※レズ責めオンリーの短編です。
【S女ゲーム】
自称Sの女を2人用意します。
初週はサド女Aを女王役、サド女Bを奴隷役とし、一週間調教させます。
2週間目は役割を逆転させ、サド女Bにサド女Aを調教させます。
これを週替わりで繰り返し、最後までSだと主張できた方の勝ちとなります。
世の中には様々な賭け事が存在するが、いま好事家の間で流行しているのは『S女ゲーム』と呼ばれるものだ。
ゲームの内容は単純。Sを自称する女を2人用意し、サド女Aを女王役、サド女Bを奴隷役とし、丸1週間調教させる。2週目はその役割を逆転させ、サド女Bにサド女Aを調教させる。これを週替わりで繰り返し、最後まで「自分はSだ」と主張できた方の勝ちとなる。客は女が女を貶める地獄を愉しみながら、どちらが勝つかを賭けるわけだ。
『S女ゲーム』専用に作られた施設では、時として陰湿に、時として凄惨に、何十という名勝負が繰り広げられてきた。真のSを自負する気の強い女が、同性に自尊心を削られ、屈辱に歯噛みし、疲弊し、ついには涙ながらに許しを請う。そのカタルシスは好事家を大いに喜ばせた。
今回行われる一戦は特に注目度が高い。対戦する女二人が、いずれも『女王』の異名を持つためだ。
倉橋 怜奈(くらはし れいな)、28歳。華の女子アナ界の頂点に君臨した女。美貌、知性、声質、アナウンス力──全てにおいて抜きんでた実力を持ち、女帝と噂されていた。しかし高慢な性格のせいで周囲の恨みを買い、小さなスキャンダルをきっかけとして業界を追放された。
弘中 由美(ひろなか ゆみ)、19歳。実に小学生の頃から男を翻弄してきた、通称“パパ活の女王”。気のある素振りを見せて貢がせるだけ貢がせては捨てることを繰り返してきた結果、何人もの男から恨みを買っている。
彼女達の共通点は2つ。自身の性格が問題で周囲の恨みを買っている点と、抜群にルックスが良い点だ。次戦の対戦者として2人の情報が公開された途端、客の間にどよめきが走った。何人もの女の痴態を見届け、肥えに肥えた彼らの目をもってしても、怜奈と由美の美貌はレベルが違ったからだ。
怜奈は身長173cm、体重65kg、スリーサイズは102 - 61 - 90というトップモデル級のスタイルを誇る。容姿も女帝の二つ名に相応しい正統派な美人だ。肌は初雪のように白く、シミやくすみは全身どこを探しても見当たらない。柔らかな曲線を描く斜め前髪と、長く伸ばした自然なストレートヘアは、育ちの良さと清潔感を感じさせ、万人受けが求められる女子アナの模範ともいえる。
由美は身長160cm、体重54kg、スリーサイズは86 - 57 - 86。怜奈に比べれば小柄ではあるものの、7.5頭身を誇る肉付きのいい肉体は並ならぬものだ。顔立ちの良さも相まって、少々露出の多い格好をすれば、どんな繁華街だろうと人一倍の目を惹いた。髪はオレンジベージュのセミショートで、今風の軽やかな愛らしさがある。
共に逸材であることは間違いない。しかしゲームの勝敗予想は、圧倒的に怜奈が優勢だった。由美のオッズは実に5.0倍。原因は知名度の差だろう。お茶の間に愛嬌を振りまく中でも、節々に感じ取れた我の強さ。それは彼女が業界から干された原因であると同時に、『S女ゲーム』で勝ち残れる強い根拠でもある。ただし、予想はあくまでも予想。それが覆されたことは一度や二度ではない。極限状態へ追い込まれた時にどうなるのかは、追い込まれてみなければ解らないのだから。
怜奈と由美は、引き合わされるなり火花を散らした。
「呆れるわ。日本人の誇りである黒髪を、わざわざ排泄物みたいな色に染めるなんて。“パパ活の女王”だか何だか知らないけれど、知性も品性もないのね、おまえ」
腕を組んで尊大に見下ろす怜奈。
「はっ。こっちこそ、そんな地味な色で平気な神経がわかんないよ。平安時代ぐらいに帰れば、オバサン?」
アーモンドアイを見開いて睨み上げる由美。
狼と猫が毛を逆立てて睨み合うような光景に、観客席は沸きに沸く。そんな中、2人の間に黒服のスタッフが立ち、ゲームのルールの説明しはじめた。
【週替わりで女王役と奴隷役を繰り返し、最後までSだと主張できた方の勝ちとなる】
【四肢欠損や目潰し・刺青など、肉体の美観を過度に損なう責めは禁止とする】
スタッフがそう説明する間も、2人は視線を逸らさない。しかし、
【奴隷役に口答えや反抗は許されない】
この一文が読み上げられると、微かに眉が顰められた。
『自分以外の強者など認めない。他人に服従するなど度し難い』
オーラでそう語る怜奈と由美の姿に、モニター前の客は生唾を呑む。この戦いが白熱したものになることを、皆が確信した瞬間だった。
※ ※
くじ引きの結果、初週の女王役は怜奈となった。彼女が女王として最初に行ったのは、由美と向かい合ってテーブルに座り、焼き魚を持ってこさせることだ。
「さて。これからおまえと私、どちらが本当のSなのかを競うわけだけど……Sを名乗る人間に必要なのは、品格だと思うわ。主人を気取りながらも品性下劣では、滑稽でしかないもの。違うかしら?」
怜奈はアナウンサー特有の理想的な笑みで問いかける。その姿は気品に満ちていた。品格という土俵において、この怜奈に勝る女性などそうはいないだろう。
「…………仰る通りです」
不利な状況を悟りつつも、由美は肯定するしかない。【奴隷役に口応えや反抗は許されない】──先ほどそのルールを知らされたばかりだ。
「そうよね。だったら、まずはチェックしましょう。日本人女性として誇れる品格が、お互いに備わっているのかを」
怜奈のその言葉を待っていたように、テーブルに2食分の料理が配膳される。白米、漬物、味噌汁、アジの開き。典型的な和食だ。
「えっ!」
由美がぎくりと目を開く。献立を見た瞬間、怜奈の意図が読めた。日本食のマナーを試されているらしい。特に厄介なのがアジの開きだ。アジは骨と身が剥がれにくい部分も多く、箸だけで綺麗に食すには相応の技量が求められる。
「美味しそうでしょう? 奴隷には過ぎた食事だけれど、遠慮なく食べて構わないわ」
怜奈は目を細めて由美に笑いかける。自分の優位を確信している様子だ。
「……はい。お恵みをありがとうございます」
由美は表情を強張らせたまま、箸を手に取る。
「…………っ!」
由美は、針の筵の心地だった。怜奈の作法は完璧だ。汁物の飲み方にしても、焼き魚の食べ方にしても、優雅そのもの。逆に由美はひどいものだ。迷い箸、洗い箸、ねぶり箸……箸の使い方ひとつでも様々なタブーを犯し、それを悉く怜奈に指摘される。特に差が顕著なのは、アジの開きの状態だった。綺麗に骨だけを剥がして完食しつつある怜奈に比べ、由美は食い散らかしたという風だ。
「おまえ、高校も出てる歳でしょう。だったらもう立派な大人よ。それなのに魚ひとつ綺麗に食べられないなんて、呆れて物も言えないわ。おまえなんかと同じ土俵で戦うのが馬鹿らしくなってきたのだけど……私の感覚は変かしら?」
「……申し訳ありません。マナーを学び直します……」
反論の余地もなく肩を震わせる由美。それを見て怜奈はわざとらしく溜息をつく。事情を知らない人間が見ても、どちらが女王でどちらが奴隷か、一目でわかってしまうだろう。
静かながら、あまりにも痛烈な洗礼だった。
食事の終わった怜奈は、プレイルームのソファに深々と腰掛けて脚を組む。
「奴隷の分際で、いつまで偉そうに服を着ているつもり? 脱ぎなさい」
冷ややかな視線でそう命じる様は、まさしく女王さながらだ。
「……!」
由美は右腕をぎゅっと掴み、奥歯を軋ませる。しかし奴隷役である以上、女王の命に粛々と従うしかない。
「わ……わかり、ました……」
諦めたように目を閉じ、深呼吸してから、シャツをたくし上げる。一枚また一枚と衣服が床に落ちるたび、怜奈よりいくぶん日焼けした、しかし瑞々しい肌が露わになる。
「ふうん。確かに男好きのしそうなカラダねぇ」
丸裸となった由美を見て、怜奈が冷ややかな笑みを浮かべる。嫌味であることは子供ですら感じ取れるだろう。当然、由美も頬を引き攣らせる。そんな由美の反応を視界に捉えつつ、怜奈はまた口を開く。
「それじゃあ次は、そこでオナニーでもしてもらおうかしら」
「ッッ!!」
声にならない声が由美から漏れる。くりりとした吊り目が見開かれ、今にも掴みかからんばかりに怜奈を捉える。しかし、その怒りも結局は呑み下すしかない。怜奈は芸能界に復帰するため、由美は諸々のトラブルを解消するため、『S女ゲーム』での勝利を義務付けられているからだ。
「売春婦の癖に、なにカマトトぶってるの? もっと脚を開きなさいよ!」
脚を肩幅に開いた由美に、怜奈は容赦なく罵声を浴びせた。
「もっと、もっとよ。中途半端はやめなさい、このグズ!」
要求はエスカレートし、ついにはがに股での自慰に至った時、モニター前の観客からは歓声が上がった。7.5頭身のスタイルを誇る美少女のあられもない姿が、男の欲求を強く満たしたのだ。
しかし当然ながら、由美の時間でしかない。正面の怜奈を睨みながら、恥じらいの部分をひたすら指で刺激する。
「本当に覚えが悪い奴隷ねぇ。カマトトぶるなって言ったでしょう? もっと気を入れて慰めるのよ。脂ぎった“パパ”の姿でも思い浮かべながらね!」
怜奈は蔑むように笑いながら命令を下す。由美はまた歯軋りの音をさせ、右手の指をより深く挿入し、左手で乳首を捏ねまわす。
「はぁ、はぁ……はぁ……はぁ……っ」
由美の息が上がりはじめ、煌めく愛液が床へと滴っていく。にちゅにちゅ、ぐちゅぐちゅという攪拌の音がはっきりとマイクに拾われるようになり、やがては菱形を作る美脚がガクガクと震えはじめる。
「勝手にやめるんじゃないわよ」
由美の限界を目前で見て取りながらも、怜奈は休むことを許さない。滴る愛液で由美の足元に水溜まりができても、太腿が痙攣を起こしても、何度も膝が崩れそうになるのを見ても、怜奈の可笑しそうな笑みが消えることはなかった。
「……飽きたわ。手をどけなさい」
怜奈がそう言い放った瞬間、由美は安堵を表情を浮かべた。実に1時間半近くも中腰の姿勢を続け、限界が来ていたからだ。
しかし、怜奈が口にしたのは赦しではなかった。彼女は立ち上がるやいなや、指の抜かれた由美の秘部を爪先で蹴り上げる。
「あぐっ!?」
予想外の展開に、由美は呻きながら崩れ落ちる。男に対する睾丸蹴りほどではないにせよ、脂肪や筋肉に守られていない股間への蹴り込みはダメージが大きい。
「ぐ、ぅう……!!」
由美は蹲ったまま股間を抑え、恨めしそうに怜奈を睨み上げる。しかし怜奈は、その視線をむしろ愉快そうに受け止めた。
「ちょっと、私も歩く床なのよ、爛れたヴァギナを密着させないでちょうだい。汚らわしい! 大体、誰が蹲ってもいいと言ったの? 早く立ちなさい!」
吐き捨てるように告げ、由美が膝を震わせながら立ち上がるのを待ち受ける。そうして股座がちょうどいい打点に来たところで、再び爪先を叩き込む。パアアンッと音が響き渡るほどの、一切加減のない蹴りだ。
「ふぐぅうっ!!」
由美は顔を歪ませて呻く。しかし、赦しがなければ崩れ落ちることもできない。頭の後ろで手を組んで姿勢を安定させ、足指で床を噛んで『備える』しかない。
「あははははっ、思ったより面白いわ! 股関節に支えられてるからかしら、結構弾力があるのね!」
怜奈はケラケラと笑いながら蹴り込みつづける。足の甲が股座に吸い込まれるたび、由美の腹部が波打ち、Fカップの乳房が上下に弾んで、観客を大いに喜ばせる。
そして、8度目の蹴りが叩き込まれた瞬間。
「……ゥあ゛ッ!!」
悲痛な呻きと共に、由美の上体が崩れた。それとほぼ同時に、内股に閉じた脚の間から、チョロチョロとせせらぎが漏れていく。失禁だ。
「ちょっと、何を考えてるの!?」
悲劇を引き起こした張本人は、心底嫌そうに眉を顰める。そして力なく崩れ落ちていく由美を見下ろしながら、ぼそりと言葉を投げかけた。内容はマイクには拾われていない。しかし、一度怜奈を睨み上げた由美が悔しそうに這いつくばり、床に舌を這わせはじめたことから、客の全員が理解した。
────女の責めってやつは、男より残酷だな。
そんな声が調教フロアに響く。モニター越しに醜い争いを見守っている賭け客の呟きだ。
残酷という表現通り、怜奈は小便の広がる床に仰向けで由美を寝かせ、フィストファックを仕掛けている。
「……ッ!! …………ッッ!!!」
意地の為せる業か。ゴム手袋に包まれた手首を丸々性器に捻じ込まれてもなお、由美は悲鳴を上げなかった。しかし異様な形に強張った太腿や、バタバタと暴れる足先は、ともすれば絶叫以上に生々しく痛みを訴える。
「うふふ。解る? 今、おまえの子宮に触ってるわよ。どうしたの、痛いの? だったら言ってしまいなさい。『私はSなんかじゃありません。ただの勘違いした子供でした』って」
苦しみ悶える由美を前に、怜奈は至福の笑みを浮かべながら腕を動かしつづける。前後に、上下に。手首の様子からして、膣の中で手を握ったり開いたりしているのも間違いない。
「ほぉら、いい加減意地を張るのはやめなさい。ココが二度と使い物にならなくなってもいいの?」
怜奈の残虐性は人並み以上だ。何度となく問いかけながら、実に数時間に渡って由美の性器を蹂躙し続ける。由美は呻くのみで悲鳴を上げないが、やはり消耗は大きかった。
「ィ、息が……でぎな゛……っ」
そう呻いてから十分と経たず、彼女は意識を失う。歯茎が半分覗くほど歯を噛み合わせ、唇の右端から泡まみれの唾液を伝わせる、壮絶な有り様で。
「あら、もうバテたの? っふふ、酷い顔」
由美から力強さが失われ、反射で膝下が動くだけになった頃、怜奈は顔を上げてカメラの位置を確認した。そして手首を引き抜き、ぐっぱりと開ききった由美の秘裂と、ぬらぬらと液の纏わりついた手袋、そして由美の顔をまとめてカメラに映し込む。
「いい加減私も疲れたし、今日はここまでね。では、ごきげんよう」
怜奈がアナウンサー時代を彷彿させる笑みを浮かべると、客席から拍手が巻き起こった。
女王役と奴隷役。その待遇の差は、夜を過ごす場所にも表れる。
女王役の休憩場所は豪華絢爛そのものだ。上質なソファやベッド、シャンデリアといった家具が並び、ワインセラーまで備わっている。そこで一夜を過ごせば、王侯貴族にでもなったような気分に浸れることだろう。
逆に奴隷役の休憩場所は地下牢同然だ。ドアが閉まれば光は一切差し込まず、完全な暗闇と化す。刻一刻と空気が澱んでいく中、蟲やネズミの気配に怯えながら一夜を過ごせば、惨めな立場を嫌でも噛み締めることになる。
そして客の楽しみは、その暗室に閉じ込められた奴隷の様子を赤外線カメラで眺めることだった。プレイルームでは対戦相手や監視カメラの存在で気を張っている奴隷も、暗室の中では素を曝け出すことが多い。すすり泣く者、母親や恋人の名を呟く者、恐慌状態に陥る者……。自称S女の凛とした顔写真と、そうした醜態を見比べれば、酒が格段に美味くなると評判だ。
由美もまた、当然ながら暗視カメラ越しに視姦された。ただし彼女は気丈な部類だ。気絶から目覚めた後、周囲を見回しながら状況を把握すると、まだまだ地獄が続く現実にうんざりとした表情になる。そして膣の締まりを少しでも戻すためか、両脚をぴっちりと閉じ合わせたまま、両腕で顔を覆った。
「くそっ! あの女……あの、女ぁッ……!!」
激しい凌辱を受けながらも、心はまだまだ折れていない。そのタフさに客の多くが意外そうな顔をする。オッズ比に反して、案外やるかも……そんな声の聞こえる夜だった。
しかし、勝負の行方はまだ解らない。何度となく繰り返される1週間の、最初の1日を凌いだだけでは。
※ ※
「舐めなさい」
2日目の朝。怜奈はソファに腰掛けたまま、脚を開いてそう命じた。
「…………わかりました」
由美は意を決して怜奈の秘部に口をつける。しかし、同性の性器を口に含むのはハードルが高いものだ。ましてやそれが憎々しい相手となれば、どうしても嫌悪感が先に立つ。
「む゛っ、う゛! うぶっ!!」
「なに? 私のアソコを舐めるのがそんなに嫌だって言うの? 卑しい奴隷の癖に」
由美が噎せるのを見逃さず、怜奈が嘲りの言葉を吐いた。
「……い、いえ……」
「だったら、もう少し美味しそうに舐めなさいよ。それから感謝の言葉もね」
「…………あ、あそこを舐めさせていただけて、う、嬉しいです……」
「ふん、なによそれ。『嬉しゅうございます』でしょう。敬語もまともに使えないの? まあいいわ、奉仕を続けなさい。丁寧にね」
皮肉を混ぜて由美の心を掻き乱しつつ、ソファに深く身を沈める怜奈。由美はその足元で唇を噛み締め、大きく舌を出して上から下に秘裂を舐め上げる。
「あら、上手いじゃない。そうよ、その調子。私を満足させられたら、ウォシュレット代わりに飼ってあげてもいいわ。この私の大事な部分を清められるんだもの、おまえには身に余る光栄でしょう?」
怜奈の皮肉は留まるところを知らない。そのあまりに自然な女王ぶりに、客の間で含み笑いが漏れる。しかし当然、奴隷役からすれば憎さ極まるというものだ。
「れろっ、あえろっ……。んふーっ、ふーっ、ふーっ……!」
由美の息が荒くなっていく。少し舐めては鼻で息を整え、また少し舐めては息を整える。おそらくは吐き気を堪えるために。
「鼻息を抑えなさい。不愉快よ」
怜奈がまたも横柄に告げた、その直後。
「う゛っ!」
由美は小さく呻いて顔を離し、下を向いた。床にびちゃっと音が立つ。
「……おまえ、何をしてるの? この私のアソコを舐め清めるのが嫌だとでも言うつもり?」
怜奈が尊大に叱りつけると、由美が顔を上げた。
「ハアッ、ハアッ、ハアッ……!!」
口から涎の糸を垂らし、目に涙を溜めたまま怜奈を睨み上げる由美。流石に我慢の限界らしく、その瞳は敵意を隠せていない。そしてそれは、怜奈の期待する反応に違いなかった。
「生意気な眼ね。おまえみたいな理解の悪い奴隷には、お仕置きが必要だわ」
怜奈は冷ややかにそう言い放ち、由美の髪を掴んで場所を変える。
向かう先はSM専用のプレイルーム。床は汚れることを想定したタイル張りで、磔台や三角木馬といった道具も備えてある24畳の広間だ。
怜奈はそこで、由美に見せつけながら“仕置き”の準備を進めた。金盥にぬるま湯を張り、グリセリン溶液を溶かし、500ml容量の浣腸器で吸い上げる。
そう、“仕置き”は浣腸だ。簡便なイチジク浣腸が用意してあるにもかかわらず、あえて浣腸器とグリセリン液を用いるのは、由美に心理的なプレッシャーを与えるためだろう。事実、由美は表情を凍りつかせている。
「さあ、いくわよ」
尻を掲げさせた由美の肛門へ浣腸器を宛がい、ゆっくりと液を注ぎ込む。
「くっ」
我慢強い由美も、腸に液体が注ぎ込まれる違和感には声を殺しきれない。そんな由美の有様は、見守る観客を大いに興奮させた。なまじスタイルが抜群なだけに、這う格好で浣腸されるという背徳感が際立っている。辛抱堪らぬとばかりにズボンを下ろし、給仕を呼びつけて口を使いはじめる者もいた。そして面白そうにするのは、怜奈とて同じことだ。
「ほぉら、どんどんと入っていくわよ。お前のクソの穴に」
囁くようにそう言いながら、引き抜いた浣腸器に薬液を充填し、再び注ぎ込む。何度も、何度も。
「く、ううっ……!」
「ふふ、苦しい? そうねぇ、お腹が膨れてきたものねぇ」
他人事口調で語りかけながら、由美の下腹部を押さえつける怜奈。
「やっ、触んないで……!」
「触らないでください、でしょう?」
「くっ……さ、さわらないで、ください……ッ!!」
敵意に塗れた会話が交わされる間にも、由美の腹部からはゴロゴロと不穏な音が響いている。早くも浣腸液の効果が出始めたらしい。
「ふ、ぐっ……! んっ、んんんっ……!」
「ふふふ、すごい脂汗ね。出したいの?」
「はっ、はっ……はい……」
「だったら、言うことがあるわよね? 『私はSなんかじゃありません。浣腸されてヒイヒイ善がるだけのメス豚です』……そんなところかしら」
「……ッ!!」
言えるわけがない。怜奈もそう理解しているだろう。あくまで無理難題を吹っ掛け、由美を苦しめたいだけだ。
「そう、言わないの。もう少し入れないと、素直になれないかしら」
怜奈は浣腸液を拾い上げ、金盥のグリセリン液を吸い上げる。それを察した由美が、青ざめた顔で振り返った。
「や、やめて! ……くださいっ!!」
必死に叫ぶも、由美が嫌がることを怜奈が止めるはずもない。シリンダーの容量いっぱいに満たされた薬液が、キューッと音を立てて注ぎ込まれていく。
「ふふふ、そろそろ腸の限界みたいね。ピストンがなかなか動かないわ」
「くっ、う……!! も、もぉ、むりぃ゛……っ!!」
「だったら認めなさい、S女じゃないと」
「う、うぐううっ……!!」
ぐぎゅるるるるる、と腹の音が鳴り、由美の腰がガクガクと痙攣しはじめる。
「ほら。我慢するならするで、お尻の穴を閉じてなさい。少し漏れてきてるわよ」
怜奈は由美の苦しみぶりを嘲笑いながら、親指と人差し指で肛門を押し開く。そして、それが決定打となった。
「あ、ぁ、やだっ!! あああ゛あ゛だめへぇえええっ!!」
喉に絡んだような叫び声と共に、勢いよく汚液が噴き出す。無理が祟って、排泄の音は濁りきっている。ぶりゅ、ぶりゅぶりゅというあられもない音が、立て続けに部屋の壁に反響する。
「ああ、臭い臭い! 何を食べたらこんな匂いになるのかしら。まあ、どうせジャンクフードばかり食べてるんでしょうけど」
怜奈はわざとらしく鼻を摘みながら立ち上がり、由美に謗りを投げかける。
由美は顔を伏せていた。その影の中に、光る雫がぽたぽたと滴っていた。強制排泄という汚辱は、少女の心を深く抉ったらしい。怜奈の狙い通りに。
※ ※
「美味しい?」
3日目の昼。怜奈の呼びかけで、食器の『エサ』を犬食いしていた由美が顔を上げる。その美貌は下半分が異様に艶光り、客と怜奈の笑いを誘った。
「は、はい……」
「大トロみたいな味がするらしいけど、本当?」
「た、多分。でも、これって一体?」
恐る恐る訊ねる由美に、怜奈はにっこりと笑みを向けた。だがその笑みが、由美の不安を掻き立てる。怜奈の笑みは不利益の前兆だ。
「バラムツっていう深海魚よ」
「バラムツ……?」
「ええ。濃厚な味で美味しいんだけど、その油脂成分はほとんどが「蝋」らしいの」
「ろ、蝋!?」
「ええ、そうよ。だから食べてから少し時間が経つと、消化されなかった油脂が肛門からそのまま漏れ出すらしいの。その噂が本当なのか知りたくて、ここのスタッフに用意させたのよ」
「なっ……! 実験したの、あたしの体で!?」
「そうよ。私の知識欲を満たす助けができたんだから、感謝なさい」
さらりと言い放つ怜奈に、由美が目尻を吊り上げる。しかし、その怒りは長く続かない。それどころではなくなったからだ。
「あっ!?」
由美がいきなり悲鳴を上げ、後ろを振り返る。それを見て怜奈も由美の後ろに回った。
「あら、お尻がテカテカしてるわ。もう脂がでてきたみたいね」
「え、う、嘘っ! だって、何か出そうな感じは全然……!」
「バラムツの脂が出る時って、便意は一切なくて、そのまま垂れ流しになるそうよ。それも本当のようね。まああまり撒き散らされても困るから、栓をしてあげるわ」
怜奈は可笑しそうに笑いながら、棚のゴムパンツを拾い上げて装着する。女が女を責めるための、ディルドー付きの下着……ペニスバンドだ。
「な、なにそれ……!」
振り返った由美の顔から血の気が引く。無理もない。ディルドーは白人並みのサイズを誇り、棘状の凹凸が幹の部分をびっしりと覆ってさえいる。アナルセックス中級者ですら、受け入れるには下準備を必要とする代物。怜奈がそれを装着した時点で、ハードプレイを見慣れた客達がざわめき立ったほどだ。
もっとも、そのざわめきは期待の顕れかもしれない。同じプレイでも、される人間の質によってインパクトの強さは変わる。
「やめて!!」
悲痛な叫びも虚しく、拷問具のようなディルドーが桜色の肛門を割りひらく。未熟なアナルには大きすぎる直径。様々な箇所に引っかかる山型の突起。挿入困難な条件が揃っている筈なのに、有り得ないほどスムーズに滑り込んでしまう。腸内がバラムツのワックスで塗装されているせいだ。
「くあああああっ!!!!」
ミチミチと肛門を押し広げる圧迫感に、さしもの由美も悲鳴を殺せない。
「ほぅら、どう? 気持ちいいでしょう?」
怜奈は酷薄な笑みを浮かべながら、リズミカルに腰を前後させる。腰を引く時には、ピンク色の菊輪が追いすがるように盛り上がる。
「ッ! フーッ、フーッ……!!」
由美は歯を食いしばって耐えていた。しかしそれもギリギリだ。ディルドーが太すぎて括約筋が引き攣り、骨盤が軋む。抜かれる時は腸を丸ごと引きずりだされるようだ。それをスムーズに繰り返されれば、苦痛と恐怖で頭が塗りつぶされてしまう。
「まったく、ありがとうが言えない奴隷ねぇ」
怜奈は由美の強情さを鼻で笑うと、その右手を掴んで身を起こさせた。這う格好から、上体を起こす体位に。
「ひっ、ぐ!」
立ちバックで突き入れられた瞬間、由美からついに声が漏れる。手は縋るように正面の壁を掴み、めいっぱいに強張る。
「脂がどんどん漏れてるわよ、締まりの悪いお尻ね。まあ、オツムも緩いんだからしょうがないのかしら」
怜奈はそう囁きつつ、腰を打ち付けるペースを速めていく。パンパンという肉のぶつかる音は、極太が根元まで入り込んでいる証拠だ。
「あ、だ、だめぇっ! そんな、激しっ……んぎぃいいいっ!!」
伸びやかな由美の脚がガクガクと痙攣しはじめた。結合部から滴り落ちる脂が、床の上に白く広がっていく。
「バラムツの脂って本当にさらさらとしてるのね。潤滑油としては最高なんじゃないかしら」
怜奈はあえて呑気な事を口にしつつ、尻を鷲掴みにして腰を打ち付ける。
「あぐっ! こ、壊れるうっ!! いや、いやああっ!!」
片や由美は半狂乱だ。肛門の痛みやヒリつきはいよいよ酷く、抜き差しのたびに脂が漏れていく。読者モデルの友人をして理想的といわれた脚は、今やすっかり脂でコーティングされてしまっている。まさに恥辱の極みだ。
「このアナルセックスの感覚をよーく覚えるのよ。おまえみたいに浅ましい女なら、きっとハマれるわ」
怜奈は言葉責めを交えつつラストスパートに入った。パンパンパンパンと肉のぶつかる音が立て続けに響く。
「いひぎぃいっ、んううあああっ!! ああ、あっ、わあああああーーーっ!!」
苦しげな悲鳴が、最後を告げる合図だった。肛門から脂が流れ出し、内股になった脚が崩れ落ちる。
「アハハハッ! なぁに、もしかして絶頂したの? お尻を掘られて、脂をブリブリひり出しながら!? 傑作じゃない。お客さんにも見てもらいなさいよ、そのだらしない顔を!」
怜奈は可笑しそうに笑いつつ、由美の前髪を掴み上げてカメラの方を向かせた。
「う、あ……ああ……」
由美は心身共に疲弊していた。モニターの向こうで何十人という人間に見られているのだと知りながら、表情筋を引き締めることすらできないほどに。
※ ※
怜奈の責めは、陰湿なプレイを見慣れた客さえ満足するほどに意地が悪い。
4日目は、終日浣腸責めが繰り返された。
酢とタバスコを混ぜた溶液を注入し、脂汗を垂らして苦悶する姿を嘲笑う。逆さ吊りで拘束したまま、腹が膨らむほど高圧浣腸を施し、カメラの前で排泄させもした。真上に噴き出した汚物は容赦なく由美自身の肉体に降り注いだが、由美はそんな状況でも、涙ながらに感謝の言葉を口にさせられた。
前後の穴の拡張も執拗に行われた。脚をVの字に開く形で拘束し、手首もその足首に結わえつける。そうして自由を奪った上で、ワゴンからおぞましい形状の拡張器具を手にとっては、見せつけながら使用する。
「くっ……お、お願いします……!!」
心の底から悔しそうに由美が告げると、メイスを想起させる責め具にたっぷりとローションが垂らしかけられ、肛門へと押し当てられる。そして由美がゴクリと喉を鳴らした直後、責め具の先はメリメリと中に押し入っていく。
「ふッぐううううッッ!!!」
経験に比して、あまりに無理のあるサイズの異物。それを力任せに捻じ込まれれば、とても涼しい顔ではいられない。由美の顔には皺が寄り、足首は拘束する鎖を鳴らし、膝裏は深く溝を刻む。
その苦しみぶりを視界に捉えながらも、怜奈が情けをかけることは一切なかった。責め具の柄を強く握りしめたまま、奥の奥まで押し込み、引きずり出し、また押し込む。その過程で由美が涙を流したり、失禁したり、あるいは引き抜いた責め具に汚物が付着していたならば、それを鬼の首でも取ったように詰り倒す。
責め続けて肛門での反応が悪くなれば、前の穴が標的になった。締まりを戻そうとする由美の努力を嘲笑うように、膣に握り拳を捩り込む。
いかに相手の心を折るかという勝負をしているのだ。情けをかけないのは当然だ。実際に怜奈は、由美が弱ったと見れば服従を迫り、決着をつけようとしている。だが悪女のような笑みを浮かべるその姿は、責め嬲ることを愉しんでいるようにも見えた。
ただ、勝負を見守る観客からすればどちらでも構わない。大事なのは、女が女を貶める地獄がそこにあることだ。由美の愛くるしい相貌が歪むたび、呻きが上がるたび、Vの字に開いた脚が強張るたび、都度歓声が上がった。
──脚がスラーッと長ぇと、拘束が絵になるもんだな!
