※Episode.3はオタサーの姫として、痴漢プレイ、乱交、コスプレ等をするエピソードです。
Episode.3 オタサーの女王
愛梨は注目されるのが好きだ。人間は自分の想定外のことに注意を向ける。つまり他者から注目される人間というのは、何かしら『抜きんでている』ということ……そう考えて生きてきた。
それゆえか、愛梨は視線に敏感だ。たとえ背後からの視線であっても本能的に感じ取る。肢体を舐め回すような、欲望まみれの視線であれば尚更だ。
「…………」
颯爽と階段を上がっていた愛梨は、突如立ち止まり、くるりと後ろを振り返る。その視線の先には、愛梨のミニスカートを下から覗き込もうとする男子生徒がいた。
「あんた今、あたしのパンツ見たでしょ!!」
愛梨は眉を吊り上げ、ズンズンと階段を下っていく。
「えっ!」
男子生徒は驚き慌て、逃走を図った。しかし彼は見るからに運動が不得手なタイプであり、追う者が俊足の愛梨とあっては逃げきれない。
「ま、待って! 見てない見てない、誤解誤解!!」
男はあえなく首根っこを掴まれたまま、必死に弁明を始めた。しかしその視線は不自然なほど愛梨と合わない。
「どこ見てんの? 言いたい事があるならこっち見なさいよ!」
愛梨は相手の顎を掴んで正面を向かせつつ、相手をじっと観察する。
「あ、いやあの、その……!!」
表情筋の動きが乏しい独特のしゃべり方。ボサボサの黒髪に汚い肌、メリハリのない体型。中学生のような垢抜けないリュック。頑なに視線を合わそうとせず、しかしこちらの顔を盗み見る仕草。
この類には見覚えがある。高校時代だ。教室の隅でひそひそと話し、口では三次元の女子に興味がないなどと言いながら、愛梨のミニスカートとそこから伸びる脚を舐めるように視姦していた人間達。スクールカーストの底辺。この男は仮にも東州大生なのだから、彼らと違って勉強面では優秀だったのだろうが、雰囲気からして本質は同じだろう。潤とは真逆の冴えないオスだ。
しかしだからこそ、その男は愛梨の興味を惹いた。今ひとつだったセックス相手の、真逆。一度試してみる価値はある。
「……ねえ。パンツだけじゃ物足りないでしょ? なんだったら、もっと凄いところ見せてあげてもいいわよ?」
愛梨の言葉に、男は耳を疑った。思わず愛梨の目を直視し──そこで改めて、相手のルックスに息を呑む。握手会で対面したアイドルが霞んで思えるほどの、圧倒的な華。まさしくトップアイドル級の美貌が、息すら掛かりそうな距離に存在している。
「え、え、え……っ!?」
男の脳はショートした。様々な思考が脳を巡る。
この女が何者かは知っていた。入学早々にサークルを荒らしまわった問題児にして、『ヤリサー』のトップを食ったセックスモンスター。肉食系女子の頂点。本来なら関わりたい存在ではないが、大学の構内で一目その姿を見た瞬間、ついフラフラと近づいてしまった。光に誘引される蛾のように。
気づけば男は、愛梨を部室に案内していた。アニメ研究会、通称アニ研。非公認サークルではあるものの、アニメ業界で活躍するOBの恩恵で広い部室を与えられている特異な集団だ。
「おー、お帰りんこー」
部室の扉が開いた瞬間、覇気のない挨拶が飛ぶ。しかし、見知った顔の後ろに愛梨を見つけた瞬間、室内の8人は一様に目を剥いた。
彼らの反応も先の男と同じだ。生で見る『問題児』の圧倒的なルックスに、下心を剥き出しにする。無理もない。リアルで女子と話す経験の乏しい彼らにとって、これほどの美少女と話せる機会はまたとないのだ。
「ま、眞喜志ちゃん、だっけ。近くで見ると、すげぇ可愛いね……!」
「スタイルも抜群だな。脚がスラッとしてて……!」
「ほんとルックス良すぎ。チェルンたん……あ、俺の今期の推しなんだけど、それ現実にいたらこんなイメージかも!」
冴えない男達が群がり、愛梨の頭からつま先までを舐めるように観察する。アップライズの面々ともまた違う、あふれる獣欲を隠そうともしない視姦。
「…………っ」
愛梨は、ぞくり、とした。
女が生理的に嫌悪しそうなシチュエーションだ。当然の反応ではある。
しかし──何か違う。嫌悪感であれば、胸がむかつき、吐き気を催すはずだ。しかし愛梨は今、鼓動が早まり、子宮が疼いた。
「で、でさぁ愛梨ちゃん。さっきの話なんだけど……パンツより凄いところ見せてくれるって、本当?」
一人目の男の言葉に、仲間達が動揺する。その視線を再び浴びながら、愛梨はふっと笑みを見せた。さらに動機が早まるのを感じながら。
※
「すげー、無修正マンコだ……」
「バカ、修正されてるわけねーだろ。ナマだぞ?」
「女のあそこはグロいって聞くけど、めちゃめちゃ淡いピンクじゃん」
「いや。俺AVとかでよく観てるけど、普通はもっと黒ずんでるぞ。これが特に綺麗なの」
愛梨の秘部を、18の眼が食い入るように覗き込んでいた。
愛梨は顔色ひとつ変えていない。机の上で脚を開いたまま、いつものように堂々と前を見据えている。しかし視線に晒されない膣の内部は、ヒクヒクと艶めかしく蠢いていた。
「ゆ、指入れていい?」
「ええ」
上ずった声での問いに、愛梨は頷く。
「うわ、すげぇ締めつけ……纏わりついてくる。指一本だぞ? チンコだったらどんだけ気持ちいいんだこれ?」
恐る恐る指を挿入する様、たどたどしく動かす様は、レズ行為を始めたばかりの頃の麻友を思わせた。だが少し違う。その恐れの裏には性欲が透けている。一度その欲望を察してしまえば、膣内の指の動きは、舌で舐められているように感じられた。
「………………っ!!」
愛梨の太腿がぴくりと反応する。麻友の時とも、潤の時とも違う理由で。
「膣の中ってこんなデコボコしてんだな。AVだとすぐ見つかるとか言ってたけど、これ慣れないとスポットわかんないぞ。ね、Gスポットってどこ?」
「Gスポットは入り口のほう……そこ。今の……もっと手前!」
「あ、ここか。確かにちょっと感触違うかも。ここ刺激したらイクの?」
「そうだけど、乱暴にガリガリ掻いたら蹴るわよ。指の腹で押し込みなさい」
「こんな感じ? こうしてたらイク?」
「んっ……触り方はそうよ。下手だけど……頑張ればイケるかもしれないわね」
命令口調で愛撫の仕方を伝えながら、愛梨は胸の高鳴りを感じ続けていた。大事な場所へ、不快な男の指を突っ込まれているのに。同じく不快な男達から、下卑た視線を浴びているのに。
「あ、なんか中ヒクヒクしてきた! 感じてんの?」
「感じるスポットを刺激させてあげてるんだから、当然でしょ!」
男のしたり顔が気に食わず、思わず怒鳴りつける愛梨。9人の男達はわかりやすく委縮するが、盗み見も指を動かすことも止めない。である以上、その行き着く先は決まっていた。
「う……っ!!」
愛梨が呻き、膝が内に閉じる。その直後、割れ目から小さく飛沫が上がった。
「おお、イッてるイッてる!!」
「つか、潮噴いた? 今」
「今イッたよな! はははは、やった! 初めて三次元の女イカせたぜ!」
部員達の喜びようは、まさに鬼の首でも取ったようだ。それを嘲笑と取った愛梨は眉間に皺を寄せる。
「アンタにイカされたんじゃないわ。いつまでも埒が明かないから、アタシの意思でイッたのよ!」
再びの怒号に9人のオタクが肩を竦める。しかし今度の彼らは、若干の満足げな表情を浮かべていた。
「はあ……っ、はあ……っ、はあ……っ、はあ……っ!」
1時間後、部屋では荒い呼吸が繰り返されていた。興奮した9人のオスと1人のメスの吐息だ。9人のオスは指の先から雫を滴らせ、愉快そうな笑みを浮かべている。一方で紅一点のメスは、机の上で膝頭を抱えるポーズを取ったまま、なんとも難しい表情を浮かべていた。その理由はおそらく、机の下に滴るほど大量の潮溜まりのせいだ。
「すごいね愛梨たん。最後の方は指突っ込んだだけでビクンビクンしてたじゃん」
「ホント、超可愛かった! 欲を言えばイキ顔も見せて欲しかったけどねー」
男達が猫撫で声を出す中で、愛梨はゆっくりと床に降りる。しかし脚に力が入らず、机に寄りかかってしまう。
「ねえ愛梨たん。もし良かったら、このノリで“本番”とか……!」
男達の欲望は留まるところを知らない。恐る恐るでありながら、しかし強い願望を秘めた目で愛梨に迫る。愛梨は机に腰を預けたまま、その獣の集団をジロリと睨みつけた。人一倍眼力の強い、大抵の男を黙らせる睨みだ。
「あ、ハハハ……流石にそこまでは、かな……?」
内気な9人のオスはたじろぎ、澄まし顔で下着を履く愛梨を侘びしそうに見守る。ハイソックス、ミニスカート、ブラジャー、肩出しのトップス。衣服が纏われるたび、セックスの可能性が閉ざされていき、男達は項垂れた。
「…………じゃあ、また」
部室の扉を開けて出ていく瞬間、愛梨がそう呟いたのも、彼らは社交辞令だと思っていた。
彼らは眞喜志 愛梨を知らない。愛梨は社交辞令など言わないということを。
澄まし顔で部室を出てまもなく、愛梨は学舎の壁に頭をつけた。その頬は赤らみ、額からは汗が滲み、心臓は早鐘を打っていた。
「な、なんで……!?」
愛梨は呟く。
公園のトイレで麻友から嬲られた時と同じ、不可解なほどの興奮。興味本位であの冴えない男達に性器を触らせたが、何度も潮を噴き、腰を抜かす寸前まで追い込まれるとは思ってもみなかった。最後、セックスの求めを黙殺したのは嫌悪感からではない。今この状態で“本番”をされれば、どれほどの恥を晒すか想像がつかなかったからだ。
「……何してるんだろ、あたし……」
自己嫌悪に陥る。抜きんでた存在であろうとする自分が、こんな真似をしているのが許せない。しかし、その浅ましい行為で強い快感を得たことも確かだ。
理想と好奇心の狭間で、愛梨は苦悶する。しかし彼女は結局、好奇心に抗えない。翌日も再びアニメ研究会の部室に乗り込み、昨日の武勇伝に沸く部員達を驚かせた。
「痴漢プレイがしたいわ!」
そう言い放った愛梨に、集まった研究会メンバーは唖然とする。昨日の愛梨を知る者も知らぬ者も、噂通りの変人なのだと再認識した。もっとも愛梨が変わり者でなければ、むさくるしいこの部室に絶世の美少女が訪れる事などなかっただろうが。
しかし、愛梨とてただの思い付きで発言したわけではない。
黙っていれば文句のつけようのない美少女であり、スタイルも抜群、加えて裾を詰めた超ミニのスカートを履くことが多い愛梨は、これまでの人生で実に13回も痴漢の被害に遭っている。
もちろん性格的に黙って耐えるわけがなく、時には相手の手首を掴んで捻り上げ、時には頭突きを食らわせ、時には背中越しに金的を蹴り上げて、片っ端から警察に突き出した。運悪く逃げられた1回を除き、計12回の撃退記録。その記録を見た警官は驚き、手柄を褒めながらも注意を促した。
「君は正直、異性から客観的に見て魅力的すぎる。痴漢被害を減らしたいなら、格好を見直した方が良い。例えばその、短いスカートとか……」
警官の注意は善意からのものだっただろう。聡い愛梨はそれを理解してはいた。しかし、生来の我の強さでつい反発してしまう。
「冗談じゃないわ! 悪いのは痴漢をした方でしょう、どうしてあたしが格好を改めなきゃならないの? 痴漢がなによ。またされたなら、またとっ捕まえてやるわ!!」
愛梨は堂々とそう宣言し、そして実際その通りにしてみせた。痴漢被害が13回に留まっているのは、被害を受けなくなったというより、『痴漢を撃退する女子高生』として地域に広く知れ渡った結果に過ぎない。
何度痴漢に遭ってもスカートの丈を直さなかった理由を、愛梨は自分の頑固さゆえだと思っていた。被害者の立場でありながらファッションを改めさせられるのは納得がいかない。自分は脚が長く綺麗に見えるミニスカートが好きだし、それを履く権利は誰にも奪わせない。その考えからだと思っていた。
だが今振り返れば、それだけではなかった気がする。
愛梨は、痴漢に……胸や尻、太腿を撫でまわす手とその欲望に、興奮していたのだ。実際、愛梨が初めて自慰を覚えたのは、4度目に痴漢を受けた日の夜だった。痴漢そのものは金的一発で鮮やかに倒したものの、夜になってもその出来事が忘れられず、落ち着かないままに何となくむず痒い秘部を擦った。それが愛梨の性の始まりだ。
それからも、痴漢に遭った日の夜は自慰をしていた気がする。部活破りの高揚でならともかく、痴漢で興奮して慰めたなどとは認めがたく、長らくその関連性に気付かなかった。しかし、地方を遠く離れた大都会で久々の痴漢にあった数日前、愛梨は興奮を自覚してしまったのだ。
犯人のサラリーマンは無抵抗を当て込んでいるのか無防備で、取り押さえるのはいつでもできた。しかし愛梨は、気まぐれで3分あまりも相手の好きにさせていた。相手の指がショーツをなぞるのをやめ、その中にまで入り込もうとした辺りで流石に肘鉄を食らわせたが、状況に気付いた周りの客が犯人を取り押さえる間、それを見下ろす愛梨の秘部はヒクヒクと戦慄き続けていた。もしあの時、その“先”までされていたらどうなったのか──これが愛梨にとって、目下一番の関心事だったのだ。
※
なるべくリアルな体験がしたい。その愛梨の主張に沿い、SMクラブ等でのシチュエーションプレイではなく、本物の電車での痴漢計画が練られた。あるターミナル駅から電車に乗り、直通運転でローカル線へ。そのまま2時間半電車に揺られ、終点の温泉旅館が目的地という旅だ。
愛梨はメンバー一同からの熱い要望を受け、普段以上に扇情的な、少し屈めば下着が覗くマイクロミニのスカートで電車に乗り込んだ。ちょうど通勤ラッシュの時間帯であり、すし詰めのサラリーマンから痛いほどの視線を浴びながら。
この電車は都心近辺こそ混み合うが、オフィス街を過ぎれば乗客は途端に減る。昼間ならば老人や家族連れも疎らにいるが、朝の早い時間帯は貸し切り状態だ。
とはいえ、それは普段の話。今日の車両は15人の研究会メンバーに占拠されている。3人が窓際の愛梨を囲み、残り12人が壁役・見張り役という布陣だ。
「!」
人の圧を感じつつ外の景色を見ていた愛梨は、ぞわりとする感触に目を見開いた。早速プレイ開始だ。まずは尻。手のひらで撫でまわされている。
(来るって分かっててもビックリするわね……)
愛梨は動揺しつつも窓から視線を外さない。窓ガラスの中では、3つの顔が歪んだ笑みで愛梨の顔を覗き込んでいた。
尻に続き、太腿、そして胸にも手が伸びる。痴漢役の手つきはリアルだ。鷲掴みではなく、撫でまわす動き。あるいは羽毛を這わせるようなソフトタッチ。そういうゾクゾクとくる感触で責めてくる。
「……アンタ達、本当の痴漢やってないでしょうね? 触り方が本物としか思えないわよ?」
背後を睨みつつ囁く愛梨。しかしその言葉には誰も答えず、薄笑いを湛えたまま指を這わせ続ける。ソフトに、しかし執拗に。
(何なの、これ……。いっそ乱暴に揉まれた方がマシだわ!)
