大樹のほとり

自作小説を掲載しているブログです。

女同士のいじめ

黒い瞳に囲まれて

※レズいじめモノ。スカトロ要素(大・嘔吐)ありのためご注意を。



――自分には何もない。

美杏 (メイアン)は昔から、そう考えて生きてきた。
環境に恵まれていないとは思わない。むしろ、恵まれすぎている。
学のない孤児に過ぎなかった自分が、偶然の巡り会わせで名家である藩家に拾われ、召使としてではあるが衣住食を保障される。
これほどの僥倖はない。
自分の全ては偏に幸運によって与えられ、保障されているもの。
召使の同僚である紅花( ホンファ)を見ていると、特に美杏のその想いは強くなる。

紅花は元々、美杏と同じく孤児だった。
藩家に拾われてきた時期も同じなら、歳も同じ。
藩家夫人である静麗 (ジンリー)は、美杏と紅花を初めて引き合わせた日、互いを姉妹と考えて仲睦まじく過ごすように命じた。
そしてそれは、何ら難しいことではなかった。
紅花は頭がよく、気立てがよく、裏表のない性格の少女であったからだ。
静麗夫人に対しても、古株の使用人に対しても、そして美杏に対しても、常に誠実な態度で気持ちよく接する。
命ぜられた仕事には一つのミスもないどころか、大抵は期待以上の働きで応え、その合間に他の者の手助けすらこなしてしまう。

そのあまりに卒のなさすぎる才女ぶりには、家中の誰もが一度は『裏の顔』を探ろうとしたほどだ。
しかし、しばらく紅花を観察すれば、誰もが自らの思い違いに気がついた。
紅花には、本当に裏がない。
若くして苦労を重ね、持ち前の聡さでこの世の醜穢を悟りつつも、なお愚直なまでに誠実で、心優しい少女なのだ。
そのような紅花には、当然ながら人望が集まる。
いつしか召使達に仕事を振り分ける使用人頭のような立場になり、静麗夫人もまた折り入っての頼みを紅花に持ちかける事が多くなった。
藩家を訪れた客達もまた、目まぐるしく働きつつも作法の乱れない美しき召使をいたく気に入り、方々で良い噂を流す。
中には、是非ウチにと藩家当主に大金を積む事すらあるらしい。
しかしそのたび静麗夫人が嫌がり、また紅花自身も『藩家には深い御恩がありますので』と引き抜きに応じない。
最近の藩家当主は、酒に酔えば必ずその話を始め、娘の自慢話をするように機嫌よく笑うという。

対して、美杏はどうか。
美杏はけして要領の良い方ではない。何事につけても動作が遅く、決断力に乏しく、社交的といえる性格でもない。
今や実質的に藩家を取り仕切っている紅花の陰で、ごそごそと倉の整理などをしているのが常だ。
あの紅花と同い年なのに。誰もがそう陰口を叩いている気がした。
いつも紅花に対して負い目を感じていたし、またいかに紅花とはいえ、いい加減自分に愛想を尽かしているに違いないと考えていた。
そしてある日、ついに美杏達より4つ下の召使から、はっきりと言葉に出されてしまう。

「ねぇ。美杏さんと紅花さんって同い年で、同じぐらい長くココで働いてるんですよね。でも、全然感じ違いますねー。
 紅花さんはいかにも熟練って感じで格好良くて憧れますけど、正直美杏さんはとろいっていうか、ちょっとああはなりたくないなって思います。
 紅花さんも大変ですよね、あんな人の尻拭いし続けて。でも同い年だから注意しづらいんでしょ? 同情しますよ」

少女が紅花にそう告げるのを偶然耳にした瞬間、美杏の背を冷たい汗が伝った。
恐れていたことがついに現実になったのだ。
無理もない。自分の不器用さは誰が見ても腹立たしいだろうし、実際紅花に負担もかけている。
そうよ、もううんざり。そんな本音が今にも紅花から発されるだろう。美杏は物陰に隠れながら、それを覚悟した。
しかし。
直後、美杏の耳に飛び込んできたのは、乾いた音だった。
「えっ……?」
少女の虚を突かれたような声が続く。
紅花が少女の頬を張ったのだ。その事実を把握するのに、美杏は数秒を要した。
「美杏を、馬鹿にしないで」
紅花はあくまで静かに、しかし毅然とした口調で告げる。
「確かに美杏は、人より仕事をこなすのに時間がかかるかもしれない。でもあの娘はいつだって、どんな仕事だって、一生懸命にやるの。
 長い付き合いだけど、手を抜いているところは見た事ない。本当に優しくて他人への思いやりがないと、そんな事できないよ。
 私は、そんな美杏を凄いって思う。従者として……ううん、人としてだって、大事なのはそういう事なんだって。
 要領が良いか悪いかじゃない。美杏っていう娘が何をして、何を考えて毎日を生きてるか、ちゃんと見てあげてよ!」
一語一語を噛みしめるようなその言葉は、紛れもない本心に思えた。
否。たとえ美杏の存在に気付いた上での甘言だったとしても、その言葉を耳にしただけで、美杏は長い苦しみから救われた。


その夜、従者用に宛がわれた相室の中で、美杏は初めて自らの胸中を紅花に曝け出す。
ずっと自分に自信がなかったこと。
初めて会ったときから、何でも卒なくこなしそうな紅花にどこか苦手意識を抱いていたこと。
家中での扱いに差がつくたび、焦りと共に妬み嫉みといった感情が膨らんでいったこと。
何の非もない紅花に嫌悪感を抱く自分自身が嫌でたまらないこと。
本当は紅花が自分を見下していると思っていたこと。
昼間、偶然紅花の言葉を耳にし、申し訳ないという感情で胸が詰まったこと。
美杏が次第にしゃくり上げながら紡ぐその懺悔を、紅花は、ただ静かに聴いていた。
そして最後、美杏が言葉にならない音で謝罪を繰り返すようになった時点で、紅花は……美杏を抱きしめた。
何も言わず。
ただ、いつも品のある振る舞いをする彼女にしては、荒々しくさえ思える力強さで。
「ほ、紅花…………?」
美杏が捩れた麻の服越しに紅花の横顔を覗けば、その頬には透明な雫が見てとれた。
涙の意味は解らない。美杏の心中を察しての涙か、それとも本音を打ち明けられた事が嬉しかったのか。
いずれにせよ、この日の涙をきっかけに、二人の関係は変わった。近しい同僚から、無二の親友へと。
出会って以来、常に二人の間にあった隔たりは消え、悩みや迷いがあれば何でも相談しあう仲になった。
美杏から相談するのは勿論、紅花もまた美杏を頼るようになり、美杏にしてみればそれが嬉しい。

腹を割って話してみると、いかに紅花といえど、周りが思うほど完璧ではないことが判った。
彼女も美杏同様、ミスもすれば物忘れもする。
ただ、それが問題となる前に火種を消し止めたり、傍目には最善と思えるほど丁寧に次善策を講じているだけだ。
美杏はそれを明かされ、逆に改めて紅花の優秀さを思い知ることになる。
そしてそれ以上に、彼女の藩家に対する忠誠心に胸を打たれた。

紅花が熱心に従者の勤めを果たす理由は一つ、拾ってくれた藩家への恩義ゆえだ。
人目のない所でさえ常に行儀よく振舞うのは、万が一にも来客に無作法を見られて藩家の評判が落ちないようにするため。
誰より多く仕事をこなす傍ら、他の者にも助力を惜しまないのは、家中の安泰を願っての行為だ。
その忠臣ぶりたるや、美杏の比ではない。
「静麗奥様に拾って頂かなかったら、私は……とても生きてはいられなかったから」
忠義を尽くす理由として、紅花は短くそう告げた。
藩家によって救われたのは美杏も同じだが、紅花の過去はそれ以上に暗いものらしい。
美杏は、紅花が闇から救われてよかったと感じた。そして、これからの彼女にも幸多き事を切に願った。
しかし。その少女の無垢な願いは、後に無惨にも踏みにじられる事となる。
不運でもなければ、事故でもない。
彼女らと同じ“人間”が抱く、どす黒い悪意によって……。





「白家に…………ですか?」

静麗の言葉を復唱しながら、さしもの紅花も表情を強張らせた。
白家といえば、この一帯で知らぬ者はない由緒正しき家柄だ。それも藩家の比ではない。
たかだか2代前に財を築いて名門入りした藩家に対し、白家は数百年も昔から役人を輩出し続けている名門中の名門。
もしその白家当主の機嫌を損ねでもすれば、藩家など忽ち一家断絶の憂き目に遭うだろう。
藩家はこれまで、この白家に対して礼を尽くしてきた。金子や各種名産品…………そして、“人”の上納という形で。
「ごめんなさい」
藩家夫人である静麗は、紅花に頭を下げる。この静麗自身も、今回白家に貸し出される貢物の一つだ。
30を超えてなお若々しい美貌を持つ静麗は、白家当主にいたく気に入られていた。
白家当主が唾をつけている『妾』は他に何人もいるが、今年は久方ぶりに静麗に白羽の矢が立ったらしい。
白家に呼ばれた夫人は、白家の敷地内に建てられた屋敷に出向き、そこでおおよそ一月から二月の間軟禁状態に置かれる。
そして出向く際には、家の召使のうち一人を同伴する決まりになっていた。
名目上は、静麗の世話係として。しかし実態は、白家に仕える召使達の遊び道具としてだ。
大家である白家は、召使の数も数十に上る。女の数が増えれば派閥も生まれ、軋轢が生じやすい。
その軋轢を緩和する為に、妾の滞在中、『下賎な家柄』の従者を召使達に与え、一丸となって憂さ晴らしをさせる。
実際、こうした共同作業で一人を思うさま虐げた後しばらくは、白家の召使達も派閥の垣根を越えて談笑するという。

堪らないのは、供物として捧げられる従者の方だ。
仔細は明らかになっていないが、断片的な噂によれば、白家に捧げられた従者はこの一月から二月の間、
女の身で考えうるあらゆる恥辱を繰り返し味わわされるという。
仕えていた先では誰より聡明で、誰より美しく、誰より責任感が強いと謳われた最上の従者が、この白家への『奉仕』を最後に、ほぼ例外なく暇を申し出て姿を眩ませるという。
そして、それは単なる噂ではない。藩家においても、4年前に一人の犠牲者が出ている。

美杏と紅花にとって姉も同然の存在であった彼女――怜(リン)は、さばさばとした勝気な女性だった。
卒のない紅花にも内向的な美杏にも同じように接し、確かな愛情を注いでくれた。
その彼女が、白家から戻ってきた時には、まるで別人のようになっていたのだ。
髪は乱れ、肌はくすみ、瞳には何の光も宿していない。
「…………もウ、私のことをヒトだと思わないでクれ」
心配して駆け寄る美杏と紅花に対し、怜は不安定な抑揚でそう呟いた。そして。
「…………あんた達が、あんた達が羨ましい。まだ堂々と、ヒトで居られるあんた達が…………」
もはや恨みすら感じられる眼で、美杏を一瞬、そして隣の紅花を実に6秒ほど睨み下ろした後、怜は踵を返す。
そしてそのまま、二度と藩家の敷居を跨ぐ事はなかった。
美杏と紅花は義姉の後ろ姿が見えなくなった後、その場にへたり込み、肩を震わせて泣いた。
子供ながらに気付いたのだ。あの頼もしく、優しかった姉が、白家で壊されたのだと。
それから、4年。
先日19歳の誕生日を迎えたばかりの紅花にもまた、白家への呼び出しが掛かってしまった。
白家当主直筆の文書によって。

「…………わ、私では…………駄目なのでしょうか」
重苦しい沈黙が場を支配する中、美杏は意を決して告げた。
静麗が、紅花が、場の全ての人間が目を丸くして美杏を見やる。
「な、何を言うの!?」
紅花のその言葉を遮るように、美杏は続ける。
「私も、この藩家に仕えて長い従者です。私では、紅花の代わりになれないのでしょうか!」
静麗は、その美杏の真剣な眼差しを受け止め、つらそうに首を振る。
「駄目よ。今回は先方がはっきりと、紅花を指名してきてるもの。多分、あちこちで紅花の良い噂が広まった弊害ね」
「で、でもっ、恐れながら白家の当主様ご自身は、紅花の顔をご存知ないのではないでしょうか!
 でしたら、代わりに私が…………っ!!」
普段大人しい美杏が息が切れるまで捲し立てた所で、紅花がその肩に手を掛けた。
「確かに、ご存知ないかもしれない。でも、ご存知かもしれない」
びくり、と美杏の肩が震え、その顔は涙で崩れながら親友へと向く。
「…………ありがとう、美杏。美杏のその気持ちだけで、充分。おかげで元気出たよ。
 私、向こうでどんな事されたって絶対に耐えて、またここに戻ってくるから。
 それまで、この家のこと……お願いね」
紅花は、普段通りの整った顔立ちのまま、少し唇を曲げて器用に笑ってみせた。





それからの日々を、美杏は仕事に没頭して過ごした。
現実問題として紅花が抜けた穴は大きく、一時的とはいえその代役をこなすのに忙殺されていた事もある。
しかし仕事以外の事を考えようとすると、どうしても今も白家で虐げられているであろう紅花の事を想ってしまう。
その苦しさから逃げるように、起きている限りは藩家の問題に意識を向けた。その甲斐あり、おおむね仕事は上手く進んでいる。
以前美杏に対して否定的な態度を取っていた一人も含め、美杏の主導に文句を出す者もいない。
もっともそれは、他ならぬ紅花が、美杏に後を託したという事実に拠るのかもしれないが。


そうして2週間が経ったある日、白家の従者が藩家を訪れた。
名目上は、白家への献上品の礼を述べるため。しかしその実、本当に用がある相手は、美杏達藩家の召使であるようだ。
白家からの従者は香月(シィァンユェ)と名乗った。
香月は、使用人部屋の中で最も上等な椅子に深く腰掛け、すらりとした足を組む。逆に美杏達は、その周りの床に座らされていた。
たとえ召使同士であろうと、仕えている家に応じた『格』がある。私は上で、お前達は下だ。香月は入室後の第一声でそう嘯いた。
何人かが口惜しそうに歯噛みする中で、美杏はただ香月の言葉を待つ。その視線を受け、香月が可笑しそうに眉を顰めた。
「ふぅん。野ネズミの中に、中々良い眼した子が混じってるのね。あなた、名前は?」
「……美杏です」
「そう。じゃあ美杏、耳を澄ませなさい。あなたがさっきから聞きたがってること……紅花の事を話してあげるわ」
香月はそう言いながら、残忍そうに唇を舐めた。

ここから香月は、紅花が最初に受けた『洗礼』について語り始めた。

白家の召使用に宛がわれた部屋の中で、紅花はまず纏っていた着物を女達の手で引き裂かれたのだという。
「どうしてわざわざ、こんな所から話を始めるか解る? あいつねぇ、服が破かれるってなった途端に、物っ凄い眼で睨んできたのよ。
 それで、ちょっと頭にきたコもいてね。3人で髪を掴んだまま、30回くらい頬に挨拶してから訳を聞いたの。
 そうしたらあいつ、頬真っ赤に腫らして涙目になりながら、奥様から頂いた着物を粗末にしないで下さい、とか言って。
 着物っていったって、ウチじゃみっともないから捨てるように言うような安物よ? 貴女たち、ここじゃ服もまともに着させて貰えないの?」
香月の煽りに、美杏達は唇を噛む。
あの紅花のことだ。出立の際に静麗から着物を賜り、どれほど有り難がったことだろう。
そしてそれを無惨に破られ、満足に憤ることすら出来なかった彼女の心情たるや、如何ばかりのものだろう。
そうした美杏達の心中を知ってか知らずか、香月は話を進める。

裸に剥かれた紅花は、その生まれたままの姿を悪意ある視線に晒しながら、さまざまに屈辱的な格好を取らされたらしい。
香月が傍らの召使に命じて真似させたその格好は、着衣状態であろうと羞恥で思わず頬が染まるものだ。
それを紅花は、腋も乳房も恥部も、なにもかも丸見えの状態でさせられたのだという。
さらに、ただ見られるだけではない。あられもない格好を晒す紅花は、15人以上の悪意ある同性から、口々に罵倒を受けた。
香月によれば、この言葉責めは罵声のえげつなさに応じて拍手が起き、その拍手をより多く受けた者が、優先的に次の責めに関われる仕組みなのだという。
ゆえに、浴びせられる罵声の熱意も並ではない。
乳房を揉みしだきながら、この柔さとでかさはまるで売女だと詰り。
太腿を鷲掴みにしては、腐り落ちる寸前の豚の大腿部のようだと罵り。
染みひとつない白磁の肌を、病気で死んでいく犬のような青白さだと揶揄し。
陰毛を引きちぎった時の濁った悲鳴を嘲笑い。
やがて素体を貶す言葉が尽きると、紅花を姿見の前に引きずり出し、鼻の穴を指で持ち上げたり歯茎を露出させ、
整った顔立ちを強引に歪めてまで悪し様にこき下ろす。
紅花は、耳を聾するようなその罵声に心を切り刻まれながら、命ぜられるままに恥辱の格好を晒し続けなければならないのだ。
実に1時間以上に渡って。
「要はただ野次られるだけなんだけどね。これで泣かなかった女は、今まで一人もいないの。
 不思議と芯の強そうな娘ほど、グズグズの泣き顔を晒すのよ」
香月はそう言い、囁くように、紅花も泣いたよ、と続ける。
予想よりは耐えたものの、大股開きのまま両手で尻肉を割り開き、肛門の粘膜すら晒したまま心無い罵声を浴びたところで、
床にポタポタと水滴を滴らせ始めたという。
「あの娘って意地っ張りだから、この家じゃ人前で泣く事なんてなかったんじゃない? もしそうなら見せてあげたかったわ。普段はまあ見れる顔なのに、あの時はとっても、とーっっても不細工だったんだから! アハッ、やだ思い出しちゃった!!」
香月は言葉も終わらぬうちから、さも愉快そうに笑いはじめた。
美杏達の顔も逆の理由で歪む。今すぐにでも目の前で足を組む女を張り倒したい、そういった表情だ。
しかし、出来ない。それは場の皆が理解している。美杏も、香月も。





初日の洗礼が終わった後も、紅花に休む暇など与えられなかった。
本来は4人でこなす量の仕事を紅花一人に課し、さしもの彼女も疲労困憊で足元がおぼつかなくなる頃に、再び“歓迎の宴”が催される。
まずは朝から何も口にしていないのだから空腹だろうと、特製の七色団子が与えられる。
無論、純粋な団子ではない。唐辛子や花椒、野菜の苦汁、虫など、摂取出来なくはないが生ではつらい物が七つ全てに混ぜ込まれている。
団子の皿を前に、紅花は顔を青ざめさせたという。しかし白家の召使に煽られては、好まざる物と知りつつも口にするしかなかった。
ぐむっ、ぐぶうっ、という呻きと共に頬が膨らむ中、一つまた一つと団子が紅花の口へ押し込まれていく。
そしてようやく七つ全てが口に収まった瞬間、ついに限界が訪れたのか、紅花の顎が嘔吐の前兆を見せた。
しかし、それは白家の召使達の想定内。1人が背後から素早く紅花の顎を押さえ、別の1人が前から口に手を当てる。
嘔吐を阻まれた紅花は、一瞬目を見開いた後、きつく目を閉じて苦しむ他はない。
『ほーらぁ、観念して飲み込みな、死んじゃうよー。大丈夫だって、別に死ぬような毒なんて入ってないから』
『そうそう、今まで何人にも食わせてきてるのよ。ま、皆大抵はお腹下すんだけどさ』
そのような詰りが飛び交う中で、紅花に2度目の限界が訪れた。
今度の逆流は凄まじく、口を押さえる召使の指の間からあふれ出してしまう。
『うわっ、こいつ! きったない!!』
『あーあーあー、戻しちゃった。あたしら直々に御馳走した物をこんな扱いされて、面子丸潰れだよ。もうこれは仕置きしかないね』
『だね。そうだ、ちょうどいい。そんなに吐きたいなら、胃の中身ぜんぶ吐けるように協力してあげるわ。ほらっ、押さえつけて!!』
一人が命じると、すぐに数人の少女が紅花に詰め寄り、椅子から引き起こしつつ羽交い絞めにする。
そうして身動きを封じられた紅花の口内に、一人が二本指をねじ込んだ。
『ぉがっ!!』
思わずえづく紅花だが、蹂躙者に躊躇はない。
『言っとくけど、くれぐれもこの指は噛まないようにね。もし傷でも残ったら、旦那様に見せて報告するから』
『!!』
そう言われた途端、紅花は少し考える素振りを見せ、やがて顎の力を緩めた。
反抗心を残している彼女だけに、命じられたから、でない事は明らかだ。
白家の当主ともあろう者が、本当に使用人の言葉を鵜呑みにして藩家を取り潰すとは考えにくい。しかし、有り得ないという確証もない。
事実として白家は、この悪趣味な催しを黙認しているのだ。世間一般の常識が通じる相手と考えるべきではない。
聡明な紅花のこと、瞬きほどの間にそう判断したのだろう。
『へぇ……噂通り頭がいいのね。でも残念。私達、そのよく回る頭を錆つかせて、命令に従う事しかできない馬鹿犬を作るのが目的なの。
 お前のこれからは、全部私達が決めてあげる。利口さはもういらないの。
 何も考えなくっていい。今は……私達の前で、惨めったらしく、くっさい吐瀉物を撒き散らす事だけに専念なさい』

そこから紅花は、女の二本指で喉奥を掻き回され続けた。
事前に大量に嘔吐していたせいか、逆流の気配はない。しかし指が喉の深くに入り込むたび、紅花の細い顎が浮き上がり、
ゴえっ、グェエッ、という『潰れた蛙のようなえづき声』が上がる。そしてそれらは当然、物笑いの種にされたという。
「でね、あの子ってまぁまぁ……うーん、もういいか。正直言って素面だと、相当綺麗な顔してるじゃない。ウチにも色んな娘が来るけど、あの子は数年ぶりの当たり。だから、顔グシャグシャにするのがまた楽しくってねぇ。
 おまけに唐辛子団子が効いたのかしら、ヨダレとかえづき汁がもう凄くて。顎から喉を通って、胸の方にまで垂れていくの。
 それがまたゾクゾクしてね。気付いたら、誰ともなしに、こう!……してたわ」
香月は興奮から頬を赤らめつつ、傍らの少女の胸元を強引に肌蹴させた。薄い麻の服から、幼い乳房が露出する。
「きゃあっ!!」
「ふふ、そうそう。紅花も叫んだわ。喉を掻き回されながらの汚いえづき声でね。
 で、これは流石に再現できないみたいだけど、知ってる? 紅花って結構、立派なおっぱい持ってるのよ。
 だから皆してそれを摘んで、えづき汁を塗りたくって、先っぽをこねくり回したの。あの子もウブよね、ギャアギャア暴れたっけ。
 もう、本当に楽しかった! だから気分が高揚してね、指で喉虐めるだけじゃ物足りなくて、こんなのまで使っちゃったの」
香月はそう言いながら、持参した袋の中から棒状の道具を取り出した。
藩家の召使の中に、その道具そのものを知る物はいない。しかし一人は、その形状に覚えがあると言った。
「へぇ、男を知ってるの。売春宿からここに貰われてきたクチかしら、さすが節操のない藩家さまねぇ。
 ま、いいわ。これは殿方の性器を模した道具で、張型っていうの。うちの奥様は旦那様がいらっしゃらない夜に、よくお使いみたい。
 これを指の代わりに、紅花に咥え込ませてやったの。ちなみにこれね、実際に紅花に使った張型そのものよ。
 誰か、あの紅花を慕ってる子がいるなら、愛しい匂いでも嗅いでみたらどう?
 ああ、でもやめた方がいいわね。だってこれ、あの子の吐瀉物に散々塗れてるんだもの」


不慣れな刺激ゆえか、張型を半ばほど喉に送り込まれた時点で、紅花は嘔吐の寸前という表情になった。
『ごっ、ぉおおっ、ふもガッ!!」
さらに数度喉奥を突いてやれば、いよいよ嫌がって頭を振り始めた。しかし、白家の者の意思は嘔吐させる事で一致している。
すぐに数人の手で、紅花の抵抗を封じる手段が取られた。
一人の手が紅花の側頭部の窪みを鷲掴みにし、張型を送り込む一人も、紅花の顎を変形するほどに強く掴む。
そうしていよいよ本格的に動きを封じられた紅花に、もはや逃れる術はなかった。
側頭部と顎を掴まれている以上、左右に顔を振る事は叶わず、となれば上下に首を振るしかないが、そこに罠があった。
天を仰ぐように顔を上向けた瞬間、張型が直線となった食道へいよいよ深く送り込まれるのだ。
『……ッヵ“ァ、お“エ“エ“ッ!!!!!』
それまで薄目を開けていた紅花も、この時ばかりは目をきつく閉じ、鎖骨を浮かせながら肩を跳ねさせ、嘔吐そのものを思わせるえづきを響き渡らせるしかない。
『あははっ、ねぇ見た? こいつ今、自分から咥え込んだよ!』
『ね。にしても凄い顔、もう原型ないよ。人間の顔って、苦しいってだけでここまで変わるんだねー』
『あ、もうそろそろ本当に吐きそう。あ、出る、出るよ!!』
何十という悪意の瞳が見守る中で、いよいよ張型が奥深くまで捻じ込まれ、引き抜かれる。
一度目の決壊は、まさにその引き抜く動作に追随する形で訪れた。

『っんも゛ぉ゛おお゛お゛おえ゛おお゛ぇァっ!!!!!』

およそそのようにえづき上げ、首を前方に投げ出しながら、紅花は盛大に嘔吐した。
吐瀉物の色は黄色く、風呂場で指を使って水を飛ばした時のように、ぴゅっ、ぴゅっと二筋に分かれて飛ぶ嘔吐だった。
それを視界に収めながら、少なくとも香月は、恍惚に近い状態にあったという。
原因は、その時の得た情報全て……特に紅花の表情と、女を捨てきったかのようなえづきだ。
香月はこの時初めて、自分の中で紅花という少女がどれほど高く評価されていたのかを知った。
公の場に出ればたちまち旦那衆を骨抜きにするだろう顔立ちに、白家第一夫人付きでも通用するほど洗練された所作、そして類稀なる聡明さ。
およそ使用人としての質で、この紅花を上回る逸材などそうは居まい。
紅花に嫉妬していた。おそらく、あの時部屋にいた誰もが。
だからこそ、その紅花が女として終わる瞬間を目の当たりにした時、誰一人として反応ができなかったのだ。
『ああ……』
『おおぉ…………』
そのような意味のない感嘆を漏らしながら、ただ紅花の決壊を見つめる。それは、男の射精にも等しい恍惚だったのだろう。
そして、その恍惚を消化しきった時、女達は一様に口端を吊り上げた。

「……もっと無様に、もっと苦しそうに吐かせてやる。あの時は多分、みんなの頭の中がそれで一杯だったんでしょうね。
 冷静になった今思うと、あの後の紅花はちょっとだけ可哀想だったかな。女が一つの目的で団結した時ほど、怖いものってないのよ」
香月は手にした張型を振りながら笑う。
そして香月は、その後の凄惨な状況についていよいよ楽しげに語ってみせた。

紅花の被虐美にあてられた女達は、それから様々な方法で紅花を嬲ったという。
白磁の肌を余すところなく撫でさすりながら、交代で喉奥を苛め抜く。
羽交い絞めで張型を送り込むほか、床に張型を固定し、這うような格好で咥えさせもした。
美しい紅花が、初々しい菊輪と性器を晒し、獣のように這い蹲りながら、頭を押さえ込まれての前後運動を繰り返す。
そしてその果てに、ゴエゴエとえづきながら、張型の幹に沿って薄黄色い胃液を吐きこぼすのだ。
この方法の苦しさは格別らしく、紅花は前髪を張り付かせた額にじっとりと汗を掻きながら、かつてないほど固く目を瞑って嘔吐する。
内臓が圧迫されるせいだろうか。張型が喉から抜けた後も、ぶほっと後追いの形で嘔吐が起こり、粘ついた唾液を何本も床に伸ばした。
「はぁ、はぁっ、はっ、はーっ…………も……もぉ゛………………やめ゛て下さい……………………」
極めつけは紅花自身が、息も絶え絶えに香月達を見上げ、懇願を口にする。
その無様を見下ろす香月達には、再びの恍惚が訪れたという。

当然、加虐は止まなかった。
さらに何度か吐き戻させ、やがて透明な胃液すら出ない空嘔吐に至ると、強制的に胃を満たしてから責めが再開された。
水に近い粥を強引に摂取させ、戻させる。酒を飲ませて酩酊状態に陥らせてから、吐かせる。
そうしてとうとう紅花の四肢が力を失い、横様に倒れたまま起き上がらなくなった所で、ようやく宴はお開きとなる。
精も根も尽き果てた末に、ようやく訪れた休息の時。しかし、それすらが甘い罠だ。
紅花には仕事がある。一日の最初にする仕事は、誰よりも早く起き出し、召使に向けた食事の支度をすること。
泥のように眠りこける紅花は、当然この仕事をこなせない。そしてそれがまた、厳しい仕置きを正当化する理由にされるのだ。





「……浮かない顔ね。紅花は親友だって、さっき言ってなかった? 親友に会いに行くのに、そんな顔ってないわ」
馬車に揺られながら、香月が対面の美杏に告げる。
美杏はその香月の顔を見据えながら、ただ黙していた。
馬車の向かう先は白家だ。
白家に帰るついでに、一人だけなら馬車に乗せて同行させてやれる。特別に現在の紅花の様子を見せてやる。
その提案に続き、香月が指名したのが美杏だった。
香月から紅花の話を聞く間、最も痛切な表情を浮かべていたのが美杏だったのだろう。
そこから紅花と近しい人間である事を看破され、その近しい人間相手に恥を晒すことで、さらに紅花を追い詰めようという魂胆だ。
しかしその姦計に気付いてなお、美杏は白家への同行を承諾した。
確かに自分が行くことで、紅花を追い詰める可能性はあるかもしれない。
しかし逆に、自分が声を掛ける事により、紅花をヒトとして瀬戸際で踏み止まらせる可能性もあるかもしれない。
香月の語った紅花の悲劇は、美杏の想像を超えていた。
話を聞けば聞くほど、いかに紅花といえども耐え切れないように感じられた。
そして美杏は、怖いのだ。かつての怜のやつれた顔が脳裏に浮かび、なぜか紅花に重なって思えてしまう。
もう、失いたくない。紅花を一人地獄にいさせちゃいけない。それが、美杏が白家に向かう理由だ。

そうした美杏の心境を知ってか知らずか、香月は直近の紅花への責めについて話し始めた。

「苦しめてばっかりじゃ悪いからね。最近じゃ、紅花を気持ちよくさせてあげてもいるのよ。
 乳首と、陰核……あそこの上にあるお豆ね、この三点を舐めたり指で転がしたりして、快感を与えるの。
 どれだけ性的に未熟な相手でも簡単に感じる場所だから、紅花もすぐ昂ぶったわ。
 まぁ、私達の手で絶頂を迎えるのが嫌だったんでしょうねぇ。必死に我慢してたけど、それがまた可笑しくって」

