■ 1 ■

枯れ木の立ち並ぶ広場を横目に、ブロンドの娘は受話器を持ち替えた。
辺りには子供が無邪気に駆け回っている。
『そう、ちょっとだけあの子を貸してあげるんです。
 見知らぬ人間に弄ばれるのって屈辱でしょう?
 …大丈夫。堅気でない人間は、足がつく無茶はしません。
 むしろ心配なのはネコぶってた可愛い女共かしら。
 あんなのに虐められたら、私泣いちゃいますよ』
娘はわざとらしく笑いつつ、先程から気にかける右手に目をやった。
人差し指と中指、澄泉の直腸を嬲った二指が薄桃色に変色している。
何かに「かぶれた」ように。
 それは果たして、清冽な少女の身を穢した罰だろうか。
やや考えるそぶりを見せた後、彼女は小さく舌打ちした。
『…何でもありません。先生こそ、お体に異常ありませんか?』
そう続ける口調は人妻を思わせる。
娘は、話し相手の身をひどく案じているらしかった。
『近いうち、必ずあの子を躾けて帰ります。では…』

電話を切り、ラウラは深い溜め息を吐く。
手のひらを強く握りこんで。
「……もう、あんまり時間ないのかしらね……」



「…はっ……あぁ……ッ…!!」
蝋燭の照らすほの暗さの中、荒い息はまたも声を押しとどめた。
横臥するその少女の手は厳しく高手後手に縛められている。
「ほんと強情な娘ね、一言赦しを請えばいいだけなのに」
冷たく少女を見下ろす女は、ビニールの手袋を嵌め直した。
そして瓶からべっ甲のようなとろみをたっぷりと掬いとる。
それを目にし、少女――澄泉はきりりとした柳眉を歪めた。
 (だめ…!これ以上塗られたら、本当に…)
必死に身を捩る抵抗もむなしく、彼女の脚は上向きに開かれる。

伝染したタイツでくるまれた、すらりと美しい脚。
付け根の淡い花びらはしとどに蜜を溢れさせ、
桜色の腫れをみせる菊座にまで垂れおちている。
女の指が纏う金のとろみはぬるりとその窄まりを抜け、
小腸へと繋がる肉壁に溶けていった。
繊細な内面が痺れゆく。
冷たく染み入り、赤い粘膜から質の異なる雫を滲ませる。
「…う、くっ……!!」
少女の瞳が閉じ、口からは搾り出すような呻きが漏れた。

「あら?あんたのお尻の中、さっきより濡れてるわよ。
 腸液ってやつかしら。気持ちいいんだぁ?ん?」
愛らしい不浄の穴を突いた女は嘲り、澄泉の尾てい骨へ向け
曲げた指を引っ掛けはじめた。
掴まれた少女の足がぴんと伸びる。
「この子のお腹も流石にやばいって感じてるんじゃない?」
別の女が乱雑に少女の肉芽をこねると、喘ぎの中に、ああ、と
明らかな悲鳴が混じる。
 平静を装う相手のわずかな反応が面白く、
その指はぬるぬると滑る新芽を執拗に取り囲んだ。
包皮越しに、或いはそれすらを剥いて扱き出す。
女達はのたうつ細い肢体をほほえみの目で追いかけた。
同性ゆえの気遣いなど、そこには微塵も見られない。

 (……痒い…痒い……かゆい…!)
横向きに寝たまま片脚を担ぎ上げられ、直腸と肉芽を弄られる。
その苛烈な状況下にあって、少女の頭にはただそれだけが巡っていた。

女が澄泉の腸内に塗りこめたとろみは、昨日ラウラが
少女の後孔をほぐす為に使ったものだ。
 この辺りで「トイペ」と呼ばれる草を挽いたもの。
通常は筋弛緩効果のある潤滑油だが、発酵すると漆に近い成分になる。
化学薬品の出回る以前は痒み責めに重宝されたほどだ。
 かつてルーマニアの小さな村が賊軍に蹂躙された際、
その実験台となった村娘は3日で発狂寸前にまでなったという。
ラウラは床の瓶を誰かが開けたばかりだと思って拾い上げたが、
実際は長い間かけて徐々に空気を抱き込んだものであった。