──ああ、たまんねぇよ。だんだんレイプされてるように見えてきたぜ。
──確かにな。だとするとアナルレイプだぜ? あんな可愛いのがよぉ。
興奮で上ずった声がスピーカーから漏れ、由美の顔を歪ませる。そしてそれは、7日目の深夜……怜奈の女王役が終わるまで続いた。
由美は耐えきったのだ。浣腸責めと拡張を繰り返され、何度となく涙を流し、気絶と覚醒を繰り返しながらも、服従せよという圧力にはついに屈しなかった。
「改めて確認します。弘中 由美さん……貴女は、ご自身が『Sである』と思いますか?」
黒服のスタッフが、由美にマイクを向ける。
由美は無惨な姿だった。皮脂まみれの髪はライオンの鬣のように乱れ、肌は随所が灰色に薄汚れている。頬は平手打ちで赤く腫れあがり、左右の乳首にはクリップの食い込んだ跡がありありと残り、両脚には乾いた排泄物がこびりついている。閉じきらない二穴からは、歩くたびに体液が滴り落ちる。
どれだけ容赦なく責められたのかが、その様子だけで見て取れた。それでも由美は、真っ直ぐにカメラを見据える。
「あたしは、『S』よ!」
はっきりとその宣言がなされた瞬間、睨みつけていた怜奈が目元をひくつかせる。この瞬間、彼女の未来が決まったのだ。1日の休憩を挟んだ後、対戦者2人の運命は逆転する。由美が『女王役』、そして怜奈が『奴隷役』。女王役として苛烈に責めていればいるほど、そのしっぺ返しも大きくなる。それがこのゲームの醍醐味だ。
女王役を失った女性は、奴隷に堕ちるプレッシャーに耐えられないケースが多い。ゲームの中止を訴える者もいれば、神に祈る者もいた。ヒステリックに泣き喚く者もいたし、開き直って高級ワインを飲み漁る者もいた。それに比べれば、怜奈は落ち着いたものだ。女王役の休憩室で豪奢なソファに腰掛けたまま、優雅に脚を組んで本を読み耽る。その様はまさしく女王そのものだ。
──うわぁ、余裕で寛いでる。あの図太さ、過去最強じゃない?
──流石にモノが違うな、女帝サマは。
──やっぱ勝つのはこっちだろ。ガキにこの女の心折るのは無理だって。
客は改めて怜奈の特別さを実感する。しかし同時に彼らは、奴隷役となった怜奈の姿を心待ちにしていた。音を上げるかどうかはともかく、責めを受ければその美貌が歪むのは避けられない。才媛の象徴たる女子アナの中でも、頂点に君臨する逸材──その苦悶する姿を、客の誰もが心待ちにしていた。
※ ※
「……ちょっと。今はあたしが『女王』なんだけど」
ソファで脚を組む怜奈に、由美が呆れたような溜息を漏らす。
「ええ、存じておりますわ“女王様”」
「だったら服ぐらい脱ぎなよ!」
「仰せのままに」
苛立ちを露わにする由美とは対照的に、怜奈は優雅に立ち上がって服を脱ぎはじめた。洗練させた所作で行われる脱衣は、色気よりも美しさが先に立つ。
「これで、よろしゅうございますか?」
露わになった裸体もまた、芸術品さながらだ。
由美のスタイルの上を行く8頭身、そして肌は初雪のような白さだ。それらはどう見ても日本人的ではなく、白人の基準においても最上位であり、もはや創作におけるエルフのようでさえある。怜奈は由美の身体を『男好きのする』と例えたが、怜奈にその言葉は返せまい。神々しいその美貌を前にして、気安く声を掛けられる男などまず存在しないだろうから。
「ホント、生意気……!」
由美は眉を吊り上げながら、浣腸器を拾い上げる。すると怜奈がくすりと笑った。
「何!?」
「いえ。それを真っ先に選ばれるなんて、よほどお辛かったのだろうと思いまして」
「なっ!!」
怜奈の返しで、由美の頬が赤く染まる。図星だった。報復の手段として選ぶということは、その責めが効いたと自白しているに等しい。
由美は苦々しい顔で浣腸器を置き、しばし考え込む。
「長考も程々になさいませんと。7日間というのは、存外短いものですよ」
怜奈はさらに言葉を重ね、由美の思考を乱しにかかる。しかし『7日間』というワードが、逆に良いヒントとなった。地獄の1週間の記憶を辿っていた由美が、ふと唇の端を吊り上げる。
「そうだ。あんた、アソコ舐められるのが好きなんだよね?」
2日目の朝、由美の秘部を舐めさせられた時の記憶だ。怜奈の眉がわずかに動く。
「……嫌いではありません」
「だったら、たっぷり気持ちよくしたげるよ。ちょうどいいのがあるからさ」
由美はそう言って、怜奈を連れて部屋を移動する。向かう先は拷問部屋。床も壁も全てが石造り、他の部屋と比べても別格の威圧感がある。由美はその部屋のカメラを探し、その正面の椅子に怜奈を拘束した。腰掛けるのではなく、胡坐を掻くような格好……つまり、足指と足裏がカメラに写り込むように。
「妙な格好をさせるんですね、女王様。いつもこんな風にお座りなのですか?」
怜奈が嘲るように問うと、由美も冷ややかな笑みを浮かべる。少し余裕が出てきたようだ。
「まさか。わざとに決まってんじゃん。あんたに前と後ろの穴グチャグチャにされてる時、思い知ったんだよ。足の指は嘘つけないなーって。痛かったりくすぐったかったりすると、どうしても動いちゃうもん。その足をお客さんにも見てもらおうと思ってさ」
「…………。」
怜奈は内心、冷や汗を垂らす。由美の考察は的を得ている。今この瞬間にフィストファックを受けたとしても、怜奈は声を漏らさない。無表情をキープする自信もある。しかし、足指の不随意運動を殺しきる自信はない。
それでもなお、動揺を顔には出さなかった。女子アナ界は生き馬の目を抜く勝負の世界だ。少しの隙が命取りになる。仮にもその世界で生きていた人間として、小娘如きに弱みは見せられない。
ゆえに怜奈は、涼しい顔を貫いた。正面にハケのついた水車が設置された時も。スイッチの入った水車がゆっくりと回りはじめ、ハケが絶妙な強さで割れ目を擦りはじめても。
「ハケ水車の味はどう?」
「ふふっ……気持ちようございます」
由美の問いかけにも、余裕の笑みで答えてみせる。
「そ、じゃあたっぷり楽しんで」
由美はそう言って笑みを浮かべると、近くの椅子に腰を下ろした。
刺激は決して強くない。ハケの先はきめ細やかで、痛みなど一切生じない。ほんの微かにくすぐったさを覚える程度だ。しかしその刺激が断続的に、途切れることなく続くのが厄介だった。
少しずつ、少しずつ、快感が溜まっていく。その影響を最初に受けたのは、人体で最も敏感な器官であるクリトリスだ。陰核亀頭の中に芯ができ、膨らみ、勃起し、包皮からまろびでる。それをはっきりと感じながらも、怜奈は何もできずにいた。たとえ手足が自由であったとしても、ハケを押しのけることはできない。それは責めに屈するということだ。
「あーあ、クリちゃん勃っちゃった」
横から由美の声がする。由美は拘束椅子の肘掛けに頬杖をつき、面白そうに怜奈を観察している。
「気持ちが良いと申しましたでしょう。当然の生理反応だと思いますが」
「は? 別にあたし、それが悪いなんて言ってないんだけど? なに必死に言い訳してんの、ウケる!」
「……っ!」
落ち着きを取り戻した由美は、口も達者になっていた。怜奈はひとつ息を吐き、じっと目を閉じる。
心頭滅却すれば火もまた涼し、という。しかし心をどう持とうと、身が焼ける事実が無くなるわけではない。
割れ目が蜜を吐きはじめた。ハケが次々とその愛液をなぞり取り、一周して今度は塗りつけてくる。液体の染みたハケの刺激はわずかに重く、粘膜のひとつ下の層にまで快感を塗りこめてくる。
そして勿論その状況は、水車が回るほどに悪化した。ふと気づけばハケの重みは、人間の舌さながらになっていた。極上のクンニリングス。愛撫の極意は反復にあるという。下手に変化をつけて気を散らすことなく、同じ動作を正確に繰り返すことが、絶頂への最短距離であると。その意味では、機械ゆえに寸分違わぬ反復を為し得るこの水車は、最高にして最悪のパートナーといえる。
「…ッ!」
ビクンッ、と怜奈の右膝が跳ねた。そしてそれを由美は見逃さない。
「あはっ、本気で感じてきたみたいね」
由美は椅子から降りて怜奈の背後に回りこむ。
「ええ、気持ち良うございますから」
「そうだよねー、気持ちいいんだから当然の反応だよね。でも思ったんだけどさ。それって、普通の人間のハナシじゃない? このカメラの映像、何十人って人が見てるんでしょ? その前で股おっぴろげてさ、オモチャ相手にオマンコとろとろに濡らしてるって……それで『S』だって胸張って言えるかなぁ?」
「……ッ!!」
由美に囁かれ、怜奈は息を呑んだ。呑んでしまった。薄々感じつつも無視していた事実を突きつけられたからだ。
「私がSかどうかと、この状況は関係ないわ!」
「ふーん、そう。ところでさあ、敬語忘れてるよ?」
由美はライバルの失態を嗤いつつ、万歳の恰好で拘束された怜奈の腋を撫でる。
ふっ、と笑いが漏れた。
「腋の下ヌルヌルだよ。ちょっと匂うしさ。もしかしてだけど、あんたワキガ? それとも加齢臭かな?」
「……っご冗談を」
畳みかけるような精神攻撃に、怜奈が唇を噛む。僅かだが瞳も泳いだ。よりにもよってワキガなどと、とんでもないことを言い出したものだ。雑な言いがかりでしかないが、この場にいない客の中には信じてしまう者がいるかもしれない。そんな事は女子アナとしてのプライドが許さなかった。
しかし、どのみち客席はすでに興奮のるつぼと化している。
──すげぇな、マン汁が飛び散ってやがる。
──人形みてえな見た目してるくせに、ちゃんと濡れるのは濡れるんだな。
──おまけに見ろよ、マンコがパクパク喘いでやがるぜ。
──よっぽど気持ちいいんだろうなあ。金髪のガキが言ってたように、足の指もピクピク動いてっしよ。
接写された秘裂に野次が飛ぶ。怜奈は由美のように露骨に顔を歪ませはしない。しかしよく観察すれば、その眉根に強いストレスが見て取れた。
「すごい音してるね。にちゃあっ、にちゃあって。オマンコの汁が粘ついてるのかな。性病なんじゃない、あんた?」
「く……っ!」
カメラを意識した由美の暴言で、怜奈の頬が引き攣る。効果的な責め口だった。人一倍プライドの高い女だけに、イメージの低下が何より耐え難い。特にワキガだの性病だのという風評被害は、女の最も恥となるところだ。
「ふぁあ……なんか眠くなっちゃった。その機械自動運転にしとくから、勝手に楽しんでね。眠かったら寝てもいいよ、許可したげる。じゃあねー、ワキガ性病の女帝さま!」
由美は欠伸交じりにそう告げると、電気を消して拷問部屋の扉を閉じる。部屋は闇に包まれた。この暗さではカメラにも映るまいと判断し、怜奈は大きく息を吐く。しかし当然、拷問部屋でも暗視カメラは作動している。
「はあ…………はあ…………はあ……はあ……っ」
部屋に響くのは、水車の回る音と荒い呼吸音のみ。水車のペースは完全に一定だが、呼吸は次第に早く、荒くなっていく。そしてその果てに、怜奈の両の足指が握り込まれた。
「…………ぃくっ…………!」
小さな声が漏れ、暗がりに吸い込まれていく。モニターを見守っていた客は騒ぎ立てるが、怜奈はそんな事を知る由もない。
彼女はまた無に包まれた。いや、一つだけ別の存在がある。極上のクンニリングスを絶えず繰り返す、無骨な恋人。視界が閉ざされた今、それのもたらす刺激だけが怜奈のすべてだ。
分厚い“舌”が、割れ目を丁寧に舐め上げる。すっかり肥大化した陰核も優しく持ち上げ、弾く。秘裂はその刺激に歓喜し、パクパクと喘ぎながら悦びの涙を垂れ流す。
水車が自動運転になってからは、別の要素も加わった。ハケが休まず回転する中、時々何かの液体が秘裂に浴びせかけられる。最初はどうということもないが、時間が経つとむず痒さが生まれ、ついには異常なほど敏感になる。陰唇が丸ごとクリトリスになったようにだ。そこへハケが襲い掛かると、もう耐えられる道理がない。
「…………あィクっ…………いっくっ……!」
怜奈の膝が何度も跳ね、呻くような声が吐き出される。そしてその反応は、徐々に激しくなっていく。
「ああああイグっっ!!!!」
最初に声が漏れてから23分後、ついに明瞭な叫びが響き渡った。声が壮絶ならば、肉体の反応も壮絶だ。太腿の肉が隆起し、その中央から飛沫が飛び散る。上体は反り返り、首は天井を仰ぎ、信じられないとばかりに目を見開く。
実際それは、初めての経験だった。初心な生娘というわけではない。主に利用するため、何人もの男と一夜を共にしてきたし、セックス経験はむしろ豊富な方だ。しかし、失禁を伴うほど深い絶頂は経験がない。ましてやそれが、挿入によるものではなく、前戯であるクンニリングスで齎されるとは。
──ひひひひっ、あの澄まし顔の女帝がエビ反りイキだぜ!
──マンコ擦り上げられただけでマジイキとは、大した変態ぶりだな!
──暗視カメラじゃよく見えねぇが、潮も噴いてんじゃねぇかアレ!?
観客達は怜奈の痴態を面白がり、膝を叩いて笑い転げる。一方、見世物になっている怜奈は依然として地獄の最中だ。
「んあ゛っ、あひィ゛!! ま、またっ、いく……ッ!!」
怜奈は歯を食いしばり、悔しげに呻く。気力で立て直しを図っているが、甘い絶頂が止まらない。むしろ力めば力むほど、快感の沼に深く沈んでしまう。
ぷしゅっ、とまた潮が噴き出した。怜奈は顔を引き攣らせ、なんとか腰を浮かせようとする。しかし、それが叶ったのも数秒だけだ。すぐに腰が落ち、ハケにより強く割れ目を押し付ける形となる。
「ンおオオ゛ッ!? あひいっ、ひいいっ!! もう駄目っ、止まって! お願い止まってっ!!」
あられもない声で絶頂し、悶絶し、水車に向けて哀願する。機械に哀願が通じると思うほど愚かな女性ではない。しかし、その判断すらつかなくなるほど余裕がないのだ。
暗闇の中、絶頂と哀願は夜を徹して続いた。
「おはよー。気分はどう?」
由美が明るい口調で部屋の電気を点けると、惨状が白日の下に晒される。
新雪のようだった肌ははっきりと紅潮し、汗で濡れ光っている。
乳首は独りでに屹立し、乳輪までもがふっくらと厚みを持っている。
相も変わらずのペースでハケが秘裂を舐め上げれば、太腿が跳ね上がり、上体が傾いで乳房が踊り、足裏が蠢き、足指が空を掻きむしる。透明な雫が宙に撒き散らされるのも視認できる。
水車の絶え間のない刺激で、都度絶頂させられているのは明らかだ。
「お陰様で、素敵な夜になりましたわ」
アナウンサーの矜持として、せめて綺麗に笑ってみせる怜奈。だが、手で拭うことの叶わないその顔は、涙と鼻水、そして首までを覆わんばかりの涎で無惨に汚れている。
由美はその姿を面白そうに観察しつつ、ゆっくりと近づいた。手にはミネラルウォーターのボトルと丸めた新聞紙を握っている。
「すっごい匂い」
鼻をひくつかせ、あえて抽象的な言葉を吐きかける。その意図を怜奈は理解していた。噎せかえるような汗と愛液の匂い。一晩濃密なセックスをした後のそれが、体中から立ち上っているのだ。
「ふーっ。なんか蒸し暑いねー、この部屋。湯気出そうな女もいるし」
由美はそう言って水のボトルを開封し、怜奈に見せつけるように、ごきゅっ、ごきゅっ、と喉を鳴らす。
「……っ!」
怜奈は忌々しげに唇を噛んだ。一晩かけて汗と愛液を搾り取られ、床にはプールさながらの水溜まりができている。脱水症状寸前だ。その状態でこのパフォーマンスは、かなりつらい。
「ぷはぁっ、おいしーい! ん、なぁに? もしかして欲しいの?」
「……いえ」
「あっそ」
怜奈の意地を嘲笑うように、由美がまた水を飲む。ごきゅっ、ごきゅっ、という音に惹かれ、怜奈の喉も無意識に鳴る。
「あはは、やっぱ欲しいんじゃん。正直にそう言えばいいのに」
由美はしてやったりという笑みを浮かべ、水を口に含んで怜奈の唇を奪う。
「っ!!」
客席を沸かすレズキス。それは怜奈の矜持を強く傷つけた。遥か下の存在である“パパ活娘”ごときと唇を合わせるのが、そもそも不快の極み。ましてやキスの主導権まで奪われ、強制的に唾液交換をさせられるのだ。
由美の唾液の混じった液体が喉を下る瞬間、頭上の拳が固く握り込まれる。
「ぷはっ。どう、美味しい?」
「………………美味しゅうございました」
問いに答えるまでの間が、彼女の屈辱を如実に表している。
効果的と見れば、その責めを続けるのが勝負の鉄則だ。由美はカメラに見せつけながら何度もキスを強い、膨らんだ乳輪と屹立した乳首を執拗に愛撫する。それが快感を飽和させたのか、あるいは単に水分補給の結果か。怜奈の腰が突如跳ね上がり、尿が水車に浴びせかかった。放尿は次第に勢いを増し、放物線を描きながら、ついには水車の上にアーチを描く。
「ンンンンンンーーーーーーッッッ!!!!!」
漏れた呻きは悲痛だった。どうしようもない絶頂の喘ぎが、由美の口に阻まれて殺されている……それが明白だ。
長い呻きが尻すぼみで終わり、ようやく口が解放された時、怜奈の視線は呆然と宙に投げ出されていた。すぐに我に返り、理知的な表情を取り戻したのは流石だが、その一瞬の亡失はしっかりと由美に悟られている。
「ボーッとしちゃって、気持ちよかったの?」
「…………はい、大変心地良うございます」
「ふーん。クールぶってるくせに変態なんだ。ムッツリってやつ?」
由美は嘲り笑いつつ、丸めた新聞紙を広げはじめた。
「ところでさ、これ今日の新聞なんだけど。せっかくだしあんた読んでよ。元女子アナなんでしょ」
その言葉で、怜奈の目つきが僅かに鋭くなる。女子アナとしての仕事は彼女にとっての聖域だ。こんな悪趣味なゲームに参加しているのも、全てはその座に返り咲きたいがため。それを冒涜するような行為は許しがたい。
「この状態で読め、と仰せですか?」
「当たり前じゃん」
怜奈の逆鱗に触れていることを理解しつつも、由美はあえて強要する。
「…………承知しました」
怜奈は能面のような無表情を作り、由美の構える新聞記事に目を通す。
「台風第6号は、15日10時には……っ石垣島の北約160キロにあり、1時間に……あっ、およそ10キロの速さで、北へ進んでいます」
アナウンサー時代を思い出して胸を張り、記事を読み上げていく怜奈。しかし、ままならない。回転するハケが割れ目と陰核を舐め上げるたび、声が震える。時には嬌声が読み上げに混じりもする。
「ちょっと、『あっ』なんて書いてないんだけど。ちゃんと読みなよ、アナウンサーでしょ?」
「……失礼いたしました」
由美の茶化しに、怜奈の顔が珍しく怒りを表す。しかしその表情を一瞬で戻し、再び記事に視線を戻すのは、彼女なりの意地か。
「中心の気圧は……っ、955ヘクトパスカル、中心付近の……んっ、最大風速は40メート……ルっ、最大瞬間風速は60メート、ルで……」
真っ当にやろうと姿勢を正すほど、ハケの刺激を直に受けてしまう。太腿がぶるぶると震え、呼吸も乱れていく。
そして、ついに限界は来た。
「中心から、は、半径130キロ以内ではァ……っ、ふっ、ふ、ふっ……風しょく……25メートル以上のっ、ぼっ、暴ふぅ、ふうう…………ぅンンンッッ!!!」
悲痛な叫びと共に、膨らんだ太腿が病的に震え、割れ目から飛沫が噴き上がる。一度ではなく、びゅーっ、びゅーっ、と数度に分けて撒き散らされていく。同時に怜奈の顔は天を仰ぎ、足指は10本すべてが別の方向に突っ張った。その様を見れば、彼女が強靭な意思で無理を抑えこんでいたのが伺える。ドキュメンタリー番組であれば、賞賛されて然るべきプロ意識だ。しかしこの場では、その必死さは笑いの種にしかならない。
──ひーーひっ、ハラ痛てぇ! ぼうふううん~だってよ!
──あっひゃひゃひゃっ! やめろ、笑かすなって!!
