大樹のほとり

自作小説を掲載しているブログです。

連続絶頂

ドリーミィ・カプセルvs冴草里奈

※『ドリーミィ・カプセル』および『AV女優 冴草 里奈』の続編です。
機械姦注意。また微スカトロ(ドナン浣腸とゼリー排泄、失禁)要素があります。ご注意ください。





 ────AM7:30  エステ『ドリーミィ・カプセル』バックヤード────


「なによ宏尚(ひろなお)、あんたこんな朝っぱらからAV観てんの?」
 店のモニタールームを覗き込んだ安西 翔子が、意外そうに目を丸くした。
「な、なんだよ……悪ぃか?」
 宏尚はバツの悪そうな顔で応じる。
「別に悪いとは言ってないでしょ。でもあんた、『店の映像で女のハダカなんていくらでも見られるんだから、AVなんて観る気しねー』とか言ってたじゃん」
「ぐっ……!」
 確かに思い当たるフシがあり、宏尚は言葉に詰まった。
 女性用性感マシン『ドリーミィ・カプセル』は、その名の通り女性に夢のような体験をさせる機械だ。人間相手では実現しえない、機械ならではの責めの数々で来店者を悶え狂わせる。そのサービスを提供する裏で、宏尚はマシン内部の映像を個人的に堪能する趣味があった。話題につられて来店した若く美しい女性が、機械の無慈悲な責めにのけぞり、痙攣し、ついには涙ながらに哀願さえする無修正映像は、一般的なアダルトビデオよりもよほど刺激的だった。
「うるせーなあ。AVっつっても、この人のだけは別なんだよ!」
「はいはい、キレんなってモジャブタ」
 憮然とした表情でモニターを示す宏尚。翔子はその態度を鼻で笑いながら、モニターに視線を向ける。小馬鹿にしたようなその表情は、しかし、徐々に驚きへと変わっていった。
 究極──そんな言葉が翔子の脳裏に浮かぶ。
 その映像の中に、半端なものは一つとして存在しなかった。老いを感じさせる色黒のAV男優の巧みな前戯。雄々しい巨根によるスムーズな3穴責め。人並み以上にセックス経験のある翔子には、それらがどれだけ『たまらない』かが良く理解できる。ほんの数分ばかり映像を見ただけで、思わず股間が疼くほどに。
 その責めを一身に受ける女優もまた、凡庸ではなかった。激しく喘ぎ、乱れながらも、美しいという印象が崩れない。ルックスも女優顔負けのレベルだが、何より身に纏うオーラが異質だった。アダルトビデオなどには縁遠い良家の令嬢にも見える。逆にAV女優こそ天職の淫魔にも見える。綺麗さ・可愛さ・純真さ・妖艶さなど、女性としての魅力の全てを兼ね備えた、まるでヴィーナスの化身だ。
「…………っ!!」
 今度は翔子が絶句する番だった。
 翔子もルックスには自信がある。最上級の織物のような長い黒髪。 猫のようにくっきりと開いた吊り眼。スペイン系クオーターゆえの完璧すぎる鼻筋。 見事な八頭身のスタイル。その暴力的なまでの見目の良さで、高校時代は男子人気を独占し、女王のように君臨していた。だが、もし高校時代にあの女優がいたなら……ルックスの良さで翔子と競り、独特のオーラを放つあんな同級生がいたなら、翔子が牙城を築くことなどできなかっただろう。
「ふーん。まあ綺麗めだけど、今どきのAV女優でこれぐらいのルックスなんて普通でしょ」
 翔子はそう捨て台詞を吐くのが精一杯だった。しかしその渾身の恨み節にも、宏尚は動じない。むしろ、にやりと笑ってみせた。
「普通かあ。でも、だとしてもヤバいぜ。だってこの人、このAVん時で32だし」
「さんっ……!?」
 翔子はまたしても絶句する。改めて画面を見ても、悪い冗談としか思えない。見た目の印象、雰囲気、肌の艶や汗の弾かれ方……どれもがせいぜい女子大生レベル、下手をすればティーンのそれだ。今まさに喉奥まで咥え込まされて噎せ、ふっと上を向いた顔などは、幼い少女にすら見える。
「信じられねーだろ。でもホラ、もう10年以上AV出てる大ベテラン!」
 宏尚はそう言ってモニターデスク横のラックを開く。そこには同じ女優名のビデオがずらりと並んでいた。その数は数百にも及ぶ。あのヴィーナスの魅力がそんなにも世に発信されているという事実に、翔子は眩暈がする思いだった。
「あれ、つか待って。この人、『冴草 里奈』って……?」
「お、気付いた? そ、今日AVの撮影したいってオファーがあった女優。あのAVクイーンにナマで会えるって思ったらテンション上がってさあ、コレクション観返してんだよ!」
 アダルトビデオのパッケージを撫でながら、デレデレと頬を緩める宏尚。そんな姿を前に、翔子は冷ややかな視線を浴びせる。
「ま、そういう訳だから。よろしく頼むよ、『助手』クン!」
「……お前、マジでまたイジメんぞ?」
 超人気エステ『ドリーミィ・カプセル』に冷ややかな空気が立ち込める。その原因となった冴草 里奈は、その頃……


 ────AM7:50  マンション『リーゼロッテ朝陽』205号室────


「よく飲むねーユウくん。ママのおっぱい、好き?」
 夢中で母乳を吸う息子に、AVクイーン・冴草 里奈は愛おしそうな笑みを向ける。彼女が撮影で見せてきたどんな表情とも違う、慈しみと希望に満ちた笑顔だ。
「はーあ、離れたくないなー。一日が100時間くらいあればいいのに。そしたら90時間はユウくんと一緒にいられるよ」
 満腹になった息子をあやす動作も、すっかり板についていた。
「一日が100時間もあったら、子供なんてあっという間に大きくなって抱っこできなくなるよ」
「んー、そっかぁ。シュンくんが言うと説得力あるね。ちょっと前まで子犬みたいだったのに、グングン大きくなっちゃってさ」
 里奈は背後から近づく男を見上げる。男……駿介は里奈が抱く子供の父親だ。以前は里奈の後をついて回るだけの子供だったが、それから2年経って18歳となった今では、軽く里奈の背丈を越えていた。
「僕だってもう一児の父親なんだから、子供のままじゃいられないって」
 駿介はポンポンと息子の頭を撫でると、デスクに座って仕事に勤しみはじめた。
 駿介は高校生でありながら凄腕の動画編集者だ。表立っては言えないが、ここ最近の里奈のAVのモザイク処理や編集・PR等はすべて駿介の手で行われており、その手腕は古参のファンからも高い評価を受けている。将来的にはAV監督になり、『冴草 里奈』という最高の逸材をプロデュースする夢を持っているが、それは里奈本人にも話していない密かな野望だ。
「そういえば、母さんもうすぐ来るって」
 駿介はふと思い出し、里奈の方を振り返った。愛息子の額にキスをしていた里奈は、その言葉にびくりと肩を震わせる。
「そ、そっか。お義母さんにはいつもお世話になりっぱなしで申し訳ないなぁ」
「別にいいでしょ、母さんも好きでやってるんだろうし。やりたくないことは意地でもやらないタイプだから」
「そうは言ってもねぇ……」
 いつも自分の哲学に沿ってハキハキと話す里奈だが、珍しく歯切れが悪い。しかしそれも当然だった。なにしろマンションの隣に住む高校生に手を出し、子供まで設けたのだ。その母親に対して頭が上がらないのも無理はない。
 とはいえ、駿介の両親は諸々の事実を伝えられた時、一言も里奈を責めなかった。自分たちは冴草里奈という人間を信頼しているし、息子もまた一時の感情で告白するような子供とは思っていない。当事者の2人が本気で愛し合っているなら、こちらも全力で応援する。そう宣言し、実際に母親は忙しい里奈に代わって孫の面倒を積極的に見ていた。

「……あ、そろそろ出ないと」
「っ!」
 里奈が時計を見て呟くと、今度は駿介の顔が強張る。
 今日の里奈の撮影は、『ドリーミィ・カプセル』と呼ばれるマシンの体験ドキュメンタリーだ。オファーを受けてネットで情報を調べたところ、かなり強烈な代物であることがわかった。ドリーミィと名がつく通り、そのマシンは女性を夢見心地にする。しかしそれはメルヘンチックな意味とは程遠い。一度『ドリーミィ・カプセル』の快感を知った女性はその味を忘れられず、夫や恋人を放置して足しげく店へ通うようになるという。ネットには、マシンに最愛の女性を“寝取られた”男達の怨嗟の声が渦巻いていた。
『まるでホスト狂いか、ドラッグの依存症ね。そんなに凄いのかしら』
 青ざめる駿介の横で、里奈は興味深そうにそう呟いた。冴草里奈という女性は知識欲の塊だ。高学歴な才媛でありながらAVという世界に身を置いているのも、性への飽くなき探求心があればこそだ。そんな里奈が、『ドリーミィ・カプセル』に興味を示さないはずがなかった。予約殺到の店だけにAV撮影の日取りが決まるまでは数か月かかったが、里奈はずっとその日を心待ちにしていた。だからこそ駿介は行くなとは言えない。かといって、心配するなというのも無理な話だ。
「……里奈さん、待った」
 駿介は椅子から立ち上がり、靴を履きかけの里奈を抱きしめる。そして、自然な流れで唇を奪った。
「ん……っ」
 高校生とは思えぬほど巧みなキスだ。唇は生き物のように蠢き、口内に侵入した舌先は里奈の歯茎、舌の付け根、そして上あごの粘膜を丹念に舐めまわす。
「んんっ、んんんんっ……!!」
 里奈はゾクゾクと身を震わせ、たまらずに駿介の胸を押しのける。唾液の糸を引きながら口が離れた時、里奈の頬は紅潮しきっていた。
「はあっ、はあっ……もう、シュンくんっ! キスだけでイカせるつもり!?」
「そうだよ? 出かける前にちゃんとマーキングしとかないと。『ドリーミィ・カプセル』だかなんだか知らないけど、機械なんかに僕の里奈さんは渡さない」
 笑顔でそう言い放つ駿介。里奈は口元を拭い、やや悔しげにその顔を睨み上げる。

「あんのチビちゃんめぇ。ホント、やってくれるわ……!!」

 外は日和も良く、朝から少し蒸し暑い。しかし里奈が手うちわで顔を扇ぐのは、また別の理由らしかった。


                ※


「よ、ようこそ、お待ちしてました」
 事前にシミュレーションを重ねたにもかかわらず、宏尚は初めの挨拶を噛んだ。満を持して対面した本物の『冴草 里奈』に呑まれたからだ。AV業界のトップタレントだけに引き連れるスタッフの数も多く、大物感が増しているのもある。しかし何といっても、里奈本人の纏うオーラが一般人とは明らかに違った。

(……なんなの、この女……!?)

 撮影陣を迎え入れた安西 翔子も、同じく舌を巻く。学生時代は学園のマドンナ、社会人になってからはスーパーモデルとして男の視線を釘付けにしてきた自分が、一瞬にして脇役に成り下がったのを感じる。ルックス云々の話ではない。もっと根本的な部分が違う。
「お忙しい中、お時間を頂き有難うございます。今日は色々と勉強をさせていただきます!」
 カリスマAV女優は、そう言って恭しく頭を下げた。場慣れしているがゆえの社交辞令に違いない。実際には擦れた人間で、撮影が終われば煙草をふかしながら「生意気なガキ共め」と陰口を叩くに決まっている。しかし里奈の人懐こい笑みを見ていると、本当にこちらを尊重してくれているのでは、という気分になってくる。

(ウラの業界に長く居座ってるだけはあるね。人誑しの女狐が)

 早くも鼻の下を伸ばしているパートナーの後ろで、翔子は無表情のまま毒づいた。


「……なるほど、だから暗いカプセルの中でも肉眼に近いレベルで撮影ができるのね。スマホのアプリと似た感じに思えるけど、あっちは動きの激しい物の撮影は上手くいかないと聞いたわ」
「さすが、よくご存じですね。そこには勿論改良を加えていて……」
「……ああ、なるほど! 凄いわねぇ、よく考えられてるわ」
 撮影の準備が整うまでの間、里奈は積極的に宏尚に話しかけた。システムに関する質問を次々に投げかけ、宏尚の答えに一喜一憂する。宏尚はそんな里奈の姿に見惚れた。自然とタメ口になっているが、不快感はない。むしろ距離を詰めてくれたことが嬉しくさえある。

(なんていうか……魅力の塊って感じの人だな)

 宏尚は呆けた頭で思う。様々なものに興味を持ち、くるくると動く瞳は愛らしい。納得して頷く姿は理知的であり、ふとした瞬間に見せる表情は聖母のようだ。
 こんな彼女の妊娠が公表された時、ファンの受けた衝撃は相当なものだった。芸能アイドルの熱愛報道すら凌ぐ反響があった。しかし冴草 里奈はアイドルではない。貪欲な彼女は妊娠さえプラスに捉え、妊婦物AVというジャンルに飛び込んだ。妊娠初期から出産間近な時期までに、各レーベルから発売された作品は実に22本。瑞々しくも妖艶なAVクイーンが腹部だけを歪に膨らませ、母乳を噴きながら絶頂するそれらの映像は、多くのファンに新しい扉を開かせた。
『完全にやられた。もう経産婦じゃないと抜けねえ』
『あれ見た後に19歳の処女喪失モノ観たけど、味のしないガムみたいだった』
 里奈の非公式ファンサイトには、連日こうした感想が書き込まれていた。そして衝撃を受けたのはファンだけではない。カリスマ男優として業界内で里奈と双璧を為し、長らくのパートナーでもあった増谷準が、妊婦物作品を最後に里奈との共演NGを表明した。
『恥ずかしいハナシだけどさ。今さら完全に惚れちゃったんだよね、あの子に。男優ってあくまで役者だから、女優に入れ込んじゃダメなんだよ』
 AV産業を黎明期から支え、現人神とまで呼ばれた増谷準。それを篭絡せしめた今の里奈は、名実共に最高のAV女優といえる。

「冴草さま。まもなく撮影の準備が整うとのことです」
 翔子が事務的な口調で里奈を呼ぶ。
「分かったわ、ありがとう。店長さんも、色々教えてくれてありがとう!」
 里奈は宏尚に満面の笑みを向ける。宏尚は一回りほども年上の相手を、思わず愛らしいと思った。
「あ、いえ! 里奈さんも、その、実験する側がこういう事言うのもアレなんですけど……頑張ってください!」
「ええ、AVクイーンの意地を見ていてちょうだい。……みんな、最高の映像を作るわよ!」
 宏尚に改めて笑いかけ、プロの顔になってスタッフへ檄を飛ばす里奈。その姿を宏尚はボーッとした視線で追った。斜め前に立つ翔子の、苛立たしげな歯噛みにも気付かずに。


                ※


 宏尚が初めて目にするアダルトビデオの撮影現場は、なんとも落ち着かないものだった。『ドリーミィ・カプセル』本体を映す三脚つきのカメラが2台、機械内部の映像を映し出すモニターの正面にもカメラが1台。他にもマイクを構えたスタッフや照明機材も存在するため、部屋が狭く感じる。普通の撮影ならばそこに男優まで加わるのだから、さぞや騒々しいことだろう。
 そんな中で最初に行われたのは、予約特典用の動画撮影だった。
 シャワーブースの戸を開け放ったまま、艶めかしく身体を洗う里奈を映したものが<店舗予約特典>。
 風呂上りの里奈にM字開脚をさせ、クスコで開いたプレイ開始前の膣内状態を撮影したものが<WEB予約特典>。
 この2つの撮影風景を見ているだけでも、宏尚は鼓動が早まった。笑みを湛えたまま羞恥プレイを強いられる里奈の姿が、実験動物のように思えた。これがよく知らない女性なら、純粋に興奮できたのかもしれない。だが今の宏尚は、客観視するには里奈に入れ込みすぎていた。里奈との絡みをNGにした増谷のように。

 予約特典の撮影後、改めて里奈にメイクが施され、撮影用の紐パンツを着用させた上で、ようやく本番シーンの撮影が始まる。

「当店のコースには、S、A、B、Cの4コースがございます。Cは性経験なし~初心者様向け、Bはセックス経験10回以上を目安とした中級者様向け、Aは上級者という自負のある方向け。そしてSは、Aコースでもご満足いただけなかった超上級者様向けのスペシャルプランです。冴草さまはプロのAV女優とのことですので、コースはS、時間は最長の4時間コースとさせていただきます」
 白衣を着た翔子が、淡々とコースの説明を行う。説明役ならば店長である宏尚こそが適任のはずだが、画面映えの関係で翔子が抜擢された。翔子もまた、高校の教師すら誑し込むほどの美貌の持ち主だ。視聴者にとっては眼福だろう。
「もう一点。アダルトビデオの撮影ではありますが、ドリーミィ・カプセルのモニタリングでもあるため、過剰に喘いだり身体を揺らしたりといった演技は不要です。……もっとも、そのうち演技などする余裕すらなくなるでしょうが」
 翔子は真顔のまま解説を続けつつ、最後の一言で口の端を吊り上げる。そこには隠しきれないサドの気が滲み出ていた。
「自信満々ねぇ。いいわ、相手にとって不足なしよ」
 里奈はにっこりと微笑み返す。悪意をまともに受け止めるほど幼稚ではない。だがその余裕のある態度は、翔子にとっては面白くないだろう。
「では、始めさせていただきます」
 翔子はそう言って、『ドリーミィ・カプセル』の正面にあるデスクに腰かけた。かつては機械の操作はリモコンで行っていたが、現在はプログラムも複雑化しているため、パソコン上の専用システムであらゆる動作を管理している。
 翔子の指がキーボードを叩くと、卵型のカプセルの蓋が開いた。
「……っ!」
 機械の中を覗いた里奈が、一瞬顔を強張らせる。大小様々なモニターと配線に囲まれたコクピットのような座席は、ほとんどの女性に馴染みがないものだ。そこに閉じ込められる未来を想像して、躊躇しない人間などほとんどいない。
 しかし、そこは好奇心旺盛な冴草 里奈だ。たじろいだのはほんの一瞬で、次の瞬間にはふわりと宙を舞いながら機械内部に降り立っていた。乗り方ひとつにしても、これまでのモニターとは華が違う。

 里奈がシートに腰かけた瞬間、翔子の指が躍る。その直後、シートが変形し、里奈の手足にも拘束具が取り付けられる。
「あいつ……!」
 宏尚は眼を見開いた。
 拘束の仕方は設定者……つまり翔子が自由に決められる。それが悪意に満ちていた。腕は両腋を晒す万歳のポーズ、脚は出産時のような大開脚だ。
「これはまた……随分と恥ずかしい格好させてくれるじゃない」
 里奈は苦笑するが、AV撮影という目的を考えれば不適切とは言えない。それよりも気になるのは手足の拘束具だ。

(ずいぶん厳重ね)

 腕や脚に食い込まないよう、内部にクッションはあるものの、巨漢に掴まれているような圧迫感がある。対象が激しく暴れることを想定した拘束だ。
「冴草さま。そのまま手足を動かしてみてください」
 翔子がパソコン横のマイクに向かって告げる。その声は肉声でも聞こえるが、カプセル内部のスピーカーからも流れた。カプセルの密封後も、このスピーカーから指示が受け取れるようだ。
「んっ! く……っ!!」
 里奈は指示通り、拘束された四肢を内に閉じようとする。しかし、ほとんど動かない。高負荷のペクトラルフライやヒップアダクターのように、少し動かすにもかなり力がいる。体型維持のためにジムで鍛えている里奈は、一般的な女性よりも筋力があるはずなのに。
「んっ……ガッチリ拘束されてるわね。ほとんど動けないわ」
 そう言って一息ついた里奈は、目の前のモニターに緑色の表示が出ていることに気が付いた。英数字の『63』。乗り込んだ時にはなかった表示だ。
「お気づきになったようですね。その数字は『EP(エスケープポイント)』。平たく申し上げれば、手足をバタつかせて逃げようとする強さの指標です」
 エスケープ。その言葉に里奈がピクッと反応する。逃げるというのは、里奈がもっとも嫌う言葉の一つだ。特定のジャンルで一流と呼ばれる人間が、押し並べてそうであるように。
 そんな里奈の胸中を知ってか知らずか、翔子はマイクに向かって囁きつづける。
「冴草さまの測定値は63。これは63キロの強さで手足の拘束具が引っ張られたということです。参考までに申し上げれば、成人男性の背筋力が平均140キロ、トップアスリートでも200キロ台と言われています。ところが……絶頂して暴れている女性は、なんと300キロ台を記録することもままあるのです」
「へえ……火事場の馬鹿力ってやつね」
「その通りです。今回冴草さまには、このポイントを一定数以下に抑えるというチャレンジに挑んでいただきたく存じます。SコースをMAXの4時間体験された場合、一般的なお客様であれば平均して20万ポイント程度を記録されますから、冴草さまにはその半分以下……10万ポイント未満で耐えていただきます」
 翔子の声色は、ここで明らかに笑いを孕んだ。事前の取り決め通りのルールではある。しかしこれがどれほど無謀な試みかは、宏尚や翔子にしかわからない。人間には限界がある。一日4リットルの水が必要な環境を2リットル以下の水で凌ぐことなど自殺行為だ。宏尚も一応その説明はしたが、この撮影を取り仕切る黒田という監督は、無茶なぐらいでいい、里奈がまた壁を超えられると笑っていた。
「では、冴草さま。カメラに向けて意気込みをどうぞ!」
 翔子がコメントを求めると、里奈はにこりと笑みを作る。宏尚にとっては見慣れた綺麗な笑顔だが、彼女の様々な素顔を知った後ならば、それが繕われた外向けの笑みであることがよくわかった。
「冴草 里奈よ。このマシンはどんな女でも狂わせるって触れ込みだけど、プロの誇りにかけて耐えきってみせるわ!」


                ※


 蓋が閉じられると、カプセル内部は棺か石牢かという雰囲気に変わる。宏尚曰く、希望すれば日焼けマシンのようにライトアップすることも可能らしいが。
「入り心地は如何ですかー?」
 カプセル下方のマイクから翔子の声がする。今やそれが唯一の外界との繋がりだ。
「うーん、少し怖いわね。暗くて計器の光ぐらいしか見えないし、何より密閉されてるから圧迫感があるわ。ある意味、快感に集中しやすい環境とも言えるけど……これ、ちゃんと私の姿映ってるの?」
「はい。冴草さまは現在、向かって右側のモニターをご覧になっておられますよね?」
 翔子の言葉通り、里奈の動きはしっかりと把握されているようだ。

 アームの駆動音が響き、頭にカチューシャ状の何かが取り付けられた。
「当店オリジナルの脳波測定器です。常に被験者の脳波を探り、時にはエクスタシーへの最短経路を弾き出し、時には絶頂の際で刺激を遮断します。また、対象が絶頂状態を検知して発光する機能もございます。冴草さまが絶頂しておられない今は黒色ですが、絶頂へ近づくほどに鮮やかな赤へと変わっていき、深い絶頂状態となれば散光式警光灯……いわゆるパトランプのような眩い赤となります。映像をご覧の方は、ぜひ頭の測定器にもご注目ください」
 淡々とした解説に、キーボードを叩く音が重なる。次の責めの合図だ。

『 リンパ マッサージ 』

 正面上部のメッセージウィンドウにそのカナ文字が出力され、同時に機械音声が流れた。その直後、里奈の太腿の付け根付近に大量の電気パッドが取り付けられる。
「あっ」
 ヒヤリとしたその感触に、里奈は思わず声を上げた。直後にパッドを通して電気刺激が与えられると、やはり声が出てしまう。
「如何ですか、冴草さま?」
「んっ、ビリビリするわ。筋肉が勝手に動いちゃう感じ……」
「下半身を電気で刺激し、血流を良くすることでオーガズムを迎えやすくします。膣分泌液の量も増えるようです」
 翔子の解説の最中にも、里奈の太腿は意に反して強張り続けていた。最初こそむず痒さが勝っていたものの、次第に太腿全体にじんわりとした熱さが生まれはじめる。
「んっ……。これは、中々のテクニシャンね」
 ピクッ、ピクッ、と太腿が反応する中、里奈は顔が綻んでいくのを感じた。小さな電気パッドによる刺激は、小人が一生懸命に凝りをほぐしてくれているようだ。
「上手い上手い。偉いぞー」
 里奈はパッドに向けて囁く。マイクに拾われない程度に囁いたつもりだったが、あらゆる音を逃さない高性能な集音マイクは、その囁きをしっかり外部へと発信した。
「ふふっ」
 カリスマ女優らしからぬ愛らしい行動に、スタッフから笑みがこぼれる。宏尚も思わず破顔した。そんな空気の中で、翔子だけはあざといとも取れる里奈の行動に鼻白む。
「ああ冴草さま、申し訳ございません。せっかくのSコースだというのに、ついソフトな前戯から始めてしまいました。改めてSコースの責めをご堪能ください」
 その言葉の直後、里奈の足の間に台座がせり上がってくる。角度がやや鈍角、かつ背の丸い三角木馬という風だ。股割りの危険はなさそうだが、それはショーツ越しにしっかりと股座へ食い込んだ後も上昇を続ける。脚がピンと伸び切り、足首の拘束具が下に引かれてもなお止まらない。
「ぐっ、うっ……!」
 爪先立ちでも足先がカプセル底部につかなくなり、完全に宙へ浮く形となったところで、ようやく台座は上昇を止めた。
「く……」
 里奈は股間の痛みに唇を結ぶ。だが直後、台座が強烈に振動を始めれば、すぐに我慢は利かなくなった。
「あああああっ!!」
 刺激は強烈だった。クリトリスと割れ目すべてに電気マッサージ器……いわゆる『電マ』を押し当てられているようだ。普通であればたちまち感覚が麻痺しそうなものだが、ショーツ越しというのが絶妙だった。薄い布を噛ませることで刺激はやわらぎ、同時に快感は布を伝って広く伝播する。ショーツに覆われている場所……デルタゾーンや臀部にまで。
「ご覧ください皆さま。冴草さまの脳波測定器がピンク色に変色しているのがお分かりでしょうか。明確な絶頂には至っていないものの、着実にそこへ近づいているという証明です」
 翔子の声が高らかに響く。自信に溢れたあの声色がウソだとは思えない。他人には里奈の絶頂度合いが見えているのだろう。しかし、当事者である里奈だけがカチューシャの色を視認できない。それがもどかしい。

「くうう、うっ……!!」
 振動が始まってから、5秒で陰唇が痙攣しはじめた。10秒でショーツが濡れているのを自覚し、20秒で内腿にまで愛液が垂れるのを感じた。そして間もなく30秒を迎えようという今、陰唇からはじまる戦慄きは内腿にまで伝播し、愛液はどぷどぷと吐かれつづけて台座の斜面を流れ落ちていく。
「うーん……測定器の色が点滅していて、絶頂しているのかその間際なのかハッキリしませんね」
 その翔子の言葉に、キーボードの打鍵音が続く。直後、里奈の両足首の拘束具が下に下がりはじめた。木馬の背はいよいよ食い込み、濡れたショーツを膣内に押し込みながら性器全体をぐちゅりと潰す。
「はぐううううっ!!!」
 数百本のアダルトビデオに出演した身といえど、局部の一点にここまで負荷を受けた経験はほとんどない。

(さすがは最上級コース、まるで拷問ね……!)

 里奈は唇を噛み締めながら思う。
 拷問というのは言い得て妙だ 機械の中は狭く、暗く、地下牢か何かを思わせる。匂いが籠もるのも無視できない問題だ。汗の匂いと愛液の匂いが混ざり合い、メスの匂いとでもいうべきものになっている。

(心の弱い子なら病みかねないわ、こんな状況)

 そうも思うが、すぐにその考えの馬鹿らしさに気付く。心の弱い娘がこんなコースを選ぶはずもない。これを選ぶような人間はよほどの好き者だ。
 本来であれば、里奈もこうした刺激を堪能するのは吝かでない。しかしそれは、悦びを素直に発露できればの話。今それはできない。EP(エスケープポイント)という制約があるからだ。
「はあっ、はあっ、はあっ……あイク、イッく、イクッッ……!!」
 里奈は喘ぎながら絶頂を宣言する。見ている人間に絶頂をアピールするAV仕草だ。
「冴草さま? 過剰な演出は不要とお伝えしたはずですが。冴草さまが絶頂されているのは脳波測定器の赤さでハッキリと解りますので、口頭での追加報告は不要です」
 翔子の嗜めがユーモラスな空気を作ったのか、撮影スタッフの笑い声がスピーカー越しに聴こえてくる。
「……わかったわ」
 里奈は声を抑えようとした。しかし、長年の習慣はそう簡単には変えらない。
「あ゛イグ、イグッ!!」
 『電マ』系列の刺激にたまらず絶頂し、その事実をマイクに伝える。
「冴草さまー?」
 待っていたとばかりに呼びかけられる。だが今の里奈には、それを恥じる余裕すらなかった。

(く、苦しい……! 電マでこんなにイカされちゃ、息ができないわ……!!)

 強烈な刺激で立て続けに絶頂させられ、腹筋が異常に力んでいる。その苦しさを和らげるために手足をひきつける動きをすると、その度に真正面の英数字が増えていく。
『581』
『657』
『738』
 力むたびにこの調子でEPが増えていくものだから、里奈は手足をなるべく脱力させているしかない。そして勿論そうなれば、逃げたくなるほどの刺激を性器だけで受け止める結果となってしまう。

 そんな地獄がいったい何分続いただろう。酸欠で嘔吐感を覚え、視界が狭まりはじめた頃、ようやく台座の振動が少し弱まる。
「……ぶはっ、はあっ!はあっ!はあっ!!」
 里奈は溜めていた息を吐き出し、激しく酸素を求める。久々に水面から顔を出せたような気持ちだ。
 しかし、休憩が長く続かないことも里奈は理解していた。またしてもキーボードの打鍵音が響き、宙吊りになった身体の左右側面から何かが迫る。
 まずは、電極。吸盤のついた電極が乳房の各部に吸い付き、電気マッサージの要領で揉みほぐしてくる。 太腿のそれと同様、この刺激も緻密に計算されつくしており、プロの男優が行う愛撫と何ら遜色がない。
「如何ですか、冴草さま。このマシンの乳腺開発は気持ちいいでしょう」
「そ、そうね……こっちも中々のテクニシャンだわ」
「嬉しいお言葉でございます。ですが、本番はここからですよ」
 翔子の声に続き、今度は胸の先に“何か”が近づいてくる。
「え? 何……!?」
 幾度もの絶頂で屹立した乳頭。そこに取りついたものは、肉眼では捉えられない。髪の毛の1/20の細さしかない端子が無数に乳頭に取り付き、乳腺へと入り込む。
「んああっ!? な、なにこれ……!?」
 人力を超えた未経験の乳腺マッサージは、AVクイーンから不安げな悲鳴を絞り出した。
「胸の中を直接揉まれているようでしょう? 実は私もこのサロンに初めてきた時、それを体験したんです。よくわからない感覚なのに信じられないぐらい気持ちよくて、泣きたくなりました。あの頃の私でもそうなんですから、出産をご経験されている冴草さまなら、もっと気持ちがよろしいんでしょうねぇ」
 翔子は昔を懐かしみながらクスリと笑う。しかし、里奈は笑うどころではない。電極によるマッサージと直接的な乳腺開発の相乗効果で、母乳がぶしゅぶしゅと飛沫いている。しかもそれが気持ちいい。肩まで震え上がるほどに。
「くふうぅンっ……!!」
 下唇に歯を立て、未曽有の快感に耐える里奈。しかし翔子がそんな状態を許すはずもなかった。
「母乳が出る方には、こういったサービスも行っております」
 おそらくはカメラに向かってそう言うと、里奈の乳頭に取りついた端子を抜き去り、入れ替わりに透明な搾乳器を取り付ける。
「!!」
 未来を予見した里奈が覚悟を決めるよりも一瞬早く、吸引が始まった。諸々の刺激で屹立しきった乳頭がさらに引き延ばされ、どぷどぷと母乳を噴きだしはじめる。
「くああああっ!!」
 搾乳のもたらす快感はあまりにも甘く、里奈は仰け反りながら絶叫する。そう、この刺激は甘い。脳髄にまで染みるような危険な甘さだ。

(なにこれ、こんなの知らない……! これ、さっきの刺激より……っ!!)

 口を開閉させて涎を止めつつ、涙さえ滲む目で前方を見やり……里奈は目を疑った。
『2502』
 モニターの英数字が、文字通り桁違いに増えている。何故? そう考えかけ、直後に答えは出た。
 左右の乳頭が吸引されると同時に、頭上でガシャンと音が鳴る。そして直後、モニターの数字が『2687』に変わる。その差185キロ。トップアスリートの背筋力に匹敵するほどのEPが叩き出されてしまっている。先ほどの『電マ』責めよりも苦しくはないのに。
 いや、だからこそだ。人間は苦痛ではなく、快楽でこそ堕落する。この甘すぎる刺激は、いともあっさりと人間の自制心を壊すのだ。
「ああだめ、どんどん出てるっ! ゆ、ユウくんのミルクがっ……!!」
 里奈は首を振って叫びながら、なんとか手足に力を籠める。そうすればかろうじてEPの増加は緩やかにできた。だがそんなものは一時凌ぎだ。翔子がその気になれば、好きなように里奈を追い込める。たとえばそう、このタイミングで股座の台座を再び振動させれば……。
「ふぐっ!? あ、は……はああああああっ!!!」
 驚愕、そして焦り。ベテランのAV女優といえど、この状況下では生の声を上げるしかない。上半身を仰け反らせ、下半身を痙攣させながら。

「はーっ……、はーっ……、はーっ……はーーっ……」
 ようやく台座責めから解放された頃、里奈は気を失う一歩手前の状態だった。目は虚ろで、鼻と口からは汁が垂れ、全身が汗で濡れ光っている。木馬の背でいじめ抜かれたショーツは完全に透けて、割れ目の形が浮き彫りになっていた。
「如何でしたか、冴草さま?」
「…………気持ち……よかったわ…………」
 性感マシンのモニター役としてそう答えはするものの、里奈はどこか悔しそうだ。血の通わない機械に無理矢理イカされるなど、AV女優としてのプライドが許さないのだろう。しかし諸々の痴態を見られた以上、否定するのも滑稽だ。
「それは良うございました」
 かつて『ドリーミィ・カプセル』の責めを受けた翔子には、里奈の悔しさも苦しさもよく解る。解るからこそ、ほくそ笑む。彼女はけして褒められた性格をしていない。
「では、次に参りましょうか」


                ※


 2本のアームが、器用に里奈の下着を取り去った。
「本格的な責めへ移る前に、腸内洗浄を行います。いかに経験豊富なご職業の方といえど、ここからの責めを受ければ粗相をされる可能性があるためです」
 翔子のその宣言通り、上部モニターには『 カンチョウエキ チュウニュウ 』 のカナ表示がされた。 それと同時に、拘束された里奈の肛門へとノズルが近づき、先端を突き刺してくる。
「以前はゼリーを塗布してから浣腸液注入ノズルを挿入していましたが、ノズルの先を哺乳瓶の飲み口のように改良した結果、ゼリー無しでのスムーズな挿入が可能となりました」
 どこか懐かしむような声色で、翔子が解説を加える。

(哺乳瓶か。朝授乳してきた私が、今度はお尻から何かを飲まされるだなんて、変な因果ね)

 里奈はそんな事を思って苦笑するが、すぐにそれどころではなくなった。
「え? 何なのこれ……!?」
 腸に入ってくるものが、一般的なグリセリン溶液とは明らかに違う。にゅるにゅるとしたゼリー状であり、それが腸粘膜へ触れると、強い酒でも煽ったようにカアッと熱くなる。
「凄いでしょう。塩化マグネシウムとグリセリンを混ぜて作ったゼリーです」
「塩化マグネシウム……?」
「ええ。AV業界に長くいらっしゃるなら、『ドナン浣腸』ってご存じありません?」
 翔子のその言葉に、里奈が目を見開いた。
 年の行った緊縛師から、噂話として聞かされたことがある。ドナン浣腸──かつては重度の便秘患者に対し、便秘治療薬として使われていたという最強の浣腸だ。だがその効果が強烈すぎるあまり、泣きを入れる患者が続出したことで使用禁止になったのだという。浣腸をするという流れは聞いていたが、まさかそんな代物を持ち出してこようとは。
 しかも、その注入量がまた多い。
「うそ、まだ入ってくるの!? お腹が膨れちゃうわ!」
 里奈が不安がるのも無理はない。事実、細くくびれていた彼女のウエストは、明らかに起伏がなくなっている。
 呆れるほどの量が注がれた頃、ようやく薬液タンクが閉まる音がし、モニターの表示が切り替わった。
『 シバラク オマチクダサイ ...About 20 minutes. 』
「にじゅ……っ!?」
 里奈の表情が引き攣る。この浣腸を20分も耐えろというのか。
「おい、その設定はさすがに無茶だろ!」
 見かねた宏尚が声を上げる。20分間の我慢など、グリセリン溶液でさえ無理のある設定だ。それをドナンで、しかも量を入れてとなれば刺激が強すぎる。しかし翔子は、そんな宏尚の非難を涼しい顔で受け止めた。
「なにを言ってるんですか、店長。これはSコースですよ? 上級者向けのAコースですら物足りないとおっしゃる変態の方用のコースじゃないですか。手加減なんて有り得ません。ましてや、『AVクイーン』とまで呼ばれる女性に」
 AVクイーン。その部分に特に力を籠めて力説する。そういう言い方をされれば、里奈も引けない。
「……ええ、遠慮なんていらないわ。どんな事されたって耐えきってみせるから」
 不敵な笑みを浮かべたまま、そう啖呵を切ってみせる。

 しかし実際のところ、勝ち目の薄い勝負だった。
「…………ッくんんっ!!」
 強烈な腹鳴りを伴う便意に、里奈は唇を噛んで耐える。かろうじて波を乗り切れた。だがもう数秒もすれば、次はもっと大きな波が来る。これまでもずっとそうだったように。
「冴草さま。今どんな感じか、“プロとして”解説していただけませんか?」
 プロとして。その言葉を強調しながら、翔子が煽る。
「はーっ、はーっ……こ、これは……凄いわ。ええと、まず、そうね。とにかくうんちがしたくて堪らないの。体中から嫌な汗が噴き出して、なのに凍えるみたいに震えちゃって。特に脚なんかもう……ンッ! あ、ちょっと待っ、ごめんあさ……ん、んんッ……ふゥんんんんッ!!!」
 必死に考えを纏めながら、律儀に状況を語る里奈。だがその最中にも便意が襲ってくる。ダンサーのように見事な腹部が脈打ち、万歳の形で拘束された腕には力瘤が盛り上がり、足は片方ずつ爪先立ちを繰り返す。おそらくは観る者すべてに経験があるだろう、『便意に耐える』生々しい動き。
「っぶはっ! はぁッ、はぁッ……ご、ごめんなさい。今ちょっと、“波”が来ちゃって。この波を乗り切るのも大変なのよね、はぁっ、疲れたわ。あはは」
 重い空気になりすぎないよう、軽いノリで笑うのもAV女優の仕事だ。だがその表情はすぐに真剣なものに戻り、悪夢のリポートを続ける。
「……ええと、どこまで話したかしら。ああそう、身体が震えちゃうのよね。ほら見て、膝がもうガクガク。とにかく、便意が強くてね。お腹の中も、煮え滾ったマグマが渦巻いてるみたいよ。お尻がずっとヒクヒクしてて、勝手に開きそうになるけど、んっ……栓のせいで、出せないの……ッ!! このコースを選ぶ子はきっと、プレイの要望を出せると思うけど、このドナン浣腸の選択は慎重になった方がいいわ。私のこの映像を、どうか参考にして! 生半可な気持ちで選ぶと、こっ、後悔するわよ……っ!」
 里奈はかろうじてそこまで言いきり、唇に深々と歯を立てた。ぐぐぐ、と顎が浮いたかと思えば、こめかみの汗が首にまで流れ、泡まみれの涎がそれを追う。
 今まさに地獄にいる里奈の言動は、いずれも生々しく切実だ。
 浣腸液の催便作用はあまりにも強烈だった。グリセリン単体によって引き起こされる蠕動運動など比ではない。意思とは無関係に肛門が捲れかえり、腸内の異物を一刻も早く吐き出そうとする。にもかかわらず、変形した注入ノズルはがっぷりと肛門の内外に食らいついて外れない。
「ふふふ、大変リアリティのある解説でした。有難うございます」
 翔子は苦悶する里奈を安全圏から眺めつつ、自分の過去を思い出していた。

『はっ、はっ……何よ、これっ…………全然、抜け……な……い…………!! うんち、したいのに…………これのせいで、でな…………!!!』

 腹を鳴らし、呼吸を乱し、喉をすり抜けるような甲高い呻きを漏らしながら、解放されることのない苦しみに身悶えた。しかもその苦悶を外の宏尚に楽しまれていたものだから、本当に耐え難い屈辱だった。
 そう、これは自分も通った道だ。自分にあれだけの恥辱を与えた宏尚に、今さらストップをかける権利などあろうはずがない。むしろああして止めようとした罰として、もっとこの女を追い込んでやろう。翔子はそうほくそ笑み、キーボードを叩く。すると、カプセルの中から「ぐうっ」とうめき声がした。
 翔子の咥えた設定は、肛門栓であるノズルの振動。限界ギリギリの肛門に対し、この振動はあまりにも辛い。
「如何です? 肛門栓の振動がすごく気持ちいいでしょう? その刺激だけで達してしまわれるお客様もおられるんですよ」
 翔子が白々しく言葉をかける。よほど設定のきつさに自信があるらしい。
「…………そうね、最高だわ」
 里奈が珍しく嫌味で返すと、翔子も陰湿に笑った。
「最高は言い過ぎかと。排泄管理の快感には、更に上の段階がいくつも存在するのですから」
 里奈の指がキーボードの上を滑る。
『 膣内 マッサージ 』
上部モニターにその表示が表れ、マシン内部でアームが動きだす。アームは里奈の目の前で止まり、細いバイブが束になったアタッチメント部分を見せつけた。
「な……っ!」
 里奈は息を呑む。絡み合ったバイブが別方向にウネウネと蠢く様は、ファンタジー世界の触手さながらだ。刺激の種類がイメージできない。人間の指ともペニスとも明らかに違うのは確かだが。
「如何です、冴草さま? 今からこれを貴女の膣に挿入して、じっくりとほぐして差し上げます。ドナン浣腸を我慢しながらの膣責めは皆さん大層悦ばれて、大量に潮をお噴きになるんですよ」
 翔子のこの宣言には、責め苦の宣告以外にも意味がある。他の人間も耐えたんだから泣き言を言うな……そういう仄めかしだ。
「そう、楽しみね」
 里奈の反応は、半ば強いられたものだった。そんな里奈の前で、アームはゆっくりと下降し、無防備に開かれた秘裂へと入り込む。
「はあ゛っ!!」
 里奈が目を見開いた。極限の便意に晒され、肛門に全神経を集中させねばならない今、膣への刺激はあまりにまずい。顔だけを庇って腹がノーガードになったボクサーが、ボディブローをまともに喰らうようなものだ。しかも翔子の選択したボディブローは、軽い一撃などでは断じてない。相手が備えていたとしてもダウンをもぎ取れるような、必殺の一撃だ。
「あっ、あ……!? こっ、これ、まさか、全部一気に……っ!?」
 アタッチメントが動きはじめた直後、里奈はこう叫んだ。余裕がないゆえに不十分な言葉だが、宏尚と翔子にはその意味が瞬時に理解できた。
「さあ冴草さま。今どのようなご状況なのか、今一度リポートをお願いいたします」
「い、今……はあああそこっ!! あああ裏も……あきゅうっ!! はッはッはッ……これ、これは、そんな、信じられな……くああああっ!!」
 翔子はあえて里奈自身での解説を促すが、里奈は激しく見悶えながら、奇声と支離滅裂な発言を繰り返すばかりだ。
「冴草さまー?」
 翔子は改めて呼びかけ、里奈が答えられない状態だと証明しつつ、やれやれと首を振る。
「どうやら、リポートの余裕はないようです」
 翔子にとってはわかりきった結果だった。ドナン浣腸とあの極悪アタッチメントの併用……それが対象からあらゆる余裕を奪い去ることは、彼女自身が誰よりよく知っている。
 監督の指示を受け、ここでカメラの一台が翔子の方を向いた。事前の取り決めで、カメラが向いている時には翔子が機械の解説を行うことになっている。
「女性の膣内には数多くの性感スポットが存在します。最も有名な『Gスポット』を基準にお話しすると、少し奥にある『アダムGスポット』、真裏にある『裏Gスポット』、その奥側の『Kスポット』、膣奥上側の『Hスポット』……比較的知名度が高いものはこの辺りですが、実際にはそれ以外にも感じる場所は様々に存在するのです。あのアタッチメントは、それらの性感帯を同時に刺激します。その結果……」
 翔子はそこで言葉を切り、カメラにカプセル内部の映像を追わせる。
「ああぁぁあぁ感じる、感じちゃうっ!! 奥でも、下でも、はぁう……うん、あああ我慢できなっ……んはぁあうあううっ!?」
 そこには悲鳴に近い声を上げながら、ヘコヘコと腰を上下させる惨めなAVクイーンの姿があった。頭頂部のカチューシャは秒以下の間隔で濃い赤と淡いピンクの明滅を繰り返している。
「ご覧いただいた通り、“ああ”なります」
 翔子は憎らしいほどの澄まし声でそう告げ、カメラの注意を再度自分に向けさせる。
「あのアタッチメントは、複数名の女性にご協力いただきながら改良を重ねて参りました。より的確に、より無慈悲に、膣の性感スポットを虐め抜けるよう」
 翔子の言葉に嘘はない。しかし彼女は意図的に事実を隠した。他人事のように語ってはいるが、最も積極的にアタッチメントのモニターとなったのは翔子自身だ。機械特有の無慈悲さで膣内のスポットを徹底的に責め抜かれ、何千回と絶頂を繰り返した。失禁は勿論したし、失神と覚醒を繰り返しもした。
『ウオオォーーーーーッ!!!!』
 手足の拘束具を鳴らし、エビのように仰け反りながら、若い女が絶対に発するべきでない獣のような叫びを上げ、記録係である宏尚に爆笑されたこともある。
 それでも翔子は、妥協なくマシンの性能向上に勤しんだ。それも偏にサディズムゆえだ。どうせ一度は恥を掻いた身ならば、掻きっぱなしでいるのは損でしかない。いつか他の女にも、自分以上の恥を掻かせてやろう。その一心で恥辱の塗り重ねに耐えた。

(踊れ踊れ、淫乱年増のAVクイーン! 聖母だなんだと持て囃されてる、その化けの皮を剥いでやるからさあ!!)

 翔子は内心で悪魔の笑みを浮かべ、しかし表面上はあくまで無表情にキーボードを叩き続ける。そしてそのタイピングの一つ一つが、里奈をより窮地へと追い詰めていく。

「ふぉおおおぅおっっ!?」
 今までの撮影で出したことのない声。それと共に、里奈は潮を噴き散らす。そうなるのも無理はない。そうなるための条件が整いすぎている。
 まずは、何といってもドナン浣腸だ。あまりにも強い便意に、全身から脂汗が噴きだし、膝が笑う。思考力も含めてあらゆる余裕を奪い去られるため、これ単体でも相当につらい。
 しかもこの浣腸は、ただ便意を催させるだけに留まらなかった。熱い。腸内を爛れさせるような熱さが、じわじわと粘膜の内部に浸透し、気付けば膣にまで影響している。膣にアタッチメントが挿入される前の時点で、膣内部はトロトロに蕩け、喘ぐように開閉を繰り返していた。
 そこへきてのこの膣責めだ。膣内の複数スポットを、シリコン製のバイブが的確に責め立てる。こんな真似は、世界最高の技術を持つと言われる『ゴッドハンド』増谷準ですら成しえない。まさに機械にしか実現できない悪夢の責めだ。
「ふふふ……意地が悪いわねぇ。女が我慢できないように、効率よく女を壊せるように、計算され尽くしてる。こんなの……」
 そこまで言葉に出し、そこで里奈はハッと我に返った。次に自分は、何を口にしようとしているのか。
『こんなの、もう耐えられない』?
 まさか。AV業界の代表として、そんな言葉を軽々しく口にできるものか。耐える。耐え抜いてみせる。意地でも。
「こんなの……何でしょう、冴草さま? こんな凄いの初めて、という意味でしょうか?」
 翔子はそう言いながら、キーボードで指示を出す。アタッチメントの位置はそのまま、バイブレーションを『強』に。
「あは、はかっ……! は、激しっ……あイク、イクイクっ!!」
 ヘコヘコと上下していた里奈の腰が、ガクンガクンと大きく揺れはじめる。腹部からは雷轟のような音が轟き、膝はいよいよ笑いはじめる。誰の目にも明らかな限界だ。
「如何です、冴草さま? こんなのは初めて?」
 翔子は、余裕をなくした里奈に囁きかける。その言葉はするりと里奈の脳へ入り込み、幼児のように同じ言葉を反復させる。
「こ、こんなの初めてっ、こんなの知らないわっ!! あ、あ゛あ゛あ゛っ……あオおおおおっ!!!」
 里奈は仰け反りながら絶頂する。頭のカチューシャが鮮やかに光り、秘裂からは視認できるレベルの潮がびゅっ、びゅっと二回飛ぶ。響いた悲鳴は獣のそれだ。経験値の差か、あるいは人柄の差か。かつて翔子が上げた叫びよりは幾分人間寄りではあるものの、麗しいと形容される女性が出すべき声では断じてない。
「すっげぇアクメだな……」
「ああ。あそこまでなんのって初めてじゃね? 少なくともオレの入った現場じゃ無かったわ」
 男のスタッフは小声で囁き合い、監督の黒田も口を窄めて驚いている。宏尚もまたモニターから目を離せない。
 里奈の絶頂は男性陣に驚きをもたらしたが、最も心躍ったのは翔子だ。

(アハハハ、最ッ高! あの女イジメんの、めっちゃ楽しい! さて、浣腸の残り時間は……っと、よーしよし、まだ9分もあるじゃん)

 心の中で存分に素のしゃべりを発した後、翔子は能面顔を繕い直す。
「ご堪能いただけているようで何よりです。まだ浣腸の残り時間もございますので、もう一段階上の快楽をお楽しみください」
 その言葉で、里奈の視線が上を向き、凍りつく。

(可愛い顔でちゅねー、里奈ちゃん。やっと時間を思い出した? こんだけやってようやく折り返しとか、マジかーって感じだよね。でもこっからの時間は、一秒がもっと長く感じるよー。さすがのあたしも、コレいっぺんに受けるのはゴメンだな。ウザイ他人にしかやれないよ、こんな無茶苦茶な同時責め)

 内心でほくそ笑みながら、追加の設定を終える翔子。態度こそ淡々としているが、決定ボタンを押し込む強さに感情が滲み出ていた。

(あいつ完全にハイになってんな。つか、この上でまだ何か追加すんのか? マジで里奈さん、ぶっ壊れるんじゃ……)

 部屋の隅で見守るしかない宏尚は、不安から爪を噛む。カプセル内から悲鳴が上がったのは、その直後だった。
「うそ、そんな! このタイミングで……!?」
 里奈の声色には余裕がない。何が起きているのかとモニターを見れば、状況は一目瞭然だった。
 尿道だ。尿道開発用のマドラーのようなアタッチメントが、真正面から里奈の割れ目の上部に送り込まれている。
「凄いでしょう、冴草さま。さあ、感想をどうぞ」
 翔子は女狐だ。内心はどうあれ、抑揚の乏しい事務的な喋りを崩さない。

(いくら一番きついコースだからって、こんな! 他人事だからって滅茶苦茶やってるわね、あの子……!)

