大樹のほとり

自作小説を掲載しているブログです。

調教

眞喜志 愛梨、その探求の果て Episode.3

※Episode.3はオタサーの姫として、痴漢プレイ、乱交、コスプレ等をするエピソードです。


Episode.3 オタサーの女王


 愛梨は注目されるのが好きだ。人間は自分の想定外のことに注意を向ける。つまり他者から注目される人間というのは、何かしら『抜きんでている』ということ……そう考えて生きてきた。
 それゆえか、愛梨は視線に敏感だ。たとえ背後からの視線であっても本能的に感じ取る。肢体を舐め回すような、欲望まみれの視線であれば尚更だ。
「…………」
 颯爽と階段を上がっていた愛梨は、突如立ち止まり、くるりと後ろを振り返る。その視線の先には、愛梨のミニスカートを下から覗き込もうとする男子生徒がいた。
「あんた今、あたしのパンツ見たでしょ!!」
 愛梨は眉を吊り上げ、ズンズンと階段を下っていく。
「えっ!」
 男子生徒は驚き慌て、逃走を図った。しかし彼は見るからに運動が不得手なタイプであり、追う者が俊足の愛梨とあっては逃げきれない。
「ま、待って! 見てない見てない、誤解誤解!!」
 男はあえなく首根っこを掴まれたまま、必死に弁明を始めた。しかしその視線は不自然なほど愛梨と合わない。
「どこ見てんの? 言いたい事があるならこっち見なさいよ!」
 愛梨は相手の顎を掴んで正面を向かせつつ、相手をじっと観察する。
「あ、いやあの、その……!!」
 表情筋の動きが乏しい独特のしゃべり方。ボサボサの黒髪に汚い肌、メリハリのない体型。中学生のような垢抜けないリュック。頑なに視線を合わそうとせず、しかしこちらの顔を盗み見る仕草。
 この類には見覚えがある。高校時代だ。教室の隅でひそひそと話し、口では三次元の女子に興味がないなどと言いながら、愛梨のミニスカートとそこから伸びる脚を舐めるように視姦していた人間達。スクールカーストの底辺。この男は仮にも東州大生なのだから、彼らと違って勉強面では優秀だったのだろうが、雰囲気からして本質は同じだろう。潤とは真逆の冴えないオスだ。
 しかしだからこそ、その男は愛梨の興味を惹いた。今ひとつだったセックス相手の、真逆。一度試してみる価値はある。

「……ねえ。パンツだけじゃ物足りないでしょ? なんだったら、もっと凄いところ見せてあげてもいいわよ?」
 愛梨の言葉に、男は耳を疑った。思わず愛梨の目を直視し──そこで改めて、相手のルックスに息を呑む。握手会で対面したアイドルが霞んで思えるほどの、圧倒的な華。まさしくトップアイドル級の美貌が、息すら掛かりそうな距離に存在している。
「え、え、え……っ!?」
 男の脳はショートした。様々な思考が脳を巡る。
 この女が何者かは知っていた。入学早々にサークルを荒らしまわった問題児にして、『ヤリサー』のトップを食ったセックスモンスター。肉食系女子の頂点。本来なら関わりたい存在ではないが、大学の構内で一目その姿を見た瞬間、ついフラフラと近づいてしまった。光に誘引される蛾のように。

 気づけば男は、愛梨を部室に案内していた。アニメ研究会、通称アニ研。非公認サークルではあるものの、アニメ業界で活躍するOBの恩恵で広い部室を与えられている特異な集団だ。
「おー、お帰りんこー」
 部室の扉が開いた瞬間、覇気のない挨拶が飛ぶ。しかし、見知った顔の後ろに愛梨を見つけた瞬間、室内の8人は一様に目を剥いた。
 彼らの反応も先の男と同じだ。生で見る『問題児』の圧倒的なルックスに、下心を剥き出しにする。無理もない。リアルで女子と話す経験の乏しい彼らにとって、これほどの美少女と話せる機会はまたとないのだ。
「ま、眞喜志ちゃん、だっけ。近くで見ると、すげぇ可愛いね……!」
「スタイルも抜群だな。脚がスラッとしてて……!」
「ほんとルックス良すぎ。チェルンたん……あ、俺の今期の推しなんだけど、それ現実にいたらこんなイメージかも!」
 冴えない男達が群がり、愛梨の頭からつま先までを舐めるように観察する。アップライズの面々ともまた違う、あふれる獣欲を隠そうともしない視姦。
「…………っ」
 愛梨は、ぞくり、とした。
 女が生理的に嫌悪しそうなシチュエーションだ。当然の反応ではある。
 しかし──何か違う。嫌悪感であれば、胸がむかつき、吐き気を催すはずだ。しかし愛梨は今、鼓動が早まり、子宮が疼いた。
「で、でさぁ愛梨ちゃん。さっきの話なんだけど……パンツより凄いところ見せてくれるって、本当?」
 一人目の男の言葉に、仲間達が動揺する。その視線を再び浴びながら、愛梨はふっと笑みを見せた。さらに動機が早まるのを感じながら。


                ※


「すげー、無修正マンコだ……」
「バカ、修正されてるわけねーだろ。ナマだぞ?」
「女のあそこはグロいって聞くけど、めちゃめちゃ淡いピンクじゃん」
「いや。俺AVとかでよく観てるけど、普通はもっと黒ずんでるぞ。これが特に綺麗なの」
 愛梨の秘部を、18の眼が食い入るように覗き込んでいた。
 愛梨は顔色ひとつ変えていない。机の上で脚を開いたまま、いつものように堂々と前を見据えている。しかし視線に晒されない膣の内部は、ヒクヒクと艶めかしく蠢いていた。
「ゆ、指入れていい?」
「ええ」
 上ずった声での問いに、愛梨は頷く。
「うわ、すげぇ締めつけ……纏わりついてくる。指一本だぞ? チンコだったらどんだけ気持ちいいんだこれ?」
 恐る恐る指を挿入する様、たどたどしく動かす様は、レズ行為を始めたばかりの頃の麻友を思わせた。だが少し違う。その恐れの裏には性欲が透けている。一度その欲望を察してしまえば、膣内の指の動きは、舌で舐められているように感じられた。
「………………っ!!」
 愛梨の太腿がぴくりと反応する。麻友の時とも、潤の時とも違う理由で。
「膣の中ってこんなデコボコしてんだな。AVだとすぐ見つかるとか言ってたけど、これ慣れないとスポットわかんないぞ。ね、Gスポットってどこ?」
「Gスポットは入り口のほう……そこ。今の……もっと手前!」
「あ、ここか。確かにちょっと感触違うかも。ここ刺激したらイクの?」
「そうだけど、乱暴にガリガリ掻いたら蹴るわよ。指の腹で押し込みなさい」
「こんな感じ? こうしてたらイク?」
「んっ……触り方はそうよ。下手だけど……頑張ればイケるかもしれないわね」
 命令口調で愛撫の仕方を伝えながら、愛梨は胸の高鳴りを感じ続けていた。大事な場所へ、不快な男の指を突っ込まれているのに。同じく不快な男達から、下卑た視線を浴びているのに。
「あ、なんか中ヒクヒクしてきた! 感じてんの?」
「感じるスポットを刺激させてあげてるんだから、当然でしょ!」
 男のしたり顔が気に食わず、思わず怒鳴りつける愛梨。9人の男達はわかりやすく委縮するが、盗み見も指を動かすことも止めない。である以上、その行き着く先は決まっていた。
「う……っ!!」
 愛梨が呻き、膝が内に閉じる。その直後、割れ目から小さく飛沫が上がった。
「おお、イッてるイッてる!!」
「つか、潮噴いた? 今」
「今イッたよな! はははは、やった! 初めて三次元の女イカせたぜ!」
 部員達の喜びようは、まさに鬼の首でも取ったようだ。それを嘲笑と取った愛梨は眉間に皺を寄せる。
「アンタにイカされたんじゃないわ。いつまでも埒が明かないから、アタシの意思でイッたのよ!」
 再びの怒号に9人のオタクが肩を竦める。しかし今度の彼らは、若干の満足げな表情を浮かべていた。

「はあ……っ、はあ……っ、はあ……っ、はあ……っ!」
 1時間後、部屋では荒い呼吸が繰り返されていた。興奮した9人のオスと1人のメスの吐息だ。9人のオスは指の先から雫を滴らせ、愉快そうな笑みを浮かべている。一方で紅一点のメスは、机の上で膝頭を抱えるポーズを取ったまま、なんとも難しい表情を浮かべていた。その理由はおそらく、机の下に滴るほど大量の潮溜まりのせいだ。
「すごいね愛梨たん。最後の方は指突っ込んだだけでビクンビクンしてたじゃん」
「ホント、超可愛かった! 欲を言えばイキ顔も見せて欲しかったけどねー」
 男達が猫撫で声を出す中で、愛梨はゆっくりと床に降りる。しかし脚に力が入らず、机に寄りかかってしまう。
「ねえ愛梨たん。もし良かったら、このノリで“本番”とか……!」
 男達の欲望は留まるところを知らない。恐る恐るでありながら、しかし強い願望を秘めた目で愛梨に迫る。愛梨は机に腰を預けたまま、その獣の集団をジロリと睨みつけた。人一倍眼力の強い、大抵の男を黙らせる睨みだ。
「あ、ハハハ……流石にそこまでは、かな……?」
 内気な9人のオスはたじろぎ、澄まし顔で下着を履く愛梨を侘びしそうに見守る。ハイソックス、ミニスカート、ブラジャー、肩出しのトップス。衣服が纏われるたび、セックスの可能性が閉ざされていき、男達は項垂れた。
「…………じゃあ、また」
 部室の扉を開けて出ていく瞬間、愛梨がそう呟いたのも、彼らは社交辞令だと思っていた。
 彼らは眞喜志 愛梨を知らない。愛梨は社交辞令など言わないということを。

 澄まし顔で部室を出てまもなく、愛梨は学舎の壁に頭をつけた。その頬は赤らみ、額からは汗が滲み、心臓は早鐘を打っていた。
「な、なんで……!?」
 愛梨は呟く。
 公園のトイレで麻友から嬲られた時と同じ、不可解なほどの興奮。興味本位であの冴えない男達に性器を触らせたが、何度も潮を噴き、腰を抜かす寸前まで追い込まれるとは思ってもみなかった。最後、セックスの求めを黙殺したのは嫌悪感からではない。今この状態で“本番”をされれば、どれほどの恥を晒すか想像がつかなかったからだ。
「……何してるんだろ、あたし……」
 自己嫌悪に陥る。抜きんでた存在であろうとする自分が、こんな真似をしているのが許せない。しかし、その浅ましい行為で強い快感を得たことも確かだ。
 理想と好奇心の狭間で、愛梨は苦悶する。しかし彼女は結局、好奇心に抗えない。翌日も再びアニメ研究会の部室に乗り込み、昨日の武勇伝に沸く部員達を驚かせた。

「痴漢プレイがしたいわ!」
 そう言い放った愛梨に、集まった研究会メンバーは唖然とする。昨日の愛梨を知る者も知らぬ者も、噂通りの変人なのだと再認識した。もっとも愛梨が変わり者でなければ、むさくるしいこの部室に絶世の美少女が訪れる事などなかっただろうが。
 しかし、愛梨とてただの思い付きで発言したわけではない。
 黙っていれば文句のつけようのない美少女であり、スタイルも抜群、加えて裾を詰めた超ミニのスカートを履くことが多い愛梨は、これまでの人生で実に13回も痴漢の被害に遭っている。
 もちろん性格的に黙って耐えるわけがなく、時には相手の手首を掴んで捻り上げ、時には頭突きを食らわせ、時には背中越しに金的を蹴り上げて、片っ端から警察に突き出した。運悪く逃げられた1回を除き、計12回の撃退記録。その記録を見た警官は驚き、手柄を褒めながらも注意を促した。
「君は正直、異性から客観的に見て魅力的すぎる。痴漢被害を減らしたいなら、格好を見直した方が良い。例えばその、短いスカートとか……」
 警官の注意は善意からのものだっただろう。聡い愛梨はそれを理解してはいた。しかし、生来の我の強さでつい反発してしまう。
「冗談じゃないわ! 悪いのは痴漢をした方でしょう、どうしてあたしが格好を改めなきゃならないの? 痴漢がなによ。またされたなら、またとっ捕まえてやるわ!!」
 愛梨は堂々とそう宣言し、そして実際その通りにしてみせた。痴漢被害が13回に留まっているのは、被害を受けなくなったというより、『痴漢を撃退する女子高生』として地域に広く知れ渡った結果に過ぎない。
 何度痴漢に遭ってもスカートの丈を直さなかった理由を、愛梨は自分の頑固さゆえだと思っていた。被害者の立場でありながらファッションを改めさせられるのは納得がいかない。自分は脚が長く綺麗に見えるミニスカートが好きだし、それを履く権利は誰にも奪わせない。その考えからだと思っていた。
 だが今振り返れば、それだけではなかった気がする。
 愛梨は、痴漢に……胸や尻、太腿を撫でまわす手とその欲望に、興奮していたのだ。実際、愛梨が初めて自慰を覚えたのは、4度目に痴漢を受けた日の夜だった。痴漢そのものは金的一発で鮮やかに倒したものの、夜になってもその出来事が忘れられず、落ち着かないままに何となくむず痒い秘部を擦った。それが愛梨の性の始まりだ。
 それからも、痴漢に遭った日の夜は自慰をしていた気がする。部活破りの高揚でならともかく、痴漢で興奮して慰めたなどとは認めがたく、長らくその関連性に気付かなかった。しかし、地方を遠く離れた大都会で久々の痴漢にあった数日前、愛梨は興奮を自覚してしまったのだ。
 犯人のサラリーマンは無抵抗を当て込んでいるのか無防備で、取り押さえるのはいつでもできた。しかし愛梨は、気まぐれで3分あまりも相手の好きにさせていた。相手の指がショーツをなぞるのをやめ、その中にまで入り込もうとした辺りで流石に肘鉄を食らわせたが、状況に気付いた周りの客が犯人を取り押さえる間、それを見下ろす愛梨の秘部はヒクヒクと戦慄き続けていた。もしあの時、その“先”までされていたらどうなったのか──これが愛梨にとって、目下一番の関心事だったのだ。


                ※


 なるべくリアルな体験がしたい。その愛梨の主張に沿い、SMクラブ等でのシチュエーションプレイではなく、本物の電車での痴漢計画が練られた。あるターミナル駅から電車に乗り、直通運転でローカル線へ。そのまま2時間半電車に揺られ、終点の温泉旅館が目的地という旅だ。
 愛梨はメンバー一同からの熱い要望を受け、普段以上に扇情的な、少し屈めば下着が覗くマイクロミニのスカートで電車に乗り込んだ。ちょうど通勤ラッシュの時間帯であり、すし詰めのサラリーマンから痛いほどの視線を浴びながら。
 この電車は都心近辺こそ混み合うが、オフィス街を過ぎれば乗客は途端に減る。昼間ならば老人や家族連れも疎らにいるが、朝の早い時間帯は貸し切り状態だ。
 とはいえ、それは普段の話。今日の車両は15人の研究会メンバーに占拠されている。3人が窓際の愛梨を囲み、残り12人が壁役・見張り役という布陣だ。
「!」
 人の圧を感じつつ外の景色を見ていた愛梨は、ぞわりとする感触に目を見開いた。早速プレイ開始だ。まずは尻。手のひらで撫でまわされている。

 (来るって分かっててもビックリするわね……)

 愛梨は動揺しつつも窓から視線を外さない。窓ガラスの中では、3つの顔が歪んだ笑みで愛梨の顔を覗き込んでいた。
 尻に続き、太腿、そして胸にも手が伸びる。痴漢役の手つきはリアルだ。鷲掴みではなく、撫でまわす動き。あるいは羽毛を這わせるようなソフトタッチ。そういうゾクゾクとくる感触で責めてくる。
「……アンタ達、本当の痴漢やってないでしょうね? 触り方が本物としか思えないわよ?」
 背後を睨みつつ囁く愛梨。しかしその言葉には誰も答えず、薄笑いを湛えたまま指を這わせ続ける。ソフトに、しかし執拗に。

(何なの、これ……。いっそ乱暴に揉まれた方がマシだわ!)

 ぞわりとした感触が肌を這いまわる。いつも堂々としている愛梨とは対極的なおぞましさだ。それだけに効き目は強く、愛梨は意思に反して腰をクイクイと動かしてしまう。吊り革と鞄の取っ手を握りしめて耐えようとしても、不随意の動きが止まらない。
「ふんん……っ!」
 薄い布越しにクリトリスを擦られ、愛梨は声を漏らす。濡れた股布が割れ目に食い込む。
「静かにしないと、誰かに気づかれちゃうよ?」
 意地の悪い囁きと共に、指は蠢き続けた。焦らすように。誘うように。
「うっ!!」
 腰がぶるりと震えた次の瞬間、内股をとろりと愛液が伝う。その雫は内腿を撫でる男の指で止まった。
「あれれ? なんだ、もう濡れてるの? 愛梨たん」
「……ッ!」
 右からの嬉しそうな声に、愛梨は眉を吊り上げる。しかし否定はできない。決定的な証拠に触れられた以上、下手に誤魔化しても恥の上塗りだ。
「痴漢モノのエロアニメで予習したんだけど、この触り方ホントに感じるみたいだね。脚本がガチな人だったのかな、あれ。もっと気持ちよくさせてあげたいけど、残念。交代の時間だ」
 その言葉の後、愛梨の周りの3人がすっと離れ、入れ替わりに別の3人が手を伸ばす。先の3人と同じように、いやらしく。

 入れ替わり立ち代わり、それぞれ違う手によって繰り返されるソフトタッチ。それは愛梨を着実に昂らせていく。腰と太腿はヒクヒクと動き続け、ショーツのクロッチがひくつく割れ目と密着する。

 (頭がおかしくなりそう……!)

 それまで窓ガラスを睨み続けていた愛梨が、ついに俯く。その理由は誰の目にも明らかだ。膝が笑い、愛液が床に滴り、ほのかに女の匂いを漂わせている。本気で感じているのだ。
「そろそろ次に行くか」
 そう言って愛梨を囲んだのは、最初の3人だった。順繰りに替わっていった結果、ついに痴漢役が一巡したのだ。
 二巡目は、とうとう下着の中に手を差し込まれた。ショーツに手を滑り込ませ、ぐちゅぐちゅと音を立てながら膣内を弄る。あるいはブラジャーを押し上げ、露出した生の乳房を揉みしだく。
「んは、あっ……!!」
 愛梨の口から吐息が漏れる。その吐息は刻一刻と荒くなっていく。この行為もやはり入れ替わり立ち代わり繰り返され、次第に過激さを増していった。特に4組目からは指の狙う場所が大きく変わった。入念な膣と乳房への愛撫で隆起した乳首と陰核……そこをピンポイントで狙いはじめたのだ。
「んああああ!!」
 あまりの刺激に愛梨は叫び、慌てた壁役の一人に口を押さえられた。そこから愛梨は男の手に口を覆われたまま、汗だくの全身を細かに痙攣させはじめる。
「……ッ!!…………ッ!!!」
 時おり、封じられた口から声にならない声が漏れ、愛梨の顎が上を向く。誰の目にも明らかな絶頂だ。
 その状態を数十分続けたところで、ついに3巡目が訪れる。数度の絶頂を経てどろどろに蕩け、離された指との間に糸すら引く愛梨の肉体。それを前にして、もはや取るべき行為はひとつしかない。
 誰ともなく壁を狭め、愛梨の身体をドアのガラスに押し付ける。その状態で腰を引かせれば、完全な挿入体位が出来上がった。
「い、挿れるよ……!」
 上ずった声で一人目の男が告げる。愛梨は涙の滲む目でその男を見上げ……目を閉じた。その無言の了承を以って、男はついに挿入を果たす。
「…………ああッ!!!」
 愛梨は声を殺せなかった。煮立つような熱さの膣に挿入される快感は、潤とのセックスすらも上書きするほどに心地いい。膣の中が勝手に収縮し、うねるのが分かる。
「うあっ、ヤベエ……なんだこれ!? すっげぇ締めつけてくるし、火傷しそうなぐらい熱い! オナホの百倍気持ちいいわ!」
 挿入した男もまた顔を歪め、小声ながら切実に快感を訴える。
 ちょうどこの辺りから電車の揺れが激しくなった。しかしセックスの味を知った男には歯止めが利かず、揺れを利用して腰を打ち付ける。人垣で作られた空間にパンパンと音が鳴る。
「んっ、ああ……あ、ぁっ!!」
 愛梨は呻きながらドアのガラスに寄りかかった。右手と露出した乳房がガラスに押し付けられる形だ。
 窓の外には田舎特有の田園風景が広がっている。幸い人影は見当たらないが、もしも電車の走る土手の下に誰かがいれば、痴態を隠す術はない。その事実に気付いた瞬間、快感が愛梨の全身を貫いた。膣の痺れる快感が何百倍にも増幅され、脊髄と脳を走り抜ける。
「ああ、だめ……いくっ、イクうううっ!!」
 愛梨は仰け反りながら絶頂に至った。ブルルッ、ブルルッ、と幾度も痙攣するその白い肢は、性経験に乏しい男達にさえ絶頂の深さを直感させた。
「くううう、締まるっ! お、俺ももう出るっ……!!」
 挿入している男も膣の収縮に耐えきれず、歯を食いしばりながら射精に入る。睾丸がせり上がるほどの射精だ。
「はーっ、はーっ、はーっ……!!」
 ずるりとゴム付きの逸物が抜き出され、汗にまみれた男女の肉体が弛緩する。しかしまだ終わりではない。一人目がふらつきながら場所を開けたその後ろでは、ゴムを装着した2人目が準備を万端に整えているのだから。

 結局、電車が終点の駅につくまでの2時間あまり、愛梨は快感を味わい続けた。挿入が始まってからは約40分、5人の相手をし、その全てで絶頂へ追い込まれた。
 しかし、それで終わるはずがない。残る10人は挿入すら果たしていないし、精力旺盛な大学生が一度の射精で満足するはずもない。そして何より、愛梨自身も満足しきってはいない。
「な、なにいきなり脱いでんのよ!? 中居さんが挨拶しにくるかもしれないのに……!」
 旅館の部屋でいきなり下半身を露出した男達に、愛梨は非難の声を上げる。しかしその眼は、逞しくいきり勃った逸物だけを凝視していた。
「せっかくの旅行なんだ、自由に楽しもうよ愛梨ちゃん!」
 次の挿入順の男が畳の上に寝そべれば、愛梨はゴクリと喉を慣らしてそれを見下ろす。
「もし誰か来たら、アンタ達でなんとかしなさいよ!」
 愛梨は怒り顔のままショーツを下ろした。長い糸が引く様をたっぷりと視姦されながら、右足首から抜き取ったショーツを畳に落とし、寝そべった男に跨る。マイクロミニのスカートとその中身を特等席で見上げる男は、眼福とばかりに笑った。
「へへへへへ。人生わかんないもんだなあ。小学校の頃からずーっとバイキン扱いのこのオレが、こんな美少女に童貞奪ってもらえるなんてさあ!」
「……ほんと、意味わかんない。なんであたしが、アンタみたいなのと……!」
 挿入位置を定めて腰を下ろす間、愛梨の身体は小刻みに震えつづけていた。
「はあああ……っ!!!」
 挿入を果たした直後、愛梨からハッキリとした声が漏れる。快感で腰が抜けたらしく、肉付きのいい尻が男の肥満腹の上で潰れる。
「ううおおおお、ヤバいキツさ! トロットロの熱い襞が、吸い付いてくるっていうか、纏わりついてくるっていうか……マジでこれ、オナホと全然違うな!?」
 男も驚きと喜びの入り混じった叫びを上げていた。
「い、いちいちオナホールなんかと比べないで。失礼よ!」
 愛梨は歯を食いしばり、ゆっくりと腰を遣いはじめる。膣内を締めたまま、尻を上下に動かして相手の腰に打ち付ける。パンッ、パンッ、という音が和室に響く。
「あああああっ、ヤバイヤバイヤバイこれっ!!」
 受ける男は悲鳴を上げた。あまりの快感に腰が引けるが、畳が邪魔をして退がれない状態だ。
「すっげぇ杭打ちピストン……!」
「最強の肉食系女子とか言われてたけど、マジっぽいな」
「や、肉食系っつっても相手は選ぶだろ。俺が女でも、キンちゃん相手はなぁ……」
 自制心のなさが伺える体型。脂ぎった髪。黄色い歯。汚い肌。きつい体臭。濃い体毛。女の嫌う要素を詰め込んだような醜悪な男。同年代の中でも底辺に位置するだろうオスを、完璧なスタイルの美少女が逆レイプも同然に犯している。その異様すぎる光景に、メンバーは言葉を失っていた。
 罰ゲームで嫌々やらされている、というのが最も現実的なケースだ。しかしそうして脳内の整合性を取ろうとしても、愛梨の反応がそれを否定する。
「んっ、んっあ……ああっ、ああぁぁっ……!!」
 汗を散らしながら腰を振る愛梨の表情は、明らかに快感に浸っていた。眼はとろけ、唇は半開きだ。嫌悪感が先立つならば当然あるはずの緊張がそこにはない。
「う、そ、そろそろイクよ……!! 愛梨ちゃんも一緒にイッてくれる!?」
 下の男が呻くようにそう告げると、愛梨はさすがに嫌そうな顔をした。しかし歯止めの利かなくなった男が愛梨の手首を掴み、腰を突き上げるような動きを始めれば、瞬く間に睨む余裕すらなくなってしまう。
「あああ、ああ、あああ……イク、イクよ愛梨ちゃん!!」
「はぁっ、はぁっ……ああイッ、ぃ……ックううっ!!」
 男が叫ぶと同時に、愛梨も歯を甘く噛み締めたまま天を仰ぐ。薄目を開けたままビクビクと痙攣する様は、わかりやすい絶頂の反応だ。
 罰ゲーム同然の状況で絶頂する美少女。それを前にしては、他の男達も正気を保てない。
「よーし、次は俺!!」
「オッケー! 買ってきたゴム無くなるまで、どんどん行こう!」


                ※


「……ところでヨースケ氏。貴殿は澄矢高校の出身だったと記憶しているが、眞喜志 愛梨という女性を覚えておいでか?」
 スマホを片手にそう語るのは、アニメ研究会のメンバーの一人だ。出っ歯で痩せぎす。他メンバー同様に冴えない見た目で、女性に縁があるタイプではない。それは通話相手もまた同様で、ゲーマー仲間でも1、2を争うブサイクぶりだと自嘲しあう仲だ。
『眞喜志? あ……ああ、覚えてるよ。澄高から歴代初めて東州大行った天才だし、もともと変人で有名だったしな』
「ほう、天才で、有名人。それだけですかな?」
『な、何が言いたいんだ……?』
「いえ。あの娘は地域一の美少女と評判だったと小耳に挟みまして、ヨースケ氏も実はお好きだったのではないかと」
 その言葉に、ヨースケと呼ばれた男は喉を鳴らした。まさにその通り。彼もまた日々愛梨の姿を盗み見、その身体を好きにすることを夢想して自慰に耽っていた。それどころかつい昨夜も、高校の卒業アルバムに載っている愛梨の写真に妄想をぶつけたばかりだ。
『ま……まあ、黙ってれば顔はいいからな。それにあのスタイルだし、俺も人並みには興味が……』
「ははは、やはり! いやー、ヨースケ氏にその気があって良かったでござる。ではそんなヨースケ氏に、良い物をお贈りしますぞ!」
 悪友のその言葉に、ヨースケの胸が高鳴った。あの男は愛梨と同じ東州大に行ったはずだ。ということは、大学内で見かけた愛梨の隠し撮り写真でもくれるのではないか──そう期待したからだ。
 そこからの数秒は長く感じられた。スマートフォンから通知音が鳴り、画像が送られてくる。そしてその画像は、ヨースケの期待を遥かに上回るものだった。
『えっ……!!?』
 絶句する。しないわけがない。
 画像に映っているのは、生まれたままの姿の少女だ。這う格好のまま後ろから突かれ、目を閉じたまま大口を開けている瞬間の一枚。
『う、そ、だろ……!?』
 ヨースケは机の引き出しを開け、卒業アルバムを引っ張り出す。まさに昨日自慰の友としたアルバムだ。震える手でページをめくり、クラスの集合写真を開こうとして……途中で固まる。目的のものは途中で見つかった。クラス対抗の合唱祭。その中で3年C組のボスを気取り、最前列中央で目を閉じたまま大口を開く少女がいる。その姿はまさに、先ほどの画像と瓜二つだ。
 ヨースケは画像に目を戻す。
 丸裸の愛梨は全身に汗を掻き、股の間はオイルでも塗りたくったように艶めいていた。大きく開いた口の間には白い糸が引き、よく見れば口の横に縮れた毛が貼りついている。
 背景は和室だ。横一列に布団が敷かれ、その布団を踏みつけるようにして毛深い足がいくつも映り込んでいる。さらには敷布団や畳など一面に、口の結ばれたコンドームが散らばってもいた。
 輪姦か、乱交か。いずれにせよ、あの愛梨が複数の男とセックスをしている事は間違いない。
「よく映ってるでござろう? 愛梨たんが絶頂した瞬間の激写でござるよ。そもそもの顔の造りがいいから、アクメ顔も色っぽくて最高ですなぁ。ただ、声が大きいのは参ったでござる。部屋の外に聴こえるぐらいの声で」
『ま、マジか……っ!!』
 ヨースケは言葉が見つからない。密かに片想いしていた相手の痴態を見たこと。そしてその現場に、知り合いが立ち会ったらしいこと。そのどちらも情報量が大きすぎ、頭の処理が追い付かない。
「ヨースケ氏を驚かそうと思って秘密にしていたのでござる。実は拙者は今、例の眞喜志 愛梨と温泉旅行に来ておりましてな。ま、2人きりではなくアニ研一同でですが。ご存じとは思いますが、愛梨嬢は好奇心が旺盛でして。2泊3日のこの旅行で、女1人男15人の16Pを堪能しているのでござるよ。驚かしたお詫びに、これからハメ撮りの生中継をお送りしますぞ!」
 男はそう言ってスマートフォンを横に構え、開いた障子の前に立つ。
 そこには、やはり一糸纏わぬ愛梨の姿があった。そしてその横には、同じく裸の男が座っている。小太りで頬骨が出ており、目は細く、団子鼻で髪は薄い。間違っても美形とはいえない男だ。しかしその男は、文句なく整った顔立ちの愛梨と深い口づけを交わしていた。それだけではない。竹製の長椅子に横並びで腰かけたまま、互いの秘部を刺激し合ってもいる。
「んっ、ちゅっ……じゅるっ……んふっ…………はーっ、はーっ……アンタ、ほんと口臭すぎ……んっ、ちゅ、ちゅうっ…………」
 口が離れた瞬間、愛梨は顔を顰めて苦言を呈する。しかしその間も相手の怒張を扱く手は止まらず、再び口づけを求められても拒まない。
「あれはフクさん。我ら以上に女性と付き合える可能性が低い御仁です。あの無骨な見た目に加え、エナドリの過剰摂取で全身が香ばしいですからな。しかしなぜか愛梨嬢は、そのフクさんに唇を奪われている時が一番感じるようで。ならばと今朝はあえて2人きりにし、愛撫のみを入念に繰り返しておるのです。いわゆるスロー・セックスですな」
 男の言葉通り、愛梨は興奮状態にあるようだった。本来は雪の如く白い肌に、ところどころ赤みが差している。弄られる秘裂からは洪水のように愛液が垂れ、指が中でぐちゅりと音を立てれば、むちりとした太腿が内に閉じる。堪らないとでも言いたげに。
『ま、眞喜志……!!』
 ヨースケの声がする。ひどく不安定な声だ。彼は気持ちに整理がついていない。目の前の光景を見たいのか見たくないのかさえ分からないほどに。
「あーヤベ、そろそろ我慢の限界。もういいだろ、ハメよ」
 フクという男が愛梨に語り掛ける。愛梨の指に包まれた彼の分身は、刺激がなくとも上下に蠢き、開いた鈴口から先走りの汁を吐きつづけていた。
「……いいわよ」
 限界なのは愛梨も同じらしい。素直に椅子から立ち上がると、汗を滴らせながら傍らの棚に手をついた。そんな愛梨の後ろではフクが悪戦苦闘している。ゴムを着けるだけで暴発しかねない状態のようだ。
「いくぞ」
 短く確認が取られ、フクの腰が突き出される。ぐじゅりと水音が立つ。
「──あああああッ!!」
 愛梨の声は大きかった。奔放な彼女らしい、眞喜志 愛梨が挿入を受けた時の声として説得力のある声量。しかし彼女がセックスパートナーとして受け入れた相手は、過去の彼女からは想像もつかない。並以下の男には見向きもせず、最も女子人気の高い男すら一蹴していたのが彼女なのに。
「あっ! あっ! あっ! あっ! あっ!」
 愛梨はフクのピストンで感じているようだった。良くも悪くもその顔には嘘がない。閉じた眼も、開いた口も、そこから吐き出される吐息も、すべてが快感を訴えている。
 フクは濁った瞳でそんな愛梨を見下ろしていたが、やがて乳房を抱えるようにして上体を抱き寄せる。そして薄く目を開いた愛梨の口を再び奪った。
「んむっ! んっ、んっ!!」
 愛梨は不自由な呻きを漏らした。そして、変わった。パンパンと腰を打ちつけられると、愛梨の腰そのものも震え上がる。蜜に塗れた脚は内股に折れ、ガクガクと膝を揺らす。唇を奪われた途端、快感が深まったのは明らかだ。
「んっ、んむっ、あむっ、れぁあうっ……」
 フクと愛梨の舌が複雑に絡み合う。息が荒くなる。その果てに、2人は文字通り息を合わせて絶頂に至った。奥の奥まで突き込み・迎え入れた状態のまま、全身をぶるぶると震わせて。
「ふーっ、キスハメ最高だな。普通にハメるより脳みそが喜んでる感じだ。ま、このルックスの女だからだろうけどな」
 フクは満足げに口を拭いながら告げる。その言葉は愛梨には当てはまらない。ランクの低いオスとのセックスで感じてしまった愛梨には。しかし今の彼女には、自己嫌悪に陥る暇さえなかった。相手はフクだけではない。鼻息の荒い他のオスも列を為している。

「ほら、こっちもしゃぶってよ愛梨たん!」
「手の方も休まないでね~」
「その次、俺の咥えてよっ!」
 愛梨を取り囲む男達が口々に注文をつける。その中心で愛梨は、今にも吐きそうな顔をしていた。
「ぶはあっ! はあっ、はあっ……ああああ、臭いいっ……!!」
 カウパー液と恥垢に塗れた逸物を、鼻先に3本突きつけられている。その匂いは運動部のロッカーよりひどい。しかし愛梨は、悪臭の源を退けはしなかった。悪臭が鼻孔を満たし、吐き気すら催すような状況で、なぜか発情している。それがあまりにも不可解で、意地でも原因を究明しようとしているのだ。
 知的好奇心の強い愛梨らしい行動だと言える。しかしその行動原理がどうであれ、醜悪な男達の物を進んでしゃぶり、口内や顔に射精されている惨めさは変わりない。
「あの通り、愛梨嬢は我らとのセックスにすっかりハマっているのでござるよ。ああしてしゃぶっている間も、下の口は蜜を吐きまくりでござろうなぁ。その状態から挿入となれば、それはもう体液という体液が……と、話しているうちに辛抱堪らなくなってきました。拙者もあの輪に加わらせていただきましょう。ではヨースケ氏、今日はこれで。また後で動画を送りますぞ!」
 スマートフォンで撮影を続けていた男が、そう言って通話を切る。最後の最後、電話向こうにヨースケの息切れを聴きながら。


                ※


 学生時代の愛梨はオタク系の生徒に恐れられており、接点を持ちえなかった。しかし一度絡んでみれば、好奇心旺盛な者同士相性は悪くない。2泊3日の温泉旅行の後も、愛梨は頻繁に部室に顔を出した。時にはアニメ談義を花を咲かせ、時にはプロレスの話で盛り上がる。
 ある日には、その流れで“プロレスごっこ”に興じることもあった。メンバーの一人が下心からプロレス勝負を持ちかけたところ、愛梨が興味を示した形だ。
「どうしたの!? 返してみなさい!」
「ほらほら、根性見せなさいよ!」
 愛梨は男女の距離感に無頓着だ。男子とのプロレス勝負に熱中するあまり、フロントネックロックで乳房を押し付けても、卍固めで太腿を相手の顔に密着させても、一向に気にする様子がない。
 一方、技を受ける男達は揃って鼻の下を伸ばしていた。道を歩けば誰もが振り返るほどの美少女が、自ら密着してくるのだ。女に縁のない男にとって至福以外の何物でもない。
 プロレス勝負はギャラリーにとっても眼福だった。特にタンクトップの下で揺れ弾む胸は、全員の視線を釘付けにして離さない。
「愛梨ちゃんって胸おっきいよねー。何カップなの?」
 一人が問うと、愛梨は呆気にとられたような顔をする。
「知らない。調べたことないから」
「え。調べたことないって……気にならないの?」
「ならないわ。カップ数が気になるのなんて、胸に自信がない子だけでしょ。こんなに大きいんだから、EカップでもFカップでも、どっちでもいいじゃない」
「な、なるほど……!」
 堂々と言いきる愛梨に、一同は感服する。その自信に満ちた姿はもはや神々しいほどだ。そんな愛梨への興味と憧れが、日陰者達の歪んだ欲求を膨らませる。

「ふーっ、楽しかった!」
 思うさまプロレスの名場面を再現した愛梨は、タンクトップの胸元を扇ぎながら笑みをこぼす。無防備なその姿は、男達のタガを外すのに十分な効果があった。
「あ、愛梨ちゃん。その、今日もシない?」
 股間を膨らませた男達。そんな彼らの要求は愛梨にも理解できた。すでに肉体関係のある相手ばかり、セックスもさして抵抗はない。
「別にいいわよ。でも汗掻いちゃったから、シャワー浴びてから……」
 愛梨は軽い調子で答えた。普段であれば当然のように通る条件だ。しかし、この日は違った。
「や。今日は、そのままでしたいんだ!」
 男達は予想外の言葉を口にする。下卑たその視線は、汗まみれで湯気も立つような愛梨の肌に注がれている。愛梨はその視線にぞくりとした。
「は、はぁっ? 本気で言ってんの!? 気持ち悪い!!」
 思わず大声で怒鳴りつける。男達はたじろぎながら背筋を伸ばす。普段であればそこで男達が折れ、愛梨へのご機嫌取りが始まるところだ。だが、この日ばかりは男達も譲らない。
「そう言わないでさぁ! お願い、愛梨ちゃん!」
「俺からもお願い! 汗だくセックスさせて!」
 真剣な眼で愛梨を囲み、何度も哀願する男達。その必死さがますます愛梨の嫌悪感を煽る。

 (何なのこいつら、ほんと気持ち悪い! これだけ汗だくなのよ? こんな状態でしたいだなんて、どういう神経してんの!?)

 信じがたい。受け入れがたい。普段は意識もしない女としての本能がNOを訴えている。
 しかし、愛梨はふと思った。これだけ嫌悪感の強い行為を、もし受け入れればどうなるのか、と。痴漢行為では大いに昂った。あれも車内でのぞわりとした感覚の結果だ。
 一度その疑念を抱いてしまえば、止まらない。それを確かめずにいられる愛梨ではない。
「…………あーもう、わかったわよ! よく考えたら、アンタ達とのセックスなんて元々気持ち悪いしね」
 愛梨は恥辱を受け入れた。自分の性分にほとほと呆れ、大きく溜め息をつきながら。


 愛梨は雑に服を脱ぎ捨て、ソファにどかりと腰を下ろす。
「さ、好きにしたら? アンタ達が何をしたいのか分からないから、やり方は任せるわ」
 挑発的に言い放ち、横を向く。怯えを悟らせないためだ。全身を球の汗が伝う状態でのセックスは、さすがの愛梨も涼しい顔ではいられない。
「すげぇ、全身汗でビショビショだ……」
「ああ。どこも臭くて美味そうだぜ!」
「おーし、じゃ順番にクジ引けー!」
「えっと……お! 俺、右のチチだ!」
「へへ。オレは左乳!」
「俺はフトモモか。ひひひ、当たり引いたぜ!!」
 男達は鼻息荒く愛梨に群がった。首筋、乳房、腋の下、太腿、足の指……クジで決めた担当部位を熱心に舐めはじめる。
「……ッ、…………~ッ!!」
 愛梨は唇を噛んで耐えた。叫びたいところだが、相手の顔が近い状態で悲鳴を上げるのは、負けたようで悔しい。
「へへへ、腋しょっぺぇ!」
「ああ。しかもすごい匂いだ!」
「なー。臭いってのとも違って……フェロモン臭? 嗅いでたらすげームラムラする」
 男達は舌を這わせつつ興奮を口にする。それを聞かされる愛梨は顔を歪めた。

 (気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い────!!)

 過去経験がないほどのおぞましさ。全身をナメクジに這い廻られているようだ。しかも臭い。身が強張る。鳥肌が立つ。女としての本能が発狂寸前の悲鳴を上げている。
 しかし。それとはまた別に、愛梨は昂ぶりはじめていた。
 最も顕著なのは乳頭だ。そこを責める舌遣いは拙い。欲望のままにベロベロと舐め回しているだけだ。にもかかわらず、乳輪が盛り上がり、乳首が硬さを増していく。
 腋舐めも無視できない。左腋を晒す形で責められているが、じっとりと汗の滲むそこを舐め上げられると、もれなく反応してしまう。腕に力が入り、腋が窪む。天を仰いで叫びたいほどに。
 首筋も、足指も、太腿も、動かず受け続けるのは厳しい。しかも感度は次第に上がっていく。ざらついた舌で唾液を塗りこめられるたび、薄皮を一枚ずつ剥がされていくようだ。

(なにこれ……? どうなってるの、あたしの身体!? こんなキモオタに好き放題舐られてるのに、嫌で堪らないのに、おかしいぐらい感じてる……!!)

 愛梨は混乱する。心底嫌なのに感じるのは道理に合わない。肉体に裏切られている気分だ。
 そんな愛梨に、また一人の影が落ちる。
「だいぶ気分出てきたでしょ。そろそろオマンコも舐めさせてもらうね」
 一人はそう告げると、太腿を舐める2人の間に割って入り、割れ目に口をつけた。うっすらと花開いた割れ目が舌でこじ開けられる。
「っっっ!!!」
 かろうじて声は殺せた。しかし愛梨の表情は凍りつく。麻友に仕込んで以来、もう幾度となく経験しているクンニリングス。しかし、この感覚は未知だった。ナメクジに膣の中へ潜り込まれる感覚は。
 他のメンバー同様、割れ目を舐める男も熱心だ。舌全体を使って割れ目を延々と舐め上げたかと思えば、頬まで密着させて深く舌を送り込む。そこからは舌先で膣襞を舐め回し、ひたすら舐め回し……。
「……ッ!!」
 2分後、愛梨には一度目の限界が訪れた。膣への舐りに対して無反応を通せず、膝を暴れさせたのだ。その動きは全身に影響し、舐り役の全員に悟られた。
「ヒヒヒ、なに今の? もしかして感じちゃった? 俺ってクンニ上手い!?」
 割れ目から覗く男の顔は、まさに鬼の首でも取ったようだ。
「……まさか。まるっきり下手糞よ」
「またまたー。ピンク色の脚がピクピクしてるんだけど」
「嘘じゃないわ。あたしのレズ友達のクンニを100点としたら、アンタのなんて30点がいいところよ!」
「ふーん。なのに感じるんだ?」
「下手なのに感じるわけないでしょ、気持ち悪いだけ! いいからさっさと終わらせてよ!!」
 愛梨は憮然とした表情で目を閉じる。
 嘘はない。麻友のテクニックに比べれば児戯に等しい。それで感じてしまうというのは道理に合わない。しかし、誤魔化すのにも限界があった。
「んっ、んんっ……ん、あっ……!!」
 耐えようとしても身体が動く。声が漏れる。明らかに感じているその反応を、周り中に見られてしまう。

 (見ないでよ────!)

