大樹のほとり

自作小説を掲載しているブログです。

拷問

聖なる太陽

※健気なヒロインが理不尽な目に遭うお話。
そこそこダークな展開の上、機械姦やレズ、浣腸、嘔吐イラマチオなど結構ハードなのでご注意。



紫庭興国の宮殿が陥落したという報せは、全世界に衝撃を齎した。
紫庭興国は宗教国家だ。『聖巳(ひじりみ)』と呼ばれる巫女を太陽の化身として崇めつつ、国民同士が助け合いながら生活を送っている。
その特異な宗教観から生み出された様々な風俗は、諸外国を魅了して止まない。
さらには資源大国という側面もあり、東部貿易の要でもある。
ゆえに、各国が無言の内に紫庭興国への侵略を牽制しあっているのが実情だ。
もしもある一国がその禁を破ろうものなら、その行為こそが次の大戦の引き金となるだろう……そう熱弁する学者さえいた。
事実、機械による文化革命が起きて以来百年、表立って興国を侵略した国は一つとしてない。
しかし、その鉄の掟はこの度見事に破られる。
紫庭興国はその中枢を破壊しつくされ、その行為を各国は黙認した。侵略側であるトゥルグアが、紫庭興国の姉妹も同然の国だったからだ。

トゥルグアは元々、紫庭興国を追われた者が作った集落だった。よって住民の多くは『聖巳』に良い感情を持っていない。
ある者は宗教国家という構造を前時代的であるとし、ある者は太陽の化身たる『聖巳』そのものを嫌う。
彼らは興国の財産――物資や技術、そして人を諸外国に売り払い、その見返りに外資を得た。
そうした交流の中で近代的な文明を取り入れ、興国文化と組み合わせて独自の世界観をも獲得する。
とはいえ、その規模は1500年の歴史を持つ紫庭興国には及ばない。あくまで興国にほど近い自治区だ。誰もがそう思っていた。
蜂起したトゥルグア軍が、想定を遥かに上回る軍事力でもって紫庭興国を蹂躙し尽くすまでは。





部屋の中は薄暗かった。
紫庭興国特有の床材である『畳』が一面に敷き詰められ、その果てでは『障子』と呼ばれる遮蔽物が薄らと夕日を取り入れる。
それらの丁度中心部に仰臥する娘こそ、紫庭興国の象徴たる第三十二代目の聖巳(ひじりみ)――沙羅だ。
仰臥とはいえ、眠っているわけではない。
娘は胸まで引きつけた両脚を自ら抱え込む格好で、その裸体を衆目に晒していた。
腰まで伸ばされた、織物のごとく上質な黒髪。ツヤもハリも申し分ない桜色の肌。
全体の印象は華奢でありながら、出るべき所は出たメリハリのある体型。
見目だけでも育ちの良さの窺える娘だけに、あられもない格好がいよいよ異常に映る。
その沙羅を、数人の女達が見下ろしていた。
黄褐色の肌や腰の高さは沙羅に比較的近い。恐らくはトゥルグア人だろう。
彼女らは皆一様に婀娜な雰囲気を纏い、口元に冷笑を湛えている。紫庭興国の象徴たる沙羅を蔑むように。

「どうかしら、聖巳(ひじりみ)さま。丸々4時間、休むこともなく焦らされ続けた感想は?」
女の一人が、舐めるような口調で囁いた。
彼女の細い二本指は、先刻から沙羅の薄い茂みの奥で踊り続けている。
同性ゆえに弱みを知り尽くしているのだろう。指が蠢くたび、桜色の秘裂からはぐちゅりと水音が漏れ、優美な沙羅の両脚が強張った。
「…………此の程度、何ほどの事でもありません」
沙羅は普段通りの落ち着き払った口調で告げる。
しかしながら、無理をしているのは明らかだ。
彼女の全身は、その髪の生え際から鎖骨、腹部、太腿に至るまでが汗で濡れ光っている。
秘裂の下の畳もすっかり変色しており、相当量の愛液が染みこんだ事を物語っていた。
責め手の女――玉蓉は、あくまで矜持を保たんとする沙羅に笑みを深める。
「ふふ。世間知らずな小娘のくせに、相変わらず強情なこと。
 こっちはどう責めればお前が昂ぶって、どう緩めれば絶頂の芯を外せるか、もう全部わかってるのに。
 そうだ。またあれ、やってあげましょうか。クリトリスと裏Gスポットの同時責め…………お前、あれに弱いものねぇ。
 三日前に出たすごい声、今でも耳に残ってるわよ」
玉蓉は言葉責めを加えつつ、沙羅の膣内で指の向きを変えた。沙羅の白い太腿がみちりと強張る。
「今日だって、昼間から少なくとも60回はイきかけてるでしょう?
 イきそうになると膣内(なか)がヒクヒクしてくるし、呼吸も浅く速くなるから、すぐ判るのよね」
秘裂から指が抜かれた。細く揃えた二本指には、沙羅自身の愛液が纏いついている。
興国において太陽の化身として崇められる娘も、所詮は生身の人間に過ぎないという証が。
「ホラご覧になって聖巳さま、こーんなに真っ白」
玉蓉はその指先を、躊躇なく沙羅の鼻先へと近づけた。
沙羅の柳眉が顰められるも、玉蓉はさらに指を押し進め、唇に触れさせる。
「聖巳である貴女の子宮から出た本気汁よ。この一滴に、一体どれほどの価値があるのかしら。滴っちゃ、勿体ないわよねぇ?」
玉蓉の含みを持たせた物言いを受け、観念したように沙羅の唇が開かれた。
そして自らの愛液をたっぷりと纏いつかせた玉蓉の指を、丹念に舐めしゃぶりはじめる。
「あらあら、美味しそうにしゃぶっちゃって。よっぽど喉が渇いてたのね。だったら、もっとあまい“蜜”をあげるわ」
玉蓉がそう囁きかけた瞬間、沙羅の瞳に動揺の色が浮かんだ。
そしてその後方では、醜悪な笑みを浮かべた女達が、コップから注射器で透明な液を吸い上げている。
どれほど鈍感な人間であろうと、容易に感じ取れるほどの悪意をもって。

「さぁ、聖巳さま。御手を」
女が注射器を構えながら沙羅に命じる。
沙羅は静かにその瞳を見返しながら、右腕を差し出した。すらりとしたその腕は微かに震えている。
彼女は知っていた。針が肘の内側へ打ち込まれた後は、決まって異常なまでの多幸感が全身を支配するのだと。
外の風や衣擦れの音さえ聞き分けられるほどに神経が研ぎ澄まされ、目に映るすべてが蝋燭の灯のように輝いて見えはじめる。
「う゛っ、く、ぁっ!…………あぐぐっ…………いィぎっ、あぐぐぐふうぅぅうっっっ!!!」
投与から数秒後。沙羅はここ数日常にそうであったように、全身を激しく痙攣させはじめた。
椀を伏せたような円錐型の両乳房が波を打つ。
「始まったわ!」
無論、女達はそれを読んでおり、手際の良い連携で沙羅を押さえ込む。
「あ゛ーーっ、っああ゛あ゛ーーーっっ!!!」
それでも沙羅は止まらない。押さえ込む3人を浮かせるほどの力でのた打ち回る。
「うわっ、と! アハハッ、白目白目。元の造りが嫌味なくらい良いだけに、何度見てもインパクト凄いわ」
「効くのに時間はかかったけど、その分いい感じに中毒になってきてるね」
「ええ。濃いのを短期間でキめさせるより、薄いのを繰り返し打った方が効くみたい」
どこかから声が聴こえた。
そう、完全に中毒だ。この薬はここ一ヶ月あまり、何度となく沙羅に投与されている。
当初こそ発汗を促進する程度だったものの、摂取を繰り返した今は劇物にも等しい。
痙攣が治まる頃、沙羅の瞳は眠りに落ちる寸前のように蕩け、唇は半開きのまま涎を垂らす。
当然、その表情は女達のいい笑いものになった。しかし恥じて持ち直そうにも、頬より下の筋肉が弛緩して動かない。
「ああ良い表情。トローンとしてるけど、神経だけは極限まで研ぎ澄まされてるのよね」
玉蓉はそう言いながら沙羅の頬に触れた。
「ひっ……!!」
沙羅の肩が跳ねる。今の彼女は、人の掌の熱でさえ、沸騰した湯のように感じてしまうのだ。

「ふふっ。それじゃあ聖巳さま。先の愛撫でも“何程の事もなかった”そうですから、もっともっと続けましょうか。
 とはいえ、その状態でいきなり女の部分に触れては心臓がびっくりするでしょうから…………まずは外堀から参りますわ」
玉蓉がそう言うと同時に、女の一人がシルク製のショーツを沙羅の足首へと通していく。
「ふぅ………んっ………!」
ショーツの2つの輪が脛を、膝を、腿を撫で、娘の研ぎ澄まされた性感をくすぐった。
果てには股布が恥じらいの場所に触れただけで、蛍火のようなかすかな絶頂感が脳裏を過ぎる。
沙羅は異常すぎるその感度に喉を鳴らした。
「さぁ、では後半の儀と参りましょう。いつものように、汗まみれ汁まみれで可憐に舞ってくださいまし。
 太陽の巫女さまだけあって人ならぬ動きをなさると、私ども調教師の間で評判ですのよ」
玉蓉の声。数人の女の含み笑い。それを沙羅の脳裏が意識した直後には、彼女は繊毛地獄の中にいた。
極度の興奮により膨らんだ乳房を丹念に揉み上げられ、
脇腹を撫でられ、
万歳の格好を取らされた挙句に脇を舐められる。
全身が性感帯も同然の沙羅には、それら一つ一つが無数の羽毛で撫で回される責めに等しい。
「うぅう、っく………………!!!」
下から抱えあげるように太腿裏を撫でられた時、沙羅は強く奥歯を噛みしめた。そうしなければ、ひどく情けない声が漏れただろう。
叶うならば両脚も閉じ合わせたい。秘所には触れられぬままに、また新たな愛液が溢れたのが自覚できたから。
「あら、どうかしたのヒジリミさま? またオカシクなりそうなの?」
執拗に太腿をさする一人が、沙羅の耳元に息を吹きかける。無論、それによって沙羅が妖しい反応を見せると知ってのことだ。
「…………はっ……はぁっ………………わ、わたくしが自我を失う事など、有り得ません」
極限状態にありながらも、沙羅は毅然とした態度で告げた。
肌艶や面立ちは歳相応でありながら、その矜持は凡百の大人を遥か凌駕する。
生まれ落ちてより16年と半月、ただ一日の例外もなく、『国の象徴たるべし』として生きてきたが故だ。
しかしそうした誇り高さは、かえって玉蓉達の嗜虐心を煽るらしい。
「そう、流石ですわ。まだまだ夜の営みまでには時間がありますもの。それまで、どうぞたっぷりとお興じくださいまし。
 ああそうそう。いくらお興じとはいえ、昨日のようにお小水を撒き散らすのはお控えください。
 毎日なさっておいでなのですから御承知でしょうが……漏らしたものは、最後に這いつくばって一滴残らず啜って頂きますから」
嘲りを含んだ玉蓉の言葉に、沙羅の唇が引き結ばれる。



玉蓉を始めとするトゥルグアの逆賊達は、あくまで沙羅の――否、『聖巳』の権威失墜を目的としているらしい。
紫庭興国が長きに渡って大国足りえ、かつ他国から一目置かれるほどの結束を誇るのは、偏に『聖巳』信仰あっての事だ。
その拠り所である『聖巳』が所詮ただの人間に過ぎないと思われた時にこそ、興国は真の意味で崩壊する。
そうした思惑から、玉蓉達は沙羅という年若い小娘一人に格別な執着を見せるのだ。
事実、紫庭興国が完全に制圧された日より2週間の間、囚われた沙羅には徹底的な恥辱責めが加えられている。

首都陥落の翌日、沙羅は首輪と手枷を嵌めたまま広場に連れ出され、数万の興国民の見守る中で祈祷衣を引き裂かれた。
ちょうど熟れ始めたばかりの初々しい肉体が、民へと晒される。
紫庭興国において、『聖巳』はまさしく太陽だ。
過去1500年以上に渡り、興国では『聖巳』の姿をじかに見てはならないとされてきた。
年に一度か二度、祝事の際に遠くから宮中の尊顔を拝し、あわよくばその鷹揚とした喋りを聴く――そうした現実とは隔たりのある存在だった。
なればこそ、この時の興国民の衝撃は筆舌に尽くしがたい。
年若い興国民の中には、思わず下半身を膨らませる者もいたようだ。
一方で老齢の民ほど嘆きは深く、もはやこれまでと自決を試みる者さえ現れる始末だった。
しかし当の沙羅は落ち着き払ったまま、普段通りの口調で、絶望する必要はないこと、いつか再興の日が来るであろう事を説いたという。
その言葉に勇気付けられ、結果として何人もの国民が命を救われた。
一糸纏わぬ無垢な姿で堂々と語る様はむしろ神々しく、改めて信仰を深める者も多かった。
激昂したトゥルグア兵が沙羅を張り倒し、一堂を夢から引き戻すまでは。

『いつまでも下らん幻想に縋りおって。そんな貴様等に、現実というものを教えてやる!!』

野太いその叫びが全ての始まりだった。
沙羅は、数人の兵士の手で石畳に組み伏せられたまま、その場で純潔を散らされた。
太陽の加護も、巫女の祝福もそこには無く、当たり前のように男の剛直が突き入れられて鮮血を滴らせる。
破瓜の瞬間、沙羅の悲鳴は確認されていない。しかし意地の悪い兵士が俯く沙羅の髪を掴み上げると、そこにも“当然”があった。
額に汗を滲ませて歯を食い縛り、左の目頭から大粒の涙を溢す、生々しいヒトの表情が。
それから沙羅は、目を見開いて立ち尽くす興国民の前で、延々と輪姦され続けた。
新雪のような肌は石畳に擦れて無数の擦り傷を作り、かつて桜の花びらほどにしか開いた事のなかった口は、赤黒い男の性器にこじ開けられる。
特に決定的だったのは、輪姦の順番待ちをもどかしがった男が、強引に沙羅の腕を捻り上げた時だ。
『グッッあ゛!!!』
突然の事に加え、スジでも痛めたのだろうか。沙羅の口からは、間違いなくそうした呻きが漏れた。
およそ高貴な身分の娘が発するには似つかわしくない、低く濁った呻きが。
トゥルグアの兵は皆これを大仰に笑い物にし、逆に紫庭興国の民は一様に顔を顰める。
それは支配層と被支配層が逆転した様子として、あまりにも象徴的な光景だった。

広場中央へ設置された杭に手錠で繋がれ、手の空いたトゥルグア兵から慰み者とされる日々。
それがようやく落ち着いた頃、沙羅には新たな恥辱が与えられた。
強烈な浣腸を施したまま風船式のアヌス栓を嵌め込まれ、広場に放置されたのだ。
刻一刻と便意は高まっていくものの、腸内で膨らみきったアヌス栓が無慈悲にも排泄を妨げる。
食事・睡眠・排泄。これら根源的欲求を妨げられると、人間は脆い。
全てを投げ出してでも楽になりたい、そう考えてしまう。高貴な身分の人間とて例外なく。
『ツラそうだなぁオイ。楽になりたきゃ、惨めったらしくおねだりしてみろよ』
監視役の兵士達は、分刻みで脂汗に塗れていく沙羅を見下ろして嘲った。
しかし、沙羅は断固としてその要求を呑まない。排泄の許可を乞う自分の姿が、どれだけ民を落胆させるかと考えた末のことだろう。
沙羅は限界を超えた便意に苛まれながら悶え、顔から血の気を失せさせ、やがて口の端から泡を噴き溢しながら気を失った。
気絶のたびに桶の水を掛けられては意識を取り戻し、また数分後に失神する。
それを幾度も繰り返した末、ついにはトゥルグア側の上官が見かねて排泄の許可を出したほどだ。
最後の最後まで、沙羅が責めに屈することはなかった。
それでも最後は両の足首を掴み上げられ、この上ない恥を晒すこととなったのだから、何とも慈悲のない話だ。



このような恥辱は肛門に限った話ではない。
沙羅も所詮は人間である事を誇示するかの如く、執拗に粘膜という粘膜が責められた。
鍛えようのない粘膜を責められれば、どんな人間であれ素を晒すしかないからだ。
カテーテルを挿入して限界まで溜め込んだ尿を排出させたり。
可憐な容姿に嫉妬した女達を集め、鼻腔と口を指や道具で出鱈目に拡げさせたり。
ひどいものでは拘束衣と開口具を付けたまま、20人を超える浮浪者と共に地下室へ閉じ込めた事さえあった。
男達は皆が極限まで女に飢えていたが、南京錠付きの拘束衣のせいで二穴は使えない。よって沙羅の口を性欲処理に用いるしかない。
哀れなのは沙羅だ。フェラチオの経験も碌にないまま、強制的に喉奥を『用いられる』。それに平然としていられる筈もない。
『んも゛ぉぉ゛おお゛え゛っ、ごォおおえ゛ア゛ッッ!! ごえっ、おも゛っ……ほおお゛ぉえ゛っ! がはっ…げぇォっ、ごぼっ……!!』
それまで宮中で出したこともない――本来であれば一生縁がなかった筈の汚いえづき声を上げ。
喉奥から常にうがいをするような水音を立て。
固く瞑った目から大粒の涙を溢し。
恐怖と苦しさから拘束衣の中で失禁し。
挙句には耐え切れず大量に嘔吐する段階になっても、浮浪者達から下卑た笑みは消えなかった。
ただ己の欲望を満たさんがために、初々しい喉奥へ赤黒い陰茎を捻り込む。
相手が崩れ落ちれば長い黒髪を掴んで引き起こし、眠ろうとしていれば石壁や床に後頭部をつけさせての喉奥虐めで覚醒させる。
それが三日三晩繰り返されたのだ。

しかし。こうした恥辱責めをいくら繰り返そうと、紫庭興国の民は沙羅に同情的な反応を見せるばかりだった。
崇め方が『太陽の化身』から『受難の聖女』へと変わっただけで、依然信仰は揺るがない。
そのためトゥルグア側は、協議の末に方針を変えた。
公開処刑も同然の恥辱責めから、一介の新米娼婦としての調教へと。
古いあばら家で、龍の刺青の男2人から手取り足取り娼婦の技を仕込まれる日々。
オーソドックスなフェラチオから、玉舐め、アナル舐め。
コンドームの装着方法に、騎乗位での腰の遣い方、そして緊縛やアナルセックスに始まるアブノーマルプレイ。
気の遠くなるほどの実践を経て、それらが徹底的に沙羅に仕込まれていく。
これが功を奏し、紫庭興国はたちまち阿鼻叫喚に包まれた。
どこか非日常的である恥辱責めに比べ、セックスというものはあまりに身近で、生々しすぎる。
『聖巳』を人ならぬものとして代々信奉してきた興国民にしてみれば、そのような扱いは辛抱堪らないのだろう。

国の事情に翻弄される沙羅は、毎日のように、トゥルグア風の売春宿で敵国の客を取らされた。
独特の香が焚かれる中、信心の欠片もない男に身体中を舐め回され、欲望の赴くままに犯される。
屈辱的なその性交の最中、沙羅は次第に絶頂へ至るようになっていった。
無理もない。何しろ週40時間以上に渡り、同性による性感開発を受けているのだから。
時には乳頭と陰核を中心に、女の指と口で延々と絶頂の味を覚えこまされる。
時には数時間、膣のごく浅い部分だけを刺激して生殺しの状態にされる。
それらを経た上で男を迎え入れれば、たとえ青い果実といえど、絶頂を拒みきれるものではない。



今日も沙羅は客を取る。
引き戸を開けて姿を現したのは、どんな女でも生理的に嫌悪するであろう男だ。
伸び放題で脂ぎった髪、無精髭、たるんだ下腹。死んだ魚のような目に、強烈な異臭……。
まともな売春宿であれば、不衛生さを理由に門前払いされるだろう。
しかし、沙羅はこの最底辺の客を拒めない。もしも客相手に抵抗や拒絶をすれば、そのたび興国民が不幸な目に遭うと脅されているからだ。
「宜しく お願い致します……」
沙羅は極上の身に粗末なネグリジェを纏い、三つ指をついて男を迎える。
「へッ、近くで見るとマジで良い女じゃねえか。噂通り鳥肌モンだぜ。よっぽど良いモン食って、大事にされてきたんだろうなァ。
 こんな上玉で童貞捨てられるたぁ、人生解らねぇもんだぜ」
男は醜悪な笑みを浮かべながら服を脱ぎ捨てる。
露わになるのは、すでに七分ほど勃ち上がった男根だ。経験の乏しそうな男ながら、性器のサイズは人並みの域を外れている。
そしてその雁首近くには、べっとりと白い恥垢が纏わりついていた。
「おお、こりゃまたすげぇカスになってやがる。今日のこと考えると待ちきれなくてよォ、何日か前から一人でしまくってたのよ。
 お前ェが娼婦として躾けられてる頃の映像見返したりしてな。
 要は、こうなっちまったのもお前ェのせいって訳だ。だから、まずはコイツを綺麗にしろ。愛情込めてだぜ」
男はそう言いながら、怒張の先で沙羅の頬を叩いた。
「…………承知致しました」
たとえ噎せかえるような悪臭の持ち主であっても、傍若無人な客であっても、沙羅に一切の拒否権はない。

「失礼致します」
命ぜられるままに大きく唇を開く沙羅。この光景は室内のカメラ数台から撮られ、広場の巨大モニターに中継されている。
沙羅が男の物を咥え込む瞬間には、何人もの興国民から悲鳴が上がることだろう。
唾液を塗しながら白い横顔が前後すれば、その声はいよいよ悲壮さを増すだろう。
それでも、沙羅はやらねばならない。細く白い指で怒張を握り、仕込まれた技術を用いて男に奉仕する。
肉茎へ丹念に舌を這わせ、亀頭を舐め回し、鈴口を舌先でくすぐり、毛の生え茂った睾丸を口に含んで唾液を塗し。
「おお、ほっぉ……! ククッ、大人しそうな顔してるくせに上手ェもんだ。チンポがどろどろに熔けちまいそうだぜ。
 このまんまでも最高だが、せっかくの機会だからよ、もっと奥まで咥え込んでくれや!」
男は声を上ずらせつつ、絹のような沙羅の黒髪に指を絡めた。そして自分の腰へと、強引に後頭部を引きつける。
「ぐも…ぉ…う…………っ」
沙羅は慣れた様子で食道へと怒張を送り込みながら、姿勢をやや前傾に変えた。
よく見れば、その膝立ちになった素晴らしい太腿が震えているのが解る。
イラマチオの苦しさゆえ、ではない。玉蓉達による6時間あまりの焦らし責めで、直立すら困難なほどに腰が抜けているせいだ。
しかし性経験の乏しい男は、その反応を自分の都合よく解釈したらしい。
「何だ、モゾモゾしやがって。まさかお前、濡らしてんのか?」
男は腰を落とし、沙羅の秘裂へと手を伸ばす。そして、歓喜した。
「オイオイオイ何だよお前、もうグショグショじゃねぇか! 俺のを舐めてるだけでこんなにしやがって、噂以上の淫売だな!!」
そう喚きながら沙羅の脚を開かせ、しとどな愛液で濡れ光る粘膜をカメラに晒す。
沙羅の顔が強張った。広場のモニターでは今、彼女の性器の映像が大写しになっているだろう。
毎日セックスを晒しているとはいえ、女の部分を見られるのはやはりつらい。

男の手が尻肉を揉みしだくと、それだけで沙羅の腰が震えた。男の笑みが深まる。
「へへへっ。最高だぜお前、どんだけ男を惑わすカラダしてんだ。肌はキレーだし、プリップリだしよぉ。
 こう誘われちゃ我慢の限界だ。脱げよ、この宝石みてぇな割れ目に太いのをくれてやらぁ!」
「…………はい」
沙羅は命ぜられるがままにネグリジェをたくし上げた。
従う以外にないのだ。たとえ膣奥が病的に疼き、今挿入されては危険だと脳が警鐘を鳴らそうとも。
蜂蜜色の灯りの下、程よい膨らみのツンとした美乳と、白磁の肌が露わになる。
男の鼻息がいよいよ獣じみていく。
「ぶち込むぞ! どうせ避妊薬は飲んでるんだろ、ナマで構わねぇよな?」」
「勿論です」
沙羅は人形を思わせる表情で答えた。
男は醜悪な笑みを浮かべながら、濡れそぼった秘裂に屹立を宛がう。
そしてたどたどしい手つきで狙いを定めると、斜め上から打ち込むように挿入を果たす。
「っ!!」
沙羅は唇を結んだ。潤んだ膣内を確かな硬さが貫き、程なく蕩けきった子宮口を直撃する。
ただそれだけで、今の沙羅は足の先まで痺れてしまう。脳の神経がふーっと解れるような感覚があり、浅い絶頂に至ったとわかる。
「くあぁぁっ、すんげぇキツさだっ…………しかも、お、奥が動きやがるっ!!!!」
男が歓声を上げた。沙羅の絶頂にあわせて膣が収縮し、相当な快感を得たらしい。
一度その甘さを知ったが最後、いよいよ男に遠慮はなくなった。



すさっ、すさっ、という敷布団の擦れる音と、パン、パン、という肉の弾ける音が交錯する。
「ハァッ、ハァッ……最高だぜお前、最高だ。さすが若ぇだけあるな、散々やりまくってる癖にこの締まりとは恐れ入ったぜ。
 昨日出したばっかだってのに、もう、すぐにでも出ちまいそうだっ…………あああっチクショウ!
 こうなりゃあお前もイカせてやる、グチャグチャんなるまで奥を突きまくってやるよ!!」
男は仰臥した沙羅に大きく脚を広げさせ、目を血走らせながら夢中で腰を打ちつけていた。
一方その病的な視線を浴びる沙羅は、目と口を閉じたまま無表情を貫く。
しかし、身体は正直だ。奥へ突き込まれるたび、手足の指は爪が白むほどにシーツを掴む。掴み損ねた時には、震えながら虚しく空を掻く。
幾度となく絶頂に追い込まれる中、その苦しさを紛らわそうとしているのは明らかだ。
「んなに我慢すんなって。テメェが感じてるのなんざバレバレなんだよ」
男は歪んだ笑みを浮かべると、おもむろに沙羅の足首を掴んだ。そして左右の足首を纏め上げるように、片手でしっかりと掴む。
「ン゛っ…………!!」
沙羅からついに声が漏れた。
真上へ向けて両脚を揃え、緩やかなくの字に曲げた体位だ。自然と膣内は狭まり、剛直に密着してしまう。
「ああスゲェ、さっきより締まるぜ! あっちこっちから襞つきの肉に吸い付かれてるみてぇだ!」
男は歓喜し、さらに腰を振りたくった。片手で沙羅の両足首を掴み上げ、片手を後方へつきながら、強烈に。
「くぅうぅう、くふぅぅ、んんんっ…………!!」
沙羅は困ったように眉根を寄せる。
無理もない。体位が変わったことで、彼女は一番の弱点である膣の下側のスポットを、挿入のたびに剛直のエラで抉られる羽目に陥っていた。
玉蓉の悪意に満ちた指遣いで、日々開発され、目覚めさせられた弱点を。
「足が震えてきてんなあ、オイ。お前も苦しいのか。俺もよ、さっきから暴発しそうなのを必死に堪えてんのよ。
 ヌルヌルザラザラのお前ン中が、あんまりにも俺の倅を愛してくっからよォ!!」
男は荒々しく腰を振りながら吠える。
確かに沙羅の両脚は、瘧に掛かったように震えはじめていた。
足首を掴まれたまま、膝の裏を筋張らせ、うねうねと組み替えられ…………まるで小便を必死に我慢するかのようだ。
当然、その有様もすべてカメラに収められている。
沙羅はそれを恥じたが、もはや意思で抑え込めるレベルではない。むしろ刻一刻と快感の波は高さを増し、沙羅の意識を溺れさせていく。
『いく』
娼婦の手解きを受けていた頃に教えられたその表現が、沙羅の脳裏で火花のようにちらついた。

「あああクソッ、そろそろマジでヤベェかもしんねぇ!!」
やがて男が叫び、体位を変えた。沙羅の腰を両手でがっちりと掴み、揃えた二つの足首を右肩に乗せる。
より深く挿入を果たせるように。
「はぐっ!!」
歯を食いしばっても、沙羅のその声は止められなかった。それまでとは深さが違う。
腹の奥までずんと響き渡るような衝撃に、意思とは関係なく両脚が震えた。
左足の踵がうまく男の鎖骨部分に引っ掛かったため、沙羅は無意識にそれを利用して体位をずらそうと試みる。
しかしその直後、ぐじゅりと硬い亀頭が子宮口を叩き潰した。
「くく、きう…っ…!!!」
身を強張らせていた事が災いし、沙羅はその衝撃をまともに受けてしまう。そうなればあえなく絶頂し、ずるずると背中をシーツに密着させるしかなかった。
本格的な脱力。自分が柔肉でできた道具であるかような感覚の中、沙羅は男からの熱を受け止め続ける。
陰唇からGスポット、そして膣奥。トロッコが火花を散らしながら走りぬけ、炭鉱奥に衝突するイメージが繰り返し脳裏に浮かぶ。
甘い痺れだけが動脈のように身体を支配している。

