつけてきた。
「お……なんだよオイ、キレイな割に匂うぜ?」
「そりゃそーだろ、ヤリマンなんだから!」
 容赦のない詰りで、顔が熱くなる。本当にそうなんだろうか。私の反応を見て笑っているところを見ると、言いがかりの可能性もある。でも、この数日はずっと愛液が垂れ流しの状態だったんだから、嘘とも言い切れない。
 斜め帽子の方も、乳房の揉み方に遠慮がない。
「乳首もピンクだし、すげーやらかいぜ。やたら尖ってっけど」
「クソ感じてんだろうな。やっぱヤクザにハメられんのって気持ちいいのか?」
「……別に」
「ハハッ、嘘つけ。観てたって言ってんだろ? お前が気ィ失いながらヒイヒイ善がってんのも、全部わかってんだよ!」
 せっかく答えても、笑いの種にされるだけだ。だから私は、男2人の言葉になるべく反応しないことにした。何と詰られようと。
「チッ、なに澄ましてんだよ。自分が脅されてる側だってわかってんのか?」
 そのうち、ドレッド頭が舌打ちする。そして痺れを切らしたように、ベルトを緩めてチャックを引き下げた。男の物が露出する。あの3人の物を見た後だと、ひどく現実的な大きさに思えた。
「しゃぶれよ」
 横柄な態度で命令されるのは、かなり屈辱的だ。でも、こればっかりは無視できない。私は思いっきり相手を睨みつけながら膝をつく。下が砂利だから嫌だったけど、便器を跨ぐ格好でしゃぶるのはそれこそ無様だ。
「っは、むっ……ん、んっ……」
 指先で皮を剥いて、先端を口に含む。生臭い匂いを必死に堪えながら、唇を前後させる。これが今の精一杯。でもどうやら、これじゃ話にならないらしい。
「はははっ、ヘタクソだコイツ!」
 私がしゃぶり始めてすぐに、ドレッド頭が噴き出した。
「でも、この慣れてない感じが逆に興奮するわ。リュネットの頃から処女っぽいって言われてたけど、ガチで奥手なのな!」
 褒められているのかどうか、微妙な評価だ。でも今は、しゃぶり続けるしかない。上手くなくたって、刺激さえ与えていればそのうちイクんだから。
 でも、口に集中できている時間は短かった。
「いいねぇ、慣れてない感じ。じゃ、俺はこっちで遊ぶとすっか」
 後ろから斜め帽子の声がした直後、割れ目に何かが入ってくる。指だ。太さ的に2本ぐらいだろうか。
「ち、ちょっと、やめてよ!」
「んだよ、フェラだけじゃ見てる方がつまんねーだろ。仮にもアイドルなら、そんぐらい気ィ回してよ」
 私の抗議は軽く流され、指が激しく動きだす。遊び慣れてるんだろうか、感じるポイントをわかっている動きだ。
「うあっ! あ、あっ……はああっ!!」
「すげー、もう濡れてきた。Gスポ開発されてんなぁ!」
 わずか数分で、割れ目からグチュグチュという音がしはじめる。とろっとした液が、内腿を垂れていく。膝をついた両足に力が入り、膝に砂利が食い込む。
 駄目だ。早く前の一人をイかせて、指責めを止めさせないと。そう思って舌で舐めまわすけど、ドレッドヘアは余裕そうだ。
「はぁっ、はぁっ……おねがい、早くイって……!」
 だいぶ大きさを増したものを吐き出し、指で扱く。自分の唾だらけのものを触るのは嫌だけど、贅沢を言っている場合じゃない。こうして指で扱くのは、口よりかなり効くみたいで、ドレッド男の足に筋肉が盛り上がりはじめた。
「おおっ……へへ、もうすぐイクって。もうすぐ、もうすぐ」
 でも、ドレッド男は簡単にはイこうとしない。壁に片手をついたまま、下半身に力を込めて耐えている。その間にも後ろからの指責めは続いているから、逆に私の方がイキそうになってしまう。
「う、ああぁ……はやく、はやくっ……!!」
 ドレッド男の腰に頭を押し当て、必死に手首を動かす。
「すっげ、いいわーそれ」
 ドレッドの息も荒くなってきた。でも、まだ耐えそうだ。そしてどうやら、私の方は限界が近い。尿意のようなものが溜まっていく。クリトリスの下がピクピクと脈打つ。
「お、お!? これイクな、イクよな!? っしゃ、イケやっ!!!」
 そう叫びながら、臍近くを押し込まれた瞬間……とうとう、限界が来た。
「はやくふぅ……っぅううううんん゛っ!!!!」
 何度も繰り返していた言葉が鼻声になり、呻きに変わる。その最中、私の割れ目からは何かが漏れた。あの調教部屋でも、何度も噴かされたもの。小便じゃなく、『潮』とかいうもの。
「はははははっ、出た出た!」
「うっわスゲー、AVみてぇ!!」
 男2人は、大笑いしていた。子供みたいに無邪気な笑い声に聴こえた。悪意しかないのに。許せないような、クズなのに。

