雪を踏む足音に、たむろしていた男達が顔を上げ、そのまま硬まる。
その前をミニスカートの少女が横切った。
清楚。その言葉が男達の頭に浮かぶ。

背中まで届く黒髪は光沢を湛え、くっきりした瞳は燦爛と輝き、肌はほんのりと桜色。
腰は片腕で抱けるほどに細いが、歩くたびかすかに波打つ腿を見るかぎり、
“あの時”の具合はずいぶんと良さそうだ。

10人とすれ違えば8人は振り返るルックス。
その少女は当然のごとく一人ではない。
眼鏡をかけた穏やかそうな男に連れ添っていた。

「いいよなぁあいつ…あんな可愛い子連れてさぁ」
「ホント、密着してら。クリスマスってああいう奴のためのイベントだよな」
男達からそんな言葉が漏れる。

実際、その男女は随分と仲睦まじかった。
だがその実態は、彼らの想像をやや外れることだろう。

少女――奈緒はSM嬢だ。
あどけない顔立ちながられっきとしたS嬢、特に暴力プレイを得意とする。
染みひとつない桃色の脚で蹴りつけられる。
そのむず痒さに病み付きになる客はそれは多かった。
しかしまさか、その奈緒自身が客に惚れ込むとは誰も思わなかったろう。
奈緒は圭介という常連客をいたく気に入っていた。

圭介は格別に男前というわけではないが、穏やかな表情は確かに好感が持てる。

圭介と奈緒。
2人は、遠からず本当の恋人になるだろうと噂されていた。

クリスマス一色の街を抜け、小路に逸れてから数分後。
圭介は壁に背を預け、奈緒に見つめられたままズボンに指を這わされていた。

「ふふ、膨らんでますね。まだなぁんにもしてないのに」
奈緒はズボンから手を離し、壁に対して馬乗りになるように秘部を擦りつける。
ミニスカートの捲れあがるはしたない格好。
しかし彼女の見事なくびれは、その格好ですら倒錯的に感じさせた。
「圭介さん足硬いんですねぇ、真ん中も凄いけど」
筋肉を褒めて男の気分を良くさせつつ、腰をうねらせて生地越しに肉幹をくじる。
「あ、ああ」
圭介は奈緒の動きに合わせて腰を揺するしかなかった。

奈緒はそんな圭介を見つめ、少し伸び上がる。
女にしては背の高い彼女が伸び上がれば、その唇は男の鼻の位置に来る。
奈緒は男の鼻腔にふぅっと息を吹き込んだ。
桃のような唇からまさにそのものの匂いが流れ込み、男の鼓動を速める。
「キス、してもいいですよ」
奈緒は圭介の顔を覗き込みながら言った。

キスしてもいい。
普通なら、これだけ顔が近ければ口づけをするのは当然だ。
だが奈緒の人形のような顔となれば、確かに許可が要る。
ディープキス ――\1000.
それだけの価値があるような気がする。

「…ん」
2人は瞼を閉じた。
甘い吐息を掻き分けて少女の唇を割れば、小さな舌が滑り込んでくる。
そして呑めといわんばかりに唾液を絡める。
息を交わす事さえ現実離れして思える美少女の唾液。
それははっきりと感触を残して臓腑を流れ、鈴口から噴出しそうな熱さになる。

誰もがそうなるように、圭介が官能的な口づけに酔ったとき、

「おい、そこのてめぇ!」

突如、無粋な声がその甘い時間を打ち砕いた。

「てめぇ…女に躾けられて喜んでやがんのか!」
怒声に振り向き、2人は表情を強張らせる。
冷徹な目、鍛えた者特有の肉付き。
剣呑な雰囲気の男が圭介を睨みつけていた。

「男の恥がッ!」
男は荒々しく近づいて圭介の胸倉を掴み上げ、顔面をいきなり殴りつける。
「ぐあっ!!」
圭介は雪の上に倒れこんだ。
「ちょっと、お客様に何するんですかっ!」
奈緒が男にしがみつくが、振り払われる。
同時に蹴りを入れられて圭介が呻く。
「気に入らねぇ!てめぇみてえなのが居っから女が調子づくんだろうが!!」
男は圭介をゴミのように蹴りつける。路地に悲痛なうめきが響く。