ぞわりとした感触が肌を這いまわる。いつも堂々としている愛梨とは対極的なおぞましさだ。それだけに効き目は強く、愛梨は意思に反して腰をクイクイと動かしてしまう。吊り革と鞄の取っ手を握りしめて耐えようとしても、不随意の動きが止まらない。
「ふんん……っ!」
薄い布越しにクリトリスを擦られ、愛梨は声を漏らす。濡れた股布が割れ目に食い込む。
「静かにしないと、誰かに気づかれちゃうよ?」
意地の悪い囁きと共に、指は蠢き続けた。焦らすように。誘うように。
「うっ!!」
腰がぶるりと震えた次の瞬間、内股をとろりと愛液が伝う。その雫は内腿を撫でる男の指で止まった。
「あれれ? なんだ、もう濡れてるの? 愛梨たん」
「……ッ!」
右からの嬉しそうな声に、愛梨は眉を吊り上げる。しかし否定はできない。決定的な証拠に触れられた以上、下手に誤魔化しても恥の上塗りだ。
「痴漢モノのエロアニメで予習したんだけど、この触り方ホントに感じるみたいだね。脚本がガチな人だったのかな、あれ。もっと気持ちよくさせてあげたいけど、残念。交代の時間だ」
その言葉の後、愛梨の周りの3人がすっと離れ、入れ替わりに別の3人が手を伸ばす。先の3人と同じように、いやらしく。
入れ替わり立ち代わり、それぞれ違う手によって繰り返されるソフトタッチ。それは愛梨を着実に昂らせていく。腰と太腿はヒクヒクと動き続け、ショーツのクロッチがひくつく割れ目と密着する。
(頭がおかしくなりそう……!)
それまで窓ガラスを睨み続けていた愛梨が、ついに俯く。その理由は誰の目にも明らかだ。膝が笑い、愛液が床に滴り、ほのかに女の匂いを漂わせている。本気で感じているのだ。
「そろそろ次に行くか」
そう言って愛梨を囲んだのは、最初の3人だった。順繰りに替わっていった結果、ついに痴漢役が一巡したのだ。
二巡目は、とうとう下着の中に手を差し込まれた。ショーツに手を滑り込ませ、ぐちゅぐちゅと音を立てながら膣内を弄る。あるいはブラジャーを押し上げ、露出した生の乳房を揉みしだく。
「んは、あっ……!!」
愛梨の口から吐息が漏れる。その吐息は刻一刻と荒くなっていく。この行為もやはり入れ替わり立ち代わり繰り返され、次第に過激さを増していった。特に4組目からは指の狙う場所が大きく変わった。入念な膣と乳房への愛撫で隆起した乳首と陰核……そこをピンポイントで狙いはじめたのだ。
「んああああ!!」
あまりの刺激に愛梨は叫び、慌てた壁役の一人に口を押さえられた。そこから愛梨は男の手に口を覆われたまま、汗だくの全身を細かに痙攣させはじめる。
「……ッ!!…………ッ!!!」
時おり、封じられた口から声にならない声が漏れ、愛梨の顎が上を向く。誰の目にも明らかな絶頂だ。
その状態を数十分続けたところで、ついに3巡目が訪れる。数度の絶頂を経てどろどろに蕩け、離された指との間に糸すら引く愛梨の肉体。それを前にして、もはや取るべき行為はひとつしかない。
誰ともなく壁を狭め、愛梨の身体をドアのガラスに押し付ける。その状態で腰を引かせれば、完全な挿入体位が出来上がった。
「い、挿れるよ……!」
上ずった声で一人目の男が告げる。愛梨は涙の滲む目でその男を見上げ……目を閉じた。その無言の了承を以って、男はついに挿入を果たす。
「…………ああッ!!!」
愛梨は声を殺せなかった。煮立つような熱さの膣に挿入される快感は、潤とのセックスすらも上書きするほどに心地いい。膣の中が勝手に収縮し、うねるのが分かる。
「うあっ、ヤベエ……なんだこれ!? すっげぇ締めつけてくるし、火傷しそうなぐらい熱い! オナホの百倍気持ちいいわ!」
挿入した男もまた顔を歪め、小声ながら切実に快感を訴える。
ちょうどこの辺りから電車の揺れが激しくなった。しかしセックスの味を知った男には歯止めが利かず、揺れを利用して腰を打ち付ける。人垣で作られた空間にパンパンと音が鳴る。
「んっ、ああ……あ、ぁっ!!」
愛梨は呻きながらドアのガラスに寄りかかった。右手と露出した乳房がガラスに押し付けられる形だ。
窓の外には田舎特有の田園風景が広がっている。幸い人影は見当たらないが、もしも電車の走る土手の下に誰かがいれば、痴態を隠す術はない。その事実に気付いた瞬間、快感が愛梨の全身を貫いた。膣の痺れる快感が何百倍にも増幅され、脊髄と脳を走り抜ける。
「ああ、だめ……いくっ、イクうううっ!!」
愛梨は仰け反りながら絶頂に至った。ブルルッ、ブルルッ、と幾度も痙攣するその白い肢は、性経験に乏しい男達にさえ絶頂の深さを直感させた。
「くううう、締まるっ! お、俺ももう出るっ……!!」
挿入している男も膣の収縮に耐えきれず、歯を食いしばりながら射精に入る。睾丸がせり上がるほどの射精だ。
「はーっ、はーっ、はーっ……!!」
ずるりとゴム付きの逸物が抜き出され、汗にまみれた男女の肉体が弛緩する。しかしまだ終わりではない。一人目がふらつきながら場所を開けたその後ろでは、ゴムを装着した2人目が準備を万端に整えているのだから。
結局、電車が終点の駅につくまでの2時間あまり、愛梨は快感を味わい続けた。挿入が始まってからは約40分、5人の相手をし、その全てで絶頂へ追い込まれた。
しかし、それで終わるはずがない。残る10人は挿入すら果たしていないし、精力旺盛な大学生が一度の射精で満足するはずもない。そして何より、愛梨自身も満足しきってはいない。
「な、なにいきなり脱いでんのよ!? 中居さんが挨拶しにくるかもしれないのに……!」
旅館の部屋でいきなり下半身を露出した男達に、愛梨は非難の声を上げる。しかしその眼は、逞しくいきり勃った逸物だけを凝視していた。
「せっかくの旅行なんだ、自由に楽しもうよ愛梨ちゃん!」
次の挿入順の男が畳の上に寝そべれば、愛梨はゴクリと喉を慣らしてそれを見下ろす。
「もし誰か来たら、アンタ達でなんとかしなさいよ!」
愛梨は怒り顔のままショーツを下ろした。長い糸が引く様をたっぷりと視姦されながら、右足首から抜き取ったショーツを畳に落とし、寝そべった男に跨る。マイクロミニのスカートとその中身を特等席で見上げる男は、眼福とばかりに笑った。
「へへへへへ。人生わかんないもんだなあ。小学校の頃からずーっとバイキン扱いのこのオレが、こんな美少女に童貞奪ってもらえるなんてさあ!」
「……ほんと、意味わかんない。なんであたしが、アンタみたいなのと……!」
挿入位置を定めて腰を下ろす間、愛梨の身体は小刻みに震えつづけていた。
「はあああ……っ!!!」
挿入を果たした直後、愛梨からハッキリとした声が漏れる。快感で腰が抜けたらしく、肉付きのいい尻が男の肥満腹の上で潰れる。
「ううおおおお、ヤバいキツさ! トロットロの熱い襞が、吸い付いてくるっていうか、纏わりついてくるっていうか……マジでこれ、オナホと全然違うな!?」
男も驚きと喜びの入り混じった叫びを上げていた。
「い、いちいちオナホールなんかと比べないで。失礼よ!」
愛梨は歯を食いしばり、ゆっくりと腰を遣いはじめる。膣内を締めたまま、尻を上下に動かして相手の腰に打ち付ける。パンッ、パンッ、という音が和室に響く。
「あああああっ、ヤバイヤバイヤバイこれっ!!」
受ける男は悲鳴を上げた。あまりの快感に腰が引けるが、畳が邪魔をして退がれない状態だ。
「すっげぇ杭打ちピストン……!」
「最強の肉食系女子とか言われてたけど、マジっぽいな」
「や、肉食系っつっても相手は選ぶだろ。俺が女でも、キンちゃん相手はなぁ……」
自制心のなさが伺える体型。脂ぎった髪。黄色い歯。汚い肌。きつい体臭。濃い体毛。女の嫌う要素を詰め込んだような醜悪な男。同年代の中でも底辺に位置するだろうオスを、完璧なスタイルの美少女が逆レイプも同然に犯している。その異様すぎる光景に、メンバーは言葉を失っていた。
罰ゲームで嫌々やらされている、というのが最も現実的なケースだ。しかしそうして脳内の整合性を取ろうとしても、愛梨の反応がそれを否定する。
「んっ、んっあ……ああっ、ああぁぁっ……!!」
汗を散らしながら腰を振る愛梨の表情は、明らかに快感に浸っていた。眼はとろけ、唇は半開きだ。嫌悪感が先立つならば当然あるはずの緊張がそこにはない。
「う、そ、そろそろイクよ……!! 愛梨ちゃんも一緒にイッてくれる!?」
下の男が呻くようにそう告げると、愛梨はさすがに嫌そうな顔をした。しかし歯止めの利かなくなった男が愛梨の手首を掴み、腰を突き上げるような動きを始めれば、瞬く間に睨む余裕すらなくなってしまう。
「あああ、ああ、あああ……イク、イクよ愛梨ちゃん!!」
「はぁっ、はぁっ……ああイッ、ぃ……ックううっ!!」
男が叫ぶと同時に、愛梨も歯を甘く噛み締めたまま天を仰ぐ。薄目を開けたままビクビクと痙攣する様は、わかりやすい絶頂の反応だ。
罰ゲーム同然の状況で絶頂する美少女。それを前にしては、他の男達も正気を保てない。
「よーし、次は俺!!」
「オッケー! 買ってきたゴム無くなるまで、どんどん行こう!」
※
「……ところでヨースケ氏。貴殿は澄矢高校の出身だったと記憶しているが、眞喜志 愛梨という女性を覚えておいでか?」
スマホを片手にそう語るのは、アニメ研究会のメンバーの一人だ。出っ歯で痩せぎす。他メンバー同様に冴えない見た目で、女性に縁があるタイプではない。それは通話相手もまた同様で、ゲーマー仲間でも1、2を争うブサイクぶりだと自嘲しあう仲だ。
『眞喜志? あ……ああ、覚えてるよ。澄高から歴代初めて東州大行った天才だし、もともと変人で有名だったしな』
「ほう、天才で、有名人。それだけですかな?」
『な、何が言いたいんだ……?』
「いえ。あの娘は地域一の美少女と評判だったと小耳に挟みまして、ヨースケ氏も実はお好きだったのではないかと」
その言葉に、ヨースケと呼ばれた男は喉を鳴らした。まさにその通り。彼もまた日々愛梨の姿を盗み見、その身体を好きにすることを夢想して自慰に耽っていた。それどころかつい昨夜も、高校の卒業アルバムに載っている愛梨の写真に妄想をぶつけたばかりだ。
『ま……まあ、黙ってれば顔はいいからな。それにあのスタイルだし、俺も人並みには興味が……』
「ははは、やはり! いやー、ヨースケ氏にその気があって良かったでござる。ではそんなヨースケ氏に、良い物をお贈りしますぞ!」
悪友のその言葉に、ヨースケの胸が高鳴った。あの男は愛梨と同じ東州大に行ったはずだ。ということは、大学内で見かけた愛梨の隠し撮り写真でもくれるのではないか──そう期待したからだ。
そこからの数秒は長く感じられた。スマートフォンから通知音が鳴り、画像が送られてくる。そしてその画像は、ヨースケの期待を遥かに上回るものだった。
『えっ……!!?』
絶句する。しないわけがない。
画像に映っているのは、生まれたままの姿の少女だ。這う格好のまま後ろから突かれ、目を閉じたまま大口を開けている瞬間の一枚。
『う、そ、だろ……!?』
ヨースケは机の引き出しを開け、卒業アルバムを引っ張り出す。まさに昨日自慰の友としたアルバムだ。震える手でページをめくり、クラスの集合写真を開こうとして……途中で固まる。目的のものは途中で見つかった。クラス対抗の合唱祭。その中で3年C組のボスを気取り、最前列中央で目を閉じたまま大口を開く少女がいる。その姿はまさに、先ほどの画像と瓜二つだ。
ヨースケは画像に目を戻す。
丸裸の愛梨は全身に汗を掻き、股の間はオイルでも塗りたくったように艶めいていた。大きく開いた口の間には白い糸が引き、よく見れば口の横に縮れた毛が貼りついている。
背景は和室だ。横一列に布団が敷かれ、その布団を踏みつけるようにして毛深い足がいくつも映り込んでいる。さらには敷布団や畳など一面に、口の結ばれたコンドームが散らばってもいた。
輪姦か、乱交か。いずれにせよ、あの愛梨が複数の男とセックスをしている事は間違いない。
「よく映ってるでござろう? 愛梨たんが絶頂した瞬間の激写でござるよ。そもそもの顔の造りがいいから、アクメ顔も色っぽくて最高ですなぁ。ただ、声が大きいのは参ったでござる。部屋の外に聴こえるぐらいの声で」
『ま、マジか……っ!!』
ヨースケは言葉が見つからない。密かに片想いしていた相手の痴態を見たこと。そしてその現場に、知り合いが立ち会ったらしいこと。そのどちらも情報量が大きすぎ、頭の処理が追い付かない。
「ヨースケ氏を驚かそうと思って秘密にしていたのでござる。実は拙者は今、例の眞喜志 愛梨と温泉旅行に来ておりましてな。ま、2人きりではなくアニ研一同でですが。ご存じとは思いますが、愛梨嬢は好奇心が旺盛でして。2泊3日のこの旅行で、女1人男15人の16Pを堪能しているのでござるよ。驚かしたお詫びに、これからハメ撮りの生中継をお送りしますぞ!」
男はそう言ってスマートフォンを横に構え、開いた障子の前に立つ。