「ふーっ……へへ、すげぇ女臭ぇ」
 斜め帽子が手の水気を切りながら、わざとらしく鼻の前を扇ぐ。
「臭ぇっつーより、フェロモン系だよな。チンポバキバキになっちまう」
 一方でドレッド男は、唾液まみれの物を反り返らせながら、ポケットから袋入りのコンドームを取り出した。
「お、ゴムすんの?」
「そりゃな。ホントは生でハメてぇけど、ヤーさんにヤキ入れられんのも嫌だしよ」
 2人は淡々とそんな会話を交わしている。私を犯す前提の話を。
 気持ちが沈む。すぐにでも走って逃げ出したくなる。
 そうできない事がわかっていても。

 私はトイレの外壁に手をつかされ、腰を突き出す。
「うっは、トロットロ。犯される準備バッチリじゃん」
 甲高い声……斜め帽子が、私の割れ目を指で拡げながら笑った。同時に風が吹き抜けて、汗を掻いた乳房の下が冷える。ここが屋外なんだと、改めて感じてしまう。
「ねぇ、本当に場所変えてよ。こんな所、誰かに見られるって……!」
 私は振り返りながら、必死に訴えた。でも、斜め帽子はすでにゴムを装着し、割れ目にアソコをすりつけ始めている。こうなったオスに、もう言葉は通じない。
「はぁ? じゃなんだよ、便所の個室ででもハメろってか? 汚ぇから、却下!」
 その言葉の直後、腰が掴まれ、割れ目に熱いものが入ってくる。
「くんっ!!」
 声がでた。認めたくないけど、感じてしまったから。
「おっ? ……おいおいおい待て待て、くっそキモチイイぞコレ!?」
 それまで以上にオクターブの高い声がする。私の腰を掴む指が、ピアノでも弾くように小さく跳ねた。
「え、なに? そんな良いの?」
「おう、ヤベェって。グチョグチョのマンコがよ、すっげぇ絡み付いてくんの。これアレかもしんねぇ、ミミズ千匹とかそういうの!!」
 かなり興奮しているようだ。考えてみれば、あの皮肉屋の栖村でさえ、私のあそこに関しては悪態をつかなかった。もしかして、本当に具合がいいんだろうか。  もっとも、そうだったとして、結局そこを使うのはあのヤクザ達かこんな連中だけなんだから、何の意味もないけど。
「くっそぉ、生ハメしてぇー!!」
 悔しそうにしながら、夢中で腰を振る斜め帽子。
「んっ……はぁ、あっあ……」
 私はその突き込みを受けながら、喘いだし、熱い息を吐いた。でも、正直なところかなり余裕がある。あのヤクザ3人のサイズを経験した後だと、斜め帽子の物なんて指2本を入れられているのと何も変わらない。一応、膣がしっとりと纏わりついている感じはするから、存在を感じないほどじゃないけど、少しも気張る必要がなかった。
「ああクソ、もう駄目だ……出るっ!!」
 喉に引っ掛かったような呻きの後、あそこの中で硬い物が何度か跳ねる。どくっ、どくっ、と脈打つ感じがして、ゴムの独特の感触が膣の深い部分をくすぐる。
「あーヤベェ、めっちゃ出た……。くそっ、今日もう無理かも」
「くくっ、ザマぁねえな。アイドルとヤレるからっつって、オナ禁なんかすっからだよ」
 項垂れる斜め帽子を尻目に、ドレッドヘアが竿を扱きながら近づいてくる。さっきよりは少し太いとはいえ、長さは全然だし、少しも怖さがない。実際、挿入を受けてからも、足に力を入れずにすんだ。
「くくっ、確かにきついな。ヤクザのぶっといので散々ハメられた割にゃ、よく締まるじゃねーか」
 そんな事を言いながら、必死に腰を打ちつけてくる。相変わらず痛みはない。膣の襞が自然に広がる範囲での抜き差しだ。

