大樹のほとり

自作小説を掲載しているブログです。

楽艶祭

楽艶祭 最終話

1.

最後の朝が来た。
私の日常が変わってから一ヶ月。
初めて人に注目された、その気分は思っていた通りろくなものじゃなかった。
でもこの時になって思う、私自身だってろくなものじゃなかったと。
いつだって人の目を避けることばかり考え、髪に隠れて世界を半分しか見ようとしなかった。
あの日、あの掲示板に私の名前が無かったなら、それは今も変わっていないはず。
私に現実の厳しさを教えたのはリカ。
明るい世界を見せてくれたのが灯。

今日の私の行動次第で、二人と、私自身のこれからが決まるんだ。

つらいと感じていないのか、実物を目にしたからか、あのベッドの夢はもう見なかった。
寝つきは悪かったけど頭は冴えている。
ほっとしながら起き上がろうとすると、体ががくがく震えていた。
腕が痙攣している。
いじめに遭ってた時、こうなる事がよくあった。
手の震えが止まらない。寒いとか怖いとかじゃなくて、ただ意味もなく震えてる。
たぶんストレスからくるんじゃないかな。
マッサージしても深呼吸してみても意味はないから、こうなると放っておくしかない。
かなり苦労しながら朝食をすませて、洗面台に立つ。
   
    ・・・・・あれ? なんでここにいるんだっけ?
  …ああ、顔を洗う為だ。それしかない。

これもいじめられてた頃によく起こった。
集中力がなくなって、自分が何をしているかがわからなくなる。
 でも、これも気をつけてどうにかなるものじゃない。
私は何も考えずに歯ブラシを動かし続け、気付いた時には口から唾液がこぼれて
パジャマに大きなシミを作っていた。
慌てて吐き出すと、流しには赤い水が流れた。

これから大事な事があるっていうのに、さすがにこのままじゃいけない。
幸い、マニュアルに書かれていた指定時間にはまだ余裕がある。
私は髪と体を隅々まで丹念に洗った。
なんとも貧相な体だ。
灯がよく言ってくれてたように、スタイルはそう悪くはないんじゃないか、と思う。
でも、間違ってもコンテストに出るとかそういう類のものじゃない。
かなり気が滅入ってきたけど、やっと手の震えは止まってくれた。

お風呂から出てショーツを履く。
居間に行き、薄い青色のブラジャーをつけて、フリル付きの白いブラウスを着る。
少しだけ気になることがあって、何度か脱いだり、着たりを繰り返す。
昨日までのある練習の総復習をするように。
なんとか満足すると、ピンクのカーディガンを羽織る。
そして膝下までの黒スカートと紺のハイソックスを履いて着替えは終わり。

私はその時もう、悲しくてたまらなかった。
この服は、ファッションなんてまるで知らない私に、初めて灯が買ってくれた一式。
お姫様って感じですごく可愛い、って言ってくれた。
 私はこれからその服を着て、大勢の人の前で惨めな姿を見せる。
灯の気持ちを踏みにじっているようだ。
いつだったか本宮先生に対しても感じた悲しさ。
今回はそれ以上だ。
でも、もうやらないわけにはいかない。灯のことを想うなら尚のこと。
前髪を梳いて左右に分けて留め、 普段は括る後ろ髪をまっすぐ伸ばす。
この服にはこの髪が一番似合う、その灯の言葉を信じて。

壁に掛かった灯の写真に触れ、玄関へ向かう。
帰ってくる時、どんな顔をしてるだろう?
そもそも無事に帰ってこれるんだろうか?
不安はたくさんあったけど、私は精一杯元気な声で家の中に呼びかけた。

   「 いってきます! 」


2.

百合嶺女学院の学園祭は午前と午後の部に分かれているらしい。
午前中は屋台や部活動のパフォーマンスがあって、一般の人が見て回る普通の学園祭。
午後は、学園の最奥にある、無駄にお金が掛かっていそうな一万人収容のドームで行なわれる。
そこに入れるのは一部の偉い人と、コンテストに出場する生徒だけ。
今はちょうど午前の部が終わり、片付けと午後の準備に入ったところだった。
 
 コンテストの意味は、前にちなみって人が言ってたように、娯楽と運営費の交換。
審査には一次と二次があって、一次は水着審査などで会場のお客さんが二・三人を選び、
二次はその年によって違う事をして、五人の審査員が優勝者を選ぶ。
一見普通の美少女コンテストだけど、裏には家の関係とかの大人の事情が絡んでくるらしい。
つまり、審査が始まる前から公正なスタートではないはず。
 しかも、ちなみに渡されたマニュアルには、もっと絶望的な事実が記されていた。
コンテストには毎年、私ほどじゃなくても初めから勝ち目の薄そうな生徒がいるそうだ。
その生徒は、一ヶ月いじめられ続けてさらに悲惨な状態になってて、ますます優勝は望めない。
それではあんまりだという事で、他の生徒がやるような水着審査とかの代わりに、
もっと“魅力的な演技”が認められる。

 気分の悪くなりそうな話、落ちもやっぱりとんでもないよ。
どれだけ必死に頑張って、死にたいぐらいの羞恥を殺して泣きながら演技を続けても、
今までにそういった人達が優勝した事は一度もないって…。
 でも、私もそうと決まったわけじゃない。
私はその人たちと違って、いじめられたのはせいぜいはじめの一週間。
それだって事情を知らないリカの仕業だったから、実際は全くいじめられてないに等しい。
それに、今の私には『如月の娘』っていう肩書きがついてる。
優勝候補って呼ばれてたリカのなんだもん、意味はあるはず…。
昨日までそう思って不安を紛らわせてたけど、今になってまた胸が苦しくなってきた。
  
私が灯を助け出せる確立は、どのくらいあるんだろう?

沈む気分に俯きそうになりながら、でもそれをすると負ける気がして背筋を伸ばす。
そしてやっとドームの入り口へ差し掛かった時、ドームの中から急に人が飛び出してきた。
その人は「どいてっ!!」と叫んで私を突き飛ばし、一瞬振り返ってこっちを見る。
恐ろしく頬がこけていたけど、見慣れた顔は忘れられない。
それはお母さん…じゃない、美鈴さんだった。
本当の母親じゃないとはわかってたけど、十五年間の思い込みはそうすぐに解けるものじゃない。
「お母さん!!」
私は思わず口にしていた。
その言葉を聞いた途端、美鈴さんが苦虫を噛み潰したような顔をした気がする。
「……あんたにそう呼ばれる資格はないわ」
吐き捨てるようにそう言って、美鈴さんはどこかへ走り去ってしまう。
 私がしばらくその後ろ姿を見送っていると、またドームの中から人が出てきた。
今度は何人かの、いかにも乱暴そうな男達だった。
直感的に、美鈴さんはこの男たちに追われているんだと気付く。
その男達は辺りを見回し、私の姿を見つけると呼びかけてきた。
「おいそこのガキ、今ここから女が出てきたはずだ。どっち行ったか言え!!」
怒鳴るように命令されたのが気に障ったのもあって、私は美鈴さんが去った方とは
まるで見当違いな方向にある山道を示した(ドームがあるのは山の中)。
男達は驚き、私を探るように睨んだ後、仕方なく誰もいるはずのない山道を登り始めた。
「くそっ、あの女、よくあの体で…!」
と文句を言っている。
 育ての親の美鈴さんを恨む理由は無いし、リカみたいな生活がしたいわけでもない。
私は少しだけ気を良くしてドームへ足を踏み入れた。


入る前に晴れていた気分は、すぐに甘かったという後悔に変わった。
控え室にいた人達は、私の想像を遥かに越えるぐらい輝いている。
立派な胸、くびれた腰、大きく突き出したお尻。
その迫力に比べれば、私の体なんて幼稚園児と変わらない。
おまけにその顔は、人形や女優というしかないほど整ってる。
灯に褒められて、私もそこそこ見れる顔だって思ってた。でもとんでもない。
今この場にいる中で、一番魅力を感じないのは?と聞かれれば、私と答えるしかない。
如月の娘?そんな物、気品が無ければ恥ずかしいだけ。
優勝候補っていうのは肩書きだけじゃなく、リカのあの顔と体があって初めて言えることなんだ。
私、身分を偽ってるわけじゃないよね…?
 
 その人達は私が部屋に入ると、すぐに意地悪そうに周りに集まってきた。
「あ~ら、これはこれは優勝候補の如月リカ様じゃありませんか。さっすが、麗しいですわぁ」
口に手を当てて笑いながらそういった人は、顔にすごく上品なお化粧をしていた。
そうか、この人達の顔がすごく華やかに見えるのは、完璧にお化粧をしてるからなんだ!
でも、そうとわかった所で、お化粧道具を持っていない、したこともない私には関係なかった。
「リカ様、余裕ですわね。化粧もせずに晴れ舞台ですか。私共にはとても真似できませんわ!」
やっぱりその事を言われ、周りに笑いが湧き起こった。
 私は居ても立ってもいられなくなり、控え室を飛び出す。

部屋の外には、なぜか本宮先生が立っていた。
暗くて、地味で、何の取り得も無い私に、いつだって優しく接してくれる先生。
灯と友達になる前からずっと私を見守ってくれていた、母親のような人。
その姿を見たとき、なんだか言い表せないほど嬉しくて、私はつい先生に抱きついてしまった。
せんせえ、せんせえって繰り返して、胸に顔をうずめて泣いた。
 
でも、先生は、いつもみたいに私の髪を撫でてくれる事はなかった。

胸がずきっと痛み、本宮先生の体が遠くなる。
突き飛ばされたと分かるには、少し時間がかかった。
「触らないでちょうだい、汚らしい」
先生は苛立たしげに吐き捨て、私の体が触れていた場所を手ではたきはじめた。
「……え?」
それだけ言うのが精一杯だった。
 ……なんで、どうして……?
頭が真っ白になって、何も分からなくなる。
私の好きな日焼け顔に白い歯が覗いた。
「まさかあなた、自分が本当に好かれているとでも思ったの?やだ、笑わせないでよ!
 理事長に言われてあなたを監視してただけ。必要に応じて甘い言葉をかけはしたけど、
 それだけでなつくなんて、犬じゃないんだから…。」

その言葉を聞いているうちに、やっと私は自分が何を失ったのかを理解した。
この何日かで、私はいくつもの本当に大切なものをなくした。
産みの親だと思っていた女性。初めて出来た友達。
そして、何よりも頼りにしていた先生。
これはあまりにもつらすぎた。
これ以上、私からは何が奪われ、周りの世界から孤立させられていくんだろう。

控え室に戻ると、やっぱりさっきの人達が待っていて、逃げられないように私を囲んだ。
「ちょっと、何逃げてらっしゃるの」
一人がそう言い、別の人達が私の腕を掴んで動けなくして、私の顔を覗き込んでくる。
「まあ、リカ様泣いてる!鼻水まで出てるじゃない。可哀相、綺麗にして差し上げるわ」
さっきの人がそう言ったと思うと、私の元を一旦離れて鞄からスプレーの缶を取り出した。
嫌な予感がして必死にもがいたけど、後ろから腕や腰を押さえつけられていて逃げられない。
スプレー缶の先が鼻に当たり、そのまま穴の中へねじ込まれた途端、何かが噴き出してきた。
「ゃ、んぁあ゛ふっ!!げほ、…えほ…!ぅあ…!!」
喉が焼ける感じがして、変な声が出て、私はひどく咳き込んだ。
涙が押し出されるようにこぼれる。
すぐにもう一方の鼻の穴にも同じように噴きつけられた。
「―――――ッ!!!」
今度は声も出ない。口から空気が漏れて、鼻の穴からも何かの液体が垂れ始める。
体の拘束が解け、私が鼻を押さえて声のない悲鳴を上げていると、控え室に誰かが入ってきた。
「おやぁ?早速お楽しみですかぁ~。」
もう間違える筈もない、この間抜けた声はちなみ。
私は声がしたほうを睨んだけど、目が霞んでよく見えなかった。
何か大きなものが、腰を下ろすように動く。ちなみが私を覗き込んでいるらしい。
「あ~れ、元気な目ですね。血は繋がってないのに、美鈴さんとそっくりじゃないですかぁ。」
急に鼻が摘まれ、私はその痛さにまた悲鳴を上げた。
「美鈴さんねえ、逃げ出しちゃったんですよ。整形さんと一緒に軟禁してたんですけどね。
 まああんな人ひとり逃げ出したところで、どうって事ないですけどぉ。
 与えられた食事にすら手をつけずに、一体どこ行ったんですかね?」
ちなみはそう言って立ち上がり、そろそろ一次審査が始まると皆に告げる。
ちなみと最初の人らしい一人が部屋を出て行き、私の体はまたいくつもの手に掴まれた。

無理矢理立たされて、後ろから胸を揉まれ、前からはショーツ越しにあそこに口をつけられる。
いきなりそんなことをされても、気持ちいいわけがない。
私が声を出さずにいると、背中から手がブラウスの中に滑り込み、ブラジャーのホックを外した。
そしてその手が脇腹を撫でるように前へ移ってきて、丸出しの胸を直接握ってくる。
「ん…っ!」
思わず声が漏れてしまった。それがすごく気持ちいいから。
 いじめられ始めた頃、胸を揉まれるのは泣きそうになるほど痛かった。
大きさはそれほどでもないけど、最近では張っているような感じになっていて、
自分でそっと触っても痛みに近い少し変な感じがするぐらいだった。
でも揉まれ続けているうちに、だんだん気持ち良さのほうが大きくなってきている。
 乱暴にこね回されたり乳首を潰されたりすると、前は叫んでいたのに今は溜め息のような
声が出るだけ。
 あそこも何か濡れたようなものがぴっちりと貼り付いている。唾液で濡れたショーツかな。
胸を弄られると、そういう細かい感覚も研ぎ澄まされてくる。
 普段なら、そういう刺激は嫌だけど、どこかでちょっと期待してたりもする。
でも今の私の心は、それどころじゃない。
本宮先生に裏切られた、んじゃない、私が勝手に思い込んでただけだけど、見捨てられた。
それだけはないと思ってた。全く疑おうともしなかった。
「はなして!今は放っといてよぉ!!」
力を振り絞って暴れても、やっぱり自由にはなれない。

 そうしている間に、一人目の人が帰ってきた。すぐに二人目の人が化粧を直して出て行く。
その一人目の人は私のショーツをずらして、直接あそこを舐め始めた。
 私の脚の間に顔をうずめて割れ目を何度か舐めた後、ゆっくりとその舌は太腿に回る。
直接舐められてるわけじゃないのに、下半身がぞくぞくしてくる。
ただでさえ大事なコンテストの前で不安定な気持ちだったのに、さっきの事と今のこれで
気が狂いそうになってきた。
 おまけに、今度はお尻の方にも何かがべっとりとくっついてきた。
手でお尻の肉をかき分けて、恥ずかしい穴にぬるぬるしたものが入ってきたり、
ちゅうちゅうと音を立てて吸ったり。尾てい骨を鼻がこすってる。
「あ…あ……!」
気持ちが変に昂ぶってるのとこの人たちが上手いので、私はすぐに昂ぶらされてしまう。
クリトリスを唇で挟んで舌先で舐められる。お尻の穴のしわまで一つ一つ伸ばされていく。
胸は相変わらず両手でこねくられて、心臓を揉まれているかと思えるほど熱く脈打っている。
 その間にも、何人かの人の審査が終わって、また代わりの人が出て行っていた。
確実に私の番も近づいている。
太腿に力が入らなくて少し内股になりかけると、前後の舌の動きが早くなった。
腰の下から寒気のようなものが背中を這い上がってくる。
 これからコンテストなのに。
もうだめ、こんなの耐えられるわけない…。
 とうとうその時を感じて膝を開いた時、急にクリトリスの舌が外れてその周りを舐め始めた。
「・・・・・あっ!?」
驚いて声を上げる。
「リカ様ー、何が『あっ!』なんですか?やっぱりして欲しかったんじゃない」
誰かがバカにした声で言った。
この人たちは、私が今までされた弱い事、嫌がった事をちゃんと知ってる。

「う…!うん…ぁうっ…!!」
止められたのはクリトリスを舐める事だけで、胸を握り潰したりお尻の穴を広げたりは、
さっきよりも激しくなってる。
 刺激はあるのに、あと少しだけ足りない。
じんじんするあそこをもう少し舐めてくれるだけで楽になれる。
 すると、その願いを聞いてくれたように、舌が一度だけ軽く疼く突起を舐め上げた。
「――――くうぅ…!!」
でも、それだけ。よけいに追い詰めただけ。
「お、お願い、いかせて!いや、いやあッ!!」
私が頭を振ってそういっても、誰も聞いてはくれない。
 舐めてはくるけど、絶対に強くはしない。
「ちょっと、今やるとイクわよ!」
「もうやばいんじゃない?なんかすっごい垂れてきてるわ」
そんなことばかりいって、皆で順番になで続ける。
「あ~、あ! ん、ああ、うっ!!」
私は腰が砕けそうになりながら、ずっと短く悲鳴を上げてる。
 どれだけの時間そうなっていただろう、頭がガンガンして何もわからなくなったころ、
ドアが開いて私を呼ぶ声がした。
「鼓結花さん、あなたの番ですよ!早くしてくださ…きゃ、な、何してるの!」
係りの人なのか見たことのない女の子が、私の姿に悲鳴を上げて逃げていった。
私を掴んでいた腕が引っ込められ、私は尻餅をつく。
痛かったけど、やっぱり『いく』ことはできない。
私はふらつきながらなんとか起き上がり、鏡の前で髪の毛を整える。
お腹まで下がっていたブラジャーを着け直して、ふと下を履いていないのに気付いた。
 ショーツを返して欲しいと何度言っても、誰も聞いてはくれない。
私は、そのまま舞台へ向かうしかなかった。

3.