そこには、やはり一糸纏わぬ愛梨の姿があった。そしてその横には、同じく裸の男が座っている。小太りで頬骨が出ており、目は細く、団子鼻で髪は薄い。間違っても美形とはいえない男だ。しかしその男は、文句なく整った顔立ちの愛梨と深い口づけを交わしていた。それだけではない。竹製の長椅子に横並びで腰かけたまま、互いの秘部を刺激し合ってもいる。
「んっ、ちゅっ……じゅるっ……んふっ…………はーっ、はーっ……アンタ、ほんと口臭すぎ……んっ、ちゅ、ちゅうっ…………」
口が離れた瞬間、愛梨は顔を顰めて苦言を呈する。しかしその間も相手の怒張を扱く手は止まらず、再び口づけを求められても拒まない。
「あれはフクさん。我ら以上に女性と付き合える可能性が低い御仁です。あの無骨な見た目に加え、エナドリの過剰摂取で全身が香ばしいですからな。しかしなぜか愛梨嬢は、そのフクさんに唇を奪われている時が一番感じるようで。ならばと今朝はあえて2人きりにし、愛撫のみを入念に繰り返しておるのです。いわゆるスロー・セックスですな」
男の言葉通り、愛梨は興奮状態にあるようだった。本来は雪の如く白い肌に、ところどころ赤みが差している。弄られる秘裂からは洪水のように愛液が垂れ、指が中でぐちゅりと音を立てれば、むちりとした太腿が内に閉じる。堪らないとでも言いたげに。
『ま、眞喜志……!!』
ヨースケの声がする。ひどく不安定な声だ。彼は気持ちに整理がついていない。目の前の光景を見たいのか見たくないのかさえ分からないほどに。
「あーヤベ、そろそろ我慢の限界。もういいだろ、ハメよ」
フクという男が愛梨に語り掛ける。愛梨の指に包まれた彼の分身は、刺激がなくとも上下に蠢き、開いた鈴口から先走りの汁を吐きつづけていた。
「……いいわよ」
限界なのは愛梨も同じらしい。素直に椅子から立ち上がると、汗を滴らせながら傍らの棚に手をついた。そんな愛梨の後ろではフクが悪戦苦闘している。ゴムを着けるだけで暴発しかねない状態のようだ。
「いくぞ」
短く確認が取られ、フクの腰が突き出される。ぐじゅりと水音が立つ。
「──あああああッ!!」
愛梨の声は大きかった。奔放な彼女らしい、眞喜志 愛梨が挿入を受けた時の声として説得力のある声量。しかし彼女がセックスパートナーとして受け入れた相手は、過去の彼女からは想像もつかない。並以下の男には見向きもせず、最も女子人気の高い男すら一蹴していたのが彼女なのに。
「あっ! あっ! あっ! あっ! あっ!」
愛梨はフクのピストンで感じているようだった。良くも悪くもその顔には嘘がない。閉じた眼も、開いた口も、そこから吐き出される吐息も、すべてが快感を訴えている。
フクは濁った瞳でそんな愛梨を見下ろしていたが、やがて乳房を抱えるようにして上体を抱き寄せる。そして薄く目を開いた愛梨の口を再び奪った。
「んむっ! んっ、んっ!!」
愛梨は不自由な呻きを漏らした。そして、変わった。パンパンと腰を打ちつけられると、愛梨の腰そのものも震え上がる。蜜に塗れた脚は内股に折れ、ガクガクと膝を揺らす。唇を奪われた途端、快感が深まったのは明らかだ。
「んっ、んむっ、あむっ、れぁあうっ……」
フクと愛梨の舌が複雑に絡み合う。息が荒くなる。その果てに、2人は文字通り息を合わせて絶頂に至った。奥の奥まで突き込み・迎え入れた状態のまま、全身をぶるぶると震わせて。
「ふーっ、キスハメ最高だな。普通にハメるより脳みそが喜んでる感じだ。ま、このルックスの女だからだろうけどな」
フクは満足げに口を拭いながら告げる。その言葉は愛梨には当てはまらない。ランクの低いオスとのセックスで感じてしまった愛梨には。しかし今の彼女には、自己嫌悪に陥る暇さえなかった。相手はフクだけではない。鼻息の荒い他のオスも列を為している。
「ほら、こっちもしゃぶってよ愛梨たん!」
「手の方も休まないでね~」
「その次、俺の咥えてよっ!」
愛梨を取り囲む男達が口々に注文をつける。その中心で愛梨は、今にも吐きそうな顔をしていた。
「ぶはあっ! はあっ、はあっ……ああああ、臭いいっ……!!」
カウパー液と恥垢に塗れた逸物を、鼻先に3本突きつけられている。その匂いは運動部のロッカーよりひどい。しかし愛梨は、悪臭の源を退けはしなかった。悪臭が鼻孔を満たし、吐き気すら催すような状況で、なぜか発情している。それがあまりにも不可解で、意地でも原因を究明しようとしているのだ。
知的好奇心の強い愛梨らしい行動だと言える。しかしその行動原理がどうであれ、醜悪な男達の物を進んでしゃぶり、口内や顔に射精されている惨めさは変わりない。
「あの通り、愛梨嬢は我らとのセックスにすっかりハマっているのでござるよ。ああしてしゃぶっている間も、下の口は蜜を吐きまくりでござろうなぁ。その状態から挿入となれば、それはもう体液という体液が……と、話しているうちに辛抱堪らなくなってきました。拙者もあの輪に加わらせていただきましょう。ではヨースケ氏、今日はこれで。また後で動画を送りますぞ!」
スマートフォンで撮影を続けていた男が、そう言って通話を切る。最後の最後、電話向こうにヨースケの息切れを聴きながら。
※
学生時代の愛梨はオタク系の生徒に恐れられており、接点を持ちえなかった。しかし一度絡んでみれば、好奇心旺盛な者同士相性は悪くない。2泊3日の温泉旅行の後も、愛梨は頻繁に部室に顔を出した。時にはアニメ談義を花を咲かせ、時にはプロレスの話で盛り上がる。
ある日には、その流れで“プロレスごっこ”に興じることもあった。メンバーの一人が下心からプロレス勝負を持ちかけたところ、愛梨が興味を示した形だ。
「どうしたの!? 返してみなさい!」
「ほらほら、根性見せなさいよ!」
愛梨は男女の距離感に無頓着だ。男子とのプロレス勝負に熱中するあまり、フロントネックロックで乳房を押し付けても、卍固めで太腿を相手の顔に密着させても、一向に気にする様子がない。
一方、技を受ける男達は揃って鼻の下を伸ばしていた。道を歩けば誰もが振り返るほどの美少女が、自ら密着してくるのだ。女に縁のない男にとって至福以外の何物でもない。
プロレス勝負はギャラリーにとっても眼福だった。特にタンクトップの下で揺れ弾む胸は、全員の視線を釘付けにして離さない。
「愛梨ちゃんって胸おっきいよねー。何カップなの?」
一人が問うと、愛梨は呆気にとられたような顔をする。
「知らない。調べたことないから」
「え。調べたことないって……気にならないの?」
「ならないわ。カップ数が気になるのなんて、胸に自信がない子だけでしょ。こんなに大きいんだから、EカップでもFカップでも、どっちでもいいじゃない」
「な、なるほど……!」
堂々と言いきる愛梨に、一同は感服する。その自信に満ちた姿はもはや神々しいほどだ。そんな愛梨への興味と憧れが、日陰者達の歪んだ欲求を膨らませる。
「ふーっ、楽しかった!」
思うさまプロレスの名場面を再現した愛梨は、タンクトップの胸元を扇ぎながら笑みをこぼす。無防備なその姿は、男達のタガを外すのに十分な効果があった。
「あ、愛梨ちゃん。その、今日もシない?」
股間を膨らませた男達。そんな彼らの要求は愛梨にも理解できた。すでに肉体関係のある相手ばかり、セックスもさして抵抗はない。
「別にいいわよ。でも汗掻いちゃったから、シャワー浴びてから……」
愛梨は軽い調子で答えた。普段であれば当然のように通る条件だ。しかし、この日は違った。
「や。今日は、そのままでしたいんだ!」
男達は予想外の言葉を口にする。下卑たその視線は、汗まみれで湯気も立つような愛梨の肌に注がれている。愛梨はその視線にぞくりとした。
「は、はぁっ? 本気で言ってんの!? 気持ち悪い!!」
思わず大声で怒鳴りつける。男達はたじろぎながら背筋を伸ばす。普段であればそこで男達が折れ、愛梨へのご機嫌取りが始まるところだ。だが、この日ばかりは男達も譲らない。
「そう言わないでさぁ! お願い、愛梨ちゃん!」
「俺からもお願い! 汗だくセックスさせて!」
真剣な眼で愛梨を囲み、何度も哀願する男達。その必死さがますます愛梨の嫌悪感を煽る。
(何なのこいつら、ほんと気持ち悪い! これだけ汗だくなのよ? こんな状態でしたいだなんて、どういう神経してんの!?)
信じがたい。受け入れがたい。普段は意識もしない女としての本能がNOを訴えている。
しかし、愛梨はふと思った。これだけ嫌悪感の強い行為を、もし受け入れればどうなるのか、と。痴漢行為では大いに昂った。あれも車内でのぞわりとした感覚の結果だ。
一度その疑念を抱いてしまえば、止まらない。それを確かめずにいられる愛梨ではない。
「…………あーもう、わかったわよ! よく考えたら、アンタ達とのセックスなんて元々気持ち悪いしね」
愛梨は恥辱を受け入れた。自分の性分にほとほと呆れ、大きく溜め息をつきながら。
愛梨は雑に服を脱ぎ捨て、ソファにどかりと腰を下ろす。
「さ、好きにしたら? アンタ達が何をしたいのか分からないから、やり方は任せるわ」
挑発的に言い放ち、横を向く。怯えを悟らせないためだ。全身を球の汗が伝う状態でのセックスは、さすがの愛梨も涼しい顔ではいられない。
「すげぇ、全身汗でビショビショだ……」
「ああ。どこも臭くて美味そうだぜ!」
「おーし、じゃ順番にクジ引けー!」
「えっと……お! 俺、右のチチだ!」
「へへ。オレは左乳!」
「俺はフトモモか。ひひひ、当たり引いたぜ!!」
男達は鼻息荒く愛梨に群がった。首筋、乳房、腋の下、太腿、足の指……クジで決めた担当部位を熱心に舐めはじめる。
「……ッ、…………~ッ!!」
愛梨は唇を噛んで耐えた。叫びたいところだが、相手の顔が近い状態で悲鳴を上げるのは、負けたようで悔しい。
「へへへ、腋しょっぺぇ!」
「ああ。しかもすごい匂いだ!」
「なー。臭いってのとも違って……フェロモン臭? 嗅いでたらすげームラムラする」
男達は舌を這わせつつ興奮を口にする。それを聞かされる愛梨は顔を歪めた。
(気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い────!!)
過去経験がないほどのおぞましさ。全身をナメクジに這い廻られているようだ。しかも臭い。身が強張る。鳥肌が立つ。女としての本能が発狂寸前の悲鳴を上げている。
しかし。それとはまた別に、愛梨は昂ぶりはじめていた。
最も顕著なのは乳頭だ。そこを責める舌遣いは拙い。欲望のままにベロベロと舐め回しているだけだ。にもかかわらず、乳輪が盛り上がり、乳首が硬さを増していく。
腋舐めも無視できない。左腋を晒す形で責められているが、じっとりと汗の滲むそこを舐め上げられると、もれなく反応してしまう。腕に力が入り、腋が窪む。天を仰いで叫びたいほどに。
首筋も、足指も、太腿も、動かず受け続けるのは厳しい。しかも感度は次第に上がっていく。ざらついた舌で唾液を塗りこめられるたび、薄皮を一枚ずつ剥がされていくようだ。
(なにこれ……? どうなってるの、あたしの身体!? こんなキモオタに好き放題舐られてるのに、嫌で堪らないのに、おかしいぐらい感じてる……!!)
愛梨は混乱する。心底嫌なのに感じるのは道理に合わない。肉体に裏切られている気分だ。
そんな愛梨に、また一人の影が落ちる。
「だいぶ気分出てきたでしょ。そろそろオマンコも舐めさせてもらうね」
一人はそう告げると、太腿を舐める2人の間に割って入り、割れ目に口をつけた。うっすらと花開いた割れ目が舌でこじ開けられる。
「っっっ!!!」
かろうじて声は殺せた。しかし愛梨の表情は凍りつく。麻友に仕込んで以来、もう幾度となく経験しているクンニリングス。しかし、この感覚は未知だった。ナメクジに膣の中へ潜り込まれる感覚は。
他のメンバー同様、割れ目を舐める男も熱心だ。舌全体を使って割れ目を延々と舐め上げたかと思えば、頬まで密着させて深く舌を送り込む。そこからは舌先で膣襞を舐め回し、ひたすら舐め回し……。
「……ッ!!」
2分後、愛梨には一度目の限界が訪れた。膣への舐りに対して無反応を通せず、膝を暴れさせたのだ。その動きは全身に影響し、舐り役の全員に悟られた。
「ヒヒヒ、なに今の? もしかして感じちゃった? 俺ってクンニ上手い!?」
割れ目から覗く男の顔は、まさに鬼の首でも取ったようだ。
「……まさか。まるっきり下手糞よ」
「またまたー。ピンク色の脚がピクピクしてるんだけど」
「嘘じゃないわ。あたしのレズ友達のクンニを100点としたら、アンタのなんて30点がいいところよ!」
「ふーん。なのに感じるんだ?」
「下手なのに感じるわけないでしょ、気持ち悪いだけ! いいからさっさと終わらせてよ!!」
愛梨は憮然とした表情で目を閉じる。
嘘はない。麻友のテクニックに比べれば児戯に等しい。それで感じてしまうというのは道理に合わない。しかし、誤魔化すのにも限界があった。
「んっ、んんっ……ん、あっ……!!」
耐えようとしても身体が動く。声が漏れる。明らかに感じているその反応を、周り中に見られてしまう。
(見ないでよ────!)
