0.

「あれが立花ですか、昨年度準優勝の……」
「ええ、うちのホープです。今年こそは優勝を狙える仕上がりですよ」
スーツ姿の男達が見守る中で、少年が鋭い踏み込みで対戦相手に迫る。
刺すような真っ直ぐな軌道。
「エエエェイッ!!!」
気合を込めた声で放った追い突きは、相手の腹を痛烈に打ち抜いた。
「うぇっ!!」
相手は堪らず蹲り、参ったと言いたげに頭上に手を翳す。

「…………ふぅ」
少年はヘッドギアを外し、差し出されたタオルで頭の汗を拭った。
なかなかに精悍な顔つきだ。
「カッコいいなぁ、立花先輩」
「うん。しかもめちゃ強だしね。安心して見てられるっていうか」
組み手を見学していた少女達から黄色い声が上がる。
その中で立花は壁に座り込み、胸を押さえる。


『……ホラもう、立花くん。またその足捌きして!』
遠い記憶の中、黒髪の女性が幼い立花を叱っている。
『空手は前後の動きを守らなきゃダメ。攻撃を横に捌きたいのは解るけど、
 左足をそんなに横へ出したら、相手に体の前面を晒す事になるでしょ。いけない癖よ』
女性はパスンと立花の胸に拳を当てた。
「けほっ!」
立花は咳き込む。体重を乗せた超速の追い突き。見えないほど速いのに、重さも十分だ。
手加減してこれなら、本気を出せば相手は軽く吹っ飛ぶだろう。
実際この女性は、そうして全国大会を制覇したのだ。
空手家としては雲の上の存在。
そして女性として見ても、幼いながらにその品のある美しさが解った。
この胸への一撃は、自分の甘さを戒める優しさだ。

「その一発、ちゃんと覚えててね?きみは強くなるんだから」
女性はそう微笑んで立花の頭を撫でる。
道場主の知己である彼女がロードワークついでに行うこの指導は、
少年にとって何よりも大切な時間だった。
彼女のようになりたい。
弱虫で攻める事が苦手だった立花は、ただそれだけを目指して特訓を重ねた。
親の都合で引越し、二度と会うことがなくなっても。


立花は胸に手を当てたまま、窓から覗く空を見上げる。
「おれ、ちょっとは強くなりました。まだまだ、あの日の貴女には遠いけど。
 …………悠里さん。今、どこで何をしてますか?」



1.

「へえぇ。やっぱ格闘女王さまともなると、宙吊りでもいい眺めじゃん」
金髪の少女が手で鞭をしならせて笑う。
顔の造りはいいが、いかにもガラの悪そうな風体だった。
彼女はレディースのクミ、“シキタリ”を犯したメンバーを折檻する役回りにある。
古武道を習うのも、人間の嫌がる攻撃を知るためというサディストだ。

悠里は親指を紐で括られたまま、和室の桟に吊るされていた。
黒いタンクトップに薄手の革ジャケット、タイトジーンズ。
格好自体は垢抜けないものながら、悠里のスタイルがそれを最先端のファッションに見せる。

胸の膨らみはタンクトップを押し上げて谷間を晒した。
豊かさにも関わらず微塵も垂れていない、迫力に溢れる乳房。
形と張りのバランスは完璧に近い。
その胸の膨らみから視線を下ろせば、逆三角に引き締まった腰のくびれ、これも絶妙だ。
姿勢のよさに裏付けられて肋骨が内に締まり、細く鍛え上げた腹部に連なる。
そうそうお目にかかれるくびれではない。

最高のくびれを視線で撫で下ろすうち、次に目に飛び込むのが丸みを帯びた尻だ。
安産を約束する盛り上がりがくびれからカーブを描く。
露骨な落差は見る者の目を楽しませた。
そしてそのヒップがあればこそ、そこに起点を発する脚線美がいよいよ尋常でないものとなる。
まず驚くのは脚の長さだ。
折り畳んだ状態でも膝頭がゆうに肩に触れる膝上。膝下などはさらに長い。
腿の張りもすねの細さも素晴らしく、ジーンズ越しにでもその美しさがわかる。

門下生達は生唾を呑んだ。
これで格闘家だというのか。自分達の何倍も女らしく、瑞々しい身体をしているのに。
美貌のみを売りとする女、というならば納得も出来る。
だがこうも美しく、それでいて自分達が束になっても敵わぬほど強いなど認められようか。

