大樹のほとり

自作小説を掲載しているブログです。

NTR

魅せられた僕等の夏(後編)

※中編からの続きです。



「おとなしい顔して、大概変態だよねぇ先生も。小学生に跨って、あんなに腰振りまくってさ。これ流出したら、色んな方面が大騒ぎだね」
 翌日。悠真君はパソコンを眺めて言った。パソコン画面には、昨日の僕らのセックス映像が映っている。想像していた以上にはっきりと。
「お願い。彼……匠くんにだけは、酷い事をしないで」
 栞さんは床に跪いたまま、悲痛な表情で訴える。
「匠くん? 水臭いなぁ、“たっくん”って呼んであげなよ。昨日みたいにさ」
 悠真君がそう茶化すと、周りの連中がゲラゲラと笑った。栞さんの手が、膝の上で握りしめられる。
「ま、昨日もメッセージ送ったけどさ。“たっくん”がネットの晒し者になるかどうかは、先生次第だよ。俺らの機嫌損ねない限り、このビデオは内輪でしか楽しまないから」
「機嫌って……セックスなら、散々させてるでしょ! これ以上、何をしろっていうの!?」
 悠真君に念を押され、栞さんが悲鳴に近い声を上げる。読書を趣味にして、真面目一本に生きてきたのが栞さんだ。これまでにされた事だけでも、耐えがたい屈辱だったはずなんだ。
「そう興奮しないでよ。俺らは純粋に、先生の事が知りたいんだ。先生みたく『真っ当で綺麗なオトナの女』は、どこが性感帯なのか。そこを開発しまくったら、どんな風に変わっていくのか。言ってみれば、僕らなりの自由研究だよ」
 悠真君は、まっすぐに栞さんの眼を見つめながら言う。いつも言葉に裏があるような悠真君だけど、この時だけは本当の事を言っているように思えた。もっともそれが本当だとしても、いい迷惑であることに変わりはない。
「さ、先生。俺達に、先生のことを教えてよ」
 悠真君は天使のように微笑みながら、栞さんの手を取った。
「…………ッ!!」
 栞さんは睨みつつも、その手を振り払うことができない。まるで、見えない手錠でも掛けられているように。


 悠真君の最初の命令は、栞さん自身の口で感じるスポットを告白することだった。
「わかりやすく頼むよ、“先生”。」
 悠真君が嫌みったらしく告げる。その視線の先で、栞さんは数人から愛撫を受けていた。
「どうだ先生。やっぱり乳首って感じるのか?」
 乳房を揉みしだいていた一人が、人差し指で乳首を弾きながら問いかける。
「んっ……当たり前でしょ。そのぐらい、お得意のネットで調べたら?」
 小馬鹿にされる状況が耐えがたいのか、栞さんは周りを睨み回しながら吐き捨てる。でも、これまでなら普通だったその光景が、今は許されない。
「おい先生。そんな態度ばっかり取ってると、後悔するぜ?」
 一人が、パソコン画面を叩きながら脅しをかける。
「!!」
 栞さんの表情が変わった。
「そういうこと。じゃあもう一度。先生は、このでかいオッパイの先を弄られると、お股がジュンッて濡れちゃうんですかー?」
 さっきの奴が、質問を繰り返す。中身だけを、より答えにくいものに変えて。
「…………ええ。くすぐったいような……気持ちよさがあるわ」
 栞さんは悔しそうな表情のまま、息を吐き出すように答える。ギャラリーからは、ここぞとばかりに笑いと歓声が起きた。
「へーぇ、じゃあこういうのも堪んないだろ!?」
 また別の一人が、人差し指でクリトリスを弄りはじめる。
「はぁ、うっ!?」
「アハハ、わかりやすい反応!! 3所責めは効くよなぁ、ほら実況して!」
「ふ、んっ……りょ、両方責められると、どっちにも意識がいって……我慢が、しづらいわ。それに、どっちを責められても感度が上がって、そうしたらますます……んんんっ!!!」
「なるほど。上半身と下半身の急所いっぺんに責められるとヤバいってか。そりゃそうだよなあ、はははははっ!!」
「よーしじゃあ、どんどん余裕なくさせちゃおうぜ。おい、誰か電マ持ってこいよ!」
 異常な盛り上がりの中、電気マッサージ器が栞さんの前に突き出された。
「あっ! それは……!!」
「そう、先生の大好きな電マだよ。こいつでまた、たーっぷり可愛がってやるからな。気持ちよかったらちゃんと言うんだぞ?」
 マッサージ器の、内臓まで震えるような音がしはじめる。その音が低く、より耳障りなものに変われば、それが栞さんの性器に宛がわれたという合図だ。
「だ、だめっ! これは、本当に我慢ができない……すぐにいっちゃうの!!」
 栞さんは足をバタつかせて必死に叫ぶけど、今さらそれに怯む奴はいない。
「ダメじゃないだろ、大好きなんだろ。イク時はちゃんと言えよ先生!!」
 栞さんの悲鳴を掻き消す勢いで何人もが叫び、追い込んでいく。ジジジジ、という音がして、栞さんの両脚が強張る。何度も、何度も。
「い……い、いっ……いく、うううっ!!!」
 やがて、栞さんは絶頂を宣言した。まだマッサージ器を宛がわれてから、ほんの数分と経っていない。
「へー、もうイッたんだ? ほんとクリが敏感になってきたよな。でも、こっからだぜ!!」
 マッサージ器を握る奴は、笑みを浮かべながら宛がう角度を変える。
「ほら、胸も可愛がってやるよ先生。上も下も、好きなだけ感じろよ!!」
 乳房を弄ぶ連中も、先端の蕾を指で捏ね回しはじめる。
「ひっ……い、いくっ!! お願い、それはやめて! い、逝くスピードが速すぎて……ん、んんんんっ!!!」
「機械の振動ってすごいでしょ。我慢したくてもしきれないよね? だったら、大人しく快感に集中しなよ。イク時は宣言、これ徹底ね」
 栞さんの必死な訴えと、笑いを噛み殺すような野次。相変わらずひどい温度差だ。その中で、栞さんは何度も何度も、立て続けに絶頂へと追い込まれていく。
 でも、こんなものはまだ前戯ですらなかったんだ。
「よし、濡れてきたな」
 その言葉で、マッサージ器が一旦離される。でも、休憩じゃない。すぐに別の奴が栞さんに近づいていく。そいつの人差し指と中指には、凸凹のついた分厚いゴムのようなものが嵌まっていた。
「えっ……それは、何なの!?」
「手マン用の指サックだよ。この凸凹のお陰で色んなスポットを一気に刺激できるし、滑りにくいから一点を集中して責めやすいってさ。わざわざこんなモンまで用意したんだ。気持ちいいポイントを、しっかり教えてくれよ?」
 その言葉と共に、歪な二本指が割れ目へと入っていく。
「……ッ!!」
 栞さんは、下唇を噛みしめた。言葉を発さないといけないから、完全に閉じあわされてはいない。
 今思えば、唇を引き結んで頑固に耐えていられた時は、まだマシだったんだ。

「ほら先生、Gスポットってのはどこだ? クリの根っこら辺っつーから、ここか?」
 指サックを嵌めた奴が、上向いた手の平を蠢かしながら問う。臍側に指を曲げるようにして刺激してるんだろう。
「ふ、んっ……も、もう少し下……そ、そこよ……!!」
「へーぇここかあ。ははっ、確かに腰スゲー動くな。でも、さっきんとこも結構反応してなかったか?」
「ああ、Gスポのちょい奥にもスポットあるらしいぜ。なあ、先生? 感じるトコは全部教えろよ。後で秘密の弱点見つかったらヒデーぞ?」
「わ、解ってるわ………その奥にも、感じるポイントが……あ、はっぁ、はあ、んん、んっ……も、もうダメっ!!」
 そんな会話の直後、栞さんの腰が一気に浮き、水が噴きだす。それは、手マンをしている奴が間違いなく感じるスポットを捉えている証拠でもあった。
「っしゃ、イったあ! いいペースだぜ先生。ほら、今度はこの横っちょだ。ネットにゃスポットとして載ってねーけど、先生ここも弱えよなぁ!?」
 責める方はますます笑みを深め、手を横向けて栞さんの膣内を探りまわる。
「あ、待って……だめ、だめだめ、駄目えっ!!」
 栞さんは慌てた様子で相手の手を掴む。でも、それで指遣いが止まるわけもない。
「もう遅ぇよ。ほら、イク時は!?」
「あ、あ……ふぅ、い、いくぅう゛っ!!」
 叫び声と同時に、また栞さんの細い腰が浮き上がり、飛沫が飛び散る。ベッドに敷かれたベッドシーツの一部が変色する。
「ぎゃっはっはっは、いいぜいいぜ!! ガンガン噴かせてやれ!!」
 笑いが起き、グチュグチュと言う水音はますます激しくなっていく。

 栞さんはその後も、ブリッジや這うような格好で、何度も潮を噴かされた。
「ほら先生、アヘってないで実況実況!!」
「ひぐっ……う、く、クリトリスを、指で弾かれてっ、Gスポットも押し込まれて、こっ、腰が勝手に……動いちゃう……。快感が、太股にじわっと広がって、ち、乳首も、すごく……感じ……はあっ、あ、だめ……ん…んああああ゛っ!!!」
「ダメじゃなくてイクだろ。先生って案外物覚え悪ぃな!」
「オトナになると記憶力って下がるらしいからな。トシは取りたくねーわ!」
 そんな会話が何度も交わされ、刻一刻とおねしょシーツが変色していく。

「はああっ、はああっ……あああっ、ああ……はああ…………っ!!!」
 何十分かが経った頃、栞さんはベッドの上で手足を掴まれながら、荒い呼吸を繰り返していた。大股を開いた足の間は、寝小便をしたとしか思えない有様だ。
 そんな、どう見てもボロボロの栞さんに、悠真君が近づいていく。手に、ポルチオ責め用のバイブを握りしめたまま。
「う、あ……?」
 虚ろだった栞さんの眼が、悠真君の手にしたものを認識して見開かれる。
「あ、い、いやっ! それはっ、それだけはやめてっ!!」
「駄目だよ先生、こっからが本番なんだ。ポルチオ性感がどんな風に気持ちいいのか、ちゃんと教えてくれないと」
 悠真君はそう言って、コンセントにプラグを差し込む。
「前は歯ァ食いしばって、必死に我慢してたもんな。今度は遠慮せず浸りなよ!」
「そうそう。こーいうのは、声出すと余計に気持ちいいんだってさ!」
 栞さんの周りにいる連中も、腋を抱えて膝立ちの姿勢を強いる。
「やっ! いや、本当にやめてっ!!」
 栞さんは暴れるけど、数人がかりの力には敵わない。ろくな抵抗もできないまま、割れ目にバイブが入り込んでいく。
「さあ先生。天国へ行ってきな」
 悠真君が笑いながら、グリップ部分のスイッチを入れた。ヴヴウーン、ヴヴウーン、という音がかすかに鳴りはじめる。
「はぐっ!!」
「はははっ、反応はえー!!」
「太股スゲー筋張ってんな。つか形変わってんじゃん」
「膝立ちだと余計わかりやすいな。やー、ポルチオ責め面白ェ!!」
 歯まで覗かせるような笑い顔に囲まれながら、栞さんだけは鬼気迫る表情で腰を揺らす。その動きは、瞬きをするたびに激しく、早くなっていく。
「こ、こんな、だめ、駄目えっ!! あっ…く、ああ゛あ゛う゛っ!!!」
「だからさぁ、ダメじゃないって。先生今イってんでしょ? だったら、イクってちゃんと言わないと。俺らイラつかせる事すんなっつったじゃん」
「ふぐうぅっ、んはあぁ゛っ!! い、イってる、イッてるわっ!!」
「オーケー。じゃ、次はどんな感じかのレポよろしく」
「よお、待てよ。どうせなら撮ろうぜ」
「ははっ、それいいな!」
 苦しむ栞さんを前にして、同情する奴は一人もいない。絶頂を宣言させるだけでは飽き足らず、スマホを横に構えて撮影まで始める。
「……!!」
 栞さんは、今にも相手に掴みかかりそうな形相になった。でも、それも一瞬のこと。怒りの表情は、泣き出す前のそれに変わり、あっという間に絶頂の表情になる。呼吸より早いペースで絶頂しているのが、その表情の動きから見て取れた。
「おし、じゃ撮るぞ。まずは自己紹介してから、『小学生にオマンコで逝かされてます』って言ってみろ。はいスタート!!」
 その合図で、栞さんの顎が持ち上げられる。栞さんの顔はまだ悔しそうだ。
「どうした、早く言えって!」
「アタマ良いんだからわかってるよね? 昨日の映像、いつでも無修正でネットに放流できるんだぜ」
 そう脅しがかかると、そこでようやく栞さんの唇が動く。
「こ……香月 栞……です。わ、私は今……小学生に、お、お、オマン…コで、逝かされています…………」
「ぎゃっはっはっ!! マジでオマンコっつったよ、あのクソ真面目な先生が!」
「いいねえ、この恥ずかしそうな言い方!!」
「最高だな。これからはずっとマンコって言えよ。アソコとかって気取った言い方禁止な!」
 何人もが腹を抱えて笑い、悠真君もバイブを押し込んだまま笑みを浮かべる。
「で? 先生。そのオマンコの奥刺激されて、どんな感じなの?」
 悠真君のその問いに、栞さんは喉を鳴らす。言いづらそうだ。でも、拒絶はできない。
「お、奥を……刺激されると、痺れるような快感があって……それが、足の先……いいえ、背筋を伝って、頭にまで上ってくるの。そのうち、頭の中が真っ白になって……おかしくなりそうで、怖い……っ!!」
 栞さんは頬を赤らめたまま、不安を吐き出す。でもそうやって弱みを見せれば、すぐさま付けあがるのが子供だ。
「いいよ先生、おかしくなっちゃっても。ちゃんと俺らで、『観察』しといてあげるから」
 悠真君はそう言って、バイブのスイッチを切り替える。
「うあああ゛ぁ゛っ!?」
 栞さんから悲鳴が上がり、背中が仰け反る。体中を細かに痙攣させながら。かなり深い絶頂なんだろう。
「あっはっはっ、イッてるイッてる!!」
「ほーら先生、イッた時にはちゃんと言わないと。映像映像!!」
 たとえ栞さんに余裕がなくても、追い込む連中に容赦はない。脅し文句を織り交ぜて、無理矢理正気に戻させる。
「だめっ、か、感じるっ……いく、イッグぅうううっ!!!!」
 栞さんは歯を食いしばっては開き、絶叫する。その口の端からは、とうとう涎まで垂れはじめていた。腰の動きも激しくて、必死にバイブを押し込まれまいとしているかのようだ。でも結局、絶頂の最中には腰が止まる。腰が止まれば奥を攻め抜かれて、より一層深い絶頂に嵌まり込む。その悪循環だ。
「イってるイってるっ、くっ……またイックぅ゛うっ!!! お、お願い止めて、少しでいいから止めでっ!!! ずっとイってて、息が吸えない……酸欠なの!!」
 体中を掴まれたまま、激しく暴れる栞さん。その両脚の間からは、次々と愛液があふれ出している。前にポルチオを開発された時より、明らかに反応が激しい。
「すげーな、イキまくり。やっぱ感じてんのを声に出すと違うんだなー」
「ああ。耳から入る情報って、結構大事らしいからな。っつーか先生暴れすぎ。手ェ押さえてんのしんどいんだけど」
「足もだよ。石みたいにガチガチに強張っててさ、すぐ内股に閉じようとすんの」
「バーカ、お前ら俺見ろよ。さっきからやべぇ力で肩掴まれてんだぜ?」
「かははっ、思いっきり食い込んでんじゃん。マジで余裕ねーのな先生!」
 そんな野次と嘲笑の中、栞さんは悲痛な表情で踊り狂う。涎まみれのその口から漏れる声は、段々と意味のないものになっていった。『ダメ』と『イク』をひたすら繰り返す様は、僕らよりずっと幼い子供みたいだ。
 実際、栞さんの判断力はほとんど残っていないようだった。

「やめてっ、本当にゆるしてっ!! ぬいてっ、一度抜いてえ゛え゛っ!!!」

 首に筋を浮き立たせながら、栞さんが絶叫する。そんな栞さんを、悠真君をはじめとする何人かがニヤニヤと笑って見つめていた。
「おねがいっ、おねがいい゛ぃ゛っ!!!」
「くくっ。先生さぁ。抜きたいんなら、まずオマンコの力抜きなよ」
 笑いを噛み殺しながらのその言葉に、栞さんが薄目を開く。
「俺、もうバイブ持ってないんだけど」
 悠真君はそう言って、栞さんの目の前で両手を開いてみせる。その手には、確かに何もない。バイブは、栞さんの脚の合間で唸り続けている。栞さん自身のアソコに締めつけられたまま。
「え……?」
 呆然とする栞さんを囲んで、また大笑いが起きた。いつ聴いても不愉快な声だけど、今は格別に耳障りだ。その笑いはきっと、栞さんを追い詰めるだろうから。
「そ、そんな……だって、抜けないっ!! ふんんっ、抜けない……のっ!!」
 栞さんは眉を下げて嘆き、必死に腰を振る。でも、バイブはほんの少し動くだけだ。
「何を今さら。さっきから、ずーっと咥えこんでたじゃん先生!!」
「ムリムリ、そんな腰振っても抜けないって。イキまくって、マンコの奥が収縮してんだよ。ザーメン搾り取るモードでさ!」
「まさか、あんだけイヤイヤ言ってたバイブまで咥え込むとは思わなかったけどな。生身のチンポならともかくよぉ!!」
「だからさぁ、ヘンタイなんだって先生は。ちょっとムラムラしてたからって、一回り近く年下の幼馴染に跨ってジュボジュボ腰振るんだぜ?」
「そういやそうか。二言目には説教してくるウゼー女だったけど、いよいよ化けの皮剥がれてきたな!」
 まさに言いたい放題だ。その中で栞さんは、必死にバイブを押し出そうとする。でも、感電しているせいで筋肉が強張っているのか、バイブは全然でてこない。
「んんあっ、はぁああ゛…あ゛、あ、あぁああっ……んっ……んはぁああお゛お゛っっ!!」
 何度もの悪戦苦闘の末、栞さんはとうとう天を仰いで絶叫する。
「あはははっ、何だ今のきったねぇ声!? 女の出す声かよ!」
「ひいっひ、『おおお』っつったよな? あのお上品な先生が!」
「でも、やたら気持ち良さそうな声だったよな!」
 生々しい声が散々に嗤われる中、とうとうバイブが抜け落ちる。そしてその後を追うように、割れ目から透明なものが噴き出した。それは何かを諦めたように、長々と出続ける。
「あ……ああ、ぁ…………」
 栞さんは天井を見つめたまま、小さく呻いていた。反応が薄い。まるで、また一つ大切な何かを失ったかのように。

「さて、先生。この間はここで開放してあげたけど、今日は最後まで相手してもらうよ」
 バイブを片付けた悠真君が、そう言ってズボンを脱ぎ捨てた。他の奴らもそれに倣って、栞さんは8本の勃起しきった逸物に囲まれる。
「なっ……ま、まさか……!?」
「そう。ジュクジュクに熟れてるポルチオを、駄目押しで開発してあげる」
 悠真君はへたり込んだ栞さんに近づき、一気に押し倒す。
「いやっ! せめて、少し休ませて。今は、本当に余裕が……!」
「だから良いんだよ。拒否するならそれでもいいけど、その後どうなるかは解るよね?」
 悠真君のその囁きで、栞さんの抵抗は封じられた。
「そんな顔しなくても大丈夫だって。先生が昨日、匠相手に自分からしてた事でしょ」
 悠真君はそう言って、栞さんの脚の間に割り入っていく。望まぬ挿入を受け入る栞さんの表情は、可哀想なぐらい引き攣っていた。
「んんんん……っ!!」
 悠真君が腰を進めるとすぐに、栞さんから呻きが漏れる。
「凄いや先生、もう奥に届いちゃった。解るでしょ? どんな感じか言ってみてよ」
「は、ぁぁぁ……お、奥に、当たってるわ……」
「奥って?」
「し、子宮よ……子宮の入口に……ひ、んんっ…………!!」
 栞さんにはもう、悠真君の意地悪に反応する余裕すらないらしい。つらそうに眉を顰めながら、足を強張らせて震える。
「そう、その感覚に集中して。今日は先生に、たっぷりポルチオでのイキ癖をつけてあげるよ」
 悠真君は嬉しそうにそう口走りながら、『の』の字を描くように腰を動かしはじめた。さらに右手を、栞さんの臍の下……ちょうど子宮のあたりを外から押さえ込むように宛がう。
「はあぁぁっ!! だ、だめっ、それ……! あ、ああああっ!」
「すげーな。ああされると弱いわけか」
「なるほど、勉強になるね」
 周りで見ている連中は、悠真君の責め方と栞さんの追い詰められ方を、瞬きすら忘れて観察していた。
「いいね先生、オマンコの奥が収縮しまくってる。ずっとイってるんでしょ?」
 悠真君は、ここで栞さんの脚を横に倒し、くの字に曲げた脚を重ね合わせるような状態で犯しはじめた。見るからにきつい体勢だ。当然、栞さんの反応も激しい。
「……っく、いくいく、イク……っ!!」
 うわ言のようにそう繰り返しながら、シーツを強く掴む。
「いいよ。オマンコがアソコに絡み付いてくる。俺のこと嫌ってる栞さんが、こんなに甲斐甲斐しく受け入れてくれるなんて思わなかったな」
 悠真君は腰を腰を押し付けながら、嫌みったらしくそう囁きかけた。
「う、受け入れてなんか…………あ、んあああぁっ!!!」
 必死に反論しようと首を持ち上げる栞さんだけど、その瞬間にいけないスイッチが入ったんだろう、大きく叫びながら絶頂してしまう。相当深い絶頂なのが、端から見ていてもはっきりわかる。事実栞さんはその後、視線を空中に投げ出したまま、はっはっと短い呼吸を発したまま固まってしまう。
「うわ、こりゃ凄いな……!!」
 逆に悠真君は表情豊かに笑いながら、気持ち良さそうに射精に達し、ゆっくりと腰を引く。白濁まみれのアレがずるりと割れ目から抜け出て、栞さんの脚を震えさせる。
「よ、よーし……俺らもやっちまうか!!」
「ああ。こりゃメチャクチャ気持ち良さそうだ!!」
 悠真君の周りで見ていた連中が、我先にと栞さんの前に躍り出た。そして、一人ずつ栞さんを抱き始める。子供特有の吸収力で、悠真君がやって見せた責め方を模倣し。子供ならではの柔軟さで、より栞さんの反応を引き出せるやり方を探りながら。
「ああああ、だめだめだめ……!! ああいくっ、いくぅうう……っ!!」
 そんな悲痛な声が、ずっと続いた。相手に跨るような格好で、下から突き上げられ。腕を掴まれたまま後ろから突かれ。腰を完全に浮き上がらせた状態で、ズコズコと突きまくられて。
「改めてだけど、ヤッベェ顔してんなこいつ」
「ああ。美人が台無しだ」
「マジで余裕のかけらもねぇな。ポルチオってすげーわ」
 犯す奴も、その周りの連中も、栞さんの顔を見て噴き出す。確かに栞さんの顔は崩れている。汗や鼻水、涎、涙なんかが入り混じり、筋肉は引き攣り、快感に叫ぶ時なんかは下の歯並びまではっきり見えてしまう。正直、今までのどんなセックスよりも激しい反応だ。
 でも、栞さんは悪くない。そうなった原因を作ったのは、悠真君とその取り巻きなんだ。だから本当なら、悪いあいつらに栞さんを嘲笑う権利なんてない。学校の道徳の授業でなら、きっとそう習うはずだ。本当なら。

「ほら先生。喘いでるばっかりじゃなくて、こっちでも奉仕しないと終わんないよ?」
 そう声がした方を見ると、仰向けで犯される栞さんが顎を持ち上げられ、口にも咥えさせられるところだった。
「んうっ、あ……あ……っ」
 栞さんには、見るからに余裕がない。あそこの奥を突かれる感覚だけで手一杯なのが、表情と掠れたような喘ぎ声でわかる。でも栞さんの頭上に膝立ちになった一人は、親指で栞さんの頬を凹ませながら、有無を言わせずアレを口に押し込んでいく。
「んぐっ、うっ……!!」
 白い首を晒し、大きい胸を波打たせながら仰け反る栞さん。見るからに子供の所有物になっている感じだ。
「うわ、やっぱしゃぶらせると締まるなあ!」
「へー。本当に子供のチンポ大好きなんだな、先生って」
 2人は上下から栞さんを責めつつ、そんな言葉責めも加えていた。栞さんは何か反論したかったのか、しゃぶらせている奴の太股を押しのけようとする。でもその手はすぐに、横にいる連中に掴み上げられた。
「先生、じっとしてなって!」
「手が遊んでるんだったら、俺のでも扱いてなよ。ほら、ガチガチだろ」
 そう言って自分のアレを、無理矢理握らせはじめる。
「んぐっ、おぶっ……ふぐ……っぅ!!」
 栞さんは何度も呻きながら、仰け反った身体を左右に揺らしていた。身体に浮く筋なんかを見る限り、かなり本気で抵抗してたんだと思う。でも結局、彼女は拘束から逃れることはできなかった。無駄に体力を消耗するばかり。
 気力も、体力も削られ、栞さんの抵抗はどんどん弱まっていく。20分も経つ頃には、這う格好のままガシガシと突かれ、大口を開けて喘ぐようになっていた。
「あぁっ……く、はぁ、あ……ぁ、あ!!」
「キモチよさそーな声出しちゃって。ほら、口がお留守だよ」
 後ろから犯す奴は、まるで彼氏がするように耳元で囁きつつ、栞さんの腕を引く。そうして上体を起こされた栞さんの前に、また別の奴が立ちはだかる。
 男の尻に隠れる前の一瞬。栞さんは、かすかに怯えるような眼差しを上に向けていた。
「もご…っぅ……」
 荒い息が遮られ、栞さん自身の意思まで塞がれる。

 パンパンパンパン、という肉のぶつかる音と、男女の喘ぎ声、そして嘲笑。それがずっと続いている。僕は壁際で膝を抱え、ひたすら時が過ぎるのを待った。乱れる栞さんの姿なんか見たくない。でも、聴こえてくる声や音の感じが変わると、どうしたってそっちに視線を向けてしまう。
 状況は、最悪に近いものになっていた。
 一人は、栞さんの脚を肩に担ぎ上げ、股の間に身体を挟みこむような形で挿入している。もう一人は、寝そべる栞さんの顔に跨るような形で、根元までアレを咥えさせている。しかも、栞さんの手を両手で握りしめて。
「ほーら先生、手握っててあげる。安心するでしょ? さっきから目ぇ泳ぎまくりだもんね」
 その光景を見た瞬間、強烈に心臓が痛む。栞さんに甘えられるのは、甘える事を彼女に許してもらえるのは、僕だけのはずなのに。
「おぶっ、ご…ぉっおお゛っ、ふ……んっ!!!」
 栞さんは、目を見開いたまま小さく顔を振っていた。押し付けられる“何か”を拒むように。
「なに嫌がるフリしてんだよ、さっきからずっとイってるくせにさぁ。凄いよね、もう何回イってんの? マンコの奥とか、ずっとザーメン飲み干す動きしてるしさ。そうまでして小学生ので妊娠したいわけ? ヤバくねーそれ。俺とほとんど見た目変わんないガキが出来んだぜ?」
 アソコを犯す奴はそう言いながら、リズミカルに腰を振りたくる。強張る栞さんの顔とは対照的な、緩みきった表情で。追い討ちのようなその言葉で、さらに栞さんの目が見開かれ、首の振りが強くなる。でもその抵抗さえ、顔に跨っている奴の太股で一々遮られてしまう。まるで蜘蛛の糸に絡め取られた蝶だ。そして蜘蛛は、まだまだいる。
「いいねぇ。俺らで妊娠させるってのも」
「だね。間違っても僕ら子供は疑われないだろうし」
「そうそう。大学のコンパ帰りにやったとか、適当に言い訳考えてくれるよ。アタマいい先生ならさ」
 醜く表情が、ザーメン塗れの栞さんを取り囲む。とても同い年とは思えない。普段ランドセルを背負っている人間とは思えない。


       ※        ※        ※


 栞さんは、それからも毎日のように悠真君の家に呼び出され、欲望をぶつけられた。
 セックスや愛撫を受けるたび、栞さんは取り乱す。でもそんな栞さんには、一箇所、特に強い反応を示す場所があった。
 お尻の穴だ。
「やめて! そこは違うっ!!」
 何かの拍子に、指が少し肛門に触れただけでも、栞さんはそう叫ぶ。大声を出すのはいつものことだけど、この時の叫びはまた違って、辺りの空気がピリッと引き締まるぐらい真に迫った叫びなんだ。
「ふーん……?」
 そんな解りやすい弱点が、悪ガキ達に見逃されるわけもない。“後ろ”の開発が始まるのは、当然の流れだった。

 悠真君は、お尻の調教の前に、必ず浣腸をした。肛門周りをほぐしつつ、羞恥心をくすぐるという、両方の狙いからだ。
 浣腸に使われるのは、『イチジク浣腸』というもの。栞さん自身に買わせたそれを注入するところから、一日の調教が始まる。
 当然、ただお腹の中の物を出させるだけじゃない。出す瞬間は、必ずと言っていいほど見世物にされた。それは例えば、こんな風だ。
「ほら先生、頑張って。あと4分も残ってるよ」
 タイマーを手に、悠真君が栞さんを見下ろす。栞さんは脚を開いた格好で縛られたまま、風呂場のタイルに横たわっている。
「……く、ぅっ……!!」
 栞さんの顔は真っ赤だ。悔しそうで、苦しそう。それもそのはず、彼女の肛門近くには、何個ものイチジク浣腸の空容器が転がっているんだから。しかも、ただでさえ排泄欲を刺激されてヒクヒクと蠢く肛門は、周りの人間の指で、むりやり開かされたり閉じさせられたり、あるいは浅く指を挿入されたりさえしている。そんな刺激の中、いつまでも我慢なんて出来るわけがない。
「はぁっ、はぁっ、はぁ……お、おねがい。トイレに……もうっ、もうトイレに行かせて!!」
 栞さんは汗まみれの顔で、必死にそう哀願する。その瞬間、悪意の溢れる笑いがどっと沸き起こった。
「だめだめ。10分我慢したら、トイレでさせてあげる。そういう約束だったでしょ」
 悠真君もほくそ笑みながら、あくまで首を横に振る。
「ふっ、うう……っく……! こ、こんなの……もう、本当に……!! あなた達、正気なの? 私が漏らすところなんか見て、何が面白いのっ!?」
 本当に余裕がないんだろう。栞さんは何度も悠真君達に問いかけ、非難する。顔を歪め、歯を食いしばり、全身を何度も強張らせながら。
 そういう生々しい反応を何度となく繰り返した果てに、とうとう限界は訪れた。
「お、ケツがすげーヒクヒクしてきたぜ?」
「そろそろだな。さあ、我慢せずに出しちまえよ先生っ!!」
 何人もの野次が反響する中で、とうとう肛門から汚液が噴き出す。ぶびゅっという、清楚さも何もない音とともに、茶色い液が風呂場のタイルを染めていく。
 本来なら粗相を叱るべき大人の女性が、子供に囲まれながらの排便。それは異常でしかない。
「ははははっ、マジで出た!!」
「ちょっと先生、低学年のガキじゃないんだからさぁ、お風呂で漏らさないでよ!!」
「うっは、くっせぇー!! やっぱ潔癖な感じの先生でも、臭ぇもんは臭ぇんだな!!」
 呆然とした表情の栞さんを取り囲み、歪んだ笑みがゲラゲラと不愉快な笑い声を上げつづける。
「………く、ぅっ……!!!」
 栞さんの表情は、少しずつ、少しずつ険しくなって、色々な感情を噛み殺すように震えはじめた。

 また別の日には、庭に置いたバケツに屈みこみながらの排便。お盆の時期だから近所に人は少ないとはいえ、時々は散歩しているお爺さんなんかが通りかかる。栞さんはそういう人目を避けながら、音も抑えつつ気張らないといけない。
 さらに別の日には、栞さんをクローゼットに隠れさせた上で、部屋にお母さんや生徒さんを招き、オムツの中に出すしかない状況を作ったこともあったみたいだ。悠真君によれば、クローゼットを開けると栞さんは膝を抱えたまま、泣き腫らしたような瞳で睨みあげてきたらしい。

 こんな具合に羞恥を味わわせた上で、駄目押しとばかりにアナル調教が始まる。
 アナルの“ほぐし”は、色んな方法で行われた。愛撫のついでに、延々と尻穴を嘗め回したり。サラダ油を絡めた歯ブラシの持ち手を、限界一杯までお尻の穴に押し込んだり。あるいは器具を使って浣腸さえしていない腸内を開ききり、子供ならではの『ウンチ』絡みの罵詈雑言を浴びせたり。
「やめて、そんなところ!」
「そこがどういう場所か、解っているの!?」
 栞さんは当然、顔を真っ赤にして拒んだ。でもその潔癖ぶりが、余計に嬲る連中に火をつける。
「ほら先生、凄いでしょ。ずっとウンチを繰り返してる感じでさ」
「気取った顔してても、もう皆わかってんだよ、先生がヘンタイだってこと。俺らガキに見られながらお尻ほじられて、興奮してんだよね?」
 いくつもの凸凹でできた玩具を出し入れしながら、そんな質問が飛んだ。
「馬鹿にしないで……っ!」
 栞さんはソファで脚を開かされたまま、赤くなった顔を横向けて叫ぶ。どれだけ念入りにお尻を嬲られても、栞さんは気持ちが良いとは言わない。でも、端から見ているだけの僕にさえわかった。そうして激しく否定するという事は、そこが弱点だと白状しているようなものだ。
「本当に、気持ちよくないの? 先生」
 お尻に出入りする道具を見ながら、悠真君が尋ねる。
「何度訊いたって同じよ。そんな場所で、感じるわけないわ!!」
 当然、栞さんは意地を張り通す。すると、悠真君はにいっと笑った。
「そっか。じゃ、感じるようにしてあげないとね。おい、クリトリスも一緒に弄ってやれ」
「クリも? あーあ、なるほど」
 アナル責めを続けている連中は、すぐに悠真君の考えを察して、栞さんのクリトリスに指を宛がった。まだ全然触れられてないから、あまり勃起してはいない突起。そこを指の腹でぐりぐりと円を描くように圧迫しながら、お尻に道具を出し入れする。見た目には大した変化はないけど、これが数分も続くと、栞さんの反応が変わってくる。
「んっ、ん! ふ、ん……んん、んんっ!!」
 下唇を噛みながら、腰をヒクヒクと上下させる栞さん。明らかに、感じている。
「あはは、めっちゃ腰動いてる。感じてきたねー先生!」
「クリ弄られながらアナル弄られると、快感がゴチャゴチャになって訳わかんなくなるだろ? ネットに書いてあった通りじゃん!」
 当然栞さんの変化は、それを凝視している連中からすぐに指摘される。そうすればますます栞さんは意地を張ろうとし、かえって快感を意識することになってしまう。その悪循環がずっと続いた。クリトリスへの責め方も、あの手この手の指遣いだけじゃない。そのうちローターやマッサージ器まで持ち出し、何度も何度もクリ逝きさせる。
「やめっ、やめて、やめて! いやあっ!!」
 クリトリスで絶頂すればするほど、栞さんの声と表情からはまともさが失われていく。少しずつ、少しずつ。

 おまけに、何日か目のアナル調教では、クリ逝きよりもさらに過激なやり方が始まった。
「ほ……本気なの!? やめて、それは本当にやめて!垂れ流しになっちゃう!!」
 栞さんの拒絶も、いつにも増して激しい。それはそうだ。この日、悠真君達が標的にしたのは『尿道』──つまり、おしっこの穴なんだから。
「大丈夫だって、そんなガバガバになるまで拡げないからさ」
「そうそう。いつもみたく気持ちよくさせたげるって!」
 そんな言葉と共に、栞さんの手足が掴み上げられ、ローションに浸した綿棒が栞さんのおしっこの穴に押し当てられる。
「い、や……ぁあ、あ…………!!」
 綿棒が少しずつ進むにつれて、か細い悲鳴が漏れはじめた。栞さんの顔は恐怖に引き攣っている。でも、それに同情する奴はいない。
「すげー、マジでションベンの穴に入ってくぜ」
「思ったよか引っ掛かんねーのな。これピストン余裕じゃね?」
「だからってマンコ感覚ではやんなよ。尿道は傷がつきやすいって書いてあったろ」
 まさに自由研究の対象を観察するように、半笑いでそんな感想を言い合っている。
 その観察は、ずっと、丹念に続けられた。綿棒が何度も何度もおしっこの穴を往復し、その結果、栞さんの肉体に変化が起きるまで。
「あー、なんかちっとションベン漏れてねぇ?」
「ちょっと出てんな。ま、しゃあないでしょ」
「だな。それに見てみろよ、マジでクリ勃ってきてるぜ?」
 この会話──特に最後の一言で、栞さんの眼が見開かれる。
「っ!!」
「あはっ、イイ顔! その顔見ると、自覚あったんでしょ? だよねぇ。尿道の奥って、クリの根っこ刺激するのに最高のスポットらしいからさぁ。こうやって何度も何度も薄皮越しに刺激したら、外から弄るよりずっと効くんだって。今証明されたよね、それが」
 ネットでかき集めたらしい知識をひけらかしながら、連中は尿道を嬲り続ける。栞さんは、悔しそうにその笑い顔を睨みつけていた。相手の言葉を認めたくはない。でも、クリトリスの勃起を見られている以上は否定できない。だからだろう。
「よーし。んじゃそろそろ、コッチ使ってみっか」
 ある程度勃起を確認すると、一旦綿棒が引き抜かれ、入れ替わりに金属性の棒が尿道に宛がわれる。アナルに出し入れされていた凸凹つきの道具を、うんと細くしたようなものだ。
「……んっ、く、ぅ…………!!」
「痛い? 別にそんなでもないでしょ。ツルツルのステンレス製だし、ションベンで滑りも良くなってんだから」
「圧迫感がさっきとダンチなんじゃね? ま、ドヘンタイの先生なら、刺激強い方がいいでしょ」
 そんな下劣な会話の中、金属の棒はゆっくりと前後し続ける。
「やめて、本当にやめて…………!!」
 栞さんは歯を食いしばりながら、何度もそう訴えていた。でも、“観察”は止まない。
「おーっ。デカくなってきたぜ、クリ」
「前立腺弄られて勃起する感じなんかな。なんかスゲー興奮するわ」
 栞さんを取り囲む連中は、ギラついた目でそんな事を語り合っている。

 そうしてじっくりとクリトリスを勃起させきってからは、金属棒を奥まで押し込んだまま、『ギチギチに硬くなった』クリトリスへの刺激がはじまった。勿論、指や舌、ローターやマッサージ器なんかを余さず使って。
「あ、あっ!! だめ、触らないで!だめっ!!」
 栞さんは余裕の欠片もない悲鳴を上げながら、激しく手足をバタつかせた。明らかに、今までのどんなクリトリス責めの時より大きな反応だ。
「うわ、すげぇ暴れる! ポルチオに電気流してた時といい勝負じゃね?」
「まー、豆がこんだけ膨れてんだもんな。俺らで言ったら、フル勃起チンポの先っちょ扱かれてるようなもんじゃね?」
「あー、それキツいわ。先生に扱かせた時たまにやられるけど、スグ出ちゃうんだよな。おーし、効くとなればガンガンやるぞ!」
「そうそう。自由研究なんだから、気になった事は全部やんないと!」
 そんな事を言いながらクリトリスを嬲り続け、栞さんに大口を開けての切ない呻きを上げさせつづける。挙句にはクリトリスを責めたまま、アナル調教まで再開する。
「ああ、いやあっ!!!」
「何がいやーだよ、さっきからケツの穴ヒクヒクさせてたじゃん」
「イイんだろ?ションベンの穴とウンコの穴、両方刺激されんの。ヘンタイだもんなー先生って!」
 悲鳴を上げる栞さんを、すかさず数人が煽る。その煽りを受けて、栞さんの声は少し小さくなった。でも、それも一瞬のこと。完全に声を殺す事ができず、すぐにまた大口を開けての震える喘ぎが漏れはじめる。
 栞さんは、本当にお尻が弱いんだ。それは日を追うごとに、アナル調教が続くほどに、よりはっきりと見て取れるようになる。

 アナル調教が始まってから6日目。この日僕は用事があって、悠真君の部屋を訪れる頃にはすっかり夕方になっていた。そこで、僕は見たんだ。アナルで完璧に感じるようになった、憧れの人の姿を。
 
 部屋で繰り広げられる責めは、前日までの総決算という感じだった。
 ソファの上、マングリ返しの格好で足首を掴まれた栞さんが、天井を向いたアナルにバイブを抜き差しされている。尿道からは細い管が伸びていて、その管の途中は洗濯バサミでしっかりと留められている。その上で、クリトリスにマッサージ器が宛がわれているんだ。
 お尻に出入りしているバイブは、とうとうアソコに使われるものと同じ直径になっていた。そして、ピストン運動の時の音がとにかく酷い。ぶりっ、ぶちゅっ……そんな、ひどく濁った音の繰り返し。
 そんな恥辱を受けながら、栞さんは、明らかに感じていた。
「ああ゛、あ……あ゛っ!! はぁぁっ、ああ゛、う゛……あっ!!」
 数え切れないほど耳にした、絶頂する時の息遣いだ。
「へへへ。あの潔癖な先生が、完璧にケツで感じるようになってんな」
「ああ。クリ逝きさせながらガッツリ仕込んだしな。こーやって肛門コジ開けられんのも、バイブ引きずり出されんのも、全部絶頂のトリガーになってんだろ」
 嘲るような会話が聴こえてくる。認めたくない。あの清楚な栞さんが、汚い方の穴で感じるなんて。でも、視界に映る栞さんの白い足は、マングリ返しのポーズで押さえ込まれたまま、完全に絶頂する時の筋肉の動き方をしていた。生々しい声を聞くまでもなく、脚のうねり方だけで、相当気持ちいいのが見て取れる。
「ほら、“ひり出させて”あげるよ先生!!!」
 バイブを掴む奴がそう言って、思いっきりバイブを押し込んでから、勢いよく引き抜きにかかる。
「あ゛ぐうっ!! ん、ふっんんん゛ん゛っ!!!!」
 栞さんの口から苦しそうな声が漏れた。バイブが完全に抜け、ぽっかりと口を空けた肛門が見える。そしてその穴の中から、いきなり何かが飛び出した。一つだけじゃない。二つも、三つも。
 フローリングに鈍い音を立てて転がるそれは、カラフルなスーパーボールだった。栞さんはあんなものをお尻の中に詰め込まれたまま、バイブ責めを受けてたんだ。
 そして、栞さんのお尻から出てきたのは、スーパーボールだけじゃない。かなり大量の、とろりとしたもの……たぶんローションが、お尻を覆い尽くすようにしてあふれ出している。
「はははっ、先生勢いよくぶち撒けすぎ! シャワー浣腸でキレイにしてなかったら、そこら一面クソまみれだよ?」
 当然、嘲笑と嫌味ったらしい言葉が栞さんに投げかけられた。でも、それに対する栞さんの答えがない。
「はっ、はっ……はあ、あ、はっ…………」
 栞さんは、ひたすらに荒い息を吐き出しながら、目を見開いて自分のあそこの辺りを眺めていた。信じられない、という表情で。
「うっひゃっひゃ、オイオイ先生、なんつー顔してんだよ!?」
「かはははっ、カワイー顔してんなぁオイ!!」
 栞さんの魂が抜けたような表情は、追い込む人間にとって相当に面白いものだったらしい。全員が全員大笑いし、面白そうに責めを再開する。飛び散った何個ものスーパーボールを一つずつ拾っては肛門に入れ直し、最後に哺乳瓶のようなものを突きたてて、大量のローションを腸の中に流し込む。
「うぐうっ……!! ほ、本当に、いい加減にして……。お腹が、緩くなるわ……!!」
 栞さんはそう呟いたけど、聞き入れられるわけもない。
「いいよ、緩くなっても。どんどんひり出しなって、笑ってやるからさ」
「そうそう。ま、仮にも教師気取るんなら、ちょっとは我慢した方がいいと思うけどね」
 そんな事を言いながら、またバイブを遠慮なく抜き差しし、クリトリスを責めはじめる。
「はうう゛っ!! う……はぁ、あ…あ゛、あ゛ぉ……っ」
 苦しそうな喘ぎがまた始まった。しかも今度は、さっきよりも重苦しい感じだ。
「うんうん、イイ声イイ声」
 責めている連中はいよいよ気を良くして、容赦なく手首を動かす。状況はますます悪くなっていく。そして、ある時ついに。
「…………あ、あ゛……はっ、んああお゛お゛っ!!!」
 低い声が、部屋の中に響きわたる。僕は最初それが、栞さんの発した声だと気付けなかった。そのぐらい、低く濁った声だった。
「ひゃ、ひゃははははっ!!! ちょ、先生、何いまの声?『おお゛』っつったよな!?」
「ああ、間違いねぇ。俺も聴いたぜ!」
「ははははっ、気持ち良さそうな声だ! 女っぽさ捨ててるけどなあ!」
 栞さんを囲む連中は、身を捩ってゲラゲラと笑い転げる。その中心で栞さんは、天井を見つめたまま目を見開いていた。その瞳は、何度か力なく瞬き、一筋の涙を流す。
 どうやら僕はまた、彼女が『何か』を失うところを見てしまったらしい。

 栞さんは、散々オモチャで嬲り者にされた後、ぐったりしたままフローリングに倒れこんだ。そんな栞さんの背後に、悠真君が歩み寄る。
「さて。練習問題も終わったんだし、いよいよ実習だよ、先生」
 彼はそう言って、栞さんの尻を右手で掴み、左手で勃起した物を掴んで肛門に宛がう。栞さんは疲れ果てているようだったけど、今からされる事を察したんだろう、必死で身を捩りはじめた。
「えっ……!? い、いやっ、やめて!それだけはダメっ!!!」
 鬼気迫る感じの声。生身でお尻を犯されるというのが、どうしても受け入れられないんだろう。でも、だからこそ、悠真君は強引にお尻の穴に割り入っていく。
「あ……あ、ああぁっ…………!!」
 栞さんの口から漏れる声は悲痛そのものだ。逆に悠真君は薄笑みを浮かべたまま、前へ前へと腰を送り込んでいく。
「よーし、入った。はは、入口すげー締まるな。食い千切られそう」
 すっかりアレが見えなくなったところで、悠真君が笑う。
「さ、動くよ先生」
 そう言葉が続き、やめて、という栞さんの言葉を聞きもせず、ピストン運動が始まる。パンッ、パンッ、という、聞き飽きるほど聞いた音が響きだす。
「へへへ。どうだよ悠真、具合は?」
「ああ、良い。入口の締まりが凄くて、きついゴムでチンコ扱かれてる感じだ。奥の絡みつく感じはマンコの方が上だけど。ああ、あとは先生の反応がいいな。よっぽど後ろでされるのが嫌なのか、太股がすごい緊張しててさ、初めてレイプした時みたいだ!」
 悠真君の感想に、場が沸きあがる。
「オイオイ悠真、言葉に気ィつけろよ。レイプなんてとんでもない。俺ら、先生にセックスの手伝いしてもらってるだけだろ?」
「ああ、そういやそうだな。自由研究だった。そういう意味じゃ、また一個分かった事あんぞ。先生って、『レイプ』って言葉出すと、すげー締まり良くなる」
「ははっ!マジかよ、ドMじゃん!!」
 外に聴こえないか心配になるぐらいの罵倒。その中で栞さんは、床に手をついて必死に歯を食いしばっていた。
「あー、ホント気持ちいい。先生のアナル犯してると思うと、余計興奮するよ。あの色恋沙汰に縁のなさそうな、真面目一辺倒の女がさ、今じゃ後ろの穴で俺の咥えこんでんだもんな!」
 悠真君は嬉しそうにそう言いながら、腰を打ちつける速度を速めていく。
「う、う……先生、先生のアナルに出すぞっ!!」
「はぁっ、はぁっ……や、やめ……てぇっ!!」
 悠真君の宣言と、栞さんの悲鳴。それが交じり合った直後、悠真君の腰が止まる。射精だ。
「う、あああ……ははっ、後ろもいいもんだな」
 悠真君はそう言って、ゆっくりと腰を引く。白いお尻の合間からずるりと勃起したアレが抜き出され、白いものが零れだす。いつもみたいに割れ目からじゃない。少し口を空けた、窄まりから垂れ落ちている。それを見た瞬間、僕は実感してしまった。栞さんの『もう一つの穴』が征服された事を。栞さんのセカンドバージンが、目の前で奪われた事を……。
「おっし、んじゃあ俺らもいくか!!」
「おお、当然だ!!」
「へへ、楽しみだな、ここ最近はアナル開発ばっかで、クチで抜かせるぐらいしかしてなかったからよ!」
 悠真君に続き、アレをいきり立たせた連中が次々と栞さんに群がっていく。

 アナルレイプが始まった。
「うは、スゲー締め付け。チンコがもぎ取られそうだ!!」
「マンコも口も良かったけど、ケツもいいな。先生の穴は全部最高だぜ!!」
「ああ俺、先生のケツ犯してんだよな。はは、マジで興奮するわ!!」
「あのいかにも『清楚』って感じの先生が、アナルまで解禁とはなー。来るトコまで来た感じするよな!」
 悦びと嘲りの言葉が絶え間なく飛び交う。その両方が、栞さんの表情を歪ませた。
「はっ、はっ……お願い、そっちは嫌!抜いて……ぬいて、ぇ……!!」
 荒い呼吸の合間に、栞さんは何度もそう哀願していた。でもそれすら、犯す連中の笑いの種になる。
「んだよ先生、えらく可愛い声出して。家庭教師してる時のクールさはどこ行った?」
 そんな風に茶化されれば、栞さんは声を殺すしかない。
 初めの何人かは、栞さんに這う格好を取らせたまま、背後から犬のように覆い被さって犯していた。でもそのうち、栞さん自身にもアナルを犯されている所を見せるために、マングリ返しの格好で抜き差しする奴も出てくる。それも、わざと急な角度をつけ、お尻から溢れる精子なんかが栞さんの顔に掛かるようにして、だ。
「ほら、見えるだろ先生。先生のケツマンコに、俺のが出たり入ったりしてんのがよ。どんな気分だ?小学生のガキにケツ掘られるってのは?」
 当然、そんな言葉責めが軽々しく投げかけられ、栞さんの表情を歪ませる。
「もっと良く見えるようにしてやるよ、先生!」
 その言葉と共に、また大きく犯し方が変わった。下からお尻の穴を突き上げる形で、大きく脚を開かせての挿入。大きな姿見の真正面でそれをやれば、繋がっているところが全部見えてしまう。
「いや……ぁ……っ!!」
 栞さんは目を固く瞑り、顔を背けた。でもすぐに別の奴が、栞さんの目を開けさせ、顔を正面に向かせなおす。
「ほら先生、ちゃんと見ないと!」
 そう言って顔を固定される栞さんの表情は、複雑だった。睨んではいるけど、その眼光が弱々しい。
「コッチが寂しそうだな、刺激してやるか!」
 一人がそう言ってマッサージ器のスイッチを入れ、栞さんの割れ目の上に宛がった。
「はぐっ!」
「はは、どうだ? ケツ犯されながらクリ逝きする気分は」
 乳房を揺らして反応する栞さんを、半笑いの目が見下ろす。
「すげー、どんどんマン汁溢れてらぁ」
「おおお、ケツん中もすげぇぜ、グニグニ動きやがる! これ、腰振んなくてもイケるわ!」
 栞さんの前にいる奴からも、中に入っている奴からも興奮気味の声が漏れ、ますます栞さんの表情が歪む。そういう栞さんの顔に、周りで見ている連中もそそられはじめたらしい。
「……あー、もう我慢できねぇ! おい、前にも入れさせろ!」
 マッサージ器でクリトリスを責めていた数人を押しのけるようにして、一人が栞さんの前に立つ。そして勃起しきった物を握りしめ、栞さんに覆い被さっていく。
「だ、駄目、両方なんて!!」
「うるさいよ。べつに先生の許可なんていらないから」
 栞さんが真剣な表情で拒否しても、性欲に煽られた獣が止まるわけがない。奴は何の躊躇いもなく割れ目にアレを押し付け、ズブズブと中に沈めていく。
「あああ……!!!」
「はは、すげ。ケツにも入ってるせいか、いつもとマンコの形違うわ。なんか新鮮」
「うお……ケツの方も、急に締まって来たぜ!?」
 栞さんと前後の2人が、揃って顔を歪める。栞さんは苦しそうに、他の2人は気持ち良さそうに。
 繋がった3つの身体が揺れるたび、ギシギシとフローリングが軋む。揺れる乳房を、後ろの奴が手を回して鷲掴みにする。栞さんの姿が、どんどん見えなくなる。
「あはははっ、スゲー。俺のチンポ、ウンコだと思われてんのかな。めっちゃ気張ってひり出される感じなんだけど!」
「ははっ、そりゃケツだからな。マンコの方はむしろ、グイグイ締め上げてくるぜ。いつも通り、ザーメン吸い出す動きだ。なあ先生、俺の精子が欲しくなってきたんだよな? ずっとケツ弄られるばっかで、コッチはお預けだったもんな? ああすげぇ、出すぞ、もう出すぞ中にッ!!!」
 思いの丈をぶつけるように腰を動かした挙句、前から入れている奴が絶頂に入る。
「だ、だめ、中はやめてっ!!」
 当然、栞さんは拒絶する。でも、前後から挟まれた状態では逃げようもない。できる事といえばただ1つ、フローリングを足の指で掴んだまま、精子をあそこの深い部分で受け止めることだけだ。
「ああああ、だめ、だめ……!!」
「うははっ、気持ちイイーーっ!!マンコの奥ヒックヒクしてる!!」
「ああ、ケツもだ。こんなグニグニ纏わりつかれたら……搾り、取られるっ!!」
 前の奴が射精している最中、後ろの奴も刺激に負けて身体を強張らせる。前後からの同時射精。
「ああ、ああぁぁ…………っ!!!」
 栞さんの指が、怯えるように犯している奴の肩を掴む。

 その後も、入れ替わり立ち代わり、色んな奴が前後から栞さんを犯し続けた。体格差があるから、パッと見は栞さんが後ろの奴に深く腰掛け、そこに前の奴が抱きついているようだ。あくまで栞さんが中心のセックスに見える。でも実際には、栞さんが一方的に追い詰められているだけだ。
「はははっ、気持ちイイーーっ!! ケツん中が動きまくってて、腸でフェラされてるみてぇ!!」
「前も最高だ、めっちゃ感じてる動きしてる。しかし俺らガキのチンポでも、2穴同時に入れっと結構ゴリゴリ当たんのな。AVとか、あんなデカチンでよくやるよ」
 前後から犯す2人は、腰を突き上げつつそんな台詞を吐く。そして周りの連中も、ただ黙って見ているわけじゃない。
「ほら、しっかりしゃぶってよ。そんなんじゃいつまで経ってもイケないって!」
 ある奴は、栞さんの顔を横向けさせてアレを咥えさせ、
「じゃあ、俺は手でしてもらおっかな。栞さんの手って、スベスベで柔らかくって興奮すんだよなー」
 ある奴は、栞さんの手を掴んでアレを扱かせ、
「ははっ、乳首超勃ってきてんじゃん。二穴責めで興奮してんのか?」
 またある奴は、しこり勃った乳首を指で扱いた。
 そのすべての責めが、栞さんを追い詰めていく。30分もオモチャにされた頃には、栞さんは目に見えて疲れ果てていた。
「はぁ、はぁ、はあ、あはああっ…………」
 前後から突かれ、乳房を揉みしだかれたまま、荒い息を繰り返す。目に力はなく、熱に浮かされたようにぼうっとしている。腕だって、掴まれたままだらりと垂れ下がるまま。上半身には、一切の力が残っていないように見える。
 でも、下半身は違った。大股を開いた足は筋張りながら何度も跳ねる。受ける印象は、つらさよりも、むしろその逆。
「ははっ、先生。とうとう自分で腰振るようになっちゃったな」
 後ろから犯す奴は、そう言って嘲笑う。
「イク時はちゃんとイクって言わないと……いや、違うか。もうちょっとイカないように我慢しなよ先生。俺らがいいって言ってからイクんだ。いいな?」
 あそこに入れている奴は、ニヤけ顔でそんな提案まで始める。
「あっ、ひ……あっ!! そ、そん……な、あ…………」
 栞さんは顔を歪め、苦しそうに呻いていた。イクのを禁止されて苦しんでいる。あの栞さんが。犯されて、犯しまくられて、『イカされるのが屈辱』なんて段階をとっくに超えてるんだ。
「はは、震えがひどくなったな。でも、イクなよ? どんなにイキたくても我慢するんだ。俺らの許しがないとイケない奴隷だってことを、脳ミソに叩き込んどけ!!」
 犯している奴は、栞さんを馬鹿にしきっている。自分より遥かに年上のいいオトナを、あの賢くて品のある彼女を、奴隷扱いだなんて。
 でも、事実として栞さんは奴隷同然だ。
「ほらっ、まだだ。まだイクなよ!?」
「そうだ、俺らがザーメンぶちまけるのと同時にだ。まだだ、まだだぞ……!」
 前後の奴が腰を振りたくり、穴の奥底に欲望をぶつけていく。
「い、いやっ……激しいっ、あ、ひあっ!!」
 栞さんは固く目を瞑り、されるがままに身を揺らす。それが数分続いた後。
「く、うっ……俺の方は、もう、そろそろだ!!」
「は、はぁっ……お、俺もだ。よし、イっていいぞ。俺らのザーメン、ケツとマンコで味わいながら、その熱さで逝けっ!!!」
 オス2人が頬を緩め、快楽に浸りはじめた。その瞬間ようやく、栞さんも絶頂を許可される。それは彼女にとって、どれだけ屈辱的なことだろう。
 でも。
「はぁっ、あっ……ん゛ああ゛あぁ゛っ………い、イク……………!!」
 背を伸ばし、天を仰ぐようにして絶頂する栞さんは、今までのどの瞬間よりも気持ちが良さそうだった。うっすらと開けた瞳に、知性のようなものは感じられない。
「くくっ、馬鹿みたいな顔だな先生。駅前でゲラゲラ笑ってる、頭カラッポな女にソックリだ」
 悠真君がそう言って笑い、栞さんの顎をつまみ上げた。
「い、いや……見ないで…………」
 栞さんは、誰より憎いはずの悠真君を睨めない。ぼんやりとした『抜けた』表情のまま、弱々しく恥らうばかりだった。


