※くノ一拷問物。姉寝取られ要素があります。



小郎太は空を見上げた。
月は海原のように広がる雲に覆われ、欠片ほどもその姿を見せない。
辺りはまさに漆黒の闇。
夜の散策には不向きながら、今から小郎太が為そうとしている事を考えれば、その闇は僥倖といえた。
この闇の中ならば、濃緑色の装束に身を包んだ小郎太の姿を目視する事は不可能に近い。

無論、それは小郎太が標的を見つける場合についても同じ事が言える。
しかし、小郎太はこの夜、標的がどこに居るのかを前もって知っていた。
彼が立つこの母屋から、緩やかな坂を上った先にある一本松。標的はその下に居る。
大まかな場所さえわかれば、住み慣れたこの地で光など必要ない。
小郎太は音もなく駆け出し、緩やかな丘陵を上る。
一本松まであと二駆けでたどり着くという場所まで着くと、小郎太は一旦足を止めた。
大きく息を吸う。
そのまま肺で留める。
呼吸を止めると同時に気配も絶つ忍びの技だ。
この状態に入れば、臆病な野兎に近づいて背後から掴み上げる事も容易い。

息を止めたまま、小郎太はじりと距離を詰める。
前方から気配が漂ってきていた。
こちらに全く気付いていないような、ごく平然と垂れ流された気だ。
小郎太はその気の流れに細心の注意を払いながら距離を詰める。
そして距離が一駆けで足るまでに詰まった瞬間、矢のように飛び出した。
事実、その疾さは不慣れな農民が放つ矢とさほど遜色が無いかもしれない。
草を擦るかすかな足音が、左右に分かれて複数個所で同時に鳴る。
音は一本松から少し手前で消失し、疾走していた主が跳躍した事を物語る。
瞬きにも満たぬ間。
走行の勢いそのままに飛び蹴りを放つ小郎太は、その足先に肉の感触を期待した。
しかしそれは、当初予想していた瞬間には得られない。
否、さらに一刻が過ぎても、足先に肉の感触はない。

「ッ!?」
小郎太はそこで、自らの飛び蹴りを避けられた事実に気付く。
相手の足が動いた気配はなかった。
棒立ちのまま避けたのならば、その方法は前屈みか反り返りかのどちらかだ。
どちらだ。小郎太がそう考えたとほぼ同時に、彼の後頭部へ固い物がぶつかる。
骨……否、脛だ。
相手は小郎太の蹴りを反り返ってかわし、そのまま片脚を振り上げて後頭部を蹴ったらしい。
小郎太は軽い眩暈を覚えながら着地し、よろめく。

全身にどっと汗が噴き出していた。息も吐き出してしまっていた。
それでも敵に背を見せていることはまずいと直感し、背後を振り向く。
しかし。そこにもう相手の気配はなかった。
「なっ……!!」
明らかな狼狽を示しながら相手を探す小郎太。
しかしどこにも気配がない。前、左前方、右前方、真横……。
そこで、小郎太は首筋に当たる何かを感じ取る。
冷たく、鋭い。しかし刃ではない。手刀だ。
その手刀は小郎太の首筋をトン、と軽く叩いた。
それは小郎太を傷つけることはなかったが、彼に完全な敗北を悟らせる。

さぁ、と風が吹き、雲の切れ間から月が覗いた。見事な満月だ。
視界は明るく澄み渡り、小郎太の装束と、その傍らに立つ相手の姿を浮かび上がらせる。
頭の後ろで結われた、長く艶やかな黒髪。
雪のように白い肌。
細い顎と、切れ長で水面のように静かな瞳。
女だ。
それも、類稀なほど美しい女。
格好こそ百姓のような袖の短い麻の着物だが、その身体つきが並ではない。
膨らんだ乳房に、締まった腰つき、細く鍛え上げられたすらりとした脚線。
花町を歩いていても違和感のない艶と、かすかな未熟さ、そして隙なく練られた鋭さが同居している。
その肉体は、およそ目にする者が男であれば、視線を吸いつかせて離さないだろう。


「……参ったよ、氷雨(ひさめ)姉ぇ」
小郎太は指で口当てを下げながら嘆息した。
14歳という年齢に相応の、あどけなさを残す面立ちが表れる。
その幼い顔は、先ほどまで完全に気配を消し、矢のように駆けていた人物とはとても思えない。
しかし彼が忍びの里で生まれた子供である以上、それは別段特異な事でもなかった。
事実、小郎太の横に立つ氷雨は、彼より二つ年上であるだけに、より忍びとして高度な域にいる。

気配を漏らすがままにしていたのも故意での事だろう。
手合わせを望む小郎太にあえて居場所を教え、奇襲させ、それを後の先で制するために。
それは容易な事ではない。
襲われるにしても、どう襲ってくるかまであらかじめ知る事は不可能だ。
小郎太は蹴りで足を狙いにいったかも知れないし、がら空きの腹部を殴るという選択肢も有り得た。
氷雨の凄みは、至近まで小郎太を引きつけ、彼が攻撃に移る際のかすかな殺気を読んで対処した事にある。

小郎太を迎え撃つ際、氷雨には一切の感情の動きがなかった。
顔面を狙われた焦りも、それをかわせた安堵も、反撃に移る際の殺気も、一切がなかった。
さらには反撃としての後頭部への蹴りも、小郎太が後遺症を患わない程度に加減している。
これは、普通に蹴り上げるよりも遥かに筋組織への負担が高く、かつ難しい。
それらを易々とこなす氷雨は、小郎太よりも遥かに高みにいると言えた。