舞台は真っ暗だ。
私はこれから、ついに一人の演技を始める。
『皆様、長らくお待たせ致しました。次はいよいよミス百合嶺コンテストのトリ、
 鼓 結花さんの自己PRです!』
この声が大好きだった。
あんまり得意じゃなかった数学も、この声が何を言ってるのかが知りたくて必死に頑張った。
その声で紹介されるんだ…意識したくもない、最悪な私を。
 急に目の前が真っ白になった。
あまりのショックにめまいがしたって訳じゃないみたい。でも、光で目がチカチカしてる。
灯の好きな服、何も着けていないスカートの中、脚を伝う透明な蜜。
 私の姿、どこまで見られているんだろう…
『・・・・・残念ながら、彼女にはそういったものはございません。
 …そこで彼女は、なんと、自らの体を張って、皆様にアピールしようと考えたそうです!』
ぼうっと聞いていた私は、そこへ来てとんでもない事実を耳にした。
輝かしい境遇がない?如月の後ろ盾は認められないの?
 ・・、考えてみればそうだ。私は『鼓結花』としてここにいる。
如月リカが出場停止になったとはいえ、ここにいる人は誰も私が『如月梨花』だとは知らない。
でもそれだと、私が優勝する確立はさらに下がってしまう。
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
本宮先生の言葉は、全く耳に入らなかったけど、かすかに“ストリップ”と聞こえた。
私の憧れていた声で、そんな言葉を言わないで欲しい。

 反響が静まった。あれを言わなきゃ。
  …声が出ない。 落ち着いて…息を吸って…
「百合嶺女学院一年C組、鼓結花です。
 これから私が演じる自己紹介を、みなさん、ぜひご覧になって下さい。」

ちゃんと言えてるかな。言葉になってるかもわからない。
  …だめか。すごくざわざわしてる。皆が変な顔でじっと見てる。
でも、ここで演技は止められない。それは可能性を捨てる事になる。
 深呼吸を繰り返しながら、今からするべき事を想い起こす。

ちなみに渡されたマニュアル。中を見たとき驚いた。
  ・・・そこには、何も書かれてなかったんだから。
マニュアルを渡された時は、そこに酷い事が書いてあってそれをやらされるんだと思ってた。
でもそれこそが『甘え』だった。
 自分で観客を楽しませる艶を学び、誰に強制されるわけでもなく自分で演じる宴。
それがちなみの言う、学園祭の中の『楽艶祭』。
 この五日間、私は必死に見たこともない本を読み、ビデオを見て考えた。
今日いろんなことがあってすでに心が挫けそうだけど、する事は一つ。
灯を助ける。その為に、よけいな事は吐く息と一緒に忘れよう。

 ふと舞台袖を見ると、そこにはリカが立っていた。
美鈴さんのようにやつれてはいないけど、泣きかけの情けない顔。
 初めて会った時、リカは私を見下ろしてたな。
すごく自信たっぷりな顔してて、泣きそうなのは私だったっけ。今は、すっかり逆になってる。
一応妹なんだから、ちゃんと応援してね。
 暗いドームは私を囲んだまま、静かに演技を促す。
私はガーディガンのボタンに手をかけた。

ガーディガンのボタンを一つ、また一つと外していく。
前をはだけ、肩にかかった状態で止める。そして払うように脱ぎ捨てた。
 ここまでは順調。
でもブラウスの襟に触れたとき、緊張のあまり突然手が震えだした。
こうならないように、必死で練習してきたのに!

 たぶん、かなり長い事じっとしていたんだろう。
『鼓 結花さん、演技は終了ですか?』
少し怒ったような声がドームに響いた。
 私は慌ててブラウスを脱いでいく。
心では慌てていても、動作はゆっくりと。
たまに立つ位置を変えながら、皆に見えるようにして少しずつ肌を晒す。
恥ずかしくて堪らないのは分かってたから、朝に何度も練習した。
でも、本番は想像の中とは比べ物にならない。
すぐに息が荒くなって、肩まで来た震えも止まらなくなった。
ブラウスのボタンを全て外すと、首を上に反らして胸を突き出す。
そして手を後ろに持っていき、ブラウスを宙に舞わせた。

 またどこかからざわめきが聞こえる。
それは自分がそう願ったものなのに、ひどく悲しかった。
本当に、今していることは最低のストリップだ。
でも、ここで泣いてしまったらもう演技を続ける自信はない。
 ゆっくりとブラジャーのホックを外し、カップを持って胸から離す。
乳房がこぼれ出した。あまり迫力はないけど、一応重力を受けるくらいには大きくなってる。
とりあえず、それで安心しておこう。
 スカートのベルトを緩め、手を離して脚の間を滑らせる。
足を上げ、靴下も捲って足首から抜き取る。
何も着けていない下半身が大勢の人の目に晒されている。
 ざわめきの中におかしな声が混じり始めた。
こんな姿を見て、興奮する人なんているのかな…。

しばらく裸のまま脚を組み替えて、周りの人に隠すもののない裸を晒す。
それから舞台に腰を下ろし、体育座りをした。
そのまま足を少しずつ開いていく。
かすかに震える足が開くにつれて、あそこからどろっと何かがこぼれた。
 演技を始める前から控え室で蕩かされていた体。
おまけにこの異様な空間で、一万人に囲まれてのたった一人のストリップ。
どうしようもなく怖い、泣きたくなるぐらい怖い。
でも、それと同じぐらい興奮してる。

 足を肩幅まで開いてから、ゆっくりと右手の中指を割れ目に差し入れていく。
「……くっ!」
溶けた傷口を引っ掻いてるような、身の毛がよだつ感覚がした。
 私の中は少し締め付けるだけで、指一本ではあまり入っている感じがしない。
人差し指も入れて、二本の指でそっと中を撫でてみた。
体の奥で燃えていたようなものが、また一気に高まってくる。
 顔を上げて遥か前を見渡すと、数え切れないほどの目が私のする事を観察していて、
少し離れたところでは、リカも私の姿を食い入るように見つめていた。
全身が心臓になったように激しく脈打っている。
 左手ですっかり赤く火照った胸を揉みしだきながら、ちょっとずつ速さを変えて
指で膣の入り口近くを刺激する。
「あう、ああ…うん!」
指が動くほど腰が浮いてしまい、声を上げる感覚が狭まってきているのがわかった。
予定ではもう少しじっくりと慰めている所を見せるつもりだったのに、もうそんな余裕ない。
割れ目の抜き差しを続けながら、胸を弄っていた指で疼き続けていたクリトリスをつまむ。
「あ、ああ、あ、あ…!!」
私は一瞬で頭が真っ白になって力が抜け、
自分がどうなっているのか訳がわからなくなってしまった。


私がいった後しばらくして、舞台の上に控え室にいた人達が上がってきた。
『それではこれより、一次審査の結果を発表致します!』
先生の声が響く。そうだ、まだコンテストの最中だっけ。
立ち上がろうとしてもうまくいかずにもがいていると、隣にいたちなみが手を差し伸べてきた。
悔しかったけど、仕方ないからその手を借りる。
 スイッチの切れる音がして、舞台がまた真っ暗になった。
そしてライトが私達の頭の上を行ったり来たりしている。
 他の人の自己PRは結局見れなかったけど、選ばれるのは私じゃないと感じた。
他の人は上品なドレスに着替えているのに、私は貧相な濡れた裸を晒しているだけ。
おまけに私自身の演技は、計画してたものとは全然違う風になってしまった。
こんな恥ずかしい姿を大勢の人の目に晒して落ちるくらいなら、出なければよかったな…。
『一次審査、通過者は――――』
眩しい。
初めと同じ、目がくらむような光。
 ・・・あれ?なんで眩しいの?
ああ。隣のちなみを照らしてるんだ。
 でも、この円、大きすぎる…
『三年D組、原 ちなみさん! そして、…一年C組、鼓 結花さん!!』
私の名前…選ばれたって事?えっと…何に?
あ、つまり、それって…!
「おぉ…っ!良かったですねぇちびちゃん。観客の皆さん大満足ですよ!
 ちびちゃんがこんな所で落ちたらどうしようかと心配してたんですけど、無駄でしたねぇ。」
ちなみが私の肩を抱きながら言ってくる。
 …そうだ、喜ぶのはまだ早い。これからは、何が起こるか全くわからないんだから。
でもとりあえずこれで、ちなみに抗う権利、灯を助けるチャンスは掴めた。

係りの人に渡されたバスタオルを体に巻きつけ、舞台を降りて控え室へ向かう。
途中にリカが立っていた。
声をかけると、目を逸らし気味にこっちを向く。
「………凄かったわ」
リカは俯きながら続けた。
「本当に綺麗だった。見ていて目が離せなくなったの。
 …私の、整形する前を思い出すわ…。」
リカは声を震わせながら、少しずつ自分の心境を語り始めた。

 幼いころ彼女は、地味ながらどこか魅力のある自分の顔が気に入っていたらしい。
でも上流階級として人に見られるからには、地味でいてはいけないと悩んだ。
整形してからは、人の目ばかり気にして、本当につらかったそうだ。
初めて私と会ったあの日、リカは間近で見た私の顔に、泣く泣く諦めた“自分”を見た。
だから、嫉妬しながらも純潔を奪う事だけはできなかった…。

「許して欲しいとは言わないけれど、私は、灯に手を出してはいないわ。
 むしろ、あの子には感謝してる。これだけは信じて」
荒い息をついてリカが訴えてくる。
 そんなことは知ってるし、今は誰かを恨むほど心に余裕もない。
許さないとすれば、本当に灯をさらったちなみだけ。
…それに今の話を聞く限り、もし私とリカの立場が逆だったなら、私もきっとリカと
同じようになっていたと思う。
本心で望んでもいない整形をして、人の目を気にして生きる。そしてリカをいじめる。
思ったとおり、いやな生活だ。
いじめる方でなく、いじめられる方に回ったのは、幸運だったといえるかもしれない。
 私はそう言った。何も偽りのない本心だ。
リカは目を見開き、口をぽかんと開けて私を見た。
信じられない、という顔で見続けた後、一つ大きく溜め息をつく。

「・・・・あ~、敵わないわ。やっぱり貴女、美鈴さんの言っていた通り、どうしようもない
 愚図で馬鹿よ!」
そしてリカは、急に私の体を抱きしめてきた。
「…頑張って、お姉様。美鈴さんも、どこかできっと応援しているわ」
 お姉様って、そんな大きな体で言われても嬉しくない。
でも、少しだけ元気が出たから、妹の体をしっかりと抱き返した。

4.

 舞台は眩いライトに照らし出されていた。
中心にはちなみがいて、いつかのリカのように自信たっぷりに私を見下ろしている。
綺麗だ。リカも輝いて見えたけど、この人は本当にレベルが違う。
生まれながらの勝者なんだろう。

『それではこれより、二次審査を開始致します』
よく響く声がして、辺りから拍手が湧き起こる。
さっきまでとは雰囲気が違う。やっぱりこっちがメインなんだ。
 騒ぎがおさまるのを待って、ちなみは舞台の袖に合図をした。
すると暗がりから人影が浮き出てくる。
それは腕を掴まれて歩かされる、全裸に縄を打たれたリカだった。
リカは一瞬顔を上げてこっちを見ていたけど、すぐに見ないでという風に顔を伏せてしまう。
ちなみはリカの前に膝立ちになると、顎を掴んでいきなり唇を重ねた。
「んんっ!ん…む…うん…!」
リカが目を見開いた。頬が変に膨らんでいる。
ちなみが顔の角度を変え、いっそう深く舌を突き入れた。
唇と唇が完全に嵌まり込んで、息が漏れる隙間もなさそうだ。
   ずぶぁ … じゅばぁ … ずぅ …
リカの口からわずかに覗くちなみの舌が、聞いたこともない粘り気のある音を立てている。
 その音を聞いていると、私の胸も変に掻き回されているように思えてきた。
「ん…う うぅう ぁあ゛… 」
リカの呻き声がおかしくなって、目が遠くを見ている。
縛られた体をよじりながら、必死に何かに耐えているらしい。
ちなみがそれまでで一番強く舌を吸うと同時に、空いた手でリカの剥き出しの割れ目をなぞる。
 リカの体が跳ねた。
ちなみが唇を離すと、二人の口の間からありえないほどの唾液がこぼれていく。
リカの体は何の抵抗もせずに、後ろ向けに倒れ込んだ。
目が白い…まさか、気を失ってる?
 ちなみが口を拭い、私の顔を見上げてきた。

「何ぼーっとしちゃってるんですかぁ~?もう審査は始まってるんですよ。
 ほら、後ろのお友達も、もう我慢できないって。」
審査って言われても、何をすればいいかわからない…
ちょうどそう言おうとした時。
いきなり、後ろから何かに突き飛ばされた。
 腕と膝が舞台の床に叩きつけられた後、体の上に温かいものが覆い被さってくる。
そういえば今、ちなみが“後ろのお友達”って…?
「きゃあ~、ちっちゃ~い!これ、ほんとにすきにしていいの!?」
それは私のお腹を抱えて、背中に顔を擦りつけてきた。
 驚くと同時に、なぜか妙にその声が気になる。
振り返ると、そこには思いがけない顔があった。

「………あ、かり…? 灯なの!?」
間違いない、灯だ。
でも何かおかしい。顔が変に緩んでいて、目は焦点が合っていない。
「あれ、ええと…? ん~~~、・・・・・・ ああ、『ゆか』!ゆかだぁ!」
言葉すら怪しい。
呂律が回らないというより、喋る事に意識を向けていないような感じ。
 灯は背後から滑るように横を通り抜けて、私の足の間に入り込んだ。
太腿が持ち上げられたと思うと、一瞬のうちに足を上に向けて頭を舞台につける格好に
されてしまう。
 お尻に手がかけられ、すでに感じた液が垂れ続けている所に顔を埋めてきた。
脚を閉じて止めようと思っても、少し遅かった。
 舌がはいってくる。
「あああっ!!」
もう力が入らない。
大好きな灯、でも今のこの灯は嫌だ。 いじめっ子の頃に戻ってる気がする。

 口を重ねた時には柔かく思えるものが、しっとりと合わせ目を剥いで固く分け入ってくる。
私のそこが、それだけ柔かいんだとわかる。
とろみのついた肌が舌になぞられ、ほんの一瞬空気に触れて冷たい。
でも、すぐに溢れる温かいものに包まれる。
「んああ…うう、あぁ、くう… !」
私が声を上げると、灯は嬉しそうに目を閉じた。
お腹に温かい筋が流れ落ちてくる。
頭に血がのぼって、こめかみが痛みだした。
 
 ずきずきする頭に、私のものとは別の悲鳴が届いた。
リカがちなみにお臍を舐められている。
 そうか。この審査は、私達のどっちの行為に興奮するか、っていう勝負なんだ。
でも、そうとわかってもどうすることもできない。
 灯にされるがまま内側から溶かされていく。
ひょっとしてもう何度かいってるんだろうか。 そんなこともわからない。
ただ、こんな刺激にいつまでも耐られないことは確かだ。
観客の騒ぎが遠くに聞こえる。
 舌の這うところがずれた。
ひくつく割れ目と、後ろの穴の間。
皮膚一枚通して、感じる二つの器官を繋ぐ神経が撫でられる。
舌は入ってこないけど、腸の奥に力みが届く。そこには見えない穴がある。
いつからか口が閉じられない。涎が垂れ続けている。
クリトリスがちぎれるように痛い、噛みつかれてる!
ふくらはぎに筋が入ったような感覚があった。太腿が跳ね上がる。
 
 今度こそ、いったみたい。
顔に熱くて粘っこいものが降り注いで、体中の力が抜けた。

絶頂に達したと同時に、腰を支えていた灯の手が離される。
「ッくぅ!」
私は背中から硬い床に叩きつけられる。
ひどい事をする、と思って灯の方を睨んだ。
 でも灯の状態を見た時、私の怒りはたちまち消え去ってしまう。
「・・・っか、あ… っは、 ああ゛… ぅ…!」
灯は胸を押さえてうずくまっていた。
「灯、大丈夫!?しっかりして!!」
私は自分でも驚く力で体をひき起こし、灯の丸まった背中を抱える。
灯は額から大粒の汗を流して、真っ青な顔を苦しそうに歪めた。
口からぜひゅー、ぜひゅー、と病的な息を吐いている。

 (あたしね、肺にちょっとした疾患があるんだ)
いつだったか、灯は寂しそうに言った。
 (ちょっと激しい運動すると、すぐ息が上がってさ。体鍛えても治んなかった。
 これさえなかったら、ずっと結花を気持ちよくしてあげられるのに。…悔しいなぁ)
灯はさっき、ろくに息も整えず私を責めていた。

「あれぇ、栗毛ちゃんもう駄目ですかぁ?体力無いですねぇ」
ちなみが遠くからあざ笑ってる。灯を見てバカにしてる。
  
 何 も 知 ら な い く せ に ・ ・ ・ ・ ! !