       ※        ※        ※


 それからは、いつ悠真君の家に行っても、栞さんが大勢にオモチャにされている光景を目の当たりにするようになった。
「ああ、それはダメっ!! ダメダメ、ダメっ!!!」
 ベッドに腰掛ける格好で、背後からアナルを犯されつつ、指でクリトリスを弄くられる。栞さんは、髪を振り乱して叫んでいた。
「ははっ。ホントにこれがお気に入りなんだな。クリ弄りながら、ケツ突かれまくんのがさあ!!」
 お尻を犯す奴は、先生が激しい反応を見せれば見せるほど調子に乗って、さらに激しく腰を振る。そしてその最中、戸口に立つ僕の姿に気がついた。
「へへ……愛しの“たっくん”が来たぜ。ほら、教えてやんなよ。今俺にハメられて、自分がどうなってんのかさぁ!!」
 そう言いながら、わざわざ僕の方に向き直る。
「あっ……!?」
 栞さんは、そこでようやく僕の存在を認識したらしく、手足を強張らせながら口を噤んだ。
「へへへ、さすが必死だな先生。でも、今の今まで甘い声でアンアン喘いでたくせして、いつまで我慢できるかなあ?」
 その言葉と共に、ギシギシという音が激しくなる。
「ほら、よく見せてやろうよ!」
 部屋にいる他の人間も、栞さんの足首を掴んで結合部を見せようとする。でも、僕にはとっくに全部見えていた。歪んだ形のまま、パクパクと開閉するあそこも。そこから溢れている愛液も。その割れ目よりもっと下、間違いなくお尻の穴の部分に、茶色いアレが出入りしているのも。
「ほら先生、気持ちイイんだろ。さっきみたく喘いでみろよ!」
「う、うっ……! うんっ、ん、ふううっ……んっ……!!」
 栞さんは、下唇を前歯で押さえて必死に声を殺していた。でも、それがもっていたのもほんの数分。
「あっ、んっ!あっあっあっあっ……はぁっ、あ……いやっ、あっ!!」
 気付くと栞さんの口からは、また喘ぎ声が漏れていた。掴みあげられた足も、本当に気持ち良さそうに蠢いていた。そして。
「ああ、いくぞ、いくぞ先生っ、いくぞおおっ!!!」
「あ、あ……だめぇ、だめ……ん、くううっ……んんんっ!!!」
 後ろの奴が絶頂し、それを受けた栞さんも、申し訳程度の拒絶の後に天井を仰ぐ。眉を顰め、唇を噛みしめ……それが栞さんの絶頂顔だなんてことは、とっくにわかってしまっている。何度も何度も、見せ付けられてきてるんだから。
「ああーー、気ん持ちいいーー! やっぱ愛する“たっくん”が見てる時は、反応が違うわ。“たっくん”、ナイスギャラリー!!」
 犯していた奴は、栞さんのお尻からアレを抜きつつ、俺に親指を立ててみせる。ぽっかりと口を空けた尻穴からは、影になっていてもわかるぐらい白いものが流れ落ちていく。
「う……あ…………」
 項垂れながら、疲れたような声を漏らす栞さん。でも、彼女の周りにはバキバキに勃起させたものを扱きあげる連中が列を作っている。まだまだ、解放される感じじゃない。
「ほら先生、今度は俺だ!」
 一人が栞さんを床に引き摺り下ろし、這う格好を取らせた。そして今の今まで犯されていた尻穴に、また赤黒いものを突き入れていく。
「ううあっ……!!」
「へへへ、イイ声イイ声。しかもキチーな、すんげぇ締め付けだ」
「ああ。やたら嫌がるとは思ってたけど、まさかこんなにケツが弱いとはなぁ」
「抜き穴としちゃあ、奥までねっとり絡み付いてくるマンコの方がいいけど、ケツだと反応がいいんだよな。可愛いし色っぽいし」
「それ。育ちの良さが出てるって感じだよな。昭和の女感あるっつーか」
「な。昔の小説にやたら浣腸とか出てくる理由、先生見てやっと理解したわ。品のある女は、ハズカシーとこ犯すのが一番だってよ!!」
 部屋にたむろする連中は、栞さんを見下ろしながら語り、頷きあう。僕には理解できないし、したくもない領域の話だ。こんな奴らに栞さんを独占されているのは屈辱でしかない。僕なら、栞さんを普通に愛してあげるのに。恥ずかしがったり泣かせたりなんかさせずに、普通に。
 でも、栞さんに視線を向けると、何となく連中の言っている事が理解できてしまう。
「んっ、んん───っあ!」
 お尻だけを突き上げる格好で犯される栞さんは、恥ずかしそうに声を漏らしながら、色白な細い身体をゆらゆらと揺らしていた。『艶かしい』という言葉を体現するようなその動きは、確かに昭和の女性的な魅力がある。男として、本能的に『そそられてしまう』。
「しゃぶってよ。その可愛いお口でさぁ」
 僕と同じくそそられた人間が、栞さんの前に立ってアレを突き出す。栞さんは一瞬だけ困った顔をして、また一瞬だけ僕の方に視線を向けてから、
「先生、はやく」
 その催促の声で口を開く。
「あああぁ……」
 しゃぶられた奴の声を聞くだけで、どんなに気持ちいのかが分かってしまう。
「んむっ、んっ、んっお……!んぉっう、ぶっ!んっ!!」
 前後から犯される栞さんの声は低い。何度も噎せるような声が混じっているし、鼻息だって荒い。でも、気持ちが良さそうだ。
「んんっ!ん……っは、ぁああ……っ」
 たっぷりの精液を鼻先に浴びせられながら、栞さんは久しぶりに空気を吸う。でも、休む暇なんてない。
「──ぅあっ!?」
 後ろから犯す奴が栞さんの手首を取り、反り返った自分の腹に栞さんを乗せるような格好で犯し始める。その体勢だと当然、『前』はがら空きだ。
「へへ。んじゃコッチも……」
 当然、別の一人がそのスペースを埋める。
「いひっ!!ひぁっ、あ……あ!!」
 栞さんは仰け反ったまま、目を剥いて悲鳴を漏らした。なんだかすごく幼い……僕らより、さらに4つぐらい下の子の出す声みたいだ。
「へへへ、いい締まりだ!!」
 アソコに挿れた奴が満足そうな笑みを浮かべる。
「いや、ぁっ!!」
 栞さんは首を振って否定の言葉を吐く。
「またまたー、サンドイッチで犯されんの好きなクセに。あと、チンカスだらけのクッセェチンポしゃぶんのもな!」
 また別の一人がそう言って、栞さんの口にアレを捻じ込んだ。仰け反った顔に腰を押し付ける形だ。
 そして、3穴の蹂躙が始まる。前後の穴では、カリ首まで見えそうなぐらい大きく引いて、根元まで押し込む大きなストロークで抜き差しが繰り返されていた。口は口で、後頭部を押さえつけて深く咥えさせている。
 ぶちゅう、ぶちゅう、という水音に、う、う、という呻きが交じる。栞さんの脚は、前から犯す奴の腰を挟むような形でブラブラしていた。でもその足に、段々力が入りはじめる。脛が浮き出て、足指がピンと伸びる。
「んんっ、んっ!んぉおおうっ!!」
 切羽詰った感じの呻きが漏れた、直後。栞さんの細い腕が、口に咥えさせている奴の腰を突き放す。
「ぶはっ!!や、やめて、こんな、同時はやめてえっ!!」
 叫びも悲痛だ。明らかに余裕がない。奥手な栞さんのことだ。3穴をメチャクチャにされるのは、肉体的にも精神的にも堪らないんだろう。でも、そうやって追い詰められた栞さんを、ケダモノ連中がはいそうですかと解放するはずもない。
「やめるわけないじゃん、チョー気持ちいいのに。ほら、気入れてしゃぶってよ!」
 そう言って栞さんの顔を掴み、また強引に咥えさせる。
「ダメダメ言うってことは、3穴責めが相当気に入ってるみたいだな」
「ああ。先生って、ド嵌まりする事ほど嫌がるもんな!!」
 前後の穴に入れている奴も、さらに激しく腰を振りはじめる。その動きの行き着く先は、射精だ。
「よーしお前ら、同じタイミングでイくぞ。先生の3穴に同時にぶちまけてやるんだ。なあ先生、楽しみだろ!?」
 お尻に入れている奴が、笑みを浮かべてそう言う。
「オッケー、面白そうだ!」
「だな、俺ならいつでもイケんぜ!!」
 他の2人も同調して、3人は目で合図しあう。仰け反ったまましゃぶらされている栞さんは、その合図を見ることさえできない。そうして栞さんにとっては完全に不意打ちになるタイミングで、3人は射精を迎えた。
「んぶっ!? んんおっ、んぉおおおっ!!!」
 口に物を含んだまま、栞さんが悲鳴を上げた。
 口と、あそこと、お尻の中。その体内3箇所に、好きでもない子供の精液を流し込まれる──それは、どんな心地なんだろう。想像してみたけど、とてもイメージが湧かない。ただ、少なくとも、死にたいぐらい嫌なことに違いないんだ。僕の知っている、あの高潔な栞さんなら。
「へへへ、目ェ剥いてやがる。んなに3穴出しが良かったのか?」
「まーだマンコがヒクついてるよ。これから毎日、何十回も何百回もやってやるよ」
「そうそう。自分からオネダリするようになるまでね」
 出すものを出した3人は、白い飛沫を撒き散らしながらアレを抜き出す。
「えあっ……」
 栞さんは口から精液を零しつつ、一瞬項垂れた。
「よーし、次だ次!」
「じゃんじゃんヤッてやろうぜ。3穴レイプが病みつきになるまでよ!!」
 サッカーの試合で聞くような、熱に満ちた声が上がる。
「いやっあ、やめてえ!!」
 咄嗟に身を引いて逃げようとする栞さんだけど、子供とはいえ何匹もの欲望に満ちた猿に絡みつかれれば、力では敵わない。あっという間にフローリングの上で組み伏せられ、限界まで勃起したものを『性器』に捻じ込まれる。
 ひどい絵面だ。
 仰向けになった栞さんの上に、3人が乗っている。一人は栞さんの頭上に腰を下ろしたまま、万歳をするような形で両手首を押さえ込み、腰を前後させて喉を犯す。
「ぐおっ、おぐうっ!!んぐぅおおっ、オ゛ッお、んむぅおおお゛ーーーっ!!」
 完全に晒された白い喉からは、初めて聴くような低い呻きが漏れていた。でもそれだって、喉奥を犯すポーズのえぐさを見れば納得するしかない。
 それに、栞さんを苦しめるのは喉への侵入ばかりでもなかった。Mの字に大きく開かされた股座にも、2人が圧し掛かっている。一人は腹から乳房にかけて覆い被さるようにしてアソコを蹂躙し、もう一人はそれに背を向ける形で、中腰気味にアナルを突いている。子供だからできる密集体位。それはまるで、白い木の幹に、蜜を啜るべく3匹の蟲が群がっているようだった。
 直視できないレベルの凌辱。
「んぐっ、ごおおっ!!ふむ゛ぉおお゛あおおえっ!!」
「はははっ、ノド気持ちいいーー! 吐きそうな時の動きが最っ高!!」
「ほらぁ先生、もっとマンコ締めなよ。まだまだ後つかえてんだからさあ!!」
「ケツでも気張れよ、もともと入口しか締まんねーんだからさ。とっととイカせねーと、擦り切れるまで犯すぞ」
 苦しむ栞さんに比べて、犯す方は楽しそうだ。いちいち言葉責めを織り交ぜつつ、征服の快感に浸っている。
 そしてそれは、ずっと続いた。誰かが射精すれば、そのポジションに別の誰かが入る。そうして、途切れる事もなく凌辱が続くんだ。『無間地獄』というものがあると、いつか栞さんに教えてもらったことがあるけど、まさにそんな感じがする。でも、大罪人を裁くためのその地獄に堕ちたのは、何の咎も無い栞さんだ。そしてその栞さんを獄卒気取りで追い込んでいるのは、まさに地獄へ堕ちるべき悪鬼共。
 これが、現実なのか。こんな不条理が。
「そろそろ、限界だな」
 ぼそりとそう呟いたのは、この地獄を支配する天使のような悪魔だ。そして、彼の発言は正しかった。
「んおお゛お、オ゛ッ!!!」
 それまで延々と悶え苦しんでいた栞さんが、ある瞬間、顔面に跨る奴の腰を持ち上げた。そして、目をかっと見開いて悠真君を見上げる。凄まじい形相だ。とてもクールな美人顔とは結びつかない。とうとう堪忍袋の緒が切れて、怒りをぶつけるんだろうか。僕はそう思った。でも、違った。
「もおお゛お゛お゛いやああ゛あ゛あ゛あ゛ア゛ーーーーーっっ!!!」
 栞さんの喉から迸ったのは、割れんばかりの絶叫だった。
「おねがい、こんなのダメ!!か、解放して!もう許してっ!!!」
 栞さんは、とうとう音を上げた。集団のボスに媚びる形で。
「ははは、鳴き入れんなよ先生!!」
「あの映像のこと忘れたの? 頑張んないと!!」
 当然、部屋の連中はここぞとばかりに茶化す。でも栞さんの辛そうな表情は、すでに歪みきっていて変わらない。
 栞さんだって、セックス映像の件を忘れていないはずだ。でも、その事を踏まえても耐え切れない状態なんだろう。僕は、それでもいい。あれが流出したなら、僕も栞さんも不幸になる可能性があるけど、それは見守ることしかできない僕への罰だ。少なくとも、栞さんの心が壊れるよりはいい。
 ただ、悠真君がそんな要求を受け入れるはずが…………

「いいよ。」

 悠真君は、あっさりとそう言い放った。
「…………えっ!?」
 僕も、栞さんも、そして場の全員も、同じ声を上げる。誰もが想像しなかった言葉だったから。
「お、おい、本気かよ悠真!?」
「冗談でしょ!?」
 すぐに何人かがそう食ってかかる。すると悠真君は、笑った。僕らが覚悟していたより、ずっとタチの悪い……『天使』の笑顔で。
「別にいいよ、先生がどうしてもイヤだっていうなら。ただ、俺達もう女の味を知っちゃったからさ。先生がいなくなったって、抑えは利かないと思う。たぶん、ムラムラしたら……適当な相手を襲っちゃうんだろうな。たとえば、クラスの女とか」
「ッ!?」
 悠真君の発言に、栞さんの顔が限界以上に歪む。僕も背筋が凍った。
 まさに悪魔だ。悠真君は今、あどけない表情で、栞さんに二本目の楔を打ち込んだんだ。もし自分達の相手をしないなら、別の誰かが犠牲になると。それも、その相手はまだ小さな子供かもしれないと。
 この楔は深い。仮にもこの場にいる僕と違って、新しい犠牲者はこの乱交とは無関係だ。そんな可能性を仄めかされたら、栞さんは、今度こそ逃げようがない。
「な、何を考えて……!!」
「もちろん、先生がいなくなったらの仮定だよ。俺らみんな、先生の身体に夢中だからさ。先生さえいてくれたら、それで満足できるから」
 輝かんばかりの笑顔で、悪魔じみた言葉を吐く悠真君。
「ひひひ、そうそう。先生さえヤラせてくれりゃ、それでいいぜ」
「先生ってスタイルいいし、オッパイでかいし、美人だし、オンナとして最高だもんな。このカラダ好きにできんなら、とりま不満ねぇわ」
 他の連中も、次々と悠真君に同調していく。岡村や三橋もその中にいる。
 連中だって、普段は子供らしい眼をしてるんだ。でも今は、瞳に澄んだ部分が残っていない。だからこそ、その言葉には説得力がある。連中は栞さんという性欲の捌け口を失えば、きっと別の誰かを犠牲にする。たぶん、攫いやすいクラスメイト──それこそ、悠真君を王子様として慕う子あたりから。


「すげーな。もう前のザーメン出さねぇと、新しいの入んねーぞ」
 フローリングに仰向けで横たわる栞さん。そのアソコの精液を指で掻き出しながら、岡村が苦笑いを浮かべる。
 二つ楔を打たれた栞さんは、もうこの家から逃げることはできなくなった。逃げられないまま、繰り返し繰り返し繰り返し、3つの穴を『使われ』続けた。
 今も閉じない3穴からは、次々と精液があふれ出てくる。栞さんの顔は、目を薄く開いたまま失神しているような感じだ。全身は汗と精液とローションに塗れ、あらゆるところに縮れた黒い毛が絡みついている。
「ここまで汚れてんだ、いっぺんフロで洗おうぜ!」
 一人がそう提案して、栞さんはバスルームへと連れ込まれる。でも、そこでだって湯船に浸かって休めるわけじゃない。
『あああ、いいよ先生。マンコがすげー熱くなってる。先生もいいんだよな、濡れまくりだもんな? もうヌルヌルで、ボディソープだかマン汁だかわかんねーよ』
 そんな声と共に、肉のぶつかる音が反響しながら聴こえてくる。バスルームのガラス越しには、壁に手をついて膝を曲げたスレンダーな女性と、それに後ろから抱きすがって腰を振る子供のシルエットが見てとれる。
 
 風呂から上がれば、また家中のあちこちでセックス漬けだ。
 ソファに大股を開いて座ったまま、一人にキスをせがまれ、横から乳首を弄られ、せっかく綺麗になったアソコを舌で嘗め回され。あるいは両乳首を吸われ、あるいは数位八方から突き出されたアレを順番に舐めしゃぶっては口に出され。
 そんな事をされながらも、もはや栞さんに抗う気力はないようだった。
「はえっ、あう、お……! あえっ、れあっ……うむっ、う゛……!!」
 呻き声を漏らしながら、されるがままになっている。
「えらいね先生、ちゃんと耐えて。先生がそうやって犠牲になってる限り、あのビデオは出回らないし、どこかの女の子がイタズラされる事もない。先生は、色んな子供の将来を守ってるんだよ」
 悠真君は、犯され続ける栞さんに何度もそう言って聞かせていた。まだ子供の僕にも解るぐらい、あからさまな洗脳だ。でも悠真君の語り口調には、『そうなのかも』と相手に思わせるような魔力がある。それに普段ならいざ知らず、今の余裕のない栞さんの頭になら、見え透いた洗脳だってすんなりと染みこんでしまいかねない。


       ※        ※        ※


 もう栞さんには、選択肢なんてない。ただ悪魔じみた子供の言いなりになり、朝から晩まで与えられる快楽に溺れていく。ポルチオが開発されたせいか、栞さんの性感はすっかり研ぎ澄まされてしまった。
 そうして変わっていく栞さんを、悪童共はますます図に乗って弄ぶ。

「はぁー……っはあーーっ…………はぁあ…………っ!!」
 小さな口に2本のペニスを咥えさせられ、両手でも一本ずつ扱かされ、三橋に跨る形で突かれながら、栞さんは荒い呼吸を繰り返す。時々は瞳に力が戻ることもあるけど、喉奥やあそこを突かれるうちに、だんだんと焦点が乱れていく。
 それがすっかり『普通のこと』になってしまっているから、もう周りの連中が茶化しすらしない。栞さんへの罵詈雑言は嫌いだけど、まさかそれを懐かしむ日が来るなんて。
「んん……んんんあっ!」
 2本をしゃぶっている口から、甘い声が漏れた。同時に、両膝がもぞもぞと動きはじめる。仰向けになった三橋の腰の上で、うねるように。それがまたショックだ。
 セックスの虜になりかけていても、栞さんは栞さんらしさを残していた。自分から大股を開くことはなくて、床に座るときは正座、人に跨る時は体育座りに近い格好を取る。今だってそうだ。だからこそ、その体育座りの形のまま、気持ち良さそうに動く足は直視がつらい。『あの栞さん』が感じているんだと、嫌でも理解させられるから。
「へへへ。先生、俺が突くペースより早く動かないでよ。いくら、蕩けたポルチオぐちゅぐちゅにされて堪んないからってさあ」
 三橋が半笑いの声を出す。三橋は色白なインテリだし、声が高くて、気も弱い。2年の頃は、女の子みたいだといってイジメられていた時期もあるぐらいだ。なのに、その奴でさえ今は、すっかり凌辱者の姿が板についていた。態度が堂々としていて、腰を突き上げだってAVの男優みたいだ。毎日セックスっていうハードな運動を続けているせいか、ガタイさえ良くなってきている。
 勿論、三橋だけじゃない。岡村も、他のクラスメイトも、別人みたいに雰囲気が変わっていた。
「よーし。今度もまた、3人で同時に出すか!」
「ああ。俺ぁいつでもイケるぜ!」
「僕も問題ないよ。さっきから限界ギリギリで射精溜めてるとこだからさ」
 口とあそこを犯す3人が示し合わせ、手でタイミングを調整をしつつ、同時に発射する。
「ぶふっ!!ごふっ、げうっ……!!」
 口に射精したのは、栞さんの噎せる様子と、零れる白い液体で。膣に射精したのは、強張る太股の様子で。はっきりと見て取ることができた。
「ああああっ……あ」
 ペニスが抜かれた後も、栞さんの口は閉じない。精液の絡みついた舌をはみ出させつつ、どこかうら悲しいような表情を見せている。
「なんだよ先生、さびしそーなカオしてさぁ?」
 一人が笑うと、栞さんの視線が斜め上に動いた。
「はぁっ……。おねが…い…………いかせて」
 パクパクと開く口から漏れるのは、哀願だ。当然、追い詰める連中はニヤケ顔になる。
「だめだめ。先生もうすっかりポルチオ中毒んなってっから、何回か中イキするとヘバっちゃうだろ。ああなると、何人もで輪姦(マワ)せないじゃん」
「そうそう、簡単にはイカせないぜ」
 そう言いながら、また別の連中が栞さんの穴を埋めにかかった。一人が乳房を鷲掴みにしつつアナルに挿入し、一人がその正面からアソコを貫き、横からはまた一人がアレをしゃぶらせる。
「うははっ、乳首かってぇ!もうニップルポンプの出番ねぇなこれ!?」
「そういや、ハメられてる間ずーっと乳首勃起してっしな」
「アホかお前ら。ハメられる前の、服脱いだ時点でもう勃ってんだろうが」
「そうだっけ? つかお前、未だにハダカで興奮できるとかすげーな。俺いい加減見飽きたし、脱いでから前戯終わるぐらいまではクエ消化してるわ」
「ま、俺も凝視まではしてねーけどな。つかこのカラダに目ぇ慣れすぎて、もう街歩いてる女じゃ勃起しねぇのがビビるわ」
「ははっ、お前がそれとかヤベーな。ま実際、女としちゃ最高クラスだもんなー先生って。おっぱいもケツもでけーし、カオ可愛いし」
「その最高の女も、すっかりチンポの虜だけどな。前後からハメられて、自分からクイクイ腰動かしてんぜ。どうよショタコン先生、バキバキに固ぇガキチンポは気持ちいいか?」
 栞さんに群がる数人は、好き放題に言いながら腰を前後させる。どいつも離れてみているぶんには、小学生らしい貧相な体だ。犯されている栞さんの方が、ずっと体格がしっかりしている。なのに、生物としての弱々しいのは明らかに栞さんの方だ。まるで、ハイエナに腹を食い破られるキリンみたいに。
「先生のケツも、すっかり使えるようになったな。最初の頃はたまに痛いぐらいキツかったのに」
「しゃぶんのも上手くなったぜ。スジから先っちょまで、ベロンベロン舐め回してくっからな。コレ味わったら、中学でオンナ作っても満足できねーかも」
「ほらほら先生、休んでる暇ねーぞ。マンコでもしゃぶってくんねーと!」
 ハイエナ連中は、栞さんの3つの性器を褒め称えながら、同時に侮辱する。
「はぁっ、あぐっ……あぐ、あっぐうううっ!!!」
 その中で栞さんは、上目遣いのまま呻きを上げつづけていた。イカせてくれ、楽にさせてくれ、と目で訴えているのが僕にさえ解る。でもそうして乞えば乞うほど、性格の捻じ曲がった子供はイタズラ心を芽生えさせるものだ。
「まだだ、まだイクなよ先生。今イッたらお仕置きだからな!!」
「そうだ、イクな! お前みたいなオンナ、もう年長でもなんでもねぇんだ。お前はな、俺らに許してもらわねぇと絶頂もできねぇ奴隷なんだよ。どんなにイキたくても我慢しろよ、このスケベ奴隷がっ!!」
 図に乗った人間というのは恐ろしい。自分より遥かに年上……担任の先生と変わらない歳の女性を奴隷扱いし、どやしつける。
「あぶっ、んっ、んあ゛っ!! あごおぉっ、おおっ、もごっぉおお゛お゛っ!!!」
 栞さんはアレを咥えさせられたまま、全身を細かに震わせていた。何の震えなのか解らない。でもそれは、痛みや便意を耐える時の動きによく似ている。
「まだだ、まだっ…………ああああ、おーっし、イクぞ、俺らはなあ!!」
「お前はまだだ、まだイクなよ! クチとマンコとケツで、たっぷり俺らのザーメン味わっとけ!!!」
 犯している連中は、この上なく気持ち良さそうに射精に入る。尻肉を引き締め、足を強張らせて。
「る゛んんんん゛っっ!!!!」
 栞さんは口を開いたまま、声にもならない声を上げていた。体内射精のつらさか、それとも絶頂を禁じられた苦しみなのか。その悶えようを数秒間も堪能してから、3人のうちの一人が目を細める。
「おーし。イっていいぞ、ブタッ!!!」
 そう言って、平手で栞さんの尻を打ち据える。その瞬間、栞さんは目を見開いた。口から精液まみれのアレを吐き出し、一瞬強く口を噤む。顎に皺ができるほどのその力みが、たぶん、最後の最後まで残った栞さんなりの『意地』なんだ。
 そして僕は、それが砕ける瞬間を目にした。閉じあわされた栞さんの唇が上下に離れていく様は、スローモーションみたいにゆっくりに見えた。
「ん゛わあああ゛あ゛あ゛ーーーーーーっ!!!!!!」
 僕だってある程度の覚悟はしていたけど、栞さんの喉から漏れ出した声は、想像以上にみっともないものだった。酔いどれた中年男が、道端で吐瀉物を撒き散らすような……以前の僕と栞さんなら、眉を顰めて視線を外しただろう、日常の外の汚らわしさ。それがあの栞さんから発されている。
「はははははっ、すげぇ声だな!!」
「ひええ、ヤベーなこの女、マジで中出しでイキまくってやがる!」
「最初の頃は、たまに萎えるぐらいの潔癖だったのにね。人って変わんだなあ」
 栞さんから穢れ声を絞りだした連中は、まるで他人事のように笑っていた。いつもなら煩く鼓膜を震わせるその笑い声は、今日に限って、湿った僕の耳にこびりついた。


       ※        ※        ※


 一体何をしているのか。悠真君の母親は、夏休みの間ほとんど家にいなかった。習い事の生徒が集中して集まれるのが休みの間だけだから、ほとんど合宿に近い状態らしい。
 そのせいで、栞さんは朝から晩まで犯され続けていた。僕は普通の家に生まれたから、日が暮れる頃には家に帰らないとお母さんに怒られる。でも栞さんをヒトでなくすクズ共は、首に鎖を付けられていないのか、窓の外が暗くなっても帰らない。僕がそっとドアを開けて出て行った後も、ぐちゃぐちゃ、パンパンと音を響かせつづけている。
 僕には、栞さんが壊れていくのが信じられなかった。栞さんはしっかりしているお姉さんだったから。ダメな事はダメとはっきり言い、仲の良い僕がいくらごねたって、頑として譲らなかった。間違いなく精神は強かった。そんな栞さんが、僕と歳の変わらないガキに心を侵食されるなんて有り得ない。そう思おうとした。
 でも、冷静に考えればわかる。人間の強さにだって限界はあるんだ。
 性欲盛りの子供に群がられ、犯し抜かれる毎日。夏の暑い盛りだから、どんなにエアコンを回したって、部屋は汗や精液の匂いで満たされる。子供は代謝がいいから、匂いだって強烈だ。部屋の隅で見ている僕だって、その匂いにクラクラすることがある。まして、その匂いと快楽を同時に刷り込まれつづけている栞さんなら、鼻先に『匂いの塊』を押し付けられただけで濡れるようになったっておかしくない。
 おまけに犯す連中のアレは、ビックリするぐらい固く勃起してるんだ。それこそ反り返ったり、血管を浮き立たせるぐらいに。それで、開発されたポルチオやお尻の穴、喉の奥を休みなく犯されれば、無反応でいられるとは思えない。
 しかも、犯すだけじゃない。なにしろ栞さんを嬲っているのは子供だ。子供は残酷だ。トンボを捕まえたら羽を千切るし、アリの巣に興味を持ったら水没させる。そういう連中が、栞さんを犯すだけで済ませるわけがない。

 『チンポがヒリヒリする』『タマが痛い』ぐらいに精子を出し尽くすと、連中は休憩ついでに色々な方法で栞さんを甚振った。
 指マンで何度も潮を噴かせるなんて、序の口でしかない。 
 裸体にオイルを塗りたくり、あるいは栞さんの普段着のシャツに水をぶっかけてから、愛撫だけでイかせることもある。
 ガラステーブルに乗せたディルドーでのオナニーを強制し、何度も絶頂した挙句に潮まで噴き散らす姿を嘲笑うこともある。
 数人でゲームしてる間中、アソコにバイブを入れたまま放置し、数時間後に濡れ具合を詰ったり。
 大股を開かせたまま、その両脚に縋りつくようにして、アソコへの2本挿しを試したり。
 あるいは浣腸したお尻の穴にバイブを抜き差しし、成すすべもなく『ひり出す』様を大声で詰ったり。
 そしてついには、SMビデオを参考にして、両乳首とクリトリスにピアスまで空けてしまう。
 当然こういう責めには、気力を失いかけている栞さんも強く抗議した。でも、それで連中がやめることはなかった。むしろ栞さんからより強い反応を引き出そうと、行為をエスカレートさせていく。まさに『イジメ』の典型だ。
 学校生活を送っていれば、どうしたってイジメは目にすることになる。僕自身、本ばかり読んでいるインドア人間だから、からかわれた経験は何度もある。だから、イジメられている人間がどれだけ弱っていくのかはよく理解できた。いくら栞さんだって、いくら相手が子供だからって、関係ない。一方的に殴られつづければ、いつか人は膝をつくんだ。


 8月も終盤に入った頃には、責めのハードさも行くところまで行き、栞さんももう戻れないほど快楽に支配されきっていた。
 あれだけ猿のようにハメていた連中は、栞さんの穴に飽きたのか、朝から家に来る事はなくなった。二日に一度ぐらい、それも昼に来ては、主にセックスよりも道具で栞さんを嬲る。
 学校でも習った通り、文明の利器は、人力よりも遥かに効率よく仕事をする。思い返してみれば、栞さんを決定的に追い詰めたのも、ポルチオを開発する機械だった。

「ひっぎぃいいい゛い゛い゛っ!!!!」

 風呂場に悲痛な声が響く。あまり人間のものとは思えない声だ。栞さんの中ではもう何かが吹っ切れていて、汚い声を出すことに抵抗がなくなったのかもしれない。あるいは、どれだけ恥じらいを持っていても、あの状況では我慢できないのかもしれない。
 
 栞さんは、風呂場のタイルの上で深く腰を落としたまま、膣にバイブを押し込まれている。当然、ただのバイブじゃない。先端が4つどころか6つに花開き、ポルチオにより隙間なくフィットする。スイッチ一つで強烈な振動や電流を膣奥に流せる。挙句、太さや長さも尋常じゃない。そんな、拷問用としか思えない、アメリカンジョークグッズだ。悠真君のパソコンを使い、栞さん自身のクレジットカードで購入させたその責め具は、強烈だった。前の型に充分慣らされていた栞さんですら、ベッドの上で初めて最大出力を試された時には、腰の下に蕎麦殻枕が2個入るぐらいの海老反りを晒したほどだ。
 今も、それが栞さんの膣に埋め込まれている。長い持ち手が半ば以上隠れているんだから、バイブの先は膣奥まで届いている……どころか、すっかり下りている子宮を押し戻すぐらいの勢いだろう。無茶苦茶だが、何しろやっているのが悪ガキなんだ。無茶も道理もあるわけがない。無茶や道理のツケを払うのは、いつだって『やられている側』だ。
 しかも、それだけじゃない。最初の頃より明らかに大きさを増した栞さんの乳房は、乳首に空けられたピアスと、そこから繋がる紐によって、形が変わるぐらいまで引き絞られている。痛々しい以外に言葉がないが、鬼畜共の言葉を鵜呑みにするなら、『乳首を指で挟み潰されてもイケる』のが今の栞さんらしいから、案外あれでも感じるのかもしれない。
 そして、お尻。こっちにも道具が入り込んでいる。蛇腹や凸凹の多い、巨大なバイブ。直径は僕が両手の指で作る輪ぐらい、長さとなれば僕の腕ぐらいは悠にある。その凶器が、栞さんのお尻に入り込んでるんだ。あまりにも長いから、直腸を超えて結腸と呼ばれる部分まで達してしまうらしい。直腸奥を突き上げると、ちょうどポルチオを裏から刺激する形になり、結腸まで入れてしまえば刺激もその分大きくなる。おまけに結腸は、便が腸を通り抜けるというサインを出す場所でもあるそうで、そこをこじ開けられれば究極の便意を味わうことになる。ましてや、蛇腹・凸凹だらけの極太を出し入れされれば、正気を失うぐらいの極感が襲ってくる。あのジョークグッズを売っていたサイトには、そういった感想が英語で書かれていた。悠真君は、それをわざわざ栞さん自身に訳させてから、震える彼女の指を包むようにして、マウスをクリックさせたんだ。

「お゛ごお゛おオオ゛ォ゛お゛お゛っっ!!!!!」

 また、とんでもない声が栞さんから漏れた。低い。あまりにも低い。声変わり前の僕らの誰よりも。
「ははははっ、ンだよ今の声! 女の出す声か!?」
「すっげぇな、こんな声出るんだー」
「ウチの姉貴、すぐ屁とかして女捨ててるけど、コイツもその域だな。あの潔癖女が。結論、ぶっ壊れっとどんな人間でも同じ」
 追い込んでいる側は、肩を揺らして笑い合う。そこだけ切り取ればすごく平和だ。プール学習の後のワンシーンに見える。そこから少し視線を下向ければ、逆に地獄になるけれど。
「おねがいっ、もうやめでっ!!イッてるの、イってるのお゛お゛っ!!イギすぎで、息ができないっ!!こわい゛っ、ごわいいい゛い゛っ!!!!」
 栞さんは目を見開き、鼻水を垂らし、足を病気かと思うほど痙攣させて絶叫する。声色は普通じゃない。聴いていて不安になる音程だ。必死に曲げた膝を伸ばそうと……つまり立とうとしているようだけど、腕を掴まれたまま肩を押し下げられているから立てもしない。結局、一番腹圧のかかる体勢のまま、許容量以上の刺激を受けつづけることになる。
「そうだ。やめてほしいんならさ、今の自分の状況を実況してみなよ」
 肩を押さえ込む奴が、ふと思いついた事を口走る。その悪意に満ちた提案は、その両隣にいる連中の顔をも輝かせる。
「おっ、いいな。じゃ、そういうことで」
「うんうん。お得意の国語力見せてよ、“先生”?」
 栞さんという淑やかな才女を、この上なく侮辱する悪戯だ。当然それは、プライドの高い栞さんにとって耐えがたいはず。でも、逆らえない。絶頂の快感で溺れている状況では。

「ば、バイブから電流が流れると、『あそこ』の奥が痺れるのっ!!子宮の入口が、とっくに蕩けきってるのに、また刺激されて……感電したみたいな快感が、足の指先にまで届いてるの。足が震えて、止まらない!!おまけに、無理な姿勢で、『前』も『後ろ』も限界まで広げられて……こ、呼吸が、苦しいわ!!」
 栞さんは激しい息を吐きながら、必死に苦しみを訴える。余裕がないのか、すでに呂律が怪しい。そんな栞さんを前に、嬲る連中の笑みが深まる。
「『あそこ』に『お尻』、『前』と『後ろ』ねぇ……お上品な表現だ。ところで先生? 当然だけど、同じ単語は2度使っちゃダメだよ」
「……えっ!?」
 思いがけない提案に、栞さんが息を呑む。
「いや当たり前でしょ。これって、国語力のテストだよ?」
「大丈夫大丈夫、本読みまくってる高学歴な先生なら余裕だって。はい、続けて!」
 あくまで軽い調子で、不条理を強いる。一番使いやすい、かつ無難な表現が2種類も封じられてしまった。栞さんは息を呑みながら、それでも解放を求めて口を開く。
「痺れが、あそ……ち、『膣』の奥に広がって……せ、脊髄の方にも、這い登って、くる……。ハァ、ハァ、脳の中心まで、快感が入り込んで、きて……時々、頭が真っ白になって…………ぁっ、あっあっあっぁっ、あああぁお゛お゛お゛っ!!! ンフーっ、ふーーーっ、ふううーーっ、ふううっ……こんなの、か、考えがっ、まとまら…なぃっ!!!」
 必死に訴える間にも、栞さんは絶頂に至り続ける。そういう風に作られた道具を、何個も同時に使われているんだ。我慢できるわけがない。
「今度は『膣』かぁ。けっ、つまんねー」
「まあまあ、これからこれから。で? 後ろの方はどんな感じだよ、先生?」
「お……おし…………『アナル』は、すごく奥まで、入っていて……んんっ、ずっと、排泄をしているみたいで……たっ、堪らないわ。恥ずかしくて……ふう、うううんん゛……っっ!!」
「へへ。でも、ケツで感じてんだろ?どうだ、言ってみろ。どの辺がどう感じるんだ?」
「おし……アナ…………くっ!! け……う、うんちの出る穴の、背骨の辺り……ゴリゴリとバイブの溝が当たって、大粒の物がでていく、みたいで……!!」
「はははっ!うんちの出る穴ときたか。いいねいいね、その調子だ!!」
「んじゃ、次だ────」

 何度も何度も、栞さんに質問がぶつけられる。前後の穴に関する単語を、どうしても使わざるを得ないようにして。栞さんは、必死に単語を使い続けていた。
「き、菊輪も、感じるわ……舌で舐められても、もう……!!」
「女陰の浅い部分、指、二つぶんぐらい入れた部分が…………」
「あ?チクワぁ?」
「ホトって何だ? こいつ、ガキ相手だからって適当言ってんじゃね?」
「いや、一応検索で出てくるぞ。古い日本語だってさ。ったく、粘るねー」
 こんな具合に、小学生には通じないような言葉も交えて。でも、それもいつまでもは続かない。そもそも栞さんは今、フルに頭を使えるような状況にはないんだ。十数回目を超える頃には、もう女性器と肛門を表現する言葉に詰まってしまう。
「どうしたの先生? 早く言わないと、逝きっぱの状況から逃げらんないよ? なんか白目剥きアピールとか始めてるけど、今日は気ィ失ったってやめねーから」
「言葉なら、俺らが色々教えてやっただろ。頭回せー。今のアンタから語彙力取ったら、ただのヘンタイ女だぜ?」
 ターゲットが追い込まれれば追い込まれるほど、悪ガキは調子づく。相手を思いやって責めの手を緩めるなんて絶対にしない。だから栞さんも、卑猥な言葉を発する未来から逃れられない。

「………うっ……『腕が入りそうなガバガバクソまんこ』、でぇ……『性病ドクサレまんこ』でイクのは、もお、げんがいなの゛オ…………っ!! さ、さっきからっ、おし……『クソをひり出すためのくっさい穴』がゆるくて、下痢便が漏れてる気がしてるの!!でも、足首には何もあたらなくて、きのせいで…………つまりね、わたひ、ろんろん頭がおかしくなってる………馬鹿になってるの! おねがいっ、おねがいい゛い゛い゛ーーーッ!!! 『チンポ嵌める以外には何の役にも立たない、出来損ないの肉穴』から、いますぐバイブ抜いてええ゛え゛え゛え゛ーーーーーっ!!!!」

 もう、栞さんにはプライドも何もなかった。アイディアが尽き果て、何度も名称被りを繰り返した結果、徹底的に自分の性器を蔑みつづける。あの清楚な栞さんが、一体どこで耳にしたのかと思うような汚い言葉で。
「ぎゃっはっはっはっ!!!がばっ、ガバガバクソまんことか!!」
「性病ドクサレまんこは傑作だわ!!あーははははっ、腹イテー!!!」
 ゴミのような連中には、最低な言葉が大ウケしている。まさに子供向けの、底辺の光景だ。栞さんは、違うのに。僕らよりずっとずっと高みにいる、目標とすべき人なのに。そのはずなのに。
 その栞さんは、休むことも許されずに限界を迎え続け、緩やかに壊れつつあった。狂い、叫び、吼え、一瞬正気に戻ったように見えても、また声を裏返して狂いはじめる。
「お腹の中で擦れてっ、あらまが・・・・まっしろに・・・・!!ひっ、ひぐううっ!まらいぐうううううううーーーーーーーっ!!!!」
 もう、言葉かどうかも怪しい。ぜえぜえと肩で息をしながら、絶頂の宣言を繰り返す。
「ははは、いいぞブタ。どんどんイケ、イキまくれ!!」
「おお。壊れてもいいぞ、ブタッ!!」
 俺と同い歳の悪魔は、涼しい顔でトドメを差す。バイブの出力を最大に上げ、後ろの穴にゴリゴリと異物を抉りこみ、両方の乳首を引き絞って。
「あっ、ああ゛っ、いいいいい゛い゛っ!!!いいのぉっ!!わ、私はっ、気持ちいいのが好きなブタですっ!!もっと虐めて、もっとグチャグチャにして!!もっと何もわからないようにして、もっと、もっとおおおおお゛お゛っっ!!!!」
 栞さんに、もう耐えきる気力は残っていなかった。アリが靴底で潰されるみたいに、ごくごくあっさりと当たり前のように、正気を失った。
「あーあ、とうとう壊れたな」
「そりゃ、この状態で5時間も嬲ってりゃあな」
「まあいいじゃん。最後の最後に超楽しませてもらったし、ハメ穴としてならこれからも使えんだから」
 壊した側の人間は、気楽に笑い合っている。
 いつもそうだ。イジメている奴、人に不快な思いをさせている奴は、いつだって楽しそうに笑っているんだ。
「…………ふふ。楽しませてもらったよ、先生」
 イジメのリーダーは、そう言ってにこやかに栞さんに笑いかけた。この世で一番醜い、天使のような笑顔で。


       ※        ※        ※


 栞さんが発狂してからは、さすがにあの家には行けなくなった。だからしばらくは、どこかに場所を移してセックスが続けられたらしい。
 でも、それも夏休みが終わるまで。新学期が始まれば、連中はあっさりと栞さんから興味を失った。
 真っ当な道に戻ったわけじゃない。ただ単に、新しい獲物を狙い始めただけだ。
 ターゲットになったのは、僕のクラスの桜井さん。

『すげー。グチョグチョじゃん』
『初潮もまだってガキでも、感じるスポットはあの女と一緒なんだな!』
 僕に送られてきた映像には、床に押し倒された桜井さんが手マンされている映像が映っていた。小学生ながらに化粧をバッチリ決めた顔は、すっかり涙で汚れている。
『やめて!おねがいっ、やめてえっ!!悠真君、助けてよお!!』
 僕が昔好きだった女の子は、必死に憧れの相手の名前を呼ぶ。でも、そいつが助けに来るはずもない。
『アイツはお前なんか眼じゃねえよ。代わりに、俺らが気持ちよくしてやっからさ!!』
『ポルチオと結腸って知ってっか? そこ開発しまくると、チョー気持ちよくてイキまくるんだぜ。しかも、ハメた時の具合もよくなんだ』
『ま、やりすぎると壊れんだけどな。今度は、上手いこと加減してやるからよ!』
 女の味を覚えたケダモノが、勃起した物を反り立てて笑う。桜井さんは、逃げることもできず、ただ顔を横に振るしかない。

 そして、彼女の憧れる『王子様』は……今も、どこかの部屋で栞さんを抱いている。
『はぁっ、はぁっ、はぁっ……いいよ先生、最高だ。最高に可愛いよ』
 両足首を掴み上げたまま、奴は激しく腰を振る。いつまでも、いつまでも、猿のように旺盛な性欲で。
『ああっ、いい! 感じるっ、感じるぅっ!! もっと、もっと突いて!!メチャクチャにして、私を壊してっ! ああああイッてるっ、子宮でイクぅうううーーーーっ!!!!』
 僕の初恋の人は、頭上のシーツを掴み、足を相手の腰の後ろで交差させて快感に浸っていた。もう、以前の面影はない。そしてそんな相手に、『王子様』が口づけを交わす。
 奴は、栞さんが好きだったんだろうか。それとも、嫌いだったんだろうか。栞さんを脅し、大勢を動員してイジメ抜いておいて、壊れてからもずっと抱き続ける。しかも、その映像をわざわざ僕に送りつけながら。
 訳がわからない。歪んだ愛もあるというけど、そんなものを栞さんと僕にぶつけるなんて。


 でも、今となっては過去の話だ。何もかも。


「お願い、こんな事やめて……。か、考え直して…………!!」

 僕の前では今、悠真の母親が丸裸で転がっている。
 こいつがあの悪魔を生み、栞さんに家庭教師を頼み、散々家を空けていたからあんな悲劇が起きたんだ。
 弱みを握る手段はいくつもあった。前に悠真がやったように、眠らせて犯すことで脅しの材料を作ることもできる。でもこの女には、自分の子供の落とし前をつけてもらわないといけない。
 僕はこの日のために、ずっと連中の悪事を撮り溜めていたんだ。誰にもバレないように、ずっと、全部を。
 自分の子供が家庭教師をレイプしている映像は、実に効果的だった。それを習い事の生徒にもバラすと言った時には、さらに表情が歪んだものだ。

「いいから、さっさとしゃぶりなよ…………“先生”。」

 僕はありえないほど勃起したものを、怯え顔の年上女に突きつける。
 こんなに興奮するものだったんだ。格上の存在を踏みにじるのは。
 とりあえず、この女を徹底的に躾けてやる。この家にある、栞さんを追い詰めた道具を駆使して。アイツにバレないよう、短い時間だろうとじっくりと積み上げて、追い込んでやる。
 この女を壊したら、次はあの部屋にいた連中の身近な人間に報いを受けさせよう。母親でもいいし、姉妹でもいい。中学や高校に上がってから、悪事など素知らぬ顔で結ばれた恋人でもいい。
 何年掛かってでも、全員に後悔させてやる。これが、僕なりの復讐。


 狂気に魅せられた僕等の夏は、まだ、終わらない。



                         (了)
 
 

魅せられた僕等の夏(中編)

※文字数が多過ぎたため、中・後編に分割します。
 NTR風味な要素あり。




 栞さんが、クリトリスとポルチオを道具で責め抜かれた次の日。
 悠真君の家には、16人もの人間が集まっていた。『暇な奴は全員来い』というメッセージが回ってきたからだ。
「興奮するぜ。昨日は結局、あんだけ追い込んどいてハメ損ねたからな!」
「ああ。今日はチンポの皮擦り切れるぐらいまでハメよーぜ!」
 特に精力の強そうな連中が、目を血走らせながらそんな事を言い合っている。そいつらだけじゃなく、他の全員がムラムラしている感じだ。
 そんな中、悠真君はソファに腰掛けたまま、携帯でずっと誰かと話していた。
「駄目だよ。すぐ来て」
「だから、駄目だって。絶対許さない」
 そんな言葉が何回も繰り返される。渋る相手の逃げ道を潰している、という感じだ。
「先生だろ、相手。なんて言ってんだ?」
 悠真君が通話を終えた直後、すかさず岡村が尋ねた。
「今日は来たくないってさ。昨日あんな滅茶苦茶されたせいで、熱が出たとか恨み言言ってたけど、突っぱねた」
「ははっ、ナイス! だよな、こんだけ面子集まってんのに、今さら休むとかねーよな!!」
「それに、どうせ仮病でしょ。昨日のでウンザリしたんだろうけど、知ったことじゃないしねー」
 涼しげな顔の悠真君を、欲望まみれの連中が賛美する。何なんだ、こいつらは。栞さんのことを、性欲処理用の人形とでも思ってるのか。栞さんは生真面目な人だ、軽々しく嘘なんてつかない。来られないというなら、それ相応の理由があるはずなんだ。

 実際、しばらく後に家を訪れた栞さんは、明らかに様子がおかしかった。炎天下を歩いてきたことを抜きにしても、汗の量が異常だし、顔も赤い。
 ただ……なんだろう。熱に浮かされた顔というより、発情している顔に見える。
( 栞さんに限って、そんなことありえるもんか )
 僕はそう信じたかった。でも、栞さんから独特の色気を嗅ぎ取ったのは、僕だけじゃないらしい。
「へへへ、先生よ。なんか今日は、いつも以上にエロいな」
「ああ。格好のせいか? すんげぇムラッと来るわ!」
 何人もがソファから立ち上がり、丁寧に靴を脱ぐ栞さんへと近づいていく。
 別に栞さんの格好は変じゃない。確かに、シースルーの黒ブラウスは肩から腕にかけてが透けていて、ちょっとエッチだ。でも、今日みたいな真夏日に風通しのいい格好をするのは当たり前のこと。駅前の賑やかな場所なら、もっと過激な格好をした女の人はいくらでもいる。
 なのに。なんで今日の栞さんを見ていると、こんなにドキドキするんだろう。
「ふーん。仮病かと思ったけど、本当に具合悪そうだね、先生」
 悠真君が、栞さんの紅い顔を見上げながら言う。勘の鋭い彼のことだ、先生の妙な雰囲気ぐらい、とっくに気付いてるだろうに。
「先生がこんなんじゃあ、無理させらんないな。今日はフェラだけにしとくか」
 悠真君のその言葉で、場の空気が変わる。それはそうだ。昨日も皆がお預けを喰らってるんだから。
「お……おい、ふざけんなよ!?」
「2日連続とか、そりゃないって!!」
「これじゃ昨日、何のためにシコんの我慢したのかわかんねぇよ!」
 悠真君を取り囲んだ何人もが、口々に不満を漏らす。すると悠真君は、やれやれという風に肩を竦めた。
「わかったわかった。じゃあ、こうしよう。ゲーム形式にして……」
 悠真君はそこで声を落とし、すぐ傍の人間にだけ聴こえるように何かを囁いた。
「へへ、いいねそれ!」
「賛成だ。やっぱオマエ怖ぇーわ」
 話を聞けた人間と同じ数だけ、笑顔が浮かぶ。
 ゲーム。僕達子供は、この響きには逆らえない。『娯楽』と『勝負』。子供が夢中になる要素は、結局それに尽きる。こうして毎日毎日、飽きもせず連中が栞さんを嬲るのも、セックスという『娯楽』と、いいオトナを貶めて優越感に浸る『勝負』の快楽……その2つの要素があるからだろう。
 下らない。同い年ながら、本当にしょうもないガキに思える。ターゲットが初恋の相手だからこそ、余計に腹が立つんだろうけど。
「じゃあ先生、コレ着けてよ。先生がどれだけ俺らの匂いを覚えたか、テストしてあげる」
 悠真君が、黒いアイマスクを手にして栞さんに歩み寄る。
「……生意気ね」
 栞さんは、いよいよ苦しそうな顔でそう呟いた。


       ※        ※        ※


 リビングの窓は閉めきっているのに、外から蝉の声が入ってくる。その合間合間に、生々しい音が聴こえていた。
「んっ、うむっ……うっ、んむっ……んっ…………」
 目隠しをしたまま、フローリングに膝をついて男のアレを舐めしゃぶる栞さん。
「……っ、…………っ!!」
 その奉仕を受ける側は、栞さんの頭を掴んで必死に口を閉じていた。声を出せば、相手が誰かはすぐにわかる。だからゲームに挑戦する人間は、栞さんが答えを出すまで、絶対に声を発してはいけない───そういう決まりだ。
「……っ、っっ!!」
 奉仕されている奴が、栞さんの黒髪の間に指を立て、尻にえくぼを浮かせる。その直後、腰がぶるっと震えた。射精だ。
「よし、出たな。舌と鼻でよーく味わえよ。さ、今のは誰だ?」
 岡村が問うと、栞さんはモゴモゴと口を動かしながら眉を顰める。射精した奴の表情も、同じく硬い。
「……はあ、はぁ…………伊藤、くん……?」
 息を荒げつつ、栞さんが呟く。
 外れだ。今しゃぶらせていた奴は鈴浦。奴は栞さんに存在を覚えてもらえず、名前当てゲームに負けたことになる。でも、奴の顔は笑っていた。
 奴だけじゃない。これまで挑戦した奴も、名前を外された奴は笑い、当てられた奴はふてくされたような顔をしていた。
「ちっ、上手い事やりやがった」
「やっぱ特徴ねーやつは有利だな、これ」
 周りのライバル連中は、半笑いで鈴浦を湛える。その中心で鈴浦は、勝ち誇るように胸を張っていた。
「へへへ、残念だったね先生。じゃあ後で、たっぷり可愛がってあげるから」

 そう。これは、存在を覚えてもらっているかを競うゲームじゃない。むしろその逆、名前を『外されれば』ご褒美を得られるゲームだ。だから栞さんは、何が何でも正解しないといけない。
 ただ、栞さんの正答率は高くなかった。それはそうだ。アイマスクで視覚を奪われている以上、ヒントとなるのは咥えたアレのサイズと、匂い、そして精液の味ぐらいのもの。僕らはみんな子供なんだ。みんなアレは小さいし、体臭や体格にそれほどの差があるわけでもない。そんな連中が16人もいて、どうやって当てろっていうんだ。
「ほら先生、口ゆすいで」
 水の入ったコップが、栞さんの口に宛がわれる。栞さんはそれで口を濯ぐと、同じく差し出された洗面器に水を吐き出す。もう何度も繰り返されているだけに、動きに迷いはない。
 そうしてリセットを終えた栞さんの前に、次の奴が歩み寄った。小5にして、すでに『百貫デブ』という渾名のついている濱野だ。基本、僕達の体臭や体格にそれほど差はないけど、この濱野だけは違う。
「フーッ、フーッ……」
 濱野は荒い息を吐きながら、栞さんの鼻を摘みあげ、アレを近づけた。剥けかけた皮から覗く亀頭部分には、びっしりと白い垢がこびりついている。あれだけの恥垢となると、当然凄まじく匂うはずだ。
「んんっ!!」
 栞さんが呻きを上げた。でも濱野は構わず汚い物を咥えこませ、肉の余った腰を前後させる。
「ん、んむっ、むうう゛……っ!!」
 よっぽど匂いがひどいんだろう。栞さんはさんざん苦しむ様子を見せた後、たった数秒でアレを吐き出してしまう。
「ぶはっ!! げほっ、げほっ……もう充分わかったわ。濱野くんでしょう!?」
 その言葉で、濱野が凍りついた。逆に、周りで見守る連中は大笑いする。
「ぎゃははっ、あーあー即バレじゃん!!」
「あんだけチンカス溜め込んでりゃあ、いくらなんでも匂いでわかんだろ!」
「おまけにあの腹な。フェラで鼻塞がれるレベルのデブとか、他にいるかよ?」
 そうして笑われた事が癪に障ったのか、それともご褒美が貰えなくなった事が不満なのか。濱野は苦い顔をして、栞さんの頭を鷲掴みにした。
「ああ、そうだよ先生! さすが頭イイや。よく覚えてるよなぁ、俺と匂いと味をよお!!!」
 そう喚き散らしながら、強引にアレを咥えさせ、フェラを再開する。
「うむっ、ぶっ!! うえ゛…えこお゛っ!!」
 栞さんはよほど臭いのか、かなりえづいてしまっていた。痛々しい。でも場の連中にしてみれば、いい大人が惨めに苦しむ様は面白いんだろう。皆本当に可笑しそうに笑っている。
「くそっ、くそっ!! 俺の時だけ、簡単に当てて! ほらっ、堪能しろよ。好きなんだろ俺の匂いが。一発で当てられるぐらい、俺の匂いに夢中なんだろ!?」
 濱野の腰つきが早くなっていく。栞さんの手が三段腹にめり込んでいる所を見ると、苦しくて押しのけようとしているんだろう。でも濱野は止まらない。
「ああ、あああ、あああ出るっ、お、おおあ゛ぁぁ゛!!!」
 思う様動きつづけた末に、気持ち悪い呻きを漏らしながら射精する。
「フーッ、フーーッ……今日のところは、これで勘弁してやるよ」
 奴がそう言って腰を放すと、すぐに栞さんが噎せかえった。
「ぶっ、ぐぶっ!!ぶほっ、ぇほっ!!」
 口の中から大量の精液があふれ出す。いや、口だけじゃない。鼻からもだ。
「ははははっ!! ちょっと先生、鼻からザーメン垂れてるよ!?」
「あのデブ、上手くやりやがって。ただでさえ臭ぇくせに、駄目押しで匂い覚え込ませやがった!!」
 鼻を抑えて噎せる栞さんを中心に、楽しそうな大笑いが起きる。