モニター前の観客たちは笑いすぎで息もできない状態だ。クールな怜奈の醜態がおかしくて堪らないらしい。
「あっはははははっ、ホント笑える! マジ面白いじゃんあんた。アナウンサーじゃなくて芸人になれば?」
嫌味を交えつつ、由美は怜奈の拘束を解きはじめた。そして膝の笑う怜奈にがに股を強制し、本来10㎝以上背の高い彼女を“下”に置いたまま、秘所に指を宛がう。
「すごい、ヌルヌルじゃん。何遍イッたの、あんなオモチャ相手に?」
「……恐れながら、数えておりません」
「ふーん、数えきれないレベルかあ。でもあのハケじゃ、表面撫でるだけだから物足りなかったでしょ。こんな風に、中まで欲しかったんじゃない?」
「ッ!!」
中指と薬指が膣内に入り込めば、怜奈がびくりと反応する。当然それは由美の失笑を買った。
「ふふ。すごい、トロトロのグッチョグチョ。なるほどね。こんなになってたら、ニュース読み上げるよりイクほうを優先しちゃうよねー。アナウンサーとしてはどうかと思うけど……あ、でもあんた、今はアナじゃないんだもんね。女子アナじゃなくてバカ穴かあ」
由美は詰りつつ、二本指の腹で膣壁を探る。目当てのGスポットはすぐに見つかった。怜奈の反応が、まさにそこだと教えてくるからだ。
「ふ、くッ……!!」
怜奈は唇を噛み締める。
無反応を貫けない。一晩かけて陰唇と陰核を優しく刺激されつづけた結果、陰核の付け根……陰核脚がたっぷりと快感を吸って温まっている。そこをGスポット越しに刺激されるのだから、堪らない。痺れるような、とろけるような刺激が太腿にまで伝播していく。意思とは無関係に腰が動く。
「ふふ、腰ヒクヒクしてる。指マンが気持ちいいの、バカ穴オバサン?」
「………………はい。気持ち良うございます」
「へーえ、そっかぁ。あたしならこんな状況、恥ずかしすぎて感じるどころじゃないけどなあ」
「……ッ!!!」
由美は言葉で追い詰めつつ、Gスポットを撫でる。優しく、しかし指先がめり込むほどの圧をかけて。それが最も効く方法だと知っているからだ。
「ンん!」
怜奈の唇が噛み締められ、下腹がブルブルッと痙攣する。それを見て由美は笑い、なぜか指を引き抜いた。すると、その直後。怜奈の開いた脚の間から、じょろじょろと尿があふれ出す。
「あーあ、漏らしちゃった」
呆れたように溜息をつく由美。だが当然、これは彼女の予見した結果だ。
「……申し訳ございません」
怜奈は無表情に前を見つめているが、その意識は明らかに斜め前のカメラに向いていた。この惨めな光景が、不特定多数の男にどれだけ嗤われていることだろう。そう思うだけでプライドが軋みを上げる。
由美はその後も執拗に指責めを繰り返した。
「もっと腰落として、脚開きなよ。次、その生っ白い脚が菱形じゃなくなったら、お仕置きだからね!」
がに股のポーズを強いたまま、同性ゆえの的確な刺激で、何度となく潮噴きや失禁を誘発する。
「……んッ……! ……ふッッ……!!」
怜奈は随分とよく耐えた。そのコンディションからは考えられないほど長く。しかしその精神力をもってしても、肉体の限界サインは無視できない。
「ッくうゥんッッ!!」
怜奈は切なく呻きながら、内股に脚を閉じた。巧みに動く由美の手を挟み込むように。
「……何やってんの?」
「はっ、ハァッ、ハァッ、ハァッ……!!」
由美に非難されても、怜奈には答える余裕すらない。快感と疲労で呼吸は乱れ、立っているのもやっとの状態だ。
「まったく、ナメてるね。これは約束通りお仕置きかな」
由美はそう言って背を向け、何かを手に取って振り返る。手にしたものは、電気マッサージ器。それも家庭用の物よりいくぶん大きい。
「う……ッ!!」
怜奈の顔が青ざめる。聡明なだけに、今の状態でそれを受けるとどうなるか、正確にシミュレートしてしまったのだろう。
由美が近づくと、怜奈は太腿を擦り合わせて拒絶の意思を示す。しかし、それは『奴隷役』に許される行為ではない。
「脚を開きなさい」
あえて女王然とした口調で命じる由美に、怜奈は息を呑む。そして、ゆっくりと足を開いた。
「……………………お願いします」
その言葉とほぼ同時に、脚の間から雫が滴り落ちる。
「オマンコからヨダレ垂らしちゃって。そんなに期待してるんだ?」
由美は嘲笑いつつ、マッサージ器のスイッチを入れた。床さえも震わせるほどの重低音が響きはじめる。
「あははっ、すごい音。工事現場の機械みたい。これは刺激強いよー。どう、子宮がウズウズしてくるでしょ?」
由美はそう囁きながら怜奈を焦らし、マッサージ器の先端を軽く陰核を触れさせる。
「ひっ、ああっ!!」
反応は大きかった。弾けるように腰が引かれ、左右に揺れる。快感で膨れ上がった蕾に極大の刺激が襲ったのだ、当然ではあるのだが。
「あははははっ、凄い凄い。でも逃げちゃダメだよ。お仕置きなんだから」
由美はケラケラと笑いながら怜奈の回復を待ち、がに股に開かれた脚の間に再度マッサージ器を触れさせる。今度のターゲットは大陰唇だ。陰核ほど耐え難いわけではないが、重苦しい刺激がズーンと腹の内まで入り込んでくる感覚は堪らない。
「んひっ、はっ、あ……ンおっ、おおお……!!」
腹に溜まるタイプの快感ゆえに、喘ぎは自然と息むようなものとなる。状況からして不可避の反応。しかしそれは彼女のイメージを決定的に瓦解させるものだ。
──ひゃっひゃっひゃっ、すげぇ声!
──まさかあの倉橋アナのオホ声聞く日が来るなんてな!
──クールビューティーで売ってきたあの女がよォ、笑いが止まらねぇぜ!!
観客から笑いが起きる。そして勿論、怜奈の反応を間近で見る由美も、涙を浮かべて笑っている。怜奈はその状況に歯噛みしつつも、快感でそれどころではない。
「おほぉっ!!」
情けない声と共に、割れ目から飛沫が噴き出す。堪らず腰が浮き、顔が天を向く。
「ぶはっ! なぁに、今の声。あたし笑わせようとしてんの?」
「はっ、はっ、はっ、はっ、はっ…………!!」
由美の詰りに応える余裕もない。28年の人生で初めて経験する、あまりに強烈なオーガズム。そのショックを肉体も頭も受け止めきれない。
「エビみたく仰け反っちゃって。そんな深くイッちゃったんだ」
「はぁ、はぁ、はぁ……し、失礼、しました……」
「で、イッたんでしょ?」
「…………はい、達しました」
「ぷっ! こんなんでイキまくっといて、自分はSだー、なんてさぁ。どうみてもドMじゃん!」
「くっ……!」
容赦ない嘲りが、怜奈の矜持にヒビを入れる。
「よーしドMオバサン、もっともっとイカせたげるよ。ほら、姿勢ちゃんとして。頭の後ろで手ぇ組んで、腰落とす!」
怜奈が屈辱的なポーズを取るのを待ち、由美はまたマッサージ器を宛がいはじめた。
「あおォッ、おっ、お……おほっ、ほォお……お゛ッ!!」
怜奈から漏れる喘ぎは、やはり愛嬌からかけ離れている。もはや意志で抑制できるレベルではないのだ。
全てが、無意識。
刺激から逃れようと腰が浮くのも。
石床の上で、両脚がつま先立ちになるのも。
太腿の筋肉が醜く縦に張るのも。
腹筋がブルブルと震えるのも。
潮噴きに次ぐ潮噴きも。
どれ一つとして、怜奈が意識してそうした行為はない。むしろ彼女はその全てを抑えこもうとし、そのたび無力感に苛まれていた。
2時間以上に及ぶマッサージ器責めが終わっても、怜奈には碌に休憩さえ与えられない。
腰砕けで立つことが困難になった彼女は、ベッドに大股開きで拘束され、中逝きを経験させられることとなった。膣に長大なバイブを押し込まれ、そのバイブの底にマッサージ器が宛がわれる。バイブ自体の振動とマッサージ器の振動が合わさったものが、蕩けきった子宮口を不規則に振動させる。
「んあ……あ、あぐっあ……くっ! た、達します!!」
絶頂する時は宣言するよう命じられているため、怜奈は忙しなく声を張り上げなければならない。
「すごい、どんどん汁が出てくる」
由美は笑いながらも責めの手を緩めない。猫のような瞳で怜奈の反応を観察し、最も嫌がる角度でバイブを固定する。“パパ活の女王”の異名は伊達ではない。ただ身を売るのではなく、交際相手を巧みに責め嬲り、喜悦させてきた正真正銘のサディストなのだ。
「あかはあぁっ!! た、達します! 達しますっ!! だめ、イッてる最中に、また……くひぃいいいっ!! お、お願い、少し休まぜでっ!! ずっとイキ続けで、息が……!!」
流石に怜奈にも限界が来た。奴隷役の口調すら保てず、地を出して哀願する。しかし、その哀願が聞き届けられることはない。彼女もまた由美の哀願を聞き入れなかったように。
「許してほしいんなら、どうすればいいか解るよねぇ。“自称S”のオバサン?」
悪意に満ちた笑みで意趣返しをされれば、怜奈はぐっと言葉を呑むしかない。
「あイグッ、イグッッ!! いぐいぐッ、イグッ、イグううううッ!!!」
腰を跳ねさせ、脚を暴れさせ、手足の指先を強張らせ……怜奈は全身で限界を訴える。それでも慈悲は掛けられない。絶頂続きで敏感になっている子宮口へ、バイブとマッサージ器の波状攻撃が絶え間なく浴びせられる。
「おッ、おほっ、おほっ……んォおおおッ!!」
限界の、限界。怜奈は獣のような声を上げながら、白目を剥いて痙攣しはじめた。ビクンビクンと跳ねる腰も、異常性しか感じられない。
「あはっ、ヤッバ。意地張ってるとホントに壊れちゃうよー?」
由美は異変を感じつつも、責めの手は緩めない。これは殺るか殺られるかの真剣勝負だ。相手の矜持をへし折ることができなければ、次は自分が折られる側になる。であれば、限界以上と思えるところまで追い込むしかない。
「確認します。倉橋 怜奈さん……貴女は、ご自身が『Sである』と思いますか?」
黒服のスタッフが、怜奈にマイクを向ける。
前週の由美と同じく、7日目を迎えた怜奈は無残な姿と成り果てていた。長い黒髪は汗を吸って乱れ、白い肌に海藻のように絡まっている。真っ赤な目からは涙の痕が続き、乳頭と陰核は吸引でもされたようにしこり勃っている。辛うじて直立している両脚も、カクカクと震えるのが止まらない。
それでも怜奈は、真っ直ぐにカメラを見据えて告げた。
「私は、『S』よ!」
その言葉を聞き、由美が表情を曇らせる。
精一杯責めた。泣かれても、請われても。つまりそれは、これ以上ないほどに恨みを買ったということだ。
※ ※
「どうしたの? 口を開けなさい」
スプーンを差し出した怜奈が、冷ややかに由美に告げた。
「……も、もう、無理です……」
由美は涙ながらに首を振る。
仰向けに拘束された彼女の腹部は膨れ上がっていた。中を満たしているのは、怜奈がスプーンで繰り返し与える“餌”だ。
牛乳・雑穀や豆類・魚の内臓・ゴーヤをミキサーにかけて粥状にしたもの。怜奈はスタッフに指示してそれを大鍋一杯に作らせ、延々と由美に食べさせていた。雑穀や豆類は羞恥責めのキモである便のかさを増すため、魚の内臓とゴーヤは味を劣悪にする嫌がらせのチョイスだ。
「食べなさい」
由美が涙目になっても、怜奈が過食責めを止めることはない。むしろ効いていればこそ、相手が音を上げるまで続けるだけだ。
「む゛ゥうえ゛っ!!」
口にスプーンを突っ込まれた由美が噎せ返る。薄黄色い吐瀉物が頬を垂れていく。
「なに? せっかくおまえの為に作った食事を、食べられないとでも言うつもり?」
「げ、限界です……もう、入らない……!!」
「嘘おっしゃい」
必死に首を振る由美を冷ややかに見下ろし、怜奈が何かを準備しはじめる。高圧浣腸で使われるイリゲーターと、極太のチューブ。
「あ……!」
されることを理解した由美が逃げようとするが、拘束されていて動けない。そんな由美に冷酷な笑みを投げかけながら、怜奈の手がチューブの先を口に押し込む。喉を越えて、胃にまで。ゴォエッと酷いえずきが漏れても、一切意に介さない。
ごぽり、ごぽり、と音を立て、イリゲーターに注がれた“餌”が由美の胃に送り込まれていく。
「んぐっ、うウ゛……おぐっ!!」
由美の拘束具が音を立てる。しかしいくら力んでも、悪夢のような状況は変えられない。
「ふふふ、とっても素敵よ」
由美の姿を見て、怜奈が笑う。
由美の姿は無惨の一言に尽きた。形のいい鼻はフックで豚のように吊り上げられ、乳首には紐で鈴が結わえつけてある。だが、一番に目を惹くのはなんといってもその腹部だ。
チューブで限界の限界まで流動食を流し込まれた腹部は、妊娠後期さながらに膨れ上がっていた。元がモデル級のスタイルだけに、異様さが際立っている。
──すげぇな、マジで豚みてぇだ。
──あんだけ顔とスタイルが良いガキでも、ちっとの細工でブスに成り下がるもんだな!
客の罵声にも容赦がなく、へし曲げられた由美の顔がますます歪む。そんな中、彼女の腹部から不穏な音が響いた。餌に含まれる牛乳で腹を下したのだろう。
怜奈が紅い唇の端を吊り上げる。
「さあ、始めてちょうだい」
怜奈が指で示すのは、由美の脚の間に設置された巨大ディルドーだ。形こそ男性器を模しているものの、サイズが常軌を逸している。近いサイズで言えば2リットルのペットボトルか。
「くうっ……!!」
由美は唇を噛む。冗談でも性器に入れてはいけないサイズ。しかも今はこの腹具合だ。とはいえこのゲームにおいて、女王の命令には逆らえない。
「早くなさい。ギャラリーの皆様も待ちかねよ」
「…………はい、頂きます…………」
由美はゆっくりと腰を下ろしていく。ディルドーの亀頭部分は由美の拳より太いが、表面にワセリンが塗りたくられているため、簡単に割れ目へ呑み込まれていく。しかし、問題はそこからだ。
「ふ、ぐうううっ……!! ふ、太ぃい゛イ゛……ッッ!!」
腰を僅かに沈めるだけで、ミリミリと膣が拡げられていく。フィストファックとも比較にならない刺激の強さ。膣周りの筋肉と骨が悲鳴を上げ、変形した腸に圧されて便意が渦を巻く。
「ほぎア……ァ゛っ!! はっ、はっ、はっ……!!」
なんとか亀頭を呑み込んだところで、荒い息と共に涙が伝う。腹の中に岩を入れているようだ。だが、まだまだ先は長い。由美は歯を食いしばり、太腿を強張らせて腰を沈めていく。幹の半ばは亀頭よりもさらに太い。
「ッカああああ゛あ゛っ!!」
由美がまた叫んだところで、怜奈が小さく噴き出した。由美自身、顎の力み具合でひどい顔をしているのが自覚できる。しかし表情は戻せない。受容限界以上の凶器を呑み込む時に、綺麗な顔などしていられるはずがない。
「はっ、フッ……フーッ、フーーッ……!!」
拳のような亀頭が、ついに子宮口に触れた。ディルドーはなお三分の二ほどが露出したままだが、ともかく奥まで飲み込んだのだ。
「奥まで入ったなら、動きなさい。もう一度言っておくけど、豚らしくブーブー鳴くのよ」
怜奈に凛とした声で命じられ、由美は唇を噛みながら腰を上下させる。
「ぶっ……んくっ! ブー、ブーッ……!!」
惨めすぎるその姿に、客席の笑い声が大音響となってスピーカーから氾濫する。
美少女で通っていた由美にしてみれば羞恥の極みだ。そして、苦痛もある。入っているサイズがサイズだけに、数センチの抜き差しでも骨が軋む。
「すっとろいわねぇ。動きまで豚を真似ろと言った覚えはないわよ。もっと大きく、ディルドーの先が覗くぐらい動きなさい!」
「はあ、はあ……はい……。ぶ、ブー、ブー……んんん゛っ!!!」
震える足腰を叱りつけ、由美は大きく腰を振る。亀頭が覗くまで腰を浮かせ、奥に届くまで腰を沈め。
「……ッく、あああああぐ!!」
無理の代償は大きかった。前の穴の苦しみに意識がもっていかれた瞬間、便意の抑えが利かなくなる。生ぬるい液体が肛門を通り抜け、背後に置かれた金盥に硬い音を立てる。
「あっはははは、出た出た。相変わらずひどい匂いねえ、腹黒なだけあるわ!」
「……くっ!!」
「いいわ、もっとひり出しなさい。カロリーの高いものをあれだけ食べたんだもの、全部出さないとお肉になるわよ? おまえなんか、ルックスの良さが無くなったら誰にも振り向いてもらえないわ」
怜奈の言葉に顔を歪めながらも、由美は激しく腰を振る。乳首の鈴が澄んだ音を奏でる。ディルドーがメリメリと膣に入り込めば、入れ替わるようにブリュブリュと便が出た。恥辱のシーソーゲームだ。
「ブー、ブー……ッあ!? んあ、お、おほっ! で、出るっ、でるうう゛っ!! はおっお゛っ……ぉおおお゛お゛お゛ッッ!!!」
腹部が圧迫されているため、漏れる呻きも重苦しいものだ。
「すごい声出すわねぇ、おまえ。今のは豚の断末魔かしら? ごめんなさい、せっかくのパフォーマンスも知識不足で理解できないわ」
「くっ……!!」
冷やかす怜奈を、由美は涙目で睨む。自分もハケ水車で似たような声を上げたくせに……そう言っている目だ。しかし口には出さない。その余裕すらないからだ。
排泄が止まらない。軟便が次から次へと噴き出し、肛門が灼ける。ましてやそれを憎い相手の前で晒すとなれば、羞恥で頭さえ茹りそうだ。
そして、他にも異変が起きていた。苦痛しかないはずの膣から、時おり甘い電流が迸る。
「ほお゛っ、お……んんン゛!!」
「あら、どうしたの? 気持ちよさそうな声を出して」
由美の僅かな声の変化を、怜奈が耳聡く拾う。そうなる事が分かっていたように。
「はあっ、はあっ……しょ、食事に何を混ぜたの!?」
「あら、何も混ぜてないわ。変な言いがかりはやめてちょうだい」
怜奈は白を切るが、実はあの食事には精力剤がたっぷりと添加されていた。女性用バイアグラとでもいうべきもので、摂取すると血行が改善し、膣やクリトリスの神経が敏感になり、極めて濡れやすくなる。
「ぶうーっ、ぶううーーっ……んはう゛っ!? んくっ、ん……くんんんん゛っっ!!」
ピストンを繰り返すほどに、快感はハッキリと輪郭を得ていった。
排泄を止めようと力めば、自然と膣もディルドーを締めつけ、甘い痺れが拡がる。
「ウンチしながらオマンコほじくるのが、そんなに気持ちいいの? ご覧なさい、今の自分の姿を」
怜奈は笑みを浮かべたまま、由美の前に手鏡を翳した。鏡面に由美の姿が映し出される。
汁を垂らす、豚のような鼻。
なおも排泄物の垂れ落ちる尻。
度重なる排泄で少し凹み、逆にディルドーの膨らみが浮き出た腹。
それほど無惨な状態にありながらも、鉄杭のようなディルドーには大量の愛液が伝っている。
「これってSどころか、完全に変態マゾの姿じゃない?」
勝ち誇るような怜奈の笑いに、そうだそうだという観客の声が被る。
「…………く、うう…………ッッ!!」
由美はひとり唇を噛む。少し納得してしまいそうな自分が憎い。
それでも彼女は耐え忍んだ。鈴を鳴らしながら腰を振り、前後の穴の猛烈な違和感に悶え、ガクガクと膝を震わせて。
「あっ!! あっ!! あっ!! あっ!! あっ!!」
いつしか由美の漏らす声は、嬌声とも泣き声とも判別がつかなくなっていた。
※ ※
『おまえは被虐で濡れるマゾだ』。
怜奈は由美にそう認めさせるべく、恥辱責めと快楽責めを繰り返す。とりわけアナル開発を重視しているらしく、恐ろしいまでの執念でもって後孔を嬲り続けていた。
「すごい音。そろそろ我慢も限界かしら」
怜奈が足元の由美を見下ろす。その手に握られたリードの先は、由美の首輪に繋がっていた。まるで犬扱いだ。実際、由美には尻尾も付いている。肛門からリング状の取っ手が、股間の前貼りを隠すように垂れ下がっている。
「抜いてほしい?」
怜奈が問いかけると、由美の顔が狂ったように上下する。その必死さの理由は、彼女の足元を見れば明らかだ。中身の絞り出されたイチジク浣腸──その数、実に10個。浣腸慣れしている人間であっても、2・3分で耐え難い便意に襲われる量だ。その最後の一個が注入されたのは、今から小一時間前になる。
「じゃあもう一周なさい。しっかり散歩が出来たら、今度こそ本当に出させてあげるわ」
「…………ッッ!!!」
怜奈の言葉に、由美が唇を噛み締める。しかし迷っている時間はない。今も由美の下腹部では、激しい便意と腹痛が荒れ狂っているのだから。
這う格好のまま、伸びやかな由美の脚が弾けるように歩み出す。しかし力強いのも一歩目だけだ。また腹部が鳴れば、太腿はあえなく内に閉じ、歩みを阻害する。結局そこからは、足首を跳ね上げたまま、膝で小刻みに床を蹴りながら進んでいくしかない。
──はははははっ! まーたあのヨチヨチ歩きが始まったぜ!
──無様だねぇ。またあの無駄に良いスタイルが仇になってやがる。
──ああ。せめて童顔に見合った幼児体型なら、あの歩き方も似合うのによ!
観客達は、もう何度目かの“散歩”にも飽きることなく笑い転げる。その悪意は由美の心を蝕むが、もはや構っていられない……はずだった。恥を晒す対象がカメラであれば。
しかし。プレイルームの壁沿いを半周し、入り口の近くに来た時。由美はふと気配を感じて顔を上げ……凍りついた。クスリと怜奈が笑う。
ドアの傍に立ち尽くしているのは、10歳前後の少年。よく日に焼け、頬に絆創膏を貼ったヤンチャそうな見た目ではあるが、揺れる瞳はまだまだ幼い。
「…………悠斗(ゆうと)…………?」
由美が震える声で問うと、少年の肩がビクッと震える。
「ね、ねーちゃん……!」
そう。少年は由美の実の弟だ。両親を早くに亡くし、姉弟2人で親戚の家に引き取られた。しかし扱いは悪く、生活費は自分達で稼がなければならない。それが“パパ活の女王”が誕生したきっかけだ。怜奈はそれを知った上で、この3週目に必殺のカードを切った。由美の心を折るために。
「あんた……まだ子供なのよっ!?」
由美が怒りも露わに睨み上げる。しかし怜奈は、それを涼しい顔で受け止めた。
「あら、怖い眼。奴隷の反抗期かしら。でもいいの? そんな態度を取ってる限り、ウンチはさせてあげないわよ?」
怜奈は凛とした声で語りかける。悠斗にもよく聴こえるように、間違いなく理解できるように。
「ウンチ……!?」
悠斗が言葉を繰り返す。ローションまみれで床に転がる器具の用途も、押し潰されたイチジク型の容器の意味も、彼には理解できないだろう。しかし今の一言は、彼に状況を理解させるには十分だった。
偶然か、必然か。由美の下腹がまた酷く鳴りはじめる。ぐぎゅるるるる、ぎゅごろろろろ、という音が響き渡り、青ざめた由美の顔が顰められる。
「ゆ、悠斗、なにしてんの!? 帰んなって! ここは……んんっ、子供の来るところじゃ、ハァッ……ない、んだよ!」
便意の大波に耐えながら、由美が声を絞り出す。しかし悠斗は瞳を揺らすばかりだ。
「駄目よ、帰しちゃ。彼の存在もプレイの一環だもの。ねえ坊や、外で黒い服を来たおじさんに言われたでしょう? 私がいいというまで帰っちゃだめだって」
妖艶な笑みを浮かべる怜奈を前に、悠斗はただ立ち尽くす。大人の命令を突っ撥ねるには、彼はまだ幼すぎた。
「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ……!!」
由美は明らかに便意の限界だ。息は荒く、脂汗を垂らし、全身が凍えるように震えている。
「ほら、早く歩きなさいよ。いくら躾けても覚えない駄犬ねぇ」
怜奈は悠斗の見ている前で、由美のリードを容赦なく引き絞った。
「…………っ!」
悠斗は言葉もない。彼にとって由美は眩い存在だった。要領がよく、抜け目がなく、目に毒なほど美しい。その姉が見知らぬ女性に丸裸に剥かれ、犬のような扱いを受けているのだ。
「どうしたの? もう限界?」
蹲って震える由美を見下ろし、怜奈が問いかける。
「…………はい…………」
「そう。だったら、言うことがあるわよね?」
怜奈が重ねて問うと、部屋の空気が重苦しさを増す。
「う、くっ…………!!」
弟の前で恥を晒すなど、死にも等しい屈辱だ。しかし、もはや選択の余地はない。浣腸を施されてからすでに40分あまり。人として耐えられる限界などとうに過ぎているのだ。
「……させて、ください……。」
「何をかしら?」
「…………う、うんち…………ウンチを、させてくださいっ!!」
部屋に響き渡る叫び声。それは悠斗のよく知る声色だった。今、同性に排泄を乞うているあのハダカ女は、間違いなく姉なのだ。
「本当に恥知らずねぇ、おまえ。弟の見ている前で。でも、いいわ。そこまでみっともなくお願いされて断ったら、意地の悪い女だと思われそうだもの」
怜奈は固まる悠斗に笑いかけながら、片膝をついて由美の“尻尾”に指を掛けた。
「いくわよ」
指がリングを引き絞れば、紅い肛門を盛り上げながら何かが顔を覗かせる。テニスボール大のステンレス級だ。栓を兼ねたそれが汁と共に抜け出た瞬間が、決壊の合図だった。
「あああ出る゛っ、出るううう゛う゛う゛っ!!!」
悲痛な叫びと共に、開いた肛門から液体が噴き出していく。すでに何度も浣腸された後のため、胆汁の色はついていないが、汚液であることには変わりがない。
「見ないで悠斗っ、見ないでーーーーッッ!!!」
姉がヒステリックに泣き叫ぶのを、悠斗は初めて目にした。いつでも意地悪くからかうか、ぶっきらぼうに心配するか、そのどちらかだったから。
『女王』は泣き叫ぶ奴隷を面白そうに見つめたまま、さらにリングを引き続ける。ステンレス球は次々に姿を現した。6個……いや7個。ひとつひとつがテニスボール大なのだから、その総体積は先日のディルドーをも凌駕しかねない。
「ね、ねーちゃん……」
悠斗はそう声を出した。出さずにはいられなかった。あれだけの量の異物を詰め込まれながら、便意に耐えていたのだ──そう知ってしまった以上は。
「なぁに坊や。お姉ちゃんが心配なの?」
悠斗の声に答えたのは、姉ではなくその女主人だ。
「え? えっと、その……」
「大丈夫よ。苦しそうに見えたかもしれないけど、お姉ちゃんはすっごく気持ちが良かったの。その証拠に、ほら。ご覧なさい」
怜奈はそう言って、肛門から引きずり出したアナルパールをぶら下げる。銀色に光るアナルパールの先からは、ポタポタと液体が滴っていた。
「このオモチャ、何かの液に塗れてるでしょう? これはねぇ、『腸液』っていうの。お尻で気持ちよくなった時に出るお汁なのよ」
「え……!!」
怜奈の言葉に、姉と弟が肩を震わせる。
出すための穴で気持ちよくなっていた?
