大樹のほとり

自作小説を掲載しているブログです。

女同士のいじめ

S女ゲーム

※レズ責めオンリーの短編です。

【S女ゲーム】
自称Sの女を2人用意します。
初週はサド女Aを女王役、サド女Bを奴隷役とし、一週間調教させます。
2週間目は役割を逆転させ、サド女Bにサド女Aを調教させます。
これを週替わりで繰り返し、最後までSだと主張できた方の勝ちとなります。




 世の中には様々な賭け事が存在するが、いま好事家の間で流行しているのは『S女ゲーム』と呼ばれるものだ。
 ゲームの内容は単純。Sを自称する女を2人用意し、サド女Aを女王役、サド女Bを奴隷役とし、丸1週間調教させる。2週目はその役割を逆転させ、サド女Bにサド女Aを調教させる。これを週替わりで繰り返し、最後まで「自分はSだ」と主張できた方の勝ちとなる。客は女が女を貶める地獄を愉しみながら、どちらが勝つかを賭けるわけだ。
 『S女ゲーム』専用に作られた施設では、時として陰湿に、時として凄惨に、何十という名勝負が繰り広げられてきた。真のSを自負する気の強い女が、同性に自尊心を削られ、屈辱に歯噛みし、疲弊し、ついには涙ながらに許しを請う。そのカタルシスは好事家を大いに喜ばせた。

 今回行われる一戦は特に注目度が高い。対戦する女二人が、いずれも『女王』の異名を持つためだ。
 倉橋 怜奈(くらはし れいな)、28歳。華の女子アナ界の頂点に君臨した女。美貌、知性、声質、アナウンス力──全てにおいて抜きんでた実力を持ち、女帝と噂されていた。しかし高慢な性格のせいで周囲の恨みを買い、小さなスキャンダルをきっかけとして業界を追放された。
 弘中 由美(ひろなか ゆみ)、19歳。実に小学生の頃から男を翻弄してきた、通称“パパ活の女王”。気のある素振りを見せて貢がせるだけ貢がせては捨てることを繰り返してきた結果、何人もの男から恨みを買っている。
 彼女達の共通点は2つ。自身の性格が問題で周囲の恨みを買っている点と、抜群にルックスが良い点だ。次戦の対戦者として2人の情報が公開された途端、客の間にどよめきが走った。何人もの女の痴態を見届け、肥えに肥えた彼らの目をもってしても、怜奈と由美の美貌はレベルが違ったからだ。
 怜奈は身長173cm、体重65kg、スリーサイズは102 - 61 - 90というトップモデル級のスタイルを誇る。容姿も女帝の二つ名に相応しい正統派な美人だ。肌は初雪のように白く、シミやくすみは全身どこを探しても見当たらない。柔らかな曲線を描く斜め前髪と、長く伸ばした自然なストレートヘアは、育ちの良さと清潔感を感じさせ、万人受けが求められる女子アナの模範ともいえる。
 由美は身長160cm、体重54kg、スリーサイズは86 - 57 - 86。怜奈に比べれば小柄ではあるものの、7.5頭身を誇る肉付きのいい肉体は並ならぬものだ。顔立ちの良さも相まって、少々露出の多い格好をすれば、どんな繁華街だろうと人一倍の目を惹いた。髪はオレンジベージュのセミショートで、今風の軽やかな愛らしさがある。
 共に逸材であることは間違いない。しかしゲームの勝敗予想は、圧倒的に怜奈が優勢だった。由美のオッズは実に5.0倍。原因は知名度の差だろう。お茶の間に愛嬌を振りまく中でも、節々に感じ取れた我の強さ。それは彼女が業界から干された原因であると同時に、『S女ゲーム』で勝ち残れる強い根拠でもある。ただし、予想はあくまでも予想。それが覆されたことは一度や二度ではない。極限状態へ追い込まれた時にどうなるのかは、追い込まれてみなければ解らないのだから。

 怜奈と由美は、引き合わされるなり火花を散らした。
「呆れるわ。日本人の誇りである黒髪を、わざわざ排泄物みたいな色に染めるなんて。“パパ活の女王”だか何だか知らないけれど、知性も品性もないのね、おまえ」
 腕を組んで尊大に見下ろす怜奈。
「はっ。こっちこそ、そんな地味な色で平気な神経がわかんないよ。平安時代ぐらいに帰れば、オバサン?」
 アーモンドアイを見開いて睨み上げる由美。
 狼と猫が毛を逆立てて睨み合うような光景に、観客席は沸きに沸く。そんな中、2人の間に黒服のスタッフが立ち、ゲームのルールの説明しはじめた。
【週替わりで女王役と奴隷役を繰り返し、最後までSだと主張できた方の勝ちとなる】
【四肢欠損や目潰し・刺青など、肉体の美観を過度に損なう責めは禁止とする】
 スタッフがそう説明する間も、2人は視線を逸らさない。しかし、
【奴隷役に口答えや反抗は許されない】
 この一文が読み上げられると、微かに眉が顰められた。
『自分以外の強者など認めない。他人に服従するなど度し難い』
 オーラでそう語る怜奈と由美の姿に、モニター前の客は生唾を呑む。この戦いが白熱したものになることを、皆が確信した瞬間だった。

           ※           ※

 くじ引きの結果、初週の女王役は怜奈となった。彼女が女王として最初に行ったのは、由美と向かい合ってテーブルに座り、焼き魚を持ってこさせることだ。
「さて。これからおまえと私、どちらが本当のSなのかを競うわけだけど……Sを名乗る人間に必要なのは、品格だと思うわ。主人を気取りながらも品性下劣では、滑稽でしかないもの。違うかしら?」
 怜奈はアナウンサー特有の理想的な笑みで問いかける。その姿は気品に満ちていた。品格という土俵において、この怜奈に勝る女性などそうはいないだろう。
「…………仰る通りです」
 不利な状況を悟りつつも、由美は肯定するしかない。【奴隷役に口応えや反抗は許されない】──先ほどそのルールを知らされたばかりだ。
「そうよね。だったら、まずはチェックしましょう。日本人女性として誇れる品格が、お互いに備わっているのかを」
 怜奈のその言葉を待っていたように、テーブルに2食分の料理が配膳される。白米、漬物、味噌汁、アジの開き。典型的な和食だ。
「えっ!」
 由美がぎくりと目を開く。献立を見た瞬間、怜奈の意図が読めた。日本食のマナーを試されているらしい。特に厄介なのがアジの開きだ。アジは骨と身が剥がれにくい部分も多く、箸だけで綺麗に食すには相応の技量が求められる。
「美味しそうでしょう? 奴隷には過ぎた食事だけれど、遠慮なく食べて構わないわ」
 怜奈は目を細めて由美に笑いかける。自分の優位を確信している様子だ。
「……はい。お恵みをありがとうございます」
 由美は表情を強張らせたまま、箸を手に取る。

「…………っ!」
 由美は、針の筵の心地だった。怜奈の作法は完璧だ。汁物の飲み方にしても、焼き魚の食べ方にしても、優雅そのもの。逆に由美はひどいものだ。迷い箸、洗い箸、ねぶり箸……箸の使い方ひとつでも様々なタブーを犯し、それを悉く怜奈に指摘される。特に差が顕著なのは、アジの開きの状態だった。綺麗に骨だけを剥がして完食しつつある怜奈に比べ、由美は食い散らかしたという風だ。
「おまえ、高校も出てる歳でしょう。だったらもう立派な大人よ。それなのに魚ひとつ綺麗に食べられないなんて、呆れて物も言えないわ。おまえなんかと同じ土俵で戦うのが馬鹿らしくなってきたのだけど……私の感覚は変かしら?」
「……申し訳ありません。マナーを学び直します……」
 反論の余地もなく肩を震わせる由美。それを見て怜奈はわざとらしく溜息をつく。事情を知らない人間が見ても、どちらが女王でどちらが奴隷か、一目でわかってしまうだろう。
 静かながら、あまりにも痛烈な洗礼だった。

 食事の終わった怜奈は、プレイルームのソファに深々と腰掛けて脚を組む。
「奴隷の分際で、いつまで偉そうに服を着ているつもり? 脱ぎなさい」
 冷ややかな視線でそう命じる様は、まさしく女王さながらだ。
「……!」
 由美は右腕をぎゅっと掴み、奥歯を軋ませる。しかし奴隷役である以上、女王の命に粛々と従うしかない。
「わ……わかり、ました……」
 諦めたように目を閉じ、深呼吸してから、シャツをたくし上げる。一枚また一枚と衣服が床に落ちるたび、怜奈よりいくぶん日焼けした、しかし瑞々しい肌が露わになる。
「ふうん。確かに男好きのしそうなカラダねぇ」
 丸裸となった由美を見て、怜奈が冷ややかな笑みを浮かべる。嫌味であることは子供ですら感じ取れるだろう。当然、由美も頬を引き攣らせる。そんな由美の反応を視界に捉えつつ、怜奈はまた口を開く。
「それじゃあ次は、そこでオナニーでもしてもらおうかしら」
「ッッ!!」
 声にならない声が由美から漏れる。くりりとした吊り目が見開かれ、今にも掴みかからんばかりに怜奈を捉える。しかし、その怒りも結局は呑み下すしかない。怜奈は芸能界に復帰するため、由美は諸々のトラブルを解消するため、『S女ゲーム』での勝利を義務付けられているからだ。
「売春婦の癖に、なにカマトトぶってるの? もっと脚を開きなさいよ!」
 脚を肩幅に開いた由美に、怜奈は容赦なく罵声を浴びせた。
「もっと、もっとよ。中途半端はやめなさい、このグズ!」
 要求はエスカレートし、ついにはがに股での自慰に至った時、モニター前の観客からは歓声が上がった。7.5頭身のスタイルを誇る美少女のあられもない姿が、男の欲求を強く満たしたのだ。
 しかし当然ながら、由美の時間でしかない。正面の怜奈を睨みながら、恥じらいの部分をひたすら指で刺激する。
「本当に覚えが悪い奴隷ねぇ。カマトトぶるなって言ったでしょう? もっと気を入れて慰めるのよ。脂ぎった“パパ”の姿でも思い浮かべながらね!」
 怜奈は蔑むように笑いながら命令を下す。由美はまた歯軋りの音をさせ、右手の指をより深く挿入し、左手で乳首を捏ねまわす。
「はぁ、はぁ……はぁ……はぁ……っ」
 由美の息が上がりはじめ、煌めく愛液が床へと滴っていく。にちゅにちゅ、ぐちゅぐちゅという攪拌の音がはっきりとマイクに拾われるようになり、やがては菱形を作る美脚がガクガクと震えはじめる。
「勝手にやめるんじゃないわよ」
 由美の限界を目前で見て取りながらも、怜奈は休むことを許さない。滴る愛液で由美の足元に水溜まりができても、太腿が痙攣を起こしても、何度も膝が崩れそうになるのを見ても、怜奈の可笑しそうな笑みが消えることはなかった。

「……飽きたわ。手をどけなさい」
 怜奈がそう言い放った瞬間、由美は安堵を表情を浮かべた。実に1時間半近くも中腰の姿勢を続け、限界が来ていたからだ。
 しかし、怜奈が口にしたのは赦しではなかった。彼女は立ち上がるやいなや、指の抜かれた由美の秘部を爪先で蹴り上げる。
「あぐっ!?」
 予想外の展開に、由美は呻きながら崩れ落ちる。男に対する睾丸蹴りほどではないにせよ、脂肪や筋肉に守られていない股間への蹴り込みはダメージが大きい。
「ぐ、ぅう……!!」
 由美は蹲ったまま股間を抑え、恨めしそうに怜奈を睨み上げる。しかし怜奈は、その視線をむしろ愉快そうに受け止めた。
「ちょっと、私も歩く床なのよ、爛れたヴァギナを密着させないでちょうだい。汚らわしい! 大体、誰が蹲ってもいいと言ったの? 早く立ちなさい!」
 吐き捨てるように告げ、由美が膝を震わせながら立ち上がるのを待ち受ける。そうして股座がちょうどいい打点に来たところで、再び爪先を叩き込む。パアアンッと音が響き渡るほどの、一切加減のない蹴りだ。
「ふぐぅうっ!!」
 由美は顔を歪ませて呻く。しかし、赦しがなければ崩れ落ちることもできない。頭の後ろで手を組んで姿勢を安定させ、足指で床を噛んで『備える』しかない。
「あははははっ、思ったより面白いわ! 股関節に支えられてるからかしら、結構弾力があるのね!」
 怜奈はケラケラと笑いながら蹴り込みつづける。足の甲が股座に吸い込まれるたび、由美の腹部が波打ち、Fカップの乳房が上下に弾んで、観客を大いに喜ばせる。
 そして、8度目の蹴りが叩き込まれた瞬間。
「……ゥあ゛ッ!!」
 悲痛な呻きと共に、由美の上体が崩れた。それとほぼ同時に、内股に閉じた脚の間から、チョロチョロとせせらぎが漏れていく。失禁だ。
「ちょっと、何を考えてるの!?」
 悲劇を引き起こした張本人は、心底嫌そうに眉を顰める。そして力なく崩れ落ちていく由美を見下ろしながら、ぼそりと言葉を投げかけた。内容はマイクには拾われていない。しかし、一度怜奈を睨み上げた由美が悔しそうに這いつくばり、床に舌を這わせはじめたことから、客の全員が理解した。

 ────女の責めってやつは、男より残酷だな。

 そんな声が調教フロアに響く。モニター越しに醜い争いを見守っている賭け客の呟きだ。
 残酷という表現通り、怜奈は小便の広がる床に仰向けで由美を寝かせ、フィストファックを仕掛けている。
「……ッ!! …………ッッ!!!」
 意地の為せる業か。ゴム手袋に包まれた手首を丸々性器に捻じ込まれてもなお、由美は悲鳴を上げなかった。しかし異様な形に強張った太腿や、バタバタと暴れる足先は、ともすれば絶叫以上に生々しく痛みを訴える。
「うふふ。解る? 今、おまえの子宮に触ってるわよ。どうしたの、痛いの? だったら言ってしまいなさい。『私はSなんかじゃありません。ただの勘違いした子供でした』って」
 苦しみ悶える由美を前に、怜奈は至福の笑みを浮かべながら腕を動かしつづける。前後に、上下に。手首の様子からして、膣の中で手を握ったり開いたりしているのも間違いない。
「ほぉら、いい加減意地を張るのはやめなさい。ココが二度と使い物にならなくなってもいいの?」
 怜奈の残虐性は人並み以上だ。何度となく問いかけながら、実に数時間に渡って由美の性器を蹂躙し続ける。由美は呻くのみで悲鳴を上げないが、やはり消耗は大きかった。
「ィ、息が……でぎな゛……っ」
 そう呻いてから十分と経たず、彼女は意識を失う。歯茎が半分覗くほど歯を噛み合わせ、唇の右端から泡まみれの唾液を伝わせる、壮絶な有り様で。
「あら、もうバテたの? っふふ、酷い顔」
 由美から力強さが失われ、反射で膝下が動くだけになった頃、怜奈は顔を上げてカメラの位置を確認した。そして手首を引き抜き、ぐっぱりと開ききった由美の秘裂と、ぬらぬらと液の纏わりついた手袋、そして由美の顔をまとめてカメラに映し込む。
「いい加減私も疲れたし、今日はここまでね。では、ごきげんよう」
 怜奈がアナウンサー時代を彷彿させる笑みを浮かべると、客席から拍手が巻き起こった。

 女王役と奴隷役。その待遇の差は、夜を過ごす場所にも表れる。
 女王役の休憩場所は豪華絢爛そのものだ。上質なソファやベッド、シャンデリアといった家具が並び、ワインセラーまで備わっている。そこで一夜を過ごせば、王侯貴族にでもなったような気分に浸れることだろう。
 逆に奴隷役の休憩場所は地下牢同然だ。ドアが閉まれば光は一切差し込まず、完全な暗闇と化す。刻一刻と空気が澱んでいく中、蟲やネズミの気配に怯えながら一夜を過ごせば、惨めな立場を嫌でも噛み締めることになる。
 そして客の楽しみは、その暗室に閉じ込められた奴隷の様子を赤外線カメラで眺めることだった。プレイルームでは対戦相手や監視カメラの存在で気を張っている奴隷も、暗室の中では素を曝け出すことが多い。すすり泣く者、母親や恋人の名を呟く者、恐慌状態に陥る者……。自称S女の凛とした顔写真と、そうした醜態を見比べれば、酒が格段に美味くなると評判だ。
 由美もまた、当然ながら暗視カメラ越しに視姦された。ただし彼女は気丈な部類だ。気絶から目覚めた後、周囲を見回しながら状況を把握すると、まだまだ地獄が続く現実にうんざりとした表情になる。そして膣の締まりを少しでも戻すためか、両脚をぴっちりと閉じ合わせたまま、両腕で顔を覆った。
「くそっ! あの女……あの、女ぁッ……!!」
 激しい凌辱を受けながらも、心はまだまだ折れていない。そのタフさに客の多くが意外そうな顔をする。オッズ比に反して、案外やるかも……そんな声の聞こえる夜だった。
 しかし、勝負の行方はまだ解らない。何度となく繰り返される1週間の、最初の1日を凌いだだけでは。

           ※           ※

「舐めなさい」
 2日目の朝。怜奈はソファに腰掛けたまま、脚を開いてそう命じた。
「…………わかりました」
 由美は意を決して怜奈の秘部に口をつける。しかし、同性の性器を口に含むのはハードルが高いものだ。ましてやそれが憎々しい相手となれば、どうしても嫌悪感が先に立つ。
「む゛っ、う゛! うぶっ!!」
「なに? 私のアソコを舐めるのがそんなに嫌だって言うの? 卑しい奴隷の癖に」
 由美が噎せるのを見逃さず、怜奈が嘲りの言葉を吐いた。
「……い、いえ……」
「だったら、もう少し美味しそうに舐めなさいよ。それから感謝の言葉もね」
「…………あ、あそこを舐めさせていただけて、う、嬉しいです……」
「ふん、なによそれ。『嬉しゅうございます』でしょう。敬語もまともに使えないの? まあいいわ、奉仕を続けなさい。丁寧にね」
 皮肉を混ぜて由美の心を掻き乱しつつ、ソファに深く身を沈める怜奈。由美はその足元で唇を噛み締め、大きく舌を出して上から下に秘裂を舐め上げる。
「あら、上手いじゃない。そうよ、その調子。私を満足させられたら、ウォシュレット代わりに飼ってあげてもいいわ。この私の大事な部分を清められるんだもの、おまえには身に余る光栄でしょう?」
 怜奈の皮肉は留まるところを知らない。そのあまりに自然な女王ぶりに、客の間で含み笑いが漏れる。しかし当然、奴隷役からすれば憎さ極まるというものだ。
「れろっ、あえろっ……。んふーっ、ふーっ、ふーっ……!」
 由美の息が荒くなっていく。少し舐めては鼻で息を整え、また少し舐めては息を整える。おそらくは吐き気を堪えるために。
「鼻息を抑えなさい。不愉快よ」
 怜奈がまたも横柄に告げた、その直後。
「う゛っ!」
 由美は小さく呻いて顔を離し、下を向いた。床にびちゃっと音が立つ。
「……おまえ、何をしてるの? この私のアソコを舐め清めるのが嫌だとでも言うつもり?」
 怜奈が尊大に叱りつけると、由美が顔を上げた。
「ハアッ、ハアッ、ハアッ……!!」
 口から涎の糸を垂らし、目に涙を溜めたまま怜奈を睨み上げる由美。流石に我慢の限界らしく、その瞳は敵意を隠せていない。そしてそれは、怜奈の期待する反応に違いなかった。
「生意気な眼ね。おまえみたいな理解の悪い奴隷には、お仕置きが必要だわ」
 怜奈は冷ややかにそう言い放ち、由美の髪を掴んで場所を変える。
 向かう先はSM専用のプレイルーム。床は汚れることを想定したタイル張りで、磔台や三角木馬といった道具も備えてある24畳の広間だ。
 怜奈はそこで、由美に見せつけながら“仕置き”の準備を進めた。金盥にぬるま湯を張り、グリセリン溶液を溶かし、500ml容量の浣腸器で吸い上げる。
 そう、“仕置き”は浣腸だ。簡便なイチジク浣腸が用意してあるにもかかわらず、あえて浣腸器とグリセリン液を用いるのは、由美に心理的なプレッシャーを与えるためだろう。事実、由美は表情を凍りつかせている。
「さあ、いくわよ」
 尻を掲げさせた由美の肛門へ浣腸器を宛がい、ゆっくりと液を注ぎ込む。
「くっ」
 我慢強い由美も、腸に液体が注ぎ込まれる違和感には声を殺しきれない。そんな由美の有様は、見守る観客を大いに興奮させた。なまじスタイルが抜群なだけに、這う格好で浣腸されるという背徳感が際立っている。辛抱堪らぬとばかりにズボンを下ろし、給仕を呼びつけて口を使いはじめる者もいた。そして面白そうにするのは、怜奈とて同じことだ。
「ほぉら、どんどんと入っていくわよ。お前のクソの穴に」
 囁くようにそう言いながら、引き抜いた浣腸器に薬液を充填し、再び注ぎ込む。何度も、何度も。
「く、ううっ……!」
「ふふ、苦しい? そうねぇ、お腹が膨れてきたものねぇ」
 他人事口調で語りかけながら、由美の下腹部を押さえつける怜奈。
「やっ、触んないで……!」
「触らないでください、でしょう?」
「くっ……さ、さわらないで、ください……ッ!!」
 敵意に塗れた会話が交わされる間にも、由美の腹部からはゴロゴロと不穏な音が響いている。早くも浣腸液の効果が出始めたらしい。
「ふ、ぐっ……! んっ、んんんっ……!」
「ふふふ、すごい脂汗ね。出したいの?」
「はっ、はっ……はい……」
「だったら、言うことがあるわよね? 『私はSなんかじゃありません。浣腸されてヒイヒイ善がるだけのメス豚です』……そんなところかしら」
「……ッ!!」
 言えるわけがない。怜奈もそう理解しているだろう。あくまで無理難題を吹っ掛け、由美を苦しめたいだけだ。
「そう、言わないの。もう少し入れないと、素直になれないかしら」
 怜奈は浣腸液を拾い上げ、金盥のグリセリン液を吸い上げる。それを察した由美が、青ざめた顔で振り返った。
「や、やめて! ……くださいっ!!」
 必死に叫ぶも、由美が嫌がることを怜奈が止めるはずもない。シリンダーの容量いっぱいに満たされた薬液が、キューッと音を立てて注ぎ込まれていく。
「ふふふ、そろそろ腸の限界みたいね。ピストンがなかなか動かないわ」
「くっ、う……!! も、もぉ、むりぃ゛……っ!!」
「だったら認めなさい、S女じゃないと」
「う、うぐううっ……!!」
 ぐぎゅるるるるる、と腹の音が鳴り、由美の腰がガクガクと痙攣しはじめる。
「ほら。我慢するならするで、お尻の穴を閉じてなさい。少し漏れてきてるわよ」
 怜奈は由美の苦しみぶりを嘲笑いながら、親指と人差し指で肛門を押し開く。そして、それが決定打となった。
「あ、ぁ、やだっ!! あああ゛あ゛だめへぇえええっ!!」
 喉に絡んだような叫び声と共に、勢いよく汚液が噴き出す。無理が祟って、排泄の音は濁りきっている。ぶりゅ、ぶりゅぶりゅというあられもない音が、立て続けに部屋の壁に反響する。
「ああ、臭い臭い! 何を食べたらこんな匂いになるのかしら。まあ、どうせジャンクフードばかり食べてるんでしょうけど」
 怜奈はわざとらしく鼻を摘みながら立ち上がり、由美に謗りを投げかける。
 由美は顔を伏せていた。その影の中に、光る雫がぽたぽたと滴っていた。強制排泄という汚辱は、少女の心を深く抉ったらしい。怜奈の狙い通りに。

           ※           ※

「美味しい?」
 3日目の昼。怜奈の呼びかけで、食器の『エサ』を犬食いしていた由美が顔を上げる。その美貌は下半分が異様に艶光り、客と怜奈の笑いを誘った。
「は、はい……」
「大トロみたいな味がするらしいけど、本当?」
「た、多分。でも、これって一体?」
 恐る恐る訊ねる由美に、怜奈はにっこりと笑みを向けた。だがその笑みが、由美の不安を掻き立てる。怜奈の笑みは不利益の前兆だ。
「バラムツっていう深海魚よ」
「バラムツ……?」
「ええ。濃厚な味で美味しいんだけど、その油脂成分はほとんどが「蝋」らしいの」
「ろ、蝋!?」
「ええ、そうよ。だから食べてから少し時間が経つと、消化されなかった油脂が肛門からそのまま漏れ出すらしいの。その噂が本当なのか知りたくて、ここのスタッフに用意させたのよ」
「なっ……! 実験したの、あたしの体で!?」
「そうよ。私の知識欲を満たす助けができたんだから、感謝なさい」
 さらりと言い放つ怜奈に、由美が目尻を吊り上げる。しかし、その怒りは長く続かない。それどころではなくなったからだ。
「あっ!?」
 由美がいきなり悲鳴を上げ、後ろを振り返る。それを見て怜奈も由美の後ろに回った。
「あら、お尻がテカテカしてるわ。もう脂がでてきたみたいね」
「え、う、嘘っ! だって、何か出そうな感じは全然……!」
「バラムツの脂が出る時って、便意は一切なくて、そのまま垂れ流しになるそうよ。それも本当のようね。まああまり撒き散らされても困るから、栓をしてあげるわ」
 怜奈は可笑しそうに笑いながら、棚のゴムパンツを拾い上げて装着する。女が女を責めるための、ディルドー付きの下着……ペニスバンドだ。
「な、なにそれ……!」
 振り返った由美の顔から血の気が引く。無理もない。ディルドーは白人並みのサイズを誇り、棘状の凹凸が幹の部分をびっしりと覆ってさえいる。アナルセックス中級者ですら、受け入れるには下準備を必要とする代物。怜奈がそれを装着した時点で、ハードプレイを見慣れた客達がざわめき立ったほどだ。
 もっとも、そのざわめきは期待の顕れかもしれない。同じプレイでも、される人間の質によってインパクトの強さは変わる。
「やめて!!」
 悲痛な叫びも虚しく、拷問具のようなディルドーが桜色の肛門を割りひらく。未熟なアナルには大きすぎる直径。様々な箇所に引っかかる山型の突起。挿入困難な条件が揃っている筈なのに、有り得ないほどスムーズに滑り込んでしまう。腸内がバラムツのワックスで塗装されているせいだ。
「くあああああっ!!!!」
 ミチミチと肛門を押し広げる圧迫感に、さしもの由美も悲鳴を殺せない。
「ほぅら、どう? 気持ちいいでしょう?」
 怜奈は酷薄な笑みを浮かべながら、リズミカルに腰を前後させる。腰を引く時には、ピンク色の菊輪が追いすがるように盛り上がる。
「ッ! フーッ、フーッ……!!」
 由美は歯を食いしばって耐えていた。しかしそれもギリギリだ。ディルドーが太すぎて括約筋が引き攣り、骨盤が軋む。抜かれる時は腸を丸ごと引きずりだされるようだ。それをスムーズに繰り返されれば、苦痛と恐怖で頭が塗りつぶされてしまう。
「まったく、ありがとうが言えない奴隷ねぇ」
 怜奈は由美の強情さを鼻で笑うと、その右手を掴んで身を起こさせた。這う格好から、上体を起こす体位に。
「ひっ、ぐ!」
 立ちバックで突き入れられた瞬間、由美からついに声が漏れる。手は縋るように正面の壁を掴み、めいっぱいに強張る。
「脂がどんどん漏れてるわよ、締まりの悪いお尻ね。まあ、オツムも緩いんだからしょうがないのかしら」
 怜奈はそう囁きつつ、腰を打ち付けるペースを速めていく。パンパンという肉のぶつかる音は、極太が根元まで入り込んでいる証拠だ。
「あ、だ、だめぇっ! そんな、激しっ……んぎぃいいいっ!!」
 伸びやかな由美の脚がガクガクと痙攣しはじめた。結合部から滴り落ちる脂が、床の上に白く広がっていく。
「バラムツの脂って本当にさらさらとしてるのね。潤滑油としては最高なんじゃないかしら」
 怜奈はあえて呑気な事を口にしつつ、尻を鷲掴みにして腰を打ち付ける。
「あぐっ! こ、壊れるうっ!! いや、いやああっ!!」
 片や由美は半狂乱だ。肛門の痛みやヒリつきはいよいよ酷く、抜き差しのたびに脂が漏れていく。読者モデルの友人をして理想的といわれた脚は、今やすっかり脂でコーティングされてしまっている。まさに恥辱の極みだ。
「このアナルセックスの感覚をよーく覚えるのよ。おまえみたいに浅ましい女なら、きっとハマれるわ」
 怜奈は言葉責めを交えつつラストスパートに入った。パンパンパンパンと肉のぶつかる音が立て続けに響く。
「いひぎぃいっ、んううあああっ!! ああ、あっ、わあああああーーーっ!!」
 苦しげな悲鳴が、最後を告げる合図だった。肛門から脂が流れ出し、内股になった脚が崩れ落ちる。
「アハハハッ! なぁに、もしかして絶頂したの? お尻を掘られて、脂をブリブリひり出しながら!? 傑作じゃない。お客さんにも見てもらいなさいよ、そのだらしない顔を!」
 怜奈は可笑しそうに笑いつつ、由美の前髪を掴み上げてカメラの方を向かせた。
「う、あ……ああ……」
 由美は心身共に疲弊していた。モニターの向こうで何十人という人間に見られているのだと知りながら、表情筋を引き締めることすらできないほどに。

           ※           ※

 怜奈の責めは、陰湿なプレイを見慣れた客さえ満足するほどに意地が悪い。
 4日目は、終日浣腸責めが繰り返された。
 酢とタバスコを混ぜた溶液を注入し、脂汗を垂らして苦悶する姿を嘲笑う。逆さ吊りで拘束したまま、腹が膨らむほど高圧浣腸を施し、カメラの前で排泄させもした。真上に噴き出した汚物は容赦なく由美自身の肉体に降り注いだが、由美はそんな状況でも、涙ながらに感謝の言葉を口にさせられた。
 前後の穴の拡張も執拗に行われた。脚をVの字に開く形で拘束し、手首もその足首に結わえつける。そうして自由を奪った上で、ワゴンからおぞましい形状の拡張器具を手にとっては、見せつけながら使用する。
「くっ……お、お願いします……!!」
 心の底から悔しそうに由美が告げると、メイスを想起させる責め具にたっぷりとローションが垂らしかけられ、肛門へと押し当てられる。そして由美がゴクリと喉を鳴らした直後、責め具の先はメリメリと中に押し入っていく。
「ふッぐううううッッ!!!」
 経験に比して、あまりに無理のあるサイズの異物。それを力任せに捻じ込まれれば、とても涼しい顔ではいられない。由美の顔には皺が寄り、足首は拘束する鎖を鳴らし、膝裏は深く溝を刻む。
 その苦しみぶりを視界に捉えながらも、怜奈が情けをかけることは一切なかった。責め具の柄を強く握りしめたまま、奥の奥まで押し込み、引きずり出し、また押し込む。その過程で由美が涙を流したり、失禁したり、あるいは引き抜いた責め具に汚物が付着していたならば、それを鬼の首でも取ったように詰り倒す。
 責め続けて肛門での反応が悪くなれば、前の穴が標的になった。締まりを戻そうとする由美の努力を嘲笑うように、膣に握り拳を捩り込む。
 いかに相手の心を折るかという勝負をしているのだ。情けをかけないのは当然だ。実際に怜奈は、由美が弱ったと見れば服従を迫り、決着をつけようとしている。だが悪女のような笑みを浮かべるその姿は、責め嬲ることを愉しんでいるようにも見えた。
 ただ、勝負を見守る観客からすればどちらでも構わない。大事なのは、女が女を貶める地獄がそこにあることだ。由美の愛くるしい相貌が歪むたび、呻きが上がるたび、Vの字に開いた脚が強張るたび、都度歓声が上がった。

 ──脚がスラーッと長ぇと、拘束が絵になるもんだな!
 ──ああ、たまんねぇよ。だんだんレイプされてるように見えてきたぜ。
 ──確かにな。だとするとアナルレイプだぜ? あんな可愛いのがよぉ。

 興奮で上ずった声がスピーカーから漏れ、由美の顔を歪ませる。そしてそれは、7日目の深夜……怜奈の女王役が終わるまで続いた。
 由美は耐えきったのだ。浣腸責めと拡張を繰り返され、何度となく涙を流し、気絶と覚醒を繰り返しながらも、服従せよという圧力にはついに屈しなかった。

「改めて確認します。弘中 由美さん……貴女は、ご自身が『Sである』と思いますか?」
 黒服のスタッフが、由美にマイクを向ける。
 由美は無惨な姿だった。皮脂まみれの髪はライオンの鬣のように乱れ、肌は随所が灰色に薄汚れている。頬は平手打ちで赤く腫れあがり、左右の乳首にはクリップの食い込んだ跡がありありと残り、両脚には乾いた排泄物がこびりついている。閉じきらない二穴からは、歩くたびに体液が滴り落ちる。
 どれだけ容赦なく責められたのかが、その様子だけで見て取れた。それでも由美は、真っ直ぐにカメラを見据える。
「あたしは、『S』よ!」
 はっきりとその宣言がなされた瞬間、睨みつけていた怜奈が目元をひくつかせる。この瞬間、彼女の未来が決まったのだ。1日の休憩を挟んだ後、対戦者2人の運命は逆転する。由美が『女王役』、そして怜奈が『奴隷役』。女王役として苛烈に責めていればいるほど、そのしっぺ返しも大きくなる。それがこのゲームの醍醐味だ。
 女王役を失った女性は、奴隷に堕ちるプレッシャーに耐えられないケースが多い。ゲームの中止を訴える者もいれば、神に祈る者もいた。ヒステリックに泣き喚く者もいたし、開き直って高級ワインを飲み漁る者もいた。それに比べれば、怜奈は落ち着いたものだ。女王役の休憩室で豪奢なソファに腰掛けたまま、優雅に脚を組んで本を読み耽る。その様はまさしく女王そのものだ。

 ──うわぁ、余裕で寛いでる。あの図太さ、過去最強じゃない? 
 ──流石にモノが違うな、女帝サマは。
 ──やっぱ勝つのはこっちだろ。ガキにこの女の心折るのは無理だって。

 客は改めて怜奈の特別さを実感する。しかし同時に彼らは、奴隷役となった怜奈の姿を心待ちにしていた。音を上げるかどうかはともかく、責めを受ければその美貌が歪むのは避けられない。才媛の象徴たる女子アナの中でも、頂点に君臨する逸材──その苦悶する姿を、客の誰もが心待ちにしていた。


           ※           ※


「……ちょっと。今はあたしが『女王』なんだけど」
 ソファで脚を組む怜奈に、由美が呆れたような溜息を漏らす。
「ええ、存じておりますわ“女王様”」
「だったら服ぐらい脱ぎなよ!」
「仰せのままに」
 苛立ちを露わにする由美とは対照的に、怜奈は優雅に立ち上がって服を脱ぎはじめた。洗練させた所作で行われる脱衣は、色気よりも美しさが先に立つ。
「これで、よろしゅうございますか?」
 露わになった裸体もまた、芸術品さながらだ。
 由美のスタイルの上を行く8頭身、そして肌は初雪のような白さだ。それらはどう見ても日本人的ではなく、白人の基準においても最上位であり、もはや創作におけるエルフのようでさえある。怜奈は由美の身体を『男好きのする』と例えたが、怜奈にその言葉は返せまい。神々しいその美貌を前にして、気安く声を掛けられる男などまず存在しないだろうから。
「ホント、生意気……!」
 由美は眉を吊り上げながら、浣腸器を拾い上げる。すると怜奈がくすりと笑った。
「何!?」
「いえ。それを真っ先に選ばれるなんて、よほどお辛かったのだろうと思いまして」
「なっ!!」
 怜奈の返しで、由美の頬が赤く染まる。図星だった。報復の手段として選ぶということは、その責めが効いたと自白しているに等しい。
 由美は苦々しい顔で浣腸器を置き、しばし考え込む。
「長考も程々になさいませんと。7日間というのは、存外短いものですよ」
 怜奈はさらに言葉を重ね、由美の思考を乱しにかかる。しかし『7日間』というワードが、逆に良いヒントとなった。地獄の1週間の記憶を辿っていた由美が、ふと唇の端を吊り上げる。
「そうだ。あんた、アソコ舐められるのが好きなんだよね?」
 2日目の朝、由美の秘部を舐めさせられた時の記憶だ。怜奈の眉がわずかに動く。
「……嫌いではありません」
「だったら、たっぷり気持ちよくしたげるよ。ちょうどいいのがあるからさ」
 由美はそう言って、怜奈を連れて部屋を移動する。向かう先は拷問部屋。床も壁も全てが石造り、他の部屋と比べても別格の威圧感がある。由美はその部屋のカメラを探し、その正面の椅子に怜奈を拘束した。腰掛けるのではなく、胡坐を掻くような格好……つまり、足指と足裏がカメラに写り込むように。
「妙な格好をさせるんですね、女王様。いつもこんな風にお座りなのですか?」
 怜奈が嘲るように問うと、由美も冷ややかな笑みを浮かべる。少し余裕が出てきたようだ。
「まさか。わざとに決まってんじゃん。あんたに前と後ろの穴グチャグチャにされてる時、思い知ったんだよ。足の指は嘘つけないなーって。痛かったりくすぐったかったりすると、どうしても動いちゃうもん。その足をお客さんにも見てもらおうと思ってさ」
「…………。」
 怜奈は内心、冷や汗を垂らす。由美の考察は的を得ている。今この瞬間にフィストファックを受けたとしても、怜奈は声を漏らさない。無表情をキープする自信もある。しかし、足指の不随意運動を殺しきる自信はない。
 それでもなお、動揺を顔には出さなかった。女子アナ界は生き馬の目を抜く勝負の世界だ。少しの隙が命取りになる。仮にもその世界で生きていた人間として、小娘如きに弱みは見せられない。
 ゆえに怜奈は、涼しい顔を貫いた。正面にハケのついた水車が設置された時も。スイッチの入った水車がゆっくりと回りはじめ、ハケが絶妙な強さで割れ目を擦りはじめても。
「ハケ水車の味はどう?」
「ふふっ……気持ちようございます」
 由美の問いかけにも、余裕の笑みで答えてみせる。
「そ、じゃあたっぷり楽しんで」
 由美はそう言って笑みを浮かべると、近くの椅子に腰を下ろした。