数知れぬ突き込みの中、沙羅はとうとう脳髄が蕩ける音を聴いた。
脳が蕩けては抵抗のすべもなく、枕に深く頭を沈みこませたまま、ぐるりと上方へ白目を剥く。
視界の中央に、チカリとカメラのレンズが瞬いたのが見える。
 ――撮らないで。お願い、暴かないで。
沙羅が心の中でいくら願おうと、無機質なレンズが聞き届ける事はない。

「あああぁもう限界だっ、で、出るぞっ!!!!」
沙羅の絶頂に釣られたのだろうか。男が叫び声を上げ、沙羅の太腿へと身体を密着させる。
そしてその直後、ドクドクと生ぬるいものが膣奥へ注ぎ込まれていく。
とうに慣れたその経験を、沙羅は虚ろな瞳で迎えていた。
「あああヤベェ、すげぇ量出てやがるっ……へへッ、ケツがむず痒くなっちまうぜ」
男が体を震わせ、至福の溜め息を吐く。緩慢な動作で硬さを失った怒張を引き抜く。
それでようやく、今日も終わり――では、ない。

「ハァッ、ハァッ…………最高だったぜ。まさか、セックスがここまで良いモンだったとはよ。
 結構な量射精したのに、まだ興奮が収まらねぇ。半勃ちのチンポの中に、変な芯が残ってんだよ。
 ちっと休んだらまた始めっからな、汗拭いとけ!」
男はぐったりとした沙羅の顔を覗きこみながら告げ、強張る沙羅の表情を楽しんだ。
本来、雲の上の存在である娘を犯すのがよほど嬉しいのか。それとも実際に沙羅が名器の持ち主なのか。
沙羅を娼婦として買った男のほとんどが、一度の情交では済まさなかった。
むしろそこから倍以上の時間をかけて、沙羅の桜色の肢体を味わいつくすのが常だ。
「そう震えんなって。もっともっと善くしてやっからよ」
男から間近で顔を覗きこまれ、沙羅ははっとした様子で表情を引き締める。
「嬉しゅうございます。わたくしの粗末な女の穴で宜しければ、どうぞ心ゆくまでお使い下さいませ」
沙羅が頭を下げながら形作るのは、常世ならぬ、悟りを開いたような表情。
『聖巳』として在るべきその表情が、かえって彼女を追い詰める。
雄にしてみれば、その堅い表情を突き崩す事こそが最大の悦びなのだから。



肉同士のぶつかる音が、もう一時間以上にも渡って続いていた。
薄水色の敷布団はすっかり藍色に変色し、周りには丸められた薄紙が無数に転がっている。

沙羅は、布団の上に這ったまま、後背位で貫かれていた。
「あっ……あっ……あっ…………」
俯いているためにその表情は窺えない。しかし長いストロークで腰を打ちつけられるたび、かすかな声が漏れていた。
背中といい脚といい、全身が脂汗に塗れ、灯りを受けてぬらぬらと濡れ光っている。
突き込みで身体が揺れるたび、乳房と鼻の先から雫が滴り落ちる。
その異常なまでの発汗を見れば、喘ぐ程度は仕方のない事に思えてしまう。
何より、沙羅には今なお矜持が見受けられた。背中も脚も快感でうち震えるほどでありながら、布団に両手をついている。
『私の自我は崩れていない。自らの意思で姿勢を保っている』
そう訴えるかのように。
しかし、それもそろそろ限界だ。肉体に快楽が蓄積している事もある。そして責める男も、『女の弱み』を知りつつある。
「フゥッ、フゥッ…………おらっ、もっと締めてみせろ!!」
男はそう言いながら、沙羅の腰に手を回して陰核を摘んだ。
「はぐっ!!」
これにはさしもの沙羅も声を上げる。そしてその直後、がくんと背が傾いた。
不意を突かれてつい右肘をついてしまったらしい。
「はははっ、何だ、気持ちよくてチカラ抜けちまったか!?」
男の嘲笑が浴びせられる。
起きなければ。『聖巳』として無様は晒せない。沙羅はその一心で身を起こそうとする。
しかし力めば力むほど、セックスの快楽も色濃くなってしまう。
沙羅は何度も足掻き、もがき、その果てに脊髄へ決定的な痺れを感じた。
「はぁ……っ!!!」
息を呑む、という状態だった。目から涙が零れ、その涙を追うようにして、身体が布団へと沈み込む。
外気で冷えた乳房に、敷布団の温もりが触れる。
「おうおう、ぐでーっとなりやがって。ま、こっちはケツが上がったおかげで挿れ易くなったがよ」
男は沙羅の尻肉を鷲掴みにしながら、いよいよ軽快に腰を振りたくる。

「ぐっ、ぐううぅっ!!……う、んはぁっ…………っぃっ……ぃ、ぐ…………!!」
沙羅は歯を食いしばる。歯の合間を漂う、いく、という言葉を、かろうじて噛み殺す。
それでも、身体の痙攣はどうにもならない。
もはや子宮口をゴツゴツと責められる感覚すら消えうせていた。
男が腰を打ちつけるたび、自分の深い部分でスイッチが入り、身体中に高圧の電流が走る。
地震の中にいるように手足や腰が痙攣し、頭の中がじゅわりと白く染まり、秘裂から潮とも小水ともつかない何かがあふれ出す。
ここまでになったのは初めてだった。いよいよ身体が薬と快楽に染まり、絶望的な段階に来ているらしい。
「ふっ、く、ぐぐぐっ…………!!」
沙羅は怯えつつも、必死に目の前の布団へ顔を押し付けた。
事ここに至ってなお、彼女が案ずるのは自分の身ではない。間違いなく崩壊しているであろう表情を、カメラに映させない事だ。
その沙羅の思惑を読んだのだろうか。それとも、ただの偶然だろうか。
「おらっ、手ェ寄越せ! 手綱みてぇにして犯してやらぁ!!」
男は突っ伏す沙羅に覆いかぶさりながら手首を掴み、結合部の近くにまで引き寄せた。
沙羅は強制的に上体を起こされ、俯いていた顔からも陰が引く。
沙羅の視界で、三つのレンズが光を放った。
間違いなく撮られている。白目を剥きかけ、閉じない口から涎を溢し、獣のように喘ぐ必死の顔が。
「……………………っ!!」
その事実に気付き、沙羅は涙を溢す。
これで何かの枷が外れたのだろうか。その眉はだらしなく垂れ下がり、許しを乞うようにカメラを見続けるばかりだった。

そこからの映像に映っているのは、項垂れて為されるがままの娘と、それを淡々と犯し続ける男の姿だ。
娘の肌は白濁で薄汚れ、艶やかだった黒髪は萎びたまま千々に乱れている。
粗末な部屋を背景に続くそれは、まさしく最底辺の娼婦が調教されている光景のようで、興国民の涙を誘った。
その光景を前に、トゥルグア側は確信する。
いかに信心深い民とはいえ、こうも俗物と成り果てた象徴を見て、なお特別視できるはずがない。
口にこそ出さないが、本心では気付いているはずだ。沙羅も――聖巳も、所詮はただの女に過ぎないと。
頃合いや良し。
後は国民の抱く『不信』が『侮蔑』となるように、最後の仕上げを行うだけだ。





その空間に類するものは、紫庭興国の建築史にもなければ、トゥルグアの建築史にもなかった。
当然だ。それはトゥルグアが財産と引き換えに近年手に入れた、異文化の一つなのだから。
強いて似たものを挙げるならば、欧米におけるラボラトリーか。
壁も床も青白く艶やかな素材で統一され、様々な機材が密集する。そのちょうど中央部分に、裸の沙羅が拘束されていた。
物々しい機械に囲まれ、分娩台を思わせる大きな椅子に腰掛けた格好だ。
無論、快適に、ではない。
彼女の額部分には、黒いカチューシャ状の脳波測定器が見受けられた。
さらに肩口と腰周り、腿の付け根には太い拘束帯が巻きつけられ、椅子から身を浮かせないようにしている。
その上で両足首は上方からのアームに掴まれ、足裏同士を密着させられていた。
当然、恥じらいの部分を隠す術はない。
それどころか、恥毛すら剃り上げられた桜色の秘裂を、正面のカメラへ向かって突き出すような格好だ。

「いかかです聖巳さま、最新技術の粋を集めたマシンの座り心地は。
 ちなみにその拘束は『胡坐縛り』といって、女囚を辱めるために考案されたものです。
 そうして性器と肛門を丸出しにしたまま転がされれば、よほど気丈な女でも恥じて涙したと聞きますわ」
白衣に身を包んだ玉蓉が目を細める。
沙羅はあられもない姿のまま、あくまで鷹揚とした態度で玉蓉を見上げた。
「…………どこまで、わたくしを辱めれば気が済むのです」
その言葉を待っていたかのように、玉蓉の笑みが顔中に広がっていく。
「ご安心を。たぶん今日限りです。神を地に堕とすのは、決まって人間の英知ですもの。
 この文明の利器達が、貴女の苔むしたような化けの皮を、残らず剥がしてくれることでしょう」
玉蓉は部屋の機具を崇めるように手を広げつつ、指を鳴らした。
白衣を着た他のトゥルグア人もまた、同じく陰湿な笑みでキーボードを打ち込んでいく。

小さな機械音が聴こえた直後、沙羅に隣接する機械群から一本のアームが姿を現した。
アームに付属しているのは、重量感のある大型のバイブレーター。形状はハンディマッサージャーに近い。
当然、紫庭興国にはない器具だ。
訝しげな目線を送る沙羅を鼻で笑いつつ、研究者の指が決定キーを打ち鳴らす。
直後に響き始めたのは、グゥゥウウン、と心臓すら震わせるような重低音。バイブレーターの駆動音だ。
尋常ならざるその音の重さに、沙羅の目が見開かれる。
「凄い音でしょう。でも、威力はもっと凄いのよ?」
玉蓉の言葉の最中、アームは静かに降下し、先端部を沙羅に触れさせた。
円を描くような両脚の中央部…………そこへ息づく桜色の肉芽に。
「はぐっ!?」
コンタクトから僅か2秒後、沙羅は天を仰いだ。その目はくっきりと見開かれ、衝撃の度合いを物語っている。
過去に覚えのある快感であれば、彼女はその持ち前の精神力で堪えてみせただろう。
しかし機械による毎秒数千回という微細な振動など、自然界で経験できようはずもない。
不意を突かれて大きな反応を示すのも仕方のないことだ。
「いい反応ね。その敏感な部分で、たっぷりと機械の恐ろしさを味わうがいいわ!」
玉蓉は高らかに笑う。

バイブレーターは重低音を響かせながら、沙羅の陰核を踊り回った。
機械表面と皮膚の擦れる音が、ズズズ、ジジジジ、と変化する事からも解る通り、強弱は微細に変動している。
つまりは刺激に慣れることができない。
加えて沙羅はつい今朝方、普段の倍の量の薬を投与されていた。つまりは感度が研ぎ澄まされている。
その状態で特に敏感な肉芽を責められてはたまらない。

「………………っ」
沙羅は彼女が普段そうするように、薄い唇を閉じて被虐に耐えていた。
その品のある顔のまま、じりじりと追い詰められていく。
変化は着実に訪れていた。
規則正しく凹凸を繰り返す腹部のペースが早まり、陰唇がわななき始める。小鼻の脇を大粒の汗が伝い落ちる。
そのまま緩やかに絶頂に至るのだと、見る者誰もが思っただろう。
しかし、沙羅の膝裏に力が込められ、まさに達しようとするその瞬間。バイブレーターは唐突に後退した。
「えっ!?」
沙羅は驚愕の表情を見せる。
過去には玉蓉達から、何時間にも渡って寸止めを受けた事もあった。
しかしそれはあくまで人的なレベルだ。玉蓉が沙羅の絶頂の気配を見て取り、早めにブレーキを掛けていたに過ぎない。
今は違う。この機械はまさに沙羅が達しようとするその際まで、全力で責め続けていた。
そして沙羅が絶頂を確信し、すべてを投げ出そうとしたその最後の最後、コンマ秒のタイミングで一切の刺激を止めたのだ。
沙羅にしてみれば、空中へひとり投げ出されたような感覚だった。

「ふふふ。さすがに素が出たわねぇ聖巳さま?」
玉蓉が笑いながら沙羅を見下ろした。
「秘密は、貴女がおでこに着けてる脳波測定器よ。それが脳波……つまり貴女の脳が出す信号をキャッチしてるの。
 だから人間には真似できない精度の寸止めが可能なのよ。
 解るでしょう。今の貴女は、本当に逝く寸前。私がこの指でクリトリスを倒すだけで、腰をヒクつかせながら絶頂するわ」
沙羅の顔を指し示しつつ、玉蓉は愉快そうに告げる。
沙羅の顔にまた新たな汗が流れた。
「あなた方の考えは歪んでいます。わたくしが憎いのならば、一思いにこの首をお刎ねなさい。
 わたくしの苦しむ顔を見て、何が得られるというのですか」
「いえいえ、まさか。私共に貴女を殺す意思などございません。むしろ当面は、無理矢理にでも延命させて頂きます。
 絶頂にも遠慮はいりませんわ。なさりたいのなら、どうぞ『イカせてほしい』と仰って下さいまし。
 もっとも……国の象徴たる貴女がそのような発言をなされば、失意から身投げする民もいるでしょうが」
その言葉に、沙羅の表情が凍りつく。
婉曲的な脅しだ。『音を上げれば、自殺に見せかけて人質を殺す』という意味の。
玉蓉達は常にそうして、沙羅の抵抗を封じてきた。
「聖巳さまに問題はないようね。続けましょう」
玉蓉は薄く微笑んで指を鳴らす。すると再び重低音が響き始め、バイブレーターが陰核表面に固定された。
「ふっ、く………!!」
絶頂寸前の余韻が残っていたのか、それともこの地獄から逃げられない現実が胸を詰まらせるのか。
沙羅は眉根を寄せながら、機械の導くままに昂ぶっていく。

元々が薬によって性感を研ぎ澄まされている身だ。
陰核に振動を受け続ければ、愛液があふれ出すのに時間は掛からない。
いつしか、ズズズ、ジジジ、という接触の音に混ざり、機械の振動で愛液が飛び散るブシャブシャという音が立ち始めていた。
沙羅は頬を赤らめたまま、いの字に歯を閉じ合わせて快感に耐えている。
陰唇は生物のように開閉し、肛門付近も引き締まっては緩み、を早いペースで繰り返す。
左内腿がピクッと跳ねてから8秒後。
沙羅の口が大きく『あ』の字に開いたところで、バイブレーターは宙に浮いた。
バイブレーターの先と陰核をトロリとした糸が繋ぐ。最初に比べれば、陰核は明らかにサイズが増していた。
「はぁっ…………はーーっ……はぁっ…………」
沙羅は肩で息をしつつ、薄目を開いてバイブレーターを見下ろす。
もう少しで楽になれたのに。その心の声が聴こえるようだ。
「ハーイ残念。そろそろ素直になったらどう? もうイキたくてイキたくてたまらないんでしょう。
 クリトリスには私達が毎日毎日、徹底的にイキ癖をつけてきたんだもの。
 随分と頑張ってるようだけど、耐え切れる訳がないわ」
玉蓉が煽ると、沙羅は再び表情を引き締める。
「…………はっ……はあっ…………わ、わたくしは太陽の巫女。人の理には囚われません」
「アハハッ、散々愛液を撒き散らしておいてよく言うこと。いいわ、続けなさい!」
その一言をきっかけに、また無慈悲な機械が唸りを上げた。


沙羅が常に喘ぐようになったのは、それから何分が経った頃だろう。
彼女は明らかにひとつの限界を迎えていた。
床には大量の愛液が飛び散っている。
バイブレーターの唸りに合わせ、華奢な腰がヒクヒクと跳ねる。
全身にひどい汗を掻いてもおり、背中が上下するたび、ミチュリと水音を立てるほどだ。
水分は適宜与えられるものの、絶頂だけは許されない。
「ああ、あああっ…………はぁあっ、ああ、くうっ…………ぃぃい゛っ、んはぁっはぐ…………っ!!」
沙羅の口からは、涎と共に切ない呻きが漏れた。
唯一自由になる両手が、座部の側方へ突き出た『いきみ棒』を必死に握り締める。
「く、ぅっ!!」
その果てに、とうとう沙羅の歯が噛み合わされた瞬間――音が消え失せる。
「っ!!! っっっ!!!!」
沙羅は声を殺したまま、怒りを紛らわせるように首を振った。目尻からの涙が宙に舞う。

すでに刺激がないにも関わらず、優美な腰は大きく上下して拘束帯を軋ませていた。
華のように開いた陰唇が、物欲しげに開閉を繰り返す。その下に息づく排泄の孔さえ、喘ぐように収縮し続ける。
無論、もっとも劇的な変化が見られるのは陰核だ。
初めこそ視認が困難だったその慎ましい芽は、もはや痛々しいほどに勃起しきっていた。
「ふふっ、アハハハハッ! 素敵な踊りよ聖巳さま!」
「ホント。あの可愛かったクリトリスがギチギチに膨れちゃって。ドングリみたい」
「そんなにアソコをヒクつかせて、どういうつもり? 匂いでも嗅いでほしいのかしら?
 何十本も浮浪者のアレを咥え込んだ上に、あんなに汁まみれなんだもの。さぞかしくっさいマンコなんでしょうねぇ!」
玉蓉達の下劣な言葉に、沙羅の長い睫毛が揺れる。
日々の調教の中で同性からの罵倒にも多少慣れたが、惨めさを自覚している状況下では格別につらい。
「ふーっ、ふーっ……はあっ、は、はぁっ……
 わっ、わたっひ……わら、くしはっ…………屈しません」
沙羅は懸命に決意を語ろうとするも、口の中に溜まった唾液でうまく喋れない。
明瞭に喋ろうとするほど涎が滴り、かえって無様を晒してしまう。
それは、どう足掻こうが地獄にしか辿り着かない沙羅自身を象徴するようだった。
それでも、彼女には芯が通っている。どれほど惨めになろうが、敵に哀願はしていない。
誇りは失っていない。
「フン。そのしぶとさはある意味勲章ものだわ。まだ恥を掻き足りないようね!」
玉蓉は忌々しげに告げ、研究員達に責めの続行を命じた。

寸止めのたびに沙羅が絶頂へ至るまでの感覚は狭まり、今や10秒とかからずにアームが離れる。

「あぁっ……ヒッ……ぁああ…………ヒッ ……っく、くひっ…………あぁあぁ…………あ、くっ!!
 おおおぁあっく…………ヒッ……ぃぃぃあああっ…………!!!」

沙羅の声は、もはや喘ぎというより悲鳴に近かった。荒い息と余裕のない声に混じり、ヒッ、ヒッ、という音が続く。
オイルを塗りたくったような腰も艶かしく動き、堪えようのなさを訴えていた。
最も変わったのは表情だ。とろりとした瞳、半開きのまま涎を垂らす口。そこに理性は感じ取れない。
項垂れたまま身体の揺れに合わせて首が動き、口元が何事かを呟く。
そしてその最中、急に目を見開き、何かを払うように頭を振る。
それが繰り返されていた。
「いい加減に諦めたらどう? さっきから無意識に『いきたい、いきたい』って言ってるくせに。
 イキたくて、頭がおかしくなりそうなんでしょ」
玉蓉が呼びかけても、沙羅は必死に首を振るだけだ。
玉蓉は溜め息を吐く。
「ホント可愛げのないガキね、一言乞えば楽になれるのに。
 …………もういいわ。皆、フェイズ2に移るわよ!」
その言葉を聞き、研究員達が一斉に玉蓉を見やった。玉蓉はそれら一つ一つの視線を受け止め、頷いてみせる。
キーボードを叩く音が響き、複数の駆動音がそれに続いた。
ぐったりとした沙羅の秘裂に4本のアームが近づき、細い筒を嵌めこんでいく。
次に四方のアームがその筒を引けば、筒はリング状に拡がり、膣鏡のように沙羅の膣壁を曝け出す。
ヌラヌラと濡れ光る桃色の洞穴。『聖巳』の胎内へ続く道。
どこからか、ゴクリと息を呑む音がした。

「ふふ。とうとう『聖巳さま』の神聖な産道が、奥まで丸見えになっちゃったわね。
 いやらしいこと。出産の経験もないガキのくせに、すっかりポルチオが目覚めちゃってる。
 自分でも解るでしょう、膣の奥がヒクヒクしてるのが」
玉蓉に指摘されるも、沙羅はただ黙して前を見つめるのみだ。しかしその気丈な顔は、直後、驚愕に染まった。
太いアームに連なる極太の異物が、眼前に突きつけられたからだ。
形状は男性器に酷似している。ただし、数十人の男を迎えた沙羅でも経験がないほど、長く、太く、凶悪な反りだ。
加えて言えば、開ききったキノコのような雁首の張りも、幹に散らばる大小様々な突起も、異様と表す他はない。
何より、その異物に色はなく、極めて純度の高い水晶のように透き通っていた。
「驚いたでしょう。そのディルドーはね、私達なりに貴女の膣を分析したデータから作ったの。
 つまり貴女にとっては、世界で一番相性のいい……ある意味では最悪の男根という事になるわ。
 今からそれで、貴女を徹底的に犯してあげる」
「…………!!」
玉蓉の言葉に、沙羅の全身が強張った。
膣の奥がひどく疼いた状態で挿入を受ければ、やがて脳内が白く染まる事を知っている。
しかも今は、条件が最悪だ。普段の倍の投薬をされ、普段以上の焦らしをされ…………そして、相手はこの機械。
 ――耐え切れない。
沙羅の脳が警鐘を鳴らす。その沙羅の心中を知ってか知らずか、玉蓉は片手を挙げた。
透明な異物が沙羅の秘部を捉え、強引に挿入を開始する。尋常ではない圧迫感が、沙羅の表情を強張らせた。
「…………はっ、ぐ…………!!!」
男に慣れていた筈の膣は、メリメリと音もしそうに軋んだ。恥骨が外れそうだ。
それでもその凶悪なまでの圧迫感が、刺激を渇望している今は堪らなく心地いい。

十秒ほどかけてディルドーが奥まで達したところで、膣を開くリングに変化が起きた。
ディルドーの台座部分に各リングの破片が嵌まり込み、緑の光と共に電子ロックがなされる。
ロック後は、ディルドーを繋いでいたアームも、リングを掴んでいた四つのアームも元あった場所へ戻っていく。
結果、透明なディルドーを咥え込む沙羅は、自ら膣を開いているような有様となった。
「ドッキング完了、と。ふふっ、凄いわ。ぐっぱり拡げられた膣が丸見え。そのまま子宮口に触れてしまいそうよ」
玉蓉が口元を吊り上げ、白衣の研究員達からも含み笑いが起きた。
彼らが見守るモニターには、沙羅の開いた膣内がくっきりと映し出されているのだろう。
当然、紫庭興国の広場にも。
沙羅は恥じた。しかし脚を閉じようにも、胡坐縛りの格好ではどうしようもない。
それどころか力むほどに腹圧が増し、ディルドーの圧迫でじっとりと汗が浮いてしまう。

「さぁ聖巳さま、ここからが本番よ。今から貴女は、脳が快楽で焼ききれるかどうかの瀬戸際を彷徨うの」
玉蓉はそう言いながら、沙羅の太腿を撫で上げた。
「うっ!!」
絶頂寸前のもどかしさで、今も細かな震えの止まらない太腿だ。沙羅の腰がびくんと跳ねる。
「許容量を超えた快楽に溺れるのって、想像よりずっと苦しくて怖いみたいね。
 死んでも屈しないって言う人間は嫌というほど見てきたけど、実際やり遂げた人間なんて、一人もいなかったもの。
 だから……貴女には、あらかじめこれを渡しておくわ」
玉蓉は沙羅に歩み寄ると、ポケットから取り出した棒状の装置を右手に握らせる。
「……これは?」
「ディルドーを動かす小型ファッキングマシンの電源よ。
 握りの先に赤いプッシュボタンがあるでしょう。もう限界だと思ったらそれを押しなさい。
 そうすればディルドーは止まって、貴女は快楽の海から生還できるわ」
その言葉に、沙羅の喉が鳴る。
彼女とて快楽に溺れる辛さは知っている。その苦しみから逃れる術が、魅力的でなかろう筈もない。
それでも。
「…………こ、これを、押すと」
沙羅は小さく震える声で呟いた。玉蓉が興味深そうに目を細める。
「これを押すと、誰が不幸になるのです」
「さぁ、誰かしら。私は名前を知らない、貴女だってきっと知らない、無数の興国民の一人よ」
いつになく真に迫った玉蓉の物言いに、沙羅は複雑な表情で右手を握る。
「いずれにしろ、頭がシャンとしているうちに結論を出すことね。
 犠牲になった人間だって、何かの間違いでボタンが押された、じゃ納得できないでしょうから」
そう言い残して背を向ける玉蓉。
沙羅の膣内で只ならぬ鳴動が始まったのは、その直後だった。



何人から視られていることだろう。
室内の白衣姿は十数人。広場にいる警備や紫庭興国の人間を合わせれば、ゆうに百は超えるだろうか。
その視線をひしひしと感じながら、沙羅は局所に意識を集中する。
膣内のディルドーはゆっくりと後退していた。凹凸のある極太が膣壁を擦りあげていく。
「う…………!」
沙羅は思わず呻いた。
ディルドーの馬力は凄まじく、引き抜かれる動作で下半身ごと持っていかれそうになる。
両足首を掴むアームがかろうじて肉体を留めている状態だ。
羆のごとき巨躯を誇る男が、無理矢理にペニスを引き抜こうとしている様――沙羅の脳裏にそのイメージが浮かんだ。
何という力。こんな力で犯されれば、一体どうなってしまうのか。
沙羅は息を呑む。直後、大きく引き絞った状態で制止していたディルドーがついに動き始めた。
メリメリと凄まじい馬力で膣壁が掻き分けられ、瞬く間に奥までを貫かれる。
蕩けきってひくつく子宮口が、硬いゴムのような亀頭に潰される。
「……………………ッッッ!!!!!」
沙羅の脊髄を電流が走った。
腰がじぃんと熱くなる。心臓が早鐘を打ち始める。
焦らされ続けて快感を欲していたとはいえ、これほどとは。

『アハハハッ凄い、子宮口がガラスに押し潰されたみたい! 愛液が蜘蛛の巣みたいになってるし』
『ホント、お宝映像だこと。わざわざパーツをスケルトンで統一した甲斐があったわね』

女達の嘲りをよそに、沙羅は真正面を向いていた。今はかろうじて向けていた。
しかし、限界はひしひしと感じられる。今の痺れは尋常ではない。
 (果てるまで、あと…………)
そう考える内にも、視線の先では、両脚の間に円柱状の盛り上がりが出来ていく。
ディルドーが抜けていく速度と同じ。どうやらディルドーが引き抜かれた分だけ、ロック部分から末端がはみ出る仕組みらしい。
そして、電子音が聞こえた。
――――来る。
沙羅が覚悟を決めると同時に、陰唇が捲れた。
メリメリと膣壁を押し開きながら、暴力的な質量が奥までを貫く。さらに、今回はそれだけで終わらない。
最奥から素早く戻り、2度、3度4度……断続的に子宮口を叩き始める。
「はっ…ぐぅうううっ!!」
これには沙羅も堪らない。脊髄を幾度も幾度も電流が通り抜ける。
少し余裕が出来ていた絶頂までの許容量を、あっという間に食い潰される。
『あんなに腰がガクガクして。透明なモンスターに犯されてるみたい』
周りの声が遠い。沙羅の意識にはもう、一直線に絶頂へ向かう光の道しかない。

7度目に最奥が潰された瞬間――沙羅の下半身は跳ね上がった。
体中が痙攣する。拘束帯が腹部に食い込むが、それすら子宮を刺激して堪らない。
「あぁ、はあぁ…あぁ……ぁっ……あ…………!!」
1度目の今際の声は、恐怖に震えるかのようだった。
その声を聞きながら、沙羅はヘッドレストに頭を預ける。
見守る国民を勇気付けるため、なるべく前だけを向いているつもりだったが、早くも天を仰いでしまう。
「…………ハッ、ハッ、ハッ、ハッ…………!!!」
肺が麻痺したのだろうか、息が上手くできない。過呼吸のように大口を開け、短く空気を求める。
この数ヶ月、嫌というほど絶頂を覚えこまされてきたが、ここまでのものは経験がない。

『どうやら、イッたみたいね』
『まるで釣り上げられた魚だわ。一回目でアレなんて、ゾッとするわね』
『なに、同情してるの? ここからが面白い所じゃない。楽しみましょうよ』