 この件があって以来、他の連中も『匂いを刷り込むこと』に意識を向けはじめた。口でしゃぶらせる前に、トランクスから出したばかりの蒸れたものを、まず栞さんの鼻に押しつける。そうしてたっぷりと匂いを覚えさせてから、念入りにしゃぶらせる。最後に射精する時にもわざわざ口から抜き、鼻の穴の中にザーメンを流し込む。こんな事をする奴が何人もいた。
「ぶふっ、ごふっ……ちょっと、いい加減鼻に出すのはやめて! もう、匂いも何もわからないわ!!」
 3人目が鼻の中に射精した時、栞さんは咳き込みながらそう叫んだ。一回フェラが終わるたび、口は濯がれるけど、鼻の穴は洗われない。鼻の穴が何人分もの濃い精液で満たされていたら、ますます相手を当てることなんてできなくなる。でも、それは連中にとっては好都合でしかない。だから当然、栞さんの要求が呑まれることもない。
「大丈夫大丈夫。匂いがわかんなくたって、他に情報はいくらでもあるでしょ。ご自慢のアタマ使って、論理的に答えを導き出してよ、先生!」
 そんな無茶を言いながら、強引にゲームが続行される。
「んっ…ふう゛、んっ……! ん、ん゛ぶっ……」
 鼻と口周りに精液をこびりつかせながら、生々しいフェラを続ける栞さん。その姿を、欲望にまみれた笑みが取り囲んでいる。
 でも、僕が一番気になるのは、悠真君の表情だ。
「ふふっ……」
 顔立ちのいい彼の薄笑みは上品だ。でも、その笑いを見ていると胸がざわつく。計画通り──そんな心の声が聴こえてきそうだ。
 実際、この状況は彼の狙い通りだろう。なにしろここにいるのは、性に目覚めたばかりの猿ばかり。精液は濃く、代謝がいいぶん体臭もきつい。『オスの匂い』の強さなら大人以上だ。その噎せかえるような匂いに晒されつつ、口での奉仕を強いられ続ければ、ヘンな気分になったっておかしくない。特に、昨日散々にポルチオ性感を刺激され、今朝もまだ発情が続いていたのなら尚更だ。
「んむっ、ふぅ……んっ!! あえ、んんっ……うん、ふうう゛、れあ……っ!!」
 舌を絡ませるようなフェラチオ。その合間合間に漏れる声は、甘かった。最初は聞き違いだと思おうとしたけど、もう間違いない。夏休みに入ってからというもの、毎日毎日、ベッドの軋みと共に聞かされてきた声だ。
「先生、すげぇ息荒くなってきたな。これ、やっぱ風邪じゃねーだろ」
 一人が、栞さんを見下ろして呟く。すると、すぐに何人かが頷いた。
「ああ。これ絶対、俺らのザーメンで興奮してるって!」
「やっぱそうだよな!? 俺らにマワされて、アンアン喘いでる時の顔だよなこれ!」
「ほら先生、言ってみなよ。もう俺らのチンポしゃぶってるだけじゃ物足りないだろ? 思いっきりハメて欲しいよな!」
 そんな野次の中、しつこくアレが鼻に押しつけられる。
「んんっ、んちゅ……えあっ、はっ…はっ…はあっ……はあっ……!!」
 絶え間ないフェラチオ。その中で、栞さんの呼吸は刻一刻と乱れていった。口からの息だけじゃなく、鼻息まで荒い。それによく見れば、フローリングについた両膝が、時々ビクッと痙攣してもいる。
 そうした変化は、丸見えだった。少し離れて傍観している僕ですら認識できるんだから、間近で見下ろしている連中が気付かないはずがない。

 16人全員が射精し終え、“ゲーム”が終わったのは午後1時過ぎ。始まったのは11時頃だったから、2時間程度しか経っていない。にもかかわらず、栞さんの発情ぶりは半端じゃなかった。頬を赤らめ、汗を垂らして……見ているだけでもドキドキしてくる。
「結局、16人中13人が外れか。先生の記憶力も大したことないね」
 小馬鹿にした感じで悠真君が呟く。栞さんは目隠しを外し、憎らしそうに彼を睨み上げた。
「あなた達みたいな子供なんて、全員似たようなものよ! 見もせずに判るわけないでしょ!?」
 語気も強い。まだまだプライドは捨ててないんだ。
「よく言うよ、俺は速攻で当てたくせに。デブ差別かよ」
 濱野が贅肉を揺らして怒り、周りの笑いを誘う。
「お前は個性強烈すぎんだよ、デブ!」
「そうそう、ドンマイ!」
 何人かが手を叩いて笑い、また別の一人が膝を叩きつつ悠真君の方を向く。
「ひゃっひゃっ!! で? 先生に覚えられてないカワイソーな俺らには、代わりにご褒美があるんだよな?」
 この一言で悠真君に注目が集まると、彼は爽やかに笑った。
「ああ。ハメていいよ」
 待ちに待った許し。これで場の熱気がいよいよ増す。
「っしゃあ!! 悠真最高っ!!」
「さあ先生、楽しもうぜ!!」
 まさに飢えた獣という感じの数人が栞さんを押し倒した。
「いや、やめてっ!!」
 栞さんは悲鳴に近い声を上げつつ抵抗するけど、数の不利を覆せない。あっという間に白いショーツが太股を滑り降りていく。
「ぎゃははっ!! おい先生、なんだよこれ!?」
 ずり下ろされたショーツを覗き込んだ一人が笑った。
「おいおい先生、パンツに糸引いてるぞ!?」
「マジだ、濡れまくりじゃん。俺らガキのチンポしゃぶりながら、実はハメられんの期待してたわけ?」 
「完璧にオスの匂いにあてられてんじゃん、堪んねぇな!!」
 口々に野次が飛び、栞さんの表情が歪む。
「違う! 昨日あんな事されたせいで、過剰に保護液が出てるだけよ! いい加減に離してっ!!」
「おい、大人しくしろって!!」
「いや、いやあっ!! やめてっ!!!」
 何人もが栞さんの下半身を押さえつけようとしては、押し返される。いつにも増して激しい抵抗だ。
「やれやれ、本気でハメられたくないらしいな。といっても、これだけお預けしといて今さら『待った』ともいかないし……」
 悠真君は場の様子を見て、何か考える素振りを見せた。そして、指を鳴らす。
「よし、こうしよう。先生も調子悪そうだしな、深く挿れんのはナシだ。ハメてもいいけど、せいぜいカリが入るくらいまで。これ破ったら罰金な」
「はっ!? オイオイ勘弁しろよ!」
「まあいいじゃん、先っちょだけでもハメられるんなら!」
「そうそう。とにかく早くやっちゃおうぜ!!」
 悠真君の一言に、不満そうな顔をした奴もいる。でも大半は、性欲の消化を第一に考えているようだ。結果、数の多い意見で方向性が纏まる。
 それに、中には気付いている奴もいたはずだ。悠真君のこの発言は、決して栞さんの身体を気遣ってのものじゃないと。

「よーし、大人しくしてなよ」
 這う格好を取らされる栞さんの背後で、松尾という奴がアレを扱き上げた。ずっとお預けを喰らっていただけに勃起が凄い。奴はその角度を手で調整しつつ、栞さんの割れ目にこすり付ける。
「……っ!!」
 息を呑む声がして、白い尻肉が引き締まった。
「へへへ、ほんとにスゲー濡れてんな。ハメる前からここまで濡れてんのって、手マンの時以来じゃね?」
 松尾はそう言いながら、ゆっくりと腰を進める。真っ赤に充血した亀頭は、抵抗なく、綿のクッションにでも沈むように割れ目へと消えていく。
「う……っ!」
 また、栞さんから声が漏れた。アレの先がほんの少し、入口へ潜っただけなのに。
「っと、ここまでか。なんか挿入れた気しねぇな」
 犯す松尾の方は不満そうだ。何かぶつぶつ言いながら、亀頭を前後させはじめる。でも、そんな事が十数秒続いた頃、なにやら様子が変わりはじめた。
「お、おお……!? なんだ、コレいいな……!」
 松尾が上ずった声を上げ、夢中になって入口付近へ亀頭をこすりつける。ひどく気持ち良さそうだ。亀頭しか入れてないっていうのに。
「おい、オマエそんなんがいいのか?」
 周りで見守る人間も不思議に思ったんだろう、そう尋ねる奴もいた。
「ああ。最初はなんか物足りなかったけど、意外と悪くないぜ。マンコの入口らへんがグニグニ動いててよ、フェラみたいに亀頭に纏わりつくんだ。これ絶対、先生も気持ちいいんだぜ。なあ先生、先生も気持ちいいよな!?」
 松尾はそう言って栞さんの腰を掴み、さらに念入りに腰を使う。すると、栞さんの太股がビクビクと痙攣しはじめた。
 本気で感じてるんだ。元々発情していたところへ、オスの匂いにあてられ、挙句にこうして浅い挿入で焦らされる。そこまで念入りにやられたら、いくら清楚な栞さんでもおかしくなって当然だ。
「ううっ!!だ、だめっ! こんな、やめて……っ!!」
「何がだよ、ちゃんと浅くしか挿入れてないだろ? イヤイヤばっかり言うなって、先生!」
 勃起したアレがほぼ丸見えの、未遂のような挿入。それを栞さんは必死に拒み、松尾は夢中になって繰り返す。
「……なんか、マジで気持ち良さそうだよな。アイツも、先生も……」
「ああ。普通にハメてる時よりイイ顔してるぜ」
「お、おい、ぼちぼち替われよ。俺も勃起しすぎてイテーんだ!」
 見守る連中も、異様な光景を前に落ち着きをなくす。
「ああ、もうすぐ、もうすぐだって……あ、あ、やべえ出るっ!!!」
 松尾は亀頭を入口に激しく出し入れし、その最中に性欲を暴発させる。フェラチオで一度出しているとはいえ、栞さんのお尻や背中に飛び散った精液の色は、はっきりとした白だ。
「あーっくそ、もっとやっときたかったのに。でもお前ら、マンコの入口で扱くのって結構いいぞ? フツーにハメんのとはまた違う感じだ」
 半笑いの松尾がそう言い残し、栞さんの後ろから離れる。するとすぐに別の一人──樋口が、期待に目をギラつかせながら歩み出た。
「イイのはわかってんだ、さっきの顔見りゃ!!」
 樋口はそう言って、浅く挿入を始める。
「ふあ、ァあ……!」
 栞さんから、また声が漏れた。普段なら、よっぽど疲れ果てて余裕を失くすまでは、意地でも喘ぐまいと耐えるのに。
「あーマジだ、これすっげぇな! 出し入れするたびに、アソコの入口がグニグニグニグニ動いてよ、これ完全にフェラされてる感じだぜ。しかも先っぽだけ集中的にとか、めちゃ射精感煽られんだけど。うおおやべえーー!!」
 樋口も松尾と同じく、興奮気味に浅い抜き差しを繰り返す。
「あ、こんな……あぁっ、はあ……こんな、あぁ……!!」
 栞さんは激しく喘ぎながら、何度も戸惑いの言葉を漏らしていた。未知の快感に困惑している……それは誰の目にも明らかだ。
「へへへ、堪んないな。あんな気持ち良さそうな顔されちゃ」
「ああ。浅くハメるってのも面白そうだ!」
 一人また一人と、新しい遊びに興味を向けはじめる。オモチャが栞さんでさえなければ、子供らしい素直さと言えるところだ。

 次の奴も、その次の奴も、浅い挿入の快感に浸りつつ、栞さんを追い詰めていく。
「すげー、奥からどんどんマン汁出てくる。これ完全にチンポ欲しがってんじゃん。なあ悠真、先生が自分から『欲しい』って言えば、突っ込んでいいよな?」
「もちろん。先生が良いって言うんならね」
「ってことだ先生。もう認めろって。奥まで挿入れてほしいんだろ? 思いっきり突いて欲しいだろ? こんなグッチョグチョに濡らしといて、まだ欲しくないなんて突っ張っても惨めなだけだぜ」
「あぁっ……は、はっ……い、いらない…………欲しくなんて……ない」
「ちっ、相変わらず強情だな!」
 お互い必死な言い合いの後、また体位が変わる。犯している奴は、横たわる格好だった栞さんを抱え起こし、お尻を高く掲げさせた。その上で、改めて浅い挿入を再開する。
 さっきとやっている事は同じ。でも、見える情報はがらりと変わった。ガクガクと震える栞さんの脚、床へと滴っていく愛液。感じすぎるぐらいに感じているというのが、ありありと伝わってくる。
「……なあ、匠」
 呆けるように見入っていた僕に、いきなり悠真君が話しかけてきた。
「え、えっ!? あ、なに?」
 僕は、痴態に夢中になっていた事が恥ずかしくて、動揺しながら悠真君に向き直る。そんな僕の様子がよっぽどおかしかったのか、悠真君はくすっと笑って続けた。
「悪いけどさ、また買出し行ってきてよ。そろそろあいつらも、ジュースとか欲しがる頃だしさ」
 札を差し出し、そう頼んでくる悠真君。こういう買出しは僕の役目だ。
「わかったよ」
 僕はいつものように快諾し、近くのコンビニへ向かう。いつもの事だから、さして警戒もせずに。

 お茶に炭酸系、果物ジュース……部屋にいる連中の希望通りにジュースを選び、レジへ並んでいる僅かな間ですら、栞さんの現状を考えてしまう。彼女は今、どんな辱めを受けているんだろう。そのせいでどんな表情を浮かべ、どんな声を出しているんだろう。そんな心配が頭から離れない。
 そんな風に思い悩むぐらいなら、栞さんの痴態を見なければいい──そんな風に思うこともある。でも、結局は同じことだ。悠真君からお呼びが掛からず、あるいは連絡を無視して家で過ごしていても、僕はやっぱり悶々と思い悩むに違いない。だったら、今の方がマシだ。

 悠真君の家のチャイムを鳴らし、開いた勝手口を通ってドアに近づく。その時点で、まだ『ご褒美』の時間が続いているのがわかった。荒い呼吸と、喘ぎ声、そして笑い声。それがまだ、微かに聴こえているから。
 ドアを開けた瞬間、むうっとする匂いが鼻をつく。汗と愛液、精液……そしてそのどれとも違う、温めた生肉を鼻に押し付けられたような獣臭。部屋にいる間は何とも思わないのに、外に出てみるとその異様さがよくわかった。
 僕はよその人に悟られないよう、素早くドアを開けて身体を滑りこませる。
「はぁん、あァっ! うあっはぁあ……ああ!!」
 玄関口の僕を出迎えたのは、栞さんのあられもない姿だった。たしか『マングリ返し』とかいう格好。あそこを天井に向ける形で、すらりとした脚を押さえ込まれ、割れ目にアレを擦りつけられている。
 丸見えだった。膨れた赤い亀頭が、同じく充血した割れ目を前後に擦るのも。溢れた愛液が、太股一帯を伝い落ちているのも。栞さんの開閉する口も。
 栞さんの視線は、まっすぐに僕に向いていた。僕もその栞さんの視線を、真正面から受け止めてしまっていた。僕らはずっと、同じ空間にいながら、意識的に視線を合わさずに過ごしてきたのに。
「……あ……あ、あ、はっ…………!」
 僕を見据えたまま、栞さんの目が開いていき、同時に全身が細かに震えはじめる。そして。
「っあああぁぁっ!!!」
 細い悲鳴と共に、擦られつづける割れ目からぷしゅっと水気が噴きだした。
「はははっ、潮吹きやがった!!」
「うっそ、マンコ擦られるだけで!? 気分出てきたじゃん先生!!」
 周りの連中が、鬼の首を取ったように騒ぎ出す。その中で栞さんは、まだ震えていた。
「いいぜ先生、あと一息だ。言ってみなよ、ハメてほしいってさ!!」
 割れ目を責める奴も獣のような笑みを浮かべて、激しく腰を前後させる。赤黒い亀頭がぬるっぬるっと割れ目を滑り、潮吹きの名残を撒き散らす。
「ぁ、んっ……んあ、ァああっ!! ほ、欲しくなんか……ないわっ!!!」
 栞さんは激しく喘ぎながら、はっきりとした拒絶を口にした。太股の痙攣はますます酷くなっている。感じて感じて仕方ない。もう楽になりたい。そんな叫びが聴こえるようだ。でもプライドの高い栞さんは、僕が恋した彼女は、決して弱音を吐かない。
「……すごい根性だね」
 僕の手からビニール袋を取りつつ、悠真君が呟いた。栞さんの意地が、あの底知れない悠真君を感心させてるんだ。僕にはそれが、なんだか誇らしかった。

 結局栞さんは、日が傾いても挿入を乞うことはなかった。
「ったく、しぶといなー。一言挿入れてって言うだけなのに」
「ほんと。あんだけ濡れまくっといてさ!」
 ソファへ腰掛けた13人が、呆れたような声を出した。挿入を果たせなかった悔しさが見て取れる。でもフェラと合わせて一人当たり3回は射精しているから、とりあえず満足してはいるみたいだ。
「はーっ、はーっ……はーっ、はーーーっ…………」
 悲惨なのは栞さんだった。彼女は汁まみれのフローリングに横たわったまま、ぐったりとしていた。かろうじて目は開いているものの、明らかに焦点が合っていない。
「粘り勝ちされちゃったな。先生もさすがにヘバってるし、今日はこの辺でやめとくか」
 悠真君が肩を竦めてそう言うと、何人かが頷いた。体力が有り余っている子供とはいえ、何時間も興奮しっぱなしだと疲れる。だから昼間から栞さんを嬲っていた場合、夕方にはお開きになることが多かった。
「あー、でもやっぱガッツリ嵌めたかったな」
「そうか? 今日のは今日ので面白かったぞ。それに普通にハメるんなら、いつでも出来るんだしよ」
「ああ。お互いに焦らし合うってのも悪くねぇ」
 そんな事をぼやきながら、一人また一人と服を着て、ドアの向こうに消えていく。さっきまでのギラついた感じがない、ごく当たり前の小学生の顔で。
 ただ1人表情に変化がないのは、悠真君だ。彼は、今日一日の大半そうだったように、まだ薄笑いを浮かべている。
「フラフラだな、先生。そんなんでちゃんと帰れるの?」
 悠真君の視線の先には、やっと膝立ちの姿勢にまで戻ったものの、今にも倒れそうな栞さんがいる。疲れすぎたんだろうか、それとも……?
「……今さら、白々しい心配なんてしないで」
 栞さんは悠真君を睨み据え、なんとか立ち上がって服を着る。でも、不安だ。普通に歩けるかというのもあるけど、今の栞さんは全身から妙な色気が立ち上っている。薄暗い夕暮れ時、ただでさえ人目を惹くような美人がそんなオーラを発していれば、ヘンな男に目を付けられてもおかしくない。
「そりゃ心配だよ。この辺りって、昔からたまに痴漢出るんだよね。普段の先生なら大丈夫だろうけど、今日は見るからに隙だらけだからさ」
 悠真君のこの一言で、僕の決心は完全に固まった。
「一緒に帰ろう、“先生”。」
 僕は、栞さんの顔を見ながらそう宣言する。
「えっ!?」
 栞さんが目を見開いた。
 当然の反応だと思う。僕らはなまじ知り合いなだけに、この異様な乱交現場ではあえて接触を避けてきた。視線すら合わせないんだから、一緒に帰るなんてもっての他だ。でも、今日だけはあえてそのタブーを破る。栞さんをこのまま一人で帰して、後々後悔するなんてことはしたくない。
「そう。好きにしなよ」
 悠真君はそう言い捨てて、リビングの片づけをはじめる。やる事をやって満足したから、僕らの帰り方になんて興味もない……そんな風だ。それはあまりにも自然な素振りすぎて、僕にはまるで気付けなかった。この僕の行動こそ、悠真君の狙い通りだったことを。素っ気無い顔の下で、彼がほくそ笑んでいたことを……。


       ※        ※        ※


 悠真君の家を出てからしばらく、僕らは何も言わずに歩きつづけた。
 気まずい。こういう空気になると解っていたから、あえて距離を置き続けてきたんだ。僕も、きっと栞さんも。

 ( せっかく一緒に帰れるチャンスなのに、黙ってちゃダメだ。
   でも、何を話せば…… )

 悩みながら、一歩また一歩と歩みを進める。そうして気がついた頃には、周りの風景は見慣れたものに変わっていた。僕の家のすぐ近く。僕と栞さんは、本屋で一緒に過ごすことが多かったけど、時々は近くを散歩したり、公園で遊ぶこともあった。
 その想い出の公園に差し掛かったところで、栞さんが足を止める。
 ヒグラシが物悲しく鳴いていた。
「……懐かしいね」
 ぽつりと、栞さんが呟く。
 懐かしい。公園の中ではちょうど、中学生ぐらいの姉と、幼稚園ぐらいの弟が砂場で遊んでいる。その姿は、あの頃の僕と栞さんに重なった。
 男の子は楽しそうだ。心から嬉しそうに笑っている。それを見守るお姉さんも、愛しそうに目を細めていて……微笑ましい。
「……ッ!」
 僕は、自然と拳を握りしめていた。あの頃の温かい気持ちを思い出せば思い出すほど、今の状況が我慢できない。
「栞さん。もう、あの家に行くのはやめよう」
「えっ?」
 僕の言葉に、栞さんが目を丸めてこっちを見る。美人なお姉さんなのに、こういう時に見せる表情はすごく可愛い。
「見たくないんだ。栞さんのあんな姿。栞さんは、凄く立派な人なのに。あいつらにバカにされるような、そんな……人じゃ、ないのに!!!」
 纏まらない考えを吐き出すうちに、涙があふれてきた。ずっと感じてきた胸の痛みが、一気に噴き出した感じだ。
「…………たっくん」
 栞さんは、確かに僕をそう呼んだ。僕……匠の愛称だ。その愛称で呼ばれたことが、僕にとってのトドメになった。
「栞さん、あいつらと縁を切ってよ!! そのせいで何かあっても、僕が大きくなって、栞さんを養うから!! もう、あいつらのオモチャになんかならないでっ!!!」
 とうとう本格的に涙を流しながら、栞さんに抱きつく。肺が上下して、何度も何度もしゃくりあげてしまう。
「た、たっくん…………!!」
 栞さんは、明らかに戸惑っていた。
 僕が泣き喚いてるから、というのもあるだろう。でもそれだけなら、栞さんは冷静に僕を抱きとめて、頭を撫でてくれるはずだ。栞さんは、そういう余裕のある対応のできる素敵な人なんだ。
 そんな栞さんが戸惑う理由はひとつ。
「んっ……!!」
 僕が縋りついて泣いていると、ふいに栞さんが甘い声を上げた。大声で泣いていても聞き逃さないぐらい、異質な声だった。
「!?」
 僕は一瞬びっくりして、思い出す。栞さんは今、火照ってるんだ。ポルチオ性感を昂ぶらされ、焦らされて、抱きつかれるだけでも感じるぐらいに。
「ご、ごめん!!」
 僕は慌てて栞さんの身体を離す。その瞬間にも、栞さんの身体がぞくっと震えたのがわかる。

「…………はぁっ、はぁっ…………」

 俯きがちに向かい合いながら、僕らは荒い息を吐いていた。僕は、泣きじゃくった疲れで。栞さんは、たぶん、別の理由で。
「おねえちゃんたち、くるしいの?」
 いきなりそう声を掛けられて、僕らは背筋を伸ばした。横を見ると、さっきの男の子が公園の入口まで来ていて、心配そうに僕らを見上げている。
「だめっ、やめなさい! ……すみません」
 お姉ちゃんが男の子を引き戻しつつ、僕らに向かって頭を下げた。無邪気な男の子に、真面目そうなお姉ちゃん。2人をそのまま成長させたような僕らは、思わず赤面しつつ公園を後にした。
「ゆっくり話せるところ、行こっか」
 栞さんのその提案で、僕らはあの本屋へ向かう。栞さんが一人暮らしを始めてから、栞さんの両親だけで回しているという古本屋。今はお盆の時期だから店は閉まっていて、栞さんの持っている合鍵で入ることになった。
 店へ足を踏み入れた瞬間、懐かしさがこみ上げる。栞さんと並んで本を読んだ、木製のカウンター。壁際の錆びた脚立に、独特の匂い。何もかもがあの頃のままだ。変わったものがあるとすれば、僕の視線の高さぐらいか。
「こっちよ」
 栞さんは、本屋の奥にある階段で2階に上がっていく。2階には6畳ぐらいの部屋があった。小さな机もあれば、ベッドもある。
 僕は、ボディバッグを机に置いて振り返り……そこで息を呑んだ。ベッドに腰掛けた栞さんが、あまりにも色っぽかったから。
 シースルーの黒ブラウスから透けた腕が、やけに目を惹く。赤らんだ頬も、濡れたような瞳も、何もかもがいやらしく思えてしまう。変だ。昨日から立て続けに刺激的な場面を見て、僕までおかしくなってるんだろうか。
「……栞さん……」
 僕は、電灯に誘われる虫のように、ふらふらとベッドに近づいた。そして、栞さんのすぐ横に腰掛ける。少し背を伸ばせば、そのままキスができるくらいの位置に。
「…………。」
 栞さんは、そこまで僕に迫られても、身を退いたりはしなかった。だから僕はつい魔が差して、栞さんの唇を奪った。
「んっ!? ん、ふっ……!!」
 栞さんは戸惑ったような声を上げ、小さく震えた。憧れのキス。でも、それは長くは続かない。栞さんが、僕の両肩を掴んで押し戻したから。
「……だめ! だめよ、こんなの……!!」
 赤らんだ顔で、必死にそう訴える栞さん。その反応は、ショックだった。
「なんで!? あいつらは、毎日栞さんとしてるのに!! なんで僕だけダメなの!?」
「だからよ! たっくんまで、あんな奴らみたいになって欲しくないの!!」
 叫ぶ僕に、栞さんも叫び返す。部屋に響くような声量で。
 真剣な目と目で、見つめあう。そこで僕は、ようやく気付いた。栞さんの顔……その発情具合が、さらにひどくなっていることに。
 我慢してるんだ。生殺しで放りだされた栞さんは、疼いて仕方がないはず。たとえ子供だとしても、オスの存在が傍にあれば、飢えを癒したくなるに決まってる。でも、相手が僕だからそうしない。倫理観のできていない子供相手に、自分から淫行を迫る……それだけはしちゃいけないっていう、最後の最後に残った理性で。
 僕は、そんな栞さんに惚れ直すような気分だった。そんな栞さんだから、好きになった。
 そして、そんな栞さんだから、一線を超えてでも楽にしてあげたいんだ。
「栞さん!!!」
 僕は彼女の手を掴み、逆に押し戻した。
「あっ!?」
 不意を突いた形だからか、栞さんはベッドに倒れこみ、そこに僕は圧し掛かる形になる。こんな形で栞さんと向き合うのは初めてだ。
「……僕は、あいつらとは違う。遊びじゃないんだ」
 僕の影が落ちた栞さんの顔に、はっきりとそう伝える。栞さんは驚いた表情のまま、ごくりと息を呑んでいた。綺麗で、可愛くて、愛おしい顔。
「こ、こんなの、いけない事なんだよ? たっくんのお父さんも、お母さんも、学校の先生にだって、知れたら怒られるんだよ?」
 栞さんの声は、震えていた。どこまでも僕を心配して、守ろうとしてくれる栞さん。大好きだ。
「僕は、後悔しないよ」
 はっきりとそう宣言して、僕はもう一度栞さんの唇を奪う。また緊張が伝わってくるけど、今度は拒絶されない。甘い香り。熱い舌の感触。
「んっ……ん、んんっ……」
 栞さんの手が動いて、僕の手を握る。久しぶりの栞さんの手は、前よりもやわらかく感じた。

 僕らはベッドの上で座りなおし、服を脱ぐ。栞さんの脱衣は、例の部屋で何度も見たけど、間近で目にするとまた別物だ。白い肌が露わになるたび、心臓が高鳴っていくのがわかる。
 生まれたままの姿になって向き合えば、僕のすぐ鼻先にあるのは、憧れだったお姉さんの顔。僕を守るべき子供としてではなく、愛を交わす相手として見つめるその表情は、産毛が逆立つぐらいに色っぽい。
「……横になって。たっくん」
 栞さんが、迷う僕に優しく言った。僕は従うしかない。経験豊富な悠真君達と違って、何も知らないんだから。
 仰向けになった僕の下半身に、栞さんが覆い被さる。
「本当は私、もう、我慢の限界だったの。あいつらに火照らされて……そんな時に、たっくんが横にいて……」
 栞さんは僕にそう囁きつつ、勃起した物に手を添えた。興奮しすぎている僕は、それだけで腰が震えてしまう。
「……ん、んっ……はむっ、ふん……んっ」
 目線を下げ、口を前後に動かしながら、僕の物をしゃぶる栞さん。時々横髪を指でかき上げるのが彼女らしくていい。いかにも、清楚な栞さんがするフェラチオらしい。舌でちろちろと舐められるのは気持ちよくもある。
 でも、物足りなかった。僕は知ってしまっている。今の彼女の『本気』を。
「栞さん。あの時みたいに……して」
 僕は、憧れの相手にそう囁きかけた。あの時というのは、僕が初めて悠真君の部屋に上がった時のことだ。
「!」
 栞さんは驚いたような表情を見せてから、恥ずかしそうに上目遣いをする。
「……いいの? あんな、下品な……私のこと、軽蔑しない?」
「全然。栞さんに、気持ちよくしてもらいたいんだ」
 不安がる栞さんに、僕はなるべく穏やかな声で答えた。
「わかったわ」
 そう言う栞さんの顔は、やっぱり恥ずかしそうだったけど、同時に少し笑っているようでもあった。
 そして、本気のフェラチオが始まる。
「れあっ……あむっ、あえ……。れろっ、あむ……ずっ、じゅるっ……」
 アレを握りしめたまま、玉袋をしゃぶり、裏の筋を舐め上げ、先端を口一杯に頬張りながら、舌でチロチロとおしっこの出る穴を刺激する栞さん。その快感は異常だった。前にしゃぶられた時よりも上手くなっている。あの部屋にいた連中がすぐに射精してしまうのも納得だ。
 複雑な気分だった。あの清楚な栞さんが、こんないやらしい技術を仕込まれているなんて、ただただショックだ。でも同時に僕は、興奮している。今にも絶頂しそうな快感の中で、純粋にオスとして喜んでしまっている。
「気持ちいい?」
 栞さんが一旦アレから口を離し、僕に問いかけた。僕が頷くと、さっきよりも分かりやすい笑みが返ってくる。胸が温かくなる笑顔だ。このままずっとしゃぶって貰えたら、とも思う。でも、まだ射精するには勿体なく思えた。
「栞さん……今度は、僕が栞さんにするよ」
 僕がそう言うと、栞さんはきゅっと唇を持ち上げる。でもその唇は、すぐにまた笑みの形に戻っていく。
「そう。じゃあ、お願い」
 栞さんは上半身を起こすと、そのままゆっくりと後ろに倒れた。背中がシーツにつき、両足が開く。でも栞さんは、すぐに両の手の平であそこを隠してしまった。
「……栞さん?」
「ご、ごめん。いざとなったら、たっくんにあそこ見られるの……恥ずかしくて」
 照れたように笑いながら、栞さんはそっと手をどける。
 手の下から現れるのは、憧れの人の性器。もうすっかり愛液に塗れていて、まさに熟れた女性器という感じだ。顔を近づければ、むうっとする匂いが立ち上って、アソコが硬さを増す。
「これが、栞さんの……」
 親指で割れ目を拡げながら、僕はそう口に出してしまっていた。栞さんの顔が恥ずかしそうに横を向く。ちょっと申し訳ない気持ちになるけど、僕だって余裕があるわけじゃない。
 吸い寄せられるように、アソコに口づけする。ぢゅるっと音を立てて蜜を吸い、舌で丁寧に割れ目の表面をなぞり。
「はあっ! あっ、あっ……!!」
 栞さんの太股がぴくっと反応して、甘い声が漏れた。気持ち良さそうだ。僕の拙い舌遣いでこんなに早く反応するのは、我慢をしていないせいだろう。純粋に感じてくれている。僕を受け入れてくれている。そう思うと優越感が沸き起こった。あの部屋で傍観している間はずっと、『置いていかれた』気持ちに苛まれていたから。
「はぁっ、はぁあっ、んっ、んんっ!!」
 栞さんの内腿が強張り、何度も何度も甘い声が出る。割れ目の奥からはどんどんと愛液があふれだしてくる。
「すごい、たっくん……き、気持ちいい…………!」
 そんな褒め言葉が嬉しくて、僕はますます調子付き、舌を捻じ込む勢いであそこを舐め回す。そんな状態が、どれくらい続いただろう。
「はっ、はぁっ、はぁっ……た、たっくん、もうダメ………もう……我慢できない……」
 栞さんは、手で顔を覆いながら、弱々しくそう囁いた。
「……じ、実は、僕も……」
 僕の声だって、たぶん震えている。興奮して、興奮して、興奮しすぎて、アソコが弾けそうなんだから。
「い、挿入れるよ」
 片手で勃起したアレを押さえ、栞さんに尋ねる。
「ええ」
 栞さんが頷いたのを確認して、ゆっくりと腰を進める。ぬるりとした温かさがアレに纏わりついて、凄く気持ちいい。締め付けも強いから、挿入しただけで暴発しそうになる。
「ああああ……」
 栞さんからも、気持ち良さそうな声が漏れていた。深い挿入への欲求が満たされたんだ。僕が満たしたんだ。その嬉しさを胸に、さらに腰を進めると、そのうち亀頭がぐにょりとした物に突き当たった。膣の一番奥……子宮口だ。僕の子供サイズのアレでも、ちゃんと奥まで届くんだ。
「気持ちいい? 栞さん」
「うん……とっても」
 顔を近づけてそう確かめ合い、そのまま唇を重ねる。温かい舌と吐息。触れ合わせた胸や腹にさえ熱気が立ち上って、汗が熱い。その熱さは、僕の脳を茹で上げた。パンパンという音を聴き、凄まじい快感を味わって、ようやく自分が腰を振っている事実に気付く。
「き、気持ちいい、気持ち……いい……!!」
「ぼ、僕も……っ!!!」
 お互い快感に震えながら、あっという間に絶頂する。経験の乏しい僕でも、栞さんが逝ったのがはっきりわかった。
「はぁっ、はぁっ……!はぁっ、あぁ……っ!!」
 激しく喘ぎながら、痙攣する全身を密着させ、また口づけを交わしあう。そしてまた腰を動かし、温かい粘膜で繋がりあって、絶頂する。これを立て続けに3回繰り返した。
 でも、これで終わりじゃない。3連続で射精して、さすがにぐったりして仰向けに寝転がっても、まだ勃起は収まらなかった。
「大丈夫?」
 栞さんが上半身を起こして、心配そうに僕の顔を覗きこむ。お姉ちゃんの顔だ。でも同時にその顔には、まだ『したりない』という感情も隠れている。
「平気だよ、栞さん。もっとしよう」
 僕がそう言うと、栞さんは眉を下げて笑った。

 そこからは、栞さんが僕に跨って腰を振るようになった。さっきまでは、僕の方から捻じ込む形。今は逆に、咥え込まれる形。真逆の状態になると、感じ方も全然違う。角度のついた、ヌルヌルとした穴が、僕のはきちれそうな物を絞り上げる。
「ああああ……!!」
 今度は僕がか細い悲鳴を上げる番だった。
「……大丈夫?」
 栞さんは一旦腰を止め、心配そうに見下ろしてきた。
「大丈夫。気持ちよすぎて声が出ただけ」
 僕は笑みを浮かべて答える。心配を掛けたくないし、こんな気持ちのいい事をやめて欲しくもなかったから。
「そう。つらくなったら言ってね」
 栞さんは心配そうに言いつつ、細い腰を上下させる。彼女は、僕以上に性に飢えているようだった。僕に顔を見られる形だから、必死に隠してるみたいだけど、今にも満面の笑みを浮かべそうな表情だ。
「はあっ、あああっ、あんっ!!」
 気持ちよさそうな声。上下左右に揺れる大きな胸。僕の全身に降り注ぐ汗。そのどれもが僕を興奮させる。
「あああ、い、いいっ……! セックスって、こんなに……あああ、い、いくうっ!!!」
 感情の枷のなくなった栞さんは、本気で快感を貪っていた。グリグリと腰を横にうねらせて、中で咥えこまれた僕のアレを堪能している。捻じ切られそうなその刺激で、僕もすぐに逝ってしまう。
「い、いくっ、いくっ!! たっくん、ああ、たっくんっ!!!」
「栞さんっ、ぼくも、僕も……いくっ!!」
 2人で何度もそう叫び、ベッドを軋ませながら快感に浸る。
 幸せだった。人生で一番だといえるぐらい。
 でも、人生には山と谷がある。幸せの絶頂を迎えた、その後に待つのは下り坂だ。

「はあっ、はあっ、ああっ…………!!」
 5回連続で絶頂し、息を切らせながら抱き合っていた時。脱ぎ捨てたズボンのポケットから、メッセージの着信音が鳴った。
「なんだろ……?」
 ベッドから半身を乗り出してスマホを拾い上げ、メッセージを確認して、凍りつく。
「……どうしたの?」
 栞さんは緊張した様子で僕に訊ねる。でも僕は、彼女の方を向く余裕すらなかった。

『凄いな、2人共。普段クソ真面目な奴ほど、ハメ外すとヤバいんだな』

 その言葉に続いて、短い動画が送られてくる。動画が映しているのは、どこかの部屋。それほど大きくないベッドの上に、対格差のある男女が映っている。女性の方が大きいようだ。いかにも生真面目そうな2人。
「これって……!?」
 栞さんが目を剥いたのも当然だ。これは明らかに、僕らを映したものだ。撮影しているのは、ベッドの左側から。そっちへ視線を向けても、別に変なものはない。あるとすれば、いくつかの埃を被った家具と、木の机に、その上に置いた僕のボディバッグぐらいだ。
 この部屋にあるものに細工がされているとは考えづらい。となると、可能性があるのはボディバッグ。お気に入りで、今日も悠真君の部屋に置いていたものだ。
「あそこ、何か光ったわ!」
 栞さんがボディバッグを指差して叫ぶ。僕らはすぐベッドを降りて、バッグに駆け寄った。青い生地にいくつか赤いラインの入った、見慣れた外装。そのいくつもある装飾の内の一つが、不自然に光っている。
 ここで、またメッセージが来た。

『やっと気付いたか。匠はともかく先生まで見落とすなんて、よっぽどセックスに夢中だったんだな。そう、その小型カメラで全部見てたぜ』

 文面にはそうある。
 やられた。今日か昨日か、僕がバッグから離れた隙に仕込まれたんだ。そして、この部屋での行為を全部撮られた。さっき送られてきた映像を見る限り、カメラの映像データはどこかに転送され、保存までされているようだ。
「こ、こんな……。小学生が……こんな……!!」
 血の気が引いたのは、僕だけじゃないらしい。栞さんも青い顔をしている。

『安心しろよ。変に逆らったりしない限り、この映像は身内で楽しむ用にしといてやるから。じゃ、また明日』

 さらにメッセージが届く。
 何が安心しろ、だ。こんなもの、逆らえば映像を流出させるという脅しでしかない。僕ら2人の淫行がバッチリ映った映像。これがあれば、僕と栞さん、2人の身動きを同時に封じることができる。
「くそっ!!」
 カメラを取り外してスイッチを切っても、自由になった気がしない。僕らは相変わらず、蜘蛛の糸に絡め取られたままだ。
「ど、どうしよう、栞さん!?」
 そう訊いてはみたものの、どうしようもないことは解っていた。
「……今は、言われた通りにしましょう。大丈夫。きっと、そのうち飽きるわ」
 青白い顔から発されたのは、予想通りの言葉。
 自分一人への脅威ならともかく、僕まで巻き込まれた以上、彼女はもう思い切った行動が取れない。だからこそ、悠真君は僕をあの乱交現場に招いたんだろう。栞さんを縛る、決定的な楔として。
 


                              (続く)

魅せられた僕等の夏(前編)

※幼馴染のお姉さんが、家庭教師先のクラスメイト達に犯される小説です。NTR風味注意。
 長いので前後編に分けます。




 どこの小学校にも、異様にモテる奴が一人はいる。
 登下校時には女子から黄色い声が上がり、休み時間も女子に囲まれ、バレンタインの日には抱えきれないぐらいのチョコを渡される奴。
 うちの学校では、天崎悠真という子がそれだった。家は裕福らしくて、実際育ちの良さそうな見た目をしている。勉強も運動も卒なくこなすし、誰とでも無難に付き合う。人畜無害な『王子様』、という風だ。
 ただ僕は、そんな彼がたまに見せる、妙に冷めた表情が気になっていた。なんだか、周りの程度の低さに飽き飽きしているような。でもクラスの奴は「そんな表情は見たことがない」と口を揃えるし、女子には「クールなだけ」と返される。
 同意が得られない。その事実を前に、僕はかえって、天崎悠真という人間への興味を強めていった。
 今ならわかる。悠真君は、『見込んだ人間にだけ』陰のある表情を見せていたんだ。撒いた餌にしつこく食らいつく好奇心の強い人間に、ある誘いをかけるために。

 『自分には美人の家庭教師がいる』

 授業のある土曜日。校舎裏へ僕を呼び出した悠真君は、そう切り出した。正直、意外だ。僕はそれまで彼と、そう親しかったわけじゃないから。それに大人びた彼は、こういう俗っぽい話を振ってくるイメージでもなかった。でも、彼だって僕と同じ年の子供。美人なお姉さん相手に舞い上がり、クラスメイトに自慢したくなってもおかしくない……そう思った。特に何も、疑うことはなかった。

 悠真君の家庭教師は、難関私大に通う女子大生だそうだ。悠真君のお父さんもその大学の出で、息子も同じ大学へ行かせたい。でも無理強いする気はないから、まずは息子に大学への興味を持ってほしい。そのためには、大学の“今”を知る現役学生に教わるのが一番、というのがお父さんの考えだという。
「で、父さんが大学の教授に掛け合って、選ばれたのがこの人ってわけ」
 悠真君はそう言って、僕にスマホの画面を見せた。
「…………!!」
 僕は目を疑う。いかにも大学教授好みの、真面目そうな外見。それに見覚えがあったから。

 香月 栞さん。ウチの近所にある本屋の、一人娘。
 ネット社会の今、個人経営の本屋なんてほとんど誰も立ち寄らない。だからかその本屋では、休みの日になると、まだ中学生の栞さんが一人で店番をしていたりした。僕も昔から本が好きで、でもオトナの人と喋るのは苦手だったから、栞さんが店番の時を狙ってよく遊びに行ったものだ。
 栞さんは物静かで、社交的な方じゃない。でも仲良くなってみると優しくて、僕にオススメの本を何冊も貸してくれた。
 誰も来ない店の中、蝉の声と風鈴の音を聴きながら、カウンターを挟んで栞さんと本を読み耽る。これは、僕が一番好きな夏の過ごし方だった。栞さんといる時は、無理に何かを喋らなくてもいいから気が楽だ。
 そして、本へ静かに視線を落とす栞さんの横顔は、すごく綺麗だった。僕は何度も栞さんと話すうち、上品で物知りな彼女に惹かれていた。たぶん、それが僕の初恋だった。

「“栞さん”っていうんだ。胸もおっきいぜ」
 悠真君はそう言って唇の端を吊り上げる。栞さん。悠真君は、間違いなくそう言った。
「今日も授業の日だからさ。お前もウチ来るだろ、匠?」
 家庭教師をする栞さん……その姿をひと目見たい。その気持ちを抑えきれず、僕は悠真君の誘いを二つ返事でOKする。何の疑いも持たずに。


       ※        ※        ※


「帰ろう、匠くん」
 下校時間になり、悠真君がそう声をかけてきた。後ろに何人も取り巻きの女子を連れているのが流石だ。
「えーっ、私と帰ろうよー!」
 そう甘え声を出すのは、クラスで一番人気の桜井さん。小学生ながらにモデルをしていて、化粧まで覚えている派手めな子。僕も一時期好きだった子だ。
「ごめん。また今度ね」
 悠真君は、爽やかな笑顔で桜井さんの誘いを断る。少し前までは、彼のそんな態度が不思議だったけど、栞さんを知った後なら理解できる。いくら背伸びをしていようと、小学生はあくまで小学生なんだ。

「よう」
 校門近くで、僕と悠真君はそう声を掛けられた。横を向くと、色黒なサッカー少年の岡村と、眼鏡をかけた三橋が立っている。どっちも僕らと同じクラスだ。
「……行くぞ」
 悠真君は前を向いたままそう言った。2人がついて来る事は想定内という感じで。
「2人も、家庭教師のお姉さんに会いに?」
 僕が訊くと、岡村が笑う。
「ああ。勉強が終わったら、一緒に“遊ぶ”んだよ」
 岡村は、確かにそう言った。僕はこの時、まるで警戒心がなかったから、その言葉をそのまま信じた。外遊びばかりしているイメージの岡村が、悠真君と部屋で遊ぶなんて意外だな……そう思ったぐらいだ。
 多分この時には、岡村も、三橋も、すごく悪い顔をしていたはずなのに。


       ※        ※        ※


「ここだよ」
 20分ほど歩いたところで、悠真君が一軒の家を指差した。
 立派な一戸建てだ。庭と広いガレージつきで、敷地の入口には門まである。一人くらいならメイドがいたって不思議じゃない。
「遠慮なく上がって。今は親いないから」
 鍵で通用口を開きながら、悠真君が僕に言う。
 悠真君のところは、お父さんが単身赴任、お母さんが稽古事の先生をしている関係で、家に居ないことが多いらしい。栞さんが家庭教師として雇われたのは、単に勉強を教えるだけじゃなく、姉代わりに世話を焼いてほしい、という意味もあるんだとか。
 当の栞さんは、恩師の頼みということもあり、そして何より彼女自身が小学校の教師を志望していたため、快く引き受けたそうだ。
 あの内気な栞さんが、教師志望だったのは意外だった。
  (――もしかして、僕に何かを教えるのが楽しかったからかな)
 つい、そんな都合のいい考えまで浮かんでしまう。

 悠真君の部屋は2階にあった。一人っ子だけに部屋は広く、クローゼットを除いても軽く10畳はある。ベッドも本棚もカーテンも、インテリアのすべてが高級で、ガラステーブルに至っては8人ぐらいが並んで使えそうだ。まさに王子様の部屋、という感じがする。ここにクラスの女子を呼べば、キャーキャーと歓喜することだろう。
「暑ぃなー。エアコンつけようぜ!」
 岡村は無造作にランドセルを放り捨てながら、リモコンを手に取った。三橋も同じくランドセルを置き、ベッド横に座ってスマホを取り出す。
 岡村は元々遠慮なんてしなさそうなタイプだけど、三橋までこの寛ぎ具合というのは意外だった。もう何度もこの部屋に来てるんだろう。
 
 悠真君の持ってきたジュースを飲み終え、いよいよ手持ち無沙汰になった頃。部屋のインターホンから、チャイムの音が鳴り響く。その瞬間、岡村と三橋が待ち侘びたとばかりに顔を上げた。悠真君も大きく反応はしないものの、明らかに雰囲気が変わる。
 インターホンの画面には、女の人が映っていた。栞さんだ。改めて正面から見ると、やっぱり顔立ちがすごく整っている。芸能人と言っても通じるぐらいに。
「入っていいよ」
 悠真君は解錠ボタンを押しながら、一言そう呟いた。普段女子と話す時より低いトーンで。相手がお姉さんだけに、オトナぶってるんだろうか。僕は呑気にそう思った。

 子供部屋に入ってきた栞さんは、なんだか懐かしい感じがした。
 襟にほんの少しだけフリルのついたVネックの白シャツに、紅いカーディガン、黒いロングスカート。女性らしいけど、浮ついた感じがない、教師として一線を引いているような服装だ。長い黒髪を後ろできっちりと結い上げているのも、昔のまま。化粧はごくうっすらとしているだけだけど、それがまた自然で格好いい。これに比べたら、桜井さんの化粧なんてママゴトに思えてしまう。
 そして、背が高い。僕らの身長は小5の平均、145センチぐらい。それに対して栞さんは、160センチ半ばぐらいだろうか。身長差約20センチ。僕の視線の高さは、ちょうど栞さんの白い首あたりにくる。昔は腰に縋りつくのがせいぜいだったんだから、それよりは差が縮まったとはいえ、まだまだ大きい。
 そして懐かしい栞さんにも、明らかに昔と違うところがある。悠真君も言っていた、大きな胸だ。中学生の頃は控えめだったそこは、今はシャツに皺を作るほどまで育っている。
 これが……これが、オトナになった栞さんなんだ。

「し…………」
 僕は懐かしさのあまり、笑顔で栞さんの名前を呼ぼうとした。でも次の瞬間、喉まで出かかった言葉を飲み込む。
 栞さんの雰囲気が、ピリピリしていたから。一瞬こっちを見て目を見開いた以上、僕の存在には気付いたはずなんだ。でもすぐに目を逸らし、横を通り過ぎてしまう。まさか、よく似た別人なのか。そう思えるぐらい、つれない態度。
 そんな栞さんを、ガラステーブルに肘をついた悠真君が、薄笑みを浮かべて見上げていた。
「や、先生。今日も暑いね」
 笑みは笑みでも、普段クラスで見せている『王子様』の顔じゃない。相手を小馬鹿にしたような、どこか悪魔じみた笑み。
 僕の中で、違和感が増す。
 悪ぶっているにしては、あまりにも自然すぎる。もしかして、こっちが天崎悠真という人間の『本性』なのか?
 その事実に気付いてから、改めて振り向けば、岡村と三橋の表情も違って見える。好意的に見れば、子供が綺麗なお姉さん相手に鼻の下を伸ばしているだけ。でも悪意ある見方をすれば、性欲を持て余した獣の笑みだ。


       ※        ※        ※


 フローリングにクッションを敷いて座り、背の低いガラステーブルに教科書を広げて、悠真君の授業が始まる。
 さすがに難関私大を目指しているだけあって、授業の内容は明らかに小学生のレベルを超えていた。学校のテストでほぼ満点しか取らない僕が、さっぱり理解できなかったんだから。でも悠真君は流石で、その内容を完全に理解しているようだった。栞さんが問題を解くように促すと、悩む様子もなくサラサラとペンを動かし、正解を貰ってしまう。
「流石ね、もう解けない問題なんて無いんじゃない? わざわざ私に教わる必要なんてないと思うけど」
 栞さんの口調は、一貫して冷ややかだった。悠真君の事を嫌っている……というより、警戒しきっている感じだ。
 ただ、僕から見てもその日の悠真君は変だった。
「まさか、全然だよ。今日の分だと……ここが不安かな。もうちょっと難易度が上がったら詰まるかも。母さんにそう言っといてよ」
 今しがた迷いなく解いてみせたグラフ問題を指で叩きながら、そんな事を言う。わざとらしいほどの白々しさで。

 そして妙だといえば、岡村と三橋もそうだ。漫画を読んだりスマホでゲームをしたりしながら、頻繁に栞さんに視線を送り、ヒソヒソ話をしては笑っている。そしてその果てに、とうとう岡村が立ち上がり、口元を緩めたまま栞さんに抱きついた。
「きゃっ!?」
 背後から急に覆い被さられ、栞さんが悲鳴を上げる。
「へへへっ!」
 岡村はニヤけたまま、栞さんの服に手を入れはじめた。シャツの下から肘までを滑り込ませ、ロングスカートも一気に捲り上げてから、手首までを潜らせて。
 いきなりのその行動にも驚いたけど、すぐ横にいる悠真君のリアクションの小ささも意外だった。まるで、岡村が栞さんに襲い掛かると知っていたようだ。何かがおかしい。
「ちょっと。勉強中は、邪魔しないでって言ってるでしょう!?」
 あの物静かな栞さんが声を荒げる。でも岡村は怯まない。
「別にいいよ、構ってくんなくても。勝手に“遊んでる”から」
 そう言ってにやけ、服の中で手を動かし続ける。
「ホラ先生、授業授業。今日は218ページまでやるんでしょ?」
 悠真君も面白そうな表情を浮かべながら、栞に勉強の再開を促す。
 そんな2人を相手に、栞さんは眉を顰め、唇を結んだ。悔しいのに、言いなりになるしかない……そんな感じだ。

 岡村の妨害を受けながら、授業は続く。
 後ろからだと、弟を背中に背負ったまま授業をこなす姉、という風にも見える。でも、ただ甘えられているにしては、栞さんの反応が普通じゃない。意地でも家庭教師の仕事を続けようとする中で、その息はどんどん荒くなっていく。頬にも赤みが差してきたみたいだ。
「へへへ、先生。乳首勃ってきてるぜ? 構ってくんなくていいって言ったじゃん」
 岡村は勝ち誇った様子で言いながら、さらに肩を動かしつづける。
「クリも硬くなってきてっし、マンコも湿ってきてんなぁ。やっぱ三日ぶりだと感じんのかよ、ええ先生!?」
 岡村の声はでかい。耳元に囁きかける内容が、全部聴こえてくる。
 僕はその光景を前に、呆然としていた。すると、三橋がすぐ横に近づいてくる。
「……あいつの言う『クリ』ってわかる? クリトリスのことなんだけど」
 三橋の差し出すスマホ画面には、図入りで女性器の名称が並んでいた。クリトリス、という単語もその中にある。知らない知識だ。でも、今はそんな事どうでもいい。
「あ、あれ、止めないとまずいんじゃ……?」
 僕が岡村を指して耳打ちすると、三橋は驚いた顔になった。
「え? ……なんだ、聞かされてなかったんだ。さすが悠真、意地悪いなあ」
 そう言って面白そうに笑い、この部屋で起こった事を話しはじめる。

 その内容は、衝撃的だった。
 栞さんがこの家に雇われたのは、3ヶ月ほど前。それからしばらくは、理想的な家庭教師と生徒として過ごしていたらしい。その様子は目に浮かぶ。悠真君は人畜無害な優等生を演じるのがうまい。クラスの皆も、たぶん教師も、皆その演技に騙されてるんだから。
 そうして母親が安心し、家を空けることが多くなった頃……悠真君は、栞さんの飲み物に睡眠薬を混ぜ、眠らせたまま犯したらしい。そしてその時に撮られたビデオのせいで、栞さんは逆らえなくなった。
 そこからは悠真君が目を付けた何人か……岡村や三橋達と一緒に、この部屋で栞さんを玩具にしてるんだそうだ。
「そ……そんな事って……!?」
 絶句する。相手は学校の先生とほとんど歳の変わらない、いい大人なんだ。僕ならいくらムラムラしても、襲ったり、ましてや脅す気になんてならない。
 でも僕は同時に、どこかで納得してもいた。
 悠真君なら。
 彼には何か、底知れない部分がある。彼にじっくりと策を練られたら、いくら大人でも為す術がないかもしれない。
 事実、栞さんは岡村の“イタズラ”を受けながら、碌な抵抗ができないでいた。一応、岡村の腕を払いのけてはいるようだけど、そんなものは一時しのぎにしかならない。
「すげー、グチョグチョになってきた」
 岡村がそう言って、一旦腕を引き抜く。するとその指先は、オイルでも塗ったように濡れ光っていた。
「くくくっ……!!」
 僕のすぐ横で三橋が笑う。栞さんの横で悠真君も笑う。子供らしくない、歪んだ笑みで。
 そこから、数十分後。岡村から妨害を受けつつ、栞さんは根性で家庭教師としての仕事をやり終えた。でも、その代償は大きかったみたいだ。

 ベッドの上で、栞さんの服が脱がされていく。シャツがたくし上げられ、ほとんど脱げかけだったスカートがずり下ろされて。
 栞さんの下着姿。想像したことがないといえば嘘になる。でも実際に見たその姿は、想像よりもずっと生々しかった。着やせする方なのか、胸も太股もすごく『オトナ』だ。でも、決して太っているとかじゃない。スタイルはいい。まるで、グラビアアイドルでもできそうなぐらいに。
「ははっ、スケスケ!」
「もうビチョビチョじゃない、先生?」
 栞さんの両脚の間を覗き込みながら、岡村と三橋が冷やかす。薄い純白のショーツはすっかり濡れて、肌とアソコの毛を透けさせている。
「すげぇだろ。アレ全部、女が感じた時に出る汁だぜ。マン汁っつーんだ」
 岡村が、僕を振り返りながら笑った。自慢げだ。でも実際、僕には彼の真似はできない。女の人を感じさせるどころか、どこに指を入れればいいのかさえ解らないんだから。
 岡村も、三橋も……ただのクラスメイトだったはずの相手が、なんだか遠い存在に思えてくる。
「……さて、先生?」
 岡村は栞さんに向き直り、ショーツの前を強く引っ張った。
「んっ!!」
 股布が割れ目に食い込み、栞さんから小さな声が漏れる。
 上品そうな唇が尖るのも、なんだかエッチだったけど……僕の視線はすぐに、変形した割れ目へと吸い寄せられた。
 真ん中に純白のラインが食い込んだ、赤茶色の性器。お腹の方へ向かって茂った毛がやけにリアルだ。
 あれが、栞さんの…………恥じらいの部分。
「はは、見入ってる見入ってる」
 三橋が僕の方を見ながら、ゆっくりとショーツを脱がしに掛かった。
「っ!」
 栞さんは一瞬脚を閉じようとしたけど、岡村がぐっと膝を掴むと、諦めたように力みを解く。
 ショーツがすらっとした白い足の間を滑り、とうとうアソコ“そのもの”が僕の視界に飛び込んできた。
 ネット全盛のこの時代、女の秘部なんていくらでも目にする機会はある。でも、初恋相手の性器となれば話が別だ。
 動悸が早まる。息も、心も苦しいのに、アソコが勃ってきている。
「しかし、ホントよく濡れてるな」
 そう声を発したのは、悠真君だった。勉強していた時の位置のまま、ガラステーブルに肘をついて栞さんを見上げている。彼がそうしていると、本当に王子様に見えるから不思議だ。
 栞さんの表情が強張る。明らかに悠馬君を警戒している。そのピリピリした気配を肌で感じる距離なのに、岡村も三橋も態度を変えない。
「ああ。ちょっとイジったらすぐコレだ。最初は、抵抗するわ、ろくに指入んねーわ、全然濡れねーわで大変だったのに」
「そうなるように僕らで調教したんでしょ。週に何度も、たっぷり時間かけてさ」
 一見、仲間内の会話のよう。でもそれは、明らかに僕に聞かせるための言葉だ。まるで、秘密基地でも自慢するように。
 彼らは知っているんだろうか。その秘密基地が、元々は僕の遊び場だったことを。