 刺激は決して強くない。ハケの先はきめ細やかで、痛みなど一切生じない。ほんの微かにくすぐったさを覚える程度だ。しかしその刺激が断続的に、途切れることなく続くのが厄介だった。
 少しずつ、少しずつ、快感が溜まっていく。その影響を最初に受けたのは、人体で最も敏感な器官であるクリトリスだ。陰核亀頭の中に芯ができ、膨らみ、勃起し、包皮からまろびでる。それをはっきりと感じながらも、怜奈は何もできずにいた。たとえ手足が自由であったとしても、ハケを押しのけることはできない。それは責めに屈するということだ。
「あーあ、クリちゃん勃っちゃった」
 横から由美の声がする。由美は拘束椅子の肘掛けに頬杖をつき、面白そうに怜奈を観察している。
「気持ちが良いと申しましたでしょう。当然の生理反応だと思いますが」
「は? 別にあたし、それが悪いなんて言ってないんだけど? なに必死に言い訳してんの、ウケる!」
「……っ!」
 落ち着きを取り戻した由美は、口も達者になっていた。怜奈はひとつ息を吐き、じっと目を閉じる。
 心頭滅却すれば火もまた涼し、という。しかし心をどう持とうと、身が焼ける事実が無くなるわけではない。
 割れ目が蜜を吐きはじめた。ハケが次々とその愛液をなぞり取り、一周して今度は塗りつけてくる。液体の染みたハケの刺激はわずかに重く、粘膜のひとつ下の層にまで快感を塗りこめてくる。
 そして勿論その状況は、水車が回るほどに悪化した。ふと気づけばハケの重みは、人間の舌さながらになっていた。極上のクンニリングス。愛撫の極意は反復にあるという。下手に変化をつけて気を散らすことなく、同じ動作を正確に繰り返すことが、絶頂への最短距離であると。その意味では、機械ゆえに寸分違わぬ反復を為し得るこの水車は、最高にして最悪のパートナーといえる。
「…ッ!」
 ビクンッ、と怜奈の右膝が跳ねた。そしてそれを由美は見逃さない。
「あはっ、本気で感じてきたみたいね」
 由美は椅子から降りて怜奈の背後に回りこむ。
「ええ、気持ち良うございますから」
「そうだよねー、気持ちいいんだから当然の反応だよね。でも思ったんだけどさ。それって、普通の人間のハナシじゃない? このカメラの映像、何十人って人が見てるんでしょ? その前で股おっぴろげてさ、オモチャ相手にオマンコとろとろに濡らしてるって……それで『S』だって胸張って言えるかなぁ?」
「……ッ!!」
 由美に囁かれ、怜奈は息を呑んだ。呑んでしまった。薄々感じつつも無視していた事実を突きつけられたからだ。
「私がSかどうかと、この状況は関係ないわ!」
「ふーん、そう。ところでさあ、敬語忘れてるよ?」
 由美はライバルの失態を嗤いつつ、万歳の恰好で拘束された怜奈の腋を撫でる。
 ふっ、と笑いが漏れた。
「腋の下ヌルヌルだよ。ちょっと匂うしさ。もしかしてだけど、あんたワキガ? それとも加齢臭かな?」
「……っご冗談を」
 畳みかけるような精神攻撃に、怜奈が唇を噛む。僅かだが瞳も泳いだ。よりにもよってワキガなどと、とんでもないことを言い出したものだ。雑な言いがかりでしかないが、この場にいない客の中には信じてしまう者がいるかもしれない。そんな事は女子アナとしてのプライドが許さなかった。
 しかし、どのみち客席はすでに興奮のるつぼと化している。

 ──すげぇな、マン汁が飛び散ってやがる。
 ──人形みてえな見た目してるくせに、ちゃんと濡れるのは濡れるんだな。
 ──おまけに見ろよ、マンコがパクパク喘いでやがるぜ。
 ──よっぽど気持ちいいんだろうなあ。金髪のガキが言ってたように、足の指もピクピク動いてっしよ。

 接写された秘裂に野次が飛ぶ。怜奈は由美のように露骨に顔を歪ませはしない。しかしよく観察すれば、その眉根に強いストレスが見て取れた。
「すごい音してるね。にちゃあっ、にちゃあって。オマンコの汁が粘ついてるのかな。性病なんじゃない、あんた?」
「く……っ!」
 カメラを意識した由美の暴言で、怜奈の頬が引き攣る。効果的な責め口だった。人一倍プライドの高い女だけに、イメージの低下が何より耐え難い。特にワキガだの性病だのという風評被害は、女の最も恥となるところだ。
「ふぁあ……なんか眠くなっちゃった。その機械自動運転にしとくから、勝手に楽しんでね。眠かったら寝てもいいよ、許可したげる。じゃあねー、ワキガ性病の女帝さま!」
 由美は欠伸交じりにそう告げると、電気を消して拷問部屋の扉を閉じる。部屋は闇に包まれた。この暗さではカメラにも映るまいと判断し、怜奈は大きく息を吐く。しかし当然、拷問部屋でも暗視カメラは作動している。
「はあ…………はあ…………はあ……はあ……っ」
 部屋に響くのは、水車の回る音と荒い呼吸音のみ。水車のペースは完全に一定だが、呼吸は次第に早く、荒くなっていく。そしてその果てに、怜奈の両の足指が握り込まれた。
「…………ぃくっ…………!」
 小さな声が漏れ、暗がりに吸い込まれていく。モニターを見守っていた客は騒ぎ立てるが、怜奈はそんな事を知る由もない。
 彼女はまた無に包まれた。いや、一つだけ別の存在がある。極上のクンニリングスを絶えず繰り返す、無骨な恋人。視界が閉ざされた今、それのもたらす刺激だけが怜奈のすべてだ。
 分厚い“舌”が、割れ目を丁寧に舐め上げる。すっかり肥大化した陰核も優しく持ち上げ、弾く。秘裂はその刺激に歓喜し、パクパクと喘ぎながら悦びの涙を垂れ流す。
 水車が自動運転になってからは、別の要素も加わった。ハケが休まず回転する中、時々何かの液体が秘裂に浴びせかけられる。最初はどうということもないが、時間が経つとむず痒さが生まれ、ついには異常なほど敏感になる。陰唇が丸ごとクリトリスになったようにだ。そこへハケが襲い掛かると、もう耐えられる道理がない。
「…………あィクっ…………いっくっ……!」
 怜奈の膝が何度も跳ね、呻くような声が吐き出される。そしてその反応は、徐々に激しくなっていく。
「ああああイグっっ!!!!」
 最初に声が漏れてから23分後、ついに明瞭な叫びが響き渡った。声が壮絶ならば、肉体の反応も壮絶だ。太腿の肉が隆起し、その中央から飛沫が飛び散る。上体は反り返り、首は天井を仰ぎ、信じられないとばかりに目を見開く。
 実際それは、初めての経験だった。初心な生娘というわけではない。主に利用するため、何人もの男と一夜を共にしてきたし、セックス経験はむしろ豊富な方だ。しかし、失禁を伴うほど深い絶頂は経験がない。ましてやそれが、挿入によるものではなく、前戯であるクンニリングスで齎されるとは。

 ──ひひひひっ、あの澄まし顔の女帝がエビ反りイキだぜ!
 ──マンコ擦り上げられただけでマジイキとは、大した変態ぶりだな!
 ──暗視カメラじゃよく見えねぇが、潮も噴いてんじゃねぇかアレ!?

 観客達は怜奈の痴態を面白がり、膝を叩いて笑い転げる。一方、見世物になっている怜奈は依然として地獄の最中だ。
「んあ゛っ、あひィ゛!! ま、またっ、いく……ッ!!」
 怜奈は歯を食いしばり、悔しげに呻く。気力で立て直しを図っているが、甘い絶頂が止まらない。むしろ力めば力むほど、快感の沼に深く沈んでしまう。
 ぷしゅっ、とまた潮が噴き出した。怜奈は顔を引き攣らせ、なんとか腰を浮かせようとする。しかし、それが叶ったのも数秒だけだ。すぐに腰が落ち、ハケにより強く割れ目を押し付ける形となる。
「ンおオオ゛ッ!? あひいっ、ひいいっ!! もう駄目っ、止まって! お願い止まってっ!!」
 あられもない声で絶頂し、悶絶し、水車に向けて哀願する。機械に哀願が通じると思うほど愚かな女性ではない。しかし、その判断すらつかなくなるほど余裕がないのだ。

 暗闇の中、絶頂と哀願は夜を徹して続いた。
「おはよー。気分はどう?」
 由美が明るい口調で部屋の電気を点けると、惨状が白日の下に晒される。
 新雪のようだった肌ははっきりと紅潮し、汗で濡れ光っている。
 乳首は独りでに屹立し、乳輪までもがふっくらと厚みを持っている。
 相も変わらずのペースでハケが秘裂を舐め上げれば、太腿が跳ね上がり、上体が傾いで乳房が踊り、足裏が蠢き、足指が空を掻きむしる。透明な雫が宙に撒き散らされるのも視認できる。
 水車の絶え間のない刺激で、都度絶頂させられているのは明らかだ。
「お陰様で、素敵な夜になりましたわ」
 アナウンサーの矜持として、せめて綺麗に笑ってみせる怜奈。だが、手で拭うことの叶わないその顔は、涙と鼻水、そして首までを覆わんばかりの涎で無惨に汚れている。
 由美はその姿を面白そうに観察しつつ、ゆっくりと近づいた。手にはミネラルウォーターのボトルと丸めた新聞紙を握っている。
「すっごい匂い」
 鼻をひくつかせ、あえて抽象的な言葉を吐きかける。その意図を怜奈は理解していた。噎せかえるような汗と愛液の匂い。一晩濃密なセックスをした後のそれが、体中から立ち上っているのだ。
「ふーっ。なんか蒸し暑いねー、この部屋。湯気出そうな女もいるし」
 由美はそう言って水のボトルを開封し、怜奈に見せつけるように、ごきゅっ、ごきゅっ、と喉を鳴らす。
「……っ!」
 怜奈は忌々しげに唇を噛んだ。一晩かけて汗と愛液を搾り取られ、床にはプールさながらの水溜まりができている。脱水症状寸前だ。その状態でこのパフォーマンスは、かなりつらい。
「ぷはぁっ、おいしーい! ん、なぁに? もしかして欲しいの?」
「……いえ」
「あっそ」
 怜奈の意地を嘲笑うように、由美がまた水を飲む。ごきゅっ、ごきゅっ、という音に惹かれ、怜奈の喉も無意識に鳴る。
「あはは、やっぱ欲しいんじゃん。正直にそう言えばいいのに」
 由美はしてやったりという笑みを浮かべ、水を口に含んで怜奈の唇を奪う。
「っ!!」
 客席を沸かすレズキス。それは怜奈の矜持を強く傷つけた。遥か下の存在である“パパ活娘”ごときと唇を合わせるのが、そもそも不快の極み。ましてやキスの主導権まで奪われ、強制的に唾液交換をさせられるのだ。
 由美の唾液の混じった液体が喉を下る瞬間、頭上の拳が固く握り込まれる。
「ぷはっ。どう、美味しい?」
「………………美味しゅうございました」
 問いに答えるまでの間が、彼女の屈辱を如実に表している。
 効果的と見れば、その責めを続けるのが勝負の鉄則だ。由美はカメラに見せつけながら何度もキスを強い、膨らんだ乳輪と屹立した乳首を執拗に愛撫する。それが快感を飽和させたのか、あるいは単に水分補給の結果か。怜奈の腰が突如跳ね上がり、尿が水車に浴びせかかった。放尿は次第に勢いを増し、放物線を描きながら、ついには水車の上にアーチを描く。
「ンンンンンンーーーーーーッッッ!!!!!」
 漏れた呻きは悲痛だった。どうしようもない絶頂の喘ぎが、由美の口に阻まれて殺されている……それが明白だ。
 長い呻きが尻すぼみで終わり、ようやく口が解放された時、怜奈の視線は呆然と宙に投げ出されていた。すぐに我に返り、理知的な表情を取り戻したのは流石だが、その一瞬の亡失はしっかりと由美に悟られている。
「ボーッとしちゃって、気持ちよかったの?」
「…………はい、大変心地良うございます」
「ふーん。クールぶってるくせに変態なんだ。ムッツリってやつ?」
 由美は嘲り笑いつつ、丸めた新聞紙を広げはじめた。
「ところでさ、これ今日の新聞なんだけど。せっかくだしあんた読んでよ。元女子アナなんでしょ」
 その言葉で、怜奈の目つきが僅かに鋭くなる。女子アナとしての仕事は彼女にとっての聖域だ。こんな悪趣味なゲームに参加しているのも、全てはその座に返り咲きたいがため。それを冒涜するような行為は許しがたい。
「この状態で読め、と仰せですか?」
「当たり前じゃん」
 怜奈の逆鱗に触れていることを理解しつつも、由美はあえて強要する。
「…………承知しました」
 怜奈は能面のような無表情を作り、由美の構える新聞記事に目を通す。
「台風第6号は、15日10時には……っ石垣島の北約160キロにあり、1時間に……あっ、およそ10キロの速さで、北へ進んでいます」
 アナウンサー時代を思い出して胸を張り、記事を読み上げていく怜奈。しかし、ままならない。回転するハケが割れ目と陰核を舐め上げるたび、声が震える。時には嬌声が読み上げに混じりもする。
「ちょっと、『あっ』なんて書いてないんだけど。ちゃんと読みなよ、アナウンサーでしょ?」
「……失礼いたしました」
 由美の茶化しに、怜奈の顔が珍しく怒りを表す。しかしその表情を一瞬で戻し、再び記事に視線を戻すのは、彼女なりの意地か。
「中心の気圧は……っ、955ヘクトパスカル、中心付近の……んっ、最大風速は40メート……ルっ、最大瞬間風速は60メート、ルで……」
 真っ当にやろうと姿勢を正すほど、ハケの刺激を直に受けてしまう。太腿がぶるぶると震え、呼吸も乱れていく。
 そして、ついに限界は来た。
「中心から、は、半径130キロ以内ではァ……っ、ふっ、ふ、ふっ……風しょく……25メートル以上のっ、ぼっ、暴ふぅ、ふうう…………ぅンンンッッ!!!」
 悲痛な叫びと共に、膨らんだ太腿が病的に震え、割れ目から飛沫が噴き上がる。一度ではなく、びゅーっ、びゅーっ、と数度に分けて撒き散らされていく。同時に怜奈の顔は天を仰ぎ、足指は10本すべてが別の方向に突っ張った。その様を見れば、彼女が強靭な意思で無理を抑えこんでいたのが伺える。ドキュメンタリー番組であれば、賞賛されて然るべきプロ意識だ。しかしこの場では、その必死さは笑いの種にしかならない。

 ──ひーーひっ、ハラ痛てぇ! ぼうふううん~だってよ!
 ──あっひゃひゃひゃっ! やめろ、笑かすなって!!

 モニター前の観客たちは笑いすぎで息もできない状態だ。クールな怜奈の醜態がおかしくて堪らないらしい。
「あっはははははっ、ホント笑える! マジ面白いじゃんあんた。アナウンサーじゃなくて芸人になれば?」
 嫌味を交えつつ、由美は怜奈の拘束を解きはじめた。そして膝の笑う怜奈にがに股を強制し、本来10㎝以上背の高い彼女を“下”に置いたまま、秘所に指を宛がう。
「すごい、ヌルヌルじゃん。何遍イッたの、あんなオモチャ相手に?」
「……恐れながら、数えておりません」
「ふーん、数えきれないレベルかあ。でもあのハケじゃ、表面撫でるだけだから物足りなかったでしょ。こんな風に、中まで欲しかったんじゃない?」
「ッ!!」
 中指と薬指が膣内に入り込めば、怜奈がびくりと反応する。当然それは由美の失笑を買った。
「ふふ。すごい、トロトロのグッチョグチョ。なるほどね。こんなになってたら、ニュース読み上げるよりイクほうを優先しちゃうよねー。アナウンサーとしてはどうかと思うけど……あ、でもあんた、今はアナじゃないんだもんね。女子アナじゃなくてバカ穴かあ」
 由美は詰りつつ、二本指の腹で膣壁を探る。目当てのGスポットはすぐに見つかった。怜奈の反応が、まさにそこだと教えてくるからだ。
「ふ、くッ……!!」
 怜奈は唇を噛み締める。
 無反応を貫けない。一晩かけて陰唇と陰核を優しく刺激されつづけた結果、陰核の付け根……陰核脚がたっぷりと快感を吸って温まっている。そこをGスポット越しに刺激されるのだから、堪らない。痺れるような、とろけるような刺激が太腿にまで伝播していく。意思とは無関係に腰が動く。
「ふふ、腰ヒクヒクしてる。指マンが気持ちいいの、バカ穴オバサン?」
「………………はい。気持ち良うございます」
「へーえ、そっかぁ。あたしならこんな状況、恥ずかしすぎて感じるどころじゃないけどなあ」
「……ッ!!!」
 由美は言葉で追い詰めつつ、Gスポットを撫でる。優しく、しかし指先がめり込むほどの圧をかけて。それが最も効く方法だと知っているからだ。
「ンん!」
 怜奈の唇が噛み締められ、下腹がブルブルッと痙攣する。それを見て由美は笑い、なぜか指を引き抜いた。すると、その直後。怜奈の開いた脚の間から、じょろじょろと尿があふれ出す。
「あーあ、漏らしちゃった」
 呆れたように溜息をつく由美。だが当然、これは彼女の予見した結果だ。
「……申し訳ございません」
 怜奈は無表情に前を見つめているが、その意識は明らかに斜め前のカメラに向いていた。この惨めな光景が、不特定多数の男にどれだけ嗤われていることだろう。そう思うだけでプライドが軋みを上げる。

 由美はその後も執拗に指責めを繰り返した。
「もっと腰落として、脚開きなよ。次、その生っ白い脚が菱形じゃなくなったら、お仕置きだからね!」
 がに股のポーズを強いたまま、同性ゆえの的確な刺激で、何度となく潮噴きや失禁を誘発する。
「……んッ……! ……ふッッ……!!」
 怜奈は随分とよく耐えた。そのコンディションからは考えられないほど長く。しかしその精神力をもってしても、肉体の限界サインは無視できない。
「ッくうゥんッッ!!」
 怜奈は切なく呻きながら、内股に脚を閉じた。巧みに動く由美の手を挟み込むように。
「……何やってんの?」
「はっ、ハァッ、ハァッ、ハァッ……!!」
 由美に非難されても、怜奈には答える余裕すらない。快感と疲労で呼吸は乱れ、立っているのもやっとの状態だ。
「まったく、ナメてるね。これは約束通りお仕置きかな」
 由美はそう言って背を向け、何かを手に取って振り返る。手にしたものは、電気マッサージ器。それも家庭用の物よりいくぶん大きい。
「う……ッ!!」
 怜奈の顔が青ざめる。聡明なだけに、今の状態でそれを受けるとどうなるか、正確にシミュレートしてしまったのだろう。
 由美が近づくと、怜奈は太腿を擦り合わせて拒絶の意思を示す。しかし、それは『奴隷役』に許される行為ではない。
「脚を開きなさい」
 あえて女王然とした口調で命じる由美に、怜奈は息を呑む。そして、ゆっくりと足を開いた。
「……………………お願いします」
 その言葉とほぼ同時に、脚の間から雫が滴り落ちる。
「オマンコからヨダレ垂らしちゃって。そんなに期待してるんだ?」
 由美は嘲笑いつつ、マッサージ器のスイッチを入れた。床さえも震わせるほどの重低音が響きはじめる。
「あははっ、すごい音。工事現場の機械みたい。これは刺激強いよー。どう、子宮がウズウズしてくるでしょ?」
 由美はそう囁きながら怜奈を焦らし、マッサージ器の先端を軽く陰核を触れさせる。
「ひっ、ああっ!!」
 反応は大きかった。弾けるように腰が引かれ、左右に揺れる。快感で膨れ上がった蕾に極大の刺激が襲ったのだ、当然ではあるのだが。
「あははははっ、凄い凄い。でも逃げちゃダメだよ。お仕置きなんだから」
 由美はケラケラと笑いながら怜奈の回復を待ち、がに股に開かれた脚の間に再度マッサージ器を触れさせる。今度のターゲットは大陰唇だ。陰核ほど耐え難いわけではないが、重苦しい刺激がズーンと腹の内まで入り込んでくる感覚は堪らない。
「んひっ、はっ、あ……ンおっ、おおお……!!」
 腹に溜まるタイプの快感ゆえに、喘ぎは自然と息むようなものとなる。状況からして不可避の反応。しかしそれは彼女のイメージを決定的に瓦解させるものだ。

 ──ひゃっひゃっひゃっ、すげぇ声!
 ──まさかあの倉橋アナのオホ声聞く日が来るなんてな!
 ──クールビューティーで売ってきたあの女がよォ、笑いが止まらねぇぜ!!

 観客から笑いが起きる。そして勿論、怜奈の反応を間近で見る由美も、涙を浮かべて笑っている。怜奈はその状況に歯噛みしつつも、快感でそれどころではない。
「おほぉっ!!」
 情けない声と共に、割れ目から飛沫が噴き出す。堪らず腰が浮き、顔が天を向く。
「ぶはっ! なぁに、今の声。あたし笑わせようとしてんの?」
「はっ、はっ、はっ、はっ、はっ…………!!」
 由美の詰りに応える余裕もない。28年の人生で初めて経験する、あまりに強烈なオーガズム。そのショックを肉体も頭も受け止めきれない。
「エビみたく仰け反っちゃって。そんな深くイッちゃったんだ」
「はぁ、はぁ、はぁ……し、失礼、しました……」
「で、イッたんでしょ?」
「…………はい、達しました」
「ぷっ! こんなんでイキまくっといて、自分はSだー、なんてさぁ。どうみてもドMじゃん!」
「くっ……!」
 容赦ない嘲りが、怜奈の矜持にヒビを入れる。
「よーしドMオバサン、もっともっとイカせたげるよ。ほら、姿勢ちゃんとして。頭の後ろで手ぇ組んで、腰落とす!」
 怜奈が屈辱的なポーズを取るのを待ち、由美はまたマッサージ器を宛がいはじめた。
「あおォッ、おっ、お……おほっ、ほォお……お゛ッ!!」
 怜奈から漏れる喘ぎは、やはり愛嬌からかけ離れている。もはや意志で抑制できるレベルではないのだ。
 全てが、無意識。
 刺激から逃れようと腰が浮くのも。
 石床の上で、両脚がつま先立ちになるのも。
 太腿の筋肉が醜く縦に張るのも。
 腹筋がブルブルと震えるのも。
 潮噴きに次ぐ潮噴きも。
 どれ一つとして、怜奈が意識してそうした行為はない。むしろ彼女はその全てを抑えこもうとし、そのたび無力感に苛まれていた。

 2時間以上に及ぶマッサージ器責めが終わっても、怜奈には碌に休憩さえ与えられない。
 腰砕けで立つことが困難になった彼女は、ベッドに大股開きで拘束され、中逝きを経験させられることとなった。膣に長大なバイブを押し込まれ、そのバイブの底にマッサージ器が宛がわれる。バイブ自体の振動とマッサージ器の振動が合わさったものが、蕩けきった子宮口を不規則に振動させる。
「んあ……あ、あぐっあ……くっ! た、達します!!」
 絶頂する時は宣言するよう命じられているため、怜奈は忙しなく声を張り上げなければならない。
「すごい、どんどん汁が出てくる」
 由美は笑いながらも責めの手を緩めない。猫のような瞳で怜奈の反応を観察し、最も嫌がる角度でバイブを固定する。“パパ活の女王”の異名は伊達ではない。ただ身を売るのではなく、交際相手を巧みに責め嬲り、喜悦させてきた正真正銘のサディストなのだ。
「あかはあぁっ!! た、達します! 達しますっ!! だめ、イッてる最中に、また……くひぃいいいっ!! お、お願い、少し休まぜでっ!! ずっとイキ続けで、息が……!!」
 流石に怜奈にも限界が来た。奴隷役の口調すら保てず、地を出して哀願する。しかし、その哀願が聞き届けられることはない。彼女もまた由美の哀願を聞き入れなかったように。
「許してほしいんなら、どうすればいいか解るよねぇ。“自称S”のオバサン?」
 悪意に満ちた笑みで意趣返しをされれば、怜奈はぐっと言葉を呑むしかない。
「あイグッ、イグッッ!! いぐいぐッ、イグッ、イグううううッ!!!」
 腰を跳ねさせ、脚を暴れさせ、手足の指先を強張らせ……怜奈は全身で限界を訴える。それでも慈悲は掛けられない。絶頂続きで敏感になっている子宮口へ、バイブとマッサージ器の波状攻撃が絶え間なく浴びせられる。
「おッ、おほっ、おほっ……んォおおおッ!!」
 限界の、限界。怜奈は獣のような声を上げながら、白目を剥いて痙攣しはじめた。ビクンビクンと跳ねる腰も、異常性しか感じられない。
「あはっ、ヤッバ。意地張ってるとホントに壊れちゃうよー?」
 由美は異変を感じつつも、責めの手は緩めない。これは殺るか殺られるかの真剣勝負だ。相手の矜持をへし折ることができなければ、次は自分が折られる側になる。であれば、限界以上と思えるところまで追い込むしかない。


「確認します。倉橋 怜奈さん……貴女は、ご自身が『Sである』と思いますか?」
 黒服のスタッフが、怜奈にマイクを向ける。
 前週の由美と同じく、7日目を迎えた怜奈は無残な姿と成り果てていた。長い黒髪は汗を吸って乱れ、白い肌に海藻のように絡まっている。真っ赤な目からは涙の痕が続き、乳頭と陰核は吸引でもされたようにしこり勃っている。辛うじて直立している両脚も、カクカクと震えるのが止まらない。
 それでも怜奈は、真っ直ぐにカメラを見据えて告げた。
「私は、『S』よ!」
 その言葉を聞き、由美が表情を曇らせる。
 精一杯責めた。泣かれても、請われても。つまりそれは、これ以上ないほどに恨みを買ったということだ。



           ※           ※


「どうしたの? 口を開けなさい」
 スプーンを差し出した怜奈が、冷ややかに由美に告げた。
「……も、もう、無理です……」
 由美は涙ながらに首を振る。
 仰向けに拘束された彼女の腹部は膨れ上がっていた。中を満たしているのは、怜奈がスプーンで繰り返し与える“餌”だ。
 牛乳・雑穀や豆類・魚の内臓・ゴーヤをミキサーにかけて粥状にしたもの。怜奈はスタッフに指示してそれを大鍋一杯に作らせ、延々と由美に食べさせていた。雑穀や豆類は羞恥責めのキモである便のかさを増すため、魚の内臓とゴーヤは味を劣悪にする嫌がらせのチョイスだ。
「食べなさい」
 由美が涙目になっても、怜奈が過食責めを止めることはない。むしろ効いていればこそ、相手が音を上げるまで続けるだけだ。
「む゛ゥうえ゛っ!!」
 口にスプーンを突っ込まれた由美が噎せ返る。薄黄色い吐瀉物が頬を垂れていく。
「なに? せっかくおまえの為に作った食事を、食べられないとでも言うつもり?」
「げ、限界です……もう、入らない……!!」
「嘘おっしゃい」
 必死に首を振る由美を冷ややかに見下ろし、怜奈が何かを準備しはじめる。高圧浣腸で使われるイリゲーターと、極太のチューブ。
「あ……!」
 されることを理解した由美が逃げようとするが、拘束されていて動けない。そんな由美に冷酷な笑みを投げかけながら、怜奈の手がチューブの先を口に押し込む。喉を越えて、胃にまで。ゴォエッと酷いえずきが漏れても、一切意に介さない。
 ごぽり、ごぽり、と音を立て、イリゲーターに注がれた“餌”が由美の胃に送り込まれていく。
「んぐっ、うウ゛……おぐっ!!」
 由美の拘束具が音を立てる。しかしいくら力んでも、悪夢のような状況は変えられない。

「ふふふ、とっても素敵よ」
 由美の姿を見て、怜奈が笑う。
 由美の姿は無惨の一言に尽きた。形のいい鼻はフックで豚のように吊り上げられ、乳首には紐で鈴が結わえつけてある。だが、一番に目を惹くのはなんといってもその腹部だ。
 チューブで限界の限界まで流動食を流し込まれた腹部は、妊娠後期さながらに膨れ上がっていた。元がモデル級のスタイルだけに、異様さが際立っている。

 ──すげぇな、マジで豚みてぇだ。
 ──あんだけ顔とスタイルが良いガキでも、ちっとの細工でブスに成り下がるもんだな!

 客の罵声にも容赦がなく、へし曲げられた由美の顔がますます歪む。そんな中、彼女の腹部から不穏な音が響いた。餌に含まれる牛乳で腹を下したのだろう。
 怜奈が紅い唇の端を吊り上げる。
「さあ、始めてちょうだい」
 怜奈が指で示すのは、由美の脚の間に設置された巨大ディルドーだ。形こそ男性器を模しているものの、サイズが常軌を逸している。近いサイズで言えば2リットルのペットボトルか。
「くうっ……!!」
 由美は唇を噛む。冗談でも性器に入れてはいけないサイズ。しかも今はこの腹具合だ。とはいえこのゲームにおいて、女王の命令には逆らえない。
「早くなさい。ギャラリーの皆様も待ちかねよ」
「…………はい、頂きます…………」
 由美はゆっくりと腰を下ろしていく。ディルドーの亀頭部分は由美の拳より太いが、表面にワセリンが塗りたくられているため、簡単に割れ目へ呑み込まれていく。しかし、問題はそこからだ。
「ふ、ぐうううっ……!! ふ、太ぃい゛イ゛……ッッ!!」
 腰を僅かに沈めるだけで、ミリミリと膣が拡げられていく。フィストファックとも比較にならない刺激の強さ。膣周りの筋肉と骨が悲鳴を上げ、変形した腸に圧されて便意が渦を巻く。
「ほぎア……ァ゛っ!! はっ、はっ、はっ……!!」
 なんとか亀頭を呑み込んだところで、荒い息と共に涙が伝う。腹の中に岩を入れているようだ。だが、まだまだ先は長い。由美は歯を食いしばり、太腿を強張らせて腰を沈めていく。幹の半ばは亀頭よりもさらに太い。
「ッカああああ゛あ゛っ!!」
 由美がまた叫んだところで、怜奈が小さく噴き出した。由美自身、顎の力み具合でひどい顔をしているのが自覚できる。しかし表情は戻せない。受容限界以上の凶器を呑み込む時に、綺麗な顔などしていられるはずがない。
「はっ、フッ……フーッ、フーーッ……!!」
 拳のような亀頭が、ついに子宮口に触れた。ディルドーはなお三分の二ほどが露出したままだが、ともかく奥まで飲み込んだのだ。
「奥まで入ったなら、動きなさい。もう一度言っておくけど、豚らしくブーブー鳴くのよ」
 怜奈に凛とした声で命じられ、由美は唇を噛みながら腰を上下させる。
「ぶっ……んくっ! ブー、ブーッ……!!」
 惨めすぎるその姿に、客席の笑い声が大音響となってスピーカーから氾濫する。
 美少女で通っていた由美にしてみれば羞恥の極みだ。そして、苦痛もある。入っているサイズがサイズだけに、数センチの抜き差しでも骨が軋む。
「すっとろいわねぇ。動きまで豚を真似ろと言った覚えはないわよ。もっと大きく、ディルドーの先が覗くぐらい動きなさい!」
「はあ、はあ……はい……。ぶ、ブー、ブー……んんん゛っ!!!」
 震える足腰を叱りつけ、由美は大きく腰を振る。亀頭が覗くまで腰を浮かせ、奥に届くまで腰を沈め。
「……ッく、あああああぐ!!」
 無理の代償は大きかった。前の穴の苦しみに意識がもっていかれた瞬間、便意の抑えが利かなくなる。生ぬるい液体が肛門を通り抜け、背後に置かれた金盥に硬い音を立てる。
「あっはははは、出た出た。相変わらずひどい匂いねえ、腹黒なだけあるわ!」
「……くっ!!」
「いいわ、もっとひり出しなさい。カロリーの高いものをあれだけ食べたんだもの、全部出さないとお肉になるわよ? おまえなんか、ルックスの良さが無くなったら誰にも振り向いてもらえないわ」
 怜奈の言葉に顔を歪めながらも、由美は激しく腰を振る。乳首の鈴が澄んだ音を奏でる。ディルドーがメリメリと膣に入り込めば、入れ替わるようにブリュブリュと便が出た。恥辱のシーソーゲームだ。
「ブー、ブー……ッあ!? んあ、お、おほっ! で、出るっ、でるうう゛っ!! はおっお゛っ……ぉおおお゛お゛お゛ッッ!!!」
 腹部が圧迫されているため、漏れる呻きも重苦しいものだ。
「すごい声出すわねぇ、おまえ。今のは豚の断末魔かしら? ごめんなさい、せっかくのパフォーマンスも知識不足で理解できないわ」
「くっ……!!」
 冷やかす怜奈を、由美は涙目で睨む。自分もハケ水車で似たような声を上げたくせに……そう言っている目だ。しかし口には出さない。その余裕すらないからだ。
 排泄が止まらない。軟便が次から次へと噴き出し、肛門が灼ける。ましてやそれを憎い相手の前で晒すとなれば、羞恥で頭さえ茹りそうだ。
 そして、他にも異変が起きていた。苦痛しかないはずの膣から、時おり甘い電流が迸る。
「ほお゛っ、お……んんン゛!!」
「あら、どうしたの? 気持ちよさそうな声を出して」
 由美の僅かな声の変化を、怜奈が耳聡く拾う。そうなる事が分かっていたように。
「はあっ、はあっ……しょ、食事に何を混ぜたの!?」
「あら、何も混ぜてないわ。変な言いがかりはやめてちょうだい」
 怜奈は白を切るが、実はあの食事には精力剤がたっぷりと添加されていた。女性用バイアグラとでもいうべきもので、摂取すると血行が改善し、膣やクリトリスの神経が敏感になり、極めて濡れやすくなる。
「ぶうーっ、ぶううーーっ……んはう゛っ!? んくっ、ん……くんんんん゛っっ!!」
 ピストンを繰り返すほどに、快感はハッキリと輪郭を得ていった。
 排泄を止めようと力めば、自然と膣もディルドーを締めつけ、甘い痺れが拡がる。
「ウンチしながらオマンコほじくるのが、そんなに気持ちいいの? ご覧なさい、今の自分の姿を」
 怜奈は笑みを浮かべたまま、由美の前に手鏡を翳した。鏡面に由美の姿が映し出される。
 汁を垂らす、豚のような鼻。
 なおも排泄物の垂れ落ちる尻。
 度重なる排泄で少し凹み、逆にディルドーの膨らみが浮き出た腹。
 それほど無惨な状態にありながらも、鉄杭のようなディルドーには大量の愛液が伝っている。
「これってSどころか、完全に変態マゾの姿じゃない?」
 勝ち誇るような怜奈の笑いに、そうだそうだという観客の声が被る。
「…………く、うう…………ッッ!!」
 由美はひとり唇を噛む。少し納得してしまいそうな自分が憎い。
 それでも彼女は耐え忍んだ。鈴を鳴らしながら腰を振り、前後の穴の猛烈な違和感に悶え、ガクガクと膝を震わせて。
「あっ!! あっ!! あっ!! あっ!! あっ!!」
 いつしか由美の漏らす声は、嬌声とも泣き声とも判別がつかなくなっていた。

           ※           ※

 『おまえは被虐で濡れるマゾだ』。
 怜奈は由美にそう認めさせるべく、恥辱責めと快楽責めを繰り返す。とりわけアナル開発を重視しているらしく、恐ろしいまでの執念でもって後孔を嬲り続けていた。
「すごい音。そろそろ我慢も限界かしら」
 怜奈が足元の由美を見下ろす。その手に握られたリードの先は、由美の首輪に繋がっていた。まるで犬扱いだ。実際、由美には尻尾も付いている。肛門からリング状の取っ手が、股間の前貼りを隠すように垂れ下がっている。
「抜いてほしい?」
 怜奈が問いかけると、由美の顔が狂ったように上下する。その必死さの理由は、彼女の足元を見れば明らかだ。中身の絞り出されたイチジク浣腸──その数、実に10個。浣腸慣れしている人間であっても、2・3分で耐え難い便意に襲われる量だ。その最後の一個が注入されたのは、今から小一時間前になる。
「じゃあもう一周なさい。しっかり散歩が出来たら、今度こそ本当に出させてあげるわ」
「…………ッッ!!!」
 怜奈の言葉に、由美が唇を噛み締める。しかし迷っている時間はない。今も由美の下腹部では、激しい便意と腹痛が荒れ狂っているのだから。
 這う格好のまま、伸びやかな由美の脚が弾けるように歩み出す。しかし力強いのも一歩目だけだ。また腹部が鳴れば、太腿はあえなく内に閉じ、歩みを阻害する。結局そこからは、足首を跳ね上げたまま、膝で小刻みに床を蹴りながら進んでいくしかない。

 ──はははははっ! まーたあのヨチヨチ歩きが始まったぜ!
 ──無様だねぇ。またあの無駄に良いスタイルが仇になってやがる。
 ──ああ。せめて童顔に見合った幼児体型なら、あの歩き方も似合うのによ!