香月はその情景を生々しく語り聞かせる。
紅花は丸裸のまま大股を開き、股座の一人、両脇の二人から三所責めを受けた。
初めこそ涼しい顔で耐えていたが、次第にその唇が開き、浅い呼吸が漏れ始める。同時に桜色の肌にもじっとりと汗が滲み出す。
やがて太腿の筋肉がピクピクと痙攣を始め、薄い筋のような秘裂もまた疼きを見せるようになる。
足指は堪らないという様子で握りこまれ、手指は緩く拳を作り。
そしてついに、顎が持ち上がって後頭部が床に擦り付けられた。その直後にふうっと脱力が見られた事からして、絶頂に至ったのだろう。

「そこでイッた……ああ、絶頂したっていう意味ね。それは明らかだったけど、本人は認めないのよ。
 だから責める子達も変に燃えちゃってね、そこからは丁寧に丁寧に責めて、何度も絶頂させ続けたの。
 頭を床に擦り付けるたびに絶頂してるんだろうなとは思ったけど、みんなわざとそ知らぬ顔してね。
 絶頂する時には『イキます』って宣言するのよ、なんて囁きながら、ずーっと責めてたの。
 そうしたらあの子、我慢強いわよねぇ、7回も8回もイッてるはずなのに、歯を食い縛って頑張るのよ。
 口開いちゃったあそこに指を入れたら、もう中は愛液でドロドロでね、膣の浅い所にオンナの泣き所があるんだけど、
 そこを指の腹でざりざり擦ってあげたりすると、腰がびくんって跳ねたりするんだけど、イクとだけは言わないのよ。
 そういうのって、こっちが負けたような感じがして癪じゃない?
 だから我慢比べってことで、次の日は一日中今言った性感帯を開発しまくってやったの」

一日中責め続ける。これは責める側にとっても並ならぬ負担だ。しかし白家の召使には、それを進んでする者がいる。
普段、白家の中で虐げられている最下層の召使達だ。
紅花を絶頂させた回数に応じて、紅花が去った後の待遇を上げる。そう持ちかけると、一心不乱に紅花を責め始めたという。

「もう本当に、腹を空かせきった野犬みたいだったわ。上手くすればもう虐められずに済むんだから、必死にもなるでしょうけど。
 ただ私が見た限り、それだけじゃないわ、あれは。普段自分達が虐げられてる憂さを晴らしてたのよ。
 いかにも選択肢のない被害者ですっていうような泣き顔しながらね。だって……後が凄かったもの」

香月達は、最初こそ3人の娘の責めをおかしがって見ていたが、次第に飽きが来て一旦部屋を離れたらしい。
そうして翌朝に再び部屋を訪れた時には、仰天したという。

「まず匂いが凄いのよ。汗と女の匂いが部屋中に充満しててね。
 おまけに床が、桶をひっくり返したみたいにびしょ濡れなの。壁のあっちこっちにも飛沫みたいな痕があって。
 3人は揃ってクタクタでへたり込んでたけど、紅花はもっと悲惨だったわ。
 よっぽどあれこれ余計な事を喋ったのか、口の中一杯に布が詰め込まれてるの。
 しかもその布引き抜いたら、紅花のヨダレでぐっしょり濡れてるのよ。
 まぁヨダレだけじゃなくて泡も噴いてたし、そもそも鼻水とか額の汗とか、もう色んな所がすごいんだけどね。
 でも、一番ぎょっとしたのは目ね。あの生意気そうな目が、もう半分以上上瞼に隠れちゃってて。
 そうそう。おまけに完全に意識失ってる感じなのに、体中がビックンビックン痙攣してるの。もう、ずーっと。
 道具なんかは一切置いていかなかったから、指と舌だけでそこまでにしたのねぇ。
 思えばあの日からだわ、あの子の様子が変わったのは。
 それまでは……藩家だったかしら?あなた達の家について少しでも貶すと、すぐムキになって睨んできたのに、
 今は悔しそうにはするけど、もう私達と目を合わせないの。
 言いたいことあるなら言いなさいって顎掴んで顔上げさせても、震えながら横の方見てるのよ。
 あなた達何をしたのって当の三人に聞いても、あの時は必死すぎて覚えてませんとしか言わないんだけど」

何があったのかしらね。香月はそう話を締め、愉しげに笑う。
しかし、美杏にしてみれば笑う所ではなかった。
今の話が事実であるとするならば、紅花はすでに心を折られかけている。
「…………っ!!」
友の心中を想い、美杏は膝の上で手を握り締めた。香月に面白そうに見つめられながら。





噂通り、白家は藩家など比にならないほど広大だった。
充分すぎるほどの大きさの館が敷地内にいくつも立ち並ぶ様は、まるで小さな町のようだ。
使用人用の屋敷すら、門構えを始めとして豪奢の限りが尽くされている。

かくして、紅花はその屋敷の一室にいた。
一糸纏わぬ丸裸のまま、背を柱に預ける形で両手を頭上に拘束されている。
尻は地面につき、すらりとした両脚は、天井の梁を通る縄で高く掲げたまま吊るされている。
見事なまでに身動きを封じる縛めだ。
さらによく見れば、その口には強制的に開口させる器具が嵌め込まれており、股座にも香月が手にしていたものより遥かに胴の太い張型が、ほぼ根元まで埋め込まれてもいた。
「う…………!!」
調教が進んでいる現実をまざまざと見せ付けられたようで、美杏は絶句する。それを尻目に香月達がわざとらしく足音を立てて部屋へ入ると、紅花はゆっくりと頭をもたげた。そして入室者の中に美杏の姿を見つけると、目を見開く。
「おあごあっ!?」
開口具に阻まれた悲鳴を上げながら、足をばたつかせる紅花。秘部を隠そうというのだろうか。しかしそうして暴れたところで、縄で擦られた梁がみしりと音を立てるだけだ。
「ホン……!!」
思わず親友の名を叫ぼうとする美杏の肩に、冷たい手が乗せられる。
「さぁ、美杏さん。お茶の準備が出来たようです。お菓子もありますから、お話しましょう。
 あなたのお友達のこと、藩家の奥様や旦那様のこと……使用人の目から見てどうなのか、お聞かせ下さい。
 ああ、そうそう。あそこにいる豚は、少し悪さをして反省中なのです。
 知性の乏しいけだものゆえ、お話中に何か啼くこともあるかもしれませんが、どうぞお気になさいませんよう」
美杏が叩かれた肩の方を振り向くと、そこには黒い瞳が並んでいた。
その瞳を見た瞬間、美杏は悟る。ここの使用人達は、言葉が通じる相手ではないと。

テーブルを囲んで様々な質問に答えている最中にも、美杏の意識は常に紅花の方を向いていた。
秘部を隠すために足を閉じようとするのは諦めたらしいが、それとはまた別に、ひどく落ち着かない様子でいる。乳房と同じ高さで吊り下げられた足首を執拗に動かし、尻を上下させる。口枷からは常にアアア、と切ないような呻きを漏らし、そして数分に一度という周期で、その呻きは急激に大きくなる。
「アア゛!! アア、ア゛アアッ!! アアアァッ、アァオオッ、オアアアァア゛ーーーッ!!!」
背を向けていても美杏には解る。その悲痛な叫びは、自分達に向けられているのだと。

 ――助けて、助けて! 私、もうだめっ!!

親友のその声が聴こえるようで、美杏は居たたまれなかった。


やがて、美杏達が話し合いを始めて30分ほど経った頃。
「――あら、いけない。もうこんな時間だわ!」
「あ、ほんと、うっかりしてたわ。ごめんなさい美杏さん。私達、これから少し用事がありますの。
 そのうち戻りますから、どうぞお茶を楽しんでいてくださいまし」
白家の召使達が慌てた様子で席を立ち、一人また一人と部屋を出て行く。
そうしてテーブルには美杏だけが残された。
「えっ……? こ、これって…………!!」
美杏は素早く室内を見回し、他に人影のない事を確かめてから立ち上がる。
好機だ。先ほどからひどく苦しそうにしている紅花を助け、言葉を交わす唯一無二の機会だ。

「紅花!!」
美杏はすばやく紅花の元へ駆け寄り、その足首を縛る縄を解いた。
ついで、手首の縄。そして、開いた口にすっぽりと嵌まり込んだ口枷を取り外す。
「は……っ!!」
開放されたかのような吐息が漏れ、ひどく粘り気のある唾液が口枷との間に糸を引いた。
ひどく久しぶりに思える紅花の顔。面影自体は変わっていないが、以前より明らかにやつれている。
「大丈夫、紅花!?」
美杏が問うも、紅花は虚ろな瞳で、言葉にならない言葉を掠れ声でつぶやくばかりだ。
長時間口枷を嵌められていたせいで、思うように顎が動かないのだろう。
美杏は必死に紅花の口元に耳を近づけ、その真意を図ろうとする。
「…………ァい…………ぁや……ぃ………………て………………」
途切れ途切れにかろうじて音が拾える状態だ。
それを何度も、何度も聞くうち、ようやく美杏の脳内に一文が組みあがった。

「…………おねがい…………
     …………厠………………厠まで、行かせて………………!!!」

「か、厠っ!?」
美杏はその言葉に耳を疑う。厠……便所に行きたいというのか。
尿意か、それとも便意か。いや、そもそもにして、この屋敷の厠はどこにあるのか。
頭に浮かぶ事は数あれど、ともかく紅花には明らかに余裕がない様子だ。
「捕まって、紅花。今連れて行ってあげる!!」
やはり長時間縛られていたせいで足腰が立たない紅花に、美杏は肩を貸す。
しかし二歩、三歩と歩を進めるうち、紅花がいよいよ苦しげにうめき始める。
「頑張って、紅花!!」
美杏が声を掛けるも、紅花の顔はすでに青ざめきっている。そして。
「あ、あ…………ああもう、もうっ…………っだめぇええええーーーーーーっ!!!!!」
耳を聾するようなその絶叫と共に、紅花の足の間から張型が弾き出された。
そして同時に、夥しいほどの茶色い奔流が、あるいは紅花の足を伝い落ち、あるいは勢いよく床に叩きつけられていく。
「ああっあああ……あぐっ、ふっぐ……ぅわあぁぁああっっ!!!」
紅花はその場に膝をつきながら、声帯の割れたような悲壮な嗚咽を漏らしはじめた。
美杏は鼻の曲がるような異臭の中、ただ呆然と立ち尽くしていた。
何が起きた? 
 ――紅花が、糞尿を撒き散らしながら泣いている。あの、紅花が。
足元に何が転がっている?
  ――張型だ。恐ろしく太い、責め具。これがかろうじて、肛門の栓の役割を果たしていたのだ。


「あらあらあら!! 大きな声がしたと思ったら……とうとうやったのね、紅花」

突如として部屋に響きわたった大声に振り向くと、満面の笑みを湛えた香月達がそこにいた。
彼女達はその悪魔じみた笑みを浮かべたまま、美杏と紅花を取り囲む。
「あ、あの……これは!」
美杏は弁解を図るが、その先が続かない。紅花が大便を漏らし、美杏がそのきっかけを作った。その事実は動かない。

「豚の事は気にするなと、忠告しましたでしょう。由緒あるこの白家のお屋敷で、粗相だなんて」
氷のようなその一言に、美杏はびくりと肩を震わせる。
「後ほんの少し我慢していれば、専用の桶でさせてあげたというのに。ねぇ、紅花?
 今日の今日までずーっと、我慢して、我慢して、我慢してこれたのに…………どうして今日に限って、厠を使おうなんてしたのかしら」
「仕方がないわ。おうちで一緒に育った、姉妹みたいな子が縄を解いてくれたんだもの。助けて貰えると思っちゃったんだわ。
 でも、縋るべきじゃなかったわねぇ。普段通りにしていれば、今日だってきっと我慢ができたでしょうに」
「本当に馬鹿な豚ね。今日さえ我慢して乗り切れば、お尻は勘弁してあげるって約束は本気だったのよ」
「でも、約束は約束。そうでしょう、紅花?」

目を細めながら、口々に呪詛のような言葉を紡ぐ香月達。その様子は余りに不気味であり、美杏は思わず口を開く。
「な、何なんですか!? 一体、何の話をしてるんですか!?」
美杏の叫びを受け、紅花への語りかけが途絶える。
そして女達の視線は、ゆっくりと美杏の方にずれた。黒い硝子玉のような数十の瞳が、美杏を映す。
その視線の中心に晒された時、美杏は、ぞくり、とした。
この世ならぬ者。そう思えるほどの異質さが、この屋敷の女達にはある。

(なに、怖い。怖くて、たまらない。何もかも捨てて、今すぐにでも逃げ出したいぐらいに。
 …………え、待ってよ。じゃあ、じゃあ紅花は、こんな環境で、ずっと…………?)

「安心して。あなたには関係のない話よ、美杏。誓約を交わしたのは紅花の方。罰を受けるのは紅花だけ。
 『一週間、毎日浣腸をして、もしも桶と厠以外の場所で粗相をしたら、泣こうが喚こうが、徹底的にお尻の穴を開発する』
 これに紅花は合意したの。だってこの条件さえ達成すれば、明日からはもうほとんど責めを受けなくて済んだんだから。
 でも、それはもう無い話。誓約を破った今日からは、毎日毎日けだものみたいに這い蹲らせて、徹底的にお尻を調教してあげる。
 指で慣らして、道具で拡げて、毎日色んな液を注ぎ込んではひり出させて、排便の快感だけで濡れるようにして。
 お尻にモノ突っ込まれただけで絶頂するような、あさましい豚に作り変えてあげるわ!!」

香月のその悪魔じみた宣言に、白家の女達はいよいよ笑みを深めた。
美杏は思わず後ずさりし、何かにぶつかって転ぶ。
「きゃっ!!」
悲鳴を上げつつ横を向くと、そこには蹲ったまま、力なく床を見つめる紅花がいた。虚ろな瞳にもはや光は見当たらない。
一縷の望みが潰え、絶望に沈んでいるのだろうか。
聡明であるがゆえに、この家の女から肛門調教を受けては耐え切れないと悟ったのだろうか。
美杏が縄を解かなければ、彼女は下手に動こうとしなかったかもしれない。
美杏が助け起こそうとしなければ、肛門から張型が抜ける事はなかったかもしれない。

 (…………わたしの、せいだ。わたしが、紅花の希望を…………摘み取ったんだ)

その考えに至り、美杏は絶望に沈む親友を前に、欠ける言葉を失った。
親友が自我を失いそうであれば掛けようと思っていた、“頑張って”という言葉が、今やただ虚しい。

「さぁ、では美杏さん。お屋敷への帰りの車を用意しましたので、参りましょう。
 ここはもう、あなたのような真っ当な方が立ち入られるべきではない…………ただの豚の、飼育場ですから」






「…………あっ、あっ、あ、あっ…………あっ、ああああっ…………!!」
「……あああ、ああっ! …………あああ……ああっ、ぅ…………っあ!!」

広い部屋の中に、二つの喘ぎ声が繰り返される。
一つは美杏。そしてもう一つは、隣の紅花の発するものだ。
「もっと肛門をお締めなさいな。ったくお前は、覚えが悪いね」
「……すみません」
女から浴びせられる叱咤の声に、美杏は謝罪を返した。そして命じられた通り、括約筋に力を込める。
肛門内の異物の感触が強まり、えも言われぬ感覚が脊髄を走り抜ける。
曲げた膝を大きく開き、乳首と陰核を刺激されながら肛門に異物を出し入れされる。
この調教が、もう何日繰り返されている事だろう。
肛門内部への異物挿入は、未だもって不快感しかない。
乳房や陰核への刺激と平行して刺激されれば、脳が錯覚を起こして肛門が気持ちいいのだと感じる。
当初そのような説明をなされたが、どうやらその兆候はない。そして、あってほしくもない。

「ああ…………ああああっ…………いっ、イクゥっ…………イギ、ますっ…………!!」
「あらあら、もうクリトリスの刺激もいらないの? 本当にお尻だけでイクようになったのねぇ、豚。
 飲み込みが早いっていうのも、考えものね」
隣では、紅花がとうとう肛門への異物挿入だけで絶頂に至り始めたらしい。
彼女の調教は順調だった。すでに乳房と陰核の性感帯が目覚めているせいで、膣の奥が蕩けやすいそうだ。
そうして蕩けた膣の奥を、直腸側からグッグッと押し上げると、凄まじい快感が湧き上がってくる。
香月は昨日、まるで暗示をかけるように紅花にそう語り聞かせ、紅花は虚ろな顔のまま、反射的にか頭だけを上下させていた。
その様子に、美杏は歯噛みする。

『さぁ、では美杏さん。お屋敷への帰りの車を用意しましたので、参りましょう。
 ここはもう、あなたのような真っ当な方が立ち入られるべきではない…………ただの豚の、飼育場ですから』

そう言葉を掛けられた時、美杏は現実への帰還を拒んだ。そして、自らも彼女らのいう“豚”となる決意を表した。
紅花に対する贖罪…………それもある。しかし何よりも、彼女を救う機会を窺うために残ったのだ。
白家の悪意に長く晒されすぎた紅花は、もはや一人で浮かび上がれる状態にはない。
一人でこの暗闇に残しておけば、間違いなく怜と同じ道を辿るだろう。
だから、美杏が引き上げる。
この先、あとどれほどの時間耐えねばならないかは定かでないが、美杏だけでも自我を保ち、二人で家に帰るのだ。


「さーて、と……紅花もイッたことだし、そろそろ次に行こうか」

その掛け声で、美杏は顔を強張らせた。
次は、今よりきつい。そして、苦しい。泣き喚いてしまいたいぐらいに。
「ほーら、自分で入れなさい」
美杏と紅花の前に、それぞれ山のような球体の入った皿が置かれる。
球体の量は拡張の度合いに応じて増え、全て入れると常に腸には一切の隙間がない状態になる。
胃は圧迫され、ただ座っているだけでも吐き気がこみ上げる。
その状態で、『排便よし』の声がかかるまで、一球さえ溢さずに耐え切るのだ。
当然その間には、悪意ある女達から様々な妨害が行われる。勿論、球体を排出させて惨めな罰を課すために。
美杏はこれが苦手だった。
「ほら、何をやってるの。まだ全部入れることさえできてないの? ったく、とろいわねぇ。
 隣をごらん。紅花は優秀だよ」
女が鞭で指し示す先では、美杏以上の球体を詰め込んで歪に腹を膨らませた紅花が、様々な被虐を受けていた。
白い肌に五月雨のように鞭を浴びせられ、乳首を長い爪で捻り上げられ。
そして挙句には、両手を頭の後ろで組んだまま深々と張型を咥えこまされて、びちゃびちゃと真下に吐瀉物を吐きこぼす。
「ごえっ、ごぼ、ぶぼばがっ…………えっ、けほっ、けほっ!! う、うっ…………!!」
今や虚ろな瞳をするばかりの紅花も、さすがに喉奥を抉られて吐く際には人間らしい顔を取り戻す。
目尻から涙を溢しつつ、怯えたように加虐者達の顔色を窺い始める。

その様を横目に、自らも同じ境遇を迎えんとする美杏は、気弱そうな垂れ目を見開きながら前を向く。


( 私を、なくすもんか―――― ! )


燃える決意を胸に、美杏は大きく口を開き、歪な悪意を待ち構えた。


                                       終





<初出:2chエロパロ板 『【陰湿】レズいじめ2【ドロドロ】』  スレ>

緋艶蝶

※アナル中心のレズいじめ物。
 羞恥責めの連続なので、各種スカ(大・小・嘔吐)成分アリ。



日本には、“眠らない街”と呼ばれる繁華街がいくつかある。
喜多茅町もその一つだ。
古くには博徒の街として栄え、明治以降はチャイニーズマフィアの溜まり場であるこの街には、警察権力も及ばない。
交番など完全にお飾りで、かつてそこで息巻いていた正義感溢れる新任婦警も、2年後には薬漬けののソープ嬢となっていたという。
喜多茅を治めるのは法律ではなく、鉄のルールだ。
当然、主要産業である風俗店の間にも独自のルールが存在する。
『年度内に最も多い売り上げを記録した店は、2位以下となった店のNo.1嬢を引き抜く事が出来る』というものだ。
400を超える店の売り上げ争いは熾烈を極める。
エースを引き抜かれた店は没落し、首位を捕った店が天下を握る……その乱世が喜多茅の常だった。
しかし。ここ3年ほどの間、喜多茅の空気は落ち着いている。
すべては、蓮宮京香という嬢の存在ゆえだ。

『緋艶蝶』の京香といえば、今や押しも押されぬ喜多茅No.1ホステスと噂されている。
しかし、京香に水商売の女という雰囲気は微塵もない。むしろ一般的な女子大生よりもよほど清楚に見える。
それもそのはず。京香は地方屈指の名家、蓮宮の令嬢なのだから。
家の没落で風俗に売られる事になったとはいえ、その育ちの良さは誰の目にも明らかだ。
高校卒業と同時に『緋艶蝶』へ入った当初、京香は先輩風俗嬢から様々な嫌がらせを受けたという。
しかし、1年が経つ頃にはその噂も聞かなくなった。
呆れるほどに真面目で、心優しく、誇り高い京香と接するうち、店中の人間が毒気を抜かれたのだそうだ。
客からの評判も大変に良い。
親身になって客の話を聞き、時には休みを潰してまで客に付き合う。
その心遣いに感動した人間は、次々に京香の常連となった。
大の風俗嬢嫌いで知られる県議会議員でさえ、視察で京香と話して以来、熱烈な支持者に転身した。
そして、京香の特異性はもう一つある。
キャバクラ嬢による枕営業が横行する喜多茅において、京香は一度も身体を売った事がない。
純粋な真心だけで、数知れぬ男を虜にするのだ。
その理想的な在り様は自然と他の嬢にも伝播し、『緋艶蝶』で枕をする者はついに居なくなった。
それでも売り上げは底無しに上がり、喜多茅でも4、5番目に甘んじていた『緋艶蝶』は、やがて頂点の座を手にする。
京香の率いる良心的な『緋艶蝶』が王座に尽いた事で、喜多茅の争いにも凪が訪れた。

それから3年が経った今……とうとう平穏が破られる。
黒い噂の尽きないSMクラブ『セピア・リップ』が、『緋艶蝶』を抑えて覇を成したのだ。
噂では、京香が現れて以来の和やかな喜多茅をよく思わない店が結託し、様々な工作をしたのだという。
違法薬物を使い、客を無理矢理縛り付けたという説まである。
しかし事実はどうあれ、鉄のルールは曲げられない。
『街で最も多い売り上げを計上した店は、2位以下となった店のNo.1嬢を引き抜く事が出来る』。
『セピア・リップ』はこの引き抜き対象として、迷わず京香を指名した。

< 天誅の対象は、勿論『緋艶蝶』の京香だ。
  清純ぶったその化けの皮を剥がして、最底辺のメス奴隷へと作り変えてやる。
  人を惑わす蝶の翅を引きちぎって、活気ある喜多茅を取り戻す!  >

その、悪意に満ちた宣告と共に……。





「まさか、お前を調教できる日が来るとはねぇ…………京香」
「人生解らないものね。腕が鳴るわ」
2人の女……恵美と碧が、京香を見下ろしながら笑った。
赤いボンデージ姿の恵美は、熟年体型とでもいうべき軽度の肥満で、お世辞にも美形とは言い難い。
青いボンデージ姿の碧は、対照的に華奢で童顔、小悪魔風のルックスだ。ただし、目元口元に底意地の悪さが浮き出ている。

一方の京香は、ほぼ丸裸だった。唯一身に着けているのは、犬のような鎖つきの首輪のみ。
その新雪を思わせる白肌や、ほどよく実った乳房や太腿、薄い茂みを隠す術はない。
喜多茅町の誰もが目にしたことのない姿だろう。
馴染みの常連客でも、胸元やミニスカートから覗く白い太腿まで、
更衣室を同じくする同僚達でさえ、上下の下着姿までしか、京香の素肌を見た事がない。
その絶対秘匿の宝玉がついに暴かれた。隷属という、最も屈辱的な形で。
「私こそ、あなた達のような人種と関わる日が来るとは思わなかったわ」
京香は、姿勢も正しく正座しながら2人の女を睨み上げている。
恵美と碧の両名に思う所があるようだ。
京香に限った話ではない。『セピア・リップ』に得意客を奪われ、潰されたホステスは多い。
客の身を本気で案じる京香となれば、なおの事そうした行為は許容しがたいのだろう。
「あーらナマイキ。『緋艶蝶』って、目上への礼儀は教えないのね。だから没落するんだわ、どこぞの名家みたいに」
碧が嘲り笑うと、京香の目つきがいよいよ鋭さを増した。
「何だいその目は。お前はウチの新米で、アタシらはそのお前に講習をつけてやろうって立場なんだよ。
 だったら、どうすればいいかぐらい理解できるだろ。仮にもこの街でNo.1を張ってたならさ」
恵美が嘲るように追い討ちをかけると、京香は唇を引き結ぶ。
低俗な人間に頭を下げるなど、軽々しくできる事ではない。しかし、“やらねばならない”事でもあった。
 
京香は静かに三つ指をつき、少しずつ頭を下げていく。
腕の細かな痙攣から、いかに屈辱を感じているのかが伝わってくる。
恵美と碧の2人は、その様に口端を吊り上げた。
「…………私の、お尻の穴の調教を…………お願い致します」
屈体の後、震える声での宣言がなされる。
京香にしてみれば充分に屈辱的な宣言。しかし調教師の女2人は、不満げに眉を顰めた。
「カマトトぶるんじゃないよ。お尻の穴じゃなく、“薄汚いアヌスの調教を”だ。やり直しな!」
赤いエナメルブーツで京香の頭を踏みつけたのは恵美だ。
まるみを持たせた手の甲に額を擦り付けながら、京香の肩が強張る。

「わ、私の……………………う、薄汚いアヌスの調教を………お願い、いたします…………」

間を置きつつの苦しげな宣言。床についた手が握りこまれた様子からも、並ならぬ屈辱が読み取れる。
京香はその心根と同じく、器量に優れる娘だ。
背の半ばほどまで伸びた、織物のように上質な艶の流れる黒髪。
くっきりと開いた、いかにも優しげな瞳。
ごく小さな鼻梁に、やはり小さな気品溢れる唇……。
肩書きを一切伏せても、その上質さは隠せない。世界的なアイドルか、あるいは女優か。
それほどの逸材が、床のタイルの上で、丸裸のまま土下座をしている。
しかもその床には、ガラスの浣腸器やボウル、アナルパールやボールギャグなど、様々な淫具が散乱しているのだ。
その光景は、異常という他はない。

「そう、それでいいのよメス豚」
碧がブーツを鳴らしながら歩み寄り、恵美が首輪の鎖を引き上げる。
「ぐっ…………!」
上向いた京香の優しげな瞳は、しかし不屈の意志を秘めていた。
「あら、まだこの目だわ。面白い」
碧は言いながら、床に落ちていた道具の一つを拾い上げる。
通称『豚鼻フック』。相手の鼻にフックを掛けて吊り上げ、顔を醜く歪める事で屈辱を与える道具だ。
京香は、フックの先から碧の顔へと、苦々しい視線を這わせた。
「まずはその、澄ましたお面を剥いであげる。」
碧はそう言いながら、鈍く光るフックの付け根を握り直した。

 
「……っしゅんっ! くしゅっ、んん゛っ!! あっ、はッ……はーっ…………」
立て続けにくしゃみの音がし、荒い呼吸がそれに続く。音を立てたのは京香だ。
素晴らしい形をした彼女の鼻は、鼻腔が完全な三角になるまでフックで引き絞られている。
そしてその鼻腔の中には、今また2本の“こより”が碧の手によって挿入される。
京香の細目が、不安そうにその手元を追った。
「あっ、あっ…………ン゛っ、ふぁっ…………!!」
“こより”が慣れた手つきで前後左右上下へと揺り動かされると、京香の目はいよいよ細まる。
ぞくん、ぞくんと細い肩が震えていた。
鼻の粘膜を弄られてすっかり敏感になったのか、刻一刻と反応が早くなっていくようだ。
柳眉がつらそうに顰められ、整った顎が浮き、白く揃った歯が『い』の形のまま震え……限界が来た。
「っぷしっ! っくし、っくしゅっ! はぁっ、はぁあっ……ああっ!!」
こよりを吹き飛ばした一度目は勿論、抜かれてからも断続的にくしゃみが出る。鼻水と涎が散る。
「あーあー、ズルズルになっちゃって」
碧が笑いながらこよりを投げ捨て、京香の鼻の下を手で覆った。
そしてしとどな鼻水と涎を、ヌチャヌチャと音を立てながら京香の顔中に塗りつける。
「んっ!!」
京香は露骨に顔を歪めるが、それで手を緩めるような碧ではない。
彼女の足元には、粘液で使い物にならなくなった“こより”が20本以上も散らばっており、
恥辱の鼻責めがかなりの時間に渡って続けられた事を物語っていた。
「惨めだねぇ。喜多茅のNo.1ホステスともあろうお方が」
背後から京香の肩を押さえ込んでいた恵美が、前方に回りこみながら言う。
当然、京香の表情を歪ませる目的でだ。
「…………はっ、はあぁっ…………こ、この程度で恥を掻かせたなんて思わないで。
 あなた達のような人間に何をされたって、私は、不運なアクシデントとしか思わないわ」
依然として荒い呼吸のまま、京香は調教師の2人を睨み据える。
並の人間なら気圧されて一歩後ずさるような気迫だ。そう、並の人間なら。

「あーらそうかい、そりゃ好都合だね。まだ洗礼の序の口なんだから、この程度でネを上げられちゃ興醒めさ」
冷ややかな口調で、恵美が囁きかける。
彼女の片手には、ステンレス製の刺々しい開口具が握られていた。
「これは、ホワイトヘッド開口器といってね……耳鼻咽喉科で扁桃腺手術をする時なんかに使われる器具さ。
 お次は、これで口の開きを良くしてから、ディープスロートの特訓と行こうじゃないか。
 鼻水や涎なら出しても平気のようだけど、ゲロをブチ撒けても、まだその澄まし顔が出来るかい?」
その言葉が終わらない内に、碧が慣れた手つきで京香の口を開かせにかかる。
頬を両側から押し込み、同時に鼻を摘む。こうされては、ただでさえ呼吸の苦しい京香は大きく口を開くしかない。
そこにスパイダーギャグが嵌め込まれた。恵美の太い指が素早くネジを巻き、ギャグを開口状態で固定する。
口の開き具合は凄まじく、舌はおろか上の歯並びや喉奥の様子まではっきりと視認できてしまう。
鼻フックと相まり、惨め極まりない有様だ。
「ほぅらご覧よ、すごいじゃないか。こんな表情をするのは生まれて初めてなんだろ、お嬢様?」
頬を叩いて京香に横を向かせながら、恵美が言う。
その視線の先にあるのは、調教部屋の壁を一面覆い尽くす巨大なミラー。
「うあ……ゃ、あ」
ミラーに真正面から顔を映すことになった京香は、今一度眉を顰める。
「フフ、何言ってるか解らないわ。まぁ何を言ってたとしても、今さら遅いけどね」
碧は満面の笑みを浮かべながら、京香の首輪を引いた。