 ただ、肉体的には楽でも、精神的には気が気じゃなかった。
「しっかし、まさかあの四元結衣とパコれる日が来るなんてよ。ヤクザの事務所で誓約書書かされた時ゃ正直ビビッたけど、あのバイト行ってよかったわ!」
「だな!」
 事務所、誓約書。確かにそう聴こえた。
 この2人は、全くの一般人というわけじゃない。あくまでヤクザに雇われてるんだ。考えてみれば当然の話。どこの誰ともわからない人間に『あの部屋』を見せるのはリスキーすぎる。となれば当然、ライブハウスのスタッフには素性の割れている人間を選ぶはずだ。
 ヤクザに身元を把握され、誓約書まで書かされたなら、そうそうネットで拡散したりはしないはず。でも……絶対にしない、とは言い切れない。中には、後先を考えない恐れ知らずのバイトだっているかもしれない。胸のざわつきは消えない。
 そして、そんな私の不安に追い討ちをかけるように、ここで最悪な事が起きた。

「そこでなにしてんのー!?」
 澄んだ子供の声がする。はっとして横を向くと、トイレから少し離れた砂場に、2人の子供が立っていた。小学校低学年ぐらいの、男の子と女の子。手を繋いでいるところを見ると、かなり仲がいいんだろう。
「あっ!?」
 私は悲鳴を上げながら、必死に繋がった部分を隠そうとする。こんな所を見せちゃいけない。でも、壁に両手をついたまま犯される状態では、何もできない。
「へへっ。なーに、遊んでんのよ。この美人の姉ちゃんと」
 ドレッドヘアは少しも動じず、むしろ腰を大きく引いて打ち付けてくる。
「うんっ!!」
 突き込みが深まり、つい声が出てしまう。
「あそんでる……の?」
 子供2人は、疑うことを知らない眼でこっちを見上げていた。そんな眼で見られると、堪らない。
「いやっ、み、見ないでっ! 見ちゃだめっ!!」
 私がそう叫んでも、子供達は不思議そうにするだけだ。
「そうガキを除け者にすんなって。お前ら、よく見とけ。あと10年ぐらいしてオトナになったら、お前らも散々やるんだからよ!」
 ドレッドヘアがそう言って、私の右腿を抱え上げた。膝裏に腕を入れて、高く。そんな事をすれば当然、挿入しているところが子供達に丸見えになってしまう。
「い、いやあぁぁっ!!!」
 私はまた悲鳴を上げる。そして、すぐに後悔した。私を見上げる子供達の顔が、強張ったから。
「オイオイ。ビビらせてどうすんだ、伝説のアイドルさんよ」
 斜め帽子が囁きかけてくる。悔しいけど、その通り。目の前でいけない事が起きてるなんて、この子達に悟らせちゃだめだ。少なくとも今は。
「なんか……いたそう」
 女の子の方が、私を指差して言う。男の子の方も不安そうで、女の子の袖を掴んでしまっている。
「いや、そんな事ぁねーよ、コイツだって楽しんでる。な、そうだろ?」
 ドレッドヘアは笑みを浮かべながら、大股を開いた私に腰を打ち込んでくる。正直、震える気持ちだ。でも、ここは演技をするしかない。
「ああっ……う、うんっ、そう、楽しいっ!!」
 無理矢理に笑みを作り、壁にもたれかかって甘えるような仕草をする。子供2人が口を開けた。強張りは消えたけど、戸惑っている感じだ。まだ、まだ足りない。もっと誤魔化さないと。
「そうだよな、楽しいよな! “気持ちいい”んだよな、結衣っ!!」
 ドレッドヘアがさらに調子に乗る。
「あぁっ、あああっ!! うんっ、き、きひもちいいっ……はぁっ、はぁっ、あああっ!! きもちいいの……っ!!」
 私は口裏を合わせる形で、何度も快感を訴える。気に入らないけど、子供達のために仕方ないと思って。
 でも、これが命取りだった。
「どう気持ちいいんだ、言ってみろ!」
「はぁっ、はぁっ……お、奥に届いて……んんんっ、届いてるぅっ!!」
「それだけか!?」
「ああ、ああっ……あ、あと、あそこの中がグチャグチャで……感じちゃうっ!!」
 ドレッド男の誘導に沿って解説しているうちに、私の中で変化が起きはじめた。声に出して言うことで、本当に感じはじめたんだ。