 悪感情をなるべく排すようにしている里奈でも、さすがに翔子の悪意には閉口した。ただ、アダルトビデオの撮影とはプロレスのようなものだ。責めがハードであればあるほど、それを堪えきった時に観る者を沸かせられる。だからこそ流れ次第で多少の無茶は飲むし、それから逃げてはいけない。弱音も極力控えるべきだ。
 ただ、そうは言っても肉体の反射までは殺しきれない。
「おほっ!」
 尿道に深く器具が入り込めば、自然と口が窄んで声が出る。ハードコア女優としても名を馳せる里奈にとって、尿道責めも初めてではない。が、ここまで別に危険因子のある状況となれば、ろくに受ける覚悟すら固められない。
「はぁ、う……っ、うはっ……はあ、は……っあ、んはっ…………」
 尿道姦は、アナルセックス以上に『異質』だ。絶対に使ってはいけない場所を犯されている──その事実にまず脳がパニックを起こし、口がパクパクと開く。視線は尿道付近に釘付けとなり、抜き差しされる棒と噴き出す尿だけが視界で動く。
「良い顔をなさっておいでですね、冴草さま。お加減は如何ですか?」
 もはや定番となった翔子の呼びかけに、里奈は歯を食いしばってから笑みを作る。
「んんんっ……なんだか、感動すらしているわ。排泄管理されながらだと、ここまで違うのね。正直、初めて尿道開発された時より余裕がないわ。お尻に意識を向けてると、尿道が無防備になっちゃうし。尿道責めを堪えようとしたら、うんちが我慢できない。おまけに、んっ……膣もまだ刺激されてるから……あははは、頭ぐちゃぐちゃ……!」
 人懐こい笑顔で、あくまでバラエティの空気を作ろうとする里奈。だがその和やかさとは裏腹に、下半身の様相はシリアスそのものだ。
 下腹部は狂ったように蠢き、ぎゅるるるる、ぐぎゅるるるる、という腹を下した時の音を鳴り響かせている。がに股に開いた脚は限界まで力み、凍えるように痙攣を繰り返している。

(わかるよー、里奈ちゃん。尿道責めって凄いし怖いんだよねぇ)

 モニターを横目に見ながら、翔子は内心でほくそ笑む。

『何よこれ、そこ、おしっこの穴じゃない! やめてよっ、垂れ流しになっちゃう!! あ、敦美の言ってた通り、これ、すごい深くまで……来る…………。』『…………やだ、もぉ…………なんで、感じるの…………おしっこ漏れてるのに、何でそれが、いいの…………?』

 宏尚から散々見せられた初プレイ時の映像では、翔子は泣きべそを掻きながらも快感に酔っていた。耐え難い醜態だ。
 とはいえ、快感を得るのも無理からぬことだった。翔子が来店した当時から、マシンの尿道責めはハイレベルだった。ノズルは尿道への抜き差しに無理のないよう設計されている。その球状の先端部からは定期的に鎮痛剤が奥へ浴びせられ、痛みを和らげると共に擬似排尿を強いる。そして抜き差しの動きそのものも、快感を得やすいように計算されたものだ。
 それを踏まえてSコースとしての苛烈さを演出するなら、異物を詰めて排泄させるのも悪くないが、やはり責め具自体を強化するのが一番良い。
「そろそろ慣れてこられたと思いますので、バイブを変更させていただきます」
 翔子はそう言ってキーボードを叩き、マドラー状のバイブを引き抜く。そして入れ替わる形で、数種類の尿道バイブを喘ぐ里奈の視界に晒した。凹凸のついたもの、螺旋状にねじれたもの、イボのついたもの……それぞれ特徴的なバイブを見せつけた上で、最後にある一本を選択する。幹の太さは親指ほどもあり、先端にはさらに二周り大きい円錐形の傘がついた、もっとも凶悪な尿道バイブだ。
いきなり突っ込めば尿道が傷つきかねないサイズだが、細い一本で慣らした後ならばどうにか“入ってしまう”。それは翔子自身の身体で実験済みだ。
「…………ステキね」
 汗だくの里奈の顔に、さらに一筋汗が伝う。
 直前の尿道責めの余韻か、あるいは膣内のスポットを刺激されているせいか。彼女の尿道は喘ぐように開閉していた。そこにバイブの先が宛がわれ、一息に押し込まれる。
「ほぉっ、お、ぉっ、おっ、おおっ…………!!」
 興味深いことに、挿入時の反応は翔子のそれと完全に一致していた。目を見開き、口を尖らせたまま、『お』行で細切れに喘ぐ。バイブの太さのせいか、形状のせいか。いずれにせよ、誰でも似たような反応をしてしまうようだ。

(やめてよ。シンパシー感じちゃうじゃない)

 翔子は心の中でそう思う。しかし、だからとて責めの手は緩めない。疎ましければ疎ましいなりに、可愛ければ可愛いなりに、いずれにせよ責めて平伏させる。それが安西 翔子という人間の性だ。
 ピストンのルートと速度を細かに設定する翔子。被験者を追い詰めるならAI任せでも充分だが、それでは妙味に欠けるというものだ。

 安西 翔子の指が軽やかに決定ボタンを押した瞬間、冴草 里奈のさらなる地獄が始まった。
「あっ、あっ、あっ、あっ、あっ……!!」
 親指サイズのバイブが尿道へ出入りするたび、『あ』という声が絞り出される。感覚としては搾乳の時に近い。尿道を引きずり出されそうな感覚の中、意思とは無関係に尿が噴きだしていく。
 S級女優の断続的な失禁は、それだけで衝撃映像だろう。だがモニターの映像にはもう一つ異変が映っているはずだ。表面上はただ一ヶ所だけお預けを喰らっているはずのクリトリスが、硬く屹立しているという事実が。
「冴草さま、クリトリスが勃起しておいでですね」
 翔子はやはり勃起の事実を見逃さない。その上で体の変化に話を振るのは、状況をリポートしろというメッセージだ。
「はっ、はっ……ええ。クリトリスは、表面に見えているのはほんの一部で、大部分は内側に根を張っているの。尿道の奥を弄られると、その根っこの太い部分を、薄皮越しに刺激されるから……こうして勃っちゃうのよ」
 里奈は笑顔で解説しながらも、羞恥で脳が焦げそうだった。クンニリングスで陰核が勃起したのなら、今さら恥ずかしくもなんともない。しかし亀頭部には一切触れられず、尿道責めだけで勃起させられるのは、まったく別次元の恥ずかしさだ。フェラチオで勃起させられるのは平気な男優でも、往々にして前立腺での勃起は恥じるように。

(こんな露骨な弱点、あの子が見逃してくれる筈ないわね)

 そう考える里奈の耳に、案の定キーボードの音が届く。
『 クリトリス ブラッシング 』
 正面上部のモニターにその文字が表示され、細いアームが伸びてくる。アームの先についている器具は搾乳器に似ていた。違う点と言えば、透明なカップの中に洗車機と見紛うばかりのブラシが密集していることだ。
「え、待っ……!」
 里奈は反射的に拒絶した。しかしその言葉も終わらないうちに、カップはクリトリスに吸い付き、有無を言わさずブラッシングを開始する。極上の筆先を思わせる約4000本あまりの繊毛が、触れるか触れないかという絶妙な具合で陰核の表面を撫で回す。
「ッはひッいい!!」
 即座に情けない声が出た。恥や外聞を気にする暇すらなかった。そして里奈は、ここが我慢の限界だと悟る。
「イああ゛あ゛あ゛!! あァあ゛、ひあ゛あ゛あ゛あ゛ァァッッ!!!」
 全身が暴れた。特に足は地団駄でも踏んでいるようだ。限界の限界。分水嶺が見えてしまうと、それ以上の我慢は難しい。いかにベテランといえど……否、キャリアが長ければこそか。
「おねがいっ、おねがい出させて!! うんち、させてッ!!!」
 里奈の顔からふっと笑みが消え、真剣な表情で解放を訴える。しかし翔子は取り合わない。
「我慢なさってくださーい」
 なだめるように告げながら、冷酷に設定を弄る。音を上げた仕置きとばかりに、ブラシ奥のバイブを起動させたのだ。繊毛によるソフトタッチと、小さくとも力強いバイブの振動。その複合責めは、尿道責めで性感を目覚めさせられた陰核をいよいよ固くしこり立たせ、うち震えさせていく。かつて翔子から涙ながらの哀願を引きずり出した時のように。
「出したい、出したい゛出しだい゛ッッ!!!」
「残り時間は2分42秒です。もうしばしご辛抱くださーい」
「あ、あど2ふんは無理ぃ゛ぃっ!! もう無理なの゛、限界超えてるのっ!! 出したい、出したい出したい゛出したい゛い゛ーーッッ!!」
 幼児のように泣き喚き、単純な言葉を繰り返す里奈。理知的で清楚な里奈がそんな風になるのは、宏尚が知る限り初めてのことだった。事実、里奈と付き合いが長い黒田監督やメイク係の山瀬も驚いた表情を見せている。
「その苦しさもSコースの醍醐味です。ご辛抱くださーい」
 不穏な空気を察してか、翔子はそう牽制を掛ける。Sコース……その魔法の言葉を持ち出されれば、皆黙るしかない。それを無碍にすることは、この撮影そのものをひっくり返すに等しい。唯一止められるのは監督である黒田のみだが、これまで里奈の無茶に付き合ってきた悪友でもある彼は、腕組みをしたまま白い歯を覗かせているのみだ。
 里奈の手足の枷がガチャンガチャンと鳴り続けていた。当然、それに比例してEPも加速度的に増えていく。
「冴草さまー、モニターをご覧ください。EPがもう2万を超えておられますよー」
 翔子が呼びかける。この序盤からそんなに力んでいて大丈夫か、という煽りだ。しかしもはや里奈には、そんな言葉に耳を貸す余裕などない。
「ねえ出させて、おかしくなりそうっ!! おねがい、おねがいい゛い゛っ!!」
 体液を撒き散らしながら全身を暴れさせ、哀願する。最初に決められた20分のリミットが、しっかりと経過しきるまで。

「はい、時間です。お疲れさまでしたー」
 翔子は事務的な口調でそう告げ、キーボードを叩く。機械本体の表示が『アナルプラグ カイホウ』へと変わり、里奈の足元にバケツ状の受け皿が設置される。
 直後、里奈を苦しめたアナルプラグはあっさりと抜けた。
「ああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!」
 絶叫と重なるように、排便の音が響き渡る。限界の限界まで我慢を重ねたため、音がひどい。
「見ないで、見ないでえええ゛ッ!!!!」
 里奈は誰にともなく絶叫していた。スカトロ系のビデオは80本以上撮っている。マングリ返しの格好で4リットル浣腸され、顔を含めた全身に汚物を浴びた事すらある。しかし今のこれは、その記憶を上書きするレベルで屈辱的だ。
 特に駿介には見せたくない。この映像の編集は、どうにか他の人間にさせなければ。もっとも、データは編集で消せたとしても、この現場にいる人間の記憶までは消せないが。

(いつまで出るの……? もういい加減にしてっ!!)

 ゼリーに消臭効果があるのか、匂いはしない。しかし地獄には違いない。爛れた肛門が外へ捲れかえっているのが解る。そしてその穴から、次々と生暖かなゼリーが溢れ出し、びとびとと重量感ある音を立てながら汚物入れに溜まっていく。いつまでも、いつまでも、いつまでも。出しても出しても排便が終わらない。膝が笑っていて、足をハの字にしているのもつらいのに。


                ※


 ゼリーが滴らなくなり、汚物入れが回収された頃、里奈の反応はすっかり薄くなっていた。渋り腹の中身を出しきるため、上体は前に傾き、腕の拘束も後方へ引き絞る方法に変わっている。里奈はその状態のまま動かない。股間と俯いた顔から、透明な雫が滴り落ちていくだけだ。
 機械内部には後方視点のカメラも存在するが、今はそちらの情報量が多い。ドナンの効果で開ききり、菊輪が外にめくり返ったアナル。一切の刺激がなくなってなお、喘ぐように開閉しながら、とろりと愛液を吐きこぼす割れ目。顔から滴っているのは、薄く開いた口からの涎と鼻水らしい。
 意識が定まっているようには見えない。しかし気を失っているわけでもないようだ。
「冴草さま」
 翔子が呼びかけると、頭がピクリと反応する。
「お疲れのところ恐れ入りますが、腸内洗浄を行わせていただきます」
 翔子はそう言って、マシンに次の命令を飛ばす。
『腸内洗浄』
 モニターにそう表示され、ブラシが回転しながら里奈の肛門へと侵入していく。
「ぐっ」
 ブラシが深く入ると、里奈から久々に声が漏れた。
 ハード・鬼畜を旨とするSコースでは、性器の洗浄方法も大雑把だ。ブラシの芯の部分から薬液が腸内に浴びせられ、ブラシの回転で泡立てながら汚れをこそげ取る。
 通常ならば屈辱を強く感じるところだが、ドナン浣腸の後だけは違う。ドナンで爛れた腸内は、薬液ブラシで擦られるほどに疼きはじめる。まるで山芋か漆でも塗りつけられたようにだ。
「あああ痒い、かゆいっ!!」
 里奈ははっきりとした声を上げ、足をばたつかせはじめた。
「直腸内を洗浄中のため、お静かに願いまーす」
 翔子は言い聞かせるように告げながら、里奈の反応を堪能する。

(あっははは、気持ちよさそー! あんなに腰振っちゃって。アナルレイプの本番はこれからだぞー、淫乱女)

 ブラシ洗浄など1分もすれば充分だが、里奈の反応があまりにも面白く、翔子は3分あまりも命令を解除しなかった。しかしその2分間は、彼女の想像以上に里奈を追い詰めていた。
 薬液を滴らせながらブラシが引き抜かれた後、モニター表示が『アナルファック』に変わる。その直後に里奈の背後へ近づいたバイブを見て、スタッフ一同が目を疑った。
「ちょ、おまっ……!」
 宏尚も翔子に何か言いかける。
 それは、洋物ビデオのペニスを模した責め具だ。サイズはXL……500mlのペットボトルよりも太く、全長は30センチに達する。しかもその表面には、刺激を増すためにイボ状の突起をびっしりと施した。
 ドナンで弛緩しきった里奈の肛門ならば、そのジョークグッズだろうと受け入れてしまうだろう。しかし……さすがに易々とではない。
「あぐううううっ!!!」
 肛門が押し開かれた瞬間、里奈は白い歯を食いしばった。そこからバイブがミリ単位で侵入するたび、尻肉がピクピクと痙攣する。

(え、な、何!? 何が入ってるの!? ビール瓶!? 金属バット!?)

 フィストまで経験済みの里奈も、この異物挿入には焦りを隠せない。太く長いだけではなく、しっかりと硬さまであるのが凄まじい。挿入されただけで僅かにだが失禁してしまった。
「あぁ、あ゛ッ! ああ、あっ、あ゛!!」
 腸を変形させる勢いでピストンが始まれば、堪えようとしても息と声が押し出される。
「すごい声を出されていますね。満を持してのアナル挿入の感想はいかがですか?」
 翔子の問いかけに、里奈は躊躇う。
 すぐに抜いて──そう正直に言えたらどれだけ楽だろう。しかし里奈に求められている感想は、実のところ忌憚のない意見ではない。機械姦の凄さと気持ちよさをPRするのが仕事だ。そのためにはウソもいる。

(私としたことが……。余裕がなかったとはいえ、浣腸責めで音を上げたのはマズかったわね)

 ここのサービスを非難することは、店のイメージ低下に繋がりかねない。ここからは気を引き締め直し、拒絶なしのスタンスで挑むべきだ。
「このバイブは凄いわね。太くて、硬くて、イボだらけで……このタイミングでこんなの突っ込まれたら、誰だって骨抜きにされてしまいそうだわ」
 カメラを意識しながら、うっとりとした表情を作り上げる。その雰囲気の変化は、わかる人間にはすぐにわかった。
「……そうですか。では、存分にご堪能ください!」
 一瞬気後れしかけたのが悔しく、翔子はピストンモードを『ハード』に変える。里奈の背後でアームが唸りを上げ、ガシャンガシャンという音を響かせはじめる。
「ひっ、ひぃいいいっ!!」
 ハードピストンの開始直後、里奈は生の反応を引きずり出された。しかしそれを意志の力で抑え込み、笑みを作る。
「あはっ、良いわ、凄い!! お腹の奥に、ガンガン届いて……機械って、すごくパワフルね!!」
 プロとして失敗は挽回しなければならない。ここで快感に目覚めた姿を演じれば、浣腸責めでの渋い態度も含めて、客受けのいいストーリーを演出できる。
 しかし、それはあくまで“演技”であるべきだ。素で快楽に溺れるようであれば、それもまたプロの有り様ではない。
 そしてそれが困難であることを、里奈は薄々気付きかけていた。
「あはぁっ……ぁ、ひ、ぐっ! ひぃっ……ぐひっ! んぐ、んぐっ!!」
 甘い演技をしようとしても、すぐに本気の声が表れる。
「ぃ、いぐっ、いぐっ!!いぐっ!!」
 ふと気づけば、自分が発しているのは素の喘ぎと素の表情。絶頂を口にしつつ歯を食いしばり、堕ちたくないと顔を強張らせる。こんなものは素人の反応だ。
「如何ですか? 当店自慢のバイブのお味は」
 女の勘か。翔子はいつも、里奈が余裕をなくしたタイミングで問いを投げる。
「ああああ゛っ……! んっ、そうね……少し慣れてきて、もっと良くなったわ」
「ほう、どのような感じです?」
「んっ……その、ずっとうんちが出てる感じ、かしら……。さっきの浣腸と洗浄で腸がむず痒い感じになってたから、そこを擦られるのが気持ちよくてたまらないわ。本当によく考えられて…………んンおッ!?」
 里奈が卒なく語り終えかけていた、その刹那。翔子は満を持して、アナルバイブのピストン設定を意地悪く変えた。
『ストローク:S』
 これの意味するところは、奥の奥までの挿入。直腸のさらに先、S状結腸までを蹂躙せよという指示だ。
「はっ、あがっ、あがあっ!!」
 さすがに演技をする余裕などない。里奈は眼を見開き、大口を開けて喘ぐ。
 形状的にも長さ的にも、人間のペニスでS状結腸を突破することは困難だ。アナルセックスの経験が豊富な里奈とて、外国人男優相手に一度か二度あったかというレベルだ。ましてや、ペットボトルをも上回る直径でえぐられた経験などあるはずもない。
 しかし、その悪夢は実現した。アナルバイブは、シリコンのような硬さにもかかわらず柔軟に曲がり、易々とヒューストン弁を突破していく。
「お、おほっ!!」
 二回目の結腸侵入で、出してはいけない声が出た。下品で野性的なケダモノの声。あまりにもウソのない快感の声。
「冴草さま、どうされました?」
 ここで、翔子の問いが来た。解説の時間だ。

(良い性格してるわ……こうなるように設定しておいて!)

 里奈は心中で恨み節を吐きつつ、頭の中を必死に纏める。
「け、結腸よ! 私、今、S状結腸まで犯されているわ! こんなこと人間相手のセックスじゃ絶対できない。これは、貴重な記録よ!」
 陵辱行為を非難せず、その特異性をアピールする。咄嗟にしては悪くない手だが、自らの反応に注目が集まる諸刃の剣でもある。
 今また、長大なバイブの先が結腸へと達した。
「あああああ入ってくるぅっ!!! す、すごい。アナルでここまでイクの、初めて……!!」
 里奈は悲鳴を歓喜の声に寄せ、にいっと口元を吊り上げる。無理のある笑みだ。だが顔以外はもっと無理を押し通している。

(結腸ばっかりほじくられて、頭がおかしくなりそう……!)

 あまりの刺激に膝が笑う。直腸側からの刺激で子宮が疼き、どぷどぷと愛液が吐き出されていく。だが、それ以上に気がかりなのは脳の方だ。
 アナルセックスでは肛門に力が入り、異物に抵抗するような感覚がある。しかしS状結腸に入り込まれた瞬間、それが消し飛ぶ。肛門も脳も開きっぱなしになる感覚……。
「ッんん!!」
 里奈はぶんぶんと頭を振る。頭の“何か”を振り払わずにはいられない。もしそれに脳髄まで侵食されたら、自我を失うことが本能でわかる。

「お゛っ、おほ……お゛っ! はぉっ、ぉ、おお゛っ……!!」

 里奈が舌を突き出し、涎を垂らしながらぼうっとしはじめたのは、いつ頃からだろう。
「里奈さん……」
 宏尚は憧れの女優の表情に言葉を失う。里奈がアナルセックスしている動画は散々見た。イチジク浣腸を50本入れたまま、規格外のペニスを誇る黒人男優に代わる代わる犯されるハードな企画モノも。それでも、こんな顔を見るのは初めてだ。

(すごっ。XLバイブで結腸抉りまくったら、この女でもこんなになっちゃうんだ。あーあー、ケツが気持ちいいからってジタバタしちゃって。EP3万超えちゃってるよー?)

 翔子はモニターを観ながら考える。同情する気持ちも無いではないが、嗜虐心や探求心はそれを遥かに上回った。


                ※


 疲労困憊の状態で摂取する水分は、まさに生命の水だ。万事が拷問じみたSコースでは、水分補給さえ口に管を突っ込まれて経口補水液を流し込まれるやり方だったが、それでも里奈はかなりの気力と体力を取り戻せた。

 マシン内部は比較的静かだ。
 ヴーヴヴッ、ヴッヴッヴッヴッ、ヴーヴヴッ……
 こうした独特のリズムの機械音と、荒い呼吸、拘束具の軋む音。拾われる音といえばその程度のものだった。
 上部モニターに表示されているプレイ名は『 ポルチオマッサージ 』。ただし、その文字表示は点滅している。これは寸止めを示す表現だ。
「ふんんっ、んんっ……! んっ、んんっ……!」
 里奈が艶めかしい声を漏らし、ぶるっと全身を震わせた。骨盤の形が何度も浮き上がり、艶めかしく腰が躍る。腰が力強く浮き上がり、ブルブルッと痙攣する。
「ぁぁイッ、くっ…………!!」
 今まさに、絶頂へ至ろうというその瞬間。それまで続いていた機械音が消えうせ、里奈の表情は切ないものに変わる。

 彼女はもう何分にも渡って、延々と焦らしを受けていた。
 局部はスケルトンカバーのファッキングマシンで覆われ、下腹部にも腹筋に沿うようなシックスパッドが貼りついている。そうして内外からポルチオ──つまり子宮口付近に刺激を与えられるが、絶頂には至れない。
「この焦らしモードでは、絶頂の際まで追い込むものの、決して一線は超えられないようにプログラミングされています。そして性感の波が引きはじめた頃を見計らって、再び絶頂の際まで追い込むのです」
 かつて同じく焦らし責めに苦しんだ翔子は、嬉々としてそう解説した。
 焦らし責めはAVでもよくある。電気マッサージ器を押し当てては離すことを繰り返し、女優に挿入を乞わせるシチュエーションなどが一般的だ。しかし『ドリーミィ・カプセル』の焦らしは追い詰め方の精度が違った。カチューシャ状の脳波測定器が対象の感度を随時測定し、絶頂に至る寸前で機械の動きを和らげる。 あとコンマ一秒同じ刺激が続けば絶頂できた、というレベルの寸止めだ。この精度は熟練のAV男優でも真似できるものではない。
 しかもマシンは、寸止め後も完全に停止するわけではなかった。神経を集中させれば感じとれる程度の、ごくごく微細な振動は続いている。そのせいで被験者は、常に絶頂寸前の状態のキープさせられる。
「キミはなかなか意地悪だねぇ」
 里奈は足元の機械に向けて囁く。対話ができるとは思っていないが、気を紛らわせる必要があった。この焦らし責めはじっと耐えるには辛すぎる。
 両腋を晒したままでの直立姿勢を強いられているが、延々と寸止めを繰り返されると次第に股が開き、がに股でクイクイと腰を前後させてしまう。撮られ慣れているとはいえ、さすがに羞恥心を煽られる格好だ。

(ひどい恰好……こんなの、シュン君には見られたくないわね)

 里奈は苦笑する。
 オイルでも塗ったように汗まみれの肌。焦らし責めの快感だけでひとりでに屹立した乳首。ファッキングマシンがスケルトンカラーなため、ヒクつきも愛液を吐きこぼす瞬間も丸見えの局部。単三電池がそのまま入りそうな窪みを作りつつ、絶頂を乞うように戦慄く内腿。正面のカメラには、その全てが記録されているに違いない。
 そして、気になるのは目に見える部分だけではなかった。静かな責めにじっと耐えていると、機械内部に籠もる匂いが再び気になってくる。濃密なメスの匂い。寸止め焦らしという極限状態下では、そうした自分の体臭でさえ発情する要素になりえた。

 焦らしが始まってから、何分が経ったのだろう。へひっへひっという短い喘ぎ、ぐぅぅっという苦しげな呻き。それを延々と繰り返した果てに、とうとう里奈の膝が笑いはじめた。そして翔子はそれを見逃さない。
「冴草さま、どうされました? もう脚に力が入らなくなってきましたか?」
 その物言いは、『AV女優といってもそんなものか』と煽っているも同然だ。
「……まさか。まだまだ頑張れるわ」
 プロの意地で不敵に笑ってみせる里奈。すると、珍しく翔子も笑みを浮かべた。
「左様ですか、安心いたしました。良い機会ですので、その状態でどの程度思考力が残ってるかテストさせていただきます。冴草さまは、セックスにおける四十八手はご存じですよね?」
「四十八手? ええ、当然知ってるけど……」
 里奈はそう答えながら訝しむ。

(今日の流れに四十八手クイズなんてあったかしら? だったら事前に復習しておきたかったわ。AVクイーンなんて呼ばれてる身で、間違えたら赤っ恥だし)

 思案に耽る里奈の正面に、ある映像が映し出された。若い男女の絡みだ。どちらも体型は理想的で、まさに美男美女が織りなす美しいセックスだが、体位は少し変わっていた。対面座位で繋がったまま、女優の片足を男優が肩に担ぎ上げて動いている。高く上げた女性の足が船の帆のような、見栄えのする体位だ。
「これは何という体位でしょうか?」
「“帆かけ茶臼”よ」
「……お見事、正解です!」
 里奈は淀みなく答え、翔子もあっさりと正解を出す。

(なんだ、本当にただの四十八手じゃない。大江戸四十八手でも持ってくるのかと思ったけど。いくら焦らされながらだって、これなら楽勝だわ)

 里奈はほっと胸を撫でおろすが、やはり何か引っかかる。
『あああっ、太いのが奥まで入ってる! 気持ちいいよおっ!!』
 動画の中では、女優が甘い声を上げ、掲げた脚を痙攣させていた。そしてその直後、全身を痙攣させながらぶしゅっと潮を噴く。
 それを目の当たりにした瞬間、里奈の下腹部が疼いた。
「っ!」
 下腹部のパッドと局部のバイブがまた唸りはじめる。もう飽き飽きするような刺激のはずだが、子宮の疼きを自覚した今は、先ほどまでに輪をかけてつらい。

(……なるほどね。ダイエット中の人間の前で、ケーキを貪るノリってこと?)

 里奈は苦笑する。これは、なかなか精神に来る嫌がらせだ。

「この体位は」
「“理非知らず”」
「こちらは」
「……“浮き橋”よ」
「では、こちらは……」
「…………“時雨茶臼”、ね…………」
 クイズに答えること自体は造作もない。しかし、その度に男女の濃密な絡みをじっくりと見せられ、女優が心地良さそうに絶頂する姿を目の当たりにすると、これが本当に堪らない。ダイエット中のケーキどころか、砂漠で乾涸びかけている前でゴクゴクと水を飲まれているに等しい。
「……ふうーっ……、ふううーっ……!!」
 脚の踏ん張りが利かなくなり、腰が深く落ちていく。その末に、里奈の姿勢は蹲踞に近いものとなっていた。正面のモニターでは“撞木ぞり”が行われているが、男に跨る女優のその体位は、今の里奈の姿勢に瓜二つだ。
「はっ…………はっ…………はっ…………」
 男女のセックスなど見飽きているはずだ。だが今の里奈は、逞しいペニスが出入りする結合部から視線を離せない。
『あはああ、気持ちいいっ!!』
 下からの力強い突き上げに、女優は笑いながら絶頂へと近づいていく。子宮口を刺激されている里奈もまた、自然とその気持ちにシンクロする。
 しかし。
『あああイクっ、イックううーーーっ!!!』
 女優が幸せそうに絶頂する一方で、里奈の方は最後の最後で刺激が消えうせた。夜明け前の暗闇の中に、一人取り残された。
「く、うううう゛っ……!」
 未練の声が絞り出され、手と腰が暴れる。もどかしい。これまでに経験してきた何千というセックスが里奈の頭を巡り、下腹部を戦慄かせる。
「彼女、そろそろ限界ですね」
 様子を見守る翔子がクスリと笑った。
「眼の光が無くなっているでしょう。寸止めの繰り返しで、身体が絶頂を強く望んでるんです。もうそれしか考えられないぐらいに」
 彼女は意図的にマシンへの指示を止めている。焦らしなど程々でも構わない。マシンの性能をアピールするなら、早々にバイブを突っ込んで激しくピストンした方がいい。
 それでも翔子は、里奈に哀願させたかった。自分に僅かでも劣等感を植えつけた女に、解放を惨めたらしく乞わせたかった。

(ほら、正直に言ってみな女王さま。たまんないんでしょ? 機械のチンポくださいって可愛くおねだりできたら、気持ちよーくしてあげるよ? 代わりにアンタの面子は丸潰れだけどね)

 そんな翔子の魂胆は、里奈も察している。

(また寸止め……! ああ、イキたい、イキたい、イキたいっ!!)

 冷酷な焦らしに顔は歪み、腰は痙攣し、晒された秘唇はヒクヒクと開閉を繰り返す。脚の真下に広がる愛液溜まりからは、燻煙のようにメスの匂いが立ち上っている。
 そんな状況下でも、冴草 里奈はじっと耐え続けた。妙に長い焦らしシーンに撮れ高の心配がされ、『次のシーン行ってください』というフリップが出されるまで。

「流石ですねぇ、このギリギリの焦らしをそこまでお耐えになるなんて。お喜びください、ここからはご褒美の時間です」
 翔子は内心で舌を出しつつ、薄笑みを浮かべてキーボードを叩く。
 秘部を覆うカバーが外されると、里奈のひくつく割れ目からはとろりと透明な雫が滴り落ち、床まで途切れることのない線を引く。そうして涎を垂らす里奈の前に、また別のマシンが姿を現した。やや太いアームの先に、瓜のような形のアタッチメントがくっついている。その瓜は訝しむ里奈の目の前で口を開き、8つの鉤爪を形成した。
「っ!?」
 見慣れない形状の責め具に、里奈が眉を顰める。
「ご覧のように、このバイブは先端が8つに分かれて子宮口にフィットします。その刺激の正確さは、ただ漫然と当たる丸い先端とは比べ物になりません」
 翔子はどこか誇らしげにそう語る。それを耳にした里奈は、身が震える思いだった。以前の撮影で、先端が二股に分かれたポルチオバイブを使われたことがある。そのフィット感とそれに伴う刺激は確かに通常バイブの比ではなく、たまらず腰を逃がしたことを覚えている。それが8股となると、どれほどのものか想像もつかない。
「では、ご堪能ください。良きPRを期待しておりますわ」
 翔子の言葉と共に、一旦口を閉じたバイブが里奈の割れ目へと入り込み、奥で改めて花開く。焦らしで蕩けきった子宮口付近に、8つの鉤爪がしっかりと食い込むのを感じる。しかも爪の内側には、ごく微細な凹凸が無数についてもいるようだ。ポルチオを刺激する事にとことんまで特化したバイブといえる。
「はっ、はっ、はっ……!!」
 AV界の女王といえど、この整いすぎた状況には緊張を隠せない。
 バイブが唸りを上げはじめる。市販の『電マ』よりも明瞭で重苦しい駆動音。それはそのまま刺激の強さとなり、掴んだ鉤爪ごと子宮を揺さぶる。
「あっ、あっ!?」
 ファーストコンタクトで、里奈は瓦解を確信した。この類の刺激は長くもたない。ましてや今のコンディションでは。
「いかがですかー、冴草さ……」
「ぁイっ、イグうううっ!!!」
 翔子の呑気な問いを遮る形で、里奈は絶頂を宣言した。腰が震え、背中が仰け反る。ブルブルッ、ブルブルッ、ブルブルッ、と立て続けに子宮口が痙攣し、熱い蜜が吐かれる。乳頭がまたしこり勃って痛む。待ち望んだ絶頂に、体中の細胞が歓喜しているのを感じる。
「……っがはっ、かはっ!! あはっ!!」
 絶頂の波が過ぎた時、里奈は止めていた息を吐き出した。長いキャリアの中でも上位にランク入りするほどに深い絶頂だった。
「あああまたイクっ、また……かはあっ!! あ、ああイクっ、イグイグ、イグうううっ!!」
 二度目、そして三度目のエクスタシー。絶頂したばかりの敏感な子宮口をさらに刺激され、里奈の頭のカチューシャが何度も赤く光る。
「駄目っ、まだイッてる途中っ……アああああ゛ッ!! イグ、イグ、まだイグうううううっ!」
 制止の要求すら言いきれず、何度目かの絶頂に追い込まれる里奈。深く落ちていた腰は絶頂を嫌がるように浮き上がり、ガニ股に戻って、カメラへ見せつけるように腰を振りつつ痙攣する。その割れ目からはとうとう潮が噴きだし、ほぼ同じタイミングで母乳を噴きだしはじめた。
 しかし、機械は無慈悲だ。対象者がどれだけ酷い有様を晒したところで、責めの手を緩めることは一切ない。
「だ、だめ、死んじゃう、息できないっ!! ああ゛ばだイグ、イグッ、ずっどイッでるのおおう゛ぉ゛っっ!!!」
 里奈はカメラへ叫んだかと思えば天を仰ぎ、感電したように痙攣する。その声色は普通ではないが、動きもまた尋常ではない。足首に重厚な拘束具がついているというのに、それを感じさせないほど激しく足を暴れさせる。
「あら凄い、タップダンスかしら」
 翔子が嘲る通り、もはや踊りの域だ。そしてその無茶な動きは、ガシンガシンと拘束具に音を立てさせる。腕の拘束具も鎖を引きちぎらんばかりの勢いのため、EPの上がり幅は極めて大きい。今の増加幅は360キロ。それを360キロの背筋力と換算できるなら、トップアスリートの記録200キロの実に1.8倍だ。


                ※


「あうっ……はぅう、う゛…………へっへひ、へっひぃっ…………」
 鉤爪のようなバイブが引き抜かれた後も、里奈は不自由な呼吸を繰り返しながら、なおも絶頂の余韻から逃れられずにいた。
 彼女の頭の測定器は、何度深紅に輝いただろう。全身は細かな痙攣を続け、顔や胸はセックスフラッシュの紅潮を見せ、乳輪は粟立ち、二の腕や太腿には鳥肌すらも立っている。モニターに記録されている5万超えのEPも、駆け巡った快感の強烈さを物語っていた。
 しかし、それでも里奈に休息は与えられない。口にチューブを突っ込んで経口補水液を流し込み、強制的に里奈の意識を定めさせると、次の責めの準備に入る。

 ポルチオ刺激は効果こそ強烈だが、画として地味という欠点があった。対して今度の責めは、映像的なインパクトが抜群だ。
『 ディルドウサイズ:XXL カリ ゴクブト / バイブレーション:EX / シンジュ:オオツブ 28コ 』
 かつて安西 翔子に泣きを入れさせた責め具に、魔改造を繰り返したもの。サイズXXLは身近な物で例えるなら、2リットル入りのコーラのペットボトルほどの大きさだ。形は人間のペニスを模してはいるが、握り拳ほどの亀頭は嫌がらせのように傘を張り、その下の雁首は同じくエラを張ったまま4つ連なり、起伏の激しい肉茎部分はびっしりと真珠状の突起で覆われているなど、とにかく“えげつない”作りをしている。とりあえず改造はしたものの、ふと正気に戻ったところで2人して顔を見合わせ、外人なら喜ぶかもと冗談を言い合った代物だ。
「こちらは、当店で最も刺激的な一品です。ぜひご自身の眼でお確かめください」
 翔子はそう言ってキーボードを叩き、カメラに映る責め具の異様さを里奈自身にも視認させる。
「…………ッ!!!」
 里奈が目を見開いた。当然の反応だ。
「怖いですか、冴草さま?」
 挑発するようにそう問われれば、里奈も表情を変えざるを得ない。
「まさか。私は馬とだってしたことがあるのよ。あれに比べたら可愛いものだわ」
 堂々とそう宣言し、不敵な笑みを湛えてみせる。
 馬相手のセックスビデオを撮った経験があるのは事実だ。しかし馬姦の初挑戦時、彼女は終始顔を歪めていたし、撮影後には膣が裂けて入院した。その後はフィスト撮影などを経てリベンジを果たしたものの、当時のトラウマは残っているはずだ。
「左様ですか、では遠慮は不要ですね。優秀なモニター様に感謝いたします」
 翔子はにこやかに笑いながら、里奈の両膝に拘束帯を巻きつけ、完全ながに股を強制する。絶頂の余韻から抜けきれていない里奈の脚は、がに股になった時点でかなりの力みをみせた。その脚の間で、拷問具が突き上げられる。
「んおおおおッ!!!」
 里奈の喉から壮絶な声が吐き出され、両足にくっきりと筋肉が隆起する。
 そうなるのも納得の光景だった。コーラのボトルのようなディルドウは、いきなりその半分以上が膣に埋没している。しかも規格外の大きさのせいで、入り込んだ分だけ里奈の下腹がボコリと盛り上がってもいる。並の女性ならば反射的に泣いたかもしれないし、吐いたかもしれない。それを悲鳴だけで済ませているところは、さすが百戦錬磨の強者だ。
 しかしディルドウが下に引かれた瞬間には、その強者の腰もぶるりと震え上がった。
「くあああああっ!!」
 挿入時と遜色のない悲鳴も上がる。
「お味は如何でしょうか、冴草さま。ご感想をお願いいたします」
「ふっ、ふっ……これはまた、とんでもない物を作ったわね。とにかく太いし亀頭も大きいから、突っ込まれた瞬間は息が止まりそうになるわ。でも、それ以上にたまらないのが抜かれる時よ。3つ……いえ、4つもある雁首が膣襞を擦っていくから、潮を噴かされそうになるわ。そんな状態のあそこをまた抉られて、どんどん追い詰められる。真珠のせいで刺激が増してるのも肝ね」
 里奈が冷静に解説する間も、ディルドウは振動しながら上下に動き続けた。その刺激に菱形を作る脚はガクガクと震え、愛液がディルドウに伝いはじめる。
「あら、お褒めの言葉を有難うございます。これは感謝のサービスですわ」
 翔子は意地の悪い笑みを浮かべたまま、機械に新たな命令を打ち込んだ。里奈の足首と膝の拘束具が位置を変え、宙吊りのまま180度の開脚を強いる。
「こ、これは……!」
 里奈はその意味を瞬時に悟った。しかし四肢を拘束された状態ではどうにもできない。カメラに全てを晒したまま、唸るディルドウを受け入れるしかない。
「おほっ、おごおおおおっ!!」
 破格のサイズが膣を強引に押し開く。下腹がコーラのボトルと同じ太さに膨れ上がる。しかも今度は脚で体重を支えられないため、その刺激を100%膣で受け止めざるを得ない。
 そして無論、その状況でも機械が慈悲をくれることはなかった。指定された通りにプログラムが動き、過不足なく膣を突き上げる。
「おお゛お゛う゛っ、ほぉおお゛お゛う゛っっ!!」
 腹部に負担が掛かるため、漏れる声は自然と『お』行に限られた。太腿から足指の先にまで痺れが入り、痛いほどに勃起しきった両乳首までピリピリと痺れる。強すぎる刺激につい脚が閉じかけ、すぐに拘束具で引き戻される。
「あらすごい、EPが5万3000ポイントを超えましたよ?」
「……っ!」
 翔子の声に、里奈はぐっと脚を開き、胸を張る。
「素晴らしい姿勢ですね。ではどうぞそのままで、たっぷりとご堪能くださーい」
 翔子は薄笑みを浮かべ、ディルドウの動作パターンを変化させた。激しい出し入れから、長大さをアピールするようなストロークの長い突き込みに。傍目には刺激が減ったように見えるが、一概にそうとは言えない。
「んぁ、ぁあ……ああぁっ……! おっ、ぉぉっ、ぉっ……!!」
 ゆっくりと時間をかけて引き抜かれれば、4つの雁首で膣襞を刺激される時間も増える。
「う、んんんっ……あぁああ、んはぁぁっ…………!!」
 じっくりと押し込まれると、拡張される刺激を余さず味わえて声が抑えきれない。

(この教え込むような動き……危険ね)

 里奈は経験からそう悟る。無理のありすぎるサイズに、さしもの里奈の膣も驚いて縮こまっているところがあった。しかしこうして緩い責めを挟まれれば、膣も自然と落ち着いてディルドウにしっとりと纏わりつく。そんな状態で激しく突かれれば──。
 里奈のそんな危惧を見透かしたように、ディルドウは再びピストン速度を上げはじめた。
「お゛っ、う、うんっ! んぁっ、あっ、あっ……おっ! お゛おぉっ、お゛ぉっお、お゛っっ!!」
 素材の味を覚え込まされた上での蹂躙。里奈の口は自然と窄まり、顎が浮く。
「あっ、あはっ、太い! すごい、奥まで……っ!」
 喘ぐばかりでは芸がないと笑ってみせるものの、内心で里奈は焦っていた。彼女の中で最もインパクトのあった、アフリカ系黒人とのファックをも上書きするほどの強烈な体験。

(気をしっかり持ってないと、簡単に失神(ト)びそう……。こんなの経験したら、人間相手のセックスを物足りなく感じても仕方ないわ。このマシンの中毒になる子が多いわけね)

 里奈の脳裏に駿介の姿が浮かぶ。もちろん里奈は、容易く快感に流されるほど初心ではない。しかしながら、生物である以上は快感を無視もできない。
「ほっ、ほーっ、ほーっ……おほぉォッ!」
 三浅一深のリズムで膣奥を貫かれ、里奈は仰け反りながら絶頂に至る。全身がぶるぶると痙攣し、乳房の先端から母乳が噴きだす。その状態でさらにピストンを浴びれば、もはや余裕は消え失せた。
「おっほ、イグっ……イッグううぅうんっっ!!!」
 喉を締めつけてなお殺せない嬌声を響かせ、ガクガクと腰を揺らしながら失禁する。たっぷり5秒ほどかけてようやく降りてきた顔は、壮絶だった。目は虚ろなまま涙を零し、鼻からは汁が垂れ、閉じない口からも泡まみれの唾液が滴っている。
「あらー、幸せそうな顔をなさってますわねぇ」
 この翔子の言葉が嫌味であることは、よほど鈍い人間にも伝わるだろう。

(カメラにバカ面晒してるよー、女王さま。無駄に大勢いるあんたのファンが、幻滅しないといいけどね)

 絶句する宏尚を横目に見つつ、翔子はマシンのピストンパターンを細かく変える。里奈を刺激に慣らさないように、少しでも新鮮な反応を引き出せるように。
「うあっ!?」
 里奈から驚きの声が漏れた。絶え間ないハードピストンから一転、亀頭部分までを完全に抜き去られたからだ。ディルドウは握り拳のような先端で、様々な分泌液にまみれた割れ目をぬるぬると刺激しはじめる。
「あっ! あっ! んっ!」
 完全に“出来上がっている”今の里奈からは、それだけで大きな声が漏れた。

(そんな……! 腰が、腰が動いちゃう……!!)

 里奈は驚愕する。秘裂がひくつき、乳首がわななき、全身が挿入を願っている事実に。流されるまいと頑張っていたが、肉体はしっかりとこの凶器の虜になっているようだ。
 充分に焦らしたところで、ディルドウはまた根元まで一気に挿入される。
「ッかああああ!!」
 里奈の全身が仰け反り、太腿から足指の先までが病的に痙攣する。EPも加算されるが、今度は脚を閉じようとした結果ではない。むしろその逆、ディルドウへ腰を押し付ける形で限界以上に股を開いたせいだ。
 その甘えを翔子は見逃さない。奥の奥まで挿入した上でさらに押し付け、グリグリと膣奥を“練る”。まるで熟練男優のテクニックだ。
「ぐひっ! ひぅっ、ひ……ァひッ!!!」
 どれだけ壮絶な事をされているのか、それをまともに呑み込めばどうなるのか。それを瞬時に悟ったのだろう。里奈は咄嗟に歯を食いしばり、眉も鼻もグシャグシャに中央へ寄せる壮絶な顔で抗った。しかしAV女優のそれほどの本気をも、機械責めは嘲笑うかのように突き破る。
「ッッおお゛お゛ぉ゛お゛お゛っ!!! おほっ、んお゛っお゛、お゛っ、おお゛ぉお゛お゛っ!!!」
 無理に我慢をするほど、その反動は大きい。里奈は、聖母のイメージを覆す喘ぎ声を繰り返し吐きながら、緩く背を反らした。仰け反りが甘いため、その表情の遷移──ぐるりと白目を剥き、舌を突き出し、唾液を散らし、鼻水を噴きだす、その全てが余さず記録されてしまう。

「……はあっ、はあっ、はあっ……! す、すごいわ……カラダ中が、熱い……。感電してるみたいに、ビリビリして……余韻だけで、んんんっ、またイケちゃう……」
 駆動をやめたディルドウがようやく引き抜かれた頃、里奈の有り様は壮絶だった。母乳がどくどくと腹部を覆い、全身が汗で濡れ光っている。
 翔子はそんな里奈の有様をしばしカメラに収めさせてから、4本のアームを操作した。アームの先についたフックが里奈の小陰唇に引っ掛けられ、性器を4方向に押し拡げる。
 ぐっぱりと開かれた里奈の膣では、濡れ光る膣壁が妖しく蠢いていた。しかし、本当に衝撃的なのはその奥だ。膣の突き当たりに位置する子宮口が、その口を大きく開いていた。指の二本程度ならばそのまま入りそうなほどに。
「うわ……!」
 モニターを凝視していた宏尚は、思わず声を上げた。
 理屈は解る。さんざん焦らした上、子宮口に密着する例のバイブで子宮口をほぐした。さらに巨大な亀頭で繰り返し子宮口を圧迫した。ここまでお膳立てを整えれば、翔子でも小指の先ほど外子宮口が開いたものだ。
 だが、里奈の開き具合はその比ではない。さすがは経産婦というところだろうか。
「…………凄いでしょう。それとも羨ましいかしら? 何度も中イキした結果よ。女の性の到達点ね」
 開閉する子宮口を撮影される。その未曽有の屈辱の中でなお、里奈は笑みを浮かべてみせた。一方で翔子も笑う。クスッ、と冷ややかに。
「お言葉通り、素晴らしい仕上がりです。しかし冴草さま、まだ到達点というには早いのでは?」
「え?」
「人間相手のセックスではここがピークだと思われますが、我々は“その先”をご用意しております」
 翔子のこの言葉からは、嘲りの意図が透けて見えた。AVクイーンなどと胸を張ったところで、所詮は人間しか経験がないんだろう、という。

(その先……? 一体何をする気なの?)

 里奈の頬に冷や汗が伝う。事前に撮影の流れは打ち合わせているが、この辺りのシーンは里奈側に知識がないのもあって『最終シーンまで延々マシンファック、責め方は店のおまかせで』と丸投げしたため、何をされるのかは全く未知だ。しかし、だからといって逃げられない。
「ふーん、面白いわ。なら教えてちょうだい、その新しい世界を」
「ええ、承知しました」
 無機質な機械を隔てて、女の意地がぶつかり合う。


                ※


 4つのフックで膣を開くのはそのままに、また別のバイブが里奈に迫る。
 今度の責め具はずいぶんと小ぶりだった。初心者が膣やアナルを慣らすのに使う細いバイブという風だ。当然、このSコースでそんなものが膣に使われるはずもない。また尿道責めかと身構える里奈を嘲笑うように、バイブはまっすぐ進んでいく。膣の中央……開いた子宮口の中へと。
「がっ……!」
 未知の刺激に、里奈は眼を見開いた。
「なっ、子宮!? 新しい世界っていうのはウテルスセックスのこと!?」
「さすが、よくご存じで。冴草さまは出産経験がお有りとのことですので、子宮頸部から先への挿入も問題なく可能と思われます」
 私なんて、産んだ経験もないのに突っ込まれたんだからさ──翔子は心の中でそう毒づきながら、宏尚をジロリと睨む。
「ひっ、ひぃいっ! はっ、は……はあぁっ! はあぁっ! はあああっ!!」
 里奈は全身に冷や汗を掻いていた。子宮口に赤子を通した経験があるとはいえ、それはあくまで内から外の話だ。尿道や肛門がそうであるように、出すために作られた場所へ異物が入り込んでくる違和感は大きい。ましてやポルチオは女性最大の性感帯だ。突かれるだけで絶頂するそんな場所へ直に挿入されて、平然とはしていられない。
 頭に血が上る感覚の後、ふっと視界が明度を落とし、目の奥で光が迸った。

(あれ、これ……? この快感、ダメかも……)

 里奈はそう直感する。
 プロの男優相手に中イキを経験すると、目の前で火花が散るような感覚を覚えることがあった。いわゆる『目がチカチカする』状態だ。しかし今のこれは、それよりも遥かに鮮明だった。車のハイライトを直視した時の、思わず立ち竦むような眩さ……それが目の奥に閃いた。
「さあ冴草さま、子宮に挿入されたご感想を」
「はぁっ! はぁっ !はぁっ! こ、これは、初めての感覚よ……! 子宮が痺れて、熱い!! 突っ込まれるだけで、んくっ、深い中イキが……来るっ!!」
 里奈自身の告白を裏付けるように、カチューシャ型の測定器は赤く光り続けていた。暗くなる瞬間がないのは、常に絶頂状態にある証だ。
「ハアッ、ハアッ、ハアッ、ハアッ……!!」
 分泌液の糸を引きながら、子宮口から一旦バイブが抜かれた時、里奈は完全に息が乱れていた。額の汗も尋常ではない。
 翔子はそんな里奈に、あえてバイブの先端を見せつける。もちろんカメラにも真正面から映る位置でだ。
 バイブの先には、白い物が付着していた。
「これが何だかお解りでしょうか?」
 翔子に問われても、里奈はすぐには答えられない。頭は答えを導き出しているが、それを咄嗟に口に出せない。
「これは、冴草さまの子宮内膜にこびりついていた滓です。このバイブの先が間違いなく子宮頸部を通り抜け、子宮体部にまで達していたという証拠ですわ」
 翔子は高らかにそう宣言し、しっかり撮れと言いたげにカメラを観る。押しも押されぬトップ女優の子宮滓など、確かにそうそう見られるものではなく、記録的な価値があるのは確かだ。しかし、里奈当人としては恥辱の極みでしかない。
「……そう。道理で気持ちよかったわけね」
「それは良うございました。これよりウテルスセックス前の慣らしとして、子宮頸部の拡張を行いますので、この輝かしい世界をたっぷりとご堪能くださいませ」
 翔子はあくまでにこやかに笑いながら、子宮責めを再開する。
「あひっ、ひぃっ、ひぎィィっ!! ひぎィッ、んひぃいィっ!!」
 機械の駆動音と呼応するように、尋常ならざる呻き声が漏れはじめる。並のサディストであれば、この反応だけで充分に満たされることだろう。しかし安西 翔子という稀代の悪女は、惨めな人間を見ると追い打ちを掛けたくなる性分だ。学生時代の宏尚にリンチで泣きを入れさせた挙句、便器まで舐めさせたように。
「ああ申し訳ありません、うっかりしておりました。そろそろそのバイブにも子宮が馴染んで、刺激が足りなくなってきた頃でしょう」
 白々しくそう告げながら、子宮のバイブを引き抜いてより太い物と交換する。
「あ、ひぎあああ゛あ゛っ!! ふ、太い゛ぃ゛、ふどいいい゛っ!!」
 子宮口をこじ開けられ、白い歯を食いしばって悶絶する里奈。
『58305』
『58721』
『59127』
 手足の拘束具が騒々しく音を立て、モニターのEPが増えていく。その様を見守る翔子は、事務的な能面顔の下で笑いを堪えるのに必死だった。
「刺激的ついでに、このようなトッピングもいかがでしょうか」
 翔子は淡々と告げながら、マシンに追加命令を打ち込む。細いアームが計4本里奈に迫る。うち2本は搾乳器、1本は尿道バイブ、1本はクリトリスブラッシング用のものだ。
「んお゛ぉっ!? そんな、この状況でクリと尿道もなんて!! おあお゛お゛お゛っ……あ゛イグ、イグ、イグっ!!」
 異質な五ヶ所責めで、脳波測定器がより鮮やかに輝く。翔子はそれを見てほくそ笑み、最後の命令ボタンを押し込んだ。
「では、ご堪能ください」
 その言葉の直後、里奈の目元は機械で覆われた。Sコースで用いられるこれは、ただ視界を閉ざすだけのものではない。強い光の明滅で被験者の脳をシェイクし、快感にトリップしやすくする悪夢の機能だ。
「ああなにこれ、眩しいっ!! ああおっぱい吸われ……あっああっ、おしっこの穴、そんなに……!! ぁだめ、子宮でもイクっ……クリやめて、そんなに擦られたらっ…………!!」
「ああ、凄い反応。今の状況を解説していただきたいところですが、この様子では難しそうですね。もはや彼女は、自分が今どこで絶頂しているのかもわかっていないはずです」
 パニックに陥る里奈を、翔子は面白そうに見つめていた。内心で評価してはいる。以前に翔子自身があの五ヶ所責めのモニタリングを行った際、あまりの刺激に泣きだし、やめて、止めて、としか叫べなくなった。混乱気味とはいえ、各部の刺激に一つずつ向き合おうとする里奈は、貪欲で、生真面目で、強かだ。

(なら、こういうのはどう? お強いAV女優サマ!)

 翔子はさらに設定を弄り、今度は里奈の姿勢を変えさせる。宙吊りのまま、両脚でMの字を作るように。自然と下半身が力むその体勢は、里奈からいよいよ余裕を奪うに違いない。
 いつしか翔子は、ハイな気分になっていた。自分より上等なメスをイジメ潰してやろうという気持ちも変わらずある。しかしそれ以上に、冴草 里奈という女の示す反応そのものが面白くて仕方ない。

(ほらほら、頑張れー! あたしはこの辺で泣き入れてギブしちゃったけど、アンタならその先に行けるでしょ? これ以上やったら女がどうなっちゃうのか、カメラとあたしに見せてよ!)

 心の中で野次を飛ばしつつ、外面ではあくまで事務的にキーボードを叩く。我ながら良い性格をしている、と翔子は自嘲した。

 ガコガコと音を立てながら、通常膣に使われるものと同じバイブで子宮内を蹂躙される。
 その上の尿道も親指大のバイブがこじ開け、薬液で疑似排尿を強いながら入り口と陰核脚を刺激する。
 肥大したクリトリスは微細な振動を浴びながら、無数の繊毛に磨きぬかれる。
 勃起した左右の乳頭は変形するほど吸引され、延々と母乳を絞り出される。
 幾重もの無慈悲な責めに、里奈の反応は刻一刻と変化していった。
「ッオ゛、オ゛オ゛オ゛オ゛……ほおイグっ、イクっイクううううっ!!」
 重苦しい呻きと共に絶頂する。最序盤のその反応ですら、充分に異様ではあった。
「おあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!! ああア゛っ……あ゛ーーっ!! あ゛ーーっ!! あ゛ーーっ!! あ゛ーーっ!!」
 2分が経った頃、喘ぎ方が変わる。呼吸はより苦しくなっているはずだが、どういう訳か、喘ぎ声の種類が『お』から『あ』の濁音に変わる。その理屈に合わない行動が、ますますもって異様だ。

(おー、いいカンジに狂ってきたじゃん。あたしは速攻でギブしちゃったけど、どんな感じかは分かるよ。子宮・尿道・クリ・乳首……女の急所5点責めとか、ふざけんなって感じだよね。目の機械のせいで意識かき乱されるのもヤバいし。あの女、マジで狂っちゃうかも。まーでも、そうなったらそうなったでいい宣伝になるか。『ご利用は計画的に』、ってね)

 翔子は無表情の裏でほくそ笑む。『この撮影で里奈に何かが起きても、責任は一切問わない』──店と撮影側でそういう契約を交わしているため、責めている方としては気楽なものだ。

「ああ゛あ゛あ゛……ッがあ゛あ゛あ゛あ゛ッ!! ぉうっ、ふうっ、お゛ーっ……ぉほっ、イいい゛い゛ぐ、ッッグ!! あッ!? あ゛っあ゛っあ゛っあ゛っあ゛っあ゛ーーっぁイグィグイグイギゅる゛ッ!!! ふゥーッ、ふゥーッ、うう゛ーッ!! がはあっ、あ゛あ゛あ゛あ゛うはぁあ゛あ゛あ゛あ゛っっ!!」
 さらに数分が経つと、里奈の反応はいよいよ一貫性を失った。身を捩って絶叫したかと思えば、腰を痙攣させながら歯を食いしばる。かと思えば完全な泣き声を響かせ、明瞭に絶叫をアピールしたかと思えば、言葉に成りきらない悲鳴を吐き散らす。秒単位で目まぐるしく変化するその様は、まさに狂乱という表現が相応しい。
 肉体の反応も、ありふれたセックスでは見られないものがいくつもあった。一切責められていない肛門が喘ぐように開閉し、そこに尿道と膣からの白く濁った愛液が流れ込んで、ふとした瞬間にびゅっと勢いよく噴きだす様などは特に壮絶だ。

(これ流石にヤバい? 流石にヤバいやつだよね? あーもうわっかんない! せめてヒトの言葉喋れっつーの!)

 翔子は焦りつつ、マシンに責めの中止を命じる。狂ってもいいと思うのと、実際に狂いゆく様を放置するのとでは、やはり大きな隔たりがあった。

 責め具が引き抜かれると、里奈の肉体は分かりやすいほど弛緩する。引き絞られていた四肢の拘束具も久々に緩み、モニターのEPも加算が止まる。その数値はいつの間にか8万の大台に乗っており、里奈がどれほど暴れたのかを如実に物語っていた。
「んんっ……」
 目元の機械が外れた瞬間、水漏れのように大量の涙がこぼれ落ちる。その源である瞳は眩しそうに瞬き、揺らぐ瞳孔が落ち着くのに数秒を要した。
 しかし──ついに焦点の合った宝石のような瞳は、なおも光を失っていない。

「はーっ、はーっ、はーっ……あ、あははは、最高だわ! 私もまだまだ無知ね、こんな世界があったなんて……!」

 絶叫マシンを体験した直後のように、息を切らせながら笑う里奈。その姿は、撮影スタッフと宏尚と、そして翔子に衝撃を齎した。

(マジ? こいつ、あれに耐えんの? しかも笑ってるとか……これがAVって業界の頂点ってわけ?)