「どうだい、立派なもんだろう」
恵美が京香に問う。
正座した京香の前には、人間大のガラス板が設置され、ちょうど男の腰ほどの高さに黒いディルドウが嵌め込まれている。
極めて精緻に男性器の特徴を模したものだ。
「これが大体、男の平均サイズさ。最も本物は、血管が浮き出て男臭くて、恥垢やら毛に塗れてるのもあるけどね。
 そのリアルに比べりゃあ、こんなものは可愛いオモチャさ」
ディルドウの先を撫でながら、恵美は笑った。
「………………」
京香は毅然とした態度で、その恵美を冷ややかに見上げている。
すでに鼻フックも口枷も取り去られ、美貌は元の通りだ。
しかし、今度は両手首に木枷が嵌められ、首と横並びになるよう拘束されていた。
一時的に首輪が取り去られたとはいえ、虜囚としての惨めさは変わらない。

「さぁ、じゃあそろそろおっ始めようか」
2人の調教師は、その有様をしばし面白そうに眺めてから行動に移った。
碧が京香の顎を掴み、恵美が後頭部を両手で押し込んでディルドウに近づけていく。
「っ…………!!」
京香は一瞬苦々しい表情を見せたが、ここで抗っても仕方がない。
慎ましい桜色の唇を開き、ディルドウを迎え入れた。ディルドウは女2人の力により、ずるりと喉の奥まで入り込む。
「……………………ぅ゛っ、う゛ぇっ………………!」
ディルドウが8割ほど埋没したところで、京香が小さく肩を竦めてえづきを漏らした。
口戯の経験さえ全くない彼女に、喉奥への刺激はさぞ辛かろう。
しかし調教師達の目線で言えば、獲物が見せる弱みこそが、つけ込める絶好の隙なのだ。
「ほぅら、どう、美味しい? 今まで何十人って娘のえづき汁を吸ってきたディルドウよ。甘く感じるんじゃない?」
碧はよく通る声で囁きかけながら、恵美と息を合わせて長いストロークを取る。
大きく引き、押し込み、大きく引き、押し込み。
それを都合4回繰り返した後、最奥まで呑み込ませたままグリグリと捻り込むように頭を左右させる。
そこで3秒ほど留め、引き抜く……と見せかけて、浅く引いただけでまた最奥まで押し込む。
寒気がするほど良く慣れたディープスロートの仕込みだ。
「…………ン、ふっ…………フーッ………………」
意外なことに、京香はこの間、えづき声を出さない。たまに鼻から小さく漏らす程度だ。
しかし喉からはカポッ、カポッと空気と水分の混じりあった音が鳴っており、間違いなく喉奥を蹂躙されていると判る。
また、眉の角度は平坦ながら、その間隔が狭まる事もある。けして楽ではないのだろう。

2回ほど上の行動が繰り返された後、トドメとばかりに4秒ほど最奥に押し付けてから、初めて調教師の手が離される。
「ォあっ!……はっ、ハッ、……はーーっ…………はーっ……!!」
京香は弾かれたようにディルドウを吐き出し、俯きがちに荒い呼吸をはじめた。
口周りに唾液は見えない。しかし……ディルドウの方には、先ほどまでの反応の薄さが嘘のような量が付着している。
全体がヌラヌラと濡れ光り、凹凸のある部分は白くさえ見えた。
「アハハッ、玩具がドロドロじゃない! これが、あの『緋艶蝶』の京香が出したえづき汁なのね。
 ここに纏わりついてる分だけでも、万札出して買う客がいそうだわ」
「いいねぇ、ホントに売っちまおうか。こいつの身体から出る汁という汁を売り捌きゃ、いい小遣い稼ぎになりそうだ。
 馬鹿みたいなカリスマぶりも地に堕ちるだろうしねぇ」
辱めの言葉をかけて京香を煽りながら、調教師達は再び京香の頭を掴む。
「っ…………!!」
「ふふ、“まだやるのか”って感じの顔だねぇ。生憎、今のはただの慣らしさ。ここからが本番だよ」
恵美の口元こそ笑う形をしているが、瞳はそうではない。それは、強い信念を持って凶行に及ぶ者の特徴だ。
京香の喉が、被虐への覚悟を決めるようにゴクリと鳴った。

 
2度目のディープスロート。それは、初めから前回とは違っていた。
恵美と碧の手でディルドウを喉奥まで咥え込まされた直後から、京香の喉がケコッ、ケコッ、と鳴りはじめる。
「ぶふぁっ!!」
鼻から噎せるような声がそれに続いた。それでも、調教師達は最奥まで呑み込ませたままだ。
その間にも喉奥からはカコッカコッと音が鳴る。
京香の胴体に動きはないが、木枷の上で両手が握られ、眉がとうとう角度をつけて顰められる。明らかに苦しげだ。
そこから、さらに3秒。
調教師の手が離れた瞬間、京香は堪らずといった様子で横を向いた。
「こぉっ…………あはっ、あ…………えァっ………………!!」
ディルドウの直径そのままに大口を開け、かなりの量の唾液を吐きこぼす。
唇を閉じて唾液の糸が切れてからも、さらに数滴が俯いた顔の下へと滴り落ちていく。
明らかに前回よりも余裕がない。さらに今度は、休息すら許されなかった。
「まだよ。休ませないわ!」
碧が珍しく厳しい口調で告げ、涎まみれの京香の顎を掴みあげる。そして、すぐにディルドウへと向かわせた。
本当の地獄は、ここからだった。

「ン゛んも゛ぉおぉえ゛…………っっっ!!!!」
京香が令嬢らしからぬえづき声を上げたのは、4度目のディープスロートを強いられた時だ。
ガラス面にべったりと鼻を押し付けるほどにまで深く咥えさせられ、さすがに我慢のしようもなかったらしい。
醜く開いてへし曲がった唇からは、しとどな唾液が溢れてガラスを伝う。
ディープスロートが進むごとに唾液の線は増え、ガラスに泡をつけて洗浄しているような光景になる。
「ぁぶはあっ!!!」
たまに息継ぎを許される時には、床にびちゃびちゃと音を立てて大量の涎が零れるようにもなった。
涙こそ流れないが、その表情は若い娘が人目も憚らず号泣する時のもの。
本来の京香は、人前でそのような顔を見せる娘では断じてない。
借金の肩に売られた時でも、『緋艶蝶』でいびりを受けていた頃ですら、一切の弱さを見せずに周囲の度肝を抜いてきた。
しかしその鋼の清冽さも、喉奥を抉られ、かき回される物理的な被虐の中では崩れ去るしかないようだ。

最初の『決壊』は、意外にも淡白なものだった。よく見返せば、前兆は確かにあったようだ。
それまでされるがままにディープスロートを受けていた京香が、何度も顎を上げ、ディルドウを吐き出そう吐き出そうとする。
ぶふっ、ぶふっ、と鼻から咳が噴き出す音もしていた。
おそらくはこの時、京香はどうしようもない吐き気に襲われていたのだろう。
当然、恵美と碧がこの変化を見逃す筈がない。彼女らは顔を見合わせ、さらに数度のストロークを経て京香の頭を引く。
ずるりとディルドウから京香の口が滑り落ちる、その瞬間、吐瀉物が零れた。
「あうぇお゛っ…………」
すでに口の下半分を満たすほどに溜まっていたものが、開いた口からヌルヌルと流れ出す。
京香の口と同じ幅から細い流れへと絞り込まれ、静かに床へ滴っていく。
そして流れが終わった後は、残りが千切れたミルクの膜のように木枷へと張り付く。
「あーあー、吐いちゃって」
碧がそう言いながら、京香の肌へと指を這わせた。
顎に、首元、木枷を通って、太腿……吐瀉物が落ちたラインと併走するように。
「はぁっ、はっ、はっ! …………あ、あなた達が…………はあっ……吐かせ、たのよ………………!!」
かつてないほどに息を切らせ、京香は調教師達を睨み上げる。
様になるものだ。芸術品のような目尻から、苦しみの涙さえ零れていなければ。
「そうだったかしら。でもその太腿に乗った熱い液は、お前自身の胃にあったものよ。……そして、今からかかる分もね」
碧はそう言い、京香の髪を鷲掴みにする。同時に恵美も、陰湿な笑いを湛えながら京香のうなじを掴む。
そして、何の容赦もなくディープスロートを再開させた。


「ごぉお゛ぅうええ゛っ!!! もごっ、ふぉぉお゛お゛ぅえウ゛エえ゛ッッ!!!!
嘔吐後の再開時からは、明らかに京香の反応が違っていた。
えづき声がとにかく凄まじく、身の捩り方も尋常ではない。
腹筋は激しく蠢き、太腿はきつく閉じられたかと思えば、左右いずれかの膝頭を跳ね上げる。
「フフ、凄い。一度吐いちまえば、この女でも脆いもんだね」
恵美が京香の横顔を覗き込みながら、面白そうに告げた。
その言葉通り、今や京香はひたすらに嘔吐を繰り返している。
「ごぶっ、ぶふゅっ!!げおっ、がぶふっ!!」
激しく頭を前後されている間には、吐瀉物とも涎ともつかない液体が大量にディルドウを伝い、ガラス表面を上書きする。
「けっ……は、かッ…………オお゛ぅえ゛っ…………!!」
喉奥まで咥え込ませてから解放すれば、すぐに俯いて吐瀉物を零す。
あれほどぴしりと整っていた美しい正座が、もはや影もない。
全体として膝立ちに近く、足指はつま先を立てるようになり、常に吐く準備をしているような前傾姿勢だ。
明らかに品がなく、だらしない。当然その姿勢も恵美達の罵りの種になったが、京香からすればそれ所ではない話だ。

一体どれほどの時間、この醜悪な地獄が繰り返されたのか。
一体何十度に渡り、嘔吐と空嘔吐が繰り返させられたのか。
京香は、生理的な反応に塗れていた。
額にびっしりと汗を掻き、虚ろな両目からは涙の線を零し、閉じない口からは唾液を零す。
胃液とえづき汁の混合物は、木枷の穴を通り、京香の前身を濡らしていた。
白く美しい首筋が、乳房が、下腹が、泡立つ汚液で汚されている。
特に太腿などは一面ヌラヌラと濡れ光り、その脚の間には、まさしく『夥しい』量の薄茶色をした半固形物が広がっていた。
「ああ、臭い臭い。この部屋じゅうに、お前のゲロの匂いが充満してるよ」
「ホント。客からの噂じゃ、お前ってどんな時でもいい匂いをさせてるって噂だけど、とんだ嘘。
 男が憧れるピンクの唇からちょっと奥にいけば、こんな汚物溜まりなんだから……詐欺みたいよね」
わざとらしく鼻を摘みながら、恵美と碧は思いつく限りの罵りの言葉を並べていく。
「…………あ…ああ゛………」
自らの吐瀉物を見るともなしに眺めながら、京香はしばし呆然としていた。
しかし、数秒後。強く手を握り締めると、はっきりとした意思を秘めて顔を上げる。
「こんな事で、私は折れないわ……。どんな辱めにも耐えて、きっと『緋艶蝶』に返り咲いてみせる」
その瞳はまさしく、緋色に輝く艶やかな蝶そのものだ。
恵美と碧も、ここに来てのこの気迫に、一瞬侮蔑の言葉を途切れさせた。
しかし、冷や汗が首元に届くよりも前に、彼女らは冷たい笑みを取り戻す。この辺りは流石に、一流の調教師というべきか。

「へぇ、そうかい。でもそれは、随分と空しい覚悟だよ、メス豚。
 ここは、お前が従順になるまで調教をする部屋だ。逆に言えばね、お前は堕ちるまで、この部屋から出られないんだよ!」
「そうよぉ。お前みたいなハネッ返りは、今まで何人もいたけど……全員、この部屋で変わったんだから。
 そいつらの一人は、そうねぇ…………『これ』で汚物をぶちまけた時に、ポッキリいったわね」
恵美の罵りを碧が引き継ぎ、床からガラス製の浣腸器を拾い上げる。
「お前にもご馳走してあげるわ。グリセリンとか酢とか、色んな物のスペシャルブレンドを、たっぷり。
 浣腸に慣れたブタでもウンウン唸るようなキッツイのを、丸一晩我慢させてあげる」
まさしく悪魔のような表情で、碧が笑う。
「勝手に……すればいいわ」
京香はなお毅然とした表情で言い放った。しかしその美しい額からは、また新たな汗が伝い始めていた。





「…………と、ここまでが昨日の調教内容さ」
臨時休業となった『緋艶蝶』ロビーのソファに腰掛け、恵美が告げる。
その恵美を上座に据えたまま、数十人が固唾を呑んで巨大なモニターに見入っていた。
モニターには、調教部屋の様子を記録した映像が流れている。
3箇所のカメラが京香の被虐を撮影していたらしい。
首輪だけの丸裸で土下座する姿を、俯瞰から。
鼻責めに苦悶する姿を、前方から。
イラマチオで嘔吐する姿を、ガラスを隔てた真正面から。余す所なく、1秒の飛びもなく記録してある。
それを見せられた『緋艶蝶』関係者の表情は暗い。
先輩ホステスは、初めこそ嫉妬の念があったものの、今では京香を一流の人間と認め、多くは妹のように可愛がっている。
後輩ホステスは、京香を純粋に尊敬し、その在り様に憧れて水商売の世界に立っている。
ボーイ達も一人の例外なく京香に好意的で、信奉に近い想いを抱く者さえいる。
その京香が虐げられている様が、愉快であろう筈もなかった。
しかし、文句はつけられない。『セピア・リップ』はこの街のルールに則っているからだ。少なくとも、表に見える部分では。

「い……今は、何をしてるの!?」
後輩の1人が、堪らずといった様子で尋ねた。やや垢抜けない、運動部の後輩という印象を与えるホステスだ。
恵美は可笑しそうに後輩ホステスを見やった。
「いい質問だね。あのメス豚は……今この瞬間も、浣腸を我慢してる最中さ。
 昨日の晩、盥一杯に浣腸液を作ってご馳走してやったのさ。
 幼児用のプールに出来そうなサイズの桶で、しまいにゃああの娘、下腹がポッコリ膨れてたっけね。
 ポンプ式の絶対に漏れないアヌス栓を嵌めたから、自力での排泄は無理だ。
 アタシはそこで仮眠に入ったけど、今はもう1人が張り付いて、監視ついでに遊んでるだろうね」
その答えに、後輩ホステスの表情が強張る。
恵美は満足げな表情で続けた。
「そんなに気になるなら、ウチの店に着いてきな。それも、なるべくなら多いほうがいい。
 10人のギャラリーが揃うまで、排泄させないって決めてるのさ」
先輩ホステス、後輩ホステス、ボーイ……その全てが、この言葉に息を呑んだ。
そして、互いの腹の内を探るように顔を見合わせる。
育ちのいい京香のプライドを傷つけると知りながら、見に行くか。
10人が揃わないまままごつき、余計に京香の苦しみを増すか。
誰にとっても難しい決断だった。
恵美はその動揺した空気に、いよいよ機嫌を良くしていく。
「老婆心から忠告するけど、決めるんなら早くしな。
 京香にした浣腸は結構強力なヤツでね。実際、栓をしてから3分も経たないうちに、出したいなんて言い出してたんだ。
 それを一晩我慢してるんだから……解放は、一秒でも早い方がいいんじゃないかい」
この言葉をきっかけとして、後輩ホステスの数人が立ち上がる。
「あ、あたし、行きます!」
「私も!!」
その空気に煽られ、他のホステスやボーイからも次々に志願者が出た。
悲壮な表情の並ぶ中、恵美のそれだけが違う。
「おやおや。家族も同然の身内が、こんなに居る前でひり出すなんて……
 今度こそ心が終わるかもねぇ、京香」
その醜悪な囁きは、誰にも認識される事はなかった。



調教部屋に入った瞬間、『緋艶蝶』の面々は目を見開いた。
先導する恵美が口に指を当て、声を上げるな、という合図を出す。

調教部屋の中央には、首輪だけをつけた汗みずくの女が吊るされていた。
腕は万歳をする形、脚は大股開きの状態で枷を嵌められ、天井から下がる鎖と繋がれている。
当然、秘裂や肛門を隠す術はない。極めて屈辱的な格好だ。
目隠しとボールギャグで顔は解らないが、その美しい黒髪や新雪のような白肌は、それだけで京香だと特定し得た。
しかし、その本来美しいウェストラインは歪に膨れ、雷轟のような音を立て続けている。
「ようやく来たのね。待ち侘びたわ、私も…………この豚も」
碧がそう言いながら、京香の乳房の先を捻った。
「うもぅうっ!!」
「あらぁ、イイ声。さっきまで針山みたいに扱われてたココが、そんなに善いのかしら」
ボールギャグから漏れた切ない呻きを、即座に碧が詰る。
京香の両の乳房は、果たしてどれだけ嬲られたのか。全体のサイズが、前日の映像より2周りは大きい。
乳輪は明らかに肥大化してふくりと盛り上がり、乳首はしこり勃ち。
碧が捻っていないほう……左の乳首などは、今もなおニップルポンプが取り付けられ、限界まで細長く吸引を続けていた。
乳房だけではない。
恵美の言葉通り、京香の肛門には菊輪を覆い尽くすような栓が嵌まり、さらにそこからバルーンが垂れ下がっている。
臀部の下辺からは汚液が滴っていた。
直下の床は汚液溜まりと言っていいほどだ。しかし、それすらもごく一部。大半は栓に阻まれ、出したくても出せないのだろう。

女性器の周辺にも変化があった。
薄い茂みがすっかり剃られ、幼児のような白い丘にされている。
それによりいよいよ露わになった性器の上部から、細いチューブ状のものが垂れていた。
チューブは中ほどでピンチコックによって留められ、尿道側からの液体の流出を阻んでいるようだ。
「浣腸だけじゃ物足りないだろうと思って、膀胱にも“ちょっと”入れてみたの。
 便意だけじゃなく尿意まで限界のまま一夜を過ごすって、たまらないでしょう?」
「ああ、そりゃそうだ。碧の事だから、ちょっとなんて言って、軽く600ミリ以上は入れたんだろ?
 膀胱の容量が大体500ミリ。膀胱壁が膨らめばもっと溜められるとはいっても、そこまでになった時点で脂汗ダラダラだ。
 それを、4時間だか5時間だかなんて…………ゾッとするよ」
恵美は、背後の人間へ聞かせるように語りつつ、指を鳴らして合図を出した。
それを受け、碧が冷笑を湛えながら京香のボールギャグを外す。
濃厚な唾液が無数の糸を引いた後、桜色の唇が忙しなく動いた。

「っぷはっ!! ……だ、出させてっ! おねがいっ、は、早く、はやくさせてっっ!!!」

まさに“必死”の哀願。いかに気品溢れる京香といえど、身を焦がす排泄欲には抗えないようだ。
『緋艶蝶』のメンバーが一斉に顔を顰める。
「あらぁ、4時間前とは打って変わって素直ねぇ。でも、したいってだけじゃ伝わらないわ。『何が』したいの?
 『おしっこをしたい』のか、それとも、『下痢便をぶち撒けたい』のか。どちらかを復唱なさい」
その言葉で、京香の口の動きが止まった。
狡猾な選択肢だ。本当の所、京香は何よりも排便を望んでいるのだろう。
しかし、こうも屈辱的な復唱を強いられては、京香自身のプライドがそれを許さない。
答えは一つしかなかった。
「お……おしっこが、したい…………したくてたまらない」
震える声で京香が告げると、碧はわざとらしく手を叩く。
「あーら、そう。私はてっきり、うんちの方かと思ったんだけど……そっちはまだ我慢できるの。お前って凄いのね」
嘲るように囁く碧。そして京香が反論するより前に、その指は鮮やかにピンチコックを解いた。

「うっ!?……くっ、ぁああ、……ふぁああああーーーっ!!!」
膀胱内の圧が変わり、溜めに溜めていた尿が一気に放出される。
その開放感に、京香は声を抑えられない。
「ハハ、すごいすごい、大洪水じゃないか! こりゃあ600ミリどころでもなさそうだね。
 おーおー、せっかくゲロを掃除したってのに、また真っ黄色に汚しちまってさ」
放物線を描いて床に飛沫を上げる放尿。それを前に、恵美もまた声を高める。
無論、感動からではなく、京香の恥辱を増すためだ。恵美と碧の全ての行動原理は、それに集約される。

ようやくに放尿が終わった後、京香の下半身からは雫が滴り続けていた。
尿の一部が前方ではなく、性器の方へと滴っていたからだ。
それを濡れタオルで拭き清めながら、碧は京香に何事かを囁き続ける。
京香の顔が歪む事からして、聞き流せるような事でもない。
恐らく碧は一晩中、そうして京香の恥辱を煽り続けたのだろう。
そこへ恵美が歩み寄った。腰に手を当てながら京香の陰核の部分を凝視する。
「おや、クリトリスがすっかり勃起してるじゃないか。まぁ小便を我慢してると、勃っちまう奴隷もいるけどね」
「どうやらこの生娘のお嬢様も、おしっこを我慢して興奮しちゃうマゾみたいね。
 どうせだから、もうちょっと高めてあげましょうよ」
碧はそう言うと、床の箱から一つの道具を取り出した。綿棒ほどの、凹凸のある細い棒だ。
「メス豚、これが何か判る? これはね、おしっこの穴を開発する為の道具よ。
 ほら、解るでしょう。この凸凹が、尿道の入口と、奥側のクリトリスの根元を絶妙に刺激するの。
 一度これを味わったら最後、みーんな病み付きになっちゃうんだから」
京香の頬に淫具を擦り付けながら、碧は告げる。
そしてアルコールで除菌した後、改めて尿道口に押し当てた。
「はぐっ……!」
挿入の瞬間、京香は小さく呻く。しかし碧の指がゆるゆると前後しはじめると、ただ荒い息を吐くばかりとなった。
「ほぅら、どう。気持ちいいんでしょう」
碧は熟練の手つきで道具を前後させる。その度、京香の内腿がびくりと強張った。
「おやおや、こりゃ善さそうだ。どれ、こっちも可愛がってやるよ」
恵美の方も、尿道責めでいよいよ屹立しはじめた陰核を摘み上げる。
「ふうああっ!!」
「ふふ、珍しく可愛い声が出るじゃないか。まぁ無理もない、私と碧の二箇所責めは、女泣かせだからねぇ」
言葉が切れると共に恵美の指が蠢き、京香の身体がぶるりと震えた。

「う、くそ…………京香さんっ………………!!」
『緋艶蝶』の人間は、ただ歯噛みしながら眼前の陵辱劇を見つめる。
調教部屋の四隅を『セピア・リップ』御用達の暴力団員が固め、無言の圧力を掛けているせいだ。
下手な真似はできない。
しかし無力に見守っている間にも、京香はいよいよ追い詰められていく。
「あああっ、ああっ、くぁああ……あああっ!! もっ、やめっ…………はぁああっっくぅ!!!」
京香は喘ぎ、歯を食い縛りながら激しく頭を振っていた。
その声色からは、彼女が幾度も幾度も絶頂に至っている事が生々しく伝わる。
手足の鎖が煩く鳴るのも、異常性を際立たせる。
「フン、まだまだ止めるもんか。もっと派手に突き抜けるんだよ、メス豚!」
「そうよ。可愛らしい声出す余裕があるうちは、休ませないわ」
女2人は巧みな指遣いで京香を責め立てた。
京香は身を震わせ、愛液を散らしながら喘ぎ続け…………やがて、その声色が変わる。

「やめてぇっ、やめっ……!! あ、くぁぁああ…………おお゛っ!!
 あぐっ、ひっぐっ…………んんんんああああ゛っ、あっはあああっおおお゛お゛っ!!!!」
喘ぐのではなく、口を尖らせて腹から出すような嬌声。
その快感の凝縮された呻きは、数限りなく陰核絶頂を迎えた先の段階である事が明白だった。
「お、出た出た。やっぱりこの声じゃないと、アクメ極めさせてるって感じがしないわね」
「ああ。ゾクゾクくる声だ。『カワイソウな私』演技が上手いねぇ、元お嬢様は」
調教師達は笑いながら、さらにしばし京香に絶頂を迎えさせる。
その果てに、京香には別の限界が表れた。

「お、お願い…………出させてっ! これ以上は、私、ほんとうにおかしくなる!!」
今までともまた切実さの違う懇願。碧と恵美が手を止めた。
「ふぅん、そう。それで、何がしたいの?」
今一度、問う。京香は歯を食い縛り、息を吐き出すように開いた。
「うん、ち……うんち!! はやくはやく、したい、したいはやく出させてぇっ!!」
あれほど聡明であったはずの京香が、単語でしか会話できていない。
これは排泄欲が本当の限界を迎えている人間の特徴だ。
そもそも、全身を覆いつくさんばかりの発汗や痙攣自体が、異常という他はない。
もはや瓦解は時間の問題。調教師の女達は、ここで最後の一押しに入る。
「何度も言わせるんじゃないよ。『下痢便をぶち撒けさせて下さい』……そうお願いするんだよメス豚ッ!!」
恵美が叫びながら、京香の尻肉に強かな平手打ちを見舞った。
「くうううっ!!!」
便意の限界の中、それはどれほどに効くことだろう。
再度訪れた、屈辱的な選択肢。しかし…………さすがにもう、拒む気力も体力も京香にはない。
むしろ、ここまでが耐えすぎたほどだ。
京香は強く歯を食い縛り、全身を震わせながら口を開く。

「…………お、お願いしますっ、下痢便をっ、ぶち撒けさせてくださいっ!!!
 言ったっ、ねぇっ、確かに言ったわ! だからはやく、はやく栓を抜いてぇっ、
 はやくぅウウううーーーーーッッ!!!!」
もはや京香の声は、普段とは全く違っていた。
見守る10人の同僚達さえ、目を瞑って聞けばそれが京香の声だとは思わない。本当の限界なのだ。
「はいはい。それなら、たっぷりと出しなさい……皆に見られながらね!!」
碧はそう言いながら、肛門栓から垂れているバルーンのスイッチを切った。
同時に恵美が、素早く京香の目隠しを取り去る。
「ふあぁあああああっっっ!!!」
肛門栓を吹き飛ばし、溜まりに溜まった大量の汚液があふれ出す。その開放感に、京香は高らかに声を上げた。
しかし、極楽気分もそこまでだ。
陶然として放出の快感に浸っていた京香は、ふと下方からの視線に気がつく。
そちらにぼやける視界を移し、見知った顔が並んでいる事に気付いた時…………京香の顔は、ふたたび凍りついた。
「え…………えっ? ど、どうしてっ!?
 い、いや…………いやぁあああぁっっ!! 見ないで、みないでぇえぇええーーーーっ!!!」
絶叫。しかし、肛門から溢れる汚液を留める事はできない。
手で恥部を隠すことすら叶わない。
「はははっ、それだけ盛大にひりだしといて良く言うよ。お前が力んで止めたらどうだい」
「全くだわ。人前でブリブリ下品な音を立てて、あさましい女。優しい同僚さん達も、さすがに見るのがつらそうよ」
恵美と碧は、桶に溜まっていく汚液を見下ろし、ギャラリーにも見せ付けるようにして嘲笑う。
『緋艶蝶』の人間からは、すすり泣きや苛立ちからの歯軋りがしはじめる。
「う、ふうっ……く、くぅ……うう゛っ…………!」
京香はとうとう、大粒の涙を流し始めていた。
苦痛に起因する反射的な落涙ではない、悲しみの涙。冷血なサディストにとって、砂糖より甘美な涙を……。


「この大人数の前で糞をひりだした気分はどうだい、京香お嬢様」
汚物の匂いが漂う中、恵美が粘着質な声で問う。
「………………っ!!」
京香は耳までを赤く染めて俯いた。恨み言の一つも返したい所だが、その余裕すらない。
京香は、人に寝巻き姿を見せる事すら女の恥、と教わって育った令嬢だ。
入浴後にもかっちりと洋装に身を包み、就寝直前の自室でのみ寝巻きの着用を許されたものだった。
その京香が、公衆の面前で排便を晒すなど……容易に受け止められる羞恥ではない。
何か言葉を発しようとするも、胸がつかえて涙ばかりが零れる。
そんな京香の様子を見かね、『緋艶蝶』のホステスの1人が拳を握り締めた。
「い……いい加減にしなよっ! あんた達、人間じゃないわ!」
「そ、そうよ! あの京香さんにここまでさせて、いい加減アンタらも気が済んだでしょ!?」
他の人間も便乗し、恵美と碧に批判的な視線を送る。
しかし……百戦錬磨の調教師2人は、それだけの敵意を向けられても涼しい顔を崩さない。
「フン。気が済んだ、なんてとんでもない。ホントのお愉しみはこれからさ。
 何せウチのボスからは、『アヌスを犯されただけで絶頂するメス奴隷になるまで』調教しろと言われてるからね」
「私達もプロだから、堕とす相手はきっちり堕とすわ。どんな手段を使っても、ね。
 お前達には私が人間じゃないように見えるようだけど、最終的に人間でなくなるのは、京香の方よ」
調教師としての自信に満ち溢れたその態度に、どのホステスも二の句が継げない。
その様子を恵美達は満足げに見やる。
絶望的な空気。それを破ったのは、か細い声だった。

「し、心配……しないで…………このぐらい、平気よ」
恵美と碧、そしてホステス達の視線が同じ方向に集まる。
そこには、汗みずくで息も絶え絶えながら、しかし瞳に確固たる決意を宿らせた京香がいた。
「私は、私のまま…………必ず戻るわ」
彼女とて余裕などない。けれども家族に等しい同僚達に、これ以上心配はかけられない。
それが、京香という女の矜持だ。
その姿に、ホステス達は切なさと希望のない交ぜになった表情を浮かべ、調教師2人は喜びを露わにする。
「へぇ、面白い。まだ頑張るなんて」
「その位でなきゃ張り合いがないさ。何しろ、この街で最も上等な女だそうだからね」
恵美と碧は、凛とした京香の瞳を闇で覆うかの如く、至近で覗き込みながら囁きかけた。
「さぁ続きだ、京香お嬢様。そのお綺麗な心が変質するまで、徹底的に躾けてやるよ…………!」





