※ 腹責めモノです。若干の嘔吐描写注意。


今しみじみ思い出しても、あれは妙な体験だった。

その日僕は、彼女である大里真美と町の祭りに参加していた。
田舎町の、神社と公園にかけて屋台が並ぶ小規模な祭りだ。
真美は大学のサークルの先輩で、とにかく押しの強い人だった。
子供の頃から空手をしていて、僕よりもよっぽど腕っ節が強い。
僕と付き合っていたのも、けして好き合ってではなく、丁度いい遊び相手だったからに過ぎないんだろう。

その真美から、殆ど飲めないビールを何倍も勧められ、その時の僕はかなり酔っていた。
もう帰ると何度もぐずりながら、真美に追い回されていた最中。
まるで喧騒から外れるように建つ、一件のサーカス小屋のような青いテントに辿り着いた。
暗闇の中にひっそりと浮かび上がるそこはどうにも不気味で、普段の僕なら関わろうとはしなかっただろう。
けれどもその時は酒の勢いもあり、追ってくる真美から身を隠すにはうってつけという計算もありで、テントの中に踏み入った。

入った瞬間に鼻を突いたのは、酸い汗の香り。
そして、聞き慣れない女性の荒い息遣い。
外から見るより広さのある内部には、手足を枷でX字に拘束された女性が数人いた。
健康的に日焼けした上半身にはスポーツブラを着け、下半身には迷彩色の長ズボンを履いている。
足には、たまに危険な工事現場で見かける、ブーツタイプの安全靴を着用しているようだ。
そして何より印象的なのは、そのくっきりと割れて盛り上がった、逞しい腹筋だった。
それらの情報から、僕はそこにいる女性達が自衛隊員であると判断した。

「いよぅ、お客さんかい」

僕にそう声を掛けたのは、たった今導き出した答えを肯定するような、ガタイのいい男だった。
頭は清潔感のある角刈りに整えられ、タンクトップの下には浅黒い筋肉が盛り上がっている。

「ここって、何の店なんですか」

酒の力とは恐ろしい。
普段なら怖気づくような状況も、この時の僕はあっさりと受け入れていた。
逞しい男が笑みを見せる。



「ここはな兄さん、悪ーいオトナの為の出し物よ。
 あそこに繋がれてる女の中から一人を指名して、この球を投げつける」

男は、分厚いゴムで包まれたボーリング球大の物を拾い上げて言った。

「これを思い切り腹に投げつけて、制限時間の三十分以内に参ったと言わせればお客の勝ち。
 ああして屈服させた女を好きにできるって寸法よ」

男がそう目配せした先には、薄いカーテンで区切られた急ごしらえの寝室がある。
煎餅布団に膝を突くようにして、男の尻が蠢いている。
さらにその尻を挟み込むようにして、毛のない女のものと思われる足が揺らめいている。
薄いカーテンから透ける、布団に背をつける一人と、それに覆いかぶさる一人の上半身。
部屋へ入った瞬間に感じた、汗の匂いや聞き慣れない声も、どうやらそこが元凶のようだ。

それがセックスである事は、さすがの僕でも知っている。
ではそれを先程から目にしている、あの女性達はどんな反応だろう。
僕は急にそれが気になって、例の拘束された女性達を見やった。
案の定、彼女らも痴態を横目に見やりながら頬を染め、脚を内股にもじつかせている。
ただ一人を除いては。
その唯一の例外である中央の女性は、痴態から全く目を逸らさない。
かといって凝視している訳でもなく、ただ真正面を向いたままきりりと表情を引き締めていた。
瞳を正面から覗き込まなくとも、それが並ではなく気の強い女性である事が解った。
なぜなら僕は、日常的にそれと似た女性を目にしているからだ。
粗暴で、豪快で、性根が悪くて……

「へぇー、面白そうじゃん」
「ひあっ!!」

突如、真後ろから掛けられた声に、僕は頓狂な声を上げた。
ゼンマイ仕掛けのように寸刻みで振り向くと、そこには満面の笑みを湛えた真美がいた。
彼女はずかずかとテントの中に踏み入り、中央の女性を指しながら財布を取り出す。