 三橋と岡村は、僕に見せつけるように栞さんへのイタズラを続けた。いや、イタズラというより『愛撫』だ。後ろから乳房を揉み上げ、先端の膨らみを指で転がすのも、人差し指と中指で、クリトリスを擦るのも、AV男優みたいに手馴れている。彼ら自身が言っていたように、たっぷりと経験を積んだ結果だろう。どっちも僕と同い年なのに、女性経験の差は明らかだ。そう思うと、なんだか劣等感が湧き上がる。
 一方の栞さんは、地獄だろう。自分よりずっと年下の子供に、いいようにされるんだから。
「……んっ、ふっ…………ふゥ、んっ…………!!」
 栞さんは、眉根を寄せて空中を睨みながら、小さく声を漏らしはじめていた。其の反応を見ながら、三橋が笑う。そして栞さんの足を大きく広げると、いきなりアソコに口をつけた。
「んっ!!」
 栞さんの息が詰まる。
 三橋は両手の親指で割れ目を開きながら、犬が水を飲むみたいに、ぴちゃぴちゃと音を立ててアソコを舐め回していた。それが気持ち悪いのか、感じるのか、栞さんの足が強張る。
「メチャクチャ敏感になってるね、先生のUスポットとカリナ」
 三橋はそんな事を言っていた。意味はわからないけど、性感帯の名前なんだろう。
 さらにしばらく経つと、三橋は舐りでさらに濡れた栞さんのアソコへ、指を2本突っ込んだんだ。
「すごい、さっきより濡れてる。ほんと小学生にアソコ舐められんの好きだよねー、先生って。小学校の教師目指してるらしいけど、それってこういうの期待してだったり?」
 嫌みたらしい言い方をしながら、アソコの中の指を動かしはじめる。
「……っ!!」
 栞さんは、強い眼で三橋を睨んでいた。学校で先生が叱る時にする目だ。三橋は決して気が強い方じゃない。小3の時も同じクラスだったけど、先生に怒られるたびにベソを掻いているような奴だった。でも、今は随分と雰囲気が違う。栞さんに睨まれているのに、面白そうに笑っている。
「うわぁ、どんどん溢れてくる。Gスポ完璧に捉えてるもん、堪んないよね?」
 そう言いながら、指を複雑に蠢かす。AVでよく見る激しい動きじゃなく、ぐっ、ぐっ、とあそこの中を押し上げるような手つきだ。
「……ふっ……くっ……!! んんっ、ふ、ぅっ……!!」
 栞さんの呼吸が、段々と苦しそうになっていく。
「どうほら、こんな濡れちゃって。興奮してるんでしょ? 僕らのチンポ、欲しくなってきたんでしょ?」
 三橋は指を動かしながら、栞さんの目を見て尋ねた。栞さんは相変わらず強い瞳をしたまま、でも時々、その目が泳ぐ。たぶん、その瞬間彼女は絶頂してるんだ。知識の乏しい僕にさえそれが判った。となれば当然、三橋達も調子づく。
 とにかく、音がすごかった。三橋が指を動かすたびに、ぐちゅっぐちゅっという水音が立つ。栞さんの愛液……そう思うと、いよいよアソコが熱くなる。
 岡村が栞さんの右腿を引きつけ、三橋が左腿を押さえながらの『手マン』となると、栞さんの呼吸もいよいよ荒くなりはじめた。
「はぁっ、はぁっ……はあっ!!」
「へへへ、グチョグチョだね先生。いい加減我慢しないで言っちゃいなよ、チンポ欲しいって!」
 掌を上に向けたまま激しく動かしながら、三橋が囁く。
「…………!!」
 栞さんは答えない。代わりに白い内腿が、ピクピクと反応を示す。
「ほーら、噴いちゃえっ!!」
 そう叫びながら三橋が指を抜くと、栞さんの赤い割れ目から、ぷしゅっと液体が噴きだしていく。潮吹き、だ。AVで見たことのある光景だけど、目の前で起きるとやっぱり興奮度合いが違う。栓の役目を果たしていた指が抜けたせいか、むうっ、と嗅ぎ慣れない匂いが漂ってくるのも、生の現場ならではだ。生臭くて、本当なら悪臭と思ってもいいはずの匂い。でも、なんだろう。妙にアソコがムズムズする。すごく、興奮する匂いだ。
「ふうっ……ふっー……」
 栞さんは、やや視線を落とし気味にしたまま、ひどく荒い息を吐いていた。岡村と三橋の小さな手に掴まれた両脚が、細かに震えている。そして何より目を引くのは、潮を噴いたばかりのアソコだった。
 ビラビラの部分が充血してはいるけど、思ったより綺麗な形だ。何度も悠馬君達に『使われて』いるはずなのに、グチャグチャにはなっていない。未経験の大人のアソコ、と言われても信じられるぐらいだ。でも代わりにそこは、大量の愛液で濡れ、ヒクヒクと喘ぐように開閉を繰り返していた。
「あーあー、オマンコひくつかせちゃって。今日はずいぶん頑張るね、先生?」
 三橋が栞さんのアソコを見下ろして笑う。そしてその笑い顔は、次に僕の方を向いた。
「やっぱりそれって、新しいギャラリーがいるから?」
 その言葉で、場の視線が僕に集まる。岡村も、悠真君も、僕を見て口元を緩ませる。
「はははっ! んだよ、すげー勃起してんじゃん。ズボン膨らんでんぞ?」
 岡村がゲラゲラ笑う。確かに、勃っているのは自覚があった。ズボンに圧迫されて、痛いぐらいになっているのも。
 ただ……それを栞さんに見られるのは、すごく恥ずかしい。
「…………。」
 栞さんは、伏せがちな視線を少し上げて、前髪の間から僕を見ていた。
 栞さんは魅力的だ。ただ美人なだけじゃなく、どこか陰があるせいで、つい“覗き込みたく”なってしまう。あの悠真君ですら興味を惹かれるのもわかる。
 ただ、それに賛成できるかは別の話だ。こんな事は間違ってる。学校の先生に言っても、親に話しても、とんでもないと怒られるだろう。やっちゃいけないし、見過ごしてもいけない。頭ではそう解ってるのに、口も、身体も動かない。この場の空気に、呑まれてしまっている。
「……そうだ。せっかくだからさ、あいつのアレ、しゃぶらせようぜ!」
 岡村が悪い笑みを浮かべて、そんな事を言う。
「面白いね。よし、先生。やれよ」
 悠馬君も笑って、有無を言わせぬ口調で栞さんに命じる。
「えっ……!?」
 僕と栞さんは、同時に声を上げた。まだ声変わりしていない僕と栞さんの声のトーンはよく似ていて、完全に被る。
「え、じゃないって。いつもオレらにやってるみたいにしてみろよ!」
 岡村は、栞さんの手を引いてベッドから下ろす。床に足をついた栞さんは、バツが悪そうな表情を浮かべ、ゆっくりと僕に近づいてくる。
「あ、あっ……」
 一方の僕は、未だに状況を呑み込めていない。
 傍観者から、いきなり主役になってしまった。あの、栞さん相手に――。
 戸惑っているうちに、とうとう栞さんが僕の目の前に来る。近くで見ると、本当に綺麗だ。テレビでみるアイドルやアナウンサーより、もっと顔立ちが整っているかもしれない。
「あ、あのっ……!」
 僕は意味もなく声を出す。俯きがちだった栞さんの視線が上向き、僕の瞳とぶつかった。とても静かで、澄みきった目だ。僕の顔がそのまま瞳に映り込むぐらい。
「…………。」
 栞さんは俯き、僕のズボンをずり下げる。トランクスに引っ掛かりながらぶるんと飛び出たアレは、今までにないぐらい勃起していた。12センチか13センチか……大人に比べれば、全然な大きさなんだろうけど。
 栞さんが薄桃色の唇を引き結ぶ。そしてゆっくりと前屈みになりながら、真っ直ぐに突き立った僕のアレを咥えこんだ。
 ぬるっ、とした温かさが、僕の大事な部分を包み込む。
「あああっ!!」
 甲高い声が出て、三橋達に笑われる。恥ずかしい。でもそれより、興奮の方が大きかった。生温かい粘膜が敏感な部分に纏わり付いてきて、ゾクゾクする。弾力のある舌がチロチロと先端を嘗め回してくると、尿道が強張る。射精の感じが、ぐんぐん近づいてくる。
 栞さんは今、どんな気持ちだろう。そんな事に思いを巡らせる余裕すらない。
「ふあっ、すごい……!!」
「へへへ、気持ちーだろ。オレらがガッツリ仕込んだからな!」
「そうそう。最初の頃は恥ずかしがって、全然咥えらんなくてさ。悠真が髪掴んで無理矢理やらせたんだよね」
 僕が声を上げると、それを待っていたように岡村と三橋が語りはじめる。そんな自慢も、今は興奮材料にしかならない。
 栞さんを汚したくない。でも射精感が限界だ。なんとか我慢しようと視線を巡らせると、目の前に広がった栞さんの背中が目に飛び込んでくる。
 白くて、大きい背中だ。肩甲骨や背中の筋がはっきり浮き出ていて、着替えの時に見るクラスの女子のそれとは全然違う。身体のしっかり出来た大人の女性……僕の憧れのお姉さんだった彼女が、僕の物をしゃぶってるんだ。
 その気付きが、最後のトドメになった。尿道が痛み、焼けるように熱くなる。
「あ、もう……出るっ!!」
 そう叫ぶと同時に、アレが痙攣する勢いで射精が始まった。液体だけじゃない。ゼリーのような感触の物が、いくつもいくつも尿道を通りぬけていく。
「んっ、んんっ!!」
 栞さんから、くぐもった声が漏れた。でも、口を離そうとはしない。何秒も続く射精の間、栞さんは片手でしっかりと僕の分身を支え、精液を口に受けつづけていた。
 ようやく射精が終わり、栞さんが顔を上げる。するとその口の端から白い筋が垂れていて、それがメチャクチャ興奮した。
「よし、全部受け止めたな。いつもみたいに見せてみろ」
 悠馬君が、かすかな笑みを浮かべながら命じる。クラスの女子なら泣いて喜びそうな、クールな命令。それを受けて、栞さんは……ゆっくりと口を開いた。口の中……舌の上に、自分でも驚くような量の精液が乗っている。
 こんな量を、口で受け止めたのか。そしてその事実を相手に晒すのは、彼女にとってどんなに恥ずかしいことだろう。
 実際、栞さんの頬は赤くなっていた。屈辱からか、恥じらいからか、あるいはその両方か。
「ははっ、スゲー量!」
「ホントだ。ひょっとして、これが精通だったり?」
 僕の横へ来た岡村と三橋が、栞さんの口内を覗き込んで笑う。さすがにこれが精通ってわけじゃない。栞さんによく似たアイドルの写真集で、たまらずオナニーした経験がある。でも、ここまで大量に出たのは初めてだ。
「よし。じゃ、飲み干せよ」
 悠馬君が続けてそう命じる。すると栞さんは、口を閉じてから喉を蠢かし、んぐっ、という音をさせた。飲み込んだんだ。あんな量の精液を。
「美味しい? 先生。」
 悠真君がそう問うと、栞さんは眉を顰めた。おしっこの穴から出るドロドロしたものが、美味しいわけがない。栞さんは仕方なく飲んだに決まってるんだ。弱みを握られていて、逆らえないから。
「良かったな。これで、お前の匂いも覚えてもらえたぜ!?」
 岡村がそう言って笑う。するとその後ろで、テーブルに肘をついていた悠馬君が立ち上がった。
「フェラのついでに、セックスもさせてやろうか?」
 淡々とした口調で、衝撃的な発言が飛び出す。僕と栞さんが目を見開いたのは、同時だった。
「え……?」
「まだ勃起したまんまだし、もう一発いけるだろ? フェラなんかよりずっと良いぞ」
 ニヒルな笑みを浮かべる悠真君。冗談を言っている感じじゃない。
 確かに、僕はまだ射精できる。あれだけ出したばかりなのに、アレが少しも柔らかくならない。ある程度の刺激があれば、またかなりの射精ができる確信がある。
 でも。
 それだけは駄目だ。セックスだけは。最後の一線だけは越えちゃいけない。
「……僕、いいよ」
 口ごもるように、そう言う。フッ、と笑い声がした。岡崎か、三橋か、それとも悠真君か。
「そ。じゃあ、いつも通り俺らでやろっか」
 硬い表情の栞さんを囲いながら、3人の悪魔が笑った。


       ※        ※        ※


 ベッドへ仰向けで横たわる栞さん。それを追うように、服を脱いだ悠真君もベッドへ上がる。白くて、すごく綺麗な体だ。女子に黄色い声を上げられるだけのことはある。
 彼のアソコは勃起していた。栞さんを前にして、興奮してるんだ。年頃の男の子としては普通のことだけど、どこか達観した風な悠真君だと不思議な感じがする。
「先生の処女奪った時も、この体位だったよな。あの時は手縛ってたけど」
 悠真君は、栞さんの両脚をMの字に曲げさせながらそう言った。
「…………!!」
 栞さんの表情が険しさを増す。
「そうそう、その顔もまんま同じ。で、その後、すげぇ暴れたんだよね。腰の力だけで、ハメてる俺を振り落としてさ。さすがオトナだなーってビックリしたよ」
 しつこく栞さんを犯した話をするのは、自分が興奮するためだろうか。それとも新参者の僕に自慢してるんだろうか。
 聞きたくない。知りたくない。初恋の相手が犯された話なんて。
 悠真君は笑いながら、勃起したアレを割れ目に宛がった。大きさは僕と変わらない、十センチちょっとだろう。ただ僕のと違って、皮がエラの張った先端部分の下まで剥けていた。何度もセックスしているとそうなると聞いた事があるけど……やっぱり、そうなんだろうか。
 アレが前後に擦りつけられ、愛液が纏わりついていく。肌色の肉がヌラヌラ光っていると、妙にエロい。本能的に、これから男女の『営み』が起きるんだと理解できてしまう。
「いくよ、先生」
 悠真君が薄笑みを浮かべた。そして強張る栞さんの気配を楽しみながら、ゆっくりとアレの先を割れ目に沈めていく。沈み込むほど、栞さんが息を詰まらせ、逆に悠真君は息を吐き出していく。
「あー、キモチいいー……」
 悠真君の腰が、栞さんの茂みにくっついた。奥まで入ったんだ。そこから悠真君は、ゆっくりと腰を引き、前後に腰を動かしはじめた。
 膝を折り曲げた大人の女性に、小さな子供が覆い被さって揺れ動く。まるで子供がお母さんにプロレスごっこでもしてもらっているみたいだ。
 そう、見た目だけなら。でもそれ以外のあらゆる情報が、目の前の行為を『セックス』だとはっきり示している。
 パン、パン、と肉のぶつかる音。ぬちゃっぬちゃっという湿った水音。真剣味を感じる、押し殺したような呼吸。そして、匂い――汗とは違う、もっと生々しいもの。
「すげー、腰止まんないや。やっぱオナ禁して3日ぶりにハメると、メチャクチャ良いね」
 悠真君は激しく腰を遣いながら、笑みを深めた。
「知ってる先生? この歳でオナるの我慢すんのって、すごい大変なんだぜ。3日目の今朝なんか、クラスのガキ共まで美味しそうに見えちゃってさ。帰ったら先生に思いっきりぶちまけようと思って、一日耐えたんだぜ」
 声も、話す内容も、とてもあの悠真君だとは思えない。クールで爽やか、王子様と言われてるあの悠真君が、内心ではクラスメイトに欲情してたなんて。昨日までの僕に話したって、到底信じないだろう。
「ふうっ、ふうっ……!!」
 栞さんは下になって犯されながら、悠真君に強い瞳を向け続けていた。情けない顔など見せない、という意思が感じられる目だ。でも悠真君は、その目を愉しんでいる。パンパンという肉のぶつかる音が、どんどん早くなっていく。
「ああ駄目だ。先生、出すぞっ!!」
 悠真君は、栞さんの目を覗きこみながら宣言する。一方の栞さんは、強い眼のまま唇を噛みしめた。その、直後。
「ううっ!!」
 小さな呻き声と共に、悠真君が動きを止めた。そして彫像のように綺麗な腰を、小さく痙攣させはじめる。
 射精してるんだ。栞さんの膣内に。そう実感すると、胸がしくしくと痛んだ。
「ふーっ……」
 長く思えた数秒の後、悠真君が腰を引いた。少し張りをなくしたペニスがずるりと抜け、割れ目から白い液があふれ出す。相当な量だった。僕が普段オナニーして飛び散る量より、ずっと多い。
「うへー、すげぇ出したな王子様!?」
 岡村が茶化すように笑った。
「やっぱ三日ぶりだと溜まってるな。生ハメってのもまた気持ちイイし」
 女性の膣の中に射精したというのに、まるで緊張感のない会話が続く。僕より進んでる彼らなら、知らないはずないんだ。そんな事をしたらどうなるか。
「あ、あのさ……中に出すのは、まずいんじゃあ……」
 僕は、恐る恐るそう声を掛けた。場の空気が少し変わる。内輪で盛り上がっているところに部外者が割って入った時の、あの白けた空気。僕は昔から、この空気がすごく苦手だ。だから近所の子が遊んでる時にも、『よせて』の一言が言えなかった。言えなくて、本の世界に逃避していたんだ。
「ああ、それなら大丈夫。先生、妊娠しないクスリ飲んでるから」
 悠真君は、ベッドの上から僕を見下ろしてそう答えた。岡村と三橋が肩を竦めるようにして笑う。まただ、この疎外感。この3人が知っていて、僕が知らない事実が、あといくつあるんだろう。
「さて、交替だ」
 悠真君はそう言ってベッドを降りながら、岡村とタッチする。今度は岡村が、栞さんを犯すんだ。
「はぁ……はぁ…………」
 栞さんは真上を向いたまま、静かに胸を上下させていた。僕が横顔を凝視しているのは多分気付いてるんだろうけど、こっちに視線を向けようとはしない。
「さーて先生、次はオレだ。昨日シコっちまったけど、安心しろ。オレって精力スゲーから。ま、嫌ってほど知ってるだろうけどな!」
 岡村はそう言って、反り返るぐらい勃起した物を扱き上げた。


       ※        ※        ※


 岡村は、栞さんを犬みたいに四つ足で這わせ、後ろから犯した。栞さんの腰を掴んだまま、激しく自分の腰をぶつけるやり方だ。これも体格差があるせいで、前後に揺れる栞さんのお尻に、岡村がしがみついているように見えてしまう。
 でも意外に、その犯し方が栞さんを追い詰めているみたいだった。
「はあっ……はあっ………はあっ!!」
 這う格好のまま、髪の結った部分が上を向くぐらいに俯く栞さん。その口から漏れる呼吸は、だんだんと荒くなっていく。
「しっかし、マジすげーなこのマンコ。突くたびにキュウキュウ締め付けてくるわ。もう何遍もやりまくってんのに、ヤればヤるほど具合よくなってんじゃね?」
 岡村は満面の笑みで腰を振りたくりながら、大声を轟かせた。
「こなれてきてる、ってのはあるかもね。ネットの体験談とか見ても、夫婦が毎日セックスするうちに具合よくなったって例はあるみたいだし」
 三橋がスマホを弄りながら、淡々と答える。
 ガサツな岡村と理屈っぽい三橋。改めて思うけど、変な取り合わせだ。でも、悠真君がこの2人を選んだ理由はわかる。栞さんを犯すパートナーとして考えるなら、体力馬鹿でガツガツ犯りまくれる岡村も、知識欲旺盛で色々と責め方を工夫する三橋も、クラスじゃピカイチの逸材だ。
「ああああイクッ!!!」
 デカイ声で喚きながら、とうとう岡村が射精を始めた。腰を止めて射精に専念した悠真君とは違い、腰の動きは止めない。浅く打ち込みながらの射精だ。
「うひょー、キモチいいーっ!!」
 グチュッグチュッと粘ついた音をさせながら、岡村はニヤけきっていた。その顔だけで、射精しているのが見て取れる。嫌だ。心にドロドロしたものが生まれてしまう。
「ふうーーっ。やっぱ兄貴のAV観てシコるより、ナマの女ハメた方が10倍キモチいわ!」
 最後の最後まで声量は下げないままに、岡村が逸物を抜き出した。抜く勢いが強くて、辺りに白い飛沫が飛び散っていたし、半勃ちのアレからは塊に近い精液が垂れて、シーツに重い音を立てた。
 そして、栞さんの割れ目からまた白いものが垂れる。
「すげぇな、2発でコレかよ。オレ昨日見てたの、10人の男優にオンナ1人がヤラれるビデオなんだけどさ、そのシメのシーンと同じぐらい出てんぜ」
「AV男優って下積み長いらしいし、活躍できる頃には結構トシだからね。僕らみたいな思春期入りたてに、射精量じゃ勝てないでしょ」
 岡村の言葉を受けつつ、今度は三橋が栞さんの腰を引き寄せる。

 こうして栞さんは、3人に代わる代わる犯された。一巡目でたっぷりと射精して満足してからは、それぞれが余裕を取り戻し、少し凝った責め方をするようになった。
 例えば悠真君なら、1巡目とは逆で自分が寝そべり、栞さんに跨るようにして腰を使わせたり。岡村なら、また後ろから挿入しつつ、抱きつくようにして胸を揉みまくったり。三橋なら、向き合う形で犯しながら、ローターという道具でクリトリスを虐め、自分が射精するまでに何度も何度も小さくイカせたり。
 こんな事を繰り返されれば、栞さんも無反応ではいられない。
 上品だからか、それとも子供の前だからか、アンアンとAVみたいに喘ぐことはない。代わりに息が荒くなる。口を引き結んでいた間は、んふーっ、んふーっという鼻からの息が。そのうち口が開きだしてからは、はあーっ、はあーっ、という、湯気まででそうな息を漏らしはじめる。
 身体の反応も生々しい。
 いつからか、太股の筋肉は犯される間じゅう、グニグニと蠢くようになっていた。足の5本指は必ずといっていいほど揃っていて、かなり力が入っていることがわかった。愛液の出方も普通じゃなくて、内腿から膝の辺りまでがテラテラと光っていた。
 そして、乳首だ。最初はツンと尖っていて、せいぜい指で転がされるくらいの大きさだった。でも特に岡村の指で何度も何度も擦られるうちに、どんどん尖り方が増してくる。そして1時間が経つころには、親指と中指で横から挟み潰せるぐらいになっていた。
 こうした変化は、3人にもすぐに見つけられ、ここぞとばかりに言葉責めのネタにされた。そして栞さんも根が真面目だから、言葉責めを受けるといちいちそれに反応してしまう。
『太股がヒクヒクしてきてるよ。そんなにイイの?』
 そう囁かれれば、下半身に意識を集中してしまうらしく、胸への責めで肩を震わせてしまう。
『乳首がすげぇ尖ってきてるぜ。やらしいなぁ先生?』
 その言葉で胸に注意を向けられれば、下半身の突きこみでの反応が増す。まさに、いいオモチャだ。

 昼過ぎから始まったセックスの中で、栞さんは何回、悠真君達にイカされたんだろう。
「あれ、もうこんな時間かぁ」
 三橋のその一言で時計を見ると、そろそろ3時半になろうというところだった。同じく時計を見上げた栞さんが、はっとした表情になる。
「は、離れて……そろそろ、服を着ないと……!」
 栞さんは、正面からしがみつくようにして腰を振る岡村に言った。
「いいじゃん。もうすぐイキそうなんだからさ」
「駄目っ、早くして!!」
 ひどく慌てた様子で岡村を引き剥がし、ベッド脇のウェットティッシュで股間を拭いはじめる。岡村も不満そうにしながら、同じく股間を拭きだした。悠真君はすでにちゃんと服を着終えていて、部屋の中に消臭スプレーを撒いている。
「……何かあるの?」
 僕は、スマホを見ながらズボンを履いている三橋に尋ねた。
「そろそろ、悠真のママが帰ってくるんだよ。ナントカ教室の生徒と一緒にね」
 その言葉の直後、インターホンが鳴り響く。
「あーくそっ、今日は早ぇな!」
 まだ服を着ていない岡本が焦る。栞さんも姿見で服装や髪型をチェックしつつ、体に香水のようなものを振り掛けている。
「はーい。今開けるよ」
 部屋の中をちらりと確認しつつ、悠真君が開錠ボタンを押し込んだ。


「先生、今日もありがとうございます」
 悠真君のお母さんは、そう言って深く頭を下げた。歳はうちの母親より少し上みたいだけど、悠真君の生みの親だけあって、すごく綺麗な人だ。そしてなんだか、おっとりとしたお嬢様っぽい雰囲気もある。
「いえ。こちらこそ」
 栞さんはすっかり『先生』の表情に戻り、あらかじめ悠真君が言い含めていた通りの苦手分野について話をしていた。悠真君のお母さんは、ニコニコしてそれを聞いている。
 一階のリビングからは、何人かの賑やかな話し声が聴こえていた。
「母さん。僕、皆に挨拶してくるよ」
 悠真君はお母さんにそう一声かけ、いつもの王子様らしい顔で階段を降りていく。その直後、リビングの方からキャーッと黄色い声が響いてきた。学校の教室で、聞き飽きるほどに聞いた歓声だ。
「……相変わらず、人気ですね」
 栞さんが、悠真君のお母さんに言う。表面上は笑みを浮かべて。
「ふふふ。ありがとうございます」
 お母さんの方は、幸せそうに笑うばかり。自慢の息子に、問題などあるわけがない――そう信じきっている感じだ。もっとも、あの悠真君の親ならそうなるだろう。猫を被っている悠真君は、人畜無害な優等生としか思えないんだから。

 悠真君のお母さんが部屋を後にし、階段を下りていった後。
「ふーっ……危なかったな」
 岡村は大きく息を吐き出し、抑えめの声で呟いた。
「やっぱ夏場はいいよね。ちょっと汗臭かったりヘンな匂いしても、不思議がられないから」
「だな。直前にスプレーしたぐらいじゃ、完全に匂い誤魔化せないし」
 愛液まみれのティッシュが入ったゴミ箱を見つつ、三橋と悠真君が笑う。
 すっかり場の空気は変わった。お母さん達も帰ってきたことだし、ここでお開きだろう。僕はそう思った。見ていただけなのにひどく疲れていて、早く家に帰って横になりたかった。
 でも、まだまだ終わりなんかじゃなかったんだ。
「さてと……中途半端なトコで終わったから、まだチンポビンビンだよ。再開しようぜ先生」
 そう言うが早いか、岡村がズボンを脱いで、勃起しきった物を露出させる。栞さんが目を見開いた。
「ほら早く。硬くなりすぎてて痛ぇんだって!」
 岡村はそう言いながら、フローリングの上でまた栞さんのスカートを脱がしに掛かる。
「ちょっ…と、やめて。またいつお母様がいらっしゃるか、わからないのよ!?」
 栞さんは当然反抗するけど、岡村の手は止まらない。
「大丈夫だって、足音ですぐわかるから。あんま抵抗してっと、『あの映像』ネットに流しちまうぞ」
 岡村が耳へ吹き込むようにそう言うと、栞さんの表情が固まった。岡村の手首を掴んでいた手が、ゆっくりと開いていく。
「そうそう。大人しくしてんのが一番だって」
 岡村は笑いながら栞さんの左脚を上げさせると、ショーツを横にずらす形で挿入を果たした。
「んっ!!」
 悔しそうな顔で小さく呻く栞さんと、頬を緩める岡村。その顔は対照的だった。

 そしてまた、セックスが始まる。
 今度は、パンパンという肉のぶつかる音はしない。ぬずっ、ぬずっ、という感じの、すごく地味な挿入の音がするだけだ。
「ははっ。焦らされてビンビンの状態だと、余計気持ちいいぜ!」
 岡村は興奮して喘いだり笑ったりしてるけど、栞さんはずっと息を殺している。フローリングに這い蹲って右耳をつけ、床へ視線を向けながら。多分、誰かが2階へ上がってこないか必死に探ってるんだ。もちろん悠真君達もそれは警戒してるし、僕はあえてドアの前に立って、いきなりは開けられないようにガードしてる。でも、栞さんにしてみれば気が気じゃないんだろう。万一この光景が見つかったなら、一番怒られるのは栞さんだ。僕らと違って、大人だから。責任を自分で負わなければいけない立場なんだから。
 でもそういうプレッシャーは、栞さんから確実に余裕を削り取っていく。

 2回戦が始まってから、何分が経った頃だろうか。
「ははっ。なんだよ先生、マンコがすげぇヒクついてきてんぜ」
 岡村が、嬉しそうにそう言った。その言葉で改めて見れば、淡々と繰り返されていたはずの光景は、かなり変わっていた。
 上半身裸の岡村は、冷房が効いている中でも汗びっしょりだ。となれば当然、犯されている栞さんだって涼しい顔はしていない。頬は赤いし、横顔には目で見えるぐらいの汗が何筋も流れていて、閉め忘れた水道みたいに顎から滴りつづけている。床に這い蹲るポーズは変わらないけど、もう明らかに階下の音は聞いていない。右耳を床につけているというより、こめかみを擦りつけて何かを必死に誤魔化している感じだ。支えとなっている左手も、たまに床を掻くような仕草をしていて、堪らない感じが伝わってくる。
 そして一番違いがあるのは、やっぱりあそこの付近だった。
「あそこグチョグチョだしよ、感じてんだろ?」
 どこか自慢げに岡村が囁く通り、栞さんは明らかに濡れていた。抜き差しを繰り返される割れ目から、左の太股を伝う形でかなりの汁が垂れている。それはお腹を流れる汗と交じりあって、フローリングに小さな水溜りを作っていた。
「んっ、んっ…………!!」
 栞さんは何も答えない。口を閉じ、鼻から荒い息を出しながら、近くの壁を睨んでいるだけだ。
「あああすげぇ、いくっ……! いくぞ、先生……!!」
 生々しいピストンの果てに、岡村が呻き、腰を振りが緩やかになる。射精だ。
「あああ、すげぇ……すげぇ量出てるよ、なぁ先生?」
 岡村はいちいち栞さんに語りかけ、相手が嫌がるのを楽しんでいた。そういえば元々、気に入った女子をからかうのが好きな奴だったっけ。
 岡村のペニスが抜かれれば、やっぱり割れ目から白いものがあふれ出す。
「はぁっ……はぁっ……」
 栞さんと岡村の荒い息が、静まり返った部屋に響く。でも、当然これで終わりなんかじゃない。
「じゃ、次は僕でいいかな?」
 三橋がそう言ってズボンを脱ぎ捨てる。こっちの勃起具合も相当だ。三橋はそのまま栞さんの背後に寝そべり、下半身を密着させた。
「わ、すっごい汗。背中も太股もヌルヌルじゃん。声出せない状況でヤられて、余計にエネルギー使っちゃったとか?」
 そんな事を言いながら、栞さんの左の太股を抱え上げ、開いた足の間に遠慮なく勃起したものを沈み込ませていく。亀頭部分が飲み込まれる瞬間には、ぶちゅうっ、というなんともいえない音がした。栞さんの女の部分が、表面まで水気たっぷりだという証だ。
 アソコが痛い。大人の女性が悔しそうに犯される場面を見ながら、勃起してしまっているらしい。
 皮膚につくような汗の匂い、生臭い男と女の匂い、夏の日差しとは無関係な暑さ。部屋の中心から一番強い僕さえ、それに当てられてしまっている。
 こんなの、ダメだと思ってるのに。わかってるのに。
「すごい。子宮が下りてきてるって奴かな、簡単に奥まで届くよ。ホラここ、コツコツ当たってるでしょ?」
 三橋も岡村と同じく、しつこいぐらい栞さんに意見を求めていた。栞さんはやっぱり答えない。答えないままに、ちょっとずつ変わっていく。
 僕の位置からは、全部見えた。子供ペニスを突き込まれるたび、栞さんの内腿に筋が刻まれるのも。シャツから覗く、白い腹が蠢くのも。抱え上げられた左足の先が、見えない壁を蹴り込むように強張るのも。とうとう普通には声を抑えきれなくなり、支えだった右手で口を押さえだすのも。支えを失ったせいで、栞さんの大きな身体が、いよいよ『されるがまま』に揺れはじめるのも……。
 3人は、繰り返し、繰り返し、栞さんを犯し続けた。一回あたりの時間は10分未満とはいえ、いったい何周したんだろう。僕は、正直呆れ返った。僕だって同じ年頃だから、裸の女性を前にムラムラする気持ちはわかる。でもそれにしたって、底がなさすぎる。
 その性欲をまともにぶつけられる栞さんは、たまったものじゃない。
「はぁっ、はぁっ……はあっ、はぁぁっ…………!!」
 抑え気味ではあるけど、そのぶん重苦しく、熱い息が吐き出される。感じているのは疑う余地もない。

 結局この日のセックスが終わったのは、下の階からカレーのいい匂いがしてきた頃だった。時計を見ると6時半過ぎ。3人は、再開してから実に3時間ほど、ぶっ通しで栞さんを抱いていたことになる。
「ふーっ、そろそろ夕飯か」
「ガッツリやったなー。チンポヒリヒリするわ」
「なんかメチャクチャ興奮したよね、バレるかもって思うと。先生もそうだったっぽいけど」
 3人は座り込んだまま笑い合う。その視線の先では、ようやく両脚を閉じられた栞さんがぐったりと横たわっていた。そのお尻の間……完全にヨレたショーツの横からは、目を疑うような量の精子が溢れている。
「ほら先生。いつまでも浸ってないで、後始末しないと」
 悠真君が明るい口調でそう言うと、栞さんの肩がぴくりと動いた。そしてゆっくりと立ち上がると、悠真君が置いたクッキー缶の蓋に跨り、指で割れ目を開いて“中身”を掻き出す。動きの迷いのなさから考えると、いつもやっていることなんだろう。
「スゲー、これ3人で出した最高記録じゃね?」
「ああ、こんなに出るんだ。こうして征服感味わえるから、生ハメってやめらんないよな」
「そうそう。他の奴が出した穴でやるのって抵抗あるけど、ゴム有りじゃこの瞬間が見られないし」
 蓋に溜まった精子を眺めながら、3人が笑い合う。
「…………ッ!!」
 栞さんだけは、苦々しい表情で唇を噛む。
 その4人の表情は、支度を整えて降りていった1階ではガラリと変わった。
 子供は子供らしい、先生は先生らしい表情に戻る。特に悠真君は、普段学校で見せている、人畜無害な王子様の顔そのままだ。
 (……あれは、夢だったのか……?)
 さっきまで素顔を見ていた僕でさえ、そう思ってしまうほどの演技力。
 改めてゾッとする。悠真君は、本当に底が知れない。

「結局、一回もやんなかったな。匠」
 家を出て間もなく、悠真君がそう話しかけてきた。振り向くと、素の顔をした彼がいる。相変わらず底知れない雰囲気だ。
「……うん。なんか、いざとなったら怖くって」
 僕は悠真君の目を見ながら、搾り出すように言った。目を逸らしながら言えば、一瞬でウソを見抜かれる気がしたから。
「ふーん。ま、それが普通なのかもな。オトナ相手だし」
 頭の後ろで手を組む悠真君に、気負った様子はない。あれだけの事をした後なのに。
「……ゆ、悠真君は、怖くないの? 栞さんに……あんな事して」
 僕は意を決してそう尋ねる。どうしても聞きたかった。
 悠真君は、少し意外そうな顔をした後、空を見上げる。濃い紫色で、まだ完全な黒というわけじゃない。でも、澄んだ部分もない。まるで、悠真君自身のように。
「怖いっていうか……ドキドキしてるかな」
 悠真君の第一声は、それだった。
「頭がよくて、品があって、しっかりしてて。今時、あんな真っ当な女子大生なんてそういないと思う。だから、それを俺らみたいなガキがどこまで変えられるか……楽しみじゃん」
 その言葉に、岡村と三橋もニヤついた顔になる。
「そうそう。先生、順調にエロくなってきてるしね。最初の頃は、いかにも処女って感じでなかなか濡れなかったし」
「今日は特に濡れまくってたよな。なんでだろうな?」
 盛り上がる2人を見てふっと笑い、悠真君は僕に向き直った。
「でさ、匠。これでお前も、共犯だよな」
「えっ……!?」
 胸がざわつく。
「おっ、有無を言わせずか。気に入られたねぇ!」
 三橋が面白そうに眼鏡を押し上げた。岡村も意外そうな顔だ。その反応からして、彼らの時より強引な誘いらしい。
 なんで、僕に限って。僕はこの続きを望んでない。僕の存在に気付いた時の、栞さんのピリピリした雰囲気が忘れられないんだ。昔馴染みの僕に見られるのは、栞さんにとって望ましくないに決まってる。だから僕は、もうあの部屋に行くべきじゃない。なのに、なんで。
 そこまで考えて、ふと悠真君の視線に気付く。彼は、じっと僕の眼を見ていた。心の内まで見透かすような、冷めた瞳。とても同い年とは思えない。
 彼は、全部知ってるんじゃないか。僕と栞さんが知り合いだって事も、僕が栞さんに惚れている事も。だとしたら、今まであまり接点のなかった僕を誘ったのもわかる。
 もし、そうだとしたら……逃げられない。もし共犯という言葉を認めずに立ち去ったなら、きっと彼は報復してくる。僕の学校での立場が悪くなるぐらいならいいけど、その子供特有の残酷さが栞さんに向いたなら、最悪だ。考えたくもない。
「うん……」
 僕が迷った末に頷くと、悠真君はパッと笑顔になる。
「じゃ、また来いよ。メールするから」
 最後のその言葉は、僕にとって呪いに等しい。
 彼からのメールに応じなければ、裏切りだと取られるだろう。だから、行くしかない。

 でも本当は、それだけじゃなかった。
 乱れる栞さんを見て、興奮している自分がいたんだ。
 最初は信じられなかった。初恋相手が同い年の奴に犯されたなんて、ムカムカした気持ちになるし、胸がざわつく。でもその一方で僕は、痛いぐらいに勃起してたんだ。家について横になっても、アレが膨らんで寝付けない。だから僕は、操られるように自慰に耽った。
「くそっ……くそっ! くそっ……!!!」
 栞さんが穢される姿を思い出しながら、何度も、何度も、何度も。
 ドス黒い気持ちを抱えながらのオナニーは、最悪だったけど、今までにない量の精子が出た。ティッシュを4重にして受けても、まだ染み透っていくぐらい。その量はきっと、あの3人にだって負けていないはずだった。



       ※        ※        ※



 それから僕のスマホには、頻繁に悠真君からのメールが届くようになった。夏休みに入れば、それこそ毎日のように。事実上の召集命令だから、無視はできない。とはいえ呼び出されても、僕は『行為』には加わらなかった。いつも部屋の隅で見ているか、金を預かってアイスやジュースの買出しをやるかだ。
 悠真君は、僕に行為への参加を強制しない。それは有り難い一方で、あえて僕に見せつけているようにも思え、複雑な気分にもなった。

 何度も参加していると、色んなことが解ってくる。この間の岡村と三橋は常連だ。クラス一の体力馬鹿と頭脳役として、悠真君の側近的な立場にいる。そしてそれ以外にも、不定期に顔を出す準固定メンバーが何人かいるようだ。そいつらは全員、栞さんに関する事を口外しないと誓い合っていた。栞さんを嬲るという、最高の『遊び』を終わらせないために。
 その『遊び』のターゲットは、本当に不幸だ。今はスマホで少し調べれば、エッチの知識なんていくらでも出てくる。栞さんは、その仕入れた情報を試すための、格好のオモチャにされたんだ。
 前々から、こういう実験は続いていたらしい。女性の性感帯の基本である『クリトリス』や『陰唇』、あそこに浅く指を入れ、臍の方へ曲げた辺りにある『Gスポット』から開発を始め、さらにクリトリスから尿道の間にある『Uスポット』、尿道から膣の間にある『カリナ』と呼ばれるスポットを目覚めさせよう……という頃に僕が入ったみたいだ。
 そのせいか、最初はだいたいこのこのUスポットやカリナへの刺激から始まった。どうやらそこは、刺激されるとかなり気持ちいい場所みたいだ。クリトリスや陰唇を含めて、舌や指で延々と刺激されると、栞さんのあそこは『どんどん濡れてくる』らしいから。
 そうして濡れれば、膣の中の刺激が始まる。とはいっても、いつもGスポットばかりを責めるわけじゃない。

「今、Gスポット押さえてるんでしょ……で、そのちょうど裏側が『裏Gスポット』だってさ」
 大股を開かされた栞さんのあそこに、2人がそれぞれ指一本ずつを差し入れている。そしてその2人に、三橋がスマホを見ながら指示を飛ばしていた。
「んー……ここか? 裏っつーとこの辺だよな?」
「お、今ビクってしたぞ。そこで当たりっぽい!」
「よーし、じゃあ『アダムGスポット』ってのも探してみよっか。第二関節を折り曲げて当たる部分から、さらに1.5センチぐらい奥へ指を侵入させて、指の腹が恥骨に当たる部分――だってさ」
「また細けぇな……要するに恥骨らへんだろ? なんか感覚でわかるわ。指で中グリグリしてっとき、恥骨あたり擦ると明らかに反応違ってたし!」
「さすが。ちなみに責め方は、Gスポットと同じ感じで、指の付け根を支点にしてタップするのがいいらしいよ」
「任しとけって、その辺りのコツは完璧に把握してるから。何遍もGスポ責めやってるしな」
 そんな会話を交わしつつ、膣内のいくつものスポットを刺激しまくるんだ。
 しかも、それだけじゃない。上半身は上半身で、胸へのマッサージが施されていた。こっちもスマホでやり方を確認しつつ、一番効くらしいやり方を実践している。
「乳房は脂肪の塊だから、外側から時間をかけてじっくりと揉みほぐすこと。そうして乳腺を活性化させれば、だんだん乳輪や乳首の快感も目覚めてくる……ってさ」
 そんな事を言いつつ、オイルまで使ってマッサージを繰り返す。

 栞さんにしてみれば地獄だろう。自分の半分しか生きていない子供から、オモチャ扱いされる……それだけでも、精神的ストレスは凄いと思う。でもそこに、はっきりとした快感も加わるんだ。
 いくら子供でも、ネットで知識を得つつ実践を繰り返せば、そのうちテクニックは身につく。というより、技術の習得という点では大人以上だ。先入観がないぶん、ゲームを攻略するみたいに、柔軟な発想であらゆる方法を試せる。その結果、『栞さんをイカせること』に特化した責め方を、スポンジが水を吸うように吸収していく。
 そんなことをされて、栞さんが無反応を貫けるはずもない。
 何度も何度も栞さんがイカされるのを見ているうちに、僕にも彼女の感じ方のパターンがわかるようになってしまった。
 最初は、何をされても無反応を貫こうとするんだ。ベッドで胸を揉まれながら、大股を開かされ、あるいは片足を抱え上げられての性感帯責め。その中で栞さんは、眠っているかのように反応を示さない。
 でもそのまま刺激を続けられると、まずは息が荒くなってくる。口を薄く開いたまま、ふーっふーっと息を吐き出すようになり、頬に汗も伝いはじめる。
 そこからさらに責められれば、次はピンと伸びた方の足――大股を開いている時は、より直線に近い方の足――の膝が浮きはじめるんだ。当然その動きはわかりやすいから、
「どうしたの先生? まさか、俺らガキに手マンされて感じちゃってんの?」
なんて言葉責めを受けることになる。この時は栞さんもまだ余裕があって、聴こえない風に無視するか、全然、と切って捨てたりする。
 でも、さらにそこから先となると……もう何回もイってる段階なんだろう。栞さんの反応も、一気に激しくなっていくんだ。
 最初の変化は、左右どっちかの手がシーツを掴み、お尻が深くベッドに沈みこむこと。少しでも身体を安定させようとしてるんだろう。でもその努力も虚しく、両足は力みながらグラグラと揺れ、お腹も上下しはじめる。
 この辺りからだ。手マンされている割れ目から、グチュグチュグチュグチュ、とすごい音がしはじめるのは。
「あーあー濡れちゃって。やっぱ感じてんじゃん先生。ほら言ってみろよ、小学生の指マン気持ちいいですーって!!」
 水音をきっかけに、そんな言葉責めが飛ぶのがこの頃だ。栞さんはこういう時、学校の先生以上に迫力のある顔になる。
「ふざけないで、子供のくせに! こんなの、膣を乱暴に刺激されて、保護液が染み出してるだけ。ただの生理現象よ。気持ちいいわけないでしょ!?」
 首筋から汗を流しつつ、よく通る声で主張する栞さん。子供に感じさせられたなんて、屈辱でしかない。否定するのは当然だ。でもそうやって強がられた以上、責める側だって退かない。なにしろ、子供なんだから。
「へーぇ、そう。じゃあ生理現象じゃない、マジの反応が出るまで遊んでやるよ!」
 そう言って、ただでさえ水音がひどい割れ目の中を、さらに激しく刺激しはじめる。こうなったら、我慢強い栞さんだって5分ともたない。あ、あぁ、と小さな声が漏れはじめ、下腹を中心に全身がピクピク痙攣しはじめるんだ。そしてその次には、決まって足を内股に閉じるような動作が起きる。僕はいつもそこに、栞さんという女性の慎ましさを感じるんだけど、結局はまた何人もの手でこじ開けられてしまう。
「はははっ! あーらら、とうとう潮吹いちゃったよ先生!!」
 そう嬉しそうな声が上がるのは、大体このタイミング。そしてここから、本気の絶頂が始まるんだ。
「ああぁっ、ああっ!! はぁぁっ、あ……っあ!!」
 生々しい声と共に、全身の痙攣が早まり、腰から下が左右に暴れだす。それまでシーツを掴むぐらいだった手も、近くにあるもの……頭の下に敷いた枕だったり、誰かの太股だったりにしがみつこうとする。
 それに、この段階では胸も開発されきってるから、乳房や乳輪への刺激にも強く反応するようになる。特に尖った乳首を捻りつぶされる時には、歯を食いしばって声にならない声を上げるから、イッたんだとすぐにわかる。
「ははっ、イってるイってる!! どうしたのー先生、これさすがに生理現象ってレベルじゃないよねぇ。本気汁がドンドン溢れてくるじゃん。カンペキに膣イキ覚えちゃってるよねぇこれ?」
 そんな茶化しが入っても、栞さんは首を縦には振らない。ただ体は正直で、とうとう背中そのものが仰け反りはじめる。
 栞さんが凄いのは、この段階になっても、呼吸に育ちの良さが感じられることだ。周りの男連中が興奮してハアハア喘いでいるのに対し、栞さんはふうっ、ふうっ、という感じの呼吸をする。スープを冷ますお嬢様みたいに。
 でもそういう品の良さは、遊び甲斐のある玩具だとアピールしているようなものだ。

「不器用だよなー、あのヒト」
 壁際で見守る僕の横に、悠真君が腰掛けて笑う。
「不器用?」
「ああ。ウソでも『気持ちいい』とか『感じてる』とか言って媚びればさ、一時的にはあいつらも盛り上がるだろうけど、逆に飽きるのも早くなるだろ?」
 悠真君はそう言った。確かにそうだ。僕も一時期、クラスの嫌な奴にからかわれていたからわかる。からかわれるとはいっても、せいぜい消しゴムを取られるぐらいのイタズラだ。でもそいつは、明らかに僕の嫌がったり困ったりする反応を面白がっていた。もし僕が『消しゴムぐらい取ってもいいよ』という態度を取れば、一時的に行動がエスカレートしても、そのうち飽きてやめただろう。
 でも、そう理解してたって、実行できるかは別だ。僕でさえ、相手に尻尾を巻くようで悔しくて、嫌がらせを受け入れるなんてできなかった。あくまで『やめて』『いい加減にして』と反抗して、結局クラスが変わるまでからかわれ続けた。
 栞さんなら尚更だろう。なにしろ、からかってくる相手は自分より遥か年下だ。そんな相手に媚びるなんてできるわけがない。
「栞さんだって、それぐらい解ってるよ。解ってても、できないんだ。それに、そんな栞さんだから悠真君も気に入ってるんでしょ?」
 僕がそう答えると、悠真君は面白そうに目を細めた。
「まあね」
 一言そう呟いて、また栞さんに視線を戻す。僕も同じく、前に向き直った。飽きることなく嬲られる、誇り高い女性に……。

 乳房と、膣内のスポット。それを1時間以上に渡ってたっぷりと開発され、栞さんは何十度という絶頂に追い込まれる。でも、当然それで終わりじゃない。性感帯の開発は、あくまで“前戯”だ。
「さーて、ヤるか!!」
「へへへ。興奮しすぎて、先走り汁がやべーよ!」
 潮を噴き散らし、ぐったりとした栞さんの周りで、次々とズボンが脱ぎ去られる。現れるのは、斜め上を向くほど勃起しきったペニス。
「くうっ……!!」
 栞さんにできるのは、汗まみれの顔を歪ませ、心の準備をすることだけだ。どれほどの覚悟が必要なのか、僕には到底わからない。熟しきった割れ目に、溢れんばかりの若いエネルギーを叩き込まれるのは、途方もなくしんどいだろうから。


       ※        ※        ※


 夏休みに入ってしばらくすると、悠真君のお母さんは、発表会の準備だとかで夜中まで帰らないことが増えた。だから、栞さんを犯せる場所は家じゅうに広がった。家の中に招き入れられれば、いきなりリビングのソファで栞さんが犯されている……そんな光景も珍しくない。
「おっ? なんだ、急に締まって……すげえっ!」
「へへ。なに先生、家の人間が帰ってきたと思ってビビッたの?」
 僕が部屋に踏み入ると、決まってそんな声が聴こえてくる。何も喜ばしくなんてないけど。

 栞さんと犯している連中には20センチぐらいの身長差があるから、その差を埋めるために、変わった体位で交わることも多かった。
 たとえば、栞さんに床へ手をつかせたまま、ソファで膝立ちになった一人が挿入したり。あるいは二階へ通じる階段に栞さんを這い蹲らせ、上の段差に足を乗せながら挿入したり。
 そういう妙なセックスは、普通にやるより挿入しづらい。だからそこまで気持ちよくもないはずだ。でも、インパクトは凄かった。そして何より栞さん自身、不自然な体勢で犯されるのは精神的につらいだろう。
「ん、ふっ……ん゛ん゛!!」
 あくまで目も口も閉じて淡々と犯される彼女だけど、ふとした瞬間に顰められる眉や握り込まれる手から、それが見て取れた。

 悠真君のお母さんが家を空けるのは、大体8時半ぐらい。その後、だいたい9時ぐらいから皆で集まって栞さんを犯し、3時間もすれば昼時になる。昼を作るのは栞さんの仕事だ。冷蔵庫の中を見てメニューを考え、調理に取り掛かる。
 栞さんの手際は良い。野菜の刻み方や炒め方が、主婦並みに手馴れていた。ただ、その腕を常に発揮できるわけじゃない。スタイルのいい栞さんが、裸にエプロンだけを着けてキッチンに立っている……そんな状況に、性欲の塊のような連中がそそられないわけがなかった。まるで電灯に引き寄せられる蛾のように群がっては、胸を揉み、尻を撫で、割れ目に指を捻じ込む。
「やめて、危ないでしょ!?」
 当然栞さんは厳しい口調で咎めるけど、それで言うことを聞くような『良い子』は一人もいない。結果として栞さんの料理は、いつも不完全なものになる。
「アハハハッ、見ろよ。このニンジン全部繋がってらぁ!」
「あーあー、ここ焦げちゃってるよ。ヘッタクソだなぁ!!」
 そんな詰りを受けながらの食事は、どんなにつらい事だろう。行儀よく箸を口に運ぶ栞さんの表情は、いつだって硬い。だから僕は、
「……おいしい」
 時々、そう小さく呟いた。周りがほどよく騒いでいて、栞さんにだけ聴こえるようなタイミングを見計らって。
 栞さんはそういう時、はっとしたように目を見開いた。そしてあくまで僕とは目を合わさないまま食事を続け、同じく僕だけが意識を向けている瞬間に、
「ありがとう」
 そう、小さく呟き返してくれるんだ。
 その一瞬と一瞬が、僕にとっての生き甲斐だった。いつもできるわけじゃなかったけど、できた時にはずっと胸がときめいた。もっとも、そうやって心が躍ったぶんだけ、再開したセックスを見届けるのがつらくなってしまうんだけど。

       ※        ※        ※

 栞さんがイタズラされるのは、家の中に限らない。時には、外へ出て栞さんを辱めることもあった。
 忘れられないのは、花火大会に行った日のことだ。
 シャツと短パン姿で集まった僕らは、初めて見る栞さんの浴衣姿に興奮した。黒髪でお嬢様っぽい栞さんには、とにかく和装がよく似合った。
「行こう、お姉ちゃん!」
 悠真君は完全に猫を被って、栞さんの手を引く。
「そーだよー! はやくはやくー!」
 岡村や三橋も、同じく無邪気なフリをして浴衣の袖を引っ張る。
 すれ違うカップルや家族連れが、そんな悠真君達を見て笑っていた。さぞ微笑ましい光景に映っただろう。仲のいい兄弟と思ったかもしれない。
 そう、気付くわけがないんだ。栞さんのあそこに、バイブが埋め込まれているなんて。
「ちょっと、引っ張らないで!」
 弟に手を焼く姉――という感じの彼女が実はノーパンで、いつバイブが抜け落ちるか恐々としているだなんて。
 悠真君達は、そんな栞さんを最大限辱める。
「あーっ、全然取れないや! お姉ちゃん、カタキ取ってよーっ!!」
 金魚掬いやスーパーボール掬いに失敗して、栞さんにもやらせようとする。
「いい加減にしなさい。いつまでも専有してると迷惑でしょ」
 栞さんはそう宥めて立ち去ろうとするけど、
「いいよいいよ。お姉ちゃん、タダで良いからやってきな。弟さんに良いトコ見せないと!」
 テキ屋のおじさんは、必ずといっていいほど栞さんを引き留める。和服の栞さんがそうそう見られないレベルの美人だからだ。事実そうした親父は、栞さんが仕方なく裾を直して屈み込むと、鼻の下を伸ばして足を眺めはじめた。栞さんは、そうして覗き込んでくる店主からバイブの存在を隠しつつ、ゲームを成功させないといけない。それがどれだけ大変な事かは、しばらく後にわかった。
「すっげー、ドロドロじゃん先生!」
 花火が打ちあがる直前、林の中で浴衣の前を肌蹴た岡村が歓声を上げた。暗くてよくは見えないけど、直に内腿に触れている奴が言うんだから間違いないだろう。
「ふーん、興奮してたんだ。あのオッサン、必死で先生のアソコ見ようとしてたもんね。バイブの事バレちゃいけないから大変だったでしょ? それとも、ああいうヤクザにガツガツ犯されるの想像して濡れちゃった?」
 悠真君がそう煽ると、栞さんの目つきが険しくなる。
「ふざけないで!」
「あはは、そう怒んないでよ。わかってるって。先生はさ、俺らに犯されるのが好きなんだよね。ほら、やろうよ……いつもみたいにさ」
 悠真君がそう言ってバイブを引き抜くと、はっきりと濡れ光る何かが見えた。
「よーし、やろうやろう!」
 三橋と岡村が栞さんの向きを変えさせ、木に寄りかかるような格好を取らせる。そして浴衣の裾を捲り上げると、白い尻を露出させた。犯す気なんだ、ここで。
「やめて、こんな所で! 誰か来たらどうするの!?」
「誰も来ないって。花火が見られる場所からは離れてるし、そもそもほとんど山の中なんだから。どうしても心配なら、茂みに隠れるくらい腰落としなよ。その方が俺達もハメやすいしさ」
 有無を言わせない感じで、悠真君がズボンを下ろす。そして腰を低くした栞さんに、遠慮なく挿入しはじめた。
「う゛っ!!」
「凄いな、グチョグチョだ。やたらと纏わりついてくるし。これ完全にメスとして喜んじゃってるよね、先生?」
 悠真君の問いに、栞さんは答えない。ただ、音の生々しさが充分な裏付けになっていた。悠真君が腰を前後させるたびに、ぬちゃっ、ぬちゃっ、と凄い音がしているから。でもその湿った音は、すぐに轟音で掻き消された。空が赤く染まる。いよいよ花火大会が始まったらしい。
 空の赤は、緑や白に色を変えながら、栞さん達を照らしだす。
 髪をきっちりと結い上げた、浴衣姿の栞さん。いつか彼女と夏祭りに行くのは、僕の夢の一つだった。なのにその相手が、クラスメイトに犯されている。しかも僕はそれを見ながら、また痛いぐらいに勃起している。その事実に、頭がおかしくなりそうだ。
「……僕、誰か来ないか見張っとくよ。一応」
 僕はそう言い残して、茂みの中から抜け出した。おう、という返事を聞きながら、僕は辺りを見回し、こっそりとズボンを下げてアレを取り出す。
「はっ、はっ……あぁ、はぁあ……っ」
「あははっ、イイ声出てきたじゃん先生。ま、こんだけ濡れてるんだもんな」
「夏休み入ってから、裏Gスポットとかの開発もかなり進んだからねー。もうチンポで擦られるだけで逝っちゃうでしょ?」
 藪の向こうから聞こえてくる声をオカズに、脈打つアレを扱く。悠真君達が極上のカルビを堪能しているとしたら、僕はその匂いで白米を掻き込んでいるようなものだ。虚しいオナニー。でも僕は、段々とこれにハマりつつある。単純に信じられないぐらい気持ちがいいし、引っ込み思案な僕にお似合いの慰め方だとも思うから。

 栞さんは、花火大会の間じゅう犯されつづけた。ドン、という轟音と、パラパラという花の開いていく音。その合間に、肉のぶつかる音と激しい喘ぎが聴こえてくる。
「あ、はんっ……あぁ! はっあ……ん、ああ、はあっ!!」
 普段あんなに淑やかな栞さんからも、かなりの声が出ているようだ。
「先生、膝ガクガクになってんぞ。どんだけ感じてんだよ!?」
「やー、外ですんのって最高だね。めっちゃ興奮するし、先生の反応もいいしさ。これからもたまにやろうよ」
 そういう賑やかな会話も、ひっきりなしに続いていた。

 やがて、フィナーレの四尺玉が空を照らし、花火大会が終わる。僕はそれを見届けて茂みの中に戻った。途端に、噎せかえるような男女の匂いが鼻をつく。他所で同じようなことをしているカップルは何組もいるだろうけど、そのどれよりも強烈な匂いだろう。この匂いの元が清楚な美人と子供だといっても、誰も信じないに違いない。その生臭さは、セックスに携わっていた4人の興奮の度合いを表しているようだった。
「はぁっ……はぁっ……」
 悠真君達3人は、片膝を立てて蹲ったまま、激しく肩を上下させている。そしてその奥にいる栞さんもまた、太い木にしがみつくようにして震えていた。開いた足の間……そのちょうど下の地面には、暗闇の中でもわかるぐらいの白濁が液溜まりを作っている。僕だけが参加しなかった祭りの、その痕だ。
 栞さんのあそこから精子が垂れているのは、もう何度も見てるけど、そのたびに嫌な気分になる。憧れが穢される苦しさ、だけじゃない。犯した人間が“栞さんと交じり合っている”一方で、僕だけが取り残されているような焦り――いつもそれが、ドス黒く胸に渦巻く。この時もそうで、僕は割れ目から滴る白濁を見ながら、同級生3人に置いていかれている気持ちになった。



