※アニメ『SHIROBAKO』二次創作。クールな総務・興津由佳の枕営業モノ。
 独自設定・オリキャラありのため注意。



「ふう……。これで音響の人は終わりだから、後は、えっと…………」
宮森あおいは呟きながら、手にしたリストに目を通す。
武蔵野アニメーションに制作進行として入社し、半年あまり。
初の担当作である『えくそだすっ!』が先日無事に納品となり、今は関係各所に挨拶回りの最中だ。
製作進行中は、日々トラブルの連続だった。その事に対して侘び、感謝し、今後の協力を願う。
そうしたコミュニケーションこそ、製作進行の肝なのだと、今のあおいは身に染みて感じる。
「次は、美術さんかな」
あおいが考えを纏め、唇からペンを離したその時。
彼女の乗る営業者の窓が軽く叩かれる。視線を向けると、一人の中年男が立っていた。
佐野という、広告代理店の中堅社員だ。

「こんにちは!」
あおいはドアウィンドーを下げて笑顔を見せる。つられるように佐野も笑った。
「相変わらず忙しそうだね、宮森さん」
「いえ……あ、確かに忙しいのは忙しいんですけど、山場は乗り切りましたから!」
「そっか。ホント台風一過って感じだね。聞く所じゃ、今回もトラブル続きだったらしいじゃない、“ムサニ”さん」
「いやー…………お恥ずかしい限りです」
あおいはバツが悪そうに頬を掻いた。
武蔵野アニメーション、通称“ムサニ”の動向は、やはり同業者から注目されているようだ。
無理もない。前作で『ぷるんぷるん天国』という、アニメ史に残る作画崩壊をやらかしたばかりなのだから。
その汚名返上をモットーに始動した『えくそだすっ!』でまた進行トラブルとくれば、業界人にとってさぞや良いネタになろう。
「業界一年目でいきなり火事場に放り込まれるなんて、大変だったね」
佐野は瞳に同情の色を含んで尋ねた。
アニメーション業界において、対岸の火事などというものはない。慢性的に人手が足りず、常にどこかの現場が阿鼻叫喚の中にある世界だ。
よって他所の惨状を笑っていても、そこには少なからず自虐的な意味合いが含まれている。

「正直、毎日いっぱいいっぱいでした。特に4話の最後の方は、私、完全にショートしちゃって。
 まさか最後の最後でサーバートラブルが来るなんて思いもしませんでした。
 まさに『万策尽きたー!』って感じです」
「ああ、あのFTPサーバー止まった時でしょ? あれ、影響ヤバそうだなーって皆で噂してたんだよ」
「危うく、4話で早くも総集編になっちゃう所でした。
 何とかなったのは、先輩の矢野さんが状況を整理してくれたり、興津さんが私の抱えてたもう一件を引き継いでくれたおかげです」
あおいがそう告げた瞬間、佐野は目を丸くする。

「興津って、あのムサニの興津由佳!?」
「え、はいっ、そうです!」
あおいはたじろぐ。何の気なしに出した言葉であり、そこに食いつかれるとは思いもよらなかった。
「彼女、まだ現場やってたんだ」
「あ、いえ、今回だけは特別なんです。多分私が、本当に余裕がなかったから……」
「お、そか。そうだよな……あんな事があっちゃ、そうそう現場復帰しないよな」
ぽつりと佐野の口から零れた一言が、あおいの心に絡みついた。
「何か、ご存知なんですか?」
あおいはドアウィンドーから身を乗り出して尋ねる。
佐野は“しまった”という表情を見せた。
「あ、ああ、何でもない何でもない」
そうはぐらかそうとするが、あおいは手を伸ばして佐野の袖を掴んだ。
「気になります、教えてください佐野さん!」
喰らい付くようにしてさらに問うと、佐野はひとつ溜め息をついた。
「いや……でもコレはさ、君に言っちゃうと、セクハラとかって問題になるかもしれないんだよ。つまり、そっち系の話ってこと」
「っ!!」
佐野の言葉に、あおいは目を見開く。
枕営業。咄嗟にその言葉が脳裏を過ぎった。あのクールな興津がそんな事をするとは思えないが、それでもだ。
「詳しく教えてください。セクハラなんて、絶対に言いません!」
あおいは佐野の瞳を覗きこみながら告げる。
佐野はその後もしばし逡巡していたが、やがて諦めたように肩の力を抜いた。
「……くぅー、解ったよ、降参! ホント、ムサニの女子って強いよな。
 じゃあ夜になったら俺のマンションに来て。今はまだ仕事中でしょ」
佐野は住所をメモ帳に記すと、ページを千切ってあおいに渡す。