頭に来た。今すぐ張り倒したくなってきた。
どうして、この人はこんなに私を挑発するの?
 強い感情が、そのまま灯をいたわる気持ちになった。
灯の背をさすり、震える肩を抱きしめる。
灯が悲しい瞳で見つめてくる。
「ゆ か くるしい 。ゆか 」
私はどうすればいいかわからなくて、ただ灯を撫で続けた。
灯はもう体力の限界みたいだから、自分から責めるのは無理そう。
なら、私からするしかない。
灯の体に負担をかけないように、できるだけ優しく…。


 背中から手を回し、両手で灯の胸をつかんだ。
触るたびに羨ましくなる、十分育ったふくらみ。
しっとり湿った柔かさが指の間で震える。
その裾を手の平で包み、絞るように優しく握った。
「ふっ…!」
灯が息を吐いた。
手に感じる鼓動にあわせて何度も握っては緩めながら、少しずつ先へ移していく。
一番隅で尖る硬いしこりを、五本指で囲んで潰す。
「あ…ゆか、うまいよ」
そういって、灯は腕の力を解いた。
こんなになってても、感じ方は変わっていないらしい。
 灯にはもう一つ、弱い所がある。
左手を胸から離して灯の髪を撫でながら、右の耳たぶを咥えた。
肩が跳ねるのを見て、もっと深く咥え込む。
硬い外側を歯で軟らかく噛んだり、内側の溝を舌でなぞったり。
灯の体中に面白いほどの反応があった。
気を良くして、穴の中まで尖らせた舌を差し入れてみる。
「んあ、はぁ~…。そこ、だめぇ、おかしくなるっ!!」
顔を振りながら逃げようとするけど、本気で嫌がってはいないはず。
「なんで?なんで、そんなとこしってるの?」
灯が息を弾ませながら聞いてくる。
私は耳を離して答えた。
灯が教えてくれたんだ。私の気持ちいいところも、灯の気持ちいいところも。
忘れたのなら、もう一度思い出させてあげる。

 私は灯の体に夢中になってしゃぶりついた。
首筋から、鎖骨、腋。
すべすべの肌を舌に感じながら、灯の体中のくぼみに唾液で印をつけていく。

 向こうにいるちなみ達が見えた。
灯のお腹に隠れて二人が何をしているかはよくわからない。
でも、ちなみはこっちを向いたまま止まっていた。
 ずっとそのまま見ていればいい。
私と灯がどんな思いでいたか、思い知ればいい。

 灯が泣きそうな顔になってきた、さすがに焦らしすぎたかな。
灯の敏感な穴に口をつけた。
灯は茂みって呼んだっけ、私より濃く生えている毛が鼻をくすぐる。
しょっぱい…いや、甘酸っぱいのか、不透明な味がする蜜を舐め取る。
 舌を唇のようなひだに這わせ、その上で張り詰める小さな突起をつまむ。
灯がふくぅっ、と声をもらした。
皮の上からなのに、ここは相当敏感になっている。
 私と灯がはじめて触れあったのもここだ。
感触は厚い靴底に阻まれて、私は痛めつける灯に涙を流した。
あの時はお互い思いもしなかった。
こうして直に触れ合い、それを喜ぶ日が来るなんて。
「もう、 だめ…やめてぇ… !!」
 私の慣れた責めを受け、灯は限界を迎えているらしかった。
脚を弱々しく閉じ、小刻みに肩を震わせる。その顔が大きく天を仰ぐ。
 そして、最後の瞬間。
灯は背を逸らしてはっきりと叫んだ。
        
     この・・・変態!!!


頭を殴られたような感じがした。
 気のせいじゃなく、本当に心臓が軋んだ。
   喜んでいると思ってたのに…。
熱い飛沫を顔に受けながら、私は呆然と灯の顔を見つめていた。
灯は顔を逸らす。
 膝に冷たいものが弾ける。何度も何度もそこに滴り落ちる。
変態。その言葉は間違いじゃない。
 私は、なぜこんな事をしたんだろう?
灯の笑顔を思い出す。
居間に寝転がって、私の隣で微笑んでいた灯。
その時灯は、幸せだって言っていた。
     私のことが『好き』だって・・・・

 ・・・・あれ?
そうか、そういうことか。
同じなんだ、あの時の灯と。

私は立ち上がり、灯に抱きついた。
灯は悲鳴を上げ、仰向けに倒れ込む。
 何で? それは決まってる。
私は目を閉じて、灯の形のいい唇を奪った。
柔かい。
「ん…んんッ…ん…!!」
灯がうめいてる、でも決心がつくまでもう少し。
長いキスを終え、私は目をあけた。
   
   「変な事してごめん。
  でも、灯だからしたくなったの。
   灯は、私の『友達』だから。 」

私の目から涙がこぼれ、灯の頬を伝う。
灯はしばらく私を見つめたあと、静かに呟いた。
「 ……ゆかは、あのひとたちとはちがうんだ……。
 あんたみたいなのと、ともだち、なんだ。
  ……わるくないかもね、あたし」
また心臓が痛んだ。でもその感覚は嫌じゃない。
これ以上涙が出ない。
 舞台の周りで音がした。 見ると、観客が目を押さえている。
私や灯の名を呼ぶ声がする。
もしかして、ここの会話は聞かれてるんだろうか?

『・・・・・そこまで!これにて二次審査は終了です!!』

係りの人が私達に毛布を掛けた。
『それでは、いよいよ二次審査の結果発表です!
 五人の審査員が審議によって優勝者を決めますので、いま暫くお待ち下さい」
先生の声を聞くのもこれが最後かもしれない。
 『コンテスト決勝の末路は二つに分かれる』
マニュアルにはそうあった。
優勝すれば学園の支配者。
生徒だけでなく、学園に関わる全てに影響力を持つ。
 その逆は、詳しくは書かれていない。
ただ、私は入学してから一度もそうした人を見かけたことがない。
人脈の広い灯でさえ知らないと言っていた、その事実で十分予測できる。

 横を見ると、ちなみが神妙な面持ちで押し黙っている。
その傍らではリカが私を見つめている。
審議はずいぶんと時間がかかった。
誰かが何か言い、他の誰かが私やちなみを指して首を振る繰り返し。
 灯はどこか遠くを見つめていた。
私はそのふらついていて今にも倒れそうな体を抱き寄せる。

『 審査結果が出た模様です。各審査員の持ち票は一人一票。
 白の札は鼓 結花、黒の札は原 ちなみです。それでは、一斉にどうぞ!!』
私は灯の手を握り締めた。
 大丈夫、会場の人には私の思いが通じてる。
肩書きとか、家柄なんて関係ない。本当に大切なものを、私達は持っている。
札が上がった。
 
   白   黒   黒   白    …

最後の札が上がっていない。
その札を持つ人は、迷っているようだった。隣の人たちが何か怒鳴っている。
その人は顔を上げた。 そして震える手で札をあげる。
白なら勝ちだ。その最後の札は・・・・・



         
         黒 、 だった。


「ふふ…はは、あっはははははッ!何ぃその顔、サイコ―ですよぉ!
 まさか本当に勝てると思ってたんですかぁ!?」
ちなみが笑っている。
  ・・・負けた?そんな・・・・・
「だから出なくていいって言ったのに…ま、道連れってとこですか。
 とりあえず、妹と恋人は貰っていきますねえ。
 後で貴方にも素敵なお迎えをよこしますから、それまで小屋で大人しく待ってて下さい」
灯の体が腕から引き剥がされる。
リカがこっちに伸ばした手が遠ざかっていく。
     
       どうして?
  初めから勝てるはずが無かったっていうの?
舞台の真ん中で一人立ち尽くす私に、ちなみが振り返って言った。

「ちびちゃん、大人っていうのはね。現実と夢の区別がつく人のことを言うんですよ?」


5.

 お腹が鳴ってる。もう何日もろくな食事をしてないから。
寒い。体を暖めないとまた風邪を引く。
いっそのこと、外で水を被って凍死しようかな。
いや、そんな元気もない。じゃあ餓死か。
 どうやって帰ったかもわからない家でこう考え続けて、何日が経ったんだろう。
いつもの家が、ひどく大きく思える。
 抱えた膝を眺めていると、玄関の戸を叩く音がした。
とうとう迎えが来たらしい。
私もこれから、リカや灯と同じ運命を辿る。
少し救われた気にさえなってしまう。これはあの二人に失礼かな。
 心の準備をしようと思ったけど、すぐに整理できるような状態じゃなかった。
時間は十分あったのに、何してたんだろ?
本当に、私はバカだ。
 居間を出て、家を見渡す。
いってきます、って言おうかな。
そんなことを考えていると、急に玄関の戸が勢い良く開けられ、人が入ってきた。
背の高い人だ、髪が長い。
 ずいぶんと綺麗な顔…。

   おかしい。目の錯覚だろうか。
    これはどう見ても、、

「あのねえ、いつまでそうしているつもり?……全く。
 しっかりしなさい、生徒会長!」
そう言って、リカは笑った。
 え…?なんで?生徒会長って…?
私が頭を抱えていると、リカが手に持っていた新聞を差し出した。
その一面には、
『私立百合嶺女学院、前代未聞の淫猥事件』 『首謀者逮捕!』
などの文字が並んでいる。
「警察が積極的に動いたのと、百合嶺に連なる名士の多くが“傍観”を決め込んだ。
 これが勝因だったらしいわ。大したものね、貴女達。」
警察…リカのお父さんだ。
名士が傍観っていうことは、間接的に私達の味方をしてくれたって事?
 だとしたら、やっぱりコンテストに出た意味はあったんだ!
嬉しかったけど、突然すぎて涙が出ない。
「灯は如月の付属病院で静養中だから、じきに元に戻るわ。安心して。
 パパもいま日本に居るの。 …これはそのパパから」
リカはそう言って、懐から一通の手紙を差し出した。
封が切ってある、リカが覗いたんだろうな。
中を見てみる。
それは達筆なんだろうけど、少し読みにくい字だった。
初めて見るお父さんの字だ。


 最初の数行は要約するとこうだ。
自分が若気の至りで行なった行為を反省していること。
そして美鈴さんを責めないでやって欲しいこと。
そのあと、手紙は今回の事件について触れはじめる。

 お父さんが事件について知ったのは二ヶ月前、ある電話が原因だった。
日本の娘が危ない、家の周りを妙な人間がうろついている、という内容。
時期的に、これはちなみの関係者が私を探ってたんだろう。
はじめは脅迫だと思って放っておいたらしいけど、電話はしきりに続いた。
その人は、私を探っているのがかなり危険な人達だとどこかで掴んだという。
 そして一ヶ月が経ったころ、急に電話のかかるペースが落ちた。
深追いしすぎ、自分まで狙われるようになったらしい。
息を切らしながら知らせてくる事も多く、さすがに只事じゃないとは気付いた。
でもそんな厄介事には資金が必要だというと、その人はお金はある、と答えた。
水商売で稼いだ金を、子供の将来の為にかなりの額取ってある、と。

その人は受話器の向こうで、何度もこう叫んでいたそうだ。


    
    『 私の娘を、 鼓 梨花を助けて!! 』



私が読み終わるのを待ち、リカが言った。
「コンテストの日、美鈴さんは灯の携帯を持って密かに会場から抜け出したようね。
 それが今回の逮捕劇の真相。
 でも今は、お姉様に合わせる顔がないって行方を眩ましているわ」

膝から力が抜けて、私はへたり込んでしまった。
目の奥が熱い。
リカの言葉が遠く聞こえる。
  
   ねえ、お姉様。私達のお母様は、愛し方の下手なひとね。







  私立百合嶺女学院の学園祭は一風変わっている。
昔は逮捕騒動があって世間の注目を集めたが、その後も意を異にして興味を引く。
 学園祭午後の部、ドームの中では、宝塚さながらの本格的な女性劇が演じられている。
演目は“愛”を謳ったものが多い。
 もちろんこれは長い伝統の内に洗練された賜物だが、その発端となった生徒は
今でも多くの人に語り継がれ、百合嶺の生徒間で理想ともされている。
 
 その生徒の名は鼓 結花。
愛らしい風貌と確固たる意思を持ち、歴代百合嶺生徒会長の中でも図抜けて信奉者が多い。
言い寄る者も男女問わず多いかと思われるが、意外にそうでもなかったらしい。
それには常に彼女のそばに在り、支え続けた二人の少女が関係している。
 記録には、かつて彼女は控えめでまるで存在感が無かったとするものもあるが、
彼女の功績や人望を見る限りでは考えづらい。
もし事実だとするならば、それはそれで興味深い。


彼女は学園を去った今でも、学園祭の時期になると必ず現れ、幸せそうに笑うそうだ。

 

              ~      ~
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楽艶祭 第六話

1.

眠ってはいないはずだ。
薄くまぶたを開いているし、布団の柔かい感触も微かに感じる。
それでも結花の頭の中には、ぼんやりと見慣れた情景が映っていた。
その状態は、少女に、自分がいかに辛い心境であるかを否応なく認識させた。
 天蓋つきの豪奢なベッド。
正面に見える天井は緩くカーブを描いており、傷一つ、汚れ一つない。
周りを覆う羽衣のようなカーテンも、同じく染み一つない透き通った白だ。
こんな所に寝られるのは、せいぜい童話の中のお姫様ぐらいだ、と結花は思う。
 大きな泣き声が聞こえる気がする。赤ん坊の泣き声だ。
その泣き声は、かなり近い所から発せられているらしい。
ほとんど耳元と言ってもいい場所から…

そこで目が覚めた。
正しくは、白昼夢が薄れて現実がはっきりと知覚できるようになった。
泣き声は止んでいる。やはり夢の中の幻聴だったらしい。
結花は起き上がり、部屋の電気をつけた。
 部屋には誰もいない。
長い間寝起きを共にした母は、まだ帰ってはこない。
朝まで抱きしめて幸せを分かち合った友は、もう傍に居ることはない。
六畳の部屋は、それでも少女が一人寝るには広すぎた。
今朝は冷え込んでいる。

学院へ向かう間、結花はいくつもの視線にぶつかった。
灯と歩いている時は、同じくすれ違う人が振る返る事は多かった。
しかし今はまるで意味が違う。
一睡もしていない少女の泣き腫らした目は赤く充血した上、いわゆる座っている状態だ。
その異常な様は、“幽鬼”とでも表せばいいだろうか。
その幽鬼は、道行く者などに興味は無かった。
彼女が狙うのはただ一人。

   
    ズダァンッ!

一年A組の教室に衝突音が響く。
「待って!落ち着きなさい結花ッ!!何の事か……」
顔をかばったリカの腕に鞄がぶつけられる。
「あなた以外に誰がいるの、灯に何したのよ!!!」
 リカは壁に体を押し付けられたまま、全く身動きが取れなかった。
かつて彼女が結花の首を絞めた時、結花は抵抗できなかった。
それの、立場を変えた再現だ。
リカは、以前よりも少しやつれているように見える。
 変わった事はもう一つ、今日は取り巻きの邪魔が入らない。
結花がリカに掴みかかった時、はじめは少し制止するそぶりを見せたが、すぐに諦めてしまう。
それは、結花の気迫に圧されたというより、本気で止める気がないという風だった。
リカの影響力は明らかに衰えている。
 リカに三度ほど叩きつけた後、結花は鞄を取り落とし、すがりつくようにリカの体を掴んだ。
「お願いだから、灯を返してっ!酷い事は私にしてよ!!
  灯は関係ない…。 私、もう、灯なしじゃ……!!」
唇を震わせ、嗚咽するように言葉を吐く結花。
リカの顔が恐怖と当惑に歪んでいる。
「放しなさい!! 本当に私がやったんじゃないわ!
 いくらパパの力使ったって、警視正の娘が相手じゃ何も出来ないわよ!!」
リカは結花の髪の毛を掴み、体を引き剥がす為にその腹部に膝蹴りを喰らわそうとした。
しかし、リカが足を踏ん張った瞬間、その力が抜けるような声が教室内に響く。
「あ~~。結花ちゃんリカちゃあん、喧嘩しちゃだめですよお~」

場違いな声の主は、言うまでもなくちなみだ。
ちなみは豊満な体を揺らしながら教室へ入ってくる。
「そんな事してると、このひとが悲しんじゃいますよー?」
その声と共に、ちなみの取り巻きに引きずられるようにして、廊下からある人物が姿を現した。
 結花はその人物を知っていた。
「お、お母さん!!」
 結花の探していた美鈴は、居なくなった日と同じ服を着ていた。
それは所々擦り切れて汚れており、他の服に替えることが無かったのがわかる。
結花は駆け寄ろうとするが、ちなみの取り巻きがその行く手を遮った。
 一方のリカは、見知らぬ相手を大して興味がなさそうに眺める。
「誰なの?その薄汚れた女は?」
蔑むようなリカの言葉に、結花は眉を吊り上げた。
しかし当の美鈴は、気まずそうに顔を背けるだけだ。
 ちなみがくすくすと笑っている。
「ひっどいリカちゃん。もうちょっと言葉選びましょうよ~ぉ。」
笑いながら、まるで独り言のように続けた。

 「・・・・仮にも、『 産みの親 』に対してなんですから。」

ちなみが発した言葉に、場の全員が訝しげな顔になる。
 鼓 美鈴 が 如月 リカの産みの親?
作り話にしても脈絡がなさすぎる。
だがちなみ以外にただ一人、美鈴だけは、深刻な表情に諦めのような悲壮感を漂わせていた。
「ちょっと待…」
リカが抗議の声を上げるが、ちなみはリカの顔の方へ掌をかざしてそれを制した。
「あ~いいですう。よく考えたら言われて当然の事してますから、このひと。
 今回だって、逃げ回りながら密かに外国へ高飛びする寸前に捕まえたんですよ」
リカへ向けた掌をくるっと裏返し、今度は結花を紹介するように示す。
「ね~、わかるでしょちびちゃん?高飛びする費用、ちびちゃんの店の売り上げから出てる。
 ま、それがまた嫌味なんですよ~。」
ちなみはそう言い、結花を示していた手で美鈴の頬をつついた。
「他にも悪い事してますけどぉ、一番悪いのは、最初にやった・・・
  子 供 を 入 れ 替 え た  事かな?」
美鈴は肩を一つ大きく震わせ、少し身を引く。
質問できるほどの情報が無い結花達は、ちなみを見て続きを待つしかない。

ちなみは手をパンパンと打ち鳴らして「注目!」を促す。
「リカちゃん、っていうか整形さんは、特に黙って聞いててくださあい。
 一人の女のイケナイ話ですう~。」
セイケイサン、という言葉に、結花が少し不思議そうな顔になる。
ちなみが厚めの唇をぺろっと舐めて話し始めた。


 ちょっと昔、ある所に美鈴っていう女の子がいたんです。
彼女は親が事故で死んで、中学生にして天涯孤独の身となりました。
身寄りも無くて、義務教育すら受けてなかったんですねえ。
 そんな時出会ったのが、如月病院の跡継ぎ、如月正造氏だったんです。
氏も好き者ですから、養う代わりに手を出しちゃいました。
それからしばらく関係が続いた頃、氏はさる令嬢と結婚する事が決まったんです。
相手はアメリカの資産家、氏は家の為にも結婚するしかありません。
だから氏は、いつか自分が消えても大丈夫なように店を開き、
美鈴さんに経営を教えたんでしょう。

 美鈴さん、よっぽど運がいいのか、悪いのか、先に身篭ったのは令嬢の方でした。
そして、その後を追うようにして美鈴さんもおめでた。
そこで、名前が決められます。
令嬢の子につけられた名前は『 梨花 』。
その話を聞いた美鈴さんは、対抗したんですかねぇ、『 結花 』ってつけました。
 
 それから一年ほど不倫状態が続いた後、ここが問題の日ですね~。
とうとう如月病院がアメリカに移る事になって、梨花ちゃん達は一時日本を離れる事に。
 これを聞いた美鈴さんが怖いんですよね。
自分が報われない代わりに子供にいい思いをさせようと企んで、氏の家が引越し準備で
忙しくしてる隙に二人の子供を入れ替えたんですよ。

 梨花は結花に、結花は梨花に。

一歳児ですし、ご令嬢自身は子供の世話なんてしないんで、気付く人は居なかったようです。
そのまま氏の一家は美鈴さんの子供を連れて渡米。
目論見通り、『結花』はアメリカで幸せに育ち、本来その場所に居たはずの『梨花』は…

言うまでもない、ですよねぇ?

