道端に捨ててあるエロ本なんぞ、いい年をして普段は見もしないものだが、
『それ』だけは妙に目を引いた。
裸の男と女が絡み合っているオーソドックスな写真の本ではあるが、
その体位が異常に豊富なのだ。

表紙を見れば、納得できた。
『大江戸四十八手 完全マニュアル』と記されている。
大江戸四十八手とは、現在に伝わる四十八手の元祖と言われるもの。
これは、その大江戸四十八手を事細かに解説しているマニュアル本のようだ。
改めて本の中身を見てみると、確かにそれはマニュアル本らしくあった。
均整の取れた身体つきの男と女が、殺風景な部屋の中、やや無機質に体位を実践している。
女性が見てもさほど抵抗はないような淡白さだ。
しかしそれゆえに、一般的なエロ本にはない妙な興奮があるのも事実。

男優も女優も、いわゆるAVに出てくるようなタイプではなく、
まるで運転免許の教則ビデオに出てくるような真面目そうなタイプだった。
特に女優の方は、性格だけでなくそれなりに育ちもよさそうな顔つきをしている。
そんな女が素っ裸で四十八手を行っているというのだから、これは大した拾い物だ。
俺は俄然その本に興味が湧き、周囲に人がいない事を確認して家に持ち帰った。

帰宅して改めて表紙を見ると、一見全くいやらしい本には見えない。
まるで参考書のようなお堅い表紙。
付録として、撮影の様子を記録したDVDが付属している事だけが記されている。
DVD。俺は興味をそちらに半ば以上奪われながらも、本の写真にざっと眼を通す。
本当の楽しみは、こうして多少の『タメ』でも作ったほうが盛り上がるというものだ。

よく観れば、写真は女の方は全て同じ女優だが、男優は複数人を使い分けているようだった。
体位によって使用する筋量や、行いやすい体格が違うからだろうか。
男優は複数で、女優は一人。
このせいで、四十八手の後ろへいくにつれ、男優と女優の疲弊の度合いが明らかに違っている。
最初の一枚『岩清水』では、男女共にマネキンのように無表情を作っているが、
例えば四十枚目『帆かけ茶臼』などになると、男優は軽く汗を掻く程度なのに対し、
女優はしなびた前髪を額に貼りつけ、薄く開いた唇からだらしなく涎を垂らすという有り様だ。
顔といわず胸といわず、体中が汗で濡れ光っているのも生々しい。

どうやらこれら一連の写真は、ぶっ通しで撮影されたもののようだ。
となれば、その崩落の過程が知りたくなってくるのが男のサガ。
俺は付録のDVDを手に取り、軽く興奮で震えながらデッキに差し込んだ。





見覚えのない書店のロゴが表示された後、映像が始まる。
マニュアル本だけあって、AVのようなインタビューは一切ない。

『第一手 岩清水
 
 岩清水とは、クンニリングスの一種である。
 仰向けに寝た男性の顔に、女性が腰を下ろした状態で秘部への愛撫を受ける。
 上になった女性の局所から、愛液が湧き出す様が岩清水に例えられる』

堅い説明が表示された後、画面が切り替わって裸の男女が映し出される。
本にあった写真の一枚目と同じだ。
横になったまま秘部を舐める男も、その男の顔に跨って愛撫を受ける女も、
マネキンのような無表情を保っている。
唯一、腰が動くたびに揺れる女優の乳房だけが人間らしい。

マニュアル本ではあるが、プレイの内容は模擬ではなく実演だ。
男の舌は間違いなく女優の膣の中に入っており、また繁みを舐め上げている。
作り物では決してない、クンニし始めの頃の音も聴こえてくる。
それでも女優は品のある顔つきを崩さず、ピンと背筋を伸ばしたまま前だけを見つめていた。
一見すれば何でもなさそうだが、実際に秘部を舐められて全くの無反応もないだろう。
となれば、次の1シーンにも期待が掛かろうというものだ。

第二手は『浮き橋』。
男が横向きに寝ている女を膝の上に乗せ、後ろから挿入する体位だ。
男の膝の上でグラグラと揺れる女体が『浮き橋』に似ている事が由来らしい。
尻側からほぼ直角に挿入することになるため、相当な摩擦が生まれると解説にはある。
そしてそれは、実際に女優によって“実演”された。

女優は肘をついて横たわったまま、男の腰に尻を乗せて片膝をシーツに下ろす格好だった。
そうしてしばらくはゆらゆらと揺れていたのだが、やがて膝をついた片脚に変化が起きる。
男が挿入するたびに、内腿にはっきりとした溝が浮き上がるのだ。
女優の顔は肘をついた影になってよく解らないが、特に乱れているようには見えない。
体勢も変わってはいないのに、片脚の内腿部分だけが、明らかに挿入に対して反応している。
いかにも清楚で真面目そうな女のその変化は、男女問わず観る者を興奮させるに十分だ。