一度意識を向ければ、研究員達の声は一言一句聞き取れた。遠くの静電気の音やキーボードを打つ音さえ聴こえる。
そして研ぎ澄まされた沙羅の聴覚は、微かな電子音を捉える。
今日3回目に聞く音……ディルドーが起動する合図だ。
「えっ!? ま、まだ、達したばかり………………」
沙羅の戸惑いの声は、重厚なモーターの駆動音で掻き消された。
グググググ、と相変わらずの馬力で膣内をこじ開け、絶頂直後で敏感になっている膣奥を無慈悲に抉る。
「くぅっ…………あ゛!!!」
沙羅は目を見開きながら震えた。菱形になった脚がガクガクと痙攣している。
どうやらまた達したらしい。しかし――今度は余韻に浸る暇さえない。
笠の張った亀頭部分が膣壁を掻きながら退いていく。まだ続けて抽迭するつもりらしい。
いきみ棒を握る左手に汗が滲む。右手にはスイッチの重さを感じる。
「や、やめてくだっ…………た、達したばかりで、まだ、心の準備が……………………!!
 ……っく、ふあぁぁあぐっ! 駄目っ駄目ーッ、やめてぇっ、いけませんっ!! はぐっ……くあ、ぁああああ゛っっ!!!」
普段叫び慣れていない沙羅の絶叫は、声の所々が掠れ、裏返っていた。
そしてその叫びが区切れると同時に、彼女の恥じらいの場所からは大量の液が漏れ始める。
小水か、あるいは潮か。いずれにせよ、沙羅が余裕を失くした証には違いない。
それほどになってなお、ディルドーは容赦のない抽迭を繰り返していた。
マシンの動きは沙羅の脳波に基づいている。
起動直後は標的である沙羅を速やかに絶頂へ至らしめ、その後は脳波を極力ピーク近くに保ち続ける。
この悪魔じみたルーチンを組み込まれている以上、マシンが沙羅を楽にする事はない。



一連の暴虐的な突き込みは、回数にして60回あまり、時間にして悠に5分以上は続いていた。
その時点でようやく機械は音を止め、小休止に至る。とはいえ、無論それは沙羅を案じての事ではない。
『刺激を与えずとも高原状態が維持される』……そう分析した上で、合理的判断からエネルギー消費を抑えたにすぎない。
事実、沙羅の身体は、機械が稼動をやめてからもなお絶頂の反応を続けている。
「ああぁあ゛っ、ああああ゛……かはっ、あはっ、ハーッハーッ…………うああ゛っ…………!!!」
掠れた悲鳴と共に、奥歯まで覗く口から涎が伝い落ちた。
目頭からは次々に涙が零れ、先に伝っていた滴と合わさって顎から滴っていく。
脚の震えはやはり病的で、キッキッキッキッと忙しなく足首のアームを軋ませていた。
絶頂の余韻でまた絶頂の域に押し上げられるという異様な状況。
この5分強で、幾度の絶頂が沙羅を襲ったことだろう。
絶頂する沙羅は相当に無様であったらしく、特に潮を断続的に噴き散らしていた場面が見物だったらしい。
「あああ、あああ…………あああ………………」
沙羅はヘッドレストに重い頭を預け、閉じない口から意味のない声を発して何かを楽にする。
本能の訴えるままに行動しなければ、近い内に脳が蕩けてしまいそうだ。
しかし。そうした脳波の安定を、機械が見逃す筈もない。

電子音が鳴る。剛直が稼動しはじめる。
沙羅は竦む心を叱咤し、最奥への挿入に備えた。しかし……その備えは徒労に終わる。
ディルドーが駆動パターンを変え、膣の入口付近を重点的に刺激し始めたからだ。
亀頭の笠と大小様々な突起が、敏感な部分を擦りたてる。それは相当な刺激ではあったが、ややもどかしい。
落ち着かず、左のいきみ棒をより安定するよう逆手で握り直す。それでも不安が消えない。
沙羅が戸惑いながらも一息つこうかと考えた、まさにその時。駆動音が急に強まり、ディルドーが深くまで潜り込んだ。
「あああーーーっ!!」
沙羅は、想定以上の大声で達する。溜めていた息を吐き出したせいだろうか。
奥まで挿入された、という心理的な満足感があるために絶頂も深い。
「ひっ、ひっひっ、あはーっ、はーーっ…………」
沙羅が絶頂の余韻に浸っている最中、怒張が引き抜かれていく。
盛大に笠の張ったエラを引っ掛けつつ、ゆっくりと。
絶頂直後で敏感になっているGスポットを亀頭裏で擦り上げられ、それだけで断続的な軽い絶頂が襲ってくる。
亀頭が入り口付近まで戻った時には、息も荒く、しばしの休息が欲しかった。
しかし、機械に情はない。
再び膣の入り口付近を浅く四度ほど往復し、焦らした末に、ぐうっと奥まで突き上げる。
最奥への突き込みは先ほど以上に力強く、子宮口はおろか、それを支える子宮頚部までもがぐちゅりと潰されるようだった。
「くああああーーーっ!!」
当然、上がる声も先ほどより大きい。口の端からとろりと涎が垂れるのが解った。
拭いたい所ではあるが、右手にはスイッチを握っており、左手もまた座部側方のいきみ棒から離せない。
あまりに深い絶頂で身体中がガクガクと痙攣しており、何かに掴まらずにはいられないのだ。
膣内が熱い。マグマを閉じ込めたように。
機械によるストロークの気配をひしひしと感じながら、沙羅はそう考えていた。



そこからまた、断続的な絶頂の時間が始まる。
四浅一深式に切り替わったと考えて覚悟する沙羅。
それを嘲るように、最奥へ密着したままドッドッドッと三連続で子宮口を叩き、沙羅が腰砕けになった所へ大きく引いての突貫。
「ひいいいぃっ!!!」
沙羅の口からとうとう純粋な悲鳴が迸った。見守る玉蓉達に笑みが浮かぶ。
だが、無理もない事だ。ポルチオ絶頂の快感は底無しに深い。
一瞬にして手足の先にまで高圧電流が流れるような強烈さもさることながら、最も特筆すべきはその持続性だ。
充分に前戯を施して子宮口を目覚めさせた場合、ポルチオ絶頂の多幸感は数十分余韻を残すという。
薬漬けにされ、数ヶ月間性感を開発されてきた沙羅に至っては、その数倍の効果があると見ていい。
これほどの余韻を残す絶頂を極め、さらにその最中に新たな絶頂を迎えれば、相乗効果で快感はより深まっていく。
それは悦楽という海で溺れかけているところへ、さらに足を掴まれて水中へ引き込まれるに等しい。
「はーっはーっ…………やめてください! 少しだけでも止まってくださいっ!!
 先ほどから、はぁっ…………常に……はっ……達していて、息が…………くるしいのです………………!!」
沙羅は必死に膣内のディルドーへ呼びかけた。しかし、その言葉が聞き届けられる事はない。
むしろここへ来てその動きはいよいよ不規則かつ強烈になっている。
もはやぐちゅりと奥を潰すなどという物ではない。
これ以上は無理だと収縮する膣壁を煩がるかの如く、ゴリゴリと奥の奥への採掘を試み続けている。
今の沙羅にとっては最も絶望的なルーチン。
「――――――っっ、―――――ぃぎ―――っ……………………!!!!!」
沙羅は声を出すことを恐れるように、白い歯を食いしばって耐えていた。
優雅さから最も遠いその獣のような顔は、当然罵詈雑言のいい的となる。
けれどもやはり、そんな声に構う余裕はない。
目に見えない所で、何かが着実に溜まっていく。いや、削り取られているのか。
そして、数秒の後。沙羅の全力の抵抗は、彼女自身の体内に入り込んだ異物によって突き崩された。

「…………く、く、ぉっ………………ォおおお゛お゛お゛っっっ!!!!」

決壊。
まさにその表現が相応しい。
清楚な顔は泣きじゃくるように歪み、涙と呼吸困難からくる鼻水に塗れた。
脂汗に塗れたスレンダーな肢体は、それまで以上に痙攣し、腰をヒクヒクと上下させる。
絶頂などという言葉では表せないほど深く達した事が、その見目と叫び声だけで手に取るように解る。
室内の一角から歓声が沸いた。
「ふふふ、とうとうその声が出ちゃったわね」
玉蓉が満面の笑みを湛えて沙羅に歩み寄る。
「脳が快感で焼ききれる寸前になると、皆その声を出すの。いわゆる断末魔ね。
 『頭が真っ白』『自分が何を言おうとしてるのかも判らない』『苦しくなくなったのが怖い』
 最後には口を揃えてそんな事を呟いてたけど、太陽の巫女さまにも当てはまるかしら?」
玉蓉の言葉に、沙羅は返事をしない。否、できない。
何故ならば彼女は今この瞬間もまさに、凶悪なディルドーの突き上げで絶頂させられているからだ。

「あくぁあああっ、んはぁああああおぉおお゛お゛っ!!!!!
 た、達していますっ、ずっと達しているんですっ!! もぉやめて、つらいっ、つらいいぃっっ!!!」
「そりゃあ辛いでしょうねぇ。折角だから辛いついでに、いま貴女の中がどんな風なのか見させてあげるわ」
玉蓉がそう言って合図を送ると、白衣の一人が頷いた。
そして直後、沙羅の真正面に設置されていたスクリーンが起動する。
そこには正面のカメラで撮影された内容がそのまま、大々的に映し出されていた。
すなわち、胡坐縛りを施された沙羅の膣内へ透明な凶器の入り込む映像が。
生々しい映像だ。愛液だろうか、妙なヌメリを帯びたピンク色の粘膜が、明らかに限界と思えるサイズの円柱型に押し拡げられている。
そしてその最奥ではやはり、剛直の先端が無理矢理に子宮口を開こうとしていた。
流石に亀頭が通る気配はないが、剛直が打ち込まれるたび二本指が入る程度には開いており、どれほど解れているのかが見て取れる。

「ひ、ひぃっ…………!!」
その映像を前に、沙羅はこれ以上ないほど目を見開いた。
かすかに歯が鳴らされ始めたが、絶頂ゆえではない。
自分が達し続けていた理由……女体の最も秘匿すべき場所の現状を目の当たりにしたためだ。
特に彼女の場合、子宮とは次代の『太陽の依り代』を生み出すための国宝。
幼い頃から宮中の人間より、常に身を清めよ、何の間違いがあっても性の病などに掛かってはならぬ、と厳しく教え込まれてきた。
その彼女にとって眼前の光景は、空の太陽へぽっかりと穴が空いたに等しかろう。

「……ああ、いや、おねがい。壊さないで…………わたくしを……わたくしの、体を…………!!」
沙羅は哀願を口にし、その最中で絶頂に至った。
その表情は時おり素に戻るものの、すぐにまた理性を失くす。
次から次へと脳裏に白い花火が打ちあがり、正常な意識を陰へ追いやってしまうせいだ。
彼女の脳神経はすでに快楽という汁を吸って膨らみきっており、もはや意思で御せる段階にはない。

「救えるわよ。貴女の身体も、国の宝も。貴女が右手に握っている、そのスイッチを押しさえすればね」

快楽に打ち震える沙羅の耳へ、玉蓉のその言葉がするりと入り込む。
沙羅の右手がピクリと反応した。確かに、スイッチを押しさえすればこの地獄から抜け出せる約束だ。
だが、じりじりと親指が赤いボタンに近づき、縁にまで辿り着いて……そこで止まる。
玉蓉は片眉を吊り上げた。
「何をしているの。早く押しなさい」
ごく小声で沙羅に囁くが、沙羅の指は動かない。
「か、はっ…………あぐっ、くはっ…………かっ、は………………!!」
もはや悲鳴さえ上げられず、ガクガクと頭を揺らしながら泡を吐くような段階になっているというのに。
「楽にお成りなさい、沙羅。もういいじゃない。
 どうせそのスイッチを押して犠牲になるのは、今までろくな不幸も味わっていない人間なのよ」
不幸がない。
玉蓉のその言葉を聞き、沙羅の視線が眼前のスクリーンから外れる。
「あら、知らなかった? 興国の人間は捕虜ではあるけど、結構いい生活してるのよ。
 よっぽど反抗した人間は捕縛したけど、それ以外は強姦された例もなければ、不当な暴力の例もなし。
 それどころか子供なんか、外国のお菓子やオモチャにすっかり夢中みたい。
 貴女が頑張ってきたお陰でね。
 その一方で、貴女自身はどうだった? 国の象徴だからって理由で、ひとり犯されて、辱められて。
 その挙句に、今もこんな目に遭ってるんじゃない。
 いい加減、その重荷を紫庭の連中にも背負って貰いましょうよ。国の象徴を守るために」
玉蓉はそう言いながら、指でページをめくるサインを出した。
すると沙羅の眼前にあるスクリーンの映像が変わる。
木々の生い茂った見慣れた空間…………興国宮殿前の大広場だ。

『聖巳様、もうおやめ下さいっ!!』
『ひじぇりみしゃまー、もう痛い痛いのしちゃだめぇ!!』
『あたし達が代わりますっ! だから聖巳様、どうかこの国にお戻り下さい!』

トゥルグアの兵士に囲まれながら、興国の民は一様に天を仰いで叫んでいた。
その視線は遥かな距離を越え、沙羅と繋がる。
「と、いう事ですわ。国民自身も納得している以上、問題はありませんわよね」
玉蓉が仕上げの一言を言い終わるより前に、沙羅の右腕が持ち上がっていた。
「ふふ、そうそう……」
玉蓉は研究員達に目配せしてほくそ笑む。
国民が納得していようがいまいが、決断の際にどのような状況であろうが、そんな事は些事に過ぎない。
『聖巳が民を売った』、この事実が全てだ。
太陽から見放された民は、知らず知らずの内に鋼の信仰心を失うだろう。そうなれば正式にトゥルグアの属国となるのにも時間はかかるまい。
長らく『日陰の国』と蔑まれ続けてきたトゥルグアの悲願が果たされるのだ。
快楽で痙攣する沙羅の手が、とうとう真上へと持ち上がる。スクリーンの中の国民が悲しげに目を伏せる。
そして、沙羅が口を開いた。

「…………皆さん。わたくしは今ようやく、はっきりと悟りました。
 わたくしには、皆さんの中の誰一人とて犠牲にする事はできません。
 わたくしは太陽の依り代であると共に、国の象徴。そして“国”とは、あなた方国民一人一人の集まりなのです。
 もう間もなく、わたくしはわたくしでは無くなってしまうでしょう。
 けれど、嘆く必要はありません。わたくしの陽の魂はいつでも、皆さんの心の中にあるのですから」

紫庭興国の民は、言葉もなく上空を見上げていた。玉蓉も、研究者達も、何ら思考ができずにいた。
その静寂の中、沙羅の右手が開かれる。
棒の先にボタンを冠したスイッチは、水平に床へ落ちていく。
床から響く冷たい音。それをきっかけに、ようやくにして周囲の時も動き出した。
紫庭の民は、一人また一人と涙しながら太陽への祈りを奉げ。玉蓉達は青筋を立てて沙羅を睨み下ろす。
「あ、ああ、そう。それが答えなの…………。どうやら、本当の神様になりたいみたいねぇ。
 いいわ、だったら望み通りに壊してあげる!!」
その宣告と共に、研究員達の指が一斉にキーボードを打ち込み始めた。
沙羅を囲む機械群から次々と起動音が鳴り、緑色のランプが津波のように点灯していく。
巨大スクリーンの映像も、広場の光景から沙羅のあられもない姿に戻る。
それら全ての中心で、沙羅は諦観したような薄笑みを浮かべていた。
「…………さようなら、皆さん。そして有難う。わたくしを愛してくれて、わたくしを育ててくれて。
 加護のない太陽の巫女ではありましたが、わたくしは、最期まで皆さんが大好きです…………」
その別れの言葉が終わった瞬間、無数のスチールアームが沙羅に襲い掛かる。

まずは沙羅の拘束姿勢が大幅に変えられた。
両の足首を掴むアームが移動を始める。胡坐から一転、両脚を肩より外側へ持っていくような大開脚へ。
「くっ…………!!」
相当な柔軟性を要求されるこの姿勢に、沙羅から小さな呻きが漏れる。
続いて、秘裂を開いていたリングのロックが解除され、ずるりと透明なディルドーが抜き出される。
ディルドーがアームに接続されていなかったのは、あくまで興国民に膣内の様子を見せ付ける事が目的だった。
今となってはもうその必要はない。
そのためディルドーは元通り太いアームに接続され、加えて透明なディルドーの中央部に細い螺旋状の棒が装填される。
沙羅はそこに言い知れぬ不安を感じた。しかし今さら足掻きようもなく、ただ静かに呼吸を整える。
「さぁ、お馴染みの後半の儀よ、聖巳さま。おっと、貴女はもう人である事を捨てたんだから、メス豚で充分かしら。
 前半はかろうじて面目を保つけど、後半に差し掛かるとすっかりバテて乱れまくるのがお決まりだったわよね。
 今日は、果たしてどうかしら?」
玉蓉の視線には、明らかに先ほどまでを上回る悪意が宿っていた。
それは他の研究員達も同じだ。
その悪意ある指で、プログラムの遂行命令が発される。

僅かながら外気に触れて冷えつつあった膣内へ、再び剛直が嵌まり込んでいく。
出産を思わせる圧迫に、沙羅の額へ新たな脂汗が滲み、恥骨が悲鳴を上げ始める。
それでも一度は耐えた苦痛だ。沙羅はそう考えて気を落ち着かせた。
ディルドーは膣内を限界まで拡げつつ、ゆっくりと最奥へ到達する。
「はあぁっ…………」
再び訪れた息苦しさに、沙羅は大きく息を吐いた。
しかし、彼女は知らない。生まれ変わったこのディルドーの本領は、膣奥へ達してからだという事を。
「えっ!?」
沙羅の肩がぞくりと跳ねる。
膣の最奥まで達したディルドーの先端部から、さらに何かが盛り上がってきている。
スクリーンに目をやれば、何が起こっているのかが明らかとなった。
開かれた膣の奥、ディルドーの圧迫で二本指ほどの大きさに開いた子宮口へ、先ほど目にした螺旋状の棒が入り込もうとしているのだ。
沙羅の瞳が見守る中、それはついに子宮口を通り抜け、子宮頚部へとその身を捻り込んでいく。
「くあぁああ゛あ゛っ!!」
沙羅は思わず叫んだ。総身に鳥肌が立つ。しかしその一方で、膣の奥は熱く痺れていた。どうやら絶頂しているようだ。
そして、その痛痒は一度限りでは済まない。

妙に弾性のあるその螺旋状の棒は、子宮側へ通り抜ける頃にまた捻れながらディルドーへと戻り始めた。
沙羅の脊髄を、いよいよ耐え難いほどの痺れが走り抜ける。
「ひっ、ひぃいぃいいいっ!! な、何、いったい何なのですこれはっ!
 わたくしの奥の奥に、何度も、無理矢理…………う、くくっ……ふうぅンン゛ん゛っ!!!」
「アハハハッ、恐怖と快感がない交ぜになったって顔ねぇ。受け入れたくないけど、勝手にイッちゃうんでしょう。
 それはそうよ。さっきまで子宮を叩かれただけでイキまくってたのに、その根元部分をじかに扱かれちゃ堪らないわ。
 でもね。この地獄には、もっと“下”があるのよ?」
玉蓉がそう告げた直後、沙羅の膣奥に引き続いての変化が起きる。
子宮頚部に嵌まり込んだ部分が、強烈に振動を始めたのだ。
「はぅう゛っ!!!」
この責めは効いた。擦られるだけでも痺れが走るほど敏感な部分に、機械の振動を受けては耐え切れる筈もない。
今まで受けていた刺激すらぬるま湯に思える苛烈さで、まさしく『瞬く間に』絶頂の数が積み重なっていく。
そしてどうやら、状況はさらに悪くなるようだ。
見覚えのある重厚なバイブレーターが、絶頂に打ち震える沙羅の陰核へと狙いを定めた。
「振動といえばこれを思い出すでしょう。ついでにご馳走してあげるわ」
嫌というほど味わった強烈な振動。それがすでに勃起状態にある陰核へ浴びせられた。
「がああああああっ!!!」
品のない叫びも出ようというものだ。そして今度の振動に寸止めはない。容赦なく絶頂へ至らしめるべく技巧を凝らす。
丸まった頂点を押し付け、側面で擦り、触れるか触れないかという皮一枚の距離で嬲り……。
「ああぁあああいやぁああ゛っ! そんな、やめてええええ゛ぇ゛ーーーーっ!!
 達しているのにまた達して、本当におかしくなってしまいますっ!」
機材をも震わせるような沙羅の絶叫に、白衣の一堂は笑みを深めるばかりだ。
「そうよ、イきなさいメス豚! お前はこれから、イってイってイキまくるの!
 さっきまでの私達がどれだけ加減していたのかを、存分に思い知りながら狂うがいいわ!!」




それからの行為は、政治的交渉でもなければ実験でもなく、完全に憂さ晴らしの拷問だった。
極太のディルドーで膣を拡げ、螺旋状のアタッチメントで子宮頚部を刺激する。
強力なバイブレーターで陰核を虐め抜く。
それを『基本』としながら、他にも思いつく限りの責めが加えられた。

例えば、椀を伏せたような瑞々しい双乳。
ここには家畜に用いるような搾乳機が取り付けられ、屹立した乳首周りを吸い上げられた。
研究員には年配の女も多く、胸へのコンプレックスは殊更に強いようだ。
そのため何人かが乳房責めに熱意を示し、薬物注射で本格的に母乳が出るまで育てる、ピアスを通してチェーンを垂らさせるなど、
冗談とも本気ともつかない物騒な談義を繰り返していた。

ディルドーが唸る膣の少し上、尿道も勿論ターゲットだ。
「いやっ、何を!? そ、そこはお小水の出る穴です! ああ、そんな、いけませんっ!!」
沙羅の抗議など聞き入れられる道理もない。
むしろそうした嫌がりの声が上がるたび、研究員達の顔はいよいよ嬉々としはじめる。
「こうやって尿道の奥を何度もこすってやれば、クリトリスが怖いくらいに勃起してくるでしょ。その状態でクリ責めすれば…………」
女の一人が細い棒を沙羅の尿道に差し込みつつ、モニター席に合図を送った。
すると間髪入れずにバイブレーターのスイッチが入れられる。
「くぁああああっ、ああっ、はぁあっぐ!!! んんんンん、くぁあおおお゛お゛ーーーっっ!!!」
「くひひ、スゴイ声。やっぱ何だかんだいってもクリ逝きって手軽でいいよね」
「ふーん。男の身からすっと、いまいちピンとこねーんだよな。
 ま、ああして腰ビックンビックンしてんの見ると、マジで一番敏感な場所なんだろうなと思うが」
狂乱する沙羅と、それを面白そうに見守る研究員達。
その間にはおぞましいほどの温度差があった。

こうした研究者達にかかれば、当然、肛門も良い陵辱対象だ。
まずは下準備と称して、細いチューブを用いての大量浣腸が施される。
ただでさえディルドーに限界まで膣を拡げられている状態だ。そこへの浣腸はつらく、沙羅はすぐに排泄の許可を乞うた。
しかし、研究員達は誰一人として許可を出さない。
かつて広場で監視役を根負けさせるほどに耐え忍んだ事を引き合いに出し、我慢を強いる。
最後には青ざめた顔をした沙羅があまり叫ぶので、惨めたらしい排泄の宣言をさせた上でようやく吸引となった。
挙句、肛門に関してはそれだけでは終わらない。
「ほーらぁ、どうなのメス豚? トロットロになってる子宮を、直腸側から揉まれてる気分は」
女の一人は、桜色の肛門へ細い腕を丸ごと挿入したまま問うた。
連続絶頂の影響で自律神経が狂い、括約筋がかなり緩んでいるために可能なことだ。
本人はそう語っていたが、挿入からのサディスティックな言動を見る限り、狭かろうが無理矢理に捻り込んでいた可能性も否定できない。

「……はぁ、ハァ…………ほ、ほんとうに、ほんとうにもぉ……やめてください。狂いそうで、こわい。
 い、いまもずっと、達しています…………からだが震えて、とまらないのです」
枯れたような声で沙羅が告げた。
異常性癖者から多対一で一方的に嬲られ続ける沙羅は、着実に疲弊している。
慎ましい彼女がこの1時間で、実に百を超える絶頂宣言をしている事実。
それが何より責めの苛烈さを物語っていた。
今も彼女は、両の乳房、陰核、尿道、膣、子宮口、そして直腸という七つの性感帯を同時に責め苛まれている。
「なーにが達してます、よ。いつまで高貴なご身分のつもりなの?
 絶頂の時は『イク』って言うように教えたよね?」
肛門嗜好の女が、腸壁越しに子宮を握り潰しながら囁く。沙羅の両脚が汗を散らしながら跳ねた。
「はごぉぉおお゛お゛っ!! ぃひっ、は、はい、イキますっ、イっていますっ!! ですからっ、ですからもう…………」
「やめるワケないでしょ。聞いてなかったの? お前は、今日この場でぶっ壊れるんだってば」
「そうよ。頑張ってないで、もう理性もプライドも捨てちゃいなさい。今更マトモでいようとしても辛いだけよ?」
沙羅の哀願は聞かれる事もなく却下され、再び苛烈な責めが始まる。
痛いほどに屹立した乳首が吸われ、
尿道を弄くられながら強力なバイブレーターで陰核を震わされ、
膣内が極太のディルドーに犯され、
子宮口が螺旋状の器具でこじ開けられ、
蕩けきった子宮を直腸を満たす腕で鷲掴みにされる。

「んひぃぃっイグッ、イっぐぅううっーーー!! と、とまらないっ、ぁあああイグゥゥーーっっ!!
 かっ、あはっ……アぉほおお゛っ! んぐぁあああ゛っア゛がア゛ア゛っっっ…………!!」

沙羅は獣じみた声を上げながら、ついに天を仰ぐ。
白目を剥き、口からは大きな泡を吐き。とても理性があるとは思えない。
ただひとつ意思らしきものを示すのは、その右手――。
右手は震えながら、必死に何かを探していた。

「あはっ、見てあの手。コイツまさか、あのスイッチ探してんじゃないの?」
「わ、マジだ。今更誰か犠牲にする気かよ」
「もうそこまで頭回ってないんじゃない? ただディルドーだけでも止めたいってだけでしょ」
「アハハッ、馬鹿だねー。自分で格好つけて放り捨てたくせに。もう完全に理性飛んじゃってるっぽいね。
 でも一応ダメ押しはしとかないと」
「そうね。このまま1時間も放っておけば、完全にぶっ壊れるでしょ」
「で、その後はどうする。新しいマシンのテスターにでもするか? 結構金になりそうだもんな、こういう機械って」
「んー。機械にさせてもいいけど、ウチのスラムで売春(ウリ)させんのもありじゃない?
 政治的な利用価値はなくなったけど、まだ肉人形としての需要はあるでしょ」
「肉といやぁ、とりあえずメシでも食いながら決めようぜ。朝からぶっ通しでハラ減ったよ」
研究者達が沙羅の処遇を語りながら、一人また一人と背を向けて消えていく。
最後に玉蓉が沙羅へ一瞥をくれ、
「…………そうなってしまえば惨めなものね、『聖巳さま』。
 お前だけは、興国民としてもトゥルグア人としても扱わない。ただ穴が3つ空いてるだけのジャンクよ」
吐き捨てるようにそう告げて踵を返す。

「ふっ…………ふふ、あははははっ…………わたくひぃ、こわ……れ? きゃはっ、きゃははははっ!!…………あはっ」

それらを虚ろな瞳で追いながら、沙羅は笑っていた。笑いながら、涙を流していた。

いつまでも、いつまでも。





宗教国家、紫庭興国。その宮殿が陥落したという報せは、全世界に衝撃を齎した。
しかし、新生『トゥルグア共和国』は僅か4ヶ月で打倒される。
太陽の依り代たる『聖巳』の意思を受け継いだ者達が蜂起し、見事にクーデターを成功させたのだ。
共和国の施設を制圧しながら、旧興国兵は血眼になって『聖巳』を探し回った。
しかし、それが上手くいかない。
『聖巳(ひじりみ)』はトゥルグア共和国において最大の禁句とされ、ごく一部においてのみ『穢身(けがれみ)』の名で秘匿され続けていたからだ。
結局、事情を知る玉蓉を、ヒトとしての尊厳を保てるギリギリまで尋問し、ようやくその所在が明らかとなった。
旧興国の宮殿……その地下へ密かに増設された空間。沙羅はそこだという。
情報通り地下の一室に踏み入った兵士達は、そこで己の目を疑った。

そこには、機械相手に延々と犯され続ける娘がいたそうだ。
木馬型のファッキングマシンに跨ったまま、膣と肛門を極太の剛直に穿たれ続けている。
木馬の左右にはアームに繋がったディルドーが並び、娘の額と首に嵌められたリングを用いて喉奥奉仕を強いている。
ディルドーは極めて精巧であり、娘が喉奥でしばし扱くと、擬似精液とでもいうべき白い液を噴くという。
娘はその白濁を嚥下しながら、額と首のリングを引かれ、すぐにまた別のディルドーを喉奥深くまで咥え込まされる。
機械相手ではあったが、それは間違いなく輪姦だった。現場を見たものはそう口を揃える。
兵士達は苦心の末に機械をすべて停止させ、かろうじて娘を救い出した。
娘の華奢な身体を抱きかかえ、それが沙羅本人だろうと確認しあうと、皆して男泣きに泣いた。