 改めて突きつけられたその事実に、翔子が眉をしかめる。
「素晴らしいです、冴草さま。これならばこの先のテストにも存分にご協力いただけそうですね。ただし、あまり羽目を外しすぎないようにご注意ください。冴草さまのEPは、すでに8万を超えておられますので」


                ※


「おごお゛お゛お゛お゛っ、お゛お゛お゛っ!! ん゛はっ、お゛お゛お゛っ!! ぉ゛イグっ、イっぐううう゛う゛お゛お゛お゛!!!」
 マシン内部のスピーカーからは、壮絶な声が漏れ続けていた。その声だけを聴けば、恥知らずな品のない女に思えるだろう。しかしモニターに目を向け、卵型のカプセルの中で何が起こっているのかを認識したなら、その評価は変わるはずだ。あそこまでやられているなら仕方ない……と。 
 里奈は直立姿勢に戻され、下から突き上げる形で子宮を責められていた。グッポグッポという空気の攪拌音が、絶え間なく響いている。猛烈なピストンを繰り返すバイブは発光するタイプで、強い光が肌越しに透けて見えるため、どこまで入り込んでいるのかが一目瞭然だ。
 目視できる子宮姦は、映像的なインパクトのみならず、説得力という点でも優れている。
「あうう゛っ、ふぐう゛……ううう゛っ、ぃひぐふう゛ん゛っ……!!」
 里奈がまた“泣き”のサイクルに入った。俯いたままボロボロと涙を零し、爪先立ちになった脚を痙攣させる。串刺しにされたまま感電しているようだ。子宮へ入り込むバイブが視認できるならば、そんな姿にも納得だった。
 ただし、それに同情の念を感じるのは人間だけだ。機械に慈悲などない。プログラムの実行タイミングが来れば、対象が泣いていようが失禁していようが、一切考慮せず責めを課す。
 バチンッ、バチンッ、と肉を打つ音が響いた。凹凸付きのパドルが太腿や尻を打ち据える音だ。
「いやいい゛い゛い゛っ!!!」
 肌に赤い跡を残すほどの容赦ないパドリングは、通常時であれば泣くほどの痛みを、絶頂続きの極限状態であれば震えるほどの快感をもたらす。実際に里奈も、無駄肉のない皮膚を波打たせながら、必ずと言っていいほど潮噴きに至っていた。
 しかし今回に限っては、その痛みに悶えたことが仇となる。逃げようとした脚が床の愛液で滑り、一瞬とはいえ子宮だけで全荷重を受け止める杭打ち状態となる。そしてその一瞬が、里奈を残酷に突き崩した。
「わ゛ああ゛あ゛あ゛ーーーーっ!!」
 開き切った口から喉を震わせるほどの悲鳴が上がり、全身が痙攣する。
「あ゛ーーっ!!! あ゛ア゛ーーーっ!!!」
 地に着いた足で必死に踏ん張るが、痙攣と絶叫は止まらない。むしろますます酷くなる。その一連の反応は、彼女が薄氷に乗るがごときバランスで正気を保っている事実を伺わせた。
「ふ、はッ、はッ、はッ、はッ、はッ…………」
 かろうじて姿勢と呼吸を整えても、里奈には休む暇もない。翔子がその暇を与えない。
「大丈夫ですか、冴草さま。凄いお顔ですよ」
「……だ、だっで、ずっど子宮でイってるがらっ……!!」
「そうですか、子宮で。ああ、そういえば体外からのポルチオ刺激を失念しておりました」
 翔子はとぼけた口調でそう告げると、見るからに強力なマッサージ器を里奈の下腹部に押し当てる。
「あやっ!! お、お゛っ……おおおお、イグ、イグイグイグっ!!! あああ子宮がげいれんぢでるううう!!!」
 里奈が身を捩ると、手足の拘束具が軋みを上げる。涙に塗れた視界では、モニターのEPが9万目前にまで迫っていた。今の増え方を考えれば、10万ポイントまでの猶予など無いに等しい。
 追い込まれている。あらゆる点で。

「あらあら、ステキなお声。すみません、もっと早く気持ちよくして差し上げられたのに」
 翔子はにこやかに笑いつつ、責めの命令を更新する。
 里奈の身体は再び宙吊りにされ、Mの字を描くその脚の中心に、改めてバイブがねじ込まれた。ただし、このバイブも先ほどまでのものとはやや違う。発光機能はそのままに、二回り太さが増したものだ。
「がああ太ッ……あ、あ゛ーーっイグううッ!! お゛っ、おん゛っ、おん゛っ、ほおおお゛お゛お゛お゛ーーーッ!!」
 これ以上はないというほど目を見開き、全身を震わせる。手足でも切り落とされているかのような表情だ。しかしその声色は濃密な快感を孕んでいるし、脳の測定器は鮮やかな赤に輝き続けている。
「盛り上がってきたところで、この映像をご覧の方にコメントをどうぞ」
 翔子が唐突にリポートを要請した。勿論、辛いタイミングだと判断した上でだ。
「おっ、ほぉっ、ほぉっ……ははは、クレイジーで最高ね。けど皆、くれぐれも遊び半分でこのコースを選んじゃ駄目よ! あそこをグチャグチャにされてしまうわ!!」
 里奈は楽しそうな笑みを浮かべた。時間的にもそろそろ撮影のクライマックスだ。このPRビデオに陰惨なイメージを残さないためにも、快感に喜んでいる画を多く撮らせた方がいい。そう判断した上での笑顔だ。しかしその笑みも、すぐに歪んだ表情で上書きされる。
 あそこをグチャグチャにされるからやめておけ──その発言は、彼女自身の性器が壊れそうだという告白に等しい。
「あそこだけ、ではありませんよね?」
 翔子は薄笑みを浮かべながら、乳房の器具を作動させた。乳腺マッサージと搾乳機能が同時に働き、里奈の胸を甘い快楽で包み込む。
「あああ胸っ、あああ゛あ゛あ゛ーーっ!!」
 意識していない箇所への快感に、里奈はあえなく絶頂し、盛大に母乳を噴きこぼす。あまりにも顕著なその反応に、翔子はくすっと笑いを漏らした。
「失礼ながら。そのように気持ちよさそうな反応をなさると、あまりお言葉の説得力が……」
「あ、当たり前じゃない! 子宮でイカされつづけて、甘い快感が体中に巡ってるのよ! 乳首にだって……あ、あダメ、乳首だめ! 繋がる……あそこと、電気繋がるぅっ!!」
 里奈はそう絶叫し、俯きかけたままで動きを止める。

 目の前に、星がチカチカと瞬いていた。
 辺り一面が仄暗い。それなのに、何もかもが白い。
 この空間は心地がいい。まるで、天国……………………


『  里奈さん!!  』


「……っ、ぶはああっ!!!」
 脳裏に響いた声で、里奈は意識を取り戻す。激しく噎せかえり、その勢いで吐瀉物を思わせる黄褐色の唾液がびしゃびしゃと胸に垂れ落ちた。

(あ、危なかった! 息するの、忘れてた……!!)
 
 里奈の心臓が激しく脈打つ。窒息寸前だった事よりも、脳が警鐘を鳴らさなかった──すなわち、甘美な死を受け入れていたという事実がショックだ。
 よく助かったと思う。さっきの声のおかげだ。
 あの声には聞き覚えがある。それこそ今朝も、窒息しそうなほどのキスの後で囁かれた。

『出かける前にちゃんとマーキングしとかないと。『ドリーミィ・カプセル』だかなんだか知らないけど、機械なんかに僕の里奈さんは渡さない』

 すっかり大人びた少年の声。

(そっか…………シュンくんが引き戻してくれたんだね)

 そう思い至り、里奈はふっと笑みをこぼす。
「っ!?」
 翔子が目を見開いた。

(何あいつ……笑ってる? あたしの責めがヌルいっての!?)

 翔子には、里奈を追い詰めている自信があった。AV女優としてのプライドで頑張ってはいるようだが、それでも翻弄できていると確信していた。
 今の笑みは、その翔子のプライドを打ち砕くものだ。

(ふざけんな、ふざけんな、ふざけんな!! AVクイーンだか何だか知らないけど、あんただって所詮は只の女だろ!? あたしが泣き入れさせられたこのマシンに屈服しないなんて、あるわけないんだよ!!)

 翔子の指がキーボードの上で激しく踊る。
 里奈の膣から男根型のバイブが引き抜かれ、入れ替わりで再び八股の密着型バイブが挿入された。
「あっ、これは……!? ひッい、いいいイ゛グッ!! しっしっしっ、子宮でえっ!しきゅうでイってるうう゛う゛う゛っ!!!」
 同じ責めの繰り返しでは断じてない。挿入を経て子宮頸部をほぐしきった上でのポルチオ刺激だ。里奈の両脚は大きく開いたまま強張り、刺激を嫌うようにバタバタと暴れはじめる。

(ほらオバサン、EPがどんどん増えてくよー? 『92126』、『92335』……あーあー、もう10万オーバーとか時間の問題じゃん。プロの誇りにかけて耐えきってみせるとか啖呵切っといて、結局ダメでしたーじゃカッコつかないでしょ)

 翔子が心中で嘲笑う中、里奈の腹筋が痙攣しはじめ、瞳はぐるりと上を向く。
「ぇおえっ、ごぼっ……!!」
 里奈はまたしても激しく噎せ、唾液と涎、吐瀉物の混じった粘性の液体を吐き出した。
 彼女の意識はそこで一旦途切れたが、翔子には休息を取らせるつもりなどない。ポルチオバイブの出力を上げ、身の内から揺さぶることで強引に覚醒させる。
「ごほお゛っおお゛お゛っ!! おおお゛ぉ゛イぐ、イぐイぐふうううん゛っ!!」
 確かならぬ声で覚醒した直後、里奈の股間からはチョロチョロとせせらぎが漏れた。根元まで押し込まれた尿道バイブを無視する失禁だ。
「あらあら、嘔吐どころかお粗相までなさって。残り時間はまだ40分ほど残っていますが、もう終わりにされたいですか?」
 翔子は諭すように里奈に告げた。口調こそ優しいが、『逃げるのか』という問いだ。
 窒息に苦しんでいた時の里奈なら、あるいはそれを魅力的だと思ったかもしれない。しかし、今は違う。
「……冗談じゃない。こんな刺激的な体験なんてそうそうできないもの、残さず味わい尽くさせてもらうわ」
 AV界を代表する女優として、駿介が憧れるAVクイーンとして、里奈は綺麗に笑ってみせた。


                ※


「んぎいいい゛い゛い゛い゛っっっ!!!」

 断末魔のような悲鳴が、撮影部屋を震わせる。その声と同様、里奈の現状も壮絶だ。
 彼女の身体はいくつもの拘束具に捉えられたまま、完全に宙へ浮いていた。膝が肩につくまで持ち上げられた、いわゆる『マングリ返し』の体位。女性にとって最も屈辱的なその格好をキープさせたまま、総決算のような責めが里奈を襲っていた。
 乳頭は乳腺開発と共に搾乳され、クリトリスは激しくブラッシングされ、尿道にはマジックペンサイズのバイブが埋め込まれている。子宮を抉るアタッチメントはもはや男根を模したものですらなく、いわゆる触手に近い形状をしている。肛門にも嫌がらせのような極太の触手型バイブがねじ込まれ、実に40段におよぶ蛇腹でS状結腸を扱き続けていた。
 不自然な体勢でそこまでの責めを受け、じっと耐えられるはずもない。少し前までの里奈なら、拘束具のワイヤーを引きちぎらんばかりに暴れ、手足合わせて500近いEPを叩き出していたはずだ。
 ところが今は、その増加量が極端に少なかった。
『97566』
 それが現在のEPだ。背水の陣という状況ではあるが、残り時間も少ないことを考えれば、追い込む翔子も悠長には構えていられない。翔子は鬼気迫る表情でキーボードを叩き、責め具の動きを激化させる。
「ああああ゛あ゛凄いっ、気持ちよすぎる゛っ!! 前もっ、うしろも゛、抉られてっ……い、イギっぱなしで、おがしくっ……ああああまたぐるっ、まだぐるう゛う゛う゛っ!!」
 リポートする里奈の声が乱れはじめた。時に濁り、時に掠れ、時に裏返る。顔はチアノーゼで青ざめ、口の端からは泡にまみれた涎が垂れ続けてもいる。それでも機械に慈悲はない。
「はぎィいいい゛っ、んがぁ!! んごおおお゛お゛お゛っ! オ゛ぉイッぐ、ああオ゛ーーっ!! ずっどイッでる、ずっどイッでるうう゛っ!! いぎっ、いぎできあいっ……ふぁあああぁあんっ!!!」
 壮絶な悲鳴の合間合間に、泣いているようにしか聞こえない声が混じる。手足が暴れ、EPも加算されていく。

(無駄な足掻きだって。耐えきれるわけないじゃん、そんな無茶苦茶な責め)

 翔子はそうほくそ笑む。しかし、それも僅かな間だけだ。
「ぐ、うううう゛っ……!!」
 里奈はすぐに持ち直し、累積EPを『97894』に食い止めた。
「なっ……!」
 自分の常識を超える根性に、翔子の顔が引き攣る。
 しかし、彼女にもまた意地がある。彼女はマシンに関する知識を総動員し、EPの残り2000ポイントあまりを削りにかかった。
 最強のAVクイーン相手に、AVの真似事をしても無駄だろう。ゆえに、人間相手では実現できない責めを叩き込んでいく。

 挿入からの疑似射精をひたすら繰り返し、子宮内部はおろか膣さえも飽和させて腹部をぽっこりと膨らませ、その状態でアソコに栓で密封する。その状態で激しくアナルにピストンを仕掛ける。これは相当に効いた。
「ぎぃいい゛っ、しぬ゛っ、しぬう゛っ!! げほっ、おお゛え゛っ!! も、もう、もう゛……っ!!!」
 『死ぬ』と嘔吐を繰り返し、その果てに『もう』という言葉を繰り返す。『もうやめて』『もう許して』……そうした哀願の言葉を漏らしかけているのは明らかだった。
 それでも、里奈は凌ぎきる。何度となくアナルアクメを繰り返しながら、膣の栓を吹き飛ばした時点で、EPは『98752』。
「くっ……!!」
 もはや翔子には、態度を繕う余裕などない。モニターの中の里奈を睨みながら、悪意ある設定を叩き込んでいく。
 膣に触手型のバイブを3本突っ込み、後ろの穴にも蛇腹バイブを2本挿しして、苛烈な抜き差しを繰り返す。乳首や下腹はもちろん、腋にさえ電気パッドを装着して刺激する。そしてついには、口にさえ触手型のバイブを突っ込み、喉奥を激しく蹂躙する。まさに体中、穴という穴を蹂躙するハードプレイだ。
「もごっ、ほもっごぉおお゛お゛っ!! むぐおお゛お゛っ、ィいお゛え゛ッ!! おっお゛お゛、もおごろえお゛おお゛エ゛っ!!!」
 喉奥を蹂躙され、粘ついた汁を掻き出されながら、里奈は着実に追い詰められていく。

(なるほど、これは人間相手じゃ味わえないわね。ファンタジーの世界で強姦されてる気分だわ……!)

 ぼやけた頭でそう思考する間にも、膣は3本の触手に蹂躙され、テニスボールほどもある先端部分が代わる代わる子宮口を突破してくる。肛門の2本の触手は、無数の蛇腹で直腸をイジメ抜きながら結腸にまで侵入し、それぞれ別方向に蠢いて強引に門を開きにかかる。その際に生じる便意に似た何かは、人間の尊厳を根こそぎ消し飛ばすかのようだ。尿道、クリトリスの刺激とて馬鹿にはできない。本来ならその刺激だけで泣かされ、屈服させられかねない強烈さがある。腹部、内腿、上腕、腋……そこに取り付けられたパッドからの刺激も、今や絶頂に直結する。
 しかもそれらの刺激は、各所独立しているわけではない。それぞれがそれぞれと結びつき、影響しあって、里奈の全身を高圧電流のように駆け巡る。

 それでも、里奈は耐えた。暴れようとする手足に力を籠め、逃げようとする腰を押しとどめ、折れようとする心を鼓舞し続ける。

(……うそ。ウソ、ウソ、ウソだ!!)

 時計を睨みながら、翔子は歯噛みする。しかし、現実は覆らない。残り時間は刻一刻と減り、4時間におよぶコースの終了時間が迫る。

「んぐううう゛う゛っ、はおおお゛お゛お゛ーーーっっ!!!」
 口からバイブが引き抜かれると、里奈はすぐに喘ぎを漏らした。そこへ快感の高波が襲えば、ここぞとばかりに全身を仰け反らせて快感を訴える。
「お゛っ、お゛っ、おおおおお゛イグううう゛っ、イグの見てえええーっ!!」
 恥じらいのない痴女に見えるかもしれない。しかしこれはAV女優としてのプライドだった。苦しくても辛くても、撮影から逃げずに快感に浸る演技をしてみせる。それこそがAV女優・冴草 里奈のあるべき姿だ。
「ああああそうよ、突いて、抉って、滅茶苦茶にして! あなたは最高よ……このマシンは最高よぉーーーーっ!!!」
 里奈は高らかにそう叫ぶと、母乳と潮を噴き散らしながら、反った全身を痙攣させる。その絶叫と絶頂を最後までカメラに収めきったところで、タイマーが鳴り響いた。


 終わってみれば、すべてが里奈のシナリオ通りだった。
 撮影の締めはPR動画として文句なし。そして最終的なEPは『99994』。
「……ふふ、結構ギリギリだったのね」
 並んだ数字を見てにこりと笑う里奈を見て、翔子は悟った。

(こいつまさか……狙ったの? 最後のあの痙攣まで含めて、ギリギリ10万以下になるように? でもそんな、あと6キロの負荷でアウトだったのに……)

 撮影終了後の弛緩した空気の中、翔子の血だけが冷えていく。そんな中、マシンの中から助け出された里奈は、硬い表情の翔子に笑いかけた。
「なんとか10万ポイント以内に収めたけど、正直勝った気がしないわ。随分と恥を晒してしまったもの。何度か気絶もしちゃったし」
「……このマシン相手では当然かと。人間の耐久力にも限界はあるんですから」
「いいえ、身体の限界じゃないわ。このままじゃ狂っちゃう、死んじゃうって思って、自分から暴れたり意識をシャットダウンしたのよ。つまり気持ちで負けたの。たとえ皆がよくやったって褒めてくれたとしても、私自身が逃げたことを解っちゃってる」
 里奈は心底悔しそうだった。無慈悲な機械にあれだけ無茶をされたら、逃げたいと思って当然だろうに。なんというストイックさ。まるで一流のアスリートだ。
「またプライベートでリベンジさせてね。次も手加減なんていらないわ」
 里奈はそう言って翔子に握手を求める。汗と鳥肌に覆われたその手を前に、翔子はゴクリと喉を慣らした。
「……お待ちしております、冴草さま。ただし、次回来店される時はまた機能がアップデートされているかもしれませんよ? 今回のテストで、『最高のAV女優』のデータがたっぷりと採取できましたので」
「望むところよ」
 互いに笑みを浮かべながら、がしりと握手を交わす里奈と翔子。どこまでか悪意で、どこまでが敬意なのかわからない。

「……女って、こえー……」

 蚊帳の外ですべてを見届けた宏尚は、しみじみとそう呟いた。




                         終わり


 

オス喰い女王の愛しき我儘

※男を逆レイプするのが趣味のドS女王と、ヤリチン中年男のセックスバトル。
 ヒロインの着想元は某とあるシリーズの食峰操祈ちゃんです。
 なお、この物語はフィクションであり、実在の人物やサービスには一切関係ありません。
 また、現実で無修正セックスのライブ配信を行うことは違法です。




 『May先生のクソオス狩り』は、某アダルト動画共有サイトで高い人気を誇るチャンネルだ。投稿された過去動画の再生数は大半が万を超えている。
 動画のコンセプトは、メンズエスティシャンの『May(メイ)先生』が、野蛮な“オス”に女性を代表して仕置きをするというものだ。
 サークルで新入生を喰いまくっている大学生を、騎乗位で何度も射精させ、「もう勘弁してください」と泣かせたり。
 DV経験のあるバンドマン相手に、前立腺マッサージからの手コキで何度も潮を噴かせ、「もう出ません」と悶え狂わせたり。
 悪徳ホストのアナルをペニスバンドを犯し、メスのように鳴かせたり。
 そうやって“オス”を屈服させ、最後はぐったりと伸びた男に足を舐めさせる服従シーンで〆るのがお約束だ。
 この内容が若い女にウケた。男に弄ばれた女にとって、意趣返しのようなこの動画はさぞ痛快だろう。そうした思想を抜きにしても、若いイケメンがM調教される内容を純粋に好む層も多い。
 そして俺もまた、このチャンネルを楽しみにしている一人だ。とはいえ俺の場合、勧善懲悪にカタルシスを感じているわけでもなければ、悶える男を見て興奮しているわけでもない。ただ純粋にMayの虜だからだ。

 Mayはギャル系の派手な見た目をしている。癖のないストレートヘアを金に染め、両耳にはピアスを飾り、舌にも銀ピアス、さらにいつでもバッチリメイクだ。華美に過ぎる気もするが、人形のように整った顔立ちと8頭身のスタイルがそもそも浮世離れしているから、不思議と調和が取れて見える。その華のあるルックスと強い女のイメージは同性からカリスマを集めていて、スクールカーストならぬジェネレーションカーストの上位に君臨する女だという。
 そんなMayは美しいと同時にエロい。男に馬乗りになったまま、小馬鹿にするような表情でビンタしているシーンときたら、この俺が無意識に射精しかけたほどだ。
『だらしないわねぇ。もう終わりなのぉ?』
 独特のねっとりとした喋り方も堪らない。この女王相手なら、尻に敷かれても悔いなし──そう思わせる魔性がある。

 ネットの噂レベルだが、彼女は本名もメイというそうだ。アメリカンなボリュームのFカップを誇る彼女だが、中学入りたての時点ですでにDカップあり、ルックスの良さも相まって色々な男に言い寄られたらしい。彼女自身も好奇心旺盛だったため、そういう男の1人と付き合った結果、オモチャにされて捨てられた。その苦い経験が今に繋がっているのでは。噂ではそう結論付けられていた。
 それが真実だろうがデマだろうが、大事なのは今のMayだ。俺はMayが好きだし、そのMayが提供するチャンネルも楽しみにしている。
 …………とはいえ、全てを肯定するわけじゃない。May自身のエロさには非の打ち所もないが、その相方となる“オス”達には大いに不満がある。連中はまるでなっちゃいない。『May先生のクソオス狩り』ではMayと竿役のセックスバトルから始まるのが定番だ。だが今までの竿役ときたら、前戯では快感のポイントを外し、挿入してからの腰振りも熟れていない。多少の経験はありそうだが、オスの代表には程遠い。そんな相手をMayが制したところで、素人相手にプロの格闘家が殴り勝ったようなもの。出来レースを承知で楽しんでいるファンも多いんだろうが、俺はもっと肉薄した勝負が観たい。常々そう思っていたところに、今回チャンスが転がり込んできた。

「頼んます、師匠! 軽くでいいんで、あの人にヤキ入れてもらえませんか!?」
 坊主刈りの男は、俺にそう頭を下げた。
 彼──栗林ことクリ君は、Mayのチャンネルのカメラマンだ。スタッフ中唯一の男で、裏ではMayにイビられているらしい。撮影しながら股間を膨らませているのを茶化され、頭からパンツを被せられる。酒の席では、酔ったMayから足コキを仕掛けられ、他のスタッフが笑う中で射精させられる。彼も元々はMayのファンだから、最初はむしろご褒美なぐらいだったが、流石にしつこくて辟易しているという。
「ええよ。一度ヤリたいなー思てたコやし」
 俺が快諾すると、クリ君の顔がパッと明るくなる。

 じつは俺も派手に女遊びをしてきた人間だ。いわゆるイケメンには程遠いが、人並み以上に物がデカイ。勃起時22センチのマグナムを部活の先輩に面白がられ、遊び半分で先輩の彼女とやらされた時、俺は自分の才能に気が付いた。マグロを自称する先輩の彼女は、正常位でガンガン突きまくる童貞の俺を相手に、生まれて初めてイったらしい。それ以来先輩とは疎遠になったが、皮肉にも先輩が広めた噂のおかげで、色んな女が寄ってきた。俺もヤリたい盛りだったから、片っ端から受け入れ、まさに乾く暇もないという有り様だった。
 そんな青春時代から20年あまり。不摂生が祟って冴えない中年に成り果ててしまったが、経験人数は3桁を超える。ここ数年はネットで実践を交えた性感開発レクチャーなんぞをしているから、『師匠』なんて渾名もついた。動画内では顔にモザイクを掛けているから、一応身バレはしていないはずだが。
「興奮するなぁ、『May先生』と『浪速の鬼マラ師匠』の対決なんて! 俺が知る限り最強のメンエス嬢とハメ師ですから!」
 目を輝かせるクリ君には悪いが、俺はそのこっ恥ずかしい渾名の動画主として出演する気はない。女尊男卑の王国に潜り込むには、与しやすい弱者を装わなければ。

「……おじさん、いくつですかぁ?」
 打ち合わせに来た俺を見るなり、Mayは眉を顰めた。嫌悪感を隠しもしない。過去の出演男優を見る限り、彼女の好みは細マッチョなソース顔のイケメンだ。俺のような冴えない中年オヤジなぞ、ジェネレーションカースト上位の娘には汚物も同然だろう。
「ええと……今年で42になります」
「42!?」
「えっ、ヤバ!」
 俺が年齢を答えると、Mayを取り巻くスタッフがオーバーに驚いた。
「おじさん、私のチャンネル見たことあるの? くたびれた中年なんてお呼びじゃないんだけどー」
 Mayが苦笑すると、取り巻きも笑う。ここはMayを女王とした女の王国、男にはさぞ居づらかろう。これは何としてもクリ君の仇をとってやらねば。

 それにしても、生で拝むMayは可愛い。メイクの効果もあって美人系に見えがちだが、よくよく顔を見ると童顔の作りだ。このエロく愛らしい女王様になら、踏みつけにされ、罵倒されるのも悪くはない。今回の目的はその逆だが。
「でも先生。動画のコメントに、おじさん相手のセックスが見たいって声も結構ありますよ。たまには違う路線っていうのも……!」
 クリ君が口を挟むと、Mayはじろりと彼を睨む。そして次に俺を睨み、ふっと破顔した。
「ふーん……そういうこと? クリ君が男優候補連れてくるなんて珍しいなーと思ったけど、このおじさんアナタのお友達なんでしょ。いい年して童貞なのが可哀想だから、筆卸しさせてあげようってこと? ふふふふ、あははははは!!」
 Mayが高らかに笑うと、周りの腰巾着も笑いはじめる。清々しいまでの女王っぷりだ。
「やあ、はははは……」
 俺は頭を掻く。さすがに童貞呼ばわりされるとは思わなかったが、好都合だ。性的弱者に見られれば見られるほどいい。
「ふーっ、笑った。いいわ、アナタを次の撮影に呼んであげる」
 Mayのこの発言に、周りの取り巻きが意外そうな顔になった。何か思うところはあるようだが、止める様子はない。よほどMayの発言力が強いんだろう。
「あ、ありがとうございます」
「いーえー。でも、いいのぉ? 勝負に負けたら、すっごい罰ゲームしてもらうわよ? 若いイケメンならちょっと苦しがってるだけでも画になるけど、おじさんの場合は……イロモノ路線しかないのよねぇ」
 Mayが俺の目を見つめてきた。眼力がすごい。奥に宝石を閉じ込めたような瞳は、自分を強者と信じて疑わない人間のそれだ。もしかすると俺は、Mayの顔でもなくカラダでもなく、この眼が好きなのかもしれない。
「はあ、負けた時はしゃあないですね。まぁそもそも負けたないし、ちょっとは年の功見せたいなーと思っとりますけど……」
「……ぷっ!!」
 俺がのんびりと答えると、Mayはまた噴き出した。もちろん取り巻きも。
「あははははは、おじさんホント面白いわね。わかったわ、そこまで言うならライブ配信でやりましょう? 私とおじさんのどっちかが壊れるまで、生中継でイカせ合うの。どうかしら!?」
 Mayは口角こそ上がっているが、目が笑っていない。

 ≪生放送なら恥の垂れ流しよ? 謝罪して引き下がりなさい、身の程知らず!≫

 ギラギラと挑戦的に輝く瞳は、明らかにそう言っている。こんなに雄弁な瞳も珍しい。やっぱりこの子は格別だ。喰らい甲斐のある、餌として。
「あ、はい。ほなそれでお願いします」
「……へえ。本当にいいの? 恥ずかしくって、二度と外歩けなくなっても?」
「ああ、ハイ。自分、人の目とか気にしませんし、失う物もないんで……」
「ぷふっ! おじさん、もうちょっとプライド持った方がいいわよぉ?」
「まーまー、いいじゃないですか! こういうおじさんもカワイクって!」
「ねー。なんか動物のナマケモノみたい!」
「あはははっ、っぽい!!」
 俺はよほど無害に見えるようだ。無警戒な笑い声が部屋に響く。
 やめてほしい。そう声高に嗤われると……こっちまで笑いを堪えきれなくなる。


                 ※


 向こうがこっちを舐めているのは、その後の展開で露骨に伝わってきた。
『衝撃! May先生の次のお相手は……キモ親父!?!?』
『May先生をイカせまくる! アラフォー童貞、自信マンマンの宣戦布告!!』
『セックス経験の差は、人生経験で埋まるのか!?(笑)』
『罰ゲーム案、引き続き大募集!! 例:ダブルフィスト肛門破壊・尿道ワリバシ責め・エキストラ参加型金蹴り天国etc!』
 動画の予告ページには、目線を入れた俺とMayの写真に被せる形で、数々の煽り文句が並んでいる。
「悪ノリが酷くてすみません。実はMay先生めっちゃキレてて、とにかく師匠を追い込めってスタッフを煽ってるんですよ……」
 クリ君は申し訳なさそうだが、俺はむしろ愉しんでいた。タイマンを約束したにもかかわらず、自分の方が怪我をする可能性など考えもせず、ただ俺を高所から突き落とすために土台を盛っているんだろう。可愛らしいことだ。
 予告のノリに煽動される形で、コメント欄も俺への誹謗中傷や無謀さに呆れる声、Mayの快勝を期待する声に満ちている。そうして注目を集めた結果、ライブ配信当日の同接数は開始前の時点で6000を超えた。週末の夜とはいえ、有料アダルトチャンネルでは考えられない数字だ。

 撮影はアダルト可のスタジオを貸しきって行われた。贔屓のスタジオなのか、動画によく登場する背景だ。
 カメラマンはクリ君を含めて2人。本物のAV撮影よろしく、ライトやレフ板まで用意されている力の入りようだ。『May先生』とイケメン君の美貌がウリだから、少しでも写りをよくするためなんだろう。同じ動画投稿者でも、格安のラブホを使い、スマホ撮影が基本の俺とはえらい違いだ。
「大注目ねぇ。6000人に観られてるのよ、今?」
 Mayがパソコンのモニターを指して笑う。打ち合わせの時以上にオーラが凄い。それこそAV女優になっても人気が出そうだが、そうしないのがこの子なんだろう。誰かの指示に従うのは嫌で、自分のヤリたい相手とヤリ、撮りたいように撮る……そんなワガママ女王だ。
 そのワガママも、華があれば許される。目にも鮮やかなブロンドヘア。つけ睫毛とアイシャドウで補強された眼。短く切り揃えられてはいるが、しっかりとラメの煌めく爪。それらは素材の良さも相まって、気品すら漂う輝きを放っている。さすがはカリスマというところか。
 対して、服装そのものはシンプルだ。Fカップの胸で持ち上げられ、臍出しになったTシャツ。ウェストの細さと脚線美を際立たせるショートデニム。発育のいい体にはアメリカンなファッションがよく似合う。最近は熟女の相手ばかりしていたから、メリハリのあるスレンダーなボディラインが実に眩しい。
「ホンマ凄いですね。でもちょっと興奮します。まさかあのMay先生とデキるなんて……みんな羨ましがっとるやろなぁ」
 俺は童貞になりきり、舌なめずりしながらMayに近づいた。Mayがピクッと警戒するが、空気の読めない童貞なのでお構いなしに距離を詰める。近づくと、ふぅわりと香水が香った。これは桃か。桃はMayのイメージにぴったりだ。瑞々しく、華やかで、甘く、エロい。
 官能的なのは視覚も同じだ。目を釘付けにするのは、たわわに実った見事なFカップ。小さめな胴体の3分の1がバストで占められている。さすがに下に寄ってはいるが、けして垂れているわけじゃなく、ツンと前を向いている。まさに美巨乳というやつだ。
 俺は誘われるようにその乳房へと触れた。邪魔になるブラジャーは着けていないようで、指がTシャツ越しに沈みこむ。未成年に特有の硬さはなく、熟女とは違って張りがある。こっちはこっちで極上の『桃』だ。
「あんっ、痛い……」
 Mayが困ったようにカメラを見る。まだ触れた程度なんだが、俺が不慣れだと視聴者に印象づけるつもりか。そう来るならこっちも遠慮はしない。両手の五本指を広げ、念願の乳をワシワシと堪能する。
「っ!?」
 Mayは当然俺を睨む。だがそれも一瞬だけだ。今日の筋書きでは、Mayはあくまで性的強者。“興奮した童貞”と同じレベルで争うわけにはいかない。
「んふっ、オッパイが好きなのぉ?」
 余裕ぶった甘い囁き。不快感を堪えているのか、声が震えていて面白い。
「ハイ。搗きたてのモチみたいに柔らこぅて、ええ気持ちです」
 俺の答えに、Mayの頬が引き攣った。まるっきり変態を見る目だ。それでいい。欲が先走った獣──今はそう思わせておけばいい。
「ハアッ、ハアッ、ハアッ……!」
 息を荒げつつ、ひたすらに乳房を揉みしだく。柔らかく、温かい。心地いい感触が手の中で形を変える。乳首の突起がないのは、陥没気味なせいか。
 逆にMayは冷ややかだった。その澄まし顔を崩したくてキスを迫ると、露骨に首を捻って拒否される。
「……はーい、もうサービスは終わりよぉ!」
 俺を押しのけるMayの表情は、うんざりした色を隠せていない。自分に正直な女王様だ。


                 ※


 予告通りの午後7時、ついにライブ配信が始まる。クリ君ともう一人のカメラマンが動き回りながら撮影し、ライブで送られるその中継映像を、視聴者が任意で切り替えて楽しめる形式らしい。固定カメラにしない理由は、イジメられる人間──つまり俺の泣き顔を逐一アップで撮るためだそうだ。

 まずは恒例のイカせ合いだが、気力・体力的に有利な先攻は当然のごとくMayだった。
 最初の対決は『手コキに耐えたら生エッチ!』。Mayの手コキに10分耐えたら、ゴム無しでの生ハメを許すという定番企画だ。さっさと抜いて射精力を奪いつつ、上下関係を叩き込もうという腹積もりか。
 普通ならいきなり罰ゲーム確定の絶望的な展開だ。好みの相手ならMayが手加減するという噂もあるが、不興を買ってMayに嫌われた人間で、10分間を耐えられた挑戦者は1人もいない。
「ごめんなさい、みんな。やっぱり今日はちょっと……見苦しいわねー?」
 下半身を露出した俺の前で、Mayがカメラに苦笑を向ける。手にはラテックスの手袋を装着済みだ。好みのイケメンの股間なら素手で触りまくるのに、扱いの差がひどい。
「3、2、1……スタート!」
 Mayの取り巻きの1人が、ストップウォッチを手にして叫ぶ。
「じゃあ、いくわよぉー?」
 Mayは俺の逸物にローションを垂らしかけた。ヒヤリとした感触がこそばゆい。だが手袋をつけた手で亀頭を包むように撫でられだすと、それどころではなくなる。
「おっ、おおっ……!」
 メンズエスティシャンというだけあって、実に巧い。亀頭を握りしめたまま、順手で、逆手で……時に激しく、時に焦らすように刺激してくる。
「は、ぁっあ、ああっ、あああ……ぅうぁっあ、ぅ、ッあ!!」
 我慢しても情けない声が漏れた。動画内で“オス”が暴れていた理由がよくわかる。こそばゆい。ムズ痒い。気持ちいい。逸物に血が滾り、ムクムクと膨張してしまう。
 だが、そこまでだ。俺も伊達に師匠と呼ばれているわけじゃない。どれだけ気持ちが良かろうが、意図して射精を止めるコツぐらい心得ている。射精管の根元を筋肉で圧迫し、精液の輸送を邪魔してやればいいだけだ。もっとも、相応のトレーニングが必要な一芸だが。
「ほら、どうしたのぉ? イキたいんでしょう?」
 Mayはローションを足しながら、激しく逸物を扱きたてる。慌ただしいその動きには苛立ちと焦りが透けていた。
 焦りもするだろう。俺が勃起するということはつまり、全長22センチの凶器がその姿を現すということなんだから。
「ふ、ふーん…………結構立派じゃない」
 Mayが息を呑む。勃起もそろそろ8分目。女の手なら、左右の手の平で握ってなお亀頭が丸々余る大きさだ。壁際では取り巻きの連中が絶句している。ナマケモノが牙を持っていて驚いたのか。
「ねえ、気持ちいいんでしょう? イってもいいわよぉー?」
 Mayは手コキを続けつつ、チラチラと俺の顔を盗み見てきた。だいぶ焦っているようだ。とはいえ、冴えない童貞一人を射精に導けないようでは沽券に関わる。これは編集で誤魔化せない生配信なんだから。
「無駄に頑張らないの。早くイキなさいってば!」
 Mayは左手で亀頭を擦りつつ、右手で俺の頬を張ってくる。女王様らしいSなプレイと言えなくもないが、実際には焦ってパニックになった結果だろう。俺が時間内に射精しなければ、両手にすら余る巨根を受け入れないといけないんだから。
「ねぇ、イキたいんでしょ? もうイキそうなんでしょ!?」
 Mayは洗脳でもするように繰り返しながら、口の端を吊り上げた。まだ笑う余裕があるぞというアピールか。俺はそんなことを考えつつ、ビクビクと脈打つ剛直を制御する。
「はあっ、はあっ……ああぁあ、あ、そこっ……き、気持ちええです……ああああっ!!」
 限界を装って喘いでみせ、悶えてみせるが、射精管への圧迫だけは緩めない。動画を見ている時は一瞬に思える10分も、この状況だと長い。もう全身汗でびっしょりだ。
「じゅ、10分経過。タイムアップです……!」
「えっ……!?」
 一心不乱に扱き立てていたMayが、呆然とした様子で固まる。まさにこの瞬間、俺の大金星が、そしてナマ挿入の権利が確定したわけだ。
「いやあー最高でしたわ、おおきにMay先生! 何遍もイキかけましたけど、May先生とヤリたい一心で気張りました!」
 俺はにこやかに言い放つ。アウェーな場での空気を読まない発言は痛快だ。
「……まさか、アナタがチャレンジ成功するなんて思わなかったわぁ。しょうがない、ピル持ってきて」
 Mayは薄笑みを浮かべたまま手袋を外す。指先に怒りを滲ませながら。

 スタイル抜群のMayは、服を脱ぐだけでも十分すぎるほどの撮れ高があった。Tシャツをたくし上げるとFカップの巨乳がまろび出る。ショートデニムを脱ぎ捨ててもなおボディラインの魅力が減じない。最後に残った下着を片足を曲げて抜き取るシーンは、何回でも巻き戻して見たいほどだ。
 当然、ベッドに横たわってもMayは魅惑的だった。スレンダーな子だが、太腿に程よく肉がついているからM字開脚が映える。陰毛はすべて剃られ、いわゆるパイパンだ。
「…………」
 場には妙な沈黙が流れていた。視線が俺の股間に集まっているようだ。
 手コキで刺激された上、あのMayを抱けるという興奮もあって、勃起具合は9割に達している。太さ、長さ、硬さ、どれも申し分なし。さらにはマンモスの牙のように力強く上に反ってもいる。この反り具合こそ、女泣かせと言われる所以だ。正常位で動くたびに膣のスポットを刺激し、突き当たりまで押し込めばポルチオにうまく嵌まり込む。
「へへへへ。すんまへん、ムダにゴツぅて」
 俺は頭を掻きながら膝をつき、Mayの腹に逸物を乗せた。巨根がやりがちな悪癖だ。なにしろ臍の上まで届くものだから、相手の反応が面白くて仕方ない。
「……確かに、無駄に大きいわねぇ。でも、このサイズを童貞の言い訳にしちゃ駄目よぉ? 本当にアナタを魅力的だと思う子なら、大きくても頑張って受け入れてくれたはずだもの」
 棘のある言葉を吐き、くすくすと笑うMay。この状況で毒づけるとは流石だ。それでいい。そうでなければ面白くない。
「や、ごもっともです。しゃあけどMay先生が相手なら安心ですわ。若くてバキバキな子ぉらあと、ぎょうさん経験積んではるから……」
 びびるんじゃねぇよ、ヤリマンが──その意図をこめてチクリと返しつつ、逸物と割れ目にローションを塗りたくる。Mayの怒気がさらに強まった。

「ほな、挿れさしてもらいますわ!」
 自慢のマグナムを握りしめ、メリメリと割れ目の中に押し込む。
「!!」
 門をこじ開けた瞬間、Mayの内腿がビクンと強張った。すぐ横のカメラにさえ映ってはいないだろう。喰っている俺にしかわからない反応だ。
「うっは、凄いなコレ! ヌルピタっちゅうんやろか、堪らんわ!!」
 世辞じゃない。実際これは名器だ。入口は俺のマグナムを一発で呑み込むほど柔軟性があるのに、中の襞はしっとりと絡みついてくる。眼前に広がる女体という景色も良し。太腿に触れる肌のきめ細かさも良し。実に気分が乗るセックスだ。
「んふふふ……太くて硬いのねぇ。悪くないわぁ」
 Mayは余裕ぶって微笑み、クリトリスを弄ってみせる。だが余裕がないのは明らかだ。奥へ進むほど、腿の弾力が増す。俺の左右では、足の指が軽くシーツを噛んでいる。そりゃ辛いだろう。Mayにとっては未知のサイズのはずだ。過去動画で『巨根君』と持て囃されていた若造が17センチ。俺のマグナムはその三割増しでデカい。
「あああ、トロけてまいそうですっ! May先生っ、May先生えっ!!」
 逸物が半分ほど入ったところで、俺は腰を遣いはじめた。童貞になりきり、快楽に翻弄されている演技で腰を揺する。クリトリスを撫でていたMayの指が止まり、かすかに歯軋りの音がした。反り返った俺の逸物がGスポットをゾリゾリと擦るんだから、無反応を通せるわけがない。
「May先生、May先生も気持ちええですか?」
「…………そうねぇ、まあまあよ」
 すっとぼけた俺の質問に、Mayは言葉を濁す。女王を気取るなら気付くべきだ。そういう半端な態度は、相手のSっ気をくすぐるだけだと。
「あああ、もうあきまへん!!」
 俺はMayの腰をがっしりと掴み、上体を反らせた上で引きつける。こうするとGスポットやポルチオに当たりやすい。もともと上反りの俺がこれをやれば、その効果は絶大だ。
「ふッ!?」
 Mayの眼が見開かれた。宝石のような瞳孔が宙を彷徨う。無理もない。これは大概の女が悶え狂う。経験の少ない女なら痛いと足をバタつかせ、慣れた女なら数分ともたずに「イッちゃう」を連呼する。
 Mayは──そのどっちでもない。いや、どっちの反応もできないんだろう。彼女は女王、童貞に翻弄されるなど“ありえない”んだから。

「ふっ、ふっ……」
 Mayの息が上がってきた。桃の香りに汗の匂いが混じってもいるようだ。
 彼女の内部にも変化があった。少しずつ、少しずつ、膣の中が潤んできている。普通なら強すぎるこの刺激も、日頃からイケメンと悦んでセックスしているMayにとっては過剰じゃない。最初の違和感さえ過ぎれば、強い刺激はそのまま強い快楽にすり替わる。
「────ッ!!」
 Mayは肘をついて身を起こし、俺を睨み据えた。カメラ映えするポーズだ。劣勢にありながらも格好良いその姿には、ついつい悪戯をしたくなる。
 俺はMayのくびれた腰を掴んだまま、グッ、グッ、グッ、と引きつけた。反り返った牙がGスポットに溝を掘り、子宮口へ嵌まり込むように、だ。
「んうッ!?」
 Mayの上体はあっさりと崩れ、後頭部がシーツにめり込んだ。自分から弓なりになってくれるなら都合が良い。俺は動きやすいのを良いことに、宙へ浮いた『オナホール』を堪能する。粘膜がジュルジュルと絡みついて堪らない。ついついピストンの勢いが増し、相手を壊しかねない速さになってしまう。
「ぃ、きッ……!!」
 投げ出されたMayの手がシーツを掴む。太いよ、激しいよ、気持ちいいよ……そう訴えているようだ。
「May先生、May先生えっ!!」
 俺は腰を引き、Mayの足裏を掴んで真上に持ち上げる。俺の大好きなマングリ正常位だ。自然とこの体位に移行するのは童貞らしくないかもしれないが、今はいい。
「うっ、うっ、うっ!!」
 Mayは目を見開いたまま、口を尖らせて声を漏らす。俺には見慣れた反応だ。ただでさえ腹圧のかかるこの体位で、規格外のデカチンを突き込まれれば、普通に呼吸などできない。むしろこの状況でオホオホと鳴かないのは見上げた根性だ。その根性も、腹の底で突き潰されなければいいが。
「ふーっ、ふーっ……ら、乱暴ね。私にこんな格好させて、どうなるかわかってるの……?」
 女王様が呼吸を整えつつ脅してくる。俺は、またSの気が荒ぶるのを感じた。別に苛ついたわけじゃない。好きな子にイタズラしたくなるアレだ。
「す、すんまへん! しゃあけどもう、このぐらいせんと収まりつきまへんわ!」
 俺は無我夢中に腰を振りつつ、そのストロークを長くしていく。掴んだMayの足裏を支えに大きく腰を引き、それこそ亀頭が抜けそうなほど引いてから、一転して挿入する。剛直の本領を発揮できるワイルドな一発。これまでがメリッ、メリッ、という挿入だとすれば、メリメリメリメリッ、と一息に貫く感じだ。
「うああっ!!」
 さすがのMayも声を殺せなかった。顎を浮かせたまま、はっきりとした声を上げる。悲鳴? いいや、誰が聞いたってヨガリ声だ。
「どうかしはったんですか、先生!?」
 俺の演技も、そろそろ白々しいだろうか。だが仕方ない。こういう設定だ。
「もう、乱暴よぉ?」
 Mayは笑った。少しでも余裕を見せるには、この状況をジョークにするのが一番だ。ただ彼女には申し訳ないが、間もなくその笑いの質も変わることになる。

 ブッ、ブリッ、ブビッ!!

 その異音が響いたのは、Mayが笑ってから間もなくのことだった。いわゆるマン屁。膣に空気が入り、それが掻き回されることで起きる放屁だ。俺のような上反りの巨根は普通にしていても起きるが、今はストロークを大きく取っているから余計に起きやすい。つまりは不可避の現象だが、女の受けるショックはでかい。その女が女王を気取っていれば尚更だ。
「キャーッ!!」
 Mayの悲鳴が響き渡った。女王じゃなく、普段よく耳にする女の悲鳴だ。Mayは状況を整理するように目を泳がせ、口の端を上げる。
「あ、アハハ……ちょっと、もうっ!」
「や、すんまへん!」
 拗ねたように俺を叱るMay。アクシデントを装って笑う俺。他のスタッフもドッと笑い、とりあえず和やかな空気が繕われる。だが、誰もが気付いているはずだ。今の恥は冗談で済ますには大きすぎる。ましてやこれはライブ配信。数千人が今のアクシデントを目撃したんだ。
 絶対王政に楔は打った。そろそろ頑張ったご褒美をもらうとしよう。ドS女王への中出しなど、そうそう経験できることじゃない。
「あ、ああ……もうイキそうです! イッてもええですか!?」
 そろそろ射精を堪えるのも限界だ。挿入前から射精寸前だったことを考えれば、我ながらここまでよくもった。
「え? だ、駄目よぉ。出すなら外に……!」
「あ……あかん、もう出ます! い、イクッ!!」
 間に合わなかったという演技で、ギュウギュウに締めていた射精管を解放する。射精すると決めた後、ぬるい膣襞に吸いつかれながらの数ピストンが痺れるほど気持ちいい。これは勢いよく出るなと直感し、直後、その通りになる。
「くうううう……ッ!!!」
 珍しく、歯を食いしばりながら射精した。それぐらい気持ちよかった。膣奥を掘り起こすように逸物が動き、どくっ、どくっ、どくっ、どくっ、どくっ、と勢いよく精液が吐き出されていく。熔けた鉄でも流しているように射精管が熱い。これほど刺激的な射精は二十代、いや十代以来かもしれない。さすがはMay相手のセックスだ。
「もう、外に出しなさいって言ったのに……」
 Mayは子供に手を焼く親のように溜息を吐く。だがその胸の内は、俺の掴む両脚が物語っている。怒り、屈辱、そして恐怖。膣から溢れかねないこの射精量は、ピルを飲んでいてなお妊娠を意識させられることだろう。そこは少しだけ同情するが、こればかりはどうしようもない。
「はあ、はあ、はあ、はあっ……」
 マグマのような精を出しきった時、俺は息が切れていた。全身に滴るほど汗を掻いてもいる。一回戦でここまでになるのは珍しい。それこそ童貞に戻った気分だ。
 動きの停まっているMayから逸物を引き抜くと、ピンクの割れ目にはぐっぱりと穴が空いていた。そしてその空洞から、自分でも驚くほど濃い精液が次々にあふれだしてくる。
「うわ……」
 取り巻きの1人が声を上げ、すぐに口を押さえる。その反応はギャラリーを代表しているようだ。それに反応したのか、Mayは脚を閉じ、肘をついて身を起こす。さらにそのまま立ち上がろうとするが、脚がガクガクと震えているのを察して座り直した。
「ノドが乾いたわ。少し休憩にしましょう?」
 Mayは髪を指で梳きながら笑う。さすがは女王、そう易々と崩れはしないか。実にいい。今夜はまだまだ楽しめそうだ。


                 ※


 Mayは休憩を15分取った。休憩中にまず彼女がやったのは、膣洗浄器で膣の精液を洗い流すことだったそうだが、トイレの近くを“偶然”通りかかったクリ君いわく、水が噴き出す音がするたびに甘い声が漏れ聞こえたらしい。
「あんな先生、初めてですよ。流石です師匠!」
 クリ君は興奮気味だった。一回戦の結果としてはまずますだ。休憩を長く取ったのは膣性感を落ち着かせるためだろうが、10分そこらで火照りが鎮まるようなセックスじゃない。かといってライブ中継という関係上、それ以上間を空けるわけにもいかない。だから彼女は、膣にジンジンと疼きを抱えたままで撮影に戻らざるを得なかった。

 二回戦は後攻の俺だ。
「さっきは先生にえろぅ気持ち良くしてもろたんで、お返しに僕からもマッサージさせてもらいます」
 俺がそう宣言すると、場の空気が張りつめた。中でも冷ややかなのはMayだ。
「ふぅん。プロのエスティシャン相手にマッサージなんて、自信あるのねぇ?」
「あ、いえ、自信があるとかやないんですけど、AV観て勉強してきたんで……」
 我ながら見事な煽りっぷりだ。ただでさえ嫌いな相手が、自分の得意分野で挑んできた上、真剣味も足りないときている。Mayがこれで怒らないはずがない。だがそのプライドこそ彼女の枷だ。拒否という選択肢が消えるんだから。
「オーケー、いいわ。それで、私はどうすれば負けなの?」
「声出したら負け、いうことで」
 俺が答えるやいなや、Mayはあからさまに溜息をついた。声など出すわけがない、という意味か。
「時間は?」
「えーっと……じゃあ、10分にしときます」
 Mayの眉間がピクリと動く。先攻と同じ時間──つまりこれは、「俺ならお前と同じ時間で屈服させられるぞ」という宣戦布告だ。周りのスタッフがざわつく。
「上等よ。今日初めて女に触るようなアナタが、どんなテクニックを持ってるのか……楽しみにしてるわ」
 Mayも挑戦的な瞳で俺を見据える。
 わずか10分。それで百戦錬磨の『May先生』に音を上げさせるなど、普通なら無謀に思えるだろう。だが俺には勝算があった。さっきのセックスで膣性感には楔を打っている。さらに、俺の性感開発レクチャー動画は10分未満のものが大半だ。ベッドに腰掛けての和やかな会話から、挨拶代わりのキス、愛撫、そして潮噴きまでを全部ひっくるめて、無編集でも10分かかっていない。その経験を踏まえて堂々と挑めばいい。

『May先生は耐えられるか!? 性感マッサージ、10分間声出しちゃダメ!!』

 途中参加の視聴者に向けて、手書きのメッセージボードがカメラに映される。
「じゃ、今から10分よぉ」
 Mayはそう言うなりベッドに横たわり、スタッフから手渡されたスマホを弄りはじめる。童貞の前戯など眼中にないというアピールだろう。
 相手が無抵抗だというなら遠慮はいらない。Mayの脛を掴んでVの字に股を開かせ、秘密の花園をじっくりと観察する。
 割れ目はまだ閉じきれていない。空洞から覗く粘膜は鮮やかなピンクだが、その周りを縁取る花弁は紅く膨らんでいた。俺のデカチンピストンで充血したのか。少し丁寧めにやるなら陰唇への愛撫から入るところだが、それは省いてもよさそうだ。今日は指マンからいこう。

 中指一本を割れ目に突き入れ、すぐに曲げる。最初に狙うのはクリトリスの真裏だ。膣の性感スポットは十人十色。ド定番なGスポットすら、それほど感じないという女は結構いる。だがクリトリスで感じない女はいない。人体で唯一、快感を得るためだけに存在する器官なんだから。
 クリトリスの真裏に軽く指先を食い込ませ、固定する。指マンのコツはスポット一点狙いの圧迫だ。擦るのではなく、優しくもしっかりとツボを押さえる。
「っ!?」
 ピクッ、とMayが反応した。俺はそれを確認した上で、腕を振るわせてスポットを刺激する。指の掛け方、力加減、振動のリズム……どれも20年かけて研究を重ねた代物だ。投げ出されていた脚が少し閉じる。その脚はすぐに戻ろうとするが、俺の指先がリズムを刻むと、また閉じる。ちなみに、まだ開始後10秒だ。