       ※        ※        ※



「今日、ハメんのは無しだ」
 花火大会の翌日。悠真君は、部屋へ集まった人間にそう宣言した。
「えーっ嘘、ハメらんねーの!?」
「なんでだよー!!」
 当然、不満の声が上がる。でもその表情は、悠真君が取り出した『ある物』を見て変わった。
 ハンディタイプの電気マッサージ器。ウチの家にも、肩こりの解消用として置いてある。
「ははぁ、なーるほどねえ!」
「ははっ、そういうのも面白そうだな!」
 何人かが納得した様子で笑みを浮かべる。一方で僕は、悠真君がなぜそんなものを持ち出したのかわからなかった。栞さんに使うことは予想できたけど、まさか体を労わろうってわけでもないだろう。でも、たとえばお腹だとかに押し当てたって、軽いイタズラにしかならないはずだ。
「…………?」
 ちょうど部屋を訪れた栞さんも怪訝そうな顔をしたから、きっと同じような考えだったに違いない。
 でも、甘かった。マッサージ器は、使い方次第で女の人を追い詰める道具にもなるんだ。僕と栞さんはこの日、その事実を嫌というほど思い知ることになる。

 まずは悠真君の指示で、フローリングに淡い水色のおねしょシーツが敷き詰められる。まるで、大量の液体が撒き散らされることが分かってるみたいに。
 いつも通り服を脱ぎ去った栞さんは、そのおねしょシーツの中心に座らされる。
「今日は、先生を本気で感じさせてあげるよ。ガキらしく“オモチャ”使ってさ」
 悠真君はそう言って、マッサージ器のスイッチを入れた。途端に、腹の底へ響くような重低音が響き渡る。
「へへへ。じっとしてろよ、先生!」
 さらに数人が栞さんの手足を掴み、身動きを封じてしまう。
「……好きにすれば」
 一方の栞さんは、疲れた母親という感じだ。大股を開かされても、まったく反応しようとない。
 でも、いざマッサージ器がアソコに宛がわれ、ジジジッと音を鳴らした瞬間。
「んっ!!」
 息を詰まらせたような声が一瞬漏れた。ニヤリとした笑いが栞さんを囲む。
「足、ちゃんと押さえてろよ」
 悠真君は左右に目配せしつつ、マッサージ器を宛がい続けた。

 まだ短い僕の人生でも、最近わかってきたことがある。
 音は威力だ。
 『手マン』でグチョグチョとすごい音がしている時には、栞さんの反応も激しくなる。挿入の音がエロい時には、栞さんの腰も堪らなさそうにうねる。
 だったら、ものすごい駆動音と接触音で僕の内臓を揺さぶる電気マッサージ器が、生半可な威力であるわけがない。
 実際、効果はすぐに表れた。舌や指での前戯より、ずっと早く。
「ん……んんっ」
 最初の変化は、声だった。下唇を内側へ巻き込むようにしつつ、鼻から抜けるような声を出す。指と舌で割れ目を刺激するやり方なら、10分以上続けてようやく出はじめる段階の反応だ。
「電マってすごいだろ。意思とは関係なくどんどん昂ぶって、ムリヤリ絶頂させられるんだぜ。クリとかUスポットとか、アソコの表面開発されまくってる先生なら尚更だ」
 悠真君はそう言いながら、撫で回すようにマッサージ器を這わせ続ける。
「んん、ん゛っ……!!」
 栞さんは声こそ漏らすものの、視線の集中する下半身はピクリとも動かさずに耐えていた。ただ、そうやって無理をしたツケは他の箇所で払うしかない。
 例えば、両腕。おねしょシーツについた手首に、少しずつ、少しずつ、筋が浮いていく。同時に、内側へ捻るような動きも。力んでいるんだ。下半身を固定させるための支えとして。その力みはそのうち、肩の震えとして周りの目に止まる。
「お、なんか震えはじめてんぞ?」
「オッパイすげぇ揺れてるよー、先生!」
 すかさず野次が飛んだ。全員が栞さんの挙動に注目している証拠だ。
 その視線に晒されながら、栞さんの中には着実に快感が堪っていく。
 次の変化は、下腹。普段からスレンダーな感じのお腹には、中央の縦線がややくっきり、その横の腹筋がうっすらと浮かび上がっている。
「すげー、骨盤の形わかるわ。改めて思うけど、ムダ肉ほんと少ないな」
 そういう言葉も出るぐらい、腰周りは極端に凹んでいた。
「ホント我慢強いねー。遊び甲斐あるよ」
 悠真君は嬉しそうにマッサージ器の角度を変える。その瞬間。本当に一瞬だけ、栞さんの腰がググッと持ち上がった。当然、悠真君がそれを見逃すはずもない。
「ふぅん。この辺かぁ」
 そう言って、念入りにクリトリスのすぐ下の辺りを刺激しつづける。
 その効果は、確かだった。
「んっ……ぃひっ…………んっ、んっ…………」
 それまでずっと閉じあわされていた栞さんの口から、とうとう声が漏れはじめる。顎は左の鎖骨へ半ば埋まるぐらいにまで俯き、首の横のラインは小さな山脈かと思うぐらいに盛り上がる。
「はははっ、すんげぇ力んでる。そろそろ我慢の限界なんじゃない?」
 そういう野次にも、つい納得してしまう。

 そして、マッサージ器を押し当てられてから10分が過ぎた頃。とうとう一度目の限界がやってきた。
「けはっ……はっ!」
 ずっと息を殺していた栞さんから、小さな咳が漏れ、太股が震える。ぴくっぴくっと小さく痙攣し、腹筋がさらに浮き彫りになり、シーツに押し付けたお尻が前後に動く。
 恥じらいの場所では、ちょうどマッサージ器が割れ目を抜け、下から押し上げるようにしてクリトリスを圧迫しはじめたところ。その圧迫開始から3秒後、栞さんは弛緩した。鎖骨に埋まっていた顎が持ち上がり、腹筋と腰周りにちょうどよく肉が戻る。
 なぜ力まなくなったのか――その謎はすぐに解けた。マッサージ器を押し当てられた部分から、おしっこを漏らすような音が聴こえてきたから。
「あははっ、先生漏らしちゃった!」
「うわ、すごい出てる。おねしょシーツ敷いといてよかったねー」
「ねぇ先生、僕らの倍の年齢でおねしょとかやめてよー。なっさけない!!」
 一気に場が沸く。本当に楽しそうに。
「…………っ!」
 栞さんは横を向いたまま、静かに目を閉じていた。脱力する寸前に覚悟を決めていたのか、横顔は寝ているように安らかだ。でも、息は荒い。そしてその呼吸に合わせ、男子の目を惹きつけてやまない乳房も大きく上下する。
「大の大人が我慢できなくなる瞬間って、やっぱいいね。先生みたいに、常識人ぶってる人だと特にさ」
 悠真君はそう茶化しながら、マッサージ器を持ち上げた。マッサージ器の先から、ぽたぽたと雫が滴っていく。
「はぁっ……はぁっ…………」
 荒い息を吐いたまま、栞さんは細く目を開く。見据える先は、当然悪ガキのボスである悠真君だ。
「いいね、その目。まだまだ続けられそうだ。……おい、足離すなよ。このまま5回は潮吹きさせるぞ」
 悠真君は楽しそうに笑うと、栞さんの足を押さえる2人に念を押した。


 マッサージ器での責めが再開される。
 これは人間なら皆そうだろうけど、一度絶頂してしまうと脆い。水気たっぷりの割れ目を再び責められる栞さんも、反応ペースは早かった。腰が左右に揺れ、口が半開きになっていく。更には、腰が上下に跳ねたり、上体が前屈するような動きを見せはじめる。明らかに、快感をじっとは堪えきれないという風だ。
「ほーらぁ、逃げちゃだめじゃん先生!」
 嘲るように言いながら、数人が栞さんの押さえ役に加わる。太股と膝上、そして脇腹の辺りを6人がかりで押さえ込まれ、栞さんの動きが止まった。ただ、それも一時的なことだ。マッサージ器が唸りを上げ続け、栞さんの身体中が汗で光りはじめる頃になると、また栞さんの太股が跳ねはじめる。
「んっ、はーっはーっ…ああ!あ゛……あ!!」
 栞さんの口が開き、喘ぎが大きくなっていく。そして同じく、下半身の震えも。
「じっとしてろって!」
 押さえ役が怒鳴るように言っても、どうにもならない。痙攣するすらりとした足が、いよいよ激しく暴れだす。
「い゛っ、んああああ゛ーーっっ!!!!」
 そのはっきりとした絶叫がきっかけとなり、ついに押さえ役が跳ね飛ばされた。
「わっ!!」
 何人かの悲鳴が重なって響き、栞さんの美脚が宙を蹴る。
「ほら、押さえて押さえて。膝と足首!」
 落ち着いて指示を出しているのは、悠真君だ。大騒ぎの中、彼だけは栞さんの抵抗を面白がっていた。その指示が功を奏し、栞さんは両脚をくの字に曲げた格好で自由を奪われてしまう。
「ふうっ。あんま手間かけさせないでよ先生。子供の遊びをオトナが邪魔するなんて、ありえないよ?」
 悠真君はそう言って肩を鳴らし、隣にいた奴にマッサージ器を手渡した。
「交替。どこに当てたってそのうちイクんだ、好きに遊べよ」
 そう言われた方は、鼻の穴を膨らませて栞さんに向き直る。
「……っ!!」
 栞さんは、汗を垂らしながら真っ直ぐに相手を睨んでいた。でもその視線は、マッサージ器が割れ目で重苦しい音をさせはじめると、すぐに宙を彷徨うことになる。
「あ……ッああ、ふぅっ……ああ、は……っあ!!」
 首を左右に振りながら、必死に耐える栞さん。でもいくら意思の力が強くたって、何度もイキ続ければ、身体の反応は激しくなっていく。M字に開いたままバタバタと暴れる足を押さえるには、片足につき2人が必要だった。
「あはっ、すげぇ力!」
「必死だねー先生。こんな“お遊び”にさぁ!」
 抱きつくようにして足を押さえ込み、岡村達が笑う。その笑い声が響く最中にも、潮が吹き散らされていく。

 そんな状況が続いたまま、数分後。とうとう栞さんは限界を迎えた。
「ふううっ、ん、ん゛っ……ぃきっ、ふいい゛い゛ーーーーっっ!!!」
 食いしばった歯の間から悲鳴が漏れ、栞さんの腰が浮き上がる。そして腿と膝下に数人をぶら下げたまま、盛大に潮を吹きはじめた。水道の蛇口を指で押さえた時のような、四方八方に飛び散る潮吹きだ。
「おおーーっ、すげぇ!!」
「っつーか、どんな足の力だよ。火事場の馬鹿力ってやつか?」
 見守っていた連中が一斉に大笑いする。その中には悠真君もいた。
「アハハッ、最高。潮吹きまくりじゃん先生!!」
 そう罵る悠真君の顔は、一見楽しそうに見える。でも、その目は笑っていない。潮を噴き散らす栞さんを、ひどく冷静に見つめていた。


 その後も、水分を取らせては潮を吹かせ……がずっと続く。僕が予備のポカリスエットを買って帰った時には、栞さんは両腋を抱え上げられ、がに股の格好でマッサージ器責めを受けていた。
「ほら先生、自分の足で立たないと!」
「そうそう。俺らと違って、身体が出来てるいい大人なんだからさぁ」
「最初はあんなに生意気そうだったのに、案外だらしねーのな!」
 そんな言葉責めを受けると、栞さんは詰りの出所を睨みつける。でも、それも一瞬のこと。すぐにまた目を瞑り、絶え間ない絶頂に悶えるハメになる。
 すでに足腰は限界らしくて、痙攣が止まらない。その痙攣を受けて、胸が上下に揺れるのも衝撃的だ。
「あ、ああっ……はっ、はっ……んぐうっ!! あああ、あ゛っっ!!」
 口から漏れる声もすごく苦しそうだし、涎まで垂れていた。
 そして、そのすべてが嘲笑のネタにされる。アハアハ、ギャハギャハと、耳障りな声が絶えない。
 そんな中、ポケットに手を突っ込んだ悠真君が笑みを浮かべた。
「そろそろ格好変えようぜ。“Y字バランス”とかさ」
 その一言で、栞さんを囲む連中にも笑みが広がる。
「ははっ、いいなそれ!」
「でもあれって、相当身体柔らかくないと無理なんじゃないの? バレリーナとかがやってるやつだろ?」
「大丈夫だって。いつも変な格好でハメてるけど、痛がらないじゃん!」
 連中は騒ぎながら、数人がかりで栞さんの左脚を持ち上げていく。汗とも愛液ともつかない液体が、筋となって太股を伝い、尻の辺りから滴り落ちていく。
「うっはぁ、エッロ!!」
 大股を開くことで、完全に曝け出された栞さんのあそこ。それを前に、一人が興奮して叫んだ。
 確かに、すごい。陰唇が唇より赤く充血し、厚く膨らんでいる。愛液に塗れたまま、潰されたようになっている陰毛も悲惨なイメージを強める。
「あああクソ、ハメてぇな!!」
「ああ、勃起しすぎてチンポいてーよ!」
「匂いがたまんねーな。どんだけフェロモン撒き散らしてんの先生? 俺らガキ相手にさ」
 悔しがる奴、苦しがる奴、軽口を叩く奴。色々いる中、ついさっきまでマッサージ器で責めていた一人が、辛抱堪らず栞さんの腰に抱きついた。
「おい!!」
 すぐに他の奴が止めるけど、そいつは指で栞さんのあそこを開き、むしゃぶりつくように口をつける。そして、ずずずーっと物凄い音を立てながら愛液を啜りはじめた。
「うっ!!」
 栞さんの表情が引き攣る。たぶん恥ずかしいからだろうけど、気持ち良さそうにも見えてしまう。
「ははっ、アイツほんとマン汁好きだよな!」
「まあ解らなくもねーけどな。先生って、無性にマンコ舐めたくなるタイプだし」
 好き勝手な言葉が飛び交う。でも、僕にも少しは理解できる。栞さんは見るからにしっかりしていて、清潔そうで、たとえ性器を舐めたって汚くない感じがするから。
「うわ、すげぇ……奥からドンドン溢れてくる! 電マのせいか、ちっと焦げ臭い味するけど」
 むしゃぶりついていた一人が、口周りを濡れ光らせながら顔を離した。
「い、いい加減に……う、う゛っっ!!!」
 恥ずかしそうに抗議する栞さん。でもその言葉も、マッサージ器がまたあそこに宛がわれると、切ない呻きに変わってしまう。
「ふ、うっ……んぐっ、んぐううっ!!!」
 呻きはどんどん惨めになっていった。そして惨めといえば、下半身の様子もさっきよりひどい。普通にやってもきついY字バランスで責められるものだから、内腿の強張り具合が普通じゃなかった。特に斜め上へ持ち上げられている左脚ともなると、透明な瓶を埋め込まれてるのかと思うぐらい、くっきりとした窪みができている。当然、支えとなる右脚だってじっとはしていない。激しく痙攣して色々な液体を撒き散らしながら、浅い屈伸でもするみたいに膝を曲げて上下する。
「もー先生、ちゃんと立っててよ。ヒザ曲げてたらY字バランスじゃないじゃん!」
「っていうか重……ほとんど全体重かけてきてない? やめてよ。先生、色々デカいんだから!」
 当然、栞さんの動作は言葉責めのネタにされる。いつも、いつもそうだ。ただ普段だったら、栞さんはそういう詰りを受けるとすぐに睨む。たとえ玩具にされる身でも、嘲笑まで良しとしているわけじゃない……そう主張するように。でも今の栞さんには、そんな余裕すらないようだった。
「んぐっ、んぐっううう゛っ!! ふーーっ、ふーーっ……んぐっ、ふっぐううっ!!!」
 歯を食いしばりつつ、赤くなった顔を何度も振り、それでも切ない呻きが殺せない。腋を抱えあげている2人の袖口をぎゅうっと握りしめ、皺まで作っているのが痛々しい。そして肝心のあそこからは、絶え間なく汁が飛び散っている。ずっとお漏らしでもしてるみたいに。
「つーか、そろそろおねしょシーツでも限界なんじゃね? ちゃんと吸い取れてんのかアレ」
「そういや、もうビショビショだな。下まで染みてそう」
「ああ。もう何十回イってんだろうな」
 何人かが、栞さんの足元を眺めながら囁きあう。確かに下に敷かれた水色のシーツは、栞さんを中心として変色しきっていた。
 本当に、何度イカされてるんだろう。『手マン』の時はなんとか数えられそうだったけど、今はとても無理だ。多分、ずっとイキ続けてるんだから。それは、どれほど苦しいことだろう。
「しっかし、すげー根性だな。こんだけ電マでやられたら、普通もっとギャーギャー喚くもんだろ」
「そうまでしてオトナぶりたいかね、こんだけションベン撒き散らしといて。逆に情けなくね?」
 責めている奴からも、呆れ声が漏れる。そして少しでも余裕を失くさせようと、マッサージ器を押し当てる角度を変えたり、乳首を捻り潰したりと色々な嫌がらせを繰り返す。
 栞さんは、それを必死に耐え忍んだ。とうとう白目を剥き、すっかり腰が抜けるまで。

「はははっ、グッタリしちゃって」
 一人がマッサージ器のスイッチを切りながら笑う。栞さんは身体を抱える3人にもたれたまま、自力では立つこともできないようだった。
「水、飲ませてあげな」
 悠真君の指示で、僕の買ってきたポカリスエットが栞さんの口に流し込まれる。栞さんは、よっぽど水分を失ってたんだろう、ゴクゴクと喉を鳴らして飲み下していく。
「どう先生、気持ちよかったでしょ。本気で感じちゃったんじゃない?」
 栞さんがひと息ついた事を確認して、悠真君が囁きかけるように尋ねた。その言葉で、栞さんの目に力が戻る。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……くだらない。こんな“オママゴト”で、気分が出ると思うの!?」
「ふふ、さすが」
 悠真君は口笛を吹きながら、一旦栞さんの元を離れた。そして部屋の隅に置かれた紙袋へと、細い腕を差し入れる。
「いつか先生に使おうと思ってた、とっておきのオモチャがあるんだよ。強情な先生には、これぐらい使わないとね」
 そう言って引き抜かれた彼の右手には、見慣れない道具が握られていた。
 見た感じはバイブに近い。でも、先端に切れ目が入っているのが妙だ。それにグリップ部分からはコードが延びていて、その先にはコンセントプラグがついている。電池じゃなく、コンセントの電流が必要なんて普通じゃない。
「あ? なんだそれ?」
 あの岡村さえ首を傾げるんだから、初めて披露される道具なんだろう。
「こないだネットで見つけてさ、ついお年玉貯金崩しちゃったよ。でも、面白いんだぜコレ」
 悠真君はそう言って、バイブの先端を指で押し込んだ。すると、切れ目の部分が外に向かって簡単に広がっていく。かなり柔らかい素材みたいだ。
「膣に突っ込んで奥まで届くと、こうやって先が広がって、ポルチオ……つまり子宮口を包み込むんだ。おまけにスイッチ入れたら、低周波マッサージみたいに電流も流せるらしい。すげぇ効くぜ、きっと」
 楽しそうな悠真君の声を聞いていると、不安になる。でもそんな僕をよそに、場はいよいよ盛り上がりはじめた。
「ポルチオに直で電流か。たまんねぇな!」
「おお、マンコが火照ってるうちにやっちまおうぜ!!」
 数人が色めき立ち、栞さんを仰向けに寝かせながら足を開かせる。
「さて先生、“オママゴト”の続きだよ。先生はお姉さん役なんだから、ぎゃあぎゃあ泣き喚かないでよね」
 悠真君はそう茶化しつつ、コンセントにプラグを差込み、バイブを割れ目へと押し込んだ。よく濡れているだけぶん、バイブはスムーズに入っていく。
「……っ!」
 栞さんから小さく息が漏れ、かすかに腰が動いた。
「うん、楽勝で奥まで届くな。覚悟しときなよ、先生。ポルチオでイクのって、クリとかGスポットとは全然違うらしいから」
 悠真君は深くバイブをねじ込みながら、グリップ部分にあるスイッチを押す。すると、割れ目の奥の方から音がしはじめた。ヴヴウーン、ヴヴウーン、という感じの、機械的な規則正しさのある音。
「う……っ!!」
 栞さんが眉を顰める。苦しそうだ。そしてその反応は、ここにいる僕以外の全員が望んでいるもの。
「くくっ。これが子宮口に電流流された女の顔か!」
「さすがに、まだ我慢してるな」
「ああ。このお高く留まった顔がどう歪むか、楽しみだ」
 悠真君も、岡村も三橋も、栞さんの顔を覗きこんで、その表情の移り変わりを期待する。
「くっ……!!」
 一方、視線に晒される栞さんは、唇を閉じて気丈な表情を作るしかない。

 初めのうち、栞さんは無反応を貫いていた。もちろん、散々マッサージ器で責められた直後だから、顔は赤いし汗もひどい。でも、『全力で走ったあと、ベッドでクールダウンしている』……そんな風にも見えるぼど、反応は薄かった。
 でも、そう出来ていたのも最初だけ。
「ん……んっ!」
 ほんの2分も立たないうちに、栞さんから声が漏れる。そして腰がヒクヒクと上下に動き、唇が薄く開いて、息が吐き出された。あれは、まるで……
「あははっ、もうイってる!!」
 一人が叫んだその言葉で、確信できた。やっぱり、あれは絶頂のサインなんだ。
「そりゃイクって。あんだけしつこくクリ逝きさせたんだから、ポルチオもトロットロにほぐれてるだろうしさ。そこへ電気なんて流されたら……」
 悠真君はそう言いながら、バイブを奥へと押し付ける。栞さんの足を押さえつける連中も、60度ぐらいに開かせたまま、全体重を掛けている。そんな状況の中で、栞さんの腰はさらに激しく動きはじめた。
「ああぁ、あ……あ!!」
 口から漏れているのも、もう吐息なんかじゃない。はっきりとした、生々しい声だ。
「へへ、もうヨガリ声出てんぞ!」
「クリ責めとか手マンの時だって、あんなに我慢してたのにね。やっぱポルチオってすげー気持ちいいんだ」
「ああ。ネットの読んだ時は大袈裟じゃね?って思ったけど、実際見ると納得だわ」
「どーう先生、気持ちいいでちゅかー?」
 下品な笑い声と共に、いくつもの視線が栞さんの体中を舐め回す。栞さんのことだ。そんな視線に晒されている以上、それまでと同じく、必死で快感に耐えようとしたんだろう。それは、喘ぎながらも歯を食いしばったり、頭上へ投げ出された手がおねしょシーツを掴んでいることからも明らかだ。
 とはいえ、そうして耐えるにも限界がある。その限界までの時間は、これまで以上に短かったし、その反応は今まで以上に激しかった。

「ふっ、んん、ん……ふんんんんんっ!!!」
 開始から、わずか5分あまり。栞さんは歯を食いしばり、自由の利かない身体を左右に振りたくって悶えはじめる。
「あははははっ、イッてるイッてる! すごい力だ!!」
 開脚を強いる何人かが、Mの字になろうとする足を抑えながらはしゃぐ。
「どんどんイク時間短くなってんな。もうほぼ毎秒イってんじゃね?」
「やー、さすがに2秒に一回ぐらいだろ。まあこの感じだと、毎秒イクようになんのも時間の問題だろうけどな!」
 別の何人かも、横たわる栞さんを見下ろして笑う。
 屈辱的な状況。でも栞さんにはもう、意地を張る余裕すらないらしい。
「ふくっ、う、う゛っ!! うう、あ……うあああ゛っ!!!!」
 苦しそうな呻きの後、とうとう栞さんから大口を開けての叫びが漏れた。同時に、くびれた腰が浮き上がり、海老反りの形になる。
「はははっ、すっげぇ表情(かお)!」
「先生って基本クールビューティだけど、マジでイッてる時はたまにスッゲェ顔するよなー!」
 栞さんの頭上にいる数人が、大笑いしながら肩を揺らす。
「さすが。いい反応してくれるね、先生」
 悠真君はバイブを駄目押しとばかりに押し込みつつ、グリップ部分のスイッチを切り替える。
 バイブの音が変わった。ヴヴウーン、ヴヴウーン、というリズムから、ヴヴッ、ヴヴッ、という短い周期に。1周期ごとの音の強さは、さっきより増している気がする。
「かっ、あ゛!?」
 どうやら、僕の心配は当たったみたいだ。栞さんからは、即座に息を詰まらせたような声が漏れた。鳩尾を思いっきり殴られたりだとか、よっぽど不意打ちでショックを受けないと出ない声だ。
「あかっ、かっ!! かあっ、はっ、かはっ……!!!」
 栞さんは陸で溺れるような息を繰り返しながら、何度も何度も腰を跳ねさせる。お尻はおねしょシーツから拳ひとつ分以上離れていて、ぜんぜん落ちてこない。当然その間、足の筋肉の強張りはすごい事になっていて、押さえ係の数人も思わず手を離し、すげぇ、と呟くだけのギャラリーになっていた。
「やっぱキクんだねーこれ。購入サイトのサンプル映像と同じ反応だよ。っていっても、あんまり強くばっかりやると慣れちゃうか」
 悠真君は満足げに笑い、またスイッチを切り替える。割れ目の奥で、規則正しい音が復活し、1秒後に栞さんのお尻もシーツに着地する。でも、けっして元通りになったわけじゃない。激しくイかされ続けたダメージは、着実に栞さんの中に溜まってしまったらしい。
「あああっ!! はぁっ、はっ、はあっ! も、もう、こんな事っ……やめなさい!!」
 栞さんはお尻をつくなり、すごい剣幕で周りを睨みつけながら、バタバタと足を暴れさせはじめた。でもそれで怯む程度の『悪い子』なら、そもそもここまで大それた真似はしない。ここに集まる悪ガキは、相手が嫌がれば嫌がるほど、悪戯心を燃え上がらせるんだ。
「何言ってんだ。こんな面白ぇこと、まだまだ終わらせるわけねぇだろ!」
「そうそう。飽きるまで遊ばせて貰うよ、先生!」
「別にいいじゃん。先生はただ、ヨガりまくってりゃいいんだからさぁ!!」
 口々に好きな事を言いつつ、栞さんの自由を奪おうとする。栞さんは、まさしく必死でそれに抵抗していた。膝を閉じ合わせたり、振り上げたり。でも数の不利は覆らない。あっという間に足のあちこちを掴まれ、これでもかというほど足を開かされてしまう。ほとんど一直線……股割きに近い角度だ。
「ふ、ふざけないでっ!! こんなのやめてっ!!」
 栞さんは直球で否定の意思を示していた。それぐらい『まずい』事なんだという自覚があるんだろう。でも、だからこそ、悪ガキは止まらない。太股と脹脛を抱え込み、足首まで掴んで、片足につき3人がかりでガッチリと押さえ込む。いくら相手が子供でも、そこまで念入りにされたら払いのけようがない。
「準備万端だね。たっぷりイキ顔見せてよ先生」
 悠真君はそう言って、グリグリとバイブで円を描く。
「あがああっ!!あがっ!! く……くっ、んっくぅううっ!!!」
「はははっ、まーたスゲエ顔んなってる!」
「何その声、イクって言葉ガマンしてんの? んなに歯ァ食いしばってたら歯茎痛めちゃうよー、せっかく歯並びいいのに」
 呻きと詰りの声が、蒸し暑い部屋の中で交じり合う。
 栞さんの表情はすごかった。目元が裂けるんじゃないかというぐらい目を見開き、鼻も開き、皺が出来るぐらい下唇を噛みしめている。普段の穏やかで品のある顔とは、似ても似つかない崩れ顔だ。普段は雪のように白い顔が真っ赤になっているのも、別人らしさに拍車をかける。
 でも、それだって仕方がない。栞さんの肉体が示す反応を見ていると、そう思えた。腹筋も、太股も、足指の先に至るまでが強張りまくっている。その様は、直に触れている人間ならもっと実感できるようだ。
「ははははっ、すっげえなこれ。足の筋肉がビックンビックン動いててよ。太股に電気流れてるみてぇ!」
「足の指もピーンと張ったまんまだしな。マジで感電してる感じ」
「極まったポルチオイキって、髪の毛とか足の指先にまで電気走るぐらいの快感らしいからな。まさに今そんな感じじゃね?」
「しかも、その深い快感が半日とか一日とか、ずっと残るんだろ。やべえよな」
「俺らみてーなガキが、オトナの女をポルチオでイかせてるとか、なんか感動すんね」
「おう。俺らみたいな小学生、絶対他にいねぇぞ?」
「将来の武勇伝決まったじゃん。マジカッケェ!」
 子供らしい笑みで、悪魔のようなセリフが吐かれる。それを見ていると、自分の中の血が冷えていくのがわかる。でも同時に、僕は勃起していた。初恋相手のお姉さんが、目の前でオモチャのように扱われているっていうのに。

 悶え狂う栞さんは、あの手この手の『イタズラ』の餌食になった。
「ピンピンに勃たせちゃって、しょーがないなぁ。コッチでもイカせてやるか!」
 栞さんの傍に立つ2人がアイコンタクトを送りあい、すでに尖っている乳首を左右同時に捻り上げる。
「はっ、あぐううっ!!?」
 栞さんは目を剥き、悲鳴を漏らした。
「あははっ、キモチよさそー。乳首でもイケちゃうんだ、先生?」
「女ってガチで感じてくると、この3箇所責めが相当イイらしいよ。効くのも判ったんだ、どんどんやってやろう!」
 2人はそう言って、色々な方法で乳首を責め立てる。指先で掻き、指の腹で押し潰し、ローターを這わせ……。
 その行為と反応を面白そうに見ながら、悠真君は次の指示を出した。
「そろそろ誰か、子宮を外からも刺激してやんなよ」
 そう言って、片手でバイブを押し込みつつ、もう片方の掌で臍の少し下を押し込んでみせる。
「うぐうっ!!」
 たったそれだけで、栞さんは明確に絶頂の声を上げた。
「なるほど、そういやネットにあったな。体外式ポルチオ刺激、とかなんとか」
「へへ、いかにも効きそうだな。よーし、念入りに可愛がってやる!!」
 何人かが目を輝かせ、栞さんの下腹部に手を這わせはじめる。スマホで動画を確認しながら、撫で回し、指で押し込み、マッサージ器まで使って刺激しまくる。
 多分これが決定打になって、栞さんはとうとう歯を食いしばることさえできなくなった。
「くはぁああっ、ああぁぁあ゛っ!!! んぐっ……あはっ、ああはあああ゛あ゛ーーっ!!!」
 肺からの息で口をこじ開けられるみたいに、大口を開けながら叫びはじめる。顎から首までは涎まみれで、上品さなんて欠片もない。そこにあるのは、完全に『女』の顔だ。
 首から下だってひどいもので、もう栞さんは、どこを触っても感じる状態になっているようだった。腋を擦られても、横腹をくすぐられても、太股を撫で回されても、その都度確かに反応している。
「すげぇ反応。マジで全身性感帯なんかな」
「ああ。面白いけど、自分がこうなったらって思うとゾッとするよ」
「女って、ある意味可哀想だよな。開発すればするほど、どんどん弱点増えてくんだから!」
 責める側は狂ったように喜んでいる一方、責められる栞さんはまさに死に物狂いだ。身体中に纏わりつく相手を引き剥がしながら、少しでも『正気でいられる』格好を求めて暴れていた。何度も何度もブリッジの格好になっていたし、がに股のまま這う格好を取ることもあった。でも結局、どんな格好でもポルチオ絶頂の快感から逃れる事はできなかったようだ。
 みっちりと周りが固められていたから、壁際の僕からは詳細が見えない。かろうじて覗く足先が、感電するみたいにピクピク痙攣している様子。堪らなさそうな呻き声。その呻き声が途切れた際の、白目を剥いてるだの、気つけしろだのという同級生の声。それが、僕に届く情報のすべてだ。

 やがて日が傾き、部屋に夕陽が差し込んだ頃。ようやく、“遊び”の時間は終わる。
 横様に倒れたまま、足を前後に開き、完全に白目を剥く……それが栞さんの最後の様子だった。全身の汗がとにかくひどい。濡れた髪が顔に張り付いているせいで、今の今まで溺れていたようにも見えてしまう。
 責めていた連中は満足げだった。ズボンを膨らませているのが窮屈そうだけど、これまでにないほど栞さんを追い込んだことに満たされているようだ。そしてそれは、あの悠真君も同じ。
「……ホラ先生。そろそろ起きて」
 頬を叩いて栞さんの意識を呼び戻し、虚ろな瞳と視線を合わせる。
「だいぶ意識飛んでたね。俺らの“オママゴト”が、そんなに良かった?」
 聞き覚えのある問い。
「…………っ!!」
 でも栞さんは、その問いに口を噤む。悔しそうだ。失神するほど感じまくっていた手前、否定のしようがないんだろう。悠真君はその反応を見て、改めて笑みを深める。
「さすがに疲れたでしょ。今日はもう帰っていいよ。……ま、アソコが疼いて仕方ないっていうんなら、いつもみたいにハメてあげてもいいけど?」
 その答えに、周囲が色めき立つ。
「おおおっ、いいねえ!」
「そうだ、あんなオモチャだけじゃ物足りねぇだろ? 俺らの熱くて固いのが欲しいよな!?」
 いよいよ挿入できる可能性ができたことで、惨めなぐらい必死にアピールする。でも、さすがにこの提案まで呑む栞さんじゃない。
「そう、じゃあ帰るわ。疲れたの、あなた達子供の相手なんて、うんざり」
 吐き捨てるようにそう言うと、ふらつく足で立ち上がる。そして、よろめいて膝をつき、また必死で腰を持ち上げる。かなりつらそうだ。
「なんだよー、マジでハメらんねーのかよ!?」
「いいや、もう辛抱たまんねぇ。無理矢理でもやっちまおうぜ!!」
 納得しない何人かが、痺れを切らした様子で栞さんを押し倒そうとする。
「きゃあっ!! ちょっと、やめっ……!」
 栞さんが悲鳴を上げた。でも、欲望に駆られた子供がそんな事で止まる筈もない。
 栞さんの華奢な身体が引き倒され、足を広げられ、いよいよ犯される……という、まさにその瞬間。

「――――やめろ!」

 凛とした声が響いた。その異様な響きで、栞さんを押し倒す数人の動きが止まる。まさに、鶴の一声。それを発せられるのは、この部屋でただ1人しかいない。
「ハメるってのは冗談だ。今日は、機械であんだけ責めてんだぜ。これ以上無茶させて、壊れたらどうする。朝言った通り、セックスはなしだ」
 静かだけど、有無を言わさぬ感じの言葉。それを前に、例の数人も栞さんから手を放す。
 改めて思う。悠真君のカリスマ性は、とても同い年のものじゃない。こんなに癖の強い、獣のような同級生達を抑えてしまうんだから。
 その凄みを改めて感じると同時に、僕は安心してもいた。
 ともかく、これ以上栞さんがひどい目に遭わずに済んでよかった。あれだけ悶え狂った後に輪姦なんてされたら、どうなっていたかわからない。このまま帰って、ひと眠りでもしたら、きっとまた元気になるはずだ。そう思った。

 つくづく、甘い。
 あの悠真君に限って、楽をさせるために解放するなんてことが、あるわけもないのに……。



                              (続く)



止まらないカメラの向こうで  第4話


第3話の続きです。
これにて終話となります。ご愛読ありがとうございました。




『人格崩会 マインドクラッシャーズ』
 このサイトは、AV出演経験のない100%の素人を被写体に、オリジナルの撮り下ろし映像を期間限定で公開する……そういうコンセプトのようだった。
 出演『女優』の数は多く、一覧には多種多様な職業とイニシャル、年齢、そして謎のコース名が並んでいる。とはいえ大半は『公開終了』と添え書きがあり、もう見ることはできない。

『 女子大生 F(20)…… <肉便器コース希望> 』
『 保育士 T(32)……  <ハードSMコース希望> 』
『 事務系OL M(27)…… <完全人格崩壊コース希望>』オススメ!

 今はその3列だけがクリックできるようだ。
 完全人格崩壊コース、という字面が嫌でも目を引く。このコースの女優が姉貴ではないことを願うが、正直望み薄だろう。事務系OLという職業も一致しているし、Mといえば『瑞希』のイニシャルだ。
 意を決してMの列をクリックすると、女優の個別ページに飛ぶ。
 まず目に入るのは、ヘッダー部分のバストアップ写真。俺は、それを見て直感してしまう。目線にモザイクこそ入っているが、十数年間ずっと一緒に暮らしていた相手を見間違えるわけがない。姉貴だ。

 ヘッダーのすぐ下には、女優Mの動画の新着コメントが表示されている。

『近所の綺麗なお姉さん、という印象。モデルみたいに洗練されたボディではないですが、いかにも素人っぽい感じが生々しくて興奮します!』
『☆1。足太すぎ。昭和の熟女AVじゃないんだからさ。。痩せようよ。。。』
『顔面偏差値60、体偏差値55ぐらいの女。可もなく不可もなく。ただしやらされてるプレイはこのサイト内でも屈指のハードさだから、見所は多い。』
『非常にレアな<人格完全破壊コース希望>の素人女性。うんこ・ゲロ・フィスト・輪姦なんでもアリ。しかもそこそこの美形。ただ、演技とかじゃなく本気で嫌がってそうなシーンが多い。このサイトのハードさを甘く見てた?』
『すごいねこの女、人格破壊コース希望とか頭おかしい。喋ってるの見る限りしっかりしてそうなんだが、ストレスで色々嫌になっちゃったのか……』

 コメントの大半はこういうもの。姉貴のルックスを品定めするか、自分から凄惨なコースを希望したと決め付けて貶めるものばかりだ。
 あの姉貴が、こんな調教を自分から希望する訳がない。むしろ周りでそういう事をしてる子がいたら、引っぱたいてでも止めさせるお節介焼きが姉貴なんだ。そうと知っているだけに、コメントを見ているだけで胸がムカムカしてくる。
 ただ、我慢して読み進めていくと、興味深いコメントも見つかった。

『一通り全部動画観ました。どうも、この調教グループが直前に誰か躾けてたけど、逃げられたか何かで完遂できなくて、その身代わりとして調教されてるっぽいです。全体的にこの女優さんが怯えてるのは、前任奴隷の調教記録をあらかじめ見せられて、今から自分がどうなるのかを知ってしまっているせいだと思われます……』
『↑のコメントに補足。前の奴隷はメチャクチャ美人かつ、ミミズ千匹の名器、しかも相当強い筋肉をお持ちだった模様。(なんと、フィストを12時間続けられても切れなかったとか……!) この奴隷の調教記録もぜひ観てみたいんですが、どこかにシリーズで無いでしょうか。ピー音の前後聞く限り、最初が“あ”始まりで、最後もア行で終わるみたい。アイカ? アスカ? アリサ? 性器の強さ的に外人さんの可能性もあるから、アイシャとかかも? 情報求む!!!』

 どうやら姉貴は、明日香の調教が未完に終わった腹いせで調教されているようだ。確かにファミレスで見た写真にも、明日香がされたのと同じ調教があった。

 ヘッダー、コメント欄と来てさらにその下へ視線を移せば、とうとう動画のサムネイル群が視界に入る。1ページは縦5×横4、計20の動画で構成されていた。一度に表示されるページ数は9ページまでで、そこから先どれだけあるかはわからない。
「くそっ!!」
 俺は頭を抱えながら、動画を古い順に並び替える。
 一番古い動画は、タイトルが『インタビュー』、再生時間はわずか10分弱。ごく短い動画だ。

『<完全人格崩壊コース>恒例の、冒頭インタビュー。今回は“町のワル共に絡まれる、気の強い女先輩”のシチュエーションでお送りします。全員、迫真の演技です!(笑)』

 動画説明欄にはそう書かれていた。これはあくまで芝居で、事件ではないと主張するわけか。白々しい。これに騙される奴がいるなら、そいつは救えない馬鹿だ。
 俺は深呼吸をし、気分を落ち着かせてから再生ボタンを押下する。

 一瞬の暗転の後、映像が映った。場所はどこかの部屋。決して広くない、ごく一般的なマンションのワンルームという風だ。
 その中央で、後ろ手に拘束された女が、男2人に両肩を掴まれている。黒いタンクトップにジーンズという、男勝りな格好。口にガムテープを張られてこそいるが、外跳ね気味のショートヘアと力強い瞳は、明らかに姉貴の特徴だ。そして何よりその耳からは、俺の贈った赤いイヤリングが垂れ下がってもいた。
 ご丁寧なことに、本編の姉貴には一切のモザイクがない一方で、それ以外の連中だけはしっかりと目元が隠されている。
 男の1人が、ゆっくりと姉貴に近づいた。体型といい髪形といい、関取を思わせる巨漢。現在も指名手配中であるはずの藪岡だ。奴が乱暴に姉貴の口のガムテープを剥がすと、一呼吸置いてすぐに姉貴が口を開く。
『**っ! あんたどういうつもり、こんな事して!?』
 開口一番にピーという規制音が被せられているが、藪岡を呼び捨てにしたのがわかった。あの藪岡を、呼び捨て。さすがは姉貴だ。いくら3つ年上だからといって、あの藪岡を前に俺が同じ真似をできるかどうか。
『相変わらず声でけーな、外に聴こえちまうだろ。ま、この近くに日本語わかるヤツなんかいねーけどよ』
『質問に答えなよッ!!』
『へいへい。……原因作ったのは、**なんスよ』
 藪岡が小指で耳を掻きながら答える。姉貴の顔が強張り具合から見て、ここで出たのは俺の名前なんだろう。
『これまで随分可愛がってやったのに、恩を仇で返しやがった。おかげで昔馴染みが何人もパクられて、自慢のチームが空中分解だ。もうちっとで本格的な族の軍団作れるとこだったのによ』
 藪岡は悪びれもせずに言う。もっとも、奴が悪びれることなんて、今までもこれからも一度だってないんだろうが。
『どうせ碌でもないことに**を巻き込んで、警察に暴露でもされたんでしょ? 自業自得よ、あの子に逆恨みしないで!!』
 姉貴はキッパリと言い切る。まだ、こんな俺を信じてくれるのか。
 その姉貴の態度に、藪岡がチッと舌打ちする。
『とにかく俺らの世界じゃ、こういう事されるとケジメつけなきゃならねぇんス。それをぜひ、お姉さんにご報告しとこうと思って』
 藪岡は、横柄に姉貴を見下ろしたまま淡々と告げる。今度は姉貴が顔色を変える番だった。
『何をする気!?』
『そりゃ、そん時の気分次第っスけどねー。今はかなりムカついてるから、楽には殺したかねぇなあ』
 藪岡の言葉に、姉貴の表情が凍りつく。そしてその表情は、次第に藪岡を睨み上げるものへと変わっていく。
『…………弟に手を出したら、あんたを殺す…………ッ!!』
 その気迫は、とても嘲笑ったりできるものじゃなかった。そこらのチンピラが凄むのとはわけが違う。姉貴の怒りは、俺への深い――それこそ母親のような愛情に裏付けられたものだ。
 姉貴……。
『おー怖ぇ怖ぇ。アンタなら、マジで刺すぐらいはしてきそうだ』
 藪岡は肩を竦めて言い、たっぷりと溜めてから次の言葉を吐き出した。
『アンタが身代わりになるってんなら、**には手ぇ出さねぇっスよ?』
 わかっていた。その言葉が来るだろうことは。動画の中の姉貴だって、きっとそうだろう。
 姉貴は藪岡を睨み上げたまま、顔を強張らせる。
『……この法治国家で、そんな無茶苦茶が通ると本気で思ってんの? いつかそのしっぺ返しを喰うよ、こんな事ばっかりしてたら!』
 姉貴の説教はもっともだ。悪い事をしていれば、いつか自分に返ってくる。藪岡だってそうだ……そうであった、はずなんだ。
『そ、無茶振りっス。流石にこれを、ハイそうですかとは呑めねぇっスよね』
 姉貴の必死の訴えを、藪岡は笑って聞き流すだろう。俺はそう思った。だが意外にも、奴は肯定してみせる。姉貴の顔が怪訝そうなものになる。
『だから、チャンスをあげますよ。俺らの責めを一晩我慢できたら、アンタの事は解放するし、**にも手は出さない。逆に我慢できなかったら、たっぷり楽しませてもらいます』
 藪岡の提案に、姉貴の顔がますます引き攣っていく。
『ふざけないでっ!!』
『イヤ、ふざけてはねぇっスよ。***センパイだから、特別に譲歩してるんス』
 藪岡の言葉は掴みづらい。確かに、奴が助かるような条件をつけるのは珍しいことだ。こうと決めたら有無を言わせない、ガキ大将タイプの人間だから。そんな奴が交渉の余地を残すというのは、姉貴に相応の敬意を払っているのか。
 ……いや、違う。奴に限って、そんな誠実さなんて欠片も持ち合わせちゃいない。あくまでこれは、姉貴に恥辱を味わわせるプレイの一環なんだ。どうせ責めに耐え切れるはずがないと踏んだ上での。
『………………わかった』
 姉貴は、長い沈黙の末にそう宣言する。藪岡とあまり接点がないから、奴の言葉を額面通り受け取ってしまったのか。あるいは全て承知の上で、あえて乗ったのか。いずれにしても、藪岡の狙い通りの展開だ。
『決まりっスね。じゃあ、我慢の条件は……』
 藪岡はそう言って、いきなり姉貴のイヤリングに触れる。
『っ!? や、いやっ!!』
 姉貴は慌てて首を振った。だが藪岡は、素早くイヤリングを耳たぶから抜き取ってしまう。
『このアンタにゃ似合わない、クソ安っぺぇイヤリングにすっか』
 藪岡の煽りに、姉貴が奥歯を鳴らした。
『おーおー、怖ぇ顔だ。一目見た瞬間解ったぜ、わざわざこんな安モン後生大事に身につけてるって事ァ、よっぽどの思い入れの強ぇ一品ってこった。誰かの形見か? それともイイ人からのプレゼントかよ?』
 藪岡はイヤリングを指で弄びながら笑う。
『返して!!』
 姉貴は大声で叫んだ。両肩を掴む男2人が、ビクッとなったほどの音圧だ。その叫びには、姉貴の真剣さが痛々しいほどに含まれていた。でも藪岡は、そういう相手の困った様子が何よりも好きなんだ。
『くくっ、言われなくても返しますよ。しっかり歯で挟んどいでください』
 藪岡はそう言って、姉貴の口に太い指を近づける。姉貴は不服そうにしながらも、前歯でイヤリングを噛むしかない。
『そのイヤリングが、センパイの“矜持”ッスよ。それを朝まで放さずにいられたら、俺らそんな気合入った人になんもできねーッス。でも、もし落としちまったら……』
 藪岡は、あえてその先を言わない。姉貴はそんな卑劣な藪岡に、それまでで一番の鋭い視線を浴びせた。
『あかにしあいで……っ!! あんあらガキの、おあおびなんか……っ!!』
 イヤリングを咥えたまま呻く姉貴。
『そりゃ結構だ。うっし、お前ら始めんぞ、“ガキのお遊び”をよ!!』
 藪岡は、そんな姉貴の言葉を茶化す形で、責めの開始を宣言した。
 そして直後、動画が終わる。これが1本目、『インタビュー』。たった10分弱の動画を観ただけで、全身がひどく疲れる。こんなものが、あと何本あるんだろう。あと何百時間分が収録されているんだろう。今から全部観るとどれだけ掛かるかわからないし、そもそも精神的に耐えられそうもない。
 でも、どうしても気になってしまう。せめて、今の動画の直後だけでも見届けなければ。なにしろ姉貴は、俺のイヤリングを盾にとって脅されたんだから。

『指マン潮吹き地獄①』
 それが2本目のタイトルだ。再生時間は、実に58分強。しかもタイトルに①とあるように、これ1本で完結するものでもない。サムネイルを眺めると、『指マン潮吹き地獄』のタイトルを冠する動画は、④まであった。もし全てが①と同じく1時間程度の尺なら、実に約4時間分の動画となる。そして、『指マン潮吹き地獄④』の後に別シリーズが続いているということは……。
 そうだ、この動画だけで終わるわけがない。もしそうなら、ファミレスで高根沢から見せられた写真は、そもそも存在していないはずなんだ。
 考えれば考えるほど、気分が重くなる。俺は頭を切り替えつつ、義務感に背中を押されて①の動画を再生した。


    ※           ※            ※


 姉貴は、後ろ手の拘束はそのままで薄い煎餅布団に座らされ、横の2人から乳房責めを受けていた。上乳だけを隠すようにたくし上げられたタンクトップの下では、2本の腕でまったく遠慮なく乳房が揉みしだかれている。
『さすがFカップ、揉みごたえ抜群だな。とても掴みきれねぇ』
『ああ。これで垂れてなきゃ最高なんだがな』
『そりゃ無理ってもんだろ、こんだけ張り出してりゃ。牛乳だぜ牛乳』
 男2人は勝手を言い、笑いながら乳房を揉みしだく。姉貴は真正面からその様子を撮影される状況の中、静かに目を閉じ、俺の紅いイヤリングの金具を歯で挟みつづけていた。
 胸への責めはかなり長く続いているのか、あくまで乳房の部分だけを刺激されているにもかかわらず、乳首が尖りはじめている。
『しかし、根性ありますねー***センパイ。こんだけやって声出さねーとか』
 1人がそう言って一旦乳房を離し、乳首を人差し指で圧迫する。するともう一人も、調子を合わせるように同じ真似をした。
『っ……!!』
 姉貴の閉じられた歯の間から、小さく息が漏れる。
『ほれほれ、どうっスか。気持ちいいでしょー、硬くなってきてますよ』
『我慢やめましょーセンパイ。女は可愛く喘いでナンボっすよ?』
 人差し指で上下に乳首を擦りながら、言葉責めもやめない。姉貴も折れない。その状態が続けば、段々と両乳首が勃起してくる。最初はやや陥没気味だったものが、厚みを増していく。
 そうなると、2人も責め方に変化をつけた。人差し指と親指で乳首を挟みこみ、扱くんだ。
『んんんっ……!!』
 見るからに気持ち良さそうな責めに、姉貴がまた呻く。薄目を開けて2人組を睨んでもいるようだ。2人組の方は目線モザイクのせいでどこを見ているか判らないが、口元の笑みが消えることはない。
 この責めもかなりしつこくて、さらに乳首の勃起具合が増していく。それに応じて姉貴の余裕もなくなっていく。顎が浮き気味になり、背が仰け反り。
『ひひ、気持ち良さそー。デカイと感度鈍いとかいうけど、相当敏感っすね』
『そろそろ乳首イキできるんじゃないっすか? それとも、もうしてたりします?』
『イクときは言ってくださいねー。手ェ緩めたりは一切しないっスけど!』
 男2人の言葉には悪意しかない。こいつらもケダモノだ。ホテルで明日香を嬲っていた連中と同じような。
『…………っ、………………っ!!』
 姉貴はじっと耐えていた。でも、鼻から漏れる息は着実に荒くなっている。男2人が一旦乳首の扱きをやめ、一指し指で下から上へと乳首を押し上げるような動きに変えると、姉貴の呼吸はますます荒くなっていく。
『鼻息まで牛みたいになってきましたね。陸上部のエースでも、興奮にゃ勝てないっスか? じゃ、そろそろ……』
 2人はそう言って、乳首から指を離す。そしてすかさず、口で吸い付いた。
『いうっ!!』
 姉貴からはっきりとした声が漏れる。
 ちゅうちゅう、と吸い付き、嘗め回されている。あの姉貴の乳房が、チンピラ共に。俺は乳首舐めを何分も見て、ようやくそう実感でき、ひどく嫌な気分になった。
 映像は淡々と続く。
『ん~~~……っっ!!』
 乳房を揉みしだきながら乳首を吸われれば、姉貴は顎を浮かせながら苦しそうに呻く。白い歯がとても綺麗だ。普段から俺にうるさく小言を言っているだけあって、歯のブラッシングにも相当きをつかっているんだろう。髪だって普通に綺麗だし、本当にしっかりした姉だ。俺はそんな取りとめのないことを考えながら、見るともなしに映像をただ眺め続けた。
 映像内ではそのうち乳責めのためにローターまで使われはじめ、耳障りな羽音と姉貴の呻きが絶え間なく続くようになる。
 コメント欄の連中は偉そうに“偏差値55”だのとのたまっていたが、俺から見れば『女優』のルックスは間違いなくいいし、乳もでかい。これが借りてきたAVなら、充分オカズになるはずの場面だ。でも俺は、微塵も勃起していなかった。俺はその事実に、少しホッとしていた。

 いつの間にか①の動画は終わり、俺はそのまま②のページを開く。このサイトを訪れた人間の中で、『見たいから』じゃなく『見なければならないから』選択しているのは俺ぐらいのものだろう。ふと、俺以外の世の人間すべてが気楽に思えてしまう。

『27歳の真面目な巨乳OLは、想像以上に男日照りみたいです(爆)』

 その軽薄な動画説明欄を眺めながら、再生ボタンをクリックする。
 2つ目の映像は、床へ乱雑に捨てられたジーンズの接写から始まった。そこからカメラが舐めるように上を向く。場面はちょうど、壁際に立たされた姉貴が下着を脱がされようとしているところだった。明日香がよく穿いているシルクのレースショーツとは違い、いかにも普段履きの綿製だ。
『うう、うううっ!!』
 姉貴は後ろ髪を揺らしながら、必死に呻いていた。何重にもガムテープを巻かれた不自由な手で、ショーツを掴む男の手を引っ掻いている。安産型の尻を振り、陸上部特有の太腿を強張らせて暴れてもいる。そうまでしても、結局ショーツが擦り下ろされるのは止められない。常識人の利口な行動が、馬鹿の力押しで潰された瞬間だ。
 馬鹿数人は、姉貴の膝を掴んで強引に肩幅以上に開かせ、一切遠慮なく股座を覗き込む。白い尻を正面から撮っていたカメラも、下からのアングルに変わった。
 姉貴のアソコが映り込む。風呂上がりにバスタオルで拭っている裸ぐらいなら何度か見た事があるが、さすがにアソコを拝むのは初めてだ。
 ごく普通に色素沈着の進んだ性器に見える。ネットで見る無修正性器の平均という感じだ。
『まぁ、なんつーか……普通だな。熟女好きのお前としちゃどうよ』
『誰が熟女好きだ。ま、アラサー女のマンコにしちゃ整ってる方じゃね? 多分そんなヤッてねーぜ』
『少なくとも、***のよりゃ綺麗だぜ。今ンとこ唯一の勝ち点か?』
『いや、お前は知らんだろうが、***のマンコって最初えらい綺麗だったぜ。ピンクの一本スジでよ。ま、藪っさんのデケェの突っ込まれて、一発でグチャグチャになったけどな!』
『あと、毛の手入れも***のがキッチリしてたよな。こいつ、ちっとボーボーじゃね?』
 胸糞の悪い会話が続く。姉の性器を品評されるのが、こうも吐きそうになるほど嫌なものとは思わなかった。姉貴の毛は確かに、きっちりと整えられている感じじゃない。でも、それが普通なんだ。日常生活からいきなり拉致されて、処理不足も何もない。
 会話途中に混じる規制音は、明日香の名前を隠すためのものだろう。コメントにあった通り、最後がア行終わりなのが聞き取れる。
 最初に見た明日香のアソコは、確かに綺麗だった。これがハーフのオマンコかと衝撃を受けるぐらい、くすみのない淡いピンクだった。よく知っている。なにしろそれを撮影したのは、俺だ。
 姉貴の映像を撮っている今のカメラマンは、どういう立ち位置なんだろう。俺のように巻き込まれたクチか、嬉々として撮影役を引き受けたクチか。映像は俺の映したもの以上に手ブレがひどいから、素人なのは間違いないが。

『さーて、そろそろやるか』
 1人がそう言って、姉貴のアソコに手を触れる。尻肉と腿の境目に親指を置き、手の平を上にして。カメラは手の甲を映すだけで、指の細かな動きはわからない。ただ、ぐちゅりと音がした直後、姉貴の太腿がかなり震えたから、挿入された指は少なくとも2本以上だ。
『ふんんっ……!!』
 姉貴の口からくぐもった声が漏れる。
『ははっ、オイオイ! ちょっと濡れてんじゃん、センパイよぉ!! チチいじられて感じてたんかよ!?』
 指を入れた一人は、これでもかという巻き舌で煽った。その煽りで場が沸く。後ろ手に縛られた姉貴の手指が、ぎゅっと握り締められる。
『で? *稜高の誇る、陸上部史上最強エース様の締まりはどーよ?』
 1人が嘲りながら会話を被せた。今度の規制音はかなり微妙で、母校の名前を知る人間ならギリギリ聞き取れてしまう。出身高校が特定されるぐらいならまだいいが、名前バレとなれば致命的だ。明日香の名前が割れていないのは、全動画を見たという人間のコメントで確認済みだが、姉貴はわからない。真っ当なAVなら製品チェックを信じるところだが、この映像が真っ当であろうはずがない。
『んー、結構締まっけど、ミミズ千匹とかじゃなさそうだな。2万円ソープの女って感じ』
 指を入れている一人は、半笑いでそう言った。キレそうになる。姉貴をソープ嬢と同列に語るのも腹立たしいが、その中でも格安と言いたいのか、このチンピラは。
『ひゃひゃっ、相変わらずヒデーなお前』
『あんだよ、これからなのにガッカリさせんなよ!』
『いや藪っさんなら、誰相手だろうと一緒じゃないんスか? 180ぐらいあるアメ女でも、相当慣らさないと無理でしょ』
『コーラのボトルみたいだしな。でも***は普通に呑み込んでたらしいぜ、ケツでも喉マンでもよ』
 藪岡を交えたそういう会話を聞いているだけで、また吐き気がこみ上げてくる。饐えた匂いの101号室に逆戻りした気分だ。
「おえ……っ」
 本気で気分が悪くなり、思わず口を押さえる。その際に肘でマウスを誤クリックしまったらしく、動画が一気に進んだ。
『うっ、くっ……くぅ、うっ…………!!』
 女の不自由な呻き声。それと混じる形で、ぐちゅっぐちゅっという水音をマイクが拾う。“指マン”はすでに佳境に入っているらしく、姉貴のむっちりとした太腿に愛液が垂れているのが見えた。
 よく見れば、指入れをしているのはさっきとは別の奴のようだ。
『ほら、どうしたんスか先輩。この程度で足ガクとか、元陸上部の恥っすよ』
 スプリンター体型のそいつは、言葉責めを交えながら姉貴の太腿を平手で打つ。
『ふっ、んんっ……!!』
 姉貴から悔しそうな呻きが漏れた。
『あいつ、えらい気合入ってんな。何か因縁あんの?』
『ああ。ヤツも元陸上部なんだが、***センパイが残した200mのタイムに負けたっつって部内で馬鹿にされたんだとよ。ならまずタバコやめろって話だけどな』
『へー……。あいつがダセェのか、男子のタイムに食い込むあの女が化け物なのか、微妙なとこっすね』
『お前らウッセーぞ、あん時ゃクツが滑ったんだよ!! マジでやって、こんなビッチに負けるわけねぇだろうが。おい、マトモに立てねぇんなら寝とけやオラッ!!』
 元陸上部という奴が、足の痙攣する姉貴を布団へ引き倒す。
『おいおい、アブねーよ!』
 その非難の声を残して、②のビデオは終わった。

 次の動画として表示されるのは、『指マン潮吹き地獄③』。

『この映像では、一切ローションの類は使ってません。垂れているのは、すべて女優の本気汁です。』

 説明欄は相変わらず悪意しか感じない、癇に障る内容だ。
 動画を再生すると、布団に四つん這いになった姉貴を横から撮る映像が始まる。とうとうタンクトップすら取り去られた丸裸だ。手の拘束も解かれ、ベッドの脇に丸めたガムテープの束が転がっている。
 姉貴はもう全身が濡れ光っていて、かなりの間昂ぶらされ続けているようだ。這う格好だが、右膝が前、左膝が後ろと膝の位置には開きがある。そしてその股の隙間へ、一人が指を差し込んでいた。手の甲を下にした、潮噴きでもさせようかという指遣い。指の動きは見えず、手の平が蠢くだけだが、ぎゅちゅぎゅちゅという音のハイペースぶりから察しはついた。 
『ふーっ、ふーっ、ふーっ……』
 前を向いたままの姉貴は、目を閉じ、鼻から荒い息を吐きつづけている。相当感じてるんだろう。よく見れば、垂れ下がったまま前後に揺れる乳房の先は、乳責めの時以上にしこり勃っていた。
『うおー、すっげぇ』
 指責めしている男が声をあげ、カメラに向けて手招きする。すると横から撮っていたカメラが近づき、横へ身を引いた男と入れ替わりに股座を接写しはじめた。
 中3本指の入り込んだ割れ目の周辺は、信じられないほどの愛液で濡れている。しかも愛液の多くはかすかに白く濁っていた。なるほど、ローションは使っていないと注釈がいるわけだ。
 ぐちゅぐちゅと水音を立てながら指が動けば、モザイクなしの割れ目からまた新しい愛液が溢れるのが見えた。姉貴が這う格好を取っている以上、愛液は腹の方へと流れ、繊毛に絡みながら滴り落ちていく。
『どういう事っスかこれ? “ガキのお遊び”で、本気汁ガンガン出てくるじゃないっスか、***センパァイ!』
 指責めをしている奴が馬鹿にしきった声に叫ぶが、姉貴に反応はない。というか、できないんだろう。
 カメラが少し引くと、さらに状況が判るようになる。強張る太腿と、円錐形に尖った乳首に囲まれたシーツは、かなり広い範囲が変色していた。鎖骨の真下あたりまで濡れてるんだから、愛液が垂れたなんてレベルじゃない。もう何度も潮を噴いてるんだ。たぶん、横から撮られていた間に。
 姉貴は、シーツへめり込む肘の間で項垂れていた。シーッ、シーッ、という声が漏れ聴こえる。
『ホラ、顔は上げとかないとダメっすよ。こっそり吐き出して休憩されると困るんで!』
 そう言って髪の毛が掴まれ、強引に頭が引き上げられた。すぐにカメラが前へと回り込む。
『ふーっ、シーッ、ふーっ、シーッ、ふーっ……』
 姉貴は激しく、妙な息を続けていた。理由は顔を見ればわかる。姉貴の顔は、鼻水と涎ですっかり汚れきっていた。鼻が詰まっているから、呼吸は歯の間からするしかない。そのおかげで涎が出てしまう。さっき項垂れていたのは、この顔を人目に晒さないためだ。

 ――いい、健史? 勉強ができなくたって、走るのが遅くたって、別にいいの。でも、だらしないって思われるのはダメ。それって、人間としての負けだよ!!