注目を浴びるのが好きなはずだった。しかし今は視線がつらい。視線と興味が愛梨を狂わせる。
そこから愛梨は、徹底的に舐られた。
舐め役に協調性はない。各々が担当箇所を、異様な執念でもって舐り回しているだけだ。しかしながら、その責めにはシナプスが生まれていた。
例えば、腋と乳頭。左右から両腋を舐り回されれば、その快感は乳腺に沿う形で乳頭にまで響く。その状態で乳頭を噛まれでもすれば、ビリビリと強い痺れが起きる。逆に乳輪周りを舐られている間は横が無防備になるため、腋を舐られればむず痒さでのたうち回りたくなってしまう。
膣と足指のシナプスも凶悪だ。割れ目を舐められている内はまだいい。だが舌を送り込まれる段階になれば耐えきれず、足指が動いてしまう。そうしなければ快感を逃がせないからだ。しかし足指担当がいる以上、その動きは許されない。暴れる足を手で掴まれ、口に含んで舐めしゃぶられる。これが堪らなかった。逃げ場を失った快感は大元へと還り、膣襞を悩ましくうねらせる。そんな場所を舐め回されれば、いよいよ足指が開き……そこからは無限ループだ。
「ぷふっ。すげぇ、乳首ピンピンになってきた」
「腋も敏感になってるよー。見てこの窪みっぷり。鼻が丸ごと入りそう」
「足の指も暴れまくりだぜ。エビの踊り食いしてるみてぇ!」
「ほんとだ、必死に逃げてんじゃん。どっかがよっぽどキツいんだろうなー」
「な。どこなんだろ?」
「普通に考えてマンコでしょ。だってホラ……」
そんなやりとりの後、男達の視線が一ヶ所に集まる。愛梨の股に顔を埋めたまま、一心不乱に貪っている仲間の方だ。
愛梨もそこに意識を向けた。ぴちゃぴちゃと音がしている。舐められるたびに秘裂がわななき、蜜を吐くせいだ。変にざらついた舌でヤスリ掛けのように舐め続けられ、すっかり神経が過敏になってしまった。顔を密着させたまま乱暴に舐め上げるせいで、団子鼻が頻繁にクリトリスを弾くが、これもまた理外の快感だ。
秘裂のわななきが限界に達すれば、舌は中に入ってくる。生温かいナメクジが膣の中を這い回り、直に蜜を染み出させる。そうして溢れるほどになったところで、吸い上げるのだ。じゅるるるっ、ずぞぞぞっ、と凄まじい音を立てて。
「あ、あ、あ、あ……はっ! うあ、ああああぁっ……!!」
舌で舐められるたび、吸われるたび、声を漏らしてしまう。同時に乳首や腋、足指を責められているのも厄介だ。意識を散らされてますます耐えづらくなる。全身がガクガクと痙攣する。
「ふーっ、限界。そろそろ挿れるよ」
ひたすらに秘部を舐めていた男が、口を離した。濡れ光る口元を緩めたまま、慌ただしい手つきでゴムを着け、愛梨の太腿を掴む。
「待って……!」
愛梨は相手の腹を押した。いま挿入されてはまずいという直感からだ。しかし興奮したオスは止まらない。愛梨の制止など意に介さず、深々と腰を突き入れる。
「んゅぅっ!?」
妙な声が漏れた。同じく、挿入の感触も妙だ。摩擦感がない。水袋越しに異物を突っ込まれているようだ。あまりにも愛液の量が多いせいか。とはいえ、それも最初だけの話。挿入されてから数秒も立てば、愛梨の膣は男性器を迎える形に収縮する。愛液を肛門の方に押し出しながら、粘膜が触れ合うまで収縮していく。
「あはっ、締まってきた締まってきた! 中グチョグチョだし、ソファもびしょびしょだし、興奮してんだねー愛梨ちゃん! そういうの分かると、コッチも興奮しちゃうよねえ!!」
男は興奮して叫び、激しく腰を打ち付ける。ソファが軋み、パンパンと肉のぶつかる音がする。
「はぁっ、あっ、あっ、ああ……!!」
身体の自由を奪われたまま、理想とは程遠い男と交わらされる。状況的にはレイプに近い。にもかかわらず愛梨は、全身で快感を示してしまう。
「すげー、ガチで感じてる……」
「ヤバイよな、このルックスの娘が豚系キモオタに犯されるとか。犯罪臭半端ねえ」
外野からの客観評も、愛梨のざわつきを後押しする。他人の視線を気にする性質が、ここへ来て悪影響を与えている。
「ハァッ、ハァッ、ハァッ、ハァッ、ハァッ……!!」
ついに喘ぐ余裕すらなくなった。愛梨は目を見開き、早い呼吸を繰り返す。マラソンでさえ息の上がらない恵体が限界を迎えている。
そんな愛梨の顔を覗き込み、男達は生唾を呑み込んだ。うち一人が愛梨の顔を掴み、唇を奪ったのは、無意識に近い行動だろう。
「うむぅっ!?」
愛梨は目をさらに見開いて非難を示す。しかし自由は利かない。最悪なタイミングで気道を塞がれても、それを跳ねのける術がない。
「おほっ! もともと締まりいいけど、キスしてるともっと締まるねえ! キスハメで感じてんの? なんだかんだ言って、俺らの事彼氏だと思ってくれてんのかなあ。ま、こんだけヤッてんだもんねえ、もう彼氏みたいなもんだよねえ、愛梨ちゃあん!!」
挿入している男は愉快そうに叫ぶ。余裕のない中、しかし愛梨の耳はその言葉をしっかりと拾ってしまう。冗談ではないと叫びたいが、口は封じられている。少しでも舌を動かせば、その舌を相手の舌に絡めとられてしまう。生臭い唾液を口内に注がれながら。
(ああ臭い、気持ち悪い……!! 頭がくらくらする……最悪な気分だから? そうよね、そうに決まってる……)
思わず白目を剥きそうな状態で、愛梨は思考する。
最悪な状況だ。このような状況を受け入れるつもりはない。こんなものを肯定するのは女として下の下だ。優れた自分が間違ってもしていい行為ではない。頭ではそう思うが、口内を貪られると膣が締まる。愛液が溢れる。
「あああ凄い、締まる、うねるっ!! イキそうなんだね愛梨ちゃん? いいよ、俺ももう限界だから! 一緒にイこ、一緒にイこっ!!!」
挿入役は歓喜し、ラストスパートに入った。抱え込んだ愛梨の足を押し込み、腹を乗せるようにして深く突き込む。パンパンという肉のぶつかる軽快な音が、どちゅっ、どちゅっ、という重みのある音に変わる。肥満肉に埋もれた男のペニスはけして大きくない。太さはそれなりだが、長さはない。それでもその先端は、泣き喚くような愛梨の膣奥をピストンの度に叩き潰す。愛梨とて人間だ。その状況に長く耐えられるはずはない。
「んうむうあああああああーーーーーッ!!!」
最後の瞬間。愛梨は頭を振って口づけを振り切り、肺からの嬌声を響かせた。
声を限りに叫び、叫び…………愛梨は弛緩する。意識があるのかは本人にさえ分からない。少なくとも目の焦点は合っていない。雫を滴らせながらコンドームが抜き出されれば、すらりと長い脚が内に閉じる。その異様なまでの痙攣ぶりが、愛梨の絶頂の深さを物語っていた。
「相変わらずイキ声でけーな……今ので誰か来るかもしれんから、一応ドアの鍵チェックして」
「いつもデカいけど、今のは最高記録じゃない? 鼓膜バリバリってした」
「舐められて興奮したんかな。割と早い段階で乳首ピンピンだったし」
「それもあるだろうけど、トドメはキスじゃない?」
笑みを浮かべながらざわつく男達。その緩んだ顔とは裏腹に、彼らのオスの象徴は固くズボンを押し上げている。
(こんな状態で、アレを全部相手させられるの? 今日、歩いて帰れるかしら……)
愛梨は近い未来に寒気を覚えた。だが、それとは別にゾクゾクとする感覚もある。絶叫マシンでベルトを締める瞬間の、スリルへの期待──それが愛梨を包んでいた。
※
認めたくはない。しかし愛梨は、好みとかけ離れた人間との口づけで特に興奮するようだった。
「んんッ、むっ! ふぅんッ……ん、むっ……!!」
不精髭の部員と舌を絡めながら、性器を指で弄られる。愛梨はこれに3分と耐えられない。身を捩りながら涎を垂らし、ついには涙さえ流してしまう。屈辱の涙か、あるいは喜悦の涙か。
(脳がとろけそう……。なんで、こんな奴とのキスで……!!)
恋愛感情がないことはハッキリしている。今キスしている相手と、手を繋いでデートをしたいとは微塵も思わない。
「ホント、どうなってんだろうなー。普通に手マンしても全然濡れないのに、キスと絡めたとたん洪水とか」
「な。こないだの、論文やってる最中の電マで涼しい顔してたのはビビったわ」
「あーアレ。結局2時間ぐらい耐えきったんだっけ?」
「多分シチュだろうな。この子の好きシチュにハマらない限り、スンッ……って感じで無反応なんだと思うわ」
部員達は愛梨を眺めながら分析する。そしてその分析は正しい。温泉旅行の次に企画された、とあるコスプレイベントでの体験は、愛梨にとって忘れられないものとなった。
ディアンドルというドイツの伝統衣装を模したアニメコスチュームで着飾り、会場の客にビールを振舞う。ネタ元が人気の高い作品である上、コスプレイヤー自身もアイドル級の美少女だ。当然、客は大いに沸いた。
「うおおおっ、可愛いーーっ!!」
「すっげぇスタイル! 再現度完璧じゃん!!」
「やべえよ、お前見ろって! マジでエースブライトちゃんの三次元化!」
「え、プロの女優さん、とかじゃないっすよね……?」
異様なことに、愛梨が注目されはじめてから数分間、誰もカメラを向けない時間があった。洗練されすぎた美貌のために素人とは思えず、不用意に撮るとマネージャーやSPが飛んでくるのでは、と誰もが思ったからだ。
その心配がないと分かってからは、愛梨は場の中心となった。鼻の穴を膨らませたオタク系の男達から、写真を撮らせてほしいという声が殺到する。
それは本来、愛梨の望むところだ。自分の美貌を湛えられるのも、可愛さに注目されるのも。しかし、この日は懸念点があった。愛梨はこの日、ブラジャーを着けていない。さらに純白のシルクショーツの中には、同じく白い小型バイブが唸りを上げている。バイブのスイッチは、客としてテーブルに座るアニメ研究会メンバーの手の内だ。
(今更だけど、なんて格好よ……! ほんとに全年齢向けなの、これ!?)
いつも通りに背筋を伸ばしたまま、愛梨は胸中で毒づいた。コスチュームは扇情的だ。元キャラクターに倣い、胸元を大胆に露出し、スカート丈は腿半ばより少し上まで詰めている。上と下に爆弾を抱える愛梨にしてみれば、何かの拍子に見られはしないかと気が気ではない。
「すいません、こっちも一枚! 胸元強調する感じでお願いしまーす!」
「……ええ、いいわよ!」
愛梨はビールジョッキを掲げたまま腰に手を当て、胸元を突き出す。その動作だけでも、乳房が露出しないかと鼓動が早まる。だが本当に厄介なのは、ローアングラーと呼ばれる、地上スレスレからスカート内部の激写を狙う集団だ。
「!」
ローアングラーの気配を察知するたび、愛梨は鋭い視線を浴びせた。射抜くようなその眼光は相手を怯ませ、立ち去らせる。しかしそれも一時凌ぎでしかない。ふと気がつけば、また別の角度から別の人間がカメラを向けてくる。
とはいえ、被害者は他ならぬ眞喜志 愛梨だ。泣き寝入りするタイプではない。祭りの最中だろうとなんだろうと、度し難いことがあればハッキリと主張する。ローアングラーの一人に公然で制裁を加え、「今後一切スカート内の撮影は許さない」と定めることなど造作もない。
しかし、愛梨はそれをしなかった。スリルが興奮に繋がる事を直感したからだ。
「おねーちゃん、こっちにもビール!」
「ええ、今いくわ!」
テーブル客に呼ばれ、ジョッキを掴んだ瞬間、バイブの振動が強まった。
「!!」
ぞくっ、と快感が脊髄を駆け上る。最初のサインは冷ややかだが、その後は全身が熱くなる。俯く視界に、汗の浮く谷間が見える。
「おぅーい、早くしてくれい!」
客から催促を受け、愛梨は大きく息を吐く。人前で肩を落とした姿など見せられない。コンディションに問題があろうと、顎は水平をキープする。
「……さっすが」
スイッチを入れた一人がほくそ笑む。給仕役の誰より堂々と歩む愛梨に、よもやバイブが仕込まれていようとは誰も思うまい。彼はそう思いながら、再びバイブの強度を上げる。
「っ!!!」
愛梨の目が見開かれた。がくんと身体が揺れたのは、膝から崩れそうになったからか。しかし愛梨は機転が利く。足元を恨めしそうに一瞥することで小石に躓いたように演出し、その後は確かな足取りでテーブルまで辿り着いた。
ただ、客は何かを嗅ぎとったのだろうか。愛梨がビールを配っている最中、その尻を大きな手で揉みしだく。
「きゃっ!?」
愛梨は悲鳴を上げた。下半身が敏感になっているため、臀部への刺激でさえ洒落にならない。
「おーっと、悪い悪い!!」
口調とは裏腹に悪びれない客に、愛梨は鋭い視線を向けたが、すぐに笑顔を取り繕う。
「Unfug ist verboten.(イタズラは駄目ですよ?)」
発されたのは、流暢なドイツ語。扇情的なドイツ系キャラクターを自分が演じる以上、必ず使う機会はあると思い、前もって暗記しておいた言葉だ。コスプレ元のキャラクターが原作では言っていない、しかし如何にも言いそうなその物真似で、場には拍手喝采が湧き起こる。
蛮行に及んだ相手がばつの悪い顔になり、自身に惜しみない拍手が飛ぶ中、愛梨は確かな快感を感じていた。そしてそれは肉体の快感とも結びつく。
(…………垂れてきた…………)
完璧な笑顔の裏で、愛梨の膝は笑っていた。英雄視されつつある愛梨には無用の心配だろうが、もしも今ローアングラーに狙われていたならば、とろりと蜜の伝う太腿がはっきりと映り込んだだろう。
イベントのピークが過ぎた頃、愛梨はアニメ研究会の面々に呼び出された。休憩スペースがある建物裏の非常階段。時間的にほとんど人の来ない場所だ。
「さ、見せてよ愛梨たん!」
メンバーから煽られ、愛梨は頬を紅潮させたまま、むすりとした表情でスカートをたくし上げる。
「おおっ……!」
「すげー、膝らへんまでドロドロじゃん!」
「糸引いてるぜ。マン汁っつーか本気汁か、これ?」
歓声が上がるのも無理はない。純白のショーツは今や透き通り、桃色の陰唇とバイブの底をくっきりと浮かび上がらせている。魅惑的な太腿の内はぬらぬらと濡れひかり、愛液は股の間で糸を引いている。このイベントの間、愛梨がどれだけ興奮していたのかを如実に表す光景だ。
そうなるように仕向けた男達は、皆が満足げな顔をしていた。
「帰ったら、またタップリ可愛がってあげるからね」
その定番の台詞を口にした時、オタク男子達は捕食者の気分だったことだろう。彼らは浮かれるあまり忘れていた。『最強の肉食系女子』という愛梨の二つ名を。
「……“帰ったら”?」
男の言葉を反復し、愛梨はギロリと一同を睨み上げる。
「こんな状態で、帰るまで我慢しろっていうの? 冗談じゃないわ、ここでするわよ!」
「え、ええ、ここで!?」
「そんな、誰かに見られちゃうよ!」
「馬鹿ね、見えないようにアンタ達が壁を作ればいいでしょ。頭使いなさいよ!」
男達は渋るが、女王には逆らえない。非常階段の上で押し倒されながら、彼らは自分達が餌の側であることを思い出した。
「んふふふふ、くっさぁ……♡」
引きずり出した男根を嗅ぎ、愛梨は舌舐りをする。意識が飛びかねないほどの快感を確信しながら。
※
愛梨にとって、『オタサーの女王』としての生活はそれなりに刺激的だった。だが、どれほど強烈なスパイスの香りも次第に抜けていくように、刺激もだんだんと薄れていく。
「やべーよな、あの格好。誘ってんのかな」
「性格的にそうだろうな。つか実際、勃起が止まらん」
オタク男子達は、今日も愛梨を横目に囁き合う。胸元や腋が露出するタンクトップに、ふとした瞬間には履いていないのではないかと思えるほどの超ミニのローライズ。女に免疫がない人間にとっては目の毒な格好だ。
「……エッチ? 昨夜あんなにしたのに、また? まあいいわ。好きにしたら」
セックスに誘えば、まず拒否はされない。
「おーし、今日こそイカせてやる!!」