 次に進む。
 膣性感を目覚めさせる時は、内と外をセットで刺激してやるのが大原則だ。クリトリスの裏だけ刺激して、肝心の本体を遊ばせていては片手落ちというもの。クリトリスを刺激するには指や道具でもいいが、なんといっても舌が一番だ。指や道具より刺激が少なく、快感は大きい。責め方を工夫すればするほど、粘膜の偉大さが身に染みる。
 舌でクリトリスを舐めはじめると、すぐにMayの腰が浮いた。女の腰が横に動く時は拒絶、縦に動く時は快感の訴えだ。
「このやり方が効くいうてネットに書いてあったんですけど、どうですか? 気持ちええですか?」
 俺は惚けた調子で尋ねる。声を出してはいけない決まりだから、返事は期待していない。それに答えなら今貰った。
「続けますね」
 クリ裏をくっくっと押し込みながら、舌で若芽を可愛がる。このやり方なら大雑把でも大きな反応が期待できるが、妥協はしない。サクランボの茎を結んで鍛えた舌技を存分に発揮する。またMayの腰が浮いた。二度、三度と。
 舌を動かしつつ視線を上げる。目の前に広がっているのは、ダンサーのように引き締まったカリスマギャルの腰。俺の刺激に合わせて凹凸ができ、上下に蠢く。
 上の方で、カッ、と音がした。さらに上を見ると、Mayが慌ててスマホを持ち直しているところだった。気持ちよすぎてタップでもミスったか。だがそれで済んでいるのは上等ともいえる。普通ならこの時点で、「はあ」や「あん」といった喘ぎが聴こえてくるものだ。
 このままクリトリスで躍らせていてもいいが、時間もないので次に行こう。次の狙いはGスポット。指先を少し奥に滑らせ、膣の上側で指が食い込む場所を探り当てる。責め方はさっきと同じ、指先一点で優しく押し込んでやる。
「っ……」
 息を呑む音がした。弱点を逐一教えてくれるとは甘い女王様だ。責めるのは得意でも、責められるのは苦手なのか。そうであっても手加減はしない。Gスポットを押し上げると快感のツボが上に逃げるため、下腹に手を当てて蓋をする。
 個人差はあるが、ハマればとてつもなく効くのがGスポットという場所だ。Mayの腰がうねる、うねる。腹直筋や腹斜筋が隆起と崩壊を繰り返し、腰そのものも踊る。クイクイと上下に、フルフルと左右に。
 『気持ちいい!』
 『やめて!』
 『我慢できない!』
 筋肉の声が聴けるなら、そうした訴えの大合唱だろう。俺はあえて目線を伏せているが、上からMayの視線を感じる。
「こうやって外からポルチオを押すのも効くらしいですよ。でも、なんやえらい腰動いてますね。ひょっとして気持ち悪いですか?」
 自信なさげに訊ねながら上を見ると、Mayはスマホを眺めていた。誤魔化せているつもりだろうか。最初と比べてスマホが至近距離に寄りすぎているし、タップもスワイプもしていない。光る板をただ握りしめているだけだ。
「あ、そか。答えられへんのですよね。すんませーん」
 俺はうっかりを装いつつ指の刺激を繰り返す。視線をMayの顔に向けたまま。
 じっと見られている以上、Mayは腰の動きを抑えようとする。だがそれは罠だ。腰を動かさないということは、刺激を散らせないということ。耐えようとすればするほど耐えられなくなる。
 案の定10秒もしないうちに、さっきより大きく腰が踊りはじめた。もはや縦か横かの判別すらつかない、円を描くようなうねり。相手が弱れば叩くだけ。俺は指先と手の平で念入りにGスポットを挟み潰す。
「!!!」
 声なき悲鳴が漏れた。下半身も依然としてパニックで、みっともないガニ股を経由して片膝を立て、Mの字でなって足指でシーツを掴むことでようやく安定を得た────つもりだろう。だがそこも安全地帯じゃない。M字開脚は最も潮噴きしやすい体勢の一つ。感度が上がりこそすれ、下がることはない。
 俺は中指に加えて薬指も膣に挿しこみ、あえて中を掻き回す。目的は性感開発ではなく、現状の周知だ。指を動かすたびに、グチョグチョと凄い音がする。あれだけ腰が暴れていただけはある濡れ具合だ。
「……ッッ!?」
 Mayがスマホを取り落とし、俺の方を睨みつける。プライドの高い彼女に、公然での手マンはさぞかし耐え難い屈辱だろう。だが、だからこそやる価値がある。
 Mayは俺を睨みながら、脚をハの字に閉じて抵抗していた。だがすでに指が入り込んでいる以上、防ぎきれはしない。むしろ股に力を入れたせいで、余計に感度が増すだけだ。
 決壊は早かった。指で掻き出すまでもなく、びゅっ、びゅっ、と太い飛沫が2本飛び散り、それとは別に小さなせせらぎがシーツを染める。失禁とも潮噴きとも取れる反応だ。
「………………っ!?!?」
 Mayは耳まで真っ赤に染めて目を見開いていた。羞恥で凍りついているのか、それとも怒りで動けないのか。
「うわ、なんかスンマセン……。もうアソコ弄るんはやめときますわ」
 俺は芝居をしながら指を引き抜き、カメラへ映るように水気を切る。Mayは不機嫌そうに眉を顰めていたが、俺の動きを追ううちにより怪訝な表情になる。
 俺が用意したのは、棚に置いてあったマッサージオイルだ。MayがM男を調教する時に使っているもの。愛用の道具で逆に調教されるなど、女王にとってはこの上ない屈辱だろう。
「…………。」
 Mayは俺を睨みつけたあと、スマホを完全に手放した。そして頭の後ろで手を組み、両脚を伸ばす。マッサージを受ける時の姿勢だ。やれるものならやってみろ、ということか。

 手にオイルを塗り伸ばし、Mayの乳房を包み込む。手の平に硬い感触が触れた。乳首だ。最初は存在を感じられなかったあの陥没乳首が、今やしっかりと勃ち上がっている。順調に“出来上がって”きているようだ。
 Fカップを揉みしだくと、Mayの腋に溝が刻まれる。その腋にもオイルを塗り込み、さらに脇腹の方まで撫でおろすと、今度は二の腕がピクンと反応する。相当敏感になっているようだ。
 楕円の軌道で胸と脇腹を擦り上げ、脚が浮きはじめたところで太腿の根元にオイルを塗り込む。ひくひくと反応する鼠径部をしっかり解きほぐし、最低限の根回しを終えてから、いよいよ本丸である下腹部に触れる。俺の計算ではここまでで5分強。残り4分あるなら充分だ。
 掌の付け根を使って下腹部を圧迫すると、Mayの口が『あ』の形に開いた。圧迫と開放を繰り返すたびに口が開閉し、吐息が漏れる。ここでもう一押し。左手の4本指で子宮を圧迫したまま、右手の握り拳で上からトントンと叩く。圧を内部に浸透させるためだ。
「っ!!」
 Mayの膝が浮いた。頭に敷いていた手も外れ、決まりが悪そうにシーツを掴む。軽く子宮イキしたか、その寸前の反応。そうとわかれば休ませない。膣は熱いうちに打て、だ。
 沈み込ませた指を真上から打ち込む。次は斜め下、クリトリスの方向から打ち込む。あるいは指を立てて指先で抉り込む。あるいは指先でノックする。色々とやるが、気まぐれで変えているわけじゃない。相手の反応を経験で分析し、最も嫌がる方法を選んでいるだけだ。
「~~~~~ッッ!!!!」
 Mayの限界は近い。脚をバタつかせ、背を仰け反らせたまま歯を食いしばっている。ちょうど頭上にカメラがいるが、写りを気にする余裕もないようだ。手の動きも忙しない。シーツを握りしめ、拳骨を作り、そろそろと腰に近づいて尻肉を鷲掴みにする。痛みで気を紛らわせるつもりか、無駄な足掻きだ。
 ここまで来たら、あとは責めの手を緩めないことだ。簡単なようだが気は抜けない。追い詰められればられるほど、獲物の抵抗は激しくなる。
「……っ、……~~~ぃ~~~~ッッ!! ッ、ッッ……っくッ!!!!」
 口を開いては歯を食いしばるMay。腰もヒクヒクどころではない強さで跳ねている。連続イキの真っ最中ってところだろう。
「フーーッ、フーーッッ!!!」
 腰が捻られ、Mayのスレンダーな身体が横を向く。もちろんこれも想定内だ。逃げた下腹部をコリコリと刺激し、抵抗する力を奪ってから仰向けに引き戻す。睨まれるかと思ったが、Mayの目はくしゃくしゃに皺が寄るほど閉じていた。
 限界の、限界の、限界。
 Mayの手が俺の手首を掴み、ものすごい力で握りしめてくるが、構わずにトドメを刺す。左の掌で子宮を潰しつつ、指先でクリトリスを転がし、あえて意識させずにおいた膣内にも右手指を潜り込ませる。子宮・クリトリス・Gスポット──泣き所の三所責めだ。
「いあやああぁーーーーッ!!!!」
 屈服の叫びは、誤魔化しようもないほど大きかった。堪えに堪えてきたものが弾けたんだから当然だが。
 乳酸でパンパンになった腕を上げ、額の汗を拭う。思ったより粘られたが、ギリギリというほどでもない。
「カハッ……! はーっ、はーっ……あ、ア……んはっ…………!!」
 Mayは絶頂の余韻に浸っていた。俺の手はもう離れているのに、体全体がビクンビクンと跳ねている。まるで陸へ打ち上げられた魚だ。
「じゅ、10分でーす……」
 取り巻きの呆然とした声を、ストップウォッチの音が掻き消す。気まずい沈黙の中でアラームが鳴り響き、Mayはそれに呼応するように痙攣していた。


                 ※


 勝者にはご褒美が与えられるのがこのチャンネルのルールだ。俺は褒美にキスかフェラチオのどちらかを願った。Mayは悩んだ末にフェラチオを選択する。キスの方がよほどマシに思えるが、嫌いな人間に唇を許したくないんだろう。
「あ、そや。せっかくなんで、自分にも撮らせてもらえませんか? この角度の映像見たいいう視聴者さんも多そうなんで」
 ソファに腰掛けながら、俺はそう提案した。目の前に跪いているMayが珍しくて、どうしても撮りたくなってしまったからだ。
「……好きにすればいいわ。アナタが勝ったんだから」
 Mayが渋々ながらも許可を出したことで、4Kビデオカメラが一台貸し出された。防水性が高く、手ブレ補正もついている機種だ。それを構えると、自分のチャンネル用の動画を撮っている気分になる。違和感があるとすれば被写体の質か。ここ最近は熟女のハメ撮りばかりだったから、若々しいMayは実に眼福だ。

「よろしゅう頼んます」
 俺はニヤけながら股を開いた。イキまくるMayがエロかったおかげで、愚息もそこそこの硬さを保って真横に伸びている。
「…………はあ」
 Mayは嫌そうに俺の分身を眺めていたが、ひとつ溜息を吐いて奉仕に入った。ラメの輝く手で逸物を掴み上げ、舌を出してチロチロと舐める。動画でも確認できたが、Mayは舌が長い。この長い舌で“奴隷”の物をペロペロと舐め回すのは、性的強者感が凄かったものだ。しかも舌にはピアスが開いていて、舐め回されるとピアスの玉が擦れる。これが思った以上に気持ちいい。特に裏筋を舐め上げられると、舌だけで舐めた場合とは違い、一本筋の通った快感が襲ってくる。
「うあ……っ!」
 声も出るし、逸物もムクムクと復活してくる。するとMayの目尻が少し柔らかくなった。俺を追い詰めたことで溜飲が下がったんだろうか。
「気持ちいいでしょう?」
 Mayはそう言うと、胸で逸物を挟み込んだ。俺のマグナムはFカップの谷間に挟んでようやく平均サイズだ。普通のフェラは難しいと判断し、敏感な部分を狙うことにしたらしい。
「んちゅっ、ちゅっ……じゅるっ、んちゅっ……ふふ、ピクピクしてるわ。いつでもイッていいのよぉ?」
 Mayは俺を見上げたまま亀頭を咥え、頬を窄めて口粘膜を密着させながら吸い上げる。先走り汁から自分の塗した唾液まで、一滴残らず啜り取るようなバキュームフェラ。正直たまらないし、元がS級の美形だけに視覚的なインパクトも強い。カメラでの撮れ高も抜群だ。
「うああっ……ご、極楽ですわ……!!」
 俺が賞賛すると、Mayはんふ、と鼻で笑いながら奉仕を続ける。
 パイズリはそれほど好きでもなかったが、流石にFカップともなると圧力が半端じゃない。俺がしこり勃たせた乳首が擦れるのも面白い。バキュームフェラとの合わせ技も秀逸だ。
 サービスとしてはけして悪くない。だがこれは、過去の動画に出てきた連中でも経験していることだ。せっかくあの『May先生』との勝負に勝ったんだから、褒美としてはそれ以上を望んでもいいだろう。

「あのぉー、先生。先っちょもエエんですが、出来たらもっとこうー、ガッツリ咥えてもらえませんか? 僕、ディープスロートが好きなんです」
 俺がそう切り出すと、やや弛緩していた空気が急に張りつめる。懐かしきアウェーの空気だ。
 Mayの目尻が吊り上がり、カメラ越しに俺を睨む。のぼせ上がるな童貞が、と両の眼が語っている。
「……こんな大きいのを咥えろだなんて、意地悪ねぇ」
 溜息でも吐くような一言。心底不服そうだが、俺は拒否はされないと踏んでいた。俺がカメラを構え、彼女の顔を接写しているからだ。プライドの高い人間は、とにかく他人から低く見られることを嫌う。ファンの見ている前で勝負から逃げるなど、誰が許してもMay自身が自分を許さないはずだ。

 まず俺の顔を、そして目の前の逸物を睨みつけたMayは、ごくりと喉を鳴らした。
「ハアっ……ハアっ………ハアっ……」
 深呼吸を繰り返しながら、逸物の先を舐め回す。唾液を絡めるついでに覚悟を決めているようだ。
 気持ちはわかる。軽蔑している人間の性器を舐めるのは嫌だし、ましてやイラマチオは彼女の掲げる女性優位の対極にあるような行為だ。だが、敗者は勝者の要求を拒めない。そのルールを作ったのもMayなら、これまで屈服させたオスに涙を呑ませてきたのもMay自身だ。
「あのぅ、先生? はよしてもらわんと、チンポが風邪ひいてしまいますわ」
 痺れをきらして呼びかけると、Mayはジロリとこっちを睨み上げた。猛禽類を思わせるその眼光は今まで以上に鋭く、気の弱い視聴者ならモニター越しでも悲鳴を上げかねない。
 Mayは俺の方を睨んだまま、ゆっくりと頭を下げる。
「う゛ぉえ゛! はっ、はっ……ん、ぶふっ! う゛う゛え゛っ!!」
 嫌悪感からか、それとも体質か。Mayは頭を数ミリ下げるだけで強くえずいた。荒い鼻息が陰毛を撫で、人肌以上に熱い吐息が亀頭をくすぐる。
「あー。May先生のクチん中、オマンコと同じぐらいぬくくて気持ちええですわ。もっと深ぅいってください」
 鼻水をカメラに捉えつつ呼びかけると、Mayはまた咥え込む。
「うぶふ、ぁはッ……むごぇ゛!! ほぉっ、ほっ、ほっ、ぉほっ……!!」
 全体の四分の一ほど咥え込んだところで、頭の動きが止まった。目を伏せて唇をひくつかせている。嘔吐の兆しか。あのカリスマギャルの嘔吐シーンが撮れてしまうのか。俺は妙な興奮を覚えてカメラを構え直す。
 だがMayは、ついに吐かなかった。
「ハア゛ぁあエ゛ッ!! んはあっ、はあっ……」
 唾液の膜を広げながら亀頭を吐き出し、呼吸が整うとまた頭を下げる。えずき汁が潤滑剤になって進みは良い。今で三分の一、7、8センチ地点か。つい数分前まで亀頭直下で噎せていたのに、めざましい進歩だ。
 とはいえ、ここからが本番だ。異物を7センチ程度……つまり中指の長さまで呑み込めば、その先端は喉奥に突き当たる。噎せやすさとはまた別、より人を選ぶ喉奥耐性が問われはじめる。俺の22センチを吐かずに呑み込んだ女など、すでに喉奥が開発済みだったAV女優と若妻ぐらいだ。

「う゛っ、むうう゛……っぐ!」
 亀頭がぬるりとした喉粘膜に突き当たる。Mayは苦しそうだ。ハの字に眉を顰め、その上には珠の汗を掻いている。舌が暴れているらしく、ピアスが裏筋をくすぐってこそばゆい。
「そっからが難所でしょ。手伝いましょか?」
 俺は自由な左手でMayの頭を押さえる。だが彼女はその手をうるさそうに払いのけ、俺の膝を掴んだ。直後、上反りの逸物が粘膜の圧に負け、ぬるっと喉奥に滑り込む。
「……ほぉお゛お゛お゛う゛お゛エ゛ッ!!」
 濁りきった悲鳴が響く。喉奥からはえずき汁があふれ出し、細まった目からは涙が伝う。華やかなMayといえど、悶絶の反応は他の女と同じだ。
 ただし、一つ違う点がある。他の女は頭を押さえて無理矢理咥えさせた結果だ。ところがMayは俺の助力を断り、独力で呑み込んだ。この差は大きい。
「ぃ゛エ゛ッ! うぶっ、ぐぶ……ごふっ!!」
 Mayは眉間に皺を寄せたまま頭を前後させ、亀頭を喉奥へと送り込んでいく。当然、えずくし噎せる。鼻水が繋がって鼻輪のようになっているし、あれほど完璧だったメイクも涙で崩れている。そもそも大口を開けた顔は綺麗とは言いがたい。
 その惨状を誰より理解しているはずのMayは、しかし動きを止めなかった。
「ごぼッ、おろ゛え゛!! ん゛、んん゛っ……えお゛ァお゛え゛っ!!!」
 前傾が深まる。温水を詰めた風船のような乳が、俺の太腿で潰れる。その感触にどきりとした時にはもう、弾力のある唇は逸物の根元に達していた。
「おお……!」
 思わず声が出る。感嘆の溜め息だ。
 俺はMayという人間を誤解していた。華こそあるが、見栄えばかりを気にし、恥を掻く勇気などないワガママ女王だと思っていた。どうやら違ったようだ。彼女は自分の評価も気にするが、それ以上に誇り高い。罰を受ける側になったのなら、それがどれほど困難だとしても自力でやり遂げる、そういう人間なんだ。
「う゛ぉろ゛うぇっ!」
 Mayがえずきながら頭を戻す。猛禽類のような瞳がこっちに向く。俺は今さらながらにその意味を悟った。憎い俺を睨んでいるのかと思ったが、彼女の視線が捉えているのは俺じゃない。俺が構えるカメラのレンズだ。

 ≪よく見てなさい。こんな事までさせられても、逃げたりはしないわ!≫

 自分のファンに向けて、そう訴えている眼なんだ。
「ん゛っ、んむ゛っ、ん……っ!!」
 Mayはこっちを見上げたまま頬を凹ませ、唾液を潤滑油にして激しく首を振る。カコカコと音が鳴っているのは、狭まった喉で唾液と空気がかき混ぜられているせいだ。
「あ、ああああっ!!」
 思わず声が出た。たまらない。ローションたっぷりで手コキされているような……いや、そんなレベルじゃない。喉奥の輪が幅広のゴムのように亀頭を呑み込み、喉粘膜が竿をねっとりと包み込む。しかもそれは一瞬じゃなく、吸い付くように刺激しつづける。無理矢理咥えさせるのでは味わえない感覚だ。
「んふっ」
 Mayが口の端で小さく笑い、顔を傾けてカコカコと音を鳴らす。粘膜の当たり方が変わってまた良い。ついつい腰が動いてしまう。
「んりゅう゛っ……ぉ、もごゥふっ!!」
 喉奥の酷使は当然Mayにもダメージがあり、苦しそうに噎せていた。だがすぐに根元まで咥え直し、それどころか今度は舌を伸ばして玉袋を舐め回してくる。その快感がまた強く、射精感が湧きあがった。
 まずい。
 いくら遊び慣れているとはいえ、不意に限界が来ると抗う術がない。
「ああ、あかん、それイクっ…………!!」
 情けない声と共に、俺はあえなく絶頂した。四方から纏わりつく粘膜の、その一角に沈み込む勢いで逸物が跳ねる。びゅるっ、びゅるっ、と噴きだす精液の行く先は、亀頭すら触れられない食道の奥だ。
「ああああ、すごい……搾り取られてしもた」
 俺もセックスを生業とする人間だ。見事な抜かせ技には感服するしかない。
 一方のMayは、逸物を完全に吐き出してはいなかった。露出した竿を手で扱きつつ、鈴口を強く吸い上げられる。
「あ、うぁ……!」
 射精直後で敏感になっているから、あっさりと射精させられてしまう。
 ここで、Mayと視線が合った。意地悪そうな瞳だ。気持ちよすぎて忘れていたが、これはイカせ合いの勝負だった。ここで少しでも精液を搾り取ることで、俺の限界を早めようというつもりか。
「気持ちよかったでしょう?」
 ようやく亀頭を解放したMayが、口元を拭いながら笑いかけてくる。左のつけ睫毛は外れかけ、メイクもボロボロに崩れているというのに、最初に見た時よりも妖艶だ。
 改めて彼女に惚れ直した。好きというより尊敬に近い。他人にこんな感情を抱いたのは初めてかもしれない。
 そしてその感情が、俺に新たな欲を芽生えさせた。

 ────彼女に、俺の“全て”をぶつけてみたい。

 軽い仕置きと約束したクリ君には悪いと思う。だがもう気持ちが抑えられない。俺の20年余りの経験はきっと、今日この日のためにあったんだ。


                 ※


 メイク直しの休憩を挟んで、三回戦。順番は先攻のMayに戻る。ここでMayが指定したプレイは騎乗位だった。チャンネル内では『征服逆レイプ』とも呼ばれている、何人もの“オス”に音を上げさせてきたMayの十八番だ。
 制限時間は30分、条件は『乳房から手を離さないこと』。これも過去動画で何度も出てきたが、案外難しいらしい。Mayの腰遣いで何度も搾り取られた対戦者は、堪らずに乳房を手離して相手の腰を掴んでしまう。
「一度私の胸を掴んだら、二度と離しちゃダメよぉ?」
 Mayは俺に跨りながら、挑発するように念を押した。惚れ込んでしまった今は、その全てが眩い。ライトを後光に煌めく金髪は天使のようだ。ただ、だからといって翻弄されるわけにはいかない。ここからの俺は『浪速の鬼マラ師匠』だ。

 Mayの手がそそり勃った逸物を掴み、潤んだ割れ目に導く。自慢の剛直が、襞を押しのけながらゆっくりと入り込んでいく。
「おおお……」
 溜め息が出るほど気持ちいい。少し前に味わった穴なのに、まるで別物に思えるのは、俺の気持ちの問題だろうか。
「…………くっ…………」
 一方、Mayは唇を噛んでいた。だが俺の視線に気づくと、ふっと薄笑いを浮かべて一気に腰を沈める。さすがに根元までとはいかないが、8割方を一息に呑み込む根性は賞賛すべきだ。
「ほら、始めるわよぉ」
 Mayが俺の手を取って胸に触れさせる。相変わらず触り心地がいい。吸いつくような肌、搗きたての餅の柔らかさ。一晩中でも揉んでいられる。
「こんな気持ちエエもん、離したくても離せんわ」
「ふふふ、そう? みんな最初はそう言うのよねぇ」
 俺の変化に気付いたのか、Mayは一瞬妙な顔をした。だが突っ込んでは訊いてこず、誘うような笑みで腰を動かしはじめる。まずは前後運動だ。Mayが動く乳房も揺れる。ボーリングの球を思わせるFカップの質量は侮れない。なるほど、漫然と触れているだけでは振り落とされる危険があるわけか。
「ちゃーんと掴んでてね、うっかり離しちゃダメよぉ。アナタには借りがあるもの、半端な決着は許さないわ」
 Mayは俺に囁きかけながら、前後の動きを速めた。これはすごい。竿を握りしめたまま前後に揺さぶられている感じだ。そこへ8の字を描くような動きまで加われば、次に来る刺激の予想がつかない。
 だが、その激しさは諸刃の剣だ。俺の逸物が振り回される時には、Mayの膣内も掻き回されている。特に俺の物は三日月のように沿っているから、さぞかし刺激が強いだろう。
「ん゛、んん゛っ……ン!!」
 Mayは歯を食いしばっていた。苦しそう? いいや違う。快感に耐えている顔だ。その証拠に、結合部からはにちゃにちゃと水音がしはじめている。

 一分ほど経つと、ついにMayの腰が下がってきた。俺の胸板に手をついて腰を浮かせていたのが、もうできなくなっている。デカマラを根元まで咥え込み、子宮を押し上げられるとどうなるか……それはMayが一番よく知っている。
「……ッッ!!!」
 細腕が痙攣しはじめた直後、Mayは天を仰いだ。いきなり弓反りになるから、危うく乳房を逃がしそうになる。
「あああすごい! 締まって、中がうねっとる!!」
 俺は横のカメラを意識しつつ、大声で叫ぶ。もちろん絶頂の事実を仄めかすためだ。
 腰に伝わる痙攣が収まった直後、膣がふうっと弛緩する。絶頂後の脱力状態だ。こうなるとスレンダーなMayとはいえ結構重い。
「はっ、はっ、はっ……」
 荒い息の音。汗と愛液の匂いもする。彼女の体臭は少しも嫌じゃなく、最高のフェロモンだ。
「ふうっ。なかなか気持ちよかったけど、物足りんなあ。コレ続けられても全然参りそうにないわ。そや、いつもの腰パンパン打ちつけるやつ、アレやったらイケるかも」
 十八番の騎乗位を披露するMayに、こんな物言いをした“オス”は前例がない。だが、こんな序盤で女王をイカせた男もまた皆無だ。史上初の記録は今晩まだまだ出るだろう。俺がこのチャンネルの歴史を塗り替えてやる。

「はぁ、はぁ……急かさないの。今、しようと思ってたところよ」
 Mayはブロンドの髪を掻き上げた。すでに息が荒いし、上半身は汗で光っている。それでも彼女は休まず、俺の胸に手をついて腰を浮かせた。
 パンッ、パンッ、と肉のぶつかる音がしはじめる。これをよくある光景と思って観ている視聴者がいるなら、俺が解説してやりたいところだ。肉がぶつかる音がするということは、腰が密着しているということ。つまり22センチのマグナムが、丸ごと女王様の体内に入り込んでいるということだ。
 まあ、一瞬でもMayの横顔を見れば察しもつくだろう。
「う゛、くう゛っ……!!」
 人形のような顔を歪め、真っ白な歯を食いしばる。絶頂直後の膣を巨根でイジメ抜くというのはああいうことだ。
「ええわ、さっきよりよう締まる。上等なオナホールに扱かれてる気分や」
「はあっ、はあっ……。お、オナホールですって……!?」
 Mayは顔を歪めたかと思うと、動きに変化をつけはじめた。膝を柔らかく使い、膣でヌチュヌチュと扱いてきたかと思えば、腰を密着させて8の字を描く。かと思えば、パンパンと腰を打ち付けて亀頭をイジメ抜く。
「うお!? あ、くっ……!!」
 種類の違う快楽が立て続けに来ると、さすがに効いた。強い射精感に顔が歪む。そんな俺を見下ろして、Mayがくすりと笑った。オナホールにこんな芸当は無理だろう、という意趣返しか。気の強いことだ。

 ベッドが軋む音。荒い呼吸音。控えめな水音と、肉のぶつかる音。それだけが延々と繰り返されている。傍目には同じシーンの繰り返しに思えるかもしれないが、当事者目線では見どころの宝庫だ。
 割れ目からは愛液が止めどなくあふれ、俺の下半身をオイルでも塗りたくった状態に変えている。俺がいじくり続けている胸も明らかにサイズが増しているし、少し柔らかかった先端の蕾はしっかりと勃った。
 ついつい苦しげに歪むMayの顔ばかり見てしまうが、下腹部に視線を落としても面白い。Mayは腹の脂肪がないから、怒張の形がそのまま浮き出るんだ。膨らみを見れば、どこまで入り込んでいるのかが判る。これは楽しい。Mayは案の定、一番奥まで突っ込まれた時が特に感じるようだ。
「ふーッ、ひーぃッ、ふーッ、ひーぃッ……」
 今やMayの呼吸は、出産を思わせるものになっていた。顔からは雫が滴り、乳房の汗も掴む俺の手を伝い落ちていく。さらさらとした金髪も濡れているらしく、肩や顔に絡みついて不気味なほどだ。
 そうなるのも当然だろう。膣内のスポットが刺激され続けた結果、彼女は何度となく絶頂しているはずだ。
「~~~~~ッッ!!!」
 また大きな波が来たらしい。Mayは首を筋張らせながら天を仰ぎ、かと思えば俯いて目を閉じる。俺の性感開発の生徒に、同じ反応をした女がいた。

『お師匠さんのおっきいから、奥までガンガン突っ込まれるとね、目の前がチカチカするの。視界が暗くなって、光が動いてる感じ。なんか、怖い』

 彼女はそう言っていたが、Mayもそうなんだろうか。
「もう限界なんか、先生?」
 俺が声をかけると、Mayは瞼を開いた。だが最初の一瞬は目の焦点があっていない。目の前がチカチカ、という生徒の言葉がまた浮かぶ。
「……私より、自分の心配をしたらぁ? アナタ、そろそろ出そうなんでしょう。若くもないんだし、出せてあと一回なんじゃないの?」
 Mayの言葉は核心を突いている。彼女が何度も絶頂しているように、俺もそろそろ限界だ。May相手だと異常に興奮するから、あと一回ということはなさそうだが。
「さあ、いくわよ」
 Mayは覚悟を決めた顔をしていた。そしてそこから始まったのは、相討ち上等のラストスパートだ。
「ふっ、ふっ、ふっ、ふっ……!」
 短く息を吐きながら、腰を浅く上下させる。亀頭にコリコリとした子宮口が当たり、しかもその度に絶頂しているのか、膣がヒクヒクと戦慄きながら逸物全体を締めあげてくる。この刺激にはさすがに抗えない。
「おおお、お、おっ!! ははは、先生がイクたびにアソコが締まって、さ、最高や!」
 喘がされる屈辱からMayの状況も暴露するが、攻めは緩まない。足が暴れる。手だけはなんとか乳房を掴んでいるが、かなりギリギリだ。
「ぁイク、イクっ……!!」
 ほどなくして俺は、両脚をピンと伸ばして絶頂する。ハッキリ言って情けない姿だが、この責めはすごすぎた。三回目の射精にもかかわらずドクドクと出る。それをMayの膣が吸い上げる動きをしているのが、なぜか妙に嬉しい。

 濃厚な快感の後は、その分だけ倦怠感が襲ってくる。だるい。このままベッドで眠りたい。だが、ドS女王がそんな隙を見逃すはずもなかった。
「まだまだ、休ませないわよぉ……!」
 Mayは震えている足をさらに開き、抜き差しのストロークを大きく取りはじめる。亀頭が抜けるギリギリまで引いてから、一気に根元まで呑み込むやり方だ。激しいディープスロートのようなものだが、膣には無数の襞があり、締まり具合も複雑なだけに快感のレベルが違う。しかも、そのペースが速い。パンッパンッパンッパンッとすごい音が響き渡っている。
「うあああああっ!!!」
 また叫ばされた。これは紛うことなき逆レイプだ。3桁の女を食ってきたこの俺が、犯されている。
「ほら、どうしたのぉ? オッパイに力が入ってないわよー?」
 汗でバリバリと鳴る耳に、Mayの煽りが届いた。言われてみれば乳房のホールドが甘い。May自身が激しく動いている上に、滝のような汗で滑るせいだ。
 気にくわない。Mayとセックスできるのは嬉しいが、やっぱり俺はヤられるよりヤる方がいい。
「ああ、気持ちようてボーッとしてたわ」
 俺は乳房を掴むのをやめ、代わりに尖った乳首を指で挟み潰す。
「ひっ!?」
 Mayは目を見開いて叫ぶ。昂ぶりすぎて乳首だけでイってしまう状態なのかもしれない。少し乱暴な気もするが、滑り防止にはこれが一番だ。それに乱暴と言うなら、ここからはもっと荒々しい。Mayが腰を打ち付ける瞬間に、こっちからも突き上げてやる。

 亀頭と子宮口がぶつかり合い、ぐちゅりと潰れる感触がする。思わず射精しそうな刺激だ。
「あぐう゛っ!?」
 Mayはさっき以上に目を見開いた。左右に開いた太腿と下腹部が激しく痙攣している。よほど深くイッたようだ。
「なんや、知らんかったんか? 騎乗位は男が動くことも多いんやで」
「はあ、はあ……そっちこそ知らないの? ウチでは許可してないのよ」
 こうなったらもう意地の張り合いだ。Mayは上から、俺は下から、相手の敏感な場所を潰す勢いでぶつかり合う。
「あ゛ッ!! あ゛ッ!! あ゛ッ!! あ゛ッ!!」
 Mayは腰を振るたびに叫んでいた。右目がウインクでもするように細くなるのは、絶頂する時の癖か。だが、きっと俺も大差ない。
 気が狂いそうなほどの苦しさと快楽を味わいながら、ひたすらに意地をぶつけ合う。永遠とも思えるぐらい長かったその戦いは、ストップウォッチの音でようやく終わりを迎える。音が鳴ったその瞬間も、俺の指はMayの乳首をイジメ抜いていた。今回も俺の勝ちだ。

 そして3連続で負けとなったMayは、直後にまた一つ醜態を晒してしまった。
「ああ、あっ……!!」
 割れ目から怒張を抜いたその瞬間、栓が外れるのを待っていたように潮が噴きだす。声色からしてMayもそれを察したようだが、一度出てしまえばどうにもならない。ガニ股のまま、脚をガクガクと震わせて潮を噴き散らす。これ以上はなかなかないレベルの痴態だ。さすがに哀れになって、俺は浴びせかかる潮を避けずに受け入れる。勝負が終わればノーサイド、恥を掻くなら諸共だ。
「…………っ!」
 Mayはそんな俺を見て目を丸め、次に唇を結んだ。相手の心理を読むのはそこそこ得意だと自負しているが、さすがにあの感情は読めない。

 ただ、この後の小休憩で変わったことがあった。手洗い場で顔を洗った俺のところにMayが来て、ピンクのハンカチを渡してきたんだ。
「なに、その意外そうな顔は? 私のせいなんだから、当然でしょう」
 ガウン姿のMayは、俺の反応にふくれっ面になり、プリプリと怒りながら立ち去る。
 それは驚くだろう。俺が見てきた彼女なら、男に潮をぶっかけても『ご褒美よ』の一言で済ませそうなものだし、ハンカチを渡すにしても他のスタッフを使いそうなものだ。
 やはり違和感が拭えない。あの女王様は、あんなに可愛い反応をする子だっただろうか?


                 ※


 四回戦は後攻である俺の番だが、俺はここであえて視聴者に意見を求めることにした。このチャンネルの異物として暴れまわっている現状だが、やはり普段からこのチャンネルを観ているユーザーがどう思っているのかが気になったからだ。「俺の姿はもう見たくない」という意見が多いようなら、残念ではあるが従う気でもいた。そして実際、そういう意見は多少あった。だが、一番多いのはそれじゃない。
 『May先生のイキ顔が見たい!』
 コメントを集計したスタッフによると、なんとこの意見が多いそうだ。教祖のようだったMayの神性が剥がれた結果、ならばと親しみの持てる反応を求めてるんだろうか。
「……ふぅん、そうなの……」
 May本人もそう呟いただけで、特に嫌がりはしなかった。

 『視聴者参加型企画! May先生は犯されている20分間、カメラから視線を逸らさずにいられるか!?』

 手書きのメッセージボードがカメラに映され、撮影の準備が進む。とにかくMayの顔を映さないといけないから、プレイの場所は自然とソファに決まった。ソファの座部に手をついたMayを、俺がバックで犯す。カメラマンのクリ君はそれをソファの裏から撮る。これが一番しっくり来た。まあ、最初にバックでやりたいと言い出したのは俺なんだが。

 Mayがソファに両手をつき、脚を肩幅に開いて尻を突き出す。絶景だ。スレンダーで脚の長い女は後ろ姿が映える。俺がMayとの後背位にこだわったのもそのためだ。May相手にバックをせず帰るなど愚の骨頂だ。
「挿れるで、ちゃーんと撮ってや」
 正面のクリ君に声をかけつつ、亀頭でMayの割れ目をなぞり上げ、ここぞという位置で腰を突き入れる。俺の逸物は上反り、Mayのアソコは上付きで、本来バックには向いていないが、体位と挿入角さえ間違えなければ問題ない。大事なのはGスポットとポルチオを流れで刺激できることだ……と俺のセックス講座なら語っているところだろう。真正面にカメラがいると、ついつい性感開発レクチャー動画の気分になってしまう。
「ん……!」
 挿入の瞬間、Mayは小さく呻く。どういう顔か見られないのは残念だが、素晴らしい背筋と尻を拝めているから一長一短というところか。
 ある程度奥まで入れたら、数秒動かずに馴染むのを待つ。膣襞がしっとりと纏わりついてきて気持ちがいい。主のワガママっぷりに似ず、性器は素直そのものだ。
「じっとして、どうかしたのぉ? まさか、挿れただけで出そうなの?」
 Mayが笑う。膣内を馴染ませているのは彼女にも解るだろうに、撮られる恥ずかしさを誤魔化すためか。
 だが、おねだりされては応えるしかない。
「ああ、ヌルピタで最高やで。もうオツユが滲みはじめとるわ」
 俺はカメラを意識して言い返しつつ、Mayの腰に手を当てた。普段のレクチャー動画なら、ここで『尻を引き締め、上体を反らして奥まで届くようにすべし』とでも言うところだが、俺の場合それはやりすぎだ。
 バックでイかせるコツは、初めを激しくしないことに尽きる。いきなり動かない。激しく動かない。パンパンと腰を打ち付けるのは、女が濡れてきてからのお楽しみ。最初は臍側の膣壁をしっかりと擦りつつ、ゆっくりと高める。
「ん……んん、ん……っ」
 相方の女王が小さく声を漏らしはじめた。口を閉じ、鼻から漏らす声。本気で気持ちがいい時のサインだ。過去動画ではAV風の演出か、いかにもな演技で喘いでいるシーンもあったが、今は不要という判断らしい。
 であれば、こっちも『実』で応えよう。
 硬く反った幹と膨れた亀頭を使って、じっくりとスポットを刺激する。クチュクチュという音の変化に応じてピストンを速めていく。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
 Mayの呼吸が荒くなってきた。上体がゆらゆらと揺れ、ソファについた手も浮き気味になっている。
 頃合いや良し、第二段階だ。

「脚閉じて」
 Mayの太腿を外から押さえ、脚を閉じさせる。見栄えこそ大股開きに劣るが、膣の密着感が増すことで感度は倍増だ。まずは小手調べに、処女穴もかくやという狭さの膣襞をメリメリとこじ開けてやろう。
「うああ、あ……ッ!!」
 バックで初めて、はっきりとした声が出た。声色だけでも目と口を開いた可愛い顔が浮かぶ。拝めている視聴者が羨ましい。だがせっかくの機会だ、もっと凄いものを見せてやろう。
「ああ、最高や。先生ん中、巾着みたいにキュウキュウ吸い付いてくるわ」
 俺はMayの両肩を掴み、突く力が逃げないようにすると同時に、少し身を起こさせて性器の傾きを変えさせる。Gスポットを強く擦りやすいようにだ。
「あっ! あっ! あっ! あっ!」
 パンパンと腰を打ち鳴らすたび、合いの手のように喘ぎが上がる。彼女の心情を代弁するなら、『さっきまでと全然違う』『こんな気持ちいいバックは初めて』というところか。
 正面からカメラを構えるクリ君が、ごくりと喉を慣らしている。Mayがオンナの顔を晒しているんだろう。Mayも恥ずかしいだろうが、涼しい顔には戻れない。ここからは追い込むのみだ。

 充分すぎるほど濡れた割れ目に、パンパンパンパンとハードなピストンを叩き込む。
「はああっ、んああ……ァああああっ!!」
 Mayの喘ぎ方がねっとりとしてきた。それは下の口も同じだ。内股に閉じた脚はピクピクと痙攣しながら、涎をあふれさせている。足元の床はもう小雨でも降ったようだ。
 いよいよ辛抱堪らなくなってきた。前のカメラで観ている連中には、全部見えてるんだろう。恥ずかしそうに紅潮したMayの喘ぎ顔も、先を尖らせたまま暴れる巨乳も、愛液まみれでもじつく脚も。
 上等だ。だったらこっちも、俺にしかできないことで羨ましがらせてやる。
「あっ!?」
 Mayから悲鳴が上がった。俺が肩から手を離し、両サイドから乳を揉みはじめたからだ。
「ちょ、ちょっとぉ……!」
 Mayの声は焦った様子だ。俺の方を向きたがっているのが雰囲気でわかる。だがカメラから視線は逸らせないルールだ。そんなMayを後目に、俺は視聴者に見せつけるつもりで乳を揉みしだく。勿論しっかりと乳腺開発のテクを使ってだ。
「んん、もう……! 手つきが……っ!」
 言葉に反してMayの声色は甘く、膣の中も愚息をキュウキュウと締めつけてくる。
「カラダは正直やで」
 定番のセリフを吐きつつ、背後からMayを抱きしめる。右手の指で左乳首をイジメながら、左手は前からクリトリスを狙う。
「お゛っ!」
 Mayから初めての声が漏れた。子宮口を上下から潰す騎乗位ですら、ついに最後まで出なかった『お』の声。女性的な可憐さとは程遠いが、だからこそリアルな快感の声。不意にでもその声が出たということは、本格的なメス堕ちも近い。

「んっ、んンっ……ふ、んっ……!!」
 艶めかしい喘ぎが漏れる。クリトリスを弄りはじめると、ハメている時の音も劇的に変わった。『ぐちゅぐちゅ』とも『ぐちゃぐちゃ』ともつかない水音が響き渡っている。抱きしめたMayの横顔は、熟した林檎のように赤い。
「んん、もう……子供みたいに夢中ねぇ。そんなに私のカラダがいいの?」
 Mayがジロリとこっちを睨む。今日の撮影が始まってすぐにこんなマネをしたら、ビンタされるか金玉を蹴り上げられていただろうに、変われば変わるものだ。
「当たり前やろ」
 俺はそう囁きながら、抱きしめたMayを突きまくる。体位は自然と立ちバックに近づき、膣も上向きになるため、Gスポットをいよいよ強く擦れるようになる。そこにクリトリスへの刺激まで合わされば、Mayは激しく腰をもじつかせる。中のヒクつきも早くなるが、絶頂とは少し違うようだ。
「あ駄目、でちゃうっ……!!」
 Mayのその言葉で状況が把握できたが、その時にはもう遅かった。腰を引いたタイミングでぷしゃっと潮が噴きだす。怒張をずるりと抜き去れば、ますます勢いよくあふれ出る。蛇口を全開にした時の音。間違いなくカメラにも拾われているだろう。
 珍しいことじゃない。反りが強すぎるか、それともデカさのせいか、バックで犯すとどの女も最後には潮を噴く。初めて『ハメ潮』を経験したという相手も多い。だがMayにとっては違うようで、脚を肩幅以上に開いたまま呆然としていた。カメラの方を向いてはいるが、堪えたというよりはフリーズしている感じだろう。
「スマンなぁ、気持ちよかったやろ」
 とりあえず謝罪する。これも少し前なら嫌味だとして睨まれたところだが、
「………………ばか」
 今のMayは、小声でそう呟くだけだった。
 馬鹿で結構。今日に限っては、Mayのことしか考えられない馬鹿でいい。

 俺はもう一度Mayの後ろに立ち、腰を抱えて突き入れる。
「ぐっ!!」
 ぐしょ濡れで何の抵抗もなく挿入ったのに、Mayの声は大きい。
「ひぃ……っ」
 さらに奥へ押し込むと、怯えるような声まで漏れた。膣の締まり具合も普通じゃないし、脚は小さく震えている。さてはハメ潮と同時に絶頂もしたか。
 ここまで準備ができているなら、もう少し過激にやれそうだ。俺は掴む場所を太腿の付け根あたりに変え、引きつけながら奥まで突き込む。そしてそのまま、ぐりぐりと子宮口を『練った』。子宮がトロけているなら、という条件つきだが、どんな女も気持ちいいと絶叫するハメ方だ。
「あうっ、うあっ! んあっぁっ、あひっ! ぉっ……お゛!」
 今までにない呻き方だ。彼女はきっと今、一突きごとに表情を変えていることだろう。
 しかし音がすごい。空気が入ってしまったのか、かすかに放屁に似た音もしているが、それを掻き消すほどのボリュームできちゅきちゅという音が響く。膣の奥が愛液で溢れている証拠だ。
「お゛お゛、ぉ゛っ!!」
 低い呻きを3連続で漏らしてしまうと、さすがにMayも口を噤む。ソファから左手を離し、俺の手首を握ってロックを外そうとする。すごい力だが負けてはやらない。むしろ邪魔をした罰として、もっとキツくしてやる。とはいえ乱暴をするわけじゃない。ホールドの位置を少し下腹寄りにし、中指を子宮でトントンと叩くだけだ。たったそれだけで女の反応は変わる。
「…………ィっ!! き…………ーぃ………………ッ!!!」
 歯でも食いしばっているのか、Mayの音にならない声だけが届く。その抵抗は体にも現れた。肩幅に開いた足が爪先立ちになっている。無意識に快楽から逃げようとしての行動だろうが、当然許さない。立ちバックの快楽の肝はカカトだ。
「足下ろせ」
 子宮を叩いていない方の腕でMayの腰を押しつぶし、強引に爪先立ちをやめさせる。これで二本足は不動の支えとなり、前にはポルチオ圧迫で壁ができ、後ろからは俺のマグナムが突き潰す。どこにも快楽の逃げ場がない、子宮圧殺網の出来上がりだ。
「う、あ……あ……ッあ、くン……んあ、は……っ!!」
 途切れがちな呻きが、徐々にトーンを上げながら繰り返される。そして。
「ぁイグっ、イグっ…………イグーーっ!!!!」
 全力の絶叫を迸らせながら、Mayは弓なりに仰け反った。足もまた爪先立ちに戻る。俺の体重を跳ねのけたんだから、恐ろしい力だ。だがこの瞬間、彼女はまた黒星を重ねた。
「…………はーっ、はーっ、はーっ………また、負けちゃった……」
 Mayは俺の胸板に頭を預け、息も絶え絶えなまま語りかけてくる。汗と涙、鼻水に涎……せっかくの美貌がグシャグシャだ。こんなになってまでカメラから逃げず、ギリギリまで顔を晒していたのか。本当に大したタマだ。
「勝ったご褒美は、キスでどう? 私は嫌なんだけど……アナタはしたいでしょう?」
 汁まみれの顔でよく言う。普通はキスなどしたがらないだろう。よっぽど惚れ込んででもいない限り。

 無味無臭なはずのMayの唾液は、不思議と桃の香りがした。
「……んっ、んふっ……ん、ンんー…………」
 舌を絡ませながら、左足を持ち上げての立ちバックで突きまくる。わざわざ足を上げさせているのは、膣内の違う場所を刺激するためと、何よりカメラに見せつけるためだ。Mayの股座に俺の極太が入り込み、下腹がボコリと盛り上がる所も。強張り震える内腿も。蜜のあふれ具合も。すべて見えているはずだ。
 ただし、ひとつだけ見抜けないことがある。Mayの腰が前後左右に動くのは、俺が突くせいだと誰もが思うだろう。
 違う。この女は、自分からクイクイと腰を振ってるんだ。俺のことを生きたディルドーとでも言わんばかりに。


                 ※


 イカせ合いとして始まった俺とMayの勝負は、実質的に四回戦で終わりを迎えた。五回戦でMayが提案した内容は、もはや勝負とは言えないものだったからだ。
「これが最後の命令よ。私を満足させなさい。もし途中でバテたらぁ……」
 ──不幸なことが起きるかもね?
 Mayは俺にだけ届く声でそう続けた。
 完全な脅しだ。だが不思議と嫌な気分にはならなかった。間近で俺を見つめる顔に悪意が感じられず、むしろ俺を手放すまいと必死なように見えたからだ。
 惚れた弱みもある。俺は女王の最後の我儘に付き合うことにした。

「あああ、良いわぁ! 奥が気持ちいい……ああっ! イ゛ク、イク、イ゛クぅうう゛っ!」
 壁際でI字バランスをするMayを犯しつつ、抜き差しに伴うあらゆる変化を左右からカメラに撮らせる。
「ほら、口がお留守よぉ? んっ、むっ……ちゅっ、ちゅっ、はれぁ……あ゛! も、もぉらめっ、お奥でイク、奥でイ゛ってるっ!!」
 椅子に座っての対面座位では、Mayのキスと怒涛の腰振りを地蔵になって受け止める。
 いくら思春期のような興奮が蘇っているとはいえ、流石にここで射精の打ち止めになった。それでもまだMayがヤリたがるから、最後は必殺の体位で一気に畳みかけることにする。

「ああああ゛深いィ゛っ!!! ま、待っで、今動かないで……や゛あアああ゛ッ!!」
 あのMayに音を上げさせた体位は、寝バックだ。腹の下にクッションを噛ませたままうつ伏せに寝かせ、上から覆い被さって子宮口を押し潰す。なんといっても大の男の全体重をピストンに乗せられるから、刺激の強さにおいてこの体位に勝るものはない。
「ぉ、奥っ、グリグリするの、や゛めっ……あ゛、はアア゛ァ゛ッッ!!」
 浮いて逃げようとする腰を上から潰す。平らになったところで、抵抗力を削ぐべく両足を俺の脛で押さえつける。その状態で突きまくると脚が痙攣しはじめるが、責めを緩めて復活されると厄介だ。
「待って待って待ってえっ! ご、ごわれ゛ぢゃう゛……!!」
「あーあー、ションベン出しながら痙攣して。またイったんか。これで何度目や?」
「そんなの、しらない゛……。でも、壊れそうで怖いのぉ……」
「お前、わかってるか? 怖いって言ってる割には笑ってるやん。ほんまに怖いんか? それとも気持ちいい? どっちや?」
「わ、わからないの……あ゛、ぁあ゛イグっ、奥でイっちゃうッッ!!」
「ほら、イったな。イッたんなら気持ちええっちゅうこっちゃ」
「ふぅーっ、ふぅーっ……ひもち、ひいの……? この先にいっても、こわくあいの……?」
「お前のアソコは、ずーっと俺のを貪り続けとるで。まだ満足はしきっとらんのやろ?」
「そう、なのかしら。……でもなんだか、その通りな気もするわ。まだ終わって欲しくない……。もっともっと、この刺激に浸ってたいのぉ……」
「なら安心して浸っとけ。大丈夫や、俺が見といたる」
 カウンセリングのように対話を挟みつつ、繰り返しアクメを決めさせる。痙攣しようが、失禁しようが、声を枯らそうが。

 そのうちMayはベッドに突っ伏したまま、猫の鳴くような声を上げるばかりになる。そろそろ限界は近そうだが、際の際、ギリギリまでは行ってやろう。
「カメラさん、正面と横から撮って。顔とハメてるとこ映るように!」
 クリ君とMayの取り巻きに指示を飛ばしつつ、ぐったりとしたMayの肩を掴んで引き起こす。そうしてメス犬のように這わせた上で、“ドギースタイル”で犯しまくる。
「お゛っ、おお゛っ……ほおお゛お゛っ!! あおおお゛ッ、んお゛お゛お゛お゛っ!!」
 Mayはもはや、快楽の凝縮した『お』行の声でしか喘がない。
 絶頂とは深海に潜るようなものだ。イケばイクほど、快感に入っている時間は長く、深くなっていく。今はその静かな世界を思うさま堪能させてやろう。後に振り返った時、今夜のこの体験が、良い思い出となるように。



                           終
 
 


※最後までお読みいただき、ありがとうございました。

 その後、関西弁の男が運営するマイナー性感開発チャンネルに、
 謎の8頭身ブロンド美女の出演が時々あったとか、なかったとか……。



 

二度と出られぬ部屋 エピローグ

最終章 オーバードーズ Part.7-5の続きです。



 俺が助け出されたのは、倶楽部へ潜入してからちょうど20日目だったらしい。約3週間。そう聞くと、長いようでもあり、短いようでもある。
 地下深くに存在するあの倶楽部は、外部からの電波が届かない要塞だ。場所の特定は困難を極め、いざ中に入っても、『神の間』へ辿り着くまでのセキュリティ強度は想像を絶するもので、ひどく手を焼いたらしい。
 それでもなんとか辿り着けたのは、俺に埋め込まれた発信機のおかげだと聞いた。発信機の場所は、奥歯。そんなものが埋め込まれていたから、レストランで食事をするたびに違和感があったわけだ。

 あの倶楽部の調教師や客は、全員が拘束された。生徒を倶楽部に売っていた蒼蘭女学院の上層部にも、同じくメスが入ったと聞く。八金財閥の令嬢が関わっている事件だから、情報が漏れることのないよう、慎重な対処が行われたらしい。ただ、詳しくは知らない。俺はあのあと組織を抜け、別の仕事を始めたからだ。
 恥ずかしい話だが、俺にはセックスしか能がない。そして、数多くの女を誑かし、狂わせてきた贖罪もしなければならない。その2点を踏まえ、俺が選んだ仕事はセックス・セラピストだ。不慣れなセックスやレイプなどで心に傷を負った子に、対話から始まり、性的な接触を経てトラウマを解消させる。
 これは俺に向いていたし、やりがいもあった。過去の罪が消えることはないが、その分、少しでも誰かの笑顔を取り戻せるのが本当に嬉しい。

 夢中で仕事を続け、はや6年。あの倶楽部の記憶も、随分と遠いものになった。忘れられるものではないが、寝るたびに思い出すことは流石になくなった。
 ただ、祐希達との縁は続いている。彼女達は、あの倶楽部で変わった。もはや普通の恋愛やセックスで満たされることはない。俺は、あの倶楽部の過去を知るセックス・セラピストとして、あの子達のケアをした。最近では会う頻度も下がったが、今日は俺の誕生日ということで、久しぶりに俺の家に集まってくれている。


                ※


「先生ぇ、まずはおちんちん綺麗にしないとだね。ノドで扱いたげる」
 ソファに座る俺に千代里が擦り寄り、ズボンを引き下げる。そしてまだ洗っていない逸物を、躊躇なく咥え込んだ。生暖かい粘膜と、重量感のあるねっとりとした舌が、俺の分身を包み込む。フェラチオというものは、どうしてこうも気持ちがいいんだろう。せっかくの百合の祝いメールも、頭に入ってこなくなる。
「ひもひいい?」
 亀頭に舌を這わせながら、上目遣いで俺を見る千代里。今年で23になるはずだが、正直そうは見えない。今年高校に入ったと言っても通じそうだ。しかもこれが、数多のクラシックコンサートで喝采を浴びている天才声楽家というんだから、ますます信じられない。
「はーっ、はーっ……」
 千代里は俺の逸物にむしゃぶりつきながら、だんだんと喘ぎはじめる。興奮してきたらしい。ただ、それは俺も同じだ。唾液を絡めながら、じゅぶじゅぶと口を上下されるうち、逸物に芯ができてくる。玉袋から裏筋までを一気に舐め上げられれば、逸物がビクンビクンと震え、先走りが滲んでしまう。
「んふふ、凄い。おっきくなってきた」
 あどけない笑みで俺を見上げた天才声楽家は、大きく口を開け、宝であるはずの喉奥でずるりと逸物を呑み込んだ。得意のディープスロートだ。
 ぬるぬるした壁が四方八方から纏わりついてきて、気持ちがいい。膣とはまた違う快感が、背筋を這い上がってくる。
「ぷはっ! はあ、はあ……久しぶりだと、やっぱ大きい……」
 千代里は汗を垂らしながら逸物を吐き出し、改めて喉で迎え入れる。
「あんまりやりすぎると、ノド痛めるぞ」
 俺が釘を刺しても、千代里は止まらない。むしろ根元まで飲み込もうとして、ゴエゴエと声を漏らしはじめる。しかも呆れたことに、右手はスカートに入りこんで、ショーツ越しに割れ目を擦っていた。ショーツの透け具合からして、かなりの愛液が染みているらしい。幼い見た目も相まって、変態ぶりが半端じゃない。
「あああ、すげえ……」
 千代里のディープスロートは巧すぎる。ソファに背を預けながら顔を上げると、対面の藤花の様子が見えた。ガラステーブルを挟んで座る彼女は、膝をぎゅっと閉じ合わせて唇を噛んでいた。俺の視線に気付いているのかいないのか、その目は瞬きもせずに千代里を見つめている。
「千代里、そろそろイクぞ!」
 俺はそう宣言し、意図的に射精のネジを緩めた。いつの間にか身についていた特殊技能だ。ある程度以上の興奮状態にあれば、いつでも射精できるし、逆に何時間だろうと射精せずにいることもできる。もっとも、俺は並外れて回復が早いから、射精を我慢する必要はないんだが。
 千代里の頭を掴み、喉奥に精を注ぎ込む。
「んぐっ! んぐっ、んくっ……」
 千代里は一瞬呻いたが、すぐに精液を飲み下しにかかった。俺は亀頭にむず痒さを感じつつ、藤花の顔を見つめる。
「……っ」
 藤花はさらに膝を擦り合わせ、挑むような視線を返した。だがすぐに視線を落とし、頬を染めながら唇を噛む。