そうして徐々に、徐々に、女優は『変化』していった。
男優の方は体位ごとに入れ代わっているにもかかわらず、女優の身体にのみ変化が蓄積する。
体位一つごとに役者と体勢が変わり、それに伴う小休止が入ってはいるようだ。
しかし数分だけ責めては放置し、全く違う体位で責め立てる、というサイクルでは慣れが生じない。
結果としてそれが、効率よく女優を昂ぶらせる事につながっているらしかった。

その積み重ねが初めて弾けたのは、第十手。
『こたつ隠れ』という、向かい合って炬燵に入った状態でのセックスだ。
ビデオでは実際に炬燵が用意され、その双方で裸の男女が状態を蠢かす、という図だった。
しかし流石というべきか、その本来映さない場面でさえ、結合は行われていたらしい。

「うっ……!!あっ、っあ!!」

こたつ隠れの実演に入った時点で、すでに女優は声を殺せなくなっていた。
炬燵布団に隠れているとはいえ、おおよその体位の想像はつく。
男優はしっかりと女優の脚を掴み、炬燵の熱の中で深々と貫いているのだろう。
炬燵の天板に手を突いたまま悶え、腰を引こうとして失敗する女優を見ていれば容易に思い浮かぶ。
その果てについに、女優は歯を食いしばって天板を抱き寄せた。
丸まった背中が細かに痙攣し、最後に額から流れた汗が天板に落ちる。
ああイッたな、とあからさまに解った。
そして俺のその心の声に応えるかのように、画面が暗転してテロップが入る。

『この時点で女優が絶頂に達した為、一時撮影中断』

無機質なその記述が、今は何とも残酷だ。
四十八手を丁寧に行えば、僅か十手でこれほどに昂ぶるんですよ、という風に捉えられなくもない。
実際、ここまでを見たカップルは双方共に、かなり心拍数が上がっていることだろう。
しかし俺にしてみれば、ただの良いオカズだ。



やや暗転が続いた後、何事もなかったかのように第十一手が始まる。
しかしその十一手は、よりにもよって『理非知らず』。
女性の両手両腿を紐で縛り、完全に自由を奪った上で陵辱するように犯すプレイだ。
イッたばかりの女優にとっては、最もまずい。

「あっ、ああっ、あ、ああああううっ!!!!!」

女優はもう声を殺す事もままならなかった。
膣内深く挿入され、子宮入口周辺をペニスで突かれているのだろう。
大柄な男優が腰を打ち付けるたび、腰を気持ち良さそうにうねらせている。
縛られた姿がまた扇情的だ。
そしてその結合部からは、ついににちゃにちゃと水音がしはじめていた。
女優としての演技などではなく、一人の女としてしっかりと濡れてしまっているようだ。

そこからの数手でも同様だった。
交わる中でたまに覗く秘部はドロドロで、相当に気持ちがいいのだと解る。
「いっ、いくっ、いく!!」
上下前後、様々な角度から愛され、布団の上で乱れながら女優はメスの声を上げていた。
クポクポという、水気のあるものが空気を抱き込んでかき回される音がマイクに拾われてもいた。

「はああああっ!!ああ、あ、いやああっ、ふあああああはああああああっ!!!!!!」

三十手を超えた頃にはもう達し続けとなっており、揺れる女優の身体からは、
汗と愛液が光りながら飛び散った。
写真でも見たとおり、艶やかな黒髪が次第に海草のようにしなびていく様子は見物だった。

男優にしても容赦はなく、第四十六手『椋鳥』、
つまり男が上のシックスナインにおいても手を抜かない。
すでに蕩けきっている秘部を徹底的に舐め上げながら、自らのいきり立った逸物を喉奥深く咥え込ませる。
女優が苦しがって逃げようとしても、膝で巧みに頭の逃げ道を塞いで咥えさせる。
その太いものを無理矢理咥えさせられる瞬間、大股開きの脚が暴れるわけだが、
なまじ秘部が蕩けているだけに、それがまた何とも気持ち良さそうに見えてしまうのだ。



続く第四十七手、実質の最後は『流鏑馬』。
男の首に紐をかけ、それを手綱として女が腰を振る、実に珍しい女主導の体位だ。
けれどもそのせっかくの主導も、さんざん達させられた女優にはつらいものでしかない。
まるで初めて馬に乗った姫君のように、右へふらり、左へふらりと傾いでは、
疲弊しきった顔を歪めながら達してしまう。

悠に十分以上も流鏑馬が続いたところで、女優は力尽きたように布団へ倒れ込む。
最後の一手、『寄り添い』では字の如く、倒れた女優に男優が寄り添い、
限界を迎えた女体を指と舌でさらに燻らせる後戯となった。