あの無頼な姉が、あんな扱いをされて?
信じがたい。しかし怜奈の言葉には「そうかもしれない」と思わせる力があった。そして何より、姉の由美自身が、なぜか顔を上げて反論しない。
「う、ウソだよな……?」
悠斗の声は震えていた。由美は答えない。
「嘘じゃないわ。信じられないなら、もうひとつ証拠を見せましょうか」
怜奈はそう言って笑うと、空いた手で由美の前貼りを剥がしはじめた。
「やっ……!」
さすがに由美が抵抗を見せたが、前貼りはそれより一瞬早く剥ぎ取られる。
白いガムテープのような前貼りと、ピンク色の割れ目。その間には銀の糸が引いていた。
「いくら坊やが子供でも、この意味はわかるでしょう? 女は気持ちがいいとあそこが濡れるの。坊やのお姉ちゃんは、あんな事をされながら興奮していたの。そんな変態のマゾなのよ!」
「ち、違うッ!!!」
恥辱のレッテルを貼ろうとする怜奈の言葉を、由美の叫びが遮った。いかに口答え禁止のルールがあろうと、ここで否定しなければ姉としての矜持が死んでしまう。
「へえ、そう?」
怜奈は目を細めると、近くにあったラテックスの手袋を右手に嵌め、指先を由美の肛門へと沈めていく。
「んくっ!!」
由美の反応は大きかった。二本指が第一関節まで入り込むだけで、肛門周りの筋肉が溝を刻む。それだけなら汚辱と見ることもできるが、問題は第二関節まで入り込み、指が動きはじめた後だ。
「んっ、んン……んんんっ、ふんンン…………っ!!」
由美は口を閉じたまま、不自由な呻きを漏らしはじめる。
「ねー、ちゃん……?」
幼い悠斗は『艶やか』という言葉は知るまいが、その類の反応であることは肌で理解できる。母が存命だった頃、耳かきをされている時にたまに出た声……姉がいま必死に堪えているのは、きっとそれだ。
「どう“お姉ちゃん”、気持ちがいいでしょう。おまえはこれが好きだものねぇ。お尻の穴のすぐ内側を、指で優しく撫でられるのが」
怜奈は指責めを加えながら囁きかける。彼女の責めが由美の快楽を引き出すのは当然だった。そうなるように丁寧に仕込んできたのだ。かつて年の行ったお偉方に枕営業を強いられた時、彼に気に入られるため、肛門刺激のノウハウを調べ尽くした。その人生の汚点を前向きに活かした結果だ。
「う……あ」
二本指が引き抜かれた時、その指先と肛門内は太い糸で繋がっていた。ぽっかりと開いたままの肛門も、ヒクヒクと筋肉の動く鼠径部も、なんともいえず心地良さそうだ。
「これでわかったでしょう。坊やのお姉ちゃんが、本当はどういう人間なのか。ねえおまえ、気持ちがよかったわよねぇ?」
「気持ちよくなんか、ないっ……!!」
二度目の問いかけをも、由美は頑として否定する。そしてその行動は、当然ながら怜奈の予想の範疇だ。
「ふうっ、強情ねぇ。いいわ、だったら証明してごらんなさい」
怜奈はわざとらしく溜息をつき、穿いていたスラックスを脱ぎはじめる。
「わっ!」
見知らぬ女性の脱衣に、悠斗が声を上げた。しかしその驚きはすぐに意味が変わった。晒された怜奈の脚が、新雪のように白く美しかったからだ。至高に思えた姉の美脚すら、野暮ったく思えてしまうほどに。
だからこそ。その怜奈が拾い上げたペニスバンドに、悠斗は動揺を隠せない。
ゴムパンツが白い脚の間を滑り上がり、双頭ディルドーの細い方が怜奈の秘部に挿入される。しかし問題は、外側に突き出したもう片方のディルドーだ。大きいというレベルではない。缶コーヒー二本を直列で並べ、その先端にテニスボールをくっつけたような馬鹿げたサイズ。思春期の彼が持て余しているペニスの3倍はあるだろう。
「さあ、私を気持ちよくさせなさい。“いつものように”ね」
怜奈はそう由美に囁きかけ、ソファに深く腰掛けた。
「わ、わかりました……」
由美は躊躇いつつもソファに上がり、怜奈に跨る。凶悪なディルドーがふっくらとした肛門に宛がわれる。
「や、やめろよねーちゃん! そんなの、尻に入れたら……!」
「あら、大丈夫よ。キミのお姉ちゃんは、昨日の晩もその前の晩も、これをお尻に入れて愉しんでたんだもの。むしろ愉しみすぎて疲れちゃって、私を満足させられなかったぐらい。ねえ、おまえ?」
「……ッ!」
「なに、違うとでも言いたいの?」
「いいえ、仰る通りです……」
「でしょう。今日は大丈夫よね? 弟が見てるんだもの、お姉ちゃんとして最後まで頑張れるわよね?」
「……はい」
短い会話の中でも、由美と怜奈の立場の差は歴然としていた。
屈辱に顔を歪めたまま、由美は腰を下ろしはじめる。肛門はやわらかく伸び、テニスボール大のディルドーの先を呑み込んでいく。しかし、易々とではない。
「はっ、はっ、はっ、はっ……!」
ディルドーの先が菊の輪を通り抜けた時点で、由美は緊迫した息を吐く。
「ほら、思い切っていきなさい。“お姉ちゃん”」
「は、はい……んッ、ぎぎッ……ひぎィ……いい゛!!」
腰を沈めるほど、由美の声が悲痛さを増す。脚が痙攣し、重心が前後に揺らぐ。
「危なっかしいわねぇ。肩に掴まることを許すわ」
「あ、有難うございます……」
由美の手が怜奈の白い肩を掴む。あの強かで逞しい姉が、何者かに縋っている……そう見える光景に悠斗の心がチクリと痛む。
「少しハイペースよ。ゆっくりでいいわ、深呼吸なさい。用を足す時みたいに息みながら、S字結腸に嵌め込むのよ」
女王らしく威厳に満ちた怜奈。その肩にしがみつき、命令通りに動く由美の背中が、悠斗にはいつになく小さく見えた。
「あ゛、ん゛……くっ! ……ん……ーっ…………!!」
押し殺した声が漏れる。大人びた肉付きのいい尻は引き締まり、脹脛の筋肉が盛り上がっている。よほどの痛みか快楽に襲われている時の反応。
「ふふふ、悪くないわ。おまえもたまらないでしょう? こんなに逞しいものを、S字結腸で呑み込んでるんだもの。ものすごく気持ちのいいウンチの感覚が、ずっと続いてるんでしょう?」
怜奈の噛み砕いた説明は、明らかに悠斗に向けたものだ。そのせいで悠斗は理解してしまう。日常生活を送る中で、稀に経験する快便の心地良さ……姉はそれを、立て続けに味わっているのだと。
パン、パン、と音が響く。由美が腰を振る音だ。
「はーっ、はーっ……んふっ、ン゛! くうぅう゛ん゛っ!!」
由美は、次第に声を殺せなくなっていった。肉親の鼻に掛かったような喘ぎは、悠斗の肌をむず痒くさせた。
──くくくっ、悲劇だねぇ。
──この場合、どっちが辛ぇんだろうな? 弟にセルフケツハメ見せる姉ちゃんが、姉ちゃんにそんなモン見せられる弟か。
──そりゃ弟に決まってんだろ。見ろよ、姉貴の方は気持ちよさそうだぜ。興奮してんだよ、この状況に。
──いいや、弟だってズボン膨らませでるぜ。あの色気たっぷりの姉ちゃんのハダカは、思春期のガキにゃ刺激が強すぎたらしいな。
容赦のない罵声がスピーカーから流れるたび、姉と弟は身を強張らせる。怜奈はその悲劇を面白がりながら、さらに由美を追い詰める。
「はあっ、欠伸が出そう。そんな動きじゃいつまでたってもイケないわ。いい加減保険をかけるのはやめなさい。ディルドーの先を結腸に嵌め込んで、グリグリ動かすのよ!」
「…………!」
怜奈の一声で、由美が表情を凍りつかせた。
彼女も理解はしていることだ。プレイの目的は怜奈を満足させること。双頭ディルドーの小さい方で怜奈の秘裂を掻き回すとなれば、由美の側は大きくディルドーを動かさなければならない。怜奈が言うように、先端を結腸に嵌め込んで固定し、激しく腰を振る必要がある。それがどれほどの快感を齎そうとも。
「くっ、あっ、あ゛っ、あ゛っ!! あひぃいっ、く……ん゛あ゛、あアっ!! はああぁう゛、くひぃいい゛ッ!!」
腰を動きを早めて以来、由美の声も激しさを増した。かろうじて弟には晒していないが、表情も歯を食いしばり、目を見開いた壮絶なものだ。しかしそうなるのも当然だった。敏感なS字結腸に異物を嵌め込み、激しく揺さぶっているのだ。それは急所を自ら抉りまわす行為に他ならない。
「へえ、なかなか良いわ。やれば出来るじゃない、おまえ」
怜奈は余裕の笑みを浮かべていた。多少の快感は得ているのかもしれないが、絶頂間近の様子にはとても見えない。
「フーッ、フーッ……!!」
由美はいよいよ必死に腰を振る。痙攣する脚を叱りつけ、珠の汗を散らしながら。
「あがっ、がっ……! ひいいっ、ぐひぃいいっ!!」
結腸をいじめ抜くたび、ジンジンと快感の波が広がっていく。ディルドーの先が薄皮越しに子宮を突き上げれば、感電するような快感が背筋を駆け上る。
「ね、ねーちゃん……!」
姉の異変を察した悠斗が声を掛けるが、由美の耳にはもうそれすら届かない。
「あイキそうっ、イキそう……っ!!」
由美の手が怜奈の腕を握りしめる。
「あらあら。主も放っておいて、お尻で一人イクなんて……どうしようもない淫乱ねぇ」
怜奈の罵りが由美の心に突き刺さる。そして、それが決定打となった。
「いいぐっ、イッグううううッッ!!」
怜奈は激しく仰け反りながら天を仰ぎ、そのまま動きを失った。否、ごく小さく動いてはいる。ピクピクと、ヒクヒクと。幼い悠斗にも快感の余韻だとわかる妖しさで。
──ひぃっひっ、盛大にイキ果てやがったぜ! 弟の見てる前でよぉ!
──弟クン、唖然としちまってんな。ま、どう反応していいかわかんねーか!
──なんせ姉ちゃんが、女の上で腰振ってケツイキするマゾ豚だったんだもんなあ!!
スピーカーから客の言葉が浴びせられ、焦点の合わない由美の目から涙が零れる。怜奈が蛇のような瞳でそれを見つめていた。
怜奈はその後も、悠斗の前で由美を辱めつづけた。
ベッドに這う格好を取らせたまま、背後から激しく犯すこともある。怜奈が片膝を立てて犯すため、疑似ペニスが由美の肛門に出入りするところがよく見えた。
「あひぃっ!! んっ、ぐっ! ひっ、ん、んんん゛……!」
弟の手前、由美は声を殺そうとするも殺しきれない。結局は傍にあった枕に顔を埋め、ウーウーと唸るばかりになる。
怜奈はそんな由美の髪の毛を掴み上げて何度も声を晒させながら、楽しそうに腰を打ち付けていた。一突きごとに由美の下腹はボコリボコリと変形し、艶めかしい声が響く。由美のアナル性感は完全に掌握されているようだ。
「本当に救いようのないマゾ豚ねぇ、おまえ。弟の前でお尻を犯されながら、こんなに濡らすなんて」
怜奈は時おり由美の秘部に手を回し、ぐちゅりと音をさせる。戻された指は常に濡れ光っていた。そして時が経つほどに、指に纏わりつく粘液の量は増していった。
「ああああーーーーーっ!!!」
由美はベッドの上でつま先を立てたまま、Vの字に脚を突っ張らせて潮を噴く。失禁と見紛うほどの量だ。ぶるっ、ぶるっ、と震える太腿が、どれほどの快感なのかをよく物語る。
そしてそこが、由美の意地の限界だった。
「ああ゛あ゛あ゛っ! だめ、おくっ……お゛ほっ!! ぁイクっ、イってるがら……お゛お゛っ!! おねがっ、やすませ……ッあお゛お゛お゛お゛っ!!!」
弟の存在など忘れたかのように、濁った快感の声を響かせる。その熱に浮かされたような顔は、悠斗の中の強かなイメージからはあまりに遠い。
しかし、由美は二周目をも耐えきった。
「はぁ、はぁ、はぁ…………あたしは、『S』よ…………!」
震える脚にオイルのような腸液を伝わせ、震える唇を噛み締めながら、黒服スタッフにはっきりとそう宣言する。
「……っ!」
横からプレッシャーを掛けていた怜奈の顔が引き攣った。
しっぺ返しが来る。容赦なく責めたツケが、残酷に。
※ ※
由美の弟を巻き込んだツケ。それは怜奈自身が、見ず知らずの少年の前で恥を晒すことだった。
「どう、シャインマスカットのデザートは? あんた、こんな洒落たの食べたことないでしょ」
「う、うん……」
由美ににっこりと笑いかけられ、悠斗は頷く。初めて食べるフルーツは香りがよく、甘酸っぱくて美味だった。しかし彼の意識は、どうしても横に向いてしまう。
そこには、無残な姿の怜奈がいた。
手足を拘束されたまま天井から吊るされ、身動きは叶わない。102㎝を誇るバストは錘で三角に引き伸ばされ、割れ目には極太のバイブをねじ込まれている。
「“あれ”が気になんの? あははっ、笑えるよね。お尻ヒクヒクさせちゃって」
由美は怜奈の肛門を見て笑う。事実そこは喘ぐような動きを繰り返していた。吊るされて平衡感覚すら失った中、何時間も膣で絶頂させられているせいか。
「物欲しそうにしちゃってさ。刺激が足んないの?」
由美は笑いながら立ち上がり、バイブの取っ手を掴んで出し入れする。
「ムッグウウウウッッ!!!」
猿轡を噛まされた口から悲鳴が上がった。女王役であった時の余裕など感じられない、必死そのものの声だ。
「すごい悦んでるでしょ。こいつはねぇ、こうやってアソコを虐められるのが嬉しくってたまんないんだよ。バカって言う人間がバカって言うじゃん? それと同じで、人のことマゾだとか言う人間に限って、自分がマゾだったりするんだよ」
そう嘲笑う由美は悪魔のようだが、彼女の地獄をも知る悠斗は、批難する気にはなれなかった。
因果応報。それがこのゲームの鉄則なのだ。
姉を怒らせてはならない。悠斗はそれを改めて実感していた。
怒りに狂う『パパ活の女王』は、『パパ』相手に行っていたプレイを施しはじめる。
最初のプレイは飲尿だ。
「零さないでよ?」
「……承知いたしました」
仁王立ちで跨る由美に対し、怜奈は涼しい顔で大口を開き、出はじめた尿を受けとめる。堂々とした姿ではあったが、その両手が固く握りしめられるのが、悠斗にもカメラにも視られていた。
──ひひひっ、悔しそうにしてらあ!
──そりゃそうだろ。女のションベン飲まされるなんざ、変態親父なら涙流して喜ぶプレイだろうがよ、女帝サマにゃ耐え難い屈辱だろうぜ。
──はっはっは! プライドの塊みてぇな女だもんな!
天井のスピーカーから野次が降り注ぐ中、怜奈はゴクゴクと喉を鳴らして尿を飲み下す。奴隷役を全うするという矜持からだ。しかしその忍耐も長くは続かない。まずは怜奈の肩がぶるぶると痙攣しはじめる。
「オエッ……ウグッ、グッ! ……おおオエッ!!」
えずき声が上がってからは数秒ともたず、由美の秘所から口を離して盛大に吐き戻してしまう。
「何やってんの? あたし、零すなって言ったよね?」
「ゲホッ、ゴホッ!! も、申し訳、ございません……」
口調こそ慇懃だが、由美を見上げる怜奈の目は涙と恨みに満ちていた。由美はそんな怜奈を無能と謗りつつ、『パパ活』時代のプレイをさらに再現していく。
床に仰向けで寝かせた怜奈の口に、由美の咀嚼した飲食物を垂らすプレイ。『パパ』達は美少女の唾液が混じった食事を大喜びで貪ったというが、怜奈は屈辱に顔を歪め、こめかみに涙を伝わせ、何度もえずき上げた。
「嬉しくってたまんないくせに、イヤそうにするわねぇ。そんなにお仕置きしてほしいの?」
由美は怜奈の苦しみようを嘲笑いつつ、その口に足指をねじ込んでいく。右の親指、人差し指……ついには足の甲まで。
「んんゴッ、ごぉっ! オ゛、オ゛!! コゥオウ゛オ゛ッ!!」
口をこじ開け、喉を抉り込む苛烈な『足イラマチオ』には、怜奈も無惨にえずき上げるしかない。彼女の手指は床を掻き、左膝は跳ね上がる。
「ね、ねーちゃん……その、ちょっとやりすぎじゃ……」
悠斗が恐る恐る声を掛けると、由美の冷ややかな視線が横を向く。
「なにが? こいつだって私に滅茶苦茶やったじゃん。あんたも見てたでしょ?」
「だ、だけど、やりすぎっていうか……」
「何言ってんの。こいつはね、こういうので感じるマゾなんだよ。こうやって踏みつけてイジめられるのが、好きでたまんないの!」
由美がそう言って足を踝近くまで押し込むと、ついに怜奈の顎が浮いた。
「ごひゅっ!!」
大量に飲まされた尿が細く噴き出し、モデル級の美脚が狂ったように暴れる。それを見ても由美は責めを緩めない。
「ほーらほーら、どう? ノドは気持ちいいでしょ?」
薄笑みを浮かべたまま、右の足指を深く捩り込む。怜奈が身を起そうとすれば、軸足である左足で胸板を踏みつけてそれを阻止する。顎を引いて吐き気を堪えようとすれば、床に下ろした左足の指で怜奈の前髪を掴み、強引に顔を上向かせる。
「ウぉえ゛っ、ふぉっ、ふぉろお゛え゛エ゛エ゛っ!!」
反射行動を力づくで阻害されれば、いかに怜奈だろうと無様を晒した。何度もえずき上げ、流麗な肉体の随所に筋肉を盛り上げて、全身で悲鳴を上げる。
「あはははっ、すごい! それってボディビルダーのマネ? 笑えるけどさ、ちょっとキモいよ、正直!」
由美は笑みを深めながら、右足に力を籠める。そして壁に手をつきながら、捩り込んだ足先で直立する。それが、トドメとなった。
「いイ゛よロうぇらお゛エ゛っっ!!!」
女子アナ時代の怜奈を知る者が、誰一人として想像だにしなかっただろう声。その声と共に、尿と吐瀉物の入り混じったものが次々と口から噴き出し、美しい黒髪の下に汚液溜まりを作る。
これら一連の光景を前に、天井のスピーカーから言葉は発されない。なぜなら観客席の人間は、一様に笑い転げているからだ。その腹の底からの笑い声だけは、常に怜奈の耳に届いている。
「……あーあ、足がドロドロ。舐めて綺麗にしなさいよね」
吐くだけ吐かせたところで、由美はようやく足指を抜き去り、その足先で怜奈の唇をつつく。
「どう? 興奮したでしょ?」
遥かに見下ろしながら由美が問うと、汗、涙、鼻水、涎、胃液……ありとあらゆる汁に塗れた怜奈の顔が歪む。
「は、はい…………し、刺激的な体験をさせていただき、嬉しゅう、ございます…………!」
怜奈はそう語りながら、吐瀉物とえずき汁まみれの足指を舐りはじめた。
「私は、Sよ…………Sに決まってるじゃない!!」
二巡目の奴隷役を耐え抜いた怜奈が、黒服スタッフに向かって叫ぶ。汚液に塗れた見た目こそ悲惨なものの、あくまでも凛とした姿だ。
しかし、彼女にもまた変化が生じていた。
「ふーん、そうなんだぁ」
横から睨みつける由美が、ぼそりとそう呟いた瞬間。怜奈の表情は明らかに曇り、視線は由美とは逆を向いた。
※ ※
5.0倍のオッズがついた事前予想とは裏腹に、怜奈と由美の貶め合いは続く。週を重ねるごとに2人の余裕はなくなっていき、だからこそ追い込み方にも容赦がなくなる。悠斗が恐がって姿を消すほどに。
3回目の奴隷役で、由美は胡坐を掻くような格好で拘束され、機械による肛門陵辱を受けた。ファッキングマシンに繋がった長大なバイブが、休むことなく腸内を蹂躙する。バイブの先端に空いた穴からはたまに浣腸液が噴き出し、由美に狂おしいほどの排泄感と、排便しながらアナルを犯される感覚を味わわせる。
怜奈はその由美の姿を、じっと観察しつづけた。由美が音を上げ、マゾだと認めることを期待して。
しかし、由美も折れない。大小の粗相を繰り返し、結腸と子宮を刺激されて悶え狂い、失神と覚醒を繰り返す段階になってもなお、怜奈の視線を受け止めつづける。
逆に怜奈の3回目の奴隷役は、電動の三角木馬に跨り、全身をX字に拘束されたまま過ごすこととなった。木馬の背にはバイブが備え付けてあり、それが怜奈の秘部を責めたてる。しかもこのバイブは、先端が6つに花開き、子宮口に隙間なくフィットする、ポルチオ開発に特化した責め具だ。それで絶えずポルチオを刺激されつづければ、絶頂せずにはいられない。
「はッはッはッ……た、達します!!」
怜奈は絶頂するたびにそれを宣言させられた。
「ふーん、また? ちょっと早いんじゃない? こっちも一々書くの面倒なんだからさぁ、ペース落としてよ」
由美は歪んだ笑みを浮かべつつ、怜奈の脚にマジックで正の字を書き足す。美脚を穢されると共に絶頂回数を記録されるのは、怜奈にとって耐え難い屈辱だろう。
「も、申し訳……あ、あイクっ!! あああぁまた、た、達しますっっ!!」
絶頂するほどに膣内は敏感さを増し、ポルチオ刺激に耐えられなくなる。結果として怜奈は、大きな波が来た時には、都度の宣言すら困難になった。
「もーっ、いい加減にしてよね!」
由美は叱りつけながら太腿に正を描き、それだけでビクリと反応する怜奈を面白がった。
責めを見守るのが主だった怜奈と違い、由美は積極的に責めたてる。度重なる絶頂で屹立した乳首を、強力なクリップで挟み潰したり。背中を鞭で打ち据えたり。
「いい加減気付いてるんでしょ。自分はサディストなんかじゃなくて、イジめられて悦ぶマゾなんだって。隠したって無駄だよ? だってあんた、あたしの『パパ』と同じ眼してるもん」
木馬を伝う愛液を掬い、白い肌に塗りたくりながら由美が問う。
「…………ッ!!」
口答えが許されず、しかし肯定するわけにもいかない怜奈は、血が滲むほど下唇を噛み締める。
「ふーん、ダンマリか。……あ、そっかぁ。マゾだからもっとイジメてほしいんだね。しょうがないなあ!」
由美はわざとらしく溜息をつき、怜奈の足枷に錘を追加した。すると怜奈の身体は下に沈み、ポルチオへより強くバイブの先が密着する。
「あ゛ぐう゛う゛う゛う゛っ!!!!」
まつ毛の長い怜奈の瞳が見開かれた。そしてその肉体は、たちまち深い絶頂の反応を示しはじめる。太腿が強張り、足指がピンと伸び、下腹がブルブルッ、ブルブルッ、と立て続けに痙攣する。典型的な中逝きのサインだ。
「ほーら、気持ちいい気持ちいい」
由美は怜奈の腹を鷲掴みにして嬲りつつ、マジックを手にしてほくそ笑む。
「あああ深いっ、子宮に食い込んで……はあああッ!!! あおおっ、おっ、お゛っ!! おほっイク、イんグぅうう゛ぅ゛っ!!! イッでル中でまたイって、頭が、焼き、きれるうう゛ッッ!!」
怜奈は強すぎる快感に悶え狂い、白目を剥き、涙と鼻水に塗れながら痙攣する。絶頂ごとに増える正の字は、やがて両脚を覆いつくし、腹部までを侵食していった。
4巡目でも、怜奈と由美の戦いに決着は着かなかった。
5巡目でも、やはり2人は耐え抜いた。
互いの精神は擦り減っていき、やがては相手の心を折ることだけを目的とした、拷問にも等しい責めの応酬となる。
6巡目、女王役の怜奈は由美を拘束したまま石室に閉じ込め、壁の穴から大量のゴキブリを送り込んだ。そして汚辱に泣きわめく由美に屈服を強いながら、長い夜を過ごさせた。すると同じく6巡目、入れ替わりで女王となった由美が蟲責めをやり返す。衛生害虫で満たされた『蟲のプール』の上に怜奈を吊るし、少しずつ高度を下げていく。最初こそ涼しい顔をしていた怜奈も、腰までがプールに漬かったあたりで限界を迎え、半狂乱になって泣き喚く。しかしこちらも、朝になるまで解放されることはなかった。
8巡目、由美は尿道と肛門に電極棒を差し込まれ、電気で強制的に絶頂させられる。閉じなくなった口から舌を引っ張り出されてもなお、由美の瞳が焦点を結ぶことはない。
9巡目の怜奈は、全頭マスクで視覚と聴覚を遮断され、二穴の快感に没頭せざるを得ない状況で放置された。その極限状況は、彼女を快楽に依存させる。ついにはより強い刺激を求め、自ら乳首とクリトリスを捻り潰すほどに。
──この勝負、マジでどっちが勝つんだろうな?
──さあな。もう予想できるレベルじゃねえよ。
──どっちも限界ギリギリって感じだもんな。ま、もうどっちが勝ってもいいけど。
──充分楽しめたもんな。けど、俺はもっと続いてほしいぜ。こいつらが意地張れば張るほど、俺らのオカズが増えるんだからよ!