「ぶはあっ!! はああっ、はあっ……んふっ、凄い濃さ……ヨーグルトみたい」
 千代里が顔を離すと、精液の匂いが辺りに立ち込める。藤花の鼻孔が膨らみ、膝の上で手が握り込まれる。
「藤花」
 そう声を掛けると、藤花はびくりと肩を震わせて俺を見上げた。俺はそこで、あえて黙る。自分から直に誘いはしない。セックスは、あくまで相手が望むなら──それが今の俺のルールだ。
 藤花は背筋をまっすぐに伸ばしたまま、下半身をもじつかせた。切れ長の眼は、ディープスロートで屹立した俺の分身に注がれている。
「…………せ、先生。今度はそれで、お……俺の尻穴を、犯してくれないか? ドナン浣腸をしてから、3時間ほど経っているから、その……具合は、いいと思うぞ……?」
 藤花のセックスの誘いは、いつまで経っても不器用だ。もっとも、それがまた可愛いんだが。
「後生だ、頼むっ!こんな事を頼めるのは、貴方だけなんだ!!」
 俺の薄笑いを否定と捉えたのか、藤花は顔を真っ赤にして懇願する。それを聞いて、俺の足元で千代里が噴き出した。
「ぶっ! あっははは、あの『剣鬼』が頭下げてるよ。しかもドナンって、あのすっごい強烈なやつでしょ? あんなの何度もやってると、お尻ユルくなっちゃうよ?」
 そう。藤花は高卒で婦警となり、『剣姫』改め『剣鬼』の名で恐れられている。強い正義感と剣の腕を持つ彼女にはうってつけだ。もっともそれは悪人に対しての顔であり、家に帰れば一転して優しい姉になる。むしろあの事件以降、ますます家族愛が深まり、特に弟のことは甘やかしに甘やかしまくっているらしい。
「う、煩いっ!お前こそ、セックスのたびにゴエゴエと! 声楽家としてのプライドはないのか!!」
「はあっ!? ほっといてよ! 喉のトレーニングにもなるし、イラマから入らないと気分出ないの! でも彼にやったら、イメージ崩れたーとか言って捨てられたし。こんな性癖晒せんの、先生しかいないんだってば!」
「う……っ。それは同情するが、しかしさっきの暴言は───!」
「ストーップ、2人とも! 先生の部屋で喧嘩なんてしたら、迷惑じゃないか」
 藤花と千代里の口喧嘩がヒートアップする中、キッチンから姿を現したのは祐希だ。手にしたトレイには、可愛らしいタルトが載っている。ずいぶん早く来てキッチンを使わせてほしいといい、甘い匂いをさせていたと思ったら、こんなものを拵えていたのか。
 苺のヨーグルトクリームタルト。俺が甘いもの好きなのも、苺好きなのも、完璧に把握されている。胃袋を掴まれた、というやつか。
「うわ。“ユウ様”の女子力がまーたマシマシに……。あたし、もうスイーツ作りじゃ絶対勝てない」
「凄いな、本当に……」
 睨み合っていた千代里と藤花が、タルトを見て顔を引き攣らせる。一方で祐希は満面の笑みだ。
「フフッ、料理は愛情さ。さあ先生、出来立てを食べてよ。それとも、口移しがいいかい?」
 そう言って、指で摘み上げた苺にキスをする。ふっくらとした唇が色っぽい。
 彼女は高校卒業後もソフトボールを続け、今年とうとう日本代表選手に選ばれた。クールな雰囲気は相変わらずで、試合のたびに女子から黄色い声援が上がる。そんな彼女が、男の部屋で花柄のエプロンを着け、ピンクのヘアピンで髪を留め、あまつさえ苺のタルトを口移ししようとしていると知ったら、何人のファンが卒倒するだろう。
「あら、美味しそうなタルト。さすがは祐希ね。先生、紅茶でもお淹れしましょうか?」
 部屋の隅で本を読んでいた桜織が、微笑みながら立ち上がる。
 一時は完全に脳が焼き切れた状態だった彼女も、数年かけて回復した。今はやや遅れて国立大学に進み、医療薬学を専攻している。詳しい研究内容を訊ねるとはぐらかされるが、どうもセックスと、それに伴う快楽に関するものらしい。知識欲が旺盛なだけに、かつて味わった『オーガズム・クライマックス』……その果てを追求せずにはいられないんだろう。そして、その研究は順調なようだ。
 彼女は、積極的にセックスを求めてはこない。一対一のセックスでは到底物足りないからだ。大学で研究をしていると言ったが、実は彼女には、もう一つの顔がある。
 AV女優・SAORI──彼女はその名義で数多くの作品に出演し、脚光を浴びている。清純そうな色白スレンダーボディ。委員長らしい生真面目さと、人妻のような落ち着きを兼ね備えた雰囲気。それでいて、輪姦や快楽拷問すら笑顔で受け入れる貪欲さ。こんな条件が揃っていて、注目されないはずもない。

                ※

 祐希のタルトと桜織の紅茶をじっくりと堪能してから、ようやく藤花を抱く。涙目になるまでお預けを食らわすのは酷と思えるかもしれないが、これも彼女のためだ。
 そろそろ自分でも気づいているはずだが、藤花には強いマゾの気がある。自分主体で責めさせるより、レイプ気味に犯した方が格段に濡れが良い。
「んおっ、んおおおっ……! おっお゛っ、おほっ……ぉお゛お゛お゛お゛イグっ!!!!」
 この快感の呻きこそが、動かぬ証拠だ。犬のように這いつくばらせ、片腕を極めた上で、激しく尻の穴を蹂躙する。こんなひどい状況にもかかわらず、藤花の割れ目は愛液を吐き続けている。
「どうだ。気持ちいいか?」
 腰を打ちつけながらそう訊ねても、反応は薄い。呻きをやめ、唇を噛み締めてしまう。やはり、こんな甘たるいアプローチでは駄目だ。
 今度は、覆いかぶさる形で上体を倒し、藤花の耳元に口を寄せる。
「尻の穴が、逸物を食い千切りそうなほど締め付けてくるぞ。浅ましい牝犬め」
 そう囁きかけると、藤花の反応が一気に変わった。目を見開き、ゾクゾクとした様子で顎を浮かせる。喉から漏れる呻きも、明らかに色を増す。やはりこれだ。この路線が一番いい。
 そして、彼女を本当に満足させるなら、この辺りで体位を変えてやる必要がある。
 次は、ソファに尻を乗せ、胡坐を掻くように足首を重ねさせてのアナルレイプだ。
「あ……あっ! こ、これは……この体位はっ…………!!」
 藤花は顔を引き攣らせ、小さく首を振った。その言葉とは裏腹に、口元には笑みが浮かんでいる。そう。藤花は、トラウマのあるこの体位が好きなんだ。
「うんっ、ん、んっ……んんっ!! あああっ、ああ……ああ、ぉほっ、ほおおお……んんおおお゛お゛お゛っ!!」
 引き結んでいた唇が開かれ、漏れる喘ぎが濁っていく。胡坐の形に組んだ両脚は、機能美の極致とばかりに隆起している。かなり深く感じているようだ。男としては嬉しい反応だが、これで婦警というのが少し心配になってくる。気心の知れない悪党に犯されても、彼女は不本意ながらに濡れてしまうだろうから。
「駄目だ、お、おかしくなるッ! やめてくれ、堪忍してくれええっ!!」
 藤花はわんわんと泣きながら哀願し、ついには潮を噴き散らす。ガラステーブルの上が水滴まみれになる。
「やめていいのか?」
 俺がそう訊ねると、藤花はハッとした表情になった。
「す、すまない。つい……! 自分から哀願しておきながら、いざとなれば矜持が邪魔をして……馬鹿だな、俺は……」
 どうしようもないマゾヒシズムと、それを拒む矜持。芯が強いゆえにそれを両立し続けるこの子は、業が深く、それだけに愛おしい。
「いいや、お前らしくていい。矜持はお前の宝だ」
 俺の囁きは、本心だ。
「先生……。」
 藤花は蕩けたように目尻を垂らす。俺も笑い返しはするが、正直余裕はなかった。
 千代里のディープスロートも良かったが、藤花とのアナルセックスも堪らない。 ドナン浣腸をしてきたという腸内はとろとろに蕩け、下手をすれば襞のある膣よりも具合がいい。加えて、括約筋の強さも尋常じゃない。硬く勃起した逸物を、根こそぎ食い千切りそうな勢いで締めつけてくる。祖の刺激の強さに、射精感が引っ張られる。
「藤花、そろそろ射精すぞ! 淫乱なケツの穴で受け止めろっ!!」
 あえて羞恥を煽りながら、弾力のある尻に強く腰を打ちつけ、その中で射精する。あえて奥に流し込むのではなく、腸全体に浴びせかけるような射精。こうして腸内をあまさず穢されると、藤花は一番嬉しがるからだ。
「ああああっ! 出てる……腹が、穢されてるぅ…………っ!!」
 精悍な『大和男児』が最後に浮かべた表情は、満ち足りた女のそれだった。

                ※


 シャワーで汗を流すついでに、アナルセックスで使った逸物をしっかりと洗ってから、3回戦に入る。次は祐希だ。
 祐希はいつも、2種類の愛し方を求めてくる。甘い触れ合いと、“オラオラ系”のセックス。颯汰への初恋が、未だに払拭できていないらしい。
「んっ、んふっ……。ん、んあっ、はぁぁんっ……」
 ソファの上でハグをし、キスを交えながらショートヘアを撫でる。そうすると祐希はいつも、猫が鳴くような声を出す。あの王子様然としたクールな子が、すっかりメス猫だ。むしろ中性的だからこそ、こういう行為への願望が強いのか。
「ねえ、先生。そろそろ、お仕置きを……」
 タルトのように甘い時間を過ごした後、祐希がそう囁いてくる。それに応え、俺は祐希をソファに這いつくばらせる。ここからの俺は、肉食系だ。
「もっと締めつけろ。こんなんじゃ仕置きにならねぇぞ?」
 祐希の両手首を引き絞り、パンパンと強烈に腰を打ちつける。石のように固くなった亀頭がどろどろの襞を掻き分け、奥にぶち当たる。
「あっ、あぁっ、くあああっ!!」
 祐希の声は甘い。かなり乱暴についているのに、感じているらしい。少しSっ気を出し、手首を強く握りしめながらグリグリと奥をいじめ抜けば、絶叫と共に全身が痙攣した。
「……大丈夫か?」
「はっ、はっ……全っ然平気。というか、もっと激しくしてほしいかな……」
 心配になって訊ねると、祐希は困ったように眉を下げる。少し気を遣いすぎたか。
「わかった」
 俺は祐希の両手首を離し、ソファに手をつかせる。その上で激しく突きつつ、背後から首を絞める。加虐に目覚めた若造の気分になりきって。
「ごひゅっ…… あ、ぎぃ…………ッッッ!!」
 祐希の首が反り、身体がブルブルと震えだす。足も激しく暴れる。
「先生、絞めすぎじゃ……」
 千代里が心配するが、俺は確信していた。祐希は、これぐらいが好みなんだ。事実、膣は激しく逸物を締めつけながら、複雑にうねる。奥が亀頭を締めつけては、ふうっと弛緩する。絶頂の反応だ。
「……がはあっ、はああ、はあっ!! き、気持ちよかった……イキながら、死ぬかと思った……! 千代里、心配させて、悪かったね……」
 顔中から汗を垂らし、激しく喘ぎながらも、祐希は笑みを浮かべていた。この子もまた、業の深い性癖を植え付けられたものだ。そして女子の憧れの存在だけに、その性癖を満たす機会などそうそうないに違いない。
「それはよかった。今日は、たっぷり満足させてやる」
 俺は『王子様』の耳元にそう囁き、サディスティックなプレイを続行する。汗まみれの祐希の身体をひっくり返し、正常位のまま肩に足を担ぎ上げる。この体位を『深山』というらしい。足を高く上げる格好がマゾの心をくすぐり、太腿に力が入るおかげでイキやすくなる、一石二鳥の体位だ。
「んっ、あ、あ……はぁあんっ、ああっ…………」
 祐希が甘い声を漏らす。俺は斜めに腰を打ちつけ、奥をトントンと刺激しながら、その身体に思わず生唾を呑んだ。
 可憐な千代里も、肉体美の藤花もいいが、祐希も特筆すべき身体の持ち主だ。昔は少年のような印象が強かったが、今はそこに程よく肉が乗っている。もちろん、太っているわけじゃない。引き締まりながらも肉感的……ダンサー体型というのが近いか。
「はっ、はっ……せ、先生。気持ちいけど、もっと……」
 祐希は甘く喘ぎながら、また少し物足りない表情を浮かべる。とはいえ、今度は意図的だ。ここからの責めを強烈にするために、慣らしが要るだけのこと。
「イキ狂わせてやる」
 俺は祐希の太腿を抱え込んだまま、ゆっくりと腰を上げる。結合部が上がり、祐希の背中がソファから離れていく。
「あっ、あ!?」
 祐希は焦りを見せはじめた。この体位になれば、大抵がそういう反応になる。そのまま膝のあたりを抱え、強く腰を打ちつければ、ますます表情に余裕がなくなっていく。
「ああっ、んはあぁああっ!! 硬いのがっ、奥まで……んぐっ、ああああ……うあああああーーーーーっ!!」
 善がり声が上がり、膣は逸物を奥へ奥へと呑み込む動きを見せる。狙い通り、随分調子よくイっているらしい。
「よし、ラストだ!」
 俺は奥を何度も突いてから、逸物を勢いよく引き抜いた。
「んんんんんっ…………!!!」
 祐希が切なそうに歯を食いしばった、直後。割れ目から勢いよく潮が噴きだす。潮は何度も噴き、ほぼ真下に位置する顔へと浴びせかかっていく。
「うひゃあー、すっごい……」
 千代里と藤花、桜織が祐希を見下ろし、唖然とした様子で呟いた。
「…………ねえ、先生。私もなんだか、疼いてきてしまいました。宜しければ、少しだけ……お情けをいただけませんか?」
 ほとんど失神しかけている祐希を横目に、桜織が頬を染める。控えめにこっちを見上げる姿は、いかにも大和撫子といった風だが、その実態はハードコア路線のAV女優だ。さすがに、少し覚悟がいる。
 少し、だが。

                ※

「んっ、ふ……んむっ、れあ……っ」
 舌を絡め合う時にも、桜織は慎ましさを残していた。それでも、時々遠慮がちに動く舌は、熟練の技を感じさせる。上あごを、歯茎を裏を、舌の根元を、絶妙な力加減で舐め回す。大学での研究と、AVでの実践の成果か。
 ソファの上で這う格好を取らせ、後背位で責める間も、桜織は隠れた淫乱ぶりをみせた。
「……っ、…………っ!!」
 クッションを掴み、口を噤んでいる姿はいかにも清楚そうだが、濡れ方の早さが尋常じゃない。前戯はキスしかしていないというのに、ぶじゅぶじゅと音が漏れるほどに塗れている。
 困ったものだ。こうも景気よく濡らされると……こっちも、スイッチが入ってしまう。
 俺は桜織の両脇に手をつき、その手を支点に、体重をかけて腰を打ちつけた。肉のぶつかる音がトーンを増し、ソファが派手に軋む。
 セックスに必殺技があるとするなら、これは間違いなくその一つだ。あまりにも簡単に、力強く、奥の奥を突けてしまう。セックスに不慣れな子なら、痛いと泣いてしまうことだろう。だが、桜織に限ってそれはない。
「うあっ、は、あッ! だめっ……あっ、はあァッ!!」
 桜織は首を起こし、快感の声を上げはじめる。膣も妖しくうねりはじめた。良い調子ではあるが、まだまだ余裕がありそうだ。桜織ほどの性豪を満足させるなら、その余裕を剥いでいくしかない。
 パンパンと音を響かせながら、腰を遣う。緩急をつけて。桜織が弱そうな反応を見せれば、そこを徹底的に。
「んぐっ、んんぐうっ! あっ、はぁあッ、あああああ……っ!」
 清楚な若妻風の顔が歪む。加えて身体も華奢だから、未亡人を寝取っているような、子供を組み敷いて犯しているような、何ともつらい気持ちになる。
 だが、しばらく責め続けていれば、その罪悪感は薄まった。つらそうな桜織の顔に、ケダモノの笑みが浮かびはじめたからだ。
「あっ、あっ!! 駄目ですっ、そこ、弱……ぁ、ハッ…………おおおおお゛っ!!」
 ようやく、狙いの声が出た。愛嬌をかなぐり捨てた『お』行の呻き。普通ならセックス終盤で漏れるその声が、桜織とのセックスのスタート地点だ。
「ああああっ、はおオッ!! おっお、んんはおおお゛っ!!!」
 桜織は何度も呻きを上げ、ついには俺が突きこむたびに潮を噴きはじめた。『ハメ潮』というやつだ。これが出れば、セックスの2合目といったところ。
「はあっ、はあっ、はあっ、はあっ…………!!」
 本気で腰を遣い続けていると、流石にバテてくる。だが、せっかく温まってきた子宮をクールダウンさせるわけにもいかない。汗みずくの身体を起こし、桜織も立たせて、体位を変える。次は、ソファの背もたれに手をついての『立ちバック』。
「先生……。その、お恥ずかしいのですが……あ、足が……っ!」
 桜織が涙目で俺を振り返る。その華奢な脚はガクガクと震えていた。さっきの体位で突きまくれば、まずどの女もそうなる。
「そこを我慢して踏ん張ってみろ。気持ちよくなれるぞ」
 俺はそう囁きかけ、改めて背後から挿入する。それだけで、桜織の腰はぶるっと震え上がった。
「あっ、あ……お、おほっ……ん、んっ……! は、あああ、お゛っ!!」
 腹圧のかからないこの体位でも『お』行の呻きが出るあたり、ポルチオ性感は上々らしい。なら、圧をかけてやればもっと壊れるというわけだ。
「え、きゃああああっ!!」
 右腿を抱え上げると、桜織は澄みきった悲鳴を上げる。どこからどう聞いてもお嬢様の悲鳴だ。だがそのまま何度も腰を打ち込んでやれば、声はあっという間に濁っていく。
「あふぁ、ふあああっ!! んっぐうううっ、んおおおおイグっ!! はあっ、はあっ、はあっ…………せ、先生は、やはり素晴らしいですね……グッグッと、心にまで来る、セックスです……!!」
 桜織は悶え狂いながら、賞賛の言葉をくれた。外人相手にハードファックをこなす桜織からのお墨付きは、雄としての自信になる。
 ただ、これで終わりとはいかない。あくまで今のは、1対1の状況で良かったというだけの話。桜織を満足させるには、輪姦も俺1人でこなす必要がある。
 桜織は優しいから、表面上では満足したというだろうが、そのあと部屋の隅で物足りない顔をすることだろう。それは、セックス・セラピストの名折れだ。
「そりゃあよかった。なら、たっぷり味わえ!」
 俺は笑みを浮かべながら、さらに桜織を追い込んでいく。立ちバックで何度も潮を噴かせた後は、跪いて逸物を舐めしゃぶらせ、その唾液で濡れ光る逸物で屈曲位を強いる。いわゆる『種付けプレス』で徹底的に膣奥をイジメ抜く。
「ああああっ、こんな……ふ、深いいィッ!! おごっ、ほおおっお゛、んごっお!! これだめ、変になるっ、変になるう゛う゛っ!!!」
 とうとう、桜織の言葉から敬語が吹っ飛んだ。白目を剥き、舌を突き出し……傍から見れば、脳が焼き切れているのではと思える反応だ。だが桜織は、こんな状態でこそ満ち足りる。両手で握り込むような膣の締め付けが、彼女の快感を代弁している。
「さあ逝け、桜織っ!!」
 名前を呼びながら、杭打ちでもするように腰を突き下ろす。桜織の嬌声は、もはや音にすらなっていない。掠れた喉から空気を吐き出しているばかり。俺はその余裕のない絶叫を感じながら、子宮口を強く圧迫する。
「んんーーー~~~~~ッッッ!!!!」
 また声にならない声が喉から迸り、桜織の足指が内に折れる。ぶるるっ、ぶるるっ、と腰が痙攣し──桜織は完全に脱力した。彼女のAVでも滅多には見ないほど、深い絶頂。桜織を本当に満足させるというなら、これでこそ、だ。

                ※

「はーー……っ、はーー……っ、はーー……っ、はーーー……っ」
 桜織は半分失神したまま、大の字でソファを占拠している。その幸せそうな顔を見て、千代里達が喉を鳴らした。
「ねえ、先生。もっかいしゃぶってあげよっか?」
「声楽家は喉が命だろう、もう使うな! 先生、代わりに俺と……」
「先生、実はもう一つケーキを作ったんだ。運動後のカロリー摂取にどうだい?」
 千代里と藤花がいつものように口喧嘩をし、祐希はハート型のケーキをテーブルに置き、桜織は絶頂の余韻に浸っている。
 4人の表情はそれぞれ違うが、ひどく幸せそうだ。
 それを見ているうちに、ふと、沙綾香の顔が過ぎった。
「…………あとは、ここに沙綾香がいればな」
 ポツリと漏れた俺の言葉に、千代里が、藤花が、祐希が、桜織が、騒ぎをやめて表情を変える。
「そうだね……」
 祐希が、遠い目で窓の外を見た。

 そう。
 沙綾香は、この場にはいない。
 祐希達と同じように集まることはできなかった。


 あの子は、今頃─────……







「あーーっ! やっぱ先に始めてるしっ!」

 リビングの扉が開き、叫び声が響きわたる。
 侵入者の恰好は、ニット坊にマスク、サングラス。一見完全な不審者だが、誰かはすぐにわかる。これだけ厳重な変装の必要がある人間も限られるし、何より、聞き覚えのある声だ。
「おっと、来たねスーパーモデル!」
「ちょっと遅かったのでは?」
 祐希が歓声を上げ、千代里が茶化す。
「だって、道チョー混んでんだもん。タクシー途中で下りて、走ってきちゃったよ」
 沙綾香は変装を解きながら唇を尖らせ、慣れた様子でブーツを脱ぐ。
 そう。彼女は今や、世界的スーパーモデルだ。その類稀なルックスと独特の雰囲気で、とうとう世界を魅了する存在となっている。そして同時にそれは、八金グループのイメージアップにも繋がっているようだ。
 そんな世界的モデルも、たまの休みにはこうして俺に会いに来てくれる。
「見せつける感じで、イチャイチャしてくれちゃって」
 沙綾香はずんずんとこっちに近づき、テーブルの上のケーキを見下ろす。
「……なに、このハートのケーキ」
「え? あ、いやあ、アハハ……!」
 祐希が気まずそうに頬を掻く中、沙綾香はケーキを摘み上げて口に放る。
「あっ!」
 祐希の悲しげな声も、沙綾香の一瞥で後が続かない。
「ふーん、美味しいじゃん。でも、ちょーっと甘すぎない?」
 沙綾香はじっとりと祐希を睨み、続いて俺を見下ろす。
 非常に気まずい。
 背後では桜織がソファに横たわり、左右では藤花と千代里が俺の腕を引き、祐希は件のケーキ皿を手にしている。しかも全員裸という言い逃れの利かなさだ。
「センセも、可愛いコに抱きつかれて鼻の下伸ばさない!!」
 沙綾香は圧倒的な長身で仁王立ちし、俺を睨み下ろす。少し見ない内に、ますますスタイルが良くなったようだ。公式プロフィールによれば、今の身長は174センチだったか。もはや俺と1センチしか変わらず、厚底のブーツでも履かれようものなら、軽く逆転されてしまう。
「い、いや、別にそんな……」
 たじろぐ俺から、ゆっくりと千代里、藤花、祐希が離れていく。
「うひぃ、鬼嫁こっえー……」
「す、すまない、沙綾香!」
「さ、退散退散っと……!」
 俺は沙綾香と一人相対する形となり、冷たい汗を垂らすしかない。
「ベッドは、まだ使ってないから。たっぷり楽しもうぜ」
 俺がそう言うと、沙綾香は冷ややかな目のまま口を曲げる。いつかのエレベーターで目にした、ふっ、という冷笑だ。
「ふうん、そう。じゃあテッテー的に搾りとってあげるから、覚悟してよね……センセ?」
 この世で最高に可愛い淫魔が、そう言ってにこりと笑った。


                ※


 ベッドルームの扉を閉め、沙綾香と二人きりになると、香水がふわりと薫った。汗の匂いを消すためだろうか。凄く上品な匂いだ。こういうセンスで、それとなく育ちの良さが伺い知れる。
「その……悪かったな。先に始めて」
 俺が改めて謝ると、沙綾香はわざとらしいほど頬を膨らませてみせる。
 ……しかし、改めて見ると本当に背の高い子だ。千代里や桜織は俺の肩ぐらいまでしかないから、目線が同じ沙綾香が余計に大きく見える。
「──コイツ、背デカいな」
 沙綾香は俺を睨みながら、いきなり胸の内を読んでくる。俺がぎくりとすると、沙綾香は半目になった。顔の整った子が睨むと、どうしてこう怖いのか。
「いや、俺は……その、流石はモデルだな、と……」
 しどろもどろだ。俺は、異性と話すのが苦手なタイプじゃない。リードしろと言われれば、いくらでもできるタイプだと自負している。なのに、沙綾香が相手だとダメだ。心も、体も、ガキの頃に戻ってしまう。
 そう、体もだ。
 沙綾香という淫魔を前にした俺の逸物は、ムクムクと首をもたげ、沙綾香の太腿に触れる。沙綾香がそれに気づいて、ぶっと噴き出したのが恥ずかしい。
「もぉ。センセ、本当に変わんないんだから。セックス・セラピストなんでしょ、カワイイ子見ただけで勃起しないの」
 沙綾香はさらりと自分のことを褒めつつ、逸物に手を触れた。そしてその手を下に滑らせつつ、ゆっくりと膝をつく。その何気ない動作が、どうしようもなく性的だ。

 裏筋が張り、血管すら浮き出るほど勃起した肉棒──沙綾香はそれを口に含み、じゅぼじゅぼとくぐもった音をさせながら、徹底的に責め立てる。俺が少しでも反応すれば、その弱点に的を絞って集中的に舌を使う。
 雁首、裏筋、鈴口……そこを生暖かい舌で舐め溶かし、抉り込むように責められれば、腰に痺れが走る。じわりと先走りが滲み出るが、それをすかさず吸引されてしまうから、声を抑えきれない。まさに淫魔のフェラチオだ。
「うああ…す、げえ………!」
「ふふふ。どぉうセンセ、気持ちいいでしょ? AV観ながら、バイブでずっと練習してたんだから」
 沙綾香はそう言い、ぼそりと続けた。千代には負けらんないもん、と。
 そこまで健気に想ってくれる沙綾香が、愛おしい。
 視線を下ろすと、そこには膝立ちになった極上の美少女がいる。今日の彼女の恰好は、蒼蘭女学院の制服によく似ていた。ピンクのカーディガンに、マイクロミニのスカート、黒いニーソックス。その出で立ちが、沙綾香の色気をこれでもかというほど引き出している。この素晴らしい脚が、街で何人に視姦されたことだろう。
 まずい、ますます興奮してきた。一瞬でも気を抜けば、射精感に呑まれそうになる。
「くっ……!」
 奥歯を噛み締めて必死に耐えるが、沙綾香は容赦しない。濃密なキスのような舌遣いを、あらゆる角度から仕掛けてくる。
「んふふふ。イキそうなんでしょ。センセのイク瞬間って、見てたら分かるんだよ。あそこがぐーっと膨らんで、目が獣みたいにギラギラするんだもん」
 沙綾香は射精の前兆に気付きながらも、絶対にイかせない。先端を喉奥に嵌め込み、舌で幹を舐め回しながら、生殺しにしてくる。たぶん沙綾香はそうして、俺のある言葉を待ってるんだ。
「あああ、いい……千代里より、上手いぞ……!」
 俺は堪らず、望まれているだろう言葉を吐き出す。
 どうやら正解だったらしい。沙綾香は鼻から笑い声を漏らし、じゅぼじゅぼと音を立てて顔を前後させる。すでに射精寸前に追い込まれていた俺は、それに抗えない。
「あ、ああああ……うううっ!!」
 思春期のガキのように情けない声を上げながら、大量の精液を沙綾香の口内に注ぎ込む。
「んふっ……」
 沙綾香はまた笑い、鈴口の精液まで残さず啜ると、ゴクリと音を鳴らして飲み下す。
「……うええ、生臭ぁ……」
 逸物を吐き出しながら、沙綾香は舌を出した。今でも精液の味は苦手らしい。これこそ、沙綾香の本来の反応だ。当たり前のように精飲していた、あの倶楽部の沙綾香じゃない。間違いなく、素の彼女がここにいる。

                ※

 なし崩し的に始まったフェラがひと段落し、俺と沙綾香はベッド傍に移った。
「センセも運がいいよねー。スーパーモデルのストリップ、特等席で見られるんだよ?」
 沙綾香は小悪魔じみた笑みを浮かべながら、見せつけるように服を脱いでいく。カーディガンに、ブラウス、スカート、ニーソックス……。だが、裸に近づくにつれ、だんだんと動きは鈍くなった。
「……アハッ、な、なんでだろ? 水着撮影とかいっぱいしてるし、露出耐性あるはずなのに…………センセの前だと、緊張しちゃう」
 上下の下着だけになった時、沙綾香は身体を掻き抱く。ついさっきまでの妖艶さとは打って変わって、処女さながらの初々しさだ。
「綺麗だぞ、沙綾香」
 俺がなるべく優しい口調で囁きかけると、沙綾香はぎゅっと唇を結び、ブラジャーのホックを外す。たわわに実った乳房が零れ出した。
 沙綾香と俺の間に、沈黙が下りる。
 どうしても、思い出してしまう。乳首につけられていたリングのことを。もちろん、穴はとっくに塞がっている。それでも、乳房が目に触れるたび、思い出さざるを得ない。
 沙綾香は押し黙ったままショーツを下げ、とうとう一糸纏わぬ丸裸になる。本当に、綺麗な裸だ。スタイル抜群の8頭身。これ以上の身体など存在しない、と断言してもいいぐらいに。
 そしてもちろん、見た目が良いだけじゃない。沙綾香がここにいること、それ自体が最高の奇跡だ。
 沙綾香の回復には、2年かかった。オーバードーズと快楽拷問は、沙綾香の脳と肉体を深刻に蝕んでいたと聞く。そして、もっと深刻なのが心のダメージだ。強い自責の念に駆られた沙綾香は、一時、あらゆる記憶を失って幼児退行を起こしていた。正直なところ、俺がセックス・セラピストを志した理由の一つは、そんな沙綾香を癒す方法を模索するためだ。結果として、俺がどれだけ回復に貢献できたのかはわからないが。

 恥ずかしがる沙綾香の手をどけさせ、唇を奪う。品の良い香水の匂いが一瞬鼻を通り、次に沙綾香自身の匂いが入ってくる。俺の大好きな匂いだ。
「んっ、は……んふっ、あ…………」
 舌を絡めるたび、唾液が交わる。沙綾香の唾液は、いつも格別に甘く感じる。あの悪夢のような世界で、俺はずっとこれを求めていた。今は、それが好きなだけできる。キスだけでなく、もっと濃い交わりさえ。

                ※

 2人してベッドへ横たわり、性器を愛撫しあう。
 他の4人にも興奮するが、やっぱり沙綾香のエロさは格別だ。沙綾香を前にすると、何日も射精を我慢しているぐらいに勃起する。その裏筋にそっと指先を這わされれば、顎を突き上げて仰け反ってしまう。たった一回撫でられただけで。
「ふふっ」
 沙綾香が小さく笑うから、今度は俺がお返しだ。女の部分に手を伸ばし、よく処理された刺激を越えてクリトリスに触れる。それだけで、沙綾香は小さく呻き、身を震わせた。絶頂だ。指先が触れただけで、動かしてすらいないのに。
「はっ……はっ……」
 口を開閉させ、荒い息を吐く沙綾香。伸びていた脚も曲がり、震えながらシーツを掻く。
「一勝一敗、だな」
 すぐ横にそう呼びかけると、くすくす笑いが返ってくる。

 そこからしばらく、同じ姿勢で性器を弄りあった。お互い激しくはしない。角砂糖を少しずつ舐め溶かすように、久々のセックスをじっくりと堪能する。
 逸物を優しく扱くだけ、クリトリスを優しく撫でるだけ。それだけで、お互いの性器からは先走りの汁が滲み出た。相手の指が触れるたび、腰から脳天に電気が走り、足が意志とは関係なく動く。これは俺の感覚だが、沙綾香もきっと同じだろう。
 その状態で唇を重ねれば、もう頭の中は真っ白だ。目の前に、ぼーっとした瞳が映る。頬も上気していて、まるで風呂で上せた顔だ。
「んふっ。センセ、すっごい気持ちよさそうな顔してる……」
「お前もだろ」
 お互いの蕩け顔を笑いあいながら、さらに指を蠢かす。優しく、優しく……しているはずなのに、お互いの反応はどんどん激しくなる。
 触れ合う肌に、じっとりと汗が滲んだ。
 脚は電気でも流されたようにビクンビクンと跳ね、逸物は亀頭を中心に石のように固くなって、先走りを溢れさせる。沙綾香のクリトリスも硬さと大きさを増し、ついには割れ目から潮が噴き出る。まだ割れ目そのものには、一度も触れていないのに。
「イッちゃった……」
 沙綾香は、呆然とした様子で下半身を見下ろしている。その様子があまりにも可愛くて、俺は我慢が利かなくなった。沙綾香の身体を引き寄せつつ、自分も移動して、潮を噴いたばかりの割れ目を覗き込む。
「……っ!!!」
 沙綾香は、息を呑みながら膝を閉じた。予想できた行動ではある。
 奇跡的に、脳の損傷は回復した。心も持ち直した。だが、身体の傷までは戻らない。『十番勝負』から始まる数々の凌辱で、沙綾香の割れ目は不可逆なほどに変形させられた。あれから6年経った今でも、癒える様子はない。
 だが、それがどうしたという話だ。俺は、沙綾香が可愛いから愛しているわけじゃない。沙綾香の負った傷も、抱えたトラウマも、丸ごと愛する。
「意地悪をするな。俺の大好きな所を、見せてくれ」
 俺が笑いかけると、沙綾香の膝から少しずつ力が抜けていく。そこにあるのは、俺の記憶通りの華だ。

 舌でクリトリスに触れるたびに、割れ目がひくつく。その割れ目に外側から舌を這わせれば、沙綾香は激しく身悶えた。俺はその反応を愉しみつつ、じっくりと舐め回す。沙綾香の変化のすべてを受け止め、肯定するように。
「ああ、あ……んああっ! き、気持ちいいっ……!!」
 愛しい相手の悦ぶ声は、どうしてこうも耳に心地いいんだろう。
 そろそろ我慢の限界だ。沙綾香と交わる、そのこと以外が頭から消え去る。
「入れるぞ」
 勃起しきった逸物を割れ目に宛がい、沙綾香に呼びかける。沙綾香は、うっとりとした顔で頷いた。
「ああああ……熱い」
 挿入と同時に、沙綾香がそう声を漏らす。亀頭まで入った時点で、膣壁が痙攣を始めた。それがあまりにも気持ちよく、思わず動きが止まる。
 そしてそのまま、俺と沙綾香は絶頂した。ただし、精液は出ていない。射精を伴わない、極度の興奮としての絶頂……ドライオーガズムだ。
「ああ、あああ……っ!」
 まだ亀頭しか入っていない段階で、2人してしばらく痙攣する。数十人と交わってたが、こんなことが起きるのは、沙綾香とのセックスでだけだ。
 しばらく後、呼吸を整えて挿入を再開する。ぬめる膣壁が逸物を包み込み、沙綾香が熱い息を吐く。
 逸物が奥に届く頃、またドライオーガズムの波が来た。全身に快感の痺れが走り、頭が白む。初めて沙綾香と交わった6年前でも、ここまでじゃなかった。あの地獄で、互いを求め合う気持ちが強まったせいか。
「はあっ、はあっ、はあっ、はあっ…………!!」
 2度の絶頂で動けなくなり、奥に入れたまま休憩する。ただ、この状況ではただ休むのも難しい。じっとしていても、逸物は勝手にピクピクと跳ね上がる。
「あっ!? やだセンセ、奥そんな……っ!!」
 逸物の跳ねがポルチオを刺激するらしく、沙綾香があえなく中イキする。すると膣の中が痙攣するから、その刺激でまた逸物が跳ねる。そんなサイクルが繰り返され、とうとう本当に射精してしまう。
「うっ、あ、あっ……!!」
 膣内射精で漏れた声は、俺のものだか、沙綾香のものだかわからない。

 射精が落ち着けば、ゆっくりと腰を動かしていく。子宮口を小刻みに叩くようにすれば、沙綾香は背中を仰け反らせて絶頂した。傘の開いた雁首で膣壁を掻けば、足指がぎゅうっと内に閉じた。それがまた嬉しくて、抜き差しのスピードが知らず知らずのうちに上がっていく。
 もはや、訳がわからないほどの気持ちよさだ。
「あ゛あ゛、うああ゛あ゛っ!!!」
 漏れるままに声を発しながら、夢中で腰を振りたくる。逸物はますます膨張し、沙綾香の愛液の量も増してくる。
「あいく、いくっ、いぐううっ!!」
 沙綾香は叫びながら、涙を零しはじめる。
「感じるか、沙綾香?」
 答えが判りきっている質問をするのは、ずるいかもしれない。それでも沙綾香の口から聞きたかった。
「感じるよ、すごく気持ちいい。こんなので感じないなんて……馬鹿だよ……」
 沙綾香は笑みを浮かべながら、さらに涙を零す。その涙はさっきとは違って思えた。俺相手に刺激が足りないと言ったことを、まだ引きずっているらしい。
「そうか。気持ちいいなら、それでいい」
 俺はそう囁いて唇を奪い、沙綾香の意識を今の俺に向けさせる。もう、過去は忘れていい頃だ。

                ※

 そして俺達は、何度も体位を変えて愛し合った。
 乳房やクリトリスを刺激しながらの背面側位で。
 お互いベッドに寝そべり、求め合うようにキスをしながら。
 ……ただ、俺達は互いにSの気がある。甘い交わりも好きだが、あまりにも相手が蕩けていると、ついつい悪戯をしたくなる。
 最初に仕掛けてきたのは、沙綾香だ。
 もはや熟練の域にある騎乗位で精を搾り取り、ついに音を上げた俺を見て、ゾクゾクとした表情を浮かべる。そして俺が脱力しているのをいいことに、マングリ返しの恰好にさせてさらに精を搾り取る。完全な逆レイプだ。
「うあああっ!! や、やめろおぉっ……!!」
 震える声で許しを乞うても、なかなかやめようとしない。結局俺は、情けなく足を痙攣させながら、3度も膣内射精『させられた』。
 となれば、俺も黙ってはいられない。同じく沙綾香にマングリ返しの格好をさせ、まずは指責めで5回潮を噴かせる。そしてゼエゼエと喘ぐ沙綾香に圧し掛かる形で、深々と挿入する。
 ただこれは、仕返しになったのか正直怪しい。最初こそ翻弄する形だったものの、そのうち沙綾香は、奥深くまでの挿入を悦ぶようになる。
「ああああいいいっ! 子宮っ、子宮があっ!! あイグ、イグイグイグううう゛う゛う゛ッ!」
 亀頭が奥を潰すたび、沙綾香は快感を訴えた。何度も絶頂した今、彼女の子宮口は蕩けきり、小さく口を開いている。本気で力を篭めれば、端塚のように“その先”に行けそうな感じもある。そうすれば、もっと激しい反応を引き出すことだって可能だろう。
 だが俺は、そんなことはしない。俺にとって沙綾香の子宮は、愛でるべき宝だ。子を孕ませる道具としか見なかった端塚とは違う。あれだけ子宮に精を注ぎ、それでも沙綾香を妊娠させられなかったのは、端塚に下った『神』の裁きに違いない。
「はぁ、はぁ、はぁ……センセ、もう出そうなんでしょ? いいよ、奥にちょうだい。センセの、奥にほしい……!」
 沙綾香が俺の絶頂を見抜き、潤んだ瞳で囁きかけてくる。
「ああ、待ってろ」
 俺も、たっぷりの愛を篭めて応えた。
 お互いの性器が深く結びつき、痙攣する。どっくんどっくんと、俺の遺伝子が沙綾香の中に渡されていくのを感じる。幸せだ。この上なく……。

( うわ、見てよ。すっごい体勢…… )

 絶頂後の心地良い倦怠感に包まれていると、ふと、そんな声が聴こえた。
「っ!?」
 沙綾香と揃って声のした方を振り向くと、ベッドルームの扉が小さく開いていて、そこから4つの顔が覗いている。祐希、千代里、藤花、桜織。よもや、全員で覗きとは。
「ちょっ…… 覗かないでよっ!!」
 沙綾香の顔がみるみる赤くなっていく。
「やあ、ごめんごめん。気持ちよさそうな声がずっとしてるから、ムラムラしちゃってさ」
 祐希がそう言ってカラカラと笑う。千代里も猛然と頷き、藤花と桜織も無言という消極的な同意を示す。
「…………まったく、もう…………」
 沙綾香は溜息をつき、俺と視線をぶつけて笑う。
 こうなっては仕方ない。性に目覚めたメスが5人集まった時点で、こうなることは決まっていたのかもしれない。

「ほら、セーンセ。早く早く!」
 ベッドに並んだ、アイドル級の美女5人。それが目を開かせ、物欲しそうに俺を誘う。これは天国か、はたまた地獄か。
「……ったく、しょうがねぇな。5人まとめて可愛がってやるよ!!」
 俺は半ば自棄になりながら、自慢の逸物をいきり勃たせる。
 
 ────どうかここが、『二度と出られぬ部屋』になりませんように。

 心の中で、空しくそう祈りながら。




                          終

 


※これにて完結となります。ご愛読、ありがとうございました。

二度と出られぬ部屋 最終章 オーバードーズ Part.7-5

Part.7-4の続きで、最終章最終話(Part.7)の5つめです。
これで最終話は終わり、エピローグに続きます。




 時の流れが遅く感じる。
 百合の言っていた仲間は、いつ来るんだろう。もう7日目……いや、それも端塚の言葉が根拠だから、本当かはわからない。ほんの2、3日であろうと、すでに2週間ほどが経っていようと、陽の差さないこの部屋では判別のしようがない。
 確実なことは一つ。沙綾香が、変わりつつあるということだ。
 
 今日、沙綾香の子宮口に捻じ込まれたバイブは、昨日の親指大の物よりも太かった。もはや油性ペンほどの直径だ。それを奥まで押し込まれ、ショーツで固定された時点では、沙綾香はかなり苦しそうだった。
 だが、しばらくすると様子が変わってくる。表情が緩み、息が上がり、ついには甘い声を漏らすようになる。
 今日はその段階で、端塚への奉仕が求められた。椅子に腰かけた端塚の前で、膝立ちになってのフェラチオだ。
「手は膝に置いておけ。ペニスの形を頭に描きながら、唇と舌でよく味わうんだ」
 端塚はそう命じ、沙綾香も一旦は従った。だが、子宮頚管を刺激されながらのフェラチオというのは、相当に辛いらしい。沙綾香の手は何度も膝から離れ、端塚の腰を押しのけて中断を求める。だから途中からは、手を後ろで縛り上げられての奉仕となった。
 ただ、中断したがるのもわかる。
 沙綾香の斜め後ろにいる俺達には、膝立ちになった股間部分が丸見えだ。一点が盛り上がったショーツの中では、バイブが唸りを上げ続けている。次々にあふれる愛液は、ショーツのクロッチ部分を透けさせ、床に滴っていく。愛液のプールは、股の直下どころか、その前方についた両膝をも侵食しそうな勢いだ。何十回、あるいは何百回と絶頂を繰り返しているんだろう。刺激される場所が場所だけに、かなり根深い絶頂を。
「ッぶはぁ!」
 亀頭を吐き出した沙綾香の口からは、恐ろしく太い唾液の糸が何本も引いていた。
「……はあっ、はあっ、はぁっ……」
 酸素を吸い、喉を鳴らし、口をパクパクと開閉して調子を整えてから、また桜色の唇が赤い亀頭を咥え込む。じゅばっ、じゅばっ、と派手な音を立てて奉仕が再開されると、ショーツの中の割れ目がひくついた。膝立ちになった脚にも力みが見える。イッてるんだ。端塚の物をしゃぶりはじめた、このタイミングで。
 そして、端塚がその反応を見逃すはずもない。ブランデーを片手に奉仕を堪能していた奴は、足で沙綾香の膝を押し開く。
「うあっ!!」
 沙綾香は逸物を吐きだして小さく震え、端塚を見上げた。その目尻は、吊り上がってはいない。下がってもいない。あまりに追い詰められすぎて、睨むに睨めない──そんな風だ。
「そろそろ、私の物になる決心はついたか?」
 端塚は沙綾香を見下ろし、横柄な態度で告げる。まさに『神』気取りだ。
「……っ」
 沙綾香は、言葉に詰まった。青ざめた顔に覇気はない。端塚の要求を頑として跳ねのけるほどの余裕は、明らかにもう残っていない。
 それでも沙綾香は、弱々しく首を振った。その僅か数センチの動きには、どれだけの覚悟と勇気が要ったことだろう。
「…………分からん娘だ。今受け入れれば、妻として愛でてやったというのに」
 端塚はブランデーグラスを横に置く。沙綾香の怯えた視線が上を向いた。
「仕方がない。お前の“3つめの処女”を頂くとしよう」

                ※

 “3つめの処女”。それは、子宮口のことだ。本来は子を産む時にしか開かない、女のもっとも神聖な場所……それを侵すという、まさに禁忌の行為。あってはならない。あってほしくはない。特に、沙綾香にだけは。

「…………おねがい、やめて…………!」
 沙綾香の声は、恐怖に満ちていた。絶望的な状況が目前に迫り、恐怖を抑えきれなくなったんだろう。だが、もう逃げられない。後ろ手に縛られたまま、椅子へ深く掛けた端塚に腰を掴まれる体勢。彼女にできるのは、イヤイヤと首を振りながら、眼で救いを求めることだけだ。
 だが、誰も助けない。洗脳班の連中は沙綾香の敵だ。そして味方である俺達は、鉄格子の向こうに行けない。もう何度も叫びながら叩いているのに、鉄格子はグラつきもしない。
「騒ぐな、ブタ共。黙って見ているがいい。あれほどの女のウテルスセックスなぞ、そうそう見られんぞ?」
 牢番が煩そうにこっちを振り返る。ウテルスセックス──それが、今から行われる行為の名前か。
「そう固くなるな。大きく息を吸って、静かに吐き出せ」
 端塚は沙綾香にそう囁くが、沙綾香にそんな余裕はない。全身を硬直させ、はっ、はっ、と短く息を吐き出している。端塚は溜息をつき、沙綾香の腰を押し下げはじめた。
 上向きに反り勃った逸物の先が、割れ目に触れる。血のように赤い亀頭は、あっさりと割れ目へ吸い込まれた。
「すっかり子宮が下りているな。これなら、間違いなく“奥”に届きそうだ」
 奥。セックスにおけるその言葉は、普通なら膣の突き当たりを意味するものだ。だが、この場合は違う。突き当たりをこじ開けた先……子宮そのものだ。
「や、押し付けないで……無理、ホント無理っ! そんなの、入らない!!」
 沙綾香は青ざめた顔で叫ぶ。だが、端塚が今さら耳を貸すはずもない。
「深呼吸をしろ、クリアな頭で記憶に刻め。これが、本当の処女喪失だ」
 年季を感じさせる手が、沙綾香の脇腹に食い込み、力いっぱい押し下げていく。
「いっ……あっ、あっ……!!」
 沙綾香の視線が左右に流れ、ある瞬間、真ん中で止まる。澄んだ目は大きく見開かれ、口が開いた。

「──────あ──────……」

 漏れたのは、たったの一音。耳をつんざく絶叫でもなければ、苦悶の呻きでもない。だがその一音で、俺は背筋が凍った。沙綾香を想う気持ちが、そのまま恐怖となって襲ってくる。
「嵌まり込んだぞ。ふふ、亀頭を甘噛みされるような感触が堪らんな」
 端塚がほくそ笑み、脇腹に食い込んだ指を開く。
「子宮を直に犯される気分はどうだ、淫魔?」
 端塚の手は上下に滑り、右手はクリトリスを、左手は乳房を刺激しはじめる。だが、沙綾香は反応を示さない。目を見開き、滝のような汗を垂らし……その様子が、起きてはならない事が起きたという事実を、はっきりと物語っている。
「これは、お前の強情が招いた結果だ。普通の破瓜なら『大人の階段を上る』という表現になるが、子宮の貞操を失った女の末路は違う。人としての最低のラインを踏み外し、崖を転がり落ちていくことになる」
 端塚はおぞましい言葉を吹き込みながら、改めて腰を掴み直した。

「ぐがああっ、あ゛ぎっ!! あぐっ、ん、はぐっ……やめでっ、ひろがる゛っ! さやかの大事なトコ、ひろがっぢゃう゛うう゛っ!!! かはっ……う゛っア、んぐああ゛あ゛あ゛ッッッ!! 」
 部屋に悲痛な叫びが木霊する。
 沙綾香は涙を散らしながら、左右に激しく頭を振っていた。下半身の反応も激しい。太腿が強張り、脹脛が盛り上がり、両足がつま先立ちになり……脚全体が弛緩している瞬間は一瞬もない。常にどこかの部位が、痛々しい悲鳴を上げている。これが、ウテルスセックスか。
「いいぞ。感じれば感じるほど、子宮口が強く締めつけてくる。お前は良い子宮を持っている。私の子の“揺り籠”に相応しい」
 端塚にそう評され、沙綾香は目を見開く。そして、限界が来た。
「っやああ゛あ゛、もう゛イヤぁあ゛あ゛っ!!」
 喉が裂けそうなほどに声を張り上げ、腰を浮かせようとする。だが、端塚の反応は早い。すかさず腕を掴んで引き戻し、腰を落とさせる。
「今さら足掻くな。この快感を受け入れろ!」
 そう言って腰を掴み、横方向に捻りを加える。
「ア゛っ、がああ゛あ゛っ!!!」
 沙綾香の喉から絶叫が上がり、涙が伝い落ちた。遠目にも、膝の力が抜けて腰砕けになったのがわかる。
 その沙綾香を、端塚はさらに追い詰めた。太腿を押さえつけて逃げ場を失くしつつ、強く腰を突き上げる。普通の背面座位でもきつそうな動きだ。
「ああ゛っ、あ゛……っ!!」
 沙綾香の顔が変わっていく。目が細まり、口は熱いスープを冷ます時のように尖る。一見、冷静さを取り戻したようで、俺もほっと一息を入れた。だがそれは、嵐の前の静けさだ。一秒後、沙綾香の様子は180度変わる。
「あ゛、アア゛っ……ぉ゛っ、お゛、お゛ぉ、オ゛っ!!」
 沙綾香は、後頭部を端塚に押し付けて天を仰いだ。口から漏れるのは、濁りきった『お』行の呻き。どっちも沙綾香が限界を迎えた時の反応だ。今、それが出てほしくなかった。取り返しがつかない気がして。だが、出ないはずはない。沙綾香はもう、限界などとっくに超えているんだから。
「そうだ。『神』に犯される幸せを、全身で堪能しろ。そろそろ子種もくれてやる」
 端塚は動きを止め、“奥”への刺激をキープする。沙綾香の反りと痙攣が酷くなる。乳房や腹筋が前面に押し出される画のインパクトには、思わず息を呑む。
「あ゛っ……は、入って、くる…………っ!!」
 沙綾香の呟きで、今まさに射精されているのがわかった。子宮内への射精。愛する女の無防備な場所が、端塚の遺伝子に侵されていく。

                ※

 人としての最低のラインを踏み外し、崖を転がり落ちていく────端塚のその言葉が、頭から離れない。
 端塚は間違いなく、沙綾香を壊しにかかっていた。
 脚を掴み上げ、接点を貫かれた子宮だけにしたり。
 脚を抱え込み、その腕を沙綾香の後頭部で組んで、完全に自由を奪ったり。
 その無理のある体勢で、沙綾香はますます追い詰められていく。
「おおお゛っ、ぉっ……おほお゛っ!! はっ、は……んんおっ、はぁあお゛お゛お゛っ!!」
 ほとんど白目を剥き、舌を突き出し、腹の底からの呻きを響かせる。その時点でも十分に肝の冷える有様だが、さらに時間が経てば、状況はより悪化した。
「は、あ゛……お゛っ……おっお゛…………あ゛おっ…………」
 生命の灯が消えかけているような、途切れ途切れの喘ぎ。さっきまで最悪とすら思えていた反応が、今や懐かしい。上半身がビクンッ、ビクンッ、と痙攣し、汗や涙や鼻水や涎……出せるもの全てを噴き出していく。
「沙綾香! 沙綾香ああっ!!」
 あまりの様子に、鉄格子の中から5人全員で声をかけるが、届いている様子は全くない。
「いかにお前といえど、ここまでの快感を一度に受けたことはないだろう」
 端塚は腰を突き上げながら、相手の激しい反応にほくそ笑む。沙綾香は答える代わりに、手足の先までを強張らせ、ついには泡を吹きはじめる。
「ずいぶんと愛らしくなったものだ」
 上機嫌に笑う端塚は、本当に、沙綾香の精神などどうでもいいんだろう。

「もぉ、やめて……。しゃぶる、から……いっしょうけんめい、奉仕、するから………」
 端塚がようやく腰を止めたタイミングで、沙綾香は激しく痙攣しながら、かろうじて言葉を繋ぐ。しばらく呻きしか発せていなかったことを考えると、奇跡のようだ。だが端塚は、微塵の同情も示さない。
「それが、人にものを頼む態度か?」
 冷ややかな言葉と共に、沙綾香を床に突き落とす。
 床に這った沙綾香は……身を屈め、端塚に向けて頭を下げた。土下座だ。
「…………お……お願い、します、しゃぶらせて、ください……!」
 痛々しいほどの震え声で、そう哀願する。自我を保つために。壊れないために。
「いいだろう。ただし、子宮へ嵌め込む以上の快感が条件だ。せいぜい励めよ」
「……はい」
 沙綾香は端塚の足元に傅き、口一杯に溜まった唾液を絡めて、ジュボジュボと音を立てながらフェラチオを繰り返す。縛られた手は使わず、口だけで。
「もっと深く咥えこめ……もっとだ。喉奥ぐらいは使わんと、子宮の代用にならんぞ」
 端塚は、何度もディープスロートを要求していた。
「ぐっ、ごっ……んぐっ、ぶっ……ごほっ!!」
 普通の逸物とは訳が違うペニスだ。沙綾香はかなり飲み込むのに苦労していたが、とうとう根元までを口に収める。白い喉が、テニスボール幅にぼこりと盛り上がる。
 ただし、それを維持できていたのも数秒だけだった。巨大な亀頭や3つの雁首、凹凸だらけの幹は、ただでさえ喉への刺激が強い。腹の奥をさんざん刺激された直後に、そんなものを奥まで咥え込めば、胃液が逆流するのが当然だ。
「むっ、う゛ぇあ゛!」
 沙綾香は頬を膨らませ、逸物を吐き出して顔を背ける。愛液まみれの床に、びちゃあっと音が立った。
「どうした、何を休んでいる。続けなさい」
 激しく喘ぐ沙綾香に、端塚はやはり慈悲をかけない。相手が吐いた直後であろうと、構わず奉仕の続行を命じる。
「はーっ……、はーっ……、はーっ……」
 口に吐瀉物をつけて端塚を見上げる沙綾香は、典型的な上目遣いだ。どう贔屓目に見ても、睨み上げているとは言えない。ここまでの地獄を思えば、責める気などとても起きないが。