 俺のマナーを叱る時、姉貴がよく言っていた言葉だ。そして姉貴自身も、俺の前でさえきっちりしていた。俺の模範でいられるように、誰にも母子家庭だからなんて馬鹿にされないように。
 そんな事情を知ってか、知らずか。
『あーあ。鼻水とヨダレ。“だらしねぇ”な、センパイ。』
 そんな言葉が吐かれ、嘲笑が沸き起こった。
『…………っ!!!』
 姉貴はイヤリングを噛んだまま、目を見開く。この時俺は、姉貴が持つ鋼の心が、ほんの薄くだが剥がれ落ちたような気がした。誰よりも姉貴という人間を知っているだけに、伝わってくるものがあったんだ。

 そして動画はとうとう、『指マン潮吹き地獄④』になる。
 シリーズの最後。姉貴は布団の上に仰向けになり、大股開きで責められていた。
『いぁ、いぁあーーーっ!! いあーーーっ!』
 食いしばった歯の間にイヤリングの金具を覗かせたまま、拒絶の言葉が繰り返される。両脚の筋肉の張り具合から、本気で抵抗しているのも見て取れた。なのに、足が閉じない。姉貴の手足の力は強いし、怒ると怖い。そんな姉貴が、カメラの向こうでは何の抵抗もできていないんだ。姉貴の強さを見て思春期を過ごした俺は、それがただただショックだった。
『あーあーあーあー、まーた出ちゃったよぉお姉ちゃあん』
 姉貴どころか俺より下そうなガキが、子供をあやすような猫撫で声を出す。奴の顔が向いている先では、激しい『手マン』で潮が撒き散らされていた。
『こいつ、強情な女だな……!』
 姉貴を囲むうちの一人が、呆れた様子で言う。姉貴は、太腿を痙攣させ、心配になるほど荒い息を繰り返しながら、それでも噛んだイヤリングを離さない。だいぶ疲れてはいるが、瞳の力も健在で、そのまま朝まで耐え切りかねない雰囲気があった。
 だが、あの藪岡がそんな事を許す筈もない。
『どけ』
 明日香を囲む輪の一部を押しのけながら、低い声が唸った。布団の上の姉貴が顔を上げ、目を見開く。すぐにその全身は、巨大な影に覆い尽くされた。
 振り返ったカメラが映し出すのは、関取級の巨体と、そそり勃った怒張。臍につきそうなその角度は、明日香を犯した時より上だ。
『いいねぇ、***センパイ。俺、初めてシコったの小5なんスけど、そん時のオカズがアンタなんスよ。リレーん時、でけぇチチがブルンブルン揺れてんのが眼に焼きついちまって、猿みてぇに扱いたもんだ。いつかハメてぇと思ってたが、俺が少年院(ネンショー)から出てきた時にゃ、もう町からいなくなってたからよ。寂しかったぜぇ?』
 目つきこそモザイクでわからないが、藪岡の口調は穏やかだった。聞きなれない敬語も相まって、とにかく不気味だ。
『うおっ!!』
 いきなり、映像の後ろから叫び声がした。カメラが振り向けば、姉貴が脚を内股に閉じている。足の押さえつけが緩んだ隙をついたんだろう。その判断力と行動力はさすがだ。でも今は、無駄な足掻きでしかない。
『自慢の足で力比べってか? いいぜ、受けて立ってやる』
 藪岡はそう言って姉貴の両膝を掴み、強引に割りひらいていく。
『うーーっ、うう゛う゛ーーーっ!!!』
 姉貴の呻きがして、健康的な足がぶるぶると震える。相当な力が入っているらしい。足の力は手の3倍というし、俺だったらああまで本気で抵抗する姉貴の脚を開くのは、顔を真っ赤にして頑張っも無理だろう。でも藪岡は、薄ら笑みを浮かべた状態で簡単に開いてしまう。
『なんだよ、抵抗してもよかったんだぜ?』
 目一杯、180度近くまで足を開かせてから、藪岡は白々しく言う。姉貴は、信じられない、という風に目を見開いていた。ある意味この瞬間が、姉貴と藪岡のファーストコンタクトだ。有無を言わせぬ暴虐。それこそが藪岡の特徴であり、全てなんだから。
『うう、うう!!』
 姉貴はイヤリングを噛んだまま、左右に首を振る。でも、無駄だ。藪岡の怒張は濡れきった割れ目に宛がわれ、強引に捻じ込まれる。
『……う゛、うーう゛ッ!!』
 姉貴が息を詰まらせて仰け反る。下半身に比べて華奢な肩が、ガクガクと震えはじめる。たぶん、恐怖で。あの強くてしっかり者の姉貴が、ガキであるはずの藪岡に犯されて震えているんだ。
 藪岡は上からのしかかるようにして、極太をさらに奥へと押し込む。挿入が深まるほどに割れ目から愛液が押し出され、肛門の窄まりの横を流れ落ちていく。
『おーし』
 藪岡の漏らした一言が、心に響く。奴の満足とはつまり、被害者にとっての絶望だ。今でいうなら、規格外の怒張が姉貴の一番奥まで達したという事だろう。
 姉貴は藪岡の肩越しに天井を見つめながら、目を見開いたままでいた。
『動くぜ』
 藪岡が唸り、姉貴の太腿を抱え上げての抜き差しを始める。
『う、うう゛っ!!』
 腰を浮かせたまま、シーツへ爪先立ちになって呻く姉貴。されるがままの状況で、歯に挟んだイヤリングだけが、かろうじて意思を残している。

『どうっすか、初恋の相手とヤった感想は?』
 布団を取り巻く連中の一人が、藪岡に尋ねた。
『んー、なんか普通だな、***に比べっと。この脚ならかなり締まると思ったんだがよ。ま、現実なんてこんなもんか』
『そりゃ比べる相手が悪いっスよ、あれ千人に一人レベルの名器じゃないっすか!』
 溜め息をつく藪岡を、また別の1人がフォローする。なんて会話だ。他人の弁当を奪って食っておいて、レストランよりまずいと吐き捨てるような行為。畜生の所業だ。
『ンっ、ふ……ふ、ふっ…………』
 姉貴はついに抵抗を諦め、つらそうに横を向いて呼吸している。藪岡はそんな姉貴を見下ろしながら何度か腰を打ちつけていたが、やがて大きく体位を変えた。布団の上へ座り込み、膝の上に相手を乗せる。対面座位だ。オーソドックスな体位のひとつだが、圧倒的な肉の壁である藪岡がそれをやれば、拷問のようにすら見えてしまう。
 いや、実際拷問も同然だ。ペットボトル大の逸物が、藪岡の剛力と獲物自身の自重で、有無を言わせず入り込んでいくんだから。
『う、う゛……う゛っ…………!!』
 メリメリ、という音さえしそうな挿入に、姉貴の目が見開かれていく。イヤリングを噛みしめる歯茎に力が篭もり、篭もり、ぶるぶると震えだす。やがて見開いた両目から涙までこぼれ落ち、そこが姉貴の……あの強い姉貴の、限界だった。
『あ……あ』
 その声と共に、白い歯が開き、イヤリングが落ちていく。それは一瞬の出来事。でも。
『あああああ゛ーっ、いたい、いだい゛い゛っ!! やめ゛でっ、ぬいてえ゛え゛え゛え゛え゛ーーーっ!!!』
 大口を開けてのその絶叫は、もはや口にイヤリングを含む余地などない事を、つまり自分の完全な敗北を、部屋中の人間に示すかのようだった。
『あーあ、あんなに頑張ってたのに』
『しゃあねーべ。ヤブっさんに目ぇつけられた時点で、死ぬまで突っ張るか、オンナになるしかねぇんだよ。どんだけ気ィ強かろうがな』
 畳の軋みと甲高い悲鳴をBGMに、下卑た会話が交わされる。認めたくはないが、たぶんそれは間違いのない事実だ。少なくとも、俺の知る限りでは。

『しかし、でけえチチだな』
 藪岡は獣のように姉貴の中を貪りながら、上下に揺れる乳房を舐めしゃぶる。そうして散々楽しんだ後、低いうめきと共に一切の遠慮なく中出しし、姉貴の体を放り捨てた。
『後はお前らでマワせ。***と違って、オナホールとしちゃ二流だがな』
 藪岡はそう言って布団から立ち上がり、周りの連中が色めき立つ。
『へへ、待ってました! 俺じつは、こいつのムッチリ具合好きなんだよね。スレンダーなガキよりよっぽどソソるぜ』
『よし、ヤるか!! ヤブっさんが初めて惚れたオンナだ、可愛がってやんねーとな!』
 歯を剥き出しにして笑う顔は、まさに飢えた肉食獣そのものだ。

 俺は、実の姉が飢えた獣の餌になるのを、じっと観ているしかなかった。
 穴が空くほど観たって、泣いたって、叫んだって、目の前の光景が変わることはない。なら視聴するだけ時間の無駄だ。そう理解はしているが、停止ボタンが押せない。ひどい嘔吐寸前の無意味なフリーズ……たぶん、それと似たような状態だ。
 正常位でただただ快楽を貪る獣。
 健康的な足を肩に担ぎ上げ、開いた股の間へ欲望を打ち込む獣。
 抵抗する気力さえない姉貴の手首をわざわざ掴み、強姦をアピールする獣。
 人の形をした畜生が多いことだ。
 別に、そういう連中がいたっていい。遠いどこかで共食いでもしてるのなら、何の文句だって言いはしない。
 でも……頼むから、姉貴の肉を貪らないでくれ。
 何の罪もない姉貴を泣かさないでくれ。

 頼むから。


    ※           ※            ※


 トイレで中途半端に吐いた後、またパソコンの前に戻る。
 サムネイルを見る限り、姉貴は例の潮吹き動画の後も、同じワンルームで輪姦を続けられたらしい。
 すぐ後のシリーズが、『4Pハメ回し』①~⑦。その後が、『ディープスロート調教』。動画の長さは気分で決めているのか、4、5分程度のサンプルムービー同然のものもあれば、4時間以上の長尺もあった。
 姉貴にあったことは、順を追ってすべて知っておきたいという自分もいる。だが、今のコンディションで輪姦動画の連続を見るのはきつい。だからとりあえずで、ディープスロートの方を再生する。サムネイルを見る限り、これはあまり激しい動画ではなさそうだ。

 動画は、這う格好の姉貴を横から撮る形で始まった。姉貴の前後に一人ずつが立ち、一人は前から咥えさせ、一人は後ろからハメている。
 カメラは床にでも置いているんだろうか。手ブレもない完全な定点で、姉貴の身体を映していた。顔はギリギリ見切れているが、粘ついた水音と、男の脚の間を頻繁に滴り落ちる透明な液からして、かなり入念にしゃぶらされているようだ。
 一方で後ろの男は、姉貴の乳房を後ろから揉んだり、腰を掴んだり、クリトリス辺りを弄ったりと変化を咥えつつ、一定のペースで腰を振っていた。
 サムネイルの印象通り、まさに調教という感じのハメ撮りだ。
 動画が始まってから数分の間、姉貴は一見淡々と奉仕していた。でも、やはり苦しいのは苦しいんだろう。
『かはっ、あはっ……けへっ! ぶほっ、ぶほっ! おッほ……!!』
 ある瞬間をきっかけに、連続して咳き込みはじめ、男の太腿を掴む。そしてかなりの唾液をシーツに溢しながら逸物を吐き出すと、崩れるように項垂れた。
『う゛、お゛へっ……けふっ!!』
 下を向いたやや厚みのある唇から、さらに大量の唾液がこぼれていく。嘔吐かとも見紛う量だが、あくまで色は透明だ。
 そして、気のせいだろうか。カメラの死角にあたる、姉貴の顔の右側……そこが何だか赤いように見える。
『……なに勝手に休んでんスか?』
 ひどく冷たい声と共に、前の男が喘ぐ姉貴の髪を掴みあげた。
『あ゛っ!!』
『俺、朝まで舐ってろって言いましたよね?』
 痛がる姉貴を前にしても、声のトーンは変わらない。俺は直感する。こいつは、サディストだ。
 姉貴の両手が震えながらシーツへ下ろされ、喉奥への凌辱が再開される。カコカコカコカコ、と喉奥を掻き回す音が始まる。そして一度限界を迎えてしまった姉貴は、もう喉の攪拌に耐えられない。
『うむ゛っ、こォ゛!!……うむ゛ぉお゛コッ…ぶふっ、ぶほっ!!ごぽっ!!」
 えづきともうがいともつかない音を発しながら、それでも姉貴は必死に耐えていた。
『くくっ。あの***センパイが、ここまで従順になるなんてな』
 一定のペースで犯していた後ろの一人が、肩を揺らして笑う。
『男にガチでカマされりゃ、大人しくもなんだろ』
 前の男はそう答えた。抑揚のない口調も恐ろしいが、喋った内容はそれ以上に聞き逃せない。
 男にガチでカマされた。似た言葉を最近聞いた気がする。
 ……そうだ。ファミレスで見たアレだ。鼻血を出したまま怯える、姉貴の写真。そうなると、さっきチラリと見えた顔右側の赤だって、思い過ごしではすまなくなる。
 このシーンは、あの写真の直後なのか。
 動画で直前にあたるのは、『4Pハメ回し⑦』。これは『ディープスロート調教』。そして、男がつい全力で殴ってしまう状況となれば……
『しかしまさか、あの状況で噛むとは。本気で逃げられるとでも思ったのかね。勇敢なんだか、無謀なんだか』
 俺が辿り着きかけていた答えを、後ろの男が口にした。
 やっぱりそうだ。姉貴はどうやら、逃げ出す隙を作るために男の物を噛んだらしい。
 姉貴はケダモノに身を食われながらも、必死に抗っていたんだ。この動画の直前……殴られて、男の力をはっきりと刻み込まれるまでは。
『どっちにしろ同じだ。何も考えなくなるまで、塗りつぶす』
 前の男がそう言って、太腿を引き締める。ゴエエッという声にならない声が、虚しく動画内に響いた。


    ※           ※            ※


 姉貴は動画の何十パートにも渡って、延々と輪姦され続けていた。姉貴だって一人の女だ。刺青を入れた厳つい連中に入れ替わり立ち代わり犯されるうちに、震えながら泣いてしまうことが何度もあった。

『女優本人が一度やってみたいと提案した、失神上等のハードプレイ。心配になって何度かカメラを止めたんですが、その度に「やめないで」と哀願されるんで参りました(笑)』

 動画の説明欄にはそんなふざけた文が並んでいるが、これは完全にレイプだ。
 嫌と言うほど見覚えのある顔が、背中が、足が、恐怖に震えている。チンピラ共に犯される実の姉……その映像を見続けるのは拷問と同じだ。これ以上つらいことなんてないようにも思える。でも、永遠に続くかと思えた輪姦シーンがようやく終わり、次の『性感開発』シリーズが始まれば、俺の胸の苦しさはさらに増した。

『前のメスブタには中途半端なまま逃げられてしまったので、今度は早めにポルチオ中毒にしておきます』

 そう説明の書かれた動画『ポルチオ開発①』で姉貴は、まず徹底的に焦らされつづけた。
 布団に横たわったまま股を開かされた姉貴のアソコを、チンピラ連中が舌と指で刺激する。10分や20分なんて軽い前戯じゃない。何時間もだ。
『……はぁっ、はぁ……っ……はぁ、はあっ…………!!』
 男連中は見るからにヤり慣れてる奴らで、姉貴の呼吸はものの数分で荒くなる。アソコからも濡れた音がしてくる。濡れた音は段々とはっきりとした水音になり、姉貴の太腿が震えだす。そしてついには、片腕で目を覆ったまま、「いかせて」と恥ずかしそうに呟くようにさえなる。そこまでになっても、焦らしは終わらない。
『うぅ……ぅうぅぅ……っぅぅぅぅう…………!!』
 姉貴の太腿の震えがいよいよ洒落にならなくなり、泣くような声と共に腰が完全にシーツから浮く。そんな状態が珍しくもなくなった頃に、ようやく焦らし責めが中断される。でもそれは、あくまで性感開発の準備段階でしかない。

 その次の動画では、姉貴を胡坐縛りで転がしたままでの『指マン』が繰り返された。涙声で何度ねだってもイクことを許されなかった焦らしとは逆で、今度は泣こうが喚こうが潮吹きを強いられつづける。
『あ……っ、あーーっ!! ああぁっ、んあああーーーっ!!』
 いくら姉貴でもそんな環境では、恥じらう余裕すらない。大口を開け、涎まで垂らしながら叫びつづける。そして指マンを続けるチンピラは、そんな姉貴の“さらに下”を要求する。
『ホラどうしたんスか? もっと思いっきり声出しましょうよ先輩! まだ我慢してんでしょ、大声で喘いだ方がキモチいいっすから!!』
 そんな事を何度も何度も囁いて、姉貴に大声で喘ぐ癖をつけようとする。しっかり者の姉貴だ、普段ならガキのそんな言葉には耳も貸さないだろう。でも今は違う。余裕のない中、チンピラの言葉に洗脳されたように、段々と喘ぎが大きくなっていく。
『……あああっ、あおおおぉーーっ!! おうっ、あはぉオオーーっっ!!!』
 シーツの一面が愛液で変色するようになった頃には、姉貴はとうとうそんな声まで上げるようになっていた。
『はははっ、スゲェ声! これがあのキッチリしてる***先輩かよ!?』
『もうオンナかも怪しいな、こりゃ!!』
 当然、周りからは嘲笑が起きる。でも姉貴は、それに反応する余裕がない。何度も腰を跳ね上げ、グチュグチュとかき回される割れ目から愛液を飛ばしながら“吼える”しかない。
 そして、この動画に収められているのは潮噴きだけじゃなかった。何十回と潮を噴かされて下半身を痙攣させる姉貴に、時々男連中のブツが挿れられることもある。しかも、普通にハメるんじゃない。まずは太いカリ部分で、アソコのごく浅い場所だけを刺激するんだ。狙いは当然、姉貴自身に挿入をねだらせること。
 正直俺は、ここで姉貴がかなり渋ってくれる事を期待していた。明日香と同じく、本当の意味での誇りを持っている姉貴のことだ。こんな屈辱的な行為に、そうそう折れたりしないだろう……と。でもそれは所詮、傍から見ている人間の理想でしかない。動画内の姉貴には、すでに踏ん張れる気力もなかったようだ。
『い……いれて…じらさないで…………』
 割れ目を刺激されはじめてから、ほんの1、2分後。姉貴は、確かにそう言った。困りきったような顔で。
『ひゃひゃっ!! んだよ、テメェから欲しがんのかよ。随分カワイイ女になっちまったなぁ、ええセンパイよぉ!?』
 犯すチンピラは白々しく煽り、姉貴の顔をさらに歪ませながら、ようやく奥まで腰を進める。
『うううんんんっ……!!』
 その瞬間、姉貴の喉から漏れた音は、本当に気持ちが良さそうだった。

 続く『ポルチオ開発③』からは、姉貴がさらに徹底して快楽中毒にされていく様子が収められていた。
 たぶん風呂場なんだろう、タイルと風呂桶、洗面器なんかが見える空間で、マングリ返しにされた姉貴が延々とバイブ責めを受けている。グリグリと円を描くようにしたり、奥を押し込むようにしたり、バイブの底を人差し指でリズミカルに押し込むようにしたり。いつだったか明日香が受けていたような、じっくりとしたポルチオ責めだ。
 下の毛は前もって全部剃られたらしく、割れ目にバイブが入り込む様子がやけにはっきりと見えた。
 この動画では、姉貴はバイブ責めをしている奴を含め、3人の刺青男に囲まれている。にもかかわらず、野次の類は全くない。本当にただ淡々と、調教として責めが進んでいく。それは野次の飛び交う凌辱動画より、妙に俺の胸をざわつかせた。
『ほら、イク時はそう言えよ』
 低い声で発されるのは、この一言だけ。後は水音と、バイブの攪拌音、そして……
『い、いくっ、いくうっ!! いくういくっ!はぁっ、はあイクっ!!』
 苦しそうな姉貴の絶頂宣言だけが、風呂場に反響している。
 ローションが割れ目の中を満たしているのか、バイブが抜き差しされる時の音は独特だった。水っぽくはあるが、粘った感じが普通じゃない。そして事実、ある瞬間にバイブが抜かれた時には、ローション特有の糸が何本も引いていた。
 でも、だからって、あふれる透明な液がすべてローションとは思えない。姉貴はもう、相当濡れているようだった。バイブの抜かれた直後の割れ目をカメラが接写すれば、その考えが裏付けられてしまう。ぽっかり空いた洞穴のような奥まりに、かなりの量の液体が溜まっていた。どう贔屓目に見たって、ローションじゃない。姉貴の膣の奥から湧き出た愛液だ。
 割れ目にまた深々とバイブが嵌められ、駄目押しとして二本指でバイブの尻が押し込まれる。その瞬間、割れ目から「ぴすっ」と音が漏れ、姉貴の腰が震え上がった。
『あうっ!! ぁあ、う……あっ……!!』
 姉貴から上がる声は本当に甘い。そんな声、弟である俺にすら向けられた事がなかったのに。
『イク時には言う約束だろ?』
 また低い声がし、バイブを前後に揺らしながらクリトリスまで刺激されはじめる。
『あっ、はあっ!! い、イク、いくっ……!!』
 姉貴はただ命じられた通りに、絶頂の宣言を繰り返した。動画の前半部分より、明らかに柔らかさを増した声で。

 そして『ポルチオ開発③』以降は、セックスをひたすら繰り返す動画になった。
 布団へ仰向けで寝転んだまま、乳房を押し潰す位置まで膝を上げた姉貴。その上に刺青野郎がのしかかり、姉貴の両足首を掴んだまま腰を振りたくる。それを右横の床付近から、定点カメラで捕らえた映像だ。映像の奥にあたる壁際では、定点カメラとは別のカメラマンが、上から俯瞰気味にセックスを捉えてもいた。
 いい加減感覚が麻痺してきたんだろうか。俺にはそれが、よくあるハメ撮り動画に見えてしまう。犯されているのは、間違いなく自分の姉貴なのに。その姉貴が、開発したポルチオをさらに刺激され、刻一刻とメスにされている洒落にならない状況なのに。
『ああ……あぁあっあ、う……ぅ……』
 姉貴は横に投げ出した手でシーツを掴みながら、熱い吐息を漏らしつづけている。かなり気持ちいいのが、雰囲気として伝わってきた。多分、男の方が掴んだ足首の位置を微調整して、常に絶妙な体位を作っているせいだ。
 そして、その男はさらに責め方を変える。掴んでいた両足首を離したかと思うと、すぐにその手で姉貴の腿の裏を押さえ込む。さらに自分自身も前傾姿勢になって、深い突き込みを始めたんだ。
『うあ!あっ……あ!!!』
 姉貴は悲鳴に近い声を上げ、シーツから手を放す。パンッパンッパンッ、と激しく肉のぶつかる音が響く中、姉貴の細い手は肩の横の辺りを彷徨いつづけ、最後には胸の前で指を絡ませるようにして止まる。女性らしいが、どこか幼さも感じる仕草。大人として俺を叱っていた頃の姉貴なら絶対にしなかっただろう動作。それは、あの姉貴が幼児退行を起こしたようで、見ていてたまらない気分になる。
『……い、いく…………!!』
 そして姉貴は、か細い声で絶頂を宣言した。意識を集中していないと聞き逃しそうな、弱々しい声。でも、だからこそ、演技らしさがなくて生々しい。
『いいぞ、イけ!』
 低い声がそう言って、突き込みを速めた。姉貴はそれで一気に追い込まれる。
『あ……ぁあっ!! い、いくぅん゛っ!!』
 鼻にかかったようなその言葉をきっかけに、常に口を開くようになる。
『あ、はっはっはっはっはっ……!い、いく、いくぅっ!!い、いっ!!イッてる、イッてるっっ!!」
 激しい喘ぎと、捲し立てるような絶頂の宣言。明らかに品のある普段の姉貴じゃない。
『くくっ。簡単にイクようになってきたぜ、こいつ』
 多分犯している男だろう、さっきと同じ低い声がそう言って、また姉貴の足首を掴み上げた。そして今度はその足首を、姉貴の顔の横にくるまで押し込んでいく。
『んうう゛う゛イグッ…!!』
 姉貴から、恐れていた通り、本当に気持ちの良さそうな声が漏れた。
 そこからはまた、ひたすらの『ハメ撮り』だ。男は姉貴の足を掴んで押し込んだり、足首の辺りで交差させてみたりして、延々と姉貴を嬲りつづける。
『おいおい、やらしーなセンパイ。フェラん時より動くじゃねーか』
 一旦腰を止めてクリ責めをしていた男が、嬉しそうに言う。腰を動かすまでもなく、敏感な部分を弄られただけでアソコが蠢くんだろう。まるでレイプ野郎を愛するみたいに。
『さーてと、そろそろ俺も逝くぜ……!!』
 男がそう言って、また姉貴の太腿を押し込んだ。
『ううー、うううっ……!!うっうっうっうっう、ふぅうっ……んんぐううっ!!』
 姉貴は太腿を掴む男の手のすぐ傍へ手を置き、激しく喘ぎつづける。映像の奥では、カメラを構えた1人が横へ回り込み、定点カメラとは別方向からのフィニッシュシーンを収めていた。
『お、お……ふーっ、スゲー出た』
 男が、姉貴の腿に手を置いたまま大きく胸板を上下させる。そしてゆっくりと腰を引いた。俺がまず注目してしまうのは、野郎の逸物だ。姉貴の足から、愛液まみれのままずるりと抜け出た逸物は、案の定でかい。すでに完全な勃起状態じゃないが、太さも長さも俺より二周りは上で、亀頭の張り具合も半端じゃない。あれに犯されたら、それは気持ちいいだろう。そう納得してしまうほどの剛直だった。
『はっ、はあっ、はあっ…………』
 姉貴は逸物を抜かれてからも、足を開いたまま激しく喘いでいた。そんな姉貴を鼻で笑いつつ、さっきの男が太腿を押し込む。姉貴の身体がピクリと反応する。かなり大きな反応。ポルチオの余韻はまだまだ残っているようだ。
『ふん、ぐったりしやがって。オメー、先週俺に切った啖呵憶えてっか? 弟クンと同学年(タメ)のくせに、救えないほど薄汚れたゴロツキ――だっけか。んでよぉ。そのゴロツキにガッツリハメられて、今日だけで何回イッたよ?』
『はぁ、はぁ…………し、知らない。数えられるわけ、ないでしょ…………』
 男の煽りに、心底悔しそうな様子で答える姉貴。その態度は、俺の知る姉貴のイメージと重なり、ほんの少しだけ胸の痛みを和らげてくれる。
 でも、その安心も一瞬でしかない。
『だろうな。よし、次お前ハメろや』
 男はデカブツを振りながら立ち上がり、カメラを構える一人と場所を替わる。カメラを構えた新しい一人は、並外れたサイズの逸物を斜め上に勃起させきっていた。
『えっ……?』
 逸物がアソコに宛がわれた瞬間、半身を起こした姉貴の顔が引きつる。
『ちょ、ちょっと休ませて! まだ、イッたばっかり……!!』
 明らかに必死さを滲ませた懇願も、畜生の耳には届かない。姉貴に大股を開かせたまま、深々と腰を割り入れる。
『いっ……いやあああああぁーーーーーっ!!!』
 映像は、姉貴のこの悲痛な叫びを最後に暗転した。


    ※           ※            ※


 動画を時系列順に追っていく限り、性感開発が着実に進められる一方、羞恥や苦痛責めも同時並行でされていたようだ。多少順番が前後したり細部が違ったりしながらも、おおよそ明日香が受けた責めをなぞる形で。
 明日香があまりにも我慢強く耐えるせいで、ラブホテルでの責めはどんどんエスカレートしていった。最後には、洋物AVの屈強な女優さえ泣き叫ぶようなハードプレイさえ再現された。そして姉貴は、その煽りをモロに食らう形となる。

 ある動画では、ポルチオ責めでも出てきた風呂場で姉貴が身動きを封じられていた。
『そろそろ限界近ぇな。ゲロとウンコ、どっちが先に出るかな?』
『***はゲロだったからよ、今度はウンコでいいぜ。俺ァ喉マンよりケツのが好きなんだ』
 そんな事をほざきながら、1人が姉貴の口に指を突っ込み、1人が尻の穴を指で弄繰り回している。床に転がったいくつかのイチジク浣腸が、おおよその状況を伝えてくる。
 これは明日香も受けた二択責めだ。明日香は男2人が呆れるほど耐えに耐えた末、結局はミキの“指イラマ”で敏感になっていた喉から吐瀉物を吐きこぼし、そこからディープスロート調教をされる羽目になった。
 そして、姉貴は……
『んもぉ゛っ、ふもぉ゛らぇえええ゛ーーーーっ!!!』
 喉をかき回されながら絶叫し、口から吐瀉物を吐きこぼす。でもその直後、風呂場のタイルにも汚液の叩きつけられる音が響いた。ほぼ同時の決壊だ。
『ハハハハッ、まさかの両方かよ。ったく欲しがりだなあセンパイはよ!!』
 男2人が嘲笑う。こうして姉貴は、喉とアナルの二箇所で罰を受けることになった。

 その次の動画名は、『プライド崩壊下痢便ファック』。その名の通り、浣腸器で何度も薬液を調教されたまま、アナルを犯され続けるプレイだ。
『うっ、うっ……うっ……!!』
 対面のまま、重ねた両足首を掴まれてアナルを犯される姉貴。動画が始まった時点で、すでにその目は泣き腫らしていた。
『だぁら泣くなって。んなにキモチいいのかよ、下痢便ぶち撒けながらクソの穴ァ犯されんのがよッ!?』
 カメラを背にした男が、嬉しそうに腰を振る。姉貴のビラビラが丸見えなんだから、勃起した逸物が出入りしているのは、アナルで間違いない。あの姉貴の、排泄の穴だ。
『けっ、まーたケツがヒクヒクしてきやがったな。いいぜ、出せやオラッ!!』
 男がそう言って腰を引くと、床の汚物が丸見えになる。
『やっ、ぁ……!!』
 か細い悲鳴が聴こえた後、姉貴は限界を迎えた。多少開いているとはいえ、まだまだ初々しいといえる肌色の肛門。そこから、黄色い汚液がどろりとあふれてくる。俺はパソコンに向かいながら、貧血を起こしたようにグラついた。肉親の排泄をノーモザイクで目にするのは、覚悟していた以上にきつい。明日香のそれを生で見た時よりも、だ。

 その次は、明日香も受けたディープスロート特訓。
『いちいち吐き出すんじゃねぇよ、***先輩よぉ! ったくこのドン臭さ、アイツにそっくりだな。さすが同じ血ィ引いてるだけあんぜ。愛嬌も愛想もイマイチな女が便器にもなれねぇとか、お前生きてる価値あんのかよ!?』
 姉貴に喉奥奉仕を強いながら、藪岡ががなり立てる。もう3つ上の先輩に対して敬語ですらない。
『ぶふっ、ぶほっ!!ぶはっ!!』
 姉貴はきつく閉じた両目から涙を流し、何度も藪岡の逸物を吐き出してしまう。動画が一分進むごとに、一層激しく手足をばたつかせながら。それが人間として自然な反応だ。吐瀉物を大量に吐きこぼすその瞬間まで、両手両足を床につけていた明日香が特別なんだ。でも、男連中はそうは捉えない。
『あーあーカッコ悪ぃなあセンパイ、いい年してギャーギャー喚きやがって。もう何遍言ったかわかんねーけどよ、ちったぁ***を見習ったらどうスか?』
『そうそう、ありゃアンタより6つも年下なんだぜ?』
 明日香を引き合いに出し、姉貴を無様と罵りつづける。
 こういう明日香との関連付けは、わざとなのか、単に面白いからか、これ以降の動画でも頻繁に見かけるようになった。
 例えば、次のファッキングマシンを使った責めでも。

 洋物ハードコアビデオ御用達の、直立式ファッキングマシン。それを見た瞬間、動画内の姉貴の顔は凍りついた。こればかりは仕方ない。あの明日香ですら、目を剥いて汗を垂らしたんだから。
 俺だって、ラブホテルの2階、209号室に設置されたそれを見てゾッとした。まさに拷問器具。明らかに日本人女性に使う事を想定していない、黒人サイズのディルドー。その上下のピストンを担うアームの頑丈さ。土台のデカさ。そういった視覚情報から、人体を破壊しかねないハードさが直感的に理解できてしまう。ネットでジョークグッズとして見かけただけでも、笑いが引くほどの禍々しさだ。それを今から『自分に』使われるとなれば、ショックで卒倒しかねない。
 姉貴の前に晒されたマシンは、色合いこそ209号室のものとは違うものの、形はそっくり同じだった。
『えげつねぇよなあコレ。アンタにゃ正直キツイと思うわ、ここまで見る限り。けどよ、可哀想だがコイツを味わってもらわなきゃなんねーんだ』
 マシンの覆いを手に持ったまま、目線の入った刺青野郎が笑う。同情……な訳はない。それらしい言葉を吐くことで、姉貴に自分の不幸を自覚させるのが目的だ。
『なにせ、***もやったんだからよ?』
 明日香がやったんだから、お前もやれ。またこの論調だ。連中は、そんな事を繰り返して何がしたいんだろう。
 明日香も耐えたんだからと、姉貴に発破をかけている?
 それとも明日香に対して、今さらヘイトでも溜めさせたいのか?
 わからない。というより、わかるはずもない。何の罪もない明日香を監禁レイプした挙句、今またこうして、無関係な姉貴を痛めつけている。その時点で、もう俺の理解なんて及ばない。気の狂った畜生だ、アイツらは。

『んぉおおおっ!おおっ、ほぉお゛お゛っ!!ほおっぐ、んっぉおお゛お゛オ゛オ゛っ!!!!』
 まさしく洋物AVで聴くような声が、映像から垂れ流される。声の主は姉貴だ。あのきちんとした姉貴らしくはないが、映像を見ると納得するしかない。
 がに股でのX字拘束、とでも言えばいいのか。両手首を天井からの鎖で繋がれたまま、大股開きでマシンを跨ぐ格好。割れ目には当然ながら極太のディルドウが叩き込まれ、肛門にはたっぷりと浣腸を施された上で極太のアナルプラグを嵌められる。さらには乳房にまで、搾乳用の器具が取り付けられる徹底振りだ。
 ディルドーを動かすアームは、女の状況なんて一切考慮せず、無機質に割れ目の中を蹂躙する。どれだけ浣腸が効き、腸内が荒れ狂い、獲物が泣き叫んでもだ。その状況を延々と続けた先には、アナルプラグを弾き飛ばして盛大な無様を晒すしかない。そしてその瞬間にもアソコの蹂躙は止まらず、乳房は人間の力では無理なレベルで引き絞られ続ける。さらには恥辱の排便を散々笑い者にされた挙句、空いた肛門は当たり前のようにギャラリーに『使われる』んだ。クソの感触がたまらないだとか、ケツで感じてるんだろうだとか、耳を塞ぎたくなるような言葉責めを浴びながら。
 そこまでの地獄を受けて、上品な顔と声を保っていられる道理はない。あの明日香でさえ、40分を過ぎた頃には顔をくしゃくしゃにして苦しみ、恥じ入り、最終的には洋物ビデオさながらの声を上げたんだ。
 となれば当然、姉貴に耐え切れる道理はなかった。姉貴が明日香より劣るとか、そういうことを言いたいんじゃない。でも、明日香の精神力は超人的で、姉貴はそこまでじゃない……俺の想像が及ばないレベルじゃない、それは事実なんだ。
 この調教での姉貴の狂いぶりは、直視が厳しいレベルだった。実際俺は、何度も動画を一時停止して、過呼吸を抑える必要があった。
 でも。動画内のケダモノ共は、それほどの姉貴を前にしても、まだ平然と笑っていた。それどころか、姉貴の一挙手一投足をあげつらっては笑い、姉貴から涙を搾り取った。
『しんどそうだなぁセンパイ。俺らもこんなモン、わざわざ取り寄せたかなかったんだぜ。高ぇし重ぇし。でもしょうがねぇよな。前の奴隷にも、コレと同じモン使っちまったんだからよぉ!』
 まただ。明日香の存在に、極限状態の姉貴の意識を向けている。

 この傾向は、さらに次の動画、『胡坐縛り連続ゲロマチオ①』でも変わらず続いた。
『んぼぉお゛ぇあ゛エ゛ッ!!ぶっ、ぶふっ……ごもぅえ゛お゛え゛っ!!』
 喉奥まで極太を咥え込まされ、姉貴が吐瀉物を吐きこぼす。事前に大量の尿を飲んでいた明日香の時とは違い、はっきりとした半固形の吐瀉物が、縛られた姉貴の太腿へと浴びせかかる。
『あああ゛っイヤアーーッ!! いやああ゛いやああ゛あ゛ーーーーっっ!!!』
 汚辱か、苦しさか、恐怖か。怒張を吐き出した姉貴は、目隠しからまた新たな涙を溢しながら、半狂乱で叫びつづけた。ただの人間なら、当然そうするように。
『辛いよなぁ、苦しいよなぁ。ここまでやられてまだ意地張り通すなんざ、***って女も大分イカれてると思わねぇか、なあ先輩』
 泣き喚く姉貴の頬を掴み、また喉奥までの奉仕を強いながら、モヒカン頭が囁きかける。

 さらに2つ後の次の動画、フィストファックでも同じくだ。
『あああ、ああぁああ゛ーーっ!!』
 四つん這いのまま、男の太い腕を割れ目へ捻じ込まれ、姉貴は恐怖に泣き叫ぶ。その様子がまたイカれた連中の嗜虐心を煽るのか、嬉々として強引なフィストが続いた。でもそんなある時、拳を捻じ込んでいた1人が眉を顰める。
『どうした?』
『いや、どうしたっつーかよ……ほれ』
 目を見開いたまま凍りつく姉貴の後ろで、男3人が歪んだ笑みを浮かべる。その視線の集まる下に、ぽたぽたと紅い雫が垂れていく……。
『ふん、マンコが切れたか』
 ごく普通の口調で発されたその呟きで、姉貴の目が恐怖一色に染まる。
『あ……ああぁ…………』
 もう姉貴は、震える息を吐くだけで精一杯だ。そんな姉貴の様子を見てもまだ、動画内の連中に憐れむ様子はない。
『ま、こんなザマになっちまったがよ、恨むんなら***にしてくれや。元々アイツが涼しい顔で突っ張りつづけるせいで、お前までこんな目に遭う羽目になってんだぜ?』
 メチャクチャな理論を振りかざして、3人は笑う。紅い筋の滴る足の付け根へ、さらに腕を突き込みながら。
『あ、あ……うああぁああーーーっ!!!』
 姉貴が悲痛な表情で叫ぶ。その直後に画面が暗転してからも、姉貴の叫びと下卑た笑い声だけは、数秒に渡って続いていた。

 その5つ後の動画は、『人間便器』。首と両手を固定され、開口マスクを着けられたままで便器として使いまわされる地獄だ。
 動画内の大半の時間、姉貴の両穴はバイブで塞がれていた。この責めを受けた時点でも二穴の締まりを保っていた明日香と違って、姉貴はフィストで壊された直後だから、“性欲処理の穴としてすら”人気がなかったんだ。
『どうした先輩。***はこのぐらい、涼しい顔で耐えてやがったぜ?』
 チンピラ2人が両側から開口マスクに向けて放尿しながら、明日香の話題を出す。それに姉貴が反応したのを見て、一人がイラマチオを仕掛ける。さらに別の一人も、アソコのバイブを抜いてハメはじめる。
 その地獄の中、着実に姉貴は壊れていった。
『ああ゛あ゛ーーーっ、あえあらぁえあ゛あ゛ーーーーっ!!!!』
 瞳孔は開き、開口具越しに何かを叫びつづけるようになる。
『何だ何だウッセーな、何喚いてやがんだよ』
 赤い髪のチンピラが、期待した表情で開口具を取り外す。その瞬間、姉貴の喚きが言葉になった。
『もう便器扱いはやめてっ!!あたしは……あたしは人間よおっ!!!!』
 目を瞑っていたら、俺はその声を姉貴のものだと認識することすらできなかっただろう。まったく聴いたことのない、性別や年齢すらわからない、裏返った声だった。
 これも、当たり前のことだ。男に囲まれ、視姦され、口を使われアソコを使われ尻を使われ、飽きれば蔑んだ目で小便を飲まされる。そんな状況が何時間も何十時間も続けば、おかしくならないわけがない。明日香のような、そもそも精神のステージが違う人間を別にすれば。
『そっかそっか、人間か。そりゃ良かったな。さ、続けるぞ、“便器”』
 チンピラはそう言って、姉貴にまた開口具を取り付ける。
『えあ゛っ!? あえっ、あえれおっ、えああぁぁ゛っ!!!』
 姉貴が目を剥き、普通じゃない激しさで拒絶しても、動画内の連中の誰一人として動揺しない。まさに汚い便器を見る目を、薄汚れた姉貴に落としている。
『悪ィなセンパイ。この人間便器はよ、丸一週間続くんだ』
 淡々とした声が響く。姉貴が目を見開いた。
『これもよぉ、全部***のせいだぜ。アイツがよ、責めても責めても、イジめてもイジめても、生意気な目で耐えやがるもんでよぉ、気付きゃ一週間嬲りっぱなしだった。お前にも、それと同じ目に遭ってもらわなきゃなんねぇ。特別に教えちまうが、まだ三日目の朝でよ、折り返しにすら来てねぇんだ』
 震えだす姉貴に薄い笑みすら浮かべて、金髪は続ける。
『俺らは眠ィからそろそろ帰るが、入れ替わりで元気な連中が来るからよ、たっぷり便器として使ってもらえ。ハメ回されて、ボテ腹ンなるまでションベン飲まされて……そんでどうしてもキツけりゃ、まあ適当なトコで狂ってくれや?』
 そこで金髪は、ひとつ大きな欠伸をした。そしてドアをノックする音が響き、動画は終わる。最後の最後に、姉貴の呆然とした表情をアップにして。


    ※           ※            ※


 人間便器の動画が終わった後、俺は呆然としていた。動画の最後に映った姉貴が、俺に乗り移ったようにだ。
 下を見ると、ズボンがかなり濡れていた。俺はそれを見て最初、射精でもしたのかと思った。でも、逸物は萎えきっている。とても射精できるコンディションじゃない。じゃあ失禁かと思うが、それにしては尻の方まで濡れている様子がない。
 そこまで思考を繋げて、ようやく気付く。目から大量の涙が出ている事に。目が痛い。ドライアイでヒリヒリしている。明日香の調教を見ている時もそうだった。俺には集中した時、こんな癖があるのか。
 俺はそんな取りとめもない事を、数分もの間ずっと考えていた。目的ははっきりしている。現実逃避だ。だって俺はさっきから、気付いてしまってるんだ。人間便器のさらに後にも、動画が続いていること。姉貴の地獄巡りの記録はまだ先があること。
 そしてそのタイトルが、『完全精神崩壊51P ① 』であること。

『某県某地域の不良の間で伝説になっている、<息子の目の前で母親が50人に輪姦されて狂った話>を再現してみました。なにぶん噂の再現なので、想像でしかないですが……ハードな映像になっている事は間違いありません!』

 これが動画の説明欄だ。
 白々しい。ここに書いてある母親の輪姦が、藪岡達主導で起こした事件だというのは周知の事実。やった張本人なんだから、再現は完璧に決まってる。でも、そんな事はどうでもいい。問題は、その伝説の責めの再現が、姉貴の動画シリーズに入っていることだ。
 喉が渇く。指が震える。
 再生ボタンを押すまさにその瞬間、動画の再生時間が見えた。
 119:58、約2時間。そしてそれだけの尺を取っても、複数パートの1番目でしかない。

 映像が始まった。
 映し出されたのは、殺風景な吹き抜けの空間。天井の高さからして、どこかの工場か倉庫の跡だろうか。そしてその風景の中心に、姉貴の姿があった。丸裸のまま、後ろ手に縄を打たれている。ペンキや油まみれの床に敷かれた、2メートル四方ほどのマットがベッド代わりだ。
 そしてその姉貴を、ガラの悪そうな連中が大挙して取り囲んでいた。あまりにも頭数が多すぎて、引いて撮っているカメラでも全体を映し込めていない。ただ、タイトル通りなら50人の竿役が揃ってるんだろう。
『ゆ……ゆるして』
 姉貴は周りの連中を見上げながら、怯えきった様子で哀願する。最初の頃の先輩然とした気丈な態度は、もう気配すらない。
『そんな寂しいこと言わねぇで、皆で楽しもうぜ。***先輩とヤれんのを楽しみに、わざわざ集まってくれた連中なんだ』
 どこかから藪岡の声がする。品のない笑い声がそれに続く。
『いや……あたし、もう帰りたい…………!!』
『いいじゃねぇか、ここが新しい家で。これだけ若くて元気な連中から、死ぬほど愛されるんだぜ。逆ハーレムって奴だ。どんだけの女が羨ましがることか。……ま、今さら泣いても喚いても帰れねぇんだ、せいぜい楽しめや』
 姉貴の切実な訴えも、藪岡には通じない。いつも通り、相手の苦しむ様子を面白がるだけだ。

 そして、輪姦が始まった。
『いや、いやああ……っっん、む、ぐうっ!!!』
 身を捩って嫌がる姉貴に這うような格好を取らせ、前後を2人の男が挟みこむ。まずはフェラと挿入だ。
『あ? ンだよ、緩ィなこいつ。陸上部のエースじゃねぇのかよ!?』
 後ろから挿れた一人が、眉間に皺を寄せて叫ぶ。
『悪いな。ちっと無茶しちまってよ、マンコもケツも伸びちまった。ま、端っからそんなよく締まるオンナでもなかったがよ』
『マジか。あの***先輩とハメられるっつーから、三日ぐらいシコんの我慢してきたのによ、蓋開けりゃタダの女かよ? ったく、もうちっと気合入れろや先輩よぉ。こんなんじゃいくら腰振ってもイケねぇだろうが!!』
 後ろの男は、散々に不満を漏らしながら、姉貴の尻を平手で打ち据える。そして前から咥えさせる男も、同じく姉貴を睨みつけていた。
『オイ、わかってんだろうな。今度は噛むんじゃねぇぞ!!』
 どうやらこいつは、前に逸物を噛まれた奴らしい。
『ひゃひゃっ、お前噛まれたのトラウマになりすぎだろ!』
『笑い事じゃねんだよボケが、こっちは2針縫ったんだぞ!? この女、完全に噛み切る気でいやがった!』
『ありゃ自業自得って気もするがな。ま、何にせよもう噛まねぇって。ツラぁ見てみな、ンな覇気があるように見えっか?』
『そういや、すっかり従順な犬ってツラだな。あの気ィ強えセンパイがよ』
『だろ。ハメられて、浣腸されて、ゲー吐かされて、挙句にゃションベンまで飲まされて……そういう扱いが、もう何週間も続いてんだ。プライドはもうボロボロよ』
『***はそれでも踏ん張りやがったがな。あれにゃ正直ビビッたぜ』
『カワイソーだよな、この女も。馬鹿な弟持ったばっかりに、そのバケモンと同じ扱いにされちまうんだからよ』
 吐きそうなぐらい悪趣味な会話が飛び交う。その中心で姉貴は、身を捩ることすら許されずに犯され続けていた。
『んふっ……ほぉもう…うっ、んォオっ……おぶっ、むほぉっ……!!』
 でかい逸物を喉奥深く咥えさせられた口からは、苦しそうなえづきが繰り返される。その一方で後ろからも、腰を鷲掴みにした荒々しい突き込みが続く。
『こいつ締まりはイマイチだが、濡れんのは早ぇーな。もうグチョグチョになってきやがった』
『ああ、だいぶ乱交には慣れてんぜ。最初はイヤイヤうるせぇが、いざ輪姦しはじめっとスグその気になりやがる』
『なんだそりゃ、面倒くせぇビッチだな』
 連中は言いたい放題だ。あの姉貴が、ビッチ? 俺の知る限り、誰よりも貞操観念がしっかりしていた、あの姉貴が?
 違う。そんな訳がない。たとえ感じやすくなっていたとしても、それはそういう風に開発した、外道共のせいだ。姉貴は悪くない。何も。何も。

 動画の中で、姉貴の責められ方がまた変わる。男の上へ乗る形で突き上げられたまま、頭上に跨る男からマウント気味にイラマチオを強いられる。別の2人がそれぞれ左右の足をまっすぐ伸ばす形で掴んでいるため、姉貴には一切抵抗する手段がない。
『おゴッ……も゛ぇええ゛っ、えごっ、ほも゛おォ゛うえ゛っ!!!』
『すっげ、マジで簡単に喉まで入んだな、キモチいいわーこれ。昔のオレにも聞かしてやりてぇよ。お前あと何年かしたら、あの***センパイの喉マンコ犯せるんだぜって』
 苦しそうに呻く姉貴に対して、喉を犯す奴は随分と楽しそうだ。
『あーやべ、出る出る……溢さずに飲めよ』
 最後にはそう言って、姉貴のすっきりとした顎に指を添えながら射精する。
『う゛っ、ぶほっ、お゛ほっ!!』
 精液の量はかなり多く、一部は呑みきれずに姉貴の口から零れてしまう。俺には経験がないぐらいの射精量だ。それが口へ注がれたことが、救いにすら思えてしまう。もしそれが膣へ注がれたなら、いつ妊娠してもおかしくない。
『おらっ、こっちも出すぞ!!』
 そして、動画を撮る鬼畜集団がそんな配慮をする筈もない。深々と突き上げた一人が、一切遠慮せずにアソコの中へ射精する。
『くくっ。微妙な具合だったが、その分焦らされて思いっきり出たな』
 その言葉と共に太い逸物が抜かれれば、拡がった割れ目から大量のザーメンがあふれ出した。

 シークバーを思い切って動かしても、輪姦が終わる気配はない。
 這う格好のまま、目の前に座り込んだ男の物を咥えさせられ、アナルをバイブで掻きまわされながらアソコを犯しぬかれたり。
 座ったまま四方八方を男に囲まれ、濃い唾液の線をあちこちに繋げながら、延々と口での奉仕を強いられたり。
 膝立ちのままイラマチオを強いられ続け、もう白目を剥きかけているにも関わらず、後ろから後頭部を押さえ込まれたり。
 背後から背面座位で犯され、乳首を弄繰り回されながら、別の一人の物をしゃぶらされたり。
『ああああぁいやあああ!!やめてっやめてえええぇぇぇえーーっ!!!』
 穴という穴を犯される姉貴の悲鳴が、音割れしながら響きわたる。何分飛ばしても、何分飛ばしても。
 50対1のセックスでは、本当に休む暇すら与えられない。
『ふうー、出た出た。これでケツに10発、マンコに20発か。そろそろ孕むかね、この女』
 物騒な言葉と共に、また逸物が引き抜かれた。すっかり陰唇の歪んだ姉貴のアソコから、ザーメンが絶え間なく零れ落ちていく。心を折る手段の一つとして、妊娠させることが一つの目標になっているんだろう。どいつもこいつも、とにかく生でハメて中出ししまくっている。
『もう、本当にやめて……』
 可哀想に、姉貴は怯えきっていた。自分の倍近い体格の人間に代わる代わる犯され、誰とも知らない奴の子供を孕みかねない状況なんだ。怖くて当然だ。
 でも、そんな姉貴に容赦する人間はいない。淡々と姉貴の腕を掴み、腰を上げさせ、輪姦を続けようとする。
『あああっ!? ご、ごめんなさい、ごめんなさいぃっ!!!』
 すでにパニック状態なんだろう。姉貴は男の腕に身体中を掴まれたまま、目を泳がせて謝罪を繰り返す。
『ん? なにセンパイ、何か悪い事したの?』
『し、してないっ!! してないけど、ご、ごめんなさいっ!!!』
『何それ、なんかおかしいなー、オイ何やった、言ってみろよ』
『な、何もしてないっ! あたし、な、何もしてませんっ!!』
『だからおかしいだろうが、何もしてない人間が謝るかよ。何かやったから謝ってんだろ、オラ白状しろよ!!』
『なにもやってませんっ!! あ、謝ったの謝りますっ、だからゆるして、おねがい許してっ!! どうすれば許してくれるの? なんでもやるから、ウチに帰してーーっ!!!』
『何でもやるなら、このまま犯され続けとけよ。ガキ孕むまでな!!』
 もはや、地獄絵図だ。涙ながらに許しを乞う姉貴と、そんな姉貴を輪姦するチンピラ共。そのひどい状況のまま、最初の動画が終わる。

 続く動画でも、状況は一切変わらない。泣き喚く姉貴と、それを面白半分に嬲る男共という構図のままだ。当然姉貴は、刻一刻とまともさを失くしていく。
 そして、動画時間にして都合3時間近くが経った頃。恐慌状態の姉貴に、外道共が追い討ちをかけはじめた。
『くくっ。にしてもよ、アンタも可哀想だよなぁセンパイ。なーんも悪い事してねぇのに、***のとばっちりでこんな地獄を味わうハメになっちまうんだからよ!』
 二穴責めの最中、背に覆い被さる一人が姉貴に囁きかける。
『い……いっ!?』
 歯を食いしばって耐える姉貴は、その言葉に後ろを振り返った。
『そういや***の奴は、今頃どうしてんだろうなぁ。俺らから逃げて、今頃は何食わぬ顔で幸せに暮らしてんのかね?』
 前から犯す一人もその会話に乗り、姉貴の注意を惹く。
『ああ、みたいだぜ。俺のツレが見たんだよ、***がその女の弟と、仲良さそうに歩いてるとこをよ。確か、最後にゃラブホに入ったっつってたっけ』
 周りで見守っていた人間からも、そんな声が上がった。規制音があっても、話題が明日香と俺の事だと理解できる。動悸が早まる。
『はははっ、そりゃいいや! んじゃ***の奴、キツイ役目は全部この女におっ被せて、自分は誘惑した弟クンとハメ捲ってるって訳か。ふてぇ女だなまったく!!』
 一人が笑いながら発した言葉に、とうとう姉貴が目を見開いた。男相手に逆らうことを諦めた姉貴が、怒りの矛先を向けるのは……
『あ……***…………***ぁァア…………ッ!!!!』
『そうだ、***を恨め! 全部アイツだ。可愛い弟誑かしてんのも、お前をこんな目に遭わせてんのも、全部! どう思う、どうしたい!!』
 外道共は、姉貴の意思を誘導する。
 俺よりずっとしっかりした姉貴のことだ。普段なら、明日香に非なんてなく、恨むべきはあくまで藪岡達の方だと理解できるだろう。でも、動画の中の姉貴はすでに正気じゃない。正常な判断なんて、とっくにできなくなっている。男連中相手に意味もわからず謝罪を繰り返していたことからも、それは明らかだ。
『***あああッ!! ***アアアァアアアッッ!!!!』
 姉貴の顔は、僅か数秒の間に、鬼のような形相に変わっていた。溜まりに溜まっていたストレスや恐怖、不安……そうしたものが方向性を与えられたことで、すべて怒りに昇華したように見えた。
 男達は、そんな姉貴を囲んで笑う。その笑い声には藪岡のものも含まれていた。そして賑やかな雰囲気をそのままに、動画は終わりを迎える。次の動画は表示されない。今の、『完全精神崩壊51P ② 』が、シリーズ最後の1本だ。

 俺は黒い画面を眺めながら、呆然としていた。
 姉貴が壊された。あの外道共に。
 しかも、それだけじゃない。明日香に対して、悪感情を植えつけられ

 …………そこまで考えて、ふと全身に悪寒が走る。

 気づいてしまった。
 と、いうより、もっと早く気がつくべきだった。


   ――――明日香は、無事なのか?