 ぐちゅっ、ぐちゅっ、ぐちゅっ……。ぐぱっ、ぐぱっ、ぐぱっ……。

 割れ目が掻き回される音を聴きながら、私は本気の絶頂に向けて上っていく。壁についた指でレンガを掻き、喉を反らして天を仰ぎ、抱え上げられた右腿をぶるぶると震わせて。
 子供達の目は、そんな私をまっすぐに見上げていた。蝶の羽化でも見守るように。
「おらっ、イクんだろ? ガキの目の前で嵌められて、ドロドロに濡らしながらイクんだろ、この変態女ッ!!!」
 ドレッド男の突き込みが、さらに早くなる。力強くなる。
 私の快感のコップは、信じられないほど早く満ちた。最初は、あんなに余裕があったのに。
「いっひ……はっ、はああっあっあ!! へ、変態だから……変態だからぁっ、こんなので…いくっ、いっちゃう…………いッくうウウぅん゛っ!!!!」
 ぐちゃっ、ぐちゃっ、と奥までを潰されながら、そう宣言した瞬間。
 コップの水があふれだした。あそこの奥がヒクついて、下半身にビリビリとした快感が走る。その電気のせいで全身が脱力して、割れ目の中からぶしゃっと水が噴出す。
「あー、もらしてるーー!!」
 男の子が私を指差して叫んだ。違うよ、と答えたかったけど、声にならない。私がしたのは多分、絶頂の余韻に浸りながら、パクパクと口を動かしたことだけだ。
「へへ、盛大にイキやがって。楽しかったろ?」
 ドレッド男にそう囁かれ、子供達の注目を浴びながら、私は頷く。頷くしか、ない。
「よーし。じゃ今度は、俺が遊んでやるよ!」
 呆然とした私の身体を、斜め帽子が壁際に押し付けた。そして腰を抱え上げ、硬さを取り戻した物を捻じ込んでくる。
「うんんん……っ!!」
「かははっ、なんつー気持ち良さそうな声出してんだオマエ。いいぜ、一緒に気持ちよくなろうぜ。これは、皆がハマる最高の遊びなんだからよ!」
 そう言って、斜め帽子は腰を使いはじめた。
 子供達が見ている以上、私は、笑顔でそれを受けるしかない。
「そろそろ、はぁっ……帰んないと……んーっん……お母さんが、あぁっ、心配するよ……?」
 そう言ってみても、子供達は一向に帰る気配がなかった。スコップやバケツを落とした事にすら気付かず、私達の行為に夢中になっている。
「へへ、興味津々ってツラだな。何なら、今度2人でやってみろよ」
 ドレッド男が腕を組んだまま、無責任に言い放つ。
「はぁっ、はぁっ……だ、ダメだって。これは……んんっ、オトナだけがしていい、ご褒美……なんだから…………んんんっ!!!」
 私は必死にフォローを入れながら、蟻地獄のような快感に必死に抗っていた。でも、それだっていつまでもはもたない。
「ほらっどうしたよ、腰ヒクヒクさせやがって。イイんだろ? ガキ共が楽しみにしてんぜ、もっと声出してみろよ!」
「ああっ、はぁっ……きもちいい、きもちいい……きもち、ぃイイいい゛っ……!!」
 私は相手の求めるままに喘ぎ、うっとりした顔をしてみせる。子供達には気付かれない部分……相手を見上げる瞳にだけ、たっぷりの恨みを込めて。


    ※           ※           ※


 電車を乗り継ぎ、ようやくライブハウスに帰りついた頃には、月が出ていた。
 結局あの2人に3回ずつ抱かれ、あそこの異物感がひどい。
「……シャワー、使わせて」
 調教部屋のあるフロアで、たまらず見張り役の角刈りに願い出た。でも角刈りは、私に舐めまわすような視線を這わせた後、首を振る。
「なんでよ!?」
「兄貴らが痺れを切らしとる。とっとと抱かれてこい」
 角刈りはそう言って歯を覗かせる。多分、途中でスタッフ2人に襲われた事はお見通しなんだろう。
「……あんた達って本当、ヒトの心がないんだね」
 私が溜め息交じりに呟くと、角刈りはまた首を振った。
「イジメて楽しむんも、立派なヒトの心や」
 呆れるようなクズの理屈だ。
「そんな事ばっかりしてると、そのうち地獄に堕ちるよ」
 私はそう吐き捨てて、暗い廊下を進む。
 胸がムカムカする。この先にいる3人も、さっきと同じ理屈で生きている連中だ。これからまた、そんな奴らのオモチャになると思うと、死にたくなってくる。