「ひひひひっ、足が立たなくなるまで感じさせちゃうよー?」
男達は美少女を好きにできる至福に酔いしれながら、嬉々として愛梨を抱く。その熱量とは打って変わって、愛梨は冷めきっていた。
(こいつらとするのも、マンネリになってきたわね……)
いつもの面子との、いつもの行為。日常となったセックスでは燃えない。燃えなければ濡れもせず、絶頂など夢のまた夢だ。
「愛梨ちゃん、今日はまた一段といい匂いだね。シャンプー変えた?」
「んー……」
抱きすくめるような背面座位で突かれながらも、愛梨の目は手元のスマートフォンだけに注がれている。
探し求めるのは、より刺激的なセックス。『ハード』『ハメ潮』『絶叫』……様々なワードを絡め、世の女性の告白を読み漁っていく。そんな中、ふと愛梨の指が止まった。開かれているのは、あるアブノーマルな秘密倶楽部のページだ。
(……ふーん、面白そうじゃない)
久方ぶりに胸が高鳴り、愛梨はニヤリとほくそ笑んだ。
Episode.3 オタサーの女王
愛梨は注目されるのが好きだ。人間は自分の想定外のことに注意を向ける。つまり他者から注目される人間というのは、何かしら『抜きんでている』ということ……そう考えて生きてきた。
それゆえか、愛梨は視線に敏感だ。たとえ背後からの視線であっても本能的に感じ取る。肢体を舐め回すような、欲望まみれの視線であれば尚更だ。
「…………」
颯爽と階段を上がっていた愛梨は、突如立ち止まり、くるりと後ろを振り返る。その視線の先には、愛梨のミニスカートを下から覗き込もうとする男子生徒がいた。
「あんた今、あたしのパンツ見たでしょ!!」
愛梨は眉を吊り上げ、ズンズンと階段を下っていく。
「えっ!」
男子生徒は驚き慌て、逃走を図った。しかし彼は見るからに運動が不得手なタイプであり、追う者が俊足の愛梨とあっては逃げきれない。
「ま、待って! 見てない見てない、誤解誤解!!」
男はあえなく首根っこを掴まれたまま、必死に弁明を始めた。しかしその視線は不自然なほど愛梨と合わない。
「どこ見てんの? 言いたい事があるならこっち見なさいよ!」
愛梨は相手の顎を掴んで正面を向かせつつ、相手をじっと観察する。
「あ、いやあの、その……!!」
表情筋の動きが乏しい独特のしゃべり方。ボサボサの黒髪に汚い肌、メリハリのない体型。中学生のような垢抜けないリュック。頑なに視線を合わそうとせず、しかしこちらの顔を盗み見る仕草。
この類には見覚えがある。高校時代だ。教室の隅でひそひそと話し、口では三次元の女子に興味がないなどと言いながら、愛梨のミニスカートとそこから伸びる脚を舐めるように視姦していた人間達。スクールカーストの底辺。この男は仮にも東州大生なのだから、彼らと違って勉強面では優秀だったのだろうが、雰囲気からして本質は同じだろう。潤とは真逆の冴えないオスだ。
しかしだからこそ、その男は愛梨の興味を惹いた。今ひとつだったセックス相手の、真逆。一度試してみる価値はある。
「……ねえ。パンツだけじゃ物足りないでしょ? なんだったら、もっと凄いところ見せてあげてもいいわよ?」
愛梨の言葉に、男は耳を疑った。思わず愛梨の目を直視し──そこで改めて、相手のルックスに息を呑む。握手会で対面したアイドルが霞んで思えるほどの、圧倒的な華。まさしくトップアイドル級の美貌が、息すら掛かりそうな距離に存在している。
「え、え、え……っ!?」
男の脳はショートした。様々な思考が脳を巡る。
この女が何者かは知っていた。入学早々にサークルを荒らしまわった問題児にして、『ヤリサー』のトップを食ったセックスモンスター。肉食系女子の頂点。本来なら関わりたい存在ではないが、大学の構内で一目その姿を見た瞬間、ついフラフラと近づいてしまった。光に誘引される蛾のように。
気づけば男は、愛梨を部室に案内していた。アニメ研究会、通称アニ研。非公認サークルではあるものの、アニメ業界で活躍するOBの恩恵で広い部室を与えられている特異な集団だ。
「おー、お帰りんこー」
部室の扉が開いた瞬間、覇気のない挨拶が飛ぶ。しかし、見知った顔の後ろに愛梨を見つけた瞬間、室内の8人は一様に目を剥いた。
彼らの反応も先の男と同じだ。生で見る『問題児』の圧倒的なルックスに、下心を剥き出しにする。無理もない。リアルで女子と話す経験の乏しい彼らにとって、これほどの美少女と話せる機会はまたとないのだ。
「ま、眞喜志ちゃん、だっけ。近くで見ると、すげぇ可愛いね……!」
「スタイルも抜群だな。脚がスラッとしてて……!」
「ほんとルックス良すぎ。チェルンたん……あ、俺の今期の推しなんだけど、それ現実にいたらこんなイメージかも!」
冴えない男達が群がり、愛梨の頭からつま先までを舐めるように観察する。アップライズの面々ともまた違う、あふれる獣欲を隠そうともしない視姦。
「…………っ」
愛梨は、ぞくり、とした。
女が生理的に嫌悪しそうなシチュエーションだ。当然の反応ではある。
しかし──何か違う。嫌悪感であれば、胸がむかつき、吐き気を催すはずだ。しかし愛梨は今、鼓動が早まり、子宮が疼いた。
「で、でさぁ愛梨ちゃん。さっきの話なんだけど……パンツより凄いところ見せてくれるって、本当?」
一人目の男の言葉に、仲間達が動揺する。その視線を再び浴びながら、愛梨はふっと笑みを見せた。さらに動機が早まるのを感じながら。
※
「すげー、無修正マンコだ……」
「バカ、修正されてるわけねーだろ。ナマだぞ?」
「女のあそこはグロいって聞くけど、めちゃめちゃ淡いピンクじゃん」
「いや。俺AVとかでよく観てるけど、普通はもっと黒ずんでるぞ。これが特に綺麗なの」
愛梨の秘部を、18の眼が食い入るように覗き込んでいた。
愛梨は顔色ひとつ変えていない。机の上で脚を開いたまま、いつものように堂々と前を見据えている。しかし視線に晒されない膣の内部は、ヒクヒクと艶めかしく蠢いていた。
「ゆ、指入れていい?」
「ええ」
上ずった声での問いに、愛梨は頷く。
「うわ、すげぇ締めつけ……纏わりついてくる。指一本だぞ? チンコだったらどんだけ気持ちいいんだこれ?」
恐る恐る指を挿入する様、たどたどしく動かす様は、レズ行為を始めたばかりの頃の麻友を思わせた。だが少し違う。その恐れの裏には性欲が透けている。一度その欲望を察してしまえば、膣内の指の動きは、舌で舐められているように感じられた。
「………………っ!!」
愛梨の太腿がぴくりと反応する。麻友の時とも、潤の時とも違う理由で。
「膣の中ってこんなデコボコしてんだな。AVだとすぐ見つかるとか言ってたけど、これ慣れないとスポットわかんないぞ。ね、Gスポットってどこ?」
「Gスポットは入り口のほう……そこ。今の……もっと手前!」
「あ、ここか。確かにちょっと感触違うかも。ここ刺激したらイクの?」
「そうだけど、乱暴にガリガリ掻いたら蹴るわよ。指の腹で押し込みなさい」
「こんな感じ? こうしてたらイク?」
「んっ……触り方はそうよ。下手だけど……頑張ればイケるかもしれないわね」
命令口調で愛撫の仕方を伝えながら、愛梨は胸の高鳴りを感じ続けていた。大事な場所へ、不快な男の指を突っ込まれているのに。同じく不快な男達から、下卑た視線を浴びているのに。
「あ、なんか中ヒクヒクしてきた! 感じてんの?」
「感じるスポットを刺激させてあげてるんだから、当然でしょ!」
男のしたり顔が気に食わず、思わず怒鳴りつける愛梨。9人の男達はわかりやすく委縮するが、盗み見も指を動かすことも止めない。である以上、その行き着く先は決まっていた。
「う……っ!!」
愛梨が呻き、膝が内に閉じる。その直後、割れ目から小さく飛沫が上がった。
「おお、イッてるイッてる!!」
「つか、潮噴いた? 今」
「今イッたよな! はははは、やった! 初めて三次元の女イカせたぜ!」
部員達の喜びようは、まさに鬼の首でも取ったようだ。それを嘲笑と取った愛梨は眉間に皺を寄せる。
「アンタにイカされたんじゃないわ。いつまでも埒が明かないから、アタシの意思でイッたのよ!」
再びの怒号に9人のオタクが肩を竦める。しかし今度の彼らは、若干の満足げな表情を浮かべていた。
「はあ……っ、はあ……っ、はあ……っ、はあ……っ!」
1時間後、部屋では荒い呼吸が繰り返されていた。興奮した9人のオスと1人のメスの吐息だ。9人のオスは指の先から雫を滴らせ、愉快そうな笑みを浮かべている。一方で紅一点のメスは、机の上で膝頭を抱えるポーズを取ったまま、なんとも難しい表情を浮かべていた。その理由はおそらく、机の下に滴るほど大量の潮溜まりのせいだ。
「すごいね愛梨たん。最後の方は指突っ込んだだけでビクンビクンしてたじゃん」
「ホント、超可愛かった! 欲を言えばイキ顔も見せて欲しかったけどねー」
男達が猫撫で声を出す中で、愛梨はゆっくりと床に降りる。しかし脚に力が入らず、机に寄りかかってしまう。
「ねえ愛梨たん。もし良かったら、このノリで“本番”とか……!」
男達の欲望は留まるところを知らない。恐る恐るでありながら、しかし強い願望を秘めた目で愛梨に迫る。愛梨は机に腰を預けたまま、その獣の集団をジロリと睨みつけた。人一倍眼力の強い、大抵の男を黙らせる睨みだ。
「あ、ハハハ……流石にそこまでは、かな……?」
内気な9人のオスはたじろぎ、澄まし顔で下着を履く愛梨を侘びしそうに見守る。ハイソックス、ミニスカート、ブラジャー、肩出しのトップス。衣服が纏われるたび、セックスの可能性が閉ざされていき、男達は項垂れた。
「…………じゃあ、また」
部室の扉を開けて出ていく瞬間、愛梨がそう呟いたのも、彼らは社交辞令だと思っていた。
彼らは眞喜志 愛梨を知らない。愛梨は社交辞令など言わないということを。
澄まし顔で部室を出てまもなく、愛梨は学舎の壁に頭をつけた。その頬は赤らみ、額からは汗が滲み、心臓は早鐘を打っていた。
「な、なんで……!?」
愛梨は呟く。
公園のトイレで麻友から嬲られた時と同じ、不可解なほどの興奮。興味本位であの冴えない男達に性器を触らせたが、何度も潮を噴き、腰を抜かす寸前まで追い込まれるとは思ってもみなかった。最後、セックスの求めを黙殺したのは嫌悪感からではない。今この状態で“本番”をされれば、どれほどの恥を晒すか想像がつかなかったからだ。
「……何してるんだろ、あたし……」
自己嫌悪に陥る。抜きんでた存在であろうとする自分が、こんな真似をしているのが許せない。しかし、その浅ましい行為で強い快感を得たことも確かだ。
理想と好奇心の狭間で、愛梨は苦悶する。しかし彼女は結局、好奇心に抗えない。翌日も再びアニメ研究会の部室に乗り込み、昨日の武勇伝に沸く部員達を驚かせた。
「痴漢プレイがしたいわ!」
そう言い放った愛梨に、集まった研究会メンバーは唖然とする。昨日の愛梨を知る者も知らぬ者も、噂通りの変人なのだと再認識した。もっとも愛梨が変わり者でなければ、むさくるしいこの部室に絶世の美少女が訪れる事などなかっただろうが。
しかし、愛梨とてただの思い付きで発言したわけではない。
黙っていれば文句のつけようのない美少女であり、スタイルも抜群、加えて裾を詰めた超ミニのスカートを履くことが多い愛梨は、これまでの人生で実に13回も痴漢の被害に遭っている。
もちろん性格的に黙って耐えるわけがなく、時には相手の手首を掴んで捻り上げ、時には頭突きを食らわせ、時には背中越しに金的を蹴り上げて、片っ端から警察に突き出した。運悪く逃げられた1回を除き、計12回の撃退記録。その記録を見た警官は驚き、手柄を褒めながらも注意を促した。
「君は正直、異性から客観的に見て魅力的すぎる。痴漢被害を減らしたいなら、格好を見直した方が良い。例えばその、短いスカートとか……」
警官の注意は善意からのものだっただろう。聡い愛梨はそれを理解してはいた。しかし、生来の我の強さでつい反発してしまう。
「冗談じゃないわ! 悪いのは痴漢をした方でしょう、どうしてあたしが格好を改めなきゃならないの? 痴漢がなによ。またされたなら、またとっ捕まえてやるわ!!」
愛梨は堂々とそう宣言し、そして実際その通りにしてみせた。痴漢被害が13回に留まっているのは、被害を受けなくなったというより、『痴漢を撃退する女子高生』として地域に広く知れ渡った結果に過ぎない。
何度痴漢に遭ってもスカートの丈を直さなかった理由を、愛梨は自分の頑固さゆえだと思っていた。被害者の立場でありながらファッションを改めさせられるのは納得がいかない。自分は脚が長く綺麗に見えるミニスカートが好きだし、それを履く権利は誰にも奪わせない。その考えからだと思っていた。
だが今振り返れば、それだけではなかった気がする。
愛梨は、痴漢に……胸や尻、太腿を撫でまわす手とその欲望に、興奮していたのだ。実際、愛梨が初めて自慰を覚えたのは、4度目に痴漢を受けた日の夜だった。痴漢そのものは金的一発で鮮やかに倒したものの、夜になってもその出来事が忘れられず、落ち着かないままに何となくむず痒い秘部を擦った。それが愛梨の性の始まりだ。
それからも、痴漢に遭った日の夜は自慰をしていた気がする。部活破りの高揚でならともかく、痴漢で興奮して慰めたなどとは認めがたく、長らくその関連性に気付かなかった。しかし、地方を遠く離れた大都会で久々の痴漢にあった数日前、愛梨は興奮を自覚してしまったのだ。
犯人のサラリーマンは無抵抗を当て込んでいるのか無防備で、取り押さえるのはいつでもできた。しかし愛梨は、気まぐれで3分あまりも相手の好きにさせていた。相手の指がショーツをなぞるのをやめ、その中にまで入り込もうとした辺りで流石に肘鉄を食らわせたが、状況に気付いた周りの客が犯人を取り押さえる間、それを見下ろす愛梨の秘部はヒクヒクと戦慄き続けていた。もしあの時、その“先”までされていたらどうなったのか──これが愛梨にとって、目下一番の関心事だったのだ。
※
なるべくリアルな体験がしたい。その愛梨の主張に沿い、SMクラブ等でのシチュエーションプレイではなく、本物の電車での痴漢計画が練られた。あるターミナル駅から電車に乗り、直通運転でローカル線へ。そのまま2時間半電車に揺られ、終点の温泉旅館が目的地という旅だ。
愛梨はメンバー一同からの熱い要望を受け、普段以上に扇情的な、少し屈めば下着が覗くマイクロミニのスカートで電車に乗り込んだ。ちょうど通勤ラッシュの時間帯であり、すし詰めのサラリーマンから痛いほどの視線を浴びながら。
この電車は都心近辺こそ混み合うが、オフィス街を過ぎれば乗客は途端に減る。昼間ならば老人や家族連れも疎らにいるが、朝の早い時間帯は貸し切り状態だ。
とはいえ、それは普段の話。今日の車両は15人の研究会メンバーに占拠されている。3人が窓際の愛梨を囲み、残り12人が壁役・見張り役という布陣だ。
「!」
人の圧を感じつつ外の景色を見ていた愛梨は、ぞわりとする感触に目を見開いた。早速プレイ開始だ。まずは尻。手のひらで撫でまわされている。
(来るって分かっててもビックリするわね……)
愛梨は動揺しつつも窓から視線を外さない。窓ガラスの中では、3つの顔が歪んだ笑みで愛梨の顔を覗き込んでいた。
尻に続き、太腿、そして胸にも手が伸びる。痴漢役の手つきはリアルだ。鷲掴みではなく、撫でまわす動き。あるいは羽毛を這わせるようなソフトタッチ。そういうゾクゾクとくる感触で責めてくる。
「……アンタ達、本当の痴漢やってないでしょうね? 触り方が本物としか思えないわよ?」
背後を睨みつつ囁く愛梨。しかしその言葉には誰も答えず、薄笑いを湛えたまま指を這わせ続ける。ソフトに、しかし執拗に。
(何なの、これ……。いっそ乱暴に揉まれた方がマシだわ!)
