※ 本編終了後、しばらく経った後のお話です。
1.
中華風の趣を湛えた部屋で、一人の女が黒鍼を磨いている。
美しい女だ。
くっきりとした切れ長の瞳に、左右に垂らした三つ編み、艶やかな肌。
その瑞々しい魅力は、普通に見ればせいぜい20代に差し掛かろうかといったところだ。
彼女が実はとうに30を越えると言って、信じられるものだろうか。
そこには奇跡の業と言ってもいい、薬事・美容の粋が見て取れた。
「……!」
彼女、香蘭(シャンラン)は、ふいに油断のない視線を後方へ投げる。
身体の線に隠すように鍼を持ち、窺った先にいたのは、こちらも目の覚めるような美女だ。
香蘭の冷徹な瞳が解りやすいほどの動揺を示した。
「今日は面会の予定などなかった筈だが……何用だ」
香蘭が背後の女性に向けて問う。
女性は形のいい唇を吊り上げ、一流の女優さながらに品よく笑った。
「あら。でもあの子達は、あっさり通してくれたわよ」
女性が示す先では、頭にシニヨンを作った中華娘達がはにかんでいる。
たまらず香蘭の口元も綻んだ。
「全く、困ったものだ」
言葉とは裏腹にまるで迷惑がっていない香蘭は、静かに立ち上がって女性に近づく。
「……久しいな、悠里」
香蘭は、旧知の友の姿を改めて視界に収めた。
キリリと整った眉。
猫のように好奇心に満ち、かつ相手の顔が映りこむほどに虹彩の輝く瞳。
光の加減によっては見えなくなるほどすっきりと通った鼻筋。
ルージュいらずのふっくらと艶やかな唇に、日本人離れした洗練されすぎている輪郭。
無駄な肉のない魅惑的な首筋に鎖骨が続き、胸の膨らみが南国の果実を思わせる。
腰は思い切ったほどに細く絞られ、尻からのボリュームをいよいよ艶かしく目に焼き付けさせる。
そしてその起伏も鮮やかなボディラインを締めくくるのは、思わず何度も視線を下ろしてしまう脚線美だ。
並大抵のレースクイーンなら恥じて足元を隠すほどのその脚は小気味いいほどに長く、
どのようなポーズを取っても絵になるだけの非凡さがあった。
体中から『新鮮』と『自信』のイメージを振りまくような彼女が長い黒髪を揺らして歩けば、
その姿はまさに不可侵の女王と呼ぶに相応しい。
香蘭は、久々のその魅力にごくりと喉を鳴らしてしまっていた。
一目見ただけで視界に映る日常が薄皮を剥いだように色鮮やかになる美女が、
自分に向けて気心の知れた笑みを向けているという至福。
「久しぶりね、香蘭」
『至福』の元凶は、思わずつられて笑うような艶やかな微笑を浮かべた。
「……なんだこれは、体中が古いゴムのように凝り固まっているぞ。
ストレッチを怠ったのか、悠里」
体調把握のために悠里の身体へ触れた香蘭が、驚きの声を上げる。
肘の内側を押し込み、首元を揉み解してみると、ゴリゴリと音のしそうな反応が返ってきていた。
悠里が桜色の唇を尖らせる。
「仕方ないじゃない。先週までいた北欧じゃあ、それは大変な目に遭ってたのよ。
着いてすぐ女の子と知り合って、その子を狙う密売組織からろくに寝る間もなく逃げ回って。
おまけにいつの間にか、裏で名の通った暗殺者とかいうのにまで付け狙われてて。
十年分の不幸がいっぺんに降りかかってきたみたいだったわ」
こめかみを押さえて呻く姿を見る限り、相当に参ったらしい。
「……なるほど、やはりか。こちらにも噂話というレベルでの情報は回ってきていたぞ。
貴様、『叫喚の音叉』ビルギット・ヒリンズとやり合っていたな?」
「へぇ、さすがに詳しいわね」
「さすがと言うべきはこちらだ。あの『叫喚の音叉』が数週間にも渡って殺害依頼を受けないなど、
“こちら側”でも噂の種だったものだぞ。
だがその間、遂行中の依頼を達成できずにいたとすれば得心も行く」
「裏社会のウワサの種、ねぇ……確かにあれはとんでもなかったわ。
手足を吹き飛ばされそうになった事は何度もあったし、おまけにもうしつこいったら。
ホラー映画の中に入り込んだのかと思ったぐらいよ」
そうした穏やかでない会話が進む間にも、香蘭の手は悠里の身体を把握していく。
「ふむ……ここまで凝り固まっているとなれば、鍼よりもマッサージだな。
先に施術部屋へ行っていろ、悠里。私も追って向かう」
「マ、マッサージ……?あんまり痛くしないでね」
何か思うところがあるのか、少し気後れした表情を見せる悠里。
しかし香蘭は厳しい顔だ。
「そこまでガタが来ていては、痛む程にしなければ効かん。とっとと行け!」
「うう……し、しょうがない……か……。」
香蘭に追い立てられ、中華娘に腕を引かれて先導されながら、悠里は観念したように首を垂れた。
2.