奈緒は慌てて携帯を取り出した。店へ緊急の電話をかけるためだ。
しかしふと硬直した。
電話をかけている場合だろうか?
店に電話をすればそのうち助けが来るだろう、しかし事は一刻を争う。
圭介は今殴られているのだ。
地面に丸まり、髪を乱して泥まみれで。
平気か?そんな筈がない。口の端から血が出ているのだから。
「うあっ!!」
圭介が叫んでいる。

奈緒は静かに携帯を閉じた。そして男に歩み寄り、いかつい肩に手を置く。
「あ?」
男が不機嫌そうに振り返る、その瞬間。

乾いた音が響いた。

男は何が起こったのかとしばし呆け、そして怒りに目を見開く。
奈緒が頬を張ったのだ。
その事実がプライドを傷つけたらしい。
「て…めぇ、男の面に手ぇ上げやがったな!!」
男は圭介を投げ捨てて奈緒に飛び掛る。
「奈緒…!!」
圭介が声を上げる。
少女は彼にちらりと視線をやりつつ、素早く後ろへ跳んだ。

掴みを跳んでかわされ、男はたたらを踏んで少女を睨む。
彼はそこで初めて奈緒の美貌に気がついたらしい。
視線が輪郭線を辿っていく。
片腕で抱けるほどの腰つき、すらりと細いが腿には柔らかく肉の乗った脚。
男の目つきが変わる。

「へっ…ガキみてぇな顔の癖にカラダだけはエロくしやがって。
 いいぜ、野郎は用済みだ、代わりにお前で遊んでやらぁ。
 気ィつけろよ?たまってっから挿れたら最後、孕むまで抜かねぇぜ」
下劣な視線。
奈緒はそれを忌々しげに睨み返す。
「あら、ご予約ですか?私結構高いんですよ、あなたに払えます?」
奈緒の挑発に、男は笑みを深めた。
「ああ、釣りは結構だぜ」
すぐにでも押し倒せる。そう確信している目だ。

実際喧嘩慣れしているのだろう、男は軽快に体を揺らし始める。
だが彼は気付いたろうか。
少女の構えもまた、実戦を知るものであることに。


「おらあっ!!」
男がフックを振り回す。
奈緒はそれをかわし、スカートを翻して長い脚を振るった。
それは鞭のようにしなって男の頑強な大腿に吸い込まれる。
ばちっと静電気のような音がした。
「へっ、所詮は女だな。てんで威力が――」
男がそう呟いた直後、その太股を針が刺すような痛みが襲う。
「ぐうっ!?」
男はわずかにぐらついた。

「あれ、どうかしたんですか?」
奈緒はとんとんと軽く跳びながらわざとらしく問うた。
男はそれに明らかな苛立ちを見せた。
「ッのクソアマがァ!!」
男は今度は蹴りを放つ。丸太のような脚から放たれる重い蹴り。

だが奈緒はそれを読みきっていた。
膝蹴りで相手の蹴り足の腿を弾き、身体が離れたところで膝を引き付ける。
その引き付けを解けば、しなやかな脚は鎌のように、相手の軸足を内から刈った。

男は空中でもがいて腰から墜落する。
「がああああッ!あ、っああ゛!!」
倒れると共に、彼は火傷をした時のように内腿を払い始めた。

ざくっ。

もがく男の頭上に脚が踏み下ろされる。
見上げれば、そこにはすらりとした美脚が天高く男を跨いでいた。
「効いちゃいました?一応手加減はしたはずですけど。」

睨み上げる男を奈緒が見下す。
「そんなに怒ることですか?私のこの脚で蹴られたがるお客様は多いけど、
 皆さん笑って下さいますよ」
それなのにお前は。
奈緒の目は明らかにそう言っていた。

「な…めやがってっ!」
男は奈緒の脚を掴もうとするが、それも当然読まれている。
「あら、ノーチップのお触りは厳禁ですよ」
奈緒は鹿のように跳ねながら横たわった男の脚を蹴り上げる。
その痛みで男は飛び起きた。



何分が経ったろう。いや、何分しか経っていないだろう。
男はまだ立っていた。しかしその足は瘧にかかったように震えている。
おそらくズボンの内側は真っ赤に腫れ上がっているのだろう。
「ぐ…うう…」
歯を喰いしばっている事からも限界が窺えた。
奈緒は跳びながらその周りを廻る。