女達はそれを少女に塗りつけているのだ。
さらに澄泉の直腸は、浣腸により今その粘膜が弱まっている。
針で刺すような痒み・痛みと共に、強烈な熱さが下腹を焼いた。
特にひどいのが肛門の入口で、性感帯のひとつでもあるその肉輪は
蟻の群れに噛まれているような感覚だ。

排泄と同時に気を失ってから長く痒みにうなされ、
それでも少女は懇願をしないでいた。
「これで楽にしてあげるって言ってんじゃない」
女が細身のディルドーで痒みにひくつく肛門を撫でても屈しない。
 二穴からは自衛本能により濃厚な蜜が滲みでていた。
また痒みの大波が背筋を固める。
少女は身体を弓なりにのけぞらせ、汗まみれの頭と腰を振って身悶えた。
「あははっ、やらしい腰つきね。男でも誘ってるの?」
女に蔑まれても彼女に恥じる余裕はない。
内腿の染みひとつない珠肌には、哀れ湿疹までできている。
真っ赤になるほど握りしめた手が自由なら、人目も憚らず
弄くり回したいことだろう。

「あぁっんっ!くうぅっ、あっ、あああっ」
脈打つ血管が限りなく細切れになってさざめく様な極感。
浣腸の時とはまた違う違和感が少女の体奥を蝕んだ。
堅い異物で掻き回して貰えれば、どれほど楽になることか。
 しかし澄泉の矜持はそれを許さなかった。
神経まで焦がす痒みを和らげるためとはいえ、
自ら請うて排泄の穴をいじくられるのは我慢ならない。

少女は全身を汗で光らせ、鯉のように口を開閉させる。
その視線はあちこちに向かうが、巨大な鏡だけは避けていた。
惨めさは浣腸を我慢していた時よりひどい。

何時間が経っただろうか。
ぜぇぜぇと息を切らす少女を見て、女は別の瓶を取り出した。
蝋燭の火で蜂蜜のように輝くミネラルウォーター。
今の澄泉にとり、金よりも遥かに貴重なものだ。
少女は喉を鳴らした。
「そろそろ欲しいでしょ?お飲み」
そう聞こえた後、水の瓶は無慈悲にも逆さを向く。
煌めく飛沫が次々と床に弾けた。
「……っ!」
少女の見開かれた目が水溜りに映る。
「どうしたの、お飲みってば」
このネコはなぜミルクを舐めないの?
それと同じ口調が頭上から降りかかり、澄泉の瞳が揺れた。

ニノのアトリエと同じ、乾燥した空気が喉を焦がす。
 (……さすがに……水なしじゃ……)
立て膝がぶるぶると震える。
「みんな見て、このコ床を舐めてるわ!」
手を叩いて叫ぶ女達を睨み上げ、少女は黙々と舌を這わせた。
ただ命を繋ぐために。

その一部始終を眺めながら、部屋の男達は言葉をなくしていた。
つい昨日まで自分に甘えていた女の豹変に。
鞭で叩かれるのが趣味であるはずの彼女らは、さも可笑しそうに
赤らんだ少女の割れ目を靴先で撫でる。
そこには女の嫉妬の恐ろしさが渦巻いていた。

しかし澄泉は音を上げない。
赤くなり涙をこぼす瞳は渚のような静けさを残し、
時に白い奥歯の覗く唇は喘ぎながらもなお品を失わない。
 この程度の辱めなど何でもない、そう言いたげに。
惨めな黒タイツと濡れて上体を透かすシャツだけの格好ながら、
その毅然とした態度は汚すことの叶わぬ皇女を思わせる。
女達の怒りを買うのも、また仕方のないことだ。

女は鼻に皺を寄せる。
「ふん。日本人は忍ぶのもお手の物、ってわけ?」
高潔さをひときわ印象付ける黒髪を掴み、
荒々しく澄泉を引き起こした。
「ひっ…」
少女は苦痛に顔を歪め、不安に足をよろめかせる。
「いい度胸ね。それならもっと辱めてやるんだから!」
ひどく怒気のこもった声が壁に響いた。