「やっぱり凄いや、氷雨姉ぇは」
小郎太は疲弊したように草の上に座りこむ。
言葉は本心だった。あまりにも差があり、あと二年で今の彼女と同じ域に辿り着けるのか不安になる。
男であるのに、彼女に腕力や基礎体力を含めて何も勝てる所がない。
氷雨は十年に一人の逸材だ。誰もが言う。
同年代のくノ一として抜きん出た心技体を備え、男を惑わすに充分な器量をも備えている、と。

「あんたも、強くなってたよ。正直……驚いた。」
氷雨は小郎太と並ぶように座り、傍らの花を指先で器用に摘んだ。
二つ摘んだうちの一つを口に咥え、一つを小郎太に差し出す。
小郎太はそれを受け取り、花弁を裏返して蜜を啜る。
花に含まれる蜜の量は一本ずつ違うが、氷雨が選ぶものはいつも格別に甘かった。
小郎太が選ぶとそうはいかない。
「……気休めはやめてよ」
小郎太が花を咥えながら呟くと、氷雨は瞳を瞬かせる。
忍として本格的に修練を積んだ彼女は、今ではほとんど感情を表に出すことがない。
あえて演技している場合を除き、小郎太がその表情や気配から喜怒哀楽を読み取ることはできない。
しかし今の氷雨は、『笑った』ように見えた。

「本当の事よ、気配をよく殺してた。あんたが走り出すまで、近くに来てた事に気付けなかった。
 次か、その次か……そろそろ一発貰っちゃうかも」
氷雨はそう言って目を細める。明らかな笑みだ。
まるで小郎太に敗れるその日を、心待ちにしているかのような。

どくん。

その笑みを見て、小郎太は心臓が強く脈打つのを感じる。
「じゃあ、そろそろ戻るね……いつまでも抜け出してる訳には、いかないから」
氷雨はそう言って立ち上がった。
ふわりと匂いがする。
甘い花のような、懐かしい氷雨の体の匂い。
そしてそれよりも随分と弱く、しかし確かに臭う、男の精の匂い。
それは、立ち上がった氷雨の脚の合間から漂ってくる。

どくん。どくん。

小郎太の心臓が、さらに強く脈打ちはじめる。

微かな音を立てながら草原を駆ける氷雨。その後ろ姿を、小郎太は複雑な心境で見守っていた。



まだ幼い頃、小郎太たち里の少年と氷雨は、いつも同じ小屋で寝起きし、同じ修業に励んでいたものだ。
しかし氷雨は、その才を買われ、頭首の屋敷で一人特殊な修練を積むようになった。
屋敷へ入る前の約束通り、満月の夜だけ、氷雨は屋敷を抜け出して小郎太と手合わせをする。
氷雨の様子は会うたびに変わっていった。
よく笑い、誰よりも先に木に飛びついて登っていった少女は、次第に感情を表に出すことがなくなった。
か細かった肢体は、良い物を食べているのか程よく肉感的になっていった。
乳房は成長期という事を鑑みても尋常でないほど豊かになり、男の視線を誘う器官に変貌した。
そして何より彼女の纏う雰囲気が、小郎太と二つしか違わないとは思えないほどに大人びている。
それは、彼女がもう『乙女』でない事を端的に示していた。

考えてみれば当然のことだ。
氷雨は屋敷の中で、『くノ一としての』修練を積んでいる。
となれば座学や肉体鍛錬だけでなく、当然に臥所での振舞い方も仕込まれることだろう。
また最近では、万一敵に捕まった時のために、拷問の修業も課せられているようだ。
小郎太は噂に聞くよりも先に、拷問された後の氷雨を直接目にして知っていた。
屋敷の枯山水の庭を、ぐったりとした氷雨が男に両脇を抱えられて運ばれていく姿。
それは今でも、小郎太の目に焼きついている。
氷雨の美しい手足の指は、ひとつ残らず滴る血に塗れていた。

『クソ、あの餓鬼……初っ端から無茶やりやがって!手足の十本全部に刺してやがった』
『ああ、しかもあんな太いのを、可哀想によ。一体どこで拵えたんだ』
『ありゃあ、遊郭で折檻の時に使われる針さ。大方、お父上殿が廓遊びのついでに持って帰ったんだろう。
 今までのだって、“ぶりぶり”やら“酒をかけての蚊責め”やら、みんな遊女への折檻が元さ』
『け、とんでもねぇや。しかも明日からは、俺達を締め出して連中だけで修行を続けようってんだろ。
 本当の所は氷雨の才を恐れて、体よく責め殺そうってんじゃねぇのかい』

氷雨を抱える男二人は、そのように恨み言をぼやきながら母屋へ戻っていく。
拷問。
氷雨がそれを受けていると知った時、小郎太は胸が締め付けられるようだった。
動揺自体は、幼い頃から氷雨と遊んでいた他の二人の少年とて同じだっただろう。
しかし小郎太の思いは格別だ。
彼は知っている。氷雨が、自分と血を分けた実の姉なのだと。
いつ敵味方に分かれるとも知れないこの里では、住民同士での血縁関係はけして明らかにされない。
新たに生まれた子は一所に集められ、子供同士だけで生きるよう強いられる。
けれども小郎太は知っていた。
里の片隅でいつも野菜を作っていた女が、病で息を引き取る間際、看取る小郎太に堪りかねて明かしたのだ。
氷雨と小郎太という二人の姉弟こそ、自らの世に残す宝だ、と。