 注目を浴びるのが好きなはずだった。しかし今は視線がつらい。視線と興味が愛梨を狂わせる。

 そこから愛梨は、徹底的に舐られた。
 舐め役に協調性はない。各々が担当箇所を、異様な執念でもって舐り回しているだけだ。しかしながら、その責めにはシナプスが生まれていた。
 例えば、腋と乳頭。左右から両腋を舐り回されれば、その快感は乳腺に沿う形で乳頭にまで響く。その状態で乳頭を噛まれでもすれば、ビリビリと強い痺れが起きる。逆に乳輪周りを舐られている間は横が無防備になるため、腋を舐られればむず痒さでのたうち回りたくなってしまう。
 膣と足指のシナプスも凶悪だ。割れ目を舐められている内はまだいい。だが舌を送り込まれる段階になれば耐えきれず、足指が動いてしまう。そうしなければ快感を逃がせないからだ。しかし足指担当がいる以上、その動きは許されない。暴れる足を手で掴まれ、口に含んで舐めしゃぶられる。これが堪らなかった。逃げ場を失った快感は大元へと還り、膣襞を悩ましくうねらせる。そんな場所を舐め回されれば、いよいよ足指が開き……そこからは無限ループだ。
「ぷふっ。すげぇ、乳首ピンピンになってきた」
「腋も敏感になってるよー。見てこの窪みっぷり。鼻が丸ごと入りそう」
「足の指も暴れまくりだぜ。エビの踊り食いしてるみてぇ!」
「ほんとだ、必死に逃げてんじゃん。どっかがよっぽどキツいんだろうなー」
「な。どこなんだろ?」
「普通に考えてマンコでしょ。だってホラ……」
 そんなやりとりの後、男達の視線が一ヶ所に集まる。愛梨の股に顔を埋めたまま、一心不乱に貪っている仲間の方だ。
 愛梨もそこに意識を向けた。ぴちゃぴちゃと音がしている。舐められるたびに秘裂がわななき、蜜を吐くせいだ。変にざらついた舌でヤスリ掛けのように舐め続けられ、すっかり神経が過敏になってしまった。顔を密着させたまま乱暴に舐め上げるせいで、団子鼻が頻繁にクリトリスを弾くが、これもまた理外の快感だ。
 秘裂のわななきが限界に達すれば、舌は中に入ってくる。生温かいナメクジが膣の中を這い回り、直に蜜を染み出させる。そうして溢れるほどになったところで、吸い上げるのだ。じゅるるるっ、ずぞぞぞっ、と凄まじい音を立てて。
「あ、あ、あ、あ……はっ! うあ、ああああぁっ……!!」
 舌で舐められるたび、吸われるたび、声を漏らしてしまう。同時に乳首や腋、足指を責められているのも厄介だ。意識を散らされてますます耐えづらくなる。全身がガクガクと痙攣する。
「ふーっ、限界。そろそろ挿れるよ」
 ひたすらに秘部を舐めていた男が、口を離した。濡れ光る口元を緩めたまま、慌ただしい手つきでゴムを着け、愛梨の太腿を掴む。
「待って……!」
 愛梨は相手の腹を押した。いま挿入されてはまずいという直感からだ。しかし興奮したオスは止まらない。愛梨の制止など意に介さず、深々と腰を突き入れる。
「んゅぅっ!?」
 妙な声が漏れた。同じく、挿入の感触も妙だ。摩擦感がない。水袋越しに異物を突っ込まれているようだ。あまりにも愛液の量が多いせいか。とはいえ、それも最初だけの話。挿入されてから数秒も立てば、愛梨の膣は男性器を迎える形に収縮する。愛液を肛門の方に押し出しながら、粘膜が触れ合うまで収縮していく。
「あはっ、締まってきた締まってきた! 中グチョグチョだし、ソファもびしょびしょだし、興奮してんだねー愛梨ちゃん! そういうの分かると、コッチも興奮しちゃうよねえ!!」
 男は興奮して叫び、激しく腰を打ち付ける。ソファが軋み、パンパンと肉のぶつかる音がする。
「はぁっ、あっ、あっ、ああ……!!」
 身体の自由を奪われたまま、理想とは程遠い男と交わらされる。状況的にはレイプに近い。にもかかわらず愛梨は、全身で快感を示してしまう。
「すげー、ガチで感じてる……」
「ヤバイよな、このルックスの娘が豚系キモオタに犯されるとか。犯罪臭半端ねえ」
 外野からの客観評も、愛梨のざわつきを後押しする。他人の視線を気にする性質が、ここへ来て悪影響を与えている。
「ハァッ、ハァッ、ハァッ、ハァッ、ハァッ……!!」
 ついに喘ぐ余裕すらなくなった。愛梨は目を見開き、早い呼吸を繰り返す。マラソンでさえ息の上がらない恵体が限界を迎えている。
 そんな愛梨の顔を覗き込み、男達は生唾を呑み込んだ。うち一人が愛梨の顔を掴み、唇を奪ったのは、無意識に近い行動だろう。
「うむぅっ!?」
 愛梨は目をさらに見開いて非難を示す。しかし自由は利かない。最悪なタイミングで気道を塞がれても、それを跳ねのける術がない。
「おほっ! もともと締まりいいけど、キスしてるともっと締まるねえ! キスハメで感じてんの? なんだかんだ言って、俺らの事彼氏だと思ってくれてんのかなあ。ま、こんだけヤッてんだもんねえ、もう彼氏みたいなもんだよねえ、愛梨ちゃあん!!」
 挿入している男は愉快そうに叫ぶ。余裕のない中、しかし愛梨の耳はその言葉をしっかりと拾ってしまう。冗談ではないと叫びたいが、口は封じられている。少しでも舌を動かせば、その舌を相手の舌に絡めとられてしまう。生臭い唾液を口内に注がれながら。

 (ああ臭い、気持ち悪い……!! 頭がくらくらする……最悪な気分だから? そうよね、そうに決まってる……)

 思わず白目を剥きそうな状態で、愛梨は思考する。
 最悪な状況だ。このような状況を受け入れるつもりはない。こんなものを肯定するのは女として下の下だ。優れた自分が間違ってもしていい行為ではない。頭ではそう思うが、口内を貪られると膣が締まる。愛液が溢れる。
「あああ凄い、締まる、うねるっ!! イキそうなんだね愛梨ちゃん? いいよ、俺ももう限界だから! 一緒にイこ、一緒にイこっ!!!」
 挿入役は歓喜し、ラストスパートに入った。抱え込んだ愛梨の足を押し込み、腹を乗せるようにして深く突き込む。パンパンという肉のぶつかる軽快な音が、どちゅっ、どちゅっ、という重みのある音に変わる。肥満肉に埋もれた男のペニスはけして大きくない。太さはそれなりだが、長さはない。それでもその先端は、泣き喚くような愛梨の膣奥をピストンの度に叩き潰す。愛梨とて人間だ。その状況に長く耐えられるはずはない。

「んうむうあああああああーーーーーッ!!!」

 最後の瞬間。愛梨は頭を振って口づけを振り切り、肺からの嬌声を響かせた。
 声を限りに叫び、叫び…………愛梨は弛緩する。意識があるのかは本人にさえ分からない。少なくとも目の焦点は合っていない。雫を滴らせながらコンドームが抜き出されれば、すらりと長い脚が内に閉じる。その異様なまでの痙攣ぶりが、愛梨の絶頂の深さを物語っていた。
「相変わらずイキ声でけーな……今ので誰か来るかもしれんから、一応ドアの鍵チェックして」
「いつもデカいけど、今のは最高記録じゃない? 鼓膜バリバリってした」
「舐められて興奮したんかな。割と早い段階で乳首ピンピンだったし」
「それもあるだろうけど、トドメはキスじゃない?」
 笑みを浮かべながらざわつく男達。その緩んだ顔とは裏腹に、彼らのオスの象徴は固くズボンを押し上げている。

 (こんな状態で、アレを全部相手させられるの? 今日、歩いて帰れるかしら……)
 
 愛梨は近い未来に寒気を覚えた。だが、それとは別にゾクゾクとする感覚もある。絶叫マシンでベルトを締める瞬間の、スリルへの期待──それが愛梨を包んでいた。


                ※


 認めたくはない。しかし愛梨は、好みとかけ離れた人間との口づけで特に興奮するようだった。
「んんッ、むっ! ふぅんッ……ん、むっ……!!」
 不精髭の部員と舌を絡めながら、性器を指で弄られる。愛梨はこれに3分と耐えられない。身を捩りながら涎を垂らし、ついには涙さえ流してしまう。屈辱の涙か、あるいは喜悦の涙か。

 (脳がとろけそう……。なんで、こんな奴とのキスで……!!)

 恋愛感情がないことはハッキリしている。今キスしている相手と、手を繋いでデートをしたいとは微塵も思わない。

「ホント、どうなってんだろうなー。普通に手マンしても全然濡れないのに、キスと絡めたとたん洪水とか」
「な。こないだの、論文やってる最中の電マで涼しい顔してたのはビビったわ」
「あーアレ。結局2時間ぐらい耐えきったんだっけ?」
「多分シチュだろうな。この子の好きシチュにハマらない限り、スンッ……って感じで無反応なんだと思うわ」

 部員達は愛梨を眺めながら分析する。そしてその分析は正しい。温泉旅行の次に企画された、とあるコスプレイベントでの体験は、愛梨にとって忘れられないものとなった。
 ディアンドルというドイツの伝統衣装を模したアニメコスチュームで着飾り、会場の客にビールを振舞う。ネタ元が人気の高い作品である上、コスプレイヤー自身もアイドル級の美少女だ。当然、客は大いに沸いた。
「うおおおっ、可愛いーーっ!!」
「すっげぇスタイル! 再現度完璧じゃん!!」
「やべえよ、お前見ろって! マジでエースブライトちゃんの三次元化!」
「え、プロの女優さん、とかじゃないっすよね……?」
 異様なことに、愛梨が注目されはじめてから数分間、誰もカメラを向けない時間があった。洗練されすぎた美貌のために素人とは思えず、不用意に撮るとマネージャーやSPが飛んでくるのでは、と誰もが思ったからだ。
 その心配がないと分かってからは、愛梨は場の中心となった。鼻の穴を膨らませたオタク系の男達から、写真を撮らせてほしいという声が殺到する。
 それは本来、愛梨の望むところだ。自分の美貌を湛えられるのも、可愛さに注目されるのも。しかし、この日は懸念点があった。愛梨はこの日、ブラジャーを着けていない。さらに純白のシルクショーツの中には、同じく白い小型バイブが唸りを上げている。バイブのスイッチは、客としてテーブルに座るアニメ研究会メンバーの手の内だ。

 (今更だけど、なんて格好よ……! ほんとに全年齢向けなの、これ!?)

 いつも通りに背筋を伸ばしたまま、愛梨は胸中で毒づいた。コスチュームは扇情的だ。元キャラクターに倣い、胸元を大胆に露出し、スカート丈は腿半ばより少し上まで詰めている。上と下に爆弾を抱える愛梨にしてみれば、何かの拍子に見られはしないかと気が気ではない。
「すいません、こっちも一枚! 胸元強調する感じでお願いしまーす!」
「……ええ、いいわよ!」
 愛梨はビールジョッキを掲げたまま腰に手を当て、胸元を突き出す。その動作だけでも、乳房が露出しないかと鼓動が早まる。だが本当に厄介なのは、ローアングラーと呼ばれる、地上スレスレからスカート内部の激写を狙う集団だ。
「!」
 ローアングラーの気配を察知するたび、愛梨は鋭い視線を浴びせた。射抜くようなその眼光は相手を怯ませ、立ち去らせる。しかしそれも一時凌ぎでしかない。ふと気がつけば、また別の角度から別の人間がカメラを向けてくる。
 とはいえ、被害者は他ならぬ眞喜志 愛梨だ。泣き寝入りするタイプではない。祭りの最中だろうとなんだろうと、度し難いことがあればハッキリと主張する。ローアングラーの一人に公然で制裁を加え、「今後一切スカート内の撮影は許さない」と定めることなど造作もない。
 しかし、愛梨はそれをしなかった。スリルが興奮に繋がる事を直感したからだ。
「おねーちゃん、こっちにもビール!」
「ええ、今いくわ!」
 テーブル客に呼ばれ、ジョッキを掴んだ瞬間、バイブの振動が強まった。
「!!」
 ぞくっ、と快感が脊髄を駆け上る。最初のサインは冷ややかだが、その後は全身が熱くなる。俯く視界に、汗の浮く谷間が見える。
「おぅーい、早くしてくれい!」
 客から催促を受け、愛梨は大きく息を吐く。人前で肩を落とした姿など見せられない。コンディションに問題があろうと、顎は水平をキープする。
「……さっすが」 
 スイッチを入れた一人がほくそ笑む。給仕役の誰より堂々と歩む愛梨に、よもやバイブが仕込まれていようとは誰も思うまい。彼はそう思いながら、再びバイブの強度を上げる。
「っ!!!」
 愛梨の目が見開かれた。がくんと身体が揺れたのは、膝から崩れそうになったからか。しかし愛梨は機転が利く。足元を恨めしそうに一瞥することで小石に躓いたように演出し、その後は確かな足取りでテーブルまで辿り着いた。
 ただ、客は何かを嗅ぎとったのだろうか。愛梨がビールを配っている最中、その尻を大きな手で揉みしだく。
「きゃっ!?」
 愛梨は悲鳴を上げた。下半身が敏感になっているため、臀部への刺激でさえ洒落にならない。
「おーっと、悪い悪い!!」
 口調とは裏腹に悪びれない客に、愛梨は鋭い視線を向けたが、すぐに笑顔を取り繕う。
「Unfug ist verboten.(イタズラは駄目ですよ?)」
 発されたのは、流暢なドイツ語。扇情的なドイツ系キャラクターを自分が演じる以上、必ず使う機会はあると思い、前もって暗記しておいた言葉だ。コスプレ元のキャラクターが原作では言っていない、しかし如何にも言いそうなその物真似で、場には拍手喝采が湧き起こる。
 蛮行に及んだ相手がばつの悪い顔になり、自身に惜しみない拍手が飛ぶ中、愛梨は確かな快感を感じていた。そしてそれは肉体の快感とも結びつく。

 (…………垂れてきた…………)

 完璧な笑顔の裏で、愛梨の膝は笑っていた。英雄視されつつある愛梨には無用の心配だろうが、もしも今ローアングラーに狙われていたならば、とろりと蜜の伝う太腿がはっきりと映り込んだだろう。


 イベントのピークが過ぎた頃、愛梨はアニメ研究会の面々に呼び出された。休憩スペースがある建物裏の非常階段。時間的にほとんど人の来ない場所だ。
「さ、見せてよ愛梨たん!」
 メンバーから煽られ、愛梨は頬を紅潮させたまま、むすりとした表情でスカートをたくし上げる。
「おおっ……!」
「すげー、膝らへんまでドロドロじゃん!」
「糸引いてるぜ。マン汁っつーか本気汁か、これ?」
 歓声が上がるのも無理はない。純白のショーツは今や透き通り、桃色の陰唇とバイブの底をくっきりと浮かび上がらせている。魅惑的な太腿の内はぬらぬらと濡れひかり、愛液は股の間で糸を引いている。このイベントの間、愛梨がどれだけ興奮していたのかを如実に表す光景だ。
 そうなるように仕向けた男達は、皆が満足げな顔をしていた。
「帰ったら、またタップリ可愛がってあげるからね」
 その定番の台詞を口にした時、オタク男子達は捕食者の気分だったことだろう。彼らは浮かれるあまり忘れていた。『最強の肉食系女子』という愛梨の二つ名を。
「……“帰ったら”?」
 男の言葉を反復し、愛梨はギロリと一同を睨み上げる。
「こんな状態で、帰るまで我慢しろっていうの? 冗談じゃないわ、ここでするわよ!」
「え、ええ、ここで!?」
「そんな、誰かに見られちゃうよ!」
「馬鹿ね、見えないようにアンタ達が壁を作ればいいでしょ。頭使いなさいよ!」
 男達は渋るが、女王には逆らえない。非常階段の上で押し倒されながら、彼らは自分達が餌の側であることを思い出した。
「んふふふふ、くっさぁ……♡」
 引きずり出した男根を嗅ぎ、愛梨は舌舐りをする。意識が飛びかねないほどの快感を確信しながら。


                ※


 愛梨にとって、『オタサーの女王』としての生活はそれなりに刺激的だった。だが、どれほど強烈なスパイスの香りも次第に抜けていくように、刺激もだんだんと薄れていく。
「やべーよな、あの格好。誘ってんのかな」
「性格的にそうだろうな。つか実際、勃起が止まらん」
 オタク男子達は、今日も愛梨を横目に囁き合う。胸元や腋が露出するタンクトップに、ふとした瞬間には履いていないのではないかと思えるほどの超ミニのローライズ。女に免疫がない人間にとっては目の毒な格好だ。 
「……エッチ? 昨夜あんなにしたのに、また? まあいいわ。好きにしたら」
 セックスに誘えば、まず拒否はされない。
「おーし、今日こそイカせてやる!!」
「ひひひひっ、足が立たなくなるまで感じさせちゃうよー?」
 男達は美少女を好きにできる至福に酔いしれながら、嬉々として愛梨を抱く。その熱量とは打って変わって、愛梨は冷めきっていた。

 (こいつらとするのも、マンネリになってきたわね……)

 いつもの面子との、いつもの行為。日常となったセックスでは燃えない。燃えなければ濡れもせず、絶頂など夢のまた夢だ。
「愛梨ちゃん、今日はまた一段といい匂いだね。シャンプー変えた?」
「んー……」
 抱きすくめるような背面座位で突かれながらも、愛梨の目は手元のスマートフォンだけに注がれている。
 探し求めるのは、より刺激的なセックス。『ハード』『ハメ潮』『絶叫』……様々なワードを絡め、世の女性の告白を読み漁っていく。そんな中、ふと愛梨の指が止まった。開かれているのは、あるアブノーマルな秘密倶楽部のページだ。

 (……ふーん、面白そうじゃない)

 久方ぶりに胸が高鳴り、愛梨はニヤリとほくそ笑んだ。


 

眞喜志 愛梨、その探求の果て Episode.2

※Episode.2はヤリサー代表のヤリチン相手の、初の男性経験エピソードです。



Episode.2 肉食系


 東州大学の恵まれた環境は、愛梨の知的好奇心を存分に満たした。中でも彼女の興味を惹いたのはサークル活動だった。数こそ多くないが、歴史ある名門校だけに、どれもこれもが『濃い』。愛梨はその中で気に入ったものを見つけると、次々に体験会を申し込んだ。
 その際立った積極性は、すぐにサークル側にも認知される。日に4つ、入学からわずか2週間で40ものサークルに顔を出し、引っ掻き回すだけ引っ掻き回しては去っていく嵐のような美少女がいる、と。
 興味深くはあるが、飛び回る爆弾を警戒しないわけにはいかない。3週目に入る頃には、殆どのサークルがやんわりと愛梨の体験を断りはじめていた。そんな中、積極的に愛梨に声を掛けたサークルが1つだけある。東州大学最古にして最大のイベントサークル、『アップライズ』だ。
 比較的粛々と活動しているサークルが大多数である中、このサークルだけは趣が違う。主要メンバーの実家の太さやコネクションをフルに活用し、学内外から数十人あるいは数百人の女性を集めて、都内の高級クラブでのバカ騒ぎを毎週のように行っている。その実態は、いわゆる『ヤリサー』だ。派手な遊びは女性を興奮させ、警戒心を薄くするためのカモフラージュであり、真の目的は酔い潰した女性を抱くことにある。
「面白そうね。行くわ!!」
 サクラ役の女から誘われた愛梨は、2つ返事でパーティーへの参加を表明した。アップライズのやり口を知った上で、あえてだ。

『アップライズの意味は解ってンよな!? 今はめんどくせーこと全部忘れて、アゲてこーぜ!!』

 代表の潤という男がそう挨拶を締めくくり、同時に爆音が鳴りはじめる。鼓膜を震えさせ、思考を鈍らせるような音。曲に統一性はなく、誰もが知っている人気曲をひたすらに垂れ流しているようだ。

 (この騒がしさとお酒で判断力を奪うつもり? 長く続いてるっていうからどんなものかと期待したけど、思ったより安い手口ね)

 落胆しつつ、ぐいっとカクテルを飲み干す愛梨。そんな彼女にフロアの男達はざわついていた。
 今年の一年に、地方一と噂される美少女がいることは聞いていた。だが実物は想像の上をいった。
 すっぴんに近い、せいぜいリップを塗って薄くアイメイクをした程度でありながら、明らかに芸能人級のルックス。出るところは出たスレンダーなスタイルは『完璧』という言葉が脳裏に浮かぶ。ファッションも地方出身とは思えないほど垢抜け、かつ派手めで、どちらかといえば上京したての女子に“憧れられる”側に見える。
 それほどのルックスを有しながらも、愛梨にはそれを鼻に掛ける素振りは一切ない。招かれていざ酒の席につけば、その言動はガキ大将のように奔放だ。
「ぷはーっ!! あははははっ、また飲まされちゃったわ! さ、次はアンタの番ね? カッコいいところ見せて頂戴!!」
 よく喋り、よく飲み、よく笑う。伝統ある百戦錬磨の『飲みサー』メンバーが1年生女子のトークに呑まれるなど、未だかつて無かったことだ。
 しかし、その一方でサークルの幹部陣はほくそ笑んでいた。彼らにとって大事なのは中身ではなく『ガワ』だ。頭や性格にどれほど難があろうと、美少女であればいい。特に芸能人級のルックスとなれば問答無用で合格だ。ノリのいい性格というのも好都合。ホストクラブさながらの美辞麗句とコールで矢継ぎ早に呑ませ、酔い潰して持ち帰る。これまで何十人もの田舎娘をそうして手籠めにしてきたように。
「潤サン、一発ヤッたら絶対俺らにも回してくださいよ。このレベルのコ独占はナシっすよ」
「心配すんな、ここ最近入れ食いで食傷気味なんだよ。味見程度に数発ハメたら飽きるって。ま、ゆーて俺のデカチンとテクだからな? 雑にハメ倒すだけでも、俺以外じゃイケねぇマンコになっちまうかもな!」
 潤はビールを煽りながらほくそ笑む。
「ん……なんか酔っちゃったかも。こんな楽しいお酒、初めてだから」
 とろんとした瞳で呟く愛梨の肩を、潤はやさしく抱き留めた。得物に巻き付く蛇の気分で。しかし、彼は知らない。今まさに絡めとろうとしている相手が、蛇の天敵たるマングースであろうとは。


                ※


 生まれて初めて訪れたラブホテルに、愛梨は心を躍らせる。
 巨大な丸いベッド。部屋の中にある自販機。ガラス張りの向こうに見える豪華なバスタブ。どれもこれも普段の生活では目にしないものばかりだ。
 飛びついて四方を心ゆくまで調べたいところだが、潤に肩を借りるほど酔った演技をしている以上、そうもいかない。潤がシャワーを浴びている間、その目を盗んで少し物色するのと、自分がシャワーを浴びる際に浴室のアメニティを観察するのが関の山だ。

 (良い香りだけど、少しきついわね。ラブホテルに行ったことがすぐ分かりそうだわ。浮気ってこういう所からバレるのかしら?)

 シャンプーを手に取るだけでも妄想が止まらない。これから初めて男と交わるというのに、備品への興味がそれを上回っている。つくづく業の深い性だ。
 一方で男の方は、極上の得物に舌なめずりが止まらない。

 (しっかし、良いカラダしてやがるぜ。クラブで引っ掛ける女は大抵脱ぐとガッカリするもんだが、ありゃ脱いでもすげぇ)

 浴室のガラス越しでもそんな感想を抱いた。しかし風呂から上がった愛梨がバスローブ姿で近づき、ローブをはだけた瞬間、潤は絶句する。間近で直視する愛梨の裸は、これまで彼が拝んできた数百の女性の記憶を上書きした。
「どう? あたしのカラダ、すごいでしょ」
「お、おう、ハンパねぇわ! ホント都会に出てきて良かったぜお前。こんなヤバい身体、田舎で持て余してたんじゃ勿体ねぇよ」
 小悪魔めいた愛梨を前に、潤は気合を入れ直す。『ヤリサー』の頭とはつまり、大学内の肉食系男子の頂点だ。新入生に気圧されるわけにはいかない。
「んっ!」
 愛梨が小さく声を漏らす。潤に肩を抱き寄せられ、唇を奪われたからだ。潤の舌は愛梨の口内に入り込み、相手の舌を引きずり出して絡みつく。
「んっ、ふっ……ん!」
 愛梨も負けじと応戦するが、不意に上顎を舐められたことで劣勢になってしまう。潤はその隙を逃さず、下の急所も責めはじめた。二本指での指責め。麻友のそれよりも遠慮がなく、力の強弱のつけ方が洗練されてもいる。

 (さすがに慣れてるわね……!)

 ものの1分もしないうちに、くちくちと水音がしはじめた。強い快感に腰を捩ろうとする愛梨だが、太腿を押さえて制される。
「っぷはっ!! だ、ダメ、ちょっと待って!!」
「ダーメ。ここからがいいトコなんだから!」
 潤の指が激しさを増し、水音がぐちぐちと粘り気を増す。
「あ、あ、あ、あっ!!」
「はは。その切羽詰まった声、そろそろイキそうなんだろ? 手マンで潮噴かされんのは初めてか? ほらほらほら、全部出しちゃえ!!」
「ああ゛っ、あああ゛っ! ああ゛っ、あ゛っ……だ、だめっ……あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っっ!!!」
 下半身を硬直させ、脚を暴れさせ……その果てに愛梨は潮を噴く。
「ははは、出た出た。すンげー量!」
 潤が潮噴きを嘲笑う中、愛梨は、シーツに飛び散る雫を見つめていた。麻友の時は潮噴きに“導かれた”感覚があったが、今度は潮を“噴かされた”。同じ行為でもまるで違った感覚だ。
「はあ……はあ……はあ……」
 呆然とへたり込む愛梨の前で、潤はゆっくりと立ち上がる。テントを張った部分が愛梨の鼻先へ来るように。
「バキバキに勃ってるだろ。お前とヤんのが楽しみでこんなになっちまった。手ェ使わないでさ、口でパンツ下ろしてくれる?」
 潤にそう促され、愛梨は素直に従う。半ば思考停止しているのもあるが、それ以上に興味があったからだ。
「っ!!」
 歯でズボンを下ろした瞬間、弾けるように逸物がまろび出た。愛梨はその雄々しさに驚愕する。

 (なにこれ、ネットや本で見たのと全然違う……! 男のって、こんなに……!?)

 愛梨が戸惑うのも無理はなかった。長さは平均的な日本人のそれを超え、幹も太い上に亀頭は一際膨らんでいる。ただしこれは自然な勃起ではない。潤は愛梨がシャワーを浴びている間にバイアグラを服用していた。バイアグラは非常に硬く勃起するものの、勃起しすぎるあまりに射精しづらくなるというデメリットが存在する。しかし、そのデメリットも潤にとって好都合だった。圧倒的な硬度で雄としての強さをアピールしつつ、射精せずに長く楽しむことができる。潤のように一期一会で女を食い捨てる人間にとっては、まさに理想的な効能だ。
「しゃぶってみて」
 潤の言葉に愛梨は従う。初めての男の味と匂いは好ましくなかった。だが、舌や唇の刺激でビクビクと反応する男根は興味深い。自分の体にはないが、間違いなく人体の一部なのだと実感できた。
 その器官が、自分の器官の入口へと宛がわれる。
「いくぞ?」
 潤は慣れた様子でゴムを着け、正常位で挿入を果たした。
「はぁ、はっ……んッ!! ああ、ん、んんっ……ああ……ッ!!」
 膣への挿入は麻友のペニスバンドで経験済みだ。既知の感覚のはずだ。しかし愛梨には、今のこの体験の方が遥かに重苦しく感じられた。
「うはっ、きもちいー! いいモン持ってんじゃん。顔よくてアソコも名器とか、恵まれてんなぁ!」
「当然よ。そんなの一目見たらわかるでしょ!」
「はっはっはっ、噂通り変わってんなーお前。ま、そういうのも面白れーけど!」
 大声で軽口を叩き合う中でも、潤は様々な技巧を織り交ぜる。
 正常位のまま膝裏を押さえ、愛梨の尻を浮かせておいて真上から突き込んだり。
 逆に尻をぴたりとベッドに着けさせたまま、自らは背を反らしつつ深々と貫いたり。
 両の膝頭を掴んで足の開きをコントロールしつつ、相手の顔色次第で突き方を変えたり。
 胸を揉み、摘まみ、吸う動作を織り交ぜたり。
「あっ、はあっ、は、あっ……!! ああっ、あっ、んっ……はっ、あああっ!!!」
 愛梨はもともと喘ぎ声を抑えるタイプではない。しかし、これほど激しく、早く喘いだことはない。
「イイ声出てんじゃん。だいぶ濡れてきてっし。でも、ちっとまだ固いかな。もっと解放感に浸れるように、ここらで一回トんどくか、お前!!」
 潤は独り言のように呟きながら、愛梨の腰を掴み上げた。そうして枕二つ分ほど浮いた腰へ、膝立ちになった自らの腰を打ち付ける。
「あああっ! あは、は……あっ、ああっ!!」
 愛梨の声のトーンが上がった。真横に貫かれるこの体位は、バイアグラで補強された槍のような怒張の味が最も強調される。腰が浮いているせいで刺激を緩和させる行動も取れず、ただただ追い詰められていくしかない。
「あっ、はぁっ、はぁっ……あ、あーー……っ!!」
 腰が勝手に浮き上がり、つま先立ちになった足指がついにはシーツから離れる。するとその瞬間を待っていたかのように、潤のピストンが一気に激化した。
「イけ! ほら、ほらイけッ!! イけやオラッッ!!!」
 洗脳でもするように命じながら、パンパンと激しく腰を打ち付ける。熱く蕩けた膣内を掘削されるようなその責めに、長く耐えきれる道理はない。
「イクっ、イっ……ううううう゛ん゛っっ!!!!」
 顎を浮かせ、シーツを握りしめ、背中を弓のようにしならせたまま。
「あははははは、締まる締まる! エグい締めつけだな、陸上部の女よりヤベェぞこれ!!」
 潤は顔を顰める。実際、想像以上の締まりの良さだった。バイアグラの効果で射精力が鈍っていなければ、ここで一度搾り取られていたことだろう。

「はっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ……!!」
 男子以上のスタミナを持つと噂される愛梨でも、深い絶頂の直後はベッドから起き上がれない。潤はそんな愛梨の手を引き、膝立ちの格好を取らせた。
「まだまだ休ませねぇぞ。俺みたいに上手い奴とセックスするとどうなるか、このエロい身体に刻み込んでやるよ」
 背後から耳元に囁きかけ、自らもシーツに両膝を沈めたまま挿入していく。
「あ、はっ……ああああ、ぁああああ……っ!!」
「へへへ、すげぇだろ? この体位、『ロールスロイス』ってんだけどさ、一番ナカが気持ちいい体位らしいぜ。お前の田舎(まち)じゃ、こんな責め方する奴ぁいなかっただろ?」
 パンパンと腰を打ち付けながら、腕を掴んで引き絞る。相手の姿勢をコントロールし、自らの都合よく責められるように。
「あ、ああぁ……! はぁっ、はぁっ……ああああ……!!」
 愛梨は刻一刻と追い詰められていた。
 絶頂直後で敏感になっている膣内を、硬いペニスで突き回される……その刺激は想像以上だった。体位もまずい。確実に感じる膣のスポットを、ちょうどいい角度で擦り上げられてしまう。膝立ちになっているせいで腰を逃がせないのも厄介だ。
「はぁっ、はっ、ああ、はぁあぁっ……!!」
 呼吸のたびに腹筋が引き締まる。尻肉も脈打ちながら上下する。待ちわびたその変化を見逃す潤ではない。トドメを刺しにかかった。深く繋がったまま膝を立て、愛梨にも垂直な膝立ちを強いる。
「ああああ゛あ゛ッ!!!」
 愛梨から余裕のない声が漏れた。潤はほくそ笑み、膣の最奥を突き上げる。
「おらイケ、イケ、イケ、イケッ!!!」
 一度。二度。三度。四度。そこで結合部から濡れた音がし…………崩壊はその直後だった。
「ア゛ああっ!!」
 喉を絞められたような声と共に、愛梨の全身が痙攣する。弾けるように腰を前に出せば、栓を抜かれた瓶のように潮が噴きだした。ぶしゅうっという音がはっきり聴こえ、飛沫が視認できるほどの量だ。酒を飲んだせいだろうか、失禁のような噴射は一度では収まらず、愛梨の太腿が強張るたびに数度続く。潮噴き自体は初めてではないが、これほど明確に『噴かされた』のは久々だ。
「この体位でデカチンハメ潮すると、マジで意識トびそうになるだろ。田舎から出てきたばっかで気の毒だがよ、この味はもう二度と忘れらんねーぞ」
 潤はそう嘯きつつ、愛梨の首を抱き寄せた。そして首筋に吸い付きながら、右手で逸物の位置を調整し、再び挿入する。
「はっ、はっ……あああっ!?」
 愛梨は吐息を震わせた。今はまずいと脳が警鐘を鳴らしている。咄嗟に手を結合部に伸ばし、潤の腰を押しやろうとした。しかしそれを読んでいたのか、潤は愛梨の手を握りしめ、手綱のように引き絞る。愛梨が腰を逃がせないように。じゅぶじゅぶと音を立てる、激しい攪拌から逃げられないように。
 脳が警鐘を打ち鳴らすほどの快感。3度目の瓦解に時間はいらない。
「あああだぇっ、だめだめ駄目……いぐうう゛っ!!!」
 愛梨は低く呻きながら腰を弾けさせた。太腿を強張らせ、背を仰け反らせて潮を噴く。ただし今度は、背中の反り方がより大きい。後頭部が潤の胸板につくほどに反っている。男に頭を預けるなど、望んでもいないのに。
「感度も抜群か。お前マジでヤリ甲斐あるわ。もうちっと大人しくなったら、俺のキープにしてやってもいいぜ」
 潤がゲラゲラと笑いながら手を離す。支えを失った愛梨の身体は、自らの潮で濡れたシーツにどさりと落ちる。
 その瞬間だった。サイドテーブルのスマートフォンから、軽快な曲が鳴り響いたのは。
「あん? 俺のじゃねーな。お前のか?」
 愛梨にそう尋ねる潤の声色には、笑いが混じっていた。彼は愛梨のスマートフォンをさっと取り上げ、愛梨の許可もなく通話ボタンを押してしまう。
「ちょっと!」
 愛梨が非難の声を上げるも、もう遅い。
『あー……眞喜志か?』
 通話口から聞こえる声には覚えがあった。高校時代、愛梨に告白してきた野球部のエースだ。彼は切り捨てるように振られた後も、何度か愛梨に連絡先の交換を求めてきた。振られたという事実を受け入れられないのか、あるいは心から一途に愛梨を想っていたのか。いずれにせよその熱意はほんの少し愛梨の興味を惹き、渋々ながらに連絡先を教えたのだ。それから何度か連絡があったようだが、気が乗らないので全て無視していた。よもやそれが、こんなタイミングで繋がろうとは。
『えっと……聴こえてる? 眞喜志』
「ああ、うん。武田……よね、久しぶり。どうかしたの?」
『悪いな、しつこく連絡して。ウザがられてるのは解ってんだけど、一個だけ眞喜志に伝えときたいことがあってさ』
 武田の声色には緊張が滲んでいた。この夜中だ、必要の覚悟で電話を掛けてきたのだろう。それが分かるからこそ、さすがの愛梨も即座に通話を切ることができない。
「へぇ、男か」
 愛梨の背後で潤が呟いた。彼はほくそ笑み、愛梨の尻を鷲掴みにして性器に口をつける。
「!!」
 愛梨はびくりと身を跳ねさせた。咄嗟に背後を睨みつけるが、潤は涼しい顔だ。別の男と話しているところに茶々を入れるのが、よほど面白いらしい。
 そんな事情を露知らず、電話口の武田は言葉を続ける。
『眞喜志って、東州大行っただろ?』
「……そうよ。それがどうかした?」
『さっきまで大学の先輩と飲んでてさ、嫌な噂聞いたんだ。東州大にヤバいヤリサーがあるらしいって。確か、アップライズとかいう……』
「っ!」
 なんという間の悪さだろう。今まさにその悪名高きサークルのリーダーと行為の最中だとは、口が裂けても言えない。
「ふ、ふーん。そんなにヤバいの?」
『ああ。女の子を酔わせて持ち帰って、仲間内で犯すらしいんだ。しかも飽きたら風俗に売ったりもしてるらしいぜ。お前のことだから、そんなのには引っかからないっつーか、近づきもしないだろうけどさ。ただその、自覚あるか知んねーけど、眞喜志って黙ってりゃメチャクチャ可愛いから。目ェつけられないように気ぃつけろよ?』
 武田は本気で愛梨を案じているらしい。その熱弁を受け止める愛梨は、思考力の大半を潤のクンニリングスに奪われていた。
 広げた舌を密着させ、丹念に舐め上げる本気の前戯。女遊びに慣れた潤からそれを受けて、無反応でいられるはずがない。すでに数度の絶頂を経験している秘肉は、蕩け、わななき、蜜を吐く。
「ふっ、ひっ!! ひぅっ、ふ……うっ! ん、はぁ、はぁ、はぁ……!!」
『眞喜志? なんか息荒いけど、大丈夫か?』
「え? あ、うん……平気。その、いま筋トレしてて……」
『は、筋トレ? 俺と電話してる最中に? ……ふっ、あははははっ! 笑わせんなよぉ、相変わらず変わってんなあ!』
 苦しい言い訳も、普段から奇行だらけの愛梨ならば不審がられない。なんとも皮肉な話だ。
『つーか、こんな夜中まで筋トレするタイプだったんだな眞喜志って。マラソンで男子に勝ったりしてたのって、実はガチなトレーニングのおかげだったり?』
「はぁっ、はぁっ……まさか。あれぐらい、素でできるわ! これは、筋トレっていうか、エクササイズ……そう、体型維持のためのエクササイズよ!」
 他愛ない会話を交わす間も、愛液は溢れ続ける。ついにはぺちゃぺちゃと水音までしはじめた。男を迎える準備は万全だといわんばかりに。
 潤は濡れ光る口元を拭いながら、勃起した分身に手を添えた。そして膨らんだ亀頭を割れ目に宛がうと、一切の躊躇なく突き入れる。
「はううっ!!」
 極限状況下における、蕩けた膣への挿入。その刺激はとても声を抑えられるものではなかった。
『眞喜志!? どうした!?』
「えっ? え、ええと、あの……指よ! ランジやってたら、机に小指ぶつけちゃって! ホラうち、部屋狭いから! あははははっ!!」
 心配そうな武田の声に、愛梨は慌てて取り繕う。不自然だという自覚はあった。愛梨は愛想笑いをするタイプではない。ましてや、さほど懇意ではない異性相手に。
 ──うるさいわね。なんでもないわよ!
 普段の彼女が本当に小指をぶつけたなら、八つ当たり気味にそう叫ぶだろう。しかし、今は自然体を演じる余裕がない。背後からの挿入はそれほどの緊急事態だ。
 潤は愛梨の尻を掴んだまま、ゆっくりと腰を前後させはじめた。ぐちゅっ、ぐちゅっ、という音がする。明瞭な音ではないから、電話には拾われないかもしれない。しかし、拾われるかもしれない。その不安が愛梨から余裕を奪い去る。

 (なにこれ……っ! さっきより、もっと気持ちいい!!)

 愛梨は唇を噛んだ。
 電話に集中しなければならない。後ろに意識を向けてはならない。そう思えば思うほど、かえって下半身が力んでしまう。膣は狭まり、そこをバイアグラで硬く勃起した物でこじ開けられれば、脳まで刺激が突き抜けた。処女を失った時以上の感覚だ。
「はっ、はっ、あ、はっ……はっ……」
『眞喜志、なんかすげぇ息荒いぞ。大丈夫か? 指に違和感あるんだったら、一応病院に……』
「へ、平気よ。これは、あれ……エクササイズ再開してて、あっ……プランクしてるから、息が上がってるだけ。苦手なのよね、これ……」
 取り繕いながら、激しさを増した突き込みに必死で耐える。身体が前後し、豊かな乳房が首筋とあばらを打つほどの激しさ。その運動強度はプランクの比ではない。その上で、セックス自体の興奮が余裕を奪う。

 (い、イッてる……!! あたし、今、イッてるっ……!!)

 下腹部から広がる痺れ。意思とは無関係な膣奥の不随意運動。ゴム一枚を隔てて粘膜で繋がっている潤にもそれは伝わっているだろうが、突き込みは緩まない。挿入の瞬間腰を押し出すようにして、奥の奥までを貫いてくる。
 ズンッと深い衝撃が腹の奥に響き、愛梨を幾度目かの絶頂に押し上げた。
「かはッ……!!!」
 喘ぎながらもかろうじて歯を食いしばっていた口が、完全に開いた。それを機に、愛梨はいよいよ我慢が利かなくなる。
『そういえば眞喜志って、どっかサークル入るのか? お前ってマジ何でもできちまうから、逆にどこ入るか迷いそうだよなー』
「はっ、はっ、はっ、はっ……あ、いッ、イキ……!!」
『ん? 何?』
「はッ、は、あ……えと、いき……おいのあるサークルがいいわね。活動内容は、何でも、いいけど……」
『あー、勢いか。らしいっちゃらしいけど、お前の思う勢いって、世間一般じゃヤバいって言われる部類だからな?』
 憧れの眞喜志 愛梨と会話のキャッチボールが出来るのがよほど嬉しいのか、武田は愉快そうに笑っている。しかし愛梨には、それに応える余力などなかった。這う格好すら保てず、前に崩れる。結合の音を少しでも拾わないよう、スマートフォンを食い込むほど耳に押し当てたまま。
 崩れた愛梨を前に、それでも潤は責めの手を緩めない。自らも前のめりになって愛梨に覆いかぶさり、乳房を揉みしだきながら腰を打ち付ける。浅く、しかし早く。愛梨にとっては最悪の展開だ。逃げ場のない体勢のまま、小刻みに膣奥を突き回されるのだから。
「んっ、んんっ……あっ! あ、はっ……は、あ゛!あ゛!」
 喘ぎ声が誤魔化せない。奥を突かれるたびに甘い声が漏れてしまう。
『プランク、結構ハードに追い込んでんだな……?』
 武田もさすがに不審がっているらしい。
 限界だ。今すぐ通話を切らなければ。愛梨はそう思うが、快感が強すぎて、スマートフォンは握りしめることしかできない。少しでも我慢をし損ねれば“終わる”。そして獲物のそんな窮地を、潤が見逃すはずがなかった。
 パンパンパンパンと音を鳴らして腰を叩きつけ、蕩けきった膣奥を掻き回す。
「はああ゛、あア゛ッ、あア゛ッ!!」
 愛梨の喘ぎがいよいよ切羽詰まったものになる。そこで潤はトドメに入った。愛梨の上半身を抱きすくめたまま、その肩口に噛みついたのだ。
 決定打。快感という沼の縁を彷徨っていた愛梨を、無情にも蹴り落とす不意の一撃。
「ひイグッ、イグう゛ッ!! あああまだ、まだイグううううう゛ッッ!!」
 張りに張った糸がブツリと切れた。そうなれば崩壊へ向けて一直線だ。肩口の激痛が脊髄の快感と結びつき、全身を痙攣させる。割れ目からは潮が噴きだし、太腿は小刻みに震え上がる。
『ま、眞喜志……まさか、お前いま……!?』
 スマートフォンの通話口から強張った声が漏れた。流石に知れてしまったようだ。
「ハハハハハッ、ようやく気付いたかよガキ? ああそうだ、この女はハメまくってんだよ! お前がヤバいっつってた『ヤリサー』のトップとなあ!!」
 潤はゲラゲラと笑いながら、汗まみれの愛梨を抱き起こした。そして自らはベッドに尻餅をつき、背面座位で突き上げる。
「あ、だめイグっ!! イグ、ッグ、ああああイグううううっ!!」
 愛梨に許される行動は絶頂だけだ。腰を掴まれたまま激しく突き上げられ、腹の奥で熱を感じ、全身で痺れる。指先まで痺れているせいで、スマートフォンを持っている感覚は薄い。しかし通話が切れる時の無機質な音だけは、はっきりと脳が知覚した。
「はっ、はっ……いい反応じゃねぇか。知り合いと電話しながらハメて、相当興奮したみたいだな」
 潤はようやく愛梨を開放し、白い愛液まみれのコンドームに視線を誘導する。この勝負は彼の勝ちと言っていいだろう。しかし、そのしてやったりという言葉と態度は、愛梨の逆鱗に触れた。
 自分がマゾヒストなのかを知るための夜だった。しかしSかMかという以前に、下に見られているのが我慢ならない。それが愛梨の性(サガ)なのだ。
「…………ええ、凄かった。お返しに、今度はあたしが先輩にご奉仕するわ!」
 愛梨が目をギラつかせた時、潤は笑っていた。この変わった娘もついに自分の虜になった、とでも思ったのだろう。
 しかしそれが大きな勘違いであることを、彼はすぐに思い知る。


                ※


「どうセンパイ、気持ちいいでしょう?」
 潤に口で奉仕しながら、愛梨はそう問いかけた。その問いを受ける潤の顔は──苦々しい。

 (ンだよ、これ……顔面の暴力かよ!?)