■ 2 ■

薄暗く湿気た部屋から一歩出ると、外はもう春先の
しんなりとした空気になりはじめていた。
澄泉がこの国に着いた時のような。
少女は先程の格好にコートだけを引っ掛けられ、
身の引き締まる寒さを噛みしめる。
 それでも茹だるような頭には心地よかった。
タイツ越しに触れる草も石畳も、ようやく文字通り
地に足がついた感じがした。

人気のない草原を、少女は女囚のように連れられ歩く。
 この辺りはベネツィアの影響を受けているのか、
街はその広域が大河であり、対岸に家が並ぶ造りだった。
水に建物が直接浮かぶその様は、水没した都市を思わせる。
 『テベレ川』…ふと目にした看板にはそう見えた。
女の足は、そこに架かるひとつの橋の上で止まる。

美しい石造りのあまりにも巨大なアーチ橋。
繊細な細工を残しつつ、端々の欠損が歴史を感じさせた。
その偉功が映る水面までに、ビル幾つぶんの高さがあるだろうか。
遥か下に風の吹く渓谷のような街並みは、もはや恐怖すらも起こさせない。
空が身近に思え、立つだけで背筋を浮遊感が這いのぼる。
 (ふわ、すごい……!!)
澄泉も痒みを忘れてその絶景に見惚れる。
3日前までの彼女なら、恐る恐るデッサンを始めたことだろう。
その自由さえない今の状況に、少女は沈痛な面持ちになった。

「ほぉ、やっぱりここに来たかよ」
広い床版の向こう、声を掛けたのは昨晩の男達だ。
傍らには赤毛の少女が座り込んでいる。
裸のまま後ろ手に縛られ、右足にはやはり鎖つきの枷。
かゆい、かゆいとしきりに泣く所をみると、状況は澄泉と同じだろう。
だが彼女は澄泉を見た途端に泣き止んだ。

「ここがどんな所か知ってる?おちびちゃん」
澄泉のコートを取り去りながら女は問う。
別の女はかちゃかちゃと少女の左足に枷を嵌めていた。
 場所のこともあり、少女はひどく不安に駆られるが、
手を縛られたままではどうしようもない。

「自殺の名所なの、ここ。」

足首の鎖は、欄干に打たれた鉄の柵に巻かれ始めた。
隣では赤毛の少女も同じ事をされている。
いよいよ澄泉は心細くなった。
「ちょっと、何する気?…や、やめなさいよ!!」
女は嫌がる澄泉をひきずり、欠けた欄干の隙間に立たせる。

さすがにここで下を見ると血の気が引いた。
強風が黒髪と肌に貼りつくシャツを揺らす。
「あんた、強情さが自慢なんだよね?」
女達はじりじりと縁に立つ澄泉を追い詰める。
少女の顔は引きつった。
 ここに立った時、誰もが想定しうる最悪の事態。
それが起ころうとしている。
「…いや、ぁ、やめてぇ……っ!」

いくつもの掌に押され、ついに澄泉の身体は宙へ投げ出された。
足場のないジェットコースターの感覚。
 悲鳴が出ない。
城壁を思わせる石壁がどんどんと離れていく。
すぐ隣で明るい赤髪も風になびいている。
街並みが、山々が、大河が、反転してゆっくりと視界を巡った。


死ぬのかな。この綺麗な場所で…。
意地を張って、うわべの友人しか作らなかったから。
意地を張って、多く非難を浴びたから。
自分は今、無惨な死を迎えようとしている。
 ――今まで何をしていたんだろう?
生き返れるなら、二度と意地なんて張らないから……


澄泉は閉じた瞼を震わせる。
その瞬間、唐突に足首が軋んだ。
「っ!?……あ、きゃああああああ!!」
思わず叫びが上がって上体を起こす。
じゃらっと足の鎖が鳴った。
「あっははは、あいつ超びびってんの。死ぬ気だったでしょ?」
遥か上から蔑みの声が降ってくる。
逆さを向いたまま、少女は目を見開いた。
口からは無惨にも涎が垂れてくる。