 観客達は、もう何度目かの“散歩”にも飽きることなく笑い転げる。その悪意は由美の心を蝕むが、もはや構っていられない……はずだった。恥を晒す対象がカメラであれば。
 しかし。プレイルームの壁沿いを半周し、入り口の近くに来た時。由美はふと気配を感じて顔を上げ……凍りついた。クスリと怜奈が笑う。
 ドアの傍に立ち尽くしているのは、10歳前後の少年。よく日に焼け、頬に絆創膏を貼ったヤンチャそうな見た目ではあるが、揺れる瞳はまだまだ幼い。
「…………悠斗(ゆうと)…………?」
 由美が震える声で問うと、少年の肩がビクッと震える。
「ね、ねーちゃん……!」
 そう。少年は由美の実の弟だ。両親を早くに亡くし、姉弟2人で親戚の家に引き取られた。しかし扱いは悪く、生活費は自分達で稼がなければならない。それが“パパ活の女王”が誕生したきっかけだ。怜奈はそれを知った上で、この3週目に必殺のカードを切った。由美の心を折るために。
「あんた……まだ子供なのよっ!?」
 由美が怒りも露わに睨み上げる。しかし怜奈は、それを涼しい顔で受け止めた。
「あら、怖い眼。奴隷の反抗期かしら。でもいいの? そんな態度を取ってる限り、ウンチはさせてあげないわよ?」
 怜奈は凛とした声で語りかける。悠斗にもよく聴こえるように、間違いなく理解できるように。
「ウンチ……!?」
 悠斗が言葉を繰り返す。ローションまみれで床に転がる器具の用途も、押し潰されたイチジク型の容器の意味も、彼には理解できないだろう。しかし今の一言は、彼に状況を理解させるには十分だった。
 偶然か、必然か。由美の下腹がまた酷く鳴りはじめる。ぐぎゅるるるる、ぎゅごろろろろ、という音が響き渡り、青ざめた由美の顔が顰められる。
「ゆ、悠斗、なにしてんの!? 帰んなって! ここは……んんっ、子供の来るところじゃ、ハァッ……ない、んだよ!」
 便意の大波に耐えながら、由美が声を絞り出す。しかし悠斗は瞳を揺らすばかりだ。
「駄目よ、帰しちゃ。彼の存在もプレイの一環だもの。ねえ坊や、外で黒い服を来たおじさんに言われたでしょう? 私がいいというまで帰っちゃだめだって」
 妖艶な笑みを浮かべる怜奈を前に、悠斗はただ立ち尽くす。大人の命令を突っ撥ねるには、彼はまだ幼すぎた。

「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ……!!」
 由美は明らかに便意の限界だ。息は荒く、脂汗を垂らし、全身が凍えるように震えている。
「ほら、早く歩きなさいよ。いくら躾けても覚えない駄犬ねぇ」
 怜奈は悠斗の見ている前で、由美のリードを容赦なく引き絞った。
「…………っ!」
 悠斗は言葉もない。彼にとって由美は眩い存在だった。要領がよく、抜け目がなく、目に毒なほど美しい。その姉が見知らぬ女性に丸裸に剥かれ、犬のような扱いを受けているのだ。
「どうしたの? もう限界?」
 蹲って震える由美を見下ろし、怜奈が問いかける。
「…………はい…………」
「そう。だったら、言うことがあるわよね?」
 怜奈が重ねて問うと、部屋の空気が重苦しさを増す。
「う、くっ…………!!」
 弟の前で恥を晒すなど、死にも等しい屈辱だ。しかし、もはや選択の余地はない。浣腸を施されてからすでに40分あまり。人として耐えられる限界などとうに過ぎているのだ。
「……させて、ください……。」
「何をかしら?」
「…………う、うんち…………ウンチを、させてくださいっ!!」
 部屋に響き渡る叫び声。それは悠斗のよく知る声色だった。今、同性に排泄を乞うているあのハダカ女は、間違いなく姉なのだ。
「本当に恥知らずねぇ、おまえ。弟の見ている前で。でも、いいわ。そこまでみっともなくお願いされて断ったら、意地の悪い女だと思われそうだもの」
 怜奈は固まる悠斗に笑いかけながら、片膝をついて由美の“尻尾”に指を掛けた。
「いくわよ」
 指がリングを引き絞れば、紅い肛門を盛り上げながら何かが顔を覗かせる。テニスボール大のステンレス級だ。栓を兼ねたそれが汁と共に抜け出た瞬間が、決壊の合図だった。
「あああ出る゛っ、出るううう゛う゛う゛っ!!!」
 悲痛な叫びと共に、開いた肛門から液体が噴き出していく。すでに何度も浣腸された後のため、胆汁の色はついていないが、汚液であることには変わりがない。
「見ないで悠斗っ、見ないでーーーーッッ!!!」
 姉がヒステリックに泣き叫ぶのを、悠斗は初めて目にした。いつでも意地悪くからかうか、ぶっきらぼうに心配するか、そのどちらかだったから。
 『女王』は泣き叫ぶ奴隷を面白そうに見つめたまま、さらにリングを引き続ける。ステンレス球は次々に姿を現した。6個……いや7個。ひとつひとつがテニスボール大なのだから、その総体積は先日のディルドーをも凌駕しかねない。
「ね、ねーちゃん……」
 悠斗はそう声を出した。出さずにはいられなかった。あれだけの量の異物を詰め込まれながら、便意に耐えていたのだ──そう知ってしまった以上は。
「なぁに坊や。お姉ちゃんが心配なの?」
 悠斗の声に答えたのは、姉ではなくその女主人だ。
「え? えっと、その……」
「大丈夫よ。苦しそうに見えたかもしれないけど、お姉ちゃんはすっごく気持ちが良かったの。その証拠に、ほら。ご覧なさい」
 怜奈はそう言って、肛門から引きずり出したアナルパールをぶら下げる。銀色に光るアナルパールの先からは、ポタポタと液体が滴っていた。
「このオモチャ、何かの液に塗れてるでしょう? これはねぇ、『腸液』っていうの。お尻で気持ちよくなった時に出るお汁なのよ」
「え……!!」
 怜奈の言葉に、姉と弟が肩を震わせる。
 出すための穴で気持ちよくなっていた?
 あの無頼な姉が、あんな扱いをされて?
 信じがたい。しかし怜奈の言葉には「そうかもしれない」と思わせる力があった。そして何より、姉の由美自身が、なぜか顔を上げて反論しない。
「う、ウソだよな……?」
 悠斗の声は震えていた。由美は答えない。
「嘘じゃないわ。信じられないなら、もうひとつ証拠を見せましょうか」
 怜奈はそう言って笑うと、空いた手で由美の前貼りを剥がしはじめた。
「やっ……!」
 さすがに由美が抵抗を見せたが、前貼りはそれより一瞬早く剥ぎ取られる。
 白いガムテープのような前貼りと、ピンク色の割れ目。その間には銀の糸が引いていた。
「いくら坊やが子供でも、この意味はわかるでしょう? 女は気持ちがいいとあそこが濡れるの。坊やのお姉ちゃんは、あんな事をされながら興奮していたの。そんな変態のマゾなのよ!」
「ち、違うッ!!!」
 恥辱のレッテルを貼ろうとする怜奈の言葉を、由美の叫びが遮った。いかに口答え禁止のルールがあろうと、ここで否定しなければ姉としての矜持が死んでしまう。
「へえ、そう?」
 怜奈は目を細めると、近くにあったラテックスの手袋を右手に嵌め、指先を由美の肛門へと沈めていく。
「んくっ!!」
 由美の反応は大きかった。二本指が第一関節まで入り込むだけで、肛門周りの筋肉が溝を刻む。それだけなら汚辱と見ることもできるが、問題は第二関節まで入り込み、指が動きはじめた後だ。
「んっ、んン……んんんっ、ふんンン…………っ!!」
 由美は口を閉じたまま、不自由な呻きを漏らしはじめる。
「ねー、ちゃん……?」
 幼い悠斗は『艶やか』という言葉は知るまいが、その類の反応であることは肌で理解できる。母が存命だった頃、耳かきをされている時にたまに出た声……姉がいま必死に堪えているのは、きっとそれだ。
「どう“お姉ちゃん”、気持ちがいいでしょう。おまえはこれが好きだものねぇ。お尻の穴のすぐ内側を、指で優しく撫でられるのが」
 怜奈は指責めを加えながら囁きかける。彼女の責めが由美の快楽を引き出すのは当然だった。そうなるように丁寧に仕込んできたのだ。かつて年の行ったお偉方に枕営業を強いられた時、彼に気に入られるため、肛門刺激のノウハウを調べ尽くした。その人生の汚点を前向きに活かした結果だ。
「う……あ」
 二本指が引き抜かれた時、その指先と肛門内は太い糸で繋がっていた。ぽっかりと開いたままの肛門も、ヒクヒクと筋肉の動く鼠径部も、なんともいえず心地良さそうだ。
「これでわかったでしょう。坊やのお姉ちゃんが、本当はどういう人間なのか。ねえおまえ、気持ちがよかったわよねぇ?」
「気持ちよくなんか、ないっ……!!」
 二度目の問いかけをも、由美は頑として否定する。そしてその行動は、当然ながら怜奈の予想の範疇だ。
「ふうっ、強情ねぇ。いいわ、だったら証明してごらんなさい」
 怜奈はわざとらしく溜息をつき、穿いていたスラックスを脱ぎはじめる。
「わっ!」
 見知らぬ女性の脱衣に、悠斗が声を上げた。しかしその驚きはすぐに意味が変わった。晒された怜奈の脚が、新雪のように白く美しかったからだ。至高に思えた姉の美脚すら、野暮ったく思えてしまうほどに。
 だからこそ。その怜奈が拾い上げたペニスバンドに、悠斗は動揺を隠せない。
 ゴムパンツが白い脚の間を滑り上がり、双頭ディルドーの細い方が怜奈の秘部に挿入される。しかし問題は、外側に突き出したもう片方のディルドーだ。大きいというレベルではない。缶コーヒー二本を直列で並べ、その先端にテニスボールをくっつけたような馬鹿げたサイズ。思春期の彼が持て余しているペニスの3倍はあるだろう。
「さあ、私を気持ちよくさせなさい。“いつものように”ね」
 怜奈はそう由美に囁きかけ、ソファに深く腰掛けた。
「わ、わかりました……」
 由美は躊躇いつつもソファに上がり、怜奈に跨る。凶悪なディルドーがふっくらとした肛門に宛がわれる。
「や、やめろよねーちゃん! そんなの、尻に入れたら……!」
「あら、大丈夫よ。キミのお姉ちゃんは、昨日の晩もその前の晩も、これをお尻に入れて愉しんでたんだもの。むしろ愉しみすぎて疲れちゃって、私を満足させられなかったぐらい。ねえ、おまえ?」
「……ッ!」
「なに、違うとでも言いたいの?」
「いいえ、仰る通りです……」
「でしょう。今日は大丈夫よね? 弟が見てるんだもの、お姉ちゃんとして最後まで頑張れるわよね?」
「……はい」
 短い会話の中でも、由美と怜奈の立場の差は歴然としていた。
 屈辱に顔を歪めたまま、由美は腰を下ろしはじめる。肛門はやわらかく伸び、テニスボール大のディルドーの先を呑み込んでいく。しかし、易々とではない。
「はっ、はっ、はっ、はっ……!」
 ディルドーの先が菊の輪を通り抜けた時点で、由美は緊迫した息を吐く。
「ほら、思い切っていきなさい。“お姉ちゃん”」
「は、はい……んッ、ぎぎッ……ひぎィ……いい゛!!」
 腰を沈めるほど、由美の声が悲痛さを増す。脚が痙攣し、重心が前後に揺らぐ。
「危なっかしいわねぇ。肩に掴まることを許すわ」
「あ、有難うございます……」
 由美の手が怜奈の白い肩を掴む。あの強かで逞しい姉が、何者かに縋っている……そう見える光景に悠斗の心がチクリと痛む。
「少しハイペースよ。ゆっくりでいいわ、深呼吸なさい。用を足す時みたいに息みながら、S字結腸に嵌め込むのよ」
 女王らしく威厳に満ちた怜奈。その肩にしがみつき、命令通りに動く由美の背中が、悠斗にはいつになく小さく見えた。
「あ゛、ん゛……くっ! ……ん……ーっ…………!!」
 押し殺した声が漏れる。大人びた肉付きのいい尻は引き締まり、脹脛の筋肉が盛り上がっている。よほどの痛みか快楽に襲われている時の反応。
「ふふふ、悪くないわ。おまえもたまらないでしょう? こんなに逞しいものを、S字結腸で呑み込んでるんだもの。ものすごく気持ちのいいウンチの感覚が、ずっと続いてるんでしょう?」
 怜奈の噛み砕いた説明は、明らかに悠斗に向けたものだ。そのせいで悠斗は理解してしまう。日常生活を送る中で、稀に経験する快便の心地良さ……姉はそれを、立て続けに味わっているのだと。
 パン、パン、と音が響く。由美が腰を振る音だ。
「はーっ、はーっ……んふっ、ン゛! くうぅう゛ん゛っ!!」
 由美は、次第に声を殺せなくなっていった。肉親の鼻に掛かったような喘ぎは、悠斗の肌をむず痒くさせた。

 ──くくくっ、悲劇だねぇ。
 ──この場合、どっちが辛ぇんだろうな? 弟にセルフケツハメ見せる姉ちゃんが、姉ちゃんにそんなモン見せられる弟か。
 ──そりゃ弟に決まってんだろ。見ろよ、姉貴の方は気持ちよさそうだぜ。興奮してんだよ、この状況に。
 ──いいや、弟だってズボン膨らませでるぜ。あの色気たっぷりの姉ちゃんのハダカは、思春期のガキにゃ刺激が強すぎたらしいな。

 容赦のない罵声がスピーカーから流れるたび、姉と弟は身を強張らせる。怜奈はその悲劇を面白がりながら、さらに由美を追い詰める。
「はあっ、欠伸が出そう。そんな動きじゃいつまでたってもイケないわ。いい加減保険をかけるのはやめなさい。ディルドーの先を結腸に嵌め込んで、グリグリ動かすのよ!」
「…………!」
 怜奈の一声で、由美が表情を凍りつかせた。
 彼女も理解はしていることだ。プレイの目的は怜奈を満足させること。双頭ディルドーの小さい方で怜奈の秘裂を掻き回すとなれば、由美の側は大きくディルドーを動かさなければならない。怜奈が言うように、先端を結腸に嵌め込んで固定し、激しく腰を振る必要がある。それがどれほどの快感を齎そうとも。

「くっ、あっ、あ゛っ、あ゛っ!! あひぃいっ、く……ん゛あ゛、あアっ!! はああぁう゛、くひぃいい゛ッ!!」
 腰を動きを早めて以来、由美の声も激しさを増した。かろうじて弟には晒していないが、表情も歯を食いしばり、目を見開いた壮絶なものだ。しかしそうなるのも当然だった。敏感なS字結腸に異物を嵌め込み、激しく揺さぶっているのだ。それは急所を自ら抉りまわす行為に他ならない。
「へえ、なかなか良いわ。やれば出来るじゃない、おまえ」
 怜奈は余裕の笑みを浮かべていた。多少の快感は得ているのかもしれないが、絶頂間近の様子にはとても見えない。
「フーッ、フーッ……!!」
 由美はいよいよ必死に腰を振る。痙攣する脚を叱りつけ、珠の汗を散らしながら。
「あがっ、がっ……! ひいいっ、ぐひぃいいっ!!」
 結腸をいじめ抜くたび、ジンジンと快感の波が広がっていく。ディルドーの先が薄皮越しに子宮を突き上げれば、感電するような快感が背筋を駆け上る。
「ね、ねーちゃん……!」
 姉の異変を察した悠斗が声を掛けるが、由美の耳にはもうそれすら届かない。
「あイキそうっ、イキそう……っ!!」
 由美の手が怜奈の腕を握りしめる。
「あらあら。主も放っておいて、お尻で一人イクなんて……どうしようもない淫乱ねぇ」
 怜奈の罵りが由美の心に突き刺さる。そして、それが決定打となった。
「いいぐっ、イッグううううッッ!!」
 怜奈は激しく仰け反りながら天を仰ぎ、そのまま動きを失った。否、ごく小さく動いてはいる。ピクピクと、ヒクヒクと。幼い悠斗にも快感の余韻だとわかる妖しさで。

 ──ひぃっひっ、盛大にイキ果てやがったぜ! 弟の見てる前でよぉ!
 ──弟クン、唖然としちまってんな。ま、どう反応していいかわかんねーか!
 ──なんせ姉ちゃんが、女の上で腰振ってケツイキするマゾ豚だったんだもんなあ!!

 スピーカーから客の言葉が浴びせられ、焦点の合わない由美の目から涙が零れる。怜奈が蛇のような瞳でそれを見つめていた。


 怜奈はその後も、悠斗の前で由美を辱めつづけた。
 ベッドに這う格好を取らせたまま、背後から激しく犯すこともある。怜奈が片膝を立てて犯すため、疑似ペニスが由美の肛門に出入りするところがよく見えた。
「あひぃっ!! んっ、ぐっ! ひっ、ん、んんん゛……!」
 弟の手前、由美は声を殺そうとするも殺しきれない。結局は傍にあった枕に顔を埋め、ウーウーと唸るばかりになる。
 怜奈はそんな由美の髪の毛を掴み上げて何度も声を晒させながら、楽しそうに腰を打ち付けていた。一突きごとに由美の下腹はボコリボコリと変形し、艶めかしい声が響く。由美のアナル性感は完全に掌握されているようだ。
「本当に救いようのないマゾ豚ねぇ、おまえ。弟の前でお尻を犯されながら、こんなに濡らすなんて」
 怜奈は時おり由美の秘部に手を回し、ぐちゅりと音をさせる。戻された指は常に濡れ光っていた。そして時が経つほどに、指に纏わりつく粘液の量は増していった。
「ああああーーーーーっ!!!」
 由美はベッドの上でつま先を立てたまま、Vの字に脚を突っ張らせて潮を噴く。失禁と見紛うほどの量だ。ぶるっ、ぶるっ、と震える太腿が、どれほどの快感なのかをよく物語る。
 そしてそこが、由美の意地の限界だった。
「ああ゛あ゛あ゛っ! だめ、おくっ……お゛ほっ!! ぁイクっ、イってるがら……お゛お゛っ!! おねがっ、やすませ……ッあお゛お゛お゛お゛っ!!!」
 弟の存在など忘れたかのように、濁った快感の声を響かせる。その熱に浮かされたような顔は、悠斗の中の強かなイメージからはあまりに遠い。

 しかし、由美は二周目をも耐えきった。
「はぁ、はぁ、はぁ…………あたしは、『S』よ…………!」
 震える脚にオイルのような腸液を伝わせ、震える唇を噛み締めながら、黒服スタッフにはっきりとそう宣言する。
「……っ!」
 横からプレッシャーを掛けていた怜奈の顔が引き攣った。
 しっぺ返しが来る。容赦なく責めたツケが、残酷に。


           ※           ※


 由美の弟を巻き込んだツケ。それは怜奈自身が、見ず知らずの少年の前で恥を晒すことだった。

「どう、シャインマスカットのデザートは? あんた、こんな洒落たの食べたことないでしょ」
「う、うん……」
 由美ににっこりと笑いかけられ、悠斗は頷く。初めて食べるフルーツは香りがよく、甘酸っぱくて美味だった。しかし彼の意識は、どうしても横に向いてしまう。
 そこには、無残な姿の怜奈がいた。
 手足を拘束されたまま天井から吊るされ、身動きは叶わない。102㎝を誇るバストは錘で三角に引き伸ばされ、割れ目には極太のバイブをねじ込まれている。
「“あれ”が気になんの? あははっ、笑えるよね。お尻ヒクヒクさせちゃって」
 由美は怜奈の肛門を見て笑う。事実そこは喘ぐような動きを繰り返していた。吊るされて平衡感覚すら失った中、何時間も膣で絶頂させられているせいか。
「物欲しそうにしちゃってさ。刺激が足んないの?」
 由美は笑いながら立ち上がり、バイブの取っ手を掴んで出し入れする。
「ムッグウウウウッッ!!!」
 猿轡を噛まされた口から悲鳴が上がった。女王役であった時の余裕など感じられない、必死そのものの声だ。
「すごい悦んでるでしょ。こいつはねぇ、こうやってアソコを虐められるのが嬉しくってたまんないんだよ。バカって言う人間がバカって言うじゃん? それと同じで、人のことマゾだとか言う人間に限って、自分がマゾだったりするんだよ」
 そう嘲笑う由美は悪魔のようだが、彼女の地獄をも知る悠斗は、批難する気にはなれなかった。
 因果応報。それがこのゲームの鉄則なのだ。

 姉を怒らせてはならない。悠斗はそれを改めて実感していた。
 怒りに狂う『パパ活の女王』は、『パパ』相手に行っていたプレイを施しはじめる。
 最初のプレイは飲尿だ。
「零さないでよ?」
「……承知いたしました」
 仁王立ちで跨る由美に対し、怜奈は涼しい顔で大口を開き、出はじめた尿を受けとめる。堂々とした姿ではあったが、その両手が固く握りしめられるのが、悠斗にもカメラにも視られていた。

 ──ひひひっ、悔しそうにしてらあ!
 ──そりゃそうだろ。女のションベン飲まされるなんざ、変態親父なら涙流して喜ぶプレイだろうがよ、女帝サマにゃ耐え難い屈辱だろうぜ。
 ──はっはっは! プライドの塊みてぇな女だもんな!

 天井のスピーカーから野次が降り注ぐ中、怜奈はゴクゴクと喉を鳴らして尿を飲み下す。奴隷役を全うするという矜持からだ。しかしその忍耐も長くは続かない。まずは怜奈の肩がぶるぶると痙攣しはじめる。
「オエッ……ウグッ、グッ! ……おおオエッ!!」
 えずき声が上がってからは数秒ともたず、由美の秘所から口を離して盛大に吐き戻してしまう。
「何やってんの? あたし、零すなって言ったよね?」
「ゲホッ、ゴホッ!! も、申し訳、ございません……」
 口調こそ慇懃だが、由美を見上げる怜奈の目は涙と恨みに満ちていた。由美はそんな怜奈を無能と謗りつつ、『パパ活』時代のプレイをさらに再現していく。
 床に仰向けで寝かせた怜奈の口に、由美の咀嚼した飲食物を垂らすプレイ。『パパ』達は美少女の唾液が混じった食事を大喜びで貪ったというが、怜奈は屈辱に顔を歪め、こめかみに涙を伝わせ、何度もえずき上げた。
「嬉しくってたまんないくせに、イヤそうにするわねぇ。そんなにお仕置きしてほしいの?」
 由美は怜奈の苦しみようを嘲笑いつつ、その口に足指をねじ込んでいく。右の親指、人差し指……ついには足の甲まで。
「んんゴッ、ごぉっ! オ゛、オ゛!! コゥオウ゛オ゛ッ!!」
 口をこじ開け、喉を抉り込む苛烈な『足イラマチオ』には、怜奈も無惨にえずき上げるしかない。彼女の手指は床を掻き、左膝は跳ね上がる。
「ね、ねーちゃん……その、ちょっとやりすぎじゃ……」
 悠斗が恐る恐る声を掛けると、由美の冷ややかな視線が横を向く。
「なにが? こいつだって私に滅茶苦茶やったじゃん。あんたも見てたでしょ?」
「だ、だけど、やりすぎっていうか……」
「何言ってんの。こいつはね、こういうので感じるマゾなんだよ。こうやって踏みつけてイジめられるのが、好きでたまんないの!」
 由美がそう言って足を踝近くまで押し込むと、ついに怜奈の顎が浮いた。
「ごひゅっ!!」
 大量に飲まされた尿が細く噴き出し、モデル級の美脚が狂ったように暴れる。それを見ても由美は責めを緩めない。
「ほーらほーら、どう? ノドは気持ちいいでしょ?」
 薄笑みを浮かべたまま、右の足指を深く捩り込む。怜奈が身を起そうとすれば、軸足である左足で胸板を踏みつけてそれを阻止する。顎を引いて吐き気を堪えようとすれば、床に下ろした左足の指で怜奈の前髪を掴み、強引に顔を上向かせる。
「ウぉえ゛っ、ふぉっ、ふぉろお゛え゛エ゛エ゛っ!!」
 反射行動を力づくで阻害されれば、いかに怜奈だろうと無様を晒した。何度もえずき上げ、流麗な肉体の随所に筋肉を盛り上げて、全身で悲鳴を上げる。
「あはははっ、すごい! それってボディビルダーのマネ? 笑えるけどさ、ちょっとキモいよ、正直!」
 由美は笑みを深めながら、右足に力を籠める。そして壁に手をつきながら、捩り込んだ足先で直立する。それが、トドメとなった。
「いイ゛よロうぇらお゛エ゛っっ!!!」
 女子アナ時代の怜奈を知る者が、誰一人として想像だにしなかっただろう声。その声と共に、尿と吐瀉物の入り混じったものが次々と口から噴き出し、美しい黒髪の下に汚液溜まりを作る。
 これら一連の光景を前に、天井のスピーカーから言葉は発されない。なぜなら観客席の人間は、一様に笑い転げているからだ。その腹の底からの笑い声だけは、常に怜奈の耳に届いている。 
「……あーあ、足がドロドロ。舐めて綺麗にしなさいよね」
 吐くだけ吐かせたところで、由美はようやく足指を抜き去り、その足先で怜奈の唇をつつく。
「どう? 興奮したでしょ?」
 遥かに見下ろしながら由美が問うと、汗、涙、鼻水、涎、胃液……ありとあらゆる汁に塗れた怜奈の顔が歪む。
「は、はい…………し、刺激的な体験をさせていただき、嬉しゅう、ございます…………!」
 怜奈はそう語りながら、吐瀉物とえずき汁まみれの足指を舐りはじめた。


「私は、Sよ…………Sに決まってるじゃない!!」
 二巡目の奴隷役を耐え抜いた怜奈が、黒服スタッフに向かって叫ぶ。汚液に塗れた見た目こそ悲惨なものの、あくまでも凛とした姿だ。
 しかし、彼女にもまた変化が生じていた。
「ふーん、そうなんだぁ」
 横から睨みつける由美が、ぼそりとそう呟いた瞬間。怜奈の表情は明らかに曇り、視線は由美とは逆を向いた。 


           ※           ※


 5.0倍のオッズがついた事前予想とは裏腹に、怜奈と由美の貶め合いは続く。週を重ねるごとに2人の余裕はなくなっていき、だからこそ追い込み方にも容赦がなくなる。悠斗が恐がって姿を消すほどに。

 3回目の奴隷役で、由美は胡坐を掻くような格好で拘束され、機械による肛門陵辱を受けた。ファッキングマシンに繋がった長大なバイブが、休むことなく腸内を蹂躙する。バイブの先端に空いた穴からはたまに浣腸液が噴き出し、由美に狂おしいほどの排泄感と、排便しながらアナルを犯される感覚を味わわせる。
 怜奈はその由美の姿を、じっと観察しつづけた。由美が音を上げ、マゾだと認めることを期待して。
 しかし、由美も折れない。大小の粗相を繰り返し、結腸と子宮を刺激されて悶え狂い、失神と覚醒を繰り返す段階になってもなお、怜奈の視線を受け止めつづける。

 逆に怜奈の3回目の奴隷役は、電動の三角木馬に跨り、全身をX字に拘束されたまま過ごすこととなった。木馬の背にはバイブが備え付けてあり、それが怜奈の秘部を責めたてる。しかもこのバイブは、先端が6つに花開き、子宮口に隙間なくフィットする、ポルチオ開発に特化した責め具だ。それで絶えずポルチオを刺激されつづければ、絶頂せずにはいられない。
「はッはッはッ……た、達します!!」
 怜奈は絶頂するたびにそれを宣言させられた。
「ふーん、また? ちょっと早いんじゃない? こっちも一々書くの面倒なんだからさぁ、ペース落としてよ」
 由美は歪んだ笑みを浮かべつつ、怜奈の脚にマジックで正の字を書き足す。美脚を穢されると共に絶頂回数を記録されるのは、怜奈にとって耐え難い屈辱だろう。
「も、申し訳……あ、あイクっ!! あああぁまた、た、達しますっっ!!」
 絶頂するほどに膣内は敏感さを増し、ポルチオ刺激に耐えられなくなる。結果として怜奈は、大きな波が来た時には、都度の宣言すら困難になった。
「もーっ、いい加減にしてよね!」
 由美は叱りつけながら太腿に正を描き、それだけでビクリと反応する怜奈を面白がった。
 責めを見守るのが主だった怜奈と違い、由美は積極的に責めたてる。度重なる絶頂で屹立した乳首を、強力なクリップで挟み潰したり。背中を鞭で打ち据えたり。
「いい加減気付いてるんでしょ。自分はサディストなんかじゃなくて、イジめられて悦ぶマゾなんだって。隠したって無駄だよ? だってあんた、あたしの『パパ』と同じ眼してるもん」
 木馬を伝う愛液を掬い、白い肌に塗りたくりながら由美が問う。
「…………ッ!!」
 口答えが許されず、しかし肯定するわけにもいかない怜奈は、血が滲むほど下唇を噛み締める。
「ふーん、ダンマリか。……あ、そっかぁ。マゾだからもっとイジメてほしいんだね。しょうがないなあ!」
 由美はわざとらしく溜息をつき、怜奈の足枷に錘を追加した。すると怜奈の身体は下に沈み、ポルチオへより強くバイブの先が密着する。
「あ゛ぐう゛う゛う゛う゛っ!!!!」
 まつ毛の長い怜奈の瞳が見開かれた。そしてその肉体は、たちまち深い絶頂の反応を示しはじめる。太腿が強張り、足指がピンと伸び、下腹がブルブルッ、ブルブルッ、と立て続けに痙攣する。典型的な中逝きのサインだ。
「ほーら、気持ちいい気持ちいい」
 由美は怜奈の腹を鷲掴みにして嬲りつつ、マジックを手にしてほくそ笑む。
「あああ深いっ、子宮に食い込んで……はあああッ!!! あおおっ、おっ、お゛っ!! おほっイク、イんグぅうう゛ぅ゛っ!!! イッでル中でまたイって、頭が、焼き、きれるうう゛ッッ!!」
 怜奈は強すぎる快感に悶え狂い、白目を剥き、涙と鼻水に塗れながら痙攣する。絶頂ごとに増える正の字は、やがて両脚を覆いつくし、腹部までを侵食していった。

 4巡目でも、怜奈と由美の戦いに決着は着かなかった。
 5巡目でも、やはり2人は耐え抜いた。
 互いの精神は擦り減っていき、やがては相手の心を折ることだけを目的とした、拷問にも等しい責めの応酬となる。
 6巡目、女王役の怜奈は由美を拘束したまま石室に閉じ込め、壁の穴から大量のゴキブリを送り込んだ。そして汚辱に泣きわめく由美に屈服を強いながら、長い夜を過ごさせた。すると同じく6巡目、入れ替わりで女王となった由美が蟲責めをやり返す。衛生害虫で満たされた『蟲のプール』の上に怜奈を吊るし、少しずつ高度を下げていく。最初こそ涼しい顔をしていた怜奈も、腰までがプールに漬かったあたりで限界を迎え、半狂乱になって泣き喚く。しかしこちらも、朝になるまで解放されることはなかった。
 8巡目、由美は尿道と肛門に電極棒を差し込まれ、電気で強制的に絶頂させられる。閉じなくなった口から舌を引っ張り出されてもなお、由美の瞳が焦点を結ぶことはない。
 9巡目の怜奈は、全頭マスクで視覚と聴覚を遮断され、二穴の快感に没頭せざるを得ない状況で放置された。その極限状況は、彼女を快楽に依存させる。ついにはより強い刺激を求め、自ら乳首とクリトリスを捻り潰すほどに。

 ──この勝負、マジでどっちが勝つんだろうな?
 ──さあな。もう予想できるレベルじゃねえよ。
 ──どっちも限界ギリギリって感じだもんな。ま、もうどっちが勝ってもいいけど。
 ──充分楽しめたもんな。けど、俺はもっと続いてほしいぜ。こいつらが意地張れば張るほど、俺らのオカズが増えるんだからよ!