観客が見守る中、怜奈と由美は殴り合いのような責めを繰り返す。何度膝をつこうがノックダウンは宣言されない。彼女達自身がリングを降りるまで。
「弘中 由美さん、……弘中 由美さん! もう一度確認しますよ!」
「……倉橋 怜奈さん。倉橋 怜奈さん、聴こえますか!?」
黒服のスタッフは意思確認の際、何度も名前を呼びかける。視線も姿勢も定まらない『奴隷』には、言葉がなかなか通じないからだ。
しかし、彼女達の答えは決まっている。
「ふうーっ、ふうーっ……あ、あたしは、『S』、らってば……!」
「はーっ、はーっ……私は、『S』よ……!!」
彼女達は必ずそう答え、女王の視線にブルブルと身を震わせる。その震えの原因は、恐怖か、あるいは期待なのか。
今回の『S女ゲーム』は、随分と長びきそうだ。
終わり
【S女ゲーム】
自称Sの女を2人用意します。
初週はサド女Aを女王役、サド女Bを奴隷役とし、一週間調教させます。
2週間目は役割を逆転させ、サド女Bにサド女Aを調教させます。
これを週替わりで繰り返し、最後までSだと主張できた方の勝ちとなります。
世の中には様々な賭け事が存在するが、いま好事家の間で流行しているのは『S女ゲーム』と呼ばれるものだ。
ゲームの内容は単純。Sを自称する女を2人用意し、サド女Aを女王役、サド女Bを奴隷役とし、丸1週間調教させる。2週目はその役割を逆転させ、サド女Bにサド女Aを調教させる。これを週替わりで繰り返し、最後まで「自分はSだ」と主張できた方の勝ちとなる。客は女が女を貶める地獄を愉しみながら、どちらが勝つかを賭けるわけだ。
『S女ゲーム』専用に作られた施設では、時として陰湿に、時として凄惨に、何十という名勝負が繰り広げられてきた。真のSを自負する気の強い女が、同性に自尊心を削られ、屈辱に歯噛みし、疲弊し、ついには涙ながらに許しを請う。そのカタルシスは好事家を大いに喜ばせた。
今回行われる一戦は特に注目度が高い。対戦する女二人が、いずれも『女王』の異名を持つためだ。
倉橋 怜奈(くらはし れいな)、28歳。華の女子アナ界の頂点に君臨した女。美貌、知性、声質、アナウンス力──全てにおいて抜きんでた実力を持ち、女帝と噂されていた。しかし高慢な性格のせいで周囲の恨みを買い、小さなスキャンダルをきっかけとして業界を追放された。
弘中 由美(ひろなか ゆみ)、19歳。実に小学生の頃から男を翻弄してきた、通称“パパ活の女王”。気のある素振りを見せて貢がせるだけ貢がせては捨てることを繰り返してきた結果、何人もの男から恨みを買っている。
彼女達の共通点は2つ。自身の性格が問題で周囲の恨みを買っている点と、抜群にルックスが良い点だ。次戦の対戦者として2人の情報が公開された途端、客の間にどよめきが走った。何人もの女の痴態を見届け、肥えに肥えた彼らの目をもってしても、怜奈と由美の美貌はレベルが違ったからだ。
怜奈は身長173cm、体重65kg、スリーサイズは102 - 61 - 90というトップモデル級のスタイルを誇る。容姿も女帝の二つ名に相応しい正統派な美人だ。肌は初雪のように白く、シミやくすみは全身どこを探しても見当たらない。柔らかな曲線を描く斜め前髪と、長く伸ばした自然なストレートヘアは、育ちの良さと清潔感を感じさせ、万人受けが求められる女子アナの模範ともいえる。
由美は身長160cm、体重54kg、スリーサイズは86 - 57 - 86。怜奈に比べれば小柄ではあるものの、7.5頭身を誇る肉付きのいい肉体は並ならぬものだ。顔立ちの良さも相まって、少々露出の多い格好をすれば、どんな繁華街だろうと人一倍の目を惹いた。髪はオレンジベージュのセミショートで、今風の軽やかな愛らしさがある。
共に逸材であることは間違いない。しかしゲームの勝敗予想は、圧倒的に怜奈が優勢だった。由美のオッズは実に5.0倍。原因は知名度の差だろう。お茶の間に愛嬌を振りまく中でも、節々に感じ取れた我の強さ。それは彼女が業界から干された原因であると同時に、『S女ゲーム』で勝ち残れる強い根拠でもある。ただし、予想はあくまでも予想。それが覆されたことは一度や二度ではない。極限状態へ追い込まれた時にどうなるのかは、追い込まれてみなければ解らないのだから。
怜奈と由美は、引き合わされるなり火花を散らした。
「呆れるわ。日本人の誇りである黒髪を、わざわざ排泄物みたいな色に染めるなんて。“パパ活の女王”だか何だか知らないけれど、知性も品性もないのね、おまえ」
腕を組んで尊大に見下ろす怜奈。
「はっ。こっちこそ、そんな地味な色で平気な神経がわかんないよ。平安時代ぐらいに帰れば、オバサン?」
アーモンドアイを見開いて睨み上げる由美。
狼と猫が毛を逆立てて睨み合うような光景に、観客席は沸きに沸く。そんな中、2人の間に黒服のスタッフが立ち、ゲームのルールの説明しはじめた。
【週替わりで女王役と奴隷役を繰り返し、最後までSだと主張できた方の勝ちとなる】
【四肢欠損や目潰し・刺青など、肉体の美観を過度に損なう責めは禁止とする】
スタッフがそう説明する間も、2人は視線を逸らさない。しかし、
【奴隷役に口答えや反抗は許されない】
この一文が読み上げられると、微かに眉が顰められた。
『自分以外の強者など認めない。他人に服従するなど度し難い』
オーラでそう語る怜奈と由美の姿に、モニター前の客は生唾を呑む。この戦いが白熱したものになることを、皆が確信した瞬間だった。
※ ※
くじ引きの結果、初週の女王役は怜奈となった。彼女が女王として最初に行ったのは、由美と向かい合ってテーブルに座り、焼き魚を持ってこさせることだ。
「さて。これからおまえと私、どちらが本当のSなのかを競うわけだけど……Sを名乗る人間に必要なのは、品格だと思うわ。主人を気取りながらも品性下劣では、滑稽でしかないもの。違うかしら?」
怜奈はアナウンサー特有の理想的な笑みで問いかける。その姿は気品に満ちていた。品格という土俵において、この怜奈に勝る女性などそうはいないだろう。
「…………仰る通りです」
不利な状況を悟りつつも、由美は肯定するしかない。【奴隷役に口応えや反抗は許されない】──先ほどそのルールを知らされたばかりだ。
「そうよね。だったら、まずはチェックしましょう。日本人女性として誇れる品格が、お互いに備わっているのかを」
怜奈のその言葉を待っていたように、テーブルに2食分の料理が配膳される。白米、漬物、味噌汁、アジの開き。典型的な和食だ。
「えっ!」
由美がぎくりと目を開く。献立を見た瞬間、怜奈の意図が読めた。日本食のマナーを試されているらしい。特に厄介なのがアジの開きだ。アジは骨と身が剥がれにくい部分も多く、箸だけで綺麗に食すには相応の技量が求められる。
「美味しそうでしょう? 奴隷には過ぎた食事だけれど、遠慮なく食べて構わないわ」
怜奈は目を細めて由美に笑いかける。自分の優位を確信している様子だ。
「……はい。お恵みをありがとうございます」
由美は表情を強張らせたまま、箸を手に取る。
「…………っ!」
由美は、針の筵の心地だった。怜奈の作法は完璧だ。汁物の飲み方にしても、焼き魚の食べ方にしても、優雅そのもの。逆に由美はひどいものだ。迷い箸、洗い箸、ねぶり箸……箸の使い方ひとつでも様々なタブーを犯し、それを悉く怜奈に指摘される。特に差が顕著なのは、アジの開きの状態だった。綺麗に骨だけを剥がして完食しつつある怜奈に比べ、由美は食い散らかしたという風だ。
「おまえ、高校も出てる歳でしょう。だったらもう立派な大人よ。それなのに魚ひとつ綺麗に食べられないなんて、呆れて物も言えないわ。おまえなんかと同じ土俵で戦うのが馬鹿らしくなってきたのだけど……私の感覚は変かしら?」
「……申し訳ありません。マナーを学び直します……」
反論の余地もなく肩を震わせる由美。それを見て怜奈はわざとらしく溜息をつく。事情を知らない人間が見ても、どちらが女王でどちらが奴隷か、一目でわかってしまうだろう。
静かながら、あまりにも痛烈な洗礼だった。
食事の終わった怜奈は、プレイルームのソファに深々と腰掛けて脚を組む。
「奴隷の分際で、いつまで偉そうに服を着ているつもり? 脱ぎなさい」
冷ややかな視線でそう命じる様は、まさしく女王さながらだ。
「……!」
由美は右腕をぎゅっと掴み、奥歯を軋ませる。しかし奴隷役である以上、女王の命に粛々と従うしかない。
「わ……わかり、ました……」
諦めたように目を閉じ、深呼吸してから、シャツをたくし上げる。一枚また一枚と衣服が床に落ちるたび、怜奈よりいくぶん日焼けした、しかし瑞々しい肌が露わになる。
「ふうん。確かに男好きのしそうなカラダねぇ」
丸裸となった由美を見て、怜奈が冷ややかな笑みを浮かべる。嫌味であることは子供ですら感じ取れるだろう。当然、由美も頬を引き攣らせる。そんな由美の反応を視界に捉えつつ、怜奈はまた口を開く。
「それじゃあ次は、そこでオナニーでもしてもらおうかしら」
「ッッ!!」
声にならない声が由美から漏れる。くりりとした吊り目が見開かれ、今にも掴みかからんばかりに怜奈を捉える。しかし、その怒りも結局は呑み下すしかない。怜奈は芸能界に復帰するため、由美は諸々のトラブルを解消するため、『S女ゲーム』での勝利を義務付けられているからだ。
「売春婦の癖に、なにカマトトぶってるの? もっと脚を開きなさいよ!」
脚を肩幅に開いた由美に、怜奈は容赦なく罵声を浴びせた。
「もっと、もっとよ。中途半端はやめなさい、このグズ!」
要求はエスカレートし、ついにはがに股での自慰に至った時、モニター前の観客からは歓声が上がった。7.5頭身のスタイルを誇る美少女のあられもない姿が、男の欲求を強く満たしたのだ。
しかし当然ながら、由美の時間でしかない。正面の怜奈を睨みながら、恥じらいの部分をひたすら指で刺激する。
「本当に覚えが悪い奴隷ねぇ。カマトトぶるなって言ったでしょう? もっと気を入れて慰めるのよ。脂ぎった“パパ”の姿でも思い浮かべながらね!」
怜奈は蔑むように笑いながら命令を下す。由美はまた歯軋りの音をさせ、右手の指をより深く挿入し、左手で乳首を捏ねまわす。
「はぁ、はぁ……はぁ……はぁ……っ」
由美の息が上がりはじめ、煌めく愛液が床へと滴っていく。にちゅにちゅ、ぐちゅぐちゅという攪拌の音がはっきりとマイクに拾われるようになり、やがては菱形を作る美脚がガクガクと震えはじめる。
「勝手にやめるんじゃないわよ」
由美の限界を目前で見て取りながらも、怜奈は休むことを許さない。滴る愛液で由美の足元に水溜まりができても、太腿が痙攣を起こしても、何度も膝が崩れそうになるのを見ても、怜奈の可笑しそうな笑みが消えることはなかった。
「……飽きたわ。手をどけなさい」
怜奈がそう言い放った瞬間、由美は安堵を表情を浮かべた。実に1時間半近くも中腰の姿勢を続け、限界が来ていたからだ。
しかし、怜奈が口にしたのは赦しではなかった。彼女は立ち上がるやいなや、指の抜かれた由美の秘部を爪先で蹴り上げる。
「あぐっ!?」
予想外の展開に、由美は呻きながら崩れ落ちる。男に対する睾丸蹴りほどではないにせよ、脂肪や筋肉に守られていない股間への蹴り込みはダメージが大きい。
「ぐ、ぅう……!!」
由美は蹲ったまま股間を抑え、恨めしそうに怜奈を睨み上げる。しかし怜奈は、その視線をむしろ愉快そうに受け止めた。
「ちょっと、私も歩く床なのよ、爛れたヴァギナを密着させないでちょうだい。汚らわしい! 大体、誰が蹲ってもいいと言ったの? 早く立ちなさい!」
吐き捨てるように告げ、由美が膝を震わせながら立ち上がるのを待ち受ける。そうして股座がちょうどいい打点に来たところで、再び爪先を叩き込む。パアアンッと音が響き渡るほどの、一切加減のない蹴りだ。
「ふぐぅうっ!!」
由美は顔を歪ませて呻く。しかし、赦しがなければ崩れ落ちることもできない。頭の後ろで手を組んで姿勢を安定させ、足指で床を噛んで『備える』しかない。
「あははははっ、思ったより面白いわ! 股関節に支えられてるからかしら、結構弾力があるのね!」
怜奈はケラケラと笑いながら蹴り込みつづける。足の甲が股座に吸い込まれるたび、由美の腹部が波打ち、Fカップの乳房が上下に弾んで、観客を大いに喜ばせる。
そして、8度目の蹴りが叩き込まれた瞬間。
「……ゥあ゛ッ!!」
悲痛な呻きと共に、由美の上体が崩れた。それとほぼ同時に、内股に閉じた脚の間から、チョロチョロとせせらぎが漏れていく。失禁だ。
「ちょっと、何を考えてるの!?」
悲劇を引き起こした張本人は、心底嫌そうに眉を顰める。そして力なく崩れ落ちていく由美を見下ろしながら、ぼそりと言葉を投げかけた。内容はマイクには拾われていない。しかし、一度怜奈を睨み上げた由美が悔しそうに這いつくばり、床に舌を這わせはじめたことから、客の全員が理解した。
────女の責めってやつは、男より残酷だな。
そんな声が調教フロアに響く。モニター越しに醜い争いを見守っている賭け客の呟きだ。
残酷という表現通り、怜奈は小便の広がる床に仰向けで由美を寝かせ、フィストファックを仕掛けている。
「……ッ!! …………ッッ!!!」
意地の為せる業か。ゴム手袋に包まれた手首を丸々性器に捻じ込まれてもなお、由美は悲鳴を上げなかった。しかし異様な形に強張った太腿や、バタバタと暴れる足先は、ともすれば絶叫以上に生々しく痛みを訴える。
「うふふ。解る? 今、おまえの子宮に触ってるわよ。どうしたの、痛いの? だったら言ってしまいなさい。『私はSなんかじゃありません。ただの勘違いした子供でした』って」
苦しみ悶える由美を前に、怜奈は至福の笑みを浮かべながら腕を動かしつづける。前後に、上下に。手首の様子からして、膣の中で手を握ったり開いたりしているのも間違いない。
「ほぉら、いい加減意地を張るのはやめなさい。ココが二度と使い物にならなくなってもいいの?」
怜奈の残虐性は人並み以上だ。何度となく問いかけながら、実に数時間に渡って由美の性器を蹂躙し続ける。由美は呻くのみで悲鳴を上げないが、やはり消耗は大きかった。
「ィ、息が……でぎな゛……っ」
そう呻いてから十分と経たず、彼女は意識を失う。歯茎が半分覗くほど歯を噛み合わせ、唇の右端から泡まみれの唾液を伝わせる、壮絶な有り様で。
「あら、もうバテたの? っふふ、酷い顔」
由美から力強さが失われ、反射で膝下が動くだけになった頃、怜奈は顔を上げてカメラの位置を確認した。そして手首を引き抜き、ぐっぱりと開ききった由美の秘裂と、ぬらぬらと液の纏わりついた手袋、そして由美の顔をまとめてカメラに映し込む。
「いい加減私も疲れたし、今日はここまでね。では、ごきげんよう」
怜奈がアナウンサー時代を彷彿させる笑みを浮かべると、客席から拍手が巻き起こった。
女王役と奴隷役。その待遇の差は、夜を過ごす場所にも表れる。
女王役の休憩場所は豪華絢爛そのものだ。上質なソファやベッド、シャンデリアといった家具が並び、ワインセラーまで備わっている。そこで一夜を過ごせば、王侯貴族にでもなったような気分に浸れることだろう。
逆に奴隷役の休憩場所は地下牢同然だ。ドアが閉まれば光は一切差し込まず、完全な暗闇と化す。刻一刻と空気が澱んでいく中、蟲やネズミの気配に怯えながら一夜を過ごせば、惨めな立場を嫌でも噛み締めることになる。
そして客の楽しみは、その暗室に閉じ込められた奴隷の様子を赤外線カメラで眺めることだった。プレイルームでは対戦相手や監視カメラの存在で気を張っている奴隷も、暗室の中では素を曝け出すことが多い。すすり泣く者、母親や恋人の名を呟く者、恐慌状態に陥る者……。自称S女の凛とした顔写真と、そうした醜態を見比べれば、酒が格段に美味くなると評判だ。
由美もまた、当然ながら暗視カメラ越しに視姦された。ただし彼女は気丈な部類だ。気絶から目覚めた後、周囲を見回しながら状況を把握すると、まだまだ地獄が続く現実にうんざりとした表情になる。そして膣の締まりを少しでも戻すためか、両脚をぴっちりと閉じ合わせたまま、両腕で顔を覆った。
「くそっ! あの女……あの、女ぁッ……!!」
激しい凌辱を受けながらも、心はまだまだ折れていない。そのタフさに客の多くが意外そうな顔をする。オッズ比に反して、案外やるかも……そんな声の聞こえる夜だった。
しかし、勝負の行方はまだ解らない。何度となく繰り返される1週間の、最初の1日を凌いだだけでは。
※ ※
「舐めなさい」
2日目の朝。怜奈はソファに腰掛けたまま、脚を開いてそう命じた。
「…………わかりました」
由美は意を決して怜奈の秘部に口をつける。しかし、同性の性器を口に含むのはハードルが高いものだ。ましてやそれが憎々しい相手となれば、どうしても嫌悪感が先に立つ。
「む゛っ、う゛! うぶっ!!」
「なに? 私のアソコを舐めるのがそんなに嫌だって言うの? 卑しい奴隷の癖に」
由美が噎せるのを見逃さず、怜奈が嘲りの言葉を吐いた。
「……い、いえ……」
「だったら、もう少し美味しそうに舐めなさいよ。それから感謝の言葉もね」
「…………あ、あそこを舐めさせていただけて、う、嬉しいです……」
「ふん、なによそれ。『嬉しゅうございます』でしょう。敬語もまともに使えないの? まあいいわ、奉仕を続けなさい。丁寧にね」
皮肉を混ぜて由美の心を掻き乱しつつ、ソファに深く身を沈める怜奈。由美はその足元で唇を噛み締め、大きく舌を出して上から下に秘裂を舐め上げる。
「あら、上手いじゃない。そうよ、その調子。私を満足させられたら、ウォシュレット代わりに飼ってあげてもいいわ。この私の大事な部分を清められるんだもの、おまえには身に余る光栄でしょう?」
怜奈の皮肉は留まるところを知らない。そのあまりに自然な女王ぶりに、客の間で含み笑いが漏れる。しかし当然、奴隷役からすれば憎さ極まるというものだ。
「れろっ、あえろっ……。んふーっ、ふーっ、ふーっ……!」
由美の息が荒くなっていく。少し舐めては鼻で息を整え、また少し舐めては息を整える。おそらくは吐き気を堪えるために。
「鼻息を抑えなさい。不愉快よ」
怜奈がまたも横柄に告げた、その直後。
「う゛っ!」
由美は小さく呻いて顔を離し、下を向いた。床にびちゃっと音が立つ。
「……おまえ、何をしてるの? この私のアソコを舐め清めるのが嫌だとでも言うつもり?」
怜奈が尊大に叱りつけると、由美が顔を上げた。
「ハアッ、ハアッ、ハアッ……!!」
口から涎の糸を垂らし、目に涙を溜めたまま怜奈を睨み上げる由美。流石に我慢の限界らしく、その瞳は敵意を隠せていない。そしてそれは、怜奈の期待する反応に違いなかった。
「生意気な眼ね。おまえみたいな理解の悪い奴隷には、お仕置きが必要だわ」
怜奈は冷ややかにそう言い放ち、由美の髪を掴んで場所を変える。
向かう先はSM専用のプレイルーム。床は汚れることを想定したタイル張りで、磔台や三角木馬といった道具も備えてある24畳の広間だ。
怜奈はそこで、由美に見せつけながら“仕置き”の準備を進めた。金盥にぬるま湯を張り、グリセリン溶液を溶かし、500ml容量の浣腸器で吸い上げる。
そう、“仕置き”は浣腸だ。簡便なイチジク浣腸が用意してあるにもかかわらず、あえて浣腸器とグリセリン液を用いるのは、由美に心理的なプレッシャーを与えるためだろう。事実、由美は表情を凍りつかせている。
「さあ、いくわよ」
尻を掲げさせた由美の肛門へ浣腸器を宛がい、ゆっくりと液を注ぎ込む。
「くっ」
我慢強い由美も、腸に液体が注ぎ込まれる違和感には声を殺しきれない。そんな由美の有様は、見守る観客を大いに興奮させた。なまじスタイルが抜群なだけに、這う格好で浣腸されるという背徳感が際立っている。辛抱堪らぬとばかりにズボンを下ろし、給仕を呼びつけて口を使いはじめる者もいた。そして面白そうにするのは、怜奈とて同じことだ。
「ほぉら、どんどんと入っていくわよ。お前のクソの穴に」
囁くようにそう言いながら、引き抜いた浣腸器に薬液を充填し、再び注ぎ込む。何度も、何度も。
「く、ううっ……!」
「ふふ、苦しい? そうねぇ、お腹が膨れてきたものねぇ」
他人事口調で語りかけながら、由美の下腹部を押さえつける怜奈。
「やっ、触んないで……!」
「触らないでください、でしょう?」
「くっ……さ、さわらないで、ください……ッ!!」
敵意に塗れた会話が交わされる間にも、由美の腹部からはゴロゴロと不穏な音が響いている。早くも浣腸液の効果が出始めたらしい。
「ふ、ぐっ……! んっ、んんんっ……!」
「ふふふ、すごい脂汗ね。出したいの?」
「はっ、はっ……はい……」
「だったら、言うことがあるわよね? 『私はSなんかじゃありません。浣腸されてヒイヒイ善がるだけのメス豚です』……そんなところかしら」
「……ッ!!」
言えるわけがない。怜奈もそう理解しているだろう。あくまで無理難題を吹っ掛け、由美を苦しめたいだけだ。
「そう、言わないの。もう少し入れないと、素直になれないかしら」
怜奈は浣腸液を拾い上げ、金盥のグリセリン液を吸い上げる。それを察した由美が、青ざめた顔で振り返った。
「や、やめて! ……くださいっ!!」
必死に叫ぶも、由美が嫌がることを怜奈が止めるはずもない。シリンダーの容量いっぱいに満たされた薬液が、キューッと音を立てて注ぎ込まれていく。
「ふふふ、そろそろ腸の限界みたいね。ピストンがなかなか動かないわ」
「くっ、う……!! も、もぉ、むりぃ゛……っ!!」
「だったら認めなさい、S女じゃないと」
「う、うぐううっ……!!」
ぐぎゅるるるるる、と腹の音が鳴り、由美の腰がガクガクと痙攣しはじめる。
「ほら。我慢するならするで、お尻の穴を閉じてなさい。少し漏れてきてるわよ」
怜奈は由美の苦しみぶりを嘲笑いながら、親指と人差し指で肛門を押し開く。そして、それが決定打となった。
「あ、ぁ、やだっ!! あああ゛あ゛だめへぇえええっ!!」
喉に絡んだような叫び声と共に、勢いよく汚液が噴き出す。無理が祟って、排泄の音は濁りきっている。ぶりゅ、ぶりゅぶりゅというあられもない音が、立て続けに部屋の壁に反響する。
「ああ、臭い臭い! 何を食べたらこんな匂いになるのかしら。まあ、どうせジャンクフードばかり食べてるんでしょうけど」
怜奈はわざとらしく鼻を摘みながら立ち上がり、由美に謗りを投げかける。
由美は顔を伏せていた。その影の中に、光る雫がぽたぽたと滴っていた。強制排泄という汚辱は、少女の心を深く抉ったらしい。怜奈の狙い通りに。
※ ※
「美味しい?」
3日目の昼。怜奈の呼びかけで、食器の『エサ』を犬食いしていた由美が顔を上げる。その美貌は下半分が異様に艶光り、客と怜奈の笑いを誘った。
「は、はい……」
「大トロみたいな味がするらしいけど、本当?」
「た、多分。でも、これって一体?」
恐る恐る訊ねる由美に、怜奈はにっこりと笑みを向けた。だがその笑みが、由美の不安を掻き立てる。怜奈の笑みは不利益の前兆だ。
「バラムツっていう深海魚よ」
「バラムツ……?」
「ええ。濃厚な味で美味しいんだけど、その油脂成分はほとんどが「蝋」らしいの」
「ろ、蝋!?」
「ええ、そうよ。だから食べてから少し時間が経つと、消化されなかった油脂が肛門からそのまま漏れ出すらしいの。その噂が本当なのか知りたくて、ここのスタッフに用意させたのよ」
「なっ……! 実験したの、あたしの体で!?」
「そうよ。私の知識欲を満たす助けができたんだから、感謝なさい」
さらりと言い放つ怜奈に、由美が目尻を吊り上げる。しかし、その怒りは長く続かない。それどころではなくなったからだ。
「あっ!?」
由美がいきなり悲鳴を上げ、後ろを振り返る。それを見て怜奈も由美の後ろに回った。
「あら、お尻がテカテカしてるわ。もう脂がでてきたみたいね」
「え、う、嘘っ! だって、何か出そうな感じは全然……!」
「バラムツの脂が出る時って、便意は一切なくて、そのまま垂れ流しになるそうよ。それも本当のようね。まああまり撒き散らされても困るから、栓をしてあげるわ」
怜奈は可笑しそうに笑いながら、棚のゴムパンツを拾い上げて装着する。女が女を責めるための、ディルドー付きの下着……ペニスバンドだ。
「な、なにそれ……!」
振り返った由美の顔から血の気が引く。無理もない。ディルドーは白人並みのサイズを誇り、棘状の凹凸が幹の部分をびっしりと覆ってさえいる。アナルセックス中級者ですら、受け入れるには下準備を必要とする代物。怜奈がそれを装着した時点で、ハードプレイを見慣れた客達がざわめき立ったほどだ。
もっとも、そのざわめきは期待の顕れかもしれない。同じプレイでも、される人間の質によってインパクトの強さは変わる。
「やめて!!」
悲痛な叫びも虚しく、拷問具のようなディルドーが桜色の肛門を割りひらく。未熟なアナルには大きすぎる直径。様々な箇所に引っかかる山型の突起。挿入困難な条件が揃っている筈なのに、有り得ないほどスムーズに滑り込んでしまう。腸内がバラムツのワックスで塗装されているせいだ。
「くあああああっ!!!!」
ミチミチと肛門を押し広げる圧迫感に、さしもの由美も悲鳴を殺せない。
「ほぅら、どう? 気持ちいいでしょう?」
怜奈は酷薄な笑みを浮かべながら、リズミカルに腰を前後させる。腰を引く時には、ピンク色の菊輪が追いすがるように盛り上がる。
「ッ! フーッ、フーッ……!!」
由美は歯を食いしばって耐えていた。しかしそれもギリギリだ。ディルドーが太すぎて括約筋が引き攣り、骨盤が軋む。抜かれる時は腸を丸ごと引きずりだされるようだ。それをスムーズに繰り返されれば、苦痛と恐怖で頭が塗りつぶされてしまう。
「まったく、ありがとうが言えない奴隷ねぇ」
怜奈は由美の強情さを鼻で笑うと、その右手を掴んで身を起こさせた。這う格好から、上体を起こす体位に。
「ひっ、ぐ!」
立ちバックで突き入れられた瞬間、由美からついに声が漏れる。手は縋るように正面の壁を掴み、めいっぱいに強張る。
「脂がどんどん漏れてるわよ、締まりの悪いお尻ね。まあ、オツムも緩いんだからしょうがないのかしら」
怜奈はそう囁きつつ、腰を打ち付けるペースを速めていく。パンパンという肉のぶつかる音は、極太が根元まで入り込んでいる証拠だ。
「あ、だ、だめぇっ! そんな、激しっ……んぎぃいいいっ!!」
伸びやかな由美の脚がガクガクと痙攣しはじめた。結合部から滴り落ちる脂が、床の上に白く広がっていく。
「バラムツの脂って本当にさらさらとしてるのね。潤滑油としては最高なんじゃないかしら」
怜奈はあえて呑気な事を口にしつつ、尻を鷲掴みにして腰を打ち付ける。
「あぐっ! こ、壊れるうっ!! いや、いやああっ!!」
片や由美は半狂乱だ。肛門の痛みやヒリつきはいよいよ酷く、抜き差しのたびに脂が漏れていく。読者モデルの友人をして理想的といわれた脚は、今やすっかり脂でコーティングされてしまっている。まさに恥辱の極みだ。
「このアナルセックスの感覚をよーく覚えるのよ。おまえみたいに浅ましい女なら、きっとハマれるわ」
怜奈は言葉責めを交えつつラストスパートに入った。パンパンパンパンと肉のぶつかる音が立て続けに響く。
「いひぎぃいっ、んううあああっ!! ああ、あっ、わあああああーーーっ!!」
苦しげな悲鳴が、最後を告げる合図だった。肛門から脂が流れ出し、内股になった脚が崩れ落ちる。
「アハハハッ! なぁに、もしかして絶頂したの? お尻を掘られて、脂をブリブリひり出しながら!? 傑作じゃない。お客さんにも見てもらいなさいよ、そのだらしない顔を!」
怜奈は可笑しそうに笑いつつ、由美の前髪を掴み上げてカメラの方を向かせた。
「う、あ……ああ……」
由美は心身共に疲弊していた。モニターの向こうで何十人という人間に見られているのだと知りながら、表情筋を引き締めることすらできないほどに。
※ ※
怜奈の責めは、陰湿なプレイを見慣れた客さえ満足するほどに意地が悪い。
4日目は、終日浣腸責めが繰り返された。
酢とタバスコを混ぜた溶液を注入し、脂汗を垂らして苦悶する姿を嘲笑う。逆さ吊りで拘束したまま、腹が膨らむほど高圧浣腸を施し、カメラの前で排泄させもした。真上に噴き出した汚物は容赦なく由美自身の肉体に降り注いだが、由美はそんな状況でも、涙ながらに感謝の言葉を口にさせられた。
前後の穴の拡張も執拗に行われた。脚をVの字に開く形で拘束し、手首もその足首に結わえつける。そうして自由を奪った上で、ワゴンからおぞましい形状の拡張器具を手にとっては、見せつけながら使用する。
「くっ……お、お願いします……!!」
心の底から悔しそうに由美が告げると、メイスを想起させる責め具にたっぷりとローションが垂らしかけられ、肛門へと押し当てられる。そして由美がゴクリと喉を鳴らした直後、責め具の先はメリメリと中に押し入っていく。
「ふッぐううううッッ!!!」
経験に比して、あまりに無理のあるサイズの異物。それを力任せに捻じ込まれれば、とても涼しい顔ではいられない。由美の顔には皺が寄り、足首は拘束する鎖を鳴らし、膝裏は深く溝を刻む。
その苦しみぶりを視界に捉えながらも、怜奈が情けをかけることは一切なかった。責め具の柄を強く握りしめたまま、奥の奥まで押し込み、引きずり出し、また押し込む。その過程で由美が涙を流したり、失禁したり、あるいは引き抜いた責め具に汚物が付着していたならば、それを鬼の首でも取ったように詰り倒す。
責め続けて肛門での反応が悪くなれば、前の穴が標的になった。締まりを戻そうとする由美の努力を嘲笑うように、膣に握り拳を捩り込む。
いかに相手の心を折るかという勝負をしているのだ。情けをかけないのは当然だ。実際に怜奈は、由美が弱ったと見れば服従を迫り、決着をつけようとしている。だが悪女のような笑みを浮かべるその姿は、責め嬲ることを愉しんでいるようにも見えた。
ただ、勝負を見守る観客からすればどちらでも構わない。大事なのは、女が女を貶める地獄がそこにあることだ。由美の愛くるしい相貌が歪むたび、呻きが上がるたび、Vの字に開いた脚が強張るたび、都度歓声が上がった。
──脚がスラーッと長ぇと、拘束が絵になるもんだな!