カーテンで外と仕切られた施術室には香が焚かれていた。
炬燵の中を思わせるオレンジの照明や、床に広げられた柔らかな毛布もまた、心を穏やかにする効果がある。
悠里はその中で中華娘達に促され、着ていた服を脱ぎ捨てた。
途端にわぁ、と起きる感嘆の声。
水を弾くようにつややかな桜色の肌は、同性の、悠里より遥かに年下の少女の目をも釘付けにする。
「枕に顎を乗せて、うつ伏せになれ」
香蘭が命じると、悠里は言葉通り裸のままうつ伏せになり、枕と顎の間に重ねた掌を挟みこんだ。
すらりとした身体が横たわっているさまは中々の絶景だ。
肩甲骨の隆起、S字を描く背筋のライン、豊かに盛り上がった尻肉。
思わず抱きつきたい気分を見る者に湧き起こさせる。
香蘭は開かせた悠里の脚の間に、陶器で出来た深めの器を置いた。
そしてそこからオイルを掬い取る。
「さて、いくぞ」
掌を擦り合わせてオイルを馴染ませ、いよいよ香蘭のマッサージは始まった。
「……ぎゃあっ、あ゛う!い、いた、いぃ……!!!」
悠里が枕の上で歯を喰いしばる。その目はつらそうに閉じられている。
「酷いものだな。体中がガタガタだぞ」
香蘭は呆れたように告げ、両の親指で悠里の土踏まず周辺を何度も押し込んでいく。
その度に悠里の身体が跳ね、細い悲鳴が上がるのだった。
「あ、あう、あうう!!きゃうぅっっ!!!」
オイルによってテカリを帯びていく足裏と、悠里の甲高い悲鳴。
それは妙に艶かしく見えた。
足裏を散々に刺激したのち、香蘭の手は踵を越えて悠里の脹脛へと至る。
伸びやかな脚がオイルのテカリに塗れ始めた。
「よく凝っているな、『カーペントレス(木こり娘)』に酷使された脚は」
香蘭の手が脹脛を揉み潰す。枕に沈んだ悠里の口から、く、く、と押さえ切れない悲鳴が漏れる。
さらに指先が膝裏、そして内腿へと這い上がると、悠里は堪らずに身を捩った。
「い、嫌っ!!」
「暴れるな、それだけ効いているという事だ」
香蘭は叱りながら、悠里の尻肉へと手をかける。
そのまま餅をこねるように力強く揉み込めば、悠里の腰が妖しくうごめいた。
「はあ、ぁんっ……」
桃色の息を吐くような様子で声が漏れる。
「気持ちよさそうだな、悠里」
「……お、お尻揉まれると……やっぱり凄いわね。恥骨にまでジンと響いてくる……」
ただ快感に酔いしれる悠里。
それを見やりながら、香蘭は次の治療に向かった。
悠里の腿の裏側を膝で押し込み、刺激しながら、その背中へ肘をつける。
ぐりり、と背骨の側部に肘が入り込むと、悠里の目が見開かれた。
「かっ、……あぐっ……!!」
枕を掴む腕が細かに痙攣するのを横目に見つつ、香蘭は背中の肘を移動させる。
筋肉へと筋をつけるかのように、脇腹へと。
「ァぐぅうううあ゛っ!!!」
「ふ、凄い声が出るな悠里?お前とリングで戦った娘達にも教えてやりたい所だ。
元女王・悠里は、こうして組み敷いて背中を肘で抉れば、あられもない声を出すぞ、とな」
香蘭に茶化され、悠里は目の端に涙を浮かべながら後ろを見上げる。
「はっ……はあっ……し、試合でなら、とっくに返してるわ、こんな体勢……」
「ほう、それは大したものだ。では今やって見せてくれ」
香蘭は笑い、悠里の右手首を掴んで後ろへ引いた。
その状態で腕の付け根を押し込めば、悠里の肩からはバキバキと骨の折れるような音がする。
「あ゛ッぐあぁああああぁぁぁああッ!!!!!」
悠里はその整った横顔を枕に押し付け、眉間に皺を寄せて叫ぶ。
その姿はまるで、組み敷かれたまま関節技を掛けられているかのようだ。
上体は深く毛布に押し付けられており、潰れたような乳房が実に艶かしい。
「その激痛は、そのままお前の肩関節の凝りだ。我が身が可愛ければ耐え忍ぶがいい」
香蘭はそう言いながら、さらに手首を引きつつ付け根を押し込む。
ゴリ、ゴリと骨の動く音がし、悠里は唇を噛んでそれに耐えた。
数度の刺激の後、ようやく手首を離された悠里の右腕は力なく毛布に沈む。
「はっ、はぁ、はぁ……」
「ふん、ようやく解放されたとでも言いたげな顔だな。だがもう片方もいくぞ」
香蘭は嗜虐的な笑みで告げ、悠里の左手の手首を取る。
「あがあっ!!」
左右対称の同じ治療が課せられた。
「右腕より、こちらの方が酷使されているようだな」
ゴギゴギと凄まじい音を響かせる左腕に、香蘭が呟く。
悠里はされるがままに腕を引かれながら、その白い乳房を身体の横から零していた。
中華娘達がそれに気づいて頬を赤らめる。
背面へのマッサージが一通り終わったあと、次に悠里は仰向けにさせられた。
重圧から解放された零れんばかりの乳房が、悠里の胸板の上で柔らかに揺れる。
形が溶けたように崩れないあたり、驚異的な張りといえた。
目を引くのは乳房ばかりではない。
背中側も肩甲骨やS字を描く背筋のラインが実に眩かった悠里だが、
前身となればいよいよ理性を試されるほどの悩ましい形をしている。
「いや、そんなに……見ないでよ」
身体を凝視してくる香蘭に、悠里は手で胸を覆い隠した。
自分の身体に絶対の自信を持つ悠里は平素、裸体を晒すことを恥とは思わない。
しかし官能の炎が芽生え始めた時だけは別だ。
逆をいえば、悠里が肌を隠す時は、少なからず『感じ始めている』……ともいえる。
香蘭はそれを汲み取りながら、悠里の身体に指を這わせた。
首元から、乳房の間を抜けて肋骨へ、そして薄っすらと6つに割れた腹筋へ。
さらに下って安産を約束する見事な腰つきへ流れ、閉じた股下に逆三角の隙間ができる締まった太腿へと至る。