恵美の口から、今一度の含み笑いが漏れた。天井から縄で吊るされた京香の裸を見てのものだ。
排便の時と同じ……否、それ以上に惨めな格好。
乳房を搾り出すように後ろ手縛りを施された上で、その両手首を頂点として天井から吊るされている。
脚は両の爪先がかろうじて床につく。ただし太腿と足首は外側から縄で引かれ、菱形に近い形を強いられていた。
となれば当然、京香の肛門は丸見えの状態で、恵美の方へと突き出されることとなる。
「傑作だね、お嬢様。ストリッパーでもやらないような、あさましい格好だ」
恵美が、京香の伸びやかな脚に指を這わせて罵った。
「私は……あなたの悪趣味な縛めに、身を預けているだけよ」
京香は謗りを無視できない。口惜しげな表情が正面のミラーに映り込む。
上質な織物を思わせる彼女の後ろ髪は、その一部が手首の縄に巻き取られ、主の俯く動きを阻害している。
このため京香は、表情のすべてを、ミラーを介して背後の恵美に把握される状況にあった。
これはよく出来た嫌がらせだ。
恥辱の表情を常に確認できるのは勿論、責めを嫌って京香が身を捩るたび、彼女自身の体重が『女の命』である髪を痛めつけるのだから。

「……それにしても、ウチの特製浣腸はよっぽど効いたようだねぇ。
 おまえ、自分のアヌスが今どんな風か解るかい? すっかり開いて、ダリアの花みたいになっちまってるんだよ」
恵美はさらに言葉責めを続けた。
「いやっ!!」
排泄の穴を観察される恥辱に、京香の身が強張る。
自分の肛門が普通でない現状は、京香自身にも痛いほど解っていた。
括約筋は緩みきり、外気が腸内を撫でている。どれほど力を篭めようとしても、普段通りには締まらない。
「おや、今度はヒクヒクしはじめたよ。一体何を欲しがってるんだろ。
 口ぶりとはまるで逆の、本当にあさましい女だね、おまえは」
恵美は、京香の挙動の全てをあげつらい、言葉責めに利用する。
それは事実として効果的だった。する事の全てを否定されると、人間は心が消沈する。否定する相手に従順になる。
しかし京香には、まだ気概が残っていた。

「どうして、そこまで他人を見下せるの!?」
京香は鏡越しに背後を睨みつける。すると恵美は、よくぞ訊いたとばかりに口元を吊り上げた。
「なぜってそりゃあ、そうしていると愉しいからさ。
 上等な女が、自分の調教で下劣な生物に成り下がっていくのが面白いんだ。
 男が女の膣内へ欲望をぶちまけるように、私も上等な女の体内へドス黒い感情を塗りこめる。それだけだよ」
恍惚とした表情を浮かべながら、恵美は語る。
「自分で最低だとは思わないの? 他人に悪意ばかりを向ける人間は、いつか必ず報いを受けるわ」
京香がそう指摘すると、恵美の口元はいよいよ歪に歪んでいく。
「いかにもお前らしい考えだねぇ。生まれながらにして金持ちで、上品で、お美しい京香お嬢様。
 おまえみたいに綺麗事ばっかり並べる女が、一番イジメてて楽しいんだ。
 おまえから出る涙が、悲鳴が、呻きが――堪らないよ!」
恵美の分厚い掌が、京香の尻肉に宛がわれた。
生暖かさに京香の腰が震えるのを、恵美は面白そうに眺める。
「今だって本当は、この肛門に極太のアナルフックを引っ掛けて、縦に引き裂いてやりたいんだ。
 流石のおまえも、その瞬間にゃあ男みたいな叫び声を上げて、火がついたようにのたうち回ることだろうね。
 その光景はさぞや甘美だろうが、早々に壊しちゃあ調教も何もないもんだ。
 肉体は切り裂けないが、その代わり…………綺麗事づくしのその高潔な精神を、ズタズタにしてやるよ」
悪魔そのものの表情を浮かべながら、恵美は京香の尻肉を撫でた。
それを見て京香は理解する。この恵美という女は、言葉こそ通じるが、人間の心を持ってはいないのだ、と。


恵美は、両手で尻肉を鷲掴みにし、2本の親指で肛門を割りひらく。
浣腸でふやけた“ダリアの花”は容易に左右へと拡がり、桜色の直腸粘膜を悪魔に晒す。
「っ………」
京香は視線を斜め前に向けた。鏡を利用して背後を確認するためだ。
その京香の行動を読んでいたのだろうか。鏡の中では、恵美が醜悪な表情を湛えて待ち受けていた。
「丸見えだよ、お嬢様」
囁くような口の形で、恵美が告げた。それを見聞きした瞬間、京香はゾッとする。
釈迦の手の平の上で踊る孫悟空のように、行動の全てを掴まれているようだ。
 (この女が特別なんじゃない。調教師としての経験で、パターンを読んでいるだけよ)
京香はそう考えて平常心を取り戻そうとした。しかし、
 (…………でも、慣れている。気を抜けばきっとそのまま、ズルズルと堕とされてしまうわ…………)
不安が過ぎる。それは浅くだが心に根ざし、容易に除去できそうもない。

その心境を知ってか知らずか、恵美が次の行動を開始した。
膝立ちのまま肛門へと鼻を近づけ、わざとらしいほどに鼻息荒く匂いを嗅ぎ回る。
「ひぃっ!?」
京香は腰をびくりと跳ねさせた。
「ふん、何だい……内臓の匂いしかしないじゃないか。お前も所詮、ただの女なんだね。
 毎日上等な料理を食べて育ったお嬢様の腸からは、薔薇の香りでもするかと期待してたのにさ」
相手の羞恥を煽って反応を愉しみつつ、指先で菊の輪を撫で始める。
「くっ、ううっ…………!!」
京香はもどかしい気持ちのまま、鏡の中に視線を彷徨わせるしかなかった。
鏡面には、調教部屋の空虚な様子が映し出されていた。

『緋艶蝶』のギャラリーは、排便後の片付けの最中で退出させられている。
恥辱を与える用は済んだ、ここから肛門性感を仕込むにあたっては、野次馬が居ても邪魔なだけだ。
恵美は渋る一堂を追い立てながら、そうした事を口走っていたように思う。
相方である碧は部屋内にこそいるものの、一晩に渡って京香を嬲っていた疲れからか、椅子で寝息を立てていた。
すなわち今の状況は、京香と恵美の2人きりという事になる。
それはけして楽ではない。個別での調教は、二対一とはまた違う、ねっとりと纏わりつくような悪寒がある。
京香は前日の排泄我慢の際も、一晩中碧に張り付かれて乳房を嬲られながら、何度も悲鳴を上げそうになったものだ。

「もういい加減にして……気色が悪いわ。他人のお尻にばかり執着して、惨めな女ね!」
京香が嫌悪感も露わに言い放つ。
しかし恵美は、京香の花開いた菊輪をくじりながら、ただ歪に微笑むのみだ。
反論は追い詰められている証拠だと知っているのだろう。
実際、堪らない。
丸一晩に及ぶ浣腸の影響で、京香の肛門はすっかり敏感になってしまっている。
恵美はそのふっくらと膨らんだ紅の輪を、360度中の1度ずつ愛するような丹念さでもって嬲っていた。
親指と人指し指で内外から菊輪の一部を挟み込み、ゆるゆると、あるいはゴリゴリと扱く。
地味ながらこれが効く。極小の針で突くようなむず痒さと、じわりとした熱さが、肛門入口で踊り続ける。
「肛門だって立派な性器さ。お前だって、いい加減それが解ってきた頃だろう?」
恵美が嘲るように告げた。いよいよ喘ぐような肛門の蠢きを見ての言葉だろう。
「解るはずないわ」
京香としては、肛門性感など認められない。
名家の元令嬢として、眠らない街のNo.1ホステスとして、排泄の穴で感じているなどと公言する訳にはいかない。

「フフ、まだまだ強情だねぇ。愉しませてくれるじゃないか」
恵美は嬉しげに言いながら、今度は舌を使い始めた。
まずは肛門全体に口をつけ、強く吸引する。そのまま舌を伸ばし、穴の周りを丹念に舐めていく。
「ふああっ!?」
おぞましい未知の感覚に、京香は悲鳴を殺しきれない。
一方の恵美は、分厚い両手で京香の細い腰を鷲掴みにしながら、さらに舌での嬲りを深めた。
時には穴の内部にまで舌を入れ、腸壁の浅くへ唾液を塗りこめた後、猛烈な音を立てて啜り上げる。
ずずずっ、ずずずずうっ、という品のない音が調教部屋に反響する。
「や、やめ、てっ…………!!」
京香はたまらず震え声を漏らした。
汚辱感が強い。特に腸内に溜まった唾液を啜られる時には、羞恥心が自制を振り切ってしまう。
悲鳴だけでなく手首の縄までギシギシと音を立て、後ろ髪が根元から痛めつけられる。
「ぷはっ…………ふふ、いい反応だねぇ。本当にお前はアヌスの才能があるよ、京香お嬢様。
 羞恥心の強い人間ほど、背徳的な場所を責められれば弱いもんさ」
「い、いい加減な事を言わないで!」
「いい加減なもんか。アヌスの才能の有無ってのはね、キツめの浣腸をぶち込んでみりゃあ解るんだよ。
 才能のある人間は、ようやく来た開放の瞬間に、苦痛じゃなく蕩けた表情を見せるからね。
 ちょうど、さっきのおまえがそうさ」
言葉責めを交えつつ、恵美の指が肛門を撫でた。そしてそのままの動きで、肛門内部に埋没する。
「はぐっ!」
京香の喉から自然に声が漏れた。
「感じるだろう。おまえの出すための穴に、初めて外から侵入する固形物さ。しっかりと味わいな」
恵美は左手で京香の尻肉を鷲掴みにしつつ、右手中指で肛門内を弄り回す。
そして間もなく、人指し指も加えた二本指でも責め始めた。
「う、うぐっ…………!!」
京香にしてみれば堪ったものではない。
昨晩バルーン式の肛門栓を受け入れはしたが、自在に蠢く肉感的な恵美の指とは、比較にもならない。
おぞましい。ただ、おぞましい。

「……おまえの糞穴はぬるくて気持ちがいいよ。奥までしっとりと纏わり尽いてきて、これは良いねぇ。
 アヌスがこれだけ甘ったるく指を咀嚼してくるんだ。おまえだって本当は感じてるんだろう?」
肛門内で二本指を蠢かしながら、恵美が笑う。
恵美は、肥満体に似つかわしい太い指……その第二関節を巧みに用い、菊輪を刺激してきた。
前後に動かすのみならず、捻りを加えて。時には二本指を大きく縦に開き、肛門内を外気に触れさせて。
固い指でそれをされれば、腰も勝手に動こうというものだ。
「肛門で感じる事なんて、ある訳ないわ。すべてあなたの、都合のいい妄想よ」
京香は、この段階になってなお反論をやめない。
しかしその表情には、多分に戸惑いの色が混ざっている。恵美はその表情を観察しつつ、さらに指を増やした。
左手の二本指までも肛門内に捻りこみ、4方向から力を加えて、ぐっぱりと肛門を開口させる。
「ほぉーらご開帳だ。おやおや……どうやら“残留物”はないようだね。あったら、ガラスの棒で掻きだしてやったのに」
「く、ううっ…………!!!」
開ききった肛門内部をつぶさに観察される中、京香は奥歯を噛み合わせて恥辱に耐える。
同僚達の懐かしい笑顔だけを、心の光にして。


10分か、あるいは20分か。
恵美はどれだけの時間、指と舌を用いて京香の肛門をなぶり続けた事だろう。
その効果は確かなものだった。今や京香の肛門は、恵美に触れられていない時でさえじわりと熱を持ち続けている。
肛門周りの唾液が外気に冷やされていく様とは対照的に、温水の輪が肛門に嵌まっているかのようだった。
「ふぅ。これだけやりゃあ、下準備としては充分だね」
恵美は肥満顔を綻ばせた。下準備、というその言葉に、京香の目元が引き攣る。
 (精神的な疲れで、もう倒れそうなのに…………まだ本番があるっていうの?)
その京香の心中を他所に、恵美はまた一つの道具を拾い上げた。
ゼリーのような物体。女の恵美が普通に握れる以上、太さはさほどでもない。しかし、長さが尋常ではない。
加えてその表面には、大小様々な突起が無数に存在していた。
「よくご覧、京香。今からこの鰻みたいなディルドウを、おまえの腸にご馳走してやるよ。
 長さがあるぶん奥の奥まで届くし、合計64個のイボが、順々に肛門を刺激していく逸品さ。
 おまえのヒイヒイ善がる様が目に浮かぶよ。今まで何十という女が、私の目の前でそうなったからねぇ」
右手に握ったディルドウへ豪快にローションを塗りたくりつつ、恵美が語る。
「そう、危ない玩具ね。指を切らないように気をつけて遊びなさい」
京香は眉を吊り上げて嘲った。
その内心は憤りに満ちている。自分を自在に追い込めると頭から信じている恵美にも腹が立つ。
しかし同時に、ディルドウを迎え入れる事を、どこかで期待している自身が許せなかった。
浣腸で解れた所へ、指と舌で丹念に性感を目覚めさせられた肛門。そこをディルドウに穿たれれば心地が良い。
たとえそうした理屈が通ろうと、排泄の穴であまさしく感じる行為には違いない。
流されるものか。京香は口元を引き締めて決意を固める。
「そうだね、壊れないように気をつけようか」
恵美は呟きながら、ローションの一部を京香の肛門へと塗りつけた。
そしてディルドウの先端を、開いた菊輪の隙間に押し当てる。
「敏感になってる今の内に、しっかりと菊輪の快感を覚えこませてやるよ。後戻りできないレベルにまで、ね」
言葉が紡がれると同時に、ディルドウが僅かずつ肛門内部へ潜り込み始めた。
「………………っ!!」
京香は顎に力を溜めて堪える。

ディルドウの質量感は、恵美の二本指ともまた桁が違った。
みちみちと音もしそうなほどに肛門を押し開き、腸の深くまで入り込んでくる。
そこへ加わるのが瘤状の突起による刺激だ。縦、横、斜めの8方向の突起が、時間差で肛門を抉っていく。
突起の間隔は8方向でそれぞれ違い、タイミングが図れない。不意に大玉が来ることもあり、思わず腰が跳ねてしまう。
「どうだい、飽きが来ないだろう」
恵美はそう言いながら、じわりとした挿入を続けていた。
「ん、くくっ…………」
わずかに奥深くへ入り込まれるたび、京香の『未知』が塗り替えられていく。
極めて粘度の高いゼリー状のものが、みしりと腸奥までを満たす感覚は、極限の便意に近い。
臓器や子宮が圧迫され、ひどく息苦しい。そしてそれが、刻一刻と増していく。
「……はぁ、はぁっ…………!!」
自然と、京香の呼吸は荒くなった。緊張からか、身体中にひどい汗を掻いている。
その時間が延々と続いた後、ようやくにディルドウは腸奥に至った。
京香の頬の汗が、ぽたりと床に伝い落ちる。
ただ一度入れられただけで、ここまで疲弊してしまうのか。ならばこの先は、どうなってしまうのか。
挿入前には毅然として背後を睨んでいた瞳も、今や下方を彷徨うばかりとなっていた。

「苦しそうだねぇ、お嬢様。なら、抜いてやるよ」
恵美はそう告げてディルドウを掴み直す。
腸内の質量が後退をはじめ、子宮が下がる。同時に無数の瘤が、内側から肛門を抉り始めた。
「あぐっ!!」
ここで京香は、ついに声を漏らす。
異物が外から内へ入る時と、内から外へ出る時とでは感覚がまるで違った。
京香は挿入時と同じ気分で堪えようとしていた為に、瘤の“排泄”に対応できなかったのだ。
「ふふふ、出る時の方が凄いだろう。肛門は何と言っても、ひり出す為の穴だからね」
恵美はそう言ってディルドウを抜き去る。
無論、それで終わりではない。恵美は肩で息をする京香をしばし眺めた後、再びディルドウを肛門へと宛がった。
そして、ずぐりと突き入れる。
「んん!」
小さく声を漏らす京香。その肛門で、いよいよ本格的にディルドウの抜き差しが始まる。
巧みという他はない責め方だ。緩急をつけての抜き差しを繰り返し、京香に慣れることを許さない。
時おりディルドウを引き抜く事で空気を含ませ、ぶび、ぶりっと放屁のような音を立てさせもする。
その快感と恥辱により、京香は着実に追い詰められていた。
赤ら顔を下げて俯きたい所だが、手首の縄に後ろ髪を絡め取られていてはそうもいかない。

「はっ、はぁっ…………ああ、あ…………っ!!」
鏡の中では、京香はその類稀な美貌を崩し、大口を開けて喘いでいる。
無理もない。肛門を無数の瘤が往復し、ゼリー状の物が腸奥と子宮裏を突き上げてくるのだから。
この感覚は、本来声を上げずには耐えられない程のものだ。
『お』の口の形から発される呻きを、京香はもう何度噛み殺したか解らない。
恐らくその呻きは、肛門性感の結晶なのだろう。
「素直におなりよ。腹の底から湧いてきた呻きが、今にも喉から零れそうなんだろう?
 『おおお゛』、ってさ。この責めを受けると、皆そうなっちまうんだ。クラス一の美少女って言われてたヤツでもね」
恵美は囁くように言いながら、勢いよくディルドウを引き抜いた。
「んッグぅうっ!!」
京香は顎を上げ、甘い声を漏らす。
彼女の肛門はディルドウと同じ直径に口を開けたまま、異物が除去された後もほとんど閉じない。
そしてその下にある菱形の脚は、かろうじて床に付きながらガクガクと痙攣を始めている。
それは彼女の快感の根拠として、あまりに充分なものだ。
肛門から伝い落ちる過剰なローションが、初雪のような白肌の上で、女の蜜に見えてくるほどに。

恵美は抜き出したディルドウを片手で扱いた。
ディルドウに纏わりついた透明な液体が、飛沫を上げて散らされる。
「ふぅん……随分と“ローション以外のもの”が増えたね。お嬢様の腹ン中は、すっかり腸液まみれって訳かい」
勝ち誇ったような表情で発せられたその言葉に、京香が一層顔を赤らめた。
流石に反論のしようもない。
彼女自身にも、恵美の指の輪から、明らかにローションよりさらりとした液が滴るのが見えていたのだから。
「可愛くなってきたじゃないか」
恵美は京香の様子を眺めて言い、再びの挿入を開始する。
無数の瘤で肛門を擦りつつ、最奥まで。しかし……引き抜く動きに移るかと思いきや、そのまま動きを止める。
「………………?」
京香が目線を上げると、それを待っていたような鏡中の恵美の視線とかち合った。
「さあ、今度は自分でひり出してみな」
恵美はそう言って片手を下げる。ディルドウから完全に手を離したらしい。
「な、何を……!!」
「嫌ならいいさ。ずっとそうして、ディルドウを咥え込んでりゃあいい」
恵美にぴしゃりと告げられ、京香は分の悪さを悟る。確かに、異物を腸内に留めたままとはいかない。
しかし、擬似とはいえ、恵美の眼前で排泄を晒すには勇気が要った。
「ほら、するなら早くしな!」
恵美は痺れを切らしたように京香の太腿を平手で打つ。
相当な痛みだ。ここでいくら意地を張っても、同じように嬲られるだけだろう。
「ん、んんっ…………!!」
京香は息み、下腹に力を篭めた。少しずつディルドウが抜けていくのが解る。
「はは、出てきた出てきた。随分と立派な排泄だよこれは」
案の定というべきか、恵美は嘲り笑った。しかし今の京香には、それを恥じる余裕すらない。
「んぐ、ぐっ!! …………くぁっ、はぁぁあ……お゛…っ!!」
自力でのディルドウの排泄は、京香の想像よりも遥かに心地の良いものだった。
排泄の為に力を込めたことで、直腸と肛門の全体が極限まで締まっている。
その状態でディルドウが抜け出れば……瘤が菊輪を通り抜ける感触も、腸内の開放感も、今までの比ではない。
どくっ。
最後にディルドウが自重で滑り落ちた瞬間、京香は、身の奥で蜜の吐かれる音を聞いた。
腿の痙攣もいよいよ激しくなり、隠しようもない。
「うんうん、いい調子じゃないか。段々と雌の匂いがしてきたよ。そら、もう一丁行こうかい」
恵美はそう言いながら、再びディルドウを腸奥まで押し込んだ。
さらに今度は、手で京香の尻肉を両側から挟み込む。
「ちょっと、それじゃ出せないわ!」
「いいや、出るさ。この圧迫を跳ね除けるくらいに、力強く気張るんだよ!」
恵美に強く命じられては、京香も従うしかない。
彼女はする前から解っていた。これだけ圧迫感が強い中での排泄が、どれほど心地良いのかを。
そして…………ディルドウを吐き出し始めた瞬間、その悪い予想は見事に当たる。
腸内が勝手に蠢き、菊輪が甘い悲鳴を上げる。花園から蜜が吐かれる。
「んお゛っ…………お…………ぉっあぉおおおお゛っっ!!!」
もはや京香には、本気の声を押しとどめる余裕などなかった。
手が使えればあるいは止められたかもしれないが、拘束された今は漏れるがままだ。
「ははは、いい声だね! そうだ、どんなに見目が良かろうと、女は皆その声でアナルアクメを極めるんだよ。
 今からはそれを、完全に習慣づけてやるからね、京香!!」
恵美は勝ち誇ったように笑いながら、眼前で身を痙攣させる獲物を叩き続けた。





それからというもの、京香には、様々な肛門用の道具が用いられた。
完全な休息を取れることはほとんどない。
食事の時も、濡れタオルで身体を清められている間も、何かしらの性的な快感が与えられている。
睡眠は特に曖昧で、背後から恵美に乳房を揉まれ、碧の手でアナルプラグを抜き差しされる中、気絶するように眠る程度だ。
眠らせないのは、正常な判断力を奪うためだろう。人間は睡眠が不足すると、催眠状態に陥りやすくなるという。
そうした意識の定まらない状態こそ、肛門の快楽を刷り込むには絶好の機というわけだ。

「これを…………お尻に入れろっていうの?」
京香はへたり込んだまま、疲れの見える声色で告げた。
その横には、ガラスボウルへ山のように盛られた球体がある。灰色をした、特有の匂いを放つ固形物……玉蒟蒻だ。
「そうよ、豚。自分で、入れられるだけ入れてごらん」
腕組みをした碧が、京香を見下ろしながら命じた。小柄で華奢なこの調教師は、しかしこれで容赦がない。
京香が反抗的な態度を取るたび、折檻と称して様々な責めを課した。
鼻でタバコを吸わせようとしたり、髪を掴んだまま執拗に洗面器の水へ顔を漬けさせることもある。
『舐められやすい』容姿ゆえ、苛烈に罰して服従させるスタイルを採ったのか。
しかしそれでも、彼女が旺盛な嗜虐心を持つ事には変わりない。現に今も、彼女の青い手袋には鞭が握られている。
「…………解ったわ」
京香は、左肩の鞭痕を押さえながら承諾した。
中腰の姿勢になり、ガラスボウルから玉蒟蒻の一つを摘み上げて肛門に押し当てる。
玉蒟蒻には暖めたローションがたっぷりと掛かっているため、一つ目はつるりと内部に収まった。
「いち」
小悪魔を思わせる碧の唇が、挿入の数をカウントする。そのカウントは、京香の動きに合わせて、に、さん、と増えた。
「はち」
碧がそう告げた所で、京香の指が止まる。ようやく動き出しても、肛門に押し当てた玉蒟蒻は入らず、つるりと床に転がっていく。
「ちょっと、何やってるの。まだたったの8個なのに」
「も、もう……無理よ。お腹が張って、入らない…………」
逆光の中で碧を見上げ、京香が眉を顰める。碧は暗い影の中で苛立ちを見せた。
「へーぇ、無理なんだ。じゃあ今から私達が手伝ってあげるけど、もう一つも入らないはずよね? もし入ったら、酷いわよ」
碧はそう言って恵美に合図を送る。
恵美は慣れた手つきで京香の身体を転がした。いわゆる『まんぐり返し』の格好を取らせ、その両の足首を掴む。
「くぅっ…………!!」
余りにも屈辱的な格好に、京香は鋭い瞳で恵美を睨み据えた。
「へぇ、まだその目が出来るのかい。元気な獲物だよまったく」
恵美は余裕ぶり、その背後からボウルを持った碧が近づく。
「さぁて、それじゃあ本当に無理なのか、試してみましょうか」
言うが早いか、碧の細い指が玉蒟蒻の一つを摘み上げた。そしてそれを、強引に京香の肛門へと押し込んでいく。
姿勢が変わって腹圧が変化したためか、玉蒟蒻はぬるりと肛門内へ消えた。
「ぐうっ……!!」
「ほら、入るじゃないの嘘つき。この調子じゃ、まだまだ余裕そうね」
碧の指が、さらに玉蒟蒻を摘み上げ、挿入する。2個、3個、4個……。
「ふぐっ、うううむ…………!!」
刻一刻と増していく圧迫感に、京香は呻きを漏らした。しかし、暴れる事はしない。出来ない。
彼女に許されるのは、調教師の悪意を身が膨らむまで受け入れる事だけだ。

しばしの後、京香の身体に変化が見られた。
恵美の押さえつける足首が浮き始め、額にはじっとりと脂汗が浮いている。
「もう、本当に限界よ…………」
京香は荒い呼吸のまま告げた。相当に苦しげだ。
「まだ23個じゃないの。キリが悪いわ、我慢しなさい」
碧はそう斬り捨てるが、肛門に押し当てた玉蒟蒻が、実際にもう入っていかない。
無理に押し込もうとしても、逆に肛門が開き、中にある3個ほどが外に出ようとする。
どうやら本当の限界らしい。普通の判断であれば。
「ふぅん、また限界のフリ? こういう小食アピールする女って、首絞めたくなるわ。
 エミ、ちょっと穴塞いどいて。すぐ戻るから」
碧はそう言い残して立ち上がる。すかさず恵美が片足首を離し、まさに玉蒟蒻を吐き出そうとする肛門を指で押さえた。
「ぐ、ぐっ…………!!」
噴出を妨げられ、肺が潰されるような呻きを上げる京香。そしてその上を、再び碧の影が覆う。
その手には、銀色をした烏の嘴のような器具が握られていた。
碧はその器具……肛門鏡を京香の排泄の穴に近づけ、恵美の指と入れ替わりに挿入する。
肛門鏡の烏口が栓のように玉蒟蒻を押し戻す中、碧は手早く弁を開いてネジで固定する。

「ふぅーわ、中に玉蒟蒻がギッシリ。これ写真に撮って『緋艶蝶』のホステスに見せたら、卒倒する娘もいるんじゃない?」
碧と恵美が、肛門鏡の中を覗き込んで嘲り笑った。その下で、京香は奥歯を鳴らす。
「あら怖い顔。でもその顔、どこまで保っていられるかしら?」
碧は床からディルドウを拾い上げて言う。そしてそれを、肛門鏡の上に翳した。
「っ!? ま、まさか!」
京香の声と同時に、ディルドウは肛門鏡の中に入り込む。
入り口近くまで出かかっていた玉蒟蒻が、その上からの圧力で腸の奥へと入り込んでいく。
「お゛っ…………おっぐぁあ、あ゛っ!!!」
京香の口から、何とも苦しげな声が漏れた。それは2人の調教師にとって、いい笑いの種となる。
「ははっ、何だい。本当の限界なんて言って、まだ入るじゃないか!」
「だから言ったでしょ、この豚は嘘つきなのよ。こうしてっ押し込めば、結腸の方にでも腸奥にでも、いくらでも入るんだから。
 最初に無理って言ったのは、たったの8個だったかしら。今はこれで……33個目。25個もサバを読んでたわ。
 こんな舐めた態度を取る奴隷には、どういう罰を与えればいいのかしら」
恵美と碧は笑いながら、ディルドウで玉蒟蒻を奥へと押しやり、新たな1個を放り込み、またディルドウで突く。
「おぐっ……ぶっ、ごぉふっ…………!」
京香は目を見開き、頬を膨らませて苦悶していた。
「げぶ、ぶふっ!!」
玉蒟蒻の数が42個になった時…………桜色の唇が数度咳き込み、細く吐瀉物を吐き出す。
碧を睨み上げる瞳も細まり、目頭から涙を伝わせていた。
そしてその直後、肛門が大きく盛り上がる。
「おっと」
慌てて碧が肛門鏡を押さえようとするが、すでに遅い。
肛門鏡は勢いよく上へ吐き出され、それに続いて夥しい数の玉蒟蒻が溢れ出る。
ローションや腸液の線を引きながら、一面に飛び散る異物。それは当然、京香自身の顔へも降りかかった。
「おやおや、大した噴水だ」
恵美が茶化す中、碧は散らばった玉蒟蒻を一つずつ拾い上げてはガラスボウルに戻していく。
それを横目に見ていた京香は、ある事に思い至って青ざめた。
その予想通り、再び碧がガラスボウルを持って京香を見下ろす。
「さて。あとちょっとだったけど、餌のお残しをしたからやり直しよ、豚。
 菊輪の方は性器らしくなってきたようだから、今度は腸奥への圧迫で濡らすようになるまで躾けてやるわ」
碧はそう言って、天使のような微笑を見せた。






いつしか調教部屋の壁には、無数の写真が貼られていた。

『京香 1日目  19:00』
『京香 2日目  11:00』
『京香 3日目   7:00』 ・・・・・・

そのように日付と時間の記入された写真が、壁の一面を埋め尽くしている。
全て、恵美と碧による京香への調教記録だ。
その中で京香は、延々と辱められつつ、肛門性感を刷り込まれていた。
初日にはまさに光り輝かんばかりだった美貌も、日を追うにつれてくすんでいく。
精神力は強いのだろう。
11日目になってなお、残飯らしき白いものを無理矢理口に押し込まれながら、その目は毅然として前を睨んでいる。
しかしその4枚後の写真では、かなり太さのあるディルドウに自ら跨ったまま、蕩けきった表情を浮かべていた。
よく見れば、写真はいずれの日付も、凛とした姿と蕩けた姿の両方を捉えている。
しかし後の日付になるほど、明らかに後者の比率が上がっているようだ。
今もまさにメスの姿が、部屋のカメラに映されていた。

「ああっ、あ、ああっ……! はぁっ、お゛っ…………おお゛っ……は、あっ…………!!」
艶かしい声の主は、紛う事なき京香だ。
彼女は犬のように這い蹲ったまま、背後から膝立ちになった恵美に突かれていた。
勿論自前のものではなく、黒いゴムパンツから生えたペニスバンドでだ。
かなりの長さと太さのあるであろうそれが、深々と肛門に突き刺さっている。
恵美が腰を振るたび、その恵美の肉体と京香の腿とがぶつかり、肉の音が弾ける。
そしてその音以外にもう一つ、クチュクチュという水音もしていた。
ペニスバンドが肛門内をかき回す音……にしては、ペースが速い。
その正体は、恵美の右腕に着目すれば明らかになる。京香の美脚の合間に弄り入れられた、太い右腕に。
「今日はまた随分と濡れるじゃないか、ええ? 昨日碧にやられたドナン浣腸で、すっかり出来上がっちまったかい」
恵美は声を低めて囁きながら、右腕の先を蠢かす。すると京香の頭が下がり、ううう、と呻きが漏れた。
「さ、どうだいどうだい。そろそろ、ケツでイッてもいいんだよ」
恵美が再度囁き、濡れそぼった右腕を引き抜いた。そしてその手で腰を掴み、いよいよ力強く腰を打ちつける。
「あ、ああ! くぁああっお゛!!」
切なそうな声と共に、京香が頭を揺らした。細い涎の線が床と繋がる。
そしてその線が途切れた後、京香の頭は逆に天を仰いだ。
「いっ、いぐうっ!! イグー…………っ!!!」
その声を最後に、京香の嬌声は、喉からのキュゥゥーッという声ならぬ声に変わる。
そしてその声すら絶えた後は、ガクリと項垂れて荒い息を吐き始めた。
「ふん、かなり深くイッたらしいね。あさましい女だよ」
恵美は満足げに腰を引き、ペニスバンドを引き抜く。
名残惜しそうに腸壁が纏いつき、クポリと異物が抜けた後には、ただ泡立つローションを垂らす空洞があるだけだ。
咲き誇る紅華のようなその排泄孔が、わずか2週間ほど前には未使用だったなどと、一体誰が信じるだろう。

