一葉(かずは)はシャワーヘッドを持ち替え、汗をかいた背中にたっぷりの湯を浴びせかけた。
念入りに清めなければいけない。その思いが自然、湯浴みを長引かせる。

一葉はふと鏡に目をやった。
水の滴るセミロングの黒髪、桜色の肌、陸上で鍛えたすらりと長い脚。
スレンダーながら胸にも尻にも女として十分な豊かさが備わっている。
最近は激務にかまけて日課の腹筋を怠っているため、現役時代の自慢であった括れはやや丸みを帯びたものの、
それでも雑誌のグラビアを飾れるほどの身体をしている。
一葉は安堵すると共に、自らの身体に見惚れる自分に照れ笑いを浮かべた。

彼女は自信が欲しかったのだ。
大正の時代から続く老舗薬屋・七ツ果に入社して2年。
新しい環境に戸惑いながらも寝食を惜しんで薬学を学び、話術を盗み…。
そして昨月、ついに先輩社員から大役を引き継ぐことと相成った。
得意先・宮原家への御用聞きだ。
酒造りの大家として名を馳せる故・宮原重蔵氏は、七ツ果と40年来の付き合いだった。
氏が亡くなった後も夫人がなお七ツ果を贔屓にしており、そこの御用聞きとなればそれは大役だ。
一葉はこれも新入りの試練と思い二つ返事で引き受けた。
初めて宮下家に向かう一葉は、出征前の兵士のようだった…と今でも同僚の笑いの種だ。

ところが実際、重蔵氏の夫人・芳江は実に人当たりの良い人物だった。
一葉が家に参じる頃には高級な茶と菓子を用意して待っており、
一葉のする健康食品や薬の説明には、孫の話でも聞くように微笑みながら頷く。
仕事の大半が茶を啜りながらの世間話であり、また博識で人間のできた芳江との会話は一葉自身にとっても楽しいものだった。
激務の中にあってのオアシス。それが一葉の任された『大役』だった。
ひょっとすれば、根を詰めすぎる一葉を見かねた先輩が、気を利かせて譲ってくれたのではないか。
そう思えるほどだ。

不快な事はあまりない。
……あるとすれば、それは芳江の孫・祐介の視線だけだ。

両親を早くに亡くした祐介は、芳江の寵愛を受けながらよく座敷の片隅に座っていた。
彼はまだ13という幼さでありながら、漫画にもテレビにも関心を示さず、いつも分厚い背表紙の時代めいた本を読み耽っている。
そして直接一葉を見ることはしないものの、彼女が座敷に上がるとき、芳江の話に声を出して笑うとき、
およそ子供とは思えぬ落ち着いた目でもって一葉の肢体を嘗め回すように覗くのである。
その目は何度か一葉をぞっとさせた。



「悪いわねぇ、せっかく来て頂いたのに」
芳江は済まなそうに笑った。
この所の芳江は腰をひどく悪くしており、一葉が家を訪ねている最中にも痛みを訴えるようになっていた。
そうなれば近くのかかりつけの医者に行く他なかった。
一葉は自分が負ぶっていくと申し出たが、芳江はそれは悪いと頑として聞かなかった。
思いやりが深い故にけして退かぬ所のある女性である。
代わりに、と芳江は一葉に願い出た。

「祐介の…あの子の面倒をみてやってくれないかしら。物静かな様でいて、寂しがりなの。
 食事も作ってやらないといけないし、夜も唄を唄ってやらなきゃ眠れないのよ。
 なるべく早く帰るようにするけれど、どうか……お願い」
芳江は乾いた手で一葉の手をとり、皺くちゃな目尻を歪ませて哀願した。
元よりそんな芳江を実の祖母のように感じていた一葉である、断ろうはずがなかった。
「承知致しました。どうぞ、お任せください」

上司に連絡を入れ、得意先の要望とあって快諾を得た一葉は、ひとつ深呼吸して居間の襖を叩いた。


「祐介くん?ちょっと良い…?」
一葉が声をかけると、中から少年の笑い声が聞こえてくる。しかし、一つではない。
いくつかの異なる笑い声が重なっている。
それがふと止むと、襖が開いて祐介が顔を覗かせた。

中にはやはり複数の少年がいた。祐介を含めて6人だ。
中学の同級生なのか、制服に身を包んでいるものの、幼さがない。
一人は熊のように横に恰幅がよく、一人はすでに180近い身の丈をしている。
そして何より、皆々が溌剌とした目をしておらず、どこか表情に澱みがあった。