「おい、いい抜け道を見つけたぜ。大人達はまだ誰も知らねぇし、そもそも俺達じゃなきゃ入れねぇ場所だ」
少年の一人が、声を潜めて言った。
小郎太ともう一人は、どういう事だ、と耳を寄せる。
少年は片眉を上げて続けた。
「氷雨姉ぇが、近頃お館様の屋敷で拷問の修行受けてるのは知ってんだろ。
 その場所は母屋からちょっと裏に行った離れなのも解ってるよな。
 そのいい場所ってのは、ちょうどその離れの中が見えるようになってんだよ。
 俺が覗いたときも、氷雨姉ぇと大人何人かと、あとすげぇ嫌なヤツの姿がばっちり見えたぜ」
その言葉に、小郎太達は目を丸くした。
そして三人で連れ立ち、すぐにその場所へ向かう。

少年の言葉通り、そこは里の大人では入れない場所にあった。
屋敷を囲む木塀の一部に損傷があり、そこから子供であれば身を捩って侵入できる。
草の生い茂る塀の内側をしばらく進み、林立している欅の樹の一本に登れば、なるほど屋敷が一望できた。
離れの中の様子も、明り取りの窓から伺える。
多少の距離はあるが、見習いとはいえ忍びである小郎太にはその木目の一つ一つまで把握できた。
上からの見晴らしはいいが、逆に屋内から樹を見上げても、逆光である上に枝葉が生い茂っている。
熟練の忍びであろうと、あらかじめそれと解ってでもいない限り、小さな人影を見つけ出す事は困難だろう。
確かにそこは、絶好の場所と言えた。
「な、いい場所だろ。それより見ろよ、アイツ……。アイツが毎日、氷雨姉ぇを拷問してんだぜ」
少年が言い、離れの片隅を指す。
小郎太は改めて離れの中を覗き込んだ。

中央に氷雨がいる。
両腕を開き掲げたまま、その両手首を天井の梁から通されているらしい縄で縛り上げられている。
身体には麻の着物らしきものを纏っているが、それは所々が無残に破れていた。
背中には焼いた網を押し付けたかのような無数の笞跡があり、何とも痛々しい。
その左右では、濃紺の忍び装束を着込んだ男数人が、腕組みをしたまま睨みを利かせている。
頭巾と口当てではっきりとは解らないが、いずれも里では見かけない顔のようだ。
忍び装束の色もこの里のものとは違う。
そしてそれら余所者の間、氷雨の背後にあたる空間から、ふと一人の少年が姿を現した。
年の頃は小郎太達と同じ。
しかし細く締まった彼らの姿とは対照的に、その少年の姿は暴食を思わせるだらしのないものだ。
彼こそ、この離れを見つけた少年が言う『嫌なヤツ』だろう。
「あ、あいつ……!!」
そしてその姿は、小郎太の目にも苛立ちの色を浮かべさせた。


肥え太った少年は、名を伊輔という。
聡明さを感じさせる響きの名とは裏腹に、愚鈍を絵に描いたような子供だった。
生い立ちだけは恵まれている。今や小郎太達の里を実質的に抱えている、奥滋藩藩主の倅だ。
城暮らしが長く、本来はこのような山間の田舎里に居座る類の人間ではない。
そんな彼を里に引き留めている要因は、偏に氷雨の存在だ。

伊輔が初めてこの里を訪れたのは、藩主である父に連れられての事だった。
藩主自らが忍びの里という、藩にとって薬とも毒ともなりうる場所を検分する間、伊輔は里の子供と戯れるよう言いつけられた。
しかしそこは、物心つく前から蝶よ花よと育てられてきた若君だ。
共に戯れるどころか、すぐに小郎太達を下男とみなして身勝手な命を発した。
それを堂々と拒絶したのが、子供組の姉代わりであり、当時まだ勝気の盛りだった氷雨だ。

『何度も言わせないで、いやよ。大体、二言目には偉いんだ偉いんだって、そんなのあたし達には解んないわ。
 もしあんたがあたし達より上だっていうなら、何か勝ってるって所を見せてちょうだい!』

氷雨は毅然とした態度でそう迫った。
伊輔は余裕の表情でそれを受けたが、現実には何をやっても氷雨に敵わない。
駆けっこでも、木登りでも、木の棒を用いた剣術でも、挙句には慣れているはずの乗馬でさえ氷雨に遥か劣った。
庶民と見下していた相手、それも女に負ける。
その事実は、伊輔の矜持を深く傷つけたようだった。

考えてみれば、氷雨が将来有望として一人だけ屋敷に招かれたのは、この少し後の事だ。
感情を表に出す事がなくなり、極端に口数が減った時期も、妙に女らしくなった時期も、それほど間は空いていない。
誰にも話したことはないが、氷雨が屋敷に移ってからしばらく経った頃、小郎太はある夢を見たことがある。
氷雨が床に押さえつけられている夢。
激しく暴れる身体を数人の大人に押さえ込まれ、その腰から半分に折れた体の上に、
気色の悪い笑みを湛えた伊輔が覆い被さる。
でっぷりと肥えた腹を揺らしながら、幾度も幾度も腰を打ちつけていく。
氷雨は猿轡を噛まされた口元を忙しなく蠢かすものの、声としては聞こえてこない。
しかしその瞳や皺の寄った眉間からは、嫌悪と明確な恐怖が見て取れる。
氷雨が怯えた顔など見せるのは初めてだ。