「さぁ豚、立ちなさい。慣らしは終わりよ」
碧が手の平を打ち鳴らし、京香の注意を引く。京香は汗に塗れた顔を上げた。
「ま、待って…………今イッたばかりで、まだ腰が…………」
「何、口答えするの? 散々理解させたかと思ったけど、ほんとオツムの緩い女ね。
 昨日のドナン浣腸。アワ噴いて痙攣はじめたから開放してあげたけど、今度はもっと先まで行きたいのね?」
碧が冷ややかな瞳で告げると、たちまち京香の顔色が変わる。
下唇を噛み、手のひらを握り締め、しかし碧と目線を合わせようとしない。
碧はその視線の先に回りこみ、会釈のように腰を曲げながら笑顔を見せた。
「さぁっ、始めましょう。エミがたっぷり解してくれたから、今日こそはいけるはずよ」
碧はそう言いながら右の手袋を外し、子供のように華奢な腕にローションを塗す。
そしてへたり込む京香の尻穴へと、その腕を近づけた。
「っ…………!!」
顔を引き攣らせる京香。その尻穴に碧の指が触れる。
1本、2本、3本、4本。揃えた4本指が、開いた蕾をさらに押し拡げていく。
肛門の皺という皺が伸びきる。
「ひ、ひぃい゛っ…………く、あ゛ぁあ゛あ゛ッッ!!!」
「そんなに固くならないで、力を抜いて。んっ、ホラ、もうちょっと……よ!」
碧が肩へ渾身の力を篭めると、ついに手の甲の最も幅のある部分が肛門を通り抜けた。
そうなれば、後は奥へと入り込んでいくのみだ。
「あああ、ふわあっ……あぁああ゛ッッッぐううっっ!!!」
「煩いわね豚、耳元で喚かないで。
 ……でもま、仕方ないかな。とうとううんちの穴に、腕まで入れられたんだから。
 ホラ感じるでしょう。ここが直腸の奥で、こっちが、んっ、S字結腸よ。
 あらあら、なぁにこれは。指の先で、結腸の溝にある何かが触れるねぇ。何かしらねぇこれ?」
碧が陰湿に囁くと、京香の顔がいよいよ緋色に染まる。
「…………もう、充分でしょう…………。
 私は、すっかり変わってしまったわ。決して元には戻れないほどに。
 これ以上こんな私を、どうしようっていうの…………!?」
美顔を歪めて涙ながらに訴えるも、調教者達の表情は変わらない。
「いいや。おまえにはまだ、見る人間が見れば解るような輝きが残ってる。
 その淡い光すら消え失せて、惨めたらしいメス豚になるのがおまえの末路だよ」
「最底辺のアヌス奴隷に成り果てるまで、たっぷりと可愛がってやるわ。
 まずは、そうねぇ。せっかくフィストが出来たんだから、この結腸をクチュクチュかき回し続けてあげる。
 そうして結腸の快感に目覚めたら、次は6号ディルドウに挑戦よ。フィストまで出来たんだから、無理とは言わせないわ」
2つの唇から紡がれる悪魔の言葉。
それは京香にとって、どれほど絶望的に聴こえた事だろう。

「う、うう゛っ…………うふぅ……く、ぃひぃ………………っ!!」

いつしか哀れな深窓の令嬢は、力なくその細腕を垂らし、調教師達の為すがままになっていた。
『緋艶蝶』の京香。
その呼び名は、今の彼女にこそ相応しい。
羽をもがれ、檻の中で嬲られる、緋色の艶やかな蝶にこそ…………。



                                終わり
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境遇

※レズいじめ物。非常に胸糞悪いラストです。


アンソン・ミレードは、誰もが認める人格者であった。
だが、他人に甘い人間であった事も事実だ。
田舎町で踊り子をしていたジーンから身の上話を聞かされ、同情して妻に迎えた事もそう。
そのジーンを自分の屋敷で蝶よ花よと大事にし、すっかり付けあがらせた事もそうだ。
アンソンは、ジーンとの間に3人の娘を儲けた。
長女のミディ。
次女のフラヴィア。
三女のララ。
我が侭放題の母を見て育ったこれら3人の娘もまた、当然のように高慢な令嬢に育っていく。
とはいえ、次女のフラヴィアには父の血が幾分濃く出たのだろうか。
アンソンが病でこの世を去った時、フラヴィアだけが懸命に涙を堪えていたのだから。

そして、ミレードの家にはもう一つ、アンソンの置き土産が存在する。
拾い仔であるマリータだ。
縮れぎみの赤毛とソバカスが特徴的なこの少女は、町で浮浪者として彷徨っていた所をアンソンに保護された。
いわばジーンと似た境遇だ。
アンソンはマリータを実の娘のように可愛がるつもりでいた。
しかし……その矢先にアンソンがこの世を去ると、マリータの立場は一変する。
血縁関係のない事を理由に、ジーンが彼女を虐げ始めたのだ。
当然、母の素行を基準とする3人娘もそれに倣った。

義母や義姉妹がアンソンの莫大な財産で悠々自適に過ごす傍ら、マリータは奴隷のような毎日を過ごす。
他の人間が貴族の娘さながらに着飾る中、マリータは常にボロを身に着けていた。
母達がダンスパーティーに出かけている間、ひとりで広い屋敷を隅々まで掃除させられた。
食事の支度も、片付けも、馬の世話も、庭木の手入れも……
使用人3、4人でこなすべき仕事を、まだ14歳であるマリータが一身に負わねばならなかった。
寝起きは馬小屋、用を足す場所はその隅の桶だ。
食事時にも母達と同じ長テーブルに着くことは許されず、床に置いた銀の皿に盛りつけたものを犬食いさせられる。
長女のミディは、犬食いしているマリータの頭を上から押さえつけ、窒息に苦しませるのが半ば趣味のようなものだった。
三女のララは、少しでも気に喰わない事があると、マリータの縮れ髪を鷲掴みにしたり、脇腹を靴で蹴りつける暴行を加えた。
母のジーンに至っては、マリータを視界に入れることすら汚らわしく思っている様子だ。
ただ、次女のフラヴィアだけは、特別マリータに害を加える事がない。
マリータには、それが少し不思議に思えた。




その日の夕食後には、大粒の葡萄が供された。
長テーブルの上には純金の器が並び、瑞々しい葡萄が山と盛られている。
もっともそれを堪能できるのは、母と3人の娘だけだ。
下僕の身であるマリータには、義母達が実を食べ終えた後の皮だけが与えられる。
黒紫の皮を裏返した部分にこびりついた、ごくわずかな果肉。
それが、マリータの知る『ブドウ』だった。
皮から滲み出る渋みの中、ごく僅かに感じとれる甘みは、それでもマリータにとっての至福だ。
しかし、夢見心地の時間は突如として遮られた。
ミディによってではなく、ララによってでもなく、ジーンによってでもない。
マリータにとって最も害の少ない主人である、フラヴィアによって。
「私は部屋に戻って食べるわ。ああ、そうだマリータ。ちょっと用事があるから来て。
 …………早く。そんなもの後でいいでしょ」
フラヴィアは、誰に対してもそうであるように、ややきつい態度で命じる。
マリータはショックを隠せない。
皮だけとはいえ、久々に気まぐれで与えられた褒美だ。せっかく葡萄の味を堪能できる好機であるのに。
まだ果肉の残っている葡萄の皮を未練がましそうに見つめた後、マリータは渋々と立ち上がる。
「おやおや、可哀想に!」
「ホント、フラヴィア姉様も案外酷だわ」
ジーン達は落胆を露わにするマリータを可笑しがりつつ、銀皿の中身を捨てにかかる。
マリータの視線がそれを捉え、いよいよ泣き出す直前のように強張った。

「………………あの、ご用事とは?」
フラヴィアの部屋の扉を後ろ手に閉め、マリータは問う。
そのマリータの前で、フラヴィアはガラステーブルに純金の皿を置いた。
皮などではない、瑞々しい果肉がついたままの巨峰。それが、山のように盛られている。
ごくり、とマリータの喉が鳴った。
『食べたい』と切望してしまう。折檻されるのが嫌で、けして口にはしない願望だが。
するとどうだろう。フラヴィアの指は、誘うように金の皿をマリータの方へと押し出したのだ。
「あれは嘘よ。これ、食べていいわ」
あろう事か、そのような言葉まで聞こえてくる。
マリータは、それが空想による空耳でないと気付くのに、少しの時間を要した。

「えっ……! で、でもそれは、フラヴィア様の分では?」
罠を警戒しつつ、マリータは問いかける。
甘い言葉にはいつも裏があった。少なくとも、ジーン、ミディ、ララの発するそれには。
「あんたもたまには美味しいところ、食べたいでしょ。私はいつでも食べられるから、別にいいわ」
フラヴィアは事も無げに答えると、ベッドに腰掛けて聖書を開いた。
マリータの動きが止まる。
罠か、それとも純粋な幸運なのか。それがまったく読めない。
他の3人であれば明らかな罠と断じられるが、このフラヴィアは陰湿な嫌がらせをしてきた事がない。
そして彼女は、どこか父であるアンソンに似た空気を纏っている……。
「あ、ありがとうございます……」
マリータは、心優しいアンソンの血に賭けた。あえてフラヴィアの勧めに乗ることにしたのだ。

震える指で葡萄のひと房を摘み、口へ。
弾けるような果肉を歯で噛み潰した瞬間、『本当のブドウの味』が口に広がった。
爽やかな酸味と、とろけるような甘み。かつて感じた事もないほどに、深い深い味わい。
「っっ!!!」
マリータはただ目を見開き、未知の甘味に言葉をなくす。
今の今まで恋焦がれていた味は、想像のさらに上をいくものだった。
こうも美味なものが、この世にあったとは。感動で、涙さえ溢れてくる。
フラヴィアは涙ぐむマリータを見やり、驚きの表情を浮かべた。
「な、何よ…………そんなに美味しかったの?」
フラヴィアの問いに、マリータは頷く。何度も、何度も。
それを見つめるうち、常に冷ややかなフラヴィアの目尻が、ほんの僅かに緩む。
「……ふぅん、そう。ならこれからも、時々食べさせてあげるわ」
その一言は、マリータにとってどれほど価値あるものだっただろう。
マリータはまたしても言葉を失い、一生分の幸福を得たかのように目を潤ませる。
「あ、あ、あり…………ありがとう、ござ…………います………………!!」
「べつに礼なんていいわ。あんたも一応、妹なんだから。
 前々から思ってたけど、お母様もお姉様達も、ちょっとあんたに対して冷たすぎるのよ」
照れ臭さを隠すように、フラヴィアはそれだけを告げて聖書へと視線を戻した。
マリータは、その横顔を呆然と見つめる。

美形で通っていた父の血を濃く継いだのか。フラヴィアの容姿は、姉妹の中でも頭一つ抜けている。
腰まで伸びた、陽光を思わせるブロンドの髪。エメラルドさながらの瞳。
王族の娘と称しても、信じる者は多かろう。
ダンスパーティーでも男からの誘いが絶えないらしいが、その殆どを撥ね退けているようだ。
ごく最近になって、ようやく貴族の嫡男と懇意にしはじめたというが、それも相手が誠実な好青年であるがゆえ。
喜怒哀楽を隠さない一家にあって、フラヴィアだけは常に冷ややかな態度を崩さない。
それはマリータに対してだけでなく、他の家族に対しても、また屋敷の外ですらそうであるようだ。
フラヴィアは、マリータから見ても明らかなほど異質な……つまりは『孤高の』娘だった。





この一件以来、フラヴィアはマリータに僅かながら親切さを見せ始める。
約束通り、夕飯後には果実の一番瑞々しい部分を与えた。
屋敷に自分しかいない時には、マリータにも休息を勧めた。
特にマリータの心に残っているのは、ジーン達が揃って山向こうのパーティーへ出掛けた日だ。

「……なによウェイン、アンタ風邪引いちゃったの? どうせまた、裸で寝たりしたんでしょ。
 看病してくれる人はいるの? ……そう、じゃあ侍女の言う事をちゃんと聞きなさい。
 ……うん、……うん。…………そんなに謝り倒さなくたって、一度デートがフイになった位で怒らないわよ。
 アンタのそういう実直さって好きだけど、度が過ぎると鬱陶しいものよ。……それじゃ、お大事に」

階下の電話でフラヴィアが話すのを、マリータは掃き掃除をしながら聞いていた。
フラヴィアは恋人であるウェインとデートの予定があったためにパーティーを欠席したのだが、
どうやらそのデートも相手の病気でキャンセルとなったらしい。
「……残念でしたね」
マリータは掃除の手を止め、階段を上がってくるフラヴィアに話しかける。
フラヴィアは、それに反応してしばしマリータを見つめた。ふと視線をやったにしては長い、注視だ。
失礼だったかとマリータが口を押さえた直後、フラヴィアは口を開く。
「……ねぇマリータ。あんた一度、化粧でもしてみない? ソバカスだらけだけど、元は案外悪くなさそうよ」

暇を持て余したフラヴィアの提案により、マリータは次女の部屋に招かれた。
そして三面鏡の中、生まれて始めての化粧を施される。
白粉をたっぷりとつけ、雪のように白い肌を作り上げ。
赤髪は丁寧なブラッシングの後に結い上げて。
眉を細く剃り、額の髪の生え際も剃って、顔の白さをさらに強調し。
その末に鏡に写っていたのは、少し前とは見違えるほどに美しいマリータだった。
「これが…………あたし…………?」
マリータは思わず呟く。フラヴィアはその後ろで満足げに頷いた。
「そうよ。思った通り化けたわね。
 せっかくここまでやったんだもの、ちょっと街に買い物に出ましょうよ!
 着ていく服は、私のタンスから好きに選んでいいわ」
こうしてマリータは、面白がるフラヴィアに乗せられる形で、初めて大きな街を訪れる。

洒落た店に、優雅な町並み。賑やかな雑踏。
それは、マリータのまるで知らない世界だった。
「…………すごい、すごい…………!!」
マリータは胸をときめかせ、目にするもの全てに感動を表す。
「別に普通……なんだけどね」
フラヴィアは苦笑しつつ、はしゃぐマリータの手を引いて進んだ。
しかし花屋の角を曲がったところで、2つの影はぴたりと動きを止める。
原因は、カフェテラスに腰掛けた若い女だ。
「……あらぁ、これはこれは。“ミレード御殿”のフラヴィアさんじゃない」
女はフラヴィアに向かって声を上げた。
口元を隠す豪奢な扇子に、煌びやかな頭飾り。世事に疎いマリータでさえ、一目で裕福な家の娘だと解る。
「ご無沙汰ね、ミリエーヌ」
フラヴィアは澄まし顔で答えた。相手を快くは思っていない風だ。
しかしミリエーヌという少女は、それをさして気に留めるでもなく、注意をフラヴィアの後方へと向ける。
すなわち……フラヴィアに隠れるようにして立っている、マリータへと。
「ところで、フラヴィアさん? その後ろにいらっしゃる方はどなたかしら。あまり、お見かけしないようだけれど」
身に纏わりつくようなその物言いに、マリータは帽子で顔を隠しつつ俯く。
「彼女は…………私の、友人よ」
フラヴィアは言葉を選びながらも、堂々と胸を張って告げる。
マリータは、思わず顔を上げてフラヴィアを凝視した。
「そう」
ミリエーヌは、そうした2人の仕草を興味深そうにながめながら、ただ小さく呟くのみだ。
マリータにしてみれば、その言葉の裏に幾百の悪意が感じられるようだったが。

「……良かったんですか? その、あたしなんかが、フラヴィア様のお友達なんて……」
「何言ってるのよ、本当は友人どころか妹でしょ。
 それをそのまま言って、お母様達の耳に入ると厄介だから誤魔化しただけよ」
「そうですか……お気を使わせてしまって、すみません」
「いいって。ほら、あそこでケーキでも食べましょ。すっごい美味しいんだから」
かつてないほど親切にされながら、マリータは喫茶店に足を踏み入れる。
そこで初めて口にしたケーキは、これも彼女の価値観を一変させるほどのものだった。
とてつもない甘さとコクを有したクリームが、脳髄をとろけさせる。
日々消耗し続けた心身が癒されていくのがわかる。
街を訪れて以来の華やかな記憶が、まさにこの瞬間、マリータの中で結実していた。
とても幸せだ。だが…………それだけに残念だ。

 (――――こんな素敵な世界があったなんて、思いもしなかった。すごく、居心地がいいな。
   フラヴィア様は……ううん、この街にいる皆は、ずっとこの幸せの中にいるんだ。明日も、明後日も。
   ……でも、あたしは違う。あたしは今日の夜からまた、あの惨めな生活に戻らなきゃいけない。
     ……………………イヤ、だなぁ…………………………。)

願わくば、この幸せをもう一日。そのささやかな願望は、未練の楔としてマリータの心へ打ち込まれた。
彼女自身も気が付かぬほど、奥深くへと。





ジーン達は変わらずマリータを奴隷のように酷使し、フラヴィアは時おり甘い夢を見せる。
その生活が3ヵ月ほど続いたある晩、ついに来るべき時が来る。

「おまえ最近、やけにマリータに甘くしてるようね」
肉厚のステーキにナイフを入れながら、ジーンはふいに問うた。
疑惑の矛先は、言わずもがなフラヴィアだ。
「そうかしら」
フラヴィアは澄まし顔で答える。
ジーン達がマリータを疎んじているのは明白であり、肯定は面倒を招くとの判断ゆえだろう。
しかしこの夜に限っては、ジーン達も確証があって話を切り出したようだ。
「とぼけないで! 花屋のラッドが、街でマリータの姿を見かけたって言ってるのよ。
 彼って街一番のプレイボーイだから、女の見間違えだけは絶対しないもの!」
長女のミディは、彼女がよくそうするように、金切り声を上げて母に続いた。
「それにフラヴィア姉さまったら、最近マリータにお菓子やフルーツをあげたりしてるのよ。わたし見たもの」
末女のララさえも姉達に同意する。
「………………っ!!」
マリータは床に置かれた銀皿から口を離し、見る見る顔面を蒼白にしていった。
街で姿を見られていた。菓子や果物を貰っている事まで知られてしまった。
義父アンソンが死んで間もない頃、砂糖壷に指を入れてほんの少し舐めただけで、尻が腫れあがるまで箒で打たれたものだ。
いったい今度は、どんな容赦のない折檻が待っているのか。
折檻の終わった後も、手足の十本の指がきちんと繋がっているのだろうか……それほどに思える。
涙さえ滲みはじめたマリータの視界で、フラヴィアの瞳が動く。
フラヴィアは、いつもの通り毅然とした瞳でマリータを見やった。そしてその瞳は、そのまま母であるジーン達に向けられる。
まるで、矛を構えるかのごとく。
「どういうつもりなの、フラヴィア?」
ジーンの問いを、フラヴィアは正面から受け止めた。
「どういうつもりか……なんて、改めて詰問されるとは思わなかったわ。
 もしも私がマリータに甘くしていたとして、それに何の問題があるというの?
 マリータだって、父が家族と認めた一員のはずでしょう。
 この際はっきり言っておくけど、マリータにだけ待遇の差をつけるのは間違ってるわ!」
胸中に一片の曇りなし、とばかりに断言するフラヴィアに、その姉妹は表情を強張らせる。
しかし。年の功か、ジーンだけは口端に薄い笑みを浮かべた。
「とんだ偽善ね」
「……なんですって?」
母の一言に対し、フラヴィアは珍しく憤りを露わにする。ジーンは笑みを深めて続けた。
「偽善、と言ったのよ。マリータへの待遇の差に疑問を持ったなら、どうしてもっと早く、改善を主張しなかったの?」
「――――っ、それは…………」
フラヴィアはここで初めて言葉を詰まらせる。自身の矛盾に気がついたのだろう。
フラヴィア本人が積極的にマリータを虐げなかったとはいえ、奴隷扱いを見過ごしていたことは事実なのだ。

もっとも、フラヴィアは産まれたその時から屋敷住みの令嬢だった。
物心つく前から、母も姉も、優しい父に甘えるばかりで自由奔放に暮らしていた。
そのような特殊な環境に生まれ育った以上、当然フラヴィア自身も優雅な暮らしに疑問を持たない。
つまり、使用人ありきの生活を当然のように考えてしまう。
「おまえ、心の底からマリータの事を心配して言っているの?
 違うでしょう。おまえは自分が安全な場所にいるのをいい事に、目下の人間を憐れんでいるだけよ。
 他人の飼っている小鳥を、可哀想だから外に離してやれと言っているのと同じ。
 浅はかで薄っぺらな偽善だわ」
「ち、違う!」
ジーンの更なる追求に、フラヴィアは叫んだ。
プライドの高い女性だ。たとえ自ら気付き始めているとはいえ、自分のこれまでを『偽善』とする事は耐え難いのだろう。
ジーンは頑なに否定するフラヴィアをしばし睨みつけ、そしてふと思いついたように笑みを戻す。
マリータが目にした中でも、指折り数えられるほどに禍々しい笑みだ。

「…………ふぅん。そこまで言うなら、証明してご覧なさいな」
「証明……?」
「そうよ。今この瞬間からマリータと“立場を入れ替えて”、おまえが虐げられる側になるの。
 その生活を続けてもまだ私に意見できるなら、そこに価値があると認めてあげるわ」
「っ!!」
まさに悪魔的な提案だった。
マリータも、フラヴィアも、そのような展開を想定してはいない。
この場でどのような結論が出るにせよ、互いの明日は大きく変わらぬものであると思っていた。
マリータは明日の食事のために支度をし、古い電球を取り替える。
フラヴィアは今日の事を日記に書き留め、風邪を引いた恋人の身を案じ、紅茶を飲んで眠る。
その生活が続いていくはずだった。
それが、逆転するというのか。
「へぇ、面白そうじゃない。確かに、そんないいお皿で美味しいお肉食べながらお説教されたってねぇ。
 それこそ、マリータに失礼じゃないの?」
「そうよね、本当にそう! フラヴィア姉さま自身が、マリータの生活をしてみればいいわ。
 それにマリータ本人は、一度も待遇に不満なんて漏らさなかったじゃない。お姉さまの主張は、独りよがりなのよ!」
ミディとララも母の提案に賛同し、机上は三対一の空気に支配される。
「み、皆様……そ、そこまで…………」
マリータは目を泳がせながら立ち上がった。この悪い空気を何とかしなければ、という気持ちからだ。
しかし、それを制する様に、フラヴィアが叫ぶ。
「…………解ったわ。私はマリータの代わりになる、偽善者と謗りを受けるぐらいなら!
 私のこの胸には、お父様から頂いた真実の誇りが生きているもの!」
退くに退けないのだろう。
ここで言い包められて退くような事があれば、まさに偽善者そのものになってしまう。
ならば、あえて罰を受けよう。マリータと同じ苦しみを味わい、言葉に正当性を持たせよう。
そう覚悟を決めたらしい。

「よく言ったわね。じゃあ……やってみなさいよ!」
初めに行動を起こしたのは、長女ミディだった。
彼女はやおら立ち上がると、フラヴィアの眼前にある皿を勢いよく叩き落とす。
金の皿は、硬質な音を立てて床に転がった。
「ほぉーら、床に落ちたわよ。お食べなさいな。犬みたいに這いつくばってね!」
ミディは意地の悪さを隠そうともせずに告げる。
「…………ッ!!」
フラヴィアは一瞬姉に鋭い視線を向けたが、命ぜられるまま椅子を降り、這う格好で皿に近づいた。
そして数秒ほどの躊躇ののち、半ばほど床に接するステーキにかぶりつく。
姉妹と母から、キャハキャハと笑いが起きた。
「ああ、はしたない。床にはあんまり舌つけないでよね、“フラヴィア”。
わたし達も歩く床なんだから、おまえみたいな汚らわしい人間の唾がついてると不愉快なの」
そう発言したのは、末女であるララだ。
つい先刻までフラヴィア姉さまと呼んでいた名残が、早くも無くなっている。
フラヴィアは意地からか、一心不乱に肉に喰らい付いていた。
姉妹はそのフラヴィアに対し、考えつく限りの謗りを浴びせ続ける。
正気の沙汰ではない。
「あ……ああ…………」
マリータは狂った情景を前に、ただ震えて立ち尽くしていた。
と、その肩に優しく手が置かれる。マリータが怯えながら横を向くと、そこにはジーンの笑みがあった。
マリータの前では一度も見せたことのない、柔和な顔。
まるで憑き物が落ちたかのように、慈愛に満ちた母親の顔をしている。
だがマリータにとってその表情は、過去のどんなジーンの顔より恐ろしかった。
「どうマリータ、あの姿は。惨めでしょう」
「え、あの…………」
「惨め、だよねぇ。マリータちゃん?」
ミディも同じく笑みを作り、ジーンとは逆側の肩に手を置く。
「あ、いえ、あの、え、えっと…………」
「まさか! 惨めじゃないなんて言わないよね。ねぇ、“マリータ姉さま”?」
最後にララが正面から覗き込めば、マリータはどこにも視線を逃せなくなる。

六つの瞳に凝視され、マリータは喉を鳴らした。
逆らえない。逆らっては、いけない。マリータの防衛本能がそう警鐘を鳴らしている。
「…………惨め、です………………」
その一言が呟かれた瞬間、フラヴィアの口の動きが一瞬止まる。
ジーン達は口に手を当て、心から可笑しそうに笑い転げる。
ごめんなさい。マリータは心中で謝罪した。
「さぁさ、マリータ。あったかいお風呂に入って、フカフカの布団で寝ましょう。
 後の片付けは、全部フラヴィアがやってくれるわ。
 ……フラヴィア! いつまでもモソモソ食べてないで、“いつものように”全部キッチリ片すのよ!」


無駄に種類の多い食器を洗い、迷いに迷いながら元あったであろう棚の場所に戻す。
テーブルクロスを取り替え、床を拭き清める。
それら全てが終わった時は、すでにとっぷりと夜が更けていた。
普段であれば、柔らかなベッドに身を沈めて寝入っている頃だ。
しかし、今日からは違う。
寒々とした風の吹く中を抜け、藁の敷かれた馬小屋で眠る事になる。
藁はチクチクとフラヴィアの白い肌を刺した。
かといって乳液を塗る事もできず、洗顔すらしていない。
心安らぐアロマの代わりに、噎せかえるような馬の体臭が鼻をつく。
外からの隙間風がたまらなく冷たい。
「…………昨日まではマリータがここに寝ていたのよ。なら、死ぬことなんてないわ」
フラヴィアは、歯を食いしばって苦境に耐えた。

次の朝になっても、昨晩の事が夢に変わるわけではない。
「ちょっと、いつまで寝てるつもり? 私達の朝食の用意はどうしたのよ。
 一番遅くまで眠りこけてるなんて、いいご身分じゃない!」
馬小屋をガンガンと叩きながら喚く声で、フラヴィアは目を覚ます。
頭が痛い。身体の節々も痛い。やはり藁など、安眠できる代物ではないようだ。
それでも仕方なく、フラヴィアは馬小屋から歩み出た。
するとその顔に、勢いよくバケツの水が浴びせられる。
「きゃっ!!」
「あはははっ、目が覚めたでしょう。馬小屋のくさい匂いも取れて、ちょうどいいわ!」
ミディは髪から雫を垂らすフラヴィアを見て大いに笑った。
「くっ…………!!!」
フラヴィアは射殺さんばかりに姉を睨みつつ、握り拳で服の裾を絞る。
「ああ、ああマリータ、お前は朝食の準備なんてしなくていいんだよ。
 そういうのは全部フラヴィアにやらせればいいんだ。さ、部屋で音楽でも聴いておいで」
台所からは、優しげなジーンの声が聴こえてきていた。
間違いではない。ミレード家の日常は、一変したのだ。

ジーン達の変わり身は早かった。
まるで以前からそうであったかの如く、マリータには娘として接し、フラヴィアを奴隷のように扱う。
パーティーに連れられるのはマリータで、その間屋敷の掃除を命ぜられるのはフラヴィアになった。
いじめとは、なぜ起きるのか。なぜ人の世から無くならないのか。
対象が憎いから……ではない。
特定の何者かを蔑む事で、それ以外の多数が安心感を得るからだ。
『対象が誰であるか』は瑣末な事柄に過ぎない。つねに、虐げる対象さえ存在するならば。



ジーン達のフラヴィアに対する嫌がらせも、当初は邪険に扱う程度のものだった。
足を引っ掛けて転ばせたり、水を浴びせたり、床のものを犬食いさせたり。
しかしフラヴィアが折れないとなると、嫌がらせは日増しに激化していく。
まだ処女であったフラヴィアを犬と交尾させたのも、ジーン達にしてみれば悪乗りの延長線上だ。

初旬にしては日差しの強い昼。
広い庭に幾つものテーブルセットが設置され、多くの人間が茶を愉しんでいる。
その視線の中心で、フラヴィアは大型犬と『交尾』していた。
後ろから覆い被さられ、処女穴に犬のペニスを捻じ込まれて。
犬のペニスは、人間のそれとはまるで違う。
内臓そのものといった風で、赤黒く、何本もの細い血管が走っている。
股間部の白い毛皮から生えたその異物が、ピンク色をした少女の膣に入り込む光景。
それは、まさに衝撃的だった。
「あはははっ、すごい。ホントに入ってるんだ!」
「犬食いするような人間にはお似合いね! いいカップルよ」
「しっかしまさか、あのフラヴィアお嬢様が犬とヤッてるなんてなぁ。笑えるぜ」
「確かに。この女、せっかくこの僕がパーティーで誘ってやったってのに、澄まし顔で断ったんだよ?
 『キザな男は嫌い』なんて言って、僕に大恥まで掻かせてさ。
 あの時はなんてお高く留まってるんだと思ったけど、なるほど、犬が好みだったわけだ!!」
集まった人間たちは、ティーカップ片手に笑いあう。
フラヴィアの若さと美しさに嫉妬する女達、ダンスパーティーで誘いを断られた男達。
その悪意が、高級な紅茶の香と共に発散されていく。