沙羅は、4ヶ月の間に変わり果てていたらしい。
どれだけ眠っていなかったのか、目の下の隈がひどい。
枝毛だらけのくすんだ黒髪は、膝よりなお下にまで伸び、その他の体毛についても処理の形跡はない。
身体中至る所にトゥルグアの文字で落書きがなされ、何か数を記録している物も見受けられた。
しかし、その内容を鵜呑みにはできまい。
もしもそれらの記述がすべて正ならば、沙羅の膣と肛門、そして口は、この4ヶ月だけで計250回以上も使用されており、
また売春大国であるトゥルグアの最下層スラムにおいて、飲尿を初めとしたあらゆるハードコアプレイを許される“肉便器”、であった事になってしまう。
食料だけは与えられているのか、痩せてはいない。それどころか乳房に至っては、見違えるほどの豊乳化が見られた。
娘が沙羅であるという確信が中々得られなかった理由がこれだ。
上着を着るのにさえ不便がありそうな乳房。その乳頭には銀のリングピアスが着けられ、しとどな母乳を滴らせている。
そして、何より違うのはその雰囲気だった。かつての崇高な雰囲気は微塵もない。
「……ねぇ、したいの?」
子供のような無警戒さで、沙羅は売春の意思を尋ねる。そして誘うように秘裂を拡げてみせた。
兵士達はここでまた息を呑む。
その陰唇にも、肥大化したクリトリスにも、悪趣味なアートのように金のピアスがびっしりと入っていたからだ。
それらは、この4ヵ月間の彼女の不遇を窺い知るに、充分すぎるものだった。




 ――それから、一年。

沙羅はかつての通り……いや、事によるとそれ以上に美しく成長していた。
『聖巳様』という呼びかけに対しては依然として反応が鈍いものの、穏やかで心優しく、民の誰からも好かれている。
ただし、全てが元通りとはいかない。
たとえば、その胸だ。どのような服を着ても隠し切れないその豊乳は、男にとって目の毒だった。
また白磁の肌に煌めく金銀のピアスもそのままであり、開発されきった性器の見た目も戻る事はない。
そして、それらに関連する問題がひとつ。
彼女の色狂いもまた治らない。
奇跡的にかつての人格が戻りつつあるものの、それとはまた別の人格が彼女の中に存在する。
民の中にはいけない事と知りつつも、彼女の妖艶な誘いに乗せられて宮中へ忍び込む者が後を断たない。

『ようこそおいでくださいました。むずかしいことは抜きにして、始めましょう。
 どうかあなたの太陽で、わたくしを温めてくださいまし』

濡れた瞳でそう囁かれれば、誰一人その誘惑に勝てはしない。
雰囲気に往年の清純さを残しながらも、その唇が開いたり脚が組み変えられるだけで、スタイリッシュな女の魅力が香ってくる。
その妖しさは、太陽というより月を思わせた。
他者からの光を取り入れ、幻想的に輝く月――それが沙羅の新たな人格だ。
太陽の没している間は、彼女がこの国を支配する。
清濁のすべてを呑み込む、淫蕩な笑みを浮かべて……。


                       終
 
 

Water boarding

※水責め&腹責めモノ。嘔吐・失禁注意。


Water boarding……それは世界中で最も重宝されている拷問の一つだ。
いわゆる水責めの一種だが、頭を逆向けにしたまま水を飲ませるため効果が高い。
人間の脳は、頭を下にして水を飲んだ場合、即座に溺死の危険を察知するようにできている。
反射的なパニック状態からの自白率は極めて高い。
そのため各国特殊部隊では、こぞってWater boardingの訓練を行っている。
某国においては特殊部隊のみならず、軍属の者すべてがこの特訓への参加を義務付けられているほどだ。
この風潮にほくそ笑むのがバドという男だった。
階級は中尉ながら、態度だけは将官クラスと揶揄される男。
彼は敵地にてWater boardingの尋問を受け、それに耐え抜いたという逸話がある。
実際には、今まさに尋問を受けようとしていたところを救出されただけなのだが、真実は彼のみぞ知るところだ。
このように虚偽と欺瞞で自身を塗り固めたバドには、眼の敵にしている同僚がいた。

レスリー・リセント。
バドと同じ中尉でありながら、こちらは物が違う。
レスリーには華があった。
やや垂れ目気味ではあるが眼光は鋭く、意思の強さが顔つきに表れている。
顎までの長さで切り揃えられた金髪は陽によく煌めく。
首から上は映画女優と言っても違和感がない。
しかし、鎖骨から下に視線をやれば、その煌びやかなイメージは一変する。
現役軍人さえ目を見張る、鍛え抜かれた肉体がそこにある。
弛みのないボディラインが美しい。
特に腹筋の発達は顕著であり、酒宴の後でさえしっかりと8ブロックに分かれているほどだ。
自分を甘やかさず、面倒見もいい彼女は部下からの人望も厚い。
バドもまたレスリーに惚れた一人だ。
『貴様はマシな女だ。特別に今のうちから、私の傍に置いてやろう』
この調子で高圧的に交際を申し入れ、あえなく一蹴された経緯がある。
それはバドのプライドを傷つけた。
以来バドは、いつでもレスリーへの報復を画策し続けている。
とはいえ真正面から争って敵う要素はバドにはなく、歯軋りする日々を過ごしていた。

その折に飛び込んできたWater boarding訓練は、彼にとってまさに天からの恵みだ。
彼はここぞとばかりに上層部に訴えかけ、自らの逸話を元に訓練教官の座を勝ち取った。
教官の肩書きがある限り、訓練中に限ってはバドが部隊の最高権力者となる。
レスリーとて一時的に指揮下へ入らざるを得ない。
たとえ、どのような仕打ちを受ける破目になろうとも……。



Water boardingの特訓に大掛かりな仕掛けは必要ない。
対象者は傾いた台へ頭を下にして寝かされ、身体の各所を拘束される。
その際両手は体前部のどこかに置き、薄い円状のプレートを握る。それだけだ。
水責めに耐え切れなくなった被験者は、ギブアップの印としてプレートを落とす事になっている。
プレートを離せば溺死の恐怖から開放される訳だ。
鍛えに鍛えられた特殊部隊の男といえど、この『溺死の恐怖』を平然と乗り切る者など居はしない。
顔に布が被せられ、水が注がれはじめてからプレートが落ちるまでの平均タイムは僅かに4秒足らず。
しかしこれを不甲斐ないと思うべきではない。
貼りついた布が顔から引き剥がされた時、被験者の顔は一様に恐怖に引き攣っているものだ。
目と口を裂けんばかりに開いたその表情は、Water boardingという拷問の恐ろしさを見る者に焼き付ける。
レスリーはこの拷問を、数十人分に渡って見せ付けられた。
彼女の順番は最後の最後。
名目上は上官であるゆえだが、その実は残り時間を気にせず嬲り者とするためだ。
「…………っ」
膝の上へ乗せられたレスリーの手に、刻一刻と力が篭もる。
いかに気丈な女軍人といえど、圧し掛かる恐怖が尋常ではないのだろう。
単に水責めへの恐怖だけではない。
大勢の部下が見守る前だ、無様など晒せない。ギブアップ制度など無いに等しいと思うべきだ。

「……さてレスリー、私が誰か解るかな?」
台に横たわったレスリーを見下ろしながら、バドは下卑た笑みを見せる。
レスリーは嫌悪の表情を作った。
「ええ、教官殿。盗撮とボディ・タッチが御趣味だそうね」
レスリーの言葉で、どこからか笑いが漏れた。
バドは顔を見る間に赤らめ、目を剥いて周囲を威圧しながら続ける。
「ふん、いいだろう。ともかく、とうとう貴様の番だ。
 散々見て知っているだろうが、ギブアップなら宣言の代わりにプレートを投げろ。
 もっとも、それを投げる行為が『仮想敵への屈服』を意味する事は忘れんようにな。
 上官たる貴様が、もしもそのような不甲斐ない姿を晒した場合……教育的指導をせねばならん」
バドの顔に再び歪んだ笑みが浮かぶ。
言動共にいやらしい男だ。
「言われなくても、理解してるわ」
レスリーの眉間に皺が寄る。
バドは満足げに頷きながら、周囲の男達にレスリーを台へ拘束するよう命じた。
男達はバドお抱えの隊員だ。
バドも下衆として知られる男とはいえ、それはそれで同じ人種からの人気がある。
特にあのレスリー・リセントを嬲れるとあれば、その気のある者は嬉々として馳せ参じる。

太い拘束帯がレスリーの鳩尾へと巻きつけられた。
これにより、レスリーの女らしい胸が否応なく強調される。
支給のタンクトップは深く皺を作り、肩口からインナーが覗く。
すべて白一色の無味乾燥なものではあるが、女気のない特殊部隊においては充分すぎる興奮材料だ。
「へへへ……中尉殿の胸に、こんだけのボリュームがあったとは驚きだ」
「ああ、いやらしく上向きに突き出してやがる。もっと早くから拝んどくべきだったぜ」
「仕方ねえだろう。真面目な中尉殿の胸なんぞ覗けば、どんなお叱りを受けるか解ったもんじゃねえからな」
男達はレスリーを前に辱めの言葉を口にする。
「お前達、誰の事を言ってるつもり? 随分と良い根性してるじゃない」
レスリーから貫くような視線を向けられてもなお、臆する素振りはない。
まるでこの特訓の後も、レスリーに叱責される恐れはないと確信しているかのごとく。


男達はさらにレスリーの腰周り、そして腿の付け根を手際よく固定していく。
身動きを封じるよう厳重に拘束する中、腹部にだけは拘束帯を巻かないのは、特別な意図あってのことだろう。
訓練を監視すべき軍医がひとつ欠伸をする。
本来ならば拘束段階から神経を張り詰めておくべきところだが、彼もすでに買収済みという事らしい。
初めからレスリーに勝ち目などない勝負、しかし退けない。
レスリーを慕う部下達が、遠巻きにこちらを見ているのだ。
彼らの前で無様を晒すわけにはいかない。バド相手に降伏の意思を示すことさえ恥だ。
レスリーは、今まさに手の上へ乗せられたプレートを強く掴んだ。決して離すことのないように。
「さあ、しばし空気とお別れだ」
男が下卑た笑みを浮かべつつ、レスリーの顔へと赤い布を被せた。
すかさず別の一人がその端を押さえつければ、布地は隙間なくレスリーの顔面を覆う。
今は布が乾いているため、布越しの呼吸もかろうじて可能だ。
しかしそれが一度水を含んだが最後、たちまち未曾有の地獄が襲い来ることとなる。

バドが舐めるような足取りでレスリーに近づいた。
「どうだレスリー、まさか怖いのか? そう硬くなるな、私でさえこの尋問を耐え抜いたのだ。
 その私をあろうことか軟弱などと罵った貴様なら、何の問題もなかろう」
陰湿にそう囁きかけ、レスリーが布越しに唇を噛みしめると、傍らの男へと合図を送る。
「やれ」
男はすかさず水を垂らした。
まずはタンクトップの胸の部分……フェイントを兼ねた性的な嫌がらせだ。
「!!」
レスリーの身体がびくりと反応し、バド達の笑いを誘う。
タンクトップは水に触れた分だけ透け、余った水は一筋の流れとなってレスリーの首を伝う。
「へ、興奮するぜ」
ペットボトルを握る男は喉を鳴らしながら、再度レスリーの上でボトルを傾けた。
今度は頭の上でだ。
銀色に光る流れが、顔を覆う布の表面で弾けていく。
一秒。二秒。三秒。
恐ろしく長く思える時間の中、刻々と男達の限界タイムが近づく。
当然、レスリーも苦しみを隠せない。
下腕が持ち上がって拘束帯を軋ませ、布の張り付いた顎が喘ぐように尖りを見せる。
「止めろ」
五秒経過時、バドの号令で給水が途切れた。
そして素早く顔の布を取り去れば、そこにはかろうじて溺死を免れた、生々しい女の顔がある。
「ぷはっ……!! はぁ、はっ……は、あ゛っ…………!!」
目を見開き、奥歯さえ見えるほどに口を開いて短く空気を求めるレスリー。
しかしその鬼気迫る表情にも、やはり凛々しさが残っている。少なくとも今までの男とは別物だ。
「死地から舞い戻った気分はどうだ?」
「…………そのニヤケ面を見るぐらいなら、布があった方がマシね」
見下ろすバドの問いに、レスリーは憎々しげな表情で告げた。
元より負けん気の強い性格が、バドを前にしてさらに頑なになっているようだ。
しかしその気丈さがまた、バド達の嗜虐心をくすぐる。
「ほう、そうか。ならば続けよう。水は、まだいくらでもある」
バドは満面の笑みを浮かべたまま、再び布でレスリーの視界を奪った。


数分が経ってもなお、レスリーは良い見世物となっていた。
引き締まった健康的な身体をしているだけに、苦悶する様子も見応えのあるものだ。
中でも目を惹くのがやはり腹部だった。
日々100回×6セットの腹筋を自らに義務付けているというだけあり、均等に8つに割れた腹筋。
それが捲れたタンクトップの裾から覗いている。
ちょうど拘束帯の隙間にある白い肌は、下手に露出が多い格好よりもよほど性的に映った。
おまけにその腹筋は、溺死の苦しさを表すように、激しく上下に形を変えるのだ。
「この腹、やっぱ堪らねぇな」
男の一人がついに我慢の限界を迎えたらしい。
レスリーの腹部に手を近づけ、臍周りを軽く押し込む。
直後、レスリーの腹部が激しく震えた。唐突に触れられた驚きか、あるいは苦悶の動きの延長だったのか。
いずれにせよ、その反応がバド達を刺激してしまう。
「ふふふ、良い反応をするな。……そうだ、名案を思いついたぞ。
 よく鍛えているこの女には、ただの水責めなどでは手ぬるかろう」
バドは芝居がかった口調で呟きながら、レスリーの腹の上で拳を握りこむ。
彼の目はちらりと軍医を見やったが、軍医が表情を変えることはない。
ただ新調した金縁眼鏡を拭いているだけだ。

なんと残酷な事だろう。
バドが腕を振り上げる瞬間と、レスリーの顔から布が取り去られる瞬間はまったく同じだった。
幾度目かの溺死から開放されたレスリーは、激しく咳き込みながら視界にバドを捉える事だろう。
今まさに振り上げた太い腕を、自らの腹部へと振り下ろすバドを……。
「ぐぅうええ゛お゛!!」
状況把握もできぬまま、レスリーから苦悶の声が搾り出される。
一方のバドは恍惚の表情を禁じえなかった。
充分な弾力のある、ゴムタイヤのような腹筋が己の拳を受け止めている。
拳が弾かれる感触は異常な心地よさだ。
おまけに眼下では、憎きレスリーが苦しみ悶えている。
右目を細めて左目を見開き、大口を開けた、『当惑』そのものの表情で。
それはバドの歪んだ心をよく満たした。
自分よりも有能で、人望があり、強い女を苦しめる……その望みが叶っているのだと実感できる。
堪らない。
バドは再度拳を握り締めながら、周りの男達に合図を送った。
混乱の渦中にあるレスリーの瞳が、再び赤い布に覆い隠されていく。
その後にバドが拳を叩きつければ、赤い布は歪な形での尖りを見せた。
「お゛ぁああ゛……っ!!」
発声の不自由そうな悲鳴も漏れる。
これから彼女が徐々に水を飲んでいけば、その悲鳴と腹部の感触はどう変わっていくのか。
バドはそれが気になって仕方がない。
「ああ愉しみだ……レスリー、まだまだお前の肉を叩いてやる。
 女だてらに生意気に鍛え上げた腹部を、殴って殴って、メス本来のやわらかい肉に戻してやるぞ!!」
下劣な本性を剥き出しにしながらバドが吼えた。
その横暴を止められる者はいない。
軍内部の上下関係は絶対だ。レスリー自身も、それを慕う部下達も、訓練教官であるバドに抗議などできない。





拳が打ち込まれるたび、明らかに腹筋は張りを失っていった。
ただでさえ水を飲まされている最中だ。
胃の中へ少しずつ飲み下した水が溜まっていき、体力の消耗も著しい。
いかに鍛えた肉体とて、いつまでも腹筋の硬度を保っていられるはずはない。
「ぼはぁあっ!!」
レスリーの口から水が吐き出され、赤い布を通して染み出てくる。
布越しに目をきつく瞑っている様子が透けて見えた。
しかし、レスリーはけして手にしたプレートを離そうとはしない。
むしろ苦しくなればなるほど、指先が白くなるほどに強く握り締める。
「しぶとい女だ。そうでなくてはな」
バドは嬉しげに腕を振り上げた。
ドツン、とでも形容すべき音と共に、彼の拳はレスリーの腹筋を突き破る。
腹筋は、拳を緩やかに内へと呑み込むような動きを見せた。
レスリーの均整の取れた身体が痙攣する。
布の下から妙な音も聞こえた。排水溝が詰まったような音。
「ほう?」
バドはその変化を聞き逃さない。
打ち終えたばかりの肉体を酷使し、素早くもう一打をレスリーに見舞う。
ドブ、と鈍い音が響いた。
鈍い音、しかしそうであればあるほど効果がある事を、兵士達は日々の格闘訓練で知っている。
今のはまずい……多くの者がそう感じただろう。そしてその予測は正しい。
「も゛ごぉおう゛っっっ!!!」
レスリーの上げた呻きは、それまでのどんなものよりも苦悶に満ちていた。
拘束された膝下が暴れて拘束台を軋ませる。
腹筋が左右に揺れながら痙攣する。
ここまでは今までどおりながら、今度はとうとう喉元までが激しく蠢いている。
「お゛は……っ!!」
レスリーが発したその“音”の意味を、誰もが一瞬のうちに理解しただろう。
嘔吐。
どれほどの美女でも醜男でも、その音は同じだ。
かくして、レスリーの顔を覆う布から一筋の吐瀉物が流れ出す。
大量に水を飲んでいるため、ほとんど水に等しい薄黄色の流れだ。
それがレスリーの美貌を横切り、陽に煌めく金髪の合間へと伝い落ちていく。
「ひゃはははは、こいつとうとうゲロ吐きやがった!!」
「ああ。実技訓練の時、おもっくそ腹に蹴り入れても平気で反撃してきやがる女がな。
 まったく水責め様様だなぁ、いいもん見たぜ!」
「貴様等、私の拳の威力だとは考えんのか? ……まぁいい」
バド達は鬼の首を取ったように騒ぐ。
逆にレスリーを慕う者たちは、怒りと嘆きをそれぞれの表情に宿している。

「教官、もう止めましょう! 中尉は嘔吐までしているんですよ!?」
兵士の一人が堪らず叫んだ。
それに対し、バドは蔑みの視線を寄越す。
「何を言うか。実際にこの拷問を受けた時、嘔吐した程度で解放されると思うのか?
 貴様等雑兵は溺死体験だけで済ませたが、この女は違う。
 階級の高い人間は、重要な機密を知らされて作戦に臨むものだ。
 当然、自白によって我が軍が被る損害は、貴様等などとは比較にもならん。
 ゆえに訓練とはいえ、より実践的なものにせねばならんのだ。
 それとも、どうだ中尉、もう降参か。貴様にはその権利もある。
 私の時は……そのような物はなかったがな」
バドは建前を並べ立てた上で、巧みにレスリーを挑発する。
その物言いをされては、レスリーに選択肢などない。
「ひっ、ひっ、は、はひっ、ひ……ひっ、はっ……まさか!!」
短い呼吸を繰り返しながら、気丈に叫ぶレスリー。
涙と汗、そして吐瀉物に塗れているとはいえ、美貌は崩れていない。
むしろその穢れた美女の顔は、いよいよバド達のサディズムに火を点けていく。
「中尉は続けて構わんそうだ」
バドが命じるまでもなく、取り巻きの男はレスリーの顔に布を被せ直していた。
空気を遮断されるその直前、レスリーは決死の表情で大きく息を吸う。
恐怖はあるだろう。
しかし、降伏を示すプレートは未だ固く握られたままだ。
見守る者の中には、その姿に涙を浮かべる者さえ現れていた。
そして、満面の笑みで拳を握り締める男も。

バドは足を肩幅に開いたスタンスで、大きく肩を引き絞る。
斜めになったレスリーの腹部へ、垂直に近い角度で拳を打ち込めるように。
一方彼女の頭部付近では、やはり容赦のない水責めが再開されていた。
「おら、たっぷり飲めよ」
満面の笑みを湛えた男が、布を被せられた口周りにペットボトルを宛がう。
水は静かに布へと染みこんでいく。
「っ!!!」
声にならない叫びと共に、レスリーの顎が左右に揺れた。
男はそこで一旦ペットボトルを離し、布を押さえる役が位置を調節する。
そしてまた男がペットボトルを宛がい、注ぐ。
何度も何度も、飽きるほどに繰り返されている地獄。
レスリーの豊かな胸が激しく上下し、溺死の苦しさを訴える。
そこからさらに足までが暴れ始めれば、そこでおおよそ五秒だ。
「ぶはぁっ!!」
顔を赤らめたレスリーが、布のどけられた口で大きく息を吸う。
バドはまさにその瞬間、彼女の腹部へと拳を打ち込んだ。
「ん゛ごはぁああ゛っ!ぐ、くくっ…………!!!」
当然、レスリーはあられもない声を上げて身悶える。
唇からは新たな吐瀉物が溢れ、地面に飛び散っていく。
瞳はきつく閉じられ、開くと同時に目尻から一筋の光を流す。
それでもなお、プレートを持つ手だけは微動だにしない。
矜持は穢させないと、見る者すべてへ示すように。
「生意気な女だ」
追い込む立場にあるバドは、余裕の表情で再度拳を打ち込んだ。
それはちょうど水責めの始まったタイミングであり、レスリーの喉から激しく水を逆流させる。
「げほっ、げえぇほっ、うえ゛あはあっ!!!!」
まさに悶絶というべき有様で、レスリーは首から上を暴れさせた。

「……もう、やめてくれよ…………!!」
一人が痛切な声と共に頭を抱える。
その横に立つ兵士もまた、辛そうに目を伏せていた。
ドン、ドンという打撃音が、鳴るたびに彼等若き兵士の肩を震わせる。

レスリーの腹部は、一打ごとに拳を深く受け入れるようになっていた。
各所が赤く窪んだ腹筋は、もはや鎧としての役目を果たさない。
水を注がれるタイミングで殴られれば、混乱と共に多くの水を飲まされ。
布のないタイミングで殴られれば、飲んだ分以上の水を吐瀉物として吐き零す。
レスリーは人形の如く、これら2つの動作を不規則に繰り返していた。意思とはまったく無関係に。
「ごほ、がはっ……!!おおお゛うう゛う゛え、あ゛げええ゛お゛っっ!!!」
かつて誰か一人でも、レスリーのそのような汚い姫を聞いた事があっただろうか。
少なくともマーシャル・アーツの模擬戦においてすら、彼女はそのような声を上げた験しがない。
まさに極限に近づいている人間特有のえづき声に、場はいよいよ騒然となる。
悲喜交々の歓声が上がっていた。
「へへへ、美人ぶりが見る影もねぇな。ゲロやら涙やらでズルズルだぜ」
「ずっと蛙みたいに喘いでるばっかりだしな」
男達はレスリーの顔の布を剥がしながら、獲物が刻一刻と限界に近づく様を愉しんでいる。

またしても、強烈に肉を打つ音が響く。
バドはもはや、目の色すら変えてレスリーの腹筋を叩き続けていた。
「ぐぅっ、ごぼぉっ!!ご、がは……あ゛ぐお゛お゛ぉっ!!!」
レスリーからは絶え間ない悲鳴が上がる。
とうに腹筋は張りを失い、内臓を直に叩かれている状態だ。
地獄のような苦しみだろうが、幾重もの拘束帯を全身に巻かれては身を捩ることすらできない。
「どうだ、苦しいか。苦しかろう、ええッ!
 貴様の腹を叩き潰しているのは、私の腕だ。『鍛錬が足りん』と貴様の言い放った、私の腕だ!!」
バドが肩を入れて放った打撃が、今一度レスリーの腹部に沈み込む。
「がぁああ゛ああ゛っ!!!」
台ごと軋むような衝撃を受け、レスリーの肢体が痙攣する。
そして拳が引き抜かれた瞬間、ズボンの尻の部分がかすかに変色しはじめた。
染みは次第に濃く広がり、台を伝って背中の方へと流れだす。
「ふん、失禁か。あわれなものだな!」
バドは笑みを深めながら、なお打ち込みを続けた。
たっぷりと身を仰け反らせてのテレフォンパンチ。通常では当たるはずのない、最大限に体重を乗せた一打。
それが今だけは、易々とレスリーの腹部を叩き潰す。
拘束台が生命を持ったかのように暴れ回る。
一撃、一撃。また一撃……。
「ご、あがっ!!あがあげっ、ごがっ…………!!っぐ、げぇっ……!!!
 ぐ、ぐるじ……が、ああっ……いぎ、がっ…………むうう゛っ、むげごあぁあ゛っっっ!!!!!」
レスリーはいよいよ危険な声を発しながら悶え狂う。
涙を流し。唾液を零し。空嘔吐を繰り返し。 挙句には口から泡があふれ出す。
ついに意識が途切れたのだろう。
それまで頑なに握り締められていたプレートは、とうとうレスリーの指の間から滑り落ちた。
回転しながら落下するプレートは、キン、と冷たい音を立てて地面に転がる。
「おーお、とうとう落としちまいやが…………」
女軍人の陥落に、水責めを繰り返していた男達が喜びに湧きかけ、そのまま固まる。
その沈黙を破るように、重い打撃音が響き渡った。

「お、おいおい……」
さしもの男達も顔を引き攣らせる。
その視線の先では、無我夢中でレスリーの腹部を殴りつけるバドがいた。
瞳は赤く凹凸の出来たレスリーにしか向いておらず、足元に転がるプレートを意に介していない。
病的な集中力でレスリーの腹部を叩き続けている。
「ごぁああ゛っ……!!?」
哀れなレスリーは、腹部への更なる打撃で無理矢理に覚醒させられた。
そしてまず手にプレートが無いことに驚愕の表情を見せ、
続いて、なおも視界で暴れ狂うバドの拳を見て顔を歪める。
「ま、待って、もう…………!!」
必死に訓練の終了を訴えようとするが、その言葉を言い切る暇は無い。
「いいぞ、柔らかくなってきた……いい女の肉になってきたぞ。心地良い……心地良い!!」
歯止めのきかないバドの拳が、すぐにその腹部を抉りこむからだ。
「あ゛あぁあああ゛っ!!がふっ、げぶっ!!あごろろえげぇえあぁああ゛っっ!!!!」
まさに悲鳴と呼ぶべきものが迸った。
口から夥しい量の水を吐き零しつつ、レスリーは溺死さながらに悶え狂う。
傍観者の誰もが、しばし固まるほどの光景だった。
危険を察した者達がバドを止めに入るまで、追加で10発以上が叩き込まれていた事がその証明だ。

すべてが終わった時、レスリーはその美貌が見る影もなくなっていた。
完全に白目を剥き、半開きの口から泡を噴き、鮮やかな金髪には垂れた吐瀉物が絡み付く。
全体としての表情は溺死の恐怖に引き攣っている。
腹部には余す所無く赤い陥没ができ、何かの事故に巻き込まれたかのような有様だ。
仮にも現役の軍人が何十発も殴ったのだから、当然といえば当然なのだが、
レスリーを信奉する者達にはさぞや衝撃的だろう。
「フウ、フウ…………結局この女も、私のようにWater boardingに耐え抜く事はできなかったな。
 貴様等も証人としてよく憶えておけ。この女は、この程度が限界だった。
 よって今から、腑抜けたこの女の性根を叩き直す事とする。誰も私のテントに近づくなよ」
荒い息を吐きながら、バドは目を輝かせた。
状況はどうあれ、彼はついにレスリーを屈服させたのだ。
レスリーを慕っていた男達が膝から崩れ、バドに従う男達が下卑た笑みでレスリーの拘束を解いていく。
その様は、実に対照的なものだった。


以来、レスリー側だった若き兵士達は耳を塞いで夜を越すようになる。
指を離せば聴こえてくるからだ。

「やめて、もうやめてっ!…………お願い、休ませてよ…………!!」

あの逞しく美しいレスリーが、バドの思うままに弄ばれている様。
狂気じみたスタミナで夜毎犯され、殴られ、苦悶の声と共に果てる様が。
テントの周りは“お零れ”に与らんとするバドの側近達が固めている。
加えてテントの主は『絶対的な』上官だ。
レスリーを慕う兵士に、乱交を止める術はない。
たった一つの命と引き換えにでもしない限り……。



                       終
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苦楽の果てに (フェアリーテイル二次創作)

※フェアリーテイル365-366話にかけての、エルザ全裸拷問を読んで衝動的に。


キョウカは腰に手を添えたまま、囚われのエルザを眺めていた。
冥府の門(タルタロス)の地下。
石壁は苔生し、柱の合間には蜘蛛が巣を張る。
さほど頻繁に使われる訳でもなく、また使われるべきでもない階層の最奥……
二重の錠が護る石牢に、エルザは繋がれていた。

身に纏うものは何もなく、生まれたままの姿を晒している。
服を剥がれた理由は、一つには彼女が鎧を換装して戦う魔導士である事が関係していた。
とはいえ、彼女を繋ぐ拘束具はあらゆる魔法を封じる鉱石でできている。
それを手足に嵌めている以上、魔法の使用を危惧する必要などない。
すなわちこれは建前。
真の理由は、何といってもエルザの羞恥心を煽る事にある。
今からキョウカが行おうとしているのは尋問だ。
尋問において、相手が服を纏っているにも関わらず、自分だけが裸を晒すという状況は耐え難い。
無意識のうちに相手との格差を感じ、屈服しやすくなる。
特に、対象が美しく誇り高い女であればあるほど、劇的な効果が期待できた。