結花は美鈴を見つめた。リカも美鈴を見据えた。
美鈴は俯く。
二人はゆっくりと顔を見合わせた。

「まあ要するに~、本当のコンテスト出場者はちびちゃんの方なんですよぉ。
 おかしいと思いませんでした?今年の他の出場者は、誰もちびちゃんに手を出さないでしょ。
 整形さんならわかりますよねえ、『正出場者に手を出す』って事の怖さとか」
リカの表情がみるみる青ざめる。
自分の何よりの強みだと思っていた物が、逆にリカを押し潰しはじめた。
「っていうかあ、整形してる時点で反則っぽいですけど。
 豊胸手術とか骨延長までしてるでしょ~。アメリカの医学って凄いですね 」
リカを指差してちなみが告げる。
結花は、やっとセイケイサンの意味が分かったと同時に、更なる衝撃の事実に困惑していた。
リカの取り巻きやクラスメートの目も変わっている。
リカは支えるものが無くなったように、その場にがっくりと膝をついた。

「じゃ、この親子を連れて行って」
ちなみがな命じると、取り巻きは素早くリカと美鈴の体を引き起こし、
教室を出て連れ去って行ってしまう。
結花はお母さん、と叫ぼうとしたが、実の母ではないという事実がその言葉を呑み込ませた。
「ちびちゃんは本当のお家に行きましょう。そう、今は整形さんが暮らしてる家です。」
取り巻きに体を押され、結花はよろめいて歩き出す。
錯乱する少女に抵抗する余裕など無かった。

2.

「さ、着きました。中へどうぞ、お嬢様」
ちなみがうやうやしく敬礼してみせ、結花の手をとって歩き始める。
「整形娘が日本に帰ってから一年しか経ってませんから、まだちびちゃんが暮らしてた
 名残が あるかもしれませんねぇ。」
広い正門前の広場を歩きながら、ちなみが笑う。
 如月家の自宅は、日本にある建物とはとても思えなかった。
そびえる白壁の上方で、いくつもの大きな嵌め殺しの窓が陽の光を反射して輝く。
庭には噴水があり、辺りに花が咲き乱れている。
中世欧州の城の趣があるその屋敷は、少女が一度は憧れるかもしれない。
しかし結花は気に入らない。
 (こんなとこに住むの、やだな…)
未知の空間ながら、無意識に少女の心が拒絶している。
 理由はなんとなくわかった。
ここには恐らく『あれ』がある。
「ここがちびちゃんの生まれた部屋です。昨日まで別の人間が占拠してましたけど」

やはり、あった。
全体が淡い黄色と純白に覆われた、高貴な姫君の御殿。
いつしか結花のつらい心と結び付けられるようになった、記憶の欠片。
 
あの夢の情景は、少女の始めて目にした世界だった。

「自分の部屋はどうですかぁ?本当ならここに住むはずだったんですよ?」
立ち尽くして部屋を眺める結花に、ちなみが訊いた。
結花は首を振る。
「…落ち着かなくて、あんまり好きじゃないです」
 その様子を見て、ちなみはくすくすと笑いながら、他愛のない話をはじめた。
 『梨花』がアメリカに行き、他の生徒に嫉妬して『リカ』と改名、さらに整形などを施した事。
 彼女の両親はまだアメリカにいて、家に女中はいるもののまるで一人暮らし状態のため、
酒に手を出すなど意外に乱れた生活を送っている事。
話はリカについてのことが多く、中には相当プライベートに立ち入ったものもあった。
明らかに他人が知り得るはずのないレベルまで。

結花はとうとう不信感を露わにして尋ねた。
「…どうして、あなたはそんな事を知っているの?あなた何者なの?」
 ちなみはどうやら、そう聞かれるのを待っていたらしい。
無邪気だった笑顔が少し歪んだ。
表面上の筋肉の動きは僅かなものだ、しかしそのイメージはがらりと変わる。
 結花はなぜか、背中に一筋の汗が流れるのを感じた。

「ねぇちびちゃん。学園祭、出たくないなら出なくてもいいんですよ?」
ちなみはいきなり本題を切り出した。
「え?……ほ、本当ですか!?」
結花は一瞬その言葉の意味が分からなかった。
「はい。何しろ、美鈴さんのせいでイレギュラーな存在になってしまってますし」
ちなみが頷いて答える。
リカの呪縛が解けた途端、暗い日常が一気に晴れるということだろうか。
思えば、彼女はリカの敵のようだ、ならば自分の味方かもしれない。
 結花がそこまで考えた時、ちなみは唇をぺろっと舐めて続けた。
「ちびちゃんが出なくても、代わりの子はいますから。」

何かおかしかった。
意味ありげな言葉、結花の反応を探るような瞳…
左手を見ると、ちなみはポケットから取り出していた何かを握っていた。
結花と揃いで買った、灯の携帯。
結花は目を見開いてちなみの顔を見上げた。
ちなみは口を曲げ、侮るような笑みを浮かべている。
「あなただったのね……!!」
結花は拳を握り締めた。
すると、ちなみも手を胸の前に構える。
「やあだあ、暴力反対ですよぉ?」
口ではおどけてみせているが、素人の結花でも彼女に隙がないというのがわかった。
無闇に手を出せば、簡単にその手を締め上げてしまうだろう。
 見える範囲にはあの得体の知れない取り巻きの姿はないし、リカの時のように直接的な暴力が
伴っているわけでもない。
しかしちなみのその余裕は、充分結花の動きを止めるに事足りた。
 結花が肩を震わせながら拳を下ろすと、ちなみも構えを解いて髪をいじりだす。

「どうして…?灯があなたに、どんなひどい事したっていうの!?」
結花はちなみを睨み据え、あまりの激昂に押し殺したような声で問う。
ちなみは髪を弄っていた手で携帯をとんとんと叩いた。
「だってあの栗毛ちゃん、イジメのことばらすとか言ってたじゃないですかぁ。
 万が一でもそんな事されたら困るんです。 だから、知り合いの偉い人におねがいしただけ」
「・・・・・・っ!!」
結花は一瞬でも味方と思った自分を呪う。
この人物は、通じる相手ではない。

「そんな不気味な物見るような目、止めてくださいよ。
 何者か、って訊きましたよね。 名前は原 千波、百合嶺女学院理事長の孫です。
 で、実質、学園を取り仕切ってます。」
ちなみは結花の視線を受け止めるように見つめ返している。
「一番大事な仕事が、美少女コンテストの演出ですねぇ。
 ところで、どうして百合嶺の学費が、ちびちゃんみたいな貧乏でも払えるくらい安いか
 ご存知ですかぁ?」
ろくでもないものが絡んでいるのは予想がついたが、結花は黙っていた。
「鍵を握るのはもちろんコンテストです。学院にゆかりのある名士の方々が、
 学園祭のショーで満足する代わりに運営費を出して下さるんです。
 そして、今回の目玉はあなた達姉妹。責任重大ですね」
ちなみはまた髪をいじりはじめる。
「さっきも言いましたけど、別に出なくてもいいですよ。代わりは取ってありますから。
 ………どうします、出ますか?」
結花は俯いて奥歯を噛みしめた。
ちなみは携帯を開き、また勢い良く閉じる事を繰り返している。
まるで何かのカウントのように。

 9度目にパチンという音を聞いたとき、結花は意を決して顔を上げた。
「出るわ。・・・だからこれは誓って。『灯には手を出さない』って」
決意に要した時間は僅か9秒ながら、その眼は確かな固い覚悟を秘めている。
ちなみは嬉しそうに口笛を吹いた。
「かぁっこいいですねえ、ちびちゃん!……でも、言っちゃいましたね。
 その言葉を口にした以上、『やらされてる』なんて受け身の姿勢は認めませんからぁ。」
ちなみは目を閉じた。
急に張り詰めてきた空気に、結花の息が上がっていく。
ちなみの眼が開く。
遠くを眺めているような、近くを凝視しているような、得体の知れない狂気の瞳が覗いた。

「今ちびちゃんは、自分から観客を欲情させる祭りに身を投じたんですよ。
 ・・・・艶を楽しむ宴、百合嶺の『 楽 艶 祭 』にね 」

ちなみはショルダーバッグから一冊のファイルを取り出し、結花に手渡した。
表紙に『楽艶祭マニュアル』と記してある。
結花はそれを受け取ると、ちなみの顔をちらと見た。
ちなみは顎をしゃくった。
「それの意味ををよーく理解して、どうすれば効率的に観客を昂ぶらせられるか考えて下さい。
 状況は一万人収容の円形ドーム、ちびちゃんはその真ん中の舞台に一人です」
その言葉を聞きながら、結花はファイルを開いた。
そして、ページをめくり、目を通して、戸惑いの表情でちなみを見上げる。
ちなみは鼻を鳴らした。
「甘えは許さない、って言ったでしょう?
 まあ、学園祭まであと5日。その間は準備で学校は休みですから、時間は十分ありますよぉ。
 それからー、まだ栗毛ちゃんは生きてます。学園祭後は知りませんけどね。
 あとは、ちびちゃんが逃げずに来るだけです」
ちなみは眼を元に戻し、部屋を出て行きかけて足を止めた。
くるりと振り返り、唇を舐めて囁く―――


リカの居た家は落ち着かないので、結花は美鈴の家へ帰ってきた。
家には本当に誰もいない。
灯も、美鈴も、リカさえも消えた。
 
少し前まで、結花は一人でいることを苦に感じなかった。
むしろ進んで一人になった。
幼い頃美鈴に茶化されたように、床ばかりみつめる少女だった。
しかしある日、平坦な床は荒地に変わり、少女は下だけでなく前を見る必要に迫られた。
前を向いたことで、今まで気付かなかった明かりが見えるようになった。
その明かりは少女を照らす事を望んだ。
一度その安心を知ると、少女も明かりなしでは歩けなくなった。
今、千波にさらわれてその明かりが消えようとしている。
同時に、少女を囲んでいたものも闇に沈みかけている。
 
どうすれば助けられるだろう。少女は考える。

ファイルを投げ出し、結花は携帯を手に取った。
そこに残された最後のメールを見つめる。
結花は唇を噛みしめた。
ちなみの残した言葉が頭に響く。

    
     『 ちびちゃんの覚悟に、期待してますよ・・・・ 』


      
     ――――そして、学園祭の幕が開く――――
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楽艶祭 第五話

1.

10月4日(火)

今日からあたしもガラにもなく日記なんてつけてみようと思う。
理由は、これから毎日おもしろいことになりそうだから。
今日の学園祭の掲示に、あの鼓結花が載っていた。
中庭でリカさんと鉢合わせして真っ青になってった顔がホントに面白かった。
さっそくリカさんにどこかへ連れ込まれたらしい。
あたし達も明日から何するか考えとかなきゃ。

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10月5日(水)

おかしい。いじめてるのにあんまり楽しくない。途中までハマってたのに急になえた。
まだそんなに大した事してないし、これまでの方がよっぽどひどかったのに、
なんか同情してるっぽい?
その点リカさんはすごい。あいつがどれだけ嫌がってもまったく容赦なし。
ありえない病気を本気で信じて泣く所みると、あいつ相当世間知らずらしい。
かなりヘコんできた。もう寝よう。

 っていうか朝トイレ使えなかった!誰よあんな所で暴れたの?

 
10月6日(木)

今日は結花は一日保健室だった。朝はそうとう参ってるみたいだったし、
しばらく学校来ないかも。
保健室の中から結花のすごい声がしてた。
注射するにしてもあの子我慢しそうだし、カギがかかってたのも変。
リカさんも結花が保健室行ったって聞いたらずっとニヤニヤしてたし。感じ悪い。

 最近なんか円がうっとおしい。やってる事は前と同じなのにウザイ。あたしが変なのか?

10月7日(金)

元気だったのはいいけどあの子抵抗しすぎる。かみついたり叩いたりって犬か。
でも、まあ面白い。まだほとんど痛めつけてないからだろうけど、へこたれるよりずっといい。
アナルいじったら「また感じる」って言った。あれは「股」?
それともすでに使用済み…そこまではないか。
いや、ひょっとしてあの椿って保健医…そういうシュミだったり。妙に親切すぎるし。あやしい。

10月9日(日)

ほんっとムカツク!!昨日は第二土曜だから学校ないはずなのに、リカ  は特権とか使って
学校貸し切りでずーっと結花にやりたい放題してたらしい!
校内放送でいやらしいこと言わせたり聞かせたり、体にペンキ塗って水着みたいにして
泳がせたりとか!!!
しかも生理中で、最後の方はあの子ずーっと吐いてたそうじゃない。
限度ってもの知らないのあのお嬢様は? いつかシメる。絶対。
あームシャクシャしてきた!カラオケでも行くかな…っても円にも会いたくない。
 っていうか、なんであたしちょっとうらやましいって思ってんだろ…

10月13日(木)

気分いい!リカも黙らせたし、結花とは友達になったし!
全くバカだ。結花をいじめられないからダメ、なんて悩んでたなんて。
好きなものは好き、ってそれでいいのに。
明日からどーしよかな。結花はなんか店もあるみたいだから、
土曜にデート…じゃない遊びに行って~。
服はお下がりしか持ってないみたいだからまず服買ってあげて、ケータイもあった方がいいし。
あ、ずっと前に取ったままの制服も返さなきゃ。
スカートは新しいのに…いやあのままでいっかな~、なんて。
 生まれてはじめてだな、こんなうれしいの。結花もそう言ってたし…。
とりあえず、土日の計画表つくろ。

10月16日(日)

結花はホントにかわいい。
ちょっと髪形変えたり流行りの服着せるだけで、周りの目が違ってくる。
よくあれだけの可愛さを半年も隠してきたものだ。
料理もうまいし気立てもいいし、あれはいい奥さんになると思う。結婚させるつもりないけど。
結婚といえば、結花はまだ病気のせいで子供が産めないと思い込んでいたらしい。
あたしが目の前でオナニーしてみせて、やっとわかってくれた。(恥ずかしい…)
 その後は、ずっとあの保健医の話をして泣いてた。何したか知らないけど、
結花の心をここまでつかんで、しかもそれが悲しませる為だったなら、あたしは許さない。
 結花は世間知らずだ。自分の境遇がどんなに悲惨かも知らずにしゃべってる。
他の家庭の「ふつう」っていうのを知ったら、その時はじめて悲しくなるんだろう。
結花は今夜も一人で寝るのかな。ちょっと電話してみよう。
どうせ最後は泊まっちゃうだろうから準備もしなきゃ。
 もう夜中にこっそり泣くこともないよ、待っててね。
         
         ・
         ・
         ・

「改めて読み返してみると、いろいろあったな…。日記もいいもんだわ」
20ページあまりの日記をめくりながら、灯は一人ごちた。
 それまでは書こうとも思わなかったのに、記さずにはいられなかった苦悶と決意、
そして至福の日々。
日記の文は次第に長くなり、そこに貼られた写真には、本当に幸せそうな二人が写っていた。
 そして灯は真新しいページを開き、今日の想い出を記すために一日を思い出す。

『 10月27日(木)

創立記念日だったから朝早く結花の家へ遊びに行った。
映画を見に行ったんだけど、ホラーはやめとけばよかった。
あたしばっかり叫んで、結花はずっと静かだった。かっこ悪い。
その後はマックで食事。結花はやっぱりフィレオフィッシュ頼んだ。カツから離れろって感じ!