そこからの午後の仕事は、あおいにとっていつになく長いものに思えた。
会社での由佳は普段と変わらず、淡々と伝票整理を行っている。
何かあったようには見えない。しかし仮に何かあったとしても、それを社員に見せるような女性でもない。
「どうかしましたか」
あおいの視線に気付き、由佳がクールな美貌を向ける。
「あ、いえ!」
あおいは慌ててスケジュール表に視線を移した。
(あんまり見るのはまずいよ。さっきのだって、ただの噂かもしれないし)
(そう思うなら、さっさと聞けばいいじゃん。枕したんですかー、って)
(そんな事、訊ける訳ないよ。誰にでも、踏み込んじゃいけないラインはあるよ)
あおいの心中で、2つの人形が会話を交わす。精神的に余裕がない時の癖だ。
あおいはそれを振り払い、得意先に電話をかける。仕事に没頭するしか、逃げの道がなかった。


興津由佳。
武蔵野アニメーションの総務を務める彼女は、あおいから見ても魅力的な女性だ。
片目を隠すようなショートヘアに、あまり表情を変えない整った顔立ち。
総務らしくカッチリと着こなしたスーツも相まり、まさしくクールビューティといった雰囲気を持つ。
仕事面は極めて有能であり、個人の担当業務を完璧にこなす一方で、全体をよく見てもいる。
社内が浮ついた雰囲気になった時、一喝して場を鎮めるのは主に彼女だ。
あおいの先輩である矢野や落合が由佳の現場復帰を促した事から考えて、制作進行時代から優秀であったと判る。
新米のあおいからすれば、まさしく『大人の女性』という印象があった。

「その興津さんが、枕営業なんて…………ちょっと信じられません」
佐野のマンションで正座しながら告げるあおい。
佐野は、2つのマグカップにコーヒーを注ぎながら苦笑した。
「俺は、枕営業なんて言ってないでしょ。……ま、実際はそうなんだけどさ」
あおいの前にカップを置き、その対面に座り込んでから、佐野はふと表情を固くする。

「一応彼女にフォローを入れとくとね、仕方がないんだ。
 君の世代は知らないだろうけど、この業界もちょっと前までは暗黒時代でさ。
 その時代の制作進行なんていったら、それこそ何でもしなきゃいけなかった。
 調べたら判るけど、その頃の制作の自殺率ってハンパじゃないぞ。俺の知り合いも2人死んでる。
 興津さんも、その生き馬の目を抜くような時代の制作だからね。枕をしてたとしても変じゃない。
 自分から提案しないにしても、この人こそと決めた相手から条件を出されれば、断り切れない状況だってある」
「それは、確かに……そうかもしれません」
わずか一年足らずの経験ながら、佐野の語る理屈はあおいにも理解できる。
外注業者には癖のある人間が多くいた。理屈屋や金に煩い人間、サボり癖のある人間。
その中に、日々のカンヅメ作業で性欲を溜め込み、肉体を求めてくる男がいても何ら不思議ではない。
他に宛てがなく、時間的余裕もない状況下で、一度抱かれれば請けてやると迫られれば…………あおいには、断固拒絶する自信がない。
「じゃあ、その事を理解した上で……というより、興津さんの『ムサニを護る』って覚悟を汲んだ上で、コレを見てくれ」
そう言って佐野は、ラックから一枚のDVDを抜き取った。
シンプルな白いパッケージ。
「白箱……?」
あおいは思わずそう呟いた。それは、作品が完成したときにスタッフに配られる、白い箱に入ったDVDとよく似ていた。
つい数日前、『えくそだすっ!』の白箱を手にして感極まったばかりなだけに、あおいにとっては印象深い。
「その発想になる辺り、宮森さんもすっかり業界人だね。これは、ただ映像を焼いただけのヤツだよ」
佐野はそう言いながら、ひらひらとDVDを翳す。ケースの表面には、マジックで殴り書きがなされていた。
『興津 由佳 (武蔵野アニメーション) 200× 11/12』
所々が掠れているが、紛れもなく由佳の名前と所属、日付が記されている。
「本当に……興津さん…………!?」
あおいの心臓が強く脈打った。