 間近で奉仕する愛梨の顔は、あまりにも愛らしすぎた。舌を出して亀頭をちろちろと舐める姿、口を窄めて唾液と先走りを啜る姿……そのどれもが、初めてセックスをした時のように潤の胸を高打たせる。テクニック自体も中々だが、それ以上に精神的な充足感が射精欲を煽る。
「そうだ。男の子って、こういうのも好きなんでしょ?」
 愛梨は片眼をつむって意地悪く笑いつつ、豊かな乳房で肉茎を挟み込む。
「うおっ……!」
 潤は思わず声を漏らした。顔面の暴力に、乳房の暴力。視界一杯に広がる至福の世界に、男の脳が歓喜している。これまで100人以上の女子大生を“食って”きたが、そんな体験は初めてだ。
 魔性。そんな言葉が脳裏に浮かぶ。先ほど、電話口の武田が愛梨に入れ込んでいる様子を嘲笑ったが、今はもう笑えない。愛梨のくるくると変わる表情から目が離せず、少年のように心躍っている今は。
「あっ、ヤバい出そうっ……!!」
 潤は呻いた。バイアグラで鈍化してなお、射精感が限界を迎えたのだ。それを聞いた愛梨は両手で乳房を寄せ、乳首で幹を刺激しつつ亀頭を吸い上げた。完璧ともいえる美貌をやや崩し、ミルクを啜る童女のエッセンスを加えたその顔は、潤のオスの心を瞬時に満たした。
「あ、出る、出るうっ!!」
 悲鳴のような声と共に、潤の睾丸がせり上がった。射精管が痺れ、驚くほど太い精子の濁流がどくどくと鈴口から出ていく。それらはすべて愛梨の口に受け止められ、それがまた潤には堪らなく嬉しい。子供の頃憧れていた兄貴分から、頭を撫でてもらった時のように。
「ふーっ、ふーっ、ふーっ……あー、やっべぇ。オマエまだ一年だろ? 去年までJKだったその年で、何人のしゃぶってきたんだよ?」
「0本。男はセンパイが初めてよ」
「は? いや、嘘つけよ。ヘルス嬢並みのテクじゃねーか」
「嘘なんかつかないわ。つく必要がないもの。さっきのは本に書いてあった内容と、動画で見たのを真似しただけよ」
 潤を見上げる愛梨の瞳は、澄み切ったまま爛々と光っている。堂々としたものだ。小賢しい嘘などないのは直感でわかった。

 (じゃあこいつ、見様見真似で今のテク身に着けたってのか? 冗談きついぜ……!)

 潤は、確かに肉食系ではあったのだろう。彼には野生の勘があった。稀に見る天才の危険性を早期に察知できる程度には。
 しかし悲しいことに、彼は危険を察しながらも逃げることができなかった。あくまで捕食者たろうとする意地からだ。
「さあ! もっともっと楽しみましょう!!」
 愛梨に押し倒され、騎乗位で跨られた時にも、潤はかろうじて笑みを湛えていた。しかし愛梨が腰を遣いはじめれば、その笑みが刻一刻と歪んでいく。
「ぐ、うぐあ……!! くああああ゛絞り取られるゥッ!!」
 騎乗位開始から3分あまりで、潤はついに悲鳴を上げた。よく堪えたほうだろう。愛梨の好奇心が生んだ様々な試み……万力のような締め付けや、咀嚼するかのような激しい刺激に耐えきった。しかしそれらを経てコツを掴んだ極上の『うねり』には、流石に抗いきれなかったのだ。
 ドクドクと射精する。二度続けての大量射精。若いとはいえ、流石に小休止を入れたくなるところだろう。しかし、それを許す愛梨ではない。
「んー、ゴム越しにもすごい量出てるのがわかるわ。やっぱりさっきのが気持ちよかったみたいね。さ、続けていくわよ!」
 歌うように告げながら、肉感的な腰を前後左右に揺らす愛梨。その完璧ともいえるスタイルを頭上に見上げながら、潤は顔を引き攣らせた。
「ま、待てって! 男は連発で出せねぇんだ、ちっと休ませろよ!!」
 怒鳴るように叫んでも、愛梨に臆する様子はない。意地悪く瞳を細めたまま、更なる刺激を求めるように自ら乳首を摘み上げる。

 (こいつ、イカれてやがる…………!!)

 潤の不安は恐怖に変わった。膝を曲げて腰を浮かせ、華奢な愛梨の体を跳ねのけようとする。
 しかし────動かない。潤の股間に癒着したように、両膝がベッドに根差しているように、愛梨の体幹は小動もしなかった。
「なっ……!!」
 潤が息を呑む。マウントを取られているという体勢的不利。強すぎる快感ですっかり腰が抜けていること。力負けした理由はいくつか考えられるが、潤にその冷静さはない。
 彼の目には、いよいよ愛梨が人外の淫魔のように映りはじめていた。跳ねのけられないのは、この娘が人間ではないからだ。自分はこの悪魔に精気を吸い尽くされ、殺されるのだ。パニックに陥った心の中で、彼は本気でそう思いはじめていた。
「ま、マジで、もうやめぇ……っ! チンコ、擦り切れちまうよぉ……!!」
 もはや『やめろ』という口調でさえない。無力な少年のような、涙ながらの哀願だ。
「何言ってるの? 私もようやく温まってきたところだし、ここからが本番よ!!」
 愛梨はにこやかな笑みで哀願を切り捨てる。悪意の無さがかえっておぞましい。
 潤は救いを求めるように寝台のヘッドボードに手を伸ばし、スマホを掴んで電話をかける。
「お、オイッ! お前ら助けろおっ!!」
『え、どしたんすか?』
「き、昨日のっ、昨日の飲み会の女だ!」
『昨日の……あー、あの芸能人みたいな。そういや潤サンあの子持ち帰ってましたもんね。なんスか?まだ夜通しハメてるぜって自慢スか?』
「バカ、違ぇ! ハメてんじゃねぇ、ハメられてんだ……ぐああああッ!!!」
『じゅ、潤サン!?』
 そこで、愛梨の掌が潤の手を包み込み、優しく通話を切らせる。潤の唯一の希望だった液晶が光を失う。
「ダメよ“潤”。電話なんてしてないで、あたしだけに集中しなさい!」
 愛梨は笑いながら腰を上下させる。極上の、そして地獄の快楽が潤の下半身を包み込む。
 超人的な性欲、底なしかと思えるスタミナ、そして燃え上がるような嗜虐心。潤は今さらながらに痛感していた。この女こそ、本当のSなのだと。
「あイグ、イグウゥッッッ!!!」
 二つの声が重なった。
 愛梨が背を反らした瞬間、弾けるように怒張が抜けて、潮噴きのような射精が始まる。それと同時に愛梨も潮を噴いていた。
「ふーっ、中々良かったわ。センパイも……あはっ、やだセンパイ、子供みたいにグズっちゃって。最初はあんなにカッコつけてたくせに」
 愛梨は『最強のオス』を見下ろして微笑み、その涙を拭ってやる。その動作の間、心の中は晴れやかだった。自分はやはりSなのでは──その疑念が再び沸き起こる。

「よっぽど良かったらヤリサーのメンバーと乱交も考えてたけど、トップがアレじゃ期待できそうにないわね」
 丸まった潤を置いてホテルを後にし、愛梨は呟く。
 彼とのセックスは無駄な時間ではなかった。それなりに刺激的ではあったし、セックスの実践的な知見も得られた。が、価値観が一変するほどの経験ではない。
 どこかに良い男はいないだろうか。セックス経験が豊富でなくてもいい。テクニックがなくてもいい。それとはまた別の要素で、自分を満たしてくれる……そんな存在が。愛梨はそう考えながら、当てもなく路地を彷徨う。

 彼女は知る由もないし、興味もない。この事件の後、彼女が最強の肉食系男子を捕食したセックスモンスターとして、一部界隈で有名になろうとは……。


 

眞喜志 愛梨、その探求の果て Episode.1

※涼宮ハ〇ヒっぽい女の子が、自分の性癖を探るためにエッチな体験を繰り返すお話です。
かなり長くなるため、エピソード毎に分割します。全4エピソードを予定しています。
このEpisode.1はレズプレイのエピソードとなります。




Episode.1 疑念


 『奇跡の美少女』。
 それが眞喜志 愛梨(まきし あいり)という少女の通称であり、愛梨自身もまたその通りだと考えていた。
 溌剌とした性格を表す、ボブカットの黒髪。
 名人が筆で斜めに引いたような細い眉。
 くっきりとした二重の瞳。
 日本人らしく低めではあるが、極めて容の良い鼻筋。
 色鮮やかな薄い唇。
 スレンダーな印象を与えながらも、出るべきところはしっかりと出た抜群のスタイル。
 彼女の両親はどちらも整った顔立ちだが、それを踏まえてもなお突然変異に思える、芸能人級の見目の良さだ。
 その華やかな美貌は、小学校時代から道行く人間を振り返らせ、中学の頃には地域一番の美少女として評判になり、高校生となった現在では遠く他県からもギャラリーが殺到するほどだった。
 また、愛梨が秀でているのはルックスだけではない。成績は常に学年上位であり、走ればマラソンで男子生徒を追い抜く。また、ほとんど練習せずとも楽器を難なく弾きこなすなどの天才性をも有している。そんな愛梨が注目され、『奇跡』と持て囃されるのは、もはや必然と言えた。

 しかし。そのスペックの高さにもかかわらず、愛梨が異性から告白された経験は極めて少ない。高嶺の花すぎるというのもあるだろうが、それ以外にも明々白々な理由があった。
 並ならぬ美貌の持ち主である愛梨は、同じく規格外の問題児なのだ。常に声を張り、胸を張る彼女は、過去いかなる集団においても暴君さながらのボスとして君臨した。他人から注目されるのが何より好きで、また彼女自身も妙に他人に干渉したがる。軽い悪戯で済むならばいいが、大抵の場合そうはならない。様々な部活の部員に勝負を持ち掛けては、その万能ぶりで鮮やかに勝利してプライドをへし折ってきた。陸上部・水泳部・体操部・テニス部・バスケ部・バレーボール部……どれだけの部活から顰蹙を買っていることか。
 こういう人間であるがゆえに、遠巻きに見守る野次馬は多いものの、積極的に関わろうとする者は稀だ。
 今年の春、野球部のエースが久しぶりに愛梨に告白した。将来有望かつ男前。10人以上の女子から告白を受けた経験を持ち、間違いなく優秀な雄といえた。しかし愛梨は、そんな彼をも一蹴する。
「は? アンタがあたしの彼氏とか、ありえないんだけど」
 公衆の面前で、バッサリと切って捨てる一言。断った理由は、『自信満々なところが鼻についた』からだという。お前が言うな、と誰もが思ったことだろう。
 女子人気の高い男子を公然で振ったとなれば、普通ならば他の女子の反感を買う。ともすればイジメにも発展しかねない。しかし、そうはならなかった。その翌日からも、愛梨の日常は何ら変わらなかった。眞喜志 愛梨という存在は、学内においてそれほどに絶対的なのだ。

 愛梨は神に愛されていた。少なくとも17歳のある時期まで、世界は間違いなく彼女を中心に回っていた。その歯車が狂いはじめたのは、恐らく、愛梨が自分の在り様に疑念を持ちはじめた頃からだ。


                ※


 愛梨は、長らく自分のことをサディストだと思っていた。
 他人から低く見積もられるのが我慢ならない。先の野球部のエースを振ったのも、『彼女にできれば周りに自慢できるアクセサリー』と思っているのが透けて見えたからだ。もしも彼に下心がなく、純粋に愛梨という人間を見て告白してきたならば──おそらくは一月未満で飽きるだろうが──付き合ってみることも吝かではなかった。
 様々な部員に喧嘩を売るのは、相手に興味があったからだ。様々なジャンルにおける才能豊かな『玉』が、ズブの素人である自分に負け、プライドをへし折られた果てに見せる涙ながらの表情。純然たる負の感情。それが自分に向けられる瞬間には、いつも胸がときめいた。家に帰ってからも興奮が冷めず、『玉』の表情を思い返しながら自慰に耽ることもよくあった。
 強い自尊心と加虐嗜好。それを生まれながらに備えている自分は、俗にいう‟S”なのだろう……愛梨は長らくその認識を疑わなかった。

 そこに疑問が生じたきっかけは、作田 麻友(さくた まゆ)という同級生との触れ合いだ。顔立ちに優れ、愛梨以上に豊かな乳房の持ち主である麻友は、その人目を惹く容姿とは裏腹に自己評価が低かった。
「じ、自信のつけ方を、教えてほしいんです……っ」
 そう言って恐る恐る愛梨について回る彼女の存在は、愛梨の興味を惹いた。
「愛梨さま」
 麻友は二人きりの時、必ず愛梨をそう呼んだ。きっかけは愛梨が冗談半分にそう呼べと命じたことだが、必要ないと撤回してもなお、麻友はその呼び名を変えようとはしなかった。普段主張をしない麻友が、そこだけは頑なだった。彼女にとって常に胸を張って生きる愛梨は『神』であり、そんな愛梨の従者であることを、僅かな自信の根拠としていたからだ。
 そうした麻友の思考は、愛梨にとって理解しがたいものだった。しかし、だからこそ興味深い。
 愛梨は様々な方法で麻友を理解しようとした。対話に、命令。どこまでやれば麻友が嫌悪感を示すのかを探るために、レズビアン行為にも踏み込んだ。
 舌を絡めるディープキスに始まり、女性器へのクンニリングス、指を用いての乳首やクリトリス・Gスポットの性感開発、道具を用いての刺激……。1を聞いて10を知る愛梨であるから、麻友の反応を見つつ実践を重ねれば、数週間後にはプロの性感エスティシャン顔負けの技巧を身につけてしまう。麻友は、その愛梨からの刺激のすべてを拒絶せず、エスカレートしていく行為を受け入れ続けた。時には指を噛んで堪え、時には喘ぎ、時には叫び、時には苦痛と喜悦の涙を流しながら。
 そしてそれが、結果として愛梨の自己評価を揺らがせる。
「うーん……」
 あらゆる体液を垂れ流しながら突っ伏す麻友を前に、愛梨は首を傾げた。
 M役をこれほど嬲っているというのに、今ひとつ気分が高揚しない。多少の面白さはあるが、それは「脇腹をくすぐって反応を楽しむ」といった行為の延長でしかなく、サディスティックな昂ぶりとは別物だ。もしも自分が本当に‟S”だというのなら、この状況で興奮しないのは理屈に合わない。
 自分には、サディストとしての才能はないのではないか。となれば本性はマゾヒストか。俄かには信じがたいが、しかし────
「はぁっ……はぁっ……。あの、どうかされましたか、愛梨さま……?」
 手を止めた愛梨に、麻友が問いかける。目を潤ませ、頬を真っ赤に紅潮させた彼女は、明らかにマゾの快楽に酔いしれていた。疑う余地もない生粋の‟M”だ。
 愛梨は、麻友のことを羨ましいと思った。まさにこの瞬間、愛梨の中に、己の正体を知りたいという欲求が芽生えたのだ。

 自分には、果たしてマゾヒストの素養があるのか。それを知るために愛梨が行ったのは、麻友との主従の逆転だった。
「あたしをイジメなさい。今まであたしがあんたにやってたことを、今度はあたしにやるのよ!」
 奴隷らしからぬ強い瞳で見据えたまま、愛梨は麻友に命じた。
「ええっ!? わ、わたしが、愛梨さまを……ですか……!? そ、そんなぁ……!」
 加虐に対しては何の文句も発さなかった麻友も、流石にこの命令には難色を示した。しかしボスである愛梨の命令とあらば、結局は聞き入れるしかない。

「もっと拡げなさい! いつもあたしがしてあげてるみたいに、小陰唇を外に開いて、クリトリスも半分剥けた状態にして、下から上に舐め上げるのよ!」
 椅子に浅く腰かけた愛梨が、足元に跪く麻友に大声で命じる。その光景を目にした者はきっと、二人の主従関係を取り違えることだろう。
「れろっ、えあっ……こ、こうですか?」
「うーん。悪くないけど、思い切りが足りないわね。もっと舌を粘膜に押し付けるようにして舐めなさい!」
「は、はいっ! いつも気持ちよくしていただいているのに、上手くできなくてすみません……!!」
 怯えながら命令に従う麻友。それを見下ろす愛梨は、どこか浮かない表情だった。

 (この子のテクニックが未熟なのを差し引いても、さっぱり気持ちよくないわね。これなら自分で弄ってた方がマシだわ)

 好奇心旺盛な愛梨は、わずか10歳で自慰を覚えた。しかしその頻度は高くない。前述した通り、道場破りならぬ『部活破り』をした夜など、極端に昂っている時にするぐらいだ。麻友によるクンニリングスは、その慰みにすら及ばない。
 やはり、自分にマゾの素質はないのではないか。
 愛梨はそう考え、初日にして主従の逆転を終えようとも思った。しかし、脇目も振らず一心不乱に舌を遣う麻友を見て考えを改める。

(要領はよくないけど、ホント愛嬌のある子ね)

 表情にこそ出さないが、愛梨は内心で目尻を下げた。麻友の懸命なサービスをいくら受けても、肉体的な快感はあまりない。しかし代わりに心が満ちた。それが心地よく、愛梨はプレイを続けることにする。
 その選択は間違いではなかった。日を重ねるごとに、愛梨の性器は麻友の指と舌に馴染んでいった。

「……んっ、そこ、それいいわ! なんだ。わかってるじゃない!」
「あっ、本当ですか!? わたしも、こんな風にしていただいたなって思って……」
 5日目。ベッドの上で膝立ちになって指責めを受ける愛梨は、はっきりとした快感に目を輝かせた。麻友の指は今、間違いなく快感スポットの芯を捉えている。強い痺れと尿意に似た感覚は、いわゆる『潮噴き』の兆しだろう。
「あっ。愛梨さま、ナカがヒクヒクしてきましたよ。潮を噴かれるのですか?」
「ええ、出るわ……そのまま、そのままよ! ……んあああっ!!!」
 愛梨は仰け反る姿勢で天を仰ぎ、人生初の潮噴きに至る。緩やかな快感で焦らされた結果だからか、あるいは肉体的に優れているせいか。潮の勢いは強く、ベッドに敷かれたシーツに重い音を響かせる。
「わっ、すごい勢い。流石愛梨さま……」
「はーっ、はーっ……別に、こんなの流石でも何でもないわよ。流石っていうならあんたもよ。伊達にあたしの『手マン』で毎日イカされてないわね」
「え、そんなぁ! か、関係ないですよぅ……っ」
 愛梨に切り返され、麻友は耳まで真っ赤にして俯く。


                ※


「今日はコレを使うわよ!」
 愛梨がそう言って麻友に手渡したのは、ずしりとした電気マッサージ器だ。ハンディ式ではあるが、一般的な物よりも重量があり、その分出力も高い。頑固な肩こりでも解消するという謳い文句の品だが、一部のマニアからは『絶対にイカせる電マ』という通称を与えられている。
「え? こ、これ、使うんですか!? でもこれ、本当に凄くて……もう少し慣れてからの方が……」
「いいから、さっさと準備しなさい! あんたにした時の写真は……コレね。M字開脚で拘束して、20分以内にイッたら罰ゲームだったわよね。これをそのまましてもつまらないから、私はその3倍の1時間設定でいくわ」
「ええ!? い、1時間なんて、おかしくなっちゃうんじゃ……」
 心から案じての麻友の言葉も、愛梨の一瞥であえなく途切れる。
 愛梨は楽しみだった。潮噴きまで経験した今、あのマッサージ器の振動を受けるとどんな快感が得られるのか、その時自分がどんな反応をするのかが。勿論、どんな勝負であろうと勝ちに行く性分だけに、全力で耐えてはみせるが。
 かくして、マッサージ器は重苦しい羽音を立てはじめた。人力では真似できないほど細やかで力強い振動が、愛梨の秘裂に襲い掛かる。
「あああ!」
 愛梨はすぐに声を上げた。元々声を我慢するタイプではないが、叫ばずにはいられないほどの刺激の強さだった。クリトリスはありえないほどの早さで屹立し、尿意に似た感覚がこみ上げてくる。そしてそこからさして間をおかず、愛液が分泌されはじめた。愛梨の肉体は、如実に快感の反応を示していた。
 しかし。

 (…………変ね)

 愛梨は内心で疑問符を浮かべる。
 気分が高揚しない。マッサージ器の振動は麻友の指責めよりも遥かに強烈で、絶頂に直結するはずなのに、達しそうな気配がまるでない。コップの水がある程度までは堪るものの、溢れるほどではない、という感じだ。
「ん、しょっ……」
 麻友が小さな両手で機械を支え、懸命に動かす姿を見ていると、少し絶頂が近づく気もする。それでもなお、あの拙い愛撫にさえ及ばない。

「愛梨さま、すごい……! どうやったらコレを、一時間も耐えられるんですか……!?」
 タイマーが鳴り響く中、麻友は丸くして尋ねる。自分が僅か4分で音を上げたこの凶悪な玩具を、60分も耐えしのげる理屈がわからない。今までの機械責めが夢だったのではないかと思えるほどだ。
 しかし、夢ではない。夢にしてはあまりにリアルな匂いが鼻をつく。超人的な愛梨とて所詮は人間だと示すかのような、獣のごとき汗と愛液の匂いだ。
 痕跡は視覚でも見て取れた。ベッドに引かれたピンクのシーツは、分泌された愛液によって広範囲が朱に変色している。マッサージ器の先で虐め抜かれた秘部の形状は、プレイ前の慎ましさとは別物だ。クリトリスは充血したまま包皮から顔を覗かせ、ぱっくりと花開いた秘裂からは涎のように蜜が溢れていた。圧迫のせいか、薄い陰毛の質感も失われ、白い肌に平面的に張りついている。両の乳首が四角く屹立しているのも初めて見る変化だ。手首と足首を結び付け、愛梨に羞恥のM字開脚を強いていたガムテープなどは、強く引き絞られすぎて肌に食い込み、今にも千切れそうに細まっていた。
 愛梨は、紛れもなくマッサージ器に追い詰められていたのだ。しかしついに音を上げず、明確に絶頂することもなかった。
「別に。ただの意地よ」
 愛梨は汗だくのまま素っ気なく答える。
「はぁ、意地……ですか。……凄いです、本当に凄いです、愛梨さまは!!」
 麻友の目がますます輝きを増した。神を前にするかの如く。しかしその視線が、愛梨の胸をチクリと刺す。

 愛梨は、事実を伏せた。
 意地で耐えたというのは本当だが、それだけではない。愛梨はそもそも、この機械責めに興奮しなかったのだ。
 その理由を伏せたのは、愛梨自身が納得できていないからだった。指責めよりも遥かに強烈な刺激を受けて、興奮しない筈がない。麻友の手前、ある程度は粘ろうと思っていたが、本当に1時間耐えきってしまえるとは。

 (これじゃまるで、高いお金出して買った機械より、麻友の指の方が良いみたいじゃない!)

 その日、愛梨は拘束を解かれた後も、しばらく憮然とした表情を続けていた。


                ※


 作田 麻友には、愛梨のような天才性はない。1の努力をすれば1だけ成長するタイプの凡人だ。しかし彼女は、その1の努力を真摯に続けられる人間だった。その努力は今、かつて自分が受けた愛撫を模倣することに注がれている。

 レズ風俗を模したマッサージでも、麻友は愛梨を追い詰めた。以前に愛梨が麻友に行ったプレイの逆バージョンで、麻友の時には2時間じっと耐えろというルールだったものを、愛梨は3倍の6時間に変更した。愛梨は、後にこう啖呵を切ったことを後悔する。
「んあっ、んあっあ!!」
 愛梨が甘い声を漏らし、その反応に麻友がびくりと肩を跳ねさせる。
「あっ、すみません愛梨さま! その、気持ち悪かったです……よね?」
「別に。まあまあ気持ちいいわよ」
 愛梨は澄まし顔で答えるが、その言葉には強がりが含まれていた。まあまあ、なレベルではない。卓越した自身のレズテクをそのまま返されているようだ。腋近くの乳腺から乳房を這い登るようなマッサージは、愛梨の乳輪を膨らませ、乳首を見事に屹立させた。
 しかも悪いことに、麻友は胸の愛撫に集中するあまり、極端に視野が狭くなっていた。結果、数時間かけて延々と乳房だけを嬲り、他の部分には一切手をつけないという『焦らし』が起きた。

 (分かってはいたけど、どんくさいわね。他の部分にもちょっとぐらい注意向けなさいよ……!)

 愛梨はそう思うが、「秘部に触れろ」などとは音を上げているようで言い出せない。結果、麻友が自分の問題に気付いたのは、マッサージ開始から実に4時間が経ってからだった。
「あ、ごめんなさい! あたしったら、胸ばかり……あそこにも触らせてもらいますね」
 麻友は深く謝罪しつつ、濡れそぼった愛梨の秘部に手を伸ばす。しかし彼女の性格的に、いきなり激しくなどしない。大陰唇や小陰唇を優しく丁寧に刺激し、クリトリスには親指の腹をすっと触れさせる程度にしか触れない。それは、生殺しという傷へ塩を塗り込むに等しい行為だ。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ…………!!」
 愛梨は激しく喘ぎながら、艶めかしく足を蠢かす。軽く曲げた左膝を前後させるたび、股座に生ぬるいローションのような愛液が感じられた。

 (まさか麻友ったら、偶然を装ってあたしに仕返ししてるんじゃないでしょうね?)

 あまりの辛さにそんな考えが脳裏に浮かぶが、そうではないこともよく理解していた。そんな強かさがあるのならば、麻友は変人の自分などに纏わりついて、周りから後ろ指を指されたりはしないだろう。
「あの……ぜ、全然良くないとは思うんですけど、その……も、もしイキそうになったら、イクっておっしゃってくださいね……」
 おどおどと、しかし勇気を振り絞って愛梨に話しかける麻友。愛梨は腰を捩った状態でそんな麻友を見上げつつ、破顔する。
「そろそろ、イキそうよ…………んっ、あ、あそこ……い、イクッ!!」
 純粋な友人への礼儀として、愛梨も嘘のない絶頂を報告する。鉤爪の形になった麻友の掌に、勢いよく潮を浴びせかけながら。

 (うあっ……こ、これ、思った以上に気持ちいいわ……!!)

 溜めに溜めた尿の解放、あるいは脳内で素晴らしいイメージを持った時の自慰。それに匹敵する快感が、高校のマドンナの脚線をぶるぶると震わせる。
 そして同時に、彼女は気付いた。プレイ時間は、あと90分以上も残っていることに。
「…………っ」
 麻友には見えないように少し顔をずらしながら、愛梨は唇の端を緩ませる。今の会心の絶頂を、残り時間で何度経験できるかと期待しながら……。


                ※


 愛梨は様々なプレイに興味を示し、思いついた端からやりたがった。麻友に悪戯をしていた時から見られる傾向だったが、受ける側が自分となってからはさらに顕著になった。

 愛梨は、よく自室でライブ配信を行っている。内容はどこで役立つかもわからない愛梨の独自研究や突飛な主張・発想を聞かされる異質なトーク番組で、一部ではカルト扱いさえされていた。しかし、配信の同時接続者数は素人の個人チャンネルとしては相当に多い。投げ銭の額も大きく、バイトをしていない女子高生としては破格の収入を愛梨に齎している。
 内容が興味深い、コメントに対するリアクションが面白いなど、集まるリスナーの理由は様々だが、一番は愛梨のルックスが目当てだろう。なにしろ化粧を一切していない素顔でさえ、トップアイドル級に整った見目なのだ。愛梨もそれはよく理解していて、リスナーのことを親しげに『部員くん』と呼びながら、時に励まし、時にからかい、喜怒哀楽様々な顔で魅了している。
 愛梨はそのチャンネルに麻友を登場させ、2人でトークする生配信を企画した。しかし、ただそれだけであるはずがない。愛梨はあろうことか、撮り直しの利かない生放送にローターを仕込んだまま挑むと言い出したのだ。それも一つでは刺激が足りないからと、同時に3つも。
「む、無茶ですよぉ……」
 そう尻込みする麻友にローターのスイッチを握らせ、愛梨は強引に配信を開始する。
「……そうねー、そういう意見はやっぱり多いと思うわ。残念だけどね。あ、えんでろぱさん、スパチャありがとー! ええと、RDMさん……寝る時は着圧ソックス履いてるから大丈夫? あはははっ、いいわねぇ。健康志向じゃない!」
 愛梨はいつものように胸を張り、声を張り、目を爛々と輝かせたままでコメントに応えていく。一体、誰が想像するだろう。その明朗快活にしゃべり続けている愛梨の膣内に、まさに今、3つのローターが唸りを上げていようとは。
「ね、そう思わない?」
 質問を装いつつ愛梨がアイコンタクトを送ると、パソコンデスクの下で麻友の手が恐る恐るスイッチを押し込む。
「!」
 膣の中が震える。刺激自体はそう強くないが、3つのローターは愛梨の処女穴を目一杯に開いているため、そのどこかに振動が起これば膣壁すべてに刺激が伝わる。そして何より、その性的刺激を受ける自分を、カメラの向こうで何百人もに見られているという状況が堪らない。
 自然体のまま流暢に喋り続けながらも、愛梨は背徳感に震えていた。今に目敏い誰かが、この秘密に気付くのではないか。そう、今にも──

『ローター入れられながら喋ってそう』

 愛梨がスリルを楽しんでいた最中、まさにそのコメントが流れてくる。
「えっ……!?」
 麻友は分かりやすく狼狽するが、愛梨は笑顔を貼りつかせたまま動じない。自分のポーカーフェイスは完璧だ、バレるはずがない。その絶対的な自信があるからだ。
「あはは、ローター? あれってそんなに気持ちよくないらしいわよ。もし本当に入れてたって、アンタ達の節穴アイじゃあ見抜けないんじゃない?」
 舌を出して小悪魔気味に視聴者を煽り、場を沸かせる。さりげなく自分がバレるリスクを上げながら。
『でも確かに、左の子キョドってる事多くね』
『いつもな気もするけどなー』
『つーか、あの電波女に絡まれたらキョドるのが普通だろ』
 先のコメントは愛梨ではなく、麻友を指しているらしかった。考えてみれば確かにそうだ。普段と変わらない態度で喋る愛梨とは対照的に、麻友は演技が下手すぎる。ローターのスイッチを入れるたびに愛梨の顔をチラチラと伺っていては、挙動不審と思われて当然だ。

 (勿体ないわねー。こういうスリルは楽しまなきゃ)

 愛梨は内心でほくそ笑みながら、より大胆に振舞いはじめた。
「んー……」
 伸びをするふりをして、タンクトップから腋を晒す。その2秒後、コメント欄が爆発した。舐めたい、しゃぶりたい、嗅ぎたい。そういう獣じみたコメントが洪水のように流れ、下心ありありの万額投げ銭が飛び交う。同時に女性らしき視聴者から下品だのビッチっぽいだのと悪口も飛ぶが、今さら人に嫌われることを厭う愛梨ではない。ただ一度伸びをしただけで、人の皮を被った獣が感情を剥き出しにするのが面白くてたまらない。まさに今、数百の視聴者から一挙手一投足に注目されている最中、愛梨は足裏を浮かせて下半身を締める。

 (ああ、気持ちいい……)

 いつになく異物の振動が強く感じられ、愛液が滲む。もはやショーツでは愛液を吸収しきれず、ホットパンツの裾からも愛液が流れはじめていた。

「うわ……!」
 配信を終えた後、ホットパンツごとショーツをずり下ろした愛梨に、麻友は口を覆う。彼女の視線は、愛梨の茂みの下を見つめている。愛梨にも理解できた。今そこに、太い愛液の糸が引いていることが。
「興奮してきたわ。麻友、“する”わよ!」
 愛梨はそう宣言すると、麻友の手を引いてベッドに連れ込んだ。麻友は最初こそ面食らっていたものの、そのうち慣れた様子で愛梨の相方を演じはじめる。
 折り重なったまま、指で互いの花弁をくつろげ。舌でさらに花開かせ。互いに十分濡れたところで、『貝合わせ』でぐちゅぐちゅと柔らかに性器全体をすり潰す。
「ああっ、こすれる! き、気持ちいい……!! ふふふ、あんたもコツがわかってきたわね。あたしをこんなに感じさせるなんて!」
 愛梨は麻友を褒めつつ、顔を近づけて唇を奪う。舌をたっぷりと絡めて情熱的なキスを交わしたあと、愛梨は麻友の目を見つめた。
「ねえ。あたしのヴァージン、今日奪ってちょうだい!」
 目を輝かせて告げられたその言葉を、麻友は反復しなかった。不思議と彼女も、今日それを求められる気がしていた。

「…………あああああっっ!!!!」

 ペニスバンドで挿し貫かれた瞬間、愛梨は腰を浮かせながら叫んだ。確かに痛い。身の内で何かが裂けた気がする。しかし、聞いていたほどではない。そして今は、それ以上に快感の方が強かった。これまで指で浅くしか触れられてこなかった場所に、ようやく訪れた異質な刺激……その新しい扉が興味を惹く。

 愛梨はその夜、朝方まで初めての感覚に酔いしれた。
「あの、愛梨さま。初めてですから、あまり無理されない方が……」
 犯す麻友の言葉にも耳を貸さない。それどころか、噂に聞く四十八手をやってみたいなどと言い出すものだから、さすがに徹夜はまずいと諫めたほどだった。

 処女を失った翌日は、一般的に痛みで座る事さえ困難だという。しかし愛梨は痛がるどころか、せっかくバイブが解禁されたのだからと、膣に収めたまま登校してみせた。限界まで裾を詰め、ちょっとしたことでショーツが覗く超ミニのスカートを直しもしないまま、だ。
 顔もスタイルも校内どころか地域で一番とも言われる愛梨は、四六時中その肢体を視姦されている。椅子に座っている時は脚を組んで秘所を覆い隠しているものの、いつ誰に悟られるかわかったものではない。だが、愛梨にしてみればそのスリルが溜まらなかった。

 (ふふふ。今、もしかして見えたかしら? あいつ、ずっとこっち見てるけど……確か去年の秋に振った男子よね)

 仮にバイブを入れていることが露見しても、変人で知られている自分が今さら失うものなどない。そして確実なメリットして、この状況は激しく気分が高揚する。ドラッグでのトリップにも匹敵するほどに。


                ※


 処女を失ってからは、指と舌だけでなくバイブも調教に使われるようになった。膣の中に入れることができ、機械特有の微細な振動を放つバイブは、それまで以上の快感を愛梨にもたらす……はずだった。
 しかし実際に愛梨が試してみると、思ったほど具合がよくない。サイズや形状の問題かと数種類試してみても、高揚感はどれも大差なかった。
 愛梨にとっては依然として、麻友と触れ合いながらの指と舌での愛撫が最も昂る。その次が麻友による遠慮がちなバイブ責めで、自分一人でのバイブ自慰は最も興奮から遠い。
「電マでもイケなかったし……あたし、機械が肌に合わないのかしら?」
 愛液まみれのバイブを引き抜きながら、愛梨は自室で独りごちる。自分を知るためにプレイを始めたというのに、かえって分からなくなった。

 愛梨は模索する。
 ある日のライブ配信には、ここ最近レギュラーとなっていた麻友の姿がなかった。
「あの子は今日ちょっと用事があってね。でも、たまにはあたし一人っていうのもいいでしょ? 可愛いあたしを見て、猿みたいにシコってなさい!」
 いつも通り挑発的な発言で注目を浴びる愛梨。その姿はやはり普段と変わらないが、その水面下では痴態が繰り広げられていた。
 上は豊かな乳房を強調するボーダーのタンクトップを着ているが、下には何も身に着けていない。むちりとした脚は左右に開脚したまま折りたたまれ、太腿と脛の半ばをベルトで結束されている。その丸出しの秘部を、パソコンデスク汚下に潜り込んだ麻友が愛撫していた。愛梨の肩書上の主人となってから1ヶ月あまり。ほぼ毎日のように奉仕し、愛梨の性感帯を十分に把握した麻友が、だ。
 麻友の愛撫はいつも優しいが、今夜は殊更にソフトだ。陰唇を口に含んで舐め、浅く舌を入れる。しばらくすると口を離して代わりに指を挿入するが、ほとんど動かさない。Gスポットを一度捉えれば、そこに指先を押し当て、たまにぐっぐっと押し込む程度だ。クリトリスにも左手を添えているが、こちらも親指の腹で軽く圧迫している程度にすぎない。
 一切の音さえ立たない、ただ肌が触れているだけの愛撫。しかしなぜかそれが、バイブ責め以上に愛梨を昂らせた。身体の上半分では普段通りの姿を演じているが、膣の内部は指先で『芯』を縫い留められたまま複雑に蠢き、足指も開いたまま強張り続けている。5分もすれば、麻友の手首を伝った愛液が床に滴りはじめた。
「『今日ノーブラ?』……そ。家でブラジャーなんて窮屈なもの着けないわ。最近は夜でも暑いしね。『オッパイの形崩れるぞ?』……お生憎様、まだまだ若いから大丈夫ですー」
 愛梨は上機嫌に笑いながら、淀みなく配信コメントを処理していく。しかしその言葉は、あるコメントで一瞬途切れた。
『乳首勃ってる?』
 コメントは愛梨の変化を目敏く指摘している。
「……そうかな、わかんない。まあ思春期って、急にそういうことあるのよ。っていうかどこ見てんの、このヘンタイ!」
 けらけらと笑いながら、愛梨は自分が激しく興奮していることを自覚した。このシチュエーションは悪くない。

「……麻友。5分以内にイカせて」
 愛梨は、ライブ配信の枠をあえて自動更新せず、5分後に次枠を設定した上で麻友に命じる。その程度の注文であれば、さすがに麻友も慣れたものだ。
「はい、愛梨さま。ちょっと激しく失礼します」
 膣を刺激する右手の指を中指・薬指から中指・人差し指のセットに変え、愛撫で蕩けた膣上部の壁をぞりぞりと掻きむしる。同時に左手の親指は膨らんだクリトリスの付け根を捉え、そこから先端に向かって力強く裏筋を擦り上げる。いささか乱暴ではあるが、充分に『潤った』愛梨を絶頂させるにはこれがいい。
「んっ、んっ! あ、ああ……ああああっ!! い、イキそう……ああイク、あああああっっ!!」
 愛梨は目を閉じたまま首を振り、椅子に背を預けて仰け反った。その直後、戦慄く割れ目から飛沫が噴きだし、拘束された太腿がブルブルッ、ブルブルッ、と何度も痙攣する。男の射精にも匹敵する、あまりにも顕著な絶頂だ。

 (い、イッちゃった……この間より、深く……。
  き、きもちいい…………)

 愛梨は椅子に沈み込んだまま涙を流す。苦しみの涙に近いが、ひどく甘い感覚だ。
 愛梨はそのまま麻友の手で、さらに何度か上りつめた。5分後、配信の次枠に集まった視聴者達は、まずは愛梨の姿が映ったことに安堵した。だがその姿には、誰もが違和感を抱いたはずだ。いつでも挑発的に煌めいていた愛梨の瞳が、今の数秒に限っては、どこか潤んだまま焦点を定めずにいたからだ。
「あー、ごめんごめん。眠くってさ、欠伸した直後だったんだよね」
 愛梨はそう誤魔化したが、すでに遅い。配信のコメント欄は、美少女の蕩け顔に欲情したという内容で埋め尽くされた。


                ※


 どうやら自分は、特殊なプレイに興奮するようだ。
 愛梨はそう確信を得て、そこからは野外プレイの頻度を増やしていく。
「このバイブ……今からあたしが使うの」
 麻友と共に訪れたアダルトショップで、愛梨は若い男の店員にそう囁く。店員は目を丸くして愛梨の顔を見た。
『まさか、こんな可愛いコが……?』
 店員の顔にはありありとそう書かれている。
 そうしてからかった後、そのバイブを木陰などで挿入してから、深夜の『散歩』に出かけるのだ。無論まともな格好で、ではない。身につけるのはソックスとローファー、薄手のコートだけ。コートの中は全裸あるいは縄を打った状態で、股間にバイブを仕込んで歩き回る。
 これは中々に刺激的だった。誰かとすれ違うたび、気付かれるのではというスリルが愛梨の鼓動を早める。すでに変わり者と思われているクラスメイトと道行く不特定多数の人間では、露見した際のリスクが違う。絶対にバレてはいけない──そう思えば思うほど、愛梨の秘裂からは蜜が伝い落ちた。
 しかし、同じ露出プレイでもその興奮度合いには随分と差があった。
「今日は、学校に忍び込みましょう!!」
 何度かの露出経験を経て、ある夜愛梨はそう宣言した。
「ええ!? が、学校ですかぁ!? それって、もしかしてウチの……」
「当然よ。ウチじゃなきゃ合鍵もないし、警備のスケジュールもわかんないし、何よりドキドキしないでしょ!」
 さすがの麻友も気後れしたが、好奇心に火が点いた愛梨を止められる人間などいない。
 校舎入り口、下駄箱の陰でコートを脱ぎ捨て、赤いペット用の首輪を装着する。その状態でアソコにバイブを入れ、麻友のリードで深夜の学校を張って回る。これは露出調教の中でも相当にハードルが高い。夢想する人間はいても、実際やってしまう人間は決して多くないだろう。つまりそれだけ刺激的なプレイであり、自分にもしマゾの素質があるのならば、この行為で相当な快楽を得られるだろう──そう確信していた。
 ところが、その計算はやはり外れる。
 丸裸のまま犬のように校舎を這っていると、たしかに鼓動は早まった。肌寒い中、熱い膣とバイブの存在を常に感じ、愛液がぽたぽたと行く道に滴り落ちた。しかし、ライブ配信で得た圧倒的な興奮には程遠い。最後の、声を出せば学校中に響く放送室でのバイブ責めだけは良かったが、全体的には失敗だった。

 これは刺激的に違いないと期待に胸を膨らませ、いざ実践すると肩透かしを食らう。それを何度も繰り返すうち、いよいよ愛梨は自分の性癖というものが分からなくなった。
「旅行に行く前の日が一番楽しい、みたいなアレかしら」
「ええと……よくわかりませんけど、もしかしたら……その、わたしが近くにいるから興奮できないのかも……だとしたら、す、すみません……」
 愛梨が不貞腐れた表情で麻友に問いかけると、麻友は眉を垂れ下げて縮こまる。
「…………」
 愛梨は押し黙った。
 麻友が原因ではない。プレイに興奮できる時・できない時、その両方に麻友はいたからだ。マッサージ器では興奮できず、麻友の指責めで昂った経緯を考えれば、彼女の存在はむしろ愛梨の興奮に大きく寄与している。
 学校の徘徊で興奮しなかったのは、愛梨のプレイ欲求ばかりが先行し、パートナーである麻友を『リードを引くための装置』程度にしか見ていなかったからではないか。事実、彼女の存在を思い出した最後の放送室のプレイだけは、膝が笑うほどに興奮できた。
「………………麻友。次の露出プレイは、あんたが考えてくれない?」
 熟考の末、愛梨は麻友を見つめてそう告げる。
「え……? え、ええええーっ!?」
 麻友は驚き、ぶんぶんと手を振った。しかし結果、そんな彼女が気恥ずかしそうに実行したプレイこそが、愛梨に過去最大の興奮を齎すことになる。


                ※


 ぬるい。
 麻友からプレイの構想を聞かされた時、愛梨はそう感じた。
 いつも通り全裸にコート姿で夜の公園へ行き、トイレの個室に入って『声を出しちゃ駄目』プレイをする。内容はそれだけだ。
「す、すみません……。色々と考えたのですが、わたしなんかの案て、もし愛梨さまの身に何かあったらと思うと……」
 麻友は恐縮しきった様子で頭を下げる。そんな小動物のような姿を見せられると、流石の愛梨も無碍には出来ない。
「ま、あんたに任せるって言ったのはあたしだしね。いいわよそれで」
 目を閉じ、嘆息混じりにそう告げた時点では、愛梨はこのプレイに少しも期待していなかった。
 ところが……


「ほら……息が荒くなってきましたよ、愛梨さま」
 麻友は愛梨の耳元で囁きかけながら、摘んだ両乳首を押し潰す。目隠しをされた愛梨にとって、それは完全に不意打ちだ。
「ッぃ、ひぎッッ!!」
 歯を食いしばり、乳房から迸る鋭い快感を耐えしのぐ。
 愛梨の心臓は早鐘を打っていた。
 視界が閉ざされているため、逆にそれ以外のあらゆる感覚が研ぎ澄まされている。鼻腔をつくトイレのアンモニア臭。素肌に触れる生ぬるい外気。首筋に感じる麻友の気配。

 ……
 …………
 ……………… また、乳首が摘み上げられた。

「あぐうううっ!!?」
 不意打ちなので声が殺せない。乳首と秘裂がほぼ同時に疼き、そこから一瞬遅れて、鈍い痺れが腋や背中の神経を這い降りていく。
「…………はあっ、はあっ、はあっ、はあっ…………!!」
 息が乱れる。
 汗がひどい。
 膝が笑いはじめている。
 指で丹念にいじめ抜かれた乳輪と乳首は、今や完全に愛梨の急所だ。そこを捻り上げ、押し潰されると、その度に軽く絶頂してしまう。秘裂の内部はすでにドロドロだ。そこにバイブを咥え込まされているのもまずい。便器が邪魔で、常にがに股の姿勢を強いられるのも最悪だ。
「あんまりハアハア言ってると、誰かに見つかっちゃいますよう」
「!!!」
 麻友の言葉に、愛梨はぎくりとする。
 そう。この極限状況下で、愛梨が最優先に警戒しているのが『音』だ。今は電灯の周りを飛び回る虫の羽音しか聞こえない。しかし、もしそこに人の気配……靴音や咳払いの音が少しでも混じったならば、死ぬ気で声を殺さなければならない。そのプレッシャーが、愛梨を余計に追い詰める。もう何十分も追い詰め続けている。
 限界は近い。
「…………あ。誰か、来たような…………」
「えっ!?」
 麻友の言葉に、愛梨は思わず耳へと神経を集中させる。その瞬間、乳首がねじ切らんばかりの強さで捻り上げられた。完全に意識外のタイミングだ。無防備に顎へもらったボクサーのように、意識がホワイトアウトする。
「あダメ、イク、イクううっ!!」
 絶頂を訴えるが、麻友は乳首への圧迫を緩めない。母乳の出る身体ならば残さず搾り取られていそうな強さで、円錐状の引き延ばしをキープする。
 それがトドメとなった。膣内が激しく痙攣し、収縮し…………弛緩する。
「あああああああああああっっ!!!!」
 愛梨は叫びながら全身を震わせた。割れ目からは潮が噴きだし、バイブを入口の戸に叩きつける。出るものが出てしまえば、もはや愛梨の身を支える力はなく、洋便器の上に力なくへたり込んでしまう。

 事が終わった後、麻友は態度を一変させて頭を下げた。
 自分には人を責める才能はないから、前に愛梨から受けた責めの中で、一番余裕がなくなった時の責めを真似してみた。乳首だけをイジメ抜かれるのも、気を逸らした上でフィニッシュを仕掛けるのも、自分は本当に驚いたし興奮したので、愛梨も喜んでくれるのではと思った。でも自分が不器用で、ただ痛いだけだったなら許してほしい。
 麻友は半泣きになりながら、身振り手振りでそう訴えているようだ。しかしその弁明は、一語たりとも愛梨には届いていなかった。彼女は目と口を半開きにしたまま、半ば失神しているのだ。

 (な……なんだったの、今の……!?
  こんなハードでもなんでもないプレイで、なんであたし、ここまで……?)