『氷雨姉ぇっっっ!!!』
実姉の陵辱を見守るうち、小郎太は自分の中で何かが弾けるような思いを抱き、
目が覚めたとき、彼は自分が寝小便をしている事に気が付いた。
いい歳をして、と他の二人には散々に笑われ、その気まずさから無意識に記憶から消していた夢だ。
しかしよくよく思い起こせば、その次に会った時だった。
氷雨の瞳の表情ががらりと変わり、三人に言葉を失わせたのは。


「…………あれは……夢じゃ、なかった…………きっと」
小郎太は思わずうめく。
伊輔はすでに城に帰ったものと思っていた。
父親がとうに藩へ戻っており、元々田舎嫌いである上、氷雨にしてやられた伊輔が里へ残る筈もないと。
しかし、伊輔は現実として離れにいる。
屋敷から離れへの僅かな移動でも籠が使われる所を幾度か目にしたが、それが伊輔だったのだ。
恐らくは父親に無理を言ってこの里へ残ったのだろう。
そして父の権威を笠に、氷雨への拷問の修行をさせるよう頭領達に迫ったに違いない。

忍びを志す以上、そうした修行もいずれはするにせよ、当時まだ氷雨は15歳。
肉体的にも精神的にも成熟してはいない。
加えてそうした修行は、里の人間内でやるもので、伊輔のような分別のない余所者に任せるなどもっての外だ、
頭領達は難色を示したに違いないが、しかし互助関係を築こうとしている藩主の倅を無碍にもできない。
ゆえに伊輔の駄々で押し切られる形となったに違いない。

「小郎太、大丈夫か? なんか顔色悪いぞ」
隣の少年が小郎太の顔を覗き込んで問う。
彼は、伊輔の件で多少気を害したように見えるが、それでも平素と大差はない。もう一人も同じくだ。
当然だろう、彼らは小郎太とはやや事情が違う。
歳が近く、氷雨の幼馴染であるという共通点はある。
しかし、彼らは氷雨が伊輔に犯される夢を見たわけではないし、何より血を分けた実の弟ではない。
とはいえ、彼ら二人には何も責などないのだ。
「……大丈夫だ」
わざわざ全てを話して、沈む気分を伝播させることもないだろう。小郎太はそう考え、少し眉を下げてみせた。


離れでは、伊輔が手の中で笞を弄びながら氷雨に近づいていた。
そして肉のついた手を振り上げ、重そうに笞を振るう。
下手な笞打ちながら、先の平たい笞は氷雨の背中で激しい音を立てる。
「――――っ!!」
その瞬間、氷雨が背を逸らしながら顔を跳ね上げた。
声こそ漏らさないが、歯を食い縛っている事が肩の付け根の動きで解った。
まだ白い部分の残っていた左脇腹に、新たな赤い筋が浮かぶ。

「どうだ、痛いか。ええ、どうなんだ?」
伊輔は可笑しそうな声色で言いながら、ゆっくりと氷雨の背後で歩を巡らせる。
そして荒い息を吐く氷雨の不意をつき、やおら笞を浴びせかける。
流石というべきか、氷雨は笞が振るわれる瞬間に背中の筋肉を固め、衝撃に備えていた。
もしそうしていなければ、背の肉はとうに幾筋か裂けていることだろう。
いくら伊輔の動きが緩慢とはいえ、笞打ちには本来それだけの威力がある。
「……っ!!」
笞を受けた直後は、氷雨の背筋が痙攣するように蠢いているのが見えた。
縛られた手首の先は固く握り締められ、膝が笑い始めている。
恐らくは腹筋も攣りかけているだろう。
容赦のない笞打ちを浴び続け、いかな氷雨とて消耗しているようだ。
しかし、その様を見ても伊輔のだらけた笑みは消えない。

「まだ頑張るのか。……おい、あれを」
伊輔は傍らに立つ忍び装束の男に呼びかける。
男はすぐに応じ、足元の壷を拾い上げて伊輔の方へと口を向ける。
「ひひひ、今日こそ良い声をだせよ」
伊輔の肉の乗った手の平がその壷の中に差し込まれ、引き抜かれた時には白い粒を大量に掴んでいた。
それが何かを察し、小郎太は樹の上で目を剥く。
その視界の中で、伊輔の白い粒を纏った手の平は、無数の傷のある氷雨の背中へと叩きつけられた。
瞬間。
氷雨の背中がそれまでにないほどに深く反り、手首の縄が小郎太達にもはっきり聴こえるほどに軋む。
身を反らせる事で爪先立ちになった足の震えも尋常ではない。



「――――ッ!!あ、あ゛ッ……!!………………っっ!!!!」

氷雨は決死の覚悟で声を殺しているのだろうが、それでも抑えきれぬといった様子で声が漏れる。
ひとしきり身を暴れさせた後、氷雨は糸が切れたように力なく項垂れた。
吊るされた両腕が歯止めとなり、細い身体は肩を盛り上げるような歪な格好を取る。
ほんの一瞬髪の合間より覗いた左頬から、光る雫が滴り落ちるのが小郎太には見えた。