DVDがデッキに飲み込まれてからしばし。
テレビの画面に、薄暗い室内が映し出される。妙に生活観のあるアパートのリビングだ。
部屋の至る所に男性用衣類が散乱し、フィギュアや成人指定らしきゲームソフト、丸めたティッシュペーパーが転がっている。
漫画ばかりを収納した棚や、パソコン・ステレオセットなどの機器が壁を埋め尽くし、床には配線が踊る。
典型的な『オタク』と呼ばれる人間の部屋だ、とあおいは感じた。
そしてその部屋の中央、薄汚れた敷布団の上に、一人の女性が映し出されている。
端整な顔立ちと、金のリングピアス。白い肌に、スレンダーなボディライン。
見間違えよう筈もない。それは先ほどまで会社で目にしていた興津由佳当人だ。
彼女は丸裸に剥かれ、華奢ともいえる肢体を露わにされいた。
脚をMの字に大きく開き、後方へもたれかかる格好だ。
後ろには冴えない容姿の肥満男が座り、もたれかかる由佳をたるんだ胸板で受け止めていた。
(テンプレートな『オタク』だね)
(ウチの監督に無精髭生やして、10倍不潔にしたようなブタね。見てるだけで匂ってきそう)
あおいの脳内で、再び2つの人形が会話を始める。

映像を見る限り、挿入はなされていない。
代わりに由佳の身体には、男の太い指が這い回っている。
愛撫……と言えるのかすら曖昧な、触れるか触れないかというソフトタッチだ。
「色んな意味でいやらしいよな。ああいうフェザータッチってのは、女性の感度を飛躍的に上げるらしい。
 好きな相手と見つめあいながらああされると、普段以上に濡れるんだとさ。
 …………っと、余計な情報だったな」
佐野は興奮気味に語りつつ、傍にいるのが年頃の女である事に気付いて口を噤む。
(はい、セクハラ一回目。最低だね)
(それは言わない約束じゃないか。それに、状況を解説して貰えるのは有り難いよ。ボクらには経験がないんだから)
あおいの脳内の人形劇が活気を増していく。
それは逆に、あおい本人がいよいよ余裕を無くしている事を意味した。
同じ女である以上、あおいには本能で理解できる。男のタッチが、どれだけ堪らないかが。
『はっ…………あっ、はぁっ……』
映像は、由佳が熱い吐息を吐き出す音までを拾っていた。
演技か素なのかは判らない。しかし、妙に真に迫っているように思える。
『ウヒヒ、感じてきた?』
『…………はい…………』
男の問いに、由佳が答える。
『そうかそうか。今日は由佳のオマンコを、指と舌だけでドロドロにしてあげるからね』
男は由佳の耳を舐めながら囁きかけた。その間も5本の指先での愛撫は止めない。
じっくりと時間をかけて乳房を下から撫で回し、乳輪をくすぐり。
そしてその末に、とうとう胸の先が震えるほどになった瞬間、狙い澄ましたように乳頭を摘み潰す。
『あっ…!』
由佳の唇から吐息が漏れた。かすかだが、発情の色がある。