「はっ……いひ、うぅふっ……!!」
皮膚の敏感な悠里は、その動きだけで細かに身を捩らせた。
香蘭はそれに笑みを浮かべつつ、手を悠里の下腹へと添える。
腰骨の両端に掌底を宛がい、ぐいと押すと、悠里の太腿が跳ね上がった。
「ふ、痛むらしいな」
「ん……っ!!!」
香蘭が訊ねるが、悠里は下唇を内へ巻き込んだまま、視線を横に逸らして耐えていた。
うつ伏せの時と違って香蘭と向かい合う格好のため、乱れる所を見せまいとしているのだろう。
含み笑いの後、香蘭は刺激を続ける。
腹筋中央の縦線を指先で揉み込み、また掌の底で腹部を平らにならす様に磨り潰す。
この治療に至って、いよいよ香蘭は他の患者と悠里との違いを顕著に感じていた。
腹筋の硬さがまるで違う。
普段なら餅をこねるように内へ内へと沈み込ませるマッサージをする所だが、悠里に対してはそうはいかない。
見た目はやや筋肉質といった程度だが、その腹筋は巨木の幹、あるいはゴムタイヤのような硬さと弾力を兼ね備えている。
おそらくは一般人がバットで殴りつけても、数発であれば問題なく吸収してしまうだろう。
事実、香蘭が渾身の力と体重を込めて圧し掛かってみても、スプリングのようにあっけなく弾かれてしまうのだった。
並みの施術者であれば、その力んだ腹筋の前にマッサージは至難だ。
しかし香蘭は、両の掌を腹部の上で重ね合わせ、勢いよく悠里の腹部へ沈み込ませる。
「う゛ぉううえっ!?」
途端に悠里が目を剥き、呼吸の苦しげな呻きを漏らした。
その腹部は香蘭の掌を飲み込むように深く沈みこんでいる。
「私を相手に腹筋を固めても無駄なことは、よく知っているだろう?」
香蘭の切れ長の目がほくそ笑んだ。
悠里は苦しげに息を吐きながら、少しずつ腹部の力を抜き始める。
浮き上がった腹筋と細く締まった腰つきの上で、香蘭の白い手が踊りまわる。
腰を掴み、腹筋を押し潰し、アバラの部分をなぞって。
「……ン、はっ……は、ぁ……はあ、あッ……う、はあっ…………!!」
悠里は出産を思わせるような吐息を吐きながら、少しずつ、少しずつ、その顔に官能の色を浮かべていく。
香蘭が悠里の脚を平泳ぎをするように開かせ、足の付け根を刺激し始めた時、その頬はいよいよ赤く染まり始めた。
オレンジの灯りに照らされた悠里の内腿を、香蘭の白い手が揉み解す。
その過程で、香蘭はちらりと局部の下へ視線を落とした。
「悠里、どうした事だこれは。尻の穴がヒクヒクと物欲しそうに蠢いているぞ。
指でも捻じ込んで欲しいのか?」
かつて古武道の門下生らの手によって開発された経緯のある悠里の尻穴は、普段からぴちりと閉じてはいない。
綿棒数本をそのまま飲み込める程度には開いているものだが、今はそれが更なる開閉を繰り返している。
「ちょ、ちょっと、お尻なんて見ないで!!」
悠里は狼狽した声を上げる。
彼女は元女王らしくプライドが高く、また処女でこそないものの、未だに性への耐性が低い娘だ。
耳まで赤らめながら脚を閉じようとするのを、香蘭が笑って封じる。
「はは、悪かった、許せ。だが少々心地よくなってきたのは事実だろう?そのように解しているからな」
香蘭はそう言いながら、三度悠里に姿勢を変えさせる。
今度は悠里に胡坐を掻くように座らせる格好だ。
背後から香蘭の細い身体が覆い被さり、悠里に前屈みを強要した。
「うい、ぃっ……!!」
腰がパキパキと鳴るのを感じながら、しかし悠里の背筋にじんわりと快感が生じる。
さらに香蘭が、悠里を抱え起こしながら背後に身体を反らせると、その快感ははっきりと背筋を走り抜ける物に変わった。
「ああ……!!」
初めて悠里の唇から、完全な心地よさからの声が上がる。
香蘭はそれを聴きながら、おもむろに悠里の乳房を鷲掴みにした。
「きゃっ!?」
「身体の凝りも相当に解れて、いい気分になってきた頃のはずだ。仕上げをしてやろう」
香蘭は悠里にそう囁きかけながら、張りのある乳房を揉みしだく。
「うわ……!!」
施術を見守っていた中華娘の何人かが手で顔を覆い、しかし指の間から官能の瞬間を目撃する。
「あ……んあ、あふぅ、うっ…………」
悠里は背後から香蘭に胸を揉まれながら、心地よさに身を委ねているようだった。
房事に慣れた手つきが純粋に心地よいのもあり、また相手が心を許す友人という事も大きいだろう。
桜色の形のいい唇から漏れる息遣いは、次第に熱を帯び、熱く吐き出され、
ついには唇の端から銀色の線さえ零すようになっていく。
「随分と心地良さそうだな、悠里。それほどに良いのか?」
確かめるように香蘭が問うと、悠里はやわらかく目を閉じたまま頷いた。
香蘭の顔が嬉しげに綻ぶ。
「ふ、そうか。 ……お前の細い身体を抱いたのは、これで何度目になるか。
身体を癒すためと言っては、こうして身体を蕩けさせ、私の愛撫で最も感じるように刻み込んだ。
お前は私で、私はお前のひとつだ。
心ではあの茜という小娘への想いに敵わんだろうが、お前の身体は私のものだ、悠里」
香蘭は悠里の身体を抱きしめながら告げる。
悠里の眉が困ったように垂れた。
「……そ、そんなこと……。わ、私は、茜も大好き、でも香蘭の事も大好きなのよ。
あ、あっ……ど、どっちも、どっちのことも大好きじゃ、いけないの……?」
悠里は潤んだ瞳で香蘭を振り返る。
その顔はいつもより幼く見え、しかしいつになく女らしく、堪らず抱きしめたくなってしまう。
そんな風だから、他の人間に渡したくないのだ。
香蘭は胸の内でそう叫びながら、悠里の脚の間へと手を滑り込ませる。
「ん!!」