 (……さ、最近の中学生って、こんななんだ……)

一葉は自身の中学時代とのギャップに、しばし呆気にとられる。
そんな一葉を、少年たちは凝視していた。
一葉も七ツ果の制服に身を包んでいる。
紫陽花を染め抜いた筒袖に、黒い袴。文明開化の頃を思わせる装いだ。
「…プッ。コスプレ?」
少年の一人が呟き、次いで笑いが起きた。
一葉は少しむっとしながらも笑みを浮かべる。


「え、ええと、祐介くん。今からお婆様の代わりに私が昼食を作るわ。
 何か食べたいものはある?」
これでもあの芳江さんの孫だ。そう自分に言い聞かせ、一葉は優しく語りかけた。
しかし。
「……あのさ。タメ、やめてくれる?」
祐介はうざったそうな顔でそう吐き捨てた。
「え?」
一葉は硬直する。
「…だからさ。婆ちゃんにはいつも畏まった言い方してるでしょ?
 俺にだけ馴れ馴れしい言い方やめてくれないかな…って言ってんの」
「……ッ!!」
一葉は怒りに目を見開いた。
「ひゅー、ユースケ強気だな!」
周りが少年を囃したてる。
一葉は怒りに打ち震えたが、しかし一理が無くはない。
たとえ小学生と変わらぬ相手であろうと、得意先の一員だ。

「………し、失礼しました………祐介さん」
一葉は拳を握り締めながら吐き出すように言う。
祐介はふっと口元を歪めた。
「ああ、さすがに祐介“さん”は要らないよ。祐介くんでいい。
 祐介さんなんて呼ばれるとオヤジみたいで気色悪いや」
「…っ、失礼しました……祐介、くん…」
そこでまた笑いが巻き起こる。


「しっかしまた、カワイー感じの人だな」
少年の一人が言うと、一葉の顔に下卑た視線が集まった。
純朴そうな垂れ目やぷっくらとした唇のせいだろう、確かに『綺麗』というより『可愛い』類の顔である。
もう25でありながら、社の飲み会に出れば飲み屋の主人に疑わしそうな視線を受けるし、
友人と沖縄へ行った際などは高校生に年下と思ってナンパされた事もある。
「へぇ、まぁまぁイケてんじゃん」
「ああ。プレイボーイのグラビア程度ならできんじゃねえ」
少年たちはニキビまみれの自分たちを差し置き、尊大に一葉を評した。
最も、照れ隠しを兼ねた彼らなりの賛辞かもしれないが。

「うん、期待以上だ」
唯一、本音と思われる声色で言った祐介は、一葉の顔に向け手招きをした。
「?」
何か告げたい事でもあるのだろうか?
一葉が彼に耳を寄せた次の瞬間、彼女の呼吸は突然に遮られた。
「んむっ!ん…ん゛っっ!!!」
キスだ。そう思った時にはもう、祐介の舌がしっかりと一葉の舌を捉えていた。
くちゅくちゅと唾の混ざる音がする。
子供のキスではない、部活の遊びなれた先輩がしてきたそれだった。
「おお、あんな深くいってる!まるで自分の女だな」
「いいなあ、俺もキスしてえー!」
周りが騒がしくなる中、一葉は呼吸の苦しさに曲げた背をばたつかせる。

やがてアーチ上の糸を引いて口が離れると、一葉は恥じるようにそれを掬い取った。
結果、手にはべっとりとした唾液が纏いつく。
「うん、口の中も美味かったよ。歯磨きはしっかりしてるみたいだね。
 キスの不味い女って大抵どこの粘膜も不潔だから、触りたくないんだ」
祐介は満足げな顔でそういうと、息を荒げる一葉の顎を掬って
「ごーかく」
と囁いた。
その異様な慣れ様に、一葉は言葉もなかった。


「じゃあカズハ、袴を持ち上げて」
祐介は一葉にそう命じた。
ぞくりと一葉の背に怖気が走る。この少年…いや、少年達が性に興味をもっているのは明らかだった。
だがその矛先がとうとう自分を捉えたとしると、やはり冷静でいられない。
「どうしたの?早く」
祐介に促され、一葉は仕方なく袴の裾を引き上げた。
すらりとした脚と薄いモスグリーンの下着が顕わになる。

「ひゃあ、脚なっげー!」
「マジだ、しっかもいい形してんなあおいしそー!」
「てっきり身体も幼児系かと思ったけどな。これ意外だわ」
少年たちの目がぎらりと光り、まるで少年らしくない感想が混じる。
少なくとも6人のうち何人かは、女の性的な部分に触れるのが初めてではないらしい。
「キレーな脚だね。相当モテるでしょ?」
祐介だけは舞い上がることなく、冷静に脚を撫でてショーツに触れる。
その様はいよいよ一葉の性をリードした上級生に重なっていく。

