昨晩の雨のおかげで、吹き抜ける風は涼やかさを含んでいる。それが広場の蒸し暑さを和らげた。
今日は花火大会だ、県内外から眩暈がするほどの人間が集まる。
しかしいかに人が多かろうと、大通りからいくつか道を外れると途端に閑散とするのだった。
例えばこの公園は、前日は場所取りの人間で溢れるが今はカップルしか居ない。

ビールの空き缶とシートが散乱する中を進むと、ある時ふと爽やかな香りが鼻腔をくすぐった。
石鹸か。そう思った直後、睾丸に鋭い痛みが走る。
「うあっ!?」
俺は思わず叫んでしまった。
見ると、背後から白い腕が浴衣の裾へと潜り込んでいる。細腕だが力は相当だ。
ぎりぎりと睾丸が軋み、顔中から嫌な汗が噴きだす。
「何だ、や、やめ、ろぉ……っ!」
俺の声は情けないほどに震えていた。男である以上、睾丸を鷲掴みにされて平静でいられるはずがない。心臓を直に握られているに等しいのだ。
しかし俺が必死の形相で訴えても握りを緩まらない。指の間で睾丸を潰さんばかりに縛める。
「う、うああぁ…あ゛…!!」
痛い。痛い!
俺はうめいた。
心臓が激しく高鳴り、息が苦しく、そしてひどく勃起していた。
ぎり、ぎり。
「あ、ああ…!」
小さな手で睾丸を握り潰されつつあるやがて小さな指は、睾丸をぐぬりと袋の中で転がし、離された。

水を浴びたような汗で後ろを振り返ると、そこには悪戯っぽい目をした少女がいる。
俺はその子に見覚えがあった。
一見すれば小柄な少女と分かるが、身体の線を辿ると変に色っぽい。
今日は浴衣で隠れているが、そのすらりと伸びた脚は到底ランドセルを背負う年代とは思えなかった。

「ゆ、雪奈…っ!」
焦りから解放されて一時的な怒りが生まれ、俺はその少女を睨みつけた。
雪奈は怯えたそぶりで肩を竦め、俺の胸に顔をすり寄せる。
「すっごく久しぶり。相変わらず童貞くさいねぇ」
猫のようにすりすりと身体を密着させてくる。
「お、おい…」
いいようにされているのは理解していた。でも、もう叱れない。
絡みつく未熟な身体は妙な色香を湛え、うなじからは石鹸のいい匂いが立ちのぼってくる。
艶のある黒髪はアップに纏められていた。それが雪奈をいっそう大人びて見せる。
『おしゃま』とは雪奈の為にある言葉だ。老婆心ながら将来が心配になる。
でも、一番ダメなのは俺だろう。その小学生を相手に、こんなにも動揺しているのだから。


「ねえ、さっきの痛そうだったけど、実はちょっと気持ちよかったんじゃない?」
雪奈は俺の腕を抱きながら、猫のような瞳でこちらを覗き込む。
俺はぎくりとした。
「図星かぁ。コリコリしてるうちにどんどんおっきくなってたから、だろうと思ったケド」
雪奈はすりすりと俺の逸物を撫でながら囁く。
 ――小悪魔。そんな単語が頭をよぎった。
「キミって変態さんだもんねぇ。洗腸はもう済ませてきたの?」
雪奈の問いに、俺は黙って頷いてしまう。

彼女の言葉には力強さがあると思う。いわゆる天性のサディストだ。
始めは俺も年上の矜持で強く出たりしたが、その度にやりこめられた。
だから最近は雪奈の言葉に従うのが自然になりつつある。
彼女はけして嫌な性格ではないから、従うのが苦にならないというのもあるが。

「じゃあ、お尻出して。頭が蕩けるまで、ずぷずぷしてあげる。シてほしいでしょ?」
雪奈は整った顔を俺に向けて言った。俺は操られたように腰を落とす。
雪奈は指にたっぷりと唾を絡ませると、俺の菊輪に宛がった。
「ほら、入っちゃうよ?」
括約筋の盛り上がりを爪で撫で、ほんの指先だけ中に沈めて彼女は焦らす。
俺は彼女に正面から顔を見られながら俯いた。
この焦らされる瞬間がたまらない。指先だけでくいくいと入り口を弄ばれると、下半身に不気味な緊張が走る。
そして顔を見られながらたっぷりと羞恥と括約筋を暖められ、ある瞬間。
突然ずぐうっと二本指が奥深くまでを抉るのだ。
俺はその瞬間いつも腰を跳ねさせ、甲高い声で叫ぶものだった。
「ふふ、女の子みたい」
それに対しての雪奈の感想だ。それを耳にしたとき、俺はひどく恥ずかしく、そしてどこか嬉しくなる。