 観客が見守る中、怜奈と由美は殴り合いのような責めを繰り返す。何度膝をつこうがノックダウンは宣言されない。彼女達自身がリングを降りるまで。

「弘中 由美さん、……弘中 由美さん! もう一度確認しますよ!」
「……倉橋 怜奈さん。倉橋 怜奈さん、聴こえますか!?」
 黒服のスタッフは意思確認の際、何度も名前を呼びかける。視線も姿勢も定まらない『奴隷』には、言葉がなかなか通じないからだ。
 しかし、彼女達の答えは決まっている。

「ふうーっ、ふうーっ……あ、あたしは、『S』、らってば……!」

「はーっ、はーっ……私は、『S』よ……!!」

 彼女達は必ずそう答え、女王の視線にブルブルと身を震わせる。その震えの原因は、恐怖か、あるいは期待なのか。


 今回の『S女ゲーム』は、随分と長びきそうだ。



                           終わり


 

黒い瞳に囲まれて

※レズいじめモノ。スカトロ要素(大・嘔吐)ありのためご注意を。



――自分には何もない。

美杏 (メイアン)は昔から、そう考えて生きてきた。
環境に恵まれていないとは思わない。むしろ、恵まれすぎている。
学のない孤児に過ぎなかった自分が、偶然の巡り会わせで名家である藩家に拾われ、召使としてではあるが衣住食を保障される。
これほどの僥倖はない。
自分の全ては偏に幸運によって与えられ、保障されているもの。
召使の同僚である紅花(ホンファ)を見ていると、特に美杏のその想いは強くなる。

紅花は元々、美杏と同じく孤児だった。
藩家に拾われてきた時期も同じなら、歳も同じ。
藩家夫人である静麗 (ジンリー)は、美杏と紅花を初めて引き合わせた日、互いを姉妹と考えて仲睦まじく過ごすように命じた。
そしてそれは、何ら難しいことではなかった。
紅花は頭がよく、気立てがよく、裏表のない性格の少女であったからだ。
静麗夫人に対しても、古株の使用人に対しても、そして美杏に対しても、常に誠実な態度で気持ちよく接する。
命ぜられた仕事には一つのミスもないどころか、大抵は期待以上の働きで応え、その合間に他の者の手助けすらこなしてしまう。

そのあまりに卒のなさすぎる才女ぶりには、家中の誰もが一度は『裏の顔』を探ろうとしたほどだ。
しかし、しばらく紅花を観察すれば、誰もが自らの思い違いに気がついた。
紅花には、本当に裏がない。
若くして苦労を重ね、持ち前の聡さでこの世の醜穢を悟りつつも、なお愚直なまでに誠実で、心優しい少女なのだ。
そのような紅花には、当然ながら人望が集まる。
いつしか召使達に仕事を振り分ける使用人頭のような立場になり、静麗夫人もまた折り入っての頼みを紅花に持ちかける事が多くなった。
藩家を訪れた客達もまた、目まぐるしく働きつつも作法の乱れない美しき召使をいたく気に入り、方々で良い噂を流す。
中には、是非ウチにと藩家当主に大金を積む事すらあるらしい。
しかしそのたび静麗夫人が嫌がり、また紅花自身も『藩家には深い御恩がありますので』と引き抜きに応じない。
最近の藩家当主は、酒に酔えば必ずその話を始め、娘の自慢話をするように機嫌よく笑うという。

対して、美杏はどうか。
美杏はけして要領の良い方ではない。何事につけても動作が遅く、決断力に乏しく、社交的といえる性格でもない。
今や実質的に藩家を取り仕切っている紅花の陰で、ごそごそと倉の整理などをしているのが常だ。
あの紅花と同い年なのに。誰もがそう陰口を叩いている気がした。
いつも紅花に対して負い目を感じていたし、またいかに紅花とはいえ、いい加減自分に愛想を尽かしているに違いないと考えていた。
そしてある日、ついに美杏達より4つ下の召使から、はっきりと言葉に出されてしまう。

「ねぇ。美杏さんと紅花さんって同い年で、同じぐらい長くココで働いてるんですよね。でも、全然感じ違いますねー。
 紅花さんはいかにも熟練って感じで格好良くて憧れますけど、正直美杏さんはとろいっていうか、ちょっとああはなりたくないなって思います。
 紅花さんも大変ですよね、あんな人の尻拭いし続けて。でも同い年だから注意しづらいんでしょ? 同情しますよ」

少女が紅花にそう告げるのを偶然耳にした瞬間、美杏の背を冷たい汗が伝った。
恐れていたことがついに現実になったのだ。
無理もない。自分の不器用さは誰が見ても腹立たしいだろうし、実際紅花に負担もかけている。
そうよ、もううんざり。そんな本音が今にも紅花から発されるだろう。美杏は物陰に隠れながら、それを覚悟した。
しかし。
直後、美杏の耳に飛び込んできたのは、乾いた音だった。
「えっ……?」
少女の虚を突かれたような声が続く。
紅花が少女の頬を張ったのだ。その事実を把握するのに、美杏は数秒を要した。
「美杏を、馬鹿にしないで」
紅花はあくまで静かに、しかし毅然とした口調で告げる。
「確かに美杏は、人より仕事をこなすのに時間がかかるかもしれない。でもあの娘はいつだって、どんな仕事だって、一生懸命にやるの。
 長い付き合いだけど、手を抜いているところは見た事ない。本当に優しくて他人への思いやりがないと、そんな事できないよ。
 私は、そんな美杏を凄いって思う。従者として……ううん、人としてだって、大事なのはそういう事なんだって。
 要領が良いか悪いかじゃない。美杏っていう娘が何をして、何を考えて毎日を生きてるか、ちゃんと見てあげてよ!」
一語一語を噛みしめるようなその言葉は、紛れもない本心に思えた。
否。たとえ美杏の存在に気付いた上での甘言だったとしても、その言葉を耳にしただけで、美杏は長い苦しみから救われた。


その夜、従者用に宛がわれた相室の中で、美杏は初めて自らの胸中を紅花に曝け出す。
ずっと自分に自信がなかったこと。
初めて会ったときから、何でも卒なくこなしそうな紅花にどこか苦手意識を抱いていたこと。
家中での扱いに差がつくたび、焦りと共に妬み嫉みといった感情が膨らんでいったこと。
何の非もない紅花に嫌悪感を抱く自分自身が嫌でたまらないこと。
本当は紅花が自分を見下していると思っていたこと。
昼間、偶然紅花の言葉を耳にし、申し訳ないという感情で胸が詰まったこと。
美杏が次第にしゃくり上げながら紡ぐその懺悔を、紅花は、ただ静かに聴いていた。
そして最後、美杏が言葉にならない音で謝罪を繰り返すようになった時点で、紅花は……美杏を抱きしめた。
何も言わず。
ただ、いつも品のある振る舞いをする彼女にしては、荒々しくさえ思える力強さで。
「ほ、紅花…………?」
美杏が捩れた麻の服越しに紅花の横顔を覗けば、その頬には透明な雫が見てとれた。
涙の意味は解らない。美杏の心中を察しての涙か、それとも本音を打ち明けられた事が嬉しかったのか。
いずれにせよ、この日の涙をきっかけに、二人の関係は変わった。近しい同僚から、無二の親友へと。
出会って以来、常に二人の間にあった隔たりは消え、悩みや迷いがあれば何でも相談しあう仲になった。
美杏から相談するのは勿論、紅花もまた美杏を頼るようになり、美杏にしてみればそれが嬉しい。

腹を割って話してみると、いかに紅花といえど、周りが思うほど完璧ではないことが判った。
彼女も美杏同様、ミスもすれば物忘れもする。
ただ、それが問題となる前に火種を消し止めたり、傍目には最善と思えるほど丁寧に次善策を講じているだけだ。
美杏はそれを明かされ、逆に改めて紅花の優秀さを思い知ることになる。
そしてそれ以上に、彼女の藩家に対する忠誠心に胸を打たれた。

紅花が熱心に従者の勤めを果たす理由は一つ、拾ってくれた藩家への恩義ゆえだ。
人目のない所でさえ常に行儀よく振舞うのは、万が一にも来客に無作法を見られて藩家の評判が落ちないようにするため。
誰より多く仕事をこなす傍ら、他の者にも助力を惜しまないのは、家中の安泰を願っての行為だ。
その忠臣ぶりたるや、美杏の比ではない。
「静麗奥様に拾って頂かなかったら、私は……とても生きてはいられなかったから」
忠義を尽くす理由として、紅花は短くそう告げた。
藩家によって救われたのは美杏も同じだが、紅花の過去はそれ以上に暗いものらしい。
美杏は、紅花が闇から救われてよかったと感じた。そして、これからの彼女にも幸多き事を切に願った。
しかし。その少女の無垢な願いは、後に無惨にも踏みにじられる事となる。
不運でもなければ、事故でもない。
彼女らと同じ“人間”が抱く、どす黒い悪意によって……。





「白家に…………ですか?」

静麗の言葉を復唱しながら、さしもの紅花も表情を強張らせた。
白家といえば、この一帯で知らぬ者はない由緒正しき家柄だ。それも藩家の比ではない。
たかだか2代前に財を築いて名門入りした藩家に対し、白家は数百年も昔から役人を輩出し続けている名門中の名門。
もしその白家当主の機嫌を損ねでもすれば、藩家など忽ち一家断絶の憂き目に遭うだろう。
藩家はこれまで、この白家に対して礼を尽くしてきた。金子や各種名産品…………そして、“人”の上納という形で。
「ごめんなさい」
藩家夫人である静麗は、紅花に頭を下げる。この静麗自身も、今回白家に貸し出される貢物の一つだ。
30を超えてなお若々しい美貌を持つ静麗は、白家当主にいたく気に入られていた。
白家当主が唾をつけている『妾』は他に何人もいるが、今年は久方ぶりに静麗に白羽の矢が立ったらしい。
白家に呼ばれた夫人は、白家の敷地内に建てられた屋敷に出向き、そこでおおよそ一月から二月の間軟禁状態に置かれる。
そして出向く際には、家の召使のうち一人を同伴する決まりになっていた。
名目上は、静麗の世話係として。しかし実態は、白家に仕える召使達の遊び道具としてだ。
大家である白家は、召使の数も数十に上る。女の数が増えれば派閥も生まれ、軋轢が生じやすい。
その軋轢を緩和する為に、妾の滞在中、『下賎な家柄』の従者を召使達に与え、一丸となって憂さ晴らしをさせる。
実際、こうした共同作業で一人を思うさま虐げた後しばらくは、白家の召使達も派閥の垣根を越えて談笑するという。

堪らないのは、供物として捧げられる従者の方だ。
仔細は明らかになっていないが、断片的な噂によれば、白家に捧げられた従者はこの一月から二月の間、
女の身で考えうるあらゆる恥辱を繰り返し味わわされるという。
仕えていた先では誰より聡明で、誰より美しく、誰より責任感が強いと謳われた最上の従者が、この白家への『奉仕』を最後に、ほぼ例外なく暇を申し出て姿を眩ませるという。
そして、それは単なる噂ではない。藩家においても、4年前に一人の犠牲者が出ている。

美杏と紅花にとって姉も同然の存在であった彼女――怜(リン)は、さばさばとした勝気な女性だった。
卒のない紅花にも内向的な美杏にも同じように接し、確かな愛情を注いでくれた。
その彼女が、白家から戻ってきた時には、まるで別人のようになっていたのだ。
髪は乱れ、肌はくすみ、瞳には何の光も宿していない。
「…………もウ、私のことをヒトだと思わないでクれ」
心配して駆け寄る美杏と紅花に対し、怜は不安定な抑揚でそう呟いた。そして。
「…………あんた達が、あんた達が羨ましい。まだ堂々と、ヒトで居られるあんた達が…………」
もはや恨みすら感じられる眼で、美杏を一瞬、そして隣の紅花を実に6秒ほど睨み下ろした後、怜は踵を返す。
そしてそのまま、二度と藩家の敷居を跨ぐ事はなかった。
美杏と紅花は義姉の後ろ姿が見えなくなった後、その場にへたり込み、肩を震わせて泣いた。
子供ながらに気付いたのだ。あの頼もしく、優しかった姉が、白家で壊されたのだと。
それから、4年。
先日19歳の誕生日を迎えたばかりの紅花にもまた、白家への呼び出しが掛かってしまった。
白家当主直筆の文書によって。

「…………わ、私では…………駄目なのでしょうか」
重苦しい沈黙が場を支配する中、美杏は意を決して告げた。
静麗が、紅花が、場の全ての人間が目を丸くして美杏を見やる。
「な、何を言うの!?」
紅花のその言葉を遮るように、美杏は続ける。
「私も、この藩家に仕えて長い従者です。私では、紅花の代わりになれないのでしょうか!」
静麗は、その美杏の真剣な眼差しを受け止め、つらそうに首を振る。
「駄目よ。今回は先方がはっきりと、紅花を指名してきてるもの。多分、あちこちで紅花の良い噂が広まった弊害ね」
「で、でもっ、恐れながら白家の当主様ご自身は、紅花の顔をご存知ないのではないでしょうか!
 でしたら、代わりに私が…………っ!!」
普段大人しい美杏が息が切れるまで捲し立てた所で、紅花がその肩に手を掛けた。
「確かに、ご存知ないかもしれない。でも、ご存知かもしれない」
びくり、と美杏の肩が震え、その顔は涙で崩れながら親友へと向く。
「…………ありがとう、美杏。美杏のその気持ちだけで、充分。おかげで元気出たよ。
 私、向こうでどんな事されたって絶対に耐えて、またここに戻ってくるから。
 それまで、この家のこと……お願いね」
紅花は、普段通りの整った顔立ちのまま、少し唇を曲げて器用に笑ってみせた。





それからの日々を、美杏は仕事に没頭して過ごした。
現実問題として紅花が抜けた穴は大きく、一時的とはいえその代役をこなすのに忙殺されていた事もある。
しかし仕事以外の事を考えようとすると、どうしても今も白家で虐げられているであろう紅花の事を想ってしまう。
その苦しさから逃げるように、起きている限りは藩家の問題に意識を向けた。その甲斐あり、おおむね仕事は上手く進んでいる。
以前美杏に対して否定的な態度を取っていた一人も含め、美杏の主導に文句を出す者もいない。
もっともそれは、他ならぬ紅花が、美杏に後を託したという事実に拠るのかもしれないが。


そうして2週間が経ったある日、白家の従者が藩家を訪れた。
名目上は、白家への献上品の礼を述べるため。しかしその実、本当に用がある相手は、美杏達藩家の召使であるようだ。
白家からの従者は香月(シィァンユェ)と名乗った。
香月は、使用人部屋の中で最も上等な椅子に深く腰掛け、すらりとした足を組む。逆に美杏達は、その周りの床に座らされていた。
たとえ召使同士であろうと、仕えている家に応じた『格』がある。私は上で、お前達は下だ。香月は入室後の第一声でそう嘯いた。
何人かが口惜しそうに歯噛みする中で、美杏はただ香月の言葉を待つ。その視線を受け、香月が可笑しそうに眉を顰めた。
「ふぅん。野ネズミの中に、中々良い眼した子が混じってるのね。あなた、名前は?」
「……美杏です」
「そう。じゃあ美杏、耳を澄ませなさい。あなたがさっきから聞きたがってること……紅花の事を話してあげるわ」
香月はそう言いながら、残忍そうに唇を舐めた。

ここから香月は、紅花が最初に受けた『洗礼』について語り始めた。

白家の召使用に宛がわれた部屋の中で、紅花はまず纏っていた着物を女達の手で引き裂かれたのだという。
「どうしてわざわざ、こんな所から話を始めるか解る? あいつねぇ、服が破かれるってなった途端に、物っ凄い眼で睨んできたのよ。
 それで、ちょっと頭にきたコもいてね。3人で髪を掴んだまま、30回くらい頬に挨拶してから訳を聞いたの。
 そうしたらあいつ、頬真っ赤に腫らして涙目になりながら、奥様から頂いた着物を粗末にしないで下さい、とか言って。
 着物っていったって、ウチじゃみっともないから捨てるように言うような安物よ? 貴女たち、ここじゃ服もまともに着させて貰えないの?」
香月の煽りに、美杏達は唇を噛む。
あの紅花のことだ。出立の際に静麗から着物を賜り、どれほど有り難がったことだろう。
そしてそれを無惨に破られ、満足に憤ることすら出来なかった彼女の心情たるや、如何ばかりのものだろう。
そうした美杏達の心中を知ってか知らずか、香月は話を進める。

裸に剥かれた紅花は、その生まれたままの姿を悪意ある視線に晒しながら、さまざまに屈辱的な格好を取らされたらしい。
香月が傍らの召使に命じて真似させたその格好は、着衣状態であろうと羞恥で思わず頬が染まるものだ。
それを紅花は、腋も乳房も恥部も、なにもかも丸見えの状態でさせられたのだという。
さらに、ただ見られるだけではない。あられもない格好を晒す紅花は、15人以上の悪意ある同性から、口々に罵倒を受けた。
香月によれば、この言葉責めは罵声のえげつなさに応じて拍手が起き、その拍手をより多く受けた者が、優先的に次の責めに関われる仕組みなのだという。
ゆえに、浴びせられる罵声の熱意も並ではない。
乳房を揉みしだきながら、この柔さとでかさはまるで売女だと詰り。
太腿を鷲掴みにしては、腐り落ちる寸前の豚の大腿部のようだと罵り。
染みひとつない白磁の肌を、病気で死んでいく犬のような青白さだと揶揄し。
陰毛を引きちぎった時の濁った悲鳴を嘲笑い。
やがて素体を貶す言葉が尽きると、紅花を姿見の前に引きずり出し、鼻の穴を指で持ち上げたり歯茎を露出させ、
整った顔立ちを強引に歪めてまで悪し様にこき下ろす。
紅花は、耳を聾するようなその罵声に心を切り刻まれながら、命ぜられるままに恥辱の格好を晒し続けなければならないのだ。
実に1時間以上に渡って。
「要はただ野次られるだけなんだけどね。これで泣かなかった女は、今まで一人もいないの。
 不思議と芯の強そうな娘ほど、グズグズの泣き顔を晒すのよ」
香月はそう言い、囁くように、紅花も泣いたよ、と続ける。
予想よりは耐えたものの、大股開きのまま両手で尻肉を割り開き、肛門の粘膜すら晒したまま心無い罵声を浴びたところで、床にポタポタと水滴を滴らせ始めたという。
「あの娘って意地っ張りだから、この家じゃ人前で泣く事なんてなかったんじゃない? もしそうなら見せてあげたかったわ。普段はまあ見れる顔なのに、あの時はとっても、とーっっても不細工だったんだから! アハッ、やだ思い出しちゃった!!」
香月は言葉も終わらぬうちから、さも愉快そうに笑いはじめた。
美杏達の顔も逆の理由で歪む。今すぐにでも目の前で足を組む女を張り倒したい、そういった表情だ。
しかし、出来ない。それは場の皆が理解している。美杏も、香月も。





初日の洗礼が終わった後も、紅花に休む暇など与えられなかった。
本来は4人でこなす量の仕事を紅花一人に課し、さしもの彼女も疲労困憊で足元がおぼつかなくなる頃に、再び“歓迎の宴”が催される。
まずは朝から何も口にしていないのだから空腹だろうと、特製の七色団子が与えられる。
無論、純粋な団子ではない。唐辛子や花椒、野菜の苦汁、虫など、摂取出来なくはないが生ではつらい物が七つ全てに混ぜ込まれている。
団子の皿を前に、紅花は顔を青ざめさせたという。しかし白家の召使に煽られては、好まざる物と知りつつも口にするしかなかった。
ぐむっ、ぐぶうっ、という呻きと共に頬が膨らむ中、一つまた一つと団子が紅花の口へ押し込まれていく。
そしてようやく七つ全てが口に収まった瞬間、ついに限界が訪れたのか、紅花の顎が嘔吐の前兆を見せた。
しかし、それは白家の召使達の想定内。1人が背後から素早く紅花の顎を押さえ、別の1人が前から口に手を当てる。
嘔吐を阻まれた紅花は、一瞬目を見開いた後、きつく目を閉じて苦しむ他はない。
『ほーらぁ、観念して飲み込みな、死んじゃうよー。大丈夫だって、別に死ぬような毒なんて入ってないから』
『そうそう、今まで何人にも食わせてきてるのよ。ま、皆大抵はお腹下すんだけどさ』
そのような詰りが飛び交う中で、紅花に2度目の限界が訪れた。
今度の逆流は凄まじく、口を押さえる召使の指の間からあふれ出してしまう。
『うわっ、こいつ! きったない!!』
『あーあーあー、戻しちゃった。あたしら直々に御馳走した物をこんな扱いされて、面子丸潰れだよ。もうこれは仕置きしかないね』
『だね。そうだ、ちょうどいい。そんなに吐きたいなら、胃の中身ぜんぶ吐けるように協力してあげるわ。ほらっ、押さえつけて!!』
一人が命じると、すぐに数人の少女が紅花に詰め寄り、椅子から引き起こしつつ羽交い絞めにする。
そうして身動きを封じられた紅花の口内に、一人が二本指をねじ込んだ。
『ぉがっ!!』
思わずえづく紅花だが、蹂躙者に躊躇はない。
『言っとくけど、くれぐれもこの指は噛まないようにね。もし傷でも残ったら、旦那様に見せて報告するから』
『!!』
そう言われた途端、紅花は少し考える素振りを見せ、やがて顎の力を緩めた。
反抗心を残している彼女だけに、命じられたから、でない事は明らかだ。
白家の当主ともあろう者が、本当に使用人の言葉を鵜呑みにして藩家を取り潰すとは考えにくい。しかし、有り得ないという確証もない。
事実として白家は、この悪趣味な催しを黙認しているのだ。世間一般の常識が通じる相手と考えるべきではない。
聡明な紅花のこと、瞬きほどの間にそう判断したのだろう。
『へぇ……噂通り頭がいいのね。でも残念。私達、そのよく回る頭を錆つかせて、命令に従う事しかできない馬鹿犬を作るのが目的なの。
 お前のこれからは、全部私達が決めてあげる。利口さはもういらないの。
 何も考えなくっていい。今は……私達の前で、惨めったらしく、くっさい吐瀉物を撒き散らす事だけに専念なさい』

そこから紅花は、女の二本指で喉奥を掻き回され続けた。
事前に大量に嘔吐していたせいか、逆流の気配はない。しかし指が喉の深くに入り込むたび、紅花の細い顎が浮き上がり、ゴえっ、グェエッ、という『潰れた蛙のようなえづき声』が上がる。そしてそれらは当然、物笑いの種にされたという。
「でね、あの子ってまぁまぁ……うーん、もういいか。正直言って素面だと、相当綺麗な顔してるじゃない。ウチにも色んな娘が来るけど、あの子は数年ぶりの当たり。だから、顔グシャグシャにするのがまた楽しくってねぇ。
 おまけに唐辛子団子が効いたのかしら、ヨダレとかえづき汁がもう凄くて。顎から喉を通って、胸の方にまで垂れていくの。
 それがまたゾクゾクしてね。気付いたら、誰ともなしに、こう!……してたわ」
香月は興奮から頬を赤らめつつ、傍らの少女の胸元を強引に肌蹴させた。薄い麻の服から、幼い乳房が露出する。
「きゃあっ!!」
「ふふ、そうそう。紅花も叫んだわ。喉を掻き回されながらの汚いえづき声でね。
 で、これは流石に再現できないみたいだけど、知ってる? 紅花って結構、立派なおっぱい持ってるのよ。
 だから皆してそれを摘んで、えづき汁を塗りたくって、先っぽをこねくり回したの。あの子もウブよね、ギャアギャア暴れたっけ。
 もう、本当に楽しかった! だから気分が高揚してね、指で喉虐めるだけじゃ物足りなくて、こんなのまで使っちゃったの」
香月はそう言いながら、持参した袋の中から棒状の道具を取り出した。
藩家の召使の中に、その道具そのものを知る物はいない。しかし一人は、その形状に覚えがあると言った。
「へぇ、男を知ってるの。売春宿からここに貰われてきたクチかしら、さすが節操のない藩家さまねぇ。
 ま、いいわ。これは殿方の性器を模した道具で、張型っていうの。うちの奥様は旦那様がいらっしゃらない夜に、よくお使いみたい。
 これを指の代わりに、紅花に咥え込ませてやったの。ちなみにこれね、実際に紅花に使った張型そのものよ。
 誰か、あの紅花を慕ってる子がいるなら、愛しい匂いでも嗅いでみたらどう?
 ああ、でもやめた方がいいわね。だってこれ、あの子の吐瀉物に散々塗れてるんだもの」


不慣れな刺激ゆえか、張型を半ばほど喉に送り込まれた時点で、紅花は嘔吐の寸前という表情になった。
『ごっ、ぉおおっ、ふもガッ!!」
さらに数度喉奥を突いてやれば、いよいよ嫌がって頭を振り始めた。しかし、白家の者の意思は嘔吐させる事で一致している。
すぐに数人の手で、紅花の抵抗を封じる手段が取られた。
一人の手が紅花の側頭部の窪みを鷲掴みにし、張型を送り込む一人も、紅花の顎を変形するほどに強く掴む。
そうしていよいよ本格的に動きを封じられた紅花に、もはや逃れる術はなかった。
側頭部と顎を掴まれている以上、左右に顔を振る事は叶わず、となれば上下に首を振るしかないが、そこに罠があった。
天を仰ぐように顔を上向けた瞬間、張型が直線となった食道へいよいよ深く送り込まれるのだ。
『……ッヵ“ァ、お“エ“エ“ッ!!!!!』
それまで薄目を開けていた紅花も、この時ばかりは目をきつく閉じ、鎖骨を浮かせながら肩を跳ねさせ、嘔吐そのものを思わせるえづきを響き渡らせるしかない。
『あははっ、ねぇ見た? こいつ今、自分から咥え込んだよ!』
『ね。にしても凄い顔、もう原型ないよ。人間の顔って、苦しいってだけでここまで変わるんだねー』
『あ、もうそろそろ本当に吐きそう。あ、出る、出るよ!!』
何十という悪意の瞳が見守る中で、いよいよ張型が奥深くまで捻じ込まれ、引き抜かれる。
一度目の決壊は、まさにその引き抜く動作に追随する形で訪れた。

『っんも゛ぉ゛おお゛お゛おえ゛おお゛ぇァっ!!!!!』

およそそのようにえづき上げ、首を前方に投げ出しながら、紅花は盛大に嘔吐した。
吐瀉物の色は黄色く、風呂場で指を使って水を飛ばした時のように、ぴゅっ、ぴゅっと二筋に分かれて飛ぶ嘔吐だった。
それを視界に収めながら、少なくとも香月は、恍惚に近い状態にあったという。
原因は、その時の得た情報全て……特に紅花の表情と、女を捨てきったかのようなえづきだ。
香月はこの時初めて、自分の中で紅花という少女がどれほど高く評価されていたのかを知った。
公の場に出ればたちまち旦那衆を骨抜きにするだろう顔立ちに、白家第一夫人付きでも通用するほど洗練された所作、そして類稀なる聡明さ。
およそ使用人としての質で、この紅花を上回る逸材などそうは居まい。
紅花に嫉妬していた。おそらく、あの時部屋にいた誰もが。
だからこそ、その紅花が女として終わる瞬間を目の当たりにした時、誰一人として反応ができなかったのだ。
『ああ……』
『おおぉ…………』
そのような意味のない感嘆を漏らしながら、ただ紅花の決壊を見つめる。それは、男の射精にも等しい恍惚だったのだろう。
そして、その恍惚を消化しきった時、女達は一様に口端を吊り上げた。

「……もっと無様に、もっと苦しそうに吐かせてやる。あの時は多分、みんなの頭の中がそれで一杯だったんでしょうね。
 冷静になった今思うと、あの後の紅花はちょっとだけ可哀想だったかな。女が一つの目的で団結した時ほど、怖いものってないのよ」
香月は手にした張型を振りながら笑う。
そして香月は、その後の凄惨な状況についていよいよ楽しげに語ってみせた。

紅花の被虐美にあてられた女達は、それから様々な方法で紅花を嬲ったという。
白磁の肌を余すところなく撫でさすりながら、交代で喉奥を苛め抜く。
羽交い絞めで張型を送り込むほか、床に張型を固定し、這うような格好で咥えさせもした。
美しい紅花が、初々しい菊輪と性器を晒し、獣のように這い蹲りながら、頭を押さえ込まれての前後運動を繰り返す。
そしてその果てに、ゴエゴエとえづきながら、張型の幹に沿って薄黄色い胃液を吐きこぼすのだ。
この方法の苦しさは格別らしく、紅花は前髪を張り付かせた額にじっとりと汗を掻きながら、かつてないほど固く目を瞑って嘔吐する。
内臓が圧迫されるせいだろうか。張型が喉から抜けた後も、ぶほっと後追いの形で嘔吐が起こり、粘ついた唾液を何本も床に伸ばした。
『はぁ、はぁっ、はっ、はーっ…………も……もぉ゛………………やめ゛て下さい……………………』
極めつけは紅花自身が、息も絶え絶えに香月達を見上げ、懇願を口にする。
その無様を見下ろす香月達には、再びの恍惚が訪れたという。

当然、加虐は止まなかった。
さらに何度か吐き戻させ、やがて透明な胃液すら出ない空嘔吐に至ると、強制的に胃を満たしてから責めが再開された。
水に近い粥を強引に摂取させ、戻させる。酒を飲ませて酩酊状態に陥らせてから、吐かせる。
そうしてとうとう紅花の四肢が力を失い、横様に倒れたまま起き上がらなくなった所で、ようやく宴はお開きとなる。
精も根も尽き果てた末に、ようやく訪れた休息の時。しかし、それすらが甘い罠だ。
紅花には仕事がある。一日の最初にする仕事は、誰よりも早く起き出し、召使に向けた食事の支度をすること。
泥のように眠りこける紅花は、当然この仕事をこなせない。そしてそれがまた、厳しい仕置きを正当化する理由にされるのだ。





「……浮かない顔ね。紅花は親友だって、さっき言ってなかった? 親友に会いに行くのに、そんな顔ってないわ」
馬車に揺られながら、香月が対面の美杏に告げる。
美杏はその香月の顔を見据えながら、ただ黙していた。
馬車の向かう先は白家だ。
白家に帰るついでに、一人だけなら馬車に乗せて同行させてやれる。特別に現在の紅花の様子を見せてやる。
その提案に続き、香月が指名したのが美杏だった。
香月から紅花の話を聞く間、最も痛切な表情を浮かべていたのが美杏だったのだろう。
そこから紅花と近しい人間である事を看破され、その近しい人間相手に恥を晒すことで、さらに紅花を追い詰めようという魂胆だ。
しかしその姦計に気付いてなお、美杏は白家への同行を承諾した。
確かに自分が行くことで、紅花を追い詰める可能性はあるかもしれない。
しかし逆に、自分が声を掛ける事により、紅花をヒトとして瀬戸際で踏み止まらせる可能性もあるかもしれない。
香月の語った紅花の悲劇は、美杏の想像を超えていた。
話を聞けば聞くほど、いかに紅花といえども耐え切れないように感じられた。
そして美杏は、怖いのだ。かつての怜のやつれた顔が脳裏に浮かび、なぜか紅花に重なって思えてしまう。
もう、失いたくない。紅花を一人地獄にいさせちゃいけない。それが、美杏が白家に向かう理由だ。

そうした美杏の心境を知ってか知らずか、香月は直近の紅花への責めについて話し始めた。

「苦しめてばっかりじゃ悪いからね。最近じゃ、紅花を気持ちよくさせてあげてもいるのよ。
 乳首と、陰核……あそこの上にあるお豆ね、この三点を舐めたり指で転がしたりして、快感を与えるの。
 どれだけ性的に未熟な相手でも簡単に感じる場所だから、紅花もすぐ昂ぶったわ。
 まぁ、私達の手で絶頂を迎えるのが嫌だったんでしょうねぇ。必死に我慢してたけど、それがまた可笑しくって」

香月はその情景を生々しく語り聞かせる。
紅花は丸裸のまま大股を開き、股座の一人、両脇の二人から三所責めを受けた。
初めこそ涼しい顔で耐えていたが、次第にその唇が開き、浅い呼吸が漏れ始める。同時に桜色の肌にもじっとりと汗が滲み出す。
やがて太腿の筋肉がピクピクと痙攣を始め、薄い筋のような秘裂もまた疼きを見せるようになる。
足指は堪らないという様子で握りこまれ、手指は緩く拳を作り。
そしてついに、顎が持ち上がって後頭部が床に擦り付けられた。その直後にふうっと脱力が見られた事からして、絶頂に至ったのだろう。

「そこでイッた……ああ、絶頂したっていう意味ね。それは明らかだったけど、本人は認めないのよ。
 だから責める子達も変に燃えちゃってね、そこからは丁寧に丁寧に責めて、何度も絶頂させ続けたの。
 頭を床に擦り付けるたびに絶頂してるんだろうなとは思ったけど、みんなわざとそ知らぬ顔してね。
 絶頂する時には『イキます』って宣言するのよ、なんて囁きながら、ずーっと責めてたの。
 そうしたらあの子、我慢強いわよねぇ、7回も8回もイッてるはずなのに、歯を食い縛って頑張るのよ。
 口開いちゃったあそこに指を入れたら、もう中は愛液でドロドロでね、膣の浅い所にオンナの泣き所があるんだけど、
 そこを指の腹でざりざり擦ってあげたりすると、腰がびくんって跳ねたりするんだけど、イクとだけは言わないのよ。
 そういうのって、こっちが負けたような感じがして癪じゃない?
 だから我慢比べってことで、次の日は一日中今言った性感帯を開発しまくってやったの」

一日中責め続ける。これは責める側にとっても並ならぬ負担だ。しかし白家の召使には、それを進んでする者がいる。
普段、白家の中で虐げられている最下層の召使達だ。
紅花を絶頂させた回数に応じて、紅花が去った後の待遇を上げる。そう持ちかけると、一心不乱に紅花を責め始めたという。

「もう本当に、腹を空かせきった野犬みたいだったわ。上手くすればもう虐められずに済むんだから、必死にもなるでしょうけど。
 ただ私が見た限り、それだけじゃないわ、あれは。普段自分達が虐げられてる憂さを晴らしてたのよ。
 いかにも選択肢のない被害者ですっていうような泣き顔しながらね。だって……後が凄かったもの」

香月達は、最初こそ3人の娘の責めをおかしがって見ていたが、次第に飽きが来て一旦部屋を離れたらしい。
そうして翌朝に再び部屋を訪れた時には、仰天したという。

「まず匂いが凄いのよ。汗と女の匂いが部屋中に充満しててね。
 おまけに床が、桶をひっくり返したみたいにびしょ濡れなの。壁のあっちこっちにも飛沫みたいな痕があって。
 3人は揃ってクタクタでへたり込んでたけど、紅花はもっと悲惨だったわ。
 よっぽどあれこれ余計な事を喋ったのか、口の中一杯に布が詰め込まれてるの。
 しかもその布引き抜いたら、紅花のヨダレでぐっしょり濡れてるのよ。
 まぁヨダレだけじゃなくて泡も噴いてたし、そもそも鼻水とか額の汗とか、もう色んな所がすごいんだけどね。
 でも、一番ぎょっとしたのは目ね。あの生意気そうな目が、もう半分以上上瞼に隠れちゃってて。
 そうそう。おまけに完全に意識失ってる感じなのに、体中がビックンビックン痙攣してるの。もう、ずーっと。
 道具なんかは一切置いていかなかったから、指と舌だけでそこまでにしたのねぇ。
 思えばあの日からだわ、あの子の様子が変わったのは。
 それまでは……藩家だったかしら?あなた達の家について少しでも貶すと、すぐムキになって睨んできたのに、
 今は悔しそうにはするけど、もう私達と目を合わせないの。
 言いたいことあるなら言いなさいって顎掴んで顔上げさせても、震えながら横の方見てるのよ。
 あなた達何をしたのって当の三人に聞いても、あの時は必死すぎて覚えてませんとしか言わないんだけど」

何があったのかしらね。香月はそう話を締め、愉しげに笑う。
しかし、美杏にしてみれば笑う所ではなかった。
今の話が事実であるとするならば、紅花はすでに心を折られかけている。
「…………っ!!」
友の心中を想い、美杏は膝の上で手を握り締めた。香月に面白そうに見つめられながら。





噂通り、白家は藩家など比にならないほど広大だった。
充分すぎるほどの大きさの館が敷地内にいくつも立ち並ぶ様は、まるで小さな町のようだ。
使用人用の屋敷すら、門構えを始めとして豪奢の限りが尽くされている。

かくして、紅花はその屋敷の一室にいた。
一糸纏わぬ丸裸のまま、背を柱に預ける形で両手を頭上に拘束されている。
尻は地面につき、すらりとした両脚は、天井の梁を通る縄で高く掲げたまま吊るされている。
見事なまでに身動きを封じる縛めだ。
さらによく見れば、その口には強制的に開口させる器具が嵌め込まれており、股座にも香月が手にしていたものより遥かに胴の太い張型が、ほぼ根元まで埋め込まれてもいた。
「う…………!!」
調教が進んでいる現実をまざまざと見せ付けられたようで、美杏は絶句する。それを尻目に香月達がわざとらしく足音を立てて部屋へ入ると、紅花はゆっくりと頭をもたげた。そして入室者の中に美杏の姿を見つけると、目を見開く。
「おあごあっ!?」
開口具に阻まれた悲鳴を上げながら、足をばたつかせる紅花。秘部を隠そうというのだろうか。しかしそうして暴れたところで、縄で擦られた梁がみしりと音を立てるだけだ。
「ホン……!!」
思わず親友の名を叫ぼうとする美杏の肩に、冷たい手が乗せられる。
「さぁ、美杏さん。お茶の準備が出来たようです。お菓子もありますから、お話しましょう。
 あなたのお友達のこと、藩家の奥様や旦那様のこと……使用人の目から見てどうなのか、お聞かせ下さい。
 ああ、そうそう。あそこにいる豚は、少し悪さをして反省中なのです。
 知性の乏しいけだものゆえ、お話中に何か啼くこともあるかもしれませんが、どうぞお気になさいませんよう」
美杏が叩かれた肩の方を振り向くと、そこには黒い瞳が並んでいた。
その瞳を見た瞬間、美杏は悟る。ここの使用人達は、言葉が通じる相手ではないと。

テーブルを囲んで様々な質問に答えている最中にも、美杏の意識は常に紅花の方を向いていた。
秘部を隠すために足を閉じようとするのは諦めたらしいが、それとはまた別に、ひどく落ち着かない様子でいる。乳房と同じ高さで吊り下げられた足首を執拗に動かし、尻を上下させる。口枷からは常にアアア、と切ないような呻きを漏らし、そして数分に一度という周期で、その呻きは急激に大きくなる。
「アア゛!! アア、ア゛アアッ!! アアアァッ、アァオオッ、オアアアァア゛ーーーッ!!!」
背を向けていても美杏には解る。その悲痛な叫びは、自分達に向けられているのだと。

 ――助けて、助けて! 私、もうだめっ!!

親友のその声が聴こえるようで、美杏は居たたまれなかった。


やがて、美杏達が話し合いを始めて30分ほど経った頃。
「――あら、いけない。もうこんな時間だわ!」
「あ、ほんと、うっかりしてたわ。ごめんなさい美杏さん。私達、これから少し用事がありますの。
 そのうち戻りますから、どうぞお茶を楽しんでいてくださいまし」
白家の召使達が慌てた様子で席を立ち、一人また一人と部屋を出て行く。
そうしてテーブルには美杏だけが残された。
「えっ……? こ、これって…………!!」
美杏は素早く室内を見回し、他に人影のない事を確かめてから立ち上がる。
好機だ。先ほどからひどく苦しそうにしている紅花を助け、言葉を交わす唯一無二の機会だ。

「紅花!!」
美杏はすばやく紅花の元へ駆け寄り、その足首を縛る縄を解いた。
ついで、手首の縄。そして、開いた口にすっぽりと嵌まり込んだ口枷を取り外す。
「は……っ!!」
開放されたかのような吐息が漏れ、ひどく粘り気のある唾液が口枷との間に糸を引いた。
ひどく久しぶりに思える紅花の顔。面影自体は変わっていないが、以前より明らかにやつれている。
「大丈夫、紅花!?」
美杏が問うも、紅花は虚ろな瞳で、言葉にならない言葉を掠れ声でつぶやくばかりだ。
長時間口枷を嵌められていたせいで、思うように顎が動かないのだろう。
美杏は必死に紅花の口元に耳を近づけ、その真意を図ろうとする。
「…………ァい…………ぁや……ぃ………………て………………」
途切れ途切れにかろうじて音が拾える状態だ。
それを何度も、何度も聞くうち、ようやく美杏の脳内に一文が組みあがった。

「…………おねがい…………
     …………厠………………厠まで、行かせて………………!!!」

「か、厠っ!?」
美杏はその言葉に耳を疑う。厠……便所に行きたいというのか。
尿意か、それとも便意か。いや、そもそもにして、この屋敷の厠はどこにあるのか。
頭に浮かぶ事は数あれど、ともかく紅花には明らかに余裕がない様子だ。
「捕まって、紅花。今連れて行ってあげる!!」
やはり長時間縛られていたせいで足腰が立たない紅花に、美杏は肩を貸す。
しかし二歩、三歩と歩を進めるうち、紅花がいよいよ苦しげにうめき始める。
「頑張って、紅花!!」
美杏が声を掛けるも、紅花の顔はすでに青ざめきっている。そして。
「あ、あ…………ああもう、もうっ…………っだめぇええええーーーーーーっ!!!!!」
耳を聾するようなその絶叫と共に、紅花の足の間から張型が弾き出された。
そして同時に、夥しいほどの茶色い奔流が、あるいは紅花の足を伝い落ち、あるいは勢いよく床に叩きつけられていく。
「ああっあああ……あぐっ、ふっぐ……ぅわあぁぁああっっ!!!」
紅花はその場に膝をつきながら、声帯の割れたような悲壮な嗚咽を漏らしはじめた。
美杏は鼻の曲がるような異臭の中、ただ呆然と立ち尽くしていた。
何が起きた? 
 ――紅花が、糞尿を撒き散らしながら泣いている。あの、紅花が。
足元に何が転がっている?
  ――張型だ。恐ろしく太い、責め具。これがかろうじて、肛門の栓の役割を果たしていたのだ。


「あらあらあら!! 大きな声がしたと思ったら……とうとうやったのね、紅花」

突如として部屋に響きわたった大声に振り向くと、満面の笑みを湛えた香月達がそこにいた。
彼女達はその悪魔じみた笑みを浮かべたまま、美杏と紅花を取り囲む。
「あ、あの……これは!」
美杏は弁解を図るが、その先が続かない。紅花が大便を漏らし、美杏がそのきっかけを作った。その事実は動かない。

「豚の事は気にするなと、忠告しましたでしょう。由緒あるこの白家のお屋敷で、粗相だなんて」
氷のようなその一言に、美杏はびくりと肩を震わせる。
「後ほんの少し我慢していれば、専用の桶でさせてあげたというのに。ねぇ、紅花?
 今日の今日までずーっと、我慢して、我慢して、我慢してこれたのに…………どうして今日に限って、厠を使おうなんてしたのかしら」
「仕方がないわ。おうちで一緒に育った、姉妹みたいな子が縄を解いてくれたんだもの。助けて貰えると思っちゃったんだわ。
 でも、縋るべきじゃなかったわねぇ。普段通りにしていれば、今日だってきっと我慢ができたでしょうに」
「本当に馬鹿な豚ね。今日さえ我慢して乗り切れば、お尻は勘弁してあげるって約束は本気だったのよ」
「でも、約束は約束。そうでしょう、紅花?」

目を細めながら、口々に呪詛のような言葉を紡ぐ香月達。その様子は余りに不気味であり、美杏は思わず口を開く。
「な、何なんですか!? 一体、何の話をしてるんですか!?」
美杏の叫びを受け、紅花への語りかけが途絶える。
そして女達の視線は、ゆっくりと美杏の方にずれた。黒い硝子玉のような数十の瞳が、美杏を映す。
その視線の中心に晒された時、美杏は、ぞくり、とした。
この世ならぬ者。そう思えるほどの異質さが、この屋敷の女達にはある。

(なに、怖い。怖くて、たまらない。何もかも捨てて、今すぐにでも逃げ出したいぐらいに。
 …………え、待ってよ。じゃあ、じゃあ紅花は、こんな環境で、ずっと…………?)