一方の伊輔は、どこか苛立たしげに笞を手の平に打ち付けている。
「なんだ、また失神したか。碌な悲鳴も上げずに……。おい、ぼさっとせず水を掛けろ」
父親に似た尊大な物言いをし、水を掛けられて意識を取り戻す氷雨を眺めている。
そしてまた笞を振り上げた。
びしっ、びしっと肉を打つ音が響く。縄の軋む音がそれに続く。
声は聴こえない。
その音を延々と耳にしながら、小郎太は自分の袖が引かれている事に気がついた。
横を向くと、隣で見ていた少年が小郎太に小声で呼びかけている。

「おい、おい小郎太!いい加減戻るぞ。すっかり暗くなっちまった」
彼の言葉を受けて周囲を見回すと、確かに夜も更けて空が闇に包まれている。
離れの中でも丸行灯が用意され始めているようだ。
行灯の灯りで黄色く浮かび上がった氷雨の背中は、汗で濡れ光っていた。
そこへ笞が襲い、美しい肌を朱で隠す。
小郎太はせめてその様をいつまでも見続けたかったが、夜通しここにいる訳にもいかない。
眠りこけて樹から落ち、見つかりでもすれば大事だ。
そうなれば少なくとも、再びこの場所で覗く事は叶わなくなる。
ゆえに、小郎太は少年たちに続き、細心の注意を払いながら樹から滑り降りた。

場を完全に後にする瞬間、後方より一際高い笞の音が響き渡る。
ううう、という悲痛な呻きが聴こえた気もする。
そしてその余韻を打ち消すかのように、伊輔の知性を感じさせない笑い方がした。
「はははは!こいつ鳴きこそせんが、ついに小便を漏らしおったぞ。
 ああ出すがいい、折檻が済んだら床に這い蹲らせて、一滴残さず舐め取らせてやる!」

耳を疑うようなその言葉を背に、小郎太は木塀の穴をくぐり抜ける。
もし眼前の闇に伊輔の気配があったなら、今の彼は後先を考えず殺人の技を用いるかも知れなかった。





拷問修業の様子を覗ける場所は確保できた。さりとて、連日気軽に通えるわけではない。
あくまで大人に見つからないようする事が前提だ。
もし大人の一人にでも知れれば、絶好の場所を失う羽目になる。
そのため三人で同時に張り付いたのは最初の一日だけで、それ以降は交代制にした。
三人のうちの二人は里に残り、修業に励んでいる所を里の大人に見せる。
そうしていわば二人を囮にする形で、残る一人が木塀の中に滑り込むのだ。
一人が居ない程度であれば、山に入っているとでも言い訳が立つ。
しかし三人纏めてとなれば不審を買う。
ゆえに、離れを見張れるのは最高でも三日に一度。
それ以外の間に起こった事は、見張っていた一人に聞くか、氷雨の様子や伊輔の言葉から推察するしかない。
これが小郎太にとって、かなりのもどかしさを感じさせた。

ひとつ確信を得た事がある。
伊輔はやはり、氷雨の操を奪っていた。
ひとしきり拷問を終えた後、伊輔は必ずと言っていいほど氷雨を抱く。
伊輔はけして体力があるほうではなく、拷問終わりは常に息を切らしているが、性欲は極めて強い。
あるいは相手が氷雨ゆえ、か。
かつて自分に恥辱を味わわせた相手を、抵抗もできないほど痛めつけた後に犯す。
そこに生き甲斐を感じているようだ。

水責めをしている際も、伊輔は露骨に性欲の炎を滾らせていた。

真裸のまま後ろ手に縄を打たれた氷雨が、髪を掴まれて水桶に顔を漬けられている。
「っぶはっ!!は、はぁっ、はぁあ、あっ、はあっ!!」
飛沫を上げながら、伊輔に髪を掴まれた氷雨が水面から顔を上げた。
水中で五分以上も息を止められる氷雨とはいえ、断続的に空気を奪われ続けては堪らない。
すらりとした体を捩り、顔を振りながら噎せ返る。
伊輔はその苦悶に満ちた表情を嬉しそうに覗き込み、氷雨が息を吸う瞬間に再び水の中へと頭を漬けた。
氷雨の肩がひどく暴れる。しかし後ろ手に縛られた彼女には、できる抵抗も限られている。

それにつけても、水へ沈めるまでの間の取り方が憎らしいまでに巧妙だ。
氷雨がもっとも多く水を飲む拍子を、伊輔は見極めている。
水責めはこれが初めてではないというから、幾度も繰り返すうち、氷雨が最も嫌がるやり方を会得したのだろう。
今日だけですでに三十数回。
いかに鍛えられたくノ一とはいえ、流石に忍耐ではどうにもならない頃だ。

伊輔は氷雨の後ろ髪を掴んだまま、別の手で頭を押さえ、氷雨の抵抗をその体重で抑え込む。
そして水面に気泡が浮かばなくなってからさらに数秒待ち、無理矢理に後ろ髪を引いて顔を上げさせる。
氷雨の顔を覗き込んだ伊輔は、満面の笑みを浮かべた。
すでに忍びの限界を迎えている頃だ、氷雨の顔は溺死寸前のごとき悲惨なものとなっているだろう。