公園に行って休んでると、前のカップルがいきなり抱き合い始めたから、
あたし達もつい変な気分になってキスしちゃった。
誰かがケータイで撮りはじめたから慌ててやめたけど、あのままいってたら…?
結花は店の用事があるってそのまま帰った。あの続きはあさって、かな。

いじめがなくなってから、結花はほんとに明るくなって、よく笑うようになった。  
結花があたしに笑いかけてくれる、こんな毎日がずっと続いてほしい。  』

書いたばかりの文を読み、うっとりと甘い時間を思い起こす灯。
しかし至福の時は、荒々しくドアを叩く音で終わりを告げた。

ドアを開けると、灯の父・森嶋 平助が険しい表情で灯の部屋に上がり込んだ。
その表情で、灯は良くない用事だと察した。
「ど、どうしたの?お父さん!」
普段なら勝手に部屋へ踏み入ったことを非難するところだが、平助の様子を見る限り
それができる状況ではない。
「灯…お前まさか、百合嶺のお嬢さんに失礼な事したんじゃないだろうな!?」

灯はその時、ああ、来た、と思った。
リカを一掃してから二週間近く経つ。
結花をいじめるのをあっさりやめたと思ったら、家の力を借りて自分に復習に来たか、と。
「如月大病院からでしょ?大丈夫よお父さん、あたしは切り札を持ってるもの。
これがあれば、あとはお父さんの力でどうとでもなるでしょ?」
灯はポケットから携帯を取り出して笑みを浮かべた。
これで事態は一気に決着がつく方向へ向かうはずだった。
ところが平助は、その言葉を聞いても眉をいっそうしかめるだけだ。
「如月大病院?そんなものは知らん。お怒りなのはとある代議士だ」
予想外の相手。
「代…議士…?」
灯は笑みを消し、何が起こっているのかを一から考え直さなければならなかった。
平助は大きく息をつき、震える声で続ける。
「前にも話したが、俺達の仕事は奇麗事ばかりじゃない。代議士はいわばお得意様だ。
 彼らと懇意にすることで間接的に暴力組織を抑えるのも、治安を守る事になる。
 …その代議士が、名指しでお前の身柄を引き渡すよう要求してきたんだ!」
平助が泣きそうな表情になるところを、灯は初めて目にした。
その悲壮な顔が、状況を飲み込めない灯の不安を駆り立てる。
「答えてくれ、灯!お前、一体何しちまったんだよ!!」
肩を掴まれ、揺さぶられる。

リカか?自分が勝ったと思っていた相手が、日本を牛耳れるほどの存在だったのか?
何もわからなくなった頭に、幸せな日常が壊れる音を聞いた気がした。
「し…知らない!あたし…、あたし…!!」
灯が頭を抱えて後ずさった時、平助の後ろ、部屋の外に乱雑な足音が集まってきた。
「よお、時間だぜ。観念して一緒に来いや」
明らかに堅気の人間ではない大柄な男達が灯の部屋に乗り込んでくる。
「ま、待て!娘は勘弁してくれ!!」
平助が男達にすがりつくが、すぐに跳ね飛ばされる。
「やめて、やめてよ、触んないで!…なんなの、この…ブッ殺すわよ!!」
錯乱していた灯だが抵抗の意思は消さず、掴みかかってきた男の手をくぐって
その顔に頭突きを喰らわした。
互いの勢いに加えて身長差により突き上げる形の頭突きは、男一人を倒すには十分だ。
血を噴き出しながら仰け反った男を突き飛ばして正面から来る相手を抑え、
脇から来た男の足を払って壁に向かい投げ飛ばす。

最初の内は優勢に戦いを進めた。
しかし、いくら灯が喧嘩慣れしているといっても相手の数は多く、一度捕まったが最後
どう足掻いても少女の力で振りほどく事はできなかった。
実に4人の男を昏倒させた奮戦も空しく、灯は男達に組み敷かれてしまう。

灯は体を麻縄で縛り上げられた上、目隠しをして黒い車に乗せられる。
それから数十分後、目隠しを取られて暗い部屋に放り込まれた。
扉が閉められてカギが掛けられ、室内は完全な闇に閉ざされる。
そこは何かの倉庫のようなかび臭い匂いがし、冷えきった空気が満ちていた。
灯はうずくまったまま、身じろぎもしないでいる。
何が起こったのかはわからないが、今の彼女の望みは一つ。

 (最後にもう一度、結花に…。)

そう思った時、彼女の服から何かが滑り落ち、床に触れて突然の静かな音を起こす。
襲われたとき、無意識にポケットにしまった携帯だった。
灯は後ろ手に縛られた手でなんとかそれを拾い、脇腹越しに覗き込んで、
画面から漏れる光を頼りに何かの文字を打ち始める。
しきりに震える手でかなりの時間を要し、ようやく最後のボタンを押して指を止めた。
 
そして灯は、自分を照らす僅かな光を、絶望に沈んだ表情で見つめ続けた。

2.

その日結花は、灯と別れた後で馴染みの食材店へ向かった。
店の経営についてや食材の事などは、母親の代から世話になっている主人と
月に一度相談して決めているのだ。
とはいっても、結花はもう一人でも十分に店をやっていけるようになったし、
食材店の方も最近は忙しいようなので、顔を見せるだけで終わってしまう事が多い。
 ただ今回は、少し長く話をすることになった。
美鈴が三週間ほど帰っていないことを結花が打ち明けたためだ。
もともと毎日帰ってくるような母親ではなかったし、十日ほど家を空ける事もたまにあった。
それでも三週間となると、さすがに安否が気にかかる。
結局話し合った末に捜索願いを出す事にし、店の知り合いにも見かけ次第連絡するよう伝えた。
その上で結花たちも心当たりのある場所を捜すがやはり見つからず、
結花は仕方なく家に帰ることにする。

家に着いたのは夜の8時頃だった。
帰ってすぐに、居間の机の上で何かが光っているのが目に入る。灯に買ってもらった携帯だ。
今日は朝早く灯が訪ねてきたので、慌てて忘れたまま出かけてしまったらしい。
 一通のメールが来ていた。
今アドレスを知っているのは灯だけなので、送り主を考える必要はない。
 (二時間前…何だろ?)
おそらく今度遊びに行く予定か何かだろう。
そう思って結花は軽い、むしろ浮いた気分でメールを開く。
 そこには、ただこれだけが書かれていた。

\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\
  
   ごめん  ゆか   もうあえない

\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\

初め、結花はその意味がわからなかった。
次に、これは灯の好きな悪戯だと思った。
全て平仮名というのも、いかにも人をからかっているようだったから。
結花は灯が暇を持て余していると思い、灯の携帯へ電話を掛ける。
ちょうど自分も灯の声が聞きたかったから。
しかし…
長いコール音の後、その向こうから聞こえてきたのは、聞いたこともない声だった。

「誰?」
冷たい女性の声が威嚇するように響く。 灯の声ではない。
掛け間違いではないだろう、登録してある灯の番号に掛けたのだから。
「あ、あなたこそ誰ですか!それ灯の携帯でしょ?」
結花は平静を装おうとするが、知らず声が震えてしまう。
 嫌な予感がした。
くくっ、と鼻を鳴らすように笑う声がする。
「そう、アンタあいつのダチ?…待ってなさい、今代わってあげる」
声が遠くなり、扉の開く音がすると、突然何か甲高い音が聞こえてくる。
金属が擦れるような音が続いた後、それが震えながら低い音へと変わっていく。
最後の方は人の苦悶する声に聞こえた。
しばらく聞いていると、それらが言葉を為しているのがわかる。

「・・・・・ぁ、いやああ―――――――! もうやめて、おねがい、だから…。
 これ以上は…、あたし…本当に……!!」
消え入りそうな声の後に、再び絶叫が始まった。
一体どんな事をされれば、人はこうも鬼気迫る声を出すのか。結花には分からなかった。
ただ、かつて自分もそれに近い悲鳴を搾り出していた。
そのときの自分がどんな気分だったかを思い出す。
結花の頭の中が揺れ、息が止まりかける。
悲痛な叫びは鼓膜を痛めただけでなく、脳まで響いて結花の心を苛んだ。

音は様々なものが混じり合っていた。
頬を張られた時のような音が断続的に続く。
結花が何よりも恐れた湿り気のある水音がそれに重なる。
「たすけて…助けて…!いぁ…あ、もう …だめええ!
 す…ごい、いい!う…ひぐッ…!あたし、イクぅ、またイッちゃう――!!」
結花が灯と肌を合わせたのは幾度になるだろう。
切羽詰まった声は多く聞いたが、今遠い距離を隔てて響きだした嬌声は、
結花の愛撫を受けて上げるものとはまるで質が違っている。
嫌がりながらも抵抗しきれない波。結花にはよく覚えがあった。

「どう、大したヨガリようでしょ。初めは処女だったのよ?
 何日でぶっ壊れるでしょうね。 ま、それまではたっぷり遊んであげるから。じゃあね」
初めの女の声がし、音はそこで途切れる。
しかし結花の耳には、いつまでも叫び声が響き続けていた。
 頭の回転が信じられないほど遅く感じる。
灯がどうなったのか。 そして、なぜそんな事になったのか。
答えはとっくに出ているはずだった。

はじめて結花は確かな幸せを悟り、今それを失った事を知った。


「っく、ひっく……う、…あか、り……ごめん…。ごめんなさい……!!」

         
       ――――学園祭まで、あと06日―――――

楽艶祭 第四話

1.

森嶋 灯は自分の心がわからなかった。
警視正の一人娘であり、成績は常にトップクラス、運動神経にも秀でる優等生で、
麗しい目元やウェーブのかかった栗色の髪は、中学時代まで学園のマドンナの名を
欲しいままにしていた。
今とて、第一学年ということがなければ十分にコンテスト出場を狙える位置にいる。
しかしその裏で、彼女はたちの悪いいじめを行なう筆頭でもあった。
柔道と空手の心得がある為、自分をねたんで絡んできた相手をことごとく叩き伏し、従え、
次々とターゲットを変えていじめを繰り返す。
 弱いものが嫌いだった。抵抗らしい抵抗も続けず、そのうち人の顔色を窺いだす人間が。
いや、もうそんな事はどうでもよくなっていたのかもしれない。
いつしか彼女は、目をつけた相手をいたぶる事自体に喜びを感じはじめていた。
 自分に愛はない、灯はそう思ってきた。
なのに何故、日増しに結花の事が気になってくるのか。それが彼女には理解できない。

「う、あっ、あぁん!ひい、ああ…は、ああっく…ぅ!!」
結花は悩ましい喘ぎを止められなかった。
「あ~、感じてる感じてる。やらしー!」
その周りでは結花の醜態をクラスメイトがはやし立てる。

保健室での出来事から一週間。結花に対する虐めは日に日にエスカレートし、
結花は一日に何度も絶頂を極めさせられ、羞恥に泣いた。
今も彼女はブルマと下着を取り去られ、教壇を抱くように押さえつけられて、
『恥部を順番に一分ずつ舐められて誰の時にイクか』
という早朝恒例となったゲームを施されている。
 ぴちょ、べちょ…ぐちゃ、びちゅっ…
激しく粘っこい音が、次第に早く、大きくなる。
パアンッと尻肉を叩く音がそれに重なる。
「あと7秒。 6,5,4,3,2,1…はい残念!!」
「くっそー、何でイカないのぉー?」
結花は額に玉の様な汗を浮き出させ、教壇と体に押し潰された胸を頼りなく上下させる。

持ち時間の切れた前の生徒に替わり、次の生徒の番が回ってきた。
その生徒は、結花の柔らかく盛り上がる双臀に右手を置いてやんわりと揉みつつ、
左手で撫でるように秘裂を開いた。
たちのぼる濃厚な少女の香を吸い、鮮やかな桃色のままの割れ目を唇で覆う。
まるで深い口付けでもするように、そっと舌を蜜の中へ滑らせた。
「あっ――!…ふぅ、く、ああ…ん、ん…ん~、あ、はあぁ……!!」
一瞬にして少女の眉の緊張が解け、艶のある声がはっきりと喜びの色を濃くする。

「結花ちゃんにしつも~ん。今舐めてるのは誰でしょー?」
クラスメイトの一人がそう言った。
眠る前のように緩んだ結花の瞳が、ふわっと閉じられる。
「……あ……」
結花が小さく呟きかけるのを聞き、クラスは静まり返った。
「………灯……」
わっと歓声が湧く。
「大正解ー!!灯だけは間違えないよね。そんなに上手いんだ?」
確かに灯の性技は、他の生徒より幾分手慣れてはいた。
しかし、彼女と他の生徒との暦とした違いは、その行為に含まれる慈しみの心だ。
他の者が早く絶頂に導こうと手荒くするのに対し、灯はただ結花に悦びを与えるため、
その体を存分に味わうために体に触れる。間違える筈もない。
「あらー、嬉しいじゃない。じゃ、私がしている間にイキなさい、結花」
灯の態度は結花の言葉など興味がないという風だが、その胸は弾むように晴れ渡っていた。

連日の責めで体が熟れはじめたのを知りながら、なおも気丈に反抗心を保ち、
クラスメイトに拒絶の眼差しを向ける結花。
それでも自分に対しては、僅かながらも好意を持ってくれているのではないか。
灯はそう思った。いや、そう思いたくなってしまっていた。

『ひゃあ…んっ!うう、んぅ、ああ…ふ…んあう!!』
 
可愛い声…まるで自分がされてるように気持ちよくなってくる。

結花の息が震えてる。 結花があたしを感じて震わせてる。

『そんな風にしないでぇ!だめ、いきそうっ!あ、灯ぃ、やめてえ――!!』

あたしの名前を呼んだ・・これは、もう限界って合図なの。 もう全部分かってる。

擦れば目を見開くところも。舐めれば体が仰け反るところも。結花は何でも教えてくれる。

優しくするのに弱いんだ。

荒っぽくすればするほど我慢して、ふんわり包めば甘えてくる。

結花、あたしの事、好き…?

『ん…、いいっ、いいよぉー!わたしもういく…ああ、灯、顔はなして!でちゃうよー!!』

あたしの時だけだよね、あんたがイク時に潮ふくの。

そんな勿体無いもの、こぼしちゃだめよ。あんたは嫌がるけど、こんなに美味しい。

いつかあたしのも飲んでね、結花。

「あー、まーた灯かよ!ちぇ、二人で示し合わせてんじゃないの?」

そうかしら? もし結花に伝わってるなら嬉しいけど。

あたし以外の人間が結花に手を出すのは許せない。 それが誰であっても…。


「お楽しみの所悪いけれど、そこまでで終わってくれないかしら?」
突然の声に、結花の秘裂へ舌を這わせていた灯は表情を変えた。
「・・・・・何の用? 如月 リカ」
その目には、明らかな敵意が込められている。
対して、灯の横をすり抜けるリカの視線には、灯への感情はない。
「貴女に用は無いの。いい加減分かってるでしょう?さあ、場所を空けなさい」
灯ごとき、相手にもしていないのだ。二人の格の差は明らかだった。
正式なコンテスト出場者とは、こうも力を宿すものなのだろうか。
いや、おそらくそれだけではない。
もともと灯はリカと同じ存在感と、それ以上の気迫を持っている。
これまで、結花に対し残虐な行動を取ろうとした生徒を、一声で抑えてきたのがその証拠だ。
だがその行動ゆえに、灯はリカと並ぶ事ができなくなっていた。
もはや彼女はいたずらっ子でしかないのだから、勢いはなくて当然だ。
クラスメイトは抑えられても、このリカに口出しはできない。
当然、過ぎたイジメも見せつけられてきた。

「――ッ。…結花にあんまし酷い事されると、あたし達も後々困るんだからね…
 それちゃんと考えなさいよ!!」
灯はそう叫ぶと、忌々しげに近くの椅子を蹴って教室を後にした。
他のクラスメイトもそれに続く。
灯はいつもと同じように廊下からリカのする事を見張っているつもりだったが、
その時ふと教壇上の結花と目が合ってしまった。
結花は、じっと灯を見つめている。
その目に僅かな涙が浮かんでいたのは、灯の気のせいだろうか。
泣いているのは自分の方かもしれない。
灯はたまらなくなって走り出した。とりあえず結花の姿が見えない所へ。
しかし、彼女がどんな事をされるのか考えなくてすむ場所は、どこへ行っても見つからない。
昨日まで誤魔化してきたものが、灯の心の中で堰を切ったようだった。

2.

リカは灯が走り去るのを見送り、結花に問いかけた。
「ねえ結花、さっきは随分と気持ち良さそうだったわね。
 私とあの子、どちらに責められるのが好き?」
結花はその言葉に反応し、リカを見つめた。
そしてその視線をふっと外す。
リカはその反応がわかっていたのか、鼻をふん、と鳴らして続けた。
「まあ、どうでもいいわ。一つ教えておいてあげる。私はね、結花。
 あなたの事が…大 嫌 い なの」
結花は少し表情を固めてリカの方へ顔を戻した。
リカは相変わらず挑戦的な瞳で結花を見据える。
「まあ、私は嫌いだけれど、一応貴女の心配をしてくれる人はいるみたいね。
 貴女、前に保健室に行ったでしょう?
 その時の椿先生が貴女の病気を心配して、私に何とかするように頼んできたわ」
椿の名を出され、結花はたじろいだ。
「つ、椿先生が…?」
保健室での出来事は、普通ならば許しがたいほどの蛮行だ。
しかし、結花にとって椿は誰よりも結花の体を案じてくれた女性だった。
「そうよ。これからする事は貴女の病気を治すためなの。
 分かったら、さっきみたいに教壇で体を支えてお尻を突き出しなさい」
そう言われてしまうと、結花はしぶしぶ教壇に状態を預け、
爪先立ちになって腰を上げるしかなかった。

リカは結花の脚を払って両足を肩幅ほどに広げさせ、屈んで結花の恥じらいの穴を覗きこむ。
 先程まで口唇で嬲られ続けて達したばかりだが、そこはまだほとんど開いていない。
少しぶれた線のような濃い肌色があるだけで、中は見えなかった。
しかしその亀裂からはしっかりと女の蜜が溢れ、慎ましい茂みを濡らし、太腿を伝って
少女の脚に照り光る筋を描いている。
 リカはそこへ指をあてがい、いきなり二本を挿し入れて中をほぐし始めた。
「やっぱり御機嫌な感じ方じゃない。クラスメイトに舐められるのがそんなに嬉しい?」
言葉で辱め、さらにくちゅくちゅと音を立てて結花の心と体を掻き舞わす。
結花は指を噛んで声を殺しているが、それでも指が際どい所に触れるとそうもいかない。
 やがて指がさらに追加され、三つ束の長い指が結花の粘膜に沈んだ。
「中々の締め付けね…。貴女何かスポーツでもしているの?」
三本を捻じ込むと指が痛くなるほどの収縮。リカが思わず聞くが、結花は黙って首を振る。
 頑なに異物を拒む結花そのもののような締め付けは、逆に一度知れば虜となり、
多くの男を唸らせるだろう。
 リカは自分が女である事を少し残念に、また有難くも思っていた。
指を折らんばかりの吸い付きに負けじと、リカは指を激しく使い始める。
「うう、…あ、…ッい…あう…!」
狭まった空洞をこじ開けて痛むのは、もちろんリカの指だけではない。
力任せに掻き毟られる苦痛は、灯の愛撫の甘い火照りを、熱い塗装をするかのように
覆い隠した。

「どう?私の指ははあの子の舌と比べてお気に召すかしら?」
そうリカに問われ、結花はしばらく息を弾ませているだけだったが、やがて掌を握り締めて
呼吸を整える。
「…あ、灯は…、少しは…優しくしてくれるわ」
 そう言いながらも、結花は悔しかった。
リカの行為は、灯とは正反対で全く結花に対する配慮が無く、ただ一方的な暴力に近い。
それなのに、その幼稚ともいえる蹂躙が激しくなるにつれ、抵抗しようとする心が
追いつかなくなる。
一度達した体が蕩けるのは早く、ふと気を抜いた瞬間には完全に熱に呑まれてしまう。
結局最後には絶叫に近い声をあげ、盛大に体を震わせて恍惚の瞬間を迎えた。

