■  1  ■

「…見てアレ。きっと夜通しヤってたんでしょうね。」
「ほんと、女の子の恥って感じだよねー。」
久しぶりに学校へ姿を見せた少女に、女は侮蔑の目を向けた。
隅々まで裸婦画に収めた身体。お前の全てを知っているんだ、そう言いたげに。

澄泉はぐったりとうなだれていた。
そのうなじを見つめ、智也は密かに喉を鳴らす。
昨晩の情景が脳裏に浮かんだ。



暗いバスルームに潜みながら、智也は豪奢な鏡に目を凝らした。
そこにはうすく開いた扉の向こうが映っている。
後ろ手に拘束されて膝まづく澄泉が。

啖呵を切った手前、誇り高い少女は逃げる事ができない。
彼女はソファへ腰掛ける男に奉仕していた。
智也の倍はあるだろう長大な怒張を咥えこんで。
それは小さな口にはあまりに大きく、少女は顔を歪めていた。
あえぐ唇から透明な雫が垂れる。

「歯を立てるなと言っただろう。拙いものだな」
ニノにそしられる度、少女は不慣れな舌使いを変えた。
彼女は負けず嫌いだ。
唾液で美顔を汚しながら懸命に怒張を頬張る。
ニノは、奉仕自体よりもむしろその表情に満たされているようだった。
その感情は智也にも痛いほどわかる。
征服感。
おそらくキスの経験すらないだろう、純粋無垢な桜色の唇を、
殺したいほど憎まれた自らの分身が蹂躙するのだ。

たとえ頭を押さえてむりやりに喉奥へ呑み込ませても、
手を戒められた少女は睨み上げることしかできはしない。
必死に必死にえづきをこらえながら。

かぷっ、かっぷ、じゅぶ、ずじゅるっ…

空気の漏れる音と汁気のある啜りが淫靡に交ざる。

「…よし、もう充分だ」
初めよりもさらに2回りは太さの増した己を見つめ、ニノは言った。
彼のタフさは尋常ではない。
稚拙な口戯といえど、1時間も舌でしごかれては普通余裕がなくなる。
ところがニノは涼しい顔で、喘ぐ少女を持ち上げソファに座らせた。
「く…」
手の拘束を解き、むりやりに開いた脚の間を覗く。
デッサンと奉仕で正座を続け、その両脚は麻酔を打ったように力ない。

「ほう、物を咥えて感じたのか?」
すでに腿を光らせるほど蜜をたたえた秘部へ、男は執拗に指を這わせる。
「ば、バカなこ…んっ、く…っぅ…!」
愛液を垂らしながらも、少女は必死に声を堪えていた。
だがその顔は切羽詰まっている。

目元に幼いふくらみをもつ、子猫のような澄んだ吊り目。
桜の花びらを並べたような薄い唇。
すらっとしたバレリーナのようなスタイル。
国境を越えて憧れの的となるハーフのように美しい少女が、
細長い脚を持ち上げ、初々しい割れ目を目一杯に広げられている。

その顰めた眉から、痛々しいほどの屈辱が見てとれた。

ぐちゅぐちゅと淫靡な水音が続き、部屋はいくぶん熱をもつ。
「ずいぶんいい色になってきたぞ」
生理的に膨らんだ陰唇をしごき、ニノは囁いた。
逃げ場のない少女はソファに脚をついて堪える。
 ニノはひとつ息をついた。
少女の目つきからして、余裕の笑みでも浮かべたのだろう。

「意外によく耐えるな。だが、身体の方は素直なものだ」
彼はそういうと、少女の潤みに手を被せて動かしはじめた。
手のひらの下方が、強く淫核と性器を押しつぶす。
敏感な箇所が一度に擦り上げられるのだ。
少女とすればたまったものではないのだろう。
「きゃああああ!!!」
口をあの字に開いたまま、折れた美脚が細かに震える。
だがその震えが極まったとき、男は急に肩を止めた。
叫びが途切れ、えっ、という小さな戸惑いが響いた。
「叫ぶほど嫌なら、仕方がないな」
男は手を離して汁気を飛ばす。
その冷たい物言いに、澄泉の表情は凍りついた。
「…そ、そんな…」
口の端から透明な筋が垂れ、目からは涙が溢れる。
「何だ、やっぱり乱暴に弄くられるのが好みか?」

女体を知り尽くす男を前に、少女の意思など儚いものだ。

所在なげに瞳を惑わす少女に、ニノは覆いかぶさった。
「物足りないのか?」
男の屈強な背中が沈み、上下しはじめる。
挿入しているのか。いや、少女の顔にはその様子はない。
ニノは、亀頭を少女の蕩けきった入口にこすり付けているのだ。

岩肌のようなそれで焦らし、相手の懇願を待つ。
その卑劣な意図に気付き、少女は態度を変えた。
揺れていた視点がひとつに定まる。
「…されるのなら、どうぞお好きになさって下さい」
澄泉の口調は静かだ。
憤りが沸点へ達したかのように。
また、覚悟を決めたように。
そこで見せた瞳に、ニノは動きを止めた。
美しい。
少女の髪を梳き、頬を撫で、うっとりしたように嘆息する。