と、男がふいに構えを解いて腕を下げた。
疲労が構えを許さなくなったのだろう。奈緒はそう踏み、決着に向かう。

しかし男の脱力は罠だ。
奈緒が射程圏内に入った瞬間、でたらめな軌道で手を伸ばす。
それが奈緒の襟元を掴んだのは偶然か、執念か。
奈緒がしまったという顔になる。

「貰った!!」
そしてついに渾身の右ストレートが、奈緒の顔をまともに捉えた。
鍛えに鍛えた腕力の結実。手応えは凄まじい。
鮮血が噴き出す。

「はははは、ざまあ見やがれえぇ!!」
男は仰け反る少女の白い喉に歓喜を浴びせた。
牛を打ち倒したかのような裏声での歓喜を。

しかし、直後に凍りつく。

「痛…ぁい」
奈緒は頷くように首を戻した。小さな鼻が潰れている。
鼻血を切って少女は続けた。
「…私だって、ただの女なんですよ。殴られたら痛いし、血だって出る。
 女の子なんですよ?
 ……なのに、ひどい。鼻がこんな……」
燦爛と輝く瞳が男を飲み込む。

男は凍りついていた。
あどけない少女の瞳、その筈なのに、なぜ氷よりも冷たく見えるのか。

「………っくも、よくも、 よ く も 圭介さんの前でっ!!!」

直後、奈緒の脚がチアガールのように跳ね上がる。
蹴りは男の股座へ綺麗に叩き込まれた。
これはさすがの男もたまらない。

「うおおおおっっ!!!!」

耳をつんざく絶叫と共に股間を押さえる。
だが奈緒は逃げることを許さなかった。
単純な腕力。
それでもって男の手をこじ開け、震える股をふたたび蹴り上げる。
柔らかい睾丸の感触が解るほどに、強く。

「ぐあああああううおおおおおおッッ!!!!」

男は片足を上げて叫び悶えた。


睾丸を蹴られる。その背筋を凍らせたまま引き裂かれるような恐怖が男を変えた。
他の場所なら耐えられる。
だがその一点だけは絶対に虚勢を張れない。
どんな雄でも絶望に塗りつぶされる。

それを誰よりも知りながら、奈緒はさらに玉袋を狙う。
三度目の玉蹴り。

「ひ、ひぃ、いい!この、あ、あ悪魔め!!」
男は滝のような汗をかきながら阻止しようと踏ん張る。
少女の首を捉え、膝を閉じ合わせて。
だが少女はそれらを力づくでこじ開けはじめた。
男は恐怖した。
力こぶも盛り上がらない細い腕なのに、観賞用のような脚なのに、まるでヒグマとの力比べだ。

「……ぃ、ひやめろぉ…!!」
男は先ほどまでとは打って変わって脚を奮わせる。
顔などもう捨て犬だ。
「あら、ご自分で止めてみせたらどうです?本気を出して」
とうに本気であることを知っていて奈緒が囁く。
彼女はじわじわと男の足を開いていく。

開ききれば絶望。
そんな危機的状況ながら、男はその脚に見惚れた。
肉付きのいい桜色の綺麗な脚。
同じ後肢という部位ながら、男のそれとは質も値打ちもまるで比にならない脚。
なるほど金を出してでも嘗めたりしゃぶったりしたくなるわけだ。

「ふふっ」
奈緒が笑うのを聞き、男ははっとした。
勃起している。
少女と力比べをしているだけで。
力が緩まった瞬間、するっと少女の足が男の脛を滑りあがり、玉袋へ捻りこまれる。

「あ、あ゛ぁああああ゛っっーー!!」
男の腰は力なく落ちかけた。
しかし、まだ終わらない。奈緒がその腰を抱え上げる。
「ねぇ、いいコト教えてあげます」
奈緒は満面の笑みで言った。
「あなたが男の恥って罵った圭介さんはね、今この金蹴りを16発耐えますよ。
 あなたそれ以上なんですから、20発くらいは大丈夫ですよね 」

男は真っ青になって縮み上がった。


「いだあ゛ああ゛あ゛あ゛あ゛いぃっ!!」

男は幼子のような情けない口調で叫びまわった。
本当の恐怖を感じた人間とはそうなる物なのだろう。
「ははっ、きたない声。せめて圭介さんみたいに可愛く鳴いてくださいよ」
少女がまた蹴り上げながら言う。

男も少女も滝のような汗をかいていた。雪景色の中にそこだけ湯気が立ち上っていた。
それほどの激しい動き。だが状況は一方的だった。

少女が足の甲で男の急所を蹴り上げる。
男は痛みにのたうち回り、涙ながらに足をばたつかせる。
少女がその足を巧みに払いながらまた膝で玉を抉る。
男が自重と反射で倒れ込もうとするが、それさえ少女に引き起こされる。
それが延々と続いていた。