悠里の目が閉じられ、柔らかな内腿が震えた。
「随分と気持ちよさそうに濡れているな。いつ頃から感じていたんだ?」
悠里の淡いをくじりながら、香蘭が問う。
悠里は目を細めて答えた。
「うつ伏せで、太腿の裏を触られたあたり、かな……。お尻を揉まれるのも凄かったし。
お腹をしつこく潰されるのも……何だか、じゅんと来てたのかも」
その答えをしっかりと聞きながら、香蘭は桜色の秘裂の奥をかき回し続ける。
かすかに水音がしはじめた。
その頃になってふと、香蘭の顔に怪訝さが浮かぶ。
「悠里。先ほど胸を触っていた時から気にはなっていたが……最近、相当男と交わったな。
初めに聞いた苦労話では省略されていたようだが、貴様、複数人に犯されたのではないか?」
その洞察に、悠里の肩が跳ねる。
さらに追求するがごとく、香蘭がその肩を掴む。
すると悠里は、しばし視線を泳がせた後、観念したように頷いた。
「……さすが、誤魔化せないわね。その通りよ。
ビルギットに追い詰められて、最後の最後、もう逃げようもないから真夜中の埠頭で戦ったの。
相手は依頼を受けるたびに殺す人数を増やして遊ぶような狂人だし、出来ればやりたくなかったんだけどね。
何とか倒せはしたけど、私の方だってもう限界で、そのまま海の方へ倒れこんで。
死にたくなかったからもがいて、何とか岸まで泳ぎ着いたら……運がないわよね、そこって密売組織の本拠地前だったのよ。
もう失神寸前だった私は奴らに捕まって、それからずっと、ずっと、玩具にされてた。
途中まで協力して捜査してた地元警察が乗り込んで来なかったら……今頃は、中東でセックスドールにされてた頃かしら」
屈辱に肩を震わせ、絞り出すように告げる悠里。
彼女は以前にも、古武術の道場に捕らえられて辱めを受けた経験がある。
それに似た事がまたとは、何とも不憫な星の下に生まれたものだ。
香蘭は震える悠里を、背後から抱きしめた。そしてその肩を、背を、髪を撫でつける。
「…………辛かったな」
そう囁いた後、先程よりも優しさを込めて悠里の中をくじり回した。
「ん、んん!……ぁはっ……ッあ……」
悠里の口から心地良さそうな声が漏れる。
香蘭の指が襞を撫でるように踊ると、やがてその顔が天を向き、秘部からは透明な飛沫が上がった。
潮吹き、と呼ばれるものだ。
「……お前達、すまんが外してくれ。ここからは、2人だけでしたい」
香蘭が中華娘達に告げた。
中華娘達は、悠里の姿がもう見られなくなる事を惜しみながらも、言われるままにカーテンの外へ出ていく。
それを見届け、香蘭は悠里を押し倒した。
口づけの音が響く。
焚かれた香の薫りに包まれながら、香蘭は悠里に覆い被さる。
慈しむように、愛するように、癒すように。
白く細い指で、悠里の敏感な部分を刺激していく。
それがよほど気持ち良いのだろうか。
悠里は仰向けに身体を投げ出したまま、長い黒髪を毛布の上に広げ、恍惚の表情を浮かべていた。
は、はぁっ……と唇から小さな息遣いが盛れてもいる。
広げられたその内腿には、何度も飛沫を迸らせていると思しき無数の水滴が貼り付き、
脚の震えとともに雫となって流れ落ちてゆく。
ぬちり、と音が立ち、淡いの中で香蘭の指が曲がった。
そのまま臍側へと擦りつけるように指の腹を宛がい、優しく押し込む。
「ひぁ、あ……ま、またイくっ…………!!」
悠里の涼やかな顔が歪められ、後頭部を毛布に擦り付けながら天を仰いだ。
爪の綺麗な足指の先がきゅ、と内へ曲げられた直後、膣内が一分の隙もないほどに香蘭の指を締め付ける。
それに負けじと香蘭が指先で円を描けば、その締め付けがふっと緩み、やがて快感の涙を流すような潮を噴き始める。
「あ、でてる……でちゃ、ってる…………」
悠里はうわ言のように呟いた。
その様は普段の女王然とした姿には程遠いが、香蘭に慈しまれながら抱かれる今は、ひどく自然なものに思える。
香蘭はその悠里の脚を大きく広げさせ、自らも下に穿いていたものを脱ぎ捨てて重なり合う。
すべらかな太腿と、柔な恥じらいの部分が触れ合うように。
「ぁ……」
悠里が声を上げた。香蘭が腰を動かして秘部を擦り合わせると、その声も立て続けに発せられる。
「フッ、フゥッ…………どうだ、感じているか悠里」
自ら動くせいで息を早めながら、香蘭が悠里に問うた。
湿り気を帯びた繁みが擦れ合うたび、興奮で小粒に立ち上がった陰核が刺激される。
柔らかな腿の感触も、包み込むように相手の脚に絡み合う。
「……ええ。気持ちいいわ、香蘭」
悠里は蕩けたような視線で香蘭を見上げた。香蘭の口元が優しく微笑む。
香蘭はそこで銀色の糸を引かせながら腰を離し、部屋の隅にある箱から道具を取り出す。
男根を模した双頭の張り型。
普段あまり使われるものではない。女と女の交わりは、舌と指、そして秘部の触れ合いだけで充分と思うからだ。
しかし今日は、あえてその男への憧れを身に纏う。
悠里を満たすために。しっかりと奥の深くまで愛を伝えるために。
「いくぞ、悠里。」
張り型にオイルを塗りこめながら、香蘭が悠里に覆い被さった。
悠里は少し恥ずかしげに膝を閉じたが、香蘭がその膝へ手を置くと、少しずつ股座を露わにしていく。
桜色をした秘部に、張り型が沈み込んだ。
「うんんっ……!!」
悠里の声がする。
つらそうでもあり、しかし待ち侘びたものが来たという悦びのようでもある、不思議なものだった。
香蘭は悠里の肌に手を置きながら、ゆっくりと、丹念に、その身体の奥を愛していく。
慈しむように。悠里が今までに受けた傷を、ひとつ残らず癒すかのように。