                ※


 この日を境に、沙綾香への調教はウテルスセックスが前提となった。朝一番に薬を注射し、膣奥へ電気刺激を与え、子宮口が開くと同時に沙綾香の表情が虚ろになったあたりで、端塚との『営み』が始まる。
 端塚に子宮を休ませる気はないらしい。セックスの最初の体位はいつも屈曲位で、真上から全体重をかけて逸物を押し込んでいく。
 最初は鬩ぎ合いだ。普通より大きさのある亀頭と、開く準備の整えられた子宮口。それが拮抗しているらしく、端塚の逸物は3割ほどを外に露出した状態で止まる。
「んあっ、あぐっ……ぐっ……!! やめで、そこっ……いれな、でっ……!!」
 沙綾香は歯を食いしばって苦しそうにしているが、まだ最悪の状況にはなっていない。
 とはいえ、均衡が崩れるのは時間の問題だ。片や一方的に殴り続ける人間、片や丸まってそれに耐える人間。そんな決闘で、守っている側が勝つ可能性などない。端塚の身体は僅かずつ沈み込んでいく。黒人共とのセックス以来、もう何度となく目にした、メリメリと音のしそうな動きで。
「あああっ!! 入ってくるっ、入ってくるう゛っ!!」
 沙綾香の泣きそうな声も、しっかりと今起きている現実を伝えてくる。
「くはっ、はひっ……はひぃっ……はっ、あ…………」
 端塚の逸物がすべて割れ目に隠れる頃には、沙綾香の顔には尋常でない汗が浮き、呼吸も苦しそうな喘ぎに変わった。端塚はそのまま呼吸が整うのを待ち、沙綾香の両脇に手をつくと、腰を上下させはじめる。
「いや、いやっ動かないで……ああっ、ああああぁっ! しっ、子宮が、子宮があっ!!」
「2日目ではまだ固いな。だが、慣れ初めこそが肝要だ。この味を脳髄で覚え込め。といっても、子宮で直に咥え込んでいるんだ。忘れたくとも忘れられんだろうがな」
 端塚は、狂ったように首を振る沙綾香に語りかけながら、力強く腰を上下させる。突起に覆われた肉の幹が、抜け出ては沈み込む。屈曲位で元々力が入っているから、沙綾香の太腿の変化は見て取れない。だが足の指は、相当に強い感覚を訴えていた。
「あっ、あーーっ、あーーーッ!! だめっだめイクッ、イクーーーーッ!!!!」
 沙綾香の声が完全に変わる。圧し潰されるようだった呻きが、喉を開いた絶叫になり、ついには絶頂の宣言になる。もう、声のボリュームに気を配る余裕さえないらしい。
「そうだ、声を出せ。この場にいる全員に聴かせてやれ。『神』のペニスに犯される快感を!」
 端塚は笑みを浮かべ、休まず腰を打ちつける。沙綾香の声がボリュームを増していく。出入りする真珠棒の隙間から、潮が噴き散る。
 そして、沙綾香の震える手は、縋りつくように端塚の腕を握った。


                ※


「…………あの。まだ意識、戻りませんか…………?」

 遠くで声がする。また、夢か?
 夢は見たくない。この倶楽部で見る夢は、悪夢ばかりだ。俺の前で、女が自我を失くしていく夢。過去の罪が、俺を追ってくるようだ。
 そもそも、俺はどういう人間なんだろう。過去の俺は、この倶楽部の王だと、端塚が言っていた。
 なら、今この瞬間の俺は?
 ……ヒントがない。何も解らない。俺には、拠り所が何もない。
 だから、こんな無力なのか。鉄格子の檻に閉じ込められ、愛した人間が他人に毒されていく姿を見守るしかないのは、そのせいか。
 こんな事なら、端塚の言う通りにしていた方がマシだったのかもしれない。あのガラス張りの部屋で、欲望のままに沙綾香の肉を貪っていれば、今も沙綾香と一緒にいられたことだろう。こんな思いなど、せずに済んだことだろう。俺が、ケダモノでさえあれば。

『ヒトとしての心は、無くすなよ。絶対にな』

 どこかで、そんな言葉を聞いた気がする。
 ああ、そうだ。桜織の調教を見に行く前、部屋にかかってきた電話だ。
 あいつは、端塚が俺に求める選択の事を知っていた。この倶楽部の裏側と、俺の境遇を知っていたということだ。今考えればあいつが、百合の言っていた仲間だったのか。

『……おっと、そろそろ限界だな。これ以上は“そっち”の連中に勘付かれるからやめとこう。だが、最後に一つだけ。アンタは獣じゃねぇ、ヒトだ。そう思ったからこそ、俺はアンタと手を組んだ』

 あいつは電話を切る前にそう言った。つまり、俺もあいつの仲間ということか。
 だとしたら、申し訳ない。もう俺には、何の自由もない。もう一週間以上も機を伺っているが、牢番の態勢に隙はなく、自由になれる目途が立たない。
 早く。
 早く助けに来てくれ。
 俺は……いや、俺なんかどうでもいい。沙綾香が、もう限界なんだ。もう手遅れかもしれないんだ。

「っ! 瞼が動いたぞ。おいっ、生きてるのか!?」
 
 また、耳元で声がする。今度も遠い、意識の向こうからの声だが、鼓膜がビリビリと震えている。おそろしく響きのいい声。剣道の気合……ああ、この声は藤花か。
「う、ん…………」
 目を開けば、薄暗い牢の天井と、4人の女の顔が見えた。全員が紛うことなき美少女だが、不安そうな表情で俺を見下ろしている。
「よかったぁ、死んじゃったかと思いましたよぉ!」
 千代里がそう言って、ぽろぽろと涙を零す。俺を心配して泣いてくれるとは、底なしにいい子だ。もちろん、他の3人も。
 だんだんと、状況が理解できてきた。最後に食事を運んできた牢番は、イタリア顔の縮れ毛。完全に男色寄りのあいつに、徹底的に可愛がられたんだ。自暴自棄になっていた俺は、さぞや奴のサディズムをくすぐったことだろう。この一週間、まともに眠ってもいなかったから、疲労のピークで意識を失ったというところか。
「あっ、無理に動かない方がいいですよ。結構殴られてましたし、ほとんど丸一日昏睡状態だったんですから」
 身を起そうとすると、祐希が心配そうにする。その隣で、桜織もゆっくりと頷いた。
「沙綾香は……?」
 何はともあれ、一番に気がかりなのはそれだ。
「見ない方がいいんじゃないか。特に、お前は…………」
 押し黙っていた藤花が、含みのある物言いをする。そんなことを言われると、余計に気になってしまう。俺は軋む全身に喝を入れ、鉄格子に這いよった。

 祭壇前のベッドに、端塚と沙綾香の姿が見える。顔を伏せ、尻を高く掲げた沙綾香を、端塚が背後から犯しているようだ。今さら普通のプレイに戻るとも思えないから、まずウテルスセックスと考えるべきだろう。
 事実、沙綾香の全身は汗で濡れ光っていた。そして目を引くのは、赤い首輪だ。そのリードは沙綾香の背筋を斜めに横切り、腰を掴む端塚の手に巻き付いている。
「ッ!!」
 頭に血が上り、一瞬クラッとする。それを予想していたのか、藤花が肩で俺の背を支えた。
「……酷いよね、あんな犬みたいな扱い。最初はサーヤを奥さんにみたいなこと言ってたのに、あの端塚ってひと、なに考えてるんだろ」
 千代里が鼻を啜りながら呟く。
 言動が矛盾しているのなら、まだいい。だが、多分そうじゃない。倶楽部の女の扱いを見ていればわかる。あれこそ、端塚の理想とする嫁の姿なんだろう。犬のように服従し、意のままに利用できる女が。

 端塚は、淡々と腰を遣っていた。“影武者”を思わせるような、同じペースでの責めだ。汗の量やシーツの変色ぶりを見る限り、かなりの時間行為が続いているようだから、小休止というところかもしれないが。
 沙綾香は這う格好のまま、額をずっとシーツにつけていた。喘ぎは聴こえず、意識があるのかも怪しい。端塚が腰を打ちつけるたびに、スレンダーな身体が前に動き、豊かな乳房が前後する。
 と、その乳房の先で、何かが光った。よく見れば、先端に小さなリングのようなものがついている。
「ニップルリングっていうそうです。あれを着けるために、乳首と、クリトリスにまで穴が開けられたんですよ」
 俺の視線に気づき、祐希が口を開いた。俺は、思わず絶句する。臓腑が一気に煮立つようだった。沙綾香の、神が気まぐれで作った芸術品のようなあの身体に、不可逆の傷をつけたというのか。
 鉄格子の前で、牢番がクックッと笑う。
「感謝するがいい、雄ブタ。我々がお前を気絶させたおかげで、あの光景を見ずに済んだのだからな」
 牢番はそう言って、帽子の鍔を押し上げた。
「あの、光景?」
「ほう、聞きたいか。ならば教えてやろう。あれは見物だったぞ。太い針で乳首を横に突き通されてな、かなり血が出た。それでもあの娘は、唇を噛んで耐えていたんだがな。そのせいで、陰核にまで穴を開けられる羽目になった。さすがに陰核を刺し貫かれると、我慢ができなかったようでな。泣きわめきながら小便を撒き散らし、『先生』『先生』とやかましく喚いていたものだ。あれは一体、どういう意味か……」
「もうやめろ、この外道がッ!」
 滔滔と話す牢番の言葉を、藤花が遮った。
「随分な言葉だな、雌ブタ。後で覚えておけ。次の配食の時に、たっぷりと可愛がってやる」
「っ……!! じょ、上等だ、やってみろ!」
 俺を想っての行動で、藤花に悪い流れが起きている。申し訳なさはあるが、正直、そこに気を向ける余裕がない。
 沙綾香に降りかかった悲劇は、聞くに堪えない。だがそれより、そんな沙綾香から呼ばれていたというのに、呑気に眠りこけていた自分に愕然とする。手枷さえなければ、自分の首を絞めているかもしれない。

 限界だ。
 助けが来るなら、すぐに来てくれ。

 俺は心の中でそう叫んだが、願いは叶わない。薄暗い部屋で、薄暗い現実が続いていくだけだ。


                ※


「うおっ、お…………ひ、ひっ」
 呆然とする俺の耳に、沙綾香から小さな呻きが届いた。ベッドを見ると、沙綾香の手がシーツを掴んでいる。それを見て、端塚はリードを引き絞った。ぐえっという声と共に、沙綾香の上半身が持ち上がる。
「休憩は終わりだ」
 端塚はそう告げ、腰の振りを早めた。ペニスを半ばほどまで引き抜いては、根元まで突き込むピストン。結合部のぐちゃぐちゃという水音が大きくなる。
「ぎぃいっ!! ィひいいぃっ!!!」
 俯いたまま、歯を食いしばる沙綾香。端塚はそんな沙綾香を犯しながら、ニップルリングに指をかけ、下に押し下げる。
「ぎひゃアッ!? あ、あが……っくイクッ、イクうう゛う゛ッ!!」
 沙綾香は絶叫しはじめた。下腹部に意識を集中して、なんとか耐えていたものが、乳房への刺激で途切れたんだろう。
 そこからは、さっきまでの静けさが嘘のような狂乱続きだ。頭を左右に振り、舌を突き出し、何度も絶頂を訴える。そして、その反応がようやく止まったかと思えば、俯いた顔の下からびちゃびちゃと音がする。透明な嘔吐だ。
「ごはっ、あ゛っ、けァっ!! も、もぉイきたくない……もぉ、イげないっ……!!」
 沙綾香は、完全に泣いていた。それでも、端塚はピストンを緩めない。苦悶する沙綾香の下腹にわざわざ手を宛がいながら、力強く腰を振り続ける。
「気絶することは許さん」
 沙綾香の反応が薄くなると、端塚はクリトリスの辺りに指を添え、下に引く。
「いがああぁあアアッ!!!」
 沙綾香の悲鳴が響きわたり、俺の鼓膜をわんわんと震わせる。それでも、声が聴こえているだけマシに思えた。その声が途切れる時は、沙綾香が限界を超えた時。その方がずっと恐ろしい。

 この日、沙綾香は夜を徹して犯された。壮絶な場面はいくつもあったが、忘れられないのは、左脚を抱え上げてのセックスだ。
 偶然か、あるいは意図的にか。沙綾香の身体はこっちを向いていた。距離も近いから、乳首とクリトリスに電極が取り付けられているのは勿論、二人の体を流れる汗の筋や、抜き差しのたびに溢れる愛液まで見えた。ただし沙綾香の顔だけは、垂れ下がった黒髪に隠れて伺えない。
 この部屋の中で、何十回と行われてきたセックス。近くで見ると、その壮絶さが改めて解る。
 なんといっても目を引くのは、端塚のペニスだ。
 テニスボール級の大きさで、血のように赤く充血した亀頭。
 キノコのように傘を広げる、3連の雁首。
 真珠状の突起で覆われた、瓢箪型の幹。
 一目見ただけで網膜に焼き付き、トラウマになるほどの異形。それが、沙綾香の割れ目に入り込んでいく。
 赤い亀頭が、同じく真っ赤に腫れあがった陰唇の内に隠れると、沙綾香の下腹がボコボコと膨れ上がっていく。あの大きい亀頭が、今そこに在るという証明だ。
 膨らみが奥へ奥へと進むたびに、太腿が強張っていく。膨らみの進みが一瞬止まり、ずるっ、という感じで端塚の腰が進めば、内腿の表情が一気に悲痛さを増す。まさにこの瞬間、沙綾香の子を産むための器官が侵されてるんだ。
 この距離で聞くと、行為中の音も普通のセックスとはまるで違った。巨大な亀頭が押し込まれてから間もなくは、空気が入ったせいか、抜き差しの度にぶりっ、ぶりっ、と放屁そのものの音が漏れる。空気が追い出された後も、ごぼぷっ、ごぼぷっ、と鍋が煮立ったような独特の音がする。過去のどんなセックス映像でも、耳にしたことのない音だ。これがウテルスセックスの音、ということか。
「さやか……」
 物悲しげな声がした。鉄格子の端にもたれかかっている、桜織だ。その目からは涙が伝っている。沙綾香を想って泣いてるんだ。
「おい」
 端塚が、唐突に沙綾香に呼びかけた。沙綾香からの答えはない。左脚を抱え上げられ、拷問椅子の背にしがみついたまま、微動だにしない。
 端塚は溜息をつき、洗脳班の連中に視線を投げた。直後、バチバチという音と共に、乳首とクリトリスの電極が青白く光る。
「あぎゃあああっ!! ぎゅはっ、はほぉっ、はおっ、ぉおおほっ!!」
 子宮まで犯された状態だからか、沙綾香の悲鳴は不明瞭だ。覚醒したばかりの沙綾香は、青い顔で周囲を見渡し……俺達から丸見えの現実を知って、顔を強張らせる。
「そんな顔をするな。知人に見られながらの情交というのも、気分が出ていいだろう」
 端塚はこっちに目を向けながら、腰を激しく打ちつける。案の定、俺達に見せつけるのが目的だったらしい。

 その後も失神と強制覚醒が繰り返され、見ている側すら疲れ果てる頃、ようやく逸物が引き抜かれた。
 床に崩れ落ちた沙綾香の前に、張りを保った逸物が突き出される。赤い亀頭部分には、白い滓のようなものがこびりついていた。そのおぞましい代物を、沙綾香は黙って咥え込む。端塚がふっと笑みを浮かべた。
 沙綾香の奉仕は丹念だ。端塚から教え込まれた通りに、唇と舌を巧みに使い、竿、裏筋、亀頭と順に清めていく。拘束されていない手も、背中で握り合わせ、自ら封じている。
「そうだ。よく舐め溶かして、味わうといい。亀頭にこびりついている滓は、私の精液の残滓と、お前の胎内の垢が混じり合ったもの。いわば、私とお前の結晶だ」
 端塚の身の毛もよだつ物言いは、沙綾香の従順さを試しているのか、あるいは素で狂っているせいか。いずれにせよ沙綾香は、黙って舌を使い続ける。
「よし、清めはそのぐらいでいい。今度は、喉奥の輪で喜ばせなさい」
 そう命令が飛べば、沙綾香は唾液まみれの逸物を深く咥え込んだ。顔面を端塚の腰に叩きつけるような勢いで、奥の奥まで咥え込む。
「んぐっ、ううお゛エ゛……ほぉおえ゛っ! もごっ、むおおおお゛え゛っ!!」
 喉が歪に膨らむほどのサイズだ。当然ながら反射でえずき上げるが、ものともしない。唇から泡立った唾液をボタボタと零し、涙を伝わせながらも、喉の奥まで迎え入れる。
「いい具合だ、喉奥で締め付けるのも上手くなってきたじゃないか。よく味わいなさい。お前は今からまた、これに犯されるんだ」
 端塚は満足げに笑い、沙綾香の頭に手を添え、ぐっぐっと引きつけた。沙綾香の顔が、完全に端塚の腰に密着する。その言葉も、行為も、沙綾香にとっては望まぬものに違いない。
 なのに、俺の見間違いだろうか。膝立ちになった沙綾香の股から、どろりと愛液が伝い落ちたのは。

「んあああ゛ォおおおッ!! イってる、イってる゛う゛っ!!」
 フェラチオ後のセックスで、沙綾香は何度も絶頂を宣言していた。拷問椅子の座部にマングリ返しの恰好で押し込められたまま、子宮を蹂躙される……そんな最低な状況にもかかわらず。
「どこで逝っているんだ?」
「し、子宮っ、子宮でイってる゛っ!!!」
 端塚の言葉にそのまま答えてしまうのは、いよいよ余裕がない証拠だ。目を見開いた顔も、まさしく余裕のなさを表している。

 それでも沙綾香は、地獄の夜を耐え抜いた。ボロ雑巾のようになって床にへたり込んでいても、その瞳にはかろうじて意思を残していた。
 沙綾香はつくづく強かだ。黒人共を篭絡して手越達を欺いたように、端塚に従順な振りをして、少しでも自我を長く保とうとしている。この調子で耐えしのげば、百合の言う助けが来るまでもつかもしれない。
「……そろそろ朝だな。ひと眠りするか」
 端塚のその言葉で、場の空気は完全に弛緩する。ひとまずは俺も眠りにつくとしよう。そう思って目を閉じかけた時だった。
「オーナー」
 洗脳班の1人が端塚に近づき、何かを耳打ちする。端塚はその報告に黙って耳を傾けていたが、やがて口の端を緩め、沙綾香に視線を向ける。
 なんだろう。嫌な予感がする。とてつもなく。
「百合が、全てを吐いたそうだ」
 端塚が、笑みを浮かべたまま告げる。声量からして、沙綾香だけでなく、俺も意識した言葉だろう。
「え?」
 沙綾香が顔を上げる。想定外だったのか、目を丸くして。
「繋がりのある組織、倶楽部に潜入している仲間の素性、数……全てを白状した。すでに上階のセキュリティが確保に動いている。潜り込んだドブネズミを殲滅するのも、時間の問題とのことだ」
 端塚の視線が俺に向く。残念だったな、と眼が語っている。
「…………うそ…………。」
 沙綾香が、口を押さえ……その手が、ぽとりと膝に落ちる。
「おや、心が折れてしまったか? もう少し後で明かすべきだったかもしれんな。その方が、無駄な足掻きを楽しめただろうに」
 端塚が肩を揺らして笑っていた。いっそ俺も笑いたいぐらいだ。
 もう、耐える意味なんてないんだから。


                ※


「はあんっ、んあっ……ああああっ!! は、ああっ……あ、ひあああっ!!」
 沙綾香の嬌声が響き渡る。
 ベッドの上で、腕を後ろに引き絞っての後背位。今も子宮を犯されているはずだが、喘ぎ声が明瞭なのは、痛みをすべて快楽に変えるという例の薬の効果だろう。
 セックスの直前、沙綾香はそれを乳房と陰唇に注射された。一気に2本。ヘロイン以上と宣っていた薬2本は、なるほど大した効き目だ。沙綾香の気高く純真な精神を、グチャグチャに掻き混ぜてしまった。
「随分とこのペニスが気に入っているようだな、八金 沙綾香」
 激しく腰を打ちつけながら、端塚が問う。
「ひ、気にひってらんか……! こんあの、嫌にきまって……ん、ン゛っっ!!」
 沙綾香は否定しながら、全身を激しく痙攣させた。重力を無視するような力み具合は、深く絶頂した証拠だ。
「意地を張るのはよせ。自分の身体のことは、お前自身がよく理解しているはずだ。女の部分が、ペニスに隙間なく吸いついているのが解るだろう? 子宮も、私の亀頭が拡張した形のままだ。新雪につけた足跡のようにな」
 端塚は諭すように告げ、腰を前へと突き出した。
「あ゛、あ゛っ!!」
 また子宮に嵌め込まれたのか、沙綾香は背中に筋を浮かせながら絶頂する。
「みろ。亀頭をあっさりと呑み込み、一度咥え込めば離そうともしない。これが気に入っているのでなくてなんだ?」
 端塚の言葉で、沙綾香の瞳が惑う。彼女自身も内心で認めてしまったようだ。
「お前の肉体は、私を求めているということだ。自分に幸せを齎す『神』が誰なのかを、すでに理解している」
「ひ、ひがうっ! ぁにがかみよっ! 沙綾香を幸せな気持ちにひてくれうのは、センセらけなろっ! あんたらんか、あんた、らんか……っ!」
 沙綾香は自由にならない口で、必死に端塚の言葉を否定する。その想いが、嬉しいと共に、切ない。
「ここに来て、まだつまらん意地を張るか。もはや無意味と理解できないほど、察しが悪いわけでもなかろうに」
 端塚は首を振り、ピストンを再開した。ギシギシとベッドが軋み、沙綾香の身体が前後に揺れる。
「……んあ、ああっ! はっ、あ……ああんっ、あああっ!!」
 沙綾香は、やはり声を殺しきれない。どこまでも甘い声と、熱に浮かされたような蕩け顔。生半可な快感ではなさそうだ。抜き差しの度に絶頂しているのかもしれない。
「子宮の方は素直なものだ、咀嚼するような感触が堪えられん。褒美だ、待望の子種をくれてやる。子宮で受け止めながら絶頂してみろ!」
 端塚は腰を引きつけつつスパートをかけ、密着状態で動きを止めた。
「あはっあ、ァ゛…………あ゛ーーーっ!!!」
 沙綾香は震えながら、おそらくは絶頂していた。口角は上がっていないのに、濡れた瞳からは多幸感がありありと見て取れる。薬のせいだ。すり替えたり、中和してくれる百合ももういない。人間を狂わせるために研究された薬が、正常に作用した結果があれなんだ。
「いい反応だ。これからその快楽を、たっぷりと刻み込んでやる。何度も善がり狂い、快楽の波に溺れていれば、淡い恋など容易く洗い流されることだろう」
 端塚が、濡れた逸物を引き抜いて宣告する。一方の沙綾香は、絶頂の余韻に震えながら、不安そうに唇を噛み締める。
「バイザーを」
 端塚が命じると、白衣の男が沙綾香に近づいた。手にはヘルメット状の装置を抱えている。百合の拷問映像で目にしたものだ。

『頭に被らせているのは、脳波測定器を兼ねたバイザーだ。激しい光の明滅と爆音で、常に視覚と聴覚を麻痺させている。そこに薬の効果も加われば、脳がシェイクされ、思考力は完全に失われる。つまり、こちらの問いに機械的に答えるようになるわけだ』

 端塚はあの機械をそう説明した。沙綾香も勿論それを聞いている。
「あ、あえ……!? ゃ、やだっ!」
 危険を察したのか、沙綾香はまろび逃げようとした。だが、薬を二本も打たれ、何度も絶頂させられた直後では、身体に力が入らないんだろう。あっという間に組み伏せられ、バイザーを被せられてしまう。それを受けて、白衣の女が操作盤に手を触れた。
「あっ!? や、眩しいっ、やああああっ!!」
 沙綾香の頭が揺れる。眩しいという言葉、そして耳を押さえようとする動き。激しい光の明滅と爆音に見舞われていると考えて間違いない。よく聞けば、かすかに耳障りな音楽が漏れてもいた。
「端塚、よせっ!!」
 咄嗟に叫びはするが、今さら聞き入れられる筈もないのは解っている。端塚はこっちに一瞥を寄越した。
「お静かに、『先生』。いよいよ最終段階です。結局、独力でこの女をものにすることは出来ませんでしたが、堕とすこと自体は造作もない。これまでに52人の女で実験し、全員が2日ともたず傀儡に成り果てました」
 端塚はそこで言葉を切り、無線で何かを呼びかける。するとそれを待っていたかのように、祭壇横の扉から“影武者”が姿を現した。自分と全く同じ体型、同じ生殖器を持つその4人に、端塚は一言指示を出す。

 壊せ、と。


                ※



 これまで何度も、地獄のような光景を見てきた。
 ボーイッシュな祐希が、自我を崩壊させられたり。
 天使のような千代里が、喉奥凌辱で嘔吐させられたり。
 大和男児然とした藤花が、鋼の心を折られたり。
 委員長と慕われる桜織が、その責任感ゆえに狂わされたり。
 沙綾香の十番勝負も衝撃的だった。
 『審査会』は、目を覆う酷さだった。
 端塚とロドニーによる開発も、調教師というものの恐ろしさを思い知らされた。
 だが────その全ての記憶が、『今』に上書きされていく。

 
「あはあぁっ、ああっ!! うううあああぁあーーーーーッッ!!!」
 凄まじい叫び声が響き渡る。聞くたびに鼓膜がバリバリと鳴った。日常生活ではまず耳にしない類の声──まるで断末魔だ。
 ボリュームがおかしい理由の一つは、頭に被せられたバイザーに違いない。常に激しい明滅と爆音に晒されるというから、声の加減ができないんだ。
 もう一つの理由は、単純に刺激が大きすぎるんだろう。
 完全に気を狂わせるつもりなのか、沙綾香には少なくとも3種類の薬が使われていた。
 挿入の直前、逸物に塗り込められる、どろりとしたゼリー状の薬。
 水分補給をさせる際、一緒に口へ放り込まれる白い錠剤。
 そして、都度打ち込まれる注射……。
 端塚の代役である4人の“影武者”は、一対一で沙綾香を抱いた。そんな中、別の仲間が注射器を手渡し、犯し役は腰を打ちつけながら注射する。その繰り返しだ。
 注射器はペンの形をしたボタン式のものだから、行為の最中であっても、底のボタンを押し込むだけで注射ができる。とはいえ、注射直後の沙綾香の暴れようは相当なものだ。ひどい量の唾液を垂れ流し、首をはじめとする全身を力ませながら、手足をバタつかせる。それを影武者達は、男3人がかりで押さえ込んだ。首を押さえ、肘を押さえ、手首を掴み上げて。さっきの凄まじい叫び声が響き渡るのは、まさにこのタイミングだ。
 ただそれも、長くは続かない。2、3分もすれば、沙綾香の反応がまた変わる。次に来るのは、病的な性感反応。
「ヒィッ、ヒィッ、ヒィッ!!」
 引き攣るような声と共に、下から蹴り上げられているのかと思えるほど、全身が不規則に跳ねる。寒気を感じているかのように震えもする。肉体そのもの極上のスタイルなのに、そこに性的さはなく、ただひたすらに恐ろしい。
 そんな沙綾香の様子とは対照的に、“影武者”は淡々としたものだった。感情を抑制でもされているのか、淫魔のような沙綾香を相手にしても、欲情する様子はない。死んだ眼と能面のような無表情で、機械的に沙綾香を犯すだけだ。
 今の沙綾香にとっては、最悪の相手と言える。行動にブレのない竿役は、いわば固定された容器のようなもの。そして今の沙綾香は、激しく揺さぶられる豆腐のようなもの。動かない壁に何度も叩きつけられる豆腐が、無事でいられるはずもない。

 また、注射が打ち込まれた。今度は右乳房の下だ。
「ひゃあっ! あ……あっ、んはああっ……! あがっ、あがあぁあーーーっ!!」
 耳をつんざく悲鳴が響き、沙綾香の身体がガクガクと揺れる。左右に膝をつく“影武者”が手首を押さえつけ、頭上の1人が乳房を揉みしだく。
「はああっ!! やえてっ、揉まないでえええっっ!!!」
 沙綾香は悲鳴を上げた。覚醒剤を打たれると、全身がクリトリス並みに敏感になり、息を吹きつけるだけで絶頂してしまうらしい。考えたくもないが、今の沙綾香もそういう状態なんだろうか。
 そうして昂る沙綾香の両膝を、犯し役が押し開いた。その状態で腰を打ちつければ、沙綾香の腹筋がブルブルッ、ブルブルッ、と何度も震え上がる。深い中逝きの前兆だ。
「ぉ、ぉほっ!! ひぐ、ひ゛ぐう゛ゥウ゛っ!! らめっ、イ゛ってるとちゅうに、また……お゛、お゛っ! い、いぎ、が……はあッ、はッ、はッ、はッ……あああ゛あ゛あ゛お゛っ!!」
 喉から迸る声は、やはり断末魔さながらだ。そこには危機感しか感じられない。
 にもかかわらず、沙綾香の口角は上がっていた。完全な笑顔だ。自分でもそれに気づいたのか、首を振って唇を噛み締めるが、すぐにまた頬が緩む。その様は、脳の信号と口周りの筋肉が乖離しているようにしか見えない。
 異様なのは、下半身にしてもそうだ。歪な怒張が出入りする割れ目からは、ぶびゅぶびゅと愛液が噴き出しつづけている。真っ当なセックスでは、まずありえないほどに。あれが、脳を破壊するというドラッグの効果か。

「イグゥイグイぐうううっ!!! お゛っ、ほぉ゛っ、ハッハッハッハッハッ……いいイッぐうう゛うううう゛っっ!!!」
 沙綾香は脚をMの字に開かされたまま、腰を浮かせ、うねらせて悶え狂う。そんな中、1人目の男は逸物を引き抜いた。射精したわけではなさそうだ。粘液に塗れた逸物はまだ十分な張りを保っていて、長丁場を予感させる。
 入れ替わりで2人目が、斜めに反った逸物にゼリー状の薬を塗りたくり、沙綾香の膝を掴んで挿入する。奥まで押し込んでから、さらに腰を入れ、しっかりと“その先”にまで捩り込む。その上で奴は、掴んだ膝を閉じにかかった。膣を狭め、逸物の凹凸を最大限に感じさせるつもりらしい。
「や、やあ゛っ!!」
 沙綾香は必死に膝を開こうとしているらしいが、力では敵わない。結局は相手の狙い通り、両脚揃えで犯される羽目になる。
「ふぁあ゛あ゛っ! こ、擦れっ……らめっ、いぎゅうううっ!! ん、ぐくくっ……あああ゛あ゛あ゛あ゛っ!!」
 摩擦が増したことで、沙綾香は鼻を啜りながら絶叫する。2人目はさらに沙綾香の足裏を掴んで、左右の足を出鱈目な方向に開かせた。膣の摩擦の強さはそのままに、より複雑な刺激を与えるつもりか。
「あああああ゛あ゛っ!! やべでっ、壊れる待っで……いあ゛アァァア゛っ!! おっ、おほっ、ほおおおっ、おお゛ッ……おお゛ッ…………!!」
 とっくに失神していてもおかしくない反応だが、その様子はない。バイザー内部の光と爆音のせいで、気絶したくてもできないのかもしれない。

 2人目が逸物を引き抜けば、すかさず3人目がゼリーを塗りたくって挿入する。今度は、沙綾香の膝を乳房に密着させての屈曲位だ。大きく広げさせた両腿を真上から押さえつけ、勢いをつけてペニスを突き挿す。ペニスが9割方入り込んでもプレスを掛けつづけ、限界まで腰を沈めていく。亀頭部を深々と子宮口に嵌め込んでるんだろう。
 男の腰が上下しはじめ、パンパンという音がやけに明瞭に響く。
「うう゛う゛う゛う゛ん……! あう゛う゛あっ、んふう゛ん……う゛あううう゛あああ゛ア゛っ!!」
 圧し潰されるような体位のせいか、あるいは子宮に深く嵌め込まれたせいか。沙綾香の呻きはそれまでより格段に苦しそうだ。男がベッドに両手をつき、前傾しながらさらに深く突きこめば、沙綾香の呻きは完全に泣き声に変わった。
「あああああ゛っ!! イぐッ、いぐいぐっ、いっでる゛っ、いっでるう゛ッ!! やめでっ、もうむ゛り゛っ!! こわい゛っ、こわいい゛ッッ!!奥いや、もお゛奥でイぎたくない゛……ふぁぁああイグっっ!!」
 絶頂と恐怖だけが、延々と訴えられる。真上からの杭打ちを受ける割れ目から、泡立って白濁した愛液が伝い落ち、開閉を繰り返す肛門を覆い隠す。狂気に満ちた有様だ。
 時が経てば経つほど、沙綾香は壊されていく。それは脚の動きにも表れていた。密着状態で激しく突かれる中、恋人がするように、相手の腰へ脚を絡めようとする。だが、まさに足首が重なろうとする瞬間、いきなり右足が左足を蹴り飛ばす。しかもそれが何度も続いた。彼女の頭は、もうぐちゃぐちゃなんだろう。
 そんな中、3人目の男が奥まで挿入した密着状態で腰を止めた。奴は苦しそうな沙綾香の顔を確認し、右側の男に視線を送る。その合図を受けた男は、シーツに並ぶ注射器の一つを拾い上げ、沙綾香の肩に打ち込んだ。
 何も起きなかったのは、たったの2秒。
「んああああああっ!!」
 2秒後、沙綾香の全身がぶるぶるっと痙攣する。その痙攣は次第に大きくなり、跳ねを伴いはじめる。しかも、それがいつになく酷い。ビクンビクン、ビクンビクンと胸が激しく跳ね、真上から圧し掛かっている大の男を何度も浮かせる。
「来たな」
 離れて様子を見ていた端塚が、一言そう呟いた。その、直後。
「あはっ!!あはあっ、あはははっ!! アハッ あはは、あははははハハハハッッ!!!」
 沙綾香はゲラゲラと笑いはじめた。それが、祐希や千代里たちに囲まれた状況での笑いなら、俺も微笑ましく見ていられる。だが今の状況での大笑いは、どう考えても普通じゃない。
 それに、顔だ。
 ベッドへ深々と後頭部を埋めた拍子に、“影武者”の陰から口が覗いた。笑いの形に開いたその口からは、舌が完全に飛び出していた。これまでにも、激しく突かれた拍子に舌を出すことはあったが、それとは決定的に違う。あれは……あの顔は、何かの制御が完全に利かなくなった結果に違いない。
「『オーバードーズ』だ。この小娘の小賢しい理性も、ようやく焼き切れる。おい、脚を開かせろ」
 端塚が悪魔のような笑みを浮かべながら、“影武者”に指示を飛ばす。それを受けて、沙綾香の左右にいる男が足裏を掴み、大きく外へ開かせはじめた。
「ひゃあああああ゛あ゛っ!!? らめ゛ッ、らぇええええ゛ッ!!!」
 沙綾香の嫌がり方は尋常じゃない。溺れる人間が藻掻くように、足指が限界まで強張り、足裏が男の手から逃れようと暴れ回る。俺にはそれが、沙綾香に残された最後の自我に思えてならなかった。
「やめろおおおおっ!!やめてくれええええっっ!!!!」
 鉄格子を掴んで、声を張り上げる。目の前の事態を、見過ごしてはならないという確信があった。そしてそれは、直後に間違いではなかったと証明される。
 かろうじて拘束から逃れた足首は、縋りつくように正面の男の腰に巻き付いた。絶頂の浮遊感に苛まれる人間が、何かに縋りつくことは不自然じゃない。だが、あれは単にしがみついているだけじゃない。
「あああああっ……あアアッ! 奥っ、奥いいっ!!!」
 沙綾香は呻き声を漏らしながら、両足首をさらに絡める。相手の腰を引きつけ、より深い挿入をねだるかのように。あんな事、俺相手のセックスでもしなかった。ましてや、子宮まで犯されている状態で……。
「はっは、あさましい催促だ。仕方ない、『神のペニス』を思うさま堪能させてやりなさい」
 端塚が上機嫌に笑う中、“影武者”が姿勢を体勢を変えはじめた。腰を挟まれたまま、膝を少しずつ下げ、ついには両脚を伸ばして、腰だけで沙綾香に圧し掛かる体勢になる。
「あはああああっ!! ひゅっ、ひゅごいっ、深いいっ!! いぐっ、イッぐうううう゛っ!!!」
 沙綾香が壮絶な笑みを浮かべる中、奴は腕立ての要領で腰を上下させはじめた。バンッ、バンッ、とくぐもった音が聴こえる。ピストンはスムーズだが、腰は下がりきるたびにメリメリと押し込む動きをしていて、毎回しっかりと子宮口に嵌め込んでいるのが判る。それどころか、沙綾香の尻が変形すらしているんだから、亀頭は子宮奥の壁をさらに押し下げていることだろう。
「んがああああっ! いぐ、いぐうう゛っっ!! かたいのでっ、奥、のびてっ……ァあお゛お゛お゛っ!! いっ、イぐのっ、とまんな……ぎひいぃッ!!! はっ、はっ、はっ、はっ……ああおおおおっ! ま、またっ……お゛ッお゛、んおおおお゛お゛お゛ッッ!!!」
 それはもう、喘ぎでも、嬌声でもない。沙綾香『だった』肉体から発される、ケダモノの咆哮だ。
「やめろっ、やめろおおおおおおっ!! ちくしょう、殺してやる!!ぶっ殺してやる!!この野郎ッ、この野郎ォッ!!」
 鉄格子に額と木枷を打ち付け、声の限りに叫ぶ。喉がヒリつき、首が攣りそうになるが、叫ばずにはいられない。目の前で、沙綾香が沙綾香でなくなっていくんだから。
「よせ、『先生』!」
 顎まで血を流す俺を、後ろから誰かが掴む。この万力のような力、藤花か。
「…………もう、見ない方が…………!」
 俺の様子があまりに異常なのか。振り返った先の藤花は、今まで見せたこともない表情で首を振った。その様子を見ていると、少し頭が冷えてくる。代わりに襲ってくるのは、とてつもない倦怠感だ。

 3人目がようやく逸物を引き抜いた頃、沙綾香は完全に脱力していた。無造作に投げ出された脚は痙攣するばかりで、閉じる気力もないようだった。
「まだ休ませるな。次は『つり橋』の『全抜き』だ」
 端塚の命令で、4人目が痙攣する沙綾香の腰を掴み上げて挿入する。
「んおおおお゛お゛っ!!」
 今度はストレートに子宮を貫かれたのか、いきなり『お』の呻きが上がった。
 腰を掴み上げられているせいで、沙綾香はブリッジの恰好を強いられる。不安定なその姿勢は、ますます沙綾香から余裕を奪う。
 しかも、4人目はピストンのストロークを最大に取った。亀頭が完全に穴から抜けるまで腰を引き、一気に突きこむ。さっきまでの縦方向の刺激とは違う、横方向の蹂躙。沙綾香の背中が反り、足指が寝台に深くめり込み、手がシーツを掴む。赤い亀頭が抜き去られるたび、追いすがるように飛沫が飛び散る。
「ぐっ、ぐっ……んぐううう゛っ!! はげっ、激しすぎるっ、死ぬううう゛っ!!! しっ、子宮でイってる……おヘソまで、入ってる゛っ!! ああああイっぐ、ぃイっぐ、ぅあああっ!! いヒッ、いひぎぃいい゛い゛っ!!」
 沙綾香は、歯を食いしばりながら笑みを浮かべていた。その狂乱ぶりは、桜織の映像を思い出させる。口元の表情も、異様な声色も、臍まで入ったと錯覚しているのも同じだ。
「もうやめてくれっ! 俺が説得する! お前らの言う事に従うように、俺から話す! だから……だから、頼む……沙綾香を、壊さないでくれ…………!」
 もはや俺にできることは、鉄格子に縋りついての哀願しかない。そしてそれすら、聞き入れられることはない。

 視界が滲む。首を振り、目を瞬かせて涙を切っても、古いビデオ映像のようにノイズが入って見える。ショックで脳がおかしくなったのか。
 見づらい視界の中で、沙綾香は何度も海老反りになって絶頂していた。
「あがっ、あがああっ!! はっ、はっ、はっ……し、子宮がっ、子宮がああっ!! もお、ほんろにこわれ……ああ゛あ゛イグッ、またイグーーーッ!!」
 沙綾香の声は、恐怖と喜びが入り混じっていた。ただ、顔は完全な笑顔だ。
 “影武者”は、そんな沙綾香に駄目押しでボタン注射を打ち込んでいく。太腿に一発、尻に一発。許容量を遥かに超えた接種で、沙綾香はますます、完膚なきまでに破壊されていく。
「あ……あ゛あああああ゛っ!!! しゅごい、しゅごいひいい゛い゛っ!!」
 沙綾香は、また大きく背中を仰け反らせた。暴れる頭がベッドの縁から外れ、下へ垂れる。その瞬間、半ばずれていたバイザーがついに抜け落ちた。微かに漏れていた騒音が、一気にボリュームを増して鳴り響く。
 あの騒音と光から解放されたのは、沙綾香にとって喜ばしい事のはずだ。だが俺は、いっそバイザーが落ちない方がマシとすら思ってしまった。バイザーの下から現れた沙綾香の眼球は、完全に上を向いていたからだ。
「あはっ、あはあっ……もうらめ、もうらめ……ひんじゃう…………」
 白目を剥き、舌を突き出し、涎を垂らす。その姿は、直視に耐えうるものじゃない。桜織でさえ、あそこまで元の面影が消え失せてはいなかった。
 許せない。沙綾香をあそこまで壊すなんて。俺も、沙綾香も、あんなに嫌だと言ったのに。しかも、その主犯は笑う。この倶楽部ではいつも、外道ばかりが笑っている。

 バイザーが落ちた後も、沙綾香は繰り返し犯されたようだ。霞む視界に映る沙綾香の顔は、一瞬たりともまともさを保っていなかった。眼球は上向き、口には締まりのない笑みを浮かべるばかり。
 ようやく視界が定まってきた時には、とうとう端塚本人に抱かれていたが、その時にも彼女の表情は変わらなかった。
「まだ許可は出していないぞ。なぜ勝手に挿れた?」
 対面座位で腰を沈める沙綾香に、端塚が訊ねる。疑問というより、明らかな事実の確認だ。なぜならその理由は、俺でさえ解る。
「ほしかったから……」
「我慢できなかったということか」
「うん……があん、れきない……ひんぽ、ほひい……!」
 沙綾香のその言葉を聞き、端塚は笑みを深めながら沙綾香の尻を鷲掴みにする。
「はひぃいっ、あはっ! んはあああっ!!」
 尻を掴まれただけで、沙綾香は震え上がった。さらに平手で叩かれれば、甲高い悲鳴を上げながら舌を突き出し、悦びの表情を浮かべた。
 腰の上下が始まれば、その反応はさらに大きくなる。
 腰を沈ませれば、それだけ逸物が奥へと入り込み、すぐに絶頂してしまう。その刺激が強すぎるのか、少しでも腰を浮かそうとするものの、結局は絶頂で筋収縮が起き、脚がガクガク震えて腰が沈む。その悪循環だ。
 そして沙綾香はついに、腰を上げることすらなくなった。異形のペニスを根元まで咥え込んだまま、左右に身体を揺らす。
「んおおおおおっ!!」
 ついには激しく背中を仰け反らせ、俺の方に顔を向けた。その瞳はどこにも焦点が合っていない。そこにあるのは、ただただ狂気じみた笑顔だ。そんな沙綾香の手首を、端塚が掴んだ。沙綾香の身体は、半端に安定する。端塚が手首を離せば、そのまま奈落に落ちる形で。
「私は、何だ」
 端塚が、静かに問いかける。何度も何度も投げかけ、一度も望む答えの得られなかった問いだ。
「…………え…………?」
「私は、お前の何だ」
 端塚が、重ねて問う。
 沙綾香は、一瞬口を閉じた。瞳の動きも止まり、正気を取り戻したかのように見えた。
 だが。
「………………かみ……ひゃま………………。」
 沙綾香は、快楽の波に飲まれる。絶対に耐えられないよう、悪意をもってドラッグセックス漬けにされたんだから、当然のことだ。ひとりの人間が、海の水を飲み干すことなんて不可能なんだ。
「そうだ。それでいい」
 端塚は満ち足りた笑みを浮かべ、横目に俺を見ながら沙綾香の唇を奪う。沙綾香も正体のない顔でそれに応じ、端塚の首に手を回す。

 そのまま2人は、密着したまま愛を交わしあった。何度も射精し、絶頂しているようだが、どちらも離そうとはしないし、離れようともしない。

 俺と沙綾香の交わりより、遥かに濃い愛の儀式だ。


                ※


「んひっ!! んん、あっ、ああっ……キモチいい、キモチいい……!!」
 沙綾香の声が、薄暗い部屋に響く。彼女は床の上で膝立ちになり、バイブを割れ目の中に押し込んで悦びに浸っていた。
 宙に投げ出された瞳には、まったく意思が感じられない。開きっぱなしの口からはだらだらと涎が垂れ、乳房に滴りつづけている。割れ目から溢れる愛液も相当で、失禁直後のようだ。
「そんなものより、『神のペニス』が欲しいだろう」
 グラスを片手に眺めていた端塚が、そう声を掛けた。すると沙綾香は嬉しそうに端塚を振り向く。
「あはっ……ふぁい、かみしゃま…………」
 端塚はその答えに目を細め、懐からアイマスクを取り出した。そしてそれを沙綾香に被せつつ、牢番に向けて何か指示を出す。
「オーナーがお呼びだ、雄ブタ」
 外で見張る3人の牢番のうち、2人が鉄格子の鍵を開けて入ってくる。その2人は俺の手枷まで外し、腕を掴んで牢の外へ引きずり出した。
「抵抗はするなよ」
 外で警戒している牢番が、警棒に手をかける。余計な心配だ。俺はもう限界に近い。たとえ手足が自由だったとしても、大の男3人を叩きのめすだけの覇気がない。
 俺はそのまま部屋の中央へ連れ出され、口に布を詰め込まれた。さらにその上から猿轡を噛まされ、床に大の字で拘束される。沙綾香は、俺のすぐ前だ。
 端塚の意図が、解ってしまった。
「ウウ゛ッ!!」
 俺は呻くが、ほとんど声にならない。
「さあ、こっちだ」
 俺の頭上に屈みこんだ端塚が、穏やかな声色で沙綾香を誘う。沙綾香は笑みを浮かべ、その声に釣られて俺の上に歩み寄った。愛液が俺の腹に垂れ落ちてくる。と同時に、匂いがした。強烈なフェロモンの匂い。以前の沙綾香よりも、何倍も強い雌の香り。
「そこだ。腰を下ろして良いぞ」
 端塚のその言葉で、沙綾香は腰を下ろしはじめた。愛液まみれの柔らかな手が、俺の逸物の根元を掴む。真っ赤に充血した割れ目が亀頭に触れ、簡単に呑み込んでしまう。
 実に十数日ぶりに味わう、沙綾香の膣内は、おそろしく熱かった。ぬめる熱い襞が、四方八方から竿に纏わりついてくる。俺と愛し合っていた時もかなりの名器に思えたが、今はさらに刺激が増している。しかも、膣の奥に達して終わりじゃない。最奥にもう一つ穴があって、窄めた口でフェラチオでもされるように、亀頭が呑み込まれていく。これは、かなり……気持ちがいい。
「ううう゛……っ!!」
 思わず呻きが漏れてしまう。だが沙綾香は、そんな俺に全く構わない。俺の胸に手をつき、快感を貪るべく腰を上下させる。端塚と何度もそうしているように。
 ただ……行為は同じでも、俺と端塚の逸物は違う。サイズ自体は大差ないにしても、形状があまりに違いすぎる。
「あれえっ、なに……刺激が足んないよおっ。かみしゃまぁ、勃ってないのお……?」
 沙綾香のその言葉に、悪意など欠片もないんだろう。だが、だからこそ、その言葉は俺の心を深く抉る。

 そうか、沙綾香。刺激が足りないか。

 俺の物は十分に大きくなっているが、勃起すらしていないように思えるのか。

 もう俺では、お前を満たしてやることはできないのか。

 頭を強く殴られた気分だ。頭の中が真っ白になり、薄暗いはずの部屋が明るく感じる。強張っていた手足から力が抜ける。俺の脳味噌が、手足が、活動を放棄しつつあるのか。
 端塚が、そんな俺を見下ろしているのが見えた。してやったりという笑みだ。事実、奴は望みを叶えた。俺に成り代わって、まんまと沙綾香の心に根を張った。
 端塚の手が伸び、沙綾香のアイマスクを取り去る。
「んあ……」
 沙綾香は一瞬眩しそうにしてから、視線を下げる。勃起しない相手がどういう状態なのか、確かめようとしたのか。
「………………え………………?」
 沙綾香は俺の顔を見て、小さく呟いた。頭上で端塚が小さく噴き出す。
「はっはっはっはっ! お前も酷な事を言うものだ。あれだけ愛を誓っていた『先生』を相手に。とはいえ、仕方のないことか。より優秀なオスを求めるのは、メスの本能だからな」
 端塚は満面の笑みを浮かべ、逆に沙綾香の顔からは笑みが消えていく。
「…………かみひゃま……じゃ、らい……? ……え、あれ?あれ? あれ!?」
 沙綾香の顔が青ざめはじめた。乱れていた表情が、俺のよく知るものに戻っていく。そしてそれが俺の記憶と一致した瞬間、沙綾香は目を見開いた。
「…………い、いやああああっっっ!!!!!」
 沙綾香は絶叫し、俺の上から飛びのく。足が痙攣して横ざまに倒れ込むと、今度は額を床に叩きつけはじめる。
「馬鹿ああああーーッ! この馬鹿ァアーーーッ!!!!! しねっ、しねっ、死ねえええっ!!! この、馬鹿ああああああぁあ゛っ!!」
 狂ったように叫びながら、何度も石の床に頭を打ちつける。額が割れ、髪の付け根から鮮血が伝いはじめた。
「むぐああっ!!!」
 沙綾香、と叫ぼうとするが、猿轡のせいで声が出ない。
「押さえろ!」
 端塚の声で、白衣を着た連中が沙綾香を羽交い絞めにする。沙綾香はそれでも頭を振り、頭をかち割ろうとしていたが、そのうちぐったりとして動かなくなる。その眼から、ふと涙が伝い落ちた。粒の形を保ったまま頬を伝い落ちるそれは、これまで目にしてきたどんな涙よりも、冷たいものに見えた。

 全身から力が抜ける。後頭部が石の床について、ひんやりと冷え、ショックでショートしかけていた頭がクリアになる。

 同時に、記憶の靄も晴れた。
 これまでの全ての記憶が、一気に脳内にあふれ出す。


                ※


 俺は、生まれついての女誑しだ。
 そこそこ見た目が良いおかげで、女子から告白を受けることも多く、俺はそんな相手を遠慮なく“喰った”。最初に手を出したのは、まだ小5の時だ。
 端塚の言う通り、俺には女を骨抜きにする才能があるらしい。初めてのセックスでも、落ちていたエロ本を参考に愛撫すれば、クラスメイトが女の反応を示した。まだランドセルを背負っている歳とは思えないほど、妖艶に。
 俺はそれに味を占め、次々に手を出した。そのうち告白してくる相手だけでは飽き足らず、街で好みの娘を口説いては抱くようになった。すぐに週7日すべてが別の子との予定で埋まり、それでも足りなくなって、日に何人も同時に抱くようになる。俺の性欲は猿のように旺盛で、6人を朝まで愛しても枯れることはなかった。

 クラスメイトが就職していく頃になっても、俺はそんな生活を続けていた。何人もの愛人を囲い、貢がせて暮らす。いわゆるヒモというやつだ。端塚と出会ったのは、そんな時だった。
 俺が新しく引っ掛けた相手が、端塚と繋がりのある子で、一度話し合おうとなった。話し合いといいつつ、実際はケジメをつけさせるための脅しだ。奴は何人もの手下を引き連れて現れたが、俺も当時は怖いもの知らずな若造だ。ガラステーブルに足を投げ出し、問われるままに自分の有り様を明かした。自分の周りに存在する上等そうな女を、片っ端から食い物にしている、という逸話をだ。
 そんな態度と逸話が、端塚の眼鏡に適ったらしい。話し合いは平和的に終わり、その後は知人として付き合う仲になった。何度も酒を交わすうち、端塚はますます俺を特別視するようになり、やがてある話を持ち掛けてくる。俺がやっている、女に貢がせるシステム──それを組織レベルでやらないか、という話だ。
 正直、俺はそれほど乗り気じゃなかった。その時点での暮らしでも、充分に満足していたからだ。ただ、端塚はえらく熱が入っていたから、何度目かの誘いで仕方なく話を呑んだ。
 俺のノウハウを他の人間にも伝え、多くの女を骨抜きにする。その女をそれぞれ仕事につけて稼がせ、金を貢がせる。褒められた営みでないのは確かだが、初めはその程度の事しかしていなかった。

 ただ、貢がせた金が積もりに積もり、組織自体もでかくなるにつれ、だんだんと端塚の様子が変わってくる。思えば、奴はこの時点で今の野望を抱いていたんだろう。女にただ貢がせるのではなく、完全に洗脳してハニートラップ要員にする。そうして裏社会の大物の弱みを掴み、支配を目論む……そういう野望を。
 それに気づいた俺は、端塚を諫めた。聞き分けが悪いようだったから、女には使わない鞭を使って『教育』も施した。俺への絶対的な服従を誓うまで、徹底的に。
 だが結局、奴は変わらなかった。表面的には俺に平伏しながら、裏では何かを企む。しかもそれは、単なる反目とも違うようだった。奴は、俺ではない俺に従ってるんだ。俺を神格化するあまり、自分の中に別の俺……奴の言う『神』を作り上げ、その指示で動いている。その『神』とはもちろん端塚の妄想だが、奴にとっては唯一絶対の真実。俺自身がいくら諫めても聞かないのは、そのせいだ。
 だから、俺は組織を抜けた。組織が曲がりなりにも『先生』である俺を核としている以上、それが一番の痛手になるだろうと思ったし、もはや俺一人では端塚の暴走を止められないから。

 俺がコンタクトを取ったのは、倶楽部を探っている公安関係の諜報組織だった。俺は、最初そこで信用されなかった。当然だ。倶楽部の頭を名乗る人間が、倶楽部を止めたいと言ってきたんだから、普通は罠だと思う。
 ただ、何件かの作戦に参加し、ようやく信用を勝ち取った時には、時が経ちすぎていた。倶楽部はどこかに拠点を移し、一から情報を集め直すしかなかった。向こうに動きを気取られないよう、慎重に。
 その努力が実り、ようやく倶楽部へのコンタクトが可能になったのは、実に2年が経った頃だ。新拠点のガードは固く、特定のルートを通じてでしか会員にはなれない。倶楽部への入り方も、一人ずつ車に乗せられ、場所がわからないよう眠った状態で輸送されるという徹底ぶりだ。組織としても、数人の諜報員を捻じ込むのが精一杯だった。皐月もそうして送り込まれた一人だ。
 潜入した諜報員はほとんど戻ってこず、有益な情報もなかなか得られない。当然だろう。端塚の秘書にまでなった皐月は、かなり上手く立ち回っていたようだが、それでもあの末路なんだから。
 埒が明かない。そんな中、八金グループの令嬢が攫われたとの情報が入り、もはや一刻の猶予もないとなって、俺自身が潜入することに決まった。俺相手であれば、端塚も倶楽部の秘密を明かすかもしれないからだ。
 俺は組織の重要機密をいくつも知っていたから、万が一にもそれを漏らすことのないよう、潜入前に投薬と暗示で記憶にロックをかけた。その後、倶楽部へ輸送されるにあたり、場所がわからないように眠らされ……目が覚めたのが、あのエレベーターの中というわけだ。

 要するに、俺は倶楽部の『王』ではあったが、『神』ではない。奴は、自分の作り出した偶像にコンプレックスを抱き、それを克服しようとしていたことになる。等身大の俺や沙綾香、その他色々な人間を巻き込みながら。

 どこまでも、ふざけた話だ。


                ※


 『神』を超えたのが、よほど誇らしいのか。端塚は、牢に戻された俺に、沙綾香と愛し合う姿を見せつけた。
 今も奴は、沙綾香の両脚を抱え上げる体位で犯している。
 全てがよく見えた。
 ピアス付きの乳房が、上下に揺れる様も。
 歪な逸物が、割れ目に深々と出入りする様も。
「あっ、はあっ……あっ! すごっ、すごいいっ!! あああんっ、はああっ!!」
 沙綾香は天を仰ぎ、気持ちよさそうに喘いでいる。
「さあ、『先生』に聴かせてやれ。お前の悦びを」
 端塚がそう囁くと、沙綾香は嬉しそうな顔でこっちを見下ろした。
「あはあっ!! きもちちいい、キモチいいのおっ!! もう、かみしゃまの以外じゃ、気持ちよくなれない……んあああああっ!! してっ、もっとしてっ!! もっとめちゃくちゃに、こわしてえええっ!!」
 沙綾香は悦びながら端塚の首に縋りつき、キスを求める。端塚もそれに応え、俺の前で濃密な口づけを交わし合う。