「ほな、見せてもらおか」
 ソファに身を沈めた栖村が、チーズを食い千切りながら命じる。
「…………。」
 私はソファの3人を睨み据えながら、そのすぐ近くでストリップの真似事を始めた。生理的に無理な中年男に裸を晒すのは、それだけで気が滅入る。おまけに今は……
「なんやお前、腿が濡れとんぞ!?」
 スカートを脱ぎ捨てたところで、栖村が鬼の首でも取ったかのように叫んだ。
「パンティ脱いで、ようオマンコ見せてみぃ!」
 下品な命令。でも、それに従うしかない。私はショーツを足首から抜き取ると、肩幅に足を開く。
「ちゃう、もっとや! 足ぃ開いて、オノレの指でグアッと拡げんかい!!」
 また栖村が叫んだ。すでに額に青スジが立っている。どれだけ気が短いんだろう。そのまま血管が切れて、倒れてしまえばいいのに。
「…………く、うっ…………」
 私は屈辱で身震いしながら、言われた通りに大股を開き、自分の手でビラビラを左右に割る。とっくに気付いていた。あそこがヒクついて、すっかり濡れていることぐらい。
「どういうこっちゃオイ。もう濡れとるやんけ。えらい帰りが遅い思うたら、こんな時間までオナっとったんか!?」
「ち、違う!」
 そう反論しつつ、はっと気付く。
 今も、ステージと調教部屋を隔てるガラスは鏡に見える。ということは、この部屋の中はまた見られている可能性があるんだ。
「か、カーテン閉めて、早く! この部屋、外から見られてるのっ!!」
 私は急に恥ずかしくなって、手で胸とあそこを覆い隠す。ヤクザ3人に裸を見られるのも嫌だけど、ガラス越しに不特定多数の人間に見られるのは、絶対に許容できない。
「なるほど。ここのスタッフに絡まれたな、お前?」
 新渡戸がグラスを傾けながら、納得したように笑う。解ってたんだ、この男は。
「ああ、そらそうか。ライブやっとる時以外は、コッチが丸見えやからのぉ。リハの準備やら片付けやらで男がひしめいとるさかい、ギャラリーには困らんっちゅうわけや」
 栖村はそう言ってシャンパングラスの中身を飲み干し、のっそりと立ち上がった。あのラッパー2人に比べると、縦にも横にもサイズが違う。まるで熊そのものだ。1メートルの距離で対峙しただけで、鼓動が早くなる。
 当然、足の間に垂れ下がった物も比較にならない。あの2人の物がちょうど日本人サイズだとすれば、その4割増し……欧米人のようなサイズだ。
「そこのガラスに手ぇついて、尻向けぇ」
 その一言と共に栖村の顎が示したのは、部屋の奥。まさに今私が話題に上げていた、ステージと部屋を隔てるガラスだ。
「なっ……ちょっと、人の話聞いてんの!? あそこから見られてるのが嫌だって言ってんの! せめて、カーテンぐらい閉めてよ!!」
 必死に訴える。第三者の目を避けたいのは、かなり切実な願いだ。もし私がここでされている事を誰かに漏らされたら、そこで終わりだから。
 でも、だからこそか、栖村はその願いを聞こうともしない。
「オノレで出来んのなら、力尽くでさせるまでや。ガラスに頭から突っ込んで、直に顔見られながらヤリたいっちゅうんなら止めへんぞ?」
 指を鳴らしながら、栖村が唸る。それを見た瞬間、つい肩が竦んだ。目はしっかりと相手を睨めてるんだから、心が折れたわけじゃない。でも体が、2mの巨漢からの暴力に怯えきっている。
 もう、交渉の余地がない。私は仕方なく、栖村の言葉に従う。
「そうや、それでええ」
 栖村は笑いながら、鏡に映る私の体に重なる。改めて見ると、なんていう体格差だろう。完全に大人と子供……昼間見た子供達になった気分だ。
 幼い子供は、成熟した大人の暴力を防げない。分厚い掌でお尻の肉を包み込まれ、硬く太いものを足の合間に宛がわれると、唇を噛んで覚悟を決めるしかない。
「あぐ……ぅっ!!」
 挿入を受けた瞬間、私は思わず背を仰け反らせていた。
 痛い、という信号と、ああこれだ、という納得のような思いが脳を走り抜ける。
 あのラッパー2人の時は、あんなにスムーズに入ったのに。栖村のこれは、息が詰まる。かなりの無理がいる。
 骨盤が鈍い痛みと共に軋み、不安を呼び起こす。その不安を避けるためには、足を肩幅よりもっと開くしかない。そうすると今度は安定がなくなって、挿入の無理を受けて足がガクガクと震えはじめる。大股を開いたまま足を震わせていると、本当に死にたくなってくる。
 しかも今は、その全てを誰かに見られてるんだ。