「じゃ、あたしコイツね」

初対面の、それも恐らくは年上であろう女性自衛官をコイツ呼ばわりとは。
角刈りの男も苦笑いだ。

「あー……嬢ちゃん、こういうのも何だが、その女は止めといた方がいいぜ。
 どいつも仕事柄よく鍛えちゃいるが、そいつは別格だ。
 訓練の合間でも暇がありゃ腕立てと腹筋を繰り返してるような、病的な筋トレマニアでな。
 今まで泣きを入れた例がねぇ。
 もっととんでもねぇ化け物が挑戦するってんならともかく、姉ちゃんの細腕じゃ……」

彼の言う通り、真美の目の前で吊り目をぎらつかせる女性は、見たこともない腹筋をしていた。
それは人間の筋肉というより、皮膚の下に六つの金塊を潜り込ませたという風で、僕が殴った所で手を傷めるだけに思える。
けれども真美は、さも可笑しそうに唇を曲げるだけだった。

「だから面白そうなんだってば。あたし以上のS女とか許さないし。絶対屈服させて、嬲り者にしてやるんだから」

肩を怒らせてゴムボールを掴む彼女に、角刈りの男は肩を竦める。

「やれやれ、やんちゃな彼女だな。しゃあねぇ、特別だ。兄さん、御代はいいから加勢してやんな。
 二対一なら、ちっとは希望も見えるだろ」

彼はあろう事か僕の肩に手を置き、ゴムボールを握らせる。
その瞬間僕は、自分が傍観者の席から引きずり下ろされた事を知った。



手にしたボールは、トイレのスッポンのように分厚いゴムに包まれていた。
形は完全な円ではなく、一方が吸盤状になっている。
何となく思いつく事があって、僕はその吸盤面が当たるように壁へ投げつけてみる。
ボールが壁に吸い付いてひしゃげ、中の球はたぶん慣性の力に従って壁へぶつかった。
ごぼん、と鈍く重い音がする。

「ふぅん、グローブ着けてぶん殴るようなもんね」

真美が僕に目配せして言う。
遊びと称して僕をボクシンググローブで叩いた経験があるから、という意味が一つ。
それと、逃げた罰として後でぶん殴る、という意味もあるだろう。
このとき僕の喉から出たしゃっくりは、酔いではなく、後々の恐怖からのものだった。

「ま、とにかく始めるわよ」

真美はボールを胸元に抱えて告げる。
そして足を大きく開いて踏ん張り、充分に肩を入れて押し出すようにボールを投げた。
素人目にだけれども、中々のフォームだと思う。
ボールは真っ直ぐに飛び、拘束された女性の逞しい腹筋に沈み込む。

「ふむ゛っ……!!」

女性は口元を引き締めて堪えた。
彼女の腹筋はボールの侵入を浅くしか許さず、まるで弾き飛ばすように押しのける。
ごどん、と床に重く鈍い音が響く。
鍛え上げられた腹筋は見掛け倒しじゃなく、実際に鉄壁のようだ。

「へぇ、やるじゃん」

真美は呟きながら、僕に指で『すぐに続け』と指示を出した。
間髪入れずに責められるのは、二人でプレイする最大の利点だ。
自衛官の女性には悪いけれども、真美の機嫌を損ねるのはもっと悪い。
僕はボールを両手で握り締め、叩きつけるように放り投げる。
ボールが手を離れる瞬間、世界がスローになって女性の顔がはっきりと見えた。
真美の一発を耐えしのぎ、空気を求めていた所への追撃に驚愕する顔が。

「お゛ごっ!?」

金塊のような腹筋が布団のように沈み込む。
ボールの中身が移動し、さらにその窪みを深める。
女性の眉間の皺も一気に深まった。

「げはっ、えほっ……!!えはぁっ!!」

女性は苦しげに呼吸していた。
角刈りの男が驚いたような声を上げているのが聴こえた。
そして、真美が満面の笑みで床を踏みしめる音も。


「ぐっ!!」

女性は真美の二発目を、歯を食い縛って耐え忍んだ。
ちっ、と舌打ちする僕の彼女。そしてそれを正面から睨み吸える迷彩ズボンの女性。
僕はそれを見た時、妙に気分が高揚するのを感じた。
だいぶ酔いが回ってきたんだろうか。
僕はそれから何度か、真美の指示によって投擲した。
けれども四回、五回と投げるうちに、真美の指示もない内から投擲のモーションに入っている自分がいた。