 『オーバードーズ』と、終わりのない快楽責め……それが沙綾香を蝕んだ。だが、それだけじゃない。沙綾香は、自ら壊れようとしている。俺とのセックスを物足りないと感じた自分が、許せないらしい。気にするなと何度も叫んだが、聞き入れはしなかった。端塚のペニスで何度となく絶頂し、快感に蕩けながらも、時々泣きそうな目で俺を見ていた。

『私の事は、もう忘れて』

 そう訴えるように。
 ただしそれも、もうずいぶん前の事だ。自分の意思で脳を壊し続けた沙綾香は、正真正銘端塚の物になっていく。
「さあ、そろそろ出すぞっ!!」
「はっ、はっ、はっ……お、おねがいします!!」
 端塚の射精を、嬉々として受け入れる沙綾香。悲しみの表情はもはや見当たらない。表情筋のすべてが、弛緩しきっている。
 心が痛い。
 今さらながらに理解した。これが、俺の初恋だ。手当たり次第に女を喰い、欲望を満たしてきた俺が、初めて心から愛したいと思った相手。よりにもよって、その沙綾香を奪われるとは。これが、俺の生き様に対する罰か。

「はあっ、はあっ……おめぐみを、くださぁい……」
 激しい行為の後、沙綾香は端塚の足元に跪いてフェラチオをねだる。端塚が頷くと、嬉しそうに飛びついて舐めはじめる。
「んふふ……」
 亀頭を口に含むと、沙綾香の顔は瞬く間に蕩けた。もはやあの子にとっては、ああして舐めしゃぶることが救いなんだ。身体のどこかでペニスを味わっていないと、心の安定を保てないんだろう。
「いい子だ。手も使っていいぞ」
 端塚が許可を出せば、沙綾香は両手も使って熱心に奉仕を続ける。その果てに口内に射精されても、嫌がる気配は微塵もない。命じられるまでもなく口に含み、音を立てて飲み下してみせた。

「おほっ、おおお゛っ、オオ゛……ッ!! 好き、このチンポ好きいいぃっ!! おおおおおっ、イグッ、イッグううううう゛っ!!!」
 沙綾香は、寝そべった端塚に跨ったまま、狂ったように腰を遣う。ベッドの軋みすら掻き消すほど、よがり声は大きい。
「沙綾香……」
 祐希達が顔を歪め、物悲しい声を上げた。ただし、それも一瞬のことだ。
「締め付けを緩めるな、ブタ! 人間様が愛でてやっているんだ、精一杯奉仕してみせろ!」
 牢番達は激しく腰を振り、相手の気が逸れるたびに鞭を浴びせる。完全に性処理用の家畜扱いだ。
「ひイィっ、イグッ、まだいぐうううんっ!!!」
 沙綾香の背中が仰け反り、逸物が抜けた拍子に潮が飛び散る。あまりにもケダモノじみた、あまりにも幸せそうな絶頂。
「はあ、はあ、はあ…………あはっ、出てきちゃった…………」
 割れ目から溢れる白濁を指で掬い取り、美味そうに舐める沙綾香。 
「小賢しい自我が完全に消えたな。後々新しい人格を植え付ける必要はあるが、しばらくはこの淫奔ぶりを愉しむとしよう」
 端塚が満ち足りた笑みを浮かべ、ベッドを降りる。その、直後。
「オーナー!」
 白衣の男が端塚に駆け寄り、何かを耳打ちする。ひどく慌てた様子だ。
「…………逃がした?」
 端塚の眉間に皺が寄る。白衣の男は怯えた様子ながらも、さらに言葉を続けた。焦りのあまりか、声が大きくなっていく。
「……で、ここに向かって……うです。……れも、逃げる準備……」
 所々しか聴きとれないが、そんな事を訴えているようだ。
「落ち着け! セキュリティセンターは今、どうなって────」
 端塚も珍しく苛立ったまま問い返す。そんな中、外から俄かに雑踏と罵声が聞こえてくる。そして、祭壇横の扉がドンと音を立てた。
「なんだ一体……まさか、公安か!?」
「馬鹿な。百合とかいう女がすべて吐いて、一網打尽にしたと聞いているぞ!」
「いや、まだ完了報告はなかったはずだ。時間の問題と言ってはいたが……」
 ドン、ドン、と続くノックに、牢番共が浮足立つ。
 チャンスだ。牢内に4人もいる状態だが、こっちへの警戒は無に等しい。
 俺は、藤花に目で合図を送る。藤花はすぐに俺の意図を汲み、小さく頷いてみせた。
「うおおおおおっ!!」
 俺と藤花は渾身の力を篭め、木枷で近くの牢番を殴りつける。火事場の馬鹿力というやつか。当たり所は決して良くなかったにもかかわらず、あっさりと殴り倒すことに成功する。まずは、2人。問題はここからだ。
「き、貴様ら、何を!?」
 残る2人の牢番が、警棒に手をかける。あの得物を完全に抜かれれば、流石に分が悪い。俺と藤花が、一か八か飛び込もうと身構えた時だ。
「うわあああっ!!」
 千代里が背後から牢番に突進し、大きくバランスを崩させる。
「なっ!? お、おい!!」
 もう一人も、足元の桜織に逸物を咥え込まれ、反撃どころではなくなってしまう。
「離せ、離さんかこのブタッ!!」
 牢番2人は必死に引き剥がそうとするが、千代里も桜織も邪魔をやめない。藤花と俺はその隙に肉薄し、藤花は強烈な蹴りを、俺は恨みをこめた頭突きを見舞う。
 なんとか4人を気絶させることに成功し、手に入った鍵で木枷と鉄格子の扉も開錠できた。

「沙綾香ッ!!」
 狭苦しい檻から飛び出し、部屋の中央へと駆け出す。ちょうどその瞬間、祭壇横の扉が蹴破られ、何人もの男がなだれ込んでくる。
「大将、無事か!?」
 先頭の1人が叫んだ。大将という呼び名も随分と懐かしい。俺の個室に電話を掛けてきた、組織の同志だ。ただ、今はそれどころじゃない。
「くっ……!」
 端塚は沙綾香の首を抱え、壁際に下がっていく。
「観念しろ、端塚!」
 俺が詰め寄って叫ぶと、端塚は近くにあった針を手に取り、沙綾香の首に宛がった。
「え……? なぁに、かみひゃま…………」
 碌に状況も呑み込めていない沙綾香の首に、針が沈み込む。
「よせっ、その子を離せ!」
 俺がさらに叫ぶと、端塚はこっちに恨みがましい眼を向ける。
「……私は、貴方を超えた……私が『神』になったのです。もはや、貴方の言う事など聞く必要は……!!」
 完全に錯乱状態だ。手元は震え、手にした針で今にも沙綾香を貫きかねない。

 思えば、こんな事が前にもあった。俺に野望を語り聞かせた時だ。あの時も端塚は、俺の静止の言葉に耳を貸さず、こうして錯乱していた。
 だとすれば、俺が取る行動は一つしかない。

 躾を、やり直す。

 床に目をやれば、いくつもの道具が転がっていた。俺はその中から鞭を拾い上げる。子宮責めで沙綾香が気絶しかけるたびに、何度も浴びせられたものだ。俺はそれを振り上げ──思いきり床を打つ。久々に振ったにもかかわらず、ビシイッと素晴らしい音が鳴る。
「ッ!!!」
 端塚が目を剥き、身体を強張らせた。俺の狙い通りに。
「『肉体の記憶は消えない』……だったか。どうやら、その通りらしいな」
 俺は端塚に歩み寄りながら、さらに鞭を振る。鞭の先が音速を超え、破裂音を響かせる。昔の端塚にも、何度もこの音を聴かせた。涙ながらに服従を口にするまで。
「はっ、はっ、はっ……!!」
 端塚の身体が震えはじめ、背中が壁につく。恐怖が蘇ってきたらしい。
「お前は優秀だが、野心が強すぎる。過ぎた欲は身を滅ぼすと、何度も忠告したのを忘れたか?」
 過去の記憶を踏まえた言葉。それを聞いて、端塚は針を取り落とす。
「せ、先生……御記憶が、戻られたのですね!? お懐かしゅうございます……!!」
 嬉しそうに笑いながら、俺に歩み寄ろうとする。だが、その足はすぐに止まった。俺が睨みつけているからだ。
 今さら手を取り合うことは有り得ない。奴は、とっくに一線を超えている。
 俺は鞭を片手に、端塚の前に立つ。端塚は俺を見上げながら、とうとう完全に腰を抜かし、俺の足元に跪いた。
「お前の主は、誰だ」
 俺が問うと、端塚は唇を震わせる。奴の中には、2人の主がいるはずだ。奴自身の作り上げた『神』と、倶楽部の『王』である俺。王が神に勝つことなど有り得ないが、今はその無理を通す。何度となく刻み込んだ、肉体の記憶で。
「あ、あう……」
「訊き方を変えよう。お前は、誰だ」
 錯乱する端塚に、重ねて問う。しっかりと眼を覗き込みながら。端塚の顔に、どっと汗が噴き出した。
「私は……あ、貴方様の、僕で御座います……」
「違うな」
 端塚が汗だくで絞り出した言葉を、あえて切って捨てる。そんな答えは認めない。
「で、では……貴方の一番弟子……」
「違う。お前は────屑だ」
 暴君と呼ばれてもいい。俺の求める言葉だけを、口にさせる。
 端塚の目が泳ぐ。膨れ上がった自尊心が暴れているんだろう。だがそれも、いずれは恐怖に塗りつぶされる。そうなる風に調教した。こいつ自身が、沙綾香にしたように。
「…………わ、わたくしめは……わたくしめは………………く……屑、です…………」
 端塚は憔悴しきった顔で、呻くようにそう呟いた。
「それでいい」
 俺が赦しを出すと、皺だらけの首ががくりと項垂れる。
「お前がどんな末路を辿ろうが、興味もないが……屑は屑らしく、分を弁えろ。俺の女に手を出すことは、今後一切許さん」
 俺はそう告げ、端塚の腕から沙綾香を奪い取った。
「……かみひゃま? かみひゃま、かみひゃまー…………」
 沙綾香は俺に抱かれながら、端塚の方に手を伸ばす。切ない声で、何度も『神』の名を呼びながら……。



 

二度と出られぬ部屋 最終章 オーバードーズ Part.7-4

Part.7-3の続きで、最終章最終話(Part.7)の4つめです。



 次の日、沙綾香は朝から検診台に拘束された。拘束役は洗脳班の連中だ。
 傾斜した背もたれの上部で、両腕が拘束される。
 下半身を大きく開いたまま、足置きに脛の半ばが固定される。
 産婦人科で見るなら何でもないその光景も、この部屋で行われると背筋が凍った。
「う……!」
 沙綾香も不安なのか、肩と同じ位置にまで上がった膝を見つめている。端塚は、そんな沙綾香にゆっくりと近づいた。
「最初に確認しておこう。まだ、私の物になる気はないか?」
「…………ないよ。なに? こんな拷問っぽいコトしたら、怖がって言いなりになるって思ったわけ? だとしたら、考え甘すぎて笑っちゃうよ!」 
 若干の間を置きながらも、沙綾香は嘲笑すら交えて拒絶してみせる。その態度に、端塚はさぞや気分を損ねるだろうと思えた。だが、奴の表情は意外にも変わらない。
「なるほど、予想通りの答えだな。言っておくが、今日お前に施すのは、断じて拷問などではない。お前の子宮を、より『良い』状態にするための準備だ」
 静かな声だった。なぜか、今の奴は本心を語っているように思えた。だからこそ不気味だ。子宮をより『良い』状態にするとは、どういう意味だろう。性感開発という意味なら、沙綾香はすでに充分開発されている。『クリ逝き』を覚え、『Gスポット逝き』を覚え、『中逝き』すら知り尽くしている。そんな彼女を、これ以上どう開発するというのか。
「始めろ」
 端塚の指示を受け、白衣を着た連中が動き出す。俺の疑問の答えもそこにあるんだろうが、胸がざわついて仕方ない。
 沙綾香は俺達に対して横向きに拘束されているが、そのさらに左横……つまり、俺達から見て真正面に、巨大なモニターが設置される。設置にあたって、洗脳班の連中が何度もこっちを見ていたから、その位置取りは偶然じゃない。
 続いて、沙綾香の前に一台の機械が運ばれてくる。台座から伸びたアームの先に、アタッチメントとしてバイブが取り付けられたものだ。バイブ自体はそこまで太いものじゃないが、先端部の蕾のような膨らみが妙に気になる。
「このファッキングマシンには、見覚えがあるだろう。百合の映像に出てきたものと同じ機種だ」
 端塚は、アーム部分を白手袋で撫でながらそう告げる。俺も、沙綾香も、顔が引き攣った。ほんの数分の映像とはいえ、あれは忘れられない。まさに拷問と呼ぶに相応しい地獄だった。
「……やっぱり、拷問じゃん」
「いいや、違う。今日からお前が味わうのは、果てしのない悦楽だ。オーガズムの波に、絶え間なく晒され続けた果てに到達する境地──」
 端塚は沙綾香の言葉を否定し、俺達の方に視線を寄越す。正確には、その目は桜織を捉えていた。
「えへっ、えへへへっ…………」
 俺の逸物を眺めながら、目を潤ませ、涎を垂らす桜織。端塚の言う境地、『オーガズム・クライマックス』へ至った人間の末路だ。
「まさか、沙綾香まで委員長みたいにする気……!? やめてよっ!!」
「あなた、沙綾香をお嫁さんにしたいんでしょ!? 壊してどうすんの!?」
 祐希と千代里が非難の声を上げる。だが、端塚は取り合わない。桜織から視線を外し、黙って沙綾香を見下ろす。嫌なら自分の物になれ、という無言の圧力だ。
「…………ッ!!」
 沙綾香は、流石に顔を歪ませた。桜織という実例を交えての脅しは、リアリティが違いすぎる。それでも沙綾香は、表情を引き締めて端塚を睨め上げた。
「なるほど、では予定通り始めるとしよう。まずは、“パートナー”の説明だ」
 端塚はやはり顔色を変えず、洗脳班の1人に合図を送る。操作盤の前に座る女がレバーを引くと、アタッチメントの先端部分が放射状に開いていく。まるで虫を捕食する食虫植物だ。しかも、ただ開いただけではないらしい。
「な……なんなの、そのブツブツ……キモいっ!!」
 沙綾香はアタッチメントの内部を見て悲鳴を上げた。視線があちこちに移動しているところからして、『ブツブツ』は一面に存在するらしい。
「ポルチオ開発に特化したアタッチメントだ。先端パーツは8つに分かれ、子宮口にフィットする。内側にある無数の突起で、刺激はさらに増す。そしてもちろん、こういう芸当も可能だ」
 端塚がまた操作盤の女に視線を送ると、今度はアタッチメント全体が振動を始めた。ヴー、ヴー、という重苦しい音が響く。しかもその音と振動は、少しずつ大きくなっていく。電動マッサージ器と同じく、強さが数段階存在するようだ。特に最大出力は、聞いている俺の心臓そのものを震わせてくる。
「では、そろそろ始めようか」
 アタッチメントの振動が止まり、先端部が閉じていく。その直後、モニターに映像が映し出された。小さな円の中に、大股開きで拘束されている沙綾香の姿が映し出されている。真正面から秘部を映しているところからして、アタッチメント内部からの撮影らしい。
「えっ!?」
 モニターを見た沙綾香が息を呑む。
「親しい人間に、お前の全てを見てもらえ。中の中までな」
 端塚は可笑しそうに笑う中、白衣の男がアタッチメントの先にローションを流しかける。映像内にもトロリとした粘液が流れていく。そしてアームが伸び、カメラは沙綾香の大事な部分に近づいた。肉厚な陰唇がアップで映し出され、次の瞬間にはモニターの左右に押し出されていく。
「んっ!」
 沙綾香の漏らした小さな声が、挿入を実感させる。
 沙綾香の『中』は、綺麗だった。さんざんに蹂躙されてきた場所とは思えないほど、綺麗なピンクだ。カメラはその内部を突き進み、子宮口へと突き当たる。そして、先端部が開きはじめた。小さな円だった映像が、モニター画面一杯に広がっていく。さらにその画面が奥へ進めば、子宮口が少し口を開いた。
「子宮口に密着したな」
 椅子に腰かけた端塚が、モニターを見て呟いた。沙綾香の視線もモニターに注がれている。あんな映像が横に広がっていれば、無視できるはずもない。
 白衣の女が、操作盤のスイッチを押す。ヴ―ンという重低音が響きはじめ、沙綾香の腰がびくっと反応した。
 音の響きを聞く限り、さっき耳にした数段階の中で一番弱い設定だ。それでも、マッサージ器の中設定と同じぐらい音が重い。つまり、刺激もそのぐらいあるということだ。
 沙綾香は唇を閉じ、じっと耐えていた。だが、そう出来ていたのも数秒だけだ。
「…………っ!」
 沙綾香の唇が動いた。そしてその左横では、子宮口がヒクヒクと蠢いている。
「っ!!」
 唇がぎゅっと結ばれた直後、足指が折れ曲がった。
「ふふ……絶頂したな?」
 洗脳班の女にワインを注がせつつ、端塚が笑う。沙綾香は顔を顰めた。否定のしようがない。モニターには、膣内の様子がありありと映し出されている。子宮口の痙攣も、気泡を孕む愛液も。
 さらに彼女には、屈辱を噛み締めている暇もなかった。相手が絶頂しようと、マシンは動きを止めない。絶頂直後で敏感になっている場所を、全く同じ調子で責め続ける。
「ふーっ、ふーっ……」
 沙綾香の息が荒くなってきた。足置きの先で指が蠢き、腰が震える。2回、3回と立て続けに絶頂へ追い込まれているらしい。しかもその状況で、音が一段階激しさを増した。
「ひぐっ!?」
 沙綾香が悲鳴を上げる。モニターの中でも、子宮口が開閉を繰り返している。
「う、くっ……くうぅぅっ……!!」
 呻き声と共に、手足の指が内に折り込まれた。検診台がギシギシと音を立てる。
「ッッああああ! だ、だめっ……イクうぅーーーッ!!」
 数秒後、沙綾香の我慢は決壊した。顎が跳ね上がり、大股開きの下半身がぶるぶるっと痙攣する。かなり深い絶頂だ。しかも、それで終わりじゃない。機械は無慈悲に唸り続ける。
「くうぅっ……んゥ、う゛……っ!!」
 沙綾香の顔が歪みはじめた。腰はガクガクと痙攣を続け、股の直下に設置された受け皿へと愛液が滴り落ちる。
「沙綾香っ!」
「サーヤ!」
 藤花と千代里の呼びかけに、沙綾香がこっちを向いた。だが何かの表情を浮かべるよりも、絶頂の方が先に来る。
「うあ゛……っ!!!」
 結果として沙綾香は、目を見開いた絶頂顔を俺達に晒してしまう。その様を見て、端塚が笑う。
「どうだ。機械に逝かされつづけるのは苦しいだろう」
 嘲笑交じりのその一言が、よほど腹立たしかったんだろう。沙綾香は呆けていた顔を引き締め、端塚を睨みつけた。
「はあっ、はあっ……別に。アンタに犯されるぐらいなら、こっちの方がずーっとマシだよ……」
「ほう。その言葉、いつまで吐けるか見物だな。人間と違って、機械は疲れを知らんぞ?」
 端塚に言われるまでもなく、沙綾香は機械責めの恐ろしさを感じているはずだ。この僅か数分で、沙綾香は何度となく絶頂した。しかも、回数を重ねるごとに絶頂の間隔は短くなっている。
「せいぜい堪能するがいい。快楽を愉しめるのも今のうちだけだ。甘すぎる菓子は胸やけするように、強すぎる快楽は苦痛に等しい。お前自身が、身に染みて知っているようにな」
 端塚はそう告げて、優雅にワイングラスを傾ける。沙綾香はその態度にますます眉を吊り上げるが、同時に唇をひしゃげさせた。


                ※


「あ゛あ゛あ゛っ、あ、あ゛っ!!! い、いくっ、いくうう゛っ!! はっ、はっ、はっ……ああっ、ぁ……くぅあああ゛あ゛ーーーっ!!!」
 沙綾香の嬌声が、部屋中に響く。検診台がガタガタと揺れる。
 アタッチメントが挿入されてから、何分が経っただろう。今や沙綾香の顔はグズグズに崩れていた。汗、涙、鼻水、涎……それらで顔中が汚れている。おそらくは三桁単位で絶頂しているから、無理もない話だ。
 操作盤を弄る白衣の女は、同性ながら一切の容赦をしなかった。沙綾香の身体がブルブルッと震えたタイミングを見計らい、ツマミを回して威力を上げる。
「おほっ、お゛、お……おほおっ、お゛、おおお゛…………っ!!!」
 沙綾香の声が変わった。『お』行の喘ぎ。腹の底からの快感だけを凝縮したものだ。その声を聴いて、白衣の女が唇の端を僅かに上げる。
「いい声が出はじめたな。頃合いだ、そろそろ“後ろ”も可愛がってやりなさい」
 端塚も笑いながら、洗脳班の連中に新たな指示を飛ばした。
「おお゛っ、ほっ、ほっ……う、うひ、ろ……!?」
 戸惑う沙綾香に、白衣の男がディルドーを見せつける。長さ約30センチ、太さも5センチはあるだろうか。かなりのサイズだが、もっと特徴的なのはその形だった。先端部分はテニスボールほどの大きさがあり、無数の突起に覆われている。その下に連なる幹部分は蛇腹になっていて、出し入れするたびにかなりの刺激がありそうだ。
「刺激的な見た目だろう。何人もの女を啼かせてきた名器だ。私のペニスの造形も、これにヒントを得ている。お前はいつまで耐えられるかな」
 端塚が挑発的な笑みを浮かべた。沙綾香はそれに一瞬苦い顔を向けるものの、ディルドーにローションが垂らされれば、そっちに意識を持っていかれる。
 絶頂でひくつく肛門に、テニスボールのような先端が宛がわれ、メリメリと押し込まれていく。
「……はあ゛あああ゛っ!!!」
 沙綾香から悲鳴が上がった。肛門への挿入、かつ大きめのサイズとはいえ、ただディルドーを入れられただけなら、あの子はグッと我慢するはずだ。にもかかわらず、あの声量。子宮口で絶頂させられながらのアナル責めが、どれだけ辛いのかがよくわかる。
 30センチもの長さがあれば、ディルドーは確実に直腸奥に届く。実際、ディルドーが深々と挿入されれば、モニター内で粘膜がボコリと盛り上がる。
「はあっ、はあっ、はあっ……く、苦しいっ……!!」
 ディルドーが持ち手付近まで挿入されると、沙綾香は苦痛を訴えはじめた。とはいえ、配慮などされるはずもない。洗脳班の女は、ツマミを回してバイブの強さを上げる。同じく男も、肛門のディルドーを奥の方で前後させる。
「あぐううっ!!」
 沙綾香の腰が跳ね上がった。さらに前後の穴を責め抜かれれば、強張った脚の間から、ぶしゅっと愛液が飛び散った。そしてそれを分水嶺に、沙綾香の反応は劇化する。
「いい゛ってる!!!い゛い゛ってる!!!いい゛イ゛っでる゛っ!!!」
 沙綾香は、後ろの責めと連動する形で絶頂しはじめた。肛門のディルドーが真下から、あるいは斜め下からグリグリと押し込まれるたび。マッサージ器の先端が唸りを上げるたび、100%の精度で絶頂している。
 端塚に起用されるだけあって、洗脳班の男は随分と責め慣れているらしい。あのディルドーは見るからに刺激が強い。素人が使っても女を悶え狂わせることは可能だろう。だが、責めるたびに絶頂させるような芸当は不可能だ。いくら敏感になっていようと、ポイントのずれた責めでは女は達さない。常に変化しつづける弱点を見破り、その真芯を射抜き続けるような技量があればこそだ。
「いぐっ、まだいぐうう゛っ!! おねがい、やめでっ! ずっと、イってて、いぎが……で、できな、いっ……んんっぐうう゛う゛っ!!!」
 まともに呼吸ができていないのか、沙綾香は聴き取りづらい声で哀願する。当然、顔もひどい。舌を突き出しながら涎を零し、鼻水を垂らし、白目を剥きかけてもいる。陸にいながらにして溺れるかのように。
 その沙綾香を前に、男の手がディルドーの付け根を握り直した。そして一旦浅く抜き出してから、ひねりを加えつつ持ち手ギリギリまで一気に押し込む。
「う゛あ゛あ゛ア゛ぉ゛お゛お゛オ゛ッ!!」
 沙綾香から凄まじい声が出た。一音の例外もなく濁った、女性らしさの欠片もない、だからこそ嘘もない感情の発露だ。表情にも余裕はなく、目を見開き、舌を突き出したまま震えている。
 どうしてそんな声が出たのか、直接は確認できない。だが、ヒントならある。30センチ以上はあろうかという責め具が、根元まで入り込んだという事実。膣の下側を順に盛り上げ、子宮口よりもさらに奥へと消えていった異物の膨らみ。それらから導き出される答えは一つ。
「その反応……結腸に嵌まり込んだな?」
 端塚の言葉が、俺の考えと一致する。あの突起にまみれたテニスボール大の先端部分が、結腸にまで入り込み、裏から子宮を圧し潰しているに違いない。
「これだめ、これ、駄目ええっ!!」
 沙綾香の息は荒く、顔は真っ赤になってきた。モニターに目をやれば、膣の奥まった部分が蠢き、新たな愛液が滲んでいるのもわかる。
 それでも、容赦はない。白衣と男はかなり強引にディルドーを引きずり出し、沙綾香から低い呻きを絞り出す。
 ぎゅちゅっという音と共に抜け出た先端部分は、異様なほどの粘液に塗れていた。最初に塗りたくられたローションとは、質も量もまるで違う。間違いなく、沙綾香の腸液だ。そんなものが目の前に晒された女の子は、どんな気持ちになるんだろう。
「あ、あああ……!!」
 沙綾香は泣きそうな顔になる。だがその最中にも、前の穴ではアタッチメントが唸りを上げ、沙綾香の下半身の肉を暴れさせている。
 もちろん、肛門も解放されたわけじゃない。ディルドーの先は改めて肛門に宛がわれ、モニター下部に膨らみを残しながら奥へと入り込んでいく。
「はぐうう゛う゛っ!!!」
 改めての二穴蹂躙に、沙綾香の歯が噛み合わされた。ぶりいっ、と小さく音が鳴ったのは、刺激に耐えかねての放屁か、あるいは抱きこまれた空気が抜けたせいか。

 重低音と、水気のある抜き差しの音。悲鳴と、検診台の軋む音。それが延々と繰り返される。
「おっ、おっ……おほっ、お、おおお゛っ……!!!」
 沙綾香の声は、とうとう快感の呻き一色に染まった。真っ赤な顔からは様々な液体が乳房の方にまで垂れ、明らかに危険な状態だ。ところが、端塚は落ち着き払っている。
「そろそろ、いい塩梅だな」
 奴はモニターに視線を移した。つられて画面を見れば、大きな変化が2つあった。一つは、映像内に愛液が溢れに溢れ、もはや水中カメラのようになっている点。そしてもう一つは、その中心に息づく子宮口が、小指の先ほどに開いている点だ。
 もちろん、当然の結果ではある。8つのパーツで子宮口周りに食いつかれ、振動され続けてるんだ。その中心にある穴は、僅かずつでも緩んでいくに決まっている。それでも、経産婦でもない女の子宮口がはっきり開いているというのは、尋常なことじゃない。だがどうやら、それこそがこの調教の目的らしい。
「ここからが本番だぞ、八金 沙綾香。ただのポルチオ絶頂なら、お前は散々経験してきているからな。今日はそこから一歩進んだ、新しい悦びを教えてやろう」
 端塚の白手袋が、白衣の女に合図を送る。中指を前に送り込むようなサイン。白衣の女はそれに恭しく頷き、かすかに唇の端を上げた。嫌な予感がする。
「これ以上何をするつもりだ、端塚ッ!!」
 思わず、そう叫ばずにはいられなかった。沙綾香と、端塚が俺の方を向く。左の顔は涙に塗れ、右の顔は狂気に満ちている。
「モニターをご覧ください。そのための特等席です」
 その直後、白衣の女が動きを見せ、モニターの映像が変わりはじめた。子宮口を捉えているカメラが、前へ前へと進んでいく。子宮口そのものに達しても止まらない。小指の先ほどの穴をこじ開け、その奥へと入り込んでいく。
 子宮口の、先。つまり────
「おあああ゛あぁ゛っ!!?」
 沙綾香の声が悲鳴に変わった。目を見開いたまま、信じられないという様子で股を見下ろしている。明らかに異常だ。
「どうだ、子宮口をこじ開けられた感想は?」
 端塚のその言葉で、現実が突きつけられた。見間違いじゃない。モニターの映像は、カメラが子宮口の中に入り込んだ瞬間だったんだ。
「ひっ、ひいいぃっ!! し、子宮に、子宮にいっ!!」
「ハードプレイをこなしてきたお前でも、子宮頚管をこじ開けられるのは初めてだろう」
「は、初めてっ! こんなの知らないっ、こんなの知らないいっ! 抜いて、抜いてええっ! お、こっ……ひぎゃああああ゛っ!!!」
 沙綾香は完全に恐慌状態だ。憎い端塚の言葉をオウム返しにしながら、引き攣った顔を左右に振りたくる。
「沙綾香、沙綾香あっ!!」
 俺達が必死に叫んでも、声は届かない。
 ファッキングマシンの中からは、ガゴガゴと音がしはじめていた。そしてその音とほぼ同じリズムで、モニター内の映像が変化する。膣襞よりやや赤みの強い穴の中を、カメラが出入りしているのが見て取れる。
「結腸を抉られる時以上の刺激だろう。亀頭で叩かれるだけでも達してしまうような場所に、異物を捻じ込まれているんだからな」
 端塚の落ち着き払った口調は、パニック状態の沙綾香を嘲るかのようだ。
「う゛お゛っ、お゛っう゛……んはああグッ、ぃぎッ、ぎッ……ぎあああああ゛!!」
 沙綾香の反応は、苦痛に塗れていた。アタッチメントでほぐされたとはいえ、子宮頚管を抉られるのはあまりに辛いようだ。
「辛いか?」
 端塚が、沙綾香に歩み寄って問いかけた。答えの判りきった問い。その意図は、『辛ければ服従しろ』という暗黙のメッセージだろう。どこまでも腹立たしい。
「………………ッ!!!」
 沙綾香は、激痛のせいか涙の零れる瞳で、それでも端塚を睨みつけた。その気丈さを前に、端塚が笑みを浮かべる。
「せめてもの抵抗というわけか。その芯の強さは評価に値する。それでこそ私の伴侶に相応しい。……とはいえ、『教育』は必要だ」
 奴はそう言って、左手を差し出した。すると白衣の男が歩み寄り、その手に小さなケースを手渡す。ケースから取り出されるのは、一本の注射器だ。
 血の気が引く。この倶楽部で、しかもこのタイミングで取り出される薬が、生易しいものであろうはずがない。
「お、おい、何だそれは!」
 藤花も青ざめた顔で問いかける。端塚の顔に笑みが浮かんだ。
「洗脳班の所有する、もっとも強力な薬だ。この薬は、あらゆる感覚を快感に変える。最初の被検体は、アームロックで腕を破壊されながら逝き狂った」
 端塚はおぞましい事を口走りながら、一歩ずつ沙綾香に近づいていく。
「…………っ!」
 沙綾香は明らかに怯えながらも、睨むのをやめない。端塚はその視線を受け止めたまま、沙綾香の首筋に針を打ち込み、注射器の底を押し込んだ。
「やめろおおっ!!」
 声の限りに叫んでも、もう遅い。最悪の薬液が、まさに今、沙綾香の血管に注ぎ込まれていく。
 頬の汗が凍りつく。時間の流れが遅くなる。永遠にも思える1秒が過ぎ、2秒が過ぎ……現実が動き出した。
「あ……ああ……あアアア゛ァ゛……ッ!」
 まさか愛しい沙綾香の声を、薄気味悪く感じる時が来るとは。
 だが事実、沙綾香の声色は異様だった。裏声のように甲高く、しかしケダモノのように野太い。およそ正気を保っている限り、ティーンの少女が出し得ないと思えるものだ。
「沙綾香! しっかりしろ、沙綾香っ!!」
 俺達は必死で声を上げた。沙綾香の意識を、少しでも真っ当な位置に戻したかった。だが、声は届かない。
「ハッ……ハッ……ハッ…………!」
 前を向いたまま目を見開き、ただ、ただ深刻な表情を浮かべている。 
 そんな中、白衣の女がまた操作盤に触れた。モニターの映像がブレはじめる。子宮頚管に入り込んでいる部分が、細かな振動を始めたらしい。
「お゛っ、こほっ!」
 沙綾香の口が開き、噎せたような息が漏れる。相当なショックに反応が追いついていないらしい。だが、それも最初だけだ。1秒、2秒と経てば、彼女の身体は異常を受け入れる。それがどんな毒だったとしても。
「んんん゛ア゛っ、だめ、ダメ……い、イッちゃふうう゛う゛っ!!!」
 白い歯が食いしばられる。絶頂の宣言は、さっきとは違って愛らしい声だった。子供が泣く時の声色だ。その幼さが妙に恐い。彼女が幼児退行しているようで。
「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ……だめ、だめ゛っ!! いっちゃう、どんどんいっちゃう、イクのとまんないいっ!! ひぎっ、いひぎイイい゛ッ! 終わんない、イクのが終わんないいい゛ーーーっ!! ほおおっ、おっ、ほお…………おおおお゛お゛お゛ッッ!!!」
 頭を振り、左右に涙を散らしながら叫ばれる言葉には、微塵の余裕も感じられない。
「存分に味わうといい。それが本当の『ポルチオアクメ』というものだ。女にとって……いや、人間にとって、それ以上の快楽は存在しない」
 端塚は椅子に戻り、ワイングラスを手に取った。


「いぎっ、あうぐううあああああう゛っ!!! も゛お゛イケないっ、もお゛イケないいい゛っ!! イッてる途中で、まだ……ン゛アはああ゛っ!!! …………ハアッ、ハアッ!ハアッ!ハアッ! い、イキっぱで、おかしくなる゛っ……こわれぢゃうっ、じぬ゛っ、死ぬ゛ううう゛う゛っ!!」
 異常な声色が、部屋中に響き渡っている。すぐにでも助けないと危険なのは明らかだが、沙綾香を囲む人間は、誰一人として容赦をしない。
 また、重低音が大きさを増した。モニターの中のブレも酷くなった。放射状のアタッチメントと先端部が、マッサージ器の最大出力並みに振動している証拠だ。
「んんんおおおオ゛オ゛っ!!!」
 沙綾香の喉から、また野太いケダモノの声が上がった。手足が暴れ、ベルトが深々と肉に食い込む。ギシイッ、ギシイッ、という検診台の軋み方も、どんな大男が暴れているのかというレベルだ。
「オ……オ゛」
 天を仰いだ顔がガクガクと揺れ、顎から涎が伝う。一瞬見えた目は半開きで、どこにも黒目が見当たらない。
「しゃあか……しゃあかぁ…………」
 声を上げたいが、俺の喉は叫びすぎて枯れていた。鉄格子を掴む手も、皮が擦り剝けて血だらけだ。ここまで力を篭めても、細い鉄格子一本すら折れないとは、非情なものだ。
「もう……もうやめてっ!」
 俺の後ろで、空気を切り裂くような声がした。振り返ると、目に涙を溜めた祐希がいる。
「私が代わりになる! だからお願いっ、沙綾香を少しだけでも休ませてやって! もう見てらんないよっ!!」
 その叫びで、沙綾香がこっちを向く。とはいえ表情は虚ろで、意思は全く読み取れない。
「いいや、代わるのは俺だ! 沙綾香の代わりに、俺が引き受ける!」
「あ……あたしも! ここで観てるより、ずっとマシだもん!」
 藤花と千代里も、沙綾香の身代わりに名乗りを上げる。そして驚いたことに、あの桜織まで沙綾香の名前を呼んでいた。
 端塚がこっちを振り向き、考え込む素振りをする。
「……いいだろう。お前達にも苦しみを味わってもらう。ただし、後悔しても知らんぞ」
 意外にあっさりと許可が出た。だがそれは、単に祐希達の意を汲んでの答えではないだろう。それだけは間違いない。


                ※


 倶楽部側が指定した調教師の相手をすること。
 どんな行為を求められても、拒絶や反抗をしないこと。
 これが、端塚の提示した『身代わり』の条件だ。
 祐希達はもちろん顔を曇らせたが、身代わりを申し出ている立場上、どんな悪条件でも呑まざるを得ない。
「まずは、お前からだ」
 端塚が、引き連れた牢番に祐希の木枷を外させる。鉄格子の鍵は開いているが、牢番は牢内に2人、外に4人張り付いている。流石に制圧は無理だろう。念のため藤花の顔を見ても、『無理だ』とばかりに目を閉じる。
「せいぜい耐えてみせろ。お前が意識を保っている間だけ、八金 沙綾香を休ませてやる。あの娘がどれだけ自我を保てるのかは、お前の忍耐に掛かっているぞ」
 牢の外へ連れ出される祐希に、端塚が告げる。その間にも鉄格子の向こうでは、沙綾香の半狂乱の叫びが聴こえ続けている。
「そう。じゃあ、ずーっと耐えてみせようかな」
 祐希は爽やかな笑みでそう言い残し、牢番に連れ去られていく。

 その数分後、沙綾香の左横にあるモニターの映像が切り替わった。祐希と、それを取り囲むギャングじみた連中が映っている。タンクトップで上半身の筋肉と肩のドクロタトゥーを誇示する男。唇にピアスを開け、アゴ髭を蓄え、ダボダボの迷彩ズボンで下半身を大きく見せている男。ドレッドヘアが特徴的な色黒の男。金髪に深い剃り込みを入れている男……。どれも見覚えのある顔ぶれだ。
「あいつらは……!」
 藤花が青ざめた顔で呻く。そう。映像に映っているのは、この大和男児の首を落とした連中だ。

 ────どんな行為を求められても、拒絶や反抗をしないこと

 相手があの連中となれば、端塚の提示したこの条件が重みを増す。
 ここで白衣の女がスイッチを切り、部屋に響き続けていた駆動音が止まった。
「……ハアッ!ハアッ!ハアッ!ハアッ!ハアッ!!」
 沙綾香が脱力し、死に物狂いで酸素を求めだす。
「始めろ」
『了ー解ッス、オーナー!』
 端塚の指示を受け、画面向こうのドクロタトゥーや迷彩ズボンが、嗜虐心に満ちた笑みを浮かべた。

 まず行われたのは、輪姦だ。床に引き倒した祐希を、圧し掛かるようにして犯す。バンバンと容赦なく腰を打ちつけ、頬を叩き、乳首を捻り上げ、首を絞めるサディスティックなやり方で犯し、最後には当然のごとく膣内射精する。それを人数分繰り返した後は、割れ目から白濁を零す祐希の髪を掴み、這う格好にさせてイラマチオを強いる。胃液が垂れようが、吐瀉物が溢れようが、一切構わない。挙句その最中にも、祐希の尻や腹にはブーツで蹴りが入れられる。
 その輪姦を足掛かりに、鬼畜共の責めはヒートアップしていった。
 シャワールームで頭から小便をぶっかけ、6人がかりで尿を飲ませたり。
 水を溜めた浴槽に、顔を沈めながら犯したり。
 尻をパドルで真っ赤になるまで打ち据えたり。
 吊るしてエアガンの的にしたり。
 浣腸を施した上でアナルを犯し、汚物を垂れ流させたり。
『抵抗すんじゃねーぞ。抵抗したら、もうイジメてやんねーからな!』
『オラ、笑えや。仏頂面してんのも抵抗だぞ?』
 こういう脅し文句は聞き飽きるほどに聞いた。プレイの終了は、同時に沙綾香の休憩の終わりを意味する。だから祐希は、何をされても黙って受け入れるしかなかった。
 だが祐希にとって本当につらいのは、行為自体よりも、それを見守る颯汰の言葉だろう。
『うーわお前、そんなんで感じてるわけ? 引くわー』
『抱く気なくすわ、正味』
『いやいやいや、それは流石に拒否れって!』
 奴も所詮は倶楽部の調教師ということか。あれだけ特別扱いしていたはずの祐希に、容赦のない罵詈雑言を浴びせかける。そしてそれは、確実に祐希の心を抉った。
『うっ、ふぐっ……う、ひぐっ……!!』
 顔をグシャグシャにして、涙をボロボロと零す祐希。精神的にかなり“来ている”のは明白だ。
『ゆ、祐希っ、もういいよ! そんなのやめて!!』
 沙綾香はモニターを見ながら、同じく涙を零していた。ともすれば、自分が責められている時以上に悲痛な顔で。
 端塚が、なぜ祐希達の身代わりを許可したかがわかった。級友に犠牲を強いることで、友達想いな沙綾香の心を疲弊させることが目的なんだろう。
 そして、友達想いなのは祐希も同じだ。
『はぁっ、はぁっ、はぁっ……。だ、大丈夫だって……ゆっくり休みなよ、沙綾香』
 祐希はボロボロになりながらも、フッと綺麗に笑ってみせる。どこまでも爽やかな、王子様の笑顔だ。
『へーぇ、大丈夫なんだあ? さすが体育会系、元気だねー』
『いや、まだ甘ェって。うーっし、元体育会系のセンパイとして、マグナムチンポでシゴキ入れてやっか!』
 鬼畜共は祐希の健気さをからかいつつ、メリメリと肛門へ挿入する。俺の見間違いならいいが、すでに一本入っている場所への挿入……二輪挿しだ。
『はぐっ!? あがっ、う、あア゛……っ!!』
 祐希は歯を食いしばり、脂汗を垂らして苦しみ悶える。そしてその被虐は、彼女が気を失うまで終わらない。
『おら、マンコ満杯記念だ。ピースしろピース!』
 肛門に太い物が捻じ込まれ、その上では開ききった陰唇からドロドロと白濁が流れ落ちていく。しかも体中には、マジックでびっしりと卑猥な言葉が書き込まれている。そんな中で祐希は、髪を掴まれて顔を上げさせられ、指で口の端を押し上げて笑みを作らされた。
『あーあー、こりゃひでえ。マジでゴミだな、こいつ』
 駄目押しとばかりに、颯汰が冷たく吐き捨て……祐希が意識を手放したのは、その直後だった。

 気絶した状態で連れ帰られた祐希に、改めて木枷が嵌められる。その二穴はぐっぱりと開ききり、精液が溢れている。体中の卑猥なラクガキは、悪意に満ち満ちている。
「祐希、こっち来て。身体、洗わないと……」
 同じく木枷をつけた不自由な身ながら、千代里が洗い場のホースを手に取った。
「そうだね……ありがとう」
 祐希はそう呟き、頭から水を被りながら、しゃくり上げはじめる。見た目はボーイッシュでありながら、その姿は失恋した乙女そのもので、かける言葉が見つからない。そして、その状況に追い打ちをかけるように、耳障りな重低音が聴こえてくる。
「いぎイい゛ッ! ま、また……あッ、ぃぎぎ……ぐぎゃああああ゛ッッッ!!」
 薄暗い空間に、再び沙綾香の悲鳴が響きはじめた。

                ※

 沙綾香の狂乱ぶりを散々見せつけ、祐希達が何度も身代わりを申し出た末に、ようやく一度認められる。今は、その繰り返しだ。

 二人目の身代わり役は、千代里。調教師は、桜織を壊したタコ部屋労働者50人。どうやら意図的に、クラスメイトを壊した相手を宛がっているらしい。
『こりゃあまた、ガキくせーな。桜織とどっこいだぜ』
『ああ。俺らはつくづくチビに縁があるらしい』
『ま、いいじゃねえか。こいつもルックスは上々だ』
 タコ部屋の連中は軽口を叩きながら千代里を取り囲み、逸物を取り出した。使い込まれ、皮の剥けきった赤黒い逸物。連中はそれを千代里に咥えさせ、頭を掴んでのディープスロートを強いる。ガコガコと独特の音をさせる蹂躙。千代里は、喉奥耐性ができているせいか吐きはしない。だがそのせいで、男共は躍起になって吐かせようとする。
 仁王立ちで、マウントで、ブリッジの体勢で、後頭部を踏みつけて、左右交互に、首を絞めながら……考えつく限りのハードなやり方で、喉奥が凌辱された。
『う゛むっ、お゛エっ! んもお゛っ、ほごっ、んもおおええ゛エエ゛ッ!!』
 千代里は流石にえずき上げ、顎は夥しい量の唾液や胃液で汚れていく。
『へへへ。お嬢ちゃんよう、人前で見せちゃいけないツラになってんぜ?』
 休みない喉奥凌辱が数十分も続けば、千代里はほぼ白目を剥いた状態に追い込まれてしまう。咥えさせている男は、そんな千代里の口から唾液塗れの逸物を抜き出し、扱きはじめた。
『そら、“白粉”のおかわりだ!』
 飛び出た精液が、千代里の顔に浴びせかかる。すでに何人もが同じことをしているせいで、千代里の顔はドロドロだ。顔中が固まった精液で厚化粧したようになっていて、髪まで汚れている。あどけなさの残る天使のような顔立ちだけに、その異様さは際立っていた。
 それでも千代里は、一向に気を失わない。意識を保っている証明として、両手で2人の逸物を扱き続けている。
『ずいぶん頑張るじゃねーか、お嬢ちゃん。早ぇとこ気絶しねえと、前も後ろも使いモンにならなくなるぜ?』
 千代里の背後に立つ一人が、画面下を見下ろして笑う。
 映像内の千代里を苦しめるのは、ディープスロートだけじゃない。深く腰を落とした下半身では、ゴムパンツが歪な盛り上がりを見せている。前後の穴を埋めるのは、直径6センチ……つまりはペットボトル大の極太バイブだ。小柄な千代里にとって、相当な負担に違いない。
 それでも千代里は、青ざめた顔に生気を取り戻し、正面のカメラを睨みつける。普段の彼女からは想像もつかない、相当な剣幕だ。
『……私だって、怒るんですよ……! 自分が嫌な事されたって、わりと我慢しちゃう方だけど……友達をいじめる人は、キライ!』
 千代里はそう言い放ち、その後、実に2時間近くも凌辱に耐え抜いた。

                ※

 3番目の藤花は、意外にも祐希や千代里以上に苦戦していた。相手は、颯汰と健二……祐希を女にした2人組だ。場所も地下15階の和室で、祐希の調教をそのままなぞる形となっている。
『貴様……祐希に謝れ! 乙女心を弄んで、この外道が……!!』
 前後から挟まれる形で犯されつつ、藤花は颯汰を睨みすえる。
『人聞きの悪いこと言うなよ。あっちが勝手に惚れてきたんだぜ』
 颯汰は悪びれもせず腰を遣い、藤花を追い詰める。
 この倶楽部で色々な調教師を見てきたが、やはりあの2人の技量は卓越している。二穴責めのタイミングといい、乳房やクリトリスの弄り方といい、あまりにも手慣れている。反骨心の強い藤花でさえ、ぐちゅぐちゅと愛液の音がするまでに5分とかからない。
『あっあ……あ、あっ……あっ…………』
 ずいぶんと堪えてはいたものの、じきに甘い声も漏れはじめる。祐希はそれを、複雑な表情で見つめていた。親友への同情と嫉妬が入り混じった顔だ。
『ははっ。もうイッてる』
 藤花の腰がぶるっと震えた瞬間、颯汰が笑った。そして奴は、喘ぐ藤花の口を奪いにかかる。
『うむ゛っ!?』
 藤花は目を剥いて拒絶の意思を示したが、何をされても受け入れるという条件がある以上、拒みきれない。結局は観念して目を閉じ、不本意な口づけを受け入れるしかない。そしてそれが、致命傷となった。
『れあ゛っ、あえあ゛っ……あえ゛っ、ふぇあ……っ』
 颯汰と舌を絡ませ合ううちに、藤花の息が乱れはじめる。腰も妖しくうねりだし、ついには細く開いた眼さえも芯を失くす。
『んちゅっ、はあ、えあ……あ…………』
 とろんと蕩け、濡れたような眼は、完全にメスのそれだ。その最中、藤花ははっと目を見開く。
『あやっ、やめろ、やめっろおおっ!!』
 唾液の糸を引きながら、弾かれたように顔を引く藤花。その顔は驚愕に満ちていて、本気で堕とされかけていたことが伺える。
『あれ、何されても拒絶したらダメなんじゃなかったっけ?』
 颯汰が嘲るように笑うと、藤花の顔が歪んだ。睨もうとしても睨みきれない、という風だ。二度目に口を貪られると、その目はますます張りを失い、泣く寸前のようになっていく。腰のうねりも、ぬじゅぬじゅという水音も、酷さを増していく。

『……すげぇな。もう何十回イッてんの? 男勝りなポーズしといて、本性エロすぎでしょ』
 さらに時が経てば、藤花は喘ぐばかりになっていた。畳に寝そべる颯汰に、自ら覆いかぶさるような格好での二穴責め。腰は逸物の抜き差しとはまた別のリズムでうねり、激しい痙攣を続けている。背後の健二が乳房を揉みしだけば、母乳が噴き出すこともある。もちろん、前もっての調教の成果だろうが、高い興奮状態にあるのは間違いない。

 それでも、藤花は頑張った。前後の穴で精を搾り取り、颯汰と健二を続行不能の状態に追い込んでもなお、意識を失ってはいなかった。彼女の不幸は、隣の部屋に颯汰の取り巻きが控えていたことだ。
 女共は、颯汰の敵討ちとばかりに藤花を嬲った。しかも、その責めというものにまた容赦がない。煎餅布団の上にうつ伏せで寝かせ、尻穴にバイブを突っ込んで絶頂させる。
『すっご。こいつ、まだ気ィ失わないの?』
『もう意識保てるギリギリでしょ』
『だろうね。寝かせとくだけでそのうちオチるだろうけど、ついでにこのユルユルのケツで遊ぼっか』
 女共はそう言って、様々な責め方を試しはじめた。ピンポン玉を詰め込んでから、太いバイブを抜き差ししたり。ローションをなみなみと注ぎ入れ、潤滑を良くした上でビール瓶を突っ込み、恐ろしい勢いで抜き差ししたり。
 歯を食いしばって堪えていた藤花も、このビール瓶の段階で第一の限界が来た。滑りの良さに任せてビール瓶が深々と叩き込まれるうち、太腿が力み始める。
『んおおおおお゛オ゛オ゛ッッ!!!!』
 地鳴りのような叫びが漏れたのも、責めの激しさからすれば当然の結果だ。だが取り巻きの女共は、それを面白がって責めを継続する。ビール瓶の口を両手で握りしめ、体重をかけて真上から突き下ろすようにしはじめる。そこまでのことをやられれば、藤花といえど耐え切れない。脚の筋肉を壮絶に盛り上げ、尻穴の奥からぶりいっ、ぶりいっ、と便のような音をさせ、ついには煎餅布団に向けて壮絶な勢いで潮を噴き散らす。
『ふぁあああああッ!!!!』
 潮噴きの最中に上がった悲鳴は、情けないものだった。いかに心身を鍛え上げていようと、極限状態ではああなってしまうものだろう。だがそれもまた、意地の悪い同性を調子づかせる結果となった。
『アハッ、声えぐっ!』
『なんか興奮するよね。あのいかにも武道家ですって感じの女が、こんなになってるとか』
『ね、ね。次コレ突っ込んでみよーよ!』
『うっは、マジ!? えげつなっ!』
『でも、余裕で入るでしょ。ビール瓶で拡がってんだからさ!』
 そんな会話の後、ビール瓶が抜き去られる。そして、ぽっかりと口を開いた肛門に今度は電気マッサージ器が突っ込まれた。
『あぐううっ!?』
 藤花は眼を剥いて悲鳴を上げ、背後を振り返ろうとする。だがマッサージ器のスイッチが入れられれば、振り返るどころではなくなった。
『んほおっ、おおお……おおおおお゛お゛イグッ!!!』
 背中を反らして痙攣し、低い呻き声を漏らし続ける。その姿を海老のようだと馬鹿にされ、とうとう藤花の目から涙が零れ出す。
 十数分後、マッサージ器が抜き出されると、出きっていなかったピンポン玉が勢いよく飛び出し、また女共の爆笑を呼んだ。
『はあ、はあ、はあ……もう、やめで、ぐれ…………』
 藤花は布団に突っ伏したまま、枯れたような声で呻く。あの藤花が音を上げるというのは、余程の状態だ。だが、女共の暴走は止まらない。
『まだまだ、レズセックスはこれからよ。今度は、特製のぺニバンで可愛がったげる!』
 目を爛々と輝かせた一人が、下半身にペニスバンドを装着しはじめた。前に突き出た疑似ペニスのサイズがとんでもない。あの黒人共の持ち物と同等……ジュース缶2本分ほどの太さと長さがある。
『あはっ。それって、祐希の折檻用に持ってきたやつじゃん。結局入んなくてやめたけど』
『そ、よく覚えてたね。こいつって、祐希の友達らしいしさ。代わりに味わってもらおうよ』
 女はそう言って藤花に覆いかぶさり、極太のペニスを真上から抉り込む。
『んぐうううっ!!!』
 藤花の背中が仰け反り、脚が強張った。責め役の女の脚もちょうど上に乗っているから、曲線的な女らしい脚と、鍛え込まれた筋肉質な脚の違いがよく解る。
 嗜虐の悦びのせいか。女は折れそうに細い腰で、力強いピストンを繰り返した。バンッ、バンッ、バンッ、と腰をぶつける音は、下手な男のそれより大きい。
『あはっ。こいつ、もうイってる』
 女は布団に両手をついたまま、結合部を見下ろして笑う。
『ぁイグっ、イグッ、イグッ…………!!』
 うわ言のように繰り返される藤花自身の言葉も、絶頂の事実を裏付ける。
 そして、レズレイプが始まってからわずか10分ほどで、藤花の下半身から力が抜けた。顔も、上体も、布団に突っ伏したまま動かなくなる。
『あれ、もしかしてオチた? おーーい』
 犯す女が頬を叩いても、やはり反応はない。
『なーんだ。ヤるだけヤッたら、みんなでコレ使い回そうと思ってたのに』
 女がそう言って身を起こすと、ぶりゅっと音を漏らしながら疑似ペニスが引き抜かれる。その表面には、何かの粘液がたっぷりと纏いついていた。

 牢に戻ってきた時点でも、藤花は千鳥足だった。
「……しばらく、俺のことは無視してくれ……! 後生の頼みだ……っ!」
 木枷を嵌められた後、脚を閉じて俺達に背を向ける。その直後、腰が痙攣し、ぶびゅるっという音で液が噴き出す。
「んおおおお……っ!!」
 俯く顔からは、噛み殺したような声も漏れていた。
「…………大丈夫、藤花…………?」
 堪りかねて、という様子で祐希が声を掛けると、藤花の顔がゆっくりと祐希を向く。
「はあっ、はあっ……祐希、すまなかった。調教師に惚れたというお前を、軟弱だなどと詰って」
 藤花はそう言って、ぶるっと震え上がる。
「身を以って理解した。あんなもの、長くは耐えられない……。一日中やられていたら、俺だって……!」
 固く股を閉じて縮こまる藤花。その姿は、彼女の余裕のなさを物語っている。
 だが結果として、彼女は時間を稼いだ。2時間もの間、沙綾香を休ませることができた。