──ああ、たまんねぇよ。だんだんレイプされてるように見えてきたぜ。
──確かにな。だとするとアナルレイプだぜ? あんな可愛いのがよぉ。
興奮で上ずった声がスピーカーから漏れ、由美の顔を歪ませる。そしてそれは、7日目の深夜……怜奈の女王役が終わるまで続いた。
由美は耐えきったのだ。浣腸責めと拡張を繰り返され、何度となく涙を流し、気絶と覚醒を繰り返しながらも、服従せよという圧力にはついに屈しなかった。
「改めて確認します。弘中 由美さん……貴女は、ご自身が『Sである』と思いますか?」
黒服のスタッフが、由美にマイクを向ける。
由美は無惨な姿だった。皮脂まみれの髪はライオンの鬣のように乱れ、肌は随所が灰色に薄汚れている。頬は平手打ちで赤く腫れあがり、左右の乳首にはクリップの食い込んだ跡がありありと残り、両脚には乾いた排泄物がこびりついている。閉じきらない二穴からは、歩くたびに体液が滴り落ちる。
どれだけ容赦なく責められたのかが、その様子だけで見て取れた。それでも由美は、真っ直ぐにカメラを見据える。
「あたしは、『S』よ!」
はっきりとその宣言がなされた瞬間、睨みつけていた怜奈が目元をひくつかせる。この瞬間、彼女の未来が決まったのだ。1日の休憩を挟んだ後、対戦者2人の運命は逆転する。由美が『女王役』、そして怜奈が『奴隷役』。女王役として苛烈に責めていればいるほど、そのしっぺ返しも大きくなる。それがこのゲームの醍醐味だ。
女王役を失った女性は、奴隷に堕ちるプレッシャーに耐えられないケースが多い。ゲームの中止を訴える者もいれば、神に祈る者もいた。ヒステリックに泣き喚く者もいたし、開き直って高級ワインを飲み漁る者もいた。それに比べれば、怜奈は落ち着いたものだ。女王役の休憩室で豪奢なソファに腰掛けたまま、優雅に脚を組んで本を読み耽る。その様はまさしく女王そのものだ。
──うわぁ、余裕で寛いでる。あの図太さ、過去最強じゃない?
──流石にモノが違うな、女帝サマは。
──やっぱ勝つのはこっちだろ。ガキにこの女の心折るのは無理だって。
客は改めて怜奈の特別さを実感する。しかし同時に彼らは、奴隷役となった怜奈の姿を心待ちにしていた。音を上げるかどうかはともかく、責めを受ければその美貌が歪むのは避けられない。才媛の象徴たる女子アナの中でも、頂点に君臨する逸材──その苦悶する姿を、客の誰もが心待ちにしていた。
※ ※
「……ちょっと。今はあたしが『女王』なんだけど」
ソファで脚を組む怜奈に、由美が呆れたような溜息を漏らす。
「ええ、存じておりますわ“女王様”」
「だったら服ぐらい脱ぎなよ!」
「仰せのままに」
苛立ちを露わにする由美とは対照的に、怜奈は優雅に立ち上がって服を脱ぎはじめた。洗練させた所作で行われる脱衣は、色気よりも美しさが先に立つ。
「これで、よろしゅうございますか?」
露わになった裸体もまた、芸術品さながらだ。
由美のスタイルの上を行く8頭身、そして肌は初雪のような白さだ。それらはどう見ても日本人的ではなく、白人の基準においても最上位であり、もはや創作におけるエルフのようでさえある。怜奈は由美の身体を『男好きのする』と例えたが、怜奈にその言葉は返せまい。神々しいその美貌を前にして、気安く声を掛けられる男などまず存在しないだろうから。
「ホント、生意気……!」
由美は眉を吊り上げながら、浣腸器を拾い上げる。すると怜奈がくすりと笑った。
「何!?」
「いえ。それを真っ先に選ばれるなんて、よほどお辛かったのだろうと思いまして」
「なっ!!」
怜奈の返しで、由美の頬が赤く染まる。図星だった。報復の手段として選ぶということは、その責めが効いたと自白しているに等しい。
由美は苦々しい顔で浣腸器を置き、しばし考え込む。
「長考も程々になさいませんと。7日間というのは、存外短いものですよ」
怜奈はさらに言葉を重ね、由美の思考を乱しにかかる。しかし『7日間』というワードが、逆に良いヒントとなった。地獄の1週間の記憶を辿っていた由美が、ふと唇の端を吊り上げる。
「そうだ。あんた、アソコ舐められるのが好きなんだよね?」
2日目の朝、由美の秘部を舐めさせられた時の記憶だ。怜奈の眉がわずかに動く。
「……嫌いではありません」
「だったら、たっぷり気持ちよくしたげるよ。ちょうどいいのがあるからさ」
由美はそう言って、怜奈を連れて部屋を移動する。向かう先は拷問部屋。床も壁も全てが石造り、他の部屋と比べても別格の威圧感がある。由美はその部屋のカメラを探し、その正面の椅子に怜奈を拘束した。腰掛けるのではなく、胡坐を掻くような格好……つまり、足指と足裏がカメラに写り込むように。
「妙な格好をさせるんですね、女王様。いつもこんな風にお座りなのですか?」
怜奈が嘲るように問うと、由美も冷ややかな笑みを浮かべる。少し余裕が出てきたようだ。
「まさか。わざとに決まってんじゃん。あんたに前と後ろの穴グチャグチャにされてる時、思い知ったんだよ。足の指は嘘つけないなーって。痛かったりくすぐったかったりすると、どうしても動いちゃうもん。その足をお客さんにも見てもらおうと思ってさ」
「…………。」
怜奈は内心、冷や汗を垂らす。由美の考察は的を得ている。今この瞬間にフィストファックを受けたとしても、怜奈は声を漏らさない。無表情をキープする自信もある。しかし、足指の不随意運動を殺しきる自信はない。
それでもなお、動揺を顔には出さなかった。女子アナ界は生き馬の目を抜く勝負の世界だ。少しの隙が命取りになる。仮にもその世界で生きていた人間として、小娘如きに弱みは見せられない。
ゆえに怜奈は、涼しい顔を貫いた。正面にハケのついた水車が設置された時も。スイッチの入った水車がゆっくりと回りはじめ、ハケが絶妙な強さで割れ目を擦りはじめても。
「ハケ水車の味はどう?」
「ふふっ……気持ちようございます」
由美の問いかけにも、余裕の笑みで答えてみせる。
「そ、じゃあたっぷり楽しんで」
由美はそう言って笑みを浮かべると、近くの椅子に腰を下ろした。
刺激は決して強くない。ハケの先はきめ細やかで、痛みなど一切生じない。ほんの微かにくすぐったさを覚える程度だ。しかしその刺激が断続的に、途切れることなく続くのが厄介だった。
少しずつ、少しずつ、快感が溜まっていく。その影響を最初に受けたのは、人体で最も敏感な器官であるクリトリスだ。陰核亀頭の中に芯ができ、膨らみ、勃起し、包皮からまろびでる。それをはっきりと感じながらも、怜奈は何もできずにいた。たとえ手足が自由であったとしても、ハケを押しのけることはできない。それは責めに屈するということだ。
「あーあ、クリちゃん勃っちゃった」
横から由美の声がする。由美は拘束椅子の肘掛けに頬杖をつき、面白そうに怜奈を観察している。
「気持ちが良いと申しましたでしょう。当然の生理反応だと思いますが」
「は? 別にあたし、それが悪いなんて言ってないんだけど? なに必死に言い訳してんの、ウケる!」
「……っ!」
落ち着きを取り戻した由美は、口も達者になっていた。怜奈はひとつ息を吐き、じっと目を閉じる。
心頭滅却すれば火もまた涼し、という。しかし心をどう持とうと、身が焼ける事実が無くなるわけではない。
割れ目が蜜を吐きはじめた。ハケが次々とその愛液をなぞり取り、一周して今度は塗りつけてくる。液体の染みたハケの刺激はわずかに重く、粘膜のひとつ下の層にまで快感を塗りこめてくる。
そして勿論その状況は、水車が回るほどに悪化した。ふと気づけばハケの重みは、人間の舌さながらになっていた。極上のクンニリングス。愛撫の極意は反復にあるという。下手に変化をつけて気を散らすことなく、同じ動作を正確に繰り返すことが、絶頂への最短距離であると。その意味では、機械ゆえに寸分違わぬ反復を為し得るこの水車は、最高にして最悪のパートナーといえる。
「…ッ!」
ビクンッ、と怜奈の右膝が跳ねた。そしてそれを由美は見逃さない。
「あはっ、本気で感じてきたみたいね」
由美は椅子から降りて怜奈の背後に回りこむ。
「ええ、気持ち良うございますから」
「そうだよねー、気持ちいいんだから当然の反応だよね。でも思ったんだけどさ。それって、普通の人間のハナシじゃない? このカメラの映像、何十人って人が見てるんでしょ? その前で股おっぴろげてさ、オモチャ相手にオマンコとろとろに濡らしてるって……それで『S』だって胸張って言えるかなぁ?」
「……ッ!!」
由美に囁かれ、怜奈は息を呑んだ。呑んでしまった。薄々感じつつも無視していた事実を突きつけられたからだ。
「私がSかどうかと、この状況は関係ないわ!」
「ふーん、そう。ところでさあ、敬語忘れてるよ?」
由美はライバルの失態を嗤いつつ、万歳の恰好で拘束された怜奈の腋を撫でる。
ふっ、と笑いが漏れた。
「腋の下ヌルヌルだよ。ちょっと匂うしさ。もしかしてだけど、あんたワキガ? それとも加齢臭かな?」
「……っご冗談を」
畳みかけるような精神攻撃に、怜奈が唇を噛む。僅かだが瞳も泳いだ。よりにもよってワキガなどと、とんでもないことを言い出したものだ。雑な言いがかりでしかないが、この場にいない客の中には信じてしまう者がいるかもしれない。そんな事は女子アナとしてのプライドが許さなかった。
しかし、どのみち客席はすでに興奮のるつぼと化している。
──すげぇな、マン汁が飛び散ってやがる。
──人形みてえな見た目してるくせに、ちゃんと濡れるのは濡れるんだな。
──おまけに見ろよ、マンコがパクパク喘いでやがるぜ。
──よっぽど気持ちいいんだろうなあ。金髪のガキが言ってたように、足の指もピクピク動いてっしよ。
接写された秘裂に野次が飛ぶ。怜奈は由美のように露骨に顔を歪ませはしない。しかしよく観察すれば、その眉根に強いストレスが見て取れた。
「すごい音してるね。にちゃあっ、にちゃあって。オマンコの汁が粘ついてるのかな。性病なんじゃない、あんた?」
「く……っ!」
カメラを意識した由美の暴言で、怜奈の頬が引き攣る。効果的な責め口だった。人一倍プライドの高い女だけに、イメージの低下が何より耐え難い。特にワキガだの性病だのという風評被害は、女の最も恥となるところだ。
「ふぁあ……なんか眠くなっちゃった。その機械自動運転にしとくから、勝手に楽しんでね。眠かったら寝てもいいよ、許可したげる。じゃあねー、ワキガ性病の女帝さま!」
由美は欠伸交じりにそう告げると、電気を消して拷問部屋の扉を閉じる。部屋は闇に包まれた。この暗さではカメラにも映るまいと判断し、怜奈は大きく息を吐く。しかし当然、拷問部屋でも暗視カメラは作動している。
「はあ…………はあ…………はあ……はあ……っ」
部屋に響くのは、水車の回る音と荒い呼吸音のみ。水車のペースは完全に一定だが、呼吸は次第に早く、荒くなっていく。そしてその果てに、怜奈の両の足指が握り込まれた。
「…………ぃくっ…………!」
小さな声が漏れ、暗がりに吸い込まれていく。モニターを見守っていた客は騒ぎ立てるが、怜奈はそんな事を知る由もない。
彼女はまた無に包まれた。いや、一つだけ別の存在がある。極上のクンニリングスを絶えず繰り返す、無骨な恋人。視界が閉ざされた今、それのもたらす刺激だけが怜奈のすべてだ。
分厚い“舌”が、割れ目を丁寧に舐め上げる。すっかり肥大化した陰核も優しく持ち上げ、弾く。秘裂はその刺激に歓喜し、パクパクと喘ぎながら悦びの涙を垂れ流す。
水車が自動運転になってからは、別の要素も加わった。ハケが休まず回転する中、時々何かの液体が秘裂に浴びせかけられる。最初はどうということもないが、時間が経つとむず痒さが生まれ、ついには異常なほど敏感になる。陰唇が丸ごとクリトリスになったようにだ。そこへハケが襲い掛かると、もう耐えられる道理がない。
「…………あィクっ…………いっくっ……!」
怜奈の膝が何度も跳ね、呻くような声が吐き出される。そしてその反応は、徐々に激しくなっていく。
「ああああイグっっ!!!!」
最初に声が漏れてから23分後、ついに明瞭な叫びが響き渡った。声が壮絶ならば、肉体の反応も壮絶だ。太腿の肉が隆起し、その中央から飛沫が飛び散る。上体は反り返り、首は天井を仰ぎ、信じられないとばかりに目を見開く。
実際それは、初めての経験だった。初心な生娘というわけではない。主に利用するため、何人もの男と一夜を共にしてきたし、セックス経験はむしろ豊富な方だ。しかし、失禁を伴うほど深い絶頂は経験がない。ましてやそれが、挿入によるものではなく、前戯であるクンニリングスで齎されるとは。
──ひひひひっ、あの澄まし顔の女帝がエビ反りイキだぜ!
──マンコ擦り上げられただけでマジイキとは、大した変態ぶりだな!
──暗視カメラじゃよく見えねぇが、潮も噴いてんじゃねぇかアレ!?
観客達は怜奈の痴態を面白がり、膝を叩いて笑い転げる。一方、見世物になっている怜奈は依然として地獄の最中だ。
「んあ゛っ、あひィ゛!! ま、またっ、いく……ッ!!」
怜奈は歯を食いしばり、悔しげに呻く。気力で立て直しを図っているが、甘い絶頂が止まらない。むしろ力めば力むほど、快感の沼に深く沈んでしまう。
ぷしゅっ、とまた潮が噴き出した。怜奈は顔を引き攣らせ、なんとか腰を浮かせようとする。しかし、それが叶ったのも数秒だけだ。すぐに腰が落ち、ハケにより強く割れ目を押し付ける形となる。
「ンおオオ゛ッ!? あひいっ、ひいいっ!! もう駄目っ、止まって! お願い止まってっ!!」
あられもない声で絶頂し、悶絶し、水車に向けて哀願する。機械に哀願が通じると思うほど愚かな女性ではない。しかし、その判断すらつかなくなるほど余裕がないのだ。
暗闇の中、絶頂と哀願は夜を徹して続いた。
「おはよー。気分はどう?」
由美が明るい口調で部屋の電気を点けると、惨状が白日の下に晒される。
新雪のようだった肌ははっきりと紅潮し、汗で濡れ光っている。
乳首は独りでに屹立し、乳輪までもがふっくらと厚みを持っている。
相も変わらずのペースでハケが秘裂を舐め上げれば、太腿が跳ね上がり、上体が傾いで乳房が踊り、足裏が蠢き、足指が空を掻きむしる。透明な雫が宙に撒き散らされるのも視認できる。
水車の絶え間のない刺激で、都度絶頂させられているのは明らかだ。
「お陰様で、素敵な夜になりましたわ」
アナウンサーの矜持として、せめて綺麗に笑ってみせる怜奈。だが、手で拭うことの叶わないその顔は、涙と鼻水、そして首までを覆わんばかりの涎で無惨に汚れている。
由美はその姿を面白そうに観察しつつ、ゆっくりと近づいた。手にはミネラルウォーターのボトルと丸めた新聞紙を握っている。
「すっごい匂い」
鼻をひくつかせ、あえて抽象的な言葉を吐きかける。その意図を怜奈は理解していた。噎せかえるような汗と愛液の匂い。一晩濃密なセックスをした後のそれが、体中から立ち上っているのだ。
「ふーっ。なんか蒸し暑いねー、この部屋。湯気出そうな女もいるし」
由美はそう言って水のボトルを開封し、怜奈に見せつけるように、ごきゅっ、ごきゅっ、と喉を鳴らす。
「……っ!」
怜奈は忌々しげに唇を噛んだ。一晩かけて汗と愛液を搾り取られ、床にはプールさながらの水溜まりができている。脱水症状寸前だ。その状態でこのパフォーマンスは、かなりつらい。
「ぷはぁっ、おいしーい! ん、なぁに? もしかして欲しいの?」
「……いえ」
「あっそ」
怜奈の意地を嘲笑うように、由美がまた水を飲む。ごきゅっ、ごきゅっ、という音に惹かれ、怜奈の喉も無意識に鳴る。
「あはは、やっぱ欲しいんじゃん。正直にそう言えばいいのに」
由美はしてやったりという笑みを浮かべ、水を口に含んで怜奈の唇を奪う。
「っ!!」
客席を沸かすレズキス。それは怜奈の矜持を強く傷つけた。遥か下の存在である“パパ活娘”ごときと唇を合わせるのが、そもそも不快の極み。ましてやキスの主導権まで奪われ、強制的に唾液交換をさせられるのだ。
由美の唾液の混じった液体が喉を下る瞬間、頭上の拳が固く握り込まれる。
「ぷはっ。どう、美味しい?」
「………………美味しゅうございました」
問いに答えるまでの間が、彼女の屈辱を如実に表している。
効果的と見れば、その責めを続けるのが勝負の鉄則だ。由美はカメラに見せつけながら何度もキスを強い、膨らんだ乳輪と屹立した乳首を執拗に愛撫する。それが快感を飽和させたのか、あるいは単に水分補給の結果か。怜奈の腰が突如跳ね上がり、尿が水車に浴びせかかった。放尿は次第に勢いを増し、放物線を描きながら、ついには水車の上にアーチを描く。
「ンンンンンンーーーーーーッッッ!!!!!」
漏れた呻きは悲痛だった。どうしようもない絶頂の喘ぎが、由美の口に阻まれて殺されている……それが明白だ。
長い呻きが尻すぼみで終わり、ようやく口が解放された時、怜奈の視線は呆然と宙に投げ出されていた。すぐに我に返り、理知的な表情を取り戻したのは流石だが、その一瞬の亡失はしっかりと由美に悟られている。
「ボーッとしちゃって、気持ちよかったの?」
「…………はい、大変心地良うございます」
「ふーん。クールぶってるくせに変態なんだ。ムッツリってやつ?」
由美は嘲り笑いつつ、丸めた新聞紙を広げはじめた。
「ところでさ、これ今日の新聞なんだけど。せっかくだしあんた読んでよ。元女子アナなんでしょ」
その言葉で、怜奈の目つきが僅かに鋭くなる。女子アナとしての仕事は彼女にとっての聖域だ。こんな悪趣味なゲームに参加しているのも、全てはその座に返り咲きたいがため。それを冒涜するような行為は許しがたい。
「この状態で読め、と仰せですか?」
「当たり前じゃん」
怜奈の逆鱗に触れていることを理解しつつも、由美はあえて強要する。
「…………承知しました」
怜奈は能面のような無表情を作り、由美の構える新聞記事に目を通す。
「台風第6号は、15日10時には……っ石垣島の北約160キロにあり、1時間に……あっ、およそ10キロの速さで、北へ進んでいます」
アナウンサー時代を思い出して胸を張り、記事を読み上げていく怜奈。しかし、ままならない。回転するハケが割れ目と陰核を舐め上げるたび、声が震える。時には嬌声が読み上げに混じりもする。
「ちょっと、『あっ』なんて書いてないんだけど。ちゃんと読みなよ、アナウンサーでしょ?」
「……失礼いたしました」
由美の茶化しに、怜奈の顔が珍しく怒りを表す。しかしその表情を一瞬で戻し、再び記事に視線を戻すのは、彼女なりの意地か。
「中心の気圧は……っ、955ヘクトパスカル、中心付近の……んっ、最大風速は40メート……ルっ、最大瞬間風速は60メート、ルで……」
真っ当にやろうと姿勢を正すほど、ハケの刺激を直に受けてしまう。太腿がぶるぶると震え、呼吸も乱れていく。
そして、ついに限界は来た。
「中心から、は、半径130キロ以内ではァ……っ、ふっ、ふ、ふっ……風しょく……25メートル以上のっ、ぼっ、暴ふぅ、ふうう…………ぅンンンッッ!!!」
悲痛な叫びと共に、膨らんだ太腿が病的に震え、割れ目から飛沫が噴き上がる。一度ではなく、びゅーっ、びゅーっ、と数度に分けて撒き散らされていく。同時に怜奈の顔は天を仰ぎ、足指は10本すべてが別の方向に突っ張った。その様を見れば、彼女が強靭な意思で無理を抑えこんでいたのが伺える。ドキュメンタリー番組であれば、賞賛されて然るべきプロ意識だ。しかしこの場では、その必死さは笑いの種にしかならない。
──ひーーひっ、ハラ痛てぇ! ぼうふううん~だってよ!
──あっひゃひゃひゃっ! やめろ、笑かすなって!!