「……これが、妖精女王(ティターニア)か」
獲物の目覚めを待つ間、キョウカは誰にともなく呟く。
最強ギルドである事を改めて世に知らしめた『妖精の尻尾(フェアリーテイル)』の中でも、
さらに頭一つ抜きん出たS級魔導士。
パンデモニウムにて、100の魔物をたった1人で倒しきったその実力を、もはや疑う者はいないだろう。
「なるほど」
エルザの裸体に今一度視線を這わせ、キョウカは続ける。
成熟と若々しさが絶妙に入り混じる肉体だ。
凛然と整った顔立ち。
スカーレット(緋色)の名に恥じぬ、紅蓮のような長い赤髪。
零れるほどによく実った乳房、肉の張りと筋肉の締まりの申し分ない脚線。
妖精女王の名にこれほど相応しい女も他に居まい。
「!」
その妖精女王が、ついに眠りから目覚める。
「目が覚めたかな」
キョウカは間髪を入れず告げた。
相手の意識も定まらぬ内に存在を示し、主導権を握る。些細ではあるが重要だ。
ギシッ、とエルザを拘束する頭上の鎖が軋む。続いて、両足首の鎖も。
「これは……!」
エルザは鎖を軋ませながら、己の置かれた状況を把握しつつあるようだった。
「ようこそ 冥府の門(タルタロス)へ」
淡々とした口調で、相手に現状把握のための材料を与えるキョウカ。
エルザの目を見開く様が滑稽だ。
いかな妖精女王とて、この急転直下の窮地は受け入れ難いらしい。
特に、その原因が意外な人間の裏切りとあれば。
「バカな!!!!元議長が裏切るハズなどっ!!!!」
ギシギシと激しく鎖を揺らすエルザに、キョウカは冷笑を投げかける。
魔法を封じられた魔導士は無力。それが世の理だ。
たとえ、噂に聞くS級魔導士であろうとも。

  
「そなたには聞きたい事がある」
キョウカはエルザの顎を掴みあげながら、静かに告げた。
「ジェラールの居場所だ」
尋問の意図を明らかにした瞬間、エルザの顔色が一変する。蒼白、と言うべきか。
そしてその反応は、キョウカが期待した通りのものでもあった。
「そなた等が親密な関係なのは知っている」
エルザの戸惑いを覗き込むように、キョウカは追求を続ける。
「な…なぜジェラールを?」
顎を引き、敵意を剥き出しにしながら問うエルザ。
しかし、キョウカに答えるつもりはない。
問うのは自分で、相手は答えを返すだけの木偶。その逆は赦さない。

エルザの顎先から離された指が、そのまま彼女の身体を滑る。
「どこにいるか言え」
キョウカはエルザの急所を摘み上げた。
狙うは女の芯。女性器の上端に息づく、小さな肉の芽だ。
「あ あ ぁ あ ぁ !!!」
気丈だったエルザの相好が瞬時に崩れ、苦悶の叫びを上げ始める。
「 あ あ 、 あ …… あ  !!!! 」
ぐっ、ぐっ、とキョウカが指先へ力を込めるたび、悲痛な叫びが石壁に響く。
「此方の“魔”は人の感覚を変化させる。
 そなたの痛覚は今、限界まで敏感になっている」
肉体の現状を知らしめつつ、今一度陰核を捻り上げるキョウカ。
「ふぐ…… ん!!」
エルザは歯を食い縛って悲鳴を堪えるが、波打つ身体が如実に痛みを訴えていた。
激痛が脊髄を駆け上っているのが見て取れる。
陰核を捻り潰されたのだから当然の反応だ。
薄皮の下に無数の神経が張り巡らされた陰核は、人体の中で最も敏感な箇所といえる。
しかし、エルザは理解しているだろうか。
たった今キョウカが明かした事実、“痛覚が極限まで敏感になっている”ということの意味を。
それはすなわち、エルザの皮膚という皮膚……顔に手足、腹部に乳房、そのすべてが陰核と化したも同然なのだと。
「言え」
今一度、キョウカが問う。軽い問いであった。キョウカはこの問いで、エルザが折れることを望んでいない。
「知ら……ない……」
眼に大粒の涙を湛え、唇の端から唾液の線を垂らし、汗に塗れ。
その状態でなお、エルザは毅然とした態度で答える。
これこそがキョウカの望み。エルザに本当の意味で現状を教えるための、最後の条件がクリアされた。

 
キョウカは薄い笑みを浮かべながら、人差し指を変質させて一振りの鞭を形作る。
太さはわずかに女の指ほど。
しかし鞭とは、操り方次第で容易く人間の肉を裂く凶器だ。
こと、皮膚とその直下に対する痛みにかけては人類史上あらゆる武器にも並ぶものはない。
ヒュン、と風を切りながら、キョウカの指先が宙を舞う。
竜の尾が巻くように一度円転させ、その運動エネルギーを余さず乗せて指を振り抜く。

スパァンッ!!

肉の爆ぜる音がした。狭い石牢に、けたたましくその鋭い音が反響した。
しかし余韻には浸れない。
「う あ あ あ ぁ あ あ あ あ ! ! ! ! 」
絶叫。
まさしくそうとしか形容しえない声が、エルザの喉奥から迸る。
鳩尾に一筋走った鞭痕を晒すように仰け反り、髪を振り乱して叫ぶ。
その様は歴戦の戦士ではない、紛れもなく一人のおんなだ。
クス、とキョウカから笑いが零れる。
彼女は今、狂おしい激痛の最中に知っただろう。
己の総身が、先ほど挟み潰された陰核と同質のものになっている事実を。
何があっても秘匿されるべき神経の塊を、無防備にもキョウカに晒している恐怖を。
「ハア、ハア、ハア……ハア、ハア……ハア…ハア…………」
下方の一点を見つめたまま、エルザの視線は凍り付いている。
肺は逆に暴れ狂っているのか、長時間疾走を続けたような荒い息が途切れない。
内股になったその脚には尿さえ伝い、排泄用に設けられた足元の溝へと流れ落ちていく。
ただ一度の笞打ち。されど全身が陰核化された身を打たれれば、ただの一度で失禁に至るのだ。
かの妖精女王(ティターニア)が。

「フェイスの封印を解く為、我々は元評議員を皆殺しにするつもりだった」
喘ぐエルザの耳元へ、キョウカはジェラールを捜す理由を囁きかける。
そして前髪を掴んで無理矢理に顔を上げさせた。
「……うち二人はすでに死んでいた。残る一人は…」
「まさ…か…」
エルザが朧に事実を把握する。その顎を掴み、キョウカは吐息も掛かろうかという距離に詰め寄る。
決定的な事実を告げるために。
「ジェラールが死ねばフェイスの封印が解ける」
「!!」
キョウカの言葉に、再び顔面を蒼白にするエルザ。
ジェラールに想いを寄せていることが、これほど解りやすい反応もない。
「おっと…少し口が滑ったな。これでは知ってても教えられんか」
キョウカは迂闊さを悔いる素振りを見せる。しかしその口調にはあくまで余裕が感じられた。
それもそのはずだ。キョウカには、まだ手の内にカードがある。
 
「知らん!!本当にジェラールの居場所は……」
「こうしよう」
エルザの声を遮り、キョウカはその横顔を覗き込む。
「ジェラールの居場所を言えば、ミラジェーンを返そう」
ミラジェーン。エルザと共に捕らえたギルド仲間だ。
彼女はキョウカの下僕とする為の肉体改造を施すつもりである事を、すでにエルザには伝えてある。
共に死線をくぐり抜けたギルドの仲間同士は、固い絆で結ばれているのが常だ。
特にエルザのような義に厚い人間が、仲間を見捨てる筈はない。
想い人か。ギルドの仲間か。エルザにすれば片方を見殺しにする、究極の選択といえる。
「…………!」
絶句するエルザを、キョウカは背後から静かに見つめる。
そして判断を急くが如く、素早く指先を降り抜いてエルザの尻肉を打ち据えた。
「言わねば……そなたもミラジェーンも死ぬ」
改めて置かれた状態を確認させる。
エルザは身を揺らして苦悶しながら、呻くように口を開いた。
「本当に……知らない…… ……んだ。………頼む…ミラを助けて…くれ」
真に迫った様子で哀願するエルザ。

あるいはエルザは、本当にジェラールの居場所を知らないのかもしれない。
確率は五分五分とキョウカは読んでいた。
一見して竹を割ったような性格に見えるエルザだが、歴戦の猛者である事も事実。
それなりの処世術は身に着けている筈であり、巧妙に白を切り通している可能性は捨てきれない。
しかし実のところ、エルザが情報を知っているのか否かはさして問題ではなかった。
情報を知っているならば、吐くまで甚振り続ければよし。
逆に本当に知らなかったとしても、この冥府の門(タルタロス)に連れ込んだ以上、生かして返す事は有り得ない。
キョウカは生粋の拷問好きだ。
彼女の拷問にかかれば、囚われた者は例外なく惨めな最期を迎える事となる。
エルザが情報を持っていようがいまいが、キョウカがその身をしゃぶれるだけしゃぶり尽くして愉悦に浸る事には変わりない。

「そうか……もう少し此方を楽しませてくれるのか」
キョウカは指先の鞭を引き絞りながら、湧き出る愉悦を噛み殺しつつエルザに告げる。
エルザの顔が恐怖に歪むさまを、この部屋で彼女だけが堪能できた。





「うぐあぁああっ!!」
キョウカの鞭が脇腹に巻きついた瞬間、エルザは天を仰いで絶叫する。
そして視線を虚空へと彷徨わせた後、力なく項垂れた。
気絶。
拷問が始まってから、一体何度目になるだろう。
痛覚が限界まで研ぎ澄まされた身だ。脳が過剰に危険を察し、意識を断ち切ろうとするのも無理はない。
しかし、キョウカは相手が休むことを赦さなかった。
ある時は頬を張り、ある時は赤髪を根元から掴みあげて、気を失うたびに覚醒させている。
「休ませぬぞ」
キョウカはやはりそう呟くと、俯くエルザの眼前で指を引き絞る。
狙う先は、エルザの肉感的な両脚の合間。
男女を問わず、下方からの打撃に耐えるよう作られてはいない場所だ。
キョウカの指が手招きをするように折られ、鞭の先端が風を切る。
ピシィッ、と鋭い音が響き渡った。
「っ!?……ぐぁああぁあああっっ!!!!!」
不意に訪れた衝撃に、エルザは身を捩らせながら悶え狂う。
気絶前は時の経つほどに反応が鈍くなっていたが、寝起きの一撃はやはり鮮度がいい。
「うぅ、うううぅうっ……!!」
閉じた目から涙を流し、内股に膝をすり合わせて苦しむエルザ。
それをさも可笑しそうに眺めながら、キョウカはエルザの背後に回る。
相手の周囲を巡りながら嬲るのがキョウカの常だった。

「痛かったか。では慰めてやろう」
嘲笑いを含む口調で告げながら、キョウカはエルザの脇下へと手を回す。
五指に長い爪を有する手が掴むのは、豊かに揺れる乳房だ。
静かに掌で包み込んだ次の瞬間、痛烈に力を込めて揉み潰す。
エルザの乳肉は容易く変形し、指と指の合間に白い隆起を見せた。
「うぐぐぐ、ぐっ……!!」
当然ながら、エルザからは苦悶の声が上がる。
痛覚を活性化されたエルザの側は、針山を押し付けられているようなものだろう。
「そなたの乳は底無しの柔らかさだな。極上の揉み心地だぞ」
キョウカは獲物の悲鳴に目を細めつつ、ゆったりと乳房を刺激し続ける。
そして存分に堪能した後、とうとう指先は頂にある蕾へと至る。
「気のせいか?ここも、反応しているようだが」
爪先が乳房を掴み、容赦なく引き絞る。
形のいい乳房は一瞬にして三角に尖り、その鋭利さで無理な力の込められ具合を示す。
普通の人間でいうならば、乳頭にピアス穴を開けられ、それを滑車で巻き上げられるに等しい苦痛か。
「いぎぃあああぁぁああっ!!!」
エルザから絶叫が搾り出された。
「いい声だ。耳を通り抜け、此方の心さえ震わせる。
 かの大魔闘演武でさえ、ここまでの叫びは聞けなかった」
キョウカはさらに乳頭の引き絞りを繰り返す。
「あぁあっ、あ……うああああっ!!!!」
その都度、エルザからは絶叫が迸った。全身を覆う脂汗が、さらにじっとりと濃さを増していく。
「そなたの汗は不思議と甘い匂いがするな、妖精女王。部屋中に充満しているぞ」
キョウカは粘ついた声をエルザの耳元に囁きかけ、そのまま鎖骨を舐めた。
「く……!!」
眉根を寄せるエルザ。痛みではなく、望まぬレズビアン行為に対する精神的屈辱からだろう。
エルザ自身にその気が有るにせよ無いにせよ、同性からの愛撫を強要される状況は耐え難い。
キョウカはそれをよく知っている。
 
「あ、あっ、ああ…………!!」
乳房と鎖骨への刺激で、エルザの身体は艶かしく踊る。
その末に内股の力が緩む瞬間を、キョウカは見逃さない。
蛇が木を滑り降りるような素早さで、しなやかな指先が股座へ入り込む。
「ここは小便まみれだ」
指先を浅く女の部分へ沈み込ませながら、キョウカが呟いた。
「よ、よせっ!!」
エルザは目を見開き、反射的に叫ぶ。
「よせ?そなた、誰に口を利いている。今すぐミラジェーンを改造してやっても良いのだぞ」
キョウカが気分を害された様子で凄むと、エルザの顔が驚愕に染まった。
「や、やめて…………くれ」
一転して弱気な哀願となり、秘裂への刺激を拒む。
しかし、相手の弱みを見つけたサディストが手を緩めることなど有り得ない。
キョウカは存分にエルザの秘裂の感触を堪能した後、引き抜いた指を太腿に這わせる。
その指先が次に狙うのは、より一層恥じらいの大きい部分。
尻肉の合間に息づく、排泄の穴だ。
「い゛っ!!!」
指先が入り込んだ瞬間、エルザの喉元から濁った叫びが漏れる。
「ほう、きついな。こちらは未使用か」
キョウカは口端を吊り上げた。
2本の指を重ねてより深くへと送り込み、指が握り潰されるような感触を味わう。
片やエルザは後方へと視線を投げかけたまま、ガチガチと奥歯を鳴らし始めていた。
出す事しか意識したことのない穴へ、異物の挿入を受けるおぞましさ。
それが勇ましい彼女の心に喰い付いている。
「ああぁ、あ……あああっ…………!!」
キョウカはしばし、腸内で指を蠢かしながらエルザの苦悶する様を眺め続けた。
そしてそれに飽きると、再び距離を取って鞭を浴びせる。
「あ あ ァあ あ あ あ っ!!!!」
久しく忘れていた皮膚の痛みに、新鮮な叫び声を上げてのた打ち回るエルザ。
キョウカはクスリと笑みを漏らす。
秘所の粘膜をくじり、辱めるのも一興。
しかしせっかく痛覚を鋭敏にさせている以上は、やはり鞭が一番面白い。
眼からも、耳からも、感触からも、狂おしいまでの痛々しさが伝わってくる。
涙を流し、涎を垂らし、汗を光らせて踊る獲物は滑稽だ。
特にそれが、勇猛で気高い女であればあるほど。
「まだだ、まだ足りぬ。この程度で壊れては、そなたである意味がない。
 そなたの堅強さには期待しているのだ。叫び、悶えて、時を忘れるほどに此方を楽しませてくれ」
エルザの身の至るところへ鞭を浴びせながら、キョウカは告げる。
まるで瞬きをしないその眼は病的であり、底知れぬ嗜虐性を感じさせた。


  
囚われてから、どれだけの時間が経ったのだろう。
エルザの身体は、傷のない箇所を探す方が困難なほどの裂傷に覆われていた。
上腕、下腕、肩口、乳房、脇腹、鳩尾、臀部、腿、足首……あらゆる場所がだ。
鞭が直に舐めた体の前面よりも、巻きつく形で叩きつけられた背面の方が、ことさら傷が深かった。
また、派手な鞭傷が目を引くが、よく目を凝らせば殴打痕と見られる痣や、爪を立てられたと思しき微細な切り傷も存在する。
白い柔肌を覆い尽くすそれらの痕は、エルザがどれだけ執拗に嬲り続けられたかを察するに余りある。

「騒がしいな」
エルザの十数度目の気絶を確認した直後、キョウカは異変に気がついた。
地震が訪れたように石牢が揺れ、地上階の方からは人の騒ぐ声も漏れ聴こえている。
苦しげに項垂れるエルザを一瞥した後、キョウカは口を開いた。
「ヤクドリガ、女を見張っていろ。此方は様子を見てくる」
まるでその呼びかけを心待ちにしていたが如く、石牢上部の天井に影が蠢く。
エルザの肢体に触手の束を垂らしながら現れたのは、異形の魔物だ。
ガマガエルの頭を有し、蟲を思わせる触覚を携え、手足の先は繊毛の生えたヒレ状のもの。
まさに今エルザに触れんとするそのヒレ先からは、微弱な電流さえ確認できる。
「手は出すな」
キョウカは鋭く忠告した。
ヤクドリガと呼ばれた魔物は、その声に反応してビクリと触手を引く。
「此方の拷問の楽しみがなくなる」
冷ややかな視線を投げかけながら釘を刺し、キョウカは石牢を後にした。

石牢の扉へ二重の錠を下ろしながら、キョウカはふと笑う。
「手を出すな……か。無駄な事だろうな」
覗き窓から見えるヤクドリガは、エルザを凝視しながらもキョウカを恐れて控えている。
しかし、それもキョウカの姿が見えるうちだ。
ヤクドリガはさして頭の良い魔物でもなく、またそれ以上に女好きが過ぎる。
特にエルザのような凜とした美女が好みらしい。
その好物と共に石牢へ残せば、いずれ手をつけることは目に見えていた。
むしろキョウカの制止が背徳感を煽り、より倒錯的な行為に走る可能性さえある。
「しかし、痛覚が極限まで高まった状態でアレの相手とは……哀れなものだ。
 戻った時には、果たしてどれほどの無様を晒していることか」
キョウカは後の楽しみに眼を光らせながら、異変を速やかに処理すべく歩を進めた。



 


 (ナツ……ルーシィ…………グレイ)

灰色に淀む脳裏に、ギルド仲間達の面影が浮かぶ。
焚き火を囲むようにして大所帯が集い、一様にエルザの方へ笑顔を見せる。
一度瞬きして目を開けば、その奥にはさらに、ミラジェーンやジェラールの姿も加わっていた。

 (皆、無事なんだな、良かった! すぐに私も、そこに……)

エルザは仲間の下へ歩み寄ろうとする。しかし、前進ができない。
両腕は頭上で一纏めに拘束され、足首は股を開いた状態で固定されている。
そして、次の瞬間。
彼女は腰の辺りから閃光を感じた。
その閃光はすぐに身を震わせる電流となり、彼女の意識を闇から引きずり出す。

「うああっ!!」
叫び声と共に、エルザは意識を取り戻した。
幾度も覚醒のたびに目にした、蝋燭の立ち並ぶ石牢。
仮面をつけた女の姿は見えないが、代わりに、自らの身体に何かが触れている事に気付く。
「なっ……!」
エルザは目を見開いた。
乳房に腰、そして大腿部に、得体の知れないものが張り付いていたからだ。
妙な生臭さを放つそれは、繊毛と吸盤上の皮膚でエルザの肌にぴとりと密着している。
繊毛からは涎のように粘液が分泌されてもおり、エルザのボディラインに沿って床へと滴り落ちていた。
さらには微弱な電流さえ帯びているようで、密着される皮膚はピリピリと痛む。
先ほど感じた電流の正体はこれのようだ。
「ギ、ギ」
触手の根元から奇声が発せられる。
見上げてその異形の頭を確認したエルザは、静かに喉を鳴らした。
魔物としての怖さは感じない。
彼女が100の魔物を屠ったパンデモニウムでいえば、せいぜいがB級モンスターといったところだ。
まともな状態で戦えば、もののついでで斬り捨てられる。
しかし、この状況での遭遇はまるで意味が違った。
今のエルザは手足を拘束され、魔法を封じられている。
挙句には、キョウカの能力で痛覚を極限まで高められている状態だ。
ほとんど村娘に等しい……否、それ以上に無力なこの状態で遭う魔物は、エルザの心臓に最大級の警鐘を打ち鳴らす。
「ギギィ」
エルザのその心境を読み取ったのだろうか。
ヤクドリガは明らかに喜色を浮かべた泣き声を発しながら、エルザの身に触手を巻きつけていく。
そして触手が身体の各部を一回りした段階になると、静かに頬袋を膨らませる。
何らかの攻撃を仕掛ける前兆だ。
エルザは豊富な戦闘経験からそれを感じ取ったが、しかし何ができるわけでもない。
かくしてエルザは、ヤクドリガの攻撃を為すすべなく受ける事となる。
それまでの微電流とは比較にならないほどの、痛烈な電流を。

 
「うぁああぁあぁあああ゛あ゛っ!!!!」
地下の石室に叫び声が響き渡る。
わずか数秒の間隔だけを置いて、もう幾度も立て続けに上がっている悲鳴だ。
「あ゛あぁああああ゛っっ!!!!!」
再び悲鳴が喉から迸るのを、エルザは遠くに感じていた。
地獄の電流拷問だ。
ただでさえつらい電流責めに加え、今は痛覚が過敏になりすぎている。
あまりに痺れが強いため、いつしか皮膚という皮膚が分厚いゴムになったように触感を失っていた。
代わりに、くすぐられるような狂おしいもどかしさが身の内を這い回る。
手足は意思とはまったく無関係に病的な痙攣を繰り返す。
挙句には自律神経さえ一時的に機能しなくなるため、ありとあらゆる体液が垂れ流しの状態だ。
涙に涎、汗、さらには愛液さえもが止め処なく溢れていく。
白目を剥いてもいるようだ。
しかし、止めようがない。
電流が流れる間は醜態を晒し続け、電流の止まるタイミングで脱力して酸素を求め、また醜態を晒すデスマーチ。
「ギギ、ギギギィ」
もはや疑う余地もなく、魔物はエルザを嬲る事を楽しんでいた。
「やぇっ、やぇろ………。……もぉ、やぇえ……くぇ…………」
呂律の回らない口調でエルザがいくら中断を訴えても、応じる気配がない。

それをどれだけ繰り返されたのか、やがてエルザは完全な脱力に至った。
「あ……あぅ………あぅぅう………………あ」
涙の滲む視線は虚空を彷徨い、閉じない口からは涎が垂れ続けている。
筋肉は弛緩しきって張りを失い、脚は内股に折れて、頭上の鎖を支えにかろうじて直立を保っている状態だ。
「ギィイッ」
獲物が完全に無力化する瞬間を待ち望んでいたのだろうか。
ヤクドリガは短く啼くと、いよいよエルザの肉体へと強く纏いつき始める。
それまでは触手だけを絡めていたものが、とうとう胴体さえ密着させ、抱きつくように肌を合わせて。
「……は、離せ!」
エルザは顔を引き攣らせる。その表情は嫌悪ゆえか、あるいは恐怖ゆえか。
いずれにせよ、もはや彼女にヤクドリガを振るい落とせる力はない。何をされてもされるがままだ。
ひた、ひた、と肌に触れていた触手が、とうとう産道の入り口に至っても。
「ギ」
ヤクドリガは一度啼いてエルザの注意を引き、彼女の視界端で触手の一本を収縮させる。
普段はイカやタコのそれを思わせる形状だったものが、収縮させる事で一本の太い枝のように変質していく。
「まさ……か」
それは女の本能だったのだろうか。瞬間的に、エルザは魔物の意図を理解した。
そしてその理解通り、ヤクドリガは陰唇に触れる触手の方も硬く握り込む。
そしてエルザの恐怖を楽しむようにゆっくりと秘裂の表面を撫で回すと、狙いを定めたように押し付ける。
「や、やめっ……!」
エルザが叫んだ時には、既にすべてが遅かった。
ヤクドリガの触手は深々と秘裂に突き刺さり、電流責めで愛液に塗れている内部を滑るように進む。
「ああああぁあっ!!!!」
エルザは叫び声を上げた。
女性器への侵入は、ただでさえ強い痛みや異物感があるものだ。
それに加え、今の彼女は身体中の痛覚が極限まで研ぎ澄まされた状態にある。
硬く太い触手が陰唇を擦る感触、襞の一つ一つに擦れていく感触、膣の拡張に伴って隣接する筋肉が蠢く感触。
それらが膨大な情報となって、焼き鏝を当てるように脳裏に刻み付けられていく。
どぐり、どぐり、どぐりと、血脈のリズムに合わせて、幾度でも。
「うぁあ、ああ……あ…………っ!!」
気絶できればまだ楽だ。しかしこの膣への挿入は、痛みの総量が膨大すぎて気絶すらままならない。
ゆえにエルザは、あくまで意識を保ったまま、己の秘匿すべき部分が蹂躙される痛みに耐えるしかなかった。




数知れぬ絶叫を吸収してきた石壁が、今は艶かしい音を啜っている。
ぬちゃ、にちゃっ、ぬちゅ、ぬちゃっ、にちゃっ……。
脚の合間から漏れるそうした音を、エルザは喘ぎながら耳にしていた。
音の元は、ヤクドリガの触手から滲む粘液か、それともエルザの零す蜜か。
膣の中の異物感は相当に強い。
収縮したとはいえ、ヤクドリガの触手はエルザが作る指の輪ほどの直径を誇る。
それが抜き差しされる苦痛はかなりのものだ。
「う、ああぁっ……!!」
触手の先端が子宮口を叩いた瞬間、エルザは呻きを上げた。
出産経験のない女性の場合、子宮口は硬く閉じており、突かれれば強い痛みを伴う。
痛覚が増幅している今のエルザには、身を揺さぶるほどの衝撃だ。
幾度もゴリゴリと奥を削られれば、涙を零さずにはいられない。
さらに触手は、不意に膣内へ電流を流すこともある。
身の内から痛烈に痺れさせられては、もはや悲鳴さえ上げられない。
「……………………っ!!」
エルザは目を見開き、瞳孔を収縮させて痙攣する。
そして電流が止めば、溺死からかろうじて助かったかのように激しく喘ぐ。
「ギギッ」
ヤクドリガは、そうしたエルザの苦悶を楽しんでいるようだった。
「ぐっ……!!」
エルザは奥歯を噛みしめる。
たかだかBランク程度の魔物に、いいように扱われる恥辱。
『妖精の尻尾(フェアリーテイル)』最強のS級魔導士としての誇りが汚されていくようだ。
否、恥辱だけならばまだいい。
気がかりなのは、同じく囚われている仲間のミラジェーンだ。
助けに行きたいが、動けない。その焦りがエルザの情緒を不安定にし、感じやすくしていく。

そうして延々と苦悶に悶えるうち、やがてエルザは自らの小さな異変に気がついた。
膣奥を貫かれる狂おしい痛みが、10度に1度ほどの割合ではあるが、快感に変わりはじめているのだ。
 (バカな……!)
エルザは身の異変を否定しようとする。しかしその間にも、快感の頻度は増していく。
気付けばいつしか、否定しきれないほど明白な快感が脊髄を駆けていた。
「あっ、あ……あ、あああっ…………あっ!」
喘ぎにさえ甘い響きが含まれていると悟り、エルザは愕然とする。
妙なことではない。
人間の脳は、苦痛のレベルがある一線を超えた時、自衛本能からその苦痛を快楽と誤認させる。
いわゆるランナーズ・ハイと呼ばれる類の現象が、エルザにも起こっているだけだ。
しかし生真面目な彼女は、それを受け入れられない。
 (ありえない……下劣な魔物に嬲られて、快感を得るなど…………!)
歯を食い縛り、頭を振って正気に戻ろうとする。
その気丈さこそ、サディストにとっての責め甲斐であるとも知らずに。