   ――見ろよアレ、がに股だぜ? しかも足ガクガクになってやがる
    ――ダセェ。もう女として終わりだな
     ――あれで元アイドルだろ? 笑っちゃうよな

 そんな言葉が、今にも聴こえてくる気がする。

「おーっ、よう締まんのぉ。丸三日ワシらの物で慣らされといて、半日ちょっとで元通りかい。どういう筋肉しとんねんお前」
 栖村は腰を押し進めながら、驚いた様子で目を見開く。でもすぐにその目は、意地が悪そうに細まった。
「……いや、放っといたわけやなかったな。ここのスタッフのガキにハメられたんやったか。その割にゃ、まるでその形跡がないのぉ! どや、ワシのデカマラは物がちゃうやろ、ええっ!?」
 勝ち誇ったような笑みで、一気に腰を打ち込んでくる。
「はぐううっ…………!!」
 何度も何度も、奥まで迎え入れたペニス。いい加減に慣れているはずだった。でも、少しの休憩を挟んだ今は、初めて迎え入れるように心臓が暴れる。
「そら、奥まで入ったわ。こんだけ締めつけとるんや、お前ももう待ちきれんやろ。またワシの肉棒の虜にしたるからのぉ、堪能せいや!」
 栖村は熊が吼えるような声を上げ、私のお尻を掴み直すと、激しく腰を使いはじめる。
 ベッドでも強烈な突きこみだったけど、こうして立った状態ではさらに異常だ。昼の2人が腰を振るたびにしていた、パンパンという小気味いい音がしない。代わりに、たっぷりと肉の乗った腿が打ち付けられる、バンバンという音が繰り返される。あまりにも贅肉の質量が多いから、腰を振るたびに風切り音もしていて、結果として耳に入るのは、バコッ、バコッ、というコンテナでも潰すような鈍い音だ。
 本当に、大型の獣が腰を振るような衝撃。そしてそのエネルギーは、ペニスという男の象徴を通して、私の体内に叩き込まれる。それを受けつづけると、壊れるのは仕方ない。理性だって、痛覚だって。
「あーーーーっっ、ああーーーーーーー~っっ!!!!」
 気がつけば私は、大口を開けて快感の叫びを上げていた。夜通し犯されていた3日間でさえ、そんな声を上げた記憶はない。にもかかわらず。ギャラリーがいて、乱れたところを見られたくないと頭では思っているのに、叫んでいたんだ。
「なんやコイツ、もうイキまくっとるで! どないなっとんねん!?」
 栖村でさえ呆れるほど、私が狂うのは早かった。でも、止められない。
 原因は、わかる。昼間のあれだ。
 子供の前で、その夢を壊さないために、感じている演技をした。快感を声にして、耳で聴いた。あれが、私の感覚を狂わせたんだ。
 多分それは、アイドルの本能が求めることだったから。子供に夢を与え、自分の歌と状況に酔いしれる。それこそが、アイドルとしての幸せだ。それと性的な快感が結びついたせいで、抑えが利かなくなったんだ。最初は何も感じなかったサイズの物で、潮まで噴かされるほどに。
 なら、それがもっと大きいサイズになったら……我慢しきれる道理がない。
「イグッ、イグッ、イグッイグッ!! イッでる、いってるイッてるぅっ……ひいいいイッッッグぅううううーーーーっっ!!!!」
 私は何度も、何度も叫んだ。鏡にはすべて映っていた。眉をへの字に曲げた情けない顔も。ガクガクと病気みたいに震えつづける足も。その間から床へ垂れる、粘ついた太い糸も。
 自分自身でさえ直視が厳しい。知らない誰かに見られたなら、もう出歩けない。そう思うほど、『ひどい』状況。
「はははははっ、お前ヤバイのぉ。そんなにワシのがええんか? よっしゃ、なら粗チンのガキ共に見せたれや。ワシが一度イクまでの間に、お前が何べん絶頂するか。20回か、それとも30回か!?」
 栖村は酔って赤らんだ顔で大笑いしながら、腰を叩きつけてくる。バコッ、バコッ、バコッ、という音が響き、私が手をついているガラスからも、キッキッキッという耳障りな音がしはじめる。
「ぐ、うううっ……!!」
 あまりにも突き込みが激しすぎて、身体が持っていかれそうだ。だから私は、踏ん張り方を変えた。身長差から爪先立ちのようになっていたところを、踵と爪先でしっかり床のタイルを掴むようにする。おかげで、多少の踏ん張りが利くようになった。でもそれは同時に、あそこの奥への衝撃を逃がせなくなるという事でもある。
 結果、
「あああぁっいぐーっ、いぐういぐぅうう゛う゛ーーーっ!!」
 私は、さらに激しく絶頂することになった。とうとう、一突きごとに潮まで噴き散らしながら。いや、ひょっとすると失禁かもしれない。放尿の最中に挿入されて、ブシャブシャと飛び散っている……そっちの方が、しっくり来る量だから。
 栖村はそんな私を見て、大笑いしていた。新渡戸の笑い声も聴こえた。ガラスの向こうからも、笑い声がしている気がした。
「やめてっ、見ないでっ!! お願い隠してぇぇーーーーっっ!!!」
 私は言葉の意味もわからず、必死に叫ぶ。
「ひひっ。散々ワシらに裸晒しといて、今さら何言うとんねん。ファンの前では綺麗な私で……ってか? ったく笑える阿呆やの、東京のアイドルっちゅうんは!
 おら、観念せぇ。今、ワシの濃いぃザーメン、たらふくご馳走したるわ!!」
 栖村は私の叫びにも掻き消されない声量で叫び、奥までを貫いた。そしてそのまま、ドクドクと精液を流し込む。