モニター前の観客たちは笑いすぎで息もできない状態だ。クールな怜奈の醜態がおかしくて堪らないらしい。
「あっはははははっ、ホント笑える! マジ面白いじゃんあんた。アナウンサーじゃなくて芸人になれば?」
嫌味を交えつつ、由美は怜奈の拘束を解きはじめた。そして膝の笑う怜奈にがに股を強制し、本来10㎝以上背の高い彼女を“下”に置いたまま、秘所に指を宛がう。
「すごい、ヌルヌルじゃん。何遍イッたの、あんなオモチャ相手に?」
「……恐れながら、数えておりません」
「ふーん、数えきれないレベルかあ。でもあのハケじゃ、表面撫でるだけだから物足りなかったでしょ。こんな風に、中まで欲しかったんじゃない?」
「ッ!!」
中指と薬指が膣内に入り込めば、怜奈がびくりと反応する。当然それは由美の失笑を買った。
「ふふ。すごい、トロトロのグッチョグチョ。なるほどね。こんなになってたら、ニュース読み上げるよりイクほうを優先しちゃうよねー。アナウンサーとしてはどうかと思うけど……あ、でもあんた、今はアナじゃないんだもんね。女子アナじゃなくてバカ穴かあ」
由美は詰りつつ、二本指の腹で膣壁を探る。目当てのGスポットはすぐに見つかった。怜奈の反応が、まさにそこだと教えてくるからだ。
「ふ、くッ……!!」
怜奈は唇を噛み締める。
無反応を貫けない。一晩かけて陰唇と陰核を優しく刺激されつづけた結果、陰核の付け根……陰核脚がたっぷりと快感を吸って温まっている。そこをGスポット越しに刺激されるのだから、堪らない。痺れるような、とろけるような刺激が太腿にまで伝播していく。意思とは無関係に腰が動く。
「ふふ、腰ヒクヒクしてる。指マンが気持ちいいの、バカ穴オバサン?」
「………………はい。気持ち良うございます」
「へーえ、そっかぁ。あたしならこんな状況、恥ずかしすぎて感じるどころじゃないけどなあ」
「……ッ!!!」
由美は言葉で追い詰めつつ、Gスポットを撫でる。優しく、しかし指先がめり込むほどの圧をかけて。それが最も効く方法だと知っているからだ。
「ンん!」
怜奈の唇が噛み締められ、下腹がブルブルッと痙攣する。それを見て由美は笑い、なぜか指を引き抜いた。すると、その直後。怜奈の開いた脚の間から、じょろじょろと尿があふれ出す。
「あーあ、漏らしちゃった」
呆れたように溜息をつく由美。だが当然、これは彼女の予見した結果だ。
「……申し訳ございません」
怜奈は無表情に前を見つめているが、その意識は明らかに斜め前のカメラに向いていた。この惨めな光景が、不特定多数の男にどれだけ嗤われていることだろう。そう思うだけでプライドが軋みを上げる。
由美はその後も執拗に指責めを繰り返した。
「もっと腰落として、脚開きなよ。次、その生っ白い脚が菱形じゃなくなったら、お仕置きだからね!」
がに股のポーズを強いたまま、同性ゆえの的確な刺激で、何度となく潮噴きや失禁を誘発する。
「……んッ……! ……ふッッ……!!」
怜奈は随分とよく耐えた。そのコンディションからは考えられないほど長く。しかしその精神力をもってしても、肉体の限界サインは無視できない。
「ッくうゥんッッ!!」
怜奈は切なく呻きながら、内股に脚を閉じた。巧みに動く由美の手を挟み込むように。
「……何やってんの?」
「はっ、ハァッ、ハァッ、ハァッ……!!」
由美に非難されても、怜奈には答える余裕すらない。快感と疲労で呼吸は乱れ、立っているのもやっとの状態だ。
「まったく、ナメてるね。これは約束通りお仕置きかな」
由美はそう言って背を向け、何かを手に取って振り返る。手にしたものは、電気マッサージ器。それも家庭用の物よりいくぶん大きい。
「う……ッ!!」
怜奈の顔が青ざめる。聡明なだけに、今の状態でそれを受けるとどうなるか、正確にシミュレートしてしまったのだろう。
由美が近づくと、怜奈は太腿を擦り合わせて拒絶の意思を示す。しかし、それは『奴隷役』に許される行為ではない。
「脚を開きなさい」
あえて女王然とした口調で命じる由美に、怜奈は息を呑む。そして、ゆっくりと足を開いた。
「……………………お願いします」
その言葉とほぼ同時に、脚の間から雫が滴り落ちる。
「オマンコからヨダレ垂らしちゃって。そんなに期待してるんだ?」
由美は嘲笑いつつ、マッサージ器のスイッチを入れた。床さえも震わせるほどの重低音が響きはじめる。
「あははっ、すごい音。工事現場の機械みたい。これは刺激強いよー。どう、子宮がウズウズしてくるでしょ?」
由美はそう囁きながら怜奈を焦らし、マッサージ器の先端を軽く陰核を触れさせる。
「ひっ、ああっ!!」
反応は大きかった。弾けるように腰が引かれ、左右に揺れる。快感で膨れ上がった蕾に極大の刺激が襲ったのだ、当然ではあるのだが。
「あははははっ、凄い凄い。でも逃げちゃダメだよ。お仕置きなんだから」
由美はケラケラと笑いながら怜奈の回復を待ち、がに股に開かれた脚の間に再度マッサージ器を触れさせる。今度のターゲットは大陰唇だ。陰核ほど耐え難いわけではないが、重苦しい刺激がズーンと腹の内まで入り込んでくる感覚は堪らない。
「んひっ、はっ、あ……ンおっ、おおお……!!」
腹に溜まるタイプの快感ゆえに、喘ぎは自然と息むようなものとなる。状況からして不可避の反応。しかしそれは彼女のイメージを決定的に瓦解させるものだ。
──ひゃっひゃっひゃっ、すげぇ声!
──まさかあの倉橋アナのオホ声聞く日が来るなんてな!
──クールビューティーで売ってきたあの女がよォ、笑いが止まらねぇぜ!!
観客から笑いが起きる。そして勿論、怜奈の反応を間近で見る由美も、涙を浮かべて笑っている。怜奈はその状況に歯噛みしつつも、快感でそれどころではない。
「おほぉっ!!」
情けない声と共に、割れ目から飛沫が噴き出す。堪らず腰が浮き、顔が天を向く。
「ぶはっ! なぁに、今の声。あたし笑わせようとしてんの?」
「はっ、はっ、はっ、はっ、はっ…………!!」
由美の詰りに応える余裕もない。28年の人生で初めて経験する、あまりに強烈なオーガズム。そのショックを肉体も頭も受け止めきれない。
「エビみたく仰け反っちゃって。そんな深くイッちゃったんだ」
「はぁ、はぁ、はぁ……し、失礼、しました……」
「で、イッたんでしょ?」
「…………はい、達しました」
「ぷっ! こんなんでイキまくっといて、自分はSだー、なんてさぁ。どうみてもドMじゃん!」
「くっ……!」
容赦ない嘲りが、怜奈の矜持にヒビを入れる。
「よーしドMオバサン、もっともっとイカせたげるよ。ほら、姿勢ちゃんとして。頭の後ろで手ぇ組んで、腰落とす!」
怜奈が屈辱的なポーズを取るのを待ち、由美はまたマッサージ器を宛がいはじめた。
「あおォッ、おっ、お……おほっ、ほォお……お゛ッ!!」
怜奈から漏れる喘ぎは、やはり愛嬌からかけ離れている。もはや意志で抑制できるレベルではないのだ。
全てが、無意識。
刺激から逃れようと腰が浮くのも。
石床の上で、両脚がつま先立ちになるのも。
太腿の筋肉が醜く縦に張るのも。
腹筋がブルブルと震えるのも。
潮噴きに次ぐ潮噴きも。
どれ一つとして、怜奈が意識してそうした行為はない。むしろ彼女はその全てを抑えこもうとし、そのたび無力感に苛まれていた。
2時間以上に及ぶマッサージ器責めが終わっても、怜奈には碌に休憩さえ与えられない。
腰砕けで立つことが困難になった彼女は、ベッドに大股開きで拘束され、中逝きを経験させられることとなった。膣に長大なバイブを押し込まれ、そのバイブの底にマッサージ器が宛がわれる。バイブ自体の振動とマッサージ器の振動が合わさったものが、蕩けきった子宮口を不規則に振動させる。
「んあ……あ、あぐっあ……くっ! た、達します!!」
絶頂する時は宣言するよう命じられているため、怜奈は忙しなく声を張り上げなければならない。
「すごい、どんどん汁が出てくる」
由美は笑いながらも責めの手を緩めない。猫のような瞳で怜奈の反応を観察し、最も嫌がる角度でバイブを固定する。“パパ活の女王”の異名は伊達ではない。ただ身を売るのではなく、交際相手を巧みに責め嬲り、喜悦させてきた正真正銘のサディストなのだ。
「あかはあぁっ!! た、達します! 達しますっ!! だめ、イッてる最中に、また……くひぃいいいっ!! お、お願い、少し休まぜでっ!! ずっとイキ続けで、息が……!!」
流石に怜奈にも限界が来た。奴隷役の口調すら保てず、地を出して哀願する。しかし、その哀願が聞き届けられることはない。彼女もまた由美の哀願を聞き入れなかったように。
「許してほしいんなら、どうすればいいか解るよねぇ。“自称S”のオバサン?」
悪意に満ちた笑みで意趣返しをされれば、怜奈はぐっと言葉を呑むしかない。
「あイグッ、イグッッ!! いぐいぐッ、イグッ、イグううううッ!!!」
腰を跳ねさせ、脚を暴れさせ、手足の指先を強張らせ……怜奈は全身で限界を訴える。それでも慈悲は掛けられない。絶頂続きで敏感になっている子宮口へ、バイブとマッサージ器の波状攻撃が絶え間なく浴びせられる。
「おッ、おほっ、おほっ……んォおおおッ!!」
限界の、限界。怜奈は獣のような声を上げながら、白目を剥いて痙攣しはじめた。ビクンビクンと跳ねる腰も、異常性しか感じられない。
「あはっ、ヤッバ。意地張ってるとホントに壊れちゃうよー?」
由美は異変を感じつつも、責めの手は緩めない。これは殺るか殺られるかの真剣勝負だ。相手の矜持をへし折ることができなければ、次は自分が折られる側になる。であれば、限界以上と思えるところまで追い込むしかない。
「確認します。倉橋 怜奈さん……貴女は、ご自身が『Sである』と思いますか?」
黒服のスタッフが、怜奈にマイクを向ける。
前週の由美と同じく、7日目を迎えた怜奈は無残な姿と成り果てていた。長い黒髪は汗を吸って乱れ、白い肌に海藻のように絡まっている。真っ赤な目からは涙の痕が続き、乳頭と陰核は吸引でもされたようにしこり勃っている。辛うじて直立している両脚も、カクカクと震えるのが止まらない。
それでも怜奈は、真っ直ぐにカメラを見据えて告げた。
「私は、『S』よ!」
その言葉を聞き、由美が表情を曇らせる。
精一杯責めた。泣かれても、請われても。つまりそれは、これ以上ないほどに恨みを買ったということだ。
※ ※
「どうしたの? 口を開けなさい」
スプーンを差し出した怜奈が、冷ややかに由美に告げた。
「……も、もう、無理です……」
由美は涙ながらに首を振る。
仰向けに拘束された彼女の腹部は膨れ上がっていた。中を満たしているのは、怜奈がスプーンで繰り返し与える“餌”だ。
牛乳・雑穀や豆類・魚の内臓・ゴーヤをミキサーにかけて粥状にしたもの。怜奈はスタッフに指示してそれを大鍋一杯に作らせ、延々と由美に食べさせていた。雑穀や豆類は羞恥責めのキモである便のかさを増すため、魚の内臓とゴーヤは味を劣悪にする嫌がらせのチョイスだ。
「食べなさい」
由美が涙目になっても、怜奈が過食責めを止めることはない。むしろ効いていればこそ、相手が音を上げるまで続けるだけだ。
「む゛ゥうえ゛っ!!」
口にスプーンを突っ込まれた由美が噎せ返る。薄黄色い吐瀉物が頬を垂れていく。
「なに? せっかくおまえの為に作った食事を、食べられないとでも言うつもり?」
「げ、限界です……もう、入らない……!!」
「嘘おっしゃい」
必死に首を振る由美を冷ややかに見下ろし、怜奈が何かを準備しはじめる。高圧浣腸で使われるイリゲーターと、極太のチューブ。
「あ……!」
されることを理解した由美が逃げようとするが、拘束されていて動けない。そんな由美に冷酷な笑みを投げかけながら、怜奈の手がチューブの先を口に押し込む。喉を越えて、胃にまで。ゴォエッと酷いえずきが漏れても、一切意に介さない。
ごぽり、ごぽり、と音を立て、イリゲーターに注がれた“餌”が由美の胃に送り込まれていく。
「んぐっ、うウ゛……おぐっ!!」
由美の拘束具が音を立てる。しかしいくら力んでも、悪夢のような状況は変えられない。
「ふふふ、とっても素敵よ」
由美の姿を見て、怜奈が笑う。
由美の姿は無惨の一言に尽きた。形のいい鼻はフックで豚のように吊り上げられ、乳首には紐で鈴が結わえつけてある。だが、一番に目を惹くのはなんといってもその腹部だ。
チューブで限界の限界まで流動食を流し込まれた腹部は、妊娠後期さながらに膨れ上がっていた。元がモデル級のスタイルだけに、異様さが際立っている。
──すげぇな、マジで豚みてぇだ。
──あんだけ顔とスタイルが良いガキでも、ちっとの細工でブスに成り下がるもんだな!
客の罵声にも容赦がなく、へし曲げられた由美の顔がますます歪む。そんな中、彼女の腹部から不穏な音が響いた。餌に含まれる牛乳で腹を下したのだろう。
怜奈が紅い唇の端を吊り上げる。
「さあ、始めてちょうだい」
怜奈が指で示すのは、由美の脚の間に設置された巨大ディルドーだ。形こそ男性器を模しているものの、サイズが常軌を逸している。近いサイズで言えば2リットルのペットボトルか。
「くうっ……!!」
由美は唇を噛む。冗談でも性器に入れてはいけないサイズ。しかも今はこの腹具合だ。とはいえこのゲームにおいて、女王の命令には逆らえない。
「早くなさい。ギャラリーの皆様も待ちかねよ」
「…………はい、頂きます…………」
由美はゆっくりと腰を下ろしていく。ディルドーの亀頭部分は由美の拳より太いが、表面にワセリンが塗りたくられているため、簡単に割れ目へ呑み込まれていく。しかし、問題はそこからだ。
「ふ、ぐうううっ……!! ふ、太ぃい゛イ゛……ッッ!!」
腰を僅かに沈めるだけで、ミリミリと膣が拡げられていく。フィストファックとも比較にならない刺激の強さ。膣周りの筋肉と骨が悲鳴を上げ、変形した腸に圧されて便意が渦を巻く。
「ほぎア……ァ゛っ!! はっ、はっ、はっ……!!」
なんとか亀頭を呑み込んだところで、荒い息と共に涙が伝う。腹の中に岩を入れているようだ。だが、まだまだ先は長い。由美は歯を食いしばり、太腿を強張らせて腰を沈めていく。幹の半ばは亀頭よりもさらに太い。
「ッカああああ゛あ゛っ!!」
由美がまた叫んだところで、怜奈が小さく噴き出した。由美自身、顎の力み具合でひどい顔をしているのが自覚できる。しかし表情は戻せない。受容限界以上の凶器を呑み込む時に、綺麗な顔などしていられるはずがない。
「はっ、フッ……フーッ、フーーッ……!!」
拳のような亀頭が、ついに子宮口に触れた。ディルドーはなお三分の二ほどが露出したままだが、ともかく奥まで飲み込んだのだ。
「奥まで入ったなら、動きなさい。もう一度言っておくけど、豚らしくブーブー鳴くのよ」
怜奈に凛とした声で命じられ、由美は唇を噛みながら腰を上下させる。
「ぶっ……んくっ! ブー、ブーッ……!!」
惨めすぎるその姿に、客席の笑い声が大音響となってスピーカーから氾濫する。
美少女で通っていた由美にしてみれば羞恥の極みだ。そして、苦痛もある。入っているサイズがサイズだけに、数センチの抜き差しでも骨が軋む。
「すっとろいわねぇ。動きまで豚を真似ろと言った覚えはないわよ。もっと大きく、ディルドーの先が覗くぐらい動きなさい!」
「はあ、はあ……はい……。ぶ、ブー、ブー……んんん゛っ!!!」
震える足腰を叱りつけ、由美は大きく腰を振る。亀頭が覗くまで腰を浮かせ、奥に届くまで腰を沈め。
「……ッく、あああああぐ!!」
無理の代償は大きかった。前の穴の苦しみに意識がもっていかれた瞬間、便意の抑えが利かなくなる。生ぬるい液体が肛門を通り抜け、背後に置かれた金盥に硬い音を立てる。
「あっはははは、出た出た。相変わらずひどい匂いねえ、腹黒なだけあるわ!」
「……くっ!!」
「いいわ、もっとひり出しなさい。カロリーの高いものをあれだけ食べたんだもの、全部出さないとお肉になるわよ? おまえなんか、ルックスの良さが無くなったら誰にも振り向いてもらえないわ」
怜奈の言葉に顔を歪めながらも、由美は激しく腰を振る。乳首の鈴が澄んだ音を奏でる。ディルドーがメリメリと膣に入り込めば、入れ替わるようにブリュブリュと便が出た。恥辱のシーソーゲームだ。
「ブー、ブー……ッあ!? んあ、お、おほっ! で、出るっ、でるうう゛っ!! はおっお゛っ……ぉおおお゛お゛お゛ッッ!!!」
腹部が圧迫されているため、漏れる呻きも重苦しいものだ。
「すごい声出すわねぇ、おまえ。今のは豚の断末魔かしら? ごめんなさい、せっかくのパフォーマンスも知識不足で理解できないわ」
「くっ……!!」
冷やかす怜奈を、由美は涙目で睨む。自分もハケ水車で似たような声を上げたくせに……そう言っている目だ。しかし口には出さない。その余裕すらないからだ。
排泄が止まらない。軟便が次から次へと噴き出し、肛門が灼ける。ましてやそれを憎い相手の前で晒すとなれば、羞恥で頭さえ茹りそうだ。
そして、他にも異変が起きていた。苦痛しかないはずの膣から、時おり甘い電流が迸る。
「ほお゛っ、お……んんン゛!!」
「あら、どうしたの? 気持ちよさそうな声を出して」
由美の僅かな声の変化を、怜奈が耳聡く拾う。そうなる事が分かっていたように。
「はあっ、はあっ……しょ、食事に何を混ぜたの!?」
「あら、何も混ぜてないわ。変な言いがかりはやめてちょうだい」
怜奈は白を切るが、実はあの食事には精力剤がたっぷりと添加されていた。女性用バイアグラとでもいうべきもので、摂取すると血行が改善し、膣やクリトリスの神経が敏感になり、極めて濡れやすくなる。
「ぶうーっ、ぶううーーっ……んはう゛っ!? んくっ、ん……くんんんん゛っっ!!」
ピストンを繰り返すほどに、快感はハッキリと輪郭を得ていった。
排泄を止めようと力めば、自然と膣もディルドーを締めつけ、甘い痺れが拡がる。
「ウンチしながらオマンコほじくるのが、そんなに気持ちいいの? ご覧なさい、今の自分の姿を」
怜奈は笑みを浮かべたまま、由美の前に手鏡を翳した。鏡面に由美の姿が映し出される。
汁を垂らす、豚のような鼻。
なおも排泄物の垂れ落ちる尻。
度重なる排泄で少し凹み、逆にディルドーの膨らみが浮き出た腹。
それほど無惨な状態にありながらも、鉄杭のようなディルドーには大量の愛液が伝っている。
「これってSどころか、完全に変態マゾの姿じゃない?」
勝ち誇るような怜奈の笑いに、そうだそうだという観客の声が被る。
「…………く、うう…………ッッ!!」
由美はひとり唇を噛む。少し納得してしまいそうな自分が憎い。
それでも彼女は耐え忍んだ。鈴を鳴らしながら腰を振り、前後の穴の猛烈な違和感に悶え、ガクガクと膝を震わせて。
「あっ!! あっ!! あっ!! あっ!! あっ!!」
いつしか由美の漏らす声は、嬌声とも泣き声とも判別がつかなくなっていた。
※ ※
『おまえは被虐で濡れるマゾだ』。
怜奈は由美にそう認めさせるべく、恥辱責めと快楽責めを繰り返す。とりわけアナル開発を重視しているらしく、恐ろしいまでの執念でもって後孔を嬲り続けていた。
「すごい音。そろそろ我慢も限界かしら」
怜奈が足元の由美を見下ろす。その手に握られたリードの先は、由美の首輪に繋がっていた。まるで犬扱いだ。実際、由美には尻尾も付いている。肛門からリング状の取っ手が、股間の前貼りを隠すように垂れ下がっている。
「抜いてほしい?」
怜奈が問いかけると、由美の顔が狂ったように上下する。その必死さの理由は、彼女の足元を見れば明らかだ。中身の絞り出されたイチジク浣腸──その数、実に10個。浣腸慣れしている人間であっても、2・3分で耐え難い便意に襲われる量だ。その最後の一個が注入されたのは、今から小一時間前になる。
「じゃあもう一周なさい。しっかり散歩が出来たら、今度こそ本当に出させてあげるわ」
「…………ッッ!!!」
怜奈の言葉に、由美が唇を噛み締める。しかし迷っている時間はない。今も由美の下腹部では、激しい便意と腹痛が荒れ狂っているのだから。
這う格好のまま、伸びやかな由美の脚が弾けるように歩み出す。しかし力強いのも一歩目だけだ。また腹部が鳴れば、太腿はあえなく内に閉じ、歩みを阻害する。結局そこからは、足首を跳ね上げたまま、膝で小刻みに床を蹴りながら進んでいくしかない。
──はははははっ! まーたあのヨチヨチ歩きが始まったぜ!
──無様だねぇ。またあの無駄に良いスタイルが仇になってやがる。
──ああ。せめて童顔に見合った幼児体型なら、あの歩き方も似合うのによ!
観客達は、もう何度目かの“散歩”にも飽きることなく笑い転げる。その悪意は由美の心を蝕むが、もはや構っていられない……はずだった。恥を晒す対象がカメラであれば。
しかし。プレイルームの壁沿いを半周し、入り口の近くに来た時。由美はふと気配を感じて顔を上げ……凍りついた。クスリと怜奈が笑う。
ドアの傍に立ち尽くしているのは、10歳前後の少年。よく日に焼け、頬に絆創膏を貼ったヤンチャそうな見た目ではあるが、揺れる瞳はまだまだ幼い。
「…………悠斗(ゆうと)…………?」
由美が震える声で問うと、少年の肩がビクッと震える。
「ね、ねーちゃん……!」
そう。少年は由美の実の弟だ。両親を早くに亡くし、姉弟2人で親戚の家に引き取られた。しかし扱いは悪く、生活費は自分達で稼がなければならない。それが“パパ活の女王”が誕生したきっかけだ。怜奈はそれを知った上で、この3週目に必殺のカードを切った。由美の心を折るために。
「あんた……まだ子供なのよっ!?」
由美が怒りも露わに睨み上げる。しかし怜奈は、それを涼しい顔で受け止めた。
「あら、怖い眼。奴隷の反抗期かしら。でもいいの? そんな態度を取ってる限り、ウンチはさせてあげないわよ?」
怜奈は凛とした声で語りかける。悠斗にもよく聴こえるように、間違いなく理解できるように。
「ウンチ……!?」
悠斗が言葉を繰り返す。ローションまみれで床に転がる器具の用途も、押し潰されたイチジク型の容器の意味も、彼には理解できないだろう。しかし今の一言は、彼に状況を理解させるには十分だった。
偶然か、必然か。由美の下腹がまた酷く鳴りはじめる。ぐぎゅるるるる、ぎゅごろろろろ、という音が響き渡り、青ざめた由美の顔が顰められる。
「ゆ、悠斗、なにしてんの!? 帰んなって! ここは……んんっ、子供の来るところじゃ、ハァッ……ない、んだよ!」
便意の大波に耐えながら、由美が声を絞り出す。しかし悠斗は瞳を揺らすばかりだ。
「駄目よ、帰しちゃ。彼の存在もプレイの一環だもの。ねえ坊や、外で黒い服を来たおじさんに言われたでしょう? 私がいいというまで帰っちゃだめだって」
妖艶な笑みを浮かべる怜奈を前に、悠斗はただ立ち尽くす。大人の命令を突っ撥ねるには、彼はまだ幼すぎた。
「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ……!!」
由美は明らかに便意の限界だ。息は荒く、脂汗を垂らし、全身が凍えるように震えている。
「ほら、早く歩きなさいよ。いくら躾けても覚えない駄犬ねぇ」
怜奈は悠斗の見ている前で、由美のリードを容赦なく引き絞った。
「…………っ!」
悠斗は言葉もない。彼にとって由美は眩い存在だった。要領がよく、抜け目がなく、目に毒なほど美しい。その姉が見知らぬ女性に丸裸に剥かれ、犬のような扱いを受けているのだ。
「どうしたの? もう限界?」
蹲って震える由美を見下ろし、怜奈が問いかける。
「…………はい…………」
「そう。だったら、言うことがあるわよね?」
怜奈が重ねて問うと、部屋の空気が重苦しさを増す。
「う、くっ…………!!」
弟の前で恥を晒すなど、死にも等しい屈辱だ。しかし、もはや選択の余地はない。浣腸を施されてからすでに40分あまり。人として耐えられる限界などとうに過ぎているのだ。
「……させて、ください……。」
「何をかしら?」
「…………う、うんち…………ウンチを、させてくださいっ!!」
部屋に響き渡る叫び声。それは悠斗のよく知る声色だった。今、同性に排泄を乞うているあのハダカ女は、間違いなく姉なのだ。
「本当に恥知らずねぇ、おまえ。弟の見ている前で。でも、いいわ。そこまでみっともなくお願いされて断ったら、意地の悪い女だと思われそうだもの」
怜奈は固まる悠斗に笑いかけながら、片膝をついて由美の“尻尾”に指を掛けた。
「いくわよ」
指がリングを引き絞れば、紅い肛門を盛り上げながら何かが顔を覗かせる。テニスボール大のステンレス級だ。栓を兼ねたそれが汁と共に抜け出た瞬間が、決壊の合図だった。
「あああ出る゛っ、出るううう゛う゛う゛っ!!!」
悲痛な叫びと共に、開いた肛門から液体が噴き出していく。すでに何度も浣腸された後のため、胆汁の色はついていないが、汚液であることには変わりがない。
「見ないで悠斗っ、見ないでーーーーッッ!!!」
姉がヒステリックに泣き叫ぶのを、悠斗は初めて目にした。いつでも意地悪くからかうか、ぶっきらぼうに心配するか、そのどちらかだったから。
『女王』は泣き叫ぶ奴隷を面白そうに見つめたまま、さらにリングを引き続ける。ステンレス球は次々に姿を現した。6個……いや7個。ひとつひとつがテニスボール大なのだから、その総体積は先日のディルドーをも凌駕しかねない。
「ね、ねーちゃん……」
悠斗はそう声を出した。出さずにはいられなかった。あれだけの量の異物を詰め込まれながら、便意に耐えていたのだ──そう知ってしまった以上は。
「なぁに坊や。お姉ちゃんが心配なの?」
悠斗の声に答えたのは、姉ではなくその女主人だ。
「え? えっと、その……」
「大丈夫よ。苦しそうに見えたかもしれないけど、お姉ちゃんはすっごく気持ちが良かったの。その証拠に、ほら。ご覧なさい」
怜奈はそう言って、肛門から引きずり出したアナルパールをぶら下げる。銀色に光るアナルパールの先からは、ポタポタと液体が滴っていた。
「このオモチャ、何かの液に塗れてるでしょう? これはねぇ、『腸液』っていうの。お尻で気持ちよくなった時に出るお汁なのよ」
「え……!!」
怜奈の言葉に、姉と弟が肩を震わせる。
出すための穴で気持ちよくなっていた?