脱力した結花は、リカが何かの準備をしているのに気付いたが、あまりにも強烈な感覚に
身動きできないでいる。
何度経験しても、その感覚に慣れる事はできそうにない。
しかしそのうち、突然何か冷たいものが秘裂を割り開いて塗り込まれるのを感じ、
思わず身をよじった。
「な、何?何してるの!?」
結花の問いに、リカは鬱陶しそうな表情を作って答える。
「貴女の病気に効く軟膏よ。これを塗ってから、磁気を出す玉を入れて陰部を刺激するの。
 少しは効果があるはずだわ」
説明している間に、リカは直径3センチほどの銀色の金属球を数個取り出し、
その一つを結花の割れ目に押し当てて力を込めた。
「ん…んっ!」
結花が首を反らせると同時に、微かに痙攣する秘裂が横に開き、易々と球を飲み込んだ。
「もう少し入れるわよ」
二個目の球が押し込まれ、さらに三個目。
思わず下腹部に力を込めると、膣の中で金属球が擦れあって内壁を圧迫した。
 (お腹の中、ごりごりしてる…。気持ち悪い…!)
結花は教壇を掴んで前方を睨んだまま、顔中にじっとりと汗を浮かべている。
「良く我慢したわね。でも残念だけれど、これだけでは十分な刺激にはならないの。」
リカが結花の頭を撫でながら言い、唐突にもう一方の手の指を少女の後ろの穴へ差し入れた。
「あっ!そ、そこは…!!」
結花は思わず悲鳴を上げる。
「貴女本当にここに弱いのね。もう何度も使っているっていうのに」
リカが意地悪く聞いた。
灯達は言うまでもなく、リカもなぜか結花の処女を奪うことはしなかったので、
代わりに彼女の後孔が弄ばれ続けていた。
指に始まり箒や細いスプレー缶までが捻じ込まれ、反応を見て楽しまれる。
リカの言う通り、結花ははじめこそ嫌がるものの、次第に甘い声を出すようになるのだった。

リカは最初に割れ目に塗り込んだ軟膏を取り出し、結花の菊門の中にも塗りつけ始めた。
ひんやりとした感覚が、前からの圧迫でへこむ腸内に染みていく。
「じゃあ、ちょっと太いの入れるから力を抜いて」
肉の付き始めで控えめな結花の臀部をほぐしつつ、リカはある物を手に取った。
それは太さ2cm、長さは25cmほどもある黒い棒だった。
その棒を結花のすぼまりに当て、一気に突き入れる。
「う…くうっ、あ…ふ、深い…!!」
結花が背を仰け反らせる。
太さこそ大した事はないものの、その長さは今まで触れられた事の無い部分を埋め尽くす。
冷たい感触が、体を串刺しにする磔刑の槍のように思えて不気味だった。
「これでいいわ。後は帰るまで、ずっと着けていなさい。」
リカが結花の足を持ち上げ、ショーツとブルマを履かせる。
これで膣の金属球と直腸の黒い棒が外れる事はなくなった。
結花はえもいわれぬ異物感に落ち着かなかったが、仕方なく席について授業を待つ。
座っているだけでも妙な気分だが、やがて授業が始まった時、
それはただの異物感ではなくなるのだった。

3.

2時限の数学の授業が始まってから、貴子はちらちらと結花に視線を送っていた。
だがそれは貴子だけではなく、クラスメイト全員が同じ状態だ。
貴子に密かな好意を抱いている結花は、数学の時間ともなれば食い入るように黒板を見つめ、
貴子の言葉は何一つ聞き逃すまいとでもいうように集中して耳を澄ませているものだった。
 それが今日は、開いた教科書を掴んだまま腰を落ち着き無くもじつかせ、
何とか黒板を見ようとするものの、すぐに押し殺した悲鳴と共に顔を伏せてしまう。
それを不思議そうに眺める貴子以外の、全員が知っている。
 今、結花の秘唇に3個の金属球が埋め込まれ、さらに腸内には長い電磁石が
根元まで突き刺さっていること。
 彼女が身を縮こめるのは、リカから手渡されたリモコンがクラスメイトの間を巡り、
ランダムに押される為だということ。
強烈に引き合う二つの責め具で内壁をすり潰され、同時に性器全体に電流が流れる。
今こそ必死に抑えている結花だが、1限目は分刻みで椅子から飛び上がっていた。
 さらに前後の穴に塗り込まれたローションには、椿が浣腸液に垂らしたものと同じ薬が混ざっている。
体が火照るほどに効果を増すその薬によって、すでに結花の秘唇からは止めどなく蜜が溢れ、
そこに電流が放たれると絶頂時に匹敵する快感が生まれる。
まともに授業など受けられるはずもなかった。

「いつも熱心に聞いてくれてるのに、今日はなんだか落ち着かないわね。
 ちょっと授業がつまらないかしら?」
結花の席に手を置き、貴子が寂しそうに聞いた。
結花は慌てて顔を上げ、泣きそうな顔で頭を振る。
「ち、違うんです!あの、少しぼーっとしてて、その…やあっ!ああ、う…っ!」
結花が目を見開き、言葉を詰まらせた。
クラスのどこからか含み笑いがする。
「ねえ鼓さん、具合が悪いのなら、保健室で診てもらった方がいいわよ?」
本当に心配だ、という様子で貴子が結花の顔を覗き込んだ。
「いえ、大丈夫です…。ちゃんと…聞きますから、気になさらないで、下さい…ッ!!」
結花が話している間にも何度もスイッチが押され、その度に結花は息を止める。
保健室へ行くのは怖かった。
椿本人に悪意を持っていないにしろ、同時に脳裏に焼きついた体験が思い起こされる。
それに、貴子の授業を受けられないというのはもっと嫌だ。

涙を浮かべながらも懸命に訴えてくる様子に、貴子は「分かったわ」と答え、
さらに結花が授業について来れないからといって、珍しく早めに授業を切り上げて
教室を後にした。
 しかし結花にはそれがまた辛かった。
貴子は授業のカリキュラムを他の教師よりも念入りに組み、生徒が効率よく学べるよう
心を砕いている。
それを自分に気を使って崩したことに、結花は気付いていた。
その原因が、こんな妙な器具を入れているせいだと知ったら、貴子は何と思うだろう。
 机に突っ伏したまま腰を小さく跳ね上げて電流に反応を示しつつ、
結花は恩師を裏切ったような罪悪感に苛まれていた。
その周りにクラスメイトが群がり、身動きできない結花を椅子から下ろして体中を
弄り始める。
ブルマをずり下げて肛門の棒を強引に抜き差しされ、固く尖ったクリトリスを摘まれ…
電流と薬で体中が敏感になっている結花は、為す術も無く幾度も絶頂を迎えさせられた。
目の前が黒く、続いて白くなったあとでも、結花は心の中で貴子に詫び続ける。

こうなる事を、貴子は知っていたのだろうか…。

4.

3時限の体育教師・篠田は、誰が見ても分かる明らかなセクハラ教師だ。
受け持ちのクラスでは学校指定のハーフパンツを認めずわざわざ私物のブルマに着替えさせ、
大人しそうな生徒を狙って陰でその太腿を触るなどしている。
貴子の場合とは別の意味で、結花が特に気に入られているのは言うまでもない。
 さらにこの男は、生徒の得手・不得手も鑑みず、課題を上手くこなさない生徒には
「気合が足りない」といって体罰を加えた。
炎天下うさぎ跳びで校庭を十週させたり、体操着のまま冬のプールに突き落としたり。
こうした事は授業の後、補習という名目で行なわれたため人に知られる事は無かったが、
いつ知れて首が飛んでもおかしくない男だった。

篠田は体育館の前に立ち、中に入るのが最も遅れた生徒を捕まえて体を嬲るのが常だ。
そして今日のその獲物は、当然足元のおぼつかない結花だった。
「おいおい結花、なんだその格好は?指定した服と違うなあ?」
内股気味に歩く結花の前を遮り、篠田がいきなり結花の胸を鷲掴みにした。
名の呼び方といい、もう全く遠慮はない。
 先週結花はこの時間保健室にいたため、篠田に小学生用のブルマ姿を見られるのは
今日が初めてのはずだ。

「…あ、す、すみません…。あの、指定の体操服をなくしてしまって、
 それで代わりはこれしか…きゃあッ!」
篠田の手が容赦なく結花の乳房を揉みしだき、さらに電磁石のスイッチも入れられた。
「あ…あぁ、う…ん!!」
たまらず喘ぎ声を出した瞬間膝が崩れかけ、結花の体は篠田の方へ倒れ掛かった。
それを見た篠田は、すかさず結花の顔を自分の厚い胸板に押し付け、
苦しがる結花の首筋に舌を這わせながら低い声で囁く。
「へへ、相変わらずイイ喘ぎ声だな。あの時みてぇにまた可愛がってやろうか?
  嬢 ち ゃ ん 」
結花はその声に聞き覚えがあった。
保健室の日、バスの中で聞いた…
「せ、先生…まさか、あの時の痴漢って…!!」
あの時は頭が働かなかったので分からなかったが、今思えば確かにこの独特のしゃがれ声だ。
こんな男に異性には触れさせた事のなかった大切な所を散々弄ばれ、
おまけに絶頂寸前まで気を昂ぶらされてしまったなんて…。
結花は愕然とした。
「お前の体、見た瞬間ピンときたぜ、なんてな…。マンコは随分良さそうだったな。
 もっと凄い事してやっから、寂しくなったらいつでも言え」
篠田は下劣な笑みを浮かべると結花の体を離し、体育館へ歩いていった。

篠田に続いて体育館へ入ってきた結花は、明らかに先程までよりも沈痛な表情をしていた。
その原因である篠田は、何食わぬ顔で跳び箱の準備を進めさせる。
跳び箱は普段より低めに設置され、篠田は失敗を恐れず跳ぶように命じた。
並みの脚力がありタイミングさえ合えば決して無理な高さではない。
にもかかわらず、運動が苦手でよくしごきを受けている生徒たちはやはり失敗してしまう。
しかし、罰を恐れて真っ青になるその生徒たちに対し、篠田は何のぺナルティも課さなかった。
 
ただ一人、普段は人並みかそれ以上に物事をこなし、文句のつけようがない結花を除いて…


自分の番が来て、結花はしっかりと足を踏みしめてから助走をはじめた。
2時間の間秘部と肛門を責め続けられているにしては、かなりしっかりした足取りだ。
しかし、いざ踏み台に乗った瞬間にスイッチが押され、足が突っ張った結花の体は
そのまま跳び箱に追突してしまう。
「がはっ…!ぐっ、う、げほっ…ぅ…っぐ!!」
角に強かにみぞおちをぶつけ、跳び箱の上に上体を乗せて倒れ込んだまま咳き込む。
周りの生徒から笑い声が巻き起こった。
「おい結花、なにふざけてんだ!とっととやり直せ!!」
竹刀で跳び箱を叩きながら篠田が怒鳴る。
彼は結花の異変を目ざとく見つけ、珍しく公然といたぶる事ができるとほくそえんでいた。
おまけに今の対応を見る限り、周りの生徒も自分側だろう、と。
 結花はなんとか立ち上がると元の場所に戻り、しばらく息を整えた後で再び走り出した。
今度は踏み切る直前でスピードを緩め、衝撃に耐える。どこかで舌打ちがした。
そして踏み台を蹴る勢いのみで跳び箱を跨ぐ。
 そう高さはない、これならいける―――。
しかしそう思った瞬間、二度目の電流が迸った。結花の体が強張り、腕の力が失われる。
結花の体は股部から跳び箱の上に叩きつけられた。
腸内の棒磁石が深々と内臓をつきあげ、それと引き合う球が膣壁を抉る。
跳び箱で恥部を圧迫されながら受ける電撃は、直接体内へと響く。
「ん、くあああーっ!!うう、ひ…はあぁ…っ!!!」
目を見開き、天を仰いだその口から嬌声が上がった。
海老のように仰け反らせた背を震わせ、何度目かの絶頂を迎えてしまう。

「あー!鼓さん跳び箱跳んだだけでイッてるー!ありえなーい!!」
「センセー、もうこの子どうにかして!絶対気違いよ、これ」
その様を見て騒ぎ出す生徒の言葉に、篠田はいよいよ推測を確信に変えた。
この場に、結花の味方をする者はいない。
篠田は結花の腕を掴んで跳び箱から引きずりおろすと、いきなりその尻を平手で打ち据える。
「何のつもりだ結花?そんなにやる気がねえんなら…」
言いながら結花の尻を叩いていた篠田は、その手に柔らかい肉の感触とは違う固いものを
感じ、言葉を止めた。
「ん…?なんだ、これは?まさかお前、尻にオモチャ入れてんのか!?」
篠田はわざとらしく大声で叫ぶ。
 生徒のはやし立てる声が大きさを増し、結花はすでにものを考える事もできないほどに
頭の中が真っ白になってしまっていた。
「そ…それは…」
「それは、何だ?授業中にこんな事するたあ、俺も舐められたもんだな」
嫌がる結花の手を払いのけ、篠田がぴっちりと食い込んだブルマを引き下ろした。
「分かってるだろうがペナルティだ。まずは…スクワット50回。
 ただしふざけた事した罰として、下半身には何もつけずにしろ」
ブルマを膝下にずり下げながら篠田が命じた。
「え…?い、嫌です!何も着けないなんて…」
篠田の手から逃れようと結花がもがいても男の力には敵わず、
ブルマとショーツを抜き取られて放り出された。
「しないってんならそれでもいいが、終わるまでこれは返さんぜ?」
篠田は奪ったショーツの股布をなぞり、粘り気のある蜜を掬って舐めている。
結花はそれを見て生理的な嫌悪を覚えるとともに、もう何を言っても無駄だと悟った。


「はあ…!はああ、ふー、ふっ…ああ…はっ…!!」
長時間の責めですでに感覚の無くなりつつあった足は、20回を超えたあたりで言う事を
聞かなくなっていた。
「オラ、あと27回!これで終わりじゃねえんだ、ちんたらすんな!!」
篠田が竹刀で結花の剥き出しの尻を打ち据える。
すでに結花の臀部は真っ赤に腫れ上がり、所々青い痣が浮き出ていた。
「いあっ!…く、くうう、……っ!!」
厚い粘土の中に身を沈みこませているような抵抗を感じながら、結花は力を振り絞って
膝を曲げた。
足首が折れそうに痛み、腿の筋肉が引き攣りだす。
曲がった膝に体重が掛かると、その度に体がよろめく。
全身からは滝のような汗が流れ、水を浴びたようになっていた。
「うー、う、っくく…うぐ…うっ!」
なんとか腰を沈めたものの、今度は立ち上がらなくてはならない。
腹筋が悲鳴を上げ、砂の城のように脆く崩れ落ちそうな体を僅かずつ起こしていく。
だが結花が懸命に膝に力を込めて立ち上がろうとしても、
端から見ればそれはうずくまったまま震えているに等しい。
しばらくその状態が続いた後、篠田は短気さを出して思いっきり結花の尻を蹴り上げた。
「いい加減にしろ、この糞ガキ!!」
棒磁石が結花の体にめり込む。
「い…ッ!ああ!!ああ、う、いやだ…もういやああー!!」
体が前に倒れ込んだ瞬間、それが引き金となり、結花が抑えていたものが溢れた。
止め処なく流れる涙、足の激しい痙攣、大事な部分が丸見えだった事への羞恥。
一度それらが開放されると、少女はもう何をする事もできなかった。
丸めた背中を竹刀で打ち据えられても、ただ足を抱えてすすり泣くだけだ。
「おい、そんな事してるとペナルティ追加だぞ。許されると思うなよ!!」
背骨が悲鳴を上げ、意識が遠のきそうになった、その時。

「いい加減にしなさいよっ!!」

不意に背後から声が掛けられ、篠田は不機嫌そうに顔をしかめた。

そこにいたのは、篠田のイメージの中にある生徒の鏡のような優等生ではない。
瞳に獲物を狙う蛇の鋭さを宿して睨み据える灯は、完全に本来の姿を取り戻していた。
蛙でなくとも闘志を呑まれる気迫。篠田は言葉を失う。
普段横暴な態度を取る者ほど、予想外の力には弱いものだ。
「これ以上そんな行為を繰り返すっていうんなら覚悟を決めなさい。
 父が警察関係っていうのを思い出させてあげるわ」
硬い音を響かせて灯が詰め寄ると、篠田は思わず身を引いた。
それを見て心から満足げな笑みを浮かべ、灯はうずくまる結花の手を取った。
「帰りましょ、結花。もうこれ以上苦しむ事はないわ」
結花は訳がわからない、という顔をした後、恥ずかしそうに涙や鼻水で汚れた顔を拭う。

その時、例の体格のいい生徒が野太い声でオイ、と呼びかけた。
「灯、何のつもりさ?あんた、リカさんやあたしら敵に回すってのか?
 いくら喧嘩が強くて親がサツだからって、調子に乗んじゃねえよ!」
結花はその怒声に体をすくめるが、灯はまるで動じない。
「ああ、そうだ円…その如月リカにも言っといたけど。
 あんた達のやってきたイジメは、全部あたしの携帯にとってあるわ。
 それを証拠に、あんた達に前科をつけることも出来る…
 もちろん、あたし自身の罪は揉み消してね」
灯の瞳の輝きは、ますます敵対する生物の威を殺ぐものに変わっていく。
円と呼ばれた少女は、久しく忘れていた戦慄を思い出した。
彼女もまた、かつて灯にその牙を折られた一人なのだ。
「あんた変わったね…見損なったよ。親父の権力にすがる奴じゃないと思ってたけどね!」
明らかに勢いのなくなった声で、捨て台詞のような悪態をつく円。
 灯は篠田から結花の服を奪うと、半裸の少女の体を支え、背を向けて歩き出した。
「変わったわ。まさか自分でも、こんな事をするとは思わなかった…。
 後悔はしないけど」



リカは森嶋 灯という生徒を軽く見すぎていた。
授業中に呼び出され、余裕をもって対した結果、その気迫に呑まれてろくに反論も
出来なかった。
他の生徒に対する影響力だけでなく、自分に近い何かがあると密かに感じてはいたが、
覚悟を決めて同じラインに並んだ時、あれほどに脅威になるとは思わなかったのだ。