じゅく、じゅくっと結合部から音がする。
充分に愛液で満たされたという証拠の、心地の良さそうな音が。
「香蘭……香蘭っ!!!」
悠里は叫びながら、覆い被さる香蘭の首元に手を回し、その腰へも伸びやかな脚を回す。
ふぅと甘い匂いが香蘭の鼻腔を突いた。
香蘭は膝に力を入れ、いよいよ注意深く悠里の膣の敏感な部分を愛しながら、その綺麗な黒髪を掻き揚げた。
濡れた目線が合う。
「…………おかえり、小悠」
今さらながらに、精一杯の愛情の笑みを浮かべながら、香蘭が囁く。
悠里もそれに笑みを返した。
「…………ただいま、香蘭」
そう息も触れ合うような近さで微笑みあい、やがて本当に口づけを交わしあう。
日々様々な苦難に見舞われる女闘者の、束の間の情愛。
それはいつまでも、いつまでも、暖かに続いていた……。
END
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中華風の趣を湛えた部屋で、一人の女が黒鍼を磨いている。
美しい女だ。
くっきりとした切れ長の瞳に、左右に垂らした三つ編み、艶やかな肌。
その瑞々しい魅力は、普通に見ればせいぜい20代に差し掛かろうかといったところだ。
彼女が実はとうに30を越えると言って、信じられるものだろうか。
そこには奇跡の業と言ってもいい、薬事・美容の粋が見て取れた。
「……!」
彼女、香蘭(シャンラン)は、ふいに油断のない視線を後方へ投げる。
身体の線に隠すように鍼を持ち、窺った先にいたのは、こちらも目の覚めるような美女だ。
香蘭の冷徹な瞳が解りやすいほどの動揺を示した。
「今日は面会の予定などなかった筈だが……何用だ」
香蘭が背後の女性に向けて問う。
女性は形のいい唇を吊り上げ、一流の女優さながらに品よく笑った。
「あら。でもあの子達は、あっさり通してくれたわよ」
女性が示す先では、頭にシニヨンを作った中華娘達がはにかんでいる。
たまらず香蘭の口元も綻んだ。
「全く、困ったものだ」
言葉とは裏腹にまるで迷惑がっていない香蘭は、静かに立ち上がって女性に近づく。
「……久しいな、悠里」
香蘭は、旧知の友の姿を改めて視界に収めた。
キリリと整った眉。
猫のように好奇心に満ち、かつ相手の顔が映りこむほどに虹彩の輝く瞳。
光の加減によっては見えなくなるほどすっきりと通った鼻筋。
ルージュいらずのふっくらと艶やかな唇に、日本人離れした洗練されすぎている輪郭。
無駄な肉のない魅惑的な首筋に鎖骨が続き、胸の膨らみが南国の果実を思わせる。
腰は思い切ったほどに細く絞られ、尻からのボリュームをいよいよ艶かしく目に焼き付けさせる。
そしてその起伏も鮮やかなボディラインを締めくくるのは、思わず何度も視線を下ろしてしまう脚線美だ。
並大抵のレースクイーンなら恥じて足元を隠すほどのその脚は小気味いいほどに長く、
どのようなポーズを取っても絵になるだけの非凡さがあった。
体中から『新鮮』と『自信』のイメージを振りまくような彼女が長い黒髪を揺らして歩けば、
その姿はまさに不可侵の女王と呼ぶに相応しい。
香蘭は、久々のその魅力にごくりと喉を鳴らしてしまっていた。
一目見ただけで視界に映る日常が薄皮を剥いだように色鮮やかになる美女が、
自分に向けて気心の知れた笑みを向けているという至福。
「久しぶりね、香蘭」
『至福』の元凶は、思わずつられて笑うような艶やかな微笑を浮かべた。
「……なんだこれは、体中が古いゴムのように凝り固まっているぞ。
ストレッチを怠ったのか、悠里」
体調把握のために悠里の身体へ触れた香蘭が、驚きの声を上げる。
肘の内側を押し込み、首元を揉み解してみると、ゴリゴリと音のしそうな反応が返ってきていた。
悠里が桜色の唇を尖らせる。
「仕方ないじゃない。先週までいた北欧じゃあ、それは大変な目に遭ってたのよ。
着いてすぐ女の子と知り合って、その子を狙う密売組織からろくに寝る間もなく逃げ回って。
おまけにいつの間にか、裏で名の通った暗殺者とかいうのにまで付け狙われてて。
十年分の不幸がいっぺんに降りかかってきたみたいだったわ」
こめかみを押さえて呻く姿を見る限り、相当に参ったらしい。
「……なるほど、やはりか。こちらにも噂話というレベルでの情報は回ってきていたぞ。
貴様、『叫喚の音叉』ビルギット・ヒリンズとやり合っていたな?」
「へぇ、さすがに詳しいわね」
「さすがと言うべきはこちらだ。あの『叫喚の音叉』が数週間にも渡って殺害依頼を受けないなど、
“こちら側”でも噂の種だったものだぞ。
だがその間、遂行中の依頼を達成できずにいたとすれば得心も行く」
「裏社会のウワサの種、ねぇ……確かにあれはとんでもなかったわ。
手足を吹き飛ばされそうになった事は何度もあったし、おまけにもうしつこいったら。
ホラー映画の中に入り込んだのかと思ったぐらいよ」
そうした穏やかでない会話が進む間にも、香蘭の手は悠里の身体を把握していく。
「ふむ……ここまで凝り固まっているとなれば、鍼よりもマッサージだな。
先に施術部屋へ行っていろ、悠里。私も追って向かう」
「マ、マッサージ……?あんまり痛くしないでね」
何か思うところがあるのか、少し気後れした表情を見せる悠里。
しかし香蘭は厳しい顔だ。
「そこまでガタが来ていては、痛む程にしなければ効かん。とっとと行け!」
「うう……し、しょうがない……か……。」
香蘭に追い立てられ、中華娘に腕を引かれて先導されながら、悠里は観念したように首を垂れた。
2.