 定まらない意識でいくら考えても、答えは出ない。
 愛梨は、いよいよ理解不能な迷宮に迷い込んでいる気分に陥った。


                ※


 トイレの一件以来、愛梨は麻友に責めを任せることが増えた。麻友は派手なプレイを好む娘ではないから、ただベッドの上で愛撫する、といった凡庸な責めを選ぶことが多い。しかし今の愛梨には、それで充分だった。
「あ、あ、あ、ダメ、そこダメ! 敏感になっでるがらっ!!!」
 愛梨が焦った様子で麻友に呼びかける。その直後、開かれた脚の間から勢いよく飛沫が飛んだ。
「で、でも愛梨さま……まだ時間が残っていますから……」
 麻友はちらりと時計を見つつ、指責めを再開する。
「あああっ、ぎもちいい……!! はッ、はぁ……い、イクぅうッ!!」
 愛梨はさらに叫び、ついに脚をMの字に上げてしまう。
『1時間、刺激に堪えること』
 以前、強烈なマッサージ器相手に余裕でクリアできた条件が、今の愛梨には達成できない。
 今日はマッサージ器と指責めの二刀流だった。今でもマッサージ器だけならかろうじて耐え凌げるが、その合間に指責めが入ればもう駄目だ。あれだけ満ちなかったコップの水が、石でも投げ込んだように一気に溢れる。

 (……要するにあたし、この子の責めが好きすぎるってことじゃない)

 薄々と、その事実には気付きつつあった。ほんの数ヶ月前までは『変わった考え方をする面白い人間』でしかなかった麻友の存在が、愛梨の中で大きさを増している。もしかすれば人生で初めて、本当の意味での『友達』になれそうなほどに。
 しかし、愛梨は疑い深い。類稀なルックスと癖の強い性格を併せ持つ彼女は、17年という人生で様々な悪意に触れてきたのだ。
 善人めいた顔と声色で近づき、美しい少女を犯そうとするケダモノ教師。
 上り調子の時は散々媚びを売っておきながら、状況が悪くなった途端に掌を返す取り巻き達。
 そうした人間を見てきた愛梨は、麻友のことも信用しきれない。ゆえに、愛梨は麻友に対してテストを行った。
「睡眠薬でぐっすり眠ってるあたしに愛撫して、どんな反応をしてたか教えてほしいの。ちょっとした興味よ」
 愛梨は麻友にそう持ち掛けた上で、自室に監視カメラを設置した。棚の上から、ベッドを中心に部屋全体を見渡せるようにだ。
 麻友の自分への想いが嘘ならば、これでボロを出すはずだった。口頭での報告義務しかない麻友は、プレイをしたふりをしてすぐに帰ってもいいし、愛梨への恨みがあるのならば陰湿な報復をしてもいい。
「さて……小心者っぽいあの子の本心は、どんなかしら」
 愛梨は少しの緊張と不安を胸に、映像を再生する。そしてそこには、ある意味で愛梨の予想外の内容が映っていた。

「愛梨さま? ……寝てらっしゃいますか?」
 麻友は、ベッドで寝息を立てる愛梨にそう呼びかけた。そして愛梨が本当に眠っているのを確認すると……彼女は、愛おしそうな表情で愛梨の横に腰掛け、その前髪を払いのけた。
「本当に、いつもお美しい……でも寝顔だけは、可愛らしい天使みたいですねぇ」
 どこか歌うように囁き、麻友はやさしい手つきで愛梨の服を脱がしていく。そして愛梨を生まれたままの姿にすると、命令通りに愛撫をはじめた。恋人のように笑みを湛えて寄り添いながら。
「気持ちいいですかー、愛梨さま。わたしは、この場所がすっごく気持ちよかったんですけど……愛梨さまは、少し違うみたいですねぇ」
 ぐちゅぐちゅと音を立てて指を動かしながら、麻友は愛梨に呼びかける。
「あっ、あっ、あっ……」
 一方の愛梨は、薄らと口を開けて喘ぐばかりだ。心地の良さそうな吐息。軽く内股に閉じたまま、ピクピクと動く脚もまた快感を訴えている。それはカメラに映らない麻友の指が、律儀に愛梨に奉仕している証だった。
「……ありがとうございます、愛梨さま」
 答える者などいない状況で、それでも麻友は囁きかける。
「今でもわたし、自信なんてないですけど……それでもいつも楽しそうな愛梨さまを見ていると、それだけで元気をもらえるんです。こうして愛梨さまに求めてもらえるのも、本当はすごく嬉しくて……」
 麻友はそこで言葉を切り、身を屈めた。身体の陰になっているため、カメラには行為は映らない。しかしそれが愛梨への口づけであることは、状況から明白だった。
「……でも、ずっと一緒にいてなんて言いません。愛梨さまは色々なことに興味を示されて、目を輝かせながら毎日違うことをされる方ですから、わたしがいたら足枷になっちゃいます。この先、違う道を進まれることになったら、どうかわたしのことは振り返らないでください。わたしは、いつだって前を向いているあなたが好きなんですから……」
 麻友の独白はそこで途切れた。そこからの彼女は奉仕に没頭していた。左手でぐちゅぐちゅと音をさせながら膣を刺激し、右手で胸を丁寧に愛撫し、時に唇を重ねながら。
「あ、ああ……い、いく……! いきしょう……いっれいい? あゆ……まぁ、ゆう…………!」
 愛梨は、麻友の名を呼びながら絶頂を口にした。脚は先ほどよりもきつく内股に閉じ、太腿を張ったまま、全力で快感に浸っていた。声色も、脚の形も……疑いようなどなく、幸せそうだった。

「…………いつも、前を……か」

 麻友のその言葉で、愛梨は行く道を決めた。高校卒業後に進む大学は、国内最難関の国立、東州大学。学年で中の下程度の麻友にはとても望めない大学だ。遠く離れたそこへ通うことになれば、地元の麻友と会う機会はほとんどなくなるだろう。事実上、決別に等しい。
 麻友に歩幅を合わせ、あえてレベルの低い大学に行こうかと考えたこともあったが、もうそれはしない。旺盛な知的欲求に従って、望む道をひたすらに突き進む。
 いつか再び会った麻友に胸を張って、自分が何者かを誇れるように。


 

ドリーミィ・カプセルvs冴草里奈

※『ドリーミィ・カプセル』および『AV女優 冴草 里奈』の続編です。
機械姦注意。また微スカトロ(ドナン浣腸とゼリー排泄、失禁)要素があります。ご注意ください。





 ────AM7:30  エステ『ドリーミィ・カプセル』バックヤード────


「なによ宏尚(ひろなお)、あんたこんな朝っぱらからAV観てんの?」
 店のモニタールームを覗き込んだ安西 翔子が、意外そうに目を丸くした。
「な、なんだよ……悪ぃか?」
 宏尚はバツの悪そうな顔で応じる。
「別に悪いとは言ってないでしょ。でもあんた、『店の映像で女のハダカなんていくらでも見られるんだから、AVなんて観る気しねー』とか言ってたじゃん」
「ぐっ……!」
 確かに思い当たるフシがあり、宏尚は言葉に詰まった。
 女性用性感マシン『ドリーミィ・カプセル』は、その名の通り女性に夢のような体験をさせる機械だ。人間相手では実現しえない、機械ならではの責めの数々で来店者を悶え狂わせる。そのサービスを提供する裏で、宏尚はマシン内部の映像を個人的に堪能する趣味があった。話題につられて来店した若く美しい女性が、機械の無慈悲な責めにのけぞり、痙攣し、ついには涙ながらに哀願さえする無修正映像は、一般的なアダルトビデオよりもよほど刺激的だった。
「うるせーなあ。AVっつっても、この人のだけは別なんだよ!」
「はいはい、キレんなってモジャブタ」
 憮然とした表情でモニターを示す宏尚。翔子はその態度を鼻で笑いながら、モニターに視線を向ける。小馬鹿にしたようなその表情は、しかし、徐々に驚きへと変わっていった。
 究極──そんな言葉が翔子の脳裏に浮かぶ。
 その映像の中に、半端なものは一つとして存在しなかった。老いを感じさせる色黒のAV男優の巧みな前戯。雄々しい巨根によるスムーズな3穴責め。人並み以上にセックス経験のある翔子には、それらがどれだけ『たまらない』かが良く理解できる。ほんの数分ばかり映像を見ただけで、思わず股間が疼くほどに。
 その責めを一身に受ける女優もまた、凡庸ではなかった。激しく喘ぎ、乱れながらも、美しいという印象が崩れない。ルックスも女優顔負けのレベルだが、何より身に纏うオーラが異質だった。アダルトビデオなどには縁遠い良家の令嬢にも見える。逆にAV女優こそ天職の淫魔にも見える。綺麗さ・可愛さ・純真さ・妖艶さなど、女性としての魅力の全てを兼ね備えた、まるでヴィーナスの化身だ。
「…………っ!!」
 今度は翔子が絶句する番だった。
 翔子もルックスには自信がある。最上級の織物のような長い黒髪。 猫のようにくっきりと開いた吊り眼。スペイン系クオーターゆえの完璧すぎる鼻筋。 見事な八頭身のスタイル。その暴力的なまでの見目の良さで、高校時代は男子人気を独占し、女王のように君臨していた。だが、もし高校時代にあの女優がいたなら……ルックスの良さで翔子と競り、独特のオーラを放つあんな同級生がいたなら、翔子が牙城を築くことなどできなかっただろう。
「ふーん。まあ綺麗めだけど、今どきのAV女優でこれぐらいのルックスなんて普通でしょ」
 翔子はそう捨て台詞を吐くのが精一杯だった。しかしその渾身の恨み節にも、宏尚は動じない。むしろ、にやりと笑ってみせた。
「普通かあ。でも、だとしてもヤバいぜ。だってこの人、このAVん時で32だし」
「さんっ……!?」
 翔子はまたしても絶句する。改めて画面を見ても、悪い冗談としか思えない。見た目の印象、雰囲気、肌の艶や汗の弾かれ方……どれもがせいぜい女子大生レベル、下手をすればティーンのそれだ。今まさに喉奥まで咥え込まされて噎せ、ふっと上を向いた顔などは、幼い少女にすら見える。
「信じられねーだろ。でもホラ、もう10年以上AV出てる大ベテラン!」
 宏尚はそう言ってモニターデスク横のラックを開く。そこには同じ女優名のビデオがずらりと並んでいた。その数は数百にも及ぶ。あのヴィーナスの魅力がそんなにも世に発信されているという事実に、翔子は眩暈がする思いだった。
「あれ、つか待って。この人、『冴草 里奈』って……?」
「お、気付いた? そ、今日AVの撮影したいってオファーがあった女優。あのAVクイーンにナマで会えるって思ったらテンション上がってさあ、コレクション観返してんだよ!」
 アダルトビデオのパッケージを撫でながら、デレデレと頬を緩める宏尚。そんな姿を前に、翔子は冷ややかな視線を浴びせる。
「ま、そういう訳だから。よろしく頼むよ、『助手』クン!」
「……お前、マジでまたイジメんぞ?」
 超人気エステ『ドリーミィ・カプセル』に冷ややかな空気が立ち込める。その原因となった冴草 里奈は、その頃……


 ────AM7:50  マンション『リーゼロッテ朝陽』205号室────


「よく飲むねーユウくん。ママのおっぱい、好き?」
 夢中で母乳を吸う息子に、AVクイーン・冴草 里奈は愛おしそうな笑みを向ける。彼女が撮影で見せてきたどんな表情とも違う、慈しみと希望に満ちた笑顔だ。
「はーあ、離れたくないなー。一日が100時間くらいあればいいのに。そしたら90時間はユウくんと一緒にいられるよ」
 満腹になった息子をあやす動作も、すっかり板についていた。
「一日が100時間もあったら、子供なんてあっという間に大きくなって抱っこできなくなるよ」
「んー、そっかぁ。シュンくんが言うと説得力あるね。ちょっと前まで子犬みたいだったのに、グングン大きくなっちゃってさ」
 里奈は背後から近づく男を見上げる。男……駿介は里奈が抱く子供の父親だ。以前は里奈の後をついて回るだけの子供だったが、それから2年経って18歳となった今では、軽く里奈の背丈を越えていた。
「僕だってもう一児の父親なんだから、子供のままじゃいられないって」
 駿介はポンポンと息子の頭を撫でると、デスクに座って仕事に勤しみはじめた。
 駿介は高校生でありながら凄腕の動画編集者だ。表立っては言えないが、ここ最近の里奈のAVのモザイク処理や編集・PR等はすべて駿介の手で行われており、その手腕は古参のファンからも高い評価を受けている。将来的にはAV監督になり、『冴草 里奈』という最高の逸材をプロデュースする夢を持っているが、それは里奈本人にも話していない密かな野望だ。
「そういえば、母さんもうすぐ来るって」
 駿介はふと思い出し、里奈の方を振り返った。愛息子の額にキスをしていた里奈は、その言葉にびくりと肩を震わせる。
「そ、そっか。お義母さんにはいつもお世話になりっぱなしで申し訳ないなぁ」
「別にいいでしょ、母さんも好きでやってるんだろうし。やりたくないことは意地でもやらないタイプだから」
「そうは言ってもねぇ……」
 いつも自分の哲学に沿ってハキハキと話す里奈だが、珍しく歯切れが悪い。しかしそれも当然だった。なにしろマンションの隣に住む高校生に手を出し、子供まで設けたのだ。その母親に対して頭が上がらないのも無理はない。
 とはいえ、駿介の両親は諸々の事実を伝えられた時、一言も里奈を責めなかった。自分たちは冴草里奈という人間を信頼しているし、息子もまた一時の感情で告白するような子供とは思っていない。当事者の2人が本気で愛し合っているなら、こちらも全力で応援する。そう宣言し、実際に母親は忙しい里奈に代わって孫の面倒を積極的に見ていた。

「……あ、そろそろ出ないと」
「っ!」
 里奈が時計を見て呟くと、今度は駿介の顔が強張る。
 今日の里奈の撮影は、『ドリーミィ・カプセル』と呼ばれるマシンの体験ドキュメンタリーだ。オファーを受けてネットで情報を調べたところ、かなり強烈な代物であることがわかった。ドリーミィと名がつく通り、そのマシンは女性を夢見心地にする。しかしそれはメルヘンチックな意味とは程遠い。一度『ドリーミィ・カプセル』の快感を知った女性はその味を忘れられず、夫や恋人を放置して足しげく店へ通うようになるという。ネットには、マシンに最愛の女性を“寝取られた”男達の怨嗟の声が渦巻いていた。
『まるでホスト狂いか、ドラッグの依存症ね。そんなに凄いのかしら』
 青ざめる駿介の横で、里奈は興味深そうにそう呟いた。冴草里奈という女性は知識欲の塊だ。高学歴な才媛でありながらAVという世界に身を置いているのも、性への飽くなき探求心があればこそだ。そんな里奈が、『ドリーミィ・カプセル』に興味を示さないはずがなかった。予約殺到の店だけにAV撮影の日取りが決まるまでは数か月かかったが、里奈はずっとその日を心待ちにしていた。だからこそ駿介は行くなとは言えない。かといって、心配するなというのも無理な話だ。
「……里奈さん、待った」
 駿介は椅子から立ち上がり、靴を履きかけの里奈を抱きしめる。そして、自然な流れで唇を奪った。
「ん……っ」
 高校生とは思えぬほど巧みなキスだ。唇は生き物のように蠢き、口内に侵入した舌先は里奈の歯茎、舌の付け根、そして上あごの粘膜を丹念に舐めまわす。
「んんっ、んんんんっ……!!」
 里奈はゾクゾクと身を震わせ、たまらずに駿介の胸を押しのける。唾液の糸を引きながら口が離れた時、里奈の頬は紅潮しきっていた。
「はあっ、はあっ……もう、シュンくんっ! キスだけでイカせるつもり!?」
「そうだよ? 出かける前にちゃんとマーキングしとかないと。『ドリーミィ・カプセル』だかなんだか知らないけど、機械なんかに僕の里奈さんは渡さない」
 笑顔でそう言い放つ駿介。里奈は口元を拭い、やや悔しげにその顔を睨み上げる。

「あんのチビちゃんめぇ。ホント、やってくれるわ……!!」

 外は日和も良く、朝から少し蒸し暑い。しかし里奈が手うちわで顔を扇ぐのは、また別の理由らしかった。


                ※


「よ、ようこそ、お待ちしてました」
 事前にシミュレーションを重ねたにもかかわらず、宏尚は初めの挨拶を噛んだ。満を持して対面した本物の『冴草 里奈』に呑まれたからだ。AV業界のトップタレントだけに引き連れるスタッフの数も多く、大物感が増しているのもある。しかし何といっても、里奈本人の纏うオーラが一般人とは明らかに違った。

(……なんなの、この女……!?)

 撮影陣を迎え入れた安西 翔子も、同じく舌を巻く。学生時代は学園のマドンナ、社会人になってからはスーパーモデルとして男の視線を釘付けにしてきた自分が、一瞬にして脇役に成り下がったのを感じる。ルックス云々の話ではない。もっと根本的な部分が違う。
「お忙しい中、お時間を頂き有難うございます。今日は色々と勉強をさせていただきます!」
 カリスマAV女優は、そう言って恭しく頭を下げた。場慣れしているがゆえの社交辞令に違いない。実際には擦れた人間で、撮影が終われば煙草をふかしながら「生意気なガキ共め」と陰口を叩くに決まっている。しかし里奈の人懐こい笑みを見ていると、本当にこちらを尊重してくれているのでは、という気分になってくる。

(ウラの業界に長く居座ってるだけはあるね。人誑しの女狐が)

 早くも鼻の下を伸ばしているパートナーの後ろで、翔子は無表情のまま毒づいた。


「……なるほど、だから暗いカプセルの中でも肉眼に近いレベルで撮影ができるのね。スマホのアプリと似た感じに思えるけど、あっちは動きの激しい物の撮影は上手くいかないと聞いたわ」
「さすが、よくご存じですね。そこには勿論改良を加えていて……」
「……ああ、なるほど! 凄いわねぇ、よく考えられてるわ」
 撮影の準備が整うまでの間、里奈は積極的に宏尚に話しかけた。システムに関する質問を次々に投げかけ、宏尚の答えに一喜一憂する。宏尚はそんな里奈の姿に見惚れた。自然とタメ口になっているが、不快感はない。むしろ距離を詰めてくれたことが嬉しくさえある。

(なんていうか……魅力の塊って感じの人だな)

 宏尚は呆けた頭で思う。様々なものに興味を持ち、くるくると動く瞳は愛らしい。納得して頷く姿は理知的であり、ふとした瞬間に見せる表情は聖母のようだ。
 こんな彼女の妊娠が公表された時、ファンの受けた衝撃は相当なものだった。芸能アイドルの熱愛報道すら凌ぐ反響があった。しかし冴草 里奈はアイドルではない。貪欲な彼女は妊娠さえプラスに捉え、妊婦物AVというジャンルに飛び込んだ。妊娠初期から出産間近な時期までに、各レーベルから発売された作品は実に22本。瑞々しくも妖艶なAVクイーンが腹部だけを歪に膨らませ、母乳を噴きながら絶頂するそれらの映像は、多くのファンに新しい扉を開かせた。
『完全にやられた。もう経産婦じゃないと抜けねえ』
『あれ見た後に19歳の処女喪失モノ観たけど、味のしないガムみたいだった』
 里奈の非公式ファンサイトには、連日こうした感想が書き込まれていた。そして衝撃を受けたのはファンだけではない。カリスマ男優として業界内で里奈と双璧を為し、長らくのパートナーでもあった増谷準が、妊婦物作品を最後に里奈との共演NGを表明した。
『恥ずかしいハナシだけどさ。今さら完全に惚れちゃったんだよね、あの子に。男優ってあくまで役者だから、女優に入れ込んじゃダメなんだよ』
 AV産業を黎明期から支え、現人神とまで呼ばれた増谷準。それを篭絡せしめた今の里奈は、名実共に最高のAV女優といえる。

「冴草さま。まもなく撮影の準備が整うとのことです」
 翔子が事務的な口調で里奈を呼ぶ。
「分かったわ、ありがとう。店長さんも、色々教えてくれてありがとう!」
 里奈は宏尚に満面の笑みを向ける。宏尚は一回りほども年上の相手を、思わず愛らしいと思った。
「あ、いえ! 里奈さんも、その、実験する側がこういう事言うのもアレなんですけど……頑張ってください!」
「ええ、AVクイーンの意地を見ていてちょうだい。……みんな、最高の映像を作るわよ!」
 宏尚に改めて笑いかけ、プロの顔になってスタッフへ檄を飛ばす里奈。その姿を宏尚はボーッとした視線で追った。斜め前に立つ翔子の、苛立たしげな歯噛みにも気付かずに。


                ※


 宏尚が初めて目にするアダルトビデオの撮影現場は、なんとも落ち着かないものだった。『ドリーミィ・カプセル』本体を映す三脚つきのカメラが2台、機械内部の映像を映し出すモニターの正面にもカメラが1台。他にもマイクを構えたスタッフや照明機材も存在するため、部屋が狭く感じる。普通の撮影ならばそこに男優まで加わるのだから、さぞや騒々しいことだろう。
 そんな中で最初に行われたのは、予約特典用の動画撮影だった。
 シャワーブースの戸を開け放ったまま、艶めかしく身体を洗う里奈を映したものが<店舗予約特典>。
 風呂上りの里奈にM字開脚をさせ、クスコで開いたプレイ開始前の膣内状態を撮影したものが<WEB予約特典>。
 この2つの撮影風景を見ているだけでも、宏尚は鼓動が早まった。笑みを湛えたまま羞恥プレイを強いられる里奈の姿が、実験動物のように思えた。これがよく知らない女性なら、純粋に興奮できたのかもしれない。だが今の宏尚は、客観視するには里奈に入れ込みすぎていた。里奈との絡みをNGにした増谷のように。

 予約特典の撮影後、改めて里奈にメイクが施され、撮影用の紐パンツを着用させた上で、ようやく本番シーンの撮影が始まる。

「当店のコースには、S、A、B、Cの4コースがございます。Cは性経験なし~初心者様向け、Bはセックス経験10回以上を目安とした中級者様向け、Aは上級者という自負のある方向け。そしてSは、Aコースでもご満足いただけなかった超上級者様向けのスペシャルプランです。冴草さまはプロのAV女優とのことですので、コースはS、時間は最長の4時間コースとさせていただきます」
 白衣を着た翔子が、淡々とコースの説明を行う。説明役ならば店長である宏尚こそが適任のはずだが、画面映えの関係で翔子が抜擢された。翔子もまた、高校の教師すら誑し込むほどの美貌の持ち主だ。視聴者にとっては眼福だろう。
「もう一点。アダルトビデオの撮影ではありますが、ドリーミィ・カプセルのモニタリングでもあるため、過剰に喘いだり身体を揺らしたりといった演技は不要です。……もっとも、そのうち演技などする余裕すらなくなるでしょうが」
 翔子は真顔のまま解説を続けつつ、最後の一言で口の端を吊り上げる。そこには隠しきれないサドの気が滲み出ていた。
「自信満々ねぇ。いいわ、相手にとって不足なしよ」
 里奈はにっこりと微笑み返す。悪意をまともに受け止めるほど幼稚ではない。だがその余裕のある態度は、翔子にとっては面白くないだろう。
「では、始めさせていただきます」
 翔子はそう言って、『ドリーミィ・カプセル』の正面にあるデスクに腰かけた。かつては機械の操作はリモコンで行っていたが、現在はプログラムも複雑化しているため、パソコン上の専用システムであらゆる動作を管理している。
 翔子の指がキーボードを叩くと、卵型のカプセルの蓋が開いた。
「……っ!」
 機械の中を覗いた里奈が、一瞬顔を強張らせる。大小様々なモニターと配線に囲まれたコクピットのような座席は、ほとんどの女性に馴染みがないものだ。そこに閉じ込められる未来を想像して、躊躇しない人間などほとんどいない。
 しかし、そこは好奇心旺盛な冴草 里奈だ。たじろいだのはほんの一瞬で、次の瞬間にはふわりと宙を舞いながら機械内部に降り立っていた。乗り方ひとつにしても、これまでのモニターとは華が違う。

 里奈がシートに腰かけた瞬間、翔子の指が躍る。その直後、シートが変形し、里奈の手足にも拘束具が取り付けられる。
「あいつ……!」
 宏尚は眼を見開いた。
 拘束の仕方は設定者……つまり翔子が自由に決められる。それが悪意に満ちていた。腕は両腋を晒す万歳のポーズ、脚は出産時のような大開脚だ。
「これはまた……随分と恥ずかしい格好させてくれるじゃない」
 里奈は苦笑するが、AV撮影という目的を考えれば不適切とは言えない。それよりも気になるのは手足の拘束具だ。

(ずいぶん厳重ね)

 腕や脚に食い込まないよう、内部にクッションはあるものの、巨漢に掴まれているような圧迫感がある。対象が激しく暴れることを想定した拘束だ。
「冴草さま。そのまま手足を動かしてみてください」
 翔子がパソコン横のマイクに向かって告げる。その声は肉声でも聞こえるが、カプセル内部のスピーカーからも流れた。カプセルの密封後も、このスピーカーから指示が受け取れるようだ。
「んっ! く……っ!!」
 里奈は指示通り、拘束された四肢を内に閉じようとする。しかし、ほとんど動かない。高負荷のペクトラルフライやヒップアダクターのように、少し動かすにもかなり力がいる。体型維持のためにジムで鍛えている里奈は、一般的な女性よりも筋力があるはずなのに。
「んっ……ガッチリ拘束されてるわね。ほとんど動けないわ」
 そう言って一息ついた里奈は、目の前のモニターに緑色の表示が出ていることに気が付いた。英数字の『63』。乗り込んだ時にはなかった表示だ。
「お気づきになったようですね。その数字は『EP(エスケープポイント)』。平たく申し上げれば、手足をバタつかせて逃げようとする強さの指標です」
 エスケープ。その言葉に里奈がピクッと反応する。逃げるというのは、里奈がもっとも嫌う言葉の一つだ。特定のジャンルで一流と呼ばれる人間が、押し並べてそうであるように。
 そんな里奈の胸中を知ってか知らずか、翔子はマイクに向かって囁きつづける。
「冴草さまの測定値は63。これは63キロの強さで手足の拘束具が引っ張られたということです。参考までに申し上げれば、成人男性の背筋力が平均140キロ、トップアスリートでも200キロ台と言われています。ところが……絶頂して暴れている女性は、なんと300キロ台を記録することもままあるのです」
「へえ……火事場の馬鹿力ってやつね」
「その通りです。今回冴草さまには、このポイントを一定数以下に抑えるというチャレンジに挑んでいただきたく存じます。SコースをMAXの4時間体験された場合、一般的なお客様であれば平均して20万ポイント程度を記録されますから、冴草さまにはその半分以下……10万ポイント未満で耐えていただきます」
 翔子の声色は、ここで明らかに笑いを孕んだ。事前の取り決め通りのルールではある。しかしこれがどれほど無謀な試みかは、宏尚や翔子にしかわからない。人間には限界がある。一日4リットルの水が必要な環境を2リットル以下の水で凌ぐことなど自殺行為だ。宏尚も一応その説明はしたが、この撮影を取り仕切る黒田という監督は、無茶なぐらいでいい、里奈がまた壁を超えられると笑っていた。
「では、冴草さま。カメラに向けて意気込みをどうぞ!」
 翔子がコメントを求めると、里奈はにこりと笑みを作る。宏尚にとっては見慣れた綺麗な笑顔だが、彼女の様々な素顔を知った後ならば、それが繕われた外向けの笑みであることがよくわかった。
「冴草 里奈よ。このマシンはどんな女でも狂わせるって触れ込みだけど、プロの誇りにかけて耐えきってみせるわ!」


                ※


 蓋が閉じられると、カプセル内部は棺か石牢かという雰囲気に変わる。宏尚曰く、希望すれば日焼けマシンのようにライトアップすることも可能らしいが。
「入り心地は如何ですかー?」
 カプセル下方のマイクから翔子の声がする。今やそれが唯一の外界との繋がりだ。
「うーん、少し怖いわね。暗くて計器の光ぐらいしか見えないし、何より密閉されてるから圧迫感があるわ。ある意味、快感に集中しやすい環境とも言えるけど……これ、ちゃんと私の姿映ってるの?」
「はい。冴草さまは現在、向かって右側のモニターをご覧になっておられますよね?」
 翔子の言葉通り、里奈の動きはしっかりと把握されているようだ。

 アームの駆動音が響き、頭にカチューシャ状の何かが取り付けられた。
「当店オリジナルの脳波測定器です。常に被験者の脳波を探り、時にはエクスタシーへの最短経路を弾き出し、時には絶頂の際で刺激を遮断します。また、対象が絶頂状態を検知して発光する機能もございます。冴草さまが絶頂しておられない今は黒色ですが、絶頂へ近づくほどに鮮やかな赤へと変わっていき、深い絶頂状態となれば散光式警光灯……いわゆるパトランプのような眩い赤となります。映像をご覧の方は、ぜひ頭の測定器にもご注目ください」
 淡々とした解説に、キーボードを叩く音が重なる。次の責めの合図だ。

『 リンパ マッサージ 』

 正面上部のメッセージウィンドウにそのカナ文字が出力され、同時に機械音声が流れた。その直後、里奈の太腿の付け根付近に大量の電気パッドが取り付けられる。
「あっ」
 ヒヤリとしたその感触に、里奈は思わず声を上げた。直後にパッドを通して電気刺激が与えられると、やはり声が出てしまう。
「如何ですか、冴草さま?」
「んっ、ビリビリするわ。筋肉が勝手に動いちゃう感じ……」
「下半身を電気で刺激し、血流を良くすることでオーガズムを迎えやすくします。膣分泌液の量も増えるようです」
 翔子の解説の最中にも、里奈の太腿は意に反して強張り続けていた。最初こそむず痒さが勝っていたものの、次第に太腿全体にじんわりとした熱さが生まれはじめる。
「んっ……。これは、中々のテクニシャンね」
 ピクッ、ピクッ、と太腿が反応する中、里奈は顔が綻んでいくのを感じた。小さな電気パッドによる刺激は、小人が一生懸命に凝りをほぐしてくれているようだ。
「上手い上手い。偉いぞー」
 里奈はパッドに向けて囁く。マイクに拾われない程度に囁いたつもりだったが、あらゆる音を逃さない高性能な集音マイクは、その囁きをしっかり外部へと発信した。
「ふふっ」
 カリスマ女優らしからぬ愛らしい行動に、スタッフから笑みがこぼれる。宏尚も思わず破顔した。そんな空気の中で、翔子だけはあざといとも取れる里奈の行動に鼻白む。
「ああ冴草さま、申し訳ございません。せっかくのSコースだというのに、ついソフトな前戯から始めてしまいました。改めてSコースの責めをご堪能ください」
 その言葉の直後、里奈の足の間に台座がせり上がってくる。角度がやや鈍角、かつ背の丸い三角木馬という風だ。股割りの危険はなさそうだが、それはショーツ越しにしっかりと股座へ食い込んだ後も上昇を続ける。脚がピンと伸び切り、足首の拘束具が下に引かれてもなお止まらない。
「ぐっ、うっ……!」
 爪先立ちでも足先がカプセル底部につかなくなり、完全に宙へ浮く形となったところで、ようやく台座は上昇を止めた。
「く……」
 里奈は股間の痛みに唇を結ぶ。だが直後、台座が強烈に振動を始めれば、すぐに我慢は利かなくなった。
「あああああっ!!」
 刺激は強烈だった。クリトリスと割れ目すべてに電気マッサージ器……いわゆる『電マ』を押し当てられているようだ。普通であればたちまち感覚が麻痺しそうなものだが、ショーツ越しというのが絶妙だった。薄い布を噛ませることで刺激はやわらぎ、同時に快感は布を伝って広く伝播する。ショーツに覆われている場所……デルタゾーンや臀部にまで。
「ご覧ください皆さま。冴草さまの脳波測定器がピンク色に変色しているのがお分かりでしょうか。明確な絶頂には至っていないものの、着実にそこへ近づいているという証明です」
 翔子の声が高らかに響く。自信に溢れたあの声色がウソだとは思えない。他人には里奈の絶頂度合いが見えているのだろう。しかし、当事者である里奈だけがカチューシャの色を視認できない。それがもどかしい。

「くうう、うっ……!!」
 振動が始まってから、5秒で陰唇が痙攣しはじめた。10秒でショーツが濡れているのを自覚し、20秒で内腿にまで愛液が垂れるのを感じた。そして間もなく30秒を迎えようという今、陰唇からはじまる戦慄きは内腿にまで伝播し、愛液はどぷどぷと吐かれつづけて台座の斜面を流れ落ちていく。
「うーん……測定器の色が点滅していて、絶頂しているのかその間際なのかハッキリしませんね」
 その翔子の言葉に、キーボードの打鍵音が続く。直後、里奈の両足首の拘束具が下に下がりはじめた。木馬の背はいよいよ食い込み、濡れたショーツを膣内に押し込みながら性器全体をぐちゅりと潰す。
「はぐううううっ!!!」
 数百本のアダルトビデオに出演した身といえど、局部の一点にここまで負荷を受けた経験はほとんどない。

(さすがは最上級コース、まるで拷問ね……!)

 里奈は唇を噛み締めながら思う。
 拷問というのは言い得て妙だ 機械の中は狭く、暗く、地下牢か何かを思わせる。匂いが籠もるのも無視できない問題だ。汗の匂いと愛液の匂いが混ざり合い、メスの匂いとでもいうべきものになっている。

(心の弱い子なら病みかねないわ、こんな状況)

 そうも思うが、すぐにその考えの馬鹿らしさに気付く。心の弱い娘がこんなコースを選ぶはずもない。これを選ぶような人間はよほどの好き者だ。
 本来であれば、里奈もこうした刺激を堪能するのは吝かでない。しかしそれは、悦びを素直に発露できればの話。今それはできない。EP(エスケープポイント)という制約があるからだ。
「はあっ、はあっ、はあっ……あイク、イッく、イクッッ……!!」
 里奈は喘ぎながら絶頂を宣言する。見ている人間に絶頂をアピールするAV仕草だ。
「冴草さま? 過剰な演出は不要とお伝えしたはずですが。冴草さまが絶頂されているのは脳波測定器の赤さでハッキリと解りますので、口頭での追加報告は不要です」
 翔子の嗜めがユーモラスな空気を作ったのか、撮影スタッフの笑い声がスピーカー越しに聴こえてくる。
「……わかったわ」
 里奈は声を抑えようとした。しかし、長年の習慣はそう簡単には変えらない。
「あ゛イグ、イグッ!!」
 『電マ』系列の刺激にたまらず絶頂し、その事実をマイクに伝える。
「冴草さまー?」
 待っていたとばかりに呼びかけられる。だが今の里奈には、それを恥じる余裕すらなかった。

(く、苦しい……! 電マでこんなにイカされちゃ、息ができないわ……!!)

 強烈な刺激で立て続けに絶頂させられ、腹筋が異常に力んでいる。その苦しさを和らげるために手足をひきつける動きをすると、その度に真正面の英数字が増えていく。
『581』
『657』
『738』
 力むたびにこの調子でEPが増えていくものだから、里奈は手足をなるべく脱力させているしかない。そして勿論そうなれば、逃げたくなるほどの刺激を性器だけで受け止める結果となってしまう。

 そんな地獄がいったい何分続いただろう。酸欠で嘔吐感を覚え、視界が狭まりはじめた頃、ようやく台座の振動が少し弱まる。
「……ぶはっ、はあっ!はあっ!はあっ!!」
 里奈は溜めていた息を吐き出し、激しく酸素を求める。久々に水面から顔を出せたような気持ちだ。
 しかし、休憩が長く続かないことも里奈は理解していた。またしてもキーボードの打鍵音が響き、宙吊りになった身体の左右側面から何かが迫る。
 まずは、電極。吸盤のついた電極が乳房の各部に吸い付き、電気マッサージの要領で揉みほぐしてくる。 太腿のそれと同様、この刺激も緻密に計算されつくしており、プロの男優が行う愛撫と何ら遜色がない。
「如何ですか、冴草さま。このマシンの乳腺開発は気持ちいいでしょう」
「そ、そうね……こっちも中々のテクニシャンだわ」
「嬉しいお言葉でございます。ですが、本番はここからですよ」
 翔子の声に続き、今度は胸の先に“何か”が近づいてくる。
「え? 何……!?」
 幾度もの絶頂で屹立した乳頭。そこに取りついたものは、肉眼では捉えられない。髪の毛の1/20の細さしかない端子が無数に乳頭に取り付き、乳腺へと入り込む。
「んああっ!? な、なにこれ……!?」
 人力を超えた未経験の乳腺マッサージは、AVクイーンから不安げな悲鳴を絞り出した。
「胸の中を直接揉まれているようでしょう? 実は私もこのサロンに初めてきた時、それを体験したんです。よくわからない感覚なのに信じられないぐらい気持ちよくて、泣きたくなりました。あの頃の私でもそうなんですから、出産をご経験されている冴草さまなら、もっと気持ちがよろしいんでしょうねぇ」
 翔子は昔を懐かしみながらクスリと笑う。しかし、里奈は笑うどころではない。電極によるマッサージと直接的な乳腺開発の相乗効果で、母乳がぶしゅぶしゅと飛沫いている。しかもそれが気持ちいい。肩まで震え上がるほどに。
「くふうぅンっ……!!」
 下唇に歯を立て、未曽有の快感に耐える里奈。しかし翔子がそんな状態を許すはずもなかった。
「母乳が出る方には、こういったサービスも行っております」
 おそらくはカメラに向かってそう言うと、里奈の乳頭に取りついた端子を抜き去り、入れ替わりに透明な搾乳器を取り付ける。
「!!」
 未来を予見した里奈が覚悟を決めるよりも一瞬早く、吸引が始まった。諸々の刺激で屹立しきった乳頭がさらに引き延ばされ、どぷどぷと母乳を噴きだしはじめる。
「くああああっ!!」
 搾乳のもたらす快感はあまりにも甘く、里奈は仰け反りながら絶叫する。そう、この刺激は甘い。脳髄にまで染みるような危険な甘さだ。

(なにこれ、こんなの知らない……! これ、さっきの刺激より……っ!!)