ぞわりとした感触が肌を這いまわる。いつも堂々としている愛梨とは対極的なおぞましさだ。それだけに効き目は強く、愛梨は意思に反して腰をクイクイと動かしてしまう。吊り革と鞄の取っ手を握りしめて耐えようとしても、不随意の動きが止まらない。
「ふんん……っ!」
薄い布越しにクリトリスを擦られ、愛梨は声を漏らす。濡れた股布が割れ目に食い込む。
「静かにしないと、誰かに気づかれちゃうよ?」
意地の悪い囁きと共に、指は蠢き続けた。焦らすように。誘うように。
「うっ!!」
腰がぶるりと震えた次の瞬間、内股をとろりと愛液が伝う。その雫は内腿を撫でる男の指で止まった。
「あれれ? なんだ、もう濡れてるの? 愛梨たん」
「……ッ!」
右からの嬉しそうな声に、愛梨は眉を吊り上げる。しかし否定はできない。決定的な証拠に触れられた以上、下手に誤魔化しても恥の上塗りだ。
「痴漢モノのエロアニメで予習したんだけど、この触り方ホントに感じるみたいだね。脚本がガチな人だったのかな、あれ。もっと気持ちよくさせてあげたいけど、残念。交代の時間だ」
その言葉の後、愛梨の周りの3人がすっと離れ、入れ替わりに別の3人が手を伸ばす。先の3人と同じように、いやらしく。
入れ替わり立ち代わり、それぞれ違う手によって繰り返されるソフトタッチ。それは愛梨を着実に昂らせていく。腰と太腿はヒクヒクと動き続け、ショーツのクロッチがひくつく割れ目と密着する。
(頭がおかしくなりそう……!)
それまで窓ガラスを睨み続けていた愛梨が、ついに俯く。その理由は誰の目にも明らかだ。膝が笑い、愛液が床に滴り、ほのかに女の匂いを漂わせている。本気で感じているのだ。
「そろそろ次に行くか」
そう言って愛梨を囲んだのは、最初の3人だった。順繰りに替わっていった結果、ついに痴漢役が一巡したのだ。
二巡目は、とうとう下着の中に手を差し込まれた。ショーツに手を滑り込ませ、ぐちゅぐちゅと音を立てながら膣内を弄る。あるいはブラジャーを押し上げ、露出した生の乳房を揉みしだく。
「んは、あっ……!!」
愛梨の口から吐息が漏れる。その吐息は刻一刻と荒くなっていく。この行為もやはり入れ替わり立ち代わり繰り返され、次第に過激さを増していった。特に4組目からは指の狙う場所が大きく変わった。入念な膣と乳房への愛撫で隆起した乳首と陰核……そこをピンポイントで狙いはじめたのだ。
「んああああ!!」
あまりの刺激に愛梨は叫び、慌てた壁役の一人に口を押さえられた。そこから愛梨は男の手に口を覆われたまま、汗だくの全身を細かに痙攣させはじめる。
「……ッ!!…………ッ!!!」
時おり、封じられた口から声にならない声が漏れ、愛梨の顎が上を向く。誰の目にも明らかな絶頂だ。
その状態を数十分続けたところで、ついに3巡目が訪れる。数度の絶頂を経てどろどろに蕩け、離された指との間に糸すら引く愛梨の肉体。それを前にして、もはや取るべき行為はひとつしかない。
誰ともなく壁を狭め、愛梨の身体をドアのガラスに押し付ける。その状態で腰を引かせれば、完全な挿入体位が出来上がった。
「い、挿れるよ……!」
上ずった声で一人目の男が告げる。愛梨は涙の滲む目でその男を見上げ……目を閉じた。その無言の了承を以って、男はついに挿入を果たす。
「…………ああッ!!!」
愛梨は声を殺せなかった。煮立つような熱さの膣に挿入される快感は、潤とのセックスすらも上書きするほどに心地いい。膣の中が勝手に収縮し、うねるのが分かる。
「うあっ、ヤベエ……なんだこれ!? すっげぇ締めつけてくるし、火傷しそうなぐらい熱い! オナホの百倍気持ちいいわ!」
挿入した男もまた顔を歪め、小声ながら切実に快感を訴える。
ちょうどこの辺りから電車の揺れが激しくなった。しかしセックスの味を知った男には歯止めが利かず、揺れを利用して腰を打ち付ける。人垣で作られた空間にパンパンと音が鳴る。
「んっ、ああ……あ、ぁっ!!」
愛梨は呻きながらドアのガラスに寄りかかった。右手と露出した乳房がガラスに押し付けられる形だ。
窓の外には田舎特有の田園風景が広がっている。幸い人影は見当たらないが、もしも電車の走る土手の下に誰かがいれば、痴態を隠す術はない。その事実に気付いた瞬間、快感が愛梨の全身を貫いた。膣の痺れる快感が何百倍にも増幅され、脊髄と脳を走り抜ける。
「ああ、だめ……いくっ、イクうううっ!!」
愛梨は仰け反りながら絶頂に至った。ブルルッ、ブルルッ、と幾度も痙攣するその白い肢は、性経験に乏しい男達にさえ絶頂の深さを直感させた。
「くううう、締まるっ! お、俺ももう出るっ……!!」
挿入している男も膣の収縮に耐えきれず、歯を食いしばりながら射精に入る。睾丸がせり上がるほどの射精だ。
「はーっ、はーっ、はーっ……!!」
ずるりとゴム付きの逸物が抜き出され、汗にまみれた男女の肉体が弛緩する。しかしまだ終わりではない。一人目がふらつきながら場所を開けたその後ろでは、ゴムを装着した2人目が準備を万端に整えているのだから。
結局、電車が終点の駅につくまでの2時間あまり、愛梨は快感を味わい続けた。挿入が始まってからは約40分、5人の相手をし、その全てで絶頂へ追い込まれた。
しかし、それで終わるはずがない。残る10人は挿入すら果たしていないし、精力旺盛な大学生が一度の射精で満足するはずもない。そして何より、愛梨自身も満足しきってはいない。
「な、なにいきなり脱いでんのよ!? 中居さんが挨拶しにくるかもしれないのに……!」
旅館の部屋でいきなり下半身を露出した男達に、愛梨は非難の声を上げる。しかしその眼は、逞しくいきり勃った逸物だけを凝視していた。
「せっかくの旅行なんだ、自由に楽しもうよ愛梨ちゃん!」
次の挿入順の男が畳の上に寝そべれば、愛梨はゴクリと喉を慣らしてそれを見下ろす。
「もし誰か来たら、アンタ達でなんとかしなさいよ!」
愛梨は怒り顔のままショーツを下ろした。長い糸が引く様をたっぷりと視姦されながら、右足首から抜き取ったショーツを畳に落とし、寝そべった男に跨る。マイクロミニのスカートとその中身を特等席で見上げる男は、眼福とばかりに笑った。
「へへへへへ。人生わかんないもんだなあ。小学校の頃からずーっとバイキン扱いのこのオレが、こんな美少女に童貞奪ってもらえるなんてさあ!」
「……ほんと、意味わかんない。なんであたしが、アンタみたいなのと……!」
挿入位置を定めて腰を下ろす間、愛梨の身体は小刻みに震えつづけていた。
「はあああ……っ!!!」
挿入を果たした直後、愛梨からハッキリとした声が漏れる。快感で腰が抜けたらしく、肉付きのいい尻が男の肥満腹の上で潰れる。
「ううおおおお、ヤバいキツさ! トロットロの熱い襞が、吸い付いてくるっていうか、纏わりついてくるっていうか……マジでこれ、オナホと全然違うな!?」
男も驚きと喜びの入り混じった叫びを上げていた。
「い、いちいちオナホールなんかと比べないで。失礼よ!」
愛梨は歯を食いしばり、ゆっくりと腰を遣いはじめる。膣内を締めたまま、尻を上下に動かして相手の腰に打ち付ける。パンッ、パンッ、という音が和室に響く。
「あああああっ、ヤバイヤバイヤバイこれっ!!」
受ける男は悲鳴を上げた。あまりの快感に腰が引けるが、畳が邪魔をして退がれない状態だ。
「すっげぇ杭打ちピストン……!」
「最強の肉食系女子とか言われてたけど、マジっぽいな」
「や、肉食系っつっても相手は選ぶだろ。俺が女でも、キンちゃん相手はなぁ……」
自制心のなさが伺える体型。脂ぎった髪。黄色い歯。汚い肌。きつい体臭。濃い体毛。女の嫌う要素を詰め込んだような醜悪な男。同年代の中でも底辺に位置するだろうオスを、完璧なスタイルの美少女が逆レイプも同然に犯している。その異様すぎる光景に、メンバーは言葉を失っていた。
罰ゲームで嫌々やらされている、というのが最も現実的なケースだ。しかしそうして脳内の整合性を取ろうとしても、愛梨の反応がそれを否定する。
「んっ、んっあ……ああっ、ああぁぁっ……!!」
汗を散らしながら腰を振る愛梨の表情は、明らかに快感に浸っていた。眼はとろけ、唇は半開きだ。嫌悪感が先立つならば当然あるはずの緊張がそこにはない。
「う、そ、そろそろイクよ……!! 愛梨ちゃんも一緒にイッてくれる!?」
下の男が呻くようにそう告げると、愛梨はさすがに嫌そうな顔をした。しかし歯止めの利かなくなった男が愛梨の手首を掴み、腰を突き上げるような動きを始めれば、瞬く間に睨む余裕すらなくなってしまう。
「あああ、ああ、あああ……イク、イクよ愛梨ちゃん!!」
「はぁっ、はぁっ……ああイッ、ぃ……ックううっ!!」
男が叫ぶと同時に、愛梨も歯を甘く噛み締めたまま天を仰ぐ。薄目を開けたままビクビクと痙攣する様は、わかりやすい絶頂の反応だ。
罰ゲーム同然の状況で絶頂する美少女。それを前にしては、他の男達も正気を保てない。
「よーし、次は俺!!」
「オッケー! 買ってきたゴム無くなるまで、どんどん行こう!」
※
「……ところでヨースケ氏。貴殿は澄矢高校の出身だったと記憶しているが、眞喜志 愛梨という女性を覚えておいでか?」
スマホを片手にそう語るのは、アニメ研究会のメンバーの一人だ。出っ歯で痩せぎす。他メンバー同様に冴えない見た目で、女性に縁があるタイプではない。それは通話相手もまた同様で、ゲーマー仲間でも1、2を争うブサイクぶりだと自嘲しあう仲だ。
『眞喜志? あ……ああ、覚えてるよ。澄高から歴代初めて東州大行った天才だし、もともと変人で有名だったしな』
「ほう、天才で、有名人。それだけですかな?」
『な、何が言いたいんだ……?』
「いえ。あの娘は地域一の美少女と評判だったと小耳に挟みまして、ヨースケ氏も実はお好きだったのではないかと」
その言葉に、ヨースケと呼ばれた男は喉を鳴らした。まさにその通り。彼もまた日々愛梨の姿を盗み見、その身体を好きにすることを夢想して自慰に耽っていた。それどころかつい昨夜も、高校の卒業アルバムに載っている愛梨の写真に妄想をぶつけたばかりだ。
『ま……まあ、黙ってれば顔はいいからな。それにあのスタイルだし、俺も人並みには興味が……』
「ははは、やはり! いやー、ヨースケ氏にその気があって良かったでござる。ではそんなヨースケ氏に、良い物をお贈りしますぞ!」
悪友のその言葉に、ヨースケの胸が高鳴った。あの男は愛梨と同じ東州大に行ったはずだ。ということは、大学内で見かけた愛梨の隠し撮り写真でもくれるのではないか──そう期待したからだ。
そこからの数秒は長く感じられた。スマートフォンから通知音が鳴り、画像が送られてくる。そしてその画像は、ヨースケの期待を遥かに上回るものだった。
『えっ……!!?』
絶句する。しないわけがない。
画像に映っているのは、生まれたままの姿の少女だ。這う格好のまま後ろから突かれ、目を閉じたまま大口を開けている瞬間の一枚。
『う、そ、だろ……!?』
ヨースケは机の引き出しを開け、卒業アルバムを引っ張り出す。まさに昨日自慰の友としたアルバムだ。震える手でページをめくり、クラスの集合写真を開こうとして……途中で固まる。目的のものは途中で見つかった。クラス対抗の合唱祭。その中で3年C組のボスを気取り、最前列中央で目を閉じたまま大口を開く少女がいる。その姿はまさに、先ほどの画像と瓜二つだ。
ヨースケは画像に目を戻す。
丸裸の愛梨は全身に汗を掻き、股の間はオイルでも塗りたくったように艶めいていた。大きく開いた口の間には白い糸が引き、よく見れば口の横に縮れた毛が貼りついている。
背景は和室だ。横一列に布団が敷かれ、その布団を踏みつけるようにして毛深い足がいくつも映り込んでいる。さらには敷布団や畳など一面に、口の結ばれたコンドームが散らばってもいた。
輪姦か、乱交か。いずれにせよ、あの愛梨が複数の男とセックスをしている事は間違いない。
「よく映ってるでござろう? 愛梨たんが絶頂した瞬間の激写でござるよ。そもそもの顔の造りがいいから、アクメ顔も色っぽくて最高ですなぁ。ただ、声が大きいのは参ったでござる。部屋の外に聴こえるぐらいの声で」
『ま、マジか……っ!!』
ヨースケは言葉が見つからない。密かに片想いしていた相手の痴態を見たこと。そしてその現場に、知り合いが立ち会ったらしいこと。そのどちらも情報量が大きすぎ、頭の処理が追い付かない。
「ヨースケ氏を驚かそうと思って秘密にしていたのでござる。実は拙者は今、例の眞喜志 愛梨と温泉旅行に来ておりましてな。ま、2人きりではなくアニ研一同でですが。ご存じとは思いますが、愛梨嬢は好奇心が旺盛でして。2泊3日のこの旅行で、女1人男15人の16Pを堪能しているのでござるよ。驚かしたお詫びに、これからハメ撮りの生中継をお送りしますぞ!」
男はそう言ってスマートフォンを横に構え、開いた障子の前に立つ。