 そう、あそこの中に。

「……な、中に、出したの……?」
 私はガラスにへばりついたまま、涎交じりに言葉を漏らす。品がないと頭では理解していても、逝きすぎてガラスから身を剥がす気力さえない。
「ああ、“膣内(なか)出し”や。奴隷調教にゃ、ザーメン漬けにするんが一番やからのぉ」
 栖村は、中出し、という言葉を強調してそう言った。
 チクリと胸が痛む。言葉の強調には、嫌な思い出がある。
 そうだ、昼の2人だ。あの時も、あえて強調された言葉の部分で痛い目にあった。今も、そうだろうか。
 膣内(なか)出し……確かに、嫌だ。こんな連中の精子を大事な場所に入れたら、病気になってしまいそうだ。
 でも、大丈夫、妊娠はしない。なぜなら私は、毎日ピルを…………

 ピルを、飲んでいない!

 私は今日、ピルを飲んでいない。握手会の日だったから、眠りから覚めてシャワーを浴びて、出かけて……その過程で、ピルを与えられていない。
 全身に鳥肌が立つ。すぐに顔を上げ、鏡の中の栖村を見ると、そこには満面の笑みがあった。
「ん? どうかしたんか?」
 腹立たしいほどゆっくりとしたペースで、栖村が尋ねる。
「ピ、ピルっ! 私、今日、ピル飲んでない!!」
 単語でしか喋れないのは、本当に焦っている証拠だ。でも栖村は、嫌がらせのようにとぼけた表情を見せる。
「ああ、そういえば今日はまだやったのぉ。兄貴、ピルや」
 そう言って栖村が振り返った先では、新渡戸も同じく笑みを浮かべていた。
「ああ、それがのぉ。ちょうど切らしとるんや」
 新渡戸はそう言って、ガラステーブルから錠剤のシートを拾い上げる。確かに、28個入りのそのシートには穴しか残っていない。でも、そんなはずないんだ。昨日の夜の時点では、まだ5個残っていたんだから。
 これは、嫌がらせだ。ピルを飲ませて欲しかったら、という条件付きの。
「あー、こら参ったな。あれは特注品でな、発注には手間がかかるんや。せやけど、状況が状況やしのぉ。お前が誠意を見せるんなら、用意したってもええ」
 やっぱり、来た。うんざりするほど下衆なやり方だ。でも、今の私にやらないという選択肢はない。もし私が拒否したら、この栖村は意地でもピルを飲ませないだろうから。
「条件は、何!?」
 私はガラスを背にして寄りかかり、栖村を睨み上げる。妊娠の恐怖で足が震え、ガラスについた肘からチッチッと音が鳴っていた。
「そやなぁ。ま、奴隷の奉仕としちゃ、基本中の基本やが……」
 栖村はそう言って、のっそりとベッドに上がった。こちらを向いたまま、大きく足を開く形で。
 私の視界を覆うのは、垂れ下がった腹肉と、半勃起という感じのペニス、そして贅肉に埋もれた尻だけだ。特に尻は毛だらけで、出来物まである。数秒と見ていたくない。
 今このタイミングでそれが向けられた事に、悪寒が走る。
「ケツの穴でも、舐めてもらおか?」
 案の定、だった。
 思えばこの栖村は、私を目の仇にしている。嫌がらせのためなら、なんだってやってきてもおかしくない。そう理解はしていたし、覚悟もしているつもりだった。
 でも、いざ汚い尻穴を突きつけられて舐めろと命じられれば、血の気が引いてしまう。
「なんや、そのツラは。不満か?」
 私の表情の変化を見て、栖村が問いかける。
「この部屋におると、ウォシュレットも使えんからのぉ。ケツの穴がむず痒ぅてしゃあないんや。お前のためにこんなトコに缶詰めになっとるやさかい、たまにはその恩に報いてくれてもええんちゃうけ?」
 栖村の口から出てくるのは、ますますやる気を萎えさせる言葉ばかりだ。
 憎らしい。たるんだ腹を蹴っ飛ばしてやりたい。でも。
「早ぅ決めえ。前も言ったが、あのピルは特注品や。毎日飲み続けとる限りでは妊娠を防げるが、その反動で使うのを止めた途端に孕みやすうなる。ワシのガキ孕みたないっちゅうんなら、ちょっとでも早うした方がええぞ」
 栖村の言う通り、時間がない。
「…………わ、わかったわよ!!」
 私は奥歯を噛みしめながら、同意の言葉を搾り出す。そして、栖村の近くに歩み寄った。
「…っ!!!」
 間近で見ると、おぞましさがよりはっきりと解ってしまう。生ゴミに舌を突っ込んだ方が、まだマシに思えるぐらい。こんな場所を舐めさせられるんだ。ガラス向こうのギャラリーに、全部見える角度で。そう思うと、涙が出てくる。
 でも私は、その涙を腕で拭い去った。『スカーレットチョーカー』の結衣は、嫌がらせで潰されたりはしない。