これほど胸が高打ったのも、息が上がったのも初めてだ。
反転した雄大な景色が目に入る。
隣でまた赤毛の少女が泣いている。
 (……いき、てる……?)
澄泉は生を実感すると共に、今考えていた事を思い出した。
意地を張るとそのうち本当に殺されるかもしれない…。
 (………でも、やっぱりイヤ!人の言いなりなんて絶対に嫌よっ!!)
そう気を取り直すが、目尻には恐怖からの涙が零れた。
逆向きの頭に血が上りだす。
「しばらくぶら下がって反省なさい。
 鎖が外れて死んでなければ、助けてあげるわ」
女達はそう言い残して足音を遠ざけていく。
「待って!待ってよ!!」
澄泉も赤髪の少女も、声を限りに叫ぶが届かない。
周囲からは完全に音が消え、隣の息遣いだけが繰り返される。
「……どうしよう…おねえちゃん」
肩の触れるほど近くで、赤髪の少女が呟いた。
澄泉は抱きしめてやろうと思ったが叶わない。
 後手に縛られ、片足を鎖に繋がれた二人の少女。
捕らえられた獲物のように、ただ細身を震わせる。

■ 3 ■

しばらくは二人とも無言で身をよじっていた。
いつ足の鎖が切れるかと気が気ではないし、別の理由もある。
しかしさすがに間がもたず、澄泉から口を開いた。
「…ねぇ、あなた名前は?私は澄泉」
 赤毛の少女が虚ろな目をよこす。
少し癖のある赤髪は下に垂れ下がり、広い額が覗いていた。
恐らくは澄泉の綺麗な黒髪も同じだろう。

「…カーネ」
少女は呟いた。
伊語で「犬」を意味する言葉だ。
男にそう名乗るよう躾けられているのだろう。
澄泉は眉根を寄せた。
「そうじゃなくて、お母さんにつけて貰った名前よ」
澄泉が問い直しても、少女は首を振るばかり。
「…あなたはそんな名前でいいの?」
やや語気を強めて言うと、少女は微かに笑みを浮かべた。
「気持ちは嬉しいな。でもあたし、今の環境で満足してるの。
 ご飯食べられるし、気持ちいいこともできるし。
 戦争に怯える暮らしなんかより、ずっと……」
澄泉は言葉が続かなかった。
年端もいかぬ幼子ながら、大変な苦労をしていたのだとわかったから。
自分の置かれている環境など、この元令嬢に比べれば幸せな方かもしれない。
そう考えると、嘆くばかりが少し恥ずかしくもあった。

足が自重で引きつるような感覚を覚え、身体を揺らすほどの風が
濡れたシャツと心を冷やす。
しかし、何よりも身を苛むのは痒みだった。
足の付け根、菊門を這うようなむず痒さ。
二人とも努めて気にしないようにしていたが、限界だ。
「おねえちゃん、かゆいよぅ…」
カーネが小さな身を揺らす。
それを憐れそうに見る澄泉もまた、長く細い脚をすり合わせる。

たまらなかった。
逆吊りで身動きの取れぬまま、敏感な場所が疼く。
首筋を汗が伝い、遥か下に滴りおちた。
恐怖に耐えて仰ぐ水面に映るのは、藻草か、あるいは少女の死影か。
あまり身悶えしては死の危険が増す。
しかし痒みもまた気が触れそうに半身を焼く。
 澄泉は少し考え込み、わずかに目つきを和らげた。
「たすけて……あそこが、つらい…!」
カーネの声に、そっと右脚を曲げる。

相手の動きに気付き、赤髪の少女は目を開いた。
胴よりも半分近く長い見事な脚線。
その片脚がするっと黒タイツから抜き去られる。
「ちょっとだけ楽にしてあげる」
澄泉は言い、自由になった右脚を相手の左脚に掛けた。
カーネが身体を強張らせると、大丈夫、と声がかかる。
ほどなく4つの美脚は卑猥に絡み合った。
 (……あ、そっか!)
相手の意図に気付き、カーネも表情を緩める。
手が使えないなら、お互いの脚で股座の痒みを鎮めればいい。
互いの足先に力が篭もる。
「動くわよ」
澄泉の言葉にカーネは頷いた。
双方が死の恐怖を感じる極限状態での同意だった。
  ずる…っ
ローションのような蜜にまみれた秘部が重なり、擦れあう。
二人は息を呑み、吐き、また大きく吸った。