「ありがとう」


■  2  ■

金属を掻くような音は、押し殺した悲鳴だった。
「スズミ、落ち着いて。大丈夫だ。」
そう囁く低音も、はじめて喘ぎが混じったものだ。

智也は、美しい16歳の少女が『女』になったことを知った。

「凄いぞ、こうも具合がいいのは滅多にない。想像以上だ」
ニノは囁き、少女の至る所に口づけしていく。
クリーム色の乳房を、桜色の乳首を撫で回す。
残りの指は強く少女と繋がれていた。
手馴れた性交だ。自分ならああはできまい。
智也は考えながら、知らぬ間にシャッターを切っていた。

撮らずに居れないもの。確かにその通りだ。
肉肢をしならせ捕食しあう彼等には、映す音さえ届かない。

「うっ、うっあ…っん!!」
ニノの逸物は、幼子の腕ほどはあっただろう。
それを半ばまで迎え入れて苦悶する少女の顔は、
それでも少年の憧れた顔に違いない。
彼女のあらわな姿にはただ見惚れた。
だが穢されていく様には、絶望で視界が暗く塗り潰されるようだ。
(くそ…くそぉっ!!)
彼は、目の前に喘ぐ澄泉の思い出を脳裏に思い描いた。

風の強い日、スカートが翻るだけで胸が躍った事。
彼女がトイレから出てくるのが、とても刺激的だった事。
少女に抱いた、経験のない強い憧れ。

智也はいつしか隆起した股間を取り出し、自ら慰めはじめていた。

「あっ、あう、あっ…」
間欠する女の声が響く。
官能に呑まれたふうではないが、痛々しさは薄らいだ。
ぎしっぎしっと軋むソファが行為の激しさを物語る。
 もはや屋敷に言葉はない。
荒い息と粘った水音、そして心音だけが渦を巻いている。

それは、朝焼けが部屋を染めるまで、一度も止むことはなかった。

■  3  ■

「隣、いいかしら」
艶のあるハスキーな声に、俯きどおしの少女は顔を上げた。
「ラウラ…」
いつもの喫茶店(バール)で、少女が潤んだ瞳を拭う。
「もう、何て声出すのよ」
ブロンドの娘は腰を下ろし、そして寄りかかる体重に気付いた。
「…澄泉?」
少女が娘の胸に額を預けている。

「少し、このままで居させて」
すすり上げる音に、ラウラは一人頷いた。
「あなた女になったのね。そうでしょう?」
少女の沈黙が、すなわち肯定を意味している。
 友人ならここで頭でも撫でるだろう。
だがラウラは乱暴に澄泉の肩を掴み、顔を向かい合わせた。
蛇の目と哀れなウサギの目が絡み合う。

黒髪の少女は怯えていた。
屈辱の破瓜と睡眠不足が、未熟な心を食い荒らしたのだ。

「つらいことを聞くわ、ニノとどんな事したの?」
ブロンドの娘の問いに、澄泉は再び俯く。
だがその曖昧さを許さず、ラウラは再び肩を揺すった。
「答えて!」
何故そんな事を聞くのか、澄泉は不安げな表情だ。
「え…その、口で…あれを舐めて」
「それから?」
「あそこ、いじられて……入れられた」
美しい少女は小声だったが、聞き耳を立てる客はどよめいた。
小さな肩が震える。
だが、それを見てもラウラは眉ひとつ動かさない。

「わかった。じゃあ最後」
ラウラは息を吸った。これが本題のようだ。

『中に出されたの?』

かつてないほど真剣な目。
それを前に、澄泉は必死で記憶を辿る。
「最後の方は憶えてない…けど、シャワー浴びた時には、別に…」

何となく、少女はこの事実がラウラの望みだろうと思った。
愛する男の子種が、自分などに宿っていて欲しくない。
そういう事なんだろうと、悲嘆にくれた瞳を逸らす。

しかし相手の反応は喜びでも、また悲しみでもなかった。

送られたのは、失望を宿す乾いた視線。
「……ふうん。あなた、大した事ないのね……」
澄泉の心はいよいよ乱れる。
「それ、どういう…」
言いかける少女を制し、ラウラはまた蛇の視線を寄越した。
獲物をじっくりと観察する目。

「あなた、まだ私が好きかしら」
娘の口調は、全てわかっているかのようだった。
少女が頷くのも、その弱った心がいま自分に依存しているのも。
「それならついて来て。あなたが頑張れば、私もあなたを
 好きになるかもしれないわ」
ブロンドの娘はそう言い残して席を立つ。
澄泉はまるで姉を追う童女の如く、ふらつく一歩を踏み出した。
 (ラウラ、待ってよ! ――ラウラ――!)

ちいさな影は、暗い路地を惑いゆく。


                          続