カーテンで外と仕切られた施術室には香が焚かれていた。
炬燵の中を思わせるオレンジの照明や、床に広げられた柔らかな毛布もまた、心を穏やかにする効果がある。
悠里はその中で中華娘達に促され、着ていた服を脱ぎ捨てた。
途端にわぁ、と起きる感嘆の声。
水を弾くようにつややかな桜色の肌は、同性の、悠里より遥かに年下の少女の目をも釘付けにする。
「枕に顎を乗せて、うつ伏せになれ」
香蘭が命じると、悠里は言葉通り裸のままうつ伏せになり、枕と顎の間に重ねた掌を挟みこんだ。
すらりとした身体が横たわっているさまは中々の絶景だ。
肩甲骨の隆起、S字を描く背筋のライン、豊かに盛り上がった尻肉。
思わず抱きつきたい気分を見る者に湧き起こさせる。
香蘭は開かせた悠里の脚の間に、陶器で出来た深めの器を置いた。
そしてそこからオイルを掬い取る。
「さて、いくぞ」
掌を擦り合わせてオイルを馴染ませ、いよいよ香蘭のマッサージは始まった。
「……ぎゃあっ、あ゛う!い、いた、いぃ……!!!」
悠里が枕の上で歯を喰いしばる。その目はつらそうに閉じられている。
「酷いものだな。体中がガタガタだぞ」
香蘭は呆れたように告げ、両の親指で悠里の土踏まず周辺を何度も押し込んでいく。
その度に悠里の身体が跳ね、細い悲鳴が上がるのだった。
「あ、あう、あうう!!きゃうぅっっ!!!」
オイルによってテカリを帯びていく足裏と、悠里の甲高い悲鳴。
それは妙に艶かしく見えた。
足裏を散々に刺激したのち、香蘭の手は踵を越えて悠里の脹脛へと至る。
伸びやかな脚がオイルのテカリに塗れ始めた。
「よく凝っているな、『カーペントレス(木こり娘)』に酷使された脚は」
香蘭の手が脹脛を揉み潰す。枕に沈んだ悠里の口から、く、く、と押さえ切れない悲鳴が漏れる。
さらに指先が膝裏、そして内腿へと這い上がると、悠里は堪らずに身を捩った。
「い、嫌っ!!」
「暴れるな、それだけ効いているという事だ」
香蘭は叱りながら、悠里の尻肉へと手をかける。
そのまま餅をこねるように力強く揉み込めば、悠里の腰が妖しくうごめいた。
「はあ、ぁんっ……」
桃色の息を吐くような様子で声が漏れる。
「気持ちよさそうだな、悠里」
「……お、お尻揉まれると……やっぱり凄いわね。恥骨にまでジンと響いてくる……」
ただ快感に酔いしれる悠里。
それを見やりながら、香蘭は次の治療に向かった。
悠里の腿の裏側を膝で押し込み、刺激しながら、その背中へ肘をつける。
ぐりり、と背骨の側部に肘が入り込むと、悠里の目が見開かれた。
「かっ、……あぐっ……!!」
枕を掴む腕が細かに痙攣するのを横目に見つつ、香蘭は背中の肘を移動させる。
筋肉へと筋をつけるかのように、脇腹へと。
「ァぐぅうううあ゛っ!!!」
「ふ、凄い声が出るな悠里?お前とリングで戦った娘達にも教えてやりたい所だ。
元女王・悠里は、こうして組み敷いて背中を肘で抉れば、あられもない声を出すぞ、とな」
香蘭に茶化され、悠里は目の端に涙を浮かべながら後ろを見上げる。
「はっ……はあっ……し、試合でなら、とっくに返してるわ、こんな体勢……」
「ほう、それは大したものだ。では今やって見せてくれ」
香蘭は笑い、悠里の右手首を掴んで後ろへ引いた。
その状態で腕の付け根を押し込めば、悠里の肩からはバキバキと骨の折れるような音がする。
「あ゛ッぐあぁああああぁぁぁああッ!!!!!」
悠里はその整った横顔を枕に押し付け、眉間に皺を寄せて叫ぶ。
その姿はまるで、組み敷かれたまま関節技を掛けられているかのようだ。
上体は深く毛布に押し付けられており、潰れたような乳房が実に艶かしい。
「その激痛は、そのままお前の肩関節の凝りだ。我が身が可愛ければ耐え忍ぶがいい」
香蘭はそう言いながら、さらに手首を引きつつ付け根を押し込む。
ゴリ、ゴリと骨の動く音がし、悠里は唇を噛んでそれに耐えた。
数度の刺激の後、ようやく手首を離された悠里の右腕は力なく毛布に沈む。
「はっ、はぁ、はぁ……」
「ふん、ようやく解放されたとでも言いたげな顔だな。だがもう片方もいくぞ」
香蘭は嗜虐的な笑みで告げ、悠里の左手の手首を取る。
「あがあっ!!」
左右対称の同じ治療が課せられた。
「右腕より、こちらの方が酷使されているようだな」
ゴギゴギと凄まじい音を響かせる左腕に、香蘭が呟く。
悠里はされるがままに腕を引かれながら、その白い乳房を身体の横から零していた。
中華娘達がそれに気づいて頬を赤らめる。
背面へのマッサージが一通り終わったあと、次に悠里は仰向けにさせられた。
重圧から解放された零れんばかりの乳房が、悠里の胸板の上で柔らかに揺れる。
形が溶けたように崩れないあたり、驚異的な張りといえた。
目を引くのは乳房ばかりではない。
背中側も肩甲骨やS字を描く背筋のラインが実に眩かった悠里だが、
前身となればいよいよ理性を試されるほどの悩ましい形をしている。
「いや、そんなに……見ないでよ」
身体を凝視してくる香蘭に、悠里は手で胸を覆い隠した。
自分の身体に絶対の自信を持つ悠里は平素、裸体を晒すことを恥とは思わない。
しかし官能の炎が芽生え始めた時だけは別だ。
逆をいえば、悠里が肌を隠す時は、少なからず『感じ始めている』……ともいえる。
香蘭はそれを汲み取りながら、悠里の身体に指を這わせた。
首元から、乳房の間を抜けて肋骨へ、そして薄っすらと6つに割れた腹筋へ。
さらに下って安産を約束する見事な腰つきへ流れ、閉じた股下に逆三角の隙間ができる締まった太腿へと至る。
「はっ……いひ、うぅふっ……!!」
皮膚の敏感な悠里は、その動きだけで細かに身を捩らせた。
香蘭はそれに笑みを浮かべつつ、手を悠里の下腹へと添える。
腰骨の両端に掌底を宛がい、ぐいと押すと、悠里の太腿が跳ね上がった。
「ふ、痛むらしいな」