触手に大きく突き上げられ、足の鎖が音を立てる。
足裏が床から浮き上がる瞬間さえあり、その瞬間は触手の突き上げを膣奥の一点で受け止めていることになる。
「くぅあっ……ああぁああっっ!!!!!」
普通であれば即座に失神してもおかしくない激痛が、エルザの脊髄を焼き焦がした。
しかし。今のエルザの脳は、その激痛をも未曾有の快楽にすり替える。
あるいは優れた魔導士として活性化した脳を持つゆえに、苦楽の変換効率も並外れて高いのかもしれない。
「あ……あぁっ…………あは、あっ…………」
エルザの毅然とした瞳が、一瞬精彩を欠く。
強靭な意志の力ですぐに正気に戻りはするが、幾度も秘所を突かれればまた快楽が勝る。
喘ぎ続ける口はいつしか閉じることを忘れ、だらしなく涎を垂らし続けていた。
そこへ、ヤクドリガの触手が近づく。
「よ、せ……」
エルザは反射的にそう呟いた。しかしそれが空しい事であると、彼女自身も理解している。
異形の魔物は、嘲るように触手をエルザの口内に侵入させた。
「ぐっ……ん、むぅっ!…………む、うむうぅっ!」
頬肉を突かれ、舌を掬い上げられ。
触手によって口内を貪られながら、エルザは呻き続ける。
苦味のある粘液が唾液と混ざるたびに、いよいよエルザの頭が霞んでいく。
神経毒か、あるいは催淫効果があるのか。いや、そのどちらであっても、今のエルザには変わりない。
身体中至る所を触手に巻きつかれ、秘裂を穿たれる。その状況から逃れる術などないのだから。
ヤクドリガの触手が、いよいよエルザの尻穴に宛がわれた。
「!!」
エルザは見開いた瞳で後方を振り返るが、それ以上何もできない。
ただ己の排泄の穴へ、キョウカの指よりも太いものが侵入する感触を味わうだけだ。
「むぉあああっ…………!!」
目一杯に括約筋が押し広げられたその瞬間、触手を咥える口から声が漏れた。
直腸を強引に奥までこじ開けられ、蹂躙される。
腸壁自体に神経はないが、腸に連なる筋肉が金切り声で異常を訴えていた。
快便の感覚を数十回分凝縮したようなものだ。数分ともたず、強靭なエルザの足腰が震え始める。

「うむうっ、ああうっ、あぁっ!!ああっ、うあぁああううあっ!!!!」
敏感な三穴を魔物に蹂躙されながら、エルザはただ悶え狂った。
緋色の髪を振り乱し、艶かしい身をうねらせて。
いつ終わるとも知れない快楽地獄は、刻一刻と人の心を絶望に染める。
どれほど甘い菓子であっても、絶え間なく与えられては恐怖しか生まれない。
キョウカに鞭で甚振られていた間のほうが、まだ生きた心地がしていたものだ。

救いの来ない地下牢の中。
あとどれだけの時間、エルザは正気を保てるのだろう。
「あ……あぁうあ………………っあ………………!!」
泥酔したように蕩けた表情で、堪らず吐息を漏らすエルザ。
その痴態は、高貴なる妖精女王の、そう遠からぬ陥落を仄めかしていた……。


                         終
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闇に揺れる鈴(後編)

※前編にも書いたとおり、過去最大のハードなスカトロ(排便・嘔吐・食糞)注意



月日の流れとは早いもので、『朱山楼』から雪への初上納の日が巡ってくる。
上納金を持参したのは、玉という娼妓だ。
まだ見習いも同然の遊女であり、かつては鈴によく懐いていた娘でもある。
『金極園』の門に近づくにつれ、玉の鼓動は早まった。
雪による、鈴への様々な仕打ちの噂は、花街にいる限り常に耳に入ってくる。
大見世の娼妓とは思えぬほど安い値で売り叩かれ、日々様々な客の相手をさせられていること。
言いがかりに等しい些細な理由で、遊女に対する多様な折檻を受けていること。
やぶ蚊責め、水責め、いぶし責め、針責め、胡坐縛り、駿河問い、ぶりぶり……。
公然へ晒すやり方でそれらを繰り返され、けれども鈴はついに屈しない。
その強情さに雪が癇癪を起こし、さらなる責めを与える。
そうした一連の流れが、加虐嗜好のある客を中心に人気を博していると聞く。
玉にとって愉快な話ではなかった。
『金極園』の看板がかかった門をくぐれば、きっと自分は、鈴が虐げられている様をじかに目にするのだろう。
そう思えば足取りは自然と重くなる。
けれども、上納の仕事を玉自身が進んで引き受けた事も事実。
心苦しくもあるが、鈴の現状を確かめたいという気持ちの方が勝っていた。

『金極園』の門を護る妓夫二人は、意味深な笑みを見せながら玉を通す。
その瞬間、玉は悪寒に苛まれた。
使いとして来た事を後悔しはじめ、用を済ませて早々に去ろうと廓内を進む。
しかしその最中、彼女は耳にしてしまった。
和室の一室。その襖の合間から、かすかに女の声が漏れている。
聴こえたのはほんの僅か。
しかし、玉の脳はしっかりと理解してしまっていた。その声が、彼女の憧れる鈴のものであると。
「ようやくいい声がではじめたねぇ……ねぇ?ほぅら」
意地の悪そうな別の声が続き、玉の心をざわつかせる。
気付けば玉は、無意識の内に襖に身を寄せていた。
ほんの僅かに空いた隙間から、部屋の中を窺う。

かくして、そこには数人の女の姿があった。
胡坐を掻くような格好で縛られた裸体の女を、数人の遊女が囲んでいる。
裸体の方は顔こそ見えなかったが、その流麗な身体つきといい、癖のない黒髪といい、確かな覚えがある。
 (鈴さんだ)
玉は喉を鳴らした。緊張か、恐れか、怒りからかは解らない。
部屋内の遊女達は一様に、縛られた鈴の秘裂を覗き込んでいる。
鈴の正面に座する女は、鈴の脚の間へ指を差し込んでいるようだ。
しかし、妙だった。
「ぁ、ああ……あぁあ゛っ…………!!」
遊女が指を動かす仕草を見せるたび、鈴は何とも切なそうな呻きを漏らすのだ。
まるきりの生娘ならばそれも解る。
しかし、鈴ほど場数を踏んだ娼妓が、秘所を弄られただけで呻くとは考えづらい。
 (鈴さん、きっと、他に何かされてるんだ!)
玉がそう考えた時だ。
まるでその心の声に答えるかの如く、遊女の一人が口を開いた。
「“ここ”をグリグリされると、膣越しでさえおサネの根っこに響いて善くなっちまうもんねぇ。
 これだけ直にやられりゃ、慎ましい華族のお嬢様でも声を抑えきれないかい」
遊女は確かにそう言った。
その言葉の意味を、玉は考える。
「……鈴は、どこを弄くられてるのか解るかい」
背後からやおら声が掛けられたのは、その時だ。
「ひっ!」
玉は弾かれるようにして振り向いた。そこには、歪んだ笑みを湛えた雪がいる。
毒々しい紅色の唇が蠢き、ある言葉を紡いだ。
「 小便の孔さ 」
雪の発したその言葉を、玉はすぐには理解できない。
しかし一文字ずつ脳裏に思い浮かべ、繋ぎ合わせて、驚愕に目を見開く。
「……なっ…………!」
その初々しい反応が愉しいのだろうか。
雪は笑みを深めながら、玉の顔を再び障子へと向けさせた。
そこでは相も変わらず、縛られた鈴と、その秘所へ指をくじ入れる意地の悪い遊女がいる。
しかし、今は見え方が違う。

「ううっ、うぁあ゛っ……!!」
遊女が指を蠢かすたび、眉根を寄せて苦しむ鈴。
そこに渦巻く苦痛たるや、玉の想像を絶するものだ。
「最初はただの遊びだったんだけどねぇ。鈴の奴があんまり強情だから、あの子達も張り切っちまってさ」
雪の言葉が、玉の痺れた脳裏に上書きされる。
視界の中の遊女達は笑っていた。
呻き苦しむ鈴を眺めながら、各々の手に筆を持ち、鈴の秘所……おそらくはその陰核を撫で回す。
秘所に触れる一人は、時おり指を引き抜き、壷の中身を掬い取って指に絡める。
「ほぅら、また薬を塗りこめてやるよ。小便の孔からだ、よく身に回るだろう」
「はは、どうしたんだい。腰がまた痙攣し始めてるよ、いやらしいねぇ。おサネもこーんなに硬く膨れちまってさぁ」
「いいさ、どんどん濡らしな。堪らなく濡れきったところで、また気を失うまで輪姦させてやるよ!」
言葉責めを繰り返しながら、妖しく嗤う遊女達。
それらの情報の一つ一つが、玉を心の底から震えさせた。
 (す、鈴さん……鈴、姐さん…………!)
一体いつから、そのような責めが続いているのだろう。
一体いつまで、そのような責めが続けられるのだろう。
玉は雪に肩を抱かれ、別の座敷へと通されながら、ただ呆然と床の木目を眺めるばかりだった。





「お前も、つくづく強情だねえ……鈴」
雪が溜め息をつきながら、足元の鈴を見下ろす。
鈴は芯の強そうな瞳で雪を睨み上げていた。
その身体には無数の責め痕が見られる。
肌の随所に残る、笞打ちの痕跡。蝋の欠片と皮膚の火傷。あげく乳房には、幾本ものマチ針が刺し通されてさえいる。
そうした数々の責め苦も、鈴には僅かな怯えさえ浮かばせる事ができない。
雪にしてみれば、それが大層腹立たしい様子だった。
「お家の仇に頭は下げられないってかい?
 それとも、『朱山楼』の一番娼妓として服従できないのかねぇ。
 ……まぁいい。あくまで頑張り通すってんなら、こっちも折れるまで責めるまでさ」
雪はそう語りつつ、傍らの遊女から桐箱を受け取る。
そしてそれを逆さに向け、中身の数々を畳の上に散乱させた。
「うわっ……」
その瞬間、周りで動向を窺っていた『金極園』の遊女達から声が上がる。
無理からぬ事だ。
先細りになった硝子製の筒、妙に滑らかな質感の黒い管、金属製の張型……。
桐箱の中から姿を現したのは、およそ彼女達に馴染みのない、しかし見るからに物々しい責め具であったのだから。
「っ…………!」
それを目の当たりにし、さすがの鈴も表情を強張らせる。
雪はおかしそうに含み笑いを漏らした。
「お前の為に、西洋の商人から色々と仕入れたんだ。一つ残らず、全部お前の身体で試してやるからね」
脅すようにそう宣告する雪だが、鈴が折れる事はない。
「好きにするといいわ」
もっとも雪の嫌う、令嬢然とした毅然たる態度でそう答える。
「そうかい」
雪は一瞬眉根を寄せたが、すぐに嗜虐心の満ち溢れた笑みで道具の一つを掴んだ。
銀色に光る、烏口のついた器具……肛門鏡だ。
その取っ手の部分を握り込み、カチカチと烏口を開閉しながら鈴の鼻先へと近づける。
「お前にはこれから、今まで以上の恥辱を味わわせてやるよ」
一筋の汗を垂らす鈴の前で、今一度烏口が音を立てた。


「く、ぅうっ……!!」
鈴の唇から小さな呻きが漏れる。
彼女の可憐な菊輪は今、冷ややかな烏口によって強引に押し開かれていた。
妙なぬめりのある液が塗布されているとはいえ、楽な拡張ではない。
その証に、鈴の額には早くもうっすらと汗が滲んでいた。
しかし、恥辱はその後に始まる。
「さぁ、奥まで入ったよ。皆とくと見な。ご開帳だ!」
雪がその言葉と共に、烏口を押し開いていく。
烏口の直径と共に晒されていくのは、鈴の腸内の内容物だ。
清廉な鈴の見目とは裏腹に、そこには人間誰しもが持つ汚物が山となって堆積している。
「うわっ!」
遊女達が、ある者は顔を顰め、ある者はおかしくて堪らないという様子で嗤う。
雪は目一杯に烏口を開くと、側方のネジを締めて開きを固定する。
この行為により、鈴の腸内は常時、場の人間の視線に晒される事となった。
「くっ、こんな……!!」
鈴は羞恥を隠しきれない様子で、早くも頬を紅潮させていく。雪の求めるままに。

「いいザマだねぇ、鈴。似合いだよ。
 ここ五日ばかり厠に行く赦しを出さなかったせいで、たっぷりと糞が溜まってるじゃないか」
雪はさらに言葉責めを加え、足元から一本の責め具を拾い上げる。
金属で出来た細い張型だ。
木製のものと比べ、いかにも無機質で『責め具』という印象が強い。
雪はそれを烏口の広げる隙間へ差し込み、奥まりで大きく円を描いて見せた。
ぬちゅ、ぬくちゅ。
言葉の途切れた和室内に、その粘ついた音が響き渡る。
他の可能性を考える余地もない。それは、あの鈴の腸内で排泄物がこね回されている音だ。
鈴の顔がいよいよ強張り、頬の赤みが増した。
雪はその様を存分に楽しみながら、ゆっくりと張型を引き抜く。
当然の事ながら、そこにはべっとりと糞便が付着している。
カリ首を模した部分、裏筋を模した部分の凹凸一つ一つを埋めるように。側面に茶色い筋を描くように。
「そら、どうだい鈴。自分の糞の匂いは」
雪という女はどこまで性根が歪んでいるのだろうか。
彼女は嬉々として糞便塗れの張型を掲げ、鈴の鼻先へと突きつける。
「い、いやッ!」
たまらず鈴が顔を背けても、それを追って執拗に。
『金極園』の遊女の中でもまだまともな精神を持っている者は、この時点で口を押さえて去った。
場に残ったのは、このような汚辱の責めすらも娯楽として受け入れてしまうような、異端の者ばかりだ。
それでも悠に十人以上はいるのが、流石というところだろう。

「さてと。お前にここまで糞が溜まってるって事が、白日の下に晒されたんだ。
 となりゃ、その中身を綺麗にしないとねぇ」
雪は白々しくそう言いながら、遊女に指示を与えて新たな準備を進めていく。
まず水をなみなみと湛えた桶が用意され、その中に透明な液体が注ぎ込まれる。
次いで、ある道具がその中に浸された。中ほどに風船がついた管……異国ではエネマシリンジと呼ばれるものだ。
そして最後に、鈴の姿勢が整えられる。
後ろ手縛りはそのままに、膝立ちの姿勢へ。その肩を数人の遊女が支え、倒れこまないよう固定する。
「よぅし。お膳立ては整ったね」
雪は静かに桶の横に屈みこみ、管を拾い上げた。
そしてその管の片端を水に浸したまま、もう片端を鈴の肛門内へと侵入させる。
令嬢の蕾が異物を呑み込んでいく様を、何十もの瞳が見守る。
管をかなりの深くまで押し込んだ後、ついに雪の左手が風船部分に掛かった。
道具の仕組みを理解しない者でも、それが責めの始まりである事を悟っただろう。
「果たしてお嬢様は、この未知の苦痛にどこまで耐えられるかねぇ」
雪は挑発的な目で鈴を見上げ、風船を握りこむ。
「ひっ!」
瞬間、鈴の目が見開かれた。
彼女の腸内には、管に吸い上げられた冷ややかな水が感じられただろう。
それと同時に、聡明な彼女は気付いたはずだ。一度では済まず、何度でも水を注ぎ込まれると。
本来出すだけの穴に、液体を注ぎ込まれる。
確かにその違和感たるや尋常ではなく、鈴はえも言われぬ恐怖に、ただ唇を引き結んだ。


「うわぁ凄い……どれだけ入ってるの、あれ?」
「尋常じゃないよね。する方も、される方も……」
遊女達が部屋の隅で囁き合う。
その視界の先には、まるで妊婦のように下腹部の膨れ上がった鈴がいた。
すでに六つの桶が、中身を注ぎ終えて積み重ねられている。
今は七つ目が雪の手で吸い上げられている最中だが、鈴は耐え忍んでいた。
無論、涼しい顔で、ではない。
額といい背中といい、夥しい汗を掻いている。
息遣いの荒さも尋常ではなく、一拍の間すら置かずにはぁはぁと喘ぎ続けている。
腹部からもやはり絶え間なく『腹下しの音』が鳴っている。
しかし、彼女の瞳だけはなお爛々と輝き、憎き雪を睨み据えていた。

「ちぃっ、しぶといね!」
七つ目の桶も半ば以上が入っただろうか。雪が小さく舌打ちした。
とうとう鈴の腸内容量も限界に達したのか、どれほど風船部分を握りこんでも、もう入っていく気配がない。
雪は桶を脇にどけ、遊女達に指示を飛ばした。
それはまるで鬼畜の所業。
腹の膨れ上がった鈴を数人がかりで抱え上げ、高く吊るし上げたのだ。
両膝の上部分、および後ろ手に縛った縄へとそれぞれ縄を通し、部屋の梁に結びつける。
これにより鈴は、大きく脚を開いたまま宙吊りになるという恥辱を晒すこととなる。
「あははっ、こりゃ傑作だよ!」
「恥ずかしい格好だねぇ、『朱山楼』の鈴!」
心ない遊女達からはすかさず罵声が飛んだ。
しかし、鈴はそれに反応しない。いや、できないと言うべきか。
「はぁ、はぁっ……っう、ううっ……あ、はぁっ、はっ、はっ…………!!」
鈴は全身から脂汗を垂らし、俯きながら荒い息を吐くばかりだった。
すでに便意は極限まで高まっているはずだが、それに加えて吊るされる姿勢は腹部への圧迫が凄まじい。
その状態での排便我慢は、なるほど他に気を回す余裕などないだろう。

雪はそんな鈴の有様を、しばし他の遊女に混じって眺めていた。
だが何か心境の変化があったのか、鈴の足元に巨大な桶を用意させる。
そして自身も鈴の背後に立ち、やおら桜色の蕾へと指を伸ばした。
便意を堪えるべく健気な開閉を繰り返す蕾へと。
肛門を覆い隠すように添えられた雪の掌。
そこから、くい、と人差し指が曲げられ、肛門の入り口に沈み込む。
「ぐっ!!!」
鈴に激しい反応があった。
はっきり聴き取れる呻きを上げ、足全体が強張る。
身体が揺れ、縛めの縄がギシギシと音を立てる。
それは、どれほど鈴が追い込まれた状態にいるのかを解りやすく示していた。
「ほら、もう限界なんだろう。はやく楽におなりよ。
 お前が糞をひりだす所を、この場にいる皆で見てやるからさ。
 どれだけ高貴ぶってても、腹の中にはアタシらと同じモンが詰まってるって事を教えておくれ」
雪は手も足も出ない獲物を嬲りながら、卑劣そうに嗤う。
そう、それは勝ち目のない戦いだ。
どれほどの精神力を持っていても、どれほど誇り高くとも、生理現象を消すことなどできない。
「あ、あ……ぁあ、……あっ!!」
雪の指先が肛門の皺を伸ばすたび、鈴は苦しんだ。
足の指が幾度も内に曲げられ、その度に身体全体が縄を軋ませる。
脳を焼き焦がすほどの排泄欲の波が、幾度も鈴の身を苛んでいる事は明らかだった。
鈴はその波を何十度乗り越えただろう。
しかし耐えるたびに大きく揺り返す排泄欲は、いつか彼女の身の丈を越す大波となる。
限界は訪れる。
「も、もう…………め゛っ、みな…………っで………………!」
鈴にしては珍しく、聞き取りづらい声だった。
呼吸を止めながら発したような、切れ切れの小声。
しかし場の誰もが、その言葉を認識していた。鈴の限界を見て取った。
「とうとう来たようだね。そら、出すんだよ!」
雪は嬉々として肛門から指を引き抜き、平手で鈴の尻肉を張る。
その平手打ちを切っ掛けとしたように、ついに決壊の時が訪れた。

「いやぁあああっっ!!!!」

思い返せば、それはとても、とても澄んだ悲鳴だった。
しかしそれと同時に始まった惨劇が、悲鳴の美しさの印象を塗り潰す。
丸五日以上に渡って溜め込まれた糞便と、桶七杯分にも達しようという薬液。
それがあふれ出す様は圧巻だった。
桜色の慎ましい蕾が開ききり、茶色く濁りきった汚液を噴出させる。
汚液は真下に置かれた桶に叩きつけられ、水圧で桶を水平に円転させながら溜まっていく。
ぶぶっ、ぶぱぱ、ぶばっ……。音にすればそのような品のない音が続く。
そして、紛れもなく汚物が排出されているのだと認識させる、強烈な悪臭。
「ひぃ、くさいくさい!華族のお嬢様っても、腸の中身はアタシらと変わんないね!」
「あはっ、すっごい量!桶がもう溢れちゃってるよ」
「いいザマねぇ。あの鈴ってのに怨みはないけど、どこかお高く止まってるのが気に喰わなかったんだよ」
「あたしもだよ。廓に新しく入ってきても、顔がいいってだけで簡単に得意客を掴んじちまってさ。
 挙句こっちが風邪なんかで弱ってたら、いかにも善人ぶって看病なんかしたりして。
 いつか糞でもひり出させてやりたいと思ってたから、念願叶ったりだよ。『金極園』様々だね」
遊女達は口々に鈴を詰った。
十人以上の同業者の前で、排泄を晒す。
その最大級の恥辱を受ける中での罵詈雑言は、鈴の心をどれだけ深く抉るだろう。

排泄が一通り終わった後も、鈴は顔を上げなかった。
ただ前髪から汗を垂らし、荒い息を吐いて俯いているばかりだ。
「気分はどうだい、鈴」
雪が鈴の前髪を掴み、無理矢理に顔を上げさせる。
しかし、鈴の瞳を覗きこんだ雪は表情を強張らせた。
鈴の瞳は、濃厚な疲弊を窺わせながらも、なお凜として雪を見つめている。
「なんとも……ないわ」
このような恥辱では屈しない。あくまでそう訴えるように。
「……何なんだい、お前は……?
 あれだけ苦しんで、あれだけ恥を晒しておきながら、責め終わりにはいつもその目だ!」
雪は喉から搾り出すような声で呻く。
歪んだ瞳の形は、鈴からの軽蔑の視線に身を焼かれているかのようだ。
しかし。雪は、それで心を変えるような女ではない。
そんな正気が残っているのであれば、そもそもにしてこのような悲劇は起こっていない。
「…………上等だよ。なら、もっと容赦なく責め抜くまでさ。
 これからも、嫌というぐらい糞をぶちまけさせて、それを皆で見てやる。
 それだけじゃない。糞の穴だけを犯されて果てるようになるまで、徹底的に開発してやる。
 女としてこれ以上ない屈辱を、思いついた端から実行させるよ。どんな事でもだ。
 お前という人間の真っ当さが、完全に壊れるのも時間の問題さ。
 その安い矜持が、極限の羞恥の中でどれだけ耐え切れるか……見せてご覧よ、鈴ッ!」
雪は吼えるように宣告した。
その瞳に宿る闇は、泥沼のように深い。
「いくらやっても、同じことよ!」
鈴は気丈な答えを返しながらも、頬を流れる新たな汗を止められない。
『金極園』に属する百戦錬磨の遊女達さえ、今後の責めの深さと執拗さを思って喉を鳴らした。





『金極園』の客入りは、ある時期から目を見張るほどに増えていた。
しかしその大半は、遊女と愉しむ事が目的の客ではない。
宴会用の大広間で毎夜行われる、様々な催しを見るために来ているのだ。
無論、それを鑑賞するためには遊女を一人買う必要がある。
大広間の任意の場所で、遊女を抱く。
そうして愉しみながら、広間中央での催しを眺めて勃起し、それをまた遊女で『処理』する。
これが、今の『金極園』流行りの遊び方だった。
催しの中身はいつも同じ、鈴という娼妓への折檻じみた責めだ。
しかし、この太夫にも匹敵する娼妓を一目見るため、連日客が殺到している。

今日もまた、多くの遊女に客がついて広間は人でひしめいていた。
わずかに隙間の空いた中央部分では、鈴があられもない格好を晒している。
肛門が真上を向く格好だ。
倒立した状態で、腰から折れるように足を下ろし、肩につける。その格好で緊縛されている。
鈴の傍らには数人の遊女がおり、各々の指で鈴の肛門を開いてみせていた。
当然そこが見物であるからだが、なるほど鈴の肛門には変化が見られる。
普段慎ましく閉じている鈴の肛門が、今は異様なほどに赤らみ、喘ぐような開閉を繰り返している。
時には火山のように隆起するそこからは、得体の知れない透明な汁が伝っていた。
見るからにつらそうなその状態を、遊女達はただ見世物にする。
そして飽きるほどの時間が過ぎたところで、手元にある壷の中へ筆を差し入れた。
壷の中には、どろりとした固形物も見える白い液体。
「ほら、もう一回塗ってあげるよぉ」
一人が謳うような声で囁き、充分に白い液をつけた筆を持ち上げる。
そして絵を描くかのごとく、丹念に鈴の肛門へと液体を塗りつけていく。
すっかり肉厚になった菊輪の、かつて皺を成していた一本一本へ。さらにはその内部へ。
「ぐぅうううっ!」
ここで、鈴の苦しそうな声が漏れた。
奥歯までをしかと噛みしめて耐えていた声が、ついに我慢ならなくなったらしい。
遊女達が嗤い声を上げた。
「あはは、苦しんでる苦しんでる。山芋の痒み責めには、さすがのあんたも参るようね」
恐ろしい言葉が掛けられる。
そう。鈴の肛門に塗られているのは、山芋をすりおろした汁だ。

「苦しそうだな」
客の一人が、自らの組み敷く遊女に語りかけた。
すでに老境に入ろうという男だが、鈴を見ている間だけは盛んになる。
「痒いなんてもんじゃなく、熱いって感覚だそうですよ。
 あの女は今夜一杯地獄を味わう予定ですけど、こちらはのんびりと愉しみましょう」
遊女は男に猫なで声を出しながら答えた。
「ふふ、のんびりと……か。君も性格が悪い」
男はそう呟きながらも、面白そうに苦しむ鈴を眺め始める。

鈴は引き続き、気の狂いそうな痒みの中で生殺しを受けていた。
遊女達は散々に筆で汁を塗りつけた後は、ほとんど刺激を与えない。
ただ肛門を指で開いて晒すか、あるいは息を噴きかけて焦らすばかり。
「い、いぎア゛っ…………がっ、がゆっ…………がゆい、が、がぎ……!
 いぃぎぃ、いっ…………!……は、ひ、ひひ、ひぃい……ィああ、ふうむぃ゛っっ…………!!!」
鈴は歯を食い縛って狂おしい痒みに耐える。肛門からは透明な液体が滲む。
肛門からは、時おり放屁のようなものが起きる事もあり、その時などは鬼の首を取ったように場が沸いた。
「う、く……ぅうううっ…………!!」
そうすれば鈴の極上の恥じらいが見られると、場の誰もが理解しているのだ。

どれほどの時間、その生殺しが続いたのか。
客が酒を呑み始め、一様に赤ら顔になり、遊女との交わりも一段落した頃だ。
ついに、遊女達が鈴を新たな地獄へと引きずり込む。
ひくつく肛門に指をかけ、弾くように掻いたのだ。
「ぐむぅううああっう゛っっ!!」
鈴から妙な声が漏れた。
直に聞けば、その声が多分に喜悦を含んでいることに気付くだろう。
極限の痒みに苛まれながら、焦らしに焦らされ、焦らされ、焦らされて、ようやくに齎された一掻き。
思わず涙すら零れるほどの快感だろう。
長い焦らしを見続けてきた客達には、その悦びが手に取るように伝わった。
酒が進む。

「ほぅら、いい声だ、いい声だぁ!」
相手の弱点を見抜いた遊女達は、いよいよ容赦なく鈴の肛門を掻き始める。
一掻き、一掻き、また一掻き。
鈴に与える快感を最大にするが如く、丹念に。
結果として、それは劇的な効果を齎した。
受ける鈴は、緊縛した身を恐ろしいほど悶えさせ、喉が潰れるかと思える絶叫を繰り返す。
「あ゛ぁっ、ああはぁああ゛っ、あふぅお゛っ!!あああは、う、う、うあぅああ!!
 あかっ、ぇあっ!!ぁ、あぁ、あううーあ、ふむぁうやあぁぁあ゛っ!!!」
はじめは悦びが声の形を為したような甘い叫び。
そしてそれがしばし続いた後、絶叫の種類が変わる。
「ひぃいっ、きゃあぁあっ!!!!ぎゃああぁあ゛、いあ゛っ、……きゃあぁあぁあああ゛っ!!!!」
まさしく絶叫。
まるで笞打ちを受けているかのような、絹を引き裂くような絶叫。
見守る男達は、その凄みに心臓を高打たせながらも目を丸くする。
「す、凄い反応だな」
一人の客が、抱きつく遊女に囁いた。
遊女は笑みを浮かべた後、訳知り顔で口を開く。
「山芋って、あたしら遊女への折檻にも使われるような代物ですからね。
 痒くなるのも確かに厄介ですけど、一番怖いのは、堪らず掻き毟っちゃった後なんです。
 蚊に刺された時と同じで、掻くと余計に痒さがひどくなっちゃう。
 そのうち痺れるような痛みになって、痒いし、気持ちいいし、痛いし、熱いし……訳がわからなくなるらしいです。
 一晩で狂っちゃう妓もいるんですよ。ま、あの女は大丈夫でしょうけど」
遊女が解説する間にも、鈴の絶叫は続いていた。
「あぁあ゛あ、あ゛っあいあ゛ぁあ、ぎゃあああ゛っ!!やべで、やめ゛っ……わぁ゛ぁあ、あッあぁぁあああ゛!!!!!」
指で掻いていた間も凄まじかったが、凹凸のついた責め具を尻穴に抜き差しされるようになって以降、悲惨さはさらに増した。
身体中を痙攣させ、尻穴からは下劣な放屁音と共に小さな泡を吹き出す。
しかし、表情はそれらの悶え様と釣り合っていない。
苦しみというより、極限の歓喜。
見開いた瞳から大粒の涙を零し、開いた口からだらしなく舌をはみ出させる表情は、『喜悦』の言葉こそ相応しい。
ゆえに客は、安心してその狂乱を見届けられる。
ズグッ、ズグッ、ズグッ、と音さえするような責め具の抽迭が、真上から叩き下ろされる。
その責めの果てに、とうとう鈴の秘裂からは愛液があふれ始めていた。
肛門を真上に向ける格好を取る限り、その様は隠しようもなく一方向の人間へと晒され続ける。
「あははっ!見てあの女、尻の穴で感じてるわ!!」
天真爛漫という類の遊女が高らかに叫び、それを火種に場は大いに盛り上がった。
酔い、踊り、謳い。
鈴ただ一人を除き、広間の人間は大いに満たされて眠りについたという。