「安心して。あなたには関係のない話よ、美杏。誓約を交わしたのは紅花の方。罰を受けるのは紅花だけ。
 『一週間、毎日浣腸をして、もしも桶と厠以外の場所で粗相をしたら、泣こうが喚こうが、徹底的にお尻の穴を開発する』
 これに紅花は合意したの。だってこの条件さえ達成すれば、明日からはもうほとんど責めを受けなくて済んだんだから。
 でも、それはもう無い話。誓約を破った今日からは、毎日毎日けだものみたいに這い蹲らせて、徹底的にお尻を調教してあげる。
 指で慣らして、道具で拡げて、毎日色んな液を注ぎ込んではひり出させて、排便の快感だけで濡れるようにして。
 お尻にモノ突っ込まれただけで絶頂するような、あさましい豚に作り変えてあげるわ!!」

香月のその悪魔じみた宣言に、白家の女達はいよいよ笑みを深めた。
美杏は思わず後ずさりし、何かにぶつかって転ぶ。
「きゃっ!!」
悲鳴を上げつつ横を向くと、そこには蹲ったまま、力なく床を見つめる紅花がいた。虚ろな瞳にもはや光は見当たらない。
一縷の望みが潰え、絶望に沈んでいるのだろうか。
聡明であるがゆえに、この家の女から肛門調教を受けては耐え切れないと悟ったのだろうか。
美杏が縄を解かなければ、彼女は下手に動こうとしなかったかもしれない。
美杏が助け起こそうとしなければ、肛門から張型が抜ける事はなかったかもしれない。

 (…………わたしの、せいだ。わたしが、紅花の希望を…………摘み取ったんだ)

その考えに至り、美杏は絶望に沈む親友を前に、欠ける言葉を失った。
親友が自我を失いそうであれば掛けようと思っていた、“頑張って”という言葉が、今やただ虚しい。

「さぁ、では美杏さん。お屋敷への帰りの車を用意しましたので、参りましょう。
 ここはもう、あなたのような真っ当な方が立ち入られるべきではない…………ただの豚の、飼育場ですから」






「…………あっ、あっ、あ、あっ…………あっ、ああああっ…………!!」
「……あああ、ああっ! …………あああ……ああっ、ぅ…………っあ!!」

広い部屋の中に、二つの喘ぎ声が繰り返される。
一つは美杏。そしてもう一つは、隣の紅花の発するものだ。
「もっと肛門をお締めなさいな。ったくお前は、覚えが悪いね」
「……すみません」
女から浴びせられる叱咤の声に、美杏は謝罪を返した。そして命じられた通り、括約筋に力を込める。
肛門内の異物の感触が強まり、えも言われぬ感覚が脊髄を走り抜ける。
曲げた膝を大きく開き、乳首と陰核を刺激されながら肛門に異物を出し入れされる。
この調教が、もう何日繰り返されている事だろう。
肛門内部への異物挿入は、未だもって不快感しかない。
乳房や陰核への刺激と平行して刺激されれば、脳が錯覚を起こして肛門が気持ちいいのだと感じる。
当初そのような説明をなされたが、どうやらその兆候はない。そして、あってほしくもない。

「ああ…………ああああっ…………いっ、イクゥっ…………イギ、ますっ…………!!」
「あらあら、もうクリトリスの刺激もいらないの? 本当にお尻だけでイクようになったのねぇ、豚。
 飲み込みが早いっていうのも、考えものね」
隣では、紅花がとうとう肛門への異物挿入だけで絶頂に至り始めたらしい。
彼女の調教は順調だった。すでに乳房と陰核の性感帯が目覚めているせいで、膣の奥が蕩けやすいそうだ。
そうして蕩けた膣の奥を、直腸側からグッグッと押し上げると、凄まじい快感が湧き上がってくる。
香月は昨日、まるで暗示をかけるように紅花にそう語り聞かせ、紅花は虚ろな顔のまま、反射的にか頭だけを上下させていた。
その様子に、美杏は歯噛みする。

『さぁ、では美杏さん。お屋敷への帰りの車を用意しましたので、参りましょう。
 ここはもう、あなたのような真っ当な方が立ち入られるべきではない…………ただの豚の、飼育場ですから』

そう言葉を掛けられた時、美杏は現実への帰還を拒んだ。そして、自らも彼女らのいう“豚”となる決意を表した。
紅花に対する贖罪…………それもある。しかし何よりも、彼女を救う機会を窺うために残ったのだ。
白家の悪意に長く晒されすぎた紅花は、もはや一人で浮かび上がれる状態にはない。
一人でこの暗闇に残しておけば、間違いなく怜と同じ道を辿るだろう。
だから、美杏が引き上げる。
この先、あとどれほどの時間耐えねばならないかは定かでないが、美杏だけでも自我を保ち、二人で家に帰るのだ。


「さーて、と……紅花もイッたことだし、そろそろ次に行こうか」

その掛け声で、美杏は顔を強張らせた。
次は、今よりきつい。そして、苦しい。泣き喚いてしまいたいぐらいに。
「ほーら、自分で入れなさい」
美杏と紅花の前に、それぞれ山のような球体の入った皿が置かれる。
球体の量は拡張の度合いに応じて増え、全て入れると常に腸には一切の隙間がない状態になる。
胃は圧迫され、ただ座っているだけでも吐き気がこみ上げる。
その状態で、『排便よし』の声がかかるまで、一球さえ溢さずに耐え切るのだ。
当然その間には、悪意ある女達から様々な妨害が行われる。勿論、球体を排出させて惨めな罰を課すために。
美杏はこれが苦手だった。
「ほら、何をやってるの。まだ全部入れることさえできてないの? ったく、とろいわねぇ。
 隣をごらん。紅花は優秀だよ」
女が鞭で指し示す先では、美杏以上の球体を詰め込んで歪に腹を膨らませた紅花が、様々な被虐を受けていた。
白い肌に五月雨のように鞭を浴びせられ、乳首を長い爪で捻り上げられ。
そして挙句には、両手を頭の後ろで組んだまま深々と張型を咥えこまされて、びちゃびちゃと真下に吐瀉物を吐きこぼす。
「ごえっ、ごぼ、ぶぼばがっ…………えっ、けほっ、けほっ!! う、うっ…………!!」
今や虚ろな瞳をするばかりの紅花も、さすがに喉奥を抉られて吐く際には人間らしい顔を取り戻す。
目尻から涙を溢しつつ、怯えたように加虐者達の顔色を窺い始める。

その様を横目に、自らも同じ境遇を迎えんとする美杏は、気弱そうな垂れ目を見開きながら前を向く。


( 私を、なくすもんか―――― ! )


燃える決意を胸に、美杏は大きく口を開き、歪な悪意を待ち構えた。


                                       終





<初出:2chエロパロ板 『【陰湿】レズいじめ2【ドロドロ】』  スレ>

緋艶蝶

※アナル中心のレズいじめ物。
 羞恥責めの連続なので、各種スカ(大・小・嘔吐)成分アリ。



日本には、“眠らない街”と呼ばれる繁華街がいくつかある。
喜多茅町もその一つだ。
古くには博徒の街として栄え、明治以降はチャイニーズマフィアの溜まり場であるこの街には、警察権力も及ばない。
交番など完全にお飾りで、かつてそこで息巻いていた正義感溢れる新任婦警も、2年後には薬漬けのソープ嬢となっていたという。
喜多茅を治めるのは法律ではなく、鉄のルールだ。
当然、主要産業である風俗店の間にも独自のルールが存在する。
『年度内に最も多い売り上げを記録した店は、2位以下となった店のNo.1嬢を引き抜く事が出来る』というものだ。
400を超える店の売り上げ争いは熾烈を極める。
エースを引き抜かれた店は没落し、首位を捕った店が天下を握る……その乱世が喜多茅の常だった。
しかし。ここ3年ほどの間、喜多茅の空気は落ち着いている。
すべては、蓮宮京香という嬢の存在ゆえだ。

『緋艶蝶』の京香といえば、今や押しも押されぬ喜多茅No.1ホステスと噂されている。
しかし、京香に水商売の女という雰囲気は微塵もない。むしろ一般的な女子大生よりもよほど清楚に見える。
それもそのはず。京香は地方屈指の名家、蓮宮の令嬢なのだから。
家の没落で風俗に売られる事になったとはいえ、その育ちの良さは誰の目にも明らかだ。
高校卒業と同時に『緋艶蝶』へ入った当初、京香は先輩風俗嬢から様々な嫌がらせを受けたという。
しかし、1年が経つ頃にはその噂も聞かなくなった。
呆れるほどに真面目で、心優しく、誇り高い京香と接するうち、店中の人間が毒気を抜かれたのだそうだ。
客からの評判も大変に良い。
親身になって客の話を聞き、時には休みを潰してまで客に付き合う。
その心遣いに感動した人間は、次々に京香の常連となった。
大の風俗嬢嫌いで知られる県議会議員でさえ、視察で京香と話して以来、熱烈な支持者に転身した。
そして、京香の特異性はもう一つある。
キャバクラ嬢による枕営業が横行する喜多茅において、京香は一度も身体を売った事がない。
純粋な真心だけで、数知れぬ男を虜にするのだ。
その理想的な在り様は自然と他の嬢にも伝播し、『緋艶蝶』で枕をする者はついに居なくなった。
それでも売り上げは底無しに上がり、喜多茅でも4、5番目に甘んじていた『緋艶蝶』は、やがて頂点の座を手にする。
京香の率いる良心的な『緋艶蝶』が王座に尽いた事で、喜多茅の争いにも凪が訪れた。

それから3年が経った今……とうとう平穏が破られる。
黒い噂の尽きないSMクラブ『セピア・リップ』が、『緋艶蝶』を抑えて覇を成したのだ。
噂では、京香が現れて以来の和やかな喜多茅をよく思わない店が結託し、様々な工作をしたのだという。
違法薬物を使い、客を無理矢理縛り付けたという説まである。
しかし事実はどうあれ、鉄のルールは曲げられない。
『街で最も多い売り上げを計上した店は、2位以下となった店のNo.1嬢を引き抜く事が出来る』。
『セピア・リップ』はこの引き抜き対象として、迷わず京香を指名した。

< 天誅の対象は、勿論『緋艶蝶』の京香だ。
  清純ぶったその化けの皮を剥がして、最底辺のメス奴隷へと作り変えてやる。
  人を惑わす蝶の翅を引きちぎって、活気ある喜多茅を取り戻す!  >

その、悪意に満ちた宣告と共に……。





「まさか、お前を調教できる日が来るとはねぇ…………京香」
「人生解らないものね。腕が鳴るわ」
2人の女……恵美と碧が、京香を見下ろしながら笑った。
赤いボンデージ姿の恵美は、熟年体型とでもいうべき軽度の肥満で、お世辞にも美形とは言い難い。
青いボンデージ姿の碧は、対照的に華奢で童顔、小悪魔風のルックスだ。ただし、目元口元に底意地の悪さが浮き出ている。

一方の京香は、ほぼ丸裸だった。唯一身に着けているのは、犬のような鎖つきの首輪のみ。
その新雪を思わせる白肌や、ほどよく実った乳房や太腿、薄い茂みを隠す術はない。
喜多茅町の誰もが目にしたことのない姿だろう。
馴染みの常連客でも、胸元やミニスカートから覗く白い太腿まで、
更衣室を同じくする同僚達でさえ、上下の下着姿までしか、京香の素肌を見た事がない。
その絶対秘匿の宝玉がついに暴かれた。隷属という、最も屈辱的な形で。
「私こそ、あなた達のような人種と関わる日が来るとは思わなかったわ」
京香は、姿勢も正しく正座しながら2人の女を睨み上げている。
恵美と碧の両名に思う所があるようだ。
京香に限った話ではない。『セピア・リップ』に得意客を奪われ、潰されたホステスは多い。
客の身を本気で案じる京香となれば、なおの事そうした行為は許容しがたいのだろう。
「あーらナマイキ。『緋艶蝶』って、目上への礼儀は教えないのね。だから没落するんだわ、どこぞの名家みたいに」
碧が嘲り笑うと、京香の目つきがいよいよ鋭さを増した。
「何だいその目は。お前はウチの新米で、アタシらはそのお前に講習をつけてやろうって立場なんだよ。
 だったら、どうすればいいかぐらい理解できるだろ。仮にもこの街でNo.1を張ってたならさ」
恵美が嘲るように追い討ちをかけると、京香は唇を引き結ぶ。
低俗な人間に頭を下げるなど、軽々しくできる事ではない。しかし、“やらねばならない”事でもあった。
 
京香は静かに三つ指をつき、少しずつ頭を下げていく。
腕の細かな痙攣から、いかに屈辱を感じているのかが伝わってくる。
恵美と碧の2人は、その様に口端を吊り上げた。
「…………私の、お尻の穴の調教を…………お願い致します」
屈体の後、震える声での宣言がなされる。
京香にしてみれば充分に屈辱的な宣言。しかし調教師の女2人は、不満げに眉を顰めた。
「カマトトぶるんじゃないよ。お尻の穴じゃなく、“薄汚いアヌスの調教を”だ。やり直しな!」
赤いエナメルブーツで京香の頭を踏みつけたのは恵美だ。
まるみを持たせた手の甲に額を擦り付けながら、京香の肩が強張る。

「わ、私の……………………う、薄汚いアヌスの調教を………お願い、いたします…………」

間を置きつつの苦しげな宣言。床についた手が握りこまれた様子からも、並ならぬ屈辱が読み取れる。
京香はその心根と同じく、器量に優れる娘だ。
背の半ばほどまで伸びた、織物のように上質な艶の流れる黒髪。
くっきりと開いた、いかにも優しげな瞳。
ごく小さな鼻梁に、やはり小さな気品溢れる唇……。
肩書きを一切伏せても、その上質さは隠せない。世界的なアイドルか、あるいは女優か。
それほどの逸材が、床のタイルの上で、丸裸のまま土下座をしている。
しかもその床には、ガラスの浣腸器やボウル、アナルパールやボールギャグなど、様々な淫具が散乱しているのだ。
その光景は、異常という他はない。

「そう、それでいいのよメス豚」
碧がブーツを鳴らしながら歩み寄り、恵美が首輪の鎖を引き上げる。
「ぐっ…………!」
上向いた京香の優しげな瞳は、しかし不屈の意志を秘めていた。
「あら、まだこの目だわ。面白い」
碧は言いながら、床に落ちていた道具の一つを拾い上げる。
通称『豚鼻フック』。相手の鼻にフックを掛けて吊り上げ、顔を醜く歪める事で屈辱を与える道具だ。
京香は、フックの先から碧の顔へと、苦々しい視線を這わせた。
「まずはその、澄ましたお面を剥いであげる。」
碧はそう言いながら、鈍く光るフックの付け根を握り直した。

 
「……っしゅんっ! くしゅっ、んん゛っ!! あっ、はッ……はーっ…………」
立て続けにくしゃみの音がし、荒い呼吸がそれに続く。音を立てたのは京香だ。
素晴らしい形をした彼女の鼻は、鼻腔が完全な三角になるまでフックで引き絞られている。
そしてその鼻腔の中には、今また2本の“こより”が碧の手によって挿入される。
京香の細目が、不安そうにその手元を追った。
「あっ、あっ…………ン゛っ、ふぁっ…………!!」
“こより”が慣れた手つきで前後左右上下へと揺り動かされると、京香の目はいよいよ細まる。
ぞくん、ぞくんと細い肩が震えていた。
鼻の粘膜を弄られてすっかり敏感になったのか、刻一刻と反応が早くなっていくようだ。
柳眉がつらそうに顰められ、整った顎が浮き、白く揃った歯が『い』の形のまま震え……限界が来た。
「っぷしっ! っくし、っくしゅっ! はぁっ、はぁあっ……ああっ!!」
こよりを吹き飛ばした一度目は勿論、抜かれてからも断続的にくしゃみが出る。鼻水と涎が散る。
「あーあー、ズルズルになっちゃって」
碧が笑いながらこよりを投げ捨て、京香の鼻の下を手で覆った。
そしてしとどな鼻水と涎を、ヌチャヌチャと音を立てながら京香の顔中に塗りつける。
「んっ!!」
京香は露骨に顔を歪めるが、それで手を緩めるような碧ではない。
彼女の足元には、粘液で使い物にならなくなった“こより”が20本以上も散らばっており、
恥辱の鼻責めがかなりの時間に渡って続けられた事を物語っていた。
「惨めだねぇ。喜多茅のNo.1ホステスともあろうお方が」
背後から京香の肩を押さえ込んでいた恵美が、前方に回りこみながら言う。
当然、京香の表情を歪ませる目的でだ。
「…………はっ、はあぁっ…………こ、この程度で恥を掻かせたなんて思わないで。
 あなた達のような人間に何をされたって、私は、不運なアクシデントとしか思わないわ」
依然として荒い呼吸のまま、京香は調教師の2人を睨み据える。
並の人間なら気圧されて一歩後ずさるような気迫だ。そう、並の人間なら。

「あーらそうかい、そりゃ好都合だね。まだ洗礼の序の口なんだから、この程度でネを上げられちゃ興醒めさ」
冷ややかな口調で、恵美が囁きかける。
彼女の片手には、ステンレス製の刺々しい開口具が握られていた。
「これは、ホワイトヘッド開口器といってね……耳鼻咽喉科で扁桃腺手術をする時なんかに使われる器具さ。
 お次は、これで口の開きを良くしてから、ディープスロートの特訓と行こうじゃないか。
 鼻水や涎なら出しても平気のようだけど、ゲロをブチ撒けても、まだその澄まし顔が出来るかい?」
その言葉が終わらない内に、碧が慣れた手つきで京香の口を開かせにかかる。
頬を両側から押し込み、同時に鼻を摘む。こうされては、ただでさえ呼吸の苦しい京香は大きく口を開くしかない。
そこにスパイダーギャグが嵌め込まれた。恵美の太い指が素早くネジを巻き、ギャグを開口状態で固定する。
口の開き具合は凄まじく、舌はおろか上の歯並びや喉奥の様子まではっきりと視認できてしまう。
鼻フックと相まり、惨め極まりない有様だ。
「ほぅらご覧よ、すごいじゃないか。こんな表情をするのは生まれて初めてなんだろ、お嬢様?」
頬を叩いて京香に横を向かせながら、恵美が言う。
その視線の先にあるのは、調教部屋の壁を一面覆い尽くす巨大なミラー。
「うあ……ゃ、あ」
ミラーに真正面から顔を映すことになった京香は、今一度眉を顰める。
「フフ、何言ってるか解らないわ。まぁ何を言ってたとしても、今さら遅いけどね」
碧は満面の笑みを浮かべながら、京香の首輪を引いた。


「どうだい、立派なもんだろう」
恵美が京香に問う。
正座した京香の前には、人間大のガラス板が設置され、ちょうど男の腰ほどの高さに黒いディルドウが嵌め込まれている。
極めて精緻に男性器の特徴を模したものだ。
「これが大体、男の平均サイズさ。最も本物は、血管が浮き出て男臭くて、恥垢やら毛に塗れてるのもあるけどね。
 そのリアルに比べりゃあ、こんなものは可愛いオモチャさ」
ディルドウの先を撫でながら、恵美は笑った。
「………………」
京香は毅然とした態度で、その恵美を冷ややかに見上げている。
すでに鼻フックも口枷も取り去られ、美貌は元の通りだ。
しかし、今度は両手首に木枷が嵌められ、首と横並びになるよう拘束されていた。
一時的に首輪が取り去られたとはいえ、虜囚としての惨めさは変わらない。

「さぁ、じゃあそろそろおっ始めようか」
2人の調教師は、その有様をしばし面白そうに眺めてから行動に移った。
碧が京香の顎を掴み、恵美が後頭部を両手で押し込んでディルドウに近づけていく。
「っ…………!!」
京香は一瞬苦々しい表情を見せたが、ここで抗っても仕方がない。
慎ましい桜色の唇を開き、ディルドウを迎え入れた。ディルドウは女2人の力により、ずるりと喉の奥まで入り込む。
「……………………ぅ゛っ、う゛ぇっ………………!」
ディルドウが8割ほど埋没したところで、京香が小さく肩を竦めてえづきを漏らした。
口戯の経験さえ全くない彼女に、喉奥への刺激はさぞ辛かろう。
しかし調教師達の目線で言えば、獲物が見せる弱みこそが、つけ込める絶好の隙なのだ。
「ほぅら、どう、美味しい? 今まで何十人って娘のえづき汁を吸ってきたディルドウよ。甘く感じるんじゃない?」
碧はよく通る声で囁きかけながら、恵美と息を合わせて長いストロークを取る。
大きく引き、押し込み、大きく引き、押し込み。
それを都合4回繰り返した後、最奥まで呑み込ませたままグリグリと捻り込むように頭を左右させる。
そこで3秒ほど留め、引き抜く……と見せかけて、浅く引いただけでまた最奥まで押し込む。
寒気がするほど良く慣れたディープスロートの仕込みだ。
「…………ン、ふっ…………フーッ………………」
意外なことに、京香はこの間、えづき声を出さない。たまに鼻から小さく漏らす程度だ。
しかし喉からはカポッ、カポッと空気と水分の混じりあった音が鳴っており、間違いなく喉奥を蹂躙されていると判る。
また、眉の角度は平坦ながら、その間隔が狭まる事もある。けして楽ではないのだろう。

2回ほど上の行動が繰り返された後、トドメとばかりに4秒ほど最奥に押し付けてから、初めて調教師の手が離される。
「ォあっ!……はっ、ハッ、……はーーっ…………はーっ……!!」
京香は弾かれたようにディルドウを吐き出し、俯きがちに荒い呼吸をはじめた。
口周りに唾液は見えない。しかし……ディルドウの方には、先ほどまでの反応の薄さが嘘のような量が付着している。
全体がヌラヌラと濡れ光り、凹凸のある部分は白くさえ見えた。
「アハハッ、玩具がドロドロじゃない! これが、あの『緋艶蝶』の京香が出したえづき汁なのね。
 ここに纏わりついてる分だけでも、万札出して買う客がいそうだわ」
「いいねぇ、ホントに売っちまおうか。こいつの身体から出る汁という汁を売り捌きゃ、いい小遣い稼ぎになりそうだ。
 馬鹿みたいなカリスマぶりも地に堕ちるだろうしねぇ」
辱めの言葉をかけて京香を煽りながら、調教師達は再び京香の頭を掴む。
「っ…………!!」
「ふふ、“まだやるのか”って感じの顔だねぇ。生憎、今のはただの慣らしさ。ここからが本番だよ」
恵美の口元こそ笑う形をしているが、瞳はそうではない。それは、強い信念を持って凶行に及ぶ者の特徴だ。
京香の喉が、被虐への覚悟を決めるようにゴクリと鳴った。

 
2度目のディープスロート。それは、初めから前回とは違っていた。
恵美と碧の手でディルドウを喉奥まで咥え込まされた直後から、京香の喉がケコッ、ケコッ、と鳴りはじめる。
「ぶふぁっ!!」
鼻から噎せるような声がそれに続いた。それでも、調教師達は最奥まで呑み込ませたままだ。
その間にも喉奥からはカコッカコッと音が鳴る。
京香の胴体に動きはないが、木枷の上で両手が握られ、眉がとうとう角度をつけて顰められる。明らかに苦しげだ。
そこから、さらに3秒。
調教師の手が離れた瞬間、京香は堪らずといった様子で横を向いた。
「こぉっ…………あはっ、あ…………えァっ………………!!」
ディルドウの直径そのままに大口を開け、かなりの量の唾液を吐きこぼす。
唇を閉じて唾液の糸が切れてからも、さらに数滴が俯いた顔の下へと滴り落ちていく。
明らかに前回よりも余裕がない。さらに今度は、休息すら許されなかった。
「まだよ。休ませないわ!」
碧が珍しく厳しい口調で告げ、涎まみれの京香の顎を掴みあげる。そして、すぐにディルドウへと向かわせた。
本当の地獄は、ここからだった。

「ン゛んも゛ぉおぉえ゛…………っっっ!!!!」
京香が令嬢らしからぬえづき声を上げたのは、4度目のディープスロートを強いられた時だ。
ガラス面にべったりと鼻を押し付けるほどにまで深く咥えさせられ、さすがに我慢のしようもなかったらしい。
醜く開いてへし曲がった唇からは、しとどな唾液が溢れてガラスを伝う。
ディープスロートが進むごとに唾液の線は増え、ガラスに泡をつけて洗浄しているような光景になる。
「ぁぶはあっ!!!」
たまに息継ぎを許される時には、床にびちゃびちゃと音を立てて大量の涎が零れるようにもなった。
涙こそ流れないが、その表情は若い娘が人目も憚らず号泣する時のもの。
本来の京香は、人前でそのような顔を見せる娘では断じてない。
借金の肩に売られた時でも、『緋艶蝶』でいびりを受けていた頃ですら、一切の弱さを見せずに周囲の度肝を抜いてきた。
しかしその鋼の清冽さも、喉奥を抉られ、かき回される物理的な被虐の中では崩れ去るしかないようだ。

最初の『決壊』は、意外にも淡白なものだった。よく見返せば、前兆は確かにあったようだ。
それまでされるがままにディープスロートを受けていた京香が、何度も顎を上げ、ディルドウを吐き出そう吐き出そうとする。
ぶふっ、ぶふっ、と鼻から咳が噴き出す音もしていた。
おそらくはこの時、京香はどうしようもない吐き気に襲われていたのだろう。
当然、恵美と碧がこの変化を見逃す筈がない。彼女らは顔を見合わせ、さらに数度のストロークを経て京香の頭を引く。
ずるりとディルドウから京香の口が滑り落ちる、その瞬間、吐瀉物が零れた。
「あうぇお゛っ…………」
すでに口の下半分を満たすほどに溜まっていたものが、開いた口からヌルヌルと流れ出す。
京香の口と同じ幅から細い流れへと絞り込まれ、静かに床へ滴っていく。
そして流れが終わった後は、残りが千切れたミルクの膜のように木枷へと張り付く。
「あーあー、吐いちゃって」
碧がそう言いながら、京香の肌へと指を這わせた。
顎に、首元、木枷を通って、太腿……吐瀉物が落ちたラインと併走するように。
「はぁっ、はっ、はっ! …………あ、あなた達が…………はあっ……吐かせ、たのよ………………!!」
かつてないほどに息を切らせ、京香は調教師達を睨み上げる。
様になるものだ。芸術品のような目尻から、苦しみの涙さえ零れていなければ。
「そうだったかしら。でもその太腿に乗った熱い液は、お前自身の胃にあったものよ。……そして、今からかかる分もね」
碧はそう言い、京香の髪を鷲掴みにする。同時に恵美も、陰湿な笑いを湛えながら京香のうなじを掴む。
そして、何の容赦もなくディープスロートを再開させた。


「ごぉお゛ぅうええ゛っ!!! もごっ、ふぉぉお゛お゛ぅえウ゛エえ゛ッッ!!!!
嘔吐後の再開時からは、明らかに京香の反応が違っていた。
えづき声がとにかく凄まじく、身の捩り方も尋常ではない。
腹筋は激しく蠢き、太腿はきつく閉じられたかと思えば、左右いずれかの膝頭を跳ね上げる。
「フフ、凄い。一度吐いちまえば、この女でも脆いもんだね」
恵美が京香の横顔を覗き込みながら、面白そうに告げた。
その言葉通り、今や京香はひたすらに嘔吐を繰り返している。
「ごぶっ、ぶふゅっ!!げおっ、がぶふっ!!」
激しく頭を前後されている間には、吐瀉物とも涎ともつかない液体が大量にディルドウを伝い、ガラス表面を上書きする。
「けっ……は、かッ…………オお゛ぅえ゛っ…………!!」
喉奥まで咥え込ませてから解放すれば、すぐに俯いて吐瀉物を零す。
あれほどぴしりと整っていた美しい正座が、もはや影もない。
全体として膝立ちに近く、足指はつま先を立てるようになり、常に吐く準備をしているような前傾姿勢だ。
明らかに品がなく、だらしない。当然その姿勢も恵美達の罵りの種になったが、京香からすればそれ所ではない話だ。

一体どれほどの時間、この醜悪な地獄が繰り返されたのか。
一体何十度に渡り、嘔吐と空嘔吐が繰り返させられたのか。
京香は、生理的な反応に塗れていた。
額にびっしりと汗を掻き、虚ろな両目からは涙の線を零し、閉じない口からは唾液を零す。
胃液とえづき汁の混合物は、木枷の穴を通り、京香の前身を濡らしていた。
白く美しい首筋が、乳房が、下腹が、泡立つ汚液で汚されている。
特に太腿などは一面ヌラヌラと濡れ光り、その脚の間には、まさしく『夥しい』量の薄茶色をした半固形物が広がっていた。
「ああ、臭い臭い。この部屋じゅうに、お前のゲロの匂いが充満してるよ」
「ホント。客からの噂じゃ、お前ってどんな時でもいい匂いをさせてるって噂だけど、とんだ嘘。
 男が憧れるピンクの唇からちょっと奥にいけば、こんな汚物溜まりなんだから……詐欺みたいよね」
わざとらしく鼻を摘みながら、恵美と碧は思いつく限りの罵りの言葉を並べていく。
「…………あ…ああ゛………」
自らの吐瀉物を見るともなしに眺めながら、京香はしばし呆然としていた。
しかし、数秒後。強く手を握り締めると、はっきりとした意思を秘めて顔を上げる。
「こんな事で、私は折れないわ……。どんな辱めにも耐えて、きっと『緋艶蝶』に返り咲いてみせる」
その瞳はまさしく、緋色に輝く艶やかな蝶そのものだ。
恵美と碧も、ここに来てのこの気迫に、一瞬侮蔑の言葉を途切れさせた。
しかし、冷や汗が首元に届くよりも前に、彼女らは冷たい笑みを取り戻す。この辺りは流石に、一流の調教師というべきか。

「へぇ、そうかい。でもそれは、随分と空しい覚悟だよ、メス豚。
 ここは、お前が従順になるまで調教をする部屋だ。逆に言えばね、お前は堕ちるまで、この部屋から出られないんだよ!」
「そうよぉ。お前みたいなハネッ返りは、今まで何人もいたけど……全員、この部屋で変わったんだから。
 そいつらの一人は、そうねぇ…………『これ』で汚物をぶちまけた時に、ポッキリいったわね」
恵美の罵りを碧が引き継ぎ、床からガラス製の浣腸器を拾い上げる。
「お前にもご馳走してあげるわ。グリセリンとか酢とか、色んな物のスペシャルブレンドを、たっぷり。
 浣腸に慣れたブタでもウンウン唸るようなキッツイのを、丸一晩我慢させてあげる」
まさしく悪魔のような表情で、碧が笑う。
「勝手に……すればいいわ」
京香はなお毅然とした表情で言い放った。しかしその美しい額からは、また新たな汗が伝い始めていた。





「…………と、ここまでが昨日の調教内容さ」
臨時休業となった『緋艶蝶』ロビーのソファに腰掛け、恵美が告げる。
その恵美を上座に据えたまま、数十人が固唾を呑んで巨大なモニターに見入っていた。
モニターには、調教部屋の様子を記録した映像が流れている。
3箇所のカメラが京香の被虐を撮影していたらしい。
首輪だけの丸裸で土下座する姿を、俯瞰から。
鼻責めに苦悶する姿を、前方から。
イラマチオで嘔吐する姿を、ガラスを隔てた真正面から。余す所なく、1秒の飛びもなく記録してある。
それを見せられた『緋艶蝶』関係者の表情は暗い。
先輩ホステスは、初めこそ嫉妬の念があったものの、今では京香を一流の人間と認め、多くは妹のように可愛がっている。
後輩ホステスは、京香を純粋に尊敬し、その在り様に憧れて水商売の世界に立っている。
ボーイ達も一人の例外なく京香に好意的で、信奉に近い想いを抱く者さえいる。
その京香が虐げられている様が、愉快であろう筈もなかった。
しかし、文句はつけられない。『セピア・リップ』はこの街のルールに則っているからだ。少なくとも、表に見える部分では。

「い……今は、何をしてるの!?」
後輩の1人が、堪らずといった様子で尋ねた。やや垢抜けない、運動部の後輩という印象を与えるホステスだ。
恵美は可笑しそうに後輩ホステスを見やった。
「いい質問だね。あのメス豚は……今この瞬間も、浣腸を我慢してる最中さ。
 昨日の晩、盥一杯に浣腸液を作ってご馳走してやったのさ。
 幼児用のプールに出来そうなサイズの桶で、しまいにゃああの娘、下腹がポッコリ膨れてたっけね。
 ポンプ式の絶対に漏れないアヌス栓を嵌めたから、自力での排泄は無理だ。
 アタシはそこで仮眠に入ったけど、今はもう1人が張り付いて、監視ついでに遊んでるだろうね」
その答えに、後輩ホステスの表情が強張る。
恵美は満足げな表情で続けた。
「そんなに気になるなら、ウチの店に着いてきな。それも、なるべくなら多いほうがいい。
 10人のギャラリーが揃うまで、排泄させないって決めてるのさ」
先輩ホステス、後輩ホステス、ボーイ……その全てが、この言葉に息を呑んだ。
そして、互いの腹の内を探るように顔を見合わせる。
育ちのいい京香のプライドを傷つけると知りながら、見に行くか。
10人が揃わないまままごつき、余計に京香の苦しみを増すか。
誰にとっても難しい決断だった。
恵美はその動揺した空気に、いよいよ機嫌を良くしていく。
「老婆心から忠告するけど、決めるんなら早くしな。
 京香にした浣腸は結構強力なヤツでね。実際、栓をしてから3分も経たないうちに、出したいなんて言い出してたんだ。
 それを一晩我慢してるんだから……解放は、一秒でも早い方がいいんじゃないかい」
この言葉をきっかけとして、後輩ホステスの数人が立ち上がる。
「あ、あたし、行きます!」
「私も!!」
その空気に煽られ、他のホステスやボーイからも次々に志願者が出た。
悲壮な表情の並ぶ中、恵美のそれだけが違う。
「おやおや。家族も同然の身内が、こんなに居る前でひり出すなんて……
 今度こそ心が終わるかもねぇ、京香」
その醜悪な囁きは、誰にも認識される事はなかった。



調教部屋に入った瞬間、『緋艶蝶』の面々は目を見開いた。
先導する恵美が口に指を当て、声を上げるな、という合図を出す。

調教部屋の中央には、首輪だけをつけた汗みずくの女が吊るされていた。
腕は万歳をする形、脚は大股開きの状態で枷を嵌められ、天井から下がる鎖と繋がれている。
当然、秘裂や肛門を隠す術はない。極めて屈辱的な格好だ。
目隠しとボールギャグで顔は解らないが、その美しい黒髪や新雪のような白肌は、それだけで京香だと特定し得た。
しかし、その本来美しいウェストラインは歪に膨れ、雷轟のような音を立て続けている。
「ようやく来たのね。待ち侘びたわ、私も…………この豚も」
碧がそう言いながら、京香の乳房の先を捻った。
「うもぅうっ!!」
「あらぁ、イイ声。さっきまで針山みたいに扱われてたココが、そんなに善いのかしら」
ボールギャグから漏れた切ない呻きを、即座に碧が詰る。
京香の両の乳房は、果たしてどれだけ嬲られたのか。全体のサイズが、前日の映像より2周りは大きい。
乳輪は明らかに肥大化してふくりと盛り上がり、乳首はしこり勃ち。
碧が捻っていないほう……左の乳首などは、今もなおニップルポンプが取り付けられ、限界まで細長く吸引を続けていた。
乳房だけではない。
恵美の言葉通り、京香の肛門には菊輪を覆い尽くすような栓が嵌まり、さらにそこからバルーンが垂れ下がっている。
臀部の下辺からは汚液が滴っていた。
直下の床は汚液溜まりと言っていいほどだ。しかし、それすらもごく一部。大半は栓に阻まれ、出したくても出せないのだろう。