腰を浮かしながら、カーネの心は目の前の少女を追っていた。
 上等な襦袢のように風に舞う黒髪と、淡雪のように白い肌。
カーネの胸にこすれる腹部は暖かくなだらかで、
股座をなでる太腿は陽に当てた毛布のように柔らかかった。
大人らしく淡みを覆う、やわらかな繊毛がこそばゆい。
はぁっはぁっと息を上げる声はなんとも言えず艶がある。

「おねえちゃん、すごく綺麗。羨ましいよぉ」
赤毛の幼女は眼前にぷるんと揺れる白桃に吸い付いた。
薄紙のようなシャツも一緒に舌でくるむ。
「ひゃっ、やぁ、くすぐったい!」
喘ぎ声はさらに可愛さが増した。
桜色の乳首を吸いあげると、しょっぱい味が鼻を通る。
シャツはプールで嗅いだ塩素の匂い。
胸を鳴らすこの甘い香りはうなじからか。
鎖骨でも吸うと、今度はどんな反応をするだろう?

カーネはまるで乳児期に戻ったかのように、シャツ越しに
澄泉の様々な窪みへと口づけを降らせた。
ぽってりした唇の意外な吸引力に驚きつつ、澄泉は腰をくゆらせる。
足首に力を込め、内腿に筋を立て、下腹をおしつけ、胸を潰す。
細く柔らかな躯を密着させ、平泳ぎのように脚を蠢かす。

無様でもいい。
肛門にこれでもかと薬液を塗りこめられた澄泉は、
秘唇に塗られたカーネと違いめったな事では痒みがおさまらない。
 誰かに見られていない事を祈りながら、
なりふり構わずに相手の膝裏を土台に脚を蠢かす。
上気した身体を合わせれば寒さなど吹き飛ぶ。
長時間の逆さ吊りのなか激しく動くと嘔吐しかけるが、
その時は互いの肩を甘噛みしてやり過ごした。

「うっ、はっ、あっ、あっ!あっっあ!!」
にちゃにちゃという潤みの音にあわせるように、
少女らは渓流へ美声を響かせあう。
髪を振り乱すたび雫が飛んで川に波紋を描いた。
逆向けの頭は血が上り、秒刻みで白くなっていく。

「あ、あっああ―――っ!!」
一際高い声が上がり、黒髪が揺れた。
シャツを押し上げる膨らみを通って透明な蜜が伝いおち、
二人のまろやかな顎を温める。
「やっとおねえちゃんもイッたんだ?」
澄泉の腋に舌を潜り込ませ、カーネが安堵の笑みを浮かべた。
「はぁ…っ、っはあ…」
澄泉は全身を脂汗でてらつかせ脱力する。
閉じた瞼に汗をのせて荒い息を整えている。
天使のような寝顔は想像に難くない。
「あたしも、おねえちゃんみたいな大人になりたいな」
カーネはいたわる様に、相手の首筋へ舌を這わせる。

彼女は気付いていた。
幼いカーネに体力を使わせないよう、澄泉が必死で腰を使っていたこと。
自分がより効率よく痒みを押さえる方法もあっただろうに、
わざわざ赤毛の少女ばかりが悦楽に浸れる体勢を作っていたこと。
 最後に陰核で愉悦を迎えたとはいえ、何ら根本的な解決には
なっていない筈だ。
むしろ体力は消耗し、痒みは増して心身共に追い詰められただけだろう。
 しかし、カーネの小さな身体では同じ返礼はできない。
快感を享受するだけで、すでに脚の骨が外れそうになっていた。
彼女が舌を這わせていたのはその為だ。