何度も蹴りが入るうちに男のズボンのボタンは取れ、トランクスから勃起しきった逸物がはみ出ていた。
そのむき出しになった部分を少女の蹴りが襲う。
男からまさしく断末魔というべき低い叫びが迸る。

「ねぇ、ぬるぬるしたのが膝に当たって気持ち悪いですよ? おフロぐらいちゃんと入ってください」
少女は亀頭を膝で潰しながら言う。
亀頭は興奮で真っ赤になり、その先端からは先走りの汁が粘液となって糸を引いていた。
無理もない。
目の前で美少女がスカートを翻し、瑞々しい脚を惜しげもなく晒して急所を蹴り上げる。
体中に汗をかき、甘くも酸い少女の香をこれでもかと立ち昇らせてだ。
それで勃起しない人間が何人いるだろう。

「20!あん、タマ外しちゃった。こんな腐ったシイタケ、触りたくもないのに」
少女の膝が精線をしごき上げ、すぐに20数回目の蹴り上げが男の玉袋へ叩き込まれた。

尿意。便意。頭痛。それらの一年分を一刻に凝縮した極感が迸る。

男は白目を剥いた。
同時に亀頭がくっくっと2回震え、鈴口が開いた後、 突如噴水のように白濁が噴き上がる。
熱いそれは少女のあどけない顔へと降りかかった。

「うっ…。…もう、最後までほんとに最低ですね!」
少女は気絶した男を突き飛ばし、痙攣しながら萎んでいく剛直をさも汚そうに踏みつけた。


「へぇ…。孕ませるだとかお釣りだとか、嘘ばっかりだったけど、
 溜まってるっていうのだけは本当だったんですね」
奈緒は失神した男の下半身を剥き、中央にそそり立つ逸物を素足で弄くりながら呟いた。
裸の男を踏みつける少女。
これ以上なく明確な征服の図だ。

少女の足技はよほど巧みらしく、男は失神しながらも何度も精を飛沫いては腹にぶちまけていた。

「足コキは4000円なので、それも合わせて頂いておきますね」
少女は男を踏みつつ彼の革財布から万札を抜き取る。
と、その動作を止める手があった。

「もういいよ」

圭介だ。彼は首を振って財布を投げ捨てる。
奈緒は目を丸くした。
「え…だ、だって、圭介さんにあんな事したひとですよ!?」
「うん、でももう十分だ。ありがとう」
圭介は奈緒を見つめて言う。
すると奈緒は慌てて顔を逸らした。
「……鼻のこと?」
少女は頷く。
「大丈夫だよ、すぐに直る」
「い、いや、直るとか、そういうことじゃなくて、ですね……」
奈緒は恥ずかしそうに鼻を隠した。
「ふっ…あはは」
その時、圭介が突然笑いだす。奈緒は怪訝そうに首を傾げる。
「…あのね、考えすぎだよ。僕なんかしょっちゅう君にボコボコにされてるじゃないか。
 奈緒はそんなボロボロの顔を見て、僕を軽蔑する?」
少女は目を丸くした。
「…あ……!」
そして様々な事に安堵したのか、圭介の肩にとんと頭を預ける。
圭介は汗に濡れたその髪を優しく撫でた。


ひとしきり甘い時を過ごした後、2人はまた寄り添って歩き始める。


「ねぇ圭介さん。本当のところ…どうして殴られっぱなしだったんですか?」
「え、何のこと?」
「ごまかさないで下さいよ。圭介さんが経験者だってこと、ちゃんと解りますよぉ。
 …まぁ、殴るより殴られる方がましだー、とか、そういう事でしょうけど」
「あはは。そういうことにしといてよ」
「…ふぅ。ま、そういうことにしておいてあげますよ。
 ……これからも、ずっと、ずーっと……。」

幸せそうに笑いながら聖夜の街中へ消えていく。


後にはただ、自らの白濁を浴びたまま泡を噴いて気絶する男が残るのみだった。
せめてもの情けに、ハートの刺繍がされたセーターを掛けられて。


                      終
<初出:2chエロパロ板、「女が男を倒す Part.5」スレ>
※ヒロインの当初のイメージキャラは大番長の京堂扇奈。