(あの声は、完全に感じてるよね)
(そんなの見れば解るじゃん。胸の先がもう四角くなってるんだから。勃起よ、勃起)
(あの男の人、意外に上手いよね。興津さんの体の事を、よく知ってる感じがするよ)
(普通の女のコに相手にされないから、こういう時に発散するしかないんでしょ。情けないヤツ!)
(興津さんは可哀想だよね。あんな男の良いようにされるなんて、堪らないよ)
(あのデブにだって、枕を迫れるだけの実力があるんでしょ。力のある人間にはハイハイって従うしかないの、制作は)
あおいの2つの心が討論を続ける。
その間も、由佳は男のねっとりとした責めを受け続けていた。
様々に姿勢を変えながら、全身を這う指先。それはとうとう、由佳の内腿を重点的に責め始める。
『ふんん……っ』
由佳は両脚をM字に開く格好を取らされながら、小さく喘ぐ。
撫でられている太腿はともかく、腹部や肩、頭の先までもがむず痒そうにさわさわと動いている。
それは、微弱な電流が彼女の体の内を貫いている事を示すかのようだった。
顔もそうだ。瞳こそまだ冷静さを保っているものの、眉は常に垂れ下がり、口は半開きのまま閉じない。
自慰をはじめてから10分以上が経ったころ、鏡の中のあおいが見せる表情と同じだ。
『良い表情になってきたじゃないか、由佳』
男は肥満体を揺らしながら由佳の顎を掴み、キスを強いる。
『んっ……んっ……はっ、んむぁっ…………ん』
由佳は抵抗しない。それどころか、自らたっぷりと舌を絡め、唾液を交し合う。まるで本物の恋人にするかのように。
「ううっ……」
あおいは思わず眉を顰める。
「凄い根性だよねぇ、ここ。中々できる事じゃないよ」
あおいの横で、佐野も苦い表情を作った。

男は濃厚なキスを交わしながら、太い手を少しずつ由佳の股座へと近づけていく。
2本指が薄い茂みを越えた所で、ぐちゅりと音が立った。
『ぷはっ。はは、よく濡れてる。ちょっと淫乱過ぎるんじゃないか』
『……すみません』
男の煽りに、由佳は静かな瞳で謝罪する。見た目には依然としてクールだ。女を濡らしているとは、とても思えないほどに。
しかしそのクールさこそが、男の嗜虐心を焚き付けるのだろう。
『まあいい。もっと、嬲ってやる』
男はそう言うと、由佳の体を押し倒した。そして仰臥した由佳の足の間に顔を埋める。
『さあ由佳、いつものをしてやるよ。しっかり踏ん張れよ』
『わかりました』
股座に鼻を埋めているせいでくぐもった男の声と、銀行員のように明瞭な由佳の声。
対照的なそれらに続き、何かを啜る音が動画内に響いた。
何か。状況からして考えるまでもない。男が由佳の愛液を啜っている音だ。
「ひっ!!」
これには、見ているあおいの方が悲鳴を上げた。生理的な嫌悪感から、背筋が粟立つのが解った。
映像内の由佳は悲鳴を上げない。
けれども、男の視線がなくなったせいか、先ほどまでとは反応が違っていた。
瞳は先ほどまでとは違い、かすかに潤みを帯び始めている。
頬を赤らめ、視線を小さく彷徨わせるその姿は、大人の女性どころか少女のようだ。
あおいは知っている。由佳はクールに振舞う反面、可愛らしい女性の一面も持っている事を。
社内のデスクは誰よりも少女趣味で、愛らしいぬいぐるみや小物が並んでいる。
打ち上げでは意外にも高揚してよく話す。自社のアニメが好評と聞くと、一瞬とはいえ目を輝かせて喜ぶ。
そうした愛らしさが興津由佳という女性の素であり、普段は努めて鉄の女を演じているのだろう。