「ん……っ!!!」
香蘭が訊ねるが、悠里は下唇を内へ巻き込んだまま、視線を横に逸らして耐えていた。
うつ伏せの時と違って香蘭と向かい合う格好のため、乱れる所を見せまいとしているのだろう。
含み笑いの後、香蘭は刺激を続ける。
腹筋中央の縦線を指先で揉み込み、また掌の底で腹部を平らにならす様に磨り潰す。
この治療に至って、いよいよ香蘭は他の患者と悠里との違いを顕著に感じていた。
腹筋の硬さがまるで違う。
普段なら餅をこねるように内へ内へと沈み込ませるマッサージをする所だが、悠里に対してはそうはいかない。
見た目はやや筋肉質といった程度だが、その腹筋は巨木の幹、あるいはゴムタイヤのような硬さと弾力を兼ね備えている。
おそらくは一般人がバットで殴りつけても、数発であれば問題なく吸収してしまうだろう。
事実、香蘭が渾身の力と体重を込めて圧し掛かってみても、スプリングのようにあっけなく弾かれてしまうのだった。
並みの施術者であれば、その力んだ腹筋の前にマッサージは至難だ。
しかし香蘭は、両の掌を腹部の上で重ね合わせ、勢いよく悠里の腹部へ沈み込ませる。
「う゛ぉううえっ!?」
途端に悠里が目を剥き、呼吸の苦しげな呻きを漏らした。
その腹部は香蘭の掌を飲み込むように深く沈みこんでいる。
「私を相手に腹筋を固めても無駄なことは、よく知っているだろう?」
香蘭の切れ長の目がほくそ笑んだ。
悠里は苦しげに息を吐きながら、少しずつ腹部の力を抜き始める。
浮き上がった腹筋と細く締まった腰つきの上で、香蘭の白い手が踊りまわる。
腰を掴み、腹筋を押し潰し、アバラの部分をなぞって。
「……ン、はっ……は、ぁ……はあ、あッ……う、はあっ…………!!」
悠里は出産を思わせるような吐息を吐きながら、少しずつ、少しずつ、その顔に官能の色を浮かべていく。
香蘭が悠里の脚を平泳ぎをするように開かせ、足の付け根を刺激し始めた時、その頬はいよいよ赤く染まり始めた。
オレンジの灯りに照らされた悠里の内腿を、香蘭の白い手が揉み解す。
その過程で、香蘭はちらりと局部の下へ視線を落とした。
「悠里、どうした事だこれは。尻の穴がヒクヒクと物欲しそうに蠢いているぞ。
指でも捻じ込んで欲しいのか?」
かつて古武道の門下生らの手によって開発された経緯のある悠里の尻穴は、普段からぴちりと閉じてはいない。
綿棒数本をそのまま飲み込める程度には開いているものだが、今はそれが更なる開閉を繰り返している。
「ちょ、ちょっと、お尻なんて見ないで!!」
悠里は狼狽した声を上げる。
彼女は元女王らしくプライドが高く、また処女でこそないものの、未だに性への耐性が低い娘だ。
耳まで赤らめながら脚を閉じようとするのを、香蘭が笑って封じる。
「はは、悪かった、許せ。だが少々心地よくなってきたのは事実だろう?そのように解しているからな」
香蘭はそう言いながら、三度悠里に姿勢を変えさせる。
今度は悠里に胡坐を掻くように座らせる格好だ。
背後から香蘭の細い身体が覆い被さり、悠里に前屈みを強要した。
「うい、ぃっ……!!」
腰がパキパキと鳴るのを感じながら、しかし悠里の背筋にじんわりと快感が生じる。
さらに香蘭が、悠里を抱え起こしながら背後に身体を反らせると、その快感ははっきりと背筋を走り抜ける物に変わった。
「ああ……!!」
初めて悠里の唇から、完全な心地よさからの声が上がる。
香蘭はそれを聴きながら、おもむろに悠里の乳房を鷲掴みにした。
「きゃっ!?」
「身体の凝りも相当に解れて、いい気分になってきた頃のはずだ。仕上げをしてやろう」
香蘭は悠里にそう囁きかけながら、張りのある乳房を揉みしだく。
「うわ……!!」
施術を見守っていた中華娘の何人かが手で顔を覆い、しかし指の間から官能の瞬間を目撃する。
「あ……んあ、あふぅ、うっ…………」
悠里は背後から香蘭に胸を揉まれながら、心地よさに身を委ねているようだった。
房事に慣れた手つきが純粋に心地よいのもあり、また相手が心を許す友人という事も大きいだろう。
桜色の形のいい唇から漏れる息遣いは、次第に熱を帯び、熱く吐き出され、
ついには唇の端から銀色の線さえ零すようになっていく。
「随分と心地良さそうだな、悠里。それほどに良いのか?」
確かめるように香蘭が問うと、悠里はやわらかく目を閉じたまま頷いた。
香蘭の顔が嬉しげに綻ぶ。
「ふ、そうか。 ……お前の細い身体を抱いたのは、これで何度目になるか。
身体を癒すためと言っては、こうして身体を蕩けさせ、私の愛撫で最も感じるように刻み込んだ。
お前は私で、私はお前のひとつだ。
心ではあの茜という小娘への想いに敵わんだろうが、お前の身体は私のものだ、悠里」
香蘭は悠里の身体を抱きしめながら告げる。
悠里の眉が困ったように垂れた。
「……そ、そんなこと……。わ、私は、茜も大好き、でも香蘭の事も大好きなのよ。
あ、あっ……ど、どっちも、どっちのことも大好きじゃ、いけないの……?」
悠里は潤んだ瞳で香蘭を振り返る。
その顔はいつもより幼く見え、しかしいつになく女らしく、堪らず抱きしめたくなってしまう。
そんな風だから、他の人間に渡したくないのだ。
香蘭は胸の内でそう叫びながら、悠里の脚の間へと手を滑り込ませる。
「ん!!」
悠里の目が閉じられ、柔らかな内腿が震えた。
「随分と気持ちよさそうに濡れているな。いつ頃から感じていたんだ?」
悠里の淡いをくじりながら、香蘭が問う。
悠里は目を細めて答えた。
「うつ伏せで、太腿の裏を触られたあたり、かな……。お尻を揉まれるのも凄かったし。
お腹をしつこく潰されるのも……何だか、じゅんと来てたのかも」
その答えをしっかりと聞きながら、香蘭は桜色の秘裂の奥をかき回し続ける。
かすかに水音がしはじめた。
その頃になってふと、香蘭の顔に怪訝さが浮かぶ。