 憎しみをこめた十本指で、玉袋下の脂肪を強引に割り開く。まるで洞窟奥のような場所に、薄汚れた尻穴が姿を見せた。
「えろっ……!」
 覚悟を決めて、軽く舌でなぞる。それだけで、苦いようなしょっぱいような味が口に広がり、ぶるりと身震いがする。
「くくっ、そうや、一生懸命に舐めぇ。こびりついた汚れも、全部舐め取るぐらいにな。ホンマに感謝の気持ちがあるんなら、そのぐらいはできるはずや」
 栖村は私を見下ろしながら、おかしそうに笑った。笑い声の度に、私の鼻先で4段腹が揺れる。運動もせず、食事制限もせず、自堕落ばかり続けた肥満ヤクザ。そんな奴の尻穴を私が舐めているなんて、ファンが知ったらどう思うだろう。
 そんな思いを押し殺しながら、必死に舌を使う。あえて味覚も嗅覚も働かせない。ひたすらに舌だけを動かしつづける。
「うはははっ、こそばゆいがエエ気分や。特にお前みたいな、生意気な東京のガキに舐めさせるんは最高やで。そら、そのままケツ穴だけでワシを射精させてみぃ。さっきしこたま射精したばっかりやが、ま、朝まで舐っとればイケるやろ」
 栖村の言葉を遠くに聞きながら、私はただ舌を使う。
 でも、味覚と嗅覚を完全に遮断するのは無理だ。
「オオオ゛エ゛エ゛ッ!!!」
 たびたび、肩を震わせながらえずいてしまう。その様子を、栖村は大笑いで見ていた。多分、新渡戸も。ガラスの向こうのスタッフ達も。
「何チンタラやっとんねん、んな調子じゃイケる気もせんぞ。それとも何や、ホンマはワシのガキ孕みたいんか? ま、無理もないわ。メスは本能的に、強いオスを求めるもんやからのぉ。ワシほど優秀なオスは、そうはおらんで!」
 栖村は、えずく私の顔に肛門を擦りつけながら、侮辱の言葉を浴びせつづける。私はそれに怒りの目を向けながら、また舌を使いはじめる。見下すような栖村の視線と、私の視線がぶつかり合う。
「そうや、そうして睨んどれ。今日からは犯すだけやない、その鼻っ柱を徹底的にへし折ったる。SMやら、スカトロやら……あらゆる手ぇ使うてな」
 その栖村の言葉は、脅しじゃない。本当にそのつもりなんだ。それを知りながら私は、睨む力を緩めない。

 
  ( ――――ここで退いたら、負けだ。 )


 そう、思ったから。