そんな劣等感が渦巻く中、しかしサディストであるクミは、むしろ嬉々として悠里に近づいた。



「ねぇ、どう悠里ちゃん?ボコボコにされて吊るされて、どんな気分?」
クミが鞭の持ち手で悠里の顎を上向かせる。
悠里は鋭い目つきでクミを見据えた。
「……言っておくけれど、あなたの力じゃないのよ?
 どんな気分、なんて聞きたいのはこっちよ。虎の威を借る狐さんは、どんな気分かしら?」
悠里がそう答えると、クミは口元を吊り上げる。
「質問に質問で返すのはウチのチームじゃ許さないんだけど、まぁいいや。
 答えはね、最ッッ高の気分だよ。噂の絶対王者様を、こうして嬲れるんだからさ!」
クミはそう言って鞭をしならせた。
ビシッと破裂音がし、悠里の纏っていたタンクトップが切り裂かれる。
布が左右にはだけ、白い乳房が露わになった。真ん中にうっすらと赤い線が入っている。
「ぐ……!」
悠里は顔を顰めた。
「ううーん、いいねぇ悠里ちゃん。やっぱこのぐらいじゃ叫ばないか。そうじゃなきゃね」
クミは鞭を手の中に遊ばせて笑う。なかなか扱いに慣れている様子だ。
悠里はレディースに襲われる中で、鞭に似た凶器を何度か経験した。
それだけに厄介さは知っている。
親指で吊るされ嬲り者にされるこの状況は、背筋が凍りそうだ。
そんな事は意地でも表情に出さないが。

ピシンッ!!
鋭い音が響き、悠里の脇腹にある布が千切れ飛んだ。
悠里は固く目を閉じている。
すでにタンクトップは前面がズタズタになり、白い肌を露出させていた。
乳房には網の目に鞭の痕が残り、腹部は猫に引っ掛かれたような有り様だ。
いいように嬲られている事は明らかだった。
それでも悠里は声を上げない。
打たれる瞬間だけ顔を苦しげに引き締め、次には鞭を持つクミを燃えるように睨みつける。
クミにはそれがまた面白いらしかった。



「ほらいくよ、悠里ちゃん、いくよぉ?」
そう言いながら悠里の周りを巡り、恐怖を煽りつつ鞭を振るう。
いま背後から襲い掛かった鞭は悠里の背中に当たり、巻きつくように腹部を覆って
臍の辺りに先端部を食い込ませる。
「ぐ……!!!!」
悠里はつらそうに眉根を寄せた。
クミはひとつ息を吐く。
「うーん、強情。ちょっと誰か、ズボン脱がして、こいつの」
そう周りの少女達を手招きした。
その動作で何人もの少女が悠里に群がる。ひどく楽しそうだ。
「っ!?ちょっと、や、やめなさいっ!!」
悠里は脚をばたつかせて抵抗する。
「うわっ!!ねえちょっとこいつ、めちゃくちゃ脚の力強いよ!!?
 そっち膝持ち上げて!!そっちは尻!!力入れさせないようにして!!」
悠里を押さえつける少女が怒号を飛ばした。
手を吊り下げられた女一人を相手に、虎を押さえつけるような騒ぎだ。

ようやくの事で両脚が持ち上げられ、さすがの悠里も力を込められなくなる。
そしてジーンズのボタンが外され、チャックが下ろされた。
「……くっ!!」
悠里が怒りを露わにする。
ジーンズが滑り下ろされると歓声が上がった。
「へぇ、白パンじゃん!こんなの見せパン以外で穿いてるやつ初めて見るよ。
 でもなんか流石っていうか、似合ってるよね、モデルみたいで」
「うん、しかもこれシルクのかなりいい奴だよ。女王様って感じ」
ショーツに視線が集まる。
悠里は怒りに燃えた眼で宙を見つめた。

彼女は裸を見られるのに寛容なほうだ。
少年が顔を真っ赤にするのは可愛いし、中年男の視線もまた誇らしい。
スタイルは言うまでもなく、シミひとつない肌や鮮やかな桜色の乳輪など、
どこを見られても恥ずべき所などないと思う。
しかしそれはあくまで、自分で見せている場合の話。
このように拘束されむりやりに覗かれるのは、むしろ世の中でもっとも嫌う方だ。



下半身に纏うものが全て取り去られた後、悠里は指を吊られた体勢に戻される。
茂みの辺りに同性の嘲笑うような視線が集中していた。
悠里はモデルのように脚を重ねて恥辱に耐える。

「白くて綺麗な脚してるねぇ。これを傷物にしちゃうなんて凄いワルだよね。
 ま、だからこそしたいんだけどさ」
クミが鞭を遊ばせ、唐突に放った。ピシャンッという肉を打つ音が悠里の内腿に炸裂する。
「うっ」
悠里の口からかすかな声が漏れた。
薄い内腿の肉を鞭打たれるのは相当にきつい。切り裂くような痛みはインローの比ではない。
「へぇ、効いてるね」
クミは面白そうに嗤い、さらに鞭をしならせる。
パシッ、ビシンッと小気味良い音が炸裂し、悠里の脚が跳ねる。
しかもいやらしい事に、クミは効く所を狙って鞭を当てる。
内腿、膝裏、大腿部の下、踵……。
そうした急所を吊り下げられながら打たれれば、いくら悠里とはいえ膝がガクガクになってしまう。