そこには、やはり一糸纏わぬ愛梨の姿があった。そしてその横には、同じく裸の男が座っている。小太りで頬骨が出ており、目は細く、団子鼻で髪は薄い。間違っても美形とはいえない男だ。しかしその男は、文句なく整った顔立ちの愛梨と深い口づけを交わしていた。それだけではない。竹製の長椅子に横並びで腰かけたまま、互いの秘部を刺激し合ってもいる。
「んっ、ちゅっ……じゅるっ……んふっ…………はーっ、はーっ……アンタ、ほんと口臭すぎ……んっ、ちゅ、ちゅうっ…………」
口が離れた瞬間、愛梨は顔を顰めて苦言を呈する。しかしその間も相手の怒張を扱く手は止まらず、再び口づけを求められても拒まない。
「あれはフクさん。我ら以上に女性と付き合える可能性が低い御仁です。あの無骨な見た目に加え、エナドリの過剰摂取で全身が香ばしいですからな。しかしなぜか愛梨嬢は、そのフクさんに唇を奪われている時が一番感じるようで。ならばと今朝はあえて2人きりにし、愛撫のみを入念に繰り返しておるのです。いわゆるスロー・セックスですな」
男の言葉通り、愛梨は興奮状態にあるようだった。本来は雪の如く白い肌に、ところどころ赤みが差している。弄られる秘裂からは洪水のように愛液が垂れ、指が中でぐちゅりと音を立てれば、むちりとした太腿が内に閉じる。堪らないとでも言いたげに。
『ま、眞喜志……!!』
ヨースケの声がする。ひどく不安定な声だ。彼は気持ちに整理がついていない。目の前の光景を見たいのか見たくないのかさえ分からないほどに。
「あーヤベ、そろそろ我慢の限界。もういいだろ、ハメよ」
フクという男が愛梨に語り掛ける。愛梨の指に包まれた彼の分身は、刺激がなくとも上下に蠢き、開いた鈴口から先走りの汁を吐きつづけていた。
「……いいわよ」
限界なのは愛梨も同じらしい。素直に椅子から立ち上がると、汗を滴らせながら傍らの棚に手をついた。そんな愛梨の後ろではフクが悪戦苦闘している。ゴムを着けるだけで暴発しかねない状態のようだ。
「いくぞ」
短く確認が取られ、フクの腰が突き出される。ぐじゅりと水音が立つ。
「──あああああッ!!」
愛梨の声は大きかった。奔放な彼女らしい、眞喜志 愛梨が挿入を受けた時の声として説得力のある声量。しかし彼女がセックスパートナーとして受け入れた相手は、過去の彼女からは想像もつかない。並以下の男には見向きもせず、最も女子人気の高い男すら一蹴していたのが彼女なのに。
「あっ! あっ! あっ! あっ! あっ!」
愛梨はフクのピストンで感じているようだった。良くも悪くもその顔には嘘がない。閉じた眼も、開いた口も、そこから吐き出される吐息も、すべてが快感を訴えている。
フクは濁った瞳でそんな愛梨を見下ろしていたが、やがて乳房を抱えるようにして上体を抱き寄せる。そして薄く目を開いた愛梨の口を再び奪った。
「んむっ! んっ、んっ!!」
愛梨は不自由な呻きを漏らした。そして、変わった。パンパンと腰を打ちつけられると、愛梨の腰そのものも震え上がる。蜜に塗れた脚は内股に折れ、ガクガクと膝を揺らす。唇を奪われた途端、快感が深まったのは明らかだ。
「んっ、んむっ、あむっ、れぁあうっ……」
フクと愛梨の舌が複雑に絡み合う。息が荒くなる。その果てに、2人は文字通り息を合わせて絶頂に至った。奥の奥まで突き込み・迎え入れた状態のまま、全身をぶるぶると震わせて。
「ふーっ、キスハメ最高だな。普通にハメるより脳みそが喜んでる感じだ。ま、このルックスの女だからだろうけどな」
フクは満足げに口を拭いながら告げる。その言葉は愛梨には当てはまらない。ランクの低いオスとのセックスで感じてしまった愛梨には。しかし今の彼女には、自己嫌悪に陥る暇さえなかった。相手はフクだけではない。鼻息の荒い他のオスも列を為している。
「ほら、こっちもしゃぶってよ愛梨たん!」
「手の方も休まないでね~」
「その次、俺の咥えてよっ!」
愛梨を取り囲む男達が口々に注文をつける。その中心で愛梨は、今にも吐きそうな顔をしていた。
「ぶはあっ! はあっ、はあっ……ああああ、臭いいっ……!!」
カウパー液と恥垢に塗れた逸物を、鼻先に3本突きつけられている。その匂いは運動部のロッカーよりひどい。しかし愛梨は、悪臭の源を退けはしなかった。悪臭が鼻孔を満たし、吐き気すら催すような状況で、なぜか発情している。それがあまりにも不可解で、意地でも原因を究明しようとしているのだ。
知的好奇心の強い愛梨らしい行動だと言える。しかしその行動原理がどうであれ、醜悪な男達の物を進んでしゃぶり、口内や顔に射精されている惨めさは変わりない。
「あの通り、愛梨嬢は我らとのセックスにすっかりハマっているのでござるよ。ああしてしゃぶっている間も、下の口は蜜を吐きまくりでござろうなぁ。その状態から挿入となれば、それはもう体液という体液が……と、話しているうちに辛抱堪らなくなってきました。拙者もあの輪に加わらせていただきましょう。ではヨースケ氏、今日はこれで。また後で動画を送りますぞ!」
スマートフォンで撮影を続けていた男が、そう言って通話を切る。最後の最後、電話向こうにヨースケの息切れを聴きながら。
※
学生時代の愛梨はオタク系の生徒に恐れられており、接点を持ちえなかった。しかし一度絡んでみれば、好奇心旺盛な者同士相性は悪くない。2泊3日の温泉旅行の後も、愛梨は頻繁に部室に顔を出した。時にはアニメ談義を花を咲かせ、時にはプロレスの話で盛り上がる。
ある日には、その流れで“プロレスごっこ”に興じることもあった。メンバーの一人が下心からプロレス勝負を持ちかけたところ、愛梨が興味を示した形だ。
「どうしたの!? 返してみなさい!」
「ほらほら、根性見せなさいよ!」
愛梨は男女の距離感に無頓着だ。男子とのプロレス勝負に熱中するあまり、フロントネックロックで乳房を押し付けても、卍固めで太腿を相手の顔に密着させても、一向に気にする様子がない。
一方、技を受ける男達は揃って鼻の下を伸ばしていた。道を歩けば誰もが振り返るほどの美少女が、自ら密着してくるのだ。女に縁のない男にとって至福以外の何物でもない。
プロレス勝負はギャラリーにとっても眼福だった。特にタンクトップの下で揺れ弾む胸は、全員の視線を釘付けにして離さない。
「愛梨ちゃんって胸おっきいよねー。何カップなの?」
一人が問うと、愛梨は呆気にとられたような顔をする。
「知らない。調べたことないから」
「え。調べたことないって……気にならないの?」
「ならないわ。カップ数が気になるのなんて、胸に自信がない子だけでしょ。こんなに大きいんだから、EカップでもFカップでも、どっちでもいいじゃない」
「な、なるほど……!」
堂々と言いきる愛梨に、一同は感服する。その自信に満ちた姿はもはや神々しいほどだ。そんな愛梨への興味と憧れが、日陰者達の歪んだ欲求を膨らませる。
「ふーっ、楽しかった!」
思うさまプロレスの名場面を再現した愛梨は、タンクトップの胸元を扇ぎながら笑みをこぼす。無防備なその姿は、男達のタガを外すのに十分な効果があった。
「あ、愛梨ちゃん。その、今日もシない?」
股間を膨らませた男達。そんな彼らの要求は愛梨にも理解できた。すでに肉体関係のある相手ばかり、セックスもさして抵抗はない。
「別にいいわよ。でも汗掻いちゃったから、シャワー浴びてから……」
愛梨は軽い調子で答えた。普段であれば当然のように通る条件だ。しかし、この日は違った。
「や。今日は、そのままでしたいんだ!」
男達は予想外の言葉を口にする。下卑たその視線は、汗まみれで湯気も立つような愛梨の肌に注がれている。愛梨はその視線にぞくりとした。
「は、はぁっ? 本気で言ってんの!? 気持ち悪い!!」
思わず大声で怒鳴りつける。男達はたじろぎながら背筋を伸ばす。普段であればそこで男達が折れ、愛梨へのご機嫌取りが始まるところだ。だが、この日ばかりは男達も譲らない。
「そう言わないでさぁ! お願い、愛梨ちゃん!」
「俺からもお願い! 汗だくセックスさせて!」
真剣な眼で愛梨を囲み、何度も哀願する男達。その必死さがますます愛梨の嫌悪感を煽る。
(何なのこいつら、ほんと気持ち悪い! これだけ汗だくなのよ? こんな状態でしたいだなんて、どういう神経してんの!?)
信じがたい。受け入れがたい。普段は意識もしない女としての本能がNOを訴えている。
しかし、愛梨はふと思った。これだけ嫌悪感の強い行為を、もし受け入れればどうなるのか、と。痴漢行為では大いに昂った。あれも車内でのぞわりとした感覚の結果だ。
一度その疑念を抱いてしまえば、止まらない。それを確かめずにいられる愛梨ではない。
「…………あーもう、わかったわよ! よく考えたら、アンタ達とのセックスなんて元々気持ち悪いしね」
愛梨は恥辱を受け入れた。自分の性分にほとほと呆れ、大きく溜め息をつきながら。
愛梨は雑に服を脱ぎ捨て、ソファにどかりと腰を下ろす。
「さ、好きにしたら? アンタ達が何をしたいのか分からないから、やり方は任せるわ」
挑発的に言い放ち、横を向く。怯えを悟らせないためだ。全身を球の汗が伝う状態でのセックスは、さすがの愛梨も涼しい顔ではいられない。
「すげぇ、全身汗でビショビショだ……」
「ああ。どこも臭くて美味そうだぜ!」
「おーし、じゃ順番にクジ引けー!」
「えっと……お! 俺、右のチチだ!」
「へへ。オレは左乳!」
「俺はフトモモか。ひひひ、当たり引いたぜ!!」
男達は鼻息荒く愛梨に群がった。首筋、乳房、腋の下、太腿、足の指……クジで決めた担当部位を熱心に舐めはじめる。
「……ッ、…………~ッ!!」
愛梨は唇を噛んで耐えた。叫びたいところだが、相手の顔が近い状態で悲鳴を上げるのは、負けたようで悔しい。
「へへへ、腋しょっぺぇ!」
「ああ。しかもすごい匂いだ!」
「なー。臭いってのとも違って……フェロモン臭? 嗅いでたらすげームラムラする」
男達は舌を這わせつつ興奮を口にする。それを聞かされる愛梨は顔を歪めた。
(気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い────!!)
過去経験がないほどのおぞましさ。全身をナメクジに這い廻られているようだ。しかも臭い。身が強張る。鳥肌が立つ。女としての本能が発狂寸前の悲鳴を上げている。
しかし。それとはまた別に、愛梨は昂ぶりはじめていた。
最も顕著なのは乳頭だ。そこを責める舌遣いは拙い。欲望のままにベロベロと舐め回しているだけだ。にもかかわらず、乳輪が盛り上がり、乳首が硬さを増していく。
腋舐めも無視できない。左腋を晒す形で責められているが、じっとりと汗の滲むそこを舐め上げられると、もれなく反応してしまう。腕に力が入り、腋が窪む。天を仰いで叫びたいほどに。
首筋も、足指も、太腿も、動かず受け続けるのは厳しい。しかも感度は次第に上がっていく。ざらついた舌で唾液を塗りこめられるたび、薄皮を一枚ずつ剥がされていくようだ。
(なにこれ……? どうなってるの、あたしの身体!? こんなキモオタに好き放題舐られてるのに、嫌で堪らないのに、おかしいぐらい感じてる……!!)
愛梨は混乱する。心底嫌なのに感じるのは道理に合わない。肉体に裏切られている気分だ。
そんな愛梨に、また一人の影が落ちる。
「だいぶ気分出てきたでしょ。そろそろオマンコも舐めさせてもらうね」
一人はそう告げると、太腿を舐める2人の間に割って入り、割れ目に口をつけた。うっすらと花開いた割れ目が舌でこじ開けられる。
「っっっ!!!」
かろうじて声は殺せた。しかし愛梨の表情は凍りつく。麻友に仕込んで以来、もう幾度となく経験しているクンニリングス。しかし、この感覚は未知だった。ナメクジに膣の中へ潜り込まれる感覚は。
他のメンバー同様、割れ目を舐める男も熱心だ。舌全体を使って割れ目を延々と舐め上げたかと思えば、頬まで密着させて深く舌を送り込む。そこからは舌先で膣襞を舐め回し、ひたすら舐め回し……。
「……ッ!!」
2分後、愛梨には一度目の限界が訪れた。膣への舐りに対して無反応を通せず、膝を暴れさせたのだ。その動きは全身に影響し、舐り役の全員に悟られた。
「ヒヒヒ、なに今の? もしかして感じちゃった? 俺ってクンニ上手い!?」
割れ目から覗く男の顔は、まさに鬼の首でも取ったようだ。
「……まさか。まるっきり下手糞よ」
「またまたー。ピンク色の脚がピクピクしてるんだけど」
「嘘じゃないわ。あたしのレズ友達のクンニを100点としたら、アンタのなんて30点がいいところよ!」
「ふーん。なのに感じるんだ?」
「下手なのに感じるわけないでしょ、気持ち悪いだけ! いいからさっさと終わらせてよ!!」
愛梨は憮然とした表情で目を閉じる。
嘘はない。麻友のテクニックに比べれば児戯に等しい。それで感じてしまうというのは道理に合わない。しかし、誤魔化すのにも限界があった。
「んっ、んんっ……ん、あっ……!!」
耐えようとしても身体が動く。声が漏れる。明らかに感じているその反応を、周り中に見られてしまう。
(見ないでよ────!)