 口を開閉させて涎を止めつつ、涙さえ滲む目で前方を見やり……里奈は目を疑った。
『2502』
 モニターの英数字が、文字通り桁違いに増えている。何故? そう考えかけ、直後に答えは出た。
 左右の乳頭が吸引されると同時に、頭上でガシャンと音が鳴る。そして直後、モニターの数字が『2687』に変わる。その差185キロ。トップアスリートの背筋力に匹敵するほどのEPが叩き出されてしまっている。先ほどの『電マ』責めよりも苦しくはないのに。
 いや、だからこそだ。人間は苦痛ではなく、快楽でこそ堕落する。この甘すぎる刺激は、いともあっさりと人間の自制心を壊すのだ。
「ああだめ、どんどん出てるっ! ゆ、ユウくんのミルクがっ……!!」
 里奈は首を振って叫びながら、なんとか手足に力を籠める。そうすればかろうじてEPの増加は緩やかにできた。だがそんなものは一時凌ぎだ。翔子がその気になれば、好きなように里奈を追い込める。たとえばそう、このタイミングで股座の台座を再び振動させれば……。
「ふぐっ!? あ、は……はああああああっ!!!」
 驚愕、そして焦り。ベテランのAV女優といえど、この状況下では生の声を上げるしかない。上半身を仰け反らせ、下半身を痙攣させながら。

「はーっ……、はーっ……、はーっ……はーーっ……」
 ようやく台座責めから解放された頃、里奈は気を失う一歩手前の状態だった。目は虚ろで、鼻と口からは汁が垂れ、全身が汗で濡れ光っている。木馬の背でいじめ抜かれたショーツは完全に透けて、割れ目の形が浮き彫りになっていた。
「如何でしたか、冴草さま?」
「…………気持ち……よかったわ…………」
 性感マシンのモニター役としてそう答えはするものの、里奈はどこか悔しそうだ。血の通わない機械に無理矢理イカされるなど、AV女優としてのプライドが許さないのだろう。しかし諸々の痴態を見られた以上、否定するのも滑稽だ。
「それは良うございました」
 かつて『ドリーミィ・カプセル』の責めを受けた翔子には、里奈の悔しさも苦しさもよく解る。解るからこそ、ほくそ笑む。彼女はけして褒められた性格をしていない。
「では、次に参りましょうか」


                ※


 2本のアームが、器用に里奈の下着を取り去った。
「本格的な責めへ移る前に、腸内洗浄を行います。いかに経験豊富なご職業の方といえど、ここからの責めを受ければ粗相をされる可能性があるためです」
 翔子のその宣言通り、上部モニターには『 カンチョウエキ チュウニュウ 』 のカナ表示がされた。 それと同時に、拘束された里奈の肛門へとノズルが近づき、先端を突き刺してくる。
「以前はゼリーを塗布してから浣腸液注入ノズルを挿入していましたが、ノズルの先を哺乳瓶の飲み口のように改良した結果、ゼリー無しでのスムーズな挿入が可能となりました」
 どこか懐かしむような声色で、翔子が解説を加える。

(哺乳瓶か。朝授乳してきた私が、今度はお尻から何かを飲まされるだなんて、変な因果ね)

 里奈はそんな事を思って苦笑するが、すぐにそれどころではなくなった。
「え? 何なのこれ……!?」
 腸に入ってくるものが、一般的なグリセリン溶液とは明らかに違う。にゅるにゅるとしたゼリー状であり、それが腸粘膜へ触れると、強い酒でも煽ったようにカアッと熱くなる。
「凄いでしょう。塩化マグネシウムとグリセリンを混ぜて作ったゼリーです」
「塩化マグネシウム……?」
「ええ。AV業界に長くいらっしゃるなら、『ドナン浣腸』ってご存じありません?」
 翔子のその言葉に、里奈が目を見開いた。
 年の行った緊縛師から、噂話として聞かされたことがある。ドナン浣腸──かつては重度の便秘患者に対し、便秘治療薬として使われていたという最強の浣腸だ。だがその効果が強烈すぎるあまり、泣きを入れる患者が続出したことで使用禁止になったのだという。浣腸をするという流れは聞いていたが、まさかそんな代物を持ち出してこようとは。
 しかも、その注入量がまた多い。
「うそ、まだ入ってくるの!? お腹が膨れちゃうわ!」
 里奈が不安がるのも無理はない。事実、細くくびれていた彼女のウエストは、明らかに起伏がなくなっている。
 呆れるほどの量が注がれた頃、ようやく薬液タンクが閉まる音がし、モニターの表示が切り替わった。
『 シバラク オマチクダサイ ...About 20 minutes. 』
「にじゅ……っ!?」
 里奈の表情が引き攣る。この浣腸を20分も耐えろというのか。
「おい、その設定はさすがに無茶だろ!」
 見かねた宏尚が声を上げる。20分間の我慢など、グリセリン溶液でさえ無理のある設定だ。それをドナンで、しかも量を入れてとなれば刺激が強すぎる。しかし翔子は、そんな宏尚の非難を涼しい顔で受け止めた。
「なにを言ってるんですか、店長。これはSコースですよ? 上級者向けのAコースですら物足りないとおっしゃる変態の方用のコースじゃないですか。手加減なんて有り得ません。ましてや、『AVクイーン』とまで呼ばれる女性に」
 AVクイーン。その部分に特に力を籠めて力説する。そういう言い方をされれば、里奈も引けない。
「……ええ、遠慮なんていらないわ。どんな事されたって耐えきってみせるから」
 不敵な笑みを浮かべたまま、そう啖呵を切ってみせる。

 しかし実際のところ、勝ち目の薄い勝負だった。
「…………ッくんんっ!!」
 強烈な腹鳴りを伴う便意に、里奈は唇を噛んで耐える。かろうじて波を乗り切れた。だがもう数秒もすれば、次はもっと大きな波が来る。これまでもずっとそうだったように。
「冴草さま。今どんな感じか、“プロとして”解説していただけませんか?」
 プロとして。その言葉を強調しながら、翔子が煽る。
「はーっ、はーっ……こ、これは……凄いわ。ええと、まず、そうね。とにかくうんちがしたくて堪らないの。体中から嫌な汗が噴き出して、なのに凍えるみたいに震えちゃって。特に脚なんかもう……ンッ! あ、ちょっと待っ、ごめんあさ……ん、んんッ……ふゥんんんんッ!!!」
 必死に考えを纏めながら、律儀に状況を語る里奈。だがその最中にも便意が襲ってくる。ダンサーのように見事な腹部が脈打ち、万歳の形で拘束された腕には力瘤が盛り上がり、足は片方ずつ爪先立ちを繰り返す。おそらくは観る者すべてに経験があるだろう、『便意に耐える』生々しい動き。
「っぶはっ! はぁッ、はぁッ……ご、ごめんなさい。今ちょっと、“波”が来ちゃって。この波を乗り切るのも大変なのよね、はぁっ、疲れたわ。あはは」
 重い空気になりすぎないよう、軽いノリで笑うのもAV女優の仕事だ。だがその表情はすぐに真剣なものに戻り、悪夢のリポートを続ける。
「……ええと、どこまで話したかしら。ああそう、身体が震えちゃうのよね。ほら見て、膝がもうガクガク。とにかく、便意が強くてね。お腹の中も、煮え滾ったマグマが渦巻いてるみたいよ。お尻がずっとヒクヒクしてて、勝手に開きそうになるけど、んっ……栓のせいで、出せないの……ッ!! このコースを選ぶ子はきっと、プレイの要望を出せると思うけど、このドナン浣腸の選択は慎重になった方がいいわ。私のこの映像を、どうか参考にして! 生半可な気持ちで選ぶと、こっ、後悔するわよ……っ!」
 里奈はかろうじてそこまで言いきり、唇に深々と歯を立てた。ぐぐぐ、と顎が浮いたかと思えば、こめかみの汗が首にまで流れ、泡まみれの涎がそれを追う。
 今まさに地獄にいる里奈の言動は、いずれも生々しく切実だ。
 浣腸液の催便作用はあまりにも強烈だった。グリセリン単体によって引き起こされる蠕動運動など比ではない。意思とは無関係に肛門が捲れかえり、腸内の異物を一刻も早く吐き出そうとする。にもかかわらず、変形した注入ノズルはがっぷりと肛門の内外に食らいついて外れない。
「ふふふ、大変リアリティのある解説でした。有難うございます」
 翔子は苦悶する里奈を安全圏から眺めつつ、自分の過去を思い出していた。

『はっ、はっ……何よ、これっ…………全然、抜け……な……い…………!! うんち、したいのに…………これのせいで、でな…………!!!』

 腹を鳴らし、呼吸を乱し、喉をすり抜けるような甲高い呻きを漏らしながら、解放されることのない苦しみに身悶えた。しかもその苦悶を外の宏尚に楽しまれていたものだから、本当に耐え難い屈辱だった。
 そう、これは自分も通った道だ。自分にあれだけの恥辱を与えた宏尚に、今さらストップをかける権利などあろうはずがない。むしろああして止めようとした罰として、もっとこの女を追い込んでやろう。翔子はそうほくそ笑み、キーボードを叩く。すると、カプセルの中から「ぐうっ」とうめき声がした。
 翔子の咥えた設定は、肛門栓であるノズルの振動。限界ギリギリの肛門に対し、この振動はあまりにも辛い。
「如何です? 肛門栓の振動がすごく気持ちいいでしょう? その刺激だけで達してしまわれるお客様もおられるんですよ」
 翔子が白々しく言葉をかける。よほど設定のきつさに自信があるらしい。
「…………そうね、最高だわ」
 里奈が珍しく嫌味で返すと、翔子も陰湿に笑った。
「最高は言い過ぎかと。排泄管理の快感には、更に上の段階がいくつも存在するのですから」
 里奈の指がキーボードの上を滑る。
『 膣内 マッサージ 』
上部モニターにその表示が表れ、マシン内部でアームが動きだす。アームは里奈の目の前で止まり、細いバイブが束になったアタッチメント部分を見せつけた。
「な……っ!」
 里奈は息を呑む。絡み合ったバイブが別方向にウネウネと蠢く様は、ファンタジー世界の触手さながらだ。刺激の種類がイメージできない。人間の指ともペニスとも明らかに違うのは確かだが。
「如何です、冴草さま? 今からこれを貴女の膣に挿入して、じっくりとほぐして差し上げます。ドナン浣腸を我慢しながらの膣責めは皆さん大層悦ばれて、大量に潮をお噴きになるんですよ」
 翔子のこの宣言には、責め苦の宣告以外にも意味がある。他の人間も耐えたんだから泣き言を言うな……そういう仄めかしだ。
「そう、楽しみね」
 里奈の反応は、半ば強いられたものだった。そんな里奈の前で、アームはゆっくりと下降し、無防備に開かれた秘裂へと入り込む。
「はあ゛っ!!」
 里奈が目を見開いた。極限の便意に晒され、肛門に全神経を集中させねばならない今、膣への刺激はあまりにまずい。顔だけを庇って腹がノーガードになったボクサーが、ボディブローをまともに喰らうようなものだ。しかも翔子の選択したボディブローは、軽い一撃などでは断じてない。相手が備えていたとしてもダウンをもぎ取れるような、必殺の一撃だ。
「あっ、あ……!? こっ、これ、まさか、全部一気に……っ!?」
 アタッチメントが動きはじめた直後、里奈はこう叫んだ。余裕がないゆえに不十分な言葉だが、宏尚と翔子にはその意味が瞬時に理解できた。
「さあ冴草さま。今どのようなご状況なのか、今一度リポートをお願いいたします」
「い、今……はあああそこっ!! あああ裏も……あきゅうっ!! はッはッはッ……これ、これは、そんな、信じられな……くああああっ!!」
 翔子はあえて里奈自身での解説を促すが、里奈は激しく見悶えながら、奇声と支離滅裂な発言を繰り返すばかりだ。
「冴草さまー?」
 翔子は改めて呼びかけ、里奈が答えられない状態だと証明しつつ、やれやれと首を振る。
「どうやら、リポートの余裕はないようです」
 翔子にとってはわかりきった結果だった。ドナン浣腸とあの極悪アタッチメントの併用……それが対象からあらゆる余裕を奪い去ることは、彼女自身が誰よりよく知っている。
 監督の指示を受け、ここでカメラの一台が翔子の方を向いた。事前の取り決めで、カメラが向いている時には翔子が機械の解説を行うことになっている。
「女性の膣内には数多くの性感スポットが存在します。最も有名な『Gスポット』を基準にお話しすると、少し奥にある『アダムGスポット』、真裏にある『裏Gスポット』、その奥側の『Kスポット』、膣奥上側の『Hスポット』……比較的知名度が高いものはこの辺りですが、実際にはそれ以外にも感じる場所は様々に存在するのです。あのアタッチメントは、それらの性感帯を同時に刺激します。その結果……」
 翔子はそこで言葉を切り、カメラにカプセル内部の映像を追わせる。
「ああぁぁあぁ感じる、感じちゃうっ!! 奥でも、下でも、はぁう……うん、あああ我慢できなっ……んはぁあうあううっ!?」
 そこには悲鳴に近い声を上げながら、ヘコヘコと腰を上下させる惨めなAVクイーンの姿があった。頭頂部のカチューシャは秒以下の間隔で濃い赤と淡いピンクの明滅を繰り返している。
「ご覧いただいた通り、“ああ”なります」
 翔子は憎らしいほどの澄まし声でそう告げ、カメラの注意を再度自分に向けさせる。
「あのアタッチメントは、複数名の女性にご協力いただきながら改良を重ねて参りました。より的確に、より無慈悲に、膣の性感スポットを虐め抜けるよう」
 翔子の言葉に嘘はない。しかし彼女は意図的に事実を隠した。他人事のように語ってはいるが、最も積極的にアタッチメントのモニターとなったのは翔子自身だ。機械特有の無慈悲さで膣内のスポットを徹底的に責め抜かれ、何千回と絶頂を繰り返した。失禁は勿論したし、失神と覚醒を繰り返しもした。
『ウオオォーーーーーッ!!!!』
 手足の拘束具を鳴らし、エビのように仰け反りながら、若い女が絶対に発するべきでない獣のような叫びを上げ、記録係である宏尚に爆笑されたこともある。
 それでも翔子は、妥協なくマシンの性能向上に勤しんだ。それも偏にサディズムゆえだ。どうせ一度は恥を掻いた身ならば、掻きっぱなしでいるのは損でしかない。いつか他の女にも、自分以上の恥を掻かせてやろう。その一心で恥辱の塗り重ねに耐えた。

(踊れ踊れ、淫乱年増のAVクイーン! 聖母だなんだと持て囃されてる、その化けの皮を剥いでやるからさあ!!)

 翔子は内心で悪魔の笑みを浮かべ、しかし表面上はあくまで無表情にキーボードを叩き続ける。そしてそのタイピングの一つ一つが、里奈をより窮地へと追い詰めていく。

「ふぉおおおぅおっっ!?」
 今までの撮影で出したことのない声。それと共に、里奈は潮を噴き散らす。そうなるのも無理はない。そうなるための条件が整いすぎている。
 まずは、何といってもドナン浣腸だ。あまりにも強い便意に、全身から脂汗が噴きだし、膝が笑う。思考力も含めてあらゆる余裕を奪い去られるため、これ単体でも相当につらい。
 しかもこの浣腸は、ただ便意を催させるだけに留まらなかった。熱い。腸内を爛れさせるような熱さが、じわじわと粘膜の内部に浸透し、気付けば膣にまで影響している。膣にアタッチメントが挿入される前の時点で、膣内部はトロトロに蕩け、喘ぐように開閉を繰り返していた。
 そこへきてのこの膣責めだ。膣内の複数スポットを、シリコン製のバイブが的確に責め立てる。こんな真似は、世界最高の技術を持つと言われる『ゴッドハンド』増谷準ですら成しえない。まさに機械にしか実現できない悪夢の責めだ。
「ふふふ……意地が悪いわねぇ。女が我慢できないように、効率よく女を壊せるように、計算され尽くしてる。こんなの……」
 そこまで言葉に出し、そこで里奈はハッと我に返った。次に自分は、何を口にしようとしているのか。
『こんなの、もう耐えられない』?
 まさか。AV業界の代表として、そんな言葉を軽々しく口にできるものか。耐える。耐え抜いてみせる。意地でも。
「こんなの……何でしょう、冴草さま? こんな凄いの初めて、という意味でしょうか?」
 翔子はそう言いながら、キーボードで指示を出す。アタッチメントの位置はそのまま、バイブレーションを『強』に。
「あは、はかっ……! は、激しっ……あイク、イクイクっ!!」
 ヘコヘコと上下していた里奈の腰が、ガクンガクンと大きく揺れはじめる。腹部からは雷轟のような音が轟き、膝はいよいよ笑いはじめる。誰の目にも明らかな限界だ。
「如何です、冴草さま? こんなのは初めて?」
 翔子は、余裕をなくした里奈に囁きかける。その言葉はするりと里奈の脳へ入り込み、幼児のように同じ言葉を反復させる。
「こ、こんなの初めてっ、こんなの知らないわっ!! あ、あ゛あ゛あ゛っ……あオおおおおっ!!!」
 里奈は仰け反りながら絶頂する。頭のカチューシャが鮮やかに光り、秘裂からは視認できるレベルの潮がびゅっ、びゅっと二回飛ぶ。響いた悲鳴は獣のそれだ。経験値の差か、あるいは人柄の差か。かつて翔子が上げた叫びよりは幾分人間寄りではあるものの、麗しいと形容される女性が出すべき声では断じてない。
「すっげぇアクメだな……」
「ああ。あそこまでなんのって初めてじゃね? 少なくともオレの入った現場じゃ無かったわ」
 男のスタッフは小声で囁き合い、監督の黒田も口を窄めて驚いている。宏尚もまたモニターから目を離せない。
 里奈の絶頂は男性陣に驚きをもたらしたが、最も心躍ったのは翔子だ。

(アハハハ、最ッ高! あの女イジメんの、めっちゃ楽しい! さて、浣腸の残り時間は……っと、よーしよし、まだ9分もあるじゃん)

 心の中で存分に素のしゃべりを発した後、翔子は能面顔を繕い直す。
「ご堪能いただけているようで何よりです。まだ浣腸の残り時間もございますので、もう一段階上の快楽をお楽しみください」
 その言葉で、里奈の視線が上を向き、凍りつく。

(可愛い顔でちゅねー、里奈ちゃん。やっと時間を思い出した? こんだけやってようやく折り返しとか、マジかーって感じだよね。でもこっからの時間は、一秒がもっと長く感じるよー。さすがのあたしも、コレいっぺんに受けるのはゴメンだな。ウザイ他人にしかやれないよ、こんな無茶苦茶な同時責め)

 内心でほくそ笑みながら、追加の設定を終える翔子。態度こそ淡々としているが、決定ボタンを押し込む強さに感情が滲み出ていた。

(あいつ完全にハイになってんな。つか、この上でまだ何か追加すんのか? マジで里奈さん、ぶっ壊れるんじゃ……)

 部屋の隅で見守るしかない宏尚は、不安から爪を噛む。カプセル内から悲鳴が上がったのは、その直後だった。
「うそ、そんな! このタイミングで……!?」
 里奈の声色には余裕がない。何が起きているのかとモニターを見れば、状況は一目瞭然だった。
 尿道だ。尿道開発用のマドラーのようなアタッチメントが、真正面から里奈の割れ目の上部に送り込まれている。
「凄いでしょう、冴草さま。さあ、感想をどうぞ」
 翔子は女狐だ。内心はどうあれ、抑揚の乏しい事務的な喋りを崩さない。

(いくら一番きついコースだからって、こんな! 他人事だからって滅茶苦茶やってるわね、あの子……!)

 悪感情をなるべく排すようにしている里奈でも、さすがに翔子の悪意には閉口した。ただ、アダルトビデオの撮影とはプロレスのようなものだ。責めがハードであればあるほど、それを堪えきった時に観る者を沸かせられる。だからこそ流れ次第で多少の無茶は飲むし、それから逃げてはいけない。弱音も極力控えるべきだ。
 ただ、そうは言っても肉体の反射までは殺しきれない。
「おほっ!」
 尿道に深く器具が入り込めば、自然と口が窄んで声が出る。ハードコア女優としても名を馳せる里奈にとって、尿道責めも初めてではない。が、ここまで別に危険因子のある状況となれば、ろくに受ける覚悟すら固められない。
「はぁ、う……っ、うはっ……はあ、は……っあ、んはっ…………」
 尿道姦は、アナルセックス以上に『異質』だ。絶対に使ってはいけない場所を犯されている──その事実にまず脳がパニックを起こし、口がパクパクと開く。視線は尿道付近に釘付けとなり、抜き差しされる棒と噴き出す尿だけが視界で動く。
「良い顔をなさっておいでですね、冴草さま。お加減は如何ですか?」
 もはや定番となった翔子の呼びかけに、里奈は歯を食いしばってから笑みを作る。
「んんんっ……なんだか、感動すらしているわ。排泄管理されながらだと、ここまで違うのね。正直、初めて尿道開発された時より余裕がないわ。お尻に意識を向けてると、尿道が無防備になっちゃうし。尿道責めを堪えようとしたら、うんちが我慢できない。おまけに、んっ……膣もまだ刺激されてるから……あははは、頭ぐちゃぐちゃ……!」
 人懐こい笑顔で、あくまでバラエティの空気を作ろうとする里奈。だがその和やかさとは裏腹に、下半身の様相はシリアスそのものだ。
 下腹部は狂ったように蠢き、ぎゅるるるる、ぐぎゅるるるる、という腹を下した時の音を鳴り響かせている。がに股に開いた脚は限界まで力み、凍えるように痙攣を繰り返している。

(わかるよー、里奈ちゃん。尿道責めって凄いし怖いんだよねぇ)

 モニターを横目に見ながら、翔子は内心でほくそ笑む。

『何よこれ、そこ、おしっこの穴じゃない! やめてよっ、垂れ流しになっちゃう!! あ、敦美の言ってた通り、これ、すごい深くまで……来る…………。』『…………やだ、もぉ…………なんで、感じるの…………おしっこ漏れてるのに、何でそれが、いいの…………?』

 宏尚から散々見せられた初プレイ時の映像では、翔子は泣きべそを掻きながらも快感に酔っていた。耐え難い醜態だ。
 とはいえ、快感を得るのも無理からぬことだった。翔子が来店した当時から、マシンの尿道責めはハイレベルだった。ノズルは尿道への抜き差しに無理のないよう設計されている。その球状の先端部からは定期的に鎮痛剤が奥へ浴びせられ、痛みを和らげると共に擬似排尿を強いる。そして抜き差しの動きそのものも、快感を得やすいように計算されたものだ。
 それを踏まえてSコースとしての苛烈さを演出するなら、異物を詰めて排泄させるのも悪くないが、やはり責め具自体を強化するのが一番良い。
「そろそろ慣れてこられたと思いますので、バイブを変更させていただきます」
 翔子はそう言ってキーボードを叩き、マドラー状のバイブを引き抜く。そして入れ替わる形で、数種類の尿道バイブを喘ぐ里奈の視界に晒した。凹凸のついたもの、螺旋状にねじれたもの、イボのついたもの……それぞれ特徴的なバイブを見せつけた上で、最後にある一本を選択する。幹の太さは親指ほどもあり、先端にはさらに二周り大きい円錐形の傘がついた、もっとも凶悪な尿道バイブだ。
いきなり突っ込めば尿道が傷つきかねないサイズだが、細い一本で慣らした後ならばどうにか“入ってしまう”。それは翔子自身の身体で実験済みだ。
「…………ステキね」
 汗だくの里奈の顔に、さらに一筋汗が伝う。
 直前の尿道責めの余韻か、あるいは膣内のスポットを刺激されているせいか。彼女の尿道は喘ぐように開閉していた。そこにバイブの先が宛がわれ、一息に押し込まれる。
「ほぉっ、お、ぉっ、おっ、おおっ…………!!」
 興味深いことに、挿入時の反応は翔子のそれと完全に一致していた。目を見開き、口を尖らせたまま、『お』行で細切れに喘ぐ。バイブの太さのせいか、形状のせいか。いずれにせよ、誰でも似たような反応をしてしまうようだ。

(やめてよ。シンパシー感じちゃうじゃない)

 翔子は心の中でそう思う。しかし、だからとて責めの手は緩めない。疎ましければ疎ましいなりに、可愛ければ可愛いなりに、いずれにせよ責めて平伏させる。それが安西 翔子という人間の性だ。
 ピストンのルートと速度を細かに設定する翔子。被験者を追い詰めるならAI任せでも充分だが、それでは妙味に欠けるというものだ。

 安西 翔子の指が軽やかに決定ボタンを押した瞬間、冴草 里奈のさらなる地獄が始まった。
「あっ、あっ、あっ、あっ、あっ……!!」
 親指サイズのバイブが尿道へ出入りするたび、『あ』という声が絞り出される。感覚としては搾乳の時に近い。尿道を引きずり出されそうな感覚の中、意思とは無関係に尿が噴きだしていく。
 S級女優の断続的な失禁は、それだけで衝撃映像だろう。だがモニターの映像にはもう一つ異変が映っているはずだ。表面上はただ一ヶ所だけお預けを喰らっているはずのクリトリスが、硬く屹立しているという事実が。
「冴草さま、クリトリスが勃起しておいでですね」
 翔子はやはり勃起の事実を見逃さない。その上で体の変化に話を振るのは、状況をリポートしろというメッセージだ。
「はっ、はっ……ええ。クリトリスは、表面に見えているのはほんの一部で、大部分は内側に根を張っているの。尿道の奥を弄られると、その根っこの太い部分を、薄皮越しに刺激されるから……こうして勃っちゃうのよ」
 里奈は笑顔で解説しながらも、羞恥で脳が焦げそうだった。クンニリングスで陰核が勃起したのなら、今さら恥ずかしくもなんともない。しかし亀頭部には一切触れられず、尿道責めだけで勃起させられるのは、まったく別次元の恥ずかしさだ。フェラチオで勃起させられるのは平気な男優でも、往々にして前立腺での勃起は恥じるように。

(こんな露骨な弱点、あの子が見逃してくれる筈ないわね)

 そう考える里奈の耳に、案の定キーボードの音が届く。
『 クリトリス ブラッシング 』
 正面上部のモニターにその文字が表示され、細いアームが伸びてくる。アームの先についている器具は搾乳器に似ていた。違う点と言えば、透明なカップの中に洗車機と見紛うばかりのブラシが密集していることだ。
「え、待っ……!」
 里奈は反射的に拒絶した。しかしその言葉も終わらないうちに、カップはクリトリスに吸い付き、有無を言わさずブラッシングを開始する。極上の筆先を思わせる約4000本あまりの繊毛が、触れるか触れないかという絶妙な具合で陰核の表面を撫で回す。
「ッはひッいい!!」
 即座に情けない声が出た。恥や外聞を気にする暇すらなかった。そして里奈は、ここが我慢の限界だと悟る。
「イああ゛あ゛あ゛!! あァあ゛、ひあ゛あ゛あ゛あ゛ァァッッ!!!」
 全身が暴れた。特に足は地団駄でも踏んでいるようだ。限界の限界。分水嶺が見えてしまうと、それ以上の我慢は難しい。いかにベテランといえど……否、キャリアが長ければこそか。
「おねがいっ、おねがい出させて!! うんち、させてッ!!!」
 里奈の顔からふっと笑みが消え、真剣な表情で解放を訴える。しかし翔子は取り合わない。
「我慢なさってくださーい」
 なだめるように告げながら、冷酷に設定を弄る。音を上げた仕置きとばかりに、ブラシ奥のバイブを起動させたのだ。繊毛によるソフトタッチと、小さくとも力強いバイブの振動。その複合責めは、尿道責めで性感を目覚めさせられた陰核をいよいよ固くしこり立たせ、うち震えさせていく。かつて翔子から涙ながらの哀願を引きずり出した時のように。
「出したい、出したい゛出しだい゛ッッ!!!」
「残り時間は2分42秒です。もうしばしご辛抱くださーい」
「あ、あど2ふんは無理ぃ゛ぃっ!! もう無理なの゛、限界超えてるのっ!! 出したい、出したい出したい゛出したい゛い゛ーーッッ!!」
 幼児のように泣き喚き、単純な言葉を繰り返す里奈。理知的で清楚な里奈がそんな風になるのは、宏尚が知る限り初めてのことだった。事実、里奈と付き合いが長い黒田監督やメイク係の山瀬も驚いた表情を見せている。
「その苦しさもSコースの醍醐味です。ご辛抱くださーい」
 不穏な空気を察してか、翔子はそう牽制を掛ける。Sコース……その魔法の言葉を持ち出されれば、皆黙るしかない。それを無碍にすることは、この撮影そのものをひっくり返すに等しい。唯一止められるのは監督である黒田のみだが、これまで里奈の無茶に付き合ってきた悪友でもある彼は、腕組みをしたまま白い歯を覗かせているのみだ。
 里奈の手足の枷がガチャンガチャンと鳴り続けていた。当然、それに比例してEPも加速度的に増えていく。
「冴草さまー、モニターをご覧ください。EPがもう2万を超えておられますよー」
 翔子が呼びかける。この序盤からそんなに力んでいて大丈夫か、という煽りだ。しかしもはや里奈には、そんな言葉に耳を貸す余裕などない。
「ねえ出させて、おかしくなりそうっ!! おねがい、おねがいい゛い゛っ!!」
 体液を撒き散らしながら全身を暴れさせ、哀願する。最初に決められた20分のリミットが、しっかりと経過しきるまで。

「はい、時間です。お疲れさまでしたー」
 翔子は事務的な口調でそう告げ、キーボードを叩く。機械本体の表示が『アナルプラグ カイホウ』へと変わり、里奈の足元にバケツ状の受け皿が設置される。
 直後、里奈を苦しめたアナルプラグはあっさりと抜けた。
「ああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!」
 絶叫と重なるように、排便の音が響き渡る。限界の限界まで我慢を重ねたため、音がひどい。
「見ないで、見ないでえええ゛ッ!!!!」
 里奈は誰にともなく絶叫していた。スカトロ系のビデオは80本以上撮っている。マングリ返しの格好で4リットル浣腸され、顔を含めた全身に汚物を浴びた事すらある。しかし今のこれは、その記憶を上書きするレベルで屈辱的だ。
 特に駿介には見せたくない。この映像の編集は、どうにか他の人間にさせなければ。もっとも、データは編集で消せたとしても、この現場にいる人間の記憶までは消せないが。

(いつまで出るの……? もういい加減にしてっ!!)

 ゼリーに消臭効果があるのか、匂いはしない。しかし地獄には違いない。爛れた肛門が外へ捲れかえっているのが解る。そしてその穴から、次々と生暖かなゼリーが溢れ出し、びとびとと重量感ある音を立てながら汚物入れに溜まっていく。いつまでも、いつまでも、いつまでも。出しても出しても排便が終わらない。膝が笑っていて、足をハの字にしているのもつらいのに。


                ※


 ゼリーが滴らなくなり、汚物入れが回収された頃、里奈の反応はすっかり薄くなっていた。渋り腹の中身を出しきるため、上体は前に傾き、腕の拘束も後方へ引き絞る方法に変わっている。里奈はその状態のまま動かない。股間と俯いた顔から、透明な雫が滴り落ちていくだけだ。
 機械内部には後方視点のカメラも存在するが、今はそちらの情報量が多い。ドナンの効果で開ききり、菊輪が外にめくり返ったアナル。一切の刺激がなくなってなお、喘ぐように開閉しながら、とろりと愛液を吐きこぼす割れ目。顔から滴っているのは、薄く開いた口からの涎と鼻水らしい。
 意識が定まっているようには見えない。しかし気を失っているわけでもないようだ。
「冴草さま」
 翔子が呼びかけると、頭がピクリと反応する。
「お疲れのところ恐れ入りますが、腸内洗浄を行わせていただきます」
 翔子はそう言って、マシンに次の命令を飛ばす。
『腸内洗浄』
 モニターにそう表示され、ブラシが回転しながら里奈の肛門へと侵入していく。
「ぐっ」
 ブラシが深く入ると、里奈から久々に声が漏れた。
 ハード・鬼畜を旨とするSコースでは、性器の洗浄方法も大雑把だ。ブラシの芯の部分から薬液が腸内に浴びせられ、ブラシの回転で泡立てながら汚れをこそげ取る。
 通常ならば屈辱を強く感じるところだが、ドナン浣腸の後だけは違う。ドナンで爛れた腸内は、薬液ブラシで擦られるほどに疼きはじめる。まるで山芋か漆でも塗りつけられたようにだ。
「あああ痒い、かゆいっ!!」
 里奈ははっきりとした声を上げ、足をばたつかせはじめた。
「直腸内を洗浄中のため、お静かに願いまーす」
 翔子は言い聞かせるように告げながら、里奈の反応を堪能する。

(あっははは、気持ちよさそー! あんなに腰振っちゃって。アナルレイプの本番はこれからだぞー、淫乱女)

 ブラシ洗浄など1分もすれば充分だが、里奈の反応があまりにも面白く、翔子は3分あまりも命令を解除しなかった。しかしその2分間は、彼女の想像以上に里奈を追い詰めていた。
 薬液を滴らせながらブラシが引き抜かれた後、モニター表示が『アナルファック』に変わる。その直後に里奈の背後へ近づいたバイブを見て、スタッフ一同が目を疑った。
「ちょ、おまっ……!」
 宏尚も翔子に何か言いかける。
 それは、洋物ビデオのペニスを模した責め具だ。サイズはXL……500mlのペットボトルよりも太く、全長は30センチに達する。しかもその表面には、刺激を増すためにイボ状の突起をびっしりと施した。
 ドナンで弛緩しきった里奈の肛門ならば、そのジョークグッズだろうと受け入れてしまうだろう。しかし……さすがに易々とではない。
「あぐううううっ!!!」
 肛門が押し開かれた瞬間、里奈は白い歯を食いしばった。そこからバイブがミリ単位で侵入するたび、尻肉がピクピクと痙攣する。

(え、な、何!? 何が入ってるの!? ビール瓶!? 金属バット!?)

 フィストまで経験済みの里奈も、この異物挿入には焦りを隠せない。太く長いだけではなく、しっかりと硬さまであるのが凄まじい。挿入されただけで僅かにだが失禁してしまった。
「あぁ、あ゛ッ! ああ、あっ、あ゛!!」
 腸を変形させる勢いでピストンが始まれば、堪えようとしても息と声が押し出される。
「すごい声を出されていますね。満を持してのアナル挿入の感想はいかがですか?」
 翔子の問いかけに、里奈は躊躇う。
 すぐに抜いて──そう正直に言えたらどれだけ楽だろう。しかし里奈に求められている感想は、実のところ忌憚のない意見ではない。機械姦の凄さと気持ちよさをPRするのが仕事だ。そのためにはウソもいる。

(私としたことが……。余裕がなかったとはいえ、浣腸責めで音を上げたのはマズかったわね)

 ここのサービスを非難することは、店のイメージ低下に繋がりかねない。ここからは気を引き締め直し、拒絶なしのスタンスで挑むべきだ。
「このバイブは凄いわね。太くて、硬くて、イボだらけで……このタイミングでこんなの突っ込まれたら、誰だって骨抜きにされてしまいそうだわ」
 カメラを意識しながら、うっとりとした表情を作り上げる。その雰囲気の変化は、わかる人間にはすぐにわかった。
「……そうですか。では、存分にご堪能ください!」
 一瞬気後れしかけたのが悔しく、翔子はピストンモードを『ハード』に変える。里奈の背後でアームが唸りを上げ、ガシャンガシャンという音を響かせはじめる。
「ひっ、ひぃいいいっ!!」
 ハードピストンの開始直後、里奈は生の反応を引きずり出された。しかしそれを意志の力で抑え込み、笑みを作る。
「あはっ、良いわ、凄い!! お腹の奥に、ガンガン届いて……機械って、すごくパワフルね!!」
 プロとして失敗は挽回しなければならない。ここで快感に目覚めた姿を演じれば、浣腸責めでの渋い態度も含めて、客受けのいいストーリーを演出できる。
 しかし、それはあくまで“演技”であるべきだ。素で快楽に溺れるようであれば、それもまたプロの有り様ではない。
 そしてそれが困難であることを、里奈は薄々気付きかけていた。
「あはぁっ……ぁ、ひ、ぐっ! ひぃっ……ぐひっ! んぐ、んぐっ!!」
 甘い演技をしようとしても、すぐに本気の声が表れる。
「ぃ、いぐっ、いぐっ!!いぐっ!!」
 ふと気づけば、自分が発しているのは素の喘ぎと素の表情。絶頂を口にしつつ歯を食いしばり、堕ちたくないと顔を強張らせる。こんなものは素人の反応だ。
「如何ですか? 当店自慢のバイブのお味は」
 女の勘か。翔子はいつも、里奈が余裕をなくしたタイミングで問いを投げる。
「ああああ゛っ……! んっ、そうね……少し慣れてきて、もっと良くなったわ」
「ほう、どのような感じです?」
「んっ……その、ずっとうんちが出てる感じ、かしら……。さっきの浣腸と洗浄で腸がむず痒い感じになってたから、そこを擦られるのが気持ちよくてたまらないわ。本当によく考えられて…………んンおッ!?」
 里奈が卒なく語り終えかけていた、その刹那。翔子は満を持して、アナルバイブのピストン設定を意地悪く変えた。
『ストローク:S』
 これの意味するところは、奥の奥までの挿入。直腸のさらに先、S状結腸までを蹂躙せよという指示だ。
「はっ、あがっ、あがあっ!!」
 さすがに演技をする余裕などない。里奈は眼を見開き、大口を開けて喘ぐ。
 形状的にも長さ的にも、人間のペニスでS状結腸を突破することは困難だ。アナルセックスの経験が豊富な里奈とて、外国人男優相手に一度か二度あったかというレベルだ。ましてや、ペットボトルをも上回る直径でえぐられた経験などあるはずもない。
 しかし、その悪夢は実現した。アナルバイブは、シリコンのような硬さにもかかわらず柔軟に曲がり、易々とヒューストン弁を突破していく。
「お、おほっ!!」
 二回目の結腸侵入で、出してはいけない声が出た。下品で野性的なケダモノの声。あまりにもウソのない快感の声。
「冴草さま、どうされました?」
 ここで、翔子の問いが来た。解説の時間だ。

(良い性格してるわ……こうなるように設定しておいて!)

 里奈は心中で恨み節を吐きつつ、頭の中を必死に纏める。
「け、結腸よ! 私、今、S状結腸まで犯されているわ! こんなこと人間相手のセックスじゃ絶対できない。これは、貴重な記録よ!」
 陵辱行為を非難せず、その特異性をアピールする。咄嗟にしては悪くない手だが、自らの反応に注目が集まる諸刃の剣でもある。
 今また、長大なバイブの先が結腸へと達した。
「あああああ入ってくるぅっ!!! す、すごい。アナルでここまでイクの、初めて……!!」
 里奈は悲鳴を歓喜の声に寄せ、にいっと口元を吊り上げる。無理のある笑みだ。だが顔以外はもっと無理を押し通している。

(結腸ばっかりほじくられて、頭がおかしくなりそう……!)

 あまりの刺激に膝が笑う。直腸側からの刺激で子宮が疼き、どぷどぷと愛液が吐き出されていく。だが、それ以上に気がかりなのは脳の方だ。
 アナルセックスでは肛門に力が入り、異物に抵抗するような感覚がある。しかしS状結腸に入り込まれた瞬間、それが消し飛ぶ。肛門も脳も開きっぱなしになる感覚……。
「ッんん!!」
 里奈はぶんぶんと頭を振る。頭の“何か”を振り払わずにはいられない。もしそれに脳髄まで侵食されたら、自我を失うことが本能でわかる。

「お゛っ、おほ……お゛っ! はぉっ、ぉ、おお゛っ……!!」

 里奈が舌を突き出し、涎を垂らしながらぼうっとしはじめたのは、いつ頃からだろう。
「里奈さん……」
 宏尚は憧れの女優の表情に言葉を失う。里奈がアナルセックスしている動画は散々見た。イチジク浣腸を50本入れたまま、規格外のペニスを誇る黒人男優に代わる代わる犯されるハードな企画モノも。それでも、こんな顔を見るのは初めてだ。

(すごっ。XLバイブで結腸抉りまくったら、この女でもこんなになっちゃうんだ。あーあー、ケツが気持ちいいからってジタバタしちゃって。EP3万超えちゃってるよー?)

 翔子はモニターを観ながら考える。同情する気持ちも無いではないが、嗜虐心や探求心はそれを遥かに上回った。


                ※


 疲労困憊の状態で摂取する水分は、まさに生命の水だ。万事が拷問じみたSコースでは、水分補給さえ口に管を突っ込まれて経口補水液を流し込まれるやり方だったが、それでも里奈はかなりの気力と体力を取り戻せた。

 マシン内部は比較的静かだ。
 ヴーヴヴッ、ヴッヴッヴッヴッ、ヴーヴヴッ……
 こうした独特のリズムの機械音と、荒い呼吸、拘束具の軋む音。拾われる音といえばその程度のものだった。
 上部モニターに表示されているプレイ名は『 ポルチオマッサージ 』。ただし、その文字表示は点滅している。これは寸止めを示す表現だ。
「ふんんっ、んんっ……! んっ、んんっ……!」
 里奈が艶めかしい声を漏らし、ぶるっと全身を震わせた。骨盤の形が何度も浮き上がり、艶めかしく腰が躍る。腰が力強く浮き上がり、ブルブルッと痙攣する。
「ぁぁイッ、くっ…………!!」
 今まさに、絶頂へ至ろうというその瞬間。それまで続いていた機械音が消えうせ、里奈の表情は切ないものに変わる。

 彼女はもう何分にも渡って、延々と焦らしを受けていた。
 局部はスケルトンカバーのファッキングマシンで覆われ、下腹部にも腹筋に沿うようなシックスパッドが貼りついている。そうして内外からポルチオ──つまり子宮口付近に刺激を与えられるが、絶頂には至れない。
「この焦らしモードでは、絶頂の際まで追い込むものの、決して一線は超えられないようにプログラミングされています。そして性感の波が引きはじめた頃を見計らって、再び絶頂の際まで追い込むのです」
 かつて同じく焦らし責めに苦しんだ翔子は、嬉々としてそう解説した。
 焦らし責めはAVでもよくある。電気マッサージ器を押し当てては離すことを繰り返し、女優に挿入を乞わせるシチュエーションなどが一般的だ。しかし『ドリーミィ・カプセル』の焦らしは追い詰め方の精度が違った。カチューシャ状の脳波測定器が対象の感度を随時測定し、絶頂に至る寸前で機械の動きを和らげる。 あとコンマ一秒同じ刺激が続けば絶頂できた、というレベルの寸止めだ。この精度は熟練のAV男優でも真似できるものではない。
 しかもマシンは、寸止め後も完全に停止するわけではなかった。神経を集中させれば感じとれる程度の、ごくごく微細な振動は続いている。そのせいで被験者は、常に絶頂寸前の状態のキープさせられる。
「キミはなかなか意地悪だねぇ」
 里奈は足元の機械に向けて囁く。対話ができるとは思っていないが、気を紛らわせる必要があった。この焦らし責めはじっと耐えるには辛すぎる。
 両腋を晒したままでの直立姿勢を強いられているが、延々と寸止めを繰り返されると次第に股が開き、がに股でクイクイと腰を前後させてしまう。撮られ慣れているとはいえ、さすがに羞恥心を煽られる格好だ。

(ひどい恰好……こんなの、シュン君には見られたくないわね)

 里奈は苦笑する。
 オイルでも塗ったように汗まみれの肌。焦らし責めの快感だけでひとりでに屹立した乳首。ファッキングマシンがスケルトンカラーなため、ヒクつきも愛液を吐きこぼす瞬間も丸見えの局部。単三電池がそのまま入りそうな窪みを作りつつ、絶頂を乞うように戦慄く内腿。正面のカメラには、その全てが記録されているに違いない。
 そして、気になるのは目に見える部分だけではなかった。静かな責めにじっと耐えていると、機械内部に籠もる匂いが再び気になってくる。濃密なメスの匂い。寸止め焦らしという極限状態下では、そうした自分の体臭でさえ発情する要素になりえた。

 焦らしが始まってから、何分が経ったのだろう。へひっへひっという短い喘ぎ、ぐぅぅっという苦しげな呻き。それを延々と繰り返した果てに、とうとう里奈の膝が笑いはじめた。そして翔子はそれを見逃さない。
「冴草さま、どうされました? もう脚に力が入らなくなってきましたか?」
 その物言いは、『AV女優といってもそんなものか』と煽っているも同然だ。
「……まさか。まだまだ頑張れるわ」
 プロの意地で不敵に笑ってみせる里奈。すると、珍しく翔子も笑みを浮かべた。
「左様ですか、安心いたしました。良い機会ですので、その状態でどの程度思考力が残ってるかテストさせていただきます。冴草さまは、セックスにおける四十八手はご存じですよね?」
「四十八手? ええ、当然知ってるけど……」
 里奈はそう答えながら訝しむ。

(今日の流れに四十八手クイズなんてあったかしら? だったら事前に復習しておきたかったわ。AVクイーンなんて呼ばれてる身で、間違えたら赤っ恥だし)

 思案に耽る里奈の正面に、ある映像が映し出された。若い男女の絡みだ。どちらも体型は理想的で、まさに美男美女が織りなす美しいセックスだが、体位は少し変わっていた。対面座位で繋がったまま、女優の片足を男優が肩に担ぎ上げて動いている。高く上げた女性の足が船の帆のような、見栄えのする体位だ。
「これは何という体位でしょうか?」
「“帆かけ茶臼”よ」
「……お見事、正解です!」
 里奈は淀みなく答え、翔子もあっさりと正解を出す。

(なんだ、本当にただの四十八手じゃない。大江戸四十八手でも持ってくるのかと思ったけど。いくら焦らされながらだって、これなら楽勝だわ)

 里奈はほっと胸を撫でおろすが、やはり何か引っかかる。
『あああっ、太いのが奥まで入ってる! 気持ちいいよおっ!!』
 動画の中では、女優が甘い声を上げ、掲げた脚を痙攣させていた。そしてその直後、全身を痙攣させながらぶしゅっと潮を噴く。
 それを目の当たりにした瞬間、里奈の下腹部が疼いた。
「っ!」
 下腹部のパッドと局部のバイブがまた唸りはじめる。もう飽き飽きするような刺激のはずだが、子宮の疼きを自覚した今は、先ほどまでに輪をかけてつらい。

(……なるほどね。ダイエット中の人間の前で、ケーキを貪るノリってこと?)

 里奈は苦笑する。これは、なかなか精神に来る嫌がらせだ。

「この体位は」
「“理非知らず”」
「こちらは」
「……“浮き橋”よ」
「では、こちらは……」
「…………“時雨茶臼”、ね…………」
 クイズに答えること自体は造作もない。しかし、その度に男女の濃密な絡みをじっくりと見せられ、女優が心地良さそうに絶頂する姿を目の当たりにすると、これが本当に堪らない。ダイエット中のケーキどころか、砂漠で乾涸びかけている前でゴクゴクと水を飲まれているに等しい。
「……ふうーっ……、ふううーっ……!!」
 脚の踏ん張りが利かなくなり、腰が深く落ちていく。その末に、里奈の姿勢は蹲踞に近いものとなっていた。正面のモニターでは“撞木ぞり”が行われているが、男に跨る女優のその体位は、今の里奈の姿勢に瓜二つだ。
「はっ…………はっ…………はっ…………」
 男女のセックスなど見飽きているはずだ。だが今の里奈は、逞しいペニスが出入りする結合部から視線を離せない。
『あはああ、気持ちいいっ!!』
 下からの力強い突き上げに、女優は笑いながら絶頂へと近づいていく。子宮口を刺激されている里奈もまた、自然とその気持ちにシンクロする。
 しかし。
『あああイクっ、イックううーーーっ!!!』
 女優が幸せそうに絶頂する一方で、里奈の方は最後の最後で刺激が消えうせた。夜明け前の暗闇の中に、一人取り残された。
「く、うううう゛っ……!」
 未練の声が絞り出され、手と腰が暴れる。もどかしい。これまでに経験してきた何千というセックスが里奈の頭を巡り、下腹部を戦慄かせる。
「彼女、そろそろ限界ですね」
 様子を見守る翔子がクスリと笑った。
「眼の光が無くなっているでしょう。寸止めの繰り返しで、身体が絶頂を強く望んでるんです。もうそれしか考えられないぐらいに」
 彼女は意図的にマシンへの指示を止めている。焦らしなど程々でも構わない。マシンの性能をアピールするなら、早々にバイブを突っ込んで激しくピストンした方がいい。
 それでも翔子は、里奈に哀願させたかった。自分に僅かでも劣等感を植えつけた女に、解放を惨めたらしく乞わせたかった。

(ほら、正直に言ってみな女王さま。たまんないんでしょ? 機械のチンポくださいって可愛くおねだりできたら、気持ちよーくしてあげるよ? 代わりにアンタの面子は丸潰れだけどね)

 そんな翔子の魂胆は、里奈も察している。

(また寸止め……! ああ、イキたい、イキたい、イキたいっ!!)