雪奈の強い力を込められた指は、腸の中を容赦なくひらいてゆく。
前立腺もごしゅっごしゅっと扱きたてられ、耐え切れずに腰をくゆらすとすぐに見抜かれてさらに的確に致命的な一線を捉えてくる。
俺は知っている。雪奈のアナル責めは徹底的だ。小学生とは到底思えない力強さで徹底的にアナルをえぐり尽くし、本当に意識がホワイトアウトする間際まで責めきってくる。
俺はいままでに様々な自慰を試したが、雪奈に尻穴を抉られての斉射に敵う物は未だない。

「ふふ。キミのお尻の穴、指をすごく締め付けてるよ。ほぉら、開こうねー」
雪奈の指はいつのまにか三本に増えていたらしい。その三本指がそれぞれ別の方向へ反る。
ぐちっと音がして、腸の中が外気に晒されたのがわかった。俺は口を開けたまま声もなく叫ぶ。
「ねぇわかる、もう3本呑みこんじゃったよぉ?すごいね…」
雪奈は嬉しそうに言い、そして続けた。
「ねぇ、智歩(ちほ)?」
俺はその言葉に、後方を振り返る。

雪奈の視線の先には一人の少女がいた。黒いショートボブの少女。
くっきりとした目は理知的にみえるが、彼女はおっとりした令嬢タイプだ。
雪奈に比べて品のあるぶん、痴態を見られる恥ずかしさも上だった。
手には一匹だけ金魚の入った袋を下げている。それは逆に一匹も獲れなかった証拠だ。
「……あ……うん、すごい……」
智歩はやや遅れて返事を返した。俺は彼女が機敏に動くのを見た事がない。
多分ボールが飛んできても不思議そうに眺めているだろう。
普通ならばとろい、と一蹴されそうなものだが、しかし彼女にあっては淑やかな印象になる。
印象を分けるのはその類稀な容姿だ。
どこがどう可愛い、とパーツごとに挙げて褒める事さえ叶わない。無機質に感じるほど整った愛らしさが桜色の肌に包まれて立っている。和人形…魅力でいえばその類だった。
初見の教師が必ず見惚れたという逸話まであるほどで、それは恐らく真実だろう。

ちょうど2年前の今日。
この智歩に痴漢をした、しないという冤罪事件が、俺たち3人の馴れ初めだった。

智歩はぼんやりした、いまいち何を考えているのか掴みづらい表情で俺たちの傍に近づいてくる。
少女がひとり近づいてくる。それだけなのに、対象が彼女だと妙な高揚感があった。
彼女も今日は浴衣を着ている。僅かに覗いた鎖骨が視線を誘う。

「半年振り……なんですね……」
智歩は俺の目の前に立って唇を開いた。
「あ、ああ、…うん、そう、そ、そうだな」
俺の返事はいつもたどたどしいものになる。
会った事自体は一度や二度ではないが、彼女に話し掛けられることには未だに慣れない。
彼女自体への好意は多分にあるものの、話しやすい相手とは言いがたかった。
また、彼女の方が俺のことをどう思っているのかも、全く窺い知ることは出来ずにいる。

その時、公園の上空で光がはじけた。花火の初弾だ。
明鼓という名もあるとおり、強烈な音と閃光が身体の奥にまで降りかかる。
しかし俺は、その第一発の余韻を十分には味わえなかった。
雪奈が急に腸内で指を曲げたからだ。ぐぬうっと腸の形が変えられ、俺はゆるく悲鳴を上げた。
「さ、花火もアナルも、ここからが本番だよー」
雪奈はポーチから麻縄を取り出し、俺の手首を縛った。
その余った部分を上空の太い枝に回し、さらにもう一度手に結いつける。
「ふふ、ビンビンのがぶら下がってる。すごくやぁらしい格好」
雪奈は中腰になった俺を見て笑った。智歩はじっと俺の顔を眺めている。ひどく恥ずかしい。
はぁ、はぁ…。
自分の息がやけに大きく聞こえる。

「じゃあ、改めてお腹の中ほぐしてくね。智歩も、だらしなく涎たらしてる顔綺麗にしたげて」
雪奈はそういうと、やや硬さを取り戻しつつあった俺の中に再び指を差し入れてくる。
「う、あッ!」
声が出てしまった。どうしても、この二度目の挿入というものが気持ちよくて仕方がない。
手を頭上で所在無く揺らすと、木もそれに合わせて揺らいだ。