「いい顔だな。どうだ、苦しいか? 許してくださいと一言言えば、楽にしてやるぞ」
伊輔は勝ち誇ったような顔でそう言いながら、氷雨の乳房に手を掛けた。
そのまま自らの所有物とでも言うべき無遠慮さで揉みしだく。
氷雨は黙ってその恥辱に耐えていた。
しかしその後も図に乗った伊輔が胸への刺激を続けると、間近に迫ったその耳元で何かを呟く。
それは小郎太の耳にも拾えないほど小さな声ではあったが、伊輔はそれを聞いて目を見開く。
そして愛撫の手を止め、怒りに満ちた表情で氷雨を睨みつけた。
「こ、この礼儀知らずが……っ!!」
そう呻くように言うと、荒々しく氷雨の髪を掴んで水桶へと叩き込んだ。
さしたる間もなく引き上げ、すぐにまた沈める事を繰り返して氷雨を消耗させる。
そうして氷雨が水桶の縁に頬を乗せてぐったりとした頃合いで、伊輔は袴をたくし上げて氷雨の背後についた。
「 ぐ 」
一瞬の後、小さな呻き声がし、横向きになった氷雨の奥歯が噛みしめられる。
小郎太にとって最も度し難い時間の始まりだ。

二人分の体重を受け、水を湛えた巨大な桶がぎしぎしと揺れる。
「いいぞ、相変わらずよく締まるな。水責めで昂ぶったのか? このふしだら女め」
伊輔は下卑た言葉責めを交えながら腰を打ちつけていく。
氷雨のすらりとした足に挟まれた、醜悪な伊輔の尻。
それが前後に揺れるたびに、氷雨の足の内側に筋が浮き、おぞましい肥満体の逸物をねじ込まれていると知れる。
何度見てもおぞましい光景だ。
特に今の伊輔は、避妊具である魚の浮き袋を用いていない。
下手に笞で打たれるよりも、直に伊輔の劣悪な精を刷りこまれる方が氷雨にとってはつらいだろう。
事実氷雨は、汚辱からか呻きながら、恨みの籠もった瞳を背後の伊輔に向けていた。
しかし一方の伊輔はそれで退く謙虚さなどなく、体位をずらして氷雨の顔を水に漬けながら突き続ける。

やがて、強く腰を掴んで大きく腰を前後させたかと思うと、伊輔は尻肉を震わせながら射精を始めた。
「むぅぅあっ…………!!」
どくり、どくりと音が聴こえるような、身体を小刻みに震わせる射精だ。
伊輔の射精時間は押しなべて長く、並の男と比べても精液の量はかなり多いものと思われた。
「ふぅ、よく出た。お前のごとき下忍には本来乞うても得られん子種だ。零さず呑み込め」
伊輔はそう言いながら腰を引く。
暗がりになった氷雨の秘所から、大量の白いぬめりが零れていくのが見える。
伊輔はそれが床へ落ちる前に指で掬い取り、改めて刷り込むように秘裂へと戻した。
かすかに見える唇のような秘裂の合間で、太い指がぐちゅぐちゅと音を鳴らす。
伊輔を睨む氷雨の瞳に、かすかに怯えの色が浮かぶ。
それを見た瞬間、小郎太は硬く拳を握り締めていた。
しかしだからとて、彼にはどうする事もできない。ただ忍ぶ事、それ以外には。





被虐が止む日はない。
氷雨は、離れにいる間はほぼ常に縄で縛られ、伊輔の征服欲を満たす的となる。

ある日には、駿河問いを受けたまま伊輔の逸物を咥えさせられていた。
天井から吊るされた縄がぎいぎいと鳴る。
伊輔はでっぷりとした腹と尻を揺らし、氷雨の頭を掴んで腰を打ちつけていた。
吊るされる氷雨の細い身体と対比になり、その肥えた身体は滑稽なばかりだ。
「お、おお゛っ……おご、ごおぉっ…………」
氷雨の喉から声が漏れていた。
伊輔は縮れた陰毛で氷雨の顔を覆うまでに深くねじ込んでいる。
となれば当然喉奥まで入り込んでいるはずで、声が漏れるのも仕方のない道理といえた。

声が出る一方で、氷雨自身の顔は無表情を貫いていた。
逸物の出入りの影響で頬や鼻筋に皺が寄ることはあるが、目から上は涼しげに閉じられている。
相手が苦しむ姿を好む伊輔にしてみれば、さぞや興の醒めることだろう。
しかし伊輔は、根比べだと言わんばかりに淡々と氷雨の喉を使い続ける。
「やすく喉が開くようになったな。初めのころは、涙を流して暴れたくっていた分際で」
過去にも同じ責めを繰り返していたと匂わせる言葉を漏らす。
そしてまた、口を噤んで腰を前後させ始める。

桜色の唇の内側で、しとどな唾液のかき混ぜられる音が続いた。
川の流れが堰き止められた箇所で鳴る音。あるいは、囲炉裏鍋の中で湯が煮えたぎる音。
それとよく似た音が続く。氷雨の口の中で。
その異常性は、やがて唇からあふれ出す唾液という形で表れていく。
喉奥を掻き回されているのだ。そして縛められた氷雨は、口を拭う事ができない。
ゆえに唾液も涎も垂れ流された。いかに元が整った顔立ちであろうと、惨めなものと化してしまう。

「どうだ、苦しいか」
伊輔は一旦逸物を引き抜き、唾液に塗れた氷雨に問いかける。
氷雨はしかし、目を静かに閉じ、唇は何事もないかのような一文字に引き結んで涼しい顔を作る。
伊輔は舌打ちし、再び逸物の先で氷雨の唇を割り開いた。
再び喉奥を蹂躙する音が始まる。