 冷酷な焦らしに顔は歪み、腰は痙攣し、晒された秘唇はヒクヒクと開閉を繰り返す。脚の真下に広がる愛液溜まりからは、燻煙のようにメスの匂いが立ち上っている。
 そんな状況下でも、冴草 里奈はじっと耐え続けた。妙に長い焦らしシーンに撮れ高の心配がされ、『次のシーン行ってください』というフリップが出されるまで。

「流石ですねぇ、このギリギリの焦らしをそこまでお耐えになるなんて。お喜びください、ここからはご褒美の時間です」
 翔子は内心で舌を出しつつ、薄笑みを浮かべてキーボードを叩く。
 秘部を覆うカバーが外されると、里奈のひくつく割れ目からはとろりと透明な雫が滴り落ち、床まで途切れることのない線を引く。そうして涎を垂らす里奈の前に、また別のマシンが姿を現した。やや太いアームの先に、瓜のような形のアタッチメントがくっついている。その瓜は訝しむ里奈の目の前で口を開き、8つの鉤爪を形成した。
「っ!?」
 見慣れない形状の責め具に、里奈が眉を顰める。
「ご覧のように、このバイブは先端が8つに分かれて子宮口にフィットします。その刺激の正確さは、ただ漫然と当たる丸い先端とは比べ物になりません」
 翔子はどこか誇らしげにそう語る。それを耳にした里奈は、身が震える思いだった。以前の撮影で、先端が二股に分かれたポルチオバイブを使われたことがある。そのフィット感とそれに伴う刺激は確かに通常バイブの比ではなく、たまらず腰を逃がしたことを覚えている。それが8股となると、どれほどのものか想像もつかない。
「では、ご堪能ください。良きPRを期待しておりますわ」
 翔子の言葉と共に、一旦口を閉じたバイブが里奈の割れ目へと入り込み、奥で改めて花開く。焦らしで蕩けきった子宮口付近に、8つの鉤爪がしっかりと食い込むのを感じる。しかも爪の内側には、ごく微細な凹凸が無数についてもいるようだ。ポルチオを刺激する事にとことんまで特化したバイブといえる。
「はっ、はっ、はっ……!!」
 AV界の女王といえど、この整いすぎた状況には緊張を隠せない。
 バイブが唸りを上げはじめる。市販の『電マ』よりも明瞭で重苦しい駆動音。それはそのまま刺激の強さとなり、掴んだ鉤爪ごと子宮を揺さぶる。
「あっ、あっ!?」
 ファーストコンタクトで、里奈は瓦解を確信した。この類の刺激は長くもたない。ましてや今のコンディションでは。
「いかがですかー、冴草さ……」
「ぁイっ、イグうううっ!!!」
 翔子の呑気な問いを遮る形で、里奈は絶頂を宣言した。腰が震え、背中が仰け反る。ブルブルッ、ブルブルッ、ブルブルッ、と立て続けに子宮口が痙攣し、熱い蜜が吐かれる。乳頭がまたしこり勃って痛む。待ち望んだ絶頂に、体中の細胞が歓喜しているのを感じる。
「……っがはっ、かはっ!! あはっ!!」
 絶頂の波が過ぎた時、里奈は止めていた息を吐き出した。長いキャリアの中でも上位にランク入りするほどに深い絶頂だった。
「あああまたイクっ、また……かはあっ!! あ、ああイクっ、イグイグ、イグうううっ!!」
 二度目、そして三度目のエクスタシー。絶頂したばかりの敏感な子宮口をさらに刺激され、里奈の頭のカチューシャが何度も赤く光る。
「駄目っ、まだイッてる途中っ……アああああ゛ッ!! イグ、イグ、まだイグうううううっ!」
 制止の要求すら言いきれず、何度目かの絶頂に追い込まれる里奈。深く落ちていた腰は絶頂を嫌がるように浮き上がり、ガニ股に戻って、カメラへ見せつけるように腰を振りつつ痙攣する。その割れ目からはとうとう潮が噴きだし、ほぼ同じタイミングで母乳を噴きだしはじめた。
 しかし、機械は無慈悲だ。対象者がどれだけ酷い有様を晒したところで、責めの手を緩めることは一切ない。
「だ、だめ、死んじゃう、息できないっ!! ああ゛ばだイグ、イグッ、ずっどイッでるのおおう゛ぉ゛っっ!!!」
 里奈はカメラへ叫んだかと思えば天を仰ぎ、感電したように痙攣する。その声色は普通ではないが、動きもまた尋常ではない。足首に重厚な拘束具がついているというのに、それを感じさせないほど激しく足を暴れさせる。
「あら凄い、タップダンスかしら」
 翔子が嘲る通り、もはや踊りの域だ。そしてその無茶な動きは、ガシンガシンと拘束具に音を立てさせる。腕の拘束具も鎖を引きちぎらんばかりの勢いのため、EPの上がり幅は極めて大きい。今の増加幅は360キロ。それを360キロの背筋力と換算できるなら、トップアスリートの記録200キロの実に1.8倍だ。


                ※


「あうっ……はぅう、う゛…………へっへひ、へっひぃっ…………」
 鉤爪のようなバイブが引き抜かれた後も、里奈は不自由な呼吸を繰り返しながら、なおも絶頂の余韻から逃れられずにいた。
 彼女の頭の測定器は、何度深紅に輝いただろう。全身は細かな痙攣を続け、顔や胸はセックスフラッシュの紅潮を見せ、乳輪は粟立ち、二の腕や太腿には鳥肌すらも立っている。モニターに記録されている5万超えのEPも、駆け巡った快感の強烈さを物語っていた。
 しかし、それでも里奈に休息は与えられない。口にチューブを突っ込んで経口補水液を流し込み、強制的に里奈の意識を定めさせると、次の責めの準備に入る。

 ポルチオ刺激は効果こそ強烈だが、画として地味という欠点があった。対して今度の責めは、映像的なインパクトが抜群だ。
『 ディルドウサイズ:XXL カリ ゴクブト / バイブレーション:EX / シンジュ:オオツブ 28コ 』
 かつて安西 翔子に泣きを入れさせた責め具に、魔改造を繰り返したもの。サイズXXLは身近な物で例えるなら、2リットル入りのコーラのペットボトルほどの大きさだ。形は人間のペニスを模してはいるが、握り拳ほどの亀頭は嫌がらせのように傘を張り、その下の雁首は同じくエラを張ったまま4つ連なり、起伏の激しい肉茎部分はびっしりと真珠状の突起で覆われているなど、とにかく“えげつない”作りをしている。とりあえず改造はしたものの、ふと正気に戻ったところで2人して顔を見合わせ、外人なら喜ぶかもと冗談を言い合った代物だ。
「こちらは、当店で最も刺激的な一品です。ぜひご自身の眼でお確かめください」
 翔子はそう言ってキーボードを叩き、カメラに映る責め具の異様さを里奈自身にも視認させる。
「…………ッ!!!」
 里奈が目を見開いた。当然の反応だ。
「怖いですか、冴草さま?」
 挑発するようにそう問われれば、里奈も表情を変えざるを得ない。
「まさか。私は馬とだってしたことがあるのよ。あれに比べたら可愛いものだわ」
 堂々とそう宣言し、不敵な笑みを湛えてみせる。
 馬相手のセックスビデオを撮った経験があるのは事実だ。しかし馬姦の初挑戦時、彼女は終始顔を歪めていたし、撮影後には膣が裂けて入院した。その後はフィスト撮影などを経てリベンジを果たしたものの、当時のトラウマは残っているはずだ。
「左様ですか、では遠慮は不要ですね。優秀なモニター様に感謝いたします」
 翔子はにこやかに笑いながら、里奈の両膝に拘束帯を巻きつけ、完全ながに股を強制する。絶頂の余韻から抜けきれていない里奈の脚は、がに股になった時点でかなりの力みをみせた。その脚の間で、拷問具が突き上げられる。
「んおおおおッ!!!」
 里奈の喉から壮絶な声が吐き出され、両足にくっきりと筋肉が隆起する。
 そうなるのも納得の光景だった。コーラのボトルのようなディルドウは、いきなりその半分以上が膣に埋没している。しかも規格外の大きさのせいで、入り込んだ分だけ里奈の下腹がボコリと盛り上がってもいる。並の女性ならば反射的に泣いたかもしれないし、吐いたかもしれない。それを悲鳴だけで済ませているところは、さすが百戦錬磨の強者だ。
 しかしディルドウが下に引かれた瞬間には、その強者の腰もぶるりと震え上がった。
「くあああああっ!!」
 挿入時と遜色のない悲鳴も上がる。
「お味は如何でしょうか、冴草さま。ご感想をお願いいたします」
「ふっ、ふっ……これはまた、とんでもない物を作ったわね。とにかく太いし亀頭も大きいから、突っ込まれた瞬間は息が止まりそうになるわ。でも、それ以上にたまらないのが抜かれる時よ。3つ……いえ、4つもある雁首が膣襞を擦っていくから、潮を噴かされそうになるわ。そんな状態のあそこをまた抉られて、どんどん追い詰められる。真珠のせいで刺激が増してるのも肝ね」
 里奈が冷静に解説する間も、ディルドウは振動しながら上下に動き続けた。その刺激に菱形を作る脚はガクガクと震え、愛液がディルドウに伝いはじめる。
「あら、お褒めの言葉を有難うございます。これは感謝のサービスですわ」
 翔子は意地の悪い笑みを浮かべたまま、機械に新たな命令を打ち込んだ。里奈の足首と膝の拘束具が位置を変え、宙吊りのまま180度の開脚を強いる。
「こ、これは……!」
 里奈はその意味を瞬時に悟った。しかし四肢を拘束された状態ではどうにもできない。カメラに全てを晒したまま、唸るディルドウを受け入れるしかない。
「おほっ、おごおおおおっ!!」
 破格のサイズが膣を強引に押し開く。下腹がコーラのボトルと同じ太さに膨れ上がる。しかも今度は脚で体重を支えられないため、その刺激を100%膣で受け止めざるを得ない。
 そして無論、その状況でも機械が慈悲をくれることはなかった。指定された通りにプログラムが動き、過不足なく膣を突き上げる。
「おお゛お゛う゛っ、ほぉおお゛お゛う゛っっ!!」
 腹部に負担が掛かるため、漏れる声は自然と『お』行に限られた。太腿から足指の先にまで痺れが入り、痛いほどに勃起しきった両乳首までピリピリと痺れる。強すぎる刺激につい脚が閉じかけ、すぐに拘束具で引き戻される。
「あらすごい、EPが5万3000ポイントを超えましたよ?」
「……っ!」
 翔子の声に、里奈はぐっと脚を開き、胸を張る。
「素晴らしい姿勢ですね。ではどうぞそのままで、たっぷりとご堪能くださーい」
 翔子は薄笑みを浮かべ、ディルドウの動作パターンを変化させた。激しい出し入れから、長大さをアピールするようなストロークの長い突き込みに。傍目には刺激が減ったように見えるが、一概にそうとは言えない。
「んぁ、ぁあ……ああぁっ……! おっ、ぉぉっ、ぉっ……!!」
 ゆっくりと時間をかけて引き抜かれれば、4つの雁首で膣襞を刺激される時間も増える。
「う、んんんっ……あぁああ、んはぁぁっ…………!!」
 じっくりと押し込まれると、拡張される刺激を余さず味わえて声が抑えきれない。

(この教え込むような動き……危険ね)

 里奈は経験からそう悟る。無理のありすぎるサイズに、さしもの里奈の膣も驚いて縮こまっているところがあった。しかしこうして緩い責めを挟まれれば、膣も自然と落ち着いてディルドウにしっとりと纏わりつく。そんな状態で激しく突かれれば──。
 里奈のそんな危惧を見透かしたように、ディルドウは再びピストン速度を上げはじめた。
「お゛っ、う、うんっ! んぁっ、あっ、あっ……おっ! お゛おぉっ、お゛ぉっお、お゛っっ!!」
 素材の味を覚え込まされた上での蹂躙。里奈の口は自然と窄まり、顎が浮く。
「あっ、あはっ、太い! すごい、奥まで……っ!」
 喘ぐばかりでは芸がないと笑ってみせるものの、内心で里奈は焦っていた。彼女の中で最もインパクトのあった、アフリカ系黒人とのファックをも上書きするほどの強烈な体験。

(気をしっかり持ってないと、簡単に失神(ト)びそう……。こんなの経験したら、人間相手のセックスを物足りなく感じても仕方ないわ。このマシンの中毒になる子が多いわけね)

 里奈の脳裏に駿介の姿が浮かぶ。もちろん里奈は、容易く快感に流されるほど初心ではない。しかしながら、生物である以上は快感を無視もできない。
「ほっ、ほーっ、ほーっ……おほぉォッ!」
 三浅一深のリズムで膣奥を貫かれ、里奈は仰け反りながら絶頂に至る。全身がぶるぶると痙攣し、乳房の先端から母乳が噴きだす。その状態でさらにピストンを浴びれば、もはや余裕は消え失せた。
「おっほ、イグっ……イッグううぅうんっっ!!!」
 喉を締めつけてなお殺せない嬌声を響かせ、ガクガクと腰を揺らしながら失禁する。たっぷり5秒ほどかけてようやく降りてきた顔は、壮絶だった。目は虚ろなまま涙を零し、鼻からは汁が垂れ、閉じない口からも泡まみれの唾液が滴っている。
「あらー、幸せそうな顔をなさってますわねぇ」
 この翔子の言葉が嫌味であることは、よほど鈍い人間にも伝わるだろう。

(カメラにバカ面晒してるよー、女王さま。無駄に大勢いるあんたのファンが、幻滅しないといいけどね)

 絶句する宏尚を横目に見つつ、翔子はマシンのピストンパターンを細かく変える。里奈を刺激に慣らさないように、少しでも新鮮な反応を引き出せるように。
「うあっ!?」
 里奈から驚きの声が漏れた。絶え間ないハードピストンから一転、亀頭部分までを完全に抜き去られたからだ。ディルドウは握り拳のような先端で、様々な分泌液にまみれた割れ目をぬるぬると刺激しはじめる。
「あっ! あっ! んっ!」
 完全に“出来上がっている”今の里奈からは、それだけで大きな声が漏れた。

(そんな……! 腰が、腰が動いちゃう……!!)

 里奈は驚愕する。秘裂がひくつき、乳首がわななき、全身が挿入を願っている事実に。流されるまいと頑張っていたが、肉体はしっかりとこの凶器の虜になっているようだ。
 充分に焦らしたところで、ディルドウはまた根元まで一気に挿入される。
「ッかああああ!!」
 里奈の全身が仰け反り、太腿から足指の先までが病的に痙攣する。EPも加算されるが、今度は脚を閉じようとした結果ではない。むしろその逆、ディルドウへ腰を押し付ける形で限界以上に股を開いたせいだ。
 その甘えを翔子は見逃さない。奥の奥まで挿入した上でさらに押し付け、グリグリと膣奥を“練る”。まるで熟練男優のテクニックだ。
「ぐひっ! ひぅっ、ひ……ァひッ!!!」
 どれだけ壮絶な事をされているのか、それをまともに呑み込めばどうなるのか。それを瞬時に悟ったのだろう。里奈は咄嗟に歯を食いしばり、眉も鼻もグシャグシャに中央へ寄せる壮絶な顔で抗った。しかしAV女優のそれほどの本気をも、機械責めは嘲笑うかのように突き破る。
「ッッおお゛お゛ぉ゛お゛お゛っ!!! おほっ、んお゛っお゛、お゛っ、おお゛ぉお゛お゛っ!!!」
 無理に我慢をするほど、その反動は大きい。里奈は、聖母のイメージを覆す喘ぎ声を繰り返し吐きながら、緩く背を反らした。仰け反りが甘いため、その表情の遷移──ぐるりと白目を剥き、舌を突き出し、唾液を散らし、鼻水を噴きだす、その全てが余さず記録されてしまう。

「……はあっ、はあっ、はあっ……! す、すごいわ……カラダ中が、熱い……。感電してるみたいに、ビリビリして……余韻だけで、んんんっ、またイケちゃう……」
 駆動をやめたディルドウがようやく引き抜かれた頃、里奈の有り様は壮絶だった。母乳がどくどくと腹部を覆い、全身が汗で濡れ光っている。
 翔子はそんな里奈の有様をしばしカメラに収めさせてから、4本のアームを操作した。アームの先についたフックが里奈の小陰唇に引っ掛けられ、性器を4方向に押し拡げる。
 ぐっぱりと開かれた里奈の膣では、濡れ光る膣壁が妖しく蠢いていた。しかし、本当に衝撃的なのはその奥だ。膣の突き当たりに位置する子宮口が、その口を大きく開いていた。指の二本程度ならばそのまま入りそうなほどに。
「うわ……!」
 モニターを凝視していた宏尚は、思わず声を上げた。
 理屈は解る。さんざん焦らした上、子宮口に密着する例のバイブで子宮口をほぐした。さらに巨大な亀頭で繰り返し子宮口を圧迫した。ここまでお膳立てを整えれば、翔子でも小指の先ほど外子宮口が開いたものだ。
 だが、里奈の開き具合はその比ではない。さすがは経産婦というところだろうか。
「…………凄いでしょう。それとも羨ましいかしら? 何度も中イキした結果よ。女の性の到達点ね」
 開閉する子宮口を撮影される。その未曽有の屈辱の中でなお、里奈は笑みを浮かべてみせた。一方で翔子も笑う。クスッ、と冷ややかに。
「お言葉通り、素晴らしい仕上がりです。しかし冴草さま、まだ到達点というには早いのでは?」
「え?」
「人間相手のセックスではここがピークだと思われますが、我々は“その先”をご用意しております」
 翔子のこの言葉からは、嘲りの意図が透けて見えた。AVクイーンなどと胸を張ったところで、所詮は人間しか経験がないんだろう、という。

(その先……? 一体何をする気なの?)

 里奈の頬に冷や汗が伝う。事前に撮影の流れは打ち合わせているが、この辺りのシーンは里奈側に知識がないのもあって『最終シーンまで延々マシンファック、責め方は店のおまかせで』と丸投げしたため、何をされるのかは全く未知だ。しかし、だからといって逃げられない。
「ふーん、面白いわ。なら教えてちょうだい、その新しい世界を」
「ええ、承知しました」
 無機質な機械を隔てて、女の意地がぶつかり合う。


                ※


 4つのフックで膣を開くのはそのままに、また別のバイブが里奈に迫る。
 今度の責め具はずいぶんと小ぶりだった。初心者が膣やアナルを慣らすのに使う細いバイブという風だ。当然、このSコースでそんなものが膣に使われるはずもない。また尿道責めかと身構える里奈を嘲笑うように、バイブはまっすぐ進んでいく。膣の中央……開いた子宮口の中へと。
「がっ……!」
 未知の刺激に、里奈は眼を見開いた。
「なっ、子宮!? 新しい世界っていうのはウテルスセックスのこと!?」
「さすが、よくご存じで。冴草さまは出産経験がお有りとのことですので、子宮頸部から先への挿入も問題なく可能と思われます」
 私なんて、産んだ経験もないのに突っ込まれたんだからさ──翔子は心の中でそう毒づきながら、宏尚をジロリと睨む。
「ひっ、ひぃいっ! はっ、は……はあぁっ! はあぁっ! はあああっ!!」
 里奈は全身に冷や汗を掻いていた。子宮口に赤子を通した経験があるとはいえ、それはあくまで内から外の話だ。尿道や肛門がそうであるように、出すために作られた場所へ異物が入り込んでくる違和感は大きい。ましてやポルチオは女性最大の性感帯だ。突かれるだけで絶頂するそんな場所へ直に挿入されて、平然とはしていられない。
 頭に血が上る感覚の後、ふっと視界が明度を落とし、目の奥で光が迸った。

(あれ、これ……? この快感、ダメかも……)

 里奈はそう直感する。
 プロの男優相手に中イキを経験すると、目の前で火花が散るような感覚を覚えることがあった。いわゆる『目がチカチカする』状態だ。しかし今のこれは、それよりも遥かに鮮明だった。車のハイライトを直視した時の、思わず立ち竦むような眩さ……それが目の奥に閃いた。
「さあ冴草さま、子宮に挿入されたご感想を」
「はぁっ! はぁっ !はぁっ! こ、これは、初めての感覚よ……! 子宮が痺れて、熱い!! 突っ込まれるだけで、んくっ、深い中イキが……来るっ!!」
 里奈自身の告白を裏付けるように、カチューシャ型の測定器は赤く光り続けていた。暗くなる瞬間がないのは、常に絶頂状態にある証だ。
「ハアッ、ハアッ、ハアッ、ハアッ……!!」
 分泌液の糸を引きながら、子宮口から一旦バイブが抜かれた時、里奈は完全に息が乱れていた。額の汗も尋常ではない。
 翔子はそんな里奈に、あえてバイブの先端を見せつける。もちろんカメラにも真正面から映る位置でだ。
 バイブの先には、白い物が付着していた。
「これが何だかお解りでしょうか?」
 翔子に問われても、里奈はすぐには答えられない。頭は答えを導き出しているが、それを咄嗟に口に出せない。
「これは、冴草さまの子宮内膜にこびりついていた滓です。このバイブの先が間違いなく子宮頸部を通り抜け、子宮体部にまで達していたという証拠ですわ」
 翔子は高らかにそう宣言し、しっかり撮れと言いたげにカメラを観る。押しも押されぬトップ女優の子宮滓など、確かにそうそう見られるものではなく、記録的な価値があるのは確かだ。しかし、里奈当人としては恥辱の極みでしかない。
「……そう。道理で気持ちよかったわけね」
「それは良うございました。これよりウテルスセックス前の慣らしとして、子宮頸部の拡張を行いますので、この輝かしい世界をたっぷりとご堪能くださいませ」
 翔子はあくまでにこやかに笑いながら、子宮責めを再開する。
「あひっ、ひぃっ、ひぎィィっ!! ひぎィッ、んひぃいィっ!!」
 機械の駆動音と呼応するように、尋常ならざる呻き声が漏れはじめる。並のサディストであれば、この反応だけで充分に満たされることだろう。しかし安西 翔子という稀代の悪女は、惨めな人間を見ると追い打ちを掛けたくなる性分だ。学生時代の宏尚にリンチで泣きを入れさせた挙句、便器まで舐めさせたように。
「ああ申し訳ありません、うっかりしておりました。そろそろそのバイブにも子宮が馴染んで、刺激が足りなくなってきた頃でしょう」
 白々しくそう告げながら、子宮のバイブを引き抜いてより太い物と交換する。
「あ、ひぎあああ゛あ゛っ!! ふ、太い゛ぃ゛、ふどいいい゛っ!!」
 子宮口をこじ開けられ、白い歯を食いしばって悶絶する里奈。
『58305』
『58721』
『59127』
 手足の拘束具が騒々しく音を立て、モニターのEPが増えていく。その様を見守る翔子は、事務的な能面顔の下で笑いを堪えるのに必死だった。
「刺激的ついでに、このようなトッピングもいかがでしょうか」
 翔子は淡々と告げながら、マシンに追加命令を打ち込む。細いアームが計4本里奈に迫る。うち2本は搾乳器、1本は尿道バイブ、1本はクリトリスブラッシング用のものだ。
「んお゛ぉっ!? そんな、この状況でクリと尿道もなんて!! おあお゛お゛お゛っ……あ゛イグ、イグ、イグっ!!」
 異質な五ヶ所責めで、脳波測定器がより鮮やかに輝く。翔子はそれを見てほくそ笑み、最後の命令ボタンを押し込んだ。
「では、ご堪能ください」
 その言葉の直後、里奈の目元は機械で覆われた。Sコースで用いられるこれは、ただ視界を閉ざすだけのものではない。強い光の明滅で被験者の脳をシェイクし、快感にトリップしやすくする悪夢の機能だ。
「ああなにこれ、眩しいっ!! ああおっぱい吸われ……あっああっ、おしっこの穴、そんなに……!! ぁだめ、子宮でもイクっ……クリやめて、そんなに擦られたらっ…………!!」
「ああ、凄い反応。今の状況を解説していただきたいところですが、この様子では難しそうですね。もはや彼女は、自分が今どこで絶頂しているのかもわかっていないはずです」
 パニックに陥る里奈を、翔子は面白そうに見つめていた。内心で評価してはいる。以前に翔子自身があの五ヶ所責めのモニタリングを行った際、あまりの刺激に泣きだし、やめて、止めて、としか叫べなくなった。混乱気味とはいえ、各部の刺激に一つずつ向き合おうとする里奈は、貪欲で、生真面目で、強かだ。

(なら、こういうのはどう? お強いAV女優サマ!)

 翔子はさらに設定を弄り、今度は里奈の姿勢を変えさせる。宙吊りのまま、両脚でMの字を作るように。自然と下半身が力むその体勢は、里奈からいよいよ余裕を奪うに違いない。
 いつしか翔子は、ハイな気分になっていた。自分より上等なメスをイジメ潰してやろうという気持ちも変わらずある。しかしそれ以上に、冴草 里奈という女の示す反応そのものが面白くて仕方ない。

(ほらほら、頑張れー! あたしはこの辺で泣き入れてギブしちゃったけど、アンタならその先に行けるでしょ? これ以上やったら女がどうなっちゃうのか、カメラとあたしに見せてよ!)

 心の中で野次を飛ばしつつ、外面ではあくまで事務的にキーボードを叩く。我ながら良い性格をしている、と翔子は自嘲した。

 ガコガコと音を立てながら、通常膣に使われるものと同じバイブで子宮内を蹂躙される。
 その上の尿道も親指大のバイブがこじ開け、薬液で疑似排尿を強いながら入り口と陰核脚を刺激する。
 肥大したクリトリスは微細な振動を浴びながら、無数の繊毛に磨きぬかれる。
 勃起した左右の乳頭は変形するほど吸引され、延々と母乳を絞り出される。
 幾重もの無慈悲な責めに、里奈の反応は刻一刻と変化していった。
「ッオ゛、オ゛オ゛オ゛オ゛……ほおイグっ、イクっイクううううっ!!」
 重苦しい呻きと共に絶頂する。最序盤のその反応ですら、充分に異様ではあった。
「おあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!! ああア゛っ……あ゛ーーっ!! あ゛ーーっ!! あ゛ーーっ!! あ゛ーーっ!!」
 2分が経った頃、喘ぎ方が変わる。呼吸はより苦しくなっているはずだが、どういう訳か、喘ぎ声の種類が『お』から『あ』の濁音に変わる。その理屈に合わない行動が、ますますもって異様だ。

(おー、いいカンジに狂ってきたじゃん。あたしは速攻でギブしちゃったけど、どんな感じかは分かるよ。子宮・尿道・クリ・乳首……女の急所5点責めとか、ふざけんなって感じだよね。目の機械のせいで意識かき乱されるのもヤバいし。あの女、マジで狂っちゃうかも。まーでも、そうなったらそうなったでいい宣伝になるか。『ご利用は計画的に』、ってね)

 翔子は無表情の裏でほくそ笑む。『この撮影で里奈に何かが起きても、責任は一切問わない』──店と撮影側でそういう契約を交わしているため、責めている方としては気楽なものだ。

「ああ゛あ゛あ゛……ッがあ゛あ゛あ゛あ゛ッ!! ぉうっ、ふうっ、お゛ーっ……ぉほっ、イいい゛い゛ぐ、ッッグ!! あッ!? あ゛っあ゛っあ゛っあ゛っあ゛っあ゛ーーっぁイグィグイグイギゅる゛ッ!!! ふゥーッ、ふゥーッ、うう゛ーッ!! がはあっ、あ゛あ゛あ゛あ゛うはぁあ゛あ゛あ゛あ゛っっ!!」
 さらに数分が経つと、里奈の反応はいよいよ一貫性を失った。身を捩って絶叫したかと思えば、腰を痙攣させながら歯を食いしばる。かと思えば完全な泣き声を響かせ、明瞭に絶叫をアピールしたかと思えば、言葉に成りきらない悲鳴を吐き散らす。秒単位で目まぐるしく変化するその様は、まさに狂乱という表現が相応しい。
 肉体の反応も、ありふれたセックスでは見られないものがいくつもあった。一切責められていない肛門が喘ぐように開閉し、そこに尿道と膣からの白く濁った愛液が流れ込んで、ふとした瞬間にびゅっと勢いよく噴きだす様などは特に壮絶だ。

(これ流石にヤバい? 流石にヤバいやつだよね? あーもうわっかんない! せめてヒトの言葉喋れっつーの!)

 翔子は焦りつつ、マシンに責めの中止を命じる。狂ってもいいと思うのと、実際に狂いゆく様を放置するのとでは、やはり大きな隔たりがあった。

 責め具が引き抜かれると、里奈の肉体は分かりやすいほど弛緩する。引き絞られていた四肢の拘束具も久々に緩み、モニターのEPも加算が止まる。その数値はいつの間にか8万の大台に乗っており、里奈がどれほど暴れたのかを如実に物語っていた。
「んんっ……」
 目元の機械が外れた瞬間、水漏れのように大量の涙がこぼれ落ちる。その源である瞳は眩しそうに瞬き、揺らぐ瞳孔が落ち着くのに数秒を要した。
 しかし──ついに焦点の合った宝石のような瞳は、なおも光を失っていない。

「はーっ、はーっ、はーっ……あ、あははは、最高だわ! 私もまだまだ無知ね、こんな世界があったなんて……!」

 絶叫マシンを体験した直後のように、息を切らせながら笑う里奈。その姿は、撮影スタッフと宏尚と、そして翔子に衝撃を齎した。

(マジ? こいつ、あれに耐えんの? しかも笑ってるとか……これがAVって業界の頂点ってわけ?)

 改めて突きつけられたその事実に、翔子が眉をしかめる。
「素晴らしいです、冴草さま。これならばこの先のテストにも存分にご協力いただけそうですね。ただし、あまり羽目を外しすぎないようにご注意ください。冴草さまのEPは、すでに8万を超えておられますので」


                ※


「おごお゛お゛お゛お゛っ、お゛お゛お゛っ!! ん゛はっ、お゛お゛お゛っ!! ぉ゛イグっ、イっぐううう゛う゛お゛お゛お゛!!!」
 マシン内部のスピーカーからは、壮絶な声が漏れ続けていた。その声だけを聴けば、恥知らずな品のない女に思えるだろう。しかしモニターに目を向け、卵型のカプセルの中で何が起こっているのかを認識したなら、その評価は変わるはずだ。あそこまでやられているなら仕方ない……と。 
 里奈は直立姿勢に戻され、下から突き上げる形で子宮を責められていた。グッポグッポという空気の攪拌音が、絶え間なく響いている。猛烈なピストンを繰り返すバイブは発光するタイプで、強い光が肌越しに透けて見えるため、どこまで入り込んでいるのかが一目瞭然だ。
 目視できる子宮姦は、映像的なインパクトのみならず、説得力という点でも優れている。
「あうう゛っ、ふぐう゛……ううう゛っ、ぃひぐふう゛ん゛っ……!!」
 里奈がまた“泣き”のサイクルに入った。俯いたままボロボロと涙を零し、爪先立ちになった脚を痙攣させる。串刺しにされたまま感電しているようだ。子宮へ入り込むバイブが視認できるならば、そんな姿にも納得だった。
 ただし、それに同情の念を感じるのは人間だけだ。機械に慈悲などない。プログラムの実行タイミングが来れば、対象が泣いていようが失禁していようが、一切考慮せず責めを課す。
 バチンッ、バチンッ、と肉を打つ音が響いた。凹凸付きのパドルが太腿や尻を打ち据える音だ。
「いやいい゛い゛い゛っ!!!」
 肌に赤い跡を残すほどの容赦ないパドリングは、通常時であれば泣くほどの痛みを、絶頂続きの極限状態であれば震えるほどの快感をもたらす。実際に里奈も、無駄肉のない皮膚を波打たせながら、必ずと言っていいほど潮噴きに至っていた。
 しかし今回に限っては、その痛みに悶えたことが仇となる。逃げようとした脚が床の愛液で滑り、一瞬とはいえ子宮だけで全荷重を受け止める杭打ち状態となる。そしてその一瞬が、里奈を残酷に突き崩した。
「わ゛ああ゛あ゛あ゛ーーーーっ!!」
 開き切った口から喉を震わせるほどの悲鳴が上がり、全身が痙攣する。
「あ゛ーーっ!!! あ゛ア゛ーーーっ!!!」
 地に着いた足で必死に踏ん張るが、痙攣と絶叫は止まらない。むしろますます酷くなる。その一連の反応は、彼女が薄氷に乗るがごときバランスで正気を保っている事実を伺わせた。
「ふ、はッ、はッ、はッ、はッ、はッ…………」
 かろうじて姿勢と呼吸を整えても、里奈には休む暇もない。翔子がその暇を与えない。
「大丈夫ですか、冴草さま。凄いお顔ですよ」
「……だ、だっで、ずっど子宮でイってるがらっ……!!」
「そうですか、子宮で。ああ、そういえば体外からのポルチオ刺激を失念しておりました」
 翔子はとぼけた口調でそう告げると、見るからに強力なマッサージ器を里奈の下腹部に押し当てる。
「あやっ!! お、お゛っ……おおおお、イグ、イグイグイグっ!!! あああ子宮がげいれんぢでるううう!!!」
 里奈が身を捩ると、手足の拘束具が軋みを上げる。涙に塗れた視界では、モニターのEPが9万目前にまで迫っていた。今の増え方を考えれば、10万ポイントまでの猶予など無いに等しい。
 追い込まれている。あらゆる点で。

「あらあら、ステキなお声。すみません、もっと早く気持ちよくして差し上げられたのに」
 翔子はにこやかに笑いつつ、責めの命令を更新する。
 里奈の身体は再び宙吊りにされ、Mの字を描くその脚の中心に、改めてバイブがねじ込まれた。ただし、このバイブも先ほどまでのものとはやや違う。発光機能はそのままに、二回り太さが増したものだ。
「がああ太ッ……あ、あ゛ーーっイグううッ!! お゛っ、おん゛っ、おん゛っ、ほおおお゛お゛お゛お゛ーーーッ!!」
 これ以上はないというほど目を見開き、全身を震わせる。手足でも切り落とされているかのような表情だ。しかしその声色は濃密な快感を孕んでいるし、脳の測定器は鮮やかな赤に輝き続けている。
「盛り上がってきたところで、この映像をご覧の方にコメントをどうぞ」
 翔子が唐突にリポートを要請した。勿論、辛いタイミングだと判断した上でだ。
「おっ、ほぉっ、ほぉっ……ははは、クレイジーで最高ね。けど皆、くれぐれも遊び半分でこのコースを選んじゃ駄目よ! あそこをグチャグチャにされてしまうわ!!」
 里奈は楽しそうな笑みを浮かべた。時間的にもそろそろ撮影のクライマックスだ。このPRビデオに陰惨なイメージを残さないためにも、快感に喜んでいる画を多く撮らせた方がいい。そう判断した上での笑顔だ。しかしその笑みも、すぐに歪んだ表情で上書きされる。
 あそこをグチャグチャにされるからやめておけ──その発言は、彼女自身の性器が壊れそうだという告白に等しい。
「あそこだけ、ではありませんよね?」
 翔子は薄笑みを浮かべながら、乳房の器具を作動させた。乳腺マッサージと搾乳機能が同時に働き、里奈の胸を甘い快楽で包み込む。
「あああ胸っ、あああ゛あ゛あ゛ーーっ!!」
 意識していない箇所への快感に、里奈はあえなく絶頂し、盛大に母乳を噴きこぼす。あまりにも顕著なその反応に、翔子はくすっと笑いを漏らした。
「失礼ながら。そのように気持ちよさそうな反応をなさると、あまりお言葉の説得力が……」
「あ、当たり前じゃない! 子宮でイカされつづけて、甘い快感が体中に巡ってるのよ! 乳首にだって……あ、あダメ、乳首だめ! 繋がる……あそこと、電気繋がるぅっ!!」
 里奈はそう絶叫し、俯きかけたままで動きを止める。

 目の前に、星がチカチカと瞬いていた。
 辺り一面が仄暗い。それなのに、何もかもが白い。
 この空間は心地がいい。まるで、天国……………………


『  里奈さん!!  』


「……っ、ぶはああっ!!!」
 脳裏に響いた声で、里奈は意識を取り戻す。激しく噎せかえり、その勢いで吐瀉物を思わせる黄褐色の唾液がびしゃびしゃと胸に垂れ落ちた。

(あ、危なかった! 息するの、忘れてた……!!)
 
 里奈の心臓が激しく脈打つ。窒息寸前だった事よりも、脳が警鐘を鳴らさなかった──すなわち、甘美な死を受け入れていたという事実がショックだ。
 よく助かったと思う。さっきの声のおかげだ。
 あの声には聞き覚えがある。それこそ今朝も、窒息しそうなほどのキスの後で囁かれた。

『出かける前にちゃんとマーキングしとかないと。『ドリーミィ・カプセル』だかなんだか知らないけど、機械なんかに僕の里奈さんは渡さない』

 すっかり大人びた少年の声。

(そっか…………シュンくんが引き戻してくれたんだね)

 そう思い至り、里奈はふっと笑みをこぼす。
「っ!?」
 翔子が目を見開いた。

(何あいつ……笑ってる? あたしの責めがヌルいっての!?)

 翔子には、里奈を追い詰めている自信があった。AV女優としてのプライドで頑張ってはいるようだが、それでも翻弄できていると確信していた。
 今の笑みは、その翔子のプライドを打ち砕くものだ。

(ふざけんな、ふざけんな、ふざけんな!! AVクイーンだか何だか知らないけど、あんただって所詮は只の女だろ!? あたしが泣き入れさせられたこのマシンに屈服しないなんて、あるわけないんだよ!!)

 翔子の指がキーボードの上で激しく踊る。
 里奈の膣から男根型のバイブが引き抜かれ、入れ替わりで再び八股の密着型バイブが挿入された。
「あっ、これは……!? ひッい、いいいイ゛グッ!! しっしっしっ、子宮でえっ!しきゅうでイってるうう゛う゛う゛っ!!!」
 同じ責めの繰り返しでは断じてない。挿入を経て子宮頸部をほぐしきった上でのポルチオ刺激だ。里奈の両脚は大きく開いたまま強張り、刺激を嫌うようにバタバタと暴れはじめる。

(ほらオバサン、EPがどんどん増えてくよー? 『92126』、『92335』……あーあー、もう10万オーバーとか時間の問題じゃん。プロの誇りにかけて耐えきってみせるとか啖呵切っといて、結局ダメでしたーじゃカッコつかないでしょ)

 翔子が心中で嘲笑う中、里奈の腹筋が痙攣しはじめ、瞳はぐるりと上を向く。
「ぇおえっ、ごぼっ……!!」
 里奈はまたしても激しく噎せ、唾液と涎、吐瀉物の混じった粘性の液体を吐き出した。
 彼女の意識はそこで一旦途切れたが、翔子には休息を取らせるつもりなどない。ポルチオバイブの出力を上げ、身の内から揺さぶることで強引に覚醒させる。
「ごほお゛っおお゛お゛っ!! おおお゛ぉ゛イぐ、イぐイぐふうううん゛っ!!」
 確かならぬ声で覚醒した直後、里奈の股間からはチョロチョロとせせらぎが漏れた。根元まで押し込まれた尿道バイブを無視する失禁だ。
「あらあら、嘔吐どころかお粗相までなさって。残り時間はまだ40分ほど残っていますが、もう終わりにされたいですか?」
 翔子は諭すように里奈に告げた。口調こそ優しいが、『逃げるのか』という問いだ。
 窒息に苦しんでいた時の里奈なら、あるいはそれを魅力的だと思ったかもしれない。しかし、今は違う。
「……冗談じゃない。こんな刺激的な体験なんてそうそうできないもの、残さず味わい尽くさせてもらうわ」
 AV界を代表する女優として、駿介が憧れるAVクイーンとして、里奈は綺麗に笑ってみせた。


                ※


「んぎいいい゛い゛い゛い゛っっっ!!!」

 断末魔のような悲鳴が、撮影部屋を震わせる。その声と同様、里奈の現状も壮絶だ。
 彼女の身体はいくつもの拘束具に捉えられたまま、完全に宙へ浮いていた。膝が肩につくまで持ち上げられた、いわゆる『マングリ返し』の体位。女性にとって最も屈辱的なその格好をキープさせたまま、総決算のような責めが里奈を襲っていた。
 乳頭は乳腺開発と共に搾乳され、クリトリスは激しくブラッシングされ、尿道にはマジックペンサイズのバイブが埋め込まれている。子宮を抉るアタッチメントはもはや男根を模したものですらなく、いわゆる触手に近い形状をしている。肛門にも嫌がらせのような極太の触手型バイブがねじ込まれ、実に40段におよぶ蛇腹でS状結腸を扱き続けていた。
 不自然な体勢でそこまでの責めを受け、じっと耐えられるはずもない。少し前までの里奈なら、拘束具のワイヤーを引きちぎらんばかりに暴れ、手足合わせて500近いEPを叩き出していたはずだ。
 ところが今は、その増加量が極端に少なかった。
『97566』
 それが現在のEPだ。背水の陣という状況ではあるが、残り時間も少ないことを考えれば、追い込む翔子も悠長には構えていられない。翔子は鬼気迫る表情でキーボードを叩き、責め具の動きを激化させる。
「ああああ゛あ゛凄いっ、気持ちよすぎる゛っ!! 前もっ、うしろも゛、抉られてっ……い、イギっぱなしで、おがしくっ……ああああまたぐるっ、まだぐるう゛う゛う゛っ!!」
 リポートする里奈の声が乱れはじめた。時に濁り、時に掠れ、時に裏返る。顔はチアノーゼで青ざめ、口の端からは泡にまみれた涎が垂れ続けてもいる。それでも機械に慈悲はない。
「はぎィいいい゛っ、んがぁ!! んごおおお゛お゛お゛っ! オ゛ぉイッぐ、ああオ゛ーーっ!! ずっどイッでる、ずっどイッでるうう゛っ!! いぎっ、いぎできあいっ……ふぁあああぁあんっ!!!」
 壮絶な悲鳴の合間合間に、泣いているようにしか聞こえない声が混じる。手足が暴れ、EPも加算されていく。

(無駄な足掻きだって。耐えきれるわけないじゃん、そんな無茶苦茶な責め)

 翔子はそうほくそ笑む。しかし、それも僅かな間だけだ。
「ぐ、うううう゛っ……!!」
 里奈はすぐに持ち直し、累積EPを『97894』に食い止めた。
「なっ……!」
 自分の常識を超える根性に、翔子の顔が引き攣る。
 しかし、彼女にもまた意地がある。彼女はマシンに関する知識を総動員し、EPの残り2000ポイントあまりを削りにかかった。
 最強のAVクイーン相手に、AVの真似事をしても無駄だろう。ゆえに、人間相手では実現できない責めを叩き込んでいく。

 挿入からの疑似射精をひたすら繰り返し、子宮内部はおろか膣さえも飽和させて腹部をぽっこりと膨らませ、その状態でアソコに栓で密封する。その状態で激しくアナルにピストンを仕掛ける。これは相当に効いた。
「ぎぃいい゛っ、しぬ゛っ、しぬう゛っ!! げほっ、おお゛え゛っ!! も、もう、もう゛……っ!!!」
 『死ぬ』と嘔吐を繰り返し、その果てに『もう』という言葉を繰り返す。『もうやめて』『もう許して』……そうした哀願の言葉を漏らしかけているのは明らかだった。
 それでも、里奈は凌ぎきる。何度となくアナルアクメを繰り返しながら、膣の栓を吹き飛ばした時点で、EPは『98752』。
「くっ……!!」
 もはや翔子には、態度を繕う余裕などない。モニターの中の里奈を睨みながら、悪意ある設定を叩き込んでいく。
 膣に触手型のバイブを3本突っ込み、後ろの穴にも蛇腹バイブを2本挿しして、苛烈な抜き差しを繰り返す。乳首や下腹はもちろん、腋にさえ電気パッドを装着して刺激する。そしてついには、口にさえ触手型のバイブを突っ込み、喉奥を激しく蹂躙する。まさに体中、穴という穴を蹂躙するハードプレイだ。
「もごっ、ほもっごぉおお゛お゛っ!! むぐおお゛お゛っ、ィいお゛え゛ッ!! おっお゛お゛、もおごろえお゛おお゛エ゛っ!!!」
 喉奥を蹂躙され、粘ついた汁を掻き出されながら、里奈は着実に追い詰められていく。

(なるほど、これは人間相手じゃ味わえないわね。ファンタジーの世界で強姦されてる気分だわ……!)

 ぼやけた頭でそう思考する間にも、膣は3本の触手に蹂躙され、テニスボールほどもある先端部分が代わる代わる子宮口を突破してくる。肛門の2本の触手は、無数の蛇腹で直腸をイジメ抜きながら結腸にまで侵入し、それぞれ別方向に蠢いて強引に門を開きにかかる。その際に生じる便意に似た何かは、人間の尊厳を根こそぎ消し飛ばすかのようだ。尿道、クリトリスの刺激とて馬鹿にはできない。本来ならその刺激だけで泣かされ、屈服させられかねない強烈さがある。腹部、内腿、上腕、腋……そこに取り付けられたパッドからの刺激も、今や絶頂に直結する。
 しかもそれらの刺激は、各所独立しているわけではない。それぞれがそれぞれと結びつき、影響しあって、里奈の全身を高圧電流のように駆け巡る。

 それでも、里奈は耐えた。暴れようとする手足に力を籠め、逃げようとする腰を押しとどめ、折れようとする心を鼓舞し続ける。

(……うそ。ウソ、ウソ、ウソだ!!)