あの無頼な姉が、あんな扱いをされて?
信じがたい。しかし怜奈の言葉には「そうかもしれない」と思わせる力があった。そして何より、姉の由美自身が、なぜか顔を上げて反論しない。
「う、ウソだよな……?」
悠斗の声は震えていた。由美は答えない。
「嘘じゃないわ。信じられないなら、もうひとつ証拠を見せましょうか」
怜奈はそう言って笑うと、空いた手で由美の前貼りを剥がしはじめた。
「やっ……!」
さすがに由美が抵抗を見せたが、前貼りはそれより一瞬早く剥ぎ取られる。
白いガムテープのような前貼りと、ピンク色の割れ目。その間には銀の糸が引いていた。
「いくら坊やが子供でも、この意味はわかるでしょう? 女は気持ちがいいとあそこが濡れるの。坊やのお姉ちゃんは、あんな事をされながら興奮していたの。そんな変態のマゾなのよ!」
「ち、違うッ!!!」
恥辱のレッテルを貼ろうとする怜奈の言葉を、由美の叫びが遮った。いかに口答え禁止のルールがあろうと、ここで否定しなければ姉としての矜持が死んでしまう。
「へえ、そう?」
怜奈は目を細めると、近くにあったラテックスの手袋を右手に嵌め、指先を由美の肛門へと沈めていく。
「んくっ!!」
由美の反応は大きかった。二本指が第一関節まで入り込むだけで、肛門周りの筋肉が溝を刻む。それだけなら汚辱と見ることもできるが、問題は第二関節まで入り込み、指が動きはじめた後だ。
「んっ、んン……んんんっ、ふんンン…………っ!!」
由美は口を閉じたまま、不自由な呻きを漏らしはじめる。
「ねー、ちゃん……?」
幼い悠斗は『艶やか』という言葉は知るまいが、その類の反応であることは肌で理解できる。母が存命だった頃、耳かきをされている時にたまに出た声……姉がいま必死に堪えているのは、きっとそれだ。
「どう“お姉ちゃん”、気持ちがいいでしょう。おまえはこれが好きだものねぇ。お尻の穴のすぐ内側を、指で優しく撫でられるのが」
怜奈は指責めを加えながら囁きかける。彼女の責めが由美の快楽を引き出すのは当然だった。そうなるように丁寧に仕込んできたのだ。かつて年の行ったお偉方に枕営業を強いられた時、彼に気に入られるため、肛門刺激のノウハウを調べ尽くした。その人生の汚点を前向きに活かした結果だ。
「う……あ」
二本指が引き抜かれた時、その指先と肛門内は太い糸で繋がっていた。ぽっかりと開いたままの肛門も、ヒクヒクと筋肉の動く鼠径部も、なんともいえず心地良さそうだ。
「これでわかったでしょう。坊やのお姉ちゃんが、本当はどういう人間なのか。ねえおまえ、気持ちがよかったわよねぇ?」
「気持ちよくなんか、ないっ……!!」
二度目の問いかけをも、由美は頑として否定する。そしてその行動は、当然ながら怜奈の予想の範疇だ。
「ふうっ、強情ねぇ。いいわ、だったら証明してごらんなさい」
怜奈はわざとらしく溜息をつき、穿いていたスラックスを脱ぎはじめる。
「わっ!」
見知らぬ女性の脱衣に、悠斗が声を上げた。しかしその驚きはすぐに意味が変わった。晒された怜奈の脚が、新雪のように白く美しかったからだ。至高に思えた姉の美脚すら、野暮ったく思えてしまうほどに。
だからこそ。その怜奈が拾い上げたペニスバンドに、悠斗は動揺を隠せない。
ゴムパンツが白い脚の間を滑り上がり、双頭ディルドーの細い方が怜奈の秘部に挿入される。しかし問題は、外側に突き出したもう片方のディルドーだ。大きいというレベルではない。缶コーヒー二本を直列で並べ、その先端にテニスボールをくっつけたような馬鹿げたサイズ。思春期の彼が持て余しているペニスの3倍はあるだろう。
「さあ、私を気持ちよくさせなさい。“いつものように”ね」
怜奈はそう由美に囁きかけ、ソファに深く腰掛けた。
「わ、わかりました……」
由美は躊躇いつつもソファに上がり、怜奈に跨る。凶悪なディルドーがふっくらとした肛門に宛がわれる。
「や、やめろよねーちゃん! そんなの、尻に入れたら……!」
「あら、大丈夫よ。キミのお姉ちゃんは、昨日の晩もその前の晩も、これをお尻に入れて愉しんでたんだもの。むしろ愉しみすぎて疲れちゃって、私を満足させられなかったぐらい。ねえ、おまえ?」
「……ッ!」
「なに、違うとでも言いたいの?」
「いいえ、仰る通りです……」
「でしょう。今日は大丈夫よね? 弟が見てるんだもの、お姉ちゃんとして最後まで頑張れるわよね?」
「……はい」
短い会話の中でも、由美と怜奈の立場の差は歴然としていた。
屈辱に顔を歪めたまま、由美は腰を下ろしはじめる。肛門はやわらかく伸び、テニスボール大のディルドーの先を呑み込んでいく。しかし、易々とではない。
「はっ、はっ、はっ、はっ……!」
ディルドーの先が菊の輪を通り抜けた時点で、由美は緊迫した息を吐く。
「ほら、思い切っていきなさい。“お姉ちゃん”」
「は、はい……んッ、ぎぎッ……ひぎィ……いい゛!!」
腰を沈めるほど、由美の声が悲痛さを増す。脚が痙攣し、重心が前後に揺らぐ。
「危なっかしいわねぇ。肩に掴まることを許すわ」
「あ、有難うございます……」
由美の手が怜奈の白い肩を掴む。あの強かで逞しい姉が、何者かに縋っている……そう見える光景に悠斗の心がチクリと痛む。
「少しハイペースよ。ゆっくりでいいわ、深呼吸なさい。用を足す時みたいに息みながら、S字結腸に嵌め込むのよ」
女王らしく威厳に満ちた怜奈。その肩にしがみつき、命令通りに動く由美の背中が、悠斗にはいつになく小さく見えた。
「あ゛、ん゛……くっ! ……ん……ーっ…………!!」
押し殺した声が漏れる。大人びた肉付きのいい尻は引き締まり、脹脛の筋肉が盛り上がっている。よほどの痛みか快楽に襲われている時の反応。
「ふふふ、悪くないわ。おまえもたまらないでしょう? こんなに逞しいものを、S字結腸で呑み込んでるんだもの。ものすごく気持ちのいいウンチの感覚が、ずっと続いてるんでしょう?」
怜奈の噛み砕いた説明は、明らかに悠斗に向けたものだ。そのせいで悠斗は理解してしまう。日常生活を送る中で、稀に経験する快便の心地良さ……姉はそれを、立て続けに味わっているのだと。
パン、パン、と音が響く。由美が腰を振る音だ。
「はーっ、はーっ……んふっ、ン゛! くうぅう゛ん゛っ!!」
由美は、次第に声を殺せなくなっていった。肉親の鼻に掛かったような喘ぎは、悠斗の肌をむず痒くさせた。
──くくくっ、悲劇だねぇ。
──この場合、どっちが辛ぇんだろうな? 弟にセルフケツハメ見せる姉ちゃんが、姉ちゃんにそんなモン見せられる弟か。
──そりゃ弟に決まってんだろ。見ろよ、姉貴の方は気持ちよさそうだぜ。興奮してんだよ、この状況に。
──いいや、弟だってズボン膨らませでるぜ。あの色気たっぷりの姉ちゃんのハダカは、思春期のガキにゃ刺激が強すぎたらしいな。
容赦のない罵声がスピーカーから流れるたび、姉と弟は身を強張らせる。怜奈はその悲劇を面白がりながら、さらに由美を追い詰める。
「はあっ、欠伸が出そう。そんな動きじゃいつまでたってもイケないわ。いい加減保険をかけるのはやめなさい。ディルドーの先を結腸に嵌め込んで、グリグリ動かすのよ!」
「…………!」
怜奈の一声で、由美が表情を凍りつかせた。
彼女も理解はしていることだ。プレイの目的は怜奈を満足させること。双頭ディルドーの小さい方で怜奈の秘裂を掻き回すとなれば、由美の側は大きくディルドーを動かさなければならない。怜奈が言うように、先端を結腸に嵌め込んで固定し、激しく腰を振る必要がある。それがどれほどの快感を齎そうとも。
「くっ、あっ、あ゛っ、あ゛っ!! あひぃいっ、く……ん゛あ゛、あアっ!! はああぁう゛、くひぃいい゛ッ!!」
腰を動きを早めて以来、由美の声も激しさを増した。かろうじて弟には晒していないが、表情も歯を食いしばり、目を見開いた壮絶なものだ。しかしそうなるのも当然だった。敏感なS字結腸に異物を嵌め込み、激しく揺さぶっているのだ。それは急所を自ら抉りまわす行為に他ならない。
「へえ、なかなか良いわ。やれば出来るじゃない、おまえ」
怜奈は余裕の笑みを浮かべていた。多少の快感は得ているのかもしれないが、絶頂間近の様子にはとても見えない。
「フーッ、フーッ……!!」
由美はいよいよ必死に腰を振る。痙攣する脚を叱りつけ、珠の汗を散らしながら。
「あがっ、がっ……! ひいいっ、ぐひぃいいっ!!」
結腸をいじめ抜くたび、ジンジンと快感の波が広がっていく。ディルドーの先が薄皮越しに子宮を突き上げれば、感電するような快感が背筋を駆け上る。
「ね、ねーちゃん……!」
姉の異変を察した悠斗が声を掛けるが、由美の耳にはもうそれすら届かない。
「あイキそうっ、イキそう……っ!!」
由美の手が怜奈の腕を握りしめる。
「あらあら。主も放っておいて、お尻で一人イクなんて……どうしようもない淫乱ねぇ」
怜奈の罵りが由美の心に突き刺さる。そして、それが決定打となった。
「いいぐっ、イッグううううッッ!!」
怜奈は激しく仰け反りながら天を仰ぎ、そのまま動きを失った。否、ごく小さく動いてはいる。ピクピクと、ヒクヒクと。幼い悠斗にも快感の余韻だとわかる妖しさで。
──ひぃっひっ、盛大にイキ果てやがったぜ! 弟の見てる前でよぉ!
──弟クン、唖然としちまってんな。ま、どう反応していいかわかんねーか!
──なんせ姉ちゃんが、女の上で腰振ってケツイキするマゾ豚だったんだもんなあ!!
スピーカーから客の言葉が浴びせられ、焦点の合わない由美の目から涙が零れる。怜奈が蛇のような瞳でそれを見つめていた。
怜奈はその後も、悠斗の前で由美を辱めつづけた。
ベッドに這う格好を取らせたまま、背後から激しく犯すこともある。怜奈が片膝を立てて犯すため、疑似ペニスが由美の肛門に出入りするところがよく見えた。
「あひぃっ!! んっ、ぐっ! ひっ、ん、んんん゛……!」
弟の手前、由美は声を殺そうとするも殺しきれない。結局は傍にあった枕に顔を埋め、ウーウーと唸るばかりになる。
怜奈はそんな由美の髪の毛を掴み上げて何度も声を晒させながら、楽しそうに腰を打ち付けていた。一突きごとに由美の下腹はボコリボコリと変形し、艶めかしい声が響く。由美のアナル性感は完全に掌握されているようだ。
「本当に救いようのないマゾ豚ねぇ、おまえ。弟の前でお尻を犯されながら、こんなに濡らすなんて」
怜奈は時おり由美の秘部に手を回し、ぐちゅりと音をさせる。戻された指は常に濡れ光っていた。そして時が経つほどに、指に纏わりつく粘液の量は増していった。
「ああああーーーーーっ!!!」
由美はベッドの上でつま先を立てたまま、Vの字に脚を突っ張らせて潮を噴く。失禁と見紛うほどの量だ。ぶるっ、ぶるっ、と震える太腿が、どれほどの快感なのかをよく物語る。
そしてそこが、由美の意地の限界だった。
「ああ゛あ゛あ゛っ! だめ、おくっ……お゛ほっ!! ぁイクっ、イってるがら……お゛お゛っ!! おねがっ、やすませ……ッあお゛お゛お゛お゛っ!!!」
弟の存在など忘れたかのように、濁った快感の声を響かせる。その熱に浮かされたような顔は、悠斗の中の強かなイメージからはあまりに遠い。
しかし、由美は二周目をも耐えきった。
「はぁ、はぁ、はぁ…………あたしは、『S』よ…………!」
震える脚にオイルのような腸液を伝わせ、震える唇を噛み締めながら、黒服スタッフにはっきりとそう宣言する。
「……っ!」
横からプレッシャーを掛けていた怜奈の顔が引き攣った。
しっぺ返しが来る。容赦なく責めたツケが、残酷に。
※ ※
由美の弟を巻き込んだツケ。それは怜奈自身が、見ず知らずの少年の前で恥を晒すことだった。
「どう、シャインマスカットのデザートは? あんた、こんな洒落たの食べたことないでしょ」
「う、うん……」
由美ににっこりと笑いかけられ、悠斗は頷く。初めて食べるフルーツは香りがよく、甘酸っぱくて美味だった。しかし彼の意識は、どうしても横に向いてしまう。
そこには、無残な姿の怜奈がいた。
手足を拘束されたまま天井から吊るされ、身動きは叶わない。102㎝を誇るバストは錘で三角に引き伸ばされ、割れ目には極太のバイブをねじ込まれている。
「“あれ”が気になんの? あははっ、笑えるよね。お尻ヒクヒクさせちゃって」
由美は怜奈の肛門を見て笑う。事実そこは喘ぐような動きを繰り返していた。吊るされて平衡感覚すら失った中、何時間も膣で絶頂させられているせいか。
「物欲しそうにしちゃってさ。刺激が足んないの?」
由美は笑いながら立ち上がり、バイブの取っ手を掴んで出し入れする。
「ムッグウウウウッッ!!!」
猿轡を噛まされた口から悲鳴が上がった。女王役であった時の余裕など感じられない、必死そのものの声だ。
「すごい悦んでるでしょ。こいつはねぇ、こうやってアソコを虐められるのが嬉しくってたまんないんだよ。バカって言う人間がバカって言うじゃん? それと同じで、人のことマゾだとか言う人間に限って、自分がマゾだったりするんだよ」
そう嘲笑う由美は悪魔のようだが、彼女の地獄をも知る悠斗は、批難する気にはなれなかった。
因果応報。それがこのゲームの鉄則なのだ。
姉を怒らせてはならない。悠斗はそれを改めて実感していた。
怒りに狂う『パパ活の女王』は、『パパ』相手に行っていたプレイを施しはじめる。
最初のプレイは飲尿だ。
「零さないでよ?」
「……承知いたしました」
仁王立ちで跨る由美に対し、怜奈は涼しい顔で大口を開き、出はじめた尿を受けとめる。堂々とした姿ではあったが、その両手が固く握りしめられるのが、悠斗にもカメラにも視られていた。
──ひひひっ、悔しそうにしてらあ!
──そりゃそうだろ。女のションベン飲まされるなんざ、変態親父なら涙流して喜ぶプレイだろうがよ、女帝サマにゃ耐え難い屈辱だろうぜ。
──はっはっは! プライドの塊みてぇな女だもんな!
天井のスピーカーから野次が降り注ぐ中、怜奈はゴクゴクと喉を鳴らして尿を飲み下す。奴隷役を全うするという矜持からだ。しかしその忍耐も長くは続かない。まずは怜奈の肩がぶるぶると痙攣しはじめる。
「オエッ……ウグッ、グッ! ……おおオエッ!!」
えずき声が上がってからは数秒ともたず、由美の秘所から口を離して盛大に吐き戻してしまう。
「何やってんの? あたし、零すなって言ったよね?」
「ゲホッ、ゴホッ!! も、申し訳、ございません……」
口調こそ慇懃だが、由美を見上げる怜奈の目は涙と恨みに満ちていた。由美はそんな怜奈を無能と謗りつつ、『パパ活』時代のプレイをさらに再現していく。
床に仰向けで寝かせた怜奈の口に、由美の咀嚼した飲食物を垂らすプレイ。『パパ』達は美少女の唾液が混じった食事を大喜びで貪ったというが、怜奈は屈辱に顔を歪め、こめかみに涙を伝わせ、何度もえずき上げた。
「嬉しくってたまんないくせに、イヤそうにするわねぇ。そんなにお仕置きしてほしいの?」
由美は怜奈の苦しみようを嘲笑いつつ、その口に足指をねじ込んでいく。右の親指、人差し指……ついには足の甲まで。
「んんゴッ、ごぉっ! オ゛、オ゛!! コゥオウ゛オ゛ッ!!」
口をこじ開け、喉を抉り込む苛烈な『足イラマチオ』には、怜奈も無惨にえずき上げるしかない。彼女の手指は床を掻き、左膝は跳ね上がる。
「ね、ねーちゃん……その、ちょっとやりすぎじゃ……」
悠斗が恐る恐る声を掛けると、由美の冷ややかな視線が横を向く。
「なにが? こいつだって私に滅茶苦茶やったじゃん。あんたも見てたでしょ?」
「だ、だけど、やりすぎっていうか……」
「何言ってんの。こいつはね、こういうので感じるマゾなんだよ。こうやって踏みつけてイジめられるのが、好きでたまんないの!」
由美がそう言って足を踝近くまで押し込むと、ついに怜奈の顎が浮いた。
「ごひゅっ!!」
大量に飲まされた尿が細く噴き出し、モデル級の美脚が狂ったように暴れる。それを見ても由美は責めを緩めない。
「ほーらほーら、どう? ノドは気持ちいいでしょ?」
薄笑みを浮かべたまま、右の足指を深く捩り込む。怜奈が身を起そうとすれば、軸足である左足で胸板を踏みつけてそれを阻止する。顎を引いて吐き気を堪えようとすれば、床に下ろした左足の指で怜奈の前髪を掴み、強引に顔を上向かせる。
「ウぉえ゛っ、ふぉっ、ふぉろお゛え゛エ゛エ゛っ!!」
反射行動を力づくで阻害されれば、いかに怜奈だろうと無様を晒した。何度もえずき上げ、流麗な肉体の随所に筋肉を盛り上げて、全身で悲鳴を上げる。
「あはははっ、すごい! それってボディビルダーのマネ? 笑えるけどさ、ちょっとキモいよ、正直!」
由美は笑みを深めながら、右足に力を籠める。そして壁に手をつきながら、捩り込んだ足先で直立する。それが、トドメとなった。
「いイ゛よロうぇらお゛エ゛っっ!!!」
女子アナ時代の怜奈を知る者が、誰一人として想像だにしなかっただろう声。その声と共に、尿と吐瀉物の入り混じったものが次々と口から噴き出し、美しい黒髪の下に汚液溜まりを作る。
これら一連の光景を前に、天井のスピーカーから言葉は発されない。なぜなら観客席の人間は、一様に笑い転げているからだ。その腹の底からの笑い声だけは、常に怜奈の耳に届いている。
「……あーあ、足がドロドロ。舐めて綺麗にしなさいよね」
吐くだけ吐かせたところで、由美はようやく足指を抜き去り、その足先で怜奈の唇をつつく。
「どう? 興奮したでしょ?」
遥かに見下ろしながら由美が問うと、汗、涙、鼻水、涎、胃液……ありとあらゆる汁に塗れた怜奈の顔が歪む。
「は、はい…………し、刺激的な体験をさせていただき、嬉しゅう、ございます…………!」
怜奈はそう語りながら、吐瀉物とえずき汁まみれの足指を舐りはじめた。
「私は、Sよ…………Sに決まってるじゃない!!」
二巡目の奴隷役を耐え抜いた怜奈が、黒服スタッフに向かって叫ぶ。汚液に塗れた見た目こそ悲惨なものの、あくまでも凛とした姿だ。
しかし、彼女にもまた変化が生じていた。
「ふーん、そうなんだぁ」
横から睨みつける由美が、ぼそりとそう呟いた瞬間。怜奈の表情は明らかに曇り、視線は由美とは逆を向いた。
※ ※
5.0倍のオッズがついた事前予想とは裏腹に、怜奈と由美の貶め合いは続く。週を重ねるごとに2人の余裕はなくなっていき、だからこそ追い込み方にも容赦がなくなる。悠斗が恐がって姿を消すほどに。
3回目の奴隷役で、由美は胡坐を掻くような格好で拘束され、機械による肛門陵辱を受けた。ファッキングマシンに繋がった長大なバイブが、休むことなく腸内を蹂躙する。バイブの先端に空いた穴からはたまに浣腸液が噴き出し、由美に狂おしいほどの排泄感と、排便しながらアナルを犯される感覚を味わわせる。
怜奈はその由美の姿を、じっと観察しつづけた。由美が音を上げ、マゾだと認めることを期待して。
しかし、由美も折れない。大小の粗相を繰り返し、結腸と子宮を刺激されて悶え狂い、失神と覚醒を繰り返す段階になってもなお、怜奈の視線を受け止めつづける。
逆に怜奈の3回目の奴隷役は、電動の三角木馬に跨り、全身をX字に拘束されたまま過ごすこととなった。木馬の背にはバイブが備え付けてあり、それが怜奈の秘部を責めたてる。しかもこのバイブは、先端が6つに花開き、子宮口に隙間なくフィットする、ポルチオ開発に特化した責め具だ。それで絶えずポルチオを刺激されつづければ、絶頂せずにはいられない。
「はッはッはッ……た、達します!!」
怜奈は絶頂するたびにそれを宣言させられた。
「ふーん、また? ちょっと早いんじゃない? こっちも一々書くの面倒なんだからさぁ、ペース落としてよ」
由美は歪んだ笑みを浮かべつつ、怜奈の脚にマジックで正の字を書き足す。美脚を穢されると共に絶頂回数を記録されるのは、怜奈にとって耐え難い屈辱だろう。
「も、申し訳……あ、あイクっ!! あああぁまた、た、達しますっっ!!」
絶頂するほどに膣内は敏感さを増し、ポルチオ刺激に耐えられなくなる。結果として怜奈は、大きな波が来た時には、都度の宣言すら困難になった。
「もーっ、いい加減にしてよね!」
由美は叱りつけながら太腿に正を描き、それだけでビクリと反応する怜奈を面白がった。
責めを見守るのが主だった怜奈と違い、由美は積極的に責めたてる。度重なる絶頂で屹立した乳首を、強力なクリップで挟み潰したり。背中を鞭で打ち据えたり。
「いい加減気付いてるんでしょ。自分はサディストなんかじゃなくて、イジめられて悦ぶマゾなんだって。隠したって無駄だよ? だってあんた、あたしの『パパ』と同じ眼してるもん」
木馬を伝う愛液を掬い、白い肌に塗りたくりながら由美が問う。
「…………ッ!!」
口答えが許されず、しかし肯定するわけにもいかない怜奈は、血が滲むほど下唇を噛み締める。
「ふーん、ダンマリか。……あ、そっかぁ。マゾだからもっとイジメてほしいんだね。しょうがないなあ!」
由美はわざとらしく溜息をつき、怜奈の足枷に錘を追加した。すると怜奈の身体は下に沈み、ポルチオへより強くバイブの先が密着する。
「あ゛ぐう゛う゛う゛う゛っ!!!!」
まつ毛の長い怜奈の瞳が見開かれた。そしてその肉体は、たちまち深い絶頂の反応を示しはじめる。太腿が強張り、足指がピンと伸び、下腹がブルブルッ、ブルブルッ、と立て続けに痙攣する。典型的な中逝きのサインだ。
「ほーら、気持ちいい気持ちいい」
由美は怜奈の腹を鷲掴みにして嬲りつつ、マジックを手にしてほくそ笑む。
「あああ深いっ、子宮に食い込んで……はあああッ!!! あおおっ、おっ、お゛っ!! おほっイク、イんグぅうう゛ぅ゛っ!!! イッでル中でまたイって、頭が、焼き、きれるうう゛ッッ!!」
怜奈は強すぎる快感に悶え狂い、白目を剥き、涙と鼻水に塗れながら痙攣する。絶頂ごとに増える正の字は、やがて両脚を覆いつくし、腹部までを侵食していった。
4巡目でも、怜奈と由美の戦いに決着は着かなかった。
5巡目でも、やはり2人は耐え抜いた。
互いの精神は擦り減っていき、やがては相手の心を折ることだけを目的とした、拷問にも等しい責めの応酬となる。
6巡目、女王役の怜奈は由美を拘束したまま石室に閉じ込め、壁の穴から大量のゴキブリを送り込んだ。そして汚辱に泣きわめく由美に屈服を強いながら、長い夜を過ごさせた。すると同じく6巡目、入れ替わりで女王となった由美が蟲責めをやり返す。衛生害虫で満たされた『蟲のプール』の上に怜奈を吊るし、少しずつ高度を下げていく。最初こそ涼しい顔をしていた怜奈も、腰までがプールに漬かったあたりで限界を迎え、半狂乱になって泣き喚く。しかしこちらも、朝になるまで解放されることはなかった。
8巡目、由美は尿道と肛門に電極棒を差し込まれ、電気で強制的に絶頂させられる。閉じなくなった口から舌を引っ張り出されてもなお、由美の瞳が焦点を結ぶことはない。
9巡目の怜奈は、全頭マスクで視覚と聴覚を遮断され、二穴の快感に没頭せざるを得ない状況で放置された。その極限状況は、彼女を快楽に依存させる。ついにはより強い刺激を求め、自ら乳首とクリトリスを捻り潰すほどに。
──この勝負、マジでどっちが勝つんだろうな?
──さあな。もう予想できるレベルじゃねえよ。
──どっちも限界ギリギリって感じだもんな。ま、もうどっちが勝ってもいいけど。
──充分楽しめたもんな。けど、俺はもっと続いてほしいぜ。こいつらが意地張れば張るほど、俺らのオカズが増えるんだからよ!
観客が見守る中、怜奈と由美は殴り合いのような責めを繰り返す。何度膝をつこうがノックダウンは宣言されない。彼女達自身がリングを降りるまで。
「弘中 由美さん、……弘中 由美さん! もう一度確認しますよ!」
「……倉橋 怜奈さん。倉橋 怜奈さん、聴こえますか!?」
黒服のスタッフは意思確認の際、何度も名前を呼びかける。視線も姿勢も定まらない『奴隷』には、言葉がなかなか通じないからだ。
しかし、彼女達の答えは決まっている。
「ふうーっ、ふうーっ……あ、あたしは、『S』、らってば……!」
「はーっ、はーっ……私は、『S』よ……!!」
彼女達は必ずそう答え、女王の視線にブルブルと身を震わせる。その震えの原因は、恐怖か、あるいは期待なのか。
今回の『S女ゲーム』は、随分と長びきそうだ。
終わり