休み時間に入り、リカは取り巻きにすぐ結花を連れてくるように命じた。
しかしその命令は、突然教室に入ってきたある人物によって遮られる。
「ダメですよー、リカちゃん。結花ちゃんをしばらく放っておいてあげましょうよー。」
その人物は馬鹿にするように間延びした口調で話す。
ただ体つきはずいぶんと大人びた娘だった。
ボーリングの球を並べたような乳の張りに、明らかにくびれた腰、 そこから広がる豊かな尻。
さらに身長も相当高い。
これが女の性徴の極み、とでも言わんばかりのボリュームのある肢体だ。
長い黒髪は凝った意匠の髪留めで頭の後ろに留め、そこから紅葉の葉のように広げるという、
変わった髪形にしている。
よく見れば顔の造りも抜群に良く、堂々とした姿は人当たりの良い姉貴分に見えた。
嘲るような口調を除けば、だが。

「何よアナタ、関係ないでしょ?」
目の前に立つ相手の体に一瞬圧倒されつつも、苛立ったリカはぶっきらぼうに答える。
その人物は少し困ったような表情をしてみせた。
「えー、関係ありますよお。だってあたしも、コンテスト出場者の一人ですからぁ。
 名前は原 ちなみ。三年ですよー。」
その言葉に周りの生徒たちがざわついた。無論リカの表情も変わる。
彼女が結花以外の出場者に会うのはこれが初めてだった。
ただ今のリカには、そんな事よりも結花達の方が気がかりだ。
「そうですか。でも先輩、出場者なら尚の事、結花をかばう必要は無いでしょう?」
口調こそ丁寧になったが、リカの態度からは相手を邪魔だとしか思っていないことがわかる。

ちなみは怯えたように首をすくめる真似をし、目を閉じて静かに言った。
「そんなに怒らないで下さいー。
 …せっかく『整形』で整えた綺麗な顔が、崩れちゃいますよぉ?」
その瞬間、リカの顔から表情が消えた。口元だけが僅かに引き攣っている。
教室は静まり返る。
  ……整形……?
誰かが小さく繰り返した。
周りの人間には、リカは生気の抜けた人形のように映っただろう。
「・・・・・・・ 何なの。あなた、何なのよ!!!」
見る間に目を吊り上げ、リカは自分でも無意識のうちに足を蹴り上げていた。
 しかし、そのハイキックがちなみの首を捉えるより早く、リカの足は体ごと
いくつもの手に押さえ込まれた。
ちなみの取り巻きだろうか。コンテスト出場者なら居て当然だが、その数はリカの三倍近い。
またその体つき、身のこなしはただの女子高生というには無理があった。
「とにかくー、C組の結花ちゃんには手は出さないほうがいいですよぉ。
 これは提案じゃなく、警告ですからあ。」
一段と間抜けた声を出しながら、ちなみは教室を後にする。

リカは抜け殻のように椅子にがたんと崩れ落ち、しばらく瞬きも忘れて座り込んでいた。

5.

六畳の居間(兼寝室)の隣にある五畳ほどの空間が、実質結花の部屋だ。
結花がこの部屋に母親以外の人間を連れ込むのは初めてだった。
結花は恥ずかしかったが、灯がどうしてもとねだったのだ。
「家の人はいないの?」
畳の上にあぐらを掻き、茶を入れようとする結花を制して灯が尋ねる。
「うん…。お父さんはいないし、お母さんは何故か帰ってこないの」
灯はしまった、という顔になった。
 足が痛むので体育座りで灯と向き合い、結花は小さく咳払いする。
「…それで、灯…。どうして、あんな事を?」
結花は不思議でならなかった。
容赦のない電気あんまで、決して流すまいと決めていた結花の涙を初めて搾り出した相手。
その灯が、まさか自分をかばうなんて…。

結花はじっと灯を見つめた。
灯は、ここしばらくずっとそうだったように、少し寂しげな表情で結花を見つめ返す。
しかしその顔は、いきなり子供の悪戯っぽい笑みに変わった。
「きゃあっ!」
胸に突然柔らかい弾力を感じ、無重力になったかのように上体が浮く感覚の後、
結花の体は仰向けに倒れ込んだ。
上空に灯の楽しそうな顔が覆い被さる。
「へへ、わかんない。けどさ、とにかくこうしたかった。
 結花と二人っきりで、押し倒して、寝っ転がって。
 あんたがいじめられるのを見るのが辛くなってきたの。
 だって…」
灯はそこで一旦言葉を止めた。
おもむろに結花の顔をつかみ、その薄い唇を奪う。
「ん…んんっ…ん…!」
結花は戸惑いながらも、あまり抵抗する気は起きないのに気付いた。
柔かい舌の感触と無味の液体を味蕾に感じつつ、その理由を考える。
 何となく思い当たる言葉があった。
唇が離されるのを待ち、灯が息を吸うのに合わせて言ってみる。

 『好きになっちゃったから』

今度は灯が驚く番だった。
「…なんとなくだけど、気付いてた。途中から灯、他の子と全然いじめ方が違ってたし。
 あの優しい責め方、けっこう好き」
結花の顔から、少しだけ笑顔が覗く。
その愛らしい微笑みを目にして、灯は今一度自覚した。
自分は、少女のこの顔が見たかったんだと。
「じゃあ結花、あたしと、友達になってくれる?」
結花の頬を撫でながら灯が訊いた。
 “友達”。
結花には初めてのものだが、やはり抵抗はなかった。
「私でいいなら、…お願い。」
灯は息を呑んだ。
結花の笑みがさらに広がり、見ているだけで口元が緩んでしまう。
その心からの和顔を見るのも、おそらく灯が初めてだろう。

「…あ、でも」
結花は少し笑顔を曇らせた。
灯が心配するのを見て、言いにくそうに続ける。
「えっと、友達、って、何話せばいいのかわかんなくて…」
その答えに灯は思わず吹き出しそうになったが、すぐに優しい笑みを返し、
結花の上に覆い被さっていた姿勢を正座に直す。
「普通の会話なんて、必要ないわ…おいで」
そう言うと、灯は腕を広げて胸元を空けた。
 何をしていいか分からず固まる結花に、灯は痺れを切らして自分から結花の身を
抱きかかえる。
「今までいっぱい辛かったでしょ。我慢した分だけ、泣いていいから。」
結花には経験の無い、本来の母親のような優しい声。
たったそれだけで泣けるとは思えなかった。
しかし結花はこの時たしかに、どうしようもなく不安で、心細く、ちっぽけな気分が
自分の心に潜んでいるのを知った。
「・・・・別に…我慢、なんて…っく、あれ…?っく、ひ…っく、う…
  あ…あああ…、 うあああああん!!」
灯の胸に顔をうずめ、子供のように泣きじゃくる結花。
その頭を撫でながら、灯は呟いた。

結花。これからは、あたしがずーっとあんたを守ってあげるわ…


       ―――学園祭まで、あと21日―――

楽艶祭 第三話

1.

「げほ、げほげほ…ひゅうッ…ごほっ!」
結花の咳は昨夜から止まらなかった。
昨日濡れた服を着たまま外気に晒され続けたせいで、当然のごとく風邪を引いてしまったのだ。
目覚ましが鳴りはじめる。人目を避けて登校する為に起きるべき5時になったということだ。
起きなければならないと結花は思った。
しかしどういう訳か、そう思った途端に彼女に強烈な睡魔が襲ってきた。
ひどい咳を繰り返していたせいで、結花は一睡もしていないのだ。

次に結花が目を覚ました時、時計はすでに八時前を指していた。
学院が始まるのは八時半、かなりギリギリの時間だ。
結花はふらつきながらも慌てて起き上がり、支度を始めた。
 そもそもひどい風邪を引いている時点で、普通なら出かけるのはやめるだろう。
しかし結花は、妙なところで頑固だった。
彼女は今まで、学校へ通い、その後店を開くという生活をどんな事があっても崩す事は
なかった。
だから、ひどい頭痛と立てないほどの腰の痺れでどうしようも無かったとはいえ、
前日店を休業した事は結花にとってかなりのショックだったのだ。
いじめなどのせいで、これ以上自分の日常を狂わされるのは我慢ならない。
そういった密かな意地が、彼女の儚い雰囲気から弱さ、頼りなさを消し、
独特の魅力を作るのかもしれない。

顔を洗い、すぐに着替えにかかる。
最悪な事に、今日着るのはあの小学生用の体操服だ。
昨日の放課後、教室の中を探しても結花の制服と下着はどこにも見つからなかった。
恐らくクラスメイトかリカ達が回収したのだろう。
仕方なく、結花はパジャマを脱いで体操着を手に取る。
昨日の執拗な責めのせいで、体操着は上下ともたっぷり汗を吸ったまま生乾きになっている。
昨晩の結花は着替えられたのが奇跡と思えるほど疲れきっていたため、
当然洗濯などできなかった。
ガンガンと鳴る頭の中で、結花はリカの言葉を思い出す。
『明日登校する時はノーブラで……』
結花はさらに憂鬱な気分になったが、下手に逆らう訳にもいかず、
そのまま濡れた体操服のシャツに袖を通し始めた。
風邪のせいかふらつき、体の節々が痛むのに閉口しながらも、どうにか服に体を収めた。
そのまま鞄を持ち、髪を梳かすのも忘れて玄関へ走る。
その時になってやっと、今日も母の姿がないのに気付いた。
 (どこに行ってるのかな…)
結花は少し心配になったが、とにかく急いで家を出た。

2.

なおも節々が痛む体に鞭打って、結花はバス停へと走った。
その間、人の目が気にならなかったのは幸運だといえるだろう。
なんとかバス停が見えた時には、すでにバスが来ていた。
息を切らしながらも結花は全力で走り、なんとかバスに乗り込む。
バスの中は超満員で、体を押し込む結花を何人かの男が忌々しそうに睨んだ。
しかしその男達は結花の顔を見ると、わずかに瞳を柔らげる。
変な話だ。髪を梳き忘れて見向きもされないならともかく、普段のように髪を整えない事で、
逆に彼女の本来持つ魅力が人に知れてしまっている。
 しかし結花はそんな事は思いもよらなかった。
額を出せば明るく見えるという事は店の客達の反応で知っていたが、
それが『可愛い』などとは考えた事もない。
今見られているのは、単純に髪を整えていないことや、妙な格好のせいだと思っている。
だから、ドアが閉まってバスが発車すると、男達に背を向けて窓の外を眺める事にした。

「ゲホッ…はぁ、はっ…ぐ、ゲホゲホッ……」
走ったためか、また咳がひどくなりはじめた。
大きく息を吸い込むと、結花の鼻につん、とした臭いが入ってくる。
 (あ、や、やだ、これ、私の着てる体操服の臭いだ!!)
少女の甘酸っぱい汗と体臭が入り混じり、生乾きでなんともいえないものになっている。
結花は後ろからの視線を感じた。
とにかくバスが学校に着くまでじっとしていよう、結花はそう決める。
その時、結花のお尻に何かが当たる感触がした。
とはいってもこの混雑だ、特にそれはおかしい事ではない。
だがその「何か」は、ブルマに押し付けられたままぐにぐにと尻肉を揉み始めた。
 (な、なに、これ…?まさか、痴漢!?)
結花は痴漢に遭うのは初めてだった。
なにしろ、いつもは人に見向きもされないのだから。
結花は戸惑ったが、自分が狙われるのは当然だとも思った。
こう込み合っていては少々不審な事をしても人には分からないし、
サイズ違いの体操着を着て白い太腿や腹部を晒し、おまけにその服から強烈に女の匂いを
漂わせているとなれば、客観的に見て自ら誘っているとしか思えない。

痴漢の手は次第に遠慮がなくなっていき、双丘から股へと割り込んできた。
結花はその手を後ろ手に払いのけようとしたが、すぐにその手を掴まれ、
体をドアに押しつけられてしまう。
それに合わせて人の波が動き、数人分の体重が結花の動きを封じる。
もう振り返ることもできず、ブラジャーを着けていない乳房が自分とドアの間で形を変えた。
ブルマ越しに敏感な場所を擦る動きに、結花は内股になって抵抗する。
「はあっ、や、やめ…ングッ!!」
少し遅い気がしながらも叫び声を上げようとした途端、その口が厚い手で塞がれた。
そしてその直後、生暖かい息が耳元に吹きかけられる。
「こんな格好して何言ってんだ…うっすら乳首見えてたぜ、生乳娘。
 素直になれよ、触って欲しいんだろ?大声出したら、恥ずかしい姿皆に見られるぜ?」
低い声で脅しつつ、シャツの上から結花の乳房をゆっくりと揉みしだく。相手は男のようだ。
結花はドアのガラスに映る相手の姿を見ようとしたが、熱に浮かされて霞んだ目では
はっきりとは見えなかった。

男の指がブルマの股部分を何度も往復し、布地を通して結花の割れ目をなぞった。
秘部から生まれた熱いものが、結花の体をじわじわと這い上がっていく。
男は二本の指を揃えて擦っていたかと思えば、その指を分けて時間差で這い回す。
熱で感覚がおかしくなっているのだろうか、結花はその刺激を気持ち悪いとは感じず、
ただ快感のみを受けていた。
口を手で押さえられているため声は出せないが、出せたとしても甘い吐息になるだろう。
「感じてきたな?もう太腿がひくついてるぜ」
尿道の辺りをぐりぐりと押し込んでいた手が、ブルマにくびり出された白い太腿を滑った。
きつく閉じていた脚が少しずつ開いていくが、少女にそれは止められない。

そして突然男の手は腿をさするのをやめ、腰の辺りからブルマの内側へと入り込んだ。
薄い水色のショーツが地肌から剥がすように押しのけられ、岩のようにごつごつした手が
結花の熱のこもった秘所に密着する。
指の腹が慎ましい割れ目を直に擦った。
「まだそれほど濡れてねえな。まあ期待してな、これからグチョグチョにしてやっからよ」
結花の耳元で笑い混じりの声がする。
 (グチョグチョって…まさか、リカ達と同じような事するの!?)
子供が産めなくなる病気。リカにそう騙されている結花は嫌がって身をよじったが、
体は男達とドアに挟まれてほとんど動かせない。

そうしている内に、ついに男の指が結花の大事な場所を割り開いた。
男は始めは軽く、指の頭だけを潜り込ませる。
しかし僅かでも敏感な粘膜を擦られ、むず痒い快感に結花の腰がぴくんと跳ねる。
その反応を楽しむように、男の無骨な指は何度も浅い侵入を繰り返した。
結花は次第に秘所が湿り気を帯びてくるのを感じる。
 頭では全力で抗おうとしているのに、それがまるで体に反映されないのが不思議だった。
歩こうと思えば歩ける、そんな自分の体では無くなった気がして不安にもなった。

やがて挿入は回数を重ねるたび深くなり、ついに第二関節までが割れ目に沈み込む。
男は探るように中指を曲げたり伸ばしたりし、初々しい膣の内壁に様々な模様を描いた。
「いい締まりしてるな。こりゃ結構な名器かもしれんぜ、嬢ちゃん。
 もう一本挿れるから、力抜いて待ってな」
そう声が掛けられたが、結花は頭がぼうっとしていてその言葉が理解できず、
無意識に体を強張らせる。
男は小さく舌打ちし、一層強く中指を包み込む膣に人差し指をねじ込んだ。
押さえられた結花の口から呻き声が漏れる。
 (痛い…そんな所に、指二本なんて入らない!ずきずきする…どこか切れたのかな?)
今までに少女が迎え入れたのはボールペン一本のみ。二本指は彼女にとってありえない太さだ。
顔を真っ赤にしながら、彼女は吐き気を覚えた。
いや、その吐き気は昨晩から常にしていたが、ここへ来て極度の緊張に晒され、
今一度実感できるまでに高まったのだった。
周りから微かに荒い息がしている。気付いている乗客もいるようだが、止める者はいない。

男は二本の指を曲げて膣口の裏側を引っ掻きつつ、残りの指で大陰唇を挟み込んで擦る。
入り口近くの二つの性感帯を同時に刺激され、結花の腰が小さく震え始めた。
十分に入り口がほぐれた頃、指が伸ばされて膣の粘膜を丁寧になぞりだす。
潤んだ粘膜から蕩ける快感が腰に染み渡り、曲げ伸ばしを繰り返す指が膣を掻き回すたび、
波となって結花を呑み込んだ。
その波を具現化するように、脚ががくがく揺れ始める。
「もっと気持ち良くなりたけりゃ、声は出すなよ」
男はそう囁き、結花の口を押さえていた手を離した。
結花の頭はその支えを失ってドアのガラスにもたれ掛かり、とろんとした瞳や半開きの唇を
外の通行人に晒す事になった。
すでにバスは学院の近くにさしかかっており、外には学院の生徒が何人も歩いている。
だが快感に体を奪われた結花にはもうどうすることもできず、ただ声を殺して泣くだけだ。
「ヒクついてきたな。限界か?なら、そろそろイカせてやる」
その声と共に指の動きがさらに激しくなり、ちゃぴちゃぴと湿った音がしはじめた。
空いた手が体操服のシャツに潜り込み、すでに固く尖っているしこりをぎっと摘む。
「んん…はぐっ…ふああ…っ!」
潰れた乳首から迸る痛みが首筋を這い上がり、脳に響いて秘裂の感覚を研ぎ澄ます。
嬌声をなんとか人に聞かれない程度に押さえてはいるが、もう言葉を操る理性は
消し飛びかけており、いつ叫びだすか結花自身にもわからなかった。
 いよいよ男の親指が、なおも少し腫れ、しかし快感を求めて隆起しだした陰核に触れる。
何度も何度も神経そのもののような肉芽をさすられ、弾かれて、結花は視界が歪みだした。
 (こんなの初めて…もう、もう我慢したくないよ!私、この感じだけはだめだ…!!)
歯を食いしばり、背中に筋を立てながら腰を浮かせる結花。
快感に慣れていない割にずいぶん耐える彼女も、執拗に襲い来る波の一つに足を掬われ、
また快楽の海へ投げ出されようとしていた。

しかしその時、急に男の手が止まった。外には学園の校舎が見える。
男は割れ目から指を抜き取り、結花の服を元通りに直した。
「残念だったな嬢ちゃん。ま、学校行ってから一人で愉しめや」
男は嬉しそうにそう言い残し、バスを降りていった。
「はぁ、はぁ…そ、そんな、あと少しだったのに…。ひどい、こんなのないよ!」
ドアにもたれ掛かったまま放心状態になっていた結花は、生殺しの苦痛にうめいた。

3.