「悠里。先ほど胸を触っていた時から気にはなっていたが……最近、相当男と交わったな。
初めに聞いた苦労話では省略されていたようだが、貴様、複数人に犯されたのではないか?」
その洞察に、悠里の肩が跳ねる。
さらに追求するがごとく、香蘭がその肩を掴む。
すると悠里は、しばし視線を泳がせた後、観念したように頷いた。
「……さすが、誤魔化せないわね。その通りよ。
ビルギットに追い詰められて、最後の最後、もう逃げようもないから真夜中の埠頭で戦ったの。
相手は依頼を受けるたびに殺す人数を増やして遊ぶような狂人だし、出来ればやりたくなかったんだけどね。
何とか倒せはしたけど、私の方だってもう限界で、そのまま海の方へ倒れこんで。
死にたくなかったからもがいて、何とか岸まで泳ぎ着いたら……運がないわよね、そこって密売組織の本拠地前だったのよ。
もう失神寸前だった私は奴らに捕まって、それからずっと、ずっと、玩具にされてた。
途中まで協力して捜査してた地元警察が乗り込んで来なかったら……今頃は、中東でセックスドールにされてた頃かしら」
屈辱に肩を震わせ、絞り出すように告げる悠里。
彼女は以前にも、古武術の道場に捕らえられて辱めを受けた経験がある。
それに似た事がまたとは、何とも不憫な星の下に生まれたものだ。
香蘭は震える悠里を、背後から抱きしめた。そしてその肩を、背を、髪を撫でつける。
「…………辛かったな」
そう囁いた後、先程よりも優しさを込めて悠里の中をくじり回した。
「ん、んん!……ぁはっ……ッあ……」
悠里の口から心地良さそうな声が漏れる。
香蘭の指が襞を撫でるように踊ると、やがてその顔が天を向き、秘部からは透明な飛沫が上がった。
潮吹き、と呼ばれるものだ。
「……お前達、すまんが外してくれ。ここからは、2人だけでしたい」
香蘭が中華娘達に告げた。
中華娘達は、悠里の姿がもう見られなくなる事を惜しみながらも、言われるままにカーテンの外へ出ていく。
それを見届け、香蘭は悠里を押し倒した。
口づけの音が響く。
焚かれた香の薫りに包まれながら、香蘭は悠里に覆い被さる。
慈しむように、愛するように、癒すように。
白く細い指で、悠里の敏感な部分を刺激していく。
それがよほど気持ち良いのだろうか。
悠里は仰向けに身体を投げ出したまま、長い黒髪を毛布の上に広げ、恍惚の表情を浮かべていた。
は、はぁっ……と唇から小さな息遣いが盛れてもいる。
広げられたその内腿には、何度も飛沫を迸らせていると思しき無数の水滴が貼り付き、
脚の震えとともに雫となって流れ落ちてゆく。
ぬちり、と音が立ち、淡いの中で香蘭の指が曲がった。
そのまま臍側へと擦りつけるように指の腹を宛がい、優しく押し込む。
「ひぁ、あ……ま、またイくっ…………!!」
悠里の涼やかな顔が歪められ、後頭部を毛布に擦り付けながら天を仰いだ。
爪の綺麗な足指の先がきゅ、と内へ曲げられた直後、膣内が一分の隙もないほどに香蘭の指を締め付ける。
それに負けじと香蘭が指先で円を描けば、その締め付けがふっと緩み、やがて快感の涙を流すような潮を噴き始める。
「あ、でてる……でちゃ、ってる…………」
悠里はうわ言のように呟いた。
その様は普段の女王然とした姿には程遠いが、香蘭に慈しまれながら抱かれる今は、ひどく自然なものに思える。
香蘭はその悠里の脚を大きく広げさせ、自らも下に穿いていたものを脱ぎ捨てて重なり合う。
すべらかな太腿と、柔な恥じらいの部分が触れ合うように。
「ぁ……」
悠里が声を上げた。香蘭が腰を動かして秘部を擦り合わせると、その声も立て続けに発せられる。
「フッ、フゥッ…………どうだ、感じているか悠里」
自ら動くせいで息を早めながら、香蘭が悠里に問うた。
湿り気を帯びた繁みが擦れ合うたび、興奮で小粒に立ち上がった陰核が刺激される。
柔らかな腿の感触も、包み込むように相手の脚に絡み合う。
「……ええ。気持ちいいわ、香蘭」
悠里は蕩けたような視線で香蘭を見上げた。香蘭の口元が優しく微笑む。
香蘭はそこで銀色の糸を引かせながら腰を離し、部屋の隅にある箱から道具を取り出す。
男根を模した双頭の張り型。
普段あまり使われるものではない。女と女の交わりは、舌と指、そして秘部の触れ合いだけで充分と思うからだ。
しかし今日は、あえてその男への憧れを身に纏う。
悠里を満たすために。しっかりと奥の深くまで愛を伝えるために。
「いくぞ、悠里。」
張り型にオイルを塗りこめながら、香蘭が悠里に覆い被さった。
悠里は少し恥ずかしげに膝を閉じたが、香蘭がその膝へ手を置くと、少しずつ股座を露わにしていく。
桜色をした秘部に、張り型が沈み込んだ。
「うんんっ……!!」
悠里の声がする。
つらそうでもあり、しかし待ち侘びたものが来たという悦びのようでもある、不思議なものだった。
香蘭は悠里の肌に手を置きながら、ゆっくりと、丹念に、その身体の奥を愛していく。
慈しむように。悠里が今までに受けた傷を、ひとつ残らず癒すかのように。
じゅく、じゅくっと結合部から音がする。
充分に愛液で満たされたという証拠の、心地の良さそうな音が。
「香蘭……香蘭っ!!!」
悠里は叫びながら、覆い被さる香蘭の首元に手を回し、その腰へも伸びやかな脚を回す。
ふぅと甘い匂いが香蘭の鼻腔を突いた。
香蘭は膝に力を入れ、いよいよ注意深く悠里の膣の敏感な部分を愛しながら、その綺麗な黒髪を掻き揚げた。
濡れた目線が合う。
「…………おかえり、小悠」
今さらながらに、精一杯の愛情の笑みを浮かべながら、香蘭が囁く。
悠里もそれに笑みを返した。
「…………ただいま、香蘭」
そう息も触れ合うような近さで微笑みあい、やがて本当に口づけを交わしあう。
日々様々な苦難に見舞われる女闘者の、束の間の情愛。
それはいつまでも、いつまでも、暖かに続いていた……。
END