「う、くぅ……っ!! ううっぐ、うう……う…………ぅう“!!」
首輪を繋がれたフラヴィアは、必死に歯を食い縛って挿入の痛みに耐えていた。
結合部からは純潔の証が滴っている。
瘤つきのペニスで膣を無理矢理に拡げられているせいか、滴り方は変則的だ。
そしてその瘤の太さは、膣の中で動くたび、刻一刻と増しているようだった。
初めは所詮犬のペニスと嘲笑っていた男達も、いつしかその膨張率に息を呑むようになっていく。
もはやフラヴィアを憐れんで力任せに引き抜こうとしても、けして抜ける事はないだろうと思えるほどに。
「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ…………」
大型犬はショー目的で特別に訓練された個体であり、手慣れた様子で黙々とフラヴィアを責め立てていた。
這うフラヴィアの手の平と膝は石畳に乗っているが、犬の足は茂みに半ば入り込んでいる。
そのため腰が振られるたび、さすっ、さすっ、さすっ、と草葉の揺れる音が響いた。
「……………………ぃたぃ………………った、…………いたぃ……………………!!!」
よほどの痛みなのだろう。
あのフラヴィアが、伏せた顔の中で呻きを漏らしているのだから。
それは草の音に紛れて観衆に届いては笑いを呼んだ。

大型犬が少女を押し潰すようなスタイルの交尾。その果てに、とうとう射精の瞬間が訪れる。
犬の射精は三段階ある。
まずは潤滑油として、あるいは子宮内洗浄の目的で尿が注ぎ込まれる。
「っ…………!!!」
膣奥に放尿されているのが解ったのだろう、フラヴィアの両手が強く握りしめられた。
それでも声を上げないところが、彼女の意地だろう。
しかし……放尿が終われば、今度は二段階目、正真正銘の精液が注がれる。
「おっ、何だ何だ、まだ出るのか?」
「ひぇー、犬の射精って長ぇんだなあ!」
「ありゃ完全に子供出来ちゃうね。嫌だ嫌だ、犬の仔孕むなんて。悪い事はしないようにしよっと!」
観衆達は、フラヴィアの身の強張りと、犬の腰の震えから状況を窺い知る。
声こそ上がらないとはいえ、フラヴィアの示す反応は雄弁なのだ。
そして、ついに三段階目。この射精は、雌犬の子宮を精子で満たすために行われる。
瘤で塞がれて逃げ場のない膣内に、破裂しそうなほどの射精が繰り返される。
これには、さすがのフラヴィアも耐えられない。

「い、いやああああああぁーーーーーーっっ!!!!」

項垂れていた顔を上げ、美しい金髪を振り乱しながら絶叫を迸らせる。
その実況は、様子を見守っていた悪意ある者達の心を満たした。
まさに割れんばかりの笑いが、広間を歌のように覆い尽くす。
「いやああっ、いやあやめてっ!! もう中に出さないでっ!!!!」
フラヴィアは背後の支配者に哀願する。
場のほとんどの人間にとって、鼻水にまみれ、眉を垂らしたその顔を見るのは初めてだろう。
しかし、大型犬は動きを止めない。むしろ快感を求めてか、いよいよ腰を激しく動かす。
フラヴィアはただ犬の腰振りにあわせ、人形のように振り回されるばかりだ。
抗えるはずがない。少女と大型犬では、筋力に天と地の差があるのだから。
それは、まさに服従だった。犬に屈服させられる犬…………下等生物。
数日前までのフラヴィアとは、なんとかけ離れた地位である事か。

幾度にも渡る獣姦が終わり、ようやく瘤の収まったペニスが抜き出される。
その瞬間、噴水のように白い液が噴出した。
フラヴィアの小さな膣に、限界をとうに超えた容量を詰め込まれた精子だ。
フラヴィアは…………とうに、意識など保っていなかった。
かつて経験のない苦痛と恐怖、恥辱。そして何より著しい体力の消耗。
それによって、白目を剥きながら石畳に抱きついている。
観衆達はそのクライマックスにいたく満足しながら、夕暮れの中で席を立ち始める。
「………………!! …………………………っ!!!」
笑い声が絶えない中、特等席ですべてを目にしたマリータだけが、得も言われぬ恐怖に震えていた。





マリータは家事の一切から開放され、毎日遊んで暮らせるようになった。
贅を尽くした夕食を平らげ、食後のフルーツは最も甘い部分だけを齧って捨て。
昼には街へ出てケーキと紅茶を嗜み、夜には馬車に乗ってパーティーへ出向く。
それが許される身分だ。
しかし、フラヴィアの手伝いだけは許されなかった。
他人の目がない所でも、もし見つかれば、という恐怖から手伝う事はできなかった。
マリータは、再び奴隷の生活に戻るのが怖かった。
フラヴィアが自分に助けを求めてこないのが、マリータにとっての救いだ。
だがマリータは、フラヴィアが家族から虐げられるのを、屋敷の様々な場所で目撃した。

ある晩には、フラヴィアはミディによって、延々と秘部を嬲られていた。
手洗い場に備えつけられた巨大な鏡の前で、ミディは次女を後ろから抱き抱えていた。
フラヴィアの手は後ろで縛られているらしい。
そうして抵抗を封じられたまま、クリトリスを姉の指で刺激され続けているようだ。
「ほぉら、どんどんヌルヌルになってきてる。お豆もすっかり硬くなって、堪らないんでしょう」
ミディは、囁くようにフラヴィアに告げた。フラヴィアは俯いたまま反応を示さない。
責めはかなり長時間に渡って続いているようだ。
フラヴィアの白い肌は、全身が夥しい汗で濡れ光っている。
秘部の状態は影になっていてよく見えないが、クリトリスを指が刺激するたび、腹筋が蠢く。
腰が艶かしく揺れ、頭が揺れ、深く俯いては戻るを繰り返す。

よく聴けば、常にフラヴィアの息遣いがしていた。
ミディの指が単調に動いている間は、はぁ、はぁ、と小さく繰り返されている。
そして指が妙な動きをし、ぬちっと水音を立てる瞬間、はぁーっと息遣いが大きくなる。
頭部の俯きもその時が最も大きく、腰も跳ねるように後ろに動く。
 (イッてるんだ…………)
同じ女として、マリータにははっきりとそれが解った。
膣内からぬちぬちと断続的な水音が立ち、フラヴィアはとうとう顔を上げた。
濡れた金髪が額に貼り付き、口を半開きにした顔は異様なほど扇情的だ。
疲弊してはいても、やはり美人なのだと再認識させられる。
「フラヴィア、おまえ今イッたんでしょう。一体何度目なの、はしたない女ね」
ミディが悪意を込めて囁くと、フラヴィアは姉を睨み据える。
「ふん、相変わらず生意気ね。おまえ、自分が何で折檻されてるのか理解してるの?
 マリータでもちゃんと作ってた冷製スープを、あんな不味い出来にした罰なのよ。
 すべておまえが悪いの。このまま何時間でも……おまえが泣き喚くまで続けるからね」

マリータはそこで恐ろしくなり、自室……かつてのフラヴィアの部屋に取って返した。
そこから数時間後。ようやくまどろみ始めたマリータは、異常な叫び声で目を覚ますことになる。
それがフラヴィアの叫び声だと判ったのは、翌朝にミディが自慢話を始めてからだった。



また別の夜には、ララがフラヴィアを虐げている所も見かけた。
夜中にマリータがトイレに向かうと、ララの部屋の扉が少し開いており、光が漏れている。
中を覗くと、ララが秘部を舐めさせている所だった。
「ほら、もっと丁寧に舐めなよフラヴィア。そんなのじゃ、ちっとも気持ちよくないわ」
ララはベッドに腰掛け、フラヴィアを見下ろしながら告げる。
実に冷たい瞳だった。昼間にマリータとチェスをしていた人物と同じとは思えない。
フラヴィアは命ぜられるまま、一心にララの秘裂へと舌を這わせている。
「あっ、そろそろおしっこが出そうよ。その口で全部受け止めなさい。
 あーら、嫌そうな顔ね。マリータの代わりにわたしの肉便器になるって、偉そうに宣言してたくせに」
ララは、顔を上げたフラヴィアを眺めて笑みを浮かべた。
そして自らの指で秘裂を拡げ、放尿の体勢に入る。
 (うそ、やだっ…………!?)
マリータは目を疑った。本気でフラヴィアに自らの尿を飲ませようというのか。
マリータの戸惑いを余所に、じょぼぼぼと放尿の音が聴こえ始める。
それは激しい泡立ちと共に、間違いなくフラヴィアの美しい顎の上へと注がれている。
「あーもう、こんなに零しちゃって。明日の朝一で、カーペット取り替えといてよね。
 わたしがヴァイオリンのお稽古から帰るまでに替わってなかったら、おまえ、もっと酷い目に遭うわよ」
放尿を終えたララは、呆然とするフラヴィアに囁きかける。

マリータは自室に戻ってからも、身の震えが止まらなかった。
虐めはどんどんとエスカレートしてきている。
マリータは生来大人しい性格で、反抗する事もなかったのが幸いしていたのだろう。
しかし反骨心の強いフラヴィアは、母や姉妹達の嗜虐心を油のように燃え上がらせる。
もし今、何かのきっかけでまた立場が入れ替わるような事があれば……

「………………耐えられない……………………」

マリータは、ベッドの上で頭からシーツを被り、涙を零しながら呟いた。

この頃からだ。マリータが、積極的にフラヴィアへの虐めに加担するようになったのは。

「ほらフラヴィア、感じる? 今、お前の子宮に触ってるのよ」
そのおぞましい台詞を発したのは、ジーンではない。ミディでも、ララでもない。
マリータだった。
拘束具で手足を封じ、抵抗を奪ったフラヴィアの膣に、少しずつ指を入れていく。
潤滑油を用いながら一本また一本と指を増やし、今ではとうとう拳そのものが入り込んでいた。
「うう、う……うう、ぐぅっ…………!!」
フラヴィアは額に脂汗を滲ませながら、苦しげな呻きを漏らす。
しかしマリータにしてみれば、そうしてフラヴィアが苦しんでいる様こそが心の安らぎだ。
「おやおや、堪らなそうな顔してるねぇ」
「ホントに。悔しいけど、今日一番苦しめてるみたいよ」
「さすがマリータ姉さま。容赦がないわ」
後方ではソファに腰掛けたジーン達が、責めの様子を見守って笑っていた。
いじめている間は、母も姉妹も上機嫌でマリータに接してくれる。
再度立場を入れ替えられる危険性が低くなる。
マリータは、フラヴィアを手酷く虐めるほどに、自分の立場が揺るぎのないものになっていくのを実感していた。
「…………マリ…………た………………」
拳で蹂躙している最中、気絶しかけているフラヴィアが名を呼んだ。久し振りのことだ。
瞬間、マリータの脳裏に記憶が甦る。
ブドウという物の味を教えてくれた。
初めて街に連れ出してくれた。
自分を庇い、身代わりになると言ってくれた……。
しかし。そうした思い出を振り切って、マリータは唇を引き結ぶ。
次の瞬間、マリータは強かにフラヴィアの頬を張った。
ミディが口笛を吹く。
「気安く私の名を呼ばないで。けがらわしい!」
マリータは、かつて彼女自身が恐れた冷たい瞳でフラヴィアを睨み下ろした。
「………………っ!!」
頬を赤く染めたフラヴィアは、しばし目を見開き、やがて諦めたように視線を逸らす。

    ――――もう、戻れない。
        ――――もう、戻らない。

手の平に焼けるような熱さを感じながら、マリータは胸中で呟いた。





自由を手にしてからのマリータは、美しく変わっていった。
粗末にちぢれていた赤髪は、燃えるようなストレートヘアに変わった。
ソバカスもなくなり、化粧の似合う美人顔になった。スタイルさえ以前とは別物だ。
食事が違い、化粧品も違う。
そして……恋をした事も大きいだろう。

マリータは、フラヴィアのすべてを受け継ぐと決めた。それは、恋人に関してもそうだ。
名はウェイン・アクワイア。
有力貴族の嫡男で、誠実な好青年。さらには背が高くてハンサムだ。
フラヴィアに惚れ込んでいた彼は、パーティーでマリータに質問を繰り返した。
犬と交尾していたという『悪質な噂』を聞きつけたらしい。
その縁で、マリータはウェインに近づいた。
フラヴィアの事は上手く濁しつつ、ウェインにとって都合のいい女を演じた。
マリータは、物心つく前から奴隷としてジーン達の顔色を窺っていた少女だ。
世間知らずの坊やに取り入るのも難しくはない。
やがてウェインはマリータに惹かれはじめ、ついにフラヴィアに先んじて同じ寝台に入ることを許す。
そこから婚約の話に至るには、長い時間は必要なかった。

マリータはしばしウェインと共に過ごし、半年ぶりにミレードの屋敷に戻る。
ジーン達は出かけているため、屋敷の扉は閉まっていた。
合鍵で扉を開け、エントランスへ。
食堂を通り過ぎ、階段を降りれば……そこに、石造りの小さな部屋がある。
使わなくなったオーブンを改良したその部屋は、外からしか開けられない。
ただ上方についた窓が、内と外の空気を交わらせるのみだ。
マリータは、その窓から中を覗き込む。薄暗闇の中に、ひとつの人影が見えた。

首輪をつけられ、痩せ衰えて、乾燥した小麦のような髪を縮れさせた女。
ほとんど裸に近いが、股の部分には太いベルトのようなものが見える。
貞操帯……それも、膣と肛門部分に極太の栓がついた特注品のようだ。
中にいる女は、首輪で拘束されたまま、責め具を嵌め込まれて放置されているらしい。
「ハーイ、フラヴィア」
マリータはオーブンの扉を叩いて告げる。
項垂れていた女の顔が上がり、やつれきった顔が露わになる。
とても美人とはいえない顔だ。

「…………たすけて、マリータ………………。」
女……フラヴィアは、掠れきった声で哀願した。
この半年の間に、どれほど容赦のない責めを繰り返されたのだろう。
もはやかつての気の強さなど面影もない。
マリータは、そんなフラヴィアを乾いた目で見下ろしていた。
助ける気など微塵もなかった。
「イヤよ。私は、お前みたいに恵まれた環境を捨てられない。今の暮らしを失うのが怖いの。
 そういう、愚かで弱い人間なの。…………可哀想でしょう? お前なら、そう言ってくれるんでしょう?
 大丈夫よ。お前は強いんだもの。そんな生活でも、きっとやっていけるわ」
マリータが微笑んだ瞬間、外で馬車のベルが鳴る。
「あら、お迎えみたい。ちょっと行ってくるわ」
「……どこ、へ…………? それに、その格好は…………?」
フラヴィアは立ち上がり、改めてマリータの姿を凝視する。
事実、マリータの格好は変わっていた。
煌びやかな白いドレス……ウェディングドレスだ。
「あら、聞いてないの? 私ね、今日ウェインと結婚するの。元はあなたの恋人だったのよね。
 彼、最初は心に決めた相手がいるからって、中々私を受け入れてくれなかったのよ。
 でも、何度も何度も何度もデートを重ねて、体も重ねて…………ようやく、私に振り向いてくれたの」
「……………………!!!!」
「あははっ、可愛い表情。ありがとう、祝福してくれて。私も、お前には感謝してるのよ。
 お前は私に光をくれた。こんなに素敵な人生をくれた。
 ……ねぇ。人生って、とても素敵なものよね!」
マリータは、彼女の人生で間違いなく最高の笑みを浮かべ、オーブンの扉から離れる。
そして揚々と歩を進めると、扉を開けて日の当たる外へと踏み出した。



鈴を鳴らしながら、馬車が遠ざかっていく。
フラヴィアはその場に崩れ落ちた。
空っぽになった頭と同様、ぐうぐうと腹が鳴っている。
床に転がっている生のジャガイモにまで這っていき、噛り付いた。
「ハグッ、アグッ、ン…………グッ、ゲホッ、ごぼっ!!」
無我夢中で食い、しかし噎せて、吐き出す。
そしてジャガイモをごろりと取り落とし、床に倒れこむ。

視界に映るのは、煤にまみれたオーブンの壁と、薄暗い闇。
そして身を伸ばしても届かない、遥か遠くにある光。


人生が、素敵………………?


そんな言い方、ずるい。ちっとも、つたわってこない。
せめて近くで言ってよ。この汚い床に這いつくばる、どん底の視線で…………。

フラヴィアは、虚ろな意識の底で考えながら、眠気に従って目を閉じた。



                          終
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愛玩人形

※女同士のいじめ物。ディルドーイラマ嘔吐あり。


控え室でカレンダーを捲りながら、竹林奈々は溜め息をついた。
4ヵ月。
風俗業界に足を踏み入れてから、もう4ヵ月だ。
「奈々もすっかりベテランだよね、ここの」
ソファに並び座る同僚が笑った。
「だよね」
奈々も自嘲気味に笑い返す。

女性向けデリバリーヘルス、『花蜜蝶』。
奈々がここで働き始めた原因は、恋人である篤志の借金だ。
電話越しに聞いた悲痛な声を、奈々は今でも忘れられない。
「に、二千万……だ」
借金額について、篤志は力なくそう答えた。
青年実業家としての成功を夢見た結果だ。
才覚はある男で、奈々は友人達からこぞって『良い玉の輿に乗った』と持て囃されたものだった。
その彼でも、時代の荒波を読み切ることは出来なかったらしい。
「別れてくれ、奈々。お前を巻き込みたくない」
電話口の篤志は、いよいよ弱りきった声で告げる。
それを聞いた瞬間……奈々は、憤った。
「はぁ、別れる!? あんた、何言ってんの? そんな借金してて、食事とかどうすんのよ。
 自炊だって碌に出来ない癖に、まさか、毎日カップラーメンなんて食生活送るつもりじゃないよね?
 私の心配なんかしてる場合じゃないでしょ。自分の心配しなさいよ、自分の!」
「え、え、でも、その……」
篤志にとっては、予想外だったのだろう。随分と狼狽した声色が返ってくる。
それを耳にしながら、奈々はさらに続けた。
「借金は、私がどうにかする。二千万ってお金を、きっと稼いでみせる。
 だから篤志は、心配せずに再起に向けて準備を整えてなよ。
 30までに成功してやるって言ってたでしょ。昔からの夢なんでしょ?」
有無を言わせぬ勢いでそれだけを告げ、電話を切る。

奈々の中には意地が芽生えていた。
周りから『玉の輿』と言われ続け、その噂はどこかで篤志本人の耳にも入っていただろう。
もしも借金を理由に別れる事になれば、まさしくその噂を肯定することになる。
金を目当てに男に擦りより、金が無くなれば捨てるような薄情な女だと。
それが奈々には我慢ならない。
また、体面を抜きにしても、借金で途方に暮れる篤志を一人残す事など出来なかった。
惚れた弱みだ。恋人の乗る船が沈没するのなら、自分も最後まで同伴する。
自分がされて安心する事なら、それを相手にも。それが奈々の恋愛観だ。

以来、奈々は風俗嬢へと身を転じた。
稼ぎのいい風俗とて、二千万という金額を稼ぐのは並大抵の事ではない。
加えて、奈々は自らに一つの制約を課していた。
『篤志以外の男に抱かれないこと』だ。
これにより、もっとも稼ぎの良いソープは選択肢から消える。
キャバクラの類も、手早く稼ぐにはあまりに不向きだ。
そうして彷徨った末に辿り着いたのが、女性向けのデリバリーヘルス『花蜜蝶』だった。
顧客は女性のみなので、男に抱かれる心配はない。
またニッチなジャンルであるため、低価格競争が起きず、月間の稼ぎは高級ソープに迫る。
まさしく奈々に打ってつけの仕事だ。

しかし、その仕事内容は予想に反して過酷だった。
男に抱かれないのだから楽だ、と考えて『花蜜蝶』に登録する少女は多い。
そしてそうした少女の実に7割が、一ヶ月と続かず店を後にするという。
奈々もまた、勤務一週間でその理由を理解した。
女性用デリバリーヘルス。
その利用客の中には、むろん純粋なレズビアンもいるが、それ以上に『若く美しい女を虐めたい』だけの客も数多い。
嫁を虐める姑のようなものだろうか。
平均年齢40を超える利用客達は、嬢に対して実に陰湿な責めを繰り返す。

勤務三回目で、奈々は3時間コースの利用客に当たり、時間一杯浣腸を施された。
牛乳やグリセリン、酢やトマトジュースなど様々な浣腸をされ、実に32回に渡って、同性の前で排便を晒すはめになったのだ。
勤務七回目の客などは、4時間コースだった。
還暦を過ぎたこの老婆は、やはり時間一杯奈々を嬲り者にした。
筆を用いて陰核に怪しい軟膏を塗りこめ続け、錐状に痛々しく屹立してもなお責め続けた。
挙句には肛門にさえ指をねじ込み、軟膏を塗りこめた。
この軟膏は耐え難い痒みを伴った。プレイ終了後しばらくしても、痒みは消えない。
結局奈々は、家に着いてから翌日の出勤をキャンセルした。
そしてその夜から翌朝にかけ、自らの指であさましく陰核を潰し、肛門をかき回すこととなった。
気の狂いそうな痒みに幾度も泣き叫び、朝になって病院へ駆け込む。
そこで処方された薬によってようやく痒みは収まったが、肉体の開発は致命的なまでに進んでしまったらしい。
この次の仕事より、奈々はその濡れやすさを様々な客に指摘されるようになったのだから。


「あ、お疲れー!」
同僚のその声で、奈々はふと追憶から引き戻される。
顔を上げれば、そこには今仕事を終えて戻ってきたばかりの嬢がいる。
不機嫌そうに押し黙ったまま、ソファに座ろうとする。
しかし中腰のまま一旦動きを止め、近くにあったタオルを数枚ソファに敷いてから腰を下ろす。
まるで臀部を庇うかのように。
「あれ……智恵、まさかお尻やられたの!?」
勘付いた嬢の一人が尋ねる。智恵という少女は仏頂面のまま頷いた。
「つーかあのババア、マジありえないし。おしりに大根みたいなバイブ突っ込んでくるんだよ。
 『痛いんでやめて下さい』ってめっちゃ言ってるのにさ、若いんだから大丈夫、とか言って全然やめないの。
 んで、さっき医者に見てもらったんだけど、ちょっと切れてるんだって。もうマジ最悪……」
頭を抱える少女。
それを囲む同業の少女たちは、怯えと同情をない交ぜにした表情を浮かべている。
皆が同じ客相手に痛い目を見ているからだ。
原岡というその女性は店の得意客であり、なおかつ相当なセレブリティでもあるらしい。
そうした理由から、原岡がいくら横暴をしようと、店側は注意すらしない。
初めから使い捨てにするつもりなのか、状況が改善されないならと辞めていく嬢を引き留めもしない。
今や『花蜜蝶』に残っている古株は、その理不尽を知ってなお、他に行き場のない事情持ちばかりだ。
奈々が自嘲気味に笑った理由は、ここにある。

「……さてと、私もそろそろ行かなきゃ」
奈々は腕時計を一瞥してから柔らかく立ち上がり、スカートの後ろを軽く払う。
その所作一つとっても、周りの娘と違っていた。昨日今日入ったばかりに思われるほど、風俗臭に染まっていない娘だ。
それだけに、客から手酷く嬲られる事も多いのだが。
「頑張んなよ。ナナ」
古株仲間の励ましを受け、奈々は小さく頷きながら扉の向こうに消える。
「…………いいよねぇ奈々さん、今日は若い女の客っしょ。ババアじゃないんだ」
肛門を痛めた嬢が、ふと扉に向かって呟いた。
「でも、あの子だって楽じゃないんだよ」
古株の嬢がその言葉を諌める。
「そりゃ、若くても同じ女に嬲られるのがハズいってのは解りますけどぉ、でも」
「そういう事じゃないって!」
なおも続ける後輩に、古株の嬢はぴしゃりと告げた。
その語気に、一瞬部屋を沈黙が支配する。
少し後、ひとつの咳払いを挟んで古株嬢は口を開く。
「楽じゃないんだってば。これ、本当は秘密にしといてくれって言われてんだけどさ。
 今日、奈々を買った客ってのは…………あの娘の、高校時代のクラスメイトなんだよ」





数時間後、奈々はマンションの一室にいた。
足の踏み場もないほど散らかった部屋だ。独り身の女性にはありがちだが、趣向が妙だ。
全体として、部屋の内装がピンクで統一されすぎている。
フローリングの床とガラステーブル以外は、壁紙もタンスも椅子もカーテンも、眩暈がするほどピンク一色だ。
壁際のハンガーには、現実には有り得ない色合いのコスチューム衣装が並んでいる。
極めつけは部屋主自身の格好だ。ゴシックロリータというのだろうか、呆れるほどにフリルの付いた黒いドレスを纏っている。
その異様な世界の中、奈々は丸裸に剥かれて床に座り込んでいた。
後ろ手に黒い皮手錠で拘束され、口にも開口マスクが嵌まって強制的に口を開かされている。
そしてその口には、やはりピンク色をしたディルドウが送り込まれていた。
ディルドウを操るのは、ゴスロリ姿の女……麻美だ。
格好こそ派手だが、顔立ちや体型は野暮ったい。

「ごぉおお゛おええ゛っ、んも゛おおぉおお゛お゛え゛っ!! え゛お゛っ、お゛っ……っご、ォ…………ごヶっ。
 いおゃお゛ッ…………おぉお゛おぉ゛おお゛え゛っ、んお、おぅっお゛、おぉぉ゛お゛お゛ぇえ゛え゛っ………………!!!」

凄まじいとしか言いようのないえづき声が繰り返される。
若い女の声とは到底思えず、人の声なのかすら定かではない。
ただ、跪いた女の口にディルドウが送り込まれるという状況から、えづき声だと判別できるだけだ。
奈々の黒髪は後ろでポニーテールに纏められていた。
彼女は高校時代、動きやすさからその髪型にしている事がほとんどだった。
麻美はその由来ある後ろ髪を左手で鷲掴みにし、奈々の顎を上げさせながら右手でディルドウを前後させる。
喉奥を責める間、一言も口を利かない。
えづきながら悶え苦しむ奈々を観察しつつ、順手で緩々とディルドウを送り込み、または逆手に持ち替えて深く咥え込ませる。
その容赦のないイラマチオは、相当な時間に渡って続けられているのだろう。
奈々の口からは、明らかに唾液ではない、生々しい粘性を持つえづき汁が溢れていた。
それは奈々の胸元を異様なほど濡れ光らせ、膝元から床にかけて液だまりを作る。
挙句にはディルドウを伝って、麻美の手の平にまで絡み付いていた。
しかし、麻美がそれを気にする素振りはない。
何かに取り憑かれたかのように、延々と、淡々と、奈々の喉奥を抉りこむ。
時には横から、時には正面から、奈々の表情を観察しながら。

やがて、麻美はディルドウの持ち方を改めた。
それまで側面を順手逆手に持って操っていたものを、とうとう鷲掴み……ディルドウの尻部分を手の平で覆うようにする。
その状態で喉へと突き込めば、その挿入の深さはそれまでの比ではない。
手が邪魔をしていた持ち手の一部までを、易々と咥え込ませることができるのだから。
「お゛おぉお゛お゛ぅううお゛…………っ!!!!」
当然ながら、奈々は堪ったものではない。首元から顎にかけてが痙攣しはじめ、目が見開かれる。
黒目がちな瞳は、赦しを乞うように真美を見つめたが、麻美はやはり淡々と喉奥を抉るばかりだ。
「ん、ごぉっ………………!!」
その果てに、当然のごとく奈々は嘔吐する。
マスクの開口具部分から薄黄色の吐瀉物があふれ出し、フローリングに湿った音を立てる。
マスクの下からも一部の吐瀉物があふれ、顎から滴っていく。
「あ、吐いちゃったんだ。」
麻美はその惨めな様子を観察しながら呟いた。
非難か、問いかけか、それともただ事実を述べただけなのか。それすら判別できない、ボソボソとした声だ。
実に奇妙な娘だった。その奇妙さは、ディルドウを引き抜き、開口マスクを外して奈々を再度観察する所からも窺える。
「はっ、はぁっ、はあっ、ぜ、ぜひゅっ……はぁっ、はっ、はっ…………」
眉根を下げて早いペースで喘ぐ奈々は、静かに観察する麻美を不気味そうに見上げた。
男ならばまだ解るが、女が同じ女の喘ぐ顔を見て何が面白いのだろうか。


 
麻美は、高校2年から3年にかけて、奈々と同じクラスにいた生徒だ。
いわゆる『根暗なオタク女』であり、友人といる所を見かけた者はいない。
常に教室の机に一人座っており、休み時間は机に突っ伏して時間を過ごしているのが常だった。
虐められていた訳ではない。
奈々を中心とするグループが、虐めなど見かけようものなら即座に担任に報告するからだ。
何しろ奈々は、苗字の竹林(たけばやし)の読みを変え、密告を意味する『チクリ』とかけて『チクリン』と陰口を叩かれていたほどだ。
そんな奈々がいるため、彼女のクラスだけは虐めもなく和やかだ。
にも関わらず、麻美は常に独りでいた。
そんな麻美を見かね、奈々はグループ分けなどがあるたび、麻美を自分の所へ誘った。
しかし麻美はそれすら跳ね除け、どこか軽蔑でもするような視線を寄越すばかりだ。
教室で談笑している最中にも、奈々は麻美の黒い視線を感じる事があった。
振り返ると素早く視線を逸らすのだが、直前まで奈々の背中を見ていた事は間違いない。
常にグループの中心にいる奈々を羨むように、あるいは疎むように。
それは結局、卒業式を終えて校門を去る瞬間まで続いていた。

野中麻美。
さほど珍しい名前でもないため、初めて麻美の名が顧客リストに現れた時も、奈々は彼女だと気付けなかった。
実際にマンションに呼びつけられて初めて、それがあの黒い視線の主だと判明する。
しかし、麻美は特に何を言うでもなかった。
ただ粛々と、奈々を相手に丸2時間のレズビアンプレイを行う。
濃厚なキスを交わしながら、互いの秘裂を刺激しあい、足を絡ませながらの貝合わせを繰り返す。
麻美は何も言わなかったが、ただ常に、真正面から奈々の顔を覗き込んでいた。
かつての級友との見つめあい。奈々がそれを恥じて顔を逸らしても、その度に顎を掴んで表面を向き直させた。
その行為はやがて、奈々を異様なほどの興奮に引き摺り込む。
濃厚なキスで軽く1回、口づけを交わしながらの秘裂への指入れで浅く2回深く4回、貝合わせで2回。
実に9回に及ぶ絶頂を経験させられ、2時間の制限時間が経過した頃には、ピンク色のベッドの上で腰を小さく跳ねさせるほどになっていた。
麻美はやはりその奈々の様子を無表情に観察しながら、最後に小さく囁いたのだ。
「また指名してあげる」
奈々はその真意が全く測れないまま、ただサービス嬢として感謝の意を述べる。