情けなく顔を晒す中、智歩はなおも俺の顔を覗き込んでいる。手を縛られているだけで、それが狂おしいほど恥ずかしい。
「ち、智歩、ちゃん…」
見つめあいに耐え切れず、先に声をかけたのは俺だった。彼女の愛嬌は怖くさえあったから。
それをきっかけに、彼女が動いてしまう。
二度目の花火が光った。
「失礼…します…」
かすかにそう聞こえた気がする。
智歩の人形のような顔が青く照らされる。それに一瞬目を閉じた次の瞬間、俺の息は遮られた。

目を開けると、すぐ目の前に白い鼻梁がある。
唇には柔らかな肉の感触、それよりやや硬さのある舌が俺の舌をくすぐる。
鼻を抜ける匂いは香水だけではなく、俺にもある僅かに酸い汗の匂いと、俺にはない甘さが少し。
俺の鼻下を彼女の息が撫でる。
彼女はやはり人形ではないのだ、と思う瞬間だ。
それでも、この至近距離からみても、やはりその肌と顔かたちは尋常ではない。
一度唇を合わせてみるといい。俺だって、誰だって、無性に叫びたくなるはずだ。
そしてその叫びたい衝動はそのまま射精の欲求でもある。

「本番」が始まって数分と経たないうちから、俺はすでに泣きたいような気分になっていた。
何故泣くのか。決まっている、嬉し泣きだ。
腕を樹につられ、天性のサディズムをもつ小学生に破壊されそうなほどアナルを蹂躙され、和人形のような少女からぼんやりと、息が続く限りの口づけを受けている。
毎回、この状態になるとこれが夢に違いないと思うことがある。
肛門を拓かれる快感に、手首にかかる質量、次第に汗を帯びてくるサンダル、鼻腔をぬける甘さ。
どれ一つとして夢ではありえないというのに。
この時の快感のすべてを口述することは不可能に近い。あえて言うなら、体中の全てが快楽信号を発している。心の奥底までだ。

肛門を嬲る雪奈は実に熱心だ。指で前立腺を中心に腸壁の隅々までを撫で回してゆく。
たまにぬめりと共に指が抜かれ、菊輪の辺りを舌が這っているのが感じられる。
舌はほんの僅かに沈み込み、じゅるじゅると音を立てて何かを吸い上げる。
それは潤滑油に使う彼女自身の唾液か、あるいは俺の腸液かもしれない。視認はできないが、あまりの心地良さから腸液ぐらい駄々洩れになっていても当然だ。

ある程度指での嬲りが終わると、彼女はポーチからいくつか道具を出して使ったりする。
主にアナルパールだ。それが使われるとすぐにわかる。金属独特の冷たさに質量。
そして大小さまざまな珠が菊門を通り抜け、引き出される感覚はえもいわれぬものだ。
特に奥深くまで突きこまれ、しばらくぐりぐりと回して腸壁に弾みをつけた上で一気に引き抜かれると、俺は自分から発せられたものとは思えないほどの情けない声をあげて太腿を震わせてしまう。
それでも雪奈の責め立てが止む事などない。
太腿へしとどな蜜を垂らす疼きの中心に、嬉々とした手つきでアナルパールの柄を操作する。
そして俺の脇腹のあたりから顔を覗き込んできて笑うのだ。

可愛いよ、すごく可愛い。雪奈はそう繰り返す。
母親が子供にするようにあやされると、ますます心の均衡が保てなくなる。いっそ罵られれば楽になるのに。相手は大人びているとはいえ小柄な小学生だ、その小学生の手中で、俺は身も心も掻き回されていく。
しかし、叫びをあげることは叶わない。なぜなら口は、人形のような可憐さをもつ少女に塞がれているからだ。

智歩は激しく口づけはしない。雪奈の嬲りが激化すると、時に存在を忘れるほどの緩やかなキスだ。
時おりちろちろと小さな舌で歯茎を舐め、誘うようにこちらの舌先を掬い、あとは柔らかな唇をゆったりと動かしている。しかしその控えめな主張は、彼女にあって十分だった。
その彼女とキスを交わしている、それだけで十分に昂ぶってくる。時が経つほどに体内に流れ込んでくる彼女の匂い、彼女の味。それはもしかしたら、一生俺などには触れ得なかったかもしれないものだ。
彼女は俺の嬌声を封じるようにキスを被せ、唾液の糸を引きながら口を離す。清純な少女につたう唾液は何とも言えず扇情的だ。キスに疲れると、俺の乳首を口に含んだりもする。