今宵も、鈴は見世物になる。
「ほら、とっとと歩きなよぉ」
遊女の一人が、手に持った笞で鈴の尻を打ち据える。
「ふむぅっ!!」
十字傷の夥しい尻にまた紅い線を増やされ、鈴は切ない呻きを上げた。
笞に追われるように歩を進める。
しかしそうすると、今度は股下の縄が彼女を責め立てる。
ちょうど陰核へ触れるように瘤の作られた縄は、通り過ぎる鈴の肉体に痺れを齎した。
広間へ対角に張られた縄の上を、もう幾度往復していることだろう。
今や縄は、その随所から鈴の愛液が滴っている。
「あ、あっ……う、は……ぁっ…………」
厳しく亀甲縛りを受けた身で、悶えながら縄を歩む鈴。

実は彼女を苦しめているのは、縄だけではない。
秘裂に縄を食い込ませながら歩む鈴。それをよく観察すれば、腹部から時おり音が漏れることに気付くはずだ。
そのたび、鈴がつらそうに片目を細める事にも。
鈴はそれを繰り返し、縄を七分ほど進んだところで、再び足を止めた。
「休むなって言ってるだろう!」
遊女がすかさず笞を浴びせるが、今度は進まない。
「ぐぅっ!」
小さく呻いたきり、鈴は静かに前方を眺めはじめた。
瞳には強い力があるが、どこかに焦点を結んでいる訳ではない。
その眼をする時、鈴は必ず忍耐の限界を迎えているのだ。
見守る遊女も、客も、すでにそれを見抜いていた。
「も……もう、我慢…………できないわ」
鈴は喘ぐようにそう言った。
脂汗がいよいよ身体中に滲み、縛られた手が忙しなく握り締められる。
遊女達は、ちらりと柱に寄りかかる雪を見やる。
「そこで出されちゃ堪らないよ。させてやんな」
雪は見下すような視線を寄越しながら告げた。
その言葉を受け、遊女達は鈴の片脚を持ち上げた。
そして縄を乗り越えさせて部屋の隅へと鈴を運び、そのまま崩れ落ちそうになる身体を中腰で支える。
同時に、脚の下には手馴れた様子で盥が置かれた。
「さぁ、鈴。ひり出してもいいよ。……ただし、“いつものように”だ。解ってるね」
遊女の一人が鈴に囁き、軽く肩を叩いて手を離す。
鈴は一瞬ぐらついたが、膝を開くことでかろうじて中腰の姿勢を保った。
その表情は思いつめたものだ。それは、今からする行為がどれほどつらいのかを如実に表している。
逆に客達は、嬉々として鈴の様子に見入っていた。
「く……く、ぅううっ!!」
やがて、鈴の身体が震えて本当の限界が訪れる。
鈴はそこで一層腰を落とし、盥と肛門を頭二つ分ほどに近づけた。
そして、大きく息を吸う。

「コケーッ、コーッ、コッコッコ……!!」

それは、鈴を知る者からすれば目を疑うほどに滑稽な情景だった。
あろうことか鈴は、鶏の鳴き真似をしながら盥へと排泄を始めたのだ。
排泄、とはいえ便ではない。すでにそうしたものは浣腸で出しきっている。
代わりに彼女の肛門から産み落とされるものは、鶏卵大の真鍮珠だった。
それが実に六個、鈴の腸内から姿を現す。
同時に水気も肛門から噴出しているが、こちらは排泄欲を刺激するための薬液だ。
先ほど綱渡りの最中に腹部が鳴っていた原因は、この強力な薬液による蠕動運動に他ならない。

「コッコッコ、コケーッ!コケーッ、コッコッコ…………ケッ、コケーッ、ケー……ッ!!!」

鈴はこの排便の間ずっと、鶏の鳴き真似をする事になっていた。
今は悪いことに、真鍮球の幾つかが互いの排出を邪魔しあい、直腸の半ばで詰まっているらしい。
どれほどに息んでも、なかなか滑り落ちる様子がない。
鈴はそれを出し切るまで延々と無様な鳴き真似を続けるしかなかった。
あれほどに誇り高い娘だ。それは耐え難いらしく、硬く閉じた瞳からボロボロと大粒の涙を零している。
しかし客や遊女達は、その恥辱に震える鈴がおかしくて堪らない様子だ。
「はははは、これは傑作だ!これは傑作だぞ!!
 最初に目にした時は、笑い者にしてよいものかと躊躇するほど良い妓だったのだがな。
 それがこれほど滑稽な真似をするまでに成り果てたとは、笑いが止まらんわ!」
「全くだ。別嬪が恥ずかしくて泣く様は、これ以上ない酒の肴よ!」
「ほれほれ、そうひしっと目を閉じんで、開けて見せてみぃ。お前の瞳はそそるからのォ」
遊女と客達は各々に言葉で鈴を辱め、その様子を嘲笑った。

排泄が完全に終われば、鈴はその後孔を客達に奉げる事となる。
連日の調教に加え、この恥辱の排泄を経た後は、鈴の肛門性感は敏感だ。
その状態で排便よろしく丁寧に肛門性交を繰り返せば、やがて鈴は乱れ始める。
嫌だ、嫌だと泣きながら、腿から下を痙攣させて深い絶頂へと入っていくのだ。
雪はそれを、ここ数日続けさせていた。
身の垢が落ちる時のように、少しずつ少しずつ、鈴の絶対性が剥がれていくのを期待しながら。





「まったく、夢みてぇだなぁ。あの鈴子お嬢様を犯せる日が来るなんてよ。
 それも、おれの大好きな尻の穴だ」
薄汚い男が、鈴に深く自身を沈みこませながら笑う。
「あっ……」
鈴はその突き込みに切なそうな声を上げた。
彼女の姿勢は惨めそのものだ。
這うような格好のまま、膝裏に竹竿を通される。
両肘は前方に突いたまま、両手の甲と親指同士を幾重にも結び合わされる。
この拘束により、鈴は立つことも、横へ転がることさえ出来ない。
背後から強く腰を掴まれて犯されれば、ただ為すがままになるしかない状態だった。
たとえそれが、かつて屋敷で下男として働いていた醜悪な男であっても。
「屋敷じゃあいつ見てもお上品に澄ましてやがってよ、いつか犯してやりてぇと年がら年中思ってたのよ。
 ほらどうだ、俺の太ぇもんで、糞が奥までかき回されてるのが解るだろう、うん?」
下男はそう言いながら、鈴の腸奥を逸物で押し込んだ。
鈴の喉元から呻きが起こる。
出し挿れされる男の逸物は、並大抵ではない太さを誇っていた。
長さもかなりあると見え、これが抜かれ突かれするたびに鈴が呻く理由の一つだろう。
もう一つは、かつての使用人に抱かれるという精神的な圧迫感。
さらに理由がもう一つ。これは、かつての綱渡りと同じ理由になる。

「おおっ!?へへ、鈴子お嬢様、また糞がしたくなったんだろう。腹の中がグルグル鳴ってやがるぜ」
下男が笑みを深め、手の位置を鈴の腰から下腹部へと下げる。
「いやっ、お腹は!」
鈴は素直な反応を示した。耐えるほどの余裕がないのだろう。
彼女を苦しめる最後の理由……それは、部屋の片隅に転がる硝子の浣腸器に起因する。
その傍には空の盥もあり、何が行われたのかは明らかだった。
「おらっ、鈴子、いまさらカマトトぶってんじゃねぇ!おれみたいな浮浪者でも、色々噂は耳にしてんだ。
 鈴子おまえ、毎日こうやって野郎に尻犯されて、下痢便ぶちまけながら感じてんだってなぁ?
 あの雪とかいう阿婆擦れに調教されてよ。嵌められながら下痢便漏らすのが、一番感じるように仕込まれてるんだろう。
 ええ、どうなんだ、鈴子お嬢様よォッ!!」
下男は粗暴さを剥き出しにし、力強く抽迭を繰り返す。
大きく引き、叩きつけ、大きく引き、叩きつける。
その果てに、とうとう鈴の全身が震え上がった。
「利夫、やめ、てっ……もう、もうだ、め…………いっ………いっやぁああああああああっっ!!!!」
鈴が鳴り響くような声で、限界が叫ばれた。
下男は本能的に腰を強く打ちつけ、鈴の身体を抱きしめながらその瞬間を迎える。
極太の物で最奥までを貫かれながら、その圧迫を押し出すような勢いで糞便を漏らす。
かつてなら羞恥で脳が焼ききれるようなこの体験は、今の鈴にとってどうなのか。
それを窺い知る事は出来ないが、下男は狂気に満ちた浮かれ具合だ。
「ははっ、ははははっ、あったけぇ!あったけぇぞ、鈴子お嬢様よっ!!
 しかもこの匂い、生々しさが堪んねぇぜ!今確信してるよ、こりゃあ、あのお嬢様のナマの中身だ。
 あの澄ましてたガワから一枚捲れば、こういう生々しさがテメェにもあったってこったよ。
 ははは、はははははっ!!何だよ、想像通りじゃねえかよ、あの頃の!!
 おい鈴子お嬢様、もっと感じさせてくれよ。糞でぬるぬるになった腸内のよ、あったけぇとこで包んでくれよ。
 お前で何百篇抜いたかわからねぇ。おれはよ、あの屋敷にいた頃から、ずーっとこの日を待ち望んでたんだぜ!!」
下男はそう喚きながら鈴の腰を掴み、いよいよ激しく腰を打ちつけ始める。
鈴はそれに為されるがままになるしかなかった。
結合部より下に汚物のぬめりを感じながら、互いの足にぬるぬると擦り付けて結合を繰り返す。
清潔感など微塵もない。まるでけだものの交わり。
「あっ、あ、あっ……あ、あっ…………あっ…………!!」
鈴は身の内から湧き出る喘ぎを隠さず、荒い呼吸と共に吐き出す。
もはや隠しても仕方のない事だからだ。

いつからか雪は、ほとんど鈴の前に姿を現さなくなった。
この夜鷹小屋以下のあばら家で、拘束されて男に犯されるだけの日々。
それが、もう何日続いているのだろう。
憎き雪に屈しない。それを心の支えにしてきた鈴にとって、雪の不在は致命的なほど心を削られる。
 (……どうして?……これじゃまるで、雪を待ち望んでいるよう)
汚物塗れでかつての下男に犯されながら、鈴は窓の外を見上げる。
遠い、遠いところにある夕日。朱色の陽。
 (朱山楼の皆は、元気でやっているかしら。……ううん、きっと無事よ。その為に、私はここにいるんだから。
  そうよ、皆のため。皆をこんな目に遭わせないためにも、私は……耐え忍んでみせるわ)
鈴はされるがままに身を揺らしながら、静かに決意を改めた。
しかしこの健気な決意こそが、彼女を地獄の釜の底へと突き落とす事になる。





「よく来たねぇ、正一。楼主自ら上納金を持参とは、泣けるじゃないか」
雪が可笑しそうにキセルの灰を落とす。
正一はその足元で深く頭を下げ、平伏している。無論、望んでの事ではない。
「鈴ほどじゃないけど、アンタにも鈴への嫌がらせの邪魔をされた恨みがあるからねぇ。
 その男の土下座を眺めながらだと、美味いもんだ」
伸びやかな煙を吐く雪に痺れを切らしたのか、正一は素早く頭を上げる。
「その鈴はどうした」
「おや、誰が頭を上げていいと言ったんだ。……まぁいい、そんなに鈴が心配かい。
 まぁアンタもこの色街で楼主やってんだ、色々と噂は聞いてるんだろうねぇ。
 何せあの娘は、『朱山楼』の一番娼妓だから。……それとも、惚れた女への心配かねぇ、正さん」
雪が嘲るが、正一は表情を変えない。
部屋を訪れた時から一貫して、強張った面持ちを通している。
雪はキセルを数度吸い、正一の焦りを存分に堪能した後、再び口を開く。
「ついて来な。
 ……どんなにえぐい物を見ても、腰を抜かさない覚悟があるならね」
そう誘う顔には、憎憎しいほどの悦びが張り付いていた。


色街の外れも外れ、廃屋と呼ぶに相応しい小屋。そこが雪の示した場所だ。
そこへ近づいただけで、異様な臭気が正一の鼻を突く。
まるで肥溜めだ。
正一は息を整え、意を決して小屋の中に踏み入る。
その瞬間、彼は目を見開いた。
「す、鈴……っ!?」
女衒を経験している彼でさえ、思わず立ち竦む。
そこにいたのは、確かに鈴に違いない。
数人の男に囲まれ、煎餅布団の上にへたり込むようにして座っている。
ひどく粗末だが、それ自体は場末の夜鷹部屋などではよく見られる情景だ。
しかし、彼女の状態は尋常ではなかった。
黒髪がすっかり艶を失い、海草のように背に張り付いている事ではない。
肌がすっかりくすみ、閉じた足の間に生え放題となった陰毛が覗いているような事でもない。

全身が、汚物に塗れているのだ。
美しい裸体の、唇から下が塗りたくられたような汚物で彩られていた。
二枚敷きの煎餅布団の上にも、やはり至るところへ汚物が撒き散らされている。
その状況にありながら、鈴に取り乱す様子はない。
どこか虚ろな、しかし光は宿した瞳で眼前の男を見上げている。
「おら、出すぞ!全部飲めよ!!」
男がそう言いながら、逸物に手を添えた。
それに合わせ、鈴は操られたように口を開く。まるで男専用の小便器のように。
「やめろ、鈴っ!!」
正一はそこで我に返り、状況を止めようとした。
しかしその瞬間、背後から強い力で羽交い絞めにされる。
「何をする、放せ!!」
肩越しに振り返ると、『金極園』の妓夫二人が、それぞれ正一の腕を掴んでいる。
正一も荒事に弱い訳ではないが、雑用で鍛えた男二人に腕を取られては抵抗できない。
「大人しくご覧よ、正一。ほら、面白いことになるよ」
雪の言葉で正一が前方を振り返る。
まさしくその瞬間、男の逸物から黄金色の小水が弧を描くところだった。
それは上手い具合に鈴の口内へ収まり、飛沫を上げながら喉へと溜まっていく。
勢いも量もかなりのものだ。
鈴の口内はたちまちに満たされ、顎からあふれて胸元の汚物を洗い流した。
「何やってる、全部飲めってのが聴こえなかったのか!?」
鈴の後ろに立つ男が恫喝すると、鈴は黄金水を口に溜めたまま目で反省を表す。
何とも惨めな姿だった。
「チッ。まぁいい、そのまま小便でうがいしてみろ。それから飲み込め」
男が屈辱的な命令を与えると、鈴は嫌がる素振りすら見せずに従う。
その異様さに、正一は言葉もなかった。

男の尿を全て飲み干した後、男は引き続き口での奉仕を求める。
「んむっ」
鈴はやはり躊躇わずに逸物を咥え込んだ。
いかにも容易くではあるが、この男の逸物の大きさたるや並みではない。
大柄な身体に相応しく、上方向に勃起したならば水月までは悠に届こうかという長さだ。
太さの方も、鈴の手では握りこむ事すら不可能な直径を誇る。
その規格外の怒張を易々と呑み込むとなれば、相当数の慣らしを経ている事が窺えた。
さらに男は、ただの口戯では満足しない。
鈴が幾度か顔を前後させ、深く咥えこめるようになった段階で、やおらその後頭部を鷲掴みにする。
そして筋肉の隆起したその腕でもって、無理矢理に奥の奥まで咥えさせていく。
「んっ、んぶっ!!ぐっ……え、ゴェっ!!ぐえっ、うう゛っ、うむ゛ぅうえ゛おえ゛っ、おげぁげえおごっっ!!」
凄まじい声が発せられた。
情景を目にしていなければ、正一はそれを人の声だとは認識できなかっただろう。
特に、あの美しかった鈴が発しているなど、『朱山楼』の誰もが信じないに違いない。
しかし、無理からぬ事だ。
あのような規格外の怒張を咥え込まされては、普通の声で済む道理がない。
事実、受け入れる鈴は目を剥き、喉の形すら怒張の太さに盛り上げてしまっていた。
「ごぇっ、おぼぇっ、おもぉ゛う゛っ!!えれお゛っ、えごっ、んもぉおおおぅぅう゛え゛っっ!!!」
男が自分本位の調子で腰を前後させると、えづき声も激しくなる。
そればかりか、とうとう鈴の喉元からは吐瀉物が溢れてしまっていた。
吐き出された吐瀉物は怒張をすべり、抜き出された逸物と口との間から滴って、煎餅布団に薄黄色の染みを作る。
よくよく注意を向ければ、その半固形の残滓は布団の随所にあった。
茶色い汚物の色で隠されているが、その下に層を成すようにして吐瀉物の乾燥したものが見える。
つまり、嘔吐すら今の鈴には特別なものではない。
「う、う、出すぞっ!!」
男は鈴が嘔吐している最中でも腰を止めようとはせず、むしろその喉奥の痙攣を利用して射精に至った。
心地よさげに腰を震わせ、鈴の喉奥に精を浴びせる。
そして一呼吸置いてから、ゆっくりと粘液まみれの逸物を喉から引き抜いた。
反射的にゲホゲホと噎せ返る鈴。
しかしそこで、正一は妙なことに気付いた。
あれほど苛烈に喉を使われておきながら、鈴の姿勢がまったく変わっていない。
嘔吐するほど苦しいのならば、誰でもなりふり構わず抵抗してしまうだろう。
鈴とて苦しんではいた。
それでも鈴は、嘔吐するその直前でさえ、両手を布団に突いたままでいたのだ。
不可解なほどの無抵抗。
正一がその理由を考える暇もなく、眼前の状況は進む。

「へへっ、鈴よ。小便と精液で、とりあえず喉の渇きは癒えたろう。
 なら今度は……メシだな」
男の一人が笑みを浮かべながら、鈴の足元へ屈みこんだ。
そして鈴の尻肉を割り開くと、その中にある汚物を鷲掴みにする。
「なっ……まさか!!」
正一は身に走る悪寒に震えた。しかしどうする事も出来ない。
身動きの取れない正一の前で、最悪の状況が展開する。
「おら、口を開け」
男の一人が鈴の顎を掴み、命じる。
傍には先の男がおり、にやけた顔で掴んだ汚物を鈴の鼻先へと近づける。
「………………」
鈴は虚空を見上げていた。それはほんの数瞬ではあるが、正一には彼女の泣き叫ぶような躊躇が聴こえるようだった。
「オイ!」
男が再度声を掛けると、鈴は観念したように口を開く。
小水に濡れ、舌の上に精液がこびりついた口を。
その中に、男は満面の笑みで糞を押し込んだ。
「う、む゛っぇ゛っ!!!」
鈴は嘔吐のときとは違い、大きく身体を丸めて反応を示した。
見開いた瞳からは即座にボロボロと涙が零れ、頬は膨らんで誰の目にも明らかなほどの嘔吐の前兆を見せる。
「吐くなっ、呑みこめ!!全部喰って、全部出して!ぶっ壊れるまで繰り返すんだよオラッッ!!!」
男は明らかに堅気ではない口調で恫喝しながら、力ずくで鈴の口を押さえ込んだ。
大きな掌で鼻から下を覆われるようにされては、鈴も吐くに吐きようがない。
そのまま中指と薬指で、開いた口の中に無理矢理汚物を詰められていく。
「んむ゛ぁ゛っ!!」
鈴は体の反射から、再度前屈みに嘔吐の兆候を示した。
しかし、彼女はまたもそれを押さえ込む。それどころか、その抵抗すらあまりに生易しい。
汚物を無理矢理に喰わされるのだ。普通であれば、手足を振り回すか、掴む男の腕へ爪を立てているところだろう。
しかし鈴は、反射的に身体が起こす反応以外は見せない。それ以外を、明らかに強靭な意志で押さえ込んでいる。

「……やめろ…………やめろっ!!」
再び糞を詰め込まれる鈴を前に、正一は思わず叫んでいた。
「鈴、なぜだ!なぜ抵抗しない!そこまでやらされて、耐える理由などあるか!!
 さっきその男が言っていただろう、そいつらはお前を壊すつもりだ。耐えるな、逃げろ鈴っ!!!」
正一の叫びに、男達がうるさそうな視線を向ける。
そして、鈴も。男の掌で無理矢理に汚物を口へ詰められながら、瞳だけが正一を捉える。
虚ろな瞳で。
「あっはははは。正一、お前も残酷な男だねぇ。こんな場面を見られるのは、女の恥の恥さ。
 それに言っとくけど、もうそれ以上声を掛けるのはよしたほうが良いよ。
 鈴は今、本当にギリギリの所で理性を保ってるのさ。声を出すだけで滑落しかねない、極限の淵でね」
雪がさも可笑しそうに告げる。
正一は雪を睨み据えた。
「ぐっ……。ゆ、雪、貴様、何だこの状況は!何の為に、こんな事をしている!!」
「おや、解りきったことを。あたしはね、ただ鈴を貶めたいだけさ。この点に関しちゃ、裏も表もないよ。
 女として……いや人間として、一番されて嫌なことを考え抜いた末に、この糞責めに辿り着いただけさ」
鈴がそう語る最中、状況はさらに動く。
男達は口内が汚物で満たされた鈴の顎を掴み、強引に上下させる。
「おら。噛んで、噛んで噛んで、よぉく味わえや、『朱山楼』の一番娼妓さんよ。
 今日てめぇのひり出した糞の味は、どんなだ、えぇ?」
おぞましい言葉をかけながら、咀嚼を強要する男たち。
長くそうしているうちに、汚物は口内で唾液に溶け、音を立てて鈴の喉を降りていく。
そこまでに至って、なお、鈴は抵抗を見せない。
「何故だ、何故抵抗しないんだ、鈴っ!!」
正一は再び叫んだ。雪が一層おかしそうに嘲笑う。
「教えてやろうか、正一。無抵抗な理由はね、私に脅されてるからさ。
 この博徒崩れの調教師共がやることに、一つでも逆らったり抵抗したりするたび、
 『朱山楼』の遊女に同じ事をやらせるってねぇ。ま、本気なんだけどさ」
雪の言葉に、正一の顔が凍りつく。
「…………お前は…………本当に人か。人の仔か」
「ああ、人さ。少なくともこうして考えられたり、物を見て愉しいと感じられる限りはね。
 人でないのは、そうした事の出来ない人間……。
 ちょうどそこにいる娼妓あたりが、近いうちそうなりそうだねえ」
雪はそう言って高らかに笑い、鼻をつまみながら小屋を後にする。
「クソッ、放せ、放せっ!!」
正一は怒りにもがくが、妓夫達は巧妙に押さえ込んで自由にさせない。
「見物の時間は終わりだ。来い」
「あの鈴とかいう娼妓がぶっ壊れるまで、『金極園』の牢にでも入っててくれや。ま、そう長くねぇさ」
妓夫達はそう言いながら、無理矢理に正一を引き立てる。
「やめろっ!!鈴、鈴ーーーっ!!!」
正一は声を限りに叫びながら、自らの拾った娼妓の名を呼び続けた。
彼が廓へ導いた中で、もっとも美しく、気高い娘。
落とされた苦界の中でも、いつか必ず幸せになれるよう胸中で願っていた相手だ。


最後の最後。
視界に収めた彼女の瞳は、なお微かな光を宿していた。
それだけが正一の望みだった。
たとえ闇夜に揺れる鈴の音が如く、儚いものであったとしても……。




                      終
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忍の素性

※スカトロや痛い拷問、蚊責めなど注意。


「まさか、屋敷内はおろか寝間の真上にまで入り込まれるとは……屈辱ですよ」
男は静かに告げた。
藍色の小袖の上に黒八丈を羽織り、本多髷を結った、さぞや金回りも良かろうという風貌だ。
顔に湛えた柔和な笑みなどは七福神の大黒天を思わせる。
しかしこの男の本性は、柔和などとは程遠い。
紀嶋屋相之丞。
奥末藩藩主の御用商人でありながら、敵方である士沼諸藩との密通が疑われている男。
否、正確には“疑われていた”男か。

 (不義者め…………)
くノ一・翠(すい)は、相之丞の侍衛達に取り押さえられたまま鋭い眼光を放っていた。
美しい女だ。
忍らしくキリリと鋭い面立ちに、後ろで一つに結われた艶やかな黒髪。
肌色は白く、身体はよく引き締まって健康的な美に溢れている。
胸と尻の膨らみは十分に女らしく、すらりと細長い脚線は異人の血でも入っているかのよう。
奥末藩の密命を受けたこの翠にとって、相之丞は怨敵だった。
屋敷に忍び込んだ彼女が天井裏から見たものは、士沼の姫と同衾する相之丞の姿。
密通はもはや確定となった所で報告に戻ろうとした矢先、翠は屋敷に仕掛けられた罠に捕らわれてしまう。
主に砦や城内戦を想定した城に用いられる、屋敷内ではまずあり得ない類の罠だ。
相之丞にはよほど痛い腹があるらしい。
事実、相之丞の黒い噂には枚挙に暇がなく、様々な商人が株を奪われて自殺に追い込まれたともいう。

「さて。この女には、何処の手の者かを白状して貰わねばなりません。
 そのための拷問は、私自らが行います。さもなくば腹の虫が収まりそうにないのでね」
相之丞が人懐こい糸目を細く開き、狡い瞳を覗かせながら告げる。
翠はその視線を受け止め、射殺すような眼光で睨み返す。
美しきくノ一は心に決めていた。
必ず機を見て脱出する。そして奥末藩の力を以って、この卑劣な古狸に天誅をくれてやる、と。





尋問部屋に笞打ちの音が響き渡る。
相之丞の持つ箒尻が唸り、今一度翠の背を打った。
両手首と腰の縄で万歳をするように縛られた翠には、それを防ぐ術などない。
「ッ……」
翠は奥歯を噛みしめて痛みに耐える。
忍装束は背の部分が大きく裂け、柔肌からも血が噴き出しているに違いない。
背の全体が焼け爛れたように痛む。しかし痛みそのものであれば、指先の方が上だ。
翠の視界に映る左右の十本指には、一つ一つに棒状のものが突き刺さっている。
およそ裁縫には使えぬような極太の針だ。
笞打ちで翠が気を失うたび、指の肉と爪の間にその極太針を突き刺して気付けが行われた。
最初に針を打たれた右手中指の血はすでに固まっているが、最後の左手小指からはなおも血が滴っている。
膝下の痛みも相当だ。
翠はこの笞打ちの前に石抱き責めを受け、伊豆石を三枚積まれて問責されていた。
足の骨が残らず砕けたように思え、今でも縄の支えがなければ、立つことすらままならない。

背、指先、脛。その全てがボロ屑のように成り果てた現状。
それでも、翠には余裕があった。
彼女はくノ一として拷問の訓練を積んでおり、痛みには慣れている。
さらに、痛みによる疲弊と、自白して楽になろうとする心を、頭の中で分かつ心得も身につけている。
痛みによって自白する事はまずあり得ない。

「中々に強情ですな。こうまでされて、ろくに声も上げんとは」
彫りの深い顔立ちをした男が、腕組みをしたまま言った。多少名の通った火付盗賊改だ。
拷問に不慣れな相之丞が相手を責め殺さぬよう、頃合いを測っているらしい。
彼のような番方すら懐柔している所が、豪商たる相之丞の恐ろしい所だ。

「なに、声を上げさせるぐらいは簡単ですよ。……寄越しなさい」
相之丞は少々の苛立ちを見せながら汗を拭い、近くの下男に声を掛ける。
下男はその言葉に応じて手にしたものを慎重に主へ渡した。
今まさに炭火から抜かれたばかりの火熨斗。
相之丞は片手で翠の足首を掴み上げ、その火熨斗をゆっくりと近づけていく。
「!」
足裏に迫る熱気に気付き、翠が足元を見やった。
真っ赤に熱された平らな鉄が視界に入り、ぞくりと悪寒を走らせる。
永遠にも思える数秒。
その後に、ジウと何かの焦げる音がし、悪臭が立ち込め、そして……熱さが翠を襲った。
「ふッ、ぬ゛ぅうううう゛う゛ッッ!!!!!」
如何なくノ一とて、これには声を堪える事が出来ない。
翠は反射的に涙を零し、下唇をきつくきつく噛みしめて苦痛に耐え忍ぶ。
すでに幾度も噛みしめていた下唇からはついに血が滴り、顎の下を流れ落ちていく。