女性器の周辺にも変化があった。
薄い茂みがすっかり剃られ、幼児のような白い丘にされている。
それによりいよいよ露わになった性器の上部から、細いチューブ状のものが垂れていた。
チューブは中ほどでピンチコックによって留められ、尿道側からの液体の流出を阻んでいるようだ。
「浣腸だけじゃ物足りないだろうと思って、膀胱にも“ちょっと”入れてみたの。
 便意だけじゃなく尿意まで限界のまま一夜を過ごすって、たまらないでしょう?」
「ああ、そりゃそうだ。碧の事だから、ちょっとなんて言って、軽く600ミリ以上は入れたんだろ?
 膀胱の容量が大体500ミリ。膀胱壁が膨らめばもっと溜められるとはいっても、そこまでになった時点で脂汗ダラダラだ。
 それを、4時間だか5時間だかなんて…………ゾッとするよ」
恵美は、背後の人間へ聞かせるように語りつつ、指を鳴らして合図を出した。
それを受け、碧が冷笑を湛えながら京香のボールギャグを外す。
濃厚な唾液が無数の糸を引いた後、桜色の唇が忙しなく動いた。

「っぷはっ!! ……だ、出させてっ! おねがいっ、は、早く、はやくさせてっっ!!!」

まさに“必死”の哀願。いかに気品溢れる京香といえど、身を焦がす排泄欲には抗えないようだ。
『緋艶蝶』のメンバーが一斉に顔を顰める。
「あらぁ、4時間前とは打って変わって素直ねぇ。でも、したいってだけじゃ伝わらないわ。『何が』したいの?
 『おしっこをしたい』のか、それとも、『下痢便をぶち撒けたい』のか。どちらかを復唱なさい」
その言葉で、京香の口の動きが止まった。
狡猾な選択肢だ。本当の所、京香は何よりも排便を望んでいるのだろう。
しかし、こうも屈辱的な復唱を強いられては、京香自身のプライドがそれを許さない。
答えは一つしかなかった。
「お……おしっこが、したい…………したくてたまらない」
震える声で京香が告げると、碧はわざとらしく手を叩く。
「あーら、そう。私はてっきり、うんちの方かと思ったんだけど……そっちはまだ我慢できるの。お前って凄いのね」
嘲るように囁く碧。そして京香が反論するより前に、その指は鮮やかにピンチコックを解いた。

「うっ!?……くっ、ぁああ、……ふぁああああーーーっ!!!」
膀胱内の圧が変わり、溜めに溜めていた尿が一気に放出される。
その開放感に、京香は声を抑えられない。
「ハハ、すごいすごい、大洪水じゃないか! こりゃあ600ミリどころでもなさそうだね。
 おーおー、せっかくゲロを掃除したってのに、また真っ黄色に汚しちまってさ」
放物線を描いて床に飛沫を上げる放尿。それを前に、恵美もまた声を高める。
無論、感動からではなく、京香の恥辱を増すためだ。恵美と碧の全ての行動原理は、それに集約される。

ようやくに放尿が終わった後、京香の下半身からは雫が滴り続けていた。
尿の一部が前方ではなく、性器の方へと滴っていたからだ。
それを濡れタオルで拭き清めながら、碧は京香に何事かを囁き続ける。
京香の顔が歪む事からして、聞き流せるような事でもない。
恐らく碧は一晩中、そうして京香の恥辱を煽り続けたのだろう。
そこへ恵美が歩み寄った。腰に手を当てながら京香の陰核の部分を凝視する。
「おや、クリトリスがすっかり勃起してるじゃないか。まぁ小便を我慢してると、勃っちまう奴隷もいるけどね」
「どうやらこの生娘のお嬢様も、おしっこを我慢して興奮しちゃうマゾみたいね。
 どうせだから、もうちょっと高めてあげましょうよ」
碧はそう言うと、床の箱から一つの道具を取り出した。綿棒ほどの、凹凸のある細い棒だ。
「メス豚、これが何か判る? これはね、おしっこの穴を開発する為の道具よ。
 ほら、解るでしょう。この凸凹が、尿道の入口と、奥側のクリトリスの根元を絶妙に刺激するの。
 一度これを味わったら最後、みーんな病み付きになっちゃうんだから」
京香の頬に淫具を擦り付けながら、碧は告げる。
そしてアルコールで除菌した後、改めて尿道口に押し当てた。
「はぐっ……!」
挿入の瞬間、京香は小さく呻く。しかし碧の指がゆるゆると前後しはじめると、ただ荒い息を吐くばかりとなった。
「ほぅら、どう。気持ちいいんでしょう」
碧は熟練の手つきで道具を前後させる。その度、京香の内腿がびくりと強張った。
「おやおや、こりゃ善さそうだ。どれ、こっちも可愛がってやるよ」
恵美の方も、尿道責めでいよいよ屹立しはじめた陰核を摘み上げる。
「ふうああっ!!」
「ふふ、珍しく可愛い声が出るじゃないか。まぁ無理もない、私と碧の二箇所責めは、女泣かせだからねぇ」
言葉が切れると共に恵美の指が蠢き、京香の身体がぶるりと震えた。

「う、くそ…………京香さんっ………………!!」
『緋艶蝶』の人間は、ただ歯噛みしながら眼前の陵辱劇を見つめる。
調教部屋の四隅を『セピア・リップ』御用達の暴力団員が固め、無言の圧力を掛けているせいだ。
下手な真似はできない。
しかし無力に見守っている間にも、京香はいよいよ追い詰められていく。
「あああっ、ああっ、くぁああ……あああっ!! もっ、やめっ…………はぁああっっくぅ!!!」
京香は喘ぎ、歯を食い縛りながら激しく頭を振っていた。
その声色からは、彼女が幾度も幾度も絶頂に至っている事が生々しく伝わる。
手足の鎖が煩く鳴るのも、異常性を際立たせる。
「フン、まだまだ止めるもんか。もっと派手に突き抜けるんだよ、メス豚!」
「そうよ。可愛らしい声出す余裕があるうちは、休ませないわ」
女2人は巧みな指遣いで京香を責め立てた。
京香は身を震わせ、愛液を散らしながら喘ぎ続け…………やがて、その声色が変わる。

「やめてぇっ、やめっ……!! あ、くぁぁああ…………おお゛っ!!
 あぐっ、ひっぐっ…………んんんんああああ゛っ、あっはあああっおおお゛お゛っ!!!!」
喘ぐのではなく、口を尖らせて腹から出すような嬌声。
その快感の凝縮された呻きは、数限りなく陰核絶頂を迎えた先の段階である事が明白だった。
「お、出た出た。やっぱりこの声じゃないと、アクメ極めさせてるって感じがしないわね」
「ああ。ゾクゾクくる声だ。『カワイソウな私』演技が上手いねぇ、元お嬢様は」
調教師達は笑いながら、さらにしばし京香に絶頂を迎えさせる。
その果てに、京香には別の限界が表れた。

「お、お願い…………出させてっ! これ以上は、私、ほんとうにおかしくなる!!」
今までともまた切実さの違う懇願。碧と恵美が手を止めた。
「ふぅん、そう。それで、何がしたいの?」
今一度、問う。京香は歯を食い縛り、息を吐き出すように開いた。
「うん、ち……うんち!! はやくはやく、したい、したいはやく出させてぇっ!!」
あれほど聡明であったはずの京香が、単語でしか会話できていない。
これは排泄欲が本当の限界を迎えている人間の特徴だ。
そもそも、全身を覆いつくさんばかりの発汗や痙攣自体が、異常という他はない。
もはや瓦解は時間の問題。調教師の女達は、ここで最後の一押しに入る。
「何度も言わせるんじゃないよ。『下痢便をぶち撒けさせて下さい』……そうお願いするんだよメス豚ッ!!」
恵美が叫びながら、京香の尻肉に強かな平手打ちを見舞った。
「くうううっ!!!」
便意の限界の中、それはどれほどに効くことだろう。
再度訪れた、屈辱的な選択肢。しかし…………さすがにもう、拒む気力も体力も京香にはない。
むしろ、ここまでが耐えすぎたほどだ。
京香は強く歯を食い縛り、全身を震わせながら口を開く。

「…………お、お願いしますっ、下痢便をっ、ぶち撒けさせてくださいっ!!!
 言ったっ、ねぇっ、確かに言ったわ! だからはやく、はやく栓を抜いてぇっ、
 はやくぅウウううーーーーーッッ!!!!」
もはや京香の声は、普段とは全く違っていた。
見守る10人の同僚達さえ、目を瞑って聞けばそれが京香の声だとは思わない。本当の限界なのだ。
「はいはい。それなら、たっぷりと出しなさい……皆に見られながらね!!」
碧はそう言いながら、肛門栓から垂れているバルーンのスイッチを切った。
同時に恵美が、素早く京香の目隠しを取り去る。
「ふあぁあああああっっっ!!!」
肛門栓を吹き飛ばし、溜まりに溜まった大量の汚液があふれ出す。その開放感に、京香は高らかに声を上げた。
しかし、極楽気分もそこまでだ。
陶然として放出の快感に浸っていた京香は、ふと下方からの視線に気がつく。
そちらにぼやける視界を移し、見知った顔が並んでいる事に気付いた時…………京香の顔は、ふたたび凍りついた。
「え…………えっ? ど、どうしてっ!?
 い、いや…………いやぁあああぁっっ!! 見ないで、みないでぇえぇええーーーーっ!!!」
絶叫。しかし、肛門から溢れる汚液を留める事はできない。
手で恥部を隠すことすら叶わない。
「はははっ、それだけ盛大にひりだしといて良く言うよ。お前が力んで止めたらどうだい」
「全くだわ。人前でブリブリ下品な音を立てて、あさましい女。優しい同僚さん達も、さすがに見るのがつらそうよ」
恵美と碧は、桶に溜まっていく汚液を見下ろし、ギャラリーにも見せ付けるようにして嘲笑う。
『緋艶蝶』の人間からは、すすり泣きや苛立ちからの歯軋りがしはじめる。
「う、ふうっ……く、くぅ……うう゛っ…………!」
京香はとうとう、大粒の涙を流し始めていた。
苦痛に起因する反射的な落涙ではない、悲しみの涙。冷血なサディストにとって、砂糖より甘美な涙を……。


「この大人数の前で糞をひりだした気分はどうだい、京香お嬢様」
汚物の匂いが漂う中、恵美が粘着質な声で問う。
「………………っ!!」
京香は耳までを赤く染めて俯いた。恨み言の一つも返したい所だが、その余裕すらない。
京香は、人に寝巻き姿を見せる事すら女の恥、と教わって育った令嬢だ。
入浴後にもかっちりと洋装に身を包み、就寝直前の自室でのみ寝巻きの着用を許されたものだった。
その京香が、公衆の面前で排便を晒すなど……容易に受け止められる羞恥ではない。
何か言葉を発しようとするも、胸がつかえて涙ばかりが零れる。
そんな京香の様子を見かね、『緋艶蝶』のホステスの1人が拳を握り締めた。
「い……いい加減にしなよっ! あんた達、人間じゃないわ!」
「そ、そうよ! あの京香さんにここまでさせて、いい加減アンタらも気が済んだでしょ!?」
他の人間も便乗し、恵美と碧に批判的な視線を送る。
しかし……百戦錬磨の調教師2人は、それだけの敵意を向けられても涼しい顔を崩さない。
「フン。気が済んだ、なんてとんでもない。ホントのお愉しみはこれからさ。
 何せウチのボスからは、『アヌスを犯されただけで絶頂するメス奴隷になるまで』調教しろと言われてるからね」
「私達もプロだから、堕とす相手はきっちり堕とすわ。どんな手段を使っても、ね。
 お前達には私が人間じゃないように見えるようだけど、最終的に人間でなくなるのは、京香の方よ」
調教師としての自信に満ち溢れたその態度に、どのホステスも二の句が継げない。
その様子を恵美達は満足げに見やる。
絶望的な空気。それを破ったのは、か細い声だった。

「し、心配……しないで…………このぐらい、平気よ」
恵美と碧、そしてホステス達の視線が同じ方向に集まる。
そこには、汗みずくで息も絶え絶えながら、しかし瞳に確固たる決意を宿らせた京香がいた。
「私は、私のまま…………必ず戻るわ」
彼女とて余裕などない。けれども家族に等しい同僚達に、これ以上心配はかけられない。
それが、京香という女の矜持だ。
その姿に、ホステス達は切なさと希望のない交ぜになった表情を浮かべ、調教師2人は喜びを露わにする。
「へぇ、面白い。まだ頑張るなんて」
「その位でなきゃ張り合いがないさ。何しろ、この街で最も上等な女だそうだからね」
恵美と碧は、凛とした京香の瞳を闇で覆うかの如く、至近で覗き込みながら囁きかけた。
「さぁ続きだ、京香お嬢様。そのお綺麗な心が変質するまで、徹底的に躾けてやるよ…………!」





恵美の口から、今一度の含み笑いが漏れた。天井から縄で吊るされた京香の裸を見てのものだ。
排便の時と同じ……否、それ以上に惨めな格好。
乳房を搾り出すように後ろ手縛りを施された上で、その両手首を頂点として天井から吊るされている。
脚は両の爪先がかろうじて床につく。ただし太腿と足首は外側から縄で引かれ、菱形に近い形を強いられていた。
となれば当然、京香の肛門は丸見えの状態で、恵美の方へと突き出されることとなる。
「傑作だね、お嬢様。ストリッパーでもやらないような、あさましい格好だ」
恵美が、京香の伸びやかな脚に指を這わせて罵った。
「私は……あなたの悪趣味な縛めに、身を預けているだけよ」
京香は謗りを無視できない。口惜しげな表情が正面のミラーに映り込む。
上質な織物を思わせる彼女の後ろ髪は、その一部が手首の縄に巻き取られ、主の俯く動きを阻害している。
このため京香は、表情のすべてを、ミラーを介して背後の恵美に把握される状況にあった。
これはよく出来た嫌がらせだ。
恥辱の表情を常に確認できるのは勿論、責めを嫌って京香が身を捩るたび、彼女自身の体重が『女の命』である髪を痛めつけるのだから。

「……それにしても、ウチの特製浣腸はよっぽど効いたようだねぇ。
 おまえ、自分のアヌスが今どんな風か解るかい? すっかり開いて、ダリアの花みたいになっちまってるんだよ」
恵美はさらに言葉責めを続けた。
「いやっ!!」
排泄の穴を観察される恥辱に、京香の身が強張る。
自分の肛門が普通でない現状は、京香自身にも痛いほど解っていた。
括約筋は緩みきり、外気が腸内を撫でている。どれほど力を篭めようとしても、普段通りには締まらない。
「おや、今度はヒクヒクしはじめたよ。一体何を欲しがってるんだろ。
 口ぶりとはまるで逆の、本当にあさましい女だね、おまえは」
恵美は、京香の挙動の全てをあげつらい、言葉責めに利用する。
それは事実として効果的だった。する事の全てを否定されると、人間は心が消沈する。否定する相手に従順になる。
しかし京香には、まだ気概が残っていた。

「どうして、そこまで他人を見下せるの!?」
京香は鏡越しに背後を睨みつける。すると恵美は、よくぞ訊いたとばかりに口元を吊り上げた。
「なぜってそりゃあ、そうしていると愉しいからさ。
 上等な女が、自分の調教で下劣な生物に成り下がっていくのが面白いんだ。
 男が女の膣内へ欲望をぶちまけるように、私も上等な女の体内へドス黒い感情を塗りこめる。それだけだよ」
恍惚とした表情を浮かべながら、恵美は語る。
「自分で最低だとは思わないの? 他人に悪意ばかりを向ける人間は、いつか必ず報いを受けるわ」
京香がそう指摘すると、恵美の口元はいよいよ歪に歪んでいく。
「いかにもお前らしい考えだねぇ。生まれながらにして金持ちで、上品で、お美しい京香お嬢様。
 おまえみたいに綺麗事ばっかり並べる女が、一番イジメてて楽しいんだ。
 おまえから出る涙が、悲鳴が、呻きが――堪らないよ!」
恵美の分厚い掌が、京香の尻肉に宛がわれた。
生暖かさに京香の腰が震えるのを、恵美は面白そうに眺める。
「今だって本当は、この肛門に極太のアナルフックを引っ掛けて、縦に引き裂いてやりたいんだ。
 流石のおまえも、その瞬間にゃあ男みたいな叫び声を上げて、火がついたようにのたうち回ることだろうね。
 その光景はさぞや甘美だろうが、早々に壊しちゃあ調教も何もないもんだ。
 肉体は切り裂けないが、その代わり…………綺麗事づくしのその高潔な精神を、ズタズタにしてやるよ」
悪魔そのものの表情を浮かべながら、恵美は京香の尻肉を撫でた。
それを見て京香は理解する。この恵美という女は、言葉こそ通じるが、人間の心を持ってはいないのだ、と。


恵美は、両手で尻肉を鷲掴みにし、2本の親指で肛門を割りひらく。
浣腸でふやけた“ダリアの花”は容易に左右へと拡がり、桜色の直腸粘膜を悪魔に晒す。
「っ………」
京香は視線を斜め前に向けた。鏡を利用して背後を確認するためだ。
その京香の行動を読んでいたのだろうか。鏡の中では、恵美が醜悪な表情を湛えて待ち受けていた。
「丸見えだよ、お嬢様」
囁くような口の形で、恵美が告げた。それを見聞きした瞬間、京香はゾッとする。
釈迦の手の平の上で踊る孫悟空のように、行動の全てを掴まれているようだ。
 (この女が特別なんじゃない。調教師としての経験で、パターンを読んでいるだけよ)
京香はそう考えて平常心を取り戻そうとした。しかし、
 (…………でも、慣れている。気を抜けばきっとそのまま、ズルズルと堕とされてしまうわ…………)
不安が過ぎる。それは浅くだが心に根ざし、容易に除去できそうもない。

その心境を知ってか知らずか、恵美が次の行動を開始した。
膝立ちのまま肛門へと鼻を近づけ、わざとらしいほどに鼻息荒く匂いを嗅ぎ回る。
「ひぃっ!?」
京香は腰をびくりと跳ねさせた。
「ふん、何だい……内臓の匂いしかしないじゃないか。お前も所詮、ただの女なんだね。
 毎日上等な料理を食べて育ったお嬢様の腸からは、薔薇の香りでもするかと期待してたのにさ」
相手の羞恥を煽って反応を愉しみつつ、指先で菊の輪を撫で始める。
「くっ、ううっ…………!!」
京香はもどかしい気持ちのまま、鏡の中に視線を彷徨わせるしかなかった。
鏡面には、調教部屋の空虚な様子が映し出されていた。

『緋艶蝶』のギャラリーは、排便後の片付けの最中で退出させられている。
恥辱を与える用は済んだ、ここから肛門性感を仕込むにあたっては、野次馬が居ても邪魔なだけだ。
恵美は渋る一堂を追い立てながら、そうした事を口走っていたように思う。
相方である碧は部屋内にこそいるものの、一晩に渡って京香を嬲っていた疲れからか、椅子で寝息を立てていた。
すなわち今の状況は、京香と恵美の2人きりという事になる。
それはけして楽ではない。個別での調教は、二対一とはまた違う、ねっとりと纏わりつくような悪寒がある。
京香は前日の排泄我慢の際も、一晩中碧に張り付かれて乳房を嬲られながら、何度も悲鳴を上げそうになったものだ。

「もういい加減にして……気色が悪いわ。他人のお尻にばかり執着して、惨めな女ね!」
京香が嫌悪感も露わに言い放つ。
しかし恵美は、京香の花開いた菊輪をくじりながら、ただ歪に微笑むのみだ。
反論は追い詰められている証拠だと知っているのだろう。
実際、堪らない。
丸一晩に及ぶ浣腸の影響で、京香の肛門はすっかり敏感になってしまっている。
恵美はそのふっくらと膨らんだ紅の輪を、360度中の1度ずつ愛するような丹念さでもって嬲っていた。
親指と人指し指で内外から菊輪の一部を挟み込み、ゆるゆると、あるいはゴリゴリと扱く。
地味ながらこれが効く。極小の針で突くようなむず痒さと、じわりとした熱さが、肛門入口で踊り続ける。
「肛門だって立派な性器さ。お前だって、いい加減それが解ってきた頃だろう?」
恵美が嘲るように告げた。いよいよ喘ぐような肛門の蠢きを見ての言葉だろう。
「解るはずないわ」
京香としては、肛門性感など認められない。
名家の元令嬢として、眠らない街のNo.1ホステスとして、排泄の穴で感じているなどと公言する訳にはいかない。

「フフ、まだまだ強情だねぇ。愉しませてくれるじゃないか」
恵美は嬉しげに言いながら、今度は舌を使い始めた。
まずは肛門全体に口をつけ、強く吸引する。そのまま舌を伸ばし、穴の周りを丹念に舐めていく。
「ふああっ!?」
おぞましい未知の感覚に、京香は悲鳴を殺しきれない。
一方の恵美は、分厚い両手で京香の細い腰を鷲掴みにしながら、さらに舌での嬲りを深めた。
時には穴の内部にまで舌を入れ、腸壁の浅くへ唾液を塗りこめた後、猛烈な音を立てて啜り上げる。
ずずずっ、ずずずずうっ、という品のない音が調教部屋に反響する。
「や、やめ、てっ…………!!」
京香はたまらず震え声を漏らした。
汚辱感が強い。特に腸内に溜まった唾液を啜られる時には、羞恥心が自制を振り切ってしまう。
悲鳴だけでなく手首の縄までギシギシと音を立て、後ろ髪が根元から痛めつけられる。
「ぷはっ…………ふふ、いい反応だねぇ。本当にお前はアヌスの才能があるよ、京香お嬢様。
 羞恥心の強い人間ほど、背徳的な場所を責められれば弱いもんさ」
「い、いい加減な事を言わないで!」
「いい加減なもんか。アヌスの才能の有無ってのはね、キツめの浣腸をぶち込んでみりゃあ解るんだよ。
 才能のある人間は、ようやく来た開放の瞬間に、苦痛じゃなく蕩けた表情を見せるからね。
 ちょうど、さっきのおまえがそうさ」
言葉責めを交えつつ、恵美の指が肛門を撫でた。そしてそのままの動きで、肛門内部に埋没する。
「はぐっ!」
京香の喉から自然に声が漏れた。
「感じるだろう。おまえの出すための穴に、初めて外から侵入する固形物さ。しっかりと味わいな」
恵美は左手で京香の尻肉を鷲掴みにしつつ、右手中指で肛門内を弄り回す。
そして間もなく、人指し指も加えた二本指でも責め始めた。
「う、うぐっ…………!!」
京香にしてみれば堪ったものではない。
昨晩バルーン式の肛門栓を受け入れはしたが、自在に蠢く肉感的な恵美の指とは、比較にもならない。
おぞましい。ただ、おぞましい。

「……おまえの糞穴はぬるくて気持ちがいいよ。奥までしっとりと纏わり尽いてきて、これは良いねぇ。
 アヌスがこれだけ甘ったるく指を咀嚼してくるんだ。おまえだって本当は感じてるんだろう?」
肛門内で二本指を蠢かしながら、恵美が笑う。
恵美は、肥満体に似つかわしい太い指……その第二関節を巧みに用い、菊輪を刺激してきた。
前後に動かすのみならず、捻りを加えて。時には二本指を大きく縦に開き、肛門内を外気に触れさせて。
固い指でそれをされれば、腰も勝手に動こうというものだ。
「肛門で感じる事なんて、ある訳ないわ。すべてあなたの、都合のいい妄想よ」
京香は、この段階になってなお反論をやめない。
しかしその表情には、多分に戸惑いの色が混ざっている。恵美はその表情を観察しつつ、さらに指を増やした。
左手の二本指までも肛門内に捻りこみ、4方向から力を加えて、ぐっぱりと肛門を開口させる。
「ほぉーらご開帳だ。おやおや……どうやら“残留物”はないようだね。あったら、ガラスの棒で掻きだしてやったのに」
「く、ううっ…………!!!」
開ききった肛門内部をつぶさに観察される中、京香は奥歯を噛み合わせて恥辱に耐える。
同僚達の懐かしい笑顔だけを、心の光にして。


10分か、あるいは20分か。
恵美はどれだけの時間、指と舌を用いて京香の肛門をなぶり続けた事だろう。
その効果は確かなものだった。今や京香の肛門は、恵美に触れられていない時でさえじわりと熱を持ち続けている。
肛門周りの唾液が外気に冷やされていく様とは対照的に、温水の輪が肛門に嵌まっているかのようだった。
「ふぅ。これだけやりゃあ、下準備としては充分だね」
恵美は肥満顔を綻ばせた。下準備、というその言葉に、京香の目元が引き攣る。
 (精神的な疲れで、もう倒れそうなのに…………まだ本番があるっていうの?)
その京香の心中を他所に、恵美はまた一つの道具を拾い上げた。
ゼリーのような物体。女の恵美が普通に握れる以上、太さはさほどでもない。しかし、長さが尋常ではない。
加えてその表面には、大小様々な突起が無数に存在していた。
「よくご覧、京香。今からこの鰻みたいなディルドウを、おまえの腸にご馳走してやるよ。
 長さがあるぶん奥の奥まで届くし、合計64個のイボが、順々に肛門を刺激していく逸品さ。
 おまえのヒイヒイ善がる様が目に浮かぶよ。今まで何十という女が、私の目の前でそうなったからねぇ」
右手に握ったディルドウへ豪快にローションを塗りたくりつつ、恵美が語る。
「そう、危ない玩具ね。指を切らないように気をつけて遊びなさい」
京香は眉を吊り上げて嘲った。
その内心は憤りに満ちている。自分を自在に追い込めると頭から信じている恵美にも腹が立つ。
しかし同時に、ディルドウを迎え入れる事を、どこかで期待している自身が許せなかった。
浣腸で解れた所へ、指と舌で丹念に性感を目覚めさせられた肛門。そこをディルドウに穿たれれば心地が良い。
たとえそうした理屈が通ろうと、排泄の穴であまさしく感じる行為には違いない。
流されるものか。京香は口元を引き締めて決意を固める。
「そうだね、壊れないように気をつけようか」
恵美は呟きながら、ローションの一部を京香の肛門へと塗りつけた。
そしてディルドウの先端を、開いた菊輪の隙間に押し当てる。
「敏感になってる今の内に、しっかりと菊輪の快感を覚えこませてやるよ。後戻りできないレベルにまで、ね」
言葉が紡がれると同時に、ディルドウが僅かずつ肛門内部へ潜り込み始めた。
「………………っ!!」
京香は顎に力を溜めて堪える。

ディルドウの質量感は、恵美の二本指ともまた桁が違った。
みちみちと音もしそうなほどに肛門を押し開き、腸の深くまで入り込んでくる。
そこへ加わるのが瘤状の突起による刺激だ。縦、横、斜めの8方向の突起が、時間差で肛門を抉っていく。
突起の間隔は8方向でそれぞれ違い、タイミングが図れない。不意に大玉が来ることもあり、思わず腰が跳ねてしまう。
「どうだい、飽きが来ないだろう」
恵美はそう言いながら、じわりとした挿入を続けていた。
「ん、くくっ…………」
わずかに奥深くへ入り込まれるたび、京香の『未知』が塗り替えられていく。
極めて粘度の高いゼリー状のものが、みしりと腸奥までを満たす感覚は、極限の便意に近い。
臓器や子宮が圧迫され、ひどく息苦しい。そしてそれが、刻一刻と増していく。
「……はぁ、はぁっ…………!!」
自然と、京香の呼吸は荒くなった。緊張からか、身体中にひどい汗を掻いている。
その時間が延々と続いた後、ようやくにディルドウは腸奥に至った。
京香の頬の汗が、ぽたりと床に伝い落ちる。
ただ一度入れられただけで、ここまで疲弊してしまうのか。ならばこの先は、どうなってしまうのか。
挿入前には毅然として背後を睨んでいた瞳も、今や下方を彷徨うばかりとなっていた。

「苦しそうだねぇ、お嬢様。なら、抜いてやるよ」
恵美はそう告げてディルドウを掴み直す。
腸内の質量が後退をはじめ、子宮が下がる。同時に無数の瘤が、内側から肛門を抉り始めた。
「あぐっ!!」
ここで京香は、ついに声を漏らす。
異物が外から内へ入る時と、内から外へ出る時とでは感覚がまるで違った。
京香は挿入時と同じ気分で堪えようとしていた為に、瘤の“排泄”に対応できなかったのだ。
「ふふふ、出る時の方が凄いだろう。肛門は何と言っても、ひり出す為の穴だからね」
恵美はそう言ってディルドウを抜き去る。
無論、それで終わりではない。恵美は肩で息をする京香をしばし眺めた後、再びディルドウを肛門へと宛がった。
そして、ずぐりと突き入れる。
「んん!」
小さく声を漏らす京香。その肛門で、いよいよ本格的にディルドウの抜き差しが始まる。
巧みという他はない責め方だ。緩急をつけての抜き差しを繰り返し、京香に慣れることを許さない。
時おりディルドウを引き抜く事で空気を含ませ、ぶび、ぶりっと放屁のような音を立てさせもする。
その快感と恥辱により、京香は着実に追い詰められていた。
赤ら顔を下げて俯きたい所だが、手首の縄に後ろ髪を絡め取られていてはそうもいかない。

「はっ、はぁっ…………ああ、あ…………っ!!」
鏡の中では、京香はその類稀な美貌を崩し、大口を開けて喘いでいる。
無理もない。肛門を無数の瘤が往復し、ゼリー状の物が腸奥と子宮裏を突き上げてくるのだから。
この感覚は、本来声を上げずには耐えられない程のものだ。
『お』の口の形から発される呻きを、京香はもう何度噛み殺したか解らない。
恐らくその呻きは、肛門性感の結晶なのだろう。
「素直におなりよ。腹の底から湧いてきた呻きが、今にも喉から零れそうなんだろう?
 『おおお゛』、ってさ。この責めを受けると、皆そうなっちまうんだ。クラス一の美少女って言われてたヤツでもね」
恵美は囁くように言いながら、勢いよくディルドウを引き抜いた。
「んッグぅうっ!!」
京香は顎を上げ、甘い声を漏らす。
彼女の肛門はディルドウと同じ直径に口を開けたまま、異物が除去された後もほとんど閉じない。
そしてその下にある菱形の脚は、かろうじて床に付きながらガクガクと痙攣を始めている。
それは彼女の快感の根拠として、あまりに充分なものだ。
肛門から伝い落ちる過剰なローションが、初雪のような白肌の上で、女の蜜に見えてくるほどに。

恵美は抜き出したディルドウを片手で扱いた。
ディルドウに纏わりついた透明な液体が、飛沫を上げて散らされる。
「ふぅん……随分と“ローション以外のもの”が増えたね。お嬢様の腹ン中は、すっかり腸液まみれって訳かい」
勝ち誇ったような表情で発せられたその言葉に、京香が一層顔を赤らめた。
流石に反論のしようもない。
彼女自身にも、恵美の指の輪から、明らかにローションよりさらりとした液が滴るのが見えていたのだから。
「可愛くなってきたじゃないか」
恵美は京香の様子を眺めて言い、再びの挿入を開始する。
無数の瘤で肛門を擦りつつ、最奥まで。しかし……引き抜く動きに移るかと思いきや、そのまま動きを止める。
「………………?」
京香が目線を上げると、それを待っていたような鏡中の恵美の視線とかち合った。
「さあ、今度は自分でひり出してみな」
恵美はそう言って片手を下げる。ディルドウから完全に手を離したらしい。
「な、何を……!!」
「嫌ならいいさ。ずっとそうして、ディルドウを咥え込んでりゃあいい」
恵美にぴしゃりと告げられ、京香は分の悪さを悟る。確かに、異物を腸内に留めたままとはいかない。
しかし、擬似とはいえ、恵美の眼前で排泄を晒すには勇気が要った。
「ほら、するなら早くしな!」
恵美は痺れを切らしたように京香の太腿を平手で打つ。
相当な痛みだ。ここでいくら意地を張っても、同じように嬲られるだけだろう。
「ん、んんっ…………!!」
京香は息み、下腹に力を篭めた。少しずつディルドウが抜けていくのが解る。
「はは、出てきた出てきた。随分と立派な排泄だよこれは」
案の定というべきか、恵美は嘲り笑った。しかし今の京香には、それを恥じる余裕すらない。
「んぐ、ぐっ!! …………くぁっ、はぁぁあ……お゛…っ!!」
自力でのディルドウの排泄は、京香の想像よりも遥かに心地の良いものだった。
排泄の為に力を込めたことで、直腸と肛門の全体が極限まで締まっている。
その状態でディルドウが抜け出れば……瘤が菊輪を通り抜ける感触も、腸内の開放感も、今までの比ではない。
どくっ。
最後にディルドウが自重で滑り落ちた瞬間、京香は、身の奥で蜜の吐かれる音を聞いた。
腿の痙攣もいよいよ激しくなり、隠しようもない。
「うんうん、いい調子じゃないか。段々と雌の匂いがしてきたよ。そら、もう一丁行こうかい」
恵美はそう言いながら、再びディルドウを腸奥まで押し込んだ。
さらに今度は、手で京香の尻肉を両側から挟み込む。
「ちょっと、それじゃ出せないわ!」
「いいや、出るさ。この圧迫を跳ね除けるくらいに、力強く気張るんだよ!」
恵美に強く命じられては、京香も従うしかない。
彼女はする前から解っていた。これだけ圧迫感が強い中での排泄が、どれほど心地良いのかを。
そして…………ディルドウを吐き出し始めた瞬間、その悪い予想は見事に当たる。
腸内が勝手に蠢き、菊輪が甘い悲鳴を上げる。花園から蜜が吐かれる。
「んお゛っ…………お…………ぉっあぉおおおお゛っっ!!!」
もはや京香には、本気の声を押しとどめる余裕などなかった。
手が使えればあるいは止められたかもしれないが、拘束された今は漏れるがままだ。
「ははは、いい声だね! そうだ、どんなに見目が良かろうと、女は皆その声でアナルアクメを極めるんだよ。
 今からはそれを、完全に習慣づけてやるからね、京香!!」
恵美は勝ち誇ったように笑いながら、眼前で身を痙攣させる獲物を叩き続けた。





それからというもの、京香には、様々な肛門用の道具が用いられた。
完全な休息を取れることはほとんどない。
食事の時も、濡れタオルで身体を清められている間も、何かしらの性的な快感が与えられている。
睡眠は特に曖昧で、背後から恵美に乳房を揉まれ、碧の手でアナルプラグを抜き差しされる中、気絶するように眠る程度だ。
眠らせないのは、正常な判断力を奪うためだろう。人間は睡眠が不足すると、催眠状態に陥りやすくなるという。
そうした意識の定まらない状態こそ、肛門の快楽を刷り込むには絶好の機というわけだ。

「これを…………お尻に入れろっていうの?」
京香はへたり込んだまま、疲れの見える声色で告げた。
その横には、ガラスボウルへ山のように盛られた球体がある。灰色をした、特有の匂いを放つ固形物……玉蒟蒻だ。
「そうよ、豚。自分で、入れられるだけ入れてごらん」
腕組みをした碧が、京香を見下ろしながら命じた。小柄で華奢なこの調教師は、しかしこれで容赦がない。
京香が反抗的な態度を取るたび、折檻と称して様々な責めを課した。
鼻でタバコを吸わせようとしたり、髪を掴んだまま執拗に洗面器の水へ顔を漬けさせることもある。
『舐められやすい』容姿ゆえ、苛烈に罰して服従させるスタイルを採ったのか。
しかしそれでも、彼女が旺盛な嗜虐心を持つ事には変わりない。現に今も、彼女の青い手袋には鞭が握られている。
「…………解ったわ」
京香は、左肩の鞭痕を押さえながら承諾した。
中腰の姿勢になり、ガラスボウルから玉蒟蒻の一つを摘み上げて肛門に押し当てる。
玉蒟蒻には暖めたローションがたっぷりと掛かっているため、一つ目はつるりと内部に収まった。
「いち」
小悪魔を思わせる碧の唇が、挿入の数をカウントする。そのカウントは、京香の動きに合わせて、に、さん、と増えた。
「はち」
碧がそう告げた所で、京香の指が止まる。ようやく動き出しても、肛門に押し当てた玉蒟蒻は入らず、つるりと床に転がっていく。
「ちょっと、何やってるの。まだたったの8個なのに」
「も、もう……無理よ。お腹が張って、入らない…………」
逆光の中で碧を見上げ、京香が眉を顰める。碧は暗い影の中で苛立ちを見せた。
「へーぇ、無理なんだ。じゃあ今から私達が手伝ってあげるけど、もう一つも入らないはずよね? もし入ったら、酷いわよ」
碧はそう言って恵美に合図を送る。
恵美は慣れた手つきで京香の身体を転がした。いわゆる『まんぐり返し』の格好を取らせ、その両の足首を掴む。
「くぅっ…………!!」
余りにも屈辱的な格好に、京香は鋭い瞳で恵美を睨み据えた。
「へぇ、まだその目が出来るのかい。元気な獲物だよまったく」
恵美は余裕ぶり、その背後からボウルを持った碧が近づく。
「さぁて、それじゃあ本当に無理なのか、試してみましょうか」
言うが早いか、碧の細い指が玉蒟蒻の一つを摘み上げた。そしてそれを、強引に京香の肛門へと押し込んでいく。
姿勢が変わって腹圧が変化したためか、玉蒟蒻はぬるりと肛門内へ消えた。
「ぐうっ……!!」
「ほら、入るじゃないの嘘つき。この調子じゃ、まだまだ余裕そうね」
碧の指が、さらに玉蒟蒻を摘み上げ、挿入する。2個、3個、4個……。
「ふぐっ、うううむ…………!!」
刻一刻と増していく圧迫感に、京香は呻きを漏らした。しかし、暴れる事はしない。出来ない。
彼女に許されるのは、調教師の悪意を身が膨らむまで受け入れる事だけだ。