2人に体中をまさぐられながら、唯一怒張だけは外気に晒されるに留まっていた。男は一度射精するとそこでほぼ終わるので、確かに安易に射精させるのは面白くない。しかし2人の与えてくる刺激は大きく、生殺しにされるにはあまりにつらいものだった。
俺は空想する。雪奈の煩い口を使って性の滾りをぶちまけたい。見た事もない智歩のあそこに割り入り、この誰もが振り返る美少女を孕ませるという取り返しのつかない事をしてみたい…。
しかし身動きすら満足にできない俺が思っても、それが実現することはない。

前立腺が熱さをもち、足首にまでさらさらとした雫がつたい、涎が止められなくなったころ、公園には人だかりができている。
その殆どは女子中高生だ。男は一瞥をくれ、侮蔑あるいは同情の瞳で去っていく。
『うっわー、M男じゃん。きんもーい』
『ホントにいるんだね、ああいうのって。でも実は喜んでるんじゃん?ほら、犯してるコ、滅茶苦茶可愛いし』
『もうカウパー汁どろっどろだね、射精した後みたい。女でもあれはきついってわかるわ』
『ケツもぱっくり開ききってんじゃない。まだ結構綺麗だけど』
『ふふ、あたしらに噂されたとたん喘がなくなった。でもまだはぁはぁ言って犬みたい。写メ撮っとこ』

無数の女の目に囲まれながら、俺は全身を震わせる。目頭は熱く、脊髄は凍るようだ。
花火大会が始まってどれほどが経ったのだろう。
前立腺をしごかれ、官能を炙られ続けて、射精感はもはや深刻な状態になっていた。
飯が喉を通らない時のように、胸につかえができている。尿道と尻の奥が疼いて仕方ない。
周りに誰もいなければ、少女2人だけだったら、イカせてくださいと懇願もする。
しかしこうも他人に見つめられては、そんな真似ができようはずもなかった。

「あああ、、うお、うお…うあああああ!…っ…うあッ!!」
やがて俺は声を抑える事をやめた。智歩の口を逃れ、涎を垂らしながら絶叫する。
どこかでガス抜きしなければ、頭がおかしくなってしまいそうだったから。
周りの女がきゃあきゃあと笑う。

やがて、花火大会は佳境を迎える。最後の大御所、国木屋50連花火だ。
虹色に染まる空の下、俺への苛みも最後の関門に差し掛かる。
「ね、いかせてほしい?」
雪奈がアナルパールを引き出しながら問い掛けてくる。俺が頷くと、雪奈は嬉しそうに笑って俺の髪を撫でた。
ひょっとすると、雪奈は『お姉さん』がしたいのかもしれない。
しかし小学生に頭を撫でられるのはどうにも妙な気分だ。
「よく我慢したねぇ、最高に気持ちよく逝かせてあげる」
雪奈はそう言うと、尻の穴に指を差し入れていく。1本、2本、3本…。
ただ指を入れるだけではない、拳ごと呑みこませるつもりだ。
最近の〆はいつもそうだから。
俺は歯を食いしばる。智歩が握り締めた俺の手を軽く撫でた。
徐々にきつくなるが、様々な道具で広げられたために痛みはない。ただ圧迫感だけだ。
雪奈の手はまだ小さいが、それでも肛門に入るには桁が違いすぎる。
雪奈自身も苦心し、やがてある瞬間、細い腕はずるうっと滑り込み、最奥の壁を叩く。
「――――――っ!」
俺は声もなく叫んだ。腰が跳ねるのがわかった。
痛みではない、しかしとてつもないものが腰を沸かせる。
雪奈が俺の奥で拳を開くのがわかり、智歩の指が亀頭を扱くのが感じられ、そして頭上で、花火が弾けた。俺は今までに溜めた全てから解放され、安心して亀頭をくるむ智歩の手のひらの中に並々と精を吐いた。
遠くで女たちの溜息を聞きながら、いつまでも、いつまでも。


花火の終わった広場は静かだった。俺たちは火照る身体をぬるい風に晒して寝転がる。
会話はない。
2人にとって、俺はどういう存在なのだろう。ただ一時的な遊び道具なのかもしれない。
あるいは異性がまだもの珍しいだけかもしれない。
でも、どうせ俺はそれを聞くことはしない。
この何とも言えず宙ぶらりんな関係を、お互いがお互いの人生の中で満たされるまで続けるのだろう。
傍でこちら向きに寝そべる2人を見て、俺はぼんやりと考えた。


とりあえず、来年からは2人とも制服でのプレイになるらしい。

                 終