迷彩ズボンの女性は逞しく、こちらの球を盛り上がった腹筋で幾度も弾き返す。
凛々しい表情も保ったままだ。
けれども上手く時間差で責めてやれば、面白いように悶絶してしまう。

「ぐぬぅうううっ……!!」

例えば今、真美の一発が唸り声と共に止められた。
けれどもその球が腹筋を押し込んでいる丁度その後ろから、もう一発をお見舞いするとどうだろう。

「っ!?え、う゛ろぁ゛っっ……!!!」

女性の顔が天を仰ぎ、大きく開いた口からうがいをするような音が漏れる。
そして驚いた事に、迷彩柄のズボンの股部分に、かすかなシミができ始めてもいた。
真美がそれを目敏く見つけ、僕に報告してくる。
僕は普段なら引いてしまうそんな情景を、この時ばかりはより一層の興奮状態にしていた。
この強そうな女性が悶絶している。真美の一発より、明らかに僕の一発の方が効いている。

『僕が』苦しめているんだ。

そう感じたとき、僕のボールを握る手は、音がするほどに強く握られていた。
唇の端から涎を垂らす迷彩ズボンの女性に向けて、嗜虐心を迸らせる。

「え、ちょっと……それは不味くない? ね、ね、ちょっとぉ……」

真美の当惑か歓喜か解らない、上ずった声がする。
その声を聞いてやっと、僕は自分の行動に気づく。
まるでハンマー投げのように、ボールを掴んだまま脚を軸に回転しているんだ。
角刈りの男と真美が、こちらへ両の掌を差し出しながら腰を引くポーズを取っている。
まったく妙な応援の仕方だ。
僕はしばし、身体が勝手に織りなす心地良い回転に身を任せていた。
高揚した気分がさらに高揚していく。
気分までもが錐揉みして上昇していくみたいだ。
最後に、拘束された迷彩ズボンの彼女が目を剥いている姿が見えた瞬間、僕は笑った。


「   ぶ ち 壊 し て や る よ ォ  ・・・・   」


誰のものかも解らない低い声が耳元でした直後、僕は肩の筋肉を盛り上がらせる。
爽快なまでに腕を伝って走り抜けていくエネルギーが、空中へと放り投げられる。
それは痙攣する肌色の壁へ、迷いなく吸い込まれた。
女性の左目が固く閉じられ、唇が歪にへし曲がる。
自ら腰を壁へ押し付けるように身を折っている。
そしてその血色の良い唇から、吐瀉物があふれ出して……僕はそれを、とても綺麗だと感じていた。





気がついた頃には、僕は神社の境内で横になっていた。
祭りはとうに片づけまでもが終わっていて、辺りには誰もいない。
若干の頭痛と酒臭さから、ビールをかなり飲んだ事だけは確かだけれども。

こんな風だから、僕はこの時の妙な経験を、今でも夢か何かだと考えている。
この地域の自衛隊は、確かに昔から変わった訓練をするという噂もあったけれど、
それにしたってあんな屋台があるのは現実的じゃない。
だからきっと、夢なんだ。

ただ一つだけ気になるのは、その日を境に真美の態度が激変した事だ。
一日前までは僕を見かけるたびに酷くからかい、笑いながら殴ってきた彼女。
それが今ではすっかり淑やかになり、常に僕の機嫌を伺うように下から覗き込むような仕草をし、
お気に入りだった臍だしルックも一切やらなくなった。
それどころか、僕と居る時はそれとなくお腹を隠すように抱える事すらある。
これについて言及しても、真美は『泥酔させて放置したのは、さすがに悪かったから』と弁明するばかり。

真相は未だ、闇の中だ。



                  終わり
<初出:2chエロパロ板 『【何発でも】腹責め専門SS・その11【叩き込め】』 スレ>