しばしの後、京香の身体に変化が見られた。
恵美の押さえつける足首が浮き始め、額にはじっとりと脂汗が浮いている。
「もう、本当に限界よ…………」
京香は荒い呼吸のまま告げた。相当に苦しげだ。
「まだ23個じゃないの。キリが悪いわ、我慢しなさい」
碧はそう斬り捨てるが、肛門に押し当てた玉蒟蒻が、実際にもう入っていかない。
無理に押し込もうとしても、逆に肛門が開き、中にある3個ほどが外に出ようとする。
どうやら本当の限界らしい。普通の判断であれば。
「ふぅん、また限界のフリ? こういう小食アピールする女って、首絞めたくなるわ。
 エミ、ちょっと穴塞いどいて。すぐ戻るから」
碧はそう言い残して立ち上がる。すかさず恵美が片足首を離し、まさに玉蒟蒻を吐き出そうとする肛門を指で押さえた。
「ぐ、ぐっ…………!!」
噴出を妨げられ、肺が潰されるような呻きを上げる京香。そしてその上を、再び碧の影が覆う。
その手には、銀色をした烏の嘴のような器具が握られていた。
碧はその器具……肛門鏡を京香の排泄の穴に近づけ、恵美の指と入れ替わりに挿入する。
肛門鏡の烏口が栓のように玉蒟蒻を押し戻す中、碧は手早く弁を開いてネジで固定する。

「ふぅーわ、中に玉蒟蒻がギッシリ。これ写真に撮って『緋艶蝶』のホステスに見せたら、卒倒する娘もいるんじゃない?」
碧と恵美が、肛門鏡の中を覗き込んで嘲り笑った。その下で、京香は奥歯を鳴らす。
「あら怖い顔。でもその顔、どこまで保っていられるかしら?」
碧は床からディルドウを拾い上げて言う。そしてそれを、肛門鏡の上に翳した。
「っ!? ま、まさか!」
京香の声と同時に、ディルドウは肛門鏡の中に入り込む。
入り口近くまで出かかっていた玉蒟蒻が、その上からの圧力で腸の奥へと入り込んでいく。
「お゛っ…………おっぐぁあ、あ゛っ!!!」
京香の口から、何とも苦しげな声が漏れた。それは2人の調教師にとって、いい笑いの種となる。
「ははっ、何だい。本当の限界なんて言って、まだ入るじゃないか!」
「だから言ったでしょ、この豚は嘘つきなのよ。こうしてっ押し込めば、結腸の方にでも腸奥にでも、いくらでも入るんだから。
 最初に無理って言ったのは、たったの8個だったかしら。今はこれで……33個目。25個もサバを読んでたわ。
 こんな舐めた態度を取る奴隷には、どういう罰を与えればいいのかしら」
恵美と碧は笑いながら、ディルドウで玉蒟蒻を奥へと押しやり、新たな1個を放り込み、またディルドウで突く。
「おぐっ……ぶっ、ごぉふっ…………!」
京香は目を見開き、頬を膨らませて苦悶していた。
「げぶ、ぶふっ!!」
玉蒟蒻の数が42個になった時…………桜色の唇が数度咳き込み、細く吐瀉物を吐き出す。
碧を睨み上げる瞳も細まり、目頭から涙を伝わせていた。
そしてその直後、肛門が大きく盛り上がる。
「おっと」
慌てて碧が肛門鏡を押さえようとするが、すでに遅い。
肛門鏡は勢いよく上へ吐き出され、それに続いて夥しい数の玉蒟蒻が溢れ出る。
ローションや腸液の線を引きながら、一面に飛び散る異物。それは当然、京香自身の顔へも降りかかった。
「おやおや、大した噴水だ」
恵美が茶化す中、碧は散らばった玉蒟蒻を一つずつ拾い上げてはガラスボウルに戻していく。
それを横目に見ていた京香は、ある事に思い至って青ざめた。
その予想通り、再び碧がガラスボウルを持って京香を見下ろす。
「さて。あとちょっとだったけど、餌のお残しをしたからやり直しよ、豚。
 菊輪の方は性器らしくなってきたようだから、今度は腸奥への圧迫で濡らすようになるまで躾けてやるわ」
碧はそう言って、天使のような微笑を見せた。






いつしか調教部屋の壁には、無数の写真が貼られていた。

『京香 1日目  19:00』
『京香 2日目  11:00』
『京香 3日目   7:00』 ・・・・・・

そのように日付と時間の記入された写真が、壁の一面を埋め尽くしている。
全て、恵美と碧による京香への調教記録だ。
その中で京香は、延々と辱められつつ、肛門性感を刷り込まれていた。
初日にはまさに光り輝かんばかりだった美貌も、日を追うにつれてくすんでいく。
精神力は強いのだろう。
11日目になってなお、残飯らしき白いものを無理矢理口に押し込まれながら、その目は毅然として前を睨んでいる。
しかしその4枚後の写真では、かなり太さのあるディルドウに自ら跨ったまま、蕩けきった表情を浮かべていた。
よく見れば、写真はいずれの日付も、凛とした姿と蕩けた姿の両方を捉えている。
しかし後の日付になるほど、明らかに後者の比率が上がっているようだ。
今もまさにメスの姿が、部屋のカメラに映されていた。

「ああっ、あ、ああっ……! はぁっ、お゛っ…………おお゛っ……は、あっ…………!!」
艶かしい声の主は、紛う事なき京香だ。
彼女は犬のように這い蹲ったまま、背後から膝立ちになった恵美に突かれていた。
勿論自前のものではなく、黒いゴムパンツから生えたペニスバンドでだ。
かなりの長さと太さのあるであろうそれが、深々と肛門に突き刺さっている。
恵美が腰を振るたび、その恵美の肉体と京香の腿とがぶつかり、肉の音が弾ける。
そしてその音以外にもう一つ、クチュクチュという水音もしていた。
ペニスバンドが肛門内をかき回す音……にしては、ペースが速い。
その正体は、恵美の右腕に着目すれば明らかになる。京香の美脚の合間に弄り入れられた、太い右腕に。
「今日はまた随分と濡れるじゃないか、ええ? 昨日碧にやられたドナン浣腸で、すっかり出来上がっちまったかい」
恵美は声を低めて囁きながら、右腕の先を蠢かす。すると京香の頭が下がり、ううう、と呻きが漏れた。
「さ、どうだいどうだい。そろそろ、ケツでイッてもいいんだよ」
恵美が再度囁き、濡れそぼった右腕を引き抜いた。そしてその手で腰を掴み、いよいよ力強く腰を打ちつける。
「あ、ああ! くぁああっお゛!!」
切なそうな声と共に、京香が頭を揺らした。細い涎の線が床と繋がる。
そしてその線が途切れた後、京香の頭は逆に天を仰いだ。
「いっ、いぐうっ!! イグー…………っ!!!」
その声を最後に、京香の嬌声は、喉からのキュゥゥーッという声ならぬ声に変わる。
そしてその声すら絶えた後は、ガクリと項垂れて荒い息を吐き始めた。
「ふん、かなり深くイッたらしいね。あさましい女だよ」
恵美は満足げに腰を引き、ペニスバンドを引き抜く。
名残惜しそうに腸壁が纏いつき、クポリと異物が抜けた後には、ただ泡立つローションを垂らす空洞があるだけだ。
咲き誇る紅華のようなその排泄孔が、わずか2週間ほど前には未使用だったなどと、一体誰が信じるだろう。

「さぁ豚、立ちなさい。慣らしは終わりよ」
碧が手の平を打ち鳴らし、京香の注意を引く。京香は汗に塗れた顔を上げた。
「ま、待って…………今イッたばかりで、まだ腰が…………」
「何、口答えするの? 散々理解させたかと思ったけど、ほんとオツムの緩い女ね。
 昨日のドナン浣腸。アワ噴いて痙攣はじめたから開放してあげたけど、今度はもっと先まで行きたいのね?」
碧が冷ややかな瞳で告げると、たちまち京香の顔色が変わる。
下唇を噛み、手のひらを握り締め、しかし碧と目線を合わせようとしない。
碧はその視線の先に回りこみ、会釈のように腰を曲げながら笑顔を見せた。
「さぁっ、始めましょう。エミがたっぷり解してくれたから、今日こそはいけるはずよ」
碧はそう言いながら右の手袋を外し、子供のように華奢な腕にローションを塗す。
そしてへたり込む京香の尻穴へと、その腕を近づけた。
「っ…………!!」
顔を引き攣らせる京香。その尻穴に碧の指が触れる。
1本、2本、3本、4本。揃えた4本指が、開いた蕾をさらに押し拡げていく。
肛門の皺という皺が伸びきる。
「ひ、ひぃい゛っ…………く、あ゛ぁあ゛あ゛ッッ!!!」
「そんなに固くならないで、力を抜いて。んっ、ホラ、もうちょっと……よ!」
碧が肩へ渾身の力を篭めると、ついに手の甲の最も幅のある部分が肛門を通り抜けた。
そうなれば、後は奥へと入り込んでいくのみだ。
「あああ、ふわあっ……あぁああ゛ッッッぐううっっ!!!」
「煩いわね豚、耳元で喚かないで。
 ……でもま、仕方ないかな。とうとううんちの穴に、腕まで入れられたんだから。
 ホラ感じるでしょう。ここが直腸の奥で、こっちが、んっ、S字結腸よ。
 あらあら、なぁにこれは。指の先で、結腸の溝にある何かが触れるねぇ。何かしらねぇこれ?」
碧が陰湿に囁くと、京香の顔がいよいよ緋色に染まる。
「…………もう、充分でしょう…………。
 私は、すっかり変わってしまったわ。決して元には戻れないほどに。
 これ以上こんな私を、どうしようっていうの…………!?」
美顔を歪めて涙ながらに訴えるも、調教者達の表情は変わらない。
「いいや。おまえにはまだ、見る人間が見れば解るような輝きが残ってる。
 その淡い光すら消え失せて、惨めたらしいメス豚になるのがおまえの末路だよ」
「最底辺のアヌス奴隷に成り果てるまで、たっぷりと可愛がってやるわ。
 まずは、そうねぇ。せっかくフィストが出来たんだから、この結腸をクチュクチュかき回し続けてあげる。
 そうして結腸の快感に目覚めたら、次は6号ディルドウに挑戦よ。フィストまで出来たんだから、無理とは言わせないわ」
2つの唇から紡がれる悪魔の言葉。
それは京香にとって、どれほど絶望的に聴こえた事だろう。

「う、うう゛っ…………うふぅ……く、ぃひぃ………………っ!!」

いつしか哀れな深窓の令嬢は、力なくその細腕を垂らし、調教師達の為すがままになっていた。
『緋艶蝶』の京香。
その呼び名は、今の彼女にこそ相応しい。
羽をもがれ、檻の中で嬲られる、緋色の艶やかな蝶にこそ…………。



                                終わり
続きを読む

甘い幼尻

※100万ヒット記念リクエスト抽選の結果、
・レズ系のイジメ物で、ロリかつアナル
気に入らない同級生をイジメるために、年上の不良な先輩(中学生とか高校生あたり)に協力を頼んだら、
性的な知識も乏しいような娘が、取り返しの付かないレベル(拡張とかアナルマゾ的な意味で)にまで調教されちゃう

を小説化することになりましたー!
とはいえ、頂いたネタはいずれも本当に面白そうなものばかりなので、気が向き次第小説に活用させて頂きたいと思います。

ちなみに、ロリ・アナル・スカトロ要素があります。ご注意を……。



「あなたの考えには、筋が通っていないわ」
級友の應矢 咲姫(おうや さき)にそう告げられた瞬間、千恵美(ちえみ)は、心にどす黒いものが広がるのを感じた。
自分の方が子供じみた理屈をこねていると理解してはいるが、未熟さゆえに認められない。
「……あっ、そう。じゃあもう、いいっ!!」
千恵美はそれだけを言い捨て、咲姫に背を向けて走り出す。
「待って、まだ話は…………!!」
後ろから咲姫の声がするが、聞き入れる気はない。

「なによ、あれ。……いつもいつもいつもいつも、良い子ぶって!!」
川沿いの堤防に膝を抱えて腰掛け、千恵美は爪を噛む。
咲姫が憎かった。
優秀な人間であることは事実だ。
若干8歳とは思えないほど分別があり、成績も優秀。
ピアノにバイオリン、英会話にドイツ語まで修め、都会から越してきたこともあってファッションセンスも良い。
ゆえに教師はおろか親の間でも評判が高く、『應矢さんみたいになりなさい』という声は様々な場面で耳にした。
しかし、だからこそ千恵美には気に入らない。
いつか化けの皮を剥がしてやろうと企み、今日もそれで口論を仕掛けて返り討ちにされた所だ。
家に帰っても、親にはどこからか口論の件が伝わっており、下らない事をするな、應矢のお嬢さんに迷惑をかけるなと絞られるはずだ。
「でも、気に入らないんだもんっ!!」
千恵美は叫び、手元の石を拾い上げて川に投げた。
乱れた心で投げた石は、一度も跳ねることなく水中に没していく。
まるで今の自分のようだ。千恵美が改めて膝を抱えていると、ふと、その頭を軽く叩かれた。
「よっ、何か悩んでんの?」
顔を上げた先には、顔見知りの高校生であるマリの悪戯笑いがあった。

マリは、いわゆる“地元の不良の先輩”だ。
彼女の落としたピアスを千恵美が拾った事で知り合い、いつしか実の姉のように親しくなっていた。
親にも友人にも秘密の関係だが、悪い遊びはそれなりに教わった。
千恵美の考え自体、マリの思考に毒されている部分がいくらかあるだろう。
「へー……そりゃ生意気なガキだ。噂にゃ聞いてたけどさ」
マリは、煙草に火を点けながら呟く。
「そうなの。もう話してる時どころか、あの子が歩いたり髪掻きあげたりするたびに、一々ムッときちゃって」
「ああ、あるある。ウザい奴は何しててもカンに障んだよねー」
千恵美の言葉に同意を示しつつ、マリは美味そうに煙を吐き出す。
そしてその煙が完全に見えなくなった頃。

「…………そいつ、イジメてやろっか?」

マリはふいにそう口走った。どきり、と千恵美の心が動く。
「イジメる……?」
「そ。アタシもスカしたガキは嫌いだからさ。他人に対してもうゴチャゴチャ言えないように、懲らしめてやんのよ」
「え…………で、でも」
「大丈夫だって、さすがにガキをボコったりしないから。ただちょっと、カマしてやるだけ。
 うっし決まり、さっそくアイツら呼ぶか! まぁ待ってな。そのうち面白いの送ってやるから!!」
マリは一人で盛り上がると、嬉々として仲間に連絡をつけ始める。
一度決めたら誰が何を言おうが止まらない女だ。
「あ……あ…………!!」
千恵美はバイクで走り去るマリを見送りながら狼狽し、相談相手を間違えたと後悔した。
しかし……あの咲姫がどんな目に遭うのか、どんな反応を示すのか。それが気になるのも、事実だった。




翌日、咲姫はいつも通りに登校してきた。
小さな身体で胸を張り、ランドセルの肩ベルトを両手で握りしめ、特徴的なツインテールを後方に靡かせながら。
その姿を見つけ、千恵美は胸を撫で下ろす。
いくらマリでも、誘拐などと大それた事はしないのだ。そもそもターゲットは咲姫、消えたりすればすぐに大騒ぎになるのだから当然だ。
さらに翌々日も咲姫が登校してきたのを見て、いよいよ半信半疑だった千恵美の心は晴れる。
しかし、それからさらに4日が過ぎた帰宅後。
千恵美はLINEに届いた新着メッセージを見て、ごくりと喉を鳴らした。
LINEの相手はマリだ。
『チャンス到来♪』
まずその一言が送信され、そこから間を置かずに一枚の写真が添付される。
高解像度の写真は、一切の誤魔化しなく、相手先の現状を千恵美に伝えた。

中央に映っているのは、紛れもなく咲姫だ。
学校で着ていたものと同じ、淡いパステルカラーのブラウスとカーディガンを纏っている。
ただし、下に穿いていたチェックスカートと黒タイツは脱がされ、リコーダーの刺さったランドセルと共に床に捨てられていた。
つまり、咲姫は下に何も纏っていない。
それどころか、大股を開かされたまま、両膝の付近を乱雑にテープで固定され、恥じらいの場所を曝け出してすらいた。
当然、秘裂は無修正で丸見えになっている。
思わず千恵美が息を呑むほど、一切の色素沈着のないピンク色だ。
『どう、綺麗なマンコっしょ??』
マリから新たなメッセージが届く。
『うん……』
千恵美はそれに同意した後、改めて画像の背景に目をやった。
咲姫が大股開きで腰掛けさせられているのは、端々が破れた古いソファだ。
壁は一面に薄汚く、破損や蔦の生い茂っている部分も見られる。
床はやはり損傷著しいカーペットとタイルで、シャワーと大きな浴槽が奥にあるらしい。
千恵美には、そこがどこかすぐに判った。
マリ達不良が溜まり場にしている、県北のラブホテル跡だ。
千恵美も何度かマリに連れられて訪れた事がある。
市街地から遠く離れている上に昔から治安が悪く、地元警察のパトロール区域からも外されている……とマリは語った。
そのような場所に拉致されては、普通に戻ってくる事は不可能だろう。

画像にはいくつかの影や革靴が写りこんでおり、複数人で咲姫を取り囲んでいるらしかった。
その上であられもない格好を晒しつつも、画像内の咲姫は気丈に前方を睨みつける。
『アンタの言ってた通り、マジで生意気だねこのガキ』
マリが新たなメッセージを寄越し、さらに続ける。
『もうイチジク2本ぶち込んでるのにさ』
その言葉に、千恵美はぎょっとした。
そこへ、また新たな画像が送られてくる。咲姫の腰掛けるソファの下を映したものだ。
柔らかそうなピンク色の足指が、画面上部に大きく映りこんでいる。
そしてその下……薄汚れたカーペットの上には、潰れてその用を終えたイチジク浣腸の容器が2つ、確かに転がっている。
何のための道具か、知らない千恵美ではない。
“オトナの知識”と称して、そうしたマニアックな知識をマリから教えられていたからだ。

 (じゃあ、今はサキちゃんのおなかの中に、浣腸液が…………?)

千恵美はそう考えを巡らせざるを得ない。
彼女にとって咲姫は気に入らない存在ではあったが、同時に最も身近な『お嬢様』でもある。
咲姫がすまし顔で女子トイレから出てくるのを見るとき、千恵美はいつも違和感を覚えたものだ。
およそ排泄というイメージに結びつかない、シャンとした子。それが正直なイメージだった。
『ちっとテストで動画送る』
マリからまた新たなメッセージがあり、直後に映像ファイルが続く。
再生をタップすると、すぐに音声が聞こえてくる。
『……たたち、こんな事して、後がどうなるか解ってるの!?』
冒頭部の途切れた糾弾の言葉。声は間違いなく咲姫本人のものだ。
極限状態にも関わらず、聞き取りやすいハッキリとした発声はさすがと言える。
ただし、ひどく息が荒い。まるで校庭を何周もしたかのように。
その理由はすぐに判った。
『父に、言いつけるわ…………!!』
咲姫が毅然として言い放ったその直後、激しく下腹の辺りから音が鳴りはじめる。
ぐぉおおううるるるる…………という極めて低くくぐもったその音は、紛れもなく腹を下した時のものだ。
『おぉー、良い音じゃんクソガキ!』
『きゃはははっ、父に言いつけるっつってもさぁ、何、今からクソぶち撒けますとで…………』
そこで動画が止まる。長時間の再生は出来ないようだ。

『動画見れた?』
千恵美が動画に見入っている間に、マリからは新たなメッセージが送られていた。
『見れたよ。……今も我慢してるの? あいつ』
千恵美はやや躊躇いがちに言葉を返す。するとその直後、マリから返答があった。
『イエス。ほれ』
その直後、再び画像が表示される。咲姫の表情を接写したものだ。
咲姫は、髪の生え際や額、小鼻に病的な脂汗を滲ませ、片目を潰れそうなほど固く閉じている。
唇は歯を食い込ませて引き結ばれ、一切の余裕が感じられない。
間違いなく美少女といえるであろう風貌は、もはや跡形もなかった。
「………………っ!!」
初めて目にする級友の表情に、千恵美はしばし言葉を失う。動悸が激しい。
『でも、すっごいわ。我慢の限界っぽいのに、全然口が減らんし。
 ペラペラペラペラと、色んな言葉でこっちのココロ抉ってくんの。ありゃ、同い年で口喧嘩しても勝てんわ。
 ……あ、でももう、さすがにマジでダメっぽい』
そのメッセージの後、しばしLINE上に沈黙が訪れる。
『ねぇ、どうなってるの?』
5分ほど後、千恵美は痺れを切らして尋ねた。
するとそこから数秒のち、短く返答がある。
『出した』
ごく短いその言葉の後、続いて画像が送られる。
それを表示させた瞬間、千恵美は、あっ、と声を上げた。
そこには、金盥の中に排泄された茶色い物体が、はっきりと映し出されていたからだ。
盥の縁高く残った跳ね返りの跡は、内容物が勢いよく盥の底へ叩きつけられた事実を物語る。

 (これ……サキちゃんの………………!?)

千恵美はスマートフォンを持たない方の手を握り締め、背筋を駆ける何かに耐えた。
今この瞬間だけは、自分が歳相応の『繊細な感情』の持ち主だと確信できた。
さらに、LINEの画面がスライドする。また新たな映像が来たらしい。
千恵美は喉を慣らし、覚悟を決めて再生を押した。
『っやあぁぁっ、イヤぁ゛いやいやいやああ゛ぁあぁああぁあああ゛あ゛っっ!!!!!!』
凄まじい音割れを伴いながら、悲鳴が響き渡る。千恵美は慌ててイヤホンを嵌め込んだ。
どうやら、排泄のまさにその瞬間を撮ったものらしい。
どれだけ気丈に振舞おうと、咲姫もやはり幼い少女だ。
排泄を晒すその瞬間には、ツインテールを振り乱し、顎が外れるのではと思うほど大口を開けて泣き叫んだらしい。
しかし碌な抵抗はできていない。
彼女の小さな躯は、数人の女子高校生の手で軽々と持ち上げられ、無理矢理に排泄の姿勢を取らされていた。
あまりにも惨めに過ぎる光景だ。けれども千恵美は、それから片時も目を離せない。
視線で咲姫の柔らかそうな脚肉と繋がり、ヘッドフォンで悲鳴や排泄音を受け入れながら、千恵美はひどく満たされていた。

1分足らずの短い映像が終わり、最後に一枚の画像が送られてくる。
排泄を終え、放心状態となった咲姫が写されていた。
後ろ手に拘束されたままソファに背を預け、ぴちりと重ねた両脚を斜めに倒すお嬢様座り。
目頭から一筋こぼれた涙が扇情的だ。
『んじゃ、こっからまたしばらくコイツで遊ぶから。また明日にでもLINE見なよ、オヤスミー。
 あ、そうそう。いい獲物教えてくれて、あんがと♪』
そのメッセージといくつかのスタンプを最後に、マリは何も言わなくなる。
しかしその後も千恵美はしばらく、排泄映像を再生し続けた。
汚物趣味があるのでは断じて無い。むしろ、汚らわしいと思う。
しかし、その汚らわしい目にあの咲姫が遭っているという事実が、自分でも理解できないほどに千恵美を煽り立てた。



案の定というべきか、咲姫が行方不明になったという噂はすぐに広まった。
大人受けのいい優等生だったのだから当然だ。
千恵美は他の生徒がそうされたように、親や教師から何か知らないかと尋ねられた。
しかし千恵美は、驚くほどさらりと白を切る。せっかくの愉しみを邪魔されたくない気持ちは、何にも勝った。

学校のトイレで、教室移動の途中で、帰宅途中で、あるいは自室で。
千恵美はスマートフォンが振動するたび、人目を避けて噛り付いた。
LINEを起動すれば、そこには刺激的な画像やメッセージが続々と届いている。
『限界に挑戦~』
そのメッセージの後に、蛙のようにひっくり返された咲姫の肛門へ、20本ほどの綿棒が入り込んでいる映像もあった。
薄桜色の地肌とほとんど変わらないような慎ましい肛門は、痛々しいほど広げられ、ただの薄い輪と化している。
奥に映った咲姫の表情がくしゃくしゃに歪んでいるのが背徳的だ。

また別の画像では、女子高生の細い2本指が、肛門を弄繰り回してもいた。
ローションを塗りこめたのか、肛門付近は妙に照り光っており、透明な一筋が尻肉を背に向けて伝い落ちてもいる。
『全員でケツん中いじくり回してんの。超締まる』
メッセージにはそうあった。

さらに別の時には、咲姫は肛門を4方向からフックのようなもので四角く拡げられ、様々な手段で嬲られていた。
『ハードな直腸検査中』
そのメッセージ通り、ぱっくりと開いた腸内をペンライトで照らし、何枚も写真に撮る事もある。
指の腹で腸壁を臍側へと押し込んでいる事もある。
真ん中にバルーンのついたチューブで透明な水を吸い上げ、駄々漏れの形で排泄させる事もある。
あるいは1本ないし2本のガラス棒で、延々何十枚にも渡って内部を弄繰り回している写真もあった。
興味深いのは、それは全てに対して咲姫が何かを叫ぶ口をしていることだ。
いや、やめて、といった哀願か。憶えてなさい、といった脅しか。それとも人格否定の糾弾か。
一点を凝視する必死な瞳に、垂れ下がりつつも根に皺の寄った眉は、どうとも取れる微妙なものだ。

その他では、数珠の連なったような道具が様々な種類揃えられ、用いられているようだった。
咲姫はスタイルこそ8歳にしては良いものの、まだまだ小さい。
そのゆえその体は女子高生達に良い様に掴まれ、様々な格好を取らされながら責められていた。
例えば、手を横から掴まれたまま、両の足首を真上に掴み上げられての肛門嬲りだ。
力瘤を作るような手の形と、カメラ側に突き出るような尻と秘肉、そして脚の間から覗く顔。
それは何とも滑稽なものだった。
肛門からビーズ状の物が抜き差しされる様も格好がつくとは言いがたく、咲姫の頬は責めの間中、湯上りのように紅潮していた。

その次の日の、倒立しかけのようなポーズでの嬲りもインパクトがあった。
肩と肩甲骨の辺りだけを床につけ、両脚を顔の上にまで持ち上げたところで鷲掴みにする。
そして、ほぼ真上を剥いた尻穴に、咲姫自身のリコーダーを幾度も出し入れするというものだ。
リコーダーの指穴から、腸液ともローションともつかない半透明の液体が流れ出ている様は、なんとも生々しい。
この責めも数十枚の写真に渡って収められていたが、面白い事には、その様子は時間を追うごとに変わっていた。
最初のころ咲姫は、口を真一文字に結び、親の敵のように脚の上を睨んでいる。
しかしそれから数十分後の画像では、目は閉じられ、口は浅く開いて、温泉にでも浸かるような表情になる。
さらにその後、目は焦点を結ばないまま横に投げられ、口はすっかりだらしなく開いてしまう。
そして最後には、その目すら閉じられ、口はとうとう涎の糸を滴らせはじめるのだ。
その蕩けようは、普段の彼女を知る千恵美には信じがたいようなものだった。
どこからどう見ても、それは1匹のメスが発情した姿だ。
目を凝らせば様々な“事実”も見て取れる。
小学校低学年だけあり、咲姫の胸はないに等しい。性器として成熟してすらいないはずだ。
にも関わらず、画像の最後の方では、乳首は明らかに勃起していた。
乳房や乳輪の膨らみがないだけに、屹立した粒はよく目立つ。
さらに言えば、咲姫の手は、最初の頃は様々な抵抗を試みるような動きを見せていた。
しかし最後の辺りでは、まるで母親の腕を取るように、甘たるく近くの女子高生の腿を掴んでいるのだ。
それは無意識下で、周囲の人間に心を許しているかのようだった。


『あいつ、すっかりアナルに慣れたよ。チビのくせに』
約一週間が経った頃、マリはそう告げた。
その日は映像が送られてきていた。
ソファの上に横臥したまま、片足を大きく持ち上げられ、肛門にかなり太さのある数珠状の道具を抜き差しされているものだ。
過去に用いられていた責め具と比べて芯があり、凹凸の極めて深いアナルディルドウと言ったほうが近いかもしれない。
それを力強く抜き差しされながら、咲姫は悦びに震えていた。
掴みあげられた細長い左脚はぞくんぞくんと痙攣し、少女の足とは思えないほど艶かしく内腿を筋張らせる。
目隠しをされた部分からは涙があふれている。
口はだらしなく開いて透明な唾液をソファに垂らし、開閉する。
『あっ、あっ、あ…………あっ……あっ、んっあ…………』
何とも甘い声が、唇の動きに合わせて漏れた。
そこで動画は途切れる。
『今の声、聴いた? あのガキ、もうずーっとあんな声出してんの。コッチまで変な気分になるわ。
 アナルで早く逝けるように、たまーにクリとかGスポとかも一緒に刺激してたんだけど、もう要らないっぽいし。
 股のへん濡れまくってたっしょ。今日全然ローション使ってないんだよ。あれぜーんぶ、チビのマン汁』
千恵美はそのメッセージを読み、改めて動画を見返す。
すると確かに、ソファに密着している咲姫の右腿が、オイルを塗ったようなテカリを帯びているのがよく解った。
毛の一切生えていない初々しい秘裂も、よく見ればやや赤らんでおり、自らの愛液で溺れるように蠢いていた。
『凄いね』
千恵美はかろうじてそう打つと、大きく深呼吸を繰り返した。

あの咲姫が刻一刻と変えられているのだ。今、この瞬間も。
そう考えると、千恵美の身体は震える。
気がつけば彼女は、過去に送られた何十という画像や映像を元に、生まれて初めての自慰を始めていた。
それも、一般的なクリトリスを用いてではない。排泄の穴を、指でこね回すやり方でだ。
異物感は強かったが、心臓の破れそうな興奮がそれを覆ってくれた。
咲姫の後を追うように、画像の最初から少しずつ、肛門開発の軌跡を辿る。
まずは綿棒を数本入れるところからだが…………汚辱感で思わず飛び上がってしまう。
先はまだまだ長そうだ。
咲姫はその間にも、よりディープな肛門性感へと歩みを進めているというのに。

『ねぇ……もっと、もっと太いのをちょうだい………………』
動画の中、とろりとした瞳で、あらゆるディルドウを味わい尽くした咲姫が呼びかける。
彼女の瞳が射止めるものは、女子高生の拳そのもの。
『げっ、フィスト!?』
『……ったくコイツ、どんだけだっての。まいいけどよ、もう一生垂れ流しだぞ、ガキのくせによ!』
不良女子高生達は薄笑いを浮かべながら、少女の矮躯を押さえつけ、拡張されきった肛門に拳を押し当てた。
そして数秒後、甘い絶叫と共に動画が終わる。
しかし千恵美の中では、動画が終わってからも情景が続いていた。
千恵美もいつか、拳でなければ満足できない身体になるのだろう。
これほどの甘美を知ってしまっては、きっともう戻れない。もう、遅いのだ。
「っはは、あははは、ははははっ………………!!」
千恵美は今さらながらにそう気付き、自嘲気味に笑った。




                             終わり
続きを読む

境遇

※レズいじめ物。非常に胸糞悪いラストです。


アンソン・ミレードは、誰もが認める人格者であった。
だが、他人に甘い人間であった事も事実だ。
田舎町で踊り子をしていたジーンから身の上話を聞かされ、同情して妻に迎えた事もそう。
そのジーンを自分の屋敷で蝶よ花よと大事にし、すっかり付けあがらせた事もそうだ。
アンソンは、ジーンとの間に3人の娘を儲けた。
長女のミディ。
次女のフラヴィア。
三女のララ。
我が侭放題の母を見て育ったこれら3人の娘もまた、当然のように高慢な令嬢に育っていく。
とはいえ、次女のフラヴィアには父の血が幾分濃く出たのだろうか。
アンソンが病でこの世を去った時、フラヴィアだけが懸命に涙を堪えていたのだから。

そして、ミレードの家にはもう一つ、アンソンの置き土産が存在する。
拾い仔であるマリータだ。
縮れぎみの赤毛とソバカスが特徴的なこの少女は、町で浮浪者として彷徨っていた所をアンソンに保護された。
いわばジーンと似た境遇だ。
アンソンはマリータを実の娘のように可愛がるつもりでいた。
しかし……その矢先にアンソンがこの世を去ると、マリータの立場は一変する。
血縁関係のない事を理由に、ジーンが彼女を虐げ始めたのだ。
当然、母の素行を基準とする3人娘もそれに倣った。

義母や義姉妹がアンソンの莫大な財産で悠々自適に過ごす傍ら、マリータは奴隷のような毎日を過ごす。
他の人間が貴族の娘さながらに着飾る中、マリータは常にボロを身に着けていた。
母達がダンスパーティーに出かけている間、ひとりで広い屋敷を隅々まで掃除させられた。
食事の支度も、片付けも、馬の世話も、庭木の手入れも……
使用人3、4人でこなすべき仕事を、まだ14歳であるマリータが一身に負わねばならなかった。
寝起きは馬小屋、用を足す場所はその隅の桶だ。
食事時にも母達と同じ長テーブルに着くことは許されず、床に置いた銀の皿に盛りつけたものを犬食いさせられる。
長女のミディは、犬食いしているマリータの頭を上から押さえつけ、窒息に苦しませるのが半ば趣味のようなものだった。
三女のララは、少しでも気に喰わない事があると、マリータの縮れ髪を鷲掴みにしたり、脇腹を靴で蹴りつける暴行を加えた。
母のジーンに至っては、マリータを視界に入れることすら汚らわしく思っている様子だ。
ただ、次女のフラヴィアだけは、特別マリータに害を加える事がない。
マリータには、それが少し不思議に思えた。




その日の夕食後には、大粒の葡萄が供された。
長テーブルの上には純金の器が並び、瑞々しい葡萄が山と盛られている。
もっともそれを堪能できるのは、母と3人の娘だけだ。
下僕の身であるマリータには、義母達が実を食べ終えた後の皮だけが与えられる。
黒紫の皮を裏返した部分にこびりついた、ごくわずかな果肉。
それが、マリータの知る『ブドウ』だった。
皮から滲み出る渋みの中、ごく僅かに感じとれる甘みは、それでもマリータにとっての至福だ。
しかし、夢見心地の時間は突如として遮られた。
ミディによってではなく、ララによってでもなく、ジーンによってでもない。
マリータにとって最も害の少ない主人である、フラヴィアによって。
「私は部屋に戻って食べるわ。ああ、そうだマリータ。ちょっと用事があるから来て。
 …………早く。そんなもの後でいいでしょ」
フラヴィアは、誰に対してもそうであるように、ややきつい態度で命じる。
マリータはショックを隠せない。
皮だけとはいえ、久々に気まぐれで与えられた褒美だ。せっかく葡萄の味を堪能できる好機であるのに。
まだ果肉の残っている葡萄の皮を未練がましそうに見つめた後、マリータは渋々と立ち上がる。
「おやおや、可哀想に!」
「ホント、フラヴィア姉様も案外酷だわ」
ジーン達は落胆を露わにするマリータを可笑しがりつつ、銀皿の中身を捨てにかかる。
マリータの視線がそれを捉え、いよいよ泣き出す直前のように強張った。

「………………あの、ご用事とは?」
フラヴィアの部屋の扉を後ろ手に閉め、マリータは問う。
そのマリータの前で、フラヴィアはガラステーブルに純金の皿を置いた。
皮などではない、瑞々しい果肉がついたままの巨峰。それが、山のように盛られている。
ごくり、とマリータの喉が鳴った。
『食べたい』と切望してしまう。折檻されるのが嫌で、けして口にはしない願望だが。
するとどうだろう。フラヴィアの指は、誘うように金の皿をマリータの方へと押し出したのだ。
「あれは嘘よ。これ、食べていいわ」
あろう事か、そのような言葉まで聞こえてくる。
マリータは、それが空想による空耳でないと気付くのに、少しの時間を要した。

「えっ……! で、でもそれは、フラヴィア様の分では?」
罠を警戒しつつ、マリータは問いかける。
甘い言葉にはいつも裏があった。少なくとも、ジーン、ミディ、ララの発するそれには。
「あんたもたまには美味しいところ、食べたいでしょ。私はいつでも食べられるから、別にいいわ」
フラヴィアは事も無げに答えると、ベッドに腰掛けて聖書を開いた。
マリータの動きが止まる。
罠か、それとも純粋な幸運なのか。それがまったく読めない。
他の3人であれば明らかな罠と断じられるが、このフラヴィアは陰湿な嫌がらせをしてきた事がない。
そして彼女は、どこか父であるアンソンに似た空気を纏っている……。
「あ、ありがとうございます……」
マリータは、心優しいアンソンの血に賭けた。あえてフラヴィアの勧めに乗ることにしたのだ。