それ以来、麻美は週に一度のペースで奈々を買っている。
けして安くはないはずだが、よくも資金が続くものだ。奈々はそう訝しむが、支払いが滞ったことはない。
そしていざ部屋へ招き入れれば、責めは日に日に過激さを増していく。
まるで、奈々の壊れゆくさまを見ようとでもいうかのごとく。
奈々は不安に駆られた。麻美の元へ行きたくないと思ったことも一度や二度ではない。
しかし、店の規定として客の拒否は認められない上に、顔見知りであるという恐ろしさもある。
もしも麻美を拒絶して逆鱗に触れたならば、きっと恐ろしいことになる。奈々は、漠然とそう感じていた。



最近になって、麻美は奈々に高校の頃の事を聞くようになった。

「……じゃぁ、次…………2年の10月頃かな。クラスでさ、オオムラ、オオムラって皆が口揃えて言ってたでしょ。
 あれ、何なの。私さ……友達いなかったから聞けなくて、でも気にはなってたんだよね。
 いっつも友達と一緒にいたあんたなら、知ってるんでしょ…………教えて」
麻美は、奈々の陰核にマッサージ器を押し当てながら話しかける。
注意して聞かなければ、独り言と思えるような抑揚のない喋りだ。
「あ……あっ、あっあ、あっ…………!!」
奈々は激しく喘いでいた。
ピンク色のベッドに横たわったまま、片足首を掴まれて開脚させられ、陰核と秘裂にマッサージ器を宛がわれているのだ。
すっきりと絶頂できるのであればまだいい。
しかし、行われているのは延々と続く生殺しだった。
マッサージ器を当て続け、達しそうになれば離す。それを、もう40分以上にも渡って延々と繰り返している。
ベッドに敷かれた寝小便用マットは、すでに限界近くまで変色している。
また奈々自身も、足首を掴まれていない方の脚の付け根が、おかしな痙攣を起こし始めている事に気付いていた。
間違いなく、女にとっての限界……その一つの嶺に迫っている。
その中でも、麻美は容赦なく質問を投げかけてくるのだ。
「あ、あっ…………に、に年の、じゅ、じゅうがつ、頃はぁっ…………、『朱花の巨室』がやってたからぁ…………」
「何それ。聞いたことない」
「ええっ…………!? し、視聴率、最高で31%の、あの日曜ドラマよ。社会現象だったでしょう」
「いや、知らないし。アニメならともかく、日本のドラマとか見ないから。で、それとオオムラがどう関係するの」
「ん、んく、ぅっ……ふぅっ…………!! そ、そのドラマの主演が、おっ、大村康治だったのよ!!」
「いや、それも全く聞いたことないし。周知の事実みたいに言うのやめてくんない?」
麻美は若干の苛立ちを含ませて呟き、マッサージ器の強さを上げる。
「くぁああおぉおおっ!! ああっ、あうあああうあははあっっ!!!!」
瞬間、奈々の反応が激しくなる。麻美の掴む足首も暴れだし、麻美の手の平との間の汗をにちゃにちゃと鳴らした。
その反応を無表情に観察する麻美は、一旦マッサージ器を秘裂から放し、出力をかなり下げて会陰部に押し当てる。
「ん、ふぅっんんんんっ…………!!!」
一度絶頂の淵の淵にまで押し上げられた奈々は、一転してのもどかしい刺激に腰をうねらせる。
眉根を寄せて下唇を噛む表情は、同性から見ても可愛いと言われるものだろう。
しかし、麻美の表情に変化はない。
「…………じゃあ、次ね。3年の春休み明け。これは、ハッキリ覚えてるんだよ。私が机に突っ伏してるとさ…………」
麻美は淡々と高校時代の記憶を語り始める。

それは、単に思い出話に花を咲かせるためのものではないと、奈々は気付き始めていた。
あくまでも、自分とお前はクラスメイトなのだ。お前はクラスメイトに辱められているのだ。
そう自覚させ、この上なく惨めな気分に陥ること。それこそが目的なのだろう。
事実として奈々は、快感の弱まるふとした瞬間に、舌を噛んで死にたいほどの恥辱を覚えるのだった。


 
「あ、Skypeきた。ちょっと出る」
麻美は、奈々の両足首を椅子に縛り付けながらそう告げた。
手首は椅子の背に回す形で後ろに拘束してある。
その上で秘裂にバイブレーターを挿入し、ゴムショーツを穿かせれば、奈々は責めから逃れられなくなる。
「えっ!? ちょっ、Skypeって…………!!」
奈々は状況を把握して抗議しようとするが、それすらボールギャグを噛まされて封じられてしまう。
「えあっ! うーっ、うううっ、うえあ、あ、あえぇっ!!!」
穴の空いた球に遮られ、非難の声は情けない呻きに変わった。
麻美はその様子を一瞥してパソコンに向かい、ビデオチャットを起動する。
画面の向こうに数人の男が映った。いずれもオタクそのものという容姿の三人組だ。
その男達は、はじめ死んだ魚のような瞳で気だるげな挨拶をした。
しかし麻美の後方に奈々の姿を認めると、一変して目をギラつかせ始める。
「うおっ!? あ、あれは一体!?」
「……ん、あー気にしないで。ただのペット。私専用肉便器だから」
「ひぇえー、に、肉便器! 肉便器所有でありますか!!」
興奮気味な叫びを耳にし、奈々の背筋に寒気が走った。
ニクベンキという言葉の意味が解らないが、良からぬ事であるのは空気で窺える。
「ううっ、うううっ!! うううんんんううっっ!!!」
奈々は必死に身を捩った。
あの男たちには、全てが見えてしまっている。
丸出しの乳房を初めとする全身が。
椅子の足に両足首を繋がれ、大開脚した股座が。
秘裂のバイブレーターを押さえ込むため、歪な形に張ったゴムショーツが。
金を払っている顧客の麻美にならば、この姿を晒すことも仕方ない。しかしそれ以外の男に晒すのは約束が違う。
もしも、もしも、あの男達がこの映像を流出させでもしたら。そしてその映像が、篤志の目に触れでもしたら。

奈々はそれを危惧する余り、激しく全身を捩り続ける。
しかしその行為により、秘裂の中を激しくバイブレーターで擦る結果となる。
「っっっ!!!!!」
その瞬間、凄まじい快感が奈々の脊髄を駆け上った。
もともと焦らしに焦らしを重ねられていたところだ。そこへ来ての膣内への刺激は、甘すぎる刺激だ。
さらに、刺激はそれだけではない。
麻美は、奈々には全くわからない話題をビデオチャットで交わしながら、時おり指でボタンを押し込む。
それがバイブレーターの遠隔スイッチである事はすぐに解った。
麻美の指がボタンを押すたび、バイブレーターが唸りを上げる。強さは何段階もあるようだ。
この快感は……生殺しを続けらたものにはまさしく“狂おしい”。
「もごぉおおお゛お゛お゛っっ!!!!!」
この時ばかりは、奈々は口に咥えるボールギャグに感謝した。ギャグがなければ、もっと遥かにあさましい声を上げる確信があった。
麻美のビデオチャットの相手は、気もそぞろな様子だ。
一応会話を成立させてはいるらしいが、意識はほぼ奈々の方を向いていた。
普段女との接点がないせいか、その視線は鳥肌が立つほど怪しい。
「……おいおい、あの子、アソコがもうドロドロだよ」
「ああ、ち、乳首も、あれ……勃ってるんだよな。無修正のでも、あんな乳首の形じゃなかったぞ」
「ひょっとして、すげぇ可愛いんじゃね?」
「絶対ノーチェンジだってあれ。顔面偏差65くらい」
そうした会話が密やかに交わされ、全てが奈々の耳に入ってくる。
その状況がまた、奈々自身にも理解しがたいほどに身を昂ぶらせた。
見ないで、見ないで。そう心で叫びながら身を捩るうち、無意識に膣の奥を締め付けてしまう。
それが3度繰り返され、そしてその3度目でちょうどバイブレーターが強い振動を見せた時。

 ( …………いく!! )

奈々は、頭の中で絶叫する自身の声を聞いた。
下腹の力が抜け、温い痺れが血管を包み、意思とは無関係に腰が跳ねるのを感じた。
ぎしっぎしっと椅子の軋む音が、とても遠かった。


 


「お願いやめてぇっ!! もぉ、やめっ……やっ、やすませてえええ゛え゛っ!!!」

悲鳴そのものの嬌声が、部屋に響き渡る。
麻美はその声を意にも介さず、淡々と極太のディルドウを奈々の秘裂にねじ込んでいた。
椅子に拘束されたままの姿勢だ。
たっぷり20分間のビデオチャットを愉しんだ麻美は、いよいよ仕上げとばかりに奈々を責め立てていた。
焦らしに焦らし、出来上がった状態の奈々を極太で責め立てる。
これで悲鳴の上がらぬ訳はない。

「ねぇ、私経験ないから解らないんだけどさ。すっごい簡単に、奥まで届くようになったよね。
 これが、『子宮が下りてきてる』って状態なのかなぁ。
 ってことは、こうやってゴリゴリしてるのって、あんたの子宮の入り口叩いてるってこと?
 ポルチオっていうんだっけ。ここ、女の身体で最大の性感帯なんでしょ、昂ぶってくると。
 エロアニメなんかだと、白目剥いて痙攣するとこだよね。ホントにそれってありそう?
 私、あのクラスだと竹林さんが一番二次元栄えするかなって思ってたんだけど。
 なんか、周りと比べても浮いてたんだよね。一人だけ、いつどこから見てもシャンとしすぎっていうか」

麻美は奈々の狂乱振りを無視し、ただ淡々と責め立てる。
まるで処刑を命じられた係官のように。

「ねぇ、ねぇって。さっきの答えてよ。ポルチオってどう?
 クリトリスは性器に刺激が来て、Gスポットは下半身全体が痺れて、ポルチオは全身に凄い電流が来るんだって。
 でもちょっと、そこまでとは信じられないんだけど。今のそれって、演技とかじゃないの? 本当?
 おーーい、聞いてる?」

麻美の呑気な小声は、恐らく奈々に届いてはいない。
麻美が問いかけても届かず、それに怒りを覚えて激しく責め立て、叫びが増してますます声が届かない。
その悪循環に陥りつつあった。
哀れなのは奈々だ。
蕩けきった子宮口を、容赦なく抉りこまれる。その度に快感の束が血管を走り、脊髄を焦がす。
頭の中はとうに白く染まっている。
常に失神寸前の状態にあり、眼球を上側に置いておくのはとても楽な状態だった。
しかし意識を手放せば、そのまま脳が快感に焼ききれる恐れがある。
そのため、飛びそうな意識を辛うじて掴まえておかねばならない。まるで荒れた海の中、船体の欠片にしがみつくように。

 (……篤志…………篤志、どこ……? 近くに来て、すぐに手を握って!
  私、こわい。いつか遠くないうちに、もう戻って来れない所まで流されそうだよ…………!)

現実感の欠如した麻美に、情けなど望むべくもなかった。
幾度も幾度も、潮吹きが起きている。
全身の痙攣が、もはやどこに力を入れても止まらない。

「あ、ああああ…………あああぁっ、んはぁああ……!!
 くぁああああっ、あお…………ああ…………あおああおあ゛あ゛っっ!!!!」

奈々の視界に、ちらりと棚が映った。そこに並ぶのは、無数の美少女フィギュア。
命のない、見目麗しいだけの人形。

奈々は着実に、それへと近づきつつあった。



                           終わり
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闇に揺れる鈴(後編)

※前編にも書いたとおり、過去最大のハードなスカトロ(排便・嘔吐・食糞)注意



月日の流れとは早いもので、『朱山楼』から雪への初上納の日が巡ってくる。
上納金を持参したのは、玉という娼妓だ。
まだ見習いも同然の遊女であり、かつては鈴によく懐いていた娘でもある。
『金極園』の門に近づくにつれ、玉の鼓動は早まった。
雪による、鈴への様々な仕打ちの噂は、花街にいる限り常に耳に入ってくる。
大見世の娼妓とは思えぬほど安い値で売り叩かれ、日々様々な客の相手をさせられていること。
言いがかりに等しい些細な理由で、遊女に対する多様な折檻を受けていること。
やぶ蚊責め、水責め、いぶし責め、針責め、胡坐縛り、駿河問い、ぶりぶり……。
公然へ晒すやり方でそれらを繰り返され、けれども鈴はついに屈しない。
その強情さに雪が癇癪を起こし、さらなる責めを与える。
そうした一連の流れが、加虐嗜好のある客を中心に人気を博していると聞く。
玉にとって愉快な話ではなかった。
『金極園』の看板がかかった門をくぐれば、きっと自分は、鈴が虐げられている様をじかに目にするのだろう。
そう思えば足取りは自然と重くなる。
けれども、上納の仕事を玉自身が進んで引き受けた事も事実。
心苦しくもあるが、鈴の現状を確かめたいという気持ちの方が勝っていた。

『金極園』の門を護る妓夫二人は、意味深な笑みを見せながら玉を通す。
その瞬間、玉は悪寒に苛まれた。
使いとして来た事を後悔しはじめ、用を済ませて早々に去ろうと廓内を進む。
しかしその最中、彼女は耳にしてしまった。
和室の一室。その襖の合間から、かすかに女の声が漏れている。
聴こえたのはほんの僅か。
しかし、玉の脳はしっかりと理解してしまっていた。その声が、彼女の憧れる鈴のものであると。
「ようやくいい声がではじめたねぇ……ねぇ?ほぅら」
意地の悪そうな別の声が続き、玉の心をざわつかせる。
気付けば玉は、無意識の内に襖に身を寄せていた。
ほんの僅かに空いた隙間から、部屋の中を窺う。

かくして、そこには数人の女の姿があった。
胡坐を掻くような格好で縛られた裸体の女を、数人の遊女が囲んでいる。
裸体の方は顔こそ見えなかったが、その流麗な身体つきといい、癖のない黒髪といい、確かな覚えがある。
 (鈴さんだ)
玉は喉を鳴らした。緊張か、恐れか、怒りからかは解らない。
部屋内の遊女達は一様に、縛られた鈴の秘裂を覗き込んでいる。
鈴の正面に座する女は、鈴の脚の間へ指を差し込んでいるようだ。
しかし、妙だった。
「ぁ、ああ……あぁあ゛っ…………!!」
遊女が指を動かす仕草を見せるたび、鈴は何とも切なそうな呻きを漏らすのだ。
まるきりの生娘ならばそれも解る。
しかし、鈴ほど場数を踏んだ娼妓が、秘所を弄られただけで呻くとは考えづらい。
 (鈴さん、きっと、他に何かされてるんだ!)
玉がそう考えた時だ。
まるでその心の声に答えるかの如く、遊女の一人が口を開いた。
「“ここ”をグリグリされると、膣越しでさえおサネの根っこに響いて善くなっちまうもんねぇ。
 これだけ直にやられりゃ、慎ましい華族のお嬢様でも声を抑えきれないかい」
遊女は確かにそう言った。
その言葉の意味を、玉は考える。
「……鈴は、どこを弄くられてるのか解るかい」
背後からやおら声が掛けられたのは、その時だ。
「ひっ!」
玉は弾かれるようにして振り向いた。そこには、歪んだ笑みを湛えた雪がいる。
毒々しい紅色の唇が蠢き、ある言葉を紡いだ。
「 小便の孔さ 」
雪の発したその言葉を、玉はすぐには理解できない。
しかし一文字ずつ脳裏に思い浮かべ、繋ぎ合わせて、驚愕に目を見開く。
「……なっ…………!」
その初々しい反応が愉しいのだろうか。
雪は笑みを深めながら、玉の顔を再び障子へと向けさせた。
そこでは相も変わらず、縛られた鈴と、その秘所へ指をくじ入れる意地の悪い遊女がいる。
しかし、今は見え方が違う。

「ううっ、うぁあ゛っ……!!」
遊女が指を蠢かすたび、眉根を寄せて苦しむ鈴。
そこに渦巻く苦痛たるや、玉の想像を絶するものだ。
「最初はただの遊びだったんだけどねぇ。鈴の奴があんまり強情だから、あの子達も張り切っちまってさ」
雪の言葉が、玉の痺れた脳裏に上書きされる。
視界の中の遊女達は笑っていた。
呻き苦しむ鈴を眺めながら、各々の手に筆を持ち、鈴の秘所……おそらくはその陰核を撫で回す。
秘所に触れる一人は、時おり指を引き抜き、壷の中身を掬い取って指に絡める。
「ほぅら、また薬を塗りこめてやるよ。小便の孔からだ、よく身に回るだろう」
「はは、どうしたんだい。腰がまた痙攣し始めてるよ、いやらしいねぇ。おサネもこーんなに硬く膨れちまってさぁ」
「いいさ、どんどん濡らしな。堪らなく濡れきったところで、また気を失うまで輪姦させてやるよ!」
言葉責めを繰り返しながら、妖しく嗤う遊女達。
それらの情報の一つ一つが、玉を心の底から震えさせた。
 (す、鈴さん……鈴、姐さん…………!)
一体いつから、そのような責めが続いているのだろう。
一体いつまで、そのような責めが続けられるのだろう。
玉は雪に肩を抱かれ、別の座敷へと通されながら、ただ呆然と床の木目を眺めるばかりだった。





「お前も、つくづく強情だねえ……鈴」
雪が溜め息をつきながら、足元の鈴を見下ろす。
鈴は芯の強そうな瞳で雪を睨み上げていた。
その身体には無数の責め痕が見られる。
肌の随所に残る、笞打ちの痕跡。蝋の欠片と皮膚の火傷。あげく乳房には、幾本ものマチ針が刺し通されてさえいる。
そうした数々の責め苦も、鈴には僅かな怯えさえ浮かばせる事ができない。
雪にしてみれば、それが大層腹立たしい様子だった。
「お家の仇に頭は下げられないってかい?
 それとも、『朱山楼』の一番娼妓として服従できないのかねぇ。
 ……まぁいい。あくまで頑張り通すってんなら、こっちも折れるまで責めるまでさ」
雪はそう語りつつ、傍らの遊女から桐箱を受け取る。
そしてそれを逆さに向け、中身の数々を畳の上に散乱させた。
「うわっ……」
その瞬間、周りで動向を窺っていた『金極園』の遊女達から声が上がる。
無理からぬ事だ。
先細りになった硝子製の筒、妙に滑らかな質感の黒い管、金属製の張型……。
桐箱の中から姿を現したのは、およそ彼女達に馴染みのない、しかし見るからに物々しい責め具であったのだから。
「っ…………!」
それを目の当たりにし、さすがの鈴も表情を強張らせる。
雪はおかしそうに含み笑いを漏らした。
「お前の為に、西洋の商人から色々と仕入れたんだ。一つ残らず、全部お前の身体で試してやるからね」
脅すようにそう宣告する雪だが、鈴が折れる事はない。
「好きにするといいわ」
もっとも雪の嫌う、令嬢然とした毅然たる態度でそう答える。
「そうかい」
雪は一瞬眉根を寄せたが、すぐに嗜虐心の満ち溢れた笑みで道具の一つを掴んだ。
銀色に光る、烏口のついた器具……肛門鏡だ。
その取っ手の部分を握り込み、カチカチと烏口を開閉しながら鈴の鼻先へと近づける。
「お前にはこれから、今まで以上の恥辱を味わわせてやるよ」
一筋の汗を垂らす鈴の前で、今一度烏口が音を立てた。


「く、ぅうっ……!!」
鈴の唇から小さな呻きが漏れる。
彼女の可憐な菊輪は今、冷ややかな烏口によって強引に押し開かれていた。
妙なぬめりのある液が塗布されているとはいえ、楽な拡張ではない。
その証に、鈴の額には早くもうっすらと汗が滲んでいた。
しかし、恥辱はその後に始まる。
「さぁ、奥まで入ったよ。皆とくと見な。ご開帳だ!」
雪がその言葉と共に、烏口を押し開いていく。
烏口の直径と共に晒されていくのは、鈴の腸内の内容物だ。
清廉な鈴の見目とは裏腹に、そこには人間誰しもが持つ汚物が山となって堆積している。
「うわっ!」
遊女達が、ある者は顔を顰め、ある者はおかしくて堪らないという様子で嗤う。
雪は目一杯に烏口を開くと、側方のネジを締めて開きを固定する。
この行為により、鈴の腸内は常時、場の人間の視線に晒される事となった。
「くっ、こんな……!!」
鈴は羞恥を隠しきれない様子で、早くも頬を紅潮させていく。雪の求めるままに。

「いいザマだねぇ、鈴。似合いだよ。
 ここ五日ばかり厠に行く赦しを出さなかったせいで、たっぷりと糞が溜まってるじゃないか」
雪はさらに言葉責めを加え、足元から一本の責め具を拾い上げる。
金属で出来た細い張型だ。
木製のものと比べ、いかにも無機質で『責め具』という印象が強い。
雪はそれを烏口の広げる隙間へ差し込み、奥まりで大きく円を描いて見せた。
ぬちゅ、ぬくちゅ。
言葉の途切れた和室内に、その粘ついた音が響き渡る。
他の可能性を考える余地もない。それは、あの鈴の腸内で排泄物がこね回されている音だ。
鈴の顔がいよいよ強張り、頬の赤みが増した。
雪はその様を存分に楽しみながら、ゆっくりと張型を引き抜く。
当然の事ながら、そこにはべっとりと糞便が付着している。
カリ首を模した部分、裏筋を模した部分の凹凸一つ一つを埋めるように。側面に茶色い筋を描くように。
「そら、どうだい鈴。自分の糞の匂いは」
雪という女はどこまで性根が歪んでいるのだろうか。
彼女は嬉々として糞便塗れの張型を掲げ、鈴の鼻先へと突きつける。
「い、いやッ!」
たまらず鈴が顔を背けても、それを追って執拗に。
『金極園』の遊女の中でもまだまともな精神を持っている者は、この時点で口を押さえて去った。
場に残ったのは、このような汚辱の責めすらも娯楽として受け入れてしまうような、異端の者ばかりだ。
それでも悠に十人以上はいるのが、流石というところだろう。

「さてと。お前にここまで糞が溜まってるって事が、白日の下に晒されたんだ。
 となりゃ、その中身を綺麗にしないとねぇ」
雪は白々しくそう言いながら、遊女に指示を与えて新たな準備を進めていく。
まず水をなみなみと湛えた桶が用意され、その中に透明な液体が注ぎ込まれる。
次いで、ある道具がその中に浸された。中ほどに風船がついた管……異国ではエネマシリンジと呼ばれるものだ。
そして最後に、鈴の姿勢が整えられる。
後ろ手縛りはそのままに、膝立ちの姿勢へ。その肩を数人の遊女が支え、倒れこまないよう固定する。
「よぅし。お膳立ては整ったね」
雪は静かに桶の横に屈みこみ、管を拾い上げた。
そしてその管の片端を水に浸したまま、もう片端を鈴の肛門内へと侵入させる。
令嬢の蕾が異物を呑み込んでいく様を、何十もの瞳が見守る。
管をかなりの深くまで押し込んだ後、ついに雪の左手が風船部分に掛かった。
道具の仕組みを理解しない者でも、それが責めの始まりである事を悟っただろう。
「果たしてお嬢様は、この未知の苦痛にどこまで耐えられるかねぇ」
雪は挑発的な目で鈴を見上げ、風船を握りこむ。
「ひっ!」
瞬間、鈴の目が見開かれた。
彼女の腸内には、管に吸い上げられた冷ややかな水が感じられただろう。
それと同時に、聡明な彼女は気付いたはずだ。一度では済まず、何度でも水を注ぎ込まれると。
本来出すだけの穴に、液体を注ぎ込まれる。
確かにその違和感たるや尋常ではなく、鈴はえも言われぬ恐怖に、ただ唇を引き結んだ。


「うわぁ凄い……どれだけ入ってるの、あれ?」
「尋常じゃないよね。する方も、される方も……」
遊女達が部屋の隅で囁き合う。
その視界の先には、まるで妊婦のように下腹部の膨れ上がった鈴がいた。
すでに六つの桶が、中身を注ぎ終えて積み重ねられている。
今は七つ目が雪の手で吸い上げられている最中だが、鈴は耐え忍んでいた。
無論、涼しい顔で、ではない。
額といい背中といい、夥しい汗を掻いている。
息遣いの荒さも尋常ではなく、一拍の間すら置かずにはぁはぁと喘ぎ続けている。
腹部からもやはり絶え間なく『腹下しの音』が鳴っている。
しかし、彼女の瞳だけはなお爛々と輝き、憎き雪を睨み据えていた。

「ちぃっ、しぶといね!」
七つ目の桶も半ば以上が入っただろうか。雪が小さく舌打ちした。
とうとう鈴の腸内容量も限界に達したのか、どれほど風船部分を握りこんでも、もう入っていく気配がない。
雪は桶を脇にどけ、遊女達に指示を飛ばした。
それはまるで鬼畜の所業。
腹の膨れ上がった鈴を数人がかりで抱え上げ、高く吊るし上げたのだ。
両膝の上部分、および後ろ手に縛った縄へとそれぞれ縄を通し、部屋の梁に結びつける。
これにより鈴は、大きく脚を開いたまま宙吊りになるという恥辱を晒すこととなる。
「あははっ、こりゃ傑作だよ!」
「恥ずかしい格好だねぇ、『朱山楼』の鈴!」
心ない遊女達からはすかさず罵声が飛んだ。
しかし、鈴はそれに反応しない。いや、できないと言うべきか。
「はぁ、はぁっ……っう、ううっ……あ、はぁっ、はっ、はっ…………!!」
鈴は全身から脂汗を垂らし、俯きながら荒い息を吐くばかりだった。
すでに便意は極限まで高まっているはずだが、それに加えて吊るされる姿勢は腹部への圧迫が凄まじい。
その状態での排便我慢は、なるほど他に気を回す余裕などないだろう。

雪はそんな鈴の有様を、しばし他の遊女に混じって眺めていた。
だが何か心境の変化があったのか、鈴の足元に巨大な桶を用意させる。
そして自身も鈴の背後に立ち、やおら桜色の蕾へと指を伸ばした。
便意を堪えるべく健気な開閉を繰り返す蕾へと。
肛門を覆い隠すように添えられた雪の掌。
そこから、くい、と人差し指が曲げられ、肛門の入り口に沈み込む。
「ぐっ!!!」
鈴に激しい反応があった。
はっきり聴き取れる呻きを上げ、足全体が強張る。
身体が揺れ、縛めの縄がギシギシと音を立てる。
それは、どれほど鈴が追い込まれた状態にいるのかを解りやすく示していた。
「ほら、もう限界なんだろう。はやく楽におなりよ。
 お前が糞をひりだす所を、この場にいる皆で見てやるからさ。
 どれだけ高貴ぶってても、腹の中にはアタシらと同じモンが詰まってるって事を教えておくれ」
雪は手も足も出ない獲物を嬲りながら、卑劣そうに嗤う。
そう、それは勝ち目のない戦いだ。
どれほどの精神力を持っていても、どれほど誇り高くとも、生理現象を消すことなどできない。
「あ、あ……ぁあ、……あっ!!」
雪の指先が肛門の皺を伸ばすたび、鈴は苦しんだ。
足の指が幾度も内に曲げられ、その度に身体全体が縄を軋ませる。
脳を焼き焦がすほどの排泄欲の波が、幾度も鈴の身を苛んでいる事は明らかだった。
鈴はその波を何十度乗り越えただろう。
しかし耐えるたびに大きく揺り返す排泄欲は、いつか彼女の身の丈を越す大波となる。
限界は訪れる。
「も、もう…………め゛っ、みな…………っで………………!」
鈴にしては珍しく、聞き取りづらい声だった。
呼吸を止めながら発したような、切れ切れの小声。
しかし場の誰もが、その言葉を認識していた。鈴の限界を見て取った。
「とうとう来たようだね。そら、出すんだよ!」
雪は嬉々として肛門から指を引き抜き、平手で鈴の尻肉を張る。
その平手打ちを切っ掛けとしたように、ついに決壊の時が訪れた。

「いやぁあああっっ!!!!」

思い返せば、それはとても、とても澄んだ悲鳴だった。
しかしそれと同時に始まった惨劇が、悲鳴の美しさの印象を塗り潰す。
丸五日以上に渡って溜め込まれた糞便と、桶七杯分にも達しようという薬液。
それがあふれ出す様は圧巻だった。
桜色の慎ましい蕾が開ききり、茶色く濁りきった汚液を噴出させる。
汚液は真下に置かれた桶に叩きつけられ、水圧で桶を水平に円転させながら溜まっていく。
ぶぶっ、ぶぱぱ、ぶばっ……。音にすればそのような品のない音が続く。
そして、紛れもなく汚物が排出されているのだと認識させる、強烈な悪臭。
「ひぃ、くさいくさい!華族のお嬢様っても、腸の中身はアタシらと変わんないね!」
「あはっ、すっごい量!桶がもう溢れちゃってるよ」
「いいザマねぇ。あの鈴ってのに怨みはないけど、どこかお高く止まってるのが気に喰わなかったんだよ」
「あたしもだよ。廓に新しく入ってきても、顔がいいってだけで簡単に得意客を掴んじちまってさ。
 挙句こっちが風邪なんかで弱ってたら、いかにも善人ぶって看病なんかしたりして。
 いつか糞でもひり出させてやりたいと思ってたから、念願叶ったりだよ。『金極園』様々だね」
遊女達は口々に鈴を詰った。
十人以上の同業者の前で、排泄を晒す。
その最大級の恥辱を受ける中での罵詈雑言は、鈴の心をどれだけ深く抉るだろう。

排泄が一通り終わった後も、鈴は顔を上げなかった。
ただ前髪から汗を垂らし、荒い息を吐いて俯いているばかりだ。
「気分はどうだい、鈴」
雪が鈴の前髪を掴み、無理矢理に顔を上げさせる。
しかし、鈴の瞳を覗きこんだ雪は表情を強張らせた。
鈴の瞳は、濃厚な疲弊を窺わせながらも、なお凜として雪を見つめている。
「なんとも……ないわ」
このような恥辱では屈しない。あくまでそう訴えるように。
「……何なんだい、お前は……?
 あれだけ苦しんで、あれだけ恥を晒しておきながら、責め終わりにはいつもその目だ!」
雪は喉から搾り出すような声で呻く。
歪んだ瞳の形は、鈴からの軽蔑の視線に身を焼かれているかのようだ。
しかし。雪は、それで心を変えるような女ではない。
そんな正気が残っているのであれば、そもそもにしてこのような悲劇は起こっていない。
「…………上等だよ。なら、もっと容赦なく責め抜くまでさ。
 これからも、嫌というぐらい糞をぶちまけさせて、それを皆で見てやる。
 それだけじゃない。糞の穴だけを犯されて果てるようになるまで、徹底的に開発してやる。
 女としてこれ以上ない屈辱を、思いついた端から実行させるよ。どんな事でもだ。
 お前という人間の真っ当さが、完全に壊れるのも時間の問題さ。
 その安い矜持が、極限の羞恥の中でどれだけ耐え切れるか……見せてご覧よ、鈴ッ!」
雪は吼えるように宣告した。
その瞳に宿る闇は、泥沼のように深い。
「いくらやっても、同じことよ!」
鈴は気丈な答えを返しながらも、頬を流れる新たな汗を止められない。
『金極園』に属する百戦錬磨の遊女達さえ、今後の責めの深さと執拗さを思って喉を鳴らした。