「ん、んん……」

すでに拒絶する事もままならない状況で、眉を顰めて艶かしく喘ぐ女優は実に官能的だ。
その様子をしばし映した後、画面は完全に暗転する。

終わったか。
俺は若干の寂しさを覚えながらDVDを取り出し、元の本に戻そうとする。
けれどもその瞬間、俺は見落としていた新たな事実に気がついた。
この一枚目のDVDは、元の所有者が予め袋とじを破いていたために発見は容易だった。
しかしその破かれた下……まるで二重底のようにして、もう一枚、厚紙の袋とじがある。
俺は急いで厚紙を破り去った。

『おまけ 実践編』

相も変わらず無機質な字体で、そう記されたDVDがある。
題名の下には、小さな字で<本編と異なる作風の為、注意>と但し書きがあった。
だがともあれ、あの女優は出ているのだろう。
であれば、そちらのセックスも是非とも見ておきたい。
俺は迷わず隠されたDVDを取り出し、デッキへと差し込んだ。





それは男優と女優、そして監督らしき男が素を出して後日談に花を咲かせているDVDだった。
女優は前の映像でのクールな雰囲気と一変し、まるで現役の女子高生のような幼さを見せている。
しばしのビデオ撮影の苦労話。
しかし実践編とあったこのビデオが、それで終わるはずもない。

『テスト!女優は散々学んだ体位を、いくつ覚えているのか!?』

急にポップな文体となったテロップが表示され、女優の引き攣ったような笑みが映される。

「え、えっ……!?」

何も聞かされていない、と言いたげな様子のまま服を取り去られる女優。
男優が取り囲む中で布団に寝かされ、半ば強制的に四十八手の『復習』が始まった。
様々な体位を男優が取らせ、これは何かと質問する形式だ。
クイズ番組のように、視聴者にだけはテロップであらかじめ答えが表示されている。
女優が正解すれば小休止を挟んで次に移り、間違えたならば10分の『勉強』。
以前の地獄が脳裏をよぎるのか、女優は表面的には人懐こい笑みを浮かべながらも、
ふとした時の表情は真剣そのものだった。

とはいえこの女優、中々に覚えはいいらしく、初めのうちは余裕だった。
Sっ気さえ覗かせ、腰を捻って男優を責める様子さえ見せた。
男優を早く射精に導いておくことが、後々自分を楽にすると踏んだのかもしれない。
しかし、数をこなしていくとそうもいかなくなる。
気丈だった女優も次第に疲れ、問いに悩むようになりはじめる。
男優の方も強かだ。

「ああ、すっげぇな。今の顔すっげぇかわいいよ」
横たわったまま背後から抱きしめるような体位で、男優が耳元に囁きかける。
すると女優は困ったように眼を細めた。
「やめてよ……そういう事言われると、すぐ濡れちゃうから」
そうしたやり取りを数多く経て、次第に、次第に、女優は追い詰められていく。
そして、ついに。

「あっ、これ、何だったかな……だめ、いくっ!!!」

女優は現在の体位……第三十五手『百閉』を答えられず、代わりに絶頂を宣言する。
彼女はもう湯上りのように興奮しきっていた。
乱れた前髪が顔にかかり、いやらしい。
それはきっちりとして清楚そうだった女優が乱れた事実を、端的に表している。
「おーお、ついに不正解だ。10分じっくり責めてやるよ」
監督らしき男が嬉しげに言い、相手をしていた男優も嬉々として女優を抱き始める。

「ん、ぐんんんっ……!!!」

女優は指を噛み、必死にその10分を耐え忍んでいた。
しかし耐えられても、しっかりと昂ぶらされる事には違いない。
状況は刻一刻と、女優にとって厳しくなっていた。


そこからまた何度も女優は正解し、そして何度も答えを外した。
四十八手というものは、男と女のどちらが上か、物に手をついているかいないか、
それだけで名称が全く違ってしまうものだ。
快感に襲われてふわりとした意識で、それを全て冷静に正解など出来るはずもない。

間違えるたびに施される、10分の『教育』。
それは着実に女優を昂ぶらせ、また絶頂に導いていった。
特に2連続で不正解となった暁には、実質ぶっ通しで都合20分の責めとなる。
こうなっては女優も脚をぴんと伸ばし、布団を握りしめながら大声を上げてしまうしかない。
この番外編のビデオは一枚目とそう日を隔ててはいないのか、
女優はしっかりと子宮を開発された状態を保っているように見受けられた。
乱れさせられ、次第に女優は焦る。
蟻地獄で足掻くように、深みに嵌まっていく。