見た目には大きな変化のない責めではあったが、水面下では刻一刻と状況が進んでいたらしい。
喉奥を抉る伊輔は、氷雨を見下ろしたまま徐々に笑みを深めていった。
伊輔が氷雨の顎を持ち上げ気味にして喉を突く際、微かながら氷雨の眉間に皺が寄るようにもなる。
そうした事を幾度も繰り返した後に、伊輔は期を得たとばかりに一際腰を深く突き込んだ。
さらにはそのまま氷雨の頭を引きつけ、もっとも喉奥の深い部分で留めてしまう。
氷雨はしばし、静止したように耐えていた。
しかし眉間に強く皺を寄せた直後、その海老反りの身体が大きく震え上がる。
そして喉奥から破裂音がし、ついに、伊輔の陰茎や玉袋を伝って吐瀉物の線が伝い落ちていく。
伊輔は満面の笑みを湛えたまま、嘔吐している最中の喉奥を浅く前後に突き回した。
「ご、もおぉお゛……っっ!!!」
いつになく水気の多い攪拌の音が響き、うがいをするような氷雨の低い呻きが漏れる。
床には品のない音を立て、更なる吐瀉物が打ち付けられた。

嘔吐が終わった後、伊輔は逸物を唇から引き抜く。
それは異常な量の粘液に塗れ、夕暮れとなりはじめた離れの中で怪しく煌いている。
氷雨は疾走を繰り返したような荒い息を吐いていた。
薄く目を開き、床に広がる吐瀉物を暗い瞳で眺めている。
その鼻先に、伊輔が逸物を突き出した。

「どんな気分だ、自分の臓腑の匂いが辺りに漂っているというのは?
 ……まぁいい、続けるぞ。お前の胃が空になるまでだ。
 もっとも、しおらしく哀願すれば赦してやらん事もないがな」

氷雨は視線を汚物塗れの逸物に向ける。
しかしなお無感情を貫いたまま、伊輔の言葉を聞き流している。
伊輔は一際大きく舌を打つと、荒々しく氷雨の黒髪を掴み上げた。



伊輔は、どうにかして氷雨の心を折ろうと苦心しているらしい。
憎い相手から繰り返し恥辱や陵辱を受け、精神を磨り減らす。
それは拷問の修業としては、ある意味で非常に実践的ともいえる。
しかし伊輔にはまるで容赦が無い。
思いつく限りのやり口で、氷雨の心身を責め立てる。

ある時、小郎太が離れを覗くと、氷雨は伊輔に覆い被さられる形で犯されていた。
大股を開く屈曲位といった体勢だ。
性交時の氷雨の顔を好む伊輔は、その体位を多用する。屈曲位自体は何もおかしい訳ではない。
しかしながら、その時は氷雨が妙に声を出していた。
「あ、あ!あ、あ、あ、あっ……!!」
小刻みに怯えるような声を発する。
瞳も見開かれ、結合部の付近を見下ろしている。
普段であれば、犯されている間じゅう何事も無しといった顔を貫く彼女が、だ。
何故だ。
小郎太が訝しがりながらも見守っていると、程なく伊輔自身の口から真相が明かされる。

「本当によく締まるな、お前の糞の穴は。名残惜しげに根元から先まで吸い付いてくるわ。
 女陰よりも具合が良いかも知れんぞ。
 どうだ? お前にくっついていた腰巾着の小僧三人にも、これを味わわせてやっては」

伊輔のその言葉を聞いた瞬間、小郎太は衝撃を受けた。
糞の穴……すなわち後孔を性交の箇所として用いられているのだ。
なんとおぞましい。
しかしそうであるならば、氷雨が声を上げたり、表情を変えているのも得心がいく。
氷雨の不浄観念は、小郎太と大差ないはずだからだ。
その氷雨は、伊輔の言葉に対して鋭い視線で睨み上げていた。
射殺すような眼光。ところが伊輔は怯む様子もない。
すでに何度もその視線を受け、しかし自分に危害を加えられないと確信しているようだ。

「なんだその目は。あいつらの話をするとすぐにそれだ。
 怒気が漏れているぞ、くノ一は喜怒哀楽を表したりはしない……じゃ無かったのか」
伊輔は嘲笑いながら腹の肉を揺らし、氷雨の中に滾りを打ち込む。
そうと知れれば、確かに結合の位置は普通よりも低い。
伊輔の陰毛越しに、氷雨の桜色の秘所が半ばほど覗いている。
しかし。
小郎太は目を擦った。
光の加減だろうか。どうもその秘じらいの場所は、蜜に濡れているように見える。
「……まぁいい。どの道、もう間もなくお前は『喜』を隠せなくなるんだからな。
 いい加減、薬も回ってきた頃合いだろう。繋がっているおれも血の巡りが止まらんわ」
伊輔は笑みを湛えながら告げ、氷雨の茂みの中に指を差し入れた。
水音が立つ。

「これで薬も三日目、今宵が山だ。このまま突き続ければ、女はやがて自我を失くす。
 少なくとも遊女共は皆そうだった。忍びとて女は女、別ではない。
 せいぜい、夜明けまでそうして睨んでいるがいい。
 お前が尻の穴だけであさましく乱れ狂っていく様を、この奥滋藩次期藩主が自ら見届けてやる」

伊輔は氷雨の両腿を掴み、匂い立つ体臭を嗅ぎながら力強く尻穴を穿つ。
氷雨は足指に痛いほど力を込めていた。
すっかり豊かに膨らんだ乳房を上下に揺らし、艶やかな黒髪を川のように床へ広げて。