男は、飽くことなく由佳の秘裂を舐め続けていた。
女に飢えているらしい露骨さだ。
くの字に折れた由佳の伸びやかな脚……その両膝の下を押し込むようにして脚を開かせ、秘部を舐めしゃぶる。
柑橘系の果実に直接口をつけて貪るかのような、品のない音で。
ムードも何もあったものではなく、あおいならば堪らず悲鳴を上げている所だ。
『あっ、あっ……はぁっ、あ…………!!』
由佳は規則正しく喘ぎ声を発していた。同じ女であるあおいには、演技だとすぐに解る。
しかし男は、下卑た笑みを浮かべている所からして、その演技を真に受けているようだ。
『どう由佳、気持ちいい?』
『はい……とても気持ちいいです』
男が顔を上げて問うと、由佳は相手の望む通りに答えを返す。男の笑みが深まる。
『グフフ、ならもっとしてあげるよ』
男はそう告げ、由佳の膝下をやや上方向へと持ち上げた。
くの字を描いていた由佳の両脚が、揃えられたまま天井を向く。
男はその脚線をしばし堪能し、やがて上向きになった秘裂へ、覆い被さるようにして口をつけ始めた。
ずずっ、じゅるるっ、と水音が再開する。
『自分で脚、押さえといて。もっと情熱的にしてあげる』
男が命じると、由佳は細い腕を伸ばし、自らの膝裏を抱え込んだ。
両手が自由になった男は、舌だけでなく指も用いて秘裂を責め立てる。
秘裂を舐めながら、その上方……おそらくはクリトリスを指で捏ね回し。
舌と指の両方で穴を弄くり。
あるいは、10本指を用いて夢中で膣の中を拡げ、観察し続ける事もある。

(まるで人形遊びみたいな熱心さだね)
(本当に、人形相手で満足してればいいのに。相手する女の気持ちにもなれっての)
(でも……あれだけ色々とされたら、女の子の方も感じちゃうんじゃないかな)
(なワケないじゃん。防衛本能で濡れるだけ!)

あおいは映像を眺めながら、いよいよ精神的に余裕がなくなっていくのを感じていた。
女の地獄……まさしく、それを目にしている気分になった。
「大丈夫、宮森さん? やっぱもう、止めようか」
顔色の悪さを案じたのか、佐野が尋ねる。
「大丈夫です。続けてください」
あおいはきっぱりと答えた。
確かに直視に耐えがたい代物だ。けれどもせめて、由佳に何が起こったかだけでも把握しておきたかった。


『ウヒヒヒ……すっかりトロトロになった』
呆れるほど執拗な秘所責めの後、男が呟いた。
由佳は恥じらいを隠し切れずにいる。目を泣いたように潤ませ、頬を赤らめ、口元を噤み。
『いい顔だ、可愛いよ。じゃあそろそろ、挿れてあげる』
男はそう言って、由佳の体を反転させた。光の角度が変わり、由佳の背中から脇腹にかけての汗がよく見えるようになる。
常にクールな印象のある興津由佳ながら、その汗はひどく生々しい。
『あああ、いいよ由佳。やっぱりこの視点が一番そそるよ』
男は、由佳の背を見下ろして涎を啜った。
確かに由佳の這う格好は、仰臥とはまた雰囲気が違う。
仰臥ではすらりと長い脚が目を引くが、這う格好では華奢なボディラインが印象的だ。
黒いショートカットと金のピアス、すっきりとしたうなじまでは大人の女という風だが、その下のラインはひどく細い。
そのアンバランスさは、異様な魅力を放っていた。
映像を見るだけでは解らないが、由佳の汗の量からして、映像内には濛々としたおんなの匂いが立ち込めてもいるのだろう。
これだけ条件が揃っていて、女に飢えたオスが猛らぬはずもない。