男優は女優に胡坐を掻くように脚を組ませ、顔を見合わせる形で挿入する。
「さて、この体位は何だ?」
「ひっ……き、きつい……!!
 座禅転がし……じゃない、ああ、何だっけ、何だっけこれ!
 やだこれっ、もうされたくない!」
女優は戸惑いを露わに首を振った。

答えられないのも無理はない。
その体位は『洞入り本手』といい、四十八手には違いないが、
彼女が教わったものには含まれていないものだ。
しかし似たような体位ならばあるので、その体位が存在しなかったと断じる事もできない。
中々に意地の悪い問いだ。

「いやああああっ、やめて、やめてぇ!!
 これ、これ凄く締まっちゃうから、
 ひどいくらい変な感じ方しちゃうからあああっ!!
 ああああっ、やだああっ、足首絡まって、抜けない、逃げらんないいいっ!!!」

汗まみれで目を見開き、首を起こして結合部を無理矢理見ようとする女優。
そうするのも無理はない。
濡れきった結合部からは、じゅぷっ、ぎゅぷうっと只事ではない音が立ち始めているからだ。

そしてこれは、音だけが派手という“見せ掛けの”体位ではない。
脚を絡めて複雑に締まった膣を、無理矢理に蹂躙される。
それを受ける女優の生脚は、胡坐を組んだ状態のまま腿と脛の筋肉を脈動させ、快感を訴えていた。
一瞬開いた足指の間から汗が流れ、足の裏を伝っていく映像が異常なほどいやらしい。
女優の表情もまた、深く皺の入った本気そのものの官能顔だ。
息ははぁは、はぁは、ふうっ、はは、はっ、はぁは、というハイペースで荒いもの。
ちょうどマラソンで息が切れた時に、人はそういう呼吸になる。



「これ、ふかいあらぁあっ、ものすごくふかくはいっちゃうからぁっ!!
 足がとれそうれ、奥が、きゅんきゅんしれうううっ!!
 ひょ、ひょっとやすむらほうらいいあらぁ、あ、やぁっ!!
 ふむ゛ううぅううんんあああああはぁあああっっっ!!」

息の切れた状態で訴えるため、哀願も全く言葉の体を為していない。
女優が相当に“キテいる”事を理解しながらも、男優は責めの手を緩めない。
監督共々、生粋のサディストだろう。

「これは?」

男優は、オーソドックスな後背位を試みながら問う。
テロップには後櫓とある。

「ああああ、わ、わかんあいいっ!!
 ……ら、らにが、らんのたいいが、あっらっけ……。
 せ、せっくす、おまんこ!!おまんこ、してます、こ、こえで、かんべんしれえっ……!!」

「おいおい、こんなの基本中の基本だぞ。っつうか、最初はちゃんと答えてたじゃねえか。
 お前、苛めて欲しくって、わざと間違えてるんじゃねえか?

「ちがううううっ!!!!
 いっ、いきすぎて、酸素、たんなくてぇ……もぉ考えが、まとまんあいいい……!!
 子宮ぐちが、おりてるのほぉ、突かれると、も、イくしかなぐってぇ、あひゅいいよおっ!!!
 もぉ、もぉうぜんぜん、耐えられてなひぃいい……っっ!!!!
 お、ぉねがひぃ、み、みんな、か、顔、見ないで……!!よ、涎、止まんらくて。
 わ、わらひ、びじんでとおってるのに、こ、こんなの撮っちゃ、だめえぇっっっ……!!!」

もはや鳴き声とも嬌声とも取れない声をしばし張り上げ続け、女優は気絶した。
それとほぼ同時に、入り込んだままの逸物の根元へ向けて水が噴き出される。
潮吹きか、あるいは失禁なのかは判別がつかない。ただいずれにしても相当な量だ。
おーい、おーい、と男優他数人が声を掛けても、女優が眼を覚ます気配はない。
男優が閉じた瞼を開くと、見事なほど白目を剥いた瞳が露わになった。

どうやら完全に気を失っているようだ。
四十八手はまだ三十手も終わっていないが、これ以上の続行は無理だろう。
横たわったまま片膝を立てる格好になった女優の脚を、男優が横に倒す。
そして晒されるがままになった秘部を接写。
俺はそれを見て、思わず雑誌にある初めの頃の写真を見返した。
その最初に比べれば、別物と見紛うばかりに拡がってしまっている。
そしてそのしおれた花びらに縁取られた暗がりからあふれ出すほのかに白い愛液は、
まるで女優の身体の中にあった淫靡な血汗が溶け出したかのようだ。

そこで長い映像の終わりを迎え、最後に白いテロップが映し出される。
その言葉が、なぜか妙に俺の記憶に残っていた。



『 四十八手とは、男女の野生を引き出す、究極にして根源の法である 』




                              終わり
<初出:2chエロパロ板 『【マジイキ】イカされすぎ3』 スレ>