「私みたいになっても…可愛気なんてないわよ」
薄目を開け応える澄泉に、カーネは泣きそうな顔を振った。

■ 4 ■

拷問部屋に戻された時、澄泉は抵抗しなかった。
いや、できなかった。
逆さ吊りでいたずらに気力と体力を消耗したためだ。
 まるで海から溺死の寸前に引き上げられたように、
すらりとした身体は汗にまみれて力ない。
場の空気が変わっている事にも気付かないほど。

一方のカーネは、部屋の奥に座す男を見て背筋を伸ばした。
昨日の荒くれたちも揃って畏まっている。
 その男はサングラスを掛け、皺の数から高齢とわかるが、
褐色の体躯はまるきり現役軍人のそれだった。
周囲の態度から見て将校級だろう。
彼はゆったりと腰を上げ、重々しい足取りで澄泉に近づいた。
「聞いた以上の上玉だな」
少女のまろみを残す顎に指をかけて言う。

澄泉は反射的にその相手を睨みつけ、そして、固まった。
赤剥け節くれた手、硝煙の匂い、野獣のような眼差し。
彼女の触れてきたどんな男とも、醸し出すオーラが違う。
「おう、いーい目ェするじゃねえか」
男が歯を剥きだすと、澄泉の瞳孔は針のように縮まった。
 カーネが俯く。
澄泉とて、屈強な男にあっては只の少女に違いないのだ。

自分の3倍以上の筋量を前に、澄泉は後ずさりもできない。
獅子が目の前に佇んでいるに等しかった。
 木の幹のような腕がシャツを掴み、
胸を弾ませながらたくし上げられる。
絞ると水溜りをつくったそれを、少女は呆然と見つめた。
「ずいぶん遊んできたみてぇだな」
割れ目へ捻じ込まれた指はまるで岩だ。
大岩のような腕…。
 (……いやだ、なんであいつが浮かぶのよ……)
澄泉は弱弱しく頭を振る。

「前は嫌か?」
つぽっと音を立てて指を抜くと、少女は小さく震えた。
男は蜜まみれの指を舐め満足気に笑う。
そしておもむろに、軽々と少女を抱え上げた。
澄泉は何かを叫んで身をよじったが、まるで赤子の反抗だ。
胡坐をかいた男の上、少女は脚を掴まれ降ろされる。
 幼いころ、排尿の訓練をした格好だ。
しかしその時は、尾骨にあたる熱い猛りなどなかった。


どれほどの痛みなのだろう。
少女の細い視線は傍をむいたまま、凍ったように動かない。
「いっ……あっ!  ……あっっ!!」
小さく悲鳴をちりばめ息を吐く。
「す…すげぇ。キツくて、あったかくて…最高だぜ」
男の賞賛にも反応を返さない。
しかし――
「おねえちゃんっ!!」
それまで目を伏せていたカーネが、急に声を張りあげた。
澄泉の目が大きく開く。
「もうやめてぇ!おねえちゃんにひどい事し………!!」
男に口を塞がれながらも、赤毛の少女は何かを叫ぶ。
澄泉はそちらへ視線を向けた。
「…だいじょ、うぶ。へ、き…だから…」
目尻に皺を寄せながら必死に言葉を紡ぐ。
涙ぐましい光景に、しかし褐色の男は下卑た笑みを浮かべた。
「そうか平気か。なら、奥までがっぽり咥えてくれよ」
そう凄んで少女の腰の手に一層の力を込める。
「うっ……ぐぅ!」
澄泉の整った顔が露骨に歪んだ。

そして獅子の牙は、ついにウサギの腹を刺し貫く。
カーネが痛々しそうに目を背けた。
「おら、根元まで全部入んじゃねぇか。何が入らねぇだ」
男のドスの利いた声に少女はすくみ上がり、
はぁ、はぁと前屈みで息を整えはじめる。

強気でいながらも、男は内心で舌を巻いていた。
どろどろの壁がきゅうきゅう吸い付くように怒張を締め付け、
菊輪は厳しく根元を引き絞る。
血流に合わせ力を込めているだけで、たちまち達しかねないほどだ。
「見目と具合は反するとばかり思ってたが…いや恐れ入るぜ」
男は一人ごちて背を伸ばす。
引き抜くと共に怒張へ纏いつく粘液を感じ、男は遠慮を捨てた。
「ぐっ!う、動かな……で、や……っあ………!!」
少女の悲願も虚しく、肉の音は連なりはじめる。