『さ、さぁ、挿れるぞ由佳!』
男は息遣いも荒く由佳の腰を掴む。由佳は素早く後方を振り返った。
『ゴムを付けて下さい』
『あ、ああ、そっか。君は、ナマ嫌いだったっけ。…………でもさコレ、結構面倒なんだよね』
男は傍らからコンドームの袋を拾い上げて開封し、拙い手つきで隆起した逸物に被せていく。
そして、改めて由佳の腰を掴んだ。
隆起した逸物の先端が、由佳のヒップラインの中ほどを数度ほど擦る。
そして動きが止まると、少しずつ逸物の輪郭がヒップラインに隠れ始めた。
『んっ…………』
艶かしい動きは、間違いなく挿入がなされている事の証明だ。
「………っ!!」
あおいは、正座した膝の上で手の平を握り締めた。
こうした知識がない訳では勿論ない。しかし見知った人間が挿入される映像を見るのは、なんとも妙な感覚だった。
『ううううっ……相変わらず、締まるなぁ。幼女の処女マンコみたいだよ』
男は挿入を深めながら呻いた。
たるみきった腿を前に突き出し、掴んだ腰を引き付け、とうとう陰毛付近までの全てを由佳の体内に埋め込んでしまう。
『さぁ、一番奥まで入ったぞ。これから、動くからな』
舐めるように由佳の耳元へ囁きかける男。由佳は半ばほど振り返り、薄い笑みを浮かべてみせた。

一度男の腰が引かれてから、たんったんったんっとリズミカルに肉の弾ける音が響き始めた。
次いで大きいのが、シーツの擦れる音。そしてそれらに混じり、かすかに粘ついた水音も聴こえている。
男の過分な脂肪の乗った下腹や腿が脈打ち、華奢な由佳の身体へと圧し掛かる様は、ひどく犯罪的だ。
間違いなく根元まで入っているだろう。そう考えた時、あおいにはひとつ疑問が浮かんだ。
「あの…………佐野さん」
どうしても気になり、隣でやや気まずそうにしている佐野に声を掛ける。
「ん?」
「あの、この人のあそこって…………その、大きいん……ですか?」
頬を赤らめ、やや上目遣い気味に尋ねるあおい。佐野はそれに一瞬虚を突かれ、破顔する。
「ははっ。宮森さんは、まだ詳しくないってわけか! そうだなぁ。まぁ、平均よりちょっと大きめ、ってところかな」
「ちょっと大きめ……ですか。あ、ありがとうございますっ!」
あおいは、耳まで赤らめて佐野に頭を下げた。しかしその最中にも、映像内の腰を打ちつける光景が脳裏に浮かんでいる。
男の物は、傍目にもひどく大きく思えた。それを後ろから受け入れる、それも、自ら望まぬままに……。
あおいは今一度、膝の上で手を握り締めた。言葉に出来ない思いが渦巻いていた。

愛のないセックスに、気持ちよさなどある筈はない。それが、年頃の女としてあおいが持つ考えだ。
しかし、映像を見ているとその考えが揺らぎそうになってくる。
『ヒヒ、凄い愛液だ』
男は腰を打ちつけながら呟いた。事実、水音や由佳の内腿のてかりから、かなりの愛液が分泌されているとわかる。
それは果たして、ただの防衛反応からか?
『ああ、あっ……はっ、あ、あっ…………あ、ああっ…………』
由佳は深く挿入を受けながら、絶え間なく喘いでいた。
枕営業をかけている以上、相手を悦ばせるために演技するのは自然なことだ。
しかし、その喘ぎに妙に熱が篭もっているように思えて仕方がない。
挿入を受けて微妙に震える左脚の動きや、シーツを掴む右手の動きは、明らかに感じた女の反応に思える。
『ううっ。この奥のうねり、最高だっ!!』
男は挿入を繰り返しながら、かなり深い部分に挿入したまま、腰を留める事がある。
それどころか由佳の細い腰を両手で掴み、グリグリと円を描くように押し付ける動きさえする始末。
『くあっ!!』
そうした時の由佳の声は異質だ。鋭く、そして甘い。由佳という女性を体現するように。
俯いていた顔も、この時ばかりは前方に持ち上がる。細目を開き、唇の真ん中だけを噛みしめ。
女が本当にたまらないときに見せる顔だ。
「………………」
あおいは、正座のまま内股を狭める。
由佳の性的な反応を見るうちに、いつしか妙な気分が湧き上がってしまっていた。
もし隣に佐野という異性がいなければ、秘部への刺激を始めているほどに。

