※注意 : エロなしグロ描写中心



貴族の遊戯は様々あれど、近々の流行りは何といっても『僕闘』です。
どういったものかご存知ですか?
基本的には先進諸国でのカードゲームによく似ています。
ただカードを使って召喚する、いわゆる“クリーチャー”はプレイヤーの僕(しもべ)…。
つまりは貴族の屋敷を守る門番であったり、侍女長であったりするのです。

一度召喚されたが最後、哀れな僕たちは戦う事を強いられます。
どれほど心優しい者でも、です。

……場に動きがあったようですね。
片方の貴族が引いたカードに満足げな笑みを浮かべています。
おやおや、場に出していた「庭師」と「侍女」を下げましたね。
その2人を生贄に、召喚するのは……
おおっと、これは驚きました。騎馬兵、『白銀のシルーナ』です。
流石は名門貴族、王家からそんな上級カードを賜っていたとは。

可愛そうなのは相手ですね。あっちは『盗賊』がひとり。
家族を養う為にパンを盗んでいたアリセアちゃんです。
彼女はその小さな手に何も持っていません。
素手であるのはシルーナも同じですが、あちらは鍛え上げられた騎士、
おまけに銀の鎧まで身に纏っています。
まともにやって勝ち目があろうはずもありません。

シルーナが指を鳴らしながらアリセアに近づきます。
哀れな盗賊は逃げ場を探しますが、戦いの場は鉄の柵に囲われ、
プレイヤーの任意でしか開きません。
まさに絶体絶命。
しかし、何故でしょう?
追い込まれているはずの盗賊の主が、微塵の動揺も見せません。


シルーナがとうとうアリセアを間合いに捉えました。
「アタック!!」
主の命でシルーナの拳が唸りを上げます。
おっと…腹へ強烈な一撃、アリセアのつま先が浮いています。
「げはあッ…!!」
可愛そうに、小さな身体がくの字に折れて崩れ落ちました。
「…ぅへほ…がは、かはぁぁ……っっ!!」
目をつむり、長い唾の塊を吐き出しています…。
「ふん、それで腐った心根が僅かでも流れれば良いな」
シルーナは盗人を見下ろし言い放ちます。

これからターンが進むたび、アリセアへの暴行は続くのです。
一撃、また一撃。
せめてアリセアに強い仲間ができれば救いもあるのですが、
それはもはや望めません。
アリセア側はもう彼女を除き、全ての僕が消費し尽くされているのです。
「さぁ、そちらの攻撃ですわよ」
シルーナの主が冷笑と共に言いました。
シルーナもそれに答え、甲冑姿のまま腕組みでアリセアを見下ろします。
アリセアは尚も蹲ったまま俯きました。
甲冑を着た騎士に、素手のままどうしろというのでしょう。


17のターンが過ぎました。
檻の中に立つ2人の拳は、どちらも血に塗れています。
しかしその血は、すべて華奢な少女のものでした。
「ははひ……ふぃひ……かひゅ、はひ………!!」
少女はへたり込んだままおかしな呼吸をしていました。
愛らしい鼻は豚のように低く潰れ、唇は右側に大きく裂け、折れた歯を覗かせています。
閉じない口からは赤黒い血が流れて身体を染め、
指の皮は全て赤く擦り剥け、彼女が一縷の望みをかけて白銀の甲冑に抗ったことを訴えていました。
その血みどろの顔からは、壊される、という末路しか浮かびません。
「さぁ、貴様の番だ盗人」
シルーナが肩を回しながらそう言葉を投げかけます。
あと何発でアリセアは血の池に沈むでしょう。状況はもはや、消化試合そのものでした。

しかし、その時。
『…武器(ウェポン)カード、オープン。』
ずっと沈黙を守ってきたアリセアの主が、突如として声を上げたのです。
空気が一変しました。
シルーナもその主も、アリセアも瞳を見開きます。
アリセア主はさも可笑しそうにくすくすと笑い、ひとしきり笑って、続けました。
その溜めは、今から出す物が戦況を覆す切り札であることを示していました。
「カード……戦棍(バトルメイス)。」
ずず、と重い音が響きます。立会人が獲物を引き摺る音です。
覗いたのは、人の頭部ほどの鉄球を先に備えた鉄棍でした。
少女の力で何とか振り上げられるかどうか、という重さを持った武器。
そしてその重さでもって、金属の鎧だろうとへし曲げる強さを持った武器。
「……う、……うそ…………」
呟いたのはシルーナでした。
先ほどの気迫は消えうせ、顔面を蒼白にしています。
戦闘経験豊かであるゆえに、鈍器の怖さをよく知っているのでしょう。


っずず。
戦棍が檻に入ります。それは規定通り、蹲った少女の手へ。
アリセアはゆらりと立ち上がりました。顔はまだ俯いたままです。
「い…いや……!!」
後ずさりする騎士がいました。
それを尻目に少女の小さな手は鉄の取っ手を強く掴み、柄を赤く染めながら顔を上げました。
その表情にシルーナの顔が引き攣ります。
「  しんじゃえ  」
アリセアは棍を一度背負うように振り上げた後、腰を切って勢いよく棍を放ちました。
棍は唸りを上げてシルーナの顔面へと迫ります。
シルーナが腕で顔を庇ったのは反射行動でした。
しかし結果としてその行動が、彼女の腕を失わせます。
シルーナの鍛え上げられた右腕は、棍の先端についた鉄球に巻き込まれるようにへし曲がっていきました。
「ぐぁあああああああああ!!!」
シルーナは錐揉みするように倒れ込み、地面についた腕の痛みでもう一度跳ね飛びます。
「腕が…私のうでが、……あ、っぁああ……!!」
シルーナは横ざまに倒れたまま芋虫のように這いずり回りはじめました。
ドン、と鉄の棍が地面を揺らします。
棍に流血する頭を預けたまま、アリセアが口を開きました。
「さぁ騎士さま……次は、騎士さまの番よ。」

血の匂いに満たされた檻の中、饐えた空気が2人の少女によって吸われ、ゆっくりと吐き出されます…。


   
                おしまい