(こんなの…いつまでも耐えられない…)
骨盤にゴツゴツとひびく堅さを感じ、少女は考える。
排泄の穴を使われていることより、そこに男根が入ったこと自体が驚きだった。
そしてそれが苦痛ではなく、驚くほど自然であることが。

下準備が万端すぎるのだ。
薬液の痛烈な痒みは、ハッカを口に入れたときの様に、
湿る空洞の神経をこの上なく鮮烈に研ぎ澄ませた。
 蟻に噛まれるようだった菊輪を肉竿が擦ると、
自分でもその小さな盛り上がり一つ一つの充血がわかる。
堅い亀頭が腸壁に沿って擦り上がり、子宮の裏を突き上げるとき、
少女は背を仰け反らせずにはいられなかった。

痛烈な痒みが部分部分で薄まってゆき、熱さだけを残し、
やがてそれが暖かさになって腸の接するあらゆる器官に伝播する。
 今までには経験のない感覚。
潔癖症の澄泉なら、恐らくは一生知らずに過ごしたはずの快感。

ぶじゅ、ぶじゅっ、ぶじゅっ……
リズミカルな水音は膣よりもいやらしく粘質だ。
「これでお前の汚ねぇケツ穴ァ、真っ直ぐに変えてやっからな」
男の言葉責めは止むことなく、少女の耳奥を火照らせた。
直腸へ疼きという杭を打つように、抽送は果てることなく繰り返される。
 何十回という容赦のない突き込み。
それを延々と受け入れるうち、括約筋を緩めると割に刺激は小さく、
締めると大きくなる事がわかった。
同じく脚をひろげるとましになり、閉じるとぞくぞくする。
かといって広げすぎると、かえって一番に括約筋が締まってしまう。
 特に直腸の奥底を突き刺された時に力をこめると、
身体に電流が走るという表現がぴったりだった。
男の怒張はかなり長く、そのような事態がよく起こる。
 しかしその時が一番に痒みを収める事ができるのも事実だ。
また男のほうも慣れたもので、締め付けざるを得ないような
突きこみを憎らしいほど心得ていた。

「っい、いーーっ、いぅーっ!!」
やがて少女が歯を食いしばり、背を仰け反らせはじめた。
男はそれを見て一気に突きこみと腰の捻りを強める。
 程なく、少女の慎ましい菊門は痛々しいほど収縮した。
直後、ぼじゅううっと壮絶な音を漏らし、腸液を噴きこぼす。
少女はそのたび耳を赤くして恥じるが、男はなんら動じない。
それこそが薬をつかった肛門性交の極まった様だからだ。

膣を突かれる感触が布ごしに鉛筆で、ならば、
後孔を貫かれるときはダンボールごしに酒瓶で。
澄泉の唸りがニノの時と違うのも、悦楽の種類が異なるためだ。
一度一度の感覚は鈍く、しかし溜められるエネルギーは凄まじい。
じっくりと時間をかけ、絶頂が霞むほど遠くにある中を永遠に彷徨いつづける。
もしも真の境地に達すれば、内臓が蕩けるのではないだろうか。
『後ろだって立派な性器よ。慣れれば前よりいい子もいるわ』
ラウラの言葉が頭をよぎった。
あの時は信じようともしなかった。しかし今なら……
「やっとイイ声が出はじめたな」
男の声が遠くで聞こえる。
確かに澄泉は喘いでいるらしい。
ただ、止まらない、
そして――止めて欲しくもない、
これは喉の奥の奥、腸を満たすぬるい穢れを吐きだす息だ、
きっとそうだ、
女が笑みを浮かべ、男が呆れ果て、赤髪の少女が泣いている、
泣いている、泣いている



  (だぇか……  だれか助けて…… 
  わたし  そのうち本当におかしくなる。
    私が 私で 、いられなく なる … …)

       
                   続く
※調教スレに投下した分はここまでです。続きはまた、そのうちに。