官能からくる様々な反応を表しつつ、雄と雌の激しい交わりは続く。
それはやがて、汗を散らしながらのスパートに至った。
『あ、いくっ!! いくよ由佳、射精るよっ!!!』
男は由佳の腰を掴みながら叫ぶ。
『は、はい、下さい……奥に、下さい!』
由佳も同じ調子で男に応えた。
その2秒後。男は奥深くまで結合したまま腰を留める。お、おうっ、という呻きと共に、由佳の腰を掴む手に力が篭められる。
射精しているのは明らかだった。
やがて男が逸物を抜き出すと、被さったコンドームの先端は呆れるほど膨らんでいた。
本来であればそれが由佳の膣内に浴びせられていたという事で、妊娠の危険性はかなり高かっただろう。
『ふいいーー、出た出た。一週間ぶりだったからなぁ』
男が腰を下ろすと、由佳も両脚を揃えたまま向き直る。
『お粗末様でした』
横髪をかき上げながらそう告げると、男の逸物からコンドームを外して咥えこむ。
『うっ! へへ、相変わらず、上手いお掃除フェラだよ。ここまでされちゃあ断れない。仕事はキッチリさせてもらうよ』
『ふぁい……ありがとうございます』
男は由佳の髪を撫でながら満足げに告げ、由佳は逸物をしゃぶりながら上目遣いに笑みを見せる。
そこには間違いなく、2人のプロの姿があった。


「どうだった、宮森さん?」
映像の消えたテレビから視線を外し、佐野が問う。
「あ、え!? ええっと……」
茫然自失という様子のあおいは、慌てて佐野の方を向いた。
しかし、どう、と言われてすぐに答えられそうもない。
「ああ、いいよいいよ。女の子にこんな映像見せて、どうだったもないよな。忘れてくれ」
佐野は苦笑しつつ、デッキからDVDを取り出す。そしてあおいに背を向けたまま、ふと動きを止めた。
「…………ひとつ言っておくとね、これを参考にはしない方がいいよ。
 枕なんてのは、すぐに噂になる。これは本当に、そうするしかなかった時代の最終手段だ。
 ただ、彼女……興津さんは、そうしてでもムサニを守りたかったんだと思う。
 どうかその意思だけは、知っておいてほしい」
「ムサニを、守る…………」
佐野の言葉に、あおいは胸に手を当てた。
確かにそうだ。興津由佳は、誰よりも武蔵野アニメーションを大切に思っている。たとえ泥を被ってでも、守ろうとするほどに。
「わかりました!」
あおいは、佐野に向かって笑顔で告げた。

翌日も、その笑顔は変わらない。
(興津さん……ありがとうございます!)
淡々とパソコンに向かう由佳をちらりと見やり、心の中で深く感謝する。
「よーしっ、今日もどーんと行きますか!!」
「おっ、みゃーもり気合入ってるねぇ」
「万馬券でも当たったかぁ?」
矢野や高梨といった同僚に驚かれるほど、あおいは強い決意を口にする。
その様を見て、由佳もかすかな笑みを浮かべた。
年が明ければ、また新たな企画がスタートするはずだ。制作進行の新人も入社し、いよいよ忙しくなるだろう。
しかし、それでもあおいは進む。
かつて由佳がそうしていたように、武蔵野アニメーションを守っていく。

『もうひとつの白箱』の事だけは、誰にも明かさないままに……。



                                終わり