                ※

 4人目の桜織は、カエル腹になるまで浣腸された上で犯された。竿役は、千代里にディープスロートを仕込んだ地下16階の調教師だ。繰り返し喉奥に突っ込んで嘔吐させていた連中だけに、どいつも逸物は大きく、サドの気も強い。腹の膨れた桜織に対しても、容赦などしない。
『へへっ。最近はノドばっか犯してたから、久々のマンコがえらく気持ちいいぜ。浣腸で良い感じに圧が増してるのもたまんねぇや!』
 どいつも上機嫌に笑いながら、桜織の腰を掴んで乱暴に腰を打ちつける。
『あっ、あはっ! す、すごっ……ずっと、おひんぽほしかったの……! いひっ、ひもひ、いいっ…………!!』
 激しいセックスに、桜織は最初、涎を垂らしながら喜んでいた。だが、その様子がだんだん変わってくる。
『お゛っ、お゛ほっ……お、お゛……ぅお゛、おお゛お゛ッ!!』
 腹から鉛でも吐き出すかのような、苦悶の声。顔の汗はひどく、下腹部も激しく鳴っている。
『なんだなんだ、えれぇ声でヨガりやがって。そんなにハードファックが気持ちいいのか? それともまさか、苦しいのかよ!?』
 調教師はその異変を察知し、わざわざ腹を揉みしだく。
『んぐうう゛う゛っ!!』
 さしもの桜織も堪らないらしく、脚を内股に閉じながら、必死に男の手を握りしめる。
 だが、折れない。
 気絶もしなければ、浣腸液を漏らしもしない。プレイ終了の条件であるその2つを満たさないよう、何度も白目を剥きながら堪えている。そしてそれは、間違いなく沙綾香の事を思ってのことだ。
『おほっ、ほおおっ…………! はあっ、はあっ、はあっ……!! しゃ、しゃあか……さあ、か…………っ』
 後背位で犯されながら、桜織は何度も沙綾香の名を呼んだ。腹部が唸りを上げても、肛門栓が盛り上がって汚液が滴っても。
「委員長……委員長っ!!」
 ボロボロと涙を零す沙綾香に、桜織は、微かな笑みを返してみせる。見た目が変わり果てていようと、そこにいるのは間違いなく、あの三つ編みの優等生だ。

『ンおお゛おお゛お゛お゛ッッ! 』
 桜織がケダモノの声と共に汚液を噴き出し、気を失ったのは実に3時間後。調教師達も呆れるほどに長く、沙綾香を休ませてみせた。


                ※


「千代、千代おおっ!!」
「藤花、もう気絶しちゃっていいよ! もう十分だからっ!!」
「委員長、無理しちゃダメ! それ以上は、本当に……!!」
 級友が地獄を味わう間、沙綾香は涙ながらに相手の名を叫んでいた。肉体的には休めても、心は確実に磨り減っているはずだ。
 そもそも、数時間単位で休めるとはいえ、そんなものはあくまで一時しのぎでしかない。祐希達が気を失えば、ファッキングマシンによる無慈悲な責めが再開される。
 子宮口への振動で昂らせ、追い詰めてから、子宮頚管への挿入で悶絶させる……それが何時間続いたことだろう。久々に検診台から下ろされた沙綾香は、とても立つことなどできなかった。
「ベッドへ運べ」
 端塚の指示で、白衣の男が沙綾香の両脇を支えて歩かせる。その中でも沙綾香は、一歩を踏み出すたびに、あ、あ、と絶頂を思わせる声を発していた。最後にベッドへ抛られる時も、尻から着地した直後、ビクビクと全身を痙攣させた。俺達にとっては恐ろしいが、サディストにとってはさぞや面白い反応だろう。それまで仏頂面を貫いていた洗脳班の連中すら、一瞬笑いを浮かべていた。

「音を上げずによく耐えたな、八金 沙綾香。だがそろそろ、血の通った男根が欲しくなってきただろう」
 端塚がタキシードを脱ぎ捨てる。膨れた亀頭と3つの雁首、歪な竿を持つペニスが露わになる。
「っ……!」
 沙綾香は顔を歪めるが、逃げ出す力さえ残ってはいない。ベッドを軋ませて迫る端塚を、涙目で睨むのが精一杯だ。
「薬を」
 端塚の指示で、白衣の男が沙綾香の腕に注射針を宛がった。底の部分が押し込まれれば、キュゥゥッと音を立ててシリンジ内の薬液が注ぎ込まれていく。
「っ……!!」
 沙綾香は露骨に顔を顰めるが、また別の男に肩を押さえられて抵抗できない。
 注射から、ほんの数秒後。沙綾香の目が鮮やかさを失う。とろんとした、泥酔に近い瞳。唇も締まりを失って開きかける。だが沙綾香は、すぐに首を振り、改めて端塚を睨む。端塚は、その様子をじっと観察していた。
「いくぞ」
 テニスボール大の亀頭が、割れ目に押し当てられる。それは、濡れ光る陰唇を左右に割りひらき、ぶじゅうっと音を立てて滑り込んだ。
「んぐうっ!!」
「気持ちがいいだろう。膣の奥ばかり刺激されて、浅い部分は生殺しの状態だったからな」
 端塚は沙綾香の反応を愉しみつつ、さらに腰を押し進める。挿入が深まるほど、沙綾香の眉間の皺が深くなる。
「ふふふ、奥も随分と歓迎してくれるものだ。機械でも刺激は得られるが、やはりナマの生殖器は格別だろう。なに、恥じることはない。生物の究極の目的は繁殖だ。優秀な雄とのセックスを快く思うのは、自然の摂理だ」
 端塚は挿入を深めつつ、諭すように沙綾香に囁きかけた。その言葉を耳にしてか、沙綾香の手がぴくりと反応する。
「……ふーん、そうなんだ。道理で、センセとのセックスの方がキモチいいわけだよ。だってセンセの方が、あんたより、ずーっと優秀だもん!!」
 顔を歪めながらも、はっきりと宣言する沙綾香。その言葉に、端塚の動きが止まる。
「…………ああ、そうだな。そんな事は知っている。だからこそ足掻いているのだ! 不本意ながらに薬を使い、機械に頼ってな!」
 端塚は苛立ちも露わに髪を掻き上げた。
 俺を意識しているという点では、沙綾香と端塚は同類なのかもしれない。ただし、沙綾香の想いが暖かな光だとすれば、端塚のそれは呪いそのものだ。
「過程がいかに無様であろうと、結果を残せればそれでいい。私のセックスで、『先生』の記憶を上書きしてやろう」
 唸るような言葉の後、奴は一気に奥を貫いた。
「んぐうっ!!」
 沙綾香が目を瞑る。痛みにも見えるし、快感ともとれる反応だ。そんな沙綾香を、端塚はさらに追い詰める。両肩を押さえつけて前傾を深めつつ、股をこじ開け、鍛え込まれた腰を打ちつける。パンッパンッという音の響きは、長く取ったストロークのせいか。赤黒い怒張が、根元まで打ち込まれては、裏筋の見える位置まで引き抜かれる。凶悪な雁首や幹の凹凸が、抜き差しのたびに膣壁を抉り、巨大な亀頭が子宮口を叩き潰す──それが目に見えるようだ。
 腸が煮えくり返る。惚れた女が目の前で抱かれている事実すら、受け入れがたい。しかも、相手はあの逸物。あんな物で力強く突かれれば、恋愛感情がなくとも感じてしまうに決まっている。
「はあっ、はあっ……っく、はあ、はあっ…………!!」
 沙綾香は最初、端塚を睨みながら耐えていた。だが数分もすれば、顎が浮いてくる。白い喉がすべて晒され、後頭部がシーツにめり込み、全身で絶頂を訴えるようになる。
「お゛っ、お……! んん゛おっ、ほお……お゛お゛っ!!!!」
 ドナン後のアナルセックスや、ダリーの後背位でのセックスで出ていたような、濁りきった呻き声。それが出てしまうのもわかる。子宮口付近を機械でいじめ抜かれた上で、あんな圧し潰すようなピストンを受ければ、そのぐらいの反応は当然だ。

 打たれた薬のせいで、余計に消耗してしまったのか。20分もすると、沙綾香の反応はほとんどなくなった。大股開きの両脚は、全ての足指を反り返らせたまま痙攣している。上半身は、反り返ったまま静止している。
 逝きすぎだ。少しでも休ませるべき場面だが、端塚はそうしない。沙綾香を抱き起こしたままベッドを降りる。いわゆる『駅弁』の体位だ。
「お゛っ!!」
 改めての挿入で、沙綾香から呻きが漏れた。ほとんど白目を剥いていた状態から黒目が戻り、瞳孔が開く。
「お゛っ、お……あっ、あはあ゛っ、お゛あ゛ーーーっ!!!」
 体位が変わったせいか、声もさっきとは違う。苦しそうではないが、代わりに甘い。明らかな快感の喘ぎに聴こえる。
「子宮が出来上がっている時は、この体位が特に効くだろう。自重と突き上げでポルチオが挟み潰されるからな」
 端塚の言葉は、俺と沙綾香の両方に向けたものか。奴は齢を感じさせない肉体で、力強く腰を遣う。
「あああ゛っ、ああっ、はぁうっ!! やあ゛、奥まで……あふう゛、うぐううう゛っ……!!」
 沙綾香は、悶え狂っていた。あの体位なら相手にしがみつくしかないが、そうはしたくない。だからといって無理な姿勢で耐えれば、余計膣に負荷がかかる。そんな地獄だ。
「入念にほぐした甲斐あって、だいぶ子宮口が開いてきたな。亀頭の先に肉の輪が嵌まり込んで、なかなか具合がいいぞ。お前も気持ちいいだろう? 存分に味わえ、『神』のペニスをな」
 端塚の手が沙綾香の尻を掴み、下に押し付ける動きを見せた。あんな事をすれば、ただでさえ強い膣奥への刺激がさらに強まる。
「あぐうう゛っ!? あひはっ、はひっ、はひいっ!! っく、う~~~~~~ッッッ!!!」
 沙綾香はその駄目押しで、完全に余裕を失った。声にもならない叫びを上げながら、端塚の首にしがみつき、腰を抱え込む形で足首をクロスさせる。まるで、恋人にそうするように……いつだったか、俺に対してそうしてくれたように。
 ぶじゅっ、ぶじゅっ、という音と共に、沙綾香の尻から雫が滴っていく。突かれるごとに潮を噴いているらしい。
「そうだ。お前は、『神』に犯されている。お前が縋る存在は私だけでいい。甘い快感に蕩けながら、私の事だけを考えていろ」
 端塚はほくそ笑み、スパートを掛ける。水音が窮屈さを増し、沙綾香の太腿が膨れ上がる。
「あああ゛あ゛っ!!!」
 あるタイミングで、沙綾香が悲鳴を上げた。その悲痛さで、何が起こったのかが解ってしまう。
「子宮へ直に射精されたのがわかるか?」
 ガクガクと痙攣する沙綾香の耳に、端塚が吹き込む。やはり、悲鳴の原因は射精だった。膣内射精どころか、開いた子宮口の中……子宮内への射精。
「これからは常にこうだ。私の精子を、直に子宮にくれてやる」
 端塚の宣告に身の毛がよだつ。沙綾香を自分の物にしようとするあいつが、避妊など考えているはずもない。あの黒人共と違って、しっかりと活きた精子を注ぎ込んでいることだろう。しかも、子宮へ直に。その先に何が起きるのかは、考えるまでもない。
「や……やだ、やだああ……っ!!」
 沙綾香が弱々しく首を振る。だが彼女には、抗うだけの体力が残っていない。そして俺もまた、その暴挙を止められる自由がない。

 怒りで、気が狂いそうだ。


                ※


 弱った沙綾香を追い込むためか。端塚のセックスは、延々と続いた。水分補給と2度目の注射を挟んでベッドに戻り、後背位で犯し抜く。パァンパァンと明瞭な音の響く、力強いセックスだ。
「ふあああッ、ぃくっ、ひイクぅっ!! あ、また、またっ……ああああ゛っ!! まって、今イってるから、イ゛ッてるからぁ゛っ!! ちょっと、休ませてよおっ!!!」
 沙綾香は、何度も『イク』と発言していた。あの子の立場で考えれば、端塚相手に絶頂を告白するなど屈辱の極みだろうに、意地を張る余裕すらないんだろう。
 そんな沙綾香に、端塚は一切の容赦をしない。やはりストロークを長く取り、歪なペニスで与えられる限りの快感を与え続ける。
「んはああぁあっっ!!」
 5分ほど経った頃、沙綾香は這う格好を保てなくなった。余裕のない叫びを上げ、ベッドに突っ伏す。すると端塚はその上へ覆いかぶさり、真上から腰を打ちおろす責め方に変えた。『寝バック』というやつだ。あの責め方はやばい。快感をどこにも逃がせないのが、見てわかる。
「う、ああ……あああああ゛っ!! だめっ、おく……おくがああ゛ッ!! ひいいぃっ、だめ、奥、イク……いっちゃう゛う゛っ! ん゛っ、んんんっ、ん゛ーーーっ!!」
 沙綾香は、また半狂乱に追い込まれた。『奥』という言葉を連呼し、顔をぐしゃぐしゃにして叫ぶ。シーツを噛んでみても、まったく声が殺せていない。
「またイッたか。これで何度目だ?」
「はーっ、はーっ……ひらない、あかんあい……んはっ!? いやっ、まっへ! いま、動かなぇで……! まら、すごいの……いっい、ひク! イ、グ……ぃいあああ゛ッッ!!!」
 意識が朦朧としはじめているのか。端塚の問いに答えようとするも、呂律が怪しい。端塚は、その様子を見て目を細めた。
「おい、目隠しを」
 端塚は白衣の男に指示を出し、沙綾香にまずアイマスクを被せ、さらにその上から黒いレースで覆った。妙に厳重な隠し方だ。
「どうだ。視覚を奪われると、余計に感じやすくなるだろう」
「んはぁああ゛っ! はあっ、らめ、怖ひいぃっ!!」
 端塚が腰を打ちつけた瞬間、沙綾香の全身が痙攣した。確かに感度が上がっているらしい。だが、奴の狙いはそれだけではないようだ。
 さらに何度か絶頂させ、沙綾香をほぼ無反応な状態まで追い込んだところで、端塚は逸物を抜き出した。
「う、あ……」
 巨大な亀頭が抜けた瞬間、沙綾香から小さな呻きが漏れる。だが、反応はそれだけだ。失神しているのかもしれない。端塚はそれを見て、洗脳班の男に合図を送る。
 男が無線で何かを発信した、その数分後。祭壇横の扉が開き、男が姿を現した。1人、また1人と続き、計4人。年こそ若いが、端塚とそっくりの肉付きをしている。そして、それだけじゃない。下半身にそそり立つペニス……それすら、端塚の物と瓜二つだ。あの歪な形状に、偶然似ることなどありえない。間違いなく、端塚に似せて“作り上げた”ものだ。
 端塚が、先頭の1人に目で合図を送る。その男は頷いてベッドに上がり、動かない沙綾香の腰を掴み上げると、躊躇いなく挿入した。端塚の精液がまだ残っているだろうに、気にする様子はない。
「はああっ!」
 端塚と同じペニスだけに、挿入感も同等なのか。沙綾香が大きく息を吐き出す。男はそんな沙綾香の腰を掴み、一定のリズムで腰を打ちつけはじめた。

 ……何か、妙だ。他人の後背位など見飽きるほどに見てきたが、そのどれとも感じが違う。
「なんか……あの人、怖い。人形みたい」
 ふと、隣で千代里が呟いた。それで、違和感の正体が判る。“熱”だ。ケダモノじみた黒人共はもちろん、老獪な手越でさえ、沙綾香を犯す際には相応の“熱”が感じられた。だが、あの男にはそれがない。感情のない人形のように、淡々と沙綾香を突き続けている。その冷徹な雰囲気は、人間というよりファッキングマシンのそれに近い。
 単純なピストン運動ではあるが、沙綾香は辛そうだ。
「はっ、はっ、はっ……!!」
 沙綾香は這う姿勢のまま、全身を強張らせる。大口を開けて震えるのは、何度も絶頂に追い込まれているせいだろう。そのうち腕が力を失い、ベッドに突っ伏してしまうのも、快感が強すぎる証拠だ。
 度重なる中逝きで敏感になっている上、あの女殺しのペニスとなれば、ただ腰を打ち込まれるだけでも堪らないらしい。
「ああ゛っ、あはああ゛っ……いく、いくうっ!!」
 沙綾香は絶頂を訴えながら脱力する。だが、犯す男に容赦はない。沙綾香の両手首を掴み上げ、背後に引き絞って、強引に身を起こさせる。
「ひいィぎいっ!!!」
 沙綾香から漏れた、繊維が引きちぎれるような悲鳴は、男の選択がどれだけ効果的かをよく表している。
「はあっ、はあっ、はあっ!! お、おねがい……ちょっとでいいから、休まへて……ほんろに、おかひくなっひゃいそう…………!!」
 沙綾香が哀願を口にした。いよいよ余裕がないらしい。すると端塚は、そんな沙綾香の耳に口を寄せた。
「駄目だ。お前は“私と”交わりつづける」
 “私と”?
 そうか……そういうことか。あの4人が、端塚と同じペニスを作り上げた理由がわかった。あいつらは、端塚の影武者なんだ。端塚は沙綾香に『神のペニス』の味を覚え込ませるつもりらしいが、一人では体力に限界がある。だから、自分と同じペニスを持つ影武者を用意して、代わりをさせているんだろう。
 薬漬けで意識が朦朧としている中、目隠しまでされては、相手が変わった事に気付くのは難しい。沙綾香にしてみれば、『端塚という男』と休みなくセックスしている感覚のはずだ。
 恐ろしい。だが、自分という存在を刷り込む上では、間違いなく効果的なやり口だ。

 ベッドの軋みが続く。1人目が挿入してから、そろそろ20分といったところか。恋人とのティータイムであればあっという間の時間だが、絶頂させられ続けている沙綾香にとっては、永遠にも感じられる長さだろう。
「あああまたっ、またイグ……んぎっ、きひいいいッッ!!!」
 沙綾香が歯を食いしばりながら震え上がる。強烈な力みの後に訪れるのは、強烈な弛緩。男が手首を解放すると、沙綾香の上体はシーツへ沈み込み、押しつぶされた乳房が左右に広がる。
 1人目の男は、そのタイミングで正面に目を向けた。そこには2人目が待機していて、黙って頷く。そして、2人は交代した。
「ひっ!? やめて! ムリだから、ほんとムリだからっ! さわんないでよおっ!!」
 腰を掴まれた沙綾香が、脚をばたつかせて男の腹を蹴る。しかし男は動じない。冷静に沙綾香の足首を掴み取り、挿入する。1人目と同じく、事務的な態度で。


                ※


 パァン、パァン、という音が、一定のリズムで繰り返される。メトロノームのようなその音は、聴いていると眠気が襲ってきた。だが、沙綾香は眠るどころではないらしい。
「んはああ、はあっ!! はあっん……奥、おくぅウう゛っ…………!!」
 2人目に犯されはじめてから、数分。沙綾香の表情が変わってきた。涎を垂らす口の端が、徐々に上がりはじめている。あれは、どう見ても笑みだ。
「いい顔になってきたな。“私”とのセックスが、そんなに嬉しいか」
 端塚が、また沙綾香の耳元に囁きかける。
「えっ……!」
 沙綾香は、ようやく自分の表情に気付いたらしい。唇を震わせ、虚空を見上げながら首を振る。
「そう無理をするな。お前は、“私”とのセックスで歓びはじめている。それは事実だ」
「ち、違う、違うっ!!」
 端塚がさらに言葉で追い詰めると、沙綾香は叫びながら身を起こし、死に物狂いで這いはじめた。もともとベッドの端近くで犯されていたから、その身体はあっさりとベッドから落ちてしまう。ベッドに残された2人目は、左に控える3人目に視線を送った。3人目は頷き、沙綾香を抱え起こしてベッドに手をつかせる。
「おねがっ……もお、やめ゛……っ!!」
 沙綾香は声を絞り出し、膝を閉じ合わせた。だが“影武者”は、背後から沙綾香の股に手を差し入れ、あっさりと股を開いてみせる。
「んっく、あああはああっ!!!」
 挿入時に漏れた叫びは、今まで以上に絶望的だ。誰が聞いても悲痛さは解るはずだが、この3人目にもやはり情というものはない。両手で股を開かせたまま、無機質に腰を打ちつける。さっきよりも通りの良い、スパァンッ、スパァンッ、という音が響きはじめる。
 犯す方の無機質ぶりに比べて、犯される沙綾香は肉感的だ。太腿は何度も震え上がり、やがては結合部から飛沫が上がる。
「あ、やっ、あ……もお、だめえっ! センセ、センセ……たすけて…………!!」
 沙綾香は震えながら、縋るように前へと手を伸ばす。だが、そんな場所に俺はいない。
「沙綾香っ!!」
 必死で呼び返すと、沙綾香が気付いた。
「センセ、どこぉ……!?」
 不安でたまらないのか、幼児のような声で左右を見回す。だがその途中で、膝がガクガクと揺れはじめた。集中力を欠いたせいで、辛うじて堪えていた刺激に耐えきれなくなったようだ。
 そんな沙綾香を、3人目の男は同じリズムで犯し続ける。相手が明らかな隙を見せても、腰の振りを早めないが、同時に緩めることもない。その機械的なピストンは、沙綾香を着実に崩壊させていく。
「あイグイグっ、ひグう゛っ!!!」
 沙綾香は立て続けに絶頂を口にし、脚もそれを裏付けるようにブルルッと震える。太腿を掴む男の手を握りしめ、なんとか状況の改善を図るものの、結局はどうにもならない。
「うぐううう~~~っ!!!」
 沙綾香は歯を食いしばり、なんともいえない声を漏らした。その直後、歪な逸物が引き抜かれると、栓が抜けたようにジョボジョボと尿があふれ出す。
「はあ、はあ、はあ……っ!」
 あまりの状況に、沙綾香はベッドに手をついたまま呆然としていた。だが、彼女の地獄はまだ終わらない。尻を突き出して震える沙綾香に、4人目の“影武者”が近づき、狙いを定めて挿入する。
「んくはっ!!」
 沙綾香は挿入だけで絶頂の反応を示すが、4人目はやはり無慈悲に腰を遣う。
 そしてそこから、延々とバックスタイルでのセックスが繰り返された。端塚本人を含めた5人がかりで、突きまくっては怒張を引き抜き、狙いを定めて挿入し、また突きまくる……を繰り返す。犯す方はせいぜい数分の運動で済むが、犯される沙綾香は交代の一瞬しか休めない。そんな状況が続けば、沙綾香の余裕はどんどん剥がれていく。
「あ゛ッ、はん……あ゛お゛っ、んひっ!! い゛っい、いぐ、イグッ……んお゛お゛っ!! お゛っ、おほっ、お゛ーーーっ!!」
 ベッドに手をつき、あるいは背中を反らしながら、あられもない声を上げ続ける沙綾香。厳重に固定された目隠しから、とうとう涙が伝いはじめる。それでも、地獄は終わらない。俺達の必死の叫びも、届かない。

「……オーナー」
 “影武者”の1人が、初めて口を開いた。奴の腕の中では、沙綾香がぐったりと項垂れている。気絶したがどうする、という伺いらしい。
 沙綾香が気絶しかけるのは、今までに何度もあったことだ。だがよく観ると、男がわざわざ確認を取った理由がわかる。
「ひっ、ひっ、ひっ……!!」
 沙綾香はひきつけを起こし、口から泡状の唾液を吐いていた。薬のせいか、絶頂しすぎたせいか。いずれにせよ普通じゃない。
「さ、沙綾香っ!!」
「サーヤっ!?」
 祐希や千代里が悲鳴を上げる。その反応が当然だ。ところが、端塚は落ち着いていた。
「強心剤を打て」
 白衣の連中を呼びつけて、さらりと指示を出す。指示を受けた方は、『本当にいいのか』と目で伺いを立てた。洗脳班の人間でさえ躊躇うほど、沙綾香の状態は危険らしい。だが、端塚はそのラインを超えさせる。
「構わん。ここを上手く乗り切れば、一気に精神汚染が進む」
 その一言で、白衣の男はやや大きめの注射器を手に取り、沙綾香の乳房の合間……心臓の辺りに針を打ち込む。
 一体、何を注射しているのか。その処置は正しいのか。端塚がゴーサインを出した根拠は。……まったく判らない。端塚は何か確信めいた表情を浮かべているが、それも俺の安心には繋がらない。
 ただ、しばらく後。沙綾香は意識を取り戻した。
「沙綾香っ!!」
 鉄格子に張りついていた俺は、感極まって叫ぶ。沙綾香も俺の声とわかったのか、嬉しそうな笑みを浮かべた。だがその笑顔も、すぐに消える。
「おはよう。良い夢は見られたか?」
 端塚はそう沙綾香に呼びかけ、ベッドを軋ませた。
「では、続けるぞ」


                ※


 意識が戻ったとはいえ、沙綾香の動きは鈍い。そんな沙綾香にも、端塚達は容赦をしなかった。子宮での絶頂を前提としたセックスを、休みなく強いる。
 屈曲位で、パンパンと凄まじい音を立てながら、杭でも打ち込むように犯す。あるいは、両足首を肩に担ぎ上げて。あるいは、膝を曲げさせて……。
 もちろん、そのセックスは5人がかりだ。抱いている奴は一定のペースで犯しつつ、別の人間にアイコンタクトを送る。するとそれを受けた人間が役目を代わり、別の体位で犯しはじめる。傍から見ればその交代は丸分かりだが、沙綾香は、ずっと同じ人間に犯されていると思うだろう。なにしろ、体格も、特徴すぎるペニスの形も同じなんだから。

 沙綾香の抵抗は、目に見えて弱まっていった。
「やえへ……ほんとにもう、やえへって……!!」
 最初のうちは、太腿に力を入れ、相手を押し返そうとしていたようだ。だがその弾力も、4人目あたりでなくなる。太腿の裏を手で押し込まれれば、あっさりと『マングリ返し』の恰好になり、深い挿入を許してしまう。相手がシーツに膝を沈め、力を篭めて奥をグッグッと突こうものなら、沙綾香の膝下は空中で暴れ狂った。その激しさは、快感の直撃を喰らっている証だ。
「はぐっ、おっほ、ぉお゛んぐっ!!」
 直上からの杭打ちに首を仰け反らせ、声を張り上げる。その絶叫が収まるたびに、沙綾香の身体から体力が失われていくのがわかる。
 4人目の奴がようやく腰を離しても、もはや沙綾香は大股開きの脚を戻せない。犯されていたそのままの形で、次の奴を迎えてしまう。
「がはあああぁっ、イクっ!! 奥でイクッ……! イグイグイグイグッ、イグうううっっ!!!」
 両足首を掴み上げる体位で犯されながら、沙綾香は叫びはじめた。その直前まではか細い喘ぎだったから、いよいよ異常に思える。
 そして、その心配は杞憂では済まなかった。そうして悶え狂った沙綾香は、逸物を引き抜かれた後も、シーツの上で動かなくなってしまう。
「オーナー、また……」
 “影武者”の1人が沙綾香を引き起こす。へたり込む姿勢に変わっても、目隠しをされた沙綾香の顔に精気はない。だが端塚は、あくまで冷たい表情を崩さない。
「続けろ」
 慈悲の欠片もないその一言で、地獄の責め苦が再開される。

 沙綾香はもう限界だ。
「ああああ゛っ!! ハァッ、ハァッ、ハァッ……! もう無理っ、もうやめで……奥、これ以上……っ!!」
 仰向けになった男に跨らされ、下から突き上げられる。その中で沙綾香は、苦悶の声を上げつづけた。身体の反応も悲惨そのものだ。前屈みで歯を食いしばっていたかと思えば、天を仰いで下腹部を痙攣させることもある。あるいは腰を掴む相手の手を握りしめ、いやいやと首を振ることもある。
「もういやっ、もおいやあああ゛あ゛っ!!!」
 そのうち、死に物狂いで身を捩り、這うようにして男から逃れようとしはじめた。だが、下になった“影武者”はそれを許さない。沙綾香の腕を掴み、強引に腰の上へと引き戻す。
「ふぁあああ゛ア゛っ!!」
 痙攣と共に発された声は、人間の喉から出るものとは思えない。
「い゛っでるっ、イ゛っでる、いっでるう゛っ!!!」
 狂気じみた悲鳴を撒き散らしながら、上半身がぐらぐらと前後に揺れる。その終わりには、相手の胸に手をついて前屈みになり、けぽっと音を漏らしながら嘔吐する。吐瀉物の量は少なく、色もない。唾液にも思えるようなものだが、あれは間違いなく嘔吐だ。

 沙綾香が3度目に失神した後、端塚は他の連中を退出させ、沙綾香の目隠しを取り去った。沙綾香は涙の溜まった眼を見開き、眩しそうにする。
「しゃぶれ」
 粘液にまみれた逸物を見せつけて、横柄に命じる端塚。沙綾香は、状況を把握して息を呑んだ。
「しゃぶれば休憩させてやる。嫌だというなら、続行だ」
「…………っ…………!!」
 端塚の言葉に、沙綾香の顔が引き攣る。何度となく啖呵を切り、断り続けてきた行為だ。だが本当の限界まで追い込まれた今は、断るという行為の重みが違う。一回だけでも危険な失神が、何度も続いているのは尋常じゃない。
「どうした」
 端塚がさらに問いかける。
「……っ!」
 沙綾香は手を握りしめた。断りたいが、断れない……その極限状態だ。そして、青ざめた顔が俺を見る。迷う理由は、俺への義理立てか。なら、俺はすべき行動は一つしかない。
 俺は、首を縦に振った。俺を想ってくれるのは嬉しいが、これ以上意地は張ってほしくない。信念を曲げてでも、壊れずにいられる方法を選ぶべきだ。百合の言う助けが来るまで。
 俺のその想いが通じたのか、沙綾香は唇を噛み締める。そして端塚に向き直ると、身を屈めてその股間に口を近づけた。
「そうだ、それでいい。これまで教わってきた知識を活かして、丁寧に奉仕しなさい」
 勝ち誇るように端塚が笑う中、沙綾香は膨れた亀頭を口に含む。さらにそのまま咥え込み、顔を前後させる。じゅぶっ、じゅぶっ、と音が立ちはじめた。
 散々仕込まれただけあり、沙綾香の奉仕はスムーズだ。だが不自然に改造した逸物は感度が悪いのか、端塚は一向に射精の気配を見せない。
「お前が奉仕しているものは何だ」
 端塚が、沙綾香を見下ろして口を開く。
「え……?」
「お前がしゃぶっているものは、何だと訊いている」
「なにって、“アレ”……? それとも、ち、“チンポ”とか言わせたいわけ? このヘンタイ」
「違う。これは、『神のペニス』だ」
 まただ。奴の口から、繰り返し発される言葉。どうあっても沙綾香にそれを刷り込みたいらしい。
「またそれ? 馬鹿じゃないの……」
 沙綾香はうんざりした様子で吐き捨て、奉仕に戻る。
「……んっ、ちゅっ……。むぐっ、はむっ……れあっ。……はあ、はあ……はあっ…………早く、イってよ……!!」
 沙綾香も体力に余裕はない。手で扱きながら顔を前後させる間にも、刻一刻と顔色が悪くなっていく。それでも、端塚は冷ややかに沙綾香を見下ろすばかり。あるいは沙綾香を苦しめるために、あえて射精を引き伸ばしているのか。
 結局、端塚が射精したのは、ずいぶんと経った後だった。
「そろそろ出すぞ。『神』の精液だ、一滴も無駄にするな」
 奴は沙綾香の頭を押さえつけ、深く咥えさせた状態で精を放つ。
「んん゛っ!!」
 嫌う相手の精液だからか、あるいはもともと精子の味が嫌いだからか。沙綾香の眉間に皺が寄った。
「鈴口を強く吸え。私のペニスから分泌された液は、すべて啜り取れ。腺液でも、精子でも、尿でもだ」
 沙綾香の嫌がりを見ても、端塚のスタンスは変わらない。横柄に要求を押し付ける。あくまで支配が目的で、好かれようとする気など微塵もないらしい。
 結局、沙綾香の口が解放されたのは、さらに数分が経ってからだった。
「ぶはっ!! はあっ、はあっ……げほっ、ごほっ、ごほっ! おえええっ!」
 後頭部から手が離された瞬間、沙綾香は弾かれたように頭を引き、激しく噎せはじめた。全身もぶるぶると震えていて、今にも吐きそうだ。演技をしていないというのも大きいだろうが、端塚への奉仕がよほど嫌なんだろう。
「沙綾香……!」
 感極まったような声は、祐希のものか、千代里のものか。いつになく小さく見える沙綾香の背中に、俺の心もねじ切れそうだ。
「今晩はこれで許してやる。次はもう少し上手くやれ」
 沙綾香の激しい拒絶反応にも、端塚は動じない。まるで実験動物でも見るような眼だ。そしてそれは、次の日からも変わることはなかった。


                ※


 夜が明けると、また子宮頚管の拡張が始まる。
 今度は人力での拡張だった。沙綾香はX字に拘束され、肛門にガラスのアナル栓を嵌め込まれ、器具で膣を拡げられる。その上で、白衣の女が片膝をつき、子宮口にバイブを差し込んだ。ごく細いが、いくつもの球が連なった代物だ。
「っく、ンふっ……! くう、ぅっ……ンん゛っ!!」
 白い歯が唇に食い込み、吊られた手が縄を握りしめる。肩幅の3倍ほどに開かされた脚も、相当無理をして踏ん張っている。
 その反応になるのも当然に思えた。昨日は子宮口を十分にほぐされた状態での挿入だったが、今はそうじゃない。純粋にこじ開けられているわけだから、刺激は前以上だろう。
「どうだ、2日目の子宮責めは。機械責めであれだけ慣らした次の朝だ、震えるほど気持ちがいいだろう」
 端塚が正面から問いかけると、沙綾香は青ざめた顔を上げる。
「ふっ、ふうっ……あんたって、ホントに人の心がわかんないんだね。これが、気持ちよさそうに見えるなんて」
 沙綾香の眼は鋭い。一度は奉仕を受け入れたが、まだ屈服したわけじゃない……そう訴える眼だ。
「ほう、私の勘違いか? お前が随分と、それらしい反応を見せるものでな」
 端塚は笑みを浮かべながら、視線を下に向けた。開かれた脚の間に、ぽたぽたと雫が滴り落ちていく様を、じっと眺めている。沙綾香の頬が染まった。
「…………ヘンなとこ弄られてるから、保護液が出てるだけだよ…………」
 沙綾香はそう言い捨てて目を閉じる。端塚もそれ以上は言及しない。それでも、どちらが優勢かは明らかだ。

「ん、くっ、くうう……! っふ、ふうっ、く……うぅう゛っ、んんんん゛ん゛っ……!!」
 快感を否定した手前、沙綾香は必死に声を殺していた。それでも、肉体の反応までは殺しきれない。
 数珠状のバイブがメリメリと奥へと入り込めば、まずは内腿が筋張り、次に下腹部が震える。普段は目立たない腹筋が浮き上がり、痙攣する様は、明らかな絶頂を感じさせた。
 ただしこの時点では、沙綾香は歯を食いしばって耐えていることが多い。ところが白衣の女も心得たもので、深くまで入ったバイブを軽く捩りながら、ゆるゆると上下に動かしていく。その刺激は強いようで、沙綾香は動きに合わせて、あっ、あっ、と声を漏らすしかなくなる。
 さらにバイブのスイッチが入れられれば、そこからは本格的な絶頂続きだ。
「っくあ! ぉほおっお゛、んお゛……っく、ほっお、はあ、あっ……!!」
 あられもない喘ぎと、我慢の呻き。それが入り混じり、だんだんと喘ぎの比率が増していく。開いた口から唾液が垂れ落ちる。足の親指が床を噛み、太腿の外側がパンと張る。その全てから、深い絶頂の波に襲われている事実が読み取れた。
 だが一番反応が大きいのは、バイブが引きずり出される瞬間だ。愛液まみれの球が、立て続けに“産み出される”。その段階になれば、沙綾香はもう声を殺せなかった。
「おおおおお゛お゛っ!!!!」
 目を見開き、呻きを漏らしながら、震える腰を前後させる。抜けきる寸前で女の手が止まっても、沙綾香の反応は止まらない。
「はーっ、はーっ、はーっ、はーっ…………!!」
 壮絶な顔で喘ぎながら、全身をブルブルと震わせ続ける。その様はまるで、磔のまま感電しているかのようだ。

 そんな事が何度も繰り返されれば、起きてはいけないことも起きる。
「おほっ、お、お゛お……お゛お゛っ!!!」
 バイブを引き抜かれ、沙綾香が呻きを漏らした、その直後。ぶりいいっ、とおぞましい音と共に、アナル栓が抜け落ちる。栓は硬い音を立てて床を転がり、端塚の足元で止まった。
「刺激が強すぎて糞を漏らしたか。大層な財閥令嬢もいたものだ。これは、後ろを躾け直す必要がありそうだな」
 端塚は沙綾香の羞恥心を煽りつつ、次の責めの指示を出す。それを受けて白衣の女は、また別の道具を手に取った。緩く婉曲した中指サイズの棒と、エアポンプが一体化したもの。見た目は小ぶりなアナルバルーンだ。女はそれをクスコの中に送り込み、沙綾香の顔を歪ませてから、何かのスイッチを押し込んだ。すると、道具が振動しはじめる。
「あ、くっ……!!」
 沙綾香から悲鳴が漏れた。その時点で、さっきのバイブよりも刺激は強そうだ。だが、下準備はまだ終わらない。女はポンプを握り、何度も握った。シュッ、シュッ、と音がする。
「あっ!? や、やだっ、何してるの!? やめて、緩くなっちゃう!」
 沙綾香はパニックに陥った。子宮口に嵌まり込んだバルーンが膨らみはじめたんだろう。白衣の女はそんな沙綾香に構わず、さらにシュッシュッと4回空気を送り込み、ポンプから手を離した。ポンプは真下に垂れ下がるが、落ちる様子はない。
「く、うっ……!!」
 刺激が強いのか、沙綾香は歯を食いしばっていた。だがすぐに、それすら許されなくなる。
 沙綾香は前傾させられ、吊られた両手首を支えにして、尻を高く掲げる格好を取らされた。その上で口にボールギャグを咥えさせられ、2重の目隠しが取り付けられる。
「準備完了しました、オーナー」
 白衣の女が、眼鏡を押し上げて告げる。
「ご苦労。今晩可愛がってやる」
 端塚は椅子から立ち上がり、女の肩を叩いた。するとそれまで能面のようだった女の顔が一変する。頬を染め、瞳を潤ませた雌の顔。どうやらあの女にも、端塚の手がついているらしい。
「だがまずは、この女に私の味を覚え込ませんとな」
 端塚は沙綾香の背後でコンドームを装着し、真っ赤に腫れあがった尻に手を置いた。沙綾香がびくりと反応する中、尻肉は割りひらかれ、歪な逸物が沈み込んでいく。
 挿入のペースは遅い。子宮口への挿入と同じく、メリメリという音が聴こえてきそうだ。
「むぐうううっ!!」
 ボールギャグから呻きが漏れる。アナルファックが辛いようだ。
 肛門を割りひらくのは、それまで収まっていたバイブとはまるで違う異物。特にテニスボール大の亀頭で腸壁を押し広げられれば、あんな声も出るのも無理はない。
「ここが突き当たりか。ふふふ、下の方がずいぶんと艶めかしく動いているな。これは、子宮の蠢きか」
 腰が密着する位置まで腰を進め、端塚が笑う。沙綾香の吊られた手の先が、ぎゅうっと握り込まれた。端塚の視線が横に動き、その動きをしっかりと捉える。
「動くぞ」
 奴はそう宣告し、腰を引いて叩きつける。パンッ、パンッ、と肉のぶつかる音が響きはじめた。
「んっ!! むぐっ、んんグッ! んあっ、もがぁああっ!!」
「尻の穴で悶え狂いおって。浅ましいことだ」
 沙綾香の激しい反応を、すかさず端塚が詰る。
「もお゛っ!?」
 沙綾香は露骨に反応した。反骨心はまだ強い。端塚に蔑まれるのが、よほど屈辱なんだろう。端塚はそんな沙綾香の腰を掴み、さらにピストンを繰り返す。逸物の形が特殊で空気が入るせいか、ぶりゅっぶりゅっと放屁のような音が響く。ますます屈辱的な状況だ。だが──
「ふぐっ、……ぐっ…………!」
 沙綾香は不自由な呻きを漏らしながら、脚をやや内股に閉じた。クスコで開かれた割れ目から、とろっと粘液の糸が滴り落ちる。
「詰られて気をやるか、いよいよ気狂いじみているな。だが、私ならそれを許してやる。お前を人間として扱ってやる」
 端塚がまた、沙綾香に洗脳の言葉を吹き込んだ。
 沙綾香が感じるのは、何も変じゃない。腸に出入りするペニスの、あの起伏の激しい形状は、さぞや蠕動運動を促すに違いない。無駄に大きい亀頭は、子宮を裏から圧し潰すことだろう。前も後ろもしつこく開発された沙綾香が、感じずにいられる道理はないんだ。
 とはいえ、根の清純な沙綾香が、そう正当化できるとは限らない。少なくとも俺の目には、端塚の言葉を鵜呑みにして、恥じ入っているようにしか見えない。
 彼女にとって悪い事はもう二つある。腰を打ちつけられるたび、百叩きで腫れあがった尻肉が刺激されること。そして、子宮頚管を拡張するバルーンの刺激だ。それは、紛れもない苦痛に違いない。
 羞恥、苦痛、そして快感。それがない交ぜになってのアナルレイプは、年頃の少女の心を掻き乱すには充分だ。

「むぐうっ、ほぐおオ゛オ゛っ!! もお゛っ、もごおおお゛っ、んもおぉおぉお゛お゛ッッ!!!」
 黒髪を振り乱し、左右に振られる頭。ボールギャグの穴から垂れ続ける銀の糸。狂ったように膝を曲げ伸ばしながら、秒単位で踏み変えられる脚。ドナン浣腸の後で犯された時より、玉蒟蒻を詰め込んで犯された時より、激しい反応が続く。
「どうした。逝き狂っていないで、もっと尻の穴を締めてみろ。これは緩い尻穴への躾だと言っただろう。……おい、手伝ってやれ」
 端塚は腰を遣いながら、白衣の女に呼びかける。女は、おそらくは自分の判断で、沙綾香が力まざるを得ないように仕向けた。
 尖りはじめた乳首を、クリップで挟みつぶし。
 クリトリスへキャップを被せて、包皮を捲り上げ。
 垂れ下がったエアポンプを握り、シュッシュッと空気を送り込み。
「おごっ、もごっ!! お、ほおおお゛っ!!」
 その全てが、沙綾香を追い詰めていく。8頭身の身体が前後に揺れるたび、グリップで先端を挟みつぶされた乳房が暴れ、バルーンのグリップが愛液の伝う太腿にベチベチと当たる。
 そんな沙綾香を前に、女はとうとう注射器を手に取った。端塚が頷きで許可を出せば、その針は沙綾香の右腋に突き刺さる。
「うむ゛っ!? ……う、ううん、むおおっ!! むごおおおおっ!! ふもおぉお゛っ!!」
 間違いなく、“あの”薬だ。そう断言できるほど、沙綾香の反応は大きい。
 遠目からでも、汗がどっと噴き出したのがわかる。
 手足の指は強張り、唯一自由な首が上下に振られる。
 それまではボールギャグの穴から垂れるだけだった唾液も、ギャグを嵌めた口の端から、だらだらと止めどなく零れはじめる。
 外から見えるだけでも、その変わりよう。だが一番致命的なのは、目に見えない内部だろう。そこに関しては想像するしかないが、判断材料は多い。
「ほお、やれば出来るじゃないか。根元から食い千切るような、良い締まりだ」
 まずは、端塚のこの言葉。そして、沙綾香自身の反応。
 歪なペニスが抜き差しされるたび、太腿と脹脛が強張る。膝の高さにまで下りたボールギャグから、とろみのある液体が落ちていく。
 深く挿入されたまま、腰を掴んでキープされる時は、特に反応が大きかった。ハの字に開いた太腿の筋肉が盛り上がり、内腿がブルルッ、ブルルッ、と何度も波打つ。
「ほもおおおお゛お゛お゛…………ッッ!!」
 ボールギャグから漏れる呻きは、深い絶頂を確信させるものだ。クスコから垂れ下がるポンプを伝って、愛液が絶え間なく滴り落ちていく。
「っ……!!」
 俺の視界の端で、藤花が俯いた。横を盗み見ると、その股座は愛液で濡れ光っている。彼女はアナルセックスの経験が多い。だからこそ、沙綾香の快感や屈辱がありありと想像でき、色々な意味で堪らないんだろう。

 わざわざ2重の目隠しをし、薬で意識を混濁させた以上、アナルセックスは端塚1人では終わらない。無線で“影武者”の4人が呼ばれ、端塚と入れ替わる。
 “影武者”達は、やはりロボットのように無機質だ。端塚のように技巧は凝らさず、シンプルな抜き差しの動作だけを繰り返す。
 それでも、今の沙綾香にとっては充分すぎる刺激らしい。ハの字に開いた両脚が内に折れる。頭は黒髪を流しながら、縦に、横にと激しく振られる。ローションなど一滴も使われていないのに、交代時に抜き出される逸物には、てかてかとした粘液が纏わりついている。
『もうやめて、もうイカさないで!!』
 モデル級の身体のすべてが、そう叫んでいた。

 アナルセックスは、何時間続いただろう。
 “影武者”達が部屋を出た頃、沙綾香には何の反応もなくなっていた。近くの作業台には、調教の名残が載っている。空の注射器3本、腸内洗浄用のイチジク浣腸4つ、床を拭いて黒ずんだ雑巾6枚、コンドーム……多数。
 拘束を解かれた瞬間、沙綾香は床に崩れ落ちる。疲れ切っているのは明白だ。だが端塚は、沙綾香の腕を掴んで引き起こした。
「勝手に休むな。お前にはまだ、妻としての責務が残っている」
 そう言って手を引き、有無を言わさずベッドまで歩かせる。
「はあ……はあっ……はあっ…………」
 股間から愛液を滴らせる沙綾香。その目は虚ろで、足取りも怪しい。端塚はそんな沙綾香をベッドに放り投げ、その上に覆いかぶさった。
「さあ、夫婦の営みを始めよう」
 端塚のその一言で、沙綾香の眼に感情が戻る。
「や──……!」
 彼女は、怯えていた。だが、逃げる余力はない。前の晩と同じく、されるがままになるしかなかった。

 正常位、屈曲位、側位、座位……。端塚は沙綾香の負担など考えず、様々に体位を変えて腰を打ちつける。そしてそのセックスは、沙綾香を何度も絶頂に追い込んだ。ベッドが軋み、悲鳴が迸り、手足が暴れる。猟奇殺人の現場を思わせるその空間には、俺達の必死の叫びも届かない。
「やら゛っ、もおやら゛あ゛っ!! おぐっ、ぐりぐり、やめ゛……っ! ひいい゛っ、イグ、いぐいぐッ、い゛ぐうウ゛ーーッ!!」
 寝バックの体位で足をばたつかせながら、わんわんと泣きじゃくる沙綾香。そこにいるのは、どこにでもいる17歳の少女だ。
 その沙綾香をさらに犯し、失神寸前まで追い込んでから、端塚はようやく逸物を引き抜いた。起伏の激しい逸物に、泡立った白い粘液が纏わりついている。
「丁寧に舐めろ。上手くできたら寝かせてやる」
 端塚はベッドの上で立ち上がり、腰に手を当てた。昨日のように、沙綾香の頭を手で押さえはしない。あくまで自主的に奉仕しろ、ということか。
「はあっ……はあっ、はあっ……はあっ……はあっ……!」
 沙綾香の顔が強張る。手越の真珠入りの怒張もおぞましかったが、端塚のそれは更に醜い。口に含むなど、考えただけで寒気がする。
 それでも沙綾香は、喉を鳴らして口を開き、反り勃った逸物に舌を這わせはじめた。ここで無理をすれば、もたない──そんな自覚があるんだろう。

「サーヤ……嫌そう。あたし達の中で一番、気持ち悪いの苦手だもんね……」
 千代里が鼻を啜りながら言う。それを受けて、祐希も顔を歪めた。 
「あれは、一種の洗脳だね。休憩を釣り餌にして奉仕させることで、『しゃぶれば苦痛が紛れる』って認識を刷り込むんだよ。それが続けば、最初は嫌だった物でも、だんだんと抵抗がなくなっていくんだ。それどころか、『しゃぶれば幸せになる』とまで考えるようになる。本当に、馬鹿みたいだけどね……」
 祐希の言葉には、説得力があった。彼女自身の体験談だからか。

「ふふ……そうだ、なかなか良いぞ。纏わりついた愛液も、滲み出てくる腺液も、すべて味蕾で味わい尽くせ。残り僅かな脳のキャパシティを、奉仕のためだけに使い切るんだ」
 端塚が、沙綾香の舌遣いを褒めている。嬉しくもない言葉だ。奴に評価されるということは、その目論見通りに事態が進んでいるということでもある。
 ただ、全てが順調にはいっていない。
「そろそろ、深く咥えてみなさい」
 端塚がそう命じると、沙綾香は大口を開け、巨大な亀頭を口に含む。相手が望むように、ジュボジュボと音を立てて顔を前後させもする。だがその目は、あくまで端塚を睨み上げていた。


                ※


 その後も、子宮頚管の拡張は続いた。もちろん、投薬やセックスとセットでだ。

 拡張3日目は、背の丸い三角木馬型のマシンに乗せられての拡張。膣と肛門にバイブを咥え込む形で跨り、木馬の背の部分が振動することで陰唇やクリトリスも刺激されるという代物だ。
 沙綾香は木馬に乗った時点で、すでに辛そうだった。膣のバイブには太さがあり、肛門のバイブには長さがある。しかも、沙綾香は踏ん張れない。手は腰の後ろで縛られ、脚も二つ折りの形で拘束ベルトを巻かれている。
「ああああっ、イッちゃう、イッちゃうっ!! ああああっ、色んなとこでイってて……わけ、わかんないっ……!!」
 沙綾香は激しく身を捩りながら、機械の刺激に悶え続ける。だが、それで済んでいたのも最初の一時間だけだ。端塚の指示で、膣のバイブの先端から子宮口拡張用のパーツが伸びた後は、まともな言葉さえ出なくなった。
「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ……ぃぎゃあああっ、あアアッ!! ハアッ、ハアッ、だめっ、だめだめっ!! むり゛っ、そこもうむりい゛っ! 開かないで、あああおねがいっひらかないでエエエエッ!! ああああっひィっ、いぎぃアアアアっ、うわあぁぁああっ!!」
 獣じみた喘ぎの中に、悲鳴と哀願が混じる。体中に大粒の汗が流れ、首は左右に振られ、木馬の側面を愛液とも失禁とも判別つかない液体が流れていく。
「もうやめたげて……沙綾香、もう限界だよ! 私が代わるからっ!」
 千代里が涙ながらに訴えても、もう身代わりは認められない。蝋燭で照らされた空間に、沙綾香の悲鳴と哀願が響きつづける。
「ア゛……あ、あ゛……うあ、ア゛……ぁはっ…………」
 天を仰いで呻き、ガクガクと痙攣するばかりになった頃、沙綾香の周りには湯気が立ち上っていた。

 4日目も似たようなものだ。
 両手首を吊られたまま、床に固定されたマシンバイブに突き上げられる。挿入前にちらりと見えたアタッチメントの先端……子宮頚管に入り込むだろう部分は、沙綾香の親指ほども太さがあった。
「無理、むり゛ぃっ!! お願い、ホントに無理いぃ゛っ!!!」
 バイブが奥の奥まで届いた後、沙綾香は首を振って涙を流す。だが、端塚が中止を指示することはない。
「その言葉は昨日も聞いたぞ。昨日のバイブより5ミリ太いだけだ、今のお前なら問題ない」
 あっさりとそう切り捨て、泣き叫ぶ沙綾香を眺めるばかりだ。
 さらにこの日は、洗脳班の連中も責めに加わった。挿入時点で涙目になっている沙綾香の全身に電極を取り付け、外部からの電気刺激で肉体を操作しはじめる。
 かろうじて踏ん張っている沙綾香の左脚に刺激を与え、膝を床と水平になるまで浮かせる。
 そのまま数分、右脚と吊られた手だけで姿勢を維持させ、脚を戻す。
 ガクガクと痙攣しながらも、なんとか持ち直そうとしたその矢先、今度は腰に刺激を与えて円運動を強いる。
 自らの腰のひねりで膣奥をいじめ抜き、悶え狂っているその最中、今度は右脚に刺激を与えて、膝を高く上げさせる。
 そんな最悪の肉体操作を、延々と繰り返す。もちろん脳波を測定し、より効果的なタイミングを図ってだ。
 沙綾香は、当然ながら悶え狂った。3日目と同じように、悲鳴と哀願を響かせながら、全身で限界を訴える。俯いて涙と鼻水、涎を滴らせていたかと思えば、背を反らして天井を仰ぎ、顔のあらゆる汁を黒髪に絡める。潮噴きがずっと続いているかのように、愛液が噴き出しつづけ、尿らしきものも漏れる。そしてついには、肛門からぶりっと破裂音が響く。放屁かと思ったが、そうじゃない。あの子の後ろに飛び散った半固体のものは、薄茶色に色づいている。
「また糞を漏らしたのか。あれだけ尻穴を躾けてやったというのに、呆れ果てる。これからは調教の前に、浣腸で綺麗にする必要がありそうだ」
 端塚は溜息交じりに語り、沙綾香の表情を泣き顔に変える。数日前の沙綾香なら、恥を晒した直後でも睨んでみせたことだろう。だが今や、その気力もないらしい。

 沙綾香の気力を奪う要因は、疲労の他にもある。
 不眠だ。
 3日目以降、端塚は沙綾香の気絶を許さなかった。
「叩け」
 沙綾香の反応が鈍るたび、白衣の男にパドルで尻を叩かせる。
「きゃああああっ!!」
 沙綾香は甲高い悲鳴を上げて身体を揺らし、無理矢理に覚醒させられる。その後、また気絶しかけても、そのたびに痛みで覚醒させられる。
 眠らせないというのは、相手を追い詰めるのに有効だ。眠れない状態が続けば、思考力は著しく低下し、幻覚と現実の区別すらつかなくなる。他ならぬ俺自身が、それに近い状況だからよくわかる。

「しゃぶれ」
 端塚は、沙綾香が疲弊しきったタイミングで奉仕を命じる。そして沙綾香は、それを拒絶しなくなっていた。意識の朦朧とした中、あれほど毛嫌いしていた逸物を掴み、根元から丹念に舌を這わせていく。
 心身共に限界だから、少しでも早く端塚を満足させて、楽になりたいんだろう。俺にはそう感じられた。というより……そう信じたかった。
 赤い舌が膨れ上がった亀頭を這い、ベロベロと舐め回す。沙綾香の唾液で、端塚の分身が彩られていく。端塚は目を細め、沙綾香の頭に手を置いた。
「お前が奉仕しているものは何だ」
 どこかで聞いた問いだ。沙綾香も覚えがあるらしく、ピクリと肩が反応する。
 沈黙が流れた。沙綾香はやや俯きがちになり、歯で唇を噛んでいる。その沙綾香を、端塚は黙って見下ろしていた。
「…………か、神様、の」
 ぼそりと呟きが漏れる。端塚の表情が少し変わった。
「……神様の、ペニス……でしょ…………」
 続く言葉に、端塚の表情が完全な笑みを作る。
「そうだ」
 端塚は短く答え、沙綾香の頭から手を離した。沙綾香は、また唇を閉じ合わせてから、改めて歪な逸物を口に含む。
 じゅぶっ、じゅばっ、という音が、やけに大きく聴こえた。
 沙綾香の奉仕は巧みだが、端塚の要求するレベルは高い。
「強く吸え」
「男の性感スポットはもっと下……そこだ、そこを丹念に舐れ」
 風俗嬢の研修さながらに、口での奉仕を厳しく指導する。仕込まれる沙綾香は必死だ。口から漏れる音はますます品が無くなり、唾液もだらだらと垂れていく。
「悪くなかったぞ。これからは常にそれ以上を目指せ。手を抜くことは許さん」
 ようやくにして射精を終えた端塚が、沙綾香に命じる。対する沙綾香は、手で口を覆ったまま、絶望的な表情を浮かべていた。
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