 ショックのあまり気絶しそうになりながらも、何とかスマホを探り当て、震えながら明日香の番号を選ぶ。姉貴に電話した時のトラウマが甦る。
 コール音。
 コール音。
 コール音。
 頼む、出てくれ。
 俺のその願いを汲んだかのように、電話は繋がった。
「明日香!!」
 俺は嬉しくなって、最愛の相手の名前を呼ぶ。
 
 でも。

『オウ』
 返ってきたのは、ガラの悪そうな男の声。
 俺は、思わず固まった。掛け間違えたかと思って画面を見るが、表示は確かに「明日香」と出ている。
 なら、なんで。どうして。
『今いいとこなんだよ、邪魔すんじゃねーよ』
 男の声はそう続けた。
「あ……あ…………」
 俺は呻く。呻くしかない。言葉が出ない。
『誰から?』
 電話の向こうで、また別の声がする。少し遠い。
『ああ、例の彼氏クン』
 最初の声が、誰かに向かってそう話しかける。そしてまた送話口に顔を向けたのが、息の感じでわかった。
『ノンビリ話してる状況じゃねーからよ、切るぜ。今からいいモン送ってやっから、それでも見とけ』
 その乱暴な口調の後、通話状態が切られてしまう。
 またしても呆然とするばかりの俺の手元で、スマホが震えた。明日香のスマホからメールが送られてきたらしい。メールの中身は、何かの映像。
「なんだ……これ」
 俺はぼうっとしていて、躊躇する判断すらできずに、再生ボタンをタップする。

 映っているのは、どこかのカラオケボックスの個室だ。
 床に高級そうなシルクのショーツが落ちている。ソファにも何人かが深く腰掛け、煙草をふかしている。
 全員、下半身には何も着けていない。そして、ソファ脇のガラステーブルには使用済みのコンドームが2つ、内容物を撒き散らした状態で置かれていた。
 これだけなら、ただの下品な映像だ。片田舎のヤンキーが、場所も弁えずサカっているだけ。見飽きるほどよくある光景。
 ……モニターに照らされた赤いソファで、激しく動く女さえ、無関係な誰かであったなら。

 女は前後から男に挟まれていた。
 膝立ちになった一人が前からフェラをさせ、別の1人が後ろからトップスをたくし上げて胸を揉みつつ、チェック柄のスカートを捲って挿入している。
 その女の格好に、見覚えがあった。
 肩を大胆に露出させたフリルつきの白カットソーに、チェック柄のミニスカート。
 色といい、柄といい。間違いなくデートの時に着ていた明日香の格好だ。彼女は普段、ああいう格好をしないと言っていた。じゃあ、あの日か。あの日俺と別れた後の映像なのか、これは。
 ああ、思い出した。あの日彼女は、デートの途中から急に口数が少なくなって、機嫌でも損ねたのかと心配したものだ。そしてそのタイミングは、トイレに行ってからだった。多分あそこで、脅しのメールか電話でも来たんだろう。その結果が、これなんだ。

『だいぶ気分が出てきたみたいじゃねぇか。彼氏とイチャついた後だから、興奮すんだろ?』
 前からモノを咥えさせる男が言う。俺の仮定を裏付けるような言葉だ。
『違いねぇ。そうだ明日香。おまえ今、どっからシャブ買ってんだ? 良いルートあんなら教えてくれよ』
 これは後ろの男の言葉らしい。あくまで明日香がシャブをやっている前提で話している。確かにあれだけ常用させられていたんだ、まだ依存していると思うのが自然だ。
『はぁっ、はぁっ…………そ、そんなもの、とっくに体から抜いたわ!』
 それまで荒い息を吐くばかりだった女が、ついに声を出した。凛とした、よく通る声。育ちの良さが窺える、丁寧な喋り口調。
 これで確定する。犯されているのは、明日香だ。
『おいおいマジかよ、じゃあシラフでこの濡れ方か!? はははっ、カラダ開発されすぎだろお前!!』
 後ろから犯す男が、腹を揺らしながら笑った。映像の中の明日香が、唇を噛みしめる。
『おら、彼氏のと俺の太ぇのと、どっちがいい? って、俺に決まってっけどな。前にアイツの見たことあっけど、ついてんのかわかんねーほど小っこかったっけなあ!』
 彼氏、というのは、まず間違いなく俺のことだろう。ついていないなどとはふざけた事を抜かす、一応日本人の平均サイズはあるんだ。
 でも、映像内で抜き差しされている物は確かにデカい。洋物AVに出てくるペニス並みだ。
『ふざけないで!!』
 と、ここで明日香が叫ぶ。毅然とした目を男2人に向けながら。
『覚醒剤を体から抜くのが、どれだけの地獄か解る? 彼が待っていてくれたから、私はその苦しみに耐えられたの。あなた達ケダモノとなんて、比べる気すら起きないわっ!!』
 明日香は、部屋に反響する声量で、はっきりとそう言い放った。俺は思わず胸が熱くなる。
『ケッ。よく言うぜ、そのケダモノの誘いにホイホイ乗って、こんなとこまで付いてきといてよ』
 フェラをさせていた男がそう言うと、明日香の表情が一気に険しさを増した。
『なっ……! ひ、人を脅しておいて、よくもそんなこと……っ!!』
 脅し。その言葉に、前後の男が肩を揺らして笑う。
『くくくっ。立派な肩書きってなぁ、厄介なもんだよな。それがあるとカネは儲かるし、偉そうにもできる。だが、身動きは取れなくなる。特に“式田証券のお嬢様”なんてブランドは大変だ。関係各所やらマスコミに、人間便器やってた頃の写真をバラまく……そんなベタな脅しでも、突っぱねられねぇんだからよ』
 男の言葉、そして明日香の反応。どうやら脅しがあったのは間違いない。
 確かに、雑な脅しだが効果は絶大だ。脅している連中のバックにどれだけいるのか判らない以上、安易に警察へも届け出られない。そんな事をして、たとえ何人かを有罪にしたところで、残った奴に報復で情報を流出させられることは確実だ。
 式田証券の顔である“式田 明日香”は、今や金融界の国民的アイドル。そしてアイドルには、週刊誌のゴシップレベルの疑惑さえあってはならない。弱みを握られてしまった時点で詰みだ。
『いいぜぇ明日香、やっぱお前のナカは最高だ。他のオンナ共は緩くてよぉ!』
 ギシッ、ギシッ、とソファが軋み、肉の弾ける音がし、抜き差しの水音がする。あらゆる情報を客観視して映像を眺めれば、完全にただのAVだ。
 でももう俺は、それをただのAVとは見られない。姉貴のレイプシーンと同じように。
 コンコン、と映像内でノックの音がする。
『あの、ご注文のお飲み物を…………』
『オウ、そこ置いとけ!!』
 ドスを利かせた声が横柄に応える。
 個室内が孤立無援であることを示すその情報を最後に、スマホの動画は終わりを迎えた。
 そして、直後。また俺のスマホに、メール通知が来る。今度は画像のようだ。
 動画のカラオケボックスと同じ部屋。8人の男が、目を閉じた明日香を挟んで座り、ピースサインを向けている。
 ブラウスはすでに取り去られ、形のいい乳房は両隣の人間の手で荒々しく揉まれていた。一方でスカートは履いたままだ。だがそのウエスト部分には、使用済みのコンドームが隙間なく挟まれ、悪趣味なフリルのように垂れ下がっていた。
『イキすぎてガチ失禁。延長33回、アヘ声メドレー50曲以上! ゴチでしたー♪』
 そんな人を馬鹿にしたようなメッセージも送られてくる。

 俺は、ただ呆然としていた。人間ってショックが大きすぎると、本当に頭が真っ白になるんだ。そんなどうでもいい事を、ぼうっと考えた。
 涙が頬を伝っていたが、どうやって拭くのかがわからない。
 姉貴に、明日香。俺にもっとも近い、最も大切な2人が、ゲスの手に落ちた。その事実を受け止めるだけでも、あと何十分かは掛かりそうだった。


    ※           ※            ※


 かろうじて落ち着きを取り戻した後、俺はすぐに警察に相談した。
 困った時は警察だ。警察なら、とりあえず何とかしてくれる。こっちには動画という動かぬ証拠もあるんだ。派出所の入口を潜る瞬間、俺はそう信じきっていた。
 ところが。
「……悪いけど、これだけじゃ動きようがないよ」
 歳のいった警官は、俺の話を一通り聞いてから、溜め息混じりにそう言った。
「えっ…!?」
 俺は絶句する。想像もしない答えだった。
 警官曰く、民事不介入で手は出せない。姉貴の動画が載っているサイトは、あくまで『合意の上での撮影』という体裁を取っているから、本当に姉貴自身が望んでの乱交なのかもしれない。スマホに送られてきた映像はやや怪しい部分もあるが、ただの悪戯動画という可能性を捨てきれない。どっちの場合でも、警察が動けるのは被害者本人が刑事事件として被害届を出した場合だけで、俺の訴えだけでは動けない。そういう事らしかった。
「本人の被害届って、監禁されてるかもしれないんですよ!? そんなの、無理じゃないですかっ!!」
 俺はそう食い下がったが、警官はあくまで渋い顔だ。唯一の譲歩は、姉貴の捜索願を受理することだけ。それにしたって、現状は『見つけたら保護する』程度の事しかできないらしい。
「そんな、そんなのってないですよ!! もっと真剣に探してくださいよっ!!」
 俺はたまらなくなって、思わずそう叫んだ。すると、警官の表情が険しくなる。
「しつこいなアンタも! できる事できない事、もう全部言ったでしょ!!」
 怒鳴るようにそう言われれば、もうそれ以上の言葉が出せない。
 俺はこの時、本当の意味での絶望というものを知った。困った時には誰かが何とかしてくれる……そこまで甘く考えていた訳じゃないが、ここまで他人事として突き放されるとは思ってもみなかった。

 家に帰る道すがら、何人もに振り返られた。喫茶店の窓に映った自分の顔は、確かに普通じゃなかった。でも、そんな事はどうでもいい。俺なんてどうなったっていい。姉貴と明日香さえ、戻ってくるなら。

 俺は無力だ。周りに流されて半端に生きてきたツケが、ここにきて降りかかってきた。同級生も、先輩も、バイト仲間も、誰一人頼れる相手が見当たらない。むしろ、藪岡側……つまり敵の手先に思えてくる。
 できる事を考えては、頭を抱えること数時間。またスマホが震える。俺は思わず息を呑んだ。
 明日香からのメッセージ。内容は…………また、動画。

 再生してわずか1秒足らずで、俺はまた絶望することになる。
 映っていたのは、後ろ手に拘束された明日香と、人相の悪い笑みを浮かべた藪岡。お互いに裸で、パンパンという肉のぶつかり合う音をさせながら前後に揺れている。
 姉貴よりもすらりとした明日香の股からは、すでにかなりの量の愛液があふれていた。顔に流れる汗の量も普通じゃない。多分、またシャブを打たれたんだろう。
『やっぱお前のマンコは最高だぜ、明日香』
 藪岡が笑みを深めながら呟いた。
『…………っ、………………っ!!!』
 一方の明日香は、目を見開き、口を開きながら声にならない声を上げている。まるで処女を失った時か、それ以上の反応。
 久しぶりの覚醒剤に、久しぶりの藪岡の剛直。それを受け入れきれていないようだ。
『へへ、熱いのが膝にまで滴ってきやがった。もうグチョグチョだなぁ明日香。俺のデカマラがそんなにいいのか? 良いんだよなぁ、こんなに濡れるんだから。なあ明日香、言ってみろ。気持ちいいって。俺とのセックスが、気持ちよくてたまりませんってよぉ!!』
 激しく突き込みながら、藪岡が叫ぶ。これが、“寝取り”ってやつか。藪岡の奴は、姉貴を壊しただけじゃ飽きたらず、明日香までシャブ漬けにして、自分の物にしようとしているのか。
「ふざけんな、この野郎ぉっ!!!」
 俺は思わず叫び、机に拳を叩きつける。拳の鋭い痛みでほんの少し理性が戻るが、そうすると今度は不安で足が震えてくる。
 その時、動画の中で明日香の口が動いた。
『……馬鹿にしないで。別にこのぐらい、何てことない。わ……私は、こんなことより、ずっと気持ちがいい事を……知ってるから…………』
 明日香は、激しく息を吐きながら、確かにそう言った。藪岡とのシャブセックスよりも、気持ちがいい事。それは、もしかして――いや、きっとそうだ。俺とのセックスの事を言ってくれている。彼女は、不安がる俺に何度も何度も囁いてくれたんだ。本当に気持ちいい、って。
『テメェまさか、アイツのが俺より良いってか!?』
 藪岡は、不動明王のような形相で明日香を睨みおろす。明日香は肩で息をしたまま答えない。でも、その沈黙こそが答えだ。藪岡の顔がさらに引きつる。
 俺は、ざまぁみろと思った。明日香が俺を選んでくれたことが、素直に嬉しかった。でも俺は、同時に理解してもいた。あの藪岡が、これで大人しく引き下がるわけがない。今度こそ明日香を壊しにかかるはずだ。どんな手を使ってでも。

 そして事実、それ以降たまに送られてくる動画にはすべて、徹底して明日香を追い込む様子が収められていた。
 ある動画では、ベッドへ手をついた明日香へ、逸物でのポルチオ刺激と指でのGスポ刺激が繰り返されていた。
『絶頂から戻れないようにしてやる』
 その不気味な宣言で動画が始まり、何人もの男が入れ替わり立ち替わり刺激を続ける。
 ここでも事前にシャブが打たれてるんだろう。
『ああ……ああぁぁっ、ふっ……ああ、うあああぁ……ああっ…………!!』
 明日香は全身を汗で光らせながら、本当に苦しそうに喘いでいた。
 潮噴きを強制される時の愛液の量は半端じゃないし、ポルチオを逸物で刺激されている時には、本当に気持ち良さそうに足が蠢いた。竿役の男が腰を手で掴むと、びくりと全身を震わせながら、その手をそっと押さえもする。明日香にしては珍しい、はっきりとした拒絶の反応だ。
『う、う、うう……うっ…………ううぅぅんっ…………!!』
 太腿が波打つほど、力強くポルチオを刺激されはじめた動画後半。明日香の声は泣いているようで、何度も絶頂させられているのが手に取るように解った。

 そうして直立が難しいほどイカされ続けた後、次の動画で明日香はベッドに転がされる。そしてその上に藪岡が圧し掛かり、真上からポルチオを刺激しはじめた。
 ギシッ、ギシッ、と壊れそうなほどベッドが軋み、肉の弾ける音と水音が立つ。
『あっ、あ、あああぁっはああっ!! はっ、はっ、はーっはーっ……んぁあぁああっ!!!』
 明日香はよほど苦しいのか、それとも気持ちが良いのか、激しく喘ぎながら震えるような叫びを上げつづけていた。
 たまに藪岡が休憩がてら剛直を引き抜けば、そのタイミングでぶしゅっと潮が飛び散る事が何度もあった。
『ほら、嫌がんなよ』
 藪岡は圧し掛かる格好で腰を振りながら、何度もそう呟いては首を下ろす。
『んっ、んんんっ!!!』
 そのたびに明日香から呻きが上がり、頭が左右に揺らされる。どうやら藪岡は、明日香にキスを強制しているらしい。
『う、う! ……は、はぁ…………っ』
 藪岡に激しく突かれる中で、明日香はふと悲鳴を途切れさせ、足指の動きを止めることがある。そういう時はどうやら、失神してしまっているようだ。
『おら、ヘバってんじゃねぇ。続けんぞ』
 その度に藪岡は、明日香の頬を叩いて覚醒させていた。
 失神しては、覚醒させるの繰り返し。それでも明日香はついに、キスを受け入れる事はしない。少なくとも、動画の範囲では。 
 ただこの調教で、明日香の性感はかなり開発されてしまったようだ。
『スゲーな、イキまくりじゃねーかお前』
 動画終盤、ふと腰を止めた藪岡が、奥深く挿入したままで漏らした一言が印象的だ。
『ぅーーー……っ、っーーー……っ!!』
 その時の明日香は、激しい刺激などなかったにも関わらず、何度も何度も尻肉を収縮させ、小動物のような声を上げていた。本当に、気持ち良さそうに。
『くくっ。いいぜお前。こんだけイキやすくなってんのに、まだ溺れねぇ。まだイクのを必死で堪えやがる。本当にプライドの高い女だ、お前は。だからこそ、壊してみてぇ。どんな手ぇ使ってでもな』
 藪岡は汗まみれの明日香を見下ろしながら、そう言って笑った。

 その後の動画……『完全精神崩壊51P』の再現ともなれば、明日香の感度の高まり具合はさらに解りやすい。
『ああ、あああ……い、いくっ!! んんんっ、イックうぅ……っっ!!』
 下から突き上げられつつの、ブリッジ気味のイラマチオ。
 膣に2本を捻じ込まれながらの、休む暇もない口での奉仕。
 そういう地獄を受けながら、明日香は何度も何度も絶頂し、潮を吹き散らしていた。
『こいつ、やっぱとんでもねーな。イキまくってるくせに全然ヘバんねぇ……!!』
『ヘバるどころか、こっちの兵隊のがバテてんじゃねぇか。あと何人だ、すぐハメられる奴ァ!?』
 精も根も尽き果てて座り込む連中の中、明日香を囲む数人が怒鳴りあう。戦場を思わせるその狂乱の中、明日香は何度となく絶頂へと押し上げられていく。あらゆる体液にまみれながら。
 そして。
 ついに50人の外道すべてが項垂れ、僅かに休憩できる隙が生まれたかと思えた、直後。仰向けで床に転がる明日香の下に、一人が近づく。
 無駄毛のない綺麗な脚。女の脚。
『いいザマね、明日香。』
 明日香を見下ろし、冷たい声でそう告げるのは…………姉貴、だった。


    ※           ※            ※


『会いたかったよ、明日香』
 丸裸の姉貴は、そう言って笑う。俺の知る笑い方とは全然違う、右頬だけがつり上がるような、見ていて不安になる笑みだ。明日香が怪訝な顔を浮かべた。
『んな顔すんなよ、明日香。逃げたお前の身代わりで、ぶっ壊されたメス豚なんだぜ?』
 藪岡がそう言いながら、ビール瓶片手に姿を見せる。
『私、の……?』
 明日香が表情を強張らせる一方で、藪岡の口元は緩む。
『ああ。27歳のOLでよ、ああ、そうだ』
 わざとらしく溜めてみせ、ビールを一口煽ってから、藪岡は続けた。
『……お前のイイ人の、姉ちゃんだっけか』
『!!!』
 醜悪な笑みで発された一言に、明日香が目を見開く。そしてその見開かれた目は、細かに震えながら姉貴を向いた。姉貴は藪岡にそっくりの、ひどく歪んだ笑みを浮かべる。
『そう。ぜーんぶ、アンタのせい』
 そう言うと、明日香の顔の上に屈み込んだ。自分の割れ目を、明日香の口に押し付けるようにして。
「姉貴!?」
 俺はスマホに向かって叫ぶ。信じられなかった。あの姉貴が、こんな事を。
『うっ、ぶ!? ぶっ、ふぐううぅーーーっ!!?』
 明日香は目を見開いたまま、激しく脚をばたつかせた。その口には姉貴の割れ目が押し当てられ、顎からかすかに透明な汁が垂れている。
『ほら、舐めて。アンタが犯されてるの見て、濡れちゃったぁ。男のをあんなに美味しそうにしゃぶるんだもん、女のアソコぐらい舐められるでしょ!』
 姉貴は歪な笑みで腰を揺らし、明日香の顔に愛液を塗りたくる。
『……う、ぶはっ!! お、お姉さん、こんな事……お願いします、止めてください!!』
 明日香は顔を左右に振りながら、必死に叫ぶ。すると、姉貴の顔から表情が消えた。
『……誰が、お姉さんよ?』
 思わず凍りつくような声でそう呟くと、一旦明日香の顔から腰を上げ、すぐ傍に転がっていたバイブを拾い上げる。そして明日香の足首を掴むと、信じられない力でマングリ返しの格好を取らせた。
『ヒューッ、怖ぇ怖ぇ!』
 藪岡達が上機嫌に口笛を吹く。その視線の先で、姉貴の手にしたバイブが深々と明日香の割れ目へと突き刺さった。
『あぐっう!?』
 明日香は、滅多に出したことのないような声を上げる。それを聞いても、姉貴の表情は変わらない。目の据わった無表情だ。
『ねぇ聞き間違えかなあ。アンタあたしを、“お姉さん”って呼んだ?』
 そう言ってバイブを掴み直し、マングリ返しの明日香の割れ目を激しく突きこみ始める。
『あ、ああっ!! い、いやっ……あ、あっ!!』
 角度的に明日香の表情は見えないが、震えるように顔を振る様子は、男相手ではまず見ない反応だ。相手が同性の姉貴だけに、どういう態度で接すればいいか困ってるんだろう。
『ねぇやめてよ。なんであたしが、アンタのお姉さんなの?健史のお姉ちゃんだから?だからアンタのお姉さんなの?もう健史と結婚でもしたつもりなの?やめてよ、やめてやめて』
 姉貴は無表情のまま、ボソボソと呟きながらバイブを抜き差しし続ける。言葉の端々に、間違いなく俺の名前が入っている。ゾッとした。そしてあの明日香すら、怯えきった息遣いで姉貴を見上げている。男相手に見せた、あの鋼の強さがない。
 姉貴のストロークが増していく。バイブの先が覗くほど抜き出し、持ち手の半分まで埋まるほどに叩き込み。ぐちゃあっ、ぐちゅあっ、と聞いた事もない水音をさせながら激しく抜き差しを繰り返す。
『あ、あ……ああっ!!』
 明日香から悲鳴が上がり、すらりとした脚が震えだす。姉貴は無表情のまま目玉だけを動かし、その明日香の細い脚と顔を神経質に捉えていた。
『そうやって耐えてるのがカッコいいと思ってるの?おまえのせいであたし、すごいひどい目に遭ったのよ。怖い目に遭ったの。ねぇ、さっきあたしのおまんこ見たでしょ。グチャグチャなのあたしのオマンコ、もう閉じないの。子供も産めないの。おまえのせいで壊されたの。お前のせいでなんどもゲロを吐かされたの。おまえのせいでうんち口に詰められたのおまえのせいで』
 姉貴はボソボソと呟きつづけ、愛液を掻きだすようにしてさらに激しくバイブを叩き込む。その状態がしばらく続いたあと、
『ぎゃうっ!!』
 ある瞬間、妙な叫びと共に明日香の全身が震え上がった。横顔しか見えないが、それでも明日香がこれ以上ないほど目を見開いていることと、必死に下腹を見ようとしているのが感じ取れた。それと同じ反応を、一度だけ見たことがある。それはホテルでのポルチオ責めの最終盤、バイブが繰り返し子宮口を叩いた末に……
『お、お姉さん、やめて、抜いてぇええーーっ!! し、子宮に入ってます、そこ子宮なんです!! お願いやめて、こわい、こわいですっ!!!』
 明日香は涙を流しながら、必死に姉貴に訴えた。相手が同性、そして同じ被害者だけに、心の壁がないからだろうか。それとも二度目の今度こそ、耐えられなかったんだろうか。ごく普通の女の子のように、顔を歪めて泣き叫んでいる。
 それでも、姉貴は止まらない。表情すら変わらない。
『このオマンコが健史を誘惑したのね、このオマンコのせいで全部……壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね』
 まるで藁人形を打ち付けるように、一心不乱にバイブを押し込む。根元まで、何度でも。そしてその執念の突き込みを受けつづけ、明日香さえ様子がおかしくなっていく。
『があああっ、かっ、かはっ!! はっはっはっはっはっ、くはぁあっ!!うーっ、う、うううっ……お、おおぉっイグ、いぐふうぅっ!! おおおっ、おほぉおおおっ! いく、いくいくいきそういっちゃう……っくいくいく……イっグウウウウーーーっ!!』
 聞いた事もない、男か女かすらもわからない声で、何度も絶頂を宣言する明日香。その中で、とうとう明日香の肛門からはぶすっという音を立てて屁まで漏れ、場の爆笑を誘った。
『ぎゃははははっ、屁ぇコキやがったぜあのお嬢様!!』
『ああ、バッチシ聞いたぜ。もう女として終わりだなこいつ!!』
 そう尊厳を切り刻まれながら、明日香は獣のような荒い息を吐き、全身を凍えるように痙攣させ、ついには盛大に潮を吹き散らしながら気を失ってしまう。
『ひゃはははっ、気ィ失いやがった!!』
『あーあ、完璧に白目剥いてやがんぜコイツ!!』
『おまけにベロまで出しちまって……これが令嬢のするツラかよ!!』
 明日香の覗きこむ連中が、祭りのように騒ぎ立てる。それでも、まだ姉貴の腕は止まっていない。何かを呟きながら、とっくに気を失っている明日香の割れ目を深々と責めつづける。
『おいおい、コエーよアイツ……マジでぶっ壊す気か?』
『ま、駄目押しはしといた方がいいだろ。相手もバケモンなんだ』
 姉貴の行動に引く人間、面白がる人間、笑う人間。そういう表情を一巡り映しながら、動画は終わる。
 でも、ひと息つく間すらない。すぐに次の動画が送られてくる。
 
 次の動画では、明日香が藪岡の膝の上に乗せられ、Mの字に脚を開かされたまま深々とアソコを貫かれていた。さすがに藪岡の剛直はでかく、抜き差しのたびに明日香の下腹がかすかに変形している。
 さっきの動画の続きなのか、明日香に一切の余裕はない。
『ひぎっ、ぃ、い……っ!! ーーーーっ、んんんーーーーっ!!!」
 目を見開き、恐怖に頬をヒクつかせながら、声にならない声を漏らしつづけている。
 何度か奥深くまで貫いたところで、明日香の太腿を掴む藪岡の手に力が篭もった。
『おらっ!!』
 獣が唸るような声と共に、藪岡が腰を跳ね上げた。同時に明日香の身体そのものも、自重と藪岡の腕力でおもいっきり下へ叩きつけられる。結果として明日香の下腹の膨らみは、臍の間近にまで進んでしまう。あまりにも深い。その位置はまるで、子宮口を越えて……
『あーーーっイクーーッ!!!!』
 俺の考えは、いきなり響きわたった明日香の叫びに寸断される。明日香は目を見開いたまま大口を開け、全身で気持ちよさを表していた。モデル級の身体を艶かしく斜めに傾げ、太腿の筋肉を盛り上げ、肩から足指の先までを、何度もブルブルと震わせて。
『へへっ、スゲー逝きっぷりだな。さすがに俺ので子宮口こじ開けられちゃ、たまんねぇらしいな』
 藪岡は歪んだ笑みを浮かべながら、さらに腰を突き上げる。ごく浅い腰の突き上げ。でももし本当に逸物の先が子宮口の先へ入っているなら、それはカリ首で直にポルチオの輪を扱いていることになる。
『おおっ、おーッ、あーーーーっ!! いぐう、いっぐうううっ!!!あーーーっ、あああーーーーっ!!!!』
 瞳孔ををぐるりと上向け、激しく痙攣しながら叫ぶ明日香。Mの字に開いた脚の先、メチャクチャな方向を向いた足指がビクンビクンと強張る様は、雷が身体の隅々までを走り抜けた直後のようだ。
 藪岡が満足げな様子で明日香の太腿を押し上げ、ずるりと逸物を抜き去る。愛液どころか、チーズのような滓さえ纏いつかせた、凶悪な亀頭が覗く。その亀頭が抜け出た瞬間、まるでその別れを惜しむように、割れ目から大量の潮があふれ出した。
 明日香本人は藪岡の鎖骨へ頭を預けるようにぐったりと項垂れ、天を仰いだまま熱い吐息を吐きつづける。スレンダーな全身は汗まみれで、風呂上りのようにピンクに上気し、湯気さえ立ち上らせている。その何もかもが、あまりの快感に耐え切れない、という情報を発散しつづけていた。
 いかにも温かそうなその光景とは裏腹に、俺の血は冷え切っていく。
 ひどく寒い。怖い。祭りのように盛り上がる動画を他所に、俺だけが、取り残されているような……。
 
 動画の中で、明日香と同じく息を荒げる藪岡が、ちらりとカメラを見た。レンズ越しに、俺と顔が向かい合う。奴はそこで笑みを浮かべ、明日香の身体を反転させた。乳房がカメラ側を剥く背面座位から、抱き合うような対面座位へ。
「や、やめろ……」
 俺は呟く。その格好はまるで、愛し合う恋人同士みたいじゃないか。
 やめろ。やめろ。明日香にそんな事をしていいのは、俺だけだ。俺だけが彼氏なんだ。
 藪岡のでかい手が、明日香の尻の肉を掴む。そしてそのまま、下へ押し込むようにすれば……
『あっ、あ、あっ……ま、また、イキそうっ…………!!』
 藪岡の肩を掴む明日香から、震えるような声が漏れた。藪岡はその声を耳元に聞きながら、笑みを深める。
 グチュッ、グチュッ、グチュッ……。
 押し潰された水音が繰り返され、明日香の太腿が強張る。藪岡は深々と明日香を貫きながら、細い身体を支える位置を、尻から腰、背中へと少しずつ上げていく。そして明日香の身体が快感で弓のように反った瞬間、ふっと背中の支えを離す。
『きゃあっ!!』
 明日香は高く叫んだ。澄んだ声だった。ものすごく可愛かった。そんなトーンは、俺にしか聞かせないはずだった。藪岡達にはいつだって、もっと警戒したハスキーな声ばかり聞かせていたはずだった。はずだったのに、今の声は、違う。
 そして動画の中では、明日香が藪岡の巨体にしがみついていた。太い首を抱きすくめるように腕を回し、すらりとした両足で胴を挟み込むようにし。
「明日香っ!?」
 俺の叫びは、俺の部屋だけに虚しく響く。そしてそんな音を他所に、抱き合う二つの裸はいよいよ激しく上下に揺れる。
 ギシッ、ギシッ、とベッドが軋み、濃い水音が繰り返される。美しさの極みと言える女の体と、力強さの極みと言える男の身体が、抱きあったまま快感に震えつづける。
『い、いくぅっ! また、いく、いく…ぅ……っ!!』
『いいぜ、死ぬほどイカせてやっても。……ただし、一つだけ条件がある』
 藪岡はそう言って、またカメラを見た。そしてカメラ目線のまま、明日香の耳元に口を寄せる。
『アイツと、別れろ』
『……ッ!!』
 藪岡の言葉に、明日香の目が見開かれる。
 動画はそこで切れた。でもそれと同時に、今度は電話が掛かってくる。
 相手は、明日香――いや、正確には明日香のスマホだ。

 恐る恐る電話に出る。何が聴こえてくるのかは、大体想像がついていた。
 そして案の定、覚悟していた通りの音がする。
 ベッドの軋み、水音。それがさっきよりずっと鮮明に聴こえ、挙句には荒い吐息までが耳に入ってくる。
「あくまで別れねぇってんなら、セックスはここで終いだ。もうこれ以上抱いてやらねぇ」
 その言葉の後、ベッドの軋みが止まる。
「あっ!!」
 明日香の声がした。名残惜しそうな、寂しそうな声。
「コイツで逝きたいんだろ。もっともっと奥を抉って、イカせてほしいんだろ?」
 ギッ、ギッ、とかすかに軋む音がする。その音に混じって、明日香の喘ぎが聴こえてきた。
「あっ、あァっ!! はぁぁ、で、でも、でも…………っ!!」
 泣くような、苦しむような声。藪岡に向ける甘い声とは正反対だ。
 俺にだけ、そんな声になるのか。俺が、重荷なのか?
「お前だってもう解ってんだろ。アイツじゃ、もう今のお前を満足させられねぇ。こんな芸当は、あの粗末なモノじゃ……絶対に真似できねぇ!!」
 藪岡のその言葉の直後、ベッドの軋みが増す。
「ああぁ……ああ、ふ、深いっ……!!や、やめて、待って! まだ、前のが治まってな………ふんんん、ぅはっ! ぐ……っく、ひうぅ……んんうぅううっ!!!」
 明日香は息を詰まらせた後、嬉し泣きのような声を出した。
「おーおー、すげぇ顔。相当深くイってやがるなこりゃ」
「なんつーか、女ってスゲーよな。こんなんなるんだからよ……」
 遠くからはそんな声もする。
「どうだ、たまらねぇだろ! こうやって、頭ァ白くなるまでイカせまくられてぇんだろ、ええっ!!」
 藪岡がそう言いながら、さらにベッドを軋ませる。
「おっ、おっおっ……おほぉおおっ!!」
 明日香の低い声がし、ベッドの軋みが細かくなる。さっきの動画で、明日香の全身が雷に打たれたようだった時の音だ。
 明日香はもう、藪岡にどうしようもなくイカされまくっている。それは疑問の余地もない。でも、諦めきれない。
「わ、私は……私は…………っ!!」
 明日香の声がする。苦しそうだけど、何かをいいたそうに。
 そうだ。あの超人的な明日香なら、きっと、どんなに辛くたって……
「それによ。さっさとアイツと別れねぇと、お姉ちゃんがコエーぞ?」
 藪岡が、ぼそりと呟く。それで明日香の言葉が止まった。
 そして、直後。電話の向こうでギシリと音がする。
「おーおー、言ってたら来やがった。脚のぶってぇ般若女がよ」
 藪岡の声がした、直後。明日香の悲鳴が響きわたる。
「ああーーっ!!お、お姉さん、いたいっ、いたいですっ!!いま、前にも入ってるんです、こんな状態で、そんな所に……あ、ああ、んああああーーーっ!!!」
 断末魔のような叫び声に、狂ったようなベッドの軋み。そして女の荒い鼻息。
「うーわ、マジかよ。肘まで一気に入れやがった……」
「今って多分、藪っさんのが子宮まで入ってんだろ? マジでイカれてんな」
 かすかに聞こえるその声で、状況がわかった。後ろから近づいた姉貴が、明日香の尻の穴に腕を捻じ込んだんだ。それも、肘まで。
「なにこれ、ねぇ何これ?お尻がヌルヌルしてるし子宮もグチャグチャ。こんなので健史の彼女面なんて許さない。アンタにそんな資格なんてない。アンタだけ幸せになるのも許さない!!」
「あああっ!!ううぁああああーーーーっっ!!!」
 呪いの言葉のようなボソボソとした喋りと、明日香の絶叫が聴こえる。そしてその中に、藪岡の笑いが混じった。
「ははっ、なんだよ明日香お前! ケツの方から子宮握りつぶされて、イキまくってんのか? 最高だぜ、最高にぶっ飛んだ女だお前は!! こうなっちゃ、もう立派なケダモノだぜ、散々見下してた俺らと、同じトコまで落ちてきてんじゃねぇか、なあミズキ先輩よ、アンタもそう思うよなあ!?」
 藪岡の有無を言わせぬ怒鳴り声。
「そう、アンタって豚なの。人間じゃないの。健史は人間だけど、アンタは豚。あたしと同じ。もう帰れないの、だって豚だから。ほら豚、ここってなに、腸のもっと奥。指が入っちゃった。ああこれウンチだ、ねぇウンチよ豚。こんなすぐウンチに触れるなんて、ホントに汚い。ねぇ豚、なんでさっきからこんなに腰が跳ねてるの?気持ちいの?小袋まで犯されて、お尻に腕入れられて、指先でウンチ掻き回されるのがそんなにいいの?アンタ頭がおかしいのね。なんでそれで人間のフリしてたの?やめて、ウチの弟は本当にいい子なんだから、クソ袋なんかが話しかけないで。謝って、今まで健史に絡んでたこと謝ってよ、ねぇッ!!!」
 姉貴の喜怒哀楽がグチャグチャの喚き声。
 その板ばさみで、明日香は泣いていた。声だけで、泣いているのがわかった。
「姉貴いいっ、明日香ああっ!! 俺だ、俺だあーーーっ!!!!」
 俺は、喉が裂けてもいいぐらいの声を送話口へ叩き込む。
「うおっ!!んだよ、電話かよ……」
「おい、あの声って、弟クンじゃん?」
「弟クンっつか、彼氏クンじゃね? この場合」
 そんな声がする。俺の叫びはどうやら届いたらしい。だったら、聞いてくれ。姉貴も、明日香も。それで、元に戻ってくれ。
「くくっ、聴こえたかよ明日香。“元カレ”が何か喚いてんぜ」
 藪岡の声だ。すでに俺を過去のものにしようとしてる。そうはさせるか。
「明日香、姉貴!! しっかりしてくれ、俺だよっ!! 帰ってきてくれ、俺の所に帰ってきてくれ、頼む……!!」
 涙ながらの精一杯。俺のありったけを吐き出す。

 でも。

「…………ごめん、なさい…………」

 明日香は、小さな声でそう呟く。
「……明日香?」
 俺はその意味がわからず、聞き返した。
「わ、わたしは……もう、あなたには、ふさわしく……ない」
「な、何言ってんだ!!そんな奴らのいう事に惑わされるな、明日香!!
 明日香は人間だ、誰より誇り高い人間なんだ、豚なんかじゃない!!
 頼むよ、帰ってきてくれ明日香!! シャブ抜いた時みたいに、ま……」
「……ちがうの」
 俺は必死に、必死で、明日香を説得する。でもその言葉は、藪岡にでもなく、姉貴にでもなく、明日香自身に遮られた。
「…………ご、ごめんね…………そういうことじゃ、ないの…………。
 わ、私……きっ、きもちいいの……死ぬほど嫌いなこの男のセックスから、離れられ……ないの…………」
「……え?」
 完全に、予想外の言葉。あの明日香からだけは、絶対に出ないと思っていた言葉。
「お姉さんの、言う通り……わ、私は、あなたに相応しくない。
 あなたは、本当にいい人。気弱で流されやすいけど、優しくて、勇気だってある。
 だから…………そんなあなたの横にいると、つらいの…………」
 明日香の一言一言が、心臓を叩く。胸が苦しくなる。そしてその苦しみの中、藪岡の笑い声が響きわたった。
「はははははっ!!いいぞ、それでいい。とっくのとうに解っちゃいたが、ようやく素直になったな、明日香!! ご褒美だ、死ぬほどイカせてやるっ!!」
 その声で、激しくベッドが軋みはじめる。
「あっ、あ! おお゛っ、おっ、お゛っ…ほおお゛お゛お゛ぉ゛………っ!!」
 快感だけに染まった明日香の喘ぎが、藪岡の腰遣いに応える。
 俺には聞かせない、本当に無理をしていない明日香の声。今の明日香の自然体。
「…………あ、あ…………」
 俺はスマホを取り落とし、呆然と遠くから聞こえる喘ぎを耳にしていた。
「よう、そこの薄ら馬鹿。お前にゃ一言だけ、言っとかねぇとな」
 その俺に、藪岡が語りかけてくる。


「  ざ  ま  あ  み  ろ  。 」


 その一言を最後に、通話状態は切れた。
 明日香との、姉貴との繋がりも。



 そして、半年後。
 俺の元に、懐かしいアドレスから一通のメールが届く。そこには動画が添付されていた。
 被写体は、明日香と姉貴。すっかり妊婦の見た目になった2人が、牢屋のような地下室で大勢に囲まれている映像だ。

 止まらないカメラの向こうで、穴という穴を犯されながら、母乳を撒き散らして笑う二人。
 その姿は、本当に……、……幸せそうだった。



                                (終)

止まらないカメラの向こうで  第3話

第2話の続きです。


 いつの頃からか、明日香への責めはシャブを打っての快感調教だけになっていた。場所もSM用の212号室から、キングサイズのベッドがある101号室に戻った。
 一日の流れのうち、輪姦は日の後半だ。日の前半では、明日香はシャブを打たれ、ひたすら道具で調教される。そして俺は、猿轡を噛まされたまま手錠を掛けられ、食事とトイレの時以外は常にそれを眺めさせられていた。
 道具調教に携わるのは、普段の輪姦には顔を出さない幹部4人。朱雀、青龍、白虎、玄武の彫り物をそれぞれ背負ったこの4人は、グループ内の他の連中とは雰囲気が違う。まさに調教師という風だ。実際、藪岡が関わりを持っている組で、いわゆる『コマシ』の仕事をする事もあるらしい。

 調教は、与えられた12時間をフルに使い、じっくりと進められる。
 縛り方はいつも同じ、乳房を搾り出す形での後ろ手拘束。縄を打つのは上半身だけで、下半身は丸裸のままだ。
 その状態で、割れ目と肛門の広範囲に少しずつシャブを打ち、薬が回るまでの間はソフトタッチを施す。乳房周りから、腋、下腹、そして太腿。見た目は撫でているだけだが、あの我慢強い明日香がつらそうに身悶えるんだから、この時点で相当上手い愛撫なんだろう。
 30分以上かけて全身の性感帯を目覚めさせれば、次はいよいよ割れ目に触れる。ビラビラを指で上下になぞり、割れ目の中へごく浅く指を入れ。明日香の腰が独りでにヒクヒク浮くようになれば、ようやく中へ指が入る。ただし、AVのように激しく指を動かしはしない。クリトリスにローターを宛がいつつ、割れ目のある一点に軽く曲げた指先を押し当て、そのまま指を動かさずにじっとしている。
 そうしてしばらくすると、なぜか割れ目が喘ぐようにヒクつきだすんだ。肛門周りの筋肉も、意思があるかのように収縮する。そこで軽く割れ目の中を掻くようにすれば、明日香はいつも必ず潮を噴いた。呼吸も荒く、マラソンを走りきった後のように息が切れていることが多かった。
 そこからは、しばらく指責めだ。朱雀の刺青の男が中心となって、Gスポットの辺りを丁寧に刺激していく。潮を噴いたばかりで恥じらいがあるのか、明日香はここでは声を漏らさない。代わりに太腿から尻にかけての筋肉が、すごく気持ち良さそうにうねるのが印象的だ。
 この指責めの時間も、およそ30分。最初こそ喘がず耐えていた明日香も、これだけじっくりとやられれば、そのうち荒い息に混じって喘ぎはじめる。15分もすれば泣くような声が聴こえるようになり、
『い、くっ……』
 ベッドから足の裏を浮かせて、そんな掠れ声を漏らしさえする。でも多分、この時明日香は逝ってない……というより、逝けないんだ。この辺りから少しずつ、ぱっと見優しそうな調教役のの指遣いに、悪意が混じってくる。逝けそうで逝けないギリギリの状態を15分もキープさせられるなんて、受ける側は地獄だ。
 実際、指責めのラスト3分なんて本当に悲惨で、明日香は何度も足を強張らせ、内股になり、いく、いく、いく、と一人虚しく訴えつづける事になる。そうしていくら反応しても、解放などされないのに。
 そうして欲求不満を溜めに溜め込んだ状態で、いよいよ本命のバイブ責めが始まる。まずは無数のイボのついた、やや細めのシリコンバイブで、舐めまわすように割れ目の隅々まで刺激する。ここの刺激の仕方は、本当に熟練の技を感じさせるものだ。ゆっくりと前後に出し入れしていたかと思えば、上下に揺らしながらの刺激を混ぜ、またある瞬間には一旦バイブを放して、電動のうねりのみに任せて割れ目の中を刺激させ。
 そうして、一通り割れ目への刺激が終われば、ここから狙いがポルチオに定められる。もちろんこれは俺の憶測なんだが、間違っているとは思わない。
 バイブを握りしめたまま、ゆっくりと円を描くように奥まりに押し付ける。少し引き抜いては、また奥まで押し込んで、円を描く。
 そしていつも、ここでバイブのモードが切り替えられるんだ。微弱な振動から、振動に加えて先端部が大きく円を描いてうねる動きへと。この状態でバイブを奥まで押し込まれ、スイッチを入れられると、明日香からどんどん余裕が失われていく。スレンダーな下腹が膨らんでは凹み、バイブの振動が伝播したのかと思うほど、全身が痙攣をはじめる。指責めの時に聞いた泣くような声も漏れる。その鳴き声を目安にしてるんだろうか。いつもちょうどその頃から、バイブの突き込み方が力強くなる。けして乱暴ではないが、ぐっぐっぐっぐっぐっ、と断続的に膣奥を押し込むような突き方だ。さらにはここでも、バイブを上下に揺らす技巧が混ぜ込まれる。
 この状況が5分も続けば、明日香の声は、もう『泣くような』ではなく『泣いている』ものになる。チンピラ風情に昂ぶらされるなどプライドが許さないが、それでも事実、どうしようもなく昂ぶってしまう。その板挟みでつらいんだろう。
 そこへ来て、とうとう朱雀の男はトドメを刺しにくる。バイブをしっかり奥まで届くように固定した後、その底を手の側面でリズミカルに叩き込むんだ。これで、明日香の下半身は本格的に震え上がる。
「……ぁ、や……ぃやあ、ぁ…あっ…………!!!」
 そういうか細い声も漏れはじめる。
「おら、イきたきゃイけ!!」
 バイブの底を叩きながら発される、有無を言わせぬ命令。明日香はこの時、『いく』とは言わない。言わないが、実際は逝っているのが足の震え具合ではっきりわかる。指入れの時とは真逆の状態だ。
 バイブの底を叩くこの責めは、いつも一体どのくらい続いているんだろう。少なくとも数百回単位なのは間違いない。その回数が増えるごとに、明日香の反応もわかりやすくなっていく。最初は10回叩かれて1回反応する程度だったものが、次第に5回に1回、3回に1回と頻度が増していき、最後にはバイブを打ち込まれるたびに腰が跳ねるようになる。何十回も連続でバイブを打ち込まれた後、わずかに間が空き、弛緩した明日香の脚がようやくベッドへ下りたその瞬間、また打ち込みが始まって跳ね上がる……そんなことが何回も何回も繰り返されるんだ。
 そしてこれだけ明日香を翻弄するバイブ責めには、さらにいくつものバリエーションが存在する。調教役は4人。つまり1人が徹底的にポルチオを目覚めさせている間、他の3人は好きに補助ができるということだ。
 この責め方はいつも違うが、傾向はある。
 一つは、ローターでクリトリスを併せて責めるやり方。
 一つは、下腹の子宮がある辺りを、3本指でリズミカルに刺激するやり方。
 一つは、同じく子宮のある辺りを、マッサージ器でほぐすやり方だ。
 そしてこのどれもが、劇的に効いた。あまりにも効くから、明日香はこの責めが始まってから間もなく、足を内股に閉じてしまうほどだ。当然、責め手の4人はそれを見逃さない。
「なんだこの足は。『抵抗』しちゃいけないんじゃなかったのか?」
 そう囁かれたら最後、もう内股にはなれず、相手が求めるままに大股を開いて刺激を受けるしかない。でも、そもそも刺激から逃れるために内股になったんだ。それを大股開きになんてしてしまったら、膨大な快感を余すところなく受け止めることになってしまう。だから、大股開きになった後の明日香は、鳴き声がいよいよ酷くなる。
「ぁイク、イクーっイク……あぁイクぅうう…………っ!!」
 ついにはどうしようもなくなって、熱にうかされるように絶頂の宣言まですることもある。
 何十分か後。バイブのスイッチが切られ、ゆっくりと割れ目から引き抜かれた時には、その表面はいつも異様なほど濡れ光っていた。喘ぐように開閉する割れ目も同じく濡れていて、一度や二度ではない絶頂を繰り返したことが見て取れる。
 でも、ここまでのポルチオ開発は、あくまで道具調教における『前戯』でしかない。この後に続く『本番』こそ、本格的に明日香から余裕を奪い去る拷問なんだ。

「…………はぁ、はぁ、はぁ…………はぁ…………」
 明日香はベッドに横たわったまま、荒い息を吐き続けていた。あの貞淑の塊のような彼女が、大股開きを正さない。何度もポルチオで逝かされて、思考力が麻痺してるんだ。
「へへ、見ろよ。昨日までと違って、脚を閉じもしやがらねえ」
「マジだ。とうとう指とバイブ2号だけで、軽くトぶようにまでなっちまったか」
「ああ、順調だ。こりゃ今日辺りでぶっ壊せるかもな」
 調教役の4人が、明日香を見下ろしてほくそ笑む。
『絶頂がより深く、より長く続くようにしてやる』
 調教初日から口癖のように連呼されるこの言葉が、いよいよ現実味を帯びてきていた。
「よし、呆けんのはそこまでだ。次いくぞ明日香!」
 玄武を背負った1人がベッドに横たわり、明日香の細身を腹の上へと抱え上げる。やたら図体のでかい奴だから、明日香の小さな背中ぐらいは簡単に抱きとめてしまう。その上でさらに、ゴツい手でもって両の膝裏を引き寄せれば、いよいよ明日香は男の胸板に背を預けたまま、足をぶらつかせる事しかできなくなってしまう。
 そしてこの格好は、女にとって……いや、人間にとって、耐え難いほど屈辱的なポーズだ。男の腰に突き上げられる形で、肛門を真正面に、性器を斜め上に向けるんだから。当然明日香も、耳まで赤らめてしまっていた。
「くくっ、まだオマンコがヒクついてやがる。ポルチオの余韻が残ってんのか?」
「ケツの穴もだ。プックリ膨れちまって、とても上流階級のお嬢様の蕾とは思えねぇや!!」
 当然、4人は追い討ちをかける。毎日毎日、飽きもせず。
 そうして一通り明日香を詰り終えた頃、明日香の前に屈み込んだ1人が問う。白虎を背負った一人だ。
「……さて、お嬢様よ。今日はどう可愛がってほしい?」
 これだって茶番だ。あらかじめ言い含めた言葉を、明日香自身の口に語らせ、嘲り笑うための。
「…っ」
 明日香は唇を噛む。人一倍プライドの高い彼女にとって、自ら恥辱の宣言をさせられるこの瞬間は、どんな強姦よりもつらいことだろう。だが、だからこそ、悪魔じみた4人は何が何でもその宣言をさせようとする。
「どうした、何黙ってる……“反抗”か?」
 今の明日香を追い詰めるなら、脳味噌はいらない。たったこの一言でいい。
「く…っ!!」
 それだけで明日香は薄目を開き、顔を歪め、血すら吐きそうな顔つきでプライドをかなぐり捨てる。足枷でしかない、クソみたいな俺のために。
「………私の…………お、お尻を……可愛がって、ください………ッ!!」
 重い息を吐き出すように、明日香が宣言する。あくまで睨む姿勢を崩さないその姿に、4人のニヤつきが増す。
「ほー。んで、その尻ってなぁどこのことだ?」
「もうちっと噛み砕いて教えてくれや。俺らは学がねぇんでよ、お上品な言い方じゃわからねぇんだ」
 どうやら今日は、さらに下劣な宣言をさせるつもりらしい。明日香は顔を強張らせ、ますます強く連中を睨みつける。
「う、うんちの、出ていく、穴です……!!」
 声を震わせながら、恥辱の言葉が吐かれる。どっ、と4人が笑う。
「ハハハッ、なるほどクソの穴か! テメェのあの、くっせぇクソをひり出す穴を、ほじくり回して感じさせてほしいってか、ええお嬢様よォ!?」
 悪意のこもった罵声が叩きつけられ、明日香の瞼が痙攣する。その兆候といい、顔つきといい、ストレスで憤死しそうに見える。
「ウウ……!!」
 俺は心配になって、思わず猿轡ごしに呻いた。すると明日香は、大きく息を吐いてから俺に視線を向け、何度か瞬きする。