祐介がショーツに顔を当てた瞬間、
「うんっ!!」
一葉は目を見開いて内股に脚を閉じた。
祐介の細い手が戒めるように腿を割り、袴を持ち上げさせる。

「なぁ、あれ何やってんだ?パンツ舐めてうまいのか?」
「バカ、あれはクリトリスを舐めてんだ。いきなり直じゃいてぇだろ」
「くりといす?なんだそりゃ、チンポのことか?」
「ホントガキだな、お前って。とりあえずあの姉さんの顔でも見とけよ。
 どんなもんか大体分かっから」

少年達が言い争う中、祐介の舌はショーツ越しながら的確に一葉の淫核を捉える。
「うううっ!!」
濡れたショーツがゼリーのように敏感な突起に纏いつき、それごと扱かれるのは、
到底無表情ではいられないほどの感覚だった。
「気持ちよさそうだな…。あれ、前に本で見たフェラチオみたいなもんか」
「それの数倍の快感って感じだろ。咥えられてもあそこまでならねーよ」
「おい、でもちょっとだけ膨らんでるぞ」
少年の一人が指摘したとおり、始めは平らだったモスグリーンの下着に
僅かばかりの突起が浮き出ている。
しかもショーツは唾液で濡れ、逆三角をした茂みまでをも浮き彫りにしていた。
「エロいな…」
「ああ、やっぱ大人の女だな。B組の吉井なんてやっぱすらっとしてるだけのガキだわ」
仲間の言葉を受け、祐介は薄ら笑いを浮かべながらショーツに手をかけた。
はっとして一葉が脚を閉じるが、一瞬の沈黙の後、力を抜く。


『勃って』いた。
包皮を捲り赤く充血した異状は、それの存在を始めて知った者にさえ理解できた。
少年らにも同じような状態を今まさに感じている者がいる。
「カズハって敏感なんだね。良かったよ」
祐介がショーツをずり下げながら言う。
「ねぇ祐介くん、もうやめましょうよ。きっとすぐお婆様もお戻りになるわ」
一葉は踏み留まってショーツを守ろうとするが、結局祐介に力づくで奪い去られる。
一葉はバランスを崩して畳に尻餅をついた。
「帰ってきやしないよ。婆ちゃんの腰は随分悪い、本当だったら入院ものさ。
 だから主治医は少なくとも今日のうちは帰さない。
 …あきらめなよ」

あきらめなよ。祐介がそう呟いた瞬間、6人のうち2人が一葉を抱え上げた。
全てを心得ているという早さだ。
「きゃ、い、いやあっ!!」
一葉はもがくが、脚を抱え上げられて力が入らない。
さらに押さえつける瞬く間に増え、祐介の指示で大きなリクライニングチェアに一葉を寝かせた。
手足ひとつにつき少年の細腕2本。それで完全に一葉は抵抗を封じられる。
用意のいいことに、チェアにはいくつか縄がかけてある。
少年たちはそれを使い、一葉の両脚を椅子の足に、腕を後ろ手で椅子の背へと括りつけた。

「あ、あんた達!これは幾らなんでも犯罪よ、解きなさ……っ!!!!」
さすがに不安になり、一葉はあらん限りの叫びを上げようとする。
だがその叫びは少年の手で塞がれた。
「ん、、むぅ、、、、!!!」
鼻ごと押さえつけられ、苦しさに一葉が目を見張る。
こんな幼い少年相手にどうすることもできない。
一葉は肩を落とした。口を塞ぐ手がゆっくりと離される。
「べつに乱暴に犯したりしないよ。今日は全然女を知らない奴もいるから、
 色々教えてやりたいんだ。女の人が感じるとどんな風になるのか、とかさ。」
諭すような祐介の物言いを、一葉はどこか遠くに聞いていた。

両脚を椅子に括りつけられ、大きく股を開かされた状態で、袴ももがく内に解けて床に広がっている。
生まれたままの、しいていえば足首の足袋しかない下半身を、12の瞳が凝視している。
あの時、もっともっと清潔にしておくべきだった。
恥毛の手入れまでも徹底しておくべきだった。
柔らかな肉びらを祐介の指が割り開き、尿道も、華壺も、全てが衆目に晒された段にあって、
もうどうしようもないことを一葉は考えていた。