 時計を睨みながら、翔子は歯噛みする。しかし、現実は覆らない。残り時間は刻一刻と減り、4時間におよぶコースの終了時間が迫る。

「んぐううう゛う゛っ、はおおお゛お゛お゛ーーーっっ!!!」
 口からバイブが引き抜かれると、里奈はすぐに喘ぎを漏らした。そこへ快感の高波が襲えば、ここぞとばかりに全身を仰け反らせて快感を訴える。
「お゛っ、お゛っ、おおおおお゛イグううう゛っ、イグの見てえええーっ!!」
 恥じらいのない痴女に見えるかもしれない。しかしこれはAV女優としてのプライドだった。苦しくても辛くても、撮影から逃げずに快感に浸る演技をしてみせる。それこそがAV女優・冴草 里奈のあるべき姿だ。
「ああああそうよ、突いて、抉って、滅茶苦茶にして! あなたは最高よ……このマシンは最高よぉーーーーっ!!!」
 里奈は高らかにそう叫ぶと、母乳と潮を噴き散らしながら、反った全身を痙攣させる。その絶叫と絶頂を最後までカメラに収めきったところで、タイマーが鳴り響いた。


 終わってみれば、すべてが里奈のシナリオ通りだった。
 撮影の締めはPR動画として文句なし。そして最終的なEPは『99994』。
「……ふふ、結構ギリギリだったのね」
 並んだ数字を見てにこりと笑う里奈を見て、翔子は悟った。

(こいつまさか……狙ったの? 最後のあの痙攣まで含めて、ギリギリ10万以下になるように? でもそんな、あと6キロの負荷でアウトだったのに……)

 撮影終了後の弛緩した空気の中、翔子の血だけが冷えていく。そんな中、マシンの中から助け出された里奈は、硬い表情の翔子に笑いかけた。
「なんとか10万ポイント以内に収めたけど、正直勝った気がしないわ。随分と恥を晒してしまったもの。何度か気絶もしちゃったし」
「……このマシン相手では当然かと。人間の耐久力にも限界はあるんですから」
「いいえ、身体の限界じゃないわ。このままじゃ狂っちゃう、死んじゃうって思って、自分から暴れたり意識をシャットダウンしたのよ。つまり気持ちで負けたの。たとえ皆がよくやったって褒めてくれたとしても、私自身が逃げたことを解っちゃってる」
 里奈は心底悔しそうだった。無慈悲な機械にあれだけ無茶をされたら、逃げたいと思って当然だろうに。なんというストイックさ。まるで一流のアスリートだ。
「またプライベートでリベンジさせてね。次も手加減なんていらないわ」
 里奈はそう言って翔子に握手を求める。汗と鳥肌に覆われたその手を前に、翔子はゴクリと喉を慣らした。
「……お待ちしております、冴草さま。ただし、次回来店される時はまた機能がアップデートされているかもしれませんよ? 今回のテストで、『最高のAV女優』のデータがたっぷりと採取できましたので」
「望むところよ」
 互いに笑みを浮かべながら、がしりと握手を交わす里奈と翔子。どこまでか悪意で、どこまでが敬意なのかわからない。

「……女って、こえー……」

 蚊帳の外ですべてを見届けた宏尚は、しみじみとそう呟いた。




                         終わり


 

オス喰い女王の愛しき我儘

※男を逆レイプするのが趣味のドS女王と、ヤリチン中年男のセックスバトル。
 ヒロインの着想元は某とあるシリーズの食峰操祈ちゃんです。
 なお、この物語はフィクションであり、実在の人物やサービスには一切関係ありません。
 また、現実で無修正セックスのライブ配信を行うことは違法です。




 『May先生のクソオス狩り』は、某アダルト動画共有サイトで高い人気を誇るチャンネルだ。投稿された過去動画の再生数は大半が万を超えている。
 動画のコンセプトは、メンズエスティシャンの『May(メイ)先生』が、野蛮な“オス”に女性を代表して仕置きをするというものだ。
 サークルで新入生を喰いまくっている大学生を、騎乗位で何度も射精させ、「もう勘弁してください」と泣かせたり。
 DV経験のあるバンドマン相手に、前立腺マッサージからの手コキで何度も潮を噴かせ、「もう出ません」と悶え狂わせたり。
 悪徳ホストのアナルをペニスバンドを犯し、メスのように鳴かせたり。
 そうやって“オス”を屈服させ、最後はぐったりと伸びた男に足を舐めさせる服従シーンで〆るのがお約束だ。
 この内容が若い女にウケた。男に弄ばれた女にとって、意趣返しのようなこの動画はさぞ痛快だろう。そうした思想を抜きにしても、若いイケメンがM調教される内容を純粋に好む層も多い。
 そして俺もまた、このチャンネルを楽しみにしている一人だ。とはいえ俺の場合、勧善懲悪にカタルシスを感じているわけでもなければ、悶える男を見て興奮しているわけでもない。ただ純粋にMayの虜だからだ。

 Mayはギャル系の派手な見た目をしている。癖のないストレートヘアを金に染め、両耳にはピアスを飾り、舌にも銀ピアス、さらにいつでもバッチリメイクだ。華美に過ぎる気もするが、人形のように整った顔立ちと8頭身のスタイルがそもそも浮世離れしているから、不思議と調和が取れて見える。その華のあるルックスと強い女のイメージは同性からカリスマを集めていて、スクールカーストならぬジェネレーションカーストの上位に君臨する女だという。
 そんなMayは美しいと同時にエロい。男に馬乗りになったまま、小馬鹿にするような表情でビンタしているシーンときたら、この俺が無意識に射精しかけたほどだ。
『だらしないわねぇ。もう終わりなのぉ?』
 独特のねっとりとした喋り方も堪らない。この女王相手なら、尻に敷かれても悔いなし──そう思わせる魔性がある。

 ネットの噂レベルだが、彼女は本名もメイというそうだ。アメリカンなボリュームのFカップを誇る彼女だが、中学入りたての時点ですでにDカップあり、ルックスの良さも相まって色々な男に言い寄られたらしい。彼女自身も好奇心旺盛だったため、そういう男の1人と付き合った結果、オモチャにされて捨てられた。その苦い経験が今に繋がっているのでは。噂ではそう結論付けられていた。
 それが真実だろうがデマだろうが、大事なのは今のMayだ。俺はMayが好きだし、そのMayが提供するチャンネルも楽しみにしている。
 …………とはいえ、全てを肯定するわけじゃない。May自身のエロさには非の打ち所もないが、その相方となる“オス”達には大いに不満がある。連中はまるでなっちゃいない。『May先生のクソオス狩り』ではMayと竿役のセックスバトルから始まるのが定番だ。だが今までの竿役ときたら、前戯では快感のポイントを外し、挿入してからの腰振りも熟れていない。多少の経験はありそうだが、オスの代表には程遠い。そんな相手をMayが制したところで、素人相手にプロの格闘家が殴り勝ったようなもの。出来レースを承知で楽しんでいるファンも多いんだろうが、俺はもっと肉薄した勝負が観たい。常々そう思っていたところに、今回チャンスが転がり込んできた。

「頼んます、師匠! 軽くでいいんで、あの人にヤキ入れてもらえませんか!?」
 坊主刈りの男は、俺にそう頭を下げた。
 彼──栗林ことクリ君は、Mayのチャンネルのカメラマンだ。スタッフ中唯一の男で、裏ではMayにイビられているらしい。撮影しながら股間を膨らませているのを茶化され、頭からパンツを被せられる。酒の席では、酔ったMayから足コキを仕掛けられ、他のスタッフが笑う中で射精させられる。彼も元々はMayのファンだから、最初はむしろご褒美なぐらいだったが、流石にしつこくて辟易しているという。
「ええよ。一度ヤリたいなー思てたコやし」
 俺が快諾すると、クリ君の顔がパッと明るくなる。

 じつは俺も派手に女遊びをしてきた人間だ。いわゆるイケメンには程遠いが、人並み以上に物がデカイ。勃起時22センチのマグナムを部活の先輩に面白がられ、遊び半分で先輩の彼女とやらされた時、俺は自分の才能に気が付いた。マグロを自称する先輩の彼女は、正常位でガンガン突きまくる童貞の俺を相手に、生まれて初めてイったらしい。それ以来先輩とは疎遠になったが、皮肉にも先輩が広めた噂のおかげで、色んな女が寄ってきた。俺もヤリたい盛りだったから、片っ端から受け入れ、まさに乾く暇もないという有り様だった。
 そんな青春時代から20年あまり。不摂生が祟って冴えない中年に成り果ててしまったが、経験人数は3桁を超える。ここ数年はネットで実践を交えた性感開発レクチャーなんぞをしているから、『師匠』なんて渾名もついた。動画内では顔にモザイクを掛けているから、一応身バレはしていないはずだが。
「興奮するなぁ、『May先生』と『浪速の鬼マラ師匠』の対決なんて! 俺が知る限り最強のメンエス嬢とハメ師ですから!」
 目を輝かせるクリ君には悪いが、俺はそのこっ恥ずかしい渾名の動画主として出演する気はない。女尊男卑の王国に潜り込むには、与しやすい弱者を装わなければ。

「……おじさん、いくつですかぁ?」
 打ち合わせに来た俺を見るなり、Mayは眉を顰めた。嫌悪感を隠しもしない。過去の出演男優を見る限り、彼女の好みは細マッチョなソース顔のイケメンだ。俺のような冴えない中年オヤジなぞ、ジェネレーションカースト上位の娘には汚物も同然だろう。
「ええと……今年で42になります」
「42!?」
「えっ、ヤバ!」
 俺が年齢を答えると、Mayを取り巻くスタッフがオーバーに驚いた。
「おじさん、私のチャンネル見たことあるの? くたびれた中年なんてお呼びじゃないんだけどー」
 Mayが苦笑すると、取り巻きも笑う。ここはMayを女王とした女の王国、男にはさぞ居づらかろう。これは何としてもクリ君の仇をとってやらねば。

 それにしても、生で拝むMayは可愛い。メイクの効果もあって美人系に見えがちだが、よくよく顔を見ると童顔の作りだ。このエロく愛らしい女王様になら、踏みつけにされ、罵倒されるのも悪くはない。今回の目的はその逆だが。
「でも先生。動画のコメントに、おじさん相手のセックスが見たいって声も結構ありますよ。たまには違う路線っていうのも……!」
 クリ君が口を挟むと、Mayはじろりと彼を睨む。そして次に俺を睨み、ふっと破顔した。
「ふーん……そういうこと? クリ君が男優候補連れてくるなんて珍しいなーと思ったけど、このおじさんアナタのお友達なんでしょ。いい年して童貞なのが可哀想だから、筆卸しさせてあげようってこと? ふふふふ、あははははは!!」
 Mayが高らかに笑うと、周りの腰巾着も笑いはじめる。清々しいまでの女王っぷりだ。
「やあ、はははは……」
 俺は頭を掻く。さすがに童貞呼ばわりされるとは思わなかったが、好都合だ。性的弱者に見られれば見られるほどいい。
「ふーっ、笑った。いいわ、アナタを次の撮影に呼んであげる」
 Mayのこの発言に、周りの取り巻きが意外そうな顔になった。何か思うところはあるようだが、止める様子はない。よほどMayの発言力が強いんだろう。
「あ、ありがとうございます」
「いーえー。でも、いいのぉ? 勝負に負けたら、すっごい罰ゲームしてもらうわよ? 若いイケメンならちょっと苦しがってるだけでも画になるけど、おじさんの場合は……イロモノ路線しかないのよねぇ」
 Mayが俺の目を見つめてきた。眼力がすごい。奥に宝石を閉じ込めたような瞳は、自分を強者と信じて疑わない人間のそれだ。もしかすると俺は、Mayの顔でもなくカラダでもなく、この眼が好きなのかもしれない。
「はあ、負けた時はしゃあないですね。まぁそもそも負けたないし、ちょっとは年の功見せたいなーと思っとりますけど……」
「……ぷっ!!」
 俺がのんびりと答えると、Mayはまた噴き出した。もちろん取り巻きも。
「あははははは、おじさんホント面白いわね。わかったわ、そこまで言うならライブ配信でやりましょう? 私とおじさんのどっちかが壊れるまで、生中継でイカせ合うの。どうかしら!?」
 Mayは口角こそ上がっているが、目が笑っていない。

 ≪生放送なら恥の垂れ流しよ? 謝罪して引き下がりなさい、身の程知らず!≫

 ギラギラと挑戦的に輝く瞳は、明らかにそう言っている。こんなに雄弁な瞳も珍しい。やっぱりこの子は格別だ。喰らい甲斐のある、餌として。
「あ、はい。ほなそれでお願いします」
「……へえ。本当にいいの? 恥ずかしくって、二度と外歩けなくなっても?」
「ああ、ハイ。自分、人の目とか気にしませんし、失う物もないんで……」
「ぷふっ! おじさん、もうちょっとプライド持った方がいいわよぉ?」
「まーまー、いいじゃないですか! こういうおじさんもカワイクって!」
「ねー。なんか動物のナマケモノみたい!」
「あはははっ、っぽい!!」
 俺はよほど無害に見えるようだ。無警戒な笑い声が部屋に響く。
 やめてほしい。そう声高に嗤われると……こっちまで笑いを堪えきれなくなる。


                 ※


 向こうがこっちを舐めているのは、その後の展開で露骨に伝わってきた。
『衝撃! May先生の次のお相手は……キモ親父!?!?』
『May先生をイカせまくる! アラフォー童貞、自信マンマンの宣戦布告!!』
『セックス経験の差は、人生経験で埋まるのか!?(笑)』
『罰ゲーム案、引き続き大募集!! 例:ダブルフィスト肛門破壊・尿道ワリバシ責め・エキストラ参加型金蹴り天国etc!』
 動画の予告ページには、目線を入れた俺とMayの写真に被せる形で、数々の煽り文句が並んでいる。
「悪ノリが酷くてすみません。実はMay先生めっちゃキレてて、とにかく師匠を追い込めってスタッフを煽ってるんですよ……」
 クリ君は申し訳なさそうだが、俺はむしろ愉しんでいた。タイマンを約束したにもかかわらず、自分の方が怪我をする可能性など考えもせず、ただ俺を高所から突き落とすために土台を盛っているんだろう。可愛らしいことだ。
 予告のノリに煽動される形で、コメント欄も俺への誹謗中傷や無謀さに呆れる声、Mayの快勝を期待する声に満ちている。そうして注目を集めた結果、ライブ配信当日の同接数は開始前の時点で6000を超えた。週末の夜とはいえ、有料アダルトチャンネルでは考えられない数字だ。

 撮影はアダルト可のスタジオを貸しきって行われた。贔屓のスタジオなのか、動画によく登場する背景だ。
 カメラマンはクリ君を含めて2人。本物のAV撮影よろしく、ライトやレフ板まで用意されている力の入りようだ。『May先生』とイケメン君の美貌がウリだから、少しでも写りをよくするためなんだろう。同じ動画投稿者でも、格安のラブホを使い、スマホ撮影が基本の俺とはえらい違いだ。
「大注目ねぇ。6000人に観られてるのよ、今?」
 Mayがパソコンのモニターを指して笑う。打ち合わせの時以上にオーラが凄い。それこそAV女優になっても人気が出そうだが、そうしないのがこの子なんだろう。誰かの指示に従うのは嫌で、自分のヤリたい相手とヤリ、撮りたいように撮る……そんなワガママ女王だ。
 そのワガママも、華があれば許される。目にも鮮やかなブロンドヘア。つけ睫毛とアイシャドウで補強された眼。短く切り揃えられてはいるが、しっかりとラメの煌めく爪。それらは素材の良さも相まって、気品すら漂う輝きを放っている。さすがはカリスマというところか。
 対して、服装そのものはシンプルだ。Fカップの胸で持ち上げられ、臍出しになったTシャツ。ウェストの細さと脚線美を際立たせるショートデニム。発育のいい体にはアメリカンなファッションがよく似合う。最近は熟女の相手ばかりしていたから、メリハリのあるスレンダーなボディラインが実に眩しい。
「ホンマ凄いですね。でもちょっと興奮します。まさかあのMay先生とデキるなんて……みんな羨ましがっとるやろなぁ」
 俺は童貞になりきり、舌なめずりしながらMayに近づいた。Mayがピクッと警戒するが、空気の読めない童貞なのでお構いなしに距離を詰める。近づくと、ふぅわりと香水が香った。これは桃か。桃はMayのイメージにぴったりだ。瑞々しく、華やかで、甘く、エロい。
 官能的なのは視覚も同じだ。目を釘付けにするのは、たわわに実った見事なFカップ。小さめな胴体の3分の1がバストで占められている。さすがに下に寄ってはいるが、けして垂れているわけじゃなく、ツンと前を向いている。まさに美巨乳というやつだ。
 俺は誘われるようにその乳房へと触れた。邪魔になるブラジャーは着けていないようで、指がTシャツ越しに沈みこむ。未成年に特有の硬さはなく、熟女とは違って張りがある。こっちはこっちで極上の『桃』だ。
「あんっ、痛い……」
 Mayが困ったようにカメラを見る。まだ触れた程度なんだが、俺が不慣れだと視聴者に印象づけるつもりか。そう来るならこっちも遠慮はしない。両手の五本指を広げ、念願の乳をワシワシと堪能する。
「っ!?」
 Mayは当然俺を睨む。だがそれも一瞬だけだ。今日の筋書きでは、Mayはあくまで性的強者。“興奮した童貞”と同じレベルで争うわけにはいかない。
「んふっ、オッパイが好きなのぉ?」
 余裕ぶった甘い囁き。不快感を堪えているのか、声が震えていて面白い。
「ハイ。搗きたてのモチみたいに柔らこぅて、ええ気持ちです」
 俺の答えに、Mayの頬が引き攣った。まるっきり変態を見る目だ。それでいい。欲が先走った獣──今はそう思わせておけばいい。
「ハアッ、ハアッ、ハアッ……!」
 息を荒げつつ、ひたすらに乳房を揉みしだく。柔らかく、温かい。心地いい感触が手の中で形を変える。乳首の突起がないのは、陥没気味なせいか。
 逆にMayは冷ややかだった。その澄まし顔を崩したくてキスを迫ると、露骨に首を捻って拒否される。
「……はーい、もうサービスは終わりよぉ!」
 俺を押しのけるMayの表情は、うんざりした色を隠せていない。自分に正直な女王様だ。


                 ※


 予告通りの午後7時、ついにライブ配信が始まる。クリ君ともう一人のカメラマンが動き回りながら撮影し、ライブで送られるその中継映像を、視聴者が任意で切り替えて楽しめる形式らしい。固定カメラにしない理由は、イジメられる人間──つまり俺の泣き顔を逐一アップで撮るためだそうだ。

 まずは恒例のイカせ合いだが、気力・体力的に有利な先攻は当然のごとくMayだった。
 最初の対決は『手コキに耐えたら生エッチ!』。Mayの手コキに10分耐えたら、ゴム無しでの生ハメを許すという定番企画だ。さっさと抜いて射精力を奪いつつ、上下関係を叩き込もうという腹積もりか。
 普通ならいきなり罰ゲーム確定の絶望的な展開だ。好みの相手ならMayが手加減するという噂もあるが、不興を買ってMayに嫌われた人間で、10分間を耐えられた挑戦者は1人もいない。
「ごめんなさい、みんな。やっぱり今日はちょっと……見苦しいわねー?」
 下半身を露出した俺の前で、Mayがカメラに苦笑を向ける。手にはラテックスの手袋を装着済みだ。好みのイケメンの股間なら素手で触りまくるのに、扱いの差がひどい。
「3、2、1……スタート!」
 Mayの取り巻きの1人が、ストップウォッチを手にして叫ぶ。
「じゃあ、いくわよぉー?」
 Mayは俺の逸物にローションを垂らしかけた。ヒヤリとした感触がこそばゆい。だが手袋をつけた手で亀頭を包むように撫でられだすと、それどころではなくなる。
「おっ、おおっ……!」
 メンズエスティシャンというだけあって、実に巧い。亀頭を握りしめたまま、順手で、逆手で……時に激しく、時に焦らすように刺激してくる。
「は、ぁっあ、ああっ、あああ……ぅうぁっあ、ぅ、ッあ!!」
 我慢しても情けない声が漏れた。動画内で“オス”が暴れていた理由がよくわかる。こそばゆい。ムズ痒い。気持ちいい。逸物に血が滾り、ムクムクと膨張してしまう。
 だが、そこまでだ。俺も伊達に師匠と呼ばれているわけじゃない。どれだけ気持ちが良かろうが、意図して射精を止めるコツぐらい心得ている。射精管の根元を筋肉で圧迫し、精液の輸送を邪魔してやればいいだけだ。もっとも、相応のトレーニングが必要な一芸だが。
「ほら、どうしたのぉ? イキたいんでしょう?」
 Mayはローションを足しながら、激しく逸物を扱きたてる。慌ただしいその動きには苛立ちと焦りが透けていた。
 焦りもするだろう。俺が勃起するということはつまり、全長22センチの凶器がその姿を現すということなんだから。
「ふ、ふーん…………結構立派じゃない」
 Mayが息を呑む。勃起もそろそろ8分目。女の手なら、左右の手の平で握ってなお亀頭が丸々余る大きさだ。壁際では取り巻きの連中が絶句している。ナマケモノが牙を持っていて驚いたのか。
「ねえ、気持ちいいんでしょう? イってもいいわよぉー?」
 Mayは手コキを続けつつ、チラチラと俺の顔を盗み見てきた。だいぶ焦っているようだ。とはいえ、冴えない童貞一人を射精に導けないようでは沽券に関わる。これは編集で誤魔化せない生配信なんだから。
「無駄に頑張らないの。早くイキなさいってば!」
 Mayは左手で亀頭を擦りつつ、右手で俺の頬を張ってくる。女王様らしいSなプレイと言えなくもないが、実際には焦ってパニックになった結果だろう。俺が時間内に射精しなければ、両手にすら余る巨根を受け入れないといけないんだから。
「ねぇ、イキたいんでしょ? もうイキそうなんでしょ!?」
 Mayは洗脳でもするように繰り返しながら、口の端を吊り上げた。まだ笑う余裕があるぞというアピールか。俺はそんなことを考えつつ、ビクビクと脈打つ剛直を制御する。
「はあっ、はあっ……ああぁあ、あ、そこっ……き、気持ちええです……ああああっ!!」
 限界を装って喘いでみせ、悶えてみせるが、射精管への圧迫だけは緩めない。動画を見ている時は一瞬に思える10分も、この状況だと長い。もう全身汗でびっしょりだ。
「じゅ、10分経過。タイムアップです……!」
「えっ……!?」
 一心不乱に扱き立てていたMayが、呆然とした様子で固まる。まさにこの瞬間、俺の大金星が、そしてナマ挿入の権利が確定したわけだ。
「いやあー最高でしたわ、おおきにMay先生! 何遍もイキかけましたけど、May先生とヤリたい一心で気張りました!」
 俺はにこやかに言い放つ。アウェーな場での空気を読まない発言は痛快だ。
「……まさか、アナタがチャレンジ成功するなんて思わなかったわぁ。しょうがない、ピル持ってきて」
 Mayは薄笑みを浮かべたまま手袋を外す。指先に怒りを滲ませながら。

 スタイル抜群のMayは、服を脱ぐだけでも十分すぎるほどの撮れ高があった。Tシャツをたくし上げるとFカップの巨乳がまろび出る。ショートデニムを脱ぎ捨ててもなおボディラインの魅力が減じない。最後に残った下着を片足を曲げて抜き取るシーンは、何回でも巻き戻して見たいほどだ。
 当然、ベッドに横たわってもMayは魅惑的だった。スレンダーな子だが、太腿に程よく肉がついているからM字開脚が映える。陰毛はすべて剃られ、いわゆるパイパンだ。
「…………」
 場には妙な沈黙が流れていた。視線が俺の股間に集まっているようだ。
 手コキで刺激された上、あのMayを抱けるという興奮もあって、勃起具合は9割に達している。太さ、長さ、硬さ、どれも申し分なし。さらにはマンモスの牙のように力強く上に反ってもいる。この反り具合こそ、女泣かせと言われる所以だ。正常位で動くたびに膣のスポットを刺激し、突き当たりまで押し込めばポルチオにうまく嵌まり込む。
「へへへへ。すんまへん、ムダにゴツぅて」
 俺は頭を掻きながら膝をつき、Mayの腹に逸物を乗せた。巨根がやりがちな悪癖だ。なにしろ臍の上まで届くものだから、相手の反応が面白くて仕方ない。
「……確かに、無駄に大きいわねぇ。でも、このサイズを童貞の言い訳にしちゃ駄目よぉ? 本当にアナタを魅力的だと思う子なら、大きくても頑張って受け入れてくれたはずだもの」
 棘のある言葉を吐き、くすくすと笑うMay。この状況で毒づけるとは流石だ。それでいい。そうでなければ面白くない。
「や、ごもっともです。しゃあけどMay先生が相手なら安心ですわ。若くてバキバキな子ぉらあと、ぎょうさん経験積んではるから……」
 びびるんじゃねぇよ、ヤリマンが──その意図をこめてチクリと返しつつ、逸物と割れ目にローションを塗りたくる。Mayの怒気がさらに強まった。

「ほな、挿れさしてもらいますわ!」
 自慢のマグナムを握りしめ、メリメリと割れ目の中に押し込む。
「!!」
 門をこじ開けた瞬間、Mayの内腿がビクンと強張った。すぐ横のカメラにさえ映ってはいないだろう。喰っている俺にしかわからない反応だ。
「うっは、凄いなコレ! ヌルピタっちゅうんやろか、堪らんわ!!」
 世辞じゃない。実際これは名器だ。入口は俺のマグナムを一発で呑み込むほど柔軟性があるのに、中の襞はしっとりと絡みついてくる。眼前に広がる女体という景色も良し。太腿に触れる肌のきめ細かさも良し。実に気分が乗るセックスだ。
「んふふふ……太くて硬いのねぇ。悪くないわぁ」
 Mayは余裕ぶって微笑み、クリトリスを弄ってみせる。だが余裕がないのは明らかだ。奥へ進むほど、腿の弾力が増す。俺の左右では、足の指が軽くシーツを噛んでいる。そりゃ辛いだろう。Mayにとっては未知のサイズのはずだ。過去動画で『巨根君』と持て囃されていた若造が17センチ。俺のマグナムはその三割増しでデカい。
「あああ、トロけてまいそうですっ! May先生っ、May先生えっ!!」
 逸物が半分ほど入ったところで、俺は腰を遣いはじめた。童貞になりきり、快楽に翻弄されている演技で腰を揺する。クリトリスを撫でていたMayの指が止まり、かすかに歯軋りの音がした。反り返った俺の逸物がGスポットをゾリゾリと擦るんだから、無反応を通せるわけがない。
「May先生、May先生も気持ちええですか?」
「…………そうねぇ、まあまあよ」
 すっとぼけた俺の質問に、Mayは言葉を濁す。女王を気取るなら気付くべきだ。そういう半端な態度は、相手のSっ気をくすぐるだけだと。
「あああ、もうあきまへん!!」
 俺はMayの腰をがっしりと掴み、上体を反らせた上で引きつける。こうするとGスポットやポルチオに当たりやすい。もともと上反りの俺がこれをやれば、その効果は絶大だ。
「ふッ!?」
 Mayの眼が見開かれた。宝石のような瞳孔が宙を彷徨う。無理もない。これは大概の女が悶え狂う。経験の少ない女なら痛いと足をバタつかせ、慣れた女なら数分ともたずに「イッちゃう」を連呼する。
 Mayは──そのどっちでもない。いや、どっちの反応もできないんだろう。彼女は女王、童貞に翻弄されるなど“ありえない”んだから。

「ふっ、ふっ……」
 Mayの息が上がってきた。桃の香りに汗の匂いが混じってもいるようだ。
 彼女の内部にも変化があった。少しずつ、少しずつ、膣の中が潤んできている。普通なら強すぎるこの刺激も、日頃からイケメンと悦んでセックスしているMayにとっては過剰じゃない。最初の違和感さえ過ぎれば、強い刺激はそのまま強い快楽にすり替わる。
「────ッ!!」
 Mayは肘をついて身を起こし、俺を睨み据えた。カメラ映えするポーズだ。劣勢にありながらも格好良いその姿には、ついつい悪戯をしたくなる。
 俺はMayのくびれた腰を掴んだまま、グッ、グッ、グッ、と引きつけた。反り返った牙がGスポットに溝を掘り、子宮口へ嵌まり込むように、だ。
「んうッ!?」
 Mayの上体はあっさりと崩れ、後頭部がシーツにめり込んだ。自分から弓なりになってくれるなら都合が良い。俺は動きやすいのを良いことに、宙へ浮いた『オナホール』を堪能する。粘膜がジュルジュルと絡みついて堪らない。ついついピストンの勢いが増し、相手を壊しかねない速さになってしまう。
「ぃ、きッ……!!」
 投げ出されたMayの手がシーツを掴む。太いよ、激しいよ、気持ちいいよ……そう訴えているようだ。
「May先生、May先生えっ!!」
 俺は腰を引き、Mayの足裏を掴んで真上に持ち上げる。俺の大好きなマングリ正常位だ。自然とこの体位に移行するのは童貞らしくないかもしれないが、今はいい。
「うっ、うっ、うっ!!」
 Mayは目を見開いたまま、口を尖らせて声を漏らす。俺には見慣れた反応だ。ただでさえ腹圧のかかるこの体位で、規格外のデカチンを突き込まれれば、普通に呼吸などできない。むしろこの状況でオホオホと鳴かないのは見上げた根性だ。その根性も、腹の底で突き潰されなければいいが。
「ふーっ、ふーっ……ら、乱暴ね。私にこんな格好させて、どうなるかわかってるの……?」
 女王様が呼吸を整えつつ脅してくる。俺は、またSの気が荒ぶるのを感じた。別に苛ついたわけじゃない。好きな子にイタズラしたくなるアレだ。
「す、すんまへん! しゃあけどもう、このぐらいせんと収まりつきまへんわ!」
 俺は無我夢中に腰を振りつつ、そのストロークを長くしていく。掴んだMayの足裏を支えに大きく腰を引き、それこそ亀頭が抜けそうなほど引いてから、一転して挿入する。剛直の本領を発揮できるワイルドな一発。これまでがメリッ、メリッ、という挿入だとすれば、メリメリメリメリッ、と一息に貫く感じだ。
「うああっ!!」
 さすがのMayも声を殺せなかった。顎を浮かせたまま、はっきりとした声を上げる。悲鳴? いいや、誰が聞いたってヨガリ声だ。
「どうかしはったんですか、先生!?」
 俺の演技も、そろそろ白々しいだろうか。だが仕方ない。こういう設定だ。
「もう、乱暴よぉ?」
 Mayは笑った。少しでも余裕を見せるには、この状況をジョークにするのが一番だ。ただ彼女には申し訳ないが、間もなくその笑いの質も変わることになる。

 ブッ、ブリッ、ブビッ!!

 その異音が響いたのは、Mayが笑ってから間もなくのことだった。いわゆるマン屁。膣に空気が入り、それが掻き回されることで起きる放屁だ。俺のような上反りの巨根は普通にしていても起きるが、今はストロークを大きく取っているから余計に起きやすい。つまりは不可避の現象だが、女の受けるショックはでかい。その女が女王を気取っていれば尚更だ。
「キャーッ!!」
 Mayの悲鳴が響き渡った。女王じゃなく、普段よく耳にする女の悲鳴だ。Mayは状況を整理するように目を泳がせ、口の端を上げる。
「あ、アハハ……ちょっと、もうっ!」
「や、すんまへん!」
 拗ねたように俺を叱るMay。アクシデントを装って笑う俺。他のスタッフもドッと笑い、とりあえず和やかな空気が繕われる。だが、誰もが気付いているはずだ。今の恥は冗談で済ますには大きすぎる。ましてやこれはライブ配信。数千人が今のアクシデントを目撃したんだ。
 絶対王政に楔は打った。そろそろ頑張ったご褒美をもらうとしよう。ドS女王への中出しなど、そうそう経験できることじゃない。
「あ、ああ……もうイキそうです! イッてもええですか!?」
 そろそろ射精を堪えるのも限界だ。挿入前から射精寸前だったことを考えれば、我ながらここまでよくもった。
「え? だ、駄目よぉ。出すなら外に……!」
「あ……あかん、もう出ます! い、イクッ!!」
 間に合わなかったという演技で、ギュウギュウに締めていた射精管を解放する。射精すると決めた後、ぬるい膣襞に吸いつかれながらの数ピストンが痺れるほど気持ちいい。これは勢いよく出るなと直感し、直後、その通りになる。
「くうううう……ッ!!!」
 珍しく、歯を食いしばりながら射精した。それぐらい気持ちよかった。膣奥を掘り起こすように逸物が動き、どくっ、どくっ、どくっ、どくっ、どくっ、と勢いよく精液が吐き出されていく。熔けた鉄でも流しているように射精管が熱い。これほど刺激的な射精は二十代、いや十代以来かもしれない。さすがはMay相手のセックスだ。
「もう、外に出しなさいって言ったのに……」
 Mayは子供に手を焼く親のように溜息を吐く。だがその胸の内は、俺の掴む両脚が物語っている。怒り、屈辱、そして恐怖。膣から溢れかねないこの射精量は、ピルを飲んでいてなお妊娠を意識させられることだろう。そこは少しだけ同情するが、こればかりはどうしようもない。
「はあ、はあ、はあ、はあっ……」
 マグマのような精を出しきった時、俺は息が切れていた。全身に滴るほど汗を掻いてもいる。一回戦でここまでになるのは珍しい。それこそ童貞に戻った気分だ。
 動きの停まっているMayから逸物を引き抜くと、ピンクの割れ目にはぐっぱりと穴が空いていた。そしてその空洞から、自分でも驚くほど濃い精液が次々にあふれだしてくる。
「うわ……」
 取り巻きの1人が声を上げ、すぐに口を押さえる。その反応はギャラリーを代表しているようだ。それに反応したのか、Mayは脚を閉じ、肘をついて身を起こす。さらにそのまま立ち上がろうとするが、脚がガクガクと震えているのを察して座り直した。
「ノドが乾いたわ。少し休憩にしましょう?」
 Mayは髪を指で梳きながら笑う。さすがは女王、そう易々と崩れはしないか。実にいい。今夜はまだまだ楽しめそうだ。


                 ※


 Mayは休憩を15分取った。休憩中にまず彼女がやったのは、膣洗浄器で膣の精液を洗い流すことだったそうだが、トイレの近くを“偶然”通りかかったクリ君いわく、水が噴き出す音がするたびに甘い声が漏れ聞こえたらしい。
「あんな先生、初めてですよ。流石です師匠!」
 クリ君は興奮気味だった。一回戦の結果としてはまずますだ。休憩を長く取ったのは膣性感を落ち着かせるためだろうが、10分そこらで火照りが鎮まるようなセックスじゃない。かといってライブ中継という関係上、それ以上間を空けるわけにもいかない。だから彼女は、膣にジンジンと疼きを抱えたままで撮影に戻らざるを得なかった。

 二回戦は後攻の俺だ。
「さっきは先生にえろぅ気持ち良くしてもろたんで、お返しに僕からもマッサージさせてもらいます」
 俺がそう宣言すると、場の空気が張りつめた。中でも冷ややかなのはMayだ。
「ふぅん。プロのエスティシャン相手にマッサージなんて、自信あるのねぇ?」
「あ、いえ、自信があるとかやないんですけど、AV観て勉強してきたんで……」
 我ながら見事な煽りっぷりだ。ただでさえ嫌いな相手が、自分の得意分野で挑んできた上、真剣味も足りないときている。Mayがこれで怒らないはずがない。だがそのプライドこそ彼女の枷だ。拒否という選択肢が消えるんだから。
「オーケー、いいわ。それで、私はどうすれば負けなの?」
「声出したら負け、いうことで」
 俺が答えるやいなや、Mayはあからさまに溜息をついた。声など出すわけがない、という意味か。
「時間は?」
「えーっと……じゃあ、10分にしときます」
 Mayの眉間がピクリと動く。先攻と同じ時間──つまりこれは、「俺ならお前と同じ時間で屈服させられるぞ」という宣戦布告だ。周りのスタッフがざわつく。
「上等よ。今日初めて女に触るようなアナタが、どんなテクニックを持ってるのか……楽しみにしてるわ」
 Mayも挑戦的な瞳で俺を見据える。
 わずか10分。それで百戦錬磨の『May先生』に音を上げさせるなど、普通なら無謀に思えるだろう。だが俺には勝算があった。さっきのセックスで膣性感には楔を打っている。さらに、俺の性感開発レクチャー動画は10分未満のものが大半だ。ベッドに腰掛けての和やかな会話から、挨拶代わりのキス、愛撫、そして潮噴きまでを全部ひっくるめて、無編集でも10分かかっていない。その経験を踏まえて堂々と挑めばいい。

『May先生は耐えられるか!? 性感マッサージ、10分間声出しちゃダメ!!』

 途中参加の視聴者に向けて、手書きのメッセージボードがカメラに映される。
「じゃ、今から10分よぉ」
 Mayはそう言うなりベッドに横たわり、スタッフから手渡されたスマホを弄りはじめる。童貞の前戯など眼中にないというアピールだろう。
 相手が無抵抗だというなら遠慮はいらない。Mayの脛を掴んでVの字に股を開かせ、秘密の花園をじっくりと観察する。
 割れ目はまだ閉じきれていない。空洞から覗く粘膜は鮮やかなピンクだが、その周りを縁取る花弁は紅く膨らんでいた。俺のデカチンピストンで充血したのか。少し丁寧めにやるなら陰唇への愛撫から入るところだが、それは省いてもよさそうだ。今日は指マンからいこう。

 中指一本を割れ目に突き入れ、すぐに曲げる。最初に狙うのはクリトリスの真裏だ。膣の性感スポットは十人十色。ド定番なGスポットすら、それほど感じないという女は結構いる。だがクリトリスで感じない女はいない。人体で唯一、快感を得るためだけに存在する器官なんだから。
 クリトリスの真裏に軽く指先を食い込ませ、固定する。指マンのコツはスポット一点狙いの圧迫だ。擦るのではなく、優しくもしっかりとツボを押さえる。
「っ!?」
 ピクッ、とMayが反応した。俺はそれを確認した上で、腕を振るわせてスポットを刺激する。指の掛け方、力加減、振動のリズム……どれも20年かけて研究を重ねた代物だ。投げ出されていた脚が少し閉じる。その脚はすぐに戻ろうとするが、俺の指先がリズムを刻むと、また閉じる。ちなみに、まだ開始後10秒だ。

 次に進む。
 膣性感を目覚めさせる時は、内と外をセットで刺激してやるのが大原則だ。クリトリスの裏だけ刺激して、肝心の本体を遊ばせていては片手落ちというもの。クリトリスを刺激するには指や道具でもいいが、なんといっても舌が一番だ。指や道具より刺激が少なく、快感は大きい。責め方を工夫すればするほど、粘膜の偉大さが身に染みる。
 舌でクリトリスを舐めはじめると、すぐにMayの腰が浮いた。女の腰が横に動く時は拒絶、縦に動く時は快感の訴えだ。
「このやり方が効くいうてネットに書いてあったんですけど、どうですか? 気持ちええですか?」
 俺は惚けた調子で尋ねる。声を出してはいけない決まりだから、返事は期待していない。それに答えなら今貰った。
「続けますね」
 クリ裏をくっくっと押し込みながら、舌で若芽を可愛がる。このやり方なら大雑把でも大きな反応が期待できるが、妥協はしない。サクランボの茎を結んで鍛えた舌技を存分に発揮する。またMayの腰が浮いた。二度、三度と。
 舌を動かしつつ視線を上げる。目の前に広がっているのは、ダンサーのように引き締まったカリスマギャルの腰。俺の刺激に合わせて凹凸ができ、上下に蠢く。
 上の方で、カッ、と音がした。さらに上を見ると、Mayが慌ててスマホを持ち直しているところだった。気持ちよすぎてタップでもミスったか。だがそれで済んでいるのは上等ともいえる。普通ならこの時点で、「はあ」や「あん」といった喘ぎが聴こえてくるものだ。
 このままクリトリスで躍らせていてもいいが、時間もないので次に行こう。次の狙いはGスポット。指先を少し奥に滑らせ、膣の上側で指が食い込む場所を探り当てる。責め方はさっきと同じ、指先一点で優しく押し込んでやる。
「っ……」
 息を呑む音がした。弱点を逐一教えてくれるとは甘い女王様だ。責めるのは得意でも、責められるのは苦手なのか。そうであっても手加減はしない。Gスポットを押し上げると快感のツボが上に逃げるため、下腹に手を当てて蓋をする。
 個人差はあるが、ハマればとてつもなく効くのがGスポットという場所だ。Mayの腰がうねる、うねる。腹直筋や腹斜筋が隆起と崩壊を繰り返し、腰そのものも踊る。クイクイと上下に、フルフルと左右に。
 『気持ちいい!』
 『やめて!』
 『我慢できない!』
 筋肉の声が聴けるなら、そうした訴えの大合唱だろう。俺はあえて目線を伏せているが、上からMayの視線を感じる。
「こうやって外からポルチオを押すのも効くらしいですよ。でも、なんやえらい腰動いてますね。ひょっとして気持ち悪いですか?」
 自信なさげに訊ねながら上を見ると、Mayはスマホを眺めていた。誤魔化せているつもりだろうか。最初と比べてスマホが至近距離に寄りすぎているし、タップもスワイプもしていない。光る板をただ握りしめているだけだ。
「あ、そか。答えられへんのですよね。すんませーん」
 俺はうっかりを装いつつ指の刺激を繰り返す。視線をMayの顔に向けたまま。
 じっと見られている以上、Mayは腰の動きを抑えようとする。だがそれは罠だ。腰を動かさないということは、刺激を散らせないということ。耐えようとすればするほど耐えられなくなる。
 案の定10秒もしないうちに、さっきより大きく腰が踊りはじめた。もはや縦か横かの判別すらつかない、円を描くようなうねり。相手が弱れば叩くだけ。俺は指先と手の平で念入りにGスポットを挟み潰す。
「!!!」
 声なき悲鳴が漏れた。下半身も依然としてパニックで、みっともないガニ股を経由して片膝を立て、Mの字でなって足指でシーツを掴むことでようやく安定を得た────つもりだろう。だがそこも安全地帯じゃない。M字開脚は最も潮噴きしやすい体勢の一つ。感度が上がりこそすれ、下がることはない。
 俺は中指に加えて薬指も膣に挿しこみ、あえて中を掻き回す。目的は性感開発ではなく、現状の周知だ。指を動かすたびに、グチョグチョと凄い音がする。あれだけ腰が暴れていただけはある濡れ具合だ。
「……ッッ!?」
 Mayがスマホを取り落とし、俺の方を睨みつける。プライドの高い彼女に、公然での手マンはさぞかし耐え難い屈辱だろう。だが、だからこそやる価値がある。
 Mayは俺を睨みながら、脚をハの字に閉じて抵抗していた。だがすでに指が入り込んでいる以上、防ぎきれはしない。むしろ股に力を入れたせいで、余計に感度が増すだけだ。
 決壊は早かった。指で掻き出すまでもなく、びゅっ、びゅっ、と太い飛沫が2本飛び散り、それとは別に小さなせせらぎがシーツを染める。失禁とも潮噴きとも取れる反応だ。
「………………っ!?!?」
 Mayは耳まで真っ赤に染めて目を見開いていた。羞恥で凍りついているのか、それとも怒りで動けないのか。
「うわ、なんかスンマセン……。もうアソコ弄るんはやめときますわ」
 俺は芝居をしながら指を引き抜き、カメラへ映るように水気を切る。Mayは不機嫌そうに眉を顰めていたが、俺の動きを追ううちにより怪訝な表情になる。
 俺が用意したのは、棚に置いてあったマッサージオイルだ。MayがM男を調教する時に使っているもの。愛用の道具で逆に調教されるなど、女王にとってはこの上ない屈辱だろう。
「…………。」
 Mayは俺を睨みつけたあと、スマホを完全に手放した。そして頭の後ろで手を組み、両脚を伸ばす。マッサージを受ける時の姿勢だ。やれるものならやってみろ、ということか。