悠里はなお凛然とした目でクミを睨みながら、脚が震えるのを止められずにいた。
クミは悠里の背面、すなわち死角に入り込みながら鞭で腿の裏を叩く。
その痛みで悠里が片足を上げた次の瞬間、返しの動きで鞭の先が悠里の股下に潜り込む。
ズパンッと大きな音が響き渡った。
「んあああああ゛ーーーーっ!!!!」
悠里が悲鳴が響く。門下生達が耳を疑った。
悠里は膝をすり合わせるようにして脚を閉じ、汗を垂らして悶絶している。
急所を蹴り上げられた男と同じ反応だ。
「へへ、やぁっと声がでたよ。ま、アソコ打たれりゃそうだよね」
クミが嬉しそうに笑い、さらに悠里の脚に鞭を放つ。
「うく!!」
悠里の小さな声。先程までは吐息しか出さなかったものが、聴こえる音になっている。
急所を打たれて余裕が剥がされたのだろう。



2.

ビシッ、ビシンッと膝裏に鞭を入れられ、あるいは足で蹴り上げられて秘部が開くや否や、
急所に鞭の先が滑り込む。
それはまるで腰縄のように秘部を覆い、秘唇を捲りこみながら凄絶な音を立てた。
「くあああああああ!!!!!」
悠里もその時ばかりは耐え忍ぶ余裕などない。
美貌を歪めて部屋に響き渡るような叫びを上げる。
悶え苦しみながら悠里は膝を閉じ、腰をくゆらせて鞭を嫌がった。
しかし秘部を打たれたときの反応がよほど面白かっただろうか。
周りで見ていた人間が暴れる悠里の足を引っ掴み、大股開きに開かせてしまう。
「ああっ!!!?」
悠里が一瞬絶望に満ちた顔をする。その顔を覗きこみながらクミが近づいた。
「怖いんでしょ悠里ちゃん。そりゃそうだよねぇ。
 さっきまで打たれるのが嫌で、あんなに暴れまわってた所を晒してんだもん。
 ははっ、ビラビラが赤くなって潰れちゃってる」
クミは満面の笑みで悠里の陰唇を弄くり、その指で鞭の先を撫でた。
「……じゃ、本番いこっか。」




それから和室には、何十発という鞭の音が続いた。
その度に若い女のよく通る叫び声が響き、幾人もの少女に押さえ込まれた美脚が暴れる。
腕の間から覗く足先が宙を蹴り、また強張る様は、まるで強姦を受けているかのようだ。
あるいは強姦の方が楽だったのかもしれない。

打ちすえが終わったころ、悠里は体中から汗を流していた。
汗は抱え上げられた身体の随所から滴り落ち、畳に蒼い染みをつくる。
彼女の恥じらいの部分はその腿から秘部、下腹に至るまで真っ赤に染まっていた。
出血はないので全力で鞭打った訳ではないようだが、充血しきったその皮膚の一枚下には、
およそ耐え難いほどの痛みと痒みが染み込んでいるはずだ。
そのような凄惨な有り様でありながら、悠里の瞳はなお獣のような獰猛さを以って
鞭を持つ少女を睨みすえる。
その眼にはむろん大粒の涙が零れだしていたが。

クミは肩で息をしながら、晴れ晴れとした顔で額の汗を拭う。
「今日はここまでにしといてあげるわ。どうせこの後お風呂に入っても、寝る時も、
 体中が痛くて痛くて泣きそうになるんだろうから。特にお股とかね」
クミが秘部を押さえるような真似をして周りの笑いを誘う。
悠里が奥歯を鳴らした。
それに勝ち誇った笑みを向け、クミは続ける。

「……あと言っとくけど、今日のはただの挨拶だよ。師範にやられた病み上がりだから。
 明日からはもっともっと酷いことになる。
 チームを抜けるとかほざいた馬鹿にやる折檻を、フルコースで味わってもらうよ。
 可哀想だね悠里ちゃん、力がありすぎたばっかりに、こんな見せしめ受けて。
 ま、力があるっていっても師範にボコボコにされる程度だけどさ」
クミの言葉に、周りの門下生達から大笑いが起こった。
女が出すとは思えない、恐ろしい音量のレディースの笑い。
悠里はそんな物に臆するタマではけしてない。
しかし秘部の引き裂かれるような痛みはつらく、下を向いてただ唇を噛み締める。


窓の外に広がる青空を、いつしか重い雲が覆い始めていた。