震える指で葡萄のひと房を摘み、口へ。
弾けるような果肉を歯で噛み潰した瞬間、『本当のブドウの味』が口に広がった。
爽やかな酸味と、とろけるような甘み。かつて感じた事もないほどに、深い深い味わい。
「っっ!!!」
マリータはただ目を見開き、未知の甘味に言葉をなくす。
今の今まで恋焦がれていた味は、想像のさらに上をいくものだった。
こうも美味なものが、この世にあったとは。感動で、涙さえ溢れてくる。
フラヴィアは涙ぐむマリータを見やり、驚きの表情を浮かべた。
「な、何よ…………そんなに美味しかったの?」
フラヴィアの問いに、マリータは頷く。何度も、何度も。
それを見つめるうち、常に冷ややかなフラヴィアの目尻が、ほんの僅かに緩む。
「……ふぅん、そう。ならこれからも、時々食べさせてあげるわ」
その一言は、マリータにとってどれほど価値あるものだっただろう。
マリータはまたしても言葉を失い、一生分の幸福を得たかのように目を潤ませる。
「あ、あ、あり…………ありがとう、ござ…………います………………!!」
「べつに礼なんていいわ。あんたも一応、妹なんだから。
 前々から思ってたけど、お母様もお姉様達も、ちょっとあんたに対して冷たすぎるのよ」
照れ臭さを隠すように、フラヴィアはそれだけを告げて聖書へと視線を戻した。
マリータは、その横顔を呆然と見つめる。

美形で通っていた父の血を濃く継いだのか。フラヴィアの容姿は、姉妹の中でも頭一つ抜けている。
腰まで伸びた、陽光を思わせるブロンドの髪。エメラルドさながらの瞳。
王族の娘と称しても、信じる者は多かろう。
ダンスパーティーでも男からの誘いが絶えないらしいが、その殆どを撥ね退けているようだ。
ごく最近になって、ようやく貴族の嫡男と懇意にしはじめたというが、それも相手が誠実な好青年であるがゆえ。
喜怒哀楽を隠さない一家にあって、フラヴィアだけは常に冷ややかな態度を崩さない。
それはマリータに対してだけでなく、他の家族に対しても、また屋敷の外ですらそうであるようだ。
フラヴィアは、マリータから見ても明らかなほど異質な……つまりは『孤高の』娘だった。





この一件以来、フラヴィアはマリータに僅かながら親切さを見せ始める。
約束通り、夕飯後には果実の一番瑞々しい部分を与えた。
屋敷に自分しかいない時には、マリータにも休息を勧めた。
特にマリータの心に残っているのは、ジーン達が揃って山向こうのパーティーへ出掛けた日だ。

「……なによウェイン、アンタ風邪引いちゃったの? どうせまた、裸で寝たりしたんでしょ。
 看病してくれる人はいるの? ……そう、じゃあ侍女の言う事をちゃんと聞きなさい。
 ……うん、……うん。…………そんなに謝り倒さなくたって、一度デートがフイになった位で怒らないわよ。
 アンタのそういう実直さって好きだけど、度が過ぎると鬱陶しいものよ。……それじゃ、お大事に」

階下の電話でフラヴィアが話すのを、マリータは掃き掃除をしながら聞いていた。
フラヴィアは恋人であるウェインとデートの予定があったためにパーティーを欠席したのだが、
どうやらそのデートも相手の病気でキャンセルとなったらしい。
「……残念でしたね」
マリータは掃除の手を止め、階段を上がってくるフラヴィアに話しかける。
フラヴィアは、それに反応してしばしマリータを見つめた。ふと視線をやったにしては長い、注視だ。
失礼だったかとマリータが口を押さえた直後、フラヴィアは口を開く。
「……ねぇマリータ。あんた一度、化粧でもしてみない? ソバカスだらけだけど、元は案外悪くなさそうよ」

暇を持て余したフラヴィアの提案により、マリータは次女の部屋に招かれた。
そして三面鏡の中、生まれて始めての化粧を施される。
白粉をたっぷりとつけ、雪のように白い肌を作り上げ。
赤髪は丁寧なブラッシングの後に結い上げて。
眉を細く剃り、額の髪の生え際も剃って、顔の白さをさらに強調し。
その末に鏡に写っていたのは、少し前とは見違えるほどに美しいマリータだった。
「これが…………あたし…………?」
マリータは思わず呟く。フラヴィアはその後ろで満足げに頷いた。
「そうよ。思った通り化けたわね。
 せっかくここまでやったんだもの、ちょっと街に買い物に出ましょうよ!
 着ていく服は、私のタンスから好きに選んでいいわ」
こうしてマリータは、面白がるフラヴィアに乗せられる形で、初めて大きな街を訪れる。

洒落た店に、優雅な町並み。賑やかな雑踏。
それは、マリータのまるで知らない世界だった。
「…………すごい、すごい…………!!」
マリータは胸をときめかせ、目にするもの全てに感動を表す。
「別に普通……なんだけどね」
フラヴィアは苦笑しつつ、はしゃぐマリータの手を引いて進んだ。
しかし花屋の角を曲がったところで、2つの影はぴたりと動きを止める。
原因は、カフェテラスに腰掛けた若い女だ。
「……あらぁ、これはこれは。“ミレード御殿”のフラヴィアさんじゃない」
女はフラヴィアに向かって声を上げた。
口元を隠す豪奢な扇子に、煌びやかな頭飾り。世事に疎いマリータでさえ、一目で裕福な家の娘だと解る。
「ご無沙汰ね、ミリエーヌ」
フラヴィアは澄まし顔で答えた。相手を快くは思っていない風だ。
しかしミリエーヌという少女は、それをさして気に留めるでもなく、注意をフラヴィアの後方へと向ける。
すなわち……フラヴィアに隠れるようにして立っている、マリータへと。
「ところで、フラヴィアさん? その後ろにいらっしゃる方はどなたかしら。あまり、お見かけしないようだけれど」
身に纏わりつくようなその物言いに、マリータは帽子で顔を隠しつつ俯く。
「彼女は…………私の、友人よ」
フラヴィアは言葉を選びながらも、堂々と胸を張って告げる。
マリータは、思わず顔を上げてフラヴィアを凝視した。
「そう」
ミリエーヌは、そうした2人の仕草を興味深そうにながめながら、ただ小さく呟くのみだ。
マリータにしてみれば、その言葉の裏に幾百の悪意が感じられるようだったが。

「……良かったんですか? その、あたしなんかが、フラヴィア様のお友達なんて……」
「何言ってるのよ、本当は友人どころか妹でしょ。
 それをそのまま言って、お母様達の耳に入ると厄介だから誤魔化しただけよ」
「そうですか……お気を使わせてしまって、すみません」
「いいって。ほら、あそこでケーキでも食べましょ。すっごい美味しいんだから」
かつてないほど親切にされながら、マリータは喫茶店に足を踏み入れる。
そこで初めて口にしたケーキは、これも彼女の価値観を一変させるほどのものだった。
とてつもない甘さとコクを有したクリームが、脳髄をとろけさせる。
日々消耗し続けた心身が癒されていくのがわかる。
街を訪れて以来の華やかな記憶が、まさにこの瞬間、マリータの中で結実していた。
とても幸せだ。だが…………それだけに残念だ。

 (――――こんな素敵な世界があったなんて、思いもしなかった。すごく、居心地がいいな。
   フラヴィア様は……ううん、この街にいる皆は、ずっとこの幸せの中にいるんだ。明日も、明後日も。
   ……でも、あたしは違う。あたしは今日の夜からまた、あの惨めな生活に戻らなきゃいけない。
     ……………………イヤ、だなぁ…………………………。)

願わくば、この幸せをもう一日。そのささやかな願望は、未練の楔としてマリータの心へ打ち込まれた。
彼女自身も気が付かぬほど、奥深くへと。





ジーン達は変わらずマリータを奴隷のように酷使し、フラヴィアは時おり甘い夢を見せる。
その生活が3ヵ月ほど続いたある晩、ついに来るべき時が来る。

「おまえ最近、やけにマリータに甘くしてるようね」
肉厚のステーキにナイフを入れながら、ジーンはふいに問うた。
疑惑の矛先は、言わずもがなフラヴィアだ。
「そうかしら」
フラヴィアは澄まし顔で答える。
ジーン達がマリータを疎んじているのは明白であり、肯定は面倒を招くとの判断ゆえだろう。
しかしこの夜に限っては、ジーン達も確証があって話を切り出したようだ。
「とぼけないで! 花屋のラッドが、街でマリータの姿を見かけたって言ってるのよ。
 彼って街一番のプレイボーイだから、女の見間違えだけは絶対しないもの!」
長女のミディは、彼女がよくそうするように、金切り声を上げて母に続いた。
「それにフラヴィア姉さまったら、最近マリータにお菓子やフルーツをあげたりしてるのよ。わたし見たもの」
末女のララさえも姉達に同意する。
「………………っ!!」
マリータは床に置かれた銀皿から口を離し、見る見る顔面を蒼白にしていった。
街で姿を見られていた。菓子や果物を貰っている事まで知られてしまった。
義父アンソンが死んで間もない頃、砂糖壷に指を入れてほんの少し舐めただけで、尻が腫れあがるまで箒で打たれたものだ。
いったい今度は、どんな容赦のない折檻が待っているのか。
折檻の終わった後も、手足の十本の指がきちんと繋がっているのだろうか……それほどに思える。
涙さえ滲みはじめたマリータの視界で、フラヴィアの瞳が動く。
フラヴィアは、いつもの通り毅然とした瞳でマリータを見やった。そしてその瞳は、そのまま母であるジーン達に向けられる。
まるで、矛を構えるかのごとく。
「どういうつもりなの、フラヴィア?」
ジーンの問いを、フラヴィアは正面から受け止めた。
「どういうつもりか……なんて、改めて詰問されるとは思わなかったわ。
 もしも私がマリータに甘くしていたとして、それに何の問題があるというの?
 マリータだって、父が家族と認めた一員のはずでしょう。
 この際はっきり言っておくけど、マリータにだけ待遇の差をつけるのは間違ってるわ!」
胸中に一片の曇りなし、とばかりに断言するフラヴィアに、その姉妹は表情を強張らせる。
しかし。年の功か、ジーンだけは口端に薄い笑みを浮かべた。
「とんだ偽善ね」
「……なんですって?」
母の一言に対し、フラヴィアは珍しく憤りを露わにする。ジーンは笑みを深めて続けた。
「偽善、と言ったのよ。マリータへの待遇の差に疑問を持ったなら、どうしてもっと早く、改善を主張しなかったの?」
「――――っ、それは…………」
フラヴィアはここで初めて言葉を詰まらせる。自身の矛盾に気がついたのだろう。
フラヴィア本人が積極的にマリータを虐げなかったとはいえ、奴隷扱いを見過ごしていたことは事実なのだ。

もっとも、フラヴィアは産まれたその時から屋敷住みの令嬢だった。
物心つく前から、母も姉も、優しい父に甘えるばかりで自由奔放に暮らしていた。
そのような特殊な環境に生まれ育った以上、当然フラヴィア自身も優雅な暮らしに疑問を持たない。
つまり、使用人ありきの生活を当然のように考えてしまう。
「おまえ、心の底からマリータの事を心配して言っているの?
 違うでしょう。おまえは自分が安全な場所にいるのをいい事に、目下の人間を憐れんでいるだけよ。
 他人の飼っている小鳥を、可哀想だから外に離してやれと言っているのと同じ。
 浅はかで薄っぺらな偽善だわ」
「ち、違う!」
ジーンの更なる追求に、フラヴィアは叫んだ。
プライドの高い女性だ。たとえ自ら気付き始めているとはいえ、自分のこれまでを『偽善』とする事は耐え難いのだろう。
ジーンは頑なに否定するフラヴィアをしばし睨みつけ、そしてふと思いついたように笑みを戻す。
マリータが目にした中でも、指折り数えられるほどに禍々しい笑みだ。

「…………ふぅん。そこまで言うなら、証明してご覧なさいな」
「証明……?」
「そうよ。今この瞬間からマリータと“立場を入れ替えて”、おまえが虐げられる側になるの。
 その生活を続けてもまだ私に意見できるなら、そこに価値があると認めてあげるわ」
「っ!!」
まさに悪魔的な提案だった。
マリータも、フラヴィアも、そのような展開を想定してはいない。
この場でどのような結論が出るにせよ、互いの明日は大きく変わらぬものであると思っていた。
マリータは明日の食事のために支度をし、古い電球を取り替える。
フラヴィアは今日の事を日記に書き留め、風邪を引いた恋人の身を案じ、紅茶を飲んで眠る。
その生活が続いていくはずだった。
それが、逆転するというのか。
「へぇ、面白そうじゃない。確かに、そんないいお皿で美味しいお肉食べながらお説教されたってねぇ。
 それこそ、マリータに失礼じゃないの?」
「そうよね、本当にそう! フラヴィア姉さま自身が、マリータの生活をしてみればいいわ。
 それにマリータ本人は、一度も待遇に不満なんて漏らさなかったじゃない。お姉さまの主張は、独りよがりなのよ!」
ミディとララも母の提案に賛同し、机上は三対一の空気に支配される。
「み、皆様……そ、そこまで…………」
マリータは目を泳がせながら立ち上がった。この悪い空気を何とかしなければ、という気持ちからだ。
しかし、それを制する様に、フラヴィアが叫ぶ。
「…………解ったわ。私はマリータの代わりになる、偽善者と謗りを受けるぐらいなら!
 私のこの胸には、お父様から頂いた真実の誇りが生きているもの!」
退くに退けないのだろう。
ここで言い包められて退くような事があれば、まさに偽善者そのものになってしまう。
ならば、あえて罰を受けよう。マリータと同じ苦しみを味わい、言葉に正当性を持たせよう。
そう覚悟を決めたらしい。

「よく言ったわね。じゃあ……やってみなさいよ!」
初めに行動を起こしたのは、長女ミディだった。
彼女はやおら立ち上がると、フラヴィアの眼前にある皿を勢いよく叩き落とす。
金の皿は、硬質な音を立てて床に転がった。
「ほぉーら、床に落ちたわよ。お食べなさいな。犬みたいに這いつくばってね!」
ミディは意地の悪さを隠そうともせずに告げる。
「…………ッ!!」
フラヴィアは一瞬姉に鋭い視線を向けたが、命ぜられるまま椅子を降り、這う格好で皿に近づいた。
そして数秒ほどの躊躇ののち、半ばほど床に接するステーキにかぶりつく。
姉妹と母から、キャハキャハと笑いが起きた。
「ああ、はしたない。床にはあんまり舌つけないでよね、“フラヴィア”。
わたし達も歩く床なんだから、おまえみたいな汚らわしい人間の唾がついてると不愉快なの」
そう発言したのは、末女であるララだ。
つい先刻までフラヴィア姉さまと呼んでいた名残が、早くも無くなっている。
フラヴィアは意地からか、一心不乱に肉に喰らい付いていた。
姉妹はそのフラヴィアに対し、考えつく限りの謗りを浴びせ続ける。
正気の沙汰ではない。
「あ……ああ…………」
マリータは狂った情景を前に、ただ震えて立ち尽くしていた。
と、その肩に優しく手が置かれる。マリータが怯えながら横を向くと、そこにはジーンの笑みがあった。
マリータの前では一度も見せたことのない、柔和な顔。
まるで憑き物が落ちたかのように、慈愛に満ちた母親の顔をしている。
だがマリータにとってその表情は、過去のどんなジーンの顔より恐ろしかった。
「どうマリータ、あの姿は。惨めでしょう」
「え、あの…………」
「惨め、だよねぇ。マリータちゃん?」
ミディも同じく笑みを作り、ジーンとは逆側の肩に手を置く。
「あ、いえ、あの、え、えっと…………」
「まさか! 惨めじゃないなんて言わないよね。ねぇ、“マリータ姉さま”?」
最後にララが正面から覗き込めば、マリータはどこにも視線を逃せなくなる。

六つの瞳に凝視され、マリータは喉を鳴らした。
逆らえない。逆らっては、いけない。マリータの防衛本能がそう警鐘を鳴らしている。
「…………惨め、です………………」
その一言が呟かれた瞬間、フラヴィアの口の動きが一瞬止まる。
ジーン達は口に手を当て、心から可笑しそうに笑い転げる。
ごめんなさい。マリータは心中で謝罪した。
「さぁさ、マリータ。あったかいお風呂に入って、フカフカの布団で寝ましょう。
 後の片付けは、全部フラヴィアがやってくれるわ。
 ……フラヴィア! いつまでもモソモソ食べてないで、“いつものように”全部キッチリ片すのよ!」


無駄に種類の多い食器を洗い、迷いに迷いながら元あったであろう棚の場所に戻す。
テーブルクロスを取り替え、床を拭き清める。
それら全てが終わった時は、すでにとっぷりと夜が更けていた。
普段であれば、柔らかなベッドに身を沈めて寝入っている頃だ。
しかし、今日からは違う。
寒々とした風の吹く中を抜け、藁の敷かれた馬小屋で眠る事になる。
藁はチクチクとフラヴィアの白い肌を刺した。
かといって乳液を塗る事もできず、洗顔すらしていない。
心安らぐアロマの代わりに、噎せかえるような馬の体臭が鼻をつく。
外からの隙間風がたまらなく冷たい。
「…………昨日まではマリータがここに寝ていたのよ。なら、死ぬことなんてないわ」
フラヴィアは、歯を食いしばって苦境に耐えた。

次の朝になっても、昨晩の事が夢に変わるわけではない。
「ちょっと、いつまで寝てるつもり? 私達の朝食の用意はどうしたのよ。
 一番遅くまで眠りこけてるなんて、いいご身分じゃない!」
馬小屋をガンガンと叩きながら喚く声で、フラヴィアは目を覚ます。
頭が痛い。身体の節々も痛い。やはり藁など、安眠できる代物ではないようだ。
それでも仕方なく、フラヴィアは馬小屋から歩み出た。
するとその顔に、勢いよくバケツの水が浴びせられる。
「きゃっ!!」
「あはははっ、目が覚めたでしょう。馬小屋のくさい匂いも取れて、ちょうどいいわ!」
ミディは髪から雫を垂らすフラヴィアを見て大いに笑った。
「くっ…………!!!」
フラヴィアは射殺さんばかりに姉を睨みつつ、握り拳で服の裾を絞る。
「ああ、ああマリータ、お前は朝食の準備なんてしなくていいんだよ。
 そういうのは全部フラヴィアにやらせればいいんだ。さ、部屋で音楽でも聴いておいで」
台所からは、優しげなジーンの声が聴こえてきていた。
間違いではない。ミレード家の日常は、一変したのだ。

ジーン達の変わり身は早かった。
まるで以前からそうであったかの如く、マリータには娘として接し、フラヴィアを奴隷のように扱う。
パーティーに連れられるのはマリータで、その間屋敷の掃除を命ぜられるのはフラヴィアになった。
いじめとは、なぜ起きるのか。なぜ人の世から無くならないのか。
対象が憎いから……ではない。
特定の何者かを蔑む事で、それ以外の多数が安心感を得るからだ。
『対象が誰であるか』は瑣末な事柄に過ぎない。つねに、虐げる対象さえ存在するならば。



ジーン達のフラヴィアに対する嫌がらせも、当初は邪険に扱う程度のものだった。
足を引っ掛けて転ばせたり、水を浴びせたり、床のものを犬食いさせたり。
しかしフラヴィアが折れないとなると、嫌がらせは日増しに激化していく。
まだ処女であったフラヴィアを犬と交尾させたのも、ジーン達にしてみれば悪乗りの延長線上だ。

初旬にしては日差しの強い昼。
広い庭に幾つものテーブルセットが設置され、多くの人間が茶を愉しんでいる。
その視線の中心で、フラヴィアは大型犬と『交尾』していた。
後ろから覆い被さられ、処女穴に犬のペニスを捻じ込まれて。
犬のペニスは、人間のそれとはまるで違う。
内臓そのものといった風で、赤黒く、何本もの細い血管が走っている。
股間部の白い毛皮から生えたその異物が、ピンク色をした少女の膣に入り込む光景。
それは、まさに衝撃的だった。
「あはははっ、すごい。ホントに入ってるんだ!」
「犬食いするような人間にはお似合いね! いいカップルよ」
「しっかしまさか、あのフラヴィアお嬢様が犬とヤッてるなんてなぁ。笑えるぜ」
「確かに。この女、せっかくこの僕がパーティーで誘ってやったってのに、澄まし顔で断ったんだよ?
 『キザな男は嫌い』なんて言って、僕に大恥まで掻かせてさ。
 あの時はなんてお高く留まってるんだと思ったけど、なるほど、犬が好みだったわけだ!!」
集まった人間たちは、ティーカップ片手に笑いあう。
フラヴィアの若さと美しさに嫉妬する女達、ダンスパーティーで誘いを断られた男達。
その悪意が、高級な紅茶の香と共に発散されていく。

「う、くぅ……っ!! ううっぐ、うう……う…………ぅう“!!」
首輪を繋がれたフラヴィアは、必死に歯を食い縛って挿入の痛みに耐えていた。
結合部からは純潔の証が滴っている。
瘤つきのペニスで膣を無理矢理に拡げられているせいか、滴り方は変則的だ。
そしてその瘤の太さは、膣の中で動くたび、刻一刻と増しているようだった。
初めは所詮犬のペニスと嘲笑っていた男達も、いつしかその膨張率に息を呑むようになっていく。
もはやフラヴィアを憐れんで力任せに引き抜こうとしても、けして抜ける事はないだろうと思えるほどに。
「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ…………」
大型犬はショー目的で特別に訓練された個体であり、手慣れた様子で黙々とフラヴィアを責め立てていた。
這うフラヴィアの手の平と膝は石畳に乗っているが、犬の足は茂みに半ば入り込んでいる。
そのため腰が振られるたび、さすっ、さすっ、さすっ、と草葉の揺れる音が響いた。
「……………………ぃたぃ………………った、…………いたぃ……………………!!!」
よほどの痛みなのだろう。
あのフラヴィアが、伏せた顔の中で呻きを漏らしているのだから。
それは草の音に紛れて観衆に届いては笑いを呼んだ。

大型犬が少女を押し潰すようなスタイルの交尾。その果てに、とうとう射精の瞬間が訪れる。
犬の射精は三段階ある。
まずは潤滑油として、あるいは子宮内洗浄の目的で尿が注ぎ込まれる。
「っ…………!!!」
膣奥に放尿されているのが解ったのだろう、フラヴィアの両手が強く握りしめられた。
それでも声を上げないところが、彼女の意地だろう。
しかし……放尿が終われば、今度は二段階目、正真正銘の精液が注がれる。
「おっ、何だ何だ、まだ出るのか?」
「ひぇー、犬の射精って長ぇんだなあ!」
「ありゃ完全に子供出来ちゃうね。嫌だ嫌だ、犬の仔孕むなんて。悪い事はしないようにしよっと!」
観衆達は、フラヴィアの身の強張りと、犬の腰の震えから状況を窺い知る。
声こそ上がらないとはいえ、フラヴィアの示す反応は雄弁なのだ。
そして、ついに三段階目。この射精は、雌犬の子宮を精子で満たすために行われる。
瘤で塞がれて逃げ場のない膣内に、破裂しそうなほどの射精が繰り返される。
これには、さすがのフラヴィアも耐えられない。

「い、いやああああああぁーーーーーーっっ!!!!」

項垂れていた顔を上げ、美しい金髪を振り乱しながら絶叫を迸らせる。
その実況は、様子を見守っていた悪意ある者達の心を満たした。
まさに割れんばかりの笑いが、広間を歌のように覆い尽くす。
「いやああっ、いやあやめてっ!! もう中に出さないでっ!!!!」
フラヴィアは背後の支配者に哀願する。
場のほとんどの人間にとって、鼻水にまみれ、眉を垂らしたその顔を見るのは初めてだろう。
しかし、大型犬は動きを止めない。むしろ快感を求めてか、いよいよ腰を激しく動かす。
フラヴィアはただ犬の腰振りにあわせ、人形のように振り回されるばかりだ。
抗えるはずがない。少女と大型犬では、筋力に天と地の差があるのだから。
それは、まさに服従だった。犬に屈服させられる犬…………下等生物。
数日前までのフラヴィアとは、なんとかけ離れた地位である事か。

幾度にも渡る獣姦が終わり、ようやく瘤の収まったペニスが抜き出される。
その瞬間、噴水のように白い液が噴出した。
フラヴィアの小さな膣に、限界をとうに超えた容量を詰め込まれた精子だ。
フラヴィアは…………とうに、意識など保っていなかった。
かつて経験のない苦痛と恐怖、恥辱。そして何より著しい体力の消耗。
それによって、白目を剥きながら石畳に抱きついている。
観衆達はそのクライマックスにいたく満足しながら、夕暮れの中で席を立ち始める。
「………………!! …………………………っ!!!」
笑い声が絶えない中、特等席ですべてを目にしたマリータだけが、得も言われぬ恐怖に震えていた。





マリータは家事の一切から開放され、毎日遊んで暮らせるようになった。
贅を尽くした夕食を平らげ、食後のフルーツは最も甘い部分だけを齧って捨て。
昼には街へ出てケーキと紅茶を嗜み、夜には馬車に乗ってパーティーへ出向く。
それが許される身分だ。
しかし、フラヴィアの手伝いだけは許されなかった。
他人の目がない所でも、もし見つかれば、という恐怖から手伝う事はできなかった。
マリータは、再び奴隷の生活に戻るのが怖かった。
フラヴィアが自分に助けを求めてこないのが、マリータにとっての救いだ。
だがマリータは、フラヴィアが家族から虐げられるのを、屋敷の様々な場所で目撃した。

ある晩には、フラヴィアはミディによって、延々と秘部を嬲られていた。
手洗い場に備えつけられた巨大な鏡の前で、ミディは次女を後ろから抱き抱えていた。
フラヴィアの手は後ろで縛られているらしい。
そうして抵抗を封じられたまま、クリトリスを姉の指で刺激され続けているようだ。
「ほぉら、どんどんヌルヌルになってきてる。お豆もすっかり硬くなって、堪らないんでしょう」
ミディは、囁くようにフラヴィアに告げた。フラヴィアは俯いたまま反応を示さない。
責めはかなり長時間に渡って続いているようだ。
フラヴィアの白い肌は、全身が夥しい汗で濡れ光っている。
秘部の状態は影になっていてよく見えないが、クリトリスを指が刺激するたび、腹筋が蠢く。
腰が艶かしく揺れ、頭が揺れ、深く俯いては戻るを繰り返す。

よく聴けば、常にフラヴィアの息遣いがしていた。
ミディの指が単調に動いている間は、はぁ、はぁ、と小さく繰り返されている。
そして指が妙な動きをし、ぬちっと水音を立てる瞬間、はぁーっと息遣いが大きくなる。
頭部の俯きもその時が最も大きく、腰も跳ねるように後ろに動く。
 (イッてるんだ…………)
同じ女として、マリータにははっきりとそれが解った。
膣内からぬちぬちと断続的な水音が立ち、フラヴィアはとうとう顔を上げた。
濡れた金髪が額に貼り付き、口を半開きにした顔は異様なほど扇情的だ。
疲弊してはいても、やはり美人なのだと再認識させられる。
「フラヴィア、おまえ今イッたんでしょう。一体何度目なの、はしたない女ね」
ミディが悪意を込めて囁くと、フラヴィアは姉を睨み据える。
「ふん、相変わらず生意気ね。おまえ、自分が何で折檻されてるのか理解してるの?
 マリータでもちゃんと作ってた冷製スープを、あんな不味い出来にした罰なのよ。
 すべておまえが悪いの。このまま何時間でも……おまえが泣き喚くまで続けるからね」

マリータはそこで恐ろしくなり、自室……かつてのフラヴィアの部屋に取って返した。
そこから数時間後。ようやくまどろみ始めたマリータは、異常な叫び声で目を覚ますことになる。
それがフラヴィアの叫び声だと判ったのは、翌朝にミディが自慢話を始めてからだった。



また別の夜には、ララがフラヴィアを虐げている所も見かけた。
夜中にマリータがトイレに向かうと、ララの部屋の扉が少し開いており、光が漏れている。
中を覗くと、ララが秘部を舐めさせている所だった。
「ほら、もっと丁寧に舐めなよフラヴィア。そんなのじゃ、ちっとも気持ちよくないわ」
ララはベッドに腰掛け、フラヴィアを見下ろしながら告げる。
実に冷たい瞳だった。昼間にマリータとチェスをしていた人物と同じとは思えない。
フラヴィアは命ぜられるまま、一心にララの秘裂へと舌を這わせている。
「あっ、そろそろおしっこが出そうよ。その口で全部受け止めなさい。
 あーら、嫌そうな顔ね。マリータの代わりにわたしの肉便器になるって、偉そうに宣言してたくせに」
ララは、顔を上げたフラヴィアを眺めて笑みを浮かべた。
そして自らの指で秘裂を拡げ、放尿の体勢に入る。
 (うそ、やだっ…………!?)
マリータは目を疑った。本気でフラヴィアに自らの尿を飲ませようというのか。
マリータの戸惑いを余所に、じょぼぼぼと放尿の音が聴こえ始める。
それは激しい泡立ちと共に、間違いなくフラヴィアの美しい顎の上へと注がれている。
「あーもう、こんなに零しちゃって。明日の朝一で、カーペット取り替えといてよね。
 わたしがヴァイオリンのお稽古から帰るまでに替わってなかったら、おまえ、もっと酷い目に遭うわよ」
放尿を終えたララは、呆然とするフラヴィアに囁きかける。

マリータは自室に戻ってからも、身の震えが止まらなかった。
虐めはどんどんとエスカレートしてきている。
マリータは生来大人しい性格で、反抗する事もなかったのが幸いしていたのだろう。
しかし反骨心の強いフラヴィアは、母や姉妹達の嗜虐心を油のように燃え上がらせる。
もし今、何かのきっかけでまた立場が入れ替わるような事があれば……

「………………耐えられない……………………」

マリータは、ベッドの上で頭からシーツを被り、涙を零しながら呟いた。

この頃からだ。マリータが、積極的にフラヴィアへの虐めに加担するようになったのは。

「ほらフラヴィア、感じる? 今、お前の子宮に触ってるのよ」
そのおぞましい台詞を発したのは、ジーンではない。ミディでも、ララでもない。
マリータだった。
拘束具で手足を封じ、抵抗を奪ったフラヴィアの膣に、少しずつ指を入れていく。
潤滑油を用いながら一本また一本と指を増やし、今ではとうとう拳そのものが入り込んでいた。
「うう、う……うう、ぐぅっ…………!!」
フラヴィアは額に脂汗を滲ませながら、苦しげな呻きを漏らす。
しかしマリータにしてみれば、そうしてフラヴィアが苦しんでいる様こそが心の安らぎだ。
「おやおや、堪らなそうな顔してるねぇ」
「ホントに。悔しいけど、今日一番苦しめてるみたいよ」
「さすがマリータ姉さま。容赦がないわ」
後方ではソファに腰掛けたジーン達が、責めの様子を見守って笑っていた。
いじめている間は、母も姉妹も上機嫌でマリータに接してくれる。
再度立場を入れ替えられる危険性が低くなる。
マリータは、フラヴィアを手酷く虐めるほどに、自分の立場が揺るぎのないものになっていくのを実感していた。
「…………マリ…………た………………」
拳で蹂躙している最中、気絶しかけているフラヴィアが名を呼んだ。久し振りのことだ。
瞬間、マリータの脳裏に記憶が甦る。
ブドウという物の味を教えてくれた。
初めて街に連れ出してくれた。
自分を庇い、身代わりになると言ってくれた……。
しかし。そうした思い出を振り切って、マリータは唇を引き結ぶ。
次の瞬間、マリータは強かにフラヴィアの頬を張った。
ミディが口笛を吹く。
「気安く私の名を呼ばないで。けがらわしい!」
マリータは、かつて彼女自身が恐れた冷たい瞳でフラヴィアを睨み下ろした。
「………………っ!!」
頬を赤く染めたフラヴィアは、しばし目を見開き、やがて諦めたように視線を逸らす。

    ――――もう、戻れない。
        ――――もう、戻らない。

手の平に焼けるような熱さを感じながら、マリータは胸中で呟いた。





自由を手にしてからのマリータは、美しく変わっていった。
粗末にちぢれていた赤髪は、燃えるようなストレートヘアに変わった。
ソバカスもなくなり、化粧の似合う美人顔になった。スタイルさえ以前とは別物だ。
食事が違い、化粧品も違う。
そして……恋をした事も大きいだろう。

マリータは、フラヴィアのすべてを受け継ぐと決めた。それは、恋人に関してもそうだ。
名はウェイン・アクワイア。
有力貴族の嫡男で、誠実な好青年。さらには背が高くてハンサムだ。
フラヴィアに惚れ込んでいた彼は、パーティーでマリータに質問を繰り返した。
犬と交尾していたという『悪質な噂』を聞きつけたらしい。
その縁で、マリータはウェインに近づいた。
フラヴィアの事は上手く濁しつつ、ウェインにとって都合のいい女を演じた。
マリータは、物心つく前から奴隷としてジーン達の顔色を窺っていた少女だ。
世間知らずの坊やに取り入るのも難しくはない。
やがてウェインはマリータに惹かれはじめ、ついにフラヴィアに先んじて同じ寝台に入ることを許す。
そこから婚約の話に至るには、長い時間は必要なかった。

マリータはしばしウェインと共に過ごし、半年ぶりにミレードの屋敷に戻る。
ジーン達は出かけているため、屋敷の扉は閉まっていた。
合鍵で扉を開け、エントランスへ。
食堂を通り過ぎ、階段を降りれば……そこに、石造りの小さな部屋がある。
使わなくなったオーブンを改良したその部屋は、外からしか開けられない。
ただ上方についた窓が、内と外の空気を交わらせるのみだ。
マリータは、その窓から中を覗き込む。薄暗闇の中に、ひとつの人影が見えた。

首輪をつけられ、痩せ衰えて、乾燥した小麦のような髪を縮れさせた女。
ほとんど裸に近いが、股の部分には太いベルトのようなものが見える。
貞操帯……それも、膣と肛門部分に極太の栓がついた特注品のようだ。
中にいる女は、首輪で拘束されたまま、責め具を嵌め込まれて放置されているらしい。
「ハーイ、フラヴィア」
マリータはオーブンの扉を叩いて告げる。
項垂れていた女の顔が上がり、やつれきった顔が露わになる。
とても美人とはいえない顔だ。

「…………たすけて、マリータ………………。」
女……フラヴィアは、掠れきった声で哀願した。
この半年の間に、どれほど容赦のない責めを繰り返されたのだろう。
もはやかつての気の強さなど面影もない。
マリータは、そんなフラヴィアを乾いた目で見下ろしていた。
助ける気など微塵もなかった。
「イヤよ。私は、お前みたいに恵まれた環境を捨てられない。今の暮らしを失うのが怖いの。
 そういう、愚かで弱い人間なの。…………可哀想でしょう? お前なら、そう言ってくれるんでしょう?
 大丈夫よ。お前は強いんだもの。そんな生活でも、きっとやっていけるわ」
マリータが微笑んだ瞬間、外で馬車のベルが鳴る。
「あら、お迎えみたい。ちょっと行ってくるわ」
「……どこ、へ…………? それに、その格好は…………?」
フラヴィアは立ち上がり、改めてマリータの姿を凝視する。
事実、マリータの格好は変わっていた。
煌びやかな白いドレス……ウェディングドレスだ。
「あら、聞いてないの? 私ね、今日ウェインと結婚するの。元はあなたの恋人だったのよね。
 彼、最初は心に決めた相手がいるからって、中々私を受け入れてくれなかったのよ。
 でも、何度も何度も何度もデートを重ねて、体も重ねて…………ようやく、私に振り向いてくれたの」
「……………………!!!!」
「あははっ、可愛い表情。ありがとう、祝福してくれて。私も、お前には感謝してるのよ。
 お前は私に光をくれた。こんなに素敵な人生をくれた。
 ……ねぇ。人生って、とても素敵なものよね!」
マリータは、彼女の人生で間違いなく最高の笑みを浮かべ、オーブンの扉から離れる。
そして揚々と歩を進めると、扉を開けて日の当たる外へと踏み出した。



鈴を鳴らしながら、馬車が遠ざかっていく。
フラヴィアはその場に崩れ落ちた。
空っぽになった頭と同様、ぐうぐうと腹が鳴っている。
床に転がっている生のジャガイモにまで這っていき、噛り付いた。
「ハグッ、アグッ、ン…………グッ、ゲホッ、ごぼっ!!」
無我夢中で食い、しかし噎せて、吐き出す。
そしてジャガイモをごろりと取り落とし、床に倒れこむ。

視界に映るのは、煤にまみれたオーブンの壁と、薄暗い闇。
そして身を伸ばしても届かない、遥か遠くにある光。


人生が、素敵………………?


そんな言い方、ずるい。ちっとも、つたわってこない。
せめて近くで言ってよ。この汚い床に這いつくばる、どん底の視線で…………。

フラヴィアは、虚ろな意識の底で考えながら、眠気に従って目を閉じた。



                          終
続きを読む
アクセスカウンター

    ありがたいコメント
    さくさく検索
    月別アーカイブ
    メッセージ

    名前
    メール
    本文
    プロフィール

    kunsecat

    • ライブドアブログ