相之丞は苦しむ翠を冷酷に観察しながら火熨斗を離した。
そして下男の差し出した壷に手を差し入れ、たっぷりの塩を掴み出すと、それを紅く焼けた翠の足裏に塗りこめる。
「いッ、っぎぁああぁあああッッッ!!!」
翠はたまらず叫んだ。
一気に背筋を寒気が駆け上り、脳に達して警鐘を打ち鳴らし始める。
身体が震え始め、内股をなま暖かい奔流が流れていく。
「ふん、失禁ですか。品のない」
相之丞は汚らしそうに告げながら足の裏から手を離した。
そして汗と涙に塗れた翠の顔を掴み、目元に血に塗れた塩を塗りつける。
「どうです、話す気になりましたか」
翠は数度瞬きして視界の涙を払いながら、きっ、と相之丞を睨みつけた。
「自分の胸にでも聞いてみろ、外道が」
乾いた喉を絞るようにして恨み節を吐き出す。
相之丞は細く開いた眼の中に苛立ちを浮かべながら、深く嘆息した。
「…………なるほど、残念です。では望みどおり拷問を続けましょう。
 あなたには素直になるまで、水責め、痒み責め、色責めと、あらゆる苦難を味わって頂きます。
 けして死なず、さりとて生を感じられないほどの過酷さでね」
冷たい表情のまま、淡々と紡がれる宣言。
そこには自らの地位を脅かす者に対する、病的なほどの敵愾心が見て取れた。





「まだ、白状する気はありませんか」
相之丞が大黒のような笑みを浮かべて尋ねた。
その視線の先で、翠は後ろ手に縛られている。
両手首を一つに縛った縄尻は太い木の枝に結わえつけられ、逃走を封じていた。
かろうじて膝立ちにはなれる高さであり、肩が抜けることはない。
格好は丸裸だ。
男好きのする身体を男達に晒すがままになっている。
場所は深い藪の中であり、周囲には不快な羽音が絶え間なく飛び交っていた。
何をされるのかは想像に難くない。
それでも、翠の瞳には微塵の恐怖もなかった。
「可愛気のない瞳だ。……やりなさい」
相之丞は大黒の笑みから下卑た瞳を覗かせ、下男に命じる。
すると、下男達が手に持った桶の中身をそれぞれ翠に浴びせかける。
酒だ。
「さて、では私達は一旦退散することにしましょう。蚊に噛まれでもしたら大変だ。
 この辺りの蚊は特別に痒みが強くてね、普通の倍は腫れる。
 たった一箇所脛を刺されただけでも、寝付けず夜中まで掻き毟ってしまう塩梅ですから」
相之丞は翠に聴こえるように告げると、踵を返して藪の中から去っていく。
藪には、酒の匂いを漂わせた翠だけが取り残された。

耳障りな羽音が翠を取り囲む。
「っ!」
顔に取り付こうとした数匹を、翠は頭を振って追い払った。
しかし同時に内腿へと別の蚊に付かれる。続いて首筋、肩口へと。
それらの蚊が離れてしばらくすると、猛烈な痒みが沸き起こった。
「ううっ!!」
相之丞の言葉は大袈裟ではない。普通の蚊よりも痒みが強く、寝付けないほどだ。
指で掻き毟りたくて仕方ないが、両手を木に括りつけられた翠はただ身を捩らせるしかない。
蚊の群れはそんな翠の周りを飛び交い、無慈悲に白い肌へと取り付いていく。


「……く、くっ……っ、あああぁあああ゛っ!!!くあ、あぐうっ!うああぁぁッアアああ゛ッッ!!!!」
やがて翠は忍耐の限界を迎え、叫び声を上げた。
近くで相之丞達が聞き耳を立てているであろう事は知っていたが、理性で抑えられる痒みではない。
汗が噴きだし、涙が滲む。
「か、痒いっ!!あア゛、痒い、痒いぃっ!!止めろッ、来るな、来るなぁッッ!あぐ、ああ゛あ゛っッ!!!」
必死に身を捩っての抵抗を試みる。後ろ手の縄が手首に食い込み、ついに血を滴らせ始めた。
縄尻が結わえられた太い枝は、軋みこそすれど折れる気配はない。
「ふ、っくぐうううぅうっ!!!!」
歯を食い縛る翠。
全身を痒みが覆い、寒気と刺すような痛みを覚えるまでになっている。

薄目を開けると、涙で滲んだ視界にはつねに蚊の姿がある。
蚊が自らの肌に取り付き、止まり、離れていく。その箇所に痛烈な痒みが生まれる。
すでに全身至る所に赤い跡があり、中には刺された部分をさらに刺されて赤黒く変色している部分さえあった。
「はーーっ、はっ、はっ、はぁっ……」
息が切れる。一日で十里を走るほどの翠の息が。
全身から汗が滴り、口元からは止め処ない涎が溢れている。
放置されてからどれだけの時間が経ったのだろう。そしてこれから、どれだけ続くのだろう。
一睡もできず、神経を磨り減らすこの地獄が。

「…………おやおや、酷い有様だ」
翌朝、相之丞が翠を一目見て告げた。
翠はそれを遠くに聞きながら、朦朧とした意識の中を漂う。
ようやく虫でないものに会えた、その安堵を噛みしめながら。





捕らわれて以来、翠に休息らしい休息はなかった。
著しく心身を消耗させる拷問の合間にも、絶えず何らかの緩やかな責めが加えられた。

今、翠は後ろ手胡坐縛りに縛られたまま、乳房を二つの木の板で挟み潰されている。
板の両端は麻縄で幾重にも縛りあわされるため、ちょうど女の豊かな乳房を搾り出すような形だ。
その上で乳房の敏感な部分へと針を刺されている。
針先はごく細い。
太い針よりも刺突自体の刺激は小さいが、それを延々と突き刺されると、それはそれで神経を侵される。
さらに相之丞は、針を刺す前に必ず唐辛子入りの壷に針の先を漬けていた。
それにより、針を刺されると同時に焼けるような痛みが翠を襲う。
「…………っ、…………っっ…………!!」
翠の鼻から吐息が漏れた。
乳房を鷲掴みにされたまま、柔な乳首や粟立つ乳輪へと針を打ち込まれる。
責め手は相之丞本人だ。翠は責めを受けながらも、相之丞の顔を真正面から睨みすえている。
一方の相之丞は、その視線を受けながらも涼しい顔だ。
「胸の先が尖ってきましたよ。あなたは、こんなもので気持ちが良くなるのですか」
相之丞が翠の乳首を摘みながら言う。
翠がちらりと視線を落とすと、確かに胸の尖りははじめよりも円錐型にしこり勃っている。
度重なる刺激を脳が快感と誤認識したのか。あるいは本当に心地良いのか。
いずれにせよ、怨敵に性的な反応を見られることは女忍の恥だ。
「くっ……!」
翠の視線が一層鋭さを増す。
相之丞はその顔を嘲笑うように眺めながら、針を置いてキセルに持ち替えた。
高価な品として知られる銀延べキセルだ。

相之丞はゆっくりと煙を吸い込むと、さも美味そうに煙を吐き出した。
煙は正面に座る翠の顔へと浴びせかかり、その美貌を歪ませる。
噎せる翠を眺めながら、相之丞はさらに一服した後、おもむろにキセルを翠の太腿へと近づける。
そして先を反転させ、剥きだしの白い腿の上で燃えさしを棄てた。
「ぬ゛っ!!!」
乳首と顔ばかりに意識が向いていたところへ、突然の腿の熱さ。
これには翠とて反応が遅れ、生々しい反応で胡坐縛りの太腿を震わせた。
「灰落としが動くな」
相之丞は本性を露わにしたような低い声で、翠に語りかけた。そしてまた唐辛子の壷と針を手に取る。
相之丞の憂さ晴らしとも言えるこの責めは、そこからまた何刻かに渡って続けられた。





「さぁ、もう一度です」
相之丞が命じる。
折檻役が翠の黒髪を掴み、水の湛えられた盥へと頭を沈める。
もう幾度目になるだろうか。
「ぶはっ!!げほっ、げほえほっ!!……っはぁ、はあ……はぁっ…………!!」
水から引き上げられた翠は、酷く苦しみながら咳き込み、酸素を求めた。
どれほど訓練を積んだとて、人が水中で息ができるようはならない。
長時間水に漬けられれば、忍といえど苦悶に満ちた生々しい表情を晒すしかない。
「……どうだ、水責めの味は」
相之丞は責められる翠の前へと回り込み、疲弊した翠の顎を持ち上げた。
濡れた前髪が額に貼りつき、何とも艶めかしいものだ。
しかしそこはくノ一。相手が相之丞だと知れるや否や、口を窄めて唾を吐きかける。
唾は相之丞の目の下を打つ。
相之丞は一瞬怯んだものの、すぐに薄笑いを浮かべながら目の下を拭った。
「威勢のいいことです。ですが、それもいつまで持つものか。
 こんなものは、水責めの中でのほんの小手調べ。ここからが地獄ですよ」
相も変わらず穏やかな口調で、冷酷な言葉を発する。
翠は屈強な男達に引き立てられながら、そんな相之丞を睨み続けていた。


次の水責めは水車を利用して行われた。
水車は相之丞の屋敷がある村の中ほどに備わっている。
村の人間達が何事かと集まる中で、丸裸の翠は逆さ吊りのようにして両手足の首を水車へと括りつけられていく。
この村人達は、相之丞を国主の如く慕ってはいるが、彼の不義に関わっている訳ではない。
奥末藩に縁のある善良な民であり、翠が憎しみを向けるべき相手ではない。
実際のところ翠にしてみれば、こうした無関係な村人の前で恥を晒す事がもっとも辛い。
相之丞へ対するように鋼の心で抗うことができない。
丸裸で水車に括り付けられながら、翠は恥じらいに胸を締め付けられていた。

やがて水車は、軋みを上げながら回り始める。
相之丞子飼いの男達が水車を引き、人力で回しているのだ。
村の人間に乳房と茂みを晒す格好から、翠は次第に円に沿って上へと運ばれていく。
水車の頂点を越えたあたりで、村の男達から歓声が上がった。
大股開きになった秘所が、彼らからは丸見えになっているのだろう。
足を閉じる事も叶わない翠は、恥辱にただ耐えるしかない。
そして、恥らってばかりもいられなかった。
目の前にはすでに、こんこんと水の流れる用水路がある。今からそこへ潜ることになるのだ。
足の先から順に冷たさが這い登り、ついに乳房までが水に隠れる。
「はぁっ」
翠は大きく胸を膨らませ、息を吸った。その数瞬後、ざぶりと顔までが水の中に浸かる。
ごぼごぼと鳴る水音。水車の軋みが煩いほど大きく響く。
視界に映るのは暗い水底と、揺れる濃緑色の藻、そして木製の水車の車輪。
息苦しさがわずかに肺へ溜まる。
水車の回転はわざと遅くされているようだ。より長く苦しめようというのだろう。
くノ一として潜水にはある程度自信があるが、これが幾度も繰り返されては流石に厳しい。

次第に視界が明るくなり、揺れる水面の向こうに村人達の姿が見えはじめる。
男達は水から出た翠の身体を指差して盛り上がっているようだ。
そして、ついに顔が水面から出る。
「ぶはっ!!」
翠は当然のこととして酸素を求めた。その翠の顔を、また男達が好色そうに眺める。
その視線に耐えながら、翠は再び水車の回転にそって引き上げられていく。

それが幾度か繰り返された時だ。
暗い水底を抜け、ようやくまた酸素が吸えると翠が肺を緩めた時。突然相之丞の声がした。
同時に水車の回りが止まり、翠は首から上が水中に没したままで留められる。
 (しまった…………!!)
そう考えた時にはもう遅く、酸素を吸う準備をしていた灰から空気が漏れ出す。
貴重な酸素が泡となって浮かび上がり、代わりに水が翠の喉へと入り込んだ。
その苦しさに、またガボガボと泡を吐いてしまう。そうして完全に酸素を失ってからが、苦しみの始まりだった。
水車に括りつけられた身体が暴れる。苦しみと恐怖で表情が引き攣る。
村人達は、そうした翠を嘲笑った。
中には気の毒そうにしている子供もいたが、彼らにとって翠は、いや相之丞に楯突く者は敵なのだ。

十分に翠が苦しんだところで、ようやく水車が再び回り始める。
溺れた人間特有の無残な顔をした翠が表れ、周囲の笑いを誘う。
こうした責めが、さらに幾度も続けられた。その度に翠は苦しみもがき、ついには失禁さえも晒して笑い者にされ続けた。


水責めはまだ終わらない。
二度の水責めで水への苦手意識を植えつけたところに、とどめの三度目が行われる。
それに気付いた瞬間、翠は内心で震えた。本当に容赦がない。

尿道と肛門にきつく栓が嵌め込まれ、水の逃げ場を失くす。
その上で、檜造りのの巨大な手桶と、なみなみと水で満たされた二抱えほどの酒樽が翠の前に置かれた。
手桶で勢いよく水が汲み出され、口に流し込まれる様が容易に思い描ける。
「……水責めというものはね、本当によくできた拷問なんですよ。
 気が狂うほどの苦痛だそうですが、実際に狂ったという話は聞かない。外傷は残らないし、後遺症もさほどない。
 ただ、確実に大人しくなる。どんな人間でも反抗する気概を失い、水を見せるだけで怯えて言う事を聞くようになる」
折檻役が翠の鼻を摘み、口広の漏斗を深く咥えさせるのを見ながら、相之丞は告げた。
翠は瞳を惑わせつつ、必死に彼を睨み上げた。
遥か上下に落差がついた、二つの視線がぶつかり合う。

折檻役が翠の鼻を摘んだまま、手桶の水を漏斗の中に流し込む。
一人が流し込めば、すぐに逆から別の一人が、その次にまた別の一人が。
その交替制により、翠の口には絶え間なく水が流れ込む。
鼻を摘まれて呼吸を封じられたた翠は、その水を飲むしかない。
白い喉が幾度も上下する。
「む、んん、んっ…………んんもぉエ゛ッ!!!!」
えずくような音がし、翠の腹部がにわかに蠢きはじめた。
同時に首を振り始め、なんとか水を呑む苦しさから逃れようとする。
しかしそれで許すような折檻役ではない。
むしろより強固に翠の頭と身体を押さえ込み、手桶で水を呑ませてゆく。
「え゛っ、あごぐっ……!!ゴバッ、ぃあんんんォっ…………!!!」
整った顔が口周りを中心に歪にゆがむ。
全身が細かに痙攣をはじめ、そしてついに、翠の眼球はぐるりと天を剥いた。
そこへ来て、ようやく折檻役達は一旦漏斗を抜き出す。
「ッげほっ、げほえっ!!えごほっ、ごぼっ、え゛げろ゛っっ!!!」
嘔吐を思わせる音で水が吐き出された。
盥の時よりも、水車の時よりも格段に苦しげな音だ。
「どうです、自分の素性でも思い出しましたか」
相之丞は手に扇子を遊ばせながら、憎らしいほどの余裕をもって問うた。
「…………地獄、に、堕ちろ」
翠は息も絶え絶えに答える。相之丞が手を振り上げた。

再び折檻役が翠の鼻を摘み、漏斗を咥えさせる。
翠の瞳に一瞬、明らかな恐怖の色が浮かぶ。
そしてまた水が注がれ始めた。
「ああああ゛っ!!!おえぇげぼっ、も゛ぅンぐっ!ぶっ、ッげぐぼァ゛ああ゛っ!!!」
艶かしい身体が暴れ回り、黒髪を鷲掴みにされたまま首を振りたくる。
呑ませては吐かせ、また呑ませては吐かせ。
すべてを吐ける訳でもない為、その繰り返しで翠の細い腹部はゆっくりと膨れてゆく。
肌の色が土気色に変わり、唇は紫色になり。
やがて本当の本当に限界と見られた所で、漏斗が引き抜かれた。
「いい加減に答えろ。貴様、どこの手の者だ!」
折檻役が、水風船のように膨れた腹部を強く鷲掴みにする。翠は激痛に顔を顰める。
「ごおお゛ぇっ、ぶぐふっ!!!」
翠の口から勢いよく水を吐き出された。
そしてようやく酸素を得られたとばかりに激しく喘いだあと、再び水を吐く。それを繰り返す。
最後の水には鮮血すら混じっていたが、完全に白目を剥き痙攣を繰り返すくノ一が、素性を明かす事はついになかった。
「痛みでは駄目、苦しみでも堕ちず…………ですか」
陥落する事のない忍を前に、相之丞は苛立ちを露わにする。
しかしその一方では、冷静に次の一手を案じている風でもあった。


 


翠は布団の上に寝かされ、大の字に手足を拘束されたまま色責めに掛けられていた。
翠の上に覆いかぶさっているのは、村の娘だ。
天上人たる相之丞から屋敷に招かれたのみならず、くノ一への責めすらも任された。
その大任に胸躍らせ、嬉々として責め立てている。
「………………」
娘から執拗に唇を貪られながらも、翠は毅然とした態度で天井を睨み上げていた。
口づけはなされるがまま。
しかし、内心では興奮が刻一刻と高まり続けている。
同性に口内を貪られる事もひとつ。
そして娘の片手は、傍らの壷から゛秘薬”を掬い取りながら、翠の淡いへと沈み込んでいく。
同じ女ゆえに、その責めは洗練されていた。昂ぶるように、膣の中の弱い部分を的確に責め立てた。
それを一方的に受け続ければ、いかなくノ一とてまったく感じないという訳にはいかない。

「ねぇくノ一、気持ちいいんでしょう。女陰の奥がどろどろになってきているわ。
 わたしの指をしっとりと咥え込んで、流石、いやらしいのねぇ」
村娘が指を蠢かしながら囁く。
彼女に指摘されるまでもなく、座敷にはもうかなり前から濡れた音が繰り返されている。
出所は翠自身の秘所だ。
翠が問いに答えないのを見て、娘が再び唇を奪う。
年を疑うほど妖艶な舌遣いで歯茎を舐め、上顎をなぞり、舌を絡ませて。
ぞくぞくとする無防備な昂ぶりが、翠の脳裏をくすぐった。
「…………お願いだ……こんな事、もうやめてくれ…………」
口が離された瞬間、翠は娘にだけ聴こえるように小声で囁きかけた。
部屋の隅で盃片手に見ている相之丞には気付かれないように。
しかし、娘は面白そうに目を見開いた。
「はっ、ねぇ相之丞さま!この女、今弱音を吐きましたよー!もうやめてくれ、ですって!あははっ」
鬼の首を取ったかのように、相之丞を振り仰いで叫ぶ。
それを聞き、翠はやはりこの村娘も敵方の人間なのだと心寂しくなる。
奥末の忍である自分が、同じ奥末の民に虐げられるとは。
「そうか、そうか。ならば続けよ、折れさせれば好きに褒美を出すぞ」
相之丞は機嫌よく娘に答える。
その言葉を聞き、娘はいよいよ目を輝かせて翠に覆い被さった。


「あははっ、お乳でてきた」
娘が翠の胸の尖りを摘んで叫ぶ。
針で散々に乳腺を刺激された胸の先は、再度の興奮によって確かに白い雫を零している。
とろりと、何とも心地よさげに。それは翠自身の心のようだった。

娘によって、翠はなお散々に嬲られていた。
豊かな胸を揉まれ、秘裂に秘薬を塗り込められ、さらにはその上の赤い蕾にすら秘薬をつけた筆でなぞられて。
「はぁ、はっ……はぁっ……はぁっ……あっ、はーっ…………」
全身に汗を掻きながら、翠は激しく胸を上下させていた。
性感の極みまで押し上げられ、しかしそのまま寸止めという生殺しの状態を続けられているのだ。
寸止めは相之丞の命令だった。
昂ぶりきっている。
毅然とした態度で天井を見つめていた翠の瞳は、いまや色に蕩けて濡れたようになっていた。
秘裂からは蜜が止め処なく流れ、娘の指に絡みながら敷布団に滴っていく。

「…………よし、そろそろ良いでしょう。存分に果てさせておやりなさい」
翠の状態を見守っていた相之丞が、扇を開きつつ言う。
すると娘は、待っていたとばかりに桐箱から責め具を取り出す。
凹凸のついた、極太の張り型。
「さぁ、いくわよくノ一」
猫のような瞳で翠の目を覗き込み、娘の手にした張り型が秘裂を割る。
「ぐっ!!」
思わず声が出た。張り型の太さもあるが、それ以上に快感が凄まじい。
膣内の膨らんだ襞を張り型が通り抜けた瞬間、翠は軽い絶頂を迎えた。
そして張り型の先が蕩けきった膣奥を突くと……脳内が白く染まる。
全身を巡る甘い電流。足指の先までがぴんと伸び、断続的な快感に腰から脊髄までが打ち震える。
この快感は、まずい。そうはっきりと感じられた。
しかし、拒めない。拒む術がない。

  
「んん、んあっ!!ああ、あはっ、あぐうううっ!!ひっ、あぁああっ!!!」
和室に女忍びの嬌声が響き渡る。
村娘の手で容赦なく張り型を叩き込まれながら。
幾度も幾度も腰が跳ねる。子宮を中心に身体中が痙攣を繰り返す。
「どう、ぶち込まれて堪らないでしょう!ほらっ、知ってる事全部吐きなさいよ、ほら!!」
村娘はいよいよ嬉々として翠を責め立てる。
「おごほぉぉおおお゛っっ!!」
翠は事実たまらなかった。
絶頂につぐ絶頂で呼吸すらままならず、口からは涎はおろか泡すらも噴いてしまっている。
頭の中が快感で煮崩れしていくようだ。
自我を保てなくなる恐怖と、底無しの快感に惹かれる危うさ。
今までの責めでも、もっとも強い警鐘を脳が鳴らしている。
生物が本能的に求めていることだからこそ、手に負えない。
「あはっ、あ、ああっ、ああっ。ひあぁああああふっ!!!」
翠は極限状態に置かれながら、後頭部を床に打ち付けてかろうじて正気を保つ。
頭の中でぷつりと糸の途切れる音がし、視界が黒く染まって気を失う瞬間まで。

何とか、耐え切った。
暗い意識の底に沈む瞬間、翠は安堵した。しかし同時に解ってもいた。
次はどうなるか解らない。次の責めで、『くノ一・翠』は壊れてしまうかもしれない、と。





「うわ、何あれ……双子孕んでるみたい」
「あれってあの、細くて、ちょいと綺麗だったくノ一だろ。腹が膨れあがると、醜くなるもんだねぇ」

村人達がどよめきながら畦道に群がっている。
その中心にいるのは翠だった。
手首足首をそれぞれ一纏めにし、大股を開く格好で二本の木に結わえ付けられている。
その腹部は醜く膨れ上がっていた。過食責めの影響だ。
囲炉裏鍋二つ分作られた下剤入りの粥を、手で掬って無理矢理に食べさせる責め。
液状のものに対して苦手意識を植え付けられた翠は、粥を口に近づけられるだけで怯えを見せた。
しかしそれに構わず、手で口を覆って塗りつけるように食べさせる。
翠は幾度も嘔吐した。
液状のものを口にする恐怖と、単純な食べ過ぎによる戻し。
しかしその吐瀉物すら掬い、恐ろしく長い時間を掛けて残さず平らげさせられた。
その結果の蛙腹だ。

ぐりゅるるる、ごぉうるるるるるぅ、と不穏な音が響く。
下剤の効果と腸の限界以上の圧迫による腹鳴り。翠の苦しさの象徴。
それでも、翠は村人の前で恥辱を晒したくはなかった。
「はっ、はっ……はぁっ、はっ……あああ……ううううっ、ああっ…………!!」
荒い息を繰り返しながら、翠は耐える。耐え忍ぶ。
しかし……本当の限界は覆らない。
吊られた手足が震え、尻肉が幾度も引き締まり、その末に、とうとう尻穴から飛沫が上がる。
「うわっ、出した!!」
「おいおい、汚ねぇなあ。しかもすげぇ匂いだ!」
「こら、見るんじゃありません!!」
村の人間から悲鳴に近い反応が沸き起こった。
ある男は下卑た視線を寄越し、
ある女は心の底から軽蔑したように冷笑し、
ある母親は子供の目を必死で覆って非難の目を向け。
それらの反応が、翠の心を切り刻む。しかし、排泄は止まらない。止められる訳がない。
飛沫は奔流に変わり、腹部の張りを解消しながら地面に叩きつけられていく。
臭気が身を包み込む。
「…………見るな…………見るな、…………見るな、見るな…………見ないで、くれ………………っ!!」
脂汗を流して排泄を続けながら、翠は小さく繰り返した。

「これが最後です。どうです、何か話しますか」
尻肉から汚物を垂らすままの翠に、相之丞が問う。いつになく柔らかな口調だ。
翠は一瞬心が靡きかけるのを必死に堪え、怨敵を睨みつける。
「そうですか。ならば…………もう、いい」
相之丞は首を振り、折檻役達に木の縄を解かせた。
両手足の縛りはそのままに、翠の身体は抱え上げられる。そしてそのまま村外れへと運ばれた。
明らかに妙な一画へと辿り着く。
周囲よりも数段低く掘り下げられ、家屋も無く、林に遮られて昼なお薄暗い土地。
「棄てろ」
相之丞の一言で、翠はその中に投げ込まれる。

「ぐっ!!」
肩を地面に打ちつけた翠は、ふと妙な匂いを嗅ぎ取った。
まるで何年にも渡って水浴をしていないような、濃厚な体臭。それが匂ってきている。
はっとして顔を上げれば、そこにはもはや人と呼んでよいのかも解らないものがいた。
全身が垢で覆われて浅黒く、腹だけがぽこりとでた餓鬼体型。
そして女に飢えているらしく、目をぎらつかせながら裸の翠ににじり寄る。
「よせっ、止めろ!来るな!!」
本能的な恐怖から翠は叫んだ。しかし、大股開きで手足を縛られていては逃げられない。
男達はたちまち翠に群がり、やおら女陰へと勃起した逸物を捻り込む。
ぬるりとした感触が翠の中を滑る。
しかし、翠はその小汚い性交にすら快感を得ていた。秘薬のせいだ。
「ーーーーーっ!!!」
つねに蕩けているような膣奥を乱暴に貫かれ、天を仰ぎながら声ならぬ声を上げる。
その翠にまた別の一人が貼りつき、挿入を試みた。
塞がっている膣以外のもうひとつ……後孔へ。
「なっ!?よ、よせっ、後ろはっ!今、そんな事をされたらっ…………!!」
翠の哀願も、飢えた男達には通じない。
男は迷うことなく翠の肛門へと怒張を宛がい、一息に貫いた。
「あうううっ!!!」
翠が顔を歪める。その歪みは、怒張が肛門を攪拌する中で、ますます歪になっていった。


「あっ、ああ、あっ!!や、やめろ、やめてくれ、聴こえてるんだろう!!
 私は大量に下剤を飲まされてるんだ、まだ半分も出し切れていない!!
 もう解るだろう、そんな状態で後ろを……あ、され…………たら、う、んうううっ!!!」
翠が必死の説得を続ける間にも、背後の男は動きを緩めない。
どれほどの女日照りだったのだろうか。
腰を鷲掴みにし、腰よ壊れよとばかりに力強く叩きつける。腸の奥の奥まで。
「やめ、やめろっ、ほんとうにもう……ぬ、ぬいてくれ、後生だ…………っ!!!!!」
その言葉の直後、ついに翠の肛門から第二の噴出が始まる。
腸の深くにあった下痢便が、怒張の抜き差しの刺激で下ってきたのだ。
「うわあああぁあああっ!!!」
これには翠も絶叫した。
本来性交に用いるべきでない肛門を犯されるのみならず、脱糞まで晒す。
くノ一である以前に、女としてこれ以上はない恥だ。

「うわぁー、すっごい。やってるやってる」
「ひぇえ、どっちも腰から下が糞塗れ……。もう人間じゃないね、ありゃ」
低地を見下ろす形で村人達が集まり、口々に翠をなじる。
尋問役や相之丞もそちら側にいる。
それを見上げるうち、まるで翠は、自分が人間でない下等生物になったように感じた。
垢まみれの人間に押し倒され、孔という孔を好き勝手に使われる畜生。
吐き気のする体臭と、自らの漏らした汚物の匂いに満ちた空間で這いずる蟲。
汚れていく。
垢にまみれ、地面にまき散らされる汚物の中を転がって。
人間としての尊厳が………………、折れる。

「たすけて……助けてください。私は、わたしは、お、堕ちたくない。人間で居たい!!」
翠は、ついに涙を流した。
それまでの凜とした声ではなく、弱弱しい声。
くノ一としての尊厳を砕かれ、無力なひとりの娘に成り下がった瞬間だった。
しかし。相之丞は反応しない。
大黒天のような慈愛に満ちた笑みの隙間から、蔑みきった瞳で見下ろしている。
まるで興味が失せたとでも言いたげに。
「……さて、帰りましょうか。アレは、あまり見るものではないですよ。目が腐ります」
黒八丈を翻しながら、相之丞の姿が遠ざかっていく。
村の人間達も、それぞれ翠に哀れみの一瞥をくれながら踵を返す。
翠の視界から、“人”が消える。

「ま、待って、待って下さいっ!!置いていかないで、出自を話しますっ!!
 私は、奥末藩藩主永長から直々に任を受けた忍びです!
 相之丞殿が士沼と関わりがあるとの噂を調べに参りました!
 すべて奥末の行く末を思えばこそ任務なのです、ですから、お慈悲をっ!!
 誰か、お願いです、誰か聞いて下さい、誰か、ねぇ、誰かぁあぁああああ゛っ!!!!」

空しい叫びが空に消え、翠の頭は垢まみれの手に押さえつけられた。
そして男達がそうするのと同様に、自らの排泄した養分を口元へと近づけられる。

気丈だったくノ一の切れ長な目尻は、泣くように垂れ下がった。



                      終
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