注目を浴びるのが好きなはずだった。しかし今は視線がつらい。視線と興味が愛梨を狂わせる。
そこから愛梨は、徹底的に舐られた。
舐め役に協調性はない。各々が担当箇所を、異様な執念でもって舐り回しているだけだ。しかしながら、その責めにはシナプスが生まれていた。
例えば、腋と乳頭。左右から両腋を舐り回されれば、その快感は乳腺に沿う形で乳頭にまで響く。その状態で乳頭を噛まれでもすれば、ビリビリと強い痺れが起きる。逆に乳輪周りを舐られている間は横が無防備になるため、腋を舐られればむず痒さでのたうち回りたくなってしまう。
膣と足指のシナプスも凶悪だ。割れ目を舐められている内はまだいい。だが舌を送り込まれる段階になれば耐えきれず、足指が動いてしまう。そうしなければ快感を逃がせないからだ。しかし足指担当がいる以上、その動きは許されない。暴れる足を手で掴まれ、口に含んで舐めしゃぶられる。これが堪らなかった。逃げ場を失った快感は大元へと還り、膣襞を悩ましくうねらせる。そんな場所を舐め回されれば、いよいよ足指が開き……そこからは無限ループだ。
「ぷふっ。すげぇ、乳首ピンピンになってきた」
「腋も敏感になってるよー。見てこの窪みっぷり。鼻が丸ごと入りそう」
「足の指も暴れまくりだぜ。エビの踊り食いしてるみてぇ!」
「ほんとだ、必死に逃げてんじゃん。どっかがよっぽどキツいんだろうなー」
「な。どこなんだろ?」
「普通に考えてマンコでしょ。だってホラ……」
そんなやりとりの後、男達の視線が一ヶ所に集まる。愛梨の股に顔を埋めたまま、一心不乱に貪っている仲間の方だ。
愛梨もそこに意識を向けた。ぴちゃぴちゃと音がしている。舐められるたびに秘裂がわななき、蜜を吐くせいだ。変にざらついた舌でヤスリ掛けのように舐め続けられ、すっかり神経が過敏になってしまった。顔を密着させたまま乱暴に舐め上げるせいで、団子鼻が頻繁にクリトリスを弾くが、これもまた理外の快感だ。
秘裂のわななきが限界に達すれば、舌は中に入ってくる。生温かいナメクジが膣の中を這い回り、直に蜜を染み出させる。そうして溢れるほどになったところで、吸い上げるのだ。じゅるるるっ、ずぞぞぞっ、と凄まじい音を立てて。
「あ、あ、あ、あ……はっ! うあ、ああああぁっ……!!」
舌で舐められるたび、吸われるたび、声を漏らしてしまう。同時に乳首や腋、足指を責められているのも厄介だ。意識を散らされてますます耐えづらくなる。全身がガクガクと痙攣する。
「ふーっ、限界。そろそろ挿れるよ」
ひたすらに秘部を舐めていた男が、口を離した。濡れ光る口元を緩めたまま、慌ただしい手つきでゴムを着け、愛梨の太腿を掴む。
「待って……!」
愛梨は相手の腹を押した。いま挿入されてはまずいという直感からだ。しかし興奮したオスは止まらない。愛梨の制止など意に介さず、深々と腰を突き入れる。
「んゅぅっ!?」
妙な声が漏れた。同じく、挿入の感触も妙だ。摩擦感がない。水袋越しに異物を突っ込まれているようだ。あまりにも愛液の量が多いせいか。とはいえ、それも最初だけの話。挿入されてから数秒も立てば、愛梨の膣は男性器を迎える形に収縮する。愛液を肛門の方に押し出しながら、粘膜が触れ合うまで収縮していく。
「あはっ、締まってきた締まってきた! 中グチョグチョだし、ソファもびしょびしょだし、興奮してんだねー愛梨ちゃん! そういうの分かると、コッチも興奮しちゃうよねえ!!」
男は興奮して叫び、激しく腰を打ち付ける。ソファが軋み、パンパンと肉のぶつかる音がする。
「はぁっ、あっ、あっ、ああ……!!」
身体の自由を奪われたまま、理想とは程遠い男と交わらされる。状況的にはレイプに近い。にもかかわらず愛梨は、全身で快感を示してしまう。
「すげー、ガチで感じてる……」
「ヤバイよな、このルックスの娘が豚系キモオタに犯されるとか。犯罪臭半端ねえ」
外野からの客観評も、愛梨のざわつきを後押しする。他人の視線を気にする性質が、ここへ来て悪影響を与えている。
「ハァッ、ハァッ、ハァッ、ハァッ、ハァッ……!!」
ついに喘ぐ余裕すらなくなった。愛梨は目を見開き、早い呼吸を繰り返す。マラソンでさえ息の上がらない恵体が限界を迎えている。
そんな愛梨の顔を覗き込み、男達は生唾を呑み込んだ。うち一人が愛梨の顔を掴み、唇を奪ったのは、無意識に近い行動だろう。
「うむぅっ!?」
愛梨は目をさらに見開いて非難を示す。しかし自由は利かない。最悪なタイミングで気道を塞がれても、それを跳ねのける術がない。
「おほっ! もともと締まりいいけど、キスしてるともっと締まるねえ! キスハメで感じてんの? なんだかんだ言って、俺らの事彼氏だと思ってくれてんのかなあ。ま、こんだけヤッてんだもんねえ、もう彼氏みたいなもんだよねえ、愛梨ちゃあん!!」
挿入している男は愉快そうに叫ぶ。余裕のない中、しかし愛梨の耳はその言葉をしっかりと拾ってしまう。冗談ではないと叫びたいが、口は封じられている。少しでも舌を動かせば、その舌を相手の舌に絡めとられてしまう。生臭い唾液を口内に注がれながら。
(ああ臭い、気持ち悪い……!! 頭がくらくらする……最悪な気分だから? そうよね、そうに決まってる……)
思わず白目を剥きそうな状態で、愛梨は思考する。
最悪な状況だ。このような状況を受け入れるつもりはない。こんなものを肯定するのは女として下の下だ。優れた自分が間違ってもしていい行為ではない。頭ではそう思うが、口内を貪られると膣が締まる。愛液が溢れる。
「あああ凄い、締まる、うねるっ!! イキそうなんだね愛梨ちゃん? いいよ、俺ももう限界だから! 一緒にイこ、一緒にイこっ!!!」
挿入役は歓喜し、ラストスパートに入った。抱え込んだ愛梨の足を押し込み、腹を乗せるようにして深く突き込む。パンパンという肉のぶつかる軽快な音が、どちゅっ、どちゅっ、という重みのある音に変わる。肥満肉に埋もれた男のペニスはけして大きくない。太さはそれなりだが、長さはない。それでもその先端は、泣き喚くような愛梨の膣奥をピストンの度に叩き潰す。愛梨とて人間だ。その状況に長く耐えられるはずはない。
「んうむうあああああああーーーーーッ!!!」
最後の瞬間。愛梨は頭を振って口づけを振り切り、肺からの嬌声を響かせた。
声を限りに叫び、叫び…………愛梨は弛緩する。意識があるのかは本人にさえ分からない。少なくとも目の焦点は合っていない。雫を滴らせながらコンドームが抜き出されれば、すらりと長い脚が内に閉じる。その異様なまでの痙攣ぶりが、愛梨の絶頂の深さを物語っていた。
「相変わらずイキ声でけーな……今ので誰か来るかもしれんから、一応ドアの鍵チェックして」
「いつもデカいけど、今のは最高記録じゃない? 鼓膜バリバリってした」
「舐められて興奮したんかな。割と早い段階で乳首ピンピンだったし」
「それもあるだろうけど、トドメはキスじゃない?」
笑みを浮かべながらざわつく男達。その緩んだ顔とは裏腹に、彼らのオスの象徴は固くズボンを押し上げている。
(こんな状態で、アレを全部相手させられるの? 今日、歩いて帰れるかしら……)
愛梨は近い未来に寒気を覚えた。だが、それとは別にゾクゾクとする感覚もある。絶叫マシンでベルトを締める瞬間の、スリルへの期待──それが愛梨を包んでいた。
※
認めたくはない。しかし愛梨は、好みとかけ離れた人間との口づけで特に興奮するようだった。
「んんッ、むっ! ふぅんッ……ん、むっ……!!」
不精髭の部員と舌を絡めながら、性器を指で弄られる。愛梨はこれに3分と耐えられない。身を捩りながら涎を垂らし、ついには涙さえ流してしまう。屈辱の涙か、あるいは喜悦の涙か。
(脳がとろけそう……。なんで、こんな奴とのキスで……!!)
恋愛感情がないことはハッキリしている。今キスしている相手と、手を繋いでデートをしたいとは微塵も思わない。
「ホント、どうなってんだろうなー。普通に手マンしても全然濡れないのに、キスと絡めたとたん洪水とか」
「な。こないだの、論文やってる最中の電マで涼しい顔してたのはビビったわ」
「あーアレ。結局2時間ぐらい耐えきったんだっけ?」
「多分シチュだろうな。この子の好きシチュにハマらない限り、スンッ……って感じで無反応なんだと思うわ」
部員達は愛梨を眺めながら分析する。そしてその分析は正しい。温泉旅行の次に企画された、とあるコスプレイベントでの体験は、愛梨にとって忘れられないものとなった。
ディアンドルというドイツの伝統衣装を模したアニメコスチュームで着飾り、会場の客にビールを振舞う。ネタ元が人気の高い作品である上、コスプレイヤー自身もアイドル級の美少女だ。当然、客は大いに沸いた。
「うおおおっ、可愛いーーっ!!」
「すっげぇスタイル! 再現度完璧じゃん!!」
「やべえよ、お前見ろって! マジでエースブライトちゃんの三次元化!」
「え、プロの女優さん、とかじゃないっすよね……?」
異様なことに、愛梨が注目されはじめてから数分間、誰もカメラを向けない時間があった。洗練されすぎた美貌のために素人とは思えず、不用意に撮るとマネージャーやSPが飛んでくるのでは、と誰もが思ったからだ。
その心配がないと分かってからは、愛梨は場の中心となった。鼻の穴を膨らませたオタク系の男達から、写真を撮らせてほしいという声が殺到する。
それは本来、愛梨の望むところだ。自分の美貌を湛えられるのも、可愛さに注目されるのも。しかし、この日は懸念点があった。愛梨はこの日、ブラジャーを着けていない。さらに純白のシルクショーツの中には、同じく白い小型バイブが唸りを上げている。バイブのスイッチは、客としてテーブルに座るアニメ研究会メンバーの手の内だ。
(今更だけど、なんて格好よ……! ほんとに全年齢向けなの、これ!?)
いつも通りに背筋を伸ばしたまま、愛梨は胸中で毒づいた。コスチュームは扇情的だ。元キャラクターに倣い、胸元を大胆に露出し、スカート丈は腿半ばより少し上まで詰めている。上と下に爆弾を抱える愛梨にしてみれば、何かの拍子に見られはしないかと気が気ではない。
「すいません、こっちも一枚! 胸元強調する感じでお願いしまーす!」
「……ええ、いいわよ!」
愛梨はビールジョッキを掲げたまま腰に手を当て、胸元を突き出す。その動作だけでも、乳房が露出しないかと鼓動が早まる。だが本当に厄介なのは、ローアングラーと呼ばれる、地上スレスレからスカート内部の激写を狙う集団だ。
「!」
ローアングラーの気配を察知するたび、愛梨は鋭い視線を浴びせた。射抜くようなその眼光は相手を怯ませ、立ち去らせる。しかしそれも一時凌ぎでしかない。ふと気がつけば、また別の角度から別の人間がカメラを向けてくる。
とはいえ、被害者は他ならぬ眞喜志 愛梨だ。泣き寝入りするタイプではない。祭りの最中だろうとなんだろうと、度し難いことがあればハッキリと主張する。ローアングラーの一人に公然で制裁を加え、「今後一切スカート内の撮影は許さない」と定めることなど造作もない。
しかし、愛梨はそれをしなかった。スリルが興奮に繋がる事を直感したからだ。
「おねーちゃん、こっちにもビール!」
「ええ、今いくわ!」
テーブル客に呼ばれ、ジョッキを掴んだ瞬間、バイブの振動が強まった。
「!!」
ぞくっ、と快感が脊髄を駆け上る。最初のサインは冷ややかだが、その後は全身が熱くなる。俯く視界に、汗の浮く谷間が見える。
「おぅーい、早くしてくれい!」
客から催促を受け、愛梨は大きく息を吐く。人前で肩を落とした姿など見せられない。コンディションに問題があろうと、顎は水平をキープする。
「……さっすが」
スイッチを入れた一人がほくそ笑む。給仕役の誰より堂々と歩む愛梨に、よもやバイブが仕込まれていようとは誰も思うまい。彼はそう思いながら、再びバイブの強度を上げる。
「っ!!!」
愛梨の目が見開かれた。がくんと身体が揺れたのは、膝から崩れそうになったからか。しかし愛梨は機転が利く。足元を恨めしそうに一瞥することで小石に躓いたように演出し、その後は確かな足取りでテーブルまで辿り着いた。
ただ、客は何かを嗅ぎとったのだろうか。愛梨がビールを配っている最中、その尻を大きな手で揉みしだく。
「きゃっ!?」
愛梨は悲鳴を上げた。下半身が敏感になっているため、臀部への刺激でさえ洒落にならない。
「おーっと、悪い悪い!!」
口調とは裏腹に悪びれない客に、愛梨は鋭い視線を向けたが、すぐに笑顔を取り繕う。
「Unfug ist verboten.(イタズラは駄目ですよ?)」
発されたのは、流暢なドイツ語。扇情的なドイツ系キャラクターを自分が演じる以上、必ず使う機会はあると思い、前もって暗記しておいた言葉だ。コスプレ元のキャラクターが原作では言っていない、しかし如何にも言いそうなその物真似で、場には拍手喝采が湧き起こる。
蛮行に及んだ相手がばつの悪い顔になり、自身に惜しみない拍手が飛ぶ中、愛梨は確かな快感を感じていた。そしてそれは肉体の快感とも結びつく。
(…………垂れてきた…………)
完璧な笑顔の裏で、愛梨の膝は笑っていた。英雄視されつつある愛梨には無用の心配だろうが、もしも今ローアングラーに狙われていたならば、とろりと蜜の伝う太腿がはっきりと映り込んだだろう。
イベントのピークが過ぎた頃、愛梨はアニメ研究会の面々に呼び出された。休憩スペースがある建物裏の非常階段。時間的にほとんど人の来ない場所だ。
「さ、見せてよ愛梨たん!」
メンバーから煽られ、愛梨は頬を紅潮させたまま、むすりとした表情でスカートをたくし上げる。
「おおっ……!」
「すげー、膝らへんまでドロドロじゃん!」
「糸引いてるぜ。マン汁っつーか本気汁か、これ?」
歓声が上がるのも無理はない。純白のショーツは今や透き通り、桃色の陰唇とバイブの底をくっきりと浮かび上がらせている。魅惑的な太腿の内はぬらぬらと濡れひかり、愛液は股の間で糸を引いている。このイベントの間、愛梨がどれだけ興奮していたのかを如実に表す光景だ。
そうなるように仕向けた男達は、皆が満足げな顔をしていた。
「帰ったら、またタップリ可愛がってあげるからね」
その定番の台詞を口にした時、オタク男子達は捕食者の気分だったことだろう。彼らは浮かれるあまり忘れていた。『最強の肉食系女子』という愛梨の二つ名を。
「……“帰ったら”?」
男の言葉を反復し、愛梨はギロリと一同を睨み上げる。
「こんな状態で、帰るまで我慢しろっていうの? 冗談じゃないわ、ここでするわよ!」
「え、ええ、ここで!?」
「そんな、誰かに見られちゃうよ!」
「馬鹿ね、見えないようにアンタ達が壁を作ればいいでしょ。頭使いなさいよ!」
男達は渋るが、女王には逆らえない。非常階段の上で押し倒されながら、彼らは自分達が餌の側であることを思い出した。
「んふふふふ、くっさぁ……♡」
引きずり出した男根を嗅ぎ、愛梨は舌舐りをする。意識が飛びかねないほどの快感を確信しながら。
※
愛梨にとって、『オタサーの女王』としての生活はそれなりに刺激的だった。だが、どれほど強烈なスパイスの香りも次第に抜けていくように、刺激もだんだんと薄れていく。
「やべーよな、あの格好。誘ってんのかな」
「性格的にそうだろうな。つか実際、勃起が止まらん」
オタク男子達は、今日も愛梨を横目に囁き合う。胸元や腋が露出するタンクトップに、ふとした瞬間には履いていないのではないかと思えるほどの超ミニのローライズ。女に免疫がない人間にとっては目の毒な格好だ。
「……エッチ? 昨夜あんなにしたのに、また? まあいいわ。好きにしたら」
セックスに誘えば、まず拒否はされない。
「おーし、今日こそイカせてやる!!」
「ひひひひっ、足が立たなくなるまで感じさせちゃうよー?」
男達は美少女を好きにできる至福に酔いしれながら、嬉々として愛梨を抱く。その熱量とは打って変わって、愛梨は冷めきっていた。
(こいつらとするのも、マンネリになってきたわね……)
いつもの面子との、いつもの行為。日常となったセックスでは燃えない。燃えなければ濡れもせず、絶頂など夢のまた夢だ。
「愛梨ちゃん、今日はまた一段といい匂いだね。シャンプー変えた?」
「んー……」
抱きすくめるような背面座位で突かれながらも、愛梨の目は手元のスマートフォンだけに注がれている。
探し求めるのは、より刺激的なセックス。『ハード』『ハメ潮』『絶叫』……様々なワードを絡め、世の女性の告白を読み漁っていく。そんな中、ふと愛梨の指が止まった。開かれているのは、あるアブノーマルな秘密倶楽部のページだ。
(……ふーん、面白そうじゃない)
久方ぶりに胸が高鳴り、愛梨はニヤリとほくそ笑んだ。