  ――――私なら大丈夫だから、心配しないで。

 まるで、そうメッセージを送るように。俺は息を呑み、そこでようやく自分の有様に気がつく。彼女を凝視するあまり瞬きも忘れ、眼から涙を流していることに。
「……仰る通りです。私が毎日臭いものをひり出す穴を、ほじくり回して……感じさせてください。」
 耳にするのもおぞましい暴言を、あえてハッキリと復唱してみせる明日香。俺にはどこまでも気高く映る姿だが、4人の笑いは大きさを増すばかりだ。
「はははははっ!! ったく、そこまであさましくオネダリされちゃしょうがねぇ。今日も、クソの穴で狂うほど感じさせてやるよ」
 4人はそう言って着々と準備を進める。一人がバスルームから、湯気の立つ洗面器を運び込み、別の一人がそこへ白い粉を溶かす。指でかき混ぜて出来上がるのは、特製の挿入用ローションだ。そのローションが哺乳瓶のような容器に詰められ、明日香の正面に座る白虎の男へと手渡される。
「いい出来だ」
 白虎の男は頬を緩めながら、哺乳瓶の口を明日香のアナルに押し当て、遠慮なく中身を注ぎ込んだ。軽く300mlはあるだろう量をだ。
「うあっ!!」
「くく、熱いか? 今日も温泉と同じくらいの温度にしといてやったぜ。お前はそのぐらいが一番感じるらしいからな、変態マゾお嬢様よぉ!」
 洗面器を運んできた奴が、何もかも承知の上という顔をする。それがただのハッタリなら、どんなにいいだろう。でも、違う。こいつらは明日香の快感を知り尽くしている。今日で道具調教は17日目。明日香のあらゆる反応が、絶頂が、すでに膨大なデータとして蓄積してるんだ。
「さてと。今日もコイツで、結腸まで可愛がってやる」
 白虎の男が、空のローション瓶を隣の一人に渡し、代わりにバイブを受け取る。テニスボールを思わせるイボだらけの球が先についた、蛇腹のバイブ。太さもそれなりだが、何より目を見張るのはその長さだ。軽く50センチはある。
 これだけの長さがあれば、さっき奴が言ったように結腸責めも可能だ。肛門からS状結腸の入口までが大体30センチだから、50センチもあれば悠々と「S字越え」を果たし、そのさらに奥まで届く。もっとも、これは連中が明日香に言って聞かせていたことだから、嘘も混じっているかもしれないが。
「うっ……!」
 バイブを目にした瞬間、明日香の表情が強張る。
「いいツラしやがる。ま、そりゃそうか。もうコイツで何百回ケツアクメしたか、わかんねぇもんなぁ?」
 男は笑いながら、バイブの先を弾いてみせた。ゴムのようなバイブは激しく左右に揺れる。その柔らかさと弾力性は厄介だ。押し込めば腸の形に沿ってどこまでも奥へ入り込み、なまじ張りがあるから存在を無視もできない。腸内を責める道具としては極悪だ。
 そして、それだけじゃない。男がバイブの握り部分にあるスイッチを押し込めば、腹の底に響くような重低音が響きわたる。
「いい音だなオイ。もうコレ聞くだけでイッちまいそうなんだろ?」
 振動するバイブの先で肛門を撫でられる。そんな嫌がらせを受けても、明日香は尻を引くことを許されない。
「……はい」
「ひゃはははっ!! なーにが『はい』だよ、言ってて恥ずかしくねぇのかこのビッチが!」
「女子アナみてぇな澄まし顔が余計にウケるぜ、あーハラいてぇ!!」
 どんなに笑われようと、相手の言葉をすべて肯定しなければならない。
 “反抗”しないために。
「よし、ならブチ込んでやる。ケツに力入れとけよ、その方が入りやすいし感じやすいからな。ま、そりゃお前が一番よく知ってるだろうがよ!」
 白虎の男は一旦バイブのスイッチを切り、先端を明日香のアナルへと押し当てる。テニスボール大の珠は、ほんの少しの抵抗を破って簡単に中へ入り込んでいく。
「もう指で慣らす必要もねぇか。こなれたモンだな」
 朱雀の男が、指の愛液を舐め取りながら呟いた。
 先端の球がすっかり窄まりへと飲み込まれ、いよいよ蛇腹の部分が肛門を刺激するようになる。見ていて焦れるほどに、じっくりとした挿入。その挿入はいつも途中で止まる。バイブの形が特殊なせいか、それとも明日香が腸内への挿入を嫌がっているせいか。
「そら、また引っ掛かったぜ。ケツと腸を開け、クソひり出すみてぇにだ」
 男にそう命じられると、明日香は細い息を吐く。すると、またバイブ少しずつ挿入されていく。
 そうしてバイブが半分近く……20センチほど入り込んだ頃。明日香の口が開く。
「あ、ぁぁぁ……っ!!!」
 震えるような艶かしい声。その声は、予期していた4人組に即座に嘲笑われる。アソコならどれだけ犯されても黙って耐える明日香だが、アナルはつい声が出てしまうらしい。
「もう17日目なのに、まだこれかよ。ほんとアナル弱ぇな」
「カマトトぶってるだけだろ。お上品なワタクシが、不浄の穴を犯されるなんて!ってよ」
「んだそりゃ、気持ち悪ィ女だな。人前でさんざっぱらゲロやらクソやらぶち撒けてる、人間便器の分際でよ!!」
 明日香の反応のすべては悪意をもって曲解され、嘲笑のネタにされる。俺ならとっくに精神が不安定になって発狂しているが、明日香は唇を噛んでじっと耐えていた。いや、『耐えてくれていた』。
 そんな明日香の胸中をよそに、バイブはゆっくりと侵入を続ける。とうとう2/3ぐらいが入った。そろそろ臍の下、S状結腸の入口に届く頃だ。
「よーし、奥まで届いたな。結腸の入口も捕まえてんぜ?」
 案の定、白虎の男がそう呟いた。そしてその言葉を裏付けるように、明日香の鼻の横を汗が伝い落ちる。
「……う、……ふっ…………」
 重い呼吸が始まる。S状結腸の入口あたりを圧迫されるだけでも、相当気持ちいいようだ。無理もない。なにしろ結腸入口の近く、本当に薄皮一枚隔てたところに、ポルチオがあるというんだから。
「くくっ。今日はまた一段と、余裕のねぇツラしてやがんな」
「さっき軽くトぶまで中イキしたばっかなんだ。おキレイな顔してやがるが、マンコの奥はもうトロットロに蕩けきってんだろ。そこ刺激されりゃたまんねーって。なあ、そうだよなメスブタ? いつもみたく実況してみせろや!」
 下劣な物言いで、4人の男が囃し立てる。
「………………ッ!!!!」
 明日香は厳しい表情をさらに固くし、3度唾液を飲み込んでから口を開いた。
「…………か、感じて……います…………。こうして、お尻の奥を圧迫されていると、むず痒くなってきて…………!!」
「そうだよなぁ。こうしてっと腸の奥がムズムズしてきて、熱い痺れが沸いてくるんだよな。これまで調教してきたメス共も、みんな口揃えてそう言ってたぜ。お前もお高く止まってっけど、所詮そいつらと同レベルのオンナってわけだ。おら、じっくりとドライオーガズムに浸れ。気が済むまでよ」
 白虎の刺青をした男は、そう言ってバイブのスイッチを入れた。
「うっ!!」
 直に聞くよりも遥かに篭もった音が漏れはじめ、明日香の太腿が震える。
「こっちも気分出させてやるよ」
 横で見ていた朱雀、青龍の2人も、明日香の身体を刺激しはじめた。朱雀の方は快感で膨らんだ乳房をやわらかく揉みしだき、青龍の方は下腹の子宮のあたりを指で圧迫する。見た目にはソフトな責めだが、効果は露骨だ。明日香はここ最近毎日のように、この責めで追い詰められているんだから。
「…………はぁ、はぁ、はぁ…………! ぅぅう、っぅ……ぁ…………はっ、はぁっ、はぁっ…………!!」
 荒い呼吸の合間に、ポルチオ責めの時にも聞いた泣くような喘ぎが混じる。スレンダーな腹部が上下し、太腿が緊張と弛緩を繰り返す。男3人はニヤついた表情でその反応を眺めながら、あくまで淡々と責めを続けた。むず痒い快感を、限界まで溜め込ませるつもりだ。
 その状態が、何分続いた頃だろう。
「…………ぁぁうぅぅ…………ぅっ…………!!」
 明日香から、本気で泣くような声が漏れた。別に3人の責めが激しくなったわけでも、明日香の反応が大きくなったわけでもない。同じような光景が続く中での、突然の『泣き』。
 俺はいつも、この変化にこそゾッとする。いきなり激しくされて反応するなら正常だ。心配するようなことじゃない。でも、今は違う。水道から一滴ずつ垂らされ続けた水がついにコップを満たし、縁から一筋こぼれ落ちた瞬間だ。コップの中は間違いなく『満ちている』んだ。
「わかってんだろうな。黙ってイクんじゃねーぞ!」
 白虎の男が念を押すように凄み、バイブを揺らす。同時に朱雀、青龍の2人も、乳房と下腹を愛撫するペースを早める。
「……は、は、はっ、はっ……い、イキそうっ…………!!」
 明日香はついにそう漏らした。たまらなさそうに。囁くように。それを耳にして、4人の目が変わる。
「いいぜイっても。我慢すんなよ」
 明日香を抱え込む玄武がそう言って、膝裏を抱え直す。朱雀は乳房を鷲掴みにしたまま、親指で乳首を押し潰す。青龍の男は下腹を3本指で何度も押し込み、白虎はバイブで腸内にゆるい円を描く。その段階になれば、追い詰められた明日香はもう3分ともたなかった。
「…………は、は、は、はっ、はっ……! ぁイク、い…っく………!!!」
 眉を下げ、下唇を噛み、横を向きながらか細く宣言する明日香。その瞬間、4人が一斉に歯を覗かせた。
「ぎゃははははっ!! おいお前ら、聞いたかよ!?」
「あーあ、このお嬢サマ! 今日は、マンコどころかクリすら刺激してねぇってのに、とうとうケツだけであさましくイキ果てやがった!!」
「あの『美人すぎる社長令嬢』がなぁ。どんだけのファンが幻滅するんだよコレ!」
「クソ穴で濡らすようなアバズレを、『アスカちゃん』だのなんだのとアイドル扱いしてたわけだからな。俺なら自殺モンだぜ!」
 これでもかというほど、言葉の弾丸を叩きつける。明日香の泣くような表情がさらに歪む。
「ウウウウ…………!!」
 俺は思わず呻いた。ひどい、ひどすぎる。でも、俺と明日香がどれだけ悲痛に顔を歪めようと、外道共の鬼畜行為は終わらない。
「はははははっ、おいお嬢サマよぉ! そんなにケツが好きなら、もっともっとイカせまくってやらぁ。狂うまで楽しめや!!」
 白虎の男が大声で笑いながら、バイブを強く握り直し、さらに奥まで進めはじめた。挿入を「少し右寄り」にしながら、ゆっくりしたペースで。
「んんんぅっ…………!!」
 まだ絶頂の余韻が残っている明日香は、切なく喘ぐ。
「おら。先っちょがよ、ドンドン入ってくぜ。自分でもわかんだろうが、ヌルーッと奥まで来たのがよ。どうだ、耐えられねぇぐらい気持ちいいだろ。自分の口で言ってみろ?」
 また、実況が強いられる。
「…はぁ、はぁ、はぁ……し、痺れるっ……!」
「痺れるか。電気が走ってるみてぇで、鳥肌が立つぐらい幸せなんだろ?」
「…………あ、あああんんぁっ!!」
 明日香の喘ぎは言葉じゃない。でもどんな言葉より、雄弁に快感を訴える。角度をつけたバイブが結腸奥へ入り込むほど、横の2人が乳房と下腹を刺激するほど、明日香の腰のうねりが激しくなっていく。
 コップの水は次々と溢れはじめた。もう取り返しがつかないほどに。
「ああ、ああっ!! はぁぁ、んああああ…………っ!!」
 奥深くまで入り込んだバイブを緩やかに抜き差しされ、下腹が波打つほど指で子宮を押し込まれ、明日香の足が暴れる。
「力むんじゃねぇ、リラックスしろよ」
 さらに朱雀の男が、乳首をやさしく指で弾けば、
「ああっ…ぁぁ、はぁぁーあ……っ」
 明日香は息を吐き出し、強制的に力を抜かされた。そしてその結果、身を強張らせることでかろうじて堪えていた快感の波に呑まれてしまう。
「……ぁぁ、ぁあぁああ……ぁぁイク、いっく…………はああっ、はぁ…………っくイクイク、イク…ぅ…………っ!!!」
 明日香はブルブルと震え続け、ついには白目を剥いてしまう。その様子をじっと観察していた3人は、一旦責めの手を止めた。
「はあっ、はあっ、はあっ、はあっ、はあっ…………」
 明日香の吐く荒い息だけが、部屋に木霊する。責められてもいないのに、彼女の身体の痙攣はまだ止まらない。滝のような汗も次々と噴き出しては流れつづける。
「おーおー。触ってもねぇマンコから、本気汁がどんどん溢れてくるぜ!」
「スゲーよなポルチオ中毒って。こんだけ深い快感が、何時間も続くんだろ?」
「バーカ、何時間かで済むかよ! シャブ打った上で、毎日散々覚えこませてんだ。半日か、事によっちゃ丸一日でも持続すらぁ!!」
「違いねぇ。んで、休憩は何分にする?」
「ここであんまイカせまくって、頻繁に気絶するようになっちゃダルいからなあ」
「かといって、クールダウンさせすぎも良くねぇだろ。再開すっぞ!」
 グッタリとした明日香を囲んでそんな会話が交わされ、また明日香の泣くような喘ぎが響きはじめた。
 途中何度も休憩を挟みながら、このアナル責めは何時間にも渡って続けられる。そして、これですらまだ終わりというわけじゃない。道具責めに割かれる時間は半日。執拗なアナル責めが終わっても、せいぜい数時間が経っただけ。じゃあ残った時間はというと、前の穴さえ解禁し、本当の本気で明日香を『壊す』責めに充てられるんだ。

「ヘッ、ちっとクソがついてんぜぇお嬢様。あんだけ腸内洗浄したってのによ」
 アナルから長すぎるバイブを抜き出して、白虎が笑う。だが明日香にはもう、その言葉に恥辱を覚える余裕もない。
 調教開始から、たっぷり5時間半。いつも以上に熱の入ったアナル責めを受け続け、明日香は一体何度『イク』という宣言をさせられたことだろう。明日香の顔は、汗と涙、涎で見る影もなく汚れきっていた。額へ海草のように張りつく前髪は、印象をより無惨なものにする。
 朱雀の刺青を背負う1人が、明日香の顔を布で拭う。ただしそれは、間違っても優しさからの行為じゃない。単なる次の責めの準備だ。
「うっしゃあ、お楽しみの始まりだっ!」
 明日香の後ろにつく玄武の男が、そう言って大きく体勢を変えた。掴んだ両の膝裏をさらに持ち上げ、縛られた腕の真横にまで持ってきた上で、腋の下にふくらはぎを挟みこむ。最終的な明日香の体勢は、アソコを真上に、アナルを斜め上に向けての『マングリ返し』。これ以上なく屈辱的な格好にして、明日香を辱めようとする外道連中が何よりも好む体位だ。
「くうっ……!!」
 明日香の顔が羞恥に歪む。この時点でもまだ、明日香は恥を忘れてはいない。ただ、この後はどうだろう。明日香は今日の夜も、まともさを保てるんだろうか。
「さて明日香、お前の大好きな二穴責めの時間だぜ。昨日は相当余裕を失くしてたみてぇだが、今日は大丈夫か?」
 バイブを手にしたまま、青龍の男が笑う。大丈夫な筈があるか。今日の明日香は、明らかに昨日よりも追い込まれている。すっかり絶頂の味を覚えこまされ、簡単に嵌まり込む体質にされてしまっている。勿論4人は、そうと知っていてわざと言ってるんだ。明日香への嫌がらせのために。
 余裕がない。それは明日香自身が一番よく理解しているだろう。だから明日香は、青龍の男の問いにすぐには答えなかった。でも、俯き、深く深呼吸を繰り返し、その末に震えながら顔を上げる。毅然とした表情で。
「上等だ」
 そんな明日香に、朱雀の男がアイマスクを近づける。視覚を遮ることで、それ以外の感覚は強制的に研ぎ澄まされる。音も、匂いも、触感も。
「う……!!」
 眼を覆われる瞬間、明日香は顎を震わせた。あの明日香が、準備段階で怯えを見せるなど初めてだ。本当に余裕がないんだろう。俺の中にある嫌な予感が、ますます膨らんでいく。
 そして、明日香の自由を奪うものはアイマスクだけじゃない。
「さ、口を大きく開けるんだ」
 その言葉と共に、ボールギャグが明日香の唇へ宛がわれた。そう、調教のこの段階になれば、言葉すら発することを許されない。どれほど悲惨な事になろうと、どれだけ耐え難かろうと、調教が終わるまでは何一つ外部に意思を伝えられない。これほど不安なことがあるだろうか。
 ボールギャグをが触れた、直後。明日香の唇が、何度か開閉する。喘ぐように、あるいは声もなく助けを求めるように。
「どうした明日香。許しでも乞うのか、坊主を見捨てて? いいぜそれでも、人として当然の判断だ」
 ベッド脇に腰掛ける朱雀の刺青が、そう言って俺の脇腹を蹴りつける。
「むごうっ!!」
 いきなりのダメージに、苦悶の声が漏れてしまう。視界の端で、明日香の肩が震えた。そして、彼女は唇を引き結ぶ。
「彼のことは見捨てない。だからといって、諦めもしないっ!
 私は………………耐えて、みせるわ………………!!!」
 嫌な予感を感じつつも、ありったけの勇気を振り絞っての宣言。
「ヒューッ、カッコいいねえ。ならいいぜ、ぶっ壊れるまで可愛がってやる」
 悪意に満ちた含み笑いと共に、ボールギャグが噛まされる。

 こうして明日香は、あらゆる意思表示の手段を失ったんだ。


        ※           ※            ※


 一体、何時間が経ったんだろう。

「ホレホレ、どうだ!?」
 品のない声がし、ぐちゅっぐちゅっという水音が速さを増した。
「んも゛ぉおう、んも゛っ!! おお゛ぉう、んぉおおおう゛う゛っ!!!!」
 ボールギャグに阻まれた不自由な悲鳴も、同じくトーンが上がる。
 明日香は、『マングリ返し』の格好で二穴を嬲られ続けていた。今前後の穴に入っているバイブは、どちらも男の5本指でかろうじて掴めるほどのサイズだ。その太さはどう見ても明日香自身の上腕を超えている。
 それに嬲られつづける前後の穴からは、信じられないほどの愛液があふれ続けていた。4人はそれをいやらしいと詰るが、濡れないわけがない。原因は、ガラステーブルに置かれた4本の注射器だ。調教の最初に打った1本だけでなく、さらに3本が追加で前後の穴に打たれたんだ。明日香を壊す……ただそれだけのために、大した覚悟もなく。

「ふーっ、くっそ手ェ疲れた。交替しろ!」
 朱雀の刺青を背負った1人が、青龍の刺青男に場所を譲る。青龍の男はバイブを何度か突きこんで笑みを深めた。
「ほー、また子宮が下りてきてんな。こりゃ面白ぇ!」
 そう言って、激しくバイブを叩き込み続ける。どうやら明日香のポルチオは、アソコの浅い部分から深い部分、手前や奥と位置が変わり続けているらしい。女が感じた時に自然となる反応なのか、バイブで責められつづけているからかは判らない。そして、どちらでも同じことだ。結局そのポルチオが狙い打たれ、明日香が身悶えるという状況には変わりないんだから。
「逝けっ!! 逝けやオラッ!!!」
 青龍を背負う男が、愛液を散らしながら激しくバイブを叩き込む。
「ううう゛ぅっ、うも゛ぉおっう゛お゛っ!! んんもおぉ……おっお、ほぉおおごオ゛オ゛ーーーーっ!!!!」
 明日香の目隠しの下からまた新たな涙が零れ、ボールギャグの穴からも涎が垂れる。その果てに、それまで浮き気味だった明日香の顎もガクリと下がった。
「ふん、また気絶しやがったか」
 青龍の男は鼻で笑いながら、正面……つまり、明日香を後ろから抱える白虎の刺青男に目配せする。
「お前も人使い荒ぇな。この女あんまり暴れるんでよ、いい加減腕が痛いぜ」
 白虎の男は溜め息をつきながら、それまで鷲掴みにしていた乳房を一旦離し、先端の蕾を摘む。シャブの効果と執拗な愛撫とで、乳輪から先がもう一つの小さな乳首のようになっている場所を、だ。
「…………ン、ふっ!? ……んもぉおオオおおお゛うう゛う゛っっ!!!」
 乳房そのものが三角に変形するまで両乳首を引き絞られ、ボールギャグから凄まじい悲鳴が迸った。真新しい涙と涎が、初雪のような肌を濡らす。さらには抉り回される割れ目の少し上、尿道からも飛沫が上がる。
「おーっ、イッてるイッてる。すげー、ションベンまで出てきやがった」
 明日香の腰がヒクヒクと上下するのを見て、青龍の男が目を細めた。そして、一度肩を鳴らすと、また極太のバイブで二穴を抉りはじめる。
「ん゛っごぉおおお゛っ、ふむごぉおお゛お゛お゛ッ!!! もごお、ほごぉおあ゛お゛おう゛う゛ぅ゛ぅーーーーーっっ!!!!!」
 明日香の口から漏れる声は、ボールギャグに阻まれている事を差し引いても濁りきっていた。俺は彼女がなまの喉で、何度もそういう声を上げているのを目にしていた。可愛らしい『ああ』という喘ぎではなく、ただただ腹の底からの快感が凝縮した、『おお』という逝き声。人一倍の気品に溢れる彼女が、恥も外聞もなくそんな声を乱発するんだから、いよいよ異常だ。崩壊の時は近い。
「ひゃははははっ!!! さっきまでちとヘバってたが、また調子が出てきたじゃねぇか! なあ、アスカお嬢様よぉッ!!!」
 叫ぶ男の背中で、青龍が踊り狂う。跳ねる明日香の腰を、極太のバイブでもって杭打ちするかのような動きだ。その無茶は当然、明日香をさらに深い闇へと貶める。
「むぐぅおおお゛お゛っ、むごぉお゛お゛お゛ぅお゛っ! ぇごぉおっ、ぇえごぉおお゛うお゛お゛お゛っ!!!!」
 激しくベッドを軋ませ、溢れる愛液を撒き散らし、明日香は狂いつづける。そしてその状態を数十秒続けたところで、また糸の切れた人形のように首の力を抜いた。また失神したようだ。
「あっ、またかよ! この女、すぐ気絶するようになっちまったな!!」
 青龍の男が舌打ちする。
「だな。そろそろコイツもいらねーか。どうせもう、何も見てねぇだろ」
 白虎の男が乳首から手を離し、アイマスクを取り去った。その下から現れた明日香の瞳は、ほぼ完全に上瞼に隠れてしまっていた。
「はははっ、こいつカンペキに白目剥いてやがる!!」
「すげぇな。あの超人的に我慢強ぇ女が、ここまで正体無くすなんてよ。オチんのも時間の問題だぜこりゃ」
「っつか、もうオチてんじゃねぇのか? このアヘ顔見る限りよぉ」
 嘲笑が起きる中、青龍の男だけが疲れ気味に肩を回し、割れ目からバイブを引き抜いた。コーラのペットボトルを思わせるサイズの責め具から、異様なほどの愛液が滴り落ちる。
「あー、肩いってぇ。でけぇバイブってのはブチ込み甲斐あるが、しんどくていけねぇや」
 そう言って奴は太いバイブを捨て、ベッドに並ぶ20本以上からまた1つを拾い上げた。選ばれたのは、ごく一般的なサイズのバイブだ。太さはせいぜい3センチ程度。割れ目を押し拡げて蹂躙するタイプの責めから、ピンポイントに奥だけを突く責めに変える気だろう。
「んむっ、お゛っ、おごっ!! ふぉお゛っ、おぐ、おぐっ、おお゛っぐふぅうう゛っ……!!!」
 バイブが割れ目の奥をリズミカルに叩き始めると、すぐに明日香が覚醒する。瞳孔の位置が元に戻り、うろたえた様子で左右を見回す。
「よう明日香ちゃん。そろそろ頭ブッ壊れてきたか? 今かなりヤバかったよなぁ」
 4人がそう言いながら、それぞれ明日香を責め立てる。
「おらおらどうだ、気持ちいだろ? やっぱなんだかんだいって、こういうリアルなチンポのサイズが一番だよな!」
 二穴を抉り、
「外からも子宮を潰してやるよ。たっぷりヨガり狂えや!」
 下腹を鷲掴みにして子宮を刺激し、
「そーらッ、またさっきのカワイイ声聞かせてくれや!!」
 病的にしこり勃った乳首をひねり上げ。
「むっぐうう゛う゛ーーーーっ!!! ふむうう゛っ、うごぅううお゛っ!!」
 今の明日香には、そのどれもが致命的な効果を持つらしく、あらゆる刺激に最大級の反応を示しながら暴れ狂う。ベッドの軋みは、巨漢の藪岡が腰を使う時とそっくりだ。
 そして。地獄とも思えるこの光景には、さらに下が存在した。
 きっかけは、明日香の狂いぶりを面白がった青龍の刺青男が、深々とバイブで最奥を突いていたことだ。少しでもポルチオ逝きを引き出そうというのか、一突きごとに、ぐうっ、ぐうっ、と奥を押し込む突き込みだった。
「おっ!?」
 ある瞬間、青龍の男は変な声を上げる。奴の手元を見ると、割れ目にバイブを掴む指が入り込んでいる。それまでは一番の奥まで突きこんでも、持ち手部分だけは外に残っていたというのに。明らかに、深く入りすぎている。
 明日香の顔を見ると、目をこれ以上ないほど見開いたまま固まっていた。
「お、おい、お前それどうなって……」
 1人がそう言いかけた、瞬間。
「んんん゛ぉおオ゛オあア゛っっ!!!!」
 明日香から、絶叫が迸った。凍りついていた時間が動きはじめたといわんばかりに。そしてその反応を見て、青龍の男も何かを察した顔になる。
「ま、まさかと思うけどよ、これ……子宮ン中に入っちまってんじゃねぇか!?」
 そう言ってバイブを引き抜いた。すぐに3人が割れ目の中を覗き込む。
「おい、ど、どうなってんだよ!?」
 唯一参加できずにいる白虎が、焦れた様子で尋ねた。
「ひ、拡がってやがる…………!!」
「あ、ああ、あれそうだよな。子宮口だよな、あの開いてんの……!!」
「お、、おいおい、んじゃ子宮へ直にぶち込めるってか!?」
 歪んだ笑みから零れたのは、信じがたい言葉。
 ポルチオよりもさらに奥、子宮内部へ達するウテルスセックスというものが存在するというのは聞いた事がある。でもそんなもの、都市伝説だ。人体構造上ありえない、そうとも聞いた。でも、それがどうやら本当にできている。
 何発もシャブを打って、それこそ日常的にはありえない回数の絶頂を繰り返しつづけた結果、決して起こり得ないはずのことが起こってしまったんだろうか。もしそうなら、明日香は…………
「こうしちゃいられねぇ! おい、そこらにCCDカメラのついたバイブあったろ……っと、これだ!!」
 1人がそう言って、先にカメラの内蔵されたバイブを拾い上げる。AVでたまに見る道具だ。3人はそのスイッチを入れ、ビデオ端子をテレビに繋いでから、明日香の中へ差し込んでいく。
 テレビ画面に映像が流れた。驚くほど水気の多い、ピンク色の粘膜を掻き分け、カメラが進んでいく。映像の奥にある子宮口は、確かに指でも入りそうなほどに開いていた。カメラがそこをアップに写し、膨らんだポルチオを突き抜けていく。最後に映るのは、ピンク色の壁。子宮頸部もなにもない、子宮の内部だ。
「おお゛お、……ぉお、おっ…………!!」
 残酷なことに、テレビの映像は明日香自身にも見えている。誰もが声を無くして入る中、当事者である彼女だけは、嘆くような細い声を上げていた。
 そして、4人の悪魔が笑う。
「ははははっ!! すげぇ、こりゃすげぇぜ! 流石に初めてだこんなん!!」
「ああ、マジに入るんだな。っしゃ、じゃあお嬢様に、たっぷりウテルスセックスを味わって貰おうぜ!!」
 悪魔じみたその言葉と共に、カメラ付きのバイブが激しく前後する。映像内で水気のある襞が、何度もカメラの側面を往復しはじめる。
「ん゛ん゛む゛ぉおお゛お゛っ、ふも゛ぉおうお゛あああ゛お゛う゛っ!! あ゛ぁ゛、ああ゛っ!! お゛お゛うっお……あおう゛ぉお゛お゛お゛おお゛お゛っ!!!」
 当然、明日香の喉からは滅茶苦茶な悲鳴が上がった。
「おうおう、何言いたいんだ? 聞かせてくれや。絶対に入っちゃいけねぇ場所を貫かれちまった、女として終わった人間の感想をよお!!!」
 ボールギャグの金具が取り外され、濃厚な唾液の線を引きながら引き抜かれる。
「ぷはあっ!! はぁっ、はあっ……あああぁあああっ!! うわあぁあああっ、ああああうあぁあぁっ!!!!!」
 短い息継ぎの後、明日香の喉から迸ったのは、裏返った絶叫。もはや理性があるのかもわからないほど、喉を開いて大声で叫び続けている。
 でも、その様子を見て俺は気付いた。理性は、ある。明日香の理性はある。だってこんな状況なら、普通は無意識にある言葉を叫ぶはずなんだ。
 『いやだ』『やめて』『抜いて』……この、どれかを。でも、明日香はそれをしなかった。変わりに、喉を開いて絶叫することで耐えているんだ。でもいくら叫んでも、子宮からバイブが抜かれることはない。4人の狙いを満たしていないから。
「さあ明日香、言ってみろ! やめてください、許してくださいってよ!!」
「言え! 言わねー限りこのバイブは抜かねぇ。そうしたらお前、二度とガキ産めなくなっちまうぜ!!」
「おらおらっ、どんどん子宮の入口が広がっていくぜ。もう何をどうやったって、二度と戻らねーようになっちまうぜぇ、お嬢様よおっ!!」
 耳を覆いたくなるような、ひどすぎる言葉責め。それを四方から受けながら、さすがの明日香も眼の力を失う。元々彼女は何時間も絶頂を継続させられて、精神的に極限状態なんだ。その上で未知の場所を抉り回され、脅しの言葉を投げかけられたら、いくら何でも心がもたない。
「あ……あ……ああぁあ……っ!! わ、わたし、わたしは……っ!!」
 明日香は唇を震わせ、歯を打ち鳴らしはじめた。超人的であった彼女が、とうとう年頃の女性の反応を始めた。
 いよいよ、終わりの時だ。
「さあ、言え!! 言ってみろ明日香アッ!!!」
 4人が恫喝し、ついに明日香が観念したように口を開いた、まさにその時。
 

「  警察だ!! 全員そこを動くなっ!!  」


 扉が開くと同時に叫び声がし、部屋に警官が踏み込んでくる。




 ・・・・・・・・・・・・・・


 助かったんだ。俺と、明日香は。



          ※           ※            ※



 警察がホテルへ突入するきっかけとなったのは、俺の通報だった。
 明日香の監禁が始まってから、2週間が過ぎた頃……つまりニュースで事件が報じられる見込みがなく、藪岡達が明日香を解放する気もないと確信した時点から、先輩達の目を盗んで何度か通報していたんだ。
 通報できるチャンスは毎回ほんの僅かしかなかったから、事件の内容もホテルの場所も、しっかりと伝えられたことはなかった。ひょっとすると、通報後しばらくは悪戯電話として処理されていたのかもしれない。あるいはパトカーの巡回路からも外されるような曰くつきの場所だけに、警察としてもそうそう踏み込めなかったのかもしれない。
 救出に時間が掛かった理由ははっきりしないが、ともかくホテルにたむろしていた連中は一網打尽となった。頭である藪岡はたまたまホテルに居なかったから、現行犯逮捕とはならなかったが、明日香の証言を元にしっかり指名手配されている。逮捕は時間の問題だ。前科持ちの上に、あれだけ悪質な行為を主導したんだから、捕まれば懲役20年は固い。
 藪岡の腹心である高根沢をはじめ、幹部連中はほとんどが捕まったから、事実上藪岡達のチームは崩壊だ。

 俺は警察の突入時に手錠を掛けられていて、明らかに被害者風だったし、なにより明日香が無実を主張してくれたおかげで、事情聴取だけで済んだ。
 その明日香は、保護されてから警察病院に移送され、しばらく入院する事になった。ホテルでは気丈に耐えていたが、無理が祟ってかなり身体にガタが来ていたようだ。そして、散々打ち込まれたシャブを体内から抜く必要もある。
 覚醒剤を抜くには、他の一般的な薬と同じく、肝臓の代謝を上げて尿として排泄するしかないらしい。シャブを止める時は普通、精神安定剤や睡眠導入剤なんかで辛さを紛らわせながらじっくりと抜くらしいが、明日香はそういったものを使わない方針を選んだ。そうする事でシャブの抜け具合は一気に早まり、常用者でも2週間ほどで尿検査に引っ掛からなくなるんだそうだ。
 ただし、薬で紛らわす事ができない以上、後遺症が激しい間は想像を絶する地獄。髪は抜け、目は窪み、幻聴と幻覚に悩まされ、いつ発狂してもおかしくないほどの躁鬱を繰り返すことになる……ネットにはそんな体験談もあった。
 俺は、そんな彼女と連絡先を交換した。やましい心でじゃない。何か俺にできることがあれば言ってくれ、苦しかったら言ってくれ。その気持ちからだ。
 彼女ともなれば親しい人間は多いだろうし、普通の相談ならできる相手もいるだろう。でも、あの地獄での体験は、同じ場に居なかった人間と共有するのは難しい。変に心配されて根掘り葉掘り訊かれたら、それこそ大変なストレスだろう。その点、事情を知る俺なら何かの力になれるんじゃないかと思った。そして明日香も、その提案を快諾してくれた。

 そして、ある日。明日香から、深夜に電話が掛かってくる。あの明日香がそんな時間帯に電話を掛けてくるなんて、よっぽどのことだ。通話ボタンを押す瞬間、俺の指はかすかに震えていた。
 通話状態が始まる。でも、一向に声が聴こえてこない。
「明日香?」
 俺が声を掛けると、電話の向こうで呼吸を整える気配が伝わってきた。緊張しているのか、それとも動揺しているのか。
「…………ごめんなさい。自分から掛けておいて悪いけれど、私いま、変な事を口走るかもしれないわ」
 何拍か置いて、明日香はそう言った。それを聞いて、俺はようやく事情を飲み込む。彼女は今、薬の副作用に必死で耐えているんだ。おそらくは不安でたまらなくなり、衝動的に俺に電話をかけてきたんだろう。あの、明日香が。
「声だけでも聞けてよかった。切るわね」
 明日香は力のない声で呟く。
「ま、待って!!」
 俺は、思わずそう叫んでいた。
「…………え?」
 怪訝な声がする。俺は動揺したまま、さらに続けた。
「そ、その、無責任な言い方かもしれないけど……明日香なら、きっと大丈夫!」
 俺の迷いまくりの言葉に対して、返事はない。でも、電話口でじっと次の言葉を待っている気配がする。だから俺は、深呼吸して続けた。
「そ、尊敬してるんだ! あれだけ色々やられても耐えてるの見て、その、凄いって思った。すごい頑張ってる時に頑張ってって言われるのは、嫌かもしんないけどさ……でも、頑張ってくれ。俺、明日香が元気になるの、待ってるから!! そうだ。こないださ、美味しそうなケーキ屋見つけたんだ。いつか元気になった明日香と一緒に、行きたいんだ。だから…………だ、だから」
 俺は、そこで言葉を切った。というより、次の言葉が出なかった。男のくせに、情けなくボロボロ泣いてしまっていたから。
 明日香は、しばらく黙っていた。電話を挟んで重い沈黙があった。
「…………ありがとう」
 沈黙を破ったのは、明日香からの感謝の言葉だ。
「えっ……?」
 今度は、俺が聞き返す番になった。
「今夜を越えたら、きっと楽になると思う。そうとはわかっていたけれど、今度ばかりは耐えられるか不安だったの。ほんとうに、つらくて。……でも今は、心の奥に支えができた気がする。私は、きっとこの暗闇から抜け出して、あなたの元に帰ってみせるわ」
 明日香の声は、泣き腫らした後の笑顔のようだった。
「…………おやすみなさい」
 穏やかな明日香の言葉が、通話の切れた後にも俺の耳に残っていた。俺の目からはまだ涙が伝っていたが、なんとなくそれは、嬉しいからだと思えた。

 そして、しばらく後。
 俺と明日香は、何度か遠慮がちに顔を合わせながら、気付けば付き合うようになっていた。『吊り橋効果』というやつかもしれないし、純粋に相性がいいのかもしれない。でも、理由なんてどうでもいい。ただ一緒に居て、幸せでさえあれば。
 ただ、明日香はものすごく忙しい。ただでさえ会社役員とイメージガールという2つの大役を負う人間だし、監禁と入院の間の仕事も相当溜まっているはず。明日香自身は「どうにか時間を作る」と言ってくれるが、もう俺のために無理をしてほしくはない。だから俺達のデートは、毎回かなり間が空いた。
 そして人目につく場所では、明日香はグラサンや帽子で変装する必要もある。なにしろ、式田証券のCMのおかげで全国的に顔を知られている有名人だ。それが俺のようなチンピラと交際していると知れたら、スキャンダルになってしまう。
 そういう諸々の事情はあったが、逆にそういう障壁のおかげで、逆に恋が燃え上がった。中々会えないからこそ、お互いにデートの日を待ち焦がれる。よく似合うグラサンで変装した明日香と会うと、まるでハリウッドモデルとでもデートしている気がして興奮する。

 初めてセックスをしたのは、付き合い始めて2ヶ月目の終わりごろだ。
 俺と明日香にとって、セックスは特別だった。なにしろ、あんな体験を共にしたんだ。それなのにセックスするなんて、という考え方もあるし、だからこそ、トラウマを払拭すべく愛し合うべき、とも言える。
 そして明日香は、俺とトラウマを払拭することを望んだ。
 俺達は『ラブホテルのベッドの上』で抱き合って、何度となくキスを交わした。地獄の日々の恐怖が甦ったのか、震える彼女を抱きしめながら。
 2人で過ごした最初の夜に、一体どれだけの体位でしただろう。
 あの外道共に共感する気は微塵もないが、確かに明日香のアソコは信じられないほど気持ちがよかった。あれだけ拡張されたのが嘘のように、数ヶ月ですっかり締まりが戻っている。挿れると生暖かいミミズがみっしりと押し寄せてくるようで、ぼーっとしているとまさに『あっ』という間に射精してしまいかねない。
「もう、早すぎるわ!」
 最初に挿入した時、10秒ともたずに発射した俺に、明日香はそう拗ねてみせる。
「わ、悪い……」
 恥ずかしさのあまり俯きがちに見た明日香の顔は、ホテルでは見たこともないほど柔らかく、慈愛に満ちた表情をしていた。それが俺に向けられているという幸せで、呼吸が苦しくなりそうだった。
 俺は時には彼女に奉仕し、時には彼女に奉仕されながら、明日香という女性の魅力に惹かれていく。でも同時に、所々であの日々の傷跡にも向き合うことになった。例えば、彼女のアソコはもう綺麗な縦線には戻らないし、アナルは窄まりには戻らない。ある程度整ってきてはいるが、使い込まれた年季は残っている。
 そして、もう戻らないものといえば、彼女の感じやすさもそうだ。少し割れ目を刺激するだけで、あふれるほど愛液が出てくる。
「あなたにされてるからよ」
 明日香はそう言うが、本当のところはわからない。
 でも俺は、そういう全部をひっくるめて明日香を愛した。何もかもを肯定する。彼女の何もマイナスにはさせない。恥ずかしがる性器を、最大限の愛情を込めて舐め、後ろから優しく抱きしめながら、いつまででも繋がりあう。
「…………幸せ…………」
 明日香は俺に抱きすくめられながら、震える声でそう言った。そして首を回して俺にキスしながら、熱い目を向けてくる。
「本当は最初、あなたと付き合うべきか迷っていたの。でも、付き合ってみてよかった。あなたがいなかったら、私はずっとセックスを嫌っていただろうし、もう一度自分を好きにもなれなかった」
 明日香が俺にくれたこの言葉は、こっちこそ、と言う他はない。大げさでもなんでもなく、俺はこの瞬間の為に生まれてきたんだという気がした。

 会えないもどかしさと、会えた時の嬉しさ。それを噛みしめている間に、春が巡ってくる。
 桜の樹の下で待ち合わせた日、俺は先に来ていた明日香の姿に目を見張った。
 確かオフショルとかいう、肩を大胆に露出させたフリルつきの白カットソーに、チェック柄のミニスカート、黒いサンダル。いかにも街で遊ぶ女子という風だ。そのガーリーな出で立ちは、普段のクールなスタイルとはあまりにも印象が違った。今はグラサンも帽子も着けていないが、変装の必要もないだろう。俺ですら、一瞬誰かと思ってしまうほどなんだから。
「ごめん、待たせちゃったみたいだな」
俺が頭を掻きながら言うと、明日香は笑顔で首を振った。
「いいえ、時間ぴったりよ」
 その笑顔はあまりにも綺麗だったし、普段のイメージとはギャップのあるファッションもあって、俺はつい明日香に見惚れてしまう。
「…………変かしら、この格好…………?」
 俺があまりにも見るので不審に思ったのか、明日香が表情を曇らせる。
「い、いや、そういうんじゃ!!」
「そう? 普段あまりこういう服は着ないから、勝手がわからなくて……」
 明日香は指を組みながら、不安そうに言う。
 確かに明日香といえば、パンツスタイルという印象が強い。ハーフ顔の上にモデル並みのスタイルだから、とにかくシュッとしたパンツが似合うんだ。それなのにわざわざガーリーな格好を選んだのは、俺との街デートに合わせてのことか。
「いや、全然変じゃない。その、かっ……可愛いよ」
もっと気の利いた言葉もあるだろうに、俺は顔を赤くしてそれだけ言うのが精一杯だった。
「…………あ、ありがとう」
 明日香も色白な頬をわかりやすいぐらいに赤らめて、感謝の言葉を呟いた。
 21歳同士のデートにしては、少しウブすぎやしないか。俺は心の中でそう突っ込んだ。でも、仕方ない。パシリの不良と、仕事一筋の令嬢。どっちも恋愛の経験値なんて、ほとんどないんだから。

 普段は食べないようなとびきり豪華なケーキを堪能した後、話題の映画を見終わると、もう日が沈みかけていた。
 動悸が早まる。時間も時間だ、ここからは大人の時間……という流れになっても不自然じゃない。ないが、つい最近したばかりだから、いまいち言い出しづらい。それに、明日香の態度も気がかりだ。疲れたのか、それとも何か気に障ることをしてしまったのか。デートの途中から、急に口数が減っていた。
 だから俺は、自分でも嫌になるほど消極的にアピールする。駅へエスコートするふりをしながら、さりげなくラブホの多い通りへ向かうという。もし明日香の方から休憩を申し出てくれるようなら、諸々の悩みが一気に解消する。
 でも。怪しいネオンが見えはじめ、俺の意図を察したらしい明日香は、申し訳なさそうに頭を下げた。
「今日はこれから、用事があるから……ごめんなさい」
 そう言われては、引き止める事もできない。
 彼女が忙しいのは十も承知だ。たとえ夜でも……というより、夜こそ予定が立て込んでいるようだった。なんといっても、成長めざましい新興証券会社の役員兼イメージガール。当然、夜に開かれる何かのパーティーで、グラス片手に商談という機会も多いはずだ。
 実際明日香は、そういうパーティーの写真をよく俺に送ってくれていた。ご馳走の写真だとか、高層マンションのバルコニーに設けられたナイトプールの写真なんかを。金持ちの嫌味だ、と冗談で拗ねてみせたら、『ごめなさい、そんねつもりじゃなあったの!』と誤字だらけのメールが届いた後、すぐに謝罪の電話が掛かってきた。電話口で「冗談だ」と言うと、拗ねたような声が聴こえてきたっけ。
「い、いや、仕方ないって。俺こそ、その……ごめん」
 きっちりと謝ってくれる明日香に比べ、俺は何とも歯切れが悪い。明日香はそんな俺に近づき、少し周りを見回すと、
「んっ!?」
 壁へ押し付けるように、俺にキスをした。舌を触れ合わせる、長いキスだ。こんな事を彼女の側からしてもらえる幸運な男が、俺以外にいるか。いや、いない。俺はふわりとした香水の良い匂いを胸いっぱいに吸い込みながら、至福に酔った。
 数十秒の後。ようやく、唇が離される。
 目を開くと、明日香の濡れたような瞳が間近にあった。
「…………好きよ」
 熱い吐息のようなその告白に、俺の動悸はいよいよ早まる。
「本当は、もう何もかも投げ出したい。全部忘れて、あなたとずっと抱き合って、一緒に過ごしたい」
 濡れたような瞳が、本当に涙を滲ませる。そこまで本気で想ってくれるのは嬉しい。でもここで、全部捨てろ、なんていうのは本当の愛じゃない。仕事や肩書き、プライド、恋心。そういうもの全部ひっくるめての明日香なんだ。彼氏なら、式田 明日香という女性を丸ごと尊重して、支えるべきだ。
「そういうわけには、いかないだろ」
 明日香の髪を撫でながら、囁く。
「…………わかってる。ちょっと、甘えてみただけよ」
 両手で強く俺を抱きしめた明日香は、吹っ切れたように笑顔を見せた。
 
 小さくなっていく明日香の背中を見送りながら、俺は呆然と立ち尽くす。
 今夜は、どんな豪華なパーティーに呼ばれてるんだろう。明日香は、ドレスに着替えてそこへ参加するんだろうか。
 煙草を取り出して一服しながら、明日香のドレス姿を思い描く。妄想の中の明日香の衣装は、いつの間にか白いウェディングドレスに変わっていた。
「気が早ぇよ、バカ」
 つい独り言を漏らし、通りかかったカップルに変な目で見られてしまう。
 ラブホテルでの一夜がフイになったというのに、俺はどうしようもなく舞い上がっていた。いつか本物の明日香の花嫁衣裳が見られる……その確信があったからだ。

 何もかもが上手くいく。そんな希望を胸に、俺は機嫌よく路地をぶらついていた。だがその俺のバラ色の心は、その数秒後に凍りつく。
「おい」
 ガラの悪い呼びかけに、俺は固まる。振り向くと、そこには…………高根沢がいた。
「え?」
 間抜けな声が出る。頭が状況を把握していない。
 どうしてここに、高根沢が。奴はホテルで現行犯逮捕されたと聞いている。あの事件からすでに半年近く経ってはいるが、あれだけの犯罪の主犯格がたったの半年で釈放になるわけがない。なら、何故。
「ちょっとツラ貸せよ。呑気にブラブラ歩いてたんだ、時間はあるよな?」
 有無を言わせぬ口調。八木達を殴り倒していた光景がフラッシュバックする。従うしかない。下手に逆らっても結末は同じで、より悪い状態になるだけだ。


    ※           ※            ※


「…………なんで、っスか」
 夜のファミレスで向かい合ったまま、俺は高根沢に尋ねた。緊張で言葉が出ない。
「ンだそりゃ? 雑な質問だな。俺がなんでシャバにいるんだ、ってか?」
 高根沢はそう言ってコーヒーカップを手にする。俺は力なく頷いた。
「逮捕された人間が、全員漏れなく実刑喰らうとでも思ってんのか?
 抜け道があんだよ、どんな事にでもな」
 馬鹿にしきった笑いに続いて、コーヒーを啜る音がする。俺は奴の視線を受け止めきれず、視線を下げた。
 抜け道。つまりコイツは、逮捕を免れたのか。どうやって?
 …………いや、そうじゃない。今この瞬間に考えるべきは、それじゃない。

 何 の 用 だ ?

 例の件を警察に通報したのがバレたのか? いや、それはないはずだ。そもそも俺は、警察が踏み込んでくる半月以上前から、藪岡に逆らった罰として手錠付きでホテルに監禁されていた。アリバイとしては充分で、通報した容疑者の可能性は低いはずなんだ。
 でもどうやら高根沢は、俺に敵意を持っているらしい。
 そうだ。そもそもコイツらは、道理や理屈ありきで動くほど律儀な連中じゃない。『そそる女だから』という理由で衝動的に明日香を攫ったように、『疑わしい』という理由だけで誰かを的にかけてもおかしくない。そして一度追い込むと決めれば、相手の弁明や命乞いなど一切聞かない。そういう奴らだ。
 なら、どうする。どうやってこの状況を切り抜ける。
「よお。ところで……瑞希センパイ、元気してっか?」
 色々と思考を巡らせている俺に、いきなりその質問が来た。心臓がまた凍りつく。

 瑞希センパイとは、俺の姉貴、福原 瑞希のことだ。俺より6つ上の27歳。つまり藪岡や高根沢よりも、さらに3学年上の大先輩にあたる。
 姉貴は学生のころ陸上をやっていて、何度か大会で入賞したりもして結構有名だった。いつも教師や優等生連中に囲まれている、まさに学校の人気者。そうして表の世界で賞賛される一方で、姉貴は不良連中にも注目されていた。
 ケダモノに人気の理由は単純明快、乳がでかいからだ。小5にしてすでにCカップあった姉貴は、同級の中で一番早くブラを買う必要ができ、『なんであたしだけ』とボヤいていたものだった。
 ウチの学区は小学校と高校がすぐ隣で、小学校側の一部の教室からは高校の校庭が見える。だから俺が小学校の頃は、高校のグラウンドに姉貴を見つけて興奮するクラスメイトが山ほどいた。マラソンなどで走っていると、体操服の胸の部分がぶるんぶるん揺れて、ガキ共のいいオカズになったようだ。
 それに姉貴は、胸がでかいだけじゃない。顔も割と整っているし、陸上をやっているせいで少し足は太いものの、スタイルだってそう悪くない。上半身に限れば、少年誌の表紙を飾るようなグラドルと肩を並べられるレベルだ。
 それだけのルックスと運動神経がありながら、成績だって悪くはない。うちは母子家庭で貧乏だったから、姉貴は高校を出てすぐに就職したが、高校の担任も母親も口を揃えて『大学へ行かないと勿体無い』と言っていた。
 今思えば、ごく身近なスケールでの明日香みたいだ。あいにく貧乏暮らしで、間違ってもお嬢様とは言えないが。

 そんな存在が実の姉なんだから、同級生からは随分と羨ましがられた。
「おい、見ろよ。お前の姉ちゃん走ってんぜ!」
「相変わらずスゲー乳だな……っとやべ、勃ってきちまった」
「なあ、いい加減姉ちゃんの着替えか、できれば風呂の写真撮ってきてくれよ。カネ払うからさ、頼むってマジ……!!」
 そんな会話は毎日のようにされた。俺は一貫して興味ないフリを続けていたが、内心では誇らしかったものだ。
 ただ、優秀な姉を持つってのも良い事ばかりじゃない。何をやっても平均以上の姉と比べられる弟っていうのは、中々に不幸だ。
『お姉ちゃんはあんなに……』
『それに比べてお前は……』
 お袋も教師連中も、果てにはクラスメイトすら、口を揃えてそんな事を言う。俺が不良の道に逸れた原因は、一番は俺が半端者のヘタレだからだが、こういう事情の影響が全くなかったわけじゃない。
 そして俺は個人的にも、姉貴が苦手……というより、頭が上がらなかった。ウチは母子家庭で、パートを掛け持ちしているお袋があまり家にいなかったから、実質姉貴が俺の母親代わりだった。「バカ!」が口癖で、箸の持ち方や爪を噛む癖なんかを、事あるごとにうるさく注意された。
『母子家庭の子だから品がないんだ、とか言われてもいいの!? そうなったら、母さんがどんだけ悲しむと思うの!!』
 窓が震えるような声量で、そんな説教を耳にタコができるほど聞かされた。
( 家でまで優等生ぶりやがって…… )
 俺は当時そう不満を持っていたが、今なら俺を心配するからこその小言だったんだとわかる。
 そう。姉貴はガキの俺を、間違いなく大事に思っていてくれた。
 姉貴の20歳の誕生日に、イヤリングをプレゼントしたことがある。先輩の彼女のお下がりとして安く買った物だが、宝石のような紅いガラスが揺れる、結構可愛いやつだ。ガキが買える中では上物だった。
「中学生がイヤリングなんて、生意気ね。ま、ありがたく貰っとくけど」
 プレゼントした瞬間は照れ隠しでそう茶化されたものの、その夜、風呂上りにリビングを覗くと、一人でイヤリングを眺める姉貴の姿があった。椅子に座ったまま足をぶらつかせ、上機嫌に鼻歌を口ずさみながら。不覚にも可愛いと思ってしまうほど、幸せそうな横顔だった。
 それが、俺の姉貴だ。

「……姉貴が、どうかしたんすか」
 俺は高根沢を見上げながら尋ねる。胸の中で嫌な予感が膨らんでいく。
「ほー。どうもしねぇと、訊いちゃいけねえのかよ?」
 高根沢が、眉を寄せて凄んでくる。どちらかといえば線の細い不良なのに、この威圧感は何だ。震えが来る。喉元へナイフを突きつけられたように。
「……い、いえ! す、すません!!」
 俺は反射的に謝ってしまう。こんなクズに、明日香を弄んだ外道に、頭を下げたくなんてないのに。そんな俺を、高根沢は鼻で笑う。
「ま、そりゃ冗談としてだ。ただ気になっただけよ。知ってんだろ? 俺もヤブも、中坊ン頃はお前の姉ちゃんが一番のズリネタだったんだ。っつーか、この辺りのゴロツキは皆そうだったがよ」
 改めてそう言われると、胸がムカムカする。姉貴が穢されるようだ。
 でも俺は、同時に安心してもいた。相変わらず奴の真意は見えないが、少なくとも今はまだ世間話の段階らしい。
 もっとも、落ち着いて考えれば当然の事だった。姉貴はもう何年も前にこの町を出て、都会で事務の仕事に就いている。たまたま車で拉致できた明日香と違って、片田舎のチンピラが遊び半分で手を出せるような場所にはいないんだ。
「あ、ハハハ……気にかけてくれて、どもっス」
 俺は上っ面で感謝しながら、高根沢の意図を探る方向へ頭をシフトさせていた。
 でも。
 姉貴の話題は、まだ切り替わってはいなかったんだ。
「そりゃ気にするぜ。なんせ、あんまりにもオメェの姉貴ソックリな女が出てる動画、見つけちまったもんでよ」
 高根沢はそう言って、服のポケットから何枚かの写真を取り出した。
 乱雑にテーブルへばら撒かれた写真に、視線を落とす。
 どの写真にも、裸の女が写りこんでいた。ある写真では、前後から男に犯され。ある写真では、ハードなSMプレイをさせられ。
 目にモザイクが入っているため、はっきりと顔はわからない。でも、女のルックスには見覚えがあった。

 スポーティな印象を受ける、首後ろまでのやや外跳ね気味の髪。
 グラドルを思わせる、ぽてっとした少し厚めの唇。
 無駄な肉のない、すっきりとした顎。
 一見引き締まってはいるが、本職のAV女優と違い、屈むと少しだけ肉の寄る腹。
 細い腕とやや不釣合いな、腰周りと同じぐらいある健康的な太腿。
 ゆうにFカップはあるだろうボリュームのある乳。
 右肩と右乳房外側のホクロ。

 何もかもが一致していく。
 ついさっき、高根沢の一言で脳裏に浮かべた姉貴の姿と。寸分違わず。
「な? ソックリだろ?」
 高根沢がそう言って笑った瞬間。
「あ……ああああぁっ!!!」
 俺は思わず叫んでいた。その俺の顎を、すぐに高根沢が掴む。
「……騒ぐんじゃねぇ。迷惑だろうが!」
 ヤの字さながらの凄みだ。迷惑? 誰の。俺以外の、誰の?
 自分の迷惑になるってことか、この犯罪者め!
「な。なんあんれすかこれっ!?」
 顎を掴まれながら、俺は問いかける。
「俺に訊くんじゃねぇよ。ツレから教えられたエロ動画サイトに、たまたま瑞希センパイとソックリのM嬢がいた。そんだけだ」
 高根沢は俺の顎を突き放すと、煙草を取り出して火を点ける。コイツが煙草をふかし始めるのは、多くは答えない、喋りかけるなという意思表示だ。
 俺は高根沢から視線を切り、震えながら写真を眺め回す。目が滑る。どれも見たくない。でも、見えてしまう。
 柱を背にした胡坐縛りのまま、前後の穴にバイブを嵌め込まれ、極太のイチモツを根元まで咥え込まされて、大量に嘔吐しながら涙を流している写真。
 這いつくばって泣き叫ぶ女の後ろに、刺青男が座り込み、女の脚の合間へと太い腕を伸ばしている写真。
 大口を開けた口いっぱいに、排泄物を詰め込まれている写真……。
 どれも覚えがある。あのラブホテルで、明日香が受けた責めそのままだ。
 ただし、中には明日香の記憶と一致しない写真もあった。右頬を赤く腫らし、少なくない量の鼻血を垂らしている一枚だ。
「……な、なんです、か、これ…………!?」
 俺は、思わず高根沢に問いかける。煙草を吸っている最中だが、もうそれどころじゃない。高根沢は、そんな俺の余裕のなさを薄笑みを浮かべながら観察していた。
「そりゃ、右に一発カマされたんだろ。鼻血の量から見て、野郎のマジ殴りを」
 やっぱり、そうだ。何が原因かまではわからないが、姉貴は殴られたんだ。多分、他の写真に映っている奴と同じような、ガタイのいいチンピラに。
 殴られた写真の女は、明らかに恐怖に震えていた。いや、その一枚だけじゃない。どの写真も、どの写真も、明日香が受けていた時よりも遥かに怯えた表情を浮かべている。精神力の違いか、あるいは明日香の時とそもそもの条件が違うのか。
 高根沢が大きく煙を吐き出し、灰皿で煙草を揉み消す。
「ま、世の中にゃ瓜二つの人間が3人いるっていうしな。よく似ちゃいるが、これが瑞希センパイなわきゃねーよな」
 そう言って席を立とうとする高根沢の手を、思わず掴む。
「何だ?」
 冷たい目。でも、ここで退く訳にはいかない。確実に、姉貴に何かが起きてるんだから。
 姉貴に何をした、とダイレクトに訊いてもしらばっくれるのは確実だ。だから俺は、あえて奴の白々しい作り話に乗っかる。
「お、俺にも、そのサイト教えてくださいよ……!!」
「あ? オイオイ、姉貴そっくりのオンナで抜く気か? 正気かよ」
「ま、マジっす!!」
 あくまで食い下がると、高根沢が笑みを深めた。端から奴は、俺がこう言うのを待っているんだ。だからこそこうして、直に餌を撒きに来た。俺は、それを承知で食いつくしかない。たとえ喉元に針が突き刺さるとわかっていても。
「その写真はやるから、裏見てみろ。じゃあな」
 高根沢はそう言い残し、ファミレスを後にする。
 言われた通りに写真を裏返せば、あるURLとパスワードが載っていた。俺はその文字列を眺めながら、しばらく呆然としていた。

 何となくはわかっている。
 連中が、俺こそ通報者だと的を絞り、グループを崩壊させた事の報復(カエシ)を仕掛けてきたこと。その悪意の矛先が、姉貴へと向いたこと。
 でも、とても信じられない。あくまで他人の空似だと信じたい自分がいる。
 大体、さっき自分でも考えたじゃないか。姉貴はとっくにこの町から出ているんだ。まさか他所の県に出てまで、10年来勤めているOLを攫うか? いや、ない。いくら何でも、そこまで無茶苦茶をするわけがない。
 縋るような想いを抱きながら、俺はスマホを取り出した。
 軽い気持ちで、姉にLINEを打つ。既読は……つかない。とはいえ、当然だ。こんな夜中にいきなりメールして、即答はありえない。なら、電話だ。

『おかけになった電話は、電波の届かない場所にある、または電源が……』

「くそおおおおおっ!!」
 無機質な機械音声が、俺の感情を波立たせる。
 手が震えてきた。その震えでスマホが机に当たり、耳障りな音を立てる。
 こうなれば最後だ。選ぶのは、もう随分と顔を合わせていない、お袋の番号。
 コール音。
 コール音。
 コール音。
 コール音。
「…………もしもし」
 4回目でやっと、声がした。お袋の声だ。気のせいか、ひどく疲れている。
「あ、あの、お袋…」
 震えすぎている声を整えるべく、大きく息を吸い、吐き出す。
「あ、ああ、あの、あねき、姉貴っ、さ、最近なんか、変わったこと……ない?」
 声の震えが余計にひどくなった。ファミレスのソファに座っているのに、膝がガクガク笑う。
 下手な切り出し方だ。世間話を装って母親の近況を聞いた後、ついでに質問する……というように、他のやり方はいくらでもあるはずだった。でも姉貴の事が心配すぎて、全然頭が回らない。ここで落ち着くには、母親から『何も変わったことなんてないよ』とお墨付きを貰うことだけだ。それさえ訊ければ、『いつまでもフリーターなんてしてないで』だの、いくらでも小言を聞いてやる。だから、頼む。
 でも、お袋の口から出た言葉は、俺の願いとは違っていた。
「お姉…ちゃ…ん?」
 ただの家族の話なのに、一語一語確かめるような復唱。嫌な予感が一気に強まる。
「あ、ああ」
 俺は、ツバを飲み込む思いで相槌を打った。すると、電話の向こうでお袋が息を吸い込む音がした。
「それが、それが変なのよっ! あのマメな子が、メールの返事も全然しないし、電話しても出ないの! もう、何日も!!!」
 聞きたくもない、母親の悲痛な叫び。心臓が凍りつく。
「ねぇ、あんた! なんでこの電話掛けてきたの? まさか、何か知っ…………!!」
 お袋の追求が始まった瞬間、俺は思わず電話を切っていた。折り返しが怖く、そのまま電源ボタンを長押しして完全に沈黙させる。
 頭を抱える。
 どうにかして楽観視しようとするが、何ひとつ安心するネタが見つからない。

「あの、お客様……大丈夫ですか?」

 とうとう、店員が確認にきた。俺はそれから逃げるように、精算を済ませて店を出る。
 もう春だというのに、ひどく寒い夜だ。それはまるで、厳しい現実から目をそらそうとする俺を叱っているようだった。
 そうだ。何をどうグチャグチャ考えたって、結論は同じ。まずは事実を確かめるしかない。
 俺は朦朧とした意識で家に帰りつき、パソコンを起動する。ネットへ繋いですぐに、写真裏のURLとパスワードを打ち込んでいく。

『 ようこそ ゲスト 様
  プラチナ会員 TNZ 様からの招待を確認しました。 』

 一瞬、そんな小画面が表示される。どうやら招待制のクローズドサイトらしい。
 小画面が閉じた後、黒背景の中に、血のような赤文字が浮かび上がる。

『人格崩会 マインドクラッシャーズ』

 それがサイト名らしい。
 たかが漢字とカナの文字列が、ここまでおぞましく思えたのは初めてだった。



                                (続く)
アクセスカウンター

    ありがたいコメント
    さくさく検索
    月別アーカイブ
    メッセージ

    名前
    メール
    本文
    プロフィール

    kunsecat

    • ライブドアブログ