小郎太は屋敷を後にする事ができなかった。
欅の樹を滑り落ち、木塀をくぐり抜けたところで女の叫びが聞こえたからだ。
心を刺すほど悲痛な叫びと、暴れまわる何かを数人が押さえつける音。
そして、聞き慣れた伊輔の笑い声。
木塀にもたれ掛かってそれらを耳にしながら、小郎太はひとり俯く。

顔の影となった地面に、細かな水滴が滴り落ちる。
小さな影はそれから間もなく、宵闇に紛れて輪郭をなくす。
まさにその瞬間。
小郎太は、自分の中の冷静な何かがぶちりと千切れ落ちる音を聞いた。
決起を誓ったのは、この時だ。





氷雨は今、太い柱へ大の字になるように縛られ、伊輔の連れてきた婀娜な女に責め立てられている。
女は手にした壷から妙な薬を手に取り、それを氷雨の秘所に近づける。
責めるのは常に同じ箇所だ。
秘裂の最上部に息づく、小豆のような突起。
女はそこだけを指で嬲っている。

「ああ、ああああああっ!!!うあああ、ああ、あああああああっっ!!!!」

氷雨は身も世もなく身悶えていた。
小郎太に女体の知識はないが、その小豆ほどの器官が女の急所である事が、その乱れ様から推して知れる。
狙いが急所であることを念頭に入れれば、女の指遣いはいよいよ残酷に映った。
片手親指で包皮を剥き上げ、薬を絡めた別の指で挟むようにして嬲る。
強弱をつけ、捻りを加え、さすり、弾き、押し潰し。休み無く。
それらの刺激によって、氷雨の秘部の突起は刻一刻と充血していった。
数日前は普通には見えないほどの大きさしかなかったはずだ。
それが、嬲られはじめてしばし経つと小豆程度になり、今は大きさだけなら大豆にも等しい。
総身から立ち上る汗の匂いもいつになく濃厚で、欅の樹上にいる小郎太達にさえ届くほどだ。

「ああっ、あああああっっ!!!はぁ、もっ、やめっ……あ、あっああ!!!
 ああああぅううあああああおおおおおおおっっ!!!!!」

氷雨はもはや忍ぶどころではない。
固く閉じた目から大粒の涙を零し、鼻水や涎に塗れて歪む顔は美貌の影すらない。
必死に脚を閉じようともがいているが、その欲求はただ太い縄を軋ませるだけで叶わない。
「ふふ、どうしたんだいくノ一、そんなに喚き散らしてさ。
 最初はえらく強情だったけど……一度タガが外れてからは凄いもんだね。
 可愛い女の場所からも、ひっきりなしに蜜が零れてるよ。ほぉら、また」
婀娜な女が氷雨の女陰を開きながら告げた。
女の指での開きにあわせ、一筋の艶が氷雨の白い脚を伝い落ちる。
それは膝頭を回ったところで滴り落ち、下に広がる液溜まりに小さな飛沫を上げた。

「ははは、責め殺すんじゃないぞ。まだ愉しめるんだからな」
伊輔は大名さながらの豪奢な肘置きに身を預け、女のする事を見守っている。
傍には器を掲げた若い女が侍っており、伊輔はその器に手を伸ばしては、醍醐を掬い取って嘗めていた。
彼にとっては美食の肴に過ぎないのだ。氷雨がどれほど悶え苦しもうと。

「心得ております、若様。ただこの女芯責めは、女の地獄ですから。
 これを延々と続ければ、どれほど強情な娘でもしおらしく変わるものです。
 それにこの薬を用いている以上、この娘は身体の奥から快楽に蕩けていくはず。
 この薬で極まり続けた末に房事に至れば、男も女も桃源郷を彷徨うが如き心地と申します。
 もっとも……女の頭がその後も正気を保てるかは、分かりかねますが」
女は軽い口調でそう語る。
伊輔もそれは楽しみだと上機嫌に笑う。
氷雨が刻一刻と瓦解しようとしているその前で。

小郎太は音もなく欅の樹を降り、屋敷の傍へ戻る。
しかし、今度は泣く事はなかった。
涙を流す代わりに、全身を濃緑色の忍び装束で包んでいる。
今宵は満月。しかし……今日彼が戦うのは、氷雨ではない。
口当てを鼻の上まで上げ、小郎太は時を待つ。

ひゅーい、と遠くで口笛の音が響いた。
小郎太は懐刀の位置を確かめ直し、勢いをつけて屋敷の塀の上へと手を掛けた。
塀の内では騒ぎが起こっている。どこかで火の手が上がっているらしい。
どうやら、他の二人は上手くやったようだ。
小郎太は塀に刺した刀を足がかりに瓦を乗り越えながら、大きく息を吸った。

目的は、氷雨の奪還。
そして、どす黒い怒りの塊を伊輔の喉笛に叩き込む事だ。
三人共に覚悟は決めている。三者三様に、煮えたぎる思いを孕んでいる。
中でも最も憤りの深い小郎太が、最も危険な役割を担う事になった。
まだ子供の彼らは、『仕方がない』と割り切って氷雨を諦めることなどできない。
大人達がしないならば、自分達の手で彼らの姉を奪い返す。怨敵に誅を下す。
たとえ、誰かの命が欠けようとも……。


              
                           終
<初出:2chエロパロ板 『忍者・くノ一でエロパロ』スレ>