バスの中の痴態で一層熱く火照り、動きの鈍った体を引きずって、結花は教室へ向かった。
普通に廊下を歩いているのに、時折足を踏み外したようにがくっと体が崩れる。
教室までの短い廊下が、結花には何kmに思えただろう。
やっと教室の前へたどり着いた時、貴子が教室から出てくるのに鉢遭った。
ちょうど朝の学活が終わった所らしい。
「鼓さん、風邪なの!?ふらふらじゃない、どうして学校に来たの!!」
一目で結花の状態を知り、貴子が心配そうに結花に駆け寄る。
額に手を当てると、驚くほど熱かった。瞳もまるで焦点が合っていない。
「とにかく、保健室へ行きましょう。あと少しだけ、頑張って歩いて。」
結花に肩を貸しながら、貴子は歩きだした。
その様子を廊下側の窓からクラスメイト達が覗いている。

「灯ぃー、聞いた?結花の奴、保健室だってさ。出てきたトコ拉致って、またヤッちゃう?」
昨日結花を投げ飛ばした生徒が、一人だけ席を立たずに足を組んでいる少女に呼びかけた。
しかしその少女は、つまらなそうに髪を掻きあげて言った。
「駄目よ。保健室は職員室の近く、騒ぎを起こして見つかりでもしたら厄介だわ。
 それに、病気なのに無茶させると壊れるわよ。
 一日甘い思いをさせて、次にどん底に突き落とすの」
片手でペンをくるくる回しながら語る少女に、クラスメイトが黄色い声を浴びせる。
灯はその声に満足げに笑っていたが、得意のペン回しにいつものキレはなかった。

保健医の椿は、はじめ結花を見たとき貴子と同じ反応をした。
「はぁ…はっ…すみ、ません……」
結花はベッドに横たわりながら、息も絶え絶えといった様子で謝る。
その結花の様子を見て、椿は少しの間何か考えを巡らせていた。
「その熱では、もう座薬を使うしかありませんね。」
座薬。結花には馴染みの無い言葉だった。
「あの…座薬、って、なんですか?」
不思議そうに聞くと、椿は少し驚いたあと、ほんの一瞬何かを悟ったような顔をし、
優しく笑いながら説明した。
「座薬というのは、肛門から差し込んで使う薬の事です。直腸から直接吸収されるので、
 効くのは早いですよ」
椿の言葉は丁寧だが、内容は結花にとってとんでもなかった。
結花は絶対に嫌だったが、ここが保健室であり、相手が病気を良く知る保健医であるならば、
病人の自分が従わないわけにはいかなかった。
「すみませんが、ベッドの上で四つん這いになって下着を下ろして、お尻を出してください」
妙に腰の低い態度で結花に命じ、自分も準備をはじめた。
ただ座薬を出すにしては大袈裟な準備を。

 実はこの椿、リカの父親が院長を務める病院の関係者だ。
普段は誠実で優しい保険医だが、結花に対してだけは容赦しないようリカから言われていた。
そんな事とは知る由も無い結花は、しぶしぶ言われた通りに四つん這いになり、
恥じらいながらブルマとショーツをわずかにずり下げた。
「それでは座薬が入れられませんよ。もっとさげて下さい」
椿は呆れたような口調で言い、結花が顔をさらに赤らめながら太腿までずらすのを見つめる。
そしてゴム手袋を嵌め、結花の後ろに回った。
「ではこれから、肛門の簡単な検査をします。つらくても、じっとしていて下さいね」
結花は椿に下半身を晒したまま、小さく返事をした。

四つん這いになった結花の股を覗き込む椿は、ある事に気付いた。
「鼓さん。これは一体何です?」
ゴム手袋を嵌めた手で、結花の秘裂を押し開く。
少し前に悦びを極めさせられる寸前で放置され、そこはすでにとろとろに蕩けている。
椿はその事をネタに結花を辱めるつもりでいた。
しかし少女の反応は、彼女の予想とは全く違ったものだった。
「せ、先生…。実は私のそこ、何かの病気みたいなんです。
 あの、なんとか…ならないでしょうか?」
四つん這いのまま振り返り、すがるように椿に問いかける。
椿はそこで、リカが言っていた話を思い出した。
 (ああ、そういうシナリオね。いいわ、乗ってやろうじゃない)
椿は急に黙り込み、眉間にしわを寄せる。
「鼓さん、これが病気だと、誰から聞いたんですか?」
「え、あ、あの、A組の如月さんから…」
結花は戸惑いながら答えた。
すると、椿が意味ありげに呟く。
「ああ、あの子ですか…医者志望にしては、“軽率”ですね」
結花の顔色がぱっと明るくなるのを、しっかりと椿は見ていた。
「……え、軽率?それじゃ、もしかして…!」

軽率、という言葉を選んだのは意図的にだ。
うっすらと『誤診』を連想させる事で、少女に僅かな希望を与えるための。
結花が思いを巡らせるのに十分な間を取った後、椿は言葉を続けた。
「ええ、軽率です。…この病気は、決して本人に知らせてはいけなかった」
結花の表情が固まる。
「最近ごく稀に見つかる症例で、正式な学名はありませんが、
 私達は便宜上『ハイ・オーガズム症候群』と呼んでいます。
 残念ながら、現在のところ有効な治療法は見つかっていません。
 少なくとも、日本では…」
結花の顔に、一瞬にして絶望の色が広がる。
少女はリカ達の芝居を見抜いていた訳ではないが、自分を担いで遊んでいるのかもしれないと
心のどこかで思っていた。
しかしたった今、正真正銘の医者(と結花は思っている)から宣告されたのだ。
希望は完全に絶たれた。
椿は申し訳なさそうな顔の裏で、勝ち誇ったように笑う。
「すみません…。とにかく、今は風邪の治療を済ませましょう。
 それで少しは免疫も回復しますから」
結花は目を閉じたまま、肩の震えと同じようにかぼそい声で呟いた。
「………お願いします……」

「ではまず、座薬を入れる前に直腸をほぐしておきましょう」
そういうやいなや、椿は両手の両手の親指の腹で菊門の皺を伸ばすようにほぐし始めた。
以外にすべすべしたゴム手袋の感触が排泄の穴を開いては閉じ、閉じては開く。
腸の中に少しずつ空気が溜まっていく感じがして気持ち悪かったが、結花は声を殺している。
しかし時折椿が中に指を入れるかのように力を入れて押し込むと、結花の体に力が入り、
息が震えるように乱れた。
「もう少し足を開いてくれますか」
少女は椿の指示に従い、シーツの上で膝をずらし、体を少し沈み込ませる。
「少しほぐれたようなので、次は中を拡げましょうね。」
椿はそう言うと、少し結花の様子を窺い、少女が息を吐くと同時に人差し指をめり込ませた。
「っくぅ…!」
結花の口から、たまらずに小さなうめきが漏れる。
「固いですね。括約筋が指を締め付けていますよ」
その言葉を受け、菊輪の締め付けが一層強まる。
それを振り切るかのように、片手の親指ですぼまりを押し広げたまま、
ぬぬぬっと一気に第二関節までを埋め、指を曲げて腸壁を円を描くように擦った。
 (やだ…この動き、今朝のバスの人と同じだ…!)
少女はこの日、何の因果か、初物の膣と直腸を同じように開発されることになった。

「次は中指を入れます。力を抜いて下さい」
人差し指をぐにぐにと動かし、中の感触をしばらく確かめていた椿が告げた。
言うや否や、また細く固い感触が体の端から中心へとその存在を主張してくる。
「はあぁ、はぁ、…うう、ふっ…!」
結花は口を大きく開いて酸素を求めながら、喉を震わせて喘ぐ。
そして二本の指は、全く何の前触れもなく、突然に根元まで突き入れられた。
「ひいっ!あぁ、あっ…い、痛いです!!」
「こうしなければ拡がりません。少し激しくします、声は出しても構いませんので、
 我慢して下さい」
細いかわりに椿の指は長く、その爪は直腸のかなり奥を引っ掻いた。
わずかに抜いてはまた突きこむ。
はじめはぎこちなかったその動きは、次第に滑らかになり、やがて全く遠慮の無い
リズミカルな攪拌になった。
「はああ…、っく…うう、ひぃ…あっ、あ…、ん…」
結花の口から漏れる喘ぎも、本人は気付かないが艶のあるものに変わっている。
眉をしかめた顔からは滝のような汗が流れ、顎に伝ってシーツに大きな染みを作っていた。

 (尻穴で感じてるわけ?このガキ。私の腕も捨てたもんじゃないね…。
 もっといじめてやろうかしら)
椿は昔、かなり名の知れたレディースだった。
今は極端にそのなりを潜めているが、根本的な性質は変わっていない。
こと、華奢な少女をいたぶる事には貪欲だ。
結花が酷い風邪に苦しんでいる事など、とうに失念していた。
二本の指で直腸をかき回していた動きを、その中の一点に絞る。
子宮と肉壁で隔てられた奥深く…直腸のGスポットとでも言うべき場所を、
鉤状に曲げた指の力の全て込めて抉る。
「く、ああああーッ!!うあっ…ああ!いや、そこだめ、へ、変になっちゃうぅ!!」
結花はたまらず叫びだした。
体を支えていた両腕ががくんと折れてベッドに胸を預け、太腿を激しく痙攣させる。
電気あんまや今朝のような外側からの刺激ではない。
子宮の奥から滲み出し、膀胱を破裂させるかのように激しく泡立てる底知れぬむず痒さ。
限界はすぐに訪れた。
「だ、だめええーー!!ま、また…あっ…あっ……いっ… …く… !!!」
足首を張って膝を浮かせ、結花の腰が激しく上下する。
しかし、椿はそれを見て手を止めた。
「はい、もう十分ほぐれました。よく頑張りましたね」
そう言いながら指を抜き取ってしまう。
「ああ!い、いやああーッ!!」
二度目の極めて酷な寸止めに、結花は半狂乱になって、右手を自らの蜜壷へと導いた。
しかしその直後――
「何してるのっ!!」
パンッと乾いた音がし、結花の耳の奥で何かが破れそうに震え、頬がじんと熱くなった。
いつの間にか横に来ていた椿が、思いっきり頬を張ったのだ。
「あなたの女性器が病気だと知っているでしょう!?
 自分から指を入れて悪化させようなんて、何を考えているの!!」
先ほどまでとはうって変わって鬼のような形相になった椿に、結花の心臓は縮みあがった。
「あ…だ、だって、お尻を弄られてたら、たまらなくなって……つらかったんです。
 …ごめんなさい」
なんとか秘裂に指を入れることを強い意志で抑えているが、
結花の頭はただ自分の体内をかき回したいとしか考えられない。
「いえ…こちらこそ、暴力を振るってすみませんでした。
 でもお願いですから、もう二度とそこには触れないで下さいね」
椿の柔らかな笑顔が、結花にはこの上なく残酷だった。

「さて、括約筋もほぐれたところで、今度は中を綺麗にしましょう。
 便が残っていては、座薬が十分な効果を発揮しない事がありますから」
椿は机の引き出しから巨大な注射器のようなものを取り出しながら言った。
その先端についているのは針ではなく、ガラスのパイプだ。
「仰向けに寝転んで下さい。足を持ち上げて…」
結花の足を持って自ら位置を決めてから、浣腸液作りに取りかかる。
バケツのような容器に水を汲み、そこにグリセリンを混ぜて何かの液体を数滴垂らした。
その溶液に浣腸器を浸し、200mlを吸い上げる。
「さあ、少し気持ち悪いかもしれませんが、すぐに出さないで下さいね。
 少しは我慢しないと、意味がありませんから」
冷たいガラス管がすぼまりに当てられ、結花は唇を噛みしめた。
少し口の開いているその穴に、ガラス管が突き刺さる。
中の液体が少しずつ、確実に結花の腸内を満たしていく。
「あああ…は、入ってくる…!やだ、気持ち悪い…!!」
その他の言葉が頭の中から消える。
初めての浣腸は、少女にとってあまりにもおぞましいものだった。
一度浣腸器が空になると、椿はすぐにまた液を吸い上げ、結花の腸へと移した。
計400ml、初めての浣腸としては少ない量ではない。
「では…これから10分、なんとか我慢して下さい。そうすれば出していいですよ」

 五分後、額にじっとりと脂汗を浮かせ、肩を震わせて何とか耐えているが、
すでに結花の限界は近かった。
下腹部から漏れる音は初めと比べて濁りきり、腸内がどれほど荒れているかが分かる。
「んん…ぁ…う…はぁっ、あ、あと何分ですか?もう、で、出ちゃう…!」
シーツを掴み、足を踏ん張ってかろうじて排泄感を乗り切るが、すぐに次の波が湧き起こる。
波は前と同じかそれ以上になっているのに対し、少女の抵抗力は刻一刻と削がれていく。
そしてさらに今、便意だけだった苦しみに新たな違和感が加わろうとしている。
「な、何これ…?あ、お、お尻がびくびくするっ!いやぁ、か、痒いよお!お尻が痒い!!」
結花がそう叫ぶと同時に、すでに愛液が溢れかえっている秘唇から、どろっと蜜が垂れた。
陰核が包皮を捲って尖り始めた。

 (よしよし5分…計算通り。さって、こっからどうなるかね?辛いんだろうな、かわいそ)
椿が浣腸液に数滴垂らしたもの…それは、リカの病院に付属する医療施設で開発された、
インポテンツ治療の特効薬だった。
まだ副作用などが不明のため実用が見送られている代物だが、媚薬としての効果は
アメリカでも髄一と目されている。
結花は、その効果の発現時間と程度を測る実験体にされたのだった。
「ぐう…あああ、くぉ…ッ、あ、ひぃ…い…ぁが…!!」
後孔から抑えきれない細い筋が流れ出しているが、筋肉が弛緩しはじめ、もうそれ以上
括約筋を締める事はできなくなっている。
腸の中が溶けた鉄を流し込まれたような熱さに埋め尽くされる。
 イキたい。
もうそれしか考えられず、呼吸もろくにできない。
渇ききった喉からかすれた悲鳴と涎を垂らし、目の奥に火花のようなものが散るのを見て、
理不尽なまでに圧倒的な感覚に溶けていく自分を知った。
後頭部を殴られたようにその首がびくっと前に跳ね、続いて体が大きく弓反りに仰け反った。
それを認め、椿がベッドの下から取り出した金だらいを素早く結花の腰の下に滑らせる。
「もぉだめえええええーーーーーーッ!!!」
窓ガラスが震えるような断末魔の叫び声と共に、汚液が勢い良くたらいに当たる音が続いた。
その快感は相当なもので、一瞬にして結花の意識を飛ばした。
しかしその瞬間、ようやく彼女はかつてない熱さに体を貫かれて何度も絶頂を迎えた。

絶頂と共に気を失った結花を見て、椿はこれ以上責めるのは体力的に危険だと判断した。
 (意外に耐えてたから忘れてたけど、この娘普通に病人だったわよね…。少しやり過ぎたな)
さすがに心配になった椿は、そっと結花の脚を持ち上げて座薬を差し込むと、
苦しげに眉をひくつかせる少女の汗を拭い、そのまま静かに寝かせておいた。
 そして数時間後、十分に深い睡眠を取った事と座薬が効いたおかげで、結花はかなり
元気を取り戻した。
「色々と、お世話になりました」
申し訳なさそうな顔で深々とお辞儀する結花に、椿は顔にこそ出さないが密かに
引け目を感じていた。
「ええ、また体調が悪くなった時はいつでもいらして下さい。
 …膣の病気、良くなるといいですね…」
椿は少し鬱な気分になった。

4.

保健室から直接帰宅し、結局結花が家に着いたのは普段帰る時間とそう変わらなかった。
着替えて軽く食事をし、すぐ店の支度にかかるが、そのとき彼女は妙な感覚に襲われた。
 (あれ…な、なんだろ、また少しお尻がかゆい…)
小さい針でちくちくと刺されるような、微妙な痒み。
少し気になるが、たまらないというほどでもない。
だから結花は特に気にも留めず、いつも通りに店をはじめた。

「はい、820円ちょうど頂きます。いつもありがとうございます、またおいで下さい!」
結花の柔らかい、この上なく清楚で可憐な笑顔が覗く。
鼓コロッケ店は大賑わいだった。理由は昨日店が休みだった事と、もう一つ。
「あの~、コロッケ下さい」
客の一人が呼びかけると、少しぼうっとしていた結花は慌てて対応する。
「…え?あ、は、はい!すみません、どうぞ!」
コロッケを受け取った客は、何気ない風に喋り始める。
「ありがとう。いやー、ここのコロッケは他とは全然違うからさ。
 薄いパリパリの衣に包まれた熱々のジャガイモがほくほくしてて
 …もう、今すぐむしゃぶりつきたいくらいだよ。」
熱々、などの言葉に、結花がぴくっと肩を震わせて反応し、頬を染めた。
盛況のもう一つの理由がこれだ。
快活な看板娘が、今日に限っては特定の言葉に純情な反応を示す。
 (やだ…どんどん体が火照ってきてる。やっぱりあの病気のせいかな…)
当然、浣腸液に含まれていた薬の副作用だ。
一度絶頂を迎えてからしばらくは収まっていたものの、店で仕事をこなしているうちに
体が温まり、再び効果が出始めた。
すぐに乳首が固くしこりはじめ、動くたびにブラジャーに擦れて痛みと快感を生む。
秘裂からはじわっと分泌液がしみだしてショーツを濡らす。
客の話はまだ続いている。
「家のやつはお宅のメンチカツが大好物でね。噛むとじゅわっと肉汁が滲み出て…」
結花は内股に脚をすりつけはじめた。
「え、えと、あ、そうです。それが売り、ですから…えへへ」
慌てながらいつもはしない軽薄な愛想笑いをする自分に、結花は腹が立った。
なんとかして疼きを収めたくてたまらなかったが、椿に叱られた事を思い出すと
割れ目に刺激を与えることがはばかられ、結局結花はその日、一日熱い体を持て余した。


         ―――学園祭まで、あと28日―――
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