 手にオイルを塗り伸ばし、Mayの乳房を包み込む。手の平に硬い感触が触れた。乳首だ。最初は存在を感じられなかったあの陥没乳首が、今やしっかりと勃ち上がっている。順調に“出来上がって”きているようだ。
 Fカップを揉みしだくと、Mayの腋に溝が刻まれる。その腋にもオイルを塗り込み、さらに脇腹の方まで撫でおろすと、今度は二の腕がピクンと反応する。相当敏感になっているようだ。
 楕円の軌道で胸と脇腹を擦り上げ、脚が浮きはじめたところで太腿の根元にオイルを塗り込む。ひくひくと反応する鼠径部をしっかり解きほぐし、最低限の根回しを終えてから、いよいよ本丸である下腹部に触れる。俺の計算ではここまでで5分強。残り4分あるなら充分だ。
 掌の付け根を使って下腹部を圧迫すると、Mayの口が『あ』の形に開いた。圧迫と開放を繰り返すたびに口が開閉し、吐息が漏れる。ここでもう一押し。左手の4本指で子宮を圧迫したまま、右手の握り拳で上からトントンと叩く。圧を内部に浸透させるためだ。
「っ!!」
 Mayの膝が浮いた。頭に敷いていた手も外れ、決まりが悪そうにシーツを掴む。軽く子宮イキしたか、その寸前の反応。そうとわかれば休ませない。膣は熱いうちに打て、だ。
 沈み込ませた指を真上から打ち込む。次は斜め下、クリトリスの方向から打ち込む。あるいは指を立てて指先で抉り込む。あるいは指先でノックする。色々とやるが、気まぐれで変えているわけじゃない。相手の反応を経験で分析し、最も嫌がる方法を選んでいるだけだ。
「~~~~~ッッ!!!!」
 Mayの限界は近い。脚をバタつかせ、背を仰け反らせたまま歯を食いしばっている。ちょうど頭上にカメラがいるが、写りを気にする余裕もないようだ。手の動きも忙しない。シーツを握りしめ、拳骨を作り、そろそろと腰に近づいて尻肉を鷲掴みにする。痛みで気を紛らわせるつもりか、無駄な足掻きだ。
 ここまで来たら、あとは責めの手を緩めないことだ。簡単なようだが気は抜けない。追い詰められればられるほど、獲物の抵抗は激しくなる。
「……っ、……~~~ぃ~~~~ッッ!! ッ、ッッ……っくッ!!!!」
 口を開いては歯を食いしばるMay。腰もヒクヒクどころではない強さで跳ねている。連続イキの真っ最中ってところだろう。
「フーーッ、フーーッッ!!!」
 腰が捻られ、Mayのスレンダーな身体が横を向く。もちろんこれも想定内だ。逃げた下腹部をコリコリと刺激し、抵抗する力を奪ってから仰向けに引き戻す。睨まれるかと思ったが、Mayの目はくしゃくしゃに皺が寄るほど閉じていた。
 限界の、限界の、限界。
 Mayの手が俺の手首を掴み、ものすごい力で握りしめてくるが、構わずにトドメを刺す。左の掌で子宮を潰しつつ、指先でクリトリスを転がし、あえて意識させずにおいた膣内にも右手指を潜り込ませる。子宮・クリトリス・Gスポット──泣き所の三所責めだ。
「いあやああぁーーーーッ!!!!」
 屈服の叫びは、誤魔化しようもないほど大きかった。堪えに堪えてきたものが弾けたんだから当然だが。
 乳酸でパンパンになった腕を上げ、額の汗を拭う。思ったより粘られたが、ギリギリというほどでもない。
「カハッ……! はーっ、はーっ……あ、ア……んはっ…………!!」
 Mayは絶頂の余韻に浸っていた。俺の手はもう離れているのに、体全体がビクンビクンと跳ねている。まるで陸へ打ち上げられた魚だ。
「じゅ、10分でーす……」
 取り巻きの呆然とした声を、ストップウォッチの音が掻き消す。気まずい沈黙の中でアラームが鳴り響き、Mayはそれに呼応するように痙攣していた。


                 ※


 勝者にはご褒美が与えられるのがこのチャンネルのルールだ。俺は褒美にキスかフェラチオのどちらかを願った。Mayは悩んだ末にフェラチオを選択する。キスの方がよほどマシに思えるが、嫌いな人間に唇を許したくないんだろう。
「あ、そや。せっかくなんで、自分にも撮らせてもらえませんか? この角度の映像見たいいう視聴者さんも多そうなんで」
 ソファに腰掛けながら、俺はそう提案した。目の前に跪いているMayが珍しくて、どうしても撮りたくなってしまったからだ。
「……好きにすればいいわ。アナタが勝ったんだから」
 Mayが渋々ながらも許可を出したことで、4Kビデオカメラが一台貸し出された。防水性が高く、手ブレ補正もついている機種だ。それを構えると、自分のチャンネル用の動画を撮っている気分になる。違和感があるとすれば被写体の質か。ここ最近は熟女のハメ撮りばかりだったから、若々しいMayは実に眼福だ。

「よろしゅう頼んます」
 俺はニヤけながら股を開いた。イキまくるMayがエロかったおかげで、愚息もそこそこの硬さを保って真横に伸びている。
「…………はあ」
 Mayは嫌そうに俺の分身を眺めていたが、ひとつ溜息を吐いて奉仕に入った。ラメの輝く手で逸物を掴み上げ、舌を出してチロチロと舐める。動画でも確認できたが、Mayは舌が長い。この長い舌で“奴隷”の物をペロペロと舐め回すのは、性的強者感が凄かったものだ。しかも舌にはピアスが開いていて、舐め回されるとピアスの玉が擦れる。これが思った以上に気持ちいい。特に裏筋を舐め上げられると、舌だけで舐めた場合とは違い、一本筋の通った快感が襲ってくる。
「うあ……っ!」
 声も出るし、逸物もムクムクと復活してくる。するとMayの目尻が少し柔らかくなった。俺を追い詰めたことで溜飲が下がったんだろうか。
「気持ちいいでしょう?」
 Mayはそう言うと、胸で逸物を挟み込んだ。俺のマグナムはFカップの谷間に挟んでようやく平均サイズだ。普通のフェラは難しいと判断し、敏感な部分を狙うことにしたらしい。
「んちゅっ、ちゅっ……じゅるっ、んちゅっ……ふふ、ピクピクしてるわ。いつでもイッていいのよぉ?」
 Mayは俺を見上げたまま亀頭を咥え、頬を窄めて口粘膜を密着させながら吸い上げる。先走り汁から自分の塗した唾液まで、一滴残らず啜り取るようなバキュームフェラ。正直たまらないし、元がS級の美形だけに視覚的なインパクトも強い。カメラでの撮れ高も抜群だ。
「うああっ……ご、極楽ですわ……!!」
 俺が賞賛すると、Mayはんふ、と鼻で笑いながら奉仕を続ける。
 パイズリはそれほど好きでもなかったが、流石にFカップともなると圧力が半端じゃない。俺がしこり勃たせた乳首が擦れるのも面白い。バキュームフェラとの合わせ技も秀逸だ。
 サービスとしてはけして悪くない。だがこれは、過去の動画に出てきた連中でも経験していることだ。せっかくあの『May先生』との勝負に勝ったんだから、褒美としてはそれ以上を望んでもいいだろう。

「あのぉー、先生。先っちょもエエんですが、出来たらもっとこうー、ガッツリ咥えてもらえませんか? 僕、ディープスロートが好きなんです」
 俺がそう切り出すと、やや弛緩していた空気が急に張りつめる。懐かしきアウェーの空気だ。
 Mayの目尻が吊り上がり、カメラ越しに俺を睨む。のぼせ上がるな童貞が、と両の眼が語っている。
「……こんな大きいのを咥えろだなんて、意地悪ねぇ」
 溜息でも吐くような一言。心底不服そうだが、俺は拒否はされないと踏んでいた。俺がカメラを構え、彼女の顔を接写しているからだ。プライドの高い人間は、とにかく他人から低く見られることを嫌う。ファンの見ている前で勝負から逃げるなど、誰が許してもMay自身が自分を許さないはずだ。

 まず俺の顔を、そして目の前の逸物を睨みつけたMayは、ごくりと喉を鳴らした。
「ハアっ……ハアっ………ハアっ……」
 深呼吸を繰り返しながら、逸物の先を舐め回す。唾液を絡めるついでに覚悟を決めているようだ。
 気持ちはわかる。軽蔑している人間の性器を舐めるのは嫌だし、ましてやイラマチオは彼女の掲げる女性優位の対極にあるような行為だ。だが、敗者は勝者の要求を拒めない。そのルールを作ったのもMayなら、これまで屈服させたオスに涙を呑ませてきたのもMay自身だ。
「あのぅ、先生? はよしてもらわんと、チンポが風邪ひいてしまいますわ」
 痺れをきらして呼びかけると、Mayはジロリとこっちを睨み上げた。猛禽類を思わせるその眼光は今まで以上に鋭く、気の弱い視聴者ならモニター越しでも悲鳴を上げかねない。
 Mayは俺の方を睨んだまま、ゆっくりと頭を下げる。
「う゛ぉえ゛! はっ、はっ……ん、ぶふっ! う゛う゛え゛っ!!」
 嫌悪感からか、それとも体質か。Mayは頭を数ミリ下げるだけで強くえずいた。荒い鼻息が陰毛を撫で、人肌以上に熱い吐息が亀頭をくすぐる。
「あー。May先生のクチん中、オマンコと同じぐらいぬくくて気持ちええですわ。もっと深ぅいってください」
 鼻水をカメラに捉えつつ呼びかけると、Mayはまた咥え込む。
「うぶふ、ぁはッ……むごぇ゛!! ほぉっ、ほっ、ほっ、ぉほっ……!!」
 全体の四分の一ほど咥え込んだところで、頭の動きが止まった。目を伏せて唇をひくつかせている。嘔吐の兆しか。あのカリスマギャルの嘔吐シーンが撮れてしまうのか。俺は妙な興奮を覚えてカメラを構え直す。
 だがMayは、ついに吐かなかった。
「ハア゛ぁあエ゛ッ!! んはあっ、はあっ……」
 唾液の膜を広げながら亀頭を吐き出し、呼吸が整うとまた頭を下げる。えずき汁が潤滑剤になって進みは良い。今で三分の一、7、8センチ地点か。つい数分前まで亀頭直下で噎せていたのに、めざましい進歩だ。
 とはいえ、ここからが本番だ。異物を7センチ程度……つまり中指の長さまで呑み込めば、その先端は喉奥に突き当たる。噎せやすさとはまた別、より人を選ぶ喉奥耐性が問われはじめる。俺の22センチを吐かずに呑み込んだ女など、すでに喉奥が開発済みだったAV女優と若妻ぐらいだ。

「う゛っ、むうう゛……っぐ!」
 亀頭がぬるりとした喉粘膜に突き当たる。Mayは苦しそうだ。ハの字に眉を顰め、その上には珠の汗を掻いている。舌が暴れているらしく、ピアスが裏筋をくすぐってこそばゆい。
「そっからが難所でしょ。手伝いましょか?」
 俺は自由な左手でMayの頭を押さえる。だが彼女はその手をうるさそうに払いのけ、俺の膝を掴んだ。直後、上反りの逸物が粘膜の圧に負け、ぬるっと喉奥に滑り込む。
「……ほぉお゛お゛お゛う゛お゛エ゛ッ!!」
 濁りきった悲鳴が響く。喉奥からはえずき汁があふれ出し、細まった目からは涙が伝う。華やかなMayといえど、悶絶の反応は他の女と同じだ。
 ただし、一つ違う点がある。他の女は頭を押さえて無理矢理咥えさせた結果だ。ところがMayは俺の助力を断り、独力で呑み込んだ。この差は大きい。
「ぃ゛エ゛ッ! うぶっ、ぐぶ……ごふっ!!」
 Mayは眉間に皺を寄せたまま頭を前後させ、亀頭を喉奥へと送り込んでいく。当然、えずくし噎せる。鼻水が繋がって鼻輪のようになっているし、あれほど完璧だったメイクも涙で崩れている。そもそも大口を開けた顔は綺麗とは言いがたい。
 その惨状を誰より理解しているはずのMayは、しかし動きを止めなかった。
「ごぼッ、おろ゛え゛!! ん゛、んん゛っ……えお゛ァお゛え゛っ!!!」
 前傾が深まる。温水を詰めた風船のような乳が、俺の太腿で潰れる。その感触にどきりとした時にはもう、弾力のある唇は逸物の根元に達していた。
「おお……!」
 思わず声が出る。感嘆の溜め息だ。
 俺はMayという人間を誤解していた。華こそあるが、見栄えばかりを気にし、恥を掻く勇気などないワガママ女王だと思っていた。どうやら違ったようだ。彼女は自分の評価も気にするが、それ以上に誇り高い。罰を受ける側になったのなら、それがどれほど困難だとしても自力でやり遂げる、そういう人間なんだ。
「う゛ぉろ゛うぇっ!」
 Mayがえずきながら頭を戻す。猛禽類のような瞳がこっちに向く。俺は今さらながらにその意味を悟った。憎い俺を睨んでいるのかと思ったが、彼女の視線が捉えているのは俺じゃない。俺が構えるカメラのレンズだ。

 ≪よく見てなさい。こんな事までさせられても、逃げたりはしないわ!≫

 自分のファンに向けて、そう訴えている眼なんだ。
「ん゛っ、んむ゛っ、ん……っ!!」
 Mayはこっちを見上げたまま頬を凹ませ、唾液を潤滑油にして激しく首を振る。カコカコと音が鳴っているのは、狭まった喉で唾液と空気がかき混ぜられているせいだ。
「あ、ああああっ!!」
 思わず声が出た。たまらない。ローションたっぷりで手コキされているような……いや、そんなレベルじゃない。喉奥の輪が幅広のゴムのように亀頭を呑み込み、喉粘膜が竿をねっとりと包み込む。しかもそれは一瞬じゃなく、吸い付くように刺激しつづける。無理矢理咥えさせるのでは味わえない感覚だ。
「んふっ」
 Mayが口の端で小さく笑い、顔を傾けてカコカコと音を鳴らす。粘膜の当たり方が変わってまた良い。ついつい腰が動いてしまう。
「んりゅう゛っ……ぉ、もごゥふっ!!」
 喉奥の酷使は当然Mayにもダメージがあり、苦しそうに噎せていた。だがすぐに根元まで咥え直し、それどころか今度は舌を伸ばして玉袋を舐め回してくる。その快感がまた強く、射精感が湧きあがった。
 まずい。
 いくら遊び慣れているとはいえ、不意に限界が来ると抗う術がない。
「ああ、あかん、それイクっ…………!!」
 情けない声と共に、俺はあえなく絶頂した。四方から纏わりつく粘膜の、その一角に沈み込む勢いで逸物が跳ねる。びゅるっ、びゅるっ、と噴きだす精液の行く先は、亀頭すら触れられない食道の奥だ。
「ああああ、すごい……搾り取られてしもた」
 俺もセックスを生業とする人間だ。見事な抜かせ技には感服するしかない。
 一方のMayは、逸物を完全に吐き出してはいなかった。露出した竿を手で扱きつつ、鈴口を強く吸い上げられる。
「あ、うぁ……!」
 射精直後で敏感になっているから、あっさりと射精させられてしまう。
 ここで、Mayと視線が合った。意地悪そうな瞳だ。気持ちよすぎて忘れていたが、これはイカせ合いの勝負だった。ここで少しでも精液を搾り取ることで、俺の限界を早めようというつもりか。
「気持ちよかったでしょう?」
 ようやく亀頭を解放したMayが、口元を拭いながら笑いかけてくる。左のつけ睫毛は外れかけ、メイクもボロボロに崩れているというのに、最初に見た時よりも妖艶だ。
 改めて彼女に惚れ直した。好きというより尊敬に近い。他人にこんな感情を抱いたのは初めてかもしれない。
 そしてその感情が、俺に新たな欲を芽生えさせた。

 ────彼女に、俺の“全て”をぶつけてみたい。

 軽い仕置きと約束したクリ君には悪いと思う。だがもう気持ちが抑えられない。俺の20年余りの経験はきっと、今日この日のためにあったんだ。


                 ※


 メイク直しの休憩を挟んで、三回戦。順番は先攻のMayに戻る。ここでMayが指定したプレイは騎乗位だった。チャンネル内では『征服逆レイプ』とも呼ばれている、何人もの“オス”に音を上げさせてきたMayの十八番だ。
 制限時間は30分、条件は『乳房から手を離さないこと』。これも過去動画で何度も出てきたが、案外難しいらしい。Mayの腰遣いで何度も搾り取られた対戦者は、堪らずに乳房を手離して相手の腰を掴んでしまう。
「一度私の胸を掴んだら、二度と離しちゃダメよぉ?」
 Mayは俺に跨りながら、挑発するように念を押した。惚れ込んでしまった今は、その全てが眩い。ライトを後光に煌めく金髪は天使のようだ。ただ、だからといって翻弄されるわけにはいかない。ここからの俺は『浪速の鬼マラ師匠』だ。

 Mayの手がそそり勃った逸物を掴み、潤んだ割れ目に導く。自慢の剛直が、襞を押しのけながらゆっくりと入り込んでいく。
「おおお……」
 溜め息が出るほど気持ちいい。少し前に味わった穴なのに、まるで別物に思えるのは、俺の気持ちの問題だろうか。
「…………くっ…………」
 一方、Mayは唇を噛んでいた。だが俺の視線に気づくと、ふっと薄笑いを浮かべて一気に腰を沈める。さすがに根元までとはいかないが、8割方を一息に呑み込む根性は賞賛すべきだ。
「ほら、始めるわよぉ」
 Mayが俺の手を取って胸に触れさせる。相変わらず触り心地がいい。吸いつくような肌、搗きたての餅の柔らかさ。一晩中でも揉んでいられる。
「こんな気持ちエエもん、離したくても離せんわ」
「ふふふ、そう? みんな最初はそう言うのよねぇ」
 俺の変化に気付いたのか、Mayは一瞬妙な顔をした。だが突っ込んでは訊いてこず、誘うような笑みで腰を動かしはじめる。まずは前後運動だ。Mayが動く乳房も揺れる。ボーリングの球を思わせるFカップの質量は侮れない。なるほど、漫然と触れているだけでは振り落とされる危険があるわけか。
「ちゃーんと掴んでてね、うっかり離しちゃダメよぉ。アナタには借りがあるもの、半端な決着は許さないわ」
 Mayは俺に囁きかけながら、前後の動きを速めた。これはすごい。竿を握りしめたまま前後に揺さぶられている感じだ。そこへ8の字を描くような動きまで加われば、次に来る刺激の予想がつかない。
 だが、その激しさは諸刃の剣だ。俺の逸物が振り回される時には、Mayの膣内も掻き回されている。特に俺の物は三日月のように沿っているから、さぞかし刺激が強いだろう。
「ん゛、んん゛っ……ン!!」
 Mayは歯を食いしばっていた。苦しそう? いいや違う。快感に耐えている顔だ。その証拠に、結合部からはにちゃにちゃと水音がしはじめている。

 一分ほど経つと、ついにMayの腰が下がってきた。俺の胸板に手をついて腰を浮かせていたのが、もうできなくなっている。デカマラを根元まで咥え込み、子宮を押し上げられるとどうなるか……それはMayが一番よく知っている。
「……ッッ!!!」
 細腕が痙攣しはじめた直後、Mayは天を仰いだ。いきなり弓反りになるから、危うく乳房を逃がしそうになる。
「あああすごい! 締まって、中がうねっとる!!」
 俺は横のカメラを意識しつつ、大声で叫ぶ。もちろん絶頂の事実を仄めかすためだ。
 腰に伝わる痙攣が収まった直後、膣がふうっと弛緩する。絶頂後の脱力状態だ。こうなるとスレンダーなMayとはいえ結構重い。
「はっ、はっ、はっ……」
 荒い息の音。汗と愛液の匂いもする。彼女の体臭は少しも嫌じゃなく、最高のフェロモンだ。
「ふうっ。なかなか気持ちよかったけど、物足りんなあ。コレ続けられても全然参りそうにないわ。そや、いつもの腰パンパン打ちつけるやつ、アレやったらイケるかも」
 十八番の騎乗位を披露するMayに、こんな物言いをした“オス”は前例がない。だが、こんな序盤で女王をイカせた男もまた皆無だ。史上初の記録は今晩まだまだ出るだろう。俺がこのチャンネルの歴史を塗り替えてやる。

「はぁ、はぁ……急かさないの。今、しようと思ってたところよ」
 Mayはブロンドの髪を掻き上げた。すでに息が荒いし、上半身は汗で光っている。それでも彼女は休まず、俺の胸に手をついて腰を浮かせた。
 パンッ、パンッ、と肉のぶつかる音がしはじめる。これをよくある光景と思って観ている視聴者がいるなら、俺が解説してやりたいところだ。肉がぶつかる音がするということは、腰が密着しているということ。つまり22センチのマグナムが、丸ごと女王様の体内に入り込んでいるということだ。
 まあ、一瞬でもMayの横顔を見れば察しもつくだろう。
「う゛、くう゛っ……!!」
 人形のような顔を歪め、真っ白な歯を食いしばる。絶頂直後の膣を巨根でイジメ抜くというのはああいうことだ。
「ええわ、さっきよりよう締まる。上等なオナホールに扱かれてる気分や」
「はあっ、はあっ……。お、オナホールですって……!?」
 Mayは顔を歪めたかと思うと、動きに変化をつけはじめた。膝を柔らかく使い、膣でヌチュヌチュと扱いてきたかと思えば、腰を密着させて8の字を描く。かと思えば、パンパンと腰を打ち付けて亀頭をイジメ抜く。
「うお!? あ、くっ……!!」
 種類の違う快楽が立て続けに来ると、さすがに効いた。強い射精感に顔が歪む。そんな俺を見下ろして、Mayがくすりと笑った。オナホールにこんな芸当は無理だろう、という意趣返しか。気の強いことだ。

 ベッドが軋む音。荒い呼吸音。控えめな水音と、肉のぶつかる音。それだけが延々と繰り返されている。傍目には同じシーンの繰り返しに思えるかもしれないが、当事者目線では見どころの宝庫だ。
 割れ目からは愛液が止めどなくあふれ、俺の下半身をオイルでも塗りたくった状態に変えている。俺がいじくり続けている胸も明らかにサイズが増しているし、少し柔らかかった先端の蕾はしっかりと勃った。
 ついつい苦しげに歪むMayの顔ばかり見てしまうが、下腹部に視線を落としても面白い。Mayは腹の脂肪がないから、怒張の形がそのまま浮き出るんだ。膨らみを見れば、どこまで入り込んでいるのかが判る。これは楽しい。Mayは案の定、一番奥まで突っ込まれた時が特に感じるようだ。
「ふーッ、ひーぃッ、ふーッ、ひーぃッ……」
 今やMayの呼吸は、出産を思わせるものになっていた。顔からは雫が滴り、乳房の汗も掴む俺の手を伝い落ちていく。さらさらとした金髪も濡れているらしく、肩や顔に絡みついて不気味なほどだ。
 そうなるのも当然だろう。膣内のスポットが刺激され続けた結果、彼女は何度となく絶頂しているはずだ。
「~~~~~ッッ!!!」
 また大きな波が来たらしい。Mayは首を筋張らせながら天を仰ぎ、かと思えば俯いて目を閉じる。俺の性感開発の生徒に、同じ反応をした女がいた。

『お師匠さんのおっきいから、奥までガンガン突っ込まれるとね、目の前がチカチカするの。視界が暗くなって、光が動いてる感じ。なんか、怖い』

 彼女はそう言っていたが、Mayもそうなんだろうか。
「もう限界なんか、先生?」
 俺が声をかけると、Mayは瞼を開いた。だが最初の一瞬は目の焦点があっていない。目の前がチカチカ、という生徒の言葉がまた浮かぶ。
「……私より、自分の心配をしたらぁ? アナタ、そろそろ出そうなんでしょう。若くもないんだし、出せてあと一回なんじゃないの?」
 Mayの言葉は核心を突いている。彼女が何度も絶頂しているように、俺もそろそろ限界だ。May相手だと異常に興奮するから、あと一回ということはなさそうだが。
「さあ、いくわよ」
 Mayは覚悟を決めた顔をしていた。そしてそこから始まったのは、相討ち上等のラストスパートだ。
「ふっ、ふっ、ふっ、ふっ……!」
 短く息を吐きながら、腰を浅く上下させる。亀頭にコリコリとした子宮口が当たり、しかもその度に絶頂しているのか、膣がヒクヒクと戦慄きながら逸物全体を締めあげてくる。この刺激にはさすがに抗えない。
「おおお、お、おっ!! ははは、先生がイクたびにアソコが締まって、さ、最高や!」
 喘がされる屈辱からMayの状況も暴露するが、攻めは緩まない。足が暴れる。手だけはなんとか乳房を掴んでいるが、かなりギリギリだ。
「ぁイク、イクっ……!!」
 ほどなくして俺は、両脚をピンと伸ばして絶頂する。ハッキリ言って情けない姿だが、この責めはすごすぎた。三回目の射精にもかかわらずドクドクと出る。それをMayの膣が吸い上げる動きをしているのが、なぜか妙に嬉しい。

 濃厚な快感の後は、その分だけ倦怠感が襲ってくる。だるい。このままベッドで眠りたい。だが、ドS女王がそんな隙を見逃すはずもなかった。
「まだまだ、休ませないわよぉ……!」
 Mayは震えている足をさらに開き、抜き差しのストロークを大きく取りはじめる。亀頭が抜けるギリギリまで引いてから、一気に根元まで呑み込むやり方だ。激しいディープスロートのようなものだが、膣には無数の襞があり、締まり具合も複雑なだけに快感のレベルが違う。しかも、そのペースが速い。パンッパンッパンッパンッとすごい音が響き渡っている。
「うあああああっ!!!」
 また叫ばされた。これは紛うことなき逆レイプだ。3桁の女を食ってきたこの俺が、犯されている。
「ほら、どうしたのぉ? オッパイに力が入ってないわよー?」
 汗でバリバリと鳴る耳に、Mayの煽りが届いた。言われてみれば乳房のホールドが甘い。May自身が激しく動いている上に、滝のような汗で滑るせいだ。
 気にくわない。Mayとセックスできるのは嬉しいが、やっぱり俺はヤられるよりヤる方がいい。
「ああ、気持ちようてボーッとしてたわ」
 俺は乳房を掴むのをやめ、代わりに尖った乳首を指で挟み潰す。
「ひっ!?」
 Mayは目を見開いて叫ぶ。昂ぶりすぎて乳首だけでイってしまう状態なのかもしれない。少し乱暴な気もするが、滑り防止にはこれが一番だ。それに乱暴と言うなら、ここからはもっと荒々しい。Mayが腰を打ち付ける瞬間に、こっちからも突き上げてやる。

 亀頭と子宮口がぶつかり合い、ぐちゅりと潰れる感触がする。思わず射精しそうな刺激だ。
「あぐう゛っ!?」
 Mayはさっき以上に目を見開いた。左右に開いた太腿と下腹部が激しく痙攣している。よほど深くイッたようだ。
「なんや、知らんかったんか? 騎乗位は男が動くことも多いんやで」
「はあ、はあ……そっちこそ知らないの? ウチでは許可してないのよ」
 こうなったらもう意地の張り合いだ。Mayは上から、俺は下から、相手の敏感な場所を潰す勢いでぶつかり合う。
「あ゛ッ!! あ゛ッ!! あ゛ッ!! あ゛ッ!!」
 Mayは腰を振るたびに叫んでいた。右目がウインクでもするように細くなるのは、絶頂する時の癖か。だが、きっと俺も大差ない。
 気が狂いそうなほどの苦しさと快楽を味わいながら、ひたすらに意地をぶつけ合う。永遠とも思えるぐらい長かったその戦いは、ストップウォッチの音でようやく終わりを迎える。音が鳴ったその瞬間も、俺の指はMayの乳首をイジメ抜いていた。今回も俺の勝ちだ。

 そして3連続で負けとなったMayは、直後にまた一つ醜態を晒してしまった。
「ああ、あっ……!!」
 割れ目から怒張を抜いたその瞬間、栓が外れるのを待っていたように潮が噴きだす。声色からしてMayもそれを察したようだが、一度出てしまえばどうにもならない。ガニ股のまま、脚をガクガクと震わせて潮を噴き散らす。これ以上はなかなかないレベルの痴態だ。さすがに哀れになって、俺は浴びせかかる潮を避けずに受け入れる。勝負が終わればノーサイド、恥を掻くなら諸共だ。
「…………っ!」
 Mayはそんな俺を見て目を丸め、次に唇を結んだ。相手の心理を読むのはそこそこ得意だと自負しているが、さすがにあの感情は読めない。

 ただ、この後の小休憩で変わったことがあった。手洗い場で顔を洗った俺のところにMayが来て、ピンクのハンカチを渡してきたんだ。
「なに、その意外そうな顔は? 私のせいなんだから、当然でしょう」
 ガウン姿のMayは、俺の反応にふくれっ面になり、プリプリと怒りながら立ち去る。
 それは驚くだろう。俺が見てきた彼女なら、男に潮をぶっかけても『ご褒美よ』の一言で済ませそうなものだし、ハンカチを渡すにしても他のスタッフを使いそうなものだ。
 やはり違和感が拭えない。あの女王様は、あんなに可愛い反応をする子だっただろうか?


                 ※


 四回戦は後攻である俺の番だが、俺はここであえて視聴者に意見を求めることにした。このチャンネルの異物として暴れまわっている現状だが、やはり普段からこのチャンネルを観ているユーザーがどう思っているのかが気になったからだ。「俺の姿はもう見たくない」という意見が多いようなら、残念ではあるが従う気でもいた。そして実際、そういう意見は多少あった。だが、一番多いのはそれじゃない。
 『May先生のイキ顔が見たい!』
 コメントを集計したスタッフによると、なんとこの意見が多いそうだ。教祖のようだったMayの神性が剥がれた結果、ならばと親しみの持てる反応を求めてるんだろうか。
「……ふぅん、そうなの……」
 May本人もそう呟いただけで、特に嫌がりはしなかった。

 『視聴者参加型企画! May先生は犯されている20分間、カメラから視線を逸らさずにいられるか!?』

 手書きのメッセージボードがカメラに映され、撮影の準備が進む。とにかくMayの顔を映さないといけないから、プレイの場所は自然とソファに決まった。ソファの座部に手をついたMayを、俺がバックで犯す。カメラマンのクリ君はそれをソファの裏から撮る。これが一番しっくり来た。まあ、最初にバックでやりたいと言い出したのは俺なんだが。

 Mayがソファに両手をつき、脚を肩幅に開いて尻を突き出す。絶景だ。スレンダーで脚の長い女は後ろ姿が映える。俺がMayとの後背位にこだわったのもそのためだ。May相手にバックをせず帰るなど愚の骨頂だ。
「挿れるで、ちゃーんと撮ってや」
 正面のクリ君に声をかけつつ、亀頭でMayの割れ目をなぞり上げ、ここぞという位置で腰を突き入れる。俺の逸物は上反り、Mayのアソコは上付きで、本来バックには向いていないが、体位と挿入角さえ間違えなければ問題ない。大事なのはGスポットとポルチオを流れで刺激できることだ……と俺のセックス講座なら語っているところだろう。真正面にカメラがいると、ついつい性感開発レクチャー動画の気分になってしまう。
「ん……!」
 挿入の瞬間、Mayは小さく呻く。どういう顔か見られないのは残念だが、素晴らしい背筋と尻を拝めているから一長一短というところか。
 ある程度奥まで入れたら、数秒動かずに馴染むのを待つ。膣襞がしっとりと纏わりついてきて気持ちがいい。主のワガママっぷりに似ず、性器は素直そのものだ。
「じっとして、どうかしたのぉ? まさか、挿れただけで出そうなの?」
 Mayが笑う。膣内を馴染ませているのは彼女にも解るだろうに、撮られる恥ずかしさを誤魔化すためか。
 だが、おねだりされては応えるしかない。
「ああ、ヌルピタで最高やで。もうオツユが滲みはじめとるわ」
 俺はカメラを意識して言い返しつつ、Mayの腰に手を当てた。普段のレクチャー動画なら、ここで『尻を引き締め、上体を反らして奥まで届くようにすべし』とでも言うところだが、俺の場合それはやりすぎだ。
 バックでイかせるコツは、初めを激しくしないことに尽きる。いきなり動かない。激しく動かない。パンパンと腰を打ち付けるのは、女が濡れてきてからのお楽しみ。最初は臍側の膣壁をしっかりと擦りつつ、ゆっくりと高める。
「ん……んん、ん……っ」
 相方の女王が小さく声を漏らしはじめた。口を閉じ、鼻から漏らす声。本気で気持ちがいい時のサインだ。過去動画ではAV風の演出か、いかにもな演技で喘いでいるシーンもあったが、今は不要という判断らしい。
 であれば、こっちも『実』で応えよう。
 硬く反った幹と膨れた亀頭を使って、じっくりとスポットを刺激する。クチュクチュという音の変化に応じてピストンを速めていく。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
 Mayの呼吸が荒くなってきた。上体がゆらゆらと揺れ、ソファについた手も浮き気味になっている。
 頃合いや良し、第二段階だ。

「脚閉じて」
 Mayの太腿を外から押さえ、脚を閉じさせる。見栄えこそ大股開きに劣るが、膣の密着感が増すことで感度は倍増だ。まずは小手調べに、処女穴もかくやという狭さの膣襞をメリメリとこじ開けてやろう。
「うああ、あ……ッ!!」
 バックで初めて、はっきりとした声が出た。声色だけでも目と口を開いた可愛い顔が浮かぶ。拝めている視聴者が羨ましい。だがせっかくの機会だ、もっと凄いものを見せてやろう。
「ああ、最高や。先生ん中、巾着みたいにキュウキュウ吸い付いてくるわ」
 俺はMayの両肩を掴み、突く力が逃げないようにすると同時に、少し身を起こさせて性器の傾きを変えさせる。Gスポットを強く擦りやすいようにだ。
「あっ! あっ! あっ! あっ!」
 パンパンと腰を打ち鳴らすたび、合いの手のように喘ぎが上がる。彼女の心情を代弁するなら、『さっきまでと全然違う』『こんな気持ちいいバックは初めて』というところか。
 正面からカメラを構えるクリ君が、ごくりと喉を慣らしている。Mayがオンナの顔を晒しているんだろう。Mayも恥ずかしいだろうが、涼しい顔には戻れない。ここからは追い込むのみだ。

 充分すぎるほど濡れた割れ目に、パンパンパンパンとハードなピストンを叩き込む。
「はああっ、んああ……ァああああっ!!」
 Mayの喘ぎ方がねっとりとしてきた。それは下の口も同じだ。内股に閉じた脚はピクピクと痙攣しながら、涎をあふれさせている。足元の床はもう小雨でも降ったようだ。
 いよいよ辛抱堪らなくなってきた。前のカメラで観ている連中には、全部見えてるんだろう。恥ずかしそうに紅潮したMayの喘ぎ顔も、先を尖らせたまま暴れる巨乳も、愛液まみれでもじつく脚も。
 上等だ。だったらこっちも、俺にしかできないことで羨ましがらせてやる。
「あっ!?」
 Mayから悲鳴が上がった。俺が肩から手を離し、両サイドから乳を揉みはじめたからだ。
「ちょ、ちょっとぉ……!」
 Mayの声は焦った様子だ。俺の方を向きたがっているのが雰囲気でわかる。だがカメラから視線は逸らせないルールだ。そんなMayを後目に、俺は視聴者に見せつけるつもりで乳を揉みしだく。勿論しっかりと乳腺開発のテクを使ってだ。
「んん、もう……! 手つきが……っ!」
 言葉に反してMayの声色は甘く、膣の中も愚息をキュウキュウと締めつけてくる。
「カラダは正直やで」
 定番のセリフを吐きつつ、背後からMayを抱きしめる。右手の指で左乳首をイジメながら、左手は前からクリトリスを狙う。
「お゛っ!」
 Mayから初めての声が漏れた。子宮口を上下から潰す騎乗位ですら、ついに最後まで出なかった『お』の声。女性的な可憐さとは程遠いが、だからこそリアルな快感の声。不意にでもその声が出たということは、本格的なメス堕ちも近い。

「んっ、んンっ……ふ、んっ……!!」
 艶めかしい喘ぎが漏れる。クリトリスを弄りはじめると、ハメている時の音も劇的に変わった。『ぐちゅぐちゅ』とも『ぐちゃぐちゃ』ともつかない水音が響き渡っている。抱きしめたMayの横顔は、熟した林檎のように赤い。
「んん、もう……子供みたいに夢中ねぇ。そんなに私のカラダがいいの?」
 Mayがジロリとこっちを睨む。今日の撮影が始まってすぐにこんなマネをしたら、ビンタされるか金玉を蹴り上げられていただろうに、変われば変わるものだ。
「当たり前やろ」
 俺はそう囁きながら、抱きしめたMayを突きまくる。体位は自然と立ちバックに近づき、膣も上向きになるため、Gスポットをいよいよ強く擦れるようになる。そこにクリトリスへの刺激まで合わされば、Mayは激しく腰をもじつかせる。中のヒクつきも早くなるが、絶頂とは少し違うようだ。
「あ駄目、でちゃうっ……!!」
 Mayのその言葉で状況が把握できたが、その時にはもう遅かった。腰を引いたタイミングでぷしゃっと潮が噴きだす。怒張をずるりと抜き去れば、ますます勢いよくあふれ出る。蛇口を全開にした時の音。間違いなくカメラにも拾われているだろう。
 珍しいことじゃない。反りが強すぎるか、それともデカさのせいか、バックで犯すとどの女も最後には潮を噴く。初めて『ハメ潮』を経験したという相手も多い。だがMayにとっては違うようで、脚を肩幅以上に開いたまま呆然としていた。カメラの方を向いてはいるが、堪えたというよりはフリーズしている感じだろう。
「スマンなぁ、気持ちよかったやろ」
 とりあえず謝罪する。これも少し前なら嫌味だとして睨まれたところだが、
「………………ばか」
 今のMayは、小声でそう呟くだけだった。
 馬鹿で結構。今日に限っては、Mayのことしか考えられない馬鹿でいい。

 俺はもう一度Mayの後ろに立ち、腰を抱えて突き入れる。
「ぐっ!!」
 ぐしょ濡れで何の抵抗もなく挿入ったのに、Mayの声は大きい。
「ひぃ……っ」
 さらに奥へ押し込むと、怯えるような声まで漏れた。膣の締まり具合も普通じゃないし、脚は小さく震えている。さてはハメ潮と同時に絶頂もしたか。
 ここまで準備ができているなら、もう少し過激にやれそうだ。俺は掴む場所を太腿の付け根あたりに変え、引きつけながら奥まで突き込む。そしてそのまま、ぐりぐりと子宮口を『練った』。子宮がトロけているなら、という条件つきだが、どんな女も気持ちいいと絶叫するハメ方だ。
「あうっ、うあっ! んあっぁっ、あひっ! ぉっ……お゛!」
 今までにない呻き方だ。彼女はきっと今、一突きごとに表情を変えていることだろう。
 しかし音がすごい。空気が入ってしまったのか、かすかに放屁に似た音もしているが、それを掻き消すほどのボリュームできちゅきちゅという音が響く。膣の奥が愛液で溢れている証拠だ。
「お゛お゛、ぉ゛っ!!」
 低い呻きを3連続で漏らしてしまうと、さすがにMayも口を噤む。ソファから左手を離し、俺の手首を握ってロックを外そうとする。すごい力だが負けてはやらない。むしろ邪魔をした罰として、もっとキツくしてやる。とはいえ乱暴をするわけじゃない。ホールドの位置を少し下腹寄りにし、中指を子宮でトントンと叩くだけだ。たったそれだけで女の反応は変わる。
「…………ィっ!! き…………ーぃ………………ッ!!!」
 歯でも食いしばっているのか、Mayの音にならない声だけが届く。その抵抗は体にも現れた。肩幅に開いた足が爪先立ちになっている。無意識に快楽から逃げようとしての行動だろうが、当然許さない。立ちバックの快楽の肝はカカトだ。
「足下ろせ」
 子宮を叩いていない方の腕でMayの腰を押しつぶし、強引に爪先立ちをやめさせる。これで二本足は不動の支えとなり、前にはポルチオ圧迫で壁ができ、後ろからは俺のマグナムが突き潰す。どこにも快楽の逃げ場がない、子宮圧殺網の出来上がりだ。
「う、あ……あ……ッあ、くン……んあ、は……っ!!」
 途切れがちな呻きが、徐々にトーンを上げながら繰り返される。そして。
「ぁイグっ、イグっ…………イグーーっ!!!!」
 全力の絶叫を迸らせながら、Mayは弓なりに仰け反った。足もまた爪先立ちに戻る。俺の体重を跳ねのけたんだから、恐ろしい力だ。だがこの瞬間、彼女はまた黒星を重ねた。
「…………はーっ、はーっ、はーっ………また、負けちゃった……」
 Mayは俺の胸板に頭を預け、息も絶え絶えなまま語りかけてくる。汗と涙、鼻水に涎……せっかくの美貌がグシャグシャだ。こんなになってまでカメラから逃げず、ギリギリまで顔を晒していたのか。本当に大したタマだ。
「勝ったご褒美は、キスでどう? 私は嫌なんだけど……アナタはしたいでしょう?」
 汁まみれの顔でよく言う。普通はキスなどしたがらないだろう。よっぽど惚れ込んででもいない限り。

 無味無臭なはずのMayの唾液は、不思議と桃の香りがした。
「……んっ、んふっ……ん、ンんー…………」
 舌を絡ませながら、左足を持ち上げての立ちバックで突きまくる。わざわざ足を上げさせているのは、膣内の違う場所を刺激するためと、何よりカメラに見せつけるためだ。Mayの股座に俺の極太が入り込み、下腹がボコリと盛り上がる所も。強張り震える内腿も。蜜のあふれ具合も。すべて見えているはずだ。
 ただし、ひとつだけ見抜けないことがある。Mayの腰が前後左右に動くのは、俺が突くせいだと誰もが思うだろう。
 違う。この女は、自分からクイクイと腰を振ってるんだ。俺のことを生きたディルドーとでも言わんばかりに。


                 ※


 イカせ合いとして始まった俺とMayの勝負は、実質的に四回戦で終わりを迎えた。五回戦でMayが提案した内容は、もはや勝負とは言えないものだったからだ。
「これが最後の命令よ。私を満足させなさい。もし途中でバテたらぁ……」
 ──不幸なことが起きるかもね?
 Mayは俺にだけ届く声でそう続けた。
 完全な脅しだ。だが不思議と嫌な気分にはならなかった。間近で俺を見つめる顔に悪意が感じられず、むしろ俺を手放すまいと必死なように見えたからだ。
 惚れた弱みもある。俺は女王の最後の我儘に付き合うことにした。

「あああ、良いわぁ! 奥が気持ちいい……ああっ! イ゛ク、イク、イ゛クぅうう゛っ!」
 壁際でI字バランスをするMayを犯しつつ、抜き差しに伴うあらゆる変化を左右からカメラに撮らせる。
「ほら、口がお留守よぉ? んっ、むっ……ちゅっ、ちゅっ、はれぁ……あ゛! も、もぉらめっ、お奥でイク、奥でイ゛ってるっ!!」
 椅子に座っての対面座位では、Mayのキスと怒涛の腰振りを地蔵になって受け止める。
 いくら思春期のような興奮が蘇っているとはいえ、流石にここで射精の打ち止めになった。それでもまだMayがヤリたがるから、最後は必殺の体位で一気に畳みかけることにする。

「ああああ゛深いィ゛っ!!! ま、待っで、今動かないで……や゛あアああ゛ッ!!」
 あのMayに音を上げさせた体位は、寝バックだ。腹の下にクッションを噛ませたままうつ伏せに寝かせ、上から覆い被さって子宮口を押し潰す。なんといっても大の男の全体重をピストンに乗せられるから、刺激の強さにおいてこの体位に勝るものはない。
「ぉ、奥っ、グリグリするの、や゛めっ……あ゛、はアア゛ァ゛ッッ!!」
 浮いて逃げようとする腰を上から潰す。平らになったところで、抵抗力を削ぐべく両足を俺の脛で押さえつける。その状態で突きまくると脚が痙攣しはじめるが、責めを緩めて復活されると厄介だ。
「待って待って待ってえっ! ご、ごわれ゛ぢゃう゛……!!」
「あーあー、ションベン出しながら痙攣して。またイったんか。これで何度目や?」
「そんなの、しらない゛……。でも、壊れそうで怖いのぉ……」
「お前、わかってるか? 怖いって言ってる割には笑ってるやん。ほんまに怖いんか? それとも気持ちいい? どっちや?」
「わ、わからないの……あ゛、ぁあ゛イグっ、奥でイっちゃうッッ!!」
「ほら、イったな。イッたんなら気持ちええっちゅうこっちゃ」
「ふぅーっ、ふぅーっ……ひもち、ひいの……? この先にいっても、こわくあいの……?」
「お前のアソコは、ずーっと俺のを貪り続けとるで。まだ満足はしきっとらんのやろ?」
「そう、なのかしら。……でもなんだか、その通りな気もするわ。まだ終わって欲しくない……。もっともっと、この刺激に浸ってたいのぉ……」
「なら安心して浸っとけ。大丈夫や、俺が見といたる」
 カウンセリングのように対話を挟みつつ、繰り返しアクメを決めさせる。痙攣しようが、失禁しようが、声を枯らそうが。

 そのうちMayはベッドに突っ伏したまま、猫の鳴くような声を上げるばかりになる。そろそろ限界は近そうだが、際の際、ギリギリまでは行ってやろう。
「カメラさん、正面と横から撮って。顔とハメてるとこ映るように!」
 クリ君とMayの取り巻きに指示を飛ばしつつ、ぐったりとしたMayの肩を掴んで引き起こす。そうしてメス犬のように這わせた上で、“ドギースタイル”で犯しまくる。
「お゛っ、おお゛っ……ほおお゛お゛っ!! あおおお゛ッ、んお゛お゛お゛お゛っ!!」
 Mayはもはや、快楽の凝縮した『お』行の声でしか喘がない。
 絶頂とは深海に潜るようなものだ。イケばイクほど、快感に入っている時間は長く、深くなっていく。今はその静かな世界を思うさま堪能させてやろう。後に振り返った時、今夜のこの体験が、良い思い出となるように。



                           終
 
 


※最後までお読みいただき、ありがとうございました。

 その後、関西弁の男が運営するマイナー性感開発チャンネルに、
 謎の8頭身ブロンド美女の出演が時々あったとか、なかったとか……。



 
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