『金極園』の客入りは、ある時期から目を見張るほどに増えていた。
しかしその大半は、遊女と愉しむ事が目的の客ではない。
宴会用の大広間で毎夜行われる、様々な催しを見るために来ているのだ。
無論、それを鑑賞するためには遊女を一人買う必要がある。
大広間の任意の場所で、遊女を抱く。
そうして愉しみながら、広間中央での催しを眺めて勃起し、それをまた遊女で『処理』する。
これが、今の『金極園』流行りの遊び方だった。
催しの中身はいつも同じ、鈴という娼妓への折檻じみた責めだ。
しかし、この太夫にも匹敵する娼妓を一目見るため、連日客が殺到している。

今日もまた、多くの遊女に客がついて広間は人でひしめいていた。
わずかに隙間の空いた中央部分では、鈴があられもない格好を晒している。
肛門が真上を向く格好だ。
倒立した状態で、腰から折れるように足を下ろし、肩につける。その格好で緊縛されている。
鈴の傍らには数人の遊女がおり、各々の指で鈴の肛門を開いてみせていた。
当然そこが見物であるからだが、なるほど鈴の肛門には変化が見られる。
普段慎ましく閉じている鈴の肛門が、今は異様なほどに赤らみ、喘ぐような開閉を繰り返している。
時には火山のように隆起するそこからは、得体の知れない透明な汁が伝っていた。
見るからにつらそうなその状態を、遊女達はただ見世物にする。
そして飽きるほどの時間が過ぎたところで、手元にある壷の中へ筆を差し入れた。
壷の中には、どろりとした固形物も見える白い液体。
「ほら、もう一回塗ってあげるよぉ」
一人が謳うような声で囁き、充分に白い液をつけた筆を持ち上げる。
そして絵を描くかのごとく、丹念に鈴の肛門へと液体を塗りつけていく。
すっかり肉厚になった菊輪の、かつて皺を成していた一本一本へ。さらにはその内部へ。
「ぐぅうううっ!」
ここで、鈴の苦しそうな声が漏れた。
奥歯までをしかと噛みしめて耐えていた声が、ついに我慢ならなくなったらしい。
遊女達が嗤い声を上げた。
「あはは、苦しんでる苦しんでる。山芋の痒み責めには、さすがのあんたも参るようね」
恐ろしい言葉が掛けられる。
そう。鈴の肛門に塗られているのは、山芋をすりおろした汁だ。

「苦しそうだな」
客の一人が、自らの組み敷く遊女に語りかけた。
すでに老境に入ろうという男だが、鈴を見ている間だけは盛んになる。
「痒いなんてもんじゃなく、熱いって感覚だそうですよ。
 あの女は今夜一杯地獄を味わう予定ですけど、こちらはのんびりと愉しみましょう」
遊女は男に猫なで声を出しながら答えた。
「ふふ、のんびりと……か。君も性格が悪い」
男はそう呟きながらも、面白そうに苦しむ鈴を眺め始める。

鈴は引き続き、気の狂いそうな痒みの中で生殺しを受けていた。
遊女達は散々に筆で汁を塗りつけた後は、ほとんど刺激を与えない。
ただ肛門を指で開いて晒すか、あるいは息を噴きかけて焦らすばかり。
「い、いぎア゛っ…………がっ、がゆっ…………がゆい、が、がぎ……!
 いぃぎぃ、いっ…………!……は、ひ、ひひ、ひぃい……ィああ、ふうむぃ゛っっ…………!!!」
鈴は歯を食い縛って狂おしい痒みに耐える。肛門からは透明な液体が滲む。
肛門からは、時おり放屁のようなものが起きる事もあり、その時などは鬼の首を取ったように場が沸いた。
「う、く……ぅうううっ…………!!」
そうすれば鈴の極上の恥じらいが見られると、場の誰もが理解しているのだ。

どれほどの時間、その生殺しが続いたのか。
客が酒を呑み始め、一様に赤ら顔になり、遊女との交わりも一段落した頃だ。
ついに、遊女達が鈴を新たな地獄へと引きずり込む。
ひくつく肛門に指をかけ、弾くように掻いたのだ。
「ぐむぅううああっう゛っっ!!」
鈴から妙な声が漏れた。
直に聞けば、その声が多分に喜悦を含んでいることに気付くだろう。
極限の痒みに苛まれながら、焦らしに焦らされ、焦らされ、焦らされて、ようやくに齎された一掻き。
思わず涙すら零れるほどの快感だろう。
長い焦らしを見続けてきた客達には、その悦びが手に取るように伝わった。
酒が進む。

「ほぅら、いい声だ、いい声だぁ!」
相手の弱点を見抜いた遊女達は、いよいよ容赦なく鈴の肛門を掻き始める。
一掻き、一掻き、また一掻き。
鈴に与える快感を最大にするが如く、丹念に。
結果として、それは劇的な効果を齎した。
受ける鈴は、緊縛した身を恐ろしいほど悶えさせ、喉が潰れるかと思える絶叫を繰り返す。
「あ゛ぁっ、ああはぁああ゛っ、あふぅお゛っ!!あああは、う、う、うあぅああ!!
 あかっ、ぇあっ!!ぁ、あぁ、あううーあ、ふむぁうやあぁぁあ゛っ!!!」
はじめは悦びが声の形を為したような甘い叫び。
そしてそれがしばし続いた後、絶叫の種類が変わる。
「ひぃいっ、きゃあぁあっ!!!!ぎゃああぁあ゛、いあ゛っ、……きゃあぁあぁあああ゛っ!!!!」
まさしく絶叫。
まるで笞打ちを受けているかのような、絹を引き裂くような絶叫。
見守る男達は、その凄みに心臓を高打たせながらも目を丸くする。
「す、凄い反応だな」
一人の客が、抱きつく遊女に囁いた。
遊女は笑みを浮かべた後、訳知り顔で口を開く。
「山芋って、あたしら遊女への折檻にも使われるような代物ですからね。
 痒くなるのも確かに厄介ですけど、一番怖いのは、堪らず掻き毟っちゃった後なんです。
 蚊に刺された時と同じで、掻くと余計に痒さがひどくなっちゃう。
 そのうち痺れるような痛みになって、痒いし、気持ちいいし、痛いし、熱いし……訳がわからなくなるらしいです。
 一晩で狂っちゃう妓もいるんですよ。ま、あの女は大丈夫でしょうけど」
遊女が解説する間にも、鈴の絶叫は続いていた。
「あぁあ゛あ、あ゛っあいあ゛ぁあ、ぎゃあああ゛っ!!やべで、やめ゛っ……わぁ゛ぁあ、あッあぁぁあああ゛!!!!!」
指で掻いていた間も凄まじかったが、凹凸のついた責め具を尻穴に抜き差しされるようになって以降、悲惨さはさらに増した。
身体中を痙攣させ、尻穴からは下劣な放屁音と共に小さな泡を吹き出す。
しかし、表情はそれらの悶え様と釣り合っていない。
苦しみというより、極限の歓喜。
見開いた瞳から大粒の涙を零し、開いた口からだらしなく舌をはみ出させる表情は、『喜悦』の言葉こそ相応しい。
ゆえに客は、安心してその狂乱を見届けられる。
ズグッ、ズグッ、ズグッ、と音さえするような責め具の抽迭が、真上から叩き下ろされる。
その責めの果てに、とうとう鈴の秘裂からは愛液があふれ始めていた。
肛門を真上に向ける格好を取る限り、その様は隠しようもなく一方向の人間へと晒され続ける。
「あははっ!見てあの女、尻の穴で感じてるわ!!」
天真爛漫という類の遊女が高らかに叫び、それを火種に場は大いに盛り上がった。
酔い、踊り、謳い。
鈴ただ一人を除き、広間の人間は大いに満たされて眠りについたという。





今宵も、鈴は見世物になる。
「ほら、とっとと歩きなよぉ」
遊女の一人が、手に持った笞で鈴の尻を打ち据える。
「ふむぅっ!!」
十字傷の夥しい尻にまた紅い線を増やされ、鈴は切ない呻きを上げた。
笞に追われるように歩を進める。
しかしそうすると、今度は股下の縄が彼女を責め立てる。
ちょうど陰核へ触れるように瘤の作られた縄は、通り過ぎる鈴の肉体に痺れを齎した。
広間へ対角に張られた縄の上を、もう幾度往復していることだろう。
今や縄は、その随所から鈴の愛液が滴っている。
「あ、あっ……う、は……ぁっ…………」
厳しく亀甲縛りを受けた身で、悶えながら縄を歩む鈴。

実は彼女を苦しめているのは、縄だけではない。
秘裂に縄を食い込ませながら歩む鈴。それをよく観察すれば、腹部から時おり音が漏れることに気付くはずだ。
そのたび、鈴がつらそうに片目を細める事にも。
鈴はそれを繰り返し、縄を七分ほど進んだところで、再び足を止めた。
「休むなって言ってるだろう!」
遊女がすかさず笞を浴びせるが、今度は進まない。
「ぐぅっ!」
小さく呻いたきり、鈴は静かに前方を眺めはじめた。
瞳には強い力があるが、どこかに焦点を結んでいる訳ではない。
その眼をする時、鈴は必ず忍耐の限界を迎えているのだ。
見守る遊女も、客も、すでにそれを見抜いていた。
「も……もう、我慢…………できないわ」
鈴は喘ぐようにそう言った。
脂汗がいよいよ身体中に滲み、縛られた手が忙しなく握り締められる。
遊女達は、ちらりと柱に寄りかかる雪を見やる。
「そこで出されちゃ堪らないよ。させてやんな」
雪は見下すような視線を寄越しながら告げた。
その言葉を受け、遊女達は鈴の片脚を持ち上げた。
そして縄を乗り越えさせて部屋の隅へと鈴を運び、そのまま崩れ落ちそうになる身体を中腰で支える。
同時に、脚の下には手馴れた様子で盥が置かれた。
「さぁ、鈴。ひり出してもいいよ。……ただし、“いつものように”だ。解ってるね」
遊女の一人が鈴に囁き、軽く肩を叩いて手を離す。
鈴は一瞬ぐらついたが、膝を開くことでかろうじて中腰の姿勢を保った。
その表情は思いつめたものだ。それは、今からする行為がどれほどつらいのかを如実に表している。
逆に客達は、嬉々として鈴の様子に見入っていた。
「く……く、ぅううっ!!」
やがて、鈴の身体が震えて本当の限界が訪れる。
鈴はそこで一層腰を落とし、盥と肛門を頭二つ分ほどに近づけた。
そして、大きく息を吸う。

「コケーッ、コーッ、コッコッコ……!!」

それは、鈴を知る者からすれば目を疑うほどに滑稽な情景だった。
あろうことか鈴は、鶏の鳴き真似をしながら盥へと排泄を始めたのだ。
排泄、とはいえ便ではない。すでにそうしたものは浣腸で出しきっている。
代わりに彼女の肛門から産み落とされるものは、鶏卵大の真鍮珠だった。
それが実に六個、鈴の腸内から姿を現す。
同時に水気も肛門から噴出しているが、こちらは排泄欲を刺激するための薬液だ。
先ほど綱渡りの最中に腹部が鳴っていた原因は、この強力な薬液による蠕動運動に他ならない。

「コッコッコ、コケーッ!コケーッ、コッコッコ…………ケッ、コケーッ、ケー……ッ!!!」

鈴はこの排便の間ずっと、鶏の鳴き真似をする事になっていた。
今は悪いことに、真鍮球の幾つかが互いの排出を邪魔しあい、直腸の半ばで詰まっているらしい。
どれほどに息んでも、なかなか滑り落ちる様子がない。
鈴はそれを出し切るまで延々と無様な鳴き真似を続けるしかなかった。
あれほどに誇り高い娘だ。それは耐え難いらしく、硬く閉じた瞳からボロボロと大粒の涙を零している。
しかし客や遊女達は、その恥辱に震える鈴がおかしくて堪らない様子だ。
「はははは、これは傑作だ!これは傑作だぞ!!
 最初に目にした時は、笑い者にしてよいものかと躊躇するほど良い妓だったのだがな。
 それがこれほど滑稽な真似をするまでに成り果てたとは、笑いが止まらんわ!」
「全くだ。別嬪が恥ずかしくて泣く様は、これ以上ない酒の肴よ!」
「ほれほれ、そうひしっと目を閉じんで、開けて見せてみぃ。お前の瞳はそそるからのォ」
遊女と客達は各々に言葉で鈴を辱め、その様子を嘲笑った。

排泄が完全に終われば、鈴はその後孔を客達に奉げる事となる。
連日の調教に加え、この恥辱の排泄を経た後は、鈴の肛門性感は敏感だ。
その状態で排便よろしく丁寧に肛門性交を繰り返せば、やがて鈴は乱れ始める。
嫌だ、嫌だと泣きながら、腿から下を痙攣させて深い絶頂へと入っていくのだ。
雪はそれを、ここ数日続けさせていた。
身の垢が落ちる時のように、少しずつ少しずつ、鈴の絶対性が剥がれていくのを期待しながら。





「まったく、夢みてぇだなぁ。あの鈴子お嬢様を犯せる日が来るなんてよ。
 それも、おれの大好きな尻の穴だ」
薄汚い男が、鈴に深く自身を沈みこませながら笑う。
「あっ……」
鈴はその突き込みに切なそうな声を上げた。
彼女の姿勢は惨めそのものだ。
這うような格好のまま、膝裏に竹竿を通される。
両肘は前方に突いたまま、両手の甲と親指同士を幾重にも結び合わされる。
この拘束により、鈴は立つことも、横へ転がることさえ出来ない。
背後から強く腰を掴まれて犯されれば、ただ為すがままになるしかない状態だった。
たとえそれが、かつて屋敷で下男として働いていた醜悪な男であっても。
「屋敷じゃあいつ見てもお上品に澄ましてやがってよ、いつか犯してやりてぇと年がら年中思ってたのよ。
 ほらどうだ、俺の太ぇもんで、糞が奥までかき回されてるのが解るだろう、うん?」
下男はそう言いながら、鈴の腸奥を逸物で押し込んだ。
鈴の喉元から呻きが起こる。
出し挿れされる男の逸物は、並大抵ではない太さを誇っていた。
長さもかなりあると見え、これが抜かれ突かれするたびに鈴が呻く理由の一つだろう。
もう一つは、かつての使用人に抱かれるという精神的な圧迫感。
さらに理由がもう一つ。これは、かつての綱渡りと同じ理由になる。

「おおっ!?へへ、鈴子お嬢様、また糞がしたくなったんだろう。腹の中がグルグル鳴ってやがるぜ」
下男が笑みを深め、手の位置を鈴の腰から下腹部へと下げる。
「いやっ、お腹は!」
鈴は素直な反応を示した。耐えるほどの余裕がないのだろう。
彼女を苦しめる最後の理由……それは、部屋の片隅に転がる硝子の浣腸器に起因する。
その傍には空の盥もあり、何が行われたのかは明らかだった。
「おらっ、鈴子、いまさらカマトトぶってんじゃねぇ!おれみたいな浮浪者でも、色々噂は耳にしてんだ。
 鈴子おまえ、毎日こうやって野郎に尻犯されて、下痢便ぶちまけながら感じてんだってなぁ?
 あの雪とかいう阿婆擦れに調教されてよ。嵌められながら下痢便漏らすのが、一番感じるように仕込まれてるんだろう。
 ええ、どうなんだ、鈴子お嬢様よォッ!!」
下男は粗暴さを剥き出しにし、力強く抽迭を繰り返す。
大きく引き、叩きつけ、大きく引き、叩きつける。
その果てに、とうとう鈴の全身が震え上がった。
「利夫、やめ、てっ……もう、もうだ、め…………いっ………いっやぁああああああああっっ!!!!」
鈴が鳴り響くような声で、限界が叫ばれた。
下男は本能的に腰を強く打ちつけ、鈴の身体を抱きしめながらその瞬間を迎える。
極太の物で最奥までを貫かれながら、その圧迫を押し出すような勢いで糞便を漏らす。
かつてなら羞恥で脳が焼ききれるようなこの体験は、今の鈴にとってどうなのか。
それを窺い知る事は出来ないが、下男は狂気に満ちた浮かれ具合だ。
「ははっ、ははははっ、あったけぇ!あったけぇぞ、鈴子お嬢様よっ!!
 しかもこの匂い、生々しさが堪んねぇぜ!今確信してるよ、こりゃあ、あのお嬢様のナマの中身だ。
 あの澄ましてたガワから一枚捲れば、こういう生々しさがテメェにもあったってこったよ。
 ははは、はははははっ!!何だよ、想像通りじゃねえかよ、あの頃の!!
 おい鈴子お嬢様、もっと感じさせてくれよ。糞でぬるぬるになった腸内のよ、あったけぇとこで包んでくれよ。
 お前で何百篇抜いたかわからねぇ。おれはよ、あの屋敷にいた頃から、ずーっとこの日を待ち望んでたんだぜ!!」
下男はそう喚きながら鈴の腰を掴み、いよいよ激しく腰を打ちつけ始める。
鈴はそれに為されるがままになるしかなかった。
結合部より下に汚物のぬめりを感じながら、互いの足にぬるぬると擦り付けて結合を繰り返す。
清潔感など微塵もない。まるでけだものの交わり。
「あっ、あ、あっ……あ、あっ…………あっ…………!!」
鈴は身の内から湧き出る喘ぎを隠さず、荒い呼吸と共に吐き出す。
もはや隠しても仕方のない事だからだ。

いつからか雪は、ほとんど鈴の前に姿を現さなくなった。
この夜鷹小屋以下のあばら家で、拘束されて男に犯されるだけの日々。
それが、もう何日続いているのだろう。
憎き雪に屈しない。それを心の支えにしてきた鈴にとって、雪の不在は致命的なほど心を削られる。
 (……どうして?……これじゃまるで、雪を待ち望んでいるよう)
汚物塗れでかつての下男に犯されながら、鈴は窓の外を見上げる。
遠い、遠いところにある夕日。朱色の陽。
 (朱山楼の皆は、元気でやっているかしら。……ううん、きっと無事よ。その為に、私はここにいるんだから。
  そうよ、皆のため。皆をこんな目に遭わせないためにも、私は……耐え忍んでみせるわ)
鈴はされるがままに身を揺らしながら、静かに決意を改めた。
しかしこの健気な決意こそが、彼女を地獄の釜の底へと突き落とす事になる。





「よく来たねぇ、正一。楼主自ら上納金を持参とは、泣けるじゃないか」
雪が可笑しそうにキセルの灰を落とす。
正一はその足元で深く頭を下げ、平伏している。無論、望んでの事ではない。
「鈴ほどじゃないけど、アンタにも鈴への嫌がらせの邪魔をされた恨みがあるからねぇ。
 その男の土下座を眺めながらだと、美味いもんだ」
伸びやかな煙を吐く雪に痺れを切らしたのか、正一は素早く頭を上げる。
「その鈴はどうした」
「おや、誰が頭を上げていいと言ったんだ。……まぁいい、そんなに鈴が心配かい。
 まぁアンタもこの色街で楼主やってんだ、色々と噂は聞いてるんだろうねぇ。
 何せあの娘は、『朱山楼』の一番娼妓だから。……それとも、惚れた女への心配かねぇ、正さん」
雪が嘲るが、正一は表情を変えない。
部屋を訪れた時から一貫して、強張った面持ちを通している。
雪はキセルを数度吸い、正一の焦りを存分に堪能した後、再び口を開く。
「ついて来な。
 ……どんなにえぐい物を見ても、腰を抜かさない覚悟があるならね」
そう誘う顔には、憎憎しいほどの悦びが張り付いていた。


色街の外れも外れ、廃屋と呼ぶに相応しい小屋。そこが雪の示した場所だ。
そこへ近づいただけで、異様な臭気が正一の鼻を突く。
まるで肥溜めだ。
正一は息を整え、意を決して小屋の中に踏み入る。
その瞬間、彼は目を見開いた。
「す、鈴……っ!?」
女衒を経験している彼でさえ、思わず立ち竦む。
そこにいたのは、確かに鈴に違いない。
数人の男に囲まれ、煎餅布団の上にへたり込むようにして座っている。
ひどく粗末だが、それ自体は場末の夜鷹部屋などではよく見られる情景だ。
しかし、彼女の状態は尋常ではなかった。
黒髪がすっかり艶を失い、海草のように背に張り付いている事ではない。
肌がすっかりくすみ、閉じた足の間に生え放題となった陰毛が覗いているような事でもない。

全身が、汚物に塗れているのだ。
美しい裸体の、唇から下が塗りたくられたような汚物で彩られていた。
二枚敷きの煎餅布団の上にも、やはり至るところへ汚物が撒き散らされている。
その状況にありながら、鈴に取り乱す様子はない。
どこか虚ろな、しかし光は宿した瞳で眼前の男を見上げている。
「おら、出すぞ!全部飲めよ!!」
男がそう言いながら、逸物に手を添えた。
それに合わせ、鈴は操られたように口を開く。まるで男専用の小便器のように。
「やめろ、鈴っ!!」
正一はそこで我に返り、状況を止めようとした。
しかしその瞬間、背後から強い力で羽交い絞めにされる。
「何をする、放せ!!」
肩越しに振り返ると、『金極園』の妓夫二人が、それぞれ正一の腕を掴んでいる。
正一も荒事に弱い訳ではないが、雑用で鍛えた男二人に腕を取られては抵抗できない。
「大人しくご覧よ、正一。ほら、面白いことになるよ」
雪の言葉で正一が前方を振り返る。
まさしくその瞬間、男の逸物から黄金色の小水が弧を描くところだった。
それは上手い具合に鈴の口内へ収まり、飛沫を上げながら喉へと溜まっていく。
勢いも量もかなりのものだ。
鈴の口内はたちまちに満たされ、顎からあふれて胸元の汚物を洗い流した。
「何やってる、全部飲めってのが聴こえなかったのか!?」
鈴の後ろに立つ男が恫喝すると、鈴は黄金水を口に溜めたまま目で反省を表す。
何とも惨めな姿だった。
「チッ。まぁいい、そのまま小便でうがいしてみろ。それから飲み込め」
男が屈辱的な命令を与えると、鈴は嫌がる素振りすら見せずに従う。
その異様さに、正一は言葉もなかった。

男の尿を全て飲み干した後、男は引き続き口での奉仕を求める。
「んむっ」
鈴はやはり躊躇わずに逸物を咥え込んだ。
いかにも容易くではあるが、この男の逸物の大きさたるや並みではない。
大柄な身体に相応しく、上方向に勃起したならば水月までは悠に届こうかという長さだ。
太さの方も、鈴の手では握りこむ事すら不可能な直径を誇る。
その規格外の怒張を易々と呑み込むとなれば、相当数の慣らしを経ている事が窺えた。
さらに男は、ただの口戯では満足しない。
鈴が幾度か顔を前後させ、深く咥えこめるようになった段階で、やおらその後頭部を鷲掴みにする。
そして筋肉の隆起したその腕でもって、無理矢理に奥の奥まで咥えさせていく。
「んっ、んぶっ!!ぐっ……え、ゴェっ!!ぐえっ、うう゛っ、うむ゛ぅうえ゛おえ゛っ、おげぁげえおごっっ!!」
凄まじい声が発せられた。
情景を目にしていなければ、正一はそれを人の声だとは認識できなかっただろう。
特に、あの美しかった鈴が発しているなど、『朱山楼』の誰もが信じないに違いない。
しかし、無理からぬ事だ。
あのような規格外の怒張を咥え込まされては、普通の声で済む道理がない。
事実、受け入れる鈴は目を剥き、喉の形すら怒張の太さに盛り上げてしまっていた。
「ごぇっ、おぼぇっ、おもぉ゛う゛っ!!えれお゛っ、えごっ、んもぉおおおぅぅう゛え゛っっ!!!」
男が自分本位の調子で腰を前後させると、えづき声も激しくなる。
そればかりか、とうとう鈴の喉元からは吐瀉物が溢れてしまっていた。
吐き出された吐瀉物は怒張をすべり、抜き出された逸物と口との間から滴って、煎餅布団に薄黄色の染みを作る。
よくよく注意を向ければ、その半固形の残滓は布団の随所にあった。
茶色い汚物の色で隠されているが、その下に層を成すようにして吐瀉物の乾燥したものが見える。
つまり、嘔吐すら今の鈴には特別なものではない。
「う、う、出すぞっ!!」
男は鈴が嘔吐している最中でも腰を止めようとはせず、むしろその喉奥の痙攣を利用して射精に至った。
心地よさげに腰を震わせ、鈴の喉奥に精を浴びせる。
そして一呼吸置いてから、ゆっくりと粘液まみれの逸物を喉から引き抜いた。
反射的にゲホゲホと噎せ返る鈴。
しかしそこで、正一は妙なことに気付いた。
あれほど苛烈に喉を使われておきながら、鈴の姿勢がまったく変わっていない。
嘔吐するほど苦しいのならば、誰でもなりふり構わず抵抗してしまうだろう。
鈴とて苦しんではいた。
それでも鈴は、嘔吐するその直前でさえ、両手を布団に突いたままでいたのだ。
不可解なほどの無抵抗。
正一がその理由を考える暇もなく、眼前の状況は進む。

「へへっ、鈴よ。小便と精液で、とりあえず喉の渇きは癒えたろう。
 なら今度は……メシだな」
男の一人が笑みを浮かべながら、鈴の足元へ屈みこんだ。
そして鈴の尻肉を割り開くと、その中にある汚物を鷲掴みにする。
「なっ……まさか!!」
正一は身に走る悪寒に震えた。しかしどうする事も出来ない。
身動きの取れない正一の前で、最悪の状況が展開する。
「おら、口を開け」
男の一人が鈴の顎を掴み、命じる。
傍には先の男がおり、にやけた顔で掴んだ汚物を鈴の鼻先へと近づける。
「………………」
鈴は虚空を見上げていた。それはほんの数瞬ではあるが、正一には彼女の泣き叫ぶような躊躇が聴こえるようだった。
「オイ!」
男が再度声を掛けると、鈴は観念したように口を開く。
小水に濡れ、舌の上に精液がこびりついた口を。
その中に、男は満面の笑みで糞を押し込んだ。
「う、む゛っぇ゛っ!!!」
鈴は嘔吐のときとは違い、大きく身体を丸めて反応を示した。
見開いた瞳からは即座にボロボロと涙が零れ、頬は膨らんで誰の目にも明らかなほどの嘔吐の前兆を見せる。
「吐くなっ、呑みこめ!!全部喰って、全部出して!ぶっ壊れるまで繰り返すんだよオラッッ!!!」
男は明らかに堅気ではない口調で恫喝しながら、力ずくで鈴の口を押さえ込んだ。
大きな掌で鼻から下を覆われるようにされては、鈴も吐くに吐きようがない。
そのまま中指と薬指で、開いた口の中に無理矢理汚物を詰められていく。
「んむ゛ぁ゛っ!!」
鈴は体の反射から、再度前屈みに嘔吐の兆候を示した。
しかし、彼女はまたもそれを押さえ込む。それどころか、その抵抗すらあまりに生易しい。
汚物を無理矢理に喰わされるのだ。普通であれば、手足を振り回すか、掴む男の腕へ爪を立てているところだろう。
しかし鈴は、反射的に身体が起こす反応以外は見せない。それ以外を、明らかに強靭な意志で押さえ込んでいる。

「……やめろ…………やめろっ!!」
再び糞を詰め込まれる鈴を前に、正一は思わず叫んでいた。
「鈴、なぜだ!なぜ抵抗しない!そこまでやらされて、耐える理由などあるか!!
 さっきその男が言っていただろう、そいつらはお前を壊すつもりだ。耐えるな、逃げろ鈴っ!!!」
正一の叫びに、男達がうるさそうな視線を向ける。
そして、鈴も。男の掌で無理矢理に汚物を口へ詰められながら、瞳だけが正一を捉える。
虚ろな瞳で。
「あっはははは。正一、お前も残酷な男だねぇ。こんな場面を見られるのは、女の恥の恥さ。
 それに言っとくけど、もうそれ以上声を掛けるのはよしたほうが良いよ。
 鈴は今、本当にギリギリの所で理性を保ってるのさ。声を出すだけで滑落しかねない、極限の淵でね」
雪がさも可笑しそうに告げる。
正一は雪を睨み据えた。
「ぐっ……。ゆ、雪、貴様、何だこの状況は!何の為に、こんな事をしている!!」
「おや、解りきったことを。あたしはね、ただ鈴を貶めたいだけさ。この点に関しちゃ、裏も表もないよ。
 女として……いや人間として、一番されて嫌なことを考え抜いた末に、この糞責めに辿り着いただけさ」
鈴がそう語る最中、状況はさらに動く。
男達は口内が汚物で満たされた鈴の顎を掴み、強引に上下させる。
「おら。噛んで、噛んで噛んで、よぉく味わえや、『朱山楼』の一番娼妓さんよ。
 今日てめぇのひり出した糞の味は、どんなだ、えぇ?」
おぞましい言葉をかけながら、咀嚼を強要する男たち。
長くそうしているうちに、汚物は口内で唾液に溶け、音を立てて鈴の喉を降りていく。
そこまでに至って、なお、鈴は抵抗を見せない。
「何故だ、何故抵抗しないんだ、鈴っ!!」
正一は再び叫んだ。雪が一層おかしそうに嘲笑う。
「教えてやろうか、正一。無抵抗な理由はね、私に脅されてるからさ。
 この博徒崩れの調教師共がやることに、一つでも逆らったり抵抗したりするたび、
 『朱山楼』の遊女に同じ事をやらせるってねぇ。ま、本気なんだけどさ」
雪の言葉に、正一の顔が凍りつく。
「…………お前は…………本当に人か。人の仔か」
「ああ、人さ。少なくともこうして考えられたり、物を見て愉しいと感じられる限りはね。
 人でないのは、そうした事の出来ない人間……。
 ちょうどそこにいる娼妓あたりが、近いうちそうなりそうだねえ」
雪はそう言って高らかに笑い、鼻をつまみながら小屋を後にする。
「クソッ、放せ、放せっ!!」
正一は怒りにもがくが、妓夫達は巧妙に押さえ込んで自由にさせない。
「見物の時間は終わりだ。来い」
「あの鈴とかいう娼妓がぶっ壊れるまで、『金極園』の牢にでも入っててくれや。ま、そう長くねぇさ」
妓夫達はそう言いながら、無理矢理に正一を引き立てる。
「やめろっ!!鈴、鈴ーーーっ!!!」
正一は声を限りに叫びながら、自らの拾った娼妓の名を呼び続けた。
彼が廓へ導いた中で、もっとも美しく、気高い娘。
落とされた苦界の中でも、いつか必ず幸せになれるよう胸中で願っていた相手だ。


最後の最後。
視界に収めた彼女の瞳は、なお微かな光を宿していた。
それだけが正一の望みだった。
たとえ闇夜に揺れる鈴の音